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Horner 症候群による片側性の眼瞼下垂を発症し 肺癌縦隔転移の診断に至った症例

2022年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科39(5):682.684,2022cHorner症候群による片側性の眼瞼下垂を発症し肺癌縦隔転移の診断に至った症例米田亜規子*1上田幸典*2外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2聖隷浜松病院眼形成眼窩外科CACaseofUnilateralPtosisCausedbyHornerSyndromethatOccurredDuetoLungCancerMetastasisAkikoYoneda1),KosukeUeda2)andChieSotozono1)1)DepartmentCofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoPrefecturalUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)SeireihamamatsuGeneralHospitalOphthalmicPlasticandReconstructiveSurgeryC目的:Horner症候群は片側性の眼瞼下垂,縮瞳,無汗症を主症状とする疾患で,脳幹梗塞や肺尖部・縦隔腫瘍など致命的な疾患を含むさまざまな原因に随伴して発症する.今回,肺癌治療後の患者において片側性の眼瞼下垂を認め,Horner症候群と診断し全身検索を行ったところ縦隔転移の診断に至った症例を経験したので報告する.症例:62歳,男性.肺腺癌の化学放射線療法後に寛解を得て呼吸器内科に定期通院中,片側性の眼瞼下垂を発症し紹介受診.同側の縮瞳も認め,1%アプラクロニジン点眼試験では眼瞼下垂の改善と同側の明所での散瞳を認めCHorner症候群と診断した.後日呼吸器内科で行った全身検索により肺腺癌の縦隔転移の診断に至った.右眼瞼下垂に対しては右眼瞼挙筋短縮術を施行し,眼瞼下垂の改善を得た.結論:片側性の眼瞼下垂をみた際にはCHorner症候群を念頭におき瞳孔所見や瞼裂にも注意し,Horner症候群と診断した場合には眼瞼下垂の治療のみならず原因疾患の検索も行うことが重要である.CPurpose:TopresentacaseofHornersyndromethatconsistedofunilateralptosis,miosis,andipsilateralfacialanhidrosis,CallCresultingCfromCdysfunctionCofCcervicalCsympatheticCoutput,Ci.e.,CbrainstemCinfarctionCandCaCtumorCofCtheClungCapexCorCmediastinum.CCaseReport:AC62-year-oldCmaleCwithCpulmonaryCadenocarcinomaCinCpartialCremissionCpresentedCwithCunilateralCptosis.CUponCexamination,CipsilateralCmiosisCwasCalsoCobserved,CandCpharmaco-logicCtestingCwith1%CapraclonidineCresultedCinCtheCdiagnosisCofCHornerCsyndrome.CFurtherCclinicalCexaminationCrevealedmediastinalmetastasisofthelungcancer.Conclusion:ThediagnosisofHornersyndromeshouldbecon-sideredCinCanyCpatientCwithCanisocoriaCandCunilateralCptosis,CandCwhenCHornerCsyndromeCisCdiagnosed,CtheCpatientCshouldundergofurtherclinicalexaminationtoidentifytheprimarydisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):682.684,C2022〕Keywords:Horner症候群,眼瞼下垂,縮瞳,肺癌,縦隔腫瘍.Hornersyndrome,ptosis,miosis,lungcancer,mediastinaltumor.CはじめにHorner症候群は,眼や顔面への交感神経遠心路が障害されることで縮瞳,眼瞼下垂,眼瞼裂狭小,無汗症などの臨床所見を呈する症候群である1.3).さまざまな原因により発症するが,延髄外側症候群(Wallenberg症候群)などの脳幹部の血管障害,内頸動脈解離,肺尖部腫瘍(pancoast腫瘍)や甲状腺癌,縦隔腫瘍といった致命的な疾患に随伴して発症していることも少なくないため,早期における原因疾患の診断が重要となる2,3).今回,肺腺癌治療後の患者において片側性の眼瞼下垂を発症し,外眼部所見では眼瞼下垂に加えて同〔別刷請求先〕米田亜規子:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:AkikoYoneda,M.D.,DepartmentCofOphthalmologyandVisualSciences,KyotoPrefecturalUniversityGraduateSchoolofMedicine,465Kajii-choKamigyo-kuKyoto602-0841,JAPANC682(132)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(132)C6820910-1810/22/\100/頁/JCOPY側の縮瞳と瞼裂狭小も認め,1%アプラクロニジン塩酸塩(アイオピジン,日本アルコン)による点眼負荷試験を行いHorner症候群と診断し,全身検索により肺腺癌の縦隔転移の診断に至った症例を経験したので報告する.CI症例患者:62歳,男性.主訴:右眼瞼下垂.既往歴:肺腺癌(2019年C1月診断,化学放射線療法により寛解後).家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:2020年C5月頃からの右眼瞼下垂を自覚し,同年6月に呼吸器内科から聖隷浜松病院眼形成眼窩外科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C0.3(1.2C×sph.1.50D),左眼C0.3(1.2C×sph.0.75D(cyl.1.25DAx15°),眼圧は右眼15mmHg,左眼C16CmmHgであった.外眼部所見では右眼瞼下垂を認め,瞼縁角膜反射距離(marginCre.exCdistance1:MRD1)は右眼0mm/左眼3mmであった.また,右瞼裂狭小(下眼瞼縁の上昇),瞳孔径にも軽度の左右差(右眼C2Cmm/左眼C2.5Cmm)を認め,眼球運動は正常であった.挙筋機能(右眼C11mm/左眼C11図1a初診時の点眼試験前右眼瞼下垂および右下眼瞼縁の上昇による眼瞼裂狭小,右縮瞳を認める.右眼瞼下垂の影響で右眉毛挙上(眉毛代償)を認める.mm)には左右差を認めなかった.前眼部所見では両眼に軽度の白内障を認めたが,中間透光体や眼底には特記すべき所見は認めなかった.経過:初診時所見および肺腺癌の既往からCHorner症候群を疑い詳細な問診を行ったところ,右顔面の無汗症も認めた.1%アプラクロニジン塩酸塩点眼による両眼への薬剤点眼試験を施行したところ,点眼C30分後には右眼瞼下垂・眼瞼裂狭小の改善,および明所において右眼瞳孔の散大(瞳孔径:右眼C3.5Cmm/左眼C2.5Cmm)を認めたため,Horner症候群と診断した(図1,写真掲載に対する同意取得ずみ).その後,呼吸器内科での全身検索においてCPET-CTで肺腺癌の縦隔および骨への転移を認め,縦隔転移がCHorner症候群の原因と考えられた.縦隔転移および骨転移に対しては同科で化学療法が再開された.右眼瞼下垂については,化学療法再開からC1カ月後に眼瞼挙筋腱膜とCMuller筋をともに短縮する眼瞼挙筋短縮術を施行することで眼瞼下垂の改善を得た.右下眼瞼縁の上昇や縮瞳は眼瞼下垂術後も術前と同様に認め,肺腺癌の転移に対する化学療法再開後もこれらの症状に変化は認められなかった(図2).化学療法再開からC4カ月後に全身状態の悪化により緩和治療へ移行したが,右眼瞼下垂術からC6カ月後の診察においても右眼瞼下垂の再発は認めなかった.CII考按Horner症候群は眼や顔面への交感神経遠心路のどこが障害されても発症するが,本症例では肺癌の縦隔転移により脊髄から出て星状神経節を通過し上頸部交感神経節に終わる節前線維が障害されて発症したと考えられる2).Horner症候群による眼瞼下垂といわゆる退行性の眼瞼下垂との鑑別には,眼瞼下垂のみならず同側の縮瞳や眼瞼裂狭小4)といった眼所見を見逃さないことが重要である.その他の臨床所見として患側の虹彩異色症5),結膜充血,無汗症などを認める場合もある.また,本症例のように片側性で発症時期が比較的明確であることや,肺癌など全身疾患の既往を認める場合に図1b初診時の点眼試験後(点眼30分後)左眼と比較し右瞳孔の散大(瞳孔不同の逆転)に加えて,右眼瞼下垂と瞼裂狭小の改善を認める.右眉毛代償も改善している.図2眼瞼下垂術後2カ月右眼瞼下垂は改善している.Horner症候群自体が改善したわけではないため,右下眼瞼縁の上昇や右眼の縮瞳は術後も認めている.(133)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C683もCHorner症候群の可能性を念頭において診察を進めるべきである.本症例では初診時に外眼部所見および肺癌の既往からHorner症候群を疑い,1%アプラクロニジン塩酸塩点眼による薬剤点眼試験を施行し診断に至った.5%コカインやC5%チラミンによる薬剤点眼試験もあるが,近年では簡便な方法としてC1%アプラクロニジン塩酸塩点眼による評価が行われる6,7).一般にC1%アプラクロニジン塩酸塩点眼はレーザー虹彩切除術や後発白内障後.切開術後の眼圧上昇防止に使用されるCa2adrenergicCagonistである8)が,Horner症候群の場合は,瞳孔散大筋がCa1受容体の脱神経過敏性を獲得していることから同点眼の弱い刺激作用によっても散瞳し,一方,正常眼は点眼に反応しないことから瞳孔径の逆転が起こる9).また,患側の眼瞼下垂および眼瞼裂狭小においても点眼後に改善が確認される.点眼試験ではC1%アプラクロニジン塩酸塩をC5分間隔を空けてC2回両眼に点眼し,1回目の点眼からC30分後に瞳孔径の評価を行い,瞳孔径の逆転が起きた場合に陽性と評価する10).ただし乳幼児に対してはアプラクロニジン塩酸塩点眼後に傾眠傾向や反応低下などを生じたという報告があり11),小児や乳幼児に対してはコカインによる点眼試験がより望ましいとされている3).Horner症候群による眼瞼下垂は,原因疾患に対する早期の治療が奏効した場合には症状が減弱することもあるが,消失しない場合は交感神経作動薬の開大作用を治療に用いたり12),外科的治療を行ったりする.本症例では患者本人が肺癌の縦隔転移を認める状況を鑑みて,化学療法による眼瞼下垂の改善を待たずに手術による可及的早期の眼症状改善を希望したため眼瞼下垂症手術(眼瞼挙筋短縮術)を施行した.眼瞼下垂症手術の術式には眼瞼挙筋腱膜のみを短縮する方法やCMuller筋のみを短縮する方法などがあるが,本症例では眼瞼挙筋腱膜とCMuller筋をともに短縮する術式を選択した.Horner症候群の眼瞼下垂は交感神経の障害により生じるため交感神経支配であるCMuller筋が弛緩しており13,14),これを短縮する必要があると考えられる.また,眼瞼を挙上させる際は,十分に作動しないCMuller筋を眼瞼挙筋で代償する必要があるため,眼瞼挙筋腱膜の短縮も必要と考える.本症例の術中所見では,通常,眼瞼挙筋腱膜の瞼板付着部にみられる眼窩隔膜と眼瞼挙筋腱膜の移行部(ホワイトライン)が頭側へ後退していたことから挙筋腱膜の退行性変化も起きており,眼瞼挙筋腱膜とCMuller筋をともに短縮することで眼瞼下垂の改善が得られた.このようにCHorner症候群に対する眼瞼下垂症手術を行う場合は,Muller筋および眼瞼挙筋腱膜の両者を短縮することが望ましいと考える.Horner症候群では眼瞼下垂や眼瞼裂狭小といった眼所見からまず眼科に受診することも珍しくなく,眼科で適切な診断を行うことにより原因疾患の検索から迅速な診断・治療につなげることができる.本症例では紹介元が肺癌治療を行った呼吸器内科であり,Horner症候群の原因として肺癌の再発転移が第一に疑われたため,内科での全身検索により縦隔転移の迅速な診断および治療に至ることができた.Horner症候群の原因には肺尖部や縦隔の腫瘍のほかにも生命に影響する重大な疾患の可能性が存在するため,眼所見からHorner症候群と診断した場合は,眼瞼下垂の治療のみならず,原因疾患の検索のため他科への適切なコンサルトを迅速に行うことが重要である.文献1)JoanFriedrichHorner:Onaformofptosis.KlinMonats-blAugenheilkdC7:193-198,C19692)原直人:Horner症候群CupCdate.CBrainCMedicalC24:C59-65,C20123)KanagalingamCS,CMillerNR:Hornersyndrome:clinicalCperspectives.EyeBrainC7:35-46,C20154)NielsenPJ:Upside-downCptosisCinCpatientCwithCHorner’sCsyndrome.ActaOphthalmolC61:952-957,C19835)DiesenhouseMC,PalayDA,NewmanNJetal:AcquiredheterochromiawithHornersyndromeintwoadults.Oph-thalmologyC99:1815-1817,C19926)KardonR:AreCweCreadyCtoCreplaceCcocaineCwithCapra-clonidineCinCtheCpharmacologicCdiagnosisCofCHornerCsyn-drome?JNeuroophthalmolC25:69-70,C20057)BremnerF:ApraclonidineCisCbetterCthanCcocaineCforCdetectionCofCHornerCsyndrome.CFrontCNeurolVol.10-55;C1-9,C20198)SugiyamaK,KitazawaY,KawaiK:Apraclonidinee.ectsonocularresponsestoYAGlaserirradiationtotherabbitiris.InvestOphthalmolVisSciC31:708-714,C19909)MoralesCJ,CBrownCSM,CAbdul-RahimCASCetal:OcularCe.ectsCofCapraclonidineCinCHornerCsyndrome.CArchCOph-thalmolC118:951-954,C200010)前久保知行:主訴と所見からみた眼科8-3)瞳孔異常.眼科60:1313-1317,C201811)WattsCP,CSatterfuekdCD,CLimMK:AdverseCe.ectsCofCapraclonidineCusedCinCtheCdiagnosisCofCHornerCsyndromeCininfants.JAAPOSC11:282-283,C200712)北川清隆,柳沢秀一郎,山田哲也ほか:ジピベフリンの点眼が有効であった眼瞼下垂のC1例.富山大医学会誌C17:C27-29,C200613)AndersonRL,BeardC:Thelevatoraponeurosis.Attatch-mentsCandCtheirCclinicalCsigni.cance.CArchCOphthalmolC95:1437-1441,C197714)KakizakiCH,CMalhotraCR,CSelvaD:UpperCeyelidCanato-my:anupdate.AnnPlastSurgC63:336-343,C2009***(134)

後天性眼トキソプラズマ症の臨床的特徴と再発因子の検討

2022年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科39(5):677.681,2022c後天性眼トキソプラズマ症の臨床的特徴と再発因子の検討柴田藍*1春田真実*2南高正*2眞下永*2下條裕史*3岩橋千春*4大黒伸行*2*1愛知医科大学眼科学講座*2地域医療機能推進機構大阪病院眼科*3大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)*4近畿大学医学部眼科教室CClinicalFeaturesandRecurrenceFactorsofAcquiredOcularToxoplasmosisAiShibata1),MamiHaruta2),TakamasaMinami2),HisashiMashimo2),HiroshiShimojo3),ChiharuIwahashi4)andNobuyukiOhguro2)1)DepartmentofOphthalmology,AichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthcareOrganizationOsakaHospital,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DivisionofOphthalmology,KindaiUniversityFacultyofMedicineC目的:後天性眼トキソプラズマ症(OT)の臨床的特徴と再発因子を検討すること.方法および対象:後天性COT10例C10眼を診療録から後ろ向きに調査した.再発の有無・回数,治療薬・投与期間,再発危険因子を検討した.結果:非再発群C5例,再発群C5例であった.初期治療はスピラマイシン酢酸エステル(SPM)とプレドニゾロン(PSL)の併用がC7例(うち再発群C4例),SPMとCPSLとCST合剤の併用がC2例(うち再発群C1例),SPM単独が非再発群C1例であった.再発回数はC1回がC3例,3回がC1例,4回がC1例で,初発病巣に対しC10回,再発病巣に対しC10回,計C20回の治療が行われていた.SPMの各投与期間は投与なしがC1回,短期間投与(60日以内)がC5回,中期間投与(61.180日間)がC8回,長期間投与(181日以上)がC6回であった.短期投与のC5回では全例内服終了後に再発したが,60日以上投与のC14回では再発はC4回のみであった(p=0.01).結論:SPMの短期投与は後天性COT再発危険因子である可能性がある.CPurpose:Toinvestigatetheriskfactorsforrecurrenceofacquiredoculartoxoplasmosis(OT)C.PatientsandMethods:InCthisCretrospectivelyCstudy,CtheCmedical-recordCdataCofC10CeyesCofC10CpatientsCwithCacquiredCOT,CincludingCdiseaseCrecurrence,CtreatmentCreceived,CandCdurationCofCadministration,CwasCreviewedCafterCdividingCtheCsubjectsCintoC2groups:1)recurrencegroup(n=5)and2)non-recurrencegroup(n=5).Results:RecurrenceCoccurred1timein3patients,3timesin1patient,and4timesin1patient.Fortheinitialorrecurrentlesions,atotalCofC19CtreatmentCregimensCwithspiramycin(SPM)wereCperformed.CAnalysisCofCtheCshort-termCandClonger-termCtreatmentCregimensCandCsubsequentCdiseaseCrecurrenceCrevealedCthatCrecurrenceCofCOTCoccurredCinCallC5Cshort-termtreatmentregimenswithadministrationofSPM(≦60days)andin4ofthe14longer-termtreatmentregimenswithadministrationofSPM(≧60days)(p=0.01)C.CConclusion:Short-termadministrationofSPMmaybeariskfactorforrecurrenceofacquiredOT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):677.681,C2022〕Keywords:後天性眼トキソプラズマ症,再発,スピラマイシン酢酸エステル,プレドニゾロン,投与期間.ac-quiredoculartoxoplasmosis,recurrence,spiramycinacetate,prednisolone,dosingperiod.Cはじめに虫は猫を終宿主とするが,猫の糞便を介して他の哺乳類にもトキソプラズマ原虫は自然界に広く分布する人畜共通病原感染する.おもな眼症状として網脈絡膜内の細胞内に寄生す体であり,全世界で人口のC1/3はトキソプラズマ原虫に慢ることによって発症するぶどう膜炎があり,早期診断および性的に感染していると推定されている1).トキソプラズマ原早期治療介入が必要である.〔別刷請求先〕柴田藍:〒480-1195長久手市岩作雁又C1-1愛知医科大学眼科学講座Reprintrequests:AiShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AichiMedicalUniversity.1-1Yazakokarimata,Nagakute-shi,Aichi480-1195,JAPANC治療は先天感染の再発病巣と後天感染病巣が対象となる.2019年に日本眼炎症学会によってぶどう膜炎診療ガイドラインが発表され,スピラマイシン酢酸エステル(spiramycinacetate,以下CSPM,アセチルスピラマイシン)800Cmg.1,200Cmg/日のC6週間をC1クールとした投与が推奨されている.場合によってはプレドニゾロン(prednisolone,以下PSL)内服を併用することもある2).トキソプラズマ原虫は瘢痕病巣の辺縁に.子として存在し,.子が薬剤抵抗性の原因となるため,眼トキソプラズマ症の再発が臨床的に問題となる3).今回,筆者らは後天性眼トキソプラズマ症の臨床的特徴をまとめ,再発に関連する因子を明らかにすることを目的として研究を行った.CI対象および方法2011年C11月.2017年C12月に地域医療機能推進機構大阪病院眼科で後天性眼トキソプラズマ症と診断されたC14例C14眼中,初診より半年間以上経過観察可能であったC10例C10眼を対象とした.10例のうち当院初診時に初発はC9例,再発はC1例であった.診療録をもとに視力の推移,血中トキソプラズマ抗体,眼底病変の部位,治療,再発回数,について後ろ向きに検討した.初診時に再発例であったC1症例については紹介状の記載内容をもとに前医初診時からのデータを用いて解析した.今回の検討では,網膜に新規の黄白色病巣の出現とともに,前房炎症,硝子体混濁,網膜血管炎などの炎症所見を伴っている場合を再発とした.また,各診察日において,これらの所表1初回治療の治療内容非再発群再発群スピラマイシン酢酸エステルプレドニゾロン3例4例スピラマイシン酢酸エステルプレドニゾロンST合剤1例1例スピラマイシン酢酸エステル1例表2スピラマイシン酢酸エステルの投与期間短期間投与中期間投与長期間投与14日(再発)77日185日(再発)14日(再発)84日(再発)193日28日(再発)91日(再発)198日28日(再発)113日199日(再発)58日(再発)126日220日150日365日164日166日見がなく消炎状態が維持できている場合に非再発と定義した.統計学的解析にはCJMP統計解析ソフトウェアCVer14(SAS社,USA)を用いた.単変量解析にはCStudentのCt検定,Fisherの正確検定を用い,p<0.05をもって有意差ありと判定した.また,本研究はヘルシンキ宣言に準じており,本研究は地域医療機能推進機構大阪病院眼科の院内倫理委員会の承認を受けている(受付番号C2018-46).CII結果初診時の平均年齢はC60.5C±12.4歳,性別は男性C7例,女性C3例であった.人種はアジアンがC8例(全例日本人),ガーナ出身のアメリカ人がC1例,ヒスパニックがC1例(ブラジル出身)であった.観察期間の中央値はC573日間であり,最短でC203日間,最長でC2,720日間であった.初診時の平均視力(少数視力)はC0.68C±0.38,最終受診時の平均視力(少数視力)はC1.05C±0.27であった.LogMAR視力換算でC2段階以上視力改善した症例がC4例,2段階上視力悪化した症例が1例であった.期間内に白内障手術など内眼手術を受けた患者はいなかった.部位は周辺部がC6例,視神経乳頭周囲がC2例,後極がC1例,視神経乳頭周囲および周辺部がC1例であった.トキソプラズマ抗体は全例でトキソプラズマCIgG抗体の上昇を認め,2例でトキソプラズマCIgM抗体の上昇を認めた.再発回数に関しては,5例は一度も再発を認めず,3例で1回,1例でC3回,1例でC4回の再発を認めた.内服中の再発はなく,再発例は全例内服終了後に再発を認めた.初回治療は非再発群C5例中C3例でCSPMとCPSLの併用,1例でCSPMとCPSLとスルファメトキサゾール・トリメトプリム(sulfamethoxazole-trimethoprim,以下CST合剤)の併用,1例でCSPM単独治療が行われていた.再発群C5例ではC4例がSPMとPSLの併用,1例はSPMとPSLとST合剤の併用が行われていた(表1).SPMはC10例全例で投与されてお再発非再発6242短期間投与中期間投与長期間投与図1スピラマイシン酢酸エステルの投与期間とその後の再発の有無表3複数回再発した2症例の治療内容初回再発1回目再発2回目再発3回目再発4回目再発3回症例スピラマイシン酢酸エステル14日14日164日プレドニゾロン14日60日14日227日ST合剤97日再発4回症例スピラマイシン酢酸エステル91日28日84日28日220日プレドニゾロン158日181日ST合剤140日り,非再発群(5例)の平均投与期間はC206.4C±83.7日間,投与量はC1,200CmgがC3例,600CmgがC2例であった.再発群(5例)の平均投与期間はC109C±71.9日間,投与量はC1,200CmgがC3例,600CmgがC2例であった.初回CSPMの平均投与期間は非再発群で長かったが,統計学的には有意差は認めなかった(p=0.49).PSLはC9例で投与されており,非再発群(4例)の平均投与期間はC152.8C±30.3日間,再発群(5例)の平均投与期間はC170.4C±104.7日間であった.全例初期投与量はC0.5Cmg/kg/日であり,以後漸減していった.ST合剤はC2例で投与されており,非再発群(1例)の投与期間はC193日間であり,再発群(1例)の投与期間はC284日間であった.2例とも投与量はC4錠/日であった.SPMの投与期間と再発についての詳細を検討した.さらにCSPMの投与日数をC3群に分け,1.60日間を短期間投与,61.180日間を中期間投与,181日間以上を長期間投与と定義して解析を進めた.また,ここでは症例ごとではなく,初回治療時,すべての再発時について,それぞれの投薬期間についての検討を行った.例としてC3回再発症例でCSPM初回投与期間がC14日,1回目再発時はC0日,2回目はC14日,3回目はC164日間投与され,以後再発を認めなかった場合,初回治療時は短期間で再発あり,再発C2回目の治療時は短期間で再発あり,再発C3回目の治療時は中期間で再発なしとして解析した.全症例のCSPMの投与日数は表2に示した.短期間投与は全部でC5回であり,そのすべてで再発を認めた.中期間投与はC8回あり,そのうちC2回で再発がみられた.また,長期間投与はC6回あり,そのうちC2回で再発がみられた(図1).すなわち,SPMが短期投与(60日以内)されたC5回ではすべてその後に再発を認め,一方で,SPMがC60日を超えて処方されたC14回では再発はC4回のみであり,SPMが短期投与された場合には,その後の再発が有意に多いことがわかった(p=0.01).つぎに,それぞれの再発後の治療について検討した.1回再発例(3例)では初期治療と再発後の治療で投薬内容に変更はなく,SPMとCPSLの併用治療がC2例,SPMとCPSLとST合剤の併用治療がC1例であった.平均投与期間はCSPMが初回治療時はC147.3日間,再発後はC118.7日間,PSLが初回治療時はC226.3日間,再発後はC120.7日間,ST合剤が初回治療時はC284日間,再発後はC398日間であった.つぎに,複数回再発した症例について表3にまとめた.3回の再発がみられた症例については再発C2回目までの治療は前医で行われており,初回治療時とC2回目の再発時にはSPMとCPSLの短期投与が行われ,また,1回目の再発時にはCPSLの単独投与が行われていた.再発を繰り返すため,3回目の再発の治療目的で当院紹介となった.3回目の再発時の治療でCSPM164日,PSL227日の投与,ST合剤C97日投与の併用治療が行われ,以後再発なく経過している.4回の再発がみられた症例では,初回治療の際に薬剤性肝機能障害を起こしたためにC3回目の再発までの各治療は比較的短期間で終了し,その後にC4回目の再発がみられた.そこで,4回目の再発時はCSPMとCPSLを長期に服用し,ST合剤で治療再発なく経過した.なお,4回目の再発の治療の際には,肝機能の悪化は認められなかった.人種別では,アジアン(全例日本人)の症例C8例中C5例は再発なく経過し,3例はC1回の再発が認められた.ヒスパニックのC1例はC3回の再発,ガーナ出身のアメリカ人のC1例はC4回の再発を認め,アジアン以外の症例では複数回の再発を認めた.また部位・年齢・視力・トキソプラズマ抗体価に関しては,再発・非再発群で有意差は認められなかった.CIII考按眼トキソプラズマ症の再発率はC40.78%と報告されている4).その原因は明らかではないが,外傷,ホルモン変化や免疫抑制が再発に関与すると考えられている5).Bosch-Driessenらは妊娠中および白内障術後に再発率が増加するが,治療法については差がなかったと報告している4).なお,彼らの報告ではピリメタミンとスルファジアジンが主たる治療薬であった.現在までに眼トキソプラズマ症に対してエビデンスのある治療は確立されていない.わが国での眼トキソプラズマ症の治療は,SPM800.1,200Cmg/日のC6週間投与が推奨されており2),海外とは治療法は異なる.抗菌薬内服の意義について,Felixらは活動性病巣に対してCST剤をC45日間投与して瘢痕化が得られたのち,ST剤の隔日投与を311日間にわたり隔日投与した群と無治療群で治療開始C6年までの再発頻度を比較した結果を報告しており,隔日投与群では無治療群に比べて再発の頻度が有意に少ない結果であった6).再発の頻度を減少させるために必要な最低限の投与日数はこの前向き研究からはわからないが,病巣の瘢痕化が得られたあとの抗菌薬投与が再発のリスクを減少させることが推測される.眼トキソプラズマの原因微生物であるCToxoplas-magondiiは急増虫体(tachyzoite)から緩増虫体(bradyzo-ite)に分化・被.化し,cystを形成するとされており,cystへの薬剤移行性はよくないことが長期投与が再発防止に有効であることと関連している可能性が考えられる.今回筆者らはCSPMの投与期間に着目してその後の再発との検討を行ったところ,それぞれの治療後の再発の有無とCSPM投与期間に関しては,SPMが短期投与された場合には,60日を超えて処方された場合と比べて,有意にその後の再発が多いという結果が得られた.筆者らの症例では短期間投与の群ではC1例を除きガイドラインが推奨するCSPM投与のC1クール未満であり,SPMについてもある程度長期の内服が再発防止に寄与する可能性が考えられる.今後,再発防止に必要な内服日数について多数例での前向き検討が望まれる.わが国ではCST合剤の有用性についてはあまり報告がない.しかし,海外の報告では先述のとおりCST合剤は眼トキソプラズマ症の再発予防に有用とされ6),今回再発を繰り返したC2例については,最終の再発時に従来の治療に加えてST合剤を追加しており,その後の再発がみられなかったことから,ST合剤の併用が再発予防に寄与した可能性がある.今後はCST合剤併用の有用性についても,わが国において症例の蓄積および解析が望まれる.アジアン(全例日本人)の症例では再発はC1回だったが,アジアン以外の症例では複数回の再発を認めた.トキソプラズマ原虫の罹患率および感染源は気候や食生活や衛生状態で異なり1),わが国のトキソプラズマ抗体保有者はC15%前後であるのに対し7),ブラジルではC50.80%8),ガーナではC50.90%がトキソプラズマ抗体保有者9)と報告されている.また,ラテンアメリカやアフリカ熱帯諸国でもトキソプラズマ抗体保有者が高いとされている9).このような抗体保有率と再発頻度に関連あるかどうかは断定できないが,人種による再発頻度の違いを説明する一つの因子である可能性はあると考える.今回の検討にはいくつかの問題点がある.第一に,トキソプラズマ網膜炎の重症度が各症例,各再発時の病状において異なっている可能性がある点である.病状の重症度に応じて投薬量や期間を調整する必要があるのかもしれないが,現時点ではトキソプラズマ網膜炎の重症度分類は提唱されていないため,筆者らはこの点を考慮しないで解析を行っている.第二に,一般的に薬剤は体重当たりの投与量や血中濃度などによりその有効性が異なってくる.今回の検討では,後ろ向き研究であるため各症例の体重は考慮しておらず,またSPMの血中濃度測定も実施していない.今後トキソプラズマ網膜炎治療を行うにあたって,SPMの投与量を体重に従って増加させるべきなのか,血中濃度測定まで踏み込んだ管理が必要なのかについての検討が必要かもしれない.第三に,ステロイド全身投与の影響について考慮できていない点にある.紹介医で投与されている場合,その詳細が不明であったため今回はステロイドの総投与量や減量の仕方などが再発に影響したかどうかについては検討できていない.今後の課題としたい.第四に,逆紹介後,再度紹介がない症例は非再発群として解析したが,実は再発していて他院に紹介した可能性は残っている.また,2019年に日本眼炎症学会が出した診療ガイドラインによれば,トキソプラズマ網膜炎に対するCSPM治療期間はC6週間とされている.今回の検討でも短期投与群C5例のうちC4例はC6週未満の投与であった.一方でC6週以上投与している症例でも再発例は存在している.今回の検討からは,初回治療では少なくともC6週間投与,再発例ではそれ以上の投与をしたほうがよいということがいえるだろう.CIV結語今回,筆者らは当院における後天性眼トキソプラズマ症の臨床的特徴をまとめ,再発症例の臨床的特徴の検討を行った.SPMの投与期間がC60日以下の場合(とくにC4週以内の場合)にはその後にすべて再発を認めたため,SPMは日本眼炎症学会が出した診療ガイドラインにあるようにC6週間投与,再発例ではそれ以上の期間投与するのがよいと考えられた.また,人種により治療効果が違う可能性が示唆された.さらにCST合剤が後天性眼トキソプラズマ症再発例に対して有効である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AtmacaCLS,CSimsekCT,CBatiogluF:ClinicalCfeaturesCandCprognosisCinCocularCtoxoplasmosis.CJpnCJCOphthalmolC48:C386-391,C20042)日本眼炎症学会ぶどう膜炎診療ガイドライン作成委員会:ぶどう膜炎診療ガイドライン日眼会誌C123:658-659,C20193)大井桂子,坂井潤一,薄井紀夫ほか:再燃を繰り返した眼トキソプラズマ症のC2例.眼臨101:322-326,C20074)Bosch-DriessenCLE,CBerendschotCTT,COngkosuwitoCJVCetal:Oculartoxoplasmosis:clinicalCfeaturesCandCprognosisCof154patients.OphthalmologyC109:869-878,C20025)TalabaniCH,CMergeyCT,CYeraCHCetal:FactorsCofCoccur-renceCofCocularCtoxoplasmosis.CACreview.CParasiteC17:C177-182,C20106)FelixCJP,CLiraCRP,CGrupenmacherCATCetal:Long-termCresultsCofCtrimethoprim-sulfamethoxazoleCversusCplaceboCtoCreduceCtheCriskCofCrecurrentCtoxoplasmaCgondiiCretino-choroiditis.AmJOphthalmolC213:195-202,C20207)蕪城俊克:眼トキソプラズマ症.臨眼70(増刊):248-253,C20168)CostaCDF,CNascimentoCH,CSutiliCACetal:FrequencyCofCtoxoplasmaCgondiiCinCtheCretinaCinCeyeCbanksCinCBrazil.CParasitolResC116:2031-2033,C20179)AbuCEK,CBoampongCJN,CAfoakwahCRCetal:VisualCout-comeCinCoculartoxoplasmosis:ACcaseCseriesCofC30CpatientsfromGhana.JClinExpOphthalmolC6:458,C2015***

消毒薬による角膜化学外傷が誘因と考えられた 周辺部角膜潰瘍の1 例

2022年5月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科39(5):672.676,2022c消毒薬による角膜化学外傷が誘因と考えられた周辺部角膜潰瘍の1例三原顕細谷友雅岡本真奈松岡大貴五味文兵庫医科大学眼科学教室CACaseofPeripheralUlcerativeKeratitisafterExposuretoAntisepticSolutionsAkiraMihara,YukaHosotani,ManaOkamoto,TaikiMatsuokaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineC消毒液の誤用が誘因と考えられた周辺部角膜潰瘍のC1例を報告する.45歳,男性.全身疾患の既往はない.左眼に鉄粉が飛入し,近医で処置時に誤ってクロルヘキシジンC20%液で洗眼された.同日から眼痛,充血,視力低下を自覚したが点眼加療によりいったん改善した.受傷からC2カ月後に再度眼痛が生じ当院を受診し,角膜上皮欠損,実質浮腫,内皮細胞数の減少を認めた.ステロイド点眼,抗菌薬点眼,治療用ソフトコンタクトレンズで加療するもC4週後に眼痛が悪化.角膜上皮欠損の拡大,輪状膿瘍,前房蓄膿を生じたため感染を疑い,ステロイド点眼を中止し抗菌薬点眼を強化したが,所見の悪化を認めた.周辺部角膜潰瘍を疑い,ステロイドの試験内服をしたところ所見が改善したため,免疫抑制治療を強化して消炎したが,角膜混濁が残存し全層角膜移植待機中である.本症例は消毒薬により変性した角膜組織が抗原として認識され,周辺部角膜潰瘍が発症したと考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCperipheralCulcerativekeratitis(PUK)triggeredCbyCexposureCtoCantisepticCsolu-tions.CaseReport:A45-year-oldmalewithnosystemicdiseasepresentedwithacornealforeignbodyinhislefteye.CItCwasCaccidentallyCwashedCwithCchlorhexidine20%Csolution.CHeCexperiencedCpain,Credness,CandCdecreasedCvisionCinCthatCeye,CyetCthoseCsymptomsCtemporarilyCimprovedCwithCeye-dropCinstillation.CThreeCmonthsClater,CtheCpaininthateyereoccurred,andwesuspectedinfectionduetoenlargementofthecornealepithelialdefect,cornealringCabscess,CandChypopyon.CAlthoughCtheCsteroidCeyeCdropsCwereCdiscontinuedCandCantibacterialCeyeCdropsCwereCincreased,CtheCconditionCworsened.CWeCsuspectedCPUK,CandCimprovementCwasCachievedCbyCadministrationCofCstrengthenedsteroideyedropsandimmunosuppressants.However,thecornealopacityremained,andthepatientiscurrentlyscheduledtoundergopenetratingkeratoplasty.Conclusion:Inthiscase,cornealtissuedenaturedbyantisepticsolutionswasidenti.edasanantigen,whichappearstohaveresultedinthedevelopmentofPUK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):672.676,C2022〕Keywords:周辺部角膜潰瘍,クロルヘキシジン,消毒薬,眼化学外傷,誤用.peripheralulcerativekeratitis,chlorhexidine,antisepticsolution,ocularchemicalinjury,misuse.Cはじめにグルコン酸クロルヘキシジンは,消毒薬としてさまざまな状況で使用される薬剤である.眼手術時にはC0.02.0.05%で結膜.の洗浄に使用される1).しかし,誤使用により高濃度で使用した結果,軽症例では軽度の角膜障害のみで点眼治療で改善するものの,重症例では角膜障害だけではなく,持続する前眼部炎症により白内障や続発緑内障を生じ,手術加療が必要になった症例報告も散見される2,3).周辺部角膜潰瘍は角膜周辺部に特徴的な形態を呈する難治性潰瘍で,眼痛を伴う結膜充血,流涙,羞明が特徴的な症状で,角膜組織に対する自己免疫反応によって生じると考えられている4).重篤な場合,急速に進行し,角膜穿孔をきたす〔別刷請求先〕三原顕:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkiraMihara,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC672(122)症例もあり注意を要する.アルカリ外傷後に周辺部潰瘍を生じた報告5)はあるものの,消毒薬を誘因として生じた周辺部潰瘍は筆者らが文献を渉猟した限りではみられなかった.今回消毒薬の誤用による化学外傷が誘因となったと考えられる周辺部角膜潰瘍を経験したので報告する.CI症例患者:45歳,男性.主訴:左眼の疼痛,視力低下.現病歴:作業中に左眼に鉄粉が飛入し,近医での処置時に誤ってクロルヘキシジンC20%液で洗眼された.すぐに生理食塩水で洗浄したが,直後から左眼の疼痛,充血,視力低下を自覚し他院を受診した.受診時に左眼の角膜上皮欠損を認め,ヒアルロン酸C0.1%点眼液,レボフロキサシンC1.5%点眼液,プラノプロフェン点眼液を処方されいったん改善した.受傷C1カ月後に,結膜浮腫・Descemet膜皺襞を認めたため,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼液が追加され経過観察となった.受傷C63日後に,再度左眼の眼痛が生じ,角膜障害を認めたため当院紹介となった.既往歴:特記すべきことなし.初診時所見:視力は右眼C1.0(1.5C×sph+0.75D(cylC.0.50DAx60°),左眼0.09p(矯正不能),眼圧は右眼19mmHg,左眼C19CmmHgであった.右眼前眼部に異常所見はなかった.左眼は角膜実質の炎症細胞浸潤と浮腫,Des-cemet膜皺襞,結膜充血,角膜上皮欠損,欠損部上皮周辺の上皮接着不良を認めた(図1a).両眼ともに中間透光体,眼底に異常はなかった.角膜内皮細胞数は,右眼C3,165個/Cmm2,左眼の中央部は測定不能で,上方は観察可能であったがC1,661個/mmC2と減少を認めた.消毒薬による角膜内皮機能不全と考え,前医で処方中であったレボフロキサシンC1.5%点眼液,ベタメタゾンC0.1%点眼液,ヒアルロン酸C0.1%点眼液各左眼C1日C3回に,オフロキサシン眼軟膏C1日C1回を追加した.受傷C77日後に角膜上皮欠損の拡大と,上皮欠損部に付着物を認めた.付着物の培養同定検査結果は陰性であったので,上皮保護目的で治療用ソフトコンタクトレンズ装用を開始した.受傷C92日後に左眼痛が悪化し,結膜充血の悪化,前房蓄膿,角膜周辺部と中央部の実質細胞浸潤,角膜上皮欠損の拡大を認めた(図1b).前房内炎症が生じており,細菌感染を合併したと考え,ベタメタゾンC0.1%点眼液とコンタクトレンズ装用を中止し,レボフロキサシンC1.5%点眼液とセフメノキシム塩酸塩C0.5%点眼液をC2時間ごとの点眼に変更して抗菌薬治療を強化し,入院加療とした.入院C2日目(受傷C93日後)に,周辺部の輪状浸潤が増加し,上皮欠損の拡大を認めたことから,グラム陰性桿菌感染の可能性を考え,セフメノキシム塩酸塩C0.5%点眼をトブラマイシンC0.3%点眼C2時間おきに変更し,イミペネム水和物・シラスタチンナトリウム点滴治療も開始した.入院C6日目(受傷C97日後)には,さらなる周辺部の輪状浸潤の拡大を認めた.上皮欠損は広範囲であったが,中央部に一部島状図1前眼部写真(上段:細隙灯顕微鏡写真,下段:フルオレセイン染色)a:初診時.角膜実質の炎症細胞浸潤と浮腫,Descemet膜皺襞,結膜充血,角膜上皮欠損,欠損部上皮周辺の上皮接着不良を認める.Cb:受傷C77日後.結膜充血が悪化し,前房蓄膿,角膜周辺部と中央部の実質細胞浸潤,角膜上皮欠損の拡大を認める.Cc:受傷C99日後.周辺部の輪状浸潤拡大と角膜上皮欠損の拡大を認める.中央部に島状の上皮残存部位がある(.).レボフロキサシン1.5%点眼トブラマイシン点眼トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩液オフロキサシン眼軟膏フルオロメトロン0.1%点眼液リン酸ベタメタゾン点眼液プレドニゾロン錠ベタメタゾン錠シクロスポリン錠ステロイド開始1日3日5日11日20日27日62日88日受傷後100日102日104日110日119日126日161日287日図2プレドニゾロン開始後の投薬内容の推移図3受傷1年2カ月後の所見a:前眼部写真.角膜周辺部の菲薄化は改善したが,角膜混濁を認める.Cb:前眼部光干渉断層計による角膜形状解析.高度の角膜形状変化を認める.c:前眼部光干渉断層像.角膜周辺部の菲薄化を認め,中央部は高輝度を呈している.虹彩前癒着は認めない.表1消毒薬の誤用で生じた化学外傷性歳原因薬剤主病変治療方針合併症最終視力文献男C37ポリヘキサメチレンビグアニド上皮障害点眼治療C–8女C0塩化ベンザルコニウムC10%輪部疲弊培養角膜上皮移植結膜侵入角膜混濁C0.4C2男C61クロルヘキシジンC0.5%上皮欠損点眼治療上皮下混濁内皮減少C0.5C9女C50クロルヘキシジンC1%内皮減少C0.9C10男C86実質混濁全層角膜移植実質混濁C0.05C0.15C33男C44クロルヘキシジンC5%実質浮腫上皮混濁点眼治療,ソフトコンタクトレンズ装用C男C47実質浮腫全層角膜移植水疱性角膜症C1.0C3男C50クロルヘキシジンC20%上皮欠損輪部疲弊培養角膜輪部上皮移植,白内障手術,線維柱帯切除,全層角膜移植緑内障白内障C0.01C15Ccm指数弁C22女C16内皮障害強角膜移植,全層角膜移植,白内障手術,結膜輪部自家移植,毛様体光凝固,線維柱帯切除Cに上皮が残存していた.抗菌薬点眼による角膜上皮障害の可能性を考慮し,レボフロキサシンC1.5%点眼液とトブラマイシンC0.3%点眼をC1日C6回に減量した.入院C8日目(受傷C99日後)も,所見の改善はなかった(図1c).何度か眼脂培養同定検査をするもすべて陰性で病原微生物が検出されなかったこと,上皮欠損の形状が輪状で,通常の感染としては非典型的であったこと,ステロイド中止後にさらに悪化したことから,自己免疫性の周辺部角膜潰瘍を疑い,プレドニゾロン錠C5Cmgを試験内服した.ステロイド内服開始からC3日目には眼脂が減少し,周辺部角膜浸潤と角膜透見性の改善を認めたことから,ステロイドが著効すると考え,フルオロメトロンC0.1%点眼液C1日C3回を追加投与し,ステロイド開始C5日目には治療強化目的でプレドニゾロン錠をベタメタゾン錠C1.0Cmgに変更した.前房蓄膿の改善と角膜透明性の改善を認めベタメタゾン錠をC0.5Cmgに漸減し退院とした.受傷C119日目には角膜透明性は改善したが,上皮欠損は残存しており,局所ステロイド治療の強化目的でフルオメトロン点眼液からベタメタゾン点眼液C1日C3回に変更した.受傷C126日目には上皮欠損は経度認めるも改善傾向を認め,急性期の炎症は落ち着いてきたので,ベタメタゾン錠からプレドニゾロン錠C5Cmgに漸減し,受傷C161日目には角膜上皮化を得られた.今後は,長期に免疫抑制したほうがよいと考え,ステロイドの副作用を踏まえた結果,内服をステロイドからシクロスポリン錠C200Cmgに変更した.受傷C287日後には角膜混濁の改善を認めたので,シクロスポリン錠をC1カ月ごとにC50Cmgずつ漸減し,受傷後C1年かけ内服終了となった(図2).受傷C1年C2カ月後には角膜周辺部の菲薄化は改善したが,角膜形状変化と角膜混濁は高度で,ハードコンタクトレンズの装用を試しても左眼視力C0.01(0.1C×HCL)までしか得られなかった(図3).眼圧上昇や視野異常は認めておらず,緑内障の合併は認めなかった.今後,全層角膜移植術を予定している.CII考按角膜は眼表面にあるため,外界からの物理的・化学的侵襲を受けやすい.また,眼化学外傷は,重度の合併症と視力低下を生じるリスクがあり,迅速かつ集中的な治療が必要な緊急疾患である.20.40代の男性にもっとも多く,障害は慢性的になり生涯にわたる可能性もある6).また一般的に,アルカリ性物質は,細胞膜の脂質を鹸化し組織蛋白質の融解を生じた後,組織に深達して,眼表面から水晶体の構造を変性させ,重症になりやすい.対照的に酸性の物質は,上皮で蛋白質の凝固を引き起こし,眼内の浸透を抑制することが知られている7).クロルヘキシジングルコン酸塩液は酸性で,さまざまな場面で消毒薬として使用されているが,眼科では0.02.0.05%であれば眼科手術時の結膜.の消毒に使用可能である1).しかし,高濃度では,酸性であっても界面活性剤が含まれているため,界面活性剤による角膜上皮傷害が生じ,バリア機能が破綻することで,クロルヘキシジングルコン酸が角膜表面から徐々に内部に浸透し,前房内にも炎症が生じると考えられており,多種多様な障害が生じる2).消毒薬による眼化学外傷の報告は多数あり,薬剤の濃度によって重症度や治療内容は異なり,濃度が濃いほど重篤である2,3,8.10)(表1).Shigeyasuらは,クロルヘキシジングルコン酸C20%の誤使用で,曝露後に数カ月.数年の経過を得て,角膜障害,輪部疲弊,白内障,続発緑内障などが生じ,複数回の手術加療が必要になった症例を報告している2).また,中村らは,クロルヘキシジングルコン酸C20%の誤使用で水疱性角膜症を生じ,発症C5カ月後に全層角膜移植術を施行した症例を報告している3).本症例では,適正使用の約C1,000倍の濃度の消毒薬に曝露され,角膜上皮障害はいったん改善を認めたが,病状が進行し,最終的に全層角膜移植術が必要な状態になった.このように,消毒薬による化学外傷は長期にわたりさまざまな病態を呈し進行することもあるため,長期の経過観察が必要である.特発性周辺部角膜潰瘍は,一般的には非感染性で進行性の角膜潰瘍である.角膜抗原に対する自己免疫反応と考えられ,外傷,手術などの機械的刺激や,C型肝炎ウイルスや寄生虫感染が関連する報告を認める11,12).Alfonsoらは,眼アルカリ外傷が誘因となって生じた周辺部潰瘍を報告しており,変性した角膜抗原が自己免疫応答を誘発した結果,受傷から数カ月.数年後に周辺部潰瘍を発症すると述べている5).これまで消毒薬で特発性周辺部角膜潰瘍を生じた報告は,筆者らが文献を渉猟した限りみられなかった.本症例では上皮,内皮の直接的な障害も認めたが,高濃度の薬剤で角膜組織変性が生じ,その変性した角膜を抗原と認識して周辺部角膜潰瘍が生じたと考えた.実際にステロイド治療を強化することで,病変の改善を認めたため,自己免疫性の機序であったと考えられる.しかし,今回は膠原病の否定は問診のみで,膠原病関連自己抗体の採血検査は行っておらず,より正確な診断のためには採血検査が必要であったと考えられる.周辺部角膜潰瘍の初期は,周辺部の角膜実質浅層に細胞浸潤を認め,進行すると病変部の角膜上皮欠損と角膜実質の菲薄化が生じる4).症例の経過を振り返ると,受傷C97日後の炎症増悪時に角膜周辺部の一部に細胞浸潤を生じており(図1b),これが周辺部潰瘍の初期病変だった可能性が高い.前房蓄膿を生じたことから,感染を発症したと考えステロイドを中止したが,角膜中央部の上皮残存も感染としては非典型的であった.早期に自己免疫性の周辺部角膜潰瘍を鑑別疾患としてあげることができていれば,ステロイド治療開始が早まり,組織破壊は軽減できたのではないかと考える.増悪時の所見をみると前房蓄膿や角膜中央部の上皮欠損,浮腫性混濁を伴っており,炎症所見が高度で典型的な周辺部角膜潰瘍ではなかった.受傷早期に十分な抗炎症療法が施されておらず,炎症が遅延していた可能性や角膜内皮障害,眼内炎症など他のさまざまな要素が関係してこのような病型となり,最終的に全層角膜移植が必要になったと考えた.今回の症例のように薬剤の誤用による角膜障害は医原性であり,インシデントやアクシデントなどのリスク管理が必要になる事例である.事前に防止するには的確な指示,口頭指示の解釈間違い事例の分析を多職種で実施し,お互いの伝え方のスキルを磨くトレーニングの実施などの未然防止対策があげられ13),多職種間でのコミュニケーションや,事前にシミュレーションを行うことがアクシデント予防に必要と考える.謝辞:本症例の加療に際し,京都府立医科大学眼科学教室の稲富勉先生に多大なご助言をいただきました.ここに深謝いたします.文献1)GreenCK,CLivingstonCV,CBowmanCKCetal:ChlorhexidineCe.ectsoncornealepitheliumandendothelium.ArchOph-thalmolC98:1273-1278,C19802)ShigeyasuCC,CShimazakiJ:OcularCsurfaceCreconstructionCafterCexposureCtoChighCconcentrationsCofCantisepticCsolu-tions.CorneaC31:59-65,C20123)中村葉,稲富勉,西田幸二ほか:消毒薬による医原性化学腐蝕のC4例.臨眼52:786-788,C19984)小泉範子:Mooren潰瘍.角膜疾患外来でこう診てこう治せ(木下茂編),改訂第C2版,p120-121,メジカルビュー社,C20155)AlfonsoI,SeemaA,JohnK:Late-onsetperipheralulcer-ativeCsclerokeratitisCassociatedCwithCalkaliCchemicalCburn.CAmJOphthalmolC158:1305-1309,C20146)Baradaran-Ra.CA,CEslaniCM,CHaqCZCetal:CurrentCandCupcomingCtherapiesCforCocularCsurfaceCchemicalCinjuries.COculSurfC15:48-64,C20177)草野雄貴,山口剛史:外傷と輪部.眼科C62:437-445,C20208)中村葉:消毒液,洗浄液による角膜障害.あたらしい眼科25:443-447,C20089)木全奈都子,高村悦子:腹臥位での全身麻酔下手術において消毒薬が原因と思われる角膜障害をきたしたC1例.眼臨紀9:120-124,C201610)冨山浩志,那須直子,下地貴子ほか:腹臥位での全身麻酔手術後に重篤な角膜障害をきたしたC1例.臨眼C74:485-489,C202011)後藤周,外園千恵,稲富勉ほか:特発性周辺部角膜潰瘍の発症および臨床経過に関する検討.日眼会誌C122:C287-292,C201812)WilsonS,LeeW,MurakamiCetal:Mooren-typehepati-tisCCCvirus-associatedCcornealCulceration.COphthalmologyC101:736-745,C199413)石川雅彦:第C84回口頭指示の“解釈間違い”に関わるアクシデント事例の未然防止!─事例の発生要因から考えるトレーニング企画のポイント─.月刊地域医学C34:844-855,C2020(126)

眼痛を伴う水疱性角膜症に対する羊膜移植術の長期成績

2022年5月31日 火曜日

眼痛を伴う水疱性角膜症に対する羊膜移植術の長期成績佛坂扶美門田遊佐々木研輔阿久根穂高吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座CLong-TermOutcomeofAmnioticMembraneTransplantationforPainfulBullousKeratopathyFumiHotokezaka,YuMonden,KensukeSasaki,HodakaAkuneandShigeoYoshidaCDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicineC目的:久留米大学病院眼科にて,眼痛を伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植術を施行した症例の長期成績について検討したので報告する.対象および方法:対象はC2006年C1月.2017年C11月に,当院にて眼痛を伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植術を施行したC15例C15眼(男性C4例,女性C11例)である.手術時の平均年齢はC78.0歳で平均術後経過観察期間はC54.4カ月であった.これらの対象の原疾患,痛みの改善の有無,角膜上皮が再生するまでに要した日数を検討した.結果:原疾患は緑内障術後C7眼(46.7%)がもっとも多く,白内障術後C6眼(40.0%),その他C2眼(13.3%)であった.痛みはC15眼中C15眼(100%)で改善した.また,角膜上皮が再生するまでの平均日数はC11.6日であった.羊膜の脱落は,外傷を契機に上皮とともに脱落した症例がC1眼(6.7%),感染で脱落した症例がC1眼(6.7%),部分的に自然に脱落した症例がC8眼(53.3%),脱落していなかった症例がC5眼(33.3%)であった.感染性角膜穿孔の症例を除き,全例で痛みの再燃はなく,上皮は安定していた.結論:眼痛を伴う水疱性角膜症に対する羊膜移植は,眼痛を改善させる安全で有効な治療法であると考えられる.CPurpose:Toevaluatetheoutcomesofamnioticmembranetransplantation(AMT)forpainfulbullouskeratop-athy(BK).CPatients:ThisCstudyCinvolvedC15CeyesCofC15patients(meanage:78.0years)withCpainfulCBKCthatCunderwentAMT(meanfollow-upperiod:54.4months).Inallpatients,theetiologyofBK,painrelief,andelapsedtimeCtoCre-epithelializationCwasCevaluated.CResults:TheCetiologyCofCBKCincludedCpreviousCglaucomaCsurgeryCinC7eyes(46.7%),previouscataractsurgeryin6eyes(40.0%),andotherin2eyes(13.3%).Postsurgery,painreliefwasobtainedinall15eyes(100%),andthemeanelapsedtimetore-epithelializationwas11.6dayspostoperative.AMdetachmentoccurredin1eye(6.7%)duetotraumaandin1eye(6.7%)duetoinfection.TheAMremainedinplacein5eyes(33.3%),yetpartialAMdetachmentspontaneouslyoccurredin8eyes(53.3%).Inalleyeswithstableepithelialization,except1eyewithcornealperforation,therewasnorecurrenceofpain.Conclusion:AMTwasfoundtobeasafeande.ectivetreatmenttorelievepaininpatientsa.ictedwithpainfulBK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):666.671,C2022〕Keywords:水疱性角膜症,羊膜移植.bullouskeratopathy,amnioticmembranetransplantation.はじめに羊膜は胎盤組織の一部で,胎生膜の最内層に位置する半透明の膜である.種々のサイトカインや成長因子を含んでおり,角結膜上皮の正常な分化と増殖を促す,線維組織増生や癒着を抑制する,炎症を抑制する,実質の融解を抑制する作用がある1).そのため,これまで再発翼状片,遷延性角膜上皮欠損,瘢痕性角結膜疾患,角膜穿孔など眼表面疾患の再建で使用されてきた.水疱性角膜症においては角膜内皮細胞の不可逆的な障害により,内皮細胞のポンプ機能が低下し角膜上皮・実質に浮腫が生じた状態である.角膜実質の浮腫により視力低下をきたすが,角膜上皮水疱の破裂により角膜びらんを起こし,疼痛を引き起こすことがある.水疱性角膜症の根本的な治療としては角膜移植があるが,わが国ではドナー角膜が不足してい〔別刷請求先〕佛坂扶美:〒830-0011福岡県久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:FumiHotokezaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume,Fukuoka830-0011,JAPANC666(116)図1手術方法a:綿棒で,接着不良な角膜上皮を含めて,大きく角膜上皮を.離する(青線).b:羊膜の上皮をを上にして角膜上皮欠損部に合わせてトリミングする(赤線).c:羊膜が角膜上皮にかぶらないようにC10-0ナイロン糸でたるまないように縫合し結び目は埋没する.その後治療用ソフトコンタクトレンズ装用する.るため,視力不良の症例,もしくは角膜移植を希望しない症例に対しては,治療用コンタクトレンズ装用,photothera-peuticCkeratectomy(PTK),結膜被覆術,羊膜移植術などが行われている.羊膜移植は,Piresらによって痛みを伴う水疱性角膜症に対して有効であったと初めて報告され2),近年,患者の痛みの軽減と上皮治癒のため羊膜移植が用いられてきた3.8).今回,久留米大学病院眼科(以下,当科)にて,眼痛を伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植術を施行したC15例の長期成績について検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2006年C1月.2017年C1月に,当科にて水疱性角膜症による疼痛除去目的で羊膜移植術を施行し,術後C12カ月以上経過観察できたC15例C15眼(男性C4例,女性C11例)である.適応は視力回復の可能性がない,あるいは角膜移植を希望しない患者で,全例で疼痛の原因が水疱性角膜症による角膜上皮障害であることを確認するために治療用コンタクトレンズにて痛みが消失することを確認した.羊膜は,当初は久留米大学倫理委員会の承認を得て,当院産婦人科の協力のもと帝王切開時に得られた胎盤組織から羊膜を採取し,手術室にて清潔操作で洗浄後,1.5MDMSOにて.80℃で保存しておいたものを使用し,2015年C8月からは久留米大学羊膜バンク(カテゴリーCII)から供給された羊膜を使用した.手術の方法を図1に示す.まず綿棒にて接着不良な角膜上皮を,角膜輪部最周辺を除き可能な限り.離する.準備しておいた羊膜を上皮.離した角膜の上にのせ,眼科用吸水スポンジ(M.Q.A)を羊膜に接触させ,MQAに吸着しない側が羊膜の上皮側であることを確認する.角膜上皮欠損部に合わせて羊膜をトリミングしつつ羊膜移植片を作製し,羊膜上皮側を上にしてC10-0ナイロン糸で縫合する.その際,羊膜移植片がたるまないようにピンと張り,残存した最周辺の角膜上皮に重ならないように縫合することが重要である.結び目は埋没し最後に治療用ソフトコンタクトレンズを装用する.術後は全例に抗菌薬点眼(クラビット点眼液C0.5%もしくはクラビット点眼液C1.5%)と副腎皮質ステロイド薬点眼(フルメトロン点眼液C0.1%)をC1日C3.4回使用し,上皮再生を促すため原則C20%自己血清点眼を併用した.治療用コンタクトレンズは約C1カ月間装用を続け,縫合糸は約半年後に抜糸をした.角膜上皮再生後に羊膜脱落の有無,疼痛の有無,上皮ブレブ形成の有無,上皮の安定性を受診時のカルテの記載や前眼部写真によって確認した.疼痛の評価は受診時にカルテに記載された患者本人の痛みに対する自覚の有無で行った.CII結果症例の詳細を表1に示す.手術時の平均年齢はC78.0C±8.4歳(60.89歳)で平均術後経過観察期間はC54.4C±32.1カ月(14.109カ月)であった.水疱性角膜症の原疾患は緑内障手術後がもっとも多くC7眼(46.7%),ついで白内障術後C6眼(40.0%),その他C2眼(13.3%)であった.視力は全例0.02以下で,視力不良の原因は水疱性角膜症がC8眼で,緑内障による中心視野消失がC7眼であった.水疱性角膜症のC8眼は本人が角膜移植を希望せず羊膜移植を選択した.術後血清点眼を行った症例はC15眼中C11眼であり,4眼は処方忘れであった.15眼中C15眼(100%)で角膜上皮が再生し,角膜上皮が再生するまでの平均日数はC11.6C±6.5日(6.30日)であった.疼痛は,角膜上皮再生後全例で消失し,経過観察中も外傷や感染などで上皮の合併症を生じたとき以外は出現しなかった.羊膜の脱落は,2回の外傷で上皮とともに全部脱落した症例がC1眼(6.7%),感染で全部脱落した症例がC1眼(6.7%)であった.部分的に自然に脱落した症例がC8眼(53.3%),脱落していなかった症例がC5眼(33.3%)であり,移植症例性年齢(歳)原因疾患術前視力視力不良の原因上皮再生期間(日)血清点眼観察期間(月)羊膜の脱落1男C80緑内障手術CHM緑内障C14+24.1自然に一部C2女C76緑内障手術+ぶどう膜炎C0.01緑内障C36+89.7なしC3女C60緑内障手術+ぶどう膜炎CHM水疱性角膜症C9C.109.3自然に一部C4女C89緑内障手術CHM水疱性角膜症C20+46.7自然に一部C5女C80緑内障手術CLP+緑内障C7+24.6なしC6女C87緑内障手術CLP.緑内障C6C.51.1なしC7女C74緑内障手術C0.02緑内障C7+103.2自然に一部C8女C86白内障手術C0.01水疱性角膜症C10C.30.4自然に一部C9女C85白内障手術(ACIOL)CLP.緑内障C7+14.3自然に一部C10女C76白内障手術C0.01水疱性角膜症C10+57.2なしC11女C85白内障手術C0.01水疱性角膜症C16C.76.4感染で全部C12男C64白内障手術C0.01水疱性角膜症C7+90.4外傷で全部C13男C80白内障手術C0.01水疱性角膜症C7+15.2自然に一部C14女C70不明CLP+水疱性角膜症C10+47.9なしC15男C78緑内障CLP+緑内障C14+34.5自然に一部ACIOL:anteriorchamberintraocularlens,HM:handmotion,LP:lightperception.表2術後合併症2上皮欠損外傷自然軽快12C64男抗菌薬点滴+14上皮欠損+眼内炎外傷抗菌薬硝子体注射羊膜はC13眼(86.6%)で最終観察時まで残存していた.感染性角膜穿孔の症例を除き疼痛が再燃していた症例はなく,最終受診時に全例で上皮ブレブ形成は認めず上皮は安定していた.術後合併症はC3例で認めた(表2).症例C1は,術後C14カ月に棒が眼に当たり上皮欠損を認めたが,治療用コンタクトレンズ装用にて改善した.症例C11は,長期間にわたり眼科を受診しておらず詳細が不明だが,術後C72カ月に角膜潰瘍穿孔と感染性眼内炎を認め,もともと光覚がなく認知症もあり治療が困難なため,眼球内容除去を施行した.症例C12は,術後C2カ月に竹の棒が眼に当たり上皮欠損を認め治療用コンタクトレンズ装用で改善したものの,羊膜の下半分が脱落している状態だった.さらにC1年後,眼鏡のつるのはしが眼に当たり,角膜上皮欠損と前房蓄膿を認め,抗菌薬点眼で改善を認めず硝子体混濁が出現したため,抗菌薬点滴と抗菌薬硝子体注射を行い改善した.[代表症例]74歳,女性(表1:症例7).主訴:左眼眼痛.現病歴:30歳頃に両眼ぶどう膜炎に伴う続発性緑内障に対し,近医にて両眼緑内障手術を施行された.その後左眼白内障と瞳孔閉鎖を認めていたためC65歳で当院にて左眼瞳孔形成術+白内障.外摘出+眼内レンズ縫着術を施行した.術後に左眼の眼圧コントロールが不良となり,左眼ニードリングを施行した.その後他院にてC2回左眼ブレブ再建術を行っている.68歳のときに当科で左眼毛様体扁平部濾過手術を施行し,その後水疱性角膜症となった.左眼水疱性角膜症による角膜びらんを繰り返し,痛みの訴えがあり,治療用コンタクトレンズにて痛みが改善することを確認し,羊膜移植について説明し同意が得られたためC2012年C7月当科に入院した.入院時所見:視力は右眼C0.8(1.0×+1.0D(cyl.2.0DAx45°),左眼C0.02(矯正不能),眼圧は右眼C10mmHg,左眼19CmmHg(GAT)であった.Goldmann視野検査で右眼は湖崎分類にてCIIIaだが,左眼は中心視野が消失しており湖崎分類CVbであった.右眼は前眼部にC2時方向に濾過胞を認めており,眼底は視神経乳頭の蒼白を認めていた.左眼はC12時方向に濾過胞,角膜浮腫,角膜上皮障害を認めており(図2a),中間透光体,眼底の詳細は不明であった.経過:2012年C7月左眼羊膜移植術を施行した.術翌日より,クラビット点眼液C0.5%1日C4回,フルメトロン点眼液0.1%1日C3回を開始し,術後C3日より血清点眼C1日C4回を図2症例7(74歳,女性)a:術前写真:水疱性角膜症にて角膜浮腫,角膜上皮障害を認める.Cb:術後C7日:角膜上皮欠損は改善し,痛みの自覚が消失.Cc:術後C3年:わずかな点状表層角膜症を認めるが水疱は消失.痛みの自覚はない.自然に一部羊膜の脱落を認める(.).追加した.術後C1週で治療用コンタクトレンズをはずし,フルオレセイン染色をしたところ,羊膜上は角膜上皮により完CIII考察全に被覆されていた(図2b).術後C45日で治療用コンタク水疱性角膜症においては角膜内皮障害のため,角膜実質のトレンズを中止とし,術後C2カ月に角膜縫合糸が一部ゆるん浮腫による視力不良を認め,角膜上皮障害による異物感や疼だため抜糸し,術後C5カ月には全抜糸となった.術後C3年,痛を認める.このため,水疱性角膜症の治療の目的は視力改わずかにフルオレセイン染色を認めるのみであった(図善だけではなく,疼痛のコントロールも重要となってくる.C2c).術後C103カ月(8.6年)経過観察中,角膜びらんおよび視力予後が良好と考えられる場合は角膜移植が選択される眼痛は再発していない.が,視神経萎縮や黄斑萎縮のため視力予後が不良と考えられる症例や,疼痛緩和のみを希望とする症例に対しては,角膜患者数平均年齢痛みの改善観察期間著者報告年(眼)(歳)(%)上皮再生期間(月)EspanaetalC2003C18C70.2C882.2週C25.1CGeorgiadisetalC2008C81C68C87.615日C21.0CSiuetalC2015C21C68.9C942週C39.0本報告C2020C15C79.2C10012.3日C50.8C移植を第一選択とするにはわが国ではドナー角膜の提供に限りがあるため困難である.高張食塩水点眼や軟膏塗布は軽度の異物感の改善は期待できるが,上皮欠損を繰り返す高度な水疱性角膜症には効果が乏しいと考えられる.治療用コンタクトレンズは高度な水疱性角膜症に対しても痛みを軽減するが,定期的に交換しつつ継続して装用する必要があり,長期間使用することで感染性角膜炎のリスクが生じる.外科的治療としては,結膜被覆術が古くから行われ,疼痛には効果があるが9),緑内障手術を繰り返している患者では被覆が困難な場合があり,整容的な面,輪部幹細胞が障害されるなどの欠点もある.PTKが効果的であったとの報告もあるが6,10),エキシマレーザーを所有していない施設では施行できない.AnteriorCstromalpuncture(ASP)が有用との報告もあり,ParisFdosらはASPと羊膜移植を比較し同等の効果を得られたと報告している7).しかし,ASP術後にCsubepithelial.brosis(上皮下線維症)をきたし,羊膜移植を追加したという報告もあるため注意が必要である11).クロスリンキングが効果的であったという報告12)もあるが,器械を所有していない施設では施行ができない.羊膜移植には以下のようなものがあげられる.①羊膜グラフト:羊膜を強膜,あるいは角膜実質上に移植し,新しい基質を供給することで,再生する角結膜上皮の適切な分化・増殖を図る.②羊膜パッチ:羊膜を一時的なカバーとして用い,上皮化を促進し,抗炎症,実質融解防止を行う.③羊膜スタッフ:羊膜を代用実質として用いる13).水疱性角膜症の眼痛が羊膜移植により軽減する機序としては,羊膜グラフトとして羊膜移植を行い,新しい基質が足場として供給されることで,上皮細胞の遊走と分化を促進し接着を強化するためと考えられる.今回C15眼中C8眼で最終受診時に部分的な羊膜の自然脱落を認めたが,疼痛および上皮ブレブの出現は認められなかった.羊膜移植初期は羊膜が足場となりレシピエント自身の上皮細胞が被覆されるが,年月が経過し羊膜が基質として不要になった場合に自然に脱落したのではないかと考えられた.羊膜が脱落しても経過中に上皮の安定性に問題はなかった.また,羊膜間質には抗血管新生および抗炎症蛋白が多く含まれており,炎症・線維化を抑制することで,羊膜上に健常な上皮が被覆して水疱形成が起こりにくくなるため眼痛が消失すると考えられている2).また,羊膜移植後の拒絶反応に関しては,羊膜上皮移植による抗原感作は弱いため,宿主には長期の抗原記憶が残らないと考えられ,同一ドナーの羊膜を短期間に繰り返して移植をしたり,他の組織移植と併用したり,凍結羊膜ではない生きのよい細胞を含む羊膜を用いた場合でない限り,拒絶反応が少ないとされている14).痛みを伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植をした報告はわが国では少なく,小池らがC2例報告をしているのみで,2例中2例(100%)で眼痛の改善を認めている4).長期間経過観察をしている海外での既報および本報告の結果を表3に示す.Espanaらは羊膜グラフトとパッチを行いC18例中C16例(89%)で痛みの改善を認めている3).1例で持続的な痛みを訴え,アルコール球後注射を行い最終的には疼痛管理のために眼球内容除去を行っている.その他C1例は上皮欠損と眼痛が持続している.Georgiadisらは羊膜パッチを行いC81例中C71例(87.6%)で痛みの改善を認めている5).5例がC2回の羊膜移植を,2例がC3回の羊膜移植を,3例がその後CPKPを施行している.Siuらは角膜実質表層切除と羊膜グラフトを行い21例中C20例(94%)で痛みの改善を認めている8).1例が術後C8週間後に羊膜の欠損を認め,結膜被覆を施行している.当科では羊膜グラフトを行いC15例中C15例(100%)で痛みの改善を認めている.前述のようにC3例で合併症を認めているが,3例とも外傷もしくは感染による合併症と考えられ,水疱性角膜症による痛みの再発は認められず,羊膜の再移植,角膜移植,結膜被覆などの追加手術は施行していない.当科を含むこれらの報告では羊膜移植を施行後,平均約C2週で上皮化しており,90%近くの症例で痛みの改善を認めている.以上より,眼痛を伴う水疱性角膜症に対する羊膜移植術は有効で安全な治療法であると考えられる.文献1)島.潤:羊膜移植.日本の眼科74:1269-1272,C20032)PiresCRTF,CTsengCSCG,CPrabhasawatCPCetal:AmnioticCmembraneCtransplantationCforCsymptomaticCbullousCkera-topathy.ArchOphthalmolC117:1291-1297,C19993)EspanaCEM,CGrueterichCM,CSandovalCHCetal:AmnioticCmembranetransplantationforbullouskeratopathyineyeswithCpoorCvisualCpotential.CJCCataractCRefractCSurgC29:279-284,C20034)小池直栄,廣瀬直文,小池生夫ほか:眼痛を伴う水疱性角膜症に対し羊膜移植術が有効であったC2例.眼紀C57:209-212,C20065)GeorgiadisCNS,CZiakasCNG,CBoboridisCKGCetal:Cryopre-servedCamnioticCmembraneCtransplantationCforCtheCman-agementofsymptomaticbullouskeratopathy.ClinExperi-mentCOphthalmolC36:130-135,C20086)ChawlaB,SharmaN,TandonRetal:Comparativeevalu-ationofphototherapeutickeratectomyandamnioticmem-braneCtransplantationCforCmanagementCofCsymptomaticCchronicbullouskeratopathy.CorneaC29:976-979,C20107)ParisFdosS,GoncalvesED,CamposMSetal:AmnioticmembraneCtransplantationCversusCanteriorCstromalCpunc-tureCinCbullouskeratopathy:aCcomparativeCstudy.CBrJOphthalmolC97:980-984,C20138)SiuCGD,CYoungCAL,CChengLL:Long-termCsymptomaticCreliefCofCbullousCkeratopathyCwithCamnioticCmembraneCtransplant.IntCOphthalmolC35:777-783,C20159)北野周作,東野巌,竹中剛一ほか:水疱性角膜症に対するCGundersen法による結膜被覆術の効果について.臨眼C30:683-687,C197610)武藤貴仁,佐々木香る,熊谷直樹ほか:視力回復の可能性のない水疱性角膜症に対するCPhototherapeuticCKeratecto-myの長期成績.あたらしい眼科29:1395-1400,C201211)FernandesCM,CMorekerCMR,CShahCSGCetal:ExaggeratedCsubepithelialC.brosisCafterCanteriorCstromalCpunctureCpre-sentingasamembrane.CorneaC30:660-663,C201112)阿部謙太郎,小野喬,子島良平ほか:水疱性角膜症に対する角膜クロスリンキング術後長期成績,日眼会誌C124:C15-20,C202013)島.潤:羊膜移植の臨床応用.眼科手術C15:25-29,C200214)堀純子:羊膜と免疫反応.眼紀C56:722-727,C2005***

治療前に光干渉断層計所見の著明な改善を認めたAcute Syphilitic Posterior Placoid Chorioretinitis(ASPPC)の 1 例

2022年5月31日 火曜日

《第54回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科39(5):660.665,2022c治療前に光干渉断層計所見の著明な改善を認めたAcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitis(ASPPC)の1例永田篤加藤大輔日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院眼科ACaseofAcuteSyphiliticPosteriorPlacoidChorioretinitis(ASPPC)inwhichOCTFindingsRevealedSpontaneousResolutionBeforeTreatmentAtsushiNagataandDaisukeKatoCDepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossAichiMedicalCenterNagoyaDainiHospitalC目的:AcuteCsyphiliticCposteriorCplacoidchorioretinitis(ASPPC)に特徴的なCOCT像は多く報告されているが,病態は不明である.今回治療前早期に急速にCOCT像の改善を認めたC1例を報告する.症例:52歳,男性.1週間前に急に右中心暗点を自覚し近医より紹介受診.視力は右眼C0.03(0.15),左眼C0.05(1.0),右眼黄斑部に黄白色非隆起性病変(placoidlesion:PL)を認めた.眼底自発蛍光,フルオレセイン蛍光造影で過蛍光所見,インドシアニングリーン蛍光造影で低蛍光をCPLより縦に広い範囲に認めた.OCT所見はCellipsoidzone(EZ)の消失,PL部位の色素上皮ラインの不正隆起を認めた.梅毒反応陽性を認めCASPPCと診断した.受診C23日後のCOCTでCPLの消失とCOCT所見の改善を認めた.結論:画像所見から免疫機序の炎症反応が示唆された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidchorioretinopathy(ASPPC)inCwhichCopticalCcoherencetomography(OCT)imagingCrevealedCspontaneousCimprovementCinCtheCearlyCstageCpriorCtoCtreatment.CCaseReport:ThisCstudyCinvolvedCaC52-year-oldCmaleCwithCcentralCscotomaCinChisCrightCeyeCforC1CweekCpriorCtoCpresentation.Hisbest-correctedvisualacuitywas0.15ODand1.0OS,andayellowishplacoidlesionwasobservedinCtheCmacularCregionCofCtheCrightCeye.CFundusCauto.uorescenceCandC.uoresceinCangiographyCshowedChyper.uorescence,CandCindocyanineCgreenCangiographyCrevealedChypocianescenceCinCtheCupperCmacularCregion.COCT.ndingsshoweddisruptionoftheellipsoidzone(EZ)andnodularthickeningoftheretinalpigmentepitheli-um(RPE),whichcorrespondedtothelesionoftheangiographicallydamagedarea.Syphilisserology.ndingswerepositive,CandCheCwasCdiagnosedCasCASPPC.CHowever,CatC23-daysCpostCpresentation,COCTCimagingCrevealedCresolu-tionoftheinitialEZandRPE.ndings.Conclusion:Inthiscase,multimodalretinalimaging.ndingssuggestedanimmuneresponsetoASPPC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):660.665,C2022〕Keywords:梅毒,ASPPC,梅毒性ぶどう膜炎,光干渉断層計.syphilis,ASPPS,syphiliticuveitis,opticalcoher-encetomography.Cはじめに床像を示すため診断に難渋することが多い.虹彩炎,強膜梅毒患者はC2010年以降わが国では急速に増加しており,炎,網膜血管炎,硝子体混濁などを認めるが,特異的な所見日常診療の場で遭遇する機会が増えてくると考えられる.梅はないためぶどう膜炎の鑑別には常に梅毒を考慮する必要が毒による眼病変は多彩で,そのなかのぶどう膜炎も多彩な臨ある.一方acutesyphiliticposteriorchorioretinitis(ASPPC)〔別刷請求先〕永田篤:〒466-8650愛知県名古屋市昭和区妙見町C2-9日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院眼科Reprintrequests:AtsushiNagata,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossAichiMedeicalCenterNagoyaDainiHospital,2-9Myokencho,Syowa-ku,Nagoya-shi,Aichi466-8650,JAPANC660(110)はC1988年に初めて報告され1),Gassらが後にCASPPCと命名した梅毒性ぶどう膜炎の一つである2).所見が特徴的で,さらに最近は光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)像も多く報告され3,5,6),鑑別を要する類似したOCT像を呈する疾患もあるが,この眼底所見とCOCT所見の特徴を知っていれば,梅毒血性反応を行い,陽性となれば診断は比較的容易である.しかし,ASPPCの病態はよくわかっていない.今回治療前早期に急速にCOCT像の改善を認めたC1例を経験したので,その特徴につき考察する.CI症例患者:52歳,男性.主訴:右中心暗点.既往歴:1年前亀頭に皮疹が出現し皮膚科で経過観察し自然に改善した.2019年C5月頃口内炎がよくできた.現病歴:2019年C11月C24日に急に右中心暗点を自覚し近医を受診し,原因不明の視力障害精査目的にてC12月C2日に当院を紹介受診した.当科初診時視力は右眼C0.03(0.15C×.8.0D),左眼C0.05(1.0C×.7.5D(cyl.1.5DAx170°),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部,中間透光体に異常所見は認めず,眼底には,右眼黄斑部に境界明瞭な淡い非隆起性の黄色網膜外層病変(placoidlesion:PL)を認めた.左眼は異常所見を認めなかった(図1).黄斑部CPLはCOCT所見の網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithe-lium:RPE)ラインの不整隆起を認め,一部は結節状の小隆起を認めた.Ellipsoidzone(EZ)の消失も認めた.さらに,冠状断では逆三角で示す範囲の外境界膜ラインの消失,EZの消失や不連続所見,RPEラインの結節状隆起を認めた(図2).冠状断連続切片ではCPLの範囲の横径の幅で上方に帯状に同様の網膜外層異常を認めた.初診時の右眼眼底自発蛍光(fundusauto.uorescence:FAF),フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinCfundusangiography:FA),インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA)で各々の検査はCPL以外の広い範囲の障害部位を描出した.FAは時間の経過とともに過蛍光を示し,IAではCPLは造影後期で強い低蛍光,その他の病巣も顆粒状の低蛍光を示した.またC3検査で描出された異常部位範囲はおおよそ一致し,その縦の範囲はCOCT冠状断の異常部位と一致していた(図3).左眼はいずれも異常を認めなかった.以上の所見より,また年齢,性別,既往歴から梅毒性ぶどう膜炎を疑い,とくにCASPPCを疑い採血を行った.梅毒血性反応CrapidplasmaCregain(RPR)128倍,treponemaCpallidumChemag-glutination(TPHA)81,920倍,HIV陰性,HBs抗原陰性,HCV陰性であった.その他の全身所見に異常は認めなかった.RPR,TPHAの抗体価高値より梅毒性ぶどう膜炎,ASPPCと診断した.当院総合内科にて髄液検査を施行し,CTPHA10,240倍を認め,第C2期梅毒と診断された.初診からC15日後のC12月C17日の右眼視力は矯正C0.4に改善し中心暗点の自覚症状も改善を認めた.右眼眼底のCPLは消退しOCTではCPL部位のCRPEラインの不整隆起も改善を示し,12月C25日にはCEZも改善を認めた.視力は矯正C0.5に改善を認めた.しかし,FAFの過蛍光領域は拡大を示した(図4).治療はC12月C26日から開始し総合内科にてセフトリアキソンC2CgをC1日のみ注射し,翌日よりペニシリンCGをC400万単位,6日間点滴治療を行った.治療後の経過ではCOCTの外層の異常所見は翌年のC2月C7日時点でほぼ改善を認め,図1初診時眼底右眼黄斑部に境界明瞭な淡い非隆起性の黄色網膜外層病変(placoidlesion)が認められる.図2初診時右眼OCT所見a:冠状断.黄斑部CPL部位(→)の範囲のCRPEラインの不整隆起を認め,一部は結節状の小隆起を認めた.EZの消失も認めた.で示す範囲(黄斑部上方)の外境界膜ラインの消失,EZの消失や不連続所見,RPEラインの結節状隆起を認めた.Cb:水平断.PL部位(→)の範囲にCRPEラインの不整隆起を認めた.bdf図3右眼の初診時所見a:カラー眼底写真.淡いCPLを認めた.Cb:FAF.PLから上方に帯状に過蛍光を認めた.Cc:FA(1分C9秒).わずかに黄斑部上方に点状の過蛍光を認めた.Cd:FA(15分C17秒).PLを含んで上方に過蛍光所見を認めた.Ce:IA(1分C9秒).PLにわずかな低蛍光像を認めた.Cf:IA(15分C17秒).PLは強い低蛍光像を示し,PLと連続して顆粒状の低蛍光所見を認めた.図4右眼治療前のOCT水平断像とFAF所見a,b:12月C17日.初診からC15日後でCFAFは初診時より過蛍光領域の拡大を認める.OCTではCPL部位のCRPEの肥厚の改善を認めた.c,d:12月C25日.FAFはさらに過蛍光領域の拡大を認める.OCTではCPL部位はCRPEの肥厚は消退しCEZの回復を認めた.黄斑上方のCEZも一部断続的であるが改善を認めた.FAFも過蛍光領域は消失した.3月C6日には視力は矯正C1.0に改善した(図5).全身的にはその後もとくに異常所見は認めなかった.CII考按Enandiらの報告では過去に報告されたCASPPCの論文をレビューしC16症例のCASPPCの患者の臨床的,血管造影的特徴を考察している4).平均発症年齢C40歳,9例が両眼性,7例がC2期梅毒の皮膚粘膜所見の既往あり,9例がCHIV陽性であった.眼底後極部に大きなCPLを認めCFAで病変部の過蛍光所見を認め,抗菌薬治療により短期間にCPLの消失と視力の改善を認めている.ASPPCは眼に起こる梅毒病変のなかで頻度はまれではあるがはっきりとした特徴的な所見を示すと結論づけている.OCT所見の特徴としてはCPLに一致して外境界膜,EZ,interdigitationzoneの消失,RPEの不整隆起,凹凸変化,結節状の小隆起を認めることが報告されている3.6).本症例は片眼の黄斑部CPLとその範囲以上の広範囲に網膜外層障害所見を認めた.さらに当院受診のC1年前に陰茎亀頭の皮疹が出現していた.これらのことから梅毒感染,ASPPCを強く疑い診断に至った.HIV感染の合併も可能性としてあるため抗体検査を行ったが陰性であった.当院で経験した症例の所見の特徴として,PLはC2週間という短期間で,かつ無治療の段階で自然消失を認め,OCTではCRPEラインの不整隆起像も同様に急速に改善を認めた.無治療で早期に改善した理由は不明であったが,このことは既報でも同様の報告があるが7,8)これらの報告でもCHIV感染はなく,免疫状態が正常で他の全身徴候がなく軽い状態のASPPCであったためと考察している.本症例でもCHIVは陰性であったため同様のことが考えられるが,EnandiらはHIV陽性患者と陰性患者で臨床的特徴と長期の視力予後で違いはなかったと述べている4).つぎに本症例では検眼鏡所見ではほとんどわからないCPL以外の病変をCOCT,FA,FAF,IAのマルチモーダルイメージングで明瞭に描出した.初診時これらの検査ではCOCT冠状断のCEZ,RPEラインの異常範囲とCFAF,FA,IAの異常範囲は一致を認めた.OCTでは網膜外層の障害の特徴図5右眼治療後のOCT水平断像とFAF所見a,b:2020年C1月C6日.FAFで一部過蛍光領域の残存を認める.OCT所見はわずかにCEZの不整を認めるのみであった.視力は矯正C0.7に改善した.Cc,d:202年C2月C7日.FAFで過蛍光所見は消退を認め,OCT所見はほぼ正常となった.視力は矯正C0.8に回復した.と範囲を示し,FAFでは障害の範囲におおよそ一致した高輝度所見を明瞭に示した.時間的経過とともに範囲は拡大し視力やCOCTの改善にやや遅れて改善を認めた.FAFでは過去の報告でも高輝度を示すことが報告されているが4,5,9)CPLに一致かその周辺の同心円状の高輝度所見の報告が多く,本症例のようにCPLから連続して縦に長く認めた例は筆者らが調べた限りではなかった.高輝度を示す理由としてCMatus-motoら9)は高輝度の範囲はCPLの範囲に限局していてCRPEの機能不全によるリポフスチンの蓄積と一部視細胞外節の不完全な貪食とによるとし,それが眼底所見のCPLとして認めると考察している.さらに本症例ではCIA所見で異常部位を明瞭に描出している.ASPPCのCIA所見はCPL部位の低蛍光を認めるが4,5),本症例では後期相においてCPL部位の強い低蛍光と上方に連続した病変の顆粒状の低蛍光を認めた.低蛍光部位はCFAFの高輝度部位,FAの後期相とほぼ一致を認めた.他のASPPCの報告を調べても筆者らが調べた限り当症例のようにCPL以外の範囲にも非常に明瞭な低蛍光像,顆粒状の低蛍光像を示した報告は認めなかった.ASSPPCの病態ついてはいまだ明らかではない.本症例で得られた異常所見から推測すると,他の報告同様9,10),病変は急性の局所性炎症によりCRPEの障害を起こしリポフスチンがおもに黄斑部のCRPE上に沈着しそれが眼底所見ではPLとして観察され,またCOCTでみられる顆粒状のCRPEの隆起所見も部分的な沈着であり,それはCIAで認めた顆粒状の低蛍光所見として認め,異常部位全体が低蛍光を示したのは沈着によるブロックと考えた.広い範囲の外層障害を起こしたが,それはCOCTのCEZの消失として認め,黄斑部にCPL所見を示したのは周辺網膜と黄斑部の代謝や解剖学的な違いからか,障害の程度の違いからか,リポフスチンの沈着を多く認めたためではないかと推測した.縦に帯状に障害を認めた理由は不明である.炎症反応をCRPEに起こす機序は依然不明であるが梅毒感染後に起こるなんらかの免疫応答が推測され,本症例ではCHIV感染がなく正常の免疫応答が働き早期の炎症の改善に伴い駆梅治療前の短期間に良好な視力に改善したと考えた.今回筆者らが経験した症例はCplacoidlesionのみならず広い範囲に網膜外層障害を認めたC1例で,マルチモーダルイメージングが診断の助けとなった.今後梅毒やCHIV感染の増加に伴い日常診療でCOCTで網膜外層異常を認めた場合ASPPCも重要な鑑別候補にあがると考えた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DeSouzaEC,JalkhAE,TrempleCLetal:Unusualcen-tralCchorioretinitisCasCtheC.rstCmanifestationCofCearlyCsec-ondarysyphilis.AmJOphthalmolC105:271-276,C19982)GassJD,BraunsteinRA,ChenowethRG:Acutesyphiliticposteriorplacoidchorioretinitis.OphthalmologyC97:1288-1297,C19903)BristoP,PenasS,CarneioAetal:Spectral-domainopti-calcoherencetomographyfeaturesofacutesyphiliticpos-teriorretinitis:theroleofautoimmuneresponseinpatho-genesis.CaseRepOphthalmolC2:39-44,C20114)EnandiCCM,CNeriCP,CAdelmanCRACetal:AcuteCsyphiliticCposteriorCplacoidchorioretinitis:reportCofCaCcaseCseriesCandCcomprehensiveCreviewCofCtheCliterature.CRetinaC32:C1915-1941,C20125)PichiCF,CGiardellaCAP,CCunninghamCETCJrCetal:SpectralCdomainopticalcoherencetomography.ndingsinpatientswithCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidCchorioretinopathy.CRetinaC34:373-384,C20146)BurkholderBM,LeungTG,OstheimerTAetal:SpectraldomainCopticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCinCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidCchorioretinitis.CJCOphthalmicCIn.ammInfectC4:2,C20147)JiYS,YangJM,ParkSW:EarlyresolvedacutesyphiliticposteriorCplacoidCchorioretinitis.COptomCVisCSciC92:S55-S58,C20158)BaekCJ,CKimCKS,CLeeWK:NaturalCcourseCofCuntreatedCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidCchorioretinitis.CClinCExperimentOpthalmolC44:431-433,C20169)MatsumotoCY,CSpaideRF:Auto.uorescenceCimagingCofCacuteCsyphiliticCposteriorCplacoidCchorioretinitis.CRetinalCCases&BriefReportsC1:123-127,C200710)佐藤茂,橋田徳康,福島葉子ほか:Acutesyphiliticpos-teriorCplacoidchorioretinitis(ASPPC)を呈した梅毒性ぶどう膜炎のC3例.臨眼72:1263-1272,C2018***

非典型的な特徴がみられた間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の 2 症例

2022年5月31日 火曜日

《第54回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科39(5):655.659,2022c非典型的な特徴がみられた間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の2症例田口諒*1武島聡史*1御任真言*1齊間至成*1空大将*2竹内大*2梯彰弘*1蕪城俊克*1*1自治医科大学附属さいたま医療センター眼科*2防衛医科大学校眼科学教室CTwoCasesofTubulointerstitialNephritisandUveitisSyndromeWithanAtypicalCourseRyoTaguchi1),SatoshiTakeshima1),ShingenMito1),YoshinariSaima1),DaisukeSora2),MasaruTakeuchi2),AkihiroKakehashi1)andToshikatsuKaburaki1)1)DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU)は若年女性に多い疾患である.今回,非典型的な特徴がみられたTINU症候群のC2例を経験したので報告する.症例:症例C1はC38歳,男性.10日前から右眼視力低下.矯正視力右眼0.3.右眼前房内細胞C4+,微塵様角膜後面沈着物,視神経乳頭発赤を認め,血清クレアチニンC5.6Cmg/dl,尿中Cb2MG45,000Cμg/lと高値,腎生検で尿細管間質性腎炎と診断された.ステロイド内服によりぶどう膜炎,腎障害は改善した.症例C2はC15歳,女性.8年前に両眼ぶどう膜炎を発症.尿中Cb2MG400Cμg/l高値からCTINU症候群と診断され,ステロイド点眼を継続していた.自治医科大学附属さいたま医療センター初診時の矯正視力両眼C1.2.両眼前房内細胞C1+,白色小型角膜後面沈着物,蛍光眼底造影で両眼炎症に伴う網膜新生血管がみられた.両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を行い,炎症所見は消失し,新生血管の軽減がみられた.結論:症例C1は男性で壮年発症である点,症例C2は網膜新生血管を認めた点がCTINU症候群としては非典型的である.CPurpose:TubulointerstitialCnephritisCanduveitis(TINU)syndromeCisCcommonCinCyoungCwoman.CHereCweCreporttwocasesofTINUwithanatypicalcourse.CaseReports:Case1involveda38-year-oldmalewithongo-inglossofvisioninhisrighteyefrom10yearspriortopresentation.Uponexamination,thebest-correctedvisualacuity(BCVA)inhisrighteyewas0.3,and4+cellsintheanteriorchamber,.nekeraticprecipitates(KPs)C,andrednessoftheopticdiscwasobserved.Hisserumcreatininewas5.6Cmg/dl,hisratioofurinaryb2-microglobulin(b2-MG)wasC45000Cμg/l,CandCaCrenalCbiopsyCrevealedCTINU.CTreatmentCwithCoralCsteroidsCimprovedCtheCuveitisCandnephropathy.Case2involved15-year-oldfemalewhobecamea.ictedwithbilateraluveitis8yearspriortopresentation.ShewasdiagnosedwithTINUbasedonthehighratioofurinaryb2-MG(400Cμg/l)C,andunderwentsteroidCinstillationCforCtreatment.CHerCBCVACwasC1.2,CandC1+cellsCinCtheCanteriorCchamberCandCsmallCwhiteCKPsCwereobservedinbotheyes.Moreover,.uoresceinangiography(FA)examinationrevealedbilateralretinalneovas-cularizationCaroundCtheCopticCdisc.CBinocularCsub-Tenon’sCtriamcinoloneCacetonideCinjectionsCimprovedCtheCuveitisCandreducedtheleakagesobservedonFA.Conclusion:ThestudyinvolvedamaleTINUpatientinwhomdiseaseonsetoccurredatclosetomiddleage,andafemaleTINUpatientwithretinalneovascularization,whichareatypi-calTINUcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):655.659,C2022〕Keywords:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,尿中Cb2ミクログロブリン,腎生検,壮年発症,網膜新生血管.tubu-lointerstitialnephritisanduveitis(TINU)syndrome,urinaryb2microglobulin(Cb2MG)C,renalbiopsy,middleageConset,retinalneovascularization.C〔別刷請求先〕田口諒:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RyoTaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaitamaMedicalCenter,JichiMedicalUniversity,1-847CAmanuma-cho,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPANC図1症例1の初診時右眼所見a:右眼前眼部写真.右眼に毛様充血,前房内細胞C4+,フレアC3+,.neKP,フィブリンの析出を認め,非肉芽腫性ぶどう膜炎の所見であった.b:右眼眼底写真.右眼眼底に硝子体混濁C2+,視神経乳頭発赤を認めた.図2症例1の腎生検病理写真間質においてリンパ球主体の炎症細胞浸潤をびまん性に認め,急性間質性腎炎と診断された.はじめに間質性腎炎ぶどう膜炎(tubulointerstitialCnephritisCanduveitis:TINU)症候群は,急性間質性腎炎(acuteCtubuloin-terstitialnephritis:AIN)にぶどう膜炎が合併する疾患で,わが国のぶどう膜炎初診患者のC0.5%を占め1),65%は腎炎がぶどう膜炎に先行するとされている2).好発年齢はC15歳以下で小児ぶどう膜炎のC5.7%を占め,女性,両眼性が多く,肉芽腫性・非肉芽腫性はどちらもありうるとされている3).通常,急性の虹彩毛様体炎として発症し,炎症が強い場合は硝子体混濁,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管炎,網膜浮腫をきたす3).今回,非典型的な特徴がみられたTINU症候群のC2例を経験したので報告する.I症例[症例1]38歳,男性.主訴:右眼痛,流涙,視力低下.既往歴:特記事項なし.現病歴:2020年C3月C1日より右眼の違和感,流涙,刺すような痛みを自覚し,一晩で視界がぼやけるようになった.3月C6日に近医で右眼ぶどう膜炎を指摘され,3月C11日に精査加療目的に自治医科大学附属さいたま医療センター(以下,当院)眼科を紹介受診となった.初診時,視力は右眼C0.1(0.3C×sph.2.50D(cyl.1.00DAx90°),左眼C0.2(1.2C×sph.1.75D).眼圧は右眼21mmHg,左眼C17CmmHg.右眼は毛様充血,前房内細胞C4+,フレアC3+,微塵様角膜後面沈着物,フィブリンの析出を認め,非肉芽腫性ぶどう膜炎の所見であった(図1a).左眼には炎症所見は認めなかった.眼底は,右眼硝子体混濁C2+,視神経乳頭発赤を認めた(図1b).左眼眼底は異常を認めなかった.OCTでは,両眼異常を認めなかった.腎機能が悪かったため,蛍光眼底造影は施行しなかった.OCTCanigi-ographyでは,両眼後極部の網膜血管に異常所見を認めなかった.この時点で鑑別診断として,中間部ぶどう膜炎で非肉芽腫性,片眼性,急性の経過であることから,急性前部ぶどう膜炎,HLA-B27関連ぶどう膜炎,Behcet病,炎症性腸疾患や乾癬に伴うぶどう膜炎などを考えた.治療として右眼デキサメタゾン結膜下注射C1.2Cmg/0.3Cmlを行い,0.1%ベタメタゾンC8回点眼,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩C3回点眼を開始した.ぶどう膜炎の鑑別に関する血液検査では,BUNC29Cmg/C図3症例2の初診時両眼眼底写真両眼視神経乳頭周囲に新生血管と網膜滲出斑を認めた.図4症例2の初診時蛍光眼底造影両眼ともびまん性に毛細血管からの蛍光漏出がみられ,視神経乳頭の周囲に新生血管が多発していた.無血管領域はなく,炎症性の新生血管と考えられた.dl,クレアチニンC5.68Cmg/dlと高度の腎障害がみられ,尿検査では尿中Cb2ミクログロブリン(Cb2MG)がC45,000Cμg/lと高値で近位尿細管障害が考えられた.この時点でCTINU症候群を疑い,3月C25日に当院腎臓内科で腎生検が行われた.糸球体基底膜やメサンギウム領域の変化は目立たないが,近位尿細管上皮内へのリンパ球浸潤と間質においてリンパ球主体の炎症細胞浸潤がびまん性にみられ,AINと診断された.それを受けて眼科ではぶどう膜炎をCTINU症候群と診断した(図2).間質性腎炎に対する治療として腎臓内科でプレドニゾロン(PSL)40mg/日内服が開始された.PSL内服開始からC4週間後には右眼矯正視力C1.2となり,前房内炎症,硝子体混濁は消失し,視神経乳頭発赤も改善した.その後,1年間経過観察し,再燃を認めない.腎機能に関しては,PSL40mg/日内服1週間でクレアチニン5.68mg/dlからC2.53Cmg/dlまで改善し,その後CPSLを漸減しながら,1年間内服した結果,クレアチニンC1.34Cmg/dlまで低下した.最終観察時においてCPSL3Cmg/日を内服しており,再燃を認めない.[症例2]15歳,女性.主訴:加療目的.既往歴:特記事項なし.現病歴:2013年C5月に両眼ぶどう膜炎を指摘され,近医でステロイド点眼治療を受けていた.2018年C1月に防衛医科大学校病院眼科を紹介初診し,尿中Cb2MG400Cμg/lと高図5症例2の治療開始6カ月後の蛍光眼底造影毛細血管からの蛍光漏出と網膜新生血管の軽減がみられた.値からCTINU症候群と診断されたが,通院上の理由のため,2020年C12月当院を紹介初診した.初診時,視力は右眼C1.2(n.c.),左眼C1.0(1.2C×sph+1.00D(cyl.1.25DAx10°).眼圧は右眼14mmHg,左眼15mmHg.両眼前房内細胞C1+,フレアC1+,白色小型角膜後面沈着物と虹彩後癒着を認めた.眼底は,両眼視神経乳頭周囲に網膜新生血管と網膜滲出斑を認めた(図3).蛍光眼底造影では,両眼びまん性に毛細血管からの蛍光漏出がみられ,視神経乳頭の周囲に網膜新生血管が多発していた.無血管領域はなく,炎症性の新生血管と考えた(図4).ぶどう膜全検の血液検査では,BUN12Cmg/dl,クレアチニンC0.58Cmg/dlと正常であったが,尿中Cb2MG298Cμg/lと高値であり,TINU症候群と矛盾しない結果であった.当院腎臓内科に紹介し,腎臓に関しては尿細管障害が軽微なため,経過観察の方針となった.治療として両眼C0.1%ベタメタゾンC4回点眼,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩C1回点眼を行った.その後,初診時からC3カ月後に網膜新生血管に対して両眼トリアムシノロンCTenon.下注射を行った.初診時からC6カ月後,最終観察時では,炎症所見は消失しており,蛍光眼底造影でも毛細血管からの蛍光漏出と網膜新生血管の軽減がみられた(図5).CII考按TINU症候群は,AINに両眼性急性前部ぶどう膜炎が合併した疾患として,1975年にCDobrinらによって初めて報告された2).発症年齢の中央値はC15歳で,男女比はC1:3と女性に多い疾患であり,発生頻度に人種や民族間で差はないとされている3,4).原因に関しては,HLA-DRB1*0102対立遺伝子やCFOXP3+Tregulatorylymphocytes(T-reg)の関与といった遺伝的背景に加え,Epstein-BarrウイルスやCChla-mydiatrachomatisなどの先行感染,非ステロイド抗炎症薬や抗菌薬などの薬剤性についていくつか報告されているが,正確な原因の特定には至っていない4).TINU症候群のC65%は,AINがぶどう膜炎に先行するが,20%はぶどう膜炎がAINに先行し,15%は両者が同時に発症するとされている4).ぶどう膜炎は,両眼性(77%)が多く,肉芽腫性・非肉芽腫性はどちらもありうるとされており,通常,急性の虹彩毛様体炎として発症し,炎症が強い場合は硝子体混濁,視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜血管炎,網膜浮腫をきたす3).症例C2でみられた網膜新生血管に関しては,Koreishiらが,TINU症候群と診断された患者C17例のうちC1例(6%)に視神経乳頭部の新生血管と硝子体出血がみられたと報告しており5),TINU症候群に網膜新生血管を伴う症例は少ないと思われる.眼症状は,眼痛と充血(77%),視力低下(20%),羞明(14%)などを呈し3),全身症状は,発熱(53%),体重減少(47%),全身倦怠感(44%),食思不振(28%),筋肉痛(28%),腹部・側腹部痛(28%)などを呈する.血液検査ではCBUN,クレアチニンの上昇に加え,血沈亢進(89%),貧血(96%)を認め,尿検査では尿中Cb2MG上昇のほか,低レベルの蛋白尿(86%)を認める2).TINU症候群の診断基準(表1)は,2001年にCMandevilleらによって報告された3).AINが組織診断か臨床診断か,およびぶどう膜炎が典型的か非典型的かの組み合わせで,「確定例」,「ほぼ確実例」,「疑い例」に診断される.AIN組織診断は,腎生検で尿細管間質性腎炎像を呈するかどうかで診断される.AIN臨床診断は,表1にあるように,腎機能障害,尿検査異常,2週間以上持続する全身症状と検査値異常のC3項目すべてを満たせば完全型臨床診断群,2項目以下で表1TINU症候群の診断基準(文献C3より抜粋)TINU症候群の診断基準確定診断(de.nite)AIN組織診断群またはCAIN完全臨床診断群(※1)+典型ぶどう膜炎(※2)ほぼ確実(probable)AIN組織診断群+非典型ぶどう膜炎またはAIN不全型臨床診断群+典型的ぶどう膜炎疑い(possible)AIN不全型臨床診断群+非典型ぶどう膜炎※C1CAIN臨床診断群:以下C3項目すべてを満たすものを「完全型」,2項目以下のものを「不全型」と診断する.1.腎機能障害:血清クレアチニン上昇,クレアチニンクリアランス低下.2.尿検査異常:Cb2MG上昇,ネフローゼ症候群よりも軽度の蛋白尿(尿蛋白C2+以下,尿蛋白/尿クレアチニン比<3.0Cg/gクレアチニン,大人で蛋白尿<3,0g/日,小児で蛋白尿<3.5Cg/1.73CmC2/日),尿中好酸球,感染のない膿尿または血尿,白血球円柱,糖尿病のない尿糖.3.以下の症状(Ca)と検査異常(Cb)がC2週間以上続く.(a)発熱,体重減少,食欲不振,倦怠感,(側)腹痛,関節痛,筋肉痛,発疹.(b)貧血,肝機能異常,好酸球増加,赤沈≧40mm/hr.※C2ぶどう膜炎:以下C2項目すべてを満たすものを「典型的」,1項目以下のものを「非典型的」と診断する.1.両眼性前部ぶどう膜炎(中間部,後部ぶどう膜炎の合併を問わない).2.発症時期がCAIN発症のC2カ月前.12カ月後までの間に存在する.あれば不全型臨床診断群となる.同様に,ぶどう膜炎は,両眼性前部ぶどう膜炎(中間部,後部ぶどう膜炎の合併を問わない)かつ発症時期がCAIN発症のC2カ月以前.12カ月以後までの間に存在する場合を典型的,それ以外の場合を非典型的と診断する3,4).症例C1は腎生検陽性であったが,ぶどう膜炎が非典型的なので「ほぼ確実例」となる.症例C2は,腎生検は行われておらず,ぶどう膜炎と腎症の発症時期にC5年間の開きがあるため,ぶどう膜炎が非典型的であり,診断としては「疑い例」となる.腎障害は,TINU症候群を疑う重要な根拠となるため,ぶどう膜炎初診患者にはスクリーニング検査として血液検査(BUN,クレアチニン)と尿検査を行い,腎機能が悪いとわかった時点でCTINU症候群の可能性を考えて尿中Cb2MGを測定し,尿中Cb2MG高値ならばTINU症候群確定診断のために腎生検含め,腎臓内科にコンサルトするべきであると考える3).治療成績に関しては,Mandevilleらは過去に報告されたTINU症候群C133例をCreviewして報告している.それによると,ぶどう膜炎に対してはステロイド点眼に加え,80%にステロイド内服治療が行われていた.治療の反応は良好だが,41%でぶどう膜炎の再発がみられ,14%でぶどう膜炎がC3カ月以上遷延した.ぶどう膜炎再発例にはステロイド点眼に加え,プレドニゾロン内服,免疫抑制薬(アザチオプリンなど)が使用されていた.腎障害については,ステロイド内服に反応良好で,自然回復例もあるとされている.腎炎の再発はまれで,腎不全はC8.3%のみと報告されている3).今回,症例C1は男性で比較的高齢発症であること,症例C2は網膜新生血管を認めた点がCTINU症候群としては非典型的であった.TINU症候群はわが国のぶどう膜炎初診患者の0.5%と頻度が低い疾患であるが,早期に診断してステロイド全身投与を行わないと腎不全となる可能性がある.しかし,TINU症候群には今回のC2例のような非典型的な症例もあり,TINU症候群を眼所見だけから推測することは困難である.したがって,TINU症候群を見落とさないためにも,ぶどう膜炎の鑑別に関する血液検査には腎機能検査を含めるべきであると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmol65:184-190,C20212)DobrinCRS,CVernierCRL,CFishAL:AcuteCeosinophilicCinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanterioruveitis.Anewsyn-drome.AmJMedC59:325-333,C19753)MandevilleCJT,CLevinsonCRD,CHollandGN:TheCtubuloint-erstitialCnephritisCandCuveitisCsyndrome.CSurvCOphthalmolC46:195-208,C20014)AmaroD,Carren.oE,SteeplesLRetal:TubulointerstitialnephritisCanduveitis(TINU)syndrome:aCreview.CBrJOphthalmolC104:742-747,C20205)KoreishiCAF,CZhouCM,CGoldsteinDA:TubulointerstitialCnephritisCandCuveitissyndrome:CharacterizationCofCclini-calfeatures.OculImmunolIn.ammC29:1312-1317,C2020

梅毒による強膜炎の2 例

2022年5月31日 火曜日

《第54回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科39(5):649.654,2022c梅毒による強膜炎の2例播谷美紀伊沢英知南貴紘曽我拓嗣田中理恵東京大学医学部附属病院眼科CTwoCasesofBilateralSyphiliticScleritisTreatedbyIntravenousPenicillinGandTopicalBetamethasoneMikiHariya,HidetomoIzawa,TakahiroMinami,HirotsuguSogaandRieTanakaCDepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospitalC梅毒によるびまん性強膜炎をC2例経験したので報告する.症例C1はC65歳,男性.ステロイド点眼で症状が改善せずに東京大学医学部附属病院(以後,当院)を紹介受診した.両眼のびまん性強膜炎を認め,血液検査で梅毒血清反応(STS)定量C512倍,トレポネーマ抗体陽性を認め,梅毒による強膜炎と考えられた.髄液検査で神経梅毒の合併と診断された.ペニシリンCG点滴治療,ベタメタゾンC0.1点眼を右眼C3回,左眼C2回で開始し強膜炎は改善した.症例C2は65歳,男性.9カ月前に発症した両眼の充血の増悪と前房内炎症があり,当院を紹介受診した.両眼のびまん性強膜炎と強膜菲薄化,前房内細胞C1+,硝子体混濁,眼底に多発する黄白色の斑状病変を認めた.血液検査でCSTS定量C256倍,トレポネーマ抗体陽性を認め,梅毒による強膜ぶどう膜炎と考えられた.髄液検査で神経梅毒の合併と診断された.ペニシリンCG2点滴,ベタメタゾンC0.1点眼をC6回開始後,強膜ぶどう膜炎は改善した.CPurpose:Toreporttwocasesofsyphilis-relatedbilateraldi.usescleritisthatweretreatedbyadministrationofintravenouspenicillinGandbetamethasoneeyedrops.CaseReports:Case1involveda65-year-oldmalewhowasCreferredCtoCtheCUniversityCofCTokyoCHospitalCdueCtoChyperemia.CUponCexamination,CbilateralCdi.useCscleritisCwasCobserved,CandCtheC.ndingsCofCaCserologicCtestCforsyphilis(STS)andCaCtreponemaCpallidumChemagglutinationassay(TPHA)testCwereCbothCpositive.CCerebrospinalC.uidCexaminationCresultedCinCaCdiagnosisCofCneurosyphilis.CIntravenouspenicillinGandbetamethasoneeyedropswereadministered,andthescleritissubsequentlyimproved.Case2involveda65-year-oldmalewhowasreferredtoourhospitalduetohyperemia.Uponexamination,bilater-aldi.usescleritis,scleralthinning,andanteriorchambercellswereobserved.Fundusexaminationrevealedvitre-ousCopaci.cationCandCyellowishCspottyClesions,CandCSTSCandCTPHACtestCresultsCwereCbothCpositive.CCerebrospinalC.uidCexaminationCresultedCinCaCdiagnosisCofCneurosyphilis.CIntravenousCpenicillinCGCandCbetamethasoneCeyeCdropsCwereCadministered,CandCtheCscleritisCsubsequentlyCimproved.CConclusion:WeCexperiencedCtwoCcasesCofCsyphiliticCdi.usescleritisthatweree.ectivelytreatedviatheadministrationofintravenouspenicillinGandbetamethasoneeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):649.654,C2022〕Keywords:梅毒,強膜炎,眼梅毒,神経梅毒,駆梅療法.syphilis,scleritis,ocularsyphilis,neurosyphilis,syphi-listreatment.Cはじめに梅毒の眼症状は多彩であり,ぶどう膜炎,網膜炎,乳頭炎,視神経炎,視神経萎縮,結膜炎,上強膜炎,強膜炎などがみられる1,2).前部ぶどう膜炎はC6.1%,中間部ぶどう膜炎はC8.4%,後部ぶどう膜炎はC76.2%,汎ぶどう膜炎はC8.4%,強膜炎はC0.9%3)と報告されており,眼梅毒のなかで強膜炎は比較的まれである.一方,強膜炎の原因としては,関節リウマチ,抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicantibody:ANCA)関連血管炎,再発性軟骨炎などが多い4.6).強膜炎のC4.6.18%は感染症が原因である3,7,8)が,そ〔別刷請求先〕播谷美紀:〒113-8655東京都文京区本郷C7C-3-1東京大学医学部附属病院眼科医局Reprintrequests:MikiHariya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital,7-3-1Hongo,Bunkyo,Tokyo113-8655,JAPANCのなかでもっとも多い原因はヘルペスウイルス感染4,6,9)と報告されている.強膜炎の原因としても梅毒はまれである.今回,梅毒による強膜炎と診断した症例C2例を経験し,臨床像を検討した.CI症例提示〔症例1〕65歳,男性.主訴:両眼充血.現病歴:17カ月前に上記主訴にて近医を受診し,上強膜炎と診断された.14カ月前に両眼の白内障手術が施行され,術後のステロイド点眼で強膜充血は改善しなかった.9カ月前に眼圧上昇がみられ緑内障点眼を開始された.7カ月前に緑内障点眼下で両眼C30CmmHg以上の高眼圧となり,ステロイド性高眼圧が疑われたため,リンデロン(0.1%)点眼は中止された.その後眼圧はC15CmmHg以下に低下したものの,フルオロメトロン(0.1%)点眼では充血は改善せず,プレドニゾロンC10Cmgが開始された.症状が改善しないため,本人の希望で当院紹介受診となった.既往歴・家族歴に特記すべきものはなかった.初診時,右眼C1.0Cp(1.2C×cyl.0.75DAx70°),左眼C0.2(0.6pC×sph+1.25D(cyl.2.25DAx80°)で,眼圧は右眼C22CmmHg,左眼C16CmmHgであった.両眼にびまん性強膜炎を認めた(図1)が,前房内炎症は認めなかった.左眼の眼底に分層黄斑円孔を認めたが,両眼ともに明らかな網膜病変や硝子体混濁は認めなかった.血液検査を行ったところ,C反応性蛋白(CRP)0.90Cmg/dl,赤血球沈降速度C40Cmm,リウマチ因子C5CIU/ml以下,抗核抗体陽性,抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)0.5CIU/ml以下,抗好中球細胞質抗体(PR3-ANCA)0.5CIU/ml以下,抗シトルリン化ペプチド抗体C0.6CU/ml未満,梅毒血清反応(serologicCtestCforsyphilis:STS)定量512倍,トレポネーマ抗体陽性を認め,梅毒による強膜炎を疑った.本人が遠方在住のため,近医総合病院内科へ紹介し,髄液検査で髄液細胞数がC152/μlと上昇,STS定量C4倍であり神経梅毒の合併と診断された.また,性感染症のスクリーニングも施行され,尿中クラミジア・トラコマティスPCRが陽性となりアジスロマイシン内服治療が開始された.その他CHBs抗原,HCV抗体,HIV抗体,淋菌は陰性だった.アモキシシリンC3,000CmgとプロベネシドC750CmgをC3週間内服したのち,ペニシリンCG2,400万単位/日をC12日間点滴治療され,眼局所治療としてはベタメタゾンC0.1%点眼図1症例1の前眼部写真a,b:初診時の前眼部写真(Ca:右眼,Cb:左眼).びまん性強膜炎を認める.Cc,d:ペニシリンCG点滴開始後C2週間の前眼部写真(Cc:右眼,d:左眼).強膜充血は消失した.図2症例2の前眼部写真a,b:症例C2の初診時の前眼部写真(Ca:右眼,Cb:左眼).びまん性強膜炎を認める.一部強膜は菲薄化している.Cc,d:ペニシリンCG点滴開始後C2週間の前眼部写真(Cc:右眼,Cd:左眼).強膜充血は消失した.強膜菲薄化によりぶどう膜が透見される.を右眼C3回,左眼C2回で開始した.その後,STS定量はC4倍からC1倍へと改善し,両眼のびまん性強膜炎はアモキシシリン開始後約C1週間で軽快した.両眼のびまん性強膜炎の軽快に伴い,ベタメタゾン点眼を中止したが,その後C3カ月間再発なく当科は終診となった.〔症例2〕65歳,男性.主訴:両眼充血.現病歴:9カ月前に両眼充血で近医眼科を受診するも改善せず,3カ月前に別の眼科を受診し,強膜炎を指摘され,ベタメタゾンC0.1%点眼両眼C4回が開始となった.2週間前に両眼の充血の増悪と前房内細胞を認めたため精査加療目的に当科紹介となった.既往歴は高血圧とCC型肝炎治療後であった.初診時の矯正視力右眼C0.3(1.0CpC×cyl.3.00DCAx90°),左眼C0.3Cp(0.6C×sph.0.50D(cyl.2.50DAx105°),眼圧は右眼C13CmmHg,左眼C13CmmHgであった.両眼のびまん性強膜充血と一部に強膜菲薄化を認めた(図2).両眼の前房内細胞C1+で,左眼には微細角膜後面沈着物を認めた.両眼の眼底にびまん性硝子体混濁C1+,左眼眼底優位に多発する黄白色の斑状病変を認めた(図3).斑状病変は,光干渉断層計検査にて網膜色素上皮の結節状の隆起と,ellipsoidzoneの不明瞭化を認めた(図4).蛍光眼底造影検査では,両眼に早期から後期にかけて点状の組織染,一部過蛍光領域を認めた(図5).また,早期から後期にかけて視神経乳頭の蛍光増強を認めた.血液検査では,CRP0.41Cmg/dl,赤血球沈降速度36mm,リウマチ因子5IU/ml以下,抗核抗体陰性,MPO-ANCA0.5CIU/ml以下,PR3-ANCA0.6CIU/ml,抗シトルリン化ペプチド抗体C0.6CU/ml未満,STS定量C256倍,トレポネーマ抗体陽性を認め,梅毒による強膜ぶどう膜炎を疑った.当院感染症内科へ紹介し,髄液検査にて髄液細胞数がC76/μlと上昇,STS16倍であり神経梅毒の合併と診断された.またCHCV抗体は陽性,その他のCHBs抗原,HBs抗体,HIV検査は陰性だった.治療としてペニシリンCG2,400万単位/日をC14日間点滴,ベタメタゾンC0.1%を両眼C6回で開始し,両眼充血は約C2週間で消失,両眼の硝子体混濁はC1カ月でほぼなくなり,眼底の黄白色病変も軽快した.ベタメタゾン点眼は漸減し,治療開始後C4カ月で当院終診となった.図3症例2の眼底写真両眼に硝子体混濁C1+,眼底に多発する黄白色の斑状病変を認めた.図4症例2の左眼眼底に認めた黄白色斑状病変の光干渉断層像網膜色素上皮の結節状の隆起と,ellipsoidzoneの不明瞭化を認めた.II考按今回の症例は,ステロイド点眼で長期間改善しない両眼充血を主訴に紹介受診となったC2症例で,どちらも両眼性にびまん性強膜炎を認めた.血液検査で梅毒が原因として疑われ,髄液検査にて神経梅毒の合併も認めた.ペニシリン全身投与による駆梅療法が施行され,びまん性強膜炎はC2週間ほどで改善し,その後の強膜炎の再発もなかったことから梅毒性強膜炎であったと推測される.梅毒は梅毒トレポネーマによる感染症である.2000年代から世界中でその感染数が再増加3)しており,とくに男性間での接触感染,ドラッグ使用者によるもの,HIV感染の合併例が多いとされる2).眼梅毒も再増加が指摘されており3),眼痛,視野欠損,飛蚊症,光視症,眼圧変動,羞明といったさまざまな症状が生じる1).ほぼすべての眼構造が影響を受けるため,角膜実質炎,中間部ぶどう膜炎,網脈絡膜炎,網膜血管炎,網膜炎,神経周囲炎,乳頭炎,球後視神経炎,視神経萎縮,視神経ゴム腫などが認められる13).梅毒のどの病期でも眼病変は生じうるが,とくに第C2期,第C3期梅毒の眼梅毒が多い10).そのなかで梅毒性強膜炎はまれであり1,3),強膜炎のタイプとしても結節性強膜炎が多い10.14)とされるが,今回のC2症例はびまん性強膜炎であった.また,症例C2は梅毒性強膜ぶどう膜炎であり,梅毒の多彩な病変がうかがえる.梅毒のおもな感染経路は性行為による接触感染である.症例C1の感染経路については,他院内科で治療されており,詳細不明である.症例C2については不特定多数の異性との性的接触が原因として考えられる.既報では梅毒第C2期の患者約C25%に中枢神経系障害が起こりうるとされる13).両症例とも神経梅毒の合併を認めたた図5症例2の蛍光造影検査両眼性に早期から後期にかけて点状の組織染,staining,一部過蛍光領域を認めた.また早期から後期にかけて視神経乳頭の蛍光増強を認めた.め,それぞれの症例の病期について考察した.症例C1は両眼充血が生じてから当科初診までC17カ月,症例C2については両眼充血が生じてからC9カ月経過していた.両症例とも皮膚症状などの他症状はあまりみられず全身状態は良好であった.神経梅毒と眼梅毒ともにどの病期でも起こりうるが,第2期の潜伏期か第C3期の可能性が高いと考えられた.また,眼梅毒であるC68人の患者のC46%が髄液検査を施行され,そのC1/4で神経梅毒が明らかになった2)ことから,眼梅毒と診断した場合には髄液検査による神経梅毒の精査が重要である.神経梅毒合併時の治療はペニシリン全身投与によりC1カ月以内で改善する10,11,13,14)とされ,今回のC2症例とも両眼強膜炎はC2週間程度で速やかに改善し,神経梅毒も改善がみられ有効であったと考える.眼病変に対する局所治療については,局所のみのステロイド使用例では改善と再発を繰り返したという報告14)があり,筆者らの症例でも前医でステロイド点眼が開始されていたものの改善がみられず当科に紹介となっていた.強膜炎を認めた場合,梅毒も鑑別疾患の一つとして考え,全身検査を施行する必要がある.そして梅毒と診断された場合は,ペニシリン全身投与による全身治療が必要である.今回,筆者らは血液検査により梅毒が原因として疑われ,駆梅療法で速やかに改善し,梅毒による強膜炎と診断したC2例を経験した.既報では結節性強膜炎の報告が多いが,2例ともびまん性強膜炎であった.強膜炎の原因疾患としては梅毒の頻度は高くないが,梅毒も強膜炎の鑑別疾患の一つとして忘れてはならない.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DuttaMajumderP,ChenEJ,ShahJetal:Ocularsyphi-lis:AnCupdate.COculCImmunolCIn.ammC27:117-125,C20192)MargoCE,HamedLM:Ocularsyphilis.SurvOphthalmolC37:203-220,C19923)FurtadoCJM,CArantesCTE,CNascimentoCHCetal:ClinicalCmanifestationsandophthalmicoutcomesofocularsyphilisatCaCtimeCofCre-emergenceCofCtheCsystemicCinfection.CSciCRepC8:12071,C20184)TanakaCR,CKaburakiCT,COhtomoCKCetal:ClinicalCcharac-teristicsandocularcomplicationsofpatientswithscleritisinJapanese.JpnJOphthalmolC62:517-524,C20185)WieringaCWG,CWieringaCJE,CtenCDam-vanCLoonCNHCetal:Visualoutcome,treatmentresults,andprognosticfac-torsCinCpatientsCwithCscleritis.COphthalmologyC120:379-386,C20136)SainzCdeClaCMazaCM,CMolinaCN,CGonzalez-GonzalezCLACetal:Scleritistherapy.OphthalmologyC119:51-58,C20127)HemadyCR,CSainzCdeClaCMazaCM,CRaizmanCMBCetal:SixCcasesofscleritisassociatedwithsystemicinfection,AmJOphthalmologyC114:55-62,C19928)WatsonCPG,CHayrehSS:ScleritisCandCepiscleritis.CBrJOphthalmolC60:163-191,C19769)MurthyCSI,CSabhapanditCS,CBalamuruganCSCetal:Scleritis:Di.erentiatingCinfectiousCfromCnon-infectiousCentities,IndianJOphthalmolC68:1818-1828,C202010)CaseyCR,CFlowersCCM,CJonesCDDCetal:AnteriorCnodularCscleritisCsecondaryCtoCsyphilis.CArchCOphthalmolC114:C1015-1016,C199611)WilhelmusCKR,CYokohamaCM:SyphiliticCepiscleritisCandCscleritis.AmJOphthalmolC104:595-597,C198712)EscottCSM,CPyatetskyD:UnilateralCnodularCscleritisCsec-ondarytolatentsyphilis.ClinMedResC13:94-95,C201513)ShaikhCSI,CBiswasCJ,CRishiP:NodularCsyphiliticCscleritisCmasqueradingCasCanCocularCtumor.CJCOphthalmicCIn.ammCInfectC5:8,C201514)GoelCS,CDesaiCA,CSahayCPCetal:BilateralCnodularCsclero-keratitisCsecondaryCtoCsyphilis-ACcaseCreport.CIndianCJCOphthalmolC68:1990-1993,C2020***

良好な視力経過をたどったStaphylococcus lugdunensis による白内障術後眼内炎の1 例

2022年5月31日 火曜日

《第57回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科39(5):644.648,2022c良好な視力経過をたどったCStaphylococcuslugdunensisによる白内障術後眼内炎のC1例佐藤慧一竹内正樹石戸みづほ岩山直樹岡﨑信也山田教弘水木信久横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室CARareCaseofEndoophthalmitisCausedbyStaphylococcuslugdunensisCafterCataractSurgeryCKeiichiSato,MasakiTakeuchi,MiduhoIshido,NaokiIwayama,ShinyaOkazaki,NorihiroYamadaandNobuhisaMizukiCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicineC目的:硝子体検体からCStaphylococcusClugdunensis(S.lugdunensis)が培養された良好な視力経過をたどった白内障術後眼内炎のC1例を報告する.症例:64歳,女性.左眼白内障手術施行後C8日目に霧視を自覚し前医を受診し,当院紹介となった.左眼矯正視力はC20Ccm手動弁まで低下しており,前房蓄膿と硝子体混濁を認め,左眼白内障術後眼内炎と診断した.霧視出現の翌日に眼内レンズ抜去と硝子体切除術を施行し,術後に硝子体検体からCS.lugudunensisが培養された.培養されたCS.lugudunensisはセフタジジムとバンコマイシンに感受性を示し,レボフロキサシンに中間耐性を示した.術後経過は良好であり,左眼矯正視力は(1.2)まで改善した.結語:眼内炎の起因菌として,S.lugu-dunensisも考慮する必要がある.早期の硝子体手術と抗菌薬の硝子体注射により眼内炎の予後は良好となりうる.CPurpose:ToreportararecaseofendophthalmitispostcataractsurgerycausedbyStaphylococcuslugdunen-sis(S.lugdunensis)inCwhichCaCgoodCvisualCoutcomeCwasCobtained.CCaseCreport:AC64-year-oldCfemaleCpresentedCwithCblurredCvisionCinCherCleftCeyeC8CdaysCafterCundergoingCphacoemulsi.cationCandCaspirationCcataractCsurgeryCwithCintraocularlens(IOL)implantation.CUponCexamination,Cvisualacuity(VA)inCthatCeyeCwasChandCmotionCatC20Ccm,andhypopyonandvitreousopacitywereobserved.Shewassubsequentlydiagnosedaspostoperativeendo-phthalmitis,andparsplanavitrectomy(PPV)andIOLexplantationwereimmediatelyperformedthefollowingday.ACcultureCtestCofCanCobtainedCvitreousChumorCspecimenCshowedCpositiveCforCS.lugdunensis,CwithCsusceptibilityCtoCceftazidimeandvancomycin,yetnotlevo.oxacin.Posttreatment,thebest-correctedVAinherlefteyeimprovedtoC20/16.CConclusion:Inthisrarecase,agoodvisualoutcomewasobtainedviaearlyPPVcombinedwithintravit-realantibioticadministration,andcliniciansshouldbestrictlyawarethatendophthalmitiscausedbyS.lugdunensisCcanoccurpostcataractsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(5):644.648,C2022〕Keywords:Staphylococcuslugdunensis,白内障手術,術後眼内炎,硝子体手術.Staphylococcuslugdunensis,cat-aractsurgrery,endopthalmitis,postoperativeendophthalmitis,parsplanavitrectomy.Cはじめに術後眼内炎は白内障手術の重大な合併症である.起炎菌としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativestaphylococci:CNS)が半数を占め,とくにCStaphylococcusepidermidisが多い.StaphylococcusClugdunensis(S.lug-dunensis)はCCNSに含まれる皮膚常在菌の一つであり,軟部組織感染や菌血症,心内膜炎などの原因菌として近年報告されているが1.3),眼内炎の起因菌としての報告はまだ少ない.抗血管内皮増殖因子薬硝子体内注射後の眼内炎は犬塚らの報告がわが国でもされているが4),白内障術後眼内炎の起因菌となった症例はわが国ではまだ報告がない.今回,StaphylococcusClugdunensisによる白内障術後眼内〔別刷請求先〕佐藤慧一:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学大学院医学研究科眼科学教室Reprintrequests:KeiichiSato,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPANC644(94)図1初診時所見a:前眼部写真.前房蓄膿と前房内フィブリン析出を認める.Cb:超音波断層検査像.硝子体混濁を認める.明らかな網膜.離は認めない.炎を生じ,良好な経過をたどったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:64歳,女性.主訴:左眼視力低下.既往歴:左眼白内障,右眼眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼.その他特記事項なし.糖尿病罹患歴なし.現病歴:左眼白内障の進行により近医にて左超音波乳化吸引術とCIOL挿入術を施行された.術後点眼として,モキシフロキサシンC4回,ベタメタゾンC4回,ブロムフェナクC2回の点眼が行われていた.手術C8日後,外来診察にてCVS=(1.0)であり,診察上感染兆候はみられなかったが,同日帰宅後に左眼霧視を自覚した.手術C9日後,起床時から左眼視力低下を自覚し,近医受診し,同日横浜市立大学附属病院(以下,当院)紹介受診となった.当院受診時所見:視力は左眼C20Ccm手動弁であり矯正不能であった.眼圧は左眼C11CmmHg,右眼C17CmmHgであった.左眼前眼部には前房蓄膿に加え,多数の炎症細胞とフィブリン析出,虹彩癒着を認めた.左眼CIOLは.内固定されており,左眼底は透見不可能であった.右眼は特記すべき異常はみられなかった.Bモード断層超音波検査では左眼の硝子体混濁を認め,明らかな網膜.離はみられなかった(図1).以上の病歴と所見より白内障術後感染性眼内炎と診断した.同日硝子体手術およびCIOL摘出術を施行し,術中の灌流液にバンコマイシン(VCM)10Cmg/500Cmlおよびセフタジジム(CAZ)20Cmg/500Cmlを混注した.術中所見では濃厚な硝子体混濁と,網膜の全象限に網膜出血と浸潤病巣が観図2術中眼底写真硝子体混濁に加え,網膜に出血と浸潤病巣が観察される.察された.網膜.離はみられなかった(図2).経過:術直後からセフトリアキソン(CTRX)1Cg/日の点滴を開始した.また,当院では硝子体手術後術後に追加治療としての硝子体内注射を行っており,術後C2日目とC5日目にCVCM2.0Cmg/0.2CmlとCCAZ4.0Cmg/0.2Cmlの連続した硝子体注射を行った.点眼としてガチフロキサシン(GFLX)6回,ベタメタゾンC6回,ブロムフェナクC2回を開始した.術後翌日から前房蓄膿は消失した.術後C6日目,術中の硝子体検体からCS.lugdunensisが培養され,眼底透見も改善傾向であった.本症例で培養されたCS.lugdunensisの薬剤感受性結果は,CAZとCVCMに感受性を示し,レボフロキサシ表1薬剤感受性試験結果ン(CLVFX)に中間耐性を示していた(表1).感受性確認後,薬剤MIC(Cμg/ml)判定CCTRXの点滴からセファレキシン(CCEX)C750Cmg/日内服へPCGC≦0.06CSC抗菌薬を変更し,退院とした.CGFLX点眼は術後感染予防目ABPCC≦1CSC的に退院後も継続した.術後C16日目には,CVS=(C0.5C×IOLCMPIPCC0.5CSC×sph+5.50D(cyl.0.75DAx5°)まで改善し,前眼部は炎CEZCCMZC≦1C≦4CSCSC症細胞を軽度認め,眼底には線状硝子体混濁がわずかに残るIPM/CSC≦1CSCが,網膜色調は良好であり,白斑や変性巣はみられなかっSBT/ABC≦2CSCた.術後C1カ月後にはCVS=(C1.0C×IOL×sph+5.00(cylCGMC≦1CSC.0.50DAx165°)の視力が得られた.術後C2カ月で点眼をABKCEMC≦1C≦0.25CNACSC終了した.術後C5カ月の時点で硝子体混濁は消失し,CIOL二CLDMC≦0.25CSC次挿入を施行した.術後C11カ月の時点でCVS=(C1.2C×IOL×MINOC≦1CSCsph.1.50(cyl.0.50)の最終視力が得られ,経過は非常にCAZC1CSC良好であった.CLVFXC2CICVCMC0.5CSCII考按TEICC≦1CSCDAPC≦0.25CSCS.lugdunensisは皮膚常在菌であり,CNSの一つである.STC≦0.5CSC皮膚感染症に加え,脳膿瘍,膿胸,軟部膿瘍,心内膜炎,FOMCRFPC≦4C≦0.5CSCSC敗血症,腹膜炎,人工関節周囲感染の原因菌としても知られLZDC1CSCている.他のCCNSに比べ病原性が高く,皮膚感染症や整形MUPC≦256CS外科疾患の領域ではCStaphylococcusaureus(CS.aureus)と臨PCG:ベンジルペニシリン,ABPC:アンピシリン,MPIPC:オ床上同等に扱われている2,3).キサシリン,CEZ:セファゾリン,CMZ:セフメタゾール,IPM/S.lugdunensisに起因する白内障術後眼内炎のこれまでのCS:イミペネム/シラスタチン,SBT/AB:スルバクタム/アンピ報告ではCLVFXに対して感受性をもつ株が培養されているシリン,GM:ゲンタマイシン,ABK:硫酸アルベカシン,EM:が5,6),本症例では感受性をもたなかった.エリスロマイシン,CLDM:クリンダマイシン,MINO:ミノサイクリン,CAZ:セフタジジム,LVFX:レボフロキサシン,2007年のChiquetらの報告では,白内障術後のS.VCM:塩酸バンコマイシン,TEIC:テイコプラニン,DAP:ダlugdunensis眼内炎C5例のうち,4例について硝子体切除術プトマイシン,ST:スルファメトキサゾール・トリメトプリム合を施行し,3例については術後網膜.離を発症し最終矯正視剤,FOM:ホスホマイシン,RFP:リファンピシン,LZD:リネゾリド,MUP:ムピロシン.力は手動弁以下であり,網膜.離を発症しなかった残りC1例CX-8日X日X+1日X+1カ月X+2カ月X+5カ月PEA+IOL挿入発症初診S.lugdunensis検出PPV+IOL摘出IOL二次挿入VCM+CAZ(I.V.)CTRX(div)CEX(p.o.)GFLX(点眼)矯正視力1.00.1図3治療経過PEA:水晶体乳化吸引術,IOL:眼内レンズ,PPV:経毛様体扁平部硝子体手術,VCM(I.V.):バンコマイシン硝子体注射(2.0Cmg/0.2Cml),CAZ(I.V.):セフタジジム硝子体内注射(4.0Cmg/0.2Cml),CTRX(div):セフトリアキソン経静脈投与(1Cg/日),CEX(p.o.):セファレキシン内服(750Cmg/日),GFLX(点眼):ガチフロキサシン点眼(6回/日).表2Staphylococcuslugdunensisによる白内障術後眼内炎の報告報古者発症から発症から受診時最終年齢術後受診まで手術まで治療合併症(報告年)の日数の日数矯正視力矯正視力827日2日5日硝子体手術Cm.m.C0.5特記なしCChiquetら(C2007)C8478696日5日12日不明不明不明C7日4日N/A硝子体手術C硝子体手術C硝子体注射Cs.L(+)Cs.l.(+)C0.2Cm.m.s.1.(.)1.0術後網膜.離C術後網膜.離C特記なしC647日不明5日硝子体手術Cm.m.Cn.d.術後網膜.離6810日不明CN/A硝子体注射Cn.d.C0.7特記なしGaroonらC757日1日CN/A硝子体注射Cn.d.C0.5特記なし(2018)C7321日不明2週間硝子体手術Cn.d.C0.2特記なし本症例(2021)C648日1日1日硝子体手術Cm.m.C1.0特記なしN/A:手術未施行につき該当なし,m.m.:手動弁,n.d.:指数弁,s.I.:光覚弁.は最終矯正視力はC0.5であった.いずれも受診時の視力は手動弁以下であり,発症から手術までの期間はC4.7日であった.1例については受診時矯正視力がC0.2と良好であり,硝子体注射による治療で最終矯正視力C1.0が得られている5).またCGaroonらの報告では白内障術後のCS.lugdunensis眼内炎C3例のうち,硝子体手術を施行した症例はC1例で,発症から手術まではC2週間が経過しており,最終矯正視力はC0.2であった.残りC2例は硝子体内注射で治療が行われ,最終矯正視力はそれぞれC0.7とC0.5であった(表2).Garoonらは硝子体手術には術後網膜.離のリスクが伴い,硝子体手術を施行しなかった症例に比べて視力予後が悪いとして,S.lugdu-nensis眼内炎に対する硝子体手術治療については懐疑的な提言をしていた6).しかし,本症例では矯正視力が手動弁からC1.0まで回復した.本症例では発症C1日以内と早期に手術治療を行ったことが過去の症例と異なっており,発症後早期に手術加療を行った場合は高い治療効果が期待できる可能性があると考える(表2).また,網膜全象限に浸潤病巣が出現していたが,網膜.離は生じておらず,網膜.離が生じる前に硝子体手術を完了できたことも治療効果につながった可能性がある.今回の症例では前房蓄膿が生じていたが,前述したCChi-quetらとCGaroonらのC8例の報告においても,Chiquetらの硝子体注射のみで治療を行ったC1例を除き,すべての症例で前房蓄膿を合併していた5,6).また,Cornutらの報告でもS.lugudunensis白内障術後眼内炎における前房蓄膿はその他のCCNS術後眼内炎による前房蓄膿に比べ丈が高いことが報告されている7).他科領域でもCS.lugdunensisによる人工関節周囲感染症は高率で膿瘍を合併することが知られており2),眼内炎の際に前房蓄膿の合併が多いことはCS.lugdu-nensis眼内炎の特徴の一つであると考えられる.先に述べた白内障術後眼内炎の報告において,発症から手(97)術まで数日以上経過している原因として,EndophtalmitisVitrectomyCStudy(EVS)の影響が考えられる.EVSでは1990.1995年にかけて白内障術後眼内炎に対する硝子体手術の治療効果を検討し,光覚弁まで低下している患者に対しては硝子体茎離断術の利益が考えられるが,手動弁以上の視力がある症例には必ずしも硝子体茎離断術は必要でないと提言している8).2013年のCEuropeanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSurgeon(ESCRS)のガイドラインでは,まず前房穿刺を行い,初期治療としてはクラリスロマイシンの経口投与が提言されている.硝子体手術は前房水の培養とCPCRで感染が確認された場合に検討し,その際抗菌薬の硝子体注射と併用することが提言されている.また,手術の際も初回はCIOL摘出を行わず,後.切開を伴う硝子体切除に留めるとされている9).当院においては術後眼内炎発症時は早期に初期治療として硝子体切除術と硝子体検体の培養検査を施行し,その後数回の硝子体注射を施行している.IOL摘出術については必ずしも視力予後に寄与しないという報告もあるが10),今回は施行した.S.lugdunensis感染症は組織破壊性が高く,とくに心内膜炎の起因菌としてはCS.aureusと比べても死亡率が高いため,積極的な手術治療の必要性が論じられている11,12).S.lugdu-nensisに起因する心内膜炎のみならず,眼内炎についても,早期の手術治療の必要性について論じる余地があると考える結果であった.今回はわが国でこれまで報告のなかったCS.lugdunensisによる白内障術後眼内炎を経験した.S.lugdunensisは発症早期に硝子体手術を行い,硝子体培養によって適切な抗菌薬を選択することが予後につながると考えられた.あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C647C文献1)FrankKL,PozoJLD,PatelR:FromclinicalmicrobiologytoCinfectionpathogenesis:HowCdaringCtoCbeCdi.erentCworksforStaphylococcuslugdunensis.,ClinMicrobiolRev21:111-133,C20082)Lourtet-HascoeJ,Bicart-SeeA,FeliceMPetal:Staphy-lococcusClugdunensis,CaCseriousCpathogenCinCperiprostheticjointinfections:comparisontoStaphylococcusCaureusCandCStaphylococcusCepidermidis,IntCJCInfectCDisC51:56-61,C20163)桜井博毅,堀越裕歩:小児のCStaphylococcuslugdunensisによる市中感染症と院内感染症の臨床像と細菌学的検討,小児感染免疫31:21-26,C20194)犬塚将之,石澤聡子,小澤憲司ほか:StaphylococcusClug-dunensisによる抗血管内皮増殖因子薬硝子体内投与後眼内炎のC1例.眼科61:1535-1540,C20195)ChiquetCC,CPechinotCA,CCreuzot-GarcherCCCetal:AcuteCpostoperativeCendophthalmitisCcausedCbyCStaphylococcusClugdunensis.JClinMicrobiolC45:1673-1678,C20076)GaroonCRB,CMillerCD,CFlynnCHWJr:Acute-onsetCendo-phthalmitisCcausedCbyCStaphylococcusClugdunensis.AmJOphthalmolCaseRepC9:28-30,C20187)CornutCPL,CThuretCG,CCreuzot-GarcherCCCetal:RelationC-shipCbetweenCbaselineCclinicalCdataCandCmicrobiologicCspectrumCinC100CpatientsCwithCacuteCpostcataractCendo-phthalmitis.RetinaC32:549-557,C20128)EndophthalmitisCVitrectomyCStudyGroup:ResultsCofCtheCEndophthalmitisVitrectomyStudy.ArandomizedtrialofimmediateCvitrectomyCandCofCintravenousCantibioticsCforCtheCtreatmentCofCpostoperativeCbacterialCendophthalmitis.CArchOphthalmolC113:1479-1496,C19959)BarryCP,CCordovesCL,CGardnerS:ESCRSCguidelinesCforCpreventionCandCtreatmentCofCendophthalmitisCfollowingCcataractsurgery:Data,CdilemmasCandCconclusions.Cwww.Cescrs.org/endophthalmitis/guidelines/ENGLISH.pdf,201310)望月司,佐野公彦,折原唯史:硝子体手術を施行した白内障術後急性眼内炎の起炎菌と手術成績の推移.日眼会誌C121:749-754,C201711)KyawCH,CRajuCF,CShaikhAZ:StaphylococcusClugdunensisCendocarditisCandCcerebrovascularaccident:ACsystemicCreviewCofCriskCfactorsCandCclinicalCoutcome.CCureusC10:Ce2469,C201812)AngueraI,DelRioA,MiroJMetal:Staphylococcuslug-dunensisCinfectiveendocarditis:descriptionCofC10CcasesCandCanalysisCofCnativeCvalve,CprostheticCvalve,CandCpace-makerleadendocarditisclinicalpro.les.Heart(Britshcar-diacsociety)91:e10,C2005***

近年の眼部帯状ヘルペスの臨床像の検討

2022年5月31日 火曜日

《第57回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科39(5):639.643,2022c近年の眼部帯状ヘルペスの臨床像の検討安達彩*1,2,3佐々木香る*2盛秀嗣*2嶋千絵子*2髙橋寛二*2*1東北医科薬科大学眼科学教室*2関西医科大学眼科学教室*3東北大学眼科学教室CTheClinicalCharacteristicsofHerpesZosterOphthalmicusinRecentYearsAyaAdachi1,2,3)C,KaoruAraki-Sasaki2),HidetsuguMori2),ChiekoShima2)andKanjiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,TohokuUnivercityC水痘ワクチン定期接種開始後C5年経過した現在の眼部帯状ヘルペスの臨床像を明らかにする.2018年C1月.2020年C12月に関西医科大学附属病院を受診した眼部帯状疱疹患者はC44例で,平均年齢C64.9歳であった.高齢者に多くみられたが,20代の若者でもみられた.2014年以降の患者数は,皮膚科では増加傾向にあったが眼科では著明な増減は認めなかった.発症時期は,夏のみでなく秋から冬にも認められた.先行症状は不明例を除き多い順に,眼瞼腫脹C13眼,眼部眼部疼痛C8眼であった.眼科初診時に眼所見を認めたものはC35眼(79.5%)であり,結膜充血のみがC6例,経過観察中に偽樹枝状角膜炎がC7眼,角膜浮腫および虹彩炎がC7眼,多発性角膜浸潤がC7眼,強膜炎がC8眼出現した.多発性角膜浸潤,強膜炎を呈するものはそれ以外を呈するものに比べて有意に遷延化した(p<0.05).また,発症後C72時間以内に抗ウイルス薬全身投与が開始された患者は治癒期間が短い傾向にあった.CPurpose:ToCanalyzeCtheCcurrentCcharacteristicsCofCherpesCzosterophthalmicus(HZO)dueCtoCtheCe.ectsCofCroutineCherpesCzosterCvaccinationsC.rstCintroducedCinC2006.CPatientsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedCtheCanalysisCofCtheCmedicalCrecordsCofC44CHZOpatients(meanage:64.9years)seenCatCourChospitalCbetween2018and2020.Results:Our.ndingsrevealedthatHZOwasmorecommonintheelderly,yetalsoseeninyoungsubjects20-30yearsofage.Duringtheobservationperiod,althoughtherewasanincreaseinthetotalnumberCofCHZOCpatientsCseenCatCourCDepartmentCofCDermatology,CthereCwasCnoCchangeCinCtheCnumberCofCthoseCseenCatCourCDepartmentCofCOphthalmology.CTheConsetCofCtheCdiseaseCwasCbimodal,Ci.e.,CoccurringCinCbothCsummerCandCwinter.CTheCprimaryCsymptomsCatCinitialCpresentationCwereCeyelidCswellingCandCpain.COfCtheC44Cpatients,C35(79.5%)hadCocularcomplications;i.e.,Chyperemiaalone(n=6patients)C,Cpseudodendritickeratitis(n=7patients)C,Ccornealedemaandiritis(n=7patients),MSI(n=7patients),andscleritis(n=8patients).Conclusion:TheHZOpatientsinthisstudywerefoundtohavehadsigni.cantlylongerhealingperiodscomparedtothosewhostartedsystemicCadministrationCofCantiviralCmedicationCwithinC72ChoursCpostConset.CSinceCourC.ndingsCareCsubjectCtoCchange,furtherinvestigationisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):639.643,C2022〕Keywords:水痘帯状疱疹ウイルス,眼部帯状ヘルペス,眼合併症.varicella-zostervirus,herpeszosterophthal-micus,ocularcomplications.Cはじめに帯状疱疹は,通常幼少期に初感染し全身に水痘を引き起こした水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)が,脊髄後根神経節,三叉神経節などに潜伏し,加齢や免疫力の低下などによって再活性化されることで発症する.わが国の眼部帯状疱疹については,年齢や眼所見の合併率,臨床症状などC1990年代に多くの臨床統計報告がなされ1.9),鼻疹のある患者で眼合併症が多いという報告7,9)などがよく知られている.その後,抗ウイルス薬の開発とともに報告は減少し,2000年に抗ウイルス薬全身投与の開始が遅れたもので眼合併症が多いなどの報告10)が散見されるが,近年は臨床統計報告はなされていない.〔別刷請求先〕安達彩:〒983-8536宮城県仙台市宮城野区福室C1-15-1東北医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:AyaAdachi,DepartmentofOphthalmology,TohokuMedicalandPharmaceuticalUniversity,1-15-1Fukumuro,Miyagino-ku,SendaiCity,Miyagi983-8536,JAPANCしかし,2014年C10月からわが国で水痘ワクチンの定期接種が開始され,状況は異なってきたことは明らかである.たとえば,皮膚科領域の帯状疱疹大規模疫学調査である宮崎スタディでは,水痘ワクチン定期接種開始後では,開始前に比して年齢・性別・季節性・発症頻度などに明らかな変化が生じていると報告されている11).そこで,水痘ワクチン定期接種による眼部帯状疱疹への影響を明らかにするために,接種開始後C5年となるC2019年を中心としたC3年間,すなわちC2018年C1月.2020年C12月に関西医科大学附属病院(以下,当院)を受診した眼部帯状疱疹患者についてその臨床像を検討した.CI対象および方法対象は,2018年C1月.2020年C12月に当院を受診し,眼部帯状疱疹と診断されたC44例C44眼(男性C20例,女性C24例)である.観察項目は,①C1年ごとの受診患者数,②発症時年齢,③発症月,④受診に至った経緯,⑤眼科初診時の主訴,⑥経過中の主たる眼所見とした.そのうえで,主たる眼所見と治癒期間との関係および抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係を,それぞれCc2検定を用いて検討した.なお,患者数のみ,2014年C1月.2020年C12月を対象期Ca500450間とした.治療はいずれの患者も,眼科ではステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン点眼,0.1%デキサメサゾン点眼),アシクロビル眼軟膏,皮膚科では抗ウイルス薬(アシクロビル点滴,内服,アメナメビル内服,バラシクロビル内服)全身投与であった.なお,本研究は関西医科大学倫理委員会の承認(多施設共同研究)を得て行った.CII結果当院を受診した帯状疱疹患者数は,皮膚科ではC2014年に397人であったが,その後増加傾向を示し,2020年には449人であった.しかし,眼科ではC2014年の16人から2020年のC19人まで,7年間に明らかな受診数の増減は認めなかった(図1a).発症年齢はC23.88歳(平均C65.1歳)で,70歳代がC15名と最多であり,70歳以上の高齢者が全体の約C52.2%であった.一方,20.30代の若年者にもC5例(11%)の発症を認めた(図1b).発症月は,図1cに示すとおり,2月とC9月を中心に二峰性を示し,夏のみでなく秋から冬にも発症を認めた.受診に至った経路を,眼科を直接受診した経路(眼群),皮膚科や内科など他科から眼科へ紹介となった経路(他-眼群),近医眼科を受診するも帯状疱疹と診断されず,後日他科から眼科へ紹介となった経路(眼-他-眼Cb1614皮膚科眼科■女性■男性4150210050020歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代02014201520162017201820192020(年)c7640012人数(人)350患者数(人)1030082506200人数(人)5432101月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月図1帯状疱疹患者内訳a:当院を受診した帯状疱疹患者数.2014年以降,皮膚科(点線)では徐々に増加傾向にあるが,眼科(実線)では明らかな増加は認めなかった.Cb:性別と年齢分布.発症年齢はC23.88歳(平均C65.1歳)で,男女差は認めなかった.70歳以上の高齢者が全体の約C52.2%を占め,一方,20.30代の若年者もC5例(11%)に認めた.Cc:発症月.2月とC9月を中心に二峰性を示し,夏のみでなく秋から冬にも発症を認めた.表1眼科初診時主訴初診時主訴症例数割合眼瞼腫脹C1329.5%眼部疼痛C818.2%皮疹C511.4%掻痒感C49.1%充血C24.5%違和感C12.3%不明C1125.0%症例数表2眼所見と治癒までの期間との関係所見治癒までの期間.C30日30日.合計結膜充血偽樹枝状角膜炎17C1C18実質浮腫,虹彩炎C多発性角膜浸潤強膜炎C2C12C14Cp=4.67×10.6(<0.05)98■眼群■他-眼群■眼-他-眼群76543210結膜充血偽樹枝状実質浮腫・多発性角膜強膜炎角膜潰瘍虹彩炎上皮下浸潤図2臨床所見の分類と受診経路の関係経過中にみられた臨床所見を受診経緯別に表す.眼-他-眼群は多発性角膜浸潤(1例)と強膜炎(4例)を呈した.表3抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係発症.治療開始治癒期間.C30日30日.合計72時間以内C20C7C2772時間以上C8C6C14Cp=0.27(>0.05)図3強膜炎が遷延化した代表症例a:初診C5日目,Cb:治療開始C6週目,Cc:治療開始C10週目.充血発症日に近医眼科受診するも抗菌薬で経過観察され,11日目に皮膚科でアメナメビル内服が投与された眼-他-眼群のC57歳,男性.結節性強膜炎が遷延し,消炎までにC10週間以上を要した.群)のC3群に分類した.その結果,他-眼群はC31例(70.4%)ともっとも多く,続いて眼群はC7例(15.9%),眼-他-眼群はC6例(13.6%)であった.また,それぞれの群における発症から眼科治療開始までの平均日数は,多い順に眼-他-眼群(9.6日),他-眼群(7.0日),眼群(6.7日)であった.眼科初診時主訴については,眼瞼腫脹がC13例(29.5%),眼部疼痛がC8例(18.2%)と最多であり,その両者で約半数を占め,皮疹よりも多かった(表1).前眼部所見については,①結膜充血,②偽樹枝状角膜炎,③実質浮腫,虹彩炎,④多発性角膜浸潤,⑤強膜炎,に分類した.なお,所見が重(91)複した場合は①から⑤の数字の大きいものに分類した.今回,眼所見はC35例すなわち全体のC79.5%に認められた.それぞれの所見を認めた症例数は,①がC6例,②がC7例,③が7例,④がC7例,⑤がC8例であり,所見ごとに明らかな差は認められなかった.また,所見ごとに受診経緯別に表すと,眼群と眼-他群は①から⑤のいずれの所見も呈したが,眼-他-眼群は④多発性角膜浸潤(1例)と⑤強膜炎(4例)を呈した(図2).なお,今回の調査期間では,眼球運動障害や視神経病変を生じたものはなかった.眼所見と治癒期間との関係について表2に示す.眼所見を結膜充血(①),偽樹枝状角膜炎(②),実質浮腫と虹彩炎(③)をCA群とし,多発性角膜浸潤(④)と強膜炎(⑤)をCB群とする二群に分類した.A群では治癒期間がC30日未満であったものはC17例,30日以上であったものはC1例であり,B群では治癒期間がC30日未満であったものがC2例,30日以上であったものはC12例であった.Cc2検定で検討したところ,多発性角膜浸潤と強膜炎を呈する症例は統計学的に有意に治癒期間が長引く傾向にあり(p<0.05),実際C200日を超えて治癒した症例もあった.眼-他-眼群で,強膜炎が遷延化した代表症例を図3に示す.消炎にはC10週間以上要した.抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係について,発症から全身投与までの期間をC72時間以内と以上に分けて検討したところ,全身投与がC72時間以内に実施された症例のうち,治癒期間がC30日未満であったものはC20例,30日以上であったものはC7例であった.また,全身投与が発症後C72時間以上経過していた症例のうち,治癒期間がC30日未満であったものはC8例,30日以上であったものはC6例であった.Cc2検定で検討したところ,有意差には至らなかった(p>0.05)ものの,72時間以内に治療が開始された症例ではC30日未満に治癒する症例が多かった(表3).CIII考察皮膚科領域では,水痘ワクチン定期接種開始により帯状疱疹の臨床像に変化が現れたことが宮崎スタディで明らかにされている.定期接種開始前は,帯状疱疹は,高齢者に多いこと,女性に有意に多いこと,夏に多く冬に少ないこと,子育て世代はブースター効果により発症が少ないことなどが明らかであったが,定期接種開始により小児における水痘の減少,それに伴ったブースター効果の減弱による子育て世代の発症率の増加,全体的な患者数や発症率の増加,冬季にもみられるようになり季節性の消失が報告されている11).眼部帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルス再発による三叉神経第一枝領域の感染症であり,同じようになんらかの影響を受けているのではないかと考えた.今回の結果をみると,眼部帯状疱疹では宮崎スタディにみられるような明らかな重症度,発症頻度の増加は認めなかった.年齢に関しては,1990年代の既報1.9)同様に高齢者に多く,統計上若年者の増加は明らかではなかったが,これまでの報告と異なり,20歳代,30歳代など若年者にも発症していることがわかった.性別に関しては,既報同様,男女差は認めなかったが,皮膚科領域の報告では,授乳,分娩,陣痛にかかわる領域である腰仙部領域に帯状疱疹が生じた例は女性に多いと報告されている11).眼部帯状疱疹は男女差にかかわる領域ではないため,その差が明らかにならなかったと考えられる.また,今回の検討は対象が単一施設での検討であること,同一施設における定期接種前との比較ができていないことも,定期接種による変化を明らかにできなかった理由と推測される.しかし,宮崎スタディと同様に発症時期が冬季のみでなく夏季にもわたり,季節性が消失していることが判明した.ワクチン接種前に春から夏にかけて眼部帯状疱疹が多く発症しているという報告9)もあり,ワクチン接種により水痘流行の季節性が消失したため,帯状疱疹もその影響を受けているのではないかと考えられた.また,地球温暖化による季節性の消失との関連性も推測される.ワクチンの影響以外にも,今回の検討で初めて明らかになったことがC2点ある.一つ目は前医眼科で初診時に早期診断できず,後日皮膚科や内科などの他科から改めて眼科を受診するという受診経路が約C10%あったこと,二つ目は多発性角膜浸潤や強膜炎の所見が遷延化することである.他科から改めて眼科受診となった患者に関しては,遷延化する多発性角膜浸潤や強膜炎を呈することが多く,早期診断の重要性を示唆するものと思われる.帯状疱疹の発症前に,同部位の皮膚に感覚異常や眼部疼痛などの前駆症状が数日間生じることが報告されており12).早期診断のためには,皮疹のみならず先行する眼部疼痛にも注意するべきである.既報12)と同様に今回の結果においても,主訴として眼瞼腫脹・眼部疼痛の占める割合が高い結果であった.初診時皮疹が明らかでなかったとしても,眼部の眼瞼腫脹・眼部疼痛を訴える患者には,帯状疱疹の可能性を念頭に,数日後の再診指示や,皮疹出現に注意するよう促すなど,患者への注意喚起が必要であると考える.また,今回,全身の治療開始が遅れた場合には眼科所見も遷延化する傾向がみられた.早期に全身治療を開始すると眼合併症率が低いという報告13)や,早期の抗ウイルス薬治療とともに眼部疼痛治療を開始すれば急性期眼部疼痛の緩和や帯状疱疹後神経痛の軽減につながるとの報告14)がなされている.眼部帯状疱疹の遷延化予防のためにも,患者CQOLの維持のためにも,早期の診断と皮膚科との迅速な連携の重要性が改めて確認された.多発性角膜浸潤や強膜炎が遷延化する機序は明らかではないが,これらの病態ではウイルス排出量が多いという報告15)もあり,治療が遅延したことにより,病初期のウイルス量が多くなり炎症反応を強く惹起したと考えられる.なお多発性角膜浸潤や強膜炎はC30日を超えて遷延化する症例が高く,初診時に患者に通院・治療期間の長期化を説明すべきであると思われた.今回の検討で,いくつか明らかにできなかったこともある.抗ウイルス薬については,現在アシクロビル,アメナメビルなど数種類の薬剤が開発され使用可能であり,今回の結果に影響した可能性も否定できないが,対象症例の治療に携わった皮膚科での使用方法が一定化されておらず,それぞれの薬剤による影響は今回の調査では検討をすることはできなかった.また,Hatchinson徴候については,後ろ向き研究であったこともありカルテ記載が統一されておらず,明らかにはできなかった.今回,2014年の水痘ワクチン定期接種開始後,5年目となるC2019年を中心としたC3年間の眼部帯状疱疹について検討した.50歳以上に向けた帯状疱疹ワクチン接種もすでに開始され,眼部帯状疱疹の臨床像は,今後も疫学的に変化する可能性があり,引き続き調査が必要であると考える.本研究の統計解析に関して,関西医科大学数学教室北脇知己先生にご指導を賜りました.感謝の意を表します.文献1)三井啓司,秦野寛,井上克洋ほか:眼部帯状ヘルペスの統計的観察.眼臨医報C79:603-608,C19852)田中利和,内田璞,山口玲ほか:眼部帯状ヘルペスについて統計的観察とC2症例の報告.眼臨医報C79:994-999,C19853)原田敬志,横山健二郎,市川一夫ほか:帯状疱疹における眼合併症の統計的観察.眼科C28:241-247,C19864)八木純平,福田昌彦,安本京子ほか:眼部帯状ヘルペスの眼所見および治療について.眼紀C37:1021-1026,C19865)内藤毅,新田敬子,木内康仁ほか:当教室における眼部帯状ヘルペスについて.あたらしい眼科C7:1359-1361,19906)林研,辻勇夫:飯塚病院における眼部帯状ヘルペスの検討.眼紀C42:1536-1541,C19917)味木幸,鈴木参郎助,新保里枝ほか:眼部帯状ヘルペスにみられる眼合併症とその長期化に影響を及ぼす因子について.日眼会誌C99:289-295,C19958)松田彰,田川義継,阿部乃里子ほか:水痘・帯状ヘルペスウイルスによる角膜病変.臨眼C49:1519-1523,C19959)関敦子,野呂瀬一美,吉村長久:眼部帯状ヘルペス臨床像の検討.眼紀C47:673-676,C199610)安藤一彦,河本ひろ美:眼部帯状疱疹の臨床像.臨眼C54:C385-387,C200011)白木公康,外山望:帯状疱疹の宮崎スタディ.モダンメディア60:251-264,C202012)神谷齋,浅野喜造,白木公康ほか:帯状疱疹とその予防に関する考察.感染症誌84:694-701,C201013)HardingCSP,CPorterSM:OralCacyclovirCinCherpesCzosterCophthalmicus.CurrEyeResC10(Suppl):177-182,C199114)漆畑修:帯状疱疹の診断・治療のコツ.日本医事新報C4954:26-31,C201915)InataCK,CMiyazakiCD,CUotaniCRCetal:E.ectivenessCofCreal-timeCPCRCforCdiagnosisCandCprognosisCofCvaricella-zosterCvirusCkeratitis.CJpnCJCOphthalmolC62:425-431,C2018C***

基礎研究コラム:60.CRISPR/Cas9を用いた遺伝子治療【

2022年5月31日 火曜日

CRISPR/Cas9を用いた遺伝子治療CRISPR/Cas9とはClusteredCregularlyCinterspacedCshortCpalindromicCrepeats/CRISPRCassociatedproteins9(CRISPR/Cas9)とは,2013年に報告された遺伝子編集技術です1).プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)=5’-NGGという特定の配列の直前C20塩基の配列を標的として結合するCguideCRNA(gRNA)と,DNAの二本鎖切断を起こすCCas9蛋白がセットになって働き,特定部位でのCDNAの切断を起こすことができます.切断された部位は非相同末端結合によって修復されますが,その際に塩基の挿入や欠損が起きることで,その部位をCknock-outすることができます.さらに,ドナーとなる一本鎖CDNAを同時導入することで相同配向型修復を起こすことも可能であり,ドナーのCDNAを設計することにより任意の変異を組み込むことも可能です.それまでもTALEN,ZFNといった遺伝子編集技術がありましたが,それと比較して高率かつ自由度が高い遺伝子編集が可能であることから,基礎研究で広く使われるようになりました.CCRISRP/Cas9の臨床応用CRISPR/Cas9が登場して以来,この遺伝子編集技術を生かした遺伝子治療の研究がなされてきました.眼科ではCEP290という遺伝子が原因となっているCLeber先天黒内障C10型の臨床研究が現在海外で行われています.Leber先天黒内障はC10型イントロンというCDNAの通常は読み取られない領域にCIVS26という変異が生じ,そこでCDNAの読み取りが終了してしまうためにCCEP290蛋白の合成が阻害されてしまう病気です.そこでCCRISPR/Cas9を用いて異常部位の前後の部分を切断します.そうするとその範囲のDNAがなくなり,さらに非相同末端結合により断端がつなぎ合わされることで遺伝子が正常に読み取られ,その結果,正常なCCEP290蛋白が作られるようになります.Maederらはアデノ随伴ウイルスベクターを用いてこのCCRISPR/Cas9システムを変異マウスの網膜に導入し,CEP290遺伝子のinvivoでの編集が可能であったことを報告しています2).筆者のグループではCCRISPR/Cas9を用いたCtransformingCgrowthCfactorCbetainduced(TGFBI)角膜ジストロフィの遺伝子治療について研究をしています.まだCinvitroの段階ではありますが,顆粒状角膜ジストロフィ患者の角膜検体から得た初代培養細胞に対し,CRISPR/Cas9を用いてCTGFBI遺伝子の修正が可能であったことを報告しています3).(79)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY北本昂大東京大学医学部眼科学教室図1CRISPR.Cas9システムの概略標的部位にCguideRNAが結合し,二本鎖切断を起こす.切断後は非相同末端結合により修復される過程で挿入欠損が起こる.ドナーとなる一本鎖CDNAが同時に導入されると,相同配向型修復も一部で生じ,任意の変異を挿入することができる.今後の展望現在さまざまな領域で,CRISPR/Cas9を用いるものを含め,遺伝子治療の研究が盛んに行われています.現時点ではまだ実用化されているものは少ないですが,今後の研究の発展に伴い,これまで治療方法がなかった疾患も治療ができるようになるのではないかと期待しています.文献1)MaliCP,CYangCL,CEsveltCKMCetal:RNA-guidedChumanCgenomeCengineeringCviaCCas9.CScienceC339:823-826,C20132)MaederCML,CStefanidakisCM,CWilsonCCJCetal:Develop-mentCofCaCgene-editingCapproachCtoCrestoreCvisionClossCinCLeberCcongenitalCamaurosisCtypeC10.CNatCMedC25:229-233,C20193)TaketaniCY,CKitamotoCK,CSakisakaCTCetal:RepairCofCtheCTGFBICgeneCinChumanCcornealCkeratocytesCderivedCfromCaCgranularCcornealCdystrophyCpatientCviaCCRISPR/Cas9-inducedhomology-directedrepair.SciRepC7:1-7,C2017あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C629