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眼虚血症候群の血流動態

2022年1月31日 月曜日

眼虚血症候群の血流動態OcularHemodynamicsinOcularIschemicSyndrome橋本りゅう也*はじめに日常診療で遭遇する眼虚血症候群(ocularischemicsyndrome:OIS)は発見の遅れが失明につながるため,眼科医として患者の訴えから早急に診断・治療を行うことが非常に重要である.近年,眼血流を非侵襲的に評価できるレーザースペックルフローグラフィー(laserspeckle.owgraphy:LSFG)1,2)の普及により,造影検査を行う前に簡便に網脈絡膜・視神経乳頭血流や波形を評価できるようになり,OISの診断に大いに活用できるようになった.本稿ではおもにLSFG(図1)を用いたOISの眼血流評価について述べる.I眼虚血症候群とはOISは,同側の内頸動脈の狭窄・閉塞により眼動脈の血流が慢性的に低下して生じる多彩な眼症状を示す疾患である.初期の内頸動脈狭窄では,外頸動脈からの側副血行路により眼動脈の血流は維持されるが,狭窄が進行すると一過性黒内障や網膜動脈閉塞症をはじめ,慢性的な網膜組織の低酸素状態から虹彩ルベオーシスを伴う血管新生緑内障を発症することが多く,治療に難渋する場面に多く遭遇する.80%は片眼性で3),その要因はおもに脂質異常症,高血圧症,糖尿病などによる粥状動脈硬化症が多く,65歳前後の男性に好発するといわれている4).また,1年間の発症率は100万人あたり7.5人との報告されている5).日常診療において,眼症状を訴え眼科に受診したのちに内頸動脈狭窄が発見されることも多く,眼科医にとってOISと全身疾患との関連を深く知ることはとても重要であると考えている.II眼虚血症候群の所見とチェックポイント眼底所見では,網膜動脈の狭細化,網膜静脈の拡張を認める.網膜中心静脈閉塞症と異なり静脈内圧の上昇を認めないことから,血管蛇行はあまりみられない.軟性白斑や網膜出血,虹彩ルベオーシスなどを呈している場合が多く,急に眼循環障害が生じた場合は,軟性白斑とともにcherryredspot類似の網膜白濁を認めることがある.OISでは基礎疾患に糖尿病を有している患者が多く,上記の所見に加え,明らかに網膜症の左右差を認める場合は積極的にOISを疑う.しかし,OIS患者の中には,眼底所見で異常所見がみられないにもかかわらず,眼血流の評価目的でLSFG検査を行うと,著明に血流が低下しているケースも隠れていることがあり,一過性黒内障などの症状のみを訴えている患者に対しても眼血流測定を行うことは非常に重要である.III眼虚血症候群の検査1.蛍光眼底造影検査現在,OISに有用な検査としてまずフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)があげられ,腕・網膜時間の著明な遅延を認める.また,眼動脈の造影が遅延するため,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)も有用であり,*RyuyaHashimoto:東邦大学医療センター佐倉病院眼科,アイオワ大学眼科〔別刷請求先〕橋本りゅう也:〒285-8741千葉県佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(9)9①簡便性:1回の測定時間4秒②安全性:造影剤は使用しない③再現性:変動係数は約3%前後血流値:高正常眼血流値:低図1レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)の特徴造影剤を用いることなく眼血流・波形を測定可能であり,全身疾患を有する眼虚血症候群ではとくに有用である.図2左内頸動脈閉塞による眼虚血症候群患眼(左眼)の眼血流は著明に低下しており,網膜出血,網膜動脈の蛇行と白線化がみられ,虹彩ルベオーシス()を認めた.頸部血管造影検査で左内頸動脈閉塞を認める.図3左内頸動脈狭窄による眼虚血症候群(LSFGと眼底検査)眼底所見では左右差を認めないものの,LSFG検査で患眼(左眼)の著明な眼血流低下を認める.図4図3の症例の蛍光眼底造影検査蛍光眼底造影検査で腕・網膜時間の遅延と虹彩ルベオーシスからの漏出所見を認める.図5図3の症例の眼血流変化(LSFG)治療後,乳頭組織・網膜動脈・脈絡膜血流の著明な改善を認める.図6一過性黒内障の訴えがある左内頸動脈狭窄症LSFG検査にて左眼の網膜血流は右眼と比較し低下しており,血管造影検査で左内頸動脈はC80%ほど狭窄している.ステント留置前ステント留置後2日目図7図6の症例の内頸動脈ステント留置前後の狭窄部血管造影検査でステント留置後,内頸動脈狭窄部は解除され血流が改善した.(13)あたらしい眼科Vol.39,No.1,2022C13血流値MBR(AU)ステント留置前ステント留置後2日目2525Opticnerve2020RetinalarteryChoroidWatershed1510MBR(AU)151055000123401234Time(seconds)Time(seconds)図8図6の症例の内頸動脈ステント留置前後の眼血流波形変化(LSFG)ステント留置後,各測定領域で血流の振幅は大きくなり血流値の改善を認める.MBR:meanblurrate.~

血液疾患

2022年1月31日 月曜日

血液疾患RetinalDiseaseDuetoHematologicalDisorders永井由巳*はじめに網膜血管は,全身の血管のなかで生体の血管・血流を直接観察できる箇所である.それゆえに,人間ドックや健康診断でも眼底検査が直視下あるいはカメラ撮影で行われている.血管を観直接察できる特殊性から,眼疾患のみならず全身性血液疾患による眼所見を診察時に認めることもあり,眼科診療から全身性疾患がみつかることもある.さまざまな血液疾患のうち,日常診療でしばしばみることがある疾患について述べる.CI白血病(図1,2)白血病(leukemia)は,造血幹細胞が骨髄中で癌化して無制限に白血球系細胞が増殖する疾患である.白血球は,好中球や好酸球,単球などの骨髄球系細胞とCBリンパ球やCTリンパ球などのリンパ球系細胞とから構成されていることや,進行が急性のものとゆっくり進行する慢性のものがあることから,白血病は以下のように分類されている.・急性白血病急性骨髄性白血病(acutemyeloidleukemia:AML)急性リンパ性白血病(acutelymphoblasticleukemia:ALL)急性リンパ芽球性白血病急性前骨髄性白血病・慢性白血病慢性骨髄性白血病(chronicmyeloidleukemia:CML)慢性リンパ性白血病(chroniclymphocyticleukemia:CLL)慢性リンパ芽球性白血病白血病では,白血病細胞の全身浸潤による症状や,白血病細胞の異常増殖による貧血,血小板減少,血液粘稠性亢進などによる症状を認める.これらの症状は眼部にもみられ,眼窩や眼周囲に腫瘍細胞が直接浸潤して腫瘤を形成することや,眼内では頻度は低いとされているが虹彩に浸潤して虹彩炎や毛様体腫脹,毛様体炎などのぶどう膜炎を生じたり,前房内への白血病細胞浸潤による偽前房蓄膿を認めたりすることもあるが,とくに網膜で認める代表的な所見に白血病網膜症がある.白血病網膜症は,白血病患者のC50.70%でみられるとされている1,2).白血病細胞の浸潤による網膜血管の拡張や蛇行,口径不同による血管のソーセージ様変化,網膜出血,Roth斑,網膜静脈閉塞症,軟性白斑などを認め,ときに新生血管を生じたり硝子体出血を起こしたりすることもある.網膜出血は急性白血病で多く,とくに急性骨髄性白血病で多い.網膜出血は眼底の後極部から周辺にかけて散在性に生じることが多いが,網膜前出血となることもある.白血病の出血で特徴的なものとして,中央が白色を示すCRoth斑がある.Roth斑とは,もともと細菌性心内膜炎でみられる中央に敗血症病巣によ*YoshimiNagai:関西医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕永井由巳:〒573-1010大阪府枚方市新町C2-5-1関西医科大学眼科学教室C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)3図1白血病網膜症の眼底とOCT所見a:眼底写真.急性リンパ性白血病(ALL).網膜出血を中心窩領域の他数カ所に認め(細いC→),内部が白色のCRoth斑を認める().また網膜血管の蛇行も認める.右眼矯正視力(0.15).b,c:OCT画像(Cb.水平断,c.垂直断).中心窩領域の網膜出血の部分は,内境界膜下の網膜内層に出血による高輝度反射を認める.図2図1の症例の白血病治療後の眼底とOCT所見a:眼底写真.骨髄移植後,眼底にみられた網膜出血やCRoth斑は吸収され,矯正視力も(1.0)に回復した.Cb,c:OCT画像(Cb.水平断,Cc.垂直断).中心窩領域に認めた網膜出血は吸収され,中心窩陥凹も回復している.図3骨髄異形成症候群(MDS)の症例の眼底とOCT所見(右眼)a:眼底写真.眼底後極部から周辺にかけて点状,円形,斑状の出血を認める.受診前に生じた硝子体出血が器質化して残存しており(→),右眼の矯正視力は(0.2).b,c:OCT画像(Cb.水平断,Cc.垂直断).器質下した硝子体出血のため透見度は不良であるが,網膜には形態的な変化は認めない.図4図3の症例の眼底とOCT所見(左眼)a:眼底写真.右眼と同様,視神経乳頭を中心に周辺にかけて点状,円形,斑状の出血を認める.左眼の矯正視力は(1.5).b,c:OCT画像(Cb.水平断,Cc.垂直断).網膜には形態的な変化は認めていない.b-3図5原発性眼内悪性リンパ腫(PIOL)症例の経時的な変化a.1:眼底写真.黄斑部に卵黄様沈着物を認める.左眼矯正視力(0.6).a.2:OCT画像(水平断).中心窩に一致した高反射塊を認め,眼底の卵黄様沈着物よりも広い範囲で網膜色素上皮ラインの波打ち様の肥厚がみられた.b:aの受診日からC30日後.b.1:眼底写真.黄斑部の耳側に白色結節病巣が新たに出現.b.2:フルオレセイン蛍光眼底造影中期(4分C9秒).網膜静脈の分節状過蛍光(C→)と,視神経乳頭からの蛍光漏出()を認めた.b.3:OCT画像.aの受診日の時と同じく高輝度病巣を認めた.Cc:aの受診日からC70日後.c.1:眼底写真.結節病変の拡大と癒合を認め,耳側周辺部網膜に黄色滲出斑を認めた.c.2:フルオレセイン蛍光眼底造影中期(3分C46秒).耳側周辺網膜の白矢印の領域に軽度の網膜循環障害を認めた.

序説:序説:眼科診療における半世紀の歴史と変遷

2022年1月31日 月曜日

網膜循環疾患アップデートUpdateonRetinalVascularDiseases辻川明孝*長い間,網膜循環疾患の病態評価は眼底検査・写真撮影,フルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresceinangiography:FA)が中心であった.おおよそ40年前に行われたBVOstudyでは網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalveinocclusion:BRVO)に伴う黄斑浮腫に対する格子状光凝固の有効性が示された.その一方で,5乳頭径大以上の無灌流領域を伴った虚血型BRVOに対する予防的光凝固の硝子体出血予防に対する有効性は示されなかった.その後のCVOstudyでは,網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO)に伴う黄斑浮腫に対する格子状光凝固の有効性,10乳頭面積以上の無灌流領域を伴った虚血型CRVOにおける予防的汎網膜光凝固の虹彩・隅角新生血管予防に対する有効性は示されなかった.その結果,虚血型CRVOに対して,注意深く経過観察を行い,新生血管が発症してからの光凝固が推奨されるようになった.これらのエビデンスは欧米では長期にわたり,BRVO,CRVOの診療における基礎となってきた.一方,わが国では,虚血型BRVO,CRVOに対しては予防的光凝固を施行することが一般的であり,BRVOに伴う黄斑浮腫に対する格子状光凝固はあまり普及しなかったように,マネージメントに独自の修正が行われてきた.近年の眼底検査機器の進歩により,網膜循環疾患の病態が次々と明らかにされ,病態理解に基づいた治療が行われるようになってきた.とくに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の功績はきわめて大きい.これまでの二次元の評価から,網膜の精細な三次元観察が可能となり,病態理解が大きく進歩した.また,OCTを用いて網膜厚の定量的な評価を繰り返して行うことが可能となった.それまで,黄斑浮腫に対する治療効果の判定は,“あり”か“なし”かの二者択一であったものが,マイクロメートル単位で示された網膜厚で評価できるようになった.その結果,ステロイド,血栓溶解(t-PA)療法,硝子体手術などさまざまな治療が普及するようになった.その後登場した抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬が網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫の診療を一変させたのは間違いない.抗VEGF薬は即効性があり,効果は劇的であった.その反面,再燃が問題であったが,OCTにより網膜厚を繰り返し定量的に計測することが可能になり,現在行われているようなprorenata(PRN)レジメンでの抗VEGF薬の投与が普及するようになった.抗VEGF薬の固定投与はその負担から一般化しそうになく,OCTなしには加齢*AkitakaTsujikawa:京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)1

ベンダムスチン投与後の濾胞性リンパ腫に合併した 両眼性サイトメガロウイルス網膜炎の1 例

2021年12月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(12):1509.1513,2021cベンダムスチン投与後の濾胞性リンパ腫に合併した両眼性サイトメガロウイルス網膜炎の1例浅井あかり*1石川邦裕*1鈴木裕太*1志関雅幸*2佐伯忠賜朗*1北野滋彦*1*1東京女子医科大学病院糖尿病センター眼科*2東京女子医科大学病院血液内科CACaseofCytomegalovirusRetinitisinwhichLong-TermAdministrationofValganciclovirwasPossibleAkariAsai1),KunihiroIshikawa1),YutaSuzuki1),MasayukiShiseki2),TadashirouSaeki1)andShigehikoKitano1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityHospital,2)DepartmentofHematology,TokyoWomen’sMedicalUniversityHospitalC濾胞性リンパ腫の化学療法後に両眼性サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎(CMVR)を発症したが,血液内科と連携して治療を行うことでC12カ月間良好な視機能維持が可能であった症例を経験したので報告する.症例はC73歳,男性.濾胞性リンパ腫の再発によりオビヌツズマブ+ベンダムスチン塩酸塩C6コース施行後に左眼の霧視にて受診,左眼前眼部に角膜後面沈着物を伴う前房炎症所見を認めた.右眼眼底には黄斑耳側に網膜出血を伴った白色顆粒状病変を認め,左眼には著明な硝子体混濁および後極部の血管に沿った黄白色の滲出性病変と乳頭浮腫を認めた.前房水を用いたCPCR法にて中にCCMV-DNAが検出されたため,CMVRと診断し,バルガンシクロビル内服,ガンシクロビル硝子体内注射による治療を行った.ベンダムスチン投与患者はCCD4陽性CTリンパ球を含む白血球が長期的に低下しやすいため,CMVRの発症に留意するとともに,CMVRの治療に関しても眼科と血液内科との密な連携が必要と考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCbilateralCcytomegalovirusretinitis(CMVR)afterCchemotherapyCforCfollicularClymphomawithoutdeteriorationofvisualacuityfor12months.CaseReport:Thisstudyinvolveda73-year-oldmalewhopresentedwithblurredvisioninhislefteyeaftertreatmentwithobinutuzumabplusbendamustinefortherelapsedfollicularlymphoma.Keraticprecipitateswereobservedintheanteriorchamberofthelefteye.WhitelesionsCwithCassociatedCretinalChemorrhagesCwereCobservedConCtheCtemporalCsideCofCtheCmaculaCinCtheCrightCeye.CSigni.cantCvitreousCopacity,CperivascularCexudativeClesion,CandCpapilledemaCwereCobservedCinCtheCleftCeye.CWeCdetectedCMV-DNAinaqueoushumorbyPCR,anddiagnosedCMVR.Wetreatedwithoraladministrationofval-ganciclovirCfollowedCbyCanCintravitrealCloadingCinjectionCofCganciclovir.CConclusion:PatientsCtreatedCwithCbenda-mustinetendtohavealong-termdecreaseinleukocytes,andganciclovircanalsocauseleukopenia,solong-termtreatmentandcooperativecarebetweenhematologistsandophthalmologistsisneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(12):1509.1513,C2021〕Keywords:CMV網膜炎,バルガンシクロビル,ベンダムスチン,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法,濾胞性リンパ腫.cytomegalovirusCretinitis,Cvalganciclovir,Cbendamustine,CpolymeraseCchainreaction(PCR)C,CfollicularClymphoma.Cはじめにサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎(cytomegalovirusretinitis:CMVR)は真菌性眼内炎と並んで多くみられる日和見感染症であり,とくに後天性免疫不全症候群患者においては主要な合併症の一つである.しかし,近年では後天性免疫不全症候群患者のみならず,血液腫瘍性疾患や臓器移植,抗癌剤治療による免疫不全に伴うものや,明らかな免疫不全のない健常者といった非後天性免疫不全症候群患者におけるCCMVRも多数報告1.4)されている.今回,濾胞性リンパ腫(follicularlymphoma:FL)の化学〔別刷請求先〕浅井あかり:162-8666東京都新宿区河田町C8-1東京女子医科大学病院糖尿病センター眼科Reprintrequests:AkariAsai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityHospital,8-1Kawadacho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8666,JAPANC図1初診時眼底写真a:右眼.黄斑耳側に白色顆粒状病変と網膜出血を認める.Cb:左眼.硝子体混濁と後極部の血管に沿って乳頭浮腫を伴う黄色の滲出性病変と網膜出血を認める.療法後に両眼性のCCMVRを発症し,CD4陽性リンパ球数が減少した背景に加えて,経過中バルガンシクロビルによる白血球減少も認めたため,フィルグラスチムの投与(granulo-cyte-colonyCstimulatingfactor:G-CSF製剤),ガンシクロビルの硝子体注射を併用し,良好な視力を約C12カ月以上維持できた症例を経験したので報告する.CI症例患者:73歳,男性.主訴:左眼霧視.既往歴:50歳,2型糖尿病.64歳,悪性リンパ腫(濾胞性リンパ腫).現病歴:2009年頃から左鼠径部に腫瘤を自覚していたが放置しており,東京女子医科大学病院(以下,当院)血液内科にてC2011年C7月左鼠径リンパ生検およびCPET/CT(posi-tronCemissionCtomography/computedtomography)検査で濾胞性悪性リンパ腫と診断された.2011年C8月下旬より,シクロホスファミド,ビンクスリチン,リツキシマブ,ドキソルビシン,プレドニゾロンを用いた化学療法(R-CHOP療法)を施行し,最終的にC8コース施行した.その後,2012年C5月からは放射免疫療法がC5コース施行された.2018年9月のCPET/CT検査にて左鼠径部以外,体幹部の広範な各リンパ節領域や脾臓,横隔膜に集積を認め,再燃と判断されたためC2019年C1月よりオビヌツズマブ(ヒト化抗CCD20モノクローナル抗体薬)1,000Cmg+ベンダムスチン(アルキル化剤)170CmgのC1コース目が開始された.2019年C3月頃より白血球数C3.42C×103/μlと低下を認め,適宜フィルグラスチム(G-CSF製剤)投与を行いながら,2019年C8月までにオビヌツズマブ+ベンダムスチンが計C6コース施行され,終了時の血液検査では,白血球C1.85C×103/μlと低下していた.糖尿病網膜症のスクリーニング目的でC2019年C10月に当院糖尿病センター眼科初診となった際,問診にてC2019年C8月頃からの左眼霧視の訴えがあった.初診時所見:矯正視力は右眼C1.2,左眼C0.7,眼圧は右眼13CmmHg,左眼C13CmmHgであった.左眼には角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP)を伴う前房炎症所見を認めた.右眼眼底には,黄斑耳側に白色顆粒状病変と一致して網膜出血を認めた(図1a).左眼には著明な硝子体混濁と,後極部の血管に沿って乳頭浮腫を伴う黄色の滲出性病変と網膜出血を認めた(図1b).PCR法にて左眼前房水よりCCMV-DNAが検出され,単純ヘルペスウイルスCDNA,水痘帯状疱疹ウイルスCDNAは検出されなかった.血液検査では白血球数C1.85C×103/μl,分画は好中球C47.1%,リンパ球C20.5%,単球C13.5%,好酸球17.8%,好塩基球C1.1%とリンパ球の低下を認めた.CD4陽性CTリンパ球数は未測定.CMV抗原血症検査(CMVアンチゲネミア:C7-HRP法)結果はC236/50,000と陽性であった.CII治療および経過眼底所見および前房水CPCR法の結果よりCCMVRと診断し,バルガンシクロビルC1,800Cmg/日の内服を開始した.開始後,約C10日目頃より両眼ともに滲出性病変は縮小したが,投与開始C35日目の採血検査結果で白血球数が約C600/μlと著明な減少を認めたため,同日よりバルガンシクロビルを900Cmg/日の内服に減量した.当初よりフィルグラスチム(G-CSF製剤)75Cμgが約C7日ごとに継続的に投与されていた.バルガンシクロビル減量後に白血球数は速やかに回復し,約C1.5C×103/μlで経過したため,バルガンシクロビルの投与は継続した.治療開始C85日目のCCD4陽性CTリンパ球数はC59/μlであった.治療開始C166日目に白血球数約C1.3C×103/μlと再度白血球減少を認めたため,バルガンシクロビルを中止した.治療開始C198日目で右眼眼底C5時方向に新たな白色病変が出現,左眼も硝子体混濁が増強し乳頭浮腫も認めた.そこで,バルガンシクロビルC1,800Cmg/日の内服を再開し,再開後C15日目に右眼の白色病変および左眼の硝子体混濁,乳頭浮腫の軽減を認めたため,900Cmg/日に減量した.治療開始C236日目において上記所見の再増悪が疑われたため,バルガンシクロビル投与量の増量が検討されたが,白血球数C1.35C×103/μlと減少していたため,さらなる血球減少を避けるためにC1眼当たりガンシクロビルC2,000Cμg/0.08Cmlを両眼に硝子体注射した.その後もガンシクロビル硝子体注射C2,000μg/0.08mlをC7日に1回のペースでC4回施行し,点眼液を使用することなく,前房炎症は徐々に軽快,治療開始C295日目には右眼眼底C5時方向の白色病変はほぼ消失し(図2a),左眼も硝子体混濁,乳頭浮腫は改善,下耳側の白色滲出病変も退縮傾向となった(図2b).その後はガンシクロビルの硝子体内注射をC1,000Cμg/0.04Cmlに減量し同じくC7日ごとに計C9回施行した.経過中の矯正視力は右眼C1.2,左眼C1.0と不変であった.また,経過中に眼圧上昇や角膜内皮細胞密度の減少は認めなかった.CIII考按CMVRの治療としてはガンシクロビルの点滴静注が第一にあげられるが,本症例のように連日の受診が困難な場合などには,ガンシクロビルのプロドラッグであるバルガンシクロビルの経口投与が選択される.ガンシクロビルおよびバルガンシクロビルを日和見感染症としてのCCMVRに対して使用する際には,そもそも白血球数が減少した背景で投与が必要となることに加え,その副作用によってさらに好中球減少を主体とする汎血球減少をきたしうることに配慮が必要となる.本症例でも眼治療開始時,すなわちバルガンシクロビル内服投与開始C35日目において白血球減少を認めたため減量を行い,173日目には投与中止,198日目には網膜炎再燃に対して内服投与再開,213日目に所見改善を踏まえて減量,さらにC236日目には白血球減少および網膜炎再増悪を認めたため,ガンシクロビルの硝子体内投与への切り替えと,頻回な治療内容変更が必要であった.悪性リンパ腫は組織学的にホジキンリンパ腫(Hodgkinlymphoma:HL)と非ホジキンリンパ腫(nonCHodgkinClym-phoma:NHL)に大別されるが,大半がCNHLであり,わが国におけるCHLの頻度は全悪性リンパ腫のうちC5.10%とされている.NHLは,成熟CB細胞腫瘍,成熟CT細胞腫瘍,NK細胞腫瘍,および前駆リンパ細胞腫瘍に分類され,FLは成熟CB細胞腫瘍にあたる.また,NHLの悪性度はその進行スピードによって,進行が年単位の低悪性度,月単位の中悪性度,週単位の高悪性度に分類される.FLはCNHL全体のC10.20%を占める代表的な低悪性度CB細胞リンパ腫であ図2治療開始295日目の眼底写真a:右眼.5時方向の白色病変はほぼ消失した.Cb:左眼.硝子体混濁,乳頭浮腫は改善,下耳側の白色滲出病変も退縮傾向.り,B細胞の機能低下による日和見感染症や,B細胞の異常増殖による赤血球や血小板の産生低下による疲労感や出血傾向などをきたす.治療は病期によって異なり,放射線療法,リツキシマブ,放射性同位元素(RI)標識抗体療法,造血幹細胞移植,抗CCD20抗体併用化学療法による治療が一般的に行われる.本症例は濾胞性リンパ腫の再発例であることから血液内科によってオビヌツズマブ+ベンダムスチンの投薬が行われていた.ベンダムスチンは国内では再発または難治性の低悪性度CB細胞性CNHLおよびマントル細胞リンパ腫を適応症として2010年C10月に単剤での使用が承認され,2016年C8月には慢性リンパ性白血病の効能・効果追加の承認を取得,2016年C12月には未治療の低悪性度CB細胞性CNHLおよびマントル細胞リンパ腫に対する効能・効果追加の承認を取得した薬剤であり,今後も使用される機会が増える可能性がある.副作用としては当初よりCCD4陽性CTリンパ球数の減少が報告5.7)されいる.7,000白血球数(/μl)6,000G-CSF5,0004,0003,0002,0001,0000143085121173194219236281331355463経過日数(日)図3治療経過と白血球数の推移本症例においても図3のとおりCCD4陽性CTリンパ球数は随時C100Cμl以下(45.100/μl)と低かったことが,CMV網膜炎が発症し再燃を繰り返した要因として考えられる.ベンダムスチン投与後のCCD4陽性CTリンパ球数の減少は約C1年にわたるとの報告もあり8,9),当症例でも図3のとおり眼科治療開始C295日目すなわちベンダムスチン最終投与後C364日目にCCD4陽性CTリンパ球数はC100/μlと上昇がみられ,その後は一貫してCCD4陽性CTリンパ球数C100/μl以上の状態が維持されていたため,CMVRの再燃はC2021年C2月現在みられていない.本症例では当初よりフィルグラスチム(G-CSF製剤)が継続投薬されており,白血球数を含む汎血球数の増減と眼局所所見の増悪寛解を密にモニタリングし血液内科と眼科との連携を緊密に行ったことで,抗CCMV薬の投与量や投与方法の変更を適宜行いつつもCCMVRに対する治療継続が可能であったと考えられた.また,眼科受診機転が視機能低下ではなく糖尿病網膜症のスクリーニング目的であり,ほぼ無症状の段階でCCMVRの早期発見と治療開始がなされたことも,その後の良好な経過につながったと考えられる.一方で眼底所見(図1b)からは,周辺部顆粒型が無症状に遷延進行し後極に進展しつつあった可能性があり,糖尿病網膜症スクリーニング目的での当科受診がなければ,さらに後極網膜の障害が進行して視機能低下を伴ってからの発見および治療開始となったことも懸念される.後天性免疫不全症候群(AIDS)患者においてはCCD4陽性Tリンパ球数がC100/μl以下でCCMVRのリスクが高いと考えられており,50/μl以下の症例では約C40%でCCMV網膜炎が再燃するとの報告もある10,11).またCHIV(humanimmuno-de.ciencyvirus)感染者においてCCD4陽性CTリンパ球数が50/μl未満の患者のC5%,200/μl未満の患者のC3%にCCMVRの存在が認められ12),CD4陽性CTリンパ球減少時にはCMVRに対するスクリーニングが勧められている.一方で造血器腫瘍患者,免疫抑制剤や抗癌剤投与患者に対するCMV感染症のスクリーニングは必ずしも一般的といえない.CMVに対する適応免疫としては他のウイルスに対する適応免疫と同様に液性免疫および細胞性免疫の関与が考えられている.細胞性免疫としてはCCMVの構成蛋白に対する特異的なCCD4陽性およびCCD8陽性CTリンパ球が証明されており13),これらの障害によるCCMV感染症の発症が想定される.一方でCCD4陽性CTリンパ球数が正常でありながら全身性エリトマトーデス(systemiclupuserythematosus:SLE)にCCMVRを合併した症例も報告14)されているが,これらの症例ではCSLEに対して経口コルチコステロイドとアザチオプリンまたはミコフェノール酸モフェチルが投与されている.CMVの潜伏感染および再活性化に際してはCCMVの特定の遺伝子の発現や宿主の免疫との関係が複雑に関与していることが示唆されており,これらの症例ではCSLEそのものや治療薬の投与の影響でCCD4陽性CTリンパ球数以外の免疫機能が変化した結果,CMVRを発症した可能性がある.すなわちCCD4陽性リンパ球数の著しい減少がみられる場合にはCCMVRを含めた日和見感染症のリスクが上昇するが,CD4陽性リンパ球数が正常であるからといってCCMVRのリスクがないとはいえない.本症例は濾胞性リンパ腫の再発例であることから,他の免疫機能の変化もCCMVRの発症・遷延に関与した可能性があるが,ベンダムスチン投与後にリンパ球減少を認めCCMVRを含めた全身性のCCMV感染症をきたした報告8)もあることを踏まえると,本症例においてもベンダムスチンによるCCD4陽性リンパ球の減少が関与した可能性が否定できない.一症例のみの経過からではあるが,筆者らは造血器腫瘍患者においても,とりわけ本症例のようなベンダムスチン投与後のCCD4陽性CTリンパ球数低下症例においてはCCMVRの発症を念頭に置き,眼科スクリーニングを考慮する必要があるのではないかと考えた.また,当症例においてはCCD4陽性CTリンパ球数がC100/μlを超えた眼科治療開始C295日目以降も,主治医の判断によってC355日目までにガンシクロビル硝子体注射C1,000Cμg/0.04Cmlを7回投与行ってはいるが,その後は最終投与後C108日経過したC2月C4日現在においてCCMVRの再燃がみられていない.CMVRに対する治療は長期に行う必要があり再燃の懸念もあることから,投薬中止の判断を局所所見のみから行うのがむずかしいが,この点においてもCCD4陽性CTリンパ球数が目安となる可能性がある.今後の症例追加による検証が期待される.CIV結論濾胞性リンパ腫に対するベンダムスチン投与症例においてCD4陽性CTリンパ球の減少を認めた場合には自覚症状がなくてもCCMVR発症の可能性があり,CD4陽性CTリンパ球低下は投与終了後C1年後ほど遷延するため,回復するまで長期にわたってCCMVRに対するスクリーニングおよび治療が必要な可能性がある.文献1)谷口行恵,佐々木慎一,矢倉慶子ほか:悪性リンパ腫患者に発症した前眼部炎症を伴うサイトメガロウイルス網膜炎のC1例.あたらしい眼科34:875-879,C20172)柳田淳子,蕪城俊克,田中理恵ほか:近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討.あたらしい眼科C32:699-703,C20153)島崎晴菜,高山圭,菅岡晋平ほか:後天性免疫不全症候群以外の患者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎C5例の臨床的検討.あたらしい眼科37:609-614,C20204)浅井純志,宇根宏容,白木邦彦ほか:過去C5年間のサイトメガロウイルス網膜炎のC6症例の検討.臨眼C70:1270-1274,C20165)KathR,BlumenstengelK,FrickeHJetal:Bendamustine,vincristine,Cprednisolone(BOP)inCtherapyCofCadvancedClow-gradeCnon-HodgkinClymphoma.CDtschCMedCWochen-schrC126:198-202,C20016)KathR,BlumenstengelK,FrickeHJetal:Bendamustinemonotherapyinadvancedandrefractorychroniclympho-cyticleukemia.JCancerResClinOncolC127:48-54,C20017)BremerK:HighCratesCofClong-lastingCremissionsCafterC5-dayCbendamustineCchemotherapyCcyclesCinCpre-treatedClow-gradeCnon-Hodgkin’s-lymphomas.CJCCancerCResCClinCOncolC128:603-609,C20028)ConaA,TesoroD,ChiamentiMetal:Disseminatedcyto-megalovirusCdiseaseCafterbendamustine:aCcaseCreportCandCanalysisCofCcirculatingCB-andCT-cellCsubsets.CBMCCInfectDisC19:881,C20199)GarciaCMunozCR,CIzquierdo-GilCA,CMunozCACetal:LymC-phocyteCrecoveryCisCimpairedCinCpatientsCwithCchronicClymphocyticCleukemiaCandCindolentCnon-HodgkinClympho-masCtreatedCwithCbendamustineCplusCrituximab.CAnnCHematolC93:1879-1887,C201410)SongCMK,CKaravellasCMP,CMacDonaldCJCCetal:Charac-terizationCofCreactivationCofCcytomegalovirusCretinitisCinCpatientshealedaftertreatmentwithhighlyactiveantiret-roviraltherapy.RetinaC20:151-155,C200111)VrabecTR:PosteriorCsegmentCmanifestationsCofCHIV/CAIDS.SurvOphthalmolC49:131-157,C200412)NishijimaCT,CYashiroCS,CTeruyaCKCetal:RoutineCeyeCscreeningCbyCanCophthalmologistCisCclinicallyCusefulCforCHIV-1-infectedCpatientsCwithCCD4CcountClessCthanC200/CμL.PLoSOneC10:e0136747,C201513)SylwesterAW,MitchellBL,EdgarJBetal:Broadlytar-getedChumanCcytomegalovirus-speci.cCCD4+andCCD8+TCcellsCdominateCtheCmemoryCcompartmentsCofCexposedCsubjects.JExpMedC202:673-685,C200514)LeeJ-J,TeohSCB,ChuaJLLetal:Occurrenceandreac-tivationofcytomegalovirusretinitisinsystemiclupusery-thematosusCwithCnormalCCD4Ccounts.CEyeC20:618-621,C2006C***

帯状角膜変性への治療的角膜切除術後に発症した高度の 角膜上皮下混濁に対しマイトマイシンC を併用した治療的 角膜切除術が奏効した小児の1 例

2021年12月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(12):1504.1508,2021c帯状角膜変性への治療的角膜切除術後に発症した高度の角膜上皮下混濁に対しマイトマイシンCを併用した治療的角膜切除術が奏効した小児の1例高原彩加稗田牧京都府立医科大学眼科学教室CARarePediatricCaseofSevereCornealOpacityPostPhototherapeuticKeratectomythatwasSuccessfullyTreatedwithPhototherapeuticKeratectomyandMitomycinCAyakaTakaharaandOsamuHiedaCDepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC症例はC10歳,男児.学校検診で視力低下を指摘され近医を受診し,虹彩炎を認めたため京都府立医科大学附属病院を紹介受診.両眼の虹彩炎,帯状角膜変性を認め点眼加療を開始,また不全型CBehcet病の診断で内服加療を開始した.右眼の帯状角膜変性が進行したため治療的角膜切除術(PTK)を施行したが,術後に右眼角膜中央部に上皮下混濁を生じ,ステロイド点眼にも反応なく増悪して高度な混濁となった.マイトマイシンCC(MMC)併用CPTKを行い,その後は軽度の角膜上皮下混濁を生じたものの明らかな増悪はなく,安定して経過している.低年齢で,帯状角膜変性へのCPTK後に高度の角膜上皮下混濁を呈したまれな症例であり,MMC併用によるC2度目のCPTKが混濁の改善,予防に有用であった.CAC10-year-oldCboyCwithCiridocyclitisCwasCreferredCtoCtheCDepartmentCofCOphthalmologyCatCKyotoCPrefecturalCUniversityofMedicineHospitalfromalocalphysicianafteraschoolexaminationrevealedvisionloss.Initialexami-nationCrevealedCbilateralCiridocyclitisCandCbandCkeratopathy,CandCheCwasCdiagnosedCwithCincompleteCBehcet’sCdis-ease.CEyeCdropsCandCoralCtreatmentCwereCinitiated,CyetCphototherapeutickeratectomy(PTK)wasClaterCperformedCdueCtoCtheCbandCkeratopathyCinChisCrightCeyeCprogressing.CPostCsurgery,CaCcornealChazeCdevelopedCthatCdidCnotCrespondtosteroidtreatment,whichultimatelyworsenedintoasevereopacity.PTKcombinedwithmitomycinC(MMC)wasthenperformed,andalthoughamildcornealhazedevelopedpostsurgery,itdidnotworsenandhasremainedstable.AlthoughthispediatriccaseofseverecornealhazefollowingPTKforbandkeratopathyisrare,asecondPTKwithMMCwase.ectiveforalleviationandstabilizationofthehaze.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(12):1504.1508,C2021〕Keywords:角膜上皮下混濁,治療的角膜切除術,マイトマイシンCC,小児,帯状角膜変性.cornealChaze,Cphoto-therapeutickeratectomy,mitomycinC,child,bandkeratopathy.Cはじめに治療的角膜切除術(phototherapeuticCkeratectomy:PTK)は,顆粒状角膜ジストロフィや帯状角膜変性といった表層性角膜混濁により視機能低下を呈する患者に対し,エキシマレーザーを照射することで沈着物や変性組織などを除去し,視機能の回復を図る手術方法である1).角膜ジストロフィと帯状角膜変性についてはC2010年より国内で保険収載されており,広く施行されている.PTK後には原疾患の再発や角膜上皮下混濁,感染といった合併症を生じることがあり,角膜上皮下混濁に対しマイト〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-8566京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:OsamuHieda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-dori,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANCマイシンCC(mitomycinC:MMC)を使って再度照射するという報告がある1).帯状角膜変性の原因としては特発性のほかに緑内障,ぶどう膜炎,シリコーンオイル注入眼,外傷といったものがあげられるが,帯状角膜変性におけるCPTK後の予後は良好である.再発はC10%未満と少なく,視力低下を生じるような強い角膜上皮下混濁の報告は知る限りない2,3).また,未成年に対するCPTKの成績は良好であり,角膜上皮下混濁は生じても軽度で,治療反応性も良いとされている4,5).今回筆者らは,小児に発症した帯状角膜変性に対するPTK後に高度の角膜上皮下混濁が出現し,MMC併用でのPTKの施行が奏効したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:10歳,男児.既往歴に特記事項なし.祖母が関節リウマチで加療されている.2016年に学校検診で視力低下を指摘され同年C6月初旬に近医を受診.近医にて両眼のぶどう膜炎を指摘され,ベタメタゾンC0.1%点眼両眼C1日C3回とトロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼両眼C1日C1回の点眼を開始し,同月に精査加療目的に京都府立医科大学附属病院(以下,当院)眼科を紹介受診した.初診時の矯正視力は右眼がC0.9,左眼がC1.5であり,右眼優位の両眼の虹彩炎,右眼の虹彩後癒着と両眼の軽度の帯状角膜変性を認めた(図1).全身疾患を疑い当院小児科で精査を行い,口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍を認め,不全型Behcet病の診断でまずはイコサペント酸エチルによる治療を開始した.治療を行い,前眼部の炎症は初診からC1カ月ほどで軽減し,ベタメタゾンC0.1%点眼を漸減してC2017年C4月からはフルオロメトロンC0.1%点眼を両眼C1日C2回,トロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼を両眼C1日C1回でコントロールし,また眼圧の軽度上昇ありカルテオロール塩酸塩点眼両眼1日C1回も使用した.しかし,眼内炎症は軽減したものの残存し,右眼は徐々に虹彩後癒着が進行し,一時は.胞様黄斑浮腫の出現も認めた.小児科診察でも腸管病変を疑う症状が出現し,2017年C11月からはコルヒチンが追加された.右眼の帯状角膜変性が少しずつ進行し,瞳孔領を完全に覆い(図2)右眼矯正視力C0.1まで低下したため,2018年C10月,12歳時に右眼に対しCPTKを施行した.エキシマレーザー(VISXStarS4IR)を用いて角膜上皮ならびに角膜実質を合計C92Cμm切除した.術後右眼の投薬はガチフロキサシンC0.3%点眼C1日C4回,フルオロメトロンC0.1%点眼1日4回,トロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼C1日C1回,カルテオロール塩酸塩点眼C1日C1回とした.瞳孔領の角膜混濁は消失し,経過良好であったが,不全型CBehcet病による虹彩後癒着および白内障の進行があり,右眼矯正視力C0.08と視力の改善は得られなかった.術C3カ月後から右角膜中央部に角膜上皮下混濁を生じたため,角膜上皮下混濁治療目的にフルオロメトロンC0.1%点眼をベタメタゾンC0.1%点眼1日4回に変更した.しかし角膜上皮下混濁は角膜後面形状を変化させるほどに肥厚,悪化し,矯正視力C0.02まで低下した(図3).重篤な角膜混濁を生じたため,2019年C5月,13歳時に右眼の角膜上皮下混濁に対しCMMCを併用したCPTKを施行した.角膜上皮ならびに角膜実質を合計C151Cμm切除し,エキシマレーザー照射終了後にC0.02%CMMCをしみこませた円形スポンジを角膜中央部にC2分間接触させ,その後生理食塩水C200Cmlを用いて洗浄した.本症例に対するCMMCは適応外使用であるが,MMC使用のリスクを説明し,文書による患者本人および保護者の同意を得て使用した.術後はガチフロキサシンC0.3%点眼C1日C4回,フルオロメトロンC0.1%点眼C1日C4回を開始し,術C2カ月後までは明らかな角膜混濁の出現なく経過していたが,術C3カ月後から角膜C6時方向,12時方向に角膜上皮下混濁が出現した.しかし,初回手術後のように強い角膜混濁を呈することはなく進行も緩やかで,瞳孔領は保たれており視機能への影響は少ないと考えられ,ガチフロキサシンC0.3%点眼,フルオロメトロンC0.1%点眼をC1日C2回に減量した.右眼白内障の進行を認め,虹彩後癒着による瞳孔閉鎖も認めたため,経過中のC2020年C2月に右眼に対し白内障手術を施行し,術中に瞳孔閉鎖を解除した.術後は眼内炎症が強く,前房へのフィブリンの析出や,眼内レンズ上の沈着物を生じた.術後にC1日C4回使用していたベタメタゾンC0.1%点眼をC1日C6回に増量,またトロピカミド・フェニフレン塩酸塩点眼C1日C3回を追加してフィブリンは改善した.トリアムシノロンのCTenon.下注射を行ったところ,眼内レンズ上の沈着物は軽減したものの,現在に至るまで残存している.ほかには眼底所見に明らかな異常を認めず,瞳孔閉鎖も手術で解除したものの,2020年C5月の矯正視力は右眼がC0.08,左眼がC1.2と右眼は不良である.白内障手術後も角膜上皮下混濁の悪化や帯状角膜変性の再発を認めず,角膜所見は安定している(図4).CII考按本症例は小児のぶどう膜炎に続発した帯状角膜変性であったと考えられ,帯状角膜変性へのCPTK後に高度の角膜上皮下混濁を生じた.しかしCMMC併用による再CPTK後には瞳孔領の透明性が確保され,高度な角膜上皮下混濁の再形成を認めない.帯状角膜変性へのCPTKは一般的に予後良好であり,再発や合併症が生じることは少ない3,6).既報4,5)では,小児に対するCPTK後の角膜上皮下混濁の頻度はC0.約C20%であり,再発しても混濁は軽度で視機能には影響を及ぼさない.ステ図1初診時の前眼部写真図2初回PTK前の前眼部写真3時方向,9時方向の淡い帯状角膜変性,また虹彩後癒着帯状角膜変性が進行している.を認める.図3初回PTKから7カ月後a:前眼部写真.角膜中央部に強い白色の混濁を認める.Cb:前眼部COCT.高度の角膜上皮下混濁により角膜形状が変化している.図4MMC併用PTKから1年後a:前眼部写真.6時方向,12時方向に薄い角膜上皮下混濁の形成を認める.Cb:前眼部COCT.角膜中央部の角膜混濁は消失しており,角膜形状も保たれている.ロイド点眼への治療反応性がよく,術後C12.18カ月で角膜上皮下混濁は消失することが報告されている.本症例では経過中に角膜上皮下混濁の改善目的にベタメタゾンC0.1%点眼を使用した.点眼薬に含まれるリン酸塩添加物がカルシウム角膜沈着を招き,帯状角膜変性を再発させる可能性があった7).帯状角膜変性の再発はきたさなかったものの,点眼への反応は乏しく,視機能に影響を及ぼす高度の角膜上皮下混濁を生じた.PTKやレーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractivekeratectomy:PRK)でのエキシマレーザー照射による角膜上皮切除は,サイトカイン放出を引き起こし,角膜実質細胞のアポトーシスを誘発する1).それに伴いコラーゲンやグリコサミノグリカンなどが生合成され,実質の再構築が行われるが,その際に細胞の過剰増殖が起こると,コラーゲンとグリコサミノグリカンが不規則な層状構造を形成して角膜実質に沈着し,強い角膜上皮下混濁を呈すると考えられている8,9).そのため角膜上皮治癒が遅延する症例では,術後の角膜上皮下混濁を形成するリスクが高くなる1,10).しかし,本症例では術後の上皮修復に問題を認めなかった.不全型Behcet病で眼内炎症の強い状態であったため,PTK後の上皮損傷に伴う炎症性サイトカインが賦活され,混濁形成に寄与した可能性があると考えられる.PTKやCPRK後の角膜上皮下混濁に対しては,細胞増殖抑制作用をもつCMMCを併用したエキシマレーザー照射が混濁の形成や再発予防に有効であると報告されており,海外ではとくにCPRK施行の際に広く併用されている.MMCを使用することで,角膜実質細胞の複製を阻害し,術後の角膜実質細胞密度ならびに細胞から生合成されるコラーゲン,プロテオグリカンの密度を減少させることにより,角膜上皮下混濁を予防できる11,12).MMCを使用すると角膜・強膜融解,角膜内皮細胞減少といった合併症を生じるリスクがあり,小児へのCMMCの使用はとくに慎重である必要がある.海外においてはCMMCを併用したエキシマレーザー手術が小児患者に対して施行されており,3歳児にCMMC併用CPRKを行いC1年の観察を行った報告13)や,11.81歳の患者に対しCMMC併用CPTKを施行し,平均C8.3カ月の観察を行ったという報告14)がある.いずれも手術は効果的であり,MMCの使用による重大な合併症も認めず安全であったと報告されている13,14).本症例においても安全に施行することができた.既報15)に基づいて角膜上皮下混濁をCgrade0.4(grade0:混濁なし,grade1:わずかな混濁,grade2:軽度混濁,Cgrade3:中等度混濁,grade4:高度混濁)にCgradingすると,MMC併用CPTK前はCgrade4に達していたが,術C1年後はCgrade2である.PTK後は初回,2回目ともに術後C3カ月ほどで角膜上皮下混濁が出現しはじめたが,初回CPTK角膜上皮下混濁のgrade432102018/102019/52019/112020/5初回PTKMMC併用PTK2019/12019/8図5角膜上皮下混濁のgradeの遷移grade0:混濁なし.grade1:わずかな網状の混濁.grade2:軽度混濁.grade3:中等度混濁,虹彩の詳細な観察が困難となる.Grade4:高度の混濁,肉眼でも観察できる.後には増悪が続き非常に高度な混濁を呈したのに対し,MMC併用CPTK後は混濁の進行は軽度で停止し,術後C1年を経過しても増悪を認めない(図5).既報ではCPTK,PRK後の高度の角膜上皮下混濁へのCMMC併用CPTKもしくはPRK後,約C50.80%の症例で軽度の角膜上皮下混濁の形成を認めたが,すべての症例において術前よりも混濁は軽減しており,視機能への影響を与えるほどの混濁は出現しなかったとされている9,16).本症例は既報の少ない低年齢で,PTK後に非常に強い角膜上皮下混濁を呈しており,膠原病による眼炎症のリスクもあった.MMCを併用したCPTKは角膜上皮下混濁の予防,軽症化に有用であり,今回のような危険性の高い症例に対しても安全な方法であると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NagpalCR,CMaharanaCPK,CRoopCPCetal:PhototherapeuticCkeratectomy.SurvOphthalmolC65:79-108,C20202)HiedaCO,CKawasakiCS,CYamamuraCKCetal:ClinicalCout-comesCandCtimeCtoCrecurrenceCofCphototherapeuticCkera-tectomyinJapan.MedicineC98:27,C20193)O’BrartDP,GartryDS,LohmannCPetal:Treatmentofbandkeratopathybyexcimerlaserphototherapeutickera-tectomy:surgicaltechniquesandlongtermfollowup.BrJOphthalmolC77:702-708,C19934)AutrataCR,CRehurekCJ,CVodickovaK:PhototherapeuticCkeratectomyCinchildren:5-yearCresults.CJCCataractCRefractSurgC30:1909-1916,C20045)KolliasAN,SpitzlbergerGM,ThurauSetal:Photothera-peuticCKeratectomyCinCChildren.CJCRefractCSurgC23:703-708,C20076)StewartCOG,CMorrellAJ:ManagementCofCbandCkeratopa-thyCwithCexcimerphototherapeuticCkeratectomy:visual,Crefractive,CandCsymptomaticCoutcome.Eye(Lond)C17:C233-237,C20037)水野暢人,福岡秀記,草田夏樹ほか:難治なカルシウム沈着をきたしたCStevens-Johnson症候群のC1例.あたらしい眼科C37:627-630,C20208)LeeCYC,CWangCIJ,CHuCFRCetal:ImmunohistochemicalCstudyofsubepithelialhazeafterphototherapeutickeratec-tomy.JRefractSurgC17:334-341,C20019)ShalabyCA,CKayeCGB,CGimbelHV:MitomycinCCCinCpho-torefractivekeratectomy.JRefractSurgC25:93-97,C200910)SalahT,elMaghrabyA,WaringGO:Excimerlaserpho-totherapeuticCkeratectomyCbeforeCcataractCextractionCandCintraocularlensimplantation.AmJOphthalmolC122:340-348,C199611)NettoMV,ChalitaMR,KruegerRR:Cornealhazefollow-ingCPRKCwithCmitomycinCCCasCaCretreatmentCversusCpro-phylacticuseinthecontralateraleye.JRefractSurgC23:96-98,C200712)KaisermanCI,CSadiCN,CMimouniCMCetal:CornealCbreak-throughChazeCafterCphotorefractiveCkeratectomyCwithCmitomycinC:IncidenceCandCriskCfactors.CCorneaC36:C961-966,C201713)CrawfordCCM,CFrazierCTC,CTorresCMFCetal:PediatricPRK(photorefractiveCkeratectomy)withCmitomycinCC(MCC)forCpersistentCanisometropicCamblyopia.CACcaseCreport.BinoculVisStrabologQSimmsRomanoC27:233-234,C201214)AyresCBD,CHammersmithCKM,CLaibsonCPRCetal:Photo-therapeutickeratectomywithintraoperativemitomycinCtoCpreventCrecurrentCanteriorCcornealCpathology.CAmJOphthalmolC142:490-492,C200615)RamCR,CKangCT,CWeikertCMPCetal:CornealCindicesCfol-lowingCphotorefractiveCkeratectomyCinCchildrenCatCleastC5Cyearsaftersurgery.JAAPOSC23:149,Ce1-149.e3,C201916)PorgesCY,CBen-HaimCO,CHirshCACetal:PhototherapeuticCkeratectomywithmitomycinCforcornealhazefollowingphotorefractiveCkeratectomyCforCmyopia.CJCRefractCSurgC19:40-43,C2003***

酸性組織固定剤の誤使用による化学眼外傷の2 例

2021年12月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(12):1499.1503,2021c酸性組織固定剤の誤使用による化学眼外傷の2例北原あゆみ内野裕一羽藤晋稲垣絵海榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室CTwoCasesofOcularAcidicChemicalBurnsAyumiKitahara,YuichiUchino,ShinHatou,EmiInagaki,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineC緒言:化学眼外傷では短時間で眼表面が広範に傷害され,輪部機能不全や角膜混濁から視力障害へ至ることも多い.原因物質によって酸外傷とアルカリ外傷に分けられるが,今回,筆者らは酸性組織固定剤の誤使用による化学眼外傷をC2例経験したので報告する.症例1:66歳,男性.尋常性疣贅治療薬であるグルタルアルデヒド液を左眼に誤点眼し,左眼痛を主訴に慶應義塾大学病院(以下,当院)救急外来を受診した.初診時は結膜上皮浮腫,その後に広範囲な角結膜上皮欠損を認め,受傷後C3日目には上眼瞼結膜に厚い偽膜も出現した.初診時からの点眼加療と偽膜除去の処置のみで受傷後C8日目には全上皮化した.症例2:4カ月,女児.前医で涙道ブジー施行時に誤ってホルマリンにて涙道洗浄され,左眼を受傷し,受傷後翌日,当院紹介受診となった.初診時は強い結膜浮腫,角膜上皮欠損,角膜下方に浮腫を認めた.点眼加療で上皮化したが,受傷約C5カ月後より偽翼状片と癒着性内斜視を認めたため,受傷約C10カ月後に偽翼状片切除および羊膜移植術,受傷C1年C9カ月後に癒着性内斜視に対して水平前後転術を施行した.結論:酸性化学外傷により眼表面上皮欠損と炎症を生じるが,適切な治療により輪部機能を温存でき,良好な角膜上皮化が得られることが示唆された.しかしながら,晩発性の合併症も認められることがあるため,長期的な経過観察が必要と考えられた.2症例とも薬剤の誤使用が原因となっており,使用する薬剤容器や保管方法について注意する必要があると考えられた.CPurpose:Toreporttwocasesofocularacidicchemicalburns.CaseReports:Case1involveda66-year-oldmanwhopresentedaftermistakenlyinstillingglutaraldehydesolution,a.xativeusedforthetreatmentofverrucavulgaris,intohislefteye.Conjunctivalepithelialedema,cornealepithelialdefect,andthickpseudomembranewereobservedduringtreatment.At8dayspostinjury,thecornealdefecthadcompletelyepithelialized.Case2involveda4-month-oldgirlwhowasreferredfromanotherclinicafterformalinwasmistakenlyadministeredwhileunder-goingClacrimalCductCirrigationCinCherCleftCeye.CConjunctivalCedemaCandCepithelialCdefectCwereCobserved.CAfterC2Cweeksoftreatmenttocontrolin.ammationandacceleratere-epithelialization,theocularsurfacewasperfectlyepi-thelialized.CHowever,CatC5CmonthsCpostCinjury,CpseudopterygiumCandCadhesiveCesotropiaCwereCobserved.CThus,CsheCunderwentCpseudopterygiumCresectionCsurgery,CandCamnioticCmembraneCtransplantationCandCstrabismusCsurgeryCwasperformed.Conclusion:Inbothcases,duetotheremaininglimbalfunction,cornealepithelializationwasgoodwithoutcornealopaci.cation.However,lateonsetcomplicationsmayoccur,solong-termfollow-upisnecessaryinpatientswithocularchemicalburns..〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(12):1499.1503,C2021〕Keywords:化学眼外傷,酸性外傷,角結膜上皮欠損,偽翼状片,癒着性内斜視.ocularsurfacechemicalburn,acidburn,cornealandconjunctivalepithelialdefect,pseudopterygium,adhesiveesotropia.Cはじめにとして酸では硝酸,硫酸,塩酸,酢酸1),アルカリでは苛性化学眼外傷では短時間で眼表面が広範に傷害され,輪部機ソーダ2),生石灰3),アンモニア,クレゾール,ベンジン,能不全や角膜混濁から視力障害へ至ることも多い.原因物質塩素ガス,催涙ガスによる受傷が報告されているが4,5),グ〔別刷請求先〕北原あゆみ:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyumiKitahara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku,Tokyo160-8582,JAPANCdg図1症例1の初診時,受傷15時間後,受傷3日後の前眼部所見,誤使用した20%グルタルアルデヒドの容器a,b:初診時.結膜上皮浮腫が著明だが角膜上皮欠損はなく,palisadesofVogtは全周残存していた.Cc,d:受傷C15時間後.結膜上皮浮腫が著明となり,75%の角膜上皮欠損を認め,木下分類でCGrade2の所見であった.Ce,f:受傷C3日後.30%の角膜上皮欠損,下方球結膜の結膜上皮びらんと壊死した上皮を認めた.Cg:受傷C3日後.上眼瞼結膜上の厚い偽膜を認めた.Ch:誤使用したC20%グルタルアルデヒドの容器.ルタルアルデヒド,ホルマリンをはじめとする酸性組織固定剤に関する報告はまれである.酸は組織蛋白を凝固するが,アルカリは細胞膜を融解するため,一般に酸外傷のほうが予後はよいとされているが,晩発性の合併症についての報告はまれである.今回筆者らは酸性組織固定剤の誤使用による化学眼外傷をC2例経験し,1例で晩発性の合併症を認めたので報告する.CI症例〔症例1〕66歳,男性.主訴:左眼痛.現病歴:2016年C5月中旬,午後C9時半頃,点眼容器に保存されていた尋常性疣贅治療薬であるC20%グルタルアルデヒド(図1h)を,普段就寝前に使用している緑内障点眼薬と間違えて左眼に点眼した.直後にC15分流水で洗ったが,眼痛が持続したため慶應義塾大学病院救急外来を受診した.救急外来にて救急科医師に生理食塩水(以下,生食)でC15分程度洗眼されたのち,眼科(以下,当科)を受診した.初診時所見:左眼矯正視力はC1.2,眼圧はC16CmmHg,結膜上皮浮腫が著明であったが,角膜上皮欠損はなくCpali-sadesofVogtは全周残存していた.前房内炎症は認めなかった(図1a,b).抗炎症目的にベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼をC1日C4回,感染予防目的にC1.5%レボフロキサシン点眼をC1日C4回開始した.経過:受傷後C15時間経過した再診時には,左眼矯正視力はC0.05と低下,眼圧はC25CmmHgと上昇,結膜上皮浮腫が前日より著明となり,角膜は下方を中心にC75%の上皮欠損を認め,木下分類でCGrade2の所見であった(図1c,d).抗炎症と角膜上皮化を目的とし,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼をC1日C6回へ増量,1%アトロピン硫酸塩水和物点眼液をC1日C2回,トロピカミド・フェニレフリン硫酸塩点眼液をC1日C2回,0.1%ヒアルロン酸点眼液をC1日C6回,オフロキサシン眼軟膏をC1日C1回追加した.受傷C3日後には角膜は上方から上皮化し,角膜上皮欠損はC30%と図2症例1の受傷8日後,受傷4カ月後の前眼部所見a,b,c:受傷C8日後.角膜は全上皮化し,眼瞼結膜上皮がわずかに欠損した.Cd,e:受傷C4カ月後.結膜,角膜に異常を認めない.なったが(図1e),下方球結膜に結膜上皮びらんと壊死した上皮(図1f),上眼瞼結膜上に厚い偽膜を認めた(図1g).壊死した上皮と偽膜を除去し,抗炎症効果増強目的にベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼をC1時間ごとに増量,上皮欠損の遷延化が見込まれたため,角膜上皮保護目的に治療用連続装用コンタクトレンズ(エアオプティクスEXアクア)を処方した.受傷C8日後には角膜は全上皮化し,眼瞼結膜上皮がわずかに欠損するのみとなったため(図2a~c),コンタクトレンズを中止し,点眼を漸減した.受傷C4カ月後には左眼矯正視力C1.2,眼圧C15CmmHg,角結膜に異常を認めず終診とした(図2d,e).〔症例2〕4カ月,女児.現病歴:前医が左眼の先天鼻涙管閉塞症に対しブジーを行う際,涙道洗浄用の生食が足りず,10%ホルマリンを生食と間違えて追加(生食:10%ホルマリン=1:2)した溶液で涙道洗浄を開始した.その後患児の様子から誤使用に気づき,生食C1,000Cmlで洗眼した.ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩軟膏とオフロキサシン眼軟膏点入を開始し,当科に紹介した.初診時(受傷翌日)所見:左眼結膜の全周浮腫,充血を認め,鼻側は白色化して虚血傾向であり,結膜.のCpHはC7.5.8.0であった.角膜上皮欠損はC95%程度,輪部上皮は全周残存するも,pallisadesofVogtは鼻側C1/3が消失していた.角膜中央から下方にかけての実質浮腫,Descemet膜皺襞を認め,木下分類ではCGrade3aの所見であった.経過:生食C1,000Cmlで洗眼,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼C1日C5回,エリスロマイシン・コリスチン点眼C1日C5回,オフロキサシン眼軟膏.入C1日C1回を開始した.受傷C4日後,角膜鼻側輪部に虚血所見を認めるものの,上耳側から上皮化を認め,角膜上皮欠損はC85%程度となった.実質浮腫は残存していたため(図3a~c),抗炎症効果増強目的にベタメタゾンリン酸エステルナトリウム0.1%点眼をC2時間おきに増量した.受傷C11日後には結膜充血は残存するものの,結膜浮腫は軽減,角膜は完全に上皮化したため(図3d,e),ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼をC5回に減量した.受傷C2カ月半後に角膜は正常所見となったが,受傷C5カ月後から偽翼状片が出現した(図4a).受傷C7カ月後には偽翼状片が進行し基底部が拡大,CforcedCductiontestで抵抗ある外転障害を認めた(図4b).受傷約C8カ月後に左眼内斜視を認めたため,1日C2時間の右眼遮閉を開始,受傷C10カ月後に左眼偽翼状片切除術と羊膜移植術を施行した.術C1週間後より右眼ペナリゼーション目的にアトロピン点眼を開始した.受傷C12カ月後にはCforcedCductiontestでやや抵抗あり,左眼癒着性内斜視と診断した.受傷C1年C7カ月後,Hirshberg法でC30°,Krimsky法でC40CΔの内斜視を認めたため,受傷C1年C9カ月後に左外直筋短縮術(5Cmm)と内直筋後転術(5Cmm)を施行した.斜視術後は右眼アイパッチやアトロピンによるペナリゼーションを施行し,受傷C2年C4カ月後(斜視術後C7カ月後),Hirshberg法でC15°の内斜視を認めるが交代固視はできており,視力発達はよいと考えられた.角膜透明化は問題なく,偽翼状片の再発はなかった(図4c,d).現在は左眼流涙症を認めており涙小管が閉鎖していると考えられるが,日常生活に支障はなく,造影検査や涙道内視鏡検査は未実施で経過観察してい図3症例2の受傷4日後,受傷11日後の前眼部所見a,b,c:受傷C4日後.角膜鼻側輪部に虚血所見を認めるが,上耳側は上皮化し,角膜上皮欠損はC85%程度,実質浮腫は残存していた.d,e:受傷C11日後.結膜充血が残存するものの結膜浮腫は軽減,角膜は完全に上皮化した.Cab左眼左眼耳側鼻側耳側鼻側図4症例2の受傷5カ月後,受傷7カ月後の前眼部所見,受傷2年4カ月後(斜視術後7カ月後)の眼位a:受傷C5カ月後.鼻側に偽翼状片が出現した.Cb:受傷C7カ月後.鼻側の偽翼状片が進行し,基底部が拡大している.c,d:受傷2年4カ月後(斜視術後C7カ月後).Hirshberg法で15°の内斜視を認めるが交代固視は可能であった.る.CII考按化学眼外傷の予後は原因物質の性質,角膜・輪部上皮障害・炎症の程度により影響を受ける6).原因物質は酸性物質とアルカリ物質に分けられる.酸性物質は組織蛋白を凝固し変性した組織がバリアとなり7,8),また透過性が低いため深部に達せず,障害が角膜・輪部実質に及ぶことが少ないため,酸外傷は一般的に予後がよいとされている7)が,晩発性合併症に対する報告は少ない.一方アルカリ物質では組織蛋白のゲル化と細胞膜の脂質のけん化による細胞膜の融解が起こり,上皮細胞のバリアは破壊され,脂溶性のため容易に上皮層を透過する7,8)ため,アルカリ外傷のほうが酸外傷に比べ予後が悪い.また,急性期化学外傷の重症度を受傷程度と範囲により分類したものに木下分類があり,予後を予測することができる(表1)9).木下分類のCGrade1やCGrade2では軽度の結膜充血・腫脹や角膜上皮障害のみで,数日から数週間で治癒する.輪部機能が残存して表1角結膜の重症度分類(木下分類)Grade1結膜充血角膜上皮欠損なしCGrade2結膜充血角膜上皮欠損あり(部分的)CGrade3a結膜充血あるいは部分的壊死全角膜上皮欠損ありpalisadesofVogt一部残存CGrade3b結膜充血あるいは部分的壊死全角膜上皮欠損ありpalisadesofVogt完全消失CGrade4半周以上の輪部結膜壊死全角膜上皮欠損ありpalisadesofVogt完全消失いるCGrade3aでは受傷後早期からの消炎と治療用コンタクトレンズなどの適切な治療により,軽度の結膜侵入や血管新生を伴うものの,残存する輪部機能により角膜上皮障害の治癒が期待できる.Grade3b,4では長期にわたる炎症,遷延性角膜上皮欠損を経て角膜実質の瘢痕治癒に至り,視力予後は不良である1).症例C1で誤使用されたグルタルアルデヒドはCpH5.0の酸性組織固定剤である.2.4%の濃度で電子顕微鏡標本作製における前固定液として用いられ,固定力が強く微細構造の形態保持に優れているが,浸透速度が遅く浸透力は低い10).実際の臨床所見として初診時は木下分類でCGrade2であり,輪部機能が温存されたことで比較的短期間に良好な角膜上皮化を得ることができ,角膜混濁を認めなかったと考えられる.また,誤使用直後の疼痛により,患者自身が受傷後速やかに自己洗眼したことも,輪部機能低下をきたすことなく晩発性合併症を認めなかった理由の一つと考えられた.症例C2で誤使用されたC10%ホルマリンはホルムアルデヒドを約C3.7%含むCpH3.2前後の酸性組織固定剤である.ホルマリンは組織への浸透力が強く,無色透明で組織が着色しない利点があり,多くの染色法に適していることから,日常の病理組織標本作製に汎用されている.固定原理はホルムアルデヒドが標本蛋白質中のアミノ基と反応してヒドロキシメチル基が生じ,これがアミノ基と反応することによってメチレン架橋が形成され蛋白質が安定化することである10).症例C2は木下分類でCGrade3aであり,輪部機能が残存したため角膜は再上皮化したと考えられた.しかし,症例C1とは異なり受傷C5カ月後頃より偽翼状片を認め,その後癒着性内斜視を生じた.これについてはホルマリンの組織への浸透力の強さとともに,受傷直後の患児の啼泣は処置に対する嫌悪のみと捉え,洗眼を施行するまでに時間を要し,輪部上皮深部の角膜上皮幹細胞まで浸透したため,少なくとも鼻側の輪部機能に影響を及ぼしたと考えられた.このようにホルマリンよる化学眼外傷では晩発性の合併症が生じることがあるため,長期的な経過観察が必要であると考えられた.(文献C9より引用)今回のC2症例は本来点眼すべきでない薬剤を誤使用された.症例C1ではグルタルアルデヒドの容器が緑内障点眼の容器と類似していたこと,症例C2では劇薬であるホルマリンが生食などの日常診療で使用する薬剤と同じ場所に保管され,保管容器の表示が他の薬剤と区別しづらかったことが原因と推測された.このような事故を防ぐために,点眼薬と外用薬で容器の形状を変える,点眼薬と外用薬は分けて保管する,危険な薬品は日常診療で使用する薬剤とは別の棚などで保管し,とくに危険薬剤については保管容器の表示を工夫する必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中村隆宏:角膜化学外傷への対処法を教えてください.あたらしい眼科23(臨増):104-106,C20062)近藤秀美,播田実浩子,田辺法子:アルカリ薬傷の初期治療.日本災害医学会会誌C35:831-833,C19873)印南素子,村上順子,幸塚悠一:石灰飛入によるアルカリ外傷のC3例.眼紀42:1992-1997,C19914)栗本晋二:薬物腐食.眼科C25:923-927,C19835)高野隆行,平野晴子,石川克也:最近C1年間の眼化学傷の検討.日本災害医学会会誌C39:13-17,C19916)IyerCG,CSrinivasanCB,CAgarwalS:AlgorithmicCapproachCtoCmanagementCofCacuteCocularCchemicalCinjuries-I’sCandCE’sofManagement.OculSurfC17:179-185,C20197)葛西浩:薬物による角膜腐食・火傷による角膜傷害.眼科当直医・救急ガイド(眼科プラクティス編集委員会編)第2刷,p86-88,文光堂,20048)P.sterCDA,CP.sterRR:AcidCinjuriesCofCtheCeye.CCorneaC3rdEdition,p1187-1192,Elsevier,USA,20119)木下茂:化学腐食,熱傷.眼科救急処置マニュアル(深道義尚編),p150-155,診断と治療社,199210)松原修,鴨志田伸吾,大河戸光章ほか:固定法.病理/病理検査学最新臨床検査学講座,p202-211,医歯薬出版株式会社,2016***

脳静脈奇形を合併した出血性結膜リンパ管拡張症の症例

2021年12月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科38(12):1495.1498,2021c脳静脈奇形を合併した出血性結膜リンパ管拡張症の症例福井歩美*1,2横井則彦*1渡辺彰英*1外園千恵*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2京都府立医科大学附属北部医療センターCACaseofHemorrhagicLymphangiectasiaoftheConjunctivaAssociatedwithCerebralVenousMalformationsAyumiFukui1,2)C,NorihikoYokoi1),AkihideWatanabe1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC出血性結膜リンパ管拡張症は結膜静脈とリンパ管の異常な結合により拡張したリンパ管内に血液が流入する疾患であり,報告例は少ない.出血性結膜リンパ管拡張症に脳静脈奇形を合併した症例を経験した.症例は生来健康なC17歳,女性.近医にて左眼の結膜リンパ.胞と診断され,穿刺や切除が行われたが術中の出血量が多く,手術は完遂困難であり,精査加療目的に当院紹介となった.初診時,びまん性の左結膜浮腫,数珠状に連なる拡張したリンパ管を認め,一部にリンパ管に流入した血液が水平面を形成しており,上眼瞼縁鼻側に脈管異常と思われる.胞性病変を認めた.頭部MRIでは左眼窩から前頭骨に及ぶリンパ管奇形,頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を認めた.結膜リンパ管拡張症は点眼治療で症状の改善がない場合は外科治療の対象となる.本症例では精査により,先天性の脈管異常が診断された.出血性結膜リンパ管拡張症では,脈管異常の有無の検討が重要と考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofChemorrhagicClymphangiectasiaCofCtheconjunctiva(HLC)C,CaCdiseaseCinCwhichCbloodC.owsCintoCtheCabnormallyCexpandedClymphaticCvesselCthroughCtheCabnormalCconnectionCofCtheCconjunctivalCveinCandClymphaticCvessel.CCase:AC17-year-oldCfemaleCwithCHLCCinCherCleftCeyeCassociatedCwithCcerebralCveinCmalformationsCwasCreferredCafterCbeingCdiagnosedCasClymphaticCcystCofCtheCconjunctivaCresistantCtoCpunctureCandCresectioninwhichamassivehemorrhageoccurred,thusresultinginanincompleteoperation.Uponinitialexamina-tion,CcysticClesionsCinCtheClowerCconjunctivaCandCaCdilatedClymphaticCvesselCwithCformationCofCbloodCinCtheCupperCconjunctiva,CasCwellCasCvascularCabnormalityCatCtheCnasalCsideCofCtheCupperClidCmargin,CwereCobserved.CMagneticCresonanceimagingrevealedmalformationsoftheleftorbitandfrontalbone,andveinintheleftcerebellarpedun-cle.Conclusion:InHLCcases,itisimportanttoalsotakevascularabnormalitiesintoconsideration.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(12):1495.1498,C2021〕Keywords:出血性結膜リンパ管拡張症,結膜リンパ.胞,脳静脈奇形,脈管異常,MRI.HemorrhagicClymphan-giectasiaofconjunctiva,lymphaticcyst,cerebralvenousmalformation,vascularabnormalities,MRI.Cはじめに結膜リンパ管拡張症は結膜のリンパ管が拡張し,結膜上に隆起を示す疾患である1).広範囲にわたるリンパ管拡張を認めるものと,限局性の.腫状病変となるものがあり1),結膜弛緩症との関連も指摘されている2).また,本疾患は日常臨床においてしばしば遭遇する.出血性結膜リンパ管拡張症は,結膜のリンパ管と静脈が異常吻合し,結膜リンパ管に血液が流入する疾患3)であり,1880年にCLeberによって初めて報告された3).好発年齢や性差はないとされ,過去の報告4,5)は特発性,先天性のもの,炎症,手術4),外傷を契機に発症したものなどさまざまであり,その発生機序は明らかではない.また,出血性結膜リン〔別刷請求先〕福井歩美:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:AyumiFukui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC図1初診時の前眼部所見a,b:左眼下方結膜に広範囲に広がる.胞性病変を認める().c:鼻上側球結膜に出血性リンパ管拡張症を認め,上方球結膜のリンパ管に流入した血液が水平面を形成している().d:鼻側上眼瞼縁にも脈管異常を示唆する病変を認める().パ管拡張症に脈管奇形を合併する症例の報告は,筆者らの知る限りない.今回,出血性リンパ管拡張症の所見からCMRIを施行し,脳静脈奇形を看破できた症例を経験したので報告する.CI症例患者:17歳,女児.既往歴:幼少期に左下眼瞼から.部にかけて血管腫が出現し,自然消失した.また,2年前に左眼に結膜下出血が生じたが経過観察で消失した.現病歴:前医にて左眼の結膜リンパ.胞と診断され,穿刺や切除が行われたが,術中の出血量が多く,手術は完遂困難であった.結膜の.胞性病変は,術後も改善しなかったため,精査加療目的に当院に紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.8(1.5C×sph.0.25D),左眼C1.2(1.2C×sph+1.00D),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C13mmHgであった.左眼下方結膜に広範囲にわたる.胞性病変を(図1a,b),上鼻側の球結膜に出血性リンパ管拡張症を認め,上方結膜のリンパ管に流入した血液が水平面を形成していた(図1c).さらに,鼻側上眼瞼縁に脈管異常によると考えられる.胞様病変を認めた(図1d).全身検査所見:幼少期に左顔面に血管腫を認めていたこと,.胞性病変が球結膜だけでなく上眼瞼縁にまで及んでいたことから脈管異常を疑い,頭部CMRIを撮像した.その結果,左眼窩内側にリンパ管拡張,リンパ管の異常を疑う高信号域(図2a),頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を疑う所見(図2b),左前頭骨や眼窩周囲の軟部組織にもリンパ管奇形によるCSTIR高信号病変(図2c,d)を認めた.臨床経過:結膜のリンパ管異常の容量減少を目的に手術加療を行うことも考慮はしたが,出血のリスクが高いことから,経過観察を行う方針となった.経過観察期間中に両側鼻前庭部に有茎性の腫瘤を認めたため,耳鼻咽喉科で切除術を施行し,病理検査でリンパ管拡張症と診断された.現在も不定期に結膜下出血は起こしているものの,縮小や増大はなく,経過観察を継続している.CII考按出血性リンパ管拡張症はリンパ管の異常拡張部位に血管からの血液が流入する疾患であり,出血は自然消退することも多く6),まずは経過観察を行うが,出血が消退しない場合や再発を繰り返す場合には,各種の外科的治療が行われる場合がある.過去の報告では,Awdryは出血性結膜リンパ管拡図2頭部MRI(STIR画像)a:左眼窩内側に拡張したリンパ管,およびリンパ管の異常(円内)を認める.Cb:頭蓋内左小脳脚に静脈奇形を疑う所見(C.)を認める.Cc,d:左前頭骨,眼窩周囲にもCSTIR高信号病変を認め(円内および),リンパ管奇形が示唆される.張症と診断したC5例に対し,3例は経過観察で改善し,残りのC2例はジアテルミー凝固により速やかに改善したと報告している5).また,LochheadらはC9人の出血性結膜リンパ管拡張症の患者に対し,6例は自然経過で改善し,3例はアルゴンレーザー照射にて改善したと報告している7).一方,生下時より出血性リンパ管拡張症を認め,経過観察で改善したC2歳,女児の報告があり5),今回の症例においても,幼少期に左下眼瞼から.部にかけての血管腫の自然消退の既往があったことから,先天性に広範囲の脈管異常があった可能性が示唆される.また,今回の症例では,前医で術中の出血量が多く,リンパ.胞と診断された病変部の完全切除が困難であったことや,初診時に出血性リンパ管拡張症が確認され,眼瞼縁にも脈管異常がみられたことから,左眼の周囲組織に広範囲の脈管異常を伴う可能性が考えられ,精査を行うことで,脈管異常が眼窩内と頭蓋内にも証明できた.結膜リンパ管拡張症や結膜リンパ.胞は,日常診療でしばしば遭遇する結膜病変であるが,その病変が結膜にとどまらない可能性も考え,とくに,出血性結膜リンパ管拡張症の患者では,眼表面のみならず,眼瞼を含めた眼付属器をくまなく観察し,異常がみられた場合は,他の脈管異常の有無や範囲を検索したうえで治療を決定することが重要と考えられた.文献1)WelchCJ,CSrinivasanCS,CLyallCDCetal:ConjunctivalClym-phangiectasia:aCreportCofC11CcasesCandCreviewCofClitera-ture.SurvOphthalmolC57:136-148,C20122)WatanabeCA,CYokoiCN,CKinoshitaS:ClinicopathologicCstudyofconjunctivochalasis.CorneaC23:294-298,C20043)LeberT:LymphangiectasiaChaemorrhagicaCconjunctivae.CGraefesArchOphthalmolC26:197-201,C18804)KyprianouCI,CNessimCM,CKumarCVCetal:ACcaseCofClym-phangiectasiaChaemorrhagicaCconjunctivaeCfollowingCphacoemulsi.cation.ActaOphthalmolScandC82:627-628,C20045)AwdryP:Lymphangiectasiahaemorrhagicaconjunctivae.BrJOphthalmolC53:274-278,C19696)HuervaCV,CTravesetCAE,CAscasoCFJCetal:SpontaneousCresolutionofararecaseofcircumferentiallymphangiecta-siahaemorrhagicaconjunctivae.Eye(Lond)28:912-914,C20147)LochheadJ,BenjaminL:Lymphangiectasiahaemorrhagi-caconjunctivae.Eye(Lond)C12(Pt4):627-629,C1998***

基礎研究コラム:55.眼とリンパ管

2021年12月31日 金曜日

眼とリンパ管リンパ管の歴史ヒトのリンパ系は間質液や蛋白質を含む高分子を除去したり,免疫細胞をリンパ節に輸送したりと,体液の恒常性にとって重要な役割を担っています.日本におけるリンパ管研究は杉田玄白の『解体新書』(1774年)に始まりますが,血液と異なり,無色透明なリンパ液は長年研究が進んできませんでした.近年,リンパ管内皮細胞マーカーであるCpodo-planinやClymphaticCvesselCendothelialChyaluronanCrecep-tor-1(Lyve1)の発見によりリンパ管研究は大きく発展しました.リンパ管はほとんどの臓器に存在しますが,中枢神経系,骨髄,軟骨,角膜,表皮などの無血管組織では存在が否定されてきました.しかし,長年存在が否定されてきた中枢神経系である脳において,硬膜静脈洞を覆う機能的リンパ管の存在が明らかとなりました1).眼の領域ではどうでしょうか眼球においては,正常時の結膜や視神経で存在が確認されています.一方,虹彩や線維柱帯,Schlemm管,毛様体,網膜,脈絡膜では,リンパ管構造が確認されたという報告と確認できなかったという矛盾した報告があります.一般にリンパ管形成は血管形成と同様に胎児期に生じ,静脈系の血管から分離することが知られています.また,癌や炎症などの病的状態では,血管新生に続いてリンパ管新生が生じること,二次的なリンパ管新生には血管新生にも重要なCvascularendothelialCgrothfactor(VEGF)-A,-Cが関与していることが知られており2),結膜と角膜では二次的なリンパ管新生が生じることが明らかとなっています.では慢性炎症性疾患である糖尿病網膜症ではどうでしょうか?糖尿病黄斑浮腫における間質液の貯留や,増殖糖尿病網膜症における網膜血管新生の発症にCVEGF-Aが関与していることは周知の事実ですが,網膜における二次的なリンパ管新生については十分に検討されてきませんでした.そこで糖尿病モデルマウスを用いて検討を行い,網膜の遺伝子発現図1糖尿病モデルマウス(12月齢)Lyve-1陽性細胞(赤)がCCD31陽性血管構造(緑)を被覆するように存在している.和田伊織九州大学大学院医学研究院眼科学分野,DohenyEyeInstitute,UCLAを調べたところ,VEGF-A,-Cのみならず,podoplanin,Lyve1,リンパ管内皮細胞の制御遺伝子であるCProx1の有意な発現を認めましたが(p<0.05),明らかなリンパ管様構造は認めませんでした3).しかし,老齢のマウスではCLyve1陽性細胞が血管周囲を被覆するように存在していました(図1).最近の研究では,Lyve-1陽性細胞がリンパ管の代わりに網膜のホメホスタシスを維持している可能性が示唆されています.今後の展望糖尿病網膜症の硝子体組成に関する研究は進んできた一方,病態の背景にある炎症,創傷治癒,血管新生については依然として不明な点が多く存在します.リンパ管新生のメカニズムを理解することは,疾患の新規治療戦略のために重要です.また最近の研究では,増殖糖尿病網膜症患者の線維血管組織をCexvivo培養すると,リンパ管内皮細胞の構造をもつProx1陽性毛細血管を形成することが示されました4).ある一定の条件下では網膜にリンパ管構造が形成されることを示唆しており,今後のさらなる検討が待たれます.文献1)LouveauCA,CSmirnovCI,CKeyesCTJCetal:StructuralCandCfunctionalCfeaturesCofCcentralCnervousCsystemClymphaticCvessels.NatureC523:337-341,C20152)LimCHY,CLimCSY,CTanCCKCetal:HyaluronanCreceptorCLYVE-1-expressingCmacrophagesCmaintainCarterialCtoneCthroughChyaluronan-mediatedCregulationCofCsmoothCmus-clecellcollagen.ImmunityC49:1191,C20183)WadaCI,CNakaoCS,CYamaguchiCMCetal:RetinalCVEGF-ACoverexpressionisnotsufficienttoinducelymphangiogene-sisCregardlessCVEGF-CCupregulationCandCLyve1+Cmacro-phageinfiltration.InvestOphthalmolVisSciC62:17,C20214)GucciardoCE,CLoukovaaraCS,CKorhonenCACetal:TheCmicroenvironmentCofCproliferativeCdiabeticCretinopathyCsupportslymphaticneovascularization.JPatholC245:172-185,C2018C(123)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14870910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:223.硝子体手術における空気液置換時の網膜下空気迷入(初級編)

2021年12月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載223223硝子体手術における空気液置換時の網膜下空気迷入(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに裂孔原性網膜.離の手術に際して,大きな裂孔を有する眼では,網膜下に気体迷入が生じることはよく知られているが,硝子体手術中に気圧伸展網膜復位術を施行し,再度空気液置換を行ったときに,小さなバブルが網膜下に迷入することがある.●症例提示56歳,女性.左眼の裂孔原性硝子体出血で発症.出血を避けて上鼻側やや深部の大きな裂孔,およびそれに続く網膜格子状変性巣周囲に光凝固を施行したが,凝固斑を越えて網膜.離が急速に拡大してきた.手術はまず超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を施行したのち,コア硝子体を切除した.後部硝子体.離はすでに生じており,網膜格子状変性巣および裂孔周囲の硝子体をできるだけ切除した.その後,気圧伸展網膜復位術を施行したが,網膜下液が後極にシフトしたため,灌流液に戻した.このときに灌流液が勢いよく注入されたため,細かいバブルが多数発生し(図1),一部が網膜下に迷入した.バックフラッシュニードルで裂孔を介して吸引除去した(図2)が,バブルが一部最周辺部の網膜下に残存した(図3).裂孔および網膜格子状変性巣周囲に眼内光凝固を施行し手術を終了したが,術後ガスの減少とともに周辺部から再.離をきたしたため,液空気置換と光凝固を追加し復位を得た.●液置換時の網膜下空気迷入網膜.離を気圧伸展網膜復位術でいったん復位させ,再度空気液置換を施行する際に,水流によってバブルが生じ,それが裂孔を介して網膜下に迷入することがある.とくに本提示例のように裂孔が比較的大きく,やや後極に位置する場合はこのような合併症が生じやすい.バブルが少量であればそのまま自然吸収するが,量が多(121)0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1術中所見(1)灌流液が勢いよく注入されたため,多数のバブルが生じた.図2術中所見(2)網膜下に迷入した細かいバブルをバックフラッシュニードルで吸引除去した.図3術中所見(3)強膜圧迫をして眼底周辺部を観察すると,眼底最周辺部に移動したバブルが認められた().術後,網膜を挙上して裂孔閉鎖不全の原因になったものと考えられた.いと術後の網膜復位の妨げとなり,裂孔閉鎖不全の原因となることがある.本合併を回避するためには,灌流液を再注入する際に,バブルが生じにくいようにゆっくりと空気液置換を行うことが必要である.また,いったん気圧伸展網膜復位術で復位させたあとは,不必要に灌流液に戻すことは極力避けるべきと考えられる.あたらしい眼科Vol.38,No.12,20211485

抗VEGF治療:光干渉断層血管撮影の加齢黄斑変性における活用法

2021年12月31日 金曜日

●連載114監修=安川力髙橋寛二94光干渉断層血管撮影の加齢黄斑変性山本学大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学における活用法光干渉断層血管撮影(OCTA)は無侵襲に網脈絡膜の血流を検出できる検査で,滲出型加齢黄斑変性(AMD)でも,数多くの検討がなされ有用性が報告されている.本稿では,AMDの診断や治療におけるCOCTAの活用法について紹介する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)の治療において重要な点は,AMDの診断と治療後の活動性評価の二つである.これまで,AMDの主要な検査はカラー眼底写真,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA)・インドシアニングリーン蛍光造影(indocyanineCgreenangiography:IA),光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)によるマルチモーダルな評価が一般的であったが,最近では光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)も加えた見解が確立しつつある.CAMDの診断AMDの診断では,典型CAMDとしての脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)としてのポリープ状病巣や異常血管網,網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousCproliferation:RAP)としての網膜C-網膜血管吻合(retinalCretinalCanastomo-sis:RRA),網膜-脈絡膜血管吻合(retinalCchoroidal図11型脈絡膜新生血管アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法の治療後.治療3カ月後で網膜内・網膜下液は消失し,CNVも縮小している.治療C8カ月後ではCOCTで明らかな変化はみられないが,OCTAではCCNVが発達している.anastomosis:RCA)を検出し,分類する必要がある.CNVの検出率はCFA,IA,OCTAで有意差がなかったとされる1).また,造影検査では蛍光漏出があるのに対しCOCTAでは血管構造のみを深さ情報を含めて抽出できるため,CNVの詳細な状態をもっとも検出しやすい検査であるとも考えられる(図1左).PCVでは,ポリープ状病巣の検出率は報告により違いがあるが,IAが高くCOCTAが低い2).これはポリープ内の血流は他の血管病変に比較し少ないことや,ポリープの存在部位の深さが一定でないことなどが関与していると考えられている.各COCTAの検出機器に備わっている自動層別解析に反映されにくい点も大きく,手動で層別解析を行うことで検出できる場合ある.一方,異常血管網はCNVと同様にCOCTAでも明瞭に描出されることが多く,IAと同等に評価できる(図2上段).RAPでは,RRAやCRCAはCCNVと同じく血管病変であり,血流も豊富であるのでCOCTAで検出しやすい3).ただし,高い網膜色素上皮.離や網膜内浮腫,出血は,しばしばOCTA上ではアーチファクトとしてCRRAやCRCAの検出を妨げたり,病変の深さを誤認したりする要因となるので注意を要する.CNVの特殊な型として,最近提唱(119)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14830910-1810/21/\100/頁/JCOPY治療前治療3カ月後図2ポリープ状脈絡膜血管症アフリベルセプト硝子体内注射併用光線力学的療法の治療後.治療前はCOCTAで異常血管網が検出されているが,ポリープはループ状血管陰影として認める.治療C3カ月後では,ポリープは消失し,ポリープに連なる栄養血管の退縮もみられる.されているCpachychoroidneovasculopathy(PNV)も重要である.中心性漿液性脈絡網膜症との鑑別が必要となるが,OCTAでCCNVの存在を確認できれば,PNVと診断できる.CAMDの治療後評価造影剤を使用するCFA・IAは治療後に頻回に施行するのはむずかしいが,OCTやCOCTAは無侵襲であるため,毎回の診療ごとに評価も可能である.FluidCStudyにみられるように4),最近では活動性評価にCOCTを用いることが多くなったが,あくまで網膜内外に存在する浸出液の有無による間接的な評価である.それでもかなり十分な活動性評価ができるようになっているが,これにCOCTAを組み合わせることで,さらに詳細かつ正確に評価できるようになる.治療後の活動性評価のポイントは,治療後早期(導入期)と慢性期(維持期)で異なる.先にCCNVの検出率について述べたが,定期的にCNVの変化をとらえるにはCOCTAが最適である.OCTで浸出液がみられない場合などでは,造影検査ははばかられるが,OCTAであれば簡便に評価ができる.導入期では,治療前にみられた滲出性病変がしっかりと落ち着いていることを確認する.OCTでは網膜内・網膜下液や網膜色素上皮.離の減少・消失がみられ,OCTAではCCNVの退縮を認める(図1中央).PCVでは,OCTAはポリープ状病巣の検出率が悪いため診断には不適であるが,治療後の評価にはCOCTAも活用できる.導入期治療でポリープの閉塞が得られた場合,ポリープの栄養血管を含む異常血管網の退縮もみられる(図2下段).維持期では,CNVの活動性の再燃をいち早く検出することが肝要である.頻繁な造影は避けるべC1484あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021く,現在,治療評価の主流はCOCTによる滲出液の所見になっているが,活動性消失時のCOCTAをベースラインとすることにより,維持期の悪化をCOCT単独よりつかみやすくなる.臨床的には,FA・IAやCOCTで活動性がみられなくても,OCTAでCCNVの拡大がみられることがあり,病態や活動性に関して新たな解釈を必要とする場合がある(図1右).最近のメタアナリシスでは,病型にかかわらず,OCTAによるCCNVの活動性の評価はCFAと同等かそれ以上であり,高い診断価値があるとされている5).今後このような活用方法が確立されてくれば,さらに病態に即したCAMDの治療が望めるものと思われる.文献1)野崎美穂,園田祥三,丸子一朗ほか:網脈絡膜疾患における光干渉断層血管撮影と蛍光眼底造影との有用性の比較.臨眼71:651-659,C20172)TanakaCK,CMoriCR,CKawamuraCACetal:ComparisonCofCOCTCangiographyCandCindocyanineCgreenCangiographicC.ndingsCwithCsubtypesCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopa-thy.BrCJOphthalmol101:51-55,C20173)TanAC,DansinganiKK,YannuzziLAetal:Type3neo-vascularizationCimagedCwithCcross-sectionalCandCenfaceCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CRetinaC371:C234-246,C20174)GuymerRH,MarkeyCM,McAllisterILetal:Toleratingsubretinal.uidinneovascularage-relatedmaculardegen-erationCtreatedCwithCranibizumabCusingCaCtreat-and-extendregimen:FLUIDCStudyC24-monthCresults.COph-thalmologyC126:722-734,C20195)WangM,GaoS,ZhangYetal:Sensitivityandspeci.cityofopticalcoherencetomographyangiographyinthediag-nosisCofCactiveCchoroidalneovascularization:aCsystematicCreviewCandmeta-analysis:GraefesCArchCClinCExpCOph-thalmol,C2021.Cdoi:10.1007/s00417-021-05239-4(120)