強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎に対するバイオ治療薬と治療戦略BiotherapeuticsandTreatmentStrategyforAnkylosingSpondylitisAssociatedUveitis佐田幾世*原田陽介*はじめに強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)は,若年男性に多く発症し,脊椎,仙腸関節,股関節,肩などの関節に炎症を起こす疾患である.また,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)-B27と関連しており,日本では比較的まれな疾患である.関節外症状は,眼,心血管,肺,消化管,皮膚など多様であるが,ぶどう膜炎の合併が最多であり,実際,眼科受診をきっかけにASと診断されることも多々ある.ほとんどのASに伴うぶどう膜炎は,局所的なステロイド治療に速やかに反応するが,治療に抵抗する場合は,腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)阻害薬などの治療法が近年開発されている.今回,ASに伴うぶどう膜炎の最近の知見と治療法について紹介する.I分類脊椎関節炎の分類を図1に示す.脊椎関節炎(spondy-loarthritis:SpA)は,炎症が付着部に集中することやHLA-B27遺伝子の関与などの共通点をもつ一連の疾患である.この中でもSpAは体軸性(axial)と末梢性(peripheral)に大別される.体軸性SpAには,X線検査で仙腸関節炎を有する強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)(体軸性脊椎関節炎radiographicaxialspondyloarthritis:r-axSpAともよばれる)と,X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(nonradiographicaxialspondyloarthritis:nr-axSpA)がある.末梢性SpAには,乾癬性関節炎(psoriaticarthritis:PsA),反応性関節炎(reactivearthritis:ReA),炎症性腸炎関連関節炎(in.ammatoryboweldiseaseassociatedarthri-tis:IBD-SpA),分類不能脊椎関節炎(undi.erentiatedspondyloarthritis:uSpA)が含まれる.以前は,AS(r-axSpA)の診断に「改訂ニューヨーク基準」が用いられてきたが,この基準ではnr-axSpAの早期診断が困難であると指摘されていた1).2009年,国際脊椎関節炎評価会(AssessmentofSpondyloArthri-tisinternationalSociety:ASAS)は,体軸性SpAの新しい分類基準を提唱し2)(図2),これによりnr-axSpAの分類や治療介入が可能となった.しかし,実際には,体軸性と末梢性の症状が共存することが多く,各疾患のオーバーラップも少なくないため,診断確定には困難な面がある.そのため,提唱された分類基準は,特異度が高くなるように設定されたものであり,「診断基準」とは異なる.AS(r-axSpA)とnr-axSpAは,臨床症状,併存疾患,治療への反応に関してほぼ同様であることが示されている3).このような情報を念頭に置いて,正確な情報収集と評価が必要とされる.II疫学AS(r-axSpA)の発症頻度は,欧米では成人の0.5~1%とされているが,わが国では0.02~0.03%と非常にまれな疾患であり,実際には3万人前後が罹患していると考えられている.2018年の全国疫学調査によると,日*IkuyoSada&YosukeHarada:広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕佐田幾世:〒734-8553広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学(眼科学)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(25)1011体軸性脊椎関節炎末梢性脊椎関節炎(axSpA)(pSpA)■3カ月以上持続する腰背部痛があり,発症が45歳未満の患者仙腸関節炎の画像所見*+または一つ以上の脊椎関節炎徴候*画像所見・MRI所見で仙腸関節炎を強く示唆する活動性(急性)炎症または・改訂ニューヨーク基準のX線基準を満たす仙腸関節炎HLA-B27+lHLA-B27以外の二つ以上の脊椎関節炎の徴候脊椎関節炎の徴候・ぶどう膜炎・炎症性腰背部痛・関節炎・付着部炎(踵骨)・指趾炎・乾癬.Crohn病/潰瘍性大腸炎.NSAIDsに対する良好な反応.HLA-B27.CRP陽性図2AssessmentofSpondyloArthritisinternationalSociety(ASAS)による体軸性脊椎関節炎(強直性脊椎炎を含む)の分類基準(文献2より一部改変)本国内の患者数は推定C3,200人と報告された4).また,2016年には,国の特定難病として指定されている.HLA-B27は,ASの発症リスクをC16倍増加させ1,5),また急性前部ぶどう膜炎とも関連しており,そのリスクをC23倍増加させると報告されている6).ASはCHLA-B27の分布に一致して地理的に不均一な疾患であり,一般人口におけるCHLA-B27保有率は,米国でC6.1%,中国でC1.8%であるのに対し,日本ではC0.3~0.5%程度とされている.海外の研究でCAS患者のC8割以上がHLA-B27保有者とされる一方で,わが国の研究では,AS患者のうちCHLA-B27陽性率がC78%だったという報告があるが7),1.3%であったという報告もあり,地域差が著しく,頻度差を考慮する必要があるとの指摘がある.ASは男女比約3:1で男性に多く,nr-axSpAは女性に多いとされる.女性では発症が遅く,軽症例が多いとされる.また,喫煙との関与も指摘されている.わが国では比較的まれな疾患であるため,リウマチや整形外科において,発症初期は通常の腰痛や関節リウマチなどと診断され,フォローされる例も少なくない.CIII臨床症状ASはC10~20代で発症し,20~30代に病勢がピークを迎え,40代に入ると徐々に鎮静化するのが一般的である.症状の特徴は,3カ月以上続く炎症性腰背部痛であるが,殿部痛,頑固な腰痛,背部痛など不定愁訴的な訴えも多く,他疾患との鑑別が重要となる.進行速度が遅く,初発から診断確定までC9年前後かかる場合もある.ASの腰背部痛は,初期には痛みが強い時期(数日から数週間)とまったく痛みがない時期の波が激しく,安静では改善せず,動くと改善するのが特徴的で,「炎症性腰背部痛」とよばれる.ASの早期発見には,いくつかのキラーワードがあり,「腰や股関節の痛みで夜間に目が覚める」「運動したら緩和する関節痛」などの訴えがあげられる.これらの症状がある場合は,速やかにリウマチ膠原病内科への紹介が必要である.40代に入ると痛みは徐々に鎮静化し,痛みの訴えが減る一方で,脊椎や関節の運動制限,拘縮や強直が目立つようになり,こわばりと倦怠感などが主体となるため8),年代別での訴えの変化に注意が必要である.筆者らも,片眼性の急性前部ぶどう膜炎患者に対しては,初診時から慎重に腰痛の有無や痛みの性状を聴取している.とくにC40代以降では,腰痛を訴えない例もあり,視診で脊椎や関節の拘縮や強直がないか注意深く観察し,少しでも疑わしい場合は,速やかに骨盤部CX線撮影を施行するとともに,X線所見が認められない場合でも,nr-axSpAの可能性を考慮し,リウマチ膠原病内科への紹介を行っている.CIV検査ASの体軸病変は通常,仙腸関節,下部腰椎から上方へと進展する.「改訂ニューヨーク基準」では,仙腸関節のCX線変化を,0度:正常,1度:疑い(骨縁の不鮮明化),2度:軽度(小さな限局性の骨びらん・硬化.関節裂隙は正常),3度:明らかな変化(骨びらん・硬化の進展と関節裂隙の拡大,狭小化または部分的な強直),4度:関節裂隙全体の強直,に分けており,おおむねこのグレード順に進行する(図3).脊椎のCX線変化は,まず椎体の靱帯付着部にびらん性変化による方形化(squaring)がみられ,その後,脊椎の垂直方向に起こる骨新生による靱帯骨棘(syndesmophytes)が形成され,左右対称性の椎体間架橋,脊椎強直(ankylosis)の順に進行する.靱帯骨棘の存在は,より多くの靱帯骨棘が発生するリスクが高いことを反映し,予後的価値があるとされる.ASの前段階であるCnr-AxSpAでは,MRIのCSTIR画像で骨髄浮腫を示唆する高信号領域と骨びらんの存在が診断のカギとなる.しかし,骨髄浮腫は,オーバーユースや外傷でもみられるため,注意が必要である.仙腸関節と脊椎のCMRIは,軸索の炎症の有無を評価できるが,臨床的な疾患活動性と炎症の関連はわずかであり,モニタリングには推奨されていない.ASの分類基準の項目には(図2),仙腸関節炎の画像所見の有無があげられ,MRI上の活動性(急性)の炎症がCSpAに関連する仙腸関節炎を強く示唆しているか,あるいは「改訂ニューヨーク基準」に基づいて確定したCX線基準を満たす仙腸関節炎である必要がある.そのため,MRI画像における炎症所見の有無は,AS診断において重要な指標とされる.(27)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1013図3強直性脊椎炎(AS)の骨盤部X線とMRI63歳,男性.左右交互に再発する急性前部ぶどう膜炎で紹介になった.最近,両膝関節痛が出現していた.骨盤部X線正面像では,両側仙腸関節のびらんがあり(),骨盤部CMRIでは,脂肪抑制CT2強調像で仙骨,両側腸骨の仙腸関節部に高信号域があり(),辺縁に硬化性変化を伴う仙腸関節炎を認め,ASと診断された.その後,アダリムマブ投与開始となった.図4強直性脊椎炎(AS)に対する治療中に再発した急性前部ぶどう膜炎(左眼)48歳,男性.5年前から急性前部ぶどう膜炎を左右交互に繰り返すため紹介となった.ASの既往があり,アダリムマブ加療中だったが左眼の眼痛,充血,前房内炎症細胞C3+が出現し,レミケードへ変更された.表1強直性脊椎炎(AS)に有効性が示されている生物学的製剤とASに伴うぶどう膜炎への効果一般名製品名分類CASへの効果わが国でのAS保険適用ASぶどう膜炎ヘの効果Cインフリキシマブ(IFX)レミケードキメラ型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C○C○インフリキシマブCBS(バイオシミラー)C○C○C○TNF阻害薬アダリムマブ(ADA)ヒュミラヒト型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C○C○セルトリズマブペゴル(CZP)シムジアペグ化ヒト化抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C─C○ゴリムマブ(GLM)シンポニーヒト型抗ヒトCTNFCaモノクローナル抗体C○C─C○エンブレル完全ヒト型可溶性CTNFCa/LTaレ○C─ぶどう膜炎惹起の可能性ありエタネルセプト(ETN)エタネルセプトCBSCセプターC○C─Cセクキヌマブ(SEC)コセンティクスヒト型抗ヒトCIL-17Aモノクローナル抗体C○C○前部ぶどう膜炎のリスクありIL-17阻害薬イキセキズマブ(IXE)トルツヒト化抗ヒトCIL-17Aモノクローナル抗体C○C○C─ブロダルマブ(PDL)ルミセフヒト型抗ヒトCIL-17受容体CAモノクローナル抗体C○C○C─CJAKウパダシチニブ(UPA)リンヴォックヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬C○C○C─阻害薬トファシチニブ(TOF)ゼルヤンツヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬C○C─C─CETN)は,海外ではCASへの有効性が示されているものの,わが国ではCASに対する承認はまだされていない.しかし,AS以外の関節リウマチなどではすでに承認,使用されており,一般診療において眼科医が遭遇する機会も多々ある.IL-17阻害薬に関しては,わが国では現在,ASに対してセクキヌマブ(secukinumab:SEC),イキセキズマブ(ixekizumab:IXE),ブロダルマブ(brodalum-ab:PDL)のC3剤が承認されている.どの薬剤も有効性はおおむね同様であり,ASではCTNF阻害薬と同等の有効性を示している21,22).さらに生物学的製剤で効果不十分の場合には,ヤヌスキナーゼ(Januskinase:JAK)阻害薬が推奨される.ASでは,ウパダシチニブ(upadacitinib:UPA)とトファシチニブ(tofacitinib:TOF)の有効性が実証されており,わが国では,2022年C5月からCUPAが承認されている.JAK阻害薬は,サイトカインシグナルを媒介する細胞内キナーゼのCJAKを標的とする分子標的合成抗リウマチ薬である.ASでは,現在までに関連性のある比較試験が行われておらず,TNF阻害薬,IL-17阻害薬とCJAK阻害薬のいずれを優先するかについては,結論は出ていない.CIXASに伴うぶどう膜炎の治療ASに伴うぶどう膜炎の治療は,局所的なコルチコステロイドと散瞳薬点眼の併用治療が中心である.難治性の場合や後眼部病変を併発した場合には,トリアムシノロンアセトニドの後部CTenon.下注射や副腎ステロイドの全身投与が有効である.さらに無効例や治療抵抗例には,2016年C9月に眼科領域として非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎に保険適用となった,TNFCa阻害薬の一つであるCADAの使用が考慮される.海外でCASに伴うぶどう膜炎に有効性が示されているのは,モノクローナルCTNF阻害薬であるCIFX,ADA,CZP,GLMである.これらの薬剤は,ASに伴う前部ぶどう膜炎のフレアを減らし23),ぶどう膜炎の既往患者では,再発予防効果があることが報告されている.また,IFXやCADAによる治療は,IL-17阻害薬であるSECやCTNF可溶性受容体抗体であるCETNと比較して,ぶどう膜炎の発症リスクが低いことが示されている.一方,ETNによるぶどう膜炎惹起の報告もある24).ETNは,その作用機序からマクロファージなどのCTNF産生細胞を傷害しないため,他の炎症性サイトカインの産生が続き,炎症を惹起する可能性があるとされている.SECは,非感染性ぶどう膜炎患者において有効性の検証が試みられたが,有効性が示されず,IL-12/23阻害薬のウステキヌマブを用いた第CII相試験が現在進行中である.最近の報告では,SpAの臨床で使用される場合に,SECは,モノクローナルCTNF阻害薬と比較して,前部ぶどう膜炎のリスクが高く,ETNと比較して同程度のリスクであると報告されている25).以上より,モノクローナルCTNF阻害薬は,ETNやSECと比較して,ASにおけるぶどう膜炎を予防するため,より効果的な選択肢であるされている.おわりにASASなどは,ぶどう膜炎を伴うCAS患者には,モノクローナルCTNF阻害薬を優先する必要があると勧告している.ASの治療薬として,わが国では近年,TNFCa阻害薬,IL-17阻害薬,JAK阻害薬が承認されてきたが,このうちCASに伴うぶどう膜炎に有効性が示されている薬剤はCADA,IFXある.TNF可溶性受容体抗体であるCETNはぶどう膜炎の惹起の可能性があり,IL-17阻害薬CSECは前部ぶどう膜炎のリスクがあるため注意が必要である.ASに伴う前部ぶどう膜炎の治療の際には,リウマチ膠原病内科との連携が必須であるが,前述のCASぶどう膜炎に対する有効な薬剤は限られているため,眼科医が薬剤の副作用や機序を把握し,ぶどう膜炎を認める場合はリウマチ膠原病内科医に,薬剤選択の際に治療方針について提案する必要がある.文献1)vanderLindenS,AValkenburgH,CatsAetal:Evalua-tionCofCdiagnosticCcriteriaCforankylosingCspondylitis:aCproposalformodi.cationoftheNewYorkcriteria.CArthri-tisRheum27:361-368,C19842)RudwaleitCM,CvanCderCHeijdeCD,CLandeweCRCetal:TheCdevelopmentCofCassessmentCofCspondyloarthritisCinterna-tionalCsocietyCclassi.cationCcriteriaCforCaxialCspondyloar-(31)あたらしい眼科Vol.40,No.8,2023C1017–’C