間欠性外斜視の診療マネージメントManagementofIntermittentExotropia森本壮*はじめに間欠性外斜視は斜位と斜視が混在している状態であり,運動系の異常(眼位異常,輻湊不全)と感覚系の異常(両眼視機能の異常)を伴う.外斜視の顕在化による整容面の問題と両眼視機能の低下による複視やぼやけ,眼精疲労などが生じた場合1)に治療が必要となる.間欠性外斜視は斜視のなかでもっとも多く,アジアでは斜視の子どもの72%が外斜視で,そのうちの92%が間欠性外斜視である2).間欠性外斜視については,治療介入の適応,治療の最適な時期,効果的な治療法などが数多くの論文で広く議論されているにもかかわらず,依然として大きな論争がある.本稿では,さまざまな角度から間欠性外斜視の診療マネージメントについて述べる.I間欠性外斜視の病態外斜視とは片眼の視線が固視目標に向かわず外方に偏位している状態である.外斜視には間欠性と恒常性がある.間欠性外斜視は通常では正位を保っているが,疲労時や注意散漫時に外斜視が出現する状態で,外斜位と外斜視が混在する状態である(図1).一方,斜位が保てなくなり常に外斜視の状態になった場合が恒常性外斜視である.II間欠性外斜視の症状外斜視では片眼が外方に偏位することによって整容面で問題になることが多い.外方偏位は,注意散漫時,明図1間欠性外斜視正位(a)のときと外斜視(b)のときがある.るい日光の下,ストレス,疲労,病気のときなどに頻繁に起こる.明るい日光の下での一過性の片眼つむりや羞明は患者の50%以上にみられる3).乳幼児では患児からの訴えはなく,片眼の外方偏位や屋外での片眼のつぶりに保護者が気づいて発覚する.学童期になると整容上の問題に自身が気づくようになり,それ以降,整容面での問題の解決が重要となる.両眼視機能については,間欠性外斜視は外斜視のときは両眼視ができないが,正位のときは正常な両眼視機能をもち,網膜対応は正常で,立体視が良好な場合が多*TakeshiMorimoto:大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学〔別刷請求先〕森本壮:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科視覚機能形成学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(39)893い.また,乳児外斜視は,両眼視機能の発達の感受性期に正位を保てないので,その時期に眼位を矯正できない場合は両眼視機能が獲得できなくなる.10歳未満の低年齢児では複視を避けるための適応現象で斜視眼が抑制されるため複視はほとんど生じないが,10歳以上の小児では複視がおもな症状になることがある.とくに,長時間の近見作業では複視や眼精疲労が生じやすい.弱視の発生率は,間欠性外斜視の子どもでC4.5%や12.8%と報告されており4,5),小児では弱視の有無の確認が必要である.その他,斜位近視や近見時のぼやけ(調節不全)が生じることがある.C1.斜位近視斜位近視とは青年期や若年成人の間欠性外斜視で,比較的大角度の眼位ずれがあり,両眼視時に著明に近視化する状態である.著明な近視化のため像のぼやけ,強い眼精疲労を訴える.斜位近視は小児ではあまり発症せず,若年成人での発症がほとんどで,斜視角と近視化に正の相関がみられる6).C2.調節不全小角度での間欠性外斜視では,調節性輻湊や融像性輻湊により眼位が保たれることが多いが,眼位を保つために輻湊とそれに伴う輻湊性調節が行われているため,調節力の低下が生じ,近見時のぼやけや眼精疲労を生じる7).CIII間欠性外斜視の検査間欠性外斜視の重症度の評価には,斜視角の大きさ,斜視をコントロールする力,両眼視機能の指標としての立体視力が用いられる.斜視角が大きい,斜視のコントロールが悪い,立体視力が低下している,あるいはこれらの性質をあわせもつ患者は,重症と考えられる.間欠性外斜視は融像性輻湊が強いため,斜視角の定量の際には,融像性輻湊を除去して行う必要があり,交代プリズム遮閉試験(alternateCprismCcovertest:APCT)やパッチテスト(occlusiontest)が用いられる.1.APCT遮閉を交互に繰り返し融像性輻湊を除去し,潜伏性偏位を検出し定量する.間欠性外斜視の検査には有用である.斜視角の測定は遠方と近方でのプリズム遮閉試験を用いて行われる.C2.パッチテスト片眼遮閉によって融像性輻湊を除去した眼位を求める検査.APCTでの検出が不十分な間欠性外斜視では強靱な融像力(tenaciousfusion)によって実際の偏位が隠されていることが多いので,60分間片眼を遮閉して完全に融像を除去し,潜伏している偏位を検出する.その後,APCTで近見・遠見眼位の測定を行う.1時間の片眼遮閉後の遠見斜視角が,手術による矯正不足を大幅に減らすのに有用であることが報告されている8).C3.両眼視機能検査間欠性外斜視は両眼視機能が保たれていることが多い.検査としてよく行われるのが近見立体視検査で,CstereoC.ytest(図2a)などがあり,日常視に近い状態での立体視機能を定量的に評価する.その他,網膜対応検査としてCBagolini線状レンズ試験が用いられる.この検査は日常視に近い状態での網膜対応について,遠見(5Cm)および近見(33Ccm)で評価でき,プリズムとも組み合わせて眼位を矯正した状態での網膜対応を評価することができる(図2b).C4.外斜視の頻度の検査外斜視では整容面が問題となるが,間欠性外斜視では斜視と斜位が混在しているため,受診時での診察結果のみでは,眼位がどの程度制御されているかの評価が十分ではない.このため眼位の制御力を明らかにするため,CTheNewcastleControlScore(NCS)などの指標が開発されている(表1).NCSでは,親の主観的な評価(homecontrol)と客観的な評価(cliniccontrol)を組み合わせて,外斜視の整容面での重症度の評価9)だけでなく,経過観察や術後の評価にも有用である10).894あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(40)図2両眼視機能検査Stereo.ytest(Ca),Bagolini線状レンズ試験(Cb).表1NewcastleControlScore家族による観察0:外斜視/片眼つむりまったくしない1:外斜視/片眼つむり(遠見)50%未満2:外斜視/片眼つむり(遠見)50%を超える3:斜視/片眼つむり(遠見,近見)50%を超える診察室での観察(近見)0:遮閉で顕性瞬きなしで戻る1:遮閉で顕性瞬きで戻る2:遮閉で顕性戻らない3:自然に顕性診察室での観察(遠見)0:遮閉で顕性瞬きなしで戻る1:遮閉で顕性瞬きで戻る2:遮閉で顕性戻らない3:自然に顕性(著者翻訳)2.非観血的治療a.プリズム眼鏡療法外斜視では,プリズム眼鏡の装用によって輻湊努力の必要がなくなり,眼位が本来の位置に戻るようになる.それによって,近見あるいは遠見において快適な両眼視を得ることで,外斜視に伴う複視,眼精疲労,ぼやけなどを解消する.10CΔ以下の小角度の斜視に対しては組み込みのプリズム眼鏡を処方し,大角度の斜視に対してはCFresnel膜プリズムを処方する.Fresnel膜プリズムは,Fresnelレンズの原理を応用してレンズの厚さを薄くした膜プリズムでC40CΔまであり,大角度の外斜視にも対応でき,レンズに貼って使うため,斜視角の変化によって膜プリズムを取り替えることが容易である.一方,膜プリズムはのこぎり状の断面をもち,それがスジ状になっており,プリズム度数が上がるとより細かいスジとなるため,視力低下や色収差が出て外見上目立つようになる.また,コントラスト感度もプリズム度数の増加に従って低下するため,通常C30CΔ程度が限界となる.Cb.屈折異常に対する眼鏡処方近視,乱視,不同視は外斜視の悪化と関連する要因であり13),それらが原因で遠見でのぼやけが生じ融像性輻湊が起きにくくなると考えられる.そのため,適切な度数の眼鏡処方によって両眼視機能を安定させると斜視が顕在化しにくくなる.また,弱視の場合は,感覚性外斜視への進行を防ぐため,眼鏡処方に加え,弱視治療も行う必要がある.このように屈折異常を矯正することで,斜視になる頻度を減らし,眼位をコントロールすることができると考えられるが注意が必要である.近視の患者に対する完全矯正は,積極的な調節性輻湊を促進するが,遠視では,少量の遠視でも矯正すると調節性輻湊が低下し,外斜位が悪化することがあるので,患者の年齢,遠視の程度などを考慮する必要がある.Cc.マイナスレンズ療法日本ではあまり普及していないが,海外では用いられている.マイナスレンズによる過矯正負荷によって遠視化させ,調節性輻湊を誘発し,斜視角の減少や斜視の顕在化の頻度を低下させ,手術時期を遅らせることができるとされている14).マイナスレンズを用いたC5年間の追跡調査を行った前向き試験では,21人の患者のうちC52%がマイナスレンズのみで成功または良好な結果を得ていることが示されている15).しかし,自然経過と比較したランダム化比較試験はなく,過矯正の眼鏡の長期装用による装用感や調節への影響,眼精疲労などは十分に検討されていない.Cd.成人の間欠性外斜視に対する眼鏡処方成人の間欠性外斜視では,デスクワークでのパソコン作業,勉強やタブレット,スマホ視聴などの近業作業で,複視や眼精疲労,近見時のぼやけなどの症状を訴えることが多い11).また,間欠性外斜視では近見作業時の調節幅が同年齢の正常者に比べ低下しており7),近業作業を続けると疲労やぼやけが生じやすいと考えられる.一方,輻湊不全や老視による近見障害が原因の場合もある.成人の間欠性外斜視に対する眼鏡処方に際しては,屈折検査や眼位検査だけでなく,立体視力や調節力,輻湊検査などを行い,輻湊不全や近見視力障害を考慮し,処方の際に眼位矯正のためのプリズム眼鏡に加えて,中距離や近距離での視力矯正を加えた眼鏡処方が必要である.CV間欠性外斜視の手術1.手術適応間欠性外斜視の手術適応に関しては,さまざまな意見があり,明確に定義された適応条件はまだ確立していない.一般的には,斜視角の増加,斜視の頻度の増加,立体視力の低下などの外斜視の重症度と,複視,眼精疲労,整容面などが考慮される.また,術前の斜視角の定量は,内斜視と同様にプリズム順応検査(prismadapta-tiontest:PAT)を用いるほうがより精度の高い定量を行うことができる16).PATはプリズムを装用し,30分.1時間後に残余斜視角の測定と複視の有無の確認やBagolini線状レンズ試験を組み合わせて網膜対応を評価する.C2.斜視手術術式間欠性外斜視の斜視手術法として,外直筋の減弱術で896あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022(42)後転筋の減弱外直筋後転術短縮筋の強化内直筋前転術図3間欠性外斜視の手術表2間欠性外斜視の診療マネージメント初診時要治療治療方針治療内容無経過観察有非観血的治療観血的治療眼鏡装用斜視手術プリズム眼鏡屈折矯正眼鏡マイナスレンズ眼鏡両眼/片外直筋後転術/片外直筋後転-内直筋前転術両眼/片内直筋前転術とするリスクが高い23)ため,それらの患者では術後の定期的な観察が必要である.おわりに間欠性外斜視の診療マネージメントについて,病態,検査,治療介入の適応,観血的・非観血的治療法に関して述べた.これらについては依然として論争の的となっている24).間欠性外斜視で,整容上問題はなく,立体視力が保たれており,複視や眼精疲労などがない場合は,斜視手術は必要なく,そのような患者では,長期間経過しても斜視角の増大や立体視力の低下などの悪化はほとんどない.一方,斜視手術の成功率にはばらつきがあり,おおむねC70%前後であるため,手術の適応については患者の外斜視の状態を十分評価し,眼鏡装用などの非観血治療も含めて慎重に判断する必要がある(表2).文献1)JungJW,LeeSY:Acomparisonoftheclinicalcharacter-isticsCofCintermittentCexotropiaCinCchildrenCandCadults.CKoreanJOphthalmol24:96-100,C20102)ChiaCA,CRoyCL,CSeenyenL:ComitantChorizontalCstrabis-mus:anCAsianCperspective.CBrCJCOphthalmolC91:1337-1340,C20073)JenkinsR:Demographics:geographicCvariationsCinCtheCprevalenceandmanagementofexotropia.AmOrthopticJC41:82-87,C19924)MohneyCBG,CHu.akerRK:CommonCformsCofCchildhoodCexotropia.Ophthalmology110:2093-2096,C20035)SmithCK,CKabanCTJ,COrtonR:IncidenceCofCamblyopiaCinCintermittentexotropia.AmOrthopticJC45:90-96,C19956)ShimojyoCH,CKitaguchiCY,CAsonumaCSCetal:Age-relatedCchangesCofCphoriaCmyopiaCinCpatientsCwithCintermittentCexotropia.JpnJOphthalmolC53:12-17,C20097)MorimotoT,KandaH,HirotaMetal:Insu.cientaccom-modationCduringCbinocularCnearCviewingCinCeyesCwithCintermittentexotropia.JpnJOphthalmolC64:77-85,C20208)KushnerBJ:TheCdistanceCangleCtoCtargetCinCsurgeryCforCintermittentCexotropia.CArchCOphthalmolC116:189-194,C19989)HaggertyH,RichardsonS,HrisosSetal:TheNewcastlecontrolscore:aCnewCmethodCofCgradingCtheCseverityCofCintermittentCexotropia.CBrCJCOphthalmolC88:233-235,C200410)WattsCP,CTippingsCE,CAl-MadfaiH:IntermittentCexotro-898あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022pia,CovercorrectingCminusClenses,CandCtheCNewcastleCscor-ingsystem.JAAPOSC9:460-464,C200511)PediatricCEyeCDiseaseInvestigatorCGroup;WritingCCom-mittee:Three-yearobservationofchildren3to10yearsofagewithuntreatedintermittentexotropia.Ophthalmol-ogy126:1249-1260,C201912)RomanchukCKG,CDotchinCSA,CZurevinskyJ:TheCnaturalChistoryCofCsurgicallyCuntreatedCintermittentCexotropia-lookingCintoCtheCdistantCfuture.CJCAAPOSC10:225-231,C200613)TangCSM,CChanCRY,CBinCLinCSCetal:RefractiveCerrorsCandCconcomitantstrabismus:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.SciRepC6:35177,C201614)RoweCFJ,CNoonanCCP,CFreemanCGCetal:InterventionCforCintermittentdistanceexotropiawithovercorrectingminuslenses.Eye23:320-325,C200915)RoweCFJ,CNoonanCCP,CFreemanCGCetal:InterventionCforCintermittentdistanceexotropiawithovercorrectingminuslenses.Eye23:320-325,C200916)DadeyaCS,CKamlesh,CNaniwalS:UsefulnessCofCtheCpreop-erativeprismadaptationtestinpatientswithintermittentexotropia.CJPediatrCOphthalmolCStrabismusC40:85-89,C200317)WangL,WuQ,KongXetal:Comparisonofbilaterallat-eralrectusrecessionandunilateralrecessionresectionforbasicCtypeCintermittentCexotropiaCinCchildren.CBrCJCOph-thalmolC97:870-873,C201318)ChoiCJ,CChangCJW,CKimCSCetal:TheClong-termCsurvivalCanalysisCofCbilateralClateralCrectusCrecessionCversusCunilat-eralCrecession-resectionCforCintermittentCexotropia.CAmJOphthalmolC153:343-351,C201219)KimCDH,CYangCHK,CHwangJM:LongCtermCsurgicalCout-comesofunilateralrecession-resectionversusbilaterallat-eralCrectusCrecessionCinCbasic-typeCintermittentCexotropiaCinchildren.SciRepC11:19383,C202120)MaruoT,KubotaN,SakaueTetal:Intermittentexotro-piaCsurgeryCinchildren:longCtermCoutcomeCregardingCchangesinbinocularalignment.astudyof666cases.Bin-oculVisStrabismusQC16:265-270,C200121)ChiaCA,CSeenyenCL,CLongQB:SurgicalCexperiencesCwithCtwo-musclesurgeryforthetreatmentofintermittentexo-tropia.JAAPOSC10:206-211,C200622)JeoungCJW,CLeeCMJ,CHwangJM:BilateralClateralCrectusCrecessionCversusCunilateralCrecess-resectCprocedureCforCexotropiaCwithCaCdominantCeye.CAmCJCOphthalmolC141:C683-688,C200623)PinelesSL,Ela-DalmanN,ZvanskyAGetal:Long-termresultsCofCtheCsurgicalmanagementCofCintermittentCexotro-pia.CJAAPOSC14:298-304,C201024)LavrichJB:Intermittentexotropia:continuedCcontrover-siesCandCcurrentCmanagement.CCurrCOpinCOphthalmolC26:375-381,C2015(44)