0910-1810/06/\100/頁/JCLSsensitiveStaphylococcusaureus(MSSA),CNSはmethicillin-resistantCNS(MRCNS)とmethicillin-sensitiveCNS(MSCNS)(表皮ブドウ球菌の場合はmethicillin-resistantStaphylococcusepidermidis(MRSE)とmethicillin-sensitiveStaphylococcusepidermidis(MSSE)に分けられる(表1).一般的に,黄色ブドウ球菌は毒素産生が豊富で病原性が強く,一方のCNSは病原性に乏しい.はじめに角膜上皮は物理的なバリアとして,涙液とともに角膜の防御機構の一端を担っており,さまざまな病原体の侵入を防止している.しかしながら,ある条件下にバリアが破綻すると,病原体は角膜上皮内に侵入し,そこに留まることで感染が成立する.近年,コンタクトレンズ(CL)装用者の増加に伴い,角膜上皮感染症が日常臨床においてしばしばみられるようになった.本稿では,代表的な病原体であるブドウ球菌とアカントアメーバがひき起こす角膜上皮感染症に的を絞り,病原体の特徴,発症機転,リスクファクター,臨床所見,診断(検査や鑑別疾患),および治療方針を概説する.Iブドウ球菌角膜上皮炎1.ブドウ球菌の分類と特徴ブドウ球菌は,眼部の常在菌として最も多く検出される細菌で,コアグラーゼ(血漿を凝固させる作用のある蛋白)保有の有無で,大きくコアグラーゼ陽性および陰性ブドウ球菌の2群に分けられる.ヒト由来のコアグラーゼ陽性株は,基本的に黄色ブドウ球菌のみであるため,実際上は,黄色ブドウ球菌とコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulasenegativeStaphylococci:CNS)とに大別される.CNSの代表菌種として表皮ブドウ球菌があるが,近年はメチシリン耐性株も増加しており,メチシリンへの感受性により,黄色ブドウ球菌はmethicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)とmethicillin-(47)327*TakashiSuzuki&YuichiOhashi:愛媛大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木崇:〒791-0295東温市志津川愛媛大学医学部眼科学教室特集●基本的な角膜上皮疾患の考え方と治療方法あたらしい眼科23(3):327~332,2006角膜上皮感染症CornealEpithelialInfection鈴木崇*大橋裕一*表1ブドウ球菌による角膜上皮感染症の治療メニュー*薬剤感受性試験の結果を参考にして治療を決定するMSSAもしくはMSCNSの場合局所1.キノロン系(ガチフロキサシン,レボフロキサシン)点眼2.セフメノキシム点眼もしくはスルベニシリン点眼*重症度に合わせて回数決定.重症の場合は1と2の併用.全身セフェム系薬剤内服(各抗菌薬に感受性がある場合)MRSAもしくはMRCNSの場合局所1.0.5%バンコマイシン1時間ごと点眼2.0.3%アルベカシン1時間ごと点眼3.0.5%クロラムフェニコール1時間ごと点眼(クロラムフェニコール感受性の場合)*重症度に合わせて,1~3を併用する.全身ミノサイクリン(200mg/日)内服またはST合剤(2g/日)内服(各抗菌薬に感受性がある場合)328あたらしい眼科Vol.23,No.3,20062.ブドウ球菌による角膜上皮感染症の発症機転とリスクファクターブドウ球菌は通常,結膜や眼瞼などに常在している.涙液や角膜上皮バリアなどの防御機構により侵入は阻止されているが,菌数の増加や防御機構の破綻などが重なると,感染を生じやすくなる.菌数増加のリスクファクターとしては,眼瞼炎,結膜炎,涙.炎などの外眼部感染症のほか,CLを介した汚染が考えられる.一方,防御機構破綻のリスクファクターとしては,ドライアイ,角膜上皮障害(機械的障害,再発性上皮びらん,CL装用など),およびステロイド点眼による免疫不全などがあげられる.これらのリスクファクターは複雑に絡み合っており,たとえば,アトピー性皮膚炎患者においては,眼瞼に黄色ブドウ球菌が多数常在している1)なかに,機械的刺激やアレルギー性機転による角膜上皮障害が加わり,黄色ブドウ球菌による角膜上皮感染症を起こすと想定される.3.臨床所見の特徴ブドウ球菌による角膜上皮感染症の臨床所見としては,比較的境界が明瞭で,円形もしくは楕円形の角膜上皮欠損を伴う細胞浸潤が特徴的である.ただし,前述したように,黄色ブドウ球菌とCNSでは病原性に差があるため,臨床所見も異なる.たとえば,黄色ブドウ球菌の場合には細胞浸潤の程度も強く,しばしば多発性であり,CNSの場合には,単発性浸潤であることが多い.図1aは,再発性上皮びらんの治療目的でSCLを装用していた患者に発症したMRSAによる角膜上皮感染症で,上皮びらんの辺縁部に浸潤が多発している.一方,図1bは従来型ソフトコンタクトレンズ(SCL)を3日間連続装用後に発症したCNSによる角膜上皮感染症で,角膜中央部に小円形の角膜浸潤を認める.病変も,眼瞼炎などでは眼瞼縁に一致して生じる場合が多いが,CL装用者においては,角膜中央部や周辺部など,すべての場所に認められる.なお,MRSAやMRCNSは,MSSA(48)図1ブドウ球菌による角膜上皮感染症の臨床所見a:MRSA角膜炎の1例.再発性上皮びらんの辺縁に多発する小円形の浸潤を認める.b:CNS角膜炎の1例.角膜中央部に円形の浸潤を認める.abあたらしい眼科Vol.23,No.3,2006329やMSCNSと比較して,若干病原性が低いとされる2).4.診断(検査と鑑別疾患)ドライアイや眼瞼炎,あるいはCL装用などのリスクファクターがあり,上述のようなブドウ球菌に特徴的な臨床所見を認める場合には,診断と治療とを兼ねて病巣部の擦過を行い,直接鏡検と培養検査を試みる.ブドウ球菌は外眼部の常在菌で,分離培養で検出されても原因菌としての特定はできないため,確定診断には,塗抹標本の直接鏡検にてグラム陽性球菌の存在を確認することが必要である.図2の症例は,再発性の上皮びらん部分に生じた角膜上皮感染症で,アトピー性皮膚炎を合併している.この場合,直接鏡検でグラム陽性球菌を多数認めたほか,培養検査において黄色ブドウ球菌が検出されたことから,黄色ブドウ球菌による角膜上皮感染症と診断できた.鑑別すべきものとして,ブドウ球菌やアクネ菌による眼瞼炎に伴う周辺部角膜浸潤があげられるが,結膜充血が局所的であるほか,浸潤は一定の距離を置いて輪部に平行に存在しており,上皮欠損が生じることも少ない点などが判断材料である.5.治療大部分のMSSAやMSCNSは多くの薬剤に感受性を示すため,ニューキノロン系,セフェム系,ペニシリン系などの頻回点眼が有効であるが,MRSAやMRCNSの場合には,b-ラクタム系薬剤に加え,ニューキノロン系にも高度耐性を示すことがほとんどのため,バンコマイシン点眼液やアルベカシン点眼液を自家調整し,投与する必要がある.治療メニューの一例を表1に示す.IIアカントアメーバ角膜(上皮)炎1.アカントアメーバの分類と特徴アカントアメーバは淡水や土壌中に自由生活する原虫で,水道水にも存在し,その形態には栄養体とシストの2型がある.このうちの栄養体は30~40μmで偽足とよばれる棘状の舌のようなものを有し,一方のシストは10~20μmの球状で二重の細胞壁を有する(図3).乾燥など,アメーバの発育に向かない条件では容易にシスト化し,条件が良くなれば栄養体へと復帰し増殖する.シストの薬物に対する抵抗性は強いため,感染はきわめて難治となる.アカントアメーバはその遺伝子型によって,現在のところT1~14に分類されている3).(49)図2黄色ブドウ球菌による角膜上皮感染症の一例左図:眼瞼縁に一致して,角膜に浸潤を認める.右図:角膜病巣擦過物の塗抹標本(グラム染色)にて,グラム陽性球菌を認める.5μm330あたらしい眼科Vol.23,No.3,20062.アカントアメーバ角膜炎の発症機転とリスクファクター水道水などに含まれているため,日常生活においてアカントアメーバと接する機会は多いはずであるが,感染が成立することはきわめて少ない.しかしながら,角膜から分離されたアカントアメーバにはT3,4の遺伝子型をもつものが多いことが知られており,偽足の違いなど,アカントアメーバの種類によって発症リスクに差のある可能性はある3).また,アカントアメーバが多く生息する汚水などの飛入や,アカントアメーバが多量に付着したCLの装用などでは,当然,角膜上皮との接触機会が増大するため,感染の発症リスクは高くなる.特にCLケース内にグラム陰性桿菌が繁殖すると,それを餌としてアメーバが増殖し長期間生存するという知見は病態を考えるうえで重要である4).すなわち,レンズ装用者のケア不足がアカントアメーバの汚染を増幅させ,一方で,過装用などによる角膜上皮障害が重なることにより,感染の可能性が高くなると推測される.3.アカントアメーバ角膜(上皮)炎の臨床所見アカントアメーバ角膜炎の初期には,角膜中央部の上皮内から上皮下にかけて多発性の浸潤が出現する.このとき,放射状角膜神経炎とよばれるアカントアメーバ角膜炎に特異的な所見がみられることがある.実際には,角膜神経に沿う周辺部の淡い線状の浸潤で,多くの例で多発している.この所見がみられれば,アカントアメーバ角膜炎である可能性はきわめて高いが,全例にみられるものではない点,病期が進行すると消失する点に注意が必要である.初期の所見として,今ひとつ重要なのが偽樹枝状角膜炎である.角膜中央部を走る線状の上皮病変で,ターミナルバルブはなく,盛りあがったような感じがむしろ帯状疱疹に似ている(図4).(50)図3アカントアメーバの形態左図:二重の細胞壁を認める.右図:核と棘状の偽足を認める.10μmシスト栄養体abc白矢印:多発する角膜上皮~上皮下の浸潤.黒矢印:放射状角膜神経炎.白線にて囲んだ領域:連続する上皮の不整・偽樹枝状角膜炎.図4アカントアメーバ角膜炎初期の臨床所見の代表3例(a~c)あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006331(51)4.診断(検査と鑑別疾患)角膜上皮擦過物の塗抹標本の鏡検,培養検査によるアカントアメーバの検出は,確定診断にきわめて重要である.塗抹標本の鏡検は比較的容易で,パーカーインク(KOH)染色,ギムザ染色,グラム染色,ファンギフローラ染色のいずれか,あるいは複数を用いてシストの検出を試みる5)(図5).また,診断を確実なものとするために,大腸菌塗布寒天平板培地による分離培養検査は必須である.角膜上皮内から上皮下にかけて角膜浸潤が多発する疾患との鑑別が重要であるが,CL装用者のなかには,アカントアメーバ角膜炎初期に類似の角膜病変を呈するも図5アカントアメーバ角膜炎の塗抹標本(グラム染色)二重の細胞壁を有するアカントアメーバのシストを多数認める.図6アカントアメーバ角膜炎初期の鑑別疾患a:CL過装用による角膜上皮下の浸潤.散在性の上皮下浸潤を認める.b:CL付着微生物に対する免疫性の浸潤.角膜中央部の上皮下浸潤とCLの汚染を認める.c:実質型角膜ヘルペス.角膜中央部と周辺部に上皮下浸潤を認める.abc332あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(52)のもあり,注意が必要である.また,CLを装用したまま就寝した場合に,毛様充血を伴い角膜上皮に浸潤が多発することがある(図6a).この場合,細胞浸潤は一様で角膜全面に及んでおり,ときに角膜浮腫も認められる.そのほか,CLに付着した微生物に対する免疫反応として,びまん性の細胞浸潤が角膜上皮下にみられることもある(図6b)が,CLを中止するだけで軽快することが多い.いずれの場合でも,アカントアメーバ角膜炎との鑑別が困難と感じたときには,ステロイド点眼は用いずに,CLの装用中止のみで数日経過をみるのがよい.安易なステロイド投与は,診断を混乱させるもととなるため厳に慎むべきである.特に,実質型角膜ヘルペスでも,まれに上皮下から実質浅層にかけて多発性浸潤を呈する場合があるが,角膜上皮障害は強くないことが多い(図6c).5.治療アカントアメーバに対する特効薬はない.現時点では,角膜病巣部の掻爬を根気強く行い,病原体を物理的に除去する戦略が最も効果的で5),これに抗真菌薬を中心とした薬物治療を併用する.抗真菌薬はアカントアメーバの栄養体には効果があるが,シストに対しては効果が低いため6),シストに有効なPHMB(polyhexame-thlenebiguanid)やクロルヘキシジンなどを併用するのがよい.局所投与においては,アゾール系薬剤が中心となるが,近年ではポリエン系のピマリシン点眼の有効性も報告7)されており,今後の検討が必要である.全身的に抗真菌薬が投与可能な場合には,アゾール系薬剤(フルコナゾール・イトラコナゾール)を使用するのがよい.一般的な処方例を表2に示す.文献1)NakataK,InoueY,HaradaJetal:AhighincidenceofStaphylococcusaureuscolonizationintheexternaleyesofpatientswithatopicdermatitis.Ophthalmology107:2167-2171,20002)SotozonoC,InagakiK,FujitaAetal:Methicillin-resistantStaphylococcusaureusandmethicillin-resistantStaphylococcusepidermidisinfectionsinthecornea.Cornea21:S94-101,20023)ZhangY,SunX,WangZetal:Identificationof18SribosomalDNAgenotypeofAcanthamoebafrompatientswithkeratitisinNorthChina.InvestOphthalmolVisSci45:1904-1907,20044)CengizAM,HarmisN,StapletonF:Co-incubationofAcanthamoebacastellaniiwithstrainsofPseudomonasaeruginosaaltersthesurvivalofamoeba.ClinExpOphthalmol28:191-193,20005)石橋康久,本村幸子:アカントアメーバ角膜炎の診断と治療.眼科33:1355-1361,19916)ElderMJ,KilvingtonS,DartJK:AclinicopathologicstudyofinvitrosensitivitytestingandAcanthamoebakeratitis.InvestOphthalmolVisSci35:1059-1064,19947)田原和子,浅利誠志,下村嘉一:Acanthamoebacystに有効な治療薬剤の検討.感染症学雑誌71:1025-1030,1997表2アカントアメーバ角膜炎に対する治療メニューの一例局所・0.2%フルコナゾール*・0.1~0.2%ミコナゾールの1時間ごと頻回点眼・ピマリシン点眼1時間ごと頻回点眼またはピマリシン眼軟膏1日5回・0.02%PHMBもしくは0.02~0.05%クロルヘキシジンの1時間ごと点眼・0.2%フルコナゾール*・0.1~0.2%ミコナゾールの結膜下注射1日1~2回(1剤につき0.2~0.5ml)全身・イトラコナゾール内服(150mg/日)またはフルコナゾール点滴(200mg/日)随時病巣部の角膜擦過を行う*フルコナゾールのプロドラッグであるホスフルコナゾールは,生体内で分解後フルコナゾールとして作用するため,点眼での効果はない.そのため,点眼薬としてはフルコナゾールを使用する必要がある.