‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

緑内障連絡カードを用いた患者の病識向上と他科, 薬局との連携強化

2022年6月30日 木曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(6):803.807,2022c緑内障連絡カードを用いた患者の病識向上と他科,薬局との連携強化金原左京*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科ImprovementinGlaucomaInsightandCooperationStrengtheningUsingtheGlaucomaInformationCardSakyoKanehara1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:日本眼科医会から配布された緑内障連絡カードの有効性を検討した.対象および方法:2020年12月の外来受診時に緑内障連絡カードを渡した緑内障患者2,877例のうち,2021年3月に外来受診し,アンケート調査に協力した526例を対象とした.緑内障連絡カードでは緑内障病型(開放隅角,閉塞隅角),緑内障禁忌薬の使用の可否を指示している.アンケートは①緑内障病型の認識,②緑内障禁忌薬の認識,③緑内障連絡カードを他科や薬局で提示したか,④緑内障連絡カードの評価とした.結果:診断は開放隅角497例(94.5%),閉塞隅角16例(3.0%)などだった.緑内障禁忌薬の「使用制限はありません」が98.9%だった.アンケート結果は①緑内障病型を知っていた38.8%,②禁忌薬を知っていた43.3%,③緑内障連絡カードを提示した27.0%,④緑内障連絡カードは良い51.9%,まあ良い25.7%だった.結論:緑内障連絡カードは緑内障患者の病識を向上させた可能性がある.Purpose:Toinvestigatethee.cacyoftheJapanOphthalmologistsAssociationglaucomapatientinformationcard.PatientsandMethods:2,877glaucomapatientsreceivedtheglaucomainformationcardatoutpatientclinicsinDecember2020,and526patientscompletedaquestionnaireinMay2021.Thecardindicatesadiagnosis(open-angleorangle-closure)andwhetherornotglaucomacontraindicateddrugscanbeused.Thequestionnairecon-sistedof1)recognitionoftheglaucomatype,2)recognitionofthecontraindicateddrugs,3)whetherthecardwaspresentedatotherclinicsorpharmacies,and4)evaluationofthecard.Results:Inthe526patients,theglaucomatypewasopen-anglein497(94.5%)andangle-closurein16(3.0%),and98.9%ofthepatientshadnorestrictiononthetypeofmedicationsadministered.Thepatientquestionnaire.ndingsrevealedthat38.8%knewtheglauco-matype,43.3%knewthecontraindicateddrug,27.0%hadpresentedthecard,and51.9%deemedthecardgoodwhile25.7%deemedthecardsomewhatgood.Conclusion:Useoftheglaucomainformationcardwasfoundtoimproveinsightintoglaucomaandstrengthencooperationwithotherdepartmentsand/orpharmacies.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(6):803.807,2022〕Keywords:緑内障連絡カード,閉塞隅角,開放隅角,抗コリン作用,緑内障禁忌薬.informationcardofglauco-ma,angle-closure,open-angle,anticholinergicagent,contraindicantofglaucoma.はじめに抗コリン作用や交感神経刺激作用を有する薬剤は投与することで瞳孔が散大し,隅角が閉塞し,急性緑内障発作をひき起こす危険がある.そのためこれらの薬剤は閉塞隅角患者には投与が禁忌とされている.実際に緑内障禁忌と記載のある薬剤は,精神・神経治療薬(抗不安薬など),中枢神経治療薬(抗てんかん薬・抗Parkinson病治療薬),消化性潰瘍治療薬(鎮痙薬),抗ヒスタミン薬,循環器系治療薬,排尿障害治療薬,気管支拡張薬と多岐にわたっている.しかし,薬剤添付文書では禁忌病名に緑内障とだけ記載されている場合〔別刷請求先〕金原左京:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakyoKanehara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-kuTokyo101-0062,JAPAN0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(107)803表面・裏面中面図2「緑内障連絡カード」のアンケート調査用紙図1日本眼科医会「緑内障連絡カード」が多く,開放隅角緑内障患者では投与が禁忌ではないことはあまり知られていない.患者が自分の緑内障病型を理解していれば,他科での薬剤投与の際に混乱をきたすことが少ないので,医師は患者に緑内障病型を説明している.しかし,患者が自分の緑内障病型を正確に理解することはむずかしい.そこで一部の診療所,病院では患者の緑内障病型や禁忌薬を記したカードを配布している1.4).これらのカードは統一されておらず,また地域限定であり,全国民にカードの恩恵が行き渡っていないのが問題である.そのため公益社団法人日本眼科医会では広島県眼科医会が作成した「緑内障情報連絡カード」を基にして緑内障連絡カード(図1)を2020年10月に作成し,全国の会員に配布した.今回「緑内障連絡カード」を井上眼科病院の外来を受診した緑内障患者に渡し,その効果と問題点を検討した.I対象および方法2020年12月より井上眼科病院(以下,当院)では外来受診時に緑内障患者に対して「緑内障連絡カード」を渡している.2020年12月に「緑内障連絡カード」を渡した2,877例のなかで2021年3月に外来を受診し,以下に示すアンケート調査に協力した526例を対象とした.「緑内障連絡カード」では,緑内障病型(開放隅角,閉塞隅角,その他)を提示し,緑内障禁忌薬の使用については「使用制限はありません」「抗コリン作用・交感神経刺激作用のある薬剤の使用禁止」「眼科への問い合わせ希望」を指示している.「緑内障連絡カー閉塞隅角3.0%開放隅角+その他1.0%図3「緑内障連絡カード」に記された緑内障の病型ド」の病型は,主治医の判断のもと記載した.アンケート調査の内容(図2)は,①緑内障病型を知っていたか,②緑内障の禁忌薬を知っていたか,③「緑内障連絡カード」を他科や薬局で提示したか,④「緑内障連絡カード」の評価,感想とした.さらに「緑内障連絡カード」の配布が薬剤に関する当院への問い合わせ件数に及ぼす影響を評価した.具体的には患者・家族,あるいは調剤薬局から当院への薬剤使用可否の問い合わせ件数を「緑内障連絡カード」配布前(2020年9.11月)と配布後(2021年1.3月)の各3カ月間で比較した.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.研究の趣旨と内容を患者に開示し,患者の同意を文書で得た.II結果対象患者526例の内訳は男性247例,女性279例だった.年齢は67.0±11.8歳(平均値±標準偏差),24.98歳だった.「緑内障連絡カード」に記載した緑内障の病型は,開放隅角497例(94.5%),閉塞隅角16例(3.0%),その他8例(1.5%),開放隅角+その他5例(1.0%)だった(図3).緑内障禁忌薬の使用は,「使用制限はありません」520例(98.9%),「抗コリン作用・交感神経刺激作用のある薬剤の使用禁止」5例(1.0%),「抗コリン作用・交感神経刺激作用のある薬剤の使用禁止+眼科への問い合わせ希望」1例(0.2%)だった(図4).アンケートの結果を以下に示す.問①「緑内障連絡カード」をもらう前にご自分の緑内障の病型をご存じでしたか?知っていた204例(38.8%),知らなかった317例(60.3%),その他5例(1.0%)問②「緑内障連絡カード」をもらう前に緑内障の禁忌薬についてご存じでしたか?知っていた228例(43.3%),知らなかった297例(56.5%),未回答1例(0.2%)問③他科の受診の際などに実際に「緑内障連絡カード」図4「緑内障連絡カード」に記された緑内障禁忌薬の使用を提示しましたか?提示した142例(27.0%),提示しなかった332例(63.1%),その他52例(9.9%)問③-1具体的にどこで提示されましたか?(重複あり)他科83例(58.5%),薬局83例(58.5%),その他2例(1.4%)問③-2「緑内障連絡カード」は役立ったと思いますか?役立った90例(63.4%),まあ役立った26例(18.3%),あまり役立たない4例(2.8%),役立たない3例(2.1%),その他14例(9.9%),未回答5例(3.5%)問④「緑内障連絡カード」についての評価,ご感想をお聞かせください.良い273例(51.9%),まあ良い135例(25.7%),あまり良くない7例(1.3%),良くない3例(0.6%),その他105例(20.0%),未回答3例(0.6%).感想は,評価が「良い」「まあ良い」と回答した人では,安心して処方薬が服薬できる,自分に対して安心感がある,向こうの病院の医師に伝わってよかったなどだった.評価が「あまり良くない」「良くない」と回答した人では,とくに見せても何もなかった,提示したが先生から何もいわれなかったなどだった.薬剤に対する当院への問合せ件数は,配布前は患者・家族からの問合せ53件,調剤薬局からの問合せ22件の合計75件だった.配布後は患者・家族からの問合せ47件,調剤薬局からの問合せ20件の合計67件だった.III考按緑内障禁忌薬は多数存在する.日本医薬情報センター発刊の2015版の医療用一般用医薬品集に掲載されている医薬品21,311剤中緑内障禁忌薬は1,255剤(5.9%)であった1).緑内障禁忌の理由は眼圧上昇の恐れで,作用機序として抗コリン作用を有する(77%)がもっとも多かった.閉塞隅角の患者が抗コリン作用を有する緑内障禁忌薬を投与することで眼圧が上昇,あるいは急性緑内障発作を誘発することが問題となる.しかし,原発閉塞隅角緑内障あるいは原発閉塞隅角緑内障疑い患者は日本緑内障学会が行った疫学調査では0.83%と少数である5).開放隅角緑内障患者が圧倒的に多いにもかかわらず,それらの患者が緑内障のために本来他科の治療で使用可能である抗コリン作用を有する薬剤を使用できないことが問題である.つまり患者が緑内障病型(開放隅角緑内障あるいは閉塞隅角緑内障)を知っていることは他科の治療にとっても有益である.外来通院中の緑内障患者,緑内障手術で入院した緑内障患者の緑内障禁忌薬の使用を調査した報告がある.外来通院中の閉塞隅角緑内障患者83例のうち16例(19.3%)で緑内障禁忌薬が投与されていた6).11例はレーザー虹彩切開術や線維柱帯切除術などの眼科的外科処置が行われていた.1例は失明し,眼圧は0mmHg程度だった.残りの4例のうち2例に対してレーザー虹彩切開術を行い,他の2例は内科での緑内障禁忌薬の処方を中止してもらった.緑内障手術で入院した緑内障患者のうち38例が他科での処方薬があった7).そのなかの5例(13.2%)で緑内障禁忌薬が投与されていた.2例は開放隅角緑内障で,1例は眼科で眼圧が急激に上昇しないように処置済みだった.2例は閉塞隅角緑内障で緑内障禁忌薬は手術後まで投与中止となった.今回の「緑内障連絡カード」と同様の試みは各地で行われている.具体的には投薬禁忌がある由を記載したカードと投薬禁忌がない由を記載したカード2),緑カードと赤カード3),隅角シール(「私は開放隅角です」と「私は閉塞隅角・狭隅角です」)1),「閉塞隅角緑内障,狭隅角眼の方へ」と「緑内障(経過観察を含む),高眼圧症の方へ」4)などがあり,これらのカードやシールはすべて2枚に分けられている.日本眼科医会では全国に配布するためカードはシンプルにと考えて1枚にした.今回の緑内障病型は,開放隅角94.5%,閉塞隅角3.0%で,開放隅角が圧倒的に多かった.多治見スタディでの緑内障病型は疑い症例を含むと原発開放隅角緑内障80.2%,原発閉塞隅角緑内障11.0%だった5).今回,閉塞隅角が少なかった理由として,外来受診した患者を対象としたため,原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角症疑い患者は眼科に通院していない可能性が考えられる.また,白内障手術により相対的瞳孔ブロックを解除した患者では,元来閉塞隅角であるが,臨床的には開放隅角と診断されている可能性が考えられる.今回の対象の緑内障病型は閉塞隅角が16例だったが,緑内障禁忌薬の使用の可否では「抗コリン作用,交感神経刺激作用のある薬剤の使用禁止」は6例だった.閉塞隅角でもレーザー虹彩切開術や白内障手術施行眼では「使用制限はありません」と記載されたため人数に差があったと考えられる.他科や薬局では最終的に緑内障禁忌薬の使用についてを参照していただきたいと考えている.今回のアンケート調査の結果を年代により差があるかどうかを検証する目的で,65歳以上(317例)と65歳未満(209例)で比較した(c2検定).問①緑内障病型を知っていたかについては差がなかった(p=0.1750).問②禁忌薬を知っていたかは,「知っていた」が65歳未満症例で65歳以上症例より有意に多かった(p<0.05).問③「緑内障連絡カード」を提示したかは,「提示した」が65歳以上症例で65歳未満症例より有意に多かった(p<0.001).若年・中年者のほうが禁忌薬を学ぶ機会・手段が多く,高齢者のほうが他科に受診している人が多いことが関与していると考えられる.過去の報告2)では事前に緑内障禁忌薬の知識があったのは52例(29%),今回「知っていた」と回答した患者は228例(43.3%)で,今回のほうが多かった.しかし,過去の報告2),今回ともに緑内障禁忌薬の知識は50%以下であり,診療時に眼科医が患者に緑内障の禁忌薬について重点的に説明すべきである.実際に他科や薬局で「緑内障連絡カード」を提示したのは過去の報告2)では66%,今回は27.0%だった.今回のほうが「緑内障連絡カード」を提示した患者の割合が少なかったが,過去の報告2)の対象者はカードを渡してから3カ月以上経過した症例で,今回よりも期間が長かったことが一因と考えられる.今回の「緑内障連絡カード」の提示先は他科と薬局が多く,同数だった.今後,他科や薬局での「緑内障連絡カード」の提示がさらに増加すると考えられる.「緑内障連絡カード」が役に立ったと回答したのは,過去の報告2)では56%,今回は81.7%だった.今回配布した「緑内障連絡カード」は患者に好評であった.「緑内障連絡カード」の問題点として隅角の状態が経過とともに変化する可能性があり,過去の報告では有効期限を設ける2)ことがあげられている.アンケート調査での「緑内障連絡カード」の評価として「あまり良くない」「良くない」と回答した人では提示しても反応がなかったという意見が多かった.薬局や他科への「緑内障連絡カード」の周知が今後必要と思われる.実際に笠岡市で行われた「緑内障禁忌薬投与可否カード」の運用では地元医師会で説明を行い,他科との連携が機能したと報告されている2).薬剤に対する当院への問合せ件数は,配布後に配布前に比べてやや減少傾向にあった.今回,他科や薬局で「緑内障連絡カード」を提示した患者は27.0%とまだ少なかったが,期間が長くなれば,提示する患者が増えて,薬剤に対する当院への問合せ件数はさらに減少すると予想される.もしそうなれば,患者,薬局,当院にとって有益である.今後も長期的な効果を検討する必要がある.今回,緑内障の病型と緑内障禁忌薬の使用可否を記した「緑内障連絡カード」を緑内障患者に配布した.「緑内障連絡カード」は緑内障患者の病識を向上させた可能性がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)細川由美,奥山和江,上神千里ほか:「緑内障注意」の薬剤について.当院の取り組み..日本視機能看護学会誌1:129-131,20162)永山幹夫,永山順子,東馬千佳ほか:緑内障禁忌薬投与可否カードを用いた他科連携.臨眼69:1557-1561,20153)馬場哲也:緑内障連絡カードを用いた医療連携に対するアンケート調査.香川県眼科医会報160:15-20,20214)井上賢治:第5回緑内障診療に影響する薬剤-薬剤師なら知っておきたい-薬剤性眼障害のキホン.調剤と情報26:74-78,20195)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20056)遠藤奈々,鈴木敦子,片桐歩ほか:緑内障と禁忌薬第1報当院眼科外来における緑内障患者の禁忌薬使用実態調査.新潟県厚生連医誌10:60-63,20007)村中直子,藤田美奈,川上由紀子ほか:緑内障患者における投与禁忌薬の使用実態と適正使用.医療薬学30:276-279,2004***

基礎研究コラム:61.前眼部診断AIの研究開発

2022年6月30日 木曜日

前眼部診断AIの研究開発前眼部診断AI開発はむずかしい眼科診療では眼底写真や光干渉断層撮影などを使用し,眼科医の視診によって診断を下します.すなわち,眼科は画像診断を行う診療科といえます.そのため,眼科画像を用い,機械学習を行い,診断人工知能(arti.cialintelligence:AI)を開発する研究が可能です.とくに海外では,眼底写真などの画像から眼科医のアノテーションをもとに診断CAIを開発する流れが盛んで,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性などの眼底疾患の診断を行うアルゴリズム開発が行われています1).一方,前眼部疾患に関しては世界的にも研究開発が行われていません.これは,診断CAI開発に必要な細隙灯顕微鏡で撮影された前眼部画像を,①大量に集めることが困難で,②画像規格が一定でなく,③診察方法が医師によって異なる,ことが原因としてあげられます.前眼部診断AI開発のこころみ筆者らはこの問題に対し,ポータブルに大量の前眼部画像を同一規格と診察方法で収集可能な細隙灯顕微鏡CSmartCEyeCamera(SEC)に着目しました.筆者らが開発したSECは,スマートフォンに取り付けてスマートフォンのカメラと光源を利用して前眼部の観察を行う医療機器で,①動画で撮影することでC1症例から大量の,②スマートフォンのカメラを使用することで同一規格の,③撮影方法が限られているため,同一診察方法の前眼部画像が収集可能です.SECを用い前眼部疾患診断CAI開発の可能性を検証するため,まず初めに代表的な前眼部疾患であり世界の失明原因の第一位である白内障の診断CAI開発を試みました(図1).SECを用いて撮影された大量の白内障画像を後向きに収集し,眼科専門医によるアノテーションと機械学習を行っ図1SECの使用シーンOpthalmologistOTHERNUC0清水映輔慶應義塾大学医学部眼科学教室株式会社COUIて,白内障診断CAIアルゴリズムを開発しました.1,268眼(21,306フレーム)を使用した機械学習の結果,白内障診断において感度C94.8%,特異度C95.0%を達成しました.このアルゴリズムは散瞳眼と無散瞳眼が混在しており,散瞳眼のみ(525眼)では感度C98.0%,特異度C88.3%,無散瞳眼のみ(743眼)では感度C90.4%,特異度C96.2%でした(図2).前眼部画像を用いた白内障診断CAI開発の既報は唯一中国に存在し,37,638枚の前眼部画像を学習,その感度はC92.0%,特異度はC83.9%でした2).これらの結果より,SECを用いた動画撮影による機械学習の手法は,白内障診断CAI開発に有用である可能性が示されました.また,他の前眼部疾患の診断CAI開発に関しての既報では,1枚の前眼部画像を切り抜き・反転などでC6倍に増やして学習用データとして使用しており3),本研究手法と類似しているため,動画撮影による機械学習の方法が他前眼部疾患の診断CAI開発にも有用である可能性が示唆されます.前眼部診断CAIの開発は世界的にも発展途上ですが,SECを用いた動画撮影により飛躍的に発展する可能性があります.白内障以外に,角膜疾患やドライアイ,アレルギー性結膜疾患など応用される可能性もあります.文献1)SonCJ,CShinCJY,CKimCHDCetal:DevelopmentCandCvalida-tionofdeeplearningmodelsforscreeningmultipleabnor-malC.ndingsCinCretinalCfundusCimages.COphthalmologyC127:85-94,C20202)WuCX,CHuangCY,CLiuCZCetal:UniversalCarti.cialCintelli-genceplatformforcollaborativemanagementofcataracts.BrJOphthalmolC103:1553-1560,C20193)LiZ,JiangJ,ChenKetal:PreventingcornealblindnesscausedCbyCkeratitisCusingCarti.cialCintelligence.CNatCCom-munC12:3738,C2021Non-mydriatic+Mydriaticeyes7004.7e+0225600value(95%信頼区間)500正確度0.949(0.935~0.959)400感度0.948(0.937~0.957)300特異度0.950(0.933~0.963)407.3e+02200AUC0.965(0.955~0.975)100(AUC:ROC曲線下面積)NUC0_predOTHER_predAIestiamtion図2白内障診断AIアルゴリズムの感度と特異度本研究結果はC2019年の「第C2回日本眼科CAI学会総会」で発表した.(101)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C7970910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:シリコーンオイル注入眼 に対するヤグレーザー後 囊切開術(中級編)

2022年6月30日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載229229シリコーンオイル注入眼に対するヤグレーザー後.切開術(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにシリコーンオイル(siliconeoil:SO)注入眼に生じた後発白内障に対してヤグレーザー後.切開術を施行する機会は少ないが,SO抜去の適応時期ではない場合や毛様体機能不全のため抜去困難な患者に対しては,視力改善あるいは眼底の視認性を改善する目的で適応となることがある.C●症例提示症例C1:40歳,女性.左眼のアトピー性網膜.離に対して複数回の硝子体手術を施行し,SO下で網膜は復位していたが,後発白内障が進行し眼底の視認性が低下した.眼底の再増殖,再.離の有無を確認するためにヤグレーザー後.切開術を施行した.術中に発生した気泡および後.破片がCSOにトラップされて移動せず,視認性の確保に苦慮した.出力C0.7~0.9CmJでC120発の照射数を要したにもかかわらず,切開部位を大きくすることが困難であった(図1).術後,矯正視力は眼前手動弁からC0.01とやや改善を認めたが,本人のCSO抜去の希望はなく経過観察にとどめている.症例C2:44歳,女性.左眼の全身性エリテマトーデス網膜症と多発性後極部網膜色素上皮症による続発網膜.離に対して複数回の硝子体手術を施行し,SOタンポナーデで網膜は復位したが,後発白内障が進行したためヤグレーザー後.切開術を施行した.0.7CmJで約C100発施行したが,症例C1と同様,気泡や後.の破片が移動せず,術終了時には混濁が残存した.2日後には気泡および後.の破片は移動し,やや範囲は狭いが瞳孔中央部の混濁は軽減した(図2).眼底の視認性はやや改善したが,黄斑浮腫のため矯正視力はC0.04にとどまった.C●SO注入眼に対するヤグレーザー後.切開術の問題点DietleinらはC5眼のCSO注入眼に対してヤグレーザー後.切開術を施行し,後.切開に要するパワーが大きく,3眼は後.切開が完遂できず,2眼でC2カ月後に後(99)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1症例1の細隙灯顕微鏡写真(a:術前,b:術後)術中に発生した気泡や後.の破片がCSOにトラップされて移動せず,視認性の確保に苦慮した.多数の照射を要したにもかかわらず十分な切開範囲が得られなかった.図2症例2の細隙灯顕微鏡写真(a:術前,b:術直後,c:術2日後)術終了時には混濁が残存したがC2日後には気泡および後.の破片は移動し,やや範囲は狭いが瞳孔中央部の混濁は軽減した.発白内障の再発が生じたと報告している1).SO注入眼ではCSOの界面張力で後.が後方から圧迫されているため,眼内レンズと後.の間隙がほとんどなく,ヤグレーザーの焦点を正確に合わせないと眼内レンズにクラックが生じやすい.また,術中に発生した気泡や後.の破片がCSOにトラップされて移動しにくく,切開に要する出力が大きくなりがちである.通常,2~3日で気泡は上方に,後.の破片は下方に移動することが多いが,1回で十分な切開範囲が得られず,複数回の施行を余儀なくされることもある.また,切開が大きいと前房内にCSOが脱出する危険性がある.SO眼に対してヤグレーザー後.切開術を施行する際には,上記のことを念頭においたうえで慎重に行う必要がある.文献1)DietleinCTS,CLukeCC,CJacobiCPCCetal:Neodymium:YAGClaserCcapsulotomyCinCvitrectomizedCpseudophakicCeyesCwithCpersistentCendotamponade.CJCCataractCRefractCSurgC29:2385-2389,C2003あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C795

考える手術:Minimally Invasive Glaucoma Surgery(MIGS): マイクロフックを用いたab interno トラベクロトミー

2022年6月30日 木曜日

考える手術⑥監修松井良諭・奥村直毅MinimallyInvasiveGlaucomaSurgery(MIGS):マイクロフックを用いたabinternoトラベクロトミー徳田直人聖マリアンナ医科大学眼科学教室緑内障手術の目的はただ一つ,「眼圧を下げること」である.手術で眼圧を下げる方法は大きく濾過手術と流出路再建術の二つに分けられる.この二つの術式の特徴を一言で説明するならば,濾過手術は「ハイリスク,ハイリターン」,流出路再建術は「ローリスク,ローリターン」となる.つまり,濾過手術は「眼圧はよく下がるものの,合併症が心配な術式」であり,流出路再建術は「合併症のリスクは少ないものの,眼圧の下がりは濾過手術にはかなわない」ということである.目標眼圧を低く設定せざるをえない進行した緑内障には濾過手術が必けられ,眼内法は結膜切開も縫合もほとんどないため,低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasurgery:MIGS)とよばれている.本稿では眼内法として谷戸氏abinternoトラベクロトミーマイクロフック(μフック)を用いた術式(μLOT)を紹介する.μLOTを行ううえでもっとも重要なポイントは「視認性」である.手術用隅角鏡と顕微鏡を駆使することで視認性は向上する.μLOTを行うにあたり,白内障手術創口ではなくサイドポートからμフックを挿入すること,そしてμフックは創口を支点にして動かすことを意識することより,前房内から粘弾性物質を漏らさず,高い視認性を維持したまま線維柱帯を切開することができる.また,μLOTは白内障手術と同時に行うことができることも利点としてあげられるが,その際には,はじめに前.切開を行い,そのあとにμLOT,そして水晶体摘出の順で行うことで,μLOT時により高い視認性を得ることができる.聞き手:μLOTを行うにあたり,重要なポイントはなMIGSでは太刀打ちできない緑内障病型があるというこんでしょうか?とです.徳田:MIGSの重要なポイントをあげるとしたら,①適応,②視認性,③術後管理です.適応については,聞き手:それはどの緑内障病型ですか?MIGSが「ローリスク,ローリターン」な緑内障術式で徳田:血管新生緑内障は術後激しい前房出血を起こす可あることを忘れてはいけないと思います.緑内障術式は能性が高く,MIGSの適応にはなりません.また,ぶど病期,病型,そして患者背景を考慮して決めますが,こう膜炎続発緑内障にも効果があったとする論文もあるよの中で私が一番重要と考えるのが「病型」です.つまりうですが,予後の観点から選択すべきではないと考えま(97)あたらしい眼科Vol.39,No.6,20227930910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術す.過去の手術などが原因で無硝子体眼になった眼の続発緑内障にも効果が薄いと考えています.聞き手:ではそれ以外の緑内障病型はMIGSの適応になり得るということでしょうか?徳田:そこで重要になってくるのが病期と患者背景です.たとえば,開放隅角で緑内障点眼薬を複数使用している高齢者に対して白内障手術を行う際にMIGSを同時に行うことは,術後に緑内障点眼薬を減らすことができる可能性もあるのでよい適応といえるでしょう.聞き手:白内障手術とμLOTの相性はどうでしょう.徳田:白内障手術により隅角が開大し,術中に前房洗浄できることなどから,μLOTをMIGS白内障手術との相性はよいといえます.聞き手:白内障手術とμLOTを同時に行うに際して重要なポイントはなんでしょうか?徳田:手術の順番と考えています.つまり白内障手術を行ったのちにμLOTをするのか,それともμLOTをしてから白内障手術をするのか,ということです.前者の場合,水晶体摘出により前房隅角が開大し,その後アセチルコリン塩化物であるオビソートを前房内に注入(適用外使用)し,縮瞳させてからμLOTを行うため,理論上ではこの順番がよいのですが,私はあえて後者をお勧めします.μLOTの重要なポイントは「視認性」です.手術用隅角鏡を使用する手術では角膜を通して隅角を観察します.より角膜がクリアな状態でμLOTを行うためには,水晶体摘出の前にμLOTを行うほうが優れていると思います.緑内障を併発している白内障症例では,「浅前房,散瞳不良,Zinn小帯脆弱」といった「難治白内障3拍子」がそろっていることも多く,白内障手術の際に角膜にかかるストレスも多くなりがちです.このような症例の水晶体摘出後の角膜は多かれ少なかれ視認性が落ちてしまうので,そのような状態になる前にμLOTを施行しておくことがよいと考えます.聞き手:μLOTを白内障手術よりも先に行うということは散瞳状態でμLOTを行う,ということですか?徳田:理論上,散瞳時のほうが隅角は狭くなり隅角の観察がしにくくなりそうですが,正しい手術用隅角鏡の使用法で行えば通常は散瞳下でも線維柱帯を同定できます.ただしμLOT時は水晶体前.への注意が向かなくなるため,前.切開は先に終わらせておきたいです.聞き手:μLOTを行う際に使用する眼粘弾剤にはこだ794あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022わりはありますか?徳田:前房内操作をするので角膜内皮細胞を保護する目的で分散型(ビスコート)を,前房形成を良好に保つために凝集型(高分子量のヒアルロン酸ナトリウム:ヒーロン)の眼粘弾剤を使用します.前.切開の際にこの二つの眼粘弾剤を使用しています.聞き手:正しい手術用隅角鏡の使用法とはどのようなものでしょうか?徳田:手術用隅角鏡はプリズムレンズです.プリズムレンズでは分厚い基底の方向に光が曲がります.手術用隅角鏡を眺めてみると,どうしたら上手に手術用隅角鏡が使えるのか見えてきます.プリズムレンズの基底部を見えるようにすればより光が曲げられるわけですから,頭位は術者の反対側に向け,手術用顕微鏡は手前にあおる必要があります.顕微鏡を手前にあおると,同時に鏡筒が下がるため椅子の高さを下げるとよいです.聞き手:線維柱帯切開について教えてください.徳田:まず眼圧が保たれていることを確認します.眼粘弾剤が抜けると眼圧が低くなりますので,手術用隅角鏡を角膜に載せると角膜に皺がより,良好な視認性が得られません.必要に応じて眼粘弾剤の追加を検討すべきでしょう.サイドポートからμフックを前房内の中心部を越えたところまで挿入し,その時点で手術用隅角鏡を載せます.強膜岬の上に存在する線維柱帯をμフックで切開していきますが,その際,「μフックは創口を支点にして動かす」ということが重要です.これができないと創口から眼粘弾剤が漏れ,眼圧が保てなくなります.線維柱帯を切開する際にμフックをあまり奥に入れず,軽い抵抗を感じつつ手前に引くイメージで切開していくことで,Schlemm管の奥にある強膜まで切ってしまうことを防ぐことができます.聞き手:他に重要なポイントはありますか?徳田:「いかに術後に前房出血を残さないか」ということです.線維柱帯切開術ですから術中,術後の前房出血は必発ですが,術後にニボーを生じるような前房出血ではかなり高率に一過性眼圧上昇をきたすため,前房出血は避けたい術後合併症です.術後前房出血を生じさせない重要なポイントは「手術終了時に眼圧を上げ圧迫止血してから開瞼器を外す」ことです.原始的な方法ですが,これで術後前房出血は非常に少なくなります.眼圧を下げる手術をしたはずなのに逆に眼圧が上がってしまうことがないように気をつける必要があると思います.(98)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性:トリアムシノロン併用ブロルシズマブ硝子体内注射

2022年6月30日 木曜日

●連載120監修=安川力髙橋寛二100加齢黄斑変性:トリアムシノロン併用木許賢一大分大学医学部眼科学講座ブロルシズマブ硝子体内注射ブロルシズマブは非常に良好な滲出液の抑制効果(.uidコントロール)を示すが,投与後の眼内炎症がC10%以上の患者に発症し,臨床上無視できない.既存の薬剤で鎮静化できない難治例に対して,ブロルシズマブを使用したいが眼内炎症の発症を危惧して躊躇する場合は,予防的にトリアムシノロンを併用するのも選択肢の一つである.トリアムシノロン併用ブロルシズマブ硝子体内注射滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)治療において網膜下滲出液,網膜色素上皮.離(pigmentCepithelialdetachment:PED)および網膜内滲出液のC.uidの有無は維持期における再治療の判断基準となる重要な所見である.未治療のCAMD患者を対象にブロルシズマブのアフリベルセプトに対する非劣図1ブロルシズマブ硝子体内注射後の網膜血管炎・動脈閉塞例(57歳,男性)a:広角眼底写真.動脈の白鞘化が後極部から周辺にわたって散在する().周辺部では静脈閉塞もみられる.視力は投与前の(0.5)から(0.05)に低下した.Cb:蛍光眼底造影写真の後期像(11分C23秒).左はフルオレセイン蛍光造影.右はインドシアニングリーン蛍光造影で動脈閉塞部位がよくわかる.性を検証したCHAWK/HARRIER試験において,ブロルシズマブはアフリベルセプトより優れたC.uidコントロールをもたらすことが示された1).難渋するCAMD治療に対する切札として大きな期待とともに登場したブロルシズマブであるが,良好なC.uidコントロールと同時に,投与後に眼内炎症,網膜血管炎,網膜血管閉塞を生じるケースがあることが判明し,このため現状ではブロルシズマブの使用を躊躇する医師も少なくない.ノバルティス社が設置した外部の安全性評価委員会の報告によると,HAWK試験での日本人の発現割合は眼内炎症12.9%,眼内炎症+網膜血管炎C9.9%,眼内炎症+網膜血管炎+網膜血管閉塞C5.0%であり2),日本人で発現頻度が高い傾向にあった.日本での市販後の報告をみても臨床上無視できないC10数%の眼内炎症が発症し3),な図2図1の症例の後極カラー写真と光干渉断層計(OCT)像a:カラー写真.動脈の分節状の白鞘化がよくわかる.広角写真だけでは見逃すため,しっかり通常の眼底写真による観察も必要である.Cb:近赤外線画像.Cc:bの近赤外線画像で示すスキャン部位のCOCT画像.動脈に沿ってスキャンすると分節状の動脈壁高反射が描出される.(95)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C7910910-1810/22/\100/頁/JCOPYかには血管閉塞による重篤な視力低下をきたす例も散見される(図1,2).眼内炎症の発症機序として,投与後に誘導される自己抗体の関与や,非常に強力なCVEGF阻害による網膜血管内皮障害などが考えられているが,十分な解明にはほど遠い.糖尿病や血管炎などの全身疾患,ぶどう膜炎などの炎症性眼疾患の既往,自己免疫疾患など,ブロルシズマブ投与に関して事前に留意すべき患者群はあるが,なかなか予測できるものではない.眼内炎症発症後の対処に関してはステロイド点眼,トリアムシノロンアセトニドのCTenon.下投与(sub-TenonC’sCtriamcinoloneCacetonideinjection:STTA)あるいは硝子体内注射,ステロイド内服などを眼内炎症の程度により使い分ける.ステロイドに対する反応性は非常に良好である4).重篤な動脈閉塞に至ってしまう前に炎症の早期発見に努め,視機能へのダメージを軽減することが重要であるが,そうはいっても一人では容易に受診できない患者や頻回に受診できない遠方の患者に対しての慎重な判断も必要になり,従来の治療薬のような投与スタイルとはならない.このような背景から予防的な対応が望まれ,適用外使用であるものの,ブロルシズマブ硝子体内注射時にSTTAを併用しようとする流れは自然に思われる.筆者の施設では現在までC30例程度CSTTA併用ブロルシズC792あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022図3難治性AMDへのトリアムシノロンアセトニドTenon.下投与(STTA)併用ブロルシズマブ硝子体内注射(IVBr)症例(81歳,男性)アフリベルセプト硝子体内注射をC8カ月連続投与後も大きなCPEDはまったく反応しなかった.LV=(0.8).初回STTA併用CIVBrを施行し,以後CIVBrを単独でC2回追加したところ,PEDは徐々に消退しCLV=(1.0)となった.12週後も再発がなかった.経過中眼内炎症はみられていない.マブ硝子体内注射を行っているが,導入期に眼内炎症を生じたケースはない.しかし,長期にわたる治療であるため,維持期のC3~4カ月ごとにブロルシズマブ硝子体内注射が必要になった場合,全患者に毎回CSTTAを併用できるか否かという問題は残る.頻回のCSTTA治療による白内障の進行,眼圧上昇,眼瞼下垂,真菌感染などにも当然留意が必要になってくる.現状での使用機会としては,既存の薬剤ではどうしても鎮静化できない難治症例(図3)に対しては積極的に行ってもよいのではないかと考える.文献1)DugelCPU,CKohCA,COguraCYCetal:HAWKCandCHARRI-ER:Phase3,multicenter,randomized,double-maskedtri-alsCofCbrolucizumabCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.OphthalmologyC127:172-184,C20202)MonesCJ,CSrivastavaCSK,CJa.eCGJCetal:RiskCofCin.amma-tion,retinalvasculitisandretinalocclusion-relatedeventswithbrolucizumab:posthocreviewofHAWKandHAR-RIER.OphthalmologyC128:1050-1059,C20213)MatsumotoH,HoshinoJ,MukaiRetal:Short-termout-comesCofCintravitrealCbrolucizumabCforCtreatment-naiveCneovascularage-relatedmaculardegenerationwithtype1choroidalneovascularizationincludingpolypoidalchoroidalvasculopathy.SciRepC11:6759,C20214)KataokaK,HoriguchiE,KawanoKetal:Threecasesofbrolucizumab-associatedCretinalCvasculitisCtreatedCwithCsystemicandlocalsteroidtherapy.JpnJOphthalmolC65:C199-207,C2021(96)

緑内障:マイクロパルス経強膜的毛様体光凝固術

2022年6月30日 木曜日

●連載264監修=福地健郎中野匡264.マイクロパルス経強膜的毛様体光凝固術藤代貴志東京大学医学部附属病院眼科わが国においてもC2017年から半導体レーザー装置CCYCLOG6を用いたマイクロパルス経強膜的毛様体光凝固による治療が行われるようになった.最近では,海外や日本からも良好な治療成績が報告されており,新しい緑内障治療として注目されている.●MP.CPCの治療の原理マイクロパルス経強膜的毛様体光凝固(micropulsecyclophotocoagulation:MP-CPC)は,連続波経強膜的毛様体光凝固(continuousCwaveCcyclophotocoagula-tion:CW-CPC)と同様に半導体レーザー装置CCYCLOG6(IRIDEX社製)を用いて行う(図1).CYCLOG6は810Cnmの赤外線光を照射するレーザー装置で,専用のP3プローブを接続することにより,経強膜的に毛様体扁平部へのレーザー照射を行う.CW-CPCとCMP-CPCの照射のイメージの比較を図2に示す.従来の連続波によるレーザー発振は,フットスイッチをオンにすることで,連続的に一定のパワーのレーザーが照射されるが,新しいマイクロパルスの技術は,レーザー発振のCONとCOFFを極短時間に制御してマイクロパルス秒でのレーザー発振を行うものであり,0.5Cmsの照射とC1.1Cmsの照射休止時間を交互に行いながらレーザー発振を行う.この新しいマイクロパルスの技術によって,組織への熱の蓄積を防ぐことが可能となり,組織侵襲を少なくすることが可能になった.CW-CPCとCMP-CPCの照射条件などの比較を図3に図1半導体レーザー装置CYCLOG6(IRIDEX社製)本体とブローブ(手前がマイクロパルス用のCP3プローブ,奥が連続波用プローブ).(トーメーコーポレーション提供)示す.まず用いるプローブが異なり,CW-CPCではCGプローブ,MP-CPCではCP3プローブである.プローブの向き,当てる場所は,CW-CPCでは眼球の視軸と平行で毛様体皺襞部であるが,MP-CPCでは眼球の垂線方向で,毛様体扁平部となる.照射のパワー,範囲については,CW-CPCではC2,000CmW,2Csec程度で,照射時にポップ音が出るくらいに照射するとされ,眼球結膜に対して,点状に照射してく.一方,MP-CPCでは出力C2,000CmWで,上半球C4往復,下半球にC4往復,それぞれC80秒(片道C10秒),合計C160秒間連続的に照射を行い,これが大きな違いとなる.レーザー治療の効果に対する作用機序は,CW-CPCでは毛様体の熱凝固による破壊の結果生じる房水産生の抑制であるが,MP-CPCでは毛様体を刺激することによるぶどう膜強膜流出促進であるとされている.合併症は,CW-CPCでは重篤な合併症が多く眼球勞も発症することがあるが,MP-CPCでは重篤な合併症はほぼないとされている.C●当院におけるMP.CPCの治療手順<治療前>①前投薬はとくに行わず,処置室にて仰臥位になってもらい,原則,日帰りで加療を行う.Cab図2連続波(CW)とマイクロパルス(MP)の出力時間の模式図a:従来のCCWによるレーザー発振は,フットスイッチをオンにすることで,連続的に一定のパワーのレーザー照射される.右Cb:新しいCMPは,レーザー発振のCONとCOFFを極短時間に制御して,マイクロパルス秒でのレーザー発振を行う.(トーメーコーポレーション提供)(93)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C7890910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3CW.CPCとMP.CPCの比較(トーメーコーポレーション提供)②麻酔は球後麻酔(2%キシロカイン,4~5Cml)もしくはCTenon.下麻酔(2%キシロカイン,4~5Cml)を行う.Tenon.下麻酔は,疼痛の程度に応じて眼球の上方と下方のどちらか,もしくは両方に行っている.③患者の眼瞼の状態に応じて開瞼器を使用したほうが照射しやすい場合と,使用しない方が照射しやすい場合がある.そのため,術者がやりやすいほうを選択している.④照射する直前と上半球への照射および下半球への照射のたびに,結膜に十分にスコピゾールを滴下し,結膜とプローブ先端を濡れた状態にしておく.<治療時>①プローブの平らな面を瞼側に向け,凹みが常に角膜輪部側とする(図4a).②プローブを結膜と強膜に対して垂直に支持し,プローブ端と角膜輪部との間に強膜を視認できるよう約1Cmmの距離をとる(図4b)③照射によって毛様動脈の損傷のリスクがあるためC3時とC9時の位置の照射を避けて,結膜上を角膜輪部に沿って一定の速度(片道C10秒)で滑らせ照射し続ける(図4c).④眼裂が狭く,プローブを角膜輪部に沿って動かすことがむずかしい場合では,さまざまな開瞼器を準備しておき,眼球をコントロールできる綿棒,有鈎・無鈎鑷子,未熟児鈎なども使用しながら照射を行っていく.<治療後>①照射後は必要に応じて眼帯をする(球後麻酔を使用した際に眼瞼下垂が出現するために眼帯を使用することが多い).②抗炎症薬(リンデロンC0.1%など)と抗菌薬(ガチフロなど)を処方し,1日C4回で1~2週間程度点眼する.C790あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022bc陥凹側:角膜輪部側平らな面:眼瞼側図4MP.CPCの方法a:プローブ先端の拡大図.上の陥凹部分を角膜輪部側にし,平らな面を眼瞼側にする.Cb:プローブと角膜の間にC1Cmm程度の間隔(..)を作り,眼球に対して垂線の方向で照射する.Cc:毛様動脈の照射による損傷を避けるために,3時とC9時方向の照射は避ける.(トーメーコーポレーション提供)③鎮痛薬(ロキソニンC60Cmgなど)を屯用としてC3回分程度を処方する(実際に内服するのは,照射した当日の夜間に内服するかどうか程度である).④レーザー治療後は,1週間後,1カ月後に眼圧を測定する.緑内障点眼薬や内服薬は治療後も処方を継続し,治療後に眼圧の下降を確認したのちに漸減を行い,十分な眼圧の下降があれば適宜中止していく.C●まとめまだ新しい治療方法であることから,当院での治療成績を含め,既報1~5)では観察期間がまだ短く,長期成績が出せていないことや,症例数が比較的小規模な報告に限られているのが現状であり,今後,MP-CPC治療の長期の成績(眼圧,視力予後,合併症など)の報告が待たれる.MP-CPCは術後の合併症が少なく安全性が高いことから,将来的に,早期から中期の緑内障患者への治療の適応拡大が期待される.文献1)TanAM,ChockalingamM,AquinoMCetal:Micropulsetransscleraldiodelasercyclophotocoagulationinthetreat-mentCofCrefractoryCglaucoma.CClinCExpCOphthalmolC38:C266-272,C20102)AquinoCMCD,CBartonCK,CTanCAMWTCetal:MicropulseCversuscontinuouswavetransscleraldiodecyclophotocoag-ulationinrefractoryglaucoma:arandomizedexploratorystudy.ClinExpOphthalmolC43:40-46,C20153)KucharCS,CMosterCMR.CReamerCCBCetal:TreatmentCout-comesCofCmicropulseCtransscleralCcyclophotocoagulationCinCadvancedglaucoma.LasersMedSciC31:393-396,C20164)山本理紗子,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:難治性緑内障におけるマイクロパルス経強膜的毛様体凝固術の短期治療成績.あたらしい眼科36:933-936,C20195)牧野想,藤代貴志,杉本宏一郎ほか:眼虚血症候群による血管新生緑内障に対してマイクロパルス毛様体光凝固術を施行したC1例.あたらしい眼科37:989-993,C2020(94)

屈折矯正手術:前房型 Phakic IOLの長期成績

2022年6月30日 木曜日

●連載265監修=稗田牧神谷和孝265.前房型PhakicIOLの長期成績福本光樹南青山アイクリニック東京日本国内においてCphakicIOLは後房型CphakicIOLが主流となっているが,これまで多くの前房型CphakicIOLも挿入されており,日常診療で遭遇する機会もまれではない.そのため長期成績,とくに合併症について熟知しておくことは重要であると考える.C●はじめにを認めなかったが,10年時には低下を認めた(p<0.001:one-wayANOVA)(図2).角膜内皮細胞密度有水晶体眼内レンズ(phakicCinterocularlens:減少を認めたため摘出したのはC10眼(8.9%,667~P-IOL)には前房型CP-IOLの虹彩把持型CP-IOLと隅角支持型CP-IOL,後房型CP-IOLがあるが,現在国内におa自覚等価球面屈折度数(D)2.00いては後房型CP-IOLが主流となっている.1986年にWorstらによって初めて挿入された虹彩支持型CP-IOL1)はさらに改良され,Artisan(OPHTEC社)はC1997年にCEUのCCEマークを取得し,2004年には米国食品医薬品局(FDA)に認可されている.日本国内においては未承認ではあるが,これまでに約C8,000眼に対して虹彩0.00-2.00-4.00-6.00-8.00-10.00-12.00-14.00支持型CP-IOLが挿入されている.また,現在も欧州諸-16.00Pre1M6M1Y5Y10Y国ではCP-IOLの約C30%は虹彩支持型CP-IOLが挿入さ-11.30-0.17-0.13-0.06-0.23-0.37れていると推測される.P-IOLなどの屈折矯正手術を100%執刀しない眼科医も,合併症も含め長期成績を熟知してCb180%おくことは必要と考えている.●当院での術後10年の成績裸眼視力60%0.140%これまで世界中から多くのCP-IOLに対する安全性・2.98D(-19.5~-2.25D),cyl-1.28±1.21D(-6.0~0D),SE-11.30±2.90D(-21.0~-2.75D)である.有効性などについての報告がなされている2,3).今回は当院で近視性乱視に対して虹彩支持型CP-IOL挿入術を施行し,術後C10年以上経過観察できた症例について結果を報告する.対象は2001年2月~2011年12月に手術した63例112眼(男30例52眼,女33例60眼),年齢は37.9C±7.9歳(23~53歳),術前自覚屈折度数はCsph-10.66±20%0.01Pre1M6M1Y5Y10Y0%≧±1.00%74.5%83.9%88.4%82.4%60.6%UCVA0.031.081.161.201.160.97有効係数0.920.980.990.940.79100%c180%術前にレーザー虹彩切開術を施行し,虹彩支持型P-IOLであるCOPHTEC社のCArtisan(PMMA製)をC77眼(うちCtoricはC8眼)に,シリコーン製光学部とPMMA製支持部のCArti.exをC35眼(うちCtoricはC13眼)に挿入した.自覚屈折度数,裸眼視力,矯正視力の推移は良好で安定していた(図1).角膜内皮細胞密度はC5年までは低下(91)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1当院における虹彩支持型phakicIOLの長期成績a:術後のCregressionは少なく,長期に自覚等価球面度数は安定していた.Cb:裸眼視力,有効係数は良好であった.Cc:矯正視力,安全係数は良好であった.20%0.01Pre1M6M1Y5Y10Y0%≧±1.094.6%96.9%95.7%98.8%97.3%96.3%BCVA1.261.361.381.441.351.32安全係数1.111.131.151.071.04あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C787角膜内皮細胞密度はC5年以降に大幅に減少した症例を認め,角膜内皮細胞密度(個/mm2)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000***Pre1M6M1Y5Y10Y2694.52670.72852.82665.92679.32429.1図2角膜内皮細胞密度の推移角膜内皮細胞密度はC5年以降に大幅に減少した症例を認め,10年時に減少していた(*p<0.001:one-wayANOVA).C2,193Ccells/mm2)),術後C3,468.3C±943.0日(2,149~5,230日)で,うちC3眼は摘出のみ,7眼は摘出+水晶体再建術を施行した.また,白内障のため摘出+水晶体再建術を施行したのはC6眼(5.4%),術後C3,687.5C±1,741.9日(252~4,914日)であった.把持の再固定を施行したのはC14眼(12.5%),術後C2,751.9C±1,344.4日(61~4,214日)で,内訳は支持部が脱臼して再固定を施行したのは3眼(図3),把持がゆるくなり再固定を施行したのは11眼であった.治療を要する眼圧上昇や緑内障,眼内炎などの合併症は認めなかった.C●おわりに虹彩把持型CP-IOLは屈折度数などが長期的に安定しており,とくに乱視が強い場合は後房型CP-IOLのように回旋することはなく,屈折矯正手術の選択肢の一つとして習得しておきたい方法である.角膜内皮細胞密度減少,把持のゆるみ,そして脱臼などが起こるため術後経過観察は重要である.通常眼における角膜内皮細胞密度の減少については,-0.25%/年や-0.6%/年などの報告4,5)がある.筆者らの結果ではC5年目以降に約C9%の症例で大幅な減少を認め摘出が必要となった.虹彩把持型CP-IOLが角膜内皮細胞と接触することがおもな原因と考えられ,前房内の炎症やレーザー虹彩切開術による影響も示唆されている.定期検査は必須であり,その際は角膜中心部以外の角膜内皮細胞密度や前房深度を測定することが望まれる.摘出+水晶体再建術の際は,術前散瞳は通常通り施行し,専用の器具を用いて把持をはずし,そのまま継続して水晶体再建術を施行できるが,虹彩断裂や出血などの術中合併症を考慮すると挿入術経験者に依頼することが望まれる.欧州などでは現在も虹彩支持型CP-IOL挿入術がC30%C788あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022図3PhakicIOL再固定を実施した症例術後C2,831日にゴムボールが左眼に当たり,左眼視力低下を自覚し来院した.左眼の鼻側把持部分の脱臼を認めたため(Ca),再固定を施行し,その後の経過は良好である(Cb).程度施行されている.さらに+2.5D加入の屈折型多焦点CP-IOLであるCArti.exPresbyopiaが欧州や韓国では2021年C11月より導入されている.虹彩支持型CP-IOLはまた日本国内においても診察する機会が増加する可能性もある.眼科医としては後房型CP-IOLの長期成績,とくに合併症について熟知しておくことは必要であると考える.文献1)FechnerCPU,CHaubitzCI,CWichmannCWCetal:Worst-Fech-nerCbiconcaveCminusCpowerCphakicCiris-clawClens.CJRefractSurg15:93-105,C19992)TahzibCNG,CNuijtsCRM,CWuCWYCetal:Long-termCstudyCofArtisanphakicintraocularlensimplantationforthecor-rectionCofCmoderateCtohighCmyopia:ten-yearCfollow-upCresults.OphthalmologyC114:1133-1142,C20073)vanRijnGA,GaurisankarZS,IlgenfritzAPetal:Middle-andlong-termresultsafteriris-.xatedphakicintraocularlensCimplantationCinCmyopicCandChyperopicpatients:aCmeta-analysis.JCataractRefractSurg46:125-137,C20204)HigaCA,CSakaiCH,CSawaguchiCSCetal:CornealCendothelialCcellCdensityCandCassociatedCfactorsCinCaCpopulation-basedCstudyCinJapan:theCKumejimaCstudy.CAmJOphthalmolC149:794-799,C20105)BourneCWM,CNelsonCLR,CHodgeDO:CentralCcornealCendothelialCcellCchangesCoverCaCten-yearCperiod.CInvestCOphthalmolVisSci38:779-792,C1997(92)

眼内レンズ:眼瞼下垂症例では低加入度数分節 IOL固定方向が視機能に影響する

2022年6月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋427.眼瞼下垂症例では低加入度数分節IOL澤野宗顕西大宮病院眼科固定方向が視機能に影響する低加入度数分節眼内レンズ(IOL)は遠用ゾーン上方固定が一般的であるが,瞼裂狭小化による遠用ゾーン遮蔽で遠方視力に不満をもった患者を経験した.本IOL挿入眼に眼瞼下垂を合併したシミュレーションを施行したところ,特有の網膜像変化が観察された.瞼裂狭小化症例に本IOLを使用する際には注意を要する.●はじめに低加入度数分節眼内レンズ(intraocularlens:IOL)レンティスコンフォート(参天製薬)は,わが国初の保険適用多焦点IOLとして広く用いられている.光学部面積の60%を遠用ゾーン,40%を中間ゾーンとする分節型2焦点光学設計で,加入度数が+1.5Dと低加入であることからグレア・ハローが少ない1)(図1).本IOLの特徴の広い明視域を利用し,片眼を0D,僚眼を-0.5D程度に合わせたマイクロモノビジョン(micromonovi-sion:MMV)は保険診療で眼鏡なしの生活を提供する有用な手段と考えられている2).しかし,当院ではMMVの0D側に皮膚弛緩症を生じ,遠用ゾーンが遮蔽され,遠方視に不満をもった患者を経験した.そこで本IOL挿入眼に対する上眼瞼の影響を調べるため,LentVerde研究所のシミュレーションソフトを用いて検討した.●実験と結果屈折は正視,瞳孔径3mm,角膜球面収差+0.23μmの条件の下,上眼瞼遮蔽の程度別(図2)に網膜像のシミュレーションを施行した.比較対象として同条件で単焦点IOLについても解析した.以下に実験結果を示す3).図1低加入度数分節IOLの模式図と固定方向保険適用の多焦点眼内レンズ.光学部面積の60%が遠用ゾーン,残りの40%が中間ゾーンの+1.5D低加入2焦点である.実験では遠用ゾーン上方固定,下方固定,横固定の三つの固定方法で比較した.(1)遠用ゾーン上方(図3a):単焦点IOLと比較し本IOLは広い明視域を有していた.中等度では遠用ゾーンが遮蔽され遠方解像度は低下する一方,中間ゾーンのみの露出と当ゾーンへのピンホール効果により中間~近方解像度は上昇した.(2)遠用ゾーン下方(図3b):遮蔽がない条件では遠用ゾーン上方と大きな変化はなかった.中等度では中間ゾーンが遮蔽され中間~近方解像度は低下した一方,遠用ゾーンのみの露出と当ゾーンへのピンホール効果により遠方解像度が上昇した.(3)横固定(図3c):縦固定のような分節型特有の変化はないが,遮蔽によるレンズ開口面積の減少に伴い解像度が低下した.(4)単焦点レンズ(図3d):遠方の解像度が良好.遮蔽の進行に伴い解像度は低下したが影響は少なかった.●考按上方からの遮蔽における本IOLの網膜像は,①遮蔽ゾーン度数の解像度低下,②非遮蔽ゾーンへのピンホール効果による焦点深度拡張,③レンズ開口面積の減少に依存すると考えられた.実験結果から低加入度数分節型IOL特有の現象が生じたことから,本IOL挿入後の不(89)あたらしい眼科Vol.39,No.6,20227850910-1810/22/\100/頁/JCOPYa遠用ゾーン上方の結果b遠用ゾーン下方の結果上方からの遮蔽5m:遠方1m:中間50cm:近方なし(0/4)軽度(1/4)中等度(2/4)重度(3/4)図3網膜像のシミュレーション結果a:眼瞼下垂がなければ本IOLは広い明視域を有している.下垂に伴い遠用ゾーンが遮蔽され,それに伴う網膜像の変化が現れた.b:眼瞼下垂がなければ遠用ゾーン上方固定と大きな違いはみられない.下垂に伴い中間ゾーンがc横固定の結果d単焦点IOLの結果遮蔽され,それに伴う網膜像上方からの遮蔽5m:遠方1m:中間50cm:近方なし(0/4)軽度(1/4)中等度(2/4)重度(3/4)上方からの遮蔽5m:遠方1m:中間50cm:近方なし(0/4)軽度(1/4)中等度(2/4)重度(3/4)上方からの遮蔽5m:遠方1m:中間50cm:近方なし(0/4)軽度(1/4)中等度(2/4)重度(3/4)の変化が現れた.c:眼瞼下垂が進んでも,遠中両ゾーンとも完全には遮蔽されないが,レンズ開口面積の減少に伴い,解像度の低下がみられた.d:遠方解像度は良好で,眼瞼下垂による影響は少ない.(文献3より抜粋して引用)満の原因の一つに眼瞼下垂や皮膚弛緩症などの瞼裂狭小668,20192)野田徹,大沼一彦:低加入度数分節眼内レンズ光学特化の影響を考慮する必要がある.性とモノビジョンの応用.日本の眼科91:12-18,2020文献3)澤野宗顕:LS-313MF15挿入眼に対する上眼瞼の影響.日1)荒井宏幸:レンティスコンフォート.IOL&RS33:660-本白内障学会誌34,2022(印刷中)

写真:円錐角膜眼に対するハイブリッド型コンタクトレンズの応用

2022年6月30日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦457.円錐角膜眼に対するハイブリッド型細谷比左志ホワイティうめだ眼科クリニックコンタクトレンズの応用図2図1のシェーマ①レンズ中央部(HCL,RGP素材)②レンズスカート部(SCL,シリコーンハイドロゲル)③レンズ接合部図1本症例のEyebridlens装着後の前眼部OCT像角膜中央の薄くなり前方へ突出した部位(C..)が,レンズ中央のCHCL部により矯正されている.図3本症例のEyebridlens装着前の前眼部OCT像角膜中央部が菲薄化しており,前方へ突出している(C..).図4本症例の角膜形状検査結果(87)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022C7830910-1810/22/\100/頁/JCOPY円錐角膜は,角膜中央部のやや下方が徐々に薄くなり前方に突出してきて不正乱視が強くなり,眼鏡やソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)では十分な視力矯正ができず,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)による視力矯正が行われる.通常はCHCL装用により満足な視力矯正ができるケースが多い.しかし,なかにはCHCLでは異物感が強すぎたり,下方のレンズエッジの浮きが大きくなりすぎて装用できない例もある.最近,レンズ中央部がCHCLで,周辺部がCSCLで構成されたハイブリッド型コンタクトレンズ(contactlens:CL)が開発され円錐角膜眼にも装用されている1).筆者のクリニックでも円錐角膜の患者に処方したところ良好な結果を得た.図1,2はそのようなハイブリッド型CCLを円錐角膜眼に装用した状態の前眼部COCT(カシア)像である.このハイブリッド型CCLは,フランスのCLCS社からCEyebridlensという名前で販売されている.中央のCrigidpartが良好な視力を保証し,周辺のソフトスカート部が良好な装用感と安定性を保証する.中央部の直径はC8.5CmmとC10.0CmmのC2種類があり,レンズ全体の直径は両タイプともC14.9Cmmである.円錐角膜には,おもに中央部の直径がC8.5Cmmのタイプが使用される.中央部の素材はガス透過性(rigidgaspermeable:RGP)で酸素透過係数(Dk値)はC100であり,周辺のソフトスカート部の素材はシリコーンハイドロゲルでCDk値は84である.今回呈示した症例はC39歳の男性で,左眼の視力低下を主訴に受診した.細隙灯顕微鏡検査と角膜形状検査にて両眼の円錐角膜が判明.左眼のほうがその程度は強く,細隙灯顕微鏡検査にて角膜の菲薄化とCFleischerC’sringを認めた.図3は左眼のハイブリッド型CCL装用前の前眼部COCT像であり,角膜の断面像により角膜の菲薄化と前方突出の様子が非常によくわかる.図4は角膜形状検査結果である.角膜中央やや下方に屈折力の非常に強い部分がみられ,かなり進行した円錐角膜であることがわかる.初診時視力は,RV=1.5(n.c.),LV=0.03(0.4C×sph+4.25D(cly-9.0DAx110°)であった.右眼は問題なかったが,左眼は高度の不正乱視により眼鏡やCSCLでの視力矯正は不良で,今までも何度かCHCLによる視力矯正を試みたが,異物感が強く成功に至らなかった.ハイブリッド型CCLの話をすると,強く希望された.レンズ装用により(1.0)と良好な視力を得,本人も満足し,その後問題なく経過している.進行した円錐角膜では,眼鏡やCSCLによる視力矯正はできず,多くの場合CHCLによる視力矯正がなされる.しかし,異物感が強くて装用ができない患者もいる.こうした患者には大きなサイズの強膜CHCL2)や,SCLを装用した上にさらにCHCLを装用するレンズC2枚重ねのピギーバック方式を試みる場合3)もあるが,とくに後者では,患者にとりややレンズの取扱いが煩雑となり,また角膜への酸素供給が低下する懸念もある1).今回使用したハイブリッド型CCLは中央部がCHCLで円錐角膜の不正乱視を矯正でき,かつ周辺部がCSCLであるのでフィッティングは良好でレンズが安定し装用感も良好である.視力も矯正でき患者の評価も高い.専用のフルオレセイン染色液が必要である点などの問題もあるが,進行した円錐角膜に今後選択肢の一つとして試みられてよい矯正方法であると思われる.(本稿の一部は角膜カンファランス2022で発表した4))文献1)KloeckCD,CKoppenCC,CKrepsEO:ClinicalCoutcomeCofChybridCcontactClensesCinCkeratoconus.CEyeCContactCLensC47:283-287,C20212)KoppenC,KrepsEO,AnthonissenLetal:SclerallensesreduceCtheCneedCforCcornealCtransplantsCinCsevereCkerato-conus.AmJOphthalmolC185:43-47,C20183)BarnettCM,CMannisMJ:ContactClensesCinCtheCmanage-mentofkeratoconus.CorneaC30:1510-1516,C20114)細谷比左志:円錐角膜眼に対するハイブリッド型CCLによる視力矯正.角膜カンファランスC2022抄録集,p125,P140,C2022C

腫瘍性病変

2022年6月30日 木曜日

腫瘍性病変IntraocularTumors盛秀嗣*髙橋寛二*はじめに眼底の隆起性病変は網脈絡膜の滲出性変化,出血,炎症,腫瘤などによる器質性病変によって生じ,診断を行う際に必ず後眼部腫瘍を鑑別にあげる必要がある.しかし,日常診療において後眼部腫瘍に遭遇する頻度はまれであり,診療の機会が限られるために眼科腫瘍疾患に対する経験を積むことができず,確実な診断を行うことが困難となることがしばしば生じる.そのため後眼部腫瘍を疑う患者に遭遇した場合,視機能の良し悪しに関係なく,腫瘍専門施設に確定診断および治療を依頼するケースが多い.後眼部腫瘍のうち,悪性腫瘍は視機能低下のみならず患者の生命にかかわる危険性があるため,早期発見・早期治療が原則で,早急に腫瘍専門施設に患者を紹介するべきである.一方で,臨床所見のみで良性腫瘍と診断することができれば,視機能に影響を及ぼさない限り,わざわざ腫瘍専門施設に紹介せずとも自院での経過観察が可能である.後眼部腫瘍の見分け方として,①腫瘍の色調,②腫瘍の存在場所,③腫瘍の形態,④腫瘍随伴所見,の順に所見を追っていけば,おのずと腫瘍の診断を行うことができる.検眼鏡的所見,フルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影検査(indocyaninegreenangiography:IA),光干渉断層撮影(opticalcoherencetomogra-phy:OCT),光干渉断層血管撮影(OCTangiogra-phy:OCTA),CT,MRI,Bモード超音波断層など検査機器の進歩により,高画質,高画角,高深達,さらに近年は血流までも非侵襲的かつ簡便に把握することが可能となってきた.本稿では,診療現場において後眼部腫瘍を疑った場合に,診断を行ううえでが困らないように診断の流れを提示し,そのうえでそれぞれの後眼部腫瘍の疾患概念,画像所見についてレビューを行った.また,画像所見については,当院で得られた画像を中心に提示し,さらにいくつかの後眼部腫瘍については,近年話題のOCTA所見を加えた.I診断および鑑別方法後眼部腫瘍に対する診断の流れを図1に示す.フローチャートのように,色調→存在場所→形状の順に診断していく.後眼部腫瘍を疑った場合,まず観察するポイントは腫瘍の色調である.腫瘍の色調により,赤色系腫瘍,白色系腫瘍,褐色系腫瘍の三つに分けることができる.赤色系腫瘍の場合,網膜表層にあれば網膜海綿状血管腫,網膜毛細血管腫,網膜血管増殖性腫瘍,網膜蔦状血管腫が鑑別にあがり,脈絡膜にあれば脈絡膜血管腫と診断することができる.網膜表層に存在する網膜赤色系腫瘍のうち,暗赤色かつ形状がぶどうの房状であれば網膜海綿状血管腫,赤色かつ塊状であれば網膜毛細血管腫もしくは網膜血管増殖性腫瘍,赤色かつ後極部にとぐろ状の太い血管を認めれば網膜蔦状血管腫を疑う.*HidetsuguMori&KanjiTakahashi:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕盛秀嗣:〒573-1191大阪府枚方市新町2-5-1関西医科大学眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(69)765ぶどうの房状網膜海綿状血管腫眼内悪性リンパ腫脈絡膜骨腫転移性脈絡膜腫瘍図1後眼部腫瘍の診断フローチャート図2網膜海綿状血管腫の画像所見a:眼底写真.黄斑部上方にぶどうの房状の血管瘤集簇と白色線維組織を認める.b:FA像.早期(左図)では腫瘍内血管への蛍光色素が流入遅延しており,中期.後期では血漿/血球分離像を認める.c:OCT像.腫瘍表層は高輝度の反射を示し,表層付近には大小不同の血管腔構造を認める.d:OCTA像.EnfaceOCTA画像では,ぶどうの房状に血管瘤が集簇し,cross-sectionalOCTA画像では,腫瘍血管内の血流が遅いことが描出されている.(文献2より引用)表1網膜毛細血管腫孤発性続発性全身疾患の合併なしあり血管芽腫(小脳,脊髄)褐色細胞腫,腎細胞癌,膵.胞など家族歴なし常染色体優性遺伝平均発症年齢36歳18歳発生数単発多発好発部位視神経乳頭,周辺部d図3網膜毛細血管腫の画像所見a:眼底写真.眼底周辺部に拡張・蛇行した流入・流出血管を伴う赤色腫瘤を認める.b:FA像.早期には流入・流出血管の拡張・蛇行を呈し,後期には腫瘍から旺盛な蛍光漏出を認める.c:OCT像.腫瘍表層は高反射を示し,腫瘍周囲には滲出性変化と考えられる網膜内浮腫を認める.d:EnfaceOCTA像.新鮮な網膜毛細血管種の場合,高輝度塊として描出(左図)される.一方で,退縮傾向にあるグリア増殖を伴う場合,血流豊富な細血管からなる高灌流病巣(右図)として認める.(文献19より引用)図4網膜血管増殖性腫瘍の画像所見a:眼底写真.眼底周辺部に橙赤色の隆起病変として観察され,腫瘍の流入・流出血管の拡張・蛇行は認められない.また,腫瘍から滲出性変化である網膜.離や硬性白斑,出血を認める.b:FA像.腫瘍の流入・流出血管の拡張・蛇行は認められない.さらに後期には血管腫からの強い蛍光漏出を認める.c:IA像.FA像と比較して,腫瘍血管を鮮明に検出可能である.(文献19より引用)図5網膜血管増殖性腫瘍の画像所見眼底写真(a)とFA像(b)ともに,拡張した動脈と静脈の直接吻合を視神経乳頭近傍に認める.(文献20より引用)abec超早期早期後期f網目状の腫瘍血管びまん性過蛍光multi-lakelikepatternd粗大な腫瘍血管びまん性過蛍光washout脈絡膜毛細血管板層脈絡膜層図6脈絡膜血管腫の画像所見a:眼底写真.左図:孤発性脈絡膜血管腫.視神経乳頭鼻上側に橙赤色の境界明瞭な腫瘤を認める.右図:びまん性脈絡膜血管腫.黄斑部直下にサーモンピンク色の境界不明瞭な腫瘤を認める.b:Bモード超音波断層像.音響透過性が良好な腫瘤として認められる.c:FA像.早期には網目状の腫瘍血管,びまん性過蛍光を認める.後期には血管腫全体に過蛍光と低蛍光が混在するmultilakelikepatternがみられる.d:IA像.FAと同様に早期に粗大な腫瘍血管とびまん性の過蛍光を認める.後期には血管腫全体の過蛍光が減少し,周辺部で過蛍光を呈するwashout現象を認める.e:OCT像.腫瘍表層には大小血管影を認め,深層は低反射となる.腫瘍が大きくなると,腫瘍の眼底前方への圧排により,CC反射の消失,RPEラインの不整,漿液性網膜.離,網膜浮腫,網膜下点状高反射を認める.高い腫瘍厚をもつ症例では,EDIモードでもChoroid-Sclera(C-S)junctionは判別不能である.f:OCTA像.腫瘍血管()を明瞭に検出することは困難である.これは海綿状血管腫の構造上,血流が遅いことが要因と考えられる.(文献19より引用)過性が良好であるが,脈絡膜悪性黒色腫は音響空胞を認める.・FA所見(図6c)19):超早期には網目状の腫瘍血管を認め,すみやかに腫瘍全体がびまん性過蛍光となる.後期にはRPE増生による低蛍光とRPE障害によるwindowdefect,漿液性網膜.離による蛍光貯留,強い漏出による過蛍光が混在するmultilakelikepatternがみられる.・IA所見(図6d)19):FAと同様に早期には網目状腫瘍血管,以降は網目状血管からのびまん性過蛍光を示す.そして,後期にはwashout現象(=血管腫全体の過蛍光が減少し,周辺部で過蛍光を呈する)を認める.・OCT(図6e)19):脈絡膜に生じる病変であるため,深部強調画像(enhanced-depthimaging:EDI)もしくはsweptsourceOCT(SS-OCT)による撮影が望ましい.腫瘍表層には大小の血管影を認め,深層は低反射となる.血管腫が大きくなると,血管腫による眼内への圧排により脈絡膜毛細血管板反射の消失,RPEラインの不明瞭化を認める.さらに,強くRPEが障害されている部位には漿液性網膜.離を認める.また,血管腫の丈が低い場合は強膜-脈絡膜の境界であるC-Sjunctionは判別可能だが,腫瘍高が高くなるとC-Sjunctionは不明瞭化する.・OCTA(図6f)19):海綿状血管腫であるために血流が遅く,腫瘍血管を明瞭に検出することは困難である.III白色系腫瘍1.網膜星状(膠)細胞腫a.疾患概念網膜内に存在するグリア細胞のうち,星状細胞が異常増殖する良性腫瘍である.McLean7)が1937年に報告して以来,国内外でも合わせて数十症例しか報告されていない非常に珍しい,10.20歳代の若年発症の疾患である.星状細胞は視神経乳頭.後局部に多く分布していることから,傍視神経乳頭または黄斑部に生じる.結節性硬化症や神経線維腫症などの母斑症に随伴することが多いが,孤発性に発生することもある.腫瘍が増大すると漿液性網膜.離や血管新生緑内障を引き起こすことがある.b.臨床所見・眼底所見(図7a):視神経乳頭.黄斑部にかけて,桑の実状の黄白色隆起性腫瘤として観察される.古い病変では石灰化を呈することもある.・Bモード超音波断層像:網膜表面に隆起性病変として観察され,増大した腫瘍の場合は周囲に漿液性網膜.離を認める.・FA所見(図7b):超早期では豊富な腫瘍血管を同定することができる.腫瘍の活動性が増すと,早期では腫瘍からの過蛍光,後期では蛍光漏出を認める.・IA所見(図7c):FA検査における蛍光漏出の影響が少ないために腫瘍血管を比較的明瞭に描出することができ,早期から後期まで低蛍光である.・MRI:T1強調画像で等信号,T2強調画像で低信号,ガドリウム造影では増強画像を認める.2.網膜芽細胞腫a.疾患概念13番染色体長腕にあるRB1遺伝子異常により発生する小児網膜悪性腫瘍である.15,000.23,000人の新生児に1人の割合で発症(年間発症数は70.80名)し,1歳までに41%,3歳までに89%,5歳までに95%と,就学前までに大半が診断8)されている.片眼発症が67.3%を占め平均21カ月,両眼発症が32.7%を占め平均8カ月で発見8)されている.片眼発症の15%,両眼発症のすべては遺伝性網膜芽細胞腫である.受診のきっかけの半数は白色瞳孔で,ついで猫目現象(17.1%,暗いところで瞳孔が光って見える),斜視(14.8%)8)である.腫瘍が眼球内に留まっている場合,5年生存率は95%以上で眼球温存率は約50%である.治療開始後も就学前までは再発の有無,片眼症例の場合は僚眼の眼底検査などの定期検査を受ける必要がある.b.臨床所見・細隙灯顕微鏡検査(図8a):水晶体後方に迫る白色腫瘤,つまり白色瞳孔として確認される.・眼底所見(図8b):網膜に石灰化を伴う白色隆起病変として確認され,腫瘍周囲の網膜血管の拡張・蛇行を伴う.さらに,硝子体播種があれば,硝子体腔内およ(75)あたらしい眼科Vol.39,No.6,2022771図7網膜星状(膠)細胞腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭上方に桑の実状の黄白色隆起性腫瘤を認める.b:FA像.超早期に腫瘍血管を認める.c:IA像.腫瘍は低蛍光のため,FA像と比較して腫瘍血管をより鮮明に検出可能である.図8網膜芽細胞腫の画像所見a:前眼部細隙灯顕微鏡写真.水晶体後方に迫る出血を伴う白色腫瘤を認める(白色瞳孔).b:眼底写真.網膜表面と硝子体に腫瘍播種と考えられる綿花状の小腫瘤塊を認める.c:Bモード超音波断層像.半球状の腫瘤内に石灰化()による音響陰影を認める.d:CT像.両眼内に石灰化を伴う充実性腫瘤を認める.e:MRI像.右眼球内に,T1強調画像ではやや高信号,T2強調画像では低信号の充実性腫瘤を認める.(eは文献21より引用)図9網膜細胞腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭鼻側に内部に石灰化を伴う透明感のある白色腫瘤()を認める.周囲にRPE変性()とRPE萎縮()を認める.b:Bモード超音波断層像.網膜表面に石灰化による高信号()および以降の音響陰影を認める.c:FA像.腫瘍血管が乏しく,蛍光漏出を認めない.周囲にはRPE変性による過蛍光()を認める.-図10眼内悪性リンパ腫の画像所見a:眼底写真.左図:黄斑部.耳下側に癒合傾向を伴う多発性のRPE下黄白色隆起病変を認める.右図:眼底にオーロラ状の硝子体混濁を認める.b:FA像.腫瘍自身は早期から後期まで低蛍光で,RPE障害がある部位はwindowdefectによる過蛍光を認める.c:IA像.ブロックによる多発性の低蛍光病変を認める.d:OCT像.RPE下に浸潤病巣を認める.e:MRI像.T2強調画像にて,複数の高輝度の頭蓋内病変()を認める.f図11脈絡膜骨腫の画像所見a:眼底写真.左図:黄斑部.視神経乳頭間に淡い黄白色の扁平病変を認める.右図:後極部内に腫瘍を認める.中心部は色素沈着を伴う脈絡膜新生血管()を認め,周囲に脱灰巣()および石灰病巣()を認める.b:Bモード超音波断層像.網膜表面に高反射領域と以降の音響陰影()を認める.c:FA像.後期になると,腫瘍部位の過蛍光()を認める.d:IA像.早期では豊富な腫瘍血管の同定()が可能となり,後期になるとFA像と同様に過蛍光()を呈する.e:OCT像.局所的な平板状の脈絡膜肥厚()として認められる.f:OCTA像.上図のenfaceOCTA像のように腫瘍内血管が豊富であることがわかる.g:CT像.両眼ともに後極部に高輝度な扁平病変()を認める.(gは文献22より引用)図12転移性脈絡膜腫瘍の画像所見a:眼底写真.左図:原発巣は肺小細胞癌で,色素沈着を伴う黄白色隆起病変()を認める.右図:原発巣は肝細胞癌で,赤色の隆起性病変()を認め,周囲は胞状の網膜.離を伴う.b:FA像.転移性腫瘍に一致した顆粒状過蛍光()を認める.c:OCT像.RPE未満に隆起性病変()を認め,一部に漿液性網膜.離()を認める.図13網膜色素上皮肥大の画像所見a:眼底写真.網膜耳側に扁平かつ境界明瞭な円形の黒褐色病変を認め,内部には脱色素斑()を伴うb:FA像.腫瘤は低蛍光を示し,RPE障害部位はwindowdefectによる過蛍光()を認める.c:IA像.FA像と同様に腫瘤は低蛍光()を示す.d:FAF像.腫瘤は低蛍光を示す.e:OCT像.網膜は菲薄化()する.図14網膜色素上皮過誤腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭近傍に強い色素ムラと色素沈着を伴う網膜の局所的肥厚として観察される.黄斑部下方には網膜皺襞を認める.b:FA像.腫瘤の色素沈着を伴う部位は低蛍光を示し,一方でRPE障害部位はwindowdefectによる過蛍光を認める.c:OCT像.網膜は病的肥厚を認め,網膜の層構造の消失を認める.図15網膜色素上皮腺腫の画像所見a:眼底写真.中心窩耳側に黒褐色の色素性腫瘤と周囲に網膜.離と網膜皺襞を認める.Cb:Bモード超音波断層像.網膜内の高反射腫瘤を認め,脈絡膜とは分離可能である.Cc:FA像.網膜血管から腫瘤への流入血管を認め,腫瘤の中心部は低蛍光を示し,周囲は漏出による過蛍光を認める.Cd:IA像.腫瘤は腫瘤は低蛍光を示す.Ce:FAF像.腫瘤は低蛍光を示す.Cf:OCT像.網膜の急峻な隆起を認め,表層は高反射を呈する.また,網膜牽引および硝子体腔に細胞を認める.(文献C23より引用)図16網膜色素上皮腺癌の画像所見a:眼底写真.ドーム状の黒褐色腫瘤()を認め,周囲に滲出性変化である硬性白斑を認める.Cb:FA像.腫瘍の栄養血管()が網膜である.さらに,腫瘍自身は強い過蛍光を認める.c:Bモード超音波断層像.ドーム状の網膜隆起性病変()を認める(脈絡膜隆起は認めない).d:MRI像.脈絡膜悪性黒色腫と同様の所見で,T1強調画像(左図)で高信号(),T2強調画像(右図)で低信号()を示す.==図17脈絡膜悪性黒色腫の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭下方に隆起性のある黒褐色腫瘤を認める.Cb:Bモード超音波断層像.マッシュルーム状充実性腫瘤および内部は音響空胞を認める.Cc:FA像.腫瘍自体は低蛍光を呈し,一部CRPE障害のためCwindowdefectによる過蛍光を認める.d:IA像.腫瘍自体は終始低蛍光を呈する.Ce:OCT像.脈絡膜隆起性病変を認め,表層は高反射像()を示す.Cf:MRI像.T1強調画像(上図)で高信号(),T2強調画像(下図)で低信号()を認める.=図18脈絡膜母斑の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭下方に境界がやや不鮮明な色素斑()を認める.b:IA像.終始低蛍光()を認める.c:OCT像.表層は高反射で,深部はshadowingを認める().図19視神経乳頭母斑の画像所見a:眼底写真.視神経乳頭中央部に漆黒色腫瘤()を認める.腫瘍は乳頭鼻側を越え,隣接する脈絡膜に浸潤している.Cb:Bモード超音波断層像.視神経乳頭上に扁平な隆起性病変()を認める.Cc:FA像.視神経乳頭中央部の黒色色素部位はブロックされ,隣接する脈絡膜への浸潤を認める部位は後期に過蛍光を示した.Cd:OCTA像.網膜表層から脈絡膜毛細血管板に異常血管網として認める.