●連載271監修=稗田牧神谷和孝271.AIを用いたICLサイズの最適化神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学後房型有水晶体眼内レンズの問題点として,レンズが大きすぎると隅角閉塞や眼圧上昇が,小さすぎると白内障やトーリックレンズの軸回転が生じるリスクがある.従来ノモグラムでは,サイズ選択ミスによる摘出・交換例が散見される.術前前眼部光干渉断層計データを機械学習させた人工知能(AI)でCvault量を予測したところ,すべての学習モデルにおいて従来より有意に予測誤差が軽減した.とくにランダムフォレストの予測性が高く,適切なサイズ選択に貢献できる可能性が示唆された.C●はじめに後房型有水晶体眼内レンズであるCimplantablecollam-erlens(ICL)は,挿入したレンズが大きすぎると隅角閉塞や眼圧上昇を生じるリスクがあり,小さすぎると外傷性白内障やトーリックレンズの軸回転を生じるリスクがある.したがって,適切なCICLサイズ選択は手術自体の安全性を考えるうえで重要な問題である.近年,機械学習をはじめとする人工知能(arti.cialintelligence:AI)による画像診断が注目されており,眼科医療においても広く応用されているが,機械学習についてはほとんど応用されていない.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)の普及も加速しており,さまざまなバイオメトリー(生体計測)データを非侵襲的かつ高精度に得ることができるようになった.前眼部OCTによるさまざまなバイオメトリーデータをCAIに機械学習させてCICLのCvault量(レンズと水晶体の距離)を予測し,最適CICLサイズを決定することが可能となれば,ICL手術の術後合併症を大幅に軽減し,手術の安全性が向上するとともに,患者満足度も改善できる可能性が高い.しかし,これまで前眼部COCTを用いた予測式はいずれも線形重回帰によるアプローチであり,機械学習モデルを組み合わせたアプローチについては検討されていない.本稿では,韓国との国際多施設共同研究により,前眼部COCTによる多くの生体計測データをCAIに機械学習させることによってCvault量予測とCICLサイズの最適化を試みたので紹介する1,2).C●対象と方法通常のCICL手術を施行し,術後C1カ月の経過観察が可能であったC1,745例C1,745眼を対象として,前眼部OCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて(69)術前前眼部形状データを計測し,術後C1カ月の時点において,同装置を用いてCvault量を定量した.屈折異常以外に眼疾患を有する症例や術中・術後合併症を生じた症例は解析から除外した.術前因子として,年齢,性別,球面度数,乱視度数,等価球面度数,矯正視力,ICLパワー,ICLサイズ,角膜横径(whitetowhite:WTW),前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD),隅角間距離(angleCtoangle:ATA),水晶体膨隆度(CLR,ACW,LV),中心角膜厚,隅角開大度(AOD500,TISA500),瞳孔径を用いた.術後因子として,各レンズサイズ別の術後Cvault量を実測し,いくつかの機械学習モデルを用いて術後Cvault量予測を行い,予測Cvault量がC500Cμmにもっとも近いものを最適サイズとして選択した.全体をC5グループに分け,4グループのデータを機械学習に用いて,残りC1グループで術後Cvault量を予測し,5分割交差検証によって予測式の精度を検証した.機械学習モデルとして①サポートベクター回帰(supportCvectorregressor:SVR),②ランダムフォレスト回帰(randomforestregressor:RFR),③勾配ブースティング回帰(gradientCboostregressor:GBR),④線形回帰(linearregressor:LR)を用いて,もっとも予測性の高い手法を選択した.さらに,従来のCWTWとACDを用いたメーカー推奨ノモグラムとも比較した.C●結果術前患者背景因子について表1に示す.1,745眼中C12眼(0.7%)にCICL交換(9眼:lowvault,1眼:highvault,2眼:頻回の軸回転によるノントーリックCICLへの変更),27眼(1.5%)にトーリックCICLの軸整復を施行した.さまざまな機械学習によるCICLvault量予測性の結果を図1,2に示す.従来ノモグラムと比較して,すべての機械学習モデルにおいて有意に術後誤差が軽減し,とくにCRFRの予測性が高く,ついでCGBR,LR,あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16370910-1810/22/\100/頁/JCOPY1250表1術前患者背景因子1250SVRGBR10001000眼数C1,745C750750500500年齢(歳)C26.2±6.8(95%CCI:12.9~39.4)356.3250250達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量達成vault量-予測vault量男:女(人)656:1089等価球面度数(diopter)-8.67±2.52(95%CI:-13.61~-3.72)0-250-327.20-250-500025050075010001250025050075010001250-500-1.78±1.16(95%CI:-4.04~0.49)達成vault量と予測vault量の和の平均達成vault量と予測vault量の和の平均乱視度数(diopter)RFR12501250LR矯正視力(logMAR)-0.02±0.09(95%CI:-0.19~0.16)WTW(角膜横径)(mm)C11.74±0.37(C95%CCI:C11.03~C12.46)ACD(前房深度)(mm)C3.34±0.24(C95%CCI:C2.87~C3.82)ATA(隅角間距離)(mm)C11.79±0.36(C95%CCI:C11.09~C12.49)100075050025001000750500250264.20-250-262.4-250CLR(mm)-46.18±181.31(C95%CCI:-401.55~C309.18)ACW(mm)C11.89±0.43(C95%CCI:C11.06~C12.72)LV(mm)-0.20±0.22(95%CI:-0.63~C0.23)中心角膜厚(Cμm)C528.4±34.1(C95%CCI:C461.7~C595.2)AOD500(mm)C0.74±0.27(C95%CCI:C0.21~C1.27)TISA500(degree)C57.04±13.76(C95%CCI:C30.07~C84.02)CLR:crystallinelensrise,ACW:anteriorchamberwidth,LV:lensvault,AOD:angleofdistance,TISA:trabecularirisspacearea,CI:con.dentinterval(信頼区間)C100■≦50μm■≦100μm■≦150μm■≦200μm90-500025050075010001250-500025050075010001250達成vault量と予測vault量の和の平均達成vault量と予測vault量の和の平均図1機械学習を用いたICL手術の予測vault量と達成vault量のBland.Altman解析点線範囲内がC95%信頼区間であり,とくにCRFRの予測性が高く,ついでGBR,LR,SVRの順であった.SVR:サポートベクター回帰,GBR:勾配ブースティング回帰,RFR:ランダムフォレスト回帰,LR:線形回帰.C32.52特微量の重要度8070601.51眼数(%)50400.530200ICLICLLVACDCLRATAACWAgeMSECCTWTWSphPupilsizepowersize10術前因子0SVRGBRRFRLRNomogram図3ランダムフォレスト回帰による特徴量の重要度ICLサイズがもっとも高く,ついでCICLパワー,LV,図2機械学習を用いたICL手術のvault量予測性ACD,CLR,ATAの順であった.従来サイズノモグラムと比較して,すべての機械学習モデルにおいて有意に予測性が向上したが,とくにCRFRの予測性が高かった.SVR:サポートベクター回帰,GBR:勾配ブースティング回帰,RFR:ランダムフォレスト回帰,LR:線形回帰,Nomogram:従来ノモグラム.SVRの順であった.RFRによるCvault量予測の特徴量の重要度を図3に示す.ICLサイズがもっとも高く,ついでCICLパワー,lensvault,ACD,CLR,ATAの順であった.以上の結果より,前眼部COCTとCAIを組み合わせることでCvault量予測性が著明に向上し,ICLサイズ選択ミスにより生じる閉塞隅角,眼圧上昇,外傷性白内障の発症リスクを軽減し,さらなる安全性の向上につながるC1638あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022可能性が示唆された.さらに,複数のモデルを融合させたアンサンブル学習によって予測性がより向上する可能性があり3),今後さらなる研究の発展が期待される.文献1)KamiyaK,RyuIH,YooTKetal:Predictionofphakicintraocularlensvaultusingmachinelearningofanteriorsegmentopticalcoherencetomographymetrics.AmJOphthalmol226:90-99,20212)神谷和孝:AIを用いた予測式.有水晶体眼内レンズ手術(神谷和孝,清水公也編),医学書院,20223)KangEM,RyuIH,LeeGetal:Developmentofaweb-basedensemblemachinelearningapplicationtoselecttheoptimalsizeofposteriorchamberphakicintraocularlens.TranslVisSciTechnol10:5,2021(70)