———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS光学部からはずれてしまう.つまり大きさだけでなく,位置と形も重要である.I前?切開の適切な大きさContinuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の形と大きさは,正円で偏心がなく眼内レンズ(IOL)光学部よりもやや小さいのがベストである(図1).したがって光学部径6.0または5.5mmのIOLを挿入する場合,5.0mm前後の直径のCCCが望ましい.そのおもな理由は,術後の前?収縮および後発白内障が少ないことである(表1).大きさが適切でも中心からずれて偏位している場合は,一部が光学部からはずれるためにその部位では前?切開縁が直接後?に癒着して,光学部エッジによる後発白内障抑制効果が得られない.このためその部分から中心に向かって後発白内障が進行してしまう.形が円形から大きく歪んでいる場合は,同様に一部が(3)???*ToshiyukiNagamoto:杏林アイセンター〔別刷請求先〕永本敏之:〒181-8611三鷹市新川6-20-2杏林アイセンター特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):425~433,2006前?切開の適切な大きさと作製法?????????????????????????????????????????????????????????????????????永本敏之*表1CCCの大きさ小さなCCC(直径3.0~4.5mm)適切なCCC(直径4.5~5.5mm)大きなCCC(直径5.5~7.0mm)作製易中難(流れやすい)術中CBS(ハイドロ)核が大きく,BSS過量注入で発生ヒーロンV?過量,核大,BSS過量で発生極まれ核処理・I/A難中易IOL挿入難易中IOL安定性良好良好不良前?収縮高頻度中まれ後発白内障高頻度まれ高頻度CBS:capsularblocksyndrome.CCC図1理想的なCCCの大きさと形IOLの光学部よりもやや小さい大きさで,形は正円であり,中心に位置しているCCCが理想的である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006II基本的な前?切開作製法1.予定切開線を頭の中で描く(図2-①)CCCを開始する前にどれくらいの大きさにすべきかを考え,前?上の予定切開線を頭の中に描く.その際に角膜の横径が約12mm(半径6mm)であることを目安にすればどれくらいの位置に切開線がくれば直径5mm(半径2.5mm)のCCCとなるかがわかる.この予定切開線の軌道上に実際のCCCを作るのであるが,軌道上から少しでもずれたらCCCの方向を軌道修正するべく力のベクトルを変えることが重要である.2.逆「の」の字のごとく切る(図2-①)まず前?の中心から切開を始め,逆さ「の」の字を描くようにして切る.前?の中心に針を突き刺してから,直線的に切っていくが,意図した半径の半分まで進んだら,チストトームを少し深く刺し,前?を引っ掛けたまま逆V字を描くように針を動かす.そうすると切開線は逆「し」の字のように切れて円周方向に変わり,意図した切開軌道上に近いところにくる.この時点で,切れた前?を針で引っ掛けて翻転する(図2-②).つぎに翻転した前?を針先で引っ掛けて引っ張り,前?を引き裂いていく(図2-③~⑤).この際,前?上を滑らせるように動かして切り裂いていくことが重要である.最後に予定切開軌道上で切開線をつなぎCCCを完成させる(図2-⑥).III上手に作製するためのポイント1.徹照の重要性CCCの最中はずっと徹照を保つように眼位を保持する必要がある.そうすれば切開線が見やすいだけでなく,CCCの位置と形状を正しく把握できる.CCCの最中に眼位がずれてしまう原因は,ほとんどがチストトームの動かし方が悪く,サイドポートに負荷を掛けてチストトームが眼を動かしてしまっているためである.CCCの間中チストトームの位置と方向を常に微調整し,眼位を保つようにウェットラボで十分練習する必要がある.2.翻転と非翻転(図3)前?を翻転して引き裂く場合,原則として力のベクトルと切開線の方向は一致するが,実際は多少外側に流れるため多少内側に力を掛ける.つまり掛けるべき力のベ(4)①②③④⑤⑥図2CCCの作製過程①切る前に予定切開線の軌道を頭の中に描く.②中心から切開を開始し,円周の軌道に乗ったら前?フラップを翻転する.③~⑤翻転したフラップを引っ張り,円形に引き裂いていく.⑥最後に切開線をつなげて完成.①②図3翻転と非翻転の場合の力のベクトルと切開線の方向①前?を翻転:原則として力のベクトル(青矢印)と切開線の方向(赤矢印)は一致する.実際は多少外側に流れる(赤破線).そのため多少内側に力の向きを変えなければならない(青破線).②前?を翻転しない:原則として力のベクトル(青矢印)と切開線の方向(赤矢印)が直角の関係となる.実際は多少外側に流れる(赤破線).そのため多少内側に力の向きを変えなければならない(青破線).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???クトルの方向は,翻転の場合は基本的には作りたいCCCの形状に沿っていくが,実際は外側に流れようとする傾向に対抗して引き裂きたい方向よりもやや内側に向けながら引き裂いていく.前?を翻転しないで引き裂く場合は,原則として力のベクトルと切開線の方向が直角の関係となるが,実際は多少外側に流れるため多少内側に力を掛ける.つまり非翻転の場合も垂直よりもやや内側に力を掛けて引き裂いていく.どれくらい内側にするかは,流れやすさに依存するため,その場の流れ方に応じて対処しなければならない.そのためには予定切開線を頭の中であらかじめ描いておき,予定切開線に沿って切れていくように常に力の方向を修正しながら行う.3.前?切開の流れやすさ(表2)CCCが外側に流れる傾向に影響する因子は,水晶体の膨潤度,年齢,CCCの大きさ,粘弾性物質の種類と注入量,硝子体圧と前房内圧,チストトームまたは鑷子から加えられる力,CCCの進行局面などである.影響が最も大きい因子は,水晶体の膨潤度と年齢である.膨潤していると水晶体?内圧が上昇しており,流れやすくなる(図4).さらに膨潤していると切開に伴って水晶体内容が前房内に突出してくるため,切開線は周辺部へ流れる.膨潤度が非常に強い場合は,前?の中心に切開を加えただけで,あっという間に赤道部まで切開が流れてしまうこともある.年齢は,若年であればあるほど流れやすくなるが,2歳以下の乳幼児では特に流れやすい.このような非常に流れやすい症例では針によるCCCではコントロールがむずかしく,鑷子によるCCCを行う必要がある.その際は翻転にこだわらずに切開線の伸びる方向に応じて力のベクトルを臨機応変に変えていく必要がある.このため膨潤の強い場合や乳児の場合には,熟練者でないと予定どおりのCCCを完成させることは非常にむずかしい.CCCの大きさの影響は,直径が大きいほど切開線は外側に流れやすくなる(図5).このため直径6mmを超えるような大きなCCCをきれいに作ることはむずかし(5)表2CCCの流れやすさに影響する因子因子CCCの流れ水晶体の膨潤度膨潤しているほど流れる年齢若いほど流れるCCCの大きさ大きいほど流れる粘弾性物質の種類低分子量凝集型>高分子量凝集型>ビスコート?>ヒーロンV?の順に流れやすい粘弾性物質注入量少なすぎても入れすぎても流れる硝子体圧前房内圧相対的に高すぎても低すぎても流れる特に粘弾性物質流失に伴う前房内圧の急激な低下で流れるチストトーム・鑷子水晶体を押したり,前?を引っ張り上げると流れるCCCの進行局面半周手前から3/4周までが流れやすい図4水晶体内圧とCCCの流れ水晶体?内圧が高い(左黒矢印)と周辺へ向かう力のベクトル(赤矢印)が増大し,CCCは流れやすくなる.図5CCCの大きさと流れCCCが大きいと切開線の位置はより周辺部になるが,周辺に行けば行くほど水平方向の水晶体?内圧(赤矢印)が大きくなり,CCCは流れやすくなる.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006い.また周辺部に行けば行くほど流れやすくなるため,一旦CCCが流れ出すとどんどん流れてしまう.したがって膨潤白内障や小児のようにCCCが流れやすい要因が強い症例では最初は小さなCCCを作製し,水晶体内容物をある程度除去してから適切な大きさのCCCを作り直すtwostepCCC(ダブルCCC)を行ったほうが安全である(図6).粘弾性物質のCCCへの影響は,粘弾性物質の種類と注入量の両方が影響する.CCCを行う前に通常粘弾性物質で前房を全置換するが,全置換した場合の種類による流れやすさの違いは,低分子量凝集型>高分子量凝集型>ビスコート?>ヒーロンV?の順に流れやすい.注入量としては,多く入れすぎても,少なすぎてもCCCは流れやすくなってしまう.少なすぎる場合は,正常よりも眼圧が低く,前房が浅い状態になる.前房が浅いだけでもCCCはやりにくくなるが,この場合水晶体が前方に移動することによって前房が浅くなっているので,Zinn小帯から前?にかかる周辺部方向への力が増大している.さらに相対的に水晶体?内圧が上昇している.このためにCCCが流れやすくなってしまう.逆に粘弾性物質を入れすぎてしまっている場合は,正常よりも眼圧が高く,前房が深くなっている.この場合水晶体が後方に移動することで前房が深くなっており,Zinn小帯から前?にかかる力は緩んでいるので問題ないが,この状態で前房側の圧力が突然低下すると,相対的に水晶体?内圧が上がり,水晶体の内容物が前?切開部から前房内に飛び出すような動きとなり,切開線を外側に流す力となる.実際上は,粘弾性物質を入れすぎた状態でチストトームや前?鑷子でサイドポートや切開創に負荷を掛けると,粘弾性物質が勢いよく眼外に漏出し,急激に前房内圧が低下する.つまりその瞬間にCCCが外に流れてしまう(図7).このため粘弾性物質の入れすぎも好ましくない.房水と粘弾性物質を完全に置換できずに一部に房水が残った状態でCCCを行うと,房水が残っている部分にチストトームが達した時点で房水が眼外に漏出し,前房内圧が低下し,CCCが流れるため,完全置換も重要である.したがってCCC前の粘弾性物質の注入としては,術前と同じ程度の前房深度,正常眼圧になるように粘弾性物質で房水を完全置換することが重要である.またCCCが流れやすい症例ではヒーロンV?の使用を検討すべきである.さらに浅前房症例で過量注入によって前房を深くしている場合は,チストトームでサイドポートや切開創を押さないように細心の注意を払うとともに,漏出しにくい性質をもつヒーロンV?を使用したほうが(6)①②図6TwostepCCC(ダブルCCC)①まず通常の方法で小さなCCCを作製する(青線).②水晶体内容をある程度除去して,水晶体内圧を下げてから,適切な大きさのCCCを作製する.まず前?剪刀で切開(青矢印)を入れ,前?鑷子で切開線を延長する(赤矢印).①②③図7粘弾性物質漏出でCCCが流れる①前房全置換をした場合に粘弾性物質を入れすぎると,急激な粘弾性物質漏出が起こりやすい.②粘弾性物質が漏出すると(青矢印)前房が浅くなり水晶体は前方移動し(黒矢印),Zinn小帯から前?に強い張力がかかる(赤矢印).③さらに水晶体内容物が前?切開から前房に突出し(青矢印),CCCが流れる(赤矢印).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???有利である.CCC作製中の局面として流れやすいのは最初と半周前後である.CCCの開始点は通常前?中央であるが,直線的に周辺部に向かってから急激に切開線の方向を変えて円周方向にしなければならない.この急激な方向転換が上手くいかないと周辺部にそのまま流れてしまう.最初のポイントを乗り越えて,1/4周を過ぎ,半周に近づくとそれまでコンパスのごとく作用していたフラップの折れ返り線が中心の固定点を失い始めるため,切開線が周辺部に流れやすくなる(図8).ただし,3/4周を過ぎた頃になると前?を押し上げていた水晶体内容物による圧が開放されるため,周辺部に流れる傾向は多少弱まる.4.針と鑷子「針かそれとも鑷子でするべきか?」というのは,むずかしい問題である.鑷子のほうが安上がりで,CCCの基本的な原理を学びやすいので,まず針によるCCCをマスターすべきであると思われる.しかし,流れたCCCを修正するには鑷子のほうが有利であるし,高度の膨潤白内障や小児などの特殊例では鑷子によるCCCが絶対的に必要な場合もあるので,鑷子によるCCCもマスターすべきである.通常例でのCCCでは慣れているほうを使うべきであると思われる.IV針(チストトーム)によるCCC作製の実際(表3)1.27または25ゲージ針を曲げる(図9)チストトームは製品化されているものもあるが,通常はディスポ針を自分で曲げて使用する.針は27または25ゲージ針を使用するが,27ゲージ針のほうが細いため曲げやすく繊細な操作が可能である.曲げ方は,サイドポートから刺入した際に前房内操作がしやすいように曲げるということが基本である.通常は持針器の先端を使って曲げるが,筆者は針の途中が前?に触れないように図9のように2段に曲げている.針先を曲げる際に先端をつぶしてしまうと切れなくなるので,気をつけよう.針の中腹の曲げ方は,持針器の根元を使って先端から約10mmのところを45~70?曲げる.持針器の先端を使うと持針器の噛み合わせが不良となり,使い物にならなくなってしまうので気をつけよう.2.チストトームはサイドポートからチストトームを切開創から挿入するといろいろ問題が起きやすい.瞼裂が狭く眼球陥凹気味の場合は,チストトーム挿入で眼球が下転してしまい,徹照が得られなくなりやすい.さらに切開創はサイドポートより広いためチストトームで持ち上げたり押し下げたりすると簡単に粘弾性物質が流出し,前房が浅くなってしまう.このためチストトームはサイドポートから刺入したほうがよい.(7)①②③図8半周手前からのCCCの流れ①半周以前は切開開始点(黒丸)を中心とし,折れ返り線を半径としたコンパスのようにCCCができる.②しかし半周付近からコンパスの中心が前?中央からずれてしまう(白点,白矢印).このため折れ返り線の方向がずれ,CCCが流れてしまう(青矢印).③これを防ぐにはコンパスの中心と前?中心がずれないように折れ返り線の方向を常にコントロールする.約10mm45~70°20~30°図9チストトームの曲げ方———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20063.サイドポートを支点にして点対称チストトームをサイドポートから前房内に刺入した後,サイドポートを支点として点対称に動かす(図10).つまり針先を左に動かしたければ手元は右に動かし,針先を下に動かしたければ手元は上に動かし,眼球の位置が変わらないように,常に徹照状態を保つように,角膜に皺ができないように操作しなければならない.平面的な点対称ではなく,三次元的に上下方向にも点対称であることに気をつけよう.前?上を滑らせて手前から奥に行くためには,上下方向の角度を徐々に変えていかなければということも認識していなければならない(図10).針に限らず,すべての前房内操作は挿入部を支点として点対称に動かさなければならず,このことは白内障手術上達の最重要ポイントの一つであり,ウェットラボで徹底的に練習する必要がある.4.第1局面は前?フラップ作製・翻転(図11)前?の中心に針を突き刺してから,直線的に切っていくが,意図した半径の半分まで進んだら,チストトームを少し深く刺し,前?を引っ掛けたまま逆V字を描くように針を動かす.そうすると図11に示したように,前?は逆「し」の字のように切れて円周方向に切開線の方向が変わるだけでなく,意図した切開軌道上に近いところにくる.つぎの操作は,切れた前?を針で引っ掛けて翻転することである.フラップ作製から翻転まで一連の動作として行うことが望ましい.その後小休止してつぎの動作に移る.このときの手元の操作はかなり複雑であり,失敗してCCCを周辺部に流してしまいやすい局面の一つであり,ウェットラボでよく習得しておく必要がある.5.最初の直線切開の方向は9時前後この最初の直線切開を何時の方向に行うかは,術者によってかなりばらばらであるが,筆者は9時前後の方向に行っている.これは,CCCが流れて赤道部まで達してしまい引き戻すことができなくなった際に行う逆方向CCCをやりやすくするためである.この逆方向CCCの開始点はチストトームで作製するよりも前?剪刀で作製するほうが容易かつ正確であるため,12時の切開創または右手のサイドポートから挿入したやや曲の剪刀でCCCの予定軌道上に切開を加えやすいのは8時~10時の直線切開であり,これに備えて9時方向前後でCCCの最初の直線切開を行っている.6.翻転した前?を針先で引っ掛けて前?上を滑るように動かし,前?を引き裂く翻転した前?を針先で引っ掛けて引っ張り,前?を引き裂いていく.この際,下の前?に負荷を掛けることなく,翻転した前?フラップを持ち上げることなく,前?上を滑らせるように針を動かして切り裂いていくことが(8)図10点対称の動き針先と手元の動きは逆で(赤矢印),針先より手元の動きが大きい.①②図11CCCの開始針を逆V字(黒矢印)に動かすと,CCCは丸く伸びる.予定円周上まできたら翻転する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???重要である.水晶体を押したり,フラップを持ち上げたりすると切開線は外側に流れるので,常に前?上を滑らせるようにして進める.逆に前?切開をもっと大きくしたいときは,水晶体を少し押すかフラップを少し持ち上げればよい.上手くなってきたら,一度引っ掛けたらできるだけ長く引き裂いていき,引っ掛け直す回数を減らすようにする.フラップの角近くを引っ掛けると直接的に力を掛けやすいが,押したり持ち上げたりした場合の影響も出やすい(図12).引っ掛かりにくい場合は,フラップの角から少し離れた部位を引っ掛ける.その場合は水晶体を多少押してもCCCは流れないので,少し強い力をフラップに掛けることができる.針先の方向を進行方向に変えてみるのも一つの方法である.7.第2局面は最初の1/4周(図2-②~③)最初にフラップを翻転した段階ではまだ予定軌道上に乗っていないことが多いが,この1/4周の間に意図した切開軌道上に実際の切開線を乗せる.9時方向から12時方向にCCCを延長するためには,手元を7時方向に動かし針先を11時,12時,1時と動かさなければならず(図10),これに備えてまず針の根元(手元)を7時方向にずらす.水晶体?前面に沿って針先を動かすためには徐々に針の角度を下げていく必要があり(図10),そのためには手元も下げていかなければならないことに注意する.8.第3局面は半周まで(図2-③~④)第1,2局面よりはやりやすいが,第3局面でも手元で針の角度と方向を三次元的にどんどん変えていかなければならないので,水晶体の表面をなでるように針先を動かすことをしっかり意識し,針で突き刺さないように注意.半周の地点が近づいてくるとCCCが流れ出すことにも注意.9.第4局面は残り半周(図2-④~⑥)第4局面は残りの半周であるが,CCCが外側に流れやすい.特に3/4周までが流れやすい.力のベクトルの方向に注意して流れる程度に応じて中心方向への力を加えながら引き裂いていくことが重要.予定軌道上を少しでも外れだしたら力のベクトルを少し内側に変える.その際に上手に引き裂いていくために守らなければならない要点は,①余剰の前?フラップは中心側に集めておくこと,②翻転したフラップは,常にフラップの折れ返り線が中心に向かうように力のベクトルを調整すること,③切開線近くの三角フラップが常に30?以上はきれいに伸展している状態を保つことである(図2-④~⑥).針の動かし方は,図13のように引き裂き動作に引き続いて余剰フラップを引っ掛けて小円を描くように動かし,余剰フラップが中心にくるように整理すると,折れ返り線の方向修正,フラップの伸展も同時にできる.10.第5局面は最後のつなぎ(図2-⑥)最後のつなぎの場面でも手元の針の角度と方向をかなり急激に変化させる必要があり難所の一つ.さらに翻転したフラップを引っ掛けるのが非常にむずかしくなる.このため,針先が水晶体皮質に食い込むようにフラップを押し付けて水晶体の中心方向に引っ張って切らなければならないことも多い.(9)図12針を引っ掛ける位置①フラップの角付近で引っ掛けると少し押しただけでCCCが流れる.②角から離れていれば流れない.①②①②図13余剰フラップの整理①引き裂く動作に引き続いて余剰フラップを引っ掛け,黒矢印のごとく動かし,中心に集めるように整理すると,折れ返り線の方向修正,フラップの伸展も同時にでき②のようになる.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.4,200611.最終局面は針または鑷子の抜き取りCCCが完成すると気を抜いて乱暴に針を抜く人がいるが,気をつけないと針先で前?や虹彩,角膜を引っ掛けてしまう.切開完成したCCCに前?の亀裂ができてしまっては元も子もない.針先の角度を考えてどこも傷つけないように慎重に抜き取るべきである.チストトームによるCCCの要点を表3にまとめた.V鑷子によるCCC作製の実際1.どんな鑷子がいいのか前?鑷子は種々あるが,操作中に挿入部に負荷がかかり,粘弾性物質が漏出しやすいので,前房が浅くなるだけでなくCCCが流れやすいことが欠点である.サイドポートから挿入できる河合式あるいは新池田式鑷子は,粘弾性物質漏出が起こりにくく,優れているが高価である(図14).稲村式鑷子は切開創からしか挿入できないが,クロスアクションになっているため切開創に負荷がかかりにくく,粘弾性物質漏出が比較的少なく,サイドポート用鑷子よりは,はるかに安価である.昔からあるユトラータ鑷子は,粘弾性物質漏出が多いためあまりお勧めできない.2.鑷子によるCCCも基本的には針と同じまず鑷子の先端を閉じて前?の中心に突き刺し,チストトームの場合と同様に鑷子の先端でCCCの円の半径の半分くらいを切る.続いて前?を鑷子で?んで引き裂き始めフラップを作り,翻転する.翻転した前?フラップを把持し直し,引き裂いていく.チストトームの場合と同様に前?上を滑らせるようにフラップを引っ張り,持ち上げたり水晶体を押したりしないようにする.鑷子(10)表3針(チストトーム)によるCCCの要点?チストトームはサイドポートから刺入?開始前に予定切開線を頭の中に描く(図2-①)?逆さ「の」の字を描くようにして切る(図2-①)?サイドポートを支点として針の先端と根元を点対称に動かす(図10)?前?中心に針を刺し,意図した半径の半分まで直線的に切ったら,逆V字を描くように針を動かす(図11)?翻転した前?フラップは前?上を滑らせるように動かして引き裂いていく?最初の1/4周までに軌道に乗せる(図2-②,③)?半周を過ぎてからは切開線が外側に流れやすいので,内側にベクトルを掛ける?針の動かし方は,いつも小円を描くように動かし,引き裂く動作に続いて余剰フラップの整理を行うとよい(図13)?切開線をつなげる最後の局面では,針先が水晶体皮質に食い込むようにフラップを押し付けて水晶体の中心方向に引っ張ってもよい?針の抜き取りは慎重に図14河合式前?鑷子サイドポートから挿入できるため前房安定性に優れている.図15鑷子による把持の仕方①や②では④のごとく,前?フラップにfoldを作って把持している.③では鑷子を横にして⑤のように伸びたフラップを直接把持している.いずれの場合もフラップを持ち上げずに引けば,翻転時の原理に従って引き裂くことができる.①④⑤②③———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???(11)では特に持ち上げやすいが,力の方向を変えるのも比較的簡単なので流れ出しても対処しやすい.ただし,把持の仕方が重要で,これから進むべき方向をよく考えて,それに備えた形で把持すること(図15).間違った把持の仕方をすると,フラップを持ち上げたり,捻ったりする力が加わってCCCがどんどん流れてしまう可能性がある.慣れてきたら,把持し直す回数を減らすことが時間短縮のポイント.切れ方を見ながら臨機応変にフラップを引く方向を変え,円形になるようにする.チストトームと違ってフラップの中心を保つ必要はないが,余剰フラップは中央に寄せておく.最後につなぐ場面も鑷子であれば容易である.慣れれば鑷子によるCCCのほうが短時間ででき,はるかに簡単である.また,外側に流れかけた切開線を修正するには,直接把持できる鑷子のほうが有利である.鑷子によるCCCの要点を表4にまとめた.VI前?染色成熟白内障や過熟白内障のような白色白内障では,徹照が得られないためCCCの切開線が見えにくい.この対処法としてインドシアニングリーン(ICG)やトリパンブルーによる前?染色を行うと,切開線の視認性が向上し,CCCが容易になる(図16).成熟白内障になっていなくても皮質白内障が強めの症例では,非常に有効である.また角膜混濁がある症例の場合も有効である.初心者でCCCの切開線を見失いがちの術者は,全例前?染色をしてみてもよい.詳しい方法などは,他書に譲る1).文献1)永本敏之:前?染色の方法.??????18:36-41,2004表4鑷子によるCCCの要点?鑷子の場合も,基本的には針を用いた場合と同様に翻転して前?切開を行う?把持の仕方が重要?鑷子では前?を持ち上げてしまいやすいので注意?翻転しないで前?を引き裂くこともできるが,力のベクトルを間違わないこと?外側に流れかけた切開線を修正するには,直接把持できる鑷子のほうが有利である?鑷子を切開創から挿入する場合は,切開創を押したり持ち上げたりしないことが重要?サイドポートから挿入できる鑷子を使うと粘弾性物質漏出は少ない図16トリパンブルー前?染色成熟白内障でもCCCの切開線が明瞭である.(眼科インストラクションコースNo4,白内障手術CCC完全マスター,p99の図38,メジカルビュー社,2005より許可を得て転載した)