考える手術⑱監修松井良諭・奥村直毅挙筋群短縮術米田亜規子京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学日常診療においてもっとも多くみられる眼瞼下垂は,加齢やハードコンタクトレンズ長期使用でみられる腱膜性眼瞼下垂である.腱膜性眼瞼下垂では,眼瞼挙筋の働き自体は保たれているにもかかわらず,挙筋群に変性・線維化・萎縮などを生じ,挙筋腱膜が本来付着している瞼板から離れ,後方へ偏位している.眼瞼下垂症に対する手術にはさまざまな術式があり,上眼瞼挙筋腱膜単独での前転術やMuller筋を瞼板にタッキングするMuller筋タッキング,さらに挙筋腱膜とMuller筋の両者を短縮する挙筋群短縮術などがある.本稿では挙筋群短縮術における結膜とMuller筋間の.離操作でのポイントを紹介する.この操作をスムーズに行えるようになれば,挙筋群短縮術の手術時間も大幅に短縮できる.まず,術前の結膜下麻酔で,結膜とMuller筋間に層間.離を意識して麻酔液を注入しておくと,あとの.離が容易になる.結膜とMuller筋間の.離は,瞼板上縁で水平方向にMuller筋を切離する操作と,瞼板上縁から頭側に向けてMuller筋を.離する操作に分かれる.瞼板上縁付近には辺縁動脈弓が水平方向に走行しているため,この血管に注意しながらMuller筋を1カ所小さく切開し,スプリング剪刀の先端で鈍的に結膜層まで.離を進め,結膜層に到達したらそこから水平方向にMuller筋を焼灼しながら切離を進める.瞼板上縁でMuller筋が切離できたら,Muller筋を手前に牽引し,結膜との間に突っ張った組織にスプリング剪刀を少し開いた状態で軽く押し当て,削ぐように頭側に.離していく.この際に挙筋腱膜とMuller筋に制御糸をかけて牽引すると,操作が容易になる.聞き手:挙筋群短縮術がとくに望ましいのはどんな場合筋の両方の力により開瞼幅を矯正するため,他の術式よですか?りも少ない前転量で十分な眼瞼挙上が得られることがあ米田:挙筋群短縮術(levatorresection)は挙筋機能がります.前転量が少ないので,術後の閉瞼不全やそれに比較的弱い患者でも対応可能なため,挙筋機能が5~伴って生じる角結膜障害を最小限に抑えることができま9mm程度の場合は挙筋群短縮術がとくに望ましいといす.そのため,Parkinson病などでしばしばみられるよえます.この術式の利点の一つに,挙筋腱膜とMullerうな自然瞬目の浅い患者や,閉瞼機能が弱く術後閉瞼不(97)あたらしい眼科Vol.40,No.6,20238090910-1810/23/\100/頁/JCOPY考える手術全のリスクが高い患者,また角膜疾患や重症ドライアイ,緑内障手術の既往があり角結膜障害を可能なかぎり最小限に抑えたい患者では,挙筋群短縮術が望ましいといえます.さらに,前医での術式詳細が不明な再手術の場合は,いったん眼瞼の解剖をすべてリセット,つまり挙筋腱膜とMuller筋を.離しなおして,状況を把握したうえで,望ましい位置に再び付けなおすことができるという点で,挙筋群短縮術がもっとも有効です.聞き手:挙筋腱膜のみの前転術中に,大幅に前転しても予想より眼瞼が上がりにくい場合,途中から挙筋群短縮術に変更できますか?米田:挙筋腱膜(aponeurosis)単独での前転術を行っている最中に,ホワイトライン上縁を超えて大幅に前転しても十分な眼瞼挙上が得られない場合は,追加でMuller筋と結膜の間を.離し,挙筋腱膜とMuller筋を合わせて前転することで挙筋群短縮術に切り替えることが可能です.聞き手:挙筋群短縮術のデメリットについて教えてください.米田:他の術式と比較して出血しやすい操作が多いため(とくに結膜とMuller筋間の.離),時間がかかりやすい点がデメリットといえます.そのためにも,エッセンスに記載したポイントの操作を確実に行えるようになることが,この術式攻略の近道になります.聞き手:挙筋群を瞼板に固定する際の目安やコツなどがあれば教えてください.米田:正常の眼瞼では,挙筋腱膜はホワイトライン(眼窩隔膜の翻転部)の下縁あたりで瞼板に付着しています.一方,腱膜性眼瞼下垂では挙筋腱膜は本来付着している瞼板から離れ,後方へ偏位しており,術中所見においてホワイトラインの頭側への後退を認めます.挙筋群短縮術では,挙筋腱膜とMuller筋の両者を前転させますが,解剖学的に正常な位置へ戻すことを意識して,ホワイトラインの下端を瞼板上方1/3のあたりに3点(鼻側,中央,耳側)で固定することを目安としています.ホワイトラインは必ずしも鼻側から耳側まで均一に後退しているとは限らず,鼻側ではしばしば挙筋腱膜自体の菲薄化や脂肪変性を認めることもあるため,挙筋群の状態に応じて固定位置を調整し,その後さらに患者に開瞼してもらいアーチの形や瞼縁の高さ,左右差などを見ながら調整を行います.瞼板への固定位置を瞼縁に近くすると,固定位置に合わせてノッチが形成され瞼縁のアーチが不自然になりやすいだけでなく,瞼板変形をきたし角結膜障害を生じるリスクにもなるため,瞼縁高の調整は挙筋群の前転量で調整します.聞き手:重瞼作製のポイントについて教えてください.米田:重瞼を予想通りの幅や形にするには,さまざまな要素を考慮する必要があります.まず切開線が術後の重瞼線になるようデザインしますが,術前の眉毛代償や皮膚弛緩の程度から,術後の皮膚弛緩が少なそうな場合は瞼縁から6~7mm程度,術後に皮膚弛緩がある程度予想される場合には少し高めに調整してデザインを行います.デザインを左右差なく描いても,切開がデザインより瞼縁側に寄ると結果的に重瞼幅は狭くなるため,切開の際にも注意が必要です.切開線が瞼縁側にずれやすい術者は,皮膚切開時に瞼縁側の牽引固定が対側の牽引固定より弱い傾向があるため,デザインに対し均等な牽引固定がポイントになります.挙筋群短縮術の重瞼作製では瞼板に固定した挙筋群より遠位の挙筋腱膜と瞼縁側の皮下組織を拾って埋没縫合します.縫合時の締め具合でも睫毛の立ち具合が調整できるため,睫毛の立ち具合も見ながら縫合します.図1Muller筋と結膜間の.離a:Muller筋に1カ所きっかけとなる切開を作製し,結膜層まで鈍的に.離する.b:瞼板上縁に沿って横方向に.離を進め切開を広げていく.c:Muller筋を手前に牽引し,結膜との間にスプリング剪刀を少し開いた状態で軽く押し当て,削ぐように頭側に.離していく.810あたらしい眼科Vol.40,No.6,2023(98)