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硝子体手術のワンポイントアドバイス:228.ゴルフボールによる眼外傷に対する硝子体手術(上級編)

2022年5月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載228228ゴルフボールによる眼外傷に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにゴルフに関連する眼外傷はゴルフボールによるものとクラブによるものに大別される.ゴルフボールによる眼外傷は他の球技に比較してまれではあるが重症例が多く,眼球破裂に至るリスクが他の球技による外傷に比較して高い1).●症例提示53歳,男性.ゴルフのプレー中に打球がすぐそばの木に当たって跳ね返り,至近距離で左眼を直撃した.受傷直後から左眼は高度の視力低下をきたし,著明な眼瞼腫脹,結膜浮腫,結膜下出血,前房出血を認め(図1),眼底は透見不能であった.超音波Bモード検査では硝子体腔内の多量の出血を認めた(図2).受傷翌日に全身麻酔下で硝子体手術を施行した.前房洗浄後,水晶体が後方にやや脱臼している所見が観察された.外直筋の付着部後方に眼球破裂を疑わせる部位を認めたが,同部位はTenon.で被覆されており,無理に開けると眼内組織が脱出する可能性を考え,そのまま触らずに硝子体手術を施行した.硝子体腔内は多量の出血で充満され,凝血塊が網膜と強固に癒着し網膜.離をきたしていた(図3).網膜は黄斑部を含めて,広範囲に壊死性変化をきたしていた.液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展したあと,シリコーンオイルタンポナーデを施行したが,術後眼底後極部に著明な線維性増殖組織が生じた(図4).5カ月後にシリコーンオイル抜去,眼内レンズ毛様溝縫着術を施行し,矯正視力は0.2に改善した.●ゴルフボールによる眼外傷の特徴ゴルフボールは硬くて小さいため,野球ボールのように眼窩骨で止まらないで,そのまま眼窩内に入ってしまい,その結果として眼球破裂をきたしやすい.また,打球が非常に早く,眼組織へのダメージが強くなりがちである.本提示例は,眼球破裂の程度が比較的軽度であったため視力をある程度温存できたが,過去の報告ではより重症度が高く,眼球内容除去を余儀なくされたケース(77)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼前眼部写真著明な結膜浮腫,結膜下出血,前房出血を認めた.(文献1より引用)図2初診時の左眼超音波Bモード写真著明な硝子体腔内の出血を認めた.(文献1より引用)図3術中所見硝子体腔内は多量の出血で充満されており,眼底は広範な網膜.離と壊死性変化をきたしていた.(文献1より引用)図4初回手術後の眼底写真術後シリコーンオイル下に著明な線維性増殖組織が生じた.(文献1より引用)もかなり多い.予防にはゴーグルが有効であるが,現実的にはむずかしいので,ショットする場合には,ボールの届く場所に人がいないことを十分に確認すること,人がいるそばではクラブを振り回さないなどの基本的なマナーが重要である.文献1)岡雅美,佐藤孝樹,大須賀翔ほか:ゴルフボールによる外傷性網膜.離に対して硝子体手術を施行した1例.臨眼75:1339-1343,2021あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022627

考える手術:5.レンズグラバーを用いたレンズ摘出術

2022年5月31日 火曜日

考える手術⑤監修松井良諭・奥村直毅レンズグラバーを用いたレンズ摘出術野口三太朗ツカザキ病院眼科ASUCAアイクリニック仙台マークワン近年,眼内レンズ二次挿入術は眼内レンズ(IOL)縫着術から強膜内固定にシフトしてきた.強膜内固定によってIOLの眼内の固定方法はより簡便になったといえる.しかし,固定よりも抜去を苦手とする眼科医は少なからずいる.眼内でIOLを三分割して摘出するという操作により,角膜内皮や虹彩にダメージを与えたり,さらに摘出がうまくいかず,切開創の拡大に至ったりと,さまざまな合併症や困難な状況が発生する.また,わが国ではプレート型親水性レンズの移植が多くなされているが,レンズボリュームがあり,ちぎれやすいために摘水性アクリルIOLに対しては,眼内でレンズを分割せずに丸ごと摘出する方法を考案した(レンズグラバー法).アクリルレンズは引っぱられる力により引き延ばされ変形し,創口の形に添ってロールし,眼外に導かれる.インジェクターカートリッジを用いる場合よりも,その厚み分,切開創への負担は減る.2.2mm切開にて,摘出後の切開創は2.3.mmと創の拡大も非常に少ない.角膜内皮,虹彩のダメージも少ないと思われる.聞き手:この術式はどのような術式ですか?鑷子であるレンズグラバーを用いると,創口にうまく野口:現在,国内で白内障手術の際に移植されるIOLIOLがはまり込み,創口サイズに合わせてレンズがローはほぼ100%アクリルレンズですので折りたたみが可能ルし,折りたたまれ,摘出されます.そのため眼内操作です.従来,アクリルIOLを摘出する際にはレンズをが減り,摘出が容易となります.角膜内皮細胞減少などレンズカッターで切り,分割して摘出する方法が一般的の合併症も最小限ですむと考えています.で,パックマン法や三分割法などが施行されています.しかし,レンズグラバーを用いたレンズ摘出法(レンズ聞き手:レンズグラバーの開発経緯を教えてください.グラバー法)は,レンズを眼内でカットせずに摘出しま野口:IOLを摘出する専用の鑷子がなかったことから始す(動画①).アクリル樹脂IOLは通常の眼内鑷子で把まりました.わが国では世界でも類を見ない数のプレー持して摘出しようとしても,レンズが破損したり,創口ト型親水性IOLが使用されています.しかし,この親にひっかかったりして摘出は不可能です.しかし,専用水性プレート型IOLはレンズボリュームが大きく,柔(75)あたらしい眼科Vol.39,No.5,20226250910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術らかくちぎれやすいという特性をもっています.レンズを分割するのがまず大変で,分割できたとしても,レンズが細かくちぎれて,うまく眼外に摘出できないことがあります.これを解決するためには効率的にレンズを把持し摘出する鑷子の開発が必要でした.加えて,横断分割のみで極小切開で創拡大を行わずに摘出することも必要でした.こうしてレンズグラバーが開発されました.レンズグラバーはIOLの特性をよく理解し,それを応用した把持構造をしています.実際に,レンズグラバーを用いると,親水性プレート型IOLは容易に摘出できました.レンズグラバーは,疎水性アクリルIOLも把持でき,摘出可能です.レンズの切断なしでも余裕をもって摘出できます.聞き手:レンズグラバー法の原理などについて教えてください.野口:フォーダブルIOLは2mmの切開創からインジェクターを用いて眼内に挿入するのだから,IOLは折りたためば2mmの創口から摘出可能なはずである,という発想から考案しました.しかも,カートリッジがなければ,カートリッジの分だけさらに創口ストレスは少ないであろうと考えました.アクリルIOLは37℃近い眼内ではガラス転移温度を超えるため,柔らかく,変形しやすい状態にあります.このため,レンズグラバーにてIOLを創口に引き込むと,IOLは引き込み部分を頂点とした三角形に変形します.その引き伸ばされた把持部位の辺りの変形とともに引き混み部分から両サイドが元の形状に戻ろうと縮む力がIOLのロールする力に変わります.そこをきっかけにして,全体がロールし,ゆっくりとIOL全体が縦に引き延ばされた状態から戻る力を利用して,創口からIOLが脱出します.ある程度までIOLをロールさせると,それ以上は無理に引っぱらなくても,戻る力だけで脱出します.聞き手:レンズグラバー法で創口拡大はどの程度ですか?野口:創口拡大が大きければ,この方法のメリットは半減すると考えています.2.2mmのMANI社製スリットナイフで創を作製し,レンズグラバー法で摘出した後の創口の拡大率を調べました.YP2.2(興和)摘出後は2.3mm,XY1(HOYA)摘出後は2.3mm,355(HOYA)摘出後は2.5mm,W60R(参天製薬)3.0mm以上,ZCB00V(Johnson&Johnson)摘出後は2.4mm,SN60WF(Alcon)摘出後は2.3mmの創口でした.現在国内で多く用いられるアクリルIOLが極小切開から摘出可能であることがわかりました.しかし,W60Rはガラス転移温度の高いことから創口の拡大が発生することを知っておく必要があります.創口が大きいと,虹彩の脱出や断裂といった合併症が発生しやすいですが,レンズグラバー法による切開サイズではこのような心配がほとんどないと考えています.聞き手:虹彩や角膜内皮への影響はどうでしょうか?野口:IOLを挿入する際には,折りたたまれた状態でIOLが挿入されるので,IOLがその逆の動きをするレンズグラバー法では,虹彩や角膜内皮への影響は少ないと考えています.実際に,豚眼を用いてレンズグラバーでIOLを摘出する様子を実験的に観察した結果を示します(動画②).把持されたIOLはまず,創口部分にはまり込みます.そして,ロールして創口内に入っていきます.そのときに,IOLや鑷子は,IOLが眼外に摘出されるまでの間,角膜内皮,虹彩には触れることはありませんでした.しかし,前房が虚脱した状態や,ハプティクスが虹彩に引っかかっていた場合には,虹彩を巻き込む可能性があるので注意が必要です.そのようなことがないように,十分に前房に眼粘弾剤を充填し,虹彩を後極側へシフトさせ,前房を深くすることが重要と考えています.626あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022(76)

抗VEGF治療:網膜中心静脈閉塞症の視力予後予測因子

2022年5月31日 火曜日

●連載119監修=安川力髙橋寛二99網膜中心静脈閉塞症の視力予後予測因子永里大祐ツカザキ病院眼科網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対する抗血管内皮増殖因子薬治療が全盛である現在,数多くの臨床研究が報告されているが,CRVOの視力予後不良因子の理解は不十分であった.最近の実臨床における研究の結果,高齢,初診時低視力,糖尿病網膜症の併存がCCRVOの視力予後不良因子であることがわかった.はじめに網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は,視神経乳頭後方の篩状板付近での網膜中心静脈閉塞の循環障害によって生じる1).有病率は世界においてC0.8%2),日本ではC0.2%3)と報告されており,糖尿病網膜症についで二番目に多い網膜血管疾患である.CRVOは,蛍光眼底造影検査による網膜虚血の範囲(10乳頭面積)によって非虚血型CCRVO(約C70%)と虚血型CRVO(約C30%)に分類され,血管新生緑内障やルベオーシスへの進展リスクのある虚血型CCRVOは非虚血型CCRVOよりも予後が悪い.CRVO発症の一番の危険因子は年齢であり,患者のC90%はC50歳以上である.他の主要な危険因子として,動脈硬化,開放隅角緑内障,糖尿病,高脂血症などが,またその他の危険因子として多血症,高ホモシステイン血漿等の凝固性亢進状態,血小板機能異常,血管炎,鎌状赤血球,視神経浮腫,梅毒,サルコイドーシス,HIV感染症,経口避妊薬や利尿薬などの薬剤,および眼窩疾患などが報告されている4).最新の知見CRVOはC1950年代からさまざまな治療法が行われてきた(詳細はC2022年C2月号の小生の原稿を参照)が,2022年におけるCCRVOの治療法の第一選択は,CRVOに伴う黄斑浮腫(macularedema:ME)の消失による視機能改善目的で施行するラニビスマブやアフリベルセプトなどの抗CVEGF薬の硝子体内注射である.CRVOに対する抗CVEGF薬治療における数多くの臨床研究が国内外で報告されているが,とくに海外の大規模臨床試験では,血管新生緑内障の発症率が,過去に報告されたCRVOの自然経過で観察された血管新生緑内障の発症率よりも低く,実臨床で遭遇する重症例を含むCCRVOの予後評価が十分でなかった可能性がある.今回,自験例を含む国内のC4施設におけるCCRVOの長期の予後予測因子を調べた.未治療のCCRVOに伴うCMEに対して抗CVEGF薬治療(導入期単回投与またはC3回連続投与後,維持期CproCrenata投与)を行いC24カ月以上経過観察できたC150症例を対象とした.最終視力から,視力不良群(20/200未満,49例)と対照群(20/200以上,101例)に分類し,抗CVEGF薬治療後の視力不良群の関連因子を調べた.全体(平均年齢C69.2C±12.8歳)における平均経過観察期間C34.9C±16.1カ月の間に,抗CVEGF薬による平均治療回数はC5.3C±3.7回(視力不良群C5.2C±4.2回,視力良好群C5.4C±3.4回,両群間に有意差なし.p=0.765)であった.初診時視力はClogMAR換算でC0.67C±0.54(指数弁.20/13),最終視力はC0.60C±0.67(光覚なし.20/13)であった.視力不良群(平均年齢C73.4C±10.4歳)において抗CVEGF薬による平均治療回数はC5.2C±4.2回,初診時視力はC0.93C±0.61(指数弁.20/25),最終視力はC1.31C±0.57(光覚なし.20/228)であった.一方,対照群(平均年齢C67.2C±13.3歳)において抗CVEGF薬による平均治療回数は5.4C±3.4回,初診時視力は0.54C±0.45(20/2,000.20/13),最終視力はC0.24C±0.33(20/200.20/13)であった.抗CVEGF薬の平均治療回数に有意差はなかった.また,視力不良群は対照群より有意に高齢であった.そして視力不良群は,治療前視力の不良,糖尿病網膜症の併存と有意に関連していた(それぞれ,調整オッズ比C5.96[95%信頼区間:1.88.18.86],調整オッズ比C0.05[95%信頼区間:0.01.0.42])5).これらの結果から,加齢による網膜血管の変化,糖尿病網膜症が網膜微小循環の悪化を促進させている可能性が考えられる.網膜微小循環は,比較的一定の血流を維持する自動調節システムを備えている6).しかし,内頸動脈疾患や糖尿病網膜症を有する患者がCCRVOを合併した場合,CRVO発症によって網膜血管の自動調節機能が破壊され,視力予後が不良となる可能性が示唆される.(73)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C6230910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1予後良好であったCRVO症例の48カ月後の光干渉断層計画像全身既往症のないC54歳の男性の左眼.最終受診時黄斑浮腫はなく,網膜外層のエリプソイドゾーンバンド欠損もない.治療前左眼矯正視力C0.7.その後ラニビスマブ硝子体内注射をC3回施行し,治療後C48カ月の時点で左眼矯正視力はC1.5であった.図2予後不良であったCRVO症例の84カ月後の光干渉断層計画像高血圧,糖尿病網膜症,緑内障を併発しているC80歳の男性の右眼.最終受診時慢性の黄斑浮腫の残存,および網膜外層において広範囲のエリプソイドバンド欠損を認める.治療前右眼矯正視力0.8.その後ラニビスマブ硝子体内注射をC9回,アフリベルセプト硝子体内注射をC2回施行するも,黄斑浮腫の消失,再発を繰り返した.治療後C84カ月の時点で右眼矯正視力はC0.01であった.おわりに以上,CRVOにおける視力予後予測因子について最近の研究を用いて解説した.日本において抗CVEGF薬が一般的に使用されるようになって,やがてC10年になる.抗CVEGF薬の出現,また今回は触れなかったが,種々の眼科検査機器,治療手段の進歩によってCCRVOの予後視機能は改善しているので,恩恵を受けた患者が多いことは間違いないだろう.それでも視力予後不良な患者が一定数残っていることも事実である.また,そのような抗CVEGF薬そのものの限界ではなく,日本は他の先進国に比べて薬剤を含む治療費が非常に高価なため,そもそも抗CVEGF薬加療を開始,継続できない患者が散見されることは,諸先生方も経験があるのではないかと考える.これからも眼科学,眼科医療の進歩,問題点の改善を期待し,筆者にとって本稿がCCRVO患者のより深い理解と,より良い治療の一助になれば望外の喜びである.C624あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022文献1)MuraokaY,TsujikawaA,MurakamiTetal:Morpholog-icCandCfunctionalCchangesCinCretinalCvesselsCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.COphthalmologyC120:C91-99,C20132)RogersCS,CMcIntoshCRL,CCheungCNCetal;InternationalCEyeCDiseaseConsortium:TheCprevalenceCofCretinalCveinocclusion:pooledCdataCfromCpopulationCstudiesCfromCtheCUnitedStates,Europe,Asia,andAustralia.OphthalmologyC117:313-319,Ce1,C20103)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicCriskCfactorsforCretinalCveinocclusioninCageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.CInvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20104)BlairK,CzyzCN:Centralretinalveinocclusion.In:Stat-Pearls[Internet]C.CStatPearlsCPublishing,CTreasureCIsland(FL),20215)NagasatoD,MuraokaY,OsakaRetal:Factorsassociat-edCwithCextremelyCpoorCvisualCoutcomesCinCpatientsCwithCcentralretinalveinocclusion.SciRepC10:19667,C20206)RivaCCE,CGrunwaldCJE,CPetrigBL:AutoregulationCofChumanretinalblood.ow.AninvestigationwithlaserDop-plerCvelocimetry.CInvestCOphthalmolCVisCSciC27:1706-1712,C1986(74)

緑内障:日帰り緑内障手術

2022年5月31日 火曜日

●連載263監修=山本哲也福地健郎263.日帰り緑内障手術丸山勝彦八潮まるやま眼科緑内障手術を日帰りで行うにあたっては,まず,患者側,医師側双方がその得失を理解し,信頼関係が築かれている必要がある.優位眼への対応は場合によっては困難で,日帰り手術だからこそ押さえておきたい術中操作や術後管理の留意点もある.バックアップ施設との連携も含め,万全を期して臨みたい.●はじめに日帰り手術は患者の身体的,精神的,経済的負担の軽減に寄与することから,近年,需要が高まっている.本稿では,緑内障手術を日帰りで行う際の留意点や課題について述べる.●日帰りになると患者は手術を軽視しがち患者が「緑内障手術は日帰りでもできる(ほど簡単)」と誤って認識し,手術を軽視してしまうことがある.頻回の通院指示に対し「そんなに来る必要があるのか?」と愚痴られることも少なくない.しかし,流出路再建術後の一過性眼圧上昇への対応や,濾過手術後のレーザー強膜弁縫合切糸による眼圧コントロールなど,手術直後の管理の重要性は日帰りでも入院でも同様である.十分な説明を行って,患者の理解と同意を得る.●「日帰りだからMIGS」ではない!誤った認識をしがちなのは患者側だけではない.日帰り手術の場合,低侵襲という理由でminimally/microinvasiveglaucomasurgery(MIGS)が好んで行われる傾向があるが,期待できる眼圧は低くはない.また,濾過手術で報告されている1)ような10年を超える長期間の視機能維持効果があるかはわかっていない.医師側は患者ごとに適切な術式を選択する必要がある.●優位眼に対してどうするか僚眼の視機能が低下しているなどの理由で,術直後に発生しうる術眼の視機能低下が日常生活に影響を及ぼす可能性があれば,日帰り手術の適応はむずかしくなってくる.とくに緑内障手術の場合には,術後,通院の頻度が多い傾向があるため,自宅では問題なく過ごせても通院が厳しいという状況も想定される.患者の生活背景や身体能力,性格などを加味して日帰り手術の可否を判断する.(71)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY●術中操作,術後管理の留意点入院で手術を行う場合は術後こまめな診察が可能であり,急変時にも迅速に対応することができる.それが困難な日帰り手術では,こまめな診察を要する状態にできるだけならないよう,極力,急変を起こさぬよう留意しなければならない.線維柱帯切開術(眼内法)では,より大きな眼圧下降を期待して広範囲の線維柱帯切開が試みられることがある.しかし,ナイロン糸を用いた線維柱帯切開術(眼内法)では,切開範囲が全周か半周かで眼圧調整成績は同等である一方で,全周切開では前房出血の頻度が高いことが報告されている2).前房出血が生じれば一過性眼圧上昇をきたしやすくなり(図1),他の線維柱帯切開術(眼内法)でも同様と予想される.したがって,日帰りで線維柱帯切開術(眼内法)を行う場合には,必要以上の切開操作を控えたほうがよい可能性があるが,実際には術者の判断によるところが大きい.いずれにしても線維柱帯切開術(眼内法)では,予期せぬ前房出血とそれに伴う一過性眼圧上昇を完全に防ぐことはできないため,安易に通院間隔を開けることは避ける.「メンテナンスフリー」ではなく,「メンテナンスできない」だけであって,状態に応じた投薬内容の調整は濾過手術よりむしろ煩雑になることも多い.線維柱帯切除術では,高眼圧に対する処置は比較的簡便である反面,低眼圧に対する処置は難易度や侵襲性が高く,術直後に避けたいのはどちらかというと低眼圧である.低眼圧は視力低下や上脈絡出血の誘因となるだけではなく,過剰濾過による前房消失に伴い角膜内皮障害や白内障の進行を引き起こす可能性がある(図2).これらの合併症を避けるため,ウォータータイトな強膜弁縫合は必須であり,とくに強度近視眼や若年者は過剰濾過を生じやすいので留意する.また,過剰濾過に対する処置も体得しておく必要がある.いずれの術式でも,日帰り手術で患者が一番嫌うのはあたらしい眼科Vol.39,No.5,2022621図1線維柱帯切開術(眼内法)後に前房出血をきたした症例ナイロン糸を用いた線維柱帯切開術(眼内法)後1日目.ほぼ全周の線維柱帯を切開している.前房出血のため視力は手動弁,眼圧は48mmHgと上昇.眼圧下降薬の点眼,内服を行ったが高眼圧は持続し,連日,高浸透圧薬の点滴を行った.図3線維柱帯切除術後に濾過胞不全に対するニードリングによって駆逐性出血をきたした症例術後3カ月目.濾過胞不全に対してニードリングを行ったところ,直後に眼痛が生じ,眼内レンズが後方から前方に押し出されるように前房は浅化.駆逐性出血を生じた.即日,入院可能な施設に紹介となった.術後疼痛である.術直後の疼痛は縫合糸の断端による刺激や角膜上皮障害が原因となることが多い.縫合糸の結紮部は埋没し,術中は眼表面のコンディションに留意しながら操作して,術後疼痛が予想される患者には筆者はコンタクトレンズ装用で対応している.●それでも合併症は起こる!どれだけ注意しても一定の割合で合併症は起こり,即622あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022図2線維柱帯切除術後に過剰濾過をきたした症例術後5日目.眼圧2mmHg,術前(1.0)だった視力は(0.1)に低下している.a:Descemet膜皺襞を認め,周辺前房は消失しており,わずかに白内障が生じている.b:低眼圧黄斑症を認める.日,入院が必要となることもある(図3).日頃からバックアップ施設と連携を取り合っておく必要がある.文献1)OieS,IshidaK,YamamotoT:Impactofintraocularpres-surereductiononvisual.eldprogressioninnormal-ten-sionglaucomafollowedupover15years.JpnJOphthal-mol61:314-323,20172)SatoT,KawajiT:12-monthrandomisedtrialof360°and180°Schlemm’scanalincisionsinsuturetrabeculotomyabinternoforopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol105:1094-1098,2021(72)

屈折矯正手術:高次収差と波面収差計

2022年5月31日 火曜日

監修=木下茂●連載264大橋裕一坪田一男264.高次収差と波面収差計脇舛耕一バプテスト眼科クリニック高次収差は眼鏡矯正不能な不正乱視であり,球面収差,コマ収差,全高次収差などがある.高次収差はZernike多項式による分析,数値化および算出が可能である.実際の測定はCHartmann-Shack法などを用いた波面収差計を用いて行われ,角膜疾患や白内障,眼内レンズの状態を把握できる.●はじめに波面収差とは,光源から波のように全方向へ広がった光がレンズなどを通過する際に生じる映像のぼけのことであり,遠視,近視,正乱視などの眼鏡矯正可能な低次収差と,眼鏡矯正不可能な不正乱視である高次収差がある.代表的な高次収差としてCSeidelのC5収差などがあるが,臨床上理解しておくべき高次収差は球面収差とコマ収差,全高次収差である.本稿では各高次収差とその分析法,実際の計測器と臨床例について解説する.C●各高次収差と分析法球面収差とはレンズの中央側と周辺側を通過した光の焦点位置のずれ(図1)のことで,角膜には正の,若年水晶体には負の球面収差があり,水晶体の球面収差は加齢に伴い正へと変化する.また,皮質白内障では正の,核白内障では負の球面収差が増大する.非球面眼内レンズは負の球面収差を付加することで角膜の正の球面収差を相殺し,とくに薄暮時の視機能の改善を図る仕様となっている.コマ収差とは光軸に平行でない光がレンズの中央側と周辺側を通過した際に生じる焦点位置のずれ(図2)であり,対称レンズでは光軸(視軸)から離れた位置で生じ視機能への影響は少ないが,非対称レンズでは視軸に近い位置で生じるため視機能への影響が大きくなる.実臨床では円錐角膜や水晶体脱臼,眼内レンズ偏位などが代表的な疾患である.これらの高次収差を抽出する方法がCZernike多項式である.Zernike多項式では収差を割り算での小数点の位のように一次項,二次項,三次項,・・・と分解していく.そのうち,二次項までが低次収差,三次項以上が高次収差とされる.各次項は成分で構成され,その数は(次項+1),たとえば三次項の成分は四つとなる.低次収差のうち,二次項のC3成分がそれぞれ遠視,近視,正aab図1球面収差球面収差のあるレンズでは,レンズの中央側と周辺側を通過した光の焦点位置にずれが生じる(Ca)が,球面収差のないレンズではそのずれは生じない(Cb).図2コマ収差光軸に平行でない光がレンズの中央側と周辺側を通過した際に生じる焦点位置のずれであり,対称レンズでは光軸(視軸)から離れた位置で生じ(Ca),非対称レンズでは視軸に近い位置で生じる(Cb).(69)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C6190910-1810/22/\100/頁/JCOPY40歳,女性LV=0.06(1.2×sph-4.25=cly-0.5Ax130)図3円錐角膜疑い眼でのコマ収差軽度の角膜形状変化例でも,角膜コマ収差の増加と,カラーマップでの非対称が検出されている.乱視であり,三次項のC4成分のうち二つがコマ収差,四次項のC5成分のうち一つが球面収差である.また,それ以外の成分も,奇数項はコマ収差(非対称成分),偶数項は球面収差(対称成分)と同類の収差とされ,それぞれを合わせたものをコマ様収差,球面様収差としてとり扱うこともある.一般的には最大八次項までの収差が検討の対象とされる.収差量(μm)はCZernike多項式の各成分の理想波面からのずれを数値化したものであり,複数の成分からなる全高次収差やコマ収差等の収差量の算出は,二乗平均平方根(rootmeansquare:RMS)を用いて各成分の収差量を合算する.また,収差量は瞳孔径にも影響を受け,瞳孔径が大きくなるほど収差量も増大するため,収差量とともに瞳孔径の値も把握する.C●波面収差計波面収差を測定,解析する機器が波面収差計である.測定原理は複数あるが,Hartmann-Shackという方式がもっとも頻用されている.Hartmann-Shackでは,多数の小さなレンズを格子状に配列したレンズレットアレイ(Hartmannプレート)とCCCD(charge-coupleddevice)カメラを用いる.眼内に照射した点光源が中心窩で反射し水晶体,角膜を透過して眼外に出た後にレンズレットアレイを通過・集光させ,その点像をCCCDカメラで撮影して,映った点像の位置ずれから波面収差を計測する.現在,数多くの波面収差計がこの方式を採用しており,機種による差異はあるが,角膜,内部(水晶体),眼球全体の波面収差を分離計測できる.C●高次収差の臨床例実際の臨床例としては,円錐角膜眼での角膜コマ収差の増大の検出(図3)や,核白内障眼での内部球面収差の負方向へのシフトがある.また,トーリック眼内レンC620あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022乱視60歳、男性LV=0.05(0.7×sph-4.5=cyl-2.0Ax140)図4眼内レンズ偏位内部乱視およびコマ収差の増大が定量的に検出されている.ズ挿入眼では角膜乱視と内部乱視の軸角度の差から軸ずれや修正量を定量評価できる.その他,眼内レンズ偏位眼を内部コマ収差の増大により検出できる場合がある(図4).また,同じCHartmann-Shack方式の波面収差計のなかでも,測定性能により臨床結果に差が生じる場合がある.JohnsonC&Johnson社の波面収差計であるCiDesignはCwavescanの後継機であるが,測定点がC5倍になるなどの機能向上が図られており,そのデータを用いたLASIKで術後高次収差の増加が抑制されたとの報告がある1.3).0.01D単位での治療が可能なレーザー屈折矯正手術では術前データ取得の正確性が術後結果に影響を及ぼしうるため,より高機能な波面収差計を用いることで術後成績の改善が得られる可能性がある.C●おわりに高次収差は屈折矯正手術での必要性はもちろん,角膜疾患や白内障,眼内レンズの評価をするうえでも有用である.知識と実際の臨床例を知っておくことで,細隙灯顕微鏡検査のみでは判断がむずかしい場合に診断の一助となると思われる.文献1)PrakashCG,CSrivastavaCD,CSuhailM:FemtosecondClaser-assistedCwavefront-guidedCLASIKCusingCaCnewerCgenera-tionaberrometer:1-yearresults.JRefractSurgC31:600-606,C20152)DuranCJA,CGutierrezCE,CAtienzaCRCetal:VectorCanalysisCofCastigmaticCchangesCandCopticalCqualityCoutcomesCafterCwavefront-guidedClaserCinCsituCkeratomileusisCusingCaChigh-resolutionaberrometer.JCCataractRefractSurgC43:C1515-1522,C20173)MoussaS,DexlAK,KrallEMetal:Visual,aberrometric,photicCphenomena,CandCpatientCsatisfactionCafterCmyopicCwavefront-guidedCLASIKCusingCaChigh-resolutionCaber-rometer.ClinOphthalmolC10:2489-2496,C2016(70)

眼内レンズ:V字・コ字ポケット切開からのIOL摘出

2022年5月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋保坂文雄426.V字・コ字ポケット切開からのIOL摘出岩見沢市立総合病院眼科術後晩期に偏位した眼内レンズ(IOL)を摘出交換する機会が増えている.眼内組織を損傷せず安全にCIOLを摘出するためには,ゆとりをもった切開幅を確保したいが,自己閉鎖が不良となり,惹起乱視が増加しがちになる.ここではCIOL摘出のために切開ラインを工夫したCV字およびコ字ポケット切開を紹介する.●はじめに近年は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼数が増多し,晩期にCIOLが脱臼偏位して摘出交換を要する患者が増えている.通常の白内障手術におけるCIOL挿入は,眼外で折り曲げたCIOLをインジェクターに装.して挿入するため主創口は無理なく極小切開とすることができるが,摘出ではそれができない.IOL摘出のために切開幅を大きくすると創は自己閉鎖しづらくなり,術中の硝子体・虹彩脱出や術後の瞳孔変形,惹起乱視をきたしやすくなる.そこでアクリル製CIOLは眼内で切断してから摘出するのが一般的であるが,操作中に角膜内皮や虹彩を損傷する危険があり,PMMA(polymethylmethacrylate)製CIOLではそもそも切断できない.また,硝子体切除後の症例では切断したCIOL片や石灰化したCSoemmeringringが硝子体腔に落下する可能性がある.本稿では,円滑なCIOL摘出のための幅広い内方弁を確保しながら,自己閉鎖のために外方弁の横径は短くなるようデザインされたCV字およびコ字ポケット切開を紹介する.●方法V字ポケット切開(図1)は,結膜を切開し,輪部側を頂点とする逆CV字型の切開線で強膜半層切開する.V字の頂角はC90°,斜辺長はC3.4mmを目安とするが,アクリル製CIOLは弯曲するのでより短くてよい.V字ラインからクレッセントナイフで強角膜トンネル(ポケット)を作製する.ポケットから前房に穿孔するが,内方弁の幅長は摘出CIOLの光学部径より余裕をもたせて広げる.外方弁の横幅は狭いがCIOLは円盤形状なので,鑷子で引き抜くと強膜が歪み,V字が変形しながら通過できる.ポケット創は無縫合で自己閉鎖する.コ字ポケット切開(図2)はCV字ポケットと同様であるが,切開線は横ストレート線とその両端から円蓋部方向への縦線よりなるコ字型とする.切断できないPMMA製C7CmmIOLの摘出では,横C3.0mm,両端縦各2.0Cmmの合計切開長C7.0Cmm程度とする.アクリル製IOLを半切すると,横C2.2Cmm両端縦各C1.0Cmmの極小コ字切開から摘出できる.図1V字ポケット切開からのIOL摘出a:デザイン図.黒線が外方弁,青線が内方弁,点線間がポケットとなる.b:クレッセントナイフで内方弁を拡大する.c:IOLが内方弁を通過することを確認する.d:創を歪ませながらCIOLを引き抜く.Ce:V字創は無縫合自己閉鎖する.(67)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C6170910-1810/22/\100/頁/JCOPYabde図2コ字ポケット切開からのIOL摘出a:デザイン図.黒線が外方弁,青線が内方弁,点線間がポケット.b:クレッセントナイフで内方弁を拡大する.c:PMMA製CIOLが内方弁を通過することを確認する.d:太い鑷子で掴んで引き抜く.e:コ字創は無縫合自己閉鎖する.●考案IOL脱臼偏位に対する治療にはCIOL再固定の選択肢もあるが,再固定に適したCIOLの種類が限定されるうえ手技は煩雑となりやすい.このため摘出交換が一般的である.二次挿入されるCIOLは従来CPMMA製が主流であったためC7Cmm以上の主創口切開が必須であったが,最近の術式では小切開から挿入可能なアクリル製IOLを用いるので,手術の切開幅はむしろCIOL摘出に必要な創長で規定されることになった.白内障手術の歴史において大切開創でも自己閉鎖して惹起乱視を軽減する切開デザインが工夫されており,切開線を輪部と逆向きに弯曲させたCFrown切開1),今回紹介した逆CV字型のCChevron切開2),直線切開の両脇を斜めに切り上げるCBoat切開3)などが開発されてきた.これらを比較し,V字切開でとくに惹起乱視が小さかったとの報告がある4).上記の切開法は白内障手術小切開への流れで役目を終えたが,IOL摘出の場面では再びその有用性が注目される.近年,太田5)はCIOL摘出に特化したCL字ポケット切開法を考案し,横C3.0Cmm(+縦C3.0Cmm)切開でCIOL摘出を行っている.本稿のコ字ポケット切開は,このCL字切開における縦方向切開を左右対称に振り分けてそれぞれ短くし,Boat切開との中間的なデザインとした.V字切開とコ字切開を比較すると,V字では斜辺が筋交いとして機能するとともにポケットの糊代がやや大きい分,創口がより強固となる.一方,コ字は手術操作性に優れ,IOL摘出時の引き抜き抵抗が少ない.また,初回手術時の横ストレート切開を生かし,両端に縦切開を追加してコ字にコンバートできるメリットがある.C●おわりにIOL二次固定を要する原因として,IOL脱臼偏位の割合が増えている.IOL二次固定術はCYamaneCtechniqueなど洗練された術式の登場で術後高視機能が期待できるようになっており,偏位CIOLの摘出も安全,簡便,低侵襲な方法が望まれる.V字・コ字ポケット切開がその一助となることを期待したい.文献1)SingerJA:FrownCincisionCforCminimizingCinducedCastig-matismCafterCsmallCincisionCcataractCsurgeryCwithCrigidCopticintraocularlensimplantation.JCataractCRefractSurg17:677-688,C19912)PallinSL:ChevronCsuturelessclosure:ACpreliminaryCreport.JCataractRefractSurgC17:706-709,C19913)BlumenthalCM,CAshkenaziCI,CFogelCRCetal:TheCglidingCnucleus.JCCataractRefractSurgC19:435-437,C19934)JauhariCN,CChopraCD,CChaurasiaCRKCetal:ComparisonCofCsurgicallyCinducedCastigmatismCinCvariousCincisionsCinCmanualCsmallCincisionCcataractCsurgery.CIntCJCOphthalmolC7:1001-1004,C20145)太田俊彦:IOL偏位・脱臼に対する強膜内固定T-.xationtechniqueとCL-ポケット切開法を併用した整復術.臨眼C73:171-180,C2019

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 12.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その5)

2022年5月31日 火曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院12.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その5)■はじめに筆者が24回にわたって書かせていただいた「コンタクトレンズセミナー」は今回で終了する.最近は大学病院や大病院にてコンタクトレンズの処方法を学ぶ機会はとても少ない.本セミナーではハードコンタクトレンズ(HCL)については処方の基礎から,ソフトコンタクトレンズ(SCL)については最新の遠近両用SCL(multi-focalsoftcontactlens:MFSCL)トーリックに至るまで,できるだけわかりやすく書いたつもりである.これからコンタクトレンズ処方法を学びたいという意気込みのある眼科の先生方や視能訓練士の方に少しでも本セミナーがお役に立てば筆者にとって嬉しい限りである.それでは,前回の続きと焦点拡張型遠近両用SCLについて解説する.■両眼とも白内障手術後で乱視が強い場合片眼白内障手術後の場合と同様に,トーリックMFSCLを用いても,かなりの工夫を要する.<処方例1>非利き目が強い乱視の場合61歳,女性.主婦.・術前のSCL両眼にMFSCLトーリック(2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリック)(表1,図1)を2年間使用.RV=(0.6×860/-3.25/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0)非利き目NRV=(0.4×MFSCLトーリック)LV=(0.8×860/-4.75/14.2/cyl-0.75DAx90°/+1.0)利き目NLV=(0.6×MFSCLトーリック)表12WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックのレンズデザイン老視矯正乱視矯正光学部デザインプログレッシブトーリックコンセントリックレンズ前面レンズ後面マーキングガイドマーク上下ドット(レンズ上下に各1本線)BV=(0.8×MFSCLトーリック)BNV=(0.6×MFSCLトーリック)右眼のかすみが強くなり羞明も進行し,両眼の白内障手術を希望.・手術後所見RV=(1.2×IOL(sph-1.75D(cyl-2.00DAx88°)NRV=(0.4×IOL)LV=(1.2×IOL(sph-1.250D(cyl-1.50DAx92°)NLV=(0.2×IOL)BV=(0.4×IOL)BNV=(0.4×IOL)・術後眼へのMFSCL処方術後,遠見も近見もある程度は見えており日常生活には問題ないが,もう少しすっきり見えるようになりたいとのことで,MFSCLを希望.MFSCLの加入度数が低加入度数しかなく,手術前のようには近見視力が望めないことを説明したうえで,モディファイド・モノビジョン法で試してみることにした.RV=(0.6×IOL×860/-0.75/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0)NRV=(0.6×MFSCLトーリック)LV=(1.0×IOL×860/-0.75/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0)NLV=(0.4×MFSCLトーリック)BV=(0.8×MFSCLトーリック)BNV=(0.6×MFSCLトーリック)以上のように左右眼に視力的には差を認めるが,両眼の視力では遠近ともに満足のいく結果が得られた.図12WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックガイドマークは上下にある.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.5,20226150910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2シード1dayPureEDOF焦点深度拡張型のMFSCL.■焦点拡張型MFSCL<処方例2>63歳,男性.事務職.58歳時にMFSCLを希望.・使用中のSCL:ワンデーアキュビューモイストRV=(1.5×900/-3.25/14.2)LV=(1.2×900/-3.50/14.2)・58歳時に試したMFSCL①プロクリアワンデー・マルチフォーカル:近くは見やすいが遠くは見にくい.②ワンデーピュア・マルチステージ:①より全体的に見やすいが近くが不満.③これまで使用していたワンデーアキュビューモイストの度数を少し落として対処.・59歳時に試したMFSCL④バイオトゥルーワンデー・マルチフォーカル:近くが見にくい.⑤トータルワン・マルチフォーカル:近くが見にくい.⑥現在のワンデーアキュビューモイストを装用して,近用眼鏡を試してみたが,不自由であるとのこと.・62歳時に試したMFSCL⑦シード1dayPureEDOF(図2,3)RV=(1.0×840/-4.25/14.2/MID)LV=(1.0×840/-4.25/14.2/MID)BV=(1.2×MFSCL)NBV=(0.6×MFSCL)遠近視力ともに満足のいく結果が得られた.現在もこのMFSCLを使用している.かなり神経質な患者で,基遠くを見る部分中間を見る部分近くを見る部分図3シード1dayPureEDOFのレンズデザイン通常のMFSCLでは近見視力用の部位と遠見視力用の部位があり,その間に中間視力用の部位が累進的に存在するものが多い.このレンズは遠・中・近用の度数を木の年輪状に何重にも連続させて配置する(annualringsdesign)ことによって,理想的な像を網膜に結ぶように考えられている.本的にはMFSCLの低コントラストの見え方が不満で,既存のMFSCLでは満足のいく結果が得られなかったものと考える.しかし,老視が進んである程度の妥協をしなければならないことを納得したこともあると推測するが,焦点深度拡張型のEDOFの見え方の質が,この患者には適合したものとも考えられる.■おわりにわが国におけるMFSCLの市場はSCL全体の市場の5.6%どまりである.欧米におけるMFSCLの市場は20.30%以上とのことで,まだまだわが国におけるMFSCLの市場が拡大する可能性は残されている.筆者は積極的に超低加入度数(+0.50D以下)のものも含めてMFSCLの処方をしているが,MFSCL処方はSCL処方全体の15.20%くらいである.SCLユーザーがMFSCLの存在を知らないことも当院におけるMFSCL処方数が少ない一因であると考える.わが国でMFSCLの市場が拡大しない原因として,その存在を知らないユーザーが多いこと,そして多くの眼科医がMFSCLの処方はむずかしくて面倒であると思っていることが推察されるが,最近のMFSCLは質がかなり向上しており,本セミナーで解説したことをふまえて処方に臨めば,中高年以上のSCLユーザーに視力的なquarityoflife向上を提供することは意外と容易である.

写真:結膜反応性リンパ組織過形成

2022年5月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦加藤久美子456.結膜反応性リンパ組織過形成三重大学医学部附属病院眼科図2図1のシェーマ①下眼瞼結膜の病変②下方円蓋部の病変図1初診時の下眼瞼結膜の所見下眼瞼結膜および下方円蓋部に巨大乳頭結膜炎様の変化を認めた.図3初診時の上眼瞼結膜の所見図4病理組織像図5治療後巨大乳頭結膜炎様の変化を認めた.胚中心(germinalcenter:GC)が目立結膜の増殖所見は消失した.Cち,CGCと周囲との境界が明瞭である.(63)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C6130910-1810/22/\100/頁/JCOPY反応性リンパ組織過形成(reactivelymphoidhyperplasia:RLH)は消化管や皮膚,肺,眼窩,肝臓などに発生する良性の病変である.RLHは眼付属器のリンパ増殖性疾患の約3割を占めていると報告されており1),結膜における良性のリンパ増殖性疾患ではRLHが圧倒的に多いといわれている.RLHや粘膜関連リンパ組織リンパ腫(mucosa-associatedClymphoidCtis-sue:MALTリンパ腫)は,なんらかの慢性的な抗原刺激が加わることで発症すると考えられている2).結膜CRLHは比較的若い成人に多く,眼瞼結膜や球結膜の充血,流涙を主訴に受診することが多い2).細隙灯顕微鏡検査では,典型例で球結膜や瞼結膜に表面平滑で淡いピンク色の腫瘍がみられるが,結膜濾胞を呈することもある.そのため,アレルギー性結膜炎,春季カタルや慢性結膜炎などと診断されることも少なくない.結膜RLHは片眼性あるいは両眼性に発生し,発育は緩徐である.好発部位は結膜円蓋部であるが,上下の眼瞼結膜にも発生することがある.結膜CRLHとCMALTリンパ腫を検眼鏡的に鑑別することは困難で,生検が必要となる.病理組織学的検査に加え,IgGJH遺伝子再構成,フローサイトメトリーなどを行い総合的に診断する2).結膜CRLHの治療法は,経過観察,外科的切除,冷凍治療などがあるが2),ステロイド,シクロスポリンの局所投与が有効であったという報告もなされている3,4).なお,結膜CRLHの経過観察中にリンパ腫に進行した症例があると報告されおり,注意が必要である5).症例はC60歳代の男性で,右眼の充血を主訴に受診した.上下の眼瞼結膜に巨大乳頭様の変化を認めた(図1~3).左眼には異常所見を認めなかった.痒みの自覚症状はなかったが,アレルギー性結膜炎を疑い抗アレルギー薬の点眼治療を行った.しかし,まったく改善が得られなかった.瞼結膜擦過物を用いた塗抹検鏡検査で多数のリンパ球を認める一方,好酸球が認められなかったこと,下方円蓋部にも病変を認めるようになったことから,MALTリンパ腫を疑い生検を行った.病理組織学的検査(図4)およびフローサイトメトリーを行った結果,結膜CRLHと診断された.ベタメタゾン点眼液をC3回/日で開始したところ,約C1カ月で病変は消失した(図5).低濃度ステロイドに切り替え約C3年間経過観察を行ったが,明らかな再発を認めていない.本症例は巨大乳頭様の変化を瞼結膜に呈した非典型的な結膜CRLHであった.前眼部所見と比べて自覚症状が乏しい場合や,薬物治療に反応しない場合は,本疾患を疑い病理学的な検査を行うべきである.文献1)MannamiCT,CYoshinoCT,COshimaCKCetal:Clinical,Chisto-pathological,andimmunogeneticanalysisofocularadnexalClymphoproliferativedisorders:characterizationCofCmaltClymphomaCandCreactiveClymphoidChyperplasia.CModernCPathologyC14:641-649,C20012)臼井嘉:結膜に生じるリンパ増殖性疾患のエッセンス.あたらしい眼科34:1287-1288,C20173)MoraesCBRM,CNascimentoCM,CNetoCECetal:TopicalCste-roidsCeyeCdropsCinCconjunctivalCreactiveClymphoidChyper-plasia:Casereport.MedicineC96:e8656,C20174)ParikhRN,SandhuHS,Massaro-GiordanoGetal:BenignreactiveClymphoidChyperplasiaCofCtheCconjunctivaCtreatedCwithcyclosporine.CorneaC37:255-257,C20185)FukuharaCJ,CKaseCS,CNodaCMCetal:ConjunctivalClympho-maCarisingCfromCreactiveClymphoidChyperplasia.CWorldCJCSurgOncolC10:194,C2012

腸内細菌とアンチエイジング

2022年5月31日 火曜日

腸内細菌とアンチエイジングCGutMicrobiotaandAnti-AgingMedicine内藤裕二*はじめに国際疾病分類がC30年ぶりに改定され,第C11回改訂版(ICD-11)が公表された.その中で,第CX章エクステンションコードが新設され,その一つに「老化関連(aging-related)」という意味をもつ「XT9T」というコードが作られている.老化が疾病分類に取り上げられたことは重要な意味があり,老化の病態解析が急速に進められている.ゲノム不安定性,テロメアの短縮,細胞老化など老化の九つの特徴も明らかにされ1),老化の治療薬開発も盛んになっている.さらに,老化の病態に対する腸内細菌叢の関与が明らかとなり,腸管の老化(aginggut)を制御することが生活習慣病の予防,健康長寿の延伸につながる可能性を示す重要な成果が報告されてきている.「ヒトを含めた生物の寿命延長(健康長寿)に必要な腸内細菌とは?」という問いに明確に答えることはできないが,暦年齢ではない生物学的年齢の指標として,腸内細菌叢解析から得られる情報が有用である可能性がある.さらに細菌叢解析に加えて,質量分析計を中心にした解析技術の進歩によって,宿主の免疫,炎症,代謝に影響する多くの細菌代謝物の存在が明らかになりつつある.本稿では,腸内細菌叢に着目したアンチエイジングの最前線について解説する.CI生物学的年齢としてのgAge(ジーエイジ)もっともわかりやすく加齢を表す指標は暦年齢であるが,ヒトの老化は必ずしも個々人に同じスピードで起こるものではなく,老化の進行の程度を判定するには暦年齢とは別の老化指標が必要である.そこで,加齢に伴う種々の臓器の機能の低下過程を反映し,身体機能低下から推定される生物学的年齢(biologicalage)が提案されている(表1).そのなかでもCHorvathらが提案したDNAメチル化をベースにしたエピジェネティクス年齢指標CDNAmethylationCAge(DNAmAge)は世界が注目し,研究が進められている2).すでにライフスタイル介入によりCDNAmAgeが減少する若返り研究も報告されている3).さらに生物学的年齢の指標として,375個の蛋白質から評価したプロテオームCAgeや血中サイトカインに着目した指標も提案されている.近年,腸内細菌叢をメタゲノム解析する手法が確立され,腸管の老化を制御することが生活習慣病の予防,健康長寿の延伸につながる可能性を示す重要な成果が報告されてきている.高齢者,百歳以上の人(百寿者とよばれている)の腸内細菌叢の特徴,腸内細菌叢から寿命を予測する試みや,若齢マウスの糞便を高齢マウスに移植することで脳内の加齢性変化を阻害できることも報告された.さらにヒトの腸内細菌叢に影響を与える要因として「食」の重要性が明らかにされつつある.ヒト介入試験によって地中海食,発酵食品,プロバイオティクス,食物繊維などが腸内細菌叢に変化を与え,抗炎症作用,抗加齢に作用する可能性も明らかにされた.こういった生物学的年齢と腸内細菌叢に関する最新学術背景から,腸内環境から生物学的年齢を推定する指標*YujiNaito:京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座〔別刷請求先〕内藤裕二:〒602-8566京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学講座C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(55)C605C図2gAge.clinicを計算するための候補要因表1暦年齢と生物学的年齢暦年齢(chronologicalage)・もっともわかりやすく加齢を表す指標生物学的年齢(biologicalage)・時間の経過(すなわち暦年齢)が老化に直接関係しているわけではない・ヒトの老化は必ずしも個々人に同じスピードで起こるものではない・老化の進行の程度を判定するには暦年齢とは別の老化指標が必要・加齢に伴う種々の臓器の機能の低下過程を反映し,身体機能低下から推定される生物学的年齢NegativePositiveAcceleratorAccelerator(ブレーキ)(アクセル)--=図1腸年齢(gAgeジーエイジ)gAgeを抑制するブレーキ要因健康的食生活地中海食日本食抗炎症食発酵食品高食物線繊食野菜摂取高い身体活動度規則正しい生活嗜好品お茶コーヒーgAgeを進めるアクセル要因不健康な食事高脂肪食高単糖食高塩分食朝食を摂らない外食が多いアルコール都市で育った便秘,残便感硬便便が臭い運動不足喫煙睡眠不足■成人型■高齢者型腸内フローラ比較(門)腸内フローラ比較(属)京丹後市京都市クロストリジウム・クラスターXIVa100%90%ファーミキューテス門ロゼブリア属TOP4は酪酸ファーミキューテス門コブロコッカス属80%を産生する酪酸菌ファーミキューテス門ラクノスピラ科70%ファーミキューテス門ラクノスピラ属60%未分類エリュシペロトリクス科50%未分類ペプトコッカス科40%アナエロスツルンカス属30%[ルミノコッカス属]20%パラバクテロイデス属10%オシロスピラ属0%バクテロイデス属京都市京丹後市-3-2-1012345その他プロテオバクテリアファーミキューテスバクテオイデスアクチノバクテリア21腸内細菌主成分分析(PC3)図5Principalcomponent3(PC3)と死亡率の相関正の相関がある.(文献C8より改変引用)図465歳以上の高齢者を対象にした京都市内と京丹後市の腸内細菌叢の比較京丹後市では,京都市内と比較してプロテオバクテリア門,バクテロイデテス門が減少し,ファーミキューテス門が増加し,属レベルではロセブリア菌などの酪酸産生菌の占有率が高い.(文献C5より許可を得て改変引用)C4ハザード死亡率(HR)-50-2502550ab10080******6040200Days図6Streptococcusthermophilusは線虫の寿命を延長させ酸化ストレスを減少させるStreptococcusthermophilus(ST-T1株,ST-510株)は有意に(***p<0.01)寿命を延長させ(Ca),14日後における細胞内過酸化水素量(BES-HC2O2-Ac)を抑制した(Cb).(文献C9より許可を得て改変引用)Survival(%)0510152025ナッツ類,食物繊維が豊富に含まれる穀類の摂取量が多い人の腸内では,短鎖脂肪酸を産生する細菌(FaecaliC-bacteriumprausnitzii,Roseburiahominisなど)の占有率が高く,抗炎症性に作用することを示した.一方,ファストフードクラスター(肉,フライドポテト,加糖飲料,加工されたスナック類など)は短鎖脂肪酸産生菌が少なく,炎症性の細菌(Blautia,Lachnospiraceaebacteria,Clostridiumbolteaeなど)の占有率と正の相関を示し,宿主には炎症性に作用する11).地中海食はもっとも健康的な食として全死亡率減少効果が示され,その後,多くの横断的研究,介入試験の結果が報告されている.最近,この地中海食の疾病予防,健康増進効果が腸内細菌叢を介している可能性が高いことが報告された.Wangら12)は,2011.2013年に糞便腸内細菌叢検査が実施されたC302名を対象に心血管リスクスコアの減少と地中海食順守スコアの間に相関関係があることを示し,その関連は腸内細菌叢の多様性(Cb多様性主成分CPCo1)により異なることを明らかにした.さらに,地中海食による心保護作用は,Prevotellacopriの占有率が減少したグループでより強力となった.発酵食品も注目されている.日本人は発酵食の頻度は高いものの,欧米人はチーズなどの乳製品以外には食習慣がなく,ヨーグルト,キムチ,コンブチャといった発酵食品による健康効果さらには腸内細菌叢への影響が評価されている.Wastykら13)は,健常人を対象に高食物繊維食と発酵食品群の二群無作為化前向き試験(10週間)を実施した結果,発酵食品が腸内細菌叢のCa多様性を増加させ,宿主の炎症応答を抑制することを明らかにした.19種のサイトカイン,ケモカイン血中濃度が発酵食品群で経時的に低下し,単球,CD4+T細胞のシグナルもCpSTAT5系を除いて抑制されていた.寿命に直接つながる研究ではないが,発酵食品による免疫,炎症への影響は重要な知見であり今後の展開に注目したい.高食物繊維食も短鎖脂肪酸産生の亢進があるが,炎症応答への影響は介入前の腸内細菌叢の多様性に依存することも示された.以上,習慣的な健康食が腸内細菌叢を改善させ,in.ammagingに抑制的に作用している知見が集積されつつあり,生物学的年齢に対する食介入の効果をCgAgeから評価することの重要性を示している.CV糞便移植による寿命延長Barcenaら14)は,早老症の二つの異なるマウスモデルを用いて,プロテオバクテリア門,シアノバクテリア門の占有率の増加,およびウェルコミクロビウム門の占有率の減少,多様性の低下を特徴とするCdysbiosisが若年期のマウスに生じていることを見いだした.また,野生型マウスからの糞便移植療法は,二つの早老症モデルマウスの老化に伴う体温の低下,低血糖,腎血管周囲石灰化といった所見を軽減し,寿命を延長させることを報告した.さらに,Akkermansiamuciniphilaの細菌移植によっても同様の効果が確認している.回腸内容物のメタボローム分析により,早老症マウスはCdysbiosisの結果,二次胆汁酸生成経路が障害されており,Akkermansiamuciniphila菌移植によりその障害が回復していた.この結果から,早老症モデルに対して正常マウスの糞便移植を行うことで,胆汁酸代謝の回復を伴って老化現象が抑制され,健康寿命・個体寿命が延長することが明らかにされた.この研究は加齢現象における重要な情報が含まれている.第一に百寿者において増加していたCAkkermansiamuciniphila菌15)が,マウスの早老症の寿命延長に効果があることが確認されたことである.第二にCAkker-mansiamuciniphila菌が胆汁酸代謝を制御する詳細は明らかではないが,本菌と胆汁酸代謝との相関はCUshi-rodaら16)も報告している.第三に加齢における腸内細菌叢による胆汁酸代謝の重要性が明らかになったことである.最終的にこの胆汁酸のメカニズムは,胆汁酸が腸粘膜の保護に関与している遺伝子CReg3g発現が亢進し,T.3といった蛋白質が腸上皮から多く分泌され,腸粘膜の粘液層の非薄化を抑制し,粘膜保護機構に作用するが明らかにされている.腸の老化を抑制することが,全身の健康長寿につながることを明らかにした点で価値ある研究と考える.胆汁酸プロファイルは血中,便中でモニターすることが可能であり,gAgeの指標として期待される.若齢マウスの糞便を高齢マウスに移植すること(fecalmicrobiotatransplantation)で,加齢によって脳内に生610あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022(60)-’C-

腸内細菌とアトピー性皮膚炎

2022年5月31日 火曜日

腸内細菌とアトピー性皮膚炎RelationshipbetweenGutMicrobiotaandAtopicDermatitis吉原渚*石川大**池田志斈*はじめに近年,アレルギー疾患の発症の要因に腸内細菌が重要な役割を果たしている可能性に関して,ヒトおよび動物モデルにおける研究結果が報告され,注目されている.正常の腸内細菌叢が炎症を抑制し,腸内細菌叢の異常が炎症を誘導する機序は不明でありつつも,徐々に詳細が解明されつつある.本稿では,アトピー性皮膚炎と腸内細菌の関係,プロバイオティックスによる発症予防・治療について概説する.CIアトピー性皮膚炎の病態アトピー性皮膚炎は増悪と寛解を繰り返す掻痒のある湿疹を主病変とする慢性炎症性皮膚疾患である1).近年アトピー性皮膚炎の病態は,「皮膚バリア機能異常」「2型免疫反応を主とする免疫異常」「痒み」の三つからなることが理解されるようになってきている2)(図1)3).まず,皮膚のバリア機能異常は,遺伝因子・環境因子から生じてくると考えられている.日本人のアトピー性皮膚炎患者のC20~25%にフィラグリン遺伝子異常があることが報告されている4).また,この遺伝子異常がなくとも,免疫異常を背景にフィラグリンなどの角化関連蛋白の発現低下が惹起され,結果としてバリア機能異常を生じる5).バリア機能異常による抗原曝露が生じると,表皮角化細胞からCIL-25,IL-33,TSLPなどのサイトカインが放出されCTh2細胞やC2型自然リンパ球を主体としたC2型免疫反応が生じる6).2型免疫反応による免疫異常が起きると,痒みを引き起こす神経伝達物質やサイトカインの放出が促されることが知られている.痒みによる掻破行動は皮膚バリア機能異常をきたす.このように,「バリア機能異常」「免疫異常」「痒み」は相互に干渉し合い,三者が一体となってアトピー性皮膚炎の病態を形成していると考えられている.アトピー性皮膚炎は多病因性の疾患であり,アトピー素因(体質)とバリア機能の脆弱性などに起因する皮膚を含む臓器の過敏性を背景に,さまざまな病因が複合的にかかわることがアトピー性皮膚炎の病態形勢に関与する7).その一つとして,腸・肺・皮膚などに生息する微生物叢の構成異常がアトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患の発症や増悪に関与している可能性があり,注目されている8).CII腸内細菌ヒトの生体には,微生物叢(microbiota)とよばれる多数の微生物が外界との境界に存在し,恒常性を保っている.腸内常在細菌叢は正常の免疫機能の成熟のために必須であると考えられている.ヒトの腸内細菌叢は,Actinobacteria,Bacteroidetes,Deinococcus-Ther-mus,Firmicutes,Fusobacteria,Lentisphaerae,Pro-teobacteria,Spirochaetes,Synergistetes,Teneri-cutes,VerrucomicrobiaのC11門から構成される.そのうち,ヒトの腸内の微生物叢の分布はCBacteroidetes門(バクテロイデス),Firmicutes門(ファーミキューテ*NagisaYoshihara&ShigakuIkeda:順天堂大学大学院医学研究科皮膚科学アレルギー学**DaiIshikawa:順天堂大学大学院医学研究科消化器内科学教室,順天堂大学腸内細菌療法研究講座〔別刷請求先〕吉原渚:東京都文京区本郷C2-1-1順天堂大学大学院医学研究科皮膚科学アレルギー学C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(47)C597環境因子遺伝因子皮膚バリア機能異常.破/IL-4/IL-13によるitch-scratch-cycleTSLPフィラグリン減少アルテミン抗原曝露TARC/TSLP/IL-25/IL-33NGFセマフォリン3A.破→TARC免疫機能異常痒み(Th2サイトカイン).痒のメディエーター(IL-4/IL-31)図1アトピー性皮膚炎の病態皮膚バリア機能異常,Th2サイトカインによる免疫異常,痒みが一体となって,アトピー性皮膚炎の病態を形成している.(文献C3より改変引用)表1健常成人の腸内細菌叢を構成する主要な四つの門門健常成人における構成率代表的な菌/属CFirmicutes50~C80%・CEnterococcus属・CLactobacillus属・CPediococcus属・CLactococcus属・Streptococcus属乳酸菌は上記の複数の菌属を含む・CClostridium属CBacteroidetes10~C20%・CBacteroides属CActinobacteria5~C10%Bi.dobacterium属(ビフィズス菌)CProteobacteria1%・大腸菌・CEnterobacter属・CKlebsiella属それぞれの門に属する菌および属を示す.健康離乳食DNA健康DNA16S65~80歳人工乳肥満16SDNA16S16S16S栄養失調母乳栄養100歳以上DNA16SFirmicutesBacteridetesActinobacteriaProteobacteriaOthers胎児期乳児期学童期成人期老年期図2加齢に伴う腸内細菌叢の変化DNAメタゲノム解析結果およびC16SrRNA遺伝子解析結果を示している.おもに,Firmicutes門,Bacteroidetes門,Actinobacteria門,Proteobacteria門の四つの門で構成されている.(文献C11より改変引用)便1gあたりの菌数Esherichiacoli,StreptococcusCBacteroides,Eubacterium,PeptococcaceaeC1012C1010C108C106C104C102C出生離乳期幼児期成年期老年期乳児期図3加齢に伴う腸内細菌叢の変化3歳頃までに成人型の分布に変化していくことが報告されている.(文献C13より改変引用)属が増殖し,離乳期まで最優勢菌となる.離乳後,離乳食が開始されると,Bacteroides属やCClostridium属などが増殖し,3歳頃までに成人型の分布に変化していくことが報告されている10,13)(図2,3)13).その後,環境や食事,疾患,薬剤などの影響を受けて,個々の腸内細菌叢が構成される.CIII腸内細菌叢の働き腸管は重要な免疫組織の一つであり,免疫応答の誘導に大きな影響を与えることが知られている.腸管免疫を代表する免疫応答の一つとして,経口免疫寛容が知られている.これは,経口的に抗原をする摂取すると,その後非経口的に同一抗原を投与したときに,抗原特異的免疫応答が抑制されることをさす.抗生物質投与や無菌条件下の腸内細菌叢が存在しない無菌動物を用いた解析では,この経口免疫寛容が作用せず,抗原に対するCIgEの高値がみられるとの報告がある14).また,無菌動物を用いた解析において,腸内細菌の存在が腸管免疫系の形成・維持に必須の役割を担っていることが明らかになってきた15,16).腸内細菌はヒトが分解できない食物繊維を分解する酵素を有し,代謝の末に産生された短鎖脂肪酸はエネルギー源となる.この代謝産物である短鎖脂肪酸とともに,マクロファージ,樹状細胞,3型自然リンパ球などに作用してCIL-10産生,制御性CT細胞への分化を誘導する.また,ヘルパーCT細胞の分化・増殖,IgA抗体産生CB細胞の誘導にも深くかかわり,上皮バリア機能の維持に関与している.その他,代謝系や腸内の恒常性維持にも重要な役割を果たしている15,16).腸内細菌叢を構成する菌種の種類が減少し,多様性が低下した状態であるディスバイオーシス(dysbiosis)は,炎症性腸疾患やアレルギー疾患,膠原病,糖尿病などさまざまな疾患との関連が示唆されている.CIVアトピー性皮膚炎と腸内細菌叢出生直後の腸内の免疫反応は通常CTh2優位のパターンを示し,その後,出生早期の腸内細菌曝露により,Th1型免疫反応の誘導や制御性CT細胞の活性化がおき,Th1優位のパターンへシフトしていくのが健常な免疫応答であるが,これが正常に行われないと,Th2型免疫反応の抑制ができず,アレルギー反応が持続し,アレルギー疾患の発症を引き起こすとの仮説があり,アレルギー疾患発症に腸内細菌叢の異常が関与しているのではないかと考えられている17,18).これまでに,アレルギー疾患と腸内細菌との関連について数多く報告されており,アトピー性皮膚炎との関連も報告されている.1999年にCBjorkstenらはC2歳でのアレルギー児C27人と非アレルギー児C36人の腸内細菌を比較し,アレルギー児ではCLactobacillusやCBacteroidesの割合が低く,大腸菌群や黄色ブドウ球菌などの好気性菌が多かったと報告している19).さらに,2003年にCWatanabeらは,日本人で,平均年齢C7.6C±6.0歳のC30人のアトピー性皮膚炎患者と対象健常者C68人の腸内細菌を比較し,アトピー性皮膚炎患者ではCBi.dobacteriumの割合が有意に低く,疾患の重症度と逆相関していたと報告している20).また,特定の菌種の割合が増加していることや菌種の多様性の低下が,アレルギー疾患発症のリスク因子であると考えられている.腸内細菌叢の異常がアレルギー疾患を引き起こすのか,アレルギー疾患の存在が腸内細菌叢の異常をきたすのかに関する検討が過去に行われている.2001年にBjorkstenらは,新生児C44名に対して前向き研究を行い,腸内細菌とアレルギー疾患発症率に関して検討している.その結果,2歳までにアレルギー疾患を発症した乳児の腸内細菌では,生後C1週,3カ月,1歳時点での便中CBi.dobacteriumが健常児に比べ著明に少ないことを報告した.これらの差はアレルギー症状出現前から認められていたため,腸内細菌の異常がアレルギー疾患発症に関与することが示唆された21).そのほか,出生後早期の腸内細菌叢の多様性の低下が,その後のアトピー性皮膚炎の発症リスクであることに関する報告22)もされている.さらに,とくにCFirmicutes門のCFaecalibacteriumprausnitziiの減少がアトピー性皮膚炎の発症リスクであるといった特定の菌種に関する報告もある23).Faecali-bacteriumprausnitziiは酪酸産生菌の一つで,制御性CT細胞を誘導し,腸管免疫の恒常性と炎症制御に関与している.酪酸の産生低下が腸管粘膜の障害を引き起こし,600あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022(50)アレルゲンなどの体内への侵入や炎症性サイトカインの産生を誘導し,最終的に皮膚においてC2型免疫反応を引き起こすのではないかと考えられている.プロバイオティクスを投与し,腸内細菌叢の構成や腸内の免疫反応の並行を保つことでアレルギー疾患の予防・治療ができるのではないかと考えられ,アレルギー疾患に対するプロバイオティクス関連の研究が進められている.CVプロバイオティクス,プレバイオティクス,シンバイオティクスとはプロバイオティクスは「適切な量で投与することにより,宿主に健康上の利益を与える生きた微生物,またはそれを含む食品」と定義され,一般にCLactobacillus,Bi.dobacterium,Propionibacteriumなどの生菌が単独または複数の組み合わせで含まれることが多い.プレバイオティクスとは,生菌は含まないが「宿主の腸内に生息する有用菌の増殖,代謝活動の促進をもたらす難消化性食物成分」で,フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖,食物繊維,難消化性でんぷんなどをさす.プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方の組み合わせをシンバイオティクスという.一般にプロバイオティクスの作用は,病原性微生物に対する感染防御作用,粘膜上皮細胞のバリア機能増強があり,アレルギー疾患にかかわる作用としては宿主免疫系の調節作用などがあげられる.プロバイオティクスは,マクロファージや樹状細胞など自然免疫系を活性化させるほか,腸管リンパ組織を刺激し,分泌型CIgA産生CB細胞誘導の産生を亢進させるなど獲得免疫系も活性化させることが知られている.その他,Bi.dobacteriumやCLactobacillusがそれぞれ抗原特異的CIgE抗体の産生を抑制する働きがあることに関する報告24,25)やプロバイオティクスのCtollClikeCreceptorを介してCIL-10産生を増強させたといった報告26)もなされている.CVIプロバイオティクス,プレバイオティクスによるアトピー性皮膚炎の発症予防・治療効果これまでにプロバイオティクスとプレバイオティクスによるアレルギー疾患発症予防や治療効果について国内外で多数の臨床研究が行われてきている.まず,プロバイオティクスのアレルギー疾患の予防や治療に関して示す.これまでにいくつかのメタ解析があるが,報告の対象の多くが乳幼児期のアトピー性皮膚炎に対する介入研究で,成人のアトピー性皮膚炎患者を対象とした報告は少ない.Kalliomakiらは,アトピー性皮膚炎の家族歴をもつ妊婦を対象としたプラセボ対照ランダム化比較試験において,妊娠末期・産後のプロバイオティクスの継続的な摂取により,児のアトピー性皮膚炎発症に伴う臨床症状が有意に軽減されたと報告した27).その後,同様のプロトコールによるプロバイオティクスによる臨床研究結果が報告されている.これらの臨床研究で用いられている菌の多くは乳酸桿菌(LactobacilC-lus)となっている.アトピー性発症予防に関しては,多くのシステマティックレビューで,妊娠中の母親と出生後の乳児へのプロバイオティクスがアトピー性皮膚炎の発症を予防する効果があると結論づけている28).また,単一菌種投与よりも複数菌種投与のほうがアトピー性皮膚炎の発症予防効果が強いとされている.一方で,出生後の乳児のみへの投与,乳酸菌の一菌種のみの投与については効果なしとしている文献や,プロバイオティクスの効果が再現できなかったとしている臨床試験もある.また,乳児期の発症予防効果ありとしていたランダム化比較試験でも,長期的には予防効果が消失したとしている報告もある.プレバイオティクス単独については,予防効果ありとする報告はあるが,系統的レビューでは予防効果なしと結論づけている29).以上より,プロバイオティクスに関してはアトピー性皮膚炎の発症予防の効果が期待できるもののエビデンスは低く,対象患者,投与時期,菌種などに具体的な方法についてはさらなる検討が必要であり,現時点では予防方法として妊婦や乳児に推奨できる段階ではない1).次に,アトピー性皮膚炎の症状改善にプロバイオティクスやプレバイオティクスを投与することが有用であるかに関して述べる.Makrgeorgouらはプロバイオティクスによるアトピー性皮膚炎の症状改善に関するメタ解析を行い,プロバイオティクスの投与によるアトピー性(51)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C601皮膚炎の症状改善効果は少しあるいは認められなかったと報告している30).プレバイオティクス単独投与によるアトピー性皮膚炎症状改善を評価したシステマティックレビューやメタ解析結果は報告されていないが,Bo.enskyらはプレバイオティクス単独投与による乳児アトピー性皮膚炎症状改善を評価したランダム化比較試験を実施したが,プレバイオティクス単独投与による有意な症状改善は認められなかったと報告している31).他方,プレバイオティクス単独投与が乳児アトピー性皮膚炎症状改善に有効であったとの報告もあり,一貫した結果は報告されていない.腸内細菌叢の異常とアレルギー疾患発症との関連が示唆されていることから,プロバイオティクスの有効性を期待する論理的根拠はあるが,アレルギー疾患の発症予防や治療にプロバイオティクスあるいはプレバイオティクスの積極的な使用を推奨する提言は,国内外含め現時点ではない.おわりに腸内細菌叢の異常(dysbiosis)がアレルギー疾患の発症や病態に関連することは徐々に解明されつつあるが,未だその詳細は明確にはわかっていない.プロバイオティクスやプレバイオティクスに関する臨床研究は現在も実施されており結果が報告されている.被検者やプロバイオティクスの構成などの特徴を適切に評価した検討が行われ,どの個人がどのプロバイオティクスにより恩恵を受ける可能性があるのかなどの理解が深まることが期待される.順天堂医院においては,2019年より消化器内科・小児科・皮膚科の共同研究として,「食物アレルギーとアトピー性皮膚炎患者のヒト細菌叢と病勢との関連についての検討」が開始されている.アレルギー疾患と細菌叢の解析を進めるとともに,将来的には便移植によるアレルギー疾患への治療介入を模索している.今後,国内外において,アレルギー疾患に影響を与える特定の腸内細菌の同定や,腸内細菌へのアプローチによる新たな治療法や予防法の構築など,さらなる研究の進展に期待したい.文献1)佐伯秀久,大矢幸弘,古田淳一ほか:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2021.アレルギー70:1257-1342,C20212)KabashimaK:Newconceptofthepathogenesisofatopicdermatitis:interplayamongthebarrier,allergy,andpru-ritusasatrinity.JDermatolSciC70:3-11,C20133)NomuraT,HondaT,KabashimaK:Multipolarityofcyto-kineaxesinthepathogenesisofatopicdermatitisintermsCofCage,Crace,Cspecies,CdiseaseCstageCandCbiomarkers.CIntCImmunolC30:419-428,C20184)NomuraCT,CAkiyamaCM,CSandilandsCACetal:Speci.cC.laggrinCmutationsCcauseCichthyosisCvulgarisCandCareCsigni.cantlyCassociatedCwithCatopicCdermatitisCinCJapan.CJInvestDermatol128:1436-1441,C20085)HowellMD,KimBE,GaoPetal:CytokinemodulationofatopicCdermatitisC.laggrinCskinCexpression.CJCAllergyCClinCImmunolC120:150-155,C20076)KimBS:InnateClymphoidCcellsCinCtheCskin.CJClnvestCDer-matolC135:673-678,C20157)WahlgrenCF:ItchCandCatopicdermatitis:clinicalCandCexperimentalCstudies.CActaCDermCVenereolSuppl(Stockh)C165:1-53,C19918)ChernikovaCD,CYuanCI,CShakerM:PreventionCofCallergyCwithCdiverseCandChealthymicrobiota:anCupdate.CCurrCOpinPediatrC31:418-425,C20199)QinCJ,CLiCR,CRaesCJCetal:AChumanCgutCmicrobialCgeneCcatalogueestablishedbymetagenomicsequencing.NatureC464:59-65,C201010)TsujiH,MatsudaK,NomotoK:Countingthecountless:CbacterialCouanti.cationCbyCtargetingCrRNACmoleculesCtoCexploreCtheChumanCgutCmicrobiotaCinChealthCandCdisease.CFrontMicrobiolC9:1417,C201811)OttmanCN,CSmidtCH,CVosCWMCetal:TheCfunctionCofCourmicrobiota:whoisoutthereandwhatdotheydo?FrontCellInfectMicrobiolC2:104,C201212)ShaoY,ForsterSC,LawleyTDetal:StuntedmicrobiotaandCopportunisticCpathogenCcolonizationCinCcaesarean-sec-tionbirth.NatureC574:117-121,C201913)MitsuokaT:Intestinal.oraandhumanhealth.AsiaPacJClinNutrC5:2-9,C199614)SudoCN,CSawamuraCS,CTanakaCKCetal:TheCrequirementCofintestinalbacterial.oraforthedevelopmentofanIgEproductionCsystemCfullyCsusceptibleCtoCoralCtoleranceCinduction.JImmunol159:1739-1745,C199715)HondaCK,CLittmanDR:TheCmicrobiotaCinCadaptiveCimmuneChomeostasisCandCdisease.CImmunolC30:759-795,C201216)RoundCJL,CMazmanianSK:TheCgutCmicrobiotaCshapesCintestinalCimmuneCresponsesCduringChealthCandCdisease.CNatRevImmunol9:313-323,C200917)BottcherCMF,CJenmalmCMC,CBjorkstenB:ImmuneCresponsesCtoCbirchCinCyoungCchildrenCduringCtheirC.rstC7C602あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022(52)-