●連載◯288監修=福地健郎中野匡288.眼圧上昇における線維柱帯細胞の関与根本穂高東京大学医学部眼科学教室緑内障の最大のリスク因子である眼圧は房水の産生と排出のバランスで規定されており,眼圧上昇は線維柱帯流出路の房水流出機能低下が関与している.線維柱帯細胞は線維柱帯の主要な構成細胞であり,線維柱帯の機能や構造を維持する役割を果たしている.本稿では眼圧上昇における線維柱帯細胞の関与について紹介する.●はじめに眼内の房水は毛様体により産生され,房水流出路より眼外へと排出されることで一定のバランスを保っている.房水流出路は主流出路およびぶどう膜強膜流出路と大きく二つの流出路に分けられ,主流出路では房水は線維柱帯を通過しCSchlemm管を経由して房水静脈,上強膜静脈へと還流し,眼外に排出されていく(図1).線維柱帯は,房水がCSchlemm管に流出する際に眼内で発生した不要物を除去し,上強膜静脈やCSchlemm管内から血液が眼内に逆流することを防いでいる.線維柱帯の主要な構成細胞である線維柱帯細胞は,その周囲を取り囲む細胞外マトリックスの産生や分解,また貪食能を介して線維柱帯のクリアランスを維持することで流出抵抗を制御し,眼圧を維持していることから,緑内障病態を考えるうえで線維柱帯細胞の機能やその役割を理解することは非常に重要である.線維柱帯細胞の流出抵抗維持にはさまざまな機序が関与しており,代表的なものを以下に記述する.角膜Schlemm管線維柱帯①房水強膜②毛様体図1主経路のシェーマ房水は毛様体で産生され,前房へと達したのち,房水流出路から排出される.①主流出路:線維柱帯を通過しCSchlemm管に流出する.②ぶどう膜強膜流出路..は房水の流れを示す.●線維柱帯細胞の細胞外マトリックスに与える組織学的変化線維柱帯細胞はコラーゲン,エラスチンなどの細胞外マトリックスを産生し,さらに細胞外マトリックス分解酵素Cmatrixmetalloproteinase(MMP)による分解を介して恒常的に細胞外マトリックスの再構成を行っている1).緑内障患者での細胞外マトリックス蓄積の異常増加は線維柱帯細胞の減少・機能低下によると考えられている(図2).C●細胞・組織収縮と流出抵抗線維柱帯細胞のCa-smoothCmuscleactin(a-SMA)発現細胞への形質転換や細胞骨格変化による収縮弛緩,細胞間接着などの収縮プロパティが流出抵抗に関与することが報告されている2).Rho/ROCKはアクチンの細胞骨傍Schlemm管ぶどう膜網Schlemm管結合組織角強膜網線維柱帯細胞房水細胞外マトリックス図2線維柱帯の層構造緑内障眼では線維柱帯細胞の減少,細胞外マトリックスの異常蓄積,硬化など,線維柱帯細胞および細胞外マトリックスの変化が生じていることが報告されている.(83)あたらしい眼科Vol.41,No.6,20246870910-1810/24/\100/頁/JCOPYApoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)コントロールによって貪食能が促進された線維柱帯細胞図3Apoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)により促進された貪食能線維柱帯細胞に,貪食能を促進する作用のあるCAIMという蛋白質を作用させることで,死細胞から作成した不要物(debris)の貪食が促進された.格変化やアクトミオシンの収縮などに関与しておりROCK阻害薬は線維柱帯細胞の弛緩や細胞外マトリックスの収縮変化および異常沈着の抑制などを介して眼圧下降に寄与することが知られている.C●生理活性物質を介した眼圧制御機構緑内障病態において生理活性脂質やサイトカインなどのさまざまな生理活性物質が関与していることが近年報告されてきている.transformingCgrowthCfactorCb2(TGF-b2)は原発開放隅角緑内障の患者の前房水中で増加していることが報告されており,線維柱帯細胞の形質転換・細胞骨格変化などを介して流出抵抗増大に関与していることが示唆されている3).生理活性脂質であるCsphingosine1-phosphate(S1P)やClysophosphatidicacid(LPA)においても同様に,緑内障眼の房水中における増加が指摘されており,筆者らのグループはCLPA産生酵素であるCautotaxin(ATX)-LPAの眼圧との相関を報告している4).C●線維柱帯細胞の貪食能と房水流出抵抗の維持緑内障患者では線維柱帯細胞の貪食能低下がみられ,貪食能の抑制によるマウス眼での眼圧上昇が過去に報告されていることから,線維柱帯細胞の貪食能は線維柱帯のクリアランスを維持することで流出機能に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている5).筆者らのグループでは,apoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)という他分野で細胞の貪食能を促進する作用が知られている蛋白質に,線維柱帯細胞の貪食能も促進する作用があることを明らかにし,マウスにおいて眼圧下降に寄与することを報告した6)(図3).AIMは現在創薬開発が進められており,ネコの腎疾患に対してC2026年の承認をC688あたらしい眼科Vol.41,No.6,2024めざして臨床治験が行われている.今後CAIMが臨床現場で用いられるようになれば,線維柱帯細胞の貪食能促進による新たな眼圧下降機序による緑内障治療が期待される.C●おわりに線維柱帯細胞はさまざまな作用を介して流出抵抗を制御している.今後さらに機序の理解が深まることで,薬剤や手術を含むさまざまな新規緑内障治療の開発や,将来的には線維柱帯の構造や機能の回復に繋がっていくことが期待される.文献1)WeinrebCR,CRobinsonCM,CDibasCMCetal:MatrixCmetallo-proteinasesCandCglaucomaCTreatment.CJCOculCPharmacolCTherC36:208-228,C20202)Lutjen-DrecollE:FunctionalCmorphologyCofCtheCtrabecu-larCmeshworkCinCprimateCeyes.CProgCRetinCEyeCResC18:C91-119,C19993)PervanC:Smad-independentCTGF-b2CsignalingCpath-waysCinChumanCtrabecularCmeshworkCcells.CExpCEyeCResC158:137-145,C20174)HonjoCM,CIgarashiCN,CKuranoCMCetal:Autotaxin-lyso-phosphatidicacidpathwayinintraocularpressureregula-tionCandCglaucomaCsubtypes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC59:693-701,C20185)IkegamiCK,CMasubuchiS:SuppressionCofCtrabecularCmeshworkCphagocytosisCbyCnorepinephrineCisCassociatedCwithCnocturnalCincreaseCinCintraocularCpressureCinCmice.CCommunBiolC5:339,C20226)NemotoCH,CHonjoCM,CAraiCSCetal:ApoptosisCinhibitorCofCmacrophages/CD5LenhancesphagocytosisCinthetrabecu-larCmeshworkCcellsCandCregulatesCocularChypertension.CJCellPhysiol238:2451-2467,C2023(84)