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屈折矯正手術:ICLサイズ決定に対するKS式の精度

2022年9月30日 金曜日

●連載268監修=稗田牧神谷和孝268.ICLサイズ決定に対するKS式の精度五十嵐章史代官山アイクリニック有水晶体眼内レンズCICLのサイズ決定に用いる計算式のうち,最新のCKS式はCATA,CLR,ACDを元に選択したCICLサイズに対する術後Cvaultを予測する式である.STAAR社専用式と比較して予測精度は良好で,術者が任意に選択したCICLサイズに対するCvaultを予測できることから,術者の好みのサイズ感を得ることができ,臨床的応用がしやすい式になっている.C●はじめにImplantableCCollamerLens(ICL.STAAR社)は国内で唯一厚生労働省の承認を得ている有水晶体眼内レンズであり,2014年に承認されたCHoleICL(ICLCKS-AquaPORT,STAAR社)の登場により大幅に術後合併症が軽減され,近年手術件数が増加している.角膜屈折矯正手術と異なり,前房深度がC2.8Cmm以上あればおおむね手術適応となるが,適切なレンズサイズを選択することが重要となる.STAAR社より提供されるレンズ計算式Conlinecalcu-lationC&orderingCsystem(OCOS)では,角膜横径のCwhiteCtowhite(WTW)と前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)の二つのファクターによって適切なレンズサイズを算出する.しかし,この式はCHoleICL以前の旧タイプレンズに対応した式であり,やや大きめのレンズサイズが選択される傾向があるほか,測定する前眼部解析装置によりCWTW値に誤差が生じるためレンズサイズにばらつきが生じる欠点がある.また,決定する項目が推奨するレンズサイズのみのため,実際に移植した際のサイズ感は不明であった.KS式はそれらの欠点を解消すべく考案された式であり,選択するレンズサイズに対しての術後予測Cvaultを算出する式で,臨床的応用が広いのが特徴である.現在CKS式はオリジナル式から改良が加えられ,より精度が向上している.本稿ではその変遷と現状での精度を解説する.C●KS式の変遷KS式はCsweptsource前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)のCCASIA2(トーメーコーポレーション)を用いて,WTWより明瞭なメルクマールである隅角間距離(angletoangle:ATA)に注目し構築されたCICLサイズ計算式である.2016年に筆者が考案したオリジナル式1)から何度か改良が加わり,(63)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1KSver.4式におけるレンズサイズ因子Ver.4式ではオリジナル式からのCATAのほか,縦情報としてCCLRとCACDが計算式の因子となっている.現在はCver.4となっている.これまでの式の変遷を以下に簡単に説明する.1)KSCver.11):ICL手術を施行し術後C3カ月経過した23例C44眼を対象に,術後Cvaultに影響する術前因子を検出するため重回帰解析を行った.目的変数を術後vault,説明変数を年齢,性別,自覚等価球面度数,眼圧,平均角膜屈折力,前房深度,眼軸長,角膜厚,ATA,WTW,挿入したCICLサイズのC11項目とした.術後Cvault(μm)=660.9×(ICLサイズ-ATA)+86.6(adjustedRC2=0.41)2)KSver.2:ATAの測定値をマニュアルからCCASIA2のオート測定値に変換した式がCver.2である.術後Cvault(μm)=456.86×(ICLサイズ-ATA)mm+110.033)KSCver.32):Ver.2式では全体としてはおおむね良好な予測性であったが,用いるレンズサイズにより予測誤差に一定の傾向があることがわかった.具体的には12.6Cmmでは良好な予測性であったが,12.1Cmmでは予測よりC20%小さく,13.2Cmm以上ではC30%大きくなることがわかったため,それらのサイズ別に補正を加えたのがCver.3式である.4)KSver.4:Ver.3までは基本的にCATAに依存した横方向の情報から形成されていたが,NK式でも採用されているCcrystallineClensrise(CLR)という縦方向の因子を加えて新たに重回帰解析を行い作成したものが最新のあたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1221予測絶対誤差(μm)Vault(μm)8001,0008006007006004664475001000KSVer.4予測vault術後vault図2KSver.4式予測vaultと術後1カ月のvault1,000900800700600500400300200400-600-800-1,000Total12.1mm12.6mm≧13.2mm(n=172)(n=51)(n=104)(n=17)予測相対誤差(μm)4002000-200-400図3レンズサイズ別のKSver.4式予測vault相対誤差KSver.4式における全体およびレンズサイズ別の相対誤差の箱ひげ図を示す.グラフ内の数字は中央値を示す.Cp=0.37)(図2).使用したレンズサイズ別のCKSCver.4式の相対予測誤差を図3に示す.Ver.4式ではCver.3式のようにレンズサイズ別に特別な補正はかけていないがわかった.図4に絶対誤差を示すが,おおむねC100CμmC200程度の誤差になっているので,予測精度は良好と考えC100る.C0Total12.1mm12.6mm≧13.2mm(n=172)(n=51)(n=104)(n=17)●おわりに300が,どのサイズでもおおむね良好な予測精度であること図4レンズサイズ別のKSver.4式予測vault絶対誤差KSver.4式における全体およびレンズサイズ別の絶対誤差の箱ひげ図を示す.グラフ内の数字は中央値を示す.Ver.4式である(図1).術後予測Cvault=-2338.84+ICLサイズC×324.05+CLR×-0.29+ATA×-132.92+ACD×102.25C●KSver.4式の予測精度近視および近視性乱視に対してCICL手術を施行し,術後C1カ月経過したC172眼に対するCKSver.4の予測vault精度を検証した.術前の平均CATA,CLR,ACDはそれぞれC11.88C±0.40Cmm,91.7C±205.9Cmm,3.28C±0.26Cmmであり,使用したCICLサイズはC12.1CmmがC51眼,12.6CmmがC104眼,13.2CmmがC15眼,13.7Cmmが2眼であった.術前のCKSver.4による予測Cvaultと術後1カ月のCvaultはそれぞれC447C±112Cμm,466C±209Cμmで両者に有意差はなかった(Wilcoxonsigned-ranktest,1222あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022KSver.4式は予測Cvaultが正確であり,STAAR社の式と異なり,術者が任意に選択したレンズサイズに対してのCvaultを算出できるため,レンズ選択の自由度が高いことが特徴である.現在のCHoleICLではClowCvaultにおける白内障の進行リスクは改善しているため,術前のCACDが浅い場合は予測Cvaultが小さめのレンズを選択するなど,術者によるカスタマイズしたレンズ選択がよいだろう.文献1)IgarashiA,ShimizuK,KatoSetal:PredictabilityofthevaultCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJCataractCRefractSurgC45:1099-1104,C20192)IgarashiCA,CShimizuCK,CKatoS:AssessmentCofCtheCvaultCafterimplantablecollamerlensimplantationusingtheKSformula.JRefractSurgC37:636-641,C2021(64)

眼内レンズ:囊外固定した眼内レンズの支持部が虹彩を穿通したと考えられた1例

2022年9月30日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋430..外固定した眼内レンズの支持部が松本英里井上亮大阪労災病院眼科虹彩を穿通したと考えられた1例白内障手術時に後.破損を生じ.外固定とした眼内レンズの支持部が,長期経過後に虹彩を穿通していた症例を経験した.Soemmering’sringの形成により眼内レンズの回旋偏位を生じたことが原因と考えられた.●はじめに白内障手術時に後.破損を生じた場合,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を.外へ固定する方法は以前より行われているが,長期経過後に生じた.外固定CIOLに関する合併症の報告は少ない.今回筆者らは白内障手術からC8年経過したのちに,.外固定となっていた眼内レンズの支持部が虹彩を穿通したと考えられたC1例を経験したので報告する.C●症例66歳,女性.既存症に潰瘍性大腸炎.既往歴として8年前に当院で両眼の水晶体再建術を施行され,右眼は術中後.破損のためCIOLが.外固定となっていた.挿入されたCIOLは支持部がCpolymethylmethacrylate(PMMA)製であるCYA-60BBR(HOYA)であった.5日前から右眼結膜充血と眼痛を自覚し,近医よりベタメタゾン点眼を処方されたが,改善を認めないことから当院へ紹介となった.眼痛の自覚が強く,ロキソプロフェンナトリウムの内服を要した.初診時視力は右眼C0.2(0.6pC×sph-0.75D(cyl-1.50DCAx175°),左眼0.08(1.2pC×sph-3.50D(cyl-1.00DAx15°),眼圧は右眼13CmmHg,左眼C16CmmHgであった.右眼は結膜充血,前房内炎症細胞,硝子体混濁,黄斑浮腫を認め,汎ぶどう膜炎を呈していた.角膜後面沈着物はなく,角膜内皮細胞密度の低下も認めなかった.隅角検査を行ったところCIOLの支持部が虹彩根部を穿通している所見が確認できたが,隅角への色素散布は認めなかった(図1).穿通したCIOL支持部の機械的刺激が炎症の原因と考えられたことから,その整復を目的として手術を施行した.まず硝子体手術で硝子体混濁を切除し,隅角にあるIOL支持部をCSwan-Jacob型隅角鏡下で虹彩前面より虹彩裏面と水晶体.前面の間に回旋させながら抜き出した..内全周にCSoemmering’sringが形成され,一部残存した水晶体皮質が膨化していたため,25ゲージ硝子体カッターを用いて除去した(図2).後.破損を一部に認めるものの赤道部水晶体.は保たれ,Zinn小帯の脆弱性はないと判断し,IOLを.外から.内へ固定しなおし手術終了とした.術直後より眼痛は消失した.術後C6日目に黄斑浮腫に対しステロイドCTenon.下注射を施行し,術C1カ月後の右眼の視力はC0.3(0.4C×cyl-0.75DAx160°),眼圧は13CmmHgで,結膜充血,前房内炎症細胞,黄斑浮腫は消失し経過は良好である.図1術前所見a:前眼部写真,b:眼底写真,c:隅角所見.(61)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12190910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2術中所見a:Swan-Jacob型隅角鏡下で穿通していたCIOL支持部を虹彩より抜き出した.Cb,c:.内全周に形成されたSoemmering’sringと,一部残存し膨化した水晶体皮質()を認めたため,除去した.Z軸方向への偏位およびXY軸方向への回旋図3偏位と回旋IOLが膨化した水晶体皮質により偏位・回旋する.●まとめ白内障手術後に水晶体前.と後.が癒着肥厚し,CSoemmering’sringが形成されることが知られている1).また,.外固定したCIOLは,.内固定となっているIOLに比べ安定性が乏しいため,年単位で徐々に形成されたCSoemmeringC’sringの圧排によりCIOLの回旋偏位が起ることが報告されている2).本症例ではCSoemmer-ing’sringの形成に加え,部分的に残存した水晶体皮質が膨化したことでCIOLの回旋偏位が生じ,IOL支持部が虹彩を穿通した可能性が考えられた(図3).さらに,IOL支持部がCPMMA製の硬い素材であり先端が丸みを帯びていたことも,回旋偏位時に穿通を助長した可能性が考えられた.本症例では虹彩に穿通していたCIOL支持部を.内に固定しなおしたことにより術後早期に眼痛や眼内炎症の改善を認めたことから,IOL支持部が虹彩を穿通したことでCuvetis-glaucoma-hyphemaCsyndrome3,4)を生じていた可能性が示唆された.白内障手術時に後.破損を生じ,IOLを.外固定とした場合は,長期経過後にCIOLが回旋偏位することで虹彩を穿通し眼内炎症を引き起こす可能性がある.文献1)松島博之:前.収縮・後発白内障.日本白内障学会誌C23:C13-18,C20112)森秀夫,福田宏美:後発白内障の膨化圧排により前房内に脱臼した眼内レンズを整復したC1例:ゼンメリング輪(SoemmerringC’sRing)除去の経験.IOL&RSC24:95-99,C20103)EllingsonFT:TheCuveitis-glaucoma-hyphemaCsyndromeCassociatedCwithCtheCMarkCVIIICanteriorCchamberClensCimplant.JAmIntraoculImplantSoc4:50-53,C19784)CheungCAY,CPriceCJM,CHartCJrJC:Late-onsetCuvertis-glaucoma-hyphemaCsyndromeCcausedCbyCSoemmeringCringcataract.CanJOphthalmolC54:445-450,C2019

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 コンタクトレンズの研究・臨床を知るには

2022年9月30日 金曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療1.コンタクトレンズの研究・臨床を知るには糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめにこのたび,小玉裕司先生からそのバトンを引き継ぎ,本セミナーを担当することになった.コンタクトレンズ診療を始めて10年ほどの私では力不足かと思ったが,私が心惹かれたコンタクトレンズ分野の面白さ・奥深さを皆様に紹介したいと思い,引き受けさせていただいた.■CLの研究・臨床を知るにはわが国で初めてコンタクトレンズ(contactlens:CL)が使用されてから約70年が経ち,その間にCL装用者は急増し,いまやCL診療は眼科医にとって必須のスキルとなっている.しかし,眼科研修の軸となっている大学病院・市中病院では,一般的なCL診療があまり行われておらず,その基礎や研究について学ぶ機会は減少している.さらに,CLの技術は日進月歩であり,知識のアップデートも容易ではない.そこで,今回はCL診療・研究を学ぶうえで有効な手法を解説する.■国内学会CL診療の初心者から上級者まで,すべての眼科医にとって有用なのが,年に1回の日本コンタクトレンズ学会総会である.この学会は医師以外の医療従事者の参加も多く,比較的理解しやすい内容が多いため,これからCL診療を学ぼうとする人・医学研究に親しみのない若い先生にもオススメである.新商品に関する話題も豊富なため,すでにCL診療に携わっている先生方の知識のアップデートにも効果的である.また,CL分野で著名な功績をあげた先生が講演される「特別講演」も必聴である.学術的な内容がわかりやすく解説されているだけでなく,医学研究に対する姿勢・考え方をゆっくりと聞くことができる貴重な機会である.このほかにも,日本眼科学会総会,日本眼光学学会総会,臨床眼科学会,角膜カンファランスなど,CL分野の研究には多くの学会でふれることが可能である.それぞれの学会でCL分野(59)視覚再生機能外科学の多面性を楽しんでいただきたい.■教科書CL診療に必要とされる知識は眼光学から関連法規まで,実は幅広い.そのため,知識を効率よく獲得するには教科書が効果的である.現在,CL診療に関するさまざまな教科書が出版されているが,まずは自分にあった1冊を選ぶとよい.ご存知の人も多いとは思うが,『コンタクトレンズバトルロイヤル』(メジカルビュー社,2007年)はとてもお勧めである.ある臨床的課題に対して,複数の先生がそれぞれ自分なりの解決策を討論するというスタイルだが,臨床的な課題に複数の解決策が提示されているという点で有用なだけでなく,回答者である先生方の情熱や信念が文章から溢れており,出版から時間が経っているにもかかわらず,絶対に手放せない良書である.■総説・解説教科書から得られる知識の補足として重要なのが,医学雑誌の総説・解説である.ちなみに,このセミナーも医学中央雑誌刊行会の定義で「解説」に分類される.総説・解説は,教科書と同様に基本的な知識の獲得に有用なだけでなく,臨床に役立つ実践的なポイントや学術的な背景など,教科書では網羅しきれないCL分野の奥深さに触れる内容となっている.また,教科書に比較して最新の知見を反映しやすいという利点もある.筆者自身,CL診療を始めて数年の間は総説・解説を繰り返し読んだことが記憶に新しい.このセミナーも皆様を惹きつけるような内容をめざしたい.■原著論文CL分野の研究に興味をもったならば,原著論文にも目を通していただきたい.知識を獲得するだけなら総説・解説で十分であるが,原著論文は,仮説をたてる背景から検証方法までが記述されており,「医学研究の流あたらしい眼科Vol.39,No.9,202212170910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1日米英のコンタクトレンズ学会誌の紹介日本コンタクトレンズ学会誌EyeandContactLensContactlensandAnteriorEye日本コンタクトレンズ学会の学会誌で年4回刊行.米国のCL学会:EyeandContactLensAssociationの学会誌(前身はCLAOJournal)で月刊.英国のCL学会:BritishContactLensAssociationの学会誌で隔月刊.原著論文だけでなく,バトルロイヤル,ケア教室,製品紹介コーナー,コンタクトレンズUpdateなど企画が多彩であり,実践的で日常臨床に役立つ情報が多い.CLに関する論文が中心ではあるが,眼表面(角膜・涙液)や近視などCL分野以外の論文も多く含まれる.最近は近視進行に関する論文が目立つ.EyeandContactLensと同様にCL分野以外の論文も含まれているが,レンズの素材に関する論文など,ややディープな論文を読めるという印象がある.表2論文を読む際のPICO.PECOの利用法(例:多焦点CLによる近視進行抑制効果についての研究論文を読む場合)P:patient(対象患者)近視眼I/E:intervention/exposure(介入/投与)多焦点CL装用C:comparison(比較対象)単焦点CL装用O:outcome(効果)屈折力・眼軸れ」を学ぶことができるという点で優れている.CL分野の原著論文はさまざまな医学雑誌に掲載されるが,日本コンタクトレンズ学会誌,EyeandContactLens,ContactlensandAnteriorEyeの3誌は,それぞれ日本,米国,英国のコンタクトレンズ学会誌であり,CL分野の論文が充実している.各学会誌の特徴を表1に示す.原著論文を読むのは,とくに英語論文はハードルが高いと感じている人も多いだろう.そういった場合,総説・解説に記載された引用文献から読みはじめるのがお勧めである.あらかじめ総説・解説の内容を理解することで,引用されている論文を読むストレスはかなり軽減される.また,すでに概要を理解している論文であっても,導入や考案部分から得られる知識は多く,有意義である.また,臨床研究に関する論文はPICO/PECOの手法を意識して読むと,わかりやすい.PICO/PECOとは,臨床的課題を明瞭化する手法(表2)で,研究計画を立てるときのみならず,論文を読む際にも有効なので,ぜひ試していただきたい.■おわりに上述の4項が主だった手法ではあるが,ほかにも日本眼科学会のコンタクトレンズ診療ガイドライン,各種の勉強会やセミナー,海外学会など,CL分野を学ぶ手段・機会は減少傾向とはいえ,まだまだ数多い.本セミナーでは,株式会社サンコンタクトレンズの協賛を得て,CLの知識をさらに広げたい人のみならず,これからCL診療を学ぼうとする人にも理解しやすいように,ソフトレンズ・ハードコンタクトレンズ・レンズケアについて解説していくつもりである.

写真:Descemet膜剝離に対する前房水空気置換術

2022年9月30日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦460.Descemet膜.離に対する宮平大福岡秀記京都府立医科大学眼科学教室前房水空気置換術図1紹介受診時の前眼部写真角膜鼻下側サイドポートから瞳孔領にかけて角膜浮腫を認めた.図3前眼部光干渉断層撮影鼻下側に局所に限局するCDescemet膜.離を認めた.図4前房内空気注入直後の前眼部写真空気は上方に移動し,瞳孔ブロックは解除され,Descemet膜はすでに接着している.(57)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12150910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は77歳,女性.前医で右眼白内障に対して超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsi.cationandaspiration:PEA)+眼内レンズ挿入術(intraocularlensimplantation:IOL)を施行された.右眼の手術後,鼻側サイドポート周辺に角膜浮腫を認め,遷延するため手術からC1カ月経過後,京都府立医科大学附属病院へ紹介となった.受診時所見として,右眼のサイドポート付近から瞳孔領にかけて角膜浮腫を認めた(図1,2).前眼部光干渉断層撮影では鼻下側にCDescemet膜.離(DescemetC’sCmembranedetachment:DMD)を認めた(図3).右眼の矯正視力は(0.4)であった.初診からC3日後に入院し,同日右眼前房水空気置換術を施行した.前房水を排液し前房内に空気を注入した.術後の体位はCDescemet膜の接着のため仰臥位を維持したものの,注入後C3時間で前房内空気が虹彩を前方から眼内レンズに向けて圧迫し,房水流出が遮断されたことによる瞳孔ブロックを生じた.これに対してトロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼液右眼C1日C2回を開始し,仰臥位から座位へ体位変更した結果,速やかに瞳孔ブロックの解除を得られた(図4).術翌日に角膜浮腫は消退傾向であった.術後C4日目,前眼部光干渉断層撮影でCDMDは消失しており,右眼の矯正視力は(0.9)と改善していた.DMDは外傷や内眼手術により角膜実質からCDesC-cemet膜がはがれた状態である1)..離範囲が狭い場合には無症候性であり,手術後数日で自然に再接着する.しかしCDMDが広範囲であれば角膜実質および上皮に浮腫を生じ,視力低下を生じる.術後の視力低下で初めて気づくこともあり,疑った場合には細隙灯顕微鏡による前眼部観察と前眼部光干渉断層撮影が診断に重要である2).CPEA+IOL後のCDMD発生率はC0.5%と報告されているが,経験の浅い術者でより生じやすいとされる2).DMDの頻度は低いものの,介入が遅れることによってDescemet膜の線維化,収縮,皺襞化をきたすことで再接着が困難になる可能性がある.また,DMDとそれに伴う角膜浮腫が遷延した場合には内皮移植を必要とする場合もあるため,早期の介入が望ましい3).DMDに対する前房内空気注入術は,CC3F8やCSFC6と比較して前房内残留期間が短く,タンポナーデ効果は弱いものの,それらと比較して瞳孔ブロックを生じにくいとされる安全な方法である4).しかし,本症例のように前房内空気注入術後に瞳孔ブロックを生じる場合があり,帰宅させないことと,生じた場合には散瞳薬点眼と座位への体位変更で瞳孔ブロックの解除を図る必要がある.白内障手術後に保存的加療での治癒が困難と予想されるCDMDを生じた場合は,積極的に前房内空気注入を行うのがよいと考えられた.また,その際に瞳孔ブロックを生じることがあるため,術数時間の経時的な前眼部評価と介入が非常に重要である.文献1)大鹿哲郎,外園千恵編:前眼部アトラス.総合医学社,C20202)粥川佳菜絵,北澤耕司,脇舛耕一ほか:全層角膜移植術C10年後にCDescemet膜.離を来した円錐角膜のC1例.日眼会誌121:768-771,C20173)JainR,MurthySI,BasuSetal:Anatomicandvisualout-comesCofCdescemetopexyCinCpost-cataractCsurgeryCDes-cemet’sCmembraneCdetachment.COphthalmologyC120:C1336-1372,C20134)OdayappanCA,CShivanandaCN,CRamakrishnanCSCetal:ACretrospectivestudyontheincidenceofpost-cataractsur-geryCDescemet’sCmembraneCdetachmentCandCoutcomeCofCairdescemetopexy.BrJOphthalmol102:182-186,C2018

眼科の先達に学ぶ 3.眞鍋 禮三 先生

2022年9月30日 金曜日

【略歴】1928年2月12日香川県三豊郡三野町にて出生1954年3月大阪大学医学部卒業1955年4月大阪大学大学院医学研究科入学1955年10月医師免許証取得1959年3月大阪大学大学院医学研究科修了,医学博士取得1959年7月大阪大学医学部眼科助手1963年8月ミュンヘン大学へ留学(.同年12月)1965年1月大阪大学医学部眼科講師1969年7月ボストンレチナファンデーションヘ留学(.昭和47年7月)1974年5月大阪大学医学部眼科学教授(第7代)1991年4月大阪大学名誉教授1991年4月箕面市立病院,藤田保健衛生大学病院院長1996年4月多根記念眼科病院院長2005年3月多根記念眼科病院名誉院長2021年7月19日逝去(93歳)【主な研究分野】電気生理,視覚生理に関する研究と検査機器開発眼球保存液の開発角膜上皮障害の病態解明と治療法の開発角膜ヘルペスの病態解明【主な学外の役職】日本眼科学会理事長1987年.1989年日本角膜学会理事長1995年.1996年日本眼球銀行協会理事長1982年4月.2000成12年4月大阪アイバンク理事長2003年6月.2014年3月日本角膜移植学会(理事),日本眼光学学会(理事),日本眼薬理学会(理事),日本眼科手術学会(理事),日本眼内レンズ学会(理事),日本移植学会(評議員),日本結合組織学会(評議員)国際眼研究会議(ISER)(組織委員)日本眼科紀要編集委員長日本コンタクトレンズ学会誌編集理事学術審議会専門委員1983年2月.1985年1月日本学術会議機能回復医学研究連絡委員会委員1988年10月.1991年10月(51)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY眞鍋禮三先生【主な学術講演】1982年第36回日本臨床眼科学会特別講演「角膜疾患の臨床─角膜ヘルペスを中心に」1983年第87回日本眼科学会宿題報告「角膜に関する諸問題─角膜上皮障害に対する新しい治療の試み」1985年第39回日本臨床眼科学会特別講演「治療的角膜移植」1986年第9回日本眼科手術学会特別講演「角膜疾患に対する角膜手術」1987年第91回日本眼科学会特別講演「眼とヘルペス」【主な受賞歴】1998年日本眼科学会賞2003年日本眼科学会特別貢献賞2006年日本角膜学会特別功労賞2009年第1回今泉賞(日本アイバンク協会)2009年PfizerOphthalmicsAwardJapan2009特別賞●眞鍋禮三先生の教えと眼科学への貢献西田幸二大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)眞鍋禮三先生が2021(令和3)年7月19日に享年93歳でご逝去されました.筆者は1988年に眞鍋先生が主宰される大阪大学眼科学教室に入局致しました.在任期間中に直接ご指導いただいたのは4年余りでしたが,先生はご退官後も名誉教授として,大所高所から常にわれわれをご指導くださいました.このたび木下茂教授より「眼科の先達に学ぶ」の第4回として眞鍋禮三先生を取り上げたい旨のご依頼いただきました.眞鍋先生はこれまでに多くの先生を育ててこられ,薫陶を受けられた眞鍋門下の先生方が日本全国でご活躍されています.それらの諸先輩方をさしおいて大変僭越ではありますが,ご指導いただいた弟子の一人として,眞鍋礼三先生の業績の一端をご紹介させていただきます.眞鍋先生は,1928年2月12日香川県にご誕生されました.1954年3月大阪大学医学部を卒業され,医師実地修練と研究に従事したのち,1959年7月大阪大学助手に任ぜられ,眼科学講座に勤務,1965年1月同大学講師,そして1974年5月1日には第7代眼科学教室教授に就任され,1974年から1991年までの17年間教授を務められました.先生のご専門は,当初,網膜電図(electroretinogram:ERG)で,赤色光と白色光を用いて錐体機能と杆体機能を分離する方法を開発され1),中心フリッカ測定装置やアコモドメーター2)を開発されるなど(図1),臨床検査装置を自ら開発し,その装置を用いて臨床研究をされていました.ボストンレチナファンデーションに留学後は角膜の研究に専念され,角膜実質の含水率と散乱特性の関係,角膜潰瘍におけるコラゲナーゼの関与と治療法の開発,角膜上皮創傷治癒の基礎研究とフィブロネクチン点眼による治療法の開発3),角膜ヘルペスの病態4),ドナー保存液EP-2の開発(図2)5)などにかかわられ,臨床においては2,000眼以上の角膜移植を施行されました.優れた研究業績のもと,日本眼科学会や臨床眼科学会をはじめとする多くの主要学会で特別講演の栄誉にあずかられました.そして,1983年日本医師会医学研究奨励賞,2003年日本眼科学会賞,2003年日本眼科学会特別貢献賞など数多くの賞を受賞されました.教授在任中は,臨床,研究,教育に尽力されました.在任された1972年.1979年頃は,昭和40年代始めからの大学学園紛争がようやく終焉し,エネルギー溢れる団塊の世代が入局しはじめた時期でした.そして,眼科の診療・研究レベルは欧米と比べ未だ低く,欧米に追いつく日を夢みた時代でもありました.実際,眞鍋時代の17年間に阪大眼科の臨床・研究レベルは飛躍的に向上し,世界のトップグループに数えられる角膜,網膜などの分野が育ちました.教授就任から5年が経過し,若手教官層の急速な成長に加え,毎年10名を超す新入局者数とも相まって教室は発展期に入りました.この頃には専門領域を基軸とした臨床・研究活動が主流となり,関連病院に出向中の若手医局員がこれらのグループに所属するなかで,角膜,ぶどう膜炎,網膜.離,緑内障,糖尿病網膜症,神経眼科などさまざまな研究グループが発展し,臨床への社会実装をめざす研究テーマが数多く生まれました.就任から10年目となる1984年頃を境に教室は円熟期に入り,とくに眞鍋先生が専門とする角膜領域を中心に優れた人材が多く輩出し,1977年に眞鍋先生が角膜領域の小集会として創設した「角膜カンファランス」はより大きな学術組織へと成長し,40年以上を経た現在,同会は日本角膜学会として参加者1,000名を擁する学術組織に発展しています.眞鍋先生の医局運営はいわゆるトップダウン型ではありません.むしろ,ボトムアップで湧き上がってくる医局員のモチベーションを自由に伸ばしていくことをことのほか好まれました.とはいっても単なる放任主義ではなく,課題解決に悩む医局員には的確なアドバイスとともに温かい手を差し伸べられました.「なんでや」という言葉を好まれていたようにブラックボックスの存在を嫌い,真理の追究をこよなく愛されていました.また,教室員の指導育成にたゆまぬ熱意を注がれ,40名を超える教室員を海外に留学させ,あるいは外国人研究者を招聘して共同研究を行い,眼科学の国際交流の促進に貢献されました.筆者にも多くのチャンスを与えていただき,また機会があるごとに貴重なアドバイスをいただきましたが,その門下からは第一線で活躍している俊英を多数輩出し,18名が自大学または他大学の教授に就任し,自由闊達な「眞鍋イズム」は全国に波及していくこととなりました.このように,17年間の教授在任中に教育,研究,臨床のあらゆる面で大阪大学眼科学教室を世界レベルに押し上げられた比類なき名教授です.1975年からは日本眼科紀要の編集委員長を務められ,a.阪大式アコモドメータb.阪大式中心フリッカー値測定器図1臨床検査装置の開発図2眼球保存液(EP.II)の開発図4米寿の会(2015年)1979年からは日本コンタクトレンズ学会誌の編集理事として両誌の発展に尽力されました.1975年以降は日本眼科学会の評議員を務める一方,2年任期の理事を6年務められ,1987年6月から1989年6月までの2年間は日本眼科学会の理事長としてその運営と発展に貢献されました.さらに,日本眼科学会,日本臨床眼科学会,日本コンタクトレンズ学会,日本眼科手術学会,国図3教授退官記念講義(1991年3月)際眼研究会議日本部会の会長を務められ,その発展に寄与されました.加えて,1987年からは国際眼研究会議のカウンシルメンバーに選任され,国際学会の運営でも活躍されました.また,1983年2月から1985年1月まで学術審議会専門委員として活躍され,1988年10月.1991年10月まで日本学術会議機能回復医学研究連絡委員会委員を委嘱され活躍されました.1991年に退官され(図3),大阪大学名誉教授となられました後,1996年から2005年までは多根記念眼科病院院長を務められました.また,1982年.2000年まで日本アイバンク協会理事長,2003年.2014年までは大阪アイバンク理事長を務め,アイバンク活動の普及に貢献されました.眞鍋先生はおいくつになられても門下生とのつながり図5眞鍋禮三名誉教授追悼シンポジウム(2022年)大橋裕一先生(右上),西田輝夫先生(右下),澤充先生(左下),筆者(左上).図6眞鍋禮三名誉教授追悼シンポジウム(2022年)木下茂先生図7眞鍋先生を囲む会(2013年)を大事にしておられました.教室として米寿のお祝いの会を開催させていただきましたのは大変よい想い出です(図4).また,阪大眼科角膜グループの有志で開催した木下茂先生,大橋裕一先生の謝恩会にもご出席いただき,想い出話に花が咲く大変楽しい時間となりました.昨年7月の眞鍋先生のご逝去に際して,私は次世代を担う若者に眞鍋先生の功績やビジョンを伝えていけるような機会を設けたいと考えました.早速,翌年開催が予定されていた「角膜カンファランス2022」の会長である金沢大学の小林顕先生に相談しましたところ,すでにプログラムがおおむねフィックスされている段階であったにもかかわらず,追悼セッションの開催をご快諾いただき,「眞鍋禮三名誉教授追悼シンポジウムBacktotheBasic,LooktotheFuture」を開催いただけることとなりました.このシンポジウムでは,眞鍋先生ゆかりの先生方にご講演いただきました.最初に筆者が眞鍋先生の功績をご紹介した後,木下茂先生が「眞鍋禮三先生から学んだ治療的角膜移植,そして角膜再生医療へ」,大橋裕一先生が「眞鍋イズムに学ぶ」,西田輝夫先生が「眞鍋禮三教授から学ばせていただいたこと」,澤充先生が「アイバンクと後輩の育成」というテーマで,それぞれの先生が眞鍋先生との思い出を語りながら,角膜におけるそれぞれの領域について,眞鍋先生の時代から現在に至るまでの発展,未来の展望について,とくに若者をエンカレッジするような内容のご講演をいただきました(図5,6).以上のように,眞鍋先生は眼科学領域において斬新かつ卓越した業績をあげるとともに,新時代にふさわしい多くの眼科医の養成(図7),新しい眼科学の教育に傑出した能力を発揮したほか,大学の管理運営にも著しい貢献をされるなど,その功績はまことに顕著でありました.われわれには,先生が築かれた教室,そして阪大眼科の精神をこれからも長く伝え,さらに発展させていく責務があることを,改めて強く感じております.文献1)眞鍋礼三,尾辻孟:ERGの臨床特に小児ERGの診断的価値.日眼紀16:38-43,19652)MizukawaT,NakabayashiM,ManabeR:Onanaccom-modometerdevelopedbyusfortheaccommodationtime.BerZusammenkunftDtschOphthalmolGes65:495-499,19643)西田輝夫,八木純平,大鳥利文ほか:フィブロネクチン点眼剤の臨床効果.臨眼42:33-37,19884)真鍋礼三,湯浅武之助,福田全克ほか:眼とヘルペス.日眼会誌92:1-26,19885)真鍋礼三,木下茂,糸井素一:新しい眼球保存液(EP-2)の臨床使用経験.日眼紀35:1263-1265,1984☆☆☆

視機能からみた私の眼内レンズ選択 

2022年9月30日 金曜日

視機能からみた私の眼内レンズ選択MyChoiceofIOLfromthePerspectiveofVisualFunction市川一夫*はじめに特集「自分の眼に入れるなら眼内レンズはこれだ」の1項目として「眼内レンズと視機能」の原稿の執筆を依頼された.筆者は1980年代初頭,水晶体全摘出後に虹彩支持レンズを入れてから,前房レンズ,後房レンズ(.外・.内固定)に移行し,現在では必要に応じて強膜固定や有水晶体眼内レンズ挿入も行ってきた.素材では,ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacry-late:PMMA),シリコーンや疎水性および親水性アクリルレンズ,コラマーレンズとほとんどのものを使用してきている.眼内レンズ(intraocularlens:IOL)も単焦点・多焦点・焦点拡張型レンズ・トーリックレンズなど,患者と相談のうえ術後屈折値を決め,さまざまなレンズを挿入してきた.焦点の種類も患者にそれぞれの利点・欠点を説明し,患者の希望を重視しながら選択してきた.もし筆者が本誌に同時掲載される先生方と異なる点があるとすれば,1980年代後半からIOLの着色化でいくつかのメーカーと研究開発をともにしてきた経験により,水晶体の加齢や色覚からIOLについて,術者としての意見以外に生理学者・開発者としての意見をもっていることだと思う.着色ILOの開発にあたっては,本当に着色化に利点があるか,もし欠点があるとすればなにか,どのようにすれば解決できるかを考え,研究し開発してきた.その研究から,IOLについて筆者なりの考え方が備わったので,そのことを紹介しながら現在白内障手術を受けるなら自分の眼に挿入したいIOLについて述べる1).I1980年代後半,着色眼内レンズについて考えられ知られていたこと1.利点白内障手術を多く始めた80年代,患者が手術後に赤視症や青視症など色の変化を訴え,多くは2~3週間で消失するものの,少数例では長期に訴えが残る患者がいることを経験し興味をもった.調べてみると,国内では大正時代,すでに前田が白内障術後の色視症の報告をしており2),青視症は術後の短波長光が過剰に入るため,赤視症は強い光を浴びたため,と実験的に確かめられていた3).有名な画家のクロード・モネなどは,白内障手術後色感覚が変わってしまい絵が描けなくなった.その後,医師の勧めにより黄色の眼鏡をかけて再び描けるようになったとの報告もあった4).そこで,術後長く経過した患者たちにも何か色の変化があるかと聞いてみると,共通して無彩色のもの,とくに夕暮れのアスファルトを見ると「薄いが青っぽく見える」ということを話してくれた.人の正常水晶体を調べてみると,年齢とともに黄色化する,思春期以後の黄色化が網膜を光毒性から守ると成書に記載されていたし,着色は可視光を制限することになり慎重に検討する必要があるとされていた5).また,当時のクリアレンズや紫外線(ultraviolet:UV)カットIOLを挿入した患者は,*KazuoIchikawa:中京眼科視覚研究所〔別刷請求先〕市川一夫:〒456-0032愛知県名古屋市熱田区三本松町12-22中京眼科視覚研究所0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(43)1201806040200WAVELENGTH(nm)74YR図12歳と74歳の水晶体の色と分光透過特性TRANSMITTANCE(%)2YR400500600700y0.350.300.300.350.400.45x図2C光源を透過したときの各年齢の正常水晶体の色を刺激純度と主波長でCIE色度図に図示0.40正答数18171615141312110~45~910~1415~1920~2425~2930~3435~3940~4445~4950~5455~5960~6465~6970~7475~7980~8485~8990~9495~99年代Mann-Whitney’sUtest,*:p<0.05図3標準色覚検査表第3部(SPP3)の年代別の正答文字数検査表はC19文字で構成されており,3~90歳までのC23,604人(男性C11,550,女性C12,054)を対象とした.1.0正答率0.90.80.70.60.550~5455~5960~6465~6970~7475~7980~84年齢薄い着色IOL(19)(46)(107)(116)(191)(137)(57)濃い着色IOL(5)(15)(37)(62)(104)(84)(30)UV-cutIOL(4)(12)(14)(31)(35)(34)(11)t-test,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001図4薄い着色眼内レンズ・濃い着色眼内レンズ・UVカット眼内レンズの標準色覚検査表第3部(SPP3)の年代別誤り文字数の比較網膜内の視細胞1.00.50図5網膜内に存在する視物質の分光感度特性400Cnm以上の可視光カットは,OPN5とCS錐体の一部の受容を遮断する.(文献C5より引用)957555AlconSN60ATJ&JZCB00V35HOYAYA60BBNIDEKNS-60YGKowaAN6KSTAARAQ-Ni15SantenNX60-5Wavelength[nm]図6市販されている着色眼内レンズの分光透過特性J&J(ZCB00V)のみC400Cnmを超える領域でシャープカットになっており,人眼の分光透過度と異なりCOPN5視物質を刺激しない.300400500600700800図7市販されている着色眼内レンズの色と刺激純度C光源を透過した色として色度図上に示した.Transmittance[%]-

ガス併用硝子体白内障同時手術に適した眼内レンズ

2022年9月30日 金曜日

ガス併用硝子体白内障同時手術に適した眼内レンズIOLSuitableforPhacovitrectomywithGasTamponade横田陽匡*はじめに本稿では「自分の眼に入れる眼内レンズはこれだ」というテーマを,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の前房での安定性に着目して考えてみた.筆者は日本大学医学部附属板橋病院(以下,当院)で裂孔原性網膜.離に対する硝子体白内障同時手術を多く執刀している.日頃,IOLによって術中の眼底の見え方が異なることや,術後のIOLの安定性の違いを実感してきた.図1にガス置換後のIOLの画像を示すが,左右の画像を比較すると右のIOLがしっかりと中心にあることがわかる.実際に光学部をトレースして重ねると,左のIOLが右側に少しずれていて,前方に押し出されて見かけの直径が大きくなっていることがわかる.そろそろ50歳を迎える筆者も,後部硝子体.離の好発年齢に突入している.そういう意味で,もし自分の眼に裂孔原性網膜.離が発生したら,どのように対処してもらうかを考えるよい機会かもしれない.裂孔原性網膜.離に対する治療アプローチは硝子体手術,硝子体白内障同時手術,あるいは強膜内陥術があげられるが,今回は上方に裂孔が生じて網膜.離になったと想定する.したがって,選択する術式は硝子体白内障同時手術とする.硝子体白内障同時手術を選択するとIOLが術後視機能に大きな影響を与えることはいうまでもない.光学的特性が重要であることは論をまたないが,筆者は光学的特性に関するエキスパートではないので,硝子体術者として日頃感じていたガス置換後の前房内の安定性の差に着目し,IOLの物理学的特性に基づいて眼内レンズを選択してみる.I網膜.離の想定右眼の10時に後部硝子体.離に伴い馬蹄形裂孔が生じ,裂孔原性網膜.離が発症したと想定する(図2a).筆者は小切開硝子体手術が全盛の今日においても,比較的多くの強膜内陥術を執刀していて,もし網膜.離になったら部分バックルで治してもらい,水晶体を温存したいとも考えている.一方で,上方の裂孔に伴う網膜.離に対する初回復位は硝子体手術が優れていることはJ-RDレジストリのデータ解析から明らかになっている1).したがって,この場合には硝子体白内障手術を選択するのが無難であろう.術前の視力は右眼0.4(1.2×sph.0.75D:(cly.2.25DAx180°),左眼0.4(1.2×sph.2.00D:(cly.2.00DAx10°),IOL計算の結果を図2bに示す.読者の皆さんが術者だったらどのIOLを選択されるだろうか?II硝子体白内障同時手術の合併症裂孔原性網膜.離に対する硝子体白内障同時手術では,術終了直前にガス置換で網膜を復位させる.ガスによってIOLが前方移動して,術後の近視化,IOLが前.より脱出,場合によっては虹彩捕捉が生じる可能性もあることから,より前房内の安定性が高いIOLを選択することは合併症を予防する観点から重要だと思われる.*HarumasaYokota:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕横田陽匡:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町301日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(35)1193a図1液空気置換後のIOLの位置の比較a:液空気置換後のCIOLの位置の比較.角膜輪部の直径が同じになるよう画像のサイズを調製している.角膜輪部とCIOLの光学部を点線で囲んでいる(左:赤線,右:青線).Cb:角膜輪部が一致するように重ねて光学部の位置を比較.赤線で囲んだ光学部が中心より右にずれていることがわかる.ab936図2想定した網膜.離と術前検査a:右眼のC10時に後部硝子体.離に伴う馬蹄形裂孔と中心窩を含まない裂孔原性網膜.離を認める.b:術前のCIOL計算である.図3広角観察システムによるIOLを介した周辺部の観察a:光学部C6CmmのIOL.Cb:光学部C7CmmのIOL.点線で囲まれた部分はCIOLでカバーされていない領域である.表1使用したIOLの比較NS-60YGCXY1CX-70デザイン非球面,1ピース非球面,1ピース球面,3ピース素材アクリルアクリル光学部アクリル支持部CPVDF光学径C6.0CmmC6.0CmmC7.0Cmm全長C13.0CmmC13.0CmmC13.2Cmm支持部角度C0°C0°C7°形状Ca角膜術後前房深度術前前房深度0IOLの位置1水晶体厚1bcd0000.270.280.36111NS-60YGXY1X-70図4CASIAを用いた術後のIOLの相対的な位置の比較a:Shirakiらの報告に基づくCIOLの相対的な位置の数値化.水晶体厚をC1として前房側を0,硝子体側をC1としてCIOLの位置を連続変数として表記.b:術後C1カ月の各CIOLの位置.表2術後1週間と1カ月後の前房深度とIOLの相対的な位置計CNS-60YG(n=15眼)CXY1(n=11眼)CX-70(n=11眼)p値術後C1週間前房深度(mm)CIOLの位置(a.u)CIOLの傾き(°)C4.06±0.33C0.27±0.07C4.51±1.95C4.13±0.29C0.32±0.07C4.35±2.61C3.99±0.37C0.24±0.05C4.61±1.32C4.02±0.280.26±0.044.64±1.37C0.56<C0.05C0.93術後C1カ月前房深度(mm)CIOLの位置(a.u)CIOLの傾き(°)C4.19±0.26C0.30±0.05C3.94±1.39C4.26±0.26C0.35±0.05C3.68±1.74C4.13±0.25C0.27±0.03C3.96±1.39C4.13±0.230.28±0.034.37±1.37C0.40<C0.01C0.67表3術後1カ月の屈折誤差計CNS-60YG(n=15眼)CXY1(n=11眼)CX-70(n=11眼)p値屈折誤差C.0.39±0.39C.0.23±0.34C.0.37±0.44C.0.58±0.32C0.09Ca後方圧縮荷重後方b3.53NS-60YG2.521.510.50XY1X-700.00.10.20.30.40.5前方移動量(mm)図5後方圧縮荷重の測定a:後方圧縮荷重の測定法.IOLを直径C10Cmmの治具に固定してCIOLの後方から圧出.Cb:各CIOLの後方圧縮荷重の結果.後方圧縮荷重(mN)

トーリック眼内レンズ

2022年9月30日 金曜日

トーリック眼内レンズToricIntraocularLens西村知久*はじめにトーリック眼内レンズはその名の通り,乱視を矯正するための眼内レンズである.日本国内では2009年より使用できるようになり,良好な裸眼視力をもたらすことが報告された1).当初は単焦点眼内レンズのみであったが,2012年から多焦点眼内レンズも導入された.白内障手術を受ける患者の術前角膜乱視の推定分布をみると,1.0D以上の症例が約36%,1.5D以上の症例は約17%含まれる2).単焦点眼内レンズの場合でも乱視が強くなるにつれて裸眼視力が悪くなることが報告されており,多焦点眼内レンズにおいてはさらにその傾向が強くなることが示されている3).このことからも,積極的にトーリック眼内レンズを使用することにより,患者満足度の向上や眼鏡使用率を低下させることが期待されている.1.0D以上の角膜乱視を有する患者のうち30%以上の患者がトーリック眼内レンズの適応になるといわれているが(図1),近年直乱視と倒乱視によって乱視矯正量を調節する計算式が主流となっているため,倒乱視では約0.7D以上,直乱視では2.0D以上が適応となることが多い.ただし,トーリック眼内レンズを使用する場合の一番大きな合併症は術後の軸ずれである.目標軸より1°ずれると3.3%の矯正力の低下となり,15°以上ずれるとトーリック眼内レンズを使用するメリットがなくなるといわれている4).今回,現時点で,国内で認可されているトーリック眼内レンズを紹介するとともに(表1),いくつかのトーリック眼内レンズの特徴や軸ずれなどの傾向について説明する.また,トーリック眼内レンズを使用する場合に,軸ずれを予防する方法についても解説する.Iトーリック眼内レンズの種類1.単焦点トーリック眼内レンズの種類2009年8月に日本アルコン株式会社(以下,アルコン)のAcrySofIQTORIC(SN6AT3~T5)が発売となり,高度乱視に対するモデル(T6~T9)は2011年10月から追加発売となった.2021年11月にはAcrySofの後継モデルとなるClareonTORIC(CNW0T3~T9)(表2)が発売された.ClareonTORICはAcrySofから素材が変更となり,subsurfacenanoglistening(SSNG)やglisteningを生じないものとなったが,プラットフォームはそのまま引き継ぐこととなり,乱視矯正度数もほぼ同じものとなっている.エイエムオー・ジャパン株式会社(以下,AMO社)からは,2013年8月にTECNISToric1-Piece(ZCT150,225,300,400)が発売され,2014年11月からTEC-NISToricOptiBlue(ZCV150,225,300,375)が追加された.2020年4月には軸ずれ防止を強化するために,クライオタンブリング(研磨)時にループの部分にカバーをして研磨をすることにより,ループの部分のざらつきを残した支持部側面のすりガラス状の形状を伴ったTECNISToricIIOptiBlue(ZCW150,225,300,375)が発売されている.HOYA株式会社(以下,HOYA社)*TomohisaNishimura:美川眼科医院〔別刷請求先〕西村知久:〒840-0831佐賀市松原4-3-21美川眼科医院0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(25)1183患者(%)100.00100806040200角膜乱視(D)図1術前角膜乱視の推定分布1.0D以上の乱視を有する割合は36%ある(アルコン社提供).表1トーリック眼内レンズのサマリーメーカー販売名モデル円柱度数(角膜面)販売期間単焦点レンズAlconAcrySofIQTORICSN6AT3~AT51.03~2.06D2009年8月~2011年10月AcrySofIQTORICSN6AT6~AT92.57~4.11D2011年10月~ClareonTORICCNW0T3~90.98~3.92D2021年11月~TECNISToric1-PieceZCT150,225,300,4001.03~2.75D2013年8月~AMOTECNISToricOptiBlueZCV150,225,300,3751.03~2.57D2014年11月~2021年9月TECNISToricIIOptiBlueZCW150,225,300,3751.03~2.57D2020年4月~HOYAiSertMicro355355T3~T51.03~2.06D2014年8月~2020年2月VivinexTORICXY1AT3~AT71.04~3.12D2019年5月~多焦点レンズAlconReSTORTORICSND1T3~T61.03~2.57D2014年5月~2020年12月ACTIVEFOCUSTORICSV25T3~T61.03~2.57D2018年7月~AcrySofPanoptixTORICTFNT30,40,50,601.03~2.57D2019年10月~ClareonPanotixTORICCNWTT3~60.98~2.45D2022年4月~TECNISSymfonyOptiBlueZXV150,255,300,3751.03~2.57D2017年11月~AMOTECNISSymfonyToricIIOptiBlueZXW150,225,300,3751.03~2.57D2020年4月~TECNISSynergyToricIIOptiBlueSimplicityDFW150,225,300,3751.03~2.57D2020年4月~低加入度数調節型眼内レンズ参天製薬レンティスコンフォートトーリックLENTISLS313,MF15,T1,T2,T31.05~2.10D2020年11月~AMOTECNISEyhanceTORICIIOptiBlueSimplicityDIW150,225,300,375,450,525,6001.03~4.11D2021年3月~表2ClareonTORICのスペックClareonTORIC発売日2021年11月モデルCNW0T3CNW0T4CNW0T5CNW0T6CNW0T7CNW0T8CNW0T9円柱度数:眼内レンズ面(D)1.502.253.003.754.505.256.00円柱度数:角膜面(D)0.981.471.962.452.943.433.92度数範囲+6.0~+30.0D(0.5ステップ)光学部非球面バイコンペックス材質紫外線・青色光吸収剤含有アクリル樹脂支持部形状STABLEFORCE光学部-支持部の角度0°光学部径6.0mm全長13.0mm屈折率1.55非球面設計-0.2μm表3HOYAVivinexToricのスペック販売名HOYAVivinexToricトーリックモデル名XY1AT3-SP~XY1AT7-SP光学部仕様前面:非球面(ABCデザイン)後面:トーリック素材紫外線吸収性黄色軟質アクリル樹脂(疎水性軟質アクリル素材「Vivinex」)支持部仕様シボ加工(前・後面)すり仕上げ(側面)光学部径/長径6.0mm/13.0mm製造範囲球面:+10.0~+30.0D(0.5Dステップ)円柱:T3(1.5D)~T7(4.5D)(眼内レンズ面)ノズル外径1.70mm(HOYA提供)(アルコン社提供)表4レンティスコンフォートトーリックのスペック販売名レンティスコンフォートトーリックモデルLS-313MF15T1LS-313MF15T2LS-313MF15T3円柱度数IOL面1.50D2.25D3.00D角膜面1.05D1.58D2.10D形状光学部径6.0mm全長11.0mm材質架橋アクリルエステル共重合体(紫外線吸収剤含有)屈折率(35℃)1.46支持部角度0°滅菌方法高圧蒸気滅菌パワー範囲+10.0D~+27.0D(0.5Dステップ)医療機器承認番号30100BZX00212000(2019年11月承認)A定数等超音波式118.0(前房深度4.97mm)光学式*1SRK/TSRKIIHofferQHolladay1HaigisBarrett*2Holladay2*2HillRBF*2A=118.18A=118.3pACD=5.18sf=1.34a0=0.706a1=0.274a2=0.127LF=1.45DF=05.070A=118.18*12020年2月変更*2SRK/TのA定数に基づく・「A定数等」は参考値.(参天製薬提供)表5TECNISEyhanceTORICIIOptiBlueSimplicityのスペックフロストループ全長13.0mmテクニスアイハンストーリックCIIオプティブルーSimplicity前面高次非球面ProTEC360°エッジデザインTORIC軸マークHAPTICSOFFSET3点固定後面販売名テクニスアイハンスTVBSimplicity医療機器承認番号C30300BZX00083000光学部モデルCDIW150CDIW225CDIW300CDIW375CDIW450CDIW525CDIW600円柱度数(眼内レンズ面)C1.50DC2.25DC3.00DC3.75DC4.50DC5.25DC6.00D円柱度数(角膜面)C1.03DC1.54DC2.06DC2.57DC3.08DC3.60DC4.11D度数範囲+6.0D~+30.0D(C0.5D刻み)光学部径C6.0Cmm形状高次非球面材質紫外線・紫色光吸収剤含有アクリル-メタクリル架橋共重合体屈折率1.47(C35℃)エッジデザインProTEC360°シャープエッジデザイン測定方法*超音波式眼軸長測定光干渉式眼軸長測定A定数C118.8C119.3前房深度予測値(ACD)C5.4CmmC5.7CmmCSurgeonFactor**(SF)1.68CmmC1.96Cmm支持部全長C13.0Cmm材質紫外線・紫色光吸収剤含有アクリル-メタクリル架橋共重合体デザインCHapticsoffsetfromoptics,CTri-FIXデザイン,フロストループインプラント方法プリロード式CTECNISSimplicityDeliverySystem*A定数,前房深度予測値,SurgeonFactorは参考値.**CalculatedCbasedConCHolladayCIformula(HolladayCJT,CPragerCTC,CChandlerCTY,CMusgroveKH,LewisJW,RuizRS.Athree-partsystemforre.ningintraocularlenspowercalculations.JCataractRefractSurg.1988;14(1):17-24)C….(AMO社提供)表6トーリック眼内レンズ(SN6A,ZCT,355)3群の術後矯正視力,術後自覚乱視,正視狙い症例における術後裸眼視力,術後等価球面度数の比較SN6A(n=70)ZCT(n=70)355(Cn=70)p値年齢C76.49C±4.68C75.81C±4.76C76.73C±4.57Cp=0.5431術前矯正視力※C0.66C±0.25C0.68C±0.27C0.65C±0.23Cp=1.7107※術前ケラトC1.48C±0.94C1.65C±0.68C1.58C±0.56Cp=0.0209術後矯正視力※C1.16C±0.17C1.23C±0.15C1.16C±0.14Cp=0.0368※術後自覚乱視-0.42±0.43-0.42±0.39-0.50±0.35Cp=0.5036Emmeねらい群は,術後ねらいが-0.5D未満の症例とした.Emmeねらい群SN6A(n=53)ZCT(n=39)355(Cn=54)p値術後裸眼視力※C1.05C±0.24C1.12C±0.22C1.04C±0.21Cp=0.4559※術後等価球面屈折-0.03±0.43-0.38±0.52-0.13±0.49Cp=0.0479C※視力はlogMAR視力換算にて統計解析Kruskal-WallisH-test術後矯正視力はCZCT群が有意によかったが,術後自覚乱視や正視狙い症例における術後裸眼視力には有意差は認められなかった.術後等価球面度数はCZCTが有意に近視側にシフトしていた.p<0.01※14121086420図2トーリック眼内レンズ(SN6A,ZCT,355)3群間の軸ずれの比較SN6A群が有意に軸ずれが少なかった.SN6AZCT355※Mann-WhitneyU-test14121086420図3トーリック眼内レンズ(SN6A,ZCW,XY1A)3群間の軸ずれの比較SN6A群が有意に軸ずれが少なかった.SN6AZCWXY1A※Mann-WhitneyU-test表7トーリック眼内レンズ(SN6A,ZCW,XY1A)3群間の術後矯正視力,術後自覚乱視,正視狙い症例における術後裸眼視力,術後等価球面度数の比較SN6A(n=70)ZCW(n=70)XY1A(n=70)p値年齢C79.09C±4.09C78.26C±4.58C77.23C±5.53Cp=0.0911術前矯正視力※C0.62C±0.24C0.70C±0.29C0.67C±0.25Cp=0.6546C※術前ケラトC1.45C±0.58C1.28C±0.57C1.28C±0.50Cp=0.1837術後矯正視力※C1.21C±0.14C1.23C±0.13C1.22C±0.18Cp=1.5301C※術後自覚乱視-0.43±0.31-0.29±0.31-0.39±0.34Cp=0.0856Emmeねらい群は,術後ねらいが-0.5D未満の症例とした.Emmeねらい群SN6A(n=57)ZCW(n=52)XY1A(n=45)p値術後裸眼視力※C1.04C±0.19C1.11C±0.21C1.09C±0.26Cp=0.5332C※術後等価球面屈折-0.23±0.56-0.11±0.39-0.05±0.50Cp=0.8058※視力はlogMAR視力換算にて統計解析Kruskal-WallisH-test術後矯正視力,術後自覚乱視,正視狙い症例における術後裸眼視力,術後等価球面度数に有意差は認められなかった.などにより実施困難となる場合があるので,手術のはじめにターゲット軸位置へのマーキングを併用することを勧める.③術後に力学的不均衡をきたさないように,レンズ光学部の直径よりも小さい前.切開を行い,レンズ光学部周辺が前.で完全に覆われるようにする.④水晶体.内に眼内レンズを挿入後,水晶体.内にも粘弾性物質を残さないように,レンズ裏面とともに水晶体.内の十分な洗浄を行う.⑤眼内レンズの完全な開放時間は,眼内レンズや手術時の気温などによって異なるため,眼内レンズが動かなくなるまで,十分な時間の前房洗浄を行う.⑥トーリック眼内レンズ挿入後の前房洗浄や,サイドポートから水晶体.内の洗浄時に,トーリック眼内レンズの挙動が安定しないときには,動きが止まるまで,繰り返しゆっくりと前房洗浄を行ったり,術後の安静の徹底を指示したりすることが必要となる.⑦手術終了後には,創閉鎖を確実に行うために,創のハイドレーションを行うとともに,眼圧も一定に(大体10~20mmHg)保つようにする.⑧眼圧変動を少なくするために,眼球にできるだけ外的圧力がかからないように,開瞼器,ドレープの除去時に,患者に開瞼しておいてもらう.⑨患者によっては,手術直後の軸ずれを予防するために,手術終了後に臥位でのC30分程度の安静を勧めるとともに,手術当日の過激な行動の自粛を考慮する.CIVトーリック眼内レンズの現状と使用時の注意点日本白内障屈折矯正手術学会がC2021年に出したCClin-icalSurveyでは,84%の術者がトーリック眼内レンズを使用しており,近年使用割合も増加している7).ただし,米国白内障屈折矯正手術学会や欧州白内障屈折矯正手術学会の報告と比較すると使用頻度や普及率はまだ低いとの報告もある7).過去C1年間におけるトーリック眼内レンズの軸ずれの修復手術は,31%の術者が経験した7).また,Zinn小帯脆弱症例では軸ずれ対策として,水晶体.拡張リングの併用が有用と報告されている8,9).トーリック眼内レンズの術後の乱視度数誤差の要因は,術前角膜形状解析ミスがC27%,軸ずれがC14%,眼内レンズ傾斜がC11%であり10),術前の角膜形状解析検査も重要であると考えられる.このことに関しては,トーリック眼内レンズの有用性は基本的には角膜の正乱視成分の矯正であり,不正乱視を矯正することはできない.そのため,対象眼の不正乱視成分の存在を定量化することが重要であり,ケラトメータのみによる測定では不正乱視の検出は十分に行えないことから,プラチド角膜形状解析装置,波面収差計,前眼部光干渉断層計などの機器を用いて評価を行うことが望ましいと考える.また,万が一,術後に軸ずれが生じた場合,単焦点トーリック眼内レンズは,10°程度の軸ずれでは視力に影響がないこともあり,患者の要望に応じて軸修正を考慮すればよいと考える.ただし,多焦点トーリック眼内レンズは,単焦点トーリック眼内レンズと比べると軸ずれによる視力への影響が大きいため,積極的に補正を考慮したほうがよいと思う11).また,軸ずれ修正の時期については,修正を行った時期と再回旋度数を比較した報告があり,術後C6日以内ではC13.1°C±13.5°であったのに対し,術後7日以降ではC6.3°C±5.9°と回旋度数が小さくなっていた12,13).この結果から,軸ずれの修正は術後C1週以降に行ったほうが補正後の再回旋が生じにくいと考えられる.おわりに各種トーリック眼内レンズの特性や軸ずれ防止方法,注意点などについて述べた.レンズの軸ずれについては,注意点を参考にしていただき,術中にしっかりと軸ずれ対策を行えば,統計学的には有意差があっても臨床的な問題はなく,良好な裸眼視力をもたらして眼鏡使用率も低下させることができる1,5,6).乱視は年齢とともに倒乱視化することが知られており14),倒乱視の患者についてはできるだけ乱視を減らすことが望ましいと考える.とくに,多焦点眼内レンズや低加入度数調節型トーリック眼内レンズを使用する場合には,乱視をしっかりと矯正することが重要である.しかし,若年者の直乱視の過度な矯正は控えるべきであり,1.0D程度の直乱視を残すことで,長期にわたって良好な裸眼視力を維持することができると考えている.各トーリック眼内レンズ1190あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(32)-

 息子(眼科医)が父(眼科医)に多焦点眼内レンズを入れた

2022年9月30日 金曜日

息子(眼科医)が父(眼科医)に多焦点眼内レンズを入れたASon,WhoisAnOphthalmologist,ImplantedAPCIOLinHisFatherWhoisAlsoAnOphthalmologist木村格*I先進医療から選定療養へ―最近のわが国の多焦点眼内レンズの動向ここ数年間は「いよいよ多焦点眼内レンズが先進医療から除外されるかも」と,保険点数改定のたびにその噂を耳にされてきたのではないだろうか.そしてついに噂が現実となり2020年その終焉に向かうなか,全国で爆発的に症例数は増加していき,その最終月である3月にはその数は過去最高のピークに達した.そして2020年4月から多焦点眼内レンズの保険体制は先進医療から選定療養に移行し,予想通り多焦点眼内レンズは国内の年間症例数がここ10年で初めて減少傾向に転じた1).しかし,選定療養が開始となったここ数年でも多焦点眼内レンズは国内承認,国内未認可ともに国内外の各メーカーがこぞって新しい光学デザインをもつ特色のある多焦点眼内レンズを開発し(図1),これからも多くの新しい光学特性をもつ多焦点眼内レンズが発売されるのではないかと予想される.これによって多様化する患者ニーズに合わせて,多くの選択肢のなかから多焦点眼内レンズを選択できる時代が到来することは間違いなく,活気づく多焦点眼内レンズ市場に呼応し学会や講演会でもまだ多数の発表があり,多焦点眼内レンズ診療を継続している現臨床場でも一向にしりすぼみの様子はみられていない.最近は各施設のホームページや巷で有名な眼科医ユーチューバーにより発信される多焦点眼内レンズの最新情報をいち早く,気軽に入手可能な時代となっており,受診患者が最新の多焦点眼内レンズを名指しで希望するケースも少なくない.多焦点眼内レンズは選定療養開始以降の年間国内症例の総数は減少したが,眼科医はもちろん患者からもまだまだ注目を浴びて続けている.II国内承認レンズ(選定療養)vs未承認レンズ(自由診療)上記の選定療養で使用可能な多焦点眼内レンズは国内承認を得たレンズのみである.ただし,未承認レンズには承認レンズがもっていない優れた光学特性をもつものも多く,この両者の特徴を知っておく必要がある.この両者を比較したときに患者がまず感じるのは,一般的に国内承認のレンズより未承認のレンズはコストが高いということであろうが,これ以外の相違点を考えてみる.国内承認レンズは当然安全性が高く,治療実績が豊富で,多焦点眼内レンズをとりあつかっている施設のほとんどで手術が受けられる場合が多い.自由診療での国内未承認レンズはいわゆる輸入レンズとなり,倫理委員会での審議が必須であり,納期も不安定で,トラブル時の対応が煩雑になるなどのデメリットのある一方で,大手メーカーではない中小企業が開発した今までにない最新設計のレンズが多く,画期的で光学的にも承認レンズより優れ,レンズパワー(眼内レンズ度数)も幅広く,強*KakuKimura:木村眼科内科病院〔別刷請求先〕木村格:〒737-0029広島県呉市宝町3-15木村眼科内科病院0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(17)1175199120072007200920112011201720182019202120223M社AlconAMOAMOAMOHOYAAMOAlconAlconAMOAlconDi.ractiveReSTORReZOOMTecnisMultifocalTecnisMultifocalisiiSymfonyACTIVEFOCUSPanOptixSynergyClareonMultifocalPanOptix1991~20072008200920102011201220132014201520162017201820192020202120222010201120112017201720172018201820192020PhysIOLZEISSOculentisVSYSIFIRaynerPRECIZONALSANZAPhysIOLHanitaFineVisionATLISAtriLentisBiotechnoligyMedtechRayOnePresbyopicALSAFitFineVisioLensesAcrivaTrinovaMiniWelltrifocalNVAIOLFOURIERTriumFIntensity図1わが国で使用可能な多焦点レンズ年表図2夜間グレア・ハロー・スターバーストのシミュレーション画像単焦点W60は70%以上の患者がハローの自覚もないが,多焦点眼内レンズは明らかにハローなどが出現する.(野口三太朗:眼科グラフィック12:190,2021より引用)2.92.82.72.62.52.4DFRIntensityPodFPodLRAOTFNTTriDIFFTrinovaW60nonGlareGlare図3コントラストの比較スコアが高いほどコントラストは高い.(野口三太朗:眼科グラフィック12:189,2021を改変引用)ZMB00ZXRを誇っていたC2焦点型CSN6AD1(Alcon社),ZMB(AMO社)などは光学的ロスがC20%程度であったが,ここ数年で発売されたレンズでは光学的ロスがC10%程度に抑えられ,承認レンズではCSymfony(ZXR)(AMO社),PanOptix(TFNT)(Alcon社),未承認レンズではCIntensity(Hanita社),FineVisionPodL(Physiol社)などは単焦点眼内レンズに迫る良好なコントラストデータ(図3)が得られており,臨床的にも使いやすい多焦点眼内レンズが増えてきた.C3.弱点③瞳孔径現在の多焦点眼内レンズは回折型が主流となり,以前ほど術前の適応判断において小瞳孔に注意をはらわなくなった.昔は二大巨頭のひとつであった屈折型は瞳孔径に依存しており,とくにC3Cmm径以下の小瞳孔の場合は光学面の近用ゾーンが瞳孔に隠れてしまい多焦点性が損なわれてしまうが,回折型は回折構造による焦点の振り分けのため,小瞳孔でも多焦点性が保たれる.しかし,今でも多焦点眼内レンズのタイプを問わず明所・暗所での瞳孔径の確認は必要と考える.最近は光学デザインが複雑化し,光を効率よく複数の焦点に振り分ける一方で,同じレンズでも明所・暗所での瞳孔径によって各焦点への光の配分が変化する.もちろん各レンズによって瞳孔径による光の配分が違うので,各レンズの明所・暗所での見え方を把握し,これを患者ニーズに照らし合わせたレンズ選択をしないと不満が生じる場合がある.CIV多焦点眼内レンズの適応疾患基本的には白内障以外の眼合併症を認める患者には多焦点眼内レンズは避けるべきである.十分な視力改善が見込めない状況では,患者にとって高額経費を負担してまで多焦点眼内レンズを使う意義はない.具体的には角膜疾患(角膜の光学的・形態的異常による矯正不能視力の改善不十分が予想される患者),網膜疾患(とくに将来的に網膜手術が必要となる可能性が高い患者),視神経疾患(緑内障の視野異常によりコントラスト感度が低下している患者)は除外する必要がある.ただし,長期間変視症を認めていない黄斑前膜,視野異常やコントラスト感度低下をきたしていない前視野緑内障(preperimetricCglaucoma)などは例外的に多焦点眼内レンズを選択できる可能性がある.疾患の性質や進行状況,本人の意向・状況理解の有無などを総合的に検討し,十分な視機能が得られない可能性や,良好な術後視力が将来的に低下する可能性も説明したうえで,最終的に本人の了解・納得を同意書などで確認ができたなら,本来多焦点眼内レンズを諦めるべき患者のなかから例外的な適応症例となる患者といつか遭遇するかもしれない.このとき重要なのは自分,もしくは家族が患者ならその状況でも多焦点眼内レンズを選択するかどうかを考え判断することである.CV眼科医が眼科(白内障)の手術を受けるさて,いよいよ今回の本題に入る.われわれ眼科医が自身の白内障手術を決心するときは,何がきっかけになるのだろうか?視機能低下を自覚し日常生活や仕事に支障をきたすようになってからが手術を決心するタイミングと思われるが,これは患者と変わりはないであろう.ただし,眼科サージャンたちにとっては,顕微鏡下の術野がこれまでと違う光景に見えはじめたとき「これまでの手術パフォーマンスを発揮できないかも」という不安を感じることとなる.個人的には白内障手術の連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorhexis:CCC)が見えにくくなり,自身の白内障手術を決断した眼科医を数名知っている(眼科医である筆者の父もそのひとり).白内障による自身の手術パフォーマンスの低下が患者の術後視力に悪影響を与える可能性が出てきたとき,眼科サージャンはその責任感のもとで手術を引退するか,あるいは白内障手術を受けるかの決断を迫られる.CVI多焦点眼内レンズvs単焦点眼内レンズ手術を決心したら,その次に考えることは,まずはどの施設でどの眼科医に執刀してもらいたいかではなく,自身の眼の中にどの眼内レンズを入れるかだろう.眼科医は患者と違い各種眼内レンズの光学デザインや臨床データ(自験例含む)を大いに参考にして吟味することができる.眼内レンズ選択の最初の入り口は多焦点か単焦1178あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(20)点かの判断であろう.まず,単焦点派にはコントラスト低下とグレア・ハローを理由に多焦点を回避する意見が多い.多焦点派は多焦点眼内レンズユーザーに多く,そのなかでもヘビーユーザーほどその傾向が強い.日本白内障屈折矯正手術学会会員のアンケートでは,自身の執刀する白内障手術に占める多焦点眼内レンズの割合が2021年では平均C3.8%1)という状況であったが,その割合がC5%以上の術者,つまり眼内レンズを数多く手がける術者に限ると,自分の眼に多焦点眼内レンズを希望する者はC77.5%であった.具体的に現時点で希望する多焦点眼内レンズはシェアの多い順にCSynergy16.1%,CPanOptix12.9%,LENTISMplus(Oculentis社)12.9%,Intensity6.4%となった.また,多焦点眼内レンズを数多く手がける術者のなかで自身には希望しないC22.5%の眼科医も,この先でもっと光学的に優れた多焦点眼内レンズが登場し,自ら執刀したその良好な臨床成績を目の当たりにすれば,自身の眼にも多焦点を希望する割合が増えていくと推測される.CVII当院における医療関係者の多焦点眼内レンズ自験例当院で多焦点眼内レンズを挿入した眼科医を含む医療関係者の自験例は,今後自身に多焦点を検討する眼科医にとって参考となると思われるので紹介する.まず眼科医はもちろんのこと,他科の医師をはじめとする医療関係者(医療事務員は除く)の診療には非常に気を遣うものである.彼らには過去の自験例のデータを提示しながら通常より詳細に多焦点眼内レンズの事前説明をしがちだが,過剰な説明は無駄,もしくは不必要となることがしばしばある.医学知識を持ち合わせる医療関係者は事前リサーチの理解が深く,ときに知人の眼科医に説明を得ている場合もあり,来院時にすでに多焦点眼内レンズの概要を正しく,深く理解している人が多い.一般の患者ではグレア・ハローの説明を聞き,過剰に心配し多焦点を断念するケースが時々あるが,医療関係者の場合はそれが日常生活や運転に支障をきたすケースが少なく,数カ月で徐々に消失するケースが多いことまで理解されている方がほとんどで,説明後の単焦点への変更例がほとんどみられない.最近では医療関係者,とくに眼科医のほうが気楽に説明をさせていただいている.当院での過去C10年の医療関係者の多焦点眼内レンズ挿入症例を振り返ると,2011.2021年までにC19症例を数える.内訳はC2018年までのC9例はすべて看護師,2019年からのC10例は医師がC7例,看護師C3例だった.医師の内訳は眼科医C1名,外科医C1名,内科医C1名,産婦人科医C1名,歯科医C3名で,医師に使用した多焦点眼内レンズは全C7例とも本人希望にてCPanOptixだった.その情報源は知人の眼科医に聞いたり,眼科施設のホームページなどのネットサーフィンからが多い.また一部であるがCPanOptixを文献検索して臨床経過までを把握している医師もみかけられた.医師の平均年齢C71.5歳(全員現役),術後C11カ月の遠見裸眼視力C1.01,中間裸眼視力C0.89,近見裸眼視力はC0.71.術後の診療は全員が裸眼で業務可能となっており,外科医C1名のみ読書時に眼鏡装用と回答した.術後C1カ月での満足度アンケート(5点満点)の結果は医療関係者全体のC4.09点に対し医師はC4.42点となっており,症例数が少ないながらも医師のほうが満足度がより高い傾向がみられた.これは良好な裸眼視力に加え医師全員が現役ドクターの状況で,術後における診療業務中の眼鏡装用率0%であったことが大きいと思われる.また,筆者が多焦点眼内レンズを始めたC2010年頃は除外すべき職業の中に歯科医が含まれており,基本的にはその対象から当時は歯科医を除外していた.これは多焦点眼内レンズの術後コントラストの低下によって歯のエナメル質の視認がむずかしくなるからである.しかし,今回の対象者の中にはC3名の歯科医を含んでいたが,3名とも満足度は非常に高い結果であった.当時の多焦点眼内レンズ(おもにC2焦点型)による光学的損失(いわゆる光のロス)は約C20%だったが,ここ数年に登場した多焦点眼内レンズのほとんどは光のロスがC10%前後でコントラストの低下はかなり改善されているといえる.したがって,多焦点眼内レンズの職業的適応は歯科医にも今後拡大する可能性がある.(21)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1179LogMAR視力-0.2-0.100.10.20.30.40.50.60.70.80.91m50cm30cm21.510.50-0.5-1-1.25-1.5-2-2.5-3-3.5-4-4.5-5DiopterTFNTDFRIntensityACTIVEZXRSV25図4当院で使用してきた代表的な多焦点眼内レンズの焦点深度曲線(自験例)表1父の術前.術後の裸眼視力(77歳,男性,眼科医)・術前視力右眼C0.3(1.0C×S+3.75D(C.1.5DCAx80°)左眼C0.2(0.9C×S+3.75D(C.1.0DCAx100°)・術後C1カ月遠見右眼C0.8(1.0C×S+0.5D(C.0.5DCAx175°)左眼C1.0(n.c.)中間(60cm)右眼C0.8(n.c.)左眼C0.8(n.c.)近見(40cm)右眼C0.8(1.0C×S+0.75D(C.1.5DCAx80°)左眼C0.8(n.c.)-

二焦点眼内レンズ

2022年9月30日 金曜日

二焦点眼内レンズBifocalIntraocularLens原雄将*はじめに現在,わが国における白内障手術の施行例は高齢化に伴い年間約C100万人に到達している.そのC100万人の生活スタイルはさまざまであり,術後の見え方に対するニーズも多種多様である.そのニーズに答えるため眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の種類もいろいろと選択できる状況である.とくに近年は高齢者層にもパソコンやスマートフォンの普及が広まり,中間距離で眼鏡をかける必要のない生活を望む声が高まっている.白内障手術時に挿入されるCIOLとして,単焦点CIOL,乱視を矯正するトーリックCIOL,二焦点CIOL,多焦点IOL,焦点深度拡張型CIOL(extendedCdepthCoffocus:EDOF)などがある.これらのCIOLがうまく機能すると術後に眼鏡が不要になることもありCQOLは向上する.単焦点CIOLは焦点がC1カ所なので見えるところははっきり見えるが,そこから離れるとCIOLにはピント調節機能がないためにぼやけてしまい,術後眼鏡が必要となる患者が多い.多焦点CIOLは眼に入ってきた光を遠方用と近方用に振り分けるため,光がその分減少してコントラスト感度が低下する.また,夜間に光の周りに輪がかかったように見えることをハローといい,火花のように見えることをグレアというが,この不快な症状が出現する可能性があり,たとえば夜間の運転が多いドライバーなどには不向きである.ほかにも二峰性のピント設定の多焦点CIOLでの中間距離の落ち込こみや,屈折型の多焦点CIOLでは瞳孔径に機能が左右されやすい,自由診療もしくは選定療養扱いになるため,費用が高額になる,などのデメリットがある.CI新しいタイプの二焦点IOL多焦点CIOLのカテゴリー外での新しいタイプの二焦点CIOLがC2019年C4月に保険適用になった.参天製薬から販売されたレンティスコンフォート(図1)である.従来のCIOLは円形のレンズに二つの支持部がついた形状であるが,レンティスコンフォートは長方形のプレート型CIOLであり,分節状屈折型で上半部は遠方用に,下半分には中間用に+1.5Dの度数が加入されているこ遠用ゾーン中間用ゾーン(+1.5D)図1レンティスコンフォートの模式図*YusukeHara:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕原雄将:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(13)C1171とで遠方から中間まで良好な視力が得られる.光が上部の遠方部分と近方部分を通れば自然に網膜に結像するため,遠近両用眼鏡のように遠くを見るときにはレンズの上のほう,近くを見るときは下のほうを意識して使用する必要はない構造となっている.また,高いCAbbe数のため色収差が少ない.Abbe数とは光の分散の程度を示す値で,Abbe数が小さいほど色収差が大きく,大きいほど色収差が小さくなる.角膜には正の色収差があるのでCIOLにより色収差が少なくなればなるほどコントラスト感度が良好となる.他の特徴として,グリスニングが起きにくい.疎水性アクリル素材のCIOLは不規則な配列のポリマー構造をしているため,IOL内部の間隙に水滴が取り込まれ,光学部中央につぶつぶの斑点が生じる.これをグリスニングという.レンティスコンフォートは親水性アクリル素材で,規則正しい配列のポリマー構造をしているためグリスニングが起きないとされている.ハロー・グレアも従来の多焦点CIOLに比べて軽度で少ない.その理由は,レンティスコンフォートの形状は光学部上方にある遠用ゾーンと下方にある中間ゾーンに分かれており,移行部のラインはC1本だけなので,施行部で生じる光の散乱も少ないからとされている.焦点深度が拡張されるなどの特徴をもつ.しかし,視力検査では注意点がある.それは加入度数の入っているレンズの下の部分を測ってしまうことがあり,オートレフでの測定値がばらつく可能性がありえる.そのため,自覚的検査の結果を優先することが重要とされている.乱視用のレンティスコンフォートもあるので乱視の強い患者にも使用可能である.CIIレンティスコンフォートの大規模前向き多施設研究レンティスコンフォートの大規模前向き多施設研究の結果を述べる1).この研究はレンティスコンフォートを評価し,厚生労働省に承認申請するためのC12カ月間の第CIII相臨床試験であり,白内障手術を受けたC65名,120眼を対象とした.年齢はC44.88歳(69.7C±7.9歳,平均±標準偏差),男性C17名,女性C48名であった.眼科検査は術前,術翌日,1週間,1,3,6,9,12カ月後に実施した.評価項目は補正しない遠方視力(uncoreeteddistanceCvisualacuity:UDVA)および矯正遠方視力(correctedCdistanceCvisualacuity:CDVA),70Ccmで測定した補正しない中間視力(uncorrectedCintermedi-ateCvisualacuity:UIVA)および矯正中間視力,30cmで測定した補正しない近方視力(uncorrectedCnearCvisualacuity:UNVA)および矯正近方視力(distance-correctedCnearCvisualacuity:DCNVA)などである.患者にはハロー・グレアなどのいわゆるCphoticCphe-nomenaの程度や,治療結果に対する総合的な満足度を,とても高い,高い,中等度,低い,の順にC4段階で評価してもらった.結果を図2~7に示す.全観察期間を通して遠方視力はCUVDAがC1.0程度,CDVAがC1.2程度であり,良好な結果であった(図2)1).70Ccm中間視力はCUVDA,CDVAともにC0.8程度であった(図3)1).30cm近方視力は遠方,中間に比べて低いレベルでUNVA,DCNVAはそれぞれC0.33,0.28程度にとどまった(図4)1).ハロー・グレアの程度についてはともに重度の自覚を訴えた者はいなかった(図5,6)1).総合的な満足度はほとんどの患者が「とても高い」「高い」と回答した(図7)1).この研究は対照群がないため研究に限界があり,理想的には他の多焦点CIOLや単焦点CIOLと比較することが望ましいが,結論としてレンティスコンフォートは遠方・中間視力に優れ,光による不快な現象が少なく,満足度の高いCIOLといえる.CIII自験例次に自験例を紹介する.当院は大学病院という特性上,手術後経過良好な患者は早々に逆紹介するため,術後C1週間後での各距離の満足度を調査した.遠方の見え方は「とても満足」がC44%,「満足」がC39%で満足がC8割を超え,中間も「大変満足」がC48%,「満足」がC32%とC8割を超えた(図8).また,レンティスコンフォートを使い始めてからの開業医からの紹介状には「ゴルフをされる方なのでレンティスコンフォートはいかがでしょうか」「ご友人がレンティスコンフォート挿入後に眼鏡不要となったので同じ眼内レンズを希望です」「狭隅角で視力は矯正でC1.2とまだよいのですが,白内障手術はいかがでしょうか」などと書かれており,術後の裸眼視力向上が期待される1172あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(14)-0.4-0.4-0.2-0.20視力(logMAR)0.20.40.60.80.8111.21.2測定時期測定時期図2遠方視力図370cm中間視力(ScientificReports9:13117,2019より引用)(ScientificReports9:13117,2019より引用)-0.4(%)■none■mild■medium■severe100-0.2800pre1D1W1M3M6M9M12Mpre1D1W1M3M6M9M12M視力(logMAR)0.2600.4400.60.8201.2(%)100806040200pre1D1W1M3M6M9M12M0(%)100806040200pre1M3M6M9M12M測定時期図430cm近方視力(ScientificReports9:13117,2019より引用)C■none■mild■medium■severepre1M3M6M9M12M時期図6ハローの程度時期図5グレアの程度■veryhigh■high■medium■lowpre1M3M6M9M12M時期図7術後の総合的な満足度%100■とても不満80■不満■普通■満足6040■とても満足200図8両眼レンティスコンフォート挿入患者(23例)における各距離の満足度(術後1週間)