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写真:画像鮮明化ソフトウェアのマイボグラフィ画像への応用

2023年2月28日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦福岡秀記横井則彦465.画像鮮明化ソフトウェアの京都府立医科大学眼科マイボグラフィ画像への応用図1マイボグラフィ画像の鮮明化処理前(a)と処理後(b)鮮明化処理前には暗く不明瞭なマイボーム腺が,処理後は眼瞼中央だけでなく瞼縁近傍ならびに眼瞼の耳側,鼻側まで鮮明化されていることがよくわかる.図2マイボグラフィ画像(マイボーム腺脱落例)の鮮明化処理前(a)と処理後(b)鮮明化処理前はマイボーム腺が脱落していることが見えにくいが,処理後は確認できる.(73)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C2110910-1810/23/\100/頁/JCOPYマイボーム腺は,上下眼瞼瞼板内にある皮脂腺であり,17世紀のドイツの医師HeinrichMeibomによって初めて詳細に記述され,彼の名にちなんで名づけられた1).マイボーム腺から分泌された脂質(マイバム)は,涙液層の最表層で涙液油層を形成し,その機能は液層の水分の蒸発抑制であると一般には考えられているが,まだ議論の多いところである.各腺の導管は眼瞼縁の皮膚側に開口している.マイバムの分泌は,導管の弾性と瞬目の際に働く眼輪筋(Riolan筋)の収縮による機械的な力によってなされる.涙液には,約C100種類以上の脂質,90種類以上の蛋白質や電解質が含まれており2),液層の水分や分泌型あるいは膜型ムチンとの相互作用により,涙液層の安定性が維持されている.前述のマイボーム腺を可視化する方法としてマイボグラフィがあるが,いくつかの方法がある.まずC1977年にCTapieらが考案した接触型マイボグラフィ3,4)である反転した眼瞼皮膚側より赤外光プローブにより直接可視化する方法である.また,非接触マイボグラフィ,生体共焦点顕微鏡,前眼部光干渉断層計などがある.画像鮮明化処理ソフトウェアとは,画像のオリジナリティを保持した状態でソフトウェア独自の処理を行うことで人間の眼に見えやすいように強調する技術である.具体的には,医療の分野以外では消防レスキュー隊の利用するカメラのほか,監視カメラの暗所・逆光・半逆光映像の鮮明化など,さまざまな領域で先に応用され,筆者らは眼科領域にもその有用性を報告してきた5).ドライアイ症例の涙液層破壊パターン6),超広角走査レーザー検眼鏡画像7),眼科手術動画8),フルオレセイン染色画像9)などである.図1aは上眼瞼を反転して非接触型マイボグラファーによって観察したマイボーム腺画像であり,不鮮明にしか写らなかった画像を選択している.全体的に暗く,とくに眼瞼の中央部のマイボーム腺しか観察できないが,図1bに示す鮮明化後の画像では,瞼縁部および眼瞼の左右の暗所部位が鮮明化され,全体的なマイボーム腺の走行部位が一目瞭然となった.また,鮮明化前には左右眼がわからないが,鮮明化後は皮膚や涙点の位置や眼瞼の形状から左眼であることがわかる.図2でも,処理前はマイボーム腺が脱落していることが見えにくいが,処理後は鮮明化され確認できる.画像鮮明化ソフトウェアにより所見の不明瞭な画像が明瞭になり,マイボグラフィ画像一般に有用であると筆者らは考えている.文献1)MeibomiusH:DeCvasisCpalpebrarumCnovisCepistola.CMuller,Helmstadt,16662)TsaiPS,EvansJE,GreenKMetal:Proteomicanalysisofhumanmeibomianglandsecretions.BrJOphthalmolC90:C372-377,C20063)TapieR:EtudeCbiomicroscopiqueCdesCglandesCdeCmeibo-mius.AnnOculistique210:637-648,C19774)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewly-developedvideo-meibographyCsystemCfeaturingCaCnewly-designedCprobe.JpnJOphthalmolC51:53-56,C20075)福岡秀記,横井則彦,外園千恵:画像鮮明化処理ソフトウェアCSoftDEFの眼科画像に対する有用性の検討.あたらしい眼科C36:559-565,C20196)福岡秀記,横井則彦:画像鮮明化ソフトによる涙液層破壊パターンへの応用.あたらしい眼科35:785-786,C20187)山下耀平,福岡秀記,永田健児ほか:画像鮮明化処理ソフトウェアの超広角走査レーザー検眼鏡画像への有用性の検討.日眼会誌C126:574-580,C20228)青木崇倫,横井則彦:画像鮮明化装置CLISr-101の眼科手術動画への応用.あたらしい眼科37:443-444,C20209)福岡秀記:画像鮮明化ソフトのフルオレセイン画像への応用.あたらしい眼科40:61-62,C2023

強度近視のロービジョンケア最前線

2023年2月28日 火曜日

強度近視のロービジョンケア最前線TheForefrontofLowVisionServicesforHighlyMyopicPatientswithVisualImpairment世古裕子*はじめに強度近視では,近視性黄斑症,緑内障あるいは近視関連緑内障様視神経症,網膜.離などを合併すると視機能が低下し,重度の視覚障害に至ることもある.個々の合併症に対する治療法は進歩してきているが,治療を尽くしても視覚障害あるいはロービジョンという結果に至る例もある.視覚障害者のなかで強度近視はまれではない1).ロービジョンとは,視覚に障害があるため生活になんらかの支障をきたしている状態をさし,ロービジョンケアとは,そのような人に対する医療的,教育的,職業的,社会的,福祉的,心理的等すべての支援の総称である(日本ロービジョン学会HPよりURL1)).一方,視覚障害には,身体障害者手帳(以下,手帳)の等級に認定される矯正視力(以下,視力)や視野の基準がある.視覚障害認定基準にあてはまらなくてもロービジョンにあてはまる強度近視患者はロービジョンケアの対象となる.強度近視を伴うロービジョン患者へのケアは,他の疾患によるロービジョン患者へのケアと共通することが多い.Iロービジョンの強度近視患者の特徴高齢の患者が多いのがひとつの特徴である.国立障害者リハビリテーションセンター病院眼科ロービジョンクリニック(以下,当院)に受診した強度近視患者183名の年齢分布でも70歳代がもっとも多かった2)(図1).また,当院では,20歳以上の強度近視患者のうち62%に白内障手術の既往があり(経過中に進行し手術となった例を含む),無水晶体眼も少なからずみられた.強度近視患者では,視機能低下の原因は,近視性黄斑症,網膜ジストロフィ,緑内障,網膜.離などさまざまである.おおまかにみると,近視性黄斑症あるいは緑内障では初診時年齢が比較的高く(平均69歳),拡大読書器の訓練が比較的多く,網膜ジストロフィでは初診時年齢が比較的低く(平均53歳),遮光眼鏡の処方が比較的多いなど,病態によるケアの差がみられる2).ロービジョンクリニックを訪れる患者の訴えは,視力低下と中心視野障害による「見えにくさ」が中心である.また,羞明の訴えも多い.合併症は進行性であることが多く,ニーズも変化する.訓練対応の経過中,読み書き困難に対応して拡大読書器の選定を行った患者に対して,その後の進行によって白杖訓練も行うケースなどである.さらに,近視性黄斑症や緑内障を合併する強度近視患者では,進行程度に左右差がみられることが多い.片眼の視機能が著しく不良の患者では,数年の経過で視機能低下が両眼性に至り,「視覚障害」となった時点でさまざまな生活上の支障が生じる.近視性黄斑部脈絡膜新生血管が片眼に発症すると,8年経過後には約3割の症例が両眼性となるとも報告されている3).片眼を失明した緑内障患者では,良いほうの眼の視力が同程度のコントロールと比較して,抑うつ傾向が有意に強いことが報告されている4).良いほうの眼の視力が比較的良*YukoSeko:国立障害者リハビリテーションセンター研究所,病院第二診療部併任〔別刷請求先〕世古裕子:〒359-8555埼玉県所沢市並木4-1国立障害者リハビリテーションセンター研究所感覚機能系障害研究部0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(67)2055040302010090~図12011~2019年までに国立障害者リハビリテーション病院ロービジョンクリニックに受診した強度近視者183名(屈折度<-6.0D,または眼軸長≧26.5mm,または前医で強度近視と診断)の年齢分布2)患者数は加齢とともに増加していたが,70歳代よりはC80歳代で少なく,10歳代もやや多かった.患者数(人)<1010~20~30~40~50~60~70~80~年齢(歳)活用して情報提供をすることができれば,以降のロービジョンケアが円滑に進みやすいであろう.C2.ニーズの把握と保有視機能の評価すべてのロービジョンケアは,困りごとの聞き取り,傾聴から始まる.読み書きがしづらいとの訴えに対しては,テレビ,新聞,雑誌,あるいは通帳や値札,電車の運賃表など,困る場面も聞きとる.また,羞明の訴えも多いので,眩しくて困るのが屋外なのか屋内なのかなど,困る場面も聞きとる.保有視機能の評価では,通常の視力検査と視野検査に加え,最小可読視標,読書速度・臨界文字サイズ,偏心視域の機能などを適宜評価する.強度近視患者は,新聞や書物を読むとき,近づけて見ることによって網膜像を拡大する効果を得られるため,裸眼で近づけて見ることが多い.近見試視力表がどの距離でどのくらい小さい視標まで識別できるか(最小可読視標)を確認する.近見視力視標C0.5(視距離C12Ccm)のように記載する.最大読書速度・臨界文字サイズは,MNREAD-Jを用いて求めることができる.MNREADはミネソタ大学で開発された読書チャートであるが,日本語版としてCMNREAD-Jが小田によって開発され,iPadアプリもリリースされているURL4).得られる値は,読書用補助具の選定時に参考となる.中心視力が低下しても,偏心視域(preferredretinallocus:PRL)を使った偏心視によって中心視力を補って見ることができる場合がある.Amslerチャート,Humphrey視野計やCGoldmann視野計,眼底直視下微小視野計であるマイクロペリメーター(MP-3やCMacularCIntegrityAssessment(MAIA)などを用いて,中心視野の状態やCPRLの位置を把握する.C3.視覚障害にかかわる申請書類の作成手帳を取得することによって,補助具の購入や各種サービスへのアクセスに際して,患者負担は大幅に軽減される.手帳は,身体障害者福祉法に基づき,申請によって交付される.障害者総合支援法による障害福祉サービスの利用を希望する場合などには,法に定められた身体障害者であるという認定を受ける必要がある.この申請に医師の判定が必須となるため,クイック・ロービジョンケアとして申請書類の作成は重要である.一方,障害年金は手帳とはまったく別の制度であるが,患者の生活基盤にかかわるため,受給の制度を眼科医として知っている必要がある.手帳と障害年金の等級の基準にあてはまるかどうかを矯正視力と視野によって判断し,あてはまる場合には申請書を作成する.等級の判定には,視覚障害等級計算機URL5)はたいへん便利であるため紹介したい.当院では,強度近視患者のC86%が手帳の基準に該当していた2).眼科医が書く書類は,手帳については身体障害者診断書・意見書(視覚障害用),障害年金については診断書(眼の障害用)・確認届である.診断書では,その傷病名について初めて医療機関を受診した日が重要となるため,初診医の診断書や受診状況等証明書などの初診日証明書類はとても重要となる.障害年金については令和C4年C1月C1日に改正が行われ,両眼の視力の和ではなく,両眼それぞれの視力で判定するようになり,視野の判定に自動視野計の結果を使用できるようになった.強度近視のロービジョン患者ではこの改正によって等級変更に該当する場合もあるため要確認である.片眼だけが視力不良の場合でも受給できるケースもある.社会保険労務士への相談も選択肢のひとつである.C4.屈折矯正と偏心視の獲得強度近視患者は,ロービジョンクリニックを受診する時点ですでに眼鏡をもっていることが多いが,あらためて,遠方,近方,遠近,中近などの眼鏡処方を行うことは非常に多い.強い凹レンズを装用することによる像の縮小効果(たとえば.10.00Dの凹レンズ装用では約C12%縮小)があるため,自覚的屈折検査の際には,頂間距離にも注意する.変性近視のほとんどは軸性近視であるため,前焦点である角膜からC15Cmmの距離にレンズを置くと網膜像の縮小効果が少なくなる(Knappの法則).眼鏡処方の際には,15Cmmで測定した場合には処方箋の備考欄に頂間距離を指定する6).コンタクトレンズでは像の縮小効果がなく,眼鏡装用下よりも矯正視力が良好なことが多い.また,コンタクトレンズと補装具とを組み合わせ(69)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C207表1ロービジョンエイドの処方状況(年齢別,合併症別)(年齢別)20歳未満C20.75歳C75歳以上年齢(10人)(129人)(44人)拡大鏡5人76人31人単眼鏡7人11人3人拡大読書器1人55人31人タブレット1人13人2人遮光眼鏡5人77人28人白杖1人21人5人(合併症別)網膜ジストロフィ緑内障Cand/or近視性黄斑症(49人)(115人)拡大鏡15人61人単眼鏡2人9人拡大読書器17人62人タブレット5人8人遮光眼鏡37人42人白杖13人14人各エイドについて,すでに保有あるいは新規に選定した患者数.ことも多く,その際には術後屈折値について提案させていただくことが多い.強度近視眼の白内障手術では,術後屈折値の設定には注意を要する.もともと新聞や書物を裸眼で近づけて見ることに慣れているため,近視寄りを狙うのがよいとの報告が多い.正視眼を狙った場合,あるいは通常の近方狙いで.3.00Dを狙った場合でも,すでに眼底病変が進行している患者では術後まもなく眼底病変が再度進行してロービジョンになると,不満足度は高く,補助具が必要になることが多い9).そのため,当院から白内障手術目的で紹介する際には,術前の屈折度と同程度の近視寄りを狙った術後屈折値を提案させていただくこともある.しかし,比較的若年で核白内障が進行する例などでは,視力の長期的な予後の見きわめはむずかしく,変性(病的)近視患者にとって,なるべく長期にわたって,比較的高い満足度が得られる術後屈折値の基準が求められている.C7.その他のロービジョンケア強度近視患者は,見えにくさや羞明を訴えてロービジョンクリニックを訪れることが多い.しかし,読み書きの手助けをする対応を続けているうちに,病変が進行し,白杖が必要となる例も散見される.歩行訓練,すなわち白杖使用の練習は,スマートサイトを活用し,専門の教育を受けた経験豊富な歩行訓練士(用語解説参照)が所属する専門施設に依頼することもできる.また,同行援護(用語解説参照)などの障害福祉サービスも利用できることがある10).また,40歳代など比較的若年の働き盛りにロービジョンとなることもある強度近視では,就労継続にかかわる支援も重要である.視機能低下に伴い,以前はできていた仕事が次第にむずかしくなって困難を感じている患者に対して,できる限り辞めずに働き続けることができるよう調整を試みる.事業所と労働者が共同して作成した「勤務情報を記載した文書」を元に指導を行い,「病状,治療計画,就労上の措置に関する意見書」を発行することにより,療養・就労両立支援指導料として,ロービジョン検査判断料の算定に加えて算定することができる場合もある(難病である網膜色素変性を合併する場合など).さらに,心理面でのサポートも重要なロービジョンケアである.強度近視のCqualityoflife(QOL)を調査した結果,強度近視患者のCQOLには,眼の将来への不安,疾患の受容,憂鬱感,心の支え・生き甲斐といった心理状態を反映する項目が強く関与していることが示されている11).視覚障害に詳しい臨床心理士などの専門職につなぐことができれば理想であるが,そのようなサポートは制度として立ち遅れている.眼科医が患者の読み書きや移動についての困りごとを傾聴し気にかけるだけでも,患者の不安な心が軽くなることもある.CIIIロービジョンケアの例【例C1】初診時年齢C50歳代前半,男性.両眼の矯正視力は(0.09).コンタクトレンズを装用.両眼ともに軽度の白内障(+).視線をずらして見る習慣があったが,中心視では,両眼ともに(0.01p).眼軸長は,右眼C33.1mm,左眼C33.2Cmm.緑内障に対して点眼治療中.両眼ともに近視性黄斑変性.対応C1:身体障害者手帳C1級,障害年金C1級を申請.対応C2:ルーペの選定.対応C3:遮光眼鏡の処方.対応C4:拡大読書器の選定.対応C5:パソコン訓練.白黒反転などを指導.便利グッズとして,タイポスコープを紹介(架空症例).【例C2】初診時年齢C70歳代前半,女性.矯正視力は,右眼(0.04),左眼(0.15).両眼底ともに近視性網脈絡膜萎縮性病変あり.両眼ともに眼内レンズ挿入眼.緑内障に対して点眼治療中.対応C1:身体障害者手帳C2級申請.対応C2:遮光眼鏡の処方.対応C3:スタンプルーペを処方.対応C4:介護保険の申請.対応C5:日常生活訓練として,コインと紙幣の見分け方を指導.対応C6:白杖操作の指導を開始.対応C7:初診からC3年後,矯正視力が,右眼指数弁,左眼(0.05)となり,iPhoneでの音声アプリ,デイジー(digitalCaccessibleCinformationsystem:DAIGY)図書,プレクストークなどを紹介・指導.対応C7:内斜視に対してオクルーダーを検討.(架空症例)CIVまとめ強度近視の合併症の治療は進歩してきているが,ロー(71)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C209■用語解説■補助具:身体機能の障害を補い,日常生活または社会生活を容易にし,自立と社会参加を可能とするための道具や手段などの総称.補装具:失われた身体機能を補完,代替する用具.視覚障害関連では,眼鏡,義眼,視覚障害者安全杖(つえ)などがある.障害者総合支援法に基づいて給付され,給付に際しては,専門的な知見(医師の判定書または意見書)を要する.日常生活用具:障害者や難病患者などが日常生活を円滑に過ごすために必要な用具.視覚障害対象では,拡大読書器,点字ディスプレイ,音声時計,音声式体温計などがある.障害者総合支援法に基づいて利用できるサービスのひとつである.歩行訓練士:視覚障害生活訓練等指導者ともよばれる.ロービジョン患者が白杖(視覚障害者安全つえ)を用いて安全に歩行できるよう,歩行訓練を行うほか,点字やパソコンを含む,日常生活に必要な動作・技能を指導する専門職.同行援護:視覚障害により,移動に著しい困難を有する障害者などにつき,外出時において,当該障害者等に同行し,移動に必要な情報を提供するとともに,移動の援護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう(障害者総合支援法第C5条C4).障害福祉サービスのひとつである.-

成人の近視と長期予後 強度近視眼の緑内障:特徴と実際,そして 治療の可能性

2023年2月28日 火曜日

成人の近視と長期予後強度近視眼の緑内障:特徴と実際,そして治療の可能性ThePathogenesisofGlaucomatousVisualFieldDefectsandTheE.ectivenessofIOPLoweringTherapyinHighlyMyopicEyes吉田武史*はじめに日本を含む東アジア諸国を中心に,全世界において近視患者数は急速に増加している.そのなかでも深刻な視力・視野障害に至るさまざまな疾患をしばしば合併する強度近視患者の増加は大きな社会的懸念となっている1~3).強度近視の本態は眼球の過度な延長(眼軸延長)による極端な近視化であり,一般的に眼軸長C26.0Cmmを超えるものを強度近視とすることが多い.強度近視に合併するさまざまな合併症のなかでも,頻度が多く,かつ病状がもっとも深刻なものの一つが緑内障様視野障害である.近年の近視患者の増加に伴い,強度近視患者数の増加は必然であるため,強度近視眼における緑内障様視野障害の重要性は日に日に高まっている.通常,緑内障の診断と進行の判断には光干渉断層計(opticalCcoherencetomogoraphy:OCT)や視野検査を用いることが一般的であるが,強度近視眼,とくに眼軸長C30Cmmを超えるような場合ではCOCTの評価は機能せず,視野検査による評価が主体となることが多い.しかし,実際に強度近視眼で視野異常が疑われる患者に視野検査を行うと,通常の緑内障症例とは異なる視野パターンを示すことが少なくない.これは眼科医にとって診断や治療方針を困難にする一因となっている.通常の緑内障の視野障害パターンは,Bjerrum領域の暗点,鼻側階段であるが,強度近視眼ではそれらに加えて耳側周辺部欠損型や耳側と鼻側の両側周辺部欠損パターンを示すひょうたん型とよばれるものや,通常の緑内障ではほとんどみられない中心視野から欠損してくる中心視野障害型がみられる4)(図1).このなかでも中心視野から欠損するパターンでは初期から深刻な視力低下に直結し,生活が困難になるケースがあるため要注意である.さらに,近視が進むと視神経乳頭周囲の近視性コーヌスの形成と視神経乳頭そのものも眼軸が伸びた方向に引き伸ばされ変形するが,とくに強度近視眼では顕著であり,視神経乳頭形状のバリエーションは個人差が大きく決まったパターンがないこと,引き伸ばされた視神経乳頭では陥凹所見が曖昧になるため(図2)評価がきわめてむずかしく,視神経乳頭の所見だけでは視野異常の有無やパターンを読みとくのは非常にむずかしく,視野異常のパターンと視神経乳頭所見に整合性がつかないことが多いことは診療するうえでもっとも悩ましい点である5).また,近視は緑内障様視野障害の発症リスクであることはこれまでに報告されているが,進行のリスク因子かどうかについては明らかにはなってない.この理由は現在まで明らかにはされていないものの,近視眼で緑内障と診断されたなかに,一定の進行を認めたあとに進行が止まる症例があることがCSawadaら6)によって報告されていることから,強度を含む近視眼では通常の眼圧依存性の視野障害以外の因子が働いていることが示唆される.筆者は近視の本態である眼軸延長に原因があるので*TakeshiYoshida:東京医科歯科大学先端視覚画像医学講座〔別刷請求先〕吉田武史:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学先端視覚画像医学講座C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(61)C199図1強度近視眼に生じる緑内障様視野障害パターンa:緑内障型(Humphrey視野C30°).b:中心視野障害型(Humphrey視野C30°).c:周辺部視野障害型(Goldmann視野).図2強度近視眼における視神経乳頭形状形状は多種多様であり,陥凹所見ははっきりしない.乳頭所見から視野異常を予測するのは非常にむずかしい.図3強度近視眼における局所篩状板欠損a:眼底写真(右眼).b:Humphrey10°視野,乳頭黄斑線維束に一致する中心視野障害を認める.Cc,d:乳頭の水平断COCT画像(c)と篩状板部の拡大写真(d).白線:篩状板前面と後面.黄色線:篩状板が強膜側からはずれているために低信号領域として描出されており,局所篩状板欠損の所見である.進行停止図4強度近視眼に生じた中心視野障害型緑内障様視野障害の自然経過経過中に視野障害は自然停止したものの,その時点で大幅な感度低下に至っている.-

成人の近視と長期予後 近視性牽引黄斑症管理の最前線

2023年2月28日 火曜日

成人の近視と長期予後近視性牽引黄斑症管理の最前線FrontLineTreatmentsfortheManagementofMyopicTractionMaculopathy浦本賢吾*I近視性牽引黄斑症2015年の病的近視の国際メタ解析スタディ(Meta-AnalysisforPathologicMyopiastudy:META-PM)において,病的近視は「びまん性萎縮以上の萎縮性変化を眼底に有する,もしくは後部ぶどう腫を有する」眼であると明確に定義された1).病的近視では眼軸の延長や後部ぶどう腫に伴い,さまざまな病変が生じる.1999年に近視に伴う網膜分離症が初めて報告され,病的近視の主要な合併症の一つとして認識されるようになった2).一方で近視性牽引黄斑症は,強度近視眼にみられる牽引によって引き起こされる黄斑部網膜障害の総称であり,眼軸延長に伴う網膜の機械的伸展と硝子体による網膜の牽引により生じると考えられている.近視性牽引黄斑症は,病的近視眼底変化に加えて,①黄斑前膜,②硝子体黄斑牽引,③200μm以上の中心窩網膜の肥厚,④網膜分離,⑤網膜.離,⑥黄斑分層円孔のうち,いずれか一つを認めることによって診断される3).このため網膜分離症は近視性牽引黄斑症の疾患概念の一つとされている.網膜の分離は,外網状層,内網状層,内境界膜(innerlimitingmembrane:ILM)と神経節細胞層の間で起こるといわれている.網膜外層の分裂は,おもにMuller細胞と考えられる柱状構造で構成されている4).強度近視眼729眼を調べた研究では,網膜分離症は全例が外層の網膜分離を呈しており,そのうち3割が内層の網膜分離を合併していた.また,729眼のうち66%が後部ぶどう腫を合併しており,19%が網膜分離症を合併していた5).後部ぶどう腫の強度近視患者の9~34%に網膜分離症が認められるとの報告2)もあり,網膜分離症と後部ぶどう腫は関連性が高いと考えられる(図1).II後部ぶどう腫の影響後部ぶどう腫は病的近視の病態の最大の特徴の一つであり,「周囲の眼球壁の曲率半径よりも明らかに小さい曲率半径を有する後極部眼球壁の突出」と定義されている6).Ohno-Matsuiら7)は,オプトス画像と3D-MRIによる画像解析を組み合わせ,後部ぶどう腫の新分類を提唱した(I型が黄斑広域型,II型が黄斑限局型,III型が乳頭周囲型,IV型が鼻側型,V型が下方型,それ以外がその他).後部ぶどう腫を有する病的近視眼の中で,もっとも多い後部ぶどう腫のタイプは黄斑広域型で74%,ついで黄斑限局型(14%)であった8).また,病的近視眼の約半数の症例が後部ぶどう腫を有しておらす,MRIで樽型形状を示していた6).さらに後部ぶどう腫のない眼は,後部ぶどう腫のある眼に比べて視力が有意に良好で,限局性脈絡膜萎縮や近視性黄斑部新生血管の有病率が有意に低く,後部ぶどう腫の形成が病的近視眼の視機能に著しい悪影響を及ぼす要因であることが示されている.*KengoUramoto:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕浦本賢吾:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(55)193図1網膜分離症と後部ぶどう腫a:眼底写真.アーケード周囲にぶどう腫エッジが認められる.Cb,c:3D-MRIによる画像解析像.ぶどう腫がより明快に描出されている.d,e:OCTの水平断(d)と垂直断(e).S3の網膜分離が認められる.図2OCT所見による網膜分離症の分類上段がCOCTの水平断・下段が垂直断.b図4病的近視による黄斑円孔と黄斑円孔網膜.離a:全層黄斑円孔(FTMH).b:黄斑円孔網膜.離(MHRD).図3網膜分離から黄斑部網膜.離合併への増悪進行a:黄斑部の網膜外層の乱れ・厚みの上昇(stage1).Cb:外層分層黄斑円孔と小さな網膜.離(stage2).c:網膜.離を覆う柱状構造の水平方向への拡大と,外層分層円孔の垂直方向への拡大(stage3).d:外層分層円孔の端が網膜内層に達するまで拡大(stage4).図5内層分層黄斑円孔の増悪進行過程(変性型)a:後部硝子体皮質による牽引()によるCILMHと網膜分離症を認める.Cb:で示す部分に黄斑部網膜.離が発生.c:さらに増悪し,全層黄斑円孔に至っている().図7EMSSRDの代表症例丈の高い網膜分離を認め,黄斑部分のCcolumn構造は過疎化・消失しており(),黄斑円孔網膜.離のようにみえるが,網膜色素上皮上に薄い網膜外層が残存している().図6Fovea-sparinginternallimitingmembrane(ILM)peeling(FSIP)–

成人の近視と長期予後 近視性黄斑症管理の最前線

2023年2月28日 火曜日

成人の近視と長期予後近視性黄斑症管理の最前線CurrentStrategiesfortheManagementofMyopicMaculopathy塩瀬聡美*はじめに近年,世界的に近視人口は増加しており,とくにアジア諸国では,若年成人の90%が近視であるといわれている.変性近視は視力障害の2位(Beijingスタディ)や,近視性黄斑変性は失明原因の上位(多治見スタディ)など,近視が視力障害の重要な原因であることは多数報告されている.しかし,すべての近視が矯正視力を障害するわけではなく,「矯正視力の低下を起こすもの」=「病的近視」であり,そのなかでも失明の原因となる病態は,おもに近視性黄斑症,近視性視神経症,近視性牽引黄斑症である.本稿では,これらのうち「近視性黄斑症」についてとりあげる.I病的近視とは病的近視とは,遺伝・環境などから発生する進行性の眼球延長によって,さまざまな合併症を生じ,矯正視力の低下をきたすものである.従来,その定義は,屈折値や眼軸長をもとになされ報告されてきたが,強度近視であっても必ずしも合併症,視力障害をきたすとは限らず,病的近視に対する適切な定義が必要となっていた.国際的に統一した基準を定める目的で行われた2015年の病的近視の国際メタ解析スタディ(Meta-AnalysisforPathologicMyopiastudy:META-PM)において,はじめて「病的近視」=びまん性萎縮以上の近視性黄斑症を有する近視,もしくは後部ぶどう腫を有する近視,と定義された1).II近視性黄斑症とは近視性黄斑症は近視に伴う網脈絡膜病変であり,前述のMETA-PMにおいて,定義,明示された(図1).長期経過においてカテゴリー0からカテゴリー4へと進行していく.またどのカテゴリーの段階においても生じる病変がプラス病変で,カテゴリー2以上とプラス病変が病的近視の定義に入る.III近視性黄斑症の有病率久山町研究によると,わが国での近視性黄斑症の有病率は40歳以上の1.7%であった.また,有病率は2005年,2012年,2017年にかけて徐々に増加しており,40代,50代,60代,70代と,加齢とともに増加することが報告されている2).IV近視性黄斑症の分類1.びまん性萎縮(カテゴリー2)初期は視神経周囲がメインの黄色調の萎縮(乳頭周囲びまん性萎縮)だが,進行すると後極全体に萎縮が広がる(黄斑に及ぶびまん性萎縮).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で観察すると,脈絡膜は非常に菲薄化しているが,びまん性萎縮だけで視力は障害されず,維持していることが多い.FangらはsweptsourceOCTを用いて,乳頭周囲びまん性萎縮の目安を中心窩から3,000μm鼻側の脈絡膜厚<56.5μm,*SatomiShiose:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕塩瀬聡美:812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(45)183category0近視性黄斑症なしcategory1紋理眼底病的近視mentepithelium:RPE)や視細胞も消失する.この病変が中心窩に及べば黄斑部萎縮(カテゴリー4)となり,高度の視力障害を起こすが,この病変自体は通常,黄斑部から離れる方向に拡大癒合するので,黄斑部に及ぶことは少ない4).3.黄斑部萎縮(カテゴリー4)①限局性萎縮(カテゴリー3)が拡大・癒合し黄斑部に至るもの,②硝子体手術後,③近視性黄斑新生血管(macularneovasculalization:MNV)の萎縮期,などの成因による黄斑部萎縮がある.①の限局性萎縮は,通常,黄斑から離れる方向に拡大し,黄斑部に至ることはまれとされているので,病的近視眼の黄斑部萎縮はほとんど③の近視性MNV関連の黄斑部萎縮である.4.プラス病変a.Lacquercracks眼軸延長に伴ってBruch膜が線状,機械的に断裂することで起こる眼底の黄色線状病変である.新しいlac-quercracksが生じると単純型黄斑部出血を伴うことがある.眼底は紋理眼底か軽度のびまん性網脈絡膜萎縮であることが多い.OCTではRPEの断裂および深部信号の増強を認める.b.Fuchs斑近視性MNVの萎縮期に形成される色素沈着を伴った瘢痕萎縮病巣である.病的近視眼の5.10%にみられ,MNVがBruch膜の断裂を通ってRPE下に伸展し,漿液性か出血性のRPE.離を起こし,線維瘢痕化したものである.MNVが黄斑近傍に発生しやすいため,Fuchs斑も同部位に発生し,急速に黄斑萎縮に至って視力を障害する.c.近視性MNV病的近視に合併する脈絡膜新生血管である.外来で近視に合併するMNVは時折みかけるが,すべてが近視性MNVではなく,紋理眼底(カテゴリー1)や萎縮のない(カテゴリー0)MNVは,定義上は近視性MNVではない.近視性黄斑症のカテゴリー3である限局性萎縮やlacquercracksから生じることもある.近視性黄斑症の分類ではプラス病変の一部であるが大変重要な病態である.なぜなら,カテゴリー2,3の近視性黄斑症のみでは基本的に中心視力は下がらず,高度の中心視力障害はカテゴリー4の黄斑部萎縮であること,そして,そのほぼ92.7%の原因が近視性CNVであることをFangらが報告しているからである3).ここからは,この近視性黄斑症のなかで視力低下に直結する「近視性MNV」について詳しく述べる.V近視性MNV1.近視性MNVの発症病的近視の10%に5),強度近視者の5.2.11.3%に6),一般住民の0.1%に発症し2),50歳以下の若年MNVの62%を占める7)と報告されている.平均8年で反対眼に35%発症し8),強度近視眼発症MNVの15%が両眼性である6)といわれているため,患眼のみならず反対眼のチェックも定期的に行うことが大変重要である.2.近視性MNVの発症機序近視性MNVの発症機序には機械的因子と遺伝的因子がかかわっているとされている.遺伝的因子については,MNV拡大に関する遺伝子の報告はあるものの,血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)遺伝子を含めて,発生に関するはっきりした遺伝子は同定されていない.機械的因子について,もっとも有力とされているのは眼軸延長をベースとする説である.近視眼は眼軸が延長することで,RPE,Bruch膜脈絡膜が菲薄になり,脈絡膜,網膜外層が虚血に陥り,血管形成因子と抗血管形成因子とのバランスが崩れる.これに加えて眼球が引き伸ばされることでBruch膜に裂け目が生じると,その治癒反応としてその穴を通じて網膜下に新生血管ができる,という説である9).近年,このMNVは加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegen-eration:AMD)でみられるような脈絡膜血管由来ではなく,強膜を貫通した短後毛様動脈由来ではないかと報告されている10).3.近視性MNVの診断(気をつけるポイント)a.眼底AMDのMNVに比べて非常に小さな灰白色の病変で(47)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023185図2中心窩外の近視性黄斑新生血管(MNV)a:84歳,女性.左眼歪視で近医を受診したが,異常がないといわれ脳外科を紹介された.脳に異常がないのでやはり眼科ではないかといわれて脳外科から当院を紹介され受診した.視力(1.0).b:OCTで黄斑は一見,問題なさそうにみえる.Cc:造影検査を行うと黄斑の上方から蛍光が漏出していた(.).d:OCTAでも黄斑上方に血管構造がみられ(),近視性CMNVとして治療を開始した.図3単純型黄斑部出血a:35歳,女性.右眼中心暗点で受診.視力(0.8).黄斑に出血がみられる(.).b:OCTで黄斑下の隆起がみられる().c:FAで蛍光漏出はなく,インドシアニングリーン蛍光造影で出血近傍に線状の低蛍光のCBruch膜の断裂(lacquercracks,.)がある.断裂に伴った単純型黄斑部出血と考えられた.Cd:OCTAでは血管構造がみられない.Ce:経過観察にて,1カ月後には出血は自然消退し,自覚も消失した.図4抗VEGF薬投与後の近視性黄斑分離症a~c:45歳,女性.右眼近視性CMNVに対し,抗CVEGF薬をC1回投与した.視力(0.7C×sph.17.0Ccyl.0.5Ax170°).d~f:治療開始C5カ月後.FA,OCTで近視性CMNVは消失しているが,網膜分離が増悪している.その後,視力(0.5)に低下してきたため硝子体手術を施行した.眼底・FA・OCT・OCTAによる評価近視性MNV+近視性MNV-図5近視性MNVの治療ガイドライン(文献C22より改変引用)近視性CMNVのC5年成績を報告した(第C4回日本近視学会)が,いったん有意に改善した視力はC5年間維持できていたものの,徐々に治療前視力との有意差が減少していった.大石ら23)を含む他の報告でも,治療開始C3年までの視力は有意に改善していたが,4年目から視力の有意差はなくなったと述べられている.長期経過後の視力と関連ある因子については,治療前視力,MNVの面積,高齢であることなどのほかに,黄斑部の萎縮の拡大があげられており,ほとんどの報告で長期期間中に萎縮面積が拡大していくと述べられている.佐柳ら24)は,治療C1年後の経過ではあるが萎縮の拡大にはアフリベルセプト,ラニビズマブという薬剤間の有意差はなかったと報告している.さらに長期の経過の報告が待たれる.萎縮の拡大との関連因子としては投与回数,MNVの位置,MNVの面積などが報告されているものの,関連因子はないという報告もあり,明らかなコンセンサスは得られていない.随時,治療眼を自発蛍光で観察しながら,萎縮の経過を追うことが大切である.近年,この萎縮はただの網脈絡膜の萎縮だけでなく,Bruch膜の穴であることが示された25).つまり,強膜の伸展によって,穴が拡大していくことが黄斑部萎縮拡大の問題である.この萎縮に対する治療が,今後の近視性CMNV治療の視力予後を改善していくために必要と思われる.おわりに近視性黄斑症の疫学やイメージングの報告は相次ぎ,病態は少しずつ解明されている.一方,新生血管に対する治療は確立しているものの,病的近視に特異的な眼球の機械的構造の変化とそれに伴う萎縮の進行に対する治療はない.近視性黄斑症の長期マネージメントにおいて,これらに対する治療の確立こそ,患者,そして眼科臨床医が切望しているところであろう.病的近視の患者,近視性CMNVを発症した患者は大きな不安をかかえて病院を受診する.とくに若年患者はインターネットで近視性CMNVを検索し,「失明」の文字をみつけて,ナーバスになって頻繁に来院する.現状では,そのような患者に自覚症状が出てすぐ治療をすれば,ある程度急速な視力低下は防げることを伝え,患者の自覚に耳を傾けて適切な治療を提供することが大切である.文献1)Ohno-MatsuiK,KawasakiR,JonasJBetal:Internationalphotographicclassi.cationandgradingsystemformyopicmaculopathy.AmJOphthalmolC159:877-883,C20152)UedaE,YasudaM,FujiwaraKetal:Trendsintheprev-alenceCofCmyopiaCandCmyopicCmaculopathyCinCaCJapanesepopulation:TheCHisayamaCStudy.CIOVSC60:2781-2786,C20193)FangCY,CDuCR,CNagaokaCNCetal:OCT-basedCdiagnosticCcriteriaCforCdi.erentCstagesCofCmyopicCmaculopathy.COph-thalmologyC126:1018-1032,C20194)FangY,YokoiT,NagaokaNetal:ProgressionofmyopicmaculopathyCduringC18-yearCfollow-up.COphthalmologyC125:863-877,C20185)HayashiCK,COhno-MatsuiCK,CYoshidaCTCetal:Long-termCpatternCofCprogressionCofmyopicCmaculopathy:aCnaturalChistorystudy.OphthalmologyC117:1595-1611,C20106)WongTY,FerreiraA,HughesRetal:Epidemiologyanddiseaseburdenofpathologicmyopiaandmyopicchoroidalneovascularization:anevidence-basedsystematicreview.AmJOphthalmolC157:9-25,C20147)CohenSY,LarocheA,LeguenYetal:Etiologyofchoroi-dalCneovascularizationCinCyoungCpatients.COphthalmologyC103:1241-1244,C19968)Ohno-MatsuiCK,CYoshidaCT,CFutagamiCSCetal:PatchyCatrophyCandClacquerCcracksCpredisposeCtoCtheCdevelop-mentCofCchoroidalCneovascularizationCinCpathologicalCmyo-pia.BrJOphthalmol87:570-573,C20039)WongTY,Ohno-MatsuiK,LevezielNetal:Myopiccho-roidalneovascularization:CurrentCconceptsCandCupdateConCclinicalCmanagement.CBrCJCOphthalmolC99:289-296,C201510)IshidaCT,CWatanabeCT,CShinoharaCKCetal:PossibleCcon-nectionofshortposteriorciliaryarteriestochoroidalneo-vascularizationsineyeswithpathologicmyopia.BrJOph-thalmol103:457-462,C201911)YoshidaCT,COhno-MatsuiCK,CYasuzumiCKCetal:MyopicCchoroidalneovascularization:aC10-yearCfollow-up.COph-thalmologyC110:1297-1305,C200312)Ohno-MatsuiCK,CItoCM,CTokoroT:SubretinalCbleedingCwithoutchoroidalneovascularizationinpathologicmyopia.ACsignCofCnewClacquerCcrackCformation.CRetinaC16:196-202,C199613)FarinhaCCL,CBaltarCAS,CNunesCSGCetal:ChoroidalCthick-nessCafterCtreatmentCforCmyopicCchoroidalCneovasculariza-tion.EurJOphthalmolC23:887-898,C201314)WolfCS,CBalciunieneCVJ,CLaganovskaCGCetal:RADI-ANCE:aCrandomizedCcontrolledCstudyCofCranibizumabCinCpatientsCwithCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCpathologicmyopia.OphthalmologyC121:682-692,C201415)IkunoCY,COhno-MatsuiCK,CWongCTYCetal:IntravitrealCa.iberceptinjectioninpatientswithmyopicchoroidalneo-190あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(52)-

学童近視の進行予防外来最前線 小児の近視に対するレッドライト治療

2023年2月28日 火曜日

学童近視の進行予防外来最前線小児の近視に対するレッドライト治療RedLightTherapyforMyopiaControlinChildren五十嵐多恵*はじめに長波長の可視光線である赤色光が,高い近視進行予防効果を有することを示す論文が発表されている1~3).中国では,可視光線を用いる光治療装置がC2008年から弱視治療装置として認可を受けて,中国国内の病院で使用されていた(図1).2014年に,この装置で用いられているC650Cnmの赤色光に,近視眼での過剰な眼軸長伸展を抑制する効果が偶発的に発見された.中国国内では,このレッドライト治療法に対する近視進行予防効果の知見が集積したことから,この光治療装置は弱視治療用だけでなく近視治療用としても中国の国家食品薬品監督管理局(ChinaCFoodCandCDrugAdministration:CFDA)に承認された.2019年以降,世界最大級の臨床試験登録・公開サイトであるCClinicalTraials.govには,レッドライト治療の,1)近視進行予防効果,2)近視発症予防効果,3)網脈絡膜循環へ与える影響,4)オルソケラとロジーとの併用効果,5)成人の近視に対する効果,などを検証する大規模な無作為化比較試験が次々と登録されており4),結果報告を待つ状態である.CIレッドライト治療の近視進行予防効果2021年から国際誌において,レッドライト治療の近視進行予防効果を検討した研究結果が掲載されるようになった.Xiongらは,229人の6~16歳の近視の小児を,単焦点レンズ(single-visionCspectacleClenses:SVL)群,オルソケラトロジー群,レッドライト治療群(650.nm/2図1光治療装置写真のような可視光線を用いる光治療装置は,2008年から弱視治療装置として認可を受けて,中国国内の病院で使用されていた.近視進行予防に用いる赤色光はC650Cnmの低出力レーザー光であり,自宅でC1回C3分C1日C2回,週C5回実施し,1回の治療間隔はC4時間以上あける必要がある.低濃度アトロピン点眼を使用中の瞳孔径が拡大した患者では使用してはいけないなど,注意事項を守って安全に実施することが必須である.(文献C2より引用)mW/1回C3分C1日C2回)のC3群にランダムに割り当て,眼軸長の経過をC6カ月モニターした1).わずかC6カ月の研究期間であり,近視進行予防治療としての有効性を評価するうえで十分な期間ではない.しかし,1回C3分C1日C2回,可視光である波長C650Cnmの低出力レーザーによる赤色光を覗く治療は,オルソケラトロジーによる眼*TaeIgarashi-Yokoi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕五十嵐多恵:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野C0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(41)C179ab眼軸長伸展量(mm)0.10.0-0.2-0.4-0.60.0-0.80123456789101112(月)0123456789101112(月)図2レッドライト治療の近視進行予防効果小児(8~13歳)の近視患者を対象とした中国の無作為化比較試験における,レッドライト治療群および単焦点眼鏡群(SVL群)の眼軸長(Ca)と屈折値(Cb)の変化(intentionCtotreat解析の結果).治療開始C1年後,SVL群の眼軸長伸展量はC0.38.mmであったのに対し,レッドライト治療群ではC0.13Cmmの伸展であった.また,SVL群の近視進行量はC.0.79Dであったのに対し,レッドライト治療群では.0.18Dの進行であった.(文献C2より引用)75CPhotobiomodulationNO↑IntermembranespaceMitochondrialmatrixFR/NIRTGF-b強膜線維芽細胞脈絡膜血流の増加↓強膜の酸素欠乏改善前駆細胞筋線維芽細胞図3レッドライト治療が近視化を阻害する分子的および細胞的機序(仮説)赤~近赤外領域光のもつフォトバイオモジュレーション(photobiomodulation:PBM)作用によって脈絡膜血流が増加し,強膜の酸素欠乏が改善するだけでなく,遊離一酸化窒素(NO)の増加や,TGF-b/Smad経路の活性化が強膜の酸素欠乏を改善する機序も考えられる.強膜の酸素欠乏が改善することで,強膜線維芽細胞の形質転換が阻害され,強膜のリモデリングが回復する,との仮説が立てられている.FR/NIR:赤~近赤外領域光,CCO:チトクロームCcオキシダーゼ(文献C5を一部改正)

学童近視の進行予防外来最前線 デフォーカス組み込み理論に基づく特殊眼鏡

2023年2月28日 火曜日

学童近視の進行予防外来最前線デフォーカス組み込み理論に基づく特殊眼鏡InnovativeMyopia-ControlSpectaclesBasedontheDefocusIncorporatedTheory長谷部聡*はじめに眼鏡による近視進行抑制の研究には,半世紀を超える歴史があり,すでにさまざまなエビデンスが蓄積されている.屈折矯正が予防治療を兼ねることから,患児や家族への時間的,心理的,経済的負担が少なく,長年にわたり継続できる利点がある.さらに,他の予防的治療で懸念される副作用や治療中止後のリバウンドの心配も少ない.ところが網膜ボケ理論(blurtheory)に基づいて実施された累進屈折力眼鏡(progressiveadditionlenses:PAL)をはじめとする在来型の眼鏡レンズを利用した研究では,統計学的には有意な抑制効果を認めたものの,臨床的治療として有効とされる抑制率(30.40%)を得るに至らなかった1,2).この理由としてFlitcroft3)は,ことに屋内において,視線の方向,視距離,構造物の空間的配置などの相互作用により,とくに周辺部網膜におけるデフォーカスは大きく変動しており,眼鏡レンズのように固定された光学系では,近視進行のトリガーとされる網膜後方へのデフォーカスを十分取り除くことはできないことを指摘した.しかし,約10年前,複数の動物実験4.6)から,網膜上のフォーカスとは別に,第2のフォーカスを網膜前方に組み込むことで,レンズ誘発近視が著明に抑制されることが報告された.発見がきっかけとなり,デフォーカス組み込み理論(defocusincorporatedtheory)が登場し(図1),この理論に基づく特殊眼鏡としてマルチセグメント(multisegment:MS)レンズが設計されたのである.MSレンズはランダム化比較対照試験(random-izedcontrolledtrial:RCT)7.10)により,相次いで好成績が報告されたことから,数年前から脚光を浴びている11).本稿では,MSレンズに関する臨床研究の現状について解説する.IMiyoSmartレンズMSレンズには,MiyoSmartとStellestの2種類がある.世界のいくつかの地域ですでに市販されているが,国内では今のところ市販される予定はない.このうちMiyoSmart7,8)は,香港理工大学と日本のHOYAの共同研究による眼鏡レンズである.眼鏡レンズ中央部の直径約9mmのクリアゾーンを除き,その周囲に,直径1mmの屈折力+3.5Dの微小レンズ約400個がハニカム状に配列されている(図2,3a).微小レンズ(lenslet)を除く領域(キャリアレンズ)は,患者の屈折矯正に使用される.微小レンズの領域は,網膜前方に第2の焦点(近視性デフォーカス)を組み込むことに使用される(図4a).正面視を除き,注視方向にかかわらず瞳孔内には常に複数個の微小レンズが含まれ,二つの焦点の光量は一定に保たれるため,PALはじめとする従来型の非球面レンズと異なり,視線移動によるコンプライアンス低下を避けられる(図4b).さらに周辺視野から来る光線も微小レンズを通過するため,周辺部網膜においても前方へのフォーカスを組み込むことができる*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学2教室〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山市北区中山下2-6-1川崎医科大学総合医療センター眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(33)171図1デフォーカス組み込み理論の模式図a:網膜ボケ理論では,近視進行のトリガーとなる網膜後方へのデフォーカス(f1)を減らすことに主眼が置かれてきた.Cb:デフォーカス組み込み理論では,網膜前方への第C2のデフォーカス(f2)を組み込むことで,眼軸長の視覚制御(visualregulationofaxiallength/eyeshape)12)の作用を無効にすることが期待されている.図2HOYAのMyioSmart(HOYA株式会社提供)ab10mm図3DIMS眼鏡のデザインの違いMiyoSmart(Ca)では微小(球面)レンズがハニカム状に配列されているのに対し,Stellest(b)では微小(非球面)レンズが同心円状に配置されている.いずれも中央にクリアゾーンをもち,矯正領域(レンズキャリア)と加入領域(微小レンズ)の面積比はC6:4となっている.破線は一般的な眼鏡フレームサイズを示す.a微小レンズ+3.5Db+3.5D図4MSレンズの光学作用a:微小レンズを除く領域(レンズキャリア)を通過する光線(黄色で示す)は網膜上に焦点を結ぶ.微小レンズを通過する光線(赤色で示す)は,網膜上の焦点から約C3.5D前方に第C2の焦点を結ぶ.Cb:眼球運動が生じても,瞳孔領には常に複数の微小レンズが含まれるためコンプライアンスは低下しない.Cc:周辺視野から来る光線の一部は微小レンズを通過するため,周辺網膜に対しても前方へのデフォーカスが与えられる.視化が報告されている.軸外屈折でみられる変化は,網膜前方へのデフォーカスを組み込むことにより周辺部網膜における眼軸長の過伸展を抑制するという,MiyoS-marの治療機転の妥当性を裏づけるものといえる.一方,MiyoSmartをC2年使用後の主要な視覚機能(矯正視力,両眼視機能,調節力)についての調査では,対照(単焦点レンズ装用)群との比較で有意差はみられなかった15).ついで,StellestレンズによるCRCTが報告された9,10).1年目の報告9)では,対照(単焦点レンズ装用)群と比較して,近視進行抑制量はCHALで平均C0.53D(p<0.001),SALで平均値C0.33D(p<0.001)であった.眼軸伸長抑制量は,HALで平均C0.23mm(p<0.01),SALで平均0.11mm(p<0.01)であった.RCTはもうC1年継続され10),装用開始C2年後では,対照(単焦点レンズ装用)群と比較して,近視進行抑制量はCHALで平均C0.80D(p<0.001),SALで平均値差C0.42D(p<0.001)であった.眼軸伸長抑制量では,HALで平均C0.35mm(p<0.001),SALで平均C0.18Cmm(p<0.001)であった.いずれの検討項目においても,HALのほうが抑制効果が大きかったため,このレンズがCStellestとして商品化されることになった.CIV抑制効果の比較MiyoSmartレンズ,Stellestレンズ,対照(単焦点レンズ装用)群について,近視と眼軸長の変化を図5,6示した.いずれのCMSレンズも,近視進行や眼軸過長を大きく抑制するが,2年間の近視進行抑制量を比較してみると,MiyoSmartが平均C0.44Dであったのに対し,Stellestレンズは平均C0.80Dであり,後者の抑制量のほうがC2倍近く大きかった.しかし,対照(単焦点レンズ装用)群の近視進行量に注目すると,前者の研究では平均C0.89Dであったのに対し,後者の研究では平均C1.47Dであり,後者のほうが大きかった.眼軸伸長抑制量(2年間)では若干様相が異なるが,MiyoSmartでは平均C0.34Cmmであったのに対し,Stell-estレンズでは平均C0.35Cmmと差はみられなかった.一方,対照群の眼軸伸長量は,前者の研究では平均C0.49mmであったのに対し,後者の研究では平均C0.69Cmmと,後者のほうが大きかった.表1に示されるように,研究対象はいずれも中国人学童であり,臨床的特徴にも差はなかった.しかし,MiyoSmart研究のCRCTは香港,Stellestの研究はC800Ckm北上した温州で実施されていることから,ライフスタイルや気候などの環境要因174あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(36)0.00-0.20-0.40-0.60-0.80-1.00-1.20-1.40-1.60Lamら,MiyoSmartBaoら,StellestLamら,controlBaoら,control眼軸長の伸び(mm)近視進行(D)0.800.700.600.500.400.300.200.100.00061218243036経過(カ月)図5近視進行の比較(文献7.10より作成)Baoら,controlLamら,controlBaoら,StellestLamら,MiyoSmart061218243036経過(カ月)図6眼軸伸長の比較(文献7.1C0より作成)C表1RCTの比較テストレンズCMiyoSmartCStellest報告年C2020,C2021C2021,C2022報告者CLam,etalCBao,etal実施場所香港温州年齢8.1C3歳8.1C3歳等価球面値C.1.00.C.4.50DC.0.75.C.4.75D乱視.C1.50D.C1.50D矯正視力6/6.0.05logMAR.標本数(介入群)C79CHAL54/SAL53標本数(対照群)C81C50SAL:slightlyasphericlens,HAL:highlyasphericlens.(文献7.10より作成)眼軸伸長抑制率(%)近視進行抑制率(%)806040200806040200経過(カ月)Lamら,MiyoSmartBaoら,StellestPAL図7近視進行と眼軸伸長における抑制率の経時変化PALの誤差線は,5.10度にわたるCRCTを基にメタ解析で得られた平均値とC95%信頼区間を示す.(文献7.10より作成)C-61218246121824

学童近視の進行予防外来最前線 オルソケラトロジー

2023年2月28日 火曜日

学童近視の進行予防外来最前線オルソケラトロジーOrthokeratology平岡孝浩*はじめにオルソケラトロジー(orthokeratology.以下,OK)とは特殊な内面デザインを有するハードコンタクトレンズを用いて意図的に角膜形状を変化させることにより,一時的に屈折異常を取り除く手法であるが,近視が進行する学童期に応用することにより進行予防効果が得られることが広く知られるようになった.現在では近視抑制治療の主軸の一つとして普及しており,とくに中国を中心としたアジア諸国で爆発的に処方数が増加している.本稿ではOKの近視予防効果について解説する.I近視抑制メカニズム一般的に軸外収差理論(peripheralrefractiontheory)が支持されており1,2),OK治療後には周辺部網膜における遠視性デフォーカス(網膜後方の焦点ずれ)が改善するために眼軸長の過伸展が抑制され,結果として近視進行が抑制されると考えられている(図1).また近年では,高次収差が近視抑制に重要な役割を果たしているとの仮説も提唱されている3.8).OK治療中の学童において,コマ収差が大きい症例のほうが眼軸長伸長は抑えられていたという報告や3,4),正の球面収差と眼軸長伸長が相関していたという報告がある5).OKと0.01%アトロピン点眼の併用療法を受けていた学童においても,高次収差と眼軸長伸長の間に有意な負の相関関係が認められている6).さらに,OKなどの特別な治療を受けていない学童の自然経過においても,高次収差と眼軸長伸長には有意な相関が確認されており7,8)(図2),高次収差の増加が眼軸長の伸長を抑制している可能性が高い.高次収差は焦点深度を拡張する効果があり,調節への負荷を軽減するために近視進行が抑制されるとの考えもあるが7),その詳細なメカニズムは解明されておらず,さらなる研究結果が待たれる.II初のケースレポートOK治療に伴う眼軸長伸長抑制効果に関しては,2004年に初めて学術報告がなされた.左眼のみ治療を受けていた11歳男児の2年間の眼軸長変化が0.13.mmであり,治療を受けていない右眼の0.34mmと比較して半分以下の伸び(約0.75Dに相当する抑制効果)であったことが示された9).IIIパイロット研究2005年に香港から,2009年に米国から報告された研究では,それぞれ35症例と28症例のOK治療患者の2年間の眼軸長変化が測定され,ヒストリカルデータ(過去に行われた別の研究結果)との比較が行われている.その結果,前者では単焦点眼鏡を装用している近視学童よりも46%の抑制効果が達成され10),後者ではソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)装用の近視学童よりも55%の眼軸長伸長抑制効果が確認された11)(表1).*TakahiroHiraoka:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)163図1軸外収差理論に基づく近視進行・抑制メカニズム通常の眼鏡やコンタクトレンズで近視を矯正すると,網膜周辺部に遠視性デフォーカス(網膜後方の焦点ずれ)を生じやすい.後方の焦点は眼球を伸展させるシグナルとなり,眼軸長が必要以上に伸展してしまう.オルソケラトロジー後は角膜中央がフラット化するとともに周辺部角膜はスティープ化するため,周辺部での屈折力が増し遠視性デフォーカスが改善する.その結果,眼軸長伸長が抑制され近視進行が鈍化すると考えられている.IV非ランダム化比較試験初の非ランダム化比較試験は日本で行われた.Kakitaら12)はベースラインデータがマッチしたC2群を前向きにC2年間経過観察したところ,OK群の眼軸長伸長は眼鏡対照群よりもC36%抑制されていることを見いだした.類似の研究がスペインでも行われ,OK群の眼軸長伸長は眼鏡対照群よりもC2年間でC32%抑制されていることが報告された13)(表1).CVランダム化比較試験初のランダム化比較試験は香港で行われ,ROMIO(RetardationCofCmyopiaCinorthokeratology)スタディとよばれている14).2年間の前向き研究であり,2群間の眼軸長変化量の有意差が認められ,OK群では眼鏡対照群よりもC43%の抑制効果が確認された(表1).VI強度近視眼や乱視眼への適応拡大Charmら15)は強度近視眼に対して,すべての度数をOKで矯正するのではなく,4Dだけ(部分的に)OKで矯正して,残存した近視度数に対して眼鏡で矯正を行うCpartialCreductionOKという手法を用いた.そしてC2年間の眼軸長変化量を眼鏡対照群と比較した.その結果,63%の抑制効果が確認され,partial.reduction.OKは非常に強い抑制効果を有することが明らかとなった.さらに同じ研究グループは,中等度以上の乱視を有する近視学童に対してトーリックCOKレンズで矯正を行うTO-SEEスタディという研究を行っている.その結果,2年間でC52%の抑制効果が確認された16)(表1).これらの結果から,海外では強度近視や高度乱視へも適応が広がっている.164あたらしい眼科Vol..40,No..2,2023(26)角膜全高次収差(μm)0.80.60.40.20眼軸長変化量(mm)図2近視学童の自然経過における高次収差と眼軸長変化量の関係特別な治療を受けていない単焦点眼鏡装用中の近視学童C64症例の眼軸長変化をC2年間前向きに検討し,初診時の角膜高次収差との関連を調べた7).その結果,角膜全高次収差とC2年間の眼軸長変化量は有意な負の相関を示すことが判明した.つまり,初診時に角膜高次収差が大きい症例では眼軸長の伸びが小さく,角膜高次収差の小さい症例では眼軸長の伸長が大きいことが示された.類似の相関関係はオルソケラトロジー(OK)治療眼3.5)やCOK+0.1%アトロピン点眼治療眼6)においても確認されており,高次収差が近視進行メカニズムにおいて重要な役割を担っている可能性が指摘されている.(文献C7のデータをもとに筆者が新たに作成)-0.200.20.40.60.811.21.41.61.82表1OKによる眼軸長伸長抑制効果に関する既報のまとめ著者(報告年)国試験デザイン観察期間(年)ランダム化治療群対象年齢参加者数近視度数(D)乱視量(D)眼軸長伸長(mm)抑制率(%)Choら10)(C2005)香港パイロットC2なしCOK/SVC7-12C35/─C.0.25.C.4.50<C2.00C0.29/0.54C46Wallineら11)(C2009)米国パイロットC2なしCOK/SCLC8-11C28/─C.0.75.C.4.00<C1.00C0.25/0.57C55Kakitaら12)(C2011)日本前向きC2なしCOK/SVC8-16C42/50C.0.50.C.10.00C.1.50C0.39/0.61C36CSantodomingo-Rubidoら13)(C2012)スペイン前向きC2なしCOK/SVC6-12C29/24C.0.75.C.4.00C.1.00C0.47/0.69C32Choら14)(C2012)香港前向きC2ありCOK/SVC6-10C37/41C.0.50.C.4.00C.1.25C0.36/0.63C43Charmら15)(C2013)香港前向きC2ありCOK/SVC8-11C12/16C.5.00.C.8.00C.2.00C0.19/0.51C63Chenら16)(C2013)香港前向きC2なしCOK/SVC6-12C35/23C.0.50.C.5.00C1.25CtoC3.50C0.31/0.64C52Hiraokaら22)(C2012)日本前向きC5なしCOK/SVC8-12C22/21C.0.50.C.5.00C.1.50C0.99/1.41C30CSantodomingo-Rubidoら23)(C2017)スペイン前向きC7なしCOK/SVC6-12C14/16C.0.75.C.4.00C.1.00C0.91/1.35C33Hiraokaら24)(C2018)日本後向きC10なしCOK/SCLC8-16C53/39C.0.50.C.7.00C.1.25C─/─C─Kinoshitaら26)(C2018)日本前向きC1ありCOK+AT/OKC8-12C20/20C.1.00.C.6.00C.1.50C0.09/0.19C53Kinoshitaら27)(C2020)日本前向きC2ありCOK+AT/OKC8-12C38/35C.1.00.C.6.00C.1.50C0.29/0.40C28Tanら28)(C2020)香港前向きC1ありCOK+AT/OKC6-11C29/30C.1.00.C.4.00<C2.50C0.07/0.16C56Tanら29)(C2022)香港前向きC2ありCOK+AT/OKC6-11C34/35C.1.00.C.4.00<C2.50C0.17/0.35C50COK=オルソケラトロジー,SV=単焦点眼鏡,SCL=ソフトコンタクトレンズ,AT=0.01%アトロピン点眼,(─)=データなし.10年間の近視変化(D)*-6-5-4-3-2-10装用開始時の年齢(歳)図3OK群およびSCL群の10年間近視変化を装用開始年齢ごとに比較横軸は装用開始年齢,縦軸はC10年間トータルでの近視変化である.つまり,横軸に示す年齢でCOK(オルソケラトロジー)またはCSCL(ソフトコンタクトレンズ)の装用を開始し,同じ矯正法をC10年間続けた場合の近視進行度数が縦軸に示されている.8.9歳の小学校低学年において近視が進行しやすく,中高生になると比較的進行が緩和していることがわかる.OK群(水色)とCSCL群(緑)を比較すると,いずれの装用開始年齢においてもCOK群の近視変化が小さい.すなわち,10年間の長期にわたりCOK治療を継続すれば,近視進行抑制効果が維持されることを示している.(文献C24のデータをもとに筆者が新たに作成)(mm)2年間の眼軸長変化量0.70.60.50.40.30.20.10OKOKSVAOKスタディROMIOスタディ図4AOKスタディとROMIOスタディの比較AOKスタディC28,29とCROMIOスタディ14)は香港の同じ研究グループによって行われ,適応基準を含め基本的に同じプロトコルで進められたため,結果の比較が容易である.ピンクはCOK+AT(オルソケラトロジー+0.01%アトロピン点眼)群,水色はCOK(オルソケラトロジー)群,緑はCSV(単焦点眼鏡)群を示しており,両研究ともに水色のCOK群はC0.35Cmm程度の眼軸長伸長であるが,ピンクの併用群では明らかに伸長が抑えられている.緑のCSV群と比較するとC73%の抑制効果が達成されている.(文献C14とC29のデータをもとに筆者が新たに作成)thalmologyC122:93-100,C20154)KimCJ,CLimCDH,CHanCSHCetal:PredictiveCfactorsCassociat-edCwithCaxialClengthCgrowthCandCmyopiaCprogressionCinCorthokeratology.CPLoSOneC14:e0218140,C20195)LauCJK,CVincentCSJ,CCheungCSWCetal:Higher-orderCaber-rationsCandCaxialCelongationCinCmyopicCchildrenCtreatedCwithCorthokeratology.CInvestCOphthalmolCVisCSciC61:22,C20206)VincentCSJ,CTanCQ,CNgCALKCetal:HigherCorderCaberra-tionsCandCaxialCelongationCinCcombinedC0.01%CatropineCwithCorthokeratologyCforCmyopiaCcontrol.COphthalmicCPhysiolOptC40:728-737,C20207)HiraokaCT,CKotsukaCJ,CKakitaCTCetal:RelationshipCbetweenChigher-orderCwavefrontCaberrationsCandCnaturalCprogressionCofCmyopiaCinCschoolchildren.CSciRepC7:7876,C20178)LauCJK,CVincentCSJ,CCollinsCMJCetal:OcularChigher-orderCaberrationsCandCaxialCeyeCgrowthCinCyoungCHongCKongCchildren.CSciCRepC8:6726,C20189)CheungCSW,CChoCP,CFanD:AsymmetricalCincreaseCinCaxialClengthCinCtheCtwoCeyesCofCaCmonocularCorthokeratolo-gyCpatient.COptomVisSciC81:653-656,C200410)ChoCP,CCheungCSW,CEdwardsM:TheClongitudinalCortho-keratologyCresearchCinCchildren(LORIC)inCHongKong:aCpilotCstudyConCrefractiveCchangesCandCmyopicCcontrol.CCurrEyeResC30:71-80,C200511)WallineCJJ,CJonesCLA,CSinnottLT:CornealCreshapingCandCmyopiaCprogression.CBrCJCOphthalmolC93:1181-1185,C200912)KakitaCT,CHiraokaCT,COshikaT:In.uenceCofCovernightCorthokeratologyConCaxialCelongationCinCchildhoodCmyopia.CInvestOphthalmolVisSciC52:2170-2174,C201113)Santodomingo-RubidoCJ,CVilla-CollarCC,CGilmartinCBCetal:CMyopiaCcontrolCwithCorthokeratologyCcontactClensesCinSpain:refractiveCandCbiometricCchanges.CInvestCOphthal-molVisSciC53:5060-5065,C201214)ChoCP,CCheungSW:RetardationCofCmyopiaCinCorthokera-tology(ROMIO)study:aC2-yearCrandomizedCclinicalCtrial.CInvestOphthalmolVisSciC53:7077-7085,C201215)CharmCJ,CChoP:HighCmyopia-partialCreductionCortho-k:aC2-yearCrandomizedCstudy.COptomCVisCSciC90:530-539,C201316)ChenCC,CCheungCSW,CChoP:MyopiaCcontrolCusingCtoricorthokeratology(TO-SEEstudy)C.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:6510-6517,C201317)ChanCKY,CCheungCSW,CChoP:OrthokeratologyCforCslow-ingCmyopicCprogressionCinCaCpairCofCidenticalCtwins.CContCLensAnteriorEyeC37:116-119,C201418)SiCJK,CTangCK,CBiCHSCetal:OrthokeratologyCforCmyopiacontrol:aCmeta-analysis.COptomCVisCSciC92:252-257,C201519)WenCD,CHuangCJ,CChenCHCetal:E.cacyCandCacceptabilityCofCorthokeratologyCforCslowingCmyopicCprogressionCinCchil-(31)dren:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJOphthal-molC2015:360806,C201520)SunCY,CXuCF,CZhangCTCetal:OrthokeratologyCtoCcontrolmyopiaCprogression:aCmeta-analysis.CPLoSCOneC10:Ce0124535,C201521)LiCSM,CKangCMT,CWuCSSCetal:E.cacy,CsafetyCandCacceptabilityCofCorthokeratologyConCslowingCaxialCelonga-tionCinCmyopicCchildrenCbyCmeta-analysis.CCurrCEyeCResC41:600-608,C201622)HiraokaCT,CKakitaCT,COkamotoCFCetal:Long-termCe.ectCofCovernightCorthokeratologyConCaxialClengthCelongationCinCchildhoodmyopia:aC5-yearCfollow-upCstudy.CInvestCOph-thalmolVisSciC53:3913-3919,C201223)Santodomingo-RubidoCJ,CVilla-CollarCC,CGilmartinCBCetal:CLong-termCe.cacyCofCorthokeratologyCcontactClensCwearCinCcontrollingCtheCprogressionCofCchildhoodCmyopia.CCurrEyeResC42:713-720,C201724)HiraokaCT,CSekineCY,COkamotoCFCetal:SafetyCandCe.cacyCfollowingC10-yearsCofCovernightCorthokeratologyCforCmyopiaCcontrol.COphthalmicCPhysiolCOptC38:281-289,C201825)ChoCP,CCheungSW:ProtectiveCroleCofCorthokeratologyCinCreducingCriskCofCrapidCaxialelongation:aCreanalysisCofCdataCfromCtheCROMIOCandCTO-SEECstudies.CInvestCOph-thalmolVisSciC58:1411-1416,C201726)KinoshitaCN,CKonnoCY,CHamadaCNCetal:AdditiveCe.ectsCofCorthokeratologyCandCatropineC0.01%CophthalmicCsolutionCinCslowingCaxialCelongationCinCchildrenCwithmyopia:.rstCyearCresults.CJpnJOphthalmolC62:544-553,C201827)KinoshitaCN,CKonnoCY,CHamadaCNCetal:E.cacyCofCcom-binedCorthokeratologyCandC0.01%CatropineCsolutionCforCslowingCaxialCelongationCinCchildrenCwithmyopia:aC2-yearCrandomisedCtrial.CSciRepC10:12750,C202028)TanCQ,CNgCAL,CChoyCBNCetal:One-yearCresultsCofC0.01%CatropineCwithorthokeratology(AOK)study:aCran-domisedCclinicalCtrial.COphthalmicCPhysiolCOptC40:557-566,C202029)TanCQ,CNgCAL,CChengCGPCetal:CombinedC0.01%CatropineCwithCorthokeratologyCinCchildhoodCmyopiacontrol(AOK)study:AC2-yearCrandomizedCclinicalCtrial.CContCLensCAnteriorEye30:101723,C202230)HiraokaCT,COkamotoCF,CKajiCYCetal:OpticalCqualityCofCtheCcorneaCafterCovernightCorthokeratology.CCorneaC25:CS59-S63,C200631)HiraokaCT,COkamotoCC,CIshiiCYCetal:ContrastCsensitivityCfunctionCandCocularChigher-orderCaberrationsCfollowingCovernightCorthokeratology.CInvestOphthalmolVisScC48:C550-556,C200732)LiuCYM,CXieP:TheCsafetyCofCorthokeratology-aCsystem-aticCreview.CEyeContactLensC42:35-42,C201633)BullimoreCMA,CSinnottCLT,CJones-JordanLA:TheCriskCofCmicrobialCkeratitisCwithCovernightCcornealCreshapingClens-es.COptomVisSciC90:937-944,C2013あたらしい眼科Vol.C40,No.2,2023C169

学童近視の進行予防外来最前線 ソフトコンタクトレンズ

2023年2月28日 火曜日

学童近視の進行予防外来最前線ソフトコンタクトレンズTheFrontLinesofMyopiaControlinSchoolChildren─TreatmentwithMultifocalSoftContactLenses二宮さゆり*はじめに筆者がソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を使った子どもの近視抑制研究に携わりはじめたのは2010年の頃である.当時の日本は,オルソケラトロジー(以下,オルソK)による近視進行抑制効果がやっと認知されはじめた頃であり,ましてや「SCLにおいても,何を装用するかで近視進行に差が出るようだ」という話は半信半疑,もしくはまったく信用されない時代であった.それ以前に,子どもにSCLを装用させるということ自体がタブー視されていたのかもしれない.しかし現在,海外の多くの国で近視抑制効果の承認を得た「近視抑制治療用SCL」が発売され,オルソKと並ぶ治療手段として臨床の場に浸透しつつある.眼科医が近視の子どもに眼鏡を処方し,近視進行を傍観していられる時代は終わりつつあるのだ.近視の子どもをもつ親は切実に治療手段を模索している.しかし,その治療需要に対する眼科医側の治療提供はまったく追いついていない状況である.過度に進行した近視がもたらす緑内障や網膜.離などの重篤な合併症のリスクを考えると,未来を担う子どもたちがそれら重篤な疾患に罹らずにすむ予防治療として,われわれ眼科医は近視進行抑制治療にもっと積極的に取り組む責務を負っているのではないだろうか.I光学デザインのトレンド1.累進屈折タイプの場合遠視性軸外収差は近視進行を促す要素の一つと推測されている.中心遠用の累進屈折SCLについては,単焦点SCL,中加入(add:+1.25D),高加入(add:+2.50D)を比較したWallineらの研究1)により,加入度数に応じて屈折においても眼軸長においても,加入度数の大きさと近視抑制効果に有意な相関があることが示された.Bio.nityMultifocalHighadd+2.50D(クーパービジョン)はわが国で現時点でも入手可能で,制作範囲は.10Dまでと適応範囲も広い.しかし,高加入タイプは瞳孔径が大きくなるような環境,たとえばバドミントンやバレーボールなど眩しい照明下で行われる室内競技では,見え方の不自由を訴える場合もあるので,筆者は長眼軸眼の子どもに限って用いているようにしている.近視進行スピードが速い子どもには,既成品の+2.50D加入より大きい加入が必要と感じる場合もある.海外には加入度数,乱視度数などを指定してカスタムメイドで作製できるコンタクトレンズ(contactlens:CL)もあり(ただしコンベンショナルタイプ),医師が患者に必要と考える加入度数のSCLを処方可能であるのは羨ましいかぎりである.一方,12歳以降で眼軸の伸びも鈍化してきたと判断した場合には,視機能を優先して低加入のMeniconDuoや非球面の単焦点SCLの処方に切り替えている.*SayuriNinomiya:伊丹中央眼科〔別刷請求先〕二宮さゆり:〒664-0851兵庫県伊丹市中央1-5-1伊丹中央眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(19)157MiSightR(CooperVision)図1MiSight中心より遠用度数と+2.00D加入度数部分が交互に配置された二重焦点となっており,加入部分を通過した光により近視性の軸上および軸外収差が生じる.(CooperVisionMisight1Dayホームページより改変,misight.com)C2.同心円状デザインタイプの場合a.MiSight(クーパービジョン,図1)世界でもっとも知られた近視進行抑制CSCLであるMiSightは.中心より遠用度数と+2.00D加入度数部分が交互に配置された二重焦点CSCLで,治療開始時の年齢はC8.12歳,等価球面値C.0.75.C.4.00D,乱視度数0.75D以下の学童近視の子どもを対象としている.単焦点CSCLとのC3年間比較ではC52%(眼軸長)の近視抑制効果が示されており2,3),現在はC7年目までの長期データも公表されている.そこではCMisight装用中止によるリバウンドの有無についても調査されており,装用中止により近視進行は本来の無治療時の進行速度に戻るものの,リバウンドとよべるような進行加速はみられなかったとしている.MiSightはヨーロッパ,北米,オセアニア,東南アジア,中国,韓国など多くの国々で近視抑制治療用CSCLとして承認を受けて販売されている.世界にはずいぶん出遅れたものの,日本でもC2021年末より承認取得に向けた臨床治験が始まっている.数年後には臨床の場で近AcuvueRabilitiTM1.Day(Johnson&Johnson)外側の治療ゾーンを通過した光は網膜の前方に集光する図2Acuvueabiliti1-Dayabiliti-1Dayは大きく加入されているが,軸上をはずして焦点が合うように設計することで(リングブーストターゲットテクノロジー),見え方への影響軽減を図っているという.(AcuvueabilityC1-Dayホームページより改変,seeyouabiliti.com)視抑制効果の認可を受けた製品として正式に販売開始されると期待している.Cb.Acuvueabiliti1-Day(ジョンソン・エンド・ジョンソン,図2)CAcuvueabiliti1-Dayもわが国では未発売の製品である.治療開始時年齢C7.12歳,等価球面値C.0.75.C.4.50D,乱視度数C1.00D以下の子どもを対象としており,多焦点CSCLが持ち込む視機能への影響を抑えつつ,近視進行を抑制することを意図したデザインとなっている.視軸上の光は黄斑上に焦点を結ぶと同時に,+10.00Dの加入効果により網膜より手前にも焦点を結ぶ.外側の治療ゾーン(+7.00D加入)を通過した光は視軸を避けて網膜の前方に焦点を結ぶように設計されている(図1b).AcuvueOasisと同じ高酸素透過性シリコーンハイドロゲル素材(seno.lconA)で作られており,2021年にカナダで近視抑制治療用CSCLとしての承認を得ている.Misightと比較し,かなり高加入となっているため,より強い近視抑制効果が期待できる可能性もある.しかし,加入部分の焦点は中央からズラした設計に158あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(20)ピークは-0.25~-0.75D程度近方寄り図3SEED1DayPureEDOFMidEDOF(焦点深度拡張型)は近見有利にする設計上,網膜像のピーク位置がやや近方寄りになっている.12.0%処方度数(TP)10.0%8.0%6.0%4.0%2.0%0.0%-0.50-0.75-1.00-1.25-1.50-1.75-2.00-2.25-2.50-2.75-3.00-3.25-3.50-3.75-4.00-4.25-4.50-4.75-5.00-5.2588%98%図4当院におけるオルソK処方レンズ分布実際に集計した処方レンズ分布は.4.00DまでがC9割を占めていた.データ対象期間:2018年.2022年C10月.月火水木金土日am休pm前半診pm5時以降日〈解決策〉◆定期検診:1年以上問題なく過ごせていれば,夏休み,冬休み,春休みへ振り分ける.図5子どもが来院可能な時間帯子どもが来院できる時間帯は,平日の夕方,週末,夏休みなどの長期休暇中に限られてしまう.正常眼データに基づくトレンド分析治療効果が出ているかを可視化実施した治療を入力可能図6MyopiaMasterのトレンド解析プログラム眼軸長の掲示変化を示すのみならず,BrienHoldenVisionInstituteの収集したC25,000眼以上の年齢別正常眼データベースを元に進行の予測解析も可能である.(ニコンのカタログより転載)Master(ニコン,図6),MYAH(トプコン,図7)には,発売予定となっている.近視の進行をグラフ化して説明眼軸長変化をグラフとして示すプログラムが搭載されてできる手段は,近視進行評価,治療効果の判定,モチベいる.また,トーメーコーポレーションより既存の眼軸ーション維持にとって大変有用である.長測定装置COA-2000に外付するタイプの眼軸長トレンド解析ソフトウェア(AxialManager)がC2023年C2月に(23)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C161図7MYAHの眼軸長と年齢をプロットしたグラフ眼軸長と屈折値の経時変化を表示することができる.治療開始時などをマークする機能もあり,患者説明に便利である.(トプコンのホームページより転載)

学童近視の進行予防外来最前線 低濃度アトロピン

2023年2月28日 火曜日

学童近視の進行予防外来最前線低濃度アトロピンLow-ConcentrationAtropineEyeDropsfortheControlofMyopiaProgression稗田牧*Iアトロピンとは何かアセチルコリン(acetylcholine:ACh)はもっとも早く(1921年)同定された神経伝達物質で,その役割は多岐にわたっている.骨格筋の神経筋接合部の神経終末で放出され筋肉を収縮させ,自律神経の神経節および副交感神経の神経終末で刺激を伝える.それ以外にも脳内では記憶や認知機能に関連している.AChの受容体は二種類に分類される.イオンチャネル型のニコチン受容体は骨格筋を収縮させる運動神経終末と自律神経節・脳内に存在する.代謝調節型の受容体であるムスカリン受容体は副交感神経の神経終末と脳内に存在する.眼内AChの役割は副交感神経の神経終末から虹彩・毛様体に作用して縮瞳や調節を起こすことが知られている.アトロピンはナス科ベラドンナ植物由来で,AChより前の1831年に分離同定された.非選択性なムスカリン受容体阻害薬である.ムスカリン受容体にAChが結合するのを遮断し,効果を無効化することで散瞳,調節麻痺,心拍数の増大を起こす.本稿では,低濃度アトロピン点眼の効果をムスカリン受容体阻害薬という観点で理解し,現状を把握するとともに今後の展望にふれてみる.IIムスカリン受容体は近視に関係するかAChのムスカリン受容体はロドプシン,bアドレナリン受容体とともに,7回細胞膜貫通構造をもつG蛋白質共役受容体(GPCR)ファミリーとして知られている.ムスカリン受容体のサブタイプとして5種類(M1~M5)があり組織に特徴ある発現をしている.M1受容体は中枢や自律神経節,M2受容体は心臓におもに存在する.M3受容体は消化管の平滑筋や血管内皮細胞に存在し,眼では角膜,虹彩,毛様体,水晶体上皮に存在する1).各レセプターの存在部位と役割を表1に示す.毛様体筋や虹彩にM3受容体が発現し,アトロピンの遮断作用により調節麻痺や散瞳が起こることから,アトロピンの作用がM3受容体を介するのは間違いない.M3受容体が近視に関与するという報告もある2).しかし,直接的にM3受容体をはじめとするムスカリン受容体が人の近視進行に関与することは証明されてない3).近年の傾向として,単なる調節過剰で近視になる機序(調節説)よりも,遠視性蒙像などの網膜への視覚刺激が眼軸延長をうながし,近視が進行する説(網膜説)が優勢であるように思われる.M1とM4受容体阻害薬がツパイの実験近視を抑制したとの報告がある4).調節説と網膜説いずれも近業に関連するので,全体の近視進行機序でそれぞれが一定の役割を果たしているはずである.網膜にはムスカリンレセプターがM1~M5受容体すべてが存在するが5),その役割は十分には解明されていない.ムスカリン作用により網膜内ドーパミンが減少する可能性があり3),ドーパミンの減少が近視進行に関与*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(13)151表1ムスカリン受容体サブタイプおもな局在おもな機能CM1脳(海馬),自律神経節中枢,神経節脱分極CM2心臓心拍数減少,心筋収縮力低下CM3腸,平滑筋,腺,毛様体気管支収縮,外分泌促進,血管弛緩CM4脳(線条体)中枢CM5脳(黒質)中枢毛様体神経節←動眼神経短毛様体神経脈絡膜内在神経節翼口蓋神経節←顔面神経眼窩下神経図1眼球の副交感神経の分布しているのかもしれない.また,アトロピンが網膜色素上皮のムスカリン受容体に作用してCTGF-bの発現と分泌を抑制することも報告されている6).強膜線維芽細胞にもCM1~M5受容体すべてが存在する7)ため,アトロピンが直接作用する可能性が以前より指摘されている1).マウス実験近視においてはアトロピン投与でCM1,M3,M4受容体の発現が増加したとの報告がある8).脈絡膜の血管には副交感神経が分布しており,ムスカリン受容体を介した作用が血管内内皮から一酸化窒素(NO)を放出させ,血管が拡張することで脈絡膜血流を増やす作用がある9).アトロピン点眼の抗ムスカリン作用は脈絡膜血流を減らす働きが予想されるが,これに反して濃度依存的に脈絡膜を厚くすることが知られている.いずれの部位のムスカリン受容体も近視化に関連はありそうで,どの部位のどのタイプの受容体に関連しているかを見分けていくことで近視治療薬の開発につながりうる.CIII眼の副交感神経分布(図1)ムスカリン受容体は副交感神経の終末に分布し,気管支収縮や腸管収縮,腺分泌に関与しているが,眼では前眼部と後眼部で異なる脳神経から支配を受けている.前眼部の副交感神経はCEdinger-Westphal核から動眼神経を通り,毛様体神経節でシナプスを介して複数の短毛様体神経として強膜をつらぬき眼内に入り,脈絡膜を前方に進み虹彩と毛様体を支配している.この神経が縮瞳や調節の近方反応を起こす主たる神経と考えられている.この神経終末からCAChが放出されCM3受容体と結合し,瞳孔括約筋や毛様体CMuller筋が収縮することで縮瞳と調節が起こる.152あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(14)表2おもなアトロピン点眼臨床試験の結果試験名症例数濃度コントロール期間まとめCATOM-1C400C1%偽薬2年近視抑制効果ありCATOM-2C4000.5%0.1%0.01%なし2年濃度依存性に近視抑制効果あり0.01%眼軸有意差なしCATOM-JC171C0.01%偽薬2年0.01%に近視抑制効果あり眼軸延長抑制効果ありCLAMPC438C0.05%C0.025%C0.01%偽薬1年濃度依存性に近視抑制効果あり0.01%眼軸有意差なし%アトロピン点眼群で偽薬群より有意に抑制されていた.平均の差としては屈折度C0.22D,眼軸C0.14Cmmと他の報告より少なかった14).これまでのおもな臨床研究の結果を表2にまとめた.薄暮時瞳孔径<中央値n=83ChangefromBaseline(2w)[D]0.40.20.0-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0-1.2-1.4-1.6-1.8-2.0PlaceboDrug図2ATOM-Jのサブグループ解析瞳孔径が小さいサブグループでは近視進行抑制効果が強く(0.48D)認められた.2w6m12m18m24mTimeV瞳孔径についての考察ATOM-J研究のサブグループ解析で,点眼前の薄暮視瞳孔径が中央値より大きい学童はC0.01%アトロピンをC2年間投与しても近視進行抑制効果が認められなかった.点眼前の薄暮視瞳孔径が中央値より小さい群では,0.01%アトロピンをC2年点眼すると,点眼していない群と比較して有意により強く(0.48D)近視進行を抑制した(図2).瞳孔には虹彩瞳孔部で輪状に走行する瞳孔括約筋と,虹彩毛様体部に放射状に走行する瞳孔散大筋がある(図3).瞳孔括約筋にはムスカリン受容体の一種であるCM3受容体が存在し副交感神経の刺激つまりCAChにより収縮する.副交感神経刺激は瞳孔散大筋を弛緩させる作用もある.縮瞳しているということは瞳孔括約筋が収縮して瞳孔散大筋が弛緩している,つまり副交感神経優位の状態と解釈することが可能である.したがって,ムスカリン作用を緩和するためにムスカリン受容体阻害薬のアトロピンを長期間投与することは,均衡をとりもどす効果が期待できる.ATOM-Jの近視進行抑制効果はC15%とCLAMP(香港)のC27%,ATOM-2(シンガポール)のC50%に比較する虹彩捲縮輪(collarett)副交感神経刺激→縮瞳●瞳孔括約筋(M3)収縮●瞳孔散大筋弛緩交感神経刺激→散瞳●瞳孔散大筋収縮虹彩瞳孔部虹彩毛様体部図3虹彩筋の二重神経支配154あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(16)表3アトロピンの近視進行抑制効果の違いと点眼前瞳孔径試験名濃度コントロール期間近視進行抑制割合(屈折度)点眼開始前薄暮視瞳孔径(平均値mm)CATOM-2C0.01%ヒストリカルコントロール5年:3年以後は進行例のみC50%C4.7CLAMPC0.01%偽薬1年C27%C6.7CATOM-JC0.01%偽薬2年C15%C7.3C—