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Down 症候群患者における角膜内皮細胞

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):520.523,2022cDown症候群患者における角膜内皮細胞大久保寛*1外園千恵*1木下茂*2*1京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*2京都府立医科大学感覚器未来医療学CCornealEndothelialCellMorphologyintheEyesofDownSyndromePatientsHiroshiOkubo1),ChieSotozono1)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:Down症候群患者における角膜内皮細胞異常の有無を調べること.方法:トーメーコーポレーション製スペキュラーマイクロスコープCEM-3000を用いCDown症候群患者C9例C17眼と対照群C10例C19眼の角膜内皮細胞密度,変動係数,六角形細胞出現率,角膜厚について比較,検討した.結果:角膜内皮細胞密度はすべての症例でC2,000Ccells/Cmm2以上であり,細胞形態にも異常を認めず,すべての項目において対照群とのあいだに有意差を認めなかった.考按:Down症候群のように体細胞にC21トリソミーの染色体異常が存在する場合でも角膜内皮細胞の形態と機能は保たれていると考えられた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCmorphologyCofCcornealCendothelialcells(CECs)inCtheCeyesCofCDownCsyndromeCpatients.Methods:Thisstudyinvolved17eyesof9Downsyndromepatientsand19eyes10normalhealthycon-trolsubjects.Inalleyes,CECdensity,coe.cientofvariation,rateoftheappearanceofhexagonal-shapecells,andcornealCthicknessCwasCexaminedCviaCtheCuseCofCaspecularCmicroscope(EM-3000;TOMEY),CandCthenCcompared.CResults:InCallCeyes,CCECCdensityCwasC≧2,000Ccells/mm2,CandCnoCcellCmorphologyCabnormalitiesCwereCobserved.CMoreover,nosigni.cantdi.erenceswerefoundbetweentheDownsyndromeeyesandthecontrolgroupeyesinallparameters.Conclusion:Our.ndingsrevealedthatthestructureandfunctionofCECsismaintainedeveninthepresenceoftrisomy-21chromosomalabnormalitiesinsomaticcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):520.523,C2022〕Keywords:Down症候群,角膜内皮細胞,染色体異常.Downsyndrome,cornealendothelialcells,chromosomalabnormality.CはじめにDown症候群はC1866年CDownらにより報告され1),1959年にCLejeuneらによりC21番染色体のトリソミーが特定された疾患群である.特徴的な顔貌や全身のさまざまな合併症をきたし,眼合併症としては屈折異常,斜視,白内障,円錐角膜などが多数報告されている2).発達遅滞のために眼科検査を十分に施行することができない患者が多く,角膜内皮細胞の異常の有無について検討された報告は筆者らの知る限りではいまだない.そこで今回,Down症候群に認められる染色体異常が角膜内皮細胞に影響するか否かについて,後ろ向き研究として臨床的な検討を行ったので報告する.I方法対象はC2009年C4月.2021年C12月に京都府立医科大学附属病院眼科を受診し,白内障術前検査のためにスペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞検査を受けたCDown症候群患者C9例C17眼である.全例がC21番染色体のトリソミーにより診断されていた.対照群としてC2021年C6月.2022年C1月に角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ検査を受けた内眼手術既往のないC50歳以下の患者C10例C19眼を抽出した.角膜内皮細胞の測定にはCEM-3000(トーメーコーポレーション製)を用い,自動測定モードにより得られた〔別刷請求先〕大久保寛:〒606-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroshiOkubo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC520(128)表1Down症候群患者の角膜内皮所見,白内障術前後の視力,円錐角膜の有無,白内障の性状検査時年齢(歳)性別CCD(cells/mm2)CCV(%)C6A(%)角膜厚(Cμm)術前小数視力術後小数視力円錐角膜白内障C1RC31CFC2,710C38C49C580C0.06C0.6CASCO+皮質混濁C1LC31CFC2,534C44C40C592C0.15C0.5CASCO+皮質混濁C2RC31CFC2,717C50C32C610C0.02C0.02無水晶体C2LC27CFC2,936C44C38C557C0.02C0.02無水晶体C3RC43CFC2,843C35C43C483C0.15C0.3CPSCO+皮質混濁C3LC43CFC2,814C36C46C-0.15C0.2CPSCO+皮質混濁C4RC47CFC2,880C37C45C428測定不能測定不能ありCPSCOC5RC46CMC2,236C42C43C515C0.01C0.3CASCOC5LC46CMC2,417C41C42C537C0.01C0.2CASCOC6RC17CMC2,604C42C49C471C0.2C0.5CPSCOC6LC17CMC2,495C39C48C471C0.1C0.5CPSCOC7RC58CMC2,577C35C45C-30cm/手動弁C0.1あり成熟白内障C7LC58CMC2,561C34C45C457C0.2C0.2あり皮質混濁C8RC30CMC2,252C51C30C-0.1C0.6CASCOC8LC30CMC2,689C37C27C546C0.08C0.6CASCOC9RC50CMC2,599C33C38C55030cm/手動弁C0.1成熟白内障C9LC50CMC2,800C33C46C566C0.04C0.15CPSCO患者番号平均C39.2C2,627.3C39.5C41.5C525.9C0.052C0.207標準偏差C12.6C203.4C5.5C6.6C55.7CCD:角膜内皮細胞密度,CV:変動係数,6A:六角細胞出現率.ASCO:前.下白内障,PSCO:後.下白内障.表2対照群の角膜内皮所見と併存疾患患者番号1RC49CFC2,865C35C49C467CPSCOC1LC49CFC2,910C37C47C470C-2RC43CMC2,742C44C43C511CPDRC2LC43CMC2,717C39C41C502CPDRC3RC49CMC3,136C36C50C561CPDRC3LC49CMC3,110C33C54C548CPDRC4RC18CMC2,773C39C47C521左角膜裂傷C5RC26CFC2,566C44C43C533CSLEC5LC26CFC2,235C54C33C537SLE/左CCRAO+CRVO+VHC6RC43CMC2,693C63C44C514CPDR+VHC6LC43CMC2,487C37C49C501CPDRC7RC18CMC2,470C50C35C568アトピー,RRDC7LC18CMC2,485C50C34C536アトピーC8RC48CFC2,745C39C42C510CPSCOC8LC48CFC2,846C41C46C498C-9RC50CMC2,609C47C35C–9LC50CMC2,529C46C32C587CRRDC10RC27CMC2,542C44C40C626涙小管断裂C10LC27CMC2,636C33C51C567C-検査時年齢CDCCVC6A角膜厚性別(cells/mm2)(%)(%)(μm)併存疾患平均C37.1C2,689.3C42.7C42.9C530.9標準偏差C13.3C224.0C7.8C6.6C40.6CCD:角膜内皮細胞密度,CV:変動係数,6A:六角細胞出現率.PSCO:後.下白内障,PDR:増殖糖尿病網膜症,SLE:全身性エリテマトーデス,VH:硝子体出血,CRAO:網膜中心動脈閉塞症,CRVO:網膜中心静脈閉塞症,RRD:裂孔原性網膜.離.症例②左眼症例④右眼症例⑥右眼症例⑨左眼図1Down症候群患者の角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ画像例表3Down症候群患者群と対照群の比較(Mann.WhitneyのU3,500検定)y=0.2677x+2617Down症候群患者平均対照群平均p値検査時年齢(歳)C39.2C37.1C0.89CD(cells/mmC2)C2,686.1C2,689.3C0.57CV(%)C39.5C42.7C0.206A(%)C41.5C42.9C0.53角膜厚(Cμm)C525.9C530.9C0.95CD:角膜内皮細胞密度,CV:変動係数,6A:六角細胞出現率.内皮細胞密度(cells/mm2)3,0002,5002,0001,5001,0005000010203040506070角膜内皮細胞密度(以下,CD),変動係数(cofficientCofCvariation:CV),六角形細胞出現率(以下,6A),角膜厚の年齢(歳)データを抽出し,Mann-WhitneyのCU検定を用いて統計学図2Down症候群患者における年齢による角膜内皮細胞密度の的検討を行った.滴状角膜を含めた角膜内皮細胞層の形態異変化常の有無も検討した.白内障手術前と術後C3カ月以内の最高矯正視力,円錐角膜の有無,白内障の有無と性状も併せて検CII結果討した.Down症候群患者の検査時年齢はC39.2C±12.6歳(平均C±標準偏差),男性C5例,女性C4例で,CDはC2,627C±203Ccells/Cmm2,CV値はC39.5C±5.5%,6AはC41.5C±6.6%,角膜厚はC526±56Cμmであった(表1,2).対照群はC37.1C±13.3歳,男性7例,女性3例で,CDは2,689C±224Ccells/mm2,CV値はC42.7C±7.8%,6AはC42.9C±6.6%,角膜厚はC531C±41Cμmであった(表3).Mann-WhitneyU検定において,上記すべての項目で対照群とのあいだに有意な差を認めなかった(図1).滴状角膜はいずれの群にも認めなかった.円錐角膜は角膜トポグラフィーを施行したC2例C3眼に認め,その他の症例ではオートレフケラトメーターにおいて3Dを超える乱視は認めず,円錐角膜を合併していないと判定した.白内障については,先天白内障術後を含めると,全例で合併していたことになる.多くは,前.下混濁や後.下混濁を伴う皮質白内障であった.2眼は成熟白内障であった.なお,Down症候群患者における白内障手術では有意に視力改善を認めた(p<0.01).対照群にみられた併存疾患としてC6眼に増殖糖尿病網膜症を認めた.CIII考按21番染色体にトリソミーを認めるCDown症候群のすべての症例において,角膜内皮細胞密度はC2,000Ccells/mmC2以上であり,角膜内皮障害の重症度分類3)において正常群に分類された.また,対照群との統計学的な検定においても有意差を認めなかった.非接触型スペキュラーマイクロスコープ検査における変動係数と六角形細胞率の計測は細胞の安定性を示す参考指標とも考えられているが,臨床現場ではあくまで参考値として取り扱われることが一般的である.本検討におけるCCV値と六角形細胞率はおおむね正常範囲であり,かつ対照群と比して統計的な有意差は認めなかった.角膜内皮細胞は,原則として,invivoでは細胞分裂による細胞増殖を生じないため,経年的に細胞数が徐々に減少していくとされている.健常人での角膜内皮細胞の減少率は0.3.0.5%/年と報告されているが4,5),本検討においてCDown症候群患者の加齢に伴う角膜内皮細胞の減少は認めなかった(図2).CDown症候群は体細胞のC21番染色体が通常よりC1本多いトリソミーで発症するとされており,角膜内皮細胞においてもC21トリソミーが生じているはずである.一般に,染色体異常は,細胞の異常増殖や癌化,細胞の機能異常などを生じる可能性がありえるが,今回の結果からC21番染色体トリソミーはCinvivo角膜内皮細胞の細胞密度と形態には影響を及ぼさないと考えられた.文献1)LangdonCJ,CDownH:ObservationsConCanCethnicCcla-ssi.cationCofCidiots.CLondonCHospitalCReportsC3:259-262,C18662)daCCunhaCRCP,CMoreiraCJB:OcularC.ndingsCinCDown’sCsyndrome.AmJOphthalmolC122:236-244,C19963)木下茂,天野史郎,井上幸次ほか:角膜内皮障害の重症度分類:日眼会誌118:81-83,C20144)MurphyC,AlvaradoJ,JusterRetal:Prenatalandpost-natalCcellularityCofCtheChumanCcornealCendothelium.CaCquantitativeChistologicCstudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC25:312-322,C19845)RaoSK,RanjanSenP,FoglaRetal:CornealendothelialcellCdensityCandCmorphologyCinCnormalCIndianCeyes.CCor-neaC19:820-823,C2000***

Aktis トーリック眼内レンズの術後早期成績

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):515.519,2022cAktisトーリック眼内レンズの術後早期成績岩崎留己蕪龍大川下晶大城莉香子竹下哲二上天草市立上天草総合病院眼科CEarlySurgicalOutcomesafterAktisToricIntraocularLensImplantationRumiIwasaki,RyotaKabura,HikariKawashita,RikakoOshiroandTetsujiTakeshitaCDepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospitalC目的:眼内レンズCAktisトーリック(モデル名CNS60YT)の術後早期成績を報告し,Vivinexトーリック(モデル名CXY1AT)のそれと比較する.対象および方法:2020年C2.12月に,NS60YT3.5を挿入したC18例C27眼(74.0C±5.8歳,平均C±標準偏差,以下同様)とCXY1AT3.7を挿入したC37例C59眼(73.8C±5.4歳)を対象とした.術後C3カ月までの裸眼・矯正視力,他覚・自覚球面度数,他覚・自覚円柱度数,術翌日の軸ずれを比較検討した.結果:NS60YT挿入後,1週間,1カ月,3カ月の裸眼・矯正視力,他覚・自覚球面度数,他覚・自覚円柱度数はいずれも術前に比較して改善していた.NS60YT群とCXY1AT群の間に統計学的有意差はなく,NS60YTは良好な乱視矯正効果をもつと思われた.術翌日の軸ずれはCNS60YT群では,5.3C±3.0°,XY1AT群ではC4.0C±3.1°でCNS60YT群のほうが有意に大きかった.結論:NS60YTは現在発売されているCXY1ATと同等の乱視矯正効果をもつと考えられる.CPurpose:ToCreportCtheCearlyCsurgicalCoutcomesCafterCAktisCtoricCintraocularlens(IOL)(NS60YT;Nidek)CimplantationCcomparedCwithCthatCofCtheCVivinexCtoricIOL(XY1AT;Hoya)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC27CeyesCofC18cases[meanage:74.0C±5.8(meanC±standarddeviation)years]implantedCwithCtheNS60YT[3-5diopters(D)]andC59CeyesCofC37cases(73.8C±5.4years)implantedCwithCtheXY1AT(3-7D)CbetweenCFebruaryCandCDecemberC2020.CInCallCeyes,CweCcomparedCuncorrectedCandCcorrectedCvisualCacuity,Cobjec-tiveCandCsubjectiveCsphericalCpower,CobjectiveCandCsubjectiveCcylindricalCpowerCupCuntilC3-monthsCpostoperative,Candaxialmisalignmentat1-daypostoperative.Results:Nosigni.cantdi.erencewasfoundbetweentheNS60YTgroupCandCtheCXY1ATCgroup,CsuggestingCthatCtheCNS60YTChasCaCgoodCastigmatismCcorrectionCe.ect.CMeanCaxialCmisalignmentat1-daypostoperativewas5.3±3.0°CintheNS60YTgroupand4.0±3.1°CintheXY1ATgroup,thusshowingCthatCtheCmisalignmentCwasCsigni.cantlyCgreaterCinCtheCNS60YTCgroup.CConclusion:TheCNS60YTCwasCfoundtohavethesameastigmatism-correctinge.ectastheXY1AT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):515.519,C2022〕Keywords:Aktis,トーリック,NS60YT,Vivinex,XY1AT.Aktis,toric,NS60YT,Vivinex,XY1AT.はじめに近年トーリック眼内レンズ(toricCintraocularlens:T-IOL)は,その種類が増え,複数の製品を有するメーカーも出てきた.Mohammadiら1)は白内障の患者C1,317人の2,156眼を分析し,73.7%がC1.50D以下の角膜乱視を有し,26.3%が1.50Dを超えるとしていて,1.5Dを超える角膜乱視がある場合にCT-IOLの使用を推奨している.一方,1D程度の弱度の乱視でも,裸眼遠方視力では単焦点CIOLよりも有意にCT-IOLのほうが良好である2)という報告もあり,上天草総合病院(以下,当院)ではCwebカリキュレーターでT-IOLの適応があると判断された正乱視の患者には積極的にCT-IOLを挿入している.T-IOLがC2008年にわが国でも承認されて以降,各レンズメーカーはさまざまな特徴をもつCT-IOLを製造販売するようになった.ニデックより発売予定であるCAktisトーリック(モデル名:NS60YT)は,同社では初となるCT-IOLであり,〔別刷請求先〕岩崎留己:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸C1419-19上天草市立上天草総合病院眼科Reprintrequests:RumiIwasaki,DepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospital,1419-19RyugatakemachiTakado,Kamiamakusa-shi,Kumamoto866-0293,JAPANC白内障手術におけるCT-IOL選択肢の幅が広がることになる.NS60YTはCNex-AcriシリーズのシングルピースCT-IOLである.両凸のレンズ形状で,レンズ前面には乱視度数が配置され,レンズ後面は非球面(C.0.15Cμm)構造となっていることから角膜球面収差が補正される.疎水性アクリル素材で,紫外線吸収能をもち,光学部周辺の乱視軸マークはC2個のドットがマーキングされている.球面度数は,評価時点で15.0D.27.0D(0.50Dステップ),乱視矯正度数は,評価時点でCT3がC1.50D(角膜面C1.05D),T4がC2.25D(角膜面C1.57D),T5がC3.00D(角膜面C2.08D)となっている.当院はCNS60YTを発売前に使用する機会を得たため,先行使用における早期成績を報告するとともにCVivinexトーリック(モデル名:XY1AT,HOYA)との臨床データを比較検討した.CI対象および方法1.対象2020年2.12月に,当院で白内障手術を行い,NS60YT3.5(以下,NS60YT群)を挿入したC18例C27眼(74.0C±5.8歳)およびCHOYAのCXY1AT3.7(以下,XY1AT群)を挿入したC37例C59眼(73.8C±5.4歳)を対象とした.翼状片や角膜疾患,眼底疾患など,角膜乱視や視力に影響のある疾患を有する患者は除外した.本研究は,当院の倫理審査委員会の承認(2021年C4月C15日,承認番号:2021-02)を得たのち,ヘルシンキ宣言3)に準拠して実施された.C2.術前検査眼軸長,角膜曲率半径,屈折値の測定を行った.眼軸長はエコースキャンUS-4000(ニデック)を用いた.角膜曲率半径,屈折値測定には角膜形状/屈折力解析装置COPD-ScanIII(ニデック)を用い,眼内レンズ度数決定にはCSRK-T式を用いた.目標屈折値は全例C0Dだった.レンズモデルおよび軸角度の決定にはそれぞれのメーカーがインターネット上に公開しているCwebcalculatorを使用した.その際に必要となる術後惹起乱視(以下,SIA)はC2.2Cmmの強角膜切開創からプリセットインジェクターCVivinexmultiSertでCXY1-SP(HOYA)を挿入したC30眼のデータからCDr.HillのCSurgicallyInducedCAstigmatismCalculatorを用いて計算し,0.30とした.C3.手術手術はすべて同一術者(竹下)が行った.前.切開は連続円形切.でレンズ前面をCcompletecoverできる大きさとした.上方のC2.2Cmm強角膜切開創から超音波乳化吸引を行った.NS60YT群ではレンズ挿入にCAktisトーリックディスポインジェクター(RI-1,RET社)と専用カートリッジを使用したが,そのままの切開幅では挿入できなかったため,切開創を2.5Cmmスリットナイフで切り広げたのちに挿入した.レンズ挿入後の切開幅をインシジョンゲージ(DuckworthC&Kent社)にて計測した.レンズ挿入時の粘弾性物質にはオペリード(千寿製薬)を用い,レンズ挿入後の除去時はCI/Aチップをレンズと後.の間に挿入して入念に除去した.切開創は無縫合で手術終了した.XY1AT群では切開創を広げることなく,VivinexmultiSertインジェクターで挿入した.手術中の軸合わせはパネル法4)を用い,視能訓練士が液晶保護パネル(以下,パネル)に引いた線にレンズの軸マークを合わせた.パネル法は画像撮影法の一種であり,まず術前に撮影した前眼部写真から虹彩色素斑や虹彩紋理を選んで,それと目標軸のなす角を計測しておく.術中は顕微鏡下の映像をモニターに映し出し,パネルをかぶせておく.スタッフがモニター上で虹彩色素斑や虹彩紋理を見つけ出して角度を計測しパネルの上に線を引く.術者は,レンズ挿入後にモニターを見ながらレンズの軸マークをパネルに引かれた線に合わせるというものである.全例が入院しての手術で,術後は手術室から車いすで病棟へ帰室,抗菌薬点滴が終了するまでベッド上安静とした.C4.視機能および眼科学的評価視力はC5Cm小数視力表でC1.2まで測定しClogMARに換算した.評価項目は術後C1週間,1カ月,3カ月の裸眼・矯正視力,他覚・自覚球面度数,他覚・自覚円柱度数,術前後の角膜乱視量,術翌日の軸ずれ,SIAとした.円柱度数はマイナスシリンダーフォームを用いて計測し,絶対値に変換した.また,乱視の分類の定義として,倒乱視(0.30°または151°.180°),直乱視(61°.120°),斜乱視(それ以外)とした.軸ずれは手術翌日に散瞳下にてCOPD-ScanIIIを用いて徹照像撮影を行い,レンズマークの軸角度を計測,挿入予定軸角度との差を算出し,絶対値で表した.SIAは術前と術後3カ月時の角膜乱視度数からベクトル解析(Alpins法5))にて算出した乱視量を用いた.C5.統計解析連続変数に対してCShapiro-Wilk検定にてデータの正規性を評価し,Welch’st検定を用いてC2群間比較を行った.すべての統計解析にはCRおよびCRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトウェアであるCEZR(Ver.1.54)を使用した.統計学的有意水準をC5%未満(両側検定)とした.CII結果使用レンズおよび挿入軸を表1に示す.術前と術後C1週間,1カ月およびC3カ月の各項目の値を表2および図1~3に示す.術前の円柱度数は自覚も他覚もCXY1AT群のほうが大きかった.NS60YT群CT3.T5のC3モデルであったのに対し,XY1AT群はCT3.T7のC5モデルだったが,術前の角膜乱視には有意差がなかった.両群ともに術前に比較し表1使用レンズおよび挿入軸NS60YT(n=27)CXY1AT(n=59)合計使用レンズCT3CT4CT5CT6CT7C10C6C11C16C26C10C6C1C26C32C21C6C1乱視軸倒乱視C直乱視C斜乱視C19C5C3C57C2C0C7673て術後C1週間,1カ月,3カ月の裸眼および矯正視力,自覚および他覚円柱度数は有意に改善していた(p<0.001).術後C1カ月の矯正視力は,NS60YT群のほうがCXY1AT群より良好だった.術後C3カ月での角膜乱視は,XY1AT群のほうがCNS60YT群より大きかった.それ以外の項目についてはすべての観察期間で両群間に有意差はなかった.NS60YT群では挿入後の切開幅はC2.63C±0.07mmに広がっていた.惹起乱視については,術前と術後C3カ月の比較でNS60YT群では,0.54C±0.33,XY1AT群ではC0.52C±0.29で有意差がなかった(p=0.78).軸ずれは,予定軸と手術翌日でCNS60YT群では,5.3C±3.0°,XY1AT群ではC4.0C±3.1°でCNS60YT群のほうが有意に大きかった(p<0.05).CIII考按XY1ATは着色CT-IOLで,NS60YTとレンズ径や素材といった物理的性質,非球面構造による非点収差を軽減するような光学系など,類似した特徴をもつ.NS60YTも正式発売時にはCXY1AT同様,プリセットインジェクターに装.されて販売されるものと思われるが今回は既存の他社製汎用インジェクターを用いての挿入となった.先行発売されている他社製CT-IOLはいずれもC2.2mm以下の切開幅から挿入可能なインジェクターを用いて挿入される.webcalculatorでレンズモデルと挿入軸を決定する際にはCSIAが必要で,今回C0.30としたがこれはC2.2mm切開創からレンズ挿入した症例から得られた数値である.清水は切開幅がC2.5Cmm以下であればCSIAは無視してよいとしている6).今回倒乱視が多い症例に対し上方からの切開で,NS60YT挿入後の切開幅がC2.67mmに広がっていたことでCSIAが大きくなり,乱視矯正効果が減弱したのではないかと思われた.しかし,術前と術後C3カ月の比較でCSIAには差がなかった.また,自覚および他覚乱視も有意差がなかった.むしろ術前は差がなかった角膜乱視は術後C3カ月時点でCXY1AT群のほうが大きくなっていた.NS60YTの正式発売時に,より小さい切開創から挿入可能なインジェクターが採用されるのであれば表2術前・術後1週間,1カ月,3カ月の各項目の値術前1週間1カ月3カ月CNS60YTCXY1ATp値CNS60YTCXY1ATp値CNS60YTCXY1ATp値CNS60YTCXY1ATp値裸眼視力(logMAR)矯正視力(logMAR)自覚球面度数(D)C他覚球面度数(D)C自覚円柱度数(D)C他覚円柱度数(D)C角膜乱視度数(D)CSIA(D)C0.34±0.280.34±0.230.40C0.08(.─C1.22)C(.0.08C─C1.00)C0.08±0.260.06±0.160.46C0.08(.─C1.22)C(.0.08C─C1.00)C0.44±1.990.97±1.570.42C7.00(.─C3.00)C(.2.50C─C4.50)C0.18±2.140.73±1.790.30C7.31(.─C3.64)C(.5.91C─C4.22)C1.26±0.741.64±0.850.02*C(C0.00C─C3.00)C(C0.00C─C4.00)C1.18±0.721.55±0.680.01*C(C0.28C─C2.81)C(C0.30C─C3.27)C1.07±0.551.11±0.510.52C(C0.28C─C2.48)C(C0.24C─C2.95)C─C─C─C0.00±0.130.00±0.150.06C.0.08C─C0.40)C(C(.0.08C─C0.05)C.0.10±0.02.0.10±0.060.10C.0.08C─C0.52)C(C(.0.08C─C0.22)C0.00±0.200.10±0.370.42C.0.50C─C0.50)C(C(.1.00C─C0.75)C0.00±0.35.0.20±0.540.20C.0.51C─C0.88)C(C(.1.65C─C1.10)C0.10±0.250.50±3.000.36C(C0.00C─C1.00)C(C0.00C─C2.25)C0.60±0.430.70±0.870.63C(C0.03C─C1.54)C(.0.73C─C5.91)C0.96±0.591.15±0.720.25C(C0.11C─C2.46)C(C0.12C─C4.73)C─C─C─C0.00±0.100.05±0.130.18C.0.08C─C0.22)C(C(.0.08C─C0.00)C.0.08±0.02.0.05±0.050.02*C.0.08C─C0.40)C(C(.0.08C─C0.15)C.0.01±0.33.0.08±0.430.63C.0.50C─C1.00)C(C(.1.00C─C0.75)C0.32±0430.08±0.730.10C.0.43C─C1.10)C(C(.1.23C─C2.96)C0.32±0.400.31±0.530.58C(C0.00C─C1.00)C(C0.00C─C2.25)C0.76±0.430.87±0.790.87C(C0.00C─C1.46)C(C0.00C─C5.52)C1.00±0.601.22±0.700.17C(C0.18C─C2.52)C(C0.07C─C3.50)C─C─C─C0.00±0.100.04±0.13.0.08C─C0.22)C(C(.0.08C─C0.30)C0.44.0.07±0.04.0.06±0.06.0.08C─C0.10)C(C(.0.08C─C0.15)C0.86.0.03±0.270.12±0.60.0.50C─C0.50)C(C(.0.50C─C2.00)C0.640.23±0.380.09±0.93.0.41C─C1.09)C(C(.0.86C─C2.98)C0.050.21±0.470.44±0.770.59.1.00C─C1.00)C(C(C0.00C─C3.00)C0.54±0.440.69±0.450.59(C0.22C─C1.16)C(C0.08C─C2.01)C0.84±0.551.25±0.480.003(C0.00C─C2.47)C(C0.21C─C2.35)C0.54±0.330.52±0.290.782C(C0.08C─C1.51)C(C0.08C─C1.32)C0.201.501.000.500.030.040.050.100.00自覚球面度数(D)裸眼視力(logMAR)0.500.600.70a3.002.502.00矯正視力(logMAR)0.100.150.300.340.340.40NS60YT0.500.320.091.000.73他覚球面度数(D)0.97-0.010.120.440.000.230.010.180.00-0.05-0.50-0.03-0.08-0.12-0.50-1.00-1.00-1.50-1.50-2.00-2.00術前1週間1カ月3カ月-2.50術前1週間1カ月3カ月図2自覚球面度数(a)と他覚球面度数(b)の変化SIAをC0.30で計算しても他社製CT-IOLと同等の乱視矯正効果が得られると期待できる.NS60YTの支持部は光学部接線に対して垂直に出て直角に曲がり,長いのが特徴である.同社ではこれを「アンカーウィングループ」とよび,水晶体.との接触域を最大限に引き出すデザインで安定した中心固定をめざしたとしている.水晶体.赤道部との接触域が広いことで,.内回旋は少ないのではないかと期待されたが,少なくとも予定軸からの軸ずれについてはCXY1AT群よりも大きいという結果となった.XY1ATの支持部はシボ加工(前・後面),すり仕上げ(側面)されており,これが.内回旋を抑制している可能性がある7).乱視矯正効果は両群間に有意差がなかったが,今後は支持部の表面加工についても検討すべきかもしれない.NS60YTは発売時には球面度数はC1.0D.30.0D(28.0D以上はC1.0Dステップ)に拡張され,円柱加入度数もCT3.T5に加えC3.75D(角膜面C2.60D)加入のCT6,4.50D(角膜面C3.11D)加入のCT7が追加される予定である.より狭い切開創から挿入可能なプリセットインジェクターに収められれば,より多くの症例に適応できるようになり,他社製CT-IOLと遜色ない乱視矯正効果が期待できるレンズである.利益相反:利益相反公表基準に該当なしa3.00b2.502.50NS60YTXY1AT2.00NS60YTXY1AT2.00自覚円柱度数(D)他覚円柱度数(D)1.551.640.691.500.500.320.440.160.210.500.310.000.09-0.500.001.501.261.181.001.00術前1週間1カ月3カ月術前1週間1カ月3カ月図3自覚円柱度数(a)と他覚円柱度数(b)の変化文献1)MohammadiCM,CNaderanCM,CPahlevaniCRCetal:PrevaC-lenceCofCcornealCastigmatismCbeforeCcataractCsurgery.CIntCOphthalmolC36:807-817,C20162)StathamCM,CApelCA,CStephensenD:ComparisonCofCtheCAcrySofSA60sphericalintraocularlensandtheAcrySoftoricCSN60T3CintraocularClensCoutcomesCinCpatientsCwithClowamountsofcornealastigmatism.ClinExpOphthalmolC37:775-779,C20093)WorldCMedicalAssociation:WorldCMedicalCAssociationCDeclarationCofHelsinki:ethicalCprinciplesCforCmedicalCresearchCinvolvingChumanCsubjects.CJAMAC27:2191-2194,C20134)川下晶,蕪龍大,岩崎留己ほか:タブレット端末を用いたトーリック眼内レンズの軸合わせ.臨眼C75:335-338,C20215)AlpinsNA:ACnewCmethodCofCanalyzingCvectorsCforCchangeCinCastigmatism.CJCCataractCRefractCSurgC19:524-533,C19936)清水公也:角膜耳側切開白内障手術.眼科C37:323-330,C19957)竹下哲二,川下晶,安武真佑ほか:支持部の表面加工の異なるC2種類のトーリック眼内レンズの術後早期成績.眼科63:75-80,C2021***

多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3 版に関する アンケート調査結果の推移

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):510.514,2022c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3版に関するアンケート調査結果の推移大野敦粟根尚子赤岡寛晃廣田悠祐梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CChangesintheResultsofaQuestionnaireSurveyontheThirdEditionoftheDiabeticEyeNotebookbyOphthalmologistsintheTamaAreaAtsushiOhno,NaokoAwane,HiroakiAkaoka,YusukeHirota,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:2014年に第C3版に改訂された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医の意識調査をC2015年とC2020年に施行し,調査結果の推移を検討した.方法:多摩地域の眼科医に眼手帳,とくに第C3版の改訂ポイントに関するアンケートをC2015年とC2020年に依頼し,50名とC42名から回答を得た.結果:受診の記録で記入しにくい項目は「糖尿病黄斑症とその変化」の選択者が増え,黄斑症の記載が詳細になったことへの負担感が増していた.福田分類の復活希望がC25%有意に増加した.受診の記録の追加希望項目は,内科関連から眼科関連項目に移行していた.「眼手帳は眼科医が渡すべき」が減り,「内科医でもよい」が増えた.「第C3版への改訂で患者にとってわかりやすくなった」がC10%増えた.結論:2020年はC2015年に比し,第C3版への改訂で糖尿病黄斑症の記載が詳細になったことへの負担感が増え,福田分類の復活希望がC25%に有意に増加していた.一方,患者にとってわかりやすくなったとの回答が増えていた.CPurpose:Anophthalmologist’sattitudesurveyontheDiabeticEyeNotebook(EyeNotebook)revisedtothe3rdeditionin2014wasconductedin2015and2020,andthetransitionofthesurveyresultswasexamined.Meth-ods:In2015and2020,weaskedophthalmologistsintheTamaareatosurveytheEyeNotebook,especiallytherevisionCpointsCofCtheC3rdCedition,CandCreceivedCresponsesCfromC50CandC42Cphysicians,Crespectively.CResults:Thenumberofphysicianswhoselecteddiabeticmaculopathyanditschangesasitemsthatweredi.cultto.lloutintherecordofconsultations,aswellastheburdenofadetaileddescriptionofdiabeticmaculopathy,increased.ThehopeCforCtheCrevivalCofCtheCFukudaCclassi.cationCincreasedCsigni.cantlyCby25%.CTheCitemsCtoCbeCaddedCtoCtheCrecordCofCconsultationsCwereCshiftingCfromCthoseCrelatedCtoCinternalCmedicineCtoCthoseCrelatedCtoCophthalmology.CThenumberofanswersthatophthalmologistsshouldprovidetotheEyeNotebookhasdecreased,whilethenum-berofanswersthatphysiciansmayprovidehasincreased.Althoughitincreasedby10%,therevisiontothe3rdeditionCmadeCitCeasierCforCpatientsCtoCunderstand.CConclusions:ComparedCtoC2015,CtheCburdenCofCaCdetailedCdescriptionofdiabeticmaculopathywasincreasedin2020,andthehopefortherevivaloftheFukudaclassi.cationsigni.cantlyCincreasedCby25%.COnCtheCotherChand,CanCincreasingCnumberCofCrespondentsCsaidCitCwasCeasierCforCpatientstounderstand.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):510.514,C2022〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,受診の記録,糖尿病黄斑症,福田分類.diabeticeyenotebook,ques-tionnairesurvey,recordofconsultations,diabeticmaculopathy,Fukudaclassi.cation.Cはじめに1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの話会を設立し,内科と眼科の連携を強化するために両科の連一つが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC510(118)図った1).また,この活動をベースに,筆者(大野)はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経てC2002年C6月に日本糖尿病眼学会より『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)が発行されるに至った3).眼手帳は,2002年C6月に日本糖尿病眼学会より発行されてからC14年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4.7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目,10年目に施行してきた.そして発行半年目,2年目の結果をC7年目の結果と比較した結果8),ならびにC10年目を加えた過去C4回のアンケート調査の比較結果9)を報告してきた.眼手帳はC2014年C6月に第C3版に改訂されたが,糖尿病黄斑症の記載が詳細になり,一方,初版から記載欄を設けていた福田分類が削除され,第C2版への改訂に比べて比較的大きな変更になった.そこで第C3版への改訂からC1年後のC2015年に第C3版に対する眼科医の意識調査を行い報告した10)が,今回さらにC5年後のC2020年に再度同じ調査を行ったので,調査結果の推移を報告する.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務する糖尿病診療に関心をもつ眼科医で,2015年C50名,2020年42名から回答があった.回答者の背景は表1に示すとおりで,2020年はC2015年に比し女性の回答者の割合が有意に増え,臨床経験年数と定期通院糖尿病患者数が増加傾向を認めた.なおC2015年のアンケート調査はC6.7月に施行されたが,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓蒙を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.一方,2020年のアンケート調査はC1.3月に施行されたが,2015年の際の倫理的問題を考慮し,多摩地域のなかの八王子市・町田市・多摩市・日野市・稲城市・青梅市・立川市・国立市・府中市・調布市の医師会に所属する眼科医に郵送でアンケート用紙の配布と記入を依頼し,FAXで回収する方式に変更した.郵送総数はC141件で回答数はC42件のため,回収率はC29.8%であった.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.第C26回日本糖尿病眼学会においては全C10項目で報告したが,本稿では誌面の制約もあり,とくに第C3版の改訂ポイントを中心に下記の項目につき,2015年C50名,2020年C42名の回答結果を比較検討した.問C1.4頁からの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目問C2-1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非問C2-2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問C2-3.受診の記録における福田分類削除の是非問3.受診の記録への追加希望項目表1アンケート回答者の背景(人数)2015年2020年p値(c2検定)【日本糖尿病眼学会】会員:非会員:無回答11:30:97:30:5C0.51【性別】男性:女性:無回答37:8:517:12:1C3<C0.005【年齢】30歳代:4C0歳代:5C0歳代:6C0歳代:7C0歳代6:14:21:6:31:8:18:9:6C0.17【勤務先】開業医:病院勤務:その他・無回答42:7:139:1:2C0.12【臨床経験年数(年)】.10:11.20:21.30:30.40:41.:無回答2:11:22:12:3:00:6:15:12:4:5C0.097【定期通院糖尿病患者数(名)】.9:10.29:30.49:50.99:1C00.:無回答3:13:17:4:10:30:9:7:11:11:4C0.057C表2受診の記録における変更ポイントへの評価「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非2015年2020年1)適切な改変69.2%54.3%2)細かくて記載が大変になった25.6%34.3%3)その他の御意見5.1%11.4%Cc2検定p=0.36無回答11名7名「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非2015年2020年1)必要な項目47.6%54.5%2)必要だが記載しにくくないほうがよい38.1%33.3%3)元々不要9.5%6.1%4)その他の御意見4.8%6.1%Cc2検定p=0.89無回答8名9名福田分類削除の是非2015年2020年1)ないままでよい60.0%50.0%2)復活してほしい2.9%27.5%3)どちらともいえない37.1%22.5%Cc2検定p=0.01無回答15名2名表4眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか2015年2020年1)眼科医が渡すべきである22.0%7.7%2)内科医から渡してもかまわない36.0%48.7%3)どちらでもよい42.0%43.6%Cc2検定p=0.16無回答0名3名問C4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか問C5.眼手帳第C3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ問C1は複数回答が可につき無回答者を除く回答者中の回答割合で表示し,問C2.5は無回答者を除く回答者の百分比で示した.両年の回答結果の比較にはCc2検定を用い,統計学的有意水準はC5%とした.CII結果1.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目(図1)2020年はC2015年に比べて,記入しにくい項目は「とくになし」との回答者がC11%減り,「糖尿病黄斑症」「糖尿病黄斑症の変化」を選択する回答者が増加していた.2.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非(表2上段)糖尿病黄斑症の記載が詳細になったことは「適切な改変」表3「受診の記録」への追加希望項目2015年2020年1)とくにない93.3%83.3%2)ある6.7%16.7%Cc2検定p=0.18無回答5名6名<自由記載コメント>【2015年】・血糖データ(FBS,HbA1c)本人か内科医の記載で・HbA1c・内科医へのアドバイスの項目(何カ月でHbA1cを何%降下させる等)【2020年】・網膜レーザー光凝固(光凝固)未・済みの項目が欲しい・緑内障,黄斑変性など(病名のみでも可)・他の眼底疾患・治療の項目:抗CVEGF薬注射・変化あり・ステージ不変の項目(出血箇所は変わってもステージは同じなどという場合があるので)・病院名,記載者名の追記スペース(転院などで変更があるので)表5眼手帳第3版への改訂の患者へのわかりやすさ2015年2020年1)患者にとってわかりやすくなった54.5%64.9%2)あまりかわりない18.2%13.5%3)どちらともいえない27.3%21.6%Cc2検定p=0.64無回答6名5名との回答が両年とももっとも多かったが,「細かくて記載が大変になった」の回答が有意差は認めないもののC2020年は2015年よりもC8.7%増えていた.2.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非(表2中段)黄斑症の変化は「必要な項目」との回答が両年ともC50%前後でもっとも多く,ついで「必要だが記載しにくくないほうがよい」がC30%台で,両年間で差を認めなかった.2.3.受診の記録における福田分類削除の是非(表2下段)福田分類は「ないままでよい」が両年とも最多の回答も60%からC50%とC10%減り,復活希望がC2020年はC2015年に比しC25%有意に増加していた.C3.受診の記録への追加希望項目(表3)受診の記録への追加希望は「とくにない」の回答がC10%減少し,「希望項目あり」の回答がC10%増えていた.その回答者における自由記載コメントを表3の下段に記載したが,追加希望項目は内科関連から眼科関連項目に移行していた.図1「受診の記録」のなかで記入しにくい項目4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか(表4)眼手帳は「眼科医が渡すべき」の回答がC2020年はC2015年に比べてC14.3%減り,「内科医から渡してもかまわない」の回答がC12.7%増えていたが,有意差は認めなかった.C5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ(表5)眼手帳第C3版への改訂にあたり,患者サイドに立った眼手帳を目指してC1頁の「眼科受診のススメ」などの表記を患者にわかりやすい表記に変更したが,その結果患者さんにとってわかりやすくなったとの回答がC54.5%からC64.9%とC10%増えていた.CIII考按1.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目多摩地域の眼科医における眼手帳第C2版までのアンケート調査では,記入しにくい項目として,「福田分類」のつぎに「糖尿病網膜症の変化」があげられていた9).今回「糖尿病網膜症とその変化」の選択者がC2015年よりC2020年で減り,「糖尿病黄斑症とその変化」の選択者が増えていたことより,網膜症よりも黄斑症とその経時的変化を記載することの負担感が増していると思われる.2.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非黄斑症の記載が細かくて大変になったとの回答が増えた背景として,「局所性」と「びまん性」の選択は両者が混在することも多く必ずしも容易ではないことを,第C3版の利用期間が延びるにつれて実感される回答者が増えたことが考えられる.2.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問1(図1)で「受診の記録」のなかで記入しにくい項目として「糖尿病黄斑症の変化」の回答者がC16.3%からC26.5%まで約C10%増加しているにもかかわらず,問C2-2では「糖尿病黄斑症の変化」の記載は必要との回答が有意差はないものの約C7%増えて,記載しにくくないほうがよいが約C5%減っており,両結果は逆の動きを示した.黄斑症の変化の評価は抗CVEGF療法の浸透とともに臨床上重要となっており,記入しにくくても必要と考える眼科医が増えているためと思われる.「糖尿病黄斑症の変化」における改善・不変・悪化の線引きは容易ではなく,これも記入しにくい背景として考えられる.眼手帳はC2020年のアンケートの回収が終了したC3月に第C4版に改訂されて,黄斑症の記載が中心窩網膜厚(μm)の数値を直接記載するように変更された.これにより第C3版よりも客観的に臨床経過をみることができるようになり,改善・不変・悪化からの選択よりは負担感が減っている可能性もあり,今後第C4版の改訂ポイントに関するアンケートの実施も計画していきたい.2.3.受診の記録における福田分類削除の是非多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行C10年目までのアンケート調査では,10年目の回答において,受診の記録のなかで記入しにくい項目として「福田分類」と「変化」が多く選ばれ,とくに福田分類の増加率が高かった9).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため記入していただきたい項目ではあるが,その厳密な記入のためには蛍光眼底検査が必要となることもあり,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,眼手帳の第C3版では受診の記録から福田分類は削除されたが,今回の結果では福田分類の復活希望がC25%有意に増加していた.この背景は不明であるが,内科・眼科連携の観点からも重要なポイントであるので,今後のアンケート調査において,復活希望の回答者にその理由を聞いてみたい.C3.受診の記録への追加希望項目追加希望ありの回答がC10%増え,追加希望項目は内科関連から眼科関連項目に移行していた.内科関連項目はHbA1cが多かったが,HbA1cが併記されれば血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連が見やすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ,今後の導入が期待されていたが第C4版で導入された.一方,眼科関連項目は表3下段に示したように多岐にわたるが,このうち治療の項目:抗CVEGF薬注射に関しては第C4版で記載欄が設けられた.C4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行C10年目までのアンケート調査9)では,7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目に前者が著減し後者が有意な増加を示した.眼手帳発行C8年目にあたるC2010年には,内科医側からの情報源である「糖尿病健康手帳」が「糖尿病連携手帳」に変わり,それに伴い眼手帳のサイズも連携手帳に合わせて大判となった.両手帳をつなげるビニールカバーも眼手帳無料配布の協賛企業から提供されており,その結果,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えた.このような習慣の継続が,眼手帳は内科医から渡してもかまわないとの回答がC12.7%増えた背景の一つと思われる.C5.眼手帳第3版への改訂の患者へのわかりやすさ眼手帳第C3版への改訂では,「眼科受診のススメ」の表記だけでなく,眼手帳後半のお役立ち情報にCOCTや薬物注射を加えるなどの改変を行っている.2015年ではまだ第C2版のままの患者も少なくなかったと思われるが,2020年になれば第C3版に切り替わった患者も増えており,その結果第C3版改訂時の工夫により患者にとって「わかりやすくなった」と実感する回答者がC10%増えたと思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,C20119)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C201410)大野敦,粟根尚子,永田卓美ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第C3版に関するアンケート調査.あたらしい眼科34:268-273,C2017***

増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する 緑内障チューブシャント手術

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):506.509,2022c増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術石黒聖奈桑山創一郎野崎実穂森田裕小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CClinicalOutcomesofTube-ShuntSurgeryinCasesofProliferativeDiabeticRetinopathy-AssociatedNeovascularGlaucomaKiyonaIshiguro,SoichiroKuwayama,MihoNozaki,HiroshiMoritaandYuichiroOguraCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesC目的:増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対して施行した緑内障チューブシャント手術の術後成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:緑内障チューブシャント手術を施行しC12カ月以上経過を追えたC21例C23眼を対象とし,術前後の眼圧,点眼スコア,合併症を評価項目とした.結果:術後平均観察期間はC40.5±27.1カ月であった.術前平均眼圧はC27.8±10.6CmmHg,術後C12カ月平均眼圧はC14.6±4.9CmmHgと有意に低下(p<0.01)し,平均点眼スコアも術前C3.6±1.3,術後C1.6±1.7と有意に減少した(p<0.01).術後C1カ月以内の早期合併症は高眼圧(7眼),硝子体出血(4眼),脈絡膜.離(1眼),後期合併症は眼圧再上昇(5眼),硝子体出血(4眼)であった.結論:血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.CPurpose:ToCretrospectivelyCevaluateCtheCoutcomesCofCtube-shuntCsurgeryCinCcasesCofCproliferativeCdiabeticCretinopathy-associatedCneovascularglaucoma(NVG).CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC23CeyesCofC21CNVGpatientswhounderwenttube-shuntsurgeryfromDecember2012toJune2019,andwhowerefollowedformorethan12-monthspostoperative.Mainoutcomemeasuresincludedintraocularpressure(IOP),numberofglau-comaCmedicationsCused,CandCsurgicalCcomplications.CResults:TheCmeanCfollow-upCperiodCwasC40.5±27.1Cmonths.CMeanCIOPCdecreasedCfromC27.8±10.6CmmHgCtoC14.6±4.9CmmHg(p<0.05),CandCtheCnumberCofCglaucomaCmedica-tionsCusedCdecreasedCfromC3.6±1.3CtoC1.6±1.7(p<0.01).CComplicationsCobservedCwithinC1-monthCpostoperativeCwereChighIOP(n=7eyes),Cvitreoushemorrhage(n=4eyes),CandCchoroidaldetachment(n=1eye),CandCthoseCobservedCbetweenC1-andC12-monthsCpostoperativeCwereChighIOP(n=5eyes)andCvitreoushemorrhage(n=4eyes).CConclusion:Tube-shuntCsurgeryCwasCfoundCrelativelyCe.ectiveCforCIOPCreduction,CdecreaseCofCglaucomaCmedicationsused,andcontrolofIOPinNVGpatientsfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):506.509,C2022〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,術後合併症,点眼スコア.Baerveldtglaucomaimplant,Ahmedglaucomavalve,neovascularglaucoma,proliferativedia-beticretinopathy,postoperativecomplications,numberofglaucomamedications.Cはじめに血管新生緑内障の閉塞隅角緑内障期には,従来,線維柱帯切除術が行われていたが,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障では,線維柱帯切除術の手術成績がとくに不良であることが知られている1).糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障の特徴として,比較的年齢が若く,硝子体手術をはじめとした手術既往を有している場合が多いため,線維柱帯切除術の術後の炎症や瘢痕形成に影響を与え,眼圧下降が得られにくいと考えられている2).わが国では,緑内障チューブシャント術がC2012年に保険〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,Kawasumi1,Mizuho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC506(114)適用収載となり,マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった場合や,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な場合,線維柱帯切除術の成功が見込めない場合,また他の濾過手術が技術的に施行困難な場合が適応とされている3).さらに,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の有効性も報告されている4,5).当院でもC2012年から血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント術を施行しており,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaCimplant:BGI)の術後C6カ月における良好な眼圧下降効果を報告している6).今回,アーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)を加えC12カ月以上経過を追えた増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の手術成績について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2012年C12月.2019年C6月に名古屋市立大学病院で増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し,緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過を追えたC21例23眼(男性C15例,女性C6例,平均年齢C54.9C±12.4歳)について検討した.術前,術後の視力・眼圧,術前・術後の点眼スコア(緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠内服をC2点),早期(術後C1カ月以内)・後期(術後C1カ月以降)合併症について検討した.今回使用したCBGIは,硝子体手術既往眼ではプレート面積がC350CmmC2でチューブにCHo.manElbowをもつCBG102-350,硝子体手術未施行眼ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250である.術式は,強膜半層弁を作製し,チューブをC7-0あるいはC8-0バイクリル糸で結紮していたが,術後低眼圧の症例がみられたことから,その後は3-0ナイロン糸をステントとして留置する方法に変更した.術前に炭酸脱水酵素阻害薬内服下でも眼圧がC20CmmHg以上の場合では,9-0ナイロン糸でCSherwoodスリットを作製した.AGVはプレート面積がC184CmmC2のCFP7を使用し,全例毛様体扁平部に留置した.既報5)に基づき手術成功率(生存率)をCKaplan-Meier法で解析した.生存(手術成功)の定義は既報5)と同様に,①視力が光覚弁以上,②眼圧がC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものとした.数値は平均値±標準偏差で記載し,統計学的検定にはCWilcoxon検定を用いCp<0.05を有意差ありとした.II結果BGIを18例20眼,AGVを3例3眼に施行した.BGIは前房タイプがC2眼,毛様体扁平部留置タイプがC18眼であった.AGVはC3眼とも毛様体扁平部に留置した.前房タイプを挿入したC1例C2眼を除き,硝子体手術未施行眼には,硝子体手術を併用し,チューブを毛様体扁平部に留置した.治療歴として,汎網膜光凝固および白内障手術は全例で施行されており,硝子体手術はC17眼(BGIではC15眼,AGVではC2眼)に行われ,術前に血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)阻害薬が投与されていたのはC8眼(BGI5眼,AGV3眼)であった.BGIを施行されたC4眼で線維柱帯切除術の既往があり,うちC2眼は複数回線維柱帯切除術が施行されていたが,硝子体手術は未施行であった.術後経過観察期間はC12.91カ月(40.5C±27.1カ月)であった.平均眼圧の推移は術前C27.8C±10.6CmmHg,1週間後C12.9±9.3CmmHg,1カ月後C14.5C±5.1CmmHg,3カ月後C14.9C±3.2CmmHg,12カ月後にはC14.6C±4.9CmmHgと,術前眼圧と比較し有意な眼圧下降を認めた(p<0.01).また,最終受診時もC12.7C±4.7CmmHgと有意に低下していた(p<0.01)(図1).また,logMAR視力はC0.2以上の変化を改善あるいは悪化としたとき,改善C10眼(43.5%),不変C6眼(26.0%),悪化C7眼(30.5%)で,logMAR視力は術前C1.40C±0.88,最終受診時はC1.36C±1.18と有意差は認めなかった.しかしながら,光覚弁消失となった症例がC2眼あり,どちらも術後眼圧再上昇に対し毛様体レーザーを施行した症例であった.点眼スコアは,術前のC3.6C±1.3から最終受診時C1.6C±1.7と有意な減少を認めた(p<0.01)(図2).術後C1カ月以内の早期合併症は,高眼圧をC7眼に認めた.3眼は薬物治療を開始した(表1).2眼は術後にCSherwoodslitを追加し,さらにチューブ結紮糸を抜糸したが,うちC1眼はそれでも眼圧コントロールがつかず,最終的に光覚弁消失となった.1眼はCSherwoodslitを追加,1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.硝子体出血はC4眼でみられ,3眼で硝子体手術を行い,1眼は自然消退した.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられたが,脈絡膜.離は自然消退した.術後C1カ月以降の後期の合併症(表2)は,眼圧が再上昇しコントロール不良となったものがC5眼あった.3眼はMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除したが,1眼はそれでも眼圧下降が得られず硝子体手術を併用しCBGIを毛様体扁平部に挿入,もうC1眼も眼圧下降が得られず毛様体レーザーをC3回施行したが視力は光覚弁消失となった.MMC併用プレート周囲被膜切除を施行しなかったC2眼中C1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射および汎網膜光凝固の追加を行い,その後眼圧上昇は認めていな654平均眼圧(mmHg)点眼スコア3210100図2術前・術後での点眼スコア緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠図1術前・術後での平均眼圧の推移内服をC2点とした.点眼部は術前のC3.6から最終受診時の時点で術前最終受診時Wilcoxonsignedranktest,*p<0.01術前1週1カ月3カ月6カ月1年最終受診時平均眼圧は術前と比較してC1週間後,1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後,最終受診時の時点で有意に下降していた(p<0.01).表1術後早期合併症(術後1カ月以内)高眼圧7眼(C30%)硝子体出血4眼(C17%)脈絡膜.離を伴う低眼圧1眼(C4%)高眼圧を認めたC7眼のうち,3眼に薬物治療を開始し,2眼はCSherwoodslitを追加しチューブ結紮糸を抜糸した.1眼はCSherwoodslit追加した.1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.C1.01.6と有意な減少を認めた(p<0.01).表2術後後期合併症(術後1カ月以降)眼圧再上昇5眼(23%)硝子体出血4眼(17%)眼圧再上昇のC5眼のうち,3眼はCMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除.1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.硝子体出血のC4眼のうち,2眼は硝子体手術,1眼は硝子体手術とCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射のみを行った.CIII考按0.8生存率0.60.40.20.0月数図3Kaplan.Meier生存曲線生存の基準を①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg036912今回筆者らは増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過観察できたC23眼について後ろ向きに検討した.術後C1年の成功率はC78.9%であり,既報でもC1年後におけるCBGI手術の成功率C60.0%,AGV手術の成功率C90.0%と同様に良好な結果を得ている7).今回の検討では,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は,術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.術後後期の眼圧再上昇に対してCMMC併用のプレート周囲被膜切除術を行ったC3眼はすべてCBGI術後であり,うちC2眼は追加手術が必要となった.過去の報告でも,プレート周囲の被膜による眼圧再上昇例に対しては,プレート被膜切除よりも追加手術を施行したほうがよいことが示唆されている8,9)ため,現在当院ではCMMC併用プレート周囲被膜切除術は行わず,緑内障インプラント追加や毛様体レーザー追加をする方針をとっている.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられ脈絡膜.離は自然消退したが,この症例は術中にチューブの結紮のみを行った症例であった.この症例を経験後,3-0ナイロン糸をステント未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものを生存とした.生存率は術後3カ月後で84.2%,6カ月後でC78.9%,12カ月後もC78.9%であった.い.また,硝子体出血はC4眼に認め,2眼は硝子体手術(うちC1眼はC3回施行),1眼は硝子体手術およびCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.術後C3カ月の生存率はC84.2%,術後C6カ月およびC1年の生存率はC78.9%であった(図3).としてチューブに挿入するようになり,術後の脈絡膜.離は出現しなかったことから,3-0ナイロン糸によるステント留置は術後早期の脈絡膜.離を防ぐのに有効と考えられる.本研究の限界として,21例C23眼と症例数が少ない点,使用した緑内障チューブシャントも,BGI20眼に対しCAGVがC3眼と偏りがある点,硝子体手術の既往や術前のCVEGF阻害薬使用が術後合併症に及ぼす影響を論じるには症例が少ない点があげられる.また,血管新生緑内障も,急激に血管新生を生じた活動性の高いタイプや,新生血管の活動性は低いが周辺虹彩前癒着が高度で眼圧の高いタイプなど,さまざまな違いがある.今後,活動性の同じ血管新生緑内障に対して,術前にCVEGF阻害薬を使用したCBGIおよびCAGV施行症例数を同程度そろえ,その術後成績を検討する必要があると考える.今回の研究からも,緑内障チューブシャント手術は,増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し有効な術式と考えられた.今後も,術後の眼圧再上昇を防ぐ治療方針,合併症のより良い対処の確立が,緑内障チューブシャント手術の手術成績をさらに向上させると思われた.文献1)MeganCK,CChelseaCL,CRachaelCPCetal:AngiogenesisCinCglaucoma.ltrationsurgeryandneovascularglaucoma:Areview.SurvOpthalmolC60:524-535,C20152)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20093)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版,20184)ShenCCC,CSalimCS,CDuCHCetal:TrabeculectomyCversusCAhmedGlaucomaValveimplantationinneovascularglau-coma.ClinOphthalmolC5:281-286,C20115)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌121:138-145,C20176)野崎祐加,富安胤太,野崎実穂ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績.あたらしい眼科35:140-143,C20187)SudaCM,CNakanishiCH,CAkagiCTCetal:BaerveldtCorCAhmedglaucomavalveimplantationwithparsplanatubeinsertionCinCJapaneseCeyesCwithCneovascularglaucoma:C1-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:2439-2449,C20188)RosentreterCA,CMelleinCAC,CKonenCWWCetal:CapsuleCexcisionandOlogenimplantationforrevisionafterglauco-madrainagedevicesurgery.GraefesArchClinExpOph-thalmolC248:1319-1324,C20109)ValimakiCJ,CUusitaloH:ImmunohistochemicalCanalysisCofCextracellularmatrixblebcapsulesoffunctioningandnon-functioningglaucomadrainageimplants.ActaOphthalmolC92:524-528,C2014***

抗血管内皮増殖因子薬硝子体注射が有効であった 増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の血管新生緑内障の1 例

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):501.505,2022c抗血管内皮増殖因子薬硝子体注射が有効であった増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後の血管新生緑内障の1例森秀夫宮保浩子大阪市立総合医療センター眼科CACaseofNeovascularGlaucomaafterVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyE.ectivelyTreatedbyRepeatedAnti-VascularEndothelialGrowthFactorInjectionsHideoMoriandHirokoMiyaboCDepartmentofOphthalmology,OsakaCityGeneralHospitalC抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内注射が眼圧制御と視力維持に有効であった血管新生緑内障(NVG)のC1例を報告する.症例は長期間糖尿病を放置したC72歳,男性.左眼視力は生来不良であった.今回右眼に白内障と増殖糖尿病網膜症を発症し,視力はC0.4に低下した.硝子体出血は認めなかった.球後麻酔下に白内障併施硝子体手術を施行中に不穏興奮状態となり,手術は中止に至った.術後は硝子体出血が著明であり,軽度の認知症の合併が判明した.全身麻酔での再手術を施行し,半年後視力C0.8を得た.手術C9カ月後CNVG(眼圧C40CmmHg)を発症した.濾過手術の前処置として抗CVEGF薬を硝子体内注射すると眼圧はC10CmmHg台に下降し,虹彩新生血管は消失した.認知症患者の唯一眼であり,濾過手術は中止した.その後C3.4カ月間隔でC2度CNVGが再燃し,その都度注射により眼圧制御と視力維持を得ている.NVGへの抗CVEGF薬注射は,手術の出血軽減目的の前処置として位置づけられるが,症例によっては継続注射が有効な場合もありうると思われた.CPurpose:Toreportacaseofneovascularglaucoma(NVG)aftervitrectomyforproliferativediabeticretinopa-thyCthatCwasCsuccessfullyCtreatedCbyCrepeatedCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthfactor(anti-VEGF)Cinjections.Casereport:A72-year-oldmalewithdiabetesmellitus(DM)presentedproliferativediabeticretinopa-thyinhisrighteye.Visualacuity(VA)(Snellenchart)inhisrighteyewas0.4,whilethatinhisleft-eyewaspoorsinceCchildhood.CHeChadCnotCundergoneCtreatmentCforCDMCforCaClongCtime.CForCtreatment,CvitrectomyCcombinedCwithCcataractCsurgeryCunderCretrobulbarCanesthesiaCwasCperformed.CHowever,CtheCpatientCbecameCagitatedCandCuncontrollablemid-surgery,sotheoperationwasdiscontinued.Postoperatively,markedvitreoushemorrhagewasobserved,andhewasdiagnosedwithmilddementia.Reoperationwassuccessfullyperformedundergeneralanes-thesia.At6-monthspostoperative,hisright-eyeVAimprovedto0.8,yetat9-monthspostoperative,NVGwithanintraocularpressure(IOP)of40CmmHgdeveloped.Anti-VEGFwasinjectedintravitreallyasanadjuncttherapyto.ltrationsurgery.TheIOPloweredto10-somethingmmHg,andtheirisneovascularizationdisappeared.SincethepatientChadCdementiaCandConlyChadCvisionCinChisCrightCeye,CtheCplannedC.ltrationCsurgeryCwasCcancelled.CNVGCrecurredtwiceatanintervalof3or4months,yetwassuccessfullytreatedeachtimeviainjectionofanti-VEGF.Conclusion:AlthoughCintravitrealCanti-VEGFCinjectionCisCgenerallyCconsideredCanCadjunctCtherapyCforCtheCreduc-tionofintraoperativehemorrhageinNVGpatients,repeatedinjectionscane.ectivelytreatrecurrentNVGinsomecases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):501.505,C2022〕Keywords:糖尿病網膜症,血管新生緑内障,抗血管内皮増殖因子,硝子体内注射,認知症,唯一眼.diabeticreti-nopathy,neovascularglaucoma,anti-vascularendothelialgrowthfactor,intravitrealinjection,dementia,onlyeye.C〔別刷請求先〕森秀夫:〒630-0136奈良県生駒市白庭台C6-10-1白庭病院眼科Reprintrequests:HideoMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShiraniwaHospital,6-10-1Shiraniwadai,IkomaCity,Nara630-0136,JAPANC図1初診時右眼眼底写真黄斑近傍の硬性白斑を認める.明瞭な新生血管は認めない.はじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症眼や網膜中心静脈閉塞症などの失明原因として重要である1).NVGに対する抗血管内皮増殖因子(vascularendo-thelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射は,汎網膜光凝固(panretinalphotocoagulation:PRP)や手術治療などの補助療法としての位置づけが一般的であるが1.3),今回唯一眼に発症したCNVGに対し抗CVEGF薬(アフリベルセプト)の継続的硝子体注射が眼圧コントロールと視力維持に有効であった症例を経験したので報告する.CI症例患者はC20年余り前に糖尿病を指摘され,短期間治療して血糖値が下がり,その後自己判断で治療せず放置していた72歳,男性.生来左眼の視力は不良であった.今回右眼の視力不良のため運転免許の更新ができず近医を受診し,糖尿病網膜症としてC2019年C8月下旬当科を紹介受診した.初診時視力はCVD=0.1(0.4×+2.25D(.cyl2.0DAx90°),VS=0.01(0.02×+2.0D(.cyl2.0DAx80°),眼圧は両眼ともC12CmmHgで,両眼に前.下白内障を認め,散瞳はC4Cmmと不良であった.虹彩新生血管は認めなかった.右眼眼底には黄斑近傍に硬性白斑を認め(図1),光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)にて硝子体による黄斑牽引と黄斑浮腫を認めた(図2).周辺網膜の視認性は不良であったが,著明な増殖膜は認めなかった.左眼眼底には黄斑を含む網脈絡膜萎縮を認めた(図3).散瞳不良かつ白内障があり,合併症の理解も不十分であったため,蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)は施行しなかった.なお,初診時空腹時血糖C132Cmg/dl,HbA1c7.1%,糖尿病腎症C2期であった.同年C9月初旬,水晶体再建術併施硝子体手術を球後麻酔にて施行した.後部硝子体は未.離で鼻側,上方,下方の中間周辺部に数カ所血管性増殖による癒着を認めた(図4).増殖膜を切除し,PRPを開始すると不穏興奮状態となり,手術開始よりC40分余りで中止に至った.術後は硝子体出血により眼底透見不能となり,軽度の認知症の存在も判明したため,初回手術のC16日後,全身麻酔で再手術(硝子体出血切除,黄斑部内境界膜.離,PRP)を施行した2).術後経過は良好でC6カ月後のC2020年C3月にはCRV=0.4(0.8C×.0.25D(.cyl0.5DAx90°)を得,黄斑形態も改善したため(図5),当科は終診とし近医での管理とした.このとき眼圧は16CmmHgであった.この後運転免許更新ができ,眼科的には無症状であったこと,COVID-19の外出自粛期間であったことなどから,実際には近医を受診していなかった.手術9カ月後のC5月末,霧視を自覚して術後初めて近医を受診し,NVG(眼圧C27CmmHg)を指摘され,降圧点眼C1剤を処方されてC6月初旬当科を紹介再診した.再診時,瞳孔縁全周に軽度の新生血管(前眼部写真では不明瞭)を認め,眼圧は40CmmHgであった.前房深度は正常で,矯正視力はC0.5であった.血糖値はC154Cmg/dl,HbA1c6.3%であった.認知症かつ唯一眼であるため全身麻酔による線維柱帯切除術をC5日後に予定したが,その前処置として即日アフリベルセプト2Cmgを硝子体内注射し,降圧薬点眼をC3剤とした.翌日から眼圧はC10CmmHg台に下降し,虹彩新生血管は消失した.その後C1カ月経過を観察したが変化はなかった.線維柱帯切除術にはさまざまな合併症のリスクがあり4),高齢,認知症,唯一眼であることを考慮して手術は中止とし,降圧薬点眼C3剤を続行しつつ近医にて週C2回眼圧をチェックし,NVGの再燃があればアフリベルセプト硝子体内注射で対処する方針とした.初回注射のC4カ月後虹彩新生血管が再発し,眼圧C31mmHgとなったためC2回目の硝子体内注射を施行し,新生血管の消失と眼圧正常化を得た.さらにそのC3カ月半後(2021年C1月中旬)新生血管の再燃と眼圧上昇(32CmmHg)をきたしたためC3回目の硝子体内注射を施行し,新生血管の消失と眼圧正常化を得た.この経過中視力はC0.5.0.8を維持しており,3回目の注射後現在まで約C2カ月を経過したが再発をきたしていない.CII考按本症例は認知症を伴う唯一眼に増殖糖尿病網膜症を発症し,硝子体手術により良好な視力を得た後,COVID-19の外出自粛も相まって無治療となり,術後C9カ月でCNVGを発症した.線維柱帯切除術を予定し,その前処置として施行したアフリベルセプト硝子体内注射が眼圧下降,視力維持に有効であったため手術を中止し,NVGの再燃の都度アフリベ図2初診時右眼OCT黄斑浮腫と硝子体牽引を認める.視力C0.4.図3初診時左眼OCT黄斑を含む網脈絡膜萎縮を認め,生来視力はC0.02と不良.ルセプト硝子体内注射を継続中のC1例である.NVGではあるが虹彩新生血管の程度は軽症で,明瞭な隅角閉塞も認めないことが良好な眼圧コントロールの要因と思われる.本症例はスリットランプでの詳細な観察で虹彩新生血管を認めたが,カラー前眼部撮影では明瞭に記録できなかった.近年発達した光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)を前眼部に応用することにより,微細な虹彩新生血管を非侵襲的に描出し,その消長を追えた報告があり5),今後の普及が望まれる.NVGに対する抗CVEGF薬の硝子体内注射は,PRPの補助治療や手術での出血リスクを軽減する前処置として位置づけられる1.3).アフリベルセプトの薬剤添付文書にも「長期的な眼圧管理にあたっては標準的な治療法の併用を考慮する」と記載されている.本症例は硝子体手術時にCPRPを施行したが,術後C9カ月でCNVGを発症したことから,網膜無灌流領域の残存あるいは新たな発生が考えられ,アフリベルセプトが奏効している期間内にCFAGによる精査とレーザー凝固の追加が求められ図4右眼術中所見鼻側の血管性増殖膜を.で示す..は視神経乳頭.図5右眼術後半年のOCT黄斑形態の改善を認める.視力C0.8.る1,2).しかし,小瞳孔,認知症による理解力低下,唯一眼であることなどから実施できなかった.NVGの手術術式としてはわが国では線維柱帯切除術が選択されることが多い1.3,6)が,合併症として術中術後の前房硝子体出血,脈絡膜.離,術後の浅前房,低眼圧,上脈絡膜出血,濾過胞感染など種々の危険がある4).NVGに対する抗CVEGF薬投与の研究では,視力不良のNVG26眼をランダムにベバシズマブC2.5Cmg硝子体内注射群(14眼)とCsham群(生理食塩水結膜下注射,12眼)とに振り分け,4週ごとにC3回注射し,前向きに半年間観察したところ,前者に有意な眼圧下降と新生血管の退縮がみられた7)ことより,抗CVEGF薬はCNVGの手術治療の補助療法となりうるとしている.硝子体内注射群には眼圧C30CmmHg以上が10眼含まれ,4眼が注射後C21CmmHg以下に下降している.また,日本人を対象としたアフリベルセプトC2Cmgの第CIII相試験(VEGA試験)8)では,眼圧C25CmmHg超のCNVG50例に硝子体内注射がなされた結果,75.9%がC1回の注射でC13週間にわたり眼圧コントロールが得られ,この眼圧下降効果はアセタゾラミド内服に依存しないことが確認された(VEN-ERA試験)9).本症例はアフリベルセプト注射時に無硝子体眼であった.ウサギ10)やサル11)での動物実験では,無硝子体眼は抗VEGF薬の排出が正常眼より早いという報告があるが,臨床的に糖尿病黄斑浮腫に対する抗CVEGF薬の効果を無硝子体眼と有硝子体眼で比較した研究では,両者に差はなかったとされる12).今回の症例では初回のアフリベルセプト注射後4カ月,2回目の注射後C3.5カ月でCNVG再燃により再注射しているので,有硝子体眼の加齢黄斑変性に対する投与間隔と差はないと思われる.また,今回の症例のアフリベルセプト投与間隔は,有硝子体眼のCNVGが対象のCVEGA試験8)で示された効果持続期間と遜色ないか,それを上回る投与間隔であった.増殖糖尿病網膜症に対する抗CVEGF薬硝子体内注射の合併症として牽引性網膜.離の発症が知られているが13),本症例はもともと増殖膜の活動性は低く,さらに硝子体手術によって中間周辺部に認めた増殖膜は切除しており,牽引性.離が発症する危険はきわめて低い.本症例は初診時黄斑に硝子体牽引と浮腫がみられたため,内境界膜.離を施行2)し,視力と黄斑形態に改善がみられたが,牽引のないびまん性の糖尿病黄斑浮腫の場合,内境界膜.離は視力予後に無関係との報告がある14).本症例はCNVG発症後アフリベルセプトの継続注射をすることで,9カ月にわたりCNVGのコントロールと良好なCqual-ityCoflifeが得られているが,今後も綿密な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)赤木忠道:血管新生緑内障の治療.糖尿病網膜症診療のすべて.(北岡隆,吉村長久編),p312-317,医学書院,C20132)鈴間潔:硝子体手術.糖尿病網膜症診療のすべて.(北岡隆,吉村長久編),p276-287,医学書院,20133)SaitoCY,CHigashideCT,CTakedaCHCetal:ClinicalCfactorsCrelatedtorecurrenceofanteriorsegmentneovasculariza-tionCafterCtreatmentCincludingCintravitrealCbevacizumab.CAmJOphthalmolC149:964-972,C20104)AllinghamCRR,CDamjiCKF,CFreedmanCSFCetal:FilteringCsurgery,CPreventionCandCmanagementCofCcomplications.In:ShieldsC’CTextbookCofCGlaucoma.C6thCed,Cp501-511,CLippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,20115)野川千晶,坪井孝太郎,瓶井資弘:前眼部CopticalCcoher-encetomographyCangiographyによる虹彩新生血管の経時的観察ができたC2症例.日眼会誌124:802-807,C20206)野崎実穂,鈴間潔,井上真ほか:日韓糖尿病網膜症治療の現状についての比較調査.日眼会誌C117:735-742,C20137)YazdaniS,HendiK,PakravanMetal:Intravitrealbeva-cizumabCforCneovascularCglaucoma.CACrandomizedCcon-trolledstudy.JGlaucomaC18:632-637,C20098)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:TheVEGArandomizedclinicaltrial.AdvTherC38:C1116-1129,C20219)InataniM,HigashideT,MatsushitaKetal:E.cacyandsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:OutcomesCfromCtheCVENERAstudy.AdvTherC38:1106-1115,C202110)CristoforidisCJB,CWilliamsCMM,CWangCJCetal:AnatomicCandpharmacokineticpropertiesofintravitrealbevacizum-abandranibizumabaftervitrectomyandlensectomy.Ret-inaC33:946-952,C201311)KakinokiCM,CSawadaCO,CSawadaCTCetal:E.ectCofCvitrec-tomyConCaqueousCVEGFCconcentrationCandCpharmacoki-neticsCofCbevacizumabCinCmacaqueCmonkeys.CInvestCOph-thalmolVisSciC53:5877-5880,C201212)芹沢聡志,井上順治,井上賢治:無硝子体眼における糖尿病黄斑浮腫に対する抗血管内皮増殖因子薬硝子体内投与の治療効果の検討.日眼会誌123:115-120,C201913)ArevaloCJF,CMaiaCM,CFlynnCJrCHWCetal:TractionalCreti-naldetachmentfollowingintravitrealbevacizumab(Avas-tin)inpatientswithsevereproliferativediabeticretinopa-thy.BrJOphthalmolC92:213-216,C200814)KumagaiCK,CHangaiCM,COginoCNCetal:E.ectCofCinternalClimitingCmembraneCpeelingConClong-termCvisualCoutcomesCfordiabeticmacularedema.RetinaC35:1422-1428,C2015***

増殖糖尿病網膜症の術後経過と血小板機能との 関連についての検討

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):496.500,2022c増殖糖尿病網膜症の術後経過と血小板機能との関連についての検討佐藤圭司重城達哉藤田直輝関根伶生向後二郎高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CExaminationoftheRelationshipBetweenthePostoperativeOutcomesofVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyandPlateletFunctionKeijiSato,TatsuyaJujo,NaokiFujita,ReioSekine,JiroKogoandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:増殖糖尿病網膜症(PDR)の術後経過と血小板機能との関連を調べ,血小板機能がCPDRの術後予後予測につながるのかについて検討した.方法:対象はC2018年C1月.2020年C5月にCPDRに対して硝子体手術を施行したC59例C68眼.術後硝子体出血(VH)の有無によってC2群に分け,両群間で血小板機能との相関について比較検討した.結果:術後CVHをきたした群(H群)はC33眼(31例),VHをきたさなかった群(N群)はC35眼(32例)であった.年齢はCH群C57.4±11.0歳,N群C57.9±10.8歳であった.血小板数(103/μl)はCH群C224.2±74.8,N群C224.5±60.4であった.平均血小板容積(.)はCH群C8.2±1.1,N群C8.4±1.0であった.血小板分布幅(.)はCH群C17.1±0.6,N群C17.1±0.6であった.群間比較ではCWilcoxon順位和検定を施行したが,術後CVHの有無と血小板機能はいずれも各項目において有意差認めなかった(p>0.05).結論:今回の検討では,PDRの術後成績と血小板機能との間に明らかな有意差は認めなかった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcorrelationCbetweenCtheCpostoperativeCoutcomesCofCvitrectomyCforCproliferativediabeticretinopathy(PDR)andplateletfunction,andwhetherplateletfunctioncouldbeafactorforthepredictionofsurgicaloutcomes.Methods:Thisretrospectivestudyinvolvedtheanalysisofthemedicalrecordsof68eyesof59patientswhounderwentvitrectomyforPDRfromJanuary2018throughMay2020.Thepatientsweredividedintotwogroupsaccordingtothepresence(GroupH)orabsence(GroupN)ofpostoperativevitreoushemorrhage(VH),CandCtheCcorrelationCbetweenCplateletCfunctionCandCpostoperativeCVHCwasCinvestigatedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:ThereCwereC33eyes(31Cpatients,Cmeanage:57.4±11.0years)inCGroupCHCandC35eyes(32Cpatients,meanage:57.9±11.0years)inGroupN.InGroupHandGroupN,theplateletcount(103/μl)wasC224.2C±74.8CandC224.5±60.4,theaverageplateletvolume(.)was8.2±1.1and8.4±1.0,andtheplateletsizedistribution(.)was17.1±0.6CandC17.1±0.6,Crespectively.CTheCWilcoxonCrank-sumCtestCwasCusedCforCstatisticalCcomparativeCanalysisofeachitembetweenthetwogroups,andthe.ndingsrevealednostatisticallysigni.cantdi.erencesforeachitem(p>0.05).Conclusion:Inthisstudy,nostatisticallysigni.cantdi.erenceswerefoundbetweenthetwogroupsinrelationtothecorrelationbetweentheoccurrenceofpostoperativeVHandplateletfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):496.500,C2022〕Keywords:増殖糖尿病網膜症,術後硝子体出血,血小板容積指数.proliferativediabeticretinopathy,postopera-tivevitreoushemorrhage,plateletvolumeindex.Cはじめに報告された1,2).血小板機能の指標は血小板容積指数(platelet糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)と血小板機能Cvolumeindex:PVI)とよばれ,血小板数(plateletcount:との間に関係性があるとC2019年CJiらの施行したメタ解析でPLT),平均血小板容積(meanplateletvolume:MPV),血〔別刷請求先〕佐藤圭司:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:KeijiSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki,Kanagawa216-8511,JAPANC496(104)小板分布幅(plateletdistributionwidth:PDW)が含まれる.PDWは血小板の大きさの分布幅を反映しており,数値が大きいほど血小板容積に不均一性があることを意味している.近年CPVIは脳血栓や心筋梗塞に深いかかわりをもつという報告がある3).とくにサイズの大きな血小板は小さいものと比較して血小板内酵素活性が高く,粘着・放出さらに凝集能も亢進しており,血栓形成に積極的に関与するといわれている4).心筋梗塞などの心血管疾患とCPVIとの関連に言及している論文は比較的多いが,DRとの関連に関して言及しているものは少ない.そのため,DRにおける術後予後予測因子として有益性を有する可能性が考えられたが,それに関する検討は行われていない.PVIは血算を測定することで得られる安価で簡便なパラメータであり,術前採血検査は手術に際して必須であるため4),手術に際して低侵襲の予後予測因子となりうるのではないかと考えた.今回,術後の硝子体出血の有無とCPVIの関連を調べ,PVIがCPDR術後予後予測に有用か検討した.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得たものである.増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)の診断にて手術加療が必要な患者に対し,手術の必要性や合併症の可能性について十分に説明を行い,同意を得た.本研究はC2018年C1月.2020年C5月に聖マリアンナ医科大学病院にてPDRに対して経毛様体扁平部硝子体切除(parsplanavitrectomy:PPV)を施行したC59例C68眼を対象とした後ろ向き観察研究を行った.データはカルテを遡ることにより得られたものを使用し,術後硝子体出血(vitreoushem-orrhage:VH)の有無によってC2群に分け(あり群:H群,なし群:N群),両群間で血小板機能との相関について比較検討を行った.PPVは眼底透見不可能なCVH,進行性牽引性網膜.離(retinaldetachment:RD),線維血管増殖膜(.brovascularmembrane:FVM)などのCPDRの合併症に対して施行された.除外基準はCPDRに対するレーザー光凝固術を除く過去の硝子体手術の既往,既存の血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)の存在,術中のシリコーンオイルの使用とした.すべての手術はC3人の熟練した硝子体手術の術者によって施行された.すべての患者は局所麻酔下で標準的なCPPVを施行され,白内障を伴う患者においては同時に超音波乳化吸引術も施行された.すべてのCPPVはC25もしくはC27ゲージトロカールシステム(AlconCConstella-tion:Visionsystem)と高速硝子体カッター(10,000回転/分)を用いて実施され,全例に硝子体ゲル可視化のためにトリアムシノロンアセトニド硝子体注射が施行された.VHは術後C4週間以内に発生したものと定義した.術前検討項目は年齢,性別,PLT,MPV,PDW,HbA1c,眼軸長,術前眼圧,術前ClogMAR矯正視力,赤血球ヘマトクリット値,クレアチニン値,推算糸球体濾過量(estimatedCglomerularC.ltrationrate:eGFR),LDLコレステロール値,HDLコレステロール,中性脂肪,尿素窒素,入院時収縮期血圧,入院時拡張期血圧,空腹時血糖値,bodymassindex(BMI),高血圧の有無,白内障手術施行の有無,抗血小板薬内服の有無,抗凝固薬内服の有無,経口血糖降下薬使用の有無,インスリン使用の有無,スタチン系経口内服薬の有無,利尿薬内服の有無,喫煙の有無,ブリンクマン指数,人工透析の有無,術前レンズの状態,術前レーザー網膜光凝固術施行の有無,術前抗血管内皮細胞増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)硝子体注射施行の有無とした.術後の検討項目は白内障手術施行の有無,術中ガス置換の有無および種類,術後ClogMAR矯正視力(1,3,6,12カ月),観察期間(月)とした.統計学的処理はCJMP13(SASCInstituteCInc.,USA)を用いて行った.2群間の有意差の比較においてはCWilcoxon順位和検定,PearsonのCc2検定およびCFisherの正確検定を行った.MPVに影響を与えると報告されているメトホルミン内服およびスタチン系内服を交絡因子として多変量ロジスティック回帰分析を施行した.CII結果術後VHの有無でC2群間に分けて(あり群:H群,なし群:N群)群間比較を行った.各検討項目における対象患者の特性について表1に示した.観察対象はC59例C68眼であり,H群はC31例C33眼,N群は32例C35眼であった.そのうちC5例は左右眼でCH群,N群の両方を含む結果となった.性別,年齢,高血圧の有無,高脂血症の有無,内服歴,術前の眼情報,喫煙歴,ブリンクマン指数,BMI,人工透析有無などで両群間比較を行ったが,いずれの各検討項目においても明らかな有意差を認めなかった(p>0.05).しかし,入院時空腹時血糖値においてCH群C160.3C±59.9(mg/dl),N群C134.6±41.2(mg/dl)と有意差を認めた(p=0.03).患者の術前採血項目での検討結果を表2に示した.PLTはCH群でC224.2C±74.8(10C3/μl),N群でC224.5C±60.4(10C3/μl)であった.MPVはCH群でC8.2C±1.1(.),N群はC8.4C±1.0(.)であった.PDWはCH群でC17.1C±0.6(.),N群でC17.1C±0.6(.)であった.PVIのどの項目においても有意差は認めなかった(p>0.05).その他の検討項目である,HbA1c,ヘマトクリット,LDLコレステロール,HDLコレステロール,中性脂肪,クレアチニン,eGFR,ヘモグロビン,尿素窒素いずれにおいても明らかな有意差を認めなかった(p>0.05).術後の患者特性を表3に示した.術後C6カ月目での表1患者特性および術前情報特性術後VHなし(N群)術後VHあり(H群)p値観察眼(例)35(32)33(31)性別(男性/女性)C27/8C29/4C0.34年齢(歳)C57.9±10.8C57.4±11.0C0.17高血圧,眼(%)22(63)27(82)C0.11高脂血症,眼(%)9(26)14(42)C0.20経口血糖降下薬,眼(%)27(77)23(70)C0.59メトホルミン内服,眼(%)9(26)8(24)C1.0インスリン使用,眼(%)15(43)13(39)C0.80経口抗凝固薬,眼(%)4(11)5(15)C0.73経口抗血小板薬,眼(%)7(20)11(33)C0.28スタチン系高脂血症薬,眼(%)9(26)13(39)C0.30利尿薬内服,眼(%)16(46)13(39)C0.63術前眼圧(mmHg)C14.3±3.3C13.3±3.6C0.29術前ClogMARBCVAC1.0±0.6C1.1±0.8C0.93眼軸長(mm)C23.8±1.7C24.2±1.2C0.10術前レンズ状態;水晶体/眼内レンズ(眼)C26/9C25/8C1.0手術目的硝子体出血,眼(%)24(68)30(91)牽引性網膜.離,眼(%)2(6)0(0)線維血管増殖膜,眼(%)7(20)3(9)糖尿病黄斑浮腫,眼(%)2(6)0(0)喫煙,眼(%)23(66)22(67)C1.0ブリンクマン指数(喫煙本数C×年数)C866.1±862.1C717.8±526.9C0.75BMI(kg/mC2)C26.6±6.6C25.8±5.0C0.85入院時収縮期血圧(mmHg)C133.9±17.3C137.2±16.9C0.43入院時拡張期血圧(mmHg)C74.2±1.8C78.3±1.8C0.11入院時空腹時血糖(mg/dCl)C134.6±41.2C160.3±59.9C0.03術前抗CVEGF薬硝子体注射,眼(%)28(80)25(76)C0.77術前レーザー網膜光凝固術,眼(%)15(43)12(36)C0.63人工透析,眼(%)26(71)22(67)C0.59表2術前採血における検討項目表3術後情報術後VHなし術後VHあり術後VHなし術後VHあり特性(N群)(H群)p値特性(N群)(H群)p値PLT(10C3/μl)C224.5±60.4C224.2±74.8C0.90白内障手術,眼(%)25(71)19(58)C0.31MPV(.)C8.4±1.0C8.2±1.1C0.32ガス置換,眼(%)6(17)7(21)C0.69PDW(.)C17.1±0.6C17.1±0.6C0.88空気,眼(%)2(6)2(6)HbA1c(%)C7.0±1.4C7.0±1.9C0.66SF6眼(%)3(9)5(15)ヘマトクリット(%)C38.7±5.3C37.8±5.7C0.47C3F8眼(%)1(3)0(0)LDL(mg/dl)C107.4±35.5C113.3±53.7C0.85術後ClogMARBCVAHDL(mg/dl)C49.8±15.3C52.2±19.0C0.881カ月C0.47±0.48C0.51±0.54C1.0TG(mg/dl)C112.1±76.7C153.3±125.8C0.593カ月C0.36±0.35C0.31±0.31C0.61Cr(mg/dl)C2.6±2.9C3.4±3.6C0.546カ月C0.35±0.19C0.19±0.33C0.02eGFR(ml/分/1.73CmC2)C49.7±53.3C38.2±31.1C0.4312カ月C0.17±0.22C0.15±0.29C0.44Hb(g/dl)C15.8±17.5C12.7±2.0C0.63観察期間(月)C7.3±4.7C7.4±0.8C0.98BUN(mg/dl)C29.8±17.0C28.4±18.9C0.47表4MPVに関する多変量ロジスティック回帰分析の結果logMAR矯正視力はCH群で有意に低値(p=0.02)であった特性オッズ比95%信頼期間p値が,その他の項目においては明らかな有意差を認めなかったCMPVC0.370.03.4.01C0.41(p>0.05).観察期間はCH群でC7.4C±0.8,N群でC7.3C±4.7でメトホルミンC0.920.30.2.81C0.88あった.スタチンC1.880.67.5.29C0.23C多変量ロジスティック回帰分析の結果を表4に示した.メトホルミン内服,スタチン内服を考慮しても,MPVと術後VHとの間に明らかな有意差は認めなかった(p>0.05).CIII考按Jiら1)はCDR患者ではコントロール群と比較してCMPVが有意に高値であった(standardCmeandi.erence:SMD[95%Ccon.denceinterval:CI]=0.92[0.60.1.24])と報告しており,Jiら2)はCDR患者ではコントロール群と比較してPDWが有意に高値であった(SMD[95%CCI]=1.04[0.68.1.40])とも報告している.このように近年CDRと血小板機能との間に関連性があるとの報告がなされている.また,Wakabayashiら5)は多変量解析の結果,PDR術後C4週間以内の早期出血の術前予後予測因子として術前硝子体内VEGF濃度においてのみ有意差を認めた(oddsratio:OR[95%CCI]=5.1[1.29.20.33])と報告しているが,術後CVHの有無に関する予後予測因子としてCPVIが有益であるかについての検討はされていない.そのため本研究ではCDRの術後成績とCPVIとの関連を調べ,PVIがCDRの術後予後予測につながるのかについて検討を行った.表1では患者の術前特性についての結果を示しているが,入院時空腹時血糖値において有意差を認めた(p=0.03).既報では空腹血糖値と硝子体出血との関連についての報告はないが,Kangらは高血糖と血管内皮細胞の機能障害の関連について報告しており6),空腹時血糖値はその時点での糖尿病コントロールを反映しているため,高血糖が血管内皮細胞の障害を引き起こすことで血管の脆弱性が生じ,術後の硝子体出血を生じる可能性が考えられた.表2においてはCPVIであるCPLT,MPV,PDWおよびその他の術前採血項目の群間比較の結果を示しているが,いずれの項目においても明らかな有意差を認めなかった.前述のように,JiらはCMPV,PDWとCDRの間に関連を認めたと報告している1,2)が,本検討において術後CVHの有無とCPVIの値に有意差は示されなかった.本検討では対象が全例PDR患者であり,重症な患者間での比較検討を行ったため有意差は認められなかった可能性が考えられた.表3では術後の患者特性について示している.白内障手術施行の有無,ガス置換の有無,観察期間いずれも両群間で有意差を認めなかった.術後C6カ月のClogMAR最良矯正視力において統計的に有意差を認めた(p=0.02)が,12カ月では有意差を認めておらず(p>0.05),これに関してはサンプルサイズの小ささが原因であり信頼性が低いと考えられるため,今後症例数を増やしてさらなる検討が必要であると考えられた.経口血糖降下薬であるメトホルミンや脂質異常症治療薬であるスタチン系の内服薬はCMPVを減少させると報告されている7,8).そのためメトホルミンおよびスタチン系内服薬の影響を受けてCMPVがC2群間比較において有意差を示さなかった可能性が考えられた.表4はメトホルミンおよびスタチン内服の有無をCMPVの交絡因子として考え,多変量ロジスティック回帰分析を施行した結果を示している.結果は多変量ロジスティック回帰分析でもCPDR術後CVHとCMPVとの間には有意差を認めなかった(OR[95%CI]=0.37[0.03.4.01]).Wakabayashiらの報告5)では,抗血小板薬,抗凝固薬の内服,高血圧の有無などの因子は術後C4週間以内のCVHにおいて有意差を認めなかったと報告しているが,本検討においても同様の結果を示した.また,Wakabayashiらの報告5)では術前硝子体内CVEGF濃度は術後CVHのリスクであるとしているが,本検討においては術前硝子体内CVEGF濃度の測定を行っておらず,今後の検討課題として考えられた.本研究はC59例C68眼と少数での検討結果であり,今後は対象者を増やし検討を行うことでさらに精度の高い結果を得られる可能性がある.今回の検討では術後C4週間以内のCVHの有無を予後予測の目的指標として選択しており,今後はその他の指標である,網膜感度,黄斑浮腫の出現の有無などPVIがその他のCVH以外の術後予後因子と相関するか検討を行っていく必要があると考えられた.CIV結語今回の検討ではCPDR術後CVHの予測因子として,PVIは有意な指標としては機能しなかった.しかしCPVIは術前採血より簡単に求めることができるため,低侵襲の術後予後予測因子としての有益性に関してはさらなる検討の余地があると考えられた.また,入院時空腹時血糖が高値である場合,術後硝子体出血をきたしやすい可能性が示唆された.文献1)JiCS,CZhangCJ,CFanCXCetal:TheCrelationshipCbetweenCmeanplateletvolumeanddiabeticretinopathy:asystem-aticreviewandmeta-analysis.DiabetolMetabSyndrC12:C11-25,C20192)JiCS,CNingCX,CZhangCBCetal:PlateletCdistributionCwidth,CplateletCcount,CandCplateletcritCinCdiabeticretinopathy:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCPRISMACguide-lines.Medicine(Baltimore)C98:29,C20193)GhoshalK,BhattacharyyaM:Overviewofplateletphysi-ology:itsChemostaticCandCnonhemostaticCroleCinCdiseaseCpathogenesis.SciWorlelJC2014:781857,C20144)嵯峨孝,青山隆彦,竹越忠美:高齢男性の血小板数および血小板容積の変化ならびにそれらの変化に及ぼす諸因子の影響.日本老年医学会雑誌32:270-276,C19955)WakabayashiCY,CUsuiCY,CTsubotaCKCetal:PersistentCoverproductionofintraocularvascularendothelialgrowthfactorasacauseoflatevitreoushemorrhageaftervitrec-tomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CRetinaC37:2317-2325,C20178)SivriCN,CTekinCG,CYaltaCKCetal:StatinsCdecreaseCmean6)KangCH,CMaCX,CLiuCJCetal:HighCglucose-inducedCendo.plateletvolumeirrespectiveofcholesterolloweringe.ect.thelialprogenitorcelldysfunctionDiabVascDisResC14:CKardiolPolC71:1042-1047,C2013C381-394,C20179)KimCKE,CYangCPS,CJangCECetal:AntithromboticCmedica-7)Dolas.kI,SenerSY,Celeb.Ketal:Thee.ectofmetfor.tionCandCtheCriskCofCvitreousChemorrhageCinCatrialC.b.minonmeanplateletvolumeindiabeticpatients.Plateletsrillation:KoreanCNationalCHealthCInsuranceCServiceC24:118-121,C2013CNationalCohort.YonseiMedJC60:65-72,C2019***

白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる 増殖糖尿病網膜症の1 例

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):491.495,2022c白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる増殖糖尿病網膜症の1例延藤綾香*1,2小林崇俊*2河本良輔*2大須賀翔*2佐藤孝樹*2喜田照代*2池田恒彦*3*1北摂総合病院眼科*2大阪医科薬科大学眼科学教室*3大阪回生病院眼科CACaseofProliferativeDiabeticRetinopathyinwhichLeukemiaTreatmentPossiblyA.ectedthePrognosisofVitrectomyAyakaNobuto1,2)C,TakatoshiKobayashi2),RyosukeKomoto2),SyoOsuka2),TakakiSato2),TeruyoKida2)andTsunehikoIkeda3)1)DepartmentofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,OsakaKaiseiHospitalC目的:白血病を合併した糖尿病網膜症は増悪しやすいことが報告されている.今回,白血病治療が硝子体手術予後に影響したと考えられる増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)のC1例を経験したので報告する.症例:47歳,男性.左眼視力低下で初診.左眼は虹彩炎と硝子体出血で眼底透見不良.右眼はCPDRによる眼底出血と線維血管性増殖膜,Roth斑を認めた.内科で糖尿病,慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML)と診断された.左眼は牽引性網膜.離を認め,化学療法開始後早期のCCML寛解前に経毛様体扁平部硝子体切除(parsCplanavitrectomy:PPV)を施行した.術中増殖膜と出血の処理に苦慮し,術後に再出血を認めたため再手術を施行したが前眼球癆となった.右眼は汎網膜光凝固術を施行し,CMLの寛解後,硝子体出血と牽引性網膜.離に対しCPPVを施行した.術後経過は良好で矯正視力はC0.7に改善した.結論:CMLを合併したCPDRに対するCPPV施行の際は,CMLに対する内科的治療による全身状態改善のうえで手術を施行したほうが良好な手術成績が期待できる可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCproliferativeCdiabeticretinopathy(PDR)inCwhichCleukemiaCtreatmentCpossiblyCa.ectedtheprognosisofvitrectomy.CaseReport:A47-year-oldmalepresentedwiththeprimarycomplaintofvisuallossinhislefteye.Uponexamination,hislefteyehadiritisinwhichthefunduswasnotvisibleduetovitre-oushemorrhage.Hisrighteyehadretinalhemorrhage,.brovascularmembrane,andRothspots.Hewasdiagnosedwithdiabetesandchronicmyeloidleukemia(CML)C.Parsplanavitrectomy(PPV)wasperformedpreCMLremis-sionCdueCtoCtractionalCretinaldetachment(TRD)inChisCleftCeye.CDueCtoCintraoperativeCdi.cultyCinCtreatingCtheC.brovascularmembraneandhemorrhage,postoperativere-bleedingoccurred,soreoperationwasperformed.How-ever,CphthisisCbulbiCoccurred.CPPVCwasCperformedCinChisCrightCeyeCafterCpanretinalCphotocoagulationCandCCMLCremissionCdueCtoCvitreousChemorrhageCandCTRD,CandCtheCvisualCacuityCultimatelyCrecoveredCtoC0.7CpostCsurgery.CConclusion:InCPDRCcasesCcomplicatedCwithCCML,CitCmayCbeCpossibleCtoCobtainCbetterCsurgicalCoutcomesCifCPPVCsurgeryisperformedpostCMLremission.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):491.495,C2022〕Keywords:慢性骨髄性白血病,増殖糖尿病網膜症,寛解,硝子体手術,硝子体出血.chronicmyeloidleukemia,proliferativediabeticretinopathy,remission,vitrectomy,vitreoushemorrhage.C〔別刷請求先〕延藤綾香:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:AyakaNobuto,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-City,Osaka569-8686,JAPANCはじめに糖尿病と白血病はともに網膜出血や軟性白斑,漿液性網膜.離などの眼病変を生じる疾患であり,それぞれの眼病変に関する報告は多数みられる1).しかし,糖尿病網膜症(dia-beticretinopathy:DR)に白血病を合併した増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に関しての報告は少なく,内科的治療と硝子体手術の関係や,手術後の視力予後についてはあまり明らかになっていない.今回筆者らは,白血病治療の状況が硝子体手術の予後に影響したと考えられるCPDRのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:47歳,男性.初診:2016年C4月.主訴:両眼のかすみ,左眼視力低下.既往歴:2型糖尿病(未加療),慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML),橋本病,高尿酸血症.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2014年の会社検診で高血糖を指摘されていたものの放置していた.2016年C3月下旬に両眼のかすみと左眼視力低下を自覚し,近医を受診したところ,左眼硝子体出血と右眼の散在性の網膜内出血,Roth斑様所見を認めた.典型的なCDRの所見ではなかったため内科受診を指示され,4月上旬に大阪医科薬科大学附属病院(以下,当院)血液内科での採血でCCMLが疑われ,HbA1c11.7%とコントロール不良のC2型糖尿病も認めた.4月中旬の近医眼科再診時に左眼視力が指数弁まで低下しており,左眼眼圧C38CmmHgと高値で血管新生緑内障を認めたため,4月下旬に当院眼科(以下,当科)紹介受診した.初診時採血結果:白血球数C156.4C×103/μl,赤血球数C454C×104/μl,ヘモグロビン量C11.9Cg/dl,血小板数C470C×103/μl,白血球分画は芽球C2.0%,前骨髄球C1.0%,骨髄球C26.5%,後骨髄球C3.5%,桿状核好中球C32.5%,分葉核好中球17.0%,単球C0.5%,好酸球C2.5%,好塩基球C9.5%,リンパ球C5.0%であり,白血球の著明な増多と幼若化,血小板の増加を認めた.また,HbA1c11.7%と高値でクレアチニン0.75Cmg/dl,血中尿素窒素C9Cmg/dl,eGFR91Cml/min/1.73Cm2と腎機能障害は認めなかった.初診時眼所見:視力はCVD=0.06(0.2C×sph.7.00D(cylC.1.00DAx180°),VS=30Ccm/m.m(n.c.)で,眼圧は右眼15CmmHg,左眼C33CmmHgであった.前眼部は右眼に軽度白内障を認め,左眼は軽度白内障に加えて虹彩炎,虹彩新生血管を認めた(図1).眼底はCDRには非典型的なCRoth斑を伴う散在性の眼底出血を認め,左眼は硝子体出血により透見不良であったが,増殖性変化を認めた(図2).また,術前超音波検査CBモードでは,左眼に後部硝子体腔の出血と下方に扁平な牽引性網膜.離を疑う像を認め(図3),術前蛍光造影(fluoresceinangiography:FA)では,左眼は硝子体出血のため撮影できなかったが,右眼は上鼻側・下鼻側を中心に新生血管を認め,網膜全体に無灌流領域も認めた(図4).経過:翌日に血液内科でCCMLの確定診断となり,内科治療が開始された.当科初診時は白血病のコントロールは不良であったため,まず左眼の血管新生緑内障に対して抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬治療施行予定としたが,本人の費用負担困難のため消炎目的にステロイド結膜下注射を施行した.徐々に消炎し眼圧下降も認めたが,左眼硝子体出血は残存していたため,5月に経毛様体扁平部硝子体切除術(parsplanaCvitrectomy:PPV)および白内障手術を施行した.術中は増殖膜の範囲が広く,とくに鼻側は癒着が強固で,双手法での膜処理中に多数の医原性裂孔を生じた.また,術中の出血が易凝血性でその処理にも苦慮した.術中網膜.離が胞状に拡大したため,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展し,人工的後部硝子体.離作製および増殖膜処理を続行したが,赤道部から周辺側は硝子体が残存した.気圧伸展網膜復位術後に裂孔周囲と後極を除く網膜全体に汎網膜光凝固を施行し,最後にシリコーンオイルタンポナーデを行い,手術を終了した.術後は眼圧上昇を認め,計C4回の前房穿刺を施行したが,眼圧コントロール不良であり,大量の前房出血もきたしていたため,6月にC2度目の左眼CPPVを施行した.まず前房洗浄とシリコーンオイル抜去を行い,眼内レンズは下方に脱臼していたため摘出した.眼底は網膜前面に厚い黄色調の凝血塊を広範囲に認めたが,癒着が強固であったため双手法でも完全に除去することは困難であり,周辺部の人工的後部硝子体.離作製も不完全なまま,最後にシリコーンオイルを再注入し手術を終了した.しかし,その後もシリコーンオイル下で出血が持続し,前房出血と角膜染血症のため眼底透見不能となった.3回目の手術も考慮したが,患者がこれ以上の手術治療を希望しなかったため,経過観察とした.その後左眼は前眼球癆の状態となった.右眼は計C3回の網膜光凝固術を施行(合計C1,000発照射)し経過をみていたが,7月に硝子体出血を認めた.内科治療に関してはC7月時点でCCMLは寛解となり,糖尿病もCHbA1c5.7%とコントロール良好となっていた.血液検査結果は白血球数C5.64C×103/μl,赤血球数C474C×104/μl,ヘモグロビン量C12.3Cg/dl,血小板数C191C×103/μl,白血球分画は芽球0%,前骨髄球C0%,骨髄球C0%,後骨髄球C0%,桿状核好中球C0%,分葉核好中球C67.5%,単球C8.0%,好酸球C0.5%,好塩基球C0.5%,リンパ球C23.5%であり,左眼初回手術時よりも改善していた.右眼硝子体出血は改善を認めなかったため,PPVを施行した.左眼同様に線維血管性増殖膜を広範囲に認め,左眼同様鼻側を中心に後部硝子体は未.離かつ癒図1初診時前眼部写真a:右眼.軽度白内障を認める.明らかな炎症初見は認めない.Cb:左眼.軽度白内障,虹彩炎を認める.Cc:左眼虹彩.虹彩新生血管を認める.Cab図2初診時眼底写真a:右眼.糖尿病網膜症には非典型的なCRoth斑を伴う散在性の眼底出血(△)を認める.Cb:左眼.硝子体出血により透見不良であるが,増殖性変化を認める.図3左眼術前超音波検査Bモード硝子体出血,網膜.離を疑う像を認める.図4右眼術前蛍光造影写真上鼻側・下鼻側を中心に新生血管を認め,網膜全体に無灌流領域を認める.b図5右眼術後画像a:眼底写真.汎網膜光凝固術を施行し,再出血は認めなかった.Cb,c:網膜光干渉断層写真.術後経過良好であり,矯正視力はC0.7まで改善した.着が強固であったため,双手法で慎重に膜処理を行った.術中の出血は左眼のように易凝血性ではなく,比較的処理しやすく,術中医原性裂孔も形成しなかった.人工的後部硝子体.離作製は周辺部までほぼ完遂でき,汎網膜光凝固を追加し,タンポナーデなしで手術を終了した.その後の経過も良好で,右眼矯正視力はC0.7に改善した(図5).II考按白血病における眼病変は,白血病細胞の直接浸潤によるもの,貧血,血小板減少,白血球増多などの造血障害によるもの,中枢神経白血病に二次的に生じるもの,に大別される.白血病細胞の直接浸潤による眼病変としては,網膜浸潤による大小さまざまな網膜腫瘤2)や,脈絡膜への浸潤による二次的な網膜色素上皮障害の結果生じた漿液性網膜.離3,4)や,血管周囲への浸潤による静脈周囲の白鞘化5)などがみられることがある.そのほか造血障害により網膜出血,Roth斑,軟性白斑,網膜血管の拡張・蛇行,毛細血管瘤,新生血管,網膜静脈閉塞症,硝子体出血などが2,3,6)生じることがあり,中枢神経白血病により二次的に乳頭浮腫や視神経萎縮などの視神経症が生じることもある5).また,前眼部病変としては,結膜充血や虹彩実質の菲薄化,虹彩異色,虹彩腫脹,偽前房蓄膿など多彩な病変をきたすことがある7).治療は内科的な白血病治療が主体であり,眼病変は全身状態と相関することも多いことから,治療や再発の指標となることが多いとされている8).DRと白血病の合併に関しては,DRに白血病が合併した場合,網膜症が増悪しやすいことが報告されている1,9.11).ChawlaらはCCMLを合併したC6例を報告し,3例は糖尿病発症時にCCMLの診断がついていたが,3例はCPDRの診断後にCCMLが判明したとしている.そして,6例C12眼ともにCPDRに進行し,うちC4眼が血管新生緑内障を併発し予後不良であったとしている1).Figueiredoらは糖尿病とCCMLを合併したC55歳,男性が,良好な血糖コントロールにもかかわらず,中等度の非CPDRから急速に両眼のCPDRおよび血管新生緑内障に進行したと報告している9).Melbergらはインスリン依存性の糖尿病をC9年間患っていたC16歳,女性が,急性リンパ性白血病を併発した後,6カ月という短期間に重度のCPDRへと進行し,失明に至ったと報告している10).網膜症増悪の原因としては,糖尿病,白血病ともに微小血管障害を生じるため,合併した場合に血管閉塞が増悪し,さらに貧血による組織の低酸素状態が関連すると考えられている.したがって,糖尿病の血糖コントロールに見合わないDRの急速な進行を認めた場合には,採血などによる全身精査を行い,白血病を伴う場合には,内科・眼科双方からの迅速かつ積極的な治療介入が視力の維持に重要となる.今回の症例では,コントロール不良の糖尿病に加えてCMLを合併し,明らかな貧血は認めなかったものの,PDR,白血病性網膜症の双方により重症の増殖性変化が生じたと考えられた.左眼は化学療法開始後早期のCCML寛解前に二度のCPPVを施行したが,増殖性変化が強く,術中の医原性裂孔形成や出血の処理に苦慮した結果,複数回の再手術を要し,最終的に前眼球癆となった.一方,右眼は眼底透見可能であったため,PPV前に汎網膜光凝固術を施行することができ,さらにCCMLと糖尿病の内科的コントロールを行った後に硝子体手術を行い,術後矯正視力がC0.7まで改善した.Raynorらはコントロール不良の糖尿病に加えて,CMLを合併したC61歳,男性が,わずかC1年の間に単純網膜症からCPDRへと急激に進行したが,光凝固治療に加えて,白血病に対する化学療法が,全身状態の改善とともに網膜症の進行抑制にも奏効した可能性を報告している11).これらのことより,初診時の網膜症重症度の左右差や,右眼では術前に汎網膜光凝固術を施行できたことも視力予後が良好となった一因と考えられる.CMLを合併したCPDRに対して硝子体手術を施行する際には,内科的治療により血液検査所見および全身状態を改善させたうえで手術を施行したほうが,良好な手術成績が期待できる可能性が示唆された.文献1)ChawlaCR,CKumarCS,CKumawatCDCetal:ChronicCmyeloidCleukaemiaacceleratesproliferativeretinopathyinpatientswithCco-existentdiabetes:ACriskCfactorCnotCtoCbeCignored.EurJOphthalmolC31:226-233,C20192)原雄将,嘉村由美,及川亜希ほか:両眼視力低下を契機に診断された小児慢性骨髄性白血病のC1例.日眼会誌C114:459-463,C20103)渡辺美江,西岡木綿子,川野庸一ほか:漿液性網膜.離を初発症状とした急性骨髄性白血病のC1例.あたらしい眼科C14:1567-1570,C19974)KincaidCMC,CGreenWR:OcularCandCorbitalCinvolvementCinleukemia.SurvOphthalmolC27:211-232,C19835)柳英愛,高橋明宏,加藤和男ほか:慢性骨髄性白血病に伴う網膜症のC1例.眼臨82:735-757,C19886)大越貴志子,草野良明,山口達夫ほか:血液疾患における眼底所見について.臨眼43:239-243,C19907)若山美紀,稲富勉:白血病細胞による虹彩浸潤病巣.あたらしい眼科22:337-338,C20058)木村和博,園田康平:内科医のための眼科の知識.日本臨床内科医会会誌26:242-245,C20119)FigueiredoCLM,CRothwellCRT,CMeiraD:ChronicCmyeloidCleukemiaCdiagnosedCinCaCpatientCwithCuncontrolledCprolif-erativeCdiabeticCretinopathy.CRetinCCasesCBriefCRepC9:C210-213,C201510)MelbergCNS,CGrandCMG,CRupD:TheCimpactCofCacuteClymphocyticCleukemiaConCdiabeticCretinopathy.CJCPediatrCHematolOncolC17:81-84,C199511)RaynorCMK,CCloverCA,CLu.AJ:LeukaemiaCmanifestingCasCuncontrollableCproliferativeCretinopathyCinCaCdiabetic.Eye(Lond)C14:400-401,C2000***

基礎研究コラム59.網膜色素上皮の代謝機能と加齢黄斑変性

2022年4月30日 土曜日

網膜色素上皮の代謝機能と加齢黄斑変性成松俊雄網膜色素上皮と加齢黄斑変性加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は先進国を中心に失明原因の上位を占め,患者数も増加傾向です.抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法の確立により滲出型CAMDの病状の改善が図れるようにはなりましたが,萎縮型を含めその予防や根治が可能な治療法はまだ報告されていません.AMDの病態からは,網膜色素上皮(retinalCpigmentCepi-thelium:RPE)が病態の主座である可能性は高そうです.RPEの加齢性変化は一般に光曝露により発生,進行すると考えられています.すなわち光曝露により視細胞外節がRPEで代謝され,RPE内でリポフスチンが蓄積し,脂質の沈着と過酸化が起こり,酸化ストレスが発生し,RPEが機能・形態学的に障害され,軟性ドルーゼン蓄積などのCAMD前駆病変が生じる,という説です.光曝露とRPEの代謝機能RPEや網膜の光曝露については,これまで数多くの研究成果が報告されています.現在のところ光障害については酸化ストレスの関与は確かなようですが,下流の分子機構については決定打がない状況です.筆者の実験動物を用いた研究では,RPEにおける光障害では酸化ストレスの下流ではCRho/Rho-associatedCcoiled-coilCcontainingCproteinCkinase(Rho/ROCK)シグナル伝達経路が関与していました1).視細胞の光障害についてはアンジオテンシンIIC1型受容体シグナル伝達経路の関与もわかりました.また,生理的強度の光曝露ではCPGC-1Ca/エストロゲン関連受容体C-aシグナル伝達経路が関与するという報告があります2).ただ光曝露された実験動物においてCAMDやその前駆病変に似た組織像を模倣することはむずかしい状況です.このような状況を踏まえると,やはりCRPEのより詳細な機能と病態の解明が重要と考えられます.RPEのおもな機能としては貪食,ロドプシン再生(視覚サイクル),VEGF分泌による脈絡膜毛細血管保持,Bruch膜リモデリングなどがあります(図1).また,ドルーゼンが脂質を多く含むことから,脂質とその代謝機構の研究も盛んです.RPEや視細胞,マクロファージへの遺伝子操作で脂質代謝を阻害するとAMD様変化を生じうるという報告や,RPE内のオートファジー異常による脂質代謝機構への影響3),脂質メディエーターの網膜光障害への関与などが報告されています.臨床応慶應義塾大学医学部眼科学教室,CMassachusettsEyeandEarIn.rmaryC網膜色素上皮(RPE)外節代謝→脂質沈着→過酸化→RPE障害→AMD変化図1加齢黄斑変性への関与が目されるおもな網膜色素上皮(RPE)の機能網膜色素上皮は視細胞貪食能,視細胞との間での視覚サイクルの循環,細胞内での脂質代謝などでの恒常性維持,といった機能をもつ.加齢黄斑変性の原因がこのいずれか単独の障害なのか,複合的なのかは現時点では未知であり,その早期解明が待たれる.用に至る新機構の解明には至っていませんが,今後の発展が期待されます.今後の展望AMDの加療や予防においてCRPEの代謝機構とその異常は有力な研究対象と目されますが,今現在は臨床応用に至る成果は得られていません.今後一層の知見の蓄積と研究の進展によって,この表現型の多彩な疾患について,より有効な治療法や予防法が発見されることが望まれます.文献1)NarimatsuCT,COzawaCY,CMiyakeCSCetal:DisruptionCofCcell-cellCjunctionsCandCinductionCofCpathologicalCcytokinesCinCtheCretinalCpigmentCepitheliumCofClight-exposedCmice.CInvestOphthalmolVisSciC54:4555-4562,C20132)UetaT,InoueT,YudaKetal:IntensephysiologicallightupregulatesCvascularCendothelialCgrowthCfactorCandCenhanceschoroidalneovascularizationviaperoxisomepro-liferator-activatedCreceptorCgcoactivator-1ainCmice.CArteriosclerThrombVascBiol32:1366-1371,C20123)NotomiCS,CIshiharaCK,CEfstathiouCNECetal:GeneticCLAMP2Cde.ciencyCacceleratesCtheCage-associatedCforma-tionCofCbasalClaminarCdepositsCinCtheCretina.CProcCNatlCAcadSciUSA116:23724-23734,C2019(93)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4850910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:227.分層黄斑円孔に対する硝子体手術(初級編)

2022年4月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載227227分層黄斑円孔に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに分層黄斑円孔(lamellarmacularhole:LMH)は従来,硝子体手術の適応外と考えられてきたが,近年,LMHにしばしばみられるClamellarChole-associatedCepiretinalproliferation(LHEP)を.離したあと,円孔内に埋没し,さらに内境界膜(internallimitingmembrane:ILM)でその上を被覆することで,中心窩の形態が改善し,視力も向上することが報告されている1).C●症例提示75歳,男性.左眼は光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)でCLMHの所見を呈し,円孔縁の網膜表面には感覚網膜とやや輝度の異なる膜状陰影を認めCLHEPと診断した(図1).矯正視力はC0.3であった.白内障手術後に硝子体を切除した.ダイアモンドスクレイパーでCLMH周囲のCLHEPを.離(図2)したあと,中心窩周囲に集めてトレミングした.次にCBBGを塗布してCLMH周囲のCILMを染色し,上方半分のCILMを.離してChemi-inverted.ap法としてCLMH上に被覆した(図3).その後,液空気置換を施行し手術を終了した.術後COCTで中心窩の形態は改善し(図4),矯正視力は0.8に向上した.C●LHEPとはLMHはCLMHの発症機序やその予後を考慮するうえで重要な特徴的所見とされている2).OCTで,網膜表層に感覚網膜とは異なったやや輝度の薄い陰影を認め,通常の黄斑上膜よりもやや厚いのが特徴である.LHEPは中心窩の黄斑色素に由来すると考えられている3).C●LHEPを伴うLMHに対する硝子体手術TakahashiらはCLHEPを伴うCLMHに対して,LHEPを.離後円孔内に埋没し,さらにCILMを反転してその図1術前の左眼OCT所見LMHの所見を呈し,円孔縁の網膜表面には感覚網膜とやや輝度の異なる膜状陰影を認めた.図2術中所見(1)LHEPをダイアモンドスクレイパーで.離し,LMH周囲に集めた.図3術中所見(2)BBGを塗布して内境界膜を染色し,hemi-inverted.ap法としてCLMHの上に被覆した.図4術後の左眼OCT所見中心窩の形態は改善し,視力も向上した.上に被覆する方法で中心窩の形態と視覚機能が改善し,本術式がCLMHに対する有効な治療法となりうることを報告している1).このCLHEPの部位にそのような再生能力をもつ細胞が存在するかは今後の検討課題であるが,この新しい術式で得られる所見は,中心窩の神経新生を考えるうえでも興味深い知見と考えられる.文献1)TakahashiCK,CMorizaneCY,CKimuraCSCetal:ResultsCofClamellarCmacularChole-associatedCepiretinalCproliferationCembeddingCtechniqueCforCtheCtreatmentCofCdegenerativeClamellarCmacularChole.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC257:2147-2154,C20192)ComperaCD,CEntchevCE,CHaritoglouCCCetal:LamellarChole-associatedCepiretinalCproliferationCinCcomparisonCtoCepiretinalmembranesofmacularpseudoholes.AmJOph-thalmolC160:373-384,C20153)ObanaCA,CSasanoCH,COkazakiCSCetal:EvidenceCofCcarot-enoidCinCsurgicallyCremovedClamellarChole-associatedCepiretinalCproliferation.CInvestCOphthalmolCVisCSciC58:C5157-5163,C2017C(91)あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C4830910-1810/22/\100/頁/JCOPY

考える手術:難治性緑内障へのロングチューブ手術

2022年4月30日 土曜日

考える手術④監修松井良諭・奥村直毅難治性緑内障へのロングチューブ手術三浦悠作高知大学医学部眼科学講座わが国ではロングチューブ手術として2012年にバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI),2014年にアーメド緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)が難治性緑内障に対して適応となりました.ロングチューブ手術はチューブを介して眼球後方へと濾過された房水がプレート周囲に形成された被膜に吸収されることで眼圧が下降します.従来のtrabeculectomyでは眼圧下降維持が困難である結膜瘢痕の強い症例や血管新生緑内障に対しても有効です.ロングチューブ手術の手術件数は増加傾向にあ縫合です.結膜切開はBGIでは120°,AGVでは90°の切開が必要です.子午線方向への結膜切開を長くしすぎると,切開した結膜が治癒する過程で直筋と癒着し,術後眼球運動障害を生じる可能性があります.Tenonと強膜を鈍的に.離し,プレート固定部位のスペースを確保します.直筋の上にプレートを固定すると術後眼球運動障害が生じるため,斜視鈎で確実に直筋の位置を確認し,BGIでは2直筋下,AGVでは2直筋間にプレートを挿入します.プレートは角膜輪部から9~10mmの位置でナイロン糸などの非吸収糸で固定します.チューブは前房または毛様溝,硝子体腔に挿入し,非吸収糸で強膜に固定します.術後のチューブ露出を予防するために,自己強膜や保存強膜でチューブを被覆します.自己強膜を使用する場合は強膜トンネルや強膜弁を作製し,保存強膜を使用する場合は適度な大きさにトリミングして使用します.最後に結膜を吸収糸で縫合し,ステロイドの結膜下注射またTenon.下注射を行います.聞き手:BGIとAGVの違いは何でしょうか?また,ります.それを予防するために吸収糸によるチューブ結どのように使い分けるのがよいでしょうか?紮が必須ですが,吸収糸が融解するまでの間は眼圧下降三浦:もっとも大きな違いは調圧弁の有無です.AGVが得られないため,チューブに針で穴を空けて房水を適はプレートとチューブの接合部に2枚のシリコーン膜か度に濾過するためのSherwoodslitを作製する必要があらなる調圧弁があるため,術後低眼圧が生じにくいでり,手術手技はAGVに比べて少し煩雑になります.す.BGIは調圧弁がないため,プレート周囲に結合組織プレートの面積はBGIが350mm2,AGVが184mm2の被膜が形成されるまでの術後1カ月程度は低眼圧になであり,プレートの面積が大きいBGIのほうが長期的(89)あたらしい眼科Vol.39,No.4,20224810910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術な眼圧下降が得られると考えられています.過去のBGIとAGVの比較試験では,BGIはより低い眼圧を得やすく,AGVは低眼圧などの術後合併症が少ないという結果でした.これらの違いを考慮すると,最終的な目標眼圧が低い場合はBGIを選択し,高度な視神経障害のため早急な眼圧下降が必要な場合や唯一眼のため術後合併症を回避したい場合はAGVを選択するとよいと思います.また,無硝子体眼では低眼圧による脈絡膜出血などのリスクも高いため,硝子体手術後や硝子体手術併用の場合でもAGVがよい適応であると考えます.聞き手:チューブの挿入位置にはどのような違いがありますか?三浦:チューブの挿入位置は,前房,毛様溝,硝子体腔の3種類があります.挿入位置による眼圧下降効果の違いははっきりしませんが,チューブと角膜内皮の距離があるほど角膜内皮障害が生じにくいと考えられています.前房挿入では,角膜輪部から約1.5mmの位置で虹彩と平行にチューブを挿入します.チューブ先端が角膜内皮に接触すれば角膜内皮障害が生じ,虹彩に接触すれば虹彩炎やチューブ閉塞が生じるため,慎重に行う必要があります.偽水晶体眼・有硝子体眼では,角膜内皮障保護の点から毛様溝挿入が第一選択となります.角膜輪部から約2mmの位置で,虹彩や眼内レンズと平行にチューブを挿入します.チューブは柔軟なシリコーン製であるため,ときにチューブ先端が硝子体腔に入ってしまうことがあります.それを避けるために,チューブ先端をベベルダウンにトリミングしたり,チューブ内にナイロン糸を通して腰がある状態にしてから挿入する方法などがあります.他の二つの挿入位置に比べると挿入手技の難易度はやや高いです.硝子体手術を併用する場合や硝子体手術の既往がある場合は,角膜内皮障保護また挿入手技の容易さの点から硝子体腔挿入が第一選択となります.トリミングしたチューブを角膜輪部から約4mmの位置で硝子体腔に挿入します.硝子体がチューブ先端に嵌頓すると眼圧下降は得られません.そのため以前に硝子体手術の既往があったとしても,再度,周辺部硝子体が残存していないかを確認するほうがよいと思います.聞き手:プレートの固定位置はどこがよいでしょうか?三浦:耳上側が第一選択となります.上方への固定は,下方に比べて眼瞼とチューブ被覆した強膜との摩擦が少なく,チューブが露出しにくいです.また,保存強膜を482あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022使用する場合,保存強膜の白さが術眼の強膜よりも目立つため,眼瞼に覆われる上方に固定するほうが整容的によいです.また,耳側は手術の際のworkingspaceを広く確保できます.鼻上側にプレートを固定すると上斜筋の運動障害を生じやすいため避けるほうがよいです.AGVのプレートは縦方向に長いため,鼻下側に固定する場合,プレート後端が視神経へ接触する可能性があり,それを避けるために角膜輪部から約8mmの位置で固定するほうが安全です.よって,プレートの固定位置は,耳上側>耳下側>鼻下側>鼻上側の順に推奨されます.聞き手:ロングチューブ手術に特有な合併症であるチューブ露出はどのように予防すればよいでしょうか?三浦:チューブ露出を避けるためには,自己強膜か保存強膜によるチューブの被覆が必須となります.保存強膜はより厚みがあるため自己強膜よりチューブ露出しにくいですが,事前に用意をする必要があります.また,下眼瞼よりも上眼瞼のほうが強膜との摩擦が少なく,チューブが露出しにくいとの報告があります.チューブ被覆したあとの結膜縫合の際は,チューブをTenon組織で被覆するように縫合することが大切です.多くの場合,術中にTenon組織は円蓋部側へと後退してしまうので,開瞼器や制御糸をゆるめた状態でTenon組織を角膜輪部付近まで確実に引っ張り出す必要があります.なお,BGIの硝子体腔挿入用のHo.mannelbowは大きく,厚みがあるため,眼瞼との摩擦によって露出しやすく,使用は避けるほうがよいと考えます.聞き手:ロングチューブ手術を行う際のコツはありますか?三浦:患者の多くは高齢者で,プロスタグランジン関連薬の使用歴があります.加齢やプロスタグランジン関連薬の副作用による眼窩脂肪組織の減少,それに伴う上眼瞼溝深化によってプレートの固定に難渋することがあります.その際は,角膜輪部から9~10mmの位置で先に運針を行い,その運針した非吸収糸をプレート固定用の穴に通してからプレートを挿入すると,簡便にプレートを固定できます.また,毛様溝にチューブを挿入する際のチューブの適切な長さは,非散瞳下ではチューブ先端が見えず,散瞳下ではチューブが見える長さが理想的だと思います.そのため,チューブをトリミングしてから毛様溝に挿入するのではなく,チューブを挿入したあとに眼内でチューブを適切な長さにトリミングするほうが確実に理想的なチューブの長さにすることができます.(90)