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潜在的にロービジョンケアのニーズを抱えていた緑内障患者

2026年6月30日 火曜日

《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):695.699,2026c潜在的にロービジョンケアのニーズを抱えていた緑内障患者田保和也*1,2山﨑舞*1,2横田聡*1,2武田佳代*1,2木場みゆき*1,2山本庄吾*1,2平見恭彦*1,2栗本康夫*1,2,3仲泊聡*1,3,4,5*1神戸市立神戸アイセンター病院*2神戸市立医療センター中央市民病院眼科*3公益社団法人NEXTVISION*4立命館大学・総合科学技術研究機構*5東京慈恵会医科大学眼科学講座CGlaucomaPatientswithUnrecognizedNeedsforLowVisionCareKazuyaTayasu1,2)C,MaiYamazaki1,2)C,SatoshiYokota1,2)C,KayoTakeda1,2)C,MiyukiKoba1,2)C,ShogoYamamoto1,2)C,YasuhikoHirami1,2)C,YasuoKurimoto1,2,3)CandSatoshiNakadomari1,3,4,5)1)KobeCityEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KobeCityMedicalCenterGeneralHospital,3)NEXTVISIONPublicInterestIncorporatedAssociation,4)RitsumeikanUniversityResearchOrganizationforScienceandTechnology,5)DepartmentCofOphthalmology,TheJikeiUniversitySchoolofMedicineC緑内障は慢性進行性疾患であり,視野障害が進行しても患者自身が生活上の困難を自覚しにくい,あるいは自覚しても医療従事者へ訴えない場合が少なくない.本報告では,眼科通院中でありながら適切なロービジョン(LV)ケアの介入がなかった緑内障患者C3例を提示し,視能訓練士が患者の行動や反応から潜在的な支援ニーズを把握し,介入へとつなげた経過を検討した.視力が比較的良好な症例では,視野障害が身体障害者手帳の交付基準に相当していても,その該当性が認識されず結果として支援に結びつかない例が認められた.また,身体障害者手帳取得後でも活用方法に関する理解が不十分のため,適切な視覚支援が加入できていない症例も存在した.これらの症例から,検査所見のみならず検査中や移動時の様子,患者との対話を通じて生活上の困難を把握し,医療機関が適切な支援機関へつなぐ役割を担うことが円滑なCLVケア導入において重要であると考えられた.CGlaucomaisachronic,progressivedisease,andpatientsoftenfailtorecognizeorreportfunctionaldi.cultiesindailylifedespiteadvancingvisual.eldloss.Thisreportdescribes3glaucomapatientswhowereunderregularophthalmicCfollow-upCbutChadCnotCreceivedCappropriateClowCvisionCcare.CCerti.edCorthoptistsCidenti.edClatentCsup-portCneedsCthroughCsystematicCobservationCofCpatientCbehavior,CresponsesCduringCexaminations,CandCstructuredCcommunicationaboutdailyactivities,enablingtimelyintervention.Inpatientswithrelativelypreservedvisualacu-ity,Csigni.cantCvisualC.eldCimpairmentCmeetingCcriteriaCforCaCPhysicalCDisabilityCCerti.cateCwasCsometimesCover-looked,CrestrictingCaccessCtoCvisualCsupport.CEvenCafterCcerti.cation,CsomeCpatientsCreceivedCinsu.cientCassistanceCbecauseCofClimitedCinformationCofCavailableCservices.CTheseC3CcasesCindicateCthatCrelianceConCclinicalCtestCresultsCaloneisinadequate.Carefulassessmentofmobility,examinationbehavior,andpatient-reporteddailychallengesisessential.Furthermore,medicalinstitutionsplayacriticalroleinproactivelylinkingpatientstoappropriatesocialresources.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(6):695.699,C2026〕Keywords:緑内障,ロービジョンケア,視覚障害,身体障害者手帳,視能訓練士.glaucoma,lowvisioncare,vi-sualimpairment,physicaldisabilitycerti.cate,certi.edorthoptist.Cはじめにanalyzer:HFA)における平均偏差(meandeviation:MD)緑内障は日本における中途視覚障害の主因である.山岸らと生活の質(qualityoflife:QOL)が有意に関連することをは緑内障患者においてCHumphrey視野計(HumphreyC.eld報告している1,2).また,田中らは緑内障患者では疾患初期〔別刷請求先〕田保和也:〒C650-0047神戸市中央区港島南町C2-1-8神戸市立神戸アイセンター病院Reprintrequests:KazuyaTayasu,KobeCityEyeHospital,2-1-8Minatojima-minamimachi,Chuo-ku,Kobe650-0047,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(101)C695図1症例1の視野a:Humphrey視野計(HFA)10-2では,26CdB以上の視認点数は右眼C19点,左眼C6点(C○:実測閾値)で周辺視野のデータがなくとも視野障害C5級相当と考えられた.Cb:本人から身体障害者手帳取得の希望があったため,両眼開放CEstermanテストを実施したところ,見えた点はC114点であり,視野等級はC5級となった.からCQOLの低下がみられ,視野障害の進行とともにその低下が加速することを示した3).しかし,緑内障は慢性進行性疾患であり,視野障害が緩徐に進行するため,患者自身が視機能の低下に順応し,不自由さを自覚しにくい,あるいは自覚しても主治医へ訴えない場合が少なくない4).このため,患者からの訴えの有無にかかわらず,医療従事者が積極的に患者の生活上の困難に着目し,必要に応じて早期にロービジョン(LV)ケアの介入・支援を行うことが重要であると考える.当院では支援が必要な患者を発見する方法として,視能訓練士が以下のC2点を中心に支援ニーズの抽出を行う取り組みを行っている.①視力検査,視野検査の結果から身体障害者手帳交付基準に相当すると判断される場合に,主治医へ情報共有する.②検査中の患者の行動や質問への応答などから支援の必要性が示唆される場合には,LVケアの必要性について確認する.本稿では,患者の行動・反応から視能訓練士がCLVケアの潜在的ニーズを把握し実際に支援介入につながった症例を報告する.I症例170歳代,女性.両眼開放隅角緑内障.右眼視力(1.0C×sph-8.00DCcyl-0.75DCAx145°).左眼視力(0.7C×sph-8.00DCcyl-1.00DCAx180°).右眼眼圧C16mmHg,左眼眼圧C16mmHg.身体障害者手帳:未取得.視野:図1に示す.C1.介入を検討する契機となった所見視力検査時に,矯正視力が良好にもかかわらず回答に時間を要し,視標を探す動作が繰り返し観察された.C2.現状確認視野C10°内に認めた暗点が視標探索の困難さに影響していると推察された.日常生活で感じる困難について質問したところ本人からの訴えはなかったが,視能訓練士が読字や顔の識別など具体例を提示し質問したところ実は多数該当することが判明し,視機能の低下により日常生活に支障をきたしている状況が明らかとなった.支援のニーズが潜在的に存在するものの,患者自身が具体的に自覚・把握しにくい可能性が示唆された.C3.施行したLVケアHFA10-2の結果から身体障害者手帳に該当することを主治医に報告し,後日両眼開放CEstermanテストを実施して視認点数C114点,視野障害C5級相当であることを確認し身体障害者手帳申請の手続きを行った.後日改めてニーズ確認を行い,特に読字困難と,歩行時に下方の段差や傾斜に対して不安を感じていることを確認した.LVケアを進めるにあたり,具体的な視覚支援機器や地域福祉サービスの選択も重要であることから,当院と同一施設内に併設されたビジョンパークに情報提供を依頼した.同施設は,公益社団法人CNEXTVISIONが運営する情報提供拠点であり,福祉施設担当者や支援学校教職員など多様な専門職が関与し,各種補助具の体験や福祉相談が可能となっている.本症例では強度近視のため短文は裸眼での至近読が有効であり,長文は拡大読書器による拡大と音声読み上げ機能の併用が有用であることが確認された.ビジョンパークで読み上げ機能付き拡大読書器を体験することでその有効性を本人が実感し,身体障害者手帳取得後に導入へ至った.また,移動に関する困難に対しては地域の支援施設を紹介し,白杖の購入および歩行訓練の実施が検討された.CII症例280歳代,女性.右眼網膜.離に対する硝子体手術後続発緑内障,左眼開放隅角緑内障.右眼光覚弁.左眼視力(0.1C×sph-5.5DCcyl-2.25DCAx90°).右眼眼圧C16mmHg,左眼眼圧C14mmHg.身体障害者手帳:2級(視力障害C4級・視野障害C2級)所持.視野:図2に示すC.C1.介入を検討する契機となった所見検査室への移動時,家族にしがみつくように歩行していた.C2.現状確認身体障害者手帳は所持しているものの,読字困難,移動困難のニーズに対してCLVケアが未介入の状況であった.図2症例2の視野Goldmann視野計で右眼はCV/4eに対する反応を認めなかった.左眼は中心視野および耳上側に島状に視野が残存していたが,移動に重要とされる下方視野は欠如していた.3.施行したLVケア主治医にニーズへの対応が必要な現状を報告し,LV外来へ紹介した.同外来にてニーズの詳細確認を行い,カタログの字が読めず買い物に支障があること,署名ができないこと,信号の色がわからないこと,店頭で商品が識別できないことが明確となった.視機能の活用方法について評価するなかで,読字の際は文字の拡大が必要であることを確認し,ビジョンパークにて拡大読書器を試したところ,有効であることが判明した.また,スマートフォンを所持していたため音声での入力や読み上げ機能の活用と,信号識別や文字認識などが可能な視覚支援アプリがあることを紹介し,操作のサポートなど具体的な対応はビジョンパークへ依頼した.さらに,移動支援として白杖を使用した安全な歩行についての説明と同行援護サービスの活用を提案し,サービス内容の説明および地域支援施設への登録手続きに関する情報提供を行った.CIII症例350歳代,女性.両眼開放隅角緑内障.右眼視力(0.05C×sph-7.00DCcyl-2.00DCAx30°).左眼視力(0.4C×sph-7.00DCcyl-1.75DCAx140°).右眼眼圧C12mmHg,左眼眼圧C12mmHg.身体障害者手帳:2級(視野障害C2級)所持.視野:図3に示すC.C1.介入を検討する契機となった所見視力検査時に,患者から「身体障害者手帳を取得したがメリットがわからない」との報告を受けた.図3症例3の視野右眼は中心視野を欠き,耳下側に島状の視野残存を認めた.左眼は全体として視野の広がりはあるものの輪状暗点を呈し,中心視野はC3°以内であった.2.現状確認身体障害者手帳は所持しているものの,取得によりどのような福祉支援が受けられるか理解できていないこと,読字困難のニーズを確認した.C3.施行したLVケア身体障害者手帳取得後に受けられる福祉サービスとして補装具や日常生活用具等の視覚補助具の購入支援,税金の減免など経済的なメリットがあることを説明した.また,障害年金受給の可能性があるため年金事務所や社会保険労務士に相談するよう助言した.読字支援については拡大読書器,スマートフォンの視覚支援アプリについて紹介し,ビジョンパークにて実際に体験しながら説明を依頼した.CIV考按本報告のC3症例はいずれも,緑内障の治療目的で眼科通院中であったにもかかわらずCLVケアへの適切な導入に至っていなかった.とくに症例C1では,緑内障が慢性進行性であるという疾患特性から患者本人がCQOLの低下を自覚しにくいこと,自発的な訴えが乏しかったことでニーズの発掘がむずかしかったと考えられることが既報4)と一致していた.また,視覚支援において重要な役割を担う身体障害者手帳に関しては,横田らが身体障害者手帳未取得のリスク因子として「視力非該当」をあげており5),症例C1のように視力が比較的良好である場合には,視野障害が身体障害者手帳の交付基準に相当する程度まで進行していてもその該当性が認識されず,結果として身体障害者手帳取得に関する情報提供が行われないまま視覚支援介入に至らない場合もある.視力が良好に保たれている場合でも,視野障害が中心C10°内に及ぶと読字困難や羞明など日常生活への影響が顕著となることが報告されている6)ことから,視力によらず中心視野障害を認める場合には視覚支援のニーズが高まる.緑内障における視野評価ではC30°以内の視野測定が標準とされており,必要に応じて中心C10°以内の測定を追加することが推奨されている7).なお,中心C10°のみの視野データが得られていない場合であっても,24-2およびC30-2では測定点間隔がC6°であるため,中心部からC2点以内に暗点が存在するかを確認することは可能であり,このような中心暗点が認められる場合には読字困難や羞明などの視覚的な困難の有無について確認するとともに,身体障害者手帳の交付基準に相当するか確認することが重要と考える.さらに,湖崎分類Ⅲ期以降に相当する中期緑内障では,30°を超える周辺視野にも欠損が出現し始める.周辺視野欠損は移動のしづらさ以外に夜盲や羞明が起りやすい8).このため,両眼開放CEstermanテスト,FF120,Goldmann視野計などを用いて周辺視野を含めた評価を適宜行うことが望ましく,周辺視野の評価から身体障害者手帳の交付基準に相当すると判断できる場合も少なくない.また,症例C2やC3のように身体障害者手帳を所持していながら,本来はより早期の介入が必要であったにもかかわらず,十分なCLVケアを受けられていない患者は当院においても散見される.さらに筆者らは当院のCLV外来受診歴のある患者への聞き取り調査で,約半数にあたるC47%の患者がCLV外来受診後に新たな課題が生じていたものの,そのうち主治医に伝えられていたのはC41%にとどまっていたことを,第23回日本CLV学会学術総会で報告した.これらからCLVケアの対象となる視機能障害を有する患者に対しては,身体障害者手帳の取得や専門外来,専門機関への紹介のみにとどまるのではなく,生活上の困難や支援ニーズについても定期的に把握し継続的な支援につなげていくことが重要と考える.LVケアの重要性が認識される一方で,すべての支援を医療機関内で完結させることは現実的でない場合も少なくない.そのため,医療機関には患者の視覚的ニーズを適切に把握したうえで,必要な支援を提供可能な医療・福祉資源へ的確につなぐ役割が求められる.本報告ではいずれの症例も,LVケアへの導入およびニーズの把握は院内で行い,具体的な助言や補助具の体験についてはビジョンパークや地域の支援機関へつなぎ,継続的な介入が可能になるよう連携を行った.福祉機関の利用に心理的抵抗を示す患者も少なくないことから,医療機関において視機能評価とあわせてCLVケアに関する情報提供を行い地域の支援機関と段階的に連携することは,患者の不安を軽減し円滑な支援導入に重要であると考える.治療に対する関心は患者・医療従事者ともに高い一方で,生活上の「見えにくさ」への対応は十分ではなく,視覚支援の必要性を適切に把握できないまま支援介入に至っていない緑内障患者の存在が示唆された.検査所見に加え,患者の行動や対話を通じて潜在的な支援ニーズを把握し,LVケアにつなげることが重要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版CVFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のCqualityoflife評価C.日眼会誌C113:964-971,C20092)山岸和矢,吉川啓司,木村泰朗ほか:高齢者正常眼圧緑内障患者の視野障害とCQOL.臨眼C63:1467-1473,C20093)田中健司,岩瀬愛子,水野恵ほか:緑内障患者のCQOLとソーシャル・サポートの関連.日視能訓練士協誌C48:C35-45,C20194)国松志保:緑内障患者のロービジョンケア.あたらしい眼科C26:1077-1078,C20095)横田聡,金森章泰,藤本雅大ほか:神経眼科・斜視弱視外来における視覚障害者手帳取得状況.神経眼科C34:C61-64,C20176)張替涼子:緑内障のビジョンケア.眼科C66:125-138,C20247)木内良明,井上俊洋,庄司信行ほか:緑内障ガイドライン(第C5版)C.日眼会誌C126:85-177,C20228)陳進志:第C4章ロービジョンケアの視機能と行動.視能学エキスパートロービジョンケア(新井千賀子,田中恵津子,阿曽沼早苗,石井祐子編),p93-97,医学書院C,2024C***

眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の 特徴

2026年6月30日 火曜日

《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):691.694,2026c眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴坂田苑子*1井上賢治*1鶴岡三惠子*1國松志保*2富田剛司*1,3石田恭子*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院CCharacteristicsofGlaucomaPatientsSeenataLow-VisionClinicinanOphthalmologyHospitalSonokoSakata1)C,KenjiInoue1)C,MiekoTsuruoka1)C,ShihoKunimatsu-Sanuki2)C,GojiTomita1,3)CandKyokoIshida3)1)InouyeEyeHospital,2)CNishikasaiInouyeEyeHospital,3)CTohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:高齢化に伴い緑内障患者は増加し,ロービジョンケアの需要も増えている.今回,ロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を調査した.対象および方法:2024年C4月.C2025年C3月に井上眼科病院ロービジョン外来を受診した緑内障患者C114例を対象とした.年齢,性別,病型,身体障害者手帳等級,ニーズおよび実施したロービジョンケアの内容を診療録より後ろ向きに調査した.結果:平均年齢はC68.0C±13.9歳で高齢者が多かった.病型は広義原発開放隅角緑内障がC75%を占めた.身体障害者手帳を取得している患者のうちC1,2級がC70%以上であった.患者のおもなニーズは読字で,ロービジョンケア内容では拡大読書器の紹介が最多であった.結論:ロービジョン外来を受診した緑内障患者は高齢の重症例が多く,読字のニーズに対して拡大読書器,ICT機器,光学補助具の紹介が多く行われていた.CPurpose:Asthepopulationages,thenumberofglaucomapatientsisexpectedtoincrease,thusleadingtoariseinthedemandforlow-visioncare.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatethecharacteristicsofglauco-maCpatientsCseenCatCaCLow-VisionClinic(LVC)inCanCophthalmologyChospital.CSubjectsandMethods:WeCretro-spectivelyCanalyzedCtheCmedicalCrecordsCofC114CglaucomaCpatientsCseenCatCtheCInouyeCEyeCHospitalCLVCCbetweenCApril2024andMarch2025.Patientdemographics,glaucomasubtypes,visualdisabilitygrades,speci.cneeds,anddetailsCofCtheClow-visionCcareCprovidedCwereCreviewed.CResults:TheCmajorityCofCtheCpatientsCseenCwereCelderly(meanage:68.0C±C13.9years).Primaryopen-angleglaucomaaccountedforabout75%oftheglaucomasubtypesobserved.Over70%ofthepatientsheldaphysicaldisabilitycerti.cateclassi.edasGrade1orGrade2.Reading-relatedCneedsCremainedCpredominant,CandCvisualCaidCdeviceCintroductions,CespeciallyCthoseCrelatedCtoCaCvideoCmagni.er,werethemostcommoninterventions.Ontheotherhand,thedemandofapplicationforaphysicaldis-abilitycerti.catehaddecreased.Conclusion:TheglaucomapatientsseenatourLVCwerepredominantlyelderlysubjectswithsevereconditions,andreading-relatedneeds,magnifyingreadingaids,ICTdevices,andopticalaidswerefrequentlyrecommended.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(6):691.694,C2026〕Keywords:ロービジョン外来,緑内障,読字,身体障害者手帳C.low-visionclinic,glaucoma,reading-relatedneeds,physicaldisabilitycerti.cate.はじめに緑内障は長らく日本人の視覚障害の原因の第C1位で1),進行すると視力低下,視野障害により日常生活に著しく支障をきたす疾患である.日本人の高齢化の進展に伴いさまざまな眼疾患によるロービジョン患者が増加しており,ロービジョンケアの重要性はますます高まっている1).近年では視機能低下に対して医療機関でのロービジョンケアが重視され,各地でロービジョン外来が開設されている2).井上眼科病院(以下,当院)ではC2010年C9月にロービジョン外来を開設したが,患者の眼疾患の内訳では緑内障がもっとも多かっ〔別刷請求先〕坂田苑子:〒C101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SonokoSakata,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-SurugadaiChiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/26/\100/頁/JCOPY(97)C691(人)3530302725222015101050年齢図1年齢分布6級(0例,0.0%)4級(5例,4.4%)3級(2例,1.8%)20~4050607080~90以上(歳代)その他(9例,7.9%)正常眼圧緑内障(8例,7.0%)図2緑内障病型読字82歩行17就労17書字13羞明123遠見不自由介護3手帳2その他4図4患者のニーズた3).広島大学ロービジョン外来の受診者も緑内障患者がもっとも多く4),ロービジョンケアを考える際にはまずは緑内障患者について検討することが重要と考える.過去にも当院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を報告した5)が,緑内障治療の進歩や高齢化に伴い受診者の背景やニーズが変化している可能性がある.そこで本稿では,2024年度のC1年間に当院ロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴を後ろ向きに検討したC.CI対象および方法対象はC2024年C4月.C2025年C3月に当院ロービジョン外来を受診した緑内障患者C114例である.年齢,性別,緑内障病型,身体障害者手帳等級,患者のニーズ,およびロービジョン外来での指導内容を診療録から後ろ向きに調査した.期間内に複数回受診した患者については,期間内最初の受診時のデータを用いた.本研究はオプトアウトを実施し,井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を取得した(承認番号:C202501-4).CII結果対象は男性C53例,女性C61例で,平均年齢はC68.0C±13.9歳(平均C±標準偏差)で,28.C95歳であった.年代はC20.40歳代C10例(8.7%),50歳代C25例(21.5%),60歳代C22例(19.3%),70歳代C27例(23.7%),80歳代以上C30例(26.3%)で,70歳以上が半数を占めた(図1).緑内障病型は原発開放隅角緑内障C78例(68.4%),続発緑内障C19例(16.7%),正常眼圧緑内障C8例(7.0%)の順であった(図2).視覚障害による身体障害者手帳はC89例(78.1%)が有しており,1級C21例(18.4%),2級C43例(37.7%),3級C2例(1.8%),4級5例(4.4%),5級18例(15.8%),6級0例(0%)であった(図3).身体障害者手帳を有していないC25例(21.9%)のうち,等級に該当するが希望していないのがC19例で,692あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(98)表1ロービジョンケアの内容内訳件数内訳件数拡大読書器(CTV)紹介,利用C35ルーペ紹介C5就労継続,相談C21介護保険紹介,相談,利用C5視覚リハビリ紹介C11歩行訓練C4点字図書館,デジタル録音図書紹介C10障害年金申請C2ITサポート紹介C7代読,代筆サービスC1音声CPC紹介C6歩行器C1同行援護C6スマートサイト紹介C1身体障害者手帳紹介,申請C6自立訓練C1合計(重複あり)C122CこのうちC2級相当がC10例,4級相当がC1例,5級相当がC8例であった.障害の等級に該当しない症例はC6例であったC.患者のニーズ(重複あり)は読字C82例,歩行C17例,就労17例,書字C13例,羞明C12例と続いた(図4).ロービジョンケアの指導内容(重複あり)は,拡大読書器の紹介C35例,就労に関する相談C21例,視覚リハビリ紹介C11例,点字図書館の紹介C10例,ITサポートの紹介C7例,音声パソコン紹介C6例,同行援護の紹介C6例,身体障害者手帳の申請希望C6例,ルーペ紹介C5例,介護保険紹介C5例,歩行訓練C4例,障害年金申請C2例など多岐にわたった(表1).ITサポートとは,当院の視覚障害を有する職員がパソコンやタブレット端末などの視覚補助機能を紹介し,日常生活支援や社会資源の情報提供を行うものである6)C.CIII考按当院のロービジョン外来を受診する緑内障患者は高齢者が多く,身体障害者手帳C1級やC2級の重度の視覚障害を有する患者が多数であった.また,身体障害者手帳を有していない患者のなかで,身体障害に該当する障害を有しながら身体障害者手帳申請を希望しない患者も存在した.等級が低いほどロービジョンケアの必要性や利用できる福祉サービスが少ないという誤解があり,身体障害者手帳取得のメリットを感じづらく7),申請の遅れが生じている可能性も考えられる.視覚補助具をはじめ,公共料金の割引など利用できるサービスを具体的に提示し,身体障害者手帳申請に対するネガティブな感情を少なくする工夫も必要と思われる.身体障害者手帳の取得により自身を身体障害者と認識することへの心理的抵抗感から,申請を希望しない患者も存在すると考えられる.一方で,身体障害者手帳に障害が該当しない患者も,少なからずロービジョン外来を受診しており,視覚障害が早期の段階からロービジョンケアの介入ができていることも示された.いずれの患者も比較的若年で,就労や趣味において細かい文字の視認が必要な患者であった.傍中心視野障害によって緻密な作業に支障をきたしていたものの,周辺視野は保たれているため,身体障害者手帳の認定基準には該当しなかったC.患者のニーズでは依然として読字が多かった.読字に対するロービジョンケアの内訳は非常に多岐にわたるが,拡大読書器の紹介やデジタルデバイスの紹介が多かった.パソコンやスマートフォン,タブレット端末などのCinformationandcommunicationtechnology(ICT)機器をC1人C1台所有する時代となり8),実際に視覚障害者でもコロナ禍を境にCICT機器の利用が以前と比べ有意に増加している8).今後もCICT機器を活用したデジタル支援がさらに拡充されていくと考えられる.端末のカメラを利用した文字の拡大機能やコントラスト調節機能による視認性向上,また,スマートフォンやスマートスピーカーなどのスマート家電を利用した音声読み上げ機能,文字の音声入力によって情報の入手・発信が可能になっている8).近年ではアプリの進化もめざましく,カメラに映る人物や色を認識し音声で伝える機能や,外出時に信号を認識し目的地までナビゲーションする機能なども開発されている6,9).これらの機能を有効に活用する患者と,ICT機器の導入にハードル,不安を感じ情報社会から取り残されている患者もおり,情報格差が広がりつつあることが課題である7).今回,患者のニーズとして身体障害者手帳の紹介や申請はC6例(4.9%)で,過去の報告5)のC22例(59.5%)から減少した.これは,今回の対象がロービジョン外来を受診したすべての緑内障患者であるのに対して,過去の報告5)では初めてロービジョン外来を受診した緑内障患者を対象とした点が異なる.初回の受診では身体障害者手帳の紹介や緑内障の進行による等級の変更が行われる可能性が高いが,ロービジョン外来に数回受診している患者では生活指導が中心に行われていたことが考えられる.加えて,ロービジョン外来の認知度向上に伴い一般外来でもロービジョンケアを提供する機会が増加しており,ロービジョン外来の受診以前に一般外来でも身体障害者手帳の紹介や申請が行われている可能性も(99)あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026C693考えられる.また,Limらは「緑内障患者はうつ傾向のある患者の割合が多く4),うつ傾向がC30%,不安障害がC64%の割合でみられた」10)と報告している.緑内障患者と網膜色素変性患者の比較では,緑内障患者で心の健康や行動の制限などにおける生活の質(qualityCoflife:QOL)の低下が指摘されており11),日常生活に多くの困難を抱えていることが予測される.一般的にはロービジョンケアを必要と考える患者は,少なからず見えにくいことに不安を感じてから受診する.しかし,不安を強く抱える患者には,ロービジョンケアの存在や福祉センターとの連携,福祉サービスなどを早期に情報提供することも大切である.視覚補助具の選定のみならず,本人の意思を尊重しながら,心理的サポートを含めた包括的なロービジョンケアを行うことが求められる12).今回の調査では,2024年度のC1年間でロービジョン外来を受診した緑内障患者は身体障害者手帳を取得している患者のうちC1,2級を有する重症例が約C70%を占めた.患者のおもなニーズは読字であり,ロービジョンケア内容は拡大読書器の紹介が最多であった.身体障害者手帳に障害等級が該当しない軽度視覚障害のロービジョン外来受診も約C5%みられ,早期からのロービジョン介入ができていることもわかった.緑内障患者では,重度の視覚障害を有する患者だけでなく,視力低下や視野障害が軽度の患者についても早期からロービジョンケアの導入が検討されうる.今後もCICT機器のさらなる活用拡充とともに,心理的側面にも配慮した包括的支援が望まれる.緑内障患者に対し,ロービジョン外来は今後も重要な役割を担っていくと考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatobaCR,CMorimotoCN,CKawasakiCRCetal:ACnationwideCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividualsCinCJapanCforCtheC.scalCyear2019:impactCofCtheCrevisionCofCcriteriaforvisualimpairmentcerti.cation..JpnJOphthal-molC67:346-352,C20232)田淵昭雄,藤原篤之:全国大学医学部附属病院眼科におけるロービジョンクリニックの現状(第C2報).日ロービジョン会誌.14:52-57,C20143)鶴岡三惠子,井上賢治,大音清香ほか:井上眼科病院におけるロービジョン外来の実態.眼臨紀.15:317-321,C20224)佐藤佑二,奈良井章人,木内良明:緑内障のロービジョンケア.臨眼C72:192-194,C20185)井上賢治,鶴岡三惠子,大音清香ほか:眼科専門病院のロービジョン外来を受診した緑内障患者の特徴.眼臨紀C11:C922-926,C20186)石原純子,中津愛,石井祐子ほか:コロナ禍を境に変化した視覚障害者のCIT機器利用と意識について.日ロービジョン会誌.25:s10-s14,C20257)安蘇谷浩乃,相馬睦,杉谷邦子ほか:眼科における身体障害者手帳申請の現況と過去との比較.日ロービジョン会誌.24:41-44,C20238)三宅琢:ICT機器を用いたデジタルビジョンケア.眼科.64:447-452,C20229)山本翠:視覚補助具とCICT機器の選び方と使い方.薬局.72:2505-2511,C202110)LimNC,FanCH,YongMKetal:Assessmentofdepres-sion,Canxiety,CandCqualityCofClifeCinCSingaporeanCpatientsCwithglaucoma..JGlaucomaC25:605-612,C201611)井上賢治,鶴岡三惠子,石田恭子ほか:ロービジョン外来を受診した緑内障患者と網膜色素変性症患者のCQOLの評価.臨眼.73:361-367,C201912)松岡恵美子,松原英紀:不安感の強い緑内障患者のロービジョンケア.日本ロービジョン学会誌.23:73-77,C2023***694あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(100)

緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査 2024 年版

2026年6月30日 火曜日

《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):686.690,2026c緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査2024年版小笠原涼*1井上賢治*1塩川美菜子*1鶴岡三惠子*1國松志保*2溝田淳*2富田剛司*1,3石田恭子*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院SurveyoftheCurrentStatusofVisualImpairmentCertificationApplicationsforGlaucomaPatientsin2024RyoOgasawara1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MiekoTsuruoka1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),AtsushiMizota2),GojiTomita1,3)andKyokoIshida3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)を申請した緑内障患者の身体障害者手帳の実態について検討した.対象および方法:2024年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院で手帳申請を行った緑内障126例を対象とした.緑内障病型,視覚障害等級,視野測定方法を後ろ向きに調査した.2021年の前回調査の結果と比較した.結果:病型は原発開放隅角緑内障76例(60.3%),続発緑内障23例(18.3%)などだった.視覚等級は1級14例(11.1%),2級74例(58.7%),3級1例(0.8%),4級8例(6.3%),5級29例(23.0%)であり,病型,等級は前回調査と差はなかった.視野測定はGoldmann視野計(50例,39.7%)と自動視野計(75例,59.5%)を用いており,自動視野計での手帳申請の割合が前回調査より有意に増加した(p<0.01).結論:手帳申請者の緑内障病型は原発開放隅角緑内障が最多だった.視覚障害等級は1級と2級で約7割を占めた.視野測定は自動視野計が多く,経年変化では増加していた.Purpose:Tosurveyandassessthecurrentstatusofvisualimpairmentcerti.cationapplicationsforglaucomapatientsin2024.Methods:Weretrospectivelyanalyzed126glaucomapatientswhoappliedforaphysicaldisabili-tycerti.cateatInouyeEyeHospitalorNishikasai-InouyeEyeHospitalbetweenJanuaryandDecember2024.Glau-comatype,visualdisabilitygrade,andvisual.eld(VF)measurementmethodswereexaminedandcomparedwiththe.ndingsinthe2021survey.Results:Primaryopen-angleglaucoma(POAG)wasthemostcommonglaucomatype(60.3%),followedbysecondaryglaucoma(18.3%).VisualdisabilitygradeswereGrade1in11.1%,Grade2in58.7%,Grade3in0.8%,Grade4in6.3%,andGrade5in23.0%.VFassessmentwasperformedusingtheGold-mannperimeterin39.7%andautomatedperimetryin59.5%.Nosigni.cantdi.erencewasobservedinglaucomatypeordisabilitygradecomparedwiththe2021.ndings.However,certi.cationbasedonautomatedperimetryhadincreasedsigni.cantly(p<0.01).Conclusion:Inthissurvey,POAGwasthemostcommonglaucomatypeobserved.AutomatedperimetryhadincreasinglybeenusedforVFassessment,and70%oftheapplicationswereclassi.edasvisualdisabilityGrade1or2.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(6):686.690,2026〕Keywords:緑内障,視覚障害,身体障害者手帳,視野計,視野障害等級.glaucoma,visualimpairment,physical-lydisabilitycerti.cate,perimeter,visualdisabilitygrade.はじめにを対象とした多治見スタディでは40歳以上の5.0%で,年緑内障は視覚障害による身体障害者手帳(以下,手帳)認齢とともに有病率は上昇していた2).そこで手帳に該当する定者の原因疾患の第一位である1).緑内障の有病率は日本人緑内障患者の実態を知り,対策をとることは今後の失明予防〔別刷請求先〕小笠原涼:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:RyoOgasawara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN686(92)今回調査(126例)前回調査(153例)原発閉塞隅角緑内障発達緑内障(1例,0.8%)原発閉塞隅角緑内障発達緑内障(2例,1.3%)(4例,3.2%)(5例,3.3%)図1緑内障病型の比較有意差なし(χ2検定).の観点から重要である.緑内障にはさまざまな病型があり,病型により重症度や進行速度に差があり,緑内障による手帳該当者にも違いがある可能性がある.そこで筆者らは井上眼科病院と西葛西・井上眼科病院において2015年3),2021年4)に手帳申請を行った緑内障患者の実態を調査・報告した.手帳認定基準は2018年4月27日に厚生労働省から「身体障害者福祉法施行規則等の一部を改正する省令」が公布され,視野障害は従来のGoldmann視野計に加えて自動視野計も使用可能となった.筆者らの2021年の調査(以下,前回調査)4)では,視野障害の認定はGoldmann視野計60.1%,自動視野計39.9%で,依然としてGoldmann視野計が多かった.今回,前回調査4)より3年間が経過したので再度同様の調査を行った.さらに前回調査4)の結果と比較し,経年変化もあわせて検討した.I対象および方法2024年1.12月に井上眼科病院および西葛西・井上眼科病院に通院中の緑内障患者で,同時期に手帳申請を行った126例(男性74例,女性52例)を対象として後ろ向きの観察研究を行った.対象の年齢は24.94歳で,平均年齢は70.8±12.8(平均±標準偏差)歳であった.手帳申請時の緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級,視野検査方法(Goldmann視野計,自動視野計)を身体障害者診断者・意見書の控えおよび診療記録より調査した.緑内障病型別に視覚障害等級を,視野検査方法別に視野障害等級を比較した.さらに前回調査4)と緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級を比較した.視野検査ではGoldmann視野計あるいは自動視野計のどちらを使用するかは視野障害を評価する医師の判断で選択した.統計学的検討は患者背景の年齢の比較には対応のないt検定,男女比,緑内障病型,視覚障害等級,視力障害等級,視野障害等級の比較にはχ2検定,Fisherの直接法を用いた.有意水準はp<0.05とした.なお,緑内障病型は続発緑内障の原因が多岐にわたっていたため合算し,原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障,発達緑内障の5群として検討した.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.II結果緑内障病型は原発開放隅角緑内障76例(60.3%),続発緑内障23例(ぶどう膜炎10例,落屑緑内障10例,血管新生緑内障2例,ステロイド緑内障1例)(18.3%),正常眼圧緑内障22例(17.5%),原発閉塞隅角緑内障4例(3.2%),発達緑内障1例(0.8%)であった(図1).視覚障害等級は1級14例(11.1%),2級74例(58.7%),3級1例(0.8%),4級8例(6.3%),5級29例(23.0%),6級0例(0%)であった(図2).視力障害での申請は56例,視野障害での申請は125例で,重複申請は55例あった.視力障害の等級内訳は1級2例(3.6%),2級5例(8.9%),3級7例(12.5%),4級17例(30.4%),5級8例(14.3%),6級17例(12.5%)で,視野障害の等級内訳は2級88例(70.4%),3級1例(0.8%),4級1例(0.8%),5級35例(28.0%)であった(表1)視野障害等級と視野検査方法に差はなかった(p=0.5767).視野検査方法は,Goldmann視野計50例(39.7%),自動視野計75例(59.5%)であった(図3).視野障害等級は今回調査(126例)前回調査(153例)3級(1例,0.8%)表1視野障害等級と視野検査方法等級今回調査前回調査視力障害1級2(1.6%)0(0.0%)2級5(4.0%)88(69.8%)3級7(5.6%)1(0.8%)4級17(13.5%)1(0.8%)5級8(6.3%)35(27.8%)6級17(13.5%)0(0.0%)なし70(55.6%)1(0.8%)1級0(0.0%)0(0.0%)2級88(69.8%)94(61.4%)視野障害3級1(0.8%)3(2.0%)4級1(0.8%)0(0.0%)5級35(27.8%)56(36.6%)6級0(0.0%)0(0.0%)なし1(0.8%)0(0.0%)Goldmann視野計では2級42例(84.0%),5級8例(16.0%),自動視野計では2級46例(61.3%),3級1例(1.3%),4級1例(1.3%),5級27例(36.0%)であった(表2).視野検査の種類による視野等級に差はなかった(p=0.05).前回調査4)の緑内障病型は原発開放隅角緑内障83例(54.2%),続発緑内障34例(ぶどう膜炎14例,落屑緑内障14例,ステロイド緑内障3例,血管新生緑内障2例,角膜移植後1例)(22.2%),正常眼圧緑内障29例(19.0%),原発閉塞隅角緑内障5例(3.3%),発達緑内障2例(1.3%)であった(図1).視覚障害等級は1級19例(12.4%),2級77例(50.3%),3級4例(2.6%),4級12例(7.8%),5級41例(26.83級(4例,2.6%)図2視覚障害等級の比較有意差なし(χ2検定).%),6級0例(0%)であった(図2).今回調査と前回調査4)との比較では,緑内障病型は同等(p=0.82),視覚障害等級も同等(p=0.58)であった.視野検査方法は,前回調査4)でGoldmann視野計92例(60.1%),自動視野計61例(39.9%)で,今回調査では前回調査4)に比べて自動視野計の割合が有意に増加した(p<0.01).III考按手帳認定者の全国規模の疫学調査が2019年4月.2020年3月の患者を対象に行われた1).原因疾患は緑内障(40.7%),網膜色素変性(13.0%),糖尿病網膜症(10.2%),黄斑変性(9.1%)の順だった.2024年度の筆者らの施設の調査5)では原因疾患は緑内障(54.3%),網膜色素変性(14.7%),黄斑変性(9.1%),視神経症(6.9%)の順だった.2021年1.12月に行った調査4)と比較すると緑内障が最多であることには変わりないが,2024年調査5)では緑内障の割合が有意に増加した.獨協医科大学埼玉医療センターの安蘇らの報告でも,2013.2015年の3年間と2020.2022年の3年間を比較したところ,原因疾患として緑内障が増加傾向にあった6).その要因として,緑内障は加齢とともに有病率が上昇する7)ため,社会の高齢化に伴い患者が増加して重症例も増加することが考えられる.また,加齢黄斑変性や糖尿病網膜症では抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬や硝子体手術の進歩により重症例が減少したことも考えられる.そこで,前回調査4)より3年間が経過したため今回手帳を申請した緑内障患者の実態を調査した.さらに前回調査4)の結果と比較した.緑内障病型は今回調査と前回調査4)で順位は原発開放隅角緑内障,続発緑内障,正常眼圧緑内障の順で割合に差はなか該当なし今回調査(126例)前回調査(153例)(1例,0.8%)図3視覚障害等級の比較*p<0.05(χ2検定).った.外来を受診した緑内障患者の実態調査では,緑内障病型は正常眼圧緑内障45.6%,原発開放隅角緑内障33.1%,続発緑内障7.8%などであった8).今回調査の緑内障病型が原発開放隅角緑内障60.3%,続発緑内障18.3%,正常眼圧緑内障17.5%などであり,過去の報告8)と比較すると今回調査では原発開放隅角緑内障と続発緑内障が多い傾向だった.緑内障進行リスクとして高眼圧,とくに眼圧変動や経過中の平均眼圧が高いことがあげられている7).眼圧が高い原発開放隅角緑内障,眼圧変動が大きい続発緑内障が重症化しやすい可能性がある.視覚障害等級は1級と2級を合わせて今回調査では69.8%,前回調査4)では62.7%であった.緑内障の手帳申請者は依然として重症例が多いことが明らかとなった.視野障害等級は前回調査4)と比較して変化がなかった.手帳申請の視野検査方法は2018年の改定から自動視野計が利用可能となったが,自動視野計の使用割合が前回調査4)39.9%よりも今回調査59.5%では有意に増加した(p<0.05).今回調査の全症例での検討5)でもGoldmann視野計が有意に減少し,自動視野計が有意に増加した(p<0.01).自動視野計は緑内障が網膜色素変性,網脈絡膜萎縮,糖尿病網膜症に比べて有意に多く使用されていた5).視野障害判定に自動視野計が使用可能となったことは緑内障患者にとって視野障害認定の面では有益であった可能性がある.視野障害等級は,Goldmann視野計は2,5級のみ,自動視野計は2,3,4,5級の症例が存在し,自動視野計はGoldmann視野計よりも詳細に視野障害の評価ができる可能性がある.一方で,今回調査では前回調査4)に比較して緑内障による手帳申請者の件数は減少していた.近年,緑内障分野の新規配合点眼薬(ブリモニジン/リパスジル配合点眼薬,2022年上市)や,低侵襲緑内障手術(microinvasiveglaucomasur-gery:MIGS)としてiStent,KahookDualBlade,谷戸式表2今回調査と前回調査との視力障害等級,視野障害等級の比較視野障害等級自動視野計Goldmann視野計(GP)2級46423級104級105級278合計75(59.5%)50(39.7%)マイクロフックロトミー,TrabExなどが導入され治療選択肢が拡大している.これらの新規の点眼薬や手術の効果のために重症例に至る症例が減少した可能性がある.今後も治療の進歩や啓発活動の普及により,緑内障患者がより早期に診断される可能性が高まり,その結果として重症例の割合や病型分布に変化が生じる可能性がある.今後も注意深い経過観察が必要である.本論文は第36回日本緑内障学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatobaR,MorimotoN,KawasakiRetal:Anationwidesurveyofnewlycerti.edvisuallyimpairedindividualsinJapanforthe.scalyear2019:impactoftherevisionofcriteriaforvisualimpairmentcerti.cation..JpnJOphthal-mol67:346-352,20232)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,20083)比嘉利沙子,井上賢治,永井瑞希ほか:緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳申請の実態調査(2015年度版)..あたらしい眼科.34:1042-1045,20174)正井智子,井上賢治,塩川美菜子ほか:緑内障患者の視覚障害による身体障害者手帳実態調査2021年版.あたらしい眼科.40:958-962,20235)井上賢治,鶴岡三恵子,天野史郎ほか:眼科専門病院における視覚障害による身体障害者手帳の申請(2024年).眼臨紀19:92-97,20266)安蘇谷浩乃,相馬睦,杉谷邦子ほか:眼科における身体障害者手帳申請の現況と過去との比較.日本ロービジョン学会誌.24:41-44,20247)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第5版).日眼会誌126:85-177,20228)小林大航,井上賢治,塩川美菜子:多施設における緑内障実態調査2024年版―薬物治療―.あたらしい眼科42:881-886,2025***

プリザーフロマイクロシャント挿入術の早期成績

2026年6月30日 火曜日

《第36回.日本緑内障学会.原著》あたらしい眼科43(6):679.685,2026cプリザーフロマイクロシャント挿入術の早期成績遠藤誠子徳田直人佐浦里奈山田雄介豊田泰大塚本彩香金成真由北岡康史聖マリアンナ医科大学眼科学教室CResultsofPreserfloMicroShuntImplantationintheEarlyPostoperativePeriodAkikoEndo,NaotoTokuda,RinaSaura,YusukeYamada,YasuhiroToyoda,AyakaTsukamoto,MayuKanariandYasushiKitaokaCSt.MariannaUniversitySchoolofMedicineDepartmentofOphthalmologyC目的:プリザーフロマイクロシャント(PMS)挿入術の術後早期成績について検討する.対象および方法:広義の原発開放隅角緑内障(POAG)または落屑緑内障(PEG)に対してCPMS挿入術を施行し,術後C12カ月間経過観察可能であったC21例C33眼(67.4歳)を対象とした.PMS挿入術施行前後の眼圧推移,緑内障点眼スコア,術前後の角膜内皮細胞密度の変化,術後合併症について検討した.結果:PMS挿入術後,眼圧は術前C18.4CmmHgが術後C12カ月で12.2CmmHgと有意に下降した.緑内障点眼スコアは術前C4.5点が術後C12カ月でC0.6点と有意に減少した.術後合併症は角膜内皮細胞密度の減少(1.3%/年),前房出血,脈絡膜.離,浅前房などが認められた.なお,PMS挿入部付近の角膜内皮細胞密度が角膜中央部の角膜内皮細胞密度よりも減少している症例が存在した.結論:PMS挿入術は開放隅角緑内障に対して有効だが,PMS挿入術特有の合併症にも注意を要する.CPurpose:ToevaluatetheearlypostoperativeoutcomesofPreserFloMicroShunt(PMS)(SantenPharmaceu-tical)implantationCinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleglaucoma(POAG)C.CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolved33eyesof21POAGpatients(meanage:67.4years)whounderwentPMSimplantationandwhowerefollowedCforC12-monthsCpostoperative.CChangesCinCintraocularpressure(IOP)C,CglaucomaCmedicationCscore,CcornealCendothelialCcellCdensity,CandCpostoperativeCcomplicationsCwereCanalyzed.CResults:FromCpreCsurgeryCtoCatC12-monthsCpostoperative,CtheCmeanCIOPCandCglaucomaCmedicationCscore,Crespectively,ChadCsigni.cantlyCdecreasedCfrom18.4mmHgto12.2mmHgandfrom4.5to0.6(p<0.05)C,andthemeanreductionincornealendothelialcell(CEC)densitywas1.3%.SomepatientsshowedlocalizedCEClossneartheimplantationsite.Postoperativecom-plicationsCincludedChyphema,CchoroidalCdetachment,CandCaCshallowCanteriorCchamber.CConclusions:PMSCimplanta-tione.ectivelyreducedIOPandglaucomamedicationuseinPOAGpatients,however,carefulpostoperativemoni-toringisrequiredduetospeci.ccomplicationsassociatedwiththisprocedure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(6):679.685,C2026〕Keywords:プリザーフロマイクロシャント,低侵襲緑内障手術,MIBS,角膜内皮細胞.PreserfloMicroShunt,minimallyinvasiveglaucomasurgery(MIGS),minimallyinvasiveblebsurgery(MIBS),Cornealendothelialcell.Cはじめに昨今,緑内障手術は低侵襲化が進み,低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery:MIGS)1)とよばれる緑内障術式が広く行われるようになった.そのなかでも濾過手術の性質をもち,濾過胞を形成するものをCminimallyinvasiveblebsurgery(MIBS)と称し,識別するようになりつつある2).わが国で施行可能なCMIBSとしてプリザーフロマイクロシャント(PreserFloMicroShunt:PMS)(参天製薬)を用いたCPMS挿入術がある.PMSはわが国でC2023年に認可され,その後比較的多くの施設でCPMS挿入術が施行されている.聖マリアンナ医科大学病院(以下,当院)でも,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)を含めた広義の原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),落屑緑内障(pseudoexfoliationglaucoma:〔別刷請求先〕遠藤誠子:〒C216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:AkikoEndo.M.D.,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineDepartmentofOphthalmology,2-16-1SugaoMiyamae-ku,Kawasaki216-8511,JAPANC表1対象の背景表2緑内障病型と手術既往年齢C67.4±11.0歳性別(男/女)C26/7術前眼圧C18.4±4.8CmmHg術前ClogMAR視力-0.15±0.4(少数視力)(C0.01-1.2)術前角膜内皮細胞密度C2,345±391Ccells/mm2眼軸長C26.7±1.4Cmm等価球面度数-3.0±2.7D術前薬剤スコアC4.5±1.5点MD値-13.5±9.4CdBMD:meandeviation.PEG),そして硝子体手術後の無硝子体眼もCPMS挿入術の適応と考え施行している.今回筆者らは当院でCPMS挿入術を施行した症例の術後短期成績について検討したので報告する.CI対象および方法本研究は診療録による後ろ向き研究である(聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C7079号).対象は2023年7月.C2024年9月に当院でPOAG(広義)またはCPEGに対してCPMS挿入術を施行し,術後C12カ月間経過観察可能であったC21例C33眼,平均年齢C67.4C±11.0歳(以下平均±標準偏差)である.対象の背景を表1に示す.検討項目はCPMS挿入術施行前後の眼圧推移と眼圧下降率〔(術前眼圧-術後最終診察時眼圧)C÷術前眼圧をC100倍したもの〕,緑内障点眼スコア(緑内障点眼薬C1剤C1点,緑内障配合点眼薬C2点として算出),術前後の角膜内皮細胞密度の変化〔スペキュラーマイクロスコープCellChek20-1(コーナン・メディカル)〕,術後合併症とした.眼圧の推移については,対象を緑内障病型,白内障手術既往の有無,硝子体手術既往の有無で分類(表2)し,それぞれについて比較検討した.なお,統計解析は眼圧,薬剤スコア,角膜内皮細胞密度の変化については対応のあるCt検定により検討した.PMS挿入術は以下の手順で施行した.まず結膜下にC2%キシロカインを注入後,鼻上側に円蓋部基底結膜弁を作製し,強膜止血後に眼科用マイトマイシンCC製剤〔マイトマイシン眼科外用液用C2Cmg(協和キリン)〕をC0.04%に調整した状態で結膜下に塗布し,3.C5分間留置(時間は症例のTenon.の状態で増減した)後,生理食塩水C100CmClで洗浄した.角膜輪部からC3Cmmのところにマーキングし,その部分から付属のダブルステップナイフで強膜トンネルを作製し,その後前房穿刺した.その部分からCPMSを挿入し,PMSの後端から房水が流れていることを確認後,結膜と緑内障病型原発開放隅角緑内障(POAG)15眼(C45.5%)落屑緑内障(PEG)12眼(C36.4%)PEGを除く無硝子体眼などの続発開放隅角緑内障(SOAG)6眼(C18.1%)白内障なし(有水晶体眼)10眼(C30.3%)手術既往眼内レンズ挿入眼23眼(C69.7%)硝子体なし(有硝子体眼)30眼(C90.9%)手術既往硝子体手術既往眼(無硝子体眼)3眼(C9.1%)POAG:primaryCopenCangleglaucoma,PEG:pseudoexfoliationglaucoma,SOAG:secondaryCopenCangleCglaucoma.Tenon.でCPMSを被覆し手術を終了とした.なお,術後低眼圧の予防として,PMS内部にナイロン糸を留置し,術後眼圧が上昇してからナイロン糸を抜去する方法があるが,これは本検討の最中には施行していない.CII結果まず,全症例のCPMS挿入術前後の眼圧推移について示す(図1).PMS挿入術施行後眼圧は速やかに下降し,術後C12カ月まで術前眼圧に比し有意な眼圧下降を維持した.眼圧下降率は,術後C12カ月の時点で平均C28.1%C±32.8であった.術後C1カ月以降に眼圧がC2回連続でC20CmmHgを超えた時点,またはCneedling以外の濾過胞再建術を行った時点を死亡とした場合に,術後C12カ月の累積生存率はC78.8%であった.つぎに対象を緑内障病型別,白内障手術既往の有無,硝子体手術既往の有無に分類し(表2),それぞれの眼圧推移を比較した.図2に緑内障病型別の眼圧推移を示す.各病型ともに生存症例については術前に比し術後C12カ月まで有意な眼圧下降を示したが,続発開放隅角緑内障(secondaryCopenangleCglaucoma:SOAG)症例のうちC1例,術後C2カ月の時点で眼圧がC52CmmHgまで上昇してしまったため標準偏差が大きくなっている.図3に白内障手術既往別CPMS挿入術前後の眼圧推移を示す.両群ともに術前に比し術後C12カ月まで有意な眼圧下降を示した.図4に硝子体手術既往別PMS挿入術前後の眼圧推移を示す.硝子体手術既往眼は3眼と少ないが,3例ともCPMS挿入術後良好な眼圧下降が維持された.緑内障点眼スコアについては術前C4.5C±1.5点が術後C12カ月でC0.6C±1.0点と術前に比し有意に減少した(図5).なお,(mmHg)30201006789101112観察期間(カ月)図1プリザーフロマイクロシャント(PMS)挿入術前後の眼圧推移PMS挿入術施行後,術後C12カ月まで各測定点において術前に比し有意な眼圧下降を認めた.(mmHg)40眼圧3020100術前術後123456789101112観察期間(カ月)図2緑内障病型別のPMS挿入術前後の眼圧推移PMS挿入術施行後,SOAG群のC1例で術後C2カ月の時点で急激な眼圧上昇が生じた.POAG:CprimaryCopenangleCglaucoma,PEG:pseudoexfoliationCglaucoma,SOAG:secondaryCopenCangleglaucoma.当院ではCPMS挿入術後には術前に使用していた緑内障点眼をすべて中止し,ガチフロキサシン点眼C1日C4回,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼C1日C4回とし適宜減量している.術前後の角膜内皮細胞密度は,術前C2,345C±391Cmm2が術後C12カ月の時点でC2,276C±447Cmm2と有意に減少した(pC=0.03).角膜内皮細胞密度の減少率としてはC1.6%(C±6.1)であった.表3にCPMS挿入術合併症について示す.おもな術後合併症としては,1Cmm以上のニボーを伴う前房出血C9例(27.3%),眼底検査でC1象限以上確認できる脈絡膜.離C4例(12.1%),低眼圧,浅前房がそれぞれC3例(9.1%)であった.CPMSに特有な合併症として,チューブ露出がC1例(3.0%)存在した.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT)のCCASIA2(トーメーコーポレーション)で術後のCPMSの位置を確認し,PMSの位置が角膜と虹彩のなす角度の中央部より角膜寄りに存在した症例がC1例C2眼(6.1%)存在した.前眼部COCT上,PMSが虹彩に接触していた(mmHg)3020100術前術後123456789101112観察期間(カ月)図3白内障手術既往別PMS挿入術前後の眼圧推移PMS挿入術施行後,両群ともに術後C12カ月まで各測定点において術前に比し有意な眼圧下降を認めた.(mmHg)30眼圧20100術前術後123456789101112観察期間(カ月)図4硝子体手術既往別PMS挿入術前後の眼圧推移PMS挿入術施行後,両群ともに術後C12カ月まで各測定点において術前に比し有意な眼圧下降を認めた.症例がC1例(3.0%)存在した.角膜中央部の角膜内皮細胞密度が術前に比しC10%以上減少した症例がC2例(6.0%)認められた.角膜内皮細胞の撮影を角膜中央のみならずCPMSが留置されている付近(当院の場合,全例鼻上側)でも行った.その結果,先に示したCPMSが角膜寄りに留置されたC1症例(2眼)の術後C12カ月時点での角膜内皮細胞密度は,角膜中央部において,右眼C2,339Ccells/mmC2,左眼C2,444Ccells/mmC2に対して,PMS留置付近では右眼C1,589cells/mmC2,左眼C656Ccells/mm2とかなり減少していることがわかった(図6).その他,術後Cneedlingなどの濾過胞再建術を施行した症例はC6例(18.2%),濾過胞炎を生じた症例がC1例(3.0%)存在した.CIII考按当院では,緑内障手術が必要であるものの,年齢が比較的若く,流出路再建術では眼圧下降効果が不十分と判断されるような場合にCPMS挿入術を選択している.また,PMS挿入術では線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)と異なり,前房穿刺時に眼球虚脱が生じないため,硝子体手術の既往がある症例にも施行している.水晶体再建術の同時手術については,結膜切開による白内障手術がトラベクレクトミーの濾過胞の生存率に影響するという報告3)があるため,PMS挿薬剤スコア(点)76543210術前術後123456789101112観察期間(カ月)図5PMS挿入術前後の緑内障点眼スコアの推移PMS挿入術施行後,術後C12カ月まで緑内障点眼薬数は有意に減少できた.入術についても白内障手術との同時手術は行っていない.PMSの添付文書や緑内障診療ガイドラインの適応に加え,筆者らの考えるこれらの基準をもとに症例選択をしたうえでのCPMS挿入術の術後成績についてまとめた.以下,結果について考察する.眼圧については既報4)と同様に全体的に良好な眼圧下降が得られた.術後の緑内障点眼薬についても減らすことができた.緑内障点眼薬の数が増えることでアドヒアランスが低下することが指摘されている5)ため,今回の結果はCPMSを肯定する理由になると考える.対象の背景による違いは,白内障手術既往の有無については術後C1年は統計学的に有意差を認めなかった.白内障手術既往眼は,PMSを前房穿刺する際にチューブの先端が水晶体に当たるリスクはないが,白内障手術が結膜切開で行われていた場合,濾過胞の生存率に影響が出ることが懸念されたが術後C1年においては影響がなかった.硝子体手術後の症例についてもC3例と症例数は少ないものの良好な眼圧下降が得られ,硝子体手術既往眼に対してPMSが有効である可能性が示唆された.緑内障病型については,PEGに対するCPMSの効果について賛否が分かれるなか,今回の検討については良好な眼圧下降が得られたため,PEG症例については今後もとくに注意深く経過観察する必要があると考える.角膜内皮細胞密度については,健常者においてもC0.6%/年で減少することが報告されている6).一方で,トラベクレクトミー後C1年で角膜内皮細胞密度が約C5%減少し,その後も減少することが報告されている7).PMSの先端が角膜付近に留置されることから,術後に影響が生じることが懸念されたが,角膜中央部における角膜内皮細胞密度減少率は平均表3PMS挿入術合併症合併症症例数前房出血(1Cmm以上のニボーを伴うもの)9例C9眼(2C7.3%)浅前房3例C3眼(9C.1%)チューブ異常(露出,角膜接触,虹彩接触など)露出:1例C1眼(3C.0%)角膜寄り:C1例C2眼(6C.1%)虹彩接触:C1例C1眼(3C.0%)角膜内皮細胞減少(中央部の内皮細胞減少率≧10%)2例C2眼(6C.0%)一過性眼圧上昇(術後C1カ月以内C25CmmHg以上)1例C1眼(3C.0%)低眼圧(5CmmHg未満)3例C3眼(9C.1%)脈絡膜.離(眼底検査でC1象限以上)4例C4眼(1C2.1%)needlingなど施行6例C6眼(C18.2%)濾過胞炎1例C1眼(3C.0%)1.3%と既報4)よりも少なかった.当院ではCPMS挿入術後に全例前眼部COCTでCPMSの位置を確認している.本検討において角膜中央部の角膜内皮細胞密度の減少率は高くなかったものの,PMSの位置が角膜と虹彩のなす角度の中央部より角膜寄りに存在した症例については,角膜内皮細胞への影響は拭い去れない.実際にCPMS挿入術後早期に角膜内皮細胞が障害されたという報告もある8).当院で使用しているスペキュラーマイクロスコープCCellChek20-1は中心C1点に加え,周辺部C6点も角膜内皮細胞の撮影が可能であるため,PMSが留置された部分(鼻上側)の角膜内皮細胞の撮影を行術前術後C12カ月術後C12カ月術後C12カ月角膜中央部角膜PMS周辺部前眼部角膜内皮細胞密度角膜内皮細胞密度角膜内皮細胞密度OCT所見右眼C2,372Ccells/mmC2左眼C2,031Ccells/mmC2右眼C2,339Ccells/mmC2左眼C2,444Ccells/mmC2右眼C1,589Ccells/mmC2左眼C656Ccells/mmC2右眼C10CmmHg左眼C11CmmHgPMS先端が角膜内皮に近い図6落屑緑内障に対してPMS挿入術を施行した症例(64歳,男性)術後CPMSの位置が角膜と虹彩のなす角度の中央部より角膜寄りに存在した症例である.角膜中央部においては,術前後で角膜内皮細胞密度に大きな変化を認めなかったが,PMS挿入部付近で角膜内皮細胞の撮影を行うことで角膜内皮細胞の減少をより早期に確認できる.ったところ,角膜中央部では術前とほぼ変わりない状態であったが,PMS留置部付近の角膜内皮細胞は明らかに減少していた.本症例からCPMS挿入術後の角膜内皮細胞密度の経過観察の際には,角膜中央部のみならず,PMS挿入部付近も精査することの重要性が明らかになった.その他の術後合併症については,前房出血がC9例(27.3%)に認められたが,すべて術後C1週間以内に消失した.PMS後の前房出血は前房穿刺時に毛様体または強膜内の血管を損傷したことにより生じると考えるが術後成績に影響を及ぼすものではなかったといえる.脈絡膜.離がC4例(12.1%)に認められたが,そのうちC3例は自然に消失したが,1例はC4象限の脈絡膜.離と浅前房が遷延したため強膜開窓術を要した.PMS挿入術後C2カ月の時点でCPMSの後端が結膜から露出した症例がC1例に認められ,その症例については結膜被覆術を行った.術後Cneedlingなどの濾過胞再建術を施行した症例はC6例(18.2%)存在したがCneedling後に眼圧下降が得られた.PMS挿入術の場合,needlingで前房内まで到達することは不可能であるため,効果についてはあまり有効ではないと予想していたが,実際にやってみると眼圧下降が得られることが多いため,PMS挿入術後の高眼圧で濾過胞が維持されている症例については緑内障点眼薬を追加するよりも先にCneedlingを行う意義はあると考える.濾過胞炎を生じた症例は術後C1カ月までは経過良好であったが,術後C2カ月で突然眼圧がC52CmmHgまで上昇し,無血管な濾過胞の周囲は毛様充血が強く,濾過胞感染を疑うような状態であった.抗菌薬とステロイドの点眼で改善が得られたが,PMS挿入術も濾過手術である以上,濾過胞感染はつねに意識しておく必要があると考える.おわりに以上,PMS挿入術の術後早期成績について報告した.PMS挿入術はCPOAG,PEG,SOAGにも有効で,とくに無硝子体眼にも有効である可能性が示唆された.PMS挿入術後角膜内皮細胞密度の測定は角膜中央部のみならずCPMS留置付近についても精査すべきであることがわかった.本検討において,術者自身がまだ経験が浅かったことからチューブの留置位置に問題があった症例が存在したこと,症例数が少ないということ,コントロール群を作らずに検討していることなどが限界としてあげられるが,今後症例数を増やし,観察期間を延ばして,わが国におけるCPMS挿入術の有効性・安全性について検討していく予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)SahebCH,CAhmedII:Micro-invasiveCglaucomasurgery:CcurrentCperspectivesCandCfutureCdirections.CCurrCOpinCOphthalmolC23:96-104,C20122)QidwaiU,JonesL,RatnarajanG:AcomparisonofiStentcombinedwithphacoemulsi.cationandendocyclophotoco-agulation(ICE2)withCtheCPreserFloCMicroShuntCandCXEN-45Cimplants.CTherCAdvCOphthalmolC14:25158414221125697,C20223)TakiharaCY,CInataniCM,COgata-IwaoCMCetal:Trabeculec-tomyCforCopen-angleCglaucomaCinCphakicCeyesCvsCinCpseu-dophakicCeyesCafterphacoemulsi.cation:aCprospectiveCclinicalcohortstudy..JAMAOphthalmolC132:69-76,C20144)YamaeT,SakataR,SuzukiHetal:Short-termoutcomesofCtheCPreserFloCMicroShuntCinCJapaneseCpatientsCwithCexfoliationglaucoma:aCcomparisonCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCusingCpropensityCscoreCmatching.CJpnJOphthalmolC70:210-220,C20265)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsinfluencingadherencetoocularhypoten-siveCeyedropsCinCJapan.CIntCOphthalmolC39:375-383,C20196)BourneW,NelsonL,HodgeD:Centralcornealendotheli-alcellchangesoveraten-yearperiod..InvestOphthalmolVisSciC38:779-782,C19977)HirookaCK,CNittaCE,CUkegawaCKCetal:E.ectCofCtrabecu-lectomyConCcornealCendothelialCcellCloss.CBrCJCOphthal-molC104:376-380,C20208)IwasakiCK,CTakamuraCY,CInataniM.:RapidCcornealCendo-thelialCcellClossCafterCPreserFloCMicroShuntSurgery:aCcasereport..CureusC17:e83091,C2025***

基礎研究コラム:加齢黄斑変性とParkinson病の共通病態の探索

2026年6月30日 火曜日

監修北澤耕司・村上祐介・中川卓加齢黄斑変性とParkinson病の共通病態の探索水門由佳背景滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)に対する治療薬として抗CVEGF薬がありますが,無効例が存在し,萎縮型CAMDに対しては補体を標的とした治療薬が最近承認されたものの,有効な治療法は十分とはいえません.したがってCAMDに対する新規治療法の開発は急務といえます.近年,疫学的研究によってCAMD患者はParkinson病を発症するリスクが高いことが報告されており1),両疾患の関連性が示唆されるようになってきたことから,筆者らはCAMDとCParkinson病に共通する病態メカニズムがあるのではないかと考えました.Parkinson病患者にみられるCLewy小体の主要成分であるαC-シヌクレインの凝集体は,ドパミン作動性ニューロンの機能障害と細胞死を促進することが知られており,セリンC129のリン酸化によりその凝集体形成が促進されます.また,leucine-richCrepeatCkinase2(LRRK2)はCα-シヌクレインと同様にCParkinson病の発症に深くかかわる分子であり,セリン/スレオニンキナーゼ活性を有しCα-シヌクレインとの相互作用が報告されています.AMDは加齢に伴う網膜色素上皮(retinalCpig-mentepithelium:RPE)の機能不全が一因であると考えられていることから2),筆者らはCParkinson病の重要な病態責任分子であるCLRRK2とCα-シヌクレインがCRPEに与える影響を検討しました3).CLRRK2とα-シヌクレインはAMDの病態機序にも関与する筆者らは,ヒト眼球切片を用いた免疫染色により,LRRK2,α-シヌクレイン,リン酸化Cα-シヌクレインがとくに高齢者のCRPE層に存在することを示しました.AMDの病態形成に関与する刺激(酸化ストレス,低栄養)により,培養CRPE細胞においてCLRRK2とCα-シヌクレインの蛋白量が増加することがわかりました.そして,培養CRPE細胞でLRRK2が小胞輸送を制御する複数のCRAB蛋白(RAB1A,C8A,10)のリン酸化と機能修飾を介してCα-シヌクレインの分解を阻害することを示しました.さらに,家族性CParkin-son病でもっとも頻度の高い遺伝子変異でありキナーゼ活性の亢進が生じるCLRRK2-G2019Sの過剰発現によりCRPEの細胞死が誘導されたこと,α-シヌクレイン凝集体の刺激によってもCRPEの細胞死が誘導されたことから,LRRK2がCα-シヌクレインの増加を介してCRPEの細胞死を誘導すると考えられました.加えて,LRRK2-G2019Sトランスジェ北海道大学大学院医学研究院眼科学教室ニックマウスでは,RPEにおけるCα-シヌクレイン蛋白の増加,RPEの細胞死,網膜電図のCa波・b波の振幅低下,脈絡膜の菲薄化が認められました.以上のことから,LRRK2とCα-シヌクレインはCAMDおよびCParkinson病に共通する病態機序に関与する重要な分子であると考えられます.今後の展望今後の追加の研究により,LRRK2やCα-シヌクレインがAMDの治療ターゲットとなることが期待されます.文献1)ChoiCS,CJahngCWJ,CParkCSMCetal:AssociationCofCage-relatedCmacularCdegenerationConCAlzheimerCorCParkinsondisease:ACretrospectiveCcohortCstudy.CAmCJCOphthalmolC210:41-47,C20202)VyawahareCH,CShindeP:Age-relatedCmacularCdegenera-tion:epidemiology,Cpathophysiology,Cdiagnosis,CandCtreat-ment.CureusC14:e29583,C20223)SuimonCY,CNishimuraCM,CMurataCMCetal:Leucine-richCrepeatkinase2promotesdisintegrationofretinalpigmentepithelialcell:Implicationinthepathogenesisofdryage-relatedCmacularCdegeneration.CAmCJCPatholC195:1294-1310,C2025老化した状態健常な状態酸化ストレス低栄養老化図1加齢性変化によってLRRK2がα-シヌクレイン蛋白増加を介してRPE細胞死を引き起こす機序酸化ストレス刺激や低栄養といった加齢に伴う変化が生じた網膜色素上皮(RPE)では,LRRK2が増加する.LRRK2はCRAB蛋白をリン酸化することによりCα-シヌクレイン蛋白の分解を抑制し,Cα-シヌクレイン蛋白が増加する.この結果,RPE細胞死とそれに引き続く視細胞死,脈絡膜の菲薄化が生じると考えられる.(文献C3より改変引用)(79)あたらしい眼科Vol.43,No.6,20266730910-1810/26/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:277.糖尿病網膜症とAGEs(研究編)

2026年6月30日 火曜日

277糖尿病網膜症とAGEs(研究編)池田恒彦京都中部総合医療センター眼科近畿大学奈良病院眼科●AGEsとはAdvancedCglycationend-products(AGEs)は,糖と蛋白質の非酵素的付加反応によって生じる最終生成物である.その生成メカニズムとしては,Maillard反応を介して糖と蛋白質が結合してアマドリ生成物となり,最終的にCAGEsが形成される.AGEsは体内に蓄積することで組織や細胞機能に悪影響を及ぼすことが知られている1).C●糖尿病網膜症とAGEs糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)の病態におけるCAGEsのかかわりについては,過去に膨大な研究成果が報告されている2,3).AGEsは細胞表面のCAGEs受容体(receptorforAGEs:RAGE)に結合することで,炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-6など)や接着分子(VCAM-1,ICAM-1)を誘導し,血管内皮細胞の障害や炎症を惹起する.また,AGEsは酸化ストレスを増加させ,網膜毛細血管の透過性を亢進させるともに,コラーゲンなどの細胞外マトリックスに結合して基底膜を硬化・肥厚させ,血管壁の機能を低下させる.また,AGEsは血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)産生を促進し,新生血管形成にもかかわる.筆者らも過去に,京都府立医科大学糖尿病内科との共同研究で,増殖CDRに対する硝子体手術時に採取した硝子体中のAGEsが増加していること,AGEsにより培養網膜CMuller細胞におけるCIL-6やCVEGF産生が増加することを報告した(図1)4,5).また,高血圧の治療薬として頻用されているアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬の一つであるカンデサルタンが,AGEsの一種であるペントシジンのラット網膜における蓄積とCVEGFの発現を減少させることで,DRの発症を抑制する可能性についても報告した6).一方で,AGEsが培養中の網膜神経細胞に対して一酸化窒素合成酵素(nitricCoxideCsyn-thase:NOS)の活性化を介して神経毒性を示し,神経細胞死にはアポトーシス経路が一部関与している可能性(77)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY12345040VEGF165-30VEGF121-20AGE-BSA;5μg/ml(lean2),1010μg/ml(lean4)BSA;5μg/ml(lean1),0510μg/ml(lean3)BSAAGE-BSA図1培養Muller細胞におけるVEGF産生能に対するAGEsの影響培養CMuller細胞上清中のCVEGFはCAGEs濃度依存的に増加した.(文献C5より引用)も報告した7).C●今後の展開このようにCAGEsがCDRの発症と進行において重要な役割を担っていることは非常に興味深い.今後,AGEs生成抑制やCAGEs-RAGE経路をターゲットとした治療戦略が,DRの新しい治療法の一つとして臨床応用される日がくることを期待したい.文献1)BrownleeM:TheCpathobiologyCofCdiabeticCcomplications:Caunifyingmechanism.DiabetesC54:1615-1625,C2005.2)KandarakisSA,PiperiC,TopouzisFetal:Emergingroleofadvancedglycation-endproducts(AGEs)inthepatho-biologyCofCeyeCdiseases.CProgCRetinCEyeCResC42:85-102,C20143)XuJ,ChenLJ,YuJetal:Involvementofadvancedgly-cationCendCproductsCinCtheCpathogenesisCofCdiabeticCreti-nopathy.CellPhysiolBiochemC48:705-717,C20184)NakamuraCN,CHasegawaCG,CObayashiCHCetal:IncreasedCconcentrationCofCpentosidine,CanCadvancedCglycationCendCproduct,andinterleukin-6inthevitreousofpatientswithproliferativeCdiabeticCretinopathy.CDiabetesCResCClinCPractC61:93-101,C20035)HirataC,NakanoK,NakamuraNetal:Advancedglyca-tionendproductsinduceexpressionofvascularendotheli-alCgrowthCfactorCbyCretinalCMullerCcells.CBiochemCBiophysCResCommunC236:712-715,C19976)SugiyamaT,OkunoT,FukuharaMetal:AngiotensinⅡCreceptorCblockerCinhibitsCabnormalCaccumulationCofCadvancedglycationendproductsandretinaldamageinaratCmodelCofCtypeC2Cdiabetes.CExpCEyeCResC85:406-412,C20077)KobayashiT,OkuH,KomoriAetal:AdvancedglycationendCproductsCinduceCdeathCofCretinalCneuronsCviaCactiva-tionCofCnitricCoxideCsynthase.CExpCEyeCResC81:647-654,C2005あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026671VEGF(pg/ml)510(μg/ml)

考える手術:Ahmed ClearPathスモールチューブによる緑内障手術

2026年6月30日 火曜日

考える手術監修松井良諭・奥村直毅AhmedClearPathスモールチューブによる緑内障手術谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座緑内障ロングチューブシャントとして,Baerveldt緑内障インプラント(BGI,2011年承認),Ahmed緑内障バルブ(AGV,2014年承認)が使用されてきた.近年,新しいデバイスとしてAhmedClearPath(ACP,2024年承認),ACPスモールチューブ(ACP-ST,2025年承認),Paul緑内障インプラント(PGI,2025年承認)が相次いで登場している.とくにACP-STとPGIはチューブ径が小さいことから,角膜内皮細胞への影響が従来のデバイスと比較して少ないことが期待されている.加えて,6-0ポリプロピレンステントのみで流出抵抗を確保できるため,チューブ結紮も不要である.ACP,ACP-ST,PGIはバルブなし構造であるため,AGVよりも低い術後眼圧が達成できる可能性もある.チューブを挿入する際には,自己強膜弁を用いたチューブ被覆に加えて,強膜トンネル法による方法も普及しつつある.とくに小切開強膜トンネル法(micro-incisionalscleraltunnel:MIST)は,グラフトが必要ないこと,前方アプローチであるため穿孔時の安全性が高いこと,前房・毛様溝・毛様体扁平部いずれのチューブ挿入も可能であること,縫合不要で手術時間が短縮できることなど,利点が多い.本稿では,MISTによるACP-STの毛様溝チューブ挿入の動画を提示する.聞き手:各種ロングチューブデバイスの大きさを教えてす.350モデルはCBGIやCPaul緑内障インプラント(Paulください.Cglaucomaimplant:PGI)と同様,2直筋の下にプレー谷戸:図1に外観を示します.バルブ付モデルであるトを留置します.250モデルはCAGVと同様に直筋間にAhmed緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)プレートを留置しますので,外眼筋に触れる操作は最小のモデルCFP-7のプレートはC184CmmC2(前後径C17.0Cmm限ですみます.C×幅C13.0mm,厚さC2.1mm),AhmedClearPath(ACP)とCACPスモールチューブ(ACP-ST)にはそれぞれプ聞き手:各種デバイスのチューブの太さはどのくらい違レートサイズC250CmmC2(前後径C16.7CmmC×幅C18.5mm,いますか?厚さC0.8Cmm)とC350CmmC2谷戸:図2にチューブの外観を示します.AGVとCACP(前後径C16.5CmmC×幅C30.5Cmm,厚さC0.8Cmm)があります.プレートの素材は,AGVはのチューブはCBGIと同じ外径C0.64Cmm,内径C0.31Cmmシリコーン製,ACP,ACP-STはCBaerveldt緑内障イです.ACP-STのチューブはCPGIと同じ外径C0.46Cmm,ンプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)と同内径C0.13Cmmです.プリザーフロマイクロシャントがじ硫酸バリウム含有シリコーン製で白い色をしていま外径C0.35Cmm,0.07Cmmですので,それよりは太いで(75)あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026C6690910-1810/26/\100/頁/JCOPY考える手術すが,ACP-STはCAGVなどと比較して随分細いことがわかります.ステント糸として,ACPにはC4-0ポリプロピレン糸が,ACP-STにはC6-0ポリプロピレン糸があらかじめ挿入されています.ACPにC4-0ステントを用いる場合(3-0ステントでも)は,低眼圧予防のためにチューブ結紮も必要となります.一方で,スモールチューブデバイスでは,6-0ステントのみで十分な流出抵抗が担保されるため,チューブ結紮は必要なく,そのため術中操作や術後の管理がシンプルになります1).プレートサイズがC2種類ありますが,私は操作性を考えてC250Cmm2のモデルをおもに使用しています.聞き手:ACP-STの適応を教えてください.谷戸:基本的には従来のロングチューブシャントと同様に,トラベクレクトミー不成功,あるいはトラベクレクトミーで十分な効果が見込めない患者が適応となります.ACP-STはバルブ構造を有しないため,AGVと比較して術後に達成される眼圧が低くなる可能性がありますが,現時点では十分な情報はありません.前房や毛様溝にチューブ挿入を行う際には,チューブが細いほうが角膜内皮への影響が少ないことが期待されています.私は前房挿入を行う際には,スモールチューブデバイスを選択することにしています.聞き手:小切開強膜トンネル法(micro-incisionalCscler-altunnel:MIST)について教えてください.谷戸:ブレブナイフⅡ(カイインダストリーズ製)などの細いクレセントナイフを用いて,輪部側から後方に向かって強膜トンネルを作製します.前房・毛様溝・扁平部にチューブを挿入する際には,それぞれ輪部から1Cmm,1.5Cmm,3Cmmぐらいの場所からトンネル作製を開始します.トンネルの長さはC4Cmm以上とします.トンネル作製の際には眼球穿孔に注意してください.通常,穿孔はトンネル作製開始時に発生しますので,輪部側からトンネルを作製した場合には穿孔しても網膜裂孔を生じる危険性はほとんどありません.作製した強膜トンネル内を,25ゲージ(G)硝子体鉗子や池田氏前.切開鑷子(エムイーテクニカ製)などを用いてチュC.ブを通します.トンネルの前端部分でC25G針を用いて眼内への刺入創を作製します.前房・毛様溝へのチューブ挿入では,分散型の粘弾性物質をC25G針に接続しておいて,眼内刺入した際に空間保持のために粘弾性物質を注入します.そのうえで,25G針をガイドにして,対側から眼内に挿入した硝子体鉗子や前.切開鑷子を眼外に導き,チューブを把持して眼内に引き込みます(図3).毛様溝挿入については動画①②を参照してください.過去の文献2)でも,前房・毛様溝・扁平部それぞれの手技についてビデオを見ることができます.聞き手:ステント抜去のタイミングを教えてください.谷戸:私は眼圧がC10CmmHgを越えた時点でCβ遮断薬と炭酸脱水酵素の合剤点眼を開始しています.そのうえで,眼圧をさらに下げたほうがよいと考えられる時点で,細隙灯顕微鏡下にC26G針で結膜切開をしてステントを抜去しています.少なくともC2週間は待ち,多くの場合は術後C2カ月以降にステントを抜去しています.文献1)MasdipaA,KaidzuS,TanitoM:Invitroanalysisofpres-sureresistanceinthePaulGlaucomaImplantandAhmedClearPathC250CwithCandCwithoutCpolypropyleneCthreadCinsidethetube.TranslVisSciTechnolC14:2,C20252)TanitoCM,COhtaniCH,CIdaCCCetal:TubeCinsertionCofCAhmedglaucomavalveusingamicro-incisionscleraltun-neltechnique.CureusC16:e75899,C2024図1各種ロングチューブデバイスの外観左からCAGV(モデルCFP-7),ACP(350CmmC2モデル),ACP-ST(250CmmC2モデル).図2各種チューブの外観左からCAGV(モデルCFP-7),ACP(4-0ステント入り),ACP-ST(6-0ステント入り)のチューブ.図3小切開強膜トンネル法(MIST)によるチューブ留置670あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(76)

抗VEGF治療セミナー:EVEREST Ⅱスタディとパキコロイド関連疾患治療の最新知見

2026年6月30日 火曜日

●連載◯監修=安川力五味文168148EVERESTⅡスタディとパキコロイド柳靖雄お花茶屋眼科関連疾患治療の最新知見抗CVEGF薬と光線力学療法(PDT)の併用療法は,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)をはじめとするパキコロイド関連疾患の長期管理に有用であり,EVERESTⅡスタディのC6年追跡による日本人サブグループ解析では良好な解剖学的安定を示した.また,個別化治療や,より低侵襲な減量CPDTも今後の有望な治療戦略として注目されている.本稿では,長期成績や安全性,長期予後の観点から,抗CVEGF薬とCPDT併用療法の最新知見について解説する.はじめに近年,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)やパキコロイド新生血管症(pachychoroidCneovasculopathy:PNV)といったパキコロイド関連疾患に対する治療戦略は,光線力学療法(photodynamicCtherapy:PDT)と抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の併用療法(以下,併用療法)の進展により,大きく変化した.とくにCPDTは,PCVに特徴的なポリープ病変の退縮に効果的であり,抗CVEGF薬単独では得がたい解剖学的安定性をもたらす治療モダリティとして,その価値が再認識されている.ベルテポルフィンの供給制限という未曽有の危機は,PDTの適用を戦略的かつ精密な個別化医療へと進展させる契機となったといえる.EVERESTCⅡスタディは,PCVに対するCPDTとラニビズマブの併用療法の有効性を検証した大規模ランダム化比較試験であり,近年,そのC6年間にわたる追跡結果が報告された.本稿では,EVERESTⅡスタディのC6年間の長期追跡データ,とくに日本人サブグループ解析の知見を中心に,パキコロイド関連疾患に対する併用療法の長期的な意義,減量CPDTの補完的価値,そして今後の個別化治療の方向性について,最新の学術的知見に基づき概説する.解剖学的アウトカムの優位性EVERESTⅡスタディのC6年追跡の結果,併用療法群は,PDT単独や抗CVEGF単独群と比較して,中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT)の減少や網膜下あるいは網膜内液の減少といった解剖学的アウトカムにおいて優れていることが示された.この知見は,PDTが脈絡膜の病変構造自体に働きかけ,長期的な形態学的安定に貢献していることを示唆している.ただし,視力(73)C0910-1810/26/\100/頁/JCOPY改善効果自体には両群間で有意な差は認められなかった1).日本人サブグループ解析の重要性2025年に筆者らによって報告されたCEVERESTⅡの日本人サブグループ解析(6年追跡)は,PCV治療における人種差や治療実態を明らかにするうえで貴重なデータを提供した2).日本人参加者(平均年齢C76歳)は,6年間を通して良好な視力(67.2ETDRS文字)が維持されていた.興味深いことに,日本人参加者は非日本人参加者と比較して,6年間でより多くの抗CVEGF薬注射(12.5回Cvs7.57回)を受けていた.また,アフリベルセプトがもっとも頻繁に使用されており,固定投与やCtreat-and-extend(TAE)プロトコルが日本人参加者で多く適用されていた.日本人サブグループ内において,6年間のCPDT施行群と非施行群の間で機能的・解剖学的アウトカムに有意差は認められなかったが,PDT非施行群で最終的な視力が数値的にやや劣る傾向が観察された.この結果は,PDTが長期的な視力維持に対して一定の貢献をしている可能性を示唆しつつ,日本人CPCV患者に対しては,疾患活動性を抑制するために集中的な抗CVEGF薬注射が必要となる実態を浮き彫りにしている.併用療法の長期成績併用療法がCPCVやCPNVの治療において不可欠な戦略となっているのは,その優れた長期成績と治療負担の軽減効果にある.PCVに対する併用療法は,視力改善,網膜厚減少に加えて,ポリープ退縮率の高さにおいて抗CVEGF薬単独療法より優れており,ポリープ退縮が得られた群ではC7年間の追跡でも良好な視力維持率が高く,重篤な合併あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026667症はまれであった.また,ポリープを伴わないCPNVに対する併用療法も,視力,網膜厚,脈絡膜厚の改善をC1~3年にわたり維持する傾向があり,長期的な効果が期待される.たとえば,UemuraらやCNomuraらの研究では,PNV患者に対するCPDT併用療法のC2~3年間の良好な治療成績が示されている3,4).CPCV治療を再定義する:Hemodynamicscontrolとしての併用療法パキコロイド関連疾患の治療において,抗CVEGF薬による網膜下液の消失を主眼とする従来の考え方はC.uidcontrol(液体管理)とよばれている.対照的にhemodynamicscontrol(血行動態管理:筆者造語)とは,網膜下に貯留した液体そのものを追うのではなく,その上流にある脈絡膜の血流・血管構造の安定化を治療標的に据えるパラダイムである.すなわち,脈絡膜におけるうっ滞や異常吻合などの構造的血流異常を,臨床画像・病態の連鎖として統合し,制御しようとする考え方である.アジア人に多いパキコロイド病態では,渦静脈うっ滞(vortexveincongestion),脈絡毛細血管板虚血(chorio-capillarisischemia),脈絡膜透過性亢進,色素上皮.離(PED)・網膜下液,脈絡膜肥厚(pachyvessels/pachy-choroid)といった所見が,かつては個別のバイオマーカーとして扱われてきた.HemodynamicsCcontrolの視点では,これらは強膜出口部における渦静脈うっ滞に端を発し,脈絡膜内静脈圧の上昇→脈絡毛細血管板の力学的圧迫と虚血→CRPE障害→CVEGFなどの放出→液体漏C668あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026出・PED・ポリープ形成という一連の血流動態の連鎖として理解できる(図1).したがって,モニタリングの指標は網膜内・網膜下液(.uid)のみにとどまらず,PED,脈絡膜肥厚,choriocapillarisの灌流状態を総合的に評価する必要がある.EVERESTⅡの結果は,PCV治療においてこのパラダイムが臨床的に重要であることを示している.抗VEGF薬は連鎖の末端である漏出(.uid)を制御し,PDTはCPCVに特徴的なポリープという異常血管構造へ直接介入する.併用療法は,疾患の根源である血管構造異常と下流の漏出の双方に働きかけるChemodynamicscontrolの実践的形式といえる.文献1)TeoCKYC,CParkCK-H,CNgahCNFCetal:Six-yearCoutcomesCinCsubjectsCwithCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCtheCEVERESTCⅡCStudy.OphthalmolTherC13:935-954,C20242)YanagiCY,CMoriCR,CTeoCKYCCetal:Six-yearC.ndingsCofCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCtheCEVERESTCⅡstudy:JapaneseCsubgroupCanalysis.CJpnCJCOphthalmolC69:894-901,C20253)UemuraCS,CMikiCA,CKishimoto-KishiCMCetal:Two-yearCtreatmentCoutcomeCofCphotodynamicCtherapyCcombinedCwithCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCpachychoroidneovasculopathy.TherC55:104746,C20254)NomuraCY,CAokiCS,CKitamotoCKCetal:Three-yearCout-comeCofCphotodynamicCtherapyCcombinedCwithCVEGFCinhibitorCforCpachychoroidCneovasculopathy.CGraefe’sCArchCClinExpOphthalmolC262:3191-3200,C2024(74)

緑内障セミナー:長浜スタディでわかったこと

2026年6月30日 火曜日

●連載◯308監修=福地健郎中野匡308.長浜スタディでわかったこと中野絵梨京都大学大学院医学研究科眼科学長浜スタディは住民約C1万人を対象とするコホート研究である.本研究から得られたデータに基づき,緑内障に関連する研究成果として,夜間低酸素と網膜神経線維層厚との関連,ならびに習慣的なコーヒー摂取と眼圧との関連について紹介する.●長浜スタディの概要長浜スタディは,人口約C12万人の地方都市・滋賀県長浜市において,2008~2010年にベースライン調査を開始した住民ベースのコホート研究である.対象はC30~74歳の一般住民で,新聞やチラシを通じて参加者を募集した.開始時の参加者はC1万C82人であり,5年ごとの追跡調査を継続し,多彩な健診項目を収集している(表1).眼科領域では,近視や円錐角膜に関連する遺伝子変異をゲノムワイド関連解析(genome-wideCassociationstudy:GWAS)として報告するなど,これまで多数の成果を発信してきた1~3).今回は,緑内障と関連が深い研究について,その詳細を簡単に紹介する.C●夜間低酸素と網膜神経線維層厚の菲薄化との関連夜間低酸素血症の代表的な原因疾患は睡眠時無呼吸症候群であり,同疾患と網膜神経線維層(retinalCnerveC.berlayer:RNFL)菲薄化との関連については,これまでに多数の報告がなされている4).しかし,従来の研表1長浜スタディの測定項目(一部抜粋)環境・生活習慣や既往歴に関するアンケート身体測定と臓器の機能測定(心電図,呼吸機能検査,中心血圧,動脈硬化度,眼科検査,聴力検査など)認知機能検査や頭部CMRI検査採血・採尿(血算・生化学・免疫学的検査,DNAデータ)長浜スタディで収集されている主要な測定項目を示す.生活習慣や既往歴のアンケートに加え,身体測定や心電図・呼吸機能・中心血圧・動脈硬化度などの臓器機能評価,眼科検査や聴力検査,さらに認知機能検査や頭部CMRI,血液・尿検査(血算・生化学・免疫学的検査,DNA解析)まで多岐にわたるデータを網羅している.究の多くは病院受診者を対象としており,症例数が限られるのみならず,選択バイアスを免れないという問題点を有していた.一方で,夜間低酸素血症は自覚症状に乏しく,未診断のまま一般集団に広く潜在している可能性が高い.したがって,よりバイアスの少ない評価のためには,コホートベースの疫学研究が不可欠であるが,これまでそのような検討は十分に行われてこなかった.長浜スタディでは,体動を感知する腕時計型デバイスをC7日間,サチュレーションモニターをC4日間装着してもらい,睡眠に関連する詳細なパラメーターをC6,123人から収集し,睡眠中に酸素飽和度がC90%未満となった時間の割合を示すCCT90と,乳頭周囲CRNFL厚との関連について検討した5).CT90が高値である群は,高齢,男性,BMI高値という特徴を有し,乳頭周囲CRNFL厚がより薄い傾向を示した.さらに多変量解析においても,CT90高値は独立してCRNFL菲薄化と有意に関連しており,夜間における低酸素負荷がCRNFL菲薄化と関連することを,一般住民を対象とした疫学的データにより裏づける結果となった.表2コーヒー摂取とリスク低下の関連が示唆されている代表的な疾患一覧2型糖尿病子宮体癌心血管疾患口腔・咽頭癌脳卒中Parkinson病高血圧うつ病肝細胞癌自殺習慣的なコーヒー摂取が発症リスク低下と関連すると報告されている代表的な全身疾患を示す.2型糖尿病や心血管疾患,脳卒中,高血圧,肝細胞癌などの身体疾患に加え,Parkinson病やうつ病,自殺リスクの低下との関連も示唆されている.(71)あたらしい眼科Vol.43,No.6,20266650910-1810/26/\100/頁/JCOPY図1コーヒー摂取と眼圧の関係長浜スタディ参加者C9,850人を対象に解析を行った結果,各種交絡因子で調整後も,コーヒーをC1日C3回以上摂取する群は,ほとんど飲まない群と比較して約C0.4CmmHg程度眼圧が低かった.●習慣的なコーヒー摂取と眼圧・緑内障との関連近年,コーヒーにはカフェイン以外にも神経保護作用や抗酸化作用を有する多数の生理活性物質が含まれることが明らかとなり,全身疾患との関連についても多くの報告がなされている(表2)6).一方で,眼圧や緑内障との関連については,いまだ一定の見解が得られていない.そこで,長浜スタディ参加者C9,850名を対象として,コーヒー摂取頻度と眼圧・緑内障との関連を検討した7).コーヒー摂取頻度をC4段階に分類し,多変量解析では眼圧・緑内障に関連する既知の因子を調整した.その結果,非緑内障眼においてコーヒー摂取頻度が多いほど眼圧が低いという傾向が認められた.一方,緑内障の有無とは有意な関連を示さなかった.眼圧低下の幅は,1日3回以上飲む人でほとんど飲まない人より約C0.4CmmHg低い程度であり(図1),緑内障の有病率に影響するほどの大きな効果ではないと考えられる.本研究は観察研究であり,因果関係は不明であるため,コーヒー摂取を緑内障予防目的で推奨するものではない.しかし,少なくとも緑内障のない成人においては,全身的な健康利益も含め,習慣的なコーヒー摂取を過度に制限する必要はないと考えられる.一方,緑内障患者や家族歴を有する人では,眼圧上昇に言及した報告もあるため注意が必要である.外来で患者から「コーヒーは飲んでもよいか」と尋ねられた際に,説明の一助となるデータが示せたのではないかと考える.文献1)MiyakeM,YamashiroK,TabaraYetal:Identi.cationofmyopia-associatedCWNT7BCpolymorphismsCprovidesCinsightsCintoCtheCmechanismCunderlyingCtheCdevelopmentCofmyopia.NatCommunC6:6689,C20152)HosodaCY,CMiyakeCM,CMeguroCACetal:Keratoconus-sus-ceptibilityCgeneCidenti.cationCbyCcornealCthicknessCgenome-wideCassociationCstudyCandCarti.cialCintelligenceCIBMWatson.CommunBiolC3:410,C20203)NakaoSY,MiyakeM,FujiwaraKetal:Agenome-wideassociationCbetweenCfovealCthicknessCandCarrhythmia.CommunMed(Lond)C5:374,C20254)WangW,HeM,HuangW:Changesofretinalnerve.berlayerCthicknessCinCobstructiveCsleepCapneasyndrome:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CCurrCEyeCResC42:C796-802,C20175)NagasakiCT,CMiyakeCM,CSatoCSCetal:AssociationsCbetweenCnocturnalChypoxemiaCandCretinalCnerveC.berClayerCthinning:CTheCNagahamaCStudy.CAnnCAmCThoracCSocC21:644-650,C20246)vanCDamCRM,CHuCFB,CWillettWC:Co.ee,Cca.eine,CandChealth.NEnglJMedC383:369-378,C20207)NakanoCE,CMiyakeCM,CHosodaCYCetal:RelationshipCbetweenintraocularpressureandco.eeconsumptioninaJapaneseCpopulationCwithoutglaucoma:TheCNagahamaCStudy.OphthalmolGlaucomaC4:268-276,C2021666あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026(72)

屈折矯正手術セミナー:2峰性視力測定法を用いた多焦点眼内レンズ挿入後のLASIKエンハンスメント

2026年6月30日 火曜日

●連載◯313監修=稗田牧神谷和孝313.2峰性視力測定法を用いた多焦点眼内レンズ伊藤光登志挿入後のLASIKエンハンスメント帯包敬太郎品川近視クリニック多焦点眼内レンズ挿入後の屈折誤差は患者満足度に大きく影響する.筆者らは独自の「2峰性視力測定法」を用いてCLASIKエンハンスメントにおける正確な矯正量を決定し,良好な術後成績を得ている.本法はC3焦点眼内レンズの遠用焦点と近用焦点を正確に同定することで屈折誤差を防ぐものであり,汎用性のある検査法である.●はじめに多焦点眼内レンズ挿入術は世界的に手術件数が増加しているが,術後の異常光視症(dysphotopsia)やハロー,グレアなどへの対応は慎重を要する.これらは,眼内レンズの光学特性そのものが原因の場合もあるが,残余屈折異常が原因であることも多い.Schallhornらは多焦点眼内レンズ挿入後の残余近視がC0.25CD増えるごとに満足度がC26.8%低下し,残余遠視がC0.25CD増えるごとに満足度がC19.3%低下すると報告している1).このような矯正誤差に対処するため,筆者らの施設(以下、当院)では多焦点眼内レンズ挿入後のCLASIK(laserCinCsitukeratomileusis)エンハンスメント(追加手術)において,「2峰性視力測定法」という独自の検査法を用いて矯正度数を決定し,良好な術後成績を得ている.C●2峰性視力測定法本法はC3焦点眼内レンズの多焦点性を利用し,デフォーカスカーブの原理を採り入れた視力測定方法である.たとえば,患者が眼内レンズの近用焦点あるいは中間焦点を利用して遠方に焦点を合わせて見てしまっている場合に,その矯正視力が得られた自覚度数をCLASIKによるエンハンスメントの矯正量とすると,屈折誤差が生じてしまう.このような誤差を防ぎ,矯正精度を向上させる視力測定方法である.典型例では,矯正視力C1.0以上が得られる「ピーク」が,2焦点レンズではC2カ所認められ,3焦点レンズでも(理論上はC3カ所だが,実際には後述するように中間用焦点のピークが不明瞭なことがあり)2カ所認められることが多いので,「2峰性視力測定法」と命名した.以下,五つのステップに分けて解説する.ステップ1:遠用焦点を用いてC1.0以上の遠方矯正視力を同定する.通常,3焦点眼内レンズは遠用焦点に光エネルギーの主要な配分があるため,複数の遠用焦点ライン(F)が検出される(表1).ステップ2:通常の視力検査よりも近視側にC0.5CD刻みで測定範囲を拡張し,レッドグリーンテストを併用する.これによりC3焦点眼内レンズが作り出す複数の焦点を網羅的に同定できる.ステップ3:矯正視力C1.0が得られる近用焦点ライン(N)を同定する.ステップC1で複数検出される遠用焦点ラインとは対照的に,近用焦点ラインは通常C1本のみであり,これが本法における基準点となる.ステップ4:近用焦点ライン(N)の屈折度数に,眼内レンズの近用加入度数(眼鏡面換算度数)を加算する.3焦点眼内レンズ,ファインビジョン(BVIMedical社)の場合,眼内レンズ面での近用加入度数+3.5CDは,眼鏡面において+2.6CDに相当するため,Nラインの球面度数に+2.6CDを加算する.その結果,算出された値が,ステップC1で同定された複数の遠用焦点ライン(F)のいずれかと一致することを確認する.この一致したライン(F*)をCLASIKエンハンスメントの矯正度数として選択する.ステップ5:中間用焦点データ(I)が明瞭である場合は,その球面度数に+1.3CD(中間加入度数+1.75CDの眼鏡面換算度数)を加算した値により,ステップC4で得られたライン(F*)が正しいことを確認する.ただし,ファイビジョンを含む,中間用焦点への光エネルギーの配分が相対的に少ない眼内レンズにおいては,(I)ラインが不明瞭な場合もある.(69)あたらしい眼科Vol.43,No.6,20266630910-1810/26/\100/頁/JCOPY表12峰性視力測定の実例遠方矯正視力測定(5m)レッドグリーンテスト0.5×sph+1.5DCcyl-1.25Ax10°-0.8×sph+1.0DCcyl-1.25Ax10°-(F)1.2×sph+0.5cyl-1.25Ax10°R>G(F*)1.2×planocyl-1.25Ax10°R<G(F)1.0×sph-0.5Dcyl-1.25Ax10°R<G0.9×sph-1.0DCcyl-1.25Ax10°CR<G(I)1.0×sph-1.5Dcyl-1.25Ax10°R<G0.8×sph-2.0DCcyl-1.25Ax10°CR<G(N)1.0×sph-2.5Dcyl-1.25Ax10°R<G0.9×sph-3.0DCcyl-1.25Ax10°CR<G0.6×sph-3.5DCcyl-1.25Ax10°CR<G1.0以上の矯正視力が得られた屈折度数を太字で示す.複数の遠用焦点ライン(F),単一の中間焦点ライン(I),および単一の近用焦点ライン(N)が検出された.(F*)がCLASIKエンハンスメントの矯正度数として選択された.表2LASIKエンハンスメント施行前後の臨床成績の推移IOL挿入後(LASIK施行前)LASIK後C1年遠方裸眼視力≧1.0C71.2%C83.3%*遠方矯正視力≧1.0C98.9%C100%近方(3C0cm)裸眼視力C≧0.9C16.9%C56.3%*中間(7C0cm)裸眼視力C≧0.8C87.6%C88.5%平均等価球面度数+0.35±0.75D-0.05±0.36D*等価球面度数≦±0.50DC50.6%C93.8%*乱視度数≦0.50DC44.9%C83.3%**:統計学的に有意な改善を認めた項目(文献C2より引用)C●臨床成績当院でファインビジョン眼内レンズ挿入後にCLASIKエンハンスメントを施行したC59例C89眼を対象とし,臨床成績を評価した.角膜フラップ作製にはフェムト秒レーザー装置クリスタルラインまたはCLDVZ6(Ziemer社製)を用い,エキシマレーザー装置CAMARISC750SまたはCAMARIS1050RS(図1,SCHWIND社製)によりCwavefront-optimizedLASIKを施行した.なお,本研究に使用したレーザー装置は,いずれも現時点で国内未承認医療機器である.エンハンスメント施行後C1年のおもな臨床成績を表2に示す2).C●おわりに2峰性視力測定法の特徴は,単一の近用焦点ラインC664あたらしい眼科Vol.43,No.6,2026図1AMARISエキシマレーザー1050RS(SCHWIND社提供)(N)を基準点とすることで,複数存在する遠用焦点ライン(F)の中から最適な矯正度数を逆算できる点にある.ファインビジョンC3焦点眼内レンズ挿入眼に対するエンハンスメントについて,BarakovaらはC1,129眼中C61眼(5.4%)に,筆者らと同様のレーザー機種を用いたLASIKまたはCphotorefractiveCkeratectomy(PRK)を施行し,そのうちC3眼(4.9%)に再度のエンハンスメントが必要であったと報告している3).一方,当院のタッチアップ率もC1,477眼中C89眼(6.0%)と同程度であったが,初回エンハンスメント後の再タッチアップは経験しなかった.2峰性視力測定法が矯正精度の向上に寄与した可能性がある.当院では,ファインビジョンに限らず,他社のC2焦点およびC3焦点眼内レンズにおいても同検査法を採用し良好な成績を得ているので,汎用性のある手法といえる.他の眼内レンズに応用する際は,各眼内レンズの加入度数に応じた眼鏡面度数への換算が必要である点に留意されたい.文献1)SchallhornCSC,CHettingerCKA,CHannanCSJCetal:E.ectCofCresidualCsphereConCuncorrectedCvisualCacuityCandCsatisfac-tionCinCpatientsCwithCmonofocalCandCmultifocalCintraocularClenses.JCataractRefractSurgC50:591-598,C20242)ItoCM,CWatabeCM,CObikaneCKCetal:PrecisionCrefractionCmethodologyCforCLASIKCenhancementCafterCtrifocalCIOLCimplantation:CClinicalCoutcomesCandCtechnique.CJCCataractCRefractSurgC52:52-60,C20263)BarakovaCD,CJordanovovaCD,CSramkaCMCetal:TheCinci-denceandresultsoflaserenhancementaftercataractandrefractiveCsurgeryCwithCtrifocalClensCimplantation.CBiomedCPapCMedCFacCUnivCPalackyCOlomoucCCzechCRepubC166:C222-227,C2022(70)