あたらしい眼科39(8):1063~1076,2022c第32回日本緑内障学会須田記念講演緑内障手術で視力を守るためにToProtectthePatient’sVisioninGlaucomaSurgery庄司信行*はじめに線維柱帯切除術(trabeculectomy:以下,LET)を勧める際には,現在の治療では進行が止められず,いずれ重篤な視機能障害をもたらす可能性が高いため,眼圧を下げる手術が必要であることを説明する.一方で,手術の目的は視機能の現状維持であるものの,ときに視力低下が生じて元に戻らないことがあることも説明しなければならない1~7).視野を保つためと説明しながら,視力低下のリスクについても説明しなければならないというジレンマは,緑内障手術を担当する医師であれば何度も経験することである.しかもわれわれは,視力が術後どのような経過をたどるかについて,あまり具体的なデータをもっていない.また,昨今,LETと白内障手術の相性はあまりよくない,同時手術の成績はよくないので別個に行うべきである,という報告8~10)もあり,はたして同時手術は避けるべきなのかどうかを知りたい.さらに,同時手術を行うにしろ単独にしろ,視機能の限られた緑内障患者に対して,通常の白内障手術と同じ眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を使用してよいのだろうか,という疑問も生じる.緑内障手術は患者の視機能を保つために行われるが,患者の視機能を損なうこともある.筆者の意図するところは,患者の視機能のなかでも重要な視力を手術で損なうことなく守る方法を探ることである.そこで今回の須田記念講演では,1)LET後の視力の経過,術直後に低下した視力の回復を妨げる要因はなにか,2)同時手術の是非と,行う場合のIOL度数決定の問題,そして3)緑内障に適した眼内レンズとは,という三つの項目について講演したのでまとめた.なお,現在論文作成中のデータが発表に含まれていたため,内容の一部は割愛させていただいたことをお断りしておく.ILETと視力変化LET後の視力低下に関する論文は以前よりいくつかみられるが,Francisら7)は,一過性の視力低下は56.5%にみられ,平均して約3カ月で回復したものの,なかには2年近くかかった症例が存在することを報告している.長期的な視力低下でいわゆる中心視野消失を生じた症例は2%で,術前の中心視野障害(いわゆるmaculasplitting)がみられるような進行例と,術後の合併症がみられた症例とのことである.わが国の全国濾過胞感染調査(CollaborativeBleb-RelatedInfectionIncidenceandTreatmentStudy:CBIITS)のデータを用いたKashiwagiらの報告11)では,WHOの定義によるblindnessは12.2%で,やはり術前の視力不良例や,術後の合併症発症例でリスクが高かったと報告されている.一方,logMAR値で0.2以上の悪化は観察期間5年の間には28.3%だったが,長期経過の観察だったので,緑内障そのものの進行例も含まれ,視力は経時的に低下していたことも報告されている.こうした長期観察は,緑内障診療の要になるものであるが,手術そのものの影響とも考えられる比較的早期の視力の経時的な変化に関する報告12,13)は少ない.また,これらの報告では白内障手術との同時手術例が含まれていたので,単独手術や同時手術を分け,より多数での検討*NobuyukiShoji:北里大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕庄司信行:〒252-0375神奈川県相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(53)1063表1線維柱帯切除術(LET)単独症例の背景平均±標準偏差最小-最大性別(男性/女性)年齢(歳)術前視力(logMAR)眼軸長(mm)術前眼圧(mmHg)術前10-2MD(dB)128/8866.0±12.318-880.072±0.19.0.30-0.7025.5±2.321.3-35.219.1±6.08.0-45.0.19.19±7.6.34.3-.1.2n=216(1例1眼)が必要と考えた.1.LET術後の視力変化2015年4月~2020年3月に北里大学病院でLET単独手術を施行した824眼のうち,①初回手術例,②術前矯正視力0.3以上,③白内障以外に視力に影響する可能性のある他の眼疾患を認めないこと,④Humphrey視野計10-2SITAstandardを施行し,中心窩閾値が測定されている,などの条件で選択し,さらに両眼手術例の場合はランダムに選択した片眼のみを採用した216例216眼を対象として検討を行った(表1).まず,これらの症例を,術前矯正視力が小数視力で1.0以上の群(術前視力良好群)と1.0未満の群(術前視力不良群)に分けて検討した.眼圧経過は,術前,術後1,2,3日,1週,2週,1カ月,3カ月の順に示すと,術前視力不良群で21.0±8.4,16.5±9.4,13.7±9.9,10.2±6.3,9.9±5.8,8.6±4.6,9.7±4.7,10.2±3.8mmHg,術前視力良好群で21.1±8.2,15.3±10.0,12.6±9.0,9.9±6.2,9.3±5.6,8.7±4.3,10.0±4.2,10.4±3.4mmHgと,両群とも同様の経過をたどっていた.そうした眼圧経過において,視力の経過は図1,2の通りであった.術前視力不良群では,やはり3カ月経っても回復せず,logMAR値の平均で約0.1低下したままであることがわかった.言いかえれば,小数視力が術前0.6程度まで落ちていた症例は,術後2週間で0.3~0.4程度まで低下し,徐々に改善してくるものの,3カ月で0.5程度までしか回復しないということになる.また,術前視良好群では,術前1.0~1.2が術後2週間で0.7~0.8に低下し,徐々に回復するものの3カ月経っても0.9~1.0と完全には回復しないことがわかった.これらの結果をもとに,LETの説明をする際には,最初の2週間ほどは2~3段階程度の視力低下が生じ,徐々に回復するものの,3カ月経っても元のように見えるようにならない可能性が高いことを患者に説明しなければならないことがわかった.2.LET術後の視力低下の関連因子上記の検討において,術後3カ月の時点でlogMAR値0.2以上の悪化がみられた症例は216眼中34眼であった.では,その34眼と悪化がみられなかった症例182眼の背景にどのような違いがあったのだろうか.性別,術後合併症の頻度をFisher’sexacttestを用いて,年齢,術前視力(logMAR換算値),眼軸長,術前眼圧,術前平均偏差(meandeviation:MD)値(10-2)をMann-WhitneyUtestを用いて比較した結果,悪化した症例は,悪化しなかった症例と比べて男性が多く,術前眼圧が高めであり,脈絡膜.離と浅前房の発症頻度が有意に高いことがわかった(いずれもp<0.01).そのうち,視力低下に影響の大きい因子は,多変量解析の結果,浅前房発症例であり,オッズ比は7.8であった.logMAR値が0.4以上悪化した10例とそうでない206例を比較したところ,悪化した症例では術前視力が低く(p=0.031,Mann-WhitneyUtest),脈絡膜.離,浅前房の頻度が高いことがわかった(いずれもp<0.01,Fisher’sexacttest).多変量解析を行うと脈絡膜.離と浅前房の二つの因子が選択され,オッズ比はそれぞれ14.9,26.6と非常に高い値であった.3.術前中心窩閾値と視力術前中心窩閾値と術後の視力低下の関連について受信者動作特性曲線(receiveroperatingcharacteristiccurve:ROC曲線)でみると,logMAR値0.2以上の悪化を示す症例では,感度は低いが33.5dBを,0.4以上の悪化は29.5dBをカットオフ値とすることがわかった(図3).ここで,そのカットオフ値である33.5dBを上回る値,つまり術前の中心窩閾値が34dB以上であったにもかかわらず,術後3カ月の時点で術前視力に戻らなかった症例36眼と戻った症例53眼にどのような違いがあったかをみたところ,浅前房の発症は視力が戻らなかった群で5眼,戻った群で1眼,低眼圧黄斑症の発症例はそれぞれ4眼と0眼で,有意に前者の頻度が高いことがわかった(p=0.037と0.024).多変量解析の結果,視力低下と有意な関連があったのは,年齢が高いこと,術前視力や術前10-2のMD値が低いことで,とくに浅前房やlogMAR換算値-0.100.10.20.30.40.50.219(0.60)n=1300.3110.436(0.37)0.400(0.40)(0.49)n=130n=1060.446(0.36)n=88n=560102030405060708090days図1術前視力不良群の平均logMAR値の変化術前logMAR値>0,すなわち小数視力が1.0未満の症例の平均視力の変化.logMAR変化量(3M.術前)は0.091±0.253.数値はlogMAR値,カッコ内は小数視力,nは眼数を表す.-0.1logMAR換算値00.10.20.30.40.5-0.059(1.14)n=1870.0150.1000.116(0.80)0.063(0.87)n=154(0.97)n=187(0.77)n=155n=880102030405060708090days図2術前視力良好群の平均logMAR値の変化術前logMAR値≦0(小数視力≧1.0),すなわち小数視力が1.0以上の症例の平均視力の変化.logMAR変化量(3M.術前)は0.074±0.118.数値はlogMAR値,カッコ内は小数視力,nは眼数を表す.低眼圧黄斑症の発症例ではその頻度が高いことがわかった.次に,logMAR値0.4以上の悪化を示した症例の術前中心窩閾値のカットオフ値である29dB以下の症例で,3カ月の時点で視力が戻った症例19眼と戻らなかった症例34眼を比較した.その結果,患者背景には有意な違いはなかった.しかし,多変量解析を行うと,脈絡膜.離の発症例で視力低下を生じる可能性が非常に高いことがわかった.つまり,中心窩閾値が低下している症例で視力を維持しようとしたら,術後の合併症として脈絡膜.離を起こしてはならない,ということになる.しかし,視力が戻った症例は術後3日目の眼圧が有意に低く,5mmHg以下に下がった症例は8眼(40%)で,視力が戻らなかった症例4眼(13%)に比べてその割合が高いものの,脈絡膜.離を生じた症例はなかった.つまり,脈絡膜.離が生じた症例は全例視力が戻らなかったことになる.ROC曲線による解析では,カットオフ値8mmHgのときp値は0.0396であるものの,感度0.61,特異度0.28であり,曲線下面積(areaunderthecurve:AUC)は0.67であった.特異度が低いため明確なことはいえないが,術後3日目の眼圧が8mmHgを超えないように調整することが望ましいと考える.つまり,中心窩閾値が29dB以下の症例では,術後早めに眼圧を下げ,かつ脈絡膜.離が生じないように管理を行えlogMAR0.2以上の悪化logMAR0.4以上の悪化Sensitivity0.00.20.40.60.81.0Sensitivity0.00.20.40.60.81.00.00.20.40.60.81.00.00.20.40.60.81.01-Speci.city1-Speci.cityAUC=0.65[95%CI:0.55-0.75]p<0.01AUC=0.82[95%CI:0.68-0.95]p<0.01Cut-o.=33.5dB(感度0.45,特異度0.79)Cut-o.=29.5dB(感度0.79,特異度0.80)図3視力悪化例の術前中心窩カットオフ値AUCp値Cut-o.値(dB)感度(%)特異度(%)上耳側上鼻側下耳側下鼻側0.780.680.870.79<0.01<0.01<0.01<0.0127.53.525.525.560.870.981.671.584.056.080.078.0ば,術後の視力低下は術前まで戻る可能性が高くなる,という結果になるが,現実的には非常にむずかしい管理ということになる.やはり,中心窩閾値が下がる前に手術を行うことが望ましいのではないかと考える.そこで,中心窩閾値が29dB以下になるときの固視点を囲む中心4点のカットオフ値をみたところ,上鼻側の1点は特異度が低いが,下方のとくに下耳側が25.5dBを下回ると中心窩閾値が29dB以下になる可能性が高いことがわかった(図4).そのため,手術を行うなら,中心4点がこれらの値を下回る前に行ったほうが,術後の一過性の視力低下から回復する可能性は高くなると考えられた.4.中心窩閾値良好例の視力低下術前の中心窩閾値が悪い症例では視力が悪化しやすく,元に戻る割合が低いことはある程度理解できるが,36dB以上と高い症例でも,一定の割合で視力は下がり,1年経過しても戻らない症例が存在する.今回の対象216眼のうち,術前中心窩閾値が36dB以上であった症例は49眼で,そのうち術後3カ月までに視力が回復した症例は81.6%,12カ月経過しても視力が戻らなかった症例は12.2%存在した.こうした症例は,先ほどの結果を合わせて考えると,やはり合併症によるものが大きく,良好な視力もしくは中心窩閾値を保つためには,合併症の発生を極力抑える工夫をしなければならないと考えた.そこで,術後合併症のうち,脈絡膜.離,浅前房,低眼圧黄斑症を発症した症例の背景を,記載が不明であった8眼を除いた208眼で調べることにした.まず脈絡膜.離を生じた症例18眼と生じなかった190眼を比較したところ,術前視力やMD値,中心窩閾値などに差はなかったが,脈絡膜.離が生じなかった症例と比較して術前眼圧が高く(21.4±5.2vs19.0±6.1mmHg),術後3日目と1週目の眼圧下降率が有意に高いことがわかった(それぞれ64.1±19.4vs41.3±37.1,69.0±23.2vs42.5±36.0%).多変量解析の結果では,術後1週目の眼圧下降率が選択された(オッズ比は1.04).感度・特異度がそれほど高くないので,p値が0.05未満であっても言い切ることはむずかしいが,脈絡膜.離は術前眼圧が19mmHg以上の症例で生じやすく,これを避けるためには,術後3日目の眼圧下降率は50%未満に抑え,1週目には,もう少し下げたとしても70%を超える下降とならないように管理すると,脈絡膜.離は生じにくいという結果であった.浅前房に関しては,術前の眼圧やMD値,中心窩閾値に差はなかったものの,発症例16眼の術後1週目の眼圧下降率が非発症例192眼のそれより有意に大きいことがわかった(60.8±39.4vs43.4±35.3%).多変量解析では,術後1週の眼圧下降率が選択され,浅前房は70%の眼圧下降率を境に発生頻度が高くなる可能性が示唆された(オッズ比は1.02).低眼圧黄斑症に関しては,術前の視力や眼圧,中心窩閾値などに差はみられなかったものの,発症例13眼では術後2日目の下降率が大きいことがわかった(56.0±39.4vs23.6±50.7%).多変量解析でも術後2日目の下降率が選択された.術後2日目の早期から眼圧が下がりすぎると黄斑症が生じやすく,57%以上の下降は避けたほうがよいことが示された.つまり,術翌日,2日目などの早期の極度な眼圧下降は避けたほうがよいと考えられる.5.病型と視力低下病型別の視力経過についておもな結果をかいつまんで述べると,視力が戻らなかった症例群は,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)127眼中44眼で,やはり術前の視機能(logMAR値,10-2のMD値,中心窩閾値,中心4点の閾値)が有意に低かった.術翌日の眼圧は,視力の戻った症例に比べて有意に高く(19.9±9.1vs16.2±9.4mmHg),1週目に15mmHg以上の眼圧の症例の割合も高かった(30vs15%)ことから,術直後からある程度の眼圧下降を得なければならないということだと考える.一方,戻らなかった症例では,脈絡膜.離の割合も有意に高い結果だった(18vs3%).正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)48眼の場合も,視力が戻らなかった症例17眼は術前の視機能が低かった.また,視力の戻らなかった症例では,戻った症例に比べて術後3日と1週目の眼圧が有意に高かった(それぞれ11.3±5.0vs8.2±5.2,10.2±4.9vs7.4±5.2mmHg).有意差はないが,3日目には8mmHg以下になった症例の割合は,視力の戻った症例のほうが多い傾向にあった.つまり,視力の戻らなかった症例では術後早期の眼圧があまり下がっていなかった症例が多かったようで,視力回復のためにも,ある程度の眼圧下降が必要ではないかと考えられる.一方,POAGに比べてより低い眼圧をめざしてLETを行い,実際に40%近くの症例が術後3日以内に5mmHg以下になっていても,NTGでは脈絡膜.離はけっして多くなかった(48眼中3眼のみ).もちろん眼圧値の下限はあると思われるが,脈絡膜.離は,先に述べたように術前からの眼圧下降率が高すぎることによって生じることのほうが多いと推測された.落屑緑内障眼の視力が戻った症例13眼と戻らなかった症例19眼を比較したところ,視力,視野感度など術前の視機能や眼軸長,術前眼圧に関しては両群間に差はなかった.術後2週目の眼圧のみ有意差がみられ,戻らなかった症例が12.6±7.0mmHg,戻った症例が7.9±2.9mmHgであった.しかし,それ以外には差がみられなかった.裏を返せば,落屑緑内障では,どのような症例でも視力が低下し,回復しない可能性があるということではないだろうか.ROC曲線による解析では,カットオフ値10mmHgでAUC0.74,p=0.021であった.感度は0.82だったが特異度は0.42であったので,一つの参考でしかないが,落屑緑内障では術後2週目の眼圧を10mmHg以下に下げておくことがよいのではないかと考えている.6.術後低眼圧の視力への影響近年のLETの手術成績の判断基準において,眼圧5mmHg以下は不成功と判断されることが多いが,LET術後5mmHg以下の低眼圧の症例で視力低下や合併症が多かったのかどうかを調べた.6~8mmHgで経過した症例と比較した結果,術後1カ月,3カ月とも5mmHg以下の群で有意に視力が低かった(logMAR値0.14と0.14に対して5mmHg以下の群では0.42と0.41).また,有意差はないが,3カ月の時点での視力悪化例が5mmHg以下の症例で31%(6~8mmHg群では9%)と多い傾向(p=0.051)にあることもわかった.合併症に関しては,症例数が少ないことも関係していると思われるが,発生率は少なく,5mmHg以下の極端な低眼圧は,脈絡膜.離や浅前房などを生じなくても,視力低下が回復しない可能性が高いのではないかと考えられる.一方,6~8mmHgの群と9~12mmHgの群の間には有意差はなかった.合併症の頻度も有意差はなく,真の眼圧値かどうかの議論はあるにしても,6mmHgまでを眼圧下降の下限とする考えは納得できるものであった.以上の結果から,術後いったん下がった視力は,眼圧が適度に下降しないと回復しにくい一方,眼圧下降率が高すぎて合併症が生じると,さらに視力は戻りにくくなると考えられる.つまり,手術侵襲で視力は下がるものの,眼圧下降で視力回復のチャンスが生まれることになるが,眼圧が下がることでなにが起こっているのだろうか?適度な眼圧下降時に起こっていることはなんであろうか?それは血流の改善かもしれないし,脈絡膜.離が視力予後に影響することを考えると,脈絡膜の環境の変化なのかも知れない.当院では,術前と術後1~3カ月の時点での血流を,レーザースペックルフローグラフィを用いて調べたが,有意な変化は認めなかった.やはり術翌日から直後の1,2週間になにが起こっているのかを調べる必要があるだろう.眼圧変化に伴う角膜形状変化も含めて,今後の課題と考える.IILETと白内障手術との同時手術近年,LET単独のほうが同時手術よりも成績が良好であるとの報告は,日本緑内障学会で行われたCBIITSのデータを用いた検討をはじめ,いくつも報告されている8~10).一方で,成績に変わりはなく,同時手術はむしろ合併症が少ないとのレビュー14)も出されている.しかし,LETを先に行った場合,白内障手術による炎症の影響で濾過胞の機能低下が生じる可能性が高く,LET術後の白内障手術は,1年程度などの一定の間隔をあけることが望ましいとの報告15~17)も多い.過去に当院でLETを行った症例のうち,2015~2020年に当院で白内障手術も行ったのは18例21眼で,LETから白内障手術までの期間は0.5~53年(平均16年)であった.術前眼圧は11.5±3.8mmHgで,術後は平均10.4から14.1mmHgの間を変動していたが,統計学的に有意な眼圧変化はみられなかった.しかし,点眼の追加が必要になった症例は2眼,濾過胞の機能不全に陥り,再建術を行った症例が1眼だったことから,白内障手術は濾過機能に多少影響する可能性はあると考える.そこで,同時手術の是非を考えるために,まず水晶体眼とIOL眼におけるLET単独手術での比較を行い,それぞれのLET単独手術とLET水晶体再建術との同時手術の比較を行った.1.LET単独手術―有水晶体眼vsIOL挿入眼有水晶体眼に対するLET単独手術47眼(有水晶体群)とIOL挿入眼でのLET単独手術169眼(IOL群)の経過を比較すると,術前の眼圧に差はないものの(19.2±5.6vs19.1±6.2mmHg),術後1週目は有水晶体群で有意に低く,術後3日以内に8mmHg以下になった症例の割合は68%と,IOL群の50%に比べて有意に高かった.脈絡膜.離の頻度は有水晶体群に若干多い傾向(15%vs7%,p=0.067)であった.術前視力(log-MAR換算値)に差はなかったものの(0.08vs0.07),術後1週で視力が戻った症例の頻度は有水晶体群20%であったのに対し,IOL眼で40%と有意に高かった.3カ月の時点で視力が術前に戻っていた症例の割合はそれぞれ62%と60%で差はなかった.2.LETと白内障の同時手術群とIOL眼に対するLET単独手術群の比較LETと白内障の同時手術(同時手術群)142眼とIOL眼におけるLET単独手術(IOL群)169眼を比べると,術後2週の眼圧が前者で10.0±5.5,後者で8.7±4.6mmHgと有意に低かったが,以降の眼圧に有意差はなく,視力(logMAR換算値)の平均値にも有意差はなかった.しかし,術後3カ月の時点での2段階以上の視力低下例の割合が,同時手術群1%に対してIOL群5%と有意に後者が高かった.浅前房の頻度も,同時手術群が4%だったのに対しIOL群が9%と有意に高く,合併症の発症は同時手術群で少ない可能性が考えられた.3.LETと白内障の同時手術群と有水晶体眼に対するLET単独手術群の比較有水晶体眼のLET単独群(有水晶体群)47眼と同時手術群142眼を比較すると,眼圧の経過は3カ月の時点まで有意に同時手術群(10.4~11.8mmHg)が有水晶体群(8.4~9.4mmHg)と比較して有意に高かったものの,脈絡膜.離の頻度は有意に低く(4vs15%),視力の回復に関しては,これは白内障手術をしているので当然かも知れないが,同時手術群のほうが有意に良好であった.幸い,今回の検討例では中心視野を消失した症例はなかった.4.LETの同時手術先に述べたように,当院でLET後に半年以上あけて白内障手術を行った症例では,平均眼圧の有意な上昇はなかったものの,点眼の強化や追加手術が必要となった症例が数例認められた.同時手術群は単独手術群に比べて1mmHg前後眼圧が高めとなったが,白内障手術の効果のためか視力回復は早く,合併症も有意に少ない結果であった.これらのことから考えると,白内障合併眼に対してLETを行う場合に,あえて半年や1年以上の間隔をあけてLET後に白内障手術を二段階に分けて行う必要性は感じられなかった.こうした短期間での結果を踏まえて,さらに観察期間を延ばした比較が必要と考える.5.同時手術におけるIOL度数決定LETと白内障手術の同時手術を考える際に,IOL度数決定のための計算式にはなにを選べばよいのだろうか.とくに,白内障単独手術の場合と違って,眼圧を大幅に下げる手術を併用すると,眼圧下降に伴う眼軸長の短縮と,強膜弁作製によるケラト値の変化が生じる可能性が考えられる.眼軸長の変化は微量であるが,たとえばもし20mmHgも下げたとすると,これまでの報告18,19)に基づけば0.3~0.4mm程度の短縮となり,これはIOL度数でいえば度数で1~2段階の差が生じる可能性が生じることになる.以前,筆者らはトラベクトーム手術においても,眼軸長が眼圧に応じて変化することを報告した20).図5は,当教室の飯島が2019年に日本眼科学会総会で発表した白内障手術眼でのデータであるが,通常使われることが多い水色のドットで表したSRK/T式は角膜形状や眼軸長の影響を受けやすく,赤色のドットで表したBarrett式は受けにくいことがわかった.そこで,LET同時手術眼でBarrett式とSRK/T式の比較を行ったところ,予測誤差はBarrett式で.0.15D,SRK/T式で平均.0.38と,Barrettのほうが予測,絶対とも誤差が有意に少ないという結果であった(図6).データの詳細は省くが,±0.5D以内に入った症例の割合はBarrettが70%,SRK/Tが57%,±1.0D以内の割合はBarrettが94%,SRK/Tが79%でどちらも有意差はなかったが,Barrett式のほうが予測性は良好である傾向が示されたので,筆者らの施設ではBarrett式を原則として用いるようにしている.6.LETと乱視矯正手術の併用LET術後に乱視が強くなることは知られているが,乱視が増えれば裸眼視力は低下するし,高齢者では若年者に比べて乱視の影響を受けやすい21)ことから,LET後に生じる乱視はなるべく矯正したい.手術で生じる乱視,すなわち惹起乱視の値や方向などが予測できるのであれば,乱視矯正IOLを併用できる可能性がある.惹起乱視の評価には算術平均術後惹起乱視(mean-surgi-callyinducedastigmatism:M-SIA)が用いられることが多い.M-SIAは乱視の大きさのみを考慮し決定する方法で,軸の方向は考慮されていない.一方,セントロイドSIA(centroid-SIA:C-SIA)は乱視の大きさだけでなく軸の方向も考慮し決定する方法である.したがって,C-SIAはM-SIAより全体のSIAの傾向を把握するのに臨床的に有用な可能性がある22,23).詳細は現在論文投稿中なので省くが,乱視は強膜弁作製方向に大きくなるものの,個々の症例で乱視量や軸の方向のばらつきも大きく,術中に乱視矯正IOLや角膜輪部減張切開術(limbalrelaxingincision:LRI)による乱視矯正はあまり高い精度が保てないと考え,適応にはしづらいと考えている.n=4802211SRK/BarretTt予測誤差(D)-2-2-3-3予測誤差(D)00-1-1384042444648505220222426283032平均角膜屈折力(D)眼軸長(mm)PearsonPearson相関係数rp相関係数rpSRK/T-0.485<0.001SRK/T0.223<0.001Barrett0.0300.506Barrett0.0270.56図5予測誤差との相関(SRK.T式vsBarrett式)SRK/T式(青い点)は角膜形状や眼軸長の影響を受けやすいが,Barrett式(赤い点)は受けにくい.(飯島ら,日本眼科学会一般講演,2019)術前術後3カ月p値矯正視力(logMAR)0.08±0.160.02±0.100.002眼圧(mmHg)18.9±4.310.6±2.6<0.001平均角膜屈折力(D)44.21±1.4144.27±1.410.371角膜乱視量(D)0.88±0.441.34±0.70<0.001絶対誤差(D)32p<0.001p=0.029Pairedttest10-1予測誤差(D)21-2-3BarrettSRK/TBarrettSRK/T0-0.15±0.54-0.38±0.610.44±0.340.55±0.46予測誤差絶対誤差図6LET同時手術前後の屈折誤差予測誤差,絶対誤差の比較において,Barrett式とSRK/T式の間には有意差がみられた.(飯島ら,日本緑内障学会一般講演,2019年)下させる可能性が常に指摘されており,緑内障眼に挿入III緑内障に適した眼内レンズは?した場合,コントラスト感度がさらに低下する可能性が1.コントラスト感度と多焦点IOL推測される.今回,緑内障眼でのコントラスト感度を検近年,さまざまな多焦点IOLが開発され,普及する討するために,単焦点IOLを挿入された緑内障以外のことによって,緑内障眼にも挿入されているケースを経疾患のない矯正視力1.0以上の症例78眼のコントラス験する機会が増えた.多焦点IOLはコントラストを低ト感度をVCTS-6500で測定した.その結果,MD値との有意な関連はみられなかったが,中心窩閾値が低下するにつれてコントラスト感度が有意に低下することがわかった.これは明所下でも薄暮下でも同様の結果であった.したがって,中心窩閾値に影響が及びつつある緑内障眼では多焦点CIOLの挿入は慎重に検討しなければならず,実際には避けるべきと考える.当院でも,他院で多焦点CIOL挿入術を受け,見え方に不満を訴えて単焦点CIOLに交換した患者を経験した.この患者はC48歳のPOAGの女性で,遠方矯正視力はC0.6,中心窩閾値がC26dBであり見づらさを強く訴えていた.IOL交換に伴う危険性を納得したうえで単焦点CIOLに交換したところ,眼圧は術前と変わりなく,視野障害の程度も変わりなかった.遠方矯正視力はわずかに向上し,曇っている感じがとれて見え方の違和感がなくなったと,本人の訴えも大きく改善した.コントラスト感度は正常範囲に戻ったわけではないものの,全周波数で明らかな改善がみられた(図7).つまり,多焦点CIOLを挿入したことにより,この患者はこれだけコントラスト感度の落ちた生活を強いられていたことになる.これまでにも,多焦点CIOLでコントラスト感度の低下が生じることはいくつも報告されている24~26).さらに緑内障や網膜疾患の患者は視機能をさらに低下させる可能性があると指摘されている27).したがって,緑内障眼に対して,コントラスト感度をさらに低下させる可能性のある多焦点CIOL挿入は漫然と行うべきではない.もちろん,超高齢社会において,ある程度の遠近視力の向上に対する一定のニーズはあるが,コントラスト感度が低下しないといわれている焦点深度拡張型多焦点CIOLは検討の余地はあるものの,それでも,中心視野への進行速度を評価し,中心視野障害の可能性を否定できるような視野検査の蓄積,眼底所見を含めた緑内障の評価をしっかり行ってから選択の判断を行うべきであることはいうまでもない.C2.着色IOLの影響わが国ではC1990年代に登場した黄色着色レンズが使われることが多い.これは羞明や術後の色合いの変化を少なくするなどが目的といわれている.以前は色感覚変化や羞明感への影響や,睡眠や血圧への影響,加齢黄斑変性の予防などに関して報告28~34)があり,加齢黄斑変性の予防効果についてはあまり期待通りではないようだが35,36),緑内障眼にどのような影響があるかについてはコントラスト感度(log)2.521.510.501.5361218空間周波数(cpd)図7本症例のコントラスト感度(術前後)多焦点眼内レンズから単焦点眼内レンズに交換したのち,コントラスト感度は大きく改善した.あまり検討されていない.たとえば,緑内障の早期に短波長感受性錐体の感度低下が起こることは,ブルーオンイエロー視野計の研究でよく知られている.緑内障のない白内障手術患者の片眼に黄色着色IOL,僚眼には非着色CIOLを入れてブルーオンイエロー視野計で測定し,影響の有無を調べた研究では,やはり着色レンズの影響があることが報告されている32).したがって,緑内障眼で短波長をカットすることは,何の影響もないといいきることはできないのではないだろうか?また,今回の講演では触れなかったが,白内障術後に短波長光が網膜のメラノプシン神経節細胞を刺激することで概日リズムが調整され,睡眠が改善するようになることは知られている.短波長の感受性が落ちている緑内障にさらに短波長をカットする眼内レンズを使うことは本当に問題ないのだろうか?本研究で使用した黄色着色レンズの詳細は図8の通りである.現在販売されている着色CIOLの分光透過率を参考に選択し,HOYA社のカラーフィルターガラスL39,L42,Y44,眼鏡レンズ基材CVGを使用した.それぞれわかりやすいように分光透過率に応じてCG1~G4とした.分光透過率曲線を示す図8は,上が今回使用したレンズ,下が現在販売されているおもな着色CIOLである.まず,正常若年者C20例C20眼において,フィルターなしとCG1~G4までのフィルターをつけた眼鏡装用下でカラーフィルターガラス眼鏡レンズ基材100使用レンズ0着色眼内レンズG1(L39)・G3(L42)・G4(Y44)G2(VG)透過率(%)350370390410430450470490510530550570590波長(nm)図8使用した黄色着色レンズの詳細上段:使用したレンズの透過率,下段:臨床で使用されているおもな黄色着色CIOLの透過率.G1~G4は便宜上の名称で,カッコ内はそれぞれのフィルターガラス(HOYA)の型番を示す.Humphrey視野計におけるCSITA-SWAPを測定し,その中心C4C×4点と中心窩閾値の計C17点を合計した網膜感度について調べたところ,G4の黄色着色レンズは明らかに網膜感度を低下させることがわかった(図9).図10はフィルターなし(N)とCG4装用時の網膜感度を等価球面度数,眼軸長別にみたものである.等価球面度数に関しては,N,G4ともに正の相関がみられたが,近視眼であるほどCG4による網膜感度への影響は大きいことがわかった.眼軸長に関しては,G4装用時に負の相関がみられ,眼軸長が長いほど,網膜感度への影響が大きくなることがわかった37).以上の正常者の実験から,緑内障患者ではどの程度の感度低下が生じるのかを調べるために,同一日に通常のクリアレンズ装用下での視野測定と,先ほどのCG4着色レンズ装用下での視野検査の結果を比較した.水晶体の着色の影響を除外するために,クリアCIOL挿入眼を対象とした.結果は予想に反して,MD値に関しては着色レンズ装用時のほうが有意に良好であった.パターン標準偏差値や中心窩閾値,固視点近傍のC4点やC16点の閾値の合計は有意差がなかった.MD値が良好となった理由としては,もしかすると色収差や散乱光の低減により,結果がよくなった可能性がある.一方,緑内障患者では,障害された神経節細胞が過敏性を獲得するとの報告38)もあり,正常若年者でのシミュレーションでは,緑内障患者の状況を反映していない可能性がある.外来で緑内障眼に行ったCdysphotopsiaに関するアンケートでは,dys-photopsia(まぶしさや光の軸,黒い影などの異常な光視)の自覚がCIOL挿入眼で多く,緑内障のない白内障患者のCIOL挿入眼より非常に高頻度にみられた.このようなCdysphotopsiaが疾患特有のものであるとしたら,そのメカニズムがあまりわかっていないのに,ある特定の分光透過率をもつ着色CIOLを眼内に挿入してしまってよいのか,それともクリアなCIOLにして遮光眼鏡などで工夫をする31)ほうがよいのかは,今後しっかりと検討すべき課題なのではないだろうか.緑内障眼に対する着色CIOL使用の是非はさらなる検討が必要と考えている.C3.視野障害に対するdysphotopsiaの影響ここまでは見えるほうのCdysphotopsiaの話だったが,今度は見えないほうの影響をシミュレーションを通して正常若年者20眼**平均閾値(dB)343230282624NG1G2G3G4反復測定分散分析p<0.0001**Sche.e検定p<0.01図9黄色着色レンズの網膜感度への影響平均閾値(dB)各フィルターガラス(図C8で示したCG1~G4)を装用し,正常若年者C20眼においてHumphrey視野計CSITA-SWAPを測定した.フィルターの装用順は無作為に行い,中心C17点の閾値の平均を算出し,比較した.Nは着色レンズ非装用を示す.G4装用時の感度は他のすべての測定条件における感度と比較して有意に低下していた.等価球面度数眼軸長G4p<0.01r=0.67G4p<0.01r=-0.5934Np=0.04r=0.47Np=0.10r=-0.46343232平均閾値(dB)3030282826262424222220-10-8-6-4-202024682022242628等価球面度数(D)眼軸長(mm)Spearmanrankcorrelationcoe.cient図10眼軸長,等価球面度数と網膜感度フィルターなし(N)とCG4装用時の網膜感度を,等価球面度数,眼軸長別に測定した.等価球面度数別の測定では,N,G4ともに正の相関がみられたが,近視眼であるほどCG4による網膜感度への影響は大きかった.眼軸長別の測定では,G4に負の相関がみられ,眼軸長が長いほど,網膜感度への影響が大きかった.●:N装用,○:G4装用.確認し,緑内障性視野障害に影響の少ないCIOLを考えとよばれる.このCnegativeCdysphotopsiaはCIOLの屈折てみた.率によって異なり,高屈折率の素材では光が大きく曲が見えないほうのCdysphotopsiaは,IOLの光学部を通るため,中心に向かってグレア光が移動し,光の当たらる光,エッジを通る光,そして虹彩-IOL間を通る光にない領域を作り出し,グレアを知覚しやすくなる(図よって生じ,光の合間の暗い部分がCnegativephotopsiaC11).屈折率1.413屈折率1.550アッベ数56.7アッベ数37.0図11IOLの屈折率とnegativedysphotopsiaNegativedysphotopsiaは,IOLの光学部を通る光,エッジを通る光,そして虹彩-IOL間を通る光によって生じる,光の合間の暗い部分である.高屈折率の素材では光が大きく曲がるため,中心に向かってグレア光が移動し,光の当たらない領域が広くなり,グレアを知覚しやすくなる.左図は低屈折率素材のCIOLを用いたとき,右図は高屈折率素材のCIOLを用いたときのシミュレーションである.屈折率C1.550,いわゆるアクリル製CIOLに使われる素材でのシミュレーションではC78~90°の広い範囲でCneg-ativedysphotopsiaが発生していた.低い屈折率,つまりシリコーンCIOLでのシミュレーションではCnegativedysphotopsiaのみられる範囲は若干狭くなることがわかった39).NegativeCdysphotopsiaが生じる部位は,ちょうど耳側残存視野にかかる領域になる.広い範囲にdysphotopsiaが生じてしまうと,視野の狭窄につながってしまうかもしれない.もちろん,患者の残存視野にもよるが,このリスクを考えると,緑内障性視野障害を有する患者には屈折率の低い眼内レンズが望ましく,筆者はシリコーンCIOLもしくは低屈折率のアクリルCIOLを選択するようにしている.CIVまとめ線維柱帯切除術後の視力低下はC3カ月経過しても回復しないことが多いことがわかった.いったん下がった視力の回復の可能性について検討した結果,視力回復の鍵は,術前の視機能の余力ともいうべき中心窩閾値に依存することから,中心窩閾値が低下する前に手術を勧めるべきである.また,病型によって異なるが,術後にはある程度のすみやかな眼圧下降が必要である一方,脈絡膜.離や浅前房・黄斑症といった低眼圧による合併症が生じると視力回復の可能性は著しく低下し,それらの合併症は眼圧下降率が高すぎることで生じることがわかった.これらの現象のメカニズムについては不明な点が多く,より安全な治療のためには引き続き検討を行っていく必要がある.同時手術はCLET単独手術に比べてC1CmmHg程度高く経過するが,合併症の頻度は明らかに少なく,白内障手術を併用したので当然かも知れないが,術後の視力低下が生じにくい術式と考えられる.同時手術におけるCIOL度数の算出には,強膜弁作製による惹起乱視や眼圧下降による眼軸長の変化の影響の少ないCBarrett式が効果的であると考えられる.同時手術を行う場合,単に白内障手術で用いるCIOLを流用せず,緑内障眼に適したCIOLを用いるべきである.緑内障が進行性の疾患であることを考えれば,先々コントラスト感度の不要な低下を増長する可能性のある多焦点CIOLは避けるべきである.LETによって強膜弁方向への惹起乱視が生じるが,その変化や軸の方向は個人差があり,乱視矯正用CIOLや乱視矯正角膜切開術のような術中の乱視矯正はむずかしいと考える.短波長感受性錐体のコントラスト感度低下や網膜感度の低下を生じる可能性のある黄色着色レンズの使用は慎重にすべきであろう.Dysphotopsiaによる視野狭窄の可能性を考えると,用いるCIOLの屈折率は,シリコーンもしくは低屈折率のアクリルが望ましいと考える.本講演では明確な回答が出せなかったが,緑内障患者の白内障術後に訴えの多い羞明に関しても,網膜神経節細胞レベルで対応がむずかしいのか,それともなにか光学的な対応が可能なのかなどは,引き続き今後の課題としたい.謝辞:恩師新家眞先生,白土城照先生,山本哲也先生に深謝申し上げるとともに,筆者の緑内障研究の入口でご指導いただいた中野豊先生,山上淳吉先生,小関信之先生,鈴木康之先生,そして本講演の座長の労をおとりいただいた相原一先生や東京大学医学部眼科学教室の先生方,また今回の講演のために一からデータ収集をして解析してくれた笠原正行君や平澤一法君,佐藤信之君をはじめとした北里大学医学部眼科学の医局員と医療衛生学部視覚機能療法学の教員の方々,そしてこうした素晴らしい財産を引き継がせていただいた清水公也先生に心より感謝申し上げます.文献1)AggarwalCSP,CHendelesS:RiskCofCsuddenCvisualClossCfol-lowingCtrabeculectomyCinCadvancedCprimaryCopen-angleCglaucoma.BrJCOphthalmolC70:97-99,C19862)MartinezJA,BrownRH,LynchMGetal:Riskofpostop-erativeCvisualClossCinCadvancedCglaucoma.CAmCJCOphthal-molC115:332-337,C19933)TopouzisCF,CTranosCP,CKoskosasCACetal:RiskCofCsuddenCvisuallossfollowing.ltrationsurgeryinend-stageglauco-ma.AmJOphthalmolC140:661-666,C20054)LangerhorstCCT,CdeCClercqCB,CvanCdenCBergTJ:VisualC.eldCbehaviorCafterCintra-ocularCsurgeryCinCglaucomaCpatientswithadvanceddefects.DocOphthalmolC75:281-289,C19905)CostaVP,SmithM,SpaethGLetal:Lossofvisualacuityaftertrabeculectomy.OphthalmologyC100:599-612,C19936)LawCSK,CNguyenCAM,CColemanCALCetal:SevereClossCofCcentralCvisionCinCpatientsCwithCadvancedCglaucomaCunder-goingCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC125:1044-1050,C20077)FrancisCBA,CHongCB,CWinarkoCJCetal:VisionClossCandCrecoveryCafterCtrabeculectomy.CArchCOphthalmolC129:C1011-1017,C20118)LochheadCJ,CCassonCRJ,CSalmonJF:LongCtermCe.ectConCintraocularpressureofphacotrabeculectomycomparedtotrabeculectomy.BrJOphthalmolC87:850-852,C20039)Ogata-IwaoCM,CInataniCM,CTakiharaCYCetal:ACprospec-tiveCcomparisonCbetweenCtrabeculectomyCwithCmitomycinCCandphacotrabeculectomywithmitomycinC.ActaOph-thalmolC91:e500-e501,C201310)ArimuraS,IwasakiK,OriiYetal:Comparisonof5-yearoutcomesCbetweenCtrabeculectomyCcombinedCwithCphacoemulsi.cationCandCtrabeculectomyCfollowedCbyphacoemulsi.cation:aCretrospectiveCcohortCstudy.CBMCCOphthalmolC21:188,C202111)KashiwagiK,KogureS,MabuchiFetal:Changeinvisu-alCacuityCandCassociatedCriskCfactorsCafterCtrabeculectomyCwithCadjunctiveCmitomycinCC.CActaCOphthalmolC94:Ce561-e570,C201612)Beltran-AgulloCL,CTropeCGE,CJinCYCetal:ComparisonCofCvisualCrecoveryCfollowingCEx-PRESSCversusCtrabeculecto-my:ResultsCofCaCprospectiveCrandomizedCcontrolledCtrial.CJGlaucomaC24:181-186,C201513)KobayashiN,HirookaK,NittaEetal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