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麻痺性斜視

2022年7月31日 日曜日

麻痺性斜視HowtoFollow-UpPatientswithParalysticStrabismus植木智志*I麻痺性斜視とは麻痺性斜視は動眼神経麻痺・滑車神経麻痺・外転神経麻痺などが原因となる眼球運動制限に伴う斜視である.動眼神経・滑車神経・外転神経は眼運動神経と総称される.麻痺性斜視と鑑別すべき斜視としては重症筋無力症や甲状腺眼症などによる特殊型斜視がある.CII麻痺性斜視の診断動眼神経は外眼筋である内直筋・下直筋・下斜筋・上直筋に加えて上眼瞼挙筋を支配し,瞳孔括約筋・毛様体筋に至る神経線維が動眼神経内を通る.滑車神経は上斜筋を支配し,外転神経は外直筋を支配している.眼運動神経麻痺による麻痺性斜視の診断は,視標を用いたむき運動・ひき運動(用語解説参照)における眼球運動制限の評価により麻痺筋を推定し(図1),眼運動神経の支配筋と照らし合わせることで行う.すなわち,動眼神経麻痺では内転制限・外下転制限・内上転制限(内旋)・外上転制限を呈しうる.加えて,動眼神経麻痺では眼瞼下垂・瞳孔散大を呈しうる.これらの所見をすべて呈する状態は動眼神経完全麻痺である.一方,明らかには定義されていないが,動眼神経不全麻痺とよばれる状態も存在する.内転制限・外下転制限・内上転制限(内旋)・外上転制限および眼瞼下垂を呈しているが,瞳孔散大は呈していない動眼神経不全麻痺については後述する.眼瞼下垂と内転制限のみの患者では重症筋無力症が重要な鑑別疾患となる.また,内転制限のみの患者では,核間麻痺(内側縦束症候群)(用語解説参照)を第一に考える.滑車神経麻痺では内下転制限(外旋)を呈し,外旋を代償するための健側への頭部傾斜を伴う.滑車神経麻痺の鑑別疾患は,まれな疾患であるがCoculartiltreaction(用語解説参照)などである.外転神経麻痺では外転制限を呈する.外転神経麻痺の鑑別疾患は,甲状腺眼症,重症筋無力症,Duane症候群,近見反応けいれん,眼窩内壁骨折などである.視標を用いた眼球運動制限の評価に加えて,Hess赤緑試験を行うことで麻痺筋の推定はより容易になる.Hess赤緑試験では眼球運動制限の程度も定量することができる.CIII麻痺性斜視の原因麻痺性斜視の原因には患者の生命にかかわる疾患があり,麻痺性斜視の原因の探索は非常に重要である.C1.動眼神経麻痺動眼神経麻痺の原因には,末梢循環不全(詳細は後述する),外傷,脳動脈瘤,脳血管障害,脳腫瘍などがあるが,患者の生命にかかわる疾患としてもっとも重要なものが脳動脈瘤である.動眼神経麻痺の原因疾患となる脳動脈瘤の好発部位は内頸動脈後交通動脈分岐部で,この部位の脳動脈瘤は動眼神経内の瞳孔に至る線維を圧迫しやすいことが知られている(図2).すなわち,瞳孔散*SatoshiUeki:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8510新潟市中央区旭町通一番町C757新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(65)C919上直筋下斜筋下斜筋上直筋外直筋内直筋内直筋外直筋下直筋上斜筋上斜筋下直筋右眼左眼図1外眼筋のおもな作用方向眼球運動制限の方向と外眼筋の作用方向を照らし合わせ,麻痺筋を推定する.視交叉腹側内頸動脈動眼神経後交通動脈中脳内頸動脈後交通動脈分岐部滑車神経図2動眼神経と内頸動脈後交通動脈分岐部の解剖学的位置関係背側視交叉および脳幹を斜め下方から見上げると,内頸動脈後交通動脈分岐部が動眼神経の内上方に近接していることが理解でき図3滑車神経の解剖学的位置関係る(動眼神経内の瞳孔に至る線維に近接している).中脳の軸位断面を模式的に示している.滑車神経は中脳背側から起始し交叉して対側の上斜筋に至る.ab図4小児の外転神経麻痺の症例a:正面視で左眼の内斜視がみられ,左方視で左眼の外転制限がみられる.Cb:矢状断頭部CCT画像.橋神経膠腫がみられる.(文献C2より引用)図5麻痺性斜視のフォローアップの要点正面視左右視図6動眼神経麻痺における異常連合運動右動眼神経麻痺で異常連合がみられる患者を模式的に示す.正面視で右上眼瞼の眼瞼下垂と右眼の外斜視がみられる.左方視で右眼内転努力に伴い,右上眼瞼が挙上している.C■用語解説■むき運動:両眼を開放した状態での両眼の眼球運動.ひき運動:片眼を遮蔽した状態での単眼の眼球運動.外転神経麻痺を疑ったら,両眼のむき運動のみならず単眼のひき運動も確認すべきである.核間麻痺(内側縦束症候群):MLF(medialClongitudinalfasciculusの略で,日本語では内側縦束)の障害で起こC-る.MLFの障害側と同側の眼の内転制限がみられる.COculartiltreaction:脳幹部血管障害などが原因となり,頭部傾斜・共同性回旋性眼振・斜偏位を呈する.COculartiltreactionでは共同性回旋性眼振により,上転眼は内旋・下転眼は外旋する.片側の滑車神経麻痺では上転眼のみ外旋する.

外傷性斜視

2022年7月31日 日曜日

外傷性斜視TraumaticStrabismus西村香澄*はじめに交通事故やスポーツ,さらにはヘビに噛まれた,クマに襲われた,木の枝が刺さったなどさまざまな外傷により眼球や外眼筋,眼窩,脳,脳神経が障害されると多様かつ複合的な斜視を生じる.その症状は多岐にわたり,非常に劇的な症状を示すものから軽微なものまで大きく異なり,時には複雑な治療計画が必要になる.障害の部位と重症度の適切な診断,その障害が機械的な運動制限なのか神経麻痺なのかを区別することは,治療のタイミングや最適な外科的治療を選択するうえで非常に重要である.CI外傷性斜視の症状別検査の組み合わせ1.画像診断筋肉の損傷や,眼窩壁骨折,眼窩内異物,脳の損傷が疑われる場合にはコンピューター断層撮影(computedtomography:CT)や磁気共鳴画像法(magneticCreso-nanceimaging:MRI)の撮影を行う.眼窩壁骨折ではCTの冠状断・矢状断・水平断の眼窩C3方向で撮影を行う.また,断裂した筋肉の状態や収縮力を確認するには,同一スライスで眼位を少しずつ動かして撮影した画像をパラパラ漫画の要領で再生するCcinemodeMRIが有用である.C2.眼科一般検査細隙灯顕微鏡検査(前房出血,外傷性白内障,角膜穿孔など),眼底検査(網膜振盪症,網膜.離),視力検査,視野検査(半盲,中心暗点)を行う.外傷前から存在している眼疾患や弱視と斜視の有無についても確認しておく.C3.眼位・眼球運動検査眼位検査は,交代プリズム遮閉試験(alternativeCprismcovertest:APCT)を行う.外傷で生じた前房出血や視野障害の影響で指標を固視しにくいことがあり,通常よりもゆっくりと遮閉を行うことを心がける.全外眼筋麻痺のように完全に眼球が動かない場合にはKrimsky法で定量する.Hess赤緑試験は斜視の程度を視覚的に時系列で確認でき,さらに手術の定量の際に参考になる第一偏位の確認にも役立つ.とくに外傷性両眼滑車神経麻痺では,第一眼位で大きな上下ずれがないにもかかわらず大きな外方回旋が存在し,下方視でさらに増加する特徴があるため,診断にはCdoubleMadoxrodtestや大型弱視鏡の検査が必須である.眼球運動はひき運動とむき運動検査を行い,眼位やCHess赤緑試験の結果と矛盾しないか確認する.C4.牽引試験a.Forcedductiontest眼球運動制限があるとき,その原因が機械的な運動制限なのか神経麻痺なのかを調べる検査である.局所麻酔下では,運動制限がある方向を見てもらい,そこから制*KasumiNishimura:上野眼科,聖隷浜松病院眼科・眼形成眼窩外科〔別刷請求先〕西村香澄:〒433-8108浜松市北区根洗町C579-5上野眼科C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(59)C913限と反対側の角膜輪部を鑷子でつかんで制限側に眼球を回転させる.ただし,眼窩底骨折で筋肉が骨折部位に嵌頓している場合は,全身麻酔下の術中以外で牽引試験を行うことは推奨しない.局所麻酔下で牽引試験を行うと激痛を伴うだけでなく,鋭利な骨折縁で筋肉を損傷する可能性があるためである.Cb.Activeforcegenerationtest外眼筋の収縮力を調べる検査である.運動制限が神経麻痺のためか拮抗筋の拘縮のためか,さらにその麻痺が完全麻痺か不全麻痺かの鑑別を行う.Activeforcegen-erationtestは局所麻酔下で行う場合,最初に運動制限と反対方向を見てもらい,反対側の輪部を鑷子で把持して運動制限側を見るように指示する.そのとき,鑷子の位置は固定した状態で引っ張られるような手ごたえがあるかどうかで筋肉の収縮能力を判断する.CII外傷性斜視の分類外傷性斜視の既報を調べると,その障害部位や発症機序は多岐にわたり,カスタマイズされた治療が行われている.以下に外傷性斜視とその治療を示す.C1.神経障害a.末梢神経障害末梢神経障害の原因が虚血の場合は,動眼神経麻痺や外転神経麻痺が多いが,外傷性の麻痺は滑車神経麻痺が多い.河野らの報告1)では交通外傷による麻痺性斜視89例中,滑車神経麻痺C48例,動眼神経麻痺C13例,外転神経麻痺C7例,複合麻痺C7例で滑車神経麻痺が半数以上を占めている.外傷性麻痺は虚血性麻痺より自然治癒する確率が低いが,自然治癒する可能性のある半年程度経過をみてから斜視が残れば手術を行う.・滑車神経麻痺:後天性の両眼上斜筋麻痺は,下方視時の大きな外方回旋が日常生活するうえで非常に問題になる.しかし,通常の眼位検査では斜視が検出されにくく,しばしば見逃されるため注意が必要である.滑車神経麻痺の術式は,上斜筋強化術(原田-伊藤法など)や下直筋鼻側移動術が第一選択となり,両者を組み合わせることもある.さらにCFaden手術を追加した下直筋鼻側移動2),上下直筋の前後転術,下斜筋減弱術などの報告もみられる.・外転神経麻痺:外転神経麻痺の内斜視は,麻痺の程度により前後転術や上下直筋移動術±内直筋後転術が行われる.・動眼神経麻痺:動眼神経の完全神経麻痺で上直筋,下直筋,内直筋が麻痺していると治療が非常に困難である.最大量の前後転術や上下直筋移動術をしても効果が弱く眼位の矯正が得られない.その場合は上斜筋移動術や筋膜固定術などの特殊な手術が必要になる.・特殊な末梢神経障害:園芸用支柱が左眼の耳側結膜から眼窩深部に到達し,瞳孔散大,眼瞼下垂,左外上斜視を生じた上眼窩裂症候群の報告がある3).このような患者に対しては,眼窩内異物や感染の有無,斜視の原因となりうるあらゆる可能性を検討しなくてはならない.さらに治療のためには関連する解剖学の専門知識と,それに連なるさまざまな外科的技術の経験が必要となる.Cb.神経筋接合部疾患わが国ではマムシ咬症が散見される.原因はマムシ毒中のCbトキシンによる神経筋接合部障害で,眼瞼下垂と斜視の報告がある.眼位が確認できた症例では,内転制限がある場合とない場合があるが全例で外斜視であった.一般的には眼瞼下垂と斜視はマムシ抗毒素投与で改善する.Cc.中枢神経障害中枢神経障害では斜偏位(skewdeviation)や内側縦束症候群(medialClongitudinalCfasciculussyndrome:MLF症候群)が多い.外傷性脳底動脈解離後の脳幹梗塞から外上斜視になった症例4),障害部位は不明であるが頭部打撲後に周期性内斜視になった症例5)や,眼球打撲後に内斜視,輻湊けいれん,近視化,眼振を生じた症例5)もみられる.いずれも症状に合わせてプリズム眼鏡処方や手術治療を行う.C2.筋障害外傷性の外眼筋損傷は下直筋が筋腱接合部で断裂する頻度が高い.これは直筋のほうが斜筋より角膜輪部に近く,受傷の瞬間に瞬目するとCBell現象で眼球が上転するためである.下直筋断裂の場合は,Lockkwood靱帯が下直筋と下斜筋の共通の筋鞘として下直筋をサポート914あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(60)し中枢端が眼窩深部に落ち込むのを防ぐため,断裂した筋肉の断端を同定しやすい.・下直筋断裂:上記の理由から断裂した下直筋は縫合可能なことが多いため,治療は断裂した筋肉の縫合を試みる.断端が見つからない場合は,水平筋移動術や下斜筋短縮前方移動術,前後転術を行う.・内直筋断裂:受傷時に眼球が外転することもあり,内直筋は下直筋の次に障害されやすい.耳鼻咽喉科の副鼻腔手術時に誤って眼窩内に侵入し,内直筋を切断することもある(医原性眼窩損傷).Plagerらは,内直筋は斜筋と接しておらずClostmuscleとなった場合に眼窩深部に落ち込みやすく,他の外直筋と比較して整復困難と報告7)している.通常の斜視手術のアプローチでは整復が困難でも,眼窩内壁骨折の手術ができる施設では,眼窩深部に落ち込んだ内直筋の整復は可能であり,治療の選択肢の一つとなる.・上斜筋断裂:上斜筋の障害は,医原性眼窩損傷やハンガーフックで引っかけたり,犬に.まれたりして生じる.治療は上斜筋麻痺に準じて行う.滑車部近くの上斜筋が障害されると上斜筋麻痺とCBrownsyndromeの合併になることがあり,caninetoothsyndromeをきたす.その場合の治療は上斜筋腱延長術や滑車形成手術を行う.C3.眼窩壁骨折眼窩骨折の好発部位は下壁がもっとも多く,内下壁,内壁と続く.下壁骨折では下直筋が骨折部位に牽引されて上限制限を生じるため,眼窩骨折整復術が必要になる.内壁骨折では骨折部位が篩骨洞で裏打ちされてクッションの役割を果たすことから,骨折の割には運動制限が出にくい.しかし,骨折範囲が広範囲に及ぶ場合には,炎症の軽減とともに眼球陥凹が生じるため,手術適応となる.若年者の閉鎖型骨折で嘔気・嘔吐,眼痛などの迷走神経反射がある場合は,緊急で手術しないと症状が改善しないだけでなく斜視や眼球運動制限が残ることになる.4.続発性・感覚性斜視眼球打撲で生じた前房出血や外傷性白内障術後の無水晶体眼が原因で,続発性に斜視になることがある.外傷後に生じた遮閉がきっかけで遮閉弱視や融像不全が起こり,潜伏していた斜視が顕性化するためである.治療は屈折矯正や視能訓練を行い,斜視が残れば斜視手術を行う.・薬剤性眼障害酸,アルカリ,界面活性剤,有機溶媒などで角膜や結膜が障害されると偽翼状片や瞼球癒着が生じる.癒着のために運動制限を生じた斜視では羊膜移植などを併用した斜視手術が必要になる.・視野障害(同名半盲と両耳側半盲,図1)視野障害を合併する斜視では,感覚面の異常が存在する.そのため,手術の際には視野欠損と斜視の関係を調べ,異常な網膜対応や抑制の有無の検査を行う.・同名半盲:同名半盲は半盲側の眼が外斜視になる傾向がある8).斜視になることで拡大する視野の見え方をパノラマ視というが,有効なパノラマ視のためにはいくつか条件が必要になる.半盲側と斜視が同側であること,斜視が外斜視であること,中心に抑制暗点があることである.これらの条件を満たした患者に外斜視矯正手術を行うと,パノラマ視の解消により視野狭窄を自覚することが知られている8.10).同名半盲と斜視の関係を図に示す(図2,3).図2のように右同名半盲の場合,右眼が外斜視であると欠損していた中心方向に視野が拡大する.右眼に抑制暗点があれば複視もなく有効な視野拡大となる.右同名半盲で左眼が外斜視の場合,耳側に視野が拡大するものの,眼窩で耳側視野がブロックされるため,あまり視野の拡大は得られない.右の同名半盲で右眼の内斜視の場合には,もともと存在する視野の中に鼻でブロックされたやや狭い視野が移動するだけで,視野の拡大は得られない.左眼が内斜視の場合には,耳側の視野は狭くなるものの,視野が欠けていた中心部分に視野拡大するため,抑制暗点があれば有効な視野となる.視野の拡大と難治性複視のどちらをとるか術前にシミュレーションしてから手術をするかどうか検討する必要がある.(61)あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022C915左眼視野右眼視野左眼視野右眼視野左眼右眼左眼右眼左眼右眼左眼右眼図1同名半盲と両耳側半盲右眼の同名半盲の場合,右眼の鼻側の視野と左眼の耳側の視野が重なって存在する.両耳側半盲では,右眼の鼻側と左眼の鼻側の視野が重なることなく並んで存在する.左眼右眼左眼右眼図3右眼同名半盲内斜視の場合右眼の同名半盲で内斜視の場合,右眼鼻側の視野が鼻で遮られやや視野が狭くなりつつ,元から存在する視野の中を左に移動する.右眼同名半盲で左眼内斜視の場合,左眼の耳側の視野は狭くなるが,中心を超えた有効な視野が拡大する.左眼右眼左眼右眼図2右眼同名半盲外斜視の場合右眼の同名半盲で右眼の外斜視の場合,右眼の視野が中心を超えて,欠損している方向へ拡大する.右眼の同名半盲で左眼の外斜視の場合は,耳側へ視野が移動するが,眼窩で拡大分の視野が遮られるため実質的に視野は拡大しない.左眼右眼図4Chiasmaticpost..xationalblindness両耳側半盲の場合,固視点より後方の像は両眼の半盲が重なるため暗点となり,深径覚異常と立体視障害が生じる.左眼右眼左眼右眼・立体視の成立①眼位異常がない②視力差や屈折異常に伴う不等像視がない③網膜対応が正常④両眼視野の重なり図5Hemi.eldslidephenomenon視交叉病変による両耳側半盲では黄斑が分割され,それぞれの視野に対応点がない.両眼視野が重ならないために立体視は成立せず,2つの視野は隣り合ったままで,融合して存在することが困難である.正常な見え方外斜視の場合内斜視の場合図6両耳側半盲と斜視の見え方外斜視では対応しない視野が重なり合い複視になり,内斜視では視野が分割され垂直性の暗点となり,中心部分が暗点ではなく抜け落ちて見える.

近視性共同性内斜視

2022年7月31日 日曜日

近視性共同性内斜視MyopicComitantEsotropia稗田牧*I近視と内斜視近視は屈折異常,内斜視は眼位異常として,それぞれ独立した疾病として理解されている.時に近視が原因で内斜視が起こることがある.古くから近視性の内斜視は二つに分類されている1).一つは強度近視の中年以降に生じる非共同性の内斜視で,進行すると固定内斜視になる「強度近視性内斜視」である.眼軸延長により眼球が外直筋と上直筋の間から脱臼するために,外転不全からはじまり,徐々に進行し眼球は内下転位で固定する.もう一つは,若年者の近視が未矯正または低矯正のまま,スマートフォン(以下,スマホ)などの近見作業過多で起こる眼球運動制限がない共同性内斜視である2).遠方の複視からはじまり,次第に恒常性の共同性内斜視に進行する.近視の程度は軽度から強度までさまざまである.このような内斜視が「近視性共同性内斜視」である.強度近視性内斜視は病態が解明され,斜視手術(上外直筋結合術)で治療できる3).近視性共同性内斜視(myo-picCcomitantesotropia)という言葉は生まれたばかりで,病態は未確定の部分ばかりである.本稿では近視性共同性内斜視について自説を述べる.CII近視性共同性内斜視とは「近視性共同性内斜視」という名称はC2022年C6月C4日に,後天共同性内斜視の全国調査発表の打ち合わせで生まれた.筆者らの施設では以前からのこの病態を近視性後4天4性4内斜視と称しており,論文発表していた4,5).しかし,それは以前からあった近視性の内斜視と同じか,それとも新しい概念の提唱であるかは曖昧であった.また,近視はほぼ後天性なので同語反復の感もあり,急性後天性共同性内斜視(acuteCacquiredCcomitantesotropia:AACE)との区別も曖昧で,他施設で用いられることはあまりなかった.今回,日本弱視斜視学会,日本小児眼科学会で行っている「若年層の後天性共同性内斜視とデジタルデバイス関連調査」のなかで,近視性共4同4性4内斜視が若年者の近視の後天性内斜視をうまく表現していると判断され,「近視性共同性内斜視」によびかえることになった.近視性後4天4性4内斜視はもともと筆者が英語の教科書にある“esotropiainmyopia”の若年者に発症する斜視1)に相当する日本語がないので用いはじめた言葉である.今後は新しい疾患概念として近視性共4同4性4内斜視という名称を用いたい.また,近視性共同性内斜視はCAACEのCBurienIII型(-5.00D以下:より強い近視,近視の低矯正が関連)を含む疾患概念である(図1).近視性共同性内斜視は-5Dより軽度近視でも発症し,かつ急性とはいえない経過で発症する.近視性共同性内斜視は,①潜行性発症(間欠性の遠見複視で発症しゆっくりと進行),②遠方内斜位斜視・近方内斜位から恒常性内斜視に進行,③若年者,とくに*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(53)C907図2強度近視性内斜視の頭部MRI画像偏位角度が開大している.図1近視性共同性内斜視と急性後天共同性内斜視との関係-5Dより強い近視で急性に起こるCBurianCIII型を含む疾患概念である.図3近視性共同性内斜視の頭部MRI画像偏位角度は正常である.=負荷調節図4近視性共同性内斜視の調節機能検査結果(ARK.1s,二デック製)オートレフの値から雲霧し,調節を負荷したのち軽減し,連続的に屈折度を測定する.山型の調節刺激に合わせて緑の他覚的屈折度が追随する調節反応が視覚的にわかる.左眼右眼耳鼻鼻耳側側側側図5近視性共同性内斜視のHess赤緑試験共同性であるため,左右眼で大きさがほぼ等しい.表1近視性共同性内斜視の鑑別開散不全急性後天性共同性内斜視強度近視性内斜視輻湊けいれん近視性共同性内斜視発症形式急性急性緩徐急性緩徐眼球運動障害C××◎C○C×眼球脱臼角増大C××◎C××調節障害C×××◎C×距離と斜視角度近<遠近>or=遠近=遠近=遠近<遠緩徐な発症=insidiousonset:潜行性発症近接性輻湊-緊張性輻湊図6輻湊の4要素開ループ系として緊張性輻湊,近接性輻湊,調節性輻湊があり,閉ループ系として視差性輻湊がある.正視近視回旋点左眼を耳側から見た図7前眼部耳側強膜拡大による外直筋の作用変化外直筋付着部が後方に移動することで外転作用が減弱し,内斜傾向が強まる.=--=--

調節性内斜視

2022年7月31日 日曜日

調節性内斜視AccommodativeEsotropia西川典子*はじめに調節性内斜視とは,物をはっきり見ようと調節をすると同時に調節性輻湊(用語解説参照)が起こるために眼球が内に寄り引き起こされる内斜視である.おもに中等度から高度の遠視のある場合に発症する.小児期に発症する後天性の共同性内斜視(用語解説参照)の代表的疾患であり,一般外来で診察する機会の多い斜視である.本稿では,まず内斜視の小児が来院したときに,どのように問診,検査,診察を進めるかを概説した後,調節性内斜視の診療について述べる.I内斜視の小児の診察内斜視を主訴として来院した小児の問診では,発症時期と発症経過(突然発症,徐々に発症,きっかけはあるか),常に内斜視か,ときどきか,眼位ずれの程度に変化はあるか,発症前後の発熱や頭痛などの随伴症状の有無,出生体重や出産時の異常を含めた既往歴や家族歴を聞く.次に,年齢に応じた視力検査(できない場合は交替固視の確認),眼位・眼球運動検査などの斜視関連検査に加え,眼科一般検査である対光反応の確認,屈折検査と合わせて散瞳下の細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を行う.斜視が主訴の場合であっても,まず原因となる器質的疾患がないかを確認することが大切である.とくに突然に発症した場合,眼球運動制限を伴う場合,頭痛など随伴症状を伴う場合には,腫瘍などの頭蓋内器質的疾患が原因である可能性を考え,頭部画像検査を施行する.斜視は眼球運動制限の有無で共同性・非共同性(用語解説参照)に分類されるが,小児でみられる外転制限を伴う非共同性内斜視には,外転神経麻痺,Mobius症候群,Duane症候群などの麻痺性あるいは特殊斜視がある.発症時期による分類では,生後6カ月以降に発症する後天内斜視と,生後6カ月未満に発症し他疾患(非共同性内斜視,調節性内斜視,眼振阻止症候群など)を除外した乳児内斜視(以前は先天内斜視とよばれていた)に分けられる.発症時期は,保護者への問診と家庭で撮影した顔写真による確認を合わせて判断する.生後6カ月以降に発症する共同性内斜視は,本稿で取りあげる調節性内斜視のほかに,調節が関与しない非調節性内斜視(基礎型内斜視),斜視の日と斜視ではない日が24~48時間の周期で交互に出現する周期性内斜視,突然発症する急性内斜視などに分類され,図1のように検査を進め分類する.なお,後天内斜視の統一した分類はなく,用語を含め成書によっても多少異なっている.II内斜視の診断と眼鏡装用小児の内斜視の検査では,まず屈折検査が基本となる.調節性内斜視の診断に当然必要であるが,乳児内斜視が疑われる場合でも1.5~2ディオプトリー(D)以上(年齢により基準は異なる)1)の遠視を認めた場合は,まず眼鏡を装用し眼位の変化をみる.これは,まれに生後6カ月以内に発症する調節性内斜視があることや,どの*NorikoNishikawa:旭川医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕西川典子:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(45)899・非調節性内斜視(基礎型内斜視)・周期性内斜視・急性内斜視など遠視なし★遠見<近見斜視角近見に+3D加入図1生後6カ月以降に発症する共同性内斜視の診断フローチャート★一般的にこの段階で頭部画像検査を考慮する.※非屈折性調節性内斜視の屈折は遠視の場合が多いが,まれに正視や近視の症例もある.弱視等治療用眼鏡等作成指示書氏名:年齢:歳(男・女)住所:Ⅰ.種類(○で囲む):眼鏡コンタクトレンズ(ハード・ソフト)Ⅱ.度数及び用法1.眼鏡S(球面)C(円柱)A(軸)近用加入度PD(瞳孔距離)用法右mm遠用・近用遠近両用左mm2.コンタクトレンズ右用法遠用・近用・遠近両用左Ⅲ.備考(眼鏡等を必要とする理由)1.疾病名2.治療を必要とする症状及び患者の検査結果右眼視力:左眼視力:年月日医療機関医師氏名印図2弱視等治療用眼鏡等作成指示書日本眼科学会や日本眼科医会のホームページからダウンロード可能である.図3非屈折性調節性内斜視(高AC.A比)に対する二重焦点眼鏡エグゼクティブタイプの二重焦点眼鏡装用例a:裸眼では左眼大角度内斜視である.Cb:眼鏡の上方(遠用部)で遠見正位.Cc:眼鏡の下方(近用部)で近見正位.図4膜プリズムを貼付した眼鏡の装用例部分調節性内斜視術後の残余内斜視に対してCFresnel膜プリズムを貼付した眼鏡を装用し経過観察している.この眼鏡下で眼位は内斜位を保ち,Bagolini線条レンズ試験で融像が確認できる.C-ab内直筋付着部内直筋付着部図5近見斜視角が大きい内斜視に対する術式a:Faden手術.付着部より1~14Cmm後方で筋を強膜と縫着することにより,安静眼位に影響を与えることなく筋の作用方向への筋力を減弱させる術式.図は内直筋後転術にCFaden手術を併用している.Cb:Slantedrecession.内直筋後転術で筋上方より下方を1~2Cmm後方に縫着する.■用語解説■調節性輻湊:調節と輻湊は互いに密接に関連し作動する.検査を行う.羞明や調節障害によるみえにくさはC10日か調節刺激を与えると輻湊運動が生じることを調節性輻湊らC2週間続くこと,全身的副作用(顔面発赤,発熱)が起(accommodativeconvergence)という.また逆に,輻こる可能性があることを説明し,正しい点眼方法を指導湊させる(基底外方のプリズムを眼前におく)と網膜像する(図6).当院では院内で調剤したC0.5%製剤をC6歳のぼやけがなくとも輻湊に伴って調節が起こり,これを未満の初回検査に用い,2回目以降やC6歳以上にはC1%輻湊性調節(convergentaccommodation)という.点眼を用い,点眼の期間はC7日間としている.共同性・非共同性斜視:共同性斜視とは眼球運動制限のなCAC/A比:調節性輻湊(accommodativeconvergence)とい斜視のことで,非共同性斜視とは眼球運動制限を伴う調節(accommodation)の比のことであり,1Dあたり斜視であり麻痺性斜視ともいう.の調節で引き起こされる輻湊量(PD)を表し,正常値は調節麻痺薬:外来受診時に点眼するサイプレジン点眼と自C4±2(PD/D)とされる.測定方法は,大型弱視鏡を用宅で点眼するアトロピン点眼がある.わが国で行われたいる方法,レンズを負荷して眼位を測定するCGradient調節麻痺薬点眼に関する多施設共同研究報告によると,法,瞳孔間距離を用いて計算するCHeterophoria法があ施設により点眼の回数や使用基準は異なる5).るが,詳細は成書を参考にされたい.サイプレジン(シクロペントラート):当院では,10分ごプリズム順応検査(prismadaptationtest:PAT):内斜とにC2回点眼し,初回点眼からC50分後に屈折度を測定視の術前検査法として発展した.斜視角を中和するしている.散瞳作用は弱いため,ミドリンCP(トロピカFresnel膜プリズムを装用し,順応後に再度眼位を測定,ミド+塩酸フェニレフリン)点眼と併用する.小児の検斜視角が増加する場合はプリズム度数を増やし再度順応査では頻繁に用いられるが,顔面紅潮,結膜充血,傾し,安定するまで繰り返す.古典的には数週間プリズム眠,運動失調,錯乱などの副作用が報告されており,注を装用させる方法であるが,外来で数時間の順応のみで意して観察する.行われる方法へと発展し,外斜視術前にも適応されていアトロピンクール:もっとも強い調節麻痺作用をもつアトる.部分調節性内斜視に対するCFresnel膜治療は一般的ロピンを用い,正確な他覚的屈折測定の目的で行う.検に数カ月継続するため,古典的CPATと同様であると考査前のC5~7日間,朝夕に自宅で点眼してから来院し屈折えられる.図6アトロピンクール説明用紙(例)点眼する日付を記入し,保護者に説明している.

間欠性外斜視の診療マネージメント

2022年7月31日 日曜日

間欠性外斜視の診療マネージメントManagementofIntermittentExotropia森本壮*はじめに間欠性外斜視は斜位と斜視が混在している状態であり,運動系の異常(眼位異常,輻湊不全)と感覚系の異常(両眼視機能の異常)を伴う.外斜視の顕在化による整容面の問題と両眼視機能の低下による複視やぼやけ,眼精疲労などが生じた場合1)に治療が必要となる.間欠性外斜視は斜視のなかでもっとも多く,アジアでは斜視の子どもの72%が外斜視で,そのうちの92%が間欠性外斜視である2).間欠性外斜視については,治療介入の適応,治療の最適な時期,効果的な治療法などが数多くの論文で広く議論されているにもかかわらず,依然として大きな論争がある.本稿では,さまざまな角度から間欠性外斜視の診療マネージメントについて述べる.I間欠性外斜視の病態外斜視とは片眼の視線が固視目標に向かわず外方に偏位している状態である.外斜視には間欠性と恒常性がある.間欠性外斜視は通常では正位を保っているが,疲労時や注意散漫時に外斜視が出現する状態で,外斜位と外斜視が混在する状態である(図1).一方,斜位が保てなくなり常に外斜視の状態になった場合が恒常性外斜視である.II間欠性外斜視の症状外斜視では片眼が外方に偏位することによって整容面で問題になることが多い.外方偏位は,注意散漫時,明図1間欠性外斜視正位(a)のときと外斜視(b)のときがある.るい日光の下,ストレス,疲労,病気のときなどに頻繁に起こる.明るい日光の下での一過性の片眼つむりや羞明は患者の50%以上にみられる3).乳幼児では患児からの訴えはなく,片眼の外方偏位や屋外での片眼のつぶりに保護者が気づいて発覚する.学童期になると整容上の問題に自身が気づくようになり,それ以降,整容面での問題の解決が重要となる.両眼視機能については,間欠性外斜視は外斜視のときは両眼視ができないが,正位のときは正常な両眼視機能をもち,網膜対応は正常で,立体視が良好な場合が多*TakeshiMorimoto:大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学〔別刷請求先〕森本壮:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(39)893い.また,乳児外斜視は,両眼視機能の発達の感受性期に正位を保てないので,その時期に眼位を矯正できない場合は両眼視機能が獲得できなくなる.10歳未満の低年齢児では複視を避けるための適応現象で斜視眼が抑制されるため複視はほとんど生じないが,10歳以上の小児では複視がおもな症状になることがある.とくに,長時間の近見作業では複視や眼精疲労が生じやすい.弱視の発生率は,間欠性外斜視の子どもでC4.5%や12.8%と報告されており4,5),小児では弱視の有無の確認が必要である.その他,斜位近視や近見時のぼやけ(調節不全)が生じることがある.C1.斜位近視斜位近視とは青年期や若年成人の間欠性外斜視で,比較的大角度の眼位ずれがあり,両眼視時に著明に近視化する状態である.著明な近視化のため像のぼやけ,強い眼精疲労を訴える.斜位近視は小児ではあまり発症せず,若年成人での発症がほとんどで,斜視角と近視化に正の相関がみられる6).C2.調節不全小角度での間欠性外斜視では,調節性輻湊や融像性輻湊により眼位が保たれることが多いが,眼位を保つために輻湊とそれに伴う輻湊性調節が行われているため,調節力の低下が生じ,近見時のぼやけや眼精疲労を生じる7).CIII間欠性外斜視の検査間欠性外斜視の重症度の評価には,斜視角の大きさ,斜視をコントロールする力,両眼視機能の指標としての立体視力が用いられる.斜視角が大きい,斜視のコントロールが悪い,立体視力が低下している,あるいはこれらの性質をあわせもつ患者は,重症と考えられる.間欠性外斜視は融像性輻湊が強いため,斜視角の定量の際には,融像性輻湊を除去して行う必要があり,交代プリズム遮閉試験(alternateCprismCcovertest:APCT)やパッチテスト(occlusiontest)が用いられる.1.APCT遮閉を交互に繰り返し融像性輻湊を除去し,潜伏性偏位を検出し定量する.間欠性外斜視の検査には有用である.斜視角の測定は遠方と近方でのプリズム遮閉試験を用いて行われる.C2.パッチテスト片眼遮閉によって融像性輻湊を除去した眼位を求める検査.APCTでの検出が不十分な間欠性外斜視では強靱な融像力(tenaciousfusion)によって実際の偏位が隠されていることが多いので,60分間片眼を遮閉して完全に融像を除去し,潜伏している偏位を検出する.その後,APCTで近見・遠見眼位の測定を行う.1時間の片眼遮閉後の遠見斜視角が,手術による矯正不足を大幅に減らすのに有用であることが報告されている8).C3.両眼視機能検査間欠性外斜視は両眼視機能が保たれていることが多い.検査としてよく行われるのが近見立体視検査で,CstereoC.ytest(図2a)などがあり,日常視に近い状態での立体視機能を定量的に評価する.その他,網膜対応検査としてCBagolini線状レンズ試験が用いられる.この検査は日常視に近い状態での網膜対応について,遠見(5Cm)および近見(33Ccm)で評価でき,プリズムとも組み合わせて眼位を矯正した状態での網膜対応を評価することができる(図2b).C4.外斜視の頻度の検査外斜視では整容面が問題となるが,間欠性外斜視では斜視と斜位が混在しているため,受診時での診察結果のみでは,眼位がどの程度制御されているかの評価が十分ではない.このため眼位の制御力を明らかにするため,CTheNewcastleControlScore(NCS)などの指標が開発されている(表1).NCSでは,親の主観的な評価(homecontrol)と客観的な評価(cliniccontrol)を組み合わせて,外斜視の整容面での重症度の評価9)だけでなく,経過観察や術後の評価にも有用である10).894あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(40)図2両眼視機能検査Stereo.ytest(Ca),Bagolini線状レンズ試験(Cb).表1NewcastleControlScore家族による観察0:外斜視/片眼つむりまったくしない1:外斜視/片眼つむり(遠見)50%未満2:外斜視/片眼つむり(遠見)50%を超える3:斜視/片眼つむり(遠見,近見)50%を超える診察室での観察(近見)0:遮閉で顕性瞬きなしで戻る1:遮閉で顕性瞬きで戻る2:遮閉で顕性戻らない3:自然に顕性診察室での観察(遠見)0:遮閉で顕性瞬きなしで戻る1:遮閉で顕性瞬きで戻る2:遮閉で顕性戻らない3:自然に顕性(著者翻訳)2.非観血的治療a.プリズム眼鏡療法外斜視では,プリズム眼鏡の装用によって輻湊努力の必要がなくなり,眼位が本来の位置に戻るようになる.それによって,近見あるいは遠見において快適な両眼視を得ることで,外斜視に伴う複視,眼精疲労,ぼやけなどを解消する.10CΔ以下の小角度の斜視に対しては組み込みのプリズム眼鏡を処方し,大角度の斜視に対してはCFresnel膜プリズムを処方する.Fresnel膜プリズムは,Fresnelレンズの原理を応用してレンズの厚さを薄くした膜プリズムでC40CΔまであり,大角度の外斜視にも対応でき,レンズに貼って使うため,斜視角の変化によって膜プリズムを取り替えることが容易である.一方,膜プリズムはのこぎり状の断面をもち,それがスジ状になっており,プリズム度数が上がるとより細かいスジとなるため,視力低下や色収差が出て外見上目立つようになる.また,コントラスト感度もプリズム度数の増加に従って低下するため,通常C30CΔ程度が限界となる.Cb.屈折異常に対する眼鏡処方近視,乱視,不同視は外斜視の悪化と関連する要因であり13),それらが原因で遠見でのぼやけが生じ融像性輻湊が起きにくくなると考えられる.そのため,適切な度数の眼鏡処方によって両眼視機能を安定させると斜視が顕在化しにくくなる.また,弱視の場合は,感覚性外斜視への進行を防ぐため,眼鏡処方に加え,弱視治療も行う必要がある.このように屈折異常を矯正することで,斜視になる頻度を減らし,眼位をコントロールすることができると考えられるが注意が必要である.近視の患者に対する完全矯正は,積極的な調節性輻湊を促進するが,遠視では,少量の遠視でも矯正すると調節性輻湊が低下し,外斜位が悪化することがあるので,患者の年齢,遠視の程度などを考慮する必要がある.Cc.マイナスレンズ療法日本ではあまり普及していないが,海外では用いられている.マイナスレンズによる過矯正負荷によって遠視化させ,調節性輻湊を誘発し,斜視角の減少や斜視の顕在化の頻度を低下させ,手術時期を遅らせることができるとされている14).マイナスレンズを用いたC5年間の追跡調査を行った前向き試験では,21人の患者のうちC52%がマイナスレンズのみで成功または良好な結果を得ていることが示されている15).しかし,自然経過と比較したランダム化比較試験はなく,過矯正の眼鏡の長期装用による装用感や調節への影響,眼精疲労などは十分に検討されていない.Cd.成人の間欠性外斜視に対する眼鏡処方成人の間欠性外斜視では,デスクワークでのパソコン作業,勉強やタブレット,スマホ視聴などの近業作業で,複視や眼精疲労,近見時のぼやけなどの症状を訴えることが多い11).また,間欠性外斜視では近見作業時の調節幅が同年齢の正常者に比べ低下しており7),近業作業を続けると疲労やぼやけが生じやすいと考えられる.一方,輻湊不全や老視による近見障害が原因の場合もある.成人の間欠性外斜視に対する眼鏡処方に際しては,屈折検査や眼位検査だけでなく,立体視力や調節力,輻湊検査などを行い,輻湊不全や近見視力障害を考慮し,処方の際に眼位矯正のためのプリズム眼鏡に加えて,中距離や近距離での視力矯正を加えた眼鏡処方が必要である.CV間欠性外斜視の手術1.手術適応間欠性外斜視の手術適応に関しては,さまざまな意見があり,明確に定義された適応条件はまだ確立していない.一般的には,斜視角の増加,斜視の頻度の増加,立体視力の低下などの外斜視の重症度と,複視,眼精疲労,整容面などが考慮される.また,術前の斜視角の定量は,内斜視と同様にプリズム順応検査(prismadapta-tiontest:PAT)を用いるほうがより精度の高い定量を行うことができる16).PATはプリズムを装用し,30分.1時間後に残余斜視角の測定と複視の有無の確認やBagolini線状レンズ試験を組み合わせて網膜対応を評価する.C2.斜視手術術式間欠性外斜視の斜視手術法として,外直筋の減弱術で896あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(42)後転筋の減弱外直筋後転術短縮筋の強化内直筋前転術図3間欠性外斜視の手術表2間欠性外斜視の診療マネージメント初診時要治療治療方針治療内容無経過観察有非観血的治療観血的治療眼鏡装用斜視手術プリズム眼鏡屈折矯正眼鏡マイナスレンズ眼鏡両眼/片外直筋後転術/片外直筋後転-内直筋前転術両眼/片内直筋前転術とするリスクが高い23)ため,それらの患者では術後の定期的な観察が必要である.おわりに間欠性外斜視の診療マネージメントについて,病態,検査,治療介入の適応,観血的・非観血的治療法に関して述べた.これらについては依然として論争の的となっている24).間欠性外斜視で,整容上問題はなく,立体視力が保たれており,複視や眼精疲労などがない場合は,斜視手術は必要なく,そのような患者では,長期間経過しても斜視角の増大や立体視力の低下などの悪化はほとんどない.一方,斜視手術の成功率にはばらつきがあり,おおむねC70%前後であるため,手術の適応については患者の外斜視の状態を十分評価し,眼鏡装用などの非観血治療も含めて慎重に判断する必要がある(表2).文献1)JungJW,LeeSY:Acomparisonoftheclinicalcharacter-isticsCofCintermittentCexotropiaCinCchildrenCandCadults.CKoreanJOphthalmol24:96-100,C20102)ChiaCA,CRoyCL,CSeenyenL:ComitantChorizontalCstrabis-mus:anCAsianCperspective.CBrCJCOphthalmolC91:1337-1340,C20073)JenkinsR:Demographics:geographicCvariationsCinCtheCprevalenceandmanagementofexotropia.AmOrthopticJC41:82-87,C19924)MohneyCBG,CHu.akerRK:CommonCformsCofCchildhoodCexotropia.Ophthalmology110:2093-2096,C20035)SmithCK,CKabanCTJ,COrtonR:IncidenceCofCamblyopiaCinCintermittentexotropia.AmOrthopticJC45:90-96,C19956)ShimojyoCH,CKitaguchiCY,CAsonumaCSCetal:Age-relatedCchangesCofCphoriaCmyopiaCinCpatientsCwithCintermittentCexotropia.JpnJOphthalmolC53:12-17,C20097)MorimotoT,KandaH,HirotaMetal:Insu.cientaccom-modationCduringCbinocularCnearCviewingCinCeyesCwithCintermittentexotropia.JpnJOphthalmolC64:77-85,C20208)KushnerBJ:TheCdistanceCangleCtoCtargetCinCsurgeryCforCintermittentCexotropia.CArchCOphthalmolC116:189-194,C19989)HaggertyH,RichardsonS,HrisosSetal:TheNewcastlecontrolscore:aCnewCmethodCofCgradingCtheCseverityCofCintermittentCexotropia.CBrCJCOphthalmolC88:233-235,C200410)WattsCP,CTippingsCE,CAl-MadfaiH:IntermittentCexotro-898あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022pia,CovercorrectingCminusClenses,CandCtheCNewcastleCscor-ingsystem.JAAPOSC9:460-464,C200511)PediatricCEyeCDiseaseInvestigatorCGroup;WritingCCom-mittee:Three-yearobservationofchildren3to10yearsofagewithuntreatedintermittentexotropia.Ophthalmol-ogy126:1249-1260,C201912)RomanchukCKG,CDotchinCSA,CZurevinskyJ:TheCnaturalChistoryCofCsurgicallyCuntreatedCintermittentCexotropia-lookingCintoCtheCdistantCfuture.CJCAAPOSC10:225-231,C200613)TangCSM,CChanCRY,CBinCLinCSCetal:RefractiveCerrorsCandCconcomitantstrabismus:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.SciRepC6:35177,C201614)RoweCFJ,CNoonanCCP,CFreemanCGCetal:InterventionCforCintermittentdistanceexotropiawithovercorrectingminuslenses.Eye23:320-325,C200915)RoweCFJ,CNoonanCCP,CFreemanCGCetal:InterventionCforCintermittentdistanceexotropiawithovercorrectingminuslenses.Eye23:320-325,C200916)DadeyaCS,CKamlesh,CNaniwalS:UsefulnessCofCtheCpreop-erativeprismadaptationtestinpatientswithintermittentexotropia.CJPediatrCOphthalmolCStrabismusC40:85-89,C200317)WangL,WuQ,KongXetal:Comparisonofbilaterallat-eralrectusrecessionandunilateralrecessionresectionforbasicCtypeCintermittentCexotropiaCinCchildren.CBrCJCOph-thalmolC97:870-873,C201318)ChoiCJ,CChangCJW,CKimCSCetal:TheClong-termCsurvivalCanalysisCofCbilateralClateralCrectusCrecessionCversusCunilat-eralCrecession-resectionCforCintermittentCexotropia.CAmJOphthalmolC153:343-351,C201219)KimCDH,CYangCHK,CHwangJM:LongCtermCsurgicalCout-comesofunilateralrecession-resectionversusbilaterallat-eralCrectusCrecessionCinCbasic-typeCintermittentCexotropiaCinchildren.SciRepC11:19383,C202120)MaruoT,KubotaN,SakaueTetal:Intermittentexotro-piaCsurgeryCinchildren:longCtermCoutcomeCregardingCchangesinbinocularalignment.astudyof666cases.Bin-oculVisStrabismusQC16:265-270,C200121)ChiaCA,CSeenyenCL,CLongQB:SurgicalCexperiencesCwithCtwo-musclesurgeryforthetreatmentofintermittentexo-tropia.JAAPOSC10:206-211,C200622)JeoungCJW,CLeeCMJ,CHwangJM:BilateralClateralCrectusCrecessionCversusCunilateralCrecess-resectCprocedureCforCexotropiaCwithCaCdominantCeye.CAmCJCOphthalmolC141:C683-688,C200623)PinelesSL,Ela-DalmanN,ZvanskyAGetal:Long-termresultsCofCtheCsurgicalmanagementCofCintermittentCexotro-pia.CJAAPOSC14:298-304,C201024)LavrichJB:Intermittentexotropia:continuedCcontrover-siesCandCcurrentCmanagement.CCurrCOpinCOphthalmolC26:375-381,C2015(44)

乳児内斜視

2022年7月31日 日曜日

乳児内斜視InfantileEsotropia横山吉美*はじめに乳児内斜視は生後C6カ月未満に発症する大角度の内斜視のうち,頭蓋内疾患を伴わないものとされている.その特徴を表1に示す1).生後早期から内斜視が生じるために,両眼視機能の発達が障害されることが大きな問題である.また,交代固視ができず常にどちらかの眼が内斜視になっている状態では視力の発達も障害される可能性がある(斜視弱視).両眼視機能の発達に必要な条件は表2に示すとおりであり,視力に左右差が生じている場合も両眼視機能の発達は障害される2).ではなぜ両眼視機能の発達が重要であるのか.両眼視がなくても視力が良好であれば日常生活は大きな支障なく過ごせるであろう.しかし,両眼視機能があると将来の職業選択の幅が広がる.たとえばパイロット,鉄道運転手,大型自動車運転手など各種運転手の資格取得には両眼視機能が必要である.また,顕微鏡を使用する職業,たとえば眼科医もそうであるが,両眼視機能がないと不利になる職業もある.興味深い文献として,模擬眼での白内障手術手技において,立体視がよいほど手術手技が上手であった表1乳児内斜視の特徴・生後C6カ月未満の発症・大きな斜視角(40プリズム以上)・斜視角の変動が少ない・屈折異常はあっても軽度(+3D以下)・中枢神経系の異常がないという報告がある3).とくに球技などのスポーツは両眼視機能があったほうが有利である.子どものよりよい成長をめざす,これはどの親も願うことであろう.また,その可能性があるのであれば情報提供し,治療の提案をすることも医師の責務であると考える.CIなぜ早期治療が必要かここで注意すべき点は,両眼視機能の発達が生後早い段階で終了するということである.視力の発達はおおむねC8~10歳で終了するのに対し,両眼視機能のうちもっとも高度な能力である立体視は生後C3~4カ月から発達しはじめ,2歳までに正常成人のC80%のレベルに達し,5歳には発達が終了するといわれている4).よって,この間に斜視が生じると,両眼視機能が十分に発達しない可能性がある.では乳児内斜視において,2歳までに眼位を矯正すれば良好な両眼視機能の発達が得られるかというとそうではない.眼位未矯正期間がC4カ月を超えると,その後治療を行っても両眼視機能の発達は不良とされている.乳児内斜視は固視ができるようになる生後表2立体視の発達のための条件・視力の大きな左右差がないこと・不等像視がないこと・顕性の斜視がないこと・正常網膜対応があること・後頭葉視覚中枢に両眼視細胞があること*YoshimiYokoyama:JCHO中京病院眼科〔別刷請求先〕横山吉美:〒457-8510名古屋市南区三条C1-1-10JCHO中京病院眼科C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(33)C887立体視(秒)手術時年齢(月齢)図1手術時期と術後立体視の関係手術時期が早いほど,術後に得られる立体視が良好となる.表3乳児内斜視の鑑別疾患・偽内斜視・早期発症の調節性内斜視・感覚性斜視①片眼性の先天白内障②網膜硝子体疾患(第一次硝子体過形成遺残,家族性滲出性硝子体網膜症など)③視神経疾患(朝顔症候群,視神経低形成,視神経乳頭コロボーマなど)図3乳児内斜視右眼の内斜視.右眼の角膜反射は瞳孔中心より耳側にあり,左右差が明らかである.表4乳児内斜視の治療の流れ・器質的疾患の除外・調節麻痺点眼(原則アトロピン硫酸塩点眼)を用いた屈折検査・1.50D以上の遠視や乱視は完全矯正・固視交代ができない場合は,優位眼の遮閉を開始・眼鏡常用でも眼位の変動がないことを確認・手術までに最低C3回は斜視角を測定する・斜視角測定は原則交代プリズム遮閉試験にて行う・術後も調節麻痺点眼を用いた定期的な屈折検査-

弱視治療後の視機能異常

2022年7月31日 日曜日

弱視治療後の視機能異常VisualOutcomesafterAmblyopiaTreatment三原美晴*はじめに弱視治療は,臨床では第一に視力で治療効果を判断することがほとんどである.弱視眼の見え方は患者本人にしかわからないが,視力は,患者にとって治療の励みになるであろうし,保護者も治療をサポートするよりどころとなり,医療者にとっては治療計画のもっとも重要な指標となる.もちろん,弱視の視覚を理解するにあたって,視力ですべてが解明するわけではない.適切な治療により弱視眼の視力が1.0以上を達成された,あるいは健眼と同じ視力になったとしても,片眼弱視患者はやはり弱視眼は見えにくいと認識していることが多く,視力のみで健眼と同等の機能を獲得したと決めることはできない.そもそも視覚経路には複数の処理段階があり,弱視は各段階での視覚刺激に対する反応の変化が積み重なったものと考えられる.また,弱視の原因やその形成時期,治療状況によって視力予後の違いがあるように,これらは視力以外の視機能にも異なる影響を及ぼす.弱視患者は視力以外にどのような視機能異常があるのだろうか.弱視治療後にもみられる視機能異常について,これまでの弱視研究や患者体験をもとに弱視眼の感覚面と運動面で正常と異なる点を解説する.I立体視左右眼の網膜像のずれ,つまり両眼視差による奥行き知覚が両眼立体視(stereopsis)である.これが成立するには,①顕性斜視がない,②左右眼の視力・コントラスト比に大きな差がない,③大きな不等像視がない,④網膜対応が正常である,⑤視覚中枢に両眼視細胞が存在する,という条件が必要である.さらに片眼性の弱視(不同視弱視・斜視弱視・一部の形態覚遮断弱視)では,両眼開放下で健眼から弱視眼へ強い抑制がないことも必要である1,2).1.不同視弱視弱視を治療する前の弱視眼視力と立体視には関連があり,視力がよいほど有意に立体視も良好であるという結果であった.そして弱視の治療後もその傾向は有意にみられた(図1a)3).また,弱視治療の成功症例(視力20/25以上,健眼との視力差が1段階以内)であっても,弱視の既往のない小児と比較すると立体視は有意に低下している(図1b)3).これは斜視と同様に,出生早期の両眼視機能の発達期に健眼と弱視眼の視力差が大きい場合は,その後の弱視治療が成功しても,立体視発達に与えた影響を反映していると考えられる.2.斜視弱視弱視眼の視力に関係なく斜視弱視は立体視が不良であるという報告が多い4,5).弱視治療により視力が良好となっても,斜視であり続ければ立体視はできない.また乳児内斜視に代表されるように,視覚感受性期にみられる恒常性の斜視は,弱視がなくても眼位矯正後も多くの*MiharuMihara:富山大学学術研究部医学系眼科学講座〔別刷請求先〕三原美晴:〒930-0194富山市杉谷2630富山大学学術研究部医学系眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(23)877a>800弱視治療後の立体視(arcsec)800400200100604020/2020/2520/3220/4020/5020/63orbetterorworse弱視治療後の弱視眼のSnellen視力b>800弱視治療後の立体視(arcsec)8004002001006040図1不同視弱視の治療後の視力と立体視の関係4~<55~<66~<77~<12年齢(歳)a:不同視弱視において,弱視治療後に獲得できていた立体視の弱視眼の視力ごとの平均値(立体視はランドットプレスクールステレオアキュイティで検査).治療後の視力が良好なほど立体視レベルも高い.b:不同視弱視の治療により,弱視眼の視力が20/25以上で健眼との視力差が1段階以内になった小児(水色ボックス)と弱視のない正常小児(白色ボックス)との年齢ごと(4,5,6歳,7.12歳)の立体視の比較.年齢とともに立体視レベルは上昇するが,5歳を除くすべての年齢で不同視弱視は有意に立体視レベルが低い.ボックス内のひし形は平均値,太線は中央値.ATS:AmblyopiaTreatmentStudyの被験者.(文献3より改変引用)0.80.60.40.20不同視弱視斜視弱視片眼性両眼性図2弱視の成因による立体視獲得の割合過去の12の研究文献から,不同視弱視(n=55),斜視弱視(n=47),形態覚遮断弱視(片眼性n=38・両眼性n=68)で800秒より良好な立体視が測定可能であった割合を示している.斜視弱視がもっとも立体視獲得の割合が低い.(文献6より改変引用)800秒以上の立体視が測定可能であった割合361218c/d空間周波数図3コントラスト感度a:上段は空間周波数であり,視角1°の中に明暗が繰り返される数をいう.視力検査は高輝度のコントラスト視標(白黒はっきり)で,見分けられる最高の空間周波数(最小のLandolt環の切れ目)を測定しているともいえる.b:正常眼と治療後の弱視眼のコントラスト感度の結果(文献9より引用).弱視眼は感度が低下するという報告が多い.c:コントラスト感度検査に用いるCSV-1000E(VectorVision社).A.D(3,6,12,18cycle/degree)の空間周波数ごとに8段階のコントラストがあり,上下段で縞のあるほうを選択する.図4副尺視力(vernier視力)空間知覚により,上下の線分のわずかなずれを検出することができる.図の上下の線分で中央の組み合わせだけは水平位置のずれはない.そのほかの上下の線分は水平のずれがある.弱視眼ではこのずれの検出精度が低下する.b図5弱視眼の固視の安定性a,b:固視の安定性をCbivariatecontourellipsearea(BCEA)の面積値を用いて比較することができる(視線の位置をCxy座標で示し,xyおのおのの標準偏差と相関係数で算出する.詳しい算出方法は文献C17を参照).BCEAが小さいほど固視が安定していることを示す.aは正常眼,bは不同視弱視眼での固視時の視線の位置の範囲を示している.黄色楕円は95%CBCEA,赤色円は視標の大きさを示している(文献C17より引用).c:正常者,不同視弱視,斜視弱視の固視安定性をCBCEAで比較した結果.不同視弱視,斜視弱視とも健眼より弱視眼のCBCEAが有意に大きく,また斜視弱視眼は不同視弱視眼よりもCBCEAが大きく,固視の安定性が低下していることを示している(文献C18より改変引用).bその他の異常a不同視のみ不同視・斜視200斜視のみ150100500-50Non-amblyopicAmblyopic0.01.02.03.0logMAR視力の時間差図6弱視患者のサッケード潜時a:正常コントロールと不同視弱視の患者が(a)両眼視と(b)単眼視(正常は左眼,弱視患者は弱視眼で固視)で右方向C10°の位置に表示された視標にサッケードを行ったときの眼球運動速度.サッケード潜時は,両眼視および単眼視の試行ともにコントロールよりも弱視患者において増加し変動も大きい(文献C21より改変引用).b:logMAR視力の眼間差に対してプロットされたサッケード潜時の眼間差.不同視(n=82);斜視(n=39);斜視と不同視(n=85);そのほかの異常(n=187).斜視弱視眼および斜視・不同視弱視眼は,不同視弱視眼の傾きとは大きく異なる(p<0.001)(文献C20より改変引用).abc図7ある片眼弱視患者の見え方a:健眼で見たとき.b:健眼を遮閉し屈折矯正した弱視眼で見たとき.c:弱視眼で固視し続け,徐々に視野全体が暗くなってきたとき.このとき瞬目をするとCbの見え方に戻る.この患者の弱視眼の矯正視力は(1.0)であるが,視標を見る際は健眼より視標に集中し,瞬目を多く行う必要があるという.し,一点を固視し続けると数秒程度でノイズが増加し,弱視眼の視野全体がどんどん暗くなり(図7c),そのまま固視を続けるとほぼ真っ暗になる.このとき,瞬目などで視覚刺激をいったんリセットすると,直ちに図7bの見え方に復旧する.つまり,瞬目と固視によって図7bと図7cが繰り返される.そのため弱視眼の視力検査や視野検査を受けるときは,できるだけ図7bの状態を維持するため,意識的に瞬目をしながら健眼の何倍も集中して検査を受けていたという.繰り返すが,この見えかたは片眼弱視患者の一例であり,参考である.弱視眼で見ても健眼と比較して暗く感じることはほとんどないという患者もいるし,良好な立体視を確認できる患者も少なくない.視覚経路やその発達は複雑であり,空間知覚,立体視,コントラスト感度などの視機能の関与する部位とその発達時期も異なる.いつから,どのような原因で正常な視覚刺激を得られなくなったのか,いつから両眼の不均等が発生したのか.弱視の原因と発症時期,治療までの期間によって,最終的な見え方の特徴も見えにくさの程度にも違いが生じる.視力値は良好でも,それだけでは表すことのできない弱視眼の視覚異常(見えにくさ)は存在している.おわりに弱視患者のコントラスト感度や立体視は,治療により弱視眼の視力が向上した後でも,弱視の原因の影響を残している可能性がある.また,視覚情報処理の異常による空間知覚の低下などのほか,固視やサッケードなど運動面への影響もみられる.とくにコントラスト感度や立体視は臨床でも検査可能であり,治療前,中,後でこれらも確認することをお勧めしたい.もちろん患者の自覚症状を完全共有することは叶わないが,医療者として弱視眼の視力発達をアシストしつつ,多面的な指標から視機能にアプローチし,弱視患者の症状をより正しく理解するよう努めるべきである.文献1)大庭紀雄,野原尚美,宮本安住己:弱視の病態生理に関する最近の知見.あたらしい眼科32:229-237,C20152)LiCJ,CThompsonCB,CLamCCSYCetal:TheCroleCofCsuppres-sionCinCamblyopia.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:4169-4176,C20113)WallaceCDK,CLazarCEL,CMeliaCMCetal:StereoacuityCinCchildrenCwithCanisometropicCamblyopia.CJCAAPOSC15:C455-461,C20114)LeviCDM,CMcKeeCSP,CMovshonJA:VisualCde.citsCinCanisometropia.VisionResC51:48-57,C20115)前原吾朗:1弱視の病態.7弱視の研究.Bヒト弱視,心理物理.小児の弱視と視機能発達(三木淳司,荒木俊介編),p101-110,三輪書店,20206)HammCLM,CBlackCJ,CDaiCSCetal:GlobalCprocessingCinamblyopia:areview.FrontCPsycholC5:583,C20147)JiaY,YeQ,ZhangS:Contrastsensitivityandstereoacu-ityCinCsuccessfullyCtreatedCrefractiveCamblyopia.CInvestCOphthalmolVisSciC63:6,C20228)TeedCRGW,CWallaceDK:Chapter47:AmblyopiaCman-agementCinCtheCpediatricCcataractCpatient.In:PediatricCcataractCsurgeryCtechniques,CcomplicationsCandCmanage-ment.C2nded.(WilsonCME,CTrivediCRHeds)C.Cp320-325,CWoltersKluwerHealth.Philadelphia,20149)雲井弥生:M系とCP系の役割分担.三次元世界に生きる─二次元から三次元を作り出す脳と眼.p34-35,メディカル葵出版,201810)安藤和歌子,伊藤美沙絵,新井田孝裕ほか:コントラスト感度と眼優位性の関連性について─不同視弱視.眼臨紀3:C65-69,C201011)森由美子:MCT8000を用いた不同視弱視の空間周波数特性.眼臨88:1109-1112,C199412)舟川政美.視的対象の位置検出機構─副尺視力を中心にして.基礎心理研8:83-94,C199013)CoxCJF,CSuhCS,CLeguireLE:VernierCacuityCinCamblyopicCandCnonamblyopicCchildren.CJCPediatrCOphthalmolCStrabis-musC33:39-46,C199614)荒木俊介,三木淳司:1弱視の病態.2小児の正常視機能発達.小児の弱視と視機能発達(三木淳司,荒木俊介編),p16-17,三輪書店,202015)SongCS,CLeviCDM,CPelliDG:ACdoubleCdissociationCofCtheCacuityandcrowdinglimitstoletteridenti.cation,andthepromiseCofCimprovedCvisualCscreening.CJCVisC14:1-37,C201416)GonzalezCEG,CWongCAM,CNiechwiej-SzwedoCECetal:EyeCpositionCstabilityCinCamblyopiaCandCinCnormalCbinocularCvision.InvestOphthalmolVisSciC53:5386-5394,C201217)SubramanianV,JostRM,BirchEE:AquantitativestudyofC.xationCstabilityCinCamblyopia.CInvestCOphthalmolCVisCSci54:1998-2003,C201318)ChungCSTL,CKumarCG,CLiCRWCetal:CharacteristicsCofC.xationalCeyeCmovementsCinamblyopia:LimitationsConC.xationstabilityandacuity?VisionResC114:87-99,C201519)Niechwiej-SzwedoCE,CChandrakumarCM,CGoltzCHCCetal:CE.ectsCofCstrabismicCamblyopiaCandCstrabismusCwithoutCamblyopiaonvisuomotorbehavior,I:saccadiceyemove-ments.InvestOphthalmolVisSciC53:7458-7468,C2012(31)あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022C885

弱視治療の終わり方

2022年7月31日 日曜日

弱視治療の終わり方HowtoStopAmblyopiaTreatment?荒木俊介*三木淳司*はじめに弱視は視覚の感受性期間に正常な視的環境が阻害されることにより生じる視機能の発達障害である.弱視治療の最終目標は,両眼開放下で弱視眼に健眼もしくは正常眼と同等の能力を発揮させ,それを維持させることである.片眼弱視の治療では,屈折矯正のみで治療効果が不十分な場合は,健眼遮閉や健眼アトロピン硫酸塩点眼(以下,アトロピン点眼)による追加治療の有効性が実証されているが1,2),これらの治療法は患者の精神的負担や健眼の弱視化といった問題を生じうるため,過剰で不要な治療を続けないように注意する必要がある.その一方で,不十分な状態で治療を終了した場合には,弱視の再発を招く可能性があり,弱視治療を終えるタイミングとその後のフォローアップについて適切に判断することが弱視治療を成功させるうえで重要である.本稿では,いくつかの視点から弱視の治療終了を検討する際に考慮すべきポイントとその後のフォローアップについて解説する.CI弱視治療を終えるタイミング1.眼鏡はいつまで必要か弱視治療の基本は眼鏡による屈折矯正である.弱視の子どもをもつ保護者からは「眼鏡はいつになったらはずせますか?」といった質問を受けることは少なくない.治療の観点からすると,弱視の臨界期に原因となりえる屈折異常が存在する限りは,眼鏡装用は必要不可欠となる.臨界期を過ぎれば眼鏡をはずしても弱視再発の危険は小さくなると考えられるが,不同視弱視や斜視弱視の臨界期ははっきりとわかっていない.自験例3)では,初診時年齢C4歳,弱視眼視力C0.4の不同視弱視において,眼鏡装用開始から約C1年後に視力C1.2を獲得し,経過観察を終了したC12歳まで眼鏡装用のみで視力を維持していた.しかし,通院終了後から約C7年間,眼鏡装用が自己中断されており,19歳で再来した際の視力がC0.4まで低下していたことから,12歳以降での弱視の再発が示唆された.このような経験からも,「何歳になれば眼鏡をはずしても問題がないのか?」という問いに対して,明確に回答することはむずかしい.また,仮に再発の危険性がない年齢に至ったとしても,治療によって獲得した視機能を最大限に発揮するためには,やはり屈折矯正が必要となる.なお,眼鏡処方後に遠視度数の経年変化を観察した報告4)によると,弱視眼では非弱視眼に比して遠視度数の減少率が大きい傾向にあることが示されており,症例によっては将来的に眼鏡が不要となる可能性もある.以上より,保護者には弱視治療は眼鏡をはずすことを目的とした治療ではないことを説明し,理解を得ておくことが大切である.なお,患児や保護者が外見上の理由でコンタクトレンズの使用を希望した場合は,眼合併症の危険性から,患児自身が適切な管理が可能となる年齢までは処方の適応とはならない.*SyunsukeAraki&AtsushiMiki:川崎医科大学眼科学C1教室〔別刷請求先〕荒木俊介:〒701-0192岡山県倉敷市松島C577川崎医科大学附属病院感覚器センター眼科C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(17)C871図1方向変換ミラーを用いた両眼開放下での片眼視力測定非測定眼の視界が眼前の全反射鏡により視力表からはずれるため,両眼同時に外界からの視覚情報が入力された状態で,一眼の視力を評価することができる.ると,3.8歳の片眼弱視(不同視弱視,斜視弱視,混合弱視)において,弱視の原因に関係なく大半の症例が最高視力を獲得するまでに,累積C150.250時間の健眼遮閉(1日C2時間で約C2.5.4.2カ月)を要しており,少なくともC400時間(1日C2時間で約C6.7カ月)までは健眼遮閉に対する治療効果が示された.健眼遮閉の実施にあたり,このようなデータから当面の治療目標期間を設定することは,保護者や患児のモチベーションを維持するうえで大切と考えられる.なお,実際の臨床では患者は指示された時間どおりに遮閉を実施していないことが多い点に注意が必要である.C5.健眼遮閉の終わり方PediatricCEyeCDiseaseInvestigatorCGroup(PEDIG)の調査14)によると,6.8時間/日の健眼遮閉を突然終了した群ではC42%,2時間/日に漸減してから終了した群ではC14%に弱視の再発(0.2logMAR以上の視力低下)がみられた.すなわち,長時間の健眼遮閉を行っている患者においては,治療終了のタイミングを迎えた時点で,遮閉時間を漸減しながら治療を終了したほうが弱視の再発率が低いことが示されている.ただし,漸減の最適な条件や漸減による再発リスク低下の神経生理学的なメカニズムに関しては明らかとなっていない.また,このような維持療法を行った場合でも,一部の患者では再発をきたす点に注意が必要であり,治療終了後の経過観察が重要である.C6.健眼アトロピン点眼と両眼性固視検査健眼アトロピン点眼の治療原理は,健眼に調節麻痺薬であるアトロピン硫酸塩を点眼することで,近見時に健眼をデフォーカスの状態にさせ,調節可能な弱視眼を優位に使用させることである.一方,遠見時には健眼が優位となるため,視距離によって固視眼の交代が生じることが本法の特徴であり,健眼が近視眼である患者や重度弱視の患者では近見で弱視眼が優位に働かず治療効果を期待しにくいと考えられる.ただし,PEDIGの調査では,健眼アトロピン点眼は重度弱視にも有効であること15)や治療効果をえるうえで近見時の視力逆転や固視眼の交代は必ずしも必要ではないことが示されており16),健眼遮閉と同等の治療効果を有すると報告されている2).健眼アトロピン点眼では,治療による健眼の弱視化(reverseamblyopia)に注意を要する.これは斜視弱視に特徴的な所見とされ,治療により弱視眼の固視能力が向上し強化される一方で,健眼の固視能力が低下することで,固視に使われる眼が逆転するために生じるものと考えられている17).このような背景から,斜視弱視に対する健眼アトロピン点眼の終了時期の目安として,両眼性固視検査の有用性が報告されている.両眼性固視検査の手順と判定基準18,19)を図2に示す.長井ら20)は,遠見と近見ともに弱視眼が優先固視になった段階が終了時期として適当であるが,この段階は健眼が弱視化する直前の状態でもあるため,実際にはその段階に至る前にいったん治療を中止し,その後の経過によって治療の追加を検討するのがよいとしている.固視眼の逆転(健眼の弱視化)は健眼アトロピン点眼開始直後から点眼終了後数カ月まで,いずれのタイミングでも生じる可能性があり,4歳未満,大角度の内斜視,強い屈折異常,中等度弱視,眼鏡装用の遵守不良が危険因子として示唆されている21).3歳未満では正確な視力検査がむずかしい場合が多いため,自覚的検査が困難であっても実施可能な両眼性固視検査がCreverseamblyo-piaの早期発見に有用である.問診時から視距離に応じた固視眼の優位性や固視交代の有無を定性的に観察しておくとよい.CII弱視治療後のフォローアップ1.弱視の再発弱視治療の終了後は,弱視の再発に注意する.13歳未満の片眼弱視(不同視弱視,斜視弱視,混合弱視)を対象としたいくつかの既報をまとめると,健眼遮閉や健眼アトロピン点眼による治療後にC13.27%の症例で弱視の再発がみられている22).また,治療終了から再発に至るまでの期間は,大半の症例が治療後C2年以内に再発し,とくにC6カ月以内での発生率が高い.弱視再発の危険因子として,治療終了時の年齢が低いこと(10歳以下),治療による視力改善の程度が大きいこと,不同視と斜視の混合弱視,微小斜視弱視,弱視再発の既往があ(19)あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022C873優先固視眼右眼固視非優先固視眼遮閉左眼固視遮閉除去固視持続(+)遮閉除去固視持続(-)非優先固視眼による固視持続が可能な状態非優先固視眼による固視持続が不能な状態等級所見A:優先固視なし自発的な交代視ありB:持続良好優先固視眼での固視再開までに,以下のいずれかの状況で非優先固視眼での固視が持続する・3秒以上経過・滑動性追従眼球運動・瞬目C:わずかな持続非優先固視眼で1秒以上3秒未満の固視持続ありD:持続不可優先固視眼の遮閉除去後,固視眼が1秒未満に優先固視眼に戻る・Bは重度の優先固視なし,CとDは重度の優先固視あり.Δ・顕性斜視のない場合は,片眼に10~20の角プリズムを基底下方に置き,上下偏位を誘発することで固視眼を観察できる.図2両眼性固視検査と判定基準自然視で固視状態を確認し,交代視の有無を確認する.優先固視のある場合には固視眼を遮閉し,非固視眼による固視を促したのち,遮閉を除去した際の固視状態を観察する.治療目標は弱視眼と健眼で自発的な交代視が得られる状態である.一方で,治療に伴い弱視眼が重度の優先固視眼となった場合には健眼の弱視化に注意を要する.(文献C18,19を参考に作成)—

治療用眼鏡の作製とフォロー

2022年7月31日 日曜日

治療用眼鏡の作製とフォローPrescriptionofTherapeuticEyeglassesandSubsequentFollow-Up四宮加容*はじめに弱視の治療において,屈折矯正は基本である.小児では調節力が強いため,調節麻痺下の屈折検査が欠かせない.必要な時期に適切な眼鏡を作製し,日常的に正しく装用できるようサポートする.本稿では,小児への治療用眼鏡処方の方法とコツ,その後のフォローについて述べる.I調節麻痺薬弱視の診療では正確な屈折検査が必要であり,調節力の強い小児では調節麻痺薬を使用する.調節麻痺薬は毛様体筋に働き調節麻痺を起こす.アトロピン硫酸塩(日点アトロピン点眼液1%)とシクロペントラート塩酸塩(サイプレジン1%点眼液)があり,アトロピンのほうが強力で0.34~0.79D遠視よりの屈折値が検出される1,2).それぞれの特徴を表1に示す.副作用として,アトロピンでは顔面の紅潮,発熱,頻脈,口渇などの抗コリン作用がある.シクロペントラートでは,頻脈,口渇のほか,幻覚や運動失調がみられることがあり,帰宅後も数時間の観察を指導する.どちらも副作用予防のため点眼後に1分以上の涙.部圧迫を指示している.当院では,内斜視にはアトロピンを,弱視症例や学童期以降の内斜視にはシクロペントラートを使用している.眼鏡処方までの流れを図1に示す.表1調節麻痺薬アトロピンシクロペントラート使用方法1日2回5~7日間5分ごと2回点眼1時間後測定回復まで2~3週間1~2日副作用顔面紅潮,発熱,頻脈,口渇頻脈,口渇,幻覚,運動失調II眼鏡処方の目安年齢相当の視力発達がなければ弱視を疑う.ただし,小児は視力検査を上手にできない場合もあり,自覚的な視力検査が不良なだけでは眼鏡処方が必要かどうか判断に迷うことがある.米国小児眼科学会では小児の眼鏡処方のガイドラインを示している(表2)3).調節麻痺下屈折検査で,この値を超える屈折異常がある場合は眼鏡処方を検討する.III眼鏡処方から作製までの流れ1.レンズ度数の決定調節麻痺下の屈折検査をもとにレンズ度数を決定する.遠視の場合,球面レンズは内斜視なら完全矯正,それ以外は生理的調節分の0.5D程度を引いて処方する.学童期になると完全矯正では眼鏡での遠方視力が落ちて装用したがらなくなる.その場合は,眼位が崩れないことを確認しながら遠見視力が出るところまで遠視度数を弱める.1~1.5D程度の低矯正まで許容できるといわれ*KayoShinomiya:徳島大学大学院医歯薬研究部眼科学分野〔別刷請求先〕四宮加容:〒770-8503徳島市蔵本町3-18-15徳島大学大学院医歯薬研究部眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(9)863図1眼鏡処方の流れ内斜視の乳幼児に対し,初診時は治療を急ぐ眼底疾患がないかをチェックするためにミドリンP(トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼液)で散瞳検査を行う.後日アトロピン下での屈折検査を行う.表2米国小児眼科学会による小児の眼鏡処方のガイドライン(単位:D)1歳未満1歳2歳3歳不同視なし近視遠視(斜視なし)遠視(内斜視あり)乱視≧5.00≧6.00≧2.00≧3.00≧4.00≧5.00≧2.00≧2.50≧3.00≧4.50≧1.50≧2.00≧2.50≧3.50≧1.50≧1.50不同視あり(斜視なし)★近視遠視乱視≧4.00≧2.50≧2.50≧3.00≧2.00≧2.00≧3.00≧1.50≧2.00≧2.50≧1.50≧1.50★これ以上の不同視差があれば眼鏡処方を行う.斜視がある場合はもっと低い値でも眼鏡処方を行う.(https://www.aao.org/preferred-practice-pattern/pediatric-eye-evaluations-ppp-2017)図4レンズの外径指定上は小児用眼鏡枠.大人に使用する通常のレンズ(直径65Cmm)の大きさは必要ない.処方箋に「外径指定」と書くと,眼鏡枠に合うなるべく小さい直径のレンズ(今回はC50mm)を使用してくれる.図5眼鏡作製時の説明書視能訓練士がチェックリストに沿って説明する図6眼鏡フレームの選択顔幅と眼鏡の幅が同じくらいのフレームを選ぶ.a:適切.Cb:顔に対してフレームが大きすぎる.図7フィッティング良好例a:眼鏡フレームのサイズが適切である.b:テンプル(つる)の長さが適切である.Cc:頂点間距離(眼とレンズの距離:)がC12Cmmで適切である.Cd:モダン(耳かけ)は耳介のカーブに沿っている.図8フィッティング不良例a:本来の正しい眼鏡位置.Cb:下方にずれた位置で装用していた.Cc:頂点間距離()が長すぎる.眼鏡と顔が平行でない.Cd:眼鏡を確認するとテンプルのゆがみ,鼻パットの位置ずれがあった.眼鏡店で修正してもらう.

健診で発見された弱視のフォローアップ

2022年7月31日 日曜日

健診で発見された弱視のフォローアップFollow-UpofAmblyopiaFoundinHealthExamination清水ふき*I視機能の発達と弱視ヒトにおける正常な視機能の発達は出生直後から始まる.新生児では瞳孔の対光反射や光刺激に対するまばたきがみられ,視力は0.02程度と推測される.その後,生後1カ月~1カ月半くらいで両親の顔を見つめることが可能になり,6カ月で0.1,1歳で0.2~0.3,2歳で0.6,3歳でほぼ1.0に達するといわれている.ヒトの視覚の感受性は,出生直後は低く,生後1カ月頃から生後18カ月頃がもっとも高く,その後徐々に減衰し,大体8歳ころまで残存すると考えられている1)(図1).この感受性期にさまざまな原因で視覚環境が損なわれると,脳や眼球に器質的な異常がないにもかかわらず十分な視力が得られない弱視が生じることになる.弱視は,両眼性の場合は「年齢相応の視力がないこと」,片眼性は「視力の左右差が二段階以上あること」で診断される.「年齢相応の視力」の定義はむずかしいが,健診における基準の3歳6カ月児で0.5,6歳児で1.0で判断されることが多い.また,ここでいう二段階以上の差とはわが国で広く用いられている小数視力ではなく,分数視力であることに注意が必要である.感受性期にできるだけ早く弱視を発見し,その原因を除去し良好な視覚環境を整えることができれば視力の発達は促され,弱視を治療することができる.一方で,この時期に適切な治療が行われないと生涯にわたって視力が不良となってしまう.弱視は,原因によって形態覚遮断弱視,斜視弱視,屈折異常弱視,不同視弱視の四つに分類される.不同視弱視,屈折異常弱視では当然のことながら,形態覚遮断弱視,斜視弱視においても屈折異常を合併していることが少なくない.そのため,いずれの弱視においても,屈折矯正と必要に応じた健眼遮閉やペナリゼーション法が治療の中心となる.先天白内障や先天眼瞼下垂などで生じた形態覚遮断弱視に対しては,原因疾患の治療が優先される.II眼科健診小児は自分で見えにくさを訴えることがないうえ,日常生活で保護者が気づくこともまれである(とくに片眼弱視の場合は気づきにくい).そのため,弱視を発見する機会として,乳児健診,三歳児健診,就学時健診および幼稚園や保育園で行われる眼科健診が重要である.なかでもLandolt環単独視標(字ひとつ視力表)による視力検査が可能となり,また視覚の感受性が減衰してくる3歳時に行われる三歳児健診は,弱視の発見において重要な役割を果たしている.ただし,三歳児健診の実施時期は自治体によって異なり,早いと3歳0~2カ月頃に行われる場合もある.字ひとつ視力表による視力検査は3歳0カ月で73%,3歳6カ月では95%で検査可能との報告2)があり,三歳児健診の実施時期によっては検査不能となってしまう児の割合が増えるため注意が必要である.三歳児健診では,一次検査として家庭で保護者による*FukiShimizu:金沢大学附属病院眼科,ふき眼科クリニック〔別刷請求先〕清水ふき:〒926-0821石川県七尾市国分町ラ部13-9ふき眼科クリニック0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)857感受性の強さ03182430カ月8歳月齢図1視覚の感受性期と視力の発達図2三歳児健診の流れ図3眼科受診後のフローチャート表1調節麻痺薬の比較点眼回数作用が続く期間作用がなくなるまでの期間副作用アトロピン硫酸塩1日2回を5~7日間5~7日間1~2週間顔面紅潮,発熱,心悸亢進,頭痛,口渇,幻覚シクロペントラート塩酸塩5分おきに2,3回45~60分1~2日間眠気,幻覚,運動失調図4調節麻痺薬点眼前後の屈折値の変化(SVS使用)上:調節麻痺薬点眼なし.下:アトロピン点眼後.表2乳幼児における屈折矯正のガイドライン屈折異常0~1歳1~2歳2~3歳3~4歳両眼性近視≧.5.0≧.4.0≧.3.0≧.2.5遠視,斜視なし≧+6.0≧+5.0≧+4.5≧+3.5遠視,斜視あり≧+3.0≧+2.0≧+1.5≧+1.5乱視≧3.0≧2.5≧2.0≧1.5不同視近視≧.4.0≧=3.0≧.3.0≧.2.5遠視≧+2.5≧+2.0≧+1.5≧+1.5乱視≧2.5≧2.0≧2.0≧1.5(文献3より引用)