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レバミピド懸濁点眼液とMPC ポリマーの併用処理による ドライアイ治療効果の有用性評価

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):982.987,2022cレバミピド懸濁点眼液とMPCポリマーの併用処理によるドライアイ治療効果の有用性評価後藤涼花*1勢力諒太朗*1渡辺彩花*1油納美和*1大竹裕子*1櫻井俊輔*2原田英治*2長井紀章*1*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2日油株式会社ライフサイエンス事業部CEvaluationoftheCombinedTherapyofRebamipideandMPCPolymerfortheTreatmentofDryEyeRyokaGoto1),RyotaroSeiriki1),SayakaWatanabe1),MiwaYuno1),HirokoOtake1),ShunsukeSakurai2),EijiHarata2)CandNoriakiNagai1)1)FacultyofPharmacy,KindaiUniversity,2)LifeScienceProductsDivision,NOFCorporationC本研究では市販ドライアイ治療薬であるレバミピド懸濁点眼液(REB点眼液)と生体適合性CMPCポリマー(MPCP)を併用処理した際のドライアイに対する治癒効果について検討した.REB点眼液点眼C5分後にCMPCPを処理することで,涙液中CREB濃度の滞留性向上が確認され,そのCREB眼表面滞留時間の延長はCREB点眼液単独処理群と比較し有意に高値であった.次に,N-アセチルシステイン処理ウサギ(眼表面ムチン被覆障害モデル)を用い,REB点眼液とCMPCP併用処理時のドライアイに対する治療効果を検討したところ,併用処理により,眼表面ムチン被覆障害モデルの涙液層破壊とムチン量低下は改善され,その効果はCREB点眼液単独処理群に比べ高値であった.以上,MPCP併用により,REBの涙液中薬物滞留性が高まるとともに,ムチン被覆改善作用が向上する可能性が示唆された.CInthisstudy,weinvestigatedwhetherornotacombinationofcommerciallyavailablerebamipideophthalmicsuspension(CA-REBeye-drop)and2-methacryloyloxyethylCphosphorylcholine(MPC)polymerCprovidesCanCenhancedtherapeutice.ectfordryeye.ThecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymerprolongedthedrugresidenceinthelacrimal.uid.Next,thetherapeuticpotentialofthecombinationtreatmentfordryeyewasevaluatedinanN-acetylcysteine-treatedrabbitmodel.ThecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymerpromotedimprovementofboththetear.lmbreakupandlevelofdecreasedmucincausedbytheN-acetylcysteinetreatment.Moreover,thetherapeutice.ectwassigni.cantlyincreasedintherabbitsinstilledwiththecombinationofCCA-REBCeye-dropCandCMPCCpolymerCinCcomparisonCwithCtheCrabbitsCinstilledCwithCCA-REBCeye-dropCalone.CTheseresultsshowthatthecombinationofCA-REBeye-dropandMPCpolymermayprovideanenhancedthera-peutice.ectforpatientsa.ictedwithdryeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):982.987,C2022〕Keywords:MPCポリマー,レバミピド,ドライアイ,眼表面,涙液.MPCpolymer,rebamipide,dryeye,ocularsurface,lacrimal.uid.Cはじめに涙液は外側から油層,水層のC2層で構成され,外側に位置する油層は内側にある水層の蒸発を抑える働きを有している1).また,水層には角膜上皮から分泌されている糖蛋白質ムチンが分布し,このムチンが涙液を角膜表面に維持させる役割を担っている2).これら,ムチンは分泌型ムチンと膜型ムチンのC2種類に大きく分類され,分泌型ムチンは主として涙液の水層に分布し,水分を保持する形で涙液中に混じり込むことで,眼表面で涙液を均一に伸展させる働きを担っている.一方,膜型ムチンは上皮細胞の表面にある微絨毛の先端〔別刷請求先〕長井紀章:〒577-8502東大阪市小若江C3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:NoriakiNagai,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,CJAPANC982(128)CH3CH3CH2CCH2CCO-CH3COOCH2CH2OPOCH2CH2N+CH3O(CH2)17CH3OCH3l図1MPCポリマーの化学構造式に存在し,糖衣を形成することで,上皮表面の水濡れ性維持に寄与すると考えられている3,4).このようにムチンは眼表面での涙液維持に強く関与する因子であり,眼表面でのムチン量の低下はドライアイの発症に繋がる.ドライアイは涙液減少型,蒸発亢進型,涙液層破壊時間短縮型など,その機序により分類されている5).これらの治療法としては人工涙液,ヒアルロン酸点眼液を用いた涙液の補給,涙点プラグなどによる涙液滞留量の増加,温罨法や瞼縁洗浄などが行われている6,7).さらに近年では,角膜表面上に存在するムチンの産生を高めるレバミピド懸濁点眼液(REB点眼液,ムコスタ点眼液)やムチンの放出を促進するジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアス点眼液)といった点眼薬が広く用いられている.これら薬物療法は有用であるが,パソコンやスマートフォンの普及からドライアイ患者数が急増しているわが国においてさらに有用なドライアイ療法の確立が望まれているのが現状である.日油株式会社により開発されたCMPCポリマーは生体適合性,保水性および保湿性に優れ,人工臓器などの医療機器の表面処理剤として開発されている.本研究に用いたCMPCポリマーは,PC構成単位,アミド構成,疎水性構成単位のC3種の構成単位を特定の割合で有する共重合体である.それぞれの構成単位におけるCPC構成単位はC2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンエチルホスファート(MPC)であり,共重合体の生体適合性,親水性に寄与する.アミド構成単位はCN,N-ジメチルアクリルアミド(DMA)であり,高分子量化させることで共重合体の眼表面での滞留性向上が,疎水性構成単位はステアリルメタクリレート(SMA)であり,共重合体の角膜表面への接着性を向上させることが期待できるポリマーである.近年筆者らは,これらCMPCポリマーがムチンと類似した水分保持作用を有することを見出すとともに,N-アセチルシステイン頻回点眼処理により作製した眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用い,MPCポリマーの点眼がドライアイ治療に有用であることを報告した8).本研究では,これらCMPCポリマーと市販ドライアイ治療薬であるCREB点眼液を併用処理した際のドライアイに対する治癒効果について,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用いて評価した.CH2CHCONCH3CH3mn涙液採取涙液採取REBREB5minMPCP+REBMPCPREB5min5minREB+MPCPREBMPCP10min20min30min図2本研究で実施したREBとMPCポリマーの点眼処理スケジュールI対象および方法1.使用薬物および実験動物REB点眼液は,大塚製薬から購入し,MPCポリマーは日油から譲渡されたものを用いた.図1には今回用いたCMPCポリマーの構造式を示す.また,N-アセチルシステイン溶液は和光純薬製を用い,シルメル試験紙は昭和薬品化工から購入した.涙液ムチン測定キットはコスモ・バイオから得た.その他の試薬は市販特級品あるいはCHPLC用試薬を用いた.日本白色種雄性ウサギ(2.5.3.0Ckg)は清水実験材料から購入し,近畿大学実験動物規定に従い実験を行った(実験承認番号,KAPS-31-002).C2.薬物の点眼処理方法REB点眼前後にC0.1%CMPCポリマーを点眼し,点眼間隔はC5分,点眼量はC1回C30Cμlとした.また本研究では,MPCポリマー点眼C5分後にCREB点眼処理を行ったものをCMPCP+REB群,REB点眼C5分後にCMPCポリマーを点眼したものをCREB+MPCP群とした.図2にはCMPCポリマーおよびCREB点眼液併用処理時における涙液中CREB濃度を測定した際の点眼処理スケジュールを示す.C3.HPLCを用いたREB濃度の測定試料からのCREB抽出にはN,N-ジメチルホルムアミドを用い,リン酸緩衝液/アセトニトリル=83/17(v/v)を移動相としたCHPLC法にて濃度の測定を行った.HPLC法には,InertsilODS-3を接続した高速液体クロマトグラフィー装置LabSolutions(島津製作所)を用い,カラム温度C35℃(クロマトチャンバーCCTO-20AC使用),移動相の流速はC0.25Cml/ap=0.018bp=0.0202.50.5REB濃度(mg/mL)2.00.4REB濃度(mg/mL)1.50.31.00.20.50.10.00.0図3MPCポリマー(MPCP)併用処理が市販REB点眼液の涙液滞留性に与える影響a:点眼処理C10分後の涙液中CREB濃度.Cb:点眼処理C30分後の涙液中CREB濃度.平均値C±標準誤差,n=3.6.min,検出波長C254Cnm,測定時間C16分とした.試料注入量はC10Cμlとし,オートインジェクターCSIL-20ACを用いた.本研究では,REBのピークがC12.13分の間に検出された.C4.眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルの作製雄性日本白色種ウサギにC10%CN-アセチルシステイン溶液(溶媒:生理食塩液)を午前C9時から午後C7時までC2時間間隔で計C6回(各回C50Cμl)点眼処理を施すことで眼表面ムチン被覆障害モデルを作製した.本研究では,涙液状態の安定化のため,点眼処理C2日後のウサギをドライアイC0日目として研究に用いた.C5.涙液油層の干渉像の観察興和製CDR-1Caを用い,開瞼器にてC5分間開瞼したウサギの涙液油層干渉像を撮影した.撮影は薬物点眼処理C24時間後に行い,角膜中央部にフォーカスをあて干渉像を測定した.また,得られた干渉像よりドライアイスポット(涙液が伸展せず黒色で映る部分)の面積値をCImageJにて測定し,干渉像全体の面積値(40.3CmmC2)に対する比として傷害率を算出した.さらに,点眼処理群の傷害率を点眼未処理群の傷害率で除したもの(傷害率点眼群/傷害率未点眼群×100)を涙液層破壊率(%)とした.C6.涙液中ムチン量の測定結膜.内からCSchirmer試験紙にて涙液をC5分間採取し,得られた試料に存在するムチンコア蛋白質からCO-グリカンをCb脱離すると同時に糖鎖還元末端に蛍光ラベルさせることで得られる蛍光強度を測定することで,ムチン量の定量を行い,涙液量にて除したものを涙液中ムチン濃度とした.これらムチン量の定量には涙液ムチン測定キットを用い,蛍光強度は,CORONA社製蛍光プレートリーダーCSH-9000にて測定した(励起波長C336Cnm,蛍光波長C383Cnm).本実験における薬物処理時におけるムチン量は,未処理群の涙液中ムチン量に対する比(%)として表した.C7.統計解析得られたデータは平均値±標準誤差として表した.各々の実験値はCStudentのCt-testまたはCDunnettの多重比較検定にて解析した.本研究ではCp値がC0.05以下を有意差ありとした.CII結果1.REB点眼液およびMPCP併用処理におけるREB眼表面滞留性の変化図3はCREB点眼液およびCMPCP併用処理(単回)10分およびC30分後における正常ウサギ涙液中でのCREB挙動を示す.REB点眼液を単剤投与したCREB単独処理群の点眼C10分後における涙液中薬物濃度はC1.23Cmg/mlであり,点眼C30分後にはC0.10Cmg/mlまで低下した.また,MPCポリマー点眼C5分後にCREB点眼液を処理したCMPCP+REB処理群の涙液中CREB濃度変化は,REB単独処理群と類似した挙動を示した.一方,REB点眼液処理C5分後にCMPCポリマーを点眼したCREB+MPCP処理群では,眼表面でのCREB滞留性が高まり,眼表面での薬物量はCREB単独処理群のそれに比べ,点眼C10分後でC1.68倍,点眼C30分後でC2.62倍であった.C2.眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対するREB点眼液およびMPCP併用処理の有用性評価図4はCREB点眼液単剤処理およびCREB点眼液とCMPCポリマー併用処理を行った際の涙液油層干渉像とその眼表面障害治癒効果を示す.10%CN-アセチルシステイン溶液処理により眼表面の涙液層を破壊したのち生理食塩水連続点眼を行ったCSaline群ではC2日目,5日目における涙液層破壊率はそれぞれC99.8%,76.2%であった.一方,REB単独処理群では,連続点眼C2日目,5日目における涙液層破壊率はそれぞれC44.7%,39.9%であった.また,MPCポリマーを前点眼したCMPCP+REB処理群では,REB単独点眼処理群と同程度であった.一方,REB投与後にCMPCポリマーを点眼したCREB+MPCP処理群では,REB単独処理群と比較し,有意な傷害率の低下が認められ,連続点眼C2日目の涙液層破壊率はC28.6%,5日目ではC10.3%であった.図5は眼表面ムチaSalineREBMPCP+REBREB+MPCP0d2d5dbcp=0.003p=0.0000011201201008060涙液層破壊率(%)10080604000図4市販REB点眼液とMPCポリマー(MPCP)併用処理がウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの角膜障害に与える影響a:連続点眼処理C2日目およびC5日目の代表的涙液油層干渉像.バーはC1Cmmを示す.Cb:連続点眼処理C2日目の涙液層破壊率.Cc:連続点眼処理C5日目の涙液層破壊率.平均値C±標準誤差,n=3.6.Cp=0.0002402020ap=0.003b175175150150125100755025ムチン量(%)12510075502500図5MPCポリマー(MPCP)と市販REB点眼液併用処理がウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの涙液中ムチン量に与える影響a:連続点眼処理C2日目の涙液中ムチン量.Cb:連続点眼処理C5日目の涙液中ムチン量.平均値C±標準誤差,n=3.6.ン被覆障害ウサギモデルに各点眼処理を行った際の涙液中ムで低下していた.これら眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルチン量の変化を示す.10%CN-アセチルシステイン溶液処理にCREB単剤点眼を行ったところ,ムチン量の増加が確認さにより,涙液中ムチン量は,正常ウサギのそれの約C70%まれ,連続点眼C5日目の涙液中ムチン量は正常群と同程度であった.また,MPCP+REB処理群においても同様のムチン量の改善が認められた.一方,REB+MPCP点眼処理群では有意に涙液中ムチン量の向上が認められ,点眼処理C5日目のムチン量は正常群の約C140%であった.CIII考按MPCポリマーは生体適合性が高く,ムチンと類似した作用を有することから,眼表面の安定化において有用な物質である8).本研究では正常ウサギを用い,MPCポリマーとドライアイ治療薬CREB点眼液の併用処理が,涙液中での薬物滞留性にどのような影響を及ぼすかについて検討を行った.また,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用い,これら併用処理時におけるドライアイ治癒効果について検討した.点眼後における涙液中薬物挙動を検討するうえで,評価用動物種の選択は重要である.一般的に使用される実験動物としてはマウスやラットが知られているが,これらは眼が小さく,水晶体も人と比べ非常に大きな割合を示すなど,ヒトの眼と構造が大きく異なっている.一方で,ウサギやサルは眼表面の状態や眼構造ともにヒトのそれと類似しており,眼領域の研究において多用される動物種である.とくに,ウサギはサルに比べて飼育が容易であることからも,点眼薬の薬物動態挙動を確認するうえでもっとも用いられる実験動物種である.このため本研究ではウサギを用い,REBおよびCMPCポリマー併用処理が涙液中CREBの濃度変化におよぼす影響を検討した(図3).REB点眼液を単剤投与したところ(REB単独処理群),点眼直後から眼表面でのCREB濃度の低下が確認され,点眼C30分後の涙液中CREB濃度はC1.23Cmg/mlであった.これらCREB点眼を行ったC5分後にCMPCポリマーを追加点眼したところ(REB+MPCP処理群),涙液中でのREB濃度の増加が確認され,そのCREB眼表面持続時間の延長はCREB単独処理群と比較し有意に高値であった.一方,点眼する順番を変更し,REB点眼の前にCMPCポリマーを処理した場合(MPCP+REB処理群)では,REB眼表面滞留時間の延長は確認されず,MPCP+REB処理群とCREB単独処理群の涙液中CREB濃度に有意な差はみられなかった.筆者らの以前の報告で,MPCポリマーは涙液成分や角膜上皮の両方と親和性を有しており,点眼後上皮膜上に付着したMPCポリマーは涙液層をトラップし,眼表面の安定化が得られるということを報告している8).また,筆者らのこれまでの実験にて,REB点眼液は点眼後CREB微粒子が角膜表面に付着し,溶解したものが徐々に吸収され薬効を示すことが確認されている9).これらの背景および今回の結果から,REB点眼液点眼後の懸濁CREB微粒子が角膜表面に付着後,MPCポリマーがそれをカバーすることで,眼表面でのCREB濃度の維持が得られるのではないかと推察された.また,MPCポリマーが先に角膜上皮に付着し,その後CREB微粒子が角膜表面に接触してきた際には,これらCMPCポリマーによるCREBのカバーが十分には得られず,REB単独点眼と同程度の薬物涙液持続時間を示したのではないかと考えられた.ただ,これらの仮説の証明には今後より詳細な検討が必要と考えている.次に,REB点眼液およびCMPCポリマー併用処理した際の,ドライアイ療法としての有用性について検討を試みた.中嶋らはCN-アセチルシステインをウサギに点眼することにより眼表面のムチンを除去した実験動物モデル(眼表面ムチン被覆障害ウサギモデル)を作製している10).また,本モデルにおいて,角結膜表面の微絨毛/微ひだの消失,角膜および結膜におけるムチン様糖蛋白質の減少,および涙液安定性の低下といったヒトのドライアイ特徴を有していることを示している10).そこで今回,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対しCREB点眼液およびCMPCポリマー併用処理した際の角膜中央部における涙液層破壊率の改善効果について検討を行った.その結果,10%CN-アセチルシステイン溶液処理によりウサギ眼表面の涙液層破壊と涙液中ムチン量の低下が認められ,これら眼表面障害はCREB点眼液の点眼により顕著に軽減された.本研究同様,以前の眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルを用いた報告においても,REB点眼液は角結膜でのムチン産生量を増加させ,涙液安定性の指標となるドライスポットの出現を抑制することが示されており10),今回の結果は,これら以前の研究成果を支持するものであった.さらに,REB投与後にCMPCポリマーを処理したCREB+MPCP処理群について検討したところ,REB点眼処理群に比べ,涙液層破壊とムチン量低下がともに有意に改善した.これら結果は先に示した薬物の涙液滞留時間を反映するものであった.一方,MPCポリマー自身にも涙液保持機能効果が認められることから8),MPCポリマーを前処理したCMPCP+REB処理群においても涙液層破壊の軽減が期待されたが,涙液層破壊とムチン量は,REB単独処理群と同程度であった.この要因として,MPCポリマーの濃度は低いため,後から点眼されたCREBにより希釈,排出が促進され,単独処理による眼表面の安定化を有するほどの濃度が眼表面で維持できなかった可能性があるが,このことについては今後検討が必要である.以上,市販ドライアイ治療薬であるCREB点眼液点眼後にMPCポリマーを処理することで,REBの涙液薬物滞留性が高まるとともに,眼表面ムチン被覆障害ウサギモデルに対する障害修復効果が向上することが示された.この結果からREB点眼液とCMPCポリマーの併用により,ムチン被覆改善作用が向上し,MPCポリマーが眼疾患領域で有用な添加剤になりうる可能性があると考えられた.今後,MPCポリマーを配合したCREB点眼製剤を調製するとともに,そのドライアイ治療効果についても検討を進めていく予定である.利益相反長井紀章(カテゴリーF,クラス:III,日油株式会社)原田英治,櫻井俊輔(カテゴリーE)後藤涼花,勢力諒太朗,渡辺彩花,油納美和,大竹裕子(なし)文献1)真鍋礼三,木下茂,大橋裕一ほか:角膜クリニック第C2版(井上幸次,渡辺仁,前田直之ほか).p2-5,医学書院,C20032)GipsonCIK,CHoriCY,CArguesoP:CharacterCofCocularCsur-faceCmucinsCandCtheirCalterationCinCdryCeyeCdisease.COculCSurfC2:131-148,C20043)InatomiCT,CSpurr-MichaudCS,CTisdaleCASCetal:Expres-sionofsecretorymucingenesbyhumanconjunctivalepi-thelia.InvestOphthalmolVisSciC37:1684-1692,C19964)UchinoCY,CUchinoCM,CYokoiCNCetal:AlterationCofCtearCmucinC5ACCinCo.ceCworkersCusingCvisualCdisplayCtermi-nals:TheOsakaStudy.JAMAOphthalmolC132:985-992,C20145)ドライアイ研究会:ドライアイの定義および診断基準委員会:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).ドライアイ研究会,1-5,20166)MoshirfarCM,CPiersonCK,CHanamaikaiCKCetal:Arti.cialCtearspotpourri:aliteraturereview.ClinOphthalmolC8:C1419-1433,C20147)FoulksCGN,CBronAJ:MeibomianglandCdysfunction:aCclinicalCschemeCforCdescription,Cdiagnosis,Cclassi.cation,Candgrading.OculSurfC1:107-126,C20038)NagaiCN,CSakuraiCS,CSeirikiCRCetal:MPCCpolymerCpro-motesrecoveryfromdryeyeviastabilizationoftheocu-larsurface.PharmaceuticsC13:168,C20219)NagaiCN,CItoCY,COkamotoCNCetal:SizeCe.ectCofCrebamip-ideophthalmicnanodispersionsonitstherapeutice.cacyforcornealwoundhealing.ExpEyeResC151:47-53,C201610)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科C29:1147-1151,C2012***

角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の1 例

2022年7月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科39(7):978.981,2022c角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の1例千葉麻夕子*1,2大口剛司*1,3三田村瑞穂*1金谷莉奈*1野田友子*1,4田川義晃*1木嶋理紀*1岩田大樹*1田川義継*5石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究院眼科学教室*2北海道医療センター眼科*3大口眼科クリニック*4KKR札幌医療センター眼科*5北1条田川眼科CACaseofMultipleMyelomaDiagnosedbyCornealFindingsMayukoChiba1,2),TakeshiOhguchi1,3),MizuhoMitamura1,3),RinaKanaya1),TomokoNoda1,4),YoshiakiTagawa1),RikiKijima1),DaijuIwata1),YoshitsuguTagawa5)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,2)COphthalmology,HokkaidoMedicalCenter,3)OhguchiEyeClinic,4)CDepartmentofCenter,5)TagawaEyeClinicCDepartmentofOphthalmology,KKRSapporoMedical目的:角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の症例を報告する.症例:84歳,男性.両眼の視力低下を主訴に近医受診.視力は右眼(0.4),左眼(0.6),眼圧は両眼とも正常範囲内で,角膜混濁および白内障を指摘された.白内障手術が施行されたが,術後視力は右眼(0.6),左眼(0.7)と著明な改善はみられず,霧視症状が強く,角膜混濁の影響と考えられ精査目的に北海道大学病院を紹介受診した.両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い不定形な混濁がみられ,上皮下には渦状の混濁を伴っていた.鑑別として多発性骨髄腫による角膜混濁が考えられたため血液検査を施行したところ,貧血,高蛋白血症,低アルブミン血症,腎機能障害を認め,骨髄検査にて多発性骨髄腫の診断となった.化学療法が開始され,角膜混濁および霧視症状の改善を認めた.結論:多発性骨髄腫により角膜混濁を生じた症例を経験した.多発性骨髄腫では眼症状を初発とすることがあるため,高齢者の原因不明の角膜混濁を診た場合,多発性骨髄腫を疑い,全身精査を行うべきである.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofmultipleCmyeloma(MM)diagnosedCbyCcornealC.ndings.CCaseReport:An84-year-oldCmaleCinitiallyCvisitedCanCeyeCclinicCcomplainingCofCdecreasedCvisualacuity(VA)inCbothCeyes.CUponCexamination,CcornealCopacitiesCandCcataractsCwereCdetected,CandCalthoughCcataractCsurgeriesCwereCperformed,CtheCVACinCbothCeyesCdidCnotCimproveCandCblurredCvisionCdueCtoCcornealCopacitiesCgraduallyCdeveloped.CThus,CheCwasCreferredtoourhospitalfortreatment.Slit-lampexaminationrevealedapalehazeovertheentirecornealregioninbothCeyes,CaccompaniedCwithCanCatypicalCsubepithelialCspiral-shapedC.gure.CBloodCtestC.ndingsCrevealedCanemia,Chyperproteinemia,Chypoalbuminemia,CandCrenalCdysfunction.CAfterCaCboneCmarrowCexamination,CheCwasCdiagnosedCwithCMMCandCtreatedCwithCchemotherapy,CwhichCledCtoCimprovementsCofChisCcornealCopacityCandCblurredCvision.CConclusion:AlthoughCocularC.ndingsCcanCbeConeCofCtheCinitialCsymptomsCofCMM,CwhenCanCunexplainedCcornealCopacityCisCdetectedCinCtheCelderly,CMMCshouldCbeCconsideredCasCaCdi.erentialCdiagnosisCandCthoroughCsystemicCexaminationsshouldbeconducted.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):978.981,C2022〕Keywords:多発性骨髄腫,M蛋白,角膜混濁.multiplemyeloma,Mprotein,cornealopacity.はじめに多発性骨髄腫は単クローン性に増殖した形質細胞から大量の免疫グロブリン(M蛋白)が分泌される疾患である.病的骨折や貧血症状,高カルシウム血症,易感染性など多彩な症状をきたし,初発症状は骨痛が多い1).わが国では人口C10万人当たり約C5人の発症率で,死亡者数は年間C4,000人前後であり,発症率,死亡率ともに年々増加傾向にある2).眼所見としては腫瘍の眼窩内浸潤や,過粘稠度症候群による網膜病変などの報告が多い3).今回筆者らは,角膜所見から診断に至った多発性骨髄腫の患者を経験したので報告する.〔別刷請求先〕千葉麻夕子:〒060-8638札幌市北区北C15条西C7丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:MayukoChiba,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8638,JAPANC978(124)図1初診時前眼部写真(上段)とそのシェーマ(下段)両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁,上皮下に不定形な混濁と,左眼に一部渦状の混濁がみられた.CI症例患者:84歳,男性主訴:両眼の霧視.現病歴:両眼の視力低下を主訴に近医を受診.視力は右眼(0.4),左眼(0.6),眼圧は両眼とも正常範囲内,角膜混濁および白内障を指摘された.前医へ紹介され,両眼の白内障手術が施行された.角膜混濁は軽微で手術は通常どおり終了し,術後の合併症もみられなかった.しかし,術後視力は右眼(0.6),左眼(0.7)と著明な改善はみられず,かつ霧視症状が強く,角膜混濁の影響と考えられたため,精査目的に北海道大学病院眼科を紹介受診した.既往歴:喉頭癌術後,甲状腺全摘出後,脂質異常症,肺気腫.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼C0.6(0.8),左眼C0.6(0.9),眼圧は両眼とも正常範囲内だった.角膜内皮細胞密度は右眼C2,833Ccells/mm2,左眼C2,933Ccells/mmC2と両眼とも低下は認めず,細隙灯顕微鏡所見では両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁がみられ,上皮下には不定形な混濁と,左眼には一部渦状の混濁を伴っていた(図1).角膜上皮障害や,実質浮腫,Descemet膜皺襞はみられなかった.また,結膜充血や,角膜後面沈着物,前房炎症はみられなかった.眼底は異常所図2初診時前眼部OCT角膜中央にやや高輝度な陰影がみられたが,有意な所見はみられなかった.図3化学療法開始1カ月後前眼部写真(上段)とそのシェーマ(下段)角膜混濁の改善を認めた.見を認めなかった.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では角膜中央にやや高輝度な陰影がみられたが,有意な所見はみられなかった(図2).全身検査所見:採血結果にて,Hb9.9Cg/dl,TP8.4Cg/dl,CAlb3.1Cg/dl,BUN21.6Cmg/dl,Cr1.19Cmg/dlと貧血,高蛋白血症,低アルブミン血症,腎機能障害を認めた.経過:多発性骨髄腫を疑う血液所見を認め,血液内科に紹介された.血清蛋白分画で高ガンマグロブリン血症を認め,尿中蛋白分画ではCM蛋白の指標となるCBence-Jones蛋白を認め,血清免疫電気泳動ではCM蛋白が検出された.X線検査では頭蓋骨溶骨性病変および胸椎圧迫骨折を認めた.骨髄穿刺・生検にて形質細胞増多を認めた.多発性骨髄腫の診断で,化学療法が開始された.治療開始後,両眼の角膜全体に全層に及ぶ淡い混濁や,上皮下の不定形な混濁および渦状の混濁は改善し,霧視症状も改善がみられた(図3).CII考按多発性骨髄腫に伴うCM蛋白血症により角膜混濁を生じた患者を経験した.本症例は両眼性に角膜全体および全層に混濁を認め,一部渦状混濁を伴っていたことから,原因として薬剤によるものか,もしくは全身疾患によるものが疑われた.薬剤性としてはアミオダロンやクロロキン,インドメタシン,抗癌剤などが鑑別に上がる4,5).本症例の内服薬はレボチロキシン,アレンドロン酸,アンブロキソール,アトルバスタチン,酸化マグネシウム,ロラゼパム,ルビプロストン,ツロブテロール,ジクロフェナクCNaと合致するものは認めなかった.また,全身疾患としてはCFabry病やシスチン尿症,ムコ多糖類代謝異常,多発性骨髄腫などが鑑別に上がる6,7).年齢や経過から代謝性疾患は否定的で,全身検査結果から多発性骨髄腫の診断となった.多発性骨髄腫の角膜所見はCM蛋白が角膜内に沈着することにより生じる.両眼性で角膜上皮,Bowman膜,実質内のあらゆる層にびまん性の混濁をきたし4),結晶状の沈着物を上皮および実質内に認める場合もある3,8).角膜への沈着は,涙液,輪部血管,前房水からの経路が考えられるが,いずれの経路由来であるかは不明である9).また,本症例のように上皮下に渦状混濁をきたす例も報告されている10).過粘稠度症候群による網膜病変や腫瘍の眼窩内浸潤を契機に発見された多発性骨髄腫の症例は散見される11.14)が,角膜所見から多発性骨髄腫が発見された報告はまれである8,10).多発性骨髄腫のうち治療対象となるものはCCRABと称される臓器障害である高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変のうち一つ以上を有する症候性多発性骨髄腫であり,65歳以下かつ基礎疾患のない場合には自家造血幹細胞移植と全身化学療法が併用され,それ以外の場合には全身化学療法のみが適応となる2).本症例は年齢より自家造血幹細胞移植の適応とはならず,全身化学療法が施行された.本症例は角膜所見を初発として発見された多発性骨髄腫の患者であった.多発性骨髄腫では眼症状を初発とすることがあるため,とくに高齢者の原因不明の角膜混濁を診た場合,多発性骨髄腫の可能性を疑い,全身精査を行うべきである.利益相反石田晋【F】(IV)参天製薬株式会社,ノバルティスファーマ株式会社,バイエル薬品株式会社,株式会社ニデック,株式会社ボナック【P】文献1)池田昌弘,鈴木憲史:M蛋白・骨病変から骨髄腫の診断への道.MedicalPracticeC32:276-280,C20152)日本血液学会:造血器腫瘍診療ガイドライン.20183)小川葉子:多発性骨髄腫.今日の眼疾患治療指針第C3版(大路正人,後藤浩,山田昌和ほか編),p769-770,医学書院,20164)中司美奈:高ガンマグロブリン血症.角膜疾患改訂第C2版(木下茂編),p243,メジカルビュー社,20155)山田昌和:角膜障害をきたす全身薬.あたらしい眼科C35:C1335-1338,C20186)山田昌和:角膜上皮の沈着物.今日の眼疾患治療指針第C3版(大路正人,後藤浩,山田昌和ほか編),p346-347,C20167)加藤卓次:M蛋白血症.前眼部アトラス(大鹿哲郎編),眼科プラクティス,p162,文光堂,20078)LiN,ZhuZ,YiGetal:Cornealopacityleadingtomulti-pleCmyelomaCdiagnosis:ACcaseCreportCandCliteratureCreview.AmJCaseRepC19:421-425,C20189)細谷比左志:多発性骨髄腫に伴う角膜混濁.あたらしい眼科C25:1515-1516,C200810)SharmaP,MadiAH,BonshekRetal:Cloudycorneasasaninitialpresentationofmultiplemyeloma.ClinOphthal-molC8:813-817,C201411)名取一彦,和泉春香,石原晋ほか:眼球突出を初発症状として診断された多発性骨髄腫のC1例.癌の臨床C53:395-398,C200712)村田一弘,高木大介,白木育美ほか:著明な乳頭浮腫で発見されたCIgG-k型多発性骨髄腫のC1例.眼科C57:59-64,C201513)関伶子,坂上富士男,難波克彦ほか:特異な眼底変化を伴った多発性骨髄腫のC2例.眼紀C36:580-585,C198514)野田拓也,高木優介,長谷川愛ほか:多発性骨髄腫による圧迫性視神経症のC1例.眼科C61:199-203,C2019***

ブリンゾラミドとブリモニジン併用点眼からブリモニジン・ ブリンゾラミド配合剤への切替え効果の検討

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):974.977,2022cブリンゾラミドとブリモニジン併用点眼からブリモニジン・ブリンゾラミド配合剤への切替え効果の検討丸山悠子*1,2池田陽子*2,3吉井健悟*4森和彦*2,3上野盛夫*2木下茂*5外園千恵*2*1京都第二赤十字病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室*3御池眼科池田クリニック*4京都府立医科大学生命基礎数理学*5京都府立医科大学感覚器未来医療学CComparisonoftheIntraocularPressureLoweringE.cacyandSafetyofBrinzolamide/BrimonidineFixed-DoseCombinationversusConcomitantUseofBrinzolamideandBrimonidineYukoMaruyama1,2),YokoIkeda2,3),KengoYoshii4),KazuhikoMori2,3),MorioUeno2),ShigeruKinoshita5)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital,2)CUniversityofMedicine,3)Oike-IkedaEyeClinic,4)CDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalDepartmentofMathematicsandStatisticsinMedicalSciences,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,5)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC1%ブリンゾラミド(BZM)とC0.1%ブリモニジン酒石酸塩(BMD)のC2剤併用からC0.1%ブリモニジン酒石酸/1%ブリンゾラミド配合剤(BBFC)点眼への切替え症例で眼圧下降効果と安全性の比較検討を行った.BBFC発売(2020年C6月)から半年間に御池眼科池田クリニック通院中の多剤併用患者でCBZM,BMDのC2剤をCBBFCに切替え後C3カ月以上経過観察できたC53例C53眼を対象とし,切替え前,1,3,6カ月後の眼圧,脈拍,血圧を比較した.点眼中止例はその理由を調べ,統計的検討はCDunnett検定を用いた.切替え前の点眼数はC4.4±1.2剤で,眼圧,脈拍,血圧すべてにおいて,切替え後1,3,6カ月のすべての時期で切替え前と比較して有意差を認めなかった.中止症例は,手術による中止C1例と眼掻痒感が原因による中止C1例であった.BZM,BMD点眼併用からCBBFC点眼への切替えでは眼圧下降効果は同等であり,中止となった症例はC2例であった.CThisCstudyCinvolvedC53CeyesCofC53CglaucomaCpatientsCusingCmultipleCanti-glaucomaCeye-dropsCwhoCswitchedCfromconcomitantuseof1%Cbrinzolamide(BZM)and0.1%Cbrimonidine(BMD)toBZM/BMD.xed-dosecombina-tion(BBFC)andcouldbeobservedformorethan3monthsatOike-IkedaEyeClinicfromJune2020toJanuary2021.Intraocularpressure(IOP),heartrate(HR),andbloodpressure(BP)betweenatbeforeswitchingtoBBFC(pre-BBFC)andat1-,3-,and6-monthsafterswitchingtoBBFCinstillation(post-BBFC)wascomparedandthereasonforBBFCdiscontinuationwasinvestigated.Atall3post-BBFCtime-points,nosigni.cantdi.erenceinIOP,HR,CandCBPCwasCfoundCcomparedCwithCthatCatCpre-BBFC.CInC2Ccases,CBBFCCinstillationCwasCdiscontinuedCdueCtoCpainfulCitchinessCandCrequiredCsurgery.COurC.ndingsCrevealedCthatCalthoughCBBFCCdiscontinuationCoccurredCinC2Ccases,therewasnodi.erenceinsafetyande.cacybetweenBBFCandconcomitantuseofBZMandBMD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):974.977,C2022〕Keywords:ブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミド配合剤点眼,ブリンゾラミドとブリモニジンの併用使用,緑内障.brinzolamide/brimonidine.xed-dosecombination,concomitantuseofbrinzolamideandbrimonidine,glaucoma.C〔別刷請求先〕丸山悠子:〒602-8026京都市上京区釜座通丸太町上ル春帯町C355-5京都第二赤十字病院眼科Reprintrequests:YukoMaruyma,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,JapaneseRedCrossKyotoDainiHospital,355-5Haruobi-cho,Kamanza-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8026,JAPANC974(120)はじめに緑内障は慢性進行性の疾患であり,眼圧下降による治療が唯一エビデンスのある治療方法となっている1).緑内障診療ガイドライン上は,点眼薬による治療は単剤から開始し,治療による眼圧下降効果や視野障害の進行抑制効果が乏しい場合には,点眼薬追加による多剤併用や配合剤の使用を行うこととなっている1).わが国では,配合剤点眼は近年までプロスタグランジン製剤/b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬/b遮断薬の組み合わせのみが処方可能となっていた.2019年C12月にCa2作動薬/b遮断薬の配合点眼薬が上市され,配合剤の選択肢が増えた.しかし,すべての配合剤にCb遮断薬が使用されており,喘息や不整脈などを有する患者では配合剤を使用できなかった.2020年C6月にC0.1%ブリモニジン酒石酸塩(以下,BMD)とC1%ブリンゾラミド(以下,BZM)の配合剤である「ブリモニジン・ブリンゾラミド配合点眼液(bri-monidin/brinzolamide.xeddosecombination:BBFC)」(アラミド,千寿製薬)が上市され,わが国で初めて炭酸脱水酵素阻害薬/a2作動薬というCb遮断薬を含まない配合点眼薬が処方可能となった.これによりCb遮断薬を使用できない患者でも配合点眼薬を使用することが可能となり,多剤併用のために生じる副作用による角膜障害のリスクやコンプライアンスの低下の改善が見込めることとなった.BBFCは広義の原発開放隅角緑内障患者や高眼圧症患者においてCBZM単剤,もしくはCBMD単剤からの切替えにより,有意に眼圧が下降することが報告され2.4),BZM単剤からCBMD点眼を追加する際に,BZM単剤+BMD単剤の併用またはCBBFCに切替えたところ,両群では眼圧下降に有意差がなかったことも報告されている2).BZM単剤+BMD単剤をCBBFCへと切替えて,眼圧に有意差がないことが海外からはすでに報告がされているが5),海外で発売されているCBMDはC0.2%と濃度が異なり,人種差も考えられる.わが国で発売されている0.1%CBMDを使用したCBZM単剤+BMD単剤からのCBBFCへの切替えの報告は知りうる限りない.そこで,今回日本国内患者を対象として,1%CBZM,0.1%CBMDのC2剤併用からCBBFC点眼への切替え症例で眼圧下降効果と安全性の比較検討を行った.CI対象および方法本研究は,診療録から調査した後ろ向き研究である.ヘルシンキ宣言に従い,京都府立医科大学倫理委員会で承認を得て実施された.対象はCBBFC処方が開始されたC2020年C6月.2021年C1月に御池眼科池田クリニック通院中の多剤緑内障点眼併用患者のうち,BZMとCBMDのC2剤をCBBFCに切替え,3カ月以上経過観察ができた患者を診療録より抽出した.切替え前と比較して,切替え1,3,6カ月後の眼圧,脈拍,血圧の検討を行った.血圧に関しては収縮期血圧,拡張期血圧についてそれぞれ検討を行った.眼圧に関しては,切替えC3,6カ月後の眼圧変化について,切替え前眼圧よりC20%以上の眼圧上昇を認めたものを眼圧上昇群(切替え後眼圧─切替え前眼圧)/切替え前眼圧×100=XとしてCX≧20%),切替え前眼圧よりC20%以上の眼圧下降を認めたものを眼圧下降群(X≦.20%),切替え前眼圧のC20%以内の眼圧の変化であったものを眼圧不変群(.20%<X<20%)として,それぞれ割合を調べた.また,切替え後にCBBFCの点眼が中止となった症例については,中止となった理由を調べた.両眼が対象となった場合は右眼データを用いた.なお中止症例については,点眼が継続できた期間の眼圧,脈拍,血圧のデータに関しては解析対象とした.経時変化の統計学的解析は,切り替え前の値を基準としたDunnett検定を行った.統計解析にはCTheRversion4.0.3(RCFoundationCforCStatisticalComputing社)を用い,統計的有意水準はC5%とした.データの表示は平均±標準偏差とした.CII結果対象となった緑内障患者はC53例C53眼で,男性C30例,女性C23例,平均年齢はC70.1±12.9歳であった(表1).緑内障病型としては正常眼圧緑内障が最多であった(表1).切替え前の緑内障治療薬の成分数はC4.4±1.2剤であった.切替え前眼圧はC12.0±2.3CmmHg,1,3,6カ月後の眼圧はC13.0±3.2,12.3±2.3,13.1±2.5mmHgであり,すべての時点において切替え前後で有意差を認めなかった(p=0.493,p=0.915,p=0.189,図1).切替えC3,6カ月後の眼圧変化についてみたところ,眼圧不変群が切替えC3カ月後,6カ月後ともに最多となりC70%を超えていた(表2).脈拍に関しては,切替え前脈拍はC76.2±11.8Cbpm,1,3,6カ月後はそれぞれC69.1±9.8,73.9±13.0,78.1±8.9Cbpmであり,すべての時点において切替え前後で有意差を認めなかった.(p=0.361,p=0.782,p=0.922,図2)血圧に関しては,切替え前収縮期血圧,拡張期血圧はC122.5±19.9,68.7±16.1CmmHg,1カ月後の収縮期血圧,拡張期血圧はC118.4±13.6,63.7±9.5CmmHg,3カ月後の収縮期血圧,拡張期血圧はC127.3±19.0,69.2±14.3CmmHg,6カ月後の収縮期血圧,拡張期血圧はそれぞれC117.5±11.9,C67.3±14.6CmmHgであり,すべての時点において切替え前後で収縮期血圧,拡張期血圧ともに有意差を認めなかった(収縮期血圧Cp=0.924,p=0.596,p=0.740図3a,拡張期血圧Cp=0.782,p=0.999,p=0.982図3b).BBFC切替え後に中止となった症例はC2例であり,1例は手術加療に伴いC6カ月後に中止した症例であり,1例は眼.年齢(歳)表1患者背景p=0.189p=0.91570.1±12.9歳20性別(男性:女性)30:23解析眼(右眼:左眼)45:8緑内障病型[n(%)]正常眼圧緑内障27眼(C50.9%)原発開放隅角緑内障13眼(C24.5%)続発緑内障(落屑緑内障を除く)5眼(C9.4%)落屑緑内障4眼(C7.6%)その他4眼(7.6%)n=症例数.表2切替え3,6カ月後の眼圧変化の割合眼圧変化(n(%))3カ月後6カ月後眼圧上昇群(X≧20%)9眼(17.0%)4眼(16.7%)眼圧不変群(C.20%<X<20%)39眼(73.6%)20眼(83.3%)眼圧下降群(X≦C.20%)5眼(9.4%)0眼(0%)n=症例数.X=(切替え後眼圧C.切替え前眼圧)/切替え前眼圧C×100C01M3M6Mn=53115324図1眼圧の比較切替え前と切替え1,3,6カ月後のすべての時点において切替え前後で有意差を認めなかった.グラフは平均±標準偏差を示す.Cp=0.922眼圧(mmHg)15105p=0.782p=0.740a100p=0.596p=0.92401M3M6Mn=37632150pre1M3M6Mn=3763215図2脈拍の比較切替え前と切替え1,3,6カ月後のすべての時点において切替え前後で有意差を認めなかった.グラフは平20015010050収縮期血圧(mmHg)脈拍(bpm)50bp=0.982均±標準偏差を示す.p=0.999100拡張期血圧(mmHg)5001M3M6Mn=3763215図3血圧の比較a:収縮期血圧の比較.Cb:拡張期血圧の比較.切替え前と切替痒感が原因でC3カ月後に中止となった症例であった.CIII考按海外で発売されているCBBFCに関してはCBMDがC0.2%のみの検討であり4.9),0.1%CBMDを使用したCBBFCでの使用報告は知る限り国内治験の報告のみである2,3).実際にBBFCを使用する場面として,多剤併用の場合にCBZM単剤+BMD単剤をCBBFCへと切替えて使用することも十分に想定される状況である.しかし,現時点ではそういった切替えの報告はわが国では見受けられないこともあり,今回,緑内え1,3,6カ月後のすべての時点において切替え前後で有意差を障点眼を多剤併用中の患者において,BZM単剤+BMD単認めなかった.グラフは平均±標準偏差を示す.剤のC2剤併用をCBBFCへと切替えた際の眼圧変化と副作用について調べた.眼圧変化に関しては,切替え後C6カ月まで有意差を認めず,BMDとCBZMの併用治療から配合剤C1剤へと変更しても同等の治療効果が得られることがわかった.これは,海外でのC0.2%CBMDを用いた使用経験にはなるが,同様の結果が報告されており5),配合剤でも遜色ない眼圧下降効果が得られるとわかった.また,循環器系の有害事象に関して,血圧,脈拍といった全身状態への影響は配合剤への切替え後も変化を認めず,安全に使用できると考えられた.今回はCBBFCへの切替えにより,中止となった症例はC2例のみであり,手術のため中止になった症例と,眼掻痒感が原因による中止症例であった.BMD点眼の副作用として眼掻痒感10)はすでに報告されており,今回の中止症例でもBMD点眼をC6年と長期間継続していたことから,BMDの長期曝露による可能性も考えられるが,一方でCBBFCへ切替えたことで,基剤は同じだが添加物などの違いにより眼掻痒感が生じた可能性も否定はできない.ただし,現時点では症例数がC53例と少ないため,有害事象については今後症例数を増やして検討していく必要がある.配合剤の使用に関しては,薬剤数や点眼回数を減らすことができることから,アドヒアランスの向上が期待できる11).今回は眼表面については,後ろ向きの研究のため検討していないが,緑内障治療薬点眼の多剤併用により角膜上皮障害をきたしている患者においては,防腐剤への曝露の軽減などにより角膜障害の軽減が期待される12)ことが報告されており,今後は角膜の状態についても評価を行っていく必要がある.以上よりCBBFCはC2剤併用からの切替えとして点眼数の軽減につながり,安全に使用でき,有用性の高い配合点眼薬であると考えられる.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌122:5-53,C20182)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験C.ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科37:1299-1308,C20203)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験C.ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科37:1289-1298,C20204)RealiniCT,CNguyenCQH,CKatzCGCetal:Fixed-combinationCbrinzolamide1%/brimonidine0.2%CvsmonotherapywithbrinzolamideCorCbrimonidineCinCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCorCocularhypertension:resultsCofCaCpooledCanalysisoftwophase3studies.Eye(Lond)C27:841-847,C20135)JinCSW,CLeeSM:TheCe.cacyCandCsafetyCofCtheC.xedCcombinationofbrinzolamide1%Candbrimonidine0.2%CinnormalCtensionglaucoma:AnC18-monthCretrospeciveCstudy.JOculPharmacolTherC34:274-279,C20186)KatzCG,CDubinerCH,CSamplesCJCetal:Three-monthCran-domizedCtrialCofC.xed-combinationCbrinzolamide,1%,andbrimonidine,0.2%.JAMAOphthalmolC131:724-730,C20137)Gandol.CSA,CLimCJ,CSanseauCACCetal:RandomizedCtrialCofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbri-monidineforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTherC31:1213-1227,C20148)NguyenCQH,CMcMenemyCMG,CRealiniCTCetal:PhaseC3Crandomized3-monthtrialwithanongoing3-monthsafe-tyCextensionCofC.xed-combinationCbrinzolamide1%/bri-monidine0.2%.JCOculCPharmacolCTherC29:290-297,C20139)WangN,LuDW,PanYetal:Comparisonoftheintraoc-ularCpressure-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCtheCbrinzol-amide/brimonidineC.xed-doseCcombinationCversusCcon-comitantCuseCofCbrinzolamideCanCbrimonidineCforCmanagementCofCopen-angleCglaucomaCorCocularChyperten-sion.ClinOphthalmolC14:221-230,C202010)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,C201211)兵頭涼子,林康人,鎌尾知行:緑内障点眼患者のアドヒアランスに影響を及ぼす因子.あたらしい眼科C29:993-997,C201212)内野裕一:点眼薬による角結膜障害:その危険信号を察知する!あたらしい眼科34:1263-1267,C2017***

正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の 3 年成績

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):968.973,2022c正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の3年成績柴田真帆豊川紀子植木麻理黒田真一郎永田眼科CThree-YearOutcomesofTrabeculotomywithPhacoemulsi.cationinNormalTensionGlaucomaMahoShibata,NorikoToyokawa,MariUekiandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術の術後C3年成績を検討する.対象および方法:永田眼科においてC2015年C1月.2017年C12月に,正常眼圧緑内障に対して白内障同時線維柱帯切開術を施行した患者のうち,6カ月以上経過観察できたC59眼を対象とした.診療録から後ろ向きに眼圧,緑内障薬の点眼数,3年生存率,平均偏差(meandeviation:MD)値,併発症について検討した.結果:術前眼圧C15.4±1.8はC3年後C12.5±2.3CmmHgへ有意に下降した.14,12CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC77.2%,32.3%,眼圧下降率C20%,30%以上のC3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であった.術前後C3回以上視野測定のできたC16眼では,MDスロープが.0.51±0.9から術後.0.0075±0.9CdB/Yへ有意に改善した.このうち術後CMDスロープが.0.5CdB/Y以上のものを停止群(13眼),それ未満のものを進行群(3眼)とした場合,それぞれの術後眼圧経過に有意差はなかったが,進行群では有意に術前CMDスロープが低値であった.併発症として一過性高眼圧をC5眼に認めた.結論:正常眼圧緑内障に対する白内障同時線維柱帯切開術は,術後有意な眼圧下降を認め視野障害進行抑制効果があったが,術前に視野障害進行の速かった例では術後も進行する傾向がみられた.CPurpose:ToCevaluateCtheC3-yearCoutcomesCoftrabeculotomy(LOT)withCphacoemulsi.cationCinCnormal-ten-sionglaucoma(NTG)patients.CSubjectsandMethods:WeCretrospectivelyCreviewedCtheCmedicalCrecordsCofC59CNTGCeyesCthatCunderwentCLOTCwithCphacoemulsi.cationCatCtheCNagataCEyeCClinic,CNara,CJapanCbetweenCJanuaryC2015CandCDecemberC2017CandCthatCcouldCbeCfollowedCforCatCleastC6-monthsCpostoperative.CIntraocularCpressure(IOP),glaucomamedications,meandeviation(MD),surgicalsuccess,andpostoperativecomplicationswereinvesti-gated.Surgicalsuccesswasde.nedasanIOPof≦14CmmHgand12CmmHg,andanIOPreductionof≧20%Cand≧30%CbelowCbaselineCwithCorCwithoutCglaucomaCmedications.CResults:AtC3-yearsCpostoperative,CmeanCIOPCwasC12.5±2.3CmmHg,CaCsigni.cantCreductionCcomparedCtoCthatCatbaseline(15.4±1.8CmmHg),CandCtheCsurgicalCsuccessCratesCwere77.2%(IOP≦14CmmHg),32.3%(IOP≦12CmmHg),32.5%(IOPCreduction≧20%),Cand18.6%(IOPreduction≧30%).In16eyesthathadundergonepreoperativeandpostoperativevisual.eldexaminationatleast3Ctimes,CtheCmeanCMDCslopeCsigni.cantlyCimprovedCfromC.0.51±0.9CdB/YCpreoperativelyCtoC.0.0075±0.9CdB/Ypostoperatively.Whenthose16eyesweredividedintoanon-progressgroup(postoperativeMDslope≧.0.5CdB/CY,C13eyes)andCaCprogressgroup(postoperativeCMDCslope<.0.5CdB/Y,C3eyes),CnoCsigni.cantCdi.erenceCinCtheCcourseofpostoperativeIOPwasfoundbetweenthetwogroups,whereasthemeanpreoperativeMDslopeintheprogressgroupwassigni.cantlylowerthanthatinthenon-progressgroup.PostoperativecomplicationsincludedIOPCspikesCof>30CmmHg(n=5eyes).Conclusions:InCNTGCpatients,CLOTCwithCphacoemulsi.cationCshowedCsigni.cante.cacyinreducingIOPandsuppressionofvisual.eldprogressupto3-yearspostoperative.However,incaseswithahighervisual.eldprogressionrate,visual.eldtendedtoprogressevenaftersurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(7):968.973,C2022〕Keywords:線維柱帯切開術,正常眼圧緑内障,眼圧,視野障害進行.trabeculotomy,normaltensionglaucoma,intraocularpressure,visual.eldprogression.C〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC968(114)はじめに線維柱帯切開術(trabeculotomy.以下,LOT)は,傍Schlemm管内皮網組織を切開し房水流出抵抗を下げることで眼圧を下降させる生理的房水流出路再建術である.これまで白内障との同時手術を含め多数の長期成績1.6)が示され,Schlemm管外壁開放術(sinusotomy:SIN)と深層強膜弁切除(deepsclerectomy:DS)の併用で術後一過性高眼圧の減少と眼圧下降増強効果が報告されている2.6).適応病型は原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG),小児緑内障,落屑緑内障,ステロイド緑内障とされるが,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)に限定した術後成績報告は少ない.これはCPOAGに対するLOT単独の術後眼圧がC18mmHg前後1),白内障手術(phacoemulsi.cationCandCintraocularClensimplantation:CPEA+IOL)+LOT+SIN+DSの術後眼圧が15mmHg前後3,4)であることから適応症例に限界があるためと考えられ,NTGに対するCLOTの術後成績評価は十分ではなかった.今回,NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの3年成績を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2015年C1月.2017年C12月に永田眼科において,NTGに対しCPEA+IOL+LOT+SIN+DSを施行した連続症例C72眼のうち,術後C6カ月以上経過観察できたC59眼を対象とした(経過観察率C82%).緑内障手術既往眼は含まれていない.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障治療薬の点眼数,平均偏差(meandeviation:MD)値,目標眼圧(12,14CmmHg以下,眼圧下降率C20%,30%以上)におけるC3年生存率,術後追加手術介入の有無と併発症を調査,検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.NTGの診断基準は,無治療もしくは緑内障治療薬を中止しC3回以上の眼圧測定でC21CmmHgを超えないもので,正常開放隅角,緑内障性視神経乳頭変化と対応する視野変化があり,視神経乳頭の変化を起こしうる他疾患なし,の条件を満たすものである7).CPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術式は既報5)に準じ,すべての症例でCLOTを下方象限で施行しCSINとCDSを併用,CPEA+IOLは上方角膜切開で施行した.検討項目は,術前の眼圧と緑内障治療薬数,術後1,3,6,12,18,24,30,36カ月目の眼圧と緑内障治療薬数,目標眼圧をC12,14CmmHg以下,眼圧下降率C20%,30%以上としたC3年生存率,術前後のCMD値とCMDスロープ,術後合併症とした.MDスロープについては,術前後でCHumphrey視野検査CSITA-Standard30-2が信頼性のある結果(固視不良<20%,偽陽性<33%,偽陰性<33%)でC3回以上測定できたC16眼について検討し,術前後で比較した.緑内障治療薬数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤点眼はC2剤として計算し,合計点数を点眼スコアとした.生存率における死亡の定義は,緑内障治療薬の有無にかかわらず,術後C3カ月以降C2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは追加観血的手術が施行された時点とした.解析方法として,術後眼圧と点眼スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とDunnettの多重比較,生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成した.術前後のCMDスロープの比較には対応のあるCt検定,術後CMDスロープの差による群間比較にはCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例の患者背景を示す.42例C59眼の平均年齢はC73.5±5.6歳,平均ベースライン眼圧はC17.3C±2.6CmmHg,術前平均点眼スコアC2.1C±1.1による術前平均眼圧はC15.4C±1.8mmHg,術前平均CMD値はC.11.9±7.7CdB(平均C±標準偏差)であった.図1に眼圧経過を示す.術C3年後の平均眼圧はC12.5C±2.3CmmHgであり,術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).図2に点眼スコア経過を示す.術前C2.1C±0.1の点眼スコアは術C3年後C1.2C±0.2(平均C±標準誤差)であり,すべての観察期間で有意な減少を認めた(p<0.01,CANOVA+Dun-nett’stest).図3にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(12,14mmHg)ごとの生存曲線を示す.成功基準を12,14CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率はそれぞれ32.3%,77.2%であった.図4にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧下降率(20,30%)ごとの生存曲線を示す.成功基準を眼圧下降率20%,30%以上とした場合,術C3年後の生存率はそれぞれ32.5%,18.6%であった.図5に術前後CMDスロープの平均値比較と散布図を示す.MDスロープについては,術前後でCHumphrey視野検査30-2がC3回以上測定できたC16眼について検討し,平均CMDスロープは術前.0.51±0.9から術後C.0.0075±0.9CdB/Yへ有意に改善した(p=0.02,pairedttest).視野平均観察期間は術前後でそれぞれC95.5C±54.5カ月,37.1C±13.4カ月であった.症例ごとの術前後CMDスロープ値を散布図に示した.術後も.0.5CdB/Yを超える視野障害進行例をC3眼認めた.術後CMDスロープ値がC.0.5CdB/Y以上のものを停止群(13眼),それ未満のものを進行群(3眼)とした場合,進行群で術前CMDスロープが有意に低値であった.年齢,術前眼圧,術前点眼スコア,術前CMD値,術後眼圧経過には群間で有表1患者背景症例数42例眼数59眼平均年齢C73.5±5.6(5C9.C87)歳男:女17:2C5右:左33:2C6ベースライン眼圧C17.3±2.6(1C2.C20)CmmHg術前眼圧C15.4±1.8(1C1.C19)CmmHg術前点眼スコアC2.1±1.1(0.4)術前CMD値C.11.9±7.7(C.0.86.C.31.84)CdB(mean±SD)(range)C20意差を認めなかった(表2).併発症として,30mmHgを超える一過性高眼圧をC5眼(8.5%)に認めたが,炭酸脱水酵素阻害薬内服もしくは一時的緑内障治療薬の点眼追加による保存的加療のみで軽快した.3Cmmを超える前房出血を認める症例はなかった.経過中に追加緑内障手術を必要とした症例はなかった.CIII考按NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術後3年成績を検討した.平均眼圧はC15.4C±1.8CmmHgからC3年後に眼圧(mmHg)181614121086420術前1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)n595959595552515049図1眼圧経過術後すべての観察期間で有意な下降を認めた(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).C2018点眼スコア1614121086420術前1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間(mean±SD)n595959595552515049図2点眼スコア経過術後すべての観察期間で有意な減少を認めた(*p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).100908077.2%7060504032.3%302014mmHg以下1012mmHg以下00510152025303540生存期間(M)図312,14mmHg以下3年生存率12,14CmmHg以下C3年生存率はそれぞれC32.3%,77.2%であった.生存率(%)生存率(%)1009080706050403020100020%mmHg以下30%mmHg以下32.5%18.6%510152025303540生存期間(M)図4眼圧下降率20%,30%以上3年生存率眼圧下降率C20%,30%以上C3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であった.12.5±2.3CmmHgと有意に下降し,PEA+IOL+LOT+SIN+DSはCNTGに対しても有意な眼圧下降が得られる術式と考えられた.POAGにおけるCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの報告3,4)と比較すると,今回の結果ではC14CmmHg以下C3年生存率がC77.2%であり,術前眼圧値が低いため眼圧値による生存率は良好であった.しかし,眼圧下降率C20%以上・30%以上C3年生存率はそれぞれC32.5%,18.6%であり,NTGにおいてCPEA+IOL+LOT+SIN+DSは10台前半の眼圧を目標とするには限界がある術式と考えられた.術後MDslope(dB/Y)術前後のCMDスロープ比較では,術前C.0.51±0.9CdB/YCから術後.0.0075±0.9CdB/Yへ有意な改善が得られた.今-3-2-10123回の研究では術前平均CMDスロープがC.0.51±0.9CdB/Yと術前MDslope(dB/Y)視野障害進行は緩徐であり,症例群にはCMD値の低い白内障による感度低下症例を含むため,術後CMDスロープの改善は白内障手術による感度上昇の可能性があるが,今回のように術前ベースライン眼圧がChighteenの場合,PEA+IOL+LOT+SIN+DSは眼圧下降効果と点眼スコアの減少とともに,視野障害進行抑制効果がある可能性が考えられた.しかし,術後視野障害進行群と停止群の比較では,術後の眼圧経過は両群で同等であったが術前CMDスロープ値に有意差を認め,術前視野障害進行の早い症例では,PEA+IOL+術前術後p値MDスロープ(dB/Y)-0.51±0.9-0.0075±0.90.02*(mean±SD)(*pairedttest)図5術前後のMDスロープ比較○初期:MD≧.6dB,●中期:C.12dB≦MD<C.6dB,▲後期:MD<.12CdB.平均CMDスロープは術後有意に改善した.術後C.0.5CdB/Yを超える視野進行例(点線で囲む)をC3眼認めた.表2術後MDスロープ値による比較停止群進行群術後CMDスロープC術後CMDスロープp値≧.0.5CdB/Y<.0.5CdB/Y眼数C133年齢(歳)C72.3±5.5C65.0±4.4C0.05術前眼圧(mmHg)C15.0±1.8C14.7±1.5C0.77術前点眼スコアC2.5±0.8C2.0±1.0C0.34術前CMD値(dB)C.9.07±5.1C.8.50±2.5C0.79術前CMDslope(dB/Y)C.0.19±20.7C.1.91±0.7C0.001*術後平均眼圧C12.0±0.4C11.6±1.1C0.27(1.36M)(mmHg)術後平均眼圧下降率C18.9±2.7C21.9±6.9C0.29(1.36M)(%)術後CMDslope(dB/Y)C0.34±0.6C.1.52±0.3C0.0005*LOT+SIN+DSは視野障害進行抑制効果が弱いと考えられた.視野障害進行の早い患者には,濾過手術を選択せざるを得ないかもしれない.視野障害進行のあるCNTGに手術加療を行い術後の視野障害進行阻止を検証した報告8.13)は多いが,いずれも線維柱帯切除術である.長期の視野障害進行抑制にはC20%以上の眼圧下降もしくはC10CmmHg未満の眼圧維持が必要であると報告8)されている.NTGにおける眼圧下降の有効性を検証したCCollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaCStudy(CNTGS)の報告14,15)では,濾過手術によるC20%の眼圧下降で視野C5年維持率がC80%であったとされ,この報告はCNTGへの濾過手術を意義の高いものにした.しかし,濾過手術では低眼圧による視力低下や濾過胞感染など術後合併症による視機能への影響も無視できない16,17).今回の研究でCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの術後併発症は一過性高眼圧のみであった.NTGはきわめて経過の長い慢性疾患であり,手術加療の適応には患者別の判断が必要とされる.視野障害進行程度,白内障進行の有無,年齢や余命などを考慮した場合,患者によってはCPEA+IOL+LOT+SIN+DSの適応があると考えられた.本研究にはいくつかの限界がある.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.術式選択の適応,術後眼圧下降効果不十分症例に対する追加点眼や追加手術介入の適応と時期は,病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定は事前に統一されていない.また,象が少数例であることから,今後多数例での検討が必要であると考える.今回の研究でCMDスロープ比較は術前後にHumphrey視野検査C30-2がC3回以上測定できたC16眼について検討したが,視野障害進行判定にはC5回の視野測定が必要であるとの報告18)があり,視野障害進行判定が不十分であった可能性がある.また術後C6カ月以上経過観察できた症(mean±SD)(*t-test)例群であり,手術から最終視野検査までの期間は進行群(884C±90Cdays)と停止群(1,166C±430Cdays)で統計的有意差はないが(p=0.23,CMann-WhitneyCUtest),視野障害進行判定には術後観察期間が不十分であった可能性があり,今後さらなる長期観察が必要であると考える.今回の検討の結果,NTGに対するCPEA+IOL+LOT+SIN+DSは術後有意な眼圧下降を認め,視野障害進行抑制効果があり,患者によっては適応があると考えられた.一方,術前に視野障害進行の速い患者では術後も進行する可能性があり,時機を逸することなく濾過手術を選択せざるをえないと思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicale.ectsoftrabeculotomyCabCexternoConCadultCeyesCwithCprimaryCopenCangleCglaucomaCandCpseudoexfoliationCsyndrome.CArchOphthalmolC111:1653-1661,C19932)溝口尚則,黒田真一郎,寺内博夫ほか:開放隅角緑内障に対するシヌソトミー併用トラベクロトミーの長期成績.日眼会誌C100:611-616,C19963)松原孝,寺内博夫,黒田真一郎ほか:サイヌソトミー併用トラベクロトミーと同一創白内障同時手術の長期成績.あたらしい眼科19:761-765,C20024)後藤恭孝,黒田真一郎,永田誠:原発開放隅角緑内障におけるCSinusotomyおよびCDeepCSclerectomy併用線維柱帯切開術の長期成績.あたらしい眼科C26:821-824,C20095)豊川紀子,多鹿三和子,木村英也ほか:原発開放隅角緑内障に対する初回CSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の長期成績.臨眼C67:1685-1691,C20136)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか.:下半周で行った初回Schlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成(118)績.日眼会誌C116:740-750,C20127)TheCJapanCGlaucomaCSocietyCGuidelinesCforGlaucoma(4thEdition)C.NipponGankaGakkaiZasshiC122:5-53,C20188)AoyamaA,IshidaK,SawadaAetal:TargetintraocularpressureCforCstabilityCofCvisualC.eldClossCprogressionCinCnormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmolC54:117-123,C20109)KosekiN,AraieM,ShiratoSetal:E.ectoftrabeculecto-myonvisual.eldperformanceincentral30degrees.eldinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC104:197-201,C199710)ShigeedaCT,CTomidokoroCA,CAraieCMCetal:Long-termCfollow-upCofCvisualC.eldCprogressionCafterCtrabeculectomyCinCprogressiveCnormal-tensionCglaucoma.COphthalmologyC109:766-770,C200211)HagiwaraCY,CYamamotoCT,CKitazawaY:TheCe.ectCofCmitomycinCtrabeculectomyontheprogressionofvisual.eldCdefectCinCnormal-tensionCglaucoma.CGraefesCArchCClinExpOphthalmolC238:232-236,C200012)BhandariCA,CCabbCDP,CPoinoosawmyCDCetal:E.ectCofCsurgeryConCvisualC.eldCprogressionCinCnormal-tensionCglaucoma.OphthalmologyC104:1131-1137,C199713)NaitoT,FujiwaraM,MikiTetal:E.ectoftrabeculecto-myConCvisualC.eldCprogressionCinCJapaneseCprogressiveCnormal-tensionCglaucomaCwithCintraocularCpressure<15CmmHg.PLoSOneC12:e0184096,C201714)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:487-497,C199815)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup.:CThee.ectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentCofCnormal-tensionCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC126:498-505,C199816)BindlishCR,CCondonCGP,CSchlosserCJDCetal:E.cacyCandCsafetyCofCmitomycin-CCinprimaryCtrabeculectomy:.ve-yearfollow-up.OphthalmologyC109:1336-1341,C200217)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C201418)DeCMoraesCCG,CLiebmannCJM,CGreen.eldCDSCetal:RiskCfactorsCforCvisualC.eldCprogressionCinCtheClow-pressureCglaucomaCtreatmentCstudy.CAmCJCOphthalmolC154:702-711,C2012C***

隅角と前房深度は6 年を隔てた経年変化で狭く,浅くなる

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):963.967,2022c隅角と前房深度は6年を隔てた経年変化で狭く,浅くなる橋本尚子*1原岳*1本山祐大*1大河原百合子*1成田正弥*1原孜*1堀江大介*2伊野田悟*3千葉厚*1平出奈穂*1田中誠人*1片嶋優衣*1小池由記*1*1原眼科病院*2亀田総合病院眼科*3自治医科大学眼科学講座CChangesinAnteriorChamberAngleandDepthinNormalHealthySubjectsOvera6-YearPeriodTakakoHashimoto1),TakeshiHara1),YutaMotoyama1),YurikoOkawara1),MasayaNarita1),TsutomuHara1),DaisukeHorie2),SatoruInoda3),AtsushiChiba1),NahoHiraide1),MakotoTanaka1),YuiKatashima1)andYukiKoike1)1)HaraEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KamedaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC目的:隅角,前房深度,中心角膜厚のC6年の経年変化を比較検討する.対象および方法:対象は検査の同意が得られた健常者C40名.男性C10名女性C30名.初回検査時の平均年齢C40.4C±9.5(21.57)歳.右眼を対象とした.全員内眼手術既往なし.2014年C5月とC2020年C8月にCCASIAで隅角(耳側および鼻側CTIA750およびCTIA500),前房深度,中心角膜厚を測定し,比較検討した.結果:2014年の耳側隅角CTIA750はC42.2C±13.2°,TIA500はC44.1C±14.0°,鼻側隅角CTIA750はC38.1C±11.8°,TIA500はC38.8C±12.4°.2020年では耳側隅角CTIA750はC35.7C±12.2°,TIA500はC35.3C±13.9°,鼻側隅角CTIA750はC32.9C±11.5°,TIA500はC34.3C±12.3°.前房深度はC2014年:3.09C±0.3Cmm,2020年:2.99C±0.3mmであった.すべて有意差(p<0.01)が得られた.中心角膜厚はC2014年:533C±26Cμm,2020年:533C±27Cμmで有意差はなかった(p=0.31).結論:6年を隔てた経年変化は,中心角膜厚は変化なく,隅角は狭くなり,前房深度は浅くなっていた.CPurpose:Toinvestigatethe6-yearchangesinanteriorchamberangle(ACA)C,anteriorchamberdepth(ACD)C,andcentralcornealthicknessinnormalhealthysubjects.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved40healthysubjects[10males,30females;meanage:40.4C±9.4years(range:21-57year)]C.InformedconsentwasobtainedfromCallCsubjects,CandConlyCright-eyeCdataCwasCused.CAllCsubjectsChadCnoChistoryCofCintraocularCsurgery.CInCMayC2014andAugust2020,ACA(temporal-andnasal-sideTIA750andTIA500)C,ACD,andcentralcornealthicknesswereCmeasuredCbyCCASIACandCcompared.CResults:InC2014,CtheCtemporal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC42.2±13.2°CandC44.1±14.0°,respectively,andthenasal-sideTIA750andTIA500angleswere38.1±11.8°CandC38.8C±12.4°,Crespectively.CInC2020,CtheCtemporal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC35.7±12.2°CandC35.3±13.9°,Crespectively,CandCtheCnasal-sideCTIA750CandCTIA500CanglesCwereC32.9±11.5°CandC34.3±12.3°,Crespectively.CTheCmeanCACDCwasC3.09±0.3CmmCinC2014CandC2.99±0.3CmmCinC2020.CSigni.cantCdi.erencesCwereCobservedCinCall.ndings(p<0.01)C.Themeancentralcornealthicknesswas533±26μmin2014and533±27μmin2020,withnosigni.cantCdi.erenceobserved(p=0.31)C.CConclusion:AlthoughCnoCchangeCinCcentralCcornealCthicknessCwasCobserved,theACAsnarrowedandtheACDsbecameshalloweroverthe6-yearperiod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):963.967,C2022〕Keywords:隅角,前房深度,中心角膜厚,経年変化,CASIA.angle,anteriorchamberdepth,centralcornealthickness,changeofaging,CASIA.C〔別刷請求先〕橋本尚子:〒320-0861栃木県宇都宮市西C1-1-11原眼科病院Reprintrequests:TakakoHashimotoM.D.,HaraEyeHospital,1-1-11Nishi,Utsunomiya,Tochigi320-0861,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(109)C963図1aTIA(trabecular.irisangle)TIA:隅角底(anglerecess:AR)から,angleCopeningCdistance(AOD.図C1b参照)の両端に引いた直線の間の角度.はじめに隅角あるいは前房深度は年齢が上がるに従い,狭く,浅くなると報告されている1.6)が,そのほとんどは特定の期間に幅広い年齢の患者を対象として行った「横断調査」によるものである.隅角あるいは前房深度の経年変化を論じるには,横断調査よりも同一人物の経年変化を測定するのがより有用であると考えられる.Panらは,走査型周辺前房深度計SPAC(タカギセイコー)を用いてC2003年とC2008年にC157人の日本人を対象として初回とC5年後で前房深度の狭小化と前房深度の減少を報告している7).今回筆者らは,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)SS-1000CASIA(トーメーコーポレーション)を用いてC2014年とC2020年に,初回とC6年後の隅角,前房深度,中心角膜厚を測定した結果を比較検討し,6年の経過で前房深度は浅くなり,隅角は狭くなる,という結果を得たので報告する.CI対象および方法対象は内眼手術既往のない,検査の同意が得られた健常者40名(内訳は男性C10名,女性C30名).初回検査時の平均年齢はC40.4C±9.5(21.57)歳.解析の対象は右眼とした.2014年C5月とC2020年C8月に前眼部COCT(CASIA)を用いて暗室にて計測した.隅角定量は耳側および鼻側のCtrabecu-larCirisangle(TIA)750μmおよびCTIA500μm(図1a,b)を測定8),また前房深度,中心角膜厚を測定した.2014年2020年ともに同一視能訓練士が撮影および解析を行った.2014年とC2020年の測定結果の比較には対応のあるCt検定を図1bAOD(angleopeningdistance)AOD:強膜岬(scleralspur:SS)からC500μm,750Cμmの線維柱帯上の点(T)と,その点から垂直に虹彩に下した線(I)の距離.AOD500が△の間の距離,AOD750が□の間の距離を示す.行った.各パラメータの変化量と年齢の相関に関しては,単回帰分析を行った.両検定ともに有意水準をCp<0.01とした.なお,当該研究は当院倫理委員会の承認(承認番号202116)を得て施行した.CII結果1.測定結果と2014年対2020年の比較隅角のC6年の経時変化では,耳側CTIA750はC42.2C±13.2°からC35.7C±12.2°(p<0.01),耳側CTIA500はC44.1C±14.0°からC35.3C±13.9°(p<0.01)と有意に狭くなっていた.また,鼻側もCTIA750はC38.1C±11.8°からC32.9C±11.5°(p<0.01),TIA500はC38.8C±12.4°からC34.3C±12.3°(p<0.01),と有意に狭くなっていた.前房深度はC3.09C±0.3mmからC2.99C±0.3mm(p<0.01)と有意に浅くなっていた.中心角膜厚はC533±26μmからC533C±27μm(p=0.31)と有意差はなかった(表1).2014年とC2020年の各パラメータの変化量については,単回帰分析の結果,耳側CTIA750のみ有意な年齢との相関を認め,係数はC.0.32(p<0.01,rC2=0.19)であった.耳側TIA500,鼻側CTIA750,TIA500,前房深度,中心角膜厚の変化量は年齢と有意な相関を認めなかった(表2).2014年からC20年にかけての耳側CTIAの変化量(2014年のCTIA750.2020年のCTIA750)は,年齢に対して負の相関を示した(図2).変化量を年代別にみてみると,20歳代では平均C7.86°,30歳代では平均C11.0°,40歳代ではC5.37°,50表12014年と2020年測定結果の比較2014年2020年p値変化量/年年齢(歳)C40.4±9.5C45.9±9.3<0.0000001C1.0隅角耳側CTIA750(°)C42.2±13.2C35.7±12.2<0.0001C.1.08隅角耳側CTIA500(°)C44.1±14.0C35.3±13.9<0.0001C.1.46隅角鼻側CTIA750(°)C38.1±11.8C32.9±11.5<0.0001C.0.87隅角鼻側CTIA500(°)C38.8±12.4C34.3±12.3<0.0001C.0.75前房深度(mm)C3.09±0.3C2.99±0.3<0.0001C.0.02中心角膜厚(μm)C533±26C533±27C0.31C.中心角膜厚以外は有意差が認められた.表22014~2020年の変化量と年齢の相関変化量回帰係数p値隅角耳側CTIA750(°)C6.5±6.9C.0.32<0.01隅角耳側CTIA500(°)C8.8±7.5C.0.31C0.01隅角鼻側CTIA750(°)C5.2±6.7C.0.15C0.17隅角鼻側CTIA500(°)C4.5±6.8C.0.22C0.05前房深度(mm)C0.10±0.07C.0.00039C0.75中心角膜厚(μm)C0.90±11.4C0.10C0.61耳側CTIA750のみ有意な年齢との相関が認められたが,耳側CTIA500,鼻側CTIA750,TIA500,前房深度,中心角膜厚の変化量は年齢との有意な相関を認めなかった.変化量(°)30.025.020.015.010.05.00.0-5.0-10.015105020~3030~4040~5050~60図2耳側TIA750:2014~2020年の変化量と年齢(2014年時)の相関耳側CTIA750の変化量と年齢との間には負の相関が認められた.棒グラフは年代別のTIA750の変化量を示す.30歳代で変化量がもっとも大きくなり,その後は減少していた.変化量(mm)0.300.250.200.150.100.050.00-0.05-0.100.20.1020~3030~4040~5050~60図3前房深度:2014~2020年の変化量と年齢(2014年時)の相関前房深度の変化量と年齢には有意な相関はみられなかった.棒グラフは年代別の前房深度の変化量を示す.30歳代で変化量がもっとも大きくなり,その後減少していた.歳代ではC0.52°であった.2014年から20年にかけての前房深度の変化量は,年齢と有意な相関を認めなかった(図3).変化量を年代別にみてみると,20歳代では平均C0.07Cmm,30歳代では平均C0.14Cmm,40歳代ではC0.12Cmm,50歳代ではC0.08Cmmであった.CIII考按1.本研究の特徴従来,隅角,前房深度は加齢とともに減少すると報告されていたが,そのほとんどは横断調査によるものであり,日本人においては,若い世代(20.30歳代)と高齢者の世代(70歳.80歳)では屈折,眼軸長の平均値も異なるため,加齢による前房深度,隅角の変化を横断調査で評価するには無理があるといわざるを得ない.この点に着目したCWickremas-ingheらは,比較的世代間差のないモンゴル人を対象とした疫学横断調査を行った結果,加齢とともに,前房深度が減少し,水晶体厚が増加することを報告し9),前房深度の減少には水晶体厚の増加が関与していることを示唆している.本研究は,日本人を対象としており,年齢はC20.57歳と若く,有水晶体眼で非緑内障眼のC6年後の経年変化を観察いる点が貴重なデータであると考える.結果として,従来の報告と同様,隅角は経年変化で狭くなり,前房深度は経年変化で浅くなることが確認された.中心角膜厚は変わらなかった.C2.前房深度の経年変化平均C40.4歳時の前房深度は平均C3.09mmで,6年後は2.99Cmmへと有意に減少していた.1年当たりの変化量は.0.02Cmmであった(表1).酒井らは日本人を対象とした横断研究で非緑内障者C89例(10歳代後半からC80歳代前半)の前房深度は年齢と有意な負の相関を示し,1年当たりの変化量は.0.021Cmmであったと報告しており10),本研究の変化量と一致していた.一方,Panら7)は縦断研究としてC2003年とC2008年に走査型周辺前房深度計(SPAC)を用いてC157人の日本人を対象に前房深度と隅角を測定している.対象症例の年齢はC18.95歳,平均C66.7歳であった.前房深度はグレード分類で評価されており,実際の前房深度の定量とは異なるが,5年でグレードが平均C7.2からC6.5に減少していた.彼らはさらに,眼内レンズ挿入眼(26眼)では前房深度,隅角ともにC5年間で有意な変化を示さなかったことから,前房深度,隅角の変化には水晶体が関与していると記している.本研究の対象者は全員が内眼手術既往のない有水晶体眼である.さらに,本研究ではCCASIA-1000を用いることで,より解像度の高い画像を得ることができ,定性的な狭小化の傾向だけでなく,定量的な分析が可能となった.本研究ではC6年における前房深度の変化量と年齢に単回帰分析では有意な相関はみられなかった(表2).ただし,年代別にみてみると(図2),前房深度はC20歳代,30歳代で減少の変化量が高く,30歳代でピークとなり,40歳代,50歳代では変化量が減少していた.水晶体は誕生直後はほぼ全体が核であるが,水晶体上皮細胞の増殖と核の圧縮,移動により,加齢とともに前房側に厚みを増すことが知られている11).本研究における前房深度の変化量が水晶体厚の前房側への増加を反映すると考えた場合,水晶体厚の増加量はC30歳代で大きく,40歳代,50歳代と増加量は漸減することになる.Wickremasingheら9)の報告のなかで,table2に示されている世代別の前房深度,水晶体厚の平均値をみると,50歳代,60歳代,70歳代の増加量よりもC40歳代のほうが増加量が多くなっている.本研究での前房深度の狭小化は生理的な水晶体厚の変化を反映している可能性があると思われた.C3.隅角の経年変化平均C40.4歳時の耳側隅角はCTIA750でC42.2°,TIA500で44.1°あったが,6年後には各々35.7°,35.3°と有意に狭小化していた.1年当たりの変化量はC.1.0.C.1.5°であった(表1).PanらによるCSPACの報告7)ではまた,前房隅角は34.2°からC28.1°に減少し,この変化量を単純に経過年のC5で除すると,変化量はC.1.22°/年となり,本研究の結果と近似した値で矛盾しない.本研究において耳側隅角は,TIA500のほうがC750よりも大きな変化量を示した.Panらは前房深度の減少は中心に比べて周辺で強い,と報告しており,瞳孔よりのCTIA750よりもより周辺のCTIA500で変化量が多いことと矛盾しない.6年間の変化量と年齢の相関を単回帰分析したところ,耳側CTIA750の変化量と年齢には有意な負の相関(C.0.32)が認められた.50歳以上の中国人を対象としたCWangらの縦断調査12)によれば,年齢とともに閉塞隅角の発症率は増加し,水晶体がより厚くなり,隅角がより狭くなり,近視眼の偽落屑により頻度が高くなっていた.本研究では,対象者に偽落屑は含まれていなかった.年代別にみた変化量は前房深度と同様でC30歳代に減少量がピークを示していた.高齢者の原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障の隅角の狭小化には白内障による水晶体厚の増加ならびにCZinn小帯脆弱が要因と考えられている.本研究の対象者は非緑内障眼の有水晶体眼で,白内障による矯正視力の低下がみられていなかった.よって,50歳代における前房深度,隅角の減少が白内障によるものかどうかの評価はしがたい.しかしながら,20.60歳の日本人において,6年の経過で前房深度は浅くなり,隅角が狭小化することは確認することができた.さらに確実なエビデンスになるためには,対象者数,経過観察のポイントの増加が望ましいが,本研究が,今後の原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障,白内障における前房深度,隅角定量における経過観察の研究の一助となれば幸いである.【利益相反】:利益相反公表基準に該当なし文献1)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreportC2:prevalenceCofCprimaryCangleCclosureCandCsec-ondaryglaucomainaJapanesepopulation.OphthalmologyC112:1661-1669,C20052)KashiwagiCK,CTokunagaCT,CIwaseCACetal:UsefulnessCofCperipheralCanteriorCchamberCdepthCassessmentCinCglauco-mascreening.EyeC19:990-994,C20053)加茂純子,佐宗真由美,鶴田真ほか:走査型周辺前房深度計(SPAC)による周辺前房深度の男女別加齢変化.日眼会誌C111:518-525,C20074)ShajariCM,CHerrmannCK,CBuhrenCJCetal:AnteriorCcham-berCangle,Cvolume,CandCdepthCinCaCnormativeCcohort-ACretrospectiveCcross-sectionalCstudy.CCurrCEyeCResC44:C632-637,C20195)HashemiCH,CKhabazkhoobCM,CMohazzab-TorabiCSCetal:CAnteriorCchamberCangleCandCanteriorCchamberCvolumeCinCaC40-toC64-year-oldCpopulation.CEyeCContactCLensC42:C244-249,C20166)LavanyaCR,CWongCTY,CFriedmanCDSCetal:DeterminaC-tionsCofCangleCclosureCinColderCSingaporeans.CArchCOph-thalmolC126:686-691,C20087)PanCZ,CFuruyaCT,CKashiwagiK:LongitudinalCchangesCinCanteriorCcon.gurationCinCeyesCwithCopenCangleCglaucomaCandassociatedfactors.JGlaucomaC21:296-301,C20128)LiuS,YuM,YeCetal:AnteriorchamberangleimagingwithCswept-sourceCopticalCcoherencetomography:anCinvestigationConCvariabilityCofCangleCmeasurement.CInvestCOphthalmolVisSciC52:8598-8603,C20119)WickremasingheS,FosterPJ,UranchimegDetal:OcularbiometryCandCrefractionCinCmongolianCadults.CInvestCOph-thalmolVisSciC45:776-783,C200410)酒井寛,佐藤健雄,鯉淵博ほか:前眼部撮影・解析装置(EAS-1000)を用いた閉塞隅角緑内障眼の前眼部計測.日眼会誌C100:546-550,C199611)AnthonyJB,RameshCT,BrendaJT:Wol.’sAnatomyoftheCEyeCandCOrbit,C8Cedition,Cp432-435,CChapmanC&CHallCmedical,Spain,199712)WangL,HuangW,HuangSetal:Ten-yearincidenceofprimaryangleclosureinelderlyChinese:theLiwanEyeStudy.BrJOphthalmolC103:355-360,C2019***

スクリーニング用眼圧計としてOcular Response Analyzer G3 を用いた際の測定値の信頼度の検討

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):959.962,2022cスクリーニング用眼圧計としてOcularResponseAnalyzerG3を用いた際の測定値の信頼度の検討杉浦奈津美丸山勝彦瀧利枝金谷楓八潮まるやま眼科CEvaluationoftheMeasurementReliabilitywhenUsingtheOcularResponseAnalyzerforIntraocularPressureScreeningExaminationsNatsumiSugiura,KatsuhikoMaruyama,ToshieTakiandKaedeKanayaCYashioMaruyamaEyeClinicC対象および方法:スクリーニングとしてライカート社のCOcularResponseAnalyzer(以下,ORA)G3を用いて眼圧測定を行った症例C747例C1,488眼,平均年齢C53.5C±20.4歳(レンジC6.94歳)を対象に,信頼度を表す係数CWave-formCScoreが推奨値であるC6に満たない症例の割合を算出した.結果:測定値の平均±標準偏差(レンジ)は,Goldmann圧平眼圧計による眼圧値に相当する眼圧値CIOPgがC14.9C±4.8CmmHg(1.0.63.2CmmHg),角膜ヒステリシスで補正した眼圧値CIOPccはC16.2C±4.7mmHg(3.2.73.6mmHg),角膜ヒステリシスはC9.7C±1.5CmmHg(0.0.20.6mmHg),WaveformScoreはC7.3C±1.5(0.1.9.7)であり,WaveformScoreがC6未満の割合はC18%であった.結論:スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた場合,信頼性のある結果が得られる割合は約C8割である.CPurpose:ToCevaluateCintraocularpressure(IOP)measurementCreliabilityCwhenCusingCtheCOcularCResponseAnalyzer(ORA)(ReichertOphthalmicInstruments)forIOPscreeningexaminations.SubjectsandMethods:Weretrospectivelyanalyzed1,488eyesof747subjects(meanage:53.5C±20.4years,range:6-94years)whoseIOPwasCmeasuredCusingCtheCORACforCtheCIOPCscreeningCexamination.CTheCrateCofCmeasurementsCwithCaCWaveformCScoreoflessthan6,whichimpliesanunreliablemeasurement,wascalculated.Results:Themean±standarddevi-ationCofCGoldman-estimatedCIOP,Ccorneal-compensatedCIOP,CcornealChysteresis,CandCWaveformCScoreCwasC14.9±4.8mmHg(range:1.0C-63.2mmHg)C,C16.2±4.7mmHg(range:3.2C-73.6mmHg)C,C9.7±1.5CmmHg(range:0.0C-20.6CmmHg)C,CandC7.3±1.5(range:0.1-9.7)C,Crespectively.CTheCpercentageCrateCofCeyesCwithCaCWaveformCScoreCofCless-than6was18%.Conclusion:Our.ndingsrevealedthattheORAproducedreliableIOPmeasurementsin80%CofthecaseswhounderwentanIOPscreeningexamination.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):959.962,C2022〕Keywords:OcularResponseAnalyzer,信頼度,WaveformScore,眼圧,角膜ヒステリシス.OcularResponseAnalyzer,reliability,WaveformScore,intraocularpressure,cornealhysteresis.Cはじめにライカート社のCOcularResponseAnalyzer(ORA)G3は,緑内障の発症1,2),あるいは進行3.6)に影響するとされるパラメータ,角膜ヒステリシスが測定できる非接触型眼圧計であり,近年,緑内障診療に活用されることが多くなってきている.眼圧測定は一般診療でもルーチンに行われる検査であるが,スクリーニング用眼圧計としてCORAG3を用いた際の測定値の信頼度についてはこれまで報告がない.本研究の目的は,スクリーニング用眼圧計としてCORAを用いた際の測定値の信頼度を検討することである.CI対象および方法対象は,2021年C3月C1日.5月C15日に八潮まるやま眼科でスクリーニングとしてCORAG3を用いて眼圧測定を行ったC747例C1,488眼である.男性C287例,女性C460例,年齢はC53.5C±20.4歳(レンジC6.94歳),右眼はC745眼,左眼は〔別刷請求先〕丸山勝彦:〒340-0822埼玉県八潮市大瀬C5-1-152階八潮まるやま眼科Reprintrequests:KatsuhikoMaruyama,M.D.,Ph.D.,YashioMaruyamaEyeClinic,2F,5-1-15,Oze,Yashio-shi,Saitama340-0822,JAPANC743眼であった.これらを対象に,患者に応じて開瞼を補助しながらC3回測定を行い,平均値を解析に使用した.測定結果として,CORAG3ではCGoldmann圧平眼圧計による眼圧値に相当するCIOPg,角膜ヒステリシスで補正した眼圧値CIOPcc,角膜ヒステリシス,信頼度を示す係数であるCWaveformCScoreが出力される.今回はCWaveformScoreが推奨値である「6」に満たない症例の割合を算出した.なお,同一症例に複数回測定を行っている場合には初回の結果を解析に用いた.本研究は日本医師会倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号CR3-8).C70060050040030020010000.0~5.0~10.0~15.0~4.99.914.919.9II結果測定値の平均±標準偏差(レンジ)は,IOPgがC14.9±4.8mmHg(1.0.63.2CmmHg),IOPccはC16.2±4.7CmmHg(3.2.73.6CmmHg),角膜ヒステリシスはC9.7±1.5CmmHg(0.0.20.6CmmHg),WaveformScoreはC7.3±1.5(0.1.9.7)となり,それぞれ図1~4のように分布していた.WaveformCScoreがC3未満だったのはC2%,3台が3%,4台が5%,5台がC8%,6台が17%,7台が30%,8台が29%,9台が6%であり,6未満の割合はC18%であった.67345421977441303520.0~25.0~30.0~35.0~40.0~24.929.934.939.9症例数症例数測定値(mmHg)図1IOPgの分布平均±標準偏差(レンジ):14.9±4.8CmmHg(1.0.63.2mmHg)C9008007006005004003002001000888293246202362190.0~5.0~10.0~15.0~20.0~25.0~30.0~35.0~40.0~4.99.914.919.924.929.934.939.9測定値(mmHg)図2IOPccの分布平均±標準偏差(レンジ):16.2±4.7CmmHg(3.2.73.6mmHg)症例数90080070060050040030020010008453482144740226110.0~2.0~4.0~6.0~8.0~10.0~12.0~14.0~16.0~18.0~1.93.95.97.99.911.913.915.917.9角膜ヒステリシス(mmHg)図3角膜ヒステリシスの分布平均±標準偏差(レンジ):9.7±1.5CmmHg(0.0.20.6mmHg)C50044342826012276874359154003002001000症例数0.0~0.91.0~1.92.0~2.93.0~3.94.0~4.95.0~5.96.0~6.97.0~7.98.0~8.99.0~10.0WaveformScore図4WaveformScoreの分布平均±標準偏差(レンジ):7.3±1.5(0.1.9.7)CIII考按い.Ayalaら7)は平均年齢C56.5±16.0歳の健常者C266例を対象として検討を行っており,WaveformScoreの平均はC7.39ORAで得られる測定値の信頼度に関する報告は多くはなC±1.32(2.8.9.7)だったと報告している.また,Lamら8)は健常者C64例(平均年齢C26.3C±6.8歳)を対象とした検討で,貢献し,重症化の回避などによる医療経済的効果につながる各症例に対し両眼C4回測定を行った計C512回分の測定値を可能性がある.今後,さらに多数例を対象とした多施設での解析した結果,WCaveformScoreの平均はC5.49(1C.58.9C.06)検証が必要である.だったと報告している.しかし,これらの報告で使用されているCORAはCversion2.04であり,現在普及しているCG3で利益相反:利益相反公表基準に該当なしの信頼度はこれまで明らかではなかった.そのため今回,G3で検討を行ったが,CWaveformScoreの平均値やレンジは既報と同等かそれ以上の結果が得られた.また,本報告は文献年齢や眼疾患の有無などの背景もさまざまな症例に対し,ス1)CongdonCNG,CBromanCAT,CBandeen-RocheCKCetal:CCen-クリーニングとして行う眼圧検査にCORAG3を用いた検討tralCcornealCthicknessCandCcornealChysteresisCassociatedCであり,実臨床に沿った結果といえるが,およそC8割で信頼withCglaucomaCdamage.CAmCJCOphthalmolC141:C868-875,C性のある測定が可能であることがわかった.C2006CORAG3の測定精度は通常の非接触型眼圧計と同様に,2)AbitbolCO,CBoudenCJ,CDoanCSCetal:CCornealChysteresisCmeasuredCwithCtheCOcularCResponseCAnalyzerCinCnormalC眼表面のコンディションや固視,瞬目,睫毛などの影響を受andCglaucomatousCeyes.CActaCOphthalmolC88:C116-119,Cけると考えられる.本報告の対象にも信頼度が低い症例がみ2010Cられたが,その原因については今回検討していない.今後,3)DeCMoraesCCG,CHillCV,CTelloCCCetal:CLowerCcornealChys-どの因子がどれくらい信頼度に影響するか研究を進めたいとteresisisassociatedwithmorerapidglaucomatousvisual.eldprogression.JGlaucomaC21:C209-213,C2012C考えている.4)MedeirosCFA,CMeira-FreitasCD,CLisboaCRCetal:CCornealC本報告は単一施設での後ろ向き研究であり,結果の解釈にhysteresisCasCaCriskCfactorCforglaucomaCprogression:CaCは各種バイアスの影響を加味しなければならない.たとえprospectivelongitudinalstudy.OphthalmologyC120:C1533-ば,閉瞼が強い症例や瞼裂が狭い症例,睫毛が長い症例など1540,C2013C5)ZhangCC,CTathamCAJ,CAbeCRYCetal:CCornealChysteresisに対して開瞼の補助を行う明確な基準はなく,今回の測定値andprogressiveretinalnerve.berlayerlossinglaucoma.はそのときの検者の判断に任せた結果である.また,今回はCAmJOphthalmolC166:C29-36,C2016CORAG3で測定を行った全症例を対象としたため,眼表面6)SusannaCN,Diniz-FilhoA,DagaFBetal:CAprospectiveに異常がある症例など,測定精度が低いと想定される症例もlongitudinalCstudyCtoCinvestigateCcornealChysteresisCasCaCriskfactorforpredictingdevelopmentofglaucoma.AmJ対象に含んでいる.さらに,C4名の検者が測定を担当したが,OphthalmolC187:C148-15,C2018C検者ごとの結果は明らかではない.このようにいくつかの問7)AyalaM,ChenE:Measuringcornealhysteresis:thresh-題点はあるが,緑内障診療に有用な角膜ヒステリシスが測定oldCestimationCofCtheCwaveformCscoreCfromCtheCOcularC可能なCORAは,日常診療のスクリーニング用としても十分ResponseCAnalyzer.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:C1803-1806,C2012C活用できる眼圧計と考えられた.CORAG3のスクリーニン8)LamCAK,CChenCD,CTseJ:CTheCusefulnessCofCwaveformCグ用眼圧計としての信頼性が確認できれば,将来的には緑内scoreCfromCtheCocularCresponseCanalyzer.COptomCVisCSciC障の早期発見や,進行の危険因子を有する患者の早期発見に87:C195-199,C2010***

多施設による緑内障患者の実態調査2020 年版 −ROCK 阻害薬−

2022年7月31日 日曜日

《第32回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科39(7):953.958,2022c多施設による緑内障患者の実態調査2020年版.ROCK阻害薬.内匠哲郎*1,3井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CMulti-InstitutionalSurveyontheUseofROCKInhibitorforGlaucomain2020TetsuroTakumi1,3)C,KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障薬物治療の実態調査から,ROCK阻害薬の使用状況を明らかにする.対象および方法:2020年C3月8日.14日にC78施設を外来受診した緑内障,高眼圧症患者C5,303例C5,303眼を対象とした.使用薬剤数別にCROCK阻害薬の使用率と併用薬を調査した.さらにC2016年調査の結果と比較した.結果:ROCK阻害薬の使用率はC1剤例C0.4%,2剤例C3.1%,3剤例C11.5%,4剤例C33.5%,5剤例C88.8%などであった.ROCK阻害薬との併用薬剤はC2剤例CPG関連薬,3剤例CPG関連薬/Cb遮断配合薬,4剤例Cb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害配合薬+PG関連薬,5剤例さらにCa2刺激薬を追加した組み合わせが各々最多であった.ROCK阻害薬の使用割合は薬剤数が増えるに従って増加した.ROCK阻害薬の使用はC2016年調査とは同様だった.結論:ROCK阻害薬はC3剤以上の使用例において配合剤と併用される頻度が高く,多剤併用になるほど使用されていた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCcurrentCstatusCofCtheCusingCaCRho-associatedCproteinkinase(ROCK)-inhibitorCforthetreatmentofglaucoma.PatientsandMethods:Atotalof5,303outpatients(5,303eyes)withglaucomaorocularhypertensionseenat78medicalinstitutionsinJapanfromMarch8toMarch14in2020wereenrolled.ThepercentagesCofCROCK-inhibitorCandCtheCconcomitantCmedicationsCwithCROCK-inhibitorCwereCinvestigatedCinCeachCgroupofmedicationsused.Thestatuswasthencomparedwiththatreportedin2016.Results:TheuseofROCK-inhibitorCinCtheC1CtoC5CmedicationsCgroupsCwas0.4%,3.1%,11.5%,33.5%,Cand88.8%,Crespectively.CInCtheC2CtoC5Cmedicationsgroups,theconcomitantmedicationsmostwidelyusedwereprostaglandin(PG)analogs,PG/Cb-blocker.xedCcombination,Cb-blocker/carbonic-anhydrase-inhibitor(CAI/Cb).xedCcombination+PGCanalogs,CandCCAI/b.xedcombination+PGanalogs+a2agonist,respectively.TheuseofROCK-inhibitorwasincreasedasthenumberofmedicationsincreased.Conclusion:ROCK-inhibitorwasfrequentlyusedwith.xedcombinationsinthethreeormoreCmedicationsCgroup.CAsCtheCnumberCofCmedicationsCincreased,CtheCfrequencyCofCtheCuseCofCROCK-inhibitorCincreased.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(7):953.958,C2022〕Keywords:ROCK阻害薬,併用,配合剤,緑内障薬物治療.ROCK-inhibitor,concomitantuse,.xedcombina-tion,treatmentwithmedication.Cはじめに日本緑内障学会が作成している緑内障診療ガイドラインが2018年に改訂され第C4版となった1).眼科医は,この緑内障診療ガイドラインを参考にして緑内障の診断,病型分類,治療を行っている.緑内障診療ガイドライン第C4版においても緑内障性視野障害進行抑制に対して唯一根拠が明確に示されている治療は眼圧下降で,その第一選択は薬物治療である2.5).近年新たな眼圧下降の作用機序を有する点眼薬,配合点眼薬,後発医薬品の発売などで緑内障薬物治療の選択肢は大幅〔別刷請求先〕内匠哲郎:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:TetsuroTakumi,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,CJAPANC表1研究協力施設(78施設)ふじた眼科クリニックとやま眼科博愛こばやし眼科鬼怒川眼科医院おおはら眼科さいはく眼科クリニックいずみ眼科クリニック篠崎駅前髙橋眼科久が原眼科サンアイ眼科みやざき眼科藤原眼科さいき眼科はしだ眼科クリニックかわぞえ眼科クリニック石井眼科クリニックそが眼科クリニック槇眼科医院やながわ眼科高輪台眼科クリニック大原ちか眼科ふかさく眼科早稲田眼科診療所かさい眼科たじま眼科・形成外科井荻菊池眼科ほりかわ眼科久我山井の頭通りあおやぎ眼科いなげ眼科やなせ眼科本郷眼科赤塚眼科はやし医院的場眼科クリニック吉田眼科えぎ眼科仙川クリニックにしかまた眼科のだ眼科麻酔科医院東小金井駅前眼科小川眼科診療所みやけ眼科後藤眼科良田眼科高根台眼科おがわ眼科白金眼科クリニック谷津駅前あじさい眼科西府ひかり眼科小滝橋西野眼科クリニックおおあみ眼科だんのうえ眼科クリニックあつみクリニック中山眼科医院綱島駅前眼科あつみ整形外科・眼科クリニックもりちか眼科クリニック眼科中井医院林眼科医院中沢眼科医院さいとう眼科なかむら眼科・形成外科駒込みつい眼科ヒルサイド眼科クリニックさくら眼科・内科立川しんどう眼科図師眼科医院大宮・井上眼科クリニック菅原眼科クリニックいまこが眼科医院札幌・井上眼科クリニックうえだ眼科クリニックむらかみ眼科クリニック西葛西・井上眼科病院江本眼科ガキヤ眼科医院お茶の水・井上眼科クリニックえづれ眼科川島眼科井上眼科病院に拡大している.選択肢が増えることで患者に対してもっとも適した治療を提供できる可能性が増大するが,その選択には薬剤の種類が多いがゆえに苦慮することもある.そこで緑内障病型の発症頻度や緑内障薬物治療の実態を把握しておくことは眼科医の緑内障診療の一助になると考えた.筆者らは眼科専門病院やクリニックにおける多施設での緑内障患者実態調査をC2007年に開始した6).その後,2009年に第C2回7),2012年に第C3回8),2016年に第C4回緑内障患者実態調査9)を実施した.2014年にはCROCK(Rho-associatedCproteinkinase)阻害薬が使用可能となり,ROCK阻害薬の良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告されている10.14).さらにC2016年以降,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,オミデネパグイソプロピル点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬が新たに使用可能になった.筆者らはC2020年に第C5回緑内障患者実態調査を実施し,緑内障患者の最新の実態を解明した15).今回はそのなかで,使用可能となってからC5年間が経過したCROCK阻害薬の使用状況を解析した.CI対象および方法本調査は,緑内障患者実態調査の趣旨に賛同した全国C78施設において,2020年C3月C8日から同C14日に施行した.調査の趣旨は緑内障診療を行ううえで,緑内障病型の発症頻度や薬物治療の実態を把握することが重要であるためとした.調査施設を表1に示す.この調査期間内に外来受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.総症例数C5,303例5,303眼,男性C2,347例,女性C2,956例,年齢はC11.101歳,C68.7±13.1歳(平均C±標準偏差)であった.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,主治医の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合には右眼を調査対象眼とした.調査方法は調査票(表2)を用いて行った.各施設にあらかじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤数および種類,緑内障手術の既往を調査した.集計は井上眼科病院の集計センターで行った.回収した調査票より病型,使用薬剤数および種類,レーザー治療,緑内障手術の既往について解析を行った15).今回はそのなかでROCK阻害薬リパスジル点眼薬(グラナテック,興和)の使用率と併用薬を調査し,緑内障病型別のCROCK阻害薬使用割合を調査した.さらにこれらの結果をC2016年の前回調査の結果9)と比較した.配合点眼薬はC2剤として解析した.なお,2016年調査までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回の調査では薬剤は一般名での収集とした.ROCK阻害薬の使用率およびC2016年調査時との表2調査票第C5回緑内障実態調査第C5回緑内障実態調査イニシャル整理番号性別M:男性・F:女性年齢歳診断名右・左1:POAG2:NTG3:PACG4:続発緑内障(落屑緑内障を含む)5:高眼圧症6:小児緑内障1:無手術既往歴2:有術式1:レクトミー2:ロトミー3:GSL4:チューブシャント5:その他()レーザー既往歴1:無2:有術式1:LI2:CSLT(ALT)3:その他()1:無緑内障処方薬剤2:有〈b遮断薬〉1:チモロールマレイン酸塩(チモプトール)2:チモロールマレイン塩酸持続性(チモプトールXE)3:チモロールマレイン塩酸熱応答(リズモンTG)4:カルテオロール塩酸塩(ミケラン)5:カルテオロール塩酸塩持続性(ミケランLA)6:ベタキソロール塩酸塩(ペトプティク)7:レボブノロール塩酸塩(ミロル)〈ab遮断薬〉8:ニプラジロール(ハイパジール)〈イオンチャネル開口薬〉9:イソプロピルウノプロストン(レスキュラ)〈PG製剤〉10:ラタノプロスト(キサラタン)11:トラボプロスト(トラバタンズ)12:タフルプロスト(タプロス)13:ビマトプロスト(ルミガン)〈PG+b遮断薬配合剤〉14:ラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(ザラカム)15:トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(デュオトラバ)16:タフルプロスト/チモロールマレイン酸塩配合(タプコム)17:ラタノプロスト/カルテオロール酸塩配合(ミケルナ)⇒裏面に続く緑内障処方薬剤2:有⇒表面より続き〈CAI+b遮断薬配合剤〉18:ドルゾラミドC/チモロールマレイン酸塩配合(コソプト)19:ブリンゾラミドC/チモロールマレイン酸塩配合(アゾルガ)〈点眼CAI〉20:ドルゾラミド塩酸塩(トルソプト)21:ブリンゾラミド塩酸塩(エイゾプト)〈経口CAI〉22:アセタゾラミド(ダイアモックス)〈a1遮断薬〉23:ブナゾシン塩酸塩(デタントール)〈a2遮断薬〉24:ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン)〈ROCK阻害薬〉25:リパスジル塩酸塩(グラナテック)〈EPC2受容体作用薬〉26:オミデネパグイソプロビル(エイベリス)〈a2刺激薬+b遮断薬配合剤〉27:ブリモニジン酒石酸塩C/チモロールマレイン酸塩配合(アイベータ)〈その他〉28:ピロカルピン塩酸塩(サンピロ)29:ジピべフリン塩酸塩(ピバレフリン)30:その他()ROCK阻害薬の使用割合の比較にはCc2検定とCFishaerの直接確率検定を用いた.Cc2検定での比較ではCBonferroni法による多重比較の補正を行った.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果ROCK阻害薬使用症例はC440例C440眼,男性C224例,女性C216例,年齢はC27.98歳,平均C70.7C±12.4歳であった.全症例(5,303例)の病型は正常眼圧緑内障C2,710例(51.1%),原発開放隅角緑内障C1,638例(30.9%),続発緑内障435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%),原発閉塞隅角緑内障C225例(14.2%)などであった.ROCK阻害薬使用症例の病型は,原発開放隅角緑内障C222例(50.5%),正常眼圧緑内障C116例(26.4%),続発緑内障C76例(17.3%),原発閉塞隅角緑内障C23例(5.2%),高眼圧症C3例(0.7%)であった.全症例(5,303例)の使用薬剤数は平均C1.8C±1.3剤で,その内訳は無投薬C543例(10.2%),1剤C2,203例(41.5%),C2剤C1,217例(23.0%),3剤C754例(14.2%),4剤C391例(7.4%),5剤C160例(3.0%),6剤C34例(0.6%),7剤C1例(0.02%)であった.ROCK阻害薬の使用率はC1剤例ではC0.4%(9例/2,203例),2剤例ではC3.1%(38例/1,217例),3剤例ではC11.5%(87例/754例),4剤例ではC33.5%(131例/391例),5剤例ではC88.8%(142例/160例)であった.使用薬剤数が増えるにしたがって,ROCK阻害薬の使用率が有意に増加した(p<0.0001,Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.005)(図1).ROCK阻害薬との併用薬剤はC2剤例ではプロスタグランジン(以下,PG)関連薬が最多(65.8%)であった(表3).3剤例ではCPG関連薬/Cb受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬)配合1剤*2剤3剤4剤*5剤ROCK阻害薬その他*p<0.0001(c2検定後,Bonferroni法による多重比較補正)図1使用薬剤数別ROCK阻害薬の使用率表3ROCK阻害薬との併用薬剤*薬剤数ROCK阻害薬使用患者数併用薬剤使用患者割合C3C4C5C87C131C142CPG/bPG+a2PG+CAI/bPG/b+a2PG+CAI/b+a2PG/b+CAI+a234.5%C25.3%C40.5%C18.3%C64.1%C22.5%2C38CPG65.8%CPG:プロスタグランジン関連薬,Cb:b遮断薬,CAI:炭酸脱水酵素阻害薬,Ca2:a2刺激薬.剤(34.5%)が最多で,次にCPG関連薬とCa2受容体作動薬(以下,Ca2刺激薬)との併用(25.3%)であった.4剤例ではPG関連薬とCb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤(40.5%)が最多で,次にCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤とCa2刺激薬(18.3%)であった.5剤例ではCPG関連薬と炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤とCa2刺激薬(64.1%)が最多で,次にPG関連薬/Cb遮断薬配合剤と炭酸脱水酵素阻害薬とCa2刺激薬(22.5%)であった.併用薬剤は配合剤が多く,配合剤使用例はC3剤例C34.5%,4剤例C58.8%,5剤例C86.6%であった.ROCK阻害薬の使用割合はC1,2,3,4,5剤例では今回はそれぞれC0.4%,3.1%,11.5%,33.5%,88.8%でC2016年調査9)ではそれぞれC0.5%,3.7%,7.9%,23.8%,76.8%で同等だった(図2).緑内障病型別のCROCK阻害薬の使用割合をC2016年調査9)と比較した結果を示す.原発開放隅角緑内障では今回調査(13.6%)がC2016年調査(9.7%)より有意に多かった(p=0.0020Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.0083).一方,正常眼圧緑内障,続発緑内障,原発閉塞隅角緑内障,高眼圧症では今回調査(4.3%,17.5%,10.2%,1.0%)とC2016年調査(3.1%,11.6%,6.4%,2.5%)で同等だった(p=0.0417,p=0.0224,p=0.1750,p=0.3129,Bonferroni法による多重比較補正後,有意水準Cp=0.0083).CIII考按今回C2020年C3月に行った多施設での第C5回緑内障実態調査におけるCROCK阻害薬の使用状況を使用薬剤数別に調査し,2016年調査9)の結果と比較した.ROCK阻害薬の使用率は薬剤数増加に伴い増加しており,ROCK阻害薬は多剤併用症例で多く使用される傾向がある.実際CROCK阻害薬使用症例のうち多剤併用症例の割合は本使用薬剤数765432120202016NS(c2検定後,Bonferroni法による多重比較補正)図22016年調査との比較(ROCK阻害薬の使用割合)調査(2,557例,48.2%)ではC2016年調査(1,929例,45.0%)よりも有意に増加していた(p=0.0016).ROCK阻害薬の増加が寄与したと考えられる.一方,緑内障病型別でのROCK阻害薬の使用割合でも原発開放隅角緑内障では今回調査(13.6%)がC2016年調査(9.7%)より増加していた.正常眼圧緑内障,続発緑内障,原発閉塞隅角緑内障では本調査(4.3%,17.5%,10.2%)がC2016年調査(3.1%,11.6%,6.4%)より増加したが有意差はなかった.高眼圧症ではCROCK阻害薬使用割合は本調査(3例,1.0%)とC2016年調査(6例2.5%)ともに低く,有意差はなかった.ROCK阻害薬は特定の病型で多く使用されている可能性がある.2012年に使用可能となったCa2刺激薬の使用割合はC2016年調査時(8.8%)9)に比べて,2020年調査時(11.9%)15)には有意に増加した.ROCK阻害薬は使用可能となってからC5年が経過し,Ca2刺激薬と同様に時間経過に伴い使用が増加した可能性が考えられた.緑内障診療ガイドライン1)では第一選択薬としてCPG関連薬,およびCb遮断薬が記載され,ROCK阻害薬は他の薬剤とともに第二選択薬としてあげられている.本調査の結果でも1剤例は0.4%と少数だった.これらの症例は何らかの理由でCPG関連薬やCb遮断薬が使用できない患者であったと考えられる.2剤例ではCPG関連薬との併用がC65.8%と最多で,PG関連薬が第一選択薬として使用されているためと考えられる.3,4,5剤例では,さまざまなパターンでCROCK阻害薬は使用されていた.ROCK阻害薬が使用可能となった当初C4カ月間のCROCK阻害薬の処方パターンを筆者らは調査した10).ROCK阻害薬投与前の薬剤数は追加群C3.9C±1.0C剤,変更群C3.9C±0.8剤,変更追加群C3.7C±1.1剤であった.追加群では投与前薬剤数はC1剤C1.6%,2剤C8.9%,3剤C13.7%,4剤C54.9%,5剤C18.5%などであった.ROCK阻害薬が処方され,3カ月後まで経過が追えた症例の報告では,ROCK阻害薬の追加群はC82例C121眼,変更群はC26例C41眼であった11).追加群の投与前の薬剤数はC1剤C4.9%,2剤C6.6%,3剤C43.8%,4剤C38.0%,5剤C6.6%であった.その他にROCK阻害薬投与例の投与前点眼スコアはC3.5C±1.0点12),C3.7±1.0点13),投与前点眼剤数はC2.8C±0.7剤14)と報告されている.過去の報告10.14)のCROCK阻害薬の使用方法と,今回調査でのC4剤例,5剤例で使用割合が高いことは一致していた.ROCK阻害薬はおもに多剤併用症例で使用されることが判明した.また,今回調査のC3,4,5剤例ではCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤およびCb遮断薬/炭酸脱水酵素阻害薬配合剤との併用が多く,ROCK阻害薬の併用薬は配合剤使用例が多いという報告10)と同様であった.追加群における投与前薬剤のうち配合剤はC3剤C47.3%,4剤C79.1%,5剤C54.2%であった10).今回調査でもC3,4,5剤例では配合剤の使用がC3剤例C34.5%,4剤例C58.8%,5剤例C86.6%と多く同様であった.今回の研究の問題点として,前回調査9)と症例が同一でないことがあげられる.症例を同一とすることはできなかったのでなるべく多数例を収集し,解析した.またCROCK阻害薬が何剤目として投与されたかは判断できなかった.たとえばC2剤例においてもCPG関連薬にCROCK阻害薬が追加投与されたのか,ROCK阻害薬にCPG関連薬が追加投与されたかは不明である.本調査の結果をまとめると,ROCK阻害薬はとくにC3剤以上の使用例において配合剤とともに用いられる頻度が高く,多剤併用になるほど使用されていた.本論文は第C32回日本緑内障学会で発表した.謝辞:本調査にご参加いただき,ご多忙にもかかわらず診療録の調査,記載,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に深く感謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20182)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInter-ventionStudy(AGIS)7:TheCrelationshipCbetweenCcon-trolCofCintraocularCpressureCandCvisualC.eldCdeterioration.CAmJOphthalmolC130:429-440,C20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:fortheCIGTSStudyGroup:InternCclinicalCoutcomesCinCtheCCollabora-tiveCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudyCcomparingCinitialCtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthal-mologyC108:1943-1953,C20014)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:CComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sure.AmJOphthalmolC126:487-497,C19985)HeijiA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintra-ocularCpressureCandCglaucomaprogression:resultsCfromCtheCEarlyCManifestCGlaucomaCTrial.CArchCOphthalmolC120:1268-1279,C20026)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─.あたらしい眼科C25:1581-1585,C20087)井上賢治,塩川美菜子,増本美枝子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年版─薬物治療─.あたらしい眼科C28:874-878,C20118)塩川美菜子,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障実態調査C2012年版─薬物治療─.あたらしい眼科C30:C851-856,C20139)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科C34:1035-1041,C201710)井上賢治,瀬戸川章,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果.あたらしい眼科C33:1774-1778,C201611)塚原瞬,榎本暢子,石田恭子ほか:リパスジル点眼液による眼圧下降効果の検討.臨眼C71:611-616,C201712)石田順子,家木良彰,山下力ほか:川崎医科大学附属病院におけるリパスジル点眼液の使用経験と効果.臨眼C72:C1443-1449,C201813)上原千晶,新垣淑邦,力石洋平ほか:リパスジル点眼追加治療C12カ月の成績.あたらしい眼科C35:967-970,C201814)柴田真帆,豊川紀子,黒田真一郎:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科C35:684-688,C201815)黒田敦美,井上賢治,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2020年版─薬物治療─.臨眼C75:377-385,C2021C***

基礎研究コラム:自然免疫記憶

2022年7月31日 日曜日

自然免疫記憶自然免疫記憶(innateimmunememory)とは「免疫ができる」という言葉は,一度かかった感染症には二度とかからない,という二度なし現象をさしていますが,これをうまく利用したのがワクチンで,1796年にジェンナーはワクチンを初めて用い,天然痘の予防に成功しました.200年以上たった今でも,感染症の流行を抑えるためにはワクチンの存在が不可欠です.免疫システムには自然免疫と獲得免疫があり,感染が起こるとまずは単球,マクロファージなどの自然免疫細胞が非特異的に働き,その後CT細胞やCB細胞などの獲得免疫細胞が特異性をもって異物や感染細胞を排除します.従来,二度なし現象を担っているのは特異性をもつ獲得免疫系であり,免疫記憶は獲得免疫系にのみ存在し自然免疫系には存在しないとされていました.しかし近年,再感染に対して獲得免疫系に依存せず,自然免疫系の応答変化をもたらす自然免疫記憶(innateimmunememory)の存在が明らかにされつつあります.自然免疫記憶は,初回刺激時のヒストン修飾を中心としたクロマチン構造の再構成が本体であり,それによって再刺激を受けた際の反応が大きく変化することによると考えられています(図1).免疫反応が増強するような変化はCtrainedimmunity,逆に減弱するような変化はCimmuneCtol-eranceとよばれています.CBCGワクチンによるtrainedimmunityBCG接種により自然免疫が訓練され,結核菌以外の感染症にも自然免疫反応が増強されると考えられています.これはCBCG接種によりヒト末梢血内の単球のクロマチン修飾が畑匡侑UniversityofMontreal起こることで,他の刺激を受けた際に炎症性サイトカインの発現亢進が起こることなどに起因し,たとえばCBCGワクチン接種後は,本来無関係な感染症である黄熱ウイルスに対しても耐性があることが示されています1).疫学研究でも,同様にCBCGワクチン接種が結核以外の呼吸器感染症など,非特異的な感染症による死亡率を低下させるのでは,という結果が報告されています2).現在,新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなり大きな問題となっていますが,パンデミック初期には地域による感染率・死亡率の差が大きいと報告されていました.とくに,日本を含むCBCG接種国・地域では,COVID-19発症数や死亡数が少なく,BCG接種がその原因の一つである可能性が指摘されています.今後の展望自然免疫システムは感染症のみならず,神経疾患や代謝疾患などさまざまな疾患に関与していることが知られています.BCGなどの微生物由来成分により訓練された自然免疫細胞は,これらの疾患を修飾している可能性が考えられ,今後の病態解明の一助になると思われます.文献1)ArtsRJW,MoorlagSJCFM,NovakovicBetal:BCGvac-cinationCprotectsCagainstCexperimentalCviralCinfectionCinChumansCthroughCtheCinductionCofCcytokinesCassociatedCwithtrainedimmunity.CellHostMicrobeC23:89-100,Ce5,C20182)NemesE,GeldenhuysH,RozotVetal;C-040-404StudyTeam:PreventionofM.tuberculosisinfectionwithH4:CIC31CvaccineCorCBCGCrevaccination.CNEnglCJCMedC379:C138-149,C2018C図1初回刺激および2回目刺激に対する免疫応答の変化自然免疫細胞は,初回刺激によりクロマチン構造の再構成が起こることで,2回目刺激の免疫応答が増強(trainedimmunity)もしくは減弱する(immunetolerance).(93)あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022C9470910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:シリコーンオイルの上脈 絡膜腔迷入(上級編)

2022年7月31日 日曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載230230シリコーンオイルの上脈絡膜腔迷入(上級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにシリコーンオイル(siliconeoil:SiO)の合併症の一つに網膜下迷入があるが,SiOが網膜下ではなく上脈絡膜腔に迷入したとする報告は少ない1,2).筆者らは過去に複数回の硝子体手術を余儀なくされた症例でSiOが上脈絡膜腔に迷入した2例を経験したことがある3).●症例症例1:45歳,女性.家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretionapathy:FEVR)に伴う牽引性網膜.離(tractionalretinaldetachment:TRD)例で,網膜の短縮化が著明なため網膜切開とSiOタンポナーデを余儀なくされた.術後,網膜欠損内の脈絡膜菲薄部位に脈絡膜裂孔が生じ,上脈絡膜腔にSiOが迷入した.網膜と脈絡膜は眼内光凝固により強固に癒着していた.再手術で脈絡膜欠損部位を拡大して上脈絡膜腔のSiOを抜去したが(図1a),硝子体腔にSiOが残存した(図1b).症例2:29歳,男性.増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)に起因するTRDで,複数回の硝子体手術後に網膜の短縮化が著明となり,鼻側にTRDが再発した.前回手術時の医原性裂孔部位に脈絡膜欠損が生じ,強膜が透見された(図2a).網膜と脈絡膜は眼内光凝固により強固に癒着しており,SiOは脈絡膜欠損部位から上脈絡膜腔に迷入していた.上脈絡膜腔のSiOを抜去するため,広範囲の網脈絡膜の切除を余儀なくされ,再度SiOを注入して後極と上方網膜の復位を得た(図2b).●上脈絡膜腔SiO迷入の機序上脈絡膜腔にSiOが迷入したとする報告は,眼球破裂により脈絡膜が部分的に欠損した例,上脈絡膜腔出血併発例,上脈絡膜腔へのSiO誤注入例など,いずれもなんらかの原因で強膜と脈絡膜の間にスペースを生じたことが誘因となっている.今回筆者らが経験した2例はFEVRおよびPDRの再手術例で,いずれも網膜の短縮(91)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1症例1a:術中所見.脈絡膜欠損部位()から上脈絡膜腔のSiO(.)を抜去した.b:術後眼底写真.上耳側の強膜が露出しており,エッジの網膜が脈絡膜と一体化し,強膜との間にスペースが生じていた().硝子体腔にはSiOが残存した(.).(文献3より引用)図2症例2a:術前眼底写真.鼻側の医原性裂孔部位に脈絡膜欠損が生じ,SiOが上脈絡膜腔に迷入していた.b:術後眼底写真.上脈絡膜腔のSiOを抜去するため広範囲の網脈絡膜の切除を余儀なくされ,再度SiOを注入して後極と上方網膜の復位を得た.化が著明であった.以前に施行された眼内光凝固により網脈絡膜の接着は保持されていたが,網膜欠損部位に脈絡膜裂孔が生じて上脈絡膜腔にSiOが迷入したものと考えられる.脈絡膜と強膜の癒着は緩いため,いったん上脈絡膜にSiOが迷入しだすと,大量の上脈絡膜腔SiOとなり,その抜去のためには広範囲の脈絡膜切除を余儀なくされる.症例によっては経強膜的にSiOを抜去したり2),そのまま経過観察するほうがよい場合もあり,臨機応変に対応すべきである.文献1)ZhangZD,ShenLJ,ZhengBetal:Surgicalmanagementofsiliconeoilmigratedintosuprachoroidalspaceaftervit-rectomy.IntJOphthalmol4:458-460,20112)ShanmugamMP,RamanjuluR,KumarRMetal:Transs-cleraldrainageofsubretinal/suprachoroidalsiliconeoil.OphthalmicSurgLasersImaging43:69-71,20123)児玉昂己,大須賀翔,水野博史ほか:家族性滲出性硝子体網膜症の硝子体術後,シリコーンオイルが上脈絡膜腔に迷入した一例.眼臨紀14:659-663,2021あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022945

考える手術:角膜移植術のこだわり(DMEK,DALK)

2022年7月31日 日曜日

考える手術⑦監修松井良諭・奥村直毅角膜移植術のこだわり(DMEK,DALK)親川格ハートライフ病院眼科林孝彦日本大学医学部視覚科学系眼科学分野角膜移植の対象疾患に対する標準的な治療法は全層角膜移植(PKP)であったが,拒絶反応や続発緑内障,縫合糸関連合併症(感染症,惹起不正乱視),外傷性創離開,移植片機能不全,また思ったほど矯正視力が得られないといった多くの術後合併症のリスクがあった.そこで合併症を低減するために,現在ではパーツ移植の概念が浸透し,角膜内皮機能不全に対してはDescemet膜.離角膜内皮移植(DSAEK)やDescemet膜角膜内皮移植(DMEK),角膜実質混濁や角膜屈折異常に対しては層状角膜移植(LKP)や深部層状角膜移植(DALK)が,DMEKでは,日本人は欧米人と比較して前房スペースが狭く,硝子体圧が高いことが多い.また,進行した角膜浮腫や濃い虹彩色調が移植片の視認性を下げてしまうことから,移植片に対する術中操作がむずかしくなりやすい.これらの問題点を克服する工夫について述べる.無硝子体眼に対しては移植片を眼内で広げる操作が長時間となり,移植片ダメージが生じやすい.この解決法として独自に考案し良好な結果を得ている方法を紹介する.DALKでは,空気を用いたbigbubble法による角膜実質層とDescemet膜層の分離を高い確率で再現性をもって可能にするためのポイントを手順を追って説明する.DALKでは慎重かつ大胆に角膜実質の分離を行うことが重要だが,同時に,bigbubbleによる実質分離を行ったあとは,前房圧をしっかり下げてDescemet膜に亀裂を生じさせないための細心の注意も必要である.聞き手:Descemet膜角膜内皮移植(Descemetmem-房へ挿入された移植片が硝子体圧の影響で眼外へ押し出braneendothelialkeratoplasty:DMEK)を行う際に,されやすい傾向にあります.脱出すると角膜内皮細胞に当初学んだ欧米の術式に多くの工夫を加えているとのこ大きなダメージが生じるため,必ず回避すべき合併症でとですが,具体的にはどのようにしているのですか?す.対処法として,眼粘弾性物質(オペガン)を使用し親川:とくに移植片の挿入時,展開時に工夫を加えていた挿入法を行っています.具体的には,移植片挿入器具ます.日本人眼では高い硝子体圧を伴うことが多く,前として代用している眼内レンズ挿入器具に,眼灌流液浸(89)あたらしい眼科Vol.39,No.7,20229430910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術水下で眼内レンズ挿入部に移植片を装填し,後方部に粘弾性物質を少量加え,プランジャーを押すことで粘弾性物質を介して移植片を射出し,前房内へ挿入します.この方法により移植片が脱出する合併症はなくなりました.また,日本は進行した角膜内皮機能不全眼が移植対象となることが多く,角膜視認性が悪い状態であり,さらに濃い虹彩色素が移植片のコントラストを低下させるため,展開時に移植片の表裏を特定することが重要となります.表裏を特定できずに長時間操作による内皮損傷が生じることや,表裏が逆となって移植片機能不全となる合併症も経験しました.対策として,1.5mmおよび1.0mmの大小の半円形状をした非対称性マーキングを移植片辺縁に2対置く方法を考案しました.これにより術中に表裏を確実に認識できるため,上記のような合併症は皆無となりました.林:DMEKでは少しでも雑な操作をすると命取りとなります.繊細な移植片操作が最低限必要であり,起こりうる合併症を予想し,対処できる力を備えることも必要です.挿入する際に,欧米の多くの術者はガラス製の移植片挿入器具を使用しますが,浅い前房スペースと高い硝子体圧をもつ日本人眼においては,工夫が必要不可欠です.粘弾性物質を使ったプラスチック製挿入器具を用いる工夫のほか,麻酔法として全身麻酔や球後麻酔および瞬目麻酔を用いることや,挿入時に開瞼器を緩めることで硝子体圧を極力下げておくことも工夫の一つです.聞き手:欧米でも無硝子体眼へのDMEKは展開操作がむずかしく,チャレンジング症例とされていますが,どのような工夫をしていますか?林:無硝子体眼に対して一般的な方法でDMEKを行うと,有硝子体眼と比較して展開時間が有意に長いことを指摘した論文を以前発表しました.無硝子体眼では前房水を抜いても硝子体腔が虚脱するのみで前房を浅くすることができず,前房スペースが広いままのため,移植片を広げることができないことが大きな原因となります.解決法として,doublebubbletechniqueを考案しました.これは移植片の展開時に,移植片直上にまずsmallbubbleを入れてある程度移植片を広げ,その状態で移植片の下方からbubbleを少しずつ加えて移植片の周辺部から徐々に角膜後面へ接着させていき,さらにbubbleを下方から追加注入していくことで最終的に完全な角膜後面への展開固定を獲得する方法です.この方法は短時間で再現性高く行うことができるため,これまでDMEKを回避する傾向にあった無硝子体眼でも,ストレスなく執刀することが可能となりました.親川:Doublebubbletechniqueのコツとして,制御糸944あたらしい眼科Vol.39,No.7,2022をうまく使うことも必要です.私は5時の強膜部に7-0シルク糸を使用しています.移植片の上部にsmallbubbleを入れたあと,移植片の下方にbubbleを追加注入していくタイミングで,制御糸でやや上転させながらbubbleを追加注入します.そうすることで移植片が大きく偏位して固定されることを防ぎ,可能なかぎり中心部付近で固定することができます.聞き手:深部層状角膜移植(deepanteriorlamellarker-atoplasty:DALK)を行ううえでこだわっていること,工夫されていることはどのような点ですか?林:DALKは角膜深層の実質組織とDescemet膜組織の層で分離して移植を行っていくため,その手技に特徴があります.おもに行っている方法は,空気を用いて分離するbigbubble法です.角膜中心部において角膜トレパンを用いて予定切開円を角膜実質内中層まで作製後,上方角膜輪部からスリットナイフで実質組織に刺入し,角膜深層の実質組織内までナイフを進めます.次に作製した切開創から角膜中心部方向に平行に鈍針や30ゲージ鋭針を進めていき,実質深層のDescemet膜直上あたりで空気を注入し,角膜実質の分離操作を行います.以前はサイドポートを開けて,角膜中央の実質組織をある程度除去したあとに,この操作を行っていましたが,現在はサイドポート作製や実質組織除去を先に行わずにこの操作をすることで,よい成績を得られています.注入した空気による圧を逃がすことなく,組織を分離する力の方向へ確実に加える点が大きなポイントと考えています.その後の角膜実質組織の除去操作では,サイドポートを開けて前房圧を常に下げて処理を行っていく点がDescemet膜亀裂を生じさせないためのポイントとなります.このbigbubble法で実質組織の分離を確実に行い,7割程度でDALKを完遂できています.ただし,bigbubble法が成功せずに実質組織が残存した場合には,layer-by-layer法により実質組織を少しずつ分離してDescemet膜組織を露出することになります.その際,私が使用しているのは前田式DLKスパーテルと林式DALKフッカーであり,Descemet膜に亀裂を生じることなく実質組織を確実に分離していきます.また,軽度のDescemet膜亀裂であればリカバリーすることでなんとかDALKを完遂できることも多いです.DALKを完遂できれば10.20年以上の術後長期間の角膜透明治癒が期待できるます.しかし,大きな亀裂となった場合は全層角膜移植(penetratingkeratoplasty:PKP)へコンバートすることもあります.そのときには気持ちを切り替え,きれいな縫合を意識して惹起乱視の少ないPKPに全力を注ぐようにしています.(90)