———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSいる4)が,実際には識別不能の色覚障害を示したり,赤緑色覚異常を示したりするので,注意が必要である.④視神経乳頭は両側性に耳側蒼白を示す.⑤同一家系でも視機能障害の重症度は違うことがある.視神経乳頭の所見は耳側蒼白で,乳頭黄斑線維の萎縮を示している.重症例では視神経乳頭全体が蒼白となる.軽症例では乳頭が正常の場合もある.乳頭のneuro-retinalrimが蒼白化していることも鑑別点である(緑内障眼でのrimの色調は正常である).緑内障と鑑別するための乳頭陥凹については以前は陥凹がないことが常染色体優性視神経萎縮の特徴といわれたこともあったが,Votrubaらは常染色体優性視神経萎縮58眼の視神経乳頭を検討した結果,約半数がC/D比(陥凹乳頭比)0.5以上であり,ほぼ約2割では深い陥凹を認め,乳頭所見からでは緑内障との鑑別において注意が必要であると報告している5).同様にFournierは常染色体優性視神経萎縮患者の乳頭を観察し,C/D比0.5以上が12/18であり,さらにこの陥凹が緑内障様乳頭陥凹の形態をとることが多く,正常眼圧緑内障と間違うことがあると報告している6).視野は重症度に応じてさまざまの障害を呈するが,典型例では中心暗点,盲点中心暗点となる.緑内障との鑑別においてこの視野変化は重要な鑑別点となり,中心暗点があれば緑内障は否定して考えていくのがよい.常染はじめにわが国でみられる遺伝性視神経症としては,常染色体優性視神経萎縮(dominantopticatrophy:DOA)とレーベル遺伝性視神経症(Leber?shereditaryopticneu-ropathy:LHON)の2つが臨床上大切である.原因遺伝子については常染色体優性視神経萎縮が????遺伝子であることが解明され,レーベル遺伝性視神経症ではミトコンドリアDNAに変異があることが解明された.本稿では,視神経乳頭の所見を中心に病態を解説する.I常染色体優性視神経萎縮(dominantopticatrophy:DOA)常染色体優性視神経萎縮は1959年にKjerが19家系を報告してから1つの疾患単位と認識されるようになった疾患で,罹患率は約1.2万~5万に1人と報告されている1).組織学的には網膜神経節細胞層の変性,乳頭黄斑間の神経線維の減少が認められる2,3).????遺伝子はミトコンドリア内の蛋白質を産生するので,後述のレーベル遺伝性視神経症と同様にミトコンドリアの機能障害により視神経萎縮が生じると考えられている.その臨床像は,①発症時期が不明な緩徐な両眼性の視力低下.就学時検診で0.1~0.5程度で発見されることが多い.②緩徐に進行し最終的な視力は0.01から1.0までと個人差があるが,視力低下は強くないことが多い.③後天性第三色覚異常を示すことが特徴といわれて(25)???*SanaeKanno:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕神野早苗:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室特集●視神経疾患と乳頭所見─異常所見の鑑別法あたらしい眼科23(5):587~591,2006遺伝性視神経症の乳頭所見????????????????????????????????????????????????神野早苗*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006色体優性視神経萎縮の軽度の症例では視野の変化がないことも多い.しかしその症例の乳頭に陥凹があれば緑内障が鑑別診断の候補にあがってくる.視力低下もなく視野も正常であれば,家族歴が重要なポイントとなるので,家族歴を尋ねるのを忘れないようにしなければならない.自験例の13歳女児は初診時視力が両眼0.2であった.小学1年時には両眼0.5であったとのことである.眼底写真(図1,2)では両眼の耳側蒼白が著明である.左眼の耳側5時に一見神経線維束欠損(NFLD)様の所見が見えるが,乳頭近傍で幅が太くなるという本来のNFLDと逆の所見があるうえ,視野にて同一部位に感度低下が認められない.この女児の母親である症例では(図4)乳頭陥凹がさらに緑内障様になっているが,視野では緑内障変化が認められない.このように幼少時より(26)図1DOA13歳女児の右眼眼底図4DOA13歳女児の母親の眼底写真図3DOA13歳女児の動的視野右眼の中心に小さな比較暗点.図2DOA13歳女児の左眼眼底———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???中心視力が悪い例では緑内障と鑑別するのは容易であるが,視力が良好な場合は乳頭所見,視野,隅角所見,家族歴を総合的に判断して????の遺伝子診断の必要性を判断しなければならない.常染色体優性視神経萎縮は現在治療法がない疾患であるが,緑内障では点眼,手術などの治療法がある.診断は重要なキーポイントとなるので慎重に判断することが大切である7).IIレーベル遺伝性視神経症(Leber?sheredi-taryopticneuropathy:LHON)レーベル遺伝性視神経症はミトコンドリアDNAの点突然変異により(11778,14484,3460)間違った塩基が産生され,ミトコンドリア内に不安定な状態が生じ,網膜神経節細胞の細胞死を生じるのではないかと考えられているが,詳細はいまだブラックボックスである8).ミトコンドリアの遺伝子異常であるために母系遺伝となる.その臨床像は7),①発症時は片眼,さらに数週間をおいて対眼の視力低下および中心暗点を生じる.視力は0.1以下となる.②急性ないしは亜急性に発症する.発症前はまったく正常の視機能を有している.③患者の8割から9割は男性である.④発症年齢は10歳から20歳代.ただし,40歳代にも小さな発症のピークがある.⑤発症時の視神経乳頭所見は,発赤・腫脹.傍乳頭毛細血管拡張,および神経線維層の腫脹.蛍光眼底造影では拡張した血管や乳頭からの色素の漏出はない.⑥発症後数カ月から1年後には視神経萎縮となる.⑦対光反応は初期には相対的入力瞳孔反射異常(RAPD)が認められるが,その後視力低下や視野の変化にかかわらず良好な反応を保つ.⑧視力・視野の自然回復例がある.回復が生じるかどうかはミトコンドリア点突然変異が起こる位置で差がある9).⑨視力が回復しない症例でも,詳細に視機能を検査してみると視野の感度がモザイク状に上昇する例や中心フリッカー値がよくなる症例がある.視神経乳頭所見は発症初期は発赤,腫脹なので視神経(27)図5DOA13歳女児の母親の動的視野両眼の中心に小さな比較暗点がある.図7LHON17歳男性の蛍光眼底写真(138秒後)図6LHON17歳男性の発症1週間後の左眼眼底———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006炎との鑑別が重要となるが,1カ月後には視神経萎縮となり,耳側蒼白または視神経乳頭全体が蒼白となる.視神経乳頭は緑内障様の変化を起こし陥凹が認められるが,正常眼圧緑内障と比較すると変化は軽度である10).明白な中心暗点があれば診断に迷うことはない.自然回復期に観察すれば中心暗点が消え,視野が判定不能の形態をとるので診断に迷うかもしれない.家族歴,既往歴をよく問診することが大切である.図6,7は17歳男性の発症時の眼底写真である.視神経乳頭は発赤,軽度腫脹しているが,蛍光眼底造影では乳頭からの色素の漏出は認められない.図8~10は萎縮期に入ったレーベル遺伝性視神経症患者であるが,乳頭全体の色調が蒼白で,陥凹はあるがneuroretinalrimの色調が蒼白であり,レーベル遺伝性視神経症であることを示唆する.III緑内障性遺伝性視神経症?開放隅角緑内障には家族歴のある症例があり,50~60%が遺伝的なものとの報告もある11).近年,緑内障の遺伝子が次々と決定され,遺伝子異常をもつ症例に眼圧・年齢・高血圧・血管攣縮などの因子が網膜神経節障害を生じさせていると考えることもできるようになってきた.このような考え方をすれば,開放隅角緑内障は常染色体優性視神経萎縮やレーベル遺伝性視神経症緑内障と同じように,遺伝性視神経症といえるかもしれない.開放隅角緑内障と常染色体優性視神経萎縮は臨床像がよ(28)■用語解説■ミトコンドリア:細胞質にあるエネルギー産生や呼吸代謝の役目をもつ小器官.この中にもDNAが存在し,これをミトコンドリアDNAとよんでいる.第三色覚異常:青を感じる錐体細胞が欠如または機能低下している状態.日本人にはまれといわれている.盲点中心暗点:中心暗点とMariotte盲点がつながった暗点のこと.ラケット状暗点ともよんでいる.点突然変異:DNAの塩基が1つだけ変化しているもの.LHONの11778とはミトコンドリアDNAのC末端から11,778番目の塩基がグアニンからアデニンに変化(点突然変異)しているせいで,作られる蛋白質がアルギニンからヒスチジンとなっている.図8LHON(萎縮期)図9LHON(萎縮期)図10LHON(萎縮期)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.5,2006???(29)く類似しており12),ならば緑内障の病態とはミトコンドリア異常であるとの類推も可能である7).おわりに遺伝子異常による視神経症の治療は,将来的には遺伝子治療が可能になるかもしれないが,現在まだ有効な治療法は確立されていない.しかし,開放隅角緑内障には眼圧を下げる治療法が存在する.遺伝子疾患では治療法はなく,開放隅角緑内障では治療法があることは患者にとって大きな差となる.乳頭所見だけにこだわらず,視野,経過,家族歴すべてを参考にして総合的に診断することが大切である.文献1)KjerB,EibergH,KjerPetal:Dominantopticatrophymappedtochromosome3qregion.II.Clinicalandepide-miologicalaspects.?????????????????????74:3-7,19962)JohnstonPB,GasterRN,SmithVCetal:Aclinicopatho-logicalstudyofautosomaldominantopticatrophy.???????????????88:868-875,19793)KjerP:Histopathologyofeye,opticnerveandbraininacaseofdominantopticatrophy.??????????????????????61:300-312,19834)BrownJJr,FingertJH,TaylorCMetal:Clinicalandgeneticanalysisofafamilyaffectedwithdominantopticatrophy(OPA1).???????????????115:95-99,19975)VotrubaM,ThiseltonD,BhattacharyaS:Opticdiscmor-phologyofpatientswithOPA1autosomaldominantopticatrophy.???????????????87:48-53,20036)FournierAV,DamjiKF,EpsteinDLetal:Discexcava-tionindominantopticatrophy:differentiationfromnor-maltensionglaucoma.?????????????108:1595-1602,20017)VotrubaM,AijazS,MooreAT:Areviewofprimaryhereditaryopticneuropathies.???????????????????26:209-227,20038)WallaceDC,SinghG,LottMTetal:MitochondrialDNAmutationassociatedwithLeber?shereditaryopticneurop-athy.???????242:1427-1430,19889)中村誠:レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望(総説):日眼会誌109:189-196,200510)MashimaY,KimuraI,YamamotoYetal:OpticdiscexcavationintheatrophicstageofLeber?shereditaryopticneuropathy:comparisonwithnormaltensionglau-coma.????????????????????????????????241:75-80,200311)McNaughtAI,AllenJG,HealeyDetal:Accuracyandimplicationsofareportedfamilyhistoryofglaucoma:experiencefromtheGlaucomaInheritanceStudyinTas-mania.???????????????118:900-904,200012)BuonoLM,ForoozanR,SergottRCetal:Isnormalten-sionglaucomaactuallyanunrecognizedhereditaryopticneuropathy?Newevidencefromgeneticanalysis.????????????????????13:362-370,2002