‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

 息子(眼科医)が父(眼科医)に多焦点眼内レンズを入れた

2022年9月30日 金曜日

息子(眼科医)が父(眼科医)に多焦点眼内レンズを入れたASon,WhoisAnOphthalmologist,ImplantedAPCIOLinHisFatherWhoisAlsoAnOphthalmologist木村格*I先進医療から選定療養へ―最近のわが国の多焦点眼内レンズの動向ここ数年間は「いよいよ多焦点眼内レンズが先進医療から除外されるかも」と,保険点数改定のたびにその噂を耳にされてきたのではないだろうか.そしてついに噂が現実となり2020年その終焉に向かうなか,全国で爆発的に症例数は増加していき,その最終月である3月にはその数は過去最高のピークに達した.そして2020年4月から多焦点眼内レンズの保険体制は先進医療から選定療養に移行し,予想通り多焦点眼内レンズは国内の年間症例数がここ10年で初めて減少傾向に転じた1).しかし,選定療養が開始となったここ数年でも多焦点眼内レンズは国内承認,国内未認可ともに国内外の各メーカーがこぞって新しい光学デザインをもつ特色のある多焦点眼内レンズを開発し(図1),これからも多くの新しい光学特性をもつ多焦点眼内レンズが発売されるのではないかと予想される.これによって多様化する患者ニーズに合わせて,多くの選択肢のなかから多焦点眼内レンズを選択できる時代が到来することは間違いなく,活気づく多焦点眼内レンズ市場に呼応し学会や講演会でもまだ多数の発表があり,多焦点眼内レンズ診療を継続している現臨床場でも一向にしりすぼみの様子はみられていない.最近は各施設のホームページや巷で有名な眼科医ユーチューバーにより発信される多焦点眼内レンズの最新情報をいち早く,気軽に入手可能な時代となっており,受診患者が最新の多焦点眼内レンズを名指しで希望するケースも少なくない.多焦点眼内レンズは選定療養開始以降の年間国内症例の総数は減少したが,眼科医はもちろん患者からもまだまだ注目を浴びて続けている.II国内承認レンズ(選定療養)vs未承認レンズ(自由診療)上記の選定療養で使用可能な多焦点眼内レンズは国内承認を得たレンズのみである.ただし,未承認レンズには承認レンズがもっていない優れた光学特性をもつものも多く,この両者の特徴を知っておく必要がある.この両者を比較したときに患者がまず感じるのは,一般的に国内承認のレンズより未承認のレンズはコストが高いということであろうが,これ以外の相違点を考えてみる.国内承認レンズは当然安全性が高く,治療実績が豊富で,多焦点眼内レンズをとりあつかっている施設のほとんどで手術が受けられる場合が多い.自由診療での国内未承認レンズはいわゆる輸入レンズとなり,倫理委員会での審議が必須であり,納期も不安定で,トラブル時の対応が煩雑になるなどのデメリットのある一方で,大手メーカーではない中小企業が開発した今までにない最新設計のレンズが多く,画期的で光学的にも承認レンズより優れ,レンズパワー(眼内レンズ度数)も幅広く,強*KakuKimura:木村眼科内科病院〔別刷請求先〕木村格:〒737-0029広島県呉市宝町3-15木村眼科内科病院0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(17)1175199120072007200920112011201720182019202120223M社AlconAMOAMOAMOHOYAAMOAlconAlconAMOAlconDi.ractiveReSTORReZOOMTecnisMultifocalTecnisMultifocalisiiSymfonyACTIVEFOCUSPanOptixSynergyClareonMultifocalPanOptix1991~20072008200920102011201220132014201520162017201820192020202120222010201120112017201720172018201820192020PhysIOLZEISSOculentisVSYSIFIRaynerPRECIZONALSANZAPhysIOLHanitaFineVisionATLISAtriLentisBiotechnoligyMedtechRayOnePresbyopicALSAFitFineVisioLensesAcrivaTrinovaMiniWelltrifocalNVAIOLFOURIERTriumFIntensity図1わが国で使用可能な多焦点レンズ年表図2夜間グレア・ハロー・スターバーストのシミュレーション画像単焦点W60は70%以上の患者がハローの自覚もないが,多焦点眼内レンズは明らかにハローなどが出現する.(野口三太朗:眼科グラフィック12:190,2021より引用)2.92.82.72.62.52.4DFRIntensityPodFPodLRAOTFNTTriDIFFTrinovaW60nonGlareGlare図3コントラストの比較スコアが高いほどコントラストは高い.(野口三太朗:眼科グラフィック12:189,2021を改変引用)ZMB00ZXRを誇っていたC2焦点型CSN6AD1(Alcon社),ZMB(AMO社)などは光学的ロスがC20%程度であったが,ここ数年で発売されたレンズでは光学的ロスがC10%程度に抑えられ,承認レンズではCSymfony(ZXR)(AMO社),PanOptix(TFNT)(Alcon社),未承認レンズではCIntensity(Hanita社),FineVisionPodL(Physiol社)などは単焦点眼内レンズに迫る良好なコントラストデータ(図3)が得られており,臨床的にも使いやすい多焦点眼内レンズが増えてきた.C3.弱点③瞳孔径現在の多焦点眼内レンズは回折型が主流となり,以前ほど術前の適応判断において小瞳孔に注意をはらわなくなった.昔は二大巨頭のひとつであった屈折型は瞳孔径に依存しており,とくにC3Cmm径以下の小瞳孔の場合は光学面の近用ゾーンが瞳孔に隠れてしまい多焦点性が損なわれてしまうが,回折型は回折構造による焦点の振り分けのため,小瞳孔でも多焦点性が保たれる.しかし,今でも多焦点眼内レンズのタイプを問わず明所・暗所での瞳孔径の確認は必要と考える.最近は光学デザインが複雑化し,光を効率よく複数の焦点に振り分ける一方で,同じレンズでも明所・暗所での瞳孔径によって各焦点への光の配分が変化する.もちろん各レンズによって瞳孔径による光の配分が違うので,各レンズの明所・暗所での見え方を把握し,これを患者ニーズに照らし合わせたレンズ選択をしないと不満が生じる場合がある.CIV多焦点眼内レンズの適応疾患基本的には白内障以外の眼合併症を認める患者には多焦点眼内レンズは避けるべきである.十分な視力改善が見込めない状況では,患者にとって高額経費を負担してまで多焦点眼内レンズを使う意義はない.具体的には角膜疾患(角膜の光学的・形態的異常による矯正不能視力の改善不十分が予想される患者),網膜疾患(とくに将来的に網膜手術が必要となる可能性が高い患者),視神経疾患(緑内障の視野異常によりコントラスト感度が低下している患者)は除外する必要がある.ただし,長期間変視症を認めていない黄斑前膜,視野異常やコントラスト感度低下をきたしていない前視野緑内障(preperimetricCglaucoma)などは例外的に多焦点眼内レンズを選択できる可能性がある.疾患の性質や進行状況,本人の意向・状況理解の有無などを総合的に検討し,十分な視機能が得られない可能性や,良好な術後視力が将来的に低下する可能性も説明したうえで,最終的に本人の了解・納得を同意書などで確認ができたなら,本来多焦点眼内レンズを諦めるべき患者のなかから例外的な適応症例となる患者といつか遭遇するかもしれない.このとき重要なのは自分,もしくは家族が患者ならその状況でも多焦点眼内レンズを選択するかどうかを考え判断することである.CV眼科医が眼科(白内障)の手術を受けるさて,いよいよ今回の本題に入る.われわれ眼科医が自身の白内障手術を決心するときは,何がきっかけになるのだろうか?視機能低下を自覚し日常生活や仕事に支障をきたすようになってからが手術を決心するタイミングと思われるが,これは患者と変わりはないであろう.ただし,眼科サージャンたちにとっては,顕微鏡下の術野がこれまでと違う光景に見えはじめたとき「これまでの手術パフォーマンスを発揮できないかも」という不安を感じることとなる.個人的には白内障手術の連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorhexis:CCC)が見えにくくなり,自身の白内障手術を決断した眼科医を数名知っている(眼科医である筆者の父もそのひとり).白内障による自身の手術パフォーマンスの低下が患者の術後視力に悪影響を与える可能性が出てきたとき,眼科サージャンはその責任感のもとで手術を引退するか,あるいは白内障手術を受けるかの決断を迫られる.CVI多焦点眼内レンズvs単焦点眼内レンズ手術を決心したら,その次に考えることは,まずはどの施設でどの眼科医に執刀してもらいたいかではなく,自身の眼の中にどの眼内レンズを入れるかだろう.眼科医は患者と違い各種眼内レンズの光学デザインや臨床データ(自験例含む)を大いに参考にして吟味することができる.眼内レンズ選択の最初の入り口は多焦点か単焦1178あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(20)点かの判断であろう.まず,単焦点派にはコントラスト低下とグレア・ハローを理由に多焦点を回避する意見が多い.多焦点派は多焦点眼内レンズユーザーに多く,そのなかでもヘビーユーザーほどその傾向が強い.日本白内障屈折矯正手術学会会員のアンケートでは,自身の執刀する白内障手術に占める多焦点眼内レンズの割合が2021年では平均C3.8%1)という状況であったが,その割合がC5%以上の術者,つまり眼内レンズを数多く手がける術者に限ると,自分の眼に多焦点眼内レンズを希望する者はC77.5%であった.具体的に現時点で希望する多焦点眼内レンズはシェアの多い順にCSynergy16.1%,CPanOptix12.9%,LENTISMplus(Oculentis社)12.9%,Intensity6.4%となった.また,多焦点眼内レンズを数多く手がける術者のなかで自身には希望しないC22.5%の眼科医も,この先でもっと光学的に優れた多焦点眼内レンズが登場し,自ら執刀したその良好な臨床成績を目の当たりにすれば,自身の眼にも多焦点を希望する割合が増えていくと推測される.CVII当院における医療関係者の多焦点眼内レンズ自験例当院で多焦点眼内レンズを挿入した眼科医を含む医療関係者の自験例は,今後自身に多焦点を検討する眼科医にとって参考となると思われるので紹介する.まず眼科医はもちろんのこと,他科の医師をはじめとする医療関係者(医療事務員は除く)の診療には非常に気を遣うものである.彼らには過去の自験例のデータを提示しながら通常より詳細に多焦点眼内レンズの事前説明をしがちだが,過剰な説明は無駄,もしくは不必要となることがしばしばある.医学知識を持ち合わせる医療関係者は事前リサーチの理解が深く,ときに知人の眼科医に説明を得ている場合もあり,来院時にすでに多焦点眼内レンズの概要を正しく,深く理解している人が多い.一般の患者ではグレア・ハローの説明を聞き,過剰に心配し多焦点を断念するケースが時々あるが,医療関係者の場合はそれが日常生活や運転に支障をきたすケースが少なく,数カ月で徐々に消失するケースが多いことまで理解されている方がほとんどで,説明後の単焦点への変更例がほとんどみられない.最近では医療関係者,とくに眼科医のほうが気楽に説明をさせていただいている.当院での過去C10年の医療関係者の多焦点眼内レンズ挿入症例を振り返ると,2011.2021年までにC19症例を数える.内訳はC2018年までのC9例はすべて看護師,2019年からのC10例は医師がC7例,看護師C3例だった.医師の内訳は眼科医C1名,外科医C1名,内科医C1名,産婦人科医C1名,歯科医C3名で,医師に使用した多焦点眼内レンズは全C7例とも本人希望にてCPanOptixだった.その情報源は知人の眼科医に聞いたり,眼科施設のホームページなどのネットサーフィンからが多い.また一部であるがCPanOptixを文献検索して臨床経過までを把握している医師もみかけられた.医師の平均年齢C71.5歳(全員現役),術後C11カ月の遠見裸眼視力C1.01,中間裸眼視力C0.89,近見裸眼視力はC0.71.術後の診療は全員が裸眼で業務可能となっており,外科医C1名のみ読書時に眼鏡装用と回答した.術後C1カ月での満足度アンケート(5点満点)の結果は医療関係者全体のC4.09点に対し医師はC4.42点となっており,症例数が少ないながらも医師のほうが満足度がより高い傾向がみられた.これは良好な裸眼視力に加え医師全員が現役ドクターの状況で,術後における診療業務中の眼鏡装用率0%であったことが大きいと思われる.また,筆者が多焦点眼内レンズを始めたC2010年頃は除外すべき職業の中に歯科医が含まれており,基本的にはその対象から当時は歯科医を除外していた.これは多焦点眼内レンズの術後コントラストの低下によって歯のエナメル質の視認がむずかしくなるからである.しかし,今回の対象者の中にはC3名の歯科医を含んでいたが,3名とも満足度は非常に高い結果であった.当時の多焦点眼内レンズ(おもにC2焦点型)による光学的損失(いわゆる光のロス)は約C20%だったが,ここ数年に登場した多焦点眼内レンズのほとんどは光のロスがC10%前後でコントラストの低下はかなり改善されているといえる.したがって,多焦点眼内レンズの職業的適応は歯科医にも今後拡大する可能性がある.(21)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1179LogMAR視力-0.2-0.100.10.20.30.40.50.60.70.80.91m50cm30cm21.510.50-0.5-1-1.25-1.5-2-2.5-3-3.5-4-4.5-5DiopterTFNTDFRIntensityACTIVEZXRSV25図4当院で使用してきた代表的な多焦点眼内レンズの焦点深度曲線(自験例)表1父の術前.術後の裸眼視力(77歳,男性,眼科医)・術前視力右眼C0.3(1.0C×S+3.75D(C.1.5DCAx80°)左眼C0.2(0.9C×S+3.75D(C.1.0DCAx100°)・術後C1カ月遠見右眼C0.8(1.0C×S+0.5D(C.0.5DCAx175°)左眼C1.0(n.c.)中間(60cm)右眼C0.8(n.c.)左眼C0.8(n.c.)近見(40cm)右眼C0.8(1.0C×S+0.75D(C.1.5DCAx80°)左眼C0.8(n.c.)-

二焦点眼内レンズ

2022年9月30日 金曜日

二焦点眼内レンズBifocalIntraocularLens原雄将*はじめに現在,わが国における白内障手術の施行例は高齢化に伴い年間約C100万人に到達している.そのC100万人の生活スタイルはさまざまであり,術後の見え方に対するニーズも多種多様である.そのニーズに答えるため眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の種類もいろいろと選択できる状況である.とくに近年は高齢者層にもパソコンやスマートフォンの普及が広まり,中間距離で眼鏡をかける必要のない生活を望む声が高まっている.白内障手術時に挿入されるCIOLとして,単焦点CIOL,乱視を矯正するトーリックCIOL,二焦点CIOL,多焦点IOL,焦点深度拡張型CIOL(extendedCdepthCoffocus:EDOF)などがある.これらのCIOLがうまく機能すると術後に眼鏡が不要になることもありCQOLは向上する.単焦点CIOLは焦点がC1カ所なので見えるところははっきり見えるが,そこから離れるとCIOLにはピント調節機能がないためにぼやけてしまい,術後眼鏡が必要となる患者が多い.多焦点CIOLは眼に入ってきた光を遠方用と近方用に振り分けるため,光がその分減少してコントラスト感度が低下する.また,夜間に光の周りに輪がかかったように見えることをハローといい,火花のように見えることをグレアというが,この不快な症状が出現する可能性があり,たとえば夜間の運転が多いドライバーなどには不向きである.ほかにも二峰性のピント設定の多焦点CIOLでの中間距離の落ち込こみや,屈折型の多焦点CIOLでは瞳孔径に機能が左右されやすい,自由診療もしくは選定療養扱いになるため,費用が高額になる,などのデメリットがある.CI新しいタイプの二焦点IOL多焦点CIOLのカテゴリー外での新しいタイプの二焦点CIOLがC2019年C4月に保険適用になった.参天製薬から販売されたレンティスコンフォート(図1)である.従来のCIOLは円形のレンズに二つの支持部がついた形状であるが,レンティスコンフォートは長方形のプレート型CIOLであり,分節状屈折型で上半部は遠方用に,下半分には中間用に+1.5Dの度数が加入されているこ遠用ゾーン中間用ゾーン(+1.5D)図1レンティスコンフォートの模式図*YusukeHara:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野〔別刷請求先〕原雄将:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(13)C1171とで遠方から中間まで良好な視力が得られる.光が上部の遠方部分と近方部分を通れば自然に網膜に結像するため,遠近両用眼鏡のように遠くを見るときにはレンズの上のほう,近くを見るときは下のほうを意識して使用する必要はない構造となっている.また,高いCAbbe数のため色収差が少ない.Abbe数とは光の分散の程度を示す値で,Abbe数が小さいほど色収差が大きく,大きいほど色収差が小さくなる.角膜には正の色収差があるのでCIOLにより色収差が少なくなればなるほどコントラスト感度が良好となる.他の特徴として,グリスニングが起きにくい.疎水性アクリル素材のCIOLは不規則な配列のポリマー構造をしているため,IOL内部の間隙に水滴が取り込まれ,光学部中央につぶつぶの斑点が生じる.これをグリスニングという.レンティスコンフォートは親水性アクリル素材で,規則正しい配列のポリマー構造をしているためグリスニングが起きないとされている.ハロー・グレアも従来の多焦点CIOLに比べて軽度で少ない.その理由は,レンティスコンフォートの形状は光学部上方にある遠用ゾーンと下方にある中間ゾーンに分かれており,移行部のラインはC1本だけなので,施行部で生じる光の散乱も少ないからとされている.焦点深度が拡張されるなどの特徴をもつ.しかし,視力検査では注意点がある.それは加入度数の入っているレンズの下の部分を測ってしまうことがあり,オートレフでの測定値がばらつく可能性がありえる.そのため,自覚的検査の結果を優先することが重要とされている.乱視用のレンティスコンフォートもあるので乱視の強い患者にも使用可能である.CIIレンティスコンフォートの大規模前向き多施設研究レンティスコンフォートの大規模前向き多施設研究の結果を述べる1).この研究はレンティスコンフォートを評価し,厚生労働省に承認申請するためのC12カ月間の第CIII相臨床試験であり,白内障手術を受けたC65名,120眼を対象とした.年齢はC44.88歳(69.7C±7.9歳,平均±標準偏差),男性C17名,女性C48名であった.眼科検査は術前,術翌日,1週間,1,3,6,9,12カ月後に実施した.評価項目は補正しない遠方視力(uncoreeteddistanceCvisualacuity:UDVA)および矯正遠方視力(correctedCdistanceCvisualacuity:CDVA),70Ccmで測定した補正しない中間視力(uncorrectedCintermedi-ateCvisualacuity:UIVA)および矯正中間視力,30cmで測定した補正しない近方視力(uncorrectedCnearCvisualacuity:UNVA)および矯正近方視力(distance-correctedCnearCvisualacuity:DCNVA)などである.患者にはハロー・グレアなどのいわゆるCphoticCphe-nomenaの程度や,治療結果に対する総合的な満足度を,とても高い,高い,中等度,低い,の順にC4段階で評価してもらった.結果を図2~7に示す.全観察期間を通して遠方視力はCUVDAがC1.0程度,CDVAがC1.2程度であり,良好な結果であった(図2)1).70Ccm中間視力はCUVDA,CDVAともにC0.8程度であった(図3)1).30cm近方視力は遠方,中間に比べて低いレベルでUNVA,DCNVAはそれぞれC0.33,0.28程度にとどまった(図4)1).ハロー・グレアの程度についてはともに重度の自覚を訴えた者はいなかった(図5,6)1).総合的な満足度はほとんどの患者が「とても高い」「高い」と回答した(図7)1).この研究は対照群がないため研究に限界があり,理想的には他の多焦点CIOLや単焦点CIOLと比較することが望ましいが,結論としてレンティスコンフォートは遠方・中間視力に優れ,光による不快な現象が少なく,満足度の高いCIOLといえる.CIII自験例次に自験例を紹介する.当院は大学病院という特性上,手術後経過良好な患者は早々に逆紹介するため,術後C1週間後での各距離の満足度を調査した.遠方の見え方は「とても満足」がC44%,「満足」がC39%で満足がC8割を超え,中間も「大変満足」がC48%,「満足」がC32%とC8割を超えた(図8).また,レンティスコンフォートを使い始めてからの開業医からの紹介状には「ゴルフをされる方なのでレンティスコンフォートはいかがでしょうか」「ご友人がレンティスコンフォート挿入後に眼鏡不要となったので同じ眼内レンズを希望です」「狭隅角で視力は矯正でC1.2とまだよいのですが,白内障手術はいかがでしょうか」などと書かれており,術後の裸眼視力向上が期待される1172あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(14)-0.4-0.4-0.2-0.20視力(logMAR)0.20.40.60.80.8111.21.2測定時期測定時期図2遠方視力図370cm中間視力(ScientificReports9:13117,2019より引用)(ScientificReports9:13117,2019より引用)-0.4(%)■none■mild■medium■severe100-0.2800pre1D1W1M3M6M9M12Mpre1D1W1M3M6M9M12M視力(logMAR)0.2600.4400.60.8201.2(%)100806040200pre1D1W1M3M6M9M12M0(%)100806040200pre1M3M6M9M12M測定時期図430cm近方視力(ScientificReports9:13117,2019より引用)C■none■mild■medium■severepre1M3M6M9M12M時期図6ハローの程度時期図5グレアの程度■veryhigh■high■medium■lowpre1M3M6M9M12M時期図7術後の総合的な満足度%100■とても不満80■不満■普通■満足6040■とても満足200図8両眼レンティスコンフォート挿入患者(23例)における各距離の満足度(術後1週間)

単焦点眼内レンズ

2022年9月30日 金曜日

単焦点眼内レンズTheMono-focalIOLStrategySelectedforMyCataractSurgery三好輝行*はじめに本稿執筆時,筆者はC68歳ですでに老視ではあるが白内障はごく軽度である.ただし,両眼近視があり,視力は右眼C1.5×.3.75D,左眼C1.5×.1.5Dの不同視で,通常は眼鏡はかけていない.電車に乗るとき,壁あるいは天井にかかった時刻表を見るときのみに眼鏡をかける.遠用眼鏡をかけることに関してはいささかの抵抗もない.この状態が約C40年程度続いている.当然老眼鏡は不要である.もちろん今もなお現役のサージャンで10-0ナイロン糸も肉眼で見える.さらに手術用顕微鏡使用時も接眼レンズの調整ではまったく不自由しない.したがって,もしも現在筆者に白内障手術が必要になってもライフスタイルを変えたくないので現状のまま復元していただくことを強く希望する.いくら眼鏡が必要でも一点だけを明るさを損なわず集中して見たいので,保険適用のあるなしにかかわらず多焦点性のある眼内レンズ(intraocularlens:IOL)は希望しない.この点が若いときから今までずっと眼鏡なしで生活してこられた杉田達先生の希望とは大いに異なる1).かつて遠近両用コンタクトレンズを試したことがあったが,遠くも近くも見えすぎて,気分不良になった.世の中には見えすぎるとかえってよくないことがある典型例かもしれない.CI希望するIOLの種類とその根拠自験例C8万例の結果から,材質は術後予期せぬ炎症やグリスニング,ホワイトニングの生じにくい疎水性アクリルレンズで,クライオレースカット,evidencebasedmedicine(EBM)として完全には認知されていないが加齢黄斑変性によくないとされている紫色光(400~450Cμ)をカットする色が濃すぎない着色レンズ(テクニスオプティブルー)(図1)2),後発白内障の発生が少ないC360°シャープエッジ(図2),非球面レンズを希望する3).翌日,眼帯をとったときに患者から叫び声の出る確率が一番高いからである.術後,前後.に挟まれて固定されたら前後への移動(屈折変動)が少ないループ付け根の面積の大きなシングルピースアクリルレンズがよい(図3).もしもトーリックCIOLが必要なら術後回旋の少ないフロストループを選択したい.(図4).もちろ図1濃すぎない着色眼内レンズ*TeruyukiMiyoshi:三好眼科〔別刷請求先〕三好輝行:〒720-0053広島県福山市大黒町C2-39三好眼科C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(9)C1167図2360°シャープエッジ(後.側)図3前後.に挟まれるループ付け根の面積が広い図4術後回旋の少ないフロストループ(左側)図5連続焦点型IOL

眼内レンズの材料

2022年9月30日 金曜日

眼内レンズの材料IntraocularLensMaterials松島博之*はじめに今回,現在の眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の材料について簡単にわかりやすく解説してほしいという依頼を受けた.多焦点,トーリックなどIOLの光学的な特徴については講演などで聞く機会が多いと思うが,材料についてとなるとあまり馴染みがなく,それほど気にしない眼科医も多いと思う.せっかくの機会なので,研修医など若手医師にも理解してもらうために,できるだけ簡単にわかりやすく解説してみる.IOL材料を理解するために必要な知識をできるだけ簡単にまとめたので,興味をもつよい機会にしてもらいたい.最後に,現在自分が白内障手術を受けるとしたら,どの材料のIOLを選択するか考察してみる.I眼内レンズ材料の歴史以前の白内障手術では,水晶体を.ごと摘出する白内障.内摘出術(intracapsularcataractextraction:ICCE)が施行され,摘出した水晶体の代わりに約20Dの分厚い眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL)が使用されたことは,今の若手医師には想像できないであろう.外来で白内障術後に眼鏡で矯正する患者をみる機会もかなり少なくなった.まずIOLの歴史から振り返ってみる.1949年に英国のRidleyが戦闘機であるスーパーマリン・スピットファイアの風防(図1)の破片が操縦士の眼に刺さっても異物反応が生じなかったことからヒントを得て,硬性ポリ図1スーパーマリン・スピットファイアの風防2011年に訪問したアルコンラボ(フォートワース)では実際に風防をみることができた.マーであるpolymethylmethacrylate(PMMA)製IOLを開発し初めて患者に挿入した.このIOLは光学部だけで支持部がなく,固定に苦慮した.その後,隅角固定をする前房型IOLが多数開発されたが,角膜内皮障害のためにあまり使われなくなった.1970年中頃には白内障.外摘出術(extracapsularcataractextraction:ECCE)が主流となり,支持部を虹彩に固定する虹彩支持型IOLが主流となった.1978年にShearingが毛様溝に固定する後房型IOLを開発すると,術式の進歩とともに後房型IOLを.内に固定することの安全性が証明され,現在の形状になっていく.*HiroyukiMatsushima:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林880獨協医科大学眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)1161表1眼内レンズを理解するための基礎用語用語解説①モノマーとポリマーIOL材料の基盤.モノマーが多数連なって鎖状のポリマーとなる.②架橋鎖状のポリマーの補強材料.③ガラス転移温度(Tg)IOLの硬さ,開きやすさに関与する温度.④屈折率IOLを通る光の進み方.高くなるとCIOLを薄くできるが反射が強くなる.⑤CAbbe数色分散(にじみ)を示す.大きいほうが色収差が小さくなる.⑥接触角親水性・疎水性を示す.⑦表面処理IOL表面を加工し,本来と異なった特性を与える方法.⑧粘着性IOL表面のベタベタした性質.⑨表面の粗さIOL表面の凹凸.粗いと散乱が強くなる.⑩CIOL製造方法鋳型の中で重合するキャスト成型法と,重合後に削り出すレースカット法がある.IOLが厚くなるIOLが薄くなる(小切開適応)色収差が少ない色収差が大きい表面反射が低い表面反射が高い図2屈折率とAbbe数のトレードオフ屈折率とアッベ数は相反する関係にある.アッベ数が大きいほうが色収差が少なく表面反射が少ないが,IOLが厚くなってしまう.屈折率が高くなるとCIOLは薄くなるが色収差と表面反射が増える.表2IOL光学部材料と特徴疎水性アクリル親水性アクリルシリコーン薄い(小切開に適応)水相分離が生じない形状回復が早い長所樹脂性質をコントロール可能粘着性がない生体適合性が高い粘着性がない色収差が少ない表面反射が少ない色収差が生じやすい水中保存厚い(小切開に不向き)短所表面反射が強い粘着性が高いカルシウム沈着が生じやすいシリコーンオイルと接着水相分離(グリスニング)図3グリスニング疎水性アクリル材料では,水層分離現象によって光学部内部全体に小輝点が発生することがある.図5カルシウム沈着親水性アクリルは生体適合性が高いため,カルシウムとの親和性も高く,カルシウム沈着を生じやすい.IOL表面に無数のカルシウム沈着がみられる.図4Sub.surfacenanoglistening(SSNG)疎水性アクリル材料に発生するCSSNGも水層分離現象であるが,微細な水粒子がCIOL表面近くに無数に発生することで表面散乱として観察される.を示し,多いとゴム様の性質を示す.丈夫で形成しやすいことからさまざまな医療用品に活用されてきた.IOLにはゴム様の性質をもつシリコーンを利用している.シリコーンは屈折率がC1.41.1.46程度と低いためCIOLの厚みが増えてしまう欠点があるが,その分CAbbe数が高くなるので,色収差は少なく表面反射も生じにくい.シリコーンCIOLは粘着性がなく,形状回復が早い特徴ももつ.IOL挿入の際に早く開き,眼内での操作がしやすい.最大の欠点として同じ成分であるシリコーンオイルと結合しやすく,網膜硝子体手術でシリコーンオイルを使用する際にくっついてしまうと類似した成分のために離れにくく,術中の視認性が低下し,手術操作が困難になることが問題視されている.硝子体閃輝症の症例にシリコーンCIOLを挿入するとカルシウム沈着が生じる11)ことがあり,この場合も視機能低下を生じる.CIVでは一体どの材料を選ぶのかIOLの進歩はめざましく,多焦点,トーリックなどの光学設計は術後視機能を大幅に向上させた.IOL挿入に重要な技術であるインジェクターシステムも素晴らしく,現在は多くのCIOLがプリセットでC2.0Cmm前後の極小切開から簡単に挿入できるようになっている.これらの技術的革新の中心になっているのがCIOL材料であると思われる.材料の加工がむずかしければ素晴らしい光学設計も活用できないし,IOLの厚みや硬さをコントロールできるようになったから極小切開からインジェクターを用いてCIOL挿入が可能になった.現在も疎水性アクリル,親水性アクリル,シリコーンのCIOLはそれぞれ残っていて,症例によってさらに術者の好みで選択できる.もし本当に最良の材料があるのであれば,多くの術者が同じ材料を選ぶであろう.しかし,現在もさまざまな材料が残っているのは,まだすべての材料に課題が残っているということでもある.もし自分がすぐに白内障手術を受けることになったらどの材料を選ぶだろうか?混濁するCIOLは嫌だ.切開創サイズについては乱視が生じにくいレベルになってきているので,無理な小切開は要らないような気がする.色収差が少ないのは魅力的だが,自分は網膜.離になったりしないだろうか?シリコーンオイルを使われる可C1166あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022能性は低いだろうが,そのときになって後悔するのは嫌だ.自分は比較的プラスに物事を考える方だから,posiC-tivedysphotopsiaやグレア・ハローはみえても克服できそうだが,ずっと続くとやはり嫌なものなのか?最良のCIOL材料だけのことを考えても結局結論が出ず,「この材料がよい」と言うことはできない.さらに多焦点,トーリック,IOL形状などさまざまな光学設計や他因子が最終的な視機能に影響するので,結論はさらに遠のく.薄くインジェクターで扱いやすく,色収差が少なく,長期にわたって透明なCIOL材料があればぜひそれにしたいが,一つの長所を狙うと違う場所にほころびが生じ,現状では作り出すことは不可能である.今できることは,最良の材料をめざして自分も何らかの役に立つように研究開発を進めていきたいと考えている.文献1)松島博之:眼内レンズのデザイン,材質と特性④物理的特性.眼内レンズを科学する(小原喜隆,西起史,松島博之編),p20-24,メディカル葵出版,20062)永田豊文:眼内レンズの素材.眼内レンズの使い方(大鹿哲郎編),p2-6,中山書店,20143)三友規久夫:眼内レンズの製造法.眼内レンズの使い方(大鹿哲郎編),p7-10,中山書店,20144)松島博之:眼内レンズ素材の特徴.IOL&RSC33:669-672,C20195)宮田章:ポリマー内に貯まる水.IOL&RSC21:59-62,C20076)WernerL:GlisteningCandCsurfaceClightCscatteringCinCintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:1398-1420,C20107)MatsushimaH,Mukaik,NagataMetal:Analysisofsur-face“whitening”ofCextractedCAcrySofCintraocularClenses.CJCataractRefractSurgC35:1927-1934,C20098)MatsushimaCH,CNagataCM,CKatsukiCYCetal:DecreasedCvisualCacuityCresultingCfromCglisteningCandCsub-surfaceCnano-glisteningCformationCinCintraocularlenses:aCretro-spectiveanalysisof5cases.SaudiJOphthalmol29:259-263,C20159)小早川信一郎:カルシウム沈着.IOL&RSC24:233-238;C201010)NeuhannCT,CYildirimCTM,CSonCHCetal:ReasonsCforCexplantation,Cdemographics,CandCmaterialCanalysisCofC200CintraocularClensCexplants.CJCCataractCRefractCSurgC46:C20-26,C202011)小早川信一郎,徳田芳浩,松島博之ほか:シリコーン眼内レンズにカルシウム沈着による光学部混濁がみられたC1例.CIOL&RSC27:361-365,C2013(8)

序説:自分の眼に入れるなら眼内レンズはこれだ

2022年9月30日 金曜日

自分の眼に入れるなら眼内レンズはこれだTheIntraocularLensthatCataractSurgeonsSelectforTheirOwnEyes山上聡*高齢化がますます進むなか,白内障手術は大多数の人が受ける手術となりつつある.開眼手術であったのは過去の話で,現在は多くの場合に屈折矯正手術としての役割も負荷され,質の高い医療が求められている.その高い質を担保するために重要な役割を果たすのが眼内レンズであり,改良が続いている.眼内レンズの特徴を示すものとして,眼内レンズの表面加工,素材,エッジのデザイン,度数の正確性,レンズの固定位置や後発白内障の発症率などさまざまな要素があり,さらに単焦点,二焦点,多焦点のレンズごとに多くの特徴があり,これらについてもすでにさまざまな角度から比較・検討されている.ただし,多くの眼内レンズのメリット・デメリットをご存じであるエキスパートの先生方でも,いざ「自分の眼にならどのレンズを入れますか?」ときかれるときっと一瞬ドキッとするのではないだろうか.それは自分の身体の一部となるものに対する掛け値なしの正直な答えを求める質問だからである.この問に対しては,レンズ挿入の難易度とか,ましてや企業との親密度やレンズの価格などは何の関係もなくなる.まさに究極の選択,現時点での本音が聞き出せる設問だと考えており,エキスパートの回答は多くの術者にとって必ずや参考になるものと考えている.本特集では,多くの症例経験を有する白内障手術のエキスパートの先生方に「自分の眼に入れるなら眼内レンズはこれだ」という観点で執筆していただいた.執筆された先生方には客観点なデータに加えて,可能なかぎり主観的な因子も取り入れていわゆる「好み」を含めて書いていただくようにお願いした.実際に,眼内レンズの材質一つとってもさまざまな研究の成果の上に現在の眼内レンズができていること,多焦点レンズの機能がかなり向上し,欠点も克服されつつあること,多焦点レンズを親族の眼に入れたケース,保険の範囲内でかつ比較的欠点の少ない二焦点レンズを薦める意見などをいただいた.逆に技術の進歩は認めるが,できるだけ今までと同じ見えかたを求める単焦点レンズ派,眼内レンズの眼内安定性から決めるなど,それぞれ説得力のある説明がなされていて大変興味深い内容となっている.必ずしも一つの眼内レンズに決めていただけなくても,いくつかの候補をその理由とともに示していただいているので,読者の先生方もいろいろな観点から眼内レンズを考えていただけるものと期待している.*SatoruYamagami:日本大学医学部視覚科学系眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)1159

2018 年に施行された基準変更に伴う視覚障害認定者数の推移

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1148.1152,2022c2018年に施行された基準変更に伴う視覚障害認定者数の推移田中康平生杉謙吾一尾多佳子竹内真希近藤峰生三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学ImpactoftheChangesinVisualImpairmentCerti.cationCriteriaInstitutedin2018KoheiTanaka,KengoIkesugi,TakakoIchio,MakiTakeuchiandMineoKondoDepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:2018年7月に視覚障害に関する身体障害者手帳の認定基準が変更された.今回筆者らは認定基準変更後の変化について三重県における視覚障害認定者を対象に調査したので結果を報告する.対象および方法:対象は認定基準変更前後1年間に該当する2017年7月.2019年6月の2年間に三重県にて身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害と認定された全395名である.対象者の身体障害者診断書・意見書から年齢・性別・等級分布・原因疾患を調査した.結果:視覚障害認定者数は変更後,1.4倍増加した.年代別では50歳代.90歳代のすべての年齢層で増加した.認定等級別では2級の認定者数が2.1倍となり割合で15.8ポイント増加した.疾患別では緑内障による認定者数が2.3倍となり割合で19.0ポイント増加した.結論:2018年に行われた視覚障害認定基準の変更前後で認定等級では2級が原因疾患では緑内障が増加していた.Purpose:InJuly2018,thede.nitionofvisualimpairmentdeterminedbytheActonWelfareofPhysicallyDisabledPersonswerechangedinJapan.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatethe.uctuationsinvisualimpairmentpreandpostcriteriachangeinpersonsinMiePrefecture,Japan.SubjectsandMethods:Inthisstudy,weexaminedthephysicaldisabilitycerti.catesissuedbetweenJuly2017andJune2019inMiePrefecturetoper-sonswhobecameregisteredasvisuallyimpairedduringthatperiod.Subjectage,gender,gradeofcerti.cation,andcauseofvisualimpairmentwerealsoinvestigated.Results:Wefoundthat395personsbecameregisteredasvisu-allyimpairedduringtheperiod,thatthenumberofcerti.edpersonsincreased1.4timesafterthecriteriachange,andthattheincreaseoccurredinallagegroupsfromage50toage90.Inregardtotheclassi.cationbygrade,grade2nearlydoubledandincreasedby15.8points.Inregardtothecauseofcerti.cation,diseaseanalysisshowedthatglaucomaincreased2.3times,andthattherateincreasedby19.0points.Conclusion:Our.ndingsshowthatduetothechangeinthecriteriaforvisualimpairmentin2018,therehasbeenanincreaseinthenum-berofgrade2andglaucomapatientsinMiePrefecture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1148.1152,2022〕Keywords:視覚障害,視野障害,身体障害者診断書・意見書,緑内障.visualimpairment,visual.eldimpair-ment,physicaldisabilitycerti.cates,glaucoma.はじめに2018年7月に視覚障害に関する身体障害者手帳の認定基準が変更された.この変更により,たとえば視力障害は「両眼の視力の和」から「良い方の眼の視力」での認定に,また視野障害は「ゴールドマン型視野計による基準のみ」から「ゴールドマン型視野計または自動視野計のどちらか一方」での認定が可能となるなど種々の見直しが行われた.今回筆者らは,2018年7月に行われた視覚障害認定基準の変更を受け,三重県における新規視覚障害認定者を対象に基準変更前後の変化について比較・検討を行ったので報告する.I対象および方法調査期間は2018年7月の認定基準変更の前後1年間ずつ,2017年7月.2019年6月の2年間である.期間内に三重県に住民票がありかつ新規に視覚障害の認定を受けた全395〔別刷請求先〕生杉謙吾:〒514-8507津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学Reprintrequests:KengoIkesugi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-city,Mie514-8507,JAPAN1148(138)例を対象とした.今回の調査対象者は調査期間内に新規に視覚障害者として認定された者であり,再認定者(継続認定者)は対象外とした.対象者の身体障害者診断書・意見書から年齢・性別・等級分布・原因疾患を調査した.原因疾患の項目に複数の疾患が記載されている場合は,1番目に記載されているものを原因疾患とした.また,障害等級については最終的に認定された等級であり,提出された身体障害者診断書・意見書に不備がある場合などでは三重県障害者相談支援センターから提出医への再確認が行われている.認定基準変更前の1年間(2017年7月.2018年6月)を「変更前」,変更後の1年間(2018年7月.2019年6月)を「変更後」として比較,検討を行った.本研究はヘルシンキ宣言の倫理規定に基づき,プライバシー保護に最大限配慮されており,個人情報を除いた資料が三重県障害者相談支援センターから提供され,また三重大学医学部附属病院医学系研究倫理審査委員会にて承認(U2020-021)されたものである.II結果視覚障害認定者数は,変更前164人に対し変更後231人であり1.4倍の増加となった(図1a).変更前後の認定者数の月別比較(図1b)では,5月と11月以外のすべての月で変更後に増加がみられた.11月は同数であった.男女比は,変更前で男性47.6%,女性52.4%,変更後は男性54.1%,女性45.9%であった(図2).a:実数(人)250200150100500(人)b:月別実数変更前変更後図1基準変更前後の認定者数変更前変更後図3に年齢別認定者数の分布を示す.30歳代,40歳代では変更前後でまったくの同数であった一方,80歳代は1.2倍,60歳代では1.4倍,70歳代では1.5倍に増加した.また50歳代および90歳代はそれぞれ変更前後で2倍以上に増加するなど,50歳代.90歳代までのすべての年齢層で増加した.図4aおよびbに認定等級別実数の分布および割合を示した.実数で比較すると2級の認定者数が変更前後で2.1倍に増加していた.その他,1級,4級,5級で増加,3級と6級では減少がみられた.割合で比較すると,2級は33.5%から49.4%と15.9ポイントの増加がみられた.図5aおよびbに視覚障害の原因上位4疾患である緑内障,糖尿病網膜症,網膜色素変性,黄斑変性と,その他の疾患での認定者の実数分布および割合を示した.実数で比較すると緑内障による認定者数が変更前後で2.3倍に増加していた.割合で比較すると緑内障は変更前後で28.7%から47.6%と18.9ポイントの増加がみられた.III考察今回,筆者らは2018年7月に行われた視覚障害認定基準の変更を受け,三重県厚生事業団三重県身体障害者総合福祉センターの協力を得,三重県において2017年7月.2019年6月に身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害の認定を受けた者を対象とした調査を行うこととした.さて視覚障害認定の全国調査に関してはこれまでいくつかの報告1.3)があるが,いずれも全国を複数地域に分け,各地域で1自治体を抽出して行われたサンプル調査であった.その後,森實らがわが国で初めて全国の自治体で18歳以上を対象とした調査を2015年度の1年間で行い,年齢,性別,等級,原因疾患などについての結果を報告した4,5).一方,生杉らは今回の報告と同様の手法で,三重県における新規視覚障害者を対象とした全例調査を2004年度から2013年度の10年間にかけて行い結果を報告している6).変更前変更後男性女性男性女性図2男女比(人)706050403020100~3940~4950~5960~6970~7980~8990~(歳)変更前変更後図3年齢分布a:実数(人)120100806040200123456(級)変更前変更後b:割合6級6級5.5%3.5%3級4.3%3級9.8%変更前変更後図4認定等級a:実数(人)120100806040200緑内障糖尿病網膜症網膜色素変性黄斑変性その他変更前変更後b:割合網膜色素変性9.5%糖尿病網膜症変更前変更後10.0%図5原因疾患これらの結果によると,人口10万人当たりの認定者数は全国で13.3人,三重県は13.9人であり,また原因疾患の割合をみると,全国平均では上位から緑内障(29%),網膜色素変性(15%),糖尿病網膜症(13%),黄斑変性(8%)と続くのに対し,三重県では上位から緑内障(27%),糖尿病網膜症(17%),網膜色素変性(13%),黄斑変性(12%)などとなり,2位と3位の順位は入れ替わっているものの上位4疾患は同じであり疾患割合としても全国平均と三重県では近い値となっていた.今回,2018年7月に視覚障害に関する身体障害者手帳の認定基準が変更されたことによる全国での手帳の取得状況の変化については,全国調査の結果を待つ必要があるが,全国での1年間の視覚障害認定者数は18歳以上で12,000人以上であり4),全数を対象とした詳細な調査を頻回に繰り返すことは多くの労力がかかると考えられ,今回のような一定の地域内の全数を対象とした調査も有用なデータとなりうると考えられる.さて新しい認定基準が適用される前後の変化について今回の結果では,認定者数は全体で1.4倍に増加した.とくに50歳以上の全年齢層で認定者数が増加,等級別では2級の認定者数が倍増,また原因疾患では緑内障が倍増し割合として全体の47.6%を占めることとなった.この原因として今回の基準変更前後で実際に視覚障害患者が急増したとは考えにくいため,適用基準が変わり申請者が増え,見た目上の視覚障害者が増えた可能性がある.今回の基準変更の詳細については2016年8月に取りまとめられた「視覚障害認定基準の改定に関する取りまとめ報告書」7)に述べられている.視力障害の認定については,日常生活は両眼開放で行っていることから,「両眼の視力の和」から「視力の良い方の眼の視力」で認定されることとなった.また,視野障害の認定も,Goldmann型視野計における視能率の廃止と自動視野計における等級判定の導入など大きな基準変更があった.とくにGoldmann型視野計では,新たにI/4指標を用いた「周辺視野角度」およびI/2指標を用いた「中心視野角度」を判定に用い,また現在の眼科一般診療で広く一般に普及している自動視野計による基準も新たに示され,10-2プログラムによる「両眼中心視野視認点数」および周辺視野の評価は「両眼開放エスターマンテスト」8,9)にて行われることとなった.最近では,自動視野検査結果の一部を自動で計算するプログラムもあり,申請書の作成を容易なものとしてくれる.このようないくつかの具体的な基準変更が視覚障害者手帳の発行数や対象疾患に影響を与えている可能性がある.最後に,今回の調査結果は身体障害者本来の実数を反映していない可能性がある.視覚障害者手帳の申請に関してはいわゆる申請漏れが存在することが知られており,過去には本来視覚障害認定者となるはずの患者が障害者として認定されていない例が多く報告され,障害者手帳の取得率は30.50%程度に止まるとされている10.12).一方,今回の研究で明らかとなったように基準変更後に認定者数が増加した背景には,認定基準変更を契機として患者,医療従事者ともに視覚障害者手帳取得への関心が高まった可能性が考えられる.とくに緑内障に関しては定期的な視野測定が行われる診療特性と視野障害に関して自動視野計での認定が可能となったことでより多くの施設で認定ができるようになった可能性があり,今後さらに詳細な資料を収集解析することで今回の視覚障害者数変化の原因が明らかになると考えられる.今回,三重県での調査結果を報告したが,2018年の認定基準の見直しに伴い全国的にも視覚障害者数や認定等級の分布に一部大きな変化が起こっている可能性がある.視覚障害者のQOL(生活の質)低下をできる限り正しく評価し視覚障害者手帳取得という社会的サポートへの橋渡しの重要性を考えるうえで本報告がその一助となる可能性がある.IV結論2018年に行われた視覚障害認定基準の変更前後における三重県での視覚障害認定者の変化について報告した.認定等級では2級が,原因疾患では緑内障が著明に増加していた.全国の動向は全国全例調査の結果を待つ必要があるが,本県における調査結果は過去の同様の調査でも比較的全国平均に近いことが多く,今後のわが国での視覚障害者に対する施策を考えるうえで有益な情報となりうると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中江公裕,小暮文雄,長屋幸朗ほか:わが国における視覚障害の現況.厚生の指標38:13-22,19912)中江公裕,増田寛次郎,石橋達朗:日本人の視覚障害の原因.医学のあゆみ225:691-693,20083)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,20144)MorizaneY,MorimotoN,FujiwaraAetal:IncidenceandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-widecompleteenumerationsurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,20195)森實祐基,守本典子,川崎良ほか:視覚障害認定の全国調査結果の都道府県別検討.日眼会誌124:697-704,20206)IkesugiK,IchioT,TsukitomeHetal:Annualincidencesofvisualimpairmentduring10-yearperiodinMieprefec-ture,Japan.JpnJOphthalmol61:293-298,20177)視覚障害の認定基準に関する検討会:視覚障害認定基準の改定に関する取りまとめ報告書.厚生労働省参考資料2017:https://www.mhlw.go.jp/.le/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000189667.pdf8)EstermanB:Functionalscoringofthebinocular.eld.Ophthalmology89:1226-1234,19829)XuJ,LuP,DaiMetal:Therelationshipbetweenbinoc-ularvisual.eldlossandvariousstagesofmonocularvisu-al.elddamageinglaucomapatients.JGlaucoma28:42-50,201910)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘ほか:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,200011)堀田一樹,佐生亜希子:視覚障害による身体障害者手帳取得の現況と課題.日本の眼科74:1021-1023,200312)藤田昭子,斎藤久美子,安藤伸朗ほか;新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳取得状況.臨眼53:725-728,1999***

ブリモニジン酒石酸塩0.1%点眼液 使用成績調査のまとめ

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1139.1147,2022cブリモニジン酒石酸塩0.1%点眼液使用成績調査のまとめ川口えり子*1坂本祐一郎*1末信敏秀*1新家眞*2*1千寿製薬株式会社*2神奈川歯科大学附属横浜クリニックPost-MarketingStudyof0.1%BrimonidineTartrateOphthalmicSolutionErikoKawaguchi1),YuichiroSakamoto1),ToshihideSuenobu1)andMakotoAraie2)1)SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd,2)KanagawaDentalUniversityYokohamaClinicCブリモニジン酒石酸塩点眼液(アイファガン点眼液C0.1%)の安全性および有効性を検討するため,承認後の使用成績調査にて,最長C24カ月にわたりプロスペクティブな観察を行った.副作用発現率はC15.43%(720/4,666例)であり,おもな副作用はアレルギー性結膜炎をはじめとする眼局所の事象であった.眼圧評価対象C2,625例における投与開始時の平均眼圧はC16.5C±4.7CmmHgであった.投与開始C3カ月.24カ月までの平均眼庄下降率はC13.5.15.2%であり,いずれの観察時点においても有意な眼圧下降が認められた(p<0.0001).また,病型,併用薬剤,切替薬剤にかかわらず,投与開始以降有意な眼圧下降を示した.ブリモニジン酒石酸塩点眼液の安全性および有効性に問題は認められず,有用であると考えられた.CPurpose:Toevaluatethesafetyande.cacyofbrimonidinetartrateophthalmicsolution(AIPHAGANCRCOph-thalmicSolution0.1%)forthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethods:Inthisprospective,observational(uptoC24months)post-marketingCstudyCconductedCinCJapan,CaCtotalCofC4,666CglaucomaCpatientsCwereCincluded.CResults:OfCtheC4,666Cpatients,CtheCincidenceCrateCofCadverseCdrugreactions(ADRs)was15.43%(n=720patients),themainADRswereoculartopicaleventssuchasallergicconjunctivitis.Themeanintraocularpressure(IOP)inthe2,625patientswhowereincludedinanalysesofthechangesofIOPwas16.5±4.7CmmHgatbaseline.InCaddition,CAIPHAGANRCOphthalmicCSolution0.1%Csigni.cantlyCreducedCIOPCatCallCobservationalpoints(p<0.0001)C,andtheaveragerateofIOPreductionfrom3-to24-monthspoststartofadministrationrangedfrom13.5%to15.2%.Moreover,thelevelofIOPreductionwasnotin.uencedbyglaucomatype,concomitantdisorder,ordrugusedbeforeswitching.Conclusion:Our.ndingssuggestthatAIPHAGANCROphthalmicSolution0.1%issafeande.ectiveforthetreatmentofglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1139.1147,C2022〕Keywords:ブリモニジン,アイファガン点眼液C0.1%,安全性,有効性,眼圧.brimonidine,AIPHAGANoph-thalmicsolution0.1%,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障は,わが国の失明原因の第C1位1)であり,緑内障診療ガイドライン2)では,「視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患」と定義されている.治療方法には薬剤治療,レーザー治療,手術治療などがあるが,通常,緑内障治療薬の単剤投与より開始され,さらなる眼圧下降を求めて作用機序の異なる緑内障治療薬との併用や他の治療が実施される.ブリモニジン酒石酸塩はアドレナリンCa2受容体に選択的に作用し,房水産生の抑制およびぶどう膜強膜流出路を介した房水流出の促進により眼圧を下降させると考えられており3),わが国においては,2012年C1月にC0.1%ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン点眼液C0.1%)として承認された.本剤は,それまでの緑内障治療薬とは異なる作用機序を有していたため,製造販売後においてはプロスタグランジン関連薬をはじめとする種々の緑内障治療薬と組み合わせて使用されることが想定された.また,緑内障以外の既往症や併用薬などのため,臨床試験では除外対象となっていた患者にも,承認後は広く投与される.このような上市後の使用実態に即〔別刷請求先〕川口えり子:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社信頼性保証本部医薬情報企画部Reprintrequests:ErikoKawaguchi,MedicalInformationPlanningDepartment,Safety&QualityManagementDivision,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPANCして本剤の有効性および安全性を検証することを目的として使用成績調査を実施した.CI調査の方法と成績1.調査方法「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(厚生労働省令第C17l号)に則り,中央登録方式によるプロスペクティブな観察研究を実施した(2012年C12月.2017年C12月).本剤の使用成績調査(以降,本調査)にかかる契約を締結した医療機関にて,目標症例数C3,000例として,2012年C12月.2015年C9月に初めて本剤投与を開始した緑内障または高眼圧症患者を登録対象とした.観察期間はC12カ月以上,最長C24カ月であり,調査項目は,患者背景(性別,年齢,合併症,既往歴,眼手術歴,前治療薬),併用薬,併用療法,眼科検査結果(投与開始前およびC3カ月ごとの眼圧,視野検査),有害事象とした.なお,本調査は介入を行わない観察研究であるため,本剤投与以前の緑内障治療内容,併用薬,併用療法,眼科検査機器や測定方法に制限は設けなかった.本調査は,独立行政法人医薬品医療機器総合機構による審査を経て実施した.C2.評価方法安全性については,本剤投与開始以降,少なくともC1回以上の観察が可能であった症例を対象として,副作用発現状況を評価した.また,本剤の特徴的な副作用である「アレルギー性結膜炎」については,「性別」「年齢」「アレルギー性疾患既往の有無」「角膜障害の有無」「結膜疾患の有無」「眼瞼疾患の有無」「他の緑内障治療薬の有無」「b遮断薬併用の有無」「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」および「併用薬剤数」を共変量として,強制投入法によるロジスティクス多変量解析を行い,アレルギー性結膜炎発現のリスクを検討した.有効性については,眼圧評価対象症例の投与前眼圧と投与24カ月までのC3カ月ごとの眼圧値を対応のあるCt検定で評価した(Bon.eroni補正).眼圧推移対象症例は,投与開始からC360日以上,緑内障治療内容を変更することなく,本剤を継続投与した症例とした.評価眼はC1例C1眼とし,両眼投与症例においては投与開始時点の眼圧が高い方の眼(同値である場合は右眼)とした.さらに,本剤投与期間中に同一の測定法(Humphrey視野計,中心C30-2プログラムのSITA-StandardまたはCSITA-Fast)にて,5回以上視野検査を実施した眼を対象として,測定法ごとにC1年当たりのCmeandeviation(MD)値の変化量をCLinearMixedModelで推定した.すべての解析について,有意水準は両側5%とした.C3.結果全国C481の医療機関にてC4,886例が登録され,安全性評価対象症例としてC4,666例,眼圧評価対象症例としてC2,625例を収集した(図1).安全性評価対象症例の患者背景は表1に示したとおりであり,平均年齢はC68.7歳,原発解放隅角緑内障がもっとも多かった.また,最終観察時点である投与24カ月まで投与継続された症例はC3,074例であったことから,本調査における投与継続率はC65.9%であった.一方,最終観察時点までに投与中止に至ったC1,592例の中止理由は,再診なしC678例,副作用C520例,効果不十分C182例,有害事象C82例,その他C130例であった.C4.安全性副作用発現率はC15.43%(720/4,666例)であった.このうち,重篤な副作用はC11例C12件(眼圧上昇C4件,視野障害の進行C2件,糖尿病網膜症の増悪,糖尿病,糖尿病性腎症の悪化,脳血栓症,右大腿骨骨折および左上腕骨骨折各C1件)が認められたが,本剤と明確な関連があると判定された事象はなかった.おもな副作用(発現率C0.1%以上)は表2に示したとおりであり,アレルギー性結膜炎C241例(5.17%)をはじめ,結膜充血C102例(2.19%),眼瞼炎C88例(1.89%),結膜炎C50例(1.07%),点状角膜炎C48例(1.03%)など,眼局所における事象が多く認められた.眼局所以外では,浮動性めまいC21例(0.45%)および傾眠C14例(0.30%)が主たる事象であった.なお,アレルギー性結膜炎,結膜充血,霧視,浮動性めまいなど,自覚的な事象では,副作用による中止率が高い傾向にあった(表2).ロジスティクス多変量解析は,安全性評価対象症例C4,666例のうち,共変量とした背景因子に「不明」を含むC251症例を除いたC4,415例を対象とした.背景因子ごとのアレルギー性結膜炎の発現状況については,「性別」「アレルギー性疾患既往の有無」「結膜疾患の有無」および「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」のC4因子で有意差が認められ,性別では「女性」,アレルギー性疾患既往の有無および結膜疾患の有無では「あり」のオッズ比が高かった.表には示していないが,結膜疾患の内訳としては,86.3%(909/1,053症例)において眼乾燥(Sjogren症候群を含む)あるいはアレルギー性結膜炎(季節性アレルギーおよび眼のアレルギーを含む)が認められ,それぞれの罹患症例におけるアレルギー性結膜炎の発現率は,眼乾燥でC6.77%(p=0.0400),アレルギー性結膜炎でC14.47%(p<0.0001)であり,非罹患症例に比して発現率が有意に高かった(Cc2検定).一方,「緑内障治療薬以外の併用薬の有無」では,「あり」のオッズ比が,「なし」より低かった(表3).C5.有効性図2に示したとおり,眼圧評価症例C2,625例の投与前眼圧はC16.5mmHg,投与C3.24カ月までの眼圧はC13.5.13.9mmHgであり,観察期間を通して安定した眼圧下降が認められた(p<0.0001).眼圧変化量は.2.9.C.2.6CmmHg,眼図1症例構成全国C481の医療機関にて登録されたC4,886例のうち,本剤投与後C1回以上観察のあったC4,666例を安全性評価対象症例として,副作用発現状況を確認した.また,本剤投与開始後,緑内障治療内容を変更することなく,360日以上継続投与した2,625例を眼圧評価対象症例として,3カ月ごとの眼圧推移を確認した.表1患者背景項目分類症例数(n=4,666)性別男2,118(45.4%)女2,548(54.6%)年齢(歳)平均±標準偏差C68.7±13.0最小値.最大値7.97病型*1原発開放隅角緑内障2,017(43.2%)正常眼圧緑内障1,926(41.3%)原発閉塞隅角緑内障165(3.5%)続発緑内障277(5.9%)高眼圧症185(4.0%)その他95(2.0%)合併症(眼)あり2,502(53.6%)なし2,164(46.4%)合併症(眼部以外)あり1,431(30.7%)なし2,440(52.3%)不明795(17.0%)眼手術歴あり1,671(35.8%)なし2,958(63.4%)不明37(0.8%)併用薬あり4,123(88.4%)なし533(11.4%)不明10(0.2%)併用療法あり178(3.8%)なし4,454(95.5%)不明34(0.7%)*1:本剤投与開始時点で緑内障・高眼圧症に罹患していなかったC1例を除外した.(131)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1141表2おもな副作用および中止状況副作用*1*2発現症例数(発現率%)中止症例数*3(中止率%)眼部665(C14.25)C.アレルギー性結膜炎241(C5.17)209(C86.72)結膜充血102(C2.19)90(C88.24)眼瞼炎88(C1.89)65(C75.58)結膜炎50(C1.07)36(C72.00)点状角膜炎48(C1.03)18(C37.50)霧視26(C0.56)23(C88.46)眼の異常感24(C0.51)19(C79.17)眼圧上昇22(C0.47)5(C22.73)眼乾燥21(C0.45)4(C19.05)眼そう痒症18(C0.39)17(C94.44)眼痛12(C0.26)10(C83.33)アレルギー性眼瞼炎10(C0.21)9(C90.00)眼刺激9(C0.19)6(C66.67)眼の異物感9(C0.19)9(C100.00)結膜濾胞8(C0.17)8(C100.00)視野欠損8(C0.17)1(C12.50)角膜びらん7(C0.15)5(C71.43)眼瞼紅斑6(C0.13)5(C83.33)眼瞼浮腫6(C0.13)5(C83.33)虹彩炎5(C0.11)0(C0.00)(その他)46(C.)C.眼部以外63(C1.35)C.浮動性めまい21(C0.45)19(C90.48)傾眠14(C0.30)10(C71.43)(その他)44(C.)C.*1:副作用名はCICH国際医療用語集CMedDRA/JCVersion20.1のCPT(基本語)を用いて分類した.*2:発現率C0.1%以上の事象を対象とした.*3:中止症例に複数の副作用が発現していた場合,すべての副作用の中止例数として計数した.圧変化率は.15.2.C.13.5%であった.このうち,本剤を新規で単剤投与したC357例の投与前眼圧はC17.2CmmHg,投与3.24カ月の眼圧はC13.8.14.2CmmHg,眼圧変化量はC.3.3..3.1mmHg,眼圧変化率はC.17.2.C.16.1%であった.その他,病型別,併用薬剤別,切替薬剤別で眼圧推移を検討した結果,投与後のすべての時点で有意な眼圧低下が認められた(図3~6).1年当たりのCMD値の変化量について,評価眼はC194例194眼(SITA-Standard群:54眼,SITA-Fast群:140眼)であった.測定法ごとの推定変化量はCSITA-Standard群は0.19CdB(標準誤差C0.14,p=0.1829),SITA-Fast群はC.0.08CdB(標準誤差C0.11,p=0.4507)であり,両群ともに有意な変化は認められなかった.CII考察本調査で認められた副作用の多くは眼局所における非重篤C1142あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022な事象であった.ブリモニジン点眼投与時における代表的な事象である眼局所アレルギー反応の発現率は,既報においてはC9.25.7%である4.6).本調査においても,主たる眼局所事象はアレルギー反応であり,うちアレルギー性結膜炎の発現率はC5.17%であった.多変量解析によるアレルギー性結膜炎のリスク分析においては,結膜疾患あり,アレルギー性疾患既往あり,女性の集団におけるオッズ比が,1.805(p=0.0099),2.112(p=0.0087),1.810(p<0.0001)と有意に高かった.多変量解析対象症例で認められた主たる結膜疾患は,眼乾燥あるいはアレルギー性結膜炎であり,罹患症例における発現率が高かった.Manniら5)は,ブリモニジン点眼(0.2%)による眼局所アレルギー反応は,点眼薬に対するアレルギー既往を有する患者に多く認められ,また,眼局所アレルギー反応を示した患者では涙液量が有意に減少していたことを報告しており,類似した結果であったと考える.なお,女性のオッズ比が高かった要因としては,女性におけるアレルギー性疾患の既往あるいは結膜疾患の合併率が,それぞれ,60.7%あるいはC65.4%であり,男性における合併率(39.4%あるいはC34.6%)に比して高かったことに起因すると推察された.一方,緑内障治療薬以外の併用薬ありのオッズ比はC0.573(p=0.0427)であり,併用薬なしに比して有意に低かったが,おもな併用薬は人工涙液,角膜保護薬,ステロイド薬,抗アレルギー薬であった.このうち,ステロイド薬あるいは抗アレルギー薬の併用がアレルギー性結膜炎の発症あるいは増悪を抑制しうることは想像できるものの,他の併用薬による影響については,さらなる検討が必要と考える.このような併用薬による影響については,Cb遮断薬の点眼併用によるブリモニジン点眼起因の眼局所アレルギー反応の低減について言及されている7.9).そこで,多変量解析の変数としてCb遮断薬の点眼併用有無を組み入れたが,併用例におけるオッズ比はC1.114(p=0.5439)であり,低減傾向は認められなかった.これは,本調査が使用成績調査という性質上,併用薬に制限を設けておらず,本剤投与期間中に併用薬の変更が生じた症例が含まれるなど,既報と条件が異なるためと考えられた.一方,全身的な副作用としては,浮動性めまいC21例(0.45%)および傾眠C14例(0.30%)が代表的であったが,その発現率は,アドレナリンCa2受容体刺激作用を有する血圧降下剤(メチルドパ水和物錠,クロニジン塩酸塩錠,グアナベンズ酢酸塩錠)を上回るものではなかった3).以上のように,本調査においては,新たな安全性リスクを認めなかったが,最長C24カ月の観察期間においてC34.1%(1,592/4,666例)が本剤による治療から離脱しており,このうちC11.1%(520/4,666例)が副作用発現を理由として本剤投与を中止していた.Sherwoodら8)は,ブリモニジン点眼(0.2%)の12カ月観察における有害事象による投与中止率がC30.6%で(132)表3アレルギー性結膜炎の多変量解析結果背景因子オッズ比95%信頼区間p値男1C..性別女C1.810C1.348-2.430<0.0001*40歳未満C1C..年齢40歳以上C65歳未満C65歳以上C75歳未満C5.618C5.885C0.771-40.954C0.807-42.907C0.08860.080375歳以上C3.273C0.447-23.976C0.2432アレルギー性疾患既往*1なしCありC1C1.805C.1.153-2.826C.*0.0099角膜障害*2なしCありC1C1.121C.0.700-1.795C.0.6351結膜疾患*3なしCありC1C2.112C.1.208-3.690C.*0.0087眼瞼疾患*4なしCありC1C2.412C.0.957-6.081C.0.0619他の緑内障治療薬*5なしCありC1C0.599C.0.348-1.031C.0.0644Cb遮断薬の併用*5なしCありC1C1.114C.0.786-1.580C.0.5439緑内障治療薬以外の併用薬*5なしCありC1C0.573C.0.335-0.982C.*0.0427なしC1C..1剤C1.424C0.745-2.722C0.2847併用薬剤数*52剤C3剤C1.352C0.651C0.629-2.907C0.250-1.694C0.43960.37934剤以上C0.896C0.322-2.498C0.8340*1:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している,または既往のある症例.アレルギー性結膜炎,アレルギー性眼瞼炎,アトピー性白内障,季節性アレルギー,アトピー性皮膚炎,アレルギー性皮膚炎,接触皮膚炎,アレルギー性鼻炎,薬疹,喘息.*2:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.角膜炎,角膜障害,眼乾燥,眼球乾燥症,Sjogren症候群,点状角膜炎,角膜びらん,潰瘍性角膜炎,真菌性角膜炎,角膜症,角膜浮腫,角膜白斑,角膜混濁,眼部単純ヘルペス,角膜血管新生,円錐角膜,角膜変性,角膜ジストロフィー,角膜瘢痕,ヘルペス眼感染.*3:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.眼乾燥,Sjogren症候群,眼球乾燥症,アレルギー性結膜炎,季節性アレルギー,眼のアレルギー,結膜炎,結膜充血,細菌性結膜炎,眼充血,結膜弛緩症.*4:本剤投与開始時点で以下のいずれかを合併している症例.アレルギー性眼瞼炎,眼瞼炎,眼瞼湿疹,マイボーム腺機能不全,眼瞼内反,眼瞼けいれん,眼瞼皮膚弛緩症,瞼板腺炎,霰粒腫,麦粒腫.*5:アレルギー性結膜炎発現症例では,当該事象発現までに眼部に使用した薬剤(発現時点で投与を中止していた薬剤を含む),未発現症例では,本剤投与期間中に眼部に使用したすべての薬剤を対象とした.あったと報告しており,本調査における投与中止率は既報をた,投与開始C3カ月後までの眼圧下降率は,全症例でC14.6上回るものではなかった.しかし,緑内障治療は永続を前提%,原発開放隅角緑内障でC15.9%,正常眼圧緑内障でC12.0とすることに鑑みると,本剤による治療中止後の治療選択肢%であり,いずれも統計学的に有意であった.緑内障治療のを用意しておくことも肝要であると考えられた.目的は,患者の視覚の維持,それに伴う生活の質の維持であ有効性について,2,625例における投与開始から投与C24り,現在,エビデンスの伴う唯一確実な治療法は眼圧下降でカ月までの眼圧推移の検討においては,病型,併用薬剤,切ある2).すなわち,視野障害に対する眼圧下降効果について替薬剤など,いずれの因子の影響も認められなかった.まは,1CmmHgの眼圧下降によりC10%視野障害の進行が抑制25全体(n=2,625)新規単剤投与(n=357)20(*有意差あり)眼圧(mmHg)15100投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧眼圧変化量t検定変化率眼圧変化量t検定変化率(mmHg)(mmHg)(mmHg)(p)(%)(mmHg)(mmHg)(p)(%)眼圧評価対象症例C16.5±4.7C13.8±3.7C.2.7<C0.0001C.14.6C13.6±3.7C.2.7<C0.0001C.14.5新規単剤投与症例C17.2±5.0C13.8±3.9C.3.1<C0.0001C.17.1C14.0±3.8C.3.2<C0.0001C.17.2C図2眼圧推移(全体・新規)眼圧推移対象症例(全体)およびアイファガンを新規単剤投与した症例(新規)では,投与開始後,安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は全体.14.5%,新規C.17.2%であった.C30POAG(n=1,136)NTG(n=1,182)PACG(n=69)SG(n=114)25眼圧(mmHg)OH(n=121)(*有意差あり)2015100投与前投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)CPOAGCNTGCPACGCSGCOHC18.0±4.6C14.0±2.9C16.6±5.8C20.2±6.7C22.5±3.8C14.9±3.8C12.2±2.7C13.4±3.7C15.3±4.9C18.0±3.5C.3.2.1.8.3.5.5.2.4.4<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.15.9C.12.0C.16.7C.23.4C.18.0C14.6±3.8C12.1±2.6C13.4±3.1C14.9±4.8C18.0±3.3C.3.1.2.0.3.3.5.3.4.6<C0.0001C<C0.0001C=0.0004C<C0.0001C<C0.0001C.15.4C.12.5C.14.8C.21.8C.19.3POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症.図3眼圧推移(病型別)病型にかかわらず安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,POAG15.4%,NTG12.5%,PACG14.8%,SG21.8%,OH19.3%であった.投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧眼圧変化量t検定変化率眼圧変化量t検定変化率(mmHg)(mmHg)(mmHg)(p)(%)(mmHg)(mmHg)(p)(%)PG関連薬C16.0±4.2C13.4±3.1C.2.7<C0.0001C.14.9C13.2±3.2C.2.6<C0.0001C.14.5Cb遮断薬C15.4±4.3C13.3±3.2C.2.3<C0.0001C.12.1C13.1±3.2C.2.3<C0.0001C.12.0CCAIC19.2±3.8C15.7±3.3C.3.3C0.0006C.16.0C15.0±3.0C.3.6C0.0167C.16.7PG関連薬:プロスタグランジン関連薬,Cb遮断薬:交感神経Cb受容体遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.図4眼圧推移(併用薬剤別1)併用薬の種類にかかわらず安定した眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬C14.5%,Cb遮断薬C12.0%,CAI16.7%であった.C25PG関連薬+β遮断薬(n=122)PG関連薬・β遮断薬配合剤(n=289)PG関連薬+CAI(n=99)20眼圧(mmHg)b遮断薬・CAI配合剤(n=73)15(*有意差あり)100投与前投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧変化量(mmHg)(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧変化量(mmHg)(mmHg)t検定(p)変化率(%)PG関連薬+b遮断薬CPG関連薬・Cb遮断薬配合剤CPG関連薬+CAICb遮断薬・CAI配合剤C16.8±5.4C16.1±4.5C17.3±4.7C17.4±5.7C14.0±4.8C13.5±3.7C14.7±3.4C14.2±3.6C.3.0.2.7.2.5.3.2<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.15.8C.15.2C.12.6C.15.2C13.7±4.0C13.0±3.2C14.9±4.5C13.7±3.4C.2.9.3.0.1.8C.3.7<C0.0001C<C0.0001C0.0003C<C0.0001C.15.6.16.9.9.8C.16.9図5眼圧推移(併用薬剤別2)2剤あるいは配合剤を併用した場合も有意な眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬+b遮断薬C15.6%,PG関連薬・Cb遮断薬配合剤C16.9%,PG関連薬+CAI9.8%,Cb遮断薬・CAI配合剤C16.9%であった.(*有意差あり)PG関連薬(n=189)b遮断薬(n=103)CAI(n=113)遮断薬(n=66)投与期間(月)投与前投与C3カ月投与C24カ月眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)眼圧(mmHg)変化量(mmHg)t検定(p)変化率(%)PG関連薬Cb遮断薬CCAICa1遮断薬C15.1±4.0C16.9±4.4C15.9±4.7C14.9±3.6C13.5±3.3C14.0±3.1C13.6±4.7C12.9±2.8C.1.5.2.7.2.1.1.9<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C.7.8C.14.2C.12.8C.12.1C12.8±3.2C14.0±3.3C13.3±3.6C13.2±3.2C.2.2.2.9.2.5.1.5C<C0.0001C<C0.0001C<C0.0001C0.0103C.12.5C.15.8C.13.9C.7.9a1遮断薬:交感神経Ca1受容体遮断薬.図6眼圧推移(切替薬剤別)他剤単剤からアイファガン単剤,他剤併用のうちC1剤またはC1成分をアイファガンへ切り替えた症例を含む.切替薬剤の種類にかかわらず有意な眼圧下降を認め,24カ月時点の眼圧下降率は,PG関連薬C12.5%,Cb遮断薬C15.8%,CAI13.9%,Ca1遮断薬C7.9%であった.され10),日本人に多くみられる正常眼圧緑内障11)では,30%の眼圧下降により視野障害の進行が抑制される12).本調査における本剤投与の開始は,主として追加あるいは他剤からの切替であり,2.6.2.9mmHgの眼圧低下が認められた.また,正常眼圧緑内障においてもC1.7.2.0CmmHgの眼圧低下が認められたことから,第二選択薬として,目標眼圧の達成に貢献できるものと考えられた.CIII結論本調査の結果,承認時までに得られていない安全性に関する新たなリスクは認められなかった.有効性においては,病型,併用薬,切替薬剤に関係なく,投与C24カ月まで安定した眼圧下降効果が得られることが確認できた.以上より,本剤は使用実態下においても有用な薬剤であると考えられ,緑内障治療において重要な役割を果たすことが期待される.謝辞:本調査にご協力を賜り,貴重なデータをご提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:川口えり子,坂本祐一郎,末信敏秀(カテゴリーE:千寿製薬)文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rst-nation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20192)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版)3)独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ(医療用医薬品情報検索)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/CiyakuSearch/4)SchumanCJS,CHorwitzCB,CChoplinCNTCetal:AC1-yearCstudyCofCbrimonidineCtwiceCdailyCinCglaucomaCandCocularChypertension.ArchOphthalmolC115:847-852,C19975)ManniCG,CCentofantiCM,CSacchettiCMCetal:DemographicCandclinicalfactorsassociatedwithdevelopmentofbrimo-nidineCtartrate0.2%-inducedCocularCallergy.CJCGlaucomaC13:163-167,C20046)BlondeauCP,CRousseauJA:AllergicCreactionsCtoCbrimoni-dineCinCpatientsCtreatedCforCglaucoma.CCanCJCOphthalmolC37:21-26,C20027)MotolkoMA:ComparisonCofCallergyCratesCinCglaucomaCpatientsCreceivingCbrimonidine0.2%CmonotherapyCversusC.xed-combinationCbrimonidine0.2%-timolol0.5%Cthera-py.CurrMedResOpinC24:2663-2667,C20088)SherwoodMB,CravenER,ChouCetal:Twice-daily0.2%CbrimonidineC.0.5%CtimololC.xed-combinationCtherapyCvsCmonotherapyCwithCtimololCorCbrimonidineCinCpatientsCwithCglaucomaCorCocularChypertension.CArchCOphthalmolC124:1230-1238,C20069)新家眞,福地健郎,中村誠ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼剤の原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科C37:345-352,C202010)HeijlCA,CLeskeCM,CBengtssonCBCetal:ReductionCofCintra-ocularpressureandglaucomaprogression.ArchOphthal-molC120:1268-1279,C200211)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapan:theCTajimiCstudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C200412)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:487-497,C1998***

眼精疲労患者における低加入度数コンタクトレンズの有効性

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1134.1138,2022c眼精疲労患者における低加入度数コンタクトレンズの有効性岩﨑優子*1梶田雅義*1,2宮後宏美*1十河亜梨紗*1冨田誠*3大野京子*1*1東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科*2梶田眼科*3横浜市立大学データサイエンス学部CE.ectivenessoftheLow-AdditionContactLensesforAsthenopiaPatientsYukoIwasaki1),MasayoshiKajita1,2),HiromiMiyaushiro1),ArisaSogo1),MakotoTomita3)andKyokoOhno-Matsui1)1)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,TokyoMedicalandDentalUniversity,2)Kajitaeyeclinic,3)DepartmentofHealthDataScience,GraduateSchoolofDataScience,YokohamaCityUniversityC眼精疲労症状を自覚するC33名の若年者(20.40歳)を対象として,+0.5D加入のソフトコンタクトレンズ(CL)の効果を検討した.単焦点CCLないし+0.5Dの低加入度数CLを使用している際の眼精疲労の3症状:「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」について,VASスコアで評価した.試験を完遂したC30名のうち,低加入度数CCL使用中と単焦点CCL使用中のCVASスコアに有意差はなかった.しかし,試験終了時のアンケートでは低加入度数CCLが眼精疲労症状に有用と感じた被験者がC19名(63%)みられ,低加入CCL度数の有用性が示唆された.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.ectCoflow-addition(+0.5Daddition)softCcontactlenses(CLs)inCyoungCadults(i.e.,C20-40Cyearsold)su.eringCfromCasthenopiaCsymptoms.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC33Csub-jectsC.ttedCwithCmonofocalCCLsCor+0.5D-additionCCLs.CWhileCtheCmonofocalCCLsCor+0.5D-additionCCLsCwereCbeingCworn,CthreeCsymptomsCofCasthenopia,Ci.e.,“tiredCeye,”“discomfortCfeelingCatCtheCsurfaceCofCtheCeye”,CandC“blurryCvision”wereCevaluatedCusingCVisualCAnalogueScale(VAS)scores.CResults:OfCtheC33Csubjects,C30Ccom-pletedthestudyprotocol.Nosigni.cantdi.erenceinVASscoreswasfoundbetweenthoseusingthe+0.5D-addi-tionCCLsCandCthoseCusingCtheCmonofocalCCLs.CHowever,CwhenCtheCsubjectsCwereCaskedCaboutCtheirCimpressionsCofCtheCCLs,19(63%)statedCthat+0.5D-additionCCLsCwereCe.ectiveCforCasthenopiaCsymptoms.CConclusion:Low-additionCLscansometimesbeane.ectivetreatmentforpatientssu.eringfromasthenopiasymptoms.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1134.1138,C2022〕Keywords:眼精疲労,累進屈折力,低加入度数,コンタクトレンズ.asthenopia,progressiveaddition,lowaddi-tion,contactlenses.Cはじめにパソコン,スマートフォン,携帯型ゲーム機などのデジタル機器の利用者に,高率に眼精疲労の症状がみられると報告されている1,2).これらの機器は今後も日常生活で多用され,眼の疲れや近方視が見にくいなどの症状を訴える人が増加していくと予想される.近方視を補助する累進屈折力レンズ眼鏡が眼精疲労に有用であるかについて,多くの論文で検討されているが,いまだ統一した見解はない1,3.7).近年,+0.5Dという軽度の加入を伴うソフトコンタクトレンズ(以下,低加入度数CCL)がシード社より発売された.高らの研究では,20歳からC39歳の若年者を対象として低加入度数CCLを装用した際の調節反応量と視機能を評価したところ,低加入度数CCLは遠見視力を損なうことなく単焦点コンタクトレンズ(contactlens:CL)に比べ近見時の調節反応を軽減した8).この結果からは,近見作業による若年者の眼精疲労に,低加入度数CCLが有用であることが期待できる.今回筆者らは,眼精疲労を自覚しているC20歳からC40歳の若年者を対象として,低加入度数CCLが眼精疲労の軽減に有効であるかを検討した.CI対象および方法Web,ポスターを介した募集に応募した人のうち,図1aに示す選択基準をすべて満たし,除外基準に抵触しない人を対象とした.試験デザインは,オープンラベル,ランダム化〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦C3-6-3協栄ビルC4階梶田眼科Reprintrequests:MasayoshiKajita,M.D.,Ph.D.,Kajitaeyeclinic,Kyoei-biru4F,3-6-3Shibaura,Minato-ku,Tokyo108-0023,CJAPANC1134(124)ab選択基準1.年齢2.性別3.CL装用時間4.常用CCL5.症状6.矯正視力7.その他除外基準1.眼科疾患の併存2.常用CCL3.常用薬4.その他20歳以上C40歳以下男女1日8時間以上,週C5日以上のソフトCL装用が可能単焦点ソフトCCL「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のうちいずれかに該当する1.0以上本研究への参加にあたり十分な説明を受けたのち,十分な理解のうえ,被験者本人の自由意志による文書同意が得られた者前眼部疾患,角膜屈折矯正手術後,白内障術後単焦点ソフトCCL以外調節機能に影響が想定される内服・点眼・サプリメント全身疾患の併存,妊娠中・授乳中,研究責任者が被験者として不適当と判断した者図1研究の流れを行うC2C×2クロスオーバーの介入試験である(図1b).初回来院時に同意取得および適格性の確認を行い,CLの球面度数を決定した.CLは,球面度数,素材,中心厚が同じ単焦点CCLと低加入度数CCLを用いた(表1).眼精疲労の症状は,「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のC3症状について視覚的アナログスケール(visualCanalogscale:VAS)スコア(0.100点)とCNEIVFQ25による近見と痛みについての点数で評価した.参加前の矯正状態(過矯正・低矯正)の影響を取り除くため,適正矯正値の単焦点レンズを1週間使用したのちに初回検査を行った.初回検査では,自覚的および他覚的屈折度,遠方および近方の裸眼視力と矯正視力,眼位検査,輻湊検査,チトマス立体試験による両眼視機能検査,調節微動解析(AA-2,ニデック,石原式近点計による自覚的調節力検査,ウェブフロントアナライザー(トプコン)により測定した角膜全高次収差と眼球全高次収差を評価した.調節微動は無限遠視標およびC2Cm先視標を固視しながらC8回測定されたChighCfrequencyCcomponent(HFC)値の中央値とした.高次収差はC3回測定した中央値を評価対象とした.低加入度数CCLと単焦点CCLの装用順は,臨床研究支援システム「HOPEeACReSS」を用いてランダムに割り付けた.被験者にはCCLの種類を説明しないことで先入観の排除に努めた.その後,割り付けられた順でC2週間ずつ単焦点CCLないし低加入度数CCLを使用してもらうことと,眼精疲労C3症状のCVASスコアをC1日C1回自己評価することを被験者に依頼した.中間検査および最終検査では,屈折度などの視機能や眼表面に有害事象が生じていないか確認した.試験終了時に,単焦点CCLないし低加入度数CCLのどちらかを選択してもらいC2カ月分贈呈し,また,その際にCCLの選択理由を聴取した.CLに対する先入観を極力排除するため,「前半C2週間,後半C2週間のCCLのどちらを希望するか」,「希望したCCLと希望しなかったCCLの装用感の違いについて思ったことを教えてください」という表現にて聴取を行った.主要評価項目は単焦点CCLないし低加入度数CCLを使用中の眼精疲労のC3症状(「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」)についてのCVASスコア(0.100点)とした.VASスコアの評価においては,2週間の装用期間のうち後半C1週間におけるスコアの中央値を求め,2種類のCCLの間でCVASスコアに統計的有意差があるかCMann-WhitneyU検定を用いて検討した.副次評価項目は,試験終了時に低加入度数CLを希望した群と単焦点CCLを希望した群の間で,被験者の眼科的な臨床像を比較した.検定はCEZR9)を使用した.EZRはCRおよびCRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトフェアである.量的データはCMann-WhitneyU検定,質的データはCFisherの正確確率検定を用いて比較した.本研究は株式会社シードからの受託研究として行われ,特定臨床研表1レンズのデザイン試験レンズ単焦点レンズ低加入度数レンズレンズ名「ワンデーピュアうるおいプラス」「ワンデーピュアうるおいプラスFlex」2-HEMA,四級アンモニウム基含有メタクリレー2-HEMA,四級アンモニウム基含有メタクリレート系化合物,素材ト系化合物,カルポキシル基含有メタクリレート系カルポキシル基含有メタクリレート系化合物,CMMA,C化合物,MMA,EGDMAEGDMAベースカーブC8.8CmmC8.8Cmm加入度C─+0.50Dデザイン単焦点二重焦点+移行部近用光学部移行部遠用光学部-3.00Dの場合究法に基づき東京医科歯科大学臨床研究審査委員会の審査を受け施行した(jRCTs032190029).世界医師会ヘルシンキ宣言に則り研究は施行され,本人の自由意志による同意を得た.CII結果33名が参加,うちC3名が途中脱落したため,試験を完遂したC30名を解析対象とした.途中脱落の内訳は,従来トーリックレンズを使用しており参加後に見え方に不満を覚えた1名,仕事の調整がつかないC1名,不明がC1名だった.30名の内訳は女性C25名,男性C5名で,平均年齢はC31歳(21歳.40歳)であった.他覚的球面屈折度は平均C.4.95D(.1.75D.C.8D),他覚的円柱度数は平均.0.64D(0D.C.2.25D)だった.単焦点CCL装用中と低加入度数CCL装用中のCVASスコアを図2に示す.「目の疲れ」のCVASスコアは単焦点CCLを使用中は平均C30.6(標準偏差C20.5),低加入度数CCLを使用中は平均C27.3(標準偏差C22.0)だった.「目表面の違和感・不快感」のCVASスコアは単焦点CCLで平均C21.4(標準偏差16.9),低加入度数CCLでC25.9(標準偏差C22.2),「霧視」は単焦点CCLで平均C21.3(標準偏差C18.2),低加入度数CCLで27.3(標準偏差C24.9)であった.標準偏差が大きく,眼精疲労のC3症状いずれにおいても有意な差はみられなかった.試験終了時の贈与においては,20名が低加入度数CCLを希望し,10名が単焦点CCLを希望した.その際に取得したCCLの使用感のアンケート結果の要約を図3に示す.単焦点CCLと比べ低加入度数CCLで改善(主要評価項目の眼精疲労C3症状いずれかの改善,もしくは漠然と眼精疲労症状の改善を訴えたもの)が明確であったものがC14名(47%),軽度の改善を感じたものがC5名(17%)と,低加入度数CCLの眼精疲労改善効果を感じた被験者はC19名(64%)であった.1名(3%)は差を感じなかったので使用を継続したい,という消極的な理由にて低加入度数CCLを希望した.逆に,低加入度数CCL期間中に霧視の増悪を自覚したC6名(20%),目表面の違和感の増悪を自覚したC4名(13%)は単焦点CCLを希望した.低加入度数CCLを選択したC20名と単焦点CCLを選択したC10名の間で,初回検査の検査結果および適格性検査における眼精疲労症状について差があるかを検討した(表2).輻湊が鼻先C4Ccmと不良な例が単焦点CCL選択群にみられた(p値=0.047,Mann-WhitneyU検定)が,その他明らかな臨床像の違いはみられなかった.試験期間中,明らかな有害事象の発生はなく,また中間検査や最終検査において有意な検査所図2単焦点CLおよび低加入度数CL使用中のVASスコア見の変化はみられなかった.改善やや改善同等III考察30名の被験者において調査したCVASスコアからは,低加霧視の増悪入度数CCL使用中の眼精疲労症状の有意な改善は示されなかった.眼精疲労症状は眼所見,眼外所見ともに多彩2)である.評価項目を増やすことは解析の重複により有意差を観察することが困難になりうるという側面もある.このため今回筆者3%らは,既報においてC30分の近見作業で有意に増悪したこと目表面の違和感の増悪が示されている「目の疲れ」「目表面の違和感・不快感」「霧視」のCVASスコアを評価対象とした10).しかし図2に示すとおり,被験者間のばらつきが大きく,有意差の検出には至らなかった.眼精疲労症状およびその変化に対する感じ方に,個人差が大きい可能性が考えられる.眼精疲労症状の客観的な評価手法の検討が進められており10,11),今後はアンケートによらない評価法を試みることが必要と考えられる.低加入度数CCLで症状の改善(主要評価項目C3症状のいずれかの改善,ないし漠然とした疲れ症状の改善)を自覚した被験者は,30名中C19名と多くみられ,一定の効果が示唆された.CLに対する先入観を最小にするべく,割り当てるCLの種類については試験期間中において説明は行わなかったが,CLの容器に「+0.5D」と記載があることから本研究は盲検試験ではない.一定の先入観が影響した可能性は除外できず,結果の解釈には注意が必要である.単焦点CCLの使用感が良好であったC10名のうち,見づらさを自覚した症例がC6名いたのに対し,低加入度数CCLを選択したC20名では見づらさの訴えはなかった.低加入度数CLの使用感が良好であった症例の特徴を明らかにすべく,単焦点CCLを選択した群と検査所見を比較したが,明らかな有意差はみられなかった(表2).今回評価対象とした検査項目によって,低加入度CCLが有効な症例を選別することは困難と考えられる.眼精疲労症状の評価として行った調節微動,VASスコア,VFQ-25のいずれも低加入度CCLが有効な症例を判別するために有用でなかったことは,今後の同様図3低加入度数CLによる眼精疲労症状の変化の研究において眼精疲労の客観的な評価手法の必要性を支持すると考えられる.なお,低加入度数CCLを選択した群では輻輳が良好であったが(表2),p値からは解析の多重性を考慮すると有意差が示唆される程度と考えられた.輻湊と眼精疲労の関連については,コンピュータ作業やC3D画像の視聴で輻湊が低下するという報告もみられるが,有意差がないとする報告や,1プリズム以下の斜位が疲労に関与するという報告もあり,統一した見解はない2).輻湊と低加入度数CCLの使用感の関係については今度さらに検討が必要と考える.眼精疲労には,瞬目,作業環境,矯正状態など複数の要因が関与する2).今回評価対象外であったこれらの要因が低加入度数CCLの有効性を予測するのに有用であるかについては,今後検討が望ましい.試験中明らかな有害事象はなく,若年者の低加入度数CCL装用に伴う危険性は示唆されなかった.CIV結論低加入度数CCLにより,若年者の眼精疲労患者C30名中C19名で自覚的な改善効果が得られた.有効性を実感した症例の眼検査所見に明らかな特徴はなく,CLを試用する機会の提供が必要と考えられた.VASによる統計的有意な症状の改善は確認できなかった.眼精疲労症状の客観的な評価手法を用いてさらに検討が必要と考えられた.表2単焦点CLを希望した被験者と低加入度数CLを希望した被験者の臨床像の比較中央値[最小値,最大値]評価項目(単位)単焦点CCL選択群低加入CCL選択群p値(n=10)(n=20)性別女性7名女性1C8名C0.3男性3名男性2名年齢(歳)33.5[22.40]30.0[21.40]C0.5371身長(cm)161.5[C150.C180]158.5[C150.C184]C0.29他覚的球面度数(D)C.5.25[C.6.25.C.4.0]C.4.63[C.8.00.C.1.75]C0.2992他覚的円柱度数(D)C.0.5[C.2.25.C.0.25]C.0.5[C.1.75.0]C0.306遠見裸眼視力(logMAR値)1.16[C1.00.C1.40]1.19[C0.22.C1.70]C0.9113遠見矯正視力(logMAR値)C.0.16[C.0.30.C.0.08]C.0.18[C.0.30.C.0.08]C0.4788自覚的球面度数(D)C.4.88[C.5.75.C.3.5]C.4.5[C.8.0.C.1.5]C0.5078自覚的円柱度数(D)C.0.25[C.2.5.0]C.0.5[C.1.75.0]C0.5011近見矯正視力(logMAR値)C.0.08[C.0.08.0]C.0.08[C.0.18.0]C0.891輻湊(cm)0[0.4]0[0.0]C0.04733*両眼視機能(秒)40[40.50]40[40.2C00]C0.3395眼位.遠見,水平(P)0[.16.0]0[.14.2]C0.5709眼位.遠見,上下(P)0[0.0]0[0.0]CNA眼位.近見,水平(P)0[.14.0]0[.25.8]C0.3392眼位.近見,上下(P)0[0.0]0[0.0]CNA眼球全高次収差(Cμm)0.11[C0.07.C0.27]0.12[C0.06.C0.29]C0.8087角膜全高次収差(Cμm)0.12[C0.05.C0.33]0.09[C0.06.C0.24]C0.3115HFC値C.無限遠視標53.0[C46.23.C62.88]52.1[C43.3.C58.7]C0.7132HFC値C.2Cm先の視標49.1[C45.7.C74.6]53.9[C45.6.C59.4]C0.1307調節力(D)9.45[C6.29.C19.23]11.5[C6.41.C20]C0.2435CVFQ-25.痛み137.5[C75.C175]150[75.2C00]C0.3341CVFQ-25.近見75[42.1C00]87.5[8.1C00]C0.4364VASスコアC.目の疲れ(mm)70[10.80]65[30.1C00]C0.9284VASスコアC.目表面の違和感・不快感(mm)55[0.1C00]30[0.70]C0.2673VASスコアC.霧視(mm)60[0.80]37.5[0.92]C0.4231利益相反岩﨑優子はC2018年度からC2020年度に及び,株式会社シード社からの受託研究費で雇用された.また,試験に用いた調節微動解析装置CAA-2はシード社から貸与されたものである.文献1)HeusP,VerbeekJH,ikkaC:Opticalcorrectionofrefrac-tiveCerrorCforCpreventingCandCtreatingCeyeCsymptomsCinCcomputerCusers.CCochraneCDatabaseCSystCRevC4:CCd009877,C20182)Coles-BrennanCC,CSulleyCA,CYoungG:ManagementCofCdigitalCeyeCstrain.CClinCExpCOptomC102:18-29,C12798,C20193)ButzonCSP,CEagelsSR:PrescribingCforCtheCmoderate-to-advancedametropicpresbyopicVDTuser.AcomparisonofCtheCTechnicaCProgressiveCandCDataliteCCRTCtrifocal.CJAmOptomAssocC68:495-502,C19974)ButzonSP,SheedyJE,NilsenE:Thee.cacyofcomput-erCglassesCinCreductionCofCcomputerCworkerCsymptoms.COptometryC73,C221-230,C20025)HorgenCG,CAarasCA,CThoresenM:WillCvisualCdiscomfortCamongCvisualCdisplayunit(VDU)usersCchangeCinCdevel-opmentwhenmovingfromsinglevisionlensestospecial-lyCdesignedCVDUCprogressivelenses?COptomCVisCSciC81:341-349,C20046)塚田貴大:若年者向け累進屈折力レンズの調節微動による眼疲労の評価.日本視能訓練士協会誌45:25-37,C20167)JaschinskiW,KonigM,MekontsoTMetal:Comparisonofprogressiveadditionlensesforgeneralpurposeandforcomputervision:anCo.ceC.eldCstudy.CClinCExpCOptomC98:234-243,C20158)KohCS,CInoueCR,CSatoCSCetal:Quanti.cationCofCaccommo-dativeCresponseCandCvisualCperformanceCinCnon-presby-opesCwearingClow-addCcontactClenses.CContCLensCAnteriorCEyeC43:226-231,C20209)KandaY:InvestigationCofCtheCfreelyCavailableCeasy-to-useCsoftware‘EZR’CforCmedicalCstatistics.CBoneCMarrowCTransplantC48:452-458,C201310)HirotaCM,CMorimotoCT,CKandaCHCetal:ObjectiveCevalua-tionCofCvisualCfatigueCusingCbinocularCfusionCmaintenance.CTranslVisSciTechnolC7:201811)ChenCC,CWangCJ,CLiCKCetal:VisualCfatigueCcausedCbyCwatching3DTV:anCfMRICstudy.CBiomedCEngCOnlineC14Suppl1:S12,2015C***

日本人における3 焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用とその要因

2022年8月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科39(8):1130.1133,2022c日本人における3焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用とその要因ビッセン宮島弘子*1太田友香*1林研*2五十嵐千寿佳*2佐々木紀幸*3*1東京歯科大学水道橋病院眼科*2林眼科病院*3日本アルコンCFactorsthatPredictSpectacleUseinJapanesePatientsafterTrifocalIntraocularLensImplantationHirokoBissen-Miyajima1),YukaOta1),KenHayashi2),ChizukaIgarashi2)andNoriyukiSasaki3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2)HayashiEyeHospital,3)AlconJapanC日本人におけるC3焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用例とその要因を検討した.対象は白内障手術時に両眼にC3焦点眼内レンズ(TFNT00:アルコン社)が挿入されたC66例,平均年齢はC66.3±7.4歳であった.術後C6カ月において眼鏡を装用している症例(装用群)とまったく装用していない症例(非装用群)に分け,年齢,性別,眼軸長,術後等価球面度数,術後裸眼・矯正視力(遠方:5m,中間:60Ccm,近方:40Ccm),近方視の見え方に関するアンケート調査結果との関連を検討した.装用例はC15例(22.7%)で,12例が近用,3例が遠近両用眼鏡を使用していた.装用例の多くはアンケート調査で細かい字を見るのが不便と回答していた.装用例のほうが年齢は有意に高かったが,術後等価球面度数や近方裸眼視力は眼鏡装用に著明な要因とはなっていなかった.3焦点眼内レンズは挿入後に眼鏡依存度を軽減するが,細かい字を読むことが多い人,高齢者では近用眼鏡を必要とする可能性が高いと思われた.CPurpose:Toinvestigateandanalyzethefactorsthatpredictspectacleuseanddependenceposttrifocalintra-ocularlens(IOL)implantation.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC66CpatientsCwhoCunderwentCbilateralCtrifocalIOL(TFNT00:Alcon)implantation.Spectacleusewasassessedbypatientquestionnaire,followedbysta-tisticalCcorrelationCanalysisCofCpre-andCpost-operativeCfactorsCsuchCassphericalCequivalent(SE)andCvisualCacuity(VA)at5.0,0.8,0.6,and0.4meters.Results:Ofthe66patients,15patients(22.7%)occasionallyusedspectaclesforreadingpatientsand3patientsforreadinganddistancevision.Themajorityofthepatientswhorequiredspec-taclesCreportedChavingCdi.cultyCinCreadingCsmallCprintCtext.CTheCageCofCtheCpatientsCwhoCrequiredCspectacleCuseCwashigherthanthatofthepatientswhowerenotdependentonspectacleuse(p=0.02,Wilcoxontest).Postopera-tiveCSECandCuncorrectedCnearCVACwereCfoundCtoCnotCbeCsigni.cantCpredictorsCofspectacleCdependence(p=0.21,0.06).CConclusion:InCthisCstudy,CaCsubsetCofCpatientsCrequiredCtheCuseCofCspectaclesCsomeCofCtheCtimeCforCnearCvisionactivities,andagemayplayafactorinspectacleindependence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(8):1130.1133,C2022〕Keywords:3焦点眼内レンズ,眼鏡装用,年齢,近方視力,患者アンケート.trifocalintraocularlens,spectacleusage,age,nearvision,patientquestionnaire.Cはじめに近年,多焦点眼内レンズの導入で,日常生活における眼鏡への依存が軽減している.2焦点眼内レンズの多くは,遠方と近方に焦点が合うため,その間の中間距離を見るときに眼鏡を必要とする場合がある.3焦点眼内レンズにより,遠方,中間,近方の裸眼視力が向上し,眼鏡装用の機会はさらに軽減されている.筆者らは,日本におけるC3焦点眼内レンズの臨床試験成績を報告したが1),同レンズを挿入した欧米の報告に比べ,眼鏡装用頻度がやや高い結果であった2.5).多焦点眼内レンズ挿入後の眼鏡装用率についての報告はあるが,どのような症例が眼鏡を必要とするかまでは検討されていない.今回,3焦点眼内レンズの臨床試験症例を,挿入後に眼鏡装用を必要とした症例としない症例に分け,術前および術後の要因をサブグループ解析したので報告する.〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科Reprintrequests:HirokoBissen-Miyajima,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeSuidobashiHospital,2-9-18Kanda-Misakicho,Chiyoda-ku,Tokyo101-0061,JAPANC1130(120)I対象および方法対象は,東京歯科大学水道橋病院眼科および林眼科病院の2施設において,臨床試験(前向き研究)として両眼の白内障手術時にC3焦点眼内レンズ(TFNT00:アルコン社)が挿入されたC68例のうち,66例C132眼である.除外したC2例は,片眼挿入例および後発白内障により両眼遠方矯正視力が0.8に低下していた症例である.術前の角膜乱視は,オートケラトメータによる前面角膜乱視測定で1D未満の症例とした.臨床試験は,各施設の治験審査委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に沿ってC2017年C5.9月に手術が実施された.術後C6カ月時に行われたアンケート調査にて,眼鏡を常時あるいは必要時に装用していると回答した症例を装用群,眼鏡をまったく装用していないと回答した症例を非装用群とし,術前および術後の要素を検討した.術前の要素は,年齢,性別,眼軸長,術後の要素は,術後C6カ月における等価球面度数,5m,60Ccm,40Ccmにおける両眼裸眼および矯正視力とした.また,両群の近方作業に関するアンケート調査結果も比較した.検定は,性別と近方の見え方に関してはCFisherC’sCexacttest,その他の要素に関してはCWilcoxontestを用い,p<0.05を統計学的に有意差ありとした.CII結果アンケート調査において眼鏡を装用している装用群はC15例(22.7%),まったく装用していない非装用群はC51例(77.3%)であった.装用群の内訳は,常時使用がC6.7%,時々使用がC80%であった.また,使用している眼鏡の種類は近用がC80%,遠近両用がC20%で,遠方あるいは中間距離のみに使用している症例はなかった.装用群と非装用群の年齢,性別,眼軸長,術後の等価球面度数,術後C6カ月時の裸眼および矯正視力(遠方C5m,中間C60Ccm,近方C40Ccm)を表1に示す.術前,術後要素において有意差が認められたのは年齢のみであった.また,両群の年齢分布をみると,装用群では70歳以上の割合が多かった(図1).術後の近方の見え方に関するアンケート調査結果を比較すると,腕時計や本のタイトルの見え方に関しては,装用群と非装用群で差がなかったが,細かい字,新聞や本を読む,字表1眼鏡装用群と非装用群の術前および術後要素装用群(n=15)非装用群(n=51)p値年齢(歳)C69.6±8.2C65.2±7.1C0.02男性:女性4:1C115:3C6C1.00眼軸長(cm)C24.03±0.94C23.82±0.84C0.51術後等価球面度数(D)C0.25±0.25C0.13±0.31C0.21術後裸眼視力ClogMARC5CmC.0.10±0.11C.0.11±0.08C0.79C60CcmC.0.04±0.10C.0.09±0.08C0.07C40CcmC.0.02±0.07C.0.06±0.08C0.06術後矯正視力ClogMARC5CmC.0.19±0.07C.0.21±0.07C0.40C60CcmC.0.11±0.09C.0.13±0.08C0.54C40CcmC.0.06±0.09C.0.09±0.08C0.18平均値±標準偏差.logMAR:logarithmicminimumangleofresolution.(%)装用群(n=15)(%)非装用群(n=51)505040403030202010100045505560657075804550556065707580年齢(歳)年齢(歳)図1眼鏡装用群と非装用群の年齢分布困難と感じる困難と感じないその他050100050100Fisher’sexacttest図2眼鏡装用群と非装用群の近方作業に関するアンケート調査結果表2眼鏡装用に関する既報との比較本研究Kohnenら2)Farvardinら3)Kimら4)Modiら5)症例数C66C27C20C40C129平均年齢(歳)C69.6±8.2C63±8.8C62.1±5.45C60±8C65.8±7.3報告施設日本ドイツイラン韓国米国両眼近方視力(logMAR)C.0.02(装用群)C.0.06(非装用群)C0.01C0.23C0.03C0.050眼鏡非装用率(%)C77.3C96C90C84C83.6Cを書くといった作業では,装用群で困難と感じている症例が有意に多かった(図2).CIII考按3焦点眼内レンズは,遠方に加え,中間および近方において良好な裸眼視力が得られるため,眼鏡依存度の軽減が期待されている.本研究と同じCTFNT00が両眼に挿入された既報における眼鏡非装用率の比較を表2に示す.両眼近方視力は,本研究において眼鏡を装用していなかった症例も装用していた症例も,40Ccmにおける小数視力は平均C1.0以上と非常に良好であったが,眼鏡をまったく使用しない症例の割合は,海外の報告に比べてやや低い傾向であった.その理由として,日本人の生活スタイル,体型,文字の大きさが影響している可能性がある.アンケート調査結果で,眼鏡を使用している症例の半数以上が,細かい字を読んだり,新聞や本を読むのが困難と回答している.このことから,これらの作業における裸眼視力が十分でないために眼鏡を用いていると考えられる.海外の日常生活における作業内容と距離を調べた報告で,読書,裁縫はC33Ccm,字を書くのはC45Ccmとしている6).さらに背が高いほど腕が長く,好む距離が異なること7),決まった距離での視力のみでなく腕の長さで検討している報告もある5).これらを加味すると,近方加入度が+3.25Dの本レンズでは,40Ccmにおいて良好な裸眼視力が得られていても,さらに近くで作業する症例においては眼鏡を要することになり,日本人の体型を考慮すると,欧米よりも近方で見ることになり,眼鏡装用の必要性が高くなると考えられる.今回,眼鏡装用例の半数以上がC70歳以上で,非装用例に比べて高齢であったこと,海外の報告よりも年齢が高かったことも,これらの理由を裏づけるものである.もうC1点は,文字の差である.スマートフォンのディスプレイにおけるアルファベットと日本語のフォントの違いが報告されている8).日本語はひらがなと漢字が含まれ,漢字は非常に複雑である.同じ漢字を用いている中国の研究で,もっとも速く読める文字のフォントは,アルファベットより漢字のほうが大きく9),同じ視力を得るための中国語新聞の文字は英字新聞の文字の約C1.5倍の大きさが必要という報告がある10).一方,韓国の報告では,近くの見え方への満足度が高く11),ハングルの文字の形や種類が少なく,アルファベットに近いためなのかもしれない.これらのことより,日本人において,欧米と同様の良好な近方視力が得られても,実際に文字を見る際に眼鏡を必要とする確率が高くなることが推察される.多焦点眼内レンズは,老視矯正眼内レンズとして近方視における眼鏡依存度を軽減することが期待される.3焦点眼内レンズ挿入術後でも,近方視の距離が近い場合や,読む文字の大きさや複雑さによって眼鏡を必要とすることがあり,とくに高齢者においては,その点を十分説明して挿入を検討すべきと考えられた.老視患者に対しては,多焦点眼内レンズの特性に生活を合わせていくような,たとえば読書,スマートフォン,裁縫などは今までより少し距離を離すとよいなど,手術後に助言をすることによって,眼鏡依存度を下げることも可能と思われる.利益相反:日本眼科学会における公表基準ビッセン宮島弘子,太田友香,林研,五十嵐千寿佳[F:アルコン社]佐々木紀幸[E:アルコン社]文献1)Bissen-MiyajimaH,OtaY,HayashiKetal:ResultsofaclinicalCevaluationCofCaCtrifocalCintraocularClensCinCJapan.CJpnJOphthalmolC64:140-149,C20202)KohnenT,HerzogM,HemkepplerEetal:Visualperfor-manceofaquadrifocal(trifocal)intraocularlensfollowingremovalCofCtheCcrystallineClens.CAmCJCOphthalmolC184:C52-62,C20173)FarvardinCM,CJohariCM,CAtarzadeCACetal:ComparisonbetweenCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCintraocularlens(AlconCAcrysofCIQRPanOptix)andCextendedCdepthCofCfocuslens(TecnisCRCSymfonyRCZXR00lens)C.CIntCOph-thalmolC2020.Chttps://doi.org/10.1007/s10792-020-01608-w4)KimCT,CChungCTY,CKimCMJCetal:VisualCoutcomesCandCsafetyCafterCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCpresbyopiaCcorrectingintraocularlensinaKoreanpopulation:apro-spectiveCsingle-armCstudy.CBMCCOphthalmologyC20:288,C20205)ModiCS,CLehmannCR,CMaxwellCACetal:VisualCandCpatient-reportedoutcomesofadi.ractivetrifocalintraoc-ularClensCcomparedCwithCthoseCofCaCmonofocalCintraocularClens.OphthalmologyC128:197-207,C20216)CardonaCG,CLopezS:PupilCdiameter,CworkingCdistanceCandCilluminationCduringChabitualCtasks.CImplicationsCforCsimultaneousCvisionCcontactClensesCforCpresbyopia.CJOptomC9:78-84,C20167)Lapid-GorzakCR,CBhattCU,CSanchezCJGCetal:MulticenterCvisualCoutcomesCcomparisonCofC2CtrifocalCpresbyopia-cor-rectingIOLs:6-monthCpostoperativeCresults.CJCCataractCRefractSurgC46:1534-1542,C20208)HasegawaCS,CFujikakeCK,COmoriCMCetal:ReadabilityCofCcharactersConCmobileCphoneCliquidCcrystalCdisplays.CJOSEC14:293-304,C20089)WangCC-X,CLinCN,CGuoYX:VisualCrequirementCforCChi-nesereadingwithnormalvision.BrainBehavC9:e01216,C201910)ZhangCJ,CLiuCJ,CJastiCSCetal:VisualCdemandCandCacuityCreserveofChineseversusEnglishnewspapers.OptomVisSciC97:865-870,C202011)KimCT,CChungCTY,CKimCMJCetal:VisualCoutcomesCandCsafetyCafterCbilateralCimplantationCofCaCtrifocalCpresbyopiaCcorrectingCintraocularClensCinCKoreanpopulation:aCprospectiveCsingle-armCstudy.CBMCCOphthalC202:288,C2020C***

緑内障患者の配合剤への変更によるアドヒアランスの検討

2022年8月31日 水曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(8):1125.1129,2022c緑内障患者の配合剤への変更によるアドヒアランスの検討迫菜央子辻拓也西原由華佐々木研輔春田雅俊吉田茂生久留米大学医学部眼科学講座CExaminationofTreatmentAdherenceAfterChangingtoCombinationEyeDropsinGlaucomaPatientsNaokoSako,TakuyaTsuji,YukaNishihara,KensukeSasaki,MasatoshiHarutaandShigeoYoshidaCDepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicineC目的:PG関連薬/Cb遮断薬配合剤(PG/Cb),a2刺激薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤(Ca2/CAI)への変更によるアドヒアランスを検討する.対象および方法:対象はCPG関連薬,Cb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤,Ca2刺激薬を点眼している患者C21例C30眼.病型は原発開放隅角緑内障C13眼,落屑緑内障C7眼,続発緑内障C2眼,正常眼圧緑内障C2眼,血管新生緑内障C2眼,高眼圧症C2眼,原発閉塞隅角緑内障C1眼,小児緑内障C1眼であった.PG/CbおよびCa2/CAIへの変更前後の視力,眼圧などを検討した.変更前後でアンケートを行った.結果:点眼忘れの回数は変更前C0.33C±0.71回から変更C1カ月後C0.10C±0.29回と有意に減少した(p=0.04).副作用は掻痒感C1例,結膜炎C2例,霧視C3例であった.75%の患者は変更後がよいと回答した.変更前,変更後C1,3カ月で視力,眼圧に有意差はなかった.結論:変更後は高い満足度が得られ,アドヒアランス向上が期待できる.CPurpose:ToCinvestigateCtreatmentCadherenceCafterCchangingCtoCtheCcombinationCofCPG/bandCa2/CAICeyeCdropsCinCglaucomaCpatients.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC30CeyesCofC21CglaucomaCpatientsCwhoCwereinstilledwithPGpreparation,b/CAIanda2agonist.Ofthe31eyes,therewere13primaryopen-angleglau-comaeyes,7exfoliationglaucomaeyes,2secondaryglaucomaeyes,2normal-tensionglaucomaeyes,2neovascu-larizationglaucomaeyes,2ocularhypertensioneyes,1primaryangle-closureglaucomaeye,and1childhoodglau-comaCeye.CVisualacuity(VA)andCintraocularpressure(IOP)preCandCpostCswitchingCtoCPG/bandCa2/CAICwereCexamined.CACpatientCquestionnaireCwasCconductedCpreCandCpostCswitch.CResults:TheCmeanCnumberCofCpatientsCwhoCforgotCtoCinstillCwasCreducedCfromC0.33±0.71CatCbeforeCswitchingCtoC0.10±0.29CatC1CmonthCthechange(p=0.04)C.CSideCe.ectsCwereitching(1patient)C,conjunctivitis(2patients)C,CandCblurredvision(3patients)C.COfCtheC21Cpatients,75%saidthattheswitchwasgood,andnodi.erenceinVAandIOPwasobservedpostswitch.Conclu-sion:AfterchangingtoPG/banda2/CAIcombinationeyedrops,highsatisfactionwasobtainedandadherencetotreatmentimproved.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(8):1125.1129,C2022〕Keywords:ブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミド配合点眼液,眼圧,副作用,アドヒアランス.brinzolamide/Cbrimonidine.xedcombination,intraocularpressure,sidee.ects,adherence.Cはじめにエビデンスに基づいた唯一確実な緑内障治療は眼圧下降であり,点眼加療が果たす役割は大きい.しかし,緑内障は多くの場合きわめて慢性的に経過する進行性の疾患で,治療効果を実感しにくいこともあり,長期にわたってアドヒアランスを維持することがむずかしい1).とくに多剤点眼が必要な患者においては,配合点眼液を使用して点眼回数や眼局所の副作用を軽減し,アドヒアランスとCQOLの向上をめざすべきと考える.アイラミド配合懸濁性点眼液(千寿製薬)は交感神経Ca2受容体刺激薬(以下,Ca2刺激薬)であるブリモニジン酒石酸塩と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitor:CAI)であるブリンゾラミドの配合点眼液で,国内では初めてとなる薬剤の組み合わせである.プロスタグランジン関連〔別刷請求先〕辻拓也:〒830-0011福岡県久留米市旭町C67久留米大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakuyaTsujiCM.D.,DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine,67Asahi-machi,Kurume-city,Fukuoka830-0011,JAPANC薬点眼液(以下,PG関連薬),交感神経Cb受容体遮断薬/CAI配合点眼液(以下,Cb遮断薬/CAI配合点眼液),a2刺激薬の多剤点眼を処方されている患者では,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液,Ca2刺激薬/CAI配合点眼液に処方を変更することで,1日の点眼回数をC5回からC3回へ減らすことができる.今回,久留米大学病院眼科でCPG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者にこの処方変更を試み,視力,眼圧,角結膜,自覚症状,アドヒアランスへの影響を調査したので報告する.CI対象および方法久留米大学病院眼科にてC2020年C8月.2021年C1月に,PG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者で,十分なインフォームド・コンセントののち,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液,Ca2刺激薬/CAI配合点眼液への処方変更を希望したC21例C30問診表(変更前)問1①最近1か月で点眼を忘れてしまったことはありますか?□はい何回忘れましたか?□1回ぐらい□2回ぐらい□3回ぐらい□4回以上ちなみにどの点眼でしたか?()□いいえ②前の質問で「はい」を選択した方へ。1.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前2.理由は何ですか?□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□さし心地□点眼瓶の操作性(さしにくい)□副作用□忙しい□その他()問2現在の眼の症状は如何ですか?①充血は?(ない012345ある)②刺激は?(ない012345ある)③かゆみは?(ない012345ある)④痛みは?(ない012345ある)⑤かすみは?(ない012345ある)⑥眼のくぼみは?(ない012345ある)⑦まつ毛の伸びは?(ない012345ある)眼を対象とした.なお,PG関連薬からCPG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液への処方変更は,変更前後でCPG関連薬が同一成分となるように処方した.変更前にCROCK阻害薬も処方されていた場合は,変更後も使用を継続した.本研究は久留米大学医に関する倫理委員会の承認を得て行い(研究番号C21023),対象症例の診療録を後ろ向きに調査した.薬剤スコアは緑内障点眼薬C1成分をC1点,アセタゾラミド内服C1錠につきC1点とした.矯正視力は,変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月に測定し,それぞれClogMAR視力に変換して統計処理を行った.眼圧は変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月にCGoldmann圧平眼圧計(GoldmannCapplanationtonometer:GAT)を用いて測定した.診療録を用いて変更後に新たに生じた副作用を調査するとともに,変更前,変更後C1カ月の角膜・結膜スコアをそれぞれC3点満点で評価した.アンケート調査は回答結果を主治医には伝えないことを事前に説明したうえで,変更前,変更後C1カ月に診療に直接関与しない研究補助員が聴取した.アンケートの質問項目を問診表(変更後)問1①点眼を変更して、最近1か月で点眼を忘れてしまったことはありますか?□はい何回忘れましたか?□1回ぐらい□2回ぐらい□3回ぐらい□4回以上□いいえ②前の点眼に比べて点眼忘れは減りましたか?□減った□変わらない□増えた③その理由をお聞かせください。④前の質問で「はい」を選択した方へ。1.忘れる時間帯はいつが多いですか?□朝□昼□夕方□寝る前2.理由は何ですか?□点眼する時間帯□点眼回数□点眼本数□さし心地□点眼瓶の操作性(さしにくい)□副作用□忙しい□その他()問2変更する前と比べて、眼の症状に変化はありましたか?①充血は?(ない012345ある)②刺激は?(ない012345ある)③かゆみは?(ない012345ある)④痛みは?(ない012345ある)⑤かすみは?(ない012345ある)⑥眼のくぼみは?(ない012345ある)⑦まつ毛の伸びは?(ない012345ある)問3①変更する前と後ではどちらが良いですか?□変更した後の方が良い□同じ□変更する前の方が良い②その理由をお聞かせ下さい(複数回答可)□1日の点眼回数が少ない□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□点眼瓶が使いやすい□薬代が安い□その他図1変更前,変更後1カ月のアンケート図1に示す.変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月の視力,眼圧の比較にはCANOVA,変更前,変更後C1カ月の角膜・結膜スコア,自覚症状の比較には対応のあるCt検定,変更前,変更後C1カ月の点眼忘れの回数の比較にはCWilcoxonCsigned-rankCtestを用いた.統計解析ソフトはCJMP(Ver16.1)を使用し,すべての解析において危険率C5%未満を有意差ありと判断した.CII結果対象はC21例C30眼で,性別は男性C12例C17眼,女性C9例13眼であった.平均年齢はC68.8C±5.0歳であった.平均薬剤スコアはC4.6C±0.2点であった.Humphrey自動視野計中心プログラムC24-2の平均Cmeandeviation値はC.12.7±2.6CdBであった.病型の内訳は,原発開放隅角緑内障C13眼,落屑緑内障C7眼,続発緑内障C2眼,正常眼圧緑内障C2眼,血管新生緑内障C2眼,高眼圧症C2眼,原発閉塞隅角緑内障C1眼,小児緑内障C1眼であった(表1).logMAR視力は変更前C0.16C±0.56,変更後C1カ月C0.17C±0.58,変更後C3カ月C0.19C±0.60,GATによる眼圧は変更前Ca1.91.713.4±2.3CmmHg,変更後C1カ月C13.0C±3.4CmmHg,変更後C3カ月C14.0C±3.3CmmHgであった.視力,眼圧ともに,変更前,変更後C1カ月,変更後C3カ月の間で有意差を認めなかった(図2a,b).PG関連薬とCb遮断薬ごとの内訳では,タフルプロストからタフルプロスト/チモロールへの変更はC12眼表1対象(21例30眼)病型原発開放隅角緑内障落屑緑内障続発緑内障正常眼圧緑内障血管新生緑内障高眼圧症原発閉塞隅角緑内障小児緑内障13眼7眼2眼2眼2眼2眼1眼1眼性別(男/女)12例17眼C/9例13眼年齢C68.8±5.0歳薬剤スコアC4.6±0.2点Humphrey自動視野計中心プログラム24-2CMD値C.12.7±2.6CdBCNS20b1.5NS1510眼圧(mmHg)1.31.10.90.70.50.3logMAR視力50.1-0.1-0.30変更前変更後1カ月変更後3カ月変更前変更後1カ月変更後3カ月NSc20-0.5d20NS15101510眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)5500変更前変更後1カ月変更後3カ月変更前変更後1カ月変更後3カ月図2視力,眼圧の推移a:logMAR視力,Cb:GAT,Cc:タフルプロスト/チモロールへ変更したC12眼のCGAT,Cd:ラタノプロスト/チモロールへ変更したC13眼のCGAT.すべてにおいて変更前,変更後C1カ月,3カ月で有意差はなかった.(117)あたらしい眼科Vol.39,No.8,2022C1127a充血b刺激c掻痒感5NS5NS5NS4443331.71.721.2±1.7221.01.00.81.20.5±1.70.6±1.0111000-1-1-1変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月d疼痛e霧視fくぼみNS54NS55443331.51.51.3±1.22220.30.70.2±0.7111000-1-1-1変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月変更前変更後1カ月g睫毛の伸び5NS4321.01.80.5±1.210-1変更前変更後1カ月Pairedt-test図3自覚症状の変化すべての項目において変更前,変更後C1カ月で有意差はなかった.図4変更前後でどちらがよいかで,GATは変更前C13.0C±2.7CmmHg,変更後C1カ月C12.5C±3.0CmmHg,変更後C3カ月C13.5C±1.5CmmHgといずれも有意差はなかった(図2c).ラタノプロストからラタノプロスト/チモロールへの変更はC13眼で,GATは変更前C13.8C±2.2CmmHg,変更後C1カ月C12.9C±2.3CmmHg,変更後C3カ月C14.3±5.0CmmHgといずれも有意差はなかった(図2d).トラボプロストからトラボプロスト/チモロール,ラタノプロストからラタノプロスト/カルテオロールへの変更はそれぞれC2眼であり,統計解析は行わなかった.点眼変更後に新たに副作用を認めた症例はC6例(28.5%)あった.内訳は掻痒感C1例(4.8%),結膜炎C2例(9.5%),霧視C3例(14.3%)であった.掻痒感を自覚したC1例ではアイラミド配合懸濁性点眼液の中止を余儀なくされた.角膜スコアは,変更前C0.53C±0.92点,変更後C1カ月C0.43C±0.84点で,変更前後で有意差を認めなかった.結膜スコアは,変更前にC1点以上だった症例はC1眼のみで,変更前のC2点から変更後C1カ月でC1点になった.変更前,変更後C1カ月での自覚症状のアンケート結果を図3に示す.充血,刺激,かゆみ,痛み,かすみ,眼のくぼみ,まつげの伸びのすべての項目で,変更前後で有意差を認めなかった.変更後C1カ月のアンケートでは,「変更後が変更前よりもよい」がC75%,「変更前が変更後よりもよい」がC15%,「変更前後で同じ」がC10%であった(図4).患者の自己申告による点眼忘れの回数は,変更前C0.33C±0.71回,変更後C1カ月C0.09C±0.29回で,変更後に有意に点眼忘れの回数が減少した(p=0.043).III考按緑内障診療ガイドライン(第C4版)では,緑内障の多剤点眼は副作用の増加やアドヒアランスの低下につながることがあり,アドヒアランスの向上のために配合点眼液の使用も考慮すべきと提言している1).今回,久留米大学病院眼科で,PG関連薬,Cb遮断薬/CAI配合点眼液,Ca2刺激薬を含む多剤点眼を処方されていた緑内障患者に対し,配合点眼液をCb遮断薬/CAIのC1種類からCPG関連薬/Cb遮断薬とCa2刺激薬/CAIのC2種類に増やすことで,点眼数および点眼回数を減らすことを試みた.本研究では処方変更の前後で,視力,眼圧に有意な変化を認めなかった.ブリモニジン酒石酸塩とブリンゾラミドの薬剤の組み合わせにおいて,配合点眼液と単剤併用の比較で眼圧下降効果は同等であったことが報告されている2).また,PG関連薬とCb遮断薬の薬剤の組み合わせにおいて,トラボプロスト/チモロール,タフルプロスト/チモロールの配合点眼液ではそれぞれの単剤併用と比べて眼圧下降効果は同等であったが3,4),ラタノプロスト/チモロールの配合点眼液では単剤併用と比べて眼圧下降効果が劣っていたと報告されている5).チモロールの単剤がC1日C2回点眼であるのに対し,配合点眼液ではチモロールがC1日C1回点眼となるため眼圧下降効果が減弱する可能性が指摘されている6).今回の処方変更でもCb遮断薬の点眼回数が変更前のC2回から変更後はC1回と減っているが,処方変更後も同等の眼圧下降効果が得られたのは,点眼忘れの回数が有意に減少するなどアドヒアランスが改善したことも一因としてあるのではないかと思われる.配合点眼液による点眼回数の減少は,アドヒアランスの向上だけでなく,点眼液に含まれる防腐剤などによる角結膜上皮障害を軽減する効果も期待される.ただし,本研究での角膜・結膜スコアは変更前後で明らかな有意差を認めなかった.また,アンケート調査でも,充血,刺激,かゆみ,痛み,かすみ,眼のくぼみ,まつげの伸びのすべての項目で,自覚症状は変更前後で明らかな有意差を認めなかった.今回の処方変更に対するアンケート調査で,「変更後のほうがよい」と答えた症例はC75%であり,そのおもな理由は点眼回数の減少であった.一方で,「変更前のほうがよい」と答えた症例もC15%あり,そのおもな理由は霧視であった.緑内障点眼の耐えられない副作用の一つとして霧視をあげている報告もあり7),もともと懸濁液を含まない多剤点眼からアイラミド配合懸濁性点眼液を含む処方に変更する場合は,点眼後に一過性に霧視を自覚する可能性があることについて十分に説明する必要があると思われる.緑内障の点眼加療は,単剤投与から始めて目標眼圧に達しなければ薬剤変更あるいは追加を行うことが基本であるが,実際の臨床では多剤点眼を処方されている緑内障患者も多い.本研究の結果から,PG関連薬/Cb遮断薬配合点眼液およびCa2刺激薬/CAI配合点眼液への処方変更による点眼数および点眼回数の減少は,点眼加療の効果とアドヒアランスを維持したうえで,患者の満足度向上にもつながる可能性があると思われる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)Gandol.CSA,CLimCJ,CSanseauCACCetal:RandomizedCtrialCofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbri-monidineforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTherC31:1213-1227,C20143)InoueCK,CSetogawaCA,CHigaCRCetal:OcularChypotensiveCe.ectandsafetyoftravoprost0.004%/timololmaleate0.5%C.xedCcombinationCafterCchangeCofCtreatmentCregimenCfromb-blockersandprostaglandinanalogs.ClinOphthal-molC6:607-612,C20124)桑山泰明,DE-111共同試験グループ:0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたオープンラベルによる長期投与試験.あたらしい眼科C32:133-143,C20155)QuarantaL,BiagioliE,RivaIetal:ProstaglandinanalogsandCtimolol-.xedCversusCun.xedCcombinationsCorCmono-therapyCforopen-angleCglaucoma:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CJCOculCPharmacolCTherC29:382-389,C20136)WebersCA,BeckersHJ,ZeegersMPetal:TheintraocuC-larpressure-loweringe.ectofprostaglandinanalogscom-binedCwithCtopicalCbeta-blockertherapy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.COphthalmologyC117:2067-2074,C20107)ParkCMH,CKangCKD,CMoonCJCetal:NoncomplianceCwithCglaucomaCmedicationCinCKoreanpatients:aCmulticenterCqualitativestudy.JpnJOphthalmolC57:47-56,C2013***