学童近視の進行予防外来最前線ソフトコンタクトレンズTheFrontLinesofMyopiaControlinSchoolChildren─TreatmentwithMultifocalSoftContactLenses二宮さゆり*はじめに筆者がソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を使った子どもの近視抑制研究に携わりはじめたのは2010年の頃である.当時の日本は,オルソケラトロジー(以下,オルソK)による近視進行抑制効果がやっと認知されはじめた頃であり,ましてや「SCLにおいても,何を装用するかで近視進行に差が出るようだ」という話は半信半疑,もしくはまったく信用されない時代であった.それ以前に,子どもにSCLを装用させるということ自体がタブー視されていたのかもしれない.しかし現在,海外の多くの国で近視抑制効果の承認を得た「近視抑制治療用SCL」が発売され,オルソKと並ぶ治療手段として臨床の場に浸透しつつある.眼科医が近視の子どもに眼鏡を処方し,近視進行を傍観していられる時代は終わりつつあるのだ.近視の子どもをもつ親は切実に治療手段を模索している.しかし,その治療需要に対する眼科医側の治療提供はまったく追いついていない状況である.過度に進行した近視がもたらす緑内障や網膜.離などの重篤な合併症のリスクを考えると,未来を担う子どもたちがそれら重篤な疾患に罹らずにすむ予防治療として,われわれ眼科医は近視進行抑制治療にもっと積極的に取り組む責務を負っているのではないだろうか.I光学デザインのトレンド1.累進屈折タイプの場合遠視性軸外収差は近視進行を促す要素の一つと推測されている.中心遠用の累進屈折SCLについては,単焦点SCL,中加入(add:+1.25D),高加入(add:+2.50D)を比較したWallineらの研究1)により,加入度数に応じて屈折においても眼軸長においても,加入度数の大きさと近視抑制効果に有意な相関があることが示された.Bio.nityMultifocalHighadd+2.50D(クーパービジョン)はわが国で現時点でも入手可能で,制作範囲は.10Dまでと適応範囲も広い.しかし,高加入タイプは瞳孔径が大きくなるような環境,たとえばバドミントンやバレーボールなど眩しい照明下で行われる室内競技では,見え方の不自由を訴える場合もあるので,筆者は長眼軸眼の子どもに限って用いているようにしている.近視進行スピードが速い子どもには,既成品の+2.50D加入より大きい加入が必要と感じる場合もある.海外には加入度数,乱視度数などを指定してカスタムメイドで作製できるコンタクトレンズ(contactlens:CL)もあり(ただしコンベンショナルタイプ),医師が患者に必要と考える加入度数のSCLを処方可能であるのは羨ましいかぎりである.一方,12歳以降で眼軸の伸びも鈍化してきたと判断した場合には,視機能を優先して低加入のMeniconDuoや非球面の単焦点SCLの処方に切り替えている.*SayuriNinomiya:伊丹中央眼科〔別刷請求先〕二宮さゆり:〒664-0851兵庫県伊丹市中央1-5-1伊丹中央眼科0910-1810/23/\100/頁/JCOPY(19)157MiSightR(CooperVision)図1MiSight中心より遠用度数と+2.00D加入度数部分が交互に配置された二重焦点となっており,加入部分を通過した光により近視性の軸上および軸外収差が生じる.(CooperVisionMisight1Dayホームページより改変,misight.com)C2.同心円状デザインタイプの場合a.MiSight(クーパービジョン,図1)世界でもっとも知られた近視進行抑制CSCLであるMiSightは.中心より遠用度数と+2.00D加入度数部分が交互に配置された二重焦点CSCLで,治療開始時の年齢はC8.12歳,等価球面値C.0.75.C.4.00D,乱視度数0.75D以下の学童近視の子どもを対象としている.単焦点CSCLとのC3年間比較ではC52%(眼軸長)の近視抑制効果が示されており2,3),現在はC7年目までの長期データも公表されている.そこではCMisight装用中止によるリバウンドの有無についても調査されており,装用中止により近視進行は本来の無治療時の進行速度に戻るものの,リバウンドとよべるような進行加速はみられなかったとしている.MiSightはヨーロッパ,北米,オセアニア,東南アジア,中国,韓国など多くの国々で近視抑制治療用CSCLとして承認を受けて販売されている.世界にはずいぶん出遅れたものの,日本でもC2021年末より承認取得に向けた臨床治験が始まっている.数年後には臨床の場で近AcuvueRabilitiTM1.Day(Johnson&Johnson)外側の治療ゾーンを通過した光は網膜の前方に集光する図2Acuvueabiliti1-Dayabiliti-1Dayは大きく加入されているが,軸上をはずして焦点が合うように設計することで(リングブーストターゲットテクノロジー),見え方への影響軽減を図っているという.(AcuvueabilityC1-Dayホームページより改変,seeyouabiliti.com)視抑制効果の認可を受けた製品として正式に販売開始されると期待している.Cb.Acuvueabiliti1-Day(ジョンソン・エンド・ジョンソン,図2)CAcuvueabiliti1-Dayもわが国では未発売の製品である.治療開始時年齢C7.12歳,等価球面値C.0.75.C.4.50D,乱視度数C1.00D以下の子どもを対象としており,多焦点CSCLが持ち込む視機能への影響を抑えつつ,近視進行を抑制することを意図したデザインとなっている.視軸上の光は黄斑上に焦点を結ぶと同時に,+10.00Dの加入効果により網膜より手前にも焦点を結ぶ.外側の治療ゾーン(+7.00D加入)を通過した光は視軸を避けて網膜の前方に焦点を結ぶように設計されている(図1b).AcuvueOasisと同じ高酸素透過性シリコーンハイドロゲル素材(seno.lconA)で作られており,2021年にカナダで近視抑制治療用CSCLとしての承認を得ている.Misightと比較し,かなり高加入となっているため,より強い近視抑制効果が期待できる可能性もある.しかし,加入部分の焦点は中央からズラした設計に158あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023(20)ピークは-0.25~-0.75D程度近方寄り図3SEED1DayPureEDOFMidEDOF(焦点深度拡張型)は近見有利にする設計上,網膜像のピーク位置がやや近方寄りになっている.12.0%処方度数(TP)10.0%8.0%6.0%4.0%2.0%0.0%-0.50-0.75-1.00-1.25-1.50-1.75-2.00-2.25-2.50-2.75-3.00-3.25-3.50-3.75-4.00-4.25-4.50-4.75-5.00-5.2588%98%図4当院におけるオルソK処方レンズ分布実際に集計した処方レンズ分布は.4.00DまでがC9割を占めていた.データ対象期間:2018年.2022年C10月.月火水木金土日am休pm前半診pm5時以降日〈解決策〉◆定期検診:1年以上問題なく過ごせていれば,夏休み,冬休み,春休みへ振り分ける.図5子どもが来院可能な時間帯子どもが来院できる時間帯は,平日の夕方,週末,夏休みなどの長期休暇中に限られてしまう.正常眼データに基づくトレンド分析治療効果が出ているかを可視化実施した治療を入力可能図6MyopiaMasterのトレンド解析プログラム眼軸長の掲示変化を示すのみならず,BrienHoldenVisionInstituteの収集したC25,000眼以上の年齢別正常眼データベースを元に進行の予測解析も可能である.(ニコンのカタログより転載)Master(ニコン,図6),MYAH(トプコン,図7)には,発売予定となっている.近視の進行をグラフ化して説明眼軸長変化をグラフとして示すプログラムが搭載されてできる手段は,近視進行評価,治療効果の判定,モチベいる.また,トーメーコーポレーションより既存の眼軸ーション維持にとって大変有用である.長測定装置COA-2000に外付するタイプの眼軸長トレンド解析ソフトウェア(AxialManager)がC2023年C2月に(23)あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023C161図7MYAHの眼軸長と年齢をプロットしたグラフ眼軸長と屈折値の経時変化を表示することができる.治療開始時などをマークする機能もあり,患者説明に便利である.(トプコンのホームページより転載)