眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋生駒透433.美容超音波HIFUによる急性白内障の1例金沢医科大学眼科学講座肌のリフトアップを目的とした高密度焦点式超音波(HIFU)が美容治療として世間で注目を浴びている.今回そのCHIFUを眼瞼に施行し,急性の白内障を生じたC1例を報告する.●はじめに高密度焦点式超音波(highCintensityCfocusedCultra-sound:HIFU)は,超音波を利用して深部組織を破壊し,治療効果を得るものである.以前から前立腺癌の治療に用いられ1),最近では緑内障の代替治療法としても注目されている2).また,HIFUは美容治療としても使用されており,強集束超音波(intenseCfocusedCultra-sound:IFUS)により表在性筋膜を含めた真皮および皮下を選択的に熱凝固することによってコラーゲン線維を増生させ,皮膚の弛緩および皺を改善する3).近年,IFUSは眼周囲への照射によって眼瞼の弛緩を治す「切らない眼瞼治療」として用いられているが,その場合にはアイシールドによる眼球保護が必要とされている.今回,上眼瞼にCIFUSを施行したあとに,急速に進行した白内障のC1例を報告する.C●症例患者はC47歳,女性.上眼瞼皮膚の弛みの治療目的で,エステサロンにて両上眼瞼にCIFUSを施行されたあとに左眼のかすみを訴え,当院外来を受診した.保護用のアイシールドを使用せずCIFUSを両眼瞼に施行された(照射時間・強度などは不明).眼科既往歴は近視以外になく,IFUS施行前の視力は良好であり,外傷歴や全身疾患の既往歴,ステロイドを含めた内服歴はなかった.視力は右眼C0.08(1.0×-3.50D(cyl-0.50DCAx20°),左眼C0.02(矯正不能)であった.結膜・角膜・虹彩,対光反射に異常はなく眼圧も正常だった.左眼には耳側上方に向かって並んだC7個の滴状・円錐状の混濁とC3個の小円形後.下混濁が認められた(図1a).また,後.全面に広がるロゼット状の後.下混濁も生じていた(図1b).前眼部光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomogra-phy:OCT)でも水晶体内の滴状・円錐状混濁と後.下(67)混濁(図2)を認めたが後.破損はなかった.眼底写真は後.下混濁が強く撮影不能であったが,黄斑部COCTでは異常は認められなかった.右眼の水晶体には混濁は認められなかった.初診からC1カ月後の診察では左眼の水晶体内の滴状・円錐状混濁に変化はなかったが,後.下のロゼット状混濁は若干の改善を認めた(図3a).しかし,視力は初診時から改善がなかったため,左眼の水晶体再建術を施行した.術前の前眼部COCTでは明らかな後.破損を認めなかったが,円錐状混濁の底部は後.に接着し,強い混濁を生じていたため,ハイドロダイセクションは施行しなかった.また,核の硬化がほとんどなかったため,水晶体はフェイコを施行せずCI/Aのみで吸引した(図3b).後.破損などの合併症もなく手術は終了し,術後C7日目には左眼視力はC0.2(1.5×-2.00D)に改善した.C●考察とまとめアイガードを使用せずに行った両眼瞼へのCIFUSによる急性発症の白内障のC1例を経験した.今回CIFUSは患者の左眼眼瞼を通して水晶体に到達し,水晶体蛋白質の熱凝固を引き起こし,その結果多数の滴状・円錐状水晶体混濁とロゼット状後.下混濁を生じたと考えられる.同じくアイシールドを装着せずに行ったにもかかわらず右眼に混濁が生じなかったのは,超音波のプローブの照射角度や時間,水晶体との距離に違いがあったためと考えられる.今回観察されたロゼット状後.下混濁は,一般的には鈍的または貫通性の眼球外傷にみられる所見であり,電気外傷やCYAGレーザーによる外傷でもまれに観察される4).水晶体皮質の浮腫や水晶体.の損傷が可逆的な病理変化をきたしたものとされており,今回の症例も経過のなかで後.下混濁の若干の改善を認めた.IFUSの眼瞼周囲や顎下のたるみに対する有効性は以あたらしい眼科Vol.39,No.12,2022C16350910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1初診時の顕微鏡検査所見に示す水平に並んだC7個の滴状・円錐状混濁とに示す後.から前方に伸びた小円形混濁が認められた(Ca).徹照像ではロゼット状後.下混濁が認められた(Cb).(文献C6から引用)図3初診から1カ月後の徹照像ならびに術中所見後.の混濁はやや軽減したが,滴状・円錐状混濁に変化は認められない(Ca).水晶体核硬度は高くなく,I/Aで吸引可能であった.滴状・円錐状混濁部分は硬く,チョッパーを用い破砕して吸引した(Cb).(文献C6より引用)前から報告されていたが,近年急速に普及するようになった.そのなかで今回の症例と同じように白内障を生じたなど,眼損傷のケースが次々と報告されており,そのどれもが眼瞼周囲にCIFUSを施行する際にアイシールドを用いていなかった5).現在CHIFUはエステサロンにおいてセルフサービスで利用することができ,家庭用美容機器としても販売されている.眼瞼周囲へのCIFUS施行によって引き起こさ図2初診時の前眼部OCT所見水晶体皮質から核部を貫き並ぶ滴状・円錐状混濁が認められる(a).ロゼット状後.下混濁は厚みがあるが,明らかな後.破損は認められなかった(Cb).(文献C6より引用)れる眼球損傷の危険性と,IFUS施行時のアイシールド装着の徹底を広く周知していく必要がある.文献1)ChaussyCCG,CThuro.S:High-intensityCfocusedCultra-soundCforCtheCtreatmentCofCprostatecancer:ACreview.CJEndourolC31(S1):S30-S37,C20172)PosarelliCC,CCovelloCG,CBendinelliCACetal:High-intensityCfocusedCultrasoundprocedure:TheCriseCofCaCnewCnonin-vasiveglaucomaprocedureanditspossiblefutureapplica-tions.SurvOphthalmolC64:826-834,C20193)SuhCDH,CSoCBJ,CLeeCSJCetal:IntenseCfocusedCultrasoundCforCfacialtightening:histologicCchangesCinC11Cpatients.CJCosmetLaserTher17:200-203,C20154)WollensakCG,CEberweinCP,CFunkJ:PerforationCrosetteCofthelensafterNd:YAGlaseriridotomy.AmJOphthalmolC123:555-557,C19975)LevingerN,BarequetI,LevingerEetal:Acutecataractdevelopmentina43-year-oldwomanafteranultrasoundeyelid-tighteningCprocedure.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC24:101226,C20216)IkomaCT,CKuboCE,CSasakiCHCetal:AcuteCcataractCbyCaChigh-intensityCfocusedCultrasoundprocedure:aCcaseCreport.BMCOphthalmolC22:164,C2022