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前嚢切開の適切な大きさと作製法

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS光学部からはずれてしまう.つまり大きさだけでなく,位置と形も重要である.I前?切開の適切な大きさContinuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の形と大きさは,正円で偏心がなく眼内レンズ(IOL)光学部よりもやや小さいのがベストである(図1).したがって光学部径6.0または5.5mmのIOLを挿入する場合,5.0mm前後の直径のCCCが望ましい.そのおもな理由は,術後の前?収縮および後発白内障が少ないことである(表1).大きさが適切でも中心からずれて偏位している場合は,一部が光学部からはずれるためにその部位では前?切開縁が直接後?に癒着して,光学部エッジによる後発白内障抑制効果が得られない.このためその部分から中心に向かって後発白内障が進行してしまう.形が円形から大きく歪んでいる場合は,同様に一部が(3)???*ToshiyukiNagamoto:杏林アイセンター〔別刷請求先〕永本敏之:〒181-8611三鷹市新川6-20-2杏林アイセンター特集●白内障手術アップデート2006あたらしい眼科23(4):425~433,2006前?切開の適切な大きさと作製法?????????????????????????????????????????????????????????????????????永本敏之*表1CCCの大きさ小さなCCC(直径3.0~4.5mm)適切なCCC(直径4.5~5.5mm)大きなCCC(直径5.5~7.0mm)作製易中難(流れやすい)術中CBS(ハイドロ)核が大きく,BSS過量注入で発生ヒーロンV?過量,核大,BSS過量で発生極まれ核処理・I/A難中易IOL挿入難易中IOL安定性良好良好不良前?収縮高頻度中まれ後発白内障高頻度まれ高頻度CBS:capsularblocksyndrome.CCC図1理想的なCCCの大きさと形IOLの光学部よりもやや小さい大きさで,形は正円であり,中心に位置しているCCCが理想的である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006II基本的な前?切開作製法1.予定切開線を頭の中で描く(図2-①)CCCを開始する前にどれくらいの大きさにすべきかを考え,前?上の予定切開線を頭の中に描く.その際に角膜の横径が約12mm(半径6mm)であることを目安にすればどれくらいの位置に切開線がくれば直径5mm(半径2.5mm)のCCCとなるかがわかる.この予定切開線の軌道上に実際のCCCを作るのであるが,軌道上から少しでもずれたらCCCの方向を軌道修正するべく力のベクトルを変えることが重要である.2.逆「の」の字のごとく切る(図2-①)まず前?の中心から切開を始め,逆さ「の」の字を描くようにして切る.前?の中心に針を突き刺してから,直線的に切っていくが,意図した半径の半分まで進んだら,チストトームを少し深く刺し,前?を引っ掛けたまま逆V字を描くように針を動かす.そうすると切開線は逆「し」の字のように切れて円周方向に変わり,意図した切開軌道上に近いところにくる.この時点で,切れた前?を針で引っ掛けて翻転する(図2-②).つぎに翻転した前?を針先で引っ掛けて引っ張り,前?を引き裂いていく(図2-③~⑤).この際,前?上を滑らせるように動かして切り裂いていくことが重要である.最後に予定切開軌道上で切開線をつなぎCCCを完成させる(図2-⑥).III上手に作製するためのポイント1.徹照の重要性CCCの最中はずっと徹照を保つように眼位を保持する必要がある.そうすれば切開線が見やすいだけでなく,CCCの位置と形状を正しく把握できる.CCCの最中に眼位がずれてしまう原因は,ほとんどがチストトームの動かし方が悪く,サイドポートに負荷を掛けてチストトームが眼を動かしてしまっているためである.CCCの間中チストトームの位置と方向を常に微調整し,眼位を保つようにウェットラボで十分練習する必要がある.2.翻転と非翻転(図3)前?を翻転して引き裂く場合,原則として力のベクトルと切開線の方向は一致するが,実際は多少外側に流れるため多少内側に力を掛ける.つまり掛けるべき力のベ(4)①②③④⑤⑥図2CCCの作製過程①切る前に予定切開線の軌道を頭の中に描く.②中心から切開を開始し,円周の軌道に乗ったら前?フラップを翻転する.③~⑤翻転したフラップを引っ張り,円形に引き裂いていく.⑥最後に切開線をつなげて完成.①②図3翻転と非翻転の場合の力のベクトルと切開線の方向①前?を翻転:原則として力のベクトル(青矢印)と切開線の方向(赤矢印)は一致する.実際は多少外側に流れる(赤破線).そのため多少内側に力の向きを変えなければならない(青破線).②前?を翻転しない:原則として力のベクトル(青矢印)と切開線の方向(赤矢印)が直角の関係となる.実際は多少外側に流れる(赤破線).そのため多少内側に力の向きを変えなければならない(青破線).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???クトルの方向は,翻転の場合は基本的には作りたいCCCの形状に沿っていくが,実際は外側に流れようとする傾向に対抗して引き裂きたい方向よりもやや内側に向けながら引き裂いていく.前?を翻転しないで引き裂く場合は,原則として力のベクトルと切開線の方向が直角の関係となるが,実際は多少外側に流れるため多少内側に力を掛ける.つまり非翻転の場合も垂直よりもやや内側に力を掛けて引き裂いていく.どれくらい内側にするかは,流れやすさに依存するため,その場の流れ方に応じて対処しなければならない.そのためには予定切開線を頭の中であらかじめ描いておき,予定切開線に沿って切れていくように常に力の方向を修正しながら行う.3.前?切開の流れやすさ(表2)CCCが外側に流れる傾向に影響する因子は,水晶体の膨潤度,年齢,CCCの大きさ,粘弾性物質の種類と注入量,硝子体圧と前房内圧,チストトームまたは鑷子から加えられる力,CCCの進行局面などである.影響が最も大きい因子は,水晶体の膨潤度と年齢である.膨潤していると水晶体?内圧が上昇しており,流れやすくなる(図4).さらに膨潤していると切開に伴って水晶体内容が前房内に突出してくるため,切開線は周辺部へ流れる.膨潤度が非常に強い場合は,前?の中心に切開を加えただけで,あっという間に赤道部まで切開が流れてしまうこともある.年齢は,若年であればあるほど流れやすくなるが,2歳以下の乳幼児では特に流れやすい.このような非常に流れやすい症例では針によるCCCではコントロールがむずかしく,鑷子によるCCCを行う必要がある.その際は翻転にこだわらずに切開線の伸びる方向に応じて力のベクトルを臨機応変に変えていく必要がある.このため膨潤の強い場合や乳児の場合には,熟練者でないと予定どおりのCCCを完成させることは非常にむずかしい.CCCの大きさの影響は,直径が大きいほど切開線は外側に流れやすくなる(図5).このため直径6mmを超えるような大きなCCCをきれいに作ることはむずかし(5)表2CCCの流れやすさに影響する因子因子CCCの流れ水晶体の膨潤度膨潤しているほど流れる年齢若いほど流れるCCCの大きさ大きいほど流れる粘弾性物質の種類低分子量凝集型>高分子量凝集型>ビスコート?>ヒーロンV?の順に流れやすい粘弾性物質注入量少なすぎても入れすぎても流れる硝子体圧前房内圧相対的に高すぎても低すぎても流れる特に粘弾性物質流失に伴う前房内圧の急激な低下で流れるチストトーム・鑷子水晶体を押したり,前?を引っ張り上げると流れるCCCの進行局面半周手前から3/4周までが流れやすい図4水晶体内圧とCCCの流れ水晶体?内圧が高い(左黒矢印)と周辺へ向かう力のベクトル(赤矢印)が増大し,CCCは流れやすくなる.図5CCCの大きさと流れCCCが大きいと切開線の位置はより周辺部になるが,周辺に行けば行くほど水平方向の水晶体?内圧(赤矢印)が大きくなり,CCCは流れやすくなる.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006い.また周辺部に行けば行くほど流れやすくなるため,一旦CCCが流れ出すとどんどん流れてしまう.したがって膨潤白内障や小児のようにCCCが流れやすい要因が強い症例では最初は小さなCCCを作製し,水晶体内容物をある程度除去してから適切な大きさのCCCを作り直すtwostepCCC(ダブルCCC)を行ったほうが安全である(図6).粘弾性物質のCCCへの影響は,粘弾性物質の種類と注入量の両方が影響する.CCCを行う前に通常粘弾性物質で前房を全置換するが,全置換した場合の種類による流れやすさの違いは,低分子量凝集型>高分子量凝集型>ビスコート?>ヒーロンV?の順に流れやすい.注入量としては,多く入れすぎても,少なすぎてもCCCは流れやすくなってしまう.少なすぎる場合は,正常よりも眼圧が低く,前房が浅い状態になる.前房が浅いだけでもCCCはやりにくくなるが,この場合水晶体が前方に移動することによって前房が浅くなっているので,Zinn小帯から前?にかかる周辺部方向への力が増大している.さらに相対的に水晶体?内圧が上昇している.このためにCCCが流れやすくなってしまう.逆に粘弾性物質を入れすぎてしまっている場合は,正常よりも眼圧が高く,前房が深くなっている.この場合水晶体が後方に移動することで前房が深くなっており,Zinn小帯から前?にかかる力は緩んでいるので問題ないが,この状態で前房側の圧力が突然低下すると,相対的に水晶体?内圧が上がり,水晶体の内容物が前?切開部から前房内に飛び出すような動きとなり,切開線を外側に流す力となる.実際上は,粘弾性物質を入れすぎた状態でチストトームや前?鑷子でサイドポートや切開創に負荷を掛けると,粘弾性物質が勢いよく眼外に漏出し,急激に前房内圧が低下する.つまりその瞬間にCCCが外に流れてしまう(図7).このため粘弾性物質の入れすぎも好ましくない.房水と粘弾性物質を完全に置換できずに一部に房水が残った状態でCCCを行うと,房水が残っている部分にチストトームが達した時点で房水が眼外に漏出し,前房内圧が低下し,CCCが流れるため,完全置換も重要である.したがってCCC前の粘弾性物質の注入としては,術前と同じ程度の前房深度,正常眼圧になるように粘弾性物質で房水を完全置換することが重要である.またCCCが流れやすい症例ではヒーロンV?の使用を検討すべきである.さらに浅前房症例で過量注入によって前房を深くしている場合は,チストトームでサイドポートや切開創を押さないように細心の注意を払うとともに,漏出しにくい性質をもつヒーロンV?を使用したほうが(6)①②図6TwostepCCC(ダブルCCC)①まず通常の方法で小さなCCCを作製する(青線).②水晶体内容をある程度除去して,水晶体内圧を下げてから,適切な大きさのCCCを作製する.まず前?剪刀で切開(青矢印)を入れ,前?鑷子で切開線を延長する(赤矢印).①②③図7粘弾性物質漏出でCCCが流れる①前房全置換をした場合に粘弾性物質を入れすぎると,急激な粘弾性物質漏出が起こりやすい.②粘弾性物質が漏出すると(青矢印)前房が浅くなり水晶体は前方移動し(黒矢印),Zinn小帯から前?に強い張力がかかる(赤矢印).③さらに水晶体内容物が前?切開から前房に突出し(青矢印),CCCが流れる(赤矢印).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???有利である.CCC作製中の局面として流れやすいのは最初と半周前後である.CCCの開始点は通常前?中央であるが,直線的に周辺部に向かってから急激に切開線の方向を変えて円周方向にしなければならない.この急激な方向転換が上手くいかないと周辺部にそのまま流れてしまう.最初のポイントを乗り越えて,1/4周を過ぎ,半周に近づくとそれまでコンパスのごとく作用していたフラップの折れ返り線が中心の固定点を失い始めるため,切開線が周辺部に流れやすくなる(図8).ただし,3/4周を過ぎた頃になると前?を押し上げていた水晶体内容物による圧が開放されるため,周辺部に流れる傾向は多少弱まる.4.針と鑷子「針かそれとも鑷子でするべきか?」というのは,むずかしい問題である.鑷子のほうが安上がりで,CCCの基本的な原理を学びやすいので,まず針によるCCCをマスターすべきであると思われる.しかし,流れたCCCを修正するには鑷子のほうが有利であるし,高度の膨潤白内障や小児などの特殊例では鑷子によるCCCが絶対的に必要な場合もあるので,鑷子によるCCCもマスターすべきである.通常例でのCCCでは慣れているほうを使うべきであると思われる.IV針(チストトーム)によるCCC作製の実際(表3)1.27または25ゲージ針を曲げる(図9)チストトームは製品化されているものもあるが,通常はディスポ針を自分で曲げて使用する.針は27または25ゲージ針を使用するが,27ゲージ針のほうが細いため曲げやすく繊細な操作が可能である.曲げ方は,サイドポートから刺入した際に前房内操作がしやすいように曲げるということが基本である.通常は持針器の先端を使って曲げるが,筆者は針の途中が前?に触れないように図9のように2段に曲げている.針先を曲げる際に先端をつぶしてしまうと切れなくなるので,気をつけよう.針の中腹の曲げ方は,持針器の根元を使って先端から約10mmのところを45~70?曲げる.持針器の先端を使うと持針器の噛み合わせが不良となり,使い物にならなくなってしまうので気をつけよう.2.チストトームはサイドポートからチストトームを切開創から挿入するといろいろ問題が起きやすい.瞼裂が狭く眼球陥凹気味の場合は,チストトーム挿入で眼球が下転してしまい,徹照が得られなくなりやすい.さらに切開創はサイドポートより広いためチストトームで持ち上げたり押し下げたりすると簡単に粘弾性物質が流出し,前房が浅くなってしまう.このためチストトームはサイドポートから刺入したほうがよい.(7)①②③図8半周手前からのCCCの流れ①半周以前は切開開始点(黒丸)を中心とし,折れ返り線を半径としたコンパスのようにCCCができる.②しかし半周付近からコンパスの中心が前?中央からずれてしまう(白点,白矢印).このため折れ返り線の方向がずれ,CCCが流れてしまう(青矢印).③これを防ぐにはコンパスの中心と前?中心がずれないように折れ返り線の方向を常にコントロールする.約10mm45~70°20~30°図9チストトームの曲げ方———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.4,20063.サイドポートを支点にして点対称チストトームをサイドポートから前房内に刺入した後,サイドポートを支点として点対称に動かす(図10).つまり針先を左に動かしたければ手元は右に動かし,針先を下に動かしたければ手元は上に動かし,眼球の位置が変わらないように,常に徹照状態を保つように,角膜に皺ができないように操作しなければならない.平面的な点対称ではなく,三次元的に上下方向にも点対称であることに気をつけよう.前?上を滑らせて手前から奥に行くためには,上下方向の角度を徐々に変えていかなければということも認識していなければならない(図10).針に限らず,すべての前房内操作は挿入部を支点として点対称に動かさなければならず,このことは白内障手術上達の最重要ポイントの一つであり,ウェットラボで徹底的に練習する必要がある.4.第1局面は前?フラップ作製・翻転(図11)前?の中心に針を突き刺してから,直線的に切っていくが,意図した半径の半分まで進んだら,チストトームを少し深く刺し,前?を引っ掛けたまま逆V字を描くように針を動かす.そうすると図11に示したように,前?は逆「し」の字のように切れて円周方向に切開線の方向が変わるだけでなく,意図した切開軌道上に近いところにくる.つぎの操作は,切れた前?を針で引っ掛けて翻転することである.フラップ作製から翻転まで一連の動作として行うことが望ましい.その後小休止してつぎの動作に移る.このときの手元の操作はかなり複雑であり,失敗してCCCを周辺部に流してしまいやすい局面の一つであり,ウェットラボでよく習得しておく必要がある.5.最初の直線切開の方向は9時前後この最初の直線切開を何時の方向に行うかは,術者によってかなりばらばらであるが,筆者は9時前後の方向に行っている.これは,CCCが流れて赤道部まで達してしまい引き戻すことができなくなった際に行う逆方向CCCをやりやすくするためである.この逆方向CCCの開始点はチストトームで作製するよりも前?剪刀で作製するほうが容易かつ正確であるため,12時の切開創または右手のサイドポートから挿入したやや曲の剪刀でCCCの予定軌道上に切開を加えやすいのは8時~10時の直線切開であり,これに備えて9時方向前後でCCCの最初の直線切開を行っている.6.翻転した前?を針先で引っ掛けて前?上を滑るように動かし,前?を引き裂く翻転した前?を針先で引っ掛けて引っ張り,前?を引き裂いていく.この際,下の前?に負荷を掛けることなく,翻転した前?フラップを持ち上げることなく,前?上を滑らせるように針を動かして切り裂いていくことが(8)図10点対称の動き針先と手元の動きは逆で(赤矢印),針先より手元の動きが大きい.①②図11CCCの開始針を逆V字(黒矢印)に動かすと,CCCは丸く伸びる.予定円周上まできたら翻転する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???重要である.水晶体を押したり,フラップを持ち上げたりすると切開線は外側に流れるので,常に前?上を滑らせるようにして進める.逆に前?切開をもっと大きくしたいときは,水晶体を少し押すかフラップを少し持ち上げればよい.上手くなってきたら,一度引っ掛けたらできるだけ長く引き裂いていき,引っ掛け直す回数を減らすようにする.フラップの角近くを引っ掛けると直接的に力を掛けやすいが,押したり持ち上げたりした場合の影響も出やすい(図12).引っ掛かりにくい場合は,フラップの角から少し離れた部位を引っ掛ける.その場合は水晶体を多少押してもCCCは流れないので,少し強い力をフラップに掛けることができる.針先の方向を進行方向に変えてみるのも一つの方法である.7.第2局面は最初の1/4周(図2-②~③)最初にフラップを翻転した段階ではまだ予定軌道上に乗っていないことが多いが,この1/4周の間に意図した切開軌道上に実際の切開線を乗せる.9時方向から12時方向にCCCを延長するためには,手元を7時方向に動かし針先を11時,12時,1時と動かさなければならず(図10),これに備えてまず針の根元(手元)を7時方向にずらす.水晶体?前面に沿って針先を動かすためには徐々に針の角度を下げていく必要があり(図10),そのためには手元も下げていかなければならないことに注意する.8.第3局面は半周まで(図2-③~④)第1,2局面よりはやりやすいが,第3局面でも手元で針の角度と方向を三次元的にどんどん変えていかなければならないので,水晶体の表面をなでるように針先を動かすことをしっかり意識し,針で突き刺さないように注意.半周の地点が近づいてくるとCCCが流れ出すことにも注意.9.第4局面は残り半周(図2-④~⑥)第4局面は残りの半周であるが,CCCが外側に流れやすい.特に3/4周までが流れやすい.力のベクトルの方向に注意して流れる程度に応じて中心方向への力を加えながら引き裂いていくことが重要.予定軌道上を少しでも外れだしたら力のベクトルを少し内側に変える.その際に上手に引き裂いていくために守らなければならない要点は,①余剰の前?フラップは中心側に集めておくこと,②翻転したフラップは,常にフラップの折れ返り線が中心に向かうように力のベクトルを調整すること,③切開線近くの三角フラップが常に30?以上はきれいに伸展している状態を保つことである(図2-④~⑥).針の動かし方は,図13のように引き裂き動作に引き続いて余剰フラップを引っ掛けて小円を描くように動かし,余剰フラップが中心にくるように整理すると,折れ返り線の方向修正,フラップの伸展も同時にできる.10.第5局面は最後のつなぎ(図2-⑥)最後のつなぎの場面でも手元の針の角度と方向をかなり急激に変化させる必要があり難所の一つ.さらに翻転したフラップを引っ掛けるのが非常にむずかしくなる.このため,針先が水晶体皮質に食い込むようにフラップを押し付けて水晶体の中心方向に引っ張って切らなければならないことも多い.(9)図12針を引っ掛ける位置①フラップの角付近で引っ掛けると少し押しただけでCCCが流れる.②角から離れていれば流れない.①②①②図13余剰フラップの整理①引き裂く動作に引き続いて余剰フラップを引っ掛け,黒矢印のごとく動かし,中心に集めるように整理すると,折れ返り線の方向修正,フラップの伸展も同時にでき②のようになる.———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.4,200611.最終局面は針または鑷子の抜き取りCCCが完成すると気を抜いて乱暴に針を抜く人がいるが,気をつけないと針先で前?や虹彩,角膜を引っ掛けてしまう.切開完成したCCCに前?の亀裂ができてしまっては元も子もない.針先の角度を考えてどこも傷つけないように慎重に抜き取るべきである.チストトームによるCCCの要点を表3にまとめた.V鑷子によるCCC作製の実際1.どんな鑷子がいいのか前?鑷子は種々あるが,操作中に挿入部に負荷がかかり,粘弾性物質が漏出しやすいので,前房が浅くなるだけでなくCCCが流れやすいことが欠点である.サイドポートから挿入できる河合式あるいは新池田式鑷子は,粘弾性物質漏出が起こりにくく,優れているが高価である(図14).稲村式鑷子は切開創からしか挿入できないが,クロスアクションになっているため切開創に負荷がかかりにくく,粘弾性物質漏出が比較的少なく,サイドポート用鑷子よりは,はるかに安価である.昔からあるユトラータ鑷子は,粘弾性物質漏出が多いためあまりお勧めできない.2.鑷子によるCCCも基本的には針と同じまず鑷子の先端を閉じて前?の中心に突き刺し,チストトームの場合と同様に鑷子の先端でCCCの円の半径の半分くらいを切る.続いて前?を鑷子で?んで引き裂き始めフラップを作り,翻転する.翻転した前?フラップを把持し直し,引き裂いていく.チストトームの場合と同様に前?上を滑らせるようにフラップを引っ張り,持ち上げたり水晶体を押したりしないようにする.鑷子(10)表3針(チストトーム)によるCCCの要点?チストトームはサイドポートから刺入?開始前に予定切開線を頭の中に描く(図2-①)?逆さ「の」の字を描くようにして切る(図2-①)?サイドポートを支点として針の先端と根元を点対称に動かす(図10)?前?中心に針を刺し,意図した半径の半分まで直線的に切ったら,逆V字を描くように針を動かす(図11)?翻転した前?フラップは前?上を滑らせるように動かして引き裂いていく?最初の1/4周までに軌道に乗せる(図2-②,③)?半周を過ぎてからは切開線が外側に流れやすいので,内側にベクトルを掛ける?針の動かし方は,いつも小円を描くように動かし,引き裂く動作に続いて余剰フラップの整理を行うとよい(図13)?切開線をつなげる最後の局面では,針先が水晶体皮質に食い込むようにフラップを押し付けて水晶体の中心方向に引っ張ってもよい?針の抜き取りは慎重に図14河合式前?鑷子サイドポートから挿入できるため前房安定性に優れている.図15鑷子による把持の仕方①や②では④のごとく,前?フラップにfoldを作って把持している.③では鑷子を横にして⑤のように伸びたフラップを直接把持している.いずれの場合もフラップを持ち上げずに引けば,翻転時の原理に従って引き裂くことができる.①④⑤②③———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.23,No.4,2006???(11)では特に持ち上げやすいが,力の方向を変えるのも比較的簡単なので流れ出しても対処しやすい.ただし,把持の仕方が重要で,これから進むべき方向をよく考えて,それに備えた形で把持すること(図15).間違った把持の仕方をすると,フラップを持ち上げたり,捻ったりする力が加わってCCCがどんどん流れてしまう可能性がある.慣れてきたら,把持し直す回数を減らすことが時間短縮のポイント.切れ方を見ながら臨機応変にフラップを引く方向を変え,円形になるようにする.チストトームと違ってフラップの中心を保つ必要はないが,余剰フラップは中央に寄せておく.最後につなぐ場面も鑷子であれば容易である.慣れれば鑷子によるCCCのほうが短時間ででき,はるかに簡単である.また,外側に流れかけた切開線を修正するには,直接把持できる鑷子のほうが有利である.鑷子によるCCCの要点を表4にまとめた.VI前?染色成熟白内障や過熟白内障のような白色白内障では,徹照が得られないためCCCの切開線が見えにくい.この対処法としてインドシアニングリーン(ICG)やトリパンブルーによる前?染色を行うと,切開線の視認性が向上し,CCCが容易になる(図16).成熟白内障になっていなくても皮質白内障が強めの症例では,非常に有効である.また角膜混濁がある症例の場合も有効である.初心者でCCCの切開線を見失いがちの術者は,全例前?染色をしてみてもよい.詳しい方法などは,他書に譲る1).文献1)永本敏之:前?染色の方法.??????18:36-41,2004表4鑷子によるCCCの要点?鑷子の場合も,基本的には針を用いた場合と同様に翻転して前?切開を行う?把持の仕方が重要?鑷子では前?を持ち上げてしまいやすいので注意?翻転しないで前?を引き裂くこともできるが,力のベクトルを間違わないこと?外側に流れかけた切開線を修正するには,直接把持できる鑷子のほうが有利である?鑷子を切開創から挿入する場合は,切開創を押したり持ち上げたりしないことが重要?サイドポートから挿入できる鑷子を使うと粘弾性物質漏出は少ない図16トリパンブルー前?染色成熟白内障でもCCCの切開線が明瞭である.(眼科インストラクションコースNo4,白内障手術CCC完全マスター,p99の図38,メジカルビュー社,2005より許可を得て転載した)

序説:白内障手術アップデート2006

2006年4月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(1)???白内障手術は水晶体超音波乳化吸引術と眼内レンズの普及により安定期を迎え,10年以上,目立った新しい話題がないかのようにとられがちであった.過去の本特集をみても,白内障全般に関する総論的な話題は,長期にわたって取り上げられていない.今回,教科書では追いつけない,2006年現在の白内障手術について,各担当の先生に,実践ですぐ使えるようにわかりやすくまとめていただいた.まず,白内障手術の成功の鍵をにぎる前?切開について,永本敏之先生に手技の基本と眼内レンズ光学部との大きさのバランス,難症例への前?染色法をまとめていただいた.以前に比べ,より良い視機能を考慮した眼内レンズが普及し,確実な?内固定による良好なセンタリングのみでなく,前?切開の大きさと眼内レンズ光学部のバランスが後発白内障抑制にも影響してくることがわかった.白内障手術切開は,さらに小さくなり2mm前後の極小切開からの手術が可能になった.黒坂大次郎先生には,極小切開を可能にした装置と器具と題して,パルスモードによる発熱抑制,スリーブの改良,眼内レンズカートリッジとインジェクターについて話題を提供していただいた.眼内レンズに関しては,近年異なった材質のみでなく,デザインから非球面眼内レンズの利点が検討されている.宮田和典先生には,シリコーンおよびアクリル眼内レンズ,従来の球面眼内レンズと非球面眼内レンズの臨床評価,および今後の動向について述べていただいた.大木孝太郎先生には,白内障手術が屈折矯正手術の範疇とされてから,特に近年の多焦点眼内レンズの導入で,方向性への確信が高まっている.多焦点眼内レンズの適応や,今後,どのようにして付加価値のある眼内レンズが普及可能かなど,アメリカの例を参考に述べていただいた.手術には合併症がつきもので,白内障手術の合併症は激減したといわれているが,ゼロになることはない.德田芳浩先生には,水晶体?拡張リングの使い方を,特にこの分野は長期の術後成績から適応が変わったともいえるので,最新の情報をまとめていただいた.また,江口秀一郎先生には,合併症がまれになったがために,うまく処置できない術者が増えているので,確実に処理できる方法,その際にあったら助かる器具などについて述べていただいた.この特集を読むことで,白内障手術の最新情報が伝わり,かつ臨床の場において実践で役立つことを著者一同祈っている.0910-1810/06/\100/頁/JCLS*HirokoBissenMiyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科●序説あたらしい眼科23(4):423,2006白内障手術アップデート2006????????????????????????????ビッセン宮島弘子*

眼科医にすすめる100冊の本-3月の推薦図書-

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063650910-1810/06/\100/頁/JCLS成果主義とは,出された成果をもとに評価を行い,これを給料に反映させるシステムだ.よく対比されるのは年功序列主義だ.これは周知のとおり年齢やその組織にどれだけ長い間いたかによって給料が変わる.成果主義はときに能力主義と誤解されるが異なる.成果は能力と必ずしも一致するとはいえないので,能力主義とは違うものと解釈されている.古い組織イメージの年功序列よりも成果主義のほうが明らかによさそうに思えるが,実際はそう簡単ではないので,本書の存在意義がある.この本は成果主義についてサイエンティフィックにわかりやすく書かれた本であり,トップをはるリーダーには必読の本だ.トップをはるリーダーとは,教授,院長,病棟医長,外来医長,研究部長,チーフレジデント,看護部長などなど,組織やチームのトップにいる人をさす.まず僕が驚いたのは,成果主義の効果についてはまったく証拠がないという点だった.すなわち,成果で評価していってもその組織の能率が必ず上がるという保証はないのである.僕はそれまで単純に考えていて,成果を出した人,たとえば売り上げをあげた人,手術をいっぱいやった先生,論文をたくさん書いた研究者に,給料で報いるのは正当なシステムであり,それによってやる気も出て組織の活性化につながると思っていた.ところがこのシステムはすでに昭和の初期に何回も試みられて,失敗しているという.これは日本人に限ったことではなく,欧米でも同じだという.このようなシステムは外的報酬システムとよばれる.外的な報酬(賃金など)によって動機づけられて人は働くという信念のもとに作られたシステムだ.ところが,どうも人が働くモチベーションはお金ばかりではない,というか,お金はほんの少しの意味しかもたないと著者はいう.普通の生活ができる収入を保証するという意味で収入は大事であり,一定レベル以下では転職の理由になることもあるだろう.ただし,この本によれば,収入が上がるようなインセンティブがあったとしても,人は一生懸命働くわけではなく,むしろ仕事の面白さで報いられるシステムを構築したほうが進んだシステムだという.こんな実験が書かれている.大学生にパズルを解かせるという実験を行った.パズルは十分面白いもので,制限時間13分のパズルを4個解くという1時間のセッションを3回行うというものだった.セッションの間には8分間の休みを与えた.学生たちは面白いので休み時間にもパズルを解いていた.しかし,ある学生たちに1問解けるごとに1ドルの報酬を与えるようにしたところ,その学生たちは休み時間は休むようになってしまい,解けるパズルの数が減ってしまったという.これは内発的動機づけの典型例といえる.パズルを解くという達成感を得たいために学生は夢中にやっていた.ところがそこに1ドルというお金が介入してしまったために,外的報酬にまどわされてしまったのだ.本来は喜びに満ちている仕事が,お金をかせぐ手段になりさがってしまったというわけである.また,成果主義の問題には“何を成果とすべきか”という点があげられる.単純な売り上げや手術件数でのみ比較した場合,お互いをフォローしたり縁の下の力持ちをやっている人たちの成果をどのようにみていくのかがとてもむずかしい.成果を定義したとたんに,そこにばかり意識が働いてしまう.しかしながら会社や組織としては方向性を示すという意味において,また離職率を下げるという意味において(効率を上げるということではないことに注意),成果主義による外的報酬システムの整備はプラスに働くという.(85)シリーズ─63◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科■3月の推薦図書■虚妄の成果主義日本型年功制度復活のススメ高橋伸夫著(日経BP社)366あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006興味深いのは,成果をあげた人にはやりがいのある仕事を与えることで報いる,という考え方だ.収入という画一的なもので応えるのではなく,やりがいのあるポジションで応える.すなわち内的動機づけが思い切り発揮できる場所を提供することが報酬そのもの,おもしろい仕事自体が報酬,という考え方である.だから一生懸命やった人にはおもしろい仕事をさらに与えて,仕事自体を楽しんでもらう.なぜなら本のなかで触れられているハーズバークらによれば,「動機づけ要因は,仕事において自らの先天的能力に応じて,現実の制限のうちで,創造的でユニークな個人として自分の資質を十分に発揮したいという自己実現の個人的要求を満たすことにあるからだ」としている.すなわち仕事は,自己実現の場に他ならず,たとえば本多静六の言うように“職業の道楽化”が人生の最大幸福なら,職業と外的報酬を1対1でリンクさせてしまうのはもったいないのである.仕事はやっぱり楽しんでやるのが一番効率がいいということでしょうか.(86)☆☆☆許諾済複写物シールについてのお知らせ日本著作出版権管理システムJCLSが許諾した複写物には、許諾済複写物シールが貼付されています。日本著作出版権管理システム(JCLS)が正規に許諾した複写物のうち、①スポット契約(個人や団体の利用者が複写利用のつど事前に申告してJCLSがこれを許可する複写利用契約)の複写物②利用者による第三者への頒布を目的とした複写物③JCLSと利用契約を締結している複写事業者(ドキュメントサプライヤー=DS)が提供する複写物については、当該複写物が著作権法に基づいた正規の許諾複写物であることを証明するため、下記見本の「許諾済複写物シール」を2006年1月1日より複写物に貼付いたします。なお、社内利用を目的とした包括契約(自社の保有資料を自社で複写し、自社内で使用)分の複写物にはシール貼付の必要はありません。許諾済複写物シールについてのお問い合わせは、(株)日本著作出版権管理システム(JCLS)までお願い申し上げます。電話03-3817-5670、Fax03-3815-8199、E-mail:info@jcls.co.jpシール見本(実物は直径17mm)

硝子体手術のワンポイントアドバイス34.著名な網膜下増殖組織を有するコーツ病に対する硝子体手術(上級編)

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063630910-1810/06/\100/頁/JCLS●コーツ病の治療コーツ病は,網膜毛細血管の異常拡張,毛細血管瘤とそれに伴う滲出性網膜.離を特徴とする.本症に対する治療法としては,異常網膜血管に対する光凝固および冷凍凝固が一般的であるが,それに抵抗してしばしば高度の網膜下滲出性病変をきたした場合には硝子体手術の適応となることがある.●コーツ病に対する硝子体手術コーツ病が重症化すると,網膜硝子体界面に増殖性変化が惹起され,硝子体ゲルの収縮と相まって,網膜硝子体牽引がさらに滲出性変化を増悪させる.このような症例では硝子体手術が奏効することがある.人工的後部硝子体.離作製のみで網膜下の滲出性変化が軽減することもあるが,網膜下に多量の硬性白斑が蓄積したり,著明な線維増殖組織が形成されている重症例では網膜下手術が必要となる(図1).(83)●重症コーツ病に対する網膜下手術多量の硬性白斑や網膜下増殖組織を除去するためには,意図的裂孔作製が必要となる.しかし中途半端な大きさの意図的裂孔を後極に作製すると,増殖組織を除去するときに裂孔が拡大してしまうだけでなく,増殖組織との癒着部位が確認しづらいので,かえって網膜色素上皮の傷害が大きくなりやすい.また,増殖組織周囲の硬性白斑は非常にもろく,硝子体鑷子で把持してもちぎれやすく一塊として除去することは通常困難である.このような症例では,耳側周辺部に約120°の意図的網膜切開を行い,網膜を翻転しながら網膜下増殖組織の処理を行うほうが確実である(図2a,b).本法は一見侵襲が大きいように思うが,視野が広いので確実な手術操作が可能となり,増殖組織や硬性白斑の取り残しが少なくなり,中途半端な網膜下手術を行うより良好な予後が期待できることが多い(図3).硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載○3434著明な網膜下増殖組織を有するコーツ病に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1多量の網膜下硬性白斑に加えて線維増殖膜を伴う重症のコーツ病症例図3術後眼底写真シリコーンオイル注入下で網膜は復位し,網膜下病巣はほぼ除去されている.この後,シリコーンオイルを抜去し,現在矯正視力は0.1を保持している.図2意図的巨大裂孔作製を併用した網膜下手術著明な網膜下増殖組織および多量の硬性白斑を除去するため,耳側に意図的巨大裂孔を作製して網膜を飜転し,双手法にて増殖膜を除去する.a:術中所見,b:シェーマ.網膜網膜下増殖組織abb

眼科医のための先端医療63.降圧薬が糖尿病網膜症に効くの?-レニン-アンギオテンシン系の抑制-

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063590910-1810/06/\100/頁/JCLS大規模臨床試験では糖尿病網膜症の進展の予防には,厳格な血糖コントロールが重要です1)が,高血圧のコントロールも大切であることがUKPDS(UKProspectiveDiabetesStudy)により報告されました2).また,高血圧のない1型糖尿病患者でangiotensinconvertingenzyme(ACE)阻害薬であるlisinoprilが網膜症の進展を抑制することが報告され3),レニン.アンギオテンシン系(renin-angiotensinsystem:RAS)の抑制が正常血圧患者の網膜症の進展予防に有効であることが示されました(図1).さらに,angiotensinⅡtype1(AT1)受容体拮抗薬であるcandesartanを使用した大規模試験(TheDiabeticRetinopathyCandesartanTrials:DIRECT)が現在行われています4).この研究の目的の第一に,正常血圧の1型および2型糖尿病患者および血圧コントロールがされている2型糖尿病患者で,candesartanが網膜症の発症あるいは進展に有用であるか検討することがあげられ,血圧コントロール以外でのRASの役割に注目しています.しかし,RASと糖尿病網膜症の進展に関する機序については,いまだに十分な検討はされていません.網膜血流からみたRASと網膜症の関連糖尿病網膜症では,血管の形態変化が生じる前から網膜血流の低下が生じることが報告されています5,6).また,acetylcholineによる内皮依存性血管拡張反応も糖尿病患者では障害されています7).このような障害がACE阻害薬であるcaptoprilやAT1受容体拮抗薬であるcandesartanで予防できるかを正常血圧のstreptozotocin(STZ)誘発糖尿病ラットで検討したところ,投与群では,網膜血流が正常ラットと同等に保たれていました8).内皮依存性血管拡張反応も無治療の糖尿病ラットでは,濃度依存性に障害されていましたが,captoprilやcandesartanを投与された糖尿病ラットでは,正常ラットと同等に血管拡張反応が認められました8).これらのことから,RASの抑制は網膜症発症の機転となる網膜血流の障害を抑制し,血管反応を正常に保つことが示唆されました.これは,RASの抑制が,高血圧のない糖尿病患者で,血糖コントロールに影響を与えることなく,網膜症の進展を予防する機序の一つであることを示しています.血流維持の機序近年,糖尿病網膜でACEの発現が高値を示しangiotensinⅡの産生が局所的に高くなっていること9)や,網膜血管内皮細胞や周皮細胞でAT1受容体が発現していること10,11)が報告されています.AT1受容体の活性化は,diacylglycerol(DAG)/proteinkinaseC(PKC)経路を活性化し,血管収縮に働きます12,13).ACE阻害薬やAT1受容体拮抗薬で治療をした糖尿病ラットの網膜では,DAGの活性が正常と同レベルであったことから,RASの阻害がDAGによる血管収縮作用を抑制し,血流を保ったと考えられます8).今後の展望糖尿病では,高血糖によりポリオール代謝の亢進,PKCの活性化,後期糖化終末産物の蓄積などさまざまな糖代謝異常が生じます.これらはさまざまなサイトカ(79)◆シリーズ第63回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊堀尾直市(藤田保健衛生大学医学部眼科)降圧薬が糖尿病網膜症に効くの?─レニン.アンギオテンシン系の抑制─図1Renin-angiotensinsystem(RAS)と血管反応AngiotensinⅡは主としてangiotensinⅡtype1(AT1)受容体を介して血管収縮や血管新生に働く.ACE:angiotensinconvertingenzyme,ARB:angiotensinreceptorblocker,VEGF:vascularendothelialgrowthfacor,DAG:diacylglycerol,PKC:proteinkinaseC.AngiotensinⅠAngiotensinⅡAT1AT2EndothelinVEGFDAG/PKCSuperoxideironNitricoxide血管収縮血管新生血管拡張増殖抑制ACEARBACEinhibitor360あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006インやその受容体を介して,血管閉塞,血管透過性亢進,血管増殖を惹起します.今回は,RASの抑制がDAG/PKC経路を抑制し,網膜症発症を抑制することを中心に紹介しましたが,RASは他の経路にも深く関わっていることが報告されています.今後さらにRASの抑制が,血糖や血圧のコントロールに加えて,網膜症進行予防の重要な役割を担っていることが示されていくでしょう.文献1)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflong-termcomplicationsininsulin-dependentdiabetesmellitus.NEnglJMed329:977-986,19932)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Efficacyofatenololandcaptoprilinreducingriskofmacrovascularandmicrovascularcomplicationsintype2diabetes:UKPDS39.BMJ317:713-720,19983)ChaturvediN,SjolieAK,StephensonJMetal:Effectoflisinoprilonprogressionofretinopathyinnormotensivepeoplewithtype1diabetes.TheEUCLIDStudyGroup.EURODIABControlledTrialofLisinoprilinInsulin-DependentDiabetesMellitus.Lancet351:28-31,19984)ChaturvediN,SjoelieAK,SvenssonA:TheDIabeticRetinopathyCandesartanTrials(DIRECT)Programme,rationaleandstudydesign.JReninAngiotensinAldosteroneSyst3:255-261,20025)FekeGT,RivaCE:LaserDopplermeasurementsofbloodvelocityinhumanretinalvessels.JOptSocAm68:526-531,19786)BursellSE,ClermontAC,AielloLPetal:High-dosevitaminEsupplementationnormalizesretinalbloodflowandcreatinineclearanceinpatientswithtype1diabetes.DiabetesCare22:1245-1251,19997)JohnstoneMT,CreagerSJ,ScalesKMetal:Impairedendothelium-dependentvasodilationinpatientswithinsulin-dependentdiabetesmellitus.Circulation88:2510-2516,19938)HorioN,ClermontAC,AbikoAetal:AngiotensinAT(1)receptorantagonismnormalizesretinalbloodflowandacetylcholine-inducedvasodilatationinnormotensivediabeticrats.Diabetologia47:113-123,20049)OkadaY,YamanakaI,SakamotoTetal:Increasedexpressionofangiotensin-convertingenzymeinretinasofdiabeticrats.JpnJOphthalmol45:585-591,200110)OtaniA,TakagiH,SuzumaKetal:AngiotensinIIpotentiatesvascularendothelialgrowthfactor-inducedangiogenicactivityinretinalmicrocapillaryendothelialcells.CircRes82:619-628,199811)OtaniA,TakagiH,OhHetal:AngiotensinII-stimulatedvascularendothelialgrowthfactorexpressioninbovineretinalpericytes.InvestOphthalmolVisSci41:1192-1199,200012)MalhotraA,KangBP,CheungSetal:AngiotensinIIpromotesglucose-inducedactivationofcardiacproteinkinaseCisozymesandphosphorylationoftroponinI.Diabetes50:1918-1926,200113)ShibaT,InoguchiT,SportsmanJRetal:CorrelationofdiacylglycerollevelandproteinkinaseCactivityinratretinatoretinalcirculation.AmJPhysiol265:E783-793,1993(80)■「降圧薬が糖尿病網膜症に効くの?」を読んで■今回は堀尾直市先生の解説により,高血圧に対する治療薬として認可され効果をあげているレニン.アンギオテンシン系の抑制薬を糖尿病網膜症の治療薬として使用するというきわめて魅力的なアイデアについてのお話です.その臨床的な効果についてはかなりポジティブな結果が報告されつつありますが,網膜症治療における作用機序解明にはまだ研究を積み重ねることが必要であることがわかりやすく解説されております.糖尿病性腎症における効果は臨床研究で検証され確認されており,血圧降下を目的としないレニン.アンギオテンシン系の抑制薬の使用が内科領域ではトピックスとなっています.腎症と網膜症とは分子病態として似通った点もあり,レニン.アンギオテンシン系が堀尾先生の解説のように網膜症の分子病態に深く関与している可能性があります.レニン.アンギオテンシン系の抑制薬が網膜症治療薬候補として有利な点はすでにほかの疾患への適応ながら治療薬として認可され,実際の診療に使われているという実績です.適応を拡大して網膜症の治療薬として使うためには安全性,有効性を含め十分な検討が必要です.われわれ臨床医としては効果が検証できれば安全性にも期待がもてますので,臨床応用が早い時期に可能ではないかと考えます.現在,糖尿病網膜症の治療は,全身管理(高血糖,高血圧など),網膜光凝固,眼局所トリアムシノロン投与,硝子体手術などの発達により,失明を回避することはかなりの確率で可能になってきました.今後,われわれ眼科医に要求されるのは失明を防ぐ眼科医療から高度な視力を保つあたらしい眼科Vol.23,No.3,2006361眼科医療へのパラダイムシフトです.このための戦略として,①糖尿病を発症する人の数をなるべく抑制する,②糖尿病を早期発見し,早期に治療する.眼科をなるべく早期に受診させる,③糖尿病網膜症の早期発見,早期治療,が考えられます.このうち,①,②はおもに内科医が担当です.③についてはもちろん眼科医が責任をもつのですが,「早期治療」にあたる軽症網膜症の進行,悪化を防ぐための眼科独自の治療薬が必須です.今回の堀尾先生の解説は,このような糖尿病網膜症診療戦略の確立のなかできわめて重要な位置を占めるものです.山形大学医学部視覚病態学山下英俊(81)☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ159.眼のメラノーマに対する重粒子線治療

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063570910-1810/06/\100/頁/JCLS■バックグラウンド眼のメラノーマはわが国ではまれな疾患であるが,欧米では保存的治療法として陽子線治療や小線源療法が普及している.放射線医学総合研究所(放医研)では,欧米の治療法を参考に,1986年から陽子線による治療を実施してきた.その結果は欧米での治療成績と遜色がないが,2001年からはさらなる成績の向上を目指して,重粒子(炭素イオン)線による治療を開始した.重粒子線治療は,陽子線をも凌ぐ優れた線量集中性を有する放射線療法で,加えて生物学的に高い効果も持ち合わせていることから,メラノーマのような放射線抵抗性腫瘍で特にその優位性が期待できる.■新しい治療法炭素イオン線をはじめとする荷電重粒子線は,その飛程に沿ってBraggPeakとよばれる付与線量のピークを形成する(図1).このピークの位置(深さ)は,照射されるビームのエネルギーを調整することによって制御可能で,体表から病巣に至るまでの組織のCT(computerizedtomography)値から必要な入射エネルギーを求めることができる.この技術により,眼球メラノーマの治療では,病巣より深部の正常組織を照射することなく病巣に高線量を投与でき,眼球温存や視力温存を期待できる治療を行うことが可能となる.さらに炭素イオン線は粒子の質量が比較的大きいので直線性が高く,周辺へのばらつき(散乱)も小さいため,水素イオンを加速した陽子線以上に集中性の高い放射線であるといえる.■実際の治療方法眼球メラノーマに対する治療では,通常の.幹部に対する放射線治療に比べてはるかに高い精度での照射技術が要求される.視神経乳頭や黄斑,水晶体などの正常組織を可能な限り避けながら,腫瘍に高い線量を照射する必要があるため,眼窩周囲の骨との位置関係ばかりでなく,眼球そのものに対して正確な照準で照射を行う必要がある.眼球に対して適切な角度で照射を行うためには,眼球の向きを固定し,かつその向きが正しいことを治療時に確認できなければならない.そのための技術と新しい治療と検査シリーズ(77)159.眼のメラノーマに対する重粒子線治療プレゼンテーション:辻比呂志放射線医学総合研究所・重粒子医科学センター病院眼科コメント:高村浩山形大学医学部情報構造統御学講座視覚病態学分野図2脈絡膜メラノーマに対する炭素イオン線の線量分布(赤矢頭印は金属マーカー)図1炭素イオン線とX線の深部線量分布024681012141618200255075100深さ(cm)線量(%)X線(10MV)炭素イオン線358あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006して,小さな光源を注視することで向きを固定する方法(凝視法)が用いられる.治療時に眼球の向きを確認する方法としては,目視だけでなく,X線透視による確認も併用される.事前に眼科医により強膜表面に縫着された金属製のマーカー(チタン性リング)をX線透視画像で確認し,治療計画用CTから合成された画像との照合を行う.金属マーカーのずれが最大でも0.5mm以内になるまで修正と照合をくり返すことで,実際には0.2~0.3mm程度の精度を実現している.その線量分布の1例を図2に示す.■本方法の良い点この治療の特徴は,非常に高い精度を実現することによって,メラノーマという放射線抵抗性腫瘍に対して十分な線量の照射を可能にしている点である.現在炭素イオン線治療で用いている線量は70.0GyE/5回分割で,これは通常の1回2Gyの放射線治療では140~200Gyに相当し,広い範囲の正常組織が照射されれば,非常に重篤な有害事象を招く線量である.実際の治療結果としては,これまでに治療した55症例中,局所再発は照射領域に接する部位に再発した1例だけで,照射領域内については全例で腫瘍制御が得られている.一方,有害事象については,腫瘍の部位や大きさによって視力障害や血管新生緑内障などの発生は認められるが,潰瘍形成や組織の壊死といった重篤なものは認められない.現時点では55例中51例で眼球が温存できており,大きな腫瘍の症例ばかりを対象としていることを考慮すると,きわめて安全性の高い治療であると考えられる.今後の課題として,照射方向の自由度を増すことによる,緑内障発生のリスク低減が重要であると考えている.そのため,すでに従来の垂直ビームに加え水平ビームでの眼球腫瘍の治療を可能にする技術開発を行い,すでに実用を開始している.文献1)EggerE,SchalenbourgA,ZografosLetal:Maxinizinglocaltumorcontrolandsurvivalafterprotonbeamradiotherapyofuvealmelanoma.IntJRadiatOncolBiolPhys51:138-147,20012)GragoudasES,LaneAM,ReganSetal:Arandomizedcontrolledtrialofvaryingradiationdosesinthetreatmentofchoroidalmelanoma.ArchOphthalmol118:773-778,20003)FussM,LoredoLN,BlacharskiPAetal:Protonradiationtherapyformediumandlargechoroidalmelanoma:Preservationoftheeyeanditsfunctionality.IntJRadiatOncolBiolPhys49:1053-1059,2001(78)■本方法に対するコメント■サイズが小さい眼内メラノーマは腫瘍摘出や小線源療法などにより眼球温存や視機能温存が可能となってきている.一方,大きいサイズのメラノーマでは眼球摘出をせざるを得ない場合が多いというなかで,重粒子線治療はサイズが大きくても腫瘍の局所制御率が高く,眼球温存が可能であるという点において有効な治療法である.重粒子線治療の問題点は,治療後に眼球は温存されても視力予後が良くないことと治療後に血管新生緑内障を発症する場合があることである.腫瘍は制御されたが,緑内障のために結局,眼球を摘出せざるを得ない症例が存在する.これらは重粒子線治療が大きいサイズのメラノーマを対象としていることからある程度やむを得ないことかもしれない.もう一つの問題点は,本治療は高度先進医療として数百万円の治療費負担がかかることと,眼内メラノーマに対する本治療は現在,わが国では放射線医学総合研究所のみでしか施行されていないことである.☆☆☆

眼感染症:蛍光抗体法

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063550910-1810/06/\100/頁/JCLS■蛍光抗体法(fluorescentantibodytechnique)の測定原理蛍光抗体法は免疫組織化学法の一つで,fluoresceinisothiocyanate(FITC)などの蛍光色素を標識した抗体を用いて,抗原.抗体反応により標的となる抗原の所在を形態的に検出する方法である.特異抗体に蛍光物質が直接ラベルされている直接法と,蛍光標識二次抗体の反応を行う間接法がある.■前眼部の眼感染症における蛍光抗体法眼感染症においては病原微生物の分離培養が診断法のgoldenstandardであるが,結果が得られるまでに日数を要するのが欠点である.診断や治療の遅れによっては重症化するリスクが高い眼感染症の臨床の現場では,より早く正確な診断を行う必要があり迅速診断法として抗原検出法である蛍光抗体法や酵素免疫法(EIA),病原微生物の核酸を証明するpolymerasechainreaction(PCR)法などが臨床応用されている.近年では同時に多数の検体処理と客観的な判定が可能であるEIAや検出感度の高いPCR法がその主流となりつつある.一方,最近EIAやPCR法に取って代わられた感のある蛍光抗体法であるが,設備として蛍光顕微鏡を必要とする以外には特殊な機器や試薬を必要とせず,検査手技自体は非常に簡便であり,短時間で結果を得ることができる.病巣より直接眼脂や角結膜擦過検体を採取して塗抹標本を作製,モノクローナル抗体を用いた蛍光抗体法を施行することにより,検体中に存在する病原微生物を検出する.基本的には感度・特異度ともに優れており,民間検査機関などに依頼せずとも,自施設内で手軽に行える迅速診断法として臨床的有用度は高い.ただし,判定は検者の主観に負うところが大きく,正確な判定を行うためには鏡検技術の修得など若干トレーニングが必要である.(75)眼感染症セミナー─スキルアップ講座─●連載○34監修=大橋裕一井上幸次34.蛍光抗体法荒木博子東京女子医科大学眼科前眼部眼感染症の臨床の現場では,より早く正確な診断を下し治療を開始する必要がある.起因病原微生物の検出法として蛍光抗体法は感度・特異度ともに優れており,角膜ヘルペスなどのウイルス感染症やクラミジア感染症の診断に際し,自施設内で手軽に行える迅速診断法として臨床的有用度は高い.図1蛍光抗体法に必要な器具蛍光顕微鏡さえあれば,それ以外に必要とする器具は少なく,検査方法自体も簡便であり短時間で結果が得られる.図2樹枝状角膜炎からの角膜擦過塗抹標本のHSV-1に対する蛍光抗体法細胞全面あるいは核内に緑色の特異蛍光を発する,HSV-1感染細胞(角膜上皮)が認められる.上皮型ヘルペスの診断基準では,蛍光抗体法によるHSV-1抗原の証明は確実診断項目にあげられている.図3クラミジア結膜炎の結膜擦過物の蛍光抗体法対比染色液のエバンスブルーで赤く染色された結膜上皮の間に,点状のアップルグリーンに染まるクラミジア粒子が散在している.正常では結膜に存在しないクラミジア病原体を証明できれば確定診断となる.356あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006■具体的な手技・方法単純ヘルペスウイルス,帯状ヘルペスウイルス,クラミジア(ヘルペス1・2FA試薬「生研」R,VZV-FA試薬「生研」R,クラミジアFA試薬「生研」R,デンカ生研)やアデノウイルス(IMAGENTMAdenovirus,DAKO社)に関してはFITCで標識されたモノクローナル抗体と溶解液,封入液,コントロールスライドなどがセットになった蛍光抗体直接法のキットが販売されている.①準備する器具:落射型または透過型蛍光顕微鏡,無蛍光スライドグラス(リングマーク付),マイクロピペットなど(図1).②角結膜病変部位からスパーテル(または綿棒やMQA)で採取した細胞を無蛍光スライドガラス上に塗抹して乾燥させる.その後,アセトンを滴下して固定する.③特異抗体の試薬を30μl滴下して,乾燥しないように湿潤箱に入れて反応させる.反応条件は各々のキットや試薬にもよるが,基本的には37℃で15分間である.④反応後,余分な試薬を洗い流し,封入液で封入して蛍光顕微鏡で観察する.黄緑色に輝く特異抗原を認める細胞があれば陽性である.すぐに観察できないときには遮光して2~10℃に保存し,24時間以内に鏡検する.キットが販売されていない場合でも蛍光抗体間接法によりエンテロウイルス70の抗原検出を行うことが可能で,急性出血性結膜炎の迅速診断への応用もできる1).■角膜ヘルペス,単純ヘルペス結膜炎樹枝状角膜炎など上皮病変を擦過して得られた塗抹標本から単純ヘルペスウイルス1型抗原を検出する(図2).サンプル採取に際しては上皮欠損部ではなく,その辺縁の上皮を軽く擦過する.強く擦り過ぎて,下のBowman膜を傷つけないように注意する.単純ヘルペスウイルス結膜炎では,結膜上皮病変を伴わない場合はウイルス抗原検出率が低くなるが,眼瞼縁に皮疹がある場合には陽性率が高い2).■眼部帯状ヘルペス眼部帯状ヘルペスの場合も,皮疹の内容物や偽樹枝状角膜炎の上皮擦過物を検体として水痘.帯状ヘルペスウイルス抗原の検出が可能である.角膜病変が小さく,スパーテルなどによる検体採取が困難な場合にはimmunoblotting用のニトロセルロース膜を用いてimpression標本を作製し,そのまま蛍光抗体染色を施すことも可能である3).■クラミジア結膜炎SyvaMicroTrackRChlamydiatracomatisDirectSpecimenTest(注:以前はデイドベーリング社より購入が可能であったが,昨年より製造中止となり,現在では入手困難である.日本国内では同様のキットがデンカ生研より市販されている)はChlamydiatrachomatisの主要外膜蛋白(MOMP)に対するモノクローナル抗体に蛍光色素(FITC)を標識したもので,対比染色液にエバンスブルーを含むを蛍光抗体直接法のキットである(図3).C.trachomatisに特異的で,他のクラミジア種とは反応しない.文献1)中川尚,中川ひとみ,渡辺真由美ほか:蛍光抗体法による急性出血性結膜炎の迅速診断.眼臨86:975-978,19922)竹森美穂,中川尚,木全奈都子ほか:単純ヘルペス結膜炎におけるウイルス抗原検出.眼臨92:1073-1075,19983)荒木博子,高野博子,中川ひとみほか:Impressioncytologyによる偽樹枝状角膜炎からの水痘.帯状ヘルペスウイルス抗原の検出.眼臨86:1002-1005,1992■コメント■蛍光抗体法は著者が述べているように特異度・感度ともに高く,臨床的に非常に有用であるが,最近PCRやEIAなどの新しい技術に主役の座を奪われて,グラム染色やギムザ染色同様にやや等閑視されているきらいがある.しかし,蛍光抗体法はPCRやEIAなどと違って,私たち眼科医が「自分の目でみて診断」できるという大きな利点をもっており,内科医と違って,細隙灯顕微鏡検査や眼底検査で日夜「自分の目で見て診断」している眼科医に非常にフィットした手法であり,もっと行われてよい検査と思われる.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次(76)

緑内障:緑内障における乳頭血流

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063530910-1810/06/\100/頁/JCLS●循環障害説と眼循環測定法現在では緑内障という疾患は多因子疾患と考えられ,危険因子として眼圧や虚血要因が含まれる.緑内障の病因論として,乳頭部の循環障害が視神経障害の主因であるとする循環障害説は,眼圧上昇によって直接障害が生じるとする機械的障害説に比べると,いまだエビデンスに乏しいが,緑内障性視神経障害と視神経血流障害のあいだには有意な相関があることを示す報告は多数ある.臨床上用いることができる眼循環の測定方法としては今のところ,レーザードップラー法,レーザースペックル法,色素希釈法,超音波カラードップラー法があるが,それらの手法を用いて,正常眼と比較して原発開放隅角緑内障(POAG)および正常眼圧緑内障(NTG)患者の乳頭毛細血管の血流速度が低下していること1)や,POAG患者の乳頭辺縁および傍乳頭網膜血流が低下していること2),POAGでは網膜循環に遅延があること3),NTGでは網膜中心動脈や短後毛様動脈の血流速度が低下し血管抵抗が上昇していること4),などを示す報告が1990年代に入ってなされるようになった.●緑内障性視野障害と乳頭血流の部位別の相関その後は視野障害の部位と乳頭血流障害の部位との相関をみる研究も行われるようになり,慶應義塾大学眼科では視野障害が上方あるいは下方に限局したNTG患者における視神経乳頭血流を,上下に分けて検討した.Humphrey視野検査(中心30-2)にて,上下半視野のいずれかにパターン偏差が危険率5%で有意に低下している点が連続して3点以上あり,かつ対側半視野に感度低下を認めないNTG患者54例54眼を対象とし,スキャニングレーザードップラーフローメータ(Heidelberg(73)●連載○69緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄69.緑内障における乳頭血流木村至慶應義塾大学医学部眼科近年眼循環を測定する方法がいくつか開発され,実際の臨床において活用されるようになっているが,緑内障の病因論としての循環障害説を裏付けるエビデンスはいまだ乏しい.視神経障害と視神経血流障害の関連を示すデータは多数報告されている.本稿では,視野障害の部位と乳頭血流障害の部位との相関について若干の知見を述べたい.図1視神経乳頭血流の測定領域画角10°にて視神経乳頭を画像の中心に据え,乳頭辺縁部のflow値を上下に分けて算出した.図2両群における乳頭辺縁部flow値のS/I比S/I比は上方群が1.46,下方群が0.79であり,2群間において有意差を認めた(p<0.0001).(文献5より改変)*下方群上方群1.61.41.21.00.80.60.40.20S/I比*p<0.0001354あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006retinaflowmeter)を用いて視神経血流を上下に分けて測定し(図1),上下別の血流と視野障害との相関について検討した.乳頭辺縁上部および下部のflow値を求め,上下比(S/I比)を算出した.上方視野障害を認める群(上方群)のS/I比は1.46,下方視野障害を認める群(下方群)のそれは0.79であり,2群間において有意差を認めた(p<0.0001)(図2)5).上方視野障害を認める症例では視神経乳頭下部の血流が上部に比較して低下し,下方視野障害では乳頭上部が低下することが認められ,視野障害と視神経血流が対応していることが確かめられた.文献1)HamardP,HamardH,DufauxJetal:OpticnerveheadbloodflowusingalaserDopplervelocimeterandhaemorheologyinprimaryopenangleglaucomaandnormalpressureglaucoma.BrJOphthalmol78:449-453,19942)MichelsonG,LanghansMJ,GrohMJ:Perfusionofthejuxtapapillaryretinaandtheneuroretinalrimareainprimaryopenangleglaucoma.JGlaucoma5:91-98,19963)WolfS,ArendO,SponselWEetal:Retinalhemodynamicsusingscanninglaserophthalmoscopyandhemorheologyinchronicopen-angleglaucoma.Ophthalmology100:1561-1566,19934)HarrisA,SergottRC,SpaethGLetal:ColorDoppleranalysisofocularvesselbloodvelocityinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol118:642-649,19945)SatoEA,OhtakeY,ShinodaKetal:Decreasedbloodflowatneuroretinalrimofopticnerveheadcorrespondswithvisualfielddeficitineyeswithnormaltensionglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol29:1-7Epubaheadofprint,2005(74)☆☆☆コンタクトレンズフィッティングテクニック【著】小玉裕司(小玉眼科医院院長)CLの処方に必要な角膜・涙液・屈折矯正・その他の知識/CLの選択/ハードCLの処方/フルオレセインパターンの判定方法と注意点/レンズデザインと角膜形状/ベベル・エッジのチェック/SCLの処方・種類・選択/CLと定期検査・眼障害/HCLの修正/修正によるHCLの苦情処理-くもり・充血・異物感・視力/SCLの苦情処理-くもり・かすみ・視力低下・異物感・眼痛・流涙・充血/乱視に対するCLの処方/ドライアイ/ラウンドコルネア/カラーCL/治療用SCL/無水晶体眼・乳幼児と小児に対するCLの処方/光彩付きCL・義眼CLの処方/ハード・ソフトタイプバイフォーカルCLの処方/HCLのカスタムメイドの処方/CLと点眼薬/CLとケア用品/●ワンポイントB5判総152頁カラー写真多数収載定価8,400円(本体8,000円+税400円)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容目次■この本があれば,明日からのコンタクトレンズ診療は安心して出来る!株式会社

屈折矯正手術:WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTO WAVE)と収差計

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063510910-1810/06/\100/頁/JCLSLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,今日の屈折矯正手術の中心であるが,夜間のハローやグレア,コントラスト感度低下など視力の質の低下が問題である.これらの問題はLASIK術後に起こる高次収差の増加が原因と考えられており,高次収差の増加を抑えコントラスト感度を改善するwavefront-guidedLASIK(以下,WFGLASIKと略)1,2)が注目されている.現在,市場に出ているエキシマレーザーの多くはstandardLASIKに加えWFGLASIKができるようになっており,WaveLight社製エキシマレーザーALLEGRETTOWAVEもこの一つである.ALLEGRETTOWAVEは200Hzのフライングスポットタイプのレーザーで,アクティブアイトラッキングを備えているため眼球追尾が良好である.またレーザーのOZ(オプチカルゾーン)とTZ(トリートメントゾーン)は6.5mmと9.0mmの楕円照射で大きいため,球面のみならず円柱の矯正精度がきわめて良い.現在は,ALLEGRETTOWAVEの改良型である400HzのALLEGRETTOWAVEEye-Qから,さらに最新型のALLEGRETTOWAVECONCERTOが開発され良好な初期成績が報告されている3).ALLEGRETTOWAVECONCERTOは500Hzの超高速レーザーであり,LASIKやWFGLASIKのみならず,T-CAT(topography-guidedLASIK4):Topolyzerで測定した形状に基づき行うLASIK)やF-CAT(optimaizedprolateablation5):prolateな球面を得るためのLASIK)も可能であり,わが国で初めて当院に導入された.つぎにWFGLASIKを行うためには波面(wavefront)を測定する必要がある.波面センサーの多くはHartmann-Shackセンサーであるが,ALLEGROAnalyzer(WaveLight社製)(図1)はTscherningセンサーで,あらかじめグリッドパターンにされたレーザーを網膜に投影してこの像をCCDカメラで測定する(図2)ことが特徴である.Tscherning収差計の利点は,被検者自身がグリッドの歪みを自覚できること,測定点が多く得られる情報が多いこと,収差が大きな場合も測定可能であ(71)●連載○70屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男70.WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTOWAVE)と収差計北澤世志博神奈川クリニック眼科WaveLight社製レーザー(ALLEGRETTOWAVE)はフライングスポットタイプのレーザーで,その収差計はTscherningセンサーであることが特徴である.この収差計の結果に基づいてレーザーを照射するwavefront-guidedLASIKでは,高次収差の増加を抑えられることが最大の利点である.図1ALLEGROAnalyzer(WaveLight社製)ksaMnrettaPtoDretamilloCWm01,mn036:resaLceSm04:emitnoitaidarrIrettuhSretlifRIrofaremacDCCgningiladnagnivresborofaremacDCCnoitcetedegamistoddnakcabelbavoMehtsucofothtrofegamisodretemorrebAsneleyE図2Tscherning収差計の測定原理352あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006ることに加えて再現性が良いことである.測定されたデータは,コマ収差(C7,C8),球面収差(C12)などの各成分や三次収差(RMS3),四次収差(RMS4),五次収差(RMS5),六次収差(RMS6),全高次収差(RMSh)のほか,高次収差マップが表示される(図3).実際の手術では,ALLEGROAnalyzerからデータを3.5インチFDにexportし,さらにエキシマレーザーALLEGRETTOWAVE(図4)にimportする.ALLEGRETTOWAVEでLASIKを施行する場合の矯正限界は,球面屈折度-14D以下,円柱屈折度-6D以下であるが,WFGLASIKでは等価球面屈折度-7D以下かつ円柱屈折度-3D以下で適応範囲が少し狭くなる.実際の矯正量はALLEGROAnalyzerで測定されたwavefrontref-ractionを参考に自覚的屈折度に基づいて決定するが,球面と円柱矯正量は0.01D間隔で補正することが可能である.またレーザーのOZとTZは6.5mmと9.00mmであるが,切除深度は約1割深くなる.WFGLASIKを施行した66例132眼,球面屈折度-0.75~-7.25D(平均-3.76D)と年齢および屈折度をマッチングさせたLASIK施行例66例132眼との術後高次収差を比較した(図5).LASIKおよびWFGLASIKの三次,四次,全高次収差はそれぞれ0.39と0.36,026と0.23,0.54と0.42でWFGLASIKで有意に少なかった.また水平コマ収差もLASIKの0.09に対しWFGLASIKでは0.02と有意に少なかった.WFGLASIKはLASIKと比較して,術後裸眼視力や矯正精度に差はみられないが,高次収差の増加やコントラスト感度の低下が少なく,視力の質の向上が期待される.LASIKは単に裸眼で見えるようになる手術から,さらにその質まで追求される時代になってきているので,今後WFGLASIKがさらに普及していくことが予想される.文献1)KaisermanI,HazarbassanovR,VarssanoDetal:Contrastsensitivityafterwavefront-guidedLASIK.Ophthalmology111:454-457,20042)ReinsteinDZ,ArcherTJ,CouchDetal:Anewnightvisiondisturbancesparameterandcontrastsensitivityasindicatorsofsuccessinwavefront-guidedenhancement.JRefractSurg21:S535-S540,20053)IseliHP,MrochenM,HafeziFetal:Clinicalphotoablationwitha500-Hzscanningspotexcimerlaser.JRefractSurg20:831-834,20044)KanellopoulosAJ:Topography-guidedcustomretreatmentsinsymptomaticeyes.JRefractSurg21:S513-S518,20055)EI-DanasouryA,BainsHS:Optimizedprolatecornealablation:casereportofthefirsttreatedeye.JRefractSurg21:S598-S602,2005(72)図3ALLEGROAnalyzerで得られたデータ図4エキシマレーザーALLEGRETTOWAVE(WaveLight社製)図5LASIKとwavefront-guidedLASIKとの術後高次収差の比較三次四次五次全高次収差コマ収差(垂直)(水平)球面収差0.60.50.40.30.20.10.0-0.1-0.2-0.3屈折度(μm):LASIK:Wavefront-guidedLASIK**p<0.01**p<0.05******

眼内レンズ:Elschnig型後嚢混濁の自然消退

2006年3月31日 金曜日

あたらしい眼科Vol.23,No.3,20063490910-1810/06/\100/頁/JCLS白内障術後に発生する後.混濁は年余において増加すると考えられているが,現在までに混濁が自然消退した症例が2例報告されている1,2).しかし,これらの報告はいずれも術中・術後経過の詳細が明らかなものではない.今回筆者らは超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術にてアクリルレンズを使用し,完全.内固定で行い,術後一旦出現したElschnig型後.混濁が術後33~56カ月までの間に消退した症例を経験した.症例は60歳,男性.2000年1月に加齢白内障に対し,眼科杉田病院にて白内障手術を行った.全身的には糖尿(69)加藤聡東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能医学講座眼科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎235.Elschnig型後.混濁の自然消退白内障術後に発生する後.混濁は年余において増加すると考えられているが,現在までに混濁の自然消退した症例が2例報告されている.今回筆者らは,新たに術後一旦出現したElschnig型後.混濁が術後33~56カ月までの間に消退した症例を経験した.白内障術後2年以上経過した後.混濁では,混濁の減少する可能性を考慮し,Nd:YAGレーザーによる後.切開術の適応を慎重に検討すべきと考えられた.図1術後3カ月後.混濁は認められない.図2術後6カ月眼内レンズのedge効果が得られないためか,ループの根元よりわずかに混濁が出現している.図3術後12カ月後.混濁の増強を認める.図4術後19カ月ループの根元の混濁が視軸へと伸展している.図5術後33カ月眼内レンズ中央部付近にも混濁が広がるが,矯正視力良好であった.図6術後56カ月ループの根元の混濁を残す以外の後.混濁は消失した.350あたらしい眼科Vol.23,No.3,2006(00)病は合併せず,局所的には軽度の近視以外,網膜色素変性症や強度近視などの白内障以外の眼合併症はなかった.術式は強角膜を小切開後,連続円形破.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)をcompleteにて行い,超音波水晶体乳化吸引,皮質吸引後,眼内レンズとしてシングルピースアクリルレンズ(AcrySofR,SA30AL,Alcon)を完全.内固定した.術中合併症はなかった.術後は副腎皮質ステロイド薬,抗菌薬,非ステロイド性抗炎症薬の点眼を術後3カ月間使用した.矯正視力は術翌日より術後経過観察期間中1.2と良好であった.後.混濁の伸展,消退の様子を図1~6に示す.術後6カ月より,眼内レンズのedge効果が少ないためか,レンズループの根元より水晶体上皮細胞の遊走により後.混濁が徐々に出現したと考えられる.術後33カ月目にはレンズ中央近くまでElschnig型後.混濁が達するも,術後33カ月以降56カ月目までの間にレンズ中央部の混濁は減少していった.現在までに白内障術後に後.混濁が減少している症例は2例報告されている1,2)が,術中から術後に後.混濁が減少しているまでの全期間の経過観察を行えているものはない.今回の症例は最近の白内障手術の主流である小切開,超音波乳化吸引術にてアクリルレンズを完全.内固定で施行したにもかかわらず,一度出現した後.混濁が減少した症例では初めてであると考えられる.今までの報告と共通している点としては,後.混濁減少の開始時期が術後2年以降の点であった.後.混濁が減少する機序1)として,水晶体上皮細胞のapoptosis,macrophageによる貪食,後.破損症例での硝子体中への水晶体上皮細胞の脱落などが考えられているが,現在でも不明な点が多い.一方,後.混濁の治療法としてはNd:YAGレーザーによる後.切開が一般的であるが,合併症として網膜.離,黄斑浮腫,眼圧上昇,前部硝子体混濁などが報告されている.それらの点も考え合わせると,今回の症例より,視力に大きな影響を与えていない後.混濁や合併症をひき起こす危険性の高い症例で,白内障術後2~3年以上経過している場合は,後.混濁が減少する可能性を考慮し,Nd:YAGレーザーによる後.切開の適応を慎重に検討すべきであると考えられる.文献1)CaballeroA,MarinJM,SalinasM:SpontaneousregressionofElschnigpearlsposteriorcapsuleopacification.JCataractRefractSurg26:779-780,20002)NakashimaY,YoshitomiF,OshikaT:RegressionofElschnigpearlsontheposteriorcapsuleinapseudophakiceye.ArchOphthalmol120:397-398,2002