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眼内レンズ:シリコーン製人工虹彩

2022年1月31日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋森洋斉422.シリコーン製人工虹彩宮田眼科病院人工虹彩はわが国では未承認であるが,無虹彩症や虹彩欠損例に対して有用である.なかでも虹彩の色調をカスタム作製できるシリコーン製人工虹彩は,手術手技も容易で安全性や審美性においても優れていることから注目されている.●はじめに虹彩が欠損していると,羞明やグレア,コントラスト感度低下など,さまざまな視機能障害を生じるだけでなく,整容面でも患者の負担となる.対処法としては,サングラスや虹彩付きコンタクトレンズ,虹彩縫合などが一般的であるが,人工虹彩も臨床使用されている(わが国では未承認).人工虹彩は現在数社より販売されており,素材や形状,手術適応などが異なる.そのなかでシリコーン製人工虹彩であるCHumanOptix社のCCustom-Flexは,安全かつ機能面でも優れていることが示されており,良好な臨床成績が報告されている1~3).本稿ではCCustomFlexの特徴と手術方法について解説する.C●シリコーン製人工虹彩CustomFlex2002年に初めて臨床使用され,2011年にCEUのCCEマークを取得,2018年には米国食品医薬品局の承認を取得している.他社の人工虹彩と異なり,虹彩の色調をカスタム作製することが可能であるため,整容的に優れる点が特徴である(図1,2).シリコーン素材でCfoldableのため,小切開(2.75Cmm)から眼内レンズ(intraocular図1シリコーン製人工虹彩CustomFlexlens:IOL)インジェクターで挿入可能で,.内固定だけでなく毛様体溝固定や縫着にも対応している.全長12.8Cmm,瞳孔径C3.35Cmmのワンサイズのみであるが,虹彩欠損の範囲に応じて切開して大きさや形状を変えて挿入する.また,IOL一体型モデルは用意されていないが,通常使用するCIOLに装着して挿入することが可能であるため4),さまざまな種類のCIOLを選択することができると考えられる.C●適応と手術方法CustomFlexは無虹彩および虹彩部分欠損例が適応となり,先天性無虹彩症や虹彩コロボーマなど先天的なもの,急性緑内障発作や外傷後,Adie症候群など後天的なものが対象となる.基本的に水晶体があると挿入が困難であるため,人工虹彩挿入前もしくは同時に水晶体摘出を行う必要がある.まず,サイズを決定するために角膜径(white-to-white:WTW)を測定する..内固定の場合はCWTW-1.0~1.5Cmm,毛様体溝固定の場合はCWTW+0.5Cmmになるようにトレパンでトリミングすることが推奨されている.通常の白内障手術と同様にCIOL挿入を行ったあと,インジェクターを用いて人工虹彩を挿入する(図3).人工虹彩は不透明であるため徹照が得られず,水晶体.との位置関係がわかりにくくなるため,トリパンブルーなどで前.染色をしておくことがコツである.すで図2CustomFlex挿入前後の写真Adie症候群により不可逆性散瞳を認めたが(Ca),CustomFlex挿入後は瞳孔径が小さくなっている(Cb).(文献C6より転載)(75)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C750910-1810/22/\100/頁/JCOPYabc図3CustomFlexの手術方法a:角膜径測定後にサイズを決定し,トレパンでトリミングする.b:インジェクターを用いて人工虹彩を通常のCIOLと同様に挿入する.Cc:フックで.内に挿入されていることを確認して手術を終了する.(文献C6より転載)にCIOL挿入されている場合は基本的に毛様体溝固定となるため,瞳孔ブロック予防目的で人工虹彩の端にC2カ所以上,虹彩切除を施しておく.水晶体.が使用できない場合は,IOL縫着後に人工虹彩も縫着する.応用として,縫着用のCIOLに人工虹彩をセットしてCIOLのみを縫着する方法も報告されており4),侵襲が少なく有用であると考えられる.C●術後臨床成績近年,CustomFlexに関する報告が散見され,優れた臨床成績が報告されている.Mayerら1)は前向き観察研究で,外傷後の虹彩欠損症例C32眼に対してCCustom-Flexを毛様体溝固定で挿入した結果,有意にコントラスト感度が改善し,整容面における満足度も向上したことを報告している.この検討では,瞭眼の虹彩の色調に合わせた人工虹彩を挿入しており,その優れた審美性が評価されている.また,Bonnetら3)はC20眼の前向き観察研究で,挿入後にグレア負荷における矯正視力やグレア症状が改善し,整容面における満足度も向上したことを報告している.先天性無虹彩症に対してCCustomFlexを挿入したC50例C96眼を後ろ向きに検討した報告2)では,95%以上の症例で羞明やグレア症状が改善したことが示されている.C●人工虹彩挿入後のデメリット人工虹彩を挿入すると散瞳ができなくなるため,眼底検査や硝子体手術に影響することが懸念される.最近では超広角走査型レーザー検眼鏡により,無散瞳でも広範囲の眼底を観察することが可能になっている.また,術後も詳細な眼底検査を要する症例では,瞳孔径を少し拡大しておくとよい.硝子体手術に関しても,広角眼底観察システムにより,大きな問題にならないことが示されている.CustomFlex挿入例で硝子体手術を行ったC20眼の検討5)で,ほとんどの術者が術中の眼底観察に問題なしと回答しており,人工虹彩の摘出は不要であったことが報告されている.C●おわりに人工虹彩はわが国では未承認であるが,手技も容易で安全性も高いため,無虹彩症や虹彩欠損例に対して非常に有用なツールである.適応となる患者は多くないものの,今後わが国にも導入が期待される.文献1)MayerCCS,CReznicekCL,CHo.mannAE:PupillaryCrecon-structionCandCoutcomeCafterCarti.cialCirisCimplantation.COphthalmologyC123:1011-1018,C20162)FigueiredoCGB,CSnyderME:Long-termCfollow-upCofCaCcustom-madeCprostheticCirisCdeviceCinCpatientsCwithCcon-genitalaniridia.JCCataractRefractSurgC46:879-887,C20203)BonnetCC,CMillerKM:SafetyCandCe.cacyCofCcustomCfold-ableCsiliconeCarti.cialCirisimplantation:prospectiveCcom-passionate-useCcaseCseries.CJCCataractCRefractCSurgC46:C893-901,C20204)SpitzerCMS,CYoeruekCE,CLeitritzCMACetal:ACnewCtech-niqueCforCtreatingCposttraumaticCaniridiaCwithaphakia:C.rstresultsofhaptic.xationofafoldableintraocularlensonCaCfoldableCandCcustom-tailoredCirisCprosthesis.CArchCOphthalmol130:771-775,C20125)ToygarO,SnyderME,RiemannCD:Parsplanavitrecto-myCthroughCaCcustomC.exibleCirisCprosthesis.CRetinaC36:C1474-1479,C20166)森洋斉:人工虹彩.IOL&RSC35:240-246,C2021

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 8.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その1)

2022年1月31日 月曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院8.ソフトコンタクトレンズによる老視矯正(その1)■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)における老視矯正は,遠見用の度数が入った部位と近見用度数の入った部位が分かれており,その間に累進的に中間用の度数が配置されていても,基本的には交代視型という特徴を有しているが,ソフトコンタクトレンズ(SCL)における老視矯正は,中心に遠見度数が配置され,周りに近見度数が配置されているデザインのものと,逆に中心に近見,周りに遠見の度数が配置されているデザインのものがあり,いずれもその間に累進的に中間用の度数が配置されているが,基本的には同時視型という特徴を有している(図1).■同時視型遠近両用SCLの特徴遠近両用SCLでは1枚のレンズに遠用と近用の度数が入っている.遠見時には遠くのクリアな像と近用部位を通ってきたボケた像が同時に入ってくる.そのなかでクリアな像だけを脳が選択する.逆に近見時には近くのクリアな像と遠見部位を通ってきたボケた像が同時に入り,クリアな像だけを脳が選択する.加入度数が強いほど,遠見時には近用部位を通ってきた像のボケはきつくなる(図2).患者には,同時視について,ネット越しにテニスや野球を観戦しているときに,熱中してくるとネットが気にならなくなることを例にあげて説明すると,わかってもらいやすい(図3).同時視にすぐに慣れてしまう人がほとんどであるが,中心遠用で非球面中心遠用で球面プラス非球面なかには2週間くらいかかる人もいるので,トライアルレンズをしばらく装用させたうえで購入を決めてもらうことも考慮に入れる.同時視に慣れるまでの間は視界が若干暗く感じる,立体感が若干鈍く感じる,視界が狭く感じる,床などが浮いて感じるなどの現象が生じる可能性があることを,あらかじめ伝えておくことが肝心である.■低加入度数SCLの意義現在,+0.5D以下の加入度数を有するSCLは1日使い捨てSCLではシード社の1dayPureViewSupport,アイレのプライムワンデースマートフォーカス,2週間頻回交換SCLではメニコンの2WEEKメニコンDUO,クーパービジョン社のバイオフィニティアクティブなどがある.加入度数が+0.5D以下となっているのは,遠くの見え方を損なうことなく近見をサポートするといった共通のコンセプトに基づいている.このような低加入度数SCLは近見作業の多いオフィスワーカーなどの眼精疲労の解消だけではなく,初期老視にも対応可能である.また,まだ確定的ではないが,近視抑制の効果についても議論されている.■低加入度数SCLの処方例125歳,女性.視能訓練士.1日使い捨てSCLを使用.調子は普通だが,夜間が見えにくい.乱視はない.RV=(1.5×900/-3.00/14.2)中心近用で非球面中心近用で球面プラス非球面図1遠近両用SCLのデザイン(73)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022730910-1810/22/\100/頁/JCOPY図3遠近両用SCLの同時視の説明法ネット越しのスポーツ観戦を例に説明すると理解されやすい.高加入度数遠方部を通る光線近方部を通る光線図2遠近両用SCLにおける見え方加入度数が強くなるほど見え方のクオリティは低下する.ネットを意識LV=(1.5×900/-2.75/14.2)この症例にシード社の1dayPureViewSupportを処方する.RV=(1.5×880/-3.00/14.2)LV=(1.5×880/-2.75/14.2)視力には変化がなく,装用直後は遠方が少し見にくかったが,すぐに慣れて夜間でも遠方・近方ともによく見えるようになった.近方作業が多く,通常のSCLでは眼精疲労が生じていたものと推測された.■低加入度数SCLの処方例245歳,女性.主婦.2週間頻回交換SCLを使用.最近,近方が見にくくなったとのこと.RV=(1.2×860/-4.25/14.2)NRV=(0.5×SCL)LV=(1.2×860/-3.75/14.2)NLV=(0.5×SCL)この症例にメニコンの2WEEKメニコンDUOを処方.RV=(1.2×860/-4.25/14.5)NRV=(0.6×SCL)LV=(1.2×860/-3.75/14.5)NLV=(0.7×SCL遠方視力は変わらず,近方も満足のいく視力が得られた.このような低加入度数SCLが何歳くらいまでのユーザーに有効であるのかは個人差が大きく,断定することはできないが,少なくとも当医院における低加入度数SCLユーザーの最高年齢は63歳である.文字を意識

写真:幼少期の結膜炎が要因と考えられた副涙腺囊胞

2022年1月31日 月曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦北野ひかる452.幼少期の結膜炎が要因と京都府立医科大学眼科学教室,バプテスト眼科クリニック考えられた副涙腺.胞横井則彦京都府立医科大学眼科学教室図2図1のシェーマ①乳白色~黄色の半透明の壁をもつ.胞性病変②瞼球癒着図1前眼部所見右下眼瞼結膜.に瞼球癒着を伴う乳白色~黄色の腫瘤様病変を認める.図3摘出した検体の病理所見.胞壁は一層の立方上皮と扁平化した上皮に被われている..胞周囲に線維組織・毛細血管の増生と炎症細胞の浸潤を認める.図4.胞摘出約半年後の前眼部所見(リサミングリーン染色下の所見)瘢痕形成や.胞再発もなく経過している.(71)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C710910-1810/22/\100/頁/JCOPY症例は72歳,女性で,眼疾患の既往として両眼の網膜分枝静脈閉塞症があり,前々医で抗VEGF薬の硝子体注射,およびトリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を施行されていた.また,幼少期に強い結膜炎の既往があった.幼少の頃から右下眼瞼結膜円蓋部に.胞を認めていたが,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)眼科受診の約C1カ月前より急速な増大を認めたため,切除を希望して前医を受診した.しかし,同部位に瞼球癒着も認められため,当院に紹介となった.当院初診時,右下眼瞼結膜.円蓋部に瘢痕を伴う乳白色~黄色の腫瘤様病変(図1,2)を認めた.細隙灯顕微鏡検査による前眼部所見に加えて,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査で結膜下に.胞病変が確認され,内容物が低反射を示していたことから副涙腺.胞を疑い,後日手術にて摘出を行う方針となった.術中,結膜と.胞壁の間を.離している最中に,漿液性の内容物,続いて乳白色の内容物が漏出した.しかし,その後は.胞の外壁を容易に摘出できた.摘出した.胞を病理検査に出した結果,術前の臨床診断に一致して副涙腺.胞(cystCofCtheCaccessoryClacrimalgland)の診断を得た(図3).術後約半年時点で瘢痕形成や.胞の再発もなく,順調に経過している(図4).涙腺は,眼窩部と眼瞼部からなる主涙腺(mainlacri-malgland)と,結膜下に存在する副涙腺(accessoryClacrimalgland)に分類される.副涙腺は小さな漿液腺で,細隙灯顕微鏡による同定は困難である.また副涙腺にはCKrause腺とCWolfring腺のC2種類があり1),Krause腺は結膜円蓋部に存在し,Wolfring腺は瞼板と眼瞼結膜の間に存在する.この副涙腺由来の.胞性病変を副涙腺.胞とよぶ.副涙腺.胞は結膜上皮面に開口する導管の閉塞により形成されると考えられ,結膜円蓋部にみられる薄いピンク色~白色の腫瘤として認められる.副涙腺.胞は,外傷,感染,幼少期の強い結膜炎のあとに徐々に発症してくると報告されている2).1980年頃まではCKrause腺由来と考えられていたが,Jacobiecら2)やWeatherheadら3)の報告によりCWolfring腺由来の.胞が確認され,現在,結膜下の副涙腺.胞の多くはCWol-fring腺由来と考えられている.まれな疾患ではあるが,瞼板に沿った眼瞼結膜や,結膜円蓋部にみられる球状で半透明の壁をもつ.胞性病変の多くは,副涙腺.胞といえる.報告によると,副涙腺.胞は平均発症年齢C39歳,上眼瞼発生がC73.9%と下眼瞼より多く3),また,眼瞼結膜の中央~鼻側に好発するとされる.通常,痛みなどの自覚症状を伴わず,無症状のうちに増大した腫瘤として受診することが多く,症状がなければ無治療でもよいが,違和感があったり,眼瞼が隆起するほど大きいものは整容的な意味からも治療の対象となる.針による穿刺・吸引では再び液体が貯留し再発することがあるため,.胞の全摘出が望ましい.本症例は幼少期の強い結膜炎を契機に発症したと考えられ,既報と矛盾のない副涙腺.胞であった.なんらかの機転を契機に徐々に導管の閉塞が進むことで増大してきたと考えられるが,進展様式の詳細は明確ではない.先に述べたように,穿刺による内容物の排出だけでは再発しうるため,手術による.胞の摘出が基本となると考えられるが,そのためには副涙腺.胞と臨床診断するべく,病歴の聴取,病態の把握,前眼部COCTを用いた診断などを行っておくことが重要と思われる.文献1)小幡博人:眼瞼の解剖─副涙腺.眼科45:925-929,C20032)JakobiecCFA,CBonannoCPA,CSigelmanJ:ConjunctivalCadnexalCcystsCandCdermoids.CArchCOphthalmolC96:1404-1409,C19783)WeatherheadRG:Wolfringdacryops.Ophthalmology99:C1575-1581,C1992C

網膜静脈閉塞症に対する手術治療

2022年1月31日 月曜日

網膜静脈閉塞症に対する手術治療SurgicalTreatmentforRetinalVeinOcclusion岩瀬剛*はじめに網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)は網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)に分けられる.閉塞部位が異なり,CRVOでは視神経乳頭部における網膜中心静脈が閉塞し,BRVOでは動静脈の交叉部位で網膜静脈が閉塞する.閉塞領域が両者で異なることから,発症後の視機能,経過および手術加療の手技などが異なる.RVOに対して手術が適応となるのはおもに,①遷延性の硝子体出血,②RVOに続発する牽引性・裂孔原性網膜.離,③黄斑浮腫,④新生血管緑内障であると考えられる1).本稿ではこれまでRVOに対して行われてきた手術手技も含め,現在行われている手術治療について述べる.I硝子体出血RVOの一部,虚血型(無灌流領域が5乳頭面積以上)のBRVOでは経過中に硝子体出血を生じる症例がある.1986年に報告されたBranchVeinOcclusionStudy(BVOS)では,新生血管を生じている眼で予防的レーザーが行われていないと硝子体出血を生じやすいことが示されている2).BRVOは発症しても黄斑部に浮腫などのなんらかの影響がないと自覚症状がないことがあり,硝子体出血を契機に医療機関を初めて受診することがある(図1).BRVOの既往があり,硝子体出血の程度が軽度であれば経過観察し,出血の吸収を待ってレーザー加療してもよいが,原因が明らかでない場合には早期の加療が望ましい.硝子体出血を生じる鑑別すべき疾患としては,もっとも多いのが網膜裂孔によるものであり,網膜細動脈瘤,増殖糖尿病網膜症(僚眼を観察することである程度鑑別できる),加齢黄斑変性などがあげられる.BRVOによる硝子体出血では,術中に新生血管がみられることがあるが,増殖膜あるいは硝子体膜と連続している新生血管に対しては,それらの膜との連続性を切除後に新生血管自体をジアテルミーで焼灼しておくことで,術後の再出血を抑えることができる.また,無灌流領域には網膜光凝固を施行しておくことで,新たな新生血管や網膜円孔の発症を予防する.硝子体出血を生じる前に自覚症状のなかったBRVO患者では,黄斑浮腫などの黄斑部の問題が以前にはなかったと考えられ,良好な視力が得られることが多い.CRVOにより硝子体出血を生じた場合には術中に硝子体基底部までの十分な網膜光凝固を行う必要がある.このことにより術後の血管新生緑内障の発症を抑えることができる.II牽引性・裂孔原性網膜.離牽引性網膜.離は,RVOにおける増殖膜の収縮によって引き起こされる(図2).黄斑部に網膜.離が及んでいるケースでは,早期の手術が必要である.黄斑部を含まない非進行性の牽引性網膜.離では経過観察を行うことが可能であるが,牽引により網膜裂孔を生じると裂孔*TakeshiIwase:秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座〔別刷請求先〕岩瀬剛:〒010-8543秋田市本道1-1-1秋田大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御医学系眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(63)63図1硝子体出血を生じたBRVOの術前超音波Bモード画像と術後眼底写真数日前まで自覚症状はなかったが急に視力が低下し来院,術前視力は指数弁であり,眼底透見不能で術前超音波Bモード画像では硝子体内に出血と考えられる高輝度領域がみられる(a).硝子体術中に鼻下側に陳旧性のBRVOおよび新生血管が観察され,術中に網膜光凝固を行った(b).黄斑部にはBRVOによる影響がないことから術後視力は1.0と向上した.図2BRVOに対する網膜光凝固後6カ月間に牽引が次第に強くなった症例の眼底写真とOCT画像BRVOの無灌流領域に網膜光凝固を行ったのち,増殖膜が形成され網膜への牽引が強くなっている.図3BRVOに続発する硝子体出血,牽引性網膜.離,黄斑前膜を生じた症例の術前眼底写真,OCT画像および術中画像硝子体出血および上耳側に広範囲に白線化した血管を有する無灌流領域が観察される(Ca).黄斑部のCOCT画像では黄斑前膜がみられる(Cb).無灌流領域内で後部硝子体膜を網膜から.離する際に生じた複数の医原性網膜裂孔および無灌流領域に網膜光凝固を行なっている術中所見(Cc).図4陳旧性のBRVOの無灌流領域内に生じた網膜円孔による網膜.離を生じた症例の術中画像上鼻側の血管が白線化した無灌流領域内に生じた網膜円孔により網膜.離が生じている.図5BRVOによる黄斑浮腫の再発を繰り返す症例初診時の眼底写真では上耳側にCBRVOがみられ(Ca),それに伴う黄斑浮腫がCOCTで観察され(Cb),視力は0.2であった.抗CVEGF薬硝子体内投与をC10回行ったが,黄斑浮腫の再発を繰り返したことから,硝子体手術を行った.術後には黄斑浮腫の再発はなく,視力はC0.8となった(Cc).ab図6BRVOによる黄斑浮腫および偽黄斑円孔の症例の術前眼底写真と術前後のOCT画像初診時にCBRVOによる黄斑浮腫および黄斑前膜による偽黄斑円孔がみられ,視力はC0.3であった(Ca).黄斑の形態が不良であったことから,黄斑前膜.離併用硝子体手術を行った.術後視力はC0.7に改善し,現在まで黄斑浮腫の再発はみられない(Cb).ab図7黄斑前膜を伴う陳旧性BRVOの症例の術前および術後眼底写真とOCT画像BRVOに対して,前医で網膜光凝固および複数回の抗CVEGF硝子体内投与が行われていた(Ca).術前視力はC0.4であった.ILM.離併用硝子体手術を行ったところ,術後視力はC0.8に改善し,現在まで黄斑浮腫の再発はみられない(Cb).図8NVGを生じたCRVOの症例隅角新生血管(Ca)および虹彩新生血管が観察される(b).抗CVEGF硝子体内投与および汎網膜光凝固を行ったのちに線維柱帯切除術を行い,眼圧のコントロールが得られた(Cc).—

網膜静脈分枝閉塞症に対するレーザー治療の抗 VEGF治療としての役割

2022年1月31日 月曜日

網膜静脈分枝閉塞症に対するレーザー治療の抗VEGF治療としての役割TheRoleofMacularLaserSurgeryasanAnti-VEGFTreatmentforBranchRetinalVeinOcculusion村田敏規*はじめに網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)におけるレーザー治療の目的は二つある.一つ目は無灌流領域を凝固し,新生血管に続発する硝子体出血と網膜.離を予防することであり,二つ目は黄斑浮腫治療で抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬(用語解説参照)投与が頻回になった場合に,無灌流領域を凝固してCVEGF産生を低下させ,抗CVEGF薬からの離脱を図ることである.CI新生血管の形成による硝子体出血と網膜.離の予防BRVOでは無灌流領域で産生されるCVEGFにより網膜新生血管が形成され,慢性期に硝子体出血や網膜.離の原因となる症例が少なくない1).図1のように初診時に軟性白斑が著明なCBRVOは虚血が強く(図1a),虚血細胞のCVEGFの過剰産生により網膜新生血管が生じて,増殖膜を伴う網膜.離が起きる(図1b).この症例では,静脈閉塞部位では網膜の菲薄が高度であり,増殖膜だけを切除できないので,広範な網膜切除を行い復位を得た(図1c).光干渉断層血管撮影(opticalCcoherencetomographyCangiography:OCTA)(用語解説参照)のCB-scanCwithC.owsignalsをみると,血流がない(赤い点がない領域)網膜は著明に菲薄化していて,境界部から新生血管が硝子体に伸びている(図1d).ここに硝子体牽引がかかると,硝子体出血の原因となる.本症例のように網膜が菲薄化していると,血管がきれるより先に網膜裂孔が形成され(図1b)網膜.離が生じる.硝子体出血や網膜.離が起きた症例だけ硝子体手術するほうが効率的であるとする欧米の考え方も一理あるが,本症例のような重篤な視力障害に至る患者を減らすためには,BRVOの無灌流領域への予防的なレーザーを,病変を発見次第,全例に施行すべきである.CII中心窩周囲の毛細血管が保たれている症例はcapillarydropoutへのレーザーにより抗VEGF薬を離脱できる上耳側静脈のCBRVOの症例を提示する(図2a).蛍光眼底造影(図2b)で出血範囲に無灌流領域(capillarydropout)が確認され,傍中心窩の上耳側毛細血管に漏出が強い.黄斑Cmapでは同部位に白と赤で示される網膜肥厚があり(図2c),Bスキャンでも上半分網膜に網膜内浮腫がみられる(図2d).抗CVEGF薬を硝子体内注射しても繰り返し再発し,1年間でC7回抗CVEGF薬硝子体内注射を必要としたが,幸い視力は(1.0)に保たれた.蛍光眼底造影とCOCTAで確認されるCcapillaryCdrop-outの網膜神経細胞には酸素が十分に供給されない.虚血細胞によるCVEGFの過剰産生を抑制する目的でCshortpulselaserを施行した(図2e).Shortpulselaser(0.03秒,50Cμm,150.250CmW)は経時的に凝固班が拡大しないので,アーケード内の虚血部位を凝固するときは,*ToshinoriMurata:信州大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕村田敏規:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(57)C57図1網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)の晩期合併症(増殖膜形成に伴う網膜.離)a:虚血のサインである軟性白斑が目立つ.レーザーは施行されなかった.Cb:1年後.新生血管にかかった硝子体牽引で,網膜裂孔が形成され(),強固な増殖膜形成()を伴う網膜.離.白線化した血管が,この部位が閉塞静脈による無灌流領域であることを示す().c:増殖膜を切除除去する過程で,菲薄化した網膜ごと切除した().白線化した血管から,ここが増殖膜があった位置であることが確認できる().Cd:OCTのCB-scanCwithC.owsingals.赤い点で示される血流シグナル(.owsingnal)がない右半分が,BRVOで血流が低下した範囲で,著明に網膜が非薄化している.VEGFが過剰発現される虚血網膜に,新生血管が発芽している().この新生血管に硝子体牽引がかかり,断裂して硝子体出血と,非薄化した網膜に裂孔が形成され網膜.離が生じた.図2頻回の抗VEGF薬硝子体内注射をcapillarydropoutへのshortpulselaserで離脱できた症例a:上耳側静脈のBRVO.Cb:蛍光眼底造影.出血範囲に無灌流領域(capillarydropout)が形成されている.正常に保たれている中心窩近傍の毛細血管がもっとも漏出が強い.Cc:OCTmapで白い部分が500Cμmを越える黄斑浮腫を示す.Cd:OCTBスキャン.上方半分に中心窩に届く黄斑浮腫がある().e:OCTAは毛細血管を観察可能なので,中心窩周囲の毛細血管がC360°完全に保たれていることを確認できる.漏出で覆われないので,capillaryCdrop-outも蛍光眼底造影よりも明瞭に観察できる(の間).Cf:蛍光眼底造影(b)とCOCTA(e)でCcapillarydropoutが確認された部位に,凝固班が拡大しないCshortCpulseClaserとよばれる凝固条件(0.03秒,50Cμm,150.250CmW)でレーザー施行.Cg:蛍光眼底造影.黄斑部のCcapillarydropoutへのCshortCpulselaserの結果,中心窩毛細血管からの漏出が著明に減少している.この結果,黄斑浮腫の再発が止まり,抗CVEGF薬を離脱できた.図3中心窩周囲の毛細血管が閉塞し,毛細血管瘤など漏出点が形成され,抗VEGF薬を離脱できない症例a:上耳側静脈のCBRVO.1年間でC6回,抗CVEGF薬硝子体内注射を受け,視力は(1.0)に保たれた.Cb:蛍光眼底造影(早期像).無灌流領域(capillarydropout)が中心窩に及び,中心窩に拡張した毛細血管と毛細血管瘤()が形成されている.後期像では著明な漏出がみられる.Cc:OCTAではCcapillaryCdropoutが中心窩まで届いていることが明瞭に描出される.拡張した毛細血管と毛細血管瘤()が観察される.Cd:Capillarydropoutと正常血管の境界部に漏出に伴う浮腫が観察され,とくに中心窩近傍の拡張した毛細血管と毛細血管瘤が形成された部位に,黄斑浮腫の再発を繰り返す.■用語解説■血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfac-tor:VEGF):2019年ノーベル生理学医学賞を受賞したChypoxiaCinduciblefactorにより産生が誘導される.虚血細胞の生存のために,血漿を既存の血管から漏出させ酸素を供給する.これが黄斑浮腫の原因となる.さらに,新生血管を誘導するが,これが硝子体出血や牽引性網膜.離の原因となる.抗CVEGF薬は硝子体内に注射することで,VEGFが誘導する黄斑浮腫や新生血管を抑制する.光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA):赤血球の動きをCOCTで検出し,これを三次元的につなぎ合わせて線を引くことで,網膜などの血管を造影剤なしで描出することができる.

網膜静脈閉塞症に対する薬物治療

2022年1月31日 月曜日

網膜静脈閉塞症に対する薬物治療MedicalTherapyforRetinalVeinOcclusion永里大祐*はじめに網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)(図1)治療の歴史をひもとくと,おもに網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)に対して1950年代から行われていた抗凝固療法1)に始まり,血栓溶解療法2)や,高張浸透圧薬療法3),血漿交換療法4)が知られている.そして網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)において1984年にBVOStudygroupが,3カ月以上持続する矯正視力が0.5未満で,かつ傍中心窩毛細血管網が正常なBRVOに対する格子状光凝固術による治療を報告した5).しかし,この報告には,比較的視力が良好な症例や,強い.胞状黄斑浮腫や傍中心窩毛細血管網の閉塞などを含む重症例が含まれていなかった.そして,1995年にCVOStudygroupが,CRVOに伴う黄斑浮腫(macularedema:ME)に対する格子状光凝固術による治療を報告した6).しかし,この報告では,レーザー治療によって蛍光眼底造影検査で認められる蛍光漏出は有意に改善するものの,視力の有意な改善は認めなかった.また,格子状光凝固は網膜に不可逆的な障害をもたらすため,BRVO,CRVOに伴うMEを消失,減少させ,視機能の改善を目的としている現在のRVO治療を考慮すると,格子状光凝固術単独治療がRVO治療の第一選択になることはない.MEは,網膜静脈閉塞および網膜出血後の低酸素誘発性毛細血管透過性の結果であることが推定されており7),よって現在は下記に記載するさまざまな治療に併用して施行されている.2000年代に入り,RVOに伴うME(図2)に対するトリアムシノロン8,9)やデキサメサゾン10)の硝子体内投与の報告があった.結果の詳細は後述するが,非虚血型のCRVOに対して,トリアムシノロン硝子体内投与が,またCRVOとBRVO両方に対してデキサメサゾン硝子体内投与が有効であることが示された.また,同時期に硝子体手術の技術,機器の著しい進歩に伴って,硝子体手術がより小切開で施行できるようになった.黄斑部への外科的アプローチが比較的容易になったため,CRVO,BRVOによって硝子体出血を発症した場合のみならず,硝子体出血を伴わない単純なMEに対しても後部硝子体.離や内境界膜.離,放射状視神経乳頭切開を含む硝子体手術(図3,4)が近年施行されている.しかし,2021年現在,BRVOとCRVOを含むRVOに伴うMEの治療のメインが,2010年前半に承認されたラニビズマブやアフリベルセプトなどの抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射であることに異論はないであろう.本稿では抗VEGF療法の代表的な研究を中心に,日本で行われているRVOに対する薬物療法の現状について述べる.Iコルチコステロイド硝子体内投与21世紀の初頭,BRVO,CRVOに伴うMEに対して,毛細血管透過性を低下させることとVEGF発現を阻害*DaisukeNagasato:ツカザキ病院眼科〔別刷請求先〕永里大祐:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(47)47図1超広角眼底画像における正常画像とBRVO画像,CRVO画像(典型例)a:正常画像.b:BRVO(下方)画像.c:CRVO画像.図2BRVO画像と同画像の黄斑部の縦切りのOCT画像黄斑部の網膜厚の肥厚と.胞様黄斑浮腫,および漿液性網膜.離を認める.図3半側CRVOの超広角眼底画像,造影検査画像,OCT画像(59歳,男性)半年前に脳梗塞を発症した.矯正視力(0.1).下方の網膜出血と,それに伴う.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離を認める.後部硝子体.離は完全に起こっていない.a:超広角眼底画像.b:造影検査画像.c:OCT画像.図4図3の症例に対する硝子体手術後4カ月の超広角眼底画像とOCT画像硝子体手術によって後部硝子体.離を完全に作製し,内境界膜.離も施行している.矯正視力(1.0p)であった.a:超広角眼底画像.b:OCT画像.薬の投与によってC6カ月目までにはほとんどの症例で軽快した.CII抗VEGF薬硝子体内投与現在,CRVO,BRVOに伴うCMEに対して世界的に標準治療となっている抗CVEGF薬硝子体内投与(図5~8)であるが,実臨床において最初にその効果を調べた研究が,2010年のCKingeらによるCROCCstudy(aCRan-domizedCStudyCComparingCRanibizumabCtoCShamCinCPatientsCwithCMECSecondaryCtoCRVO)である13).CRVO-MEの患者をラニビズマブ投与群と偽薬投与群に分け,比較検討が行われた.結果は偽薬群と比較してラニビズマブ投与群では,3回以上の初期注射(4.3C±0.9)がC80%の患者に必要であったが,視力の改善とOCTによる黄斑浮腫の減少を認めた.32例で行われたこの報告以降,CRVOのみならずCBRVOを含んだ大規模な研究が世界中で施行された.ここでは代表的な研究を取りあげる.C1.CRVO.MEにおける代表的研究CRVO-MEの治療において,ラニビズマブを用いたCRUISEstudyがまずあげられる14).この研究では,CRVO-MEに対してラニビズマブ投与群(0.3Cmg,0.5Cmg)の有効性をプラセボ投与群と比較検討した.結果はラニビズマブC0.3Cmg,0.5Cmg投与群はどちらもC6カ月後矯正視力,黄斑浮腫は,プラセボ投与群よりも有意に改善した.この報告に続いてCCamC-pochiaroらは,CRUISEstudyのC12カ月の結果を報告した15).このより長い期間で治療,経過観察された研究では,ラニビズマブ治療後に矯正視力がC20/40未満またはCRTが250Cμmを超える場合,患者はCprorenata(PRN)ベースでC0.5Cmgのラニビズマブで継続治療するレジメンで行われた.結果はラニビズマブ投与群では,平均C14文字の改善を認めプラセボ投与群と比較して有意に改善していた.よって,CRVO-MEに対するC0.5Cmgのラニビズマブ硝子体内投与は効果的であることが示された.それ以降CCRUISEstudy完了症例を対象に行われたCHORIZONCtrial16)において治療開始後C2年目(13.24カ月)もラニビズマブの有効性と安全性が示され,続くCRETAINCstudy17)においても,48カ月後にもラニビズマブ投与における視力改善維持が有意にあることも報告された.一方,ヒトCIgGFCフラグメントとの融合蛋白であるアフリベルセプトを用いた研究としてCCOPERNICUSstudyがある18).この研究においてアフリベルセプト硝子体内投与群は対照群と比較して,6カ月後の矯正視力とCCRTは有意に改善した.また,CRVO診療,治療においてしばしば遭遇する新生血管(図9)の発生率も有意に低かった.続いてCBrownら19)は,7.12カ月目までC4週間ごとにアフリベルセプトC2CmgのCPRN投与を行うCCOPERNICUS試験のC12カ月の結果を報告した.この研究において初めのC6カ月の期間にアフリベルセプトが投与されず,6カ月以降に投与可能に分けられた対照群のC12カ月後に平均C4文字の改善しか認めなかったが,アフリベルセプト硝子体内投与群では平均C16文字の改善と著明な改善を認めた.その後C24カ月の経過観察を行ったCCOPERNICUSCstudy20),およびC6.18カ月の経過観察が行われたCGALLILEOCstudy21.23)が報告され,CRVO-MEに対するアフリベルセプトの有効性が報告されている.とくに,COPERNICUSCstudy,CGAL-LILEOstudyはCstudyCdesignにおいて治療群と偽注射群(24Cor52週後に偽注射群にもアフリベルセプトを投与)に分けて研究を行っており,どちらも発症直後に治療介入した群(治療群)のほうが,偽注射群よりも視力改善の程度がよかった.筆者らはC24カ月以上経過観察できたC150症例のCRVO-MEを最終視力からC2群〔視力不良群(20/200未満)と対照群(20/200以上)〕に分類し,抗CVEGF薬硝子体投与後の視力不良群の因子を調べる研究を行い,高齢,初診時視力不良,内頸動脈疾患と糖尿病網膜症が併存していることが重要なリスク要因であることを報告した24).長期経過を含むこれらの多数の研究結果から,現在のCRVO-MEに対する治療の第一選択は抗CVEGF薬硝子体内注射となり,かつ発症後早期に施行することが肝要であることが示された.50あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022(50)図5CRVOにおける抗VEGF薬硝子体内投与前後のベースラインの小数視力別の最高矯正視力(logMAR換算値)の推移(日本における多施設研究)発症時の矯正視力が比較的良好または不良であっても,その数値にかかわらず,12カ月後の矯正視力はベースラインと比較して有意に改善している.Cabd図6CRVO(非虚血型)に対するラニビズマブ投与後の経過(代表症例,58歳,男性)a:発症時,.胞様黄斑浮腫およびごく軽度の漿液性網膜.離を認める.矯正視力(0.3).b:導入期にアフリベルセプト硝子体内投与をC3回施行した.その後.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離は消失した.最終投与後C1カ月での矯正視力(1.2).c:最終投与後C3カ月後に患者は視力低下を自覚した.再度.胞様黄斑浮腫を認めた.矯正視力(0.9).患者と相談してアフリベルセプト硝子体内投与を追加でC1回施行した.Cd:追加投与後,.胞様黄斑浮腫は消失した.その後C24カ月の経過観察中に一度も黄斑浮腫の再発を認めなかった.矯正視力(1.2).c0.000.680.850.200.610.400.350.49MAR0.600.15log0.800.220.5以上1.000.3以上0.5未満1.200.040.1以上0.3未満0.1未満1.40開始時3M6M12M18M24M観察時期図7BRVOにおける抗VEGF薬硝子体内投与前後のベースラインの小数視力別の最高矯正視力(logMAR換算値)の推移(日本における多施設研究)発症時の矯正視力が不良な例を含めて,12カ月後の矯正視力はベースラインと比較して有意に改善している.Cab図8BRVO(maculartype)に対するラニビズマブ投与後の経過(代表症例,73歳,女性)a:発症時,.胞様黄斑浮腫を認める.矯正視力(0.4).b:導入期にラニビズマブ硝子体内投与をC3回施行した.その後.胞様黄斑浮腫は消失し,24カ月の経過観察中に一度も黄斑浮腫の再発を認めなかった.矯正視力(1.2).図9CRVOに続発した虹彩新生血管を示す左眼の前眼部写真(41歳,女性)虹彩に多数の新生血管を認める.左眼圧はC62CmmHgであった.文献1)Du.I,FallsH,LinmanJ:Anticoagulanttherapyinocclu-sivevasculardiseaseoftheretina.ArchOphthalmolC46:C601-617,C19512)KohnerCEM,CPettitCJE,CHamiltonCAMCetal:StreptokinaseCincentralretinalveinocclusion:acontrolledclinicaltrial.BrMedJ1:550-553,C19763)HansenLL,DanisevskisP,ArntzHRetal:ArandomizedprospectiveCstudyConCtreatmentCofCcentralCretinalCveinCocclusionCbyCisololaemicChaemodilutionCandCphotocoagula-tion.BrJOphthalmol69:108-116,C19854)DoddsEM,LowderCY,FosterRE:Plasmapheresistreat-mentCofCcentralCretinalCveinCocclusionCinCaCyoungCadult.CAmJOphthalmolC119:519-521,C19955)TheCBranchCVeinCOcclusionStudyCGroup:ArgonClaserCphotocoagulationformacularedemainbranchveinocclu-sion.AmJOphthalmolC98:271-282,C19846)TheCentralVeinOcclusionStudyGroupMreport:Eval-uationofgridpatternphotocoagulationformacularedemaincentralveinocclusion.OphthalmologyC102:1425-1433,C19957)IpMS:IntravitrealCtriamcinoloneCforCtheCtreatmentCofCmacularCedemaCassociatedCwithCcentralCretinalCveinCocclu-sion.JAMAOphtalmologyC122:1131,C20048)IpCMS,CScottCIU,CVanVeldhuisenCPCCetal;SCORECStudyCResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingCtheCe.cacyCandCsafetyCofCintravitrealCtriamcinoloneCwithCobservationCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinocclusion:theCStandardCCareCvsCCorticosteroidCforCRetinalCVeinCOcclu-sion(SCORE)studyCreportC5.CArchCOphthalmolC127:C1101-1114,C20099)ScottIU,IpMS,VanVeldhuisenPCetal;SCOREStudyResearchGroup:ACrandomizedCtrialCcomparingCtheCe.cacyandsafetyofintravitrealtriamcinolonewithstan-dardCcareCtoCtreatCvisionClossCassociatedCwithCmacularCEdemaCsecondaryCtoCbranchCretinalCveinocclusion:theCStandardCCareCvsCCorticosteroidCforCRetinalCVeinCOcclu-sion(SCORE)studyCreportC6.CArchCOphthalmolC127:C1115-1128,C200910)HallerCJA,CBandelloCF,CBelfortCRCJrCetal;OZURDEXCGENEVAStudyCGroup:Randomized,Csham-controlledCtrialCofCdexamethasoneCintravitrealCimplantCinCpatientsCwithCmacularCedemaCdueCtoCretinalCveinCocclusion.COph-thalmologyC117:1134-1146,C201011)IpMS,ScottIU,VanVeldhuisenPCetal:ArandomizedtrialCcomparingCtheCe.cacyCandCsafetyCofCintravitrealCtri-amcinolonewithobservationtotreatvisionlossassociatedwithCmacularCedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinocclusion:theCstandardCcareCvsCcorticosteroidCforCretinalveinocclusion(SCORE)studyreport5.JAMAOphtalmol-ogyC127:1101-1114,C200912)HallerJA,BandelloF,BelfortRetal:Randomized,sham-controlledCtrialCofCdexamethasoneCintravitrealCimplantCinCpatientswithmacularedemaduetoretinalveinocclusion.Ophthalmology117:1134-1146,Ce3,C201013)KingeCB,CStordahlCPB,CForsaaCVCetal:E.cacyCofCranibi-zumabinpatientswithmacularedemasecondarytocen-tralCretinalCveinocclusion:ResultsCfromCtheCsham-con-trolledCROCCCStudy.CAmCJCOphthalmolC150:310-314,C201014)BrownDM,CampochiaroPA,SinghRPetal:Ranibizum-abformacularedemafollowingcentralretinalveinocclu-sion.CSix-monthCprimaryCendCpointCresultsCofCaCphaseCIIICstudy.OphthalmologyC117:1124-1133,Ce1,C201015)CampochiaroCPA,CBrownCDM,CAwhCCCCetal:SustainedCbene.tsCfromCranibizumabCforCmacularCedemaCfollowingCcentralCretinalCveinocclusion:twelve-monthCoutcomesCofCaphaseIIIstudy.COphthalmologyC118:2041-2049,C201116)HeierJS,CampochiaroPA,YauLetal:RanibizumabformacularCedemaCdueCtoCretinalCveinocclusions:long-termCfollow-upintheHORIZONtrial.Ophthalmology119:802-809,C201217)CampochiaroCPA,CSophieCR,CPearlmanCJCetal;RETAINStudyCGroup:Long-termCoutcomesCinCpatientsCwithCreti-nalCveinCocclusionCtreatedCwithranibizumab:theCRETAINstudy.OphthalmologyC121:209-219,C201418)BoyerCD,CHeierCJ,CBrownCDMCetal:VascularCendothelialCgrowthfactorTrap-EyeformacularedemasecondarytocentralCretinalCveinocclusion:Six-monthCresultsCofCtheCphaseC3CCOPERNICUSCStudy.COphthalmologyC119:1024-1032,C201219)BrownCDM,CHeierCJS,CClarkCWLCetal:IntravitrealCa.iberceptinjectionformacularedemasecondarytocen-tralretinalveinocclusion:1-yearresultsfromthephase3CCOPERNICUSCstudy.CAmCJCOphthalmolC155:429-437,Ce7,C201320)HeierCJS,CClarkCWL,CBoyerCDSCetal:IntravitrealCa.iberceptinjectionformacularedemaduetocentralreti-nalCveinocclusion:two-yearCresultsCfromCtheCCOPERNI-CUSstudy.OphthalmologyC121:1414-1420,C201421)HolzCFG,CRoiderCJ,COguraCYCetal:VEGFCtrap-eyeCforCmacularCoedemaCsecondaryCtoCcentralCretinalCveinCocclu-sion:6-monthCresultsCofCtheCphaseCIIICGALILEOCstudy.CBrJOphthalmolC97:278-284,C201322)KorobelnikCJF,CHolzCFG,CRoiderCJCetal:IntravitrealCa.iberceptCinjectionCforCmacularCedemaCresultingCfromCcentralCretinalCveinocclusion:one-yearCresultsCofCtheCphaseC3CGALILEOCstudy.COphthalmologyC121:202-208,C201423)OguraCY,CRoiderCJ,CKorobelnikCJFCetal:IntravitrealCa.iberceptformacularedemasecondarytocentralretinalveinocclusion:18-monthCresultsCofCtheCphaseC3CGALI-LEOstudy.AmJOphthalmolC158:1032-1038,C201424)NagasatoD,MuraokaY,OsakaRetal:Factorsassociat-54あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022(54)

網膜静脈閉塞症の病態

2022年1月31日 月曜日

網膜静脈閉塞症の病態RetinalVeinOcclusionPathologeis錦織奈緒美*村岡勇貴*I網膜静脈閉塞症とは網膜静脈閉塞症(retinalveinocclusion:RVO)は,糖尿病網膜症についで頻度の高い網膜循環疾患で,わが国におけるRVOの有病率は約2.0%である.高齢,高血圧・動脈硬化がリスク因子である1).RVOは閉塞部位によって,網膜中心静脈閉塞症(cen-tralRVO:CRVO)と網膜静脈分枝閉塞症(branchRVO:BRVO)に分類される.CRVOの臨床病型には,半側網膜中心静脈閉塞症(hemi-CRVO)や切迫型CRVO(impendingCRVO)とよばれるものがある.網膜中心静脈は通常1本であるが,2本存在することもあるとされ,そのうちの1本が視神経乳頭内で閉塞するとhemi-CRVOとなる.また,網膜出血や静脈蛇行を認めるが,黄斑浮腫をきたさないような閉塞機転が軽度と考えられるものをimpendingCRVOとして区別することがある.BRVOの発症は,中高年以上がメインであるが,CRVOでは,中高年者とともに若年者においてもときどきみられ,そのような患者には,抗リン脂質抗体症候群,過粘稠症候群,全身の炎症性疾患などの合併が背景にある場合がある(表1).BRVOの臨床病型は,原因動静脈交叉部の場所により,網膜循環障害が黄斑部に限局されるmacularBRVOと,黄斑部や血管アーケードを超えて周辺網膜まで及ぶmajorBRVOに分類される.RVOにおける静脈内の血栓形成は,CRVOは視神経乳頭篩状板付近で,BRVOは原因網膜動静脈交叉部で生じることが多い.BRVOでは,動脈壁の硬化によって静脈が圧排されることで血栓形成が生じ,発症に至ると考えられていた.しかし,筆者らが以前行った光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)によるBRVOの原因交叉部の観察では,静脈の内腔は完全には狭窄していなかった.原因動静脈交叉部において動脈が表層を通過するarterialovercrossingのタイプのBRVOでは静脈が動脈の深層を迂回することで静脈の内腔が保たれていた.一方,原因交叉部で静脈が表層を通過するvenousover-crossingのタイプでは静脈が内境界膜と動脈壁の狭いスペースで高度に圧迫されていることがわかった(図1)2).このように,交叉する血管の位置関係によってBRVO発生機序がやや異なると推測している.OCT上,原因交叉部に血栓形成が認められる場合は,交叉部下流(視神経乳頭側)で検出されることがほとんどで,静脈の形態変化によって生じる交叉部下流での血流障害(乱流)が発症に関与する機序を推測している(図1)2).また,venousovercrossingのタイプのBRVOでは,arterialovercrossingのタイプのBRVOよりも交叉部での責任静脈の閉塞の程度が強く,末梢の網膜無血管領域(nonperfusionarea:NPA)が広範囲であり,網膜新生血管が発生しやすいこともわかってきた3)(図2)14).従来の画像診断では,venousovercrossingの交叉部では,静脈の狭細化の程度が強いためか,その血管形*NaomiNishigori&YukiMuraoka:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕錦織奈緒美:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(39)39表1網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)と網膜中心静脈閉塞症(CRVO)の比較BRVOCRVO頻度4.4/1,000人0.8/1,000人好発年齢高齢者に多い高齢者に多いが,若年者にもみられる併存疾患高血圧,動脈硬化などの生活習慣病高血圧,動脈硬化などの生活習慣病,血栓性疾患,炎症性疾患(若年者に多い)ab図1BRVOに伴う静脈内の血栓a:病変交叉部において動脈が静脈の表層を走行するBRVO.b:病変交叉部において静脈が動脈の表層を走行するBRVO.フルオレセイン蛍光眼底造影写真における緑矢印はOCT断面の方向を示す.いずれの交叉パターンにおいても,静脈内の血栓は原因交叉部からその下流(視神経側)におもに認められる.(文献2より改変して転載)ab図2Arterialovercrossingとvenousovercrossingの蛍光眼底造影写真a:病変交叉部において動脈が静脈の上を走行するBRVO(arterialovercrossing).b:病変交叉部において静脈が動脈の上を走行するBRVO(venousovercrossing).蛍光眼底造影写真では,arterialovercrossingタイプはNPAが目立たない一方で,venousovercrossingタイプの症例は初診時に比して,1年後にNPAの著明な拡大を認める.(文献14より改変して転載)b図3BRVOに併発する黄斑浮腫のOCTa:急性期のCRVOに伴う.胞様腔は網膜のあらゆる層に形成されるが,中心窩下の大きな.胞様腔と中心窩外の内顆粒層・外網状層の比較的小さな.胞様腔が特徴的である.Cb:慢性期のRVOに伴う黄斑浮腫は,急性期のものに比べ浮腫の範囲は限局的である.ab図4BRVOに伴う後極の網膜出血の眼底写真と蛍光眼底造影写真a:後極の刷毛状出血.同部の網膜循環は比較的良好に保たれている.b:後極の斑状出血.同部には網膜無灌流領域を認める.(文献C8より改変して転載)図5BRVOに認める網膜下出血a:急性期の黄斑部カラー写真.網膜下出血は,中心窩の中心にベタッとした暗赤色領域として認められる.Cb:急性期の黄斑部OCT.網膜下出血はCOCTでみると,中心窩の網膜下腔に不定形の高反射像を呈す.(文献C10より改変して転載)図6BRVOに伴う硬性白斑a:亜急性期CBRVO症例の眼底写真と蛍光眼底造影写真.硬性白斑を伴っている.はCOCTの断面方向を示す.Cb:眼底写真とフルオレセイン蛍光眼底造影写真のコンポジット写真.硬性白斑はCBRVO領域を取り囲むように健常網膜との境界に集積している.c:OCTにおいて,hyperre.ectivefociは網膜のあらゆる層に認められるが,健常網膜の外網状層に沿って集積している.(文献C11より改変して転載)図7慢性期のBRVOa:慢性期CBRVO症例の眼底写真.中心窩に硬性白斑を伴っている.はCOCTの断面方向を示す.Cb:慢性期CBRVO症例のフルオレセイン蛍光眼底造影写真.黄斑部上側と耳側にフルオレセインの漏出を伴う血管瘤を認め,硬性白斑の供給源と考えられる.c:OCTでは硬性白斑は中心窩の網膜下にも集積している.abc図8黄斑浮腫を多く認めたBRVOの2症例a:初期治療後のOCTA浅層.Cb:初期治療後のCOCTA深層.Cc:a,bのCOCTA撮像時より3カ月後のOCT.OCTAにて傍中心窩(患側,耳側)に網膜血管拡張が目立つ箇所と一致して,黄斑浮腫の再発を認めている.(文献C13を改変)浅層深層3カ月後-

網膜動脈閉塞症

2022年1月31日 月曜日

網膜動脈閉塞症RetinalArteryOcclusion津田聡*中澤徹*はじめに網膜動脈閉塞症(retinalarteryocclusion:RAO)は,網膜動脈の閉塞により突然の視力低下として発症する急性疾患であり,救急対応疾患である.発症後早期に網膜血流の再灌流が得られないと,視力低下や視野欠損が残存する.さまざまなアプローチで治療が行われるが,有効な治療法が確立されておらず,難治性の眼疾患といえる.また,脳卒中などの心血管イベントの合併リスクもあり,全身リスクへの対応も必要な疾患である.本稿では,RAOについて,基本的な病態や治療を中心に述べる.I病態解剖学的には,内頸動脈の分枝である眼動脈は,眼窩内で網膜中心動脈,短後毛様動脈,長後毛様動脈,前毛様動脈に分かれる.網膜中心動脈および網膜動脈は網膜内層を栄養している.また,32.1%の眼が短後毛様動脈の分枝である毛様網膜動脈を有しており,さまざまな程度で中心窩や網膜内層を栄養している場合がある.RAOの原因による分類では,巨細胞性動脈炎などがRAOの背景となる動脈炎性RAOと,動脈硬化による塞栓症が原因となる非動脈炎性RAOに分類される.動脈炎性RAOは非常にまれであり,全身ステロイドによる早急な治療が必要であり,非動脈炎性RAOとは異なる対応となる.そのため本稿では,非動脈炎性RAOを中心に述べる.RAOは,多くの場合は塞栓症として発症する.閉塞部位によって,網膜中心動脈閉塞症(centralretinalarteryocclusion:CRAO),網膜動脈分枝閉塞症(bra-chialretinalarteryocclusion:BRAO),毛様網膜動脈閉塞症(cilioretinalarteryocclusion)に分類される.とくに網膜中心動脈が閉塞するCRAOは,重篤な視機能障害につながる予後不良の疾患の一つである.CRAOの閉塞部位は,網膜中心動脈の内腔がもっとも狭くなる部位であり,網膜中心動脈の視神経の硬膜鞘の貫通部位とされ,その他の一部が篩状板のすぐ後方とされる1).CRAOの動物モデルでは,発症後97分を超えると検出可能な障害が認められるようになり,発症後4時間を超えると大規模な不可逆性の視神経および神経線維の障害になることが示されている2).RAOは,比較的まれな疾患であるが,動脈硬化性疾患であるため,若年よりも高齢者のほうが発症しやすい.実際にRAO患者では高血圧症,糖尿病,脂質異常症,脳梗塞症,虚血性心疾患などの有病率が高く,また喫煙率も高い.塞栓源は,おもに内頸動脈のプラークや心臓由来の塞栓子とされ,RAOの約70%で内頸動脈にプラークが認められ,心臓超音波ではCRAOの約50%,BRAOの約40%で塞栓源を伴う異常な像が認められるとされる3).塞栓子の成分は,74%がコレステロールとされ,残りが石灰化およびフィブリン成分である4).一方,動脈*SatoruTsuda&ToruNakazawa:東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科視覚科学分野〔別刷請求先〕津田聡:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科視覚科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(31)31図1網膜中心動脈閉塞症a:眼底写真.後極は黄斑部を除き網膜の白濁を認め,cherryredspotとなっている.視力は手動弁のままであった.b:OCT画像.黄斑部の垂直断.網膜内層が肥厚し,高反射となっている.網膜内層の浮腫が強く,内強膜.離を認める.網膜外層の層構造は保たれているが,網膜内層での測定光の減衰により低反射となっている.図2網膜中心動脈閉塞症のレーザースペックルフローグラフィーa:レーザースペックルフローグラフィー画像.図1と同じ症例.網膜中心動脈の閉塞により網膜動脈の血流が不明瞭になっている.b:レーザースペックルフローグラフィー画像.再灌流により網膜動脈の血流が明瞭となった.図3毛様網膜動脈の開存を伴う網膜中心動脈閉塞症a:眼底写真.中心窩の周囲を毛様網膜動脈が灌流しており,黄斑部を含む毛様網膜動脈の灌流域が虚血を免れている.矯正視力はC1.2.Cb:フルオレセイン蛍光眼底造影検査画像.毛様網膜動脈の灌流を認めるが,網膜中心動脈が閉塞している.Cc:レーザースペックルフローグラフィー画像.フルオレセイン蛍光眼底造影検査と同様の血流所見が認められている.d:OCTangiography画像.視神経乳頭を中心とした網膜表層の血流画像.毛様網膜動脈の灌流域では毛細血管の血流像が確認できる.e:OCTangiography画像.黄斑部を中心とした網膜表層の血流画像.毛様網膜動脈の灌流により黄斑部では血流が維持されている.図4網膜動脈分枝閉塞症a:眼底写真.後極上方の網膜が白濁している.矯正視力はC0.7.Cb:フルオレセイン蛍光眼底造影検査画像.眼底写真の白濁部位を栄養している網膜動脈の閉塞が認められる(.).Cc:OCT画像.黄斑部の垂直断.中心窩より上方の網膜内層が肥厚し,高反射となっている(.).同部位の網膜外層の層構造は保たれているが,網膜内層での測定光の減衰により低反射となっている.図5網膜動脈分枝閉塞症a:広角眼底画像.後極上方の網膜が白濁している.初診時の矯正視力はC0.15.Cb:フルオレセイン蛍光眼底造影検査画像.眼底写真の白濁部位を栄養している網膜動脈の閉塞が認められる(.).Cc:OCT画像.発症早期の黄斑部の垂直断.中心窩より上方の網膜内層が肥厚し,高反射となっている(.).Cd:OCT画像.発症C2カ月後の黄斑部の垂直断.中心窩より上方の網膜内層は菲薄化している.矯正視力はC0.4に改善した.X予後BRAOでは,一定程度の視力が維持されることが多い.多数例の自然経過の報告では,発症後C1週間以内のBRAOのC74%が視力C0.5以上を示し,最終的にC89%が視力C0.5以上であったとされている.また,一過性BRAOではC94%,毛様網膜動脈閉塞症ではC73%が視力0.5以上を示し,いずれも最終的にC100%がC0.5以上の視力であったことが報告されている8).視力予後に関連する因子としては,HDL低値,頸動脈超音波での頸動脈洞の内中膜厚の増加,女性が低視力と関連することが報告されている9).CRAOの自然経過は,発症後C7日以内の視力は,視力C0.5以上がC10.8%で,74%が指数弁以下であったことが報告されている.病型により視力経過は異なり,視力0.5以上は一過性CCRAOでC38%,毛様網膜動脈開存を伴うCCRAOではC20%,その他の非動脈炎性CCRAOおよび動脈炎性CCRAOではいずれもC0%であり,指数弁以下は一過性CCRAOでC38%,毛様網膜動脈の開存を伴うCCRAOではC60%,非動脈炎性CCRAOはC93.2%,動脈炎性CCRAOではC75%と報告されている.経過中,一過性CCRAOのC82%,毛様網膜動脈開存を伴うCCRAOのC67%で改善が認められたものの,その他の非動脈炎性CCRAOではC22%に留まるとされる5).また,RAO患者では,脳卒中,心筋梗塞,あらゆる原因による死亡のリスクが高く,とくにCRAO発症後14日以内の脳卒中発症のリスク比は約C50と高く10),RAO発症後の経過観察中の発症にも十分に注意する必要がある.CXI治療RAOに対する治療は,急性期の網膜虚血に対する治療,中期的な新生血管の発生に対する管理,長期的な心血管イベントの予防である.急性期には,再灌流や血流改善を目的として,眼球マッサージ,前房穿刺,眼圧下降薬,血流改善薬,星状神経節ブロックなどによる従来治療が行われている.いずれも有効性は明確とはいえず,RAO治療としてのエビデンスは確立されていない.高圧酸素療法は動脈血および組織の酸素圧を高めることができる.RAOの発症早期に施行することで,脈絡膜循環を介して網膜内層への酸素供給を高め,虚血に伴う組織障害を軽減することができるとされる.さらに高圧酸素療法では開始後に一時的に網膜血流の減少が生じるが,その後に血管拡張が生じる.高圧酸素療法によるRAOの視機能改善が報告され,発症後C12時間以内など,より早期に行うことが効果的とされているが,大規模な臨床試験がむずかしいこともあり,有効性に関して十分なエビデンスは確立されていない11).血栓溶解療法に関しても,さまざまな有効性の報告が散見される.しかし,発症C20時間以内のCCRAOに対して,欧州の多施設で実施された眼動脈への局所投与による線溶療法と従来治療の無作為化比較試験では,両群間で有効性に差異は認められず,局所線溶療法で有害事象の発現割合が高く,中間解析後に試験が中止された12).CRAO治療の有効性に関するメタアナリシスでは,視力C0.1以下が視力C0.2以上に改善した割合について,自然経過はC17.7%であったが,従来治療(眼球マッサージ,前房穿刺,血管拡張薬,眼圧下降薬,アスピリン,炭酸ガスなど)ではC7.4%であり,自然経過を有意に下回ることが報告されている.さらに,血栓溶解療法の有効性は,改善した割合がC31.8%であったが,発症C4.5時間以内の全身投与の線溶療法でのみ自然経過を有意に上回る改善割合(50.0%)が示され,4.5時間以降の介入については自然経過を有意に上回る結果は認められていない13).近年,CRAOに対する新しい治療法の開発も進められている.発症早期に神経保護治療薬の硝子体内注射を行うことで,有意な視機能改善が得られたという日本発の治験結果が報告されており,今後の開発の進展が期待される14).また,硝子体切除術により,47ケージのマイクロニードルで網膜中心動脈のカニュレーションとt-PAの注入を行うことで再灌流と視力の改善が得られたというわが国の報告もある15).以上のように,RAOに関して現状では有効性のエビデンスが十分に確立されている治療法はなく,有効な治療法が模索されている状況である.とくに重篤な視機能障害をきたすCCRAOに関しては,C“aCdiseaseCwithoutC36あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022(36)

Paracentral Acute Middle Maculopathyと Acute Macular Neuroretinopathy

2022年1月31日 月曜日

網膜動脈閉塞症RetinalArteryOcclusion津田聡*中澤徹*はじめに網膜動脈閉塞症(retinalarteryocclusion:RAO)は,網膜動脈の閉塞により突然の視力低下として発症する急性疾患であり,救急対応疾患である.発症後早期に網膜血流の再灌流が得られないと,視力低下や視野欠損が残存する.さまざまなアプローチで治療が行われるが,有効な治療法が確立されておらず,難治性の眼疾患といえる.また,脳卒中などの心血管イベントの合併リスクもあり,全身リスクへの対応も必要な疾患である.本稿では,RAOについて,基本的な病態や治療を中心に述べる.I病態解剖学的には,内頸動脈の分枝である眼動脈は,眼窩内で網膜中心動脈,短後毛様動脈,長後毛様動脈,前毛様動脈に分かれる.網膜中心動脈および網膜動脈は網膜内層を栄養している.また,32.1%の眼が短後毛様動脈の分枝である毛様網膜動脈を有しており,さまざまな程度で中心窩や網膜内層を栄養している場合がある.RAOの原因による分類では,巨細胞性動脈炎などがRAOの背景となる動脈炎性RAOと,動脈硬化による塞栓症が原因となる非動脈炎性RAOに分類される.動脈炎性RAOは非常にまれであり,全身ステロイドによる早急な治療が必要であり,非動脈炎性RAOとは異なる対応となる.そのため本稿では,非動脈炎性RAOを中心に述べる.RAOは,多くの場合は塞栓症として発症する.閉塞部位によって,網膜中心動脈閉塞症(centralretinalarteryocclusion:CRAO),網膜動脈分枝閉塞症(bra-chialretinalarteryocclusion:BRAO),毛様網膜動脈閉塞症(cilioretinalarteryocclusion)に分類される.とくに網膜中心動脈が閉塞するCRAOは,重篤な視機能障害につながる予後不良の疾患の一つである.CRAOの閉塞部位は,網膜中心動脈の内腔がもっとも狭くなる部位であり,網膜中心動脈の視神経の硬膜鞘の貫通部位とされ,その他の一部が篩状板のすぐ後方とされる1).CRAOの動物モデルでは,発症後97分を超えると検出可能な障害が認められるようになり,発症後4時間を超えると大規模な不可逆性の視神経および神経線維の障害になることが示されている2).RAOは,比較的まれな疾患であるが,動脈硬化性疾患であるため,若年よりも高齢者のほうが発症しやすい.実際にRAO患者では高血圧症,糖尿病,脂質異常症,脳梗塞症,虚血性心疾患などの有病率が高く,また喫煙率も高い.塞栓源は,おもに内頸動脈のプラークや心臓由来の塞栓子とされ,RAOの約70%で内頸動脈にプラークが認められ,心臓超音波ではCRAOの約50%,BRAOの約40%で塞栓源を伴う異常な像が認められるとされる3).塞栓子の成分は,74%がコレステロールとされ,残りが石灰化およびフィブリン成分である4).一方,動脈*SatoruTsuda&ToruNakazawa:東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科視覚科学分野〔別刷請求先〕津田聡:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科視覚科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(31)31図1網膜中心動脈閉塞症a:眼底写真.後極は黄斑部を除き網膜の白濁を認め,cherryredspotとなっている.視力は手動弁のままであった.b:OCT画像.黄斑部の垂直断.網膜内層が肥厚し,高反射となっている.網膜内層の浮腫が強く,内強膜.離を認める.網膜外層の層構造は保たれているが,網膜内層での測定光の減衰により低反射となっている.図2網膜中心動脈閉塞症のレーザースペックルフローグラフィーa:レーザースペックルフローグラフィー画像.図1と同じ症例.網膜中心動脈の閉塞により網膜動脈の血流が不明瞭になっている.b:レーザースペックルフローグラフィー画像.再灌流により網膜動脈の血流が明瞭となった.図3毛様網膜動脈の開存を伴う網膜中心動脈閉塞症a:眼底写真.中心窩の周囲を毛様網膜動脈が灌流しており,黄斑部を含む毛様網膜動脈の灌流域が虚血を免れている.矯正視力はC1.2.Cb:フルオレセイン蛍光眼底造影検査画像.毛様網膜動脈の灌流を認めるが,網膜中心動脈が閉塞している.Cc:レーザースペックルフローグラフィー画像.フルオレセイン蛍光眼底造影検査と同様の血流所見が認められている.d:OCTangiography画像.視神経乳頭を中心とした網膜表層の血流画像.毛様網膜動脈の灌流域では毛細血管の血流像が確認できる.e:OCTangiography画像.黄斑部を中心とした網膜表層の血流画像.毛様網膜動脈の灌流により黄斑部では血流が維持されている.図4網膜動脈分枝閉塞症a:眼底写真.後極上方の網膜が白濁している.矯正視力はC0.7.Cb:フルオレセイン蛍光眼底造影検査画像.眼底写真の白濁部位を栄養している網膜動脈の閉塞が認められる(.).Cc:OCT画像.黄斑部の垂直断.中心窩より上方の網膜内層が肥厚し,高反射となっている(.).同部位の網膜外層の層構造は保たれているが,網膜内層での測定光の減衰により低反射となっている.図5網膜動脈分枝閉塞症a:広角眼底画像.後極上方の網膜が白濁している.初診時の矯正視力はC0.15.Cb:フルオレセイン蛍光眼底造影検査画像.眼底写真の白濁部位を栄養している網膜動脈の閉塞が認められる(.).Cc:OCT画像.発症早期の黄斑部の垂直断.中心窩より上方の網膜内層が肥厚し,高反射となっている(.).Cd:OCT画像.発症C2カ月後の黄斑部の垂直断.中心窩より上方の網膜内層は菲薄化している.矯正視力はC0.4に改善した.X予後BRAOでは,一定程度の視力が維持されることが多い.多数例の自然経過の報告では,発症後C1週間以内のBRAOのC74%が視力C0.5以上を示し,最終的にC89%が視力C0.5以上であったとされている.また,一過性BRAOではC94%,毛様網膜動脈閉塞症ではC73%が視力0.5以上を示し,いずれも最終的にC100%がC0.5以上の視力であったことが報告されている8).視力予後に関連する因子としては,HDL低値,頸動脈超音波での頸動脈洞の内中膜厚の増加,女性が低視力と関連することが報告されている9).CRAOの自然経過は,発症後C7日以内の視力は,視力C0.5以上がC10.8%で,74%が指数弁以下であったことが報告されている.病型により視力経過は異なり,視力0.5以上は一過性CCRAOでC38%,毛様網膜動脈開存を伴うCCRAOではC20%,その他の非動脈炎性CCRAOおよび動脈炎性CCRAOではいずれもC0%であり,指数弁以下は一過性CCRAOでC38%,毛様網膜動脈の開存を伴うCCRAOではC60%,非動脈炎性CCRAOはC93.2%,動脈炎性CCRAOではC75%と報告されている.経過中,一過性CCRAOのC82%,毛様網膜動脈開存を伴うCCRAOのC67%で改善が認められたものの,その他の非動脈炎性CCRAOではC22%に留まるとされる5).また,RAO患者では,脳卒中,心筋梗塞,あらゆる原因による死亡のリスクが高く,とくにCRAO発症後14日以内の脳卒中発症のリスク比は約C50と高く10),RAO発症後の経過観察中の発症にも十分に注意する必要がある.CXI治療RAOに対する治療は,急性期の網膜虚血に対する治療,中期的な新生血管の発生に対する管理,長期的な心血管イベントの予防である.急性期には,再灌流や血流改善を目的として,眼球マッサージ,前房穿刺,眼圧下降薬,血流改善薬,星状神経節ブロックなどによる従来治療が行われている.いずれも有効性は明確とはいえず,RAO治療としてのエビデンスは確立されていない.高圧酸素療法は動脈血および組織の酸素圧を高めることができる.RAOの発症早期に施行することで,脈絡膜循環を介して網膜内層への酸素供給を高め,虚血に伴う組織障害を軽減することができるとされる.さらに高圧酸素療法では開始後に一時的に網膜血流の減少が生じるが,その後に血管拡張が生じる.高圧酸素療法によるRAOの視機能改善が報告され,発症後C12時間以内など,より早期に行うことが効果的とされているが,大規模な臨床試験がむずかしいこともあり,有効性に関して十分なエビデンスは確立されていない11).血栓溶解療法に関しても,さまざまな有効性の報告が散見される.しかし,発症C20時間以内のCCRAOに対して,欧州の多施設で実施された眼動脈への局所投与による線溶療法と従来治療の無作為化比較試験では,両群間で有効性に差異は認められず,局所線溶療法で有害事象の発現割合が高く,中間解析後に試験が中止された12).CRAO治療の有効性に関するメタアナリシスでは,視力C0.1以下が視力C0.2以上に改善した割合について,自然経過はC17.7%であったが,従来治療(眼球マッサージ,前房穿刺,血管拡張薬,眼圧下降薬,アスピリン,炭酸ガスなど)ではC7.4%であり,自然経過を有意に下回ることが報告されている.さらに,血栓溶解療法の有効性は,改善した割合がC31.8%であったが,発症C4.5時間以内の全身投与の線溶療法でのみ自然経過を有意に上回る改善割合(50.0%)が示され,4.5時間以降の介入については自然経過を有意に上回る結果は認められていない13).近年,CRAOに対する新しい治療法の開発も進められている.発症早期に神経保護治療薬の硝子体内注射を行うことで,有意な視機能改善が得られたという日本発の治験結果が報告されており,今後の開発の進展が期待される14).また,硝子体切除術により,47ケージのマイクロニードルで網膜中心動脈のカニュレーションとt-PAの注入を行うことで再灌流と視力の改善が得られたというわが国の報告もある15).以上のように,RAOに関して現状では有効性のエビデンスが十分に確立されている治療法はなく,有効な治療法が模索されている状況である.とくに重篤な視機能障害をきたすCCRAOに関しては,C“aCdiseaseCwithoutC36あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022(36)

網膜細動脈瘤

2022年1月31日 月曜日

網膜細動脈瘤RetinalArterialMacroaneurysm(RAM)阪口沙織*I病態・疫学網膜細動脈瘤(retinalarterialmacroaneurysm:RAM)は網膜細動脈に生じる後天的な血管瘤である.100年以上前からその存在は報告されていたが,1973年にRobertsonが13症例の報告において初めて臨床的特徴を説明し,retinalarterialmacroaneurysmという用語を用いた1).その報告に基づいてRAMは,一般的に網膜中心動脈から第3分枝以内の網膜動脈に生じる血管瘤と定義される.患者背景としては高齢者や女性の割合が高く,約75%で高血圧の併存を認めるとされ,動脈硬化や脂質異常症との関連も示唆されている(表1).その病態生理は完全には解明されていないものの,動脈硬化で血管壁の弾性が低下することで静水圧上昇の影響を受けやすくなる可能性が推測されている.組織学的には動脈瘤内に血栓とコレステロール結晶の存在が報告されている.ほとんどが片眼性である一方で10%では両眼性にみられるほか,複数個の動脈瘤を認める患者もいる.後極部の耳側,なかでも耳上側に生じる割合が高いとされる.網膜動静脈閉塞症に続発することもある2).II診断慢性の滲出性変化や急性の出血性変化による視力低下を契機に受診し,診断されることがほとんどである.とくに動脈瘤破裂による出血をきたした場合は,硝子体出血,網膜前出血,内境界膜(innerlimitingmembrane:表1網膜細動脈瘤の特徴性別女性の割合が高い(70.80%)年齢高齢者に多い(平均:約70歳)併存疾患高血圧(75%),動脈硬化,脂質異常症などが多い部位後極部の耳側に多い(とくに耳上側)定義:網膜中心動脈から第3分枝以内の網膜動脈に生じる血管瘤.ILM)下出血,網膜内出血,網膜下出血などさまざまな層に出血が広がるのが特徴的であり,黄斑に及ぶと急激な視力低下をきたす.多彩な出血を呈するため鑑別すべき疾患は多岐にわたり,滲出型加齢黄斑変性,Valsalva網膜症,後部硝子体.離に伴う出血,増殖糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などがあげられる.とくに黄斑下出血を多量に認めるが,RAMが明らかでない場合はポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalcho-roidalvasculopathy:PCV)との鑑別に難渋することがある.RAMの破裂は突然発症であるのに対して,PCVでは以前から視力低下や変視症を自覚している可能性が高く,病歴が鑑別に有用である.加えてPCVに特徴的な網膜色素上皮.離やdouble-layersignの有無もポイントとなる.また,ILM下出血を認める場合,両眼であれば血液疾患に伴う出血が考えられるが,片眼であればRAM破裂である可能性が非常に高く,診断的価値の高い所見である.硝子体出血により眼底を透見できない場合は,診断的治療として硝子体手術を行う.眼虚血症候群がない限り*SaoriSakaguchi:京都大学大学院医学研究科眼科学,大津赤十字病院眼科〔別刷請求先〕阪口沙織:〒520-8511滋賀県大津市長等1-1-35大津赤十字病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(17)17ab網膜内出血ILM下出血網膜下出血図1眼底所見a:破裂時の眼底写真.黄斑部はCILM下出血により網膜血管を視認できず,周囲には網膜下出血および網膜内出血が広がっている.出血の上縁には橙赤色の動脈瘤を確認できる.上方の網膜内出血は綿毛のように円形に広がる“.u.ysign”を示している.Cb:破裂からC3カ月後.硝子体手術により出血は除去されており,動脈上に器質化した白色の動脈瘤を認める(→).周囲に硬性白斑が輪状に広がっている.図2蛍光眼底造影a:フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)19秒.出血によるブロックで詳細は不明である.Cb:インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)19秒.IAでは早期から動脈上に一致して過蛍光を認め,動脈瘤を確認できる.Cc:FA10分C30秒.後期では動脈瘤周囲への漏出を認める.Cd:IA10分30秒.動脈瘤はより明瞭に描出されている.表2網膜細動脈瘤の形状分類紡錘状.状形状FA所見早期から不均一な充.を示す中期.後期にかけて不均一な充.を示すb図3OCTa:破裂時のOCT.ILM下出血および網膜下出血を認める.ILM下出血のニボーが確認でき,その上方は一部Ccoagulaを形成している.厚いCILM下出血が存在する部分は一部網膜が描出されていない.Cb:術後,網膜内層に器質化した網膜細動脈瘤を認める.壁は中程度の反射,内腔は低反射を示している.網膜下出血が中心窩に及んだ影響で,中心窩の網膜は菲薄化し網膜外層障害が強い.図4OCT(図1と同一症例)破裂からC3カ月後.網膜内層に網膜細動脈瘤を認める.周囲には外層を含む網膜浮腫,硬性白斑が広がっている.表3検査所見のまとめ眼底所見蛍光眼底造影COCT網膜細動脈瘤動脈上に黄白色.赤色の血管瘤血管瘤への蛍光貯留(CFAよりCIAのほうが有用なことがある)網膜内層に位置する壁は高反射,内腔は低反射を示す出血性変化硝子体出血網膜前出血ILM下出血網膜内出血網膜下出血ILM下出血:ニボー形成,類円形網膜内出血:火炎状,線状,.u.ysignなど網膜下出血:不整形.類円形,網膜血管を視認できる出血による蛍光ブロック網膜のさまざまな層に高反射の出血を認める滲出性変化黄斑浮腫漿液性.離硬性白斑硬性白斑:動脈瘤を中心に輪状に広がる周囲への蛍光漏出を伴うことがある黄斑浮腫:網膜外層を含む(網膜内出血や硝子体出血のみで少量の場合→経過観察)滲出性変化が残存することもある※1ガス注入やt-PA注入を併用する※2わが国では保険適用外図5網膜細動脈瘤治療のフローチャート-