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3 種類の涙道内視鏡における焦点距離の比較

2022年9月30日 金曜日

《第9回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科39(9):1241.1244,2022c3種類の涙道内視鏡における焦点距離の比較岩崎明美眞鍋洋一大多喜眼科CComparisonofFocalLengthsinThreeTypesofDacryoendoscopeAkemiIwasakiandYoichiManabeCOtakiEyeClinicC目的:涙道内視鏡で観察すると閉塞部が小さなくぼみとして見えることがある.今回,3種類の涙道内視鏡を使い,距離を変えてくぼみの観察をしたので報告する.方法:粘土にC0-0ブジー(直径C0.43mm),5号釣り糸(直径C0.36mm),3号釣り糸(直径C0.27Cmm)で作製したC3種類のくぼみを,ファイバーテック社の涙道内視鏡CMD10,DD10,CK10で0.5.5.0Cmmの距離から観察した.結果:0.43CmmのくぼみはCMD10では2.5Cmm,DD10ではC0.5.2Cmm,CK10ではC0.5.5Cmmで鮮明に観察できた.0.36,0.27CmmのくぼみはCDD10ではC0.5Cmmの距離でやや不鮮明だった.結論:MD10は2.5Cmm,DD10はC0.5.2.0Cmm,CK10はC0.5.5Cmmで焦点が合うことがわかった.焦点距離が違う涙道内視鏡を使う際には,観察距離に気をつけて検査をする必要があることがわかった.CPurpose:Whenobservedwithadacryoendoscope,anareaofobstructionmayappearasasmalldimple.Thepurposeofthisstudywastocomparethreedi.erenttypesofdacryoendoscopetoobservethedimpleatdi.erentdistances.CMethods:ThreeCtypesCofCdimplesCmadeCinCclayCwithCaC0-0probe(0.43mm)C,CaCNo.C5C.shingCline(0.36Cmm)C,CandCaCNo.C3C.shingline(0.27Cmm)wereCobservedCfromCaCdistanceCof0.5.5.0CmmCwithCdacryoendo-scopesMD10,DD10,andCK10(Fibertech)C.Results:The0.43Cmmdimpleswereclearlyobservedatdistancesof2.5CmmCinCMD10,0.5.2CmmCinCDD10,Cand0.5.5CmmCinCCK10.CTheC0.36CandC0.27CmmCdimplesCwereCslightlyCunclearatdistancesof0.5CmminDD10.Conclusion:MD10wasfoundtofocusat2.5Cmm,DD10at0.5.2.0Cmm,andCK10at0.5.5Cmm.Whenusingdacryoendoscopeswithdi.erentfocaldistances,itisnecessarytopaycloseattentiontotheobservationdistance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(9):1241.1244,C2022〕Keywords:涙道内視鏡,焦点距離,総涙小管閉塞,鼻涙管閉塞.dacryoendoscope,focallength,commoncanalic-ularobstruction,nasolacrimalductobstruction.Cはじめに涙道内視鏡1)はC2002年に販売開始され,2012年には涙道内視鏡を使用した涙管チューブ挿入術が保険収載されるようになり,涙管チューブ挿入術には必須となってきている.各社からさまざまな内視鏡が発売され,現在はC10,000画素が主流となり,焦点距離や焦点深度の違いにより,各内視鏡の特徴に違いが出てきている.以前筆者らは,ファイバーテック社の従来型涙道ファイバースコープのCMD10と,2019年に発売されたCDD10では,0.1.5mmはCDD10の画像が優れ,2.10mmはCMD10の画像のほうが観察しやすいことを報告している2).涙道内視鏡で閉塞部を開放する際に,狭窄や閉塞している部分がくぼみとして観察でき,それを目印として開放するが,実際のくぼみの大きさと内視鏡による見え方について検討した報告はない.今回,3種類の内視鏡を使い,距離を変えてくぼみの観察をしたので報告する.CI方法粘土にC0-0ブジー(直径C0.43Cmm),5号釣り糸(直径C0.36mm),3号釣り糸(直径C0.27Cmm)を押し当て,3種類のくぼみを作る(図1).ファイバーテック社の涙道内視鏡MD10,DD10,CK10のC3種類の内視鏡を使用して,0.5〔別刷請求先〕岩崎明美:〒298-0215千葉県夷隅郡大多喜町久保C166大多喜眼科Reprintrequests:AkemiIwasaki,M.D.,OtakiEyeClinic,166Kubo,Otaki-machi,Isumi-gun,Chiba298-0215,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(83)C1241mm,1.0mm,1.5mm,2.0mm,3.0mm,4.0mm,5.0Cmmの距離からくぼみを観察し,得られた画像を記録し比較した.カメラはCFC-304(ハイレゾルーション),光源システムはCFL-301を使用した.距離が正確に測定できるように,マイクロメータ─(OptoSigma社製CRS-20-30)を使用した.なお,本研究は大多喜眼科倫理委員会による適切な審査を受け承認を得て行った.図1くぼみをつけた粘土①C0-0ブジー(直径0.43mm),②C5号釣り糸(直径0.36Cmm),③C3号釣り糸(直径C0.27Cmm)でくぼみをつけた..はくぼみを示す.II結果直径C0.43Cmmのくぼみは,MD10ではC0.5Cmm,1.0Cmm,1.5Cmmでは輪郭がぼやけて不鮮明であった.一方C2.0Cmm,3.0Cmm,4.0Cmm,5.0Cmmではくぼみから離れるため小さく映るものの,焦点の合った鮮明な画像が得られた.DD10ではC0.5mmは少し不鮮明だがくぼみは確認でき,1.0mm,1.5Cmm,2.0Cmmの画像は鮮明,それ以上の距離ではくぼみとは確認できるが不鮮明な画像であった.CK10ではC0.5.C5.0Cmmまで遠くになると小さくなるものの,鮮明な画像が得られた.CK10は他の内視鏡と比べ画角が広いことが一緒に撮影した定規のメモリ(1メモリC0.5Cmm)から確認できた(図2).直径C0.36Cmm,0.27Cmmのくぼみでは,0.5Cmmの距離でDD10はやや不鮮明になったが,CK10では観察でき,その他は,ほぼ同様の結果が得られた(図3,4).CIII考按今回の研究で観察した直径C0.27.0.43Cmmのくぼみの大きさは,実臨床で内視鏡で得られる総涙小管狭窄や閉塞の際のくぼみと近似した画像であった.涙道手術の術者は,総涙小管閉塞を開放する際に直径C0.3.0.4Cmmくらいの小さなくぼみを探して治療していると推察できた.涙道内視鏡で閉塞部を探す際,閉塞部を明瞭に観察できれ距離0.5mm1.0mm1.5mm2.0mm3.0mm4.0mm5.0mmMD10DD10CK10図20.43mmのくぼみの観察結果0.43CmmのくぼみをCMD10,DD10,CK10のC3種の涙道内視鏡でC0.5.5.0Cmmの距離から観察した結果.MD10は2.5Cmm,DD10はC0.5.2.0Cmm,CK10はC0.5.5Cmmで焦点が合っている.MD10のC0.5Cmmは無地画面,MD10のC1.0mm,1.5Cmmは実際のくぼみより広い部分が暗くなっている.1242あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(84)距離0.5mm1.0mm1.5mm2.0mm3.0mm4.0mm5.0mmMD10DD10CK10図30.36mmのくぼみの観察結果DD10はC0.5Cmmでやや不明瞭である.距離0.5mm1.0mm1.5mm2.0mm3.0mm4.0mm5.0mmMD10DD10CK10図40.27mmのくぼみの観察結果DD10はC0.5Cmmでやや不明瞭である.ば容易に治療ができる.しかし,実際は閉塞部がはっきりせず,周囲の画像より少し暗い部分を探す,あるいは観察できる画像がぼやけて「無地画面3)(=不鮮明だが色で判定する状態)」のまま,仮道をあけてしまっているのではないか,あるいは今どこの部位を見ているのだろうかと推測しながら治療をすることがある.直径C0.43CmmのくぼみをCMD10でC1.0Cmmの距離から観察した画像のように,焦点が合わずに不鮮明になったくぼみは,やや広がりをもって暗く映ることがわかった.以前からいわれている「少し暗い部分を開放する」というのは,くぼみが不鮮明に観察されている状態であると推察できた.また直径C0.43CmmのくぼみをCMD10でC0.5Cmmの距離から観察した画像は,全体がぼやけたピンク色になっている.このように焦点が合わずに近づきすぎたときに「無地画面」となることもわかった.どちらも内視鏡の焦点距離と対象物の距離が合わないときに起きる現象であるとわかった.(85)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1243表1距離による内視鏡の見え方のまとめ距離CmmC0.5C1.0C1.5C2.0C3.0C4.0C5.0CMD10C×××○C○C○C○CDD10C△C○C○C○C×××CK10C○C○C○C○C○C○C○○は明瞭に観察可能,△はくぼみの大きさにより不鮮明,C×は不鮮明.今回の研究で,観察しやすい距離は各内視鏡により違いがあることがはっきりした.3種類の大きさのくぼみは,焦点が合っていればどの内視鏡でも確認できたが,MD10では2.5mm,DD10ではC0.5.1.5mm,CK10ではC0.5.5mmに焦点が合うことがわかった(表1)焦点が合う距離を理解して,その距離を保ちながら治療をすれば,涙道内視鏡手術で見ながら開放することができる.しかし,実臨床では,MD10を使用しているときは,近づきすぎによる無地画面が発生しやすい.MD10で開放する際はシース4)でC2Cmm以上の距離を保ちながら観察し,画像が不鮮明になったときは一度手前に内視鏡を引いて確認するとよいと考えられる.DD10は近方で焦点が合い,かつ近方の拡大効果もあるため,総涙小管閉塞の開放は行いやすい.しかし,鼻涙管閉塞でやや離れた部分を探すとき,画像は不鮮明になる.鼻涙管を開放する際は近づいて探す必要があるが,近づくと画角が狭くなってしまうので,内視鏡の先端を少し動かして見落としている角度がないか探す必要がある.また,シースをC2Cmm以上内視鏡の先端から伸ばすと画像が不鮮明になることに留意するとよいと考える.CK10はC2020年にファイバーテック社から発売された内視鏡でCMD10,DD10と同様のC10,000画素であるが,遠近ともに焦点が合って観察しやすい.これは対物レンズに組みレンズを使用していて,焦点深度が深くなっているためである.画角が少し広いために,遠方のくぼみが少し小さく見えることに留意して観察すれば,今までの内視鏡より治療が容易になる.涙道手術の術者は,使用している涙道内視鏡の特性をよく理解して適切な焦点距離を保つことで,涙道内視鏡治療の際,くぼみを見逃さずに治療が行えると考える.文献1)鈴木亨:涙道ファイバースコピーの実際.眼科C45:C2015-2023,C20032)岩崎明美,眞鍋洋一:涙道内視鏡の距離による見え方の違いの検討.眼科62:617-620,C20203)宮久保純子:眼科診療のコツと落とし穴C3.p226-227,中山書店,20084)杉本学:涙道シース.眼科手術C21:471-474,C2008***1244あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(86)

基礎研究コラム:ミトコンドリアと代謝解析

2022年9月30日 金曜日

ミトコンドリアと代謝解析ミトコンドリアミトコンドリアは真核生物細胞のエネルギー源であるアデノシン三リン酸(adenosinetriphosphate:ATP)を生み出す細胞内小器官であり,解糖系と比較すると約C15倍のCATPを生成し,生命活動に必要なCATPのC95%を担っています.一方で,ミトコンドリアはエネルギー代謝だけではなく,細胞情報伝達や増殖,分化,細胞死など,さまざまな生体内プロセスに関与することが近年明らかになっています.たとえば,ミトコンドリアの機能不全はCAlzheimer病,糖尿病などの加齢により発症しやすくなる疾患を引き起こす原因となり,それに伴う代謝経路変化は細胞内の病的変化を反映します1).このようにミトコンドリアは細胞内エネルギー代謝だけではなく,生命活動の中心的役割を担うため,創薬研究におけるターゲットとして注目を集めています.代謝解析細胞の代謝状態を知る方法としていくつかの方法があります.細胞内の代謝関連のCmessengerRNAはトランスクリプトーム解析,代謝酵素関連蛋白質の発現量はプロテオーム解析,代謝産物はメタボローム解析,代謝物質の速度や物質の流れを解析するための安定同位体を用いたトレーサー解析などは,細胞内の情報を知ることができる反面,細胞を回収する時点での細胞内の状態,いわばその瞬間でのスナップショット的な情報という制限がつきます.一方で,細胞外バイオプロファイル(培養液中のグルコースやアミノ酸などのC●角膜内皮機能不全ドナー(43歳,女性)酸素消費速度/cell(pmol/min)0.07●健常ドナー(55歳,男性)0.060.050.040.030.020.010020406080100(min)図1角膜内皮機能不全ドナー角膜と健常ドナー角膜における内皮細胞のミトコンドリア機能の差異脱共役剤であるCFCCPを添加することで測定される最大酸素消費速度(MaxOCR)は,生体内のミドコンドリアによるCATP活性を反映していると考えられている.沼幸作京都府立医科大学眼科学教室CBuckInstituteforResearchonAging定量評価)や細胞外フラックスアナライザー(解糖系とミトコンドリア呼吸のバランスなどの解析)は,取得できる情報は限られますが,代謝情報を生細胞のまま得られるというメリットがあります.通常はこれらを組み合わせてその細胞の代謝状態を考察します.眼の領域ではどうでしょうか角膜内皮細胞や網膜色素上皮細胞などがミトコンドリアを豊富に含有する細胞として知られています.たとえば,角膜内皮機能不全に対する新規再生医療となりえる培養ヒト角膜内皮細胞注入療法では,注入される細胞の質が重要です2).筆者らは細胞外フラックスアナライザーを用い,細胞注入療法に適する質を有する細胞の最大酸素消費速度(maximumCoxygenCconsumptionrate:MaxOCR)が,それ以外の細胞と比較し有意に高いことを示しました3).このCMaxOCRは生体内のCATP活性を反映すると考えられており,これによって細胞の質を評価する手段としてミトコンドリア機能評価が有用である可能性が示唆されました.さらに,ドナー角膜を用い,角膜内皮機能不全をきたした角膜内皮細胞では,健常な角膜内皮細胞と比較し,MaxOCRが有意に低下していることを示しました(図1).これは,角膜内皮機能不全に至った角膜内皮細胞がミトコンドリア機能不全をきたしている可能性を示す結果です.今後の展望角膜内皮機能不全に対する標準治療は現在のところ角膜移植しかありません.しかし今後,角膜内皮細胞のミトコンドリアや代謝機能をターゲットにした研究が進展すれば,角膜内皮機能不全に有効な治療薬が現実になる日も遠くないかもしれません.文献1)ChenCJX,CYanSD:Amyloid-beta-inducedCmitochondrialCdysfunction..JAlzheimer’sDis.12:177-184,C20072)UenoCM,CTodaCM,CNumaCKCetal:SuperiorityCofCmatureCdi.erentiatedCculturedChumanCcornealCendothelialCcellCinjectionCtherapyCforCcornealCendothelialCfailure.CAmJOphthalmol237:267-277,C20223)NumaK,UenoM,FujitaTetal:Mitochondriaasaplat-formfordictatingthecellfateofculturedhumancornealendothelialcells.InvestOphthalmolVisSci61:10,C2020(73)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12310910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:硝子体腔内リンパシステム-その2(研究編)

2022年9月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載232232硝子体腔内リンパシステム.その2(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●脳内のリンパシステム前項の続きである.従来,脳にはリンパ組織がないと考えられてきたが,近年の研究で,脳硬膜や軟膜内にprelymphaticcapillarysystemの存在する可能性が報告されている1).一方,脳表面および脳実質内の血管周囲腔には,アストロサイトの足突起がグリア境界膜を形成している.この足突起にあるアクアポリンC4が,水移動を促進しており,グリアが介在するリンパシステムという意味でCglymphaticsystemとよばれている2).C●Bursapremacularisと脳内リンパ組織脳表面のグリア境界膜が脳軟膜に接する構造は,網膜でいうとCMuller細胞の基底膜である内境界膜が,bursapremacularis(BPM)に接しているのと同じ位置関係にある(図1)3).脳軟膜の肥満細胞を染めたトルイジンブルー染色(図2a)と,筆者らの報告したCBPMのトルイジンブルー染色(図2b)は非常によく似ている4,5).また,脳軟膜には免疫に関与する組織マクロファージ,樹状細胞が存在することが知られているが,硝子体にも樹状細胞や組織マクロファージとして機能するヒアロサイトが存在する6).C●硝子体腔内リンパシステム以上の結果から,硝子体腔内にはリンパシステムがあるのではないかと考えられる.すなわち,BPMやBerger腔を構成する袋状の硝子体組織が終末リンパ節として働き,老廃物を眼外に排出しているのではないだろうか(図3)4).そのトレナージ先としては視神経周囲のくも膜下腔や毛様体などが考えられる.このような眼球をめぐるリンパ組織の研究は,種々の眼疾患の病態解明の鍵となるように思われる.文献1)XieL,KangH,XuQetal:Sleepdrivesmetaboliteclear-ancefromtheadultbrain.ScienceC342:373-377,C20132)LouveauCA,CPlogCBA,CAntilaCSCetal:UnderstandingCtheC図1脳軟膜とbursapremacularis(BPM)の構造脳軟膜は,脳表面のアストロサイトの突起が形成するグリア境界膜とよばれる基底膜と接している.この構造は,網膜でいうとCMuller細胞の基底膜である内境界膜にCBPMが接しているのと同じ位置関係にある.(文献C3より引用)図2脳軟膜とBPMのトルイジンブルー染色脳軟膜およびCBMPには肥満細胞が存在し,トルイジンブルー染色所見(Ca:脳軟膜,b:BPM)は非常によく似ている.(文献4,5から引用)図3硝子体腔内リンパシステム(仮説)毛様体扁平部BPMやCBerger腔を構成する袋状の硝子体が終末リンパ組織として働き,硝子体腔内の老廃物を眼外に排出している可能性が考えられる.そのトレナージ先としては視神経乳頭周囲のくも膜下腔や毛様体などが考Csareaえられる().(文献C3より引用)CfunctionsCandCrelationshipsCofCtheCglymphaticCsystemCandCmeningeallymphatics.JClinInvest127:3210-3219,C20173)池田恒彦:網膜硝子体疾患の病態解明~臨床の素朴な疑問を出発点として.日眼会誌126:254-297,C20224)MichaloudiH,BatziosC,ChiotelliM,etal:Developmentalchangesofmastcellpopulationsinthecerebralmeningesoftherat.JAnat211:556-566,C20075)SatoCT,CMorishitaCS,CHorieCTCetal:InvolvementCofCpremacularmastcellsinthepathogenesisofmaculardis-eases.PLoSOne14:e0211438,C20196)SonodaCKH,CSakamotoCT,CQiaoCHCetal:TheCanalysisCofCsystemictoleranceelicitedbyantigeninoculationintothevitreouscavity:vitreouscavity-associatedimmunedevia-tion.CImmunologyC116:390-399,C2005(71)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12290910-1810/22/\100/頁/JCOPY

考える手術:斜視手術で学ぶ眼球の解剖の基本

2022年9月30日 金曜日

考える手術⑨監修松井良諭・奥村直毅斜視手術で学ぶ眼球の解剖の基本根岸貴志順天堂大学医学部眼科学講座聞き手:斜視手術を行ううえで抑えておかなければいけない解剖学について教えてください.根岸:まず,「Tillauxの螺旋」という言葉を覚えておきましょう.聞き手:これは何と読むのですか?根岸:「ティローのらせん」と読みます.外眼筋の付着部は角膜輪部からおよそ内直筋5mm,下直筋6mm,外直筋7mm,上直筋8mm後方に存在し,内→下→外→上の順に径がらせん状に大きくなっていきます(図1).外眼筋は結膜およびTenon.の下にあり,隠れていますので,それを発見する目安の距離を知っておくことは非常に重要です.聞き手:手術にどのように役立ちますか?根岸:外眼筋に斜視鈎をかけるときに,おおよその位置を推測できます.小切開で斜視手術を行う場合には,結膜越しにブラインドで斜視鈎をかけることになりますが,位置を推測できれば,手術の侵襲が少なく,時間が短縮され,患者に無理な疼痛負担を与えません.聞き手:各外眼筋の特徴があれば教えてください.根岸:内直筋は幅が広く,厚みもあります.外直筋は幅が狭く,厚みが薄く,前毛様体動脈が1本だけTenon.内を走行しています.内直筋・上下直筋には前毛様体動脈が2本走行しており,しかも筋内に存在するので,周囲のTenon.を切開しても出血しにくいのが特徴です.前毛様体動脈は前眼部を栄養しているので,直筋を同時に3本手術してしまうと,前眼部虚血に至るリスクが高くなります.このため,斜視の再手術を行うときには,前回どの筋を手術したのかが非常に重要となります.聞き手:年齢による違いはありますか?(69)あたらしい眼科Vol.39,No.9,202212270910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術根岸:若いと結合織が豊富で,5歳以下の斜視手術はTenon.の処理が大変です.60歳を超えるとTenon.が菲薄化して,結膜を把持したときに容易に破れやすくなります.結膜下出血が高齢者に多いことも納得できますね.聞き手:斜筋については特徴がありますか?根岸:上斜筋は滑車より末梢側は筋がなく,腱になります.付着部にはアノマリーが多く,正常では上直筋の後方で扇状に強膜と付着していますが,付着部が前方にあったり,複数に分枝していたり,Tenon.内に消失してしまうなどの形態異常がみられることがあります.これが上斜筋麻痺の原因の一つです.下斜筋は付近に黄斑や渦静脈などの重要な組織が存在し,手術時に注意が必要です.聞き手:手術の際に注意する点はありますか?根岸:三叉神経の分布を考慮すると,患者が疼痛を感じやすい操作として,Tenon.を牽引する操作,直筋付着部を把持・結紮する操作があります.また,筋を牽引したときにもっとも迷走神経反射が起きやすいのは内直筋です.このため,Tenon.を巻き込んで内直筋に斜視鈎をかける操作は,患者が非常に痛がるうえに,心拍数が急激に低下して,悪心を生じやすくなります.聞き手:先生の手術はほとんど出血しないですね.根岸:注意深く血管を避けること,血管の位置を把握していること,見えないところを操作しないことが,出血しない手術のコツです.強膜に鋭利な剪刀の先端を当てないことも重要です.聞き手:出血しやすい場所はどこですか?根岸:結膜切開で出血しやすいのは,直筋の直上,角膜輪部,涙丘です.直筋の位置は結膜をよく観察すると筋が透けて見えるのでわかります.筋と筋の間を切開すると出血しません.角膜輪部は結膜の静脈が強膜から出てくる部位なので,必ず出血しますが,バイポーラで止めることができます.Tenon.内に広がると術後の結膜下出血が引きにくくなるので,広がる前に止めましょう.聞き手:どくどく出て止められないことがあるのですが.根岸:眼球表面の出血は,圧迫すれば必ず止まります.焦って盲目的にバイポーラで焼灼しても止まりません.ガーゼやMQAで出血部位を圧迫し,少しずつずらしながら出血点を探します.見つかった出血点をもういちど圧迫し,改めてずらして出血した瞬間にバイポーラで焼灼すると,一発で出血を止めることができます.非常に基本的な手技なので覚えておきましょう.聞き手:斜視手術はあまりやらないのですが.根岸:バックリングでも直筋の操作があります.バックリング手術後の斜視を手術することがありますが,開けてみて癒着が強いと,解剖を理解していない術者が手術をしたのだとすぐに力量を見抜くことができます.緑内障のインプラントでも直筋やTenon.,結膜を触ることになるので,眼表面の知識は術者の心得として最低限身につけておかないと,どんなに応用手技ができたとしても,底が浅い術者になってしまいます.基本を身につけることは,応用の深さにもつながります.時間がかかってもよいので,しっかりとした基本をもとに,無駄な操作を省いていくことで,だんだん手術が自然と早く終わるようになるでしょう.1228あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(70)

抗VEGF治療:糖尿病黄斑浮腫の予後予測因子

2022年9月30日 金曜日

●連載123監修=安川力髙橋寛二103糖尿病黄斑浮腫の予後予測因子杦本昌彦三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学糖尿病黄斑浮腫の治療後,網膜形態改善が必ずしも視力改善に直結するわけではない.視機能改善が得られない背景としては硬性白斑やChyperre.ectivefociによる網膜外層障害や網膜内層障害であるCdisorganizationoftheretinalinnerlayers,腎機能障害が知られている.はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)の治療効果を評価する際には,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)が有用である.しかし,浮腫が軽減しても網膜障害が進行した患者では,形態改善にもかかわらず視力改善が得られない.このような形態と視力の乖離は“paradoxicalchange”とよばれている1).DMEの治療に際しては,網膜の正常な構築の保存されている間に解剖学的な形態改善を得ることが重要である.本稿ではCOCTによる所見を中心に,視機能改善が得られにくい症例を列挙する.網膜外層構築の障害検眼鏡で観察される硬性白斑は網膜症に典型的な所見の一つであり,OCTでは高輝度反射として描出される(図1a).硬性白斑の網膜下沈着は外層の障害も併発するため,浮腫の軽減が得られても不可逆的障害の原因となる(図1b).この症例のように治療による浮腫の軽減が得られても,ellipsoidlineやCinterdigitationlineなどの外層構築が消失すると視力は不良である.CHyperre.ectivefociDMEの網膜内には多数の高反射点が観察され,これはChyperre.ectivefoci(図2)とよばれ,その起源は漏出したリポ蛋白とされている2).年余を経て中心窩下に集積し,大きな硬性白斑を形成することがあり,視機能低下の原因となることがある3).CDisorganizationoftheRetinalInnerLayersOCTは従来の眼底検査では観察しえなかった網膜の微細な構築を観察可能とした.従来,視機能に影響するとされた外層の異常以外にも,網膜内層の障害も視機能に影響することが知られており,disorganizationoftheretinalInnerlayers(DRIL,図3)とよばれている4).図1硬性白斑と網膜外層障害66歳,女性.Ca:網膜毛細血管瘤を伴うDME.硬性白斑の沈着を認め(..),視力は(0.2)であった.網膜局所光凝固を行い,硬性白斑の退縮を認めたが(△),外層障害が遷延し,視力は(0.2)にとどまる.(67)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12250910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2Hyperre.ectivefoci図3Disorganizationoftheretinalinnerlayers63歳,女性.高反射のChyperre.ectivefociを多数認める.72歳,男性.漿液性の浮腫を認める.網膜内層の走行が不正となり,CdisorganizationCofCtheCretinalCinnerClayers(白枠内)を認める.視力は(0C.3).C図4糖尿病腎障害患者の血液透析導入前後における黄斑浮腫の変化72歳,男性.腎症CStageIV.Ca:DMEを認め,視力は(0.4)であった.Cb:血液透析導入C3カ月後.浮腫が軽快し,視力は(0.5)に改善した.腎機能障害と黄斑浮腫糖尿病性腎症は網膜症・末梢神経障害とともに糖尿病3主徴として知られているが,全身浮腫の影響からDMEを併発することも知られている.また,腎障害が悪化している場合には貧血の進行によるCHbA1c値の低下やインスリンクリアランスの改善により,血糖コントロールが改善したようにみえることがあり,内科と連携した全身状態の把握はCDME管理の側面からも重要である.また,血液透析は末期腎不全に対する有用な腎代替療法である.Takamuraらは血液透析の導入が難治性DME患者のC1年後の視力と形態改善に寄与することを報告している5).図4に示す症例は坑CVEGF薬やステロイドによる治療に反応が乏しかったが,血液透析導入によりCDMEの改善を得ている.C1226あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022文献1)DiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchCNetwork,CBrown-ingCDJ,CGlassmanCARCetal:RelationshipCbetweenCopticalCcoherencetomography-measuredcentralretinalthicknessandvisualacuityindiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC114:525-536,C20072)BolzCM,CSchmidt-ErfurthCU,CDeakCGCetal:OpticalCcoher-encetomographichyperre.ectivefoci:amorphologicsignoflipidextravasationindiabeticmacularedema.Ophthal-mologyC116:914-920,C20093)OtaM,NishijimaK,SakamotoAetal:Opticalcoherencetomographicevaluationoffovealhardexudatesinpatientswithdiabeticmaculopathyaccompanyingmaculardetach-ment.OphthalmologyC117:1996-2002,C20104)SunCJK,CLinCMM,CLammerCJCetal:DisorganizationCofCtheCretinalinnerlayersasapredictorofvisualacuityineyeswithcenter-involveddiabeticmacularedema.JAMAOph-thalmol132:1309-1316,C20145)TakamuraCY,CMatsumuraCT,COhkoshiCKCetal:FunctionalCandCanatomicalCchangesCinCdiabeticCmacularCedemaCafterChemodialysisinitiation:One-yearCfollow-upCmulticenterCstudy.SciRepC10:7788,C2020(68)

緑内障:Sturge-Weber症候群に伴う緑内障

2022年9月30日 金曜日

●連載267監修=福地健郎中野匡267.Sturge.Weber症候群に伴う緑内障春田雅俊久留米大学医学部眼科学講座Sturge-Weber症候群に伴う緑内障は,薬物療法のみでは眼圧がコントロールできない場合も多い.乳幼児期発症の緑内障では,線維柱帯切開術を施行することが多い.小児期以降発症の緑内障では,線維柱帯切除術やチューブシャント手術などの濾過手術も施行するが,駆逐性出血などの重篤な合併症に注意が必要である.●はじめにSturge-Weber(スタージ・ウェーバー)症候群は,脳軟膜血管腫,三叉神経領域の顔面血管腫(図1),緑内障を三徴とする神経皮膚症候群の一つで,出生C5万人あたりC1人の割合で発症する.性差や遺伝性はないが,GNAQ遺伝子の体細胞モザイク変異が血管腫の発生に関連することが報告された1).胎生初期の原始静脈叢の退縮不全が原因とされ,顔面血管腫と同側の眼瞼,上強膜,隅角,網脈絡膜などの眼組織に病理学的な異常を認め(図2),血流や房水の動態に影響しうる.Sturge-Weber症候群に伴う緑内障は,まず薬物療法を行うが,十分な眼圧コントロールが得られず観血的手術を必要とすることも多い.C●Sturge.Weber症候群に伴う緑内障Sturge-Weber症候群に伴う緑内障は,約C60%が乳幼児期に診断される2).これらの早発性の緑内障の原因として,おもに隅角発育異常による房水流出障害が考えられ,隅角検査では原発先天緑内障と同様の虹彩の高位付着を認めることもある.一方,残りの約C40%の緑内障は小児期以降に診断される2).これらの遅発性の緑内障の原因として,隅角発育異常に加えて上強膜静脈圧の上昇の関与が考えられ,隅角検査では上強膜静脈圧の上昇によりCSchlemm管内に鬱血を認めることがある(図3).C●Sturge.Weber症候群に伴う緑内障に対する観血的手術Sturge-Weber症候群に伴い,牛眼として乳幼児期に発症した緑内障に対しては,原発先天緑内障に準じて線維柱帯切開術を施行することが多い.線維柱帯切開術を選択する理由としては,房水流出抵抗がおもに線維柱帯の部分にあり,線維柱帯切開術の効果が期待できること,乳幼児での線維柱帯切除術では濾過胞管理が困難で,晩期感染症の問題があることなどがあげられる.一図1Sturge.Weber症候群の外眼部写真右三叉神経第C1枝領域に顔面血管腫を認める.図2Sturge.Weber症候群の右眼の前眼部写真上眼瞼と上強膜の血管異常を認める.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12230910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3Sturge.Weber症候群の右眼の隅角所見Schlemm管内の鬱血を認める.方,小児期以降に発症したCSturge-Weber症候群に伴う緑内障に対しては,隅角発育異常に加えて上強膜静脈圧の上昇の関与も考えられ,初回から線維柱帯切除術を選択すべきという意見もある.ただし,Sturge-Weber症候群に伴う緑内障に対する線維柱帯切除術では,脈絡膜.離,駆逐性出血,漿液性網膜.離などの重篤な合併症も多い3).これらの合併症の発症機序として,線維柱帯切除時の急激な眼圧低下による網脈絡膜血管の透過性亢進,血管の脆弱性および脈絡膜血管腫の存在などが考えられている.そのため,筆者の施設では,まず線維柱帯切開術を試み,十分な眼圧コントロールが得られない場合は,追加手術として線維柱帯切除術やチューブシャント手術などの濾過手術(図4)を考慮するようにしている4).Sturge-Weber症候群に対する線維柱帯切除術では,結膜創傷治癒の過程で瘢痕を形成しやすく,マイトマイシンCCなどの代謝拮抗薬を用いても異常血管によって濾過胞を形成しにくい5).そのため,マイトマイシンCCの濃度や塗布時間,切糸時期,眼球マッサージなどを調整して対応することも必要である.また,術中および術後の急激な眼圧変動は,駆逐性出血などの重篤な合併症のリスクを高めるため,十分に注意する必要がある.C●おわりにSturge-Weber症候群は,その特徴的な顔面血管腫か図4Sturge.Weber症候群に伴う緑内障に対する観血的手術シヌソトミー併用線維柱帯切開術,エクスプレス緑内障フィルトレーションデバイスとマイトマイシンCCを用いた濾過手術,ニードリングを施行するも十分な眼圧コントロールが得られず,Ahmed緑内障バルブを用いたチューブシャント手術を施行した.ら生下時に診断されることが多い.Sturge-Weber症候群が疑われた場合,眼科は関連する皮膚科,小児科などとの連携をはかり,時期を逸することなく,緑内障に対する精査と必要であれば適切な治療を開始する必要がある.また,乳幼児期だけでなく成人になって緑内障を発症する場合もあり,長期にわたって眼科の経過観察をすることが重要である.文献1)ShirleyCMD,CTangCH,CGallioneCCJCetal:Sturge-WeberCsyndromeCandCport-wineCstainsCcausedCbyCsomaticCmuta-tioninGNAQ.NEnglCJMed368:1971-1979,C20132)MantelliCF,CBruscoliniCA,CLaCCavaCMCetal:OcularCmani-festationsofSturge-Webersyndrome:pathogenesis,diag-nosis,CandCmanagement.CClinCOphthalmolC10:871-878,C20163)JavaidU,AliMH,JamalSetal:Pathophysiology,diagno-sis,andmanagementofglaucomaassociatedwithSturge-Webersyndrome.IntOphthalmolC38:409-416,C20184)春田雅俊,竹下弘伸,山川良治:スタージ・ウェーバー症候群に伴う緑内障に対する線維柱帯切開術の成績.臨眼C72:109-114,C20185)RaoA,SrinivasanG,GuptaV:AnomalousvesselsoveratrabeculectomyCblebCinCSturge-WeberCsyndrome.CDigitCJCOphthalmolC17:1-2,C20111224あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022(66)

屈折矯正手術:ICLサイズ決定に対するKS式の精度

2022年9月30日 金曜日

●連載268監修=稗田牧神谷和孝268.ICLサイズ決定に対するKS式の精度五十嵐章史代官山アイクリニック有水晶体眼内レンズCICLのサイズ決定に用いる計算式のうち,最新のCKS式はCATA,CLR,ACDを元に選択したCICLサイズに対する術後Cvaultを予測する式である.STAAR社専用式と比較して予測精度は良好で,術者が任意に選択したCICLサイズに対するCvaultを予測できることから,術者の好みのサイズ感を得ることができ,臨床的応用がしやすい式になっている.C●はじめにImplantableCCollamerLens(ICL.STAAR社)は国内で唯一厚生労働省の承認を得ている有水晶体眼内レンズであり,2014年に承認されたCHoleICL(ICLCKS-AquaPORT,STAAR社)の登場により大幅に術後合併症が軽減され,近年手術件数が増加している.角膜屈折矯正手術と異なり,前房深度がC2.8Cmm以上あればおおむね手術適応となるが,適切なレンズサイズを選択することが重要となる.STAAR社より提供されるレンズ計算式Conlinecalcu-lationC&orderingCsystem(OCOS)では,角膜横径のCwhiteCtowhite(WTW)と前房深度(anteriorCchamberdepth:ACD)の二つのファクターによって適切なレンズサイズを算出する.しかし,この式はCHoleICL以前の旧タイプレンズに対応した式であり,やや大きめのレンズサイズが選択される傾向があるほか,測定する前眼部解析装置によりCWTW値に誤差が生じるためレンズサイズにばらつきが生じる欠点がある.また,決定する項目が推奨するレンズサイズのみのため,実際に移植した際のサイズ感は不明であった.KS式はそれらの欠点を解消すべく考案された式であり,選択するレンズサイズに対しての術後予測Cvaultを算出する式で,臨床的応用が広いのが特徴である.現在CKS式はオリジナル式から改良が加えられ,より精度が向上している.本稿ではその変遷と現状での精度を解説する.C●KS式の変遷KS式はCsweptsource前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)のCCASIA2(トーメーコーポレーション)を用いて,WTWより明瞭なメルクマールである隅角間距離(angletoangle:ATA)に注目し構築されたCICLサイズ計算式である.2016年に筆者が考案したオリジナル式1)から何度か改良が加わり,(63)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1KSver.4式におけるレンズサイズ因子Ver.4式ではオリジナル式からのCATAのほか,縦情報としてCCLRとCACDが計算式の因子となっている.現在はCver.4となっている.これまでの式の変遷を以下に簡単に説明する.1)KSCver.11):ICL手術を施行し術後C3カ月経過した23例C44眼を対象に,術後Cvaultに影響する術前因子を検出するため重回帰解析を行った.目的変数を術後vault,説明変数を年齢,性別,自覚等価球面度数,眼圧,平均角膜屈折力,前房深度,眼軸長,角膜厚,ATA,WTW,挿入したCICLサイズのC11項目とした.術後Cvault(μm)=660.9×(ICLサイズ-ATA)+86.6(adjustedRC2=0.41)2)KSver.2:ATAの測定値をマニュアルからCCASIA2のオート測定値に変換した式がCver.2である.術後Cvault(μm)=456.86×(ICLサイズ-ATA)mm+110.033)KSCver.32):Ver.2式では全体としてはおおむね良好な予測性であったが,用いるレンズサイズにより予測誤差に一定の傾向があることがわかった.具体的には12.6Cmmでは良好な予測性であったが,12.1Cmmでは予測よりC20%小さく,13.2Cmm以上ではC30%大きくなることがわかったため,それらのサイズ別に補正を加えたのがCver.3式である.4)KSver.4:Ver.3までは基本的にCATAに依存した横方向の情報から形成されていたが,NK式でも採用されているCcrystallineClensrise(CLR)という縦方向の因子を加えて新たに重回帰解析を行い作成したものが最新のあたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C1221予測絶対誤差(μm)Vault(μm)8001,0008006007006004664475001000KSVer.4予測vault術後vault図2KSver.4式予測vaultと術後1カ月のvault1,000900800700600500400300200400-600-800-1,000Total12.1mm12.6mm≧13.2mm(n=172)(n=51)(n=104)(n=17)予測相対誤差(μm)4002000-200-400図3レンズサイズ別のKSver.4式予測vault相対誤差KSver.4式における全体およびレンズサイズ別の相対誤差の箱ひげ図を示す.グラフ内の数字は中央値を示す.Cp=0.37)(図2).使用したレンズサイズ別のCKSCver.4式の相対予測誤差を図3に示す.Ver.4式ではCver.3式のようにレンズサイズ別に特別な補正はかけていないがわかった.図4に絶対誤差を示すが,おおむねC100CμmC200程度の誤差になっているので,予測精度は良好と考えC100る.C0Total12.1mm12.6mm≧13.2mm(n=172)(n=51)(n=104)(n=17)●おわりに300が,どのサイズでもおおむね良好な予測精度であること図4レンズサイズ別のKSver.4式予測vault絶対誤差KSver.4式における全体およびレンズサイズ別の絶対誤差の箱ひげ図を示す.グラフ内の数字は中央値を示す.Ver.4式である(図1).術後予測Cvault=-2338.84+ICLサイズC×324.05+CLR×-0.29+ATA×-132.92+ACD×102.25C●KSver.4式の予測精度近視および近視性乱視に対してCICL手術を施行し,術後C1カ月経過したC172眼に対するCKSver.4の予測vault精度を検証した.術前の平均CATA,CLR,ACDはそれぞれC11.88C±0.40Cmm,91.7C±205.9Cmm,3.28C±0.26Cmmであり,使用したCICLサイズはC12.1CmmがC51眼,12.6CmmがC104眼,13.2CmmがC15眼,13.7Cmmが2眼であった.術前のCKSver.4による予測Cvaultと術後1カ月のCvaultはそれぞれC447C±112Cμm,466C±209Cμmで両者に有意差はなかった(Wilcoxonsigned-ranktest,1222あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022KSver.4式は予測Cvaultが正確であり,STAAR社の式と異なり,術者が任意に選択したレンズサイズに対してのCvaultを算出できるため,レンズ選択の自由度が高いことが特徴である.現在のCHoleICLではClowCvaultにおける白内障の進行リスクは改善しているため,術前のCACDが浅い場合は予測Cvaultが小さめのレンズを選択するなど,術者によるカスタマイズしたレンズ選択がよいだろう.文献1)IgarashiA,ShimizuK,KatoSetal:PredictabilityofthevaultCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJCataractCRefractSurgC45:1099-1104,C20192)IgarashiCA,CShimizuCK,CKatoS:AssessmentCofCtheCvaultCafterimplantablecollamerlensimplantationusingtheKSformula.JRefractSurgC37:636-641,C2021(64)

眼内レンズ:囊外固定した眼内レンズの支持部が虹彩を穿通したと考えられた1例

2022年9月30日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋430..外固定した眼内レンズの支持部が松本英里井上亮大阪労災病院眼科虹彩を穿通したと考えられた1例白内障手術時に後.破損を生じ.外固定とした眼内レンズの支持部が,長期経過後に虹彩を穿通していた症例を経験した.Soemmering’sringの形成により眼内レンズの回旋偏位を生じたことが原因と考えられた.●はじめに白内障手術時に後.破損を生じた場合,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を.外へ固定する方法は以前より行われているが,長期経過後に生じた.外固定CIOLに関する合併症の報告は少ない.今回筆者らは白内障手術からC8年経過したのちに,.外固定となっていた眼内レンズの支持部が虹彩を穿通したと考えられたC1例を経験したので報告する.C●症例66歳,女性.既存症に潰瘍性大腸炎.既往歴として8年前に当院で両眼の水晶体再建術を施行され,右眼は術中後.破損のためCIOLが.外固定となっていた.挿入されたCIOLは支持部がCpolymethylmethacrylate(PMMA)製であるCYA-60BBR(HOYA)であった.5日前から右眼結膜充血と眼痛を自覚し,近医よりベタメタゾン点眼を処方されたが,改善を認めないことから当院へ紹介となった.眼痛の自覚が強く,ロキソプロフェンナトリウムの内服を要した.初診時視力は右眼C0.2(0.6pC×sph-0.75D(cyl-1.50DCAx175°),左眼0.08(1.2pC×sph-3.50D(cyl-1.00DAx15°),眼圧は右眼13CmmHg,左眼C16CmmHgであった.右眼は結膜充血,前房内炎症細胞,硝子体混濁,黄斑浮腫を認め,汎ぶどう膜炎を呈していた.角膜後面沈着物はなく,角膜内皮細胞密度の低下も認めなかった.隅角検査を行ったところCIOLの支持部が虹彩根部を穿通している所見が確認できたが,隅角への色素散布は認めなかった(図1).穿通したCIOL支持部の機械的刺激が炎症の原因と考えられたことから,その整復を目的として手術を施行した.まず硝子体手術で硝子体混濁を切除し,隅角にあるIOL支持部をCSwan-Jacob型隅角鏡下で虹彩前面より虹彩裏面と水晶体.前面の間に回旋させながら抜き出した..内全周にCSoemmering’sringが形成され,一部残存した水晶体皮質が膨化していたため,25ゲージ硝子体カッターを用いて除去した(図2).後.破損を一部に認めるものの赤道部水晶体.は保たれ,Zinn小帯の脆弱性はないと判断し,IOLを.外から.内へ固定しなおし手術終了とした.術直後より眼痛は消失した.術後C6日目に黄斑浮腫に対しステロイドCTenon.下注射を施行し,術C1カ月後の右眼の視力はC0.3(0.4C×cyl-0.75DAx160°),眼圧は13CmmHgで,結膜充血,前房内炎症細胞,黄斑浮腫は消失し経過は良好である.図1術前所見a:前眼部写真,b:眼底写真,c:隅角所見.(61)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12190910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2術中所見a:Swan-Jacob型隅角鏡下で穿通していたCIOL支持部を虹彩より抜き出した.Cb,c:.内全周に形成されたSoemmering’sringと,一部残存し膨化した水晶体皮質()を認めたため,除去した.Z軸方向への偏位およびXY軸方向への回旋図3偏位と回旋IOLが膨化した水晶体皮質により偏位・回旋する.●まとめ白内障手術後に水晶体前.と後.が癒着肥厚し,CSoemmering’sringが形成されることが知られている1).また,.外固定したCIOLは,.内固定となっているIOLに比べ安定性が乏しいため,年単位で徐々に形成されたCSoemmeringC’sringの圧排によりCIOLの回旋偏位が起ることが報告されている2).本症例ではCSoemmer-ing’sringの形成に加え,部分的に残存した水晶体皮質が膨化したことでCIOLの回旋偏位が生じ,IOL支持部が虹彩を穿通した可能性が考えられた(図3).さらに,IOL支持部がCPMMA製の硬い素材であり先端が丸みを帯びていたことも,回旋偏位時に穿通を助長した可能性が考えられた.本症例では虹彩に穿通していたCIOL支持部を.内に固定しなおしたことにより術後早期に眼痛や眼内炎症の改善を認めたことから,IOL支持部が虹彩を穿通したことでCuvetis-glaucoma-hyphemaCsyndrome3,4)を生じていた可能性が示唆された.白内障手術時に後.破損を生じ,IOLを.外固定とした場合は,長期経過後にCIOLが回旋偏位することで虹彩を穿通し眼内炎症を引き起こす可能性がある.文献1)松島博之:前.収縮・後発白内障.日本白内障学会誌C23:C13-18,C20112)森秀夫,福田宏美:後発白内障の膨化圧排により前房内に脱臼した眼内レンズを整復したC1例:ゼンメリング輪(SoemmerringC’sRing)除去の経験.IOL&RSC24:95-99,C20103)EllingsonFT:TheCuveitis-glaucoma-hyphemaCsyndromeCassociatedCwithCtheCMarkCVIIICanteriorCchamberClensCimplant.JAmIntraoculImplantSoc4:50-53,C19784)CheungCAY,CPriceCJM,CHartCJrJC:Late-onsetCuvertis-glaucoma-hyphemaCsyndromeCcausedCbyCSoemmeringCringcataract.CanJOphthalmolC54:445-450,C2019

コンタクトレンズ:読んで広がるコンタクトレンズ診療 コンタクトレンズの研究・臨床を知るには

2022年9月30日 金曜日

提供コンタクトレンズセミナー読んで広がるコンタクトレンズ診療1.コンタクトレンズの研究・臨床を知るには糸井素啓京都府立医科大学大学院医学研究科■はじめにこのたび,小玉裕司先生からそのバトンを引き継ぎ,本セミナーを担当することになった.コンタクトレンズ診療を始めて10年ほどの私では力不足かと思ったが,私が心惹かれたコンタクトレンズ分野の面白さ・奥深さを皆様に紹介したいと思い,引き受けさせていただいた.■CLの研究・臨床を知るにはわが国で初めてコンタクトレンズ(contactlens:CL)が使用されてから約70年が経ち,その間にCL装用者は急増し,いまやCL診療は眼科医にとって必須のスキルとなっている.しかし,眼科研修の軸となっている大学病院・市中病院では,一般的なCL診療があまり行われておらず,その基礎や研究について学ぶ機会は減少している.さらに,CLの技術は日進月歩であり,知識のアップデートも容易ではない.そこで,今回はCL診療・研究を学ぶうえで有効な手法を解説する.■国内学会CL診療の初心者から上級者まで,すべての眼科医にとって有用なのが,年に1回の日本コンタクトレンズ学会総会である.この学会は医師以外の医療従事者の参加も多く,比較的理解しやすい内容が多いため,これからCL診療を学ぼうとする人・医学研究に親しみのない若い先生にもオススメである.新商品に関する話題も豊富なため,すでにCL診療に携わっている先生方の知識のアップデートにも効果的である.また,CL分野で著名な功績をあげた先生が講演される「特別講演」も必聴である.学術的な内容がわかりやすく解説されているだけでなく,医学研究に対する姿勢・考え方をゆっくりと聞くことができる貴重な機会である.このほかにも,日本眼科学会総会,日本眼光学学会総会,臨床眼科学会,角膜カンファランスなど,CL分野の研究には多くの学会でふれることが可能である.それぞれの学会でCL分野(59)視覚再生機能外科学の多面性を楽しんでいただきたい.■教科書CL診療に必要とされる知識は眼光学から関連法規まで,実は幅広い.そのため,知識を効率よく獲得するには教科書が効果的である.現在,CL診療に関するさまざまな教科書が出版されているが,まずは自分にあった1冊を選ぶとよい.ご存知の人も多いとは思うが,『コンタクトレンズバトルロイヤル』(メジカルビュー社,2007年)はとてもお勧めである.ある臨床的課題に対して,複数の先生がそれぞれ自分なりの解決策を討論するというスタイルだが,臨床的な課題に複数の解決策が提示されているという点で有用なだけでなく,回答者である先生方の情熱や信念が文章から溢れており,出版から時間が経っているにもかかわらず,絶対に手放せない良書である.■総説・解説教科書から得られる知識の補足として重要なのが,医学雑誌の総説・解説である.ちなみに,このセミナーも医学中央雑誌刊行会の定義で「解説」に分類される.総説・解説は,教科書と同様に基本的な知識の獲得に有用なだけでなく,臨床に役立つ実践的なポイントや学術的な背景など,教科書では網羅しきれないCL分野の奥深さに触れる内容となっている.また,教科書に比較して最新の知見を反映しやすいという利点もある.筆者自身,CL診療を始めて数年の間は総説・解説を繰り返し読んだことが記憶に新しい.このセミナーも皆様を惹きつけるような内容をめざしたい.■原著論文CL分野の研究に興味をもったならば,原著論文にも目を通していただきたい.知識を獲得するだけなら総説・解説で十分であるが,原著論文は,仮説をたてる背景から検証方法までが記述されており,「医学研究の流あたらしい眼科Vol.39,No.9,202212170910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1日米英のコンタクトレンズ学会誌の紹介日本コンタクトレンズ学会誌EyeandContactLensContactlensandAnteriorEye日本コンタクトレンズ学会の学会誌で年4回刊行.米国のCL学会:EyeandContactLensAssociationの学会誌(前身はCLAOJournal)で月刊.英国のCL学会:BritishContactLensAssociationの学会誌で隔月刊.原著論文だけでなく,バトルロイヤル,ケア教室,製品紹介コーナー,コンタクトレンズUpdateなど企画が多彩であり,実践的で日常臨床に役立つ情報が多い.CLに関する論文が中心ではあるが,眼表面(角膜・涙液)や近視などCL分野以外の論文も多く含まれる.最近は近視進行に関する論文が目立つ.EyeandContactLensと同様にCL分野以外の論文も含まれているが,レンズの素材に関する論文など,ややディープな論文を読めるという印象がある.表2論文を読む際のPICO.PECOの利用法(例:多焦点CLによる近視進行抑制効果についての研究論文を読む場合)P:patient(対象患者)近視眼I/E:intervention/exposure(介入/投与)多焦点CL装用C:comparison(比較対象)単焦点CL装用O:outcome(効果)屈折力・眼軸れ」を学ぶことができるという点で優れている.CL分野の原著論文はさまざまな医学雑誌に掲載されるが,日本コンタクトレンズ学会誌,EyeandContactLens,ContactlensandAnteriorEyeの3誌は,それぞれ日本,米国,英国のコンタクトレンズ学会誌であり,CL分野の論文が充実している.各学会誌の特徴を表1に示す.原著論文を読むのは,とくに英語論文はハードルが高いと感じている人も多いだろう.そういった場合,総説・解説に記載された引用文献から読みはじめるのがお勧めである.あらかじめ総説・解説の内容を理解することで,引用されている論文を読むストレスはかなり軽減される.また,すでに概要を理解している論文であっても,導入や考案部分から得られる知識は多く,有意義である.また,臨床研究に関する論文はPICO/PECOの手法を意識して読むと,わかりやすい.PICO/PECOとは,臨床的課題を明瞭化する手法(表2)で,研究計画を立てるときのみならず,論文を読む際にも有効なので,ぜひ試していただきたい.■おわりに上述の4項が主だった手法ではあるが,ほかにも日本眼科学会のコンタクトレンズ診療ガイドライン,各種の勉強会やセミナー,海外学会など,CL分野を学ぶ手段・機会は減少傾向とはいえ,まだまだ数多い.本セミナーでは,株式会社サンコンタクトレンズの協賛を得て,CLの知識をさらに広げたい人のみならず,これからCL診療を学ぼうとする人にも理解しやすいように,ソフトレンズ・ハードコンタクトレンズ・レンズケアについて解説していくつもりである.

写真:Descemet膜剝離に対する前房水空気置換術

2022年9月30日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦460.Descemet膜.離に対する宮平大福岡秀記京都府立医科大学眼科学教室前房水空気置換術図1紹介受診時の前眼部写真角膜鼻下側サイドポートから瞳孔領にかけて角膜浮腫を認めた.図3前眼部光干渉断層撮影鼻下側に局所に限局するCDescemet膜.離を認めた.図4前房内空気注入直後の前眼部写真空気は上方に移動し,瞳孔ブロックは解除され,Descemet膜はすでに接着している.(57)あたらしい眼科Vol.39,No.9,2022C12150910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は77歳,女性.前医で右眼白内障に対して超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsi.cationandaspiration:PEA)+眼内レンズ挿入術(intraocularlensimplantation:IOL)を施行された.右眼の手術後,鼻側サイドポート周辺に角膜浮腫を認め,遷延するため手術からC1カ月経過後,京都府立医科大学附属病院へ紹介となった.受診時所見として,右眼のサイドポート付近から瞳孔領にかけて角膜浮腫を認めた(図1,2).前眼部光干渉断層撮影では鼻下側にCDescemet膜.離(DescemetC’sCmembranedetachment:DMD)を認めた(図3).右眼の矯正視力は(0.4)であった.初診からC3日後に入院し,同日右眼前房水空気置換術を施行した.前房水を排液し前房内に空気を注入した.術後の体位はCDescemet膜の接着のため仰臥位を維持したものの,注入後C3時間で前房内空気が虹彩を前方から眼内レンズに向けて圧迫し,房水流出が遮断されたことによる瞳孔ブロックを生じた.これに対してトロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼液右眼C1日C2回を開始し,仰臥位から座位へ体位変更した結果,速やかに瞳孔ブロックの解除を得られた(図4).術翌日に角膜浮腫は消退傾向であった.術後C4日目,前眼部光干渉断層撮影でCDMDは消失しており,右眼の矯正視力は(0.9)と改善していた.DMDは外傷や内眼手術により角膜実質からCDesC-cemet膜がはがれた状態である1)..離範囲が狭い場合には無症候性であり,手術後数日で自然に再接着する.しかしCDMDが広範囲であれば角膜実質および上皮に浮腫を生じ,視力低下を生じる.術後の視力低下で初めて気づくこともあり,疑った場合には細隙灯顕微鏡による前眼部観察と前眼部光干渉断層撮影が診断に重要である2).CPEA+IOL後のCDMD発生率はC0.5%と報告されているが,経験の浅い術者でより生じやすいとされる2).DMDの頻度は低いものの,介入が遅れることによってDescemet膜の線維化,収縮,皺襞化をきたすことで再接着が困難になる可能性がある.また,DMDとそれに伴う角膜浮腫が遷延した場合には内皮移植を必要とする場合もあるため,早期の介入が望ましい3).DMDに対する前房内空気注入術は,CC3F8やCSFC6と比較して前房内残留期間が短く,タンポナーデ効果は弱いものの,それらと比較して瞳孔ブロックを生じにくいとされる安全な方法である4).しかし,本症例のように前房内空気注入術後に瞳孔ブロックを生じる場合があり,帰宅させないことと,生じた場合には散瞳薬点眼と座位への体位変更で瞳孔ブロックの解除を図る必要がある.白内障手術後に保存的加療での治癒が困難と予想されるCDMDを生じた場合は,積極的に前房内空気注入を行うのがよいと考えられた.また,その際に瞳孔ブロックを生じることがあるため,術数時間の経時的な前眼部評価と介入が非常に重要である.文献1)大鹿哲郎,外園千恵編:前眼部アトラス.総合医学社,C20202)粥川佳菜絵,北澤耕司,脇舛耕一ほか:全層角膜移植術C10年後にCDescemet膜.離を来した円錐角膜のC1例.日眼会誌121:768-771,C20173)JainR,MurthySI,BasuSetal:Anatomicandvisualout-comesCofCdescemetopexyCinCpost-cataractCsurgeryCDes-cemet’sCmembraneCdetachment.COphthalmologyC120:C1336-1372,C20134)OdayappanCA,CShivanandaCN,CRamakrishnanCSCetal:ACretrospectivestudyontheincidenceofpost-cataractsur-geryCDescemet’sCmembraneCdetachmentCandCoutcomeCofCairdescemetopexy.BrJOphthalmol102:182-186,C2018