———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??0910-1810/06/\100/頁/JCLS眼の免疫学的特権眼は炎症から自己を守るための特殊な場所,immuneprivilegesiteの一つとして古くから考えられています.そのなかでも多くの眼組織および前房などはimmuneprivilegesiteの一部として強い免疫学的抑制機能をもちT細胞を含んだ炎症細胞から眼組織を守り,視機能を維持する働きがあると考えられていますが,その詳細はいまだ不明な点も多く,現在多くの施設でその解析が行われています.筆者らは眼の免疫機構における眼組織の役割とその分子機構,特に眼内炎症の調節機構を解明するために,眼色素上皮細胞(pigmentepithelialcells:PE)を用いて,つぎのような研究を行いました.眼色素上皮細胞の活性化T細胞抑制眼色素上皮は虹彩,毛様体,網膜の一連の層で構成されます.アメリカのDr.Streileinを中心としたグループは正常マウス眼より眼色素上皮細胞を樹立し,それらが????????において強い活性化T細胞抑制能を有することを報告しました.前眼部に位置する虹彩色素上皮細胞はcellcontactを用いて活性化T細胞抑制能を示すのに対して,後眼部に位置する網膜あるいは毛様体色素上皮細胞はcellcontactに加えて可溶性因子を多数産生してその抑制能を示していました.ただ,その特定分子は何なのか具体的には明らかにされていませんでした.筆者らは,虹彩色素上皮細胞(primaryculturedirisPE)がcostimulatorymoleculeの一つである,B7-2(CD86)を構成的に発現し,そのB7-2+irisPEがcytotoxicTlymphocyte-associatedantigen(CTLA)-4+活性化T細胞をcell-to-cellcontactにて抑制することを報告しました.そのirisPEには活性化T細胞を直接cell-to-cellにて抑制する能力とそれらを抑制T細胞(regulatoryTcell)へとコンバートする二つの能力が認められます.そのirisPEに曝露されたT細胞自身がB7分子を発現し,反応性T細胞のCTLA-4に結合することにより抑制シグナルを与え,T細胞抑制に関与していることも報告しました.さらに,irisPEが産生する膜結合型trans-forminggrowthfactor-b(TGF-b)がcellcontactを用いてTGF-breceptorII+反応性T細胞に結合することで抑制していました.眼内の組織にはTGF-b,特にTGF-b2が構成的に発現していることが多くのグループにより報告されていますが,筆者らは,TGF-b2だけではなく,TGF-b1やTGF-b3も発現していることを示しました.さらに,これらの眼色素上皮細胞はTGF-bのシグナルが入らない特殊なマウス由来のT細胞(domi-nantnegativeTGF-breceptorIITcells)の抑制をまったく認めることができませんでした.つまり,眼色素上皮細胞の産生するTGF-bがこの活性化T細胞抑制に重要であることが判明しました.興味深いことにTGF-bのシグナルがTGF-breceptorを介して反応性T細胞に入ることでそのT細胞のCTLA-4の発現が増強し,B7-CTLA-4相互作用を補助している可能性が示唆されました.虹彩色素上皮上に構成的に発現している分子は,B7,TGF-b,さらにはthrombospondin-1,CD47(thrombospondin-receptor)などがあり,いずれもT(63)◆シリーズ第61回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊杉田直(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・認知行動医学系専攻システム・神経医学講座眼科学分野)眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構OcularPECD8+regulatoryTcellsB7B7Membrane-boundTGF-bLatentTGF-bTSP-1CD47CD103CD25GITRB7TGF-bRTGF-bIL-10TGF-bsignalCTLA-4TcellsuppressionE?ecterTcell図1眼の免疫学的特権:眼色素上皮細胞と抑制T細胞の活性化T細胞抑制OcularPE:ocularpigmentepithelium,B7:B7co-stimula-torymolecules,B7-1(CD80),B7-2(CD86),CD47:IAP(integrinassociatedprotein),thrombospondin-receptor,TSP-1:thrombospondin-1,Membrane-boundTGF-b:Membrane-boundtransforminggrowthfactor-b,TGF-bR:TGF-breceptor,CD25:IL-2receptora,CTLA-4:cyto-toxicTlymphocyte-associatedantigen4,CD152,IL-10:interleukin-10,CD103:integrinalphaE,GITR:glucocorti-coid-inducedTNFreceptorfamilyrelatedgene.———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006細胞抑制能か抑制T細胞誘導に関与していると考えられています(図1).Thrombospondin-1は潜在型TGF-bに結合し,TGF-bの活性化に関与しています.これらの分子は互いがリンクしていてその発現を増強したり,活性化したりしてそれぞれが深く関与していることがわかってきています.眼色素上皮由来抑制T細胞の特徴現在,眼由来の抑制T細胞,特に虹彩色素上由来抑制T細胞の解析を行っていますが,これらはCD8+CD25+抑制T細胞で,ナチュラルなCD4+CD25+抑制T細胞に類似し,????????において強い活性化T細胞抑制能をもっていることが判明しています.発現分子は,CD8,CD25,CTLA-4(CD152),B7-1(CD80),B7-2(CD86),thrombospondin-1,CD47,GITR,CD103および膜結合型TGF-bで,細胞表面にこれらの免疫調節分子を発現しています(図1).さらには,抑制性サイトカインとして可溶性型TGF-bとinterleu-kin-10を産生し,活性化T細胞抑制を行っています.眼?血液関門を形成する虹彩血管や網膜血管などから眼内に浸潤してきたT細胞は,その挿入の際に眼組織に発現している免疫調節分子に接触することで,抑制機能を有したT細胞へとコンバートされていると考えられています.ヒトへの新しい治療の可能性筆者らの研究を進めていくうえで,眼内組織上に存在する炎症調節分子あるいは炎症惹起分子を同定し,それらの機能について解析することはぶどう膜炎などの眼内炎症を解明し,さらには治療への応用を考慮していくうえで非常に重要と考えられます.今後の大きな課題として再生医療の観点から,これらのimmuneprivilegesiteを????????で作製し(????????-immuneprivilegeの導入),臨床応用を可能にすることを検討中です.現在進めているプロジェクトは,マウス脾細胞からT細胞を分離し,freshなirisとT細胞の好条件下で共生培養し,抑制T細胞を誘導します.????????ではこれらのT細胞が抑制T細胞へとコンバートされることが確認できていますので,自己免疫性ぶどう膜炎を惹起しているマウス眼へその培養T細胞を注入することでぶどう膜炎が抑制可能かどうか検討します.さらに別のプロジェクトとして現在検討中なのは,ヒト眼由来の抑制T細胞の誘導です.末?血由来のT細胞を手術で得られた眼組織(虹彩)あるいは眼内液下(前房水)で培養することで抑制T細胞を誘導します.さらに,末?血中のT細胞を眼組織に類似した環境下で????????で培養(眼色素上皮細胞に類似した細胞株と共生培養あるいは眼内に構成的に発現,産生されている蛋白質を添加)し,抑制T細胞を樹立し,まずは????????で活性化T細胞抑制能があるかどうかを検討する予定です.これらの抑制T細胞樹立は難治性眼内炎症疾患の治療へ利用できる可能性があるとして期待されています.文献1)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:Therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.???????????????3:879-889,20032)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtoCTLA-4.?????????198:161-171,20033)SugitaS,NgTF,Schwartzkop?Jetal:CTLA-4+CD8+TcellsthatencounterB7-2+irispigmentepithelialcellsexpresstheirownB7-2toachieveglobalsuppressionofTcellactivation.?????????172:4184-4194,20044)SugitaS,NgTF,LucusPJetal:B7+irispigmentepithe-lium(IPE)induceCD8+Tcellsregulatory;bothsup-pressCTLA-4+Tcells.?????????176:118-127,2006(64)***———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??■「眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構」を読んで■眼球が免疫学的に特殊であり,拒絶反応が起こりにくいという現象は,すでに1945年にMadawarが報告しています1).この現象をひき起こすメカニズムは,「眼球では血管とリンパ管が直接つながっていないから」,あるいは「眼球の血管は血液?眼?関門といわれる構造で眼球内とは隔絶されているから」という形態学的特徴から説明されていました.しかし,Streileinらの精力的な研究により,この詳しいメカニズムが明らかになってくると,これは眼球に限らない免疫の精緻なシステムであることがわかってきました.たとえば,transforminggrowthfactor(TGF)-b2は眼球に豊富に存在していますが,これはT細胞,NK(natu-ralkiller)細胞,マクロファージの活性化を抑制しますし,前房中に豊富なalpha-melanocytestimulatinghormone(a-MSH)は,好中球の活性化を抑制したり,gamma-interferon産生性T細胞をregulatoryT細胞に転換させます.またこれら液性因子だけでなく,色素上皮に発現しているCD95ligandは,CD95+T細胞をアポトーシスに陥らせて,炎症を抑制しますし,網膜に広く発現しているgalactin-1は,色素上皮細胞からsolublefactorの分泌を促してT細胞の活性化を抑制します.本稿に書かれているように,杉田直先生らはこの分子メカニズムを詳しく解明しました.さて,従来考えられていたように,これが眼球だけでしか起こりえない現象であれば,サイエンスの世界で大きな注目を浴びることはなかったと思います.しかし,Streileinや杉田先生らが明らかにしたこのメカニズムは他の人体組織にも応用可能なのです.眼球以外の組織でも,治療などのために免疫反応を抑制する必要がある場合があります.その場合に,液性因子であるa-MSHやthrombospondin,TGF-bなどを投与したり,遺伝子工学の技術を駆使してCD95LやCD86などを目的の部位に発現させれば,眼球と同じような免疫寛容な組織が作れるのです.眼科領域の研究というと,サイエンスの他の分野で発見された知見を取り入れることが多い印象がありますが,この精緻な免疫システムの解明は,眼科領域の研究からサイエンスの他の領域へ発展しました.今後のさらなる発展が期待されます.文献1)MadawarP:Immunityinhomologousgraftedskin.II.Thefateofskinhomograftstransplantedtothebrain,tosubcutaneoustissues,andtotheanteriorchamberoftheeye.???????????????129:58-69,1945鹿児島大学医学部眼科坂本泰二(65)☆☆☆