●連載269監修=福地健郎中野匡269.眼瞼圧と眼圧浪口孝治愛媛大学大学院医学系研究科視機能再生学講座眼瞼圧とは眼瞼が眼球を圧迫する圧力である.眼瞼圧は眼圧の変動に影響を与える可能性が示唆されており,眼圧と眼瞼圧の関連を明らかにすることで,緑内障の病態解明および治療に大きく貢献することができる可能性がある.●はじめに緑内障はわが国の中途失明の原因第C1位の疾患であり,眼圧・眼血流・視神経の脆弱性などが報告されており,眼圧がその進行のおもな原因とされている.眼圧には日内変動や体位に伴う変動があるということは広く知られており,就寝時臥位で高値を示し,臥位から座位,立位になると数分で下降がみられるなどの眼圧変動に関する報告がなされている1).実際,日中の外来診察時には眼圧は良好だが,夜間や早朝などに眼圧上昇があり,視野障害が進行しているというような患者もまれならず経験する.近年,コンタクトレンズ(contactlens:CL)型眼圧計(Trigger.sh,SENSIMED社)が開発され,終日装用して眼圧変動を記録することが可能となった.筆者らもCCL型眼圧計の測定結果および安全性について報告してきたが,図1に示すように,瞬目に伴いスパイク様の眼圧上昇を示すこと,睡眠中に眼圧が上昇していることから,閉瞼により眼圧が上昇する可能性が示唆されている.C●眼瞼圧とは眼瞼は,眼表面の保護,視覚の確保,さらには涙液の安定性に働いているが,眼球を圧迫することにより眼圧を変化させることが推測される.眼瞼が眼球を圧迫する圧力が眼瞼圧であり,その概念はCSnellenによりC1869図1CL型眼圧計(Trigger.sh)による眼圧日内変動の測定年に報告されている.過去にもさまざまな方法で眼瞼圧の測定が行われてきたが,操作が煩雑,機器のサイズが大きいなどの理由で実用化には至らず,眼瞼圧測定を臨床応用した研究はこれまでになかった.筆者らは静電気容量センシングを応用した高感度の圧力トランスデューサーを使用した,小型で簡便な再現性の高い眼瞼圧測定器を開発し,眼瞼圧上昇による眼瞼と眼表面の摩擦亢進が瞬目関連疾患に関与していることを報告した2,3)(図2).また,下眼瞼圧と瞬目時の眼球後退量が相関することを示して,眼瞼圧が眼球に強く影響していることを示してきた4).C●眼瞼けいれんに対するA型ボツリヌス毒素治療による眼瞼圧と眼圧への影響眼瞼けいれんは,間欠性あるいは持続性の過度な収縮により,眼瞼周囲の筋に不随意的な閉瞼を生ずる疾患で,自覚症状がドライアイと酷似しているといわれている.A型ボツリヌス毒素投与を行うことで,眼輪筋および眼周囲の筋力を低下させ開瞼を容易にさせる.緑内障と眼瞼けいれんの関連を調べたCLeeらの報告では,眼瞼けいれんの反復性およびけいれん性の眼瞼収縮が,眼圧の上昇または変動につながる可能性を示唆している5).筆者らは異常な瞬目が起こる眼瞼けいれんにおいて眼図2眼瞼圧測定器(67)あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022C15070910-1810/22/\100/頁/JCOPY5045403530眼瞼圧(mmHg)眼瞼圧(mmHg)25201510550020*18この結果から,眼瞼圧は眼圧に影響を与える可能性が上眼瞼下眼瞼■正常群■眼瞼けいれん群図3正常群と眼瞼けいれん群の眼瞼圧の比較上眼瞼下眼瞼■治療前■治療後図4BTX.A治療前後の眼瞼圧1614121086420図5BTX.A治療前後の眼圧■治療前■治療後眼圧(mmHg)示唆された.ただし,本研究にはいくつかの制限がある.第一に,眼瞼圧測定は自然な瞬目ではなく,自発的な閉瞼で測定が行われている.そのため,自然な瞬目ではそこまでの眼瞼圧増加は起こらない可能性がある.第二に,本研究では,眼圧は開瞼した状態で測定し,眼瞼圧は閉瞼した状態で測定した.したがって,眼圧と眼瞼圧との相関関係は完全には実証されていない可能性がある.対策としては,閉瞼した状態で眼圧を測定するCCL瞼圧と眼圧が変化しているのではないかと考え,眼瞼けいれんに対するCA型ボツリヌス毒素治療(以下,BTX-A)による眼瞼圧と眼圧への影響を研究し報告した6).対象はC2013年C3月~2015年C8月に愛媛大学医学部附属病院眼科において眼瞼けいれんに対してCBTX-Aを施行し,その前後で眼瞼圧と眼圧の測定が可能であった患者である.また,眼科疾患を有さない正常ボランティアの眼瞼圧を測定し比較対象とした.内訳は眼瞼けいれん群C33例C66眼(男性C12例,女性C21例,平均年齢C61.1±14.7歳),正常群20例40眼(男性10例,女性10例,平均年齢C59.7C±11.3歳)であった.正常群と眼瞼けいれん群の上眼瞼圧と下眼瞼圧を眼瞼圧測定器で計測し,眼瞼けいれん群ではCBTX-A治療のC2~4週間後にも眼瞼圧測定と眼圧測定を行った.正常群の平均眼瞼圧は上眼瞼でC31.0C±6.8CmmHg,下眼瞼C29.9C±6.5CmmHgであった.BTX-A治療前の眼瞼圧は,眼瞼けいれん群で上眼瞼C35.3C±7.0CmmHg,下眼瞼C37.8C±6.6CmmHgであった.眼瞼けいれん群の眼瞼圧は,上眼瞼および下眼瞼で正常群の眼瞼圧よりも有意に高かった(p<0.001)(図3).BTX-A治療後の眼瞼圧は,上眼瞼C29.9C±7.5mmHg,下眼瞼でC32.8C±7.0CmmHgであった.BTX-A治療後に上眼瞼圧および下眼瞼圧は有意に低下した(p<0.001)(図4).眼瞼けいれん群の眼圧は治療前C15.1C±2.9CmmHgからCBTX-A治療後C14.5C±2.8CmmHg(p=0.0197)と有意に眼圧が下降した(図5).C1508あたらしい眼科Vol.39,No.11,2022型眼圧計などを用いて再検証を行う必要がある.C●まとめ眼瞼圧は眼圧の変動に影響を与える可能性があり,緑内障患者の眼瞼圧を測定し,緑内障と眼瞼圧の関連を明らかにすることで,緑内障の病態解明および治療に大きく貢献することができる可能性がある.文献1)HaraCT,CHaraCT,CTsuruT:IncreaseCofCpeakCintraocularCpressureCduringCsleepCinCreproducedCdiurnalCchangesCbyCposture.ArchOphthalmolC124:165-168,C20062)YoshiokaE,YamaguchiM,ShiraishiAetal:In.uenceofeyelidpressureon.uoresceinstainingofocularsurfaceindryeyes.AmJOphthalmolC160:685-692,Ce1,C20153)SakaiE,ShiraishiA,YamaguchiMetal:Blepharo-tensi-ometer:newCeyelidCpressureCmeasurementCsystemCusingCtactileCpressureCsensor.CEyeCContactCLensC38:326-330,C20124)YamamotoY,ShiraishiA,SakaneYetal:InvolvementofeyelidCpressureCinClid-wiperCepitheliopathy.CCurrentCEyeCResearchC41:171-178,C20165)LeeMS,HarrisonAR,GrossmanDSetal:Riskofglauco-maCamongCpatientsCwithCbenignCessentialCblepharospasm.COphthalmicPlastReconstrSurgC26:434-437,C20106)NamiguchiK,MizoueS,OhtaKetal:E.ectofbotulinumtoxinAtreatmentoneyelidpressureineyeswithblepha-rospasm.CurrEyeResC43:896-901,C2018(68)