●連載◯128監修=安川力髙橋寛二108加齢黄斑変性に対するトリアムシノロン併用引地泰一ひきち眼科ブロルシズマブ治療ブロルシズマブは滲出型加齢黄斑変性の治療において,既存薬のなかでも投与間隔の延長や滲出性変化の良好なコントロールが期待できるものの,眼内炎症(IOI)に伴う網膜血管炎や血管閉塞による視機能障害が危惧される.唯一眼や優位眼への投与には,IOI予防を目的にトリアムシノロンTenon.下注射の併用療法が選択肢となる.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegenera-tion:AMD)に対する治療は,血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬の登場により,治療成績が飛躍的に向上した.しかし,導入期治療で改善した視機能を維持するには,病状を評価しながら継続的かつ半永久的な抗VEGF薬の硝子体内注射が求められる.病状のコントロールに必要な硝子体内注射の頻度は患者ごとにまちまちであり,頻繁な硝子体内注射を要する患者では頻回の通院や経済的な負担が問題となる.そのため,薬効が強力かつ長期間持続する薬剤の開発が求められている.ブロルシズマブの特徴ブロルシズマブは国内で4番目に承認された眼科用VEGF阻害薬で,血管内皮細胞表面に発現するVEGF受容体1および2へのVEGF-Aの結合を阻害することで,滲出型AMDに対する治療効果を発揮する.ブロルシズマブはヒト化一本鎖抗体フラグメントで,他のVEGF阻害薬と比べて分子量が小さい(約26kDa).そのため,既存薬と同程度の半減期であるものの,既存薬より10~20倍高いモル濃度での硝子体内注射が可能であり,高濃度投与による作用時間の延長が期待できる.さらに組織への透過性が高く,硝子体内注射後の網膜・脈絡膜への移行性がよいなどの特徴を有している.ブロルシズマブの有効性と安全性を評価したHAWKおよびHARRIER第III相試験1)で,ベースラインからの視力改善におけるアフリベルセプト(q8w)に対するブロルシズマブ(q12w/q8w)の非劣性が確認された.さらに,ブロルシズマブ6mg群で治療眼の50%以上が48週目までのq12w投与を維持することができ,網(83)0910-1810/23/\100/頁/JCOPY膜内および網膜下滲出液・色素上皮.離の消退については,アフリベルセプトよりもブロルシズマブ治療眼のほうが良好だった.2019年10月に米国,2020年2月に欧州でブロルシズマブの使用が承認され,その後,わが国をはじめ世界各国で承認された.ブロルシズマブ関連眼内炎症ブロルシズマブはその後の実臨床においても,第III相試験の結果と同様に薬剤投与間隔の延長と滲出性変化の良好なコントロールが可能であることが確認された.一方,ブロルシズマブ硝子体内注射後に眼内炎症(intra-ocularin.ammation:IOI)が生じ,網膜血管炎や血管閉塞のために視機能障害をきたした症例の報告が相ついだため,HAWKおよびHARRIER試験の事後分析調査2)が行われた.その結果,ブロルシズマブを投与した1,088眼のうち50眼(4.6%)に本薬剤に関連したIOIが発生し,このうち36眼(72%)が網膜血管炎を併発,さらに血管閉塞を併発したものが23眼(46%)で,IOIを発症すると高率に網膜血管炎や血管閉塞が生じること,重度(ETDRSチャートで30文字以上)および中等度(15文字以上)の視力低下が残った5眼および8眼は,すべて網膜血管炎を併発しており,中等度視力低下の1眼以外は血管閉塞を伴っていたことが報告された.以上より,ブロルシズマブを使用する際には,IOIの発生に留意する必要性が改めて確認された.ブロルシズマブによるIOIの発症メカニズムは不明であるものの,IOIはステロイドへの反応性がよく,消炎に伴う硝子体混濁や網膜血管炎の消退による視機能改善が報告されている.中心窩領域に血管閉塞が生じると,最終視力が不良となるため,初期のIOI所見を見逃さないように注意深い経過観察が必要であり,IOI発生時にあたらしい眼科Vol.40,No.2,2023221図1ブロルシズマブによる眼内炎症62歳,男性.滲出型加齢黄斑変性に対する治療として,ブロルシズマブ導入期3回目の硝子体内注射12日後から飛蚊感が増加.前房は清明で角膜後面沈着物や結膜充血は認められないものの,硝子体に軽微な炎症細胞の浮遊(a:.)と網膜血管炎(b:..)を認めた.トリアムシノロンアセトニドTenon.下注射20mgで消炎し,飛蚊症も消失した.(a:引地:ブロルシズマブと眼内炎症.大鹿哲郎ほか編:新篇眼科プラクティス4眼科薬物療法,文光堂,2022,図2Aを改変引用)はただちにステロイドの局所投与を開始する.とくに,網膜血管炎を併発している患者に対しては,後眼部への消炎効果が期待できるTenon.下投与が望ましい.トリアムシノロン併用ブロルシズマブ筆者はわが国でのブロルシズマブ認可後,他のVEGF阻害薬からブロルシズマブに投与薬剤を変更した14眼中4眼(28.6%)でIOIの発生を経験した(図1).3眼はIOIにより視力が低下し,とくに1眼は著しい硝子体混濁のため手動弁に低下した.全例にトリアムシノロンアセトニドTenon.下注射(sub-Tenon’striam-cinoloneacetonideinjection:STTA)20mgを行ないIOIは消退し,IOI発生前の視力に回復した3).そこで,4例目のIOI発生以降にブロルシズマブを投与する患者には,IOIの予防を目的にブロルシズマブ硝子体内注射と同時にSTTAを併施することとした.その結果,222あたらしい眼科Vol.40,No.2,2023STTA併用ブロルシズマブ硝子体内注射を施行した連続する30眼でIOI発生を認めなかったことから,STTAを併施することでブロルシズマブによるIOIを予防できる可能性があると考えている4).IOIはステロイドへの反応性がよいものの,網膜血管閉塞による不可逆的な視機能障害をきたすリスクがあり,また仮に炎症が治癒し視機能が回復しても,IOI発症から視機能回復までの間は,患眼の視機能が低下する.したがって,唯一眼あるいは優位眼の治療にブロルシズマブを投与する際は,IOIの予防が求められるため,STTA併用ブロルシズマブ硝子体内注射が選択肢となる.おわりにブロルシズマブは実臨床においても,第III相試験と同様にtreatment-naive症例の病状の鎮静化が可能であり,他剤からの切り替えにおいても病状の鎮静化のみならず,薬剤投与間隔の延長が期待できるため,滲出型AMDの治療において貴重な薬剤である.ただし,IOIの発生頻度が他剤と比べやや高く,まれに網膜血管閉塞による重篤な視機能低下を招く.治療の選択肢が増えることは,患者はもとより治療を行う眼科医にとっても朗報である.他剤との兼ね合いを考慮しつつ,秀逸な本剤のベネフィットを活用し,かつリスクを極力抑えることで,患者の視機能や生活の質の維持向上を図る.まさに眼科医の腕の見せ所である.STTA併用ブロルシズマブ硝子体内注射の意義は大きいと考える.文献1)DugelPU,KohA,OguraYetal:HAWKandHARRI-ER:phase3,multicenter,randomized,double-maskedtri-alsofbrolucizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology127:72-84,20202)Mone.sJ,SrivastavaSK,Ja.eGJetal:Riskofin.ammation,retinalvasculitis,andretinalocclusionrelat-edeventswithbrolucizumab.PosthocreviewofHAWKandHARRIER.Ophthalmology128:1050-1059,20213)HikichiT:ThreeJapanesecasesofintraocularin.ammationafterintravitrealbrolucizumabinjectionsinoneclinic.JpnJOphthalmol65:208-214,20214)HikichiT:Sub-Tenon’scapsuletriamcinoloneacetonideinjectiontopreventbrolucizumab-associatedintravitrealin.ammation.GraefesArchClinExpOphthalmol260:2529-2535,2022(84)