●連載◯278監修=稗田牧神谷和孝278.自由診療と屈折矯正手術岡義隆先進会眼科屈折矯正手術は一般的な眼科手術と異なる特殊性がある.その一つが,多くが自由診療で行われていることである.自由診療の場合は,価格も含め自由度をもって設定が可能である.今回は屈折矯正手の実際の価格について,課題なども含めて解説する.C●はじめにおもに保険診療を行う大多数の眼科専門医にとって,自由診療は研修や実臨床で経験する機会もほぼない,いわば未知の眼科領域であり,その価値についてよくわからないのが現状であろう.しかし,有水晶体眼内レンズ系手術の後房型有水晶体眼内レンズ(implantableCcollamerlans:ICL)と,角膜レーザー系手術のClaserCinsituCkeratomileusis(LASIK)・Csmallincisionlenticuleextraction(SMILE)をはじめとする屈折矯正手術は,すでに世界累計C6,000万例以上行われており,短期的な成績だけでなく,長期予後でもその安全性と有用性が非常に高く確立された手術の一つである.そのような屈折矯正手術の自由診療としての経済的側面について,わが国での特徴や問題点,課題なども含めて解説する.C●背景わが国の屈折矯正手術には他の眼科手術と異なるいくつかの特殊性がある.まず,自由診療であることである.われわれが慣れ親しんでいる国民皆保険制度とは異なり,自由診療では医療費や使用する器具などを自由度をもって設定することができる.つまり自ら設定すべき項目が多岐に渡ることを意味する.二つ目は自由診療であるがゆえに,美容系眼科といわれる自由診療眼科が大きなシェアをもっていることである.これらの美容系眼科が過去に「銀座眼科事件」「レーシック患者集団訴訟」などを引き起こし,2013年に消費者庁からCLASIKの安全性について注意喚起を受けたことが眼科業界全体に与えた衝撃は大きく,未だにその不信感がわれわれ眼科専門医に強く残っていることは事実である.三つ目は治療対象となりうる屈折異常を有する患者数が膨大であることである.現在人口の約C40%が近視だ(71)と推計されており,潜在的な意味での屈折矯正手術の市場規模は非常に大きい.四つ目は使用する手術機器やその維持費が高額であることである.とくにCLASIKは,使用するエキシマレーザー装置とフェムトセカンドレーザー装置のそれぞれの実売価格がC3,000~5,000万円超といわれている.さらにこれらのレーザーの精度管理には精密な空調管理と頻繁なメンテナンスが必要とされており,その費用が年間1台につきC300~800万円程度必要である.有水晶体眼内レンズについても,1枚につきC15~30万円程度とされており,これらの費用を考えると,医療機関経営に大きな負担となることは事実であり,新規参入や手術継続の経済的障壁となっている.五つ目は屈折矯正手術に携わる眼科専門医が少ないことがあげられる.現在屈折矯正手術医はC600~700名と推計されている.大学などの教育機関で屈折矯正手術を扱っているところが非常に少なく,今後も少数の執刀医で患者ニーズに答えなければならない.以上のような特殊性が存在する.C●競争の手段としての「価格」屈折矯正手術,とくに角膜レーザー手術は高度に標準化・機械化された手術であるため,他院との技術的な差を出しにくいという側面がある.また,自由診療であるため,需要を喚起する方法が医療の質の向上ではなく,価格操作になりがちであるという問題点がある.患者側からすると,ニーズの深刻度が他の眼科手術に比べて低いという側面がある.経済学的に,ニーズの深刻度が低いほど,質より価格が重視される傾向がある.たとえば,生死にかかわるような疾患の治療(医療ニーズの深刻度が高いもの)では価格より質が重視されるが,利便性を高めるための治療や美容目的の治療など(医療ニーズの深刻度が低いもの)では価格が決定要因になりやすい.医療側からすると,初期投資が大きく機材の償却負担あたらしい眼科Vol.40,No.7,20239190910-1810/23/\100/頁/JCOPY円2,000,0001,500,0001,000,000500,0000図1エキシマレーザー用ガス販売価格と改訂時期価格が急騰(図1)しており,今後の手術費用の設定に大きな影響を与えるものと考えられる.C●相場から検討した「価格」おおよその価格帯はホームページなどを見れば調査することができる.それを基準に自院の価格を検討することも多いのではないだろうか.注意したいのは,ベンチマークは大切だが,それだけではなく,自院のコンセプトを明確にし,そのコンセプトに合ったターゲットを設定して,ターゲットに一致したサービスと価格を設定す巴商会,京葉メディカルサービス,昭和溶材の情報から筆者が集計した.が大きいが,角膜レーザー手術のように高度に標準化された手技であれば多数例の手術を行いやすく,環境が整えばC1件あたりの償却負担が少なくなり,利益を上げやすい.これらの結果,医療の質よりも価格や利便性がクローズアップされる状態となりやすいことが保険診療と温度差のある点であり,われわれ眼科専門医が違和感を感じるポイントの一つでもある.C●原価から考える「価格」投資を回収するためには多数の手術を行うことが必要になるが,実際のコストはどの程度かかるのであろうか.LASIKを例に損益分岐点となる最低価格を考えてみよう.LASIKのコストには,おもにレーザー機器にかかる初期投資,メンテナンス費用,手術ごとの消耗品の費用,エキシマレーザー用ガス費用,レーザー機器のバージョンアップ費用,広告宣伝費用などがある.これ以外に家賃,人件費もかかる.忘れがちなのは,自費診療に携わる投下時間である.広告宣伝費用,家賃,人件費などは差が大きいので今回は触れずに,ざっくりと概算すると,1眼あたりの手術原価は年間C100例とすると数十万円,1,000例とすると数万円ほどとなる.このほかに検査費用,薬代,フォローアップの費用がかかることを考えると,経済的に安定させるにはいかに多数の手術をしなければならないかが想像できよう.また近年は消耗品,とくにエキシマレーザー用ガスのべきだという点である.C●患者からみた価値としての「価格」患者からみたコストベネフィットとして,コンタクトレンズとの比較があげられる.1日使い捨てコンタクトレンズの価格が片眼C30枚でC3,000円と仮定した場合,10年間,毎日両眼使うとC72万円となる.乱視矯正レンズなどにするとさらに多くの金額が必要となる.加えて,日々のコンタクトレンズのケアから解放され,翌日から数日で日常生活に復帰できることは眼科医が考えている以上に大きなベネフィットであり,この価値を屈折矯正手術の価格にしめすことができる.C●おわりに正しい手順で患者の満足する治療を行い,責任をもって患者の不安や不満を解消する.このあたり前のことに対して,原価を計算したうえで適正な対価を求めることが屈折矯正手術の継続的な発展に不可欠である.今後もテクノロジーの発展に伴い,眼科のみならず,すべての医療分野で自由診療のウエイトが増えていくだろう.そのような中で,われわれがもっとも重視すべきは医療の安全性であることを常に忘れずに,根拠ある適正な価格を患者に明示し,ニーズに応えることが,末永く安定した屈折矯正手術を実施するうえで重要であり,安全性を無視した安易な価格競争に陥らないような仕組み作りも必要である.屈折矯正手術分野から先行している自由診療への取り組みは,今後の眼科医療全体へ影響を及ぼしかねず,すべての眼科医にとって大きな課題となるとの認識を改めて表明しておきたい.920あたらしい眼科Vol.40,No.7,2023(72)