———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS出によって滲出性網膜?離をひき起こす.さらに,これに網膜裂孔を伴うこともある.牽引性網膜?離に対する治療には牽引の解除が,滲出性網膜?離に対する治療には滲出原因の除去と滲出成分の吸収促進が必要となる.1.輪状締結術おもにstage4のROPに対して施行される2~4).牽引性網膜?離が主体のstage5に対しては輪状締結術のみでは効果はない3).輪状締結術の作用機序については,輪状締結によって硝子体牽引が軽減される,色素上皮の網膜下液吸収が促進される,?離網膜の虚血が改善されるなどと考えられている2~4)が,その効果を疑問視する意見もある.輪状締結術は硝子体手術に比べて,水晶体を温存できる2),侵襲が少ない13),などの利点がある一方で,眼内から直接硝子体牽引を解除できない,また,ROPでの網膜硝子体牽引の方向がridgeから前方(水晶体方向や硝子体基底部)に向かう場合が多いのに対して,輪状締結術では内陥効果は眼球の中心に向かうので,牽引解除はじめに2005年,未熟児網膜症(retinopathyofprematuri-ty:ROP)の国際病期分類が改訂され1),わが国で厚生省分類Ⅱ型として定義されていた病態が「aggressiveposteriorROP」として追加定義された.これは,周産期医療の発達からきわめて未熟な児でも生存可能となり,アメリカでも非典型的かつ急激に増悪する厚生省分類Ⅱ型に相当する重症ROP症例を認知せざるをえなくなったことが背景にあると思われる.このような重症ROPでは十分な網膜光凝固を行っても網膜?離に至ることがある.網膜?離を発症したROPに対してはこれまで輪状締結術もしくは硝子体手術が施行されてきたが,術後視力はもちろん,網膜復位率に関しても決して満足できる状況ではない2~8).近年,網膜?離を合併したROPの解剖学的および機能的予後を改善するため,網膜?離発症の早い段階で硝子体手術を行い,硝子体牽引を解除し網膜を復位させることにより,さらなる病期進行を防ぎ視力予後を向上させる試みが行われている9~12).本稿ではこの新しい治療法について現在までの治療法と比較して記述する.I網膜?離を合併したROPの治療法(表1)ROPにおける網膜?離は牽引性と滲出性の要素を併せもつ.すなわち,stage3以降に出現する網膜外線維血管増殖に硝子体牽引が加わることによって牽引性網膜?離をひき起こし,脆弱な新生血管からの血液成分の滲(33)??*TatsuhikoSato&ShunjiKusaka:大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学〔別刷請求先〕佐藤達彦:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科感覚機能形成学特集●小児眼科の新しい考え方あたらしい眼科23(1):33~37,2006未熟児網膜症に対する早期硝子体手術?????????????????????????????????????????????????????佐藤達彦*日下俊次*表1これまでの標準的な治療方針Stage1,2:経過観察Stage3:光凝固(もしくは冷凍凝固)Stage4A:輪状締結術Stage4B:水晶体切除併用硝子体手術Stage5:水晶体切除併用硝子体手術———————————————————————-Page2??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(34)の効果も限られるといった欠点がある.このため,術後の残存硝子体牽引が原因となり,復位までに長時間を要したり,あるいは復位が得られなかったりする場合がある.早期に網膜復位を得るために術中に網膜下液排液を施行するか否かは議論の分かれるところである2~4,13).輪状締結術特有の問題として術後の強度近視およびそれに伴う不同視,不同視弱視があり14),そのため,術後復位が得られれば早期に輪状締結を解除し近視化を防ぐという考え方もある3,4)が,あまり早期に輪状締結を解除すると,残存した硝子体牽引から再?離をきたす恐れがある14).網膜復位率は70%前後の症例で得られている2~4)(表2)が,術後視力に関しては固視,追視が可能なものはわずかである2,4).2.硝子体手術硝子体手術は輪状締結術が適応とならなかった,あるいは輪状締結術でも復位が得られなかった症例に対して施行される.硝子体手術により,眼内から直接的に硝子体牽引を解除し,眼内の生理活性因子を除去することができる13)図2ROPstage4B症例(同一症例)Stage3で光凝固術を施行されているが,網膜?離を進行した.20ゲージの硝子体剪刀を用いて広範に形成された増殖膜を切除している.このとき,医原性裂孔を形成しないように細心の注意を払う必要がある.表2輪状締結術による網膜復位率NoorilySWらStage4B:67%(10眼/15眼)1992OphthalmologyTreseMTStage4A:70%(12眼/17眼)Stage4B:68%(29眼/43眼)Stage5:40%(4眼/10眼)1994Ophthalmology(ただし,復位した4眼ともに網膜裂孔併発例)HinzBJらStage4A:75%(6眼/8眼)1998Ophthalmologyab図1ROPstage4A症例(同一症例)Stage3で光凝固術を施行されたものの,網膜?離を発症した.a:20ゲージの潅流付きライトパイプと硝子体カッターを用いた2ポート法にて,毛様体皺襞部より眼内にアプローチしている.b:硝子体カッターで増殖膜を吸引切除している.増殖膜の血管活動性は高くない.———————————————————————-Page3(35)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??が,手術施行に際してROP特有のいくつかの問題点がある.まず,硝子体手術の適応となるROPでは,成人の網膜?離や糖尿病網膜症のように,術中に網膜下液の排液を行い,網膜を復位させて光凝固や冷凍凝固を行うといった手技は原則的には行わない.その理由としてROPにおける網膜上の増殖組織や網膜硝子体癒着は非常に強固で,術中にこれらを完全に除去して網膜を伸展,接着させることがきわめて困難であること,乳児の網膜は柔らかく,伸展しやすいため,網膜へのある程度の牽引が解除されると網膜復位が得られること,網膜への牽引が残存した状態で液?空気置換を行い,網膜を復位させようとすると網膜裂孔を生じることがあり,後極部に裂孔が生じた場合には網膜復位を得ることはほとんど不可能となることなどがあげられる.さらに,成人と違って眼球がまだまだ発育途上にある新生児の網膜を瘢痕癒着させることは網膜の成長・伸展を妨げ,将来的に眼球の成長に網膜の成長が追いつかず,凝固縁や後極部に大きな網膜裂孔を生じて網膜?離をきたしたりする危険性も高まると考えられる.つまり,このROPにおける牽引性網膜?離に対しては硝子体手術で増殖組織と硝子体を可能な限り切除して,網膜への牽引を解除することが基本である.網膜復位は術後に網膜下液が吸収されるとともに徐々に得られるものである.したがって,手術時期としては,比較的増殖膜が柔らかくて癒着も緩い,網膜?離を合併した早い時期が増殖膜の除去のみを考えるとよいわけであるが,この時期は新生血管の活動性が高く,手術を施行すると,術中の出血により手術続行が困難となったり,術後出血やフィブリン析出などにより網膜復位が困難となったりする可能性が高くなる.このため,新生血管の活動性が鎮静化してくる時期まで待って復位を目指すことが一般に行われているが,この場合,たとえ解剖学的復位が得られた場合でも,長期?離から視力予後はきわめて不良5~8)である.また,症例によっては網膜を復位させるために複数回の手術を要し,患児やその家族の負担は非常に大きなものとなる.これらの理由により,10年ほど前から一部の施設で重症化する前の段階で硝子体手術を行うことが試みられている.II早期硝子体手術(表3)硝子体手術はstage4B以上,多くはstage5に進展した症例に対して行われるのが一般的であったが,これをより早期の段階,すなわちstage4Bや黄斑部がまだ?離していないstage4Aの段階で手術を行うことが試みられている.この段階での手術をここでは“早期硝子体手術”と定義する.1.手術時期黄斑部が?離していないstage4Aが理想的である.ただし,stage4以降の症例のすべてで網膜?離が進行するわけではなく,自然に復位する例もあるので,不必要な手術がなされないよう,進行する傾向がある症例に対してのみ行われなければならない13).この段階で網膜牽引が解除され網膜復位が得られれば,良好な視力予後が期待できる.術前に血管の活動性がある程度鎮静化されていることが硝子体手術施行の条件となるが,術前に無血管野に対して十分な光凝固術を施行されている症例では,手術可能な場合が多い9~12).2.術式原則として水晶体温存硝子体手術(lens-sparingvit-rectomy:LSV)を行う15).水晶体を温存することで,水晶体摘出に伴う不同視弱視を避けることができ,調節力を保つことができる.ただし,水晶体を温存すると,前部硝子体の処理は不完全になるので,牽引性変化が赤道部より後方に限局した症例にのみ施行可能であり,増殖組織が水晶体と癒着しているような症例では水晶体温存は困難である.〔術式の詳細〕手術は2ポート法あるいは3ポート法によって行われ表3早期硝子体手術を取り入れた治療方針Stage1,2:経過観察Stage3:光凝固(もしくは冷凍凝固)Stage4A:水晶体温存硝子体手術(LSV)Stage4B:LSVまたは水晶体切除併用硝子体手術Stage5:水晶体切除併用硝子体手術———————————————————————-Page4??あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006(36)る.2ポート法で行う場合には潅流ポートを設けずに潅流付きライトパイプと硝子体カッター,潅流付き硝子体鑷子・剪刀などを用いて手術を行う.この方法を行うのは潅流ポートが水晶体を損傷するのを防ぐためである.一方,3ポート法の場合には通常の硝子体手術と同様に潅流ポートを設置するが,この場合には潅流ポートが水晶体を損傷しないように細心の注意が必要である.2ポート法なら20ゲージで行うことになるが,3ポート法なら20ゲージ,23ゲージのいずれも使用可能である.いずれの場合も角膜輪部から0.5mmの位置(毛様体皺襞部)で水晶体を損傷しないように眼球中心方向ではなく,真下に向けてVランスで強膜創を輪部に平行に作製する.その後,まずridgeと前方(水晶体,周辺部網膜や硝子体基底部)との間の牽引を解除する.ついでridge~後極部網膜,ridge~ridgeの牽引を解除する.この順序を逆にして後方の牽引を先に解除してしまうとridgeが周辺~前方に引っ張られて後の操作が困難となる.剪刀で増殖膜を切開することも場合によっては必要であるが,医原性裂孔を形成しないように細心の注意が必要である.強膜は成人と違って非常に柔らかいので,特に2ポート法の場合には常に潅流を保つように心がける.ただし,潅流圧を上げると容易に角膜浮腫をきたして眼底の視認性が低下するので,潅流圧は低めに設定する必要がある.Ridgeへの牽引が十分に解除されれば目的は達成であるが,最後に強膜創への硝子体嵌頓を防止する目的で液?空気置換を行い,硝子体腔の半分ほどに空気を入れて手術を終了する.万が一,裂孔を形成した場合には周囲の増殖膜を可能な限り切除し,液?空気置換を行い,術中に網膜を復位させて裂孔周囲に光凝固を行うといった成人例での硝子体手術と同じ対処法を行うが,後極部に裂孔を生じると予後不良である.周辺部の裂孔では強膜バックリング法を併用する.いずれの場合も水晶体温存より,網膜復位を第一の目標とすべきである.3.術後管理眼内炎や網膜?離など,内眼手術一般の合併症の有無はもちろん,温存した水晶体の混濁の有無にも注意して観察する必要がある.また,成人に比べて術後炎症は強く,眼圧も上昇しやすいので,これらの点にも注意して観察する.眼内炎は成人に対する硝子体手術例と同様にきわめてまれである.術後早期に網膜復位が得られない,あるいは網膜?離が悪化する場合には取り残した増殖膜の牽引や術後フィブリンや新たな増殖膜の牽引が原因であることが多い.医原性裂孔形成の頻度は成人に対する硝子体手術例に比べて低いと報告されている.術後の水晶体の透明性に関しては,術後観察期間10~55カ月(平均27カ月)で,85眼中57眼(67%)の症例で維持可能であったと報告されている16).4.手術成績網膜復位率に関しては,おおむね90%前後の復位率が得られており9~12)(表4),ほぼ同じ病期に対して施行される輪状締結術での復位率(70%前後)と比較してLSVのほうが良好である.術後視力に関して,Caponeはstage4Aで手術を行った33症例中75%で20/40以上,3歳時の平均視力が20/50ときわめて良好な成績を報告している17).おわりに周産期医療の発達とともに,きわめて未熟な児でも生存できるようになり,今後もⅡ型あるいはaggressiveposteriorROPとよばれる重症ROP症例の増加が見込まれる.このような症例では,病状が急激に進行してあっという間に網膜?離に至ることも少なくない.全身状態も不良で,眼底検査すらままならない場合もある表4LSVによる網膜復位率CaponeAJrらStage4A:90%(36眼/40眼)2001OphthalmologyPrennerJLらStage4A:97%(32眼/33眼)2004OphthalmologyHubbardGBⅢらStage4A:84%(21眼/25眼)Stage4B:92%(11眼/12眼)2004OphthalmologyLakhanpalRRらStage4A:100%(32眼/32眼)Stage4B:92%(70眼/76眼)2005Ophthalmology———————————————————————-Page5(37)あたらしい眼科Vol.23,No.1,2006??が,頻繁に経過をみて,適切な時期にしっかりと光凝固を行うことが基本である.それでも病状悪化が抑制できず網膜?離に至った場合には,早期に硝子体手術を行い,網膜牽引を直接的に解除し,健常な網膜,特に黄斑をできるだけ良い状態で温存し,可能ならば水晶体も温存して,患児が将来より良い視機能が得られるようにするのが理想ではないかと思われる.文献1)AnInternationalCommitteefortheClassi?cationofReti-nopathyofPrematurity:Theinternationalclassi?cationofretinopathyofprematurityrevisited.???????????????123:991-999,20052)NoorilySW,SmallK,deJuanEJretal:Scleralbucklingsurgeryforstage4Bretinopathyofprematurity.??????????????99:263-268,19923)TreseMT:Scleralbucklingforretinopathyofprematuri-ty.?????????????101:23-26,19944)HinzBJ,deJuanEJr,RepkaM:Scleralbucklingsurgeryforactivestage4Aretinopathyofprematurity.??????????????105:1827-1830,19985)SeaberJH,MachemerR,EliottDetal:Long-termvisualresultsofchildrenafterinitiallysuccessfulvitrectomyforstageⅤretinopathyofprematurity.?????????????102:199-204,19956)QuinnGE,DobsonV,BarrCCetal:Visualacuityofeyesaftervitrectomyforretinopathyofprematurityfollow-upat51/2years.TheCryotherapyforRetinopathyofPre-maturityCooperativeGroup.?????????????103:595-600,19967)Mintz-HittnerHA,O?MalleyRE,KretzerFL:Long-termformidenti?cationvisionafterearly,closed,lensectomy-vitrectomyforstage5retinopathyofprematurity.??????????????104:454-459,19978)TreseMT,DrostePJ:Long-termpostoperativeresultsofaconsecutiveseriesofstages4and5retinopathyofpre-maturity.?????????????105:992-997,19989)CaponeAJr,TreseMT:Lens-sparingvitreoussurgeryfortractionalstage4Aretinopathyofprematurityretinaldetachments.?????????????108:2068-2070,200110)PrennerJL,CaponeAJr,TreseMT:Visualoutcomesafterlens-sparingvitrectomyforstage4Aretinopathyofprematurity.?????????????111:2271-2273,200411)HubbardGBⅢ,CherwickDH,BurianG:Lens-sparingvitrectomyforstage4retinopathyofprematurity.??????????????111:2274-2277,200412)LakhanpalRR,SunRL,AlbiniTAetal:Anatomicsuc-cessrateafter3-portlens-sparingvitrectomyinstage4Aor4Bretinopathyofprematurity.?????????????112:1569-1573,200513)HartnettME,MaguluriS,ThompsonHWetal:Compari-sonofretinaloutcomesafterscleralbuckleorlens-spar-ingvitrectomyforstage4retinopathyofprematurity.??????24:753-757,200414)ChowDR,FerronePJ,TreseMT:Refractivechangesassociatedwithscleralbucklinganddivisioninretinopa-thyofprematurity.???????????????116:1446-1448,199815)MaguireAM,TreseMT:Lens-sparingvitreoretinalsur-geryininfants.???????????????110:284-286,199216)FerronePJ,HarrisonC,TreseMT:Lensclarityafterlens-sparingvitrectomyinapediatricpopulation.??????????????104:273-278,199717)CaponeA:EvolusionofRetinalDetachmentinROP.硝子体手術講習会,2003年10月3,4日(東京)