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序説:神経眼科疾患とまぎらわしい疾患─鑑別のポイント

2022年8月31日 水曜日

神経眼科疾患とまぎらわしい疾患─鑑別のポイントDiseasesConfusedwithNeuro-OphthalmologicDisorders敷島敬悟*神経眼科疾患の診断はむずかしいというイメージをもち,敬遠される方も多いと思われる.実際,さまざまな機能的,構造的な眼科検査,バイオマーカー,画像検査を駆使して確定診断に至る症例もなかには存在する.しかし,通常は,典型的な神経眼科疾患であれば診断は決してむずかしくはない.一方で,典型的な神経眼科疾患であるとまず考えられる症状,所見を呈するも,鑑別を要する他の領域の疾患も存在する.神経眼科が扱うおもな領域は,視神経疾患,頭蓋内の視覚路異常,眼球運動障害,瞳孔異常を含めた自律神経異常,眼瞼運動異常などであるが,それらとまぎらわしい疾患について,それぞれの領域の専門的な立場から解説いただいた.視力低下,中心暗点を呈するも視神経乳頭が正常の場合,まず球後の視神経疾患を疑う.しかし,このような場合,急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR),conedystrophy,occultmaculardys-trophyなどの眼底に検眼鏡的所見がない疾患が鑑別にあがる.AZOORは相対的瞳孔求心路障害(RAPD)が陽性のこともある.このような疾患について上野真治先生にまとめていただいた.視神経乳頭腫脹がみられた場合,視神経炎が念頭にあがるが,Vogt-小柳-原田病,後部強膜炎,Behcet病,感染性網膜・脈絡膜炎などの後眼部炎症性疾患でも視神経乳頭腫脹をきたすことがある.このような網膜脈絡膜疾患について堀純子先生に解説いただいた.また,視神経鞘髄膜腫は頻度が少ないが,これも視神経炎との鑑別を要する疾患である.視神経乳頭浮腫をきたし,単純MRIではびまん性の視神経腫大を呈するもステロイドパルス療法が奏効せず,徐々に悪化する場合は視神経鞘髄膜腫を疑い,造影MRIが必要となる.笹野紘之先生に概説いただいた.神経眼科における視神経疾患に比べて緑内障は圧倒的に頻度が高い.しかし,緑内障とまぎらわしい神経眼科疾患が時に存在するため,見逃さないことが重要である.緑内障と鑑別を要する視神経疾患による視神経萎縮の診かた,緑内障とは異なる視野異常のチェックポイントに関して,大久保真司先生と宇田川さち子先生に整理していただいた.急性発症で複視を自覚した場合,通常は非共同性の眼球運動神経麻痺や外眼筋疾患の神経眼科疾患を疑う.しかし,急性発症で複視を自覚するも共同性内斜視を呈する,デジタルデバイスに関連した急性内斜視が最近注目されている.この特徴について,ご専門の吉田朋世先生と仁科幸子先生に解説いただいた.同様に,複視,眼位異常を呈するも,神経眼科疾患と鑑別を要する疾患として,saggingeye*KeigoShikishima:東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)1011

細菌性眼瞼炎に対するアジスロマイシン点眼液を用いた 治療プロトコールの検討─第一報:臨床経過の検討

2022年7月31日 日曜日

細菌性眼瞼炎に対するアジスロマイシン点眼液を用いた治療プロトコールの検討─第一報:臨床経過の検討子島良平*1井上智之*2加治優一*3鈴木崇*4服部貴明*5星最智*6戸所大輔*7江口洋*8井上幸次*9*1宮田眼科病院*2多根記念眼科病院*3松本眼科*4いしづち眼科*5服部クリニック*6堀切眼科*7群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学*8近畿大学医学部眼科学教室*9鳥取大学医学部視覚病態学CAnalysisofTreatmentProtocolsUsingAzithromycinEyeDropsforBacterialBlepharitis─FirstReport:StudyofClinicalCourseRyoheiNejima1),TomoyukiInoue2),YuichiKaji3),TakashiSuzuki4),TakaakiHattori5),SaichiHoshi6),DaisukeTodokoro7),HiroshiEguchi8)andYoshitsuguInoue9)1)MiyataEyeHospital,2)TaneMemorialEyeHospital,3)MatsumotoEyeClinic,4)IshizuchiEyeClinic,5)HattoriClinic,6)HorikiriEyeClinic,7)DepartmentofOphthalmology,GunmaUniversity,GraduateSchoolofMedicine,8)DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversity,FacultyofMedicine,9)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversityC目的:細菌性眼瞼炎に対する抗菌薬の投与期間と症状推移,再発状況を評価し,細菌性眼瞼炎の治療プロトコールを検討する.方法:2019年C12月.2021年C3月に研究参加施設を受診し,細菌性眼瞼炎と診断され,治療目的でC1%アジスロマイシン点眼液を投与した患者のうち,14日間の点眼期間内にC1回以上受診した患者を対象とした.点眼後の転帰,点眼期間,再発率,症状スコア,治癒に影響を与える因子を検討した.結果:対象は46例46眼(男性10例,女性C36例),平均年齢はC72.2歳であった.治癒率はC41.3%,治癒・改善率はC93.5%,点眼期間はC11.3日,点眼終了C1カ月後の再発率はC6.5%であった.治癒に影響を与える因子は病型で,後部眼瞼炎が前部眼瞼炎よりも治癒しやすいとの結果が示された.結論:細菌性眼瞼炎の治療において,抗菌薬投与後は治療反応性を定期的に確認し,適切な時期に投与を終了することが重要である.CPurpose:ToCinvestigateCtreatmentCprotocolsCforCbacterialCblepharitis.CPatientsandMethods:AmongCtheCpatientsCdiagnosedCwithCbacterialCblepharitisCandCadministered1%CazithromycinCeyeCdropsCbetweenCDecemberC2019CandCMarchC2021,CweCtargetedC46CwhoCwereCseenCatCleastConceCduringCtheirC14-dayCtreatmentCperiod,CandCexaminedCtreatmentCoutcomesCpostCadministration,CdosageCperiod,CandCrecurrenceCrate,CandCconsideredCfactorsCa.ectingrecovery.Results:Inthe46patients,therecoveryratewas41.3%,andeitherrecoveryorimprovementwasnotedin91.5%.Themeandosageperiodwas11.3days,andtherecurrencerateat1monthaftercessationofdosageCwas6.5%.CDiseaseCtypeCwasCtheCfactorCthatCmostCsigni.cantlyCa.ectedCrecovery,Ci.e.,CpatientsCrecoveredCmoreeasilyfromposteriorblepharitisthananteriorblepharitis.Conclusion:Inthetreatmentofbacterialblephari-tis,afteradministeringantibacterialmedications,itisimportanttocheckpatientsatregularintervalsfortreatmentresponsivenessanddiscontinuetheadministrationattheappropriatetime.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):999.1004,C2022〕Keywords:細菌性眼瞼炎,治療プロトコール,転帰,再発,アジスロマイシン点眼液.bacterialCblepharitis,Ctreatmentprotocol,outcome,recurrence,azithromycineyedrops.C〔別刷請求先〕子島良平:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:RyoheiNejima,M.D.,Ph.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kuraharacho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(145)C999眼瞼炎は,眼瞼縁を中心に痒みや発赤などの炎症症状を呈し,一般的に慢性の経過をたどることが多い疾患であり,炎症の部位により解剖学的には前部眼瞼炎と後部眼瞼炎に分類される1,2).前部眼瞼炎では,ブドウ球菌などの感染や脂漏性疾患により睫毛根部周囲で炎症が生じ,後部眼瞼炎では,マイボーム腺機能不全(meibomianglandCdysfunction:MGD)を背景に,マイボーム腺開口部を中心に炎症が生じる2).原因は多因子である可能性が高く,細菌感染,皮膚炎,ニキビダニの存在など複数が組み合わさっていると推測されるが,治癒に至る治療法については確立されていない1,3).一般的に,眼瞼清拭や温罨法,抗菌薬の点眼・内服で治療が行われるが4.6),いったん症状が軽快しても再発することが多く,継続した管理が必要となる.現在,わが国の眼感染症の治療においては,フルオロキノロン系抗菌点眼薬の使用に偏っており,長期に使用されていることも少なくない.抗菌薬の長期使用は眼表面細菌に影響を与えることから7,8),眼瞼炎のような慢性疾患に漫然と長期に使用することは避けるべきであり,耐性菌を増やさず,かつ十分な治療効果を得られる管理法を模索する必要がある.そこで,細菌性眼瞼炎の治療プロトコールを検討するため,眼瞼組織への薬物移行が良好で9,10),使用期間がC14日間と上限のあるマクロライド系抗菌薬のC1%アジスロマイシン(AZM)点眼液を使用し,眼瞼炎に対する抗菌薬の投与期間と症状の推移,および眼瞼炎の再発状況について評価した.なお,細菌学的検討の結果は別報で報告する.CI対象および方法本研究は多施設共同前向き観察研究であり,宮田眼科病院の倫理委員会の承認を得て実施した(UMIN試験CID:UMIN000039106).ヘルシンキ宣言に基づき,十分なインフォームド・コンセントが文書にて得られた患者を対象とした.対象は,2019年C12月.2021年C3月に本研究参加施設を受診し,細菌性眼瞼炎と診断され,治療目的でC1%CAZM点眼液を投与された患者のうち,14日間の点眼期間内にC1回以上受診した患者とした.選択基準は,①C16歳以上,②初診時に「眼局所用抗菌薬の臨床評価方法に関するガイドライン」12)のスコア判定基準(表1)に基づき自覚症状・他覚的所見のスコア総計がC4点以上で,他覚的所見のうち眼瞼縁充血・眼瞼発赤のスコアがC1点以上,かつ自覚症状のいずれかのスコアがC1点以上の両方を満たす患者とした.除外基準は,①眼瞼炎以外の眼瞼疾患(眼瞼内反症,眼瞼腫瘍など)がある患者,②眼瞼炎以外の細菌性,真菌性,ウイルス性,アレルギー性などの外眼部炎症疾患(結膜炎や角膜炎など)がある患者,③重度の眼表面疾患を有する患者,④C2週間以内に抗菌薬・ステロイド薬・免疫抑制薬を局所または全身投与された患者のいずれかに該当する患者とした.担当医師は,初診時に,他覚的所見より主たる炎症を認める部位を判断し,眼瞼炎を前部眼瞼炎または後部眼瞼炎のいずれかに分類した.また,「マイボーム腺機能不全の定義と診断基準11)」を参考にCMGDの有無を判断した.1%CAZM点眼液は,最初のC2日間は1回C1滴,1日2回,その後は1日C1回C12日間の計14日間点眼することとし,途中で治癒と判定した場合にはその時点で点眼を終了した.眼瞼清拭,温罨法の実施は担当医師の判断に委ねた.初診時,点眼C7日後,14日後,点眼終了C1カ月後に,自覚症状および他覚的所見をスコア判定基準12)(表1)に基づき評価した.転帰は,7日後に「治癒」「治療継続」「治療変更」のC3段階,14日後に「治癒」「改善」「不変」「悪化」のC4段階で判定することとし,スコアの推移を指標に,最終的に担当医師が判定した(表2).点眼終了C1カ月後には再発状況を確認した.自覚症状・他覚的所見のスコア総計がC4点以上,または抗菌点眼薬による治療を再開する必要がある場合に再発と定義した.観察期間を通して副作用を収集した.評価項目は,治癒率(治癒と判定された割合),治癒・改善率(治癒および改善と判定された割合),点眼期間,自覚症状および他覚的所見の各スコアの推移,治癒に関連する背景因子,再発率とした.統計解析は利用可能なすべてのデータを用いて行い,スコアは初診時との比較を混合効果モデルで,背景因子の特定は単変量および多変量ロジスティック回帰分析にて解析した.CII結果対象はC46例C46眼であった.患者背景を表3に示す.眼瞼清拭,温罨法を観察期間中に実施した症例はなかった.初診時に,緑内障治療薬(3例),アレルギー性結膜疾患治療薬(4例),ドライアイ・角膜上皮障害治療薬(9例),その他点眼薬(2例)が併用されていた(重複あり).転帰判定の結果,全症例の点眼終了時における治癒率は41.3%(19/46例),治癒・改善率はC93.5%(43/46例)で(表4),点眼終了までの点眼期間(平均値C±標準偏差)はC11.3C±3.1日(6.14日)であった.1例でスコアは改善していたものの,患者希望(粘性のため点眼しづらい)により点眼C7日後にC1%CAZM点眼液の投与を中止した.点眼終了C1カ月後の再発率はC6.5%(3/46例)であった.自覚症状および他覚的所見のスコアは,すべての項目で,いずれの観察時点でも初診時から有意に減少した(図1).治癒に影響を与える因子は病型のみで,後部眼瞼炎が前部眼瞼炎よりも治癒しやすいという結果が得られた(オッズ比38.462,95%信頼区間C6.944-200.000,p<0.0001).病型別判定基準スコア自覚症状異物感C.±++++++なしCほとんどなしC時々ゴロゴロするCゴロゴロするが開瞼可能Cたえずゴロゴロして開瞼不可能C0C0.5123流涙C.±++++++なしCほとんどなしC涙で眼が潤むC涙が時々こぼれるC涙が頻繁にこぼれるC0C0.5123他覚的所見眼瞼縁充血・眼瞼発赤C.±++++++所見なしC所見ほとんどなしC眼瞼縁の軽度の充血を認めるが眼瞼皮膚の発赤がないC眼瞼縁の高度の充血を認めるが眼瞼皮膚の発赤がないC眼瞼縁の潰瘍又は眼瞼皮膚の発赤を認めるC0C0.5123睫毛部分の分泌物C.±++++++所見なしC所見ほとんどなしC数本の睫毛根部に分泌物を認めるC多数の睫毛根部に分泌物を認めるC分泌物により複数の睫毛が束状になっているC0C0.5123結膜充血C.±++++++所見なしC所見ほとんどなしC軽度又は部分的な充血を認めるC中等度の充血を認めるC高度の充血を認めるC0C0.5123表2点眼7日後,14日後の転帰判定転帰判定スコアの推移治癒自覚症状および他覚的所見のスコア総計が初診時のC1/4以下改善自覚症状および他覚的所見のスコア総計が初診時のC1/2以下不変改善,悪化のどちらとも判定できない悪化自覚症状および他覚的所見のスコア総計が初診時よりも悪化スコアの推移を指標に,最終的に担当医師が転帰を判定した.の点眼C14日後までの治癒率は,前部眼瞼炎でC11.1%(3/27CIII考按例),後部眼瞼炎でC84.2%(16/19例),治癒・改善率はそれぞれC88.9%(24/27例),100.0%(19/19例)であった.自現在,眼瞼炎を含む眼感染症の治療ではフルオロキノロン覚症状および他覚的所見のスコアは,すべての項目で,前部系抗菌点眼薬が使用されることがほとんどであるが,症状が眼瞼炎では点眼C14日後以降,後部眼瞼炎では点眼C7日後以軽度の場合には,抗菌薬を処方したまま再受診を促さず,漫降で初診時から有意に減少した(表5).然と点眼が継続されているケースを多く経験する.しかし,副作用はC5例(10.9%)でC6件認められ,べたつくがC2件,抗菌点眼薬の長期投与は眼表面の常在細菌に影響を及ぼすこ霧視,異物感,乾燥感,刺激感がそれぞれC1件であった.とがわかっており,点眼期間が長くなるほど,点眼中止後の性別男性10(C21.7%)女性36(C78.3%)年齢(歳)C72.2±11.3歳病型前部眼瞼炎27(C58.7%)後部眼瞼炎19(C41.3%)CMGDなし15(C32.6%)あり31(C67.4%)涙道疾患なし46(C100.0%)あり0(0C.0%)併用療法なし34(C73.9%)あり12(C26.1%)年齢は平均値±標準偏差表4全症例の転帰(n=46)治癒(治癒率)改善(改善率)不変悪化点眼C7日後C10(2C1.7%)C─C─C─C─点眼C14日後C9(1C9.6%)C24(5C2.2%)C2C0C─合計C19(4C1.3%)C24(5C2.2%)C2C093.5%─:判定せず,または算出せず.1例はC14日間の点眼期間中に点眼を中止した.改善例での点眼終了後の治療は,経過観察がC16例(69.2%),ドライアイ・角膜上皮障害治療薬を使用し経過観察がC7例(26.9%),抗菌点眼薬の変更がC1例(3.8%)であった.不変例C2例は経過観察であった.自覚症状スコアの推移他覚的所見スコアの推移合計スコアの推移8.07.06.05.04.03.02.01.00.02.01.82.01.81.61.61.41.41.21.00.80.61.21.00.8スコア0.60.40.40.20.00.20.0初診時点眼点眼点眼終了初診時点眼点眼点眼終了初診時点眼点眼点眼終了7日後14日後1カ月後7日後14日後1カ月後7日後14日後1カ月後図1自覚症状,他覚的所見の項目別スコアおよび合計スコア,総計スコアの推移すべての項目で,いずれの観察時点でも初診時から有意に減少した(p<0.001,混合効果モデル).値は推定値±95%信頼区間を示す.耐性菌の割合が高くなることが報告されている7,8).わが国用の適応を判断し,治療選択,使用量,使用期間などを明確ではC2016年に「薬剤耐性(CAMR)対策アクションプラン」に評価して,抗微生物薬が投与される患者のアウトカムを改が発表され,耐性菌の増加を防ぐための抗菌薬の適正使用が善し,有害事象を最小限にすることを主目的とする」との記求められている.C2019年に公表された「抗微生物薬適正使載である.眼科においても例外ではなく,まず病態を見きわ用の手引き」によると13),適正使用とは「主に抗微生物薬使めて適応を判断し,適切な抗菌薬を選択する,使用量の減少表5病型別の自覚症状および他覚的所見のスコア変化量病型項目初診時点眼C7日後点眼C14日後点眼終了C1カ月後推定値変化量*[95%信頼区間]p値変化量*[95%信頼区間]p値変化量*[95%信頼区間]p値前部自覚症状異物感C0.9[C0.7,C1.0]C.0.2[.0.4,C0.1]C0.1792C.0.5[.0.7,C.0.3]<.0001.0.4[.0.6,C.0.2]<.0001眼瞼炎流涙C0.8[C0.5,C1.0]C.0.3[.0.6,C0.1]C0.1353C.0.3[.0.6,C.0.1]C0.0137.0.3[.0.6,C0.0]C0.0371合計C1.6[C1.3,C1.9]C.0.5[.0.9,C0.0]C0.0555C.0.8[.1.1,C.0.5]<.0001.0.7[.1.0,C.0.4]<.0001他覚的所見眼瞼縁充血・発赤C1.5[C1.2,C1.7]C.0.3[.0.5,C0.0]C0.0437.0.4[.0.6,C.0.2]C0.0004.0.5[.0.7,C.0.3]<.0001睫毛部分の分泌物C1.9[C1.7,C2.1]C.0.8[.1.2,C.0.4]<.0001.1.0[.1.3,C.0.7]<.0001.1.1[.1.3,C.0.8]<.0001結膜充血C1.1[C0.9,C1.2]C.0.5[.0.8,C.0.3]C0.0001.0.5[.0.6,C.0.3]<.0001.0.5[.0.7,C.0.3]<.0001合計C4.5[C4.0,C4.9]C.1.8[.2.5,C.1.1]<.0001.1.7[.2.3,C.1.1]<.0001.2.0[.2.5,C.1.5]<.0001総計C6.1[C5.5,C6.7]C.2.3[.3.3,C.1.4]<.0001.2.5[.3.3,C.1.8]<.0001.2.7[.3.4,C.2.0]<.0001後部自覚症状異物感C1.0[C0.8,C1.2]C.0.7[.0.9,C.0.4]<.0001.0.7[.1.0,C.0.5]<.0001.0.8[.1.0,C.0.6]<.0001眼瞼炎流涙C1.6[C1.2,C1.9]C.1.0[.1.3,C.0.7]<.0001.1.2[.1.5,C.0.8]<.0001.1.4[.1.7,C.1.1]<.0001合計C2.6[C2.2,C2.9]C.1.6[.2.0,C.1.2]<.0001.1.9[.2.3,C.1.4]<.0001.2.2[.2.6,C.1.8]<.0001他覚的所見眼瞼縁充血・発赤C1.4[C1.2,C1.7]C.0.8[.1.1,C.0.6]<.0001.1.0[.1.3,C.0.8]<.0001.1.1[.1.4,C.0.9]<.0001睫毛部分の分泌物C1.2[C1.0,C1.5]C.0.9[.1.2,C.0.5]<.0001.0.9[.1.3,C.0.5]<.0001.1.0[.1.4,C.0.7]<.0001結膜充血C1.3[C1.1,C1.5]C.0.7[.0.9,C.0.4]<.0001.0.9[.1.2,C.0.7]<.0001.1.0[.1.2,C.0.8]<.0001合計C3.9[C3.4,C4.5]C.2.4[.3.0,C.1.8]<.0001.2.9[.3.6,C.2.2]<.0001.3.2[.3.8,C.2.6]<.0001総計C6.5[C5.8,C7.2]C.4.0[.4.8,C.3.2]<.0001.4.7[.5.7,C.3.8]<.0001.5.4[.6.2,C.4.6]<.0001*初診時からの変化量.太字はp<0.05.や使用期間の短縮の可能性を探る,などを実行しなければならない.細菌性眼瞼炎は,臨床でしばしば遭遇する慢性疾患でありながら,長期的な病態や治療について調査した報告は見当たらず,患者の状態を正確に把握しきれていない.治癒に至る治療法についてはいまだ確立されておらず1),一般的には眼瞼清拭や温罨法,抗菌薬の点眼や内服,ステロイドの点眼で治療が行われている.しかし,一旦軽快しても再発することがあり,漫然と抗菌点眼薬が使用されるケースも多い.そこで今回,眼瞼炎の病態を把握するとともに,投与期間が最長でもC14日間のC1%CAZM点眼液を使用し,抗菌点眼薬の使用期間をより短縮できるかどうか,また点眼終了後の再発状況を確認し,眼瞼炎の短期的な治療プロトコールを検討した.1%CAZM点眼液投与後の治癒率は,7日後でC21.7%,14日後でC19.6%であり(全体の治癒率C41.3%),治癒までの点眼期間をC14日間よりも短縮できる症例がある一方で,14日間の点眼でも治癒に至らない症例もあった.しかし,治癒に至らない症例のほとんどは改善しており(治癒・改善率:93.5%),自覚症状および他覚的所見のスコアも点眼前より低下していた.これらのことから,不必要な抗菌薬の投与を避けるためには,抗菌薬投与後はC7日目を目安に再度の受診を促し,治療に対する反応性を確認のうえ,点眼を終了するか継続するかの判断をすることが重要である.継続する場合には,1%CAZM点眼液はC14日間で投与を終了し,その後は,再発率もC6.5%と低いことから,終了時のスコアが十分低下している場合には,いったん経過観察としても差し支えないと思われる.また,症状が再燃する患者では追加投与を検討しても良いと考えられる.病型別に治癒に及ぼす影響を検討したところ,後部眼瞼炎は前部眼瞼炎よりも治癒しやすいという結果が得られた.14日目までの治癒率も,前部眼瞼炎がC11.1%,後部眼瞼炎がC84.2%と,後部眼瞼炎で高かった.後部眼瞼炎に効果が高い理由として,主成分であるCAZMの抗菌作用や抗炎症作用6,14),マイボーム腺上皮細胞への直接作用15)などさまざまな機序が関与したと推測される.日本人のCMGD関連後部眼瞼炎患者に対する効果を検討したCAritaらの報告6)でも,評価指標が異なるものの,14日間の点眼により,炎症所見である血管拡張のスコアは点眼前C1.9C±0.9からC0.4C±0.5と有意に改善しており(p<0.001),同様の結果が示されたといえる.一方,後部眼瞼炎に比べて前部眼瞼炎で治癒率が低かった理由として,起因菌が異なる可能性,点眼という投与方法の限界,つまりは睫毛根部への薬剤到達が十分ではない可能性などが考えられるが,詳細は不明であり,現時点においては症状の軽減に眼瞼清拭1)や眼軟膏の併用も検討してよいと考えられる.本研究の限界は,観察研究であり,また症例数が少ないことである.観察研究は実臨床に基づく結果を得られるが,医師の裁量にゆだねられる部分もあり,結果には偏りが生じる.症例数が多くなるほど偏りは解消されるが,本研究では症例数が少なかったため,病型間の症状の違いや薬物反応性の違いなどを特定することはできなかった.また,今回は1.5カ月という比較的短期の報告であり,慢性疾患である眼瞼炎の寛解から再発までの期間や,長期の管理法などは不明である.加えて,病型が治癒に影響を与えることも判明したため,今後は長期的な管理方法や,眼瞼清拭などとの併用治療など,病型別にさらなる検討が必要である.慢性的でしばしば再発する眼瞼炎では,長期にわたる管理が必要とされ,患者の治療への協力が不可欠である.患者には,1%CAZM点眼液を使用する場合には,粘性のある点眼液であることを投与前に十分に説明したうえで,眼瞼炎の薬物治療中には定期的に診察に訪れること,また,いったん症状が治まっても再発する可能性があり,いつもと違うと感じた場合には来院することを伝えておく必要がある.CIV結論細菌性眼瞼炎の治療において,抗菌薬投与後は治療反応性を定期的に確認し,適切な時期に投与を終了することが重要である.1%CAZM点眼液を治療に使用する場合,90%以上の症例ではC14日以内に治癒もしくは改善するため,治癒と判断した際には,または最長でもC14日間で投与を終了する.利益相反本研究は千寿製薬株式会社からの資金提供を受けて実施した.文献1)AmescuaG,AkpekEK,FaridMetal;AmericanAcade-myCofCOphthalmologyCPreferredCPracticeCPatternCCorneaCandCExternalCDiseasePanel:BlepharitisCPreferredCPrac-ticePatternR.OphthalmologyC126:56-93,C20192)EberhardtCM,CRammohanG:Blepharitis.[Internet],CStatPearlsPublishing,TreasureIsland(FL),2020Jul17.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK459305/3)P.ugfelderCSC,CKarpeckiCPM,CPerezVL:TreatmentCofblepharitis:recentCclinicalCtrials.COculCSurfC12:273-284,C20144)Yactayo-MirandaCY,CTaCCN,CHeCLCetal:ACprospectiveCstudyCdeterminingCtheCe.cacyCoftopical0.5%levo.oxacinonCbacterialC.oraCofCpatientsCwithCchronicCblepharocon-junctivitis.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC247:993-998,C20095)HaqueRM,TorkildsenGL,BrubakerKetal:Multicenteropen-labelCstudyCevaluatingCtheCe.cacyCofCazithromycinCophthalmicCsolution1%ConCtheCsignsCandCsymptomsCofCsubjectswithblepharitis.CorneaC29:871-877,C20106)AritaCR,CFukuokaS:E.cacyCofCazithromycinCeyedropsCforCindividualsCwithCmeibomianCglandCdysfunction-associ-atedCposteriorCblepharitis.CEyeCContactCLensC47:54-59,C20217)OnoCT,CNejimaCR,CIwasakiCTCetal:Long-termCe.ectsCofCcataractsurgerywithtopicallevo.oxacinonocularbacte-rial.ora.JCataractRefractSurgC43:1129-1134,C20178)NejimaR,ShimizuK,OnoTetal:E.ectoftheadminis-trationperiodofperioperativetopicallevo.oxacinonnor-malCconjunctivalCbacterialC.ora.CJCCataractCRefractCSurgC43:42-48,C20179)AkpekEK,VittitowJ,VerhoevenRS:Ocularsurfacedis-tributionandpharmacokineticsofanovelophthalmic1%azithromycinCformulation.CJCOculCPharmacolCTherC25:C433-439,C200910)SakaiCT,CShinnoCK,CKurataCMCetal:PharmacokineticsCofCazithromycin,levo.oxacin,ando.oxacininrabbitextraoc-ularCtissuesCafterCophthalmicCadministration.COphthalmolCTherC8:511-517,C201911)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科C27:627-631,C201012)厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課:眼局所用抗菌薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて薬生薬審発0418第1号,平成31年4月18日13)厚生労働省健康局結核感染症課:抗微生物薬適正使用の手引き第二版.2019Chttps://www.mhlw.go.jp/content/C10900000/000573655.pdf14)LuchsJ:AzithromycinCinCDuraSiteCforCtheCtreatmentCofCblepharitis.ClinOphthalmolC4:681-688,C201015)LiuCY,CKamCWR,CDingJ:E.ectCofCazithromycinConClipidCaccumulationCinCimmortalizedChumanCmeibomianCglandCepithelialcells.JAMAOphthalmolC132:226-228,C2014***

含水率を高くした疎水性アクリル眼内レンズ挿入後1 年に おける囊内安定性の評価

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):988.992,2022c含水率を高くした疎水性アクリル眼内レンズ挿入後1年における.内安定性の評価高田慶太木下雄人森洋斉本坊正人徳田祥太南慶一郎宮田和典宮田眼科病院CStabilityofHigherWaterContentHydrophobicIntraocularLensesintheCapsuleat1-YearPostoperativelyKeitaTakada,KatsuhitoKinosihta,YosaiMori,MasatoHonbo,ShotaTokuda,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC高い含水率の疎水性アクリル眼内レンズ(IOL)の術後C1年時の.内安定性を前向きに評価した.対象は,加齢性白内障によりCSY60WF(Alcon社)を挿入し,術後C1年まで経過観察が可能であったC35例C35眼(平均年齢:70.4歳).術後C1年時の矯正遠方視力,自覚屈折(等価球面),IOLの偏心,傾斜,前房深度,表面散乱,後.混濁,およびコントラスト感度を,術後C1カ月時の検査値と比較した.明暗所下のコントラスト感度から,AULCSFを算出した.術後1年時の平均値は,矯正遠方視力:1.30,自覚屈折:.0.01D,IOLの偏心:0.11mm,傾斜:1.7°,前房深度:3.92Cmm,表面散乱:17.4CCCT,後.混濁:27.5CCCT,AULCSF(明所下:1.84,暗所下:1.62)と,後.混濁以外,術後C1カ月からの変化はみられなかった.高い含水率の疎水性アクリルCIOLの.内安定性は,術後C1年まで良好であった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCstabilityCofChighCwaterCcontentChydrophobicCacrylicCintraocularlenses(IOLs)inCthecapsuleat1-yearpostoperatively.PatientsandMethods:In35eyesof35age-relatedcataractpatients(meanage:70.4years),SY60WF(Alcon)IOLswereimplantedandfollowedupfor1year.Decentration,tilting,anteriorchamberdepth(ACD),CsurfaceCscattering,CandCposteriorCopaci.cationCofCtheCimplantedCIOLs,CasCwellCasCcorrectedCdistancevisualacuity(CDVA),manifestrefractionsphericalequivalent(MRSE),andcontrastsensitivityat1-yearpostoperativewerecomparedwiththoseat1-monthpostoperative.PhotopicandmesopicAULCSFwereobtainedfromthecontrastsensitivitydata.Results:At1-yearpostoperative,themeandecentration,tilting,ACD,surfacescattering,CposteriorCopaci.cation,CCDVA,CMRSE,CandCphotopicCandCmesopicCAULCSFCvaluesCwereC0.11Cmm,C1.7Cdegree,3.92Cmm,17.4CCT,27.5CCT,1.30,.0.01D,and1.84and1.62,respectively,withnochangefromthoseat1-monthCpostoperative,CexceptCforCposteriorCopaci.cation.CConclusion:HighCwaterCcontentChydrophobicCacrylicCIOLswerefoundtobestableforupto1-yearpostimplantation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):988.992,C2022〕Keywords:疎水性アクリル眼内レンズ,.内安定性,含水率.hydrophobicacrylicintraocularlens,stabilityincapsule,watercontent.Cはじめに小切開から挿入可能なC1ピース疎水性アクリル製眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は,非球面単焦点に加えて,トーリック,多焦点などの高機能CIOLにも使用されている.一方,疎水性アクリル素材であるために挿入後にCIOL中心部に水疱が発生するグリスニングや,表面散乱などが発生することがある1).とくに表面散乱は,以前のCAcrySofCIOL(J-code以前,Alcon)の表面層(深さC120Cμm程度)にナノレベルの微小水疱が形成することにより生じ2),術後C3年以降で顕著に増加する3).キャストモールド工程を改善し,〔別刷請求先〕宮田和典:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:KazunoriMiyata,MiyataEyeHospital,6-3Kuraharacho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC988(134)IOL表層の樹脂構造をより密にすることで表面散乱を抑制し,その効果はCQ-codeおよびCA-codeのCIOLで臨床評価されている4).その後,含水率を高くした(1.5%)1ピース疎水性CIOLClareon(Alcon社)が開発され,Q-codeと同等の工程で製造されている.わが国で行われた臨床試験5)では,良好な臨床成績に加えて,表面散乱の抑制も確認されている.さらに,術後長期観察症例においても,表面散乱の抑制が確認されている6).一方,本プラットフォームが高機能IOLにも使用されるであろうことを考慮すると,.内での長期安定性も重要となる.そこで,筆者らは,Clareon挿入後3年間の安定性を前向きに評価する観察研究をC2019年より実施している.本報では,中間報告として術後C1年までの安定性を評価したので報告する.CI対象および方法本研究は,宮田眼科病院倫理審査委員会の承認後(CS-316),ヘルシンキ宣言および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(2015年C4月施行)を遵守して実施された.書面による研究の説明後,参加の同意を取得した.対象は,老人性(加齢性)白内障により,超音波水晶体乳化吸引術による手術を予定しており,IOLが.内固定され,術後遠方矯正視力C0.5以上を期待できるC40歳以上C90歳以下の患者とした.コントロール不良の緑内障,進行性の糖尿病網膜症,活動性のぶどう膜炎,虹彩血管新生,アトピー性白内障,および重篤な術中合併症がある患者は除外した.症例数は,術後C3年間の逸脱率を考慮し,40例以上とした.超音波乳化吸引術により白内障を除去し,単焦点CClareonIOL(モデル:SY60WF)をインジェクターを用いて.内に挿入し,IOL全周が前.でカバーされていることを確認した.IOL度数は,光学式眼軸長測定装置COA-2000(トーメーコーポレーション)を用いて角膜屈折力,眼軸長などを測定し,患者の希望する屈折となるようにCSRK/T式あるいはBarrettUniversalII式を用いて決定した.術後C1カ月,3カ月,6カ月,1年時に,矯正遠方視力(correctedCdistanceCvisualacuity:CDVA),自覚等価球面屈折(manifestCrefractionsphericalCequivalent:MRSE),IOLの偏心と傾斜を検査した.IOLの偏心と傾斜は,散瞳以後に前眼部解析装置CEAS-1000(ニデック)を用いて検査した.偏心は,視軸とCIOL頂点との距離から,傾斜は,視軸とCIOLの中心軸との差から求めた7).また,前房深度(ante-riorchamberdepth:ACD)も解析した.術後C1カ月,6カ月,1年時に,表面散乱,後.混濁,コントラスト感度を検査した.表面散乱と後.混濁は,EAS-1000で撮影したScheimp.ug画像から評価した.表面散乱は,既報3,6)と同様に,水平方向CScheimp.ug画像のCIOL前面中心における,幅C3Cmm,高さC0.25Cmm領域内の平均デンシトメトリー値(単位:CCT)を計測した.後.混濁は,既報8)と同様に,4方向(0,45,90,135°)のCScheimp.ug画像においてCIOL後面中心部の平均デンシトメトリー値を計測し,その平均を求めた.コントラスト感度は,OptecC6500CVisionCTester(StereoOptical社)を用いて,明所下(85Ccd/mC2)と暗所下(3.0Ccd/mC2)のコントラスト感度を測定した.測定した対数コントラスト感度からCareaunderlogarithmcontrastsensi-tivityfunction(AULCSF)を算出した9).本検討では,47例のエンロール症例のうち,術後C1年まで経過観察できたC35例を解析対象とした.両眼挿入例では,第C1眼を解析対象とした.術後C1年の安定性を評価するため,術後C1カ月から術後C1年までに変化がないかを確認した.CDVAの変化にはCWilcoxonsigned-rank検定を用いた.MRSE,IOLの偏心と傾斜,表面散乱,後.混濁,ACD,AULCSFに対してはCShapiro-Wilk検定を行い,正規性が確認された場合は対応のあるCt検定を,それ以外ではCWilcox-onsigned-rank検定またはCMan-Whitney検定を用いた.p<0.05を統計的に有意差ありとした.CII結果解析対象となったC35例C35眼の背景と,術後CCDVAを表1に示す.術後,3,6カ月,1年の経過症例数は,それぞれ,35,34,31,35眼であった.CDVAは全眼C0.9以上で,術後C1カ月とC1年の間で変化はなかった(p=0.50).術後CMRSE,IOLの偏心と傾斜を図1に示す.平均MRSE値は,術後C1カ月時がC.0.09(標準誤差(standarderror:SD):0.43)D,術後C1年時がC.0.01(SD:0.39)Dと変化はみられなかった(p=0.17,対応のあるCt検定).術後1年での平均偏心量はC0.11(SD:0.05)mmであった.術後1カ月と有意な変化はなかった(p=0.15,WilcoxonCsigned-rank検定).同様に,傾斜度は術後C1年が平均C1.71(SD:0.63)°であり,術後C1カ月と差はなかった(p=0.93,対応のあるCt検定).ACDは,術後C1カ月は平均C3.89(SD:0.25)mm,術後C1年はC3.93(SD:0.27)mmと有意差がみられた(p=0.0035,対応のあるCt検定)が,平均増加量はC0.04Cmmと微量であり,臨床的には安定していると考えられた.IOL前面と後面におけるデンシトメトリー値を図2に示す.表面散乱については,術後C1カ月から術後C1年への増加はみられなかった(p=0.92,Mann-Whitney検定).後面混濁の平均値はC27.4,26.8,27.5CCCTであり,術後C1年と術後C1カ月間で有意差が確認された(p=0.0029,Wilcoxonsigned-rank検定).また,後.混濁のベースラインより高いC40CCCT以上10)の症例数は,2,3,4眼と経時的に増えていた.後発白内障(posteriorCcapsuleCopaci.cation:PCO)によるCYAGレーザー後.切開は術C1年まではなかったが,表1解析対象(35例35眼)の背景と術後視力平均(標準偏差)範囲年齢70.4(C5.7)歳56.8C0歳眼軸長23.42(C0.77)Cmm22.05.C24.79Cmm平均ケラトメトリー44.6(C1.5)CD40.6.C47.6D眼内レンズ度数21.0(C2.1)CD16.5.C25.5D矯正遠方視力(ClogMAR)(ClogMAR)術後C1カ月(n=35)C.0.11(C0.07)小数:C1.29C.0.18.C0.00術後C3カ月(n=34)C.0.13(C0.06)小数:C1.34C.0.18.C0.00術後C6カ月(n=31)C.0.12(C0.07)小数:C1.32C.0.18.C0.05術後C1年(n=35)C.0.11(C0.07)小数:C1.30C.0.18.C0.051.500.55.0××1.000.44.0××-1.00×自覚等価球面屈折値(D)0.50偏心(mm)傾斜(°)3.02.00.30.20.00-0.500.11.0-1.501M3M6M1Y0.0術後期間図1術後の自覚等価球面屈折値およびIOLの偏心と傾斜の変化●は平均値を示す.例数は,術後C1カ月(1CM)35例,3カ月(3CM)34例,6カ月(6CM)28例,1年(1CY)35例であった.術後C1カ月時と1年時との間に有意な変化はなかった.C80700.01M3M6M1Y術後期間1M3M6M1Y術後期間デンシトメトリー値(CCT)6050403020100前面後面前面後面前面後面1M6M1Y図2術後の表面散乱と後.混濁のデンシトメトリー解析結果術後C1カ月(1M),6カ月(6M),1年(1Y)における症例数は,前面:33,31,35例,後面:35,30,35例であった.●,〇は,それぞれ,前面と後面でのデンシトメトリー平均値を示す.1例(術後C1年時の後.混濁:54.0CCCT)はC1年C8カ月時に施行された.明所下(85Ccd/mC2)と暗所下(3.0Ccd/mC2)のコントラスト感度を表2に示す.明所,暗所下とも術後C1カ月とC1年のAULCSFに変化はなかった(p=0.18,0.50,対応あるCt検定).CIII考按Clareon挿入後C1年間の安定性を評価した結果,CDVA,MRSE,IOLの偏心と傾斜,ACD,表面散乱,コントラスト感度は安定していた.Nejimaらは,1ピースCIOLのCAcrySof(モデルCSA60AT)の術後C1年間の安定性を本検討と同様の方法で検討している11).術後C1カ月の偏心と傾斜は平均0.23mm,2.1°,術後C1年ではC0.20mm,1.8°であった.本結果は,AcryCSofIOLと比べて,偏心が少なく,傾斜は同レベルと考えられた.角膜形状解析装置COPD-ScanIII(ニデック)を用いた多焦点CIOLのCSN6AD1(Alcon社)挿入後1年の評価では,偏心と傾斜は平均C0.35mm,0.38°と報告されている12).傾斜は測定基準が異なり比較できないが,偏心は既報11)と類似している.この結果からも,Clareonの偏心が小さいこと示唆される.表面散乱は,術後C1年では発生しない3,6)ため,変化がなかったと考えられる.後.混濁では,術後C1年間において,平均デンシトメトリー値では変化はなかったが,後.混濁がC40CCCT以上の症例は経時的に増加した.術後C1年時ではC35眼中C4眼(11.4%)でみられたが,1年C8カ月時に後.切開を行ったC1例以外は,比較的軽度なCPCOと考えられる.国内治験成績では,PCOは軽度のみで,その発生率はC2.7%と低かった5).ドナー眼を使った水晶体.上皮細胞遊走の抑制評価13)や,Clareonと同素材のC3ピースCIOLのC3年経過観察での臨床結果14)から,ClareonとCAcrySofは同レベルの低いCPCO発生率であると考えられた.Clareonの偏心はCAcrySofより小さいことが示唆された.CAcrySof素材からCClareonの素材になったことで,含水率はC0.4%からC1.5%と高くなり,ガラス転移温度はC11℃から9℃と低くなっている..内(温度はおよそC36℃)においては,IOL支持部はCAcrySofより柔らかく,.赤道部へのストレスが少なく,非対称な水晶体.収縮になるリスク15)も少ないと推察される.小さい偏心により,非球面効果の低下は少なくなるだけでなく,トーリックCIOL使用時に起こる上下,耳側への偏心による倒乱視化16)も抑制されると考えられる.Clareonプラットフォームは,高付加価値CIOLに対して有用であると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし表2術後の明所下(85cd/m2),暗所下(3.0cd/m2)のコントラスト感度明所CAULCSF暗所CAULCSF平均(標準偏差)平均(標準偏差)術後C1カ月1.79(C0.21)1.59(C0.21)術後C6カ月1.82(C0.19)1.62(C0.18)術後1年1.84(C0.18)1.62(C0.19)AULCSF:areaunderlogarithmcontrastsensitivityfunction.文献1)WernerL:GlisteningsCandCsurfaceClightCscatteringCinCintraocularlenses.JCataractRefractSurgC36:1398-1420,C20102)OngCMD,CCallaghanCTA,CPeiCRCetal:EtiologyCofCsurfaceClightscatteringonhydrophobicacrylicintraocularlenses.JCataractRefractSurgC38:1833-1844,C20123)MiyataK,OtaniS,NejimaRetal:Comparisonofpostop-erativeCsurfaceClightCscatteringCofCdi.erentCintraocularClenses.BrJOphthalmolC93:684-687,C20094)MiyataCK,COgataCM,CHonboCMCetal:SuppressionCofCsur-faceClightCscatteringCinCintraocularClensesCmanufacturedCusingCanCimprovedCproductionCprocess.CJCCataractCRefractCSurgC42:1716-1720,C20165)OshikaCT,CFujitaCY,CInamuraCMCetal:Mid-termCandClong-termCclinicalCassessmentsCofCaCnewC1-pieceChydro-phobicacrylicIOLwithhydroxyethylmethacrylate.JCat-aractRefractSurgC46:682-687,C20206)KinoshitaK,MiyataK,NejimaRetal:Surfacelightscat-teringCfromCone-pieceChydrophobicCacrylicCintraocularClensesCwithhydroxyethylCmethacrylate:contralateralCobservationfor7years.JCataractRefractSurgC47:702-705,C20217)MiyataCK,CKataokaCY,CMatsunagaCJCetal:ProspectiveCcomparisonCofCone-pieceCandCthree-pieceCTecnisCasphericintraocularlenses:1-yearstabilityanditse.ectonvisualfunction.CurrEyeResC40:930-935,C20158)HayashiCH,CHayashiCK,CNakaoCFCetal:QuantitativeCcom-parisonofposteriorcapsuleopaci.cationafterpolymethyl-methacrylate,Csilicone,CandCsoftCacrylicCintraocularClensCimplantation.ArchOphthalmolC116:1579-1582,C19989)ApplegateCRA,CHowlandCHC,CSharpCRPCetal:CornealCaberrationsCandCvisualCperformanceCafterCradialCkeratoto-my.JRefractSurgC14:397-407,C199810)MiyataCK,CKatoCS,CNejimaCRCetal:In.uencesCofCopticCedgedesignonposteriorcapsuleopaci.cationandanteri-orCcapsuleCcontraction.CActaCOphthalmolCScandC85:C99-102,C200711)NejimaR,MiyaiT,KataokaYetal:Prospectiveintrapa-tientCcomparisonCofC6.0-millimeterCopticCsingle-pieceCandC3-pieceChydrophobicCacrylicCfoldableCintraocularClenses.COphthalmologyC113:585-590,C200612)HeCW,CQiuCX,CZhangCSCetal:ComparisonCofClong-termCdecentrationandtiltintwotypesofmultifocalintraocularlensesCwithCOPD-ScanCIIICaberrometer.Eye(Lond)C32:1237-1243,C201813)HillenmayerA,WertheimerC.M,KassumehSetal:Eval-uationCofCposteriorCcapsuleCopaci.cationCofCtheCAlconCClareonCIOLCvsCtheCAlconCAcrysofCIOLCusingCaChumanCcapsularbagmodel.BMCOphthalmolC20:77,C202014)MaxwellCA,CSuryakumarR:Long-termCe.ectivenessCandCsafetyCofCaCthreeCpieceCacrylicChydrophobicCintraocularClensCmodi.edCwithhydroxyethyl-methacrylate:anCopen-label,3-yearfollow-upstudy.ClinOphthalmolC12:2031-2037,C201815)OhmiCS,CUenoyamaK:DecentrationCassociatedCwithCasymmetricCcapsularCshrinkageCandCintraocularClensCdesigninarabbitmodel.JCataractRefractSurgC21:293-296,C199516)HolladayCJT,CPettitG:ImprovingCtoricCintraocularClensCcalculationsusingtotalsurgicallyinducedastigmatismforaC2.5CmmCtemporalCincision.CJCCataractCRefractCSurgC45:C272-283,C2019C***

アレルギー性結膜炎患者を対象としたエピナスチン塩酸塩 点眼液0.1%の8 週間投与による環境試験 ─ DE-114A 点眼液の第III 相長期投与試験の成績─

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):993.998,2022cアレルギー性結膜炎患者を対象としたエピナスチン塩酸塩点眼液0.1%の8週間投与による環境試験─DE-114A点眼液の第III相長期投与試験の成績─高村悦子*1稲田和哉*2坂本佳代子*2藤島浩*3*1東京女子医科大学医学部眼科学講座*2参天製薬株式会社*3鶴見大学歯学部眼科学講座CSafetyandE.cacyofLong-TermAdministrationofEpinastineHydrochlorideOphthalmicSolution0.1%forAllergicConjunctivitisEtsukoTakamura1),KazuyaInada2),KayokoSakamoto2)andHiroshiFujishima3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,SchoolofMedicine,2)3)DepartmentofOphthalmology,TsurumiUniversity,SchoolofDentalMedicineCSantenPharmaceuticalCO.,LTD.,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の長期投与時の安全性と有効性を検討するため,アレルギー性結膜炎患者C121例を対象としたオープンラベルによる多施設共同試験を実施した.エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%をC1回C1滴,1日C2回,8週間点眼した.安全性について,副作用はC121例中C1例(0.8%)に眼充血を認めた.症状は軽度であり,点眼継続中に無処置で消失した.有効性について,眼そう痒感を含むすべての自覚症状スコアは,点眼開始C1週間後以降すべての評価時点において点眼開始時に比べて有意な減少を認めた.眼瞼結膜充血および眼球結膜充血の他覚的所見スコアは,点眼開始C1週間後以降すべての評価時点において,点眼開始時に比べて有意なスコア減少を認めた.以上より,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%のアレルギー性結膜炎患者に対するC8週間の長期点眼における安全性および有効性が確認された.CPurpose:ToCinvestigateCtheCsafetyCandCe.cacyCofCtheClong-termCadministrationCofCepinastineChydrochlorideCophthalmicCsolution0.1%CforCallergicCconjunctivitis.CPatientsandMethods:ThisCopen-labelCmulticenterCstudyCinvolved121patientswithallergicconjunctivitisCinwhomC1CdropCofepinastinehydrochlorideCophthalmicCsolution0.1%CwasCadministeredCtwiceCdailyCforC8Cweeks.CResults:OfCtheC121Cpatients,CocularChyperemiaCwithCadverseCreac-tionswasobservedin1patient(0.8%)C,yetthesymptomsweremildandresolvedwithoutanytreatmentduringtheinstillationperiod.Comparedwithatbaseline,after1weekofinstillation,allsubjectivesymptomscores(includ-ingCocularitching)andCtheCobjectiveC.ndingsCscoresCofCpalpebralCconjunctivalChyperemiaCandCbulbarCconjunctivalChyperemiaCwereCsigni.cantlyCdecreasedCatCallCsubsequentCfollow-upCvisits.CConclusion:TheC.ndingsCinCthisC8-weekstudycon.rmthesafetyande.cacyofthelong-termadministrationofepinastinehydrochlorideophthal-micsolution0.1%forthetreatmentofallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):993.998,C2022〕Keywords:アレルギー性結膜炎,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%,長期投与試験.allergicconjunctivitis,epi-nastinehydrochlorideophthalmicsolution0.1%,long-termstudy.はじめに合親和性とインバースアゴニスト作用を有し,ヒスタミンアレルギー性結膜炎の治療には,安全性と有効性の面からCH1受容体拮抗作用を発揮するとともに,メディエーター遊抗アレルギー点眼薬が第一選択薬となっている1).なかでも離抑制作用も併せもつことにより,アレルギー性結膜炎に対エピナスチン塩酸塩は,ヒスタミンCHC1受容体に対し高い結する高い治療効果が期待できる2.7).〔別刷請求先〕高村悦子:〒162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:EtsukoTakamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,SchoolofMedicine,8-1Kawada-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPANC表1主な選択基準および除外基準1)主な選択基準(1)同意取得時にC12歳以上で自覚症状を明確に表現できる被験者とし,性別は不問〔未成年(20歳未満)の場合,その代諾者(家族等で被験者の最善の利益を図りうる人)からも同意を得る.〕(2)同意取得時にアレルギー性結膜疾患に特有な臨床症状がある(3)治療期開始時に来院前C3日間(来院日を含む)に認められた眼そう痒感の平均が両眼ともに中等度(スコア値:++)以上,かつ,治療期開始時に両眼ともに眼そう痒感が中等度(スコア値:++)以上認められる(4)治療期開始時に治療期開始前C2年以内の検査で,I型アレルギー検査陽性であることが確認できる(問診での確認は不可)2)主な除外基準(1)外眼部もしくは前眼部の炎症性眼疾患(春季カタル,アトピー性角結膜炎,眼瞼炎等)又はドライアイを合併している(2)アレルギー性結膜炎以外の治療を必要とする眼疾患を有する(3)少なくとも片眼の矯正視力C0.1未満(4)治療期開始前C90日以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往を有する(5)涙点の閉塞を目的とした治療(涙点プラグ挿入術,外科的涙点閉鎖術等)を治療期開始前C30日以内まで継続していた(6)治療期開始前C7日以内に副腎皮質ステロイド,抗アレルギー薬,HC1受容体拮抗薬,非ステロイド抗炎症薬,免疫抑制薬及び血管収縮薬の眼局所投与製剤(点眼薬,眼軟膏,結膜下注射剤等)を使用したことがある(7)治療期開始前C3年以内にアレルギー性鼻炎等で減感作療法もしくは変調療法を行ったことがある(8)治験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(9)治験期間中に使用する予定の薬剤(エピナスチン塩酸塩)に対し,アレルギーの既往を有するエピナスチン塩酸塩を有効成分とする,1日C4回点眼のエピナスチン塩酸塩点眼液C0.05%(アレジオン点眼液C0.05%,参天製薬)がC2013年C9月に製造販売承認され,日常診療において,その安全性と有効性が確認されている8).エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%(アレジオンCLX点眼液C0.1%,参天製薬)は,0.05%に比べ動物実験で結膜組織中の滞留時間(持続性)が長く,抗ヒスタミン作用が強いことが基礎研究で確認されており,無症状期のアレルギー性結膜炎患者を対象とした結膜抗原誘発試験により,点眼C8時間後においても効果が持続することが検証されている.アレルギー性結膜炎は,その発症時期により季節性と通年性に分類されるが,日本においては,とくにスギ花粉の飛散時期に強い眼のかゆみや充血を訴える季節性アレルギー性結膜炎患者が多く,その症状のために日常生活におけるCQOLが大きく低下することが報告されている9).また,患者数の多いスギ花粉症においては約C3カ月間は症状が続き,通年性アレルギー性結膜炎患者においては,さらに長期の点眼治療が必要とされ,点眼薬の有効性とともに安全性が確保されていることがきわめて重要となる.そこで筆者らは,アレルギー性結膜炎患者を対象としてエピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の長期投与による安全性および有効性を検討した.CI対象および方法1.実施医療機関本試験はエピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の第CIII相長期投与試験として実施した.実施医療機関は医療法人社団信濃会左門町クリニック,医療法人平心会大阪治験病院および医療法人平心会CToCROMクリニックのC3施設であり,各医療機関の臨床試験審査委員会の承認を得たうえで実施された.なお,本試験はヘルシンキ宣言に従い,薬事法第C14条第C3項および第C80条のC2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.C2.対象試験の内容を十分に説明し,文書による同意を取得した季節性または通年性アレルギー性結膜炎患者で,選択基準および除外基準を満たす患者を対象とした(表1).C3.試験デザイン・投与方法本試験はC2017年C6月.2018年C5月に多施設共同オープンラベル試験として実施した.エピナスチン塩酸塩点眼液0.1%(1Cml中にエピナスチン塩酸塩をC1Cmg含有する無色澄明の水性点眼液)をC1回C1滴,1日C2回,8週間点眼した.C4.検査・観察項目点眼開始からC8週間の試験期間中に有効性と安全性を確認するため,点眼開始C7日後,14日後,28日後,42日後,56日後のそれぞれで検査観察を行った.来院ごとに問診にて来院前C3日間(来院日を含む)に認められた自覚症状の平均的な程度を確認し,眼そう痒感は0.4のC5段階,眼脂,流涙,異物感はC0.3のC4段階で評価した.他覚的所見はアレルギー性結膜疾患の臨床評価基準1)に基づき,眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,巨大乳頭,乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(Trantas斑,腫脹)と角膜(角膜上皮障害)に関して細隙灯顕微鏡を用いてそれぞれ0.3のC4段階で評価した.C5.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,投与経路を問わずすべての眼局所投与製剤,他の被験薬およびエピナスチン塩酸塩は禁止した.また,試験期間中の併用療法に関しては,免疫療法,コンタクトレンズの装用,眼洗浄など薬効評価に影響を及ぼすと考え表2被験者背景項目例数(%)病型季節性通年性75人(C62.0%)46人(C38.0%)年齢平均±標準偏差C最小.最大43.5±13.1歳12.7C1年齢分類12.C1516.C6465.8(6C.6%)歳105(C86.8%)8(6C.6%)性別男52(C43.0%)女69(C57.0%)治療期開始日の眼そう痒感スコア平均±標準偏差C3.1±0.4C24(3C.3%)C399(C81.8%)C418(C14.9%)治療期開始日の眼瞼結膜充血スコア平均±標準偏差C1.4±0.7C010(8C.3%)C162(C51.2%)C244(C36.4%)C35(4C.1%)治療期開始日の眼球結膜充血スコア平均±標準偏差C1.0±0.8C030(C24.8%)C163(C52.1%)C223(C19.0%)C35(4C.1%)られる療法を禁止した.C6.評価方法a.安全性の評価有害事象および副作用,臨床検査,眼科的検査をもとに安全性を評価した.Cb.有効性の評価有効性評価眼は,被験薬点眼開始前のアレルギー性結膜炎症状のうち眼そう痒感スコアの高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.自覚症状の評価項目は,眼そう痒感,眼脂,流涙,異物感の変化量の推移,他覚的所見の評価項目は,眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,巨大乳頭,乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(Trantas斑,腫脹),角膜上皮障害の変化量の推移とした.C7.解析方法a.安全性解析対象被験薬を少なくともC1回点眼し,安全性に関するなんらかの情報が得られている被験者を安全性解析対象集団とした.Cb.有効性解析対象最大の解析対象集団を有効性の解析検討に使用し,点眼前後の比較には対応のあるCt検定を用いた.検定の有意水準は両側C5%とした.なお,自覚症状,他覚的所見において,治療期開始日以降がすべて症状なしであった被験者は,当該検査項目の解析から除外した.CII結果1.被験者の構成試験に組入れられた被験者はC121例であり,このうち被験薬が点眼された被験者はC121例であった.被験薬点眼開始後C1例が試験を中止し,120例が試験を完了した.安全性解析対象集団における被験者背景を表2に示した.C2.安全性有害事象および副作用治療期間中には有害事象がC121例中C18例に認められ,そのうち被験薬との因果関係が否定できない副作用は眼充血C1例(0.8%)であった.重症度は軽度であり,点眼継続中に無処置で速やかに消失した.細隙灯顕微鏡検査,眼圧測定,視力検査,眼底検査および臨床検査値において,被験薬点眼前後で医学的に問題となる変動は認められなかった.スコア4.03.5***3.0***2.52.0******1.51.00.5******0.0******-0.5点眼開始時7日後14日後n=121121120104104103111111110113113112眼そう痣感眼脂流涙異物感***平均値±標準偏差***:p<0.001対応のあるt検定(vs点眼開始時)*********************************28日後42日後56日後120120103103110110112112図1自覚症状スコアの経時推移120103110112来院ごとに問診にて来院前C3日間(来院日を含む)に認められた自覚症状の平均的な程度を確認し,眼そう痒感はC0.4のC5段階,眼脂,流涙,異物感はC0.3のC4段階で評価した.眼そう痒感を含むすべての自覚症状スコアは,点眼開始1週間後以降すべての評価時点において点眼開始時に比べて有意な減少を認めた.3.有効性a.自覚症状眼そう痒感を含むすべての自覚症状スコアは,点眼開始C7日後以降,すべての評価時点において点眼開始時に比べて有意な減少を認めた(p<0.001,対応のあるCt検定).なお,自覚症状において,治療期開始日以降がすべて症状なしであった被験者は,眼そう痒感C0例,眼脂C17例,流涙C10例,異物感C8例であり,当該検査項目の解析から除外した(図1).Cb.他覚的所見眼瞼結膜充血,腫脹,乳頭は,点眼開始C7日後以降,眼瞼結膜濾胞は点眼開始C14日後以降すべての評価時点において,点眼開始時に比べて有意なスコア減少を認めた(p<0.001,対応のあるCt検定).眼球結膜充血,浮腫は点眼開始7日後以降すべての評価時点において,点眼開始時に比べて有意なスコア減少を認めた(p<0.001,対応のあるCt検定).角膜上皮障害スコアは,点眼開始C42日では点眼開始時に比べて有意な減少を認めたが(p<0.05,対応のあるCt検定),その他の評価時点で有意な変動は認めなかった(対応のあるt検定)(図2).なお,他覚的所見において,治療期開始日以降がすべて所見なしであった被験者は,眼瞼結膜充血C4例,眼瞼結膜腫脹49例,眼瞼結膜濾胞C74例,眼瞼結膜乳頭C39例,眼球結膜充血C18例,眼球結膜浮腫C92例,角膜上皮障害C104例であり,当該検査項目の解析から除外した.また,輪部CTrantas斑および輪部腫脹については,解析対象例数がC5例以下となったため,有効性の検討は行わなかった.III考察本試験では,用法・用量をC1回C1滴,1日C2回点眼として,日本人のアレルギー性結膜炎患者を対象に,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の長期投与(8週間)による安全性および有効性を検討した.点眼期間の設定根拠については,季節性の場合には臨床で使用される期間はC8週間程度であると想定して設定した.エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の安全性として,治療期間中に認められた副作用は,眼充血C1例のみで,被験薬点眼開始C21日後までに発現しており,長期投与により発現率が上昇することはなかった.また,副作用は軽度であり,点眼継続中に消失したことから,本剤の長期投与における安全性および忍容性に問題はないと考えられた.日本の多くの地域では,毎年C3月,4月にスギ花粉の大量飛散が報告され,約C2カ月間にわたる治療薬の継続使用が想定される.また,スギ花粉のみでなく複数の花粉抗原に感作されている場合や,通年性アレルギー性結膜炎ではさらに長期間の継続使用が必要となり,治療に用いる点眼薬の安全性は重要である.エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%は防腐剤無添加の製剤であり,角結膜上皮障害やソフトコンタクトレンズへの吸着などの問題が起こりくいことが考えられる.他の眼疾患の治療のために点眼薬をすでに使用している場合やソフトコンタクトレンズ装用者に対しても,抗アレルギー点眼薬として選択しやすい.有効性について,眼そう痒感を含むすべての自覚症状ならスコアa:眼瞼所見スコア(眼瞼結膜充血,眼瞼結膜腫脹,眼瞼結膜濾胞,眼瞼結膜乳頭)2.5眼瞼結膜充血眼瞼結膜腫脹2.0******眼瞼結膜濾胞眼瞼結膜乳頭1.5******************平均値±標準偏差***:p<0.0011.0******対応のあるt検定(vs点眼開始時)0.50.0***************************-0.5点眼開始時7日後14日後28日後42日後56日後n=117117116116116116727272727272474746464646828282828282b:眼球所見スコア(眼球結膜充血,眼球結膜浮腫,角膜上皮障害)スコア図2他覚的所見スコアの経時推移他覚的所見はアレルギー性結膜疾患の臨床評価基準1)に基づき,眼瞼結膜(充血,腫脹,濾胞,巨大乳頭,乳頭),眼球結膜(充血,浮腫),輪部(Trantas斑,腫脹)と角膜(角膜上皮障害)に関して細隙灯顕微鏡を用いてそれぞれC0.3のC4段階で評価した.眼瞼結膜充血および眼球結膜充血の他覚的所見スコアは,点眼開始C1週間後以降すべての評価時点において,点眼開始時に比べて有意なスコア減少を認めた.-0.5点眼開始時7日後14日後28日後n=1031031031032929292917171717びに,眼瞼結膜充血および眼球結膜充血スコアをはじめとする他覚的所見スコアの多くは,点眼開始C1週間後より有意な減少を認め,その後の点眼期間を通じて維持された.このことから,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%は点眼開始後,早期より有効性を示し,8週間にわたり有効性が維持され,効果は減弱しないことが確認された.季節性アレルギー性結膜炎でC1日C4回の抗ヒスタミン点眼薬を処方されたC1,008例の患者を対象に行ったアンケート調42日後56日後10310329291717査10)では,症状が楽なときには,9割の患者が必要な回数を点眼できておらず,多くの患者が「痒い時に点眼する」行動をとること,そして「日中忙しいとき」や「症状がないとき」に点眼を忘れる傾向がみられることを報告している.さらに,日本アレルギー性結膜疾患標準CQOL調査票11)を用いてアレルギー性結膜炎に関連する支障度と点眼の遵守状況との関連を調べると,点眼回数を守り,だいたい決まった時間に点眼していた「用法遵守群」では,回数や点眼時間が抗原曝露の状況などにより日々変動する「用法逸脱群」に比べ,アレルギー性結膜炎による生活への支障度は低い結果となっている.また,スギ・ヒノキ花粉症患者で点眼治療を受けている2,161人を対象として,点眼薬に期待することを調査した結果12)によれば,点眼回数は,「1日C4回(朝,昼,夕,就寝前)」がC10%であったのに対して,「1日C2回(朝,夕)」は43%であった.また,「効果が長続きする」はC64%と高い意向がみられた.アレルギー性結膜炎の治療の実態と患者の意向が示すように,より少ない点眼回数で十分な効果を発揮する抗アレルギー点眼薬は,点眼アドヒアランス(遵守)の向上とともに,学校生活や勤務時間など点眼がむずかしい時間帯での点眼を不要とすることが可能となる.さらに,症状が出ていない,またはわずかに症状が出始める時期から開始する初期療法に用いる場合にも,点眼回数が少なければ,忘れずに継続しやすい.このように効果が持続し,点眼回数がC1日C2回に減少することに伴う患者メリットが期待できる.本試験の結果から,エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%は眼そう痒感や結膜充血などのアレルギー性結膜炎の症状を早期に改善し,アレルギー性結膜炎患者に対する長期点眼における安全性についても忍容性を有し,1日C2回点眼で臨床上必要となる抗ヒスタミン作用を示す有用性の高い点眼薬であることが示唆された.利益相反エピナスチン塩酸塩点眼液C0.1%の第CIII相長期投与試験は,参天製薬株式会社により企業主導治験として実施された.共同筆者の稲田和哉と坂本佳代子は,参天製薬株式会社の社員である.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌114:829-870,C20102)MatsumotoCY,CFunahashiCJ,CMoriCKCetal:TheCnoncom-petitiveCantagonismCofChistamineCH1CreceptorsCexpressedCinCChineseChamsterCovaryCcellsCbyColopatadineChydrochlo-ride:itsCpotencyCandCmolecularCmechanism.CPharmacolo-gyC81:266-274,C20083)MizuguchiCH,COnoCS,CHattoriCMCetal:UsefulnessCofCHelaCcellsCtoCevaluateCinverseCagonisticCactivityCofCantihista-mines.IntImmunopharmacolC15:539-543,C20134)FugnerCA,CBechtelCWD,CKuhnCFJCetal:InCvitroCandCinvivoCstudiesCofCtheCnon-sedatingCantihistamineCepinastine.CArzneimittel-Forschung/DrugCResearchC38:1446-1453,C19885)TasakaCK,CAkagiCM,CIzushiCKCetal:AntiallergicCe.ectCofepinastine:theCelucidationCofCtheCmechanism.CPharmaco-metricsC39:365-373,C19906)MatsushitaCN,CAritakeCK,CTakadaCACetal:Pharmacologi-calCstudiesConCtheCnovelantiallergicCdrugCHQL-79:II.CElucidationCofCmechanismsCforCantiallergicCandCantiasth-matice.ects.JpnJPharmacolC78:11-22,C19987)KameiCC,CMioCM,CKitazumiCKCetal:AntiallergicCe.ectCofepinastine(WALC801CL)onCimmediateChypersensitivityreactions:(II)Antagonistice.ectofepinastineonchemi-calmediators,mainlyantihistaminicandanti-PAFe.ects.ImmunopharmacolImmunotoxicolC14:207-218,C19928)高村悦子,大嵜浩孝,野村明生ほか:エピナスチン塩酸塩(アレジオンR)点眼液C0.05%の医療実態下における安全性・有効性及び患者満足度─使用成績調査結果報告─.アレルギー・免疫25:1-11,C20189)深川和己:アレルギー性結膜疾患患者に対する治療実態および治療ニーズ調査─人口構成比に基づくインターネット全国調査─.アレルギー・免疫15:1554-1565,C200810)深川和己,庄司純,福島敦樹ほか:季節性アレルギー性結膜炎患者におけるCWebアンケートを用いた抗ヒスタミン点眼薬の点眼遵守状況によるCQOLへの影響.アレルギーの臨床39:29-41,C201911)深川和己,藤島浩,福島敦樹ほか:アレルギー性結膜疾患特異的Cqualityoflife調査票の確立.日眼会誌116:494-502,C201212)中川やよい:スギ・ヒノキによる季節性アレルギー性結膜炎患者アンケート調査.ProgressCinCMedicineC33:2517-27,C2013C***

レバミピド懸濁点眼液とMPC ポリマーの併用処理による ドライアイ治療効果の有用性評価

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):982.987,2022cレバミピド懸濁点眼液とMPCポリマーの併用処理によるドライアイ治療効果の有用性評価後藤涼花*1勢力諒太朗*1渡辺彩花*1油納美和*1大竹裕子*1櫻井俊輔*2原田英治*2長井紀章*1*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2日油株式会社ライフサイエンス事業部CEvaluationoftheCombinedTherapyofRebamipideandMPCPolymerfortheTreatmentofDryEyeRyokaGoto1),RyotaroSeiriki1),SayakaWatanabe1),MiwaYuno1),HirokoOtake1),ShunsukeSakurai2),EijiHarata2)CandNoriakiNagai1)1)FacultyofPharmacy,KindaiUniversity,2)LifeScienceProductsDivision,NOFCorporationC本研究では市販ドライアイ治療薬であるレバミピド懸濁点眼液(REB点眼液)と生体適合性CMPCポリマー(MPCP)を併用処理した際のドライアイに対する治癒効果について検討した.REB点眼液点眼C5分後にCMPCPを処理することで,涙液中CREB濃度の滞留性向上が確認され,そのCREB眼表面滞留時間の延長はCREB点眼液単独処理群と比較し有意に高値であった.次に,N-アセチルシステイン処理ウサギ(眼表面ムチン被覆障害モデル)を用い,REB点眼液とCMPCP併用処理時のドライアイに対する治療効果を検討したところ,併用処理により,眼表面ムチン被覆障害モデルの涙液層破壊とムチン量低下は改善され,その効果はCREB点眼液単独処理群に比べ高値であった.以上,MPCP併用により,REBの涙液中薬物滞留性が高まるとともに,ムチン被覆改善作用が向上する可能性が示唆された.CInthisstudy,weinvestigatedwhetherornotacombinationofcommerciallyavailablerebamipideophthalmicsuspension(CA-REBeye-drop)and2-methacryloyloxyethylCphosphorylcholine(MPC)polymerCprovidesCanCenhancedtherapeutice.ectfordryeye.ThecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymerprolongedthedrugresidenceinthelacrimal.uid.Next,thetherapeuticpotentialofthecombinationtreatmentfordryeyewasevaluatedinanN-acetylcysteine-treatedrabbitmodel.ThecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymerpromotedimprovementofboththetear.lmbreakupandlevelofdecreasedmucincausedbytheN-acetylcysteinetreatment.Moreover,thetherapeutice.ectwassigni.cantlyincreasedintherabbitsinstilledwiththecombinationofCCA-REBCeye-dropCandCMPCCpolymerCinCcomparisonCwithCtheCrabbitsCinstilledCwithCCA-REBCeye-dropCalone.CTheseresultsshowthatthecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymermayprovideanenhancedthera-peutice.ectforpatientsa.ictedwithdryeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):982.987,C2022〕Keywords:MPCポリマー,レバミピド,ドライアイ,眼表面,涙液.MPCpolymer,rebamipide,dryeye,ocularsurface,lacrimal.uid.Cはじめに涙液は外側から油層,水層のC2層で構成され,外側に位置する油層は内側にある水層の蒸発を抑える働きを有している1).また,水層には角膜上皮から分泌されている糖蛋白質ムチンが分布し,このムチンが涙液を角膜表面に維持させる役割を担っている2).これら,ムチンは分泌型ムチンと膜型ムチンのC2種類に大きく分類され,分泌型ムチンは主として涙液の水層に分布し,水分を保持する形で涙液中に混じり込むことで,眼表面で涙液を均一に伸展させる働きを担っている.一方,膜型ムチンは上皮細胞の表面にある微絨毛の先端〔別刷請求先〕長井紀章:〒577-8502東大阪市小若江C3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:NoriakiNagai,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,CJAPANC982(128)CH3CH3CH2CCH2CCO-CH3COOCH2CH2OPOCH2CH2N+CH3O(CH2)17CH3OCH3l図1MPCポリマーの化学構造式に存在し,糖衣を形成することで,上皮表面の水濡れ性維持に寄与すると考えられている3,4).このようにムチンは眼表面での涙液維持に強く関与する因子であり,眼表面でのムチン量の低下はドライアイの発症に繋がる.ドライアイは涙液減少型,蒸発亢進型,涙液層破壊時間短縮型など,その機序により分類されている5).これらの治療法としては人工涙液,ヒアルロン酸点眼液を用いた涙液の補給,涙点プラグなどによる涙液滞留量の増加,温罨法や瞼縁洗浄などが行われている6,7).さらに近年では,角膜表面上に存在するムチンの産生を高めるレバミピド懸濁点眼液(REB点眼液,ムコスタ点眼液)やムチンの放出を促進するジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアス点眼液)といった点眼薬が広く用いられている.これら薬物療法は有用であるが,パソコンやスマートフォンの普及からドライアイ患者数が急増しているわが国においてさらに有用なドライアイ療法の確立が望まれているのが現状である.日油株式会社により開発されたCMPCポリマーは生体適合性,保水性および保湿性に優れ,人工臓器などの医療機器の表面処理剤として開発されている.本研究に用いたCMPCポリマーは,PC構成単位,アミド構成,疎水性構成単位のC3種の構成単位を特定の割合で有する共重合体である.それぞれの構成単位におけるCPC構成単位はC2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンエチルホスファート(MPC)であり,共重合体の生体適合性,親水性に寄与する.アミド構成単位はCN,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)であり,高分子量化させることで共重合体の眼表面での滞留性向上が,疎水性構成単位はステアリルメタクリレート(SMA)であり,共重合体の角膜表面への接着性を向上させることが期待できるポリマーである.近年筆者らは,これらCMPCポリマーがムチンと類似した水分保持作用を有することを見出すとともに,N-アセチルシステイン頻回点眼処理により作製した眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用い,MPCポリマーの点眼がドライアイ治療に有用であることを報告した8).本研究では,これらCMPCポリマーと市販ドライアイ治療薬であるCREB点眼液を併用処理した際のドライアイに対する治癒効果について,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用いて評価した.CH2CHCONCH3CH3mn涙液採取涙液採取REBREB5minMPCP+REBMPCPREB5min5minREB+MPCPREBMPCP10min20min30min図2本研究で実施したREBとMPCポリマーの点眼処理スケジュールI対象および方法1.使用薬物および実験動物REB点眼液は,大塚製薬から購入し,MPCポリマーは日油から譲渡されたものを用いた.図1には今回用いたCMPCポリマーの構造式を示す.また,N-アセチルシステイン溶液は和光純薬製を用い,シルメル試験紙は昭和薬品化工から購入した.涙液ムチン測定キットはコスモ・バイオから得た.その他の試薬は市販特級品あるいはCHPLC用試薬を用いた.日本白色種雄性ウサギ(2.5.3.0Ckg)は清水実験材料から購入し,近畿大学実験動物規定に従い実験を行った(実験承認番号,KAPS-31-002).C2.薬物の点眼処理方法REB点眼前後にC0.1%CMPCポリマーを点眼し,点眼間隔はC5分,点眼量はC1回C30Cμlとした.また本研究では,MPCポリマー点眼C5分後にCREB点眼処理を行ったものをCMPCP+REB群,REB点眼C5分後にCMPCポリマーを点眼したものをCREB+MPCP群とした.図2にはCMPCポリマーおよびCREB点眼液併用処理時における涙液中CREB濃度を測定した際の点眼処理スケジュールを示す.C3.HPLCを用いたREB濃度の測定試料からのCREB抽出にはN,N-ジメチルホルムアミドを用い,リン酸緩衝液/アセトニトリル=83/17(v/v)を移動相としたCHPLC法にて濃度の測定を行った.HPLC法には,InertsilODS-3を接続した高速液体クロマトグラフィー装置LabSolutions(島津製作所)を用い,カラム温度C35℃(クロマトチャンバーCCTO-20AC使用),移動相の流速はC0.25Cml/ap=0.018bp=0.0202.50.5REB濃度(mg/mL)2.00.4REB濃度(mg/mL)1.50.31.00.20.50.10.00.0図3MPCポリマー(MPCP)併用処理が市販REB点眼液の涙液滞留性に与える影響a:点眼処理C10分後の涙液中CREB濃度.Cb:点眼処理C30分後の涙液中CREB濃度.平均値C±標準誤差,n=3.6.min,検出波長C254Cnm,測定時間C16分とした.試料注入量はC10Cμlとし,オートインジェクターCSIL-20ACを用いた.本研究では,REBのピークがC12.13分の間に検出された.C4.眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルの作製雄性日本白色種ウサギにC10%CN-アセチルシステイン溶液(溶媒:生理食塩液)を午前C9時から午後C7時までC2時間間隔で計C6回(各回C50Cμl)点眼処理を施すことで眼表面ムチン被覆障害モデルを作製した.本研究では,涙液状態の安定化のため,点眼処理C2日後のウサギをドライアイC0日目として研究に用いた.C5.涙液油層の干渉像の観察興和製CDR-1Caを用い,開瞼器にてC5分間開瞼したウサギの涙液油層干渉像を撮影した.撮影は薬物点眼処理C24時間後に行い,角膜中央部にフォーカスをあて干渉像を測定した.また,得られた干渉像よりドライアイスポット(涙液が伸展せず黒色で映る部分)の面積値をCImageJにて測定し,干渉像全体の面積値(40.3CmmC2)に対する比として傷害率を算出した.さらに,点眼処理群の傷害率を点眼未処理群の傷害率で除したもの(傷害率点眼群/傷害率未点眼群×100)を涙液層破壊率(%)とした.C6.涙液中ムチン量の測定結膜.内からCSchirmer試験紙にて涙液をC5分間採取し,得られた試料に存在するムチンコア蛋白質からCO-グリカンをCb脱離すると同時に糖鎖還元末端に蛍光ラベルさせることで得られる蛍光強度を測定することで,ムチン量の定量を行い,涙液量にて除したものを涙液中ムチン濃度とした.これらムチン量の定量には涙液ムチン測定キットを用い,蛍光強度は,CORONA社製蛍光プレートリーダーCSH-9000にて測定した(励起波長C336Cnm,蛍光波長C383Cnm).本実験における薬物処理時におけるムチン量は,未処理群の涙液中ムチン量に対する比(%)として表した.C7.統計解析得られたデータは平均値±標準誤差として表した.各々の実験値はCStudentのCt-testまたはCDunnettの多重比較検定にて解析した.本研究ではCp値がC0.05以下を有意差ありとした.CII結果1.REB点眼液およびMPCP併用処理におけるREB眼表面滞留性の変化図3はCREB点眼液およびCMPCP併用処理(単回)10分およびC30分後における正常ウサギ涙液中でのCREB挙動を示す.REB点眼液を単剤投与したCREB単独処理群の点眼C10分後における涙液中薬物濃度はC1.23Cmg/mlであり,点眼C30分後にはC0.10Cmg/mlまで低下した.また,MPCポリマー点眼C5分後にCREB点眼液を処理したCMPCP+REB処理群の涙液中CREB濃度変化は,REB単独処理群と類似した挙動を示した.一方,REB点眼液処理C5分後にCMPCポリマーを点眼したCREB+MPCP処理群では,眼表面でのCREB滞留性が高まり,眼表面での薬物量はCREB単独処理群のそれに比べ,点眼C10分後でC1.68倍,点眼C30分後でC2.62倍であった.C2.眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対するREB点眼液およびMPCP併用処理の有用性評価図4はCREB点眼液単剤処理およびCREB点眼液とCMPCポリマー併用処理を行った際の涙液油層干渉像とその眼表面障害治癒効果を示す.10%CN-アセチルシステイン溶液処理により眼表面の涙液層を破壊したのち生理食塩水連続点眼を行ったCSaline群ではC2日目,5日目における涙液層破壊率はそれぞれC99.8%,76.2%であった.一方,REB単独処理群では,連続点眼C2日目,5日目における涙液層破壊率はそれぞれC44.7%,39.9%であった.また,MPCポリマーを前点眼したCMPCP+REB処理群では,REB単独点眼処理群と同程度であった.一方,REB投与後にCMPCポリマーを点眼したCREB+MPCP処理群では,REB単独処理群と比較し,有意な傷害率の低下が認められ,連続点眼C2日目の涙液層破壊率はC28.6%,5日目ではC10.3%であった.図5は眼表面ムチaSalineREBMPCP+REBREB+MPCP0d2d5dbcp=0.003p=0.0000011201201008060涙液層破壊率(%)10080604000図4市販REB点眼液とMPCポリマー(MPCP)併用処理がウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの角膜障害に与える影響a:連続点眼処理C2日目およびC5日目の代表的涙液油層干渉像.バーはC1Cmmを示す.Cb:連続点眼処理C2日目の涙液層破壊率.Cc:連続点眼処理C5日目の涙液層破壊率.平均値C±標準誤差,n=3.6.Cp=0.0002402020ap=0.003b175175150150125100755025ムチン量(%)12510075502500図5MPCポリマー(MPCP)と市販REB点眼液併用処理がウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの涙液中ムチン量に与える影響a:連続点眼処理C2日目の涙液中ムチン量.Cb:連続点眼処理C5日目の涙液中ムチン量.平均値C±標準誤差,n=3.6.ン被覆障害ウサギモデルに各点眼処理を行った際の涙液中ムで低下していた.これら眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルチン量の変化を示す.10%CN-アセチルシステイン溶液処理にCREB単剤点眼を行ったところ,ムチン量の増加が確認さにより,涙液中ムチン量は,正常ウサギのそれの約C70%まれ,連続点眼C5日目の涙液中ムチン量は正常群と同程度であった.また,MPCP+REB処理群においても同様のムチン量の改善が認められた.一方,REB+MPCP点眼処理群では有意に涙液中ムチン量の向上が認められ,点眼処理C5日目のムチン量は正常群の約C140%であった.CIII考按MPCポリマーは生体適合性が高く,ムチンと類似した作用を有することから,眼表面の安定化において有用な物質である8).本研究では正常ウサギを用い,MPCポリマーとドライアイ治療薬CREB点眼液の併用処理が,涙液中での薬物滞留性にどのような影響を及ぼすかについて検討を行った.また,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用い,これら併用処理時におけるドライアイ治癒効果について検討した.点眼後における涙液中薬物挙動を検討するうえで,評価用動物種の選択は重要である.一般的に使用される実験動物としてはマウスやラットが知られているが,これらは眼が小さく,水晶体も人と比べ非常に大きな割合を示すなど,ヒトの眼と構造が大きく異なっている.一方で,ウサギやサルは眼表面の状態や眼構造ともにヒトのそれと類似しており,眼領域の研究において多用される動物種である.とくに,ウサギはサルに比べて飼育が容易であることからも,点眼薬の薬物動態挙動を確認するうえでもっとも用いられる実験動物種である.このため本研究ではウサギを用い,REBおよびCMPCポリマー併用処理が涙液中CREBの濃度変化におよぼす影響を検討した(図3).REB点眼液を単剤投与したところ(REB単独処理群),点眼直後から眼表面でのCREB濃度の低下が確認され,点眼C30分後の涙液中CREB濃度はC1.23Cmg/mlであった.これらCREB点眼を行ったC5分後にCMPCポリマーを追加点眼したところ(REB+MPCP処理群),涙液中でのREB濃度の増加が確認され,そのCREB眼表面持続時間の延長はCREB単独処理群と比較し有意に高値であった.一方,点眼する順番を変更し,REB点眼の前にCMPCポリマーを処理した場合(MPCP+REB処理群)では,REB眼表面滞留時間の延長は確認されず,MPCP+REB処理群とCREB単独処理群の涙液中CREB濃度に有意な差はみられなかった.筆者らの以前の報告で,MPCポリマーは涙液成分や角膜上皮の両方と親和性を有しており,点眼後上皮膜上に付着したMPCポリマーは涙液層をトラップし,眼表面の安定化が得られるということを報告している8).また,筆者らのこれまでの実験にて,REB点眼液は点眼後CREB微粒子が角膜表面に付着し,溶解したものが徐々に吸収され薬効を示すことが確認されている9).これらの背景および今回の結果から,REB点眼液点眼後の懸濁CREB微粒子が角膜表面に付着後,MPCポリマーがそれをカバーすることで,眼表面でのCREB濃度の維持が得られるのではないかと推察された.また,MPCポリマーが先に角膜上皮に付着し,その後CREB微粒子が角膜表面に接触してきた際には,これらCMPCポリマーによるCREBのカバーが十分には得られず,REB単独点眼と同程度の薬物涙液持続時間を示したのではないかと考えられた.ただ,これらの仮説の証明には今後より詳細な検討が必要と考えている.次に,REB点眼液およびCMPCポリマー併用処理した際の,ドライアイ療法としての有用性について検討を試みた.中嶋らはCN-アセチルシステインをウサギに点眼することにより眼表面のムチンを除去した実験動物モデル(眼表面ムチン被覆障害ウサギモデル)を作製している10).また,本モデルにおいて,角結膜表面の微絨毛/微ひだの消失,角膜および結膜におけるムチン様糖蛋白質の減少,および涙液安定性の低下といったヒトのドライアイ特徴を有していることを示している10).そこで今回,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対しCREB点眼液およびCMPCポリマー併用処理した際の角膜中央部における涙液層破壊率の改善効果について検討を行った.その結果,10%CN-アセチルシステイン溶液処理によりウサギ眼表面の涙液層破壊と涙液中ムチン量の低下が認められ,これら眼表面障害はCREB点眼液の点眼により顕著に軽減された.本研究同様,以前の眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用いた報告においても,REB点眼液は角結膜でのムチン産生量を増加させ,涙液安定性の指標となるドライスポットの出現を抑制することが示されており10),今回の結果は,これら以前の研究成果を支持するものであった.さらに,REB投与後にCMPCポリマーを処理したCREB+MPCP処理群について検討したところ,REB点眼処理群に比べ,涙液層破壊とムチン量低下がともに有意に改善した.これら結果は先に示した薬物の涙液滞留時間を反映するものであった.一方,MPCポリマー自身にも涙液保持機能効果が認められることから8),MPCポリマーを前処理したCMPCP+REB処理群においても涙液層破壊の軽減が期待されたが,涙液層破壊とムチン量は,REB単独処理群と同程度であった.この要因として,MPCポリマーの濃度は低いため,後から点眼されたCREBにより希釈,排出が促進され,単独処理による眼表面の安定化を有するほどの濃度が眼表面で維持できなかった可能性があるが,このことについては今後検討が必要である.以上,市販ドライアイ治療薬であるCREB点眼液点眼後にMPCポリマーを処理することで,REBの涙液薬物滞留性が高まるとともに,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対する障害修復効果が向上することが示された.この結果からREB点眼液とCMPCポリマーの併用により,ムチン被覆改善作用が向上し,MPCポリマーが眼疾患領域で有用な添加剤になりうる可能性があると考えられた.今後,MPCポリマーを配合したCREB点眼製剤を調製するとともに,そのドライアイ治療効果についても検討を進めていく予定である.利益相反長井紀章(カテゴリーF,クラス:III,日油株式会社)原田英治,櫻井俊輔(カテゴリーE)後藤涼花,勢力諒太朗,渡辺彩花,油納美和,大竹裕子(なし)文献1)真鍋礼三,木下茂,大橋裕一ほか:角膜クリニック第C2版(井上幸次,渡辺仁,前田直之ほか).p2-5,医学書院,C20032)GipsonCIK,CHoriCY,CArguesoP:CharacterCofCocularCsur-faceCmucinsCandCtheirCalterationCinCdryCeyeCdisease.COculCSurfC2:131-148,C20043)InatomiCT,CSpurr-MichaudCS,CTisdaleCASCetal:Expres-sionofsecretorymucingenesbyhumanconjunctivalepi-thelia.InvestOphthalmolVisSciC37:1684-1692,C19964)UchinoCY,CUchinoCM,CYokoiCNCetal:AlterationCofCtearCmucinC5ACCinCo.ceCworkersCusingCvisualCdisplayCtermi-nals:TheOsakaStudy.JAMAOphthalmolC132:985-992,C20145)ドライアイ研究会:ドライアイの定義および診断基準委員会:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).ドライアイ研究会,1-5,20166)MoshirfarCM,CPiersonCK,CHanamaikaiCKCetal:Arti.cialCtearspotpourri:aliteraturereview.ClinOphthalmolC8:C1419-1433,C20147)FoulksCGN,CBronAJ:MeibomianglandCdysfunction:aCclinicalCschemeCforCdescription,Cdiagnosis,Cclassi.cation,Candgrading.OculSurfC1:107-126,C20038)NagaiCN,CSakuraiCS,CSeirikiCRCetal:MPCCpolymerCpro-motesrecoveryfromdryeyeviastabilizationoftheocu-larsurface.PharmaceuticsC13:168,C20219)NagaiCN,CItoCY,COkamotoCNCetal:SizeCe.ectCofCrebamip-ideophthalmicnanodispersionsonitstherapeutice.cacyforcornealwoundhealing.ExpEyeResC151:47-53,C201610)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科C29:1147-1151,C2012***

角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の1 例

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):978.981,2022c角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の1例千葉麻夕子*1,2大口剛司*1,3三田村瑞穂*1金谷莉奈*1野田友子*1,4田川義晃*1木嶋理紀*1岩田大樹*1田川義継*5石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究院眼科学教室*2北海道医療センター眼科*3大口眼科クリニック*4KKR札幌医療センター眼科*5北1条田川眼科CACaseofMultipleMyelomaDiagnosedbyCornealFindingsMayukoChiba1,2),TakeshiOhguchi1,3),MizuhoMitamura1,3),RinaKanaya1),TomokoNoda1,4),YoshiakiTagawa1),RikiKijima1),DaijuIwata1),YoshitsuguTagawa5)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,2)COphthalmology,HokkaidoMedicalCenter,3)OhguchiEyeClinic,4)CDepartmentofCenter,5)TagawaEyeClinicCDepartmentofOphthalmology,KKRSapporoMedical目的:角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の症例を報告する.症例:84歳,男性.両眼の視力低下を主訴に近医受診.視力は右眼(0.4),左眼(0.6),眼圧は両眼とも正常範囲内で,角膜混濁および白内障を指摘された.白内障手術が施行されたが,術後視力は右眼(0.6),左眼(0.7)と著明な改善はみられず,霧視症状が強く,角膜混濁の影響と考えられ精査目的に北海道大学病院を紹介受診した.両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い不定形な混濁がみられ,上皮下には渦状の混濁を伴っていた.鑑別として多発性骨髄腫による角膜混濁が考えられたため血液検査を施行したところ,貧血,高蛋白血症,低アルブミン血症,腎機能障害を認め,骨髄検査にて多発性骨髄腫の診断となった.化学療法が開始され,角膜混濁および霧視症状の改善を認めた.結論:多発性骨髄腫により角膜混濁を生じた症例を経験した.多発性骨髄腫では眼症状を初発とすることがあるため,高齢者の原因不明の角膜混濁を診た場合,多発性骨髄腫を疑い,全身精査を行うべきである.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofmultipleCmyeloma(MM)diagnosedCbyCcornealC.ndings.CCaseReport:An84-year-oldCmaleCinitiallyCvisitedCanCeyeCclinicCcomplainingCofCdecreasedCvisualacuity(VA)inCbothCeyes.CUponCexamination,CcornealCopacitiesCandCcataractsCwereCdetected,CandCalthoughCcataractCsurgeriesCwereCperformed,CtheCVACinCbothCeyesCdidCnotCimproveCandCblurredCvisionCdueCtoCcornealCopacitiesCgraduallyCdeveloped.CThus,CheCwasCreferredtoourhospitalfortreatment.Slit-lampexaminationrevealedapalehazeovertheentirecornealregioninbothCeyes,CaccompaniedCwithCanCatypicalCsubepithelialCspiral-shapedC.gure.CBloodCtestC.ndingsCrevealedCanemia,Chyperproteinemia,Chypoalbuminemia,CandCrenalCdysfunction.CAfterCaCboneCmarrowCexamination,CheCwasCdiagnosedCwithCMMCandCtreatedCwithCchemotherapy,CwhichCledCtoCimprovementsCofChisCcornealCopacityCandCblurredCvision.CConclusion:AlthoughCocularC.ndingsCcanCbeConeCofCtheCinitialCsymptomsCofCMM,CwhenCanCunexplainedCcornealCopacityCisCdetectedCinCtheCelderly,CMMCshouldCbeCconsideredCasCaCdi.erentialCdiagnosisCandCthoroughCsystemicCexaminationsshouldbeconducted.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):978.981,C2022〕Keywords:多発性骨髄腫,M蛋白,角膜混濁.multiplemyeloma,Mprotein,cornealopacity.はじめに多発性骨髄腫は単クローン性に増殖した形質細胞から大量の免疫グロブリン(M蛋白)が分泌される疾患である.病的骨折や貧血症状,高カルシウム血症,易感染性など多彩な症状をきたし,初発症状は骨痛が多い1).わが国では人口C10万人当たり約C5人の発症率で,死亡者数は年間C4,000人前後であり,発症率,死亡率ともに年々増加傾向にある2).眼所見としては腫瘍の眼窩内浸潤や,過粘稠度症候群による網膜病変などの報告が多い3).今回筆者らは,角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の患者を経験したので報告する.〔別刷請求先〕千葉麻夕子:〒060-8638札幌市北区北C15条西C7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:MayukoChiba,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8638,JAPANC978(124)図1初診時前眼部写真(上段)とそのシェーマ(下段)両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁,上皮下に不定形な混濁と,左眼に一部渦状の混濁がみられた.CI症例患者:84歳,男性主訴:両眼の霧視.現病歴:両眼の視力低下を主訴に近医を受診.視力は右眼(0.4),左眼(0.6),眼圧は両眼とも正常範囲内,角膜混濁および白内障を指摘された.前医へ紹介され,両眼の白内障手術が施行された.角膜混濁は軽微で手術は通常どおり終了し,術後の合併症もみられなかった.しかし,術後視力は右眼(0.6),左眼(0.7)と著明な改善はみられず,かつ霧視症状が強く,角膜混濁の影響と考えられたため,精査目的に北海道大学病院眼科を紹介受診した.既往歴:喉頭癌術後,甲状腺全摘出後,脂質異常症,肺気腫.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.6(0.8),左眼C0.6(0.9),眼圧は両眼とも正常範囲内だった.角膜内皮細胞密度は右眼C2,833Ccells/mm2,左眼C2,933Ccells/mmC2と両眼とも低下は認めず,細隙灯顕微鏡所見では両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁がみられ,上皮下には不定形な混濁と,左眼には一部渦状の混濁を伴っていた(図1).角膜上皮障害や,実質浮腫,Descemet膜皺襞はみられなかった.また,結膜充血や,角膜後面沈着物,前房炎症はみられなかった.眼底は異常所図2初診時前眼部OCT角膜中央にやや高輝度な陰影がみられたが,有意な所見はみられなかった.図3化学療法開始1カ月後前眼部写真(上段)とそのシェーマ(下段)角膜混濁の改善を認めた.見を認めなかった.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では角膜中央にやや高輝度な陰影がみられたが,有意な所見はみられなかった(図2).全身検査所見:採血結果にて,Hb9.9Cg/dl,TP8.4Cg/dl,CAlb3.1Cg/dl,BUN21.6Cmg/dl,Cr1.19Cmg/dlと貧血,高蛋白血症,低アルブミン血症,腎機能障害を認めた.経過:多発性骨髄腫を疑う血液所見を認め,血液内科に紹介された.血清蛋白分画で高ガンマグロブリン血症を認め,尿中蛋白分画ではCM蛋白の指標となるCBence-Jones蛋白を認め,血清免疫電気泳動ではCM蛋白が検出された.X線検査では頭蓋骨溶骨性病変および胸椎圧迫骨折を認めた.骨髄穿刺・生検にて形質細胞増多を認めた.多発性骨髄腫の診断で,化学療法が開始された.治療開始後,両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁や,上皮下の不定形な混濁および渦状の混濁は改善し,霧視症状も改善がみられた(図3).CII考按多発性骨髄腫に伴うCM蛋白血症により角膜混濁を生じた患者を経験した.本症例は両眼性に角膜全体および全層に混濁を認め,一部渦状混濁を伴っていたことから,原因として薬剤によるものか,もしくは全身疾患によるものが疑われた.薬剤性としてはアミオダロンやクロロキン,インドメタシン,抗癌剤などが鑑別に上がる4,5).本症例の内服薬はレボチロキシン,アレンドロン酸,アンブロキソール,アトルバスタチン,酸化マグネシウム,ロラゼパム,ルビプロストン,ツロブテロール,ジクロフェナクCNaと合致するものは認めなかった.また,全身疾患としてはCFabry病やシスチン尿症,ムコ多糖類代謝異常,多発性骨髄腫などが鑑別に上がる6,7).年齢や経過から代謝性疾患は否定的で,全身検査結果から多発性骨髄腫の診断となった.多発性骨髄腫の角膜所見はCM蛋白が角膜内に沈着することにより生じる.両眼性で角膜上皮,Bowman膜,実質内のあらゆる層にびまん性の混濁をきたし4),結晶状の沈着物を上皮および実質内に認める場合もある3,8).角膜への沈着は,涙液,輪部血管,前房水からの経路が考えられるが,いずれの経路由来であるかは不明である9).また,本症例のように上皮下に渦状混濁をきたす例も報告されている10).過粘稠度症候群による網膜病変や腫瘍の眼窩内浸潤を契機に発見された多発性骨髄腫の症例は散見される11.14)が,角膜所見から多発性骨髄腫が発見された報告はまれである8,10).多発性骨髄腫のうち治療対象となるものはCCRABと称される臓器障害である高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変のうち一つ以上を有する症候性多発性骨髄腫であり,65歳以下かつ基礎疾患のない場合には自家造血幹細胞移植と全身化学療法が併用され,それ以外の場合には全身化学療法のみが適応となる2).本症例は年齢より自家造血幹細胞移植の適応とはならず,全身化学療法が施行された.本症例は角膜所見を初発として発見された多発性骨髄腫の患者であった.多発性骨髄腫では眼症状を初発とすることがあるため,とくに高齢者の原因不明の角膜混濁を診た場合,多発性骨髄腫の可能性を疑い,全身精査を行うべきである.利益相反石田晋【F】(IV)参天製薬株式会社,ノバルティスファーマ株式会社,バイエル薬品株式会社,株式会社ニデック,株式会社ボナック【P】文献1)池田昌弘,鈴木憲史:M蛋白・骨病変から骨髄腫の診断への道.MedicalPracticeC32:276-280,C20152)日本血液学会:造血器腫瘍診療ガイドライン.20183)小川葉子:多発性骨髄腫.今日の眼疾患治療指針第C3版(大路正人,後藤浩,山田昌和ほか編),p769-770,医学書院,20164)中司美奈:高ガンマグロブリン血症.角膜疾患改訂第C2版(木下茂編),p243,メジカルビュー社,20155)山田昌和:角膜障害をきたす全身薬.あたらしい眼科C35:C1335-1338,C20186)山田昌和:角膜上皮の沈着物.今日の眼疾患治療指針第C3版(大路正人,後藤浩,山田昌和ほか編),p346-347,C20167)加藤卓次:M蛋白血症.前眼部アトラス(大鹿哲郎編),眼科プラクティス,p162,文光堂,20078)LiN,ZhuZ,YiGetal:Cornealopacityleadingtomulti-pleCmyelomaCdiagnosis:ACcaseCreportCandCliteratureCreview.AmJCaseRepC19:421-425,C20189)細谷比左志:多発性骨髄腫に伴う角膜混濁.あたらしい眼科C25:1515-1516,C200810)SharmaP,MadiAH,BonshekRetal:Cloudycorneasasaninitialpresentationofmultiplemyeloma.ClinOphthal-molC8:813-817,C201411)名取一彦,和泉春香,石原晋ほか:眼球突出を初発症状として診断された多発性骨髄腫のC1例.癌の臨床C53:395-398,C200712)村田一弘,高木大介,白木育美ほか:著明な乳頭浮腫で発見されたCIgG-k型多発性骨髄腫のC1例.眼科C57:59-64,C201513)関伶子,坂上富士男,難波克彦ほか:特異な眼底変化を伴った多発性骨髄腫のC2例.眼紀C36:580-585,C198514)野田拓也,高木優介,長谷川愛ほか:多発性骨髄腫による圧迫性視神経症のC1例.眼科C61:199-203,C2019***

ブリンゾラミドとブリモニジン併用点眼からブリモニジン・ ブリンゾラミド配合剤への切替え効果の検討

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):974.977,2022cブリンゾラミドとブリモニジン併用点眼からブリモニジン・ブリンゾラミド配合剤への切替え効果の検討丸山悠子*1,2池田陽子*2,3吉井健悟*4森和彦*2,3上野盛夫*2木下茂*5外園千恵*2*1京都第二赤十字病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3御池眼科池田クリニック*4京都府立医科大学生命基礎数理学*5京都府立医科大学感覚器未来医療学CComparisonoftheIntraocularPressureLoweringE.cacyandSafetyofBrinzolamide/BrimonidineFixed-DoseCombinationversusConcomitantUseofBrinzolamideandBrimonidineYukoMaruyama1,2),YokoIkeda2,3),KengoYoshii4),KazuhikoMori2,3),MorioUeno2),ShigeruKinoshita5)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital,2)CUniversityofMedicine,3)Oike-IkedaEyeClinic,4)CDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalDepartmentofMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC1%ブリンゾラミド(BZM)とC0.1%ブリモニジン酒石酸塩(BMD)のC2剤併用からC0.1%ブリモニジン酒石酸/1%ブリンゾラミド配合剤(BBFC)点眼への切替え症例で眼圧下降効果と安全性の比較検討を行った.BBFC発売(2020年C6月)から半年間に御池眼科池田クリニック通院中の多剤併用患者でCBZM,BMDのC2剤をCBBFCに切替え後C3カ月以上経過観察できたC53例C53眼を対象とし,切替え前,1,3,6カ月後の眼圧,脈拍,血圧を比較した.点眼中止例はその理由を調べ,統計的検討はCDunnett検定を用いた.切替え前の点眼数はC4.4±1.2剤で,眼圧,脈拍,血圧すべてにおいて,切替え後1,3,6カ月のすべての時期で切替え前と比較して有意差を認めなかった.中止症例は,手術による中止C1例と眼掻痒感が原因による中止C1例であった.BZM,BMD点眼併用からCBBFC点眼への切替えでは眼圧下降効果は同等であり,中止となった症例はC2例であった.CThisCstudyCinvolvedC53CeyesCofC53CglaucomaCpatientsCusingCmultipleCanti-glaucomaCeye-dropsCwhoCswitchedCfromconcomitantuseof1%Cbrinzolamide(BZM)and0.1%Cbrimonidine(BMD)toBZM/BMD.xed-dosecombina-tion(BBFC)andcouldbeobservedformorethan3monthsatOike-IkedaEyeClinicfromJune2020toJanuary2021.Intraocularpressure(IOP),heartrate(HR),andbloodpressure(BP)betweenatbeforeswitchingtoBBFC(pre-BBFC)andat1-,3-,and6-monthsafterswitchingtoBBFCinstillation(post-BBFC)wascomparedandthereasonforBBFCdiscontinuationwasinvestigated.Atall3post-BBFCtime-points,nosigni.cantdi.erenceinIOP,HR,CandCBPCwasCfoundCcomparedCwithCthatCatCpre-BBFC.CInC2Ccases,CBBFCCinstillationCwasCdiscontinuedCdueCtoCpainfulCitchinessCandCrequiredCsurgery.COurC.ndingsCrevealedCthatCalthoughCBBFCCdiscontinuationCoccurredCinC2Ccases,therewasnodi.erenceinsafetyande.cacybetweenBBFCandconcomitantuseofBZMandBMD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):974.977,C2022〕Keywords:ブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミド配合剤点眼,ブリンゾラミドとブリモニジンの併用使用,緑内障.brinzolamide/brimonidine.xed-dosecombination,concomitantuseofbrinzolamideandbrimonidine,glaucoma.C〔別刷請求先〕丸山悠子:〒602-8026京都市上京区釜座通丸太町上ル春帯町C355-5京都第二赤十字病院眼科Reprintrequests:YukoMaruyma,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital,355-5Haruobi-cho,Kamanza-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8026,JAPANC974(120)はじめに緑内障は慢性進行性の疾患であり,眼圧下降による治療が唯一エビデンスのある治療方法となっている1).緑内障診療ガイドライン上は,点眼薬による治療は単剤から開始し,治療による眼圧下降効果や視野障害の進行抑制効果が乏しい場合には,点眼薬追加による多剤併用や配合剤の使用を行うこととなっている1).わが国では,配合剤点眼は近年までプロスタグランジン製剤/b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬の組み合わせのみが処方可能となっていた.2019年C12月にCa2作動薬/b遮断薬の配合点眼薬が上市され,配合剤の選択肢が増えた.しかし,すべての配合剤にCb遮断薬が使用されており,喘息や不整脈などを有する患者では配合剤を使用できなかった.2020年C6月にC0.1%ブリモニジン酒石酸塩(以下,BMD)とC1%ブリンゾラミド(以下,BZM)の配合剤である「ブリモニジン・ブリンゾラミド配合点眼液(bri-monidin/brinzolamide.xeddosecombination:BBFC)」(アラミド,千寿製薬)が上市され,わが国で初めて炭酸脱水酵素阻害薬/a2作動薬というCb遮断薬を含まない配合点眼薬が処方可能となった.これによりCb遮断薬を使用できない患者でも配合点眼薬を使用することが可能となり,多剤併用のために生じる副作用による角膜障害のリスクやコンプライアンスの低下の改善が見込めることとなった.BBFCは広義の原発開放隅角緑内障患者や高眼圧症患者においてCBZM単剤,もしくはCBMD単剤からの切替えにより,有意に眼圧が下降することが報告され2.4),BZM単剤からCBMD点眼を追加する際に,BZM単剤+BMD単剤の併用またはCBBFCに切替えたところ,両群では眼圧下降に有意差がなかったことも報告されている2).BZM単剤+BMD単剤をCBBFCへと切替えて,眼圧に有意差がないことが海外からはすでに報告がされているが5),海外で発売されているCBMDはC0.2%と濃度が異なり,人種差も考えられる.わが国で発売されている0.1%CBMDを使用したCBZM単剤+BMD単剤からのCBBFCへの切替えの報告は知りうる限りない.そこで,今回日本国内患者を対象として,1%CBZM,0.1%CBMDのC2剤併用からCBBFC点眼への切替え症例で眼圧下降効果と安全性の比較検討を行った.CI対象および方法本研究は,診療録から調査した後ろ向き研究である.ヘルシンキ宣言に従い,京都府立医科大学倫理委員会で承認を得て実施された.対象はCBBFC処方が開始されたC2020年C6月.2021年C1月に御池眼科池田クリニック通院中の多剤緑内障点眼併用患者のうち,BZMとCBMDのC2剤をCBBFCに切替え,3カ月以上経過観察ができた患者を診療録より抽出した.切替え前と比較して,切替え1,3,6カ月後の眼圧,脈拍,血圧の検討を行った.血圧に関しては収縮期血圧,拡張期血圧についてそれぞれ検討を行った.眼圧に関しては,切替えC3,6カ月後の眼圧変化について,切替え前眼圧よりC20%以上の眼圧上昇を認めたものを眼圧上昇群(切替え後眼圧─切替え前眼圧)/切替え前眼圧×100=XとしてCX≧20%),切替え前眼圧よりC20%以上の眼圧下降を認めたものを眼圧下降群(X≦.20%),切替え前眼圧のC20%以内の眼圧の変化であったものを眼圧不変群(.20%<X<20%)として,それぞれ割合を調べた.また,切替え後にCBBFCの点眼が中止となった症例については,中止となった理由を調べた.両眼が対象となった場合は右眼データを用いた.なお中止症例については,点眼が継続できた期間の眼圧,脈拍,血圧のデータに関しては解析対象とした.経時変化の統計学的解析は,切り替え前の値を基準としたDunnett検定を行った.統計解析にはCTheRversion4.0.3(RCFoundationCforCStatisticalComputing社)を用い,統計的有意水準はC5%とした.データの表示は平均±標準偏差とした.CII結果対象となった緑内障患者はC53例C53眼で,男性C30例,女性C23例,平均年齢はC70.1±12.9歳であった(表1).緑内障病型としては正常眼圧緑内障が最多であった(表1).切替え前の緑内障治療薬の成分数はC4.4±1.2剤であった.切替え前眼圧はC12.0±2.3CmmHg,1,3,6カ月後の眼圧はC13.0±3.2,12.3±2.3,13.1±2.5mmHgであり,すべての時点において切替え前後で有意差を認めなかった(p=0.493,p=0.915,p=0.189,図1).切替えC3,6カ月後の眼圧変化についてみたところ,眼圧不変群が切替えC3カ月後,6カ月後ともに最多となりC70%を超えていた(表2).脈拍に関しては,切替え前脈拍はC76.2±11.8Cbpm,1,3,6カ月後はそれぞれC69.1±9.8,73.9±13.0,78.1±8.9Cbpmであり,すべての時点において切替え前後で有意差を認めなかった.(p=0.361,p=0.782,p=0.922,図2)血圧に関しては,切替え前収縮期血圧,拡張期血圧はC122.5±19.9,68.7±16.1CmmHg,1カ月後の収縮期血圧,拡張期血圧はC118.4±13.6,63.7±9.5CmmHg,3カ月後の収縮期血圧,拡張期血圧はC127.3±19.0,69.2±14.3CmmHg,6カ月後の収縮期血圧,拡張期血圧はそれぞれC117.5±11.9,C67.3±14.6CmmHgであり,すべての時点において切替え前後で収縮期血圧,拡張期血圧ともに有意差を認めなかった(収縮期血圧Cp=0.924,p=0.596,p=0.740図3a,拡張期血圧Cp=0.782,p=0.999,p=0.982図3b).BBFC切替え後に中止となった症例はC2例であり,1例は手術加療に伴いC6カ月後に中止した症例であり,1例は眼.年齢(歳)表1患者背景p=0.189p=0.91570.1±12.9歳20性別(男性:女性)30:23解析眼(右眼:左眼)45:8緑内障病型[n(%)]正常眼圧緑内障27眼(C50.9%)原発開放隅角緑内障13眼(C24.5%)続発緑内障(落屑緑内障を除く)5眼(C9.4%)落屑緑内障4眼(C7.6%)その他4眼(7.6%)n=症例数.表2切替え3,6カ月後の眼圧変化の割合眼圧変化(n(%))3カ月後6カ月後眼圧上昇群(X≧20%)9眼(17.0%)4眼(16.7%)眼圧不変群(C.20%<X<20%)39眼(73.6%)20眼(83.3%)眼圧下降群(X≦C.20%)5眼(9.4%)0眼(0%)n=症例数.X=(切替え後眼圧C.切替え前眼圧)/切替え前眼圧C×100C01M3M6Mn=53115324図1眼圧の比較切替え前と切替え1,3,6カ月後のすべての時点において切替え前後で有意差を認めなかった.グラフは平均±標準偏差を示す.Cp=0.922眼圧(mmHg)15105p=0.782p=0.740a100p=0.596p=0.92401M3M6Mn=37632150pre1M3M6Mn=3763215図2脈拍の比較切替え前と切替え1,3,6カ月後のすべての時点において切替え前後で有意差を認めなかった.グラフは平20015010050収縮期血圧(mmHg)脈拍(bpm)50bp=0.982均±標準偏差を示す.p=0.999100拡張期血圧(mmHg)5001M3M6Mn=3763215図3血圧の比較a:収縮期血圧の比較.Cb:拡張期血圧の比較.切替え前と切替痒感が原因でC3カ月後に中止となった症例であった.CIII考按海外で発売されているCBBFCに関してはCBMDがC0.2%のみの検討であり4.9),0.1%CBMDを使用したCBBFCでの使用報告は知る限り国内治験の報告のみである2,3).実際にBBFCを使用する場面として,多剤併用の場合にCBZM単剤+BMD単剤をCBBFCへと切替えて使用することも十分に想定される状況である.しかし,現時点ではそういった切替えの報告はわが国では見受けられないこともあり,今回,緑内え1,3,6カ月後のすべての時点において切替え前後で有意差を障点眼を多剤併用中の患者において,BZM単剤+BMD単認めなかった.グラフは平均±標準偏差を示す.剤のC2剤併用をCBBFCへと切替えた際の眼圧変化と副作用について調べた.眼圧変化に関しては,切替え後C6カ月まで有意差を認めず,BMDとCBZMの併用治療から配合剤C1剤へと変更しても同等の治療効果が得られることがわかった.これは,海外でのC0.2%CBMDを用いた使用経験にはなるが,同様の結果が報告されており5),配合剤でも遜色ない眼圧下降効果が得られるとわかった.また,循環器系の有害事象に関して,血圧,脈拍といった全身状態への影響は配合剤への切替え後も変化を認めず,安全に使用できると考えられた.今回はCBBFCへの切替えにより,中止となった症例はC2例のみであり,手術のため中止になった症例と,眼掻痒感が原因による中止症例であった.BMD点眼の副作用として眼掻痒感10)はすでに報告されており,今回の中止症例でもBMD点眼をC6年と長期間継続していたことから,BMDの長期曝露による可能性も考えられるが,一方でCBBFCへ切替えたことで,基剤は同じだが添加物などの違いにより眼掻痒感が生じた可能性も否定はできない.ただし,現時点では症例数がC53例と少ないため,有害事象については今後症例数を増やして検討していく必要がある.配合剤の使用に関しては,薬剤数や点眼回数を減らすことができることから,アドヒアランスの向上が期待できる11).今回は眼表面については,後ろ向きの研究のため検討していないが,緑内障治療薬点眼の多剤併用により角膜上皮障害をきたしている患者においては,防腐剤への曝露の軽減などにより角膜障害の軽減が期待される12)ことが報告されており,今後は角膜の状態についても評価を行っていく必要がある.以上よりCBBFCはC2剤併用からの切替えとして点眼数の軽減につながり,安全に使用でき,有用性の高い配合点眼薬であると考えられる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20182)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験C.ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科37:1299-1308,C20203)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験C.ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科37:1289-1298,C20204)RealiniCT,CNguyenCQH,CKatzCGCetal:Fixed-combinationCbrinzolamide1%/brimonidine0.2%CvsmonotherapywithbrinzolamideCorCbrimonidineCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCorCocularhypertension:resultsCofCaCpooledCanalysisoftwophase3studies.Eye(Lond)C27:841-847,C20135)JinCSW,CLeeSM:TheCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationofbrinzolamide1%Candbrimonidine0.2%CinnormalCtensionglaucoma:AnC18-monthCretrospeciveCstudy.JOculPharmacolTherC34:274-279,C20186)KatzCG,CDubinerCH,CSamplesCJCetal:Three-monthCran-domizedCtrialCofC.xed-combinationCbrinzolamide,1%,andbrimonidine,0.2%.JAMAOphthalmolC131:724-730,C20137)Gandol.CSA,CLimCJ,CSanseauCACCetal:RandomizedCtrialCofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbri-monidineforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTherC31:1213-1227,C20148)NguyenCQH,CMcMenemyCMG,CRealiniCTCetal:PhaseC3Crandomized3-monthtrialwithanongoing3-monthsafe-tyCextensionCofC.xed-combinationCbrinzolamide1%/bri-monidine0.2%.JCOculCPharmacolCTherC29:290-297,C20139)WangN,LuDW,PanYetal:Comparisonoftheintraoc-ularCpressure-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCtheCbrinzol-amide/brimonidineC.xed-doseCcombinationCversusCcon-comitantCuseCofCbrinzolamideCanCbrimonidineCforCmanagementCofCopen-angleCglaucomaCorCocularChyperten-sion.ClinOphthalmolC14:221-230,C202010)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C201211)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行:緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子.あたらしい眼科C29:993-997,C201212)内野裕一:点眼薬による角結膜障害:その危険信号を察知する!あたらしい眼科34:1263-1267,C2017***

正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の 3 年成績

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):968.973,2022c正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の3年成績柴田真帆豊川紀子植木麻理黒田真一郎永田眼科CThree-YearOutcomesofTrabeculotomywithPhacoemulsi.cationinNormalTensionGlaucomaMahoShibata,NorikoToyokawa,MariUekiandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の術後C3年成績を検討する.対象および方法:永田眼科においてC2015年C1月.2017年C12月に,正常眼圧緑内障に対して白内障同時線維柱帯切開術を施行した患者のうち,6カ月以上経過観察できたC59眼を対象とした.診療録から後ろ向きに眼圧,緑内障薬の点眼数,3年生存率,平均偏差(meandeviation:MD)値,併発症について検討した.結果:術前眼圧C15.4±1.8はC3年後C12.5±2.3CmmHgへ有意に下降した.14,12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC77.2%,32.3%,眼圧下降率C20%,30%以上のC3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であった.術前後C3回以上視野測定のできたC16眼では,MDスロープが.0.51±0.9から術後.0.0075±0.9CdB/Yへ有意に改善した.このうち術後CMDスロープが.0.5CdB/Y以上のものを停止群(13眼),それ未満のものを進行群(3眼)とした場合,それぞれの術後眼圧経過に有意差はなかったが,進行群では有意に術前CMDスロープが低値であった.併発症として一過性高眼圧をC5眼に認めた.結論:正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術は,術後有意な眼圧下降を認め視野障害進行抑制効果があったが,術前に視野障害進行の速かった例では術後も進行する傾向がみられた.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCoftrabeculotomy(LOT)withCphacoemulsi.cationCinCnormal-ten-sionglaucoma(NTG)patients.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC59CNTGCeyesCthatCunderwentCLOTCwithCphacoemulsi.cationCatCtheCNagataCEyeCClinic,CNara,CJapanCbetweenCJanuaryC2015CandCDecemberC2017CandCthatCcouldCbeCfollowedCforCatCleastC6-monthsCpostoperative.CIntraocularCpressure(IOP),glaucomamedications,meandeviation(MD),surgicalsuccess,andpostoperativecomplicationswereinvesti-gated.Surgicalsuccesswasde.nedasanIOPof≦14CmmHgand12CmmHg,andanIOPreductionof≧20%Cand≧30%CbelowCbaselineCwithCorCwithoutCglaucomaCmedications.CResults:AtC3-yearsCpostoperative,CmeanCIOPCwasC12.5±2.3CmmHg,CaCsigni.cantCreductionCcomparedCtoCthatCatbaseline(15.4±1.8CmmHg),CandCtheCsurgicalCsuccessCratesCwere77.2%(IOP≦14CmmHg),32.3%(IOP≦12CmmHg),32.5%(IOPCreduction≧20%),Cand18.6%(IOPreduction≧30%).In16eyesthathadundergonepreoperativeandpostoperativevisual.eldexaminationatleast3Ctimes,CtheCmeanCMDCslopeCsigni.cantlyCimprovedCfromC.0.51±0.9CdB/YCpreoperativelyCtoC.0.0075±0.9CdB/Ypostoperatively.Whenthose16eyesweredividedintoanon-progressgroup(postoperativeMDslope≧.0.5CdB/CY,C13eyes)andCaCprogressgroup(postoperativeCMDCslope<.0.5CdB/Y,C3eyes),CnoCsigni.cantCdi.erenceCinCtheCcourseofpostoperativeIOPwasfoundbetweenthetwogroups,whereasthemeanpreoperativeMDslopeintheprogressgroupwassigni.cantlylowerthanthatinthenon-progressgroup.PostoperativecomplicationsincludedIOPCspikesCof>30CmmHg(n=5eyes).Conclusions:InCNTGCpatients,CLOTCwithCphacoemulsi.cationCshowedCsigni.cante.cacyinreducingIOPandsuppressionofvisual.eldprogressupto3-yearspostoperative.However,incaseswithahighervisual.eldprogressionrate,visual.eldtendedtoprogressevenaftersurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):968.973,C2022〕Keywords:線維柱帯切開術,正常眼圧緑内障,眼圧,視野障害進行.trabeculotomy,normaltensionglaucoma,intraocularpressure,visual.eldprogression.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC968(114)はじめに線維柱帯切開術(trabeculotomy.以下,LOT)は,傍Schlemm管内皮網組織を切開し房水流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的房水流出路再建術である.これまで白内障との同時手術を含め多数の長期成績1.6)が示され,Schlemm管外壁開放術(sinusotomy:SIN)と深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)の併用で術後一過性高眼圧の減少と眼圧下降増強効果が報告されている2.6).適応病型は原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG),小児緑内障,落屑緑内障,ステロイド緑内障とされるが,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に限定した術後成績報告は少ない.これはCPOAGに対するLOT単独の術後眼圧がC18mmHg前後1),白内障手術(phacoemulsi.cationCandCintraocularClensimplantation:CPEA+IOL)+LOT+SIN+DSの術後眼圧が15mmHg前後3,4)であることから適応症例に限界があるためと考えられ,NTGに対するCLOTの術後成績評価は十分ではなかった.今回,NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの3年成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2015年C1月.2017年C12月に永田眼科において,NTGに対しCPEA+IOL+LOT+SIN+DSを施行した連続症例C72眼のうち,術後C6カ月以上経過観察できたC59眼を対象とした(経過観察率C82%).緑内障手術既往眼は含まれていない.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障治療薬の点眼数,平均偏差(meandeviation:MD)値,目標眼圧(12,14CmmHg以下,眼圧下降率C20%,30%以上)におけるC3年生存率,術後追加手術介入の有無と併発症を調査,検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.NTGの診断基準は,無治療もしくは緑内障治療薬を中止しC3回以上の眼圧測定でC21CmmHgを超えないもので,正常開放隅角,緑内障性視神経乳頭変化と対応する視野変化があり,視神経乳頭の変化を起こしうる他疾患なし,の条件を満たすものである7).CPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術式は既報5)に準じ,すべての症例でCLOTを下方象限で施行しCSINとCDSを併用,CPEA+IOLは上方角膜切開で施行した.検討項目は,術前の眼圧と緑内障治療薬数,術後1,3,6,12,18,24,30,36カ月目の眼圧と緑内障治療薬数,目標眼圧をC12,14CmmHg以下,眼圧下降率C20%,30%以上としたC3年生存率,術前後のCMD値とCMDスロープ,術後合併症とした.MDスロープについては,術前後でCHumphrey視野検査CSITA-Standard30-2が信頼性のある結果(固視不良<20%,偽陽性<33%,偽陰性<33%)でC3回以上測定できたC16眼について検討し,術前後で比較した.緑内障治療薬数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤として計算し,合計点数を点眼スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障治療薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術後眼圧と点眼スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とDunnettの多重比較,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成した.術前後のCMDスロープの比較には対応のあるCt検定,術後CMDスロープの差による群間比較にはCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例の患者背景を示す.42例C59眼の平均年齢はC73.5±5.6歳,平均ベースライン眼圧はC17.3C±2.6CmmHg,術前平均点眼スコアC2.1C±1.1による術前平均眼圧はC15.4C±1.8mmHg,術前平均CMD値はC.11.9±7.7CdB(平均C±標準偏差)であった.図1に眼圧経過を示す.術C3年後の平均眼圧はC12.5C±2.3CmmHgであり,術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).図2に点眼スコア経過を示す.術前C2.1C±0.1の点眼スコアは術C3年後C1.2C±0.2(平均C±標準誤差)であり,すべての観察期間で有意な減少を認めた(p<0.01,CANOVA+Dun-nett’stest).図3にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(12,14mmHg)ごとの生存曲線を示す.成功基準を12,14CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率はそれぞれ32.3%,77.2%であった.図4にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧下降率(20,30%)ごとの生存曲線を示す.成功基準を眼圧下降率20%,30%以上とした場合,術C3年後の生存率はそれぞれ32.5%,18.6%であった.図5に術前後CMDスロープの平均値比較と散布図を示す.MDスロープについては,術前後でCHumphrey視野検査30-2がC3回以上測定できたC16眼について検討し,平均CMDスロープは術前.0.51±0.9から術後C.0.0075±0.9CdB/Yへ有意に改善した(p=0.02,pairedttest).視野平均観察期間は術前後でそれぞれC95.5C±54.5カ月,37.1C±13.4カ月であった.症例ごとの術前後CMDスロープ値を散布図に示した.術後も.0.5CdB/Yを超える視野障害進行例をC3眼認めた.術後CMDスロープ値がC.0.5CdB/Y以上のものを停止群(13眼),それ未満のものを進行群(3眼)とした場合,進行群で術前CMDスロープが有意に低値であった.年齢,術前眼圧,術前点眼スコア,術前CMD値,術後眼圧経過には群間で有表1患者背景症例数42例眼数59眼平均年齢C73.5±5.6(5C9.C87)歳男:女17:2C5右:左33:2C6ベースライン眼圧C17.3±2.6(1C2.C20)CmmHg術前眼圧C15.4±1.8(1C1.C19)CmmHg術前点眼スコアC2.1±1.1(0.4)術前CMD値C.11.9±7.7(C.0.86.C.31.84)CdB(mean±SD)(range)C20意差を認めなかった(表2).併発症として,30mmHgを超える一過性高眼圧をC5眼(8.5%)に認めたが,炭酸脱水酵素阻害薬内服もしくは一時的緑内障治療薬の点眼追加による保存的加療のみで軽快した.3Cmmを超える前房出血を認める症例はなかった.経過中に追加緑内障手術を必要とした症例はなかった.CIII考按NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術後3年成績を検討した.平均眼圧はC15.4C±1.8CmmHgからC3年後に眼圧(mmHg)181614121086420術前1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)n595959595552515049図1眼圧経過術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C2018点眼スコア1614121086420術前1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)n595959595552515049図2点眼スコア経過術後すべての観察期間で有意な減少を認めた(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).100908077.2%7060504032.3%302014mmHg以下1012mmHg以下00510152025303540生存期間(M)図312,14mmHg以下3年生存率12,14CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC32.3%,77.2%であった.生存率(%)生存率(%)1009080706050403020100020%mmHg以下30%mmHg以下32.5%18.6%510152025303540生存期間(M)図4眼圧下降率20%,30%以上3年生存率眼圧下降率C20%,30%以上C3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であった.12.5±2.3CmmHgと有意に下降し,PEA+IOL+LOT+SIN+DSはCNTGに対しても有意な眼圧下降が得られる術式と考えられた.POAGにおけるCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの報告3,4)と比較すると,今回の結果ではC14CmmHg以下C3年生存率がC77.2%であり,術前眼圧値が低いため眼圧値による生存率は良好であった.しかし,眼圧下降率C20%以上・30%以上C3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であり,NTGにおいてCPEA+IOL+LOT+SIN+DSは10台前半の眼圧を目標とするには限界がある術式と考えられた.術後MDslope(dB/Y)術前後のCMDスロープ比較では,術前C.0.51±0.9CdB/YCから術後.0.0075±0.9CdB/Yへ有意な改善が得られた.今-3-2-10123回の研究では術前平均CMDスロープがC.0.51±0.9CdB/Yと術前MDslope(dB/Y)視野障害進行は緩徐であり,症例群にはCMD値の低い白内障による感度低下症例を含むため,術後CMDスロープの改善は白内障手術による感度上昇の可能性があるが,今回のように術前ベースライン眼圧がChighteenの場合,PEA+IOL+LOT+SIN+DSは眼圧下降効果と点眼スコアの減少とともに,視野障害進行抑制効果がある可能性が考えられた.しかし,術後視野障害進行群と停止群の比較では,術後の眼圧経過は両群で同等であったが術前CMDスロープ値に有意差を認め,術前視野障害進行の早い症例では,PEA+IOL+術前術後p値MDスロープ(dB/Y)-0.51±0.9-0.0075±0.90.02*(mean±SD)(*pairedttest)図5術前後のMDスロープ比較○初期:MD≧.6dB,●中期:C.12dB≦MD<C.6dB,▲後期:MD<.12CdB.平均CMDスロープは術後有意に改善した.術後C.0.5CdB/Yを超える視野進行例(点線で囲む)をC3眼認めた.表2術後MDスロープ値による比較停止群進行群術後CMDスロープC術後CMDスロープp値≧.0.5CdB/Y<.0.5CdB/Y眼数C133年齢(歳)C72.3±5.5C65.0±4.4C0.05術前眼圧(mmHg)C15.0±1.8C14.7±1.5C0.77術前点眼スコアC2.5±0.8C2.0±1.0C0.34術前CMD値(dB)C.9.07±5.1C.8.50±2.5C0.79術前CMDslope(dB/Y)C.0.19±20.7C.1.91±0.7C0.001*術後平均眼圧C12.0±0.4C11.6±1.1C0.27(1.36M)(mmHg)術後平均眼圧下降率C18.9±2.7C21.9±6.9C0.29(1.36M)(%)術後CMDslope(dB/Y)C0.34±0.6C.1.52±0.3C0.0005*LOT+SIN+DSは視野障害進行抑制効果が弱いと考えられた.視野障害進行の早い患者には,濾過手術を選択せざるを得ないかもしれない.視野障害進行のあるCNTGに手術加療を行い術後の視野障害進行阻止を検証した報告8.13)は多いが,いずれも線維柱帯切除術である.長期の視野障害進行抑制にはC20%以上の眼圧下降もしくはC10CmmHg未満の眼圧維持が必要であると報告8)されている.NTGにおける眼圧下降の有効性を検証したCCollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudy(CNTGS)の報告14,15)では,濾過手術によるC20%の眼圧下降で視野C5年維持率がC80%であったとされ,この報告はCNTGへの濾過手術を意義の高いものにした.しかし,濾過手術では低眼圧による視力低下や濾過胞感染など術後合併症による視機能への影響も無視できない16,17).今回の研究でCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術後併発症は一過性高眼圧のみであった.NTGはきわめて経過の長い慢性疾患であり,手術加療の適応には患者別の判断が必要とされる.視野障害進行程度,白内障進行の有無,年齢や余命などを考慮した場合,患者によってはCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの適応があると考えられた.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であると考える.今回の研究でCMDスロープ比較は術前後にHumphrey視野検査C30-2がC3回以上測定できたC16眼について検討したが,視野障害進行判定にはC5回の視野測定が必要であるとの報告18)があり,視野障害進行判定が不十分であった可能性がある.また術後C6カ月以上経過観察できた症(mean±SD)(*t-test)例群であり,手術から最終視野検査までの期間は進行群(884C±90Cdays)と停止群(1,166C±430Cdays)で統計的有意差はないが(p=0.23,CMann-WhitneyCUtest),視野障害進行判定には術後観察期間が不十分であった可能性があり,今後さらなる長期観察が必要であると考える.今回の検討の結果,NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSは術後有意な眼圧下降を認め,視野障害進行抑制効果があり,患者によっては適応があると考えられた.一方,術前に視野障害進行の速い患者では術後も進行する可能性があり,時機を逸することなく濾過手術を選択せざるをえないと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19932)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C19963)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,C20024)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科C26:821-824,C20095)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C20136)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか.:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成(118)績.日眼会誌C116:740-750,C20127)TheCJapanCGlaucomaCSocietyCGuidelinesCforGlaucoma(4thEdition)C.NipponGankaGakkaiZasshiC122:5-53,C20188)AoyamaA,IshidaK,SawadaAetal:TargetintraocularpressureCforCstabilityCofCvisualC.eldClossCprogressionCinCnormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmolC54:117-123,C20109)KosekiN,AraieM,ShiratoSetal:E.ectoftrabeculecto-myonvisual.eldperformanceincentral30degrees.eldinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC104:197-201,C199710)ShigeedaCT,CTomidokoroCA,CAraieCMCetal:Long-termCfollow-upCofCvisualC.eldCprogressionCafterCtrabeculectomyCinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC109:766-770,C200211)HagiwaraCY,CYamamotoCT,CKitazawaY:TheCe.ectCofCmitomycinCtrabeculectomyontheprogressionofvisual.eldCdefectCinCnormal-tensionCglaucoma.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC238:232-236,C200012)BhandariCA,CCabbCDP,CPoinoosawmyCDCetal:E.ectCofCsurgeryConCvisualC.eldCprogressionCinCnormal-tensionCglaucoma.OphthalmologyC104:1131-1137,C199713)NaitoT,FujiwaraM,MikiTetal:E.ectoftrabeculecto-myConCvisualC.eldCprogressionCinCJapaneseCprogressiveCnormal-tensionCglaucomaCwithCintraocularCpressure<15CmmHg.PLoSOneC12:e0184096,C201714)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:487-497,C199815)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup.:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C199816)BindlishCR,CCondonCGP,CSchlosserCJDCetal:E.cacyCandCsafetyCofCmitomycin-CCinprimaryCtrabeculectomy:.ve-yearfollow-up.OphthalmologyC109:1336-1341,C200217)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C201418)DeCMoraesCCG,CLiebmannCJM,CGreen.eldCDSCetal:RiskCfactorsCforCvisualC.eldCprogressionCinCtheClow-pressureCglaucomaCtreatmentCstudy.CAmCJCOphthalmolC154:702-711,C2012C***

隅角と前房深度は6 年を隔てた経年変化で狭く,浅くなる

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):963.967,2022c隅角と前房深度は6年を隔てた経年変化で狭く,浅くなる橋本尚子*1原岳*1本山祐大*1大河原百合子*1成田正弥*1原孜*1堀江大介*2伊野田悟*3千葉厚*1平出奈穂*1田中誠人*1片嶋優衣*1小池由記*1*1原眼科病院*2亀田総合病院眼科*3自治医科大学眼科学講座CChangesinAnteriorChamberAngleandDepthinNormalHealthySubjectsOvera6-YearPeriodTakakoHashimoto1),TakeshiHara1),YutaMotoyama1),YurikoOkawara1),MasayaNarita1),TsutomuHara1),DaisukeHorie2),SatoruInoda3),AtsushiChiba1),NahoHiraide1),MakotoTanaka1),YuiKatashima1)andYukiKoike1)1)HaraEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC目的:隅角,前房深度,中心角膜厚のC6年の経年変化を比較検討する.対象および方法:対象は検査の同意が得られた健常者C40名.男性C10名女性C30名.初回検査時の平均年齢C40.4C±9.5(21.57)歳.右眼を対象とした.全員内眼手術既往なし.2014年C5月とC2020年C8月にCCASIAで隅角(耳側および鼻側CTIA750およびCTIA500),前房深度,中心角膜厚を測定し,比較検討した.結果:2014年の耳側隅角CTIA750はC42.2C±13.2°,TIA500はC44.1C±14.0°,鼻側隅角CTIA750はC38.1C±11.8°,TIA500はC38.8C±12.4°.2020年では耳側隅角CTIA750はC35.7C±12.2°,TIA500はC35.3C±13.9°,鼻側隅角CTIA750はC32.9C±11.5°,TIA500はC34.3C±12.3°.前房深度はC2014年:3.09C±0.3Cmm,2020年:2.99C±0.3mmであった.すべて有意差(p<0.01)が得られた.中心角膜厚はC2014年:533C±26Cμm,2020年:533C±27Cμmで有意差はなかった(p=0.31).結論:6年を隔てた経年変化は,中心角膜厚は変化なく,隅角は狭くなり,前房深度は浅くなっていた.CPurpose:Toinvestigatethe6-yearchangesinanteriorchamberangle(ACA)C,anteriorchamberdepth(ACD)C,andcentralcornealthicknessinnormalhealthysubjects.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved40healthysubjects[10males,30females;meanage:40.4C±9.4years(range:21-57year)]C.InformedconsentwasobtainedfromCallCsubjects,CandConlyCright-eyeCdataCwasCused.CAllCsubjectsChadCnoChistoryCofCintraocularCsurgery.CInCMayC2014andAugust2020,ACA(temporal-andnasal-sideTIA750andTIA500)C,ACD,andcentralcornealthicknesswereCmeasuredCbyCCASIACandCcompared.CResults:InC2014,CtheCtemporal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC42.2±13.2°CandC44.1±14.0°,respectively,andthenasal-sideTIA750andTIA500angleswere38.1±11.8°CandC38.8C±12.4°,Crespectively.CInC2020,CtheCtemporal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC35.7±12.2°CandC35.3±13.9°,Crespectively,CandCtheCnasal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC32.9±11.5°CandC34.3±12.3°,Crespectively.CTheCmeanCACDCwasC3.09±0.3CmmCinC2014CandC2.99±0.3CmmCinC2020.CSigni.cantCdi.erencesCwereCobservedCinCall.ndings(p<0.01)C.Themeancentralcornealthicknesswas533±26μmin2014and533±27μmin2020,withnosigni.cantCdi.erenceobserved(p=0.31)C.CConclusion:AlthoughCnoCchangeCinCcentralCcornealCthicknessCwasCobserved,theACAsnarrowedandtheACDsbecameshalloweroverthe6-yearperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):963.967,C2022〕Keywords:隅角,前房深度,中心角膜厚,経年変化,CASIA.angle,anteriorchamberdepth,centralcornealthickness,changeofaging,CASIA.C〔別刷請求先〕橋本尚子:〒320-0861栃木県宇都宮市西C1-1-11原眼科病院Reprintrequests:TakakoHashimotoM.D.,HaraEyeHospital,1-1-11Nishi,Utsunomiya,Tochigi320-0861,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(109)C963図1aTIA(trabecular.irisangle)TIA:隅角底(anglerecess:AR)から,angleCopeningCdistance(AOD.図C1b参照)の両端に引いた直線の間の角度.はじめに隅角あるいは前房深度は年齢が上がるに従い,狭く,浅くなると報告されている1.6)が,そのほとんどは特定の期間に幅広い年齢の患者を対象として行った「横断調査」によるものである.隅角あるいは前房深度の経年変化を論じるには,横断調査よりも同一人物の経年変化を測定するのがより有用であると考えられる.Panらは,走査型周辺前房深度計SPAC(タカギセイコー)を用いてC2003年とC2008年にC157人の日本人を対象として初回とC5年後で前房深度の狭小化と前房深度の減少を報告している7).今回筆者らは,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)SS-1000CASIA(トーメーコーポレーション)を用いてC2014年とC2020年に,初回とC6年後の隅角,前房深度,中心角膜厚を測定した結果を比較検討し,6年の経過で前房深度は浅くなり,隅角は狭くなる,という結果を得たので報告する.CI対象および方法対象は内眼手術既往のない,検査の同意が得られた健常者40名(内訳は男性C10名,女性C30名).初回検査時の平均年齢はC40.4C±9.5(21.57)歳.解析の対象は右眼とした.2014年C5月とC2020年C8月に前眼部COCT(CASIA)を用いて暗室にて計測した.隅角定量は耳側および鼻側のCtrabecu-larCirisangle(TIA)750μmおよびCTIA500μm(図1a,b)を測定8),また前房深度,中心角膜厚を測定した.2014年2020年ともに同一視能訓練士が撮影および解析を行った.2014年とC2020年の測定結果の比較には対応のあるCt検定を図1bAOD(angleopeningdistance)AOD:強膜岬(scleralspur:SS)からC500μm,750Cμmの線維柱帯上の点(T)と,その点から垂直に虹彩に下した線(I)の距離.AOD500が△の間の距離,AOD750が□の間の距離を示す.行った.各パラメータの変化量と年齢の相関に関しては,単回帰分析を行った.両検定ともに有意水準をCp<0.01とした.なお,当該研究は当院倫理委員会の承認(承認番号202116)を得て施行した.CII結果1.測定結果と2014年対2020年の比較隅角のC6年の経時変化では,耳側CTIA750はC42.2C±13.2°からC35.7C±12.2°(p<0.01),耳側CTIA500はC44.1C±14.0°からC35.3C±13.9°(p<0.01)と有意に狭くなっていた.また,鼻側もCTIA750はC38.1C±11.8°からC32.9C±11.5°(p<0.01),TIA500はC38.8C±12.4°からC34.3C±12.3°(p<0.01),と有意に狭くなっていた.前房深度はC3.09C±0.3mmからC2.99C±0.3mm(p<0.01)と有意に浅くなっていた.中心角膜厚はC533±26μmからC533C±27μm(p=0.31)と有意差はなかった(表1).2014年とC2020年の各パラメータの変化量については,単回帰分析の結果,耳側CTIA750のみ有意な年齢との相関を認め,係数はC.0.32(p<0.01,rC2=0.19)であった.耳側TIA500,鼻側CTIA750,TIA500,前房深度,中心角膜厚の変化量は年齢と有意な相関を認めなかった(表2).2014年からC20年にかけての耳側CTIAの変化量(2014年のCTIA750.2020年のCTIA750)は,年齢に対して負の相関を示した(図2).変化量を年代別にみてみると,20歳代では平均C7.86°,30歳代では平均C11.0°,40歳代ではC5.37°,50表12014年と2020年測定結果の比較2014年2020年p値変化量/年年齢(歳)C40.4±9.5C45.9±9.3<0.0000001C1.0隅角耳側CTIA750(°)C42.2±13.2C35.7±12.2<0.0001C.1.08隅角耳側CTIA500(°)C44.1±14.0C35.3±13.9<0.0001C.1.46隅角鼻側CTIA750(°)C38.1±11.8C32.9±11.5<0.0001C.0.87隅角鼻側CTIA500(°)C38.8±12.4C34.3±12.3<0.0001C.0.75前房深度(mm)C3.09±0.3C2.99±0.3<0.0001C.0.02中心角膜厚(μm)C533±26C533±27C0.31C.中心角膜厚以外は有意差が認められた.表22014~2020年の変化量と年齢の相関変化量回帰係数p値隅角耳側CTIA750(°)C6.5±6.9C.0.32<0.01隅角耳側CTIA500(°)C8.8±7.5C.0.31C0.01隅角鼻側CTIA750(°)C5.2±6.7C.0.15C0.17隅角鼻側CTIA500(°)C4.5±6.8C.0.22C0.05前房深度(mm)C0.10±0.07C.0.00039C0.75中心角膜厚(μm)C0.90±11.4C0.10C0.61耳側CTIA750のみ有意な年齢との相関が認められたが,耳側CTIA500,鼻側CTIA750,TIA500,前房深度,中心角膜厚の変化量は年齢との有意な相関を認めなかった.変化量(°)30.025.020.015.010.05.00.0-5.0-10.015105020~3030~4040~5050~60図2耳側TIA750:2014~2020年の変化量と年齢(2014年時)の相関耳側CTIA750の変化量と年齢との間には負の相関が認められた.棒グラフは年代別のTIA750の変化量を示す.30歳代で変化量がもっとも大きくなり,その後は減少していた.変化量(mm)0.300.250.200.150.100.050.00-0.05-0.100.20.1020~3030~4040~5050~60図3前房深度:2014~2020年の変化量と年齢(2014年時)の相関前房深度の変化量と年齢には有意な相関はみられなかった.棒グラフは年代別の前房深度の変化量を示す.30歳代で変化量がもっとも大きくなり,その後減少していた.歳代ではC0.52°であった.2014年から20年にかけての前房深度の変化量は,年齢と有意な相関を認めなかった(図3).変化量を年代別にみてみると,20歳代では平均C0.07Cmm,30歳代では平均C0.14Cmm,40歳代ではC0.12Cmm,50歳代ではC0.08Cmmであった.CIII考按1.本研究の特徴従来,隅角,前房深度は加齢とともに減少すると報告されていたが,そのほとんどは横断調査によるものであり,日本人においては,若い世代(20.30歳代)と高齢者の世代(70歳.80歳)では屈折,眼軸長の平均値も異なるため,加齢による前房深度,隅角の変化を横断調査で評価するには無理があるといわざるを得ない.この点に着目したCWickremas-ingheらは,比較的世代間差のないモンゴル人を対象とした疫学横断調査を行った結果,加齢とともに,前房深度が減少し,水晶体厚が増加することを報告し9),前房深度の減少には水晶体厚の増加が関与していることを示唆している.本研究は,日本人を対象としており,年齢はC20.57歳と若く,有水晶体眼で非緑内障眼のC6年後の経年変化を観察いる点が貴重なデータであると考える.結果として,従来の報告と同様,隅角は経年変化で狭くなり,前房深度は経年変化で浅くなることが確認された.中心角膜厚は変わらなかった.C2.前房深度の経年変化平均C40.4歳時の前房深度は平均C3.09mmで,6年後は2.99Cmmへと有意に減少していた.1年当たりの変化量は.0.02Cmmであった(表1).酒井らは日本人を対象とした横断研究で非緑内障者C89例(10歳代後半からC80歳代前半)の前房深度は年齢と有意な負の相関を示し,1年当たりの変化量は.0.021Cmmであったと報告しており10),本研究の変化量と一致していた.一方,Panら7)は縦断研究としてC2003年とC2008年に走査型周辺前房深度計(SPAC)を用いてC157人の日本人を対象に前房深度と隅角を測定している.対象症例の年齢はC18.95歳,平均C66.7歳であった.前房深度はグレード分類で評価されており,実際の前房深度の定量とは異なるが,5年でグレードが平均C7.2からC6.5に減少していた.彼らはさらに,眼内レンズ挿入眼(26眼)では前房深度,隅角ともにC5年間で有意な変化を示さなかったことから,前房深度,隅角の変化には水晶体が関与していると記している.本研究の対象者は全員が内眼手術既往のない有水晶体眼である.さらに,本研究ではCCASIA-1000を用いることで,より解像度の高い画像を得ることができ,定性的な狭小化の傾向だけでなく,定量的な分析が可能となった.本研究ではC6年における前房深度の変化量と年齢に単回帰分析では有意な相関はみられなかった(表2).ただし,年代別にみてみると(図2),前房深度はC20歳代,30歳代で減少の変化量が高く,30歳代でピークとなり,40歳代,50歳代では変化量が減少していた.水晶体は誕生直後はほぼ全体が核であるが,水晶体上皮細胞の増殖と核の圧縮,移動により,加齢とともに前房側に厚みを増すことが知られている11).本研究における前房深度の変化量が水晶体厚の前房側への増加を反映すると考えた場合,水晶体厚の増加量はC30歳代で大きく,40歳代,50歳代と増加量は漸減することになる.Wickremasingheら9)の報告のなかで,table2に示されている世代別の前房深度,水晶体厚の平均値をみると,50歳代,60歳代,70歳代の増加量よりもC40歳代のほうが増加量が多くなっている.本研究での前房深度の狭小化は生理的な水晶体厚の変化を反映している可能性があると思われた.C3.隅角の経年変化平均C40.4歳時の耳側隅角はCTIA750でC42.2°,TIA500で44.1°あったが,6年後には各々35.7°,35.3°と有意に狭小化していた.1年当たりの変化量はC.1.0.C.1.5°であった(表1).PanらによるCSPACの報告7)ではまた,前房隅角は34.2°からC28.1°に減少し,この変化量を単純に経過年のC5で除すると,変化量はC.1.22°/年となり,本研究の結果と近似した値で矛盾しない.本研究において耳側隅角は,TIA500のほうがC750よりも大きな変化量を示した.Panらは前房深度の減少は中心に比べて周辺で強い,と報告しており,瞳孔よりのCTIA750よりもより周辺のCTIA500で変化量が多いことと矛盾しない.6年間の変化量と年齢の相関を単回帰分析したところ,耳側CTIA750の変化量と年齢には有意な負の相関(C.0.32)が認められた.50歳以上の中国人を対象としたCWangらの縦断調査12)によれば,年齢とともに閉塞隅角の発症率は増加し,水晶体がより厚くなり,隅角がより狭くなり,近視眼の偽落屑により頻度が高くなっていた.本研究では,対象者に偽落屑は含まれていなかった.年代別にみた変化量は前房深度と同様でC30歳代に減少量がピークを示していた.高齢者の原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障の隅角の狭小化には白内障による水晶体厚の増加ならびにCZinn小帯脆弱が要因と考えられている.本研究の対象者は非緑内障眼の有水晶体眼で,白内障による矯正視力の低下がみられていなかった.よって,50歳代における前房深度,隅角の減少が白内障によるものかどうかの評価はしがたい.しかしながら,20.60歳の日本人において,6年の経過で前房深度は浅くなり,隅角が狭小化することは確認することができた.さらに確実なエビデンスになるためには,対象者数,経過観察のポイントの増加が望ましいが,本研究が,今後の原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障,白内障における前房深度,隅角定量における経過観察の研究の一助となれば幸いである.【利益相反】:利益相反公表基準に該当なし文献1)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreportC2:prevalenceCofCprimaryCangleCclosureCandCsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.OphthalmologyC112:1661-1669,C20052)KashiwagiCK,CTokunagaCT,CIwaseCACetal:UsefulnessCofCperipheralCanteriorCchamberCdepthCassessmentCinCglauco-mascreening.EyeC19:990-994,C20053)加茂純子,佐宗真由美,鶴田真ほか:走査型周辺前房深度計(SPAC)による周辺前房深度の男女別加齢変化.日眼会誌C111:518-525,C20074)ShajariCM,CHerrmannCK,CBuhrenCJCetal:AnteriorCcham-berCangle,Cvolume,CandCdepthCinCaCnormativeCcohort-ACretrospectiveCcross-sectionalCstudy.CCurrCEyeCResC44:C632-637,C20195)HashemiCH,CKhabazkhoobCM,CMohazzab-TorabiCSCetal:CAnteriorCchamberCangleCandCanteriorCchamberCvolumeCinCaC40-toC64-year-oldCpopulation.CEyeCContactCLensC42:C244-249,C20166)LavanyaCR,CWongCTY,CFriedmanCDSCetal:DeterminaC-tionsCofCangleCclosureCinColderCSingaporeans.CArchCOph-thalmolC126:686-691,C20087)PanCZ,CFuruyaCT,CKashiwagiK:LongitudinalCchangesCinCanteriorCcon.gurationCinCeyesCwithCopenCangleCglaucomaCandassociatedfactors.JGlaucomaC21:296-301,C20128)LiuS,YuM,YeCetal:AnteriorchamberangleimagingwithCswept-sourceCopticalCcoherencetomography:anCinvestigationConCvariabilityCofCangleCmeasurement.CInvestCOphthalmolVisSciC52:8598-8603,C20119)WickremasingheS,FosterPJ,UranchimegDetal:OcularbiometryCandCrefractionCinCmongolianCadults.CInvestCOph-thalmolVisSciC45:776-783,C200410)酒井寛,佐藤健雄,鯉淵博ほか:前眼部撮影・解析装置(EAS-1000)を用いた閉塞隅角緑内障眼の前眼部計測.日眼会誌C100:546-550,C199611)AnthonyJB,RameshCT,BrendaJT:Wol.’sAnatomyoftheCEyeCandCOrbit,C8Cedition,Cp432-435,CChapmanC&CHallCmedical,Spain,199712)WangL,HuangW,HuangSetal:Ten-yearincidenceofprimaryangleclosureinelderlyChinese:theLiwanEyeStudy.BrJOphthalmolC103:355-360,C2019***

スクリーニング用眼圧計としてOcular Response Analyzer G3 を用いた際の測定値の信頼度の検討

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):959.962,2022cスクリーニング用眼圧計としてOcularResponseAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討杉浦奈津美丸山勝彦瀧利枝金谷楓八潮まるやま眼科CEvaluationoftheMeasurementReliabilitywhenUsingtheOcularResponseAnalyzerforIntraocularPressureScreeningExaminationsNatsumiSugiura,KatsuhikoMaruyama,ToshieTakiandKaedeKanayaCYashioMaruyamaEyeClinicC対象および方法:スクリーニングとしてライカート社のCOcularResponseAnalyzer(以下,ORA)G3を用いて眼圧測定を行った症例C747例C1,488眼,平均年齢C53.5C±20.4歳(レンジC6.94歳)を対象に,信頼度を表す係数CWave-formCScoreが推奨値であるC6に満たない症例の割合を算出した.結果:測定値の平均±標準偏差(レンジ)は,Goldmann圧平眼圧計による眼圧値に相当する眼圧値CIOPgがC14.9C±4.8CmmHg(1.0.63.2CmmHg),角膜ヒステリシスで補正した眼圧値CIOPccはC16.2C±4.7mmHg(3.2.73.6mmHg),角膜ヒステリシスはC9.7C±1.5CmmHg(0.0.20.6mmHg),WaveformScoreはC7.3C±1.5(0.1.9.7)であり,WaveformScoreがC6未満の割合はC18%であった.結論:スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,信頼性のある結果が得られる割合は約C8割である.CPurpose:ToCevaluateCintraocularpressure(IOP)measurementCreliabilityCwhenCusingCtheCOcularCResponseAnalyzer(ORA)(ReichertOphthalmicInstruments)forIOPscreeningexaminations.SubjectsandMethods:Weretrospectivelyanalyzed1,488eyesof747subjects(meanage:53.5C±20.4years,range:6-94years)whoseIOPwasCmeasuredCusingCtheCORACforCtheCIOPCscreeningCexamination.CTheCrateCofCmeasurementsCwithCaCWaveformCScoreoflessthan6,whichimpliesanunreliablemeasurement,wascalculated.Results:Themean±standarddevi-ationCofCGoldman-estimatedCIOP,Ccorneal-compensatedCIOP,CcornealChysteresis,CandCWaveformCScoreCwasC14.9±4.8mmHg(range:1.0C-63.2mmHg)C,C16.2±4.7mmHg(range:3.2C-73.6mmHg)C,C9.7±1.5CmmHg(range:0.0C-20.6CmmHg)C,CandC7.3±1.5(range:0.1-9.7)C,Crespectively.CTheCpercentageCrateCofCeyesCwithCaCWaveformCScoreCofCless-than6was18%.Conclusion:Our.ndingsrevealedthattheORAproducedreliableIOPmeasurementsin80%CofthecaseswhounderwentanIOPscreeningexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):959.962,C2022〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,信頼度,WaveformScore,眼圧,角膜ヒステリシス.OcularResponseAnalyzer,reliability,WaveformScore,intraocularpressure,cornealhysteresis.Cはじめにライカート社のCOcularResponseAnalyzer(ORA)G3は,緑内障の発症1,2),あるいは進行3.6)に影響するとされるパラメータ,角膜ヒステリシスが測定できる非接触型眼圧計であり,近年,緑内障診療に活用されることが多くなってきている.眼圧測定は一般診療でもルーチンに行われる検査であるが,スクリーニング用眼圧計としてCORAG3を用いた際の測定値の信頼度についてはこれまで報告がない.本研究の目的は,スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた際の測定値の信頼度を検討することである.CI対象および方法対象は,2021年C3月C1日.5月C15日に八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3を用いて眼圧測定を行ったC747例C1,488眼である.男性C287例,女性C460例,年齢はC53.5C±20.4歳(レンジC6.94歳),右眼はC745眼,左眼は〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15,Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC743眼であった.これらを対象に,患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.測定結果として,CORAG3ではCGoldmann圧平眼圧計による眼圧値に相当するCIOPg,角膜ヒステリシスで補正した眼圧値CIOPcc,角膜ヒステリシス,信頼度を示す係数であるCWaveformCScoreが出力される.今回はCWaveformScoreが推奨値である「6」に満たない症例の割合を算出した.なお,同一症例に複数回測定を行っている場合には初回の結果を解析に用いた.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).C70060050040030020010000.0~5.0~10.0~15.0~4.99.914.919.9II結果測定値の平均±標準偏差(レンジ)は,IOPgがC14.9±4.8mmHg(1.0.63.2CmmHg),IOPccはC16.2±4.7CmmHg(3.2.73.6CmmHg),角膜ヒステリシスはC9.7±1.5CmmHg(0.0.20.6CmmHg),WaveformScoreはC7.3±1.5(0.1.9.7)となり,それぞれ図1~4のように分布していた.WaveformCScoreがC3未満だったのはC2%,3台が3%,4台が5%,5台がC8%,6台が17%,7台が30%,8台が29%,9台が6%であり,6未満の割合はC18%であった.67345421977441303520.0~25.0~30.0~35.0~40.0~24.929.934.939.9症例数症例数測定値(mmHg)図1IOPgの分布平均±標準偏差(レンジ):14.9±4.8CmmHg(1.0.63.2mmHg)C9008007006005004003002001000888293246202362190.0~5.0~10.0~15.0~20.0~25.0~30.0~35.0~40.0~4.99.914.919.924.929.934.939.9測定値(mmHg)図2IOPccの分布平均±標準偏差(レンジ):16.2±4.7CmmHg(3.2.73.6mmHg)症例数90080070060050040030020010008453482144740226110.0~2.0~4.0~6.0~8.0~10.0~12.0~14.0~16.0~18.0~1.93.95.97.99.911.913.915.917.9角膜ヒステリシス(mmHg)図3角膜ヒステリシスの分布平均±標準偏差(レンジ):9.7±1.5CmmHg(0.0.20.6mmHg)C50044342826012276874359154003002001000症例数0.0~0.91.0~1.92.0~2.93.0~3.94.0~4.95.0~5.96.0~6.97.0~7.98.0~8.99.0~10.0WaveformScore図4WaveformScoreの分布平均±標準偏差(レンジ):7.3±1.5(0.1.9.7)CIII考按い.Ayalaら7)は平均年齢C56.5±16.0歳の健常者C266例を対象として検討を行っており,WaveformScoreの平均はC7.39ORAで得られる測定値の信頼度に関する報告は多くはなC±1.32(2.8.9.7)だったと報告している.また,Lamら8)は健常者C64例(平均年齢C26.3C±6.8歳)を対象とした検討で,貢献し,重症化の回避などによる医療経済的効果につながる各症例に対し両眼C4回測定を行った計C512回分の測定値を可能性がある.今後,さらに多数例を対象とした多施設での解析した結果,WCaveformScoreの平均はC5.49(1C.58.9C.06)検証が必要である.だったと報告している.しかし,これらの報告で使用されているCORAはCversion2.04であり,現在普及しているCG3で利益相反:利益相反公表基準に該当なしの信頼度はこれまで明らかではなかった.そのため今回,G3で検討を行ったが,CWaveformScoreの平均値やレンジは既報と同等かそれ以上の結果が得られた.また,本報告は文献年齢や眼疾患の有無などの背景もさまざまな症例に対し,ス1)CongdonCNG,CBromanCAT,CBandeen-RocheCKCetal:CCen-クリーニングとして行う眼圧検査にCORAG3を用いた検討tralCcornealCthicknessCandCcornealChysteresisCassociatedCであり,実臨床に沿った結果といえるが,およそC8割で信頼withCglaucomaCdamage.CAmCJCOphthalmolC141:C868-875,C性のある測定が可能であることがわかった.C2006CORAG3の測定精度は通常の非接触型眼圧計と同様に,2)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CCornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalC眼表面のコンディションや固視,瞬目,睫毛などの影響を受andCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:C116-119,Cけると考えられる.本報告の対象にも信頼度が低い症例がみ2010Cられたが,その原因については今回検討していない.今後,3)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:CLowerCcornealChys-どの因子がどれくらい信頼度に影響するか研究を進めたいとteresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:C209-213,C2012C考えている.4)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CCornealC本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈にhysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:CaCは各種バイアスの影響を加味しなければならない.たとえprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:C1533-ば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例など1540,C2013C5)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CCornealChysteresisに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値andprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.はそのときの検者の判断に任せた結果である.また,今回はCAmJOphthalmolC166:C29-36,C2016CORAG3で測定を行った全症例を対象としたため,眼表面6)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:CAprospectiveに異常がある症例など,測定精度が低いと想定される症例もlongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJ対象に含んでいる.さらに,C4名の検者が測定を担当したが,OphthalmolC187:C148-15,C2018C検者ごとの結果は明らかではない.このようにいくつかの問7)AyalaM,ChenE:Measuringcornealhysteresis:thresh-題点はあるが,緑内障診療に有用な角膜ヒステリシスが測定oldCestimationCofCtheCwaveformCscoreCfromCtheCOcularC可能なCORAは,日常診療のスクリーニング用としても十分ResponseCAnalyzer.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:C1803-1806,C2012C活用できる眼圧計と考えられた.CORAG3のスクリーニン8)LamCAK,CChenCD,CTseJ:CTheCusefulnessCofCwaveformCグ用眼圧計としての信頼性が確認できれば,将来的には緑内scoreCfromCtheCocularCresponseCanalyzer.COptomCVisCSciC障の早期発見や,進行の危険因子を有する患者の早期発見に87:C195-199,C2010***