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近年の眼部帯状ヘルペスの臨床像の検討

2022年5月31日 火曜日

《第57回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科39(5):639.643,2022c近年の眼部帯状ヘルペスの臨床像の検討安達彩*1,2,3佐々木香る*2盛秀嗣*2嶋千絵子*2髙橋寛二*2*1東北医科薬科大学眼科学教室*2関西医科大学眼科学教室*3東北大学眼科学教室CTheClinicalCharacteristicsofHerpesZosterOphthalmicusinRecentYearsAyaAdachi1,2,3)C,KaoruAraki-Sasaki2),HidetsuguMori2),ChiekoShima2)andKanjiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,TohokuMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,TohokuUnivercityC水痘ワクチン定期接種開始後C5年経過した現在の眼部帯状ヘルペスの臨床像を明らかにする.2018年C1月.2020年C12月に関西医科大学附属病院を受診した眼部帯状疱疹患者はC44例で,平均年齢C64.9歳であった.高齢者に多くみられたが,20代の若者でもみられた.2014年以降の患者数は,皮膚科では増加傾向にあったが眼科では著明な増減は認めなかった.発症時期は,夏のみでなく秋から冬にも認められた.先行症状は不明例を除き多い順に,眼瞼腫脹C13眼,眼部眼部疼痛C8眼であった.眼科初診時に眼所見を認めたものはC35眼(79.5%)であり,結膜充血のみがC6例,経過観察中に偽樹枝状角膜炎がC7眼,角膜浮腫および虹彩炎がC7眼,多発性角膜浸潤がC7眼,強膜炎がC8眼出現した.多発性角膜浸潤,強膜炎を呈するものはそれ以外を呈するものに比べて有意に遷延化した(p<0.05).また,発症後C72時間以内に抗ウイルス薬全身投与が開始された患者は治癒期間が短い傾向にあった.CPurpose:ToCanalyzeCtheCcurrentCcharacteristicsCofCherpesCzosterophthalmicus(HZO)dueCtoCtheCe.ectsCofCroutineCherpesCzosterCvaccinationsC.rstCintroducedCinC2006.CPatientsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedCtheCanalysisCofCtheCmedicalCrecordsCofC44CHZOpatients(meanage:64.9years)seenCatCourChospitalCbetween2018and2020.Results:Our.ndingsrevealedthatHZOwasmorecommonintheelderly,yetalsoseeninyoungsubjects20-30yearsofage.Duringtheobservationperiod,althoughtherewasanincreaseinthetotalnumberCofCHZOCpatientsCseenCatCourCDepartmentCofCDermatology,CthereCwasCnoCchangeCinCtheCnumberCofCthoseCseenCatCourCDepartmentCofCOphthalmology.CTheConsetCofCtheCdiseaseCwasCbimodal,Ci.e.,CoccurringCinCbothCsummerCandCwinter.CTheCprimaryCsymptomsCatCinitialCpresentationCwereCeyelidCswellingCandCpain.COfCtheC44Cpatients,C35(79.5%)hadCocularcomplications;i.e.,Chyperemiaalone(n=6patients)C,Cpseudodendritickeratitis(n=7patients)C,Ccornealedemaandiritis(n=7patients),MSI(n=7patients),andscleritis(n=8patients).Conclusion:TheHZOpatientsinthisstudywerefoundtohavehadsigni.cantlylongerhealingperiodscomparedtothosewhostartedsystemicCadministrationCofCantiviralCmedicationCwithinC72ChoursCpostConset.CSinceCourC.ndingsCareCsubjectCtoCchange,furtherinvestigationisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(5):639.643,C2022〕Keywords:水痘帯状疱疹ウイルス,眼部帯状ヘルペス,眼合併症.varicella-zostervirus,herpeszosterophthal-micus,ocularcomplications.Cはじめに帯状疱疹は,通常幼少期に初感染し全身に水痘を引き起こした水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)が,脊髄後根神経節,三叉神経節などに潜伏し,加齢や免疫力の低下などによって再活性化されることで発症する.わが国の眼部帯状疱疹については,年齢や眼所見の合併率,臨床症状などC1990年代に多くの臨床統計報告がなされ1.9),鼻疹のある患者で眼合併症が多いという報告7,9)などがよく知られている.その後,抗ウイルス薬の開発とともに報告は減少し,2000年に抗ウイルス薬全身投与の開始が遅れたもので眼合併症が多いなどの報告10)が散見されるが,近年は臨床統計報告はなされていない.〔別刷請求先〕安達彩:〒983-8536宮城県仙台市宮城野区福室C1-15-1東北医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:AyaAdachi,DepartmentofOphthalmology,TohokuMedicalandPharmaceuticalUniversity,1-15-1Fukumuro,Miyagino-ku,SendaiCity,Miyagi983-8536,JAPANCしかし,2014年C10月からわが国で水痘ワクチンの定期接種が開始され,状況は異なってきたことは明らかである.たとえば,皮膚科領域の帯状疱疹大規模疫学調査である宮崎スタディでは,水痘ワクチン定期接種開始後では,開始前に比して年齢・性別・季節性・発症頻度などに明らかな変化が生じていると報告されている11).そこで,水痘ワクチン定期接種による眼部帯状疱疹への影響を明らかにするために,接種開始後C5年となるC2019年を中心としたC3年間,すなわちC2018年C1月.2020年C12月に関西医科大学附属病院(以下,当院)を受診した眼部帯状疱疹患者についてその臨床像を検討した.CI対象および方法対象は,2018年C1月.2020年C12月に当院を受診し,眼部帯状疱疹と診断されたC44例C44眼(男性C20例,女性C24例)である.観察項目は,①C1年ごとの受診患者数,②発症時年齢,③発症月,④受診に至った経緯,⑤眼科初診時の主訴,⑥経過中の主たる眼所見とした.そのうえで,主たる眼所見と治癒期間との関係および抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係を,それぞれCc2検定を用いて検討した.なお,患者数のみ,2014年C1月.2020年C12月を対象期Ca500450間とした.治療はいずれの患者も,眼科ではステロイド点眼(0.1%フルオロメトロン点眼,0.1%デキサメサゾン点眼),アシクロビル眼軟膏,皮膚科では抗ウイルス薬(アシクロビル点滴,内服,アメナメビル内服,バラシクロビル内服)全身投与であった.なお,本研究は関西医科大学倫理委員会の承認(多施設共同研究)を得て行った.CII結果当院を受診した帯状疱疹患者数は,皮膚科ではC2014年に397人であったが,その後増加傾向を示し,2020年には449人であった.しかし,眼科ではC2014年の16人から2020年のC19人まで,7年間に明らかな受診数の増減は認めなかった(図1a).発症年齢はC23.88歳(平均C65.1歳)で,70歳代がC15名と最多であり,70歳以上の高齢者が全体の約C52.2%であった.一方,20.30代の若年者にもC5例(11%)の発症を認めた(図1b).発症月は,図1cに示すとおり,2月とC9月を中心に二峰性を示し,夏のみでなく秋から冬にも発症を認めた.受診に至った経路を,眼科を直接受診した経路(眼群),皮膚科や内科など他科から眼科へ紹介となった経路(他-眼群),近医眼科を受診するも帯状疱疹と診断されず,後日他科から眼科へ紹介となった経路(眼-他-眼Cb1614皮膚科眼科■女性■男性4150210050020歳代30歳代40歳代50歳代60歳代70歳代80歳代02014201520162017201820192020(年)c7640012人数(人)350患者数(人)1030082506200人数(人)5432101月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月図1帯状疱疹患者内訳a:当院を受診した帯状疱疹患者数.2014年以降,皮膚科(点線)では徐々に増加傾向にあるが,眼科(実線)では明らかな増加は認めなかった.Cb:性別と年齢分布.発症年齢はC23.88歳(平均C65.1歳)で,男女差は認めなかった.70歳以上の高齢者が全体の約C52.2%を占め,一方,20.30代の若年者もC5例(11%)に認めた.Cc:発症月.2月とC9月を中心に二峰性を示し,夏のみでなく秋から冬にも発症を認めた.表1眼科初診時主訴初診時主訴症例数割合眼瞼腫脹C1329.5%眼部疼痛C818.2%皮疹C511.4%掻痒感C49.1%充血C24.5%違和感C12.3%不明C1125.0%症例数表2眼所見と治癒までの期間との関係所見治癒までの期間.C30日30日.合計結膜充血偽樹枝状角膜炎17C1C18実質浮腫,虹彩炎C多発性角膜浸潤強膜炎C2C12C14Cp=4.67×10.6(<0.05)98■眼群■他-眼群■眼-他-眼群76543210結膜充血偽樹枝状実質浮腫・多発性角膜強膜炎角膜潰瘍虹彩炎上皮下浸潤図2臨床所見の分類と受診経路の関係経過中にみられた臨床所見を受診経緯別に表す.眼-他-眼群は多発性角膜浸潤(1例)と強膜炎(4例)を呈した.表3抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係発症.治療開始治癒期間.C30日30日.合計72時間以内C20C7C2772時間以上C8C6C14Cp=0.27(>0.05)図3強膜炎が遷延化した代表症例a:初診C5日目,Cb:治療開始C6週目,Cc:治療開始C10週目.充血発症日に近医眼科受診するも抗菌薬で経過観察され,11日目に皮膚科でアメナメビル内服が投与された眼-他-眼群のC57歳,男性.結節性強膜炎が遷延し,消炎までにC10週間以上を要した.群)のC3群に分類した.その結果,他-眼群はC31例(70.4%)ともっとも多く,続いて眼群はC7例(15.9%),眼-他-眼群はC6例(13.6%)であった.また,それぞれの群における発症から眼科治療開始までの平均日数は,多い順に眼-他-眼群(9.6日),他-眼群(7.0日),眼群(6.7日)であった.眼科初診時主訴については,眼瞼腫脹がC13例(29.5%),眼部疼痛がC8例(18.2%)と最多であり,その両者で約半数を占め,皮疹よりも多かった(表1).前眼部所見については,①結膜充血,②偽樹枝状角膜炎,③実質浮腫,虹彩炎,④多発性角膜浸潤,⑤強膜炎,に分類した.なお,所見が重(91)複した場合は①から⑤の数字の大きいものに分類した.今回,眼所見はC35例すなわち全体のC79.5%に認められた.それぞれの所見を認めた症例数は,①がC6例,②がC7例,③が7例,④がC7例,⑤がC8例であり,所見ごとに明らかな差は認められなかった.また,所見ごとに受診経緯別に表すと,眼群と眼-他群は①から⑤のいずれの所見も呈したが,眼-他-眼群は④多発性角膜浸潤(1例)と⑤強膜炎(4例)を呈した(図2).なお,今回の調査期間では,眼球運動障害や視神経病変を生じたものはなかった.眼所見と治癒期間との関係について表2に示す.眼所見を結膜充血(①),偽樹枝状角膜炎(②),実質浮腫と虹彩炎(③)をCA群とし,多発性角膜浸潤(④)と強膜炎(⑤)をCB群とする二群に分類した.A群では治癒期間がC30日未満であったものはC17例,30日以上であったものはC1例であり,B群では治癒期間がC30日未満であったものがC2例,30日以上であったものはC12例であった.Cc2検定で検討したところ,多発性角膜浸潤と強膜炎を呈する症例は統計学的に有意に治癒期間が長引く傾向にあり(p<0.05),実際C200日を超えて治癒した症例もあった.眼-他-眼群で,強膜炎が遷延化した代表症例を図3に示す.消炎にはC10週間以上要した.抗ウイルス薬全身投与開始時期と治癒期間との関係について,発症から全身投与までの期間をC72時間以内と以上に分けて検討したところ,全身投与がC72時間以内に実施された症例のうち,治癒期間がC30日未満であったものはC20例,30日以上であったものはC7例であった.また,全身投与が発症後C72時間以上経過していた症例のうち,治癒期間がC30日未満であったものはC8例,30日以上であったものはC6例であった.Cc2検定で検討したところ,有意差には至らなかった(p>0.05)ものの,72時間以内に治療が開始された症例ではC30日未満に治癒する症例が多かった(表3).CIII考察皮膚科領域では,水痘ワクチン定期接種開始により帯状疱疹の臨床像に変化が現れたことが宮崎スタディで明らかにされている.定期接種開始前は,帯状疱疹は,高齢者に多いこと,女性に有意に多いこと,夏に多く冬に少ないこと,子育て世代はブースター効果により発症が少ないことなどが明らかであったが,定期接種開始により小児における水痘の減少,それに伴ったブースター効果の減弱による子育て世代の発症率の増加,全体的な患者数や発症率の増加,冬季にもみられるようになり季節性の消失が報告されている11).眼部帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルス再発による三叉神経第一枝領域の感染症であり,同じようになんらかの影響を受けているのではないかと考えた.今回の結果をみると,眼部帯状疱疹では宮崎スタディにみられるような明らかな重症度,発症頻度の増加は認めなかった.年齢に関しては,1990年代の既報1.9)同様に高齢者に多く,統計上若年者の増加は明らかではなかったが,これまでの報告と異なり,20歳代,30歳代など若年者にも発症していることがわかった.性別に関しては,既報同様,男女差は認めなかったが,皮膚科領域の報告では,授乳,分娩,陣痛にかかわる領域である腰仙部領域に帯状疱疹が生じた例は女性に多いと報告されている11).眼部帯状疱疹は男女差にかかわる領域ではないため,その差が明らかにならなかったと考えられる.また,今回の検討は対象が単一施設での検討であること,同一施設における定期接種前との比較ができていないことも,定期接種による変化を明らかにできなかった理由と推測される.しかし,宮崎スタディと同様に発症時期が冬季のみでなく夏季にもわたり,季節性が消失していることが判明した.ワクチン接種前に春から夏にかけて眼部帯状疱疹が多く発症しているという報告9)もあり,ワクチン接種により水痘流行の季節性が消失したため,帯状疱疹もその影響を受けているのではないかと考えられた.また,地球温暖化による季節性の消失との関連性も推測される.ワクチンの影響以外にも,今回の検討で初めて明らかになったことがC2点ある.一つ目は前医眼科で初診時に早期診断できず,後日皮膚科や内科などの他科から改めて眼科を受診するという受診経路が約C10%あったこと,二つ目は多発性角膜浸潤や強膜炎の所見が遷延化することである.他科から改めて眼科受診となった患者に関しては,遷延化する多発性角膜浸潤や強膜炎を呈することが多く,早期診断の重要性を示唆するものと思われる.帯状疱疹の発症前に,同部位の皮膚に感覚異常や眼部疼痛などの前駆症状が数日間生じることが報告されており12).早期診断のためには,皮疹のみならず先行する眼部疼痛にも注意するべきである.既報12)と同様に今回の結果においても,主訴として眼瞼腫脹・眼部疼痛の占める割合が高い結果であった.初診時皮疹が明らかでなかったとしても,眼部の眼瞼腫脹・眼部疼痛を訴える患者には,帯状疱疹の可能性を念頭に,数日後の再診指示や,皮疹出現に注意するよう促すなど,患者への注意喚起が必要であると考える.また,今回,全身の治療開始が遅れた場合には眼科所見も遷延化する傾向がみられた.早期に全身治療を開始すると眼合併症率が低いという報告13)や,早期の抗ウイルス薬治療とともに眼部疼痛治療を開始すれば急性期眼部疼痛の緩和や帯状疱疹後神経痛の軽減につながるとの報告14)がなされている.眼部帯状疱疹の遷延化予防のためにも,患者CQOLの維持のためにも,早期の診断と皮膚科との迅速な連携の重要性が改めて確認された.多発性角膜浸潤や強膜炎が遷延化する機序は明らかではないが,これらの病態ではウイルス排出量が多いという報告15)もあり,治療が遅延したことにより,病初期のウイルス量が多くなり炎症反応を強く惹起したと考えられる.なお多発性角膜浸潤や強膜炎はC30日を超えて遷延化する症例が高く,初診時に患者に通院・治療期間の長期化を説明すべきであると思われた.今回の検討で,いくつか明らかにできなかったこともある.抗ウイルス薬については,現在アシクロビル,アメナメビルなど数種類の薬剤が開発され使用可能であり,今回の結果に影響した可能性も否定できないが,対象症例の治療に携わった皮膚科での使用方法が一定化されておらず,それぞれの薬剤による影響は今回の調査では検討をすることはできなかった.また,Hatchinson徴候については,後ろ向き研究であったこともありカルテ記載が統一されておらず,明らかにはできなかった.今回,2014年の水痘ワクチン定期接種開始後,5年目となるC2019年を中心としたC3年間の眼部帯状疱疹について検討した.50歳以上に向けた帯状疱疹ワクチン接種もすでに開始され,眼部帯状疱疹の臨床像は,今後も疫学的に変化する可能性があり,引き続き調査が必要であると考える.本研究の統計解析に関して,関西医科大学数学教室北脇知己先生にご指導を賜りました.感謝の意を表します.文献1)三井啓司,秦野寛,井上克洋ほか:眼部帯状ヘルペスの統計的観察.眼臨医報C79:603-608,C19852)田中利和,内田璞,山口玲ほか:眼部帯状ヘルペスについて統計的観察とC2症例の報告.眼臨医報C79:994-999,C19853)原田敬志,横山健二郎,市川一夫ほか:帯状疱疹における眼合併症の統計的観察.眼科C28:241-247,C19864)八木純平,福田昌彦,安本京子ほか:眼部帯状ヘルペスの眼所見および治療について.眼紀C37:1021-1026,C19865)内藤毅,新田敬子,木内康仁ほか:当教室における眼部帯状ヘルペスについて.あたらしい眼科C7:1359-1361,19906)林研,辻勇夫:飯塚病院における眼部帯状ヘルペスの検討.眼紀C42:1536-1541,C19917)味木幸,鈴木参郎助,新保里枝ほか:眼部帯状ヘルペスにみられる眼合併症とその長期化に影響を及ぼす因子について.日眼会誌C99:289-295,C19958)松田彰,田川義継,阿部乃里子ほか:水痘・帯状ヘルペスウイルスによる角膜病変.臨眼C49:1519-1523,C19959)関敦子,野呂瀬一美,吉村長久:眼部帯状ヘルペス臨床像の検討.眼紀C47:673-676,C199610)安藤一彦,河本ひろ美:眼部帯状疱疹の臨床像.臨眼C54:C385-387,C200011)白木公康,外山望:帯状疱疹の宮崎スタディ.モダンメディア60:251-264,C202012)神谷齋,浅野喜造,白木公康ほか:帯状疱疹とその予防に関する考察.感染症誌84:694-701,C201013)HardingCSP,CPorterSM:OralCacyclovirCinCherpesCzosterCophthalmicus.CurrEyeResC10(Suppl):177-182,C199114)漆畑修:帯状疱疹の診断・治療のコツ.日本医事新報C4954:26-31,C201915)InataCK,CMiyazakiCD,CUotaniCRCetal:E.ectivenessCofCreal-timeCPCRCforCdiagnosisCandCprognosisCofCvaricella-zosterCvirusCkeratitis.CJpnCJCOphthalmolC62:425-431,C2018C***

基礎研究コラム:60.CRISPR/Cas9を用いた遺伝子治療【

2022年5月31日 火曜日

CRISPR/Cas9を用いた遺伝子治療CRISPR/Cas9とはClusteredCregularlyCinterspacedCshortCpalindromicCrepeats/CRISPRCassociatedproteins9(CRISPR/Cas9)とは,2013年に報告された遺伝子編集技術です1).プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)=5’-NGGという特定の配列の直前C20塩基の配列を標的として結合するCguideCRNA(gRNA)と,DNAの二本鎖切断を起こすCCas9蛋白がセットになって働き,特定部位でのCDNAの切断を起こすことができます.切断された部位は非相同末端結合によって修復されますが,その際に塩基の挿入や欠損が起きることで,その部位をCknock-outすることができます.さらに,ドナーとなる一本鎖CDNAを同時導入することで相同配向型修復を起こすことも可能であり,ドナーのCDNAを設計することにより任意の変異を組み込むことも可能です.それまでもTALEN,ZFNといった遺伝子編集技術がありましたが,それと比較して高率かつ自由度が高い遺伝子編集が可能であることから,基礎研究で広く使われるようになりました.CCRISRP/Cas9の臨床応用CRISPR/Cas9が登場して以来,この遺伝子編集技術を生かした遺伝子治療の研究がなされてきました.眼科ではCEP290という遺伝子が原因となっているCLeber先天黒内障C10型の臨床研究が現在海外で行われています.Leber先天黒内障はC10型イントロンというCDNAの通常は読み取られない領域にCIVS26という変異が生じ,そこでCDNAの読み取りが終了してしまうためにCCEP290蛋白の合成が阻害されてしまう病気です.そこでCCRISPR/Cas9を用いて異常部位の前後の部分を切断します.そうするとその範囲のDNAがなくなり,さらに非相同末端結合により断端がつなぎ合わされることで遺伝子が正常に読み取られ,その結果,正常なCCEP290蛋白が作られるようになります.Maederらはアデノ随伴ウイルスベクターを用いてこのCCRISPR/Cas9システムを変異マウスの網膜に導入し,CEP290遺伝子のinvivoでの編集が可能であったことを報告しています2).筆者のグループではCCRISPR/Cas9を用いたCtransformingCgrowthCfactorCbetainduced(TGFBI)角膜ジストロフィの遺伝子治療について研究をしています.まだCinvitroの段階ではありますが,顆粒状角膜ジストロフィ患者の角膜検体から得た初代培養細胞に対し,CRISPR/Cas9を用いてCTGFBI遺伝子の修正が可能であったことを報告しています3).(79)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY北本昂大東京大学医学部眼科学教室図1CRISPR.Cas9システムの概略標的部位にCguideRNAが結合し,二本鎖切断を起こす.切断後は非相同末端結合により修復される過程で挿入欠損が起こる.ドナーとなる一本鎖CDNAが同時に導入されると,相同配向型修復も一部で生じ,任意の変異を挿入することができる.今後の展望現在さまざまな領域で,CRISPR/Cas9を用いるものを含め,遺伝子治療の研究が盛んに行われています.現時点ではまだ実用化されているものは少ないですが,今後の研究の発展に伴い,これまで治療方法がなかった疾患も治療ができるようになるのではないかと期待しています.文献1)MaliCP,CYangCL,CEsveltCKMCetal:RNA-guidedChumanCgenomeCengineeringCviaCCas9.CScienceC339:823-826,C20132)MaederCML,CStefanidakisCM,CWilsonCCJCetal:Develop-mentCofCaCgene-editingCapproachCtoCrestoreCvisionClossCinCLeberCcongenitalCamaurosisCtypeC10.CNatCMedC25:229-233,C20193)TaketaniCY,CKitamotoCK,CSakisakaCTCetal:RepairCofCtheCTGFBICgeneCinChumanCcornealCkeratocytesCderivedCfromCaCgranularCcornealCdystrophyCpatientCviaCCRISPR/Cas9-inducedhomology-directedrepair.SciRepC7:1-7,C2017あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C629

硝子体手術のワンポイントアドバイス:228.ゴルフボールによる眼外傷に対する硝子体手術(上級編)

2022年5月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載228228ゴルフボールによる眼外傷に対する硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにゴルフに関連する眼外傷はゴルフボールによるものとクラブによるものに大別される.ゴルフボールによる眼外傷は他の球技に比較してまれではあるが重症例が多く,眼球破裂に至るリスクが他の球技による外傷に比較して高い1).●症例提示53歳,男性.ゴルフのプレー中に打球がすぐそばの木に当たって跳ね返り,至近距離で左眼を直撃した.受傷直後から左眼は高度の視力低下をきたし,著明な眼瞼腫脹,結膜浮腫,結膜下出血,前房出血を認め(図1),眼底は透見不能であった.超音波Bモード検査では硝子体腔内の多量の出血を認めた(図2).受傷翌日に全身麻酔下で硝子体手術を施行した.前房洗浄後,水晶体が後方にやや脱臼している所見が観察された.外直筋の付着部後方に眼球破裂を疑わせる部位を認めたが,同部位はTenon.で被覆されており,無理に開けると眼内組織が脱出する可能性を考え,そのまま触らずに硝子体手術を施行した.硝子体腔内は多量の出血で充満され,凝血塊が網膜と強固に癒着し網膜.離をきたしていた(図3).網膜は黄斑部を含めて,広範囲に壊死性変化をきたしていた.液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展したあと,シリコーンオイルタンポナーデを施行したが,術後眼底後極部に著明な線維性増殖組織が生じた(図4).5カ月後にシリコーンオイル抜去,眼内レンズ毛様溝縫着術を施行し,矯正視力は0.2に改善した.●ゴルフボールによる眼外傷の特徴ゴルフボールは硬くて小さいため,野球ボールのように眼窩骨で止まらないで,そのまま眼窩内に入ってしまい,その結果として眼球破裂をきたしやすい.また,打球が非常に早く,眼組織へのダメージが強くなりがちである.本提示例は,眼球破裂の程度が比較的軽度であったため視力をある程度温存できたが,過去の報告ではより重症度が高く,眼球内容除去を余儀なくされたケース(77)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼前眼部写真著明な結膜浮腫,結膜下出血,前房出血を認めた.(文献1より引用)図2初診時の左眼超音波Bモード写真著明な硝子体腔内の出血を認めた.(文献1より引用)図3術中所見硝子体腔内は多量の出血で充満されており,眼底は広範な網膜.離と壊死性変化をきたしていた.(文献1より引用)図4初回手術後の眼底写真術後シリコーンオイル下に著明な線維性増殖組織が生じた.(文献1より引用)もかなり多い.予防にはゴーグルが有効であるが,現実的にはむずかしいので,ショットする場合には,ボールの届く場所に人がいないことを十分に確認すること,人がいるそばではクラブを振り回さないなどの基本的なマナーが重要である.文献1)岡雅美,佐藤孝樹,大須賀翔ほか:ゴルフボールによる外傷性網膜.離に対して硝子体手術を施行した1例.臨眼75:1339-1343,2021あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022627

考える手術:5.レンズグラバーを用いたレンズ摘出術

2022年5月31日 火曜日

考える手術⑤監修松井良諭・奥村直毅レンズグラバーを用いたレンズ摘出術野口三太朗ツカザキ病院眼科ASUCAアイクリニック仙台マークワン近年,眼内レンズ二次挿入術は眼内レンズ(IOL)縫着術から強膜内固定にシフトしてきた.強膜内固定によってIOLの眼内の固定方法はより簡便になったといえる.しかし,固定よりも抜去を苦手とする眼科医は少なからずいる.眼内でIOLを三分割して摘出するという操作により,角膜内皮や虹彩にダメージを与えたり,さらに摘出がうまくいかず,切開創の拡大に至ったりと,さまざまな合併症や困難な状況が発生する.また,わが国ではプレート型親水性レンズの移植が多くなされているが,レンズボリュームがあり,ちぎれやすいために摘水性アクリルIOLに対しては,眼内でレンズを分割せずに丸ごと摘出する方法を考案した(レンズグラバー法).アクリルレンズは引っぱられる力により引き延ばされ変形し,創口の形に添ってロールし,眼外に導かれる.インジェクターカートリッジを用いる場合よりも,その厚み分,切開創への負担は減る.2.2mm切開にて,摘出後の切開創は2.3.mmと創の拡大も非常に少ない.角膜内皮,虹彩のダメージも少ないと思われる.聞き手:この術式はどのような術式ですか?鑷子であるレンズグラバーを用いると,創口にうまく野口:現在,国内で白内障手術の際に移植されるIOLIOLがはまり込み,創口サイズに合わせてレンズがローはほぼ100%アクリルレンズですので折りたたみが可能ルし,折りたたまれ,摘出されます.そのため眼内操作です.従来,アクリルIOLを摘出する際にはレンズをが減り,摘出が容易となります.角膜内皮細胞減少などレンズカッターで切り,分割して摘出する方法が一般的の合併症も最小限ですむと考えています.で,パックマン法や三分割法などが施行されています.しかし,レンズグラバーを用いたレンズ摘出法(レンズ聞き手:レンズグラバーの開発経緯を教えてください.グラバー法)は,レンズを眼内でカットせずに摘出しま野口:IOLを摘出する専用の鑷子がなかったことから始す(動画①).アクリル樹脂IOLは通常の眼内鑷子で把まりました.わが国では世界でも類を見ない数のプレー持して摘出しようとしても,レンズが破損したり,創口ト型親水性IOLが使用されています.しかし,この親にひっかかったりして摘出は不可能です.しかし,専用水性プレート型IOLはレンズボリュームが大きく,柔(75)あたらしい眼科Vol.39,No.5,20226250910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術らかくちぎれやすいという特性をもっています.レンズを分割するのがまず大変で,分割できたとしても,レンズが細かくちぎれて,うまく眼外に摘出できないことがあります.これを解決するためには効率的にレンズを把持し摘出する鑷子の開発が必要でした.加えて,横断分割のみで極小切開で創拡大を行わずに摘出することも必要でした.こうしてレンズグラバーが開発されました.レンズグラバーはIOLの特性をよく理解し,それを応用した把持構造をしています.実際に,レンズグラバーを用いると,親水性プレート型IOLは容易に摘出できました.レンズグラバーは,疎水性アクリルIOLも把持でき,摘出可能です.レンズの切断なしでも余裕をもって摘出できます.聞き手:レンズグラバー法の原理などについて教えてください.野口:フォーダブルIOLは2mmの切開創からインジェクターを用いて眼内に挿入するのだから,IOLは折りたためば2mmの創口から摘出可能なはずである,という発想から考案しました.しかも,カートリッジがなければ,カートリッジの分だけさらに創口ストレスは少ないであろうと考えました.アクリルIOLは37℃近い眼内ではガラス転移温度を超えるため,柔らかく,変形しやすい状態にあります.このため,レンズグラバーにてIOLを創口に引き込むと,IOLは引き込み部分を頂点とした三角形に変形します.その引き伸ばされた把持部位の辺りの変形とともに引き混み部分から両サイドが元の形状に戻ろうと縮む力がIOLのロールする力に変わります.そこをきっかけにして,全体がロールし,ゆっくりとIOL全体が縦に引き延ばされた状態から戻る力を利用して,創口からIOLが脱出します.ある程度までIOLをロールさせると,それ以上は無理に引っぱらなくても,戻る力だけで脱出します.聞き手:レンズグラバー法で創口拡大はどの程度ですか?野口:創口拡大が大きければ,この方法のメリットは半減すると考えています.2.2mmのMANI社製スリットナイフで創を作製し,レンズグラバー法で摘出した後の創口の拡大率を調べました.YP2.2(興和)摘出後は2.3mm,XY1(HOYA)摘出後は2.3mm,355(HOYA)摘出後は2.5mm,W60R(参天製薬)3.0mm以上,ZCB00V(Johnson&Johnson)摘出後は2.4mm,SN60WF(Alcon)摘出後は2.3mmの創口でした.現在国内で多く用いられるアクリルIOLが極小切開から摘出可能であることがわかりました.しかし,W60Rはガラス転移温度の高いことから創口の拡大が発生することを知っておく必要があります.創口が大きいと,虹彩の脱出や断裂といった合併症が発生しやすいですが,レンズグラバー法による切開サイズではこのような心配がほとんどないと考えています.聞き手:虹彩や角膜内皮への影響はどうでしょうか?野口:IOLを挿入する際には,折りたたまれた状態でIOLが挿入されるので,IOLがその逆の動きをするレンズグラバー法では,虹彩や角膜内皮への影響は少ないと考えています.実際に,豚眼を用いてレンズグラバーでIOLを摘出する様子を実験的に観察した結果を示します(動画②).把持されたIOLはまず,創口部分にはまり込みます.そして,ロールして創口内に入っていきます.そのときに,IOLや鑷子は,IOLが眼外に摘出されるまでの間,角膜内皮,虹彩には触れることはありませんでした.しかし,前房が虚脱した状態や,ハプティクスが虹彩に引っかかっていた場合には,虹彩を巻き込む可能性があるので注意が必要です.そのようなことがないように,十分に前房に眼粘弾剤を充填し,虹彩を後極側へシフトさせ,前房を深くすることが重要と考えています.626あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022(76)

抗VEGF治療:網膜中心静脈閉塞症の視力予後予測因子

2022年5月31日 火曜日

●連載119監修=安川力髙橋寛二99網膜中心静脈閉塞症の視力予後予測因子永里大祐ツカザキ病院眼科網膜中心静脈閉塞症(CRVO)に伴う黄斑浮腫に対する抗血管内皮増殖因子薬治療が全盛である現在,数多くの臨床研究が報告されているが,CRVOの視力予後不良因子の理解は不十分であった.最近の実臨床における研究の結果,高齢,初診時低視力,糖尿病網膜症の併存がCCRVOの視力予後不良因子であることがわかった.はじめに網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)は,視神経乳頭後方の篩状板付近での網膜中心静脈閉塞の循環障害によって生じる1).有病率は世界においてC0.8%2),日本ではC0.2%3)と報告されており,糖尿病網膜症についで二番目に多い網膜血管疾患である.CRVOは,蛍光眼底造影検査による網膜虚血の範囲(10乳頭面積)によって非虚血型CCRVO(約C70%)と虚血型CRVO(約C30%)に分類され,血管新生緑内障やルベオーシスへの進展リスクのある虚血型CCRVOは非虚血型CCRVOよりも予後が悪い.CRVO発症の一番の危険因子は年齢であり,患者のC90%はC50歳以上である.他の主要な危険因子として,動脈硬化,開放隅角緑内障,糖尿病,高脂血症などが,またその他の危険因子として多血症,高ホモシステイン血漿等の凝固性亢進状態,血小板機能異常,血管炎,鎌状赤血球,視神経浮腫,梅毒,サルコイドーシス,HIV感染症,経口避妊薬や利尿薬などの薬剤,および眼窩疾患などが報告されている4).最新の知見CRVOはC1950年代からさまざまな治療法が行われてきた(詳細はC2022年C2月号の小生の原稿を参照)が,2022年におけるCCRVOの治療法の第一選択は,CRVOに伴う黄斑浮腫(macularedema:ME)の消失による視機能改善目的で施行するラニビスマブやアフリベルセプトなどの抗CVEGF薬の硝子体内注射である.CRVOに対する抗CVEGF薬治療における数多くの臨床研究が国内外で報告されているが,とくに海外の大規模臨床試験では,血管新生緑内障の発症率が,過去に報告されたCRVOの自然経過で観察された血管新生緑内障の発症率よりも低く,実臨床で遭遇する重症例を含むCCRVOの予後評価が十分でなかった可能性がある.今回,自験例を含む国内のC4施設におけるCCRVOの長期の予後予測因子を調べた.未治療のCCRVOに伴うCMEに対して抗CVEGF薬治療(導入期単回投与またはC3回連続投与後,維持期CproCrenata投与)を行いC24カ月以上経過観察できたC150症例を対象とした.最終視力から,視力不良群(20/200未満,49例)と対照群(20/200以上,101例)に分類し,抗CVEGF薬治療後の視力不良群の関連因子を調べた.全体(平均年齢C69.2C±12.8歳)における平均経過観察期間C34.9C±16.1カ月の間に,抗CVEGF薬による平均治療回数はC5.3C±3.7回(視力不良群C5.2C±4.2回,視力良好群C5.4C±3.4回,両群間に有意差なし.p=0.765)であった.初診時視力はClogMAR換算でC0.67C±0.54(指数弁.20/13),最終視力はC0.60C±0.67(光覚なし.20/13)であった.視力不良群(平均年齢C73.4C±10.4歳)において抗CVEGF薬による平均治療回数はC5.2C±4.2回,初診時視力はC0.93C±0.61(指数弁.20/25),最終視力はC1.31C±0.57(光覚なし.20/228)であった.一方,対照群(平均年齢C67.2C±13.3歳)において抗CVEGF薬による平均治療回数は5.4C±3.4回,初診時視力は0.54C±0.45(20/2,000.20/13),最終視力はC0.24C±0.33(20/200.20/13)であった.抗CVEGF薬の平均治療回数に有意差はなかった.また,視力不良群は対照群より有意に高齢であった.そして視力不良群は,治療前視力の不良,糖尿病網膜症の併存と有意に関連していた(それぞれ,調整オッズ比C5.96[95%信頼区間:1.88.18.86],調整オッズ比C0.05[95%信頼区間:0.01.0.42])5).これらの結果から,加齢による網膜血管の変化,糖尿病網膜症が網膜微小循環の悪化を促進させている可能性が考えられる.網膜微小循環は,比較的一定の血流を維持する自動調節システムを備えている6).しかし,内頸動脈疾患や糖尿病網膜症を有する患者がCCRVOを合併した場合,CRVO発症によって網膜血管の自動調節機能が破壊され,視力予後が不良となる可能性が示唆される.(73)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C6230910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1予後良好であったCRVO症例の48カ月後の光干渉断層計画像全身既往症のないC54歳の男性の左眼.最終受診時黄斑浮腫はなく,網膜外層のエリプソイドゾーンバンド欠損もない.治療前左眼矯正視力C0.7.その後ラニビスマブ硝子体内注射をC3回施行し,治療後C48カ月の時点で左眼矯正視力はC1.5であった.図2予後不良であったCRVO症例の84カ月後の光干渉断層計画像高血圧,糖尿病網膜症,緑内障を併発しているC80歳の男性の右眼.最終受診時慢性の黄斑浮腫の残存,および網膜外層において広範囲のエリプソイドバンド欠損を認める.治療前右眼矯正視力0.8.その後ラニビスマブ硝子体内注射をC9回,アフリベルセプト硝子体内注射をC2回施行するも,黄斑浮腫の消失,再発を繰り返した.治療後C84カ月の時点で右眼矯正視力はC0.01であった.おわりに以上,CRVOにおける視力予後予測因子について最近の研究を用いて解説した.日本において抗CVEGF薬が一般的に使用されるようになって,やがてC10年になる.抗CVEGF薬の出現,また今回は触れなかったが,種々の眼科検査機器,治療手段の進歩によってCCRVOの予後視機能は改善しているので,恩恵を受けた患者が多いことは間違いないだろう.それでも視力予後不良な患者が一定数残っていることも事実である.また,そのような抗CVEGF薬そのものの限界ではなく,日本は他の先進国に比べて薬剤を含む治療費が非常に高価なため,そもそも抗CVEGF薬加療を開始,継続できない患者が散見されることは,諸先生方も経験があるのではないかと考える.これからも眼科学,眼科医療の進歩,問題点の改善を期待し,筆者にとって本稿がCCRVO患者のより深い理解と,より良い治療の一助になれば望外の喜びである.C624あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022文献1)MuraokaY,TsujikawaA,MurakamiTetal:Morpholog-icCandCfunctionalCchangesCinCretinalCvesselsCassociatedCwithCbranchCretinalCveinCocclusion.COphthalmologyC120:C91-99,C20132)RogersCS,CMcIntoshCRL,CCheungCNCetal;InternationalCEyeCDiseaseConsortium:TheCprevalenceCofCretinalCveinocclusion:pooledCdataCfromCpopulationCstudiesCfromCtheCUnitedStates,Europe,Asia,andAustralia.OphthalmologyC117:313-319,Ce1,C20103)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicCriskCfactorsforCretinalCveinocclusioninCageneralJapanesepopulation:theHisayamastudy.CInvestOphthal-molVisSciC51:3205-3209,C20104)BlairK,CzyzCN:Centralretinalveinocclusion.In:Stat-Pearls[Internet]C.CStatPearlsCPublishing,CTreasureCIsland(FL),20215)NagasatoD,MuraokaY,OsakaRetal:Factorsassociat-edCwithCextremelyCpoorCvisualCoutcomesCinCpatientsCwithCcentralretinalveinocclusion.SciRepC10:19667,C20206)RivaCCE,CGrunwaldCJE,CPetrigBL:AutoregulationCofChumanretinalblood.ow.AninvestigationwithlaserDop-plerCvelocimetry.CInvestCOphthalmolCVisCSciC27:1706-1712,C1986(74)

緑内障:日帰り緑内障手術

2022年5月31日 火曜日

●連載263監修=山本哲也福地健郎263.日帰り緑内障手術丸山勝彦八潮まるやま眼科緑内障手術を日帰りで行うにあたっては,まず,患者側,医師側双方がその得失を理解し,信頼関係が築かれている必要がある.優位眼への対応は場合によっては困難で,日帰り手術だからこそ押さえておきたい術中操作や術後管理の留意点もある.バックアップ施設との連携も含め,万全を期して臨みたい.●はじめに日帰り手術は患者の身体的,精神的,経済的負担の軽減に寄与することから,近年,需要が高まっている.本稿では,緑内障手術を日帰りで行う際の留意点や課題について述べる.●日帰りになると患者は手術を軽視しがち患者が「緑内障手術は日帰りでもできる(ほど簡単)」と誤って認識し,手術を軽視してしまうことがある.頻回の通院指示に対し「そんなに来る必要があるのか?」と愚痴られることも少なくない.しかし,流出路再建術後の一過性眼圧上昇への対応や,濾過手術後のレーザー強膜弁縫合切糸による眼圧コントロールなど,手術直後の管理の重要性は日帰りでも入院でも同様である.十分な説明を行って,患者の理解と同意を得る.●「日帰りだからMIGS」ではない!誤った認識をしがちなのは患者側だけではない.日帰り手術の場合,低侵襲という理由でminimally/microinvasiveglaucomasurgery(MIGS)が好んで行われる傾向があるが,期待できる眼圧は低くはない.また,濾過手術で報告されている1)ような10年を超える長期間の視機能維持効果があるかはわかっていない.医師側は患者ごとに適切な術式を選択する必要がある.●優位眼に対してどうするか僚眼の視機能が低下しているなどの理由で,術直後に発生しうる術眼の視機能低下が日常生活に影響を及ぼす可能性があれば,日帰り手術の適応はむずかしくなってくる.とくに緑内障手術の場合には,術後,通院の頻度が多い傾向があるため,自宅では問題なく過ごせても通院が厳しいという状況も想定される.患者の生活背景や身体能力,性格などを加味して日帰り手術の可否を判断する.(71)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY●術中操作,術後管理の留意点入院で手術を行う場合は術後こまめな診察が可能であり,急変時にも迅速に対応することができる.それが困難な日帰り手術では,こまめな診察を要する状態にできるだけならないよう,極力,急変を起こさぬよう留意しなければならない.線維柱帯切開術(眼内法)では,より大きな眼圧下降を期待して広範囲の線維柱帯切開が試みられることがある.しかし,ナイロン糸を用いた線維柱帯切開術(眼内法)では,切開範囲が全周か半周かで眼圧調整成績は同等である一方で,全周切開では前房出血の頻度が高いことが報告されている2).前房出血が生じれば一過性眼圧上昇をきたしやすくなり(図1),他の線維柱帯切開術(眼内法)でも同様と予想される.したがって,日帰りで線維柱帯切開術(眼内法)を行う場合には,必要以上の切開操作を控えたほうがよい可能性があるが,実際には術者の判断によるところが大きい.いずれにしても線維柱帯切開術(眼内法)では,予期せぬ前房出血とそれに伴う一過性眼圧上昇を完全に防ぐことはできないため,安易に通院間隔を開けることは避ける.「メンテナンスフリー」ではなく,「メンテナンスできない」だけであって,状態に応じた投薬内容の調整は濾過手術よりむしろ煩雑になることも多い.線維柱帯切除術では,高眼圧に対する処置は比較的簡便である反面,低眼圧に対する処置は難易度や侵襲性が高く,術直後に避けたいのはどちらかというと低眼圧である.低眼圧は視力低下や上脈絡出血の誘因となるだけではなく,過剰濾過による前房消失に伴い角膜内皮障害や白内障の進行を引き起こす可能性がある(図2).これらの合併症を避けるため,ウォータータイトな強膜弁縫合は必須であり,とくに強度近視眼や若年者は過剰濾過を生じやすいので留意する.また,過剰濾過に対する処置も体得しておく必要がある.いずれの術式でも,日帰り手術で患者が一番嫌うのはあたらしい眼科Vol.39,No.5,2022621図1線維柱帯切開術(眼内法)後に前房出血をきたした症例ナイロン糸を用いた線維柱帯切開術(眼内法)後1日目.ほぼ全周の線維柱帯を切開している.前房出血のため視力は手動弁,眼圧は48mmHgと上昇.眼圧下降薬の点眼,内服を行ったが高眼圧は持続し,連日,高浸透圧薬の点滴を行った.図3線維柱帯切除術後に濾過胞不全に対するニードリングによって駆逐性出血をきたした症例術後3カ月目.濾過胞不全に対してニードリングを行ったところ,直後に眼痛が生じ,眼内レンズが後方から前方に押し出されるように前房は浅化.駆逐性出血を生じた.即日,入院可能な施設に紹介となった.術後疼痛である.術直後の疼痛は縫合糸の断端による刺激や角膜上皮障害が原因となることが多い.縫合糸の結紮部は埋没し,術中は眼表面のコンディションに留意しながら操作して,術後疼痛が予想される患者には筆者はコンタクトレンズ装用で対応している.●それでも合併症は起こる!どれだけ注意しても一定の割合で合併症は起こり,即622あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022図2線維柱帯切除術後に過剰濾過をきたした症例術後5日目.眼圧2mmHg,術前(1.0)だった視力は(0.1)に低下している.a:Descemet膜皺襞を認め,周辺前房は消失しており,わずかに白内障が生じている.b:低眼圧黄斑症を認める.日,入院が必要となることもある(図3).日頃からバックアップ施設と連携を取り合っておく必要がある.文献1)OieS,IshidaK,YamamotoT:Impactofintraocularpres-surereductiononvisual.eldprogressioninnormal-ten-sionglaucomafollowedupover15years.JpnJOphthal-mol61:314-323,20172)SatoT,KawajiT:12-monthrandomisedtrialof360°and180°Schlemm’scanalincisionsinsuturetrabeculotomyabinternoforopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol105:1094-1098,2021(72)

屈折矯正手術:高次収差と波面収差計

2022年5月31日 火曜日

監修=木下茂●連載264大橋裕一坪田一男264.高次収差と波面収差計脇舛耕一バプテスト眼科クリニック高次収差は眼鏡矯正不能な不正乱視であり,球面収差,コマ収差,全高次収差などがある.高次収差はZernike多項式による分析,数値化および算出が可能である.実際の測定はCHartmann-Shack法などを用いた波面収差計を用いて行われ,角膜疾患や白内障,眼内レンズの状態を把握できる.●はじめに波面収差とは,光源から波のように全方向へ広がった光がレンズなどを通過する際に生じる映像のぼけのことであり,遠視,近視,正乱視などの眼鏡矯正可能な低次収差と,眼鏡矯正不可能な不正乱視である高次収差がある.代表的な高次収差としてCSeidelのC5収差などがあるが,臨床上理解しておくべき高次収差は球面収差とコマ収差,全高次収差である.本稿では各高次収差とその分析法,実際の計測器と臨床例について解説する.C●各高次収差と分析法球面収差とはレンズの中央側と周辺側を通過した光の焦点位置のずれ(図1)のことで,角膜には正の,若年水晶体には負の球面収差があり,水晶体の球面収差は加齢に伴い正へと変化する.また,皮質白内障では正の,核白内障では負の球面収差が増大する.非球面眼内レンズは負の球面収差を付加することで角膜の正の球面収差を相殺し,とくに薄暮時の視機能の改善を図る仕様となっている.コマ収差とは光軸に平行でない光がレンズの中央側と周辺側を通過した際に生じる焦点位置のずれ(図2)であり,対称レンズでは光軸(視軸)から離れた位置で生じ視機能への影響は少ないが,非対称レンズでは視軸に近い位置で生じるため視機能への影響が大きくなる.実臨床では円錐角膜や水晶体脱臼,眼内レンズ偏位などが代表的な疾患である.これらの高次収差を抽出する方法がCZernike多項式である.Zernike多項式では収差を割り算での小数点の位のように一次項,二次項,三次項,・・・と分解していく.そのうち,二次項までが低次収差,三次項以上が高次収差とされる.各次項は成分で構成され,その数は(次項+1),たとえば三次項の成分は四つとなる.低次収差のうち,二次項のC3成分がそれぞれ遠視,近視,正aab図1球面収差球面収差のあるレンズでは,レンズの中央側と周辺側を通過した光の焦点位置にずれが生じる(Ca)が,球面収差のないレンズではそのずれは生じない(Cb).図2コマ収差光軸に平行でない光がレンズの中央側と周辺側を通過した際に生じる焦点位置のずれであり,対称レンズでは光軸(視軸)から離れた位置で生じ(Ca),非対称レンズでは視軸に近い位置で生じる(Cb).(69)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C6190910-1810/22/\100/頁/JCOPY40歳,女性LV=0.06(1.2×sph-4.25=cly-0.5Ax130)図3円錐角膜疑い眼でのコマ収差軽度の角膜形状変化例でも,角膜コマ収差の増加と,カラーマップでの非対称が検出されている.乱視であり,三次項のC4成分のうち二つがコマ収差,四次項のC5成分のうち一つが球面収差である.また,それ以外の成分も,奇数項はコマ収差(非対称成分),偶数項は球面収差(対称成分)と同類の収差とされ,それぞれを合わせたものをコマ様収差,球面様収差としてとり扱うこともある.一般的には最大八次項までの収差が検討の対象とされる.収差量(μm)はCZernike多項式の各成分の理想波面からのずれを数値化したものであり,複数の成分からなる全高次収差やコマ収差等の収差量の算出は,二乗平均平方根(rootmeansquare:RMS)を用いて各成分の収差量を合算する.また,収差量は瞳孔径にも影響を受け,瞳孔径が大きくなるほど収差量も増大するため,収差量とともに瞳孔径の値も把握する.C●波面収差計波面収差を測定,解析する機器が波面収差計である.測定原理は複数あるが,Hartmann-Shackという方式がもっとも頻用されている.Hartmann-Shackでは,多数の小さなレンズを格子状に配列したレンズレットアレイ(Hartmannプレート)とCCCD(charge-coupleddevice)カメラを用いる.眼内に照射した点光源が中心窩で反射し水晶体,角膜を透過して眼外に出た後にレンズレットアレイを通過・集光させ,その点像をCCCDカメラで撮影して,映った点像の位置ずれから波面収差を計測する.現在,数多くの波面収差計がこの方式を採用しており,機種による差異はあるが,角膜,内部(水晶体),眼球全体の波面収差を分離計測できる.C●高次収差の臨床例実際の臨床例としては,円錐角膜眼での角膜コマ収差の増大の検出(図3)や,核白内障眼での内部球面収差の負方向へのシフトがある.また,トーリック眼内レンC620あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022乱視60歳、男性LV=0.05(0.7×sph-4.5=cyl-2.0Ax140)図4眼内レンズ偏位内部乱視およびコマ収差の増大が定量的に検出されている.ズ挿入眼では角膜乱視と内部乱視の軸角度の差から軸ずれや修正量を定量評価できる.その他,眼内レンズ偏位眼を内部コマ収差の増大により検出できる場合がある(図4).また,同じCHartmann-Shack方式の波面収差計のなかでも,測定性能により臨床結果に差が生じる場合がある.JohnsonC&Johnson社の波面収差計であるCiDesignはCwavescanの後継機であるが,測定点がC5倍になるなどの機能向上が図られており,そのデータを用いたLASIKで術後高次収差の増加が抑制されたとの報告がある1.3).0.01D単位での治療が可能なレーザー屈折矯正手術では術前データ取得の正確性が術後結果に影響を及ぼしうるため,より高機能な波面収差計を用いることで術後成績の改善が得られる可能性がある.C●おわりに高次収差は屈折矯正手術での必要性はもちろん,角膜疾患や白内障,眼内レンズの評価をするうえでも有用である.知識と実際の臨床例を知っておくことで,細隙灯顕微鏡検査のみでは判断がむずかしい場合に診断の一助となると思われる.文献1)PrakashCG,CSrivastavaCD,CSuhailM:FemtosecondClaser-assistedCwavefront-guidedCLASIKCusingCaCnewerCgenera-tionaberrometer:1-yearresults.JRefractSurgC31:600-606,C20152)DuranCJA,CGutierrezCE,CAtienzaCRCetal:VectorCanalysisCofCastigmaticCchangesCandCopticalCqualityCoutcomesCafterCwavefront-guidedClaserCinCsituCkeratomileusisCusingCaChigh-resolutionaberrometer.JCCataractRefractSurgC43:C1515-1522,C20173)MoussaS,DexlAK,KrallEMetal:Visual,aberrometric,photicCphenomena,CandCpatientCsatisfactionCafterCmyopicCwavefront-guidedCLASIKCusingCaChigh-resolutionCaber-rometer.ClinOphthalmolC10:2489-2496,C2016(70)

眼内レンズ:V字・コ字ポケット切開からのIOL摘出

2022年5月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋保坂文雄426.V字・コ字ポケット切開からのIOL摘出岩見沢市立総合病院眼科術後晩期に偏位した眼内レンズ(IOL)を摘出交換する機会が増えている.眼内組織を損傷せず安全にCIOLを摘出するためには,ゆとりをもった切開幅を確保したいが,自己閉鎖が不良となり,惹起乱視が増加しがちになる.ここではCIOL摘出のために切開ラインを工夫したCV字およびコ字ポケット切開を紹介する.●はじめに近年は眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼数が増多し,晩期にCIOLが脱臼偏位して摘出交換を要する患者が増えている.通常の白内障手術におけるCIOL挿入は,眼外で折り曲げたCIOLをインジェクターに装.して挿入するため主創口は無理なく極小切開とすることができるが,摘出ではそれができない.IOL摘出のために切開幅を大きくすると創は自己閉鎖しづらくなり,術中の硝子体・虹彩脱出や術後の瞳孔変形,惹起乱視をきたしやすくなる.そこでアクリル製CIOLは眼内で切断してから摘出するのが一般的であるが,操作中に角膜内皮や虹彩を損傷する危険があり,PMMA(polymethylmethacrylate)製CIOLではそもそも切断できない.また,硝子体切除後の症例では切断したCIOL片や石灰化したCSoemmeringringが硝子体腔に落下する可能性がある.本稿では,円滑なCIOL摘出のための幅広い内方弁を確保しながら,自己閉鎖のために外方弁の横径は短くなるようデザインされたCV字およびコ字ポケット切開を紹介する.●方法V字ポケット切開(図1)は,結膜を切開し,輪部側を頂点とする逆CV字型の切開線で強膜半層切開する.V字の頂角はC90°,斜辺長はC3.4mmを目安とするが,アクリル製CIOLは弯曲するのでより短くてよい.V字ラインからクレッセントナイフで強角膜トンネル(ポケット)を作製する.ポケットから前房に穿孔するが,内方弁の幅長は摘出CIOLの光学部径より余裕をもたせて広げる.外方弁の横幅は狭いがCIOLは円盤形状なので,鑷子で引き抜くと強膜が歪み,V字が変形しながら通過できる.ポケット創は無縫合で自己閉鎖する.コ字ポケット切開(図2)はCV字ポケットと同様であるが,切開線は横ストレート線とその両端から円蓋部方向への縦線よりなるコ字型とする.切断できないPMMA製C7CmmIOLの摘出では,横C3.0mm,両端縦各2.0Cmmの合計切開長C7.0Cmm程度とする.アクリル製IOLを半切すると,横C2.2Cmm両端縦各C1.0Cmmの極小コ字切開から摘出できる.図1V字ポケット切開からのIOL摘出a:デザイン図.黒線が外方弁,青線が内方弁,点線間がポケットとなる.b:クレッセントナイフで内方弁を拡大する.c:IOLが内方弁を通過することを確認する.d:創を歪ませながらCIOLを引き抜く.Ce:V字創は無縫合自己閉鎖する.(67)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C6170910-1810/22/\100/頁/JCOPYabde図2コ字ポケット切開からのIOL摘出a:デザイン図.黒線が外方弁,青線が内方弁,点線間がポケット.b:クレッセントナイフで内方弁を拡大する.c:PMMA製CIOLが内方弁を通過することを確認する.d:太い鑷子で掴んで引き抜く.e:コ字創は無縫合自己閉鎖する.●考案IOL脱臼偏位に対する治療にはCIOL再固定の選択肢もあるが,再固定に適したCIOLの種類が限定されるうえ手技は煩雑となりやすい.このため摘出交換が一般的である.二次挿入されるCIOLは従来CPMMA製が主流であったためC7Cmm以上の主創口切開が必須であったが,最近の術式では小切開から挿入可能なアクリル製IOLを用いるので,手術の切開幅はむしろCIOL摘出に必要な創長で規定されることになった.白内障手術の歴史において大切開創でも自己閉鎖して惹起乱視を軽減する切開デザインが工夫されており,切開線を輪部と逆向きに弯曲させたCFrown切開1),今回紹介した逆CV字型のCChevron切開2),直線切開の両脇を斜めに切り上げるCBoat切開3)などが開発されてきた.これらを比較し,V字切開でとくに惹起乱視が小さかったとの報告がある4).上記の切開法は白内障手術小切開への流れで役目を終えたが,IOL摘出の場面では再びその有用性が注目される.近年,太田5)はCIOL摘出に特化したCL字ポケット切開法を考案し,横C3.0Cmm(+縦C3.0Cmm)切開でCIOL摘出を行っている.本稿のコ字ポケット切開は,このCL字切開における縦方向切開を左右対称に振り分けてそれぞれ短くし,Boat切開との中間的なデザインとした.V字切開とコ字切開を比較すると,V字では斜辺が筋交いとして機能するとともにポケットの糊代がやや大きい分,創口がより強固となる.一方,コ字は手術操作性に優れ,IOL摘出時の引き抜き抵抗が少ない.また,初回手術時の横ストレート切開を生かし,両端に縦切開を追加してコ字にコンバートできるメリットがある.C●おわりにIOL二次固定を要する原因として,IOL脱臼偏位の割合が増えている.IOL二次固定術はCYamaneCtechniqueなど洗練された術式の登場で術後高視機能が期待できるようになっており,偏位CIOLの摘出も安全,簡便,低侵襲な方法が望まれる.V字・コ字ポケット切開がその一助となることを期待したい.文献1)SingerJA:FrownCincisionCforCminimizingCinducedCastig-matismCafterCsmallCincisionCcataractCsurgeryCwithCrigidCopticintraocularlensimplantation.JCataractCRefractSurg17:677-688,C19912)PallinSL:ChevronCsuturelessclosure:ACpreliminaryCreport.JCataractRefractSurgC17:706-709,C19913)BlumenthalCM,CAshkenaziCI,CFogelCRCetal:TheCglidingCnucleus.JCCataractRefractSurgC19:435-437,C19934)JauhariCN,CChopraCD,CChaurasiaCRKCetal:ComparisonCofCsurgicallyCinducedCastigmatismCinCvariousCincisionsCinCmanualCsmallCincisionCcataractCsurgery.CIntCJCOphthalmolC7:1001-1004,C20145)太田俊彦:IOL偏位・脱臼に対する強膜内固定T-.xationtechniqueとCL-ポケット切開法を併用した整復術.臨眼C73:171-180,C2019

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 12.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その5)

2022年5月31日 火曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院12.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その5)■はじめに筆者が24回にわたって書かせていただいた「コンタクトレンズセミナー」は今回で終了する.最近は大学病院や大病院にてコンタクトレンズの処方法を学ぶ機会はとても少ない.本セミナーではハードコンタクトレンズ(HCL)については処方の基礎から,ソフトコンタクトレンズ(SCL)については最新の遠近両用SCL(multi-focalsoftcontactlens:MFSCL)トーリックに至るまで,できるだけわかりやすく書いたつもりである.これからコンタクトレンズ処方法を学びたいという意気込みのある眼科の先生方や視能訓練士の方に少しでも本セミナーがお役に立てば筆者にとって嬉しい限りである.それでは,前回の続きと焦点拡張型遠近両用SCLについて解説する.■両眼とも白内障手術後で乱視が強い場合片眼白内障手術後の場合と同様に,トーリックMFSCLを用いても,かなりの工夫を要する.<処方例1>非利き目が強い乱視の場合61歳,女性.主婦.・術前のSCL両眼にMFSCLトーリック(2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリック)(表1,図1)を2年間使用.RV=(0.6×860/-3.25/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0)非利き目NRV=(0.4×MFSCLトーリック)LV=(0.8×860/-4.75/14.2/cyl-0.75DAx90°/+1.0)利き目NLV=(0.6×MFSCLトーリック)表12WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックのレンズデザイン老視矯正乱視矯正光学部デザインプログレッシブトーリックコンセントリックレンズ前面レンズ後面マーキングガイドマーク上下ドット(レンズ上下に各1本線)BV=(0.8×MFSCLトーリック)BNV=(0.6×MFSCLトーリック)右眼のかすみが強くなり羞明も進行し,両眼の白内障手術を希望.・手術後所見RV=(1.2×IOL(sph-1.75D(cyl-2.00DAx88°)NRV=(0.4×IOL)LV=(1.2×IOL(sph-1.250D(cyl-1.50DAx92°)NLV=(0.2×IOL)BV=(0.4×IOL)BNV=(0.4×IOL)・術後眼へのMFSCL処方術後,遠見も近見もある程度は見えており日常生活には問題ないが,もう少しすっきり見えるようになりたいとのことで,MFSCLを希望.MFSCLの加入度数が低加入度数しかなく,手術前のようには近見視力が望めないことを説明したうえで,モディファイド・モノビジョン法で試してみることにした.RV=(0.6×IOL×860/-0.75/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0)NRV=(0.6×MFSCLトーリック)LV=(1.0×IOL×860/-0.75/14.2/cyl-1.25DAx90°/+1.0)NLV=(0.4×MFSCLトーリック)BV=(0.8×MFSCLトーリック)BNV=(0.6×MFSCLトーリック)以上のように左右眼に視力的には差を認めるが,両眼の視力では遠近ともに満足のいく結果が得られた.図12WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックガイドマークは上下にある.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.5,20226150910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2シード1dayPureEDOF焦点深度拡張型のMFSCL.■焦点拡張型MFSCL<処方例2>63歳,男性.事務職.58歳時にMFSCLを希望.・使用中のSCL:ワンデーアキュビューモイストRV=(1.5×900/-3.25/14.2)LV=(1.2×900/-3.50/14.2)・58歳時に試したMFSCL①プロクリアワンデー・マルチフォーカル:近くは見やすいが遠くは見にくい.②ワンデーピュア・マルチステージ:①より全体的に見やすいが近くが不満.③これまで使用していたワンデーアキュビューモイストの度数を少し落として対処.・59歳時に試したMFSCL④バイオトゥルーワンデー・マルチフォーカル:近くが見にくい.⑤トータルワン・マルチフォーカル:近くが見にくい.⑥現在のワンデーアキュビューモイストを装用して,近用眼鏡を試してみたが,不自由であるとのこと.・62歳時に試したMFSCL⑦シード1dayPureEDOF(図2,3)RV=(1.0×840/-4.25/14.2/MID)LV=(1.0×840/-4.25/14.2/MID)BV=(1.2×MFSCL)NBV=(0.6×MFSCL)遠近視力ともに満足のいく結果が得られた.現在もこのMFSCLを使用している.かなり神経質な患者で,基遠くを見る部分中間を見る部分近くを見る部分図3シード1dayPureEDOFのレンズデザイン通常のMFSCLでは近見視力用の部位と遠見視力用の部位があり,その間に中間視力用の部位が累進的に存在するものが多い.このレンズは遠・中・近用の度数を木の年輪状に何重にも連続させて配置する(annualringsdesign)ことによって,理想的な像を網膜に結ぶように考えられている.本的にはMFSCLの低コントラストの見え方が不満で,既存のMFSCLでは満足のいく結果が得られなかったものと考える.しかし,老視が進んである程度の妥協をしなければならないことを納得したこともあると推測するが,焦点深度拡張型のEDOFの見え方の質が,この患者には適合したものとも考えられる.■おわりにわが国におけるMFSCLの市場はSCL全体の市場の5.6%どまりである.欧米におけるMFSCLの市場は20.30%以上とのことで,まだまだわが国におけるMFSCLの市場が拡大する可能性は残されている.筆者は積極的に超低加入度数(+0.50D以下)のものも含めてMFSCLの処方をしているが,MFSCL処方はSCL処方全体の15.20%くらいである.SCLユーザーがMFSCLの存在を知らないことも当院におけるMFSCL処方数が少ない一因であると考える.わが国でMFSCLの市場が拡大しない原因として,その存在を知らないユーザーが多いこと,そして多くの眼科医がMFSCLの処方はむずかしくて面倒であると思っていることが推察されるが,最近のMFSCLは質がかなり向上しており,本セミナーで解説したことをふまえて処方に臨めば,中高年以上のSCLユーザーに視力的なquarityoflife向上を提供することは意外と容易である.

写真:結膜反応性リンパ組織過形成

2022年5月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦加藤久美子456.結膜反応性リンパ組織過形成三重大学医学部附属病院眼科図2図1のシェーマ①下眼瞼結膜の病変②下方円蓋部の病変図1初診時の下眼瞼結膜の所見下眼瞼結膜および下方円蓋部に巨大乳頭結膜炎様の変化を認めた.図3初診時の上眼瞼結膜の所見図4病理組織像図5治療後巨大乳頭結膜炎様の変化を認めた.胚中心(germinalcenter:GC)が目立結膜の増殖所見は消失した.Cち,CGCと周囲との境界が明瞭である.(63)あたらしい眼科Vol.39,No.5,2022C6130910-1810/22/\100/頁/JCOPY反応性リンパ組織過形成(reactivelymphoidhyperplasia:RLH)は消化管や皮膚,肺,眼窩,肝臓などに発生する良性の病変である.RLHは眼付属器のリンパ増殖性疾患の約3割を占めていると報告されており1),結膜における良性のリンパ増殖性疾患ではRLHが圧倒的に多いといわれている.RLHや粘膜関連リンパ組織リンパ腫(mucosa-associatedClymphoidCtis-sue:MALTリンパ腫)は,なんらかの慢性的な抗原刺激が加わることで発症すると考えられている2).結膜CRLHは比較的若い成人に多く,眼瞼結膜や球結膜の充血,流涙を主訴に受診することが多い2).細隙灯顕微鏡検査では,典型例で球結膜や瞼結膜に表面平滑で淡いピンク色の腫瘍がみられるが,結膜濾胞を呈することもある.そのため,アレルギー性結膜炎,春季カタルや慢性結膜炎などと診断されることも少なくない.結膜RLHは片眼性あるいは両眼性に発生し,発育は緩徐である.好発部位は結膜円蓋部であるが,上下の眼瞼結膜にも発生することがある.結膜CRLHとCMALTリンパ腫を検眼鏡的に鑑別することは困難で,生検が必要となる.病理組織学的検査に加え,IgGJH遺伝子再構成,フローサイトメトリーなどを行い総合的に診断する2).結膜CRLHの治療法は,経過観察,外科的切除,冷凍治療などがあるが2),ステロイド,シクロスポリンの局所投与が有効であったという報告もなされている3,4).なお,結膜CRLHの経過観察中にリンパ腫に進行した症例があると報告されおり,注意が必要である5).症例はC60歳代の男性で,右眼の充血を主訴に受診した.上下の眼瞼結膜に巨大乳頭様の変化を認めた(図1~3).左眼には異常所見を認めなかった.痒みの自覚症状はなかったが,アレルギー性結膜炎を疑い抗アレルギー薬の点眼治療を行った.しかし,まったく改善が得られなかった.瞼結膜擦過物を用いた塗抹検鏡検査で多数のリンパ球を認める一方,好酸球が認められなかったこと,下方円蓋部にも病変を認めるようになったことから,MALTリンパ腫を疑い生検を行った.病理組織学的検査(図4)およびフローサイトメトリーを行った結果,結膜CRLHと診断された.ベタメタゾン点眼液をC3回/日で開始したところ,約C1カ月で病変は消失した(図5).低濃度ステロイドに切り替え約C3年間経過観察を行ったが,明らかな再発を認めていない.本症例は巨大乳頭様の変化を瞼結膜に呈した非典型的な結膜CRLHであった.前眼部所見と比べて自覚症状が乏しい場合や,薬物治療に反応しない場合は,本疾患を疑い病理学的な検査を行うべきである.文献1)MannamiCT,CYoshinoCT,COshimaCKCetal:Clinical,Chisto-pathological,andimmunogeneticanalysisofocularadnexalClymphoproliferativedisorders:characterizationCofCmaltClymphomaCandCreactiveClymphoidChyperplasia.CModernCPathologyC14:641-649,C20012)臼井嘉:結膜に生じるリンパ増殖性疾患のエッセンス.あたらしい眼科34:1287-1288,C20173)MoraesCBRM,CNascimentoCM,CNetoCECetal:TopicalCste-roidsCeyeCdropsCinCconjunctivalCreactiveClymphoidChyper-plasia:Casereport.MedicineC96:e8656,C20174)ParikhRN,SandhuHS,Massaro-GiordanoGetal:BenignreactiveClymphoidChyperplasiaCofCtheCconjunctivaCtreatedCwithcyclosporine.CorneaC37:255-257,C20185)FukuharaCJ,CKaseCS,CNodaCMCetal:ConjunctivalClympho-maCarisingCfromCreactiveClymphoidChyperplasia.CWorldCJCSurgOncolC10:194,C2012