緑内障におけるレーザー治療(SLT&MPCPC)の活用法HowtoUseLaserTherapy(SLT&MPCPC)fortheTreatmentofGlaucoma新田耕治*はじめに選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertra-beculoplasty:SLT)は1990年代に登場したが,説明に時間がかかる,レーザー治療に対する抵抗感が強く患者を説得しきれない,期待したほど眼圧が下降しないなどの理由により,なかなか普及していないのが現状である.しかし,2019年.2020年にLiGHTstudyの結果が発表され1.3),原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)や高眼圧症(ocularhyperten-sion:OH)にSLTが第一選択治療(用語解説参照)として有用であることが発表され,日本でも緑内障の第一選択治療としてのSLT(つまり点眼治療で開始せずいきなりSLTを施行)や1剤の緑内障点眼で治療しても目標眼圧に到達しないあるいは緑内障が進行する症例に第二選択治療(用語解説参照)としてのSLT(つまり現在使用している1剤の点眼は継続したままSLTを施行)が注目されている.また,2017年からわが国でも施行可能になったマイクロパルス毛様体ダイオードレーザー(micropulsecyclodiodelaser)によるマイクロパルス毛様体光凝固術(micropulselasercyclophotocoagula-tion:MPCPC)は従来の連続波経強膜的毛様体光凝固(continuouswavetransscleralcyclophotocoagulation:CW-CPC)と比較して重篤な術後合併症が少なく,多くの病期・病型の緑内障に適応がある.これらのレーザー治療の活用方法について詳説する.I選択的レーザー線維柱帯形成術の活用法1.SLTを施行するタイミング『緑内障診療ガイドライン』(第5版)4)にも,「眼圧コントロールに多剤の薬剤を要するときは,レーザー治療や観血的手術などの他の治療法も選択肢として考慮する必要がある」とあり,緑内障治療におけるSLTの位置づけは最大耐用点眼でも眼圧がコントロールできないときや手術に同意が得られないときに試す治療としている.最大耐用薬剤使用(用語解説参照)中のPOAGにSLTを施行した結果,施行前眼圧20.9±3.4mmHgが施行後18.7±4.6.mmHgと下降したが,下降率は10.0%でKaplan-Meier法による12カ月後の眼圧累積生存率は23.2%と不良であった5).Mikiら6)は,最大耐用薬剤使用中(平均3.4剤)の緑内障患者〔POAG39眼,落屑緑内障23眼,続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:SOAG)13眼)にSLTを施行し1年以上経過を観察し,眼圧がSLT施行前と同じかそれ以上上昇した場合を脱落基準1,SLT施行前より眼圧下降率が20%未満になった場合を脱落基準2とした場合,脱落基準1での成功率は45.3%,脱落基準2での成功率は14.2%であったと報告した.多変量解析の結果,SLT施行前の眼圧が高いほど,また病型ではSOAGが,SLT成功率が有意に悪かった.実際には,観血的緑内障手術が必要な患者で,手術に同意が得られない場合に手術を回避あるいは先延ばしする目的でSLTを施行す*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(39)431======図1第一選択治療としてのSLT長期管理NTG例(SLTの効果が持続しない例)2008年8月初診のNTG症例.ベースライン眼圧は16.3.mmHgでベースライン検査の後,SLTを希望されたので第一選択治療として施行した.その後1年2カ月でSLTの効果は減衰し,2010年にSLT再照射を施行した.しかし,再照射の効果も長期間持続しなかったために点眼を1種から開始した.5成分の点眼でも緑内障は徐々に進行したため手術を提案したが家庭の事情で同意が得られず,2018年にSLT再々照射を施行したが奏効しなかった.図2第一選択治療としてのSLT長期管理NTG例(SLTの効果が持続する例)2009年2月初診の左眼NTG症例.ベースライン眼圧は両眼16.0.mmHgでベースライン検査の後,SLTを希望されたので第一選択治療として施行した.その後11年2カ月間の眼圧推移はSLTを施行していない右眼(赤折れ線)よりも左眼(青折れ線)が常に低値であり,SLTが奏効している.加(0.13,p=0.007,およびC0.20,Cp=0.005)を認めた.生存分析では,SLT後C6,12,24カ月生存率はそれぞれC70%,45%,27%であった.高いベースライン眼圧はCSLT治療の成功と強く関連していた(ハザード比0.67,眼圧>21.mmHgvs≦21.mmHg,p<0.001).この結果では,SLT1年後の生存率は半数以下であり,SLTの長期的な効果に疑問を抱く読者もおられるかと思う.この論文での患者背景として,SLTを施行されたタイミングでの薬剤数がC2成分以上の症例も半数程度おり,それらの症例が生存率を下げている可能性があると考えられる.よって,SLTはなるべく薬剤数が少ない段階で施行することが望ましいと筆者は考えている.C4.第一選択治療としてのSLTをどのように呈示するか初めて緑内障と診断され,緑内障の病状や特徴などを一通り説明したあとに,いよいよ治療方針について説明をする場合に,どのように第一選択治療としてのCSLTを呈示したらよいであろうか.筆者の場合は,第一選択治療としてのCSLTの有効性はC80%であり,2割は害もないが効果もない.また,まれにCSLTにより逆に眼圧が上昇することがある.効果の持続時間は平均C3年,5年以上持続する場合もあれば数カ月で効果が減衰する場合もある.有害事象としては,一過性眼圧上昇以外には,SLT施行後数日間は霧視,結膜充血,違和感が出現する場合があるが,これらはC1週間以内に改善することなどを説明している.まれに一過性眼圧上昇(SLT施行後にC5.mmHg以上の眼圧上昇)をきたすことを十分に説明している.また,SLT施行当日は帰宅可能で,帰宅後は通常の生活を送ることができ,当日から入浴も可能であることなど生活での注意すべきことはないと伝えるようにして帰宅してもらっている.また,点眼治療とCSLT治療の利点と欠点についても説明するようにしている.点眼治療の利点は,1)気軽に始めることができる,2)1回の診察代金が低額.点眼の欠点は,1)毎日点眼をしなければならない,2)点眼による副作用が懸念される.SLT治療の利点は,1)点眼のようなわずらわしさがない,2)1回のCSLTで平均3年間治療効果が持続する.SLT治療の欠点は,1)1回の処置代金が高額(1割負担でC9,660円,3割負担で28,980円),2)奏効するかは施行してみないと予測困難,3)レーザー治療は医師も患者も怖いイメージがある,などがあげられる.これらを十分に説明したうえで今後の治療方針については患者自身で決めてもらうようにしている.SLTを選択した患者では施行後に定期的な受診が中断する恐れがあるので,第一選択治療としてのCSLTは歴史が浅い治療方法であり,有害事象が出現しないかをしっかり経過観察する必要があることを患者に釘を刺すようにしているので,当院での点眼群とCSLT群での継続受診率に差はないように思われる.第二選択以降の治療としてのCSLTも上記と同様に説明し,治療方法に対する理解を深めてもらい,同意を得てCSLTを施行するようにしている.C5.SLT照射方法と注意点照射C1時間前にアプラクロニジンとピロカルピンを点眼する.施設によってはアプラクロニジンのみ点眼している施設もある.照射の際に使用する隅角鏡は,ラティナC1面鏡が隅角を拡大して観察できるのでお勧めである.最近,筆者は,レンズがカチカチと回るCindexingレンズでしかも白色のツバが目印としてC1面鏡の反対側についているCOcularCHwang-LatinaC5.C0CIndexingCSLTw/Flangeを愛用している.このレンズはC45°分が白色のツバで表示されているので,このツバを目印にC45°に10.12発を照射する.その部分の照射が終われば外套をカチッと次の引っ掛かりまで回しC10.12発照射する.このことをC8回繰り返す.SLTは凝固斑が出現しないので,どこまで照射してどこから再開したらよいかがわかりにくかったが,このレンズを使用するようになって施行しやすくなった(図3).照射径はC400Cμmで固定されているので,術者はレーザーの強さのみ調節可能である.照射部位に気泡が生じる最小のパワーとするのが一般的である.しかし,色素沈着が生じている部位はより小さいエネルギーでも気泡が生じ,色素沈着のない部位ではより大きいエネルギーでも気泡が生じないことが多く,その場合はC2.3発に1度程度で気泡が生じるエネルギーを照射する.全周434あたらしい眼科Vol.C39,No.4,2022(42)図3SLTの際に使用する隅角鏡OcularCHwang-LatinaC5.0CIndexingCSLTCw/Flange隅角鏡はレンズが回るCindexingレンズ,白色のツバが目印としてC1面鏡の反対側についている.図4実際にSLTを施行している静止画気泡が生じる最小のパワーで照射する.スポットサイズは直径C400Cμmなので,スポットの一部に毛様体帯が含まれないように注意して照射する.===再照射が初回CSLTと同等の効果を持続することが報告された.C7.第一選択治療としてのSLTの将来SLTで治療した場合に,眼圧の日内変動が小さくなる可能性について報告した論文がある.SENSIMEDTrigger.shコンタクトレンズセンサー(用語解説参照)を使用して,NTG患者の眼圧変動に対するCSLT治療の効果を調べた.眼圧の変動は,日中と夜間に分けられ,SLTの前後で比較した結果,SLT前の平均眼圧はC13.5C±2.5CmmHgであった.SLT後C1,2,およびC3カ月の平均眼圧は,10.1C±2.3CmmHg(p=0.002),11.2C±2.7CmmHg(p=0.0059),およびC11.3C±2.4CmmHg(p=0.018)と有意に下降した.日中の眼圧変動の範囲は,SLT治療の前後で有意に変化しなかったが(p=0.92),夜間の眼圧変動は,SLT前のC290C±86CmVEqからCSLT治療後のC199C±31.mVEqに有意に減少した(p=0.014).SLT治療はCNTG患者の夜間の眼圧を大幅に低下させ,眼圧の変動を減少させる可能性があることが示された12).SLTで治療されたCPOAGまたはCOHの若年(40歳以下)患者56例56眼を18歳未満群(n=18)とC18.40歳群(n=38)に分けて検討した結果,SLT治療は若い症例でも有意な眼圧下降が得られた(p<0.05).SLT1時間後の平均眼圧は,18.40歳群よりもC18歳未満群のほうが低かった(p<0.01)が,他の時点では差はなかった(p>0.05).さらにC56例のうちC20例でC24時間眼圧測定を施行し解析した結果,眼圧値は治療前よりもすべての時点で有意に低く(p<0.05),24時間平均眼圧,ピーク眼圧,トラフ眼圧,および眼圧変動も有意に低かった(p<0.05).SLTが若年症例の眼圧日内変動を制御するのにも効果的である可能性が示唆された13).これらのことから,NTGで日中眼圧がコントロール良好でもなお緑内障が進行する患者に,夜間の眼圧下降も期待してSLTを積極的に施行することも念頭に置く必要性があろう.SLTは患者側のアドヒアランスに依存しない治療であるから,SLTの効果を実感した眼科医が増加するにつれて,とくに第一選択治療としてのCSLTは徐々に普及すると思われる.そのためにも多くの日本人での第一選択治療としてのCSLTのエビデンスを積み上げていくことが肝要である.筆者も,日本緑内障学会プロジェクト支援事業の一つとして,NTGに対する第一選択治療および第二選択治療としてのCSLTの有効性および安全性に関する前向き介入研究をC2020年C1月から開始したので,現在のその解析を進めているところである.CIIマイクロパルスレーザー毛様体光凝固術の活用法1.MPCPCの作用機序と効果MPCPCは,2017年からわが国でも施行可能になった新しい緑内障レーザー治療方法である.CycloCG6(P3CGlaucomaDevice,IRIDEX社)(図5a)を用いて,810Cnm波長の赤外線ダイオードレーザーの短時間照射(on)と休止(o.)を周期的に繰り返すことによって周囲組織の温度上昇を抑えながら経強膜的に毛様体に光凝固を行う.MPCPCは施術の容易さ,術後合併症の少なさに加えて,角膜や前眼部混濁のある症例においても施術可能であること,結膜を温存でき将来の濾過手術に影響しない,術後管理が簡単であるといった利点がある.本術式の眼圧下降効果は,①毛様体色素上皮および毛様体無色素上皮に閾値以下の細胞損傷を与えて房水産生を直接抑える14),②毛様体扁平部近傍の細胞外マトリックスのリモデリングによるぶどう膜強膜流出の増加15),③毛様体筋収縮に伴うピロカルピン様効果による線維柱帯流出路の排出促進16)といった複数の作用機序によって眼圧下降がもたらされると考えられているが正確な機序は不明である.MPCPCは短時間の照射の合間に休止時間を設けることで熱拡散を促し,熱上昇を制御するとともに,レーザーの照射時間を短縮することで過熱や周辺組織へのダメージが緩和できるので,従来の連続波経強膜的毛様体光凝固(continuousCwaveCtransscleralCcyclophotoCcoagu-lation:CWCPC)と比較して重篤な術後合併症が少ない14,17).MPCPCとCCWCPCに関する各C24眼の無作為化比較試験で,眼圧下降効果に有意差はなかったが,前房炎症をCMPCPCでC1眼,CWCPCでC9眼認めた.また,眼球癆がCCWCPCでC1眼発生したなど,合併症や436あたらしい眼科Vol.C39,No.4,2022(44)ab図5MPCPCの際に使用する機器とプローブa:CycloCG6(P3CGlaucomaDevice,IRIDEX社)はCCWCPCもCMPCPCも施行できる機器である.Cb:MPCPCの際に使用するCMP3プローブで先端に突起がある.また切れ込みのある部分を角膜輪部側に押し当てて照射する.■用語解説■第一選択治療と第二選択治療:第一選択治療は,緑内障として初めて治療を開始する際に選ばれる治療方法をさす.通常は点眼治療で開始されるが,筆者は点眼とSLTを呈示し,それぞれの利点欠点を説明し,患者に治療方法を選択してもらうようにしている.第二選択治療は,緑内障として第一選択治療にて加療されるも,緑内障の病状が安定しないために二番目に追加して選ばれる治療方法をさす.最大耐用薬剤使用:現在の点眼薬での併用使用の候補薬剤は,作用点と眼圧下降効果を考慮して,プロスタノイド受容体関連薬,Cb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,Ca2作動薬,ROCK阻害薬などがある.病状によってこれらの点眼薬を組み合わせて併用し,アドヒアランスの面でも患者が任用可能な限度の点眼を使用している状態をさす.通常はC4成分からC5成分の点眼を使用している状態をさす.CSENSIMEDTrigger.shコンタクトレンズセンサー:眼圧の変化によって誘発される角膜曲率の変動を捉えるマイクロセンサーが埋め込まれたシリコーン素材のコンタクトレンズ型のトリガーフィッシュセンサーを被検者の眼に装用し,最長C24時間にわたってC5分ごとにC30秒間自動的に角膜曲率の変動測定し続けることで眼圧変動におけるパターンを検出する.最大で288ポイントの測定値をグラフ化して表すことができ,縦軸の単位はCmVeqである.しかし,得られた角膜曲率(mVeq)を眼圧の値(mmHg)に変換する計算式が存在しないため,厳密な意味で眼圧を評価することは今のところ不可能である.マイクロパルス波:マイクロパルス波は,従来の連続波によるレーザー発振をCONとCOFFに極短時間に制御しレーザー発振を行う技術であり,dutycycle(実際のレーザー照射時間)はC31.3%で,0.5Cmsの持続時間とC1.1Cms間隔でレーザー発振を行うため組織への侵襲が少ない.—