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眼内レンズ挿入眼の落屑緑内障に対する線維柱帯切開術の 長期成績

2022年8月31日 水曜日

眼内レンズ挿入眼の落屑緑内障に対する線維柱帯切開術の長期成績福本敦子柴田真帆豊川紀子松村美代黒田真一郎永田眼科CLong-TermOutcomeAfterTrabeculotomyasInitialSurgeryinPseudophakicEyeswithExfoliationGlaucomaAtsukoFukumoto,MahoShibata,NorikoToyokawa,MiyoMatsumuraandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:眼内レンズ挿入眼(IOL眼)落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)に対する初回観血的緑内障手術としてのサイヌソトミーおよび深層強膜弁切除併用線維柱帯切開術(以下,LOT)の長期成績について報告する.対象および方法:2011年.2016年にCIOL眼CEXGに対して初回緑内障手術としてCLOTを施行し,術後C3年以上経過観察できたC31例C31眼(追跡率C86%,年齢C73.8C±7.0歳,観察期間C64.0C±21.4カ月)を対象とし,術前後の1)眼圧,2)薬剤スコア,3)眼圧C20CmmHgおよびC15CmmHg以下への生存率,4)観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)について後ろ向きに検討した.結果:1)術前後の眼圧(術前/術後C3年)はC26.4C±7.0/18.0±5.8CmmHgで,術後C4年まで全観察期間において術前よりも有意に眼圧下降が得られた.2)薬剤スコアは,術前C3.6C±0.9で術後C2年半まで有意に低下し,術後C3年でC2.9C±1.4と以後は有意差がなくなった.3)生存率は,20CmmHgでC3年生存率C38.7%,15CmmHgではC12.9%と不良であった.4)術後C3年までの再手術例はC15眼(48.4%)あり,うちC13眼で濾過手術が選択された.結論:既報の有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTと比較して,IOL眼CEXGに対する初回CLOTは早期に眼圧コントロール不良となる可能性が高い.CPurpose:ToCevaluateCtheClong-termCoutcomeCaftertrabeculotomy(LOT)asCinitialCsurgeryCinCpseudophakicCeyesCwithCexfoliationglaucoma(IOL-EXG)C.CMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC31CeyesCofC31Cpatients(meanage:73.8C±7.0years)withCIOL-EXGCwhoCunderwentCLOTCasCtheCinitialCsurgeryCforCEXGCbetweenC2011Cand2016andwerefollowedforatleast3-yearspostoperative(meanfollow-upperiod:64.0C±21.4months).Inallpatients,thefollowingfouroutcomeswereevaluated:1)intraocularpressure(IOP)change,2)changeinglaucomamedicationCscore,3)Kaplan-MeierCsurvivalCcurveCatCtheCIOPCofClessCthanC20CorC15CmmHg,Cand4)percentageCofCpatientsrequiringreoperation.Results:MeanIOPsigni.cantlydecreasedfrom26.4C±7.0CmmHgto18.0±5.8CmmHgatC3-yearsCpostoperative,CwithCthatCsigni.cantCmeanCIOPCreductionCmaintainedCuntilC4-yearsCpostoperative.CACsigni.cantreductioninglaucomamedicationscoreswasobserveduntil2.5-yearspostoperative,yetnosigni.cantdi.erencewasfoundbetweenthepreoperativescores(3.6C±0.9)andthoseat3-yearspostoperative(2.9C±1.4)C.At3-yearspostoperative,theKaplan-MeiersurvivalcurveattheIOPoflessthan20CmmHgand15CmmHgwas38.7%and12.9%,respectively,andreoperationwasrequiredin15eyes(48.4%)C,ofwhich13underwent.ltrationsur-gery.CConclusion:ComparedCwithCtheCpreviouslyCreportedC.ndingsCofCLOTCcombinedCwithCcataractCsurgeryCforCphakicEXG,LOTforIOL-EXGismorelikelytoresultinpoorIOPcontrolatanearlystage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1109.1113,C2022〕Keywords:眼内レンズ挿入眼落屑緑内障,サイヌソトミーおよび深層強膜弁切除併用線維柱帯切開術,長期成績.Cpseudophakiceyeswithexfoliationglaucoma(IOL-EXG)C,trabeculotomycombinedwithsinusotomyanddeepscle-rectomy,longterme.ect.C〔別刷請求先〕福本敦子:〒631-0844奈良県奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:AtsukoFukumoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cho,Nara-shi,Nara631-0844,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(99)C1109落屑緑内障(exfoliationglaucoma:EXG)は,眼組織から産生された線維性細胞外物質(落屑物)が流出路組織に沈着することによって房水通過障害が生じて起こる難治性の続発緑内障であり1),早期に点眼による眼圧コントロールが不良となり,何らかの観血的緑内障手術が必要となる場合も多い.その術式選択について,有水晶体眼のCEXGにおいては線維柱帯切開術(trabeculotomy:以下,LOT)が奏効すること2,3),とくに白内障手術同時CLOTが有効であること4)がすでに報告されている.永田眼科でも有水晶体眼CEXGに対するCLOTの長期成績5,6)を検討し,初回と再手術CLOTいずれの場合でも,白内障手術同時CLOTは長期にわたって有効な術式であることを報告した.しかし,すでに白内障手術が過去に施行され眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼(IOL眼)となっているCEXGについては白内障手術同時LOTの選択肢がなく,初回CLOTの有効性についてまだ報告もない.そこで,今回,IOL眼CEXGに対するCLOTの長期成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法1.対象対象は,2011年.2016年に永田眼科においてCIOL眼EXGに対して初回観血的緑内障手術としてCLOTを選択したC36例C36眼のうち,術後C3年以上経過観察できたC31例C31眼(男性C20眼,女性C11眼)とした(追跡率C86%).白内障手術以外の内眼手術既往のある症例は除外し,両眼CLOT施行例は最初に施行したC1眼のみを対象とした.LOT施行時の平均年齢はC73.8C±7.0歳,LOT術後の平均観察期間はC5年4カ月C±1年C9カ月,白内障手術時の平均年齢はC64.6C±9.9歳で白内障手術後平均C9年C4カ月C±5年C1カ月後に初回観血的緑内障手術としてのCLOTが施行された.なお,今回の対象症例におけるCLOTの標準術式は,全例で下半周より行うサイヌソトミー(sinusotomy:SIN)および深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)併用の線維柱帯切開術(LOT+SIN+DS)であり,Schlemm管内皮網除去も施行した.C2.方法(検討項目)以下のC4項目について後ろ向きに検討した.①術前および術後の眼圧経過②術前および術後の点眼スコア③各群における眼圧C20CmmHg以下およびC15CmmHg以下の生存率④術後C3年までに何らかの緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)眼圧および点眼スコアについては,LOT後何らかの緑内障追加治療(レーザーまたは手術)または内眼手術が施行された場合はその時点で脱落とし,施行前までのデータを用いた.また,点眼スコアは緑内障点眼C1剤C1点(配合剤C2点),炭酸脱水酵素阻害薬内服C1点で換算し,生存率はC2回連続して基準眼圧(20CmmHg,15CmmHg)を超えた時点または緑内障追加治療(レーザーまたは手術)を施行した時点で死亡とした.本研究は永田眼科倫理委員会で承認を得たうえで行った(倫理委員会承認番号C2020-010).CII結果①眼圧経過眼圧は術前C26.4C±7.0CmmHg(n=31)で,術後C1年C18.9C±4.4CmmHg(n=27),術後C2年C19.1C±5.5CmmHg(n=22),術後C3年C18.0C±5.8CmmHg(n=15),術後C4年C14.1C±6.4CmmHg(n=7),術後C5年C21.3C±3.3CmmHg(n=3)と術後C4年まで術前より有意に眼圧が低下していた(p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest)(図1).②点眼スコア薬剤スコアは術前C3.6C±0.9(n=31)で,術後1年2.1C±1.2(n=27),術後2年2.7C±1.2(n=22)と術前よりも有意に低下した(術後C1年p<0.01,術後C2年p<0.05,ANOVA+Dunnett’stest)が,術後C2年半以後は有意差を認めず,術後3年2.9C±1.4(n=15),術後4年3.1C±1.6(n=7),術後C5年C2.6C±1.1(n=3)であった(図2).③眼圧C20CmmHg以下およびC15CmmHg以下の生存率眼圧C20CmmHg以下の生存率は,術後C1年C71.0%,術後C2年C45.2%,術後C3年C38.7%,術後C4年C21.5%,術後C5年14.3%であった(図3a).眼圧C15mmHg以下の生存率は,術後C1年C19.4%,術後C2年C16.1%,術後C3年C12.9%,術後C4年C12.9%,術後C5年C0.1%であった(図3b).④観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)の検討初回CLOT後C3年までに何らかの観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)はC15/31眼(48.4%)あった.再手術時の術式は,濾過手術C13眼(線維柱帯切除術C8眼,Ex-pressインプラント手術C5眼),LOT1眼,毛様体凝固C1眼であった(図4).CIII考按今回の研究では,LOT術後C4年まで術前よりも有意に眼圧は下降したが,術後C3年で半数近くが濾過手術を主とした再手術を必要とし,初回観血的緑内障手術としてCLOTを第一選択とすることが疑問視される結果となった.そこで,IOL眼CEXGに対する初回観血的緑内障手術時の術式選択について,筆者ら5)が過去に報告した有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTとの比較を交えて改めて検討する.まず,緑内障全般に対して行われる手術加療は流出路再建眼圧(mmHg)4035302520151050術前1369121824303642485460観察期間(カ月)*(mean±SD)p<0.01;ANOVA+Dunnett’stest図1眼圧経過眼圧は術後C4年までは術前より有意な眼圧下降が得られた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C5薬剤スコア4.543.532.521.510.50生存率(%)術前1369121824303642485460観察期間(カ月)(mean±SD)**p<0.01,*p<0.05;ANOVA+Dunnett’stest図2薬剤スコア薬剤スコアは術後C2年C6カ月まで術前より有意に低下していた(*p<0.01,**p<0.05,CANOVA+Dunnett’stest).Cab100100909080807070生存率(%)606050504040303020201000122436486001224364860観察期間(カ月)観察期間(カ月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.Ca:眼圧C20CmmHg以下への生存率,Cb:眼圧C15CmmHg以下への生存率.7%(1眼)※1LECT:線維柱帯切除術※2Ex-press:Ex-pressインプラント手術図4再手術時の術式術後C3年までに再手術を要した症例はC31眼中C15眼(48.4%)あり,そのうちC13眼で濾過手術が選択された.術と濾過手術とに大別されるが,白内障手術を同時に行うか否かも含めるとその術式選択は複数あり,患者背景はもとより術者や施設によって選択基準が異なるのが現状である.さらに,近年は流出路再建術ではレーザーや低侵襲緑内障手術,濾過手術ではインプラント手術など術式の多様化も進んでおり,各術式のCEXGにおける有効性については今後の多数例かつ長期成績を待たねばならない7).当院でCIOL眼CEXGに対する初回観血的緑内障手術としてLOTを選択した背景には,有水晶体眼CEXGにおいては長期にわたってCLOTを初回観血的緑内障手術における第一選択の術式として施行してきた実績と,LOT単独の術式で問題点となった術後一過性高眼圧の予防やさらなる眼圧下降を目的とするCSchlemm管内皮網切除併用線維柱帯切開術(LOT+SIN+DS)をCLOTの標準術式としてC10年以上前から多数例に施行してきた術式そのものの安定性と安全性があげられる.今回の研究との比較として,2013年に筆者ら5)が検討した有水晶体眼CEXGに対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術(LOT+SIN)の術後成績を示すと,白内障手術同時群(以下,同時CLOT群)74眼(平均年齢C74.7C±6.4歳,平均観察期間C6年C8カ月,対象期間C1998年.2005年,術前眼圧C22.2±5.6mmHg)の場合,術後C3年成績は眼圧C14.1C±3.0mmHgと術前より有意な眼圧下降が得られ,生存率は眼圧20CmmHg以下でC97.3%,15CmmHg以下でC71.6%であった.一方,今回の症例群(以下,IOL眼CLOT群)では術後眼圧はおおむねC10台後半で推移し,術後C3年の生存率はC20mmHg以下でC38.7%,15CmmHg以下でC12.9%と同時CLOT群より明らかに劣る結果となった.このように,白内障手術とCLOTを同時に行った場合と白内障手術後にCLOTを別時期で行った場合とでは,最終的に施行されている手術の内容は同じであるにもかかわらず眼圧経過が異なっていたが,その一因として,患者背景の違いが考えられる.白内障手術時の平均年齢は,IOL眼CLOT群C64.6±9.9歳,同時CLOT群C74.7C±6.4歳と両群間に有意差があり(p<0.001,t検定),IOL眼CLOT群は白内障手術後平均C9年C4カ月を経て同時CLOT群とほぼ同じ年齢であるC73.8C±7.0歳でCLOTが施行されていた.一般に,落屑物は加齢とともに増加して隅角のみならず瞳孔縁,水晶体表面に沈着するため,緑内障以外にしばしば白内障進行や散瞳不良,Zinn小帯脆弱化といった落屑症候群(exfoliationsyndrome:EXS)を伴うことで知られるが,近年,EXSに対する白内障単独手術は,原発開放隅角緑内障や正常眼と比較してより大きな眼圧下降が期待できることが示された8).また,Sayedら7)は,EXGに対する長期の手術加療方針として,緑内障性変化のないCEXSでは,白内障手術合併症のリスクが低い早期のうちにまず白内障単独手術を行うことでCEXGの発症を予防し,それでもCEXGが進行した場合は順次何らかの緑内障手術を施行することが望ましいとしている.これらの近年の既報を加味すると,IOL眼CLOT群はCEXSの段階で白内障手術を施行されたことで結果的には眼圧上昇をおさえられていたこと,しかしC10年近い長期経過のなかで眼圧上昇をきたしCEXGへ進行したことが推測される.さらに,手術時の緑内障病期を比較すると,白内障手術同時LOTの場合,症例のなかには白内障が主たる手術目的でLOTは点眼数を減らす目的でのみ同時施行されるケースもありうるが,Humphrey静的視野検査のCLOT術前平均CMD値は,IOL眼CLOT群C.13.8±9.3CdB,同時CLOT群C.11.3±8.1CdBと有意差なく(p=0.24,t検定),両群ともほぼ同じ緑内障病期で初回CLOTが施行されていた.にもかかわらずIOL眼CLOT群が同時群CLOT群より長期成績が劣っていたことから,EXGに至らないCEXSの発症時期あるいは罹患期間がCLOTの眼圧下降効果に影響するのかもしれないが,現時点ではその機序に関しては不明である.以上から,既報の有水晶体眼CEXGに対する白内障手術同時CLOTと比較して,IOL眼CEXGに対する初回CLOTは早期に眼圧コントロール不良となる可能性が高い.今後,IOL眼EXGに対しては,初回緑内障手術の術式選択は濾過手術を含めてより慎重に考慮する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)布田龍佑:落屑症候群および落屑緑内障の診断と治療.あたらしい眼科25:961-968,C20082)松村美代,永田誠,池田定嗣ほか:水晶体偽落屑症候群に伴う開放隅角緑内障(PE緑内障)に対するトラベクロトミーの有効性と術後の眼圧値.あたらしい眼科C9:817-820,C19923)黒田真一郎:トラベクロトミーの長期成績(発達緑内障も含めて).眼科手術30:571-576,C20174)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCatal:Phacoemulsi-.cation,CintraocularClensCimplantation,CandCtrabeculotomyCtoCtreatCpseudoexfoliationCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC24:781-786,C19985)福本敦子,松村美代,黒田真一郎:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科30:1155-1159,C20136)福本敦子,後藤恭孝,黒田真一郎ほか:落屑緑内障に対するトラベクロトミー後の再手術の検討.眼科手術C22:525-528,C20097)SayedMS,LeeRK:Recentadvancesinthesurgicalman-agementofglaucomainexfoliationsyndrome.JGlaucomaC27(Suppl1):S95-S101,20188)DamjiCKF,CKonstasCAG,CLiebmannCJMCetal:IntraocularCpressurefollowingphacomulsi.cationinpatientswithandwithoutexfoliationsyndrome:a2yearprospectivestudy.BrJOphthalmolC90:1014-1018,C2006***

ヘッドマウント型自動視野計の新しいアルゴリズムによる 検査結果の検討

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1102.1108,2022cヘッドマウント型自動視野計の新しいアルゴリズムによる検査結果の検討北川厚子*1堀口剛*2清水美智子*1廣信麻友美*1*1北川眼科医院*2京都府立医科大学大学院医学研究科生物統計学CComparisonofTwoDistinctScanAlgorithmPatternsinHead-MountedPerimeterAtsukoKitagawa1),GoHoriguchi2),MichikoShimizu1)andMayumiHironobu1)1)KitagawaEyeClinic,2)DepartmentofBiostatistics,GraduateSchoolofMedicalScience,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC対象および方法:ヘッドマウント型自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)の新しいアルゴリズムEXモードが開発された.2019年C1月.2020年C9月にC24plus(1-2)AIZE-RapidとCAIZE-Exの両検査を行った緑内障症例C72人C72眼の比較のため,平均偏差(MD)・パターン標準偏差(PSD)で視野全体の比較を,グレースケール・パターン偏差プロットで各検査点の評価を,また片眼検査時間の比較を行った.結果:MDの中央値はCAIZE-Rapid,AIZE-Exで.3.5[dB],.2.7[dB],PSDはC4.2[dB],4.4[dB]と大きな差はなく,グレースケール・パターン偏差プロットの重み付きカッパ係数はC0.84(95%信頼区間C0.81.0.86),0.79(0.76.0.81)と高い一致度を示し,検査時間は中央値C3.23分,2.99分とCAIZE-Exで有意に短かった.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.ectivenessCofCAIZE-Ex,CaCnewCalgorithmCscan,CinCaChead-mountedCperimeter,C‘IMO’.SubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC72CeyesCofC72CglaucomaCpatientsCinCwhomCIMOCdataCwasCcollectedCbetweenCJanuaryC2019CandCSeptemberC2020CusingCtwoCdistinctCscanalgorithmCpatterns:a)24plus(1-2)AIZE-Rapid,Candb)AIZE-ExCmode.CMeasurementCresultsCwereCcomparedCwithCrespectCtoCglobalCindex,grayscaleimage,thepatterndeviationplotforthetwoscans,andscantime.Results:Withrespecttoglobalindex,nosigni.cantdi.erenceswerefoundbetweenthetwoscanpatterns.Measurementsofthegrayscaleimageandpatterndeviationplotforthetwoscanmodeswereallfoundtobeinaveryhighdegreeofagreement.How-ever,CmeasurementCtimeCwasCsigni.cantlyCshorterCforCtheCAIZE-ExCmode.CConclusion:NoCsigni.cantCdi.erencesCwithrespecttoglobalindexandgrayscaleimagemeasurementswerefoundbetweentheIMO24plus(1-2)AIZE-RapidandAIZE-Exscanmodes,yetmeasurementtimewassigni.cantlyshorterfortheAIZE-Exmode.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1102.1108,C2022〕Keywords:視野,アイモ,AIZE-Ex,AIZE-Rapid,24plus(1-2).visual.eld,imo,AIZE-Ex,AIZE-Rapid,24plus(1-2).Cはじめにヘッドマウント型自動視野計アイモ(クリュートメディカルシステムズ)は,従来の自動視野計とは異なるコンセプトのもとC2015年わが国において開発された1.4).その特徴は両眼開放下に検査を行うこと,自動瞳孔トラッキングシステムにより固視ズレが軽減されていること,アルゴリズムAIZEにより検査時間の短縮が可能となったことなどであり,Humphrey視野計との比較検討がなされている5.9).近年,新しいアルゴリズムCAIZE-Exモードが開発され,検査時間のさらなる短縮が可能となった.筆者らは今回,緑内障の経過観察においてアイモC24plus(1-2)AIZE-RapidとCAIZE-Exの検査結果を比較した.CI対象および方法対象はC2019年C1月.2020年C9月に通常の緑内障経過観察において,24plus(1-2)の検査をCAIZE-Rapidから〔別刷請求先〕北川厚子:〒607-8041京都市山科区四ノ宮垣ノ内町C32北川眼科医院Reprintrequests:AtsukoKitagawa,KitagawaEyeClinic,32Kakinouchi-cho,Shinomiya,Yamashina-ku,Kyoto-City,Kyoto607-8041,JAPANC1102(92)AIZE-Exに移行した患者のうち,両検査の信頼係数が固視不良C20%以下,偽陽性・偽陰性C10%以下であり,また経過中に臨床上明らかな変動や網脈絡膜病変がないものを対象とした.また,両眼とも対象となった場合では右眼を選択した.この研究は京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認(ERB-C-1782)を得ている.C1.診断機器アイモはCHumphrey自動視野計(HumphreyC.eldCanalyz-er:HFA)と同じ条件下に検査を行うが,両眼開放下検査であり,片眼遮閉による影響を排除できる長所を有する.また,自動瞳孔トラッキングにより固視ズレの解消を図り,5°以内のズレであれば正確な測定が可能となっている.中心視野に障害がある例においても,それが片眼であれば固視ズレが少なく,より正確な検査が可能であるなど,両眼ランダム検査を基本とするが,斜視や大きな不同視のため両眼ランダム検査が不可能な場合は両眼開放下で片眼ずつの検査を行う.松本らは両眼ランダム検査と片眼測定の結果は相関すると報告している1).プログラムはC30-2,24-2,10-2に加え,オリジナルの24plus(1-2),24plus(1)を搭載している.アイモの基本アルゴリズムは,AIZE(ambientCinteractiveZEST(ZippyCestimationCofsequentialCtesting))であり,検査点の結果を周囲の検査点にその結果を反映することにより,閾値決定までの試行を低減させ,測定時間の短縮を図っている.検査時間をさらに短縮するためCAIZE-Rapidは検査点の結果を隣接点により強く反映させ,偽陽性/偽陰性/固視監視に関しては追加の刺激を行わないことで検査スピードを上げている.AIZE,AIZE-Rapidはともに従来どおり正常眼データから閾値を探索するが,新しく開発されたアルゴリズムCExモードは過去データを基に検査点の初期値を決定し,確率密度関数を過去データを基に作製するという手法をとり,検査時間の短縮と精度向上を図っている.なお,検査様式はスタンド型を用いた.C2.評価アイモオリジナルの検査配列を図1に示す.24plus(1-2)では,6°間隔にC54点,2°間隔に24点,計C78点(そのうちC2点は盲点)を配している.24plus(1-2)AIZE-Rapid(以下,AIZE-Rapid)とC24plus(1-2)AIZE-Ex(以下,AIZE-Ex)の検査結果を比較するために,以下の指標について評価を行った.(1)視野全体の指標(グローバルインデックス)としての平均偏差(meandeviation:MD),パターン標準偏差(pat-ternCstandarddeviation:PSD)およびCvisualC.eldCindex(VFI)10).(2)76個の検査点ごとの指標としてのグレースケール,パターン偏差およびトータル偏差.パターン偏差について6°間隔54点2°間隔24点>合計78点図124plus(1.2)の配列は,偏差量の統計学的な有意性をもとにC5カテゴリ(0:p≧5%,1:p<5%,2:p<2%,3:p<1%,4:p<0.5%)に分類した変数(パターン偏差プロット)に関しても評価した.(3)片眼の検査時間.C3.統計解析AIZE-RapidとCAIZE-Exの検査結果を比較するために,以下の解析を行った.連続変数の要約統計量としては中央値(四分位範囲)を示した.MD,PSDおよびCVFIにおけるAIZE-RapidとCAIZE-Exの結果について,差の平均値とそのC95%信頼区間,および級内相関係数とそのC95%信頼区間を推定した.また,MD,PSDおよびCVFIにおけるCAIZE-RapidとCAIZE-Exの関係について,散布図およびCBland-AltmanCplot11)を作製した.グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,AIZE-RapidとCAIZE-Ex間の重み付きカッパ係数を検査点(全C76点)ごとに算出し,それらの重み付きカッパ係数の平均およびC95%信頼区間を推定した.なお,重み付きカッパ係数の重みについては,二次の重みとした12).パターン偏差およびトータル偏差について,AIZE-RapidとCAIZE-Ex間の級内相関係数を検査点(全C76点)ごとに算出し,それらの級内相関係数の平均およびC95%信頼区間を推定した.検査対象が左眼の場合は左右を反転して解析を行った.片眼の検査時間については,検査プログラムごとに中央値と四分位範囲を算出し,箱ひげ図を作製した.また,AIZE-RapidとCAIZE-Exの検査時間についてWilcoxon符号付き順位検定を行った.なお,両眼同時ランダム検査の場合,検査時間は両眼検査の足し合わせとなるため,片眼検査同士として比較するためにC1/2に調整した.検定の有意水準は両側C0.05とした.II結果AIZE-RapidとCAIZE-Exの比較に関する対象の特性は,緑内障症例C72例C72眼(右眼C54眼,左眼C18眼),年齢はC24.87歳(中央値:68歳),男女比C23人:49人,屈折球面度数+4.00D.C.16.00D,乱視C0.50D.3.0D,矯正視力C0.4.1.5であった.また,視野検査の精度(信頼性指標の範囲)は,AIZE-Rapid,AIZE-Exの各検査のすべてにおいて,固視不良はC0.20%,偽陽性はC0.10%,偽陰性はC0.6%であった.2種の検査の間隔はC4カ月.12カ月であり,中央値C7カ月であった.また,72例中C57例はCAIZE-Rapid・AIZE-Exとも両眼ランダム検査であり,15例は両検査とも片眼測定であった.C1.グローバルインデックスAIZE-RapidとCAIZE-ExのグローバルインデックスMD,PSD,VFIを比較した結果,MDについてCAIZE-Rap-idでは中央値C.3.5(C.6.5.C.0.9),AIZE-Exでは中央値C.2.7(C.6.1.C.0.6),PSDについてCAIZE-Rapidでは中央値4.2(2.6.10.3),AIZE-Exでは中央値C4.4(2.2.10.2),VFIについてCAIZE-Rapidでは中央値C94.0(82.0.99.0),AIZE-Exでは中央値C94.5(82.0.99.0)であった.差の平均については,MDでC.0.53(95%CCI:C.0.74.C.0.33),PSDで.0.16(95%CCI:C.0.37.0.04),VFIでC.0.11(95%CI:C.0.69.0.47)であり,大きな差はなかった.級内相関係数は,MDでC0.98(95%CCI:0.97.0.99),PSDでC0.98(95%CCI:0.97.0.99),VFIでC0.99(95%CCI:0.98.0.99)であり,一致度は高かった(図2a).Bland-Altmanplotを作製した結果,MD,PSD,VFIともに大きな偏りはなかった(図2b).C2.検査点ごとの指標グレースケールおよびパターン偏差プロットについて,AIZE-RapidとCAIZE-Exの重み付きカッパ係数を算出した結果,それぞれC0.84(95%CCI:0.81.0.86),0.79(95%CI:0.76.0.81)であった.パターン偏差およびトータル偏差について,級内相関係数を算出した結果,それぞれC0.85(95%CCI:0.82.0.87),0.86(95%CCI:0.84.0.88)であり,高い一致度を示した.さらに各検査点の一致度について,グレースケールおよびパターン偏差プロットに対しては重み付きカッパ係数(図3a,b),パターン偏差およびトータル偏差に対しては級内相関係数(図3c,d)をそれぞれヒートマップで表した結果,全体として中等度から高度の一致を示した.C3.検査時間片眼の検査時間について中央値および四分位範囲を算出した結果,AIZE-Rapidで中央値C3.23(2.9.3.8)[分],AIZE-Exで中央値C2.99(2.7.3.5)[分]であり,箱ひげ図を図4に示した.また,検査プログラム間での検査時間の違いをWilcoxon符号付き順位検定により検討した結果,AIZE-Exの検査時間が有意に短かった(S=1048.5,p<0.001).CIII考按視野検査は緑内障診療において発見・診断・治療などに欠かせない重要な検査である.中心C30°外の周辺視野は今なおGoldmann視野計に代表される動的視野計が用いられ,中心30°内は自動視野計の開発以来,Humphrey自動視野計に代表されるようにC6°間隔の測定点を検査する方法が一般的である.近年,緑内障早期発見や後期緑内障の経過観察に中心10°内の検査が重要視され13),2°間隔で検査するC10-2プログラムも多く用いられている.アイモのオリジナルプログラムC24plus(1-2)は,24-2の検査点にさらにC10°内にC24点を加え,とくにC5°内はC10-2と同様のC2°間隔に検査点を配置している.24-2の検査点に加え,QOV(qualityofvision)に重要なC10°内の障害を早期に発見し,あるいは進行例における固視点近傍の情報獲得が一度の検査で可能となっている.自動視野計による視野検査は今日,精度や検査時間など,まだまだ問題点があるため,さまざまな改良が加えられている14).アイモは自動瞳孔トラッキングシステムによる固視ズレの解消によって検査精度を高め,またそのアルゴリズム(AIZE)により,検査時間の短縮を図っている.今回筆者らが検討した新しいアルゴリズム(AIZE-Ex)は,過去データを基に検査点の初期値を決定,確率密度関数(PDF)を過去データを基に作製して,さらなる精度向上と検査時間の短縮を目的としている.緑内障の視野経過観察において,AIZE-RapidからAIZE-Exに移行し,その検査結果を比較したところ,MD,PSD,VFIは両者に差の平均に大きな差はなく,級内相関係数は高い一致度を示した.Bland-AltmanplotにおいてMD・PSD・VFIともに大きな偏りはなかった.検査点ごとの一致度はグレースケール・パターン偏差プロットに対する重みつきカッパ係数・パターン偏差およびトータル偏差に対する級内相関係数の解析により,全体として中等度から高度の一致を示した.検査点C51においては比較的一致度が低く,この点について検討を加えた(図5).検査点C51におけるトータル偏差の散布図を図5bに示すが,2例においてCAIZE-RapidとCAIZE-Exの結果が大きく異なっていた.症例CaではCimoViewerから得られた実測閾値の時系列およびCOCT像より,AIZE-RapidからCAIZE-Exの検査までの約C6カ月間に固視点近傍視野における悪化が認められている(図5c,d).なお,症例Caは両眼ランダム検査であった.症例Cbについては図5eに閾値の時系列を示すが,ばらつきが比較的大きい症例であった.視野感度が低下した部位では検査結果の変動が生じやすいが,この症例は両眼ランダa:MD,PSDおよびVFIの散布図b:MD,PSDおよびVFIのBland-AltmanPlot図2AIZE.RapidとAIZE.Exのグローバルインデックスの比較ム検査が不可能なため,両眼開放下・片眼ずつの検査をして時間短縮が可能とされていたが,視野検査は高い精度でかつおり,固視ズレが生じやすく,これも結果を変動させた可能短時間に行われることが理想であり,AIZE-Rapidより精度性がある.が高いと思われたCAIZE-Exに移行した.その結果,両者は片眼検査時間はCAIZE-Rapid中央値C3.11分,AIZE-Exよく相関し,さらに時間短縮も可能であった.今後はさらに2.95分であった.筆者らは従来,患者の負担軽減のため時間短縮が可能なAIZE-Rapid-Exの精度についての検討のAIZE-Rapidで検査を行ってきた.EXモードではさらなる必要があると考える.a:グレースケール(重み付きカッパ係数)b:パターン偏差プロット(重み付きカッパ係数)c:パターン偏差(級内相関係数)d:トータル偏差(級内相関係数)図3各検査点の一致度重み付きカッパ係数および級内相関係数は0.1の範囲で値を取り,1に近いほど一致度が高いことを示す.検査時間[分]4.54.03.53.02.52.024plus(1-2)AIZE-ExはC24plus(1-2)AIZEあるいはAIZE-Rapidの結果を基に検査が可能であることから,まずAIZE,AIZE-Rapidで検査を行う必要がある.また,移行に際しては被検者に検査で提示される光の印象が変わること,つまり前回の測定値を参照して閾値に近い輝度の視標が初めから提示されるため,AIZE-Rapidでは見えていたわかりやすい光が少ないことに被検者が不安を感じることのないように事前に説明する必要がある.今回の結果でCMD・PSDの中央値がCAIZE-Exで軽度改善されているのは,検査時間の短縮による疲労の軽減が一因と考えられる.今回の比較研究によりアイモC24plus(1-2)AIZE-Exは,今後の視野検査AIZE-Exn=72図4各検査プログラムの検査時間(片眼)に有効な手段となることが示唆された.(96)a:検査点の番号(右眼)(左眼は反転)b:検査点51のトータル偏差(TD)の散布図d:症例a(右眼)24plus(1-2)10°内の経過□検査点51AIZE-ExAIZE-Rapide:AIZE-RapidとAIZE-Exの比較症例b(左眼)24plus(1-2)10°内の経過□検査点51図5AIZE.RapidとAIZE.Exで一致度の低かった検査点51の経過文献1)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.CPLoSCOneC11:Ce0161974,C20162)澤村裕正,相原一:11.ヘッドマウント視野計アイモCR.眼科C58:869-878,C20163)後関利明,井上智,大久保真司ほか:最新機器レポート「ヘッドマウント型視野計アイモCR」.神経眼科C34:73-80,C20174)松本長太:新しい視野検査.日本の眼科C88:452-457,C20175)KimuraCT,CMatsumotoCC,CNomotoH:ComparisonCofChead-mountedperimeter(imoCR)andCHumphreyCFieldCAnalyzer.ClinOphthalmolC13:501-513,C20196)GoukonH,HirasawaK,KasaharaMetal:ComparisonofHumphreyCFieldCAnalyzerCandCimoCvisualC.eldCtestCresultsinpatientswithglaucomaandpseudo-.xationloss.PLoSOneC14:e0224711,C20197)北川厚子,清水美智子,山中麻友美:アイモC24plus(1)の使用経験とCHumphrey視野計との比較.あたらしい眼科C35:1117-1121,C20188)林由紀子,坂本麻里,村井佑輔ほか:緑内障診療におけるアイモ両眼ランダム測定の有用性の検討.日眼会誌C125:530-538,C20219)北川厚子,清水美智子,山中麻友美ほか:ヘッドマウント型自動視野計と従来型自動視野計の検査結果および検査時間の比較.あたらしい眼科C38:1221-1228,C202110)AndersonCDR,CPatellaVM:AutomatedCstaticCperimetry.C2nded,p121-190,Mosby,St.Louis,199911)BlandCJM,CAltmanDG:ApplyingCtheCrightstatistics:Canalysesofmeasurementstudies.UltrasoundObstetGyne-colC22:85-93,C200312)FleissCJL,CCohenJ:TheCequivalenceCofCweightedCkappaCandCtheCintraclassCcorrelationCcoe.cientCasCmeasuresCofCreliability.EducPsycholMeasC33:613-619,C197313)DeMoraesCG,HoodDC,ThenappanAetal:24-2visual.eldsmisscentraldefectsshownon10-2testsinglauco-maCsuspects,CocularChypertensives,CandCearlyCglaucoma.COphthalmologyC124:1449-1456,C201714)田中健司,水野恵,後藤美紗ほか:Humphrey視野計におけるCSITAStandardとCSITAFasterの比較検討.あたらしい眼科C36:937-941,C2019***

強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の 眼圧下降効果

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1097.1101,2022c強度近視眼緑内障における選択的レーザー線維柱帯形成術の眼圧下降効果池上裕華*1新田耕治*2松田卓爾*1坂部敦子*1余頃麻里*1河野文香*1楢崎智也*1露木未夕*1杉山和久*3生野恭司*1*1いくの眼科*2福井県済生会病院眼科*3金沢大学付属病院眼科CE.ectofIOPReductioninHighMyopiaGlaucomabySelectiveLaserTrabeculoplastyYukaIkenoue1),KojiNitta2),TakujiMatsuda1),AtsukoSakabe1),MariYogoro1),AyakaKono1),TomoyaNarazaki1),MiyuTsuyuki1),KazuhisaSugiyama3)andYasushiIkuno1)1)IkunoEyeCenter,2)DepartmentofOphthalmology,Fukui-kenSaiseikaiHospitalOphthalmology,3)DepartmentofOphthalmology,KanazawaUniversityHospitalOphthalmologyC目的:選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)が強度近視を伴う緑内障にも有効かを後ろ向きに検討した.対象および方法:2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行した患者のうち,6カ月まで経過観察可能であったC96眼(男性C35眼,女性C61眼平均年齢C67.8C±11.6歳)を非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)に分けて検討した.結果:眼圧はCSLT施行後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な下降を認めた.Out.owpressure改善率C20%未満を死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群C87.7%,強度近視群C80.0%,病的近視群C96.6%でC3群間に有意差を認めなかった.合併症は一過性眼圧上昇をC4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)で認めた.うちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.結論:強度近視眼緑内障においてもCSLTは安全で有用な治療法であると考えられる.CPurpose:Toretrospectivelyinvestigatethee.cacyofselectivelasertrabeculoplasty(SLT)fortreatingglau-comaCassociatedCwithChighCmyopia.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC96Cglaucomatouseyes(35CmaleCeyes,61femaleeyes;meanpatientage:67.8C±11.6years)thatweretreatedwithSLTandfollowedforatleast6-monthspostoperative.Theeyesweredividedintothefollowing3groupsaccordingtotherefractivestatusandfundus.ndings:1)nonhighmyopiagroup(n=42eyes,meanage:68.0C±13.5years),highmyopicgroup(n=25eyes,Cmeanage:61.0C±7.5years)C,CandCpathologicalCmyopiagroup(n=29Ceyes,Cmeanage:73.2C±8.2years)C.CResults:Comparedwiththepreoperativevalues,meanintraocularpressure(IOP)wassigni.cantlyreducedat1-,3-,and6-monthspostoperative.At6-monthspostoperative,thelifetableanalysis.ndingsinthenonhighmyopia,highCmyopia,CandCpathologicalCmyopiaCgroupsCwere87.5%,83.8%,Cand86.2%,Crespectively,CthusCillustratingCnoCsigni.cantlydi.erence.PostoperativecomplicationsincludedtransientIOPelevationin4eyes,yetIOPwasfoundtoChaveCreducedCtoCnormalCinC3CofCthoseCeyesCatCtheCsubsequentCfollow-upCexamination.CInCtheCpathologicCmyopiaCgroup,1eyeunderwent.lteringsurgeryduetocontinuoushighIOP.Inalleyes,therewasnooccurrenceofante-riorCchamberChemorrhageCorCuveitis.CConclusion:SLTCisCaCsafeCandCe.ectiveCtreatmentCforCglaucomaCassociatedCwithhighmyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1097.1101,C2022〕Keywords:緑内障手術,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT),強度近視眼緑内障,眼圧下降.glaucomaCsur-gery,selectivelasertrabeculoplasty,highmyopicglaucoma,IOPreduction.C〔別刷請求先〕池上裕華:〒532-0023大阪市淀川区十三東C2-9-10十三駅前医療ビルC3階医療法人恭青会いくの眼科Reprintrequests:YukaIkenoue,IkunoEyeCenter,3FJuusoekimaeiryobiru,2-9-10Jusohigashi,Yodogawa-ku,Osaka-shi,Osaka532-0023,JAPANCはじめに緑内障は眼圧下降治療が唯一のエビデンスの存在する治療である.一般的第一選択治療である点眼治療は,患者が容易に受け入れることができるが,デメリットとして毎日点眼する必要があり,副作用のアレルギー反応がでる可能性がある.また,患者のアドヒアランスに左右される.緑内障の初期.中期は視力や視野障害の自覚がないという特徴があるため,脱落していく患者も少なくない1).選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculo-plasty:SLT)は,Qスイッチ半波長CYAGレーザーを用いたレーザー手術である.照射によりサイトカインが放出され,活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大させ2),Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進されることで,房水流出抵抗が減少するとされている3).近年はパターンレーザー線維柱帯形成術(patternedClaserCtrabecu-loplasty:PLT)やマイクロパルスダイオードレーザー線維柱帯形成術(micropulseCdiodeClasertrabeculoplasty:MDLT)も施行されているが,唯一,SLTは周囲の線維柱帯無色素細胞に熱変性が生じない治療である4).これまでCSLTの位置づけは最大耐用薬剤成分数での点眼治療をしても眼圧が下がらなかった患者に行うことが多かったが,点眼を多く使用していると成績は不良であるとの報告5,6)もあり,また期待したほど眼圧が下がらない,説明に時間がかかる,患者がレーザーに対して抵抗感があるなどの理由により普及していなかった.2013年に新田らは,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に対してSLTを第一選択治療として施行した成績を国内で最初に報告し,NTGに対するC.rst-lineSLTの有効性と安全性を示した7).さらにC2019年にはCLiGHTCstudy8)が報告され,原発開放隅角緑内障や高眼圧症に対する第一選択治療としてのSLTの有用性を示した.また,SLT施行群では追加の観血的緑内障手術の必要がなかったことや,点眼群と比較してコストパフォーマンスが高い点も報告され,最近,SLTが世界的に注目されるようになってきた.強度近視眼は近視性変化により緑内障様視神経症をきたすことがある.この病態に緑内障に準じた眼圧下降療法が行われることがある.これまでCSLTに関して多数の報告があるが,強度近視眼緑内障に対する報告はない.今回筆者らは強度近視眼緑内障にもCSLTが有効か後向きに検討した.CI対象および方法いくの眼科(以下,当院)で広義開放隅角緑内障と診断された患者のうち,眼圧コントロール不良・視野障害進行・第一選択治療としてCSLT治療が必要と判断され,緑内障専門の同一術者によってC2020年C1月.2021年C3月にCSLTを施行され,施行後C6カ月まで経過観察可能であったC96眼を対象とした.対象の病型は狭義開放隅角緑内障C40眼,正常眼圧緑内障CNTG56眼であった.本研究は,当院の倫理委員会の承認(第C5回C001番)を得て行った.SLTはCEllex社製CTangoオフサルミックレーザー(波長532Cnm,パルス幅C3Cns)を使用し,indexingSLTレンズを装着した後,0.3.0.8CmJの間でシャンパンバブルが発生するかしないかの強さのエネルギーを用い,隅角全周C360°に施行した.一過性眼圧上昇(5CmmHg以上上昇)を防ぐため,術前C1時間前および術直後にアプラクロニジン点眼(アイオピジン)を行い,術後はステロイド点眼および非ステロイド抗炎症薬点眼は使用しなかった.術前後で緑内障点眼の内容は変更せずに経過観察を行った.経過観察中に眼圧下降効果が不十分な場合は治療を強化し,眼圧の再上昇をきたした場合にはCSLTの再照射も考慮した.眼圧はすべてCGoldmann圧平眼圧計を用い,術前と術後C1カ月,3カ月,6カ月の時点での眼圧値,眼圧下降率,Cout.owpressure改善率(CΔOP)を解析に使用した.眼圧値は,術前は1.3回の平均値,術後はC1回の測定値を行いた.CΔOPは上強膜静脈圧をC10CmmHgとし,CΔCOp=(SLT前眼圧.SLT後眼圧)/(SLT前眼圧C.10)C×100の式で求め,CΔOP(%)を計算した.SLT効果の判定には,CΔCOP20%以上を有効と定義した.眼軸長は光学的眼軸長(OA2000,トーメーコーポレーション)を使用して測定し,26Cmm未満であったものを非強度近視群,26Cmm以上を強度近視群に分類し9),さらに強度近視群に分類したなかから後極部に変性を有するものを病的近視群に分類し,術前後の眼圧値,眼圧下降率を検討した.なお,病的近視眼の判定は,強度近視専門医とCSLT施行医のC2名による判定をもって分類した.また,配合点眼はC2剤,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤として計算した.統計ソフトはCJMP14を用い,SLT施行前後での眼圧下降の有意性には対応のあるCt検定を,3群間の比較にはCKruskal-Wallisの検定を,3群間での眼圧の推移の分散分析には二元配置分散分析を使用した.生命表解析は,CΔCOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義し,Kaplan-Meier法を用いた.各々の検定における有意水準はC0.05未満とした.CII結果対象の内訳は,非強度近視群C42眼(68.0C±13.5歳),強度近視群C25眼(61.0C±7.5歳),病的近視群C29眼(73.2C±8.2歳)であった.非強度近視群/強度近視群/病的近視群(以下,同様)の眼軸長はそれぞれC24.21C±1.18Cmm/27.41±1.13Cmm/C31.26±2.01Cmm(p<0.01)であった.SLT照射エネルギー(照射数)は55.5C±10.1CmJ(85.0C±6.6発)/57.8C±11.1CmJ(88.6C±6.1発)/56.2C±12.2CmJ(86.1C±7.3発)(p=0.63)であった.表13群の臨床的背景非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)p値年齢(歳)20.C86(C68.0C±13.5)50.C77(C61.0C±7.5)54.C82(C73.2C±8.2)<C0.01性別(男/女)C14/28C14/11C7/22<C0.05眼軸長(mm)C24.2±1.2C27.4±1.1C31.3±2.0<C0.01SLT前眼圧(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1C0.06薬剤成分数C1.6±1.4成分C2.3±1.6成分C2.6±1.2成分<C0.01薬剤成分数の内訳無治療9眼1成分16眼2成分6眼3成分以上11眼無治療5眼1成分3眼2成分3眼3成分以上14眼無治療0眼1成分7眼2成分3眼3成分以上19眼<C0.01表23群の眼圧値および眼圧下降率非強度近視群(n=42)強度近視群(n=25)病的近視群(n=29)術前眼圧値(mmHg)C18.1±5.1C15.4±3.1C19.0±7.1術後C1カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.4±3.2C18.6±14.1C13.0±3.1C15.3±13.2C15.7±7.3C16.3±15.2術後C3カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C14.1±2.5C19.1±14.0C12.5±2.8C16.7±14.4C13.9±4.3C21.7±19.5術後C6カ月眼圧値(mmHg)眼圧下降率(%)C13.8±2.5C19.1±12.0C13.4±3.2C11.6±16.2C14.2±4.7C21.4±20.10.6非強度近視群強度近視群10.8眼圧(mmHg)2015累積生存率0.4病的近視群0.210001234565SLT前眼圧1カ月後3カ月後6カ月後SLT施行後経過時間(カ月)図1SLT前後の眼圧値の推移図2Out.owpressure改善率20%未満を死亡と定義しSLT施行後眼圧は,術後C1カ月,3カ月,6カ月で常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認めた.SLT施行前眼圧はC18.1C±5.1mmHg/15.4±3.1mmHg/19.0C±7.1CmmHg(p=0.06)であった.SLT施行直前に使用していた薬剤成分数はC1.6成分/2.3成分/2.6成分であった(p<0.01)(表1).SLT施行後眼圧は,術後C1カ月:14.4C±3.2CmmHg/13.0±3.1CmmHg/15.7±7.3mmHg,3カ月:14.1C±2.5/12.5±2.8/13.9±4.3,6カ月:13.8C±2.5/13.4±3.2/14.2C±4.7で,常にC3群ともCSLT施行前より有意な眼圧下降を認た生命表解析Out.owpressure改善率C20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(logrank検定:p=0.1722).めた(表2,図1).SLT施行後の眼圧下降率は術後C1カ月:C18.6±14.1%/15.3C±13.2%/16.3C±15.2%,3カ月:19.1C±14.0%/16.7C±14.4%/21.7C±19.5%,6カ月:19.1C±12.0%/C11.6±16.2%/21.4C±20.1%であった(表2).ΔOP20%未満がC2回連続したときを死亡と定義した生命表解析の結果,6カ月時点での生存率は,非強度近視群:87.7%,強度近視群:80.0%,病的近視群:96.6%でC3群間に有意差を認めなかった(p=0.1722)(図2).SLT後の合併症として,術後C1時間の時点または術後C1カ月の時点で一過性眼圧上昇が認められたものは,96眼中4眼(非強度近視群はC1眼,強度近視群C2眼,病的近視群C1眼)であった.このうちC3例は次の受診日にはCSLT施行前の眼圧以下に下降していた.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術目的で他院へ紹介した.前房出血やぶどう膜炎などの合併症は認められなかった.CIII考按近視は緑内障発症の危険因子とされ,緑内障進行の危険因子である可能性についての報告もある10,11).また,近視眼は加齢とともに眼球形態が変化することによりさまざまな黄斑疾患や周辺部網膜病変が生じることがある.これを病的近視とよび,病的近視の眼底所見には,後部ぶどう腫,Bruch膜のClacquercrack(ひび割れ),黄斑部出血,近視性牽引黄斑症,網膜分離症,近視性網脈絡膜萎縮などがある.これらの近視性変化により緑内障様視神経症をきたすこともある12).この病態は,緑内障による構造変化と強度近視による構造変化が混在している可能性があるがまだ不明なことが多い.強度近視眼緑内障をC10年以上観察した場合には乳頭出血の出現頻度が低く,視野障害の悪化率が低率である可能性が示唆された13).myopicCglaucomatous(MG)型,generalizedenlargement型,focalglaucomatous型のC3群の乳頭形状を有する開放隅角緑内障でC5年間の乳頭出血の頻度を比較した結果,MG型が乳頭出血の出現頻度が低率で,近視緑内障眼は進行も緩徐である可能性がある14)など,近視眼緑内障の病態は非近視眼緑内障と異なる経過をたどる可能性も考えられ,アジアを中心に徐々に報告が増えてきている.近視眼緑内障に視神経へのストレス軽減を目的に眼圧下降治療を試す施設もあり,その是非が注目されている.本研究におけるCSLT後の眼圧はすべての時点でベースライン眼圧より下降し,強度近視眼や病的近視眼であっても眼圧下降効果は発現している.日本人の緑内障はその約C7割がCNTGであり15),本研究でもCNTGは全体のC58.3%だったので,同様の分布であったと思われる.NTGにCSLTを施行したC6カ月後の眼圧下降率は,15.1%7)やC21.2%16)などの報告があり,SLTにより過去の報告と同様の効果が得られたと思われる.当院は強度近視眼の患者が多く高度の視神経障害も合併している患者が多いという特殊性がある.視力C0.1以下の症例も多く,Humphrey視野での評価が困難な患者も多く,SLTによる視機能保持効果の評価については課題が多い.また,最大薬剤成分数の点眼を使用しており,SLTの作用持続期間が短い5,6)とされる患者であっても,一時的にでも視機能を保持したいためにCSLTを施行しているという背景があった.このような条件下でも経過観察期間内の合併症の頻度は少なく,眼圧は下降していることから,病的近視眼緑内障の治療方法としてもCSLTは有用である可能性が示唆された.合併症については一過性眼圧上昇がC0.8%起こる可能性があると報告されている5).本研究では非強度近視でC2.4%,強度近視群でC8.0%,病的近視群でC3.4%に認めた.一過性眼圧上昇を認めても治療内容を変更せずに経過観察したところ,3例で次の診察時にはベースライン以下に眼圧は下降し,視機能に影響するような合併症もなかった.病的近視群のC1例は眼圧が下がらず濾過手術が必要となった.SLTはC1回の治療でしばらく経過観察するので,点眼での治療とは異なり,定期的な通院の必要性に対する認識が希薄になってしまう可能性がある.このためCSLTの照射後は眼圧が上昇する可能性があるので術後も定期的な眼圧の確認が必要である,と伝えておくことは非常に重要である.本研究の限界は,後ろ向き研究であることである.強度近視を伴う緑内障では緑内障性構造変化と近視性構造変化が合併した状態なので,SLT施行前の臨床的背景がC3群間で異なっておりCSLT効果を評価することが困難であった.よって本研究では,それぞれの症例群に対して効果があるということを示したものとなる.今後は病期や眼圧の程度を揃えた多施設前向き研究が必要と考える.また,今後の研究では,強度近視や病的近視群の眼軸伸展に伴う構造変化が眼圧上昇に影響する可能性も考慮していくことが重要と考えられる.病的近視群のなかには,網脈絡膜萎縮が広範に存在するために視神経症による視野障害以外の要素も加味すべきであるが,病的近視眼群では視力C0.1以下の症例も多く,Hum-phrey視野での評価が困難であったので,SLTによる眼圧下降が視機能保持に貢献しているかの検討が困難であった.CIV結論強度近視眼緑内障においてもCSLTは非強度近視眼緑内障と同様に眼圧下降が得られる可能性がある.文献1)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20142)AlvaradoJA,AlvaradoRG,YehRFetal:AnewinsightintoCtheCcellularCregulationCofCaqueousout.ow:howCtra-becularCmeshworkCendothelialCcellsCdriveCaCmechanismCthatCregulatesCtheCpermeabilityCofCSchlemm’sCcanalCendo-thelialcells.BrJOphthalmolC89:1500-1505,C20053)ChenCC,CGolchinCS,CBlomdahlS:ACcomparisonCbetweenC90degreesand180degreesselectivelasertrabeculoplas-ty.JGlaucomaC13:62-65,C20044)LatinaCMA,CParkC:SelectiveCtargetingCofClaserCmesh-workcells:invitroCstudiesofpulseandCWlaserinterac-tion.ExpEyeRes60:359-371,C19955)KhawajaCAP,CCampbellCJH,CKirbyCNCetal:Real-worldCoutcomesCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCinCtheCUnitedCKingdom.OphthalmologyC127:748-757,C20206)MikiA,KawashimaR,UsuiSetal:TreatmentoutcomesandCprognosticCfactorsCofCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCopen-angleCglaucomaCreceivingCmaximal-tolerableCmedicaltherapy.JGlaucomaC25:785-789,C20167)新田耕治,杉山和久,馬渡嘉郎ほか:正常眼圧緑内障に対する第一選択治療としての選択的レーザー線維柱帯形成術の有用性.日眼会誌117:335-343,C20138)GazzardG,KonstantakopoulouE,Garway-HeathDetal:CSelectivelasertrabeculoplastyversuseyedropsfor.rst-lineCtreatmentCofCocularChypertensionCandCglaucoma(LiGHT):amulticenterrandomizedcontrolledtrial.Lan-cetC393:1505-1516,C20199)HuanhuanCheng,LiWang,JackXKaneetal:AccuracyofCarti.cialCintelligenceCformulasCandCaxialClengthCadjust-mentsCforChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC223:C100-107,C202110)PerdicchiCA,CIesterCM,CScuderiCGCetal:VisualC.eldCdam-ageCandCprogressionCinCglaucomatousCmyopicCeyes.CEurJOphthalmolC17:534-537,C200711)ParkHY,HongKE,ParkCK:ImpactofageandmyopiaonCtheCrateCofCvisualC.eldCprogressionCinCglaucomapatients.Medicine(Baltimore)C95:e3500,C201612)Ohno-MatsuiCK,CShimadaCN,CYasuzumiCKCetal:Long-termCdevelopmentCofCsigni.cantCvisualC.eldCdefectsCinChighlyCmyopicCeyes.CAmCJCOphthalmolC152:256-265,C201113)NittaCK,CSugiyamaCK,CWajimaCRCetal:IsChighCmyopiaCaCriskfactorforvisual.eldprogressionordiskhemorrhageinCprimaryCopen-angleCglaucoma?CClinCOphthalmolC11:C599-604,C201714)YamagamiA,TomidokoroA,MatsumotoSetal:Evalua-tionCofCtheCrelationshipCbetweenCglaucomatousCdiscCsub-typesCandCoccurrenceCofCdiscChemorrhageCandCglaucomaCprogressionCinCopenCangleCglaucoma.CSciCRepC10:21059,C202015)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C200416)LeeJWY,ShumJJW,ChanJCHetal:Two-yearclinicalresultsCafterCselectiveClaserCtrabeculoplastyCforCnormaltensionglaucoma.Medicine(Baltimore)C94:e984,C2015***

基礎研究コラム:ウイルス増殖における宿主由来長鎖ノンコーディングRNAの役割

2022年8月31日 水曜日

ウイルス増殖における宿主由来長鎖ノンコーディング白濱新多朗RNAの役割東京大学医学部眼科学教室ノンコーディングRNAとはらびに増殖が著明に抑制されました.この結果は,U90926がマウス視細胞におけるCHSV-1の増殖に必須の分子であるノンコーディングRNAとは,蛋白質をコードしないことを示唆しています2)(図1).RNAの総称です.ノンコーディングCRNAは,全長に基づさらに筆者のグループは,ヒトゲノムのシンテニー領域にいて,200塩基未満の短鎖ノンコーディングCRNAとC200塩U90926遺伝子と高い相同性をもつホモログ遺伝子(ヒト基以上の長鎖ノンコーディングCRNA(longCnon-codingU90926)を同定しました3).また,ヒトCU90926遺伝子由来RNA:lncRNA)に大別されます.lncRNAはさまざまなの転写産物量は,HSV-1が原因ウイルスの急性網膜壊死患RNA結合蛋白質と結合し,RNA結合蛋白質の機能を制御す者の硝子体液中で著明に増加し,硝子体液中のウイルス量なることで,多様な生理機能を発揮します.らびに最終矯正視力と強い相関をもつことを明らかにしまし宿主細胞はウイルス感染に対する自然免疫応答の一環とした3).これらの結果は,ヒトCU90926遺伝子由来のClncRNAて,自身の翻訳反応を抑制することが知られています.が,HSV-1を起因とする急性網膜壊死の有望な治療標的にlncRNAは翻訳されずに機能する分子で,宿主が自然免疫応なりえる可能性があることを示唆しています.答においてClncRNAを利用することは非常に合理的です.しかし,ウイルスは宿主との攻防において,この宿主由来の今後の展望lncRNAを巧みに利用して,自らの増殖を促進していることウイルスは宿主細胞なくしては増殖できないことが意味すがわかってきています1).ウイルス増殖を促進する機能をもるように,宿主側因子を巧みに利用して自らの増殖に役立てつClncRNAは,その阻害によりウイルス増殖が阻害されるています.宿主由来ClncRNAを標的とすることで,これまため,抗ウイルス薬の有望な新規治療標的になりえます.での抗ウイルス薬とまったく異なる治療標的をもつ新薬が誕急性網膜壊死の病態形成における生することが期待されます.長鎖ノンコーディングRNAの役割文献筆者のグループは,次世代シーケンサーを用いたCRNA1)WangP,XuJ,WangYetal:Aninterferon-independentシーケンシング解析により,単純ヘルペスウイルスC1型ClncRNACpromotesCviralCreplicationCbyCmodulatingCcellular(herpesCsimplexCvirusCtype1:HSV-1)の感染後に,マウCmetabolism.ScienceC358:1051-1055,C2017ス視細胞株で発現上昇するClncRNAを網羅的に同定しまし2)ShirahamaCS,COnoguchi-MizutaniCR,CKawataCKCetal:た2)CLongCnoncodingCRNACU90926CisCcrucialCforCherpesCsim-.さらに同定ClncRNAの中から,急性網膜壊死モデルマCplexCvirusCtypeC1CproliferationCinCmurineCretinalCphotore-ウスの網膜で発現上昇を認めたCU90926に着目しました.Cceptorcells.SciRepC10:19406,C2020U90926ノックダウン細胞にCHSV-1を感染させると,ゲ3)ShirahamaCS,CTaniueCK,CMitsutomiCSCetal:HumanCU90926orthologouslongnon-codingRNAasanovelbio-ノムCDNA複製に必要なウイルス遺伝子(ICP-0,ICP-4)のCmarkerforvisualprognosisinherpessimplexvirustype-発現低下がみられ,結果的にCHSV-1のゲノムCDNA複製なC1inducedacuteretinalnecrosis.SciRepC11:12164,C2021図1宿主由来長鎖ノンコーディングRNAを利用した単純ヘルペスウイ1.宿主細胞へのウイルス2.宿主由来IncRNA-U909263.ゲノムDNA複製に必要な4.ウイルス増殖のルス1型の増殖感染の発現上昇ウイルス遺伝子の発現上昇促進ウイルス感染に対する応答として,はじめに宿主細胞よりlncRNA-U90926が発現誘導される.次に,ウイルスはlncRNA-U90926を利用して自らのゲノムCDNA複製に必要なウイルス遺伝子(ICP-0,ICP-4)を発現誘導することにより,宿主細胞における増殖を促進している.(81)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10910910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:硝子体腔内リンパシステム─その1(研究編)

2022年8月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載231231硝子体腔内リンパシステム-その1(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●Bursapremacularisとリンパ組織Bursapremacularis(BPM)はCWorstらが提唱した黄斑前に存在する袋状の特異な形態を有する硝子体の一部である1).筆者らはCBPMに肥満細胞が存在し,セリンプロテアーゼの産生源となり,黄斑円孔や黄斑上膜の発症に関与する可能性を報告した2).さらに筆者らは,BPMがリンパ様組織である可能性を考えた.その根拠として,BPMは硝子体内の水の移動に関与するとしたWorstらの報告1),硝子体腔内に蛍光標識リポソームを注入すると頸部リンパ節にトレナージされたとする報告3)などがあげられる.C●リンパ組織関連マーカーによるBPMの免疫染色BPMを選択的に採取し(図1a),リンパ管内皮細胞のマーカーであるCpodoplaninやClymphaticvesselendo-thelialChyaluronanCreceptor1(LYVE-1)で染色してみたところ,いずれもコアの硝子体よりも強い染色性を認めた(図1b,c)2,4).通常,終末リンパ組織はCelasticな性状を有し,周囲の組織とオキシタラン線維からなる.留フィラメントによって結合している.BPMはCelasticな性状を有しており,表面に毛羽立った構造を認め,トリアムシノロンアセトニド(TA)が付着しやすい.これは.留フィラメント様の構造物と思われる.その主成分であるC.brillin-1で染色したところ,BPMはコア硝子体よりも強い染色性を認めた(図1d)5).C●Berger腔とリンパ組織BPMのようなリンパ様組織は前部硝子体にも存在する.水晶体後面のCBerger腔は,Wieger靱帯で水晶体と円周状に付着しており,TAを塗布するとCBPMと同様に袋状の組織であることが確認できる(図2a).この(79)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPYabcdBursapremacularisの採取podoplaninLYVE-1.brillin-1図1リンパ組織関連マーカーによるBPMの免疫染色BPMを採取し(Ca),リンパ管内皮細胞のマーカーであるCpodo-planin(Cb),LYVE-1(Cc),および.留フィラメントの主成分であるC.brillin-1(Cd)で免疫染色を行ったところ,コア硝子体(上段)よりもCBPM(下段)のほうが強く染色された.(文献2,4より引用)CabcBerger腔の採取podoplanin.brillin-1図2リンパ組織関連マーカーによるBerger腔の免疫染色Berger腔にCTAを塗布するとCBPMと同様に袋状の組織であることが確認できる(Ca).同部位をCpodoplanin(Cb)および.brillin-1(Cc)で染色したところ,BPMと同様にコア硝子体(上段)よりもCBerger腔(下段)が強く染色された.(文献C4より引用)部位を選択的に採取し免疫染色したところ,BPMと同様にCpodoplaninやC.brillin-1で強く染色された(図2b,c)5).BPMとCBerger腔は円周状のリガメントにより,網膜および水晶体と癒着しミラーイメージのような構造を呈していると思われる.文献1)WorstJG:Cisternalsystemsofthefullydevelopedvitre-ousCbodyCinCtheCyoungCadult.CTransCOphthalmolCSocCUKC97:550-554,C19772)SatoCT,CMorishitaCS,CHorieCTCetal:InvolvementCofCpremacularmastcellsinthepathogenesisofmaculardis-eases.PLoSOneC14:e0211438,C20193)CameloCS,CLajavardiCL,CBochotCACetal:DrainageCofC.uorescentliposomesfromthevitreoustocervicallymphnodesCviaCconjunctivalClymphatics.COphthalmicCResC40:C145-150,C20084)MorishitaCS,CSatoCT,COosukaCSCetal:ExpressionCofClym-phaticmarkersintheBerger’sspaceandbursapremacu-laris.CIntJMolSciC22:2086,C2021あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1089

考える手術:内視鏡併用硝子体手術

2022年8月31日 水曜日

考える手術⑧監修松井良諭・奥村直毅内視鏡併用硝子体手術横山翔JCHO中京病院眼科眼内視鏡の歴史は古く,1934年にThorpeが眼内異物除去用に世界初の眼内視鏡を開発した.眼内視鏡で直接眼内を観察しながら器具の先端で眼内異物を挟み込む形状で,直径は6mm,8mmの強膜切開創が必要であった.時代とともに眼内視鏡は進歩し,今では27ゲージのものや対象物を詳細にみる近接用のものも登場している.眼内視鏡の特長として,①前眼部や中間透光体混濁の影響を受けない,②死角がなく強拡大で観察可能,③モニター越しの手術なので術中に患者の頭位を自由にできる,④空気置換時の視認性が比較的安定していら確実な下液除去が行える.さらに空気置換後の眼内観察時に小さな裂孔を見逃しにくいという利点もある.手術の流れとしては,まず広角観察システム下にて中心部の硝子体切除を行い,それに続く周辺部,裂孔周囲の硝子体切除の際には,眼内視鏡を用いて強膜圧迫せずに硝子体切除を行うことができる.眼内視鏡に慣れていない術者は,広角観察システム下で強膜圧迫しながら硝子体切除を行ってもよい.そして,液空気置換は眼内視鏡観察下で行い,既存の原因裂孔が最下点になるように頭位を変換する.右側に裂孔があれば顔を右側に,上方に裂孔があれば頭を下げて原因裂孔を最下点にする.裂孔を最下点にすることで確実な下液除去が行える.これにより,裂孔閉鎖時の光凝固は弱いパワーでも十分な凝固斑がつく.空気置換後も裂孔の見逃しがないか眼内視鏡で十分確認し,裂孔があれば光凝固を追加することですべての裂孔閉鎖を得ることができる.聞き手:眼内視鏡がなくても裂孔原性網膜.離の手術はける,空気置換時には視認性が落ちるといった弱点が存できると思います.わざわざ眼内視鏡を使用する理由は在します.眼内視鏡を併用することで,これらの広角観なんですか?察システムの弱点を補うことができます.具体的には,横山:近年,広角観察システムの普及によって安全で確術中の角膜浮腫や前房内炎症による眼底視認性の低下時実な手術ができるようになりました.しかし,広角観察や,眼内レンズ挿入眼での結露発生時にも,眼内視鏡なシステムには,前眼部の状態や眼球傾斜による影響を受ら影響を受けません.また,液空気置換時の網膜下液除(77)あたらしい眼科Vol.39,No.8,202210870910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術去の際には,裂孔が網膜周辺部にあると排液用の意図的裂孔作製や液体パーフルオロカーボン(perfluorocarbonliquid:PFCL)の使用が必要になりますが,眼内視鏡は患者の頭位を自由に傾けてモニターを見ながら手術を行うことが可能なため,網膜下液除去の際に既存裂孔の位置が最下点になるように患者の頭位を傾けることで,排液用の意図的裂孔作製やPFCLを使用しなくても確実な網膜下液除去が可能となります.また,空気置換下でも網膜周辺部にある微小裂孔の発見が可能であるため,裂孔の見落としを防ぐこともできます.さらに,眼内視鏡観察下で強膜圧迫をしなくても周辺の硝子体切除が可能なため,術中の痛みの軽減や,眼球圧迫することによる網膜循環不全や脈絡膜出血,術中の高眼圧などの合併症を予防できます.眼内視鏡の発展的な使用方法として,空気下で硝子体切除を行うatmosphericendoscopicvitrectomyを用いることで,.離網膜の可動性を抑えて硝子体切除を行うことができ,重度の網膜.離症例でも空気下で網膜最周辺部まで硝子体郭清を行うことができます.これらのことから,裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術の際に眼内視鏡を併用することはとても有用だと考えています.聞き手:眼内視鏡による網膜下液除去の際のコツを教えてください.横山:頭位を自由に傾けられるように,手術台は床屋椅子のように可倒式で上下,左右への頭位変換が可能なものを用います.網膜下液除去の際には,吸引用のバックフラッシュニードルなどの器具を上側のポートから挿入し,器具が垂直になる位置まで頭位を傾けることで,必然的に裂孔が最下点になります(図1a,b).網膜最周辺部に位置する下方の裂孔でも,思いきってベッドを立てて座位に近い頭位にすることで,しっかりと下液を除去することができます(図1c).液空気置換時には,眼内視鏡プローブの先端が曇って見づらくなることがあります.その場合は,いったん眼内視鏡プローブを眼外に出してプローブ先端を軽く拭いて曇りを取るか,慣れた術ab者だと眼内の硝子体や網膜に軽く眼内視鏡プローブの先端をあてて曇りを取ることで視認性を確保できます.聞き手:眼内視鏡があれば広角観察システムは不要でしょうか?横山:眼内視鏡のみでも硝子体手術は可能ですが,眼内視鏡には①解像度が低い,②立体視がない,③見える範囲が狭い,といった弱点があります.広角観察システムはこれら眼内視鏡の弱点を補ってくれますので,眼内視鏡と広角観察システムを併用することでお互いの弱点を補い合い,それぞれの長所を生かした手術を行うことができます.具体的には広角観察システム下にて中心部の硝子体切除を行い,周辺部ならびに裂孔周囲の硝子体切除の際には広角観察システム下で強膜圧迫しながら,もしくは眼内視鏡を用いて強膜圧迫せずに硝子体切除を行います.液空気置換の際には眼内視鏡を用いて既存の原因裂孔が最下点になるように頭位を変換して網膜下液を除去し,裂孔周囲の網膜光凝固,空気置換下での裂孔の見逃しがないかの確認を眼内視鏡観察下で行うことで,より安全で確実な手術が可能となります.聞き手:眼内視鏡観察下での手術操作で困る点はありませんか?横山:眼内視鏡観察によって周辺部ならびに裂孔周囲の硝子体切除の際にも強膜圧迫せずに硝子体切除を行えるという利点がありますが,強膜圧迫しないため.離網膜の可動性が高くなり,硝子体郭清の際に.離網膜を誤吸引してしまい,医原性裂孔が発生してしまうリスクがあります.眼内視鏡観察下での硝子体切除は網膜下液除去や網膜光凝固といった他の手術手技と比べると難易度が高いので,慣れていない術者は網膜下液除去や光凝固,眼内確認の際に眼内視鏡を使用し,周辺硝子体切除や裂孔周囲の硝子体牽引解除ならびに郭清時には広角システムを用いて強膜圧迫しながら硝子体切除を行うといいと思います.c右側に裂孔がある場合下方に裂孔がある場合下方の網膜最周辺部に裂孔がある場合図1眼内視鏡観察による網膜下液除去の際の頭位変換1088あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022(78)

抗VEGF治療:網膜静脈分枝閉塞症の予後予測因子

2022年8月31日 水曜日

●連載122監修=安川力髙橋寛二102網膜静脈分枝閉塞症の予後予測因子錦織奈緒美村岡勇貴京都大学大学院医学研究科眼科学網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫は,抗CVEGF治療の導入により制御しやすくなってきている.しかし再発がしばしば生じ,そのつど追加治療が必要になることが多い.また,その病勢には患者間で差があり,病態に応じた治療が重要と考えられる.筆者らは,黄斑部形態や視機能の予後に関して鍵となる所見を参考にしつつ,治療方針を患者ごとに計画している.はじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)は,糖尿病網膜症についで頻度の高い網膜血管疾患であり,しばしば黄斑浮腫を伴う.黄斑浮腫に対しては,現在抗CVEGF治療が第一選択となっている.しかし,抗CVEGF治療は静脈閉塞に対する根本的な治療ではないため,浮腫の再発が約C80%の患者に認められる1).全体を見渡すと,再発を生じない患者から再発を頻繁に繰り返すまで差が大きく,病態に応じた治療が求められる.また,BRVOでは浮腫以外の病態が視力低下に関連していることがあるため,浮腫に対する治療の際にはこれらの併存病態も併せて評価することが必要である.本稿では,光干渉断層計(opticalcoherencetomograC-phy:OCT)や光干渉断層血管撮影(opticalCcoherencetomographyCangiography:OCTA)を用いた筆者らの過去の検討結果をもとに,黄斑部形態と視機能に関する予後因子について簡単に説明する.中心窩の網膜下出血と視細胞障害視力は中心窩の視細胞層の状態に大きく依存している.OCTではCellipsoidzone(EZ)bandラインや外境界膜(externalClimitingmembrane:ELM)ラインの状態が視細胞層の健全性の指標として有用である.EZband・ELMラインがはっきりと確認できない患者では,治療により浮腫が消失しても,あまり良好な視力は期待できない.この視細胞障害は,中心窩における網膜下出血の遷延と関連する.黄斑浮腫に対して抗CVEGF治療を行った群では,無治療群と比べ中心窩の網膜下出血の残存期間が短く,視細胞障害が軽度で,最終視力が良好であった2).抗CVEGF治療は,黄斑浮腫の吸収とともに,新たな網膜下出血の抑制によって視細胞への障害を緩和して(75)いる可能性があり,初診時に黄斑浮腫とともに中心窩に網膜下出血を認める患者では,抗CVEGF治療をただちに開始する.黄斑虚血閉塞機転が重篤な場合,閉塞領域における網膜虚血が高度になる.近年ではCOCTの機能を拡張させたCOCTAによって網膜虚血を簡便,非侵襲的,層別に評価することが可能となった.OCTAを用いた検討において,傍中心窩に無灌流領域(nonperfusionarea:NPA)を伴う例では,治療後もCNPAにおける網膜感度や視力回復が限定的であった(図1)3).黄斑浮腫や網膜下液は抗VEGF治療によって速やかに改善しやすいが,NPAないしNPAに対する網膜感度低下は治療に反応しにくい.NPA上にある浮腫性変化への治療は,治療意義が低くなる.黄斑浮腫の変動BRVOに対する抗CVEGF治療の追加は,黄斑浮腫が再発した後のCpronenata(PRN)投与が主流となっている.しかし,近年行われた筆者らの施設を含む多施設の検討においては,黄斑浮腫の再発を繰り返し,網膜厚の変動が大きい例では,視細胞障害の進行とともに視力が低下していた4).このような症例は,初診時に高齢で視力低下を認めていた.このように浮腫を経過中に繰り返す患者には,注意深い経過観察のうえ,PRNよりも積極的な加療が望ましいかもしれない.黄斑浮腫の予見OCTAを用いた検討で,浮腫吸収時における傍中心窩の血管拡張所見が再発予測に有用であることがわかった(図2)5).この所見は,静脈のうっ血を表していると考えられる.初期治療後,浮腫が吸収した際にこのような血管形態が傍中心窩に観察される場合には,近い将来あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10850910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1傍中心小窩に無灌流領域(NPA)を伴うBRVOの1例上段:初回治療後のCOCT.黄斑浮腫は改善しているが,視力は初診時からの改善を認めなかった(RV=1.0→0.7).下段左・中央:上段と同日のOCTA.耳下側に大きなNPAを認める.下段右:上段と同日のマイクロペリメトリー.OCTAのCNPA部位に一致して網膜感度が著しく低下していることがわかる.(文献C3より改変引用)初期治療後の浅層初期治療後の深層3カ月後のOCT症例1症例2図2黄斑浮腫を多く認めたBRVOの2症例初期治療後のOCTA浅層(左列)と深層(中央列)で傍中心窩(患側,耳側)の網膜血管拡張がめだつ箇所()と一致する箇所に,3カ月後のOCT(右列)で黄斑浮腫の再発を認めている.(文献C5より改変引用)の浮腫再発に注意する.おわりにBRVOに伴う黄斑浮腫に対しては抗CVEGF治療が多くの場合に第一選択となり,急性期には良好な反応が期待できる.しかし,浮腫の再発もしばしばみられ,その場合には治療回数が多くなり,患者ひいては医療者側の負担も相応となる.しかし,視機能・黄斑形態の予後にかかわる鍵となる所見をなるべく早期段階に評価しておくことで,患者・医療者双方にとってむだの少ない有意義な治療が可能となる.文献1)HasegawaCT,CTakahashiCY,CMarukoCICetal:MacularCves-selreductionaspredictorforrecurrenceofmacularoede-1086あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022maCrequiringCrepeatCintravitrealCranibizumabCinjectionCinCeyesCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CBrCJCOphthalmolC103:1367-1372,C20192)MuraokaCY,CTsujikawaCA,CTakahashiCACetal:FovealCdamageCdueCtoCsubfovealChemorrhageCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CPLoSCOneC10:e0144894,C20153)KadomotoS,MuraokaY,OotoSetal:Evaluationofmac-ularCischemiaCinCeyesCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.CRetinaC38:272-282,C20184)NagasatoCD,CMuraokaCY,CTanabeCMCetal:FovealCthick-ness.uctuationinanti-vascularendothelialgrowthfactortreatmentforbranchretinalveinocclusioninalong-termmulti-centerCstudy.COphthalamolCRetinaC2022CFebC23.[Epubaheadofprint]5)KogoCT,CMuraokaCY,CUjiCACetal:AngiographicCriskCfac-torsCforCrecurrenceCofCmacularCedemaCassociatedCwithCbranchretinalveinocclusion.RetinaC41:1219-1226,C2021(76)

緑内障:落屑緑内障の遺伝子異常と臨床病型

2022年8月31日 水曜日

●連載266監修=福地健郎中野匡266.落屑緑内障の遺伝子異常と臨床病型尾﨑峯生尾﨑眼科CYP39A1遺伝子に機能欠損型レアバリアント(G204Eなど)をもつ患者では,CYP39A1の機能障害によりコレステロール代謝異常をもたらし,落屑形成につながることが明らかとなった.G204Eを保有する落屑症候群患者は失明リスクおよび落屑緑内障の発現リスクが高く,緑内障の重症度が高い.●落屑緑内障の病態と分子遺伝学的解析落屑症候群は,異常な線維性細胞外マトリクスの過剰産生と蓄積を特徴とする加齢性眼疾患である.落屑物質は主として瞳孔縁・水晶体前面・隅角線維柱帯・Zinn小帯に認められる.落屑が隅角線維柱帯に蓄積することにより房水流出が障害され,落屑緑内障を生じる.落屑緑内障は原発開放隅角緑内障と比較して,眼圧が高く進行が早い.加齢とともに増加し,薬物療法に抵抗する.日本人の落屑緑内障は隅角線維柱帯切除術の成功率が低いことが知られている.患者によっては治療にもかかわらず失明するリスクが高い.落屑症候群のなかで落屑緑内障発症リスクが高い患者,また落屑緑内障となったあとに眼圧コントロールが不良となりやすい患者や視野障害の進行速度が速くなる患者を見きわめることができれば臨床的に有用である.落屑症候群および落屑緑内障に対する分子遺伝学リスク解析は有用なアプローチとなりうる.C●ゲノムワイド関連解析の限界2007年,ゲノムワイド関連解析(genome-wideasso-ciation.study:GWAS)によってCLOXL1における遺伝子多型が落屑症候群と関連することが初めて示された.LOXL1はエラスチンの架橋に関与する.ところが人種間でのリスクアレル逆転が認められた1).さらにCGWASを用いて,CACNA1A(神経細胞の活動に必要なカルシウムチャネルに関連),POMP(ユビキチンC-プロテアソーム複合体に関連),TMEM136(膜貫通型蛋白質),SEMA6A(膜貫通型蛋白質),AGPAT1(炎症に関連)およびCRBMS3(細胞増殖に関連)などいくつかの生物学的経路が関与していることが示されたが,蛋白質異常につながるすべての人種に共通な機能欠損型変異は特定できなかった(LOXL1のCY407Fは機能獲得型バリアント)2,3).●蛋白質をコードする原因遺伝子座の発見次世代シーケンサーを用いてエキソン配列のみを網羅的に解析する全エクソームシーケンスによって,蛋白質をコードする疾患関連レアバリアントを見いだすことが可能となり,とくに機能欠損型レアバリアントはまれなものであっても治療につながる突破口を示している可能性がある.日本落屑症候群遺伝子研究コンソーシアムが参加した国際共同研究の結果,CYP39A1遺伝子に機能欠損型レアバリアントを有する患者は,落屑症候群のリスクがC2倍に上昇することが明らかになった4).機能欠損を予測されたCCYP39A1レアバリアントC42カ所に対する生化学的分析によって,このうちC34カ所は平均94%の酵素活性低下を示した(図1)4).CYP39A1の機能障害は,コレステロール代謝異常をもたらし,最終的に落屑生成につながると考えられる.落屑症候群患者の眼球を免疫組織化学的に検討すると,毛様体上皮の表面にエステル化コレステロールの細胞外異常沈着が観察された(図2,3).毛様体上皮は血液房水柵機能の維持に重要であるため,その破綻は血液中蛋白質を房水中へ漏出させ,落屑形成につながる可能性がある.C●CYP39A1レアバリアントと臨床病型Bellらは,CYP39A1の機能欠損型レアバリアントG204E変異を有する落屑症候群患者の失明リスクおよび関連する臨床表現型を,CYP39A1変異をまったく有しない落屑症候群患者と比較評価した5).CCYP39A1G204E変異を有する落屑症候群患者では,CYP39A1変異のない落屑症候群患者と比べて失明(矯正視力C0.05未満)リスクが著しく高い(オッズ比7.1)ことが示され,落屑緑内障を有する割合がより高かった.また,有意に高いピーク眼圧,より大きな垂直C/D比,および,より低下した視野感度CMD値が認められ(p<0.001),レーザー治療または緑内障手術の介入をより多く必要とした5).(73)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C10830910-1810/22/\100/頁/JCOPYaControlExfoliationbControlExfoliation図2毛様体組織におけるコレステロールの沈着a:正常組織と落屑症候群の毛様体組織の両方において①毛様体上皮の細胞膜にエステル化されていない遊離コレステロールが蓄積していた(上段).②毛様体の間質にエステル化コレステロールが蓄積していた(中段・下段).落屑症候群に罹患した眼球切片(中段・下段)では,落屑物質(→)中のエステル化コレステロールの著しい細胞外沈着を認めたが,対照組織では観察されなかった.Cb:落屑症候群の眼球切片(二重染色実験)では,インテグリン-b1(緑色蛍光)陽性の毛様体上皮細胞膜の上に,エステル化コレステロール(青色蛍光,→)陽性の落屑凝集体が認められた(上段).エステル化コレステロール(青色蛍光)とインテグリン-b1(緑色蛍光)が共局在していた(上段).毛様体上皮表面の落屑物質沈着(→)内にアポリポプロテインCE(ApoE,緑色蛍光,中段)とCLOXL1(緑色蛍光,下段)が観察されたが,対照眼の切片には観察されなかった.(文献C4より転載)文献1)OzakiCM,CLeeCKY,CVithanaCENCetal:AssociationCofCLOXL1genepolymorphismswithpseudoexfoliationintheJapanese.InvestOphthalmolVisSciC49:3976-3980,C20082)AungT,OzakiM,MizoguchiTetal:AcommonvariantmappingtoCACNA1Aisassociatedwithsusceptibilitytoexfoliationsyndrome.NatGenetC47:387-392,C20153)AungCT,COzakiCM,CLeeCMCCetal:GeneticCassociationCstudyCofCexfoliationCsyndromeCidenti.esCaCprotectiveCrareCvariantCatCLOXL1CandC.veCnewCsusceptibilityCloci.CNatCGenet49:993-1004,C20174)LiCZ,CWangCZ,CLeeCMCCetal:AssociationCofCrareCCYP39A1CvariantsCwithCexfoliationCsyndromeCinvolvingC●おわりにtheCanteriorCchamberCofCtheCeye.CJAMAC325:753-764,C2021CYP39A1において落屑症候群に関連する機能欠損5)BellCK,COzakiCM,CMoriCKCetal:AssociationCofCtheCCYP39A1CG204ECgeneticCvariantCwithCincreasedCriskCof型レアバリアントが見いだされた.CYP39A1CG204ECglaucomaCandCblindnessCinCpatientsCwithCexfoliationCsyn-をもつ落屑症候群患者は,落屑緑内障発症リスクが高Cdrome.Ophthalmology129:406-413,C2022く,緑内障の予後がより不良である.これらの知見は,落屑緑内障の疾患メカニズム解明,予後予測および治療戦略の改善に寄与するものと考えられる.図1毛様体上皮におけるCYP39A1蛋白質の発現落屑のない対照例(右列)の毛様体上皮にCYP39A1免疫組織化学的陽性所見(赤色)が認められた.しかし落屑症候群例(左列)では染色(赤色)が著しく減弱していた.図3機能欠損型レアバリアントをもつ落屑症候群例の毛様体所見落屑物質内にエステル化コレステロール,LOXL1およびアポリポプロテインCEの共在が認められた.1084あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022(74)

屈折矯正手術:レーシックフラップトラブルの対処法

2022年8月31日 水曜日

●連載267監修=稗田牧神谷和孝267.レーシックフラップトラブルの対処法森井勇介森井眼科医院Laserinsitukeratomileusis(レーシック)フラップトラブルは不適切なドッキングや患者眼(顔面)の動きが原因となることが多い.この手術は医師一人でやれるものではなく,コメディカルスタッフも手術に携わるため,普段からチームでトラブル時の対処法を共有していると落ち着いて対処しやすく,結果として患者の安心感にもつながる.●はじめにフェムトセカンドレーザーによるレーシックフラップ作製時のトラブルの対処法について述べる.使用するフェムトセカンドレーザーによって,トラブルの対処法に多少の違いがあるので,総論的な内容になってしまうことはご容赦願いたい.●Suctionbreak(サクションブレイク)フェムトセカンドレーザー照射中にもっとも多いトラブルである1).原因は,不適切なドッキングや,患者の眼球や顔面の動きによって気泡が混入することにより,角膜に圧着していた圧平レンズ(コーン)が適切に圧平できなくなることである.その結果,レーザー照射の中断,もしくは予定外の方向にレーザーが照射されることとなる.瞼裂幅が非常に狭い目,極度にsteep,もしくは.atな角膜はリスクファクター1)となる.サクションブレイクを避けるために一番重要なのは,患者の緊張を解きほぐすことであるが,手技的には,角膜を中心に水平にドッキングする,強すぎず弱すぎずの適切な角膜の圧平,この2点が重要である.レーザー照射中は,患者が眼球や顔面を動かさないように,筆者は頻繁に「ここからは眼や顔を動かさないでくださいね」などとやさしく声かけをし,患者をリラックスさせるように心がけている.それでも,サクションブレイクが起こってしまった場合(図1)は,そのトラブルが照射中のどのタイミングで起こったかによって対応を考える必要がある(表1).フェムトセカンドレーザーの場合は,いきなり不完全フラップになることはないので,一度心を落ち着け,録画している動画を見直し,表1に従ってリカバリー策を実行すれば,同日中に手術完遂が可能である.この際,使用しているフェムトセカンドレーザーの機(71)種により対応が異なるので注意が必要である.当院はAlcon社のLenSxを用いてレーシックフラップを作製しているが,ベッド面での照射中にサクションブレイクが起こった場合,新たなコーンを接続し,フラップ直径を通常は9.0mm,フラップ厚を110μmに設定しているが,フラップ径を8.5mmに変更し,患者の角膜厚,予定切除量を勘案してフラップ厚を130~150μmに変更し,なるべく不完全な照射と重ならないように再照射することによってリカバリー可能である.サイドカット作製時にサクションブレイクが起こってしまった場合も,同様の考えで,なるべく不完全なサイドカットと重ならないように設定しなおし,サイドカットのみで照射する.不完全な照射となるべく重ならないように再照射することによって,よりきれいなリカバリーフラップが作製できる.AMO社のiFSの場合は,ベッド面作製時であれば,サクションブレイクすると同時に照射を止め,直後であれば,同じサクションで同じ設定(厚みや大きさ)で,フラップがレーザー照射による気泡で白くなったところに合わせて再度照射可能である.気泡部分はレーザーが当たらないので,まだ照射していない部分にだけ照射できる2).どうしても同日中のリカバリーが困難な場合は,無理せず手術を中断,延期し,日を改めて深さやフラップ径を変えて再試行を試みる.レーシック施行が困難と術者が判断した場合は,適応があるならば,有水晶体眼内レンズ手術やphotorefractivekeratectomy(PRK)へのコンバートを考慮する.●Opaquebubblelayerフェムトセカンドレーザー照射時に気泡が発生する.その気泡の逃げ道をフラップ作製時に同時に作製するが,気泡が何らかの理由で角膜実質内に溜まってしまうとopaquebubblelayer(OBL)が生じる(図2).角膜あたらしい眼科Vol.39,No.8,202210810910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1フェムトセカンドレーザーでのフラップ作製時のトラブルと対処法合併症所見対処センタリング不良強膜が非対称に露出センタリングに注意し再ドッキング結膜の吸い込み患者インターフェース間への結膜の吸い込み結膜を吸い込まないよう注意し再ドッキング患者インターフェース間のエア患者インターフェース間にエアの存在エアの入らないように再ドッキングサクションブレイク(ベッド面作製時)ベッド切開面の照射が不完全不完全なベッド面の照射の状況を考慮しフラップの直径と厚さを変更し再照射*不完全なベッド照射面と重ならないようサクションブレイク(サイドカット作製時)サイドカット時の照射が不完全サイドカットのみで再照射*不完全なサイドカット照射と重ならないよう*同日にフェムトレーザー再照射の場合,コーンは新しいコーンに変える必要がある.*トラブルによって作製された不完全フラップの状態により,期間をおいての再治療やPRKなどへの術式変更も含め,最適な対処を選択する.*フェムトセカンドレーザーのメーカー,機種によって対応法に多少の違いがある.図1サクションブレイク時の術中写真ドッキング時に眼球が上転し,画面右下方の結膜も吸引していたため,レーザー照射中にサクションブレイクを起こした.図2OBLの術中写真ドッキング時に術眼が外転し,画面右側の角膜外側が強く圧迫されたため,OBLを生じた.中心に水平に,適切なドッキングができていないときに生じやすい.個人的な経験では,少々のOBLが生じても,ほとんどの場合,問題なくエキシマレーザーを照射できるが,OBLの面積が大きく,アイトラッキングがかからない状態の場合は,気泡が消失するまで数時間待てば,問題なくエキシマレーザー照射が可能となる.●Coldspot水滴,気泡,眼脂などの存在で,フェムトセカンドレーザー照射が十分でないspotが発生することによる.無理にリフトしようとすると,フラップに穴が開くことになり(ボタンホール),その場合は数カ月回復を待ってから再度フラップ作製を試みることとなるため,無理は禁物である.範囲がごく狭い場合は,丁寧にゆっくりと.離を試みると,リフト可能である.明らかに範囲が広い場合はフラップをリフトせず,時間をおいて40μm1082あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022程度深い照射を行う2).●おわりにレーシックは医師一人でやれるものではなく,コメディカルスタッフも手術に携わるため,普段からチームでトラブル時の対処法を共有していると,落ち着いて対処しやすく,結果として患者の安心感にもつながる.レーシック手術件数は,かつてのレーシックバブルの頃に比べて激減しているのは周知のとおりであるが,屈折矯正,ことに近視矯正は国民の最大関心事であり,確実に希望者は存在する.診療時に屈折矯正手術に関する質問を受ける機会もそれぞれのクリニックであると思われるが,個人的な経験として,アンチ屈折矯正手術の先生方に否定され,困惑している患者も少なくない.正しい知識に基づく適応外の判断ならいいが,必要な検査もなしに根拠なく否定された患者も多数いるのではなかろうか.多焦点眼内レンズの際によく論じられるが,医療の進歩により,より正確な屈折矯正がクローズアップされてきている.ニーズは確実に存在するため,少しでも多くの眼科医が,レーシックを始めとする屈折矯正手術に対する偏見をなくし,正しい知識をもっていただけることを切に願ってやまない.地域密着の手術開業医による良質な屈折矯正手術施行施設が全国津々浦々に増えれば,よりわが国の国民とって福音であると確信する.文献1)FarahS,GhanemR,AzarDT:LASIKcomplicationsandtheirmanagement.In:RefractiveSurgery(AzarDT,ed),2nded,p195-221,Elsevier,Philadelphia,20072)稗田牧:屈折矯正トラブルシューティング①角膜屈折矯正手術の合併症と対処法─レーザーフラップの合併症.眼科手術33:388-390,2020(72)

眼内レンズ:角膜混濁眼の白内障手術における自動前囊切開装置ZEPTOの有用性

2022年8月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋429.角膜混濁眼の白内障手術における加藤侑里堀裕一東邦大学大森医療センター大森病院眼科自動前.切開装置ZEPTOの有用性自動前.切開装置CZEPTOシステムは,角膜混濁眼などを含む白内障手術の難症例に対して前.切開を自動かつ正確に行うことができる装置である.ここでは,偽翼状片による角膜混濁を認めた患者に対してCZEPTOシステムを使用した症例を提示する.●はじめに白内障手術は高度な医療技術や手術機器の進歩により,安全に正確に行える手術になってきた.しかし,角膜混濁眼などでは眼内視認性が低いため,手術の難度が高くなり,術中合併症を起こすリスクも高くなる.最近,角膜混濁眼や難症例に対する白内障手術において,術中の視認性を向上させ手術の成功率を高めるためのいくつかの報告がなされており,術中の前.切開時に自動前.切開装置(ZEPTOシステム,マイノーシス社)を用いた白内障手術が注目されている1).当院でも,顆粒状角膜ジストロフィや角膜輪部疲弊症による角膜混濁のある患者の白内障手術にCZEPTOを使用してきた2).本装置は,低エネルギーのパルスを用いて短時間かつ自動で一貫した大きさの連続円形切.(continuouscur-vilinearcapsulorhexis:CCC)を行うことが可能なディスポーザブルの前.切開装置であり,本装置を用いた前.切開はCprecisionCpulseCcapsulotomy(PPC)ともよばれている3).2017年に米国食品医薬品局(FDA)に認可され,わが国においてもC2019年C8月に医療用機器として承認された.今回,偽翼状片による角膜混濁を認めた患者に対してCZEPTOを使用した経験を報告する.C●症例(89歳,男性)近医眼科にて緑内障の診断で点眼加療していた.右眼は鼻側に偽翼状片を認めており,右眼の白内障による視力低下の進行を認めたため,当院にて白内障手術を行うことになった.視力は右眼C0.2(0.8C×sph+3.75D=cly-5.00DAx175°),左眼0.1(0.3C×sph+0.50D=cly-2.00DAx150°),眼圧は右眼10mmHgであった.右眼は鼻側よりCpalisadesofVogtの消失と角膜の全周性の混濁を認めており,Emery-Little分類CII程度の白内障を認めた.前眼部三次元画像解析にて前房深度はC2.8Cmmであった.眼内の視認性を向上させるため毛様体扁平部から眼内シャンデリア照明を挿入し(図2a),前.染色(69)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1ZEPTOの本体(当院より)を行った.前房内を眼科手術用粘弾性物質(ophthalmicviscosurgicaldevice:OVD)オペガンハイC0.85眼粘弾剤1%(参天製薬)で満たし,上方にC2.5Cmm程度の強角膜一面切開を作製した.先端のリングを切開創から前房内に挿入し(図2b,c),先端のリングを開きセンタリングを行い,水晶体に吸引固定させたのち通電し,前.切開を行った(図2d).ゆっくりと先端リングを引き出し,前.切開が完成していることを確認した(図2e,f).続いてハイドロダイセクションを行い,通常の超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った.術中および術後は合併症なく,水晶体.の亀裂なども生じなかった.C●ZEPTOの有用性当院ではC2021年より本装置を導入し,とくに角膜混濁眼における白内障手術において積極的に使用している.今回は偽翼状片による混濁により前房内の視認性が悪い白内障眼にCZEPTOシステムを使用した手術例を紹介した.ZEPTOは,折りたたみが可能なハンドピース先端の前.切開リングを水晶体前面の中心に設置し,吸引をかけて固定したのち,リングから発生する衝動波にあたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1079図2術中所見a:鼻側C1-5時方向に偽翼状片がある.7時方向にシャンデリアを挿入する.Cb:トリパンブルーで前.染色後,前房内をCOVDで満たし,先端リングをセットする.Cc:折りたたんだリングを前房内に挿入する.Cd:先端リングを目視下に水晶体中央に置き,吸引固定を行なったあと通電し前.切開を行う.Ce:吸引解除後,リングを眼外へ引き抜き,切開した前.を取り出す.Cf:超音波乳化吸引術後のCCCCの状態.よりC0.004秒で直径平均C5.2Cmmの正円の前.切開を作製することができるシステムである.マニュアルによるCCCではC0.79~5.55%程度で水晶体.の亀裂などが生じると報告されている4).しかし,走査型電子顕微鏡を用いた切開縁の検討では,ZEPTOで形成される切開縁の形状は前房側にまくれ上がり,functionaledgeの所見を示しており,不均一な断面でもマニュアルCCCCと比較してC4倍,切開縁の強度が高いと報告されている5).ZEPTOは安定した前.切開を作製できるため,その後の手術を安全に遂行することができるが,前房内にリングを挿入するため,前房深度はC2.5Cmm以上が推奨されており1),切開創はC2.2Cmm以上が推奨されている6).浅前房例では虹彩損傷や角膜内皮障害などのリスクがあるため,一定以上の前房深度があることを事前に前眼部三次元画像解析にて測定する必要がある.またCZEPTOを使用するにあたり,本症例のような一部角膜混濁を有する偽翼状片などの徹照不良や角膜混濁のある眼には,前.染色やシャンデリアを併用することで,前.切開の確実性の向上につながると考える.本装置を使用することで術中合併症のリスクが軽減されるだけでなく,術者のストレス軽減にもつながるため,CCCの作製がむずかしいことが懸念される場合や今回のような角膜混濁眼においては,積極的にCZEPTOを使用することは有用であると考える.文献1)秦誠一郎:前.切開装置CZEPTOシステム.眼科手術C34:61-64,C20212)加藤侑里,須磨崎さやか,柿栖康二らほか:角膜混濁眼の白内障手術における自動前.切開装置CZEPTOCRシステムの使用経験.臨床眼科76:382-388,C20203)ChangCDF,CMamalisCN,CWernerL:PrecisionCpulseCcapsu-lotomy:Preclinicalsafetyandperformanceofanewcap-sulotomytechnology.OphthalmologyC123:255-264,C20164)Cari.G,MillerMH,PitsasCetal:Complicationsandout-comesofphacoemulsi.cationcataractsurgerycomplicatedbyanteriorcapsuletear.AmJOphthalmolC159:463-469,C20155)ChangDF:ZeptoCprecisionCpulsecapsulotomy:ACnewCautomatedanddisposablecapsulotomytechnology.IndianJOphthalmolC65:1411-1414,C20176)OlaliCA,AhmedS,GuptaM:Surgicaloutcomefollowingbreachrhexis.EurJOphthalmol17:565-570,C2007