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硝子体手術のワンポイントアドバイス:255.LASIK既往眼に対する硝子体手術時の注意点(中級編)

2024年8月31日 土曜日

255LASIK既往眼に対する硝子体手術時の注意点(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにLASIK(laserinsitukeratomileusis)既往眼に硝子体手術を施行する際の術中合併症としては,角膜フラップの偏位や離解などが報告されている1)が,角膜混濁が生じて眼底の視認性に支障をきたすこともある.C●症例提示39歳,男性.左眼の裂孔原性網膜.離で過去にC2回強膜バックリング手術を受けたが,再.離をきたしたため,バックルの置き直しと超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,硝子体手術を施行した.後部硝子体は未.離でトリアムシノロン塗布後に後極から周辺に向けて人工的後部硝子体.離を作製した(図1).その後,強膜を圧迫しながら周辺部の硝子体を切除したが,その頃から角膜混濁(角膜上皮浮腫+角膜フラップと実質間の層間の混濁)が出現し,眼底の視認性が低下した(図2).そのまま気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,輪状締結術,シリコーンオイルタンポナーデはなんとか施行可能であった.C●LASIK既往眼における硝子体手術中の角膜混濁武田らはCLASIK既往眼に生じた外傷性網膜.離例に対して硝子体手術を施行したところ角膜上皮浮腫をきたし,角膜上皮擦過時に角膜フラップの離解をきたしたC1例を報告している2).神前らは強膜バックリング手術と硝子体手術を施行した両眼性の網膜.離例において,術後経過中に角膜フラップのびまん性浮腫と層間の混濁がみられたC1例を報告している3).Chaudhryらは強膜裂傷・眼内異物に対する硝子体手術中に,早期より角膜上(105)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1術中所見(1)人工的後部硝子体.離作製時にはまだ角膜は透明性を維持しており(a),眼底の視認性は良好であった(b).図2術中所見(2)強膜を圧迫しながら周辺部硝子体切除を施行した頃から角膜混濁(角膜上皮浮腫+角膜フラップと実質間の層間の混濁)が出現し(a),眼底の視認性が低下した(b).皮浮腫による視認性低下が生じ,上皮擦過を施行したところフラップが離解した症例を報告している4).LASIK既往眼では,硝子体手術時に角膜になんらかのストレスが加わる場合に角膜上皮浮腫や層間混濁の生じる頻度が高くなる可能性があり,術中は角膜にできるだけ侵襲を加えないことが重要である.また,上皮擦過を余儀なくされる場合には,フラップにストレスを加えないように必要最小限の擦過に留めるなどの配慮が必要である.文献1)SakuraiE,OkudaM,NozakiMetal:Late-onsetlaserinsitukeratomileusis(LASIK).apdehiscenceduringretinaldetachmentCsurgery.CAmCJCOphthalmolC134:265-266,C20022)武田憲夫,八代成子,上村敦子ほか:硝子体手術時におけるCLaserCInCSituKeratomileusis術後眼の問題点.眼科手術C18:583-585,C20053)神前賢一,佐野雄太,戸田和重ほか:LaserCinCsituCker-atomileusis施行眼に発症した両眼網膜.離の検討.日眼会誌108:566-571,C20044)ChaudhryCNA,CSmiddyWE:DisplacementCofCcornealCcapCduringCvitrectomyCinCaCpost-LASIKCeye.CRetinaC18:554-555,C1998あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024977

考える手術:32.開放性眼外傷の手術

2024年8月31日 土曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅開放性眼外傷の手術橋田正継町田病院鈍的眼外傷は救急眼科外来でしばしば遭遇する疾患で,その外的圧力の状況によってさまざまな程度の損傷をきたす.眼球壁に損傷を伴う場合は開放性眼外傷と分類され,Kuhnら1)によって細分されている.本稿では強膜裂傷に絞って治療戦略を述べる.まず,損傷のレベルを確認する際に強膜裂傷が細隙灯顕微鏡で確認できなくても,深い前房,低眼圧や出血性結膜浮腫,顕著な硝子体出血などが認められる場合は強膜裂傷を起こしている可能性が高いので,超音波,CT,MRIなどの画像診断によって眼球の形態や網膜硝子体の状態を把握する.強力予後の向上につながる.強膜裂傷には硝子体出血が必発であるので硝子体手術も併施するが,同時に行うか後日に行うかは治療施設の方針による.強膜裂傷はほとんどの場合で網膜裂孔を伴い,しばしば網膜.離も合併しているので,液体パーフルオカーボンを用いることが多く,ガスまたはシリコーンオイルでタンポナーデすることになる.術後に房水産生が低下すると眼球癆に至る可能性が高くなるので,毛様体を牽引する硝子体をなるべく残さないように周辺処理を丁寧に行う.近年発達している広角観察系やシャンデリア照明を用いて良好な術野を保つことが肝要だが,前眼部の状態が不良であるとheadsupシステムの有効性が十分活用できないことがある.内視鏡操作に慣れている術者はその利点を活用して経瞳孔的に観察困難な部位の硝子体処理を行う.これらの治療を完遂しても網膜前膜が続発することが多いので,二期的な対応をとることも念頭におく必要がある.聞き手:外傷患者が受診した際に,眼瞼腫脹があり診察みて,測定が不能であればその事実を記録するようにしが困難な場合は,どのように診断をすればよいでしょうます.小児では正確な情報が得られないこともあるのか.で,受傷時に周囲にいた人から情報を集めて眼内異物の橋田:外傷がどういう経緯で発生したかを診療録に残す有無も予想しながら画像診断を行います.画像診断とし必要があります.後で訴訟になった際には第三者行為でて超音波検査は角膜裂傷がない場合に用います.眼球破受傷したのか,初診時の視力,眼圧が争点になる可能性裂が疑われる際には眼瞼上から侵襲を最小限に,短時間があるので,開瞼が困難でも手動弁や光覚弁以上の視力で行うようにします.工事現場などでの爆発では,眼窩があったかどうか,眼圧測定は最小限の侵襲で測定を試内や眼内に異物が残っている可能性があります.CTは(103)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C9750910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術眼内異物が疑われる場合に用いますが,ガラスやプラスチックおよび木片の検出能はやや劣ります.小児の場合は被曝線量のリスクを勘案して撮影を検討します.MRIは軟部組織の描写に優れているので,磁性異物がなければ,眼内のみならず眼窩内の状態を評価するためにとても有用です.聞き手:手術は緊急となると思いますが,麻酔はどのようにするとよいでしょう.橋田:一般に全身麻酔のほうが患者側も術者側もゆとりをもって治療が可能です.通常のバックル手術も全身麻酔で行う施設もありますので,それぞれの施設の方針によって決定します.全身麻酔が容易にかけられないクリニックでは局所麻酔で試みることになります.私はこれまですべて局所麻酔で対応してきましたが,その場合は眼内組織をなるべく脱出させないために硝子体圧を上昇させない工夫が必要で,結膜に麻酔薬を浸潤させて強膜を露出しながら最小限の後部CTenon.下麻酔を行います.前房水を穿刺して適宜眼圧を下げることも併用します.聞き手:強膜裂傷がどの象限に起こっているかわからないことがありますが,創部を探す際のコツなどはありますか.橋田:筋肉の付着部は好発部位です.過去に内眼手術を受けたことがある場合には切開創付近が破裂していることも多いので,そのつもりで結膜を.離していきます.高橋らの報告2)によれば強膜裂傷は主に上半分の象限に好発していて,私もほとんど耳上側に裂傷を発見してきました.聞き手:縫合が困難な深い強膜裂傷はどうすればよいでしょうか.橋田:赤道部より深い部位の縫合は強膜をより圧排する必要があり,眼内の組織に対する侵襲が強くなります.縫合が困難な深部創は縫合せず,組織が瘢痕化するのを待って硝子体手術を二期的に行うべきです.聞き手:強膜縫合後は硝子体手術を同時に行うのか二期的に行うのか,どちらがよいでしょうか.橋田:強膜縫合と同時に一期的に硝子体手術を行うほうが網膜.離の治療が速やかに行えるというメリットがありますし,術後に増殖硝子体網膜症の発生率が低いという報告3)もあります.しかし,受傷後すぐに硝子体手術を行う際には出血がなかなか止まらないことがあり,術C976あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024野の視認性を保ち止血するために空気置換下で操作するなどの工夫が必要です.網膜下出血が多いと血腫の除去に大きな網膜切開が必要になりますが,二期的な硝子体出血では液体パーフルオカーボン(PFCL)で圧排して小さな裂孔から除去できることがあります.一期的に行う場合にはトータルの手術時間が長くなるので,全身麻酔下で行うほうがよいでしょう.二期的に行う場合は硝子体手術までに眼内の状況を確認する時間的なゆとりがあることと,角膜など前眼部の状態が改善したり,眼内の出血が止まっていることも期待できるメリットがあります.また,上脈絡膜出血を排除するならC2週間ほど溶血するのを待つと排除が容易になります.聞き手:シリコーンオイルの取り扱いについて注意点はありますか.橋田:強膜破裂をきたした外傷例では硝子体手術時にシリコーンオイルをタンポナーデすることが多くなります.上脈絡膜出血がある場合はC3,4週間後にこの隆起が平坦化してきますので,オイルが相対的に足りなくなってタンポナーデ効果が減弱します.この頃に周辺に残存した硝子体の悪影響が顕性化することもありますので,抜去や必要に応じた追加処理を検討する時期になります.低眼圧が続く場合や視力改善が期待できないケースではオイル抜去をしないことがありますが,永続的に留置する場合には,患者にこのオイルがごくまれに脳室に流れ出る可能性を説明しておきます.とくに高眼圧になった場合に合併するようで,過去の報告4)では薬物療法でコントロールが可能な程度の頭痛を起こすとされていて,腹腔脳室シャントまで必要になったケースはまれです.偶然CMRIを撮影して脳室に流出したオイル滴が発見されるケースもありますので,そのような可能性をあらかじめ説明しておくとトラブルの予防になるでしょう.文献1)KuhnF,MorrisR,WitherspoonCDetal:Astandardizedclassi.cationCofCocularCtrauma.COpthalmologyC103:240-243,C19962)高橋光生,勝田聡,横井匡彦ほか:手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績.あたらしい眼科C33:313-318,C20163)HanL,JiaJ,FanYetal:Thevitrectomytimingindividu-alizationCsystemCforCoculartrauma(VTISOT)C.CSciCRepC30:12612,C20194)CaoJL,BrowneAW,Cli.ordTetal:IntravitrealsiliconeoilCmigrationCintoCtheClateralCcerebralCventricles.CJCVitreo-retinDisC3:466-473,C2019(104)

抗VEGF治療セミナー:ラニビズマブとラニビズマブBSの利点

2024年8月31日 土曜日

●連載◯146監修=安川力五味文126ラニビズマブとラニビズマブBSの利点若月優日本大学病院眼科2021年に眼科領域では初のバイオシミラー(BS)となるラニビズマブCBSが発売された.本稿では先行品であるラニビズマブとラニビズマブCBSの利点,BSの現状,そしてCBSがもたらす未来への期待について加齢黄斑変性を中心に紹介する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)をはじめ,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO),病的近視などに対する抗CVEGF治療は必要不可欠であるが,単回治療で終了することは少なく,多くが複数回の継続治療が必要とされる.抗CVEGF薬は薬剤費が高く患者の経済的負担が問題視されている.2021年にラニビズマブのバイオシミラー(biosimilar:BS)が臨床使用可能となり,薬剤費軽減が期待されている.本稿では先行品であるラニビズマブおよび後続品のラニビズマブCBSの有用性についてCAMDを中心に概説する.ラニビズマブの歴史2009年にラニビズマブ(ルセンティス)がわが国で承認され,AMDに対する治療指針は大きく変わった.それまでのCAMD治療はベルテポルフィンを用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)のみであり,ポリープ状脈絡膜血管症に対して短期では視力の維持の効果が得られたが1),それ以外のCAMDへの予後改善効果は限定的であった.ラニビズマブの登場により治療前の視力が維持・改善できるようになり,PDTからラニビズマブ硝子体内注射へと治療の第一選択が変わった.その後もいくつかの大規模試験でラニビズマブの有用性が示され,AMDのみならずさまざまな疾患で治療の選択肢となっている.ラニビズマブの利点現在わが国で使用できるのはラニビズマブ,アフリベルセプト,ブロルシズマブ,ファリシマブ,ラニビズマブCBSである.創薬構造が異なるため一長一短があるが,患者背景や病態に合わせた治療が可能となった.ラニビズマブの有用性は既知であるが,その利点としては毎月投与ができ,全身リスクが少ないことである2).(101)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYMacularneovasculopathy(MNV)の滲出を完全に抑えるだけでなく,いかに治療間隔を延ばせるかという目的から作用期間の長い薬剤が出てきた一方,導入期以降に毎月投与が可能な薬剤はアフリベルセプトとラニビズマブのみである.毎月投与は費用面では欠点になりえるが,treatandextend治療において細かい調整ができることはメリットともいえる.抗CVEGF治療では眼局所の合併症はもちろん,血中VEGF濃度減少による全身への影響も懸念される.抗VEGF薬の脳心血管イベント発生率に関してはさまざまな報告があり,メタアナリシス3)の解析や保険データの解析4)では抗CVEGF薬の種類による発生率に差はないと報告されている.しかし,投与後のCVEGFの血中濃度を比較した解析では,ラニビズマブがアフリベルセプトより注射後の血中CVEGF濃度が早く回復したことが示され2),全身リスクの観点においてはラニビズマブが現存の抗CVEGF薬の中で有利な可能性がある.BSとジェネリック医薬品の違いBSはジェネリック医薬品(以下CGE薬)と同様に後発医薬品ではあるが,先発品と同一分子ではないという違いがある.GE薬は低分子医薬品のため先発品と同一の分子構造を合成できるが,BSはその構造の複雑性から先発品と同一の分子合成は困難であり,医薬品として承認使用されるためには,非臨床試験をクリアし,臨床試験でも先行品との安全性,有効性の比較検証が必要である5).それゆえ薬価は先行品の約C7割(GEは約半額)と高めだが,複数回の治療を考えると金銭的負担の軽減は大きな利点である.またC2024年の診療報酬改定でCBSの使用促進に向けバイオ後続品使用体制加算が盛り込まれ,今夏には使用による点数加算も見込まれている.経済的負担の軽減わが国の眼科医療費に占める抗CVEGF薬の割合は年々増加しており,今後も団塊世代の高齢化によるあたらしい眼科Vol.41,No.8,2024973表12024年4月1日現在わが国で承認されている抗VEGF薬とそれぞれの薬剤料,おおよその患者負担額薬剤料手技料3割負担*2割負担*1割負担*アフリベルセプト(アイリーア)13,729点580点42,930円18,000円14,310円ラニビスマブ(ルセンティス)10,323点580点32,710円18,000円10,900円ブロルシズマブ(ベオビュ)13,095点580点41,030円18,000円13,680円ファリシマブ(バビースモ)16,389点580点50,910円18,000円16,970円ラニビズマブ(ラニビスマブBS)7,428点580点C24,020円16,020円8,010円*手技料を含んだおおよその自己負担額.AMD罹患率,重症率の上昇に伴う抗CVEGF薬のさらなる市場規模拡大も予測される.また,患者が金銭的理由で治療を自己中断し,視力予後が悪化するケースもあり,経済的負担軽減は大きな課題である.滲出型CAMDにおいてラニビズマブ治療群(治療群)と,積極的に治療せず医学的管理と経過観察のみ(bestCsupportivecare:BSC)群との費用対効果の分析研究6)では,最初は治療群の治療コストのほうが高いものの,長期的には失明に関連した費用コストによりCBSC群のほうが費用が高く,他の抗CVEGF治療薬でも同様であった7).このように抗CVEGF治療は費用面においても長期的には有用である一方,注射を自己中断した患者の半数以上は金銭的負担を理由にあげている8).現在ラニビズマブCBSの適応疾患はAMD,近視性脈絡膜新生血管,糖尿病網膜症,RVOと多岐にわたり,とくに近視やRVOなど若年のC3割負担における費用負担の減少は大きく(表1),ラニビズマブCBSによる治療費削減は患者の治療機会の増加につながり,視力予後向上が期待される.BSの臨床試験現在のところ,日本で行われたラニビズマブCBSの大規模臨床試験は,AMDを対象とした第Ⅲ相比較臨床試験のみである.ナイーブな滲出型CAMDに対してラニビズマブまたはラニビズマブCBSを無作為に,導入C4週ごと(計C3回),12週以降は全被験者にラニビズマブCBSを必要時投与し,52週までのラニビズマブCBS継続投与群およびラニビズマブからの切替え群における有効性・安全性を評価した(PRN期).その結果,比較期における最良矯正視力(bestCcor-rectedCvisualacuity:BCVA)変化量の両群差はC.1.5文字,95%信頼区間は同等性許容域内と同等性が確認され,中心窩網膜厚とCMNV病変面積の変化量,dryretina達成率も両群で同程度であった.PRN期では両群でCBCVA実測値,変化量は経時的に増加し,中心窩網膜厚とCMNV病変面積の変化量,dryretina達成率は,C974あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024ラニビズマブCBSの長期有効性,有害事象発生率に両群差はなく,長期安全性が示されている.おわりにラニビズマブCBSの有効性と費用負担軽減が期待できることが確認できた.今後ラニビズマブ以外の抗VEGF薬のCBSの発売も期待したい.文献1)TanoY;OphthalmicCPDTStudyCGroup:GuidelinesCforCPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.Ce6,C20082)AveryCRL,CCastellarinCAA,CSteinleCNCCetal:SystemicCpharmacokineticsfollowingintravitrealinjectionsofranibi-zumab,CbevacizumabCorCa.iberceptCinCpatientsCwithCneo-vascularAMD.BrJOphthalmol98:1636-1641,C20143)PlyukhovaCAA,CBudzinskayaCMV,CStarostinCKMCetal:CComparativeCsafetyCofCbevacizumab,Cranibizumab,CandCa.iberceptfortreatmentofneovascularage-relatedmacu-lardegeneration(AMD):ACsystematicCreviewCandCnet-workCmeta-analysisCofCdirectCcomparativeCasudies.CJCClinCMedC9:1522,C20204)MaloneyCMH,CPayneCSR,CHerrinCJCetal:RiskCofCsystemicCadverseeventsafterintravitrealbevacizumab,ranibizum-ab,anda.iberceptinroutineclinicalpractice.Ophthalmol-ogyC128:417-424,C20215)厚生労働省:バイオ医薬品とバイオシミラーの基礎知識.C2020.6)柳靖雄,相原由季子,福田敬ほか:脈絡膜申請血管を伴う加齢黄斑変性に対するラニビズマブ,光線力学療法,ペガプタニブナトリウムの対費用効果解析.日眼会誌C115:825-831,C20117)YanagiCY,CFukudaCA,CBarzeyCVCetal:Cost-e.ectivenessCofintravitreala.iberceptversusothertreatmentsforwetage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapan.CJCMedCEconC20:204-212,C20178)GomiF,ToyodaR,YoonAHetal:Factorsofanti-vascuC-larCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCwithdrawalCinCpatientsCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion:Implicationsforimprovingpatientadherence.JClinMedC10:3106,C2021(102)

緑内障セミナー:光干渉断層計による緑内障スクリーニングの可能性

2024年8月31日 土曜日

●連載◯290監修=福地健郎中野匡290.光干渉断層計による緑内障スクリーニング寺内稜東京慈恵会医科大学眼科学講座の可能性緑内障の早期発見は重要な課題であるが,未だに有効な緑内障スクリーニング法は確立されていない.筆者らは人間ドックで実施される光干渉断層計検査から緑内障多変量予測モデルを開発した.近年は人工知能(AI)を活用した予測モデルの開発にも注目が集まっており,これら診断システムの社会実装によって緑内障への早期治療介入が進むことが期待される.●はじめに緑内障の視野障害は自覚症状に乏しく,不可逆的に進行するが,早期に治療介入することで視機能低下を抑制できる.そのため,眼科検診を活用して早期に緑内障を発見することは重要である.多治見スタディ(2004年)では緑内障の約C90%が未診断であると報告されたが1),16年後のC2020年に実施された調査においても,未診断率はC78%と依然として高いことが示された2).このことから緑内障早期発見・早期治療の課題解決は急務であり,眼科検診を活用した緑内障スクリーニング法の確立が望まれる.本稿では光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて緑内障多変量予測モデルを開発した筆者らの取り組みを紹介する.C●健診へのOCT導入の期待健康診断・人間ドックでは眼科検査として視力・眼圧・眼底画像検査が実施されるが,このうち緑内障判定に用いられるのはおもに眼底画像である.しかし,健診における眼底画像読影は,全国C1万名程度の眼科専門医ではすべてを担当することがむずかしい現状や,眼科読影医を雇用するコストの問題から,健診施設に所属する眼科医以外の医師が読影するケースも少なくない.眼底画像による緑内障判定は読影医ごとに精度が大きくばらつくことが示唆されており3),眼科検診における緑内障スクリーニングは精度の問題を抱えている.近年,測定法の簡便化や測定時間の短縮など,健診の検査環境に適合したCOCTが開発されており(図1),導入する健診施設が増加している.筆者らは有効な緑内障検診の実現に向けてCOCTが重要な役割を果たすと考え,OCTを活用した緑内障多変量予測モデルの開発を試みた.C●OCTによる緑内障スクリーニングの可能性筆者らの研究では4),2016年に人間ドックでCOCT検(99)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1トプコン製Maestro2の外観タッチパネル操作による自動撮影が可能であり,検査時間は左右眼合わせてC1分程度である.健康診断の検査環境に適合しており健診施設への導入が進んでいる.査を受けたC7,572例から緑内障と正常をC284眼ずつランダム選択した症例対象研究により,多重ロジスティック回帰分析を用いて予測モデル(スコア:0.100点)を開発した.次にC2018年にCOCTを施行したC6,006例に対して予測モデルを適用した.この中からランダム選択したC723眼に対してC4名の眼科専門医が緑内障判定を実施しモデルの妥当性検証を行った.さらにC2020年,データのうちC66例C129眼に対してCOCT検査・Hum-phrey視野検査を用いた緑内障診断を実施したうえで,モデルの精度検証を追加した.その結果,もっとも予測性能が高いモデルはCAUC-ROC0.97(95%信頼区間C0.96.0.98,感度C0.93,特異度C0.91)であった.高リスクスコア群(90点以上:集団のC6.2%が該当)で陽性的中度がC90.8%,低リスクスコア群(49点以下:集団のC85.2%が該当)で陰性的中度がC88.2%であった.リスクスコアのカットオフ値をC100点中C90点に設定した場合,緑あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024971acSTSSNqSμmTSNS200TNqTqN100TINIITIINqltqluTSNITbSSS01020304050607080910010203040506070809100102030405060708091001010102020203SNST0303SNySTy0404SNxSTx04050505NTNTNT0606060707INxITx07INyITy08INIT0808090909101010IIIModel1Model2Model3図2緑内障多変量予測モデルの開発におけるパラメータ構築OCT検査によって取得される網膜厚情報(Ca:視神経乳頭周囲,b:黄斑部)を統合し独自のパラメータを作成した.TSNITplotではCdoublehumpの上下差に着目した(Cc).内障診断の感度はC0.85,特異度はC0.91であった.た緑内障判定モデルの作成や,複数検査を組み合わせた本研究ではCOCTから取得される網膜厚パタメータのアルゴリズムの再構築が有効かもしれない.現在,本モ構築に工夫を加えている.視神経乳頭周囲と黄斑部の網デルはトプコン製COCTに試験実装されており,社会実膜厚情報はエリアを細分化せずに統合することで予測モ装に向けた取り組みを進めていく予定である.デルの精度が向上した(図2a,b).また,TSNITCplotにおけるCdoublehumpの上下差に注目することが更な文献る精度向上に有益であった(図2c).OCTを用いた緑内1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-障判定モデルの研究として,Brusiniは5),視神経乳頭CmaryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimi周囲網膜神経線維層厚の上下差に注目し高精度なモデルCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C2004を作製しており,筆者らの知見と矛盾しない.2)YamadaCM,CHiratsukaCY,CNakanoCTCetal:DetectionCofCglaucomaCandCotherCvision-threateningCocularCdiseasesCinC●課題と展望theCpopulationCrecruitedCatCspeci.cChealthCcheckupsCinCJapan.ClinEpidemiolC12:1381-1388,C2020緑内障スクリーニング法の確立は眼科領域における重3)Wada-KoikeCC,CTerauchiCR,CFukaiCKCetal:Comparative要課題であり,緑内障診断の試みはこれまでにも盛んにCevaluationCofCfundusCimageCinterpretationCaccuracyCinCglaucomaCscreeningCamongCdi.erentCphysicianCgroups.行われてきた.近年はCAIを用いた緑内障診断にも注目CClinOphthalmolC18:583-589,C2024が集まり,眼底画像CAIは良好な診断能力を示してい4)FukaiCK,CTerauchiCR,CNoroCTCetal:Real-timeCriskCscoreる6).本研究はこれらCAIモデルと同等の精度を達成しCforCglaucomaCmassCscreeningCbyCspectralCdomainCopticalているものの,いくつかの課題を残している.近視眼はCcoherencetomography:DevelopmentCandCvalidation.リスクスコアが低く算出される傾向にあり偽陰性例が生CTranslVisSciTechnolC11:8,C20225)BrusiniP:OCTGlaucomaStagingSystem:anewmeth-じるため,モデルの判定精度を低下させる要因となっCodforretinalnerve.berlayerdamageclassi.cationusingた.また,OCT検査でしばしば認められる中間透光体spectral-domainOCT.Eye(Lond)C32:113-119,C2018混濁による信号強度低下や固視不良による撮像不良例は6)LiZ,HeY,KeelSetal:E.cacyofadeeplearningsys-temCforCdetectingCglaucomatousCopticCneuropathyCbased除外しため,実臨床での診断精度は低下すると推測されConCcolorCfundusCphotographs.COphthalmologyC125:1199-る.これらの課題を克服するためには,近視眼に特化しC1206,C2018C972あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024(100)

屈折矯正手術セミナー:レーシック後の白内障手術アップデート

2024年8月31日 土曜日

●連載◯291監修=稗田牧神谷和孝291.レーシック後の白内障手術アップデート神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学レーシック後の白内障手術は眼内レンズ(IOL)度数計算の予測性が低いことが知られているが,最新のCIOL度数計算式は精度がかなり向上しており,術前データを用いた方法はあまり使用されなくなっている.BarrettTrue-K式が急速に支持を伸ばしており,Haigis-L式やCASCRSによるCPostCRefractiveCIOLCalculatorが追随している.レーシック後の診断を確実に行わないとリフラクティブサプライズを生じやすくなるので,注意が必要である.C●屈折誤差の原因国内におけるレーシック(laserinCsituCkeratomileu-sis:LASIK)手術件数は大幅に減少しているが,それでもなお年間C1万件以上施行されている.LASIK後の白内障手術年齢は通常より約C15歳近く早く1),患者は確実に年齢を重ねていることから,今後白内障手術を受けるCLASIK既往患者に遭遇することは想像にかたくない.わが国では眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算にCSRK-T式やCBarrettCUniversalII式を用いることが多いが2),LASIK後のCIOL度数計算は予測性が低く,通常白内障眼と同様に算出するとリフラクティブサプライズとよばれる大きな屈折誤差(多くは遠視化)を生じやすい.もちろん患者自身が自己申告をすればLASIK後であることの診断は容易であるが,LASIKを手術と考えていない患者や高齢化に伴い認知症を伴う患者においては,手術既往そのものが不明確となることも予想される.LASIK術後のCIOL度数計算における術後屈折誤差の原因を以下にあげる.第一に,角膜屈折力分布が中央で不均一となり,ケラトメータで測定する傍中心部と中央部における角膜屈折力の差が大きくなる.第二に,角膜前後面の屈折力の比率が変化しているにもかかわらず,ケラトメータでは角膜前面のデータのみから角膜全屈折力を推定するため,通常の換算屈折率を用いると角膜屈折力が過大評価される.第三に,フラット化した角膜屈折力から術後前房深度を推定すると,前房深度はほとんど変化しないにもかかわらず,予測前房深度が浅く計算され,遠視化を生じる.第四に,製造過程におけるCIOL度数そのものの誤差があげられる3,4).C●LASIK後のIOL度数計算現在CLASIK後のCIOL度数計算方法は,術前の角膜屈(97)折力を必要とする方法とそうでない方法の二つに分類される.日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)による2023年CClinicalSurvey(複数回答可)によると2),日本ではCBarrettTrue-K式が急速に支持を伸ばし,以下Haigis-L式,米国白内障屈折矯正手術学会(AmericanSocietyCofCColonCandCRectalSurgeons:ASCRS)のPostRefractiveIOLCalculatorと続いており,術前データが不要なものが主流となっている(図1).LASIK後の白内障手術は必ずしも同一施設で行われるとは限らず,長期間経過していると術前データが得られないことも多い.従来,他施設で施行した患者については問い合わせて術前データを取得することが推奨されていたが,最新のCIOL度数計算式は精度がかなり向上しており,術前の角膜屈折力や自覚屈折度数を用いた方法は使用機会が減っている5).現在国内でもっとも頻用されているCBarrettTrue-K式は,厚肉レンズを用いた近軸光線による計算式である6).Gaussの理論眼球モデルに基づいており,計算式の構造の詳細は明かされていないが,眼軸長,ケラトメータ値,前房深度が必要であり,水晶体厚,角膜横径は任意入力となっている.IOL定数は,度数や種類に依存するレンズファクターとよばれる独自の定数を使用している.屈折矯正量を使用する方法もあるが,白内障手術前のデータのみで算出することも可能である.Bar-rettTrue-K式は数多くの生体計測装置に搭載されているが,アジア太平洋白内障屈折手術学会(Asia-Paci.cCAssociationCofCCataractCandCRefractiveSurgeons:APACRS)のウェブサイト(図2)上でも算出できる.Haigis-L式は,術後角膜屈折力,眼軸長,前房深度のデータから算出する方法であり,光学式眼軸長測定装置IOLMaster(CarlCZeissMeditec社)に搭載されている6).術後前房深度の予測に角膜屈折力だけでなく,術前の前房深度も使用している.ASCRSによるCPostあたらしい眼科Vol.41,No.8,20249690910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2APACRSのWeb上にあるBarrettTrueKformulahttps://calc.apacrs.org/Barrett_True_K_Universal_2105/上の中段にあるCMyopicLASIKやCHyperopicLASIKのタグを選択する.80%70%60%50%40%30%20%10%0%73.0%35.8%28.4%11.2%10.211.2%%7.4%5.1%2.2%1.9%おもに用いているIOL度数計算法(複数回答可)図1わが国におけるLASIK後のIOL度数計算式の使用割合JSCRSによるC2023年のアンケート調査結果.BarrettTrue-K式がもっとも多く,以下Haigis-L式,ASCRSによるPostRefractiveIOLCalculatorと続く.(文献C2より改変引用)図3ASCRSによるPostRefractiveIOLCalculator入力可能な項目に応じて推奨CIOL度数の平均値,最小値,最大値が表示される.(https://ascrs.org/tools/post-refractive-iol-calculator)RefractiveIOLCalculatorは,とくに近年精度が向上している.近視・遠視CLASIK後,photorefractiveCkera-tectomy(PRK)後,放射状角膜切開術(radialCleratptp-my:RK)後の白内障手術のCIOL度数計算にも対応している.入力可能な項目に応じてさまざまなCIOL度数計算結果をまとめて,IOL度数の平均値,最小値,最大値C970あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024が表示され,バラつきなども理解しやすい(図3).随時アップデートされており,偏心照射などの特殊な症例を除けば,予測性は向上している.術後トラブルリスクを考慮に入れて唯一学会が推奨している式であることからも,できる限り確認しておくべきであろう.もともとCLASIK後の患者は裸眼視力(とくに遠方視)に対する要求度が高く,屈折誤差に対する許容範囲も狭い.多焦点CIOLを考慮する場合はさらにハードルが上がる.患者に対して十分な説明を行い,場合によってはタッチアップ,IOL交換,ピギーバックCIOLなどの二次的な手術の必要性についても説明しておくことが望ましい.文献1)IijimaCK,CKamiyaCK,CShimizuCKCetal:DemographicsCofCpatientsChavingCcataractCsurgeryCafterClaserCinCsituCker-atomileusis.JCataractRefractSurgC41:334-338,C20152)佐藤正樹,神谷和孝,小島隆司ほか;JSCRSデータ解析委員会:2023CJSCRSCClinicalCSurvey.CIOLC&CRSC37:358-381,C20233)神谷和孝:LASIK眼の眼内レンズの選び方,臨眼C70:C48-57,C20164)神谷和孝:最新の眼内レンズ度数計算,眼科グラフィックC10:142-146,C20215)PantanelliCSM,CLinCCC,CAl-MohtasebCZCetal:IntraocularClenspowercalculationineyeswithpreviousexcimerlasersurgeryformyopia:AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology128:781-792,C20216)WangCL,CTangCM,CHuangCDCetal:ComparisonCofCnewerCintraocularClensCpowerCcalculationCmethodsCforCeyesCafterCcornealCrefractiveCsurgery.COphthalmologyC122:2443-2449,C2015(98)

眼内レンズセミナー:Nd:YAGレーザーで近視化の改善をみた液状後発白内障の前眼部光干渉断層計所見

2024年8月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋447.Nd:YAGレーザーで近視化の改善をみた桶本孟水戸毅液状後発白内障の前眼部光干渉断層計所見金沢医科大学眼科学講座液状後発白内障はCcapsularblocksyndrome(CBS)の晩発型に分類されており,ときに近視化を生じる.近視化を説明しうる眼内レンズの前方移動は通常認めないため,屈折率が異なる液状後発白内障と硝子体腔の間に,新たに凸レンズ状の面屈折が形成されることが,近視化の要因の一つであると考えられる.●はじめに白内障手術および眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術後,IOL後面と水晶体後.の間に乳白色の液状物質が貯留することがあり,液状後発白内障とよぶ.液状後発白内障はCcapsularCblocksyndrome(CBS)の晩発型に分類されており,ときに近視化を生じるとされているが,そのメカニズムはわかっていない.今回,近視化を伴う液状後発白内障に対してCNd:YAGレーザー治療を行ったところ,治療後に近視の改善をみた症例を経験したので,前眼部光干渉断層計(anteriorseg-mentCopticalCcoherencetomography:AS-OCT)にて三次元画像解析を行った1).C●症例62歳,男性.4年前に左眼黄斑上膜に対し硝子体・白内障同時手術を施行.数カ月前から左眼の眼鏡の度数が合わなくなり受診した.左眼はCIOL後面と水晶体後.の間に乳白色の混濁を認めたため,液状後発白内障と診断し,同日CNd:YAGレーザー治療を行い,液状混濁は硝子体腔に拡散した(図1).治療前の左眼視力は0.1(1.2C×sph.7.0D(cly.0.5DAx80°)であったが,治療後はC0.1(1.5C×sph-5.5D(cly.1.0DAx70°)と近視の改善をみた.治療後のCAS-OCTでは凸レンズ形状の液状後発白内障の消失を認めたが,治療前後のCIOLの深さの変化はC0.05Cmm程度にとどまった(図2).C●CapsularblocksyndromeCBSには,白内障手術中の灌流液の過量かつ急速なハイドロダイゼクションなどにより水晶体が前方に移動して高眼圧を生じる術中型,術後C2週間以内に生じる早発型,そして術後平均C3.8年で生じる晩発型(液状後発白内障)がある2.3).早発型は,術後に.内に残存した粘弾性物質や水晶体皮質の存在による浸透圧の関係で,水晶体.内の後方空間に液状物質が貯留し膨化するため浅前房をきたし,近視化や眼圧上昇を認めることがある.図1Nd:YAGレーザー前後の前眼部写真a:治療前.IOL後面と水晶体後.の間に液状後発白内障を認める.Cb:Nd:YAGレーザー治療後.液状混濁は硝子体腔に拡散した.(95)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C9670910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2Nd:YAGレーザー前後の前眼部三次元画像解析治療前のCIOLの深さはC4.553Cmm(水平断)とC4.530Cmm(垂直断)であり,治療後はC4.607Cmm(水平断)とC4.559Cmm(垂直断)となり,約C0.05Cmm程度の後方移動にとどまった.治療前治療後水平断一方で,晩発型も近視化を認めることがあるものの,早発型と異なり一般的に浅前房は認めないとされている.C●液状後発白内障で近視化を生じるメカニズム本症例で観察されたCNd:YAGレーザー治療後のIOLの後方移動量(約C0.05Cmm)だけでは,1.0D以上の屈折の改善を完全に説明することはできない.AS-OCTの画像を見ると,液状後発白内障の形状が後面に凸レンズ状になっており,その曲率半径がCIOL後面の曲率半径よりも小さいことがわかる.さらに液状後発白内障の内容物は,屈折率は不明であるが後方散乱光強度の高い物質であり,硝子体術後の硝子体腔の屈折率よりも高いものと予想される.以上のことより,今回の症例が近視化を伴ったメカニズムとしては,屈折率が異なる液状後発白内障と硝子体腔の間に新たに面屈折が形成されたことが要因の一つであると考えられる.垂直断●おわりに液状後発白内障の近視化はすべての患者で認められるものではなく,複数の要因が複雑に関与している可能性がある.今回の症例のように白内障術後に近視性の屈折変化を認めた場合,液状後発白内障の存在を念頭におく必要がある.文献1)OkemotoCH,CMitoCT,CKawamoritaCTCetal:AnteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCinCcapsularCblockCsyndromeCwithCimprovementCinCmyopiaCfollowingCNeodymium-YttriumCAluminumCGarnetClaserCtreatment.CCaseRepOphthalmolC15:78-83,C20242)MiyakeCK,COtaCI,CIchihashiCSCetal:NewCclassi.cationCofCcapsularCblockCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC24:C1230-1234,C19983)KimHK,ShinJP:Capsularblocksyndromeaftercataractsurgery:clinicalCanalysisCandCclassi.cation.CJCCataractCRefractSurgC34:357-363,C2008

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く オルソケラトロジー(1)

2024年8月31日 土曜日

■オフテクス提供■8.オルソケラトロジー(1)土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C6章はオルソケラトロジーについてである.概要,歴史,フィッティング,眼組織への影響,有効性,安全性,実践,装用者や保護者からの視点,近視抑制,今後の展望など,多岐にわたって解説している.今回はその第C1回として,フィッティングまでを概説する.概要本章1)ではオルソケラトロジー(orthokeratology)はortho-kと略されており,本稿でも踏襲する.Ortho-kはC1950年代にハードコンタクトレンズ(HCL)をフラットに装用した際に,角膜曲率半径が減少すると同時に屈折値の減少をもたらす知見から始まったとされる.現在のCortho-kは,高酸素透過性CHCLの素材で作られ,リバースジオメトリーレンズデザインが採用された特殊レンズを就寝時に装用して角膜前面形状に変化をもたらし,屈折異常を一時的かつ可逆的に矯正する方法として普及した.歴史1962年の専門家会議においてCJessenが「orthofocus」という技術を紹介した.これはポリメタクリル酸メチル樹脂(polymethylCmethacrylate:PMMA)製のCHCLを用いて角膜形状を変化させ,数カ月間の装用により視力矯正を行うもので,のちに「オルソケラトロジー」と名付けられた.1976年,ヒューストン大学のCKernsらによる臨床研究を皮切りに複数の研究者からの報告が相次いだが,その結論はいずれも,ortho-kレンズの終日装用は安全であるが近視の軽減まで時間がかかり,効果は限定的で一時的というものであった.これらの欠点を改良すべく,1980年代後半にCWlodygaとCStoyanが初のリバースジオメトリーデザインのCHCLを開発した.このレンズは中央部分が周辺部分よりも平坦であるため短期間で近視を減少させることができるようになった.さらに,酸素透過性素材の登場により,レンズを就寝時に装用することで,日中の裸眼視力を向上させる方法も開発された.一方,ortho-kの近視抑制効果ついては,1957年にC18時間以上の装用で報告されたのが最初で,(93)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY2005年以降に小児での効果を示唆する結果が多数報告された.フィッティングと評価1.Ortho-kの適応約C4.50Dまでの近視,角膜乱視が約C3.00Dまで,暗所で瞳孔径が約C6.00Cmm未満である.C2.レンズデザイン以下のC4.5個のゾーンが含まれる(図1).①中央後面光学部ゾーン:レンズの中心部分で,角膜の平坦化に関与する.②リバースカーブゾーン:中央後面光学部ゾーンに隣接し,より急なカーブをもち,角膜中央部分の平坦化に関与する.③アライメントカーブゾーン:1またはC2個のカーブがあり,レンズの位置と動きに関与する.④周辺カーブゾーン:レンズ周辺部分で軸方向のエッジリフトに関与する.C3.レンズフィッティングの評価角膜形状を角膜形状解析装置で解析し,カラーマップとして表示可能となった.これにより個別のレンズ設計が可能になった.また,角膜形状変化を定量化できるため,レンズのセンタリングの評価からトラブルシューティングのための方法を見いだせるようになった.以下に良好なフィッティングを得るためのステップを示す.①トライアルレンズの選択と装用:トライアルレンズを一晩装用し,翌朝評価する.②眼の状態の観察:レンズ取りはずし後,角膜の低酸素状態や角膜中央部の染色所見などを評価する.③効果判定:視力検査,屈折検査,角膜形状解析装置によりレンズが適切であるか評価する.あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C965図1オルソケラトロジーレンズの4つのゾーン(自験例装用時のフルオレセイン染色写真)④再評価とレンズの修正:必要に応じてレンズを変更し,再装用後に再評価する.効果判定Ortho-k装用後の効果判定の際に有用な角膜形状解析装置カラーマップにおける代表的なC4パターンを以下にあげる.①「ブルズアイ」パターン:瞳孔領に「ブルズアイ」パターンが現れた場合は,レンズのセンタリングが良好で,角膜中央部の平坦化とその周辺角膜の急峻化をもたらしたことを示す(図2a).②「スマイリーフェイス」パターン:レンズのサジタルハイトが角膜のそれよりも小さい場合に発生し,レンズが上方偏位した際にみられる.この場合,レンズのsagittalheightを増やす必要がある(図2b).③「フラウニーフェイス」パターン:アライメントカーブが急すぎる場合に発生し,レンズが下方偏位した際にみられる.この場合,レンズのCsagittalheightを減らす必要がある.これらレンズのずれは,乱視やアラ図2角膜形状解析装置のカラーマップによるパターン(自験例)イメントカーブが原因で生じることがあり,その修正が必要である(図2c).④「セントラルアイランド」パターン:リバースカーブやアライメントカーブが急すぎる場合に発生し,中央部が急峻化する現象で,レンズのアピカルクリアランスを減らす必要がある(図2d).このようにCortho-kのレンズフィッティングと効果判定には角膜形状解析装置が必須で,個々の患者に最適なフィッティングと治療効果をもたらすために重要である.まとめ近年は角膜乱視矯正用のトーリックオルソケラトロジーデザインレンズもある.以上,ortho-kレンズにはさまざまなデザインがあり,適切なレンズの選択と正確なフィッティングへのプロセスが成功の鍵を握っている.文献1)VincentCSJ,CChoCP,CChanCKYCetal:CLEARC-Orthokera-tology.ContLensAnteriorEye44:240-269,C2021

写真セミナー:睫毛乱生に続発した角膜アミロイドーシス

2024年8月31日 土曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史草野雄貴483.睫毛乱生に続発した角膜アミロイドーシスくまもと森都総合病院眼科図1左眼の初診時所見上方鼻側に1本の睫毛乱生と,同部位付近の角膜に灰白色隆起性病変を認める.図3前房部光干渉断層計による灰白色病変の断面図上皮直下にアミロイドの沈着を認める.実質への沈着は認めない.図4摘出した検体の病理標本角膜上皮直下にコンゴレッド染色陽性を示す橙赤色の沈着物を認める.偏光顕微鏡による観察で沈着物にアップルグリーン色の偏光を認め,アミロイドと判定された.(91)あたらしい眼科Vol.41,No.8,20249630910-1810/24/\100/頁/JCOPYアミロイドーシスとは,アミロイド線維が全身的または局所的に臓器や組織の細胞外に沈着する疾患の総称である.症例は66歳の男性.左眼の痛みを主訴に近医眼科を受診し,角膜混濁に対しレボフロキサシン1.5%点眼,フルオロメトロン0.1%点眼,オフロキサシン眼軟膏を処方されたが,痛みの改善がなく,筆者の病院を紹介受診した.初診時,左眼矯正視力は(0.6×sph-3.00D),眼圧14mmHgであった.左眼の角膜中心下方に隆起性の灰白色病変を認めた.その隆起性病変に接触する,上眼瞼の睫毛乱生を1本認めた(図1~3).同日に左眼の灰白色隆起性病変をゴルフ刀を用いて角膜実質を傷つけないように慎重に切除し,検体を病理検査に提出した.術後は創傷治癒促進と疼痛緩和のため治療用ソフトコンタクトレンズ装用とし,抗菌薬とステロイドの点眼薬を処方した.1週間後に治療用ソフトコンタクトレンズをはずした.角膜は上皮化しており,痛みは改善し矯正視力も(0.8)に改善した.摘出した病理標本からは,コンゴレッド染色で橙赤色を示しアップルグリーン色の偏光を認めるアミロイドが検出された(図4).血管新生や炎症細胞の浸潤は観察されなかった.睫毛乱生に伴う続発性角膜アミロイドーシスと診断し,将来的に睫毛の電気分解を行う予定である.アミロイドーシスでは,異常に折りたたまれた前駆体蛋白質が不安定なポリマーを形成し,アミロイド線維のbシート構造が形成される.bシート構造を結合面として蛋白が線維化し伸長すると,蛋白の可溶性が低下し組織に沈着することとなる.もっともよく罹患する臓器は心臓,腎臓,肝臓,消化管および神経系であり,一連の臨床症状を引き起こす1).角膜アミロイドーシスの概念は,1930年にLewkojewaによって初めて提唱され,睫毛乱生による続発性角膜アミロイドーシスはGarnerが1969年に最初に報告した.続発性角膜アミロイドーシスは,ほかにも円錐角膜,トラコーマ,水疱性角膜症,角膜実質炎,梅毒などで発症することが報告されている.アミロイドは特徴的な構造を有する微細な線維からなるが,その線維の構成蛋白はアミロイドーシスの種類によってさまざまであり,現在までに免疫グロブリンL鎖,H鎖,血清A蛋白などの30種類以上が同定されている.安藤らは睫毛乱生症に伴う角膜アミロイドーシスの前駆体蛋白質がラクトフェリンであることを報告している2).さらに,涙液中のラクトフェリンが角膜アミロイド形成の原因であると考えられること,睫毛乱生を伴う続発性角膜アミロイドーシスは,睫毛乱生とラクトフェリンGlu561Asp多型の両方によっておもに誘導されることを報告している3).治療は,睫毛を接触させないための手術を行うとともに,角膜上皮下に沈着しているアミロイドをスパーテルまたはゴルフ刀で切除する.このとき,病変はシールのように.がれるので,無理に.がそうとして角膜実質を傷つけないように注意する.今回,睫毛乱生に続発した角膜アミロイドーシスを経験した.角膜だけをみていると睫毛乱生を見逃す可能性がある.角膜疾患をみたときは角膜に接する眼瞼縁や眼瞼を翻転して何か関連する病変がないかチェックすることを忘れてはならない.文献1)MerliniG,BellottiV:Molecularmechanismsofamyloido-sis.NEnglJMed349:583-596,20032)AndoY,NakamuraM,KaiHetal:Anovellocalizedamyloidosisassociatedwithlactoferrininthecornea.LabInvest82:757-766,20023)Araki-SasakiK,AndoY,NakamuraMetal:LactoferrinGlu561Aspfacilitatessecondaryamyloidosisinthecornea.BrJOphthalmol89:684-688,2005

総説:緑内障性視神経症は第4の糖尿病か?

2024年8月31日 土曜日

あたらしい眼科41(8):939.962,2024c第34回日本緑内障学会須田記念講演緑内障性視神経症は第4の糖尿病か?IsGlaucomatousOpticNeuropathyaType4Diabetes?中村誠*はじめに緑内障という疾患概念は,近年,古典的な隅角・房水流出路の構造・機能障害による高眼圧病から,網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)とその軸索である視神経を中心とした視覚経路の変性疾患にパラダイムシフトした1,2).とくに,多くの疫学研究が,緑内障患者の多くを正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)が占め,緑内障による視覚障害や生活の質(quali-tyoflife:QOL)の低下を招く主体は,緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)にあることを示した意義は大きい3.5).しかし,それと同時に,GONの推定発症・進展メカニズムは,従前の理解をはるかに超える複雑なものであることも明らかとなった6).すなわち,図1に示すように,遺伝素因7),生活習慣8,9),メタボリック症候群10,11),夜間低血圧12,13),睡眠時無呼吸14,15),自己免疫17.19)といった全身的要因・病態を含むさまざまな暴露因子や潜在的な機序が複合的にCGONの発症・進行に関与していると考えられる.遺伝素因についても,患者自身がもっている遺伝子多型やエピジェネテイック修飾に加え,近年では,腸内・口腔内細菌叢が患者の遺伝子発現と相互作用する可能性も指摘されている20,21).潜在的な機序についても,古典的な篩状板における機械障害と循環障害のみならず,視神経乳頭部や網膜・高次中枢のマクロ・ミクログリアの活性変化19,22,23),局所・全身の炎症22,24,25)や酸化ストレス26),篩状板を含む支持組織の脆弱性27),RGCやグリア細胞のミトコンドリア機能不全・生合成障害28,29),オートファジーの異常29,30)などが複雑に絡み合っていると考えられるようになっている.これらの暴露因子や潜在機序とCGONとの関連を個別に追及しても,GONの病態を包括的に理解することはむずかしい.本稿では,これら相互作用している多彩なプレーヤーに「第C4の糖尿病」というキーワードの指揮者を充てることで,GONの病態を一つのオーケストラに集約できるのではないかという作業仮説31)について概説する.CIAstrocyte-to-neuronlactateshuttle(ANLS)と神経エネルギー基質としての乳酸輸送1.ANLSとエネルギー基質輸送体従来,神経細胞のエネルギー基質はグルコースとみなされてきた.実際,成人の脳は重量としては体重のC2%を占めるに過ぎないが,全グルコース消費量のC20%を占める32).しかし,多くの基礎研究や臨床研究から,神経細胞は,より炭素数が少なく,モノカルボン酸ないし短鎖脂肪酸の一つに分類される乳酸(lactate)をグルコースよりも選好することが知られるようになった23.25).神経系においては,グリア細胞が糖代謝のうち解糖系優位,神経細胞はトリカルボン酸(tricarboxylicCacidcycle:TCA)回路優位であり,グリア細胞の解糖系で産生された糖代謝の中間産物が神経細胞に輸送され,TCA回路でさらに代謝され,二酸化炭素とCNADH(還元型CnicotinamideCadeninedinucleotide)などが産生される32.36).線虫37)やミツバチ38)で四半世紀前に発見されていたが,哺乳類でもこの糖代謝のグリア・神経細胞区画的代謝過程は維持されており,脳や網膜内層におい*MakotoNakamura:神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野〔別刷請求先〕中村誠:〒650-0017神戸市中央区楠町C7-5-2神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野0910-1810/24/\100/頁/JCOPY939(67)C939図1緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)にかかわる暴露因子,潜在機序ならびにその帰結の複雑な関係図ては,乳酸が中間産物として媒介することが知られるようになった.すなわち,循環血液中のグルコースは,直接CRGCを含む神経細胞に取り込まれて消費されるよりも,好気的状況下であっても,いったんグリア細胞であるアストロサイトに取り込まれ,解糖系により乳酸に分解されたのち(これを好気的解糖Caerobicglycolysisとよぶ),特異的な輸送体(モノカルボン酸輸送体,mono-carboxylateCtransporter:MCT)などにより,RGCへ輸送されて消費されることがわかってきた(図2左)32.38).このアストロサイトから神経細胞へのエネルギー基質としての乳酸の輸送をCastrocyte-to-neuronlactateshuttle(ANLS)とよぶ32.36,C39.41).これまでおもに研究されてきたCALNSの担い手であるCMCTは,グルコース輸送体(glucosetransporter:GLUT)やグルタミン酸輸送体と同様,溶質輸送にエネルギーを必要とせず,濃度勾配に応じて基質を受動的に輸送するCsoluteCcarriertransporter(SLC)superfamilyの一族に含まれる42,43).SLCはC400以上の蛋白からなる52の巨大ファミリーを形成しており,グルタミン酸輸送体はCSLC1A,GLUTはCSLC2A,MCTはCSLC16Aというのが正式な呼称である32,43).いずれも,グリア細胞(ないし血管内皮細胞)特異的輸送体と神経細胞特異的輸送体に細分類され,GLUTでは前者がCGLUT1,後者がCGLUT3,MCTでは前者がCMCT1とC4,後者がMCT2である32,34,42).2.ANLSとグルタミン・グルタミン酸サイクル連関ならびに酸化ストレスとの関係TCA回路はミトコンドリアのマトリックスに存在する酵素群によって動かされていて,そこで産生された二酸化炭素とCNADHは,ミトコンドリア内膜にある酸化的リン酸化・電子伝達系酵素群によって,酸素の存在下で酸化され,生体のエネルギー源であるCATPが産生されるとともに,NADHがCNAD+(酸化型CnicotinamideCadeninedinucleotide)となる.このCNADHは,ミトコンドリアにおいて盛んに消費される酸素に伴って産生される活性酸素(reactiveCoxygenspecies:ROS)を駆除する,抗酸化物質としても働く44).一方で,興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸は,後シナプス神経細胞の受容体に結合し,これを興奮させ活動電位を発生させる.シナプス間隙に放出された余剰グルタミン酸は,特異的輸送体を介して近傍のグリア細胞に取り込まれ,グルタミンに変換され,神経細胞に再供給される.神経細胞内でグルタミンはグルタミン酸に再変換され次の神経活動に備える.グルタミン酸がアストロサイトへ取り込まれることは,アストロサイトのグルコース取り込みと,解糖系による乳酸産生,ならびに神経細胞への乳酸供給を活性化する.すなわち,神経細胞とグリア細胞間でのグルタミン・グルタミン酸サイクルとCANLSは密接に連関している33.36,40,41,45,46).したがって,ANLS機能障害やグルタミン・グルタミン酸サイクルとのカップリング阻害は,エネルギー基質の輸送障害に加えて,抗酸化酵素CNADH低下による酸化ストレス増大,興奮性図2緑内障における乳酸輸送・代謝・シグナル伝達障害機序の推定概念図左:健常.右:緑内障性視神経症.健常ではアストロサイトから網膜神経節細胞へ豊富な乳酸輸送が行われる.網膜神経節細胞では豊富な乳酸がCTCA回路で消費される際に,NAD+がCNADHに還元される.NADHはCROSのスカベンジャーとして働き,電子伝達/酸化的リン酸化複合体活性により産生される酸化ストレスから網膜神経節細胞を保護する.また,MCT1/4からの乳酸は網膜節細胞の乳酸受容体CGPR81に結合し,cAMPを介して,抗炎症分子や血管新生因子を産生する.乳酸をおもなエネルギー基質とし,グルコースに頼らない健常環境下ではインスリン受容体は定常的に自己リン酸化・活性化しており,下流の神経保護分子であるCAktもリン酸化して,神経保護的機能が維持されている.また,健常ではミクログリアの活性は低い.これに対して,緑内障性視神経症では,MCTやCAQP9の発現量が低下するとともに,アストロサイトや網膜神経節細胞でのCMCTとCAQP9の蛋白蛋白結合が乖離する.その結果,ANLSが低下し,乳酸輸送が減少するため,NADH産生効率も低下して,酸化ストレスが亢進する.GPR81を介した抗炎症・血管新生分子産生も低下する.また,血管,アストロサイト,網膜神経節細胞のCGLUTの発現量が上昇し,網膜神経節細胞のグルコースへの依存度と網膜内のグルコース濃度が高まる.その結果,インスリン受容体の自己リン酸化・活性化が阻害され(インスリン抵抗性の亢進),ひいては,神経保護分子であるCAktのリン酸化・活性化が減弱する.また,ストレスに反応して活性化したミクログリアは,アストロサイトから放出された乳酸を積極的に取り込み(AMLS),炎症や酸化ストレスを亢進する.こうした緑内障性視神経症でみられる,血管・グリア・網膜神経節細胞間,細胞内の乳酸輸送・シグナル伝達障害やグルコース過剰依存,インスリン抵抗性の増大は,遺伝要因と環境要因によって個々人でさまざまな程度に修飾されると推定される.MCT:モノカルボン酸輸送体.GLUT:グルコース輸送体.AQP9:アクアポリンC9.ANLS:astrocyte-to-neuronClactateshuttle.AMLS:strocyte-to-microgliaClactateshuttle.GPR81:G蛋白質共益受容体C81.IR:インスリン受容体.TCA:トリカルボン酸.ROS:活性酸素種.毒性をきたすグルタミン酸濃度上昇が生じる潜在的なリスクを孕む.以上の点を整理する.①エネルギー基質である乳酸がアストロサイトからRGCへ輸送される(ANLS).②CTCA回路で産生されるCNADHはCROSを駆除し,ミトコンドリア,ひいてはCRGCを酸化ストレスから保護する.③CANLSとグルタミン・グルタミン酸サイクルは密接に連関している.CII視神経障害によるANLS関連蛋白の発現低下と相互作用の破綻1.RGCにおけるアクアポリン9のエネルギー基質としての乳酸輸送の役割さて,筆者らは,ほぼ偶然ともいってよいきっかけで,GONとCANLSの関連に気づいた.2004年に視神経脊髄炎の原因分子として,水チャネル,アクアポリンaControlDay3Day7NeuNAQP9Mergebc8025p=0.003p=0.003Proportion(%)NeuNpositivecellsper.eld602015104020500Day3Day7Day3Day7図3ラット網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)のNeuN陽性神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)におけるアクアポリン(aquaporin:AQP)9発現と視神経切断によるRGC喪失に先行するAQP9の発現低下a:免疫染色代表図..:AQP9とCNeuNの共発現細胞.:AQP9を発現していないCNewN陽性細胞.バーC20Cμm.Cb:視神経切断C3日(Day3)とC7日(Day7)時のCNeuN陽性細胞に対するCAQP9陽性細胞数割合.Cc:GCLにおける単位面積あたりCNeuN陽性細胞数.黒バー,対照.灰色バー,視神経切断.統計は対照とCunpaired-ttestによる.(文献C52の図C8を許諾を得て転載)(aquaporin:AQP)4の自己抗体が発見され,視神経炎診療のホットトピックとなった47,48).そこで,筆者らは当初CGONとCAQP4の関連を検討することとしたが,結局,両者を結びつけるデータは得られなかった.しかし,研究を進める過程で,AQPはC13のアイソフォームがあり,通過させる物質が水分子のみか,それ以外の物質かにより,水選択的CAQPとCaquaglyceroporinならびにsuperAQPに大別されることを知った49,50).Aquaglyceroporinの基質は,水ではなく,乳酸,グリセロール,尿素といった非荷電溶質であり,AQP3,7,9,10が含まれる.筆者はラット51,52),他のグループはヒト剖検眼53)において,RGCがCAQP9を発現すること,そして,実験的高眼圧51),視神経切断52),緑内障53)でその発現が減弱することを見いだした(図3).当初,その意味を咀嚼できなかったが,上述のごとく,乳酸がRGCのエネルギー基質であることを知り,高眼圧や緑内障でのCAQP9の発現低下は,RGCにおけるエネルギー供給低下をもたらす可能性に思い至った.このあたりの詳細については,既報の日本眼科学会評議員会指名講演総説を参照されたい54).ここからは,総説発刊以降に筆者らが見いだした知見を中心に論を進めていく.乳酸が本当にCRGCのエネルギー基質として必須か,そしてその細胞内への取り込みにCAQP9が関与しているのかを調べるために,まず,マウス由来のCRGC細胞株とされていたCRGC5細胞を用いてCinvitroの実験を行った(RGC5細胞の出自に論争が起きている55,56)ことを付言する).5CmMのグルコースが含まれる通常の培養液に加えて,グルコースフリーの培養液,10CmMCL-型乳酸,同じくC10CmMの非生理的異性体CD-型乳酸のC4種類の培養条件でCRGC5細胞を培養した.そのうえで,siRNAを用いたCRNA干渉によるCAqp9の遺伝子発現のノックダウン効果を,位相差顕微鏡による形態観察ならGlucose(+)Glucose(-)L型-乳酸D型-乳酸対照活性酸素存在下発色色素位相差顕微鏡Aqp9ノックダウン活性酸素存在下発色色素位相差顕微鏡図4RGC5細胞におけるAQP9を介した乳酸輸送の阻害による活性酸素産生亢進と死の増加生理的濃度(5mM)グルコース培地(Glucose(+))では,対照もCRNA干渉によるCAqp9ノックダウン時でも,培養細胞は形態的にも正常で,ほとんど活性酸素を産生しない.培地からグルコースを除く(Glucose(.)と,顕著な活性酸素産生と細胞死による細胞数減少がみられる.グルコースの代わりに,生理的異性体であるCL-型乳酸(10CmM)に置換した場合,対照ではグルコース培地のときと同様,活性酸素産生はほとんどみられず,細胞形状変化や数の減少も生じない.しかし,培地を非生理的異性体CD-型乳酸に置換すると,対照でも顕著な活性酸素産生と細胞数減少がみられる.(文献C57の図C2より許諾を得て一部改変転載)びにCROS産生時に発色するCdichloro.uoresceinによる蛍光標識で検討した57).すると,ノックダウンを行わない(対照)場合,グルコース培養下でもCL-型乳酸培養下でも,細胞は正常形態を保ち,ROS産生は検出されなかった.一方,D-型乳酸培養下では,細胞数は減少,細胞形状は粒状化し,旺盛なCROS産生がみられた.これに対し,Aqp9をノックダウンすると,L-型乳酸培養下でも,細胞数の減少と形状変化および盛んなCROS産生が検出された(図4).すなわち,生理的異性体であるCL-型乳酸はCAQP9を介してCRGC細胞株に取り込まれ,その生存を維持し,AQP9発現が抑制されると酸化ストレスによる細胞死が生じることが示された57).この結果を踏まえ,invivoのRGC生存に対するAQP9の役割を検討するため,デンマークのCAarhus大学生体医学講座のCSorenNielsen博士から供与されたAqp9ノックアウト(knockout:KO)マウス58)と野生型(wildtype:WT)マウスを用いて,網膜伸展標本のCanti-tubulinCb3(TUBB3)免疫染色ならびに上丘へのフルオロゴールド注入による逆行性輸送CRGC標識でCRGC密度を,またCRGC由来とされる陽性暗所視閾値電位(positiveCscotopicCthresholdresponse:pSTR)記録により,RGCの機能を評価した.すると,予想に反して,CAqp9KOマウスとCWTマウスではCRGC密度もCpSTR振幅にも有意差はなかった(図5)59).しかし,Aqp9KOマウスとCWTマウスの視神経を挫滅すると,両マウス群とも,未処置に比べて,RGC密度は有意に減少し,pSTR振幅は有意に低下した.しかも,それらの減少程度は,WTに比し,Aqp9KOマウスのほうが有意に大きかった.加えて,MCT2の阻害薬であるCa-cyano-4-hydroxycinnamate(4-CIN)60)の4,000・RT-PCR・Westernblot・網膜伸展標本TUBB免疫染色3,000kDaWTKOWTKOFGlabelledpositivecells(/mm2)TUBB3positivcells(/mm2)0shamshamWTKOWTKOAqp9Gapdh2,0001,000・網膜切片免疫染色0shamshamWTKO4,000KOshamWTshamGCLIPLGCLIPL3,0002,0001,000図5Aqp9遺伝子欠損の網膜神経節細胞(retinalganglioncell:RGC)の生存への影響野生型(wildtype:WT)と比較して,欠損(knockout:KO)マウス網膜では,逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reversetranscription-polymeraseCchainreaction:RT-PCR)で,Aqp9のメッセンジャーCRNA(messengerRNA:mRNA)の発現はほとんどなく〔対照のCglyceraldehyde-3-phosphatedehydrogenase(Gapdh)のCmRNA発現量は同等〕,WesternblotでCAQP9の蛋白発現もほぼ検出できない(対照のCb-Actin発現量は同等).網膜切片のCAQP9とCRGCマーカーCRNACbindingCproteinCwithmultipleCslicing(RBPMS)との共免疫染色で,WTでは網膜神経節細胞層(ganglioncelllayer:GCL)において両者は共染色されるものが多いが,Aqp9KOではCAQP9は検出されないにもかかわらず,RBPMSは豊富に発現している.IPL,内網状層(innerplexiformlayer).Merge,AQP9染色とCRBPMS染色の重ね合わせ.網膜伸展標本によるCAnti-tubulinb3(TUBB3)免疫染色でも,.uorogoldによる逆行性CRGC染色でも,WTとCAqp9KO間でCRGC密度に有意な差はみられなかった(n.s.:notsigni.cant).(文献C59の図C2,4より許諾を得て一部改変転載)硝子体内注射を行うと,WTでは,RGC密度とCpSTR振幅はさらに減少ならびに低下したが,Aqp9KOマウスにおいては視神経挫滅との相加効果はみられなかった.また,両群とも視神経挫滅を行わず,4-CIN硝子体注射のみ行っても,未処置に比して,RGC密度もpSTR振幅も変わらなかった(図6)59).これらのことは以下のことを意味する.①CAQP9ないしCMCT2単独の発現低下だけではCRGCの生存や機能に影響を与えない.②しかし,AQP9の遺伝子が欠落していると,視神経ストレスに対するCRGCの死と機能低下が加速する.③CAQP9とCMCT2の発現が同時に抑制されると,視神経ストレスがCRGCの生存や機能維持に及ぼす影響は一層甚大になる.すなわち,ANLSを司るCAQP9とCMCTは相補的に働いているので,一方の欠落では生理的にはほぼ正常と変わらないCRGC機能を維持できるが,病的環境下ではRGC機能は低下し,両者が同時に阻害されると,その低下は加速され,大量のCRGC死を招く.これはどのような機序で生じるのであろうか.C2.RGCの機能と生存維持におけるAQP9とMCTの相互作用チャネルとCSLC輸送体は,ともに細胞内外の濃度勾配に応じて受動的に基質を輸送する点では類似した輸送様式をもつが,前者が内部の全開した孔(ポア)を通じて抵抗なく基質を通過させるのに対し,後者は基質結合後,その構造を反転変化させなければ,基質を細胞内(または外)へ移送できない61).したがって,非常に速いチャネルの基質輸送に比し,輸送体の輸送速度はC100倍遅い.類似の役割を担うチャンネルや輸送体ならびにそれらの関連蛋白は細胞膜に集簇して,内部環境条件に応じて,適宜,役割分担をしている.こうした集合体のことをCtransportsormeとよび62),AQP蛋白が形成するさまざまな分子との集合体のことを特別にCAQPCinter-actomeとよぶ研究者もいる63).したがって,RGCの生網膜伸展標本TUBB免疫染色暗所視閾値電位(pSTR)WTKO********ONC+4-CINTUBB3陽性細胞(/mm2)3,000*2,000*1,000n.s.n.s.0WTKOWTKOWTKOONC--++++4-CIN++VehVeh++*,p<0.05;**,p<0.01図6視神経挫滅(opticnervecrush:ONC)とMCT2阻害薬a-cyano-4-hydroxycinnamate(4-CIN)ないし基材(vehicle:Veh)硝子体注射が野生型(WT)とAqp9ノックアウト(KO)マウスの網膜神経節細胞(RGC)密度と機能に及ぼす影響網膜伸展標本のCTUBB3免疫染色によるCRGC密度計測では,4-CIN投与単独では,WTでもCKOでもCRGC密度影響を及ぼさない.ONCにより,WTもCKOも有意なCRGC密度減少をきたすが,KOのほうが有意にCWTよりもその減少程度は大きい.ONCとC4-CIN投与を組み合わせると,WTではCONC単独よりもCRGC密度はさらに有意に減少するが,KOはCONC単独時と比べて差はない.網膜電図の一つである暗所視閾値電位の陽性波(positivescotopicthresholdresponse:pSTR)によりCRGCの機能を評価すると,4-CIN投与単独では,WTもCKOもCVeh投与に比し,pSTR振幅は変わらない.ONCにより,WTもCKOもCpSTR振幅は有意に低下するが,低下量は後者がより有意に大きい.ONCにC4-CIN投与を組み合わせると,WTではCpSTR振幅はさらに有意に低下するが,KOでは振幅のさらなる低下はみられない.右下の紫四角の挿入図は通常の強刺激光による網膜電図である.波形の色はCSTR記録時の処置条件と対応している.a:Veh投与.Cb:ONC.Cc:4-CIN投与.Cd:ONC+4-CIN投与でCSTR記録と同じ.統計解析はCANOVAとCBonferronitestによる(n.s.:notsigni.cant).(文献C59の図C4.6より許諾を得て一部改変転載)存に乳酸が重要な役割を担っているのであれば,生体でその一方で,AQP9発現は一定程度残っているにもかかはCAQP9単独ではなく,MCTとCtransportsomeを形成わらず,MCT1ないしC4とCAQP9の共沈降は極端に低し,協調して,その輸送を司っている可能性がある.下していた.すなわち,視神経挫滅というストレスは,そこで,筆者らは,AQP9とCMCT1,2,4の共免疫AQP9とCMCT1ないしC4の物理的結合を解離させてし染色ならびにCAQP9の免疫沈降を行った.免疫沈降とまった59).このため,ANLS機能は減弱し,RGC密度は,網膜抽出液にCAQP9への抗体を混ぜることで,抗は低下し,pSTR振幅も減弱したのであろう.しかし,原であるCAQP9との免疫複合体を作らせたのち,特殊AQP9とCMCT2の結合は維持されていたので,その影なビーズにその免疫複合体を吸着させることで,AQP9響はある程度緩和されていた(図7).その状況でとCAQP9抗体との複合体のみならず,生体内でCAQP9MCT2阻害薬C4-CINが投与されると,残されたCMCT2と物理的に結合している蛋白を芋づる式に絡め落とす方の機能も失われ,WTではさらなるCRGCの機能低下と法である.その後に,MCT1,2,4の抗体でCWestern死が生じたものと思われる.Aqp9KOマウスでCOCNblotすることで,AQP9と相互作用(結合)しているとC4-CINの相加効果がなかったのは,そもそもこのマMCT1,2,4があるかどうかを検出した.その結果,生ウスではCAQP9が欠落し,MCT2がCAQP9とCtrans-理的なCWTマウス網膜の神経節細胞層でCAQP9はportsorme(QP9interactome)を形成できていなかったMCT1,2,4のいずれとも共発現していた(図7).また,ため,視神経挫滅単独でも,両者が失われたのと同じ程網膜の免疫沈降で,MCT1,2,4はすべてCAQP9と共度のCRGC機能低下と死が生じていたのだと推察され沈降した.これに対して,視神経挫滅を行ったマウス網る59).膜の免疫沈降では,AQP9発現が低下していたにもかか前述したとおり,MCT2は神経特異的CMCTであり,わらず,MCT2とCAQP9との共沈降は維持されていた.神経細胞の生存にとくに重要な役割を担っていることが4-CINONC+Veh網膜切片免疫染色WesternblottingAQP9MCT1mergeGCLIPLAQP9MCT2mergeGCLIPLIPLGCLWBAQP9IPkDaWTshamWTONCMCT4MCT2MCT1GCLIPLAQP9MCT4mergeGCLIPLGCLIPL図7Aquaporin(AQP)9とmonocarboxylatetransporter(MCT)の網膜における共発現と視神経挫滅(ONC)の影響網膜薄切切片と免疫染色で,AQP9とCMCT1,2,4は野生型(WT)マウスの網膜神経節細胞層(GCL)で共発現している.Aqp9ノックアウト(KO)マウスではCAQP9の発現はみられないが,MCT1,2,4は発現している.IPL,内網状層.Sham,視神経暴露のみでONCを行わなかった対照.Westernblotting(WB)でCWTの網膜のCAQP9を定量すると,sham群に比し,ONC群ではCAQP9の発現は低下している.内部対照のCb-actinは発現は両者に差はない.AQP9による免疫沈降物(immunoprecipitation:IP)のCWBを行うと,sham群ではCMCT1,2,4のいずれもCAQP9との豊富な共沈降がみられたが,ONC群では,MCT1とC4の共沈降発現は大幅に低下している.一方,MCT2の共沈降量はCsham群と同程度を維持している.(文献C59の図C3より許諾を得て一部改変転載)知られている.Harun-Or-Rashidらは,DAB/2J緑内障自然発症マウスでCMct2をノックアウトすると,視覚誘発電位の低下と網膜のCATP産生が減弱するのに対して,Mct2を過剰発現すると,対照であるCD2Gマウスと変わらぬCRGC密度と軸索数を維持できることを報告している64).先に述べたモデルは視神経挫滅であったが,最近,筆者らは,マウス前房にマイクロビーズを注入して線維柱帯を閉塞させた高眼圧モデルでも同様の検討を行った(図8)65).その結果,既報と合致して,慢性高眼圧はRGC密度,RGCのCAQP9発現量,網膜のCAQP9の総量を低下させるのみならず,網膜のCAQP9免疫沈降物内の,MCT1量を低下させ,MCT2量を増加させていた.免疫沈降物内のCMCT4量は変わらなかった(図8)65).高眼圧によりCAQP9発現量そのものは減っていたので,AQP9に結合するCMCT2は大幅に増量し,MCT4も増加していたと考えられる.すなわち,高眼圧を含むストレスに易反応性のCAQP9発現低下を代償して,グリア細胞のCMCT4とCRGCのCMCT2の発現は上昇し,ANLSを維持しようとする生体反応が生じている可能性がある(図2,9)65).以上を整理する.①CANLSを司るチャネルCAQP9と輸送体CMCT1,2,4は網膜においてCtransportsomeを形成し,RGCや視神経へのストレスはその形成を妨げる.②CRGCの生存と機能維持にはとりわけCAQP9とCMCT2の協調が重要である.③CANLS障害はエネルギー基質である乳酸利用効率が落ちるのみならず,活性酸素産生によるCRGC死を誘導する.Microbeads注入の写真と眼圧変化WesternblottingAirMicrobeadsWTKOWTKOAQP932kDab-actin42kDaIPAQP9眼圧(mmHg)302520151050AirMicrobeadsAQP9MCT1MCT2*,p<0.01,混合効果モデルMCT4Preday1day3day7day10day14day17day21day24day28WTABWTMB32kDa46kDa40kDa49kDa図8磁性microbeads前房内注射による高眼圧モデルの眼圧推移とAQP9とMCT共発現への影響Microbeads注入()眼に磁石(.)を近づけるとCmicrobeadsは隅角を閉塞する.対照の空気注入(Air)に比し,microbeads注入眼ではC7日以降C28日まで有意な眼圧上昇を示す.Westernblottingでは,野生型(WT)はCAir群に比し,microbeads注入群ではCAQP9発現が低下している.Aqp9ノックアウト(KO)マウスではCair,microbeadsいかんにかかわらず,AQP9発現はほぼみられない.内部対照のCb-actinの発現量はいずれも同等である.WT網膜におけるCAQP9の免疫沈降物(IP)のCwesternblottingでは,対照である気泡(airbubble:AB)注入群に比し,microbeads(MB)注入群で,AQP9沈降量は減少し,それに伴い,MCT1も共沈降量も減少しているが,MCT2はむしろ増加し,MCT4は差がみられない.(文献C65の図C1,5より一部改変転載)図9網膜神経節細胞(retinalganglioncells:RGCs)とアストロサイト間でのエネルギー基質の輸送シェーマ健常時には,RGCsは血管からのグルコース輸送体(glucosetransporter:GLUT)を介して取り込んだグルコースよりも,アストロサイトにより取り込まれたグルコースから変換された後,モノカルボン酸輸送体(monocarboxylatetransporter:MCT)とアクアポリン(aquaporin:AQP)9複合体を介して供給される乳酸(lactate)を,エネルギー基質として選好する.視神経挫滅(opticCnervecrush)あるいは高眼圧のようなCRGCsや視神経への過度なストレスによる病気時には,MCTとCAQP9の発現量が減少し,また,両者の複合体が乖離し,アストロサイトからCRGCsへの乳酸輸送シャトル(astrocyte-to-neuronlactateshuttle:ANLS)が障害される.代償機転として,RGCsのCGLUT発現が上昇するとともに,網膜内のグルコース量が増加する.(文献C59の図C9より許諾を得て転載)IIIANLS障害時の代償的グルコース過剰依存とその帰結としての網膜内インスリン抵抗性増大とグルタミン酸濃度上昇1.視神経障害時のGLUT発現上昇と網膜内グルコースとグルタミン酸濃度上昇生体にはCresilienceがあり,多少のストレスに対しては代償機転が働き,そのストレスを克服しようとする.とくに,そのストレスが生体の生存に直結するような危機的なものであった場合,二重三重の代償経路を準備している(フェールセーフ).視神経に挫滅や高眼圧のような負荷がかかり,ANLSが正常の状態を維持できなくなるとどのような代償機転が生じるであろうか.先の視神経挫滅モデルで,筆者らは興味深い所見を見いだした.すなわち,WTに比し,Aqp9KOマウス網膜神経節細胞層のCGLUT1発現が上昇し,網膜におけるGLUT1総量が有意に増加していた.また,WTでは,視神経挫滅により,これらのCGLUT1発現は有意に上昇した(図10)59).同様にCWTに比しCAqp9KOマウスでは,また未処置に比べ,どちらの群においても視神経挫滅により,網膜のCGLUT3量は有意に増加した(図10).こうしたCGLUT1,3の増加に比例して,比色法で測定した網膜内のグルコース濃度は,WTに比し,Aqp9CKOマウスではC1.7倍程度有意に増加した59).筆者らは,さらに,マイクロビーズ前房内投与高眼圧モデル網膜の代謝物をガスクロマトグラフィ/質量分析によるメタボローム解析で検討した66).対照,眼圧上昇2週ならびにC4週の網膜において,内部標準に比し,倍以上の発現を示した代謝物を発現量の多い順に表示したものが図11である.対照においてもっとも高い発現量を示した代謝物は乳酸(正確にはイオン化されて検出されるCL-型Clacticacid)であった66).非常に多数発現している代謝物のグループ化を主成分分析で行うと,対照,眼圧上昇C2週ならびにC4週で,それぞれ特徴的な集団を形成することがわかった66)(図12).階層化クラスター解析で,対照からの変化の程度で区分すると,個体間でばらつきはあるものの,群としてみた場合,高眼圧期間の延長につれ,もっとも量が増加した代謝物がグルタミン酸(L-型Cglutamicacid)で,2番目に増加したものがグルコースであった66)(図13).乳酸,グルコース,グルタミン酸に注目して分散分析を行うと,乳酸は一貫して高濃度を維持し,群間差はなかったのに対し,グルコースとグルタミン酸は高眼圧期間が延長するほど上昇し,4週時点では対照に比し,それぞれ,おおよそC7倍とC2.5倍に増加していた(図14)66).メタボローム解析を用いた既報によれば,網膜内グルコースは,対照に比し,視神経挫滅C2週後では約C3倍67),眼圧上昇期のDBA/2Jマウスでは約C50倍に上昇しており68),今回の筆者の結果と一致する.すなわち,視神経に負荷がかかると網膜内ではグルコース濃度が上昇するようである.これは何を意味するのであろうか.生理的には,脳実質グルコース濃度は血糖の半分以下に厳格に調節されていることが知られている69).血糖が上昇すると,正常な脳内代謝レベルを維持するために,脳でのグルコース取り込みは有意に低下する69).そして,グルコースを生理的濃度以上に上昇させると,脳実質内のグルタミン酸濃度も倍程度に上昇する70).グルタミン酸は過剰になれば興奮性毒性により神経細胞死を誘導することは有名である71,72).また,救急医療の世界では,外傷性脳障害時の高血糖や脳内高グルコース濃度は死亡率を上げることが知られている73,74).その原因として,高血糖は,障害脳領域の酸性化,グルコース・ナトリウム交換の増加,ミトコンドリア断片化の増加,炎症反応の増加,最終糖化物(advancedCglycationCend-products:GEs)の形成増加,グルコースが誘導するROS過剰産生,血管内皮細胞でのCproteinkinaseC活性化などを引き起こすからと考えられている75,76).これらの要因は,本総説冒頭で述べた,GONの暴露因子や潜在機序と同一である.裏を返せば,ストレス環境下に置かれた脳組織(これはCRGCも含む)ではグルコースへの過剰依存が生じ,結果として糖毒性を招来するといえる.C2.非生理的糖濃度環境下における中枢神経系インスリン抵抗性とその意義このような直接的な糖毒性に加え,脳や網膜における高グルコース状態は,インスリン抵抗性を引き起こし,これが間接的に神経細胞死に関連することも知られている77,78).インスリンは膵臓Cb細胞で産生されるホルモンとして末梢組織の糖取り込みを促すだけでなく,実は網膜局所でも産生され,神経栄養因子としても作用している可能性が示唆されている79).インスリンが細胞膜に局在するインスリン受容体に結合すると,インスリン受容体が自己リン酸化され,これが合図となって,細胞内の網膜切片における免疫染色WesternblottingGLUT1GLUT1/DAPIGLUT3GLUT3/DAPIkDaWTKOWTKOshamshamONCONCGCLIPLINLOPLONLPRLWTshamGLUT155.GLUT354.GCLIPLINLOPLONLPRLGCLKOshamb-Actin42.IPLWTONCINLOPLONLPRLGCLONLPRL図10視神経挫滅(ONC)における網膜グルコース輸送体(glucosetransporter:GLUT)の発現変化網膜切片における免疫染色でCGLUT1はおもに網膜神経節細胞層(GCL)に,GLUT3はCGCL,内網状層(IPL),外網状層(outerplexiformlayer:OPL),光受容体層(photoreceptorlayer:PRL)に発現している.GLUT1発現は野生型(WT)のCsham群に比し,視神経挫滅(ONC)群ならびにCAqp9ノックアウト(KP)群,KO+ONC群で増加している.GLUT3は,sham群はCWTとKO群間で発現に差はないが,ONC群はCsham群に比し,GCLとCIPLを中心に発現が亢進している.INL,内顆粒層(innerCnuclearlayer),外顆粒層(outerCnuclearlayer:ONL).Westernblottingでも同様な変化がみられる.内部標準であるCb-actinの発現量はどの群でも差はない.*:p<0.01(ANOVAとCBonferronitest).(文献C59の図C7より許諾を得て一部改変して転載)IPLINLOPLKOONCさまざまなセカンドメッセンジャーを連鎖的に活性化し,最終的に多くの遺伝子発現を制御する77,79.82).それらの細胞内情報伝達物質の一つにCAktがある.Aktは上流のシグナルの指令を受けてリン酸化されると,下流分子の活性を制御することで神経保護的に働く.筆者はペンシルバニア州立大学留学中に,網膜のインスリン受容体は,末梢組織に比較して,血中インスリン濃度に依存せず,定常的にリン酸化されていること81),培養網膜神経細胞(R28細胞)において,通常のグルコース濃度(5mM)培養条件下ではインスリン刺激によりCAktリン酸化が生じ,血清除去誘導アポトーシスが抑制されるのに対して,高濃度グルコース培養(20mM)条件下では,このCAktリン酸化が減弱し,結果,アポトーシスが増加することを報告した(図15)82,83).末梢組織では高血糖はインスリンの糖取り込み作用を減弱させ,この現象をインスリン抵抗性とよぶ.網膜における高グルコース濃度環境がCAktを介したインスリンの神経保護的作用を減弱させる現象は,いわば網膜におけるインスリン抵抗性の増大である可能性を筆者らは初めて提唱した77,83).実は,中枢神経系においてインスリン抵抗性が病態に深く関与していることは以前から指摘されていた.その代表がCAlzheimer病で,脳特異的インスリン受容体CKOマウスでは,Alzheimer病の原因分子の一つとみなされているリン酸化CTauが蓄積するとともに,それに反比例するように,リン酸化CAktの発現低下がみられている84).また,起因物質の一つ,アミロイド前駆蛋白がインスリン受容体に結合することで,シナプス毒性を生じ,酸化ストレス,ミトコンドリア断片化,カルシウム濃度亢進,Tauリン酸化,軸索輸送低下,アストロサイト活性化などイベントを惹起するという知見が集積されている78).すなわち,糖の直接毒性のみならず,高糖濃度環境が誘導するインスリン抵抗性が,こうしたさまざまな病理的変化をもたらすと考えられるようになっ100.0080.0060.0040.0020.000.00図11対照と高眼圧モデル網膜における代謝物発現プロファイル比較内部標準であるシナピン酸に対する相対比がC2.0以上の発現を示す代謝物の発現量中央値を,対照群の発現量の高いものから順にグラフ化している.CNT:気泡注入眼群.2W:microbeads注入後C2週眼群.4W:4週眼群.(文献C66の図C3より許諾を得て転載)Principalcomponent1(12%)1050-5-10-20-100102030Principalcomponent1(66.4%)図12メタボローム解析の主成分分析による二次元プロット赤丸と楕円,気泡注入対照眼網膜.緑丸と楕円,microbeads注入後C2週眼群.青丸と楕円,同C4週眼群.丸は各個体,楕円は各群のC95%信頼区間を示す.(文献C66の図C4より許諾を得て転載)た.これらを踏まえ,近年,Alzheimer病は,全身の糖尿病とは独立した脳特異的な糖尿病,すなわち「3型糖尿病」であるという概念が提唱されている78,85).緑内障モデル動物の視神経乳頭にはアミロイド前駆蛋白が対照より多く沈着し86,87),また網膜,視神経,上丘のリン酸化CTauの沈着が亢進していることが報告されている88).加えてインスリン抵抗性は,Aktリン酸化の低下を介して,RGCアポトーシス,ミクログリア活性化,アストロサイトにおけるグリコーゲン産生低下,血管内皮細胞の一酸化窒素合成酵素発現低下などを引き起こし,GONに矛盾しない病態を誘導することが知られるようになった80).こうした知見集積から,DadaはGONは視覚経路に限局した「4型糖尿病」であるとの仮説を提唱している31,89).以上を整理する.①視神経に負荷がかかり,ANLS機構が障害を受けると,代償的に網膜内のグルコース輸送体発現が上昇する.②視神経ストレス環境下では,網膜内グルコースとグルタミン酸濃度が増加し,インスリン抵抗性が惹起される.aCNT2W4WbCNT2W4W2110.500-1-0.5-2-14W34W24W12W32W22W1CNT4CNT3CNT2CNT1図13階層化クラスター解析で示されるトップ25発現量を示す網膜代謝物の群間発現量比較a:個体別解析結果.b:群平均解析結果.CNT:気泡注入眼群.2W:icrobeads注入後C2週眼群.4W:同C4週眼群.(文献C66の図C5より許諾を得て転載)C9014080120L-GlutamicacidL-Lacticacid70D-Glucose100608050406030404020202010000CNT2W4WCNT2W4WCNT2W4W図14網膜内L-Lacticacid,D-GlucoseならびにL-Glutamicacidの相対比の箱ひげ図CNT:気泡注入眼群.2W:microbeads注入後C2週眼群.4W:同C4週眼群.*:p<0.05(one-wayANUJA,Tukey-Kramertest).(n.s.:notsigni.cant)(文献C66の図C7より許諾を得て一転載)③CAlzheimer病の病態とのアナロジーから,GONは視覚経路限局性のC4型糖尿病という概念が提唱されていCIV広義原発開放隅角緑内障(primaryopen-る.Cangleglaucoma:POAG)におけるallostasisと「全身的」4型糖尿病としてのGON1.POAG患者と白内障患者の血清・房水乳酸濃度の比較これまでの議論で,GONは視覚経路に限局した糖尿a[Glucose]20mM5mMCleavedCleavedHoechstHoechstcaspase-3caspase-3(-)血清(-)血清(+)insulinbInsulin--++[Glucose,mM]520520Phospho-AktAkt図15培地内グルコース濃度([Glucose])による,R28細胞におけるインスリンの細胞保護とAktリン酸化に及ぼす影響a:血清除去による細胞死誘導とインスリン添加ならびに培地内グルコース濃度の影響.Hoechst核染色と活性型カスパーゼC3(cleavedcaspase3)免疫染色によって評価している.血清除去時,核染色で核の凝集(pyknosis)の数と活性型カスパーゼC3の発現が多いが,5CmM(生理的)グルコース培養条件下では,インスリン添加により,その数は大きく減少する.一方で,20CmMの高濃度グルコース培養条件下では,インスリン添加効果が相殺される.バーは50Cμmを示す.Cb:Aktとリン酸化CAkt(phospho-Akt)によるCWesternblotting.トータルのCAkt量はどの条件でも変わらない.インスリン無添加ではリン酸化CAktの発現はみられない.インスリン添加により,リン酸化CAkt発現がみられるが,5CmMグルコース培養条件下に比べ,20CmMグルコース培養条件下では,リン酸化の程度は減弱している.病である可能性が提唱されていることを述べた.この仮説を認めるには二つの反論に答えなければならないだろう.一つ目の反論は,GONは「視覚経路に限局した」糖尿病なのかという点である.局所的な糖尿病の定義がない現状,この問いに直接答えることは不可能であろう.しかし,筆者自身は,ALNSの機能不全が網膜内の糖代謝障害とインスリン抵抗性を誘発しているという立場を取っているので,この問いは次のように言い換えることで,是非を問えると考える.すなわち,GONにおいてCALNS機能不全による乳酸代謝の恒常性の破綻が存在するのか.そして,存在するならば,それは眼局所に限局するのか,それとも全身的に存在するのか.こ(文献C83の図C1,7より許諾を得て改変転載)の問いを検討するために,筆者らは糖尿病のない,50歳以上の白内障患者と広義CPOAG患者,それぞれC64名ずつの血清と房水の乳酸濃度を比較する多機関共同研究を実施した66).サンプルサイズはCPOAGやCNTG患者の血清や房水乳酸濃度を検討した既報をもとに,白内障患者に比し,POAGでは血清ないし房水のいずれかで有意な乳酸値の相違があることを,両側C2.5%有意水準とC80%の検出力で立証するのに必要な眼数として各群C60例を設定のうえ,脱落例を加味して登録予定を当初C70例ずつとした.しかし,各群C64例収集時点で,予定のデータ収集が行えたため,登録を終了した.この際,全身の糖尿病表1原発開放隅角緑内障(primaryopen-angle-glaucoma:POAG)患者と対照の白内障患者の血清・房水乳酸濃度比較研究の患者背景対照(n=64)POAG(n=64)CMWT最小最大中央値CIQR最小最大中央値CIQRp値年齢,歳C身長(m)C体重(kg)CBodymassindexC収縮期血圧(mmHg)C拡張期血圧(mmHg)C平均血圧(mmHg)C眼灌流圧(mmHg)C経皮的酸素飽和度(%)C随時血糖(mg/dCl)ClogMARC等価球面度数(diopter)C中心角膜厚(Cμm)C眼圧(mmHg)C運動回数/週C食事採血間隔(min)C52C1.46C34C15.5C101C46C70C29.3C96C70C0.00C.16.88C452C10C0C120C84C72.51.78C1.6090C55.033.1C22.2174C134.0103C77.5127C95.378.9C50.3100C99.0153C94.51.00C0.223.38C.1.88C645C550.020C14.07C1.5855C27066.8.C77.0C1.53.C1.69C49.8.C65.0C20.4.C23.6C118.0.C148.5C66.0.C86.3C85.4.C105.8C42.6.C56.5C98.0.C100C88.8.C106.0C0.15.C0.30C.4.66.C0.66C521.5.C580.0C13.0.C15.0C0.2C.5C220.C312C50C1.40C32.5C12.7C89C56C68C32C95C74C.0.18C.19.88C448C10C0C60C86C70.064.0.C74.0C1.80C1.631.57.C1.68C96.4C58.648.8.C66.1C32.8C22.019.9.C23.8C168C134.5120.0.C147.0C114C78.571.8.C86.5C132C96.289.6.C104.8C68C47.843.3.C52.9C100C98.097.8.C99.0C160C10094.C110C0.82C0.100.00.C0.222.75C.4.13C.7.56.C.1.41C638C525.0496.0.C550.335C16.014.0.C20.07C1.00.0.C4.1C937C225174.C280C0.150.250.73C0.660.950.180.420.180.0010.07C<C0.0010.007<C0.001<C0.0010.650.01MWT:Mann.WhitneyUtest.IQR:四分位範囲.運藤回数/週:発汗を伴うC30分以上の運動の週あたり回数.(文献C66の表C1より許諾を得て改変転載)合併の可能性を除くため,随時血糖C200Cmg/dl超える患者は解析から除外した.また,乳酸はさまざまな基礎疾患や運動などにより変動するため,次のような除外基準を設けて患者登録を行った.①他の眼疾患,内眼手術歴,脳卒中,心臓発作の既往がない.②糖尿病,高脂血症,自己免疫疾患,癌の薬物治療を受けていない.③少なくとも過去C1年以内の喫煙歴がない.患者背景を表1に示す.年齢,性別,血圧,眼灌流圧,随時血糖,週あたり運動日数は両群間で差はなかった.一方,POAG患者は白内障患者に比し,有意に経皮的酸素飽和度が低く,矯正視力はよく,等価球面度数はより近視,中心角膜厚は薄く,眼圧は高かった.血清乳酸の中央値は,白内障患者でC7.3Cmg/dl(0.82CmM),POAG患者でC7.2mg/dl(0.80mM)で,両群間に有意差はなかった(Mann-WhitneyUtest,p=0.63).また,房水乳酸の中央値は,それぞれ,53.0Cmg/dl(5.91CmM)とC52.4Cmg/dl(5.87CmM)で,やはり両者に有意差はなかった(p=0.80)66).Vohraら90)は,白内障患者のほうがCNTG患者よりも安静時血清乳酸値が有意に高いと報告したが,サンプル数はそれぞれ,11人とC12人と少ない.Bouchemiら91)は,逆に,白内障患者よりもCPOAG患者のほうが,血清(それぞれ平均C1.74CmMvs2.55mM)と房水(それぞれC4.71CmMCvs5.81CmM)ともに乳酸値が高いと報告している.彼らの報告では,白内障患者はC114名で,POAG患者はC100名であるが,サンプルサイズ設定根拠がなく,また登録基準の記載もない.安静時の生理的乳酸濃度はC0.33.1.67CmMであることが知られているので,Bouchemiらの血清乳酸値は両群とも異常に高く,乳酸代謝に影響する全身疾患の混在や採血時前後の食事や運動の影響を受けている可能性がある.とはいうものの,房水のほうが血清よりも乳酸値が数倍高い点では,筆者らの報告とCBouchemiらの報告91)は一致している.房水乳酸は血中の乳酸より高いことは古くから知られている事実であり92,93),矛盾しない.逆に房水内のグルコース濃度は,前述した脳実質と同じく,血中の半分程度とされる93).教科書には,角膜や水晶体でグルコースが消費され,その老廃物として乳酸が排出されるため,房水グルコース濃度は低く,乳酸濃度は高いと記載されている.しかし,濃度勾配依存的なMCTやCAQPは前眼部にも発現しているので,もし,乳酸が単なる老廃物であるならば,こうした輸送体・チャネルを介して乳酸は速やかに前房や眼内から全身循環へと排出されるであろう.高グルコースの毒性的側面ならびに乳酸のエネルギー基質や後述するようなシグナル伝達分子としての重要な生理的な役割を考えれば,房表2血清乳酸濃度と関連する因子を同定する単変量と多変量回帰分析結果単変量解析多変量解析Cb95%信頼区間p値Cb95%信頼区間p値年齢C.0.046C.0.077,C0.045C0.607C.0.034C.0.083,C0.060C0.744CBodymassindexC0.238C0.059,C0.363C0.007C0.256C0.061,C0.392C0.008経皮的酸素飽和度C0.043C.0.309,C0.512C0.626C0.081C.0.249,C0.627C0.394運動回数C0.024C.0.187,C0.245C0.791C0.035C.0.176,C0.262C0.696平均血圧C0.058C.0.027,C0.055C0.512C0.026C.0.036,C0.048C0.771等価球面度数C0.084C.0.055,C0.157C0.346C0.099C.0.067,C0.187C0.354食事採血間隔C.0.104C.0.205,C0.053C0.244C.0.145C.10.324,C1.051C0.109疾患C0.003C.1.032,C1.070C0.972C0.037C.0.920,C1.364C0.384運動回数:発汗を伴うC30分以上の運動の週あたり回数.疾患:白内障対原発開放隅角緑内障.(文献C66の表C3より許諾を得て改変転載)表3房水乳酸濃度と関連する因子を同定する単変量と多変量回帰分析結果単変量解析多変量解析Cb95%信頼区間p値Cb95%信頼区間p値年齢C0.214C0.049,C0.4480.015C0.177C.0.026,C0.437C0.081CBodymassindexC0.204C0.095,C1.1230.021C0.241C0.178,C1.259C0.010随時血糖C0.172C.0.001,C0.202C0.052C0.067C.0.065,C0.143C0.458経皮的酸素飽和度C.0.128C.2.367,C0.368C0.151C.0.024C.1.630,C1.248C0.793運動回数C0.05C.0.520,C0.932C0.575C0.051C.0.489,C0.913C0.551眼灌流圧C.0.110C.0.302,C0.069C0.216C.0.089C.0.279,C0.090C0.312等価球面度数C0.289C0.244,C0.928<0.001C0.169C.0.075,C0.758C0.107疾患C0.003C.3.461,C3.592C0.971C0.036C.2.992,C4.420C0.704運動回数:発汗を伴うC30分以上の運動の週あたり回数.疾患:白内障対原発開放隅角緑内障.(文献C66の表C4より許諾を得て改変転載)水内の低糖・高乳酸濃度は,生理的条件として生体が合目的的に維持していると考えるべきである.好気的解糖の概念や乳酸の生体エネルギー学的意義が認知される以前の知識に基づいて書かれた教科書は,今後,大幅に改定されるべきであろう.C2.POAG患者における血清・房水乳酸濃度とbodymassindexとの有意な相関とallostasisさて,上述の研究で,筆者らは別の興味深い知見も得ている.すなわち,単変量ならびに多変量回帰分析において,血清ならびに房水の乳酸濃度は,POAG患者ではCbodymassindex(BMI)と有意な相関を示し,BMIが高値なほど乳酸濃度が高く,低値だと低かった(表2,3,図16)66).これに対して,白内障患者ではそうした相関性はなく,BMIにかかわらず,乳酸値はほぼ一定のレンジ内に分布した(表2,3,図16).近年の疫学研究でCBMIと緑内障に正の相関があるとする報告が増えている9.11,95).つまり,太りすぎてもやせすぎても緑内障のリスクは高まるとされる96).しかし,肥満ややせが緑内障に及ぼす影響のメカニズムはよくわかっていない10,95).上述のとおり,乳酸は非常に重要なエネルギー基質であり,急性ストレスではそう簡単に濃度が変化することなく,眼内ではヒトでも高濃度で維持されている.すなわち恒常性が維持(ホメオスターシス)されている.したがって,白内障患者の安静時血清・房水中の乳酸がCBMIにかかわらず一定範囲に維持されているのは,白内障患者で乳酸ホメオスターシスが保たれていることを意味しているのであろう.近年,ホメオスターシスの延長線上の概念としてallostasisがあり,これは身体的,心理的,環境的ストレスに反応して,強力なエネルギー依存性の適合反応によって,安定性を維持しようとする生体反応であると考えられている97).すなわちストレス負荷時に,アンバランスな生体反応でなんとか現状を乗り切ろうとしている状況といってもよいかもしれない.たとえるなら,大谷翔平選手が昨シーズン(2023年)投打二刀流で無理を重abmg/dlmg/dl1002220901880血清乳酸濃度161412房水乳酸濃度7010860506404230101520253035101520253035Bodymassindex(kg/m2)Bodymassindex(kg/m2)図16血清と房水中乳酸濃度とbodymassindex(BMI)の相関白丸と黒線,白内障患者.赤丸と赤破線,原発開放隅角緑内障(POAG)患者.Ca:血清乳酸濃度とCBMIの相関.白内障群,rs=0.028,Cp=0.827.POAG群,rCs=0.376,Cp=0.002.Cb:房水乳酸濃度とCBMIの相関.白内障群,rCs=0.042,Cp=0.745.POAG群,rCs=0.333,Cp=0.007.ね,肘にケガを負いながらなんとかプレーを継続しようとしていた状態である.POAG患者でCBMI依存性の乳酸濃度変動があることは,POAG患者は乳酸代謝の生理的なホメオスターシスが崩れ,allostaticな過重負荷状態に置かれていることを反映している.大谷選手が結局は途中リタイアしたのと同様,このような無理な生体反応の維持は長期に保てるものではなく,いずれ疲弊して機能停止や組織障害に至るであろう.さらに重要な点は,POAG患者のCBMI依存性乳酸変動が房水内のみならず血清にもみられたところにあり,これは乳酸代謝allostasisは眼局所のみならず全身に及んでいることを意味する.この点において,GONはCDadaらが提唱するような,「視覚経路に限局した」病態ではなく,「全身の」炭素化合物代謝障害を背景にもつ疾患というべきであろう.いずれにせよ,今回の知見はCBMIとCPOAGの関連を説明する機序の一つを示すものと考えられる66).以上を整理する.①CPOAG患者と白内障患者で血清・房水の乳酸中央値に差はなかった.②房水乳酸濃度は血清乳酸濃度より数倍高く,眼内での乳酸の機能的重要性を示す.③血清・房水のいずれにおいても,白内障患者では房水濃度はCBMIにかかわらず,一定範囲に収まっていたが,POAG患者では両者に正の相関がみられた.(文献C66の図C1より許諾を得て改変転載)CVGONの遺伝素因とその研究課題1.GONにおけるゲノムワイド関連研究の進歩とmissingheritabilityGONがC4型糖尿病であるという仮説(「視覚経路に限局した」ものではなく,「全身的な」素因に基づくという意味においても)に対するもう一つの反論は,高眼圧や視神経挫滅のようなストレスによるCANLS障害や網膜グルコース・グルタミン酸濃度上昇ならびにこれらに誘発されるかもしれないインスリン抵抗性やCRGC死は,あくまでこうしたストレスによる結果であって,原因ではないのではないかという指摘であろう.ヒトの緑内障において生理学・生化学的な因果関係を示すのは難題である.この課題に解を与える有効な方法は,遺伝学的アプローチであろう.すなわち,糖や乳酸輸送・代謝にかかわる分子の発現を規定する遺伝的素因があり,NTG患者が対照と異なる遺伝的背景をもつことを示すことができれば,全身・局所の乳酸やグルコース代謝異常が緑内障を含む視神経ストレスの結果ではなく原因であるといえるであろう.遺伝素因を調べる方法で急速に普及しているのがゲノムワイド関連研究(genome-wideCassociationstudy:GWAS)ならびにこれを取り込んだメンデルランダム化(Mendelianrandomization:MR)法などである.GWASは,ヒトのゲノムの塩基配列を,一塩基多型(singleCnucleotidepolymorphism:SNP)という一種のマーカーを用いて,網羅的にパターン化する手法といってよいだろう.早い話がゲノムをバーコード化するようなものである.多数例の個体のゲノムバーコードを読み取ることで,ある疾患とゲノム情報パターンとの関連を見る.ただし,GWAS単独では因子間の相関は同定できても,因果関係は明らかにできない.一方で,MRは,SNPによるゲノム情報で個体を群分けして,ある疾患に寄与する因子を同定することで,その因子と疾患との因果関係を推論できる方法である.なぜなら,ゲノム情報はメンデルの法則によってランダムに分配されるので,それによって群分けされた個体間での臨床的因子の違いは,通常の観察研究で問題となる交絡の呪縛から解放されるからである.こうしたCGWASやCMR法でC2型糖尿病とCPOAGとの関連や因果関係が指摘されている11,98,99).最新の大規模CGWASではCPOAGのリスクとなる遺伝子座位をC312カ所も同定され,家族内リスクのC14.1%を説明できるまでに至っている7).しかし,これらの手法でC2型糖尿病とCPOAGとの関連が示されない報告もあり,決定打に欠けている.また,肝心のPOAGやCNTGと有意に関連する糖・乳酸代謝に関するSNPは同定されていない.これは糖・乳酸代謝関連遺伝子はCGONの原因ではないということを意味するのであろうか?実のところ,話はそれほど単純ではない.GONのような多因子疾患における遺伝要因には以前からCmissingCheritability(失われた遺伝率)の問題が指摘されている100).上述のごとく膨大なサンプルを集めてC312ものリスク遺伝子座位を同定してもなお,家族内のリスクのC14.1%しか説明することはできない.MissingCheritabilityには多くの要素がかかわっている.一つにはCSNPはある種盲目的にゲノムのバーコード化を行っており,ある特定のSNPが患者群と対照群で異なっていたとしても,そこに機能的にどのような違いがあるかを知ることは非常にむずかしい.便宜上,とある「遺伝子座位」の名前が付けられているCSNPも,実際にその遺伝子の発現量や機能の影響を及ぼしているとは限らない.その近傍にある別の遺伝子の発現が関与している可能性がある.また,GWASのバーコードのバーとバーの間は空白であり,すべての遺伝子配列を決定しているわけではないので,歯の欠ける櫛のように,肝心の遺伝子のバリアントを見落としているかもしれない.2.GONにおける遺伝子遺伝子相互作用(epistasis)の可能性さらにいえば,一つの遺伝子多型ではなく複数の遺伝子多型の組合せで表現型が決定されている場合,従来のGWASやCMRのアプローチではそのような組み合わせの影響は不明である.このような遺伝子遺伝子相互作用のことをCepistasisとよぶ101).すなわち,生体では,免疫沈降の項で述べたような,蛋白と蛋白が物理的に集簇してCtransportsomeを形成して機能を高めるだけでなく,異なる染色体上の遺伝子どうしが関連しあって特定の機能を調整すると考えられるようになっているのである.近年は一つのCSNPでは小さな効果しか出なくても,複数のCSNPを掛け合わせることでリスクが高まるかどうかを計算する手法としてCpolygenicriskscoreが注目を集めている102).しかし,polygenicCriskscoreも,疾患と有意に関連するCSNPを選択して計算されている.個々には有意な関連がないCSNP同士であるにもかかわらず,それらが組み合わさることでリスクが高まるようなCepistasisの存在が指摘されているが,この点に関する研究は端緒についたばかりである103).現在,再現性の検討中で,未発表データであるため,本稿では残念ながら詳細を明かせないが,GWAS戦略を取らず,GLUT,MCTやCAQP9を候補遺伝子としたSNP解析で,筆者らは対照に比し有意にCNTGのリスクを下げる遺伝子多型が存在することに加え,MCT2とAQP9の特定の遺伝子多型の組合せがあると有意にNTGのリスクを上げるCepistasisが存在する可能性を見出している.とくに後者は,個々の多型自体はCNTGと有意な関連はなかったため,GWASで釣り上げることはできなかったとも思われる.泥臭くはあるが,地道にさまざまな機能解析から演繹して遺伝要因を探索する候補遺伝子アプローチも病態解明には欠かせない手法であろう.以上を整理する.①CGWASならびにそこから派生する研究で説明できる緑内障の遺伝素因はC14%程度とされる.②CMissingCheritabilityの原因の一つに遺伝子遺伝子相互作用であるCepistasisがある.③CANLSやグルコース関連輸送体の遺伝子多型とそのepistasisがCNTG発症リスクに関与している可能性がある.VIFuturedirectionsこれまでのCGWASやCMRはあくまで患者自身のゲノムに焦点を当ててきた.しかし,ヒトは口腔内や腸内を代表として,さまざまな場所で自身を構成する細胞数より多い数の細菌により細菌叢を形成している.近年の研究で特定の口腔内・腸内細菌叢パターンが緑内障と関連していることが報告されている20,21).それだけでなく,ヒト宿主の遺伝子の発現が(ANLS関連蛋白の遺伝子も含めて)こうした細菌叢の種類によって,あるいはその逆にも,影響を受けていることが知られつつある104).こうした細菌叢組成や代謝物の変化はヒトの免疫や炎症,心血管や認知機能疾患とも密接につながっている105).とりわけ善玉腸内細菌として知られる乳酸菌(ならびに産生する乳酸)の減少は認知症と有意な関連を示すことが報告されている106).これからはヒト宿主のみならず,こうした細菌叢の構成や代謝物との相互作用とGONの関連を探っていく必要があるであろう.このような探索は,緑内障の遺伝リスクが親子間よりもむしろ兄弟間でのほうが高い理由を解明できるかもしれない(すなわち,共有する食事・運動習慣やストレス環境が口腔内・腸内細菌叢に類似の影響を及ぼすことが兄弟間でのCGONの発症リスク増大に関与しているかもしれない).また,本稿では乳酸のエネルギー基質としての側面に絞って解説してきた.しかし,実は乳酸は,MCTやAQP9を介して,細胞内外を通過し,細胞のエネルギー基質になるばかりでなく,GPR81ないしChydrocarboxC-ylicCacidCreceptor1(HCAR1)という受容体に結合し,細胞内のセカンドメッセンジャーを賦活化させる情報伝達分子の働きがあることも知られている46,107,108).乳酸のCGPR81を介した細胞内情報伝達経路とCRGCの機能や生存についても調べる必要がある109).加えて,緑内障を含むストレス下にある中枢神経変性疾患ではミクログリアが活性化され,障害された神経組織のリモデリングに働く一方で,炎症を増悪させる.この際,本来神経に輸送されるべき乳酸がミクログリアへ輸送されるCastrocyte-to-microgliaClactateCshuttle(AMLS)が活発化するとされる41,97).GONとCAMLSの関係解明も急務の課題であろう.さらに乳酸代謝への介入がCGONの治療戦略となる可能性についても検討すべきであろう.腸内細菌によって産生された乳酸が外因性に血中に取り込まれるだけでなく,筋肉や肝臓の糖代謝過程で内因性に産生された乳酸も血中に放出される.脳の神経細胞は,アストロサイトから供給される乳酸のみならず,血液中を循環する乳酸も直接取り込んでエネルギー基質に用いたり,シグナル分子として刺激を受けたりしている32,34,36,41).救急医療の現場では,脳挫傷の患者に高濃度の乳酸を投与することで脳浮腫を軽減させる効果が知られている110,111).実験的には高濃度の乳酸投与が脳虚血モデルでの認知機能を亢進させる112.114).筆者らは,視神経挫滅マウスに腹腔内乳酸投与を行うことで,RGCの機能と生存を部分的に改善できるとともに,ミクログリア活性も抑制できることを見いだしている(未発表データ).とはいえ,現実問題としてヒト緑内障患者で高濃度の乳酸を連日投与することはできない.しかし,これに代替する介入方法の可能性がある.実は複数の大規模観察研究やCMRで,長らく日常臨床で使用されているビグアノイド系経口糖尿病治療薬のメトホルミンを内服しているC2型糖尿病患者のCPOAG発症率は,内服していない患者に比し,有意に低いことが報告されている115.117).それ以外の糖尿病治療薬ではそのような効果はないとされる.近年,メトホルミンは血糖降下作用に加えて,心血管イベントの発症低減,認知機能の改善,腫瘍縮小効果など多面的な作用を有することで,他分野でも注目を集めている118,119).メトホルミンは肝臓での糖新生を抑制することが主要な薬効である120)が,糖新生は解糖系の逆であるので,その抑制は結果的に乳酸を増大させることになる.よってメトホルミンのこうした多面的な作用は血中乳酸放出によるかもしれない.さらに,メトホルミンは腸内細菌叢の組成や代謝も調整することが知られており121,122),その結果,腸内細菌叢での乳酸産生促進が,上記の宿主での多面的作用に貢献しているのかもしれない.筆者らは,メトホルミン内服が,こうした乳酸代謝の賦活化によりCGONの進行を抑制できるか否かを,介入研究(特定臨床研究)で検討する予定である.CVIIまとめGON発症にはさまざまな暴露因子と潜在機序が関与するが,こうした多様な背景因子とCGONの関連を一元的に説明することはこれまで困難であった.ANLSと乳酸輸送のCRGC生存と機能維持における重要性,ならびにその分子機構の理解が進み,潜在的なそして遺伝的な糖・乳酸輸送障害がCGONの結果であるだけでなく,原因でもある可能性が示されつつある.Alzheimer病が3型糖尿病である可能性を踏まえ,本稿ではCGONは全身的・眼局所的な,耐糖能異常を伴わない,4型糖尿病である可能性について概説した.この仮説は,GON,とくにCNTGにおけるCGONの病態理解を容易にするだけではなく,drug-repositioningによる,医療経済上持続可能な治療戦略の礎となる可能性を秘めている.多くの研究者がこの仮説に興味をもち,その真贋を検討することが,緑内障患者のCQOLの維持と向上に資すると信じ,この稿を終える.謝辞:今回,伝統と名誉ある須田記念講演を担当する機会を与えていただいた,第C34回日本緑内障学会会長中野匡先生,日本緑内障学会理事長相原一先生,ならびに日本緑内障学会理事・評議員各位に感謝いたします.本研究は多くの研究者のご協力があって遂行することができました.グレース眼科クリニックの内藤知子先生,三木貴子先生,島根大学の谷戸正樹先生,河野通大先生,杉原一暢先生,広島大学の木内良明先生,廣岡一行先生,尾上弘光先生にはCPOAGと白内障患者の血清・房水乳酸に関する観察研究において多大なるご尽力をいただきました.この場を借りて篤く感謝いたします.メタボローム解析は,神戸大学分子疫学分野篠原正和先生に一からご指導をいただきました.横浜市立大学目黒明先生にはCNTGの遺伝解析につき全面的なご指導とご協力をいただきましたこと深謝しますとともに,本稿では投稿準備中のため詳細を記載することができませんでしたことをお詫び申し上げます.筆者に網膜インスリン抵抗性の発想を与えてくださった留学先のボス,ペンシルバニア州立大学(現ミシガン大学CKelloggCEyeCenterの)ThomasCW.Gardner教授からは,学問のみならず指導者としてのあり方をも教えていただきました.前田眼科クリニックの前田秀高先生にはマウスERGの記録のノウハウを本当に一から教えていただいたうえに,臨床研究の患者登録にも多大なご尽力をいただきました.神戸大学講師の楠原仙太郎先生,かなもり眼科クリニックの金森章泰先生,栗本眼科クリニックの栗本拓治先生には本研究の骨格をなす基礎研究の立ち上げ,大学院の指導,臨床研究の遂行,研究内容のCdisC-cussionにおいて本当にお世話になりました.神戸大学助教の三木明子先生と盛崇太朗先生,あさぎり病院の明石梓先生,神戸海星病院の村井祐輔先生,大学院生の曽谷尭之先生,荒井実奈先生,槃木悠人先生,実験室秘書の北村萌様は基礎研究の実働部隊として献身的に本研究を行ってくれました.神戸大学准教授中西裕子先生,助教の坂本麻里先生と上田香織先生,大学院生の高野史生先生ならびに他のスタッフ,視能訓練士の皆様にはこの研究ならびにその背景にある多くの実地臨床と臨床研究で全面的な協力・支援をしてくれました.それ以外にも,関連する筆者の評議員指名講演での研究に携わってくれた多くの研究者がいますが,そちらの総説の謝辞と重複するため,ここでは割愛させていただきます.留学からの帰国後,筆者に自由に研究を行う環境を与えてくださった名誉教授の根木昭先生に改めて感謝申し上げます.最後に,神戸大学に緑内障学を導入し,皆が「眼圧」にしか注目していなかった時期から,緑内障が「視神経症」であるとの立場から研究を展開し,筆者がその背中を追った,神戸大学元助教授故溝上國義先生のご霊前に謹んでこの総説を捧げます.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会.緑内障診療ガイドライン第C5版.日眼会誌126:85-177,C20222)JayaramH,KolkoM,FriedmanDSetal:Glaucoma:nowandbeyond.LancetC402:1788-1801,C20233)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20044)YamamotoS,SawaguchiS,IwaseAetal:Primaryopen-angleglaucomainapopulationassociatedwithhighprev-alenceofprimaryangle-closureglaucoma:theKumejimaStudy.OphthalmologyC121:1558-1565,C20145)FujiwaraCK,CYasudaCM,CHataCJCetal:PrevalenceCofCglau-comaanditssystemicriskfactorsinageneralJapanesepopulation:TheHisayamaStudy.TranslVisSciTechnol11:11,C20226)DadaT,VermaS,GagraniMetal:OcularandsystemicfactorsCassociatedCwithCglaucoma.CJCCurrCGlaucomaCPractC16:179-191,C20227)HanX,NakazawaT,AkiyamaMetal:Large-scalemul-titraitgenome-wideassociationanalysesidentifyhundredsCofglaucomariskloci.NatGenet5:1116-1125,C20238)TribbleCJR,CHuiCF,CJoeCMCetal:TargetingCdietCandCexer-ciseCforCneuroprotectionCandCneurorecoveryCinCglaucoma.CCellsC10:295,C20219)FujitaCA,CHashimotoCY,CMatsuiCHCetal:AssociationCbetweenlifestylehabitsandglaucomaincidence:aretro-spectivecohortstudy.Eye(Lond)C37:3470-3476,C202310)JungY,HanK,ParkHYLetal:Metabolichealth,obesity,andCtheCriskCofCdevelopingCopen-angleglaucoma:meta-bolicallyChealthyCobeseCpatientsCversusCmetabolicallyCunhealthyCbutCnormalCweightCpatients.CDiabetesCMetabCJC4:414-425,C202011)WangCK,CYangCF,CLiuCXCetal:AppraisingCtheCe.ectsCofCmetabolicCtraitsConCtheCriskCofglaucoma:ACMendelianCrandomizationstudy.MetabolitesC13:109,C202312)CharlsonME,deMoraesCG,LinkAetal:Nocturnalsys-temichypotensionincreasestheriskofglaucomaprogres-sion.OphthalmologyC121:2004-2012,C201413)MelgarejoCJD,CLeeCJH,CPetittoCMCetal:GlaucomatousCopticCneuropathyCassociatedCwithCnocturnalCdipCinCbloodpressure:.ndingsCfromCtheCMaracaiboCagingCstudy.COph-thalmologyC125:807-814,C201814)CheongCAJY,CWangCSKX,CWoonCCYCetal:ObstructiveCsleepCapnoeaCandglaucoma:aCsystematicCreviewCandmeta-analysis.Eye(Lond)C37:3065-3083,C202315)BullochCG,CSethCI,CZhuCZCetal:OcularCmanifestationsCofCobstructiveCsleepapnea:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC262:19-32,C202416)ThamYC,TaoY,ZhangLetal:Iskidneyfunctionasso-ciatedCwithCprimaryCopen-angleCglaucoma?C.ndingsCfromCtheAsianEyeEpidemiologyConsortium.BrJOphthalmolC104:1298-1303,C202017)ChaiwiangCN,CPoyomtipT:TheCassociationCofCtoll-likeCreceptorC4CgeneCpolymorphismsCwithCprimaryCopenCangleglaucomasusceptibility:ameta-analysis.BiosciRepC39:CBSR20190029,C201918)HsuCE,CDesaiM:GlaucomaCandCsystemicCdisease.CLife(Basel)13:1018,C202319)WangL,WeiX:Tcell-mediatedautoimmunityinglauco-maneurodegeneration.FrontImmunolC12:803485,C202120)HuangL,HongY,FuXetal:Theroleofthemicrobiotainglaucoma.MolAspectsMedC94:101221,C202321)ChenS,WangN,XiongSetal:ThecorrelationbetweenprimaryCopen-angleCglaucoma(POAG)andCgutCmicrobio-ta:apilotstudytowardspredictive,preventive,andper-sonalizedmedicine.EPMAJC14:539-552,C202322)MacNairCE,NickellsRW:Neuroin.ammationinglauco-maCandCopticCnerveCdamage.CProgCMolCBiolCTranslCSciC134:343-363,C201523)MiaoCY,CZhaoCGL,CChengCSCetal:ActivationCofCretinalCglialcellscontributestothedegenerationofganglioncellsinCexperimentalCglaucoma.CProgCRetinCEyeCResC93:C101169,C202324)CalkinsDJ:AdaptiveCresponsesCtoCneurodegenerativeCstressinglaucoma.ProgRetinEyeResC84:100953,C202125)Harun-Or-RashidCM,CPappenhagenCN,CPalmerCPGCetal:CStructuralCandCfunctionalCrescueCofCchronicCmetabolicallyCstressedCopticCnervesCthroughCrespiration.CJCNreurosciC38:5122-5139,C201826)JassimAH,FanY,PappenhagenNetal:OxidativestressandChypoxiaCmodifyCmitochon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teCconcentrationCfollowingCsystemicCcarbonicCanhydraseinhibition.AmJOphthalmolC42:406-408,C195693)GaasterlandCDE,CPedersonCJE,CMacLellanCHMCetal:RheC-susCmonkeyCaqueousChumorCcompositionCandCaCprimateCocularCperfusate.CInvestCOphthalmolCVisCSciC18:1139-1150,C1979C94)GabeltBT,KaufmanPL:Aqueoushumorhydrodynamics.KaufmanCPL,CAlmCA.CAdler’sCphysiologyCofCtheCeye.10thCed.242,St.Louis,Mosby,200395)MarshallCH,CBerryCEC,CTorresCSDCetal:AssociationCbetweenbodymassindexandprimaryopenangleglauco-maCinCthreeCcohorts.CAmCJCOphthalmolC245:126-133,C202396)RongCSS,CYuX:PhenotypicCandCgeneticClinksCbetweenCbodyCfatCmeasurementsCandCprimaryCopen-angleCglauco-ma.IntJMolSciC24:3925,C202397)MasonS:LactateCshuttlesCinCneuroenergetics-homeosta-sis,CallostasisCandCbeyond.CFrontiersCinCNeurosciC11:Arti-cleC43,C201798)ShigaY,AkiyamaM,NishiguchiKMetal:Genome-wideassociationCstudyCidenti.esCsevenCnovelCsusceptibilityClociCforCprimaryCopen-angleCglaucoma.CHumCMolCGenetC27:C1486-1496,C201899)HanyudaCA,CGotoCA,CNakatochiCMCetal:AssociationCbetweenCglycemicCtraitsCandCprimaryCopen-angleCglauco-ma:aCMendelianCrandomizationCstudyCinCtheCJapaneseCpopulation.AmJOphthalmol245:193-201,C2023100)MaherB:Personalgenomes:theCcaseCofCtheCmissingCheritability.NatureC456:18-21,C2008101)平本正樹:多因子疾患の遺伝素因はどこまで解明できるか.東医大誌73:373-376,C2015102)VermaCSS,CCookeCBaileyCJN,CLucasCACetal:EpistaticCgene-basedinteractionanalysesforglaucomaineMERGEandCNEIGHBORCconsortium.CPLoSCGenetC12:e1006186,C2016103)HsiaoCYJ,CChuangCHK,CChiCSCCetal:Genome-wideCpoly-genicriskscoreforpredictinghighriskglaucomaindivid-ualsofHanChineseancestry.JPersMedC11:1169,C2021104)MargineanuCMB,CSherwinCE,CGolubevaCACetal:GutCmicrobiotaCmodulatesCexpressionCofCgenesCinvolvedCinCtheCastrocyte-neuronClactateCshuttleCinCtheChippocampus.CEurCNeuropsychopharmacolC41:152-159,C2020105)HajiaghaCMN,CTaghizadehCS,CAsgharzadehCMCetal:GutCmicrobiotaCandChumanCbodyinteractions;itsCimpactConhealth:areview.CurrPharmBiotechnol23:4-14,C2022106)SajiN,MurotaniK,HisadaTetal:RelationshipbetweendementiaCandCgutCmicrobiome-associatedmetabolites:aCcross-sectionalstudyinJapan.SciRepC10:8088,C2020107)LauritzenCKH,CMorlandCC,CPuchadesCMCetal:LactateCreceptorCsitesClinkCneurotransmission,CneurovascularCcou-pling,CandCbrainCenergyCmetabolism.CCerebCCortexC24:C2784-2795,C2014108)Harun-Or-RashidM,InmanDM:ReducedAMPKactiva-tionCandCincreasedCHCARCactivationCdriveCanti-in.ammatoryresponseandneuroprotectioninglaucoma.JNeuroin.ammationC15:313,C2018109)VohraR,KolkoM:Neuroprotectionoftheinnerretina:CMullercellsandlactate.NeuralRegenResC13:1741-1742,C2018110)IchaiC,ArmandoG,OrbanJCetal:Sodiumlactatever-susmannitolinthetreatmentofintracranialhypertensiveepisodesinseveretraumaticbrain-injuredpatients.Inten-siveCareMedC35:471-479,C2009111)WolahanSM,MaoHC,RealCetal:Lactatesupplementa-tionCinCsevereCtraumaticCbrainCinjuredCadultsCbyCprimedCconstantinfusionofsodiumL-lactate.JNeurosciResC96:C688-695,C2018112)RiceAC,ZsoldosR,ChenTetal:LactateadministrationattenuatesCcognitiveCde.citsCfollowingCtraumaticCbrainCinjury.BrainResC928:156-159,C2002113)BerthetC,CastilloX,MagistrettiPJetal:Newevidenceofneuroprotectionbylactateaftertransientfocalcerebralischaemia:Extendedbene.tafterintracerebroventricularinjectionCandCe.cacyCofCintravenousCadministration.CCere-brovascDisC34:329-335,C2012114)MilletCA,CCuisinierCA,CBouzatCPCetal:HypertonicCsodiumClactateCreversesCbrainCoxygenationCandCmetabolismCdys-functionCafterCtraumaticCbrainCinjury.CBrCJCAnaesthesiaC120:1295-1303,C2018115)LinHC,SteinJD,NanBetal:Associationofgeroprotec-tivee.ectsofmetforminandriskofopen-angleglaucomainCpersonsCwithCdiabetesCmellitus.CJAMACOphthalmolC133:915-923,C2015116)Male.kiC.S,CKusturicaCJ,CGu.i.ECetal:MetforminCuseCassociatedCwithCprotectiveCe.ectsCforCocularCcomplicationsCinCpatientsCwithCtypeC2CdiabetesC-observationalCstudy.CActaMedAcadC46:116-123,C2017117)VergroesenJE,TheeEF,AhmadizarFetal:AssociationofCdiabetesCmedicationCwithCopen-angleCglaucoma,Cage-relatedCmacularCdegeneration,CandCcataractCinCtheCRotter-damStudy.JAMAOphthalmolC140:674-681,C2022118)ZhengZ,ChenH,LiJ,LiTetal:Sirtuin1-mediatedcel-lularCmetabolicCmemoryCofChighCglucoseCviaCtheCLKB1/CAMPK/ROSCpathwayCandCtherapeuticCe.ectsCofCmetfor-min.DiabetesC61:217-28,C2012119)末松那都,坂口一彦,小川渉:ビグアノイド薬(メトホルミン).診断と治療C104:100-105,C2016120)MadirajuCAK,CQiuCY,CPerryCRJCetal:MetforminCinhibitsCgluconeogenesisCviaCaCredox-dependentCmechanismCinCvivo.NatMedC24:1384-1394,C2018121)PollakM:Thee.ectsofmetforminongutmicrobiotaandtheCimmuneCsystemCasCresearchCfrontiers.CDiabetologiaC60:1662-1667,C2017122)TsuchidaH,MoritaY,NogamiMetal:MetforminactioninCthegut-insightCprovidedCby[C18F]FDGCPETCimaging.CDiabetolIntC13:35-40,C2021☆☆☆

バックル併用硝子体手術のピットフォール

2024年8月31日 土曜日

バックル併用硝子体手術のピットフォールPitfallsofCombinedScleralBuckleAssistedVitrectomySurgery馬場隆之*はじめに現在の硝子体手術は小切開硝子体手術(microincisionvitreoussurgery:MIVS)であり,創口に関して非常に低侵襲な手術である.一方で難治性の網膜硝子体疾患,たとえば増殖硝子体網膜症(proliferativevitreoretinop-athy:PVR)や裂孔原性網膜.離(rhegmatogenousretinaldetachment:RRD)の陳旧例や再.離症例などでは強膜バックルが併用されることがある.本稿では,日頃行われることの少ない強膜バックル手術併用硝子体手術と,それにまつわる陥りがちなピットフォールについて解説する.Iバックル併用硝子体手術の適応に関するピットフォール1.バックルを併用する理由がわからない一般的なMIVSとバックル併用硝子体手術の侵襲性を比較した表を示す(表1).バックル併用硝子体手術ではかなり侵襲性が高いようであり,術後の循環障害にも気を配る必要があることがわかる.それでは,なぜこのように大変なバックルを硝子体手術で併施するのか.バックルにより期待される治療効果としては,大きく分けると,①前後方向の硝子体牽引の緩和(図1),②円周方向の硝子体牽引の緩和(図2)があげられる.①前後方向の硝子体牽引の緩和:網膜裂孔周囲に残存した硝子体が収縮することにより,接線方向の牽引が生じる.これは眼球壁のカーブのため,網膜を.離させる表1MIVSとバックル併用硝子体手術の比較MIVS*1バックル併用PPV*2結膜切開わずかエンサークリングでは360°結膜切開手術時間短い長い(プラス20.30分)疼痛少ない多い(しっかり麻酔が必要)循環障害少ないあり(高齢者,強度近視では注意)バックル併用手術ではMIVSに比べて手術侵襲がやや大きくなる.*1MIVS:microincisionvitrectomysurgery*2PPV:parsplanavitrectomy方向に作用し,裂孔の開放につながる.強膜バックルにより眼球壁は内陥して接線方向の牽引のベクトルは逆転し,裂孔閉鎖および網膜復位の作用が生じる.この効果は部分バックルでも得られる.②円周方向の硝子体牽引の緩和:硝子体基底部では硝子体線維の走行から1)円周方向への硝子体の収縮が生じるため,求心性の硝子体牽引が生じる2).結果として,最周辺の網膜が中心に向かって全周性に牽引されて.離が生じる.エンサークリングを行うことにより硝子体基底部は全方向で中心に向かって陥入され,求心性の硝子体牽引が減弱する.これにより最周辺の網膜を復位させる作用が得られる.ただし,この効果を得るためには全周性にバックルを設置する必要があり,部分バックルではなくエンサークリングが必要となる.2.バックル併用する症例の適応がわからないこのようなバックルが必要となる時点で,すでにこれ*TakayukiBaba:千葉大学大学院医学研究院眼科学〔別刷請求先〕馬場隆之:〒260-8670千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学大学院医学研究院眼科学0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(61)933図1前後方向の硝子体牽引の緩和a:網膜裂孔周囲の残存硝子体の収縮により,網膜裂孔周囲には網膜を.離する向きに牽引が生じる.Cb:バックルによる眼球壁の変形により,網膜裂孔周囲の牽引のベクトルが逆転し,網膜復位に作用する.図2円周方向の硝子体牽引の緩和a:硝子体基底部の点線のラインでの断面をCb,cに示す.b:硝子体基底部では円周方向の硝子体線維の収縮()により求心性の硝子体牽引が生じる.Cc:強膜バックル(エンサークリング)にて中心に向かうバックル効果により,求心性の硝子体牽引が緩和される.abAIRPFCL図4後極に網膜下液が残存a:バックル設置後に液空気置換を行うと,先に網膜裂孔()がバックル上で閉鎖してしまい,後極に網膜下液が残存してしまう.Cb:PFCLにて後極から網膜を復位させると,バックル上の裂孔()から排液され網膜は復位することができる.図3マットレス縫合直近付着部から幅C9CmmでC5-0ナイロン糸にてマットレス縫合を前置している.図5バックル追加幅C7Cmmのシリコーンタイヤでのエンサークリングの後方に,半分の幅にトリミングしたバックル材料()を円周方向に追図6子午線バックルの追加加している.エンサークリングの症例の後極にシリコーンスポンジで子午線バックルを追加している.図7渦静脈の圧迫バックルを後極へずらすために,通糸を後極側に行っている().隣接して渦静脈の強膜貫通部位がC2カ所あり(*)バックルを後極へずらすことにより渦静脈を圧迫してしまう.図8脈絡膜.離エンサークリングによる脈絡膜循環障害により,脈絡膜.離が生じた.術後C2週間で脈絡膜.離は自然軽快し,網膜再.離は生じなかった.図9バックルの後極縁の網膜光凝固a:通常の照明ではバックルの陰になってしまい,網膜裂孔の後極側が観察できない.Cb:照明付きレーザーを用いることにより,バックルより後極の強膜を圧迫し,裂孔の後極縁まで網膜光凝固が可能となる.図10簡略化したバックル固定糸バックル材料の前方側を各象限C1カ所(),計C4カ所で強膜に固定する.鈎を深くかける必要がないため,疼痛が少ない.’図11エンサークリング後のロングチューブシャントエンサークリングを一部切除したうえで,Ahmedglaucomavalve()をインプラントしている.プレートとエンサークリングの断端(*)はそれぞれ縫合されている.