●連載118監修=安川力髙橋寛二98安全・迅速な抗VEGF薬硝子体内注射塩瀬聡美九州大学大学院医学研究院眼科学分野のコツと注意点抗CVEGF薬が最初に認可されてからC13年が経過したが,その適応疾患の拡大とともに,各診療施設での抗VEGF薬硝子体内投与の頻度は年々増加しており,今後も増加していくことが予想される.そのような状況下で,安全かつ迅速に投与を行っていくことは,今後の眼科診療において大変重要であると考えられる.はじめに硝子体内注射(intravitrealinjection:IVI)の手技は,抗菌薬,抗ウイルス薬,ステロイドの投与に用いられていたが,抗CVEGF薬の登場以来,頻度が急増している.理由の一つとして,最初に適応が認められた滲出型加齢黄斑変性だけでなく,近視性脈絡膜新生血管,網膜静脈閉塞や糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫など,適応疾患が広がっていることがあげられる.もう一つの理由は,抗VEGF薬はC1回投与すれば終わりではなく,患者の病態にあわせた複数回の投与が必要となることである.AMDでは加齢に伴う病勢の再発で,数年にわたり投与を続ける患者も少なくない.そうなると,各診療施設でIVIを行う患者は増える一方であり,今後もさらに増加していくと考えられる.多数の患者を診察する施設では,IVIの時間が他の診療時間を逼迫していくことになりかねない.今回は忙しい外来の間に行う,安全,かつ迅速なCIVIのコツと注意点について考えてみたい.実際の手順当初は手術室で施行する施設もあったが,最近は外来の処置室で行う施設も多い.大きな施設ではどこも同様と推察されるが,当院CAMD外来でも午前中にC5.60名の抗CVEGF薬投与を行うため,毎回手術室を使用していては診療が終わらない.処置台と顕微鏡がC1台しかないので,医師の入れ替わりの時間を省略すべく,その日の注射担当医C1名がすべてのCIVIを行い,効率をあげている.診察医と注射担当医が異なることで取り違えがないよう,投与眼,薬剤を診察医が明記したオーダー表をもとに,スタッフ,注射担当医による数回の確認を行うようにしている.実際の手順を記す.1.診察医のオーダー表をもとに薬剤を準備しておく.スタッフ,医師はマスク,滅菌手袋をする(図1).2.患者入室時に氏名,投与眼,薬剤を確認.注射眼側のスタッフ①が顔の横にガーゼをはる.反対側のス(87)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1硝子体内注射施行時の様子1人の医師がその日のすべての硝子体内注射を行う.医師,スタッフはマスク,滅菌手袋をする.タッフ②が医師にポピドンヨード付き綿棒を渡す.医師が眼周囲を消毒.スタッフ②が開瞼器を渡す(図2).3.開瞼器がかかったらスタッフ①がCPAヨード(10%をC6倍希釈)で洗浄,点眼麻酔,洗浄液のかたづけをする.その間スタッフ②が清潔に注射薬を渡し医師が31G針を装着し,投与量を調節する.スタッフ②が綿棒を手渡しながら顕微鏡を入れる.4.注射施行.医師が針と綿棒を廃棄する間に,スタッフ①が抗菌薬の点眼,軟膏挿入を行う(針刺し事故防止のため医師の利き手と反対側のスタッフが行う).5.医師が開瞼器,顕微鏡をはずし,患者退室.この間およそC5分程度.安全性の確保このように迅速に投与を行っていく場合,安全性の確保ということも問題となる.「黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン」1)に則り,以下の点に注意するよう注射担当医,スタッフに周知している.1.薬剤の取り違え防止のため薬剤ごとに置く場所を変える.2.強膜の損傷,患者の疼痛の軽減のためにC31G(ゲーあたらしい眼科Vol.39,No.4,2022C479図2硝子体内注射の手順スタッフ①,②は左右から作業を分担しながら,注射が清潔にスムーズに進むよう,医師をサポートする.ジ)注射針を用い,滅菌綿棒で結膜組織を押さえることで急な眼球の動きを抑制している.角膜輪部から3.5.4.0Cmm後方に注射針を刺入するが,位置の確認には綿棒を用いる.綿棒の先端(綿体)の幅がC3.5.4.0mmなので,その一端を輪部にあてこれを目安に針を刺入することで毎回キャリパーを使う手間を省く.3.医原性の網膜裂孔の形成,水晶体の損傷を防ぐため薬液の注入,抜針は緩徐に行う.水晶体損傷は抜針時に多く,0.06%程度と報告されている.4.注射後の眼内炎の頻度はC0.04%程度と報告されており,いったん発症すると急速に視力を低下させるため,もっとも避けなければいけない合併症である.・医師が眼表面の消毒を行う際は,ポピドンヨード付き綿棒で眼瞼縁,睫毛,眼周囲皮膚の順に,鼻側から耳側へとヨードを塗布する.・PAヨード洗浄の際に患者に上下左右に眼を動かしてもらうことで,結膜.内全周にくまなく液が行きわたるようにする.・滅菌のディスポーザブル開瞼器(EzSpec,HOYA)を使用し,睫毛ができるだけ術野からはずれるようにかけ,注射針が刺入時睫毛に接触しないよう注意する.・IVI後の硝子体脱出は眼内炎のリスクとなるため,抜針後結膜を滅菌綿棒にて軽く圧迫する.当院のCAMD外来ではこの方法でラニビズマブが認可されたC2008年からC2021年現在までのC13年間でおよそ38,000本超の投与を行っているが,眼内炎の発生はフルオロキノロン耐性菌によるC1例(0.002%)のみである.この患者は両眼のCAMDに対する毎月投与のため,真面目にフルオロキノロン点眼を注射前後C10年にわたって行っていた.注射前後の抗菌薬点眼はその後の眼内C480あたらしい眼科Vol.39,No.4,2022炎の発症の頻度を下げないとの報告2)があり,術前後の点眼の必要性については見直す必要がある.2020年からの世界的なCCOVID-19の感染拡大以後,マスクの装用が常識となっている状況下で,呼気の気流がマスクの鼻部分の隙間から頬部に至り,口腔内常在菌が眼のほうに散布されるとの報告がある3).COVID-19流行の前後でCIVI後の眼内炎の発症率に差はない,とは報告されているものの,筆者らは注射時に患者マスクは鼻から口のほうに下げてもらい,気流による術野や針先の汚染を防ぐようにしている.おわりに抗CVEGF薬のCIVIによる眼疾患のコントロールは眼科領域において大変重要であり,今後も次々と新薬が市場に出回ることが期待される.また,近年の高齢者人口の増加,生活習慣病の増加により,抗CVEGF薬投与を受ける患者は今後爆発的に増加していくことが予想される.そのような状況のなか,合併症なく安全に,そして迅速にCIVIを行うシステムを各施設で作っていくことが,今後重要になってくると思われる.文献1)小椋祐一郎,高橋寛二,飯田知弘ほか:日本網膜硝子体学会硝子体注射ガイドライン作成委員会:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌120:87-90,C20162)Benoistd’AzyC,PereiraB,NaughtonGetal:Antibiopro-phylaxisCinCpreventionCofCendophthalmitisCinCintravitrealinjection:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CPlosCOne11:e0156431,C20163)HadayerCA,CZahaviCA,CLivnyCECetal:PatientsCwearingCfacemasksduringintravitrealinjectionsmaybeathigherriskofendophthalmitisRetinaC40:1651-1656,C2020(88)