あたらしい眼科39(3):313.318,2022c第26回日本糖尿病眼学会総会特別講演肥満症と糖尿病血管合併症TheAssociationbetweenObesityandDiabeticVascularComplications石垣泰*はじめに第26回日本糖尿病眼学会総会の特別講演の機会をいただき,会長の高木均先生と座長の曽根博仁先生に心より感謝申しあげたい.高血糖が糖尿病血管合併症のリスクであることは論を待たないが,インスリン抵抗性,さらにその上流である肥満の影響については明らかでない点も多い.本稿ではこれまでの報告を整理していきたい.I肥満症と内臓脂肪蓄積国民健康栄養調査によると,わが国では男性はおおむねどの年代もBMI25以上の肥満者は年々増加する傾向にある.一方で,女性はほぼすべての年代で肥満者の割合は横ばいで推移しており,わが国の肥満の動向は性と年代によって異なる.日本肥満学会から1993年に初めて肥満症の診断基準が出され,その後2000年にbodymassindex(BMI)25以上を肥満とする基準が定められた.あらためて定義を確認すると,BMI25以上が肥満であり,加えて関連する健康障害を合併したもの,あるいは内臓脂肪蓄積が認められるものを肥満症として取り扱っている1).わが国では,とくに代謝異常の原因として内臓脂肪蓄積を一貫して重視していることが特徴である.肥満に起因・関連する健康障害とは,代謝異常をはじめ月経異常,整形外科的疾患なども含まれ,いずれも体重増加で増悪し,減量によって病態の改善が期待できるものである(表1).内臓脂肪型肥満は男性に優位にみられ,増えやすく減りやすいのが特徴である.皮下脂肪型肥満は女性に多表1肥満に起因ないし関連し,減量を要する健康障害1.肥満症の診断基準に必須な健康障害1)耐糖能異常(2型糖尿病・耐糖能異常など)2)脂質異常症3)高血圧4)高尿酸血症・痛風5)冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症6)脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作(TIA)7)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)8)月経異常,不妊9)閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)・肥満低換気症候群10)運動器疾患:変形性関節症(膝,股関節)・変形性脊椎症,手指の変形性関節症11)肥満関連腎臓病2.診断基準には含めないが,肥満に関連する健康障害1)悪性疾患:大腸がん,食道がん(胃がん),子宮体がん,膵臓がん,腎臓がん,乳がん,肝臓がん2)良性疾患:胆石症,静脈血栓症・肺塞栓症,気管支喘息,皮膚疾患,男性不妊,胃食道逆流症,精神疾患(肥満症診療ガイドライン2016より)く,下半身や大腿に脂肪がつきやすい.いずれの体脂肪も体重増加につながるが,内科的疾患の原因となるのは内臓脂肪で,内臓脂肪面積が大きくなるとともに,糖,脂質,血圧異常といったリスク因子が増加していく.女性は皮下脂肪優位だが,内臓脂肪が蓄積するにつれリスク因子が増えていくのは男性と同様である.内臓脂肪蓄積のスクリーニング目安は,ウエスト周囲径が男性85mm,女性90mmである.体格の大きい男性のほうがウエストの基準値が小さい理由は,腹部CTで測定した内臓脂肪面積100cm2に,男性は85cm,女性は90cmのウエスト周囲径が相当するためである.内臓脂*YasushiIshigaki:岩手医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科分野〔別刷請求先〕石垣泰:〒028-3695岩手県紫波郡矢巾町医大通2-1-1岩手医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(51)313図1内臓脂肪蓄積と血管合併症の関係肪蓄積が糖代謝,脂質代謝,血圧などに異常を及ぼす機序は,脂肪細胞から分泌されるさまざまな物質,アディポサイトカインのバランスの異常で説明されている.すなわち,一つひとつの内臓脂肪細胞が肥大化することにより,インスリン抵抗性を惹起する遊離脂肪酸やCTNFaなどのサイトカインの分泌が増加し,代謝改善や血管保護作用を有するアディポネクチンの分泌が低下することで代謝に悪影響を及ぼす.内臓脂肪蓄積に対して早期に介入することが特定健診の大きなミッションであり,内臓脂肪蓄積の概念を身近にしたのがメタボリックシンドロームである.一方で,皮下脂肪面積の増加はリスク因子に影響しないことが示されていることに加えて,皮下脂肪を欠失した脂肪萎縮症や皮下脂肪を除去したマウスは強いインスリン抵抗性を示すことが知られており,皮下脂肪の役割については議論が続いている.肥満,とくに内臓脂肪蓄積はアディポサイトカインの分泌異常に加えて,脂肪組織へのマクロファージ浸潤や肝臓,筋肉などへの異所性脂肪沈着,内臓脂肪由来の遊離脂肪酸の上昇などが相まってインスリン抵抗性を生じさせる.これが,糖尿病,高血圧,脂質異常といった代謝異常を引き起こすことで動脈硬化性疾患や腎障害のリスクを上昇させる.もちろん肥満以外の原因によっても代謝異常が引き起こされるほか,高CLDLコレステロールや喫煙も血管障害の原因となる(図1).II肥満症と糖尿病血管合併症肥満はインスリン抵抗性を介して糖尿病を悪化させるので,糖尿病血管合併症全般に悪影響を及ぼすと考えられる.しかし,統計的に多因子の解析を行うと,肥満と交絡性の強い糖尿病や脂質異常症の寄与度が大きくなり,肥満単独としてはリスク因子として残らないといわれている.まず,大血管障害に関しては,アジア人C112万人を平均C10年間追跡したコホート研究では,BMIが高い肥満群では動脈硬化性疾患のリスクが高いことが示されており,またCFraminghamCHeartStudyの解析では,内臓脂肪の蓄積が高くなるに従って心血管疾患の発症率は上昇し,内臓脂肪蓄積が動脈硬化の強いリスクであることがわかる.細小血管障害のリスク因子としては,網膜症と神経障害においては血糖コントロールと糖尿病罹病期間の寄与度が高く,肥満単独の影響は重要視されていない.しかし,糖尿病性腎症の重症化リスク因子の一つとして,肥満や内臓脂肪蓄積をあげている報告が多い.糖尿病網膜症と肥満の関係について,いくつかの研究を紹介する.500名弱を検討したシンガポールの横断研究では,BMIが小さい,すなわちやせ型であるほど網膜症のリスクが高いことが報告されている2).たしかに,筆者らが診療している網膜症の進行した患者でも,糖尿糸球体肥大・巣状糸球体硬化症蛋白尿(アルブミン尿)図2肥満関連腎臓病の発症機序病罹病期間の長い,インスリン分泌の低下したやせ形の人が多い印象がある.一方,この研究では,内臓脂肪蓄積を意味するウエストヒップ比が高いほど網膜症が多い,すなわち内臓脂肪蓄積と網膜症の発症頻度は相関すると考えられ,血糖コントロールなどで補正後も同様の傾向であった.網膜症とCBMIのデータがある臨床研究C27件のメタ解析では,BMIをC25以上,あるいはC30以上で群別化した場合でも,BMIを連続変数とした解析でも,BMIが高いことは網膜症の存在とは関連を示さなかった3).複数の指標で肥満を評価した中国人C4,600名を対象にした横断研究では,首まわり,ウエスト周囲長,ウエストヒップ比に加えて,生化学的パラメーターも計算に加えたいくつかの内臓脂肪蓄積の指標と,糖尿病血管合併症との関係を解析している4).興味深いことに脳心血管疾患や糖尿病性腎臓病(diabeticCkidneydisease)は内臓脂肪蓄積によってリスク上昇がみられるが,網膜症は男女ともに関係を示さなかった.このように,肥満と網膜症の関係は,研究報告によって結果が異なっており,コンセンサスが定まっていない状況といえる.糖尿病性腎症と肥満との関係は明らかである.アジア人を対象としたメタ解析では,微量アルブミン尿,あるいはCeGFR低下で定義された糖尿病性腎症はCBMI30以上の肥満,内臓脂肪蓄積の両方に強い関連を示していた5).肥満に伴う健康障害のなかに肥満関連腎臓病という疾患名があげられている.すなわち,肥満状態では糸球体過剰濾過が引き起こされ,糸球体内圧の上昇から糸球体肥大を招き,尿蛋白が出やすい状態になる.加えて,インスリン抵抗性やアディポサイトカインの異常もさまざまな機序で糸球体肥大,巣状糸球体硬化に寄与する(図2).このため,肥満者では糖尿病性腎症と相まって蛋白尿・腎障害が高頻度にみられる.肥満患者の腎障害を考えるうえでは,糖尿病性腎症単独の関連を評価することはむずかしく,肥満関連腎臓病の影響で肥満C2型糖尿病患者では尿蛋白の出現が高頻度にみられる.糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)は糖尿病専門医のクリニックが中心となって,20年にわたって活動している研究組織である.登録されている全国C51施設,5万C5千例あまりのC2型糖尿病患者のCBMIはこのC5年余りC25弱で横ばいとなっている.筆者は,JDDM登録時患者のなかから,BMI35以上の高度肥満者C1,061名を選定し,さらに網膜症,腎症のデータがそろっているC555名を抽出した.これに対して,性,年齢,糖尿病罹病期間でマッチングした同数のCBMI20.25の非肥満者との比較検討を行った.日本人高度肥満2型糖尿病患者は非肥満C2型糖尿病患者に比べて血糖コントロールが不良で,高血圧と脂質異常症の有病率が高いことがわかった.網膜症のステージについて高度肥満群と非肥満群を残渣検定で比較したところ,網膜症の有病率や重症度には差がないことが示された(表2).海外からの報告と同様に,日本人C2型糖尿病患者でも肥満度は網膜症に影響しない可能性が示唆された.一方,腎症に関しては高度肥満群における高い有病率が認められた.この結果からは,日本人高度肥満は糖尿病性腎症に強く寄与しているものの,糖尿病網膜症に対してはニュートラルであると考えられる.表2非肥満群と高度肥満群の2群間の網膜症ステージ非肥満群(2C0.0≦BMI<2C5.0)高度肥満群(3C5.0≦BMI)p値網膜症有効数C555調整済み残渣有効数C555調整済み残渣C0.422所見なし(%)422/555(C76.0)-0.4427/555(C76.9)C0.4単純網膜症(%)90/555(C16.2)-0.293/555(C16.8)C0.2前増殖網膜症(%)13/555(C2.3)-0.717/555(C3.1)C0.7増殖網膜症(%)27/555(C4.9)C1.517/555(C3.1)-1.5失明(%)3/555(0C.5)C1.01/555(0C.2)-1.0X2Ctest.CResidualCanalysis.(日本糖尿病データマネジメント研究会登録症例の解析より)III減量による糖尿病合併症の改善腹部肥満に積極的に介入する特定健診のデータが蓄積されてきたことで,体重減少率がわずかC2%やC4%であっても有意にCHbA1cおよび空腹時血糖値が低下することが明らかになった.すなわち糖尿病コントロールを改善するためには,わずかであっても減量に取り組むことの重要性が共通の認識となっている.米国糖尿病学会の指針でも,肥満C2型糖尿病患者では5%の体重減少が目標とされている.2型糖尿病患者を対象に生活習慣介入による減量と代謝指標を検討した17試験のメタ解析では,12カ月でC5%減量することで,HbA1c,LDL-C,トリグリセリド,血圧が改善することが示され,5%体重減少をめざす根拠の一つとなっている.減量に向けての治療にはC5本の柱,すなわち食事療法,運動療法,認知行動療法,薬物治療,外科治療がある.なかでも食事療法は肥満症治療の根幹をなすもので,エネルギー摂取量を制限することでまずはC3%の体重減少をめざす.通常食でのエネルギー制限がむずかしい場合は,フォーミュラ食への置き換えなどを推奨する.食事・運動療法による肥満C2型糖尿病患者への介入を試みたのがCLookAHEAD研究である6).5,145名の大きな規模でおよそC8年にわたって,エネルギー制限,日常的な運動などの生活習慣に対する介入が行われた.介入群では開始後C1年間は大幅な減量と糖尿病改善が認められたが,その翌年にはリバウンドがみられた.結果的に介入群の減量幅は最後まで通常治療群より大きかったものの,主要エンドポイントである心血管イベントの抑制はみられなかった.この研究からは数多くのアドホック解析が発表された.たとえば,1年後以降にリバウンドしたとしてもC1年後の時点で減量幅が大きかった患者は予後が良好であることや,試験終了時に良好なデータを示した患者は期間を通じて良好な生活習慣が保たれていたことなどが示されている.このCLookCAHEAD研究は,生活習慣の介入を長期間継続することの困難さをはじめ,肥満症診療に関する数多くの知見を示したが,大血管障害をはじめとする糖尿病血管障害に対する明確な結果は得られなかった.筆者が肥満症診療でもっとも大事だと考えているのはセルフモニタリングである.肥満症患者は体重を計らない,測りたくない人が少なくないので,体重測定を習慣化し,毎日の体重変化を自覚することで,生活へフィードバックされることを促す.合わせて歩数などの活動量や食事記録を記入することで,生活習慣の見直しにつなげたい.診察時にノートを持参してもらうことで,体重変化などを共有し医師やコメディカルからのアドバイスが広がることが期待される.肥満症に対するもっとも強力な治療法は外科手術である.欧米ではバイパス系の手術が主流だが,わが国ではスリーブ状胃切除術が保険適用となっている.2015年版からの日本糖尿病学会のガイドラインでも,高度肥満症を伴うC2型糖尿病に対して外科療法の有効性が記載されており,選択肢の一つとして明示されている.現時点の手術適応は,BMIがC35以上で糖尿病などの合併症を一つ以上有する者,あるいはC6カ月以上の内科的治療によっても合併症コントロールが改善しないCBMI32.5以上の者である(表3).日本における肥満外科手術の件数は,最近では年間C1,000例に迫るまで増加しているが,世界では年間C50万件以上が行われており,わが国でもこの治療の普及に向けてさまざまな活動が行われているところである.減量手術・バリアトリックサージェリーや代謝手術・メタボリックサージェリーなどと呼称されてきたが,わが国では減量・代謝改善手術に統一される表3肥満外科治療の適応肥満症治療学会ガイドライン2013(『日本における高度肥満症に対する安全で卓越した外科治療のためのガイドライン(2013年版)』)・18歳.65歳・BMIC35以上・BMIC32以上かつ肥満に関連する合併症がC2つ以上(糖尿病の場合はC1つ)・6カ月以上の内科治療によっても有意な体重減少や合併症改善がない保険適用(腹腔鏡下スリーブ状胃切除術)・6カ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないCBMIがC35以上の肥満症の患者であって,糖尿病,高血圧症,脂質異常症または閉塞性睡眠時無呼吸症候群のうちC1つ以上を合併しているもの.・6カ月以上の内科的治療によっても十分な効果が得られないCBMIがC32.5.34.9の肥満症およびHbA1cがC8.4%以上の糖尿病の患者であって,高血圧症(6カ月以上,降圧薬による薬物治療を行っても管理が困難(収縮期血圧C160.mmHg以上)なものに限る),脂質異常症(6カ月以上,スタチン製剤などによる薬物治療を行っても管理が困難(LDLコレステロールC140Cmg/dl以上またはCnon-HDLコレステロールC170Cm/dl以上)なものに限る)または閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI≧30の重症のものに限る)のうちC1つ以上を合併しているもの.ことになった.日本糖尿病学会,日本肥満学会,日本肥満症治療学会のC3学会が合同で,2型糖尿病患者に対する外科手術のコンセンサスステートメントを作成し公表された.岩手医科大学外科ではC10年以上前から肥満外科治療を先駆的に開始している.自験例のまとめでは,平均121Ckgあった高度肥満患者が,術後大きなリバウンドなくC90Ckg以下に減量し,その減量が維持されている.肥満外科治療は肥満関連健康障害のなかでも,とくに糖尿病に対する治療効果が劇的なことが知られている.米国の無作為化比較試験では,外科治療は内科治療に比べ,糖尿病治療薬が大幅に簡略化されても,長期間にわたって良好な血糖コントロールが得られていることが示されている.米国糖尿病学会では,世界中で肥満外科手術により糖尿病が大幅に改善する症例が増えていることから,糖尿病治療薬なしでCHbA1c6%未満に到達した状態を糖尿病の寛解と定義した.どのような患者に糖尿病寛解が得られるのか,いくつかの指標が提唱されていて,ABCDスコアが代表的である.Age,BMI,Cペプチド,Durationの頭文字で,手術時に若く,肥満度が高く,インスリン分泌が十分で,糖尿病歴が短い患者でより肥満外科治療による糖尿病治療効果が大きいことが示されている.実際に筆者らの自験例でも,ABCDスコアの良好な患者ではほぼ全員が薬物治療なしでCHbA1c6%未満が得られている.肥満外科治療による大幅な減量と糖尿病を中心とした効果によって,心血管疾患発症抑制や死亡率低下が得られることも報告されている.現時点でもっとも強力な肥満症治療法といえる.それでは,肥満外科治療で大幅に体重が減少することは,糖尿病血管合併症に対してどのような影響を及ぼすのだろうか.米国の医療情報データベースを基に,外科手術群C4,024名の術後の糖尿病血管合併症の新規発症率をみたコホート研究では,神経障害,腎症,網膜症のすべてでコントロール群と比較して半分以下の発症率に抑制されていた7).台湾のコホート研究は,症例数は比較的少ないものの,詳細に細小血管障害を検討しており,またすでに糖尿病合併症を発症している症例も含まれていることから,肥満外科治療による合併症改善効果も検討している.手術C2年後の評価をみると,腎症の指標はどれも大幅に改善していた8).神経障害の指標のうち,内顆振動覚の改善がみられる一方で,アキレス腱反射やモノフィラメント検査には変化がみられなかった.また,網膜症に関しては術前後で変化が認められなかった.肥満外科治療後の糖尿病網膜症に関する研究を集めたメタ解析によると,術後に網膜症の新規発症は抑制されるが,すでにみられていた網膜症の状態には変化がみられなかったとことが報告されている9).北欧の大規模研究によると,肥満外科術後に糖尿病細小血管障害の新規発症が抑えられるなかで,罹病期間がC4年以上の群では発症抑制が認められなかった10).術後の血糖コントロールは多くの患者で良好だったと思われるので,手術までの糖尿病罹病期間に蓄積した血管へのダメージが残存し増悪していった可能性があるため,肥満外科治療の実施はできるだけ早期に考慮することが望ましい.また,この研究では,手術の時点で増殖網膜症だった患者の眼科的予後を検討している.手術を受けなかった群に比べ,手術群では血糖管理は良好にもかかわらず,眼内出血,血管新生緑内障,網膜静脈閉塞が高率に発生している.いくつかの報告から,術後の網膜症悪化が懸念されるが,術後の増悪と関連する因子は術後の大幅なHbA1c低下,術前の網膜症の重症度であることが報告されており,肥満外科治療の糖尿病予後改善効果を十分に発揮するには,合併症が出現していない罹病期間の短い段階での実施がふさわしいことを改めて強調しておく.おわりに糖尿病性腎症を含めた慢性腎臓病に対して肥満は強い増悪因子であることが改めて確認できたが,糖尿病網膜症に関しては肥満の影響ははっきりしなかった.さらに,減量することで糖尿病網膜症の新規発症は抑制されるものの,すでに存在する網膜症の進展抑制が得られる可能性は低いと考えられた.糖尿病診療では糖尿病血管合併症の発症予防がもっとも重要であるため,体重管理に留意した良好な血糖コントロール維持をめざしていきたい.文献1)日本肥満学会編:肥満症診療ガイドラインC2016.ライフサイエンス出版,20162)ManCRE,CSabanayagamCC,CChiangCPPCetal:Di.erentialCassociationCofCgeneralizedCandCabdominalCobesityCwithCdia-beticCretinopathyCinCAsianCpatientsCwithCtypeC2Cdiabetes.CJAMAOphthalmolC134:251-257,C20163)ZhouCY,CZhangCY,CShiCKCetal:BodyCmassCindexCandCriskCofCdiabeticretinopathy:ACmeta-analysisCandCsystematicreview.CMedicine(Baltimore)C96:e6754,C20174)WanCH,CWangCY,CXiangCQCetal:AssociationsCbetweenabdominalCobesityCindicesCandCdiabeticcomplications:Chi-neseCvisceralCadiposityCindexCandCneckCcircumference.CCardiovascDiabetolC19:118,C20205)ManCRE,CGanCAT,CFenwickCEKCetal:TheCrelationshipCbetweenCgeneralizedCandCabdominalCobesityCwithCdiabeticCkidneyCdiseaseCinCtypeC2diabetes:aCmultiethnicCAsianCstudyCandCmeta-analysis.CNutrients10:1685,C20186)TheCLookCAHEADCResearchGroup:CardiovascularCe.ectsCofCintensiveClifestyleCinterventionCinCtypeC2Cdiabetes.CNEnglJMedC369:145-154,C20137)OC’BrienCR,CJohnsonCE,CHaneuseCSCetal:MicrovascularCoutcomesCinCpatientsCwithCdiabetesCafterCbariatricCsurgeryCversusCusualaare:aCmatchedCcohortCstudy.CAnnCInternMed169:300-310,C20188)ChangCYC,CChaoCSH,CChenCCCCetal:TheCe.ectsCofCbariat-ricCsurgeryConCrenal,Cneurological,CandCophthalmicCcompli-cationsCinCpatientsCwithCtypeC2diabetes:theCTaiwanCdia-besityCstudy.CObesSurgC31:117-126,C20219)MerlottiCC,CCerianiCV,CMorabitoCACetal:BariatricCsurgeryCandCdiabeticretinopathy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCcontrolledCclinicalCstudies.CObesityReviewsC18:C309-316,C201710)SjostromCL,CPeltonenCM,CJacobsonCPCetal:AssociationCofCbariatricCsurgeryCwithClong-termCremissionCofCtypeC2Cdia-betesCandCwithCmicrovascularCandCmacrovascularCcompli-cations.CJAMAC311:2297-2304,C2014☆☆C☆