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屈折矯正手術:ICLにおける乱視矯正

2022年3月31日 木曜日

監修=木下茂●連載262大橋裕一坪田一男262.ICLにおける乱視矯正五十嵐章史スカイビル眼科ICL(STAAR社)は専用インジェクターの形状より角膜切開創はC3.0~3.2Cmmが必要とされ,通常の白内障手術より術後惹起乱視の影響を考慮する必要がある.また,乱視矯正可能なCtoricICLは術後回転による乱視矯正効果の低下が問題であるが,眼球の解剖学的特徴を考慮した垂直固定にすることでそのリスクは軽減できる.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズCImplantableContactLens(ICL,STAAR社)は,若年の健常眼に対してQOL(qualityCoflife)を向上させることが目的となるため,術後は良好な裸眼視力を獲得することが必須であり,そのためには術後乱視を限りなくゼロにすることが望ましい.近年では術式が白内障手術に近いことから,これまで屈折矯正手術を専門としていない術者も増えているが,術後乱視のマネージメントに関しては通常の白内障手術と異なる点があるため,本稿でそのポイントを解説する.C●ICLおよびtoricICLICLには近視のみを矯正するCnon-toricレンズと近視および乱視を矯正するCtoricレンズのC2種類がある.屈折度数は-0.5D~-18.0D(うち国内承認範囲は-3.0~-18.0D),乱視度数は+0.5~+6.0D(うち国内承認範囲は+1.0~+4.5D)と矯正範囲が広いのが特徴である.ICLの度数計算は白内障手術と異なり,他覚検査ではなく自覚屈折値にてほぼ決定するため,まず正確な視力検査を行うことが重要となる.●手術手技と惹起乱視量ICLは耳側角膜切開が基本であるが,STAAR社から提供されるCICL専用のインジェクターの形状から,レンズ挿入にはC3.0~3.2Cmmの切開幅を必要とする.図1に過去に清水が報告1)した耳側角膜切開幅と乱視量の関係を示す.清水の報告によるとC3.2CmmではC0.24Dの惹起乱視が生じ,最新のCkamiyaらの報告でもほぼ同様である2).ICL手術対象の若年者の場合,ほとんどが直乱視であるため,3.0~3.2Cmmの耳側切開で手術を行うと術後に角膜乱視はC0.2~0.3D,自覚乱視はC0.5D程度直乱視が強くなることを考慮しなければいけない.C●上方角膜切開によるICL挿入直乱視例は角膜耳側切開で直乱視化することから,逆に角膜上方切開にて惹起乱視を利用し直乱視を軽減させる方法がある.図2にCkamiyaら2)の直乱視例に対する角膜耳側切開と上方切開での角膜乱視度数の変化を示す.上方切開では術後角膜乱視がC0.23D程度軽減しており,自覚乱視ではおおむねC0.5D程度の直乱視軽減効果があると考える.このように直乱視が多いCICL対象C2.5CornealAstigmatism(D)2.01.51.00.50.4術後乱視変化(D)0.0図2術前・術後3カ月の角膜乱視度数の変化(耳側切開,(文献C1より改変引用)C上方切開)(文献C2より引用)(63)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2C022C3250910-1810/22/\100/頁/JCOPY96.4%(425/441)軸ずれ修正なしTotal:441眼3.6%(16/441)軸ずれ修正あり93.8%(15/16)水平固定図3ToricICL挿入後1年までの乱視軸ずれによる修正の有無例では上方切開を行うことで直乱視が軽減できるため,近年筆者はほとんど上方切開で行うようになっており,non-toricレンズを選択する割合が増えている.ただし,角膜上方切開は手術手技上少し注意が必要である.適切な角膜切開位置がポイントとなるが,上方は耳側と比べ瞳孔中心に近いため,あまり角膜寄りに切開を行うと惹起乱視が強く起こりすぎる可能性があり,場合によっては術後に斜乱視化や倒乱視化することとなる.また,逆に強膜寄りに切開すると出血が多く術野の透見が不良になり,切開創の閉鎖不全も起こりやすく,また上方隅角が下方に比べ浅いことから虹彩脱出が生じやすくなる.筆者は上方切開を行う場合はそれらを考慮し,whitetowhite部分のやや角膜側を切開位置としている.C●ToricICLの回転前述のように軽度直乱視であれば角膜上方切開にて乱視軽減は可能であるが,より強い乱視例ではCtoricレンズを用いることで良好な臨床成績を得ることができる.しかし,toricレンズで注意すべき点は,術後のレンズ回転による乱視矯正効果の減弱である.通常,toricレンズはC1°のずれで約C3%乱視矯正効果が減弱するとされており,30°レンズが回転してしまうと,理論上,乱視矯正効果はほとんどなくなることになる.ToricICL挿入後C1年経過観察できた症例の乱視軸ずれに対して修正処置を行った割合を図3に示す.近年はサージカルガイダンスも登場し,より正確な術中のレンズ固定が可能となっているが,このデータはすべてマニュアルでマーキングを行った例であり,術直後の位置修正も含まれている.術後に位置修正が必要であった例はC3.6%であり,過去の報告と同様かやや少ない割合である.一般的に術後レンズが回転する原因にレンズサイズが小さいことがC326あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022あげられるが,筆者は固定位置がより重要と考えている.解剖学的に眼内のCsulcustosulcusは垂直方向のほうが水平方向に比べて約C0.3Cmm長い3)とされており,レンズ固定位置として理論的には長い方向に固定したほうが安定する.図3における術後位置修正が必要となった症例のほとんどは水平固定であり,1眼の位置補正を行った垂直固定例は術直後に施行した例であったことから,長期的には垂直固定のほうがレンズ位置は安定するのではないかと考えている.C●おわりに本稿で説明したように,ICLにおける乱視矯正の一番の問題点は大きな切開幅による惹起乱視である.図1に示すように清水は惹起乱視がほとんど生じない乱視中立の切開サイズはC2.5Cmm程度としており,より小さな切開創で挿入できるインジェクターが望まれる.最近,既存の白内障手術に用いるインジェクターを応用して小切開でCICL挿入を行う試みが始まっている.これらの安全性や有効性については,また症例が集まりしだい報告したい.文献1)清水公也:角膜耳側切開白内障手術.眼科C37:323-330,C19952)KamiyaCK,CAndoCW,CTakahashiCMCetal:ComparisonCofCmagnitudeCandCsummatedCvectorCmeanCofCsurgicallyCinducedastigmatismvectoraccordingtoincisionsiteafterphakicCintraocularClensCimplantation.CEyeVis(Lond)C8:C32,C20213)BiermannJ,BredowL,BoehringerDetal:EvaluationofciliaryCsulcusCdiameterCusingCultrasoundCbiomicroscopyCinCemmetropicCeyesCandCmyopicCeyes.CJCCataractCRefractCSurg37:1686-1693,C2011(64)

眼内レンズ:硝子体内注射による後嚢損傷に起因する白内障

2022年3月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋424.硝子体内注射による後.損傷竹下百合香中尾功江内田寛佐賀大学医学部眼科学講座に起因する白内障抗VEGF薬硝子体内注射後に後.破損および外傷性白内障を生じた患者に対し,硝子体手術を併施せずに水晶体再建術のみを行った症例を提示する.後.破損を認める患者では,術中合併症を回避するためにも,破損部位が拡大しないようなより慎重な手術操作が必要となる.●はじめに抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬は2008年に日本で承認されて以降,新規薬剤が続々と承認され,その適応疾患も徐々に拡大されている.今後は抗VEGF薬の注射数のさらなる増加が見込まれる.その一方で,ときに注射針による後.破損に起因する外傷性白内障に遭遇することがある.本稿ではそのような場合の術手技を紹介する.●症例77歳,女性.右眼視力低下を主訴に当院を紹介受診した.視力は右眼0.02(n.c),左眼0.15(0.2×sph-0.5D(cyl-1.0DAx180°),眼圧は右眼13mmHg,左眼13mmHgであった.これまで前医で右眼糖尿病黄斑浮腫に対し抗VEGF薬の硝子体内注射を計3回施行されていた.両眼に中等度の核白内障を認め,右眼には中央耳側に層状の強い水晶体皮質混濁を認めた.細隙顕微鏡では皮質混濁により後.の状態は視認できなかったが,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で後.破損,水晶体皮質の脱出を認めた(図1).注射針による外傷性白内障と診断し,右眼水晶体再建術を施行した.通常どおり連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)を遂行した.後.損傷部が拡大する可能性を考慮し,hydrodissectionは行わずに超音波乳化吸引術(phacoemulsi.cationandaspi-ration:PEA)を開始した.水晶体核を1/6~1/4程度に分割し,分割フックにてやさしく核を前房内へ掻き出すよう脱臼させることを繰り返し(図2a),脱臼させた核を随時,超音波乳化吸引した(図2b).1/4以上の核を処理し,後.への水圧負荷がかかりにくくなったところで,軽くhydrodissectionを施行した.残存した核を処理し,通常通り灌流吸引(irrigation/aspiration:I/A)チップにて皮質処理を行った.いずれも,ボトルの高さや吸引流量は通常と同様の設定で行ったが,硝子体脱出は認めなかった.皮質処理後,術前に皮質混濁の強かった部位に後.破損を認めた(図2c).眼内レンズは,後.破損の程度が大きくなかったことから,1ピースアクリルレンズ(XY-1,HOYA)を.内に固定した.術後右眼視力は0.1(0.15×sph+1.50D(cyl-2.0DAx110°)に改善した.術後,眼内レンズの偏位は生じていない.●おわりに注射針による後.破損例に対しては,術中に後.破損図1術前の細隙灯顕微鏡写真(a)および前眼部OCT画像(b)a:中央耳側に層状の強い水晶体皮質混濁を認める.後.破損は混濁のため確認できなかった.b:後.破損,水晶体皮質の脱出を認めた(←).(61)あたらしい眼科Vol.39,No.3,20223230910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2術中所見a:dvivideandconquer法にて核を2分割したのち,phacochop法で核を小さく分割した.b:分割した核を分割フックで脱臼させてから超音波乳化吸引を施行した.c:1/4以上の核を処理したのち,hydrodissectionを施行した.d:皮質処理後,中央耳側に後.破損を認めた(←).図3術後の細隙灯顕微鏡写真1ピースアクリル眼内レンズを.内固定後,眼内レンズの偏位は認めなかった.の拡大をきたすことから,硝子体手術を併用した水晶体再建術を施行する場合が多く,それらの報告もなされている1).とくに他の合併症をもつ場合は,それらの増悪などを回避する意味でも最少侵襲の手術が望ましいことはいうまでもない.本症例のようにあらかじめ術中に生じうる合併症を想定し,丁寧によく考えた戦略的な手術を施行することで,侵襲の少ない手術の実現が可能になる場合もある.術中合併症が拡大した場合は硝子体手術手技も必要となることも想定されるが,まずは最少侵襲の手術を心がけることも重要である.文献1)加納俊祐,清崎邦洋,福井志保ほか:硝子体注射1カ月後に診断された外傷性白内障の1例.あたらしい眼科36:544-547,2019

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 10.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その3)

2022年3月31日 木曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院10.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その3)■はじめに前回のセミナーでは比較的シンプルに処方できる有水晶体眼症例や人工水晶体眼(白内障術後)症例,モディファイド・モノビジョン法を使用した症例を紹介した.今回のセミナーではさらに工夫を要する遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multi-focalsoftcontactlens:MFSCL)の処方について解説する.■少し工夫を要したMFSCL処方例<処方例1>低加入度数MFSCLと高加入度数MFSCLの併用58歳,男性.事務職.球面1日使い捨てSCLの度数を落として対応していたが,遠くも近くも見にくくなってきた.・完全矯正屈折値RV=(1.2×sph-5.50D)利き目LV=(1.2×sph-4.75D)近見に必要な加入度数は両眼ともに+1.75D・使用SCLRV=(0.8×880/-4.50/14.2)LV=(0.7×880/-4.00/14.2)BV(両眼遠見視力)=(0.8×SCL)NBV(両眼近見視力)=(0.5×SCL)・初回処方MFSCL:シード1dayPureマルチステージ(図1)RV=(0.9×880/-4.75/14.2/+0.75)LV=(0.9×880/-4.00/14.2/+0.75)BV=(0.9×MFSCL)NBV=(0.5×MFSCL)これで満足が得られたら処方終了であるが,遠くも近くも前のレンズよりもよく見えるが,もう少し近くが見えるようになりたいとのことであった.・2回目処方MFSCLそこで非利き目を近見優先にする目的で,右眼はそのままで左眼の度数を-3.75Dに落とした.BV=(0.8×MFSCL)NBV=(0.6×MFSCL)この結果,近くは見やすくなったが,遠くが見にくくなった.(59)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1シード1dayPureマルチステージ中心遠用二重焦点MFSCLで移行部を有している1日使い捨てタイプのレンズである.・3回目処方MFSCL利き目の度数を-0.25D強くした.BV=(1.0×MFSCL)NBV=(0.5×MFSCL)この結果,遠くは見やすくなったが,近くが見えにくくなった.・4回目処方MFSCLそこで利き目の度数はそのままの-5.00Dにして,非利き目は最初の度数の-4.00Dに戻して強い加入度数のレンズを選択した.BV=(1.0×MFSCL)NBV=(0.7×MFSCL)この結果,遠見も近見も満足のいく結果が得られた.このように利き目は低加入度数,非利き目は高加入度数のMFSCLを用いることでうまくいった.■乱視眼へのMFSCL処方-0.75Dくらいまでの乱視眼であれば,通常のMFSCLでどうにか満足できる程度の遠近視力を提供できるが,それ以上の乱視になると工夫が必要になる.近年,乱視の入ったMFSCLトーリックが市販されており,とても処方しやすくなったが,その前にディセンターのMFSCLで満足のいく結果を得られた症例があるので紹介する.<処方例2>中心ディセンターの近用二重焦点タイプ47歳,女性.美容師.トーリックSCLを使用していたが近くが見にくくなってきた.あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022321図22WEEKメニコンプレミオ遠近両用・完全屈折矯正値RV=(1.2×sph-5.75D(cyl-0.75DAx180°)利き目LV=(1.2×sph-6.00D(cyl-1.25DAx180°)・使用SCL:メダリスト66トーリックRV=(1.2×850/-5.25/14.5/cyl-0.75Ax180°)LV=(1.2×850/-6.50/14.5/cyl-0.75Ax180°)BV=(1.2×SCL)BNV=(0.4×SCL)・初回処方SCL:メダリスト・マルチフォーカルR:900/-6.00/14.5/LowL:900/-6.50/14.5/LowBV=(0.8×MFSCL)BNV=(0.5×MFSCL)使用中のレンズよりも見やすいとのことで2週間試用させたが眼精疲労が強く,他のレンズを希望.・2回目処方MFSCL:2WEEKメニコンプレミオ遠近両用バイフォーカルデザイン(図2,3)R:860/-6.50/14.2/HighL:860/-6.50/14.2/HighBV=(1.0×MFSCL)BNV=(0.6×MFSCL)ディセンタータイプのMFSCLは比較的乱視眼であっても遠近ともに視力が出やすいという印象をもっていたが,この症例では満足のいく結果が得られた.<処方例3>モノビジョン法を用いて処方49歳,女性.主婦.トーリックSCLを試用していたが近くが見えにくい.・完全屈折矯正値RV=(1.2×sph-8.50D(cyl-0.75DAx180°)利き目LV=(1.2×sph-6.50D(cyl-2.25DAx180°)・使用SCL:メダリスト66トーリックR:850/-8.00/14.5/cyl-0.75DAx180°図32WEEKメニコンプレミオ遠近両用のデザインa:加入度数+1.0D,+2.0Dではプログレッシブデザインが採用されている.遠近度数の間には累進的に中間用度数が配置されている.b:加入度数+2.0Dのみにバイフォーカルデザインのものが用意されている.遠近度数のみがあり,近用度数は鼻側にディセンターに配置されている.L:850/-6.50/14.5/cyl-1.75DAx180°BV=(1.2×SCL)BNV=(0.4×SCL)この症例は右眼の球面度数が強いので,強弱主経線で頂点間補正を行ったところ,実際の乱視度数は-0.50Dとなり,MFSCLでも有効な遠近視力が得られる可能性が高いと推測されたので試してみた.・初回処方MFSCL:右眼メダリスト・マルチフォーカルR:900/-8.50/14.5/LowL:850/-6.50/14.5/cyl-1.75DAx180°BV=(1.0×SCL)BNV=(0.5×SCL)2週間試用させたところ,近くが見えにくく疲れやすいとのことであった.・2回目処方SCLR:900/-8.50/14.5/HighL:850/-6.50/14.5/cyl-1.75DAx180°BV=(1.0p×SCL)BNV=(0.6×SCL)この処方で満足のいく結果が得られた.このように乱視の少ない方の眼にMFSCL,乱視の強いほうにトーリックSCLを処方するモノビジョン法を用いて成功することがある.■おわりに以上の処方例は乱視用MFSCLが市販される前の対処法であり,市販後の処方については次回以降のセミナーで解説する.

写真:帯状疱疹後に角膜ぶどう膜炎を認めた症例

2022年3月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦454.帯状疱疹後に角膜ぶどう膜炎を南幸佑横井則彦京都府立医科大学眼科学教室認めた症例図1初診時前眼部所見Dscemet膜皺襞と結膜充血を認める.図3初診時角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルター使用)角膜周辺のC3時からC6時にかけて上皮欠損を認める.図4当科終診時前眼部所見角膜実質浮腫,結膜充血の改善を認める.(57)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C3190910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は72歳,女性.頭部と顔面の痛みを自覚し,内科を受診.帯状疱疹と診断された.バラシクロビル3,000mgの内服が開始されたが,その後左眼の充血を認めたため,アシクロビル眼軟膏の点入が追加された.しかしC1週間経過しても症状の改善が認められなかったため,近医眼科を受診し,翌日当院を紹介されて受診した.受診時の左眼前眼部所見としてCDscemet膜皺襞と結膜充血(図1,2),角膜上皮欠損(図3),角膜実質浮腫および角膜後面沈着物を認めた.最大矯正視力は右眼C1.5,左眼C0.2と左眼で悪く,眼圧は右眼C15CmmHg左眼C20CmmHgと左眼で高く,左右差を認めた.バラシクロビルC1,000mg/日の内服を継続し,ベタメタゾン1Cmg/日の内服,1.5%レボフロキサシンC2回/日および0.1%フルオロメトロンC4回/日の点眼で治療を開始した.1週間後の再診時には左眼角膜の上皮欠損,実質浮腫に改善を認め,左眼圧の低下を認めた.ベタメタゾン内服を終了し,フルオロメトロン点眼をC0.1%ベタメタゾンC3回/日の点眼に強化して治療を継続し,その後,角膜実質浮腫や視力のさらなる改善を認めたため,ベタメタゾン点眼を再びフルオロメトロンC3回/日とし,左眼矯正視力はC0.9まで改善したため,フルオロメトロン2回/日を継続として紹介元での経過観察を指示した(図4).しかし,1カ月後に左眼の結膜充血と角膜実質浮腫の再発を認めたため,同様の治療を行い,1週間後に寛解を得たため,バラシクロビルの内服を中止し,アシクロビル眼軟膏C2回/日とフルオロメトロンもC2回/日を投与しながら経過観察を行った.その後は再発を認めなかったため,アシクロビル眼軟膏をC1回/日,フルオロメトロンC1回/日で経過をみている.今回の経過において,角膜内皮細胞密度の左右差や減少はみられなかった.眼部帯状ヘルペス(herpesCzosterophthalmicus:HZO)とは,三叉神経第一枝神経節に潜伏感染した水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)が再活性化し,眼病変を示すものであり,1865年にHutchinsonによって報告された1)が,HZOにおいて鼻毛様体神経が関与すると,50~76%の頻度で眼病変を合併するとされる2).そして,鼻部の皮疹はCHutchinson徴候として知られ,眼疾患の出現の可能性を示唆する指標とされる.HZOのC2/3の患者になんらかの角膜病変,すなわち,偽樹枝状病変,角膜実質浸潤,角膜炎,強膜炎,角膜内皮炎などを呈する3).また,皮疹が消失し,1週間ほど経過したのちに,角膜ぶどう膜炎を生じることがあり,眼圧上昇,角膜浮腫,虹彩萎縮を認め,その病態はウイルスに対する免疫反応によると考えられている.今回経験した角膜ぶどう膜炎では,角膜の実質浮腫や後面沈着物,眼圧上昇を認めたが,経過観察中に虹彩萎縮がみられることはなかった.VZVによる角膜ぶどう膜炎に対する治療は,標準的な抗ウイルス治療に加えて副腎皮質ステロイドを使用する.ステロイドの使用は角膜ぶどう膜炎の病態の中心をなす免疫反応に伴う炎症所見に対して有用であり,アシクロビルによる治療はウイルスの再活性化を抑え,角膜ぶどう膜炎の再発を抑制する4).今回の症例では,フルオロメトロン点眼を漸減したC1カ月後に角膜ぶどう膜炎の再発を認めたため,その後,アシクロビル眼軟膏とフルオロメトロン点眼を眠前C1回継続することで,現在に至るまで寛解を得ている.HZOに伴う角膜ぶどう膜炎では,初回の治療開始時に治療が長期になる可能性があることを説明しておくことも重要である.文献1)HutchinsonJ:Aclinicalreportonherpeszosterfrontalisophthalmicus(shinglesCa.ectingCtheCforeheadCandnose)C.CRLondonOphthalmolHospRepC5:191,C1865COphthalmicCHospitalCReportsCandCJournalCofCtheCRoyalCLondonCOphthalmicCHospitalC3:865-866,1864;C5:191,C18652)CoboCM,CFoulksCGN,CLiesegangCTCetal:ObservationsConCtheCnaturalChistoryCofCherpesCzosterCophthalmicus.CCurrCEyeResC6:195-199,C19873)MarshRJ:Herpeszosterkeratitis.TransOphthalmolSocC93:181-192,C19734)Hu.CJC,CBeanCB,CBalfourCHHCetal:TherapyCofCherpesCzosterwithoralacyclovir.AmJMedC85:84-88,C1988

総説:肥満症と糖尿病血管合併症

2022年3月31日 木曜日

あたらしい眼科39(3):313.318,2022c第26回日本糖尿病眼学会総会特別講演肥満症と糖尿病血管合併症TheAssociationbetweenObesityandDiabeticVascularComplications石垣泰*はじめに第26回日本糖尿病眼学会総会の特別講演の機会をいただき,会長の高木均先生と座長の曽根博仁先生に心より感謝申しあげたい.高血糖が糖尿病血管合併症のリスクであることは論を待たないが,インスリン抵抗性,さらにその上流である肥満の影響については明らかでない点も多い.本稿ではこれまでの報告を整理していきたい.I肥満症と内臓脂肪蓄積国民健康栄養調査によると,わが国では男性はおおむねどの年代もBMI25以上の肥満者は年々増加する傾向にある.一方で,女性はほぼすべての年代で肥満者の割合は横ばいで推移しており,わが国の肥満の動向は性と年代によって異なる.日本肥満学会から1993年に初めて肥満症の診断基準が出され,その後2000年にbodymassindex(BMI)25以上を肥満とする基準が定められた.あらためて定義を確認すると,BMI25以上が肥満であり,加えて関連する健康障害を合併したもの,あるいは内臓脂肪蓄積が認められるものを肥満症として取り扱っている1).わが国では,とくに代謝異常の原因として内臓脂肪蓄積を一貫して重視していることが特徴である.肥満に起因・関連する健康障害とは,代謝異常をはじめ月経異常,整形外科的疾患なども含まれ,いずれも体重増加で増悪し,減量によって病態の改善が期待できるものである(表1).内臓脂肪型肥満は男性に優位にみられ,増えやすく減りやすいのが特徴である.皮下脂肪型肥満は女性に多表1肥満に起因ないし関連し,減量を要する健康障害1.肥満症の診断基準に必須な健康障害1)耐糖能異常(2型糖尿病・耐糖能異常など)2)脂質異常症3)高血圧4)高尿酸血症・痛風5)冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症6)脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作(TIA)7)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)8)月経異常,不妊9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)・肥満低換気症候群10)運動器疾患:変形性関節症(膝,股関節)・変形性脊椎症,手指の変形性関節症11)肥満関連腎臓病2.診断基準には含めないが,肥満に関連する健康障害1)悪性疾患:大腸がん,食道がん(胃がん),子宮体がん,膵臓がん,腎臓がん,乳がん,肝臓がん2)良性疾患:胆石症,静脈血栓症・肺塞栓症,気管支喘息,皮膚疾患,男性不妊,胃食道逆流症,精神疾患(肥満症診療ガイドライン2016より)く,下半身や大腿に脂肪がつきやすい.いずれの体脂肪も体重増加につながるが,内科的疾患の原因となるのは内臓脂肪で,内臓脂肪面積が大きくなるとともに,糖,脂質,血圧異常といったリスク因子が増加していく.女性は皮下脂肪優位だが,内臓脂肪が蓄積するにつれリスク因子が増えていくのは男性と同様である.内臓脂肪蓄積のスクリーニング目安は,ウエスト周囲径が男性85mm,女性90mmである.体格の大きい男性のほうがウエストの基準値が小さい理由は,腹部CTで測定した内臓脂肪面積100cm2に,男性は85cm,女性は90cmのウエスト周囲径が相当するためである.内臓脂*YasushiIshigaki:岩手医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科分野〔別刷請求先〕石垣泰:〒028-3695岩手県紫波郡矢巾町医大通2-1-1岩手医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(51)313図1内臓脂肪蓄積と血管合併症の関係肪蓄積が糖代謝,脂質代謝,血圧などに異常を及ぼす機序は,脂肪細胞から分泌されるさまざまな物質,アディポサイトカインのバランスの異常で説明されている.すなわち,一つひとつの内臓脂肪細胞が肥大化することにより,インスリン抵抗性を惹起する遊離脂肪酸やCTNFaなどのサイトカインの分泌が増加し,代謝改善や血管保護作用を有するアディポネクチンの分泌が低下することで代謝に悪影響を及ぼす.内臓脂肪蓄積に対して早期に介入することが特定健診の大きなミッションであり,内臓脂肪蓄積の概念を身近にしたのがメタボリックシンドロームである.一方で,皮下脂肪面積の増加はリスク因子に影響しないことが示されていることに加えて,皮下脂肪を欠失した脂肪萎縮症や皮下脂肪を除去したマウスは強いインスリン抵抗性を示すことが知られており,皮下脂肪の役割については議論が続いている.肥満,とくに内臓脂肪蓄積はアディポサイトカインの分泌異常に加えて,脂肪組織へのマクロファージ浸潤や肝臓,筋肉などへの異所性脂肪沈着,内臓脂肪由来の遊離脂肪酸の上昇などが相まってインスリン抵抗性を生じさせる.これが,糖尿病,高血圧,脂質異常といった代謝異常を引き起こすことで動脈硬化性疾患や腎障害のリスクを上昇させる.もちろん肥満以外の原因によっても代謝異常が引き起こされるほか,高CLDLコレステロールや喫煙も血管障害の原因となる(図1).II肥満症と糖尿病血管合併症肥満はインスリン抵抗性を介して糖尿病を悪化させるので,糖尿病血管合併症全般に悪影響を及ぼすと考えられる.しかし,統計的に多因子の解析を行うと,肥満と交絡性の強い糖尿病や脂質異常症の寄与度が大きくなり,肥満単独としてはリスク因子として残らないといわれている.まず,大血管障害に関しては,アジア人C112万人を平均C10年間追跡したコホート研究では,BMIが高い肥満群では動脈硬化性疾患のリスクが高いことが示されており,またCFraminghamCHeartStudyの解析では,内臓脂肪の蓄積が高くなるに従って心血管疾患の発症率は上昇し,内臓脂肪蓄積が動脈硬化の強いリスクであることがわかる.細小血管障害のリスク因子としては,網膜症と神経障害においては血糖コントロールと糖尿病罹病期間の寄与度が高く,肥満単独の影響は重要視されていない.しかし,糖尿病性腎症の重症化リスク因子の一つとして,肥満や内臓脂肪蓄積をあげている報告が多い.糖尿病網膜症と肥満の関係について,いくつかの研究を紹介する.500名弱を検討したシンガポールの横断研究では,BMIが小さい,すなわちやせ型であるほど網膜症のリスクが高いことが報告されている2).たしかに,筆者らが診療している網膜症の進行した患者でも,糖尿糸球体肥大・巣状糸球体硬化症蛋白尿(アルブミン尿)図2肥満関連腎臓病の発症機序病罹病期間の長い,インスリン分泌の低下したやせ形の人が多い印象がある.一方,この研究では,内臓脂肪蓄積を意味するウエストヒップ比が高いほど網膜症が多い,すなわち内臓脂肪蓄積と網膜症の発症頻度は相関すると考えられ,血糖コントロールなどで補正後も同様の傾向であった.網膜症とCBMIのデータがある臨床研究C27件のメタ解析では,BMIをC25以上,あるいはC30以上で群別化した場合でも,BMIを連続変数とした解析でも,BMIが高いことは網膜症の存在とは関連を示さなかった3).複数の指標で肥満を評価した中国人C4,600名を対象にした横断研究では,首まわり,ウエスト周囲長,ウエストヒップ比に加えて,生化学的パラメーターも計算に加えたいくつかの内臓脂肪蓄積の指標と,糖尿病血管合併症との関係を解析している4).興味深いことに脳心血管疾患や糖尿病性腎臓病(diabeticCkidneydisease)は内臓脂肪蓄積によってリスク上昇がみられるが,網膜症は男女ともに関係を示さなかった.このように,肥満と網膜症の関係は,研究報告によって結果が異なっており,コンセンサスが定まっていない状況といえる.糖尿病性腎症と肥満との関係は明らかである.アジア人を対象としたメタ解析では,微量アルブミン尿,あるいはCeGFR低下で定義された糖尿病性腎症はCBMI30以上の肥満,内臓脂肪蓄積の両方に強い関連を示していた5).肥満に伴う健康障害のなかに肥満関連腎臓病という疾患名があげられている.すなわち,肥満状態では糸球体過剰濾過が引き起こされ,糸球体内圧の上昇から糸球体肥大を招き,尿蛋白が出やすい状態になる.加えて,インスリン抵抗性やアディポサイトカインの異常もさまざまな機序で糸球体肥大,巣状糸球体硬化に寄与する(図2).このため,肥満者では糖尿病性腎症と相まって蛋白尿・腎障害が高頻度にみられる.肥満患者の腎障害を考えるうえでは,糖尿病性腎症単独の関連を評価することはむずかしく,肥満関連腎臓病の影響で肥満C2型糖尿病患者では尿蛋白の出現が高頻度にみられる.糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)は糖尿病専門医のクリニックが中心となって,20年にわたって活動している研究組織である.登録されている全国C51施設,5万C5千例あまりのC2型糖尿病患者のCBMIはこのC5年余りC25弱で横ばいとなっている.筆者は,JDDM登録時患者のなかから,BMI35以上の高度肥満者C1,061名を選定し,さらに網膜症,腎症のデータがそろっているC555名を抽出した.これに対して,性,年齢,糖尿病罹病期間でマッチングした同数のCBMI20.25の非肥満者との比較検討を行った.日本人高度肥満2型糖尿病患者は非肥満C2型糖尿病患者に比べて血糖コントロールが不良で,高血圧と脂質異常症の有病率が高いことがわかった.網膜症のステージについて高度肥満群と非肥満群を残渣検定で比較したところ,網膜症の有病率や重症度には差がないことが示された(表2).海外からの報告と同様に,日本人C2型糖尿病患者でも肥満度は網膜症に影響しない可能性が示唆された.一方,腎症に関しては高度肥満群における高い有病率が認められた.この結果からは,日本人高度肥満は糖尿病性腎症に強く寄与しているものの,糖尿病網膜症に対してはニュートラルであると考えられる.表2非肥満群と高度肥満群の2群間の網膜症ステージ非肥満群(2C0.0≦BMI<2C5.0)高度肥満群(3C5.0≦BMI)p値網膜症有効数C555調整済み残渣有効数C555調整済み残渣C0.422所見なし(%)422/555(C76.0)-0.4427/555(C76.9)C0.4単純網膜症(%)90/555(C16.2)-0.293/555(C16.8)C0.2前増殖網膜症(%)13/555(C2.3)-0.717/555(C3.1)C0.7増殖網膜症(%)27/555(C4.9)C1.517/555(C3.1)-1.5失明(%)3/555(0C.5)C1.01/555(0C.2)-1.0X2Ctest.CResidualCanalysis.(日本糖尿病データマネジメント研究会登録症例の解析より)III減量による糖尿病合併症の改善腹部肥満に積極的に介入する特定健診のデータが蓄積されてきたことで,体重減少率がわずかC2%やC4%であっても有意にCHbA1cおよび空腹時血糖値が低下することが明らかになった.すなわち糖尿病コントロールを改善するためには,わずかであっても減量に取り組むことの重要性が共通の認識となっている.米国糖尿病学会の指針でも,肥満C2型糖尿病患者では5%の体重減少が目標とされている.2型糖尿病患者を対象に生活習慣介入による減量と代謝指標を検討した17試験のメタ解析では,12カ月でC5%減量することで,HbA1c,LDL-C,トリグリセリド,血圧が改善することが示され,5%体重減少をめざす根拠の一つとなっている.減量に向けての治療にはC5本の柱,すなわち食事療法,運動療法,認知行動療法,薬物治療,外科治療がある.なかでも食事療法は肥満症治療の根幹をなすもので,エネルギー摂取量を制限することでまずはC3%の体重減少をめざす.通常食でのエネルギー制限がむずかしい場合は,フォーミュラ食への置き換えなどを推奨する.食事・運動療法による肥満C2型糖尿病患者への介入を試みたのがCLookAHEAD研究である6).5,145名の大きな規模でおよそC8年にわたって,エネルギー制限,日常的な運動などの生活習慣に対する介入が行われた.介入群では開始後C1年間は大幅な減量と糖尿病改善が認められたが,その翌年にはリバウンドがみられた.結果的に介入群の減量幅は最後まで通常治療群より大きかったものの,主要エンドポイントである心血管イベントの抑制はみられなかった.この研究からは数多くのアドホック解析が発表された.たとえば,1年後以降にリバウンドしたとしてもC1年後の時点で減量幅が大きかった患者は予後が良好であることや,試験終了時に良好なデータを示した患者は期間を通じて良好な生活習慣が保たれていたことなどが示されている.このCLookCAHEAD研究は,生活習慣の介入を長期間継続することの困難さをはじめ,肥満症診療に関する数多くの知見を示したが,大血管障害をはじめとする糖尿病血管障害に対する明確な結果は得られなかった.筆者が肥満症診療でもっとも大事だと考えているのはセルフモニタリングである.肥満症患者は体重を計らない,測りたくない人が少なくないので,体重測定を習慣化し,毎日の体重変化を自覚することで,生活へフィードバックされることを促す.合わせて歩数などの活動量や食事記録を記入することで,生活習慣の見直しにつなげたい.診察時にノートを持参してもらうことで,体重変化などを共有し医師やコメディカルからのアドバイスが広がることが期待される.肥満症に対するもっとも強力な治療法は外科手術である.欧米ではバイパス系の手術が主流だが,わが国ではスリーブ状胃切除術が保険適用となっている.2015年版からの日本糖尿病学会のガイドラインでも,高度肥満症を伴うC2型糖尿病に対して外科療法の有効性が記載されており,選択肢の一つとして明示されている.現時点の手術適応は,BMIがC35以上で糖尿病などの合併症を一つ以上有する者,あるいはC6カ月以上の内科的治療によっても合併症コントロールが改善しないCBMI32.5以上の者である(表3).日本における肥満外科手術の件数は,最近では年間C1,000例に迫るまで増加しているが,世界では年間C50万件以上が行われており,わが国でもこの治療の普及に向けてさまざまな活動が行われているところである.減量手術・バリアトリックサージェリーや代謝手術・メタボリックサージェリーなどと呼称されてきたが,わが国では減量・代謝改善手術に統一される表3肥満外科治療の適応肥満症治療学会ガイドライン2013(『日本における高度肥満症に対する安全で卓越した外科治療のためのガイドライン(2013年版)』)・18歳.65歳・BMIC35以上・BMIC32以上かつ肥満に関連する合併症がC2つ以上(糖尿病の場合はC1つ)・6カ月以上の内科治療によっても有意な体重減少や合併症改善がない保険適用(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術)・6カ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないCBMIがC35以上の肥満症の患者であって,糖尿病,高血圧症,脂質異常症または閉塞性睡眠時無呼吸症候群のうちC1つ以上を合併しているもの.・6カ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないCBMIがC32.5.34.9の肥満症およびHbA1cがC8.4%以上の糖尿病の患者であって,高血圧症(6カ月以上,降圧薬による薬物治療を行っても管理が困難(収縮期血圧C160.mmHg以上)なものに限る),脂質異常症(6カ月以上,スタチン製剤などによる薬物治療を行っても管理が困難(LDLコレステロールC140Cmg/dl以上またはCnon-HDLコレステロールC170Cm/dl以上)なものに限る)または閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI≧30の重症のものに限る)のうちC1つ以上を合併しているもの.ことになった.日本糖尿病学会,日本肥満学会,日本肥満症治療学会のC3学会が合同で,2型糖尿病患者に対する外科手術のコンセンサスステートメントを作成し公表された.岩手医科大学外科ではC10年以上前から肥満外科治療を先駆的に開始している.自験例のまとめでは,平均121Ckgあった高度肥満患者が,術後大きなリバウンドなくC90Ckg以下に減量し,その減量が維持されている.肥満外科治療は肥満関連健康障害のなかでも,とくに糖尿病に対する治療効果が劇的なことが知られている.米国の無作為化比較試験では,外科治療は内科治療に比べ,糖尿病治療薬が大幅に簡略化されても,長期間にわたって良好な血糖コントロールが得られていることが示されている.米国糖尿病学会では,世界中で肥満外科手術により糖尿病が大幅に改善する症例が増えていることから,糖尿病治療薬なしでCHbA1c6%未満に到達した状態を糖尿病の寛解と定義した.どのような患者に糖尿病寛解が得られるのか,いくつかの指標が提唱されていて,ABCDスコアが代表的である.Age,BMI,Cペプチド,Durationの頭文字で,手術時に若く,肥満度が高く,インスリン分泌が十分で,糖尿病歴が短い患者でより肥満外科治療による糖尿病治療効果が大きいことが示されている.実際に筆者らの自験例でも,ABCDスコアの良好な患者ではほぼ全員が薬物治療なしでCHbA1c6%未満が得られている.肥満外科治療による大幅な減量と糖尿病を中心とした効果によって,心血管疾患発症抑制や死亡率低下が得られることも報告されている.現時点でもっとも強力な肥満症治療法といえる.それでは,肥満外科治療で大幅に体重が減少することは,糖尿病血管合併症に対してどのような影響を及ぼすのだろうか.米国の医療情報データベースを基に,外科手術群C4,024名の術後の糖尿病血管合併症の新規発症率をみたコホート研究では,神経障害,腎症,網膜症のすべてでコントロール群と比較して半分以下の発症率に抑制されていた7).台湾のコホート研究は,症例数は比較的少ないものの,詳細に細小血管障害を検討しており,またすでに糖尿病合併症を発症している症例も含まれていることから,肥満外科治療による合併症改善効果も検討している.手術C2年後の評価をみると,腎症の指標はどれも大幅に改善していた8).神経障害の指標のうち,内顆振動覚の改善がみられる一方で,アキレス腱反射やモノフィラメント検査には変化がみられなかった.また,網膜症に関しては術前後で変化が認められなかった.肥満外科治療後の糖尿病網膜症に関する研究を集めたメタ解析によると,術後に網膜症の新規発症は抑制されるが,すでにみられていた網膜症の状態には変化がみられなかったとことが報告されている9).北欧の大規模研究によると,肥満外科術後に糖尿病細小血管障害の新規発症が抑えられるなかで,罹病期間がC4年以上の群では発症抑制が認められなかった10).術後の血糖コントロールは多くの患者で良好だったと思われるので,手術までの糖尿病罹病期間に蓄積した血管へのダメージが残存し増悪していった可能性があるため,肥満外科治療の実施はできるだけ早期に考慮することが望ましい.また,この研究では,手術の時点で増殖網膜症だった患者の眼科的予後を検討している.手術を受けなかった群に比べ,手術群では血糖管理は良好にもかかわらず,眼内出血,血管新生緑内障,網膜静脈閉塞が高率に発生している.いくつかの報告から,術後の網膜症悪化が懸念されるが,術後の増悪と関連する因子は術後の大幅なHbA1c低下,術前の網膜症の重症度であることが報告されており,肥満外科治療の糖尿病予後改善効果を十分に発揮するには,合併症が出現していない罹病期間の短い段階での実施がふさわしいことを改めて強調しておく.おわりに糖尿病性腎症を含めた慢性腎臓病に対して肥満は強い増悪因子であることが改めて確認できたが,糖尿病網膜症に関しては肥満の影響ははっきりしなかった.さらに,減量することで糖尿病網膜症の新規発症は抑制されるものの,すでに存在する網膜症の進展抑制が得られる可能性は低いと考えられた.糖尿病診療では糖尿病血管合併症の発症予防がもっとも重要であるため,体重管理に留意した良好な血糖コントロール維持をめざしていきたい.文献1)日本肥満学会編:肥満症診療ガイドラインC2016.ライフサイエンス出版,20162)ManCRE,CSabanayagamCC,CChiangCPPCetal:Di.erentialCassociationCofCgeneralizedCandCabdominalCobesityCwithCdia-beticCretinopathyCinCAsianCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CJAMAOphthalmolC134:251-257,C20163)ZhouCY,CZhangCY,CShiCKCetal:BodyCmassCindexCandCriskCofCdiabeticretinopathy:ACmeta-analysisCandCsystematicreview.CMedicine(Baltimore)C96:e6754,C20174)WanCH,CWangCY,CXiangCQCetal:AssociationsCbetweenabdominalCobesityCindicesCandCdiabeticcomplications:Chi-neseCvisceralCadiposityCindexCandCneckCcircumference.CCardiovascDiabetolC19:118,C20205)ManCRE,CGanCAT,CFenwickCEKCetal:TheCrelationshipCbetweenCgeneralizedCandCabdominalCobesityCwithCdiabeticCkidneyCdiseaseCinCtypeC2diabetes:aCmultiethnicCAsianCstudyCandCmeta-analysis.CNutrients10:1685,C20186)TheCLookCAHEADCResearchGroup:CardiovascularCe.ectsCofCintensiveClifestyleCinterventionCinCtypeC2Cdiabetes.CNEnglJMedC369:145-154,C20137)OC’BrienCR,CJohnsonCE,CHaneuseCSCetal:MicrovascularCoutcomesCinCpatientsCwithCdiabetesCafterCbariatricCsurgeryCversusCusualaare:aCmatchedCcohortCstudy.CAnnCInternMed169:300-310,C20188)ChangCYC,CChaoCSH,CChenCCCCetal:TheCe.ectsCofCbariat-ricCsurgeryConCrenal,Cneurological,CandCophthalmicCcompli-cationsCinCpatientsCwithCtypeC2diabetes:theCTaiwanCdia-besityCstudy.CObesSurgC31:117-126,C20219)MerlottiCC,CCerianiCV,CMorabitoCACetal:BariatricCsurgeryCandCdiabeticretinopathy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCcontrolledCclinicalCstudies.CObesityReviewsC18:C309-316,C201710)SjostromCL,CPeltonenCM,CJacobsonCPCetal:AssociationCofCbariatricCsurgeryCwithClong-termCremissionCofCtypeC2Cdia-betesCandCwithCmicrovascularCandCmacrovascularCcompli-cations.CJAMAC311:2297-2304,C2014☆☆C☆

近視進行抑制眼鏡アップデート

2022年3月31日 木曜日

近視進行抑制眼鏡アップデートCurrentKnowledgeontheUseofSpectacleLensesforMyopiaControl長谷部聡*はじめに二重焦点レンズからはじまる眼鏡による近視進行抑制の研究は,すでにC60年を超す歴史があり,高レベルのエビデンスが蓄積されている.屈折矯正が治療を兼ねることから,患児への時間的,経済的負担が少なく,長期間継続して使用できる.また,他の予防的治療で指摘されているような副作用や治療中止後のリバウンドの問題も少ない.有効性にはなお議論があるが,低濃度アトロピン点眼など他の予防的治療と併用することも可能かもしれない.しかし,累進屈折力眼鏡(progressiveCadditionClens-es:PAL)など在来型の多焦点レンズを利用した研究では,臨床的治療として有効とされる抑制率(30~40%)を得るに至らなかった1)(図1).この理由としてCFlitcroft2)は,ことに屋内においては,視線の方向や視距離,構造物の三次元的配置などの相互作用により,周辺部網膜におけるデフォーカスは絶えず大きく変動しており,眼鏡レンズのように固定された光学系では近視進行のトリガーと考えられている網膜後方へのデフォーカスを十分取り除くことはできないことを指摘している.しかし,眼鏡もギブアップしたわけではなかった.約10年前,複数の動物実験3~5)により,網膜上のフォーカスとは別に網膜前方へ大きなデフォーカスを組み込むことで,レンズ誘発近視を強力に抑制することが明らかになった.この理論(デフォーカス組込み理論)を基に,新しい近視進行抑制眼鏡であるCdefocusCincorporatedCmultiplesegments(DIMS)レンズ眼鏡6,7)が考案された.ランダム化比較試験(randomizedCcontrolledtrial:RCT)において,相ついで好成績が報告されたため,新たなブレイクスルーとして脚光を浴びている.現時点で,コンタクトレンズや低濃度アトロピンを含め,医薬品医療機器総合機構(PMDA)から承認を得た予防的治療は皆無であるが,海外での趨勢をみれば,ブリッジング試験を経て,DIMS眼鏡が早い時期にCPMDAの承認を受ける可能性もある.そこで本稿では,学童への近視進行抑制眼鏡に関する最新情報を解説する.CIPAL眼鏡治療機転としては,近業時にみられる網膜後方へのデフォーカス(調節ラグ)の軽減が主体である.調節は,視距離の変化という外乱に対して,網膜像を鮮明に保つためのフィードバック制御である.ところが実際に調節反応を測定すると,生物学的制御であるため,調節安静位(遠点に対してC0.5~1.5D近方)を起点として,視距離が短くなるとともに調節反応は鈍り,網膜後方へのデフォーカスが増大する特徴がある.眼軸長の視覚制御機転(visualregulationofaxiallength)においては網膜後方へのデフォーカスが眼軸長の進展を加速させるトリガーと考えられており,さらに,調節ラグに注目することで「近業は軸性近視を進行させる」という経験則を説明することができる.調節安静位ではデフォーカスは生じない,したがって,近視進行抑制に用いるCPALの近見*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学C2教室〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山市北区中山下C2-6-1川崎医科大学総合医療センター眼科C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(45)C307等価球面度数における平均抑制率(%)VL透過型眼鏡(2年)DIMS-Essilor(1年)DIMS-Hoya(2年)PAL(2年)PAL(1年)01020304050607080眼軸長における平均抑制率(%)VL透過型眼鏡(2年)DIMS-Essilor(1年)DIMS-Hoya(2年)PAL(2年)PAL(1年)01020304050607080図1報告されている抑制効果の比較VL透過型眼鏡では有意差が得られていない.VL:バイオレットライト,DIMS:defocusincorporatedmultisegmentslenses,PAL:progressiveadditionlenses.-図2HOYAのDIMS(MiyoSmart)(HOYA株式会社のご厚意による)Cab10mm図3DIMS眼鏡のデザインの違いHOYA社製の眼鏡(Ca)は微小(球面)レンズがハニカム状に配列されているのに対し6),Essilor社製の眼鏡(Cb)は微小(非球面)レンズが同心円状に配置されている7).いずれも中央にクリアゾーンをもち,矯正ゾーンと加入ゾーン(微小レンズ)の面積比はC6:4となっている.破線は一般的な眼鏡フレームサイズを示す.=図4DIMS眼鏡(HOYA社)の光学的作用微小レンズを除いた領域を通過する光線(黄色で示す)は網膜上に焦点を結ぶ.一方,微小レンズを通過する光線(赤色で示す)によって,網膜上の焦点からC3.5D前方に第2の焦点を組み込む(Ca).眼球運動が生じても,瞳孔領には常に複数の微小レンズが含まれるためコンプライアンスは低下しない(Cb).周辺視野から来る光線も,一部は微小レンズを通過するため,周辺網膜に対しても同様の効果が期待できる(Cc).図5Neitzの低光線拡散レンズ眼鏡=

とくに注意したい病態の眼鏡処方 調節の異常・心因性視覚障害を伴う近視

2022年3月31日 木曜日

とくに注意したい病態の眼鏡処方調節の異常・心因性視覚障害を伴う近視MiopiawithAccommodationInstability/PsychogenicVisualImpairment南雲幹*はじめに学童期に視力低下を訴え近視を呈する小児のなかには,調節の異常や心因性視覚障害などが原因で矯正視力が出にくいケースも少なくない.調節力が強い小児の場合は,視力が良好であっても調節麻痺薬を用いた屈折検査は不可欠であり,他覚的屈折値と自覚的屈折値に乖離があったり,視力値が不安定な場合には,その原因の検索を行う必要がある.心因性視覚障害の眼科受診の契機は学校健診での視力低下の指摘が多く1),遠方の視力不良という点では近視の症状と似ている.本稿では,調節の異常および心因性視覚障害を伴う近視について,診断に必要とされる検査や検査のポイントを述べ,調節けいれんおよび心因性視覚障害を伴う近視の具体的な症例を提示する.I調節緊張が伴う近視単純近視とは,比較的屈折値が弱く,眼鏡装用により正常視力まで矯正可能であり,視機能障害のない近視とされており,学童期に発症するほとんどの近視は単純近視といわれている2).調節緊張(accommodativecon-striction)は,近業を続けた毛様体の緊張(収縮)が持続し近視化を呈した状態をいう.遠方から近方への調節力は正常であるが,近方から遠方への調節緊張が弛緩されない,もしくは著明な時間を要し,屈折値として近視を呈する.1.検査方法調節が介入しやすい小児の近視では適切な調節麻痺薬を用い,調節の緊張をとったうえで屈折度数を確認し,自覚的屈折検査の結果を基に適切な眼鏡処方度数を判断する.調節麻痺薬として効果が強いのは1%アトロピン硫酸塩,シクロペントラート塩酸塩,ついでトロピカミドの順となる.トロピカミドは残余調節幅が5~7Dもあり調節麻痺薬としての効果は弱く,屈折度数の精密検査には適さない3).薬剤により点眼の目的や方法,作用効果,副作用(表1)の程度などが異なるため,保護者への説明を行い,年齢や症状などに合わせて用いる.学童期の場合,初診時や定期的な経過観察で近視度数の程度を調べるにはシクロペントラート塩酸塩を使用し,強い調節の異常や斜視が伴う場合にはアトロピン硫酸塩を使用することが望ましい.また,調節の介入をできる限り防ぐ検査方法として,自覚的屈折検査における両眼雲霧法が有用である4).この方法は自覚的屈折検査で得られた屈折度に,さらに2~3Dの凸レンズを加え,両眼開放下で一定時間(約30分間)装用させ,調節しにくい状態を作り,調節を寛解させる方法である.ある程度の集中力が必要とされるため,おもに小学生以上が対象となる5,6).両眼雲霧法の検査の流れを図1に示す.II調節けいれん調節けいれん(accommodativespasm)は毛様体筋の*MikiNagumo:井上眼科病院〔別刷請求先〕南雲幹:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(39)301表1調節麻痺薬の作用と副作用種類調節麻痺作用点眼方法作用持続時間おもな副作用アトロピン硫酸塩日点アトロピン点眼液1%点眼後数分から散瞳が始まる.調節作用は散瞳に遅れて始まり,作用の持続は3~5日検査する7日前から1日/朝夕2回点眼完全に回復するまで10~12日間顔面紅潮,血圧上昇,発熱,口渇,心悸亢進などシクロペントラート塩酸塩サイプレジン1%点眼液点眼後30~60分で調節麻痺効果が得られ,1日間持続5分毎に2回60分後に検査1~2日間一過性の結膜充血,運動失調,幻覚,情動錯乱など*近くを見てしまうと雲霧の効果がなくなるため,ぼんやりと遠方を見るように指示.ときどき,近くを見ないよう,検者から声をかける.*凸レンズを交換する際は現在入っているレンズと次に交換するレンズを必ず重ねてから先にレンズをはずすこと.裸眼で調節する機会を与えない.*凹レンズの交換する場合は先のレンズを取り出してから次のレンズを速やかに入れる.図1両眼雲霧法調節に異常がある場合には1%シクロペントラート塩酸塩による調節麻痺効果では不十分であり,1%アトロピン硫酸塩による精密な屈折検査が望ましい.十分な調節麻痺を行わずに単純な近視と診断され,過矯正の眼鏡やコンタクトレンズを装用している患児も少なくない.調節けいれんは未だ解明されていないことが多く,原因が心因性によるものであれば自然に回復することもある.治療法として,毛様体筋を麻痺させる希釈アトロピン硫酸塩による点眼治療や,調節麻痺後の屈折値を参考にし累進屈折力レンズを装用させる方法がある9).1.症例提示患者は10歳,男児.2カ月前から遠くが見えにくく,ときどき物が二つに見えるため近医受診.強度近視と内斜視と診断され,眼鏡処方されたが装用しても黒板が見にくいため受診した.前眼部,中間透光体,眼底に異常なし.左右眼ともに縮瞳(+).後日,頭部CT施行,異常なし.初診時の所持眼鏡度数R:S-8.00DL:S-8.00D*他覚的屈折値(調節麻痺薬点眼前)測定時に縮瞳がみられ測定値がばらつく.R:S-3.00DC-0.50DAx90°~S-11.00DC-0.50DAx90°L:S-3.50DC-0.50DAx95°~S-13.00DC-0.50DAx95°*自覚的屈折値RV=0.08(0.4×S-8.00DC-0.50DAx90°)LV=0.09(0.5×S-9.50DC-0.50DAx95°)眼位:Esotopia15°眼球運動:正常,輻湊:正常,同側性複視(+)*1%アトロピン硫酸塩点眼後他覚的屈折検査R:S-1.25DC-0.75DAx90°L:S-0.75DC-0.50DAx95°自覚的屈折検査RV=(0.9×S-1.00DC-0.50DAx90°)LV=(0.8×S-0.75DC-0.50DAx95°)1%アトロピン硫酸塩を1日1回点眼し,調節麻痺させ,累進屈折力レンズ眼鏡を処方した.*眼鏡処方度R:S-1.00DC-0.50DAx90°add+3.00L:S-0.75DC-0.50DAx90°add+3.00眼鏡装用+アトロピン硫酸塩点眼にて経過観察した.1カ月後,眼鏡装用にて遠見・近見ともに視力は改善し,眼位は「正位」の維持が可能となった.初診時には通常どおりに他覚的屈折検査,自覚的屈折検査に続き,眼位検査,眼球運動検査などの検査を行い,器質的な眼疾患の有無,頭蓋内の異常がないか調べる.本症例のように強い調節異常が疑われる場合には,1%アトロピン硫酸塩の点眼により調節麻痺下での屈折度数を調べる.その結果,大きく近視が減少し調節けいれんと診断された場合は,累進屈折力レンズの装用やアトロピン硫酸塩における点眼治療を行い,症状の改善がみられるようであれば点眼の濃度や回数などを変更しながら,経過観察していく.III心因性視覚障害を伴う近視1.心因性視覚障害小児に多い眼心身症として,心因性視覚障害(身体表現性視覚障害)がある.心因性視覚障害は「視力低下を説明にするに足る器質的疾患を認めず,視力低下の原因として精神的心理的要因を考慮せざるを得ない症候群」と定義されている10).眼科受診の契機としては,学校健康における遠見視力検査での視力低下の指摘が多い.症状で多いのは視力障害であるが,なかには視野検査で特徴的な異常を示したり,色覚に異常な結果を示すこともある.8~12歳の女児に多いのが特徴である.その原因はさまざまであり,家庭環境や学校での精神的ストレス,眼鏡装用の願望,眼外傷・打撲などが誘因になることもある.視力低下の自覚がないことも多く,視覚障害のわりには日常動作では見えにくそうにしていないなど,検査の結果と行動が一致していないこともある.受診中の患児の行動や様子も観察し,検査中にコミュニケーションをとりながら患児の言動にも留意する.視力不良がいったん改善しても,再低下したり再発を繰り返すこともあり,定期的な経過観察を要する.(41)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022303表2心因性視覚障害が疑われる小児の検査中の行動や反応(文献10,11より改変引用)*患児に緊張感や威圧感を与えずに検査する.患児を疑うような態度や声掛けはしない.それとなく暗示を与えながら自然な感じで声かけをする.図2レンズ打消し法表3視力検査結果によるおもな症状の分類(文献12より改変引用)----=-----------------==-=------------

とくに注意したい病態の眼鏡処方 不同視を伴う近視

2022年3月31日 木曜日

とくに注意したい病態の眼鏡処方不同視を伴う近視PrescriptionofSpectaclesforChildrenwithAnisomyopia不二門尚*はじめに不同視は両眼の屈折度に差がある状態で,先天的な要因と,環境により影響を受ける要因がある.近年,小児においてもスマートフォンなどのデジタルデバイスの使用時間が増加しており,これに伴い,近視の頻度の増加のみでなく,悪い姿勢でのデジタルデバイスの視聴により,不同視の増加も懸念されている.不同視を放置すると,両眼視機能の低下,斜視の顕在化などが生じ,QOLを阻害する可能性がある.本稿では不同視の頻度,不同視差の経年変化,不同視の小児に眼鏡を処方するうえで注意すべき点などを概説する.I不同視の定義,頻度1.不同視の定義屈折検査において,左右眼の屈折度の差(不同視差)が2diopter(D)以上ある場合をわが国では不同視(anisometopia)という1).国際的には一般に,不同視差が1D以上の場合に不同視と定義づけられている2).2.小児の不同視の進行,頻度不同視の頻度は幼児期に比較的高く,その後青少年期にいったん減少するが,成人になるとまた増加すると報告されている2)(図1).青少年期での不同視の減少は,この時期に,正視化現象(成長に伴い,屈折度が軽度の遠視から正視に収束する現象)と,両眼視が発達するためと考えられている.この時期に斜視や弱視があり,両眼視が妨げられると,後述するように不同視差が拡大する場合がある.8歳頃以降,近視が増える時期に不同視の頻度は増加するが,成人になると不同視の頻度,程度は安定化し,60歳過ぎの白内障年齢になると再び不同視の頻度と不同視差は増加する.6~11歳児に対して近視進行予防の研究が行われたCOMETstudyでは,近視性不同視に対して13年間フォローアップスタディが行われ,不同視差は平均0.24Dから0.49Dに増加したと報告されている3).他の報告も含め,正常の両眼視機能をもつ小児においては,成長に伴う不同視差の拡大は0.5D以下である.日本人の小児における不同視の頻度は10%以下と報告されている1).3.両眼視不良の小児における不同視差の拡大小児において,両眼視不良例において近視性不同視の拡大が報告されている2).筆者らも,内斜視の術後に長期にフォローした51症例において,近視性不同視が拡大することを報告した4).手術時年齢は,4.5±3.7歳平均フォローアップ期間は5.0±2.2年であった.不同視差は,手術前の0.36±0.46Dから最終受診時0.98±1.3Dに拡大した.10症例において,不同視差が2D以上に拡大した(図2).この群では4灯試験において,2°の指標が融像できたのは1例(10%)のみであったのに対して,不同視差が2D未満であった群(n=41)においては,13例(32%)が2°の視標が融像可能であった(p<*TakashiFujikado:大阪大学大学院生命機能研究科特別研究推進講座〔別刷請求先〕不二門尚:〒565-0871大阪府吹田市山田丘3-1大阪大学大学院生命機能研究科特別研究推進講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(31)293不同視差(D)不同視(等価球面).1.0Dの頻度(%)不同視(等価球面)の大きさ(D)50.000.5040.000.4030.000.3020.000.2010.000.1000~910~1920~2930~3940~4950~5960~6970~7980~8990~99年齢(歳)図1不同視の頻度と不同視差の大きさの年齢による変化0近視,遠視,弱視を含む85,000名を対象としたもの.棒グラフは不同視の頻度(%),折れ線は不同視差の大きさ(D)を表す.不同視の頻度は年長児でいったん減ったのち,青年期に増加し,成人になってからは一定の頻度を保ったのち,高齢者になって増加する.不同視差の大きさも同様の変化を示す.(文献2より改変引用)6543210術後経過年数Op123456789図2内斜視術後の症例で不同視差が2D以上に増加した10症例の術後経過年数と不同視差の経過両眼視機能の不良な症例では,不同視が2Dを超えて増加する場合もあることが示された.(文献3より改変引用)10.5OP30等価球面度数(D)-1-1.5-2-2.52520眼位(D)151050-5-10-3-15-2014567891011121314151617-3.546810優位眼年齢年齢近見RRRRRRRSCL(L)装用遠見RRRRLLL図3乳児内斜視術後の眼位および屈折度の継時変化術後,外斜位が間欠性外斜視になった.10歳頃より固視交代をするようになり,不同視差はC3.5Dまで増大した.ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用することにより,眼位は改善した.40縮小率拡大率(%)302010縮小率拡大率(%)3020100010202030レンズ屈折力(D)図4屈折性不同視眼を眼鏡およびCLで矯正した場合のレンズの屈折力と網膜像の拡大.縮小率の関係(正視眼に対して)屈折性不同視眼を眼鏡で矯正すると不等像視が生じる.コンタクトレンズ(CL)での矯正では不等像視は少ない.(文献C5より改変引用)=11--=11--==11C30レンズ屈折力(D)図5軸性不同視眼を眼鏡およびCLで矯正した場合のレンズの屈折力と網膜像の拡大.縮小率の関係(正視眼に対して)軸性不同視眼をCCLで矯正すると不等像視が生じる.眼鏡での矯正では不等像視は少ない.(文献C5より改変引用)=--=--=--20-15-10-5+5+10+15+20D-20-15-10-5+5+10+15+20Db543a2224262830AxialLength(mm)6543-14-12-10-8-6-4-202Refraction(D)図6補償光学眼底カメラによる錐体像(a),錐体間距離と眼軸長および屈折度との関係(b)正常眼の耳側C2°における錐体像(Ca).錐体間距離は,眼軸長および屈折度と相関する(Cb).(文献C6より改変引用)正視-10DCL矯正網膜像18%拡大眼鏡矯正錐体間隔の拡大:30%錐体間隔の拡大:30%知覚される長さ:30%縮小知覚される長さ:17%縮小図7-10Dの軸性不同視眼の屈折矯正時の網膜像の大きさと錐体密度および知覚される像の大きさのシェーマ眼鏡矯正では網膜像の拡大はC5%,錐体間距離の拡大はC30%,知覚される視標の長さはC27%縮小となる(図C4,6から算定).CL矯正では網膜像の拡大はC18%,錐体間距離の拡大はC30%,知覚される視標の長さはC17%縮小となる(図5,6から算定).ドットは錐体,四角は網膜像を示す.図8近視性の不同視眼を眼鏡で矯正した場合の下方視時のプリズム効果下方視時には,基底下方のプリズム効果が生じ,不同視の場合は,左右のプリズム効果(Cq1vsq2)が異なるので,上下の斜位が生じる.==-=-=-図9近視性不同視の症例の眼底写真左眼に網膜有髄神経線維があり,等価球面度数は左眼-6D,右眼-0.5D.完全矯正の眼鏡と遮閉訓練で,左眼の矯正視力は(0.2)から(0.6)に改善した.

とくに注意したい病態の眼鏡処方 強度近視・病的近視

2022年3月31日 木曜日

とくに注意したい病態の眼鏡処方強度近視・病的近視PrescriptionofEyeglassesforHighMyopiaandPathologicMyopia古森美和*佐藤美保*はじめに近視の分類には,原因から先天性近視と後天性近視,発生成因から屈折性近視と軸性近視,臨床的には単純近視と病的近視に分類される.また,程度分類では,弱度,中等度,強度,最強度,極強度などがある.報告者によって定義は異なるが,日本近視学会ガイドライン,日本弱視斜視学会では,①弱度近視:-0.5D以上-3.0D未満の近視,②中等度近視:-3.0D以上-6.0D未満の近視,③強度近視:-6.0D以上の近視と分類している.一方,近視は成長とともに進行するため,年齢によって基準とする屈折度を変更すべきとも考えられる.1987年に厚生省特定疾患網膜脈絡膜萎縮症調査研究班で作成した「病的近視診断の手びき」では,①5歳以下では-4.00Dを超えるもの,②6~8歳では-6.00Dを超えるもの,③9歳以上は-8.00Dを超えるものを診断基準として提案している.また,所1)は,6~8歳で眼軸長24.5mm以上,9~12歳で26.0mm以上,13歳以降では26.5mm以上を病的近視と提唱している.強度近視・病的近視では,眼軸の延長による後極部の眼底変化に加え,網膜変性疾患や網膜.離,緑内障などにより視力が出にくいこともあるため,器質的疾患がないかどうかを確認することが重要である.器質的疾患を認めた場合でも,その治療と並行して,屈折異常については適切な度数の眼鏡による弱視訓練を行うようにする.また,視力が出にくい小児に対しては,早期からの療育相談を検討する.支援学校や支援学級に進学するかどうかにかかわらず,早期から支援学校の先生と連携をとることで,養育や進学についてのアドバイスを受けたり,家族の不安解消につながったりするため,当科では積極的に療育相談やロービジョン外来への受診を進めている.I強度近視・病的近視の眼鏡処方眼鏡処方にあたっては,まず小児の視力検査の特徴を理解して検査を行う必要がある.小児の視機能は成長過程にあり,見えにくい場合でも,大人と違って見えていないことを自覚していない.そのため,屈折異常がある場合は,早期から適切な度数の眼鏡を処方することで視機能発達を促す必要がある.視機能が未発達な小児や視力が不良な小児の場合は,字づまり視力表では読み分け困難が生じ,視力を正しく評価できない可能性があるため,字ひとつ視標を用いて視力検査を行う.一方,日常生活では,黒板の字や教科書など字づまりで書かれているため,実際にどの程度見えているかを評価するうえでは,字づまり視力表が有効なこともある.視力が出にくい患者では,ものを近づけてみる習慣があるため,近見に合わせた眼鏡が適している場合もある.就学前や低学年の小児は,おもちゃや絵本などを見ることが多いため,近見に重点をおき,度数を下げて処方することもある.このため,遠見視力だけでなく近見*MiwaKomori&MihoSato:浜松医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕古森美和:〒431-3192浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(23)285①真ん丸の大きいフレームの例②小型の楕円のフレームの例図1眼鏡のフレーム強度近視ではbのフレームのほうが適している.=---=---図2症例1の眼底写真とOCT画像眼底所見では豹紋状眼底,近視性の視神経所見を認めた.OCT画像では両眼とも異常を認めなかった.=--=---=----=-図3症例2の眼底写真とOCT画像左眼は網膜光凝固術後の瘢痕が黄斑部近くまで及び,OCT画像でも黄斑部の萎縮性病変を認める.--=--=-=---ある場合は,良いほうの眼の度数に合わせて視力の出ないほうの度数を調整して処方する場合もある.3.完全矯正度数での眼鏡装用が不可であった症例(症例3)患者:小学1年生(6歳11カ月)の女児他覚的屈折検査(調節麻痺薬点眼後にオートレフラクトメータで検査)RE:S-12.25DC-2.25DAx180°LE:S-13.00DC-2.75DAx180°自覚的屈折検査(字ひとつ視標にて測定)RV=(1.2×S-11.00D:C-2.25DAx180°)LV=(1.2×S-11.75D:C-2.50DAx180°)眼軸:右眼28.02m,左眼28.07mmこの症例では,矯正視力は両眼1.2と良好であるが,患児は完全矯正の度数ではクラクラしてかけられないため,下記のように処方度数を落とし,①弱い度数と②強い度数の二つの眼鏡を使い分けて生活していた.①弱い度数の眼鏡右眼:-8.00DC-1.00DA180°左眼:-8.00DC-1.00DA180°RV=(0.1×JB)LV=(0.08×JB)nRV=(1.0×JB)nLV=(1.0×JB)②強い度数の眼鏡右眼:-10.00DC-1.00DA180°左眼:-10.00DC-1.00DA180°RV=(0.4×JB)LV=(0.1×JB)nRV=(0.9×JB)nLV=(0.9×JB)小学1年生では,黒板の字も大きいため,一番前の席であれば使用中の低矯正眼鏡で大きな支障はないと考えるが,なるべく授業中は強いほうの眼鏡を掛けるよう指導した.その後も度の強い眼鏡ではクラクラして装用できず,母親がハードコンタクトレン(hardcontactlens:HCL)装用者であり,HCL装用の希望があったため,小学3年生(8歳2カ月)時にHCLを試すこととした.トライアルHCL(TCL)RV.BC7.80mm/P-3.0D/直径8.9mmLR.BC7.65mm/P-3.0D/直径8.9mm上記を装用し,球面度数を加入しながら視力検査を施行した.自覚的屈折検査(字ひとつ視標にて測定)RV=(0.6×TCL×S-8.50D)*(0.8×TCL×S-9.00D)(1.0×TCL×S-9.50D)LV=(0.6×TCL×S-9.50D)*(0.7×TCL×S-9.75D)(1.0p×TCL×S-10.00D)母親から(0.6)くらいに合わせて欲しいとの希望であったため,*(下線)のレンズを選択した.この際,TCLに4D以上の球面度数を加入する場合は,眼鏡の球面度数からCL度数への換算が必要となるため,換算表を用いて度数を決定した.右眼:眼鏡の球面度数-8.50D→換算表でのCL度数-7.75DTCL-3.0D+(-7.75D)→HCL度数-10.75D左眼:眼鏡の球面度数-9.50D→換算表でのCL度数-8.50DTCL-3.0D+(-8.50D)→処方するHCL度数-11.50D上記のように度数を決定し,下記のHCLを処方した.*HCL処方箋右眼BC7.80mm/P-10.75D/直径8.9mm左眼BC7.65mm/P-11.50D/直径8.9mmRV=(0.6×HCL)LV=(0.6×HCL)現在は,弱い度数と強い度数の眼鏡,およびHCLを使い分けている.この症例のように,度数が強くなると,クラクラしたり気持ち悪くなったりして装用できない場合は,患者の装用感を確認しながら度数を下げて処方することもある.その際,CLであれば度数が強くても装用可能な場合もあるため,試してみることも検討する.その場合は,CLの管理ができるかどうかの確認も必要である.(27)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022289C右眼左眼=--図4症例4の眼底写真とOCT画像眼底写真およびOCT画像では異常所見を認めなかった.=--正常者症例480160160240240μVμV20-20-40-4011404020202200050100150ms050100150msμV-20-20-40-40杆体.錐体最大応答-60-60-80-80-100-100msμV5050114040223030050100150050100150ms20μV2010μV10錐体応答00-10-10-20-20-20msms1150504022403030020406080-20020406080μV20μV20フリッカ応答100100-10-10msms図5正常者と症例4のRETeval結果それぞれ2回ずつ施行した.症例4では先天停在性夜盲(不全型)が疑われた.020406080100020406080100==--=--====

とくに注意したい病態の眼鏡処方 斜視を伴う小児近視の眼鏡処方

2022年3月31日 木曜日

とくに注意したい病態の眼鏡処方斜視を伴う小児近視の眼鏡処方GlassesforMyopiawithStrabismusinChildren杉山能子*はじめに斜視治療においては,屈折矯正は大変重要である.小児の斜視治療を開始するにあたって,まず弱視はないか,屈折異常はないかを調べる必要がある.また,小児の屈折を評価するには調節の介入を必ず念頭におかなければならず,調節麻痺下での屈折検査が必須である.調節麻痺下での屈折値を把握したうえで,屈折矯正後,眼位は改善するか変化しないか,あるいは増悪するかなどを評価し,治療方針を決めることとなる.また,斜視手術後に良好な眼位を保つためにも適切な眼鏡装用が重要となるが,小児は成長期であり,屈折値も変化していく.こまめな視力,屈折,眼位,両眼視機能の検査を行い,常に適切な眼鏡装用が必要となる.I弱視を伴う斜視の眼鏡処方弱視がある場合は,弱視治療を優先する.屈折検査は,基本は1%アトロピン点眼による調節麻痺下で行う(表1).しかし,外斜視,年長児であれば,初回はサイプレジン調節麻痺下での屈折検査を行い,経過がよくなければアトロピン調節麻痺下での屈折再評価を行う.不同視弱視や屈折異常弱視など屈折異常が原因の弱視が存在する場合や斜視が原因の斜視弱視がある場合,あるいはそれらが合併している場合があるが,基本的には調節麻痺下で得られた屈折値そのもので眼鏡処方を行う.視力に左右差がある場合は健眼遮閉を併用することもある.斜視手術が必要な場合は弱視治療後に行い,斜視手術後も屈折矯正を行うことで弱視の再発を防ぎ,良好な眼位の維持が可能となる.つまり,手術後も眼鏡装用が重要である.II弱視を伴わない斜視の近視眼鏡処方1.外斜視a.間欠性外斜視小児では間欠性外斜視であっても,調節麻痺下での屈折検査は必須である.年少児は1%アトロピン点眼,年長児はサイプレジン調節麻痺下で屈折検査を行い,調節麻痺下での屈折値を得る.調節麻痺効果が完全になくなってから,得られた屈折値をもとに視力検査を行い,眼鏡装用テストをする.30分間テスト眼鏡を装用後,眼位検査を行う.視力が一番よく,斜視角も小さく,斜位の状態が遠近ともに多い度数が理想である.山下らは小学生から高校生の屈折値と眼位異常の調査をした結果,近視の増加とともに外斜視の頻度も増加すると報告した1).両眼近視があり,裸眼近見視力は良好であるが,裸眼遠見視力が不良である場合は,遠見で外斜視が顕性化することがある.これは,遠見での像のボケが生じ融像性輻湊が弱くなったことが原因であると考えられるため,眼鏡で近視矯正することにより,遠見外斜視の頻度や角度が改善する(図1).また,両眼近視では調節性輻湊が少なくなり,その状態を長期間続けると輻湊不全型の外斜視となることもあるので,適切な近視眼鏡の装用によ*YoshikoSugiyama:金沢大学附属病院眼科〔別刷請求先〕杉山能子:〒920-8641石川県金沢市宝町13-1金沢大学附属病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(17)279表1調節麻痺薬麻痺効果効果最大時間効果持続期間副作用アトロピン完全7日2.3週間発熱顔面紅潮サイプレジン(1C.0%シクロペントレート)不完全0.+1.5D(AT値と比べて)60.C120分2日幻覚一過性運動失調1%アトロピンは調節麻痺の効果は完全だが,C7日間点眼が必要で,点眼終了後も効果消失までにC2.C3週間かかる.サイプレジンは,アトロピンに比べ調節麻痺の効果は不完全だが,外来でのC2回点眼で,2日間で効果が消失する.裸眼--近視矯正図1近視を伴う外斜視の小児眼鏡で近視矯正すると,遠見外斜視の頻度や角度が改善した.SCASCA+0.00-0.75799-0.50-0.25929+0.00-0.75809-0.50-0.25899図2斜位近視(術前)+0.00-0.75789-0.50-0.25919据え置き型オートレフラクトメータで片眼ず+0.00-0.75809-0.50-0.25869つ検査した屈折値.C+0.25-0.75809-0.50-0.25879+0.25-0.75799-0.50-0.25889AvgAvg+0.00-0.7580-0.50-0.2589〈片眼視時〉〈両眼視時〉右眼左眼図3斜位近視(術前)スポットビジョンスクリーナーでの検査結果は,片眼を遮閉して検査した屈折値は据え置き型オートレフラクトメータの値とほぼ一致していたが,両眼視した状態では,左右眼ともに近視化している.〈片眼視時〉〈両眼視時〉右眼左眼図4斜位近視(術後)スポットビジョンスクリーナーでの検査結果は,片眼遮閉で検査した屈折値と,両眼視した状態での左右眼の屈折値がほぼ一致している.術前のように両眼視時に近視化することはない.累進多屈折力レンズ二重焦点レンズ図5非屈折性部分調節性内斜視の眼鏡レンズ遠用部はアトロピン調節麻痺下の屈折値で,近用部に+3.0D程度の凸レンズを加入する.累進多屈折力レンズは,遠近の境目がないので見た目は普通の眼鏡レンズと変わりないが,遠近が使い分けしにくいという小児もいる.二重焦点レンズは遠近の境目が目立つので特殊なレンズであるということが見た目でわかってしまうので装用したくないという小児も多い.近視眼鏡なし近視眼鏡を装用-図6近視の小児がスマートフォンに熱中している状態近視眼鏡を装用していないときは,スマートフォンと眼の距離が近くなっている.内斜視正位外斜視図7斜視の瞳孔間距離の測り方(仮)被検者に遠方の目標を見てもらい,まず,固視眼(右眼)の耳側輪部を定規のゼロに合わせ(),固視眼を遮閉して斜視眼(左眼)で固視させ,左眼の鼻則輪部の位置()の定規の目盛りを読みとると瞳孔間距離()が計測できる.図8膜プリズム眼鏡の右眼レンズに膜プリズムを基底外方に貼った内斜視治療.