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眼表面の自然免疫とStevens-Johnson症候群

2022年5月31日 火曜日

眼表面の自然免疫とStevens-Johnson症候群InnateImmunityofOculartheSurfaceandStevens-JohnsonSyndrome上田真由美*はじめに本稿では,眼表面の自然免疫について,とくに常在細菌と接している眼表面上皮細胞を中心に,その粘膜炎症制御機構について記載し,さらに粘膜固有の免疫機構の破綻による眼表面炎症性疾患発症の可能性について,とくにStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS)の病態について記載する.I眼表面の自然免疫眼表面を覆う涙液は,IgA,ラクトフェリン,リゾチームなどの抗菌物質を含み,非特異的な感染防御機構を形成している.また,眼表面上皮である角膜上皮や結膜上皮は,インターフェロン(interferon:IFN)-bやinterferoninducedprotein(IP)-10などの抗ウイルス性サイトカインや,インターロイキン(interleukin:IL)-1aやIL-6などの炎症性サイトカイン,IL-8やregulatedonactivation,normalTcellexpressedandsecreted(RANTES)などのケモカイン,ならびにbディフェンシンなどの抗菌物質を産生し,眼表面上皮細胞そのものが生体防御の第一線を担っている1).また,その一方で,眼表面にはコリネバクテリウム,表皮ブドウ球菌,アクネ菌などの常在細菌も存在する2,3).細菌やウイルスなどの病原微生物の侵入に対する感染防御機構は,自然免疫と獲得免疫に分類され,自然免疫は獲得免疫が作動する前の感染早期に働く防御機構である.Toll-likereceptor(TLR)は微生物の構成成分を特異的に認識し,自然免疫において重要な役割を担っている4).このTLRは,はじめマクロファージなどの免疫担当細胞において研究が進められたが,腸管上皮,眼表面上皮をはじめとする粘膜上皮細胞にも発現しており,粘膜独自の自然免疫機構に貢献していることがわかっている5).大変興味深いことに,眼表面上皮細胞と免疫担当細胞では,同じようにTLRを発現していても,その機能が異なる.たとえば,グラム陰性菌の菌体成分であるリポポリサッカライド(lipopolysaccharide:LPS)はTLR4によって認識され,このTLR4を末梢血単核球ならび眼表面上皮細胞はともに発現しているが,末梢血単核球ではLPSの刺激に対して炎症性サイトカインIL-6,IL-8を著明に産生するのに対して,眼表面上皮である角膜上皮ならびに結膜上皮細胞では,IL-6,IL-8の産生は誘導されない5).一方,ウイルスによって合成される二本鎖RNAを認識するTLR3による炎症性サイトカインの誘導は,眼表面上皮細胞において著明に亢進する5).このことは,粘膜上皮である眼表面上皮細胞が,免疫担当細胞とは異なった自然免疫機構を有し,容易に細菌などの菌体成分に対して炎症を惹起しない機構を保持していることを示唆している5).II眼表面の常在細菌マクロファージやリンパ球などの免疫担当細胞が細菌を排除する機能を有するのとは対照的に,腸管などの粘膜組織や皮膚では常在細菌との共生が重要であり,常在*MayumiUeta:京都府立医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学眼科学教室0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)553自然免疫マクロファージやリンパ球などの免疫担当細胞細菌への免疫反応→細菌の排除常在細菌と共生するための独自の免疫機構眼表面炎症疾患(Stevens-Johnson症候群,アレルギー炎症など)図1粘膜固有の自然免疫機構マクロファージやリンパ球などの免疫担当細胞が細菌を排除する機能を有するのとは対照的に,腸管などの粘膜組織や皮膚では常在細菌との共生が重要であり,容易に常在細菌に対して炎症を生じない粘膜固有の自然免疫機構が存在する.また,粘膜固有の自然免疫機構の破綻により眼表面炎症が生じる可能性がある.角膜全眼球のX-gal染色結膜結膜角膜上皮上皮内皮野生型マウスEP3の代わりにb-galactosidase(青色)を遺伝子導入したEP3欠損マウスEP3の代わりにb-galactosidase(青色)を遺伝子導入したEP3欠損マウス眼表面(角膜,結膜)上皮に,EP3の局在を示す青色が強く染まる100(numberofeosinophils/0.1mm2)60PBS50点眼40302010RW0-+-+点眼90野生型マウスEP3欠損マウス8070感作++野生型EP3欠損マウスマウス図2眼表面上皮に発現するEP3による眼表面炎症抑制作用PGE2受容体EP3の代わりにb-galactosidaseを遺伝子導入したEP3欠損マウスでは,角膜上皮と結膜上皮が,b-galactosi-daseの青色に強く染まり,EP3は眼表面上皮に優位に発現していることがわかる.EP3欠損マウスでは,野生型マウスと比較して眼表面炎症が有意に促進される.つまり,EP3は常に眼表面上皮(角膜上皮や結膜上皮)に優位に発現して,眼表面炎症を負に制御している.点眼図3上皮細胞による炎症制御機構上皮細胞に発現しているCTLR3は,各種サイトカイン産生を誘導し,眼表面炎症を正に制御している.一方,同じく上皮細胞に発現しているCEP3は,TLR3を介した炎症を抑制している.さらに,皮膚粘膜炎症を誘導するCIKZF1は,TLR3によって誘導される.(UetaM:InvestCOphthalmolCVisCSci59:DES183-DESC191,2018より引用)結膜弛緩症患者の結膜化学外傷患者の結膜結膜上皮図4ヒト眼表面におけるEP3蛋白の発現ヒト眼表面結膜組織を用いてCEP3の免疫染色を行ったところ,正常結膜ならびに結膜弛緩症,化学外傷患者の結膜組織において,結膜上皮にCEP3発現が強く認められるのとは対照的に,重篤な眼後遺症を伴うCStevens-Johnson症候群(SJS)患者の結膜ではその蛋白発現は著しく減弱している.EP3が眼表面炎症を抑制していることから,EP3の発現の減弱が重篤な眼後遺症を伴うCSJSの眼表面炎症発症に関与している可能性が高い.(文献C20より改変引用)微生物感染正常な感冒薬投与治癒免疫応答異常な感冒薬投与免疫応答炎症を抑制しているPGE2産生が抑制され皮膚粘膜炎症が増悪図5眼合併症を有するStevens-Johnson症候群(SJS)発症についての仮説発症の素因がない人では,なんらかの微生物感染が生じても,正常の自然免疫応答が生じ,感冒薬服用後に解熱・消炎が促進され,感冒は治癒する.しかし,発症素因がある人に,なんらかの微生物感染が生じると異常な自然免疫応答が生じ,さらに感冒薬服用が加わって炎症を抑制しているCPGEC2の産生が抑制されることによって,異常な免疫応答が助長され,SJSを発症する.微生物感染感冒薬関連SJSの全ゲノム関連解析SJS=239,Control=1,158MinorMajorAllele(1vs2)GeneSymbolrsnumberAllele(1)Allele(2)p-value*Oddsratio(95%CI)IKZF1rs897693rs4917014rs4917129rs10276619CGCGTTTA7.98E-048.46E-118.05E-094.27E-091.8(1.3~2.5)0.5(0.4~0.6)0.5(0.4~0.7)1.8(1.5~2.3)*ResultofCochran-Mantel-Haenszelmethod図6感冒薬関連眼合併症型Stevens-Johnson症候群(SJS)の発症関連遺伝子IKZF1アジア人向けに開発されたCChipを用いた全ゲノム関連解析では,IKZF1遺伝子が,感冒薬に関連して発症した重篤な眼後遺症を伴うCSJS発症と有意な強い関連を示す.韓国人,インド人などの国際サンプルを用いたメタ解析において,全ゲノム解析で有意とされるC10C.8以下のC10C.11台のp値を示し,国際的に共通の疾患関連遺伝子である.(文献C21より引用)皮膚炎眼瞼炎急性期SJS患者眼瞼炎口内炎爪囲炎皮膚炎口内炎爪囲炎IKZF1(IkarosFamilyZincFinger1)keratin5specifctransgenicmice図7IKZF1は皮膚粘膜炎症を制御する皮膚や粘膜上皮に限局してCIKZF1が過剰に発現するマウスでは,急性期CStevens-Johnson症候群(SJS)にみられる皮膚炎,眼表面炎症,口内炎,爪囲炎を自然発症する.眼後遺症を伴うCSJS発症関連遺伝子,IKZF1は皮膚粘膜炎症を制御していることを示している.(文献8,14より改変引用)図8Stevens-Johnson症候群(SJS)発症関連遺伝子の遺伝子間相互作用と発症機序眼後遺症を伴うCSJSの発症に有意に関連する複数の発症関連遺伝子は,機能的な相互作用がある.EP3はCTLR3を介した炎症を抑制している.IKZF1も,TLR3によって誘導される.生体内で複数の発症関連遺伝子が遺伝子間ネットワークを構成し,ネットワークのバランスが良好だと安定した生体内の恒常性が維持され,複数の発症関連遺伝子多型を有することにより,ネットワークのバランスが不安定になり発症リスクにつながる可能性がある.(UetaM:InvestOphthalmolVisSci59:DES183-DES191,2018より引用)1CaOthers7550250HCG1G2G3G4SJSpatientsRelativeabundance(%)D.4..Corynebacteriaceae_D.5..CorynebacteriumD.4..Neisseriaceae_D.5..NeisseriaD.4..Micrococcaceae_D.5..RothiaD.4..Enterobacteriaceae_D.5..Escherichia.ShigellaD.4..Oxalobacteraceae_D.5..MassiliaD.4..Flavobacteriaceae_D.5..EmpedobacterD.4..Enterobacteriaceae_D.5..SerratiaD.4..Corynebacteriaceae_D.5..LawsonellaD.4..Fusobacteriaceae_D.5..FusobacteriumD.4..Streptococcaceae_D.5..StreptococcusD.4..Propionibacteriaceae_D.5..PropionibacteriumD.4..Staphylococcaceae_D.5..StaphylococcusD.4..Neisseriaceae_D.5..unculturedD.4..Corynebacteriaceae_D.5..Corynebacterium.1bD.5..Corynebacterium1D.4..Neisseriaceae_D.5..unculturedD.5..Staphylococcus******100100Relativeabundance(%)Relativeabundance(%)Relativeabundance(%)75502575502500図9眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群(SJS)の眼表面常在細菌眼合併症を伴うCSJS患者の眼表面の常在細菌を次世代シークエンサー用いたマイクロバイオーム解析で調べてところ,SJS患者では健常対照者に比べて眼表面の細菌の多様性が減少しており,眼表面の常在細菌の構成が健常対照者と異なった.SJS患者では,Corynebacterium1(グループ1),Neisseriaceaeunculture(グループ2),Staphylococcus属(グループ3)およびその他の細菌(グループC4)の固有種が優勢である四つのグループに分けられた.健常人の有する眼表面の常在細菌,の約C40%がCCorynebacteriaceae属,約C30%がCStaphylococcaceae属,約C10%がCPropionibacteriaceae属を占めるのとは,対照的である.(文献C2より引用)HCG1G2G3G4SJSpatientsHCG1G2G3G4SJSpatientsHCG1G2G3G4SJSpatientsdsRNAホストの異常な粘膜免疫応答図10眼表面炎症発症機序の仮説眼表面炎症の病態には,常在細菌と共生する粘膜固有の免疫機構の破綻や,ホストの遺伝子素因,ならびに疾患関連遺伝子の遺伝子間相互作用と,なんらかの微生物感染を起因とした遺伝子間相互作用バランスの破綻が関与している可能性がある.(UetaMetal:ProgRetinEyeRes31:551-575,2012より引用)C—

序説:腸内細菌・常在細菌と眼

2022年5月31日 火曜日

腸内細菌・常在細菌と眼CommensalBacteriaandtheEye榛村重人*外園千恵**腸内細菌は最近話題となっているが,われわれ眼科医は自分の診療とはあまり関係がないと考えているのではないだろうか.眼表面にも常在菌は存在しているが,疾病に関与しているとは真剣に考えたことがなかった.ところが,腸内細菌を含む常在菌は生息する局所に影響を及ぼすだけではなく,まるでホルモンのように離れた部位まで影響することがわかってきた.とくに腸内細菌の免疫系への作用についての研究は,ここ数年で凄まじいペースで進歩している.われわれの体を構成する細胞の数よりはるかに多いとされる腸内細菌は,その種類に個人差が大きく,出生時から年齢とともに変化するといわれている.最近,慶應義塾大学の本田らは,平均年齢107歳の百寿者らの腸内細菌叢から,イソアロリトコール酸という特殊な胆汁成分を合成する高齢者に特異的な腸内細菌株を同定した1).イソアロリトコール酸には病原性細菌に対する強い抗菌活性があり,健康長寿に関与している可能性がある.腸内細菌叢は民族によっても差があることがわかってきた.たとえば,日本人が海藻を食べることができるのは,海藻を消化するのに有利な酵素をもつ細菌が日本人の腸内に生息しているおかげである2).欧米人の多くが日本の食事で提供される海藻を敬遠するのは,好き嫌いの問題だけではないようだ.このように,われわれの体質に影響する腸内細菌はホストと共生関係を構築しており,普段はバランスが保たれている.さまざまな疾患や抗菌薬の内服によって腸内細菌叢のバランスが崩れることも事実であるが,逆に腸内細菌のアンバランス(dysbio-sis)がホストに病気を起こすことが知られている.たとえば,オーストラリアに生息する野生コアラのクラミジア感染が問題となっている.抗菌薬による治療が試みられているが,長期内服によって食欲不振に陥り,死んでしまうコアラが出現した.その理由は,コアラがユーカリの葉を消化するために必要な腸内細菌も駆除されてしまうからだ3).抗菌薬の服用については,耐性菌の出現以外にも,常在菌への影響を考慮する必要がある.一方で,抗菌薬の内服が腸内細菌の編成を改善するという報告もあり,臨床応用についてはもう少しエビデンスが必要である.今月の特集では,ぶどう膜炎やアトピー性皮膚炎など眼科医にも馴染みのある病気と腸内細菌の関係について,第一線で研究されている先生方に執筆していただいた.病因と,さらに治療への可能性についてわかりやすく解説されている.わが国においては,戦前より腸内細菌が含まれるプロバイオティクス製品が普及している.漢方とも西洋医学とも異な*ShigetoShimmura:藤田医科大学フジタ羽田先進医療センター(仮称)**ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)C551-

新型コロナ感染症パンデミックにおける 涙道診療の実践(第2 報)

2022年4月30日 土曜日

新型コロナ感染症パンデミックにおけるはじめに第C1報では,今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに際して筆者の涙道診療が様変わりしたことについて報告した.涙洗を含むほぼすべての涙道検査と治療がアエロゾルを発生させる手技(aerosolgeneratingpro-cedure:AGP)であり,これを行うことで無症候患者から医療従事者にCSARS-CoV-2のエアロゾル感染が生じる可能性が危惧されている.筆者はこれに対応したさまざまな対策を講じてC2021年C9月から涙道手術を再開した.第C1報では,筆者が模索したエアロゾル対策や患者管理の方法を記述した.その内容から,パンデミックが始まる前(コロナ前)と始まって以来(コロナ後)で,涙道検査・手術・術後管理の流れ(涙道診療の進め方)が変化した様子が明らかとなった.第C2報では,その変化がコロナ後の涙道手術実績にどう影響を与えたか報告する.CI分析の方法手術記録データベースから患者の属性,涙道手術件数,対象疾患の種類と選択した術式などを調べ,コロナ前後で比較した.対象期間は,コロナ前はC2019年C9月から手術を中断したC2020年C4月C8日までのC7カ月で,コロナ後は手術を再開できたC2020年C9月からC2021年C5月末までのC9カ月である.患者属性は両眼手術でもC1例として調べ,手術件数については両眼のものはC2件と数えた.対象疾患は炎症性涙道疾患と非炎症性涙道疾患に分けた.炎症性涙道疾患には涙小管炎と涙.炎が含まれる.非炎症性涙道疾患にはそれ以外,つまり涙点・涙小管系の閉塞(あるいは狭窄),涙道内視鏡で涙.内の混濁液や鼻涙管粘膜に膿の付着が認められない鼻涙管閉塞(あるいは狭窄),機能性流涙が含まれる.その診断は急性涙.炎のように術前の経過から明らかなものはそれを根拠に,そうでないものは外来のコーンビームCCT涙道造影検査(coneCbeamCcomputedCtomography-dacryocystogra-涙道診療の実践(第2報)鈴木亨**鈴木眼科クリニックphy:CBCT-DCG)と執刀直前の涙洗や涙道内視鏡検査の結果を参考とした.第C1報で述べたように,涙洗と涙道内視鏡検査は外来では施行しておらず,手術室搬入後に施行した.選択した術式の種類は内視鏡手術と非内視鏡手術に分けた.内視鏡手術には,涙.鼻腔吻合術鼻内法(endonasaldacryorhinostomy:EDCR)と下鼻道涙道形成術(inferiorCmeataldacryorhinotomy:IMDR)1),注),涙道内腔再建術(endoscopicClacrimalCductCrecanalization,CorCendoluminarClacrimalCductrecanalization:ELDR)2),注)を含めた.非内視鏡手術には,涙.鼻腔吻合術鼻外法(externaldacryorhinos-tomy:XDCR)とその他の手術(Jonesチューブ再挿入や涙小管形成手術3)などのおもに涙小管病変に対する特殊な手術)を含めた.手術はすべて局所麻酔下に施行した.手術予約はすべて日帰りの予定で行った.注)涙道内腔再建術(ELDR)とは,涙道内腔をもとの状態に再建する涙道内視鏡手術をさす.JavateはCendoscopicClacrimalCductrecanalizationの略として,SundarはCendolu-minalClacrimalCductrecanalizationの略としてこの用語を用いる.日本では涙管チューブ挿入術の保険手術名で知られる.おもな手術操作は内腔を可視化しながら涙道粘膜の穿破・切開・掻把,または涙道内異物(涙石・停留チューブ・プラグなど)の除去など.再建補助目的で涙道チューブを留置することが多いが,涙小管炎など症例によってチューブが必須でない点で日本の保険手術名では矛盾がある.下鼻道涙道形成術(IMDR)とは,下鼻道においてレーザーを用い,骨は削開せずに膜性鼻涙管のみに開窓して再開通する鼻内視鏡手術を示す.通称CDCR下鼻道法ともよばれDCRで保険請求可能であるが,涙.と鼻腔は吻合しない点でCDCRの名称では矛盾がある.〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102北九州市若松区東二島C4-7-1鈴木眼科クリニックC表1手術患者の属性200n=176180160対象期間2019.9.2020.4.82020.9.2021.5.27C140120対象人数151人53人C100男:女43人:108人18人:35人C80n=60平均年齢C71.1±13.1歳C70.1±16.3歳C6040コロナ後で女性比率の減少がみられたが統計的有意差なしC20(p=0.326,Fishertest).C0コロナ前コロナ後図1手術の総数200180160140120100806040200コロナ前コロナ後■炎症性■非炎症性図2非炎症性疾患の比率非炎症性疾患はコロナ前C54%,コロナ後C45%となった(p=0.23,Chi-squaretest)200180160140120100806040200コロナ前コロナ後■非内視鏡手■術内視鏡手術図3内視鏡手術の比率内視鏡手術はコロナ前C71%,コロナ後C20%となった(p<0.0001,Chi-squaretest).CII結果表1に手術患者の属性を記した.両群に性や年齢の差はみられなかった.図1に手術件数の変化を示した.コロナ前C151例C176件からコロナ後はC53例C60件となり,66%の減少となった.図2には非炎症性疾患の占める比率を示した.コロナ前54%からコロナ後C45%に減少したが,統計的には差がなかった(p=0.23,Chi-squaretest).表2に各術式の実績を示したが,とくにCEDCRはコロナ前にC31件あったがコロナ後C1件しか施行できなかった.コロナ前はC176件,コロナ後はC60件となった(66%減少).表2術式別にみた手術件数EDCR:DCR鼻内法,ELDR:涙道内腔再建術,IMDR:下鼻道涙道形成術(通称はCDCR下鼻道法であるが,涙.と鼻腔は吻合しないので矛盾がある),XDCR:DCR鼻外法.IMDRはC0件となった.一方でCXDCRはコロナ前C44件,コロナ後はC45件とほぼ同数であった.結果として,図3に示したように内視鏡手術の占める比率はコロナ前C71%からコロナ後C20%にまで有意に減少した(p<0.0001,CChi-squaretest).また,第C1報で述べたようにコロナ後は涙道診療の進め方が変わった.つまり確定診断に至らないまま手術予約し,手術室で執刀前に涙洗と涙道内視鏡検査を行って診断を確かめ,そのうえで手術を進める方針とした.そのため,執刀直前で診断が覆ることも少なくなかった.それでも事前に術式変更の可能性を患者と十分に話し合っていたので,混乱は少なかった.手術室に搬入後に手術ができないまま帰宅した患者はコロナ後対象期間中にC2例だけであった.1例は,初診時の特徴的な前眼部所見とCCBCT-DCG像で涙小管炎と診断し,ELDR予約としていた患者である.しかし手術室で執刀前に行った涙道内視鏡検査で,涙.炎の合併が明らかになった.このとき,ELDRからCDCRへの変更は想定外で術前同意を得ておらず,そのまま手術中止として退室させた.そして同日中に病状説明し,後日のCDCRで対応した.もうC1例は,CBCT-DCGで涙小管遠位の閉塞と診断し,ELDR予約としていた患者である.しかし手術室では涙小管の閉塞が予想外に硬く,涙道内腔再建が果たせなかった.術前の説明では患者がCDCRを受け入れておらず,そのまま退室させ改めてCDCR以外に治療法がないことを説明した.その結果CDCRの方針を受け入れ,後日のCDCRで治癒した.コロナ前には,手術室に搬入されたものの手術中止,帰宅となったケースは経験がない.ただし,コロナ前は,ELDRは外来で施行しており,閉塞が硬かったり涙.結石が認められたりした場合はすぐに手術中止の判断で帰宅,後日のCDCRとしており,そのようなケースは毎月経験していた.CIII考察手術パフォーマンスは大幅に低下したものの,徹底したエアロゾル管理と涙道手術継続の両立は十分に可能であることがわかった.パンデミック中の手術の基本は不急のものは延期することである.その基本を守りながら症例を選んで手術を再開した.当初は炎症性涙道疾患に対してのみ手術を行った.炎症性涙道疾患は涙小管炎と涙.炎を含み,眼表面全体の炎症を遷延させて角膜潰瘍の原因となるだけでなく,とくに涙.炎については眼表面の菌量は健常眼の数百から数万倍もある4).その炎症が急性化して眼窩に波及したときには失明のリスクもある(石川未奈:急性涙.炎から急激に重篤な視機能障害に至ったC1例.第C8回日本眼形成再建外科学会抄録集p36,2021).したがって,これら疾患は不急の疾患とは言いがたく,手術を延期すべきではない.一方,非炎症性涙道疾患には流涙診療ではありふれた高齢者の涙道狭窄や閉塞が含まれるが,これらは眼の健康障害を生じる証拠がなく,不急の疾患である.裏を返せば,この不急の涙道治療の回復こそが日常涙道診療の復活といえる.今回の分析では,図2でわかるようにコロナ後の非炎症性疾患の比率がコロナ前と有意差ない程度にまで回復した.非炎症性疾患の手術はC2020年末まではほとんどなかったが,その後のC5カ月で回復してきた結果である.この結果は,筆者が日常を取り戻した印象と一致しており大変に興味深い.結論として,第C1報で述べたような徹底したエアロゾル管理の下で手術をすれば,パンデミック中でも医療従事者を守りながら安全に手術が可能であったといえる.ただし,手術室で発生したエアロゾルが次の手術患者に与える影響については不明である.一般に手術室は窓を開放することができないため,バスや飛行機と同様に換気設備の徹底が求められている.しかし,足元が寒く天井付近は温い手術室では手術室全体の換気が設計通りになっているかどうかは不明である.とくに天井カセット式の換気装置を設けた手術室では換気不良リスクがあり,エアロゾル滞留の可能性は考えておかなければならない.手術再開当初は,この点を手術予約時に患者に伝えるようにしていた.その結果,2020年の間はほぼすべての患者がC1例目手術を希望したため,手術はC1日C1件しか施行できなかった.しかしC2021年になると,北九州地区ではコロナ慣れでC2例目の手術を厭わない患者が現れるようになり,1日C2件の手術ができるようになった.そのため現在では,手術室におけるエアロゾル残留の懸念は手術患者に伝えていない.これまで筆者は涙道の内視鏡手術の開発・発展・教育に尽くしてきた.しかし,今回のパンデミックで内視鏡手術の弱さが露呈した結果となった.図3で示したように,従来C70%以上も占めていた内視鏡手術の割合が一気に減少した.この理由と問題点について述べる.まずCELDRについては,筆者自身のC2001年の涙道内視鏡の開発から技術改良を経てもなお,低侵襲と引き換えに再発の問題を解決できていない.したがって,少ない通院で確実に治すことが求められるパンデミック中の医療にはそぐわない.また,コロナ前からときどき経験していたように,手術を始めても完遂できずに中止とする症例がどうしても発生する点も問題である.コロナ前は,ELDRは外来で手間をかけずに簡単に行う治療であったため,中止となっても施設側の損失はない.しかしコロナ後は,第C1報で述べたように大きな経費と努力を重ね厳重なアエロゾル対策の下で行う治療となっている.このため,DCRへの術式変更ならよいが,手術中止では対価が求められず施設側の負担は無視できない.これらの点から,コロナ後はなるべくCDCRで手術予約をするようにしている.次にCEDCRについては,コロナ後の入院撤廃で手術がむずかしくなった.筆者は局所麻酔で鼻内法を施行するが,手術を低侵襲に終わらせるためには全身管理の工夫が必要となる.とくに覚醒下での術中出血コントロール(すなわち血圧のコントロール)はむずかしく,薬剤を使いすぎると術後気分不良のため帰宅に無理のある患者が発生する.実際,対象期間中の早い時期に施行したCEDCRの患者は帰宅することができず,急遽,看護師C1名に当直を命じ入院対応とした.これまでのマスコミ報道をみると,医療機関でクラスターが発生するのは入院施設に限られている.入院では,当直や給食でC1人の患者に対して多数のスタッフが接触し,これが感染拡大リスクとなるのは間違いない.そのリスクコントロールの観点から入院を撤廃したが,この条件で局所麻酔下EDCRを予約するのはむずかしい.最近C20年の麻酔科の進歩をみると,むしろ全麻のほうが日帰りに適している.しかし,涙道手術のガイドラインでは全身麻酔は避けるよう勧められている5,6).その理由は,抜管の際にエアロゾル感染リスクが生じるからである.またCIMDRは涙道手術のなかでもっともエアロゾル発生リスクが高い術式であることが問題となる.下鼻道でレーザーを使用するとき,水を弾く音や組織の焼ける匂いが強く発図4Teartroughincisionの1例右下眼瞼の涙袋の際(teartrough)に一致させて切開を入れ,DCRを施行した(2018年).a:術後C2カ月では,まだ切開線がスジとなって確認できる.Cb:術後C3年では,もう切開線は術者にも見えない.2017年からの経験では肥厚性瘢痕はC1例もない.生することから,大量のエアロゾルが周囲に拡散していることは間違いない.また,従来から手術適応が狭いこと,IMDRのよい適応ではCEDCRでも手術しやすいことなどの理由で,この術式選択は少なかった.今後,この手術の再開予定はない.以上述べたさまざまな見地から,涙道の内視鏡手術はむずかしくなった.逆にCXDCRの利点が浮き彫りになった.涙.炎のみならず,機能性流涙症から再建不能の硬い涙小管閉塞まですべての涙道疾患に対応が可能で,全身管理が簡単なので入院の必要がない.手術成績が他のどの術式よりも高く,世界中で普及していることから考えても涙道手術の標準術式といえる.涙道チューブを使用しなければ通院も抜糸までで十分であり,なるべく受診を控えたいというコロナ後の医療ニーズにもよく適合する.唯一の欠点であった切開瘢痕の問題も,teartroughincisionの発展で大幅に改善された7)(図4).筆者はC2017年からこの切開法を取り入れており,それまで毎年増加していたCEDCR症例割合は徐々に減少に転じていた.コロナ後は一気にCXDCRが涙道手術の中心となった.おわりに涙道診療の進め方が変化したことで,術式選択も大きく変わった.筆者自身のアイデンティティーでもあった涙道の内視鏡手術が後退したことは大変に残念である.リスクを気にせず内視鏡手術に邁進する道も可能であったかもしれないが,筆者は術者である前に医療施設管理者であるので,職場衛生管理の責務を負っている.パンデミックが終息するまではこの点を第一に考え,現在の涙道診療の進め方を守るつもりである.今回のパンデミックもすでに出口が見える時期にあり,そう遠くない将来また内視鏡手術に安心して取り組むことができるはずである.筆者はそれまでの期間,むしろこの時期しかできないことに専念したい.すなわち,外来でのCT検査から考えた診断を手術室で答え合わせをする面白さ,あるいは執刀直前に涙道内視鏡で見た涙道の状態がすぐにその場で開けて確認できる感動,これらを楽しむ気持ちでパンデミックの終息を待ちたいと考えている.文献1)SasakiCT,CNagataCY,CSugiyamaK:NasolacrimalCductCobstructionCclassi.edCbyCdacryoendoscopyCandCtreatedCwithCinferiorCmeataldacryorhinotomy:PartCII.CinferiorCmeatalCdacryorhinotomy.CAmJOphthalmolC140:1070-1074,C20052)JavateRM,PamintuanFG,CruzRTJr:E.cacyofendo-scopicClacrimalCductCrecanalizationCusingCmicroendoscope.COphthalmicPlastReconstrSurgC26:330-333,C20103)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,C20114)OwjiCN,CZareifardA:NormalizationCofCconjunctivalC.oraCafterCdacryocystorhinostomy.COphthalmicCPlastCReconstrCSurgC25:136-138,C20095)HegdeCR,CSundarG:GuidelinesCforCtheCoculoplasticCandCophthalmicCtraumaCsurgeonCduringCtheCCOVID-19era:CAnCAPOTSC&CAPSOPRSCDocument.CAPOTS&APSOPRSC2020.4.176)AliMJ:COVID-19pandemicandlacrimalpractice:mul-tiprongedCresumptionCstrategiesCandCgettingCbackConCourCfeet.IJOC68:1292-1299,C20217)BrettCWD,CMichaelCSM,CRonCWPCetal:TearCtroughCinci-sionCforexternalCdacryocystorhinostomy.OphthalmicPlastReconstrSurgC31:278-281,C2015***

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫と高血圧治療 ─高血圧治療中,抗VEGF 薬未投与で黄斑浮腫改善を 認めた網膜静脈閉塞症の検討

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):533.539,2022c網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫と高血圧治療─高血圧治療中,抗VEGF薬未投与で黄斑浮腫改善を認めた網膜静脈閉塞症の検討土屋徳弘*1,3戸張幾生*2宮澤優美子*2西山功一*2,4田中公二*2,3森隆三郎*2,3中静裕之*3*1表参道内科眼科内科*2表参道内科眼科眼科*3日本大学病院眼科*4オリンピア眼科病院CExaminationofRetinalVeinOcclusionAssociatedMacularEdemathatImprovedwithouttheAdministrationofanAnti-VEGFDrugduringAntihypertensiveTreatmentNorihiroTsuchiya1,3)C,IkuoTobari2),YumikoMiyazawa2),KoichiNishiyama2,4)C,KojiTanaka2,3)C,RyusaburoMori2,3)CandHiroyukiNakashizuka3)1)DepartmentofInternalMedicine,OmotesandoInternalMedicine&OphthalmologyClinic,2)DepartmentofOphthalmology,OmotesandoInternalMedicine&OphthalmologyClinic,3)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,4)OlympiaOphthalmologyHospitalC目的:高血圧治療中,抗CVEGF薬未投与で血圧値改善とともに網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)に伴う黄斑浮腫の改善を認めた症例を検討し,RVOに伴う黄斑浮腫と高血圧治療との関連について報告する.対象および方法:表参道内科眼科を受診し,内科での高血圧治療中に抗CVEGF薬未投与でCRVOに伴う黄斑浮腫の改善を認めたC20例を対象に,黄斑浮腫改善までの期間,視力,血圧変動について後ろ向きに検討した.結果:黄斑浮腫改善を認めるまでの高血圧治療期間は平均C85.1C±50.9(7.215)日.logMAR視力は有意に改善していた.黄斑浮腫改善前は全例血圧コントロール不良であったが,黄斑浮腫改善時の血圧値は全例ガイドラインの降圧目標値に達していた.結論:高血圧治療中,抗CVEGF薬未投与で黄斑浮腫の改善を認め,視力の改善も認めたことにより,RVOに伴う黄斑浮腫に対する高血圧治療の有効性が示唆された.RVOに伴う黄斑浮腫症例に対しては,抗CVEGF薬硝子体内注射に加え,血圧コントロールが重要と考える.CPurpose:ToCinvestigateCcasesCinCwhichCretinalCveinCocclusion(RVO)C-associatedCmacularCedema(ME)andCbloodpressure(BP)levelsimprovedwithoutCadministrationofCananti-vascularCendothelialgrowthfactor(VEGF)CdrugCduringCantihypertensiveCtreatment.CSubjectsandMethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC20CpatientsCwithCRVO-associatedMECseenatCtheOmotesandoInternalMedicineandOphthalmologyClinic,Tokyo,JapaninwhomMECimprovedCwithoutCadministrationCofCanCanti-VEGFCdrugCduringCantihypertensiveCtreatment.CInCallCpatients,CtheCtimeCperiodCuntilCimprovementCofCME,Cvisualacuity(VA)C,CandCBPC.uctuationCwereCexamined.CResults:ThemeanperiodCofCantihypertensiveCtreatmentCtoCimproveCMECwasC85.1±50.9Cdays(range:7-215days)C,CandClogMARCVACsigni.cantlyCimproved.CBeforeCtheCimprovementCofCME,CBPCcontrolCwasCpoorCinCallCcases.CHowever,CtheCBPCvalueCatCtheCtimeCofCMECimprovementCreachedCtheCtargetCreductionCvalueCguidelineCinCallCcases.CConclusion:DuringCantihy-pertensivetreatment,improvementCofCMECwithoutCadministrationofCananti-VEGFCdrugCandimprovementCofCVACwasCobserved,CthusCsuggestingCtheCe.ectivenessCofCantihypertensiveCtreatmentCforCRVO-associatedCME.CInCadditionCtoCanCintravitrealCinjectionCofCanCanti-VEGFCdrug,CBPCcontrolCisCimportantCinCcasesCofCRVO-associatedCME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):533.539,C2022〕Keywords:網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,抗CVEGF薬未投与,コントロール不良高血圧,高血圧治療,黄斑浮腫改善.macularedemaassociatedwithretinalveinocclusion,withoutanti-VEGFdrug,uncontrolledhypertension,antihypertensivetreatment,improvementofmacularedema.C〔別刷請求先〕土屋徳弘:〒107-0061東京都港区北青山C3-6-16表参道内科眼科Reprintrequests:NorihiroTsuchiya,M.D.,Ph.D.,OmotesandoInternalMedicine&OphthalmologyClinic,3-6-16Kitaaoyama,Minato-ku,Tokyo107-0061,JAPANCはじめに現在,網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO)に伴う黄斑浮腫に対しては抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射が標準治療となっている1).しかし,同治療によって黄斑浮腫が一度改善しても再発を繰り返す難治例や治療抵抗例もあり,抗CVEGF薬の継続投与が必要な症例も多数存在する.さらに抗CVEGF薬による治療は根治療法とはいえず,投与が長期間にわたるなど治療終了が予測できない例も多いのに加え,同薬は高価であるため経済的な理由による治療中断が問題となっている.RVOに伴う黄斑浮腫に対しては,トリアムシノロンアセトニドのCTenon.下注射も行われているが,眼科的局所療法が中心であり,全身の内科的治療は検討されていない.高血圧関連疾患である脳卒中や心疾患,慢性腎臓病では,高血圧治療により予後の改善・治療効果が認められている2.5).RVOは高率に高血圧を合併し6),さらにCRVO発症時は高血圧の合併だけでなく血圧コントロール不良であることを筆者らは報告している7.9).これらを鑑みると,他の高表1対象者の背景(n=20)性別(例)男性9:女性C11年齢(歳)C65.1±11.9(46.83)BMI(kg/mC2)C25.3±2.8(20.4.30.4)病型(例)BRVO16:CRVO4降圧薬服用有:無(例)4:16BMI:bodymassindex.平均値±標準偏差.血圧関連疾患同様にCRVOに伴う黄斑浮腫の病態と高血圧治療との密接な関連が予想された.しかし,これまでにCRVOに伴う黄斑浮腫と高血圧治療・血圧変動に関する報告は希少である10).今回筆者らは,コントロール不良の高血圧を合併するRVOに伴う黄斑浮腫症例において,家庭血圧も考慮した厳格な血圧コントロールを目標とした高血圧治療中,抗VEGF薬未投与で,血圧値改善とともに黄斑浮腫改善を認めたC20例を経験した.それらの症例の黄斑浮腫の改善状態と血圧変動を後ろ向きに検討し,黄斑浮腫に対する高血圧治療の有効性を考察した.CI対象および方法2012年C3月.2020年C2月に黄斑浮腫を伴うCRVOにより表参道内科眼科(以下,当院)の眼科を受診し,同時に当院内科初診となりコントロール不良の高血圧を認めたC89例のうち,新たな高血圧治療が開始され,その後の高血圧治療継続中に抗CVEGF薬未投与で黄斑浮腫の改善を認めたC20例が対象である.対象者の背景を表1に示す.網膜静脈分枝閉塞症(branchretinalCveinocclusion:BRVO)16例,網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)4例.これらC20例が抗CVEGF薬投与を受けなかった理由は,①高血圧治療開始後かつ抗CVEGF薬の投与前に黄斑浮腫が改善した,②患者が抗CVEGF薬投与を拒否した,のいずれかである.これら全例は当院内科初診であったが,無治療高血圧または他院での高血圧治療不十分症例であり,当院内科で新たに家庭血表2高血圧治療ガイドラインにおける高血圧の基準と降圧目標(mmHg)A高血圧基準血圧値(mmHg)JSH2009年版JSH2014年版JSH2019年版診察室血圧家庭血圧診察室血圧家庭血圧診察室血圧家庭血圧高血圧基準血圧値C≧140-90C≧135-85C≧140-90C≧135-85C≧140-90C≧135-85降圧目標(7C5歳未満)<C130-85<C125-80<C140-90<C135-85<C130-80<C125-75降圧目標(7C5歳以上)<C140-90<C135-85<C140-90<C140-90<C140-90<C135-85B降圧薬の禁忌や慎重投与(JSH2019)禁忌慎重投与Ca拮抗薬末梢浮腫動悸CARB妊娠ACE阻害薬妊娠血管性浮腫サイアザイド系利尿薬痛風耐糖能異常Cb遮断薬徐脈耐糖能異常Ca拮抗薬:calciumchannelblocker(CCB)ARB:angiotensinIIreceptorblockerACE阻害薬:angiotensinconvertingenzymeinhibitor表3黄斑浮腫改善前と改善時のlogMAR視力,血圧値黄斑浮腫改善までの日数(日)85.1±50.9(7-215)logMAR視力黄斑浮腫改善前黄斑浮腫改善時p値0.40±0.28C0.22±0.30<0.001黄斑浮腫改善前と改善時の血圧値(mmHg)の比較黄斑浮腫改善前黄斑浮腫改善時p値全例C診察室血圧収縮期C149.5±17.1(C116.C174)C121.6±11.1(C96.C138)<C0.001n=20(mmHg)拡張期C85.3±9.3(C64.C104)C73.8±8.4(60.88)<C0.001診察室血圧高値C診察室血圧収縮期C159.0±9.4(C116.C174)C126.0±9.7(C96.C138)<C0.001n=14(mmHg)拡張期C88.7±7.5(C64.C104)C75.3±8.6(60.88)<C0.001診察室血圧収縮期C127.0±8.4(C116.C138)C112.0±8.1(C96.C118)Cp=0.002仮面高血圧C(mmHg)拡張期C77.3±8.1(70.86)C70.3±6.8(60.78)Cp=0.058n=6家庭血圧収縮期C165.2±21.2(C143.C196)C128.0±7.8(C115.C136)Cp=0.002(mmHg)拡張期C94.0±2.4(90.98)C73.5±10.3(C55.C83)Cp=0.002平均値±標準偏差,logMAR:logarithmicminimumangleofresolution.圧も考慮した厳格な高血圧治療を開始し,眼科と内科で継続診療がされた.黄斑浮腫の改善は,高血圧治療前後を光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)で比較し,黄斑浮腫が改善し,抗CVEGF薬投与不要であると眼科医が判断した時点とした.高血圧の診断と治療は,日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン(5年ごとに改訂)11.13)に従い,診察室血圧に加え家庭血圧も考慮した(表2).高血圧治療開始後の黄斑浮腫改善までの期間,視力,血圧変動について検討した.統計学的な検討は対応のあるCt検定を使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.本研究は表参道内科眼科の倫理審査委員会で承認後,ヘルシンキ宣言を順守して実施された.研究情報は院内掲示などで通知公開され,研究対象者が拒否できる機会を保障した.CII結果対象C20例の結果を表3に示す.黄斑浮腫改善を認めるまでの高血圧治療期間は平均C85.1C±50.9(7.215)日.logMAR視力は黄斑浮腫改善前C0.40C±0.28,黄斑浮腫改善時はC0.22C±0.30,p<0.001と有意に改善していた.黄斑浮腫改善時の血圧値は全例ガイドラインの降圧目標値に達していた.各症例における降圧薬の選択もガイドラインに従い現在の標準的な高血圧治療が行われ,禁忌もしくは慎重投与を考慮した結果,アンジオテンシンCII受容体拮抗薬(angiotensinIIreceptorblocker:ARB)が第一選択薬となり全例に投与された.第二選択薬以降は降圧目標値を達成することを目標に多剤併用療法が行われた.対象症例の詳細を表4に示す.症例C1.14は診察室血圧高値の高血圧.うち症例C1.12は無治療高血圧,症例C13,14は降圧薬服用中であったが治療不十分の高血圧.症例C15.20は診察室血圧は正常であったが家庭血圧測定を指示した結果,家庭血圧高値の仮面高血圧.うち症例C15.18は無治療仮面高血圧,症例C19,20は降圧薬服用中であったが治療不十分の治療中仮面高血圧.いずれの症例も黄斑浮腫存在時は,降圧薬服用の有無にかかわらず血圧コントロール不良の高血圧と診断され,新たに高血圧治療を開始または追加の降圧薬が投与された.黄斑浮腫改善時の血圧はガイドラインで定められた降圧目標値を下回っていた.代表症例の血圧値の変動と黄斑浮腫改善の経過を図1~4に示す.図1は無治療高血圧(症例C1,6,10,12).黄斑浮腫存在時に診察室血圧高値を認め高血圧と診断されたが高血圧無治療であり,新規に降圧薬投与を開始した症例.図2は治療不十分高血圧(症例C14).黄斑浮腫存在時に降圧薬服用中であったが診察室血圧高値を認め,追加の降圧薬が投与された症例.図3は無治療仮面高血圧(症例C15,17).黄斑浮腫存在時に診察室血圧正常であったが家庭血圧高値を認め,新規に降圧薬投与を開始した症例.図4は治療中仮面高血圧(症例C20).黄斑浮腫存在時に降圧薬服用中で診察室血圧正常であったが,家庭血圧高値を認め追加の降圧薬が投与され表4黄斑浮腫改善前後の各症例の期間,視力,血圧値浮腫改善前浮腫改善後小数視力症例C年齢No.(歳)性別CBMI病態降圧薬服用歴診察室血圧診察室血圧(家庭血圧)(家庭血圧)SBPDBPSBPDBP(mmHg)C(mmHg)C(mmHg)C(mmHg)浮腫改善までの期間(日)降圧薬黄斑浮腫改善前後改善値C高血圧1C77男C26.0CCRVO無C168C84C136C86C35CARBC0.3C0.9C0.6C(診察室血圧高値)C2C54女C26.0CBRVO無C174C104C136C84C56CARBC0.2C0.4C0.2C3C76女C24.0CBRVO無C162C90C124C66C215CARBC0.2C0.8C0.6C4C71女C21.1CBRVO無C156C84C128C78C122CARBC0.7C0.5C.0.2C5C66男C23.6CBRVO無C168C98C118C80C24ARB,利尿薬C0.5C0.6C0.1C6C47女C24.2CBRVO無C148C92C108C62C55CARBC0.6C1.2C0.6C7C73女C27.1CBRVO無C142C82C128C72C63CARBC1.2C1.2C0.0C8C76男C24.4CCRVO無C144C80C114C74C125CARBC0.5C0.4C.0.1C9C82女C22.2CBRVO無C166C76C138C60C131ARB,CCBC0.3C0.8C0.5C10C49男C27.7CBRVO無C166C96C136C88C57CARBC0.7C1.0C0.3C11C46男C24.0CBRVO無C164C94C136C80C91CARBC0.7C1.2C0.5C12C69男C28.3CBRVO無C154C92C114C66C66CARBC0.3C0.4C0.1C13C76女C21.9CBRVO有C162C82C126C78C130ARB,CCB,利尿薬C0.4C0.3C.0.1C14C67女C24.0CBRVO有C152C88C116C80C175ARB,b遮断薬0.2C0.3C0.1仮面高血圧(診察室血圧正常,15C57男C30.4CBRVO無C1368411878(1C45)C(95)C(1C15)C(65)C72CARBC0.5C0.9C0.4C家庭血圧高値)C16C65女C20.4CBRVO無C1328411676(1C92)C(98)C(1C36)C(83)C29CARBC0.06C0.06C0.0C17C47女C30.0CBRVO無C1168610864(1C55)C(95)C(1C32)C(79)C61CARBC0.7C1.0C0.3C18C53男C28.7CBRVO無C120709660(1C43)C(93)C(1C20)C(76)C89CARBC0.3C0.8C0.5C19C83男C25.1CCRVO有C1387611876(1C96)C(90)C(1C30)C(55)C98ARB,b遮断薬,利尿薬C0.5C0.6C0.1C20C68女C27.6CCRVO有C1226411868(1C60)C(93)C(1C35)C(83)C7ARB,CCB,利尿薬C0.5C1.0C0.5BMI:bodyCmassindex,BRVO:branchCretinalCveinocclusion,CRVO:centralCretinalCveinocclusion,SBP:systolicCbloodCpres-sure:収縮期血圧,DBP:diastolicCbloodpressure:拡張期血圧CARB:angiotensinCIIreceptorblocker,CCB:calciumCchannelCblock-er:Ca拮抗薬た症例である.いずれの症例も高血圧治療中,血圧値の改善とともに,黄斑浮腫の改善が認められた.CIII考按高血圧が関連する脳卒中や心疾患・慢性腎臓病では,高血圧治療による予後の改善は確立しており,ガイドラインに明示されている14.16).RVOは高率に高血圧を合併し,さらにRVO発症時は降圧薬服用の有無にかかわらず高率に血圧コントロール不良状態である8).よってCRVOにおいても,高血圧治療による病態改善効果が予想された.しかしこれまでに,血圧変動・高血圧治療とCRVOに伴う黄斑浮腫に関する研究はほとんどない.RVOは眼科疾患であり,多くの患者は内科での血圧管理状態との並行した観察はされておらず,またCRVOに伴う黄斑浮腫に対する抗CVEGF薬の硝子体内注射がすでに標準治療として確立しているためと考えられる.RVOは高血圧を高率に合併するため,当院では常に眼科医と内科医とが同時に並行して診察を行っている.そのためRVOに伴う黄斑浮腫症例の抗CVEGF薬未投与例において,黄斑浮腫と高血圧治療・血圧変動の関連を検討することが可能であった.今回対象となったC20例は高血圧治療中,抗CVEGF薬未投与の経過中に黄斑浮腫の改善を認めたが,黄斑浮腫の改善が認められた時点で血圧値も改善していたこと,およびその時点で視力の改善も認めたことにより,RVOに伴う黄斑浮腫に対する高血圧治療の有効性が強く示唆された.本研究の限界と課題を述べる.今回のC20例以外のC69例B35日後症例1:77歳,男性,CRVO,無治療高血圧.A:降圧薬投与前,矯正視力0.3,診察室血圧168/84mmHg.テルミサルタン40mg開始.B:35日後,矯正視力0.9,診察室血圧136/86mmHg,黄斑浮腫改善.55日後症例6:47歳,女性,BRVO,無治療高血圧.A:降圧薬投与前,矯正視力0.6,診察室血圧148/92mmHg.テルミサルタン40mg開始.B:55日後,矯正視力1.2,診察室血圧108/62mmHg,黄斑浮腫改善.57日後症例10:49歳,男性,BRVO,無治療高血圧.A:降圧薬投与前,矯正視力0.7,診察室血圧166/96mmHg.テルミサルタン40mg開始.B:57日後,矯正視力1.0,診察室血圧136/88mmHg,黄斑浮腫改善.66日後症例12:69歳,男性,BRVO,無治療高血圧.A:降圧薬投与前,矯正視力0.3,診察室血圧154/92mmHg.テルミサルタン40mg開始.B:66日後,矯正視力0.4,診察室血圧114/66mmHg,黄斑浮腫改善.図1症例1,6,10,12無治療高血圧(診察室血圧高値,降圧薬服用なし)175日後症例14:67歳,女性,BRVO,治療中高血圧.オルメサルタン5mg服用中.A:降圧薬追加前,矯正視力0.2,診察室血圧152/88mmHg.オルメサルタン20mgへ増量,アテノロール25mg追加.B:175日後,矯正視力0.3,診察室血圧116/80mmHg,黄斑浮腫改善.図2症例14治療不十分高血圧(診察室血圧高値,降圧薬服用中)のなかにも,当院内科で新たな高血圧治療を開始した症例が性の検討は不可能であった.黄斑浮腫に対する高血圧治療の存在したが,血圧コントロール状態や高血圧治療期間が考慮有効性を判断する期間が設定されれば,高血圧治療が黄斑浮されることなく標準治療である抗CVEGF薬が投与され,黄腫に対し有効であったか無効であったか,また抗CVEGF薬斑浮腫が改善したため,黄斑浮腫に対する高血圧治療の有効投与をどの時点で行うかの指標となる.しかし,糖尿病網膜B72日後症例15:57歳,男性,BRVO,無治療仮面高血圧.A:降圧薬投与前,矯正視力0.5,診察室血圧136/84mmHg,家庭血圧145/95mmHg.アジルサルタン20mg開始.B:72日後,矯正視力0.9,診察室血圧118/78mmHg,家庭血圧115/65mmHg,黄斑浮腫改善.61日後症例17:47歳,女性,BRVO,無治療仮面高血圧.A:降圧薬投与前,矯正視力0.7,診察室血圧116/86mmHg,家庭血圧155/95mmHg.テルミサルタン40mg開始.B:61日後,矯正視力1.0,診察室血圧108/64mmHg,家庭血圧132/79mmHg,黄斑浮腫改善.図3症例15,17仮面高血圧(診察室血圧正常,降圧薬服用なし,家庭血圧高値)7日後症例20:68歳,女性,CRVO,治療中仮面高血圧.カンデサルタン8mg,シルニジピン10mg服用中.A:降圧薬追加前,矯正視力0.5,診察室血圧122/64mmHg,家庭血圧160/93mmHg.トリクロルメチアジド1mg追加.B:7日後,矯正視力1.0,診察室血圧118/68mmHg,家庭血圧135/83mmHg,黄斑浮腫改善.図4症例20治療中仮面高血圧(診察室血圧正常,降圧薬服用中,家庭血圧高値)症に対する糖尿病治療の有効性の判定期間設定が困難なように,内科的全身治療による各臓器への治療有効性の判断に有する期間の予想は困難である.本研究においても,新たな高血圧治療開始後に黄斑浮腫の改善を認めるまでの期間は,平均C85.1日,最短C7日,最長C215日であり,大きな差があった.高血圧治療では血圧改善までに要する期間は高血圧治療ガイドラインにも記載はなく,個人差が非常に大きい.よって黄斑浮腫に対する高血圧治療の有効性を判断する期間の設定は困難と考えられる.RVOに伴う黄斑浮腫に対する高血圧治療の有効性の検討に関して,高血圧治療の有無や抗CVEGF薬投与の有無という条件設定による前向き介入試験は倫理的に困難である.現段階では高血圧治療と黄斑浮腫の改善に関する研究は,今回のような条件下で抗CVEGF薬投与がなされなかったケースの積み重ねでしか判断できない.このような症例を数多く長期にわたり検討することによってCRVOに伴う黄斑浮腫に対する高血圧治療の有効性の研究が進むと考える.抗CVEGF薬治療は高価であるが投与は複数回にわたり,かつ治療の終了が明確でなく治療を受ける患者の負担は非常に大きい.高血圧治療がCRVOに伴う黄斑浮腫に対し有効であるならば,再燃再発を繰り返し抗CVEGF薬の経済的負担が重くのしかかる同症の患者にとっては非常に価値がある.RVOに伴う黄斑浮腫患者に対しては,抗CVEGF薬硝子体内注射に加え,血圧コントロールの必要性の説明が重要と考える.RVOに伴う黄斑浮腫患者に高率に合併するコントロール不良の高血圧の存在は,患者の生命予後に大きな影響を与えるため,黄斑浮腫に対する高血圧治療の有効性の判断とは別に内科治療が必要な状態である.眼科と内科の枠組みを乗り越え,全身状態を考慮した患者の視点に立った取り組みが必要と考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本網膜硝子体学会硝子体注射ガイドライン作成委員会:小椋祐一郎,髙橋寛二,飯田知弘:黄斑疾患に対する硝子体内注射ガイドライン.日眼会誌C120:87-90,C20162)RashidP,Leonardi-BeeJ,BathP:Bloodpressurereduc-tionandsecondarypreventionofstrokeandothervascu-larevents:aCsystematicCreview.CStrokeC34:2741-2748,C20033)KatsanosCAH,CFilippatouCA,CManiosCECetal:BloodCpres-sureCreductionCandCsecondaryCstrokeprevention:aCsys-tematicCreviewCandCmetaregressionCanalysisCofCrandom-izedclinicaltrials.HypertensionC69:171-179,C20174)LevyCD,CGarrisonCRJ,CSavageCDDCetal:PrognosticCimpli-cationsCofCechocardiographicallyCdeterminedCleftCventricu-larCmassCinCtheCFraminghamCHeartCStudy.CNCEnglCJCMedC322:1561-1566,C19905)SPRINTCResearchGroup;WrightCJTCJr,CWilliamsonCJD,CWheltonPKetal:ArandomizedtrialofintensiveversusstandardCblood-pressureCcontrol.CNCEnglCJCMedC373:C2103-2116,C20156)YasudaM,KiyoharaY,ArakawaSetal:PrevalenceandsystemicriskfactorsforretinalveinocclusioninageneralJapaneseCpopulation:TheCHisayamaCStudy.CInvestCOph-thalmolVisSciC51:3205-3209,C20107)土屋徳弘,戸張幾生:高血圧・動脈硬化と網膜静脈閉塞症.日本の眼科89:1368-1376,C20188)土屋徳弘,戸張幾生,宮澤優美子ほか:網膜静脈閉塞症発症とコントロール不良高血圧の存在.仮面高血圧を考慮して.あたらしい眼科C37:1322-1326,C20209)土屋徳弘:眼科領域から高血圧治療へのメッセージ:網膜静脈閉塞症など.日本臨牀78:227-234,C202010)AhnSJ,WooSJ,ParkKH:Retinalandchoroidalchangeswithseverehypertensionandtheirassociationwithvisualoutcome.InvestOphthalmolVisSciC55:7775-7785,C201411)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドラインC2009,日本高血圧学会,200912)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドラインC2014,日本高血圧学会,201413)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編):高血圧治療ガイドラインC2019,日本高血圧学会,201914)日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン作成委員会(編):脳卒中ガイドラインC2015[追補C2019対応].協和企画,201915)日本循環器学会,日本心不全学会(編):急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版),ライフサイエンス社,C201716)日本腎臓学会(編):エビデンスに基づくCCKD診療ガイドライン2018,日本医学社,2018***

トラベクレクトミー術後3 日目に眼内炎を生じた1 例

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):529.532,2022cトラベクレクトミー術後3日目に眼内炎を生じた1例飯川龍栂野哲哉坂上悠太末武亜紀福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野CACaseofEndophthalmitisthatOccurredontheThirdDayafterTrabeculectomyRyuIikawa,TetsuyaTogano,YutaSakaue,AkiSuetakeandTakeoFukuchiCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversityC目的:トラベクレクトミー術後C3日目に発症した眼内炎のC1例を経験したので報告する.症例:77歳,男性.慢性眼瞼炎の既往があった左眼の原発開放隅角緑内障に対してトラベクレクトミーを行った.術中,強角膜ブロック作製後の虹彩切除をした際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体を切除した.術翌日からC2日目の所見はとくに異常なかったが,術後C3日目に結膜充血,前房蓄膿,硝子体混濁を認めた.細菌性の眼内炎を疑い,抗菌薬の頻回点眼を行ったが所見が急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.術中に採取した前房水からCStaphylococcusaureusが検出され起因菌と考えられた.硝子体手術と抗菌薬投与によって感染は鎮静化したが,濾過胞は瘢痕化し,最終的にはチューブシャント手術を要した.結論:比較的まれとされるトラベクレクトミー術後早期の眼内炎を報告した.本症例では慢性眼瞼炎,硝子体脱出が眼内炎の発症にかかわっていた可能性がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCendophthalmitisCthatCoccurredConCtheCthirdCdayCafterCtrabeculectomy.CCaseReport:AC77-year-oldCmaleCunderwentCtrabeculectomyCinChisCleftCeyeCforCprimaryCopenCangleCglaucoma.CTheCoperatedeyehadahistoryofchronicblepharitis.Duringsurgery,vitreouslossoccurredwheniridectomywasper-formed,andwecuttheprolapsedvitreous.Noabnormal.ndingswereobservedupthrough2dayspostoperative.However,ConCtheCthirdCdayCpostCsurgery,CconjunctivalChyperemia,Chypopyon,CandCvitreousCopacityCwereCobserved.CBacterialCendophthalmitisCwasCsuspected,CandCwasCtreatedCwithCfrequentCadministrationCofCantibioticsCeyeCdrops.CHowever,CtheCconditionCrapidlyCdeteriorated,CsoCvitrectomyCwasCurgentlyCperformed.CStaphylococcusCaureusCwasCdetectedintheaqueoushumor.Althoughvitrectomyandantibioticadministrationsubsidedtheinfection,theblebbecameCscarredCandCeventuallyCrequiredCtubeCshuntCsurgery.CConclusion:ThisCstudyCpresentsCaCrelativelyCrareCcaseofendophthalmitisthatoccurredearlyaftertrabeculectomy.Inthiscase,chronicblepharitisandvitreouspro-lapsemayhavebeenriskfactorsforendophthalmitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):529.532,C2022〕Keywords:緑内障,トラベクレクトミー,眼内炎,硝子体脱出,眼瞼炎.glaucoma,trabeculectomy,endophthal-mitis,vitreousloss,blepharitis.Cはじめにトラベクレクトミーはもっとも眼圧下降の期待できる緑内障手術の一つとして,国内外で広く施行されている術式である.高い眼圧下降効果の反面,早期の合併症として前房出血,低眼圧,濾過胞漏出,脈絡膜.離,脈絡膜出血,悪性緑内障などがあり,中期から晩期の合併症としては低眼圧の遷延による黄斑症,白内障の進行,濾過胞炎やそれに伴う眼内炎が知られている1).とくに濾過胞炎や眼内炎といった濾過胞関連感染症は,患者の視力予後を大きく左右する合併症の一つで,臨床上大きな問題となる.その頻度をCYamamotoらはC5年の経過で累積発生率はC2.2C±0.5%で,濾過胞漏出の存在と若年であることが濾過胞関連感染症のリスクファクターであると報告している2).濾過胞炎に続発する眼内炎は晩期の合併症として知られているが,トラベクレクトミー術後早期眼内炎の報告は少なく,まれであると考えられる.今回,筆者らはトラベクレクトミー術後C3日目に発症した術後〔別刷請求先〕飯川龍:〒951-8510新潟市中央区旭町通C1-757新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学大講座眼科学分野Reprintrequests:RyuIikawa,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidori,Chuo-ku,Niigata-city,Niigata951-8510,JAPANC図1トラベクレクトミー後3日目の前眼部写真前房内に著明な炎症性細胞を認める.図3図1の数時間後の前眼部写真前房蓄膿を認める.早期眼内炎のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:77歳,男性.家族歴:特記事項なし.既往歴:(眼)2005年に左眼,2007年に右眼水晶体再建術,左眼レーザー後.切開術後.(全身)高血圧,前立腺肥大症で内服加療中.現病歴:2007年,Goldmann圧平眼圧計(GoldmannCapplanationtonometer:GAT)で右眼眼圧がC20CmmHg,左眼眼圧がC27CmmHgと高値で,左眼にCBjerrum暗点認め,原発開放隅角緑内障の診断で前医にて左眼にラタノプロスト(キサラタン)点眼を開始された.その後,両眼ともC20mmHg以上の眼圧で推移してチモロールマレイン酸塩(チモプトール)を追加された.左眼は適宜点眼を追加するも眼圧はC20CmmHg台前半で推移していた.2018年C1月頃より左眼に眼瞼炎が出現し,ステロイド軟膏を処方されていた.図2トラベクレクトミー後3日目の超音波Bモード画像びまん性の硝子体混濁を認める.2018年C4月頃よりラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合剤(ザラカム),ブリモニジン酒石酸塩(アイファガン),リパスジル塩酸塩水和物(グラナテック)点眼下でも左眼眼圧がC30CmmHg台前半まで上昇し,眼圧コントロール不良にてC2018年C6月,当科を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼がC0.06(1.0C×sph.3.50D(cyl.3.75DAx55°),左眼が0.03(0.4C×sph.3.75D(cylC.2.0DAx105°),眼圧は右眼18mmHg,左眼28mmHg(GAT)であった.前房は深く,清明,両眼とも眼内レンズ挿入眼であり,左眼はレーザー後.切開術後であった.眼軸長は右眼C26.0Cmm,左眼C25.9Cmmであった.視野はCHum-phrey24-2で右眼の平均偏差(meandeviation:MD)がC.9.47dB,左眼のCMDがC.22.95dB,Humphrey10-2で左眼のMDがC.24.82CdBであった.左眼には慢性眼瞼炎を認めた.CII経過ステロイド緑内障の可能性も考慮し,当科初診時に軟膏を中止した.しかし,その後も眼圧下降が得られず,2018年7月,左眼にトラベクレクレクトミーを施行した.術前,クロルヘキシジン(ステリクロンW液C0.02)で皮膚洗浄を行い,6倍希釈したCPAヨードで結膜.洗浄を行った.手術は輪部基底結膜切開で施行した.強角膜ブロック作製後の虹彩切除の際に硝子体脱出があり,脱出した硝子体をスプリングハンドル剪刀と吸水性スポンジ(O.S.A;はんだや)で可能な限り切除した.結膜は端々縫合(3針)したあとに連続縫合で閉創し,漏出がないことを確認して手術を終了した.なお,当科では術前や術中の抗菌薬点眼,内服,点滴,術中のヨード製剤などによる術野洗浄はこの当時施行していなかった.術翌日,前房は深く,軽度の炎症細胞を認めた.左眼眼圧はC21CmmHg(GAT)であり,眼球マッサージでC11CmmHgまで下降した.左眼視力は(0.6CpC×sph.4.75D(cyl.2.0DAx110°)であり,眼底透見は良好で,術翌日の所見としてとくに問題はなかった.術翌日より,レボフロキサシン水和物C1.5%(レボフロキサシン),ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%(サンベタゾン),トラニラストC0.5%(リザベン)をC1日に各C4回,術後点眼として使用した.術後C2日目も前房炎症は軽度,左眼眼圧はC18CmmHgであり,低眼圧や濾過胞漏出は認めなかった.術後C3日目の午前に,結膜充血,前房内炎症細胞の著明な増加,眼底が透見できないほどの硝子体混濁を認めた(図1,2).濾過胞内には混濁なく,疼痛の自覚はなかった.細菌性の眼内炎を疑い,レボフロキサシン水和物(レボフロキサシン)とセフメノキシム塩酸塩(ベストロン)のC2時間ごと頻回点眼を開始した.しかし,数時間後には前房蓄膿が出現(図3),急速に悪化したため,緊急で硝子体手術を施行した.バンコマイシン塩酸塩(バンコマイシン,10Cmg)とセフタジジム水和物(モダシン,20mg)を混注したC500Cmlの灌流液を用いて,前房洗浄を行い,続いて硝子体混濁と硝子体腔のフィブリンを除去した.術中の網膜所見としては,全体的に血管が白線化し,少量の網膜出血を認めた.菌塊は認められなかった.術中に採取した前房水と硝子体液の培養を行い,前房水からCStaphylococcusaureusが検出された.硝子体液は培養陰性であった.硝子体手術後は,抗菌薬点眼併用で感染の鎮静化が得られ,術翌日の左眼視力は(0.04C×sph.3.0D)であったが,術後C3カ月の時点で,左眼視力は(0.6C×sph.3.50D(cyl.2.25DAx90°)と改善を認めた.しかし,眼底後極部の血管の白線化は残存,濾過胞は瘢痕化し左眼眼圧C26CmmHg(GAT)まで上昇し,Humphrey10-2のCMDはC.30.22dBに悪化した.最終的に術後C5カ月の時点でCAhmed-FP7(NewWorldMedical)によるチューブシャント手術を要した.CIII考察トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであると考えられる.トラベクレクトミー術後の早期の眼内炎に関しては,症例報告が散見され,Papaconstantinouら3)は術後C10日目の眼内炎,Katzら4)は術翌日の眼内炎,Kuangら5)は術後C2日目の眼内炎を報告している.頻度としてはC0.1.0.2%5,6)程度とされる.一般的に晩期合併症としての眼内炎は菲薄化した濾過胞からの房水漏出濾過胞関連であり,術後早期の眼内炎の原因は術中の汚染と考えられる4).トラベクレクトミー術後早期の眼内炎の起因菌としてはCLactobacil-lus3),b-hemolyticStreptococcus4),Morganellamorganii5),coagulase-negativeStaphylococcus,Staphylococcusaureus,Streptococcus,Gram-negativeCspecies6)などの報告がある.白内障術後の早期眼内炎に関しては多くがグラム陽性菌で70%がCcoagulase-negativeCStaphylococcus,10%がCStaphy-lococcusaureus,9%がCStreptococcus属,2.2%がCEnterococ-cus属とされ,トラベクレクトミー術後早期においても同様と考えられる7).本症例では慢性の眼瞼炎の存在が,眼内炎のリスクファクターになった可能性がある.白内障術後の眼内炎に関しては,急性または慢性眼瞼炎があると,眼瞼や睫毛が細菌の温床になりリスクが高まるとされる7).早期眼内炎とは異なるが,慢性眼瞼炎はトラベクレクトミー後の濾過胞炎のリスクファクターとされ8),眼瞼炎が感染に関与している可能性は高いと考えられる.眼瞼炎のC47.6%からCStaphylococcusaureusが分離されたとの報告もあり9),本症例では前房水からCStaphylococcusaureusが検出されていることから,起因菌と考えられた.検出菌の薬剤感受性は術後に使用していたレボフロキサシン(LVFX)に対してCS(Susceptible:感受性)であった.術中の硝子体脱出も,眼内炎のリスクになったと考えられる.白内障術後眼内炎に関しては,術中に硝子体脱出があるとC7倍リスクが高くなるという報告がある7).術中に硝子体脱出があった白内障術後眼内炎の起因菌は,症例で検出されたようなグラム陽性菌が多いとされ10),術中の硝子体の汚染が眼内炎の発生率を上げる要因となっている.また,嘉村は白内障手術からの眼内炎発症時期として,CStaphylococcusaureusなどのグラム陽性菌では術後4.7日が多いと報告している11).白内障術後では前房から硝子体,網膜へと感染が進展するのに対して,硝子体術後は細菌が直接硝子体に侵入するため眼内炎の発症期間の平均はC2.3日で白内障手術後の眼内炎よりも早いとされる12).本症例でもこの機序で術後C3日目という比較的早期に眼内炎が生じたと考えられる.Atanassovらはトラベクレクトミー術中の硝子体脱出の頻度はC0.9%と報告している13).トラベクレクトミーでは強度近視,落屑緑内障,トラブルのあった白内障術後などで,術中の硝子体脱出のリスクがある.このような場合は,強角膜ブロックを作製しないCExPRESSなどの術式も検討すべきであるが,本症例はこれらに該当はしなかったため硝子体脱出の原因は不明である.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用についても再考する必要がある.トラベクレクトミー周術期における抗菌薬の使用に関しては決まったガイドラインがないため,各施設・術者によって大きな差がある.荒木らはC34施設C48名にアンケート調査を行い,術前の抗菌薬点眼はC84%,術中の抗菌薬点滴はC70%,術後抗菌薬内服はC68%の医師が施行していると報告している14).当科にてC2018年にC38施設C38名を対象に施行したアンケート調査では,抗菌薬の使用率は術前点眼がC84%(3日前からが最多でC63%),周術期点滴がC58%,周術期内服がC45%であった.術前点眼に関しては同様の結果であったが,抗菌薬の点滴や内服に関してはその有効性や副作用の問題から,昨今は減少傾向にあると考えられる.術中の術野洗浄に関してはC68%の施設でCPA・ヨードまたはイソジンによる洗浄が行われていた.井上らは,白内障術前の患者を対象にしたレボフロキサシン0.5%の術前点眼の期間別の培養陽性率に関して,術前C3日間点眼群は,術前C1日間点眼群やC1時間C1回点眼群に比べて,眼洗浄終了時や,手術終了時の結膜.培養陽性率が有意に低いことを報告しており15),このことからトラベクレクトミーに関しても術前C3日前から点眼している施設・術者が多いものと思われる.また,井上らは術前のイソジン(適応外使用)やCPA・ヨードによる結膜.洗浄で培養陽率が有意に低下することも報告している.内服や点滴と比べて,術前点眼や術中洗浄は副作用や患者の負担も少なく,エビデンスもある減菌方法であると考えられる.CIV結論トラベクレクトミー術後早期の眼内炎はまれであるが,本症例は慢性眼瞼炎の存在と術中の硝子体脱出が発症にかかわっていた可能性がある.トラベクレクトミー周術期の抗菌薬使用に関して定められたガイドラインはなく,施設ごとの差が大きいことから,周術期の抗菌薬の使用方法について再考する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OlayanjuJA,HassanMB,HodgeDOetal:Trabeculecto-my-relatedCcomplicationsCinCOlmstedCCounty,CMinnesota,C1985CthroughC2010.CJAMACOphthalmolC133:574-580,C20152)YamamotoCT,CSawadaCA,CMayamaCCCetal:TheC5-yearCincidenceCofCbleb-relatedCinfectionCandCitsCriskCfactorsCafterC.lteringCsurgeriesCwithCadjunctiveCmitomycinC:CcollaborativeCbleb-relatedCinfectionCincidenceCandCtreat-mentstudy2.OphthalmologyC121:1001-1006,C20143)PapaconstantinouD,GeorgalasI,KarmirisTetal:Acuteonsetlactobacillusendophthalmitisaftertrabeculectomy:Cacasereport.JMedCaseRepC4:203,C20104)KatzLJ,CantorLB,SpaethGL:ComplicationsofsurgeryinCglaucoma.CEarlyCandClateCbacterialCendophthalmitisCfol-lowingCglaucomaC.lteringCsurgery.COphthalmologyC92:C959-963,C19855)EifrigCCW,CFlynnCHWCJr,CScottCIUCetal:Acute-onsetpostoperativeCendophthalmitis:reviewCofCincidenceCandCvisualoutcomes(1995-2001)C.COphthalmicCSurgCLasersC33:373-378,C20026)WallinCO,CAl-ahramyCAM,CLundstromCMCetal:Endo-phthalmitisCandCsevereCblebitisCfollowingCtrabeculectomy.CEpidemiologyandriskfactors;asingle-centreretrospec-tivestudy.ActaOphthalmolC92:426-431,C20147)RahmaniCS,CEliottD:PostoperativeCendophthalmitis:ACreviewCofCriskCfactors,Cprophylaxis,Cincidence,Cmicrobiolo-gy,Ctreatment,CandCoutcomes.CSeminCOphthalmolC33:C95-101,C20188)KimCEA,CLawCSK,CColemanCALCetal:Long-termCbleb-relatedCinfectionsCaftertrabeculectomy:Incidence,CriskCfactors,CandCin.uenceCofCblebCrevision.CAmCJCOphthalmolC159:1082-1091,C20159)TeweldemedhinCM,CGebreyesusCH,CAtsbahaCAHCetal:CBacterialpro.leofocularinfections:asystematicreview.BMCOphthalmolC17:212,C201710)LundstromCM,CFrilingCE,CMontanP:RiskCfactorsCforCendophthalmitisCafterCcataractsurgery:PredictorsCforCcausativeCorganismsCandCvisualCoutcomes.CJCCataractCRefractSurgC41:2410-2416,C201511)嘉村由美:術後眼内炎.眼科C43:1329-1340,C200112)島田宏之,中静裕之:術後眼内炎パーフェクトマネジメント.p14-21,日本医事新報社,201613)AtanassovMA:SurgicalCtreatmentCofCglaucomasCbyCtrabeculectomy-indicationsCandCearlyCresults.CFoliaCMed(Plovdiv)51:24-28,C200914)荒木裕加,本庄恵,石田恭子ほか:白内障手術および濾過手術周術期における抗菌薬・ステロイド点眼薬使用の多施設検討.臨眼72:809-815,C201815)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmolC52:151-161,C2008***

瞬目異常を主症状とした小児Lid-Wiper Epitheliopathy の 2 症例

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):524.528,2022c瞬目異常を主症状とした小児Lid-WiperEpitheliopathyの2症例小林加寿子*1,2横井則彦*3外園千恵*3*1中日病院眼科*2名古屋大学大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学*3京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学CTwoCasesofLid-WiperEpitheliopathyinChildrenPresentingAbnormalBlinkingKazukoKobayashi1,2),NorihikoYokoi3)andChieSotozono3)1)DepartmentofOphthalmology,ChunichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC瞬目異常を主症状とし,レバミピド懸濁点眼液による治療が奏効した小児Clid-wiperepitheliopathy(LWE)のC2例を報告する.症例C1はC9歳,男児.5カ月前より瞬目異常に対し抗菌薬およびステロイドの点眼にて改善せず京都府立医科大学附属病院眼科に紹介された.左眼にCLWEと角膜上皮障害を認め,レバミピド懸濁点眼液開始後C6週間で治癒した.経過中右眼にも同様の所見を生じたが,同治療によりC2週間で治癒した.症例C2はC9歳,男児.1カ月前より瞬目異常と掻痒感を自覚し,抗アレルギー薬およびステロイドの点眼と抗アレルギー薬の内服にて改善せず紹介された.両眼の結膜炎,LWE,および角膜上皮障害を認め,レバミピド懸濁点眼液およびC0.1%フルオロメトロン点眼液による治療にて,6カ月で治癒した.LWEは小児では瞬目異常が主症状となる場合があることおよび,レバミピド懸濁点眼液がCLWEならびに瞬目異常の治療に有効であることが示唆された.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCoflid-wiperCepitheliopathy(LWE)inCchildrenCwhoCpresentedCwithCabnormalblinking(AB).CaseReports:Case1involveda9-year-oldmalewithABwhoshowednoimprovementfollowingaC5-monthCtreatmentCwithCantibioticCandCsteroidCeyeCdrops.CLWECandCcornealepithelialCdamage(CED)wasCobservedCinChisCleftCeye.CAllCsymptomsCresolvedCatC1.5CmonthsCafterCinitiatingCtreatmentCwithrebamipide(RBM)Ceyedrops.Duringthetreatmentcourse,LWEandCEDwereobservedinhisrighteye,yetresolvedviathesametreatment.CCaseC2CinvolvedCaC9-year-oldCmaleCwithCABCandCocularCitchiness.CThereCwasCnoCimprovementCafterCaC1-monthtreatmentwithtopicalandgeneralanti-allergymedicationandsteroideyedrops.Bilateralconjunctivitis,LWE,CandCCEDCwereCobserved,CyetCallCsymptomsCresolvedCatC6-monthsCafterCinitiatingCtreatmentCwithCRBMCandCsteroideyedrops.Conclusion:LWEinchildrencanresultinAB,andLWEandassociatedblinkabnormalitiescane.ectivelybetreatedwithRBMeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):524.528,C2022〕Keywords:lid-wiperepitheliopathy,瞬目異常,角膜上皮障害,レバミピド懸濁点眼液,小児.lid-wiperepithe-liopathy,abnormalblinking,cornealepithelialdamage,rebamipideeyedrops,children.Cはじめに2002年,Korbらは,瞬目時に眼球表面と摩擦を生じる眼瞼下溝から上眼瞼の後縁に及ぶ眼瞼結膜部位をClidwiper,この部位の結膜上皮障害をClid-wiperCepitheliopathy(LWE)と命名した1).その後,Shiraishiらは,上眼瞼に比べて下眼瞼にCLWEの頻度が高いことを示し2),現在,LWEは上下のlidwiper領域の上皮障害として認知されるようになってきている.LWEの発症メカニズムとして,瞬目時の摩擦亢進が考えられており1),ドライアイと同様,さまざまな症状を引き起こす原因となる.今回,瞬目異常を症状とし,レバミピド懸濁点眼液による治療が奏効した小児CLWEのC2症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕橫井則彦:〒606-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:NorihikoYokoi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokoji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyo-ku,Kyotocity,Kyoto606-8566,JAPANC524(132)I症例〔症例1〕患者:9歳,男児.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:5カ月前に左眼の瞬目異常に母親が気づき,近医を受診.近医にて抗菌点眼液(オフロキサシン点眼液,左眼1日C2回)およびステロイド点眼液(0.1%フルメトロン点眼液,左眼C1日C2回)にて治療されたが,改善しなかったため,京都府立医科大学附属病院眼科を紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼:1.5(矯正不能),左眼:1.2(矯正不能).眼圧は非接触型眼圧計にて,右眼:14CmmHg,左眼:14CmmHgであった.左眼に下方優位のCLWEと,角膜下方に密な点状表層角膜症を認めた(図1).右眼にはCLWEも角膜上皮障害も認めなかった.経過:レバミピド懸濁点眼液を左眼にC1日C4回点眼で開始し,6週間後には,左眼の瞬目異常,LWEおよび点状表層角膜症は治癒した(図1).経過中,右眼にも左眼と同様の瞬目異常とCLWEを認めたが,レバミピド懸濁点眼液を右眼にもC1日C4回点眼で開始し,2週間で治癒した.〔症例2〕9歳,男児.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:1カ月前より瞬目異常と掻痒感を自覚し,近医にて抗アレルギー点眼液(オロパタジン点眼液,両眼C1日C4回)およびステロイド点眼液(0.1%フルメトロン点眼液,両眼C1初診時日C2回)にて治療されたが,改善しなかったため,京都府立医科大学附属病院眼科を紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼:1.2(1.5×+0.50D),左眼:1.2(矯正不能),眼圧は非接触型眼圧計にて,右眼:11CmmHg,左眼:11CmmHgであった.両眼の下方眼瞼結膜に充血,乳頭形成,高度のCLWE,上方にも軽度のCLWEおよび角膜下方に,角膜上皮障害を認めた(図2,3上段).経過:オロパタジン点眼液は中止とし,レバミピド懸濁点眼液を両眼にC1日C4回,0.1%フルメトロン点眼液を両眼に1日C1回点眼として開始し,6カ月で瞬目異常,掻痒感,結膜充血,乳頭形成,LWEおよび角膜上皮障害は治癒した(図2,3下段).CII考按LWEは,その発症機序として,瞬目時の摩擦亢進が推定される,瞼板下溝から上眼瞼の後縁に及ぶClidwiper領域における上皮障害であり1),高齢者より若年者に多く,異物感,眼痛といったドライアイに類似したさまざまな症状を訴える.危険因子として,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)装用,ドライアイなどが知られている1.3).SCL装用は,LWEが発見される最初の契機となった危険因子であり,SCL表面は,角膜表面に比べて涙液層が薄いことや水濡れ性が悪いことが,LWEの原因として考えられる.一方,ドライアイ,とくに涙液減少型ドライアイにおいては,治療後図1症例1の左眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた点状表層角膜症(Ca)およびClid-wiperCepitheliopathy(Cc,e)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回開始C6週間後に,それぞれ治癒した(b,d,f).初診時治療後図2症例2の右眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた角膜上皮障害(ただし,縦線状の外観を示すことから,掻痒感に起因する眼瞼擦過の影響も無視できない)(a)およびClid-wiperCepi-theliopathy(Cc,e.eでは眼瞼結膜に乳頭形成もみられる)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回およびC0.1%フルオロメトロン点眼液のC1日C1回点眼開始C6カ月後に,それぞれ治癒した(Cb,d,f).初診時治療後図3症例2の左眼a,b:角膜フルオレセイン染色所見(ブルーフリーフィルターによる観察所見).c~f:眼瞼結膜リサミングリーン染色所見.初診時にみられた角膜上皮障害(Ca)およびClid-wiperCepitheliopathy(Cc,e.eでは眼瞼結膜に乳頭形成もみられる)は,レバミピド懸濁点眼液のC1日C4回およびC0.1%フルオロメトロン点眼液のC1日C1回点眼開始C6カ月後に,それぞれ治癒した(Cb,d,f).潤滑作用をもつ涙液の不足のために,瞬目時の摩擦亢進が生じやすく,このことがCLWEが涙液減少型ドライアイに合併しやすい理由としてあげられる.LWEは,症状がない場合があり4),本症例のように小児やCSCL非装用眼でも発症する.今回の症例とドライアイの関連については,.uore-sceinbreakuptime(FBUT)やC.uoresceinbreakuppattern(FBUP)検査を試みたが,小児のため,正確な評価はできなかった.また,LWEは,一般に涙液減少型ドライアイを合併しやすいが,今回の症例では,涙液メニスカスの高さは正常範囲と考えられ,小児のためCSchirmerテストは施行できなかったが,結膜上皮障害がみられなかったことから,涙液分泌減少の合併はないと考えた.しかし,今回瞬目異常がみられたことを考慮すると,眼瞼けいれんで報告されている5)ような,涙液減少を伴わないCBUT短縮型ドライアイ,とくに水濡れ性低下型ドライアイが表現されていた可能性が考えられる.そして,今回の症例では,母親が気づいた瞬目異常が,LWEの診断につながったことは,注目に値する.小児に瞬目異常を起こす疾患には,チックなど内因性によるものや,心身障害といった全身疾患によるもの,顔面神経麻痺や,眼疾患によるものがある(表1).鑑別すべき疾患は多くはないが,とくに,チックや心身障害によるものは,小児科や精神科からのアプローチが主となり,診断や治療も複雑である.今回経験した症例のうち,1例目は患者自身の自覚症状はなかったが,母親が瞬目異常に気づいて受診しており,小児は年齢や成育の程度とも関連して,患者が症状を訴えない場合や訴えられない場合もあるため注意が必要と思われる.そして,小児で瞬目異常を認めた場合は,LWEのような,瞬目時の摩擦亢進が関係する眼表面疾患が原因である可能性も念頭において,鑑別診断を進めてゆく必要がある.瞬目時の摩擦亢進は,lidwiper領域の眼瞼結膜と眼球表面を構成する角膜および球結膜との間で生じ,眼瞼の背後で生じる病態のため,直接観察することができない.そのため,摩擦亢進の結果としての上皮障害からその病態を推察する必要がある.LWEは,フルオレセイン,ローズベンガル,あるいは,リサミングリーン染色でClidwiper領域の染色陽性所見として観察されるが,本症例ではC2例とも,下眼瞼を主体としてClidwiper領域に帯状のリサミングリーン染色陽性所見を認めた.LWEの頻度は上眼瞼よりも下眼瞼が高く,さらに下方CLWEでは,重症度が高いほど,眼瞼圧も高いことが知られることから,高い眼瞼圧は,下方CLWEの発症要因の一つと捉えることができる6).また,上眼瞼は眼瞼圧との明らかな関連はないが,瞬目は上下眼瞼の共同作業であるため,今回のC2例では,下眼瞼の眼瞼圧が高いことによって引き起こされる眼球運動変化や,それに基づく瞬目摩擦の亢進が上眼瞼にも影響して,LWEを発症した可能性がある.表1小児で瞬目異常を起こす原因チック重症心身障害(脳炎,てんかん,脳症など)顔面神経麻痺児童虐待眼疾患:結膜炎(感染性結膜炎,アレルギー性結膜炎,春期カタルなど)ドライアイ,コンタクトレンズ装用,マイボーム腺機能不全,lidwiperepitheliopathy,睫毛内反,睫毛乱生また,症例C2では,眼掻痒感を伴っていたことから,手指で眼瞼を掻くことが,瞬目時の摩擦を増強させ,LWEを増悪させた可能性もある.Yamamotoらによると下方のCLWEには高い眼瞼圧が関係しているとされ6),表1にあげた瞬目異常の原因となる眼疾患では,生理的な瞬目時よりも瞬目が強くなることでCLWEひいては瞬目摩擦による角膜上皮障害を伴いやすくなっている可能性があり,その視点から眼表面を観察する意義があると思われる.眼瞼圧は加齢に伴って減少し7),小児では眼瞼圧が高いと考えられるため,LWEを発症しやすい可能性がある.今回の症例では,下方のCLWEのみならず,それと摩擦を生じうる関係にある下方の角膜領域にフルオレセインで染色される上皮障害所見がみられたことから,両上皮障害部位の摩擦亢進による悪循環,ひいてはそれによって生じるさまざまな眼不快感によって,瞬目という上下眼瞼の一連の相互作用が影響を受け,瞬目異常の症状を引き起こしたと推測される.ただし,症例C2の右眼では,角膜上皮障害は,縦線状の外観を示しており,掻痒感に起因する眼瞼擦過の影響も無視できないと考えられる.LWEの治療としては,眼瞼結膜のClidwiper領域と眼球表面との瞬目摩擦の軽減が鍵となるが,そこには,眼瞼圧の減少,瞬目時の眼瞼速度の減少,涙液の粘度の減少,lidwiper領域と眼球表面を構成する角結膜表面の潤滑性の増加の切り口がある8).今回のC2症例で使用したレバミピド懸濁点眼液を含め,わが国で認可されているドライアイ治療薬は,涙液の潤滑性を高め,瞬目摩擦の軽減に寄与する可能性がある.涙液層の液層は水分と分泌型ムチンから構成されており,一方,眼表面上皮には,膜型ムチンが分布して,lidwiper領域と眼球表面の摩擦に対して潤滑性を発揮する.人工涙液やヒアルロン酸ナトリウム点眼液は涙液の水分量を一時的に増やすが,それぞれ,3分,5分程度の効果であり9),ムチン増加作用がないため,摩擦軽減効果は短時間と考えられる.一方,分泌型ムチンであるCMUC5ACを産生,分泌する杯細胞は,眼球結膜や眼瞼結膜,結膜.円蓋部,lidwiper領域に多く存在している10).レバミピド懸濁点眼液は,分泌型ムチンであるCMUC5ACを分泌する杯細胞をClidwiper領域で増加させるため11),lidCwiper領域の潤滑性が高まり,瞬目摩擦を効率よく軽減させる効果が期待できる.また,レバミピド懸濁点眼液は,角膜上皮における膜型ムチンであるMUC16を増加させ12),眼表面上皮の水濡れ性を高める効果も期待できる.さらに,レバミピド懸濁点眼液は,眼表面炎症に対する抗炎症作用も期待でき13),このことも,摩擦亢進の結果生じうる炎症の軽減,ひいては,眼不快感の軽減につながることが期待される.以上より,レバミピド懸濁点眼液は,水分分泌作用はないが,摩擦の鍵となるClidwiper領域で特異的に杯細胞を増加させて,分泌型ムチンを緩徐に増加させるとともに,膜型ムチンを増加させることでClidCwiper領域の瞬目摩擦を軽減し,LWEや,それに伴う角膜上皮障害に効果が期待できると考えられる.以上,今回,筆者らは,瞬目異常を伴う高度のCLWEに対して,レバミピド懸濁点眼液を使用し,2症例とも治癒し,その後の再発を認めていない.本剤投与によってClidCwiper領域で杯細胞が増加し,潤滑剤としての分泌型ムチンの産生が促され,さらに膜型ムチンの発現が亢進したことで,瞬目摩擦の悪循環が改善し,LWEが治癒したと推察している.また,レバミピド懸濁点眼液だけではなく,低力価ステロイド点眼液も,摩擦亢進の結果として生じる炎症に対して効果があったと思われる.レバミピド懸濁点眼液は,糸状角膜炎14),上輪部角結膜炎15)といった瞬目摩擦が関係しうる他の眼表面疾患に対して,有効であることが報告されており,本症例の経験から,小児のCLWEに対してもレバミピド懸濁点眼液は有効と考えられた.文献1)KorbDR,GreinerJV,HermanJPetal:Lid-wiperepithe-liopathyCandCdry-eyeCsymptomsCinCcontactClensCwearers.CCLAOJC28:211-216,C20022)ShiraishiCA,CYamaguchiCM,COhashiY:PrevalenceCofCupper-andlower-lid-wiperepitheliopathyincontactlenswearersandnon-wearers.EyeContactLensC40:220-224,C20143)白石敦,山西茂喜,山本康明ほか:ドライアイ症状患者におけるClid-wiperepitheliopathyの発現頻度.日眼会誌C113:596-600,C20094)KorbDR,HermanJP,GreinerJVetal:Lidwiperepithe-liopathyCandCdryCeyeCsymptoms.CEyeCContactCLensC31:C2-8,C20055)HosotaniY,YokoiN,OkamotoMetal:Characteristicsoftearabnormalitiesassociatedwithbenignessentialblepha-rospasmCandCameliorationCbyCmeansCofCbotulinumCtoxinCtypeAtreatment.JpnJOphthalmolC64:45-53,C20206)YamamotoY,ShiraishiA,SakaneYetal:Involvementofeyelidpressureinlid-wiperepitheliopathy.CurrEyeResC41:171-178,C20167)SakaiE,ShiraishiA,YamaguchiMetal:Blepharo-tensi-ometer:newCeyelidCpressureCmeasurementCsystemCusingCtactileCpressureCsensor.CEyeCContactCLensC38:326-330,C20128)加藤弘明,橫井則彦:瞬目摩擦の基礎理論とその診断.あたらしい眼科34:353-359,C20179)YokoiCN,CKomuroA:Non-invasiveCmethodsCofCassessingCthetear.lm.ExpEyeResC78:399-407,C200410)KnopCN,CKorbCDR,CBlackieCCACetal:TheClidCwiperCcon-tainsgobletcellsandgobletcellcryptsforocularsurfacelubricationduringtheblink.CorneaC31:668-679,C201211)KaseCS,CShinoharaCT,CKaseM:E.ectCofCtopicalCrebamip-ideongobletcellsinthelidwiperofhumanconjunctiva.ExpTherMedC13:3516-3522,C201712)UchinoCY,CWoodwardCAM,CArguesoP:Di.erentialCe.ectCofCrebamipideConCtransmembraneCmucinCbiosynthesisCinCstrati.edocularsurfaceepithelialcells.ExpEyeResC153:C1-7,C201613)TanakaCH,CFukudaCK,CIshidaCWCetal:RebamipideCin-creasesCbarrierCfunctionCandCattenuatesCTNFa-inducedCbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancor-nealepithelialcells.BrJOphthalmolC97:912-916,C201314)青木崇倫,橫井則彦,加藤弘明ほか:ドライアイに合併した糸状角膜炎の機序とその治療の現状.日眼会誌C123:C1065-1070,C201915)TakahashiY,IchinoseA,KakizakiH:TopicalrebamipidetreatmentCforCsuperiorClimbicCkeratoconjunctivitisCinCpatientswiththyroideyedisease.AmJOphthalmolC157:C807-812,C2014C***

Down 症候群患者における角膜内皮細胞

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):520.523,2022cDown症候群患者における角膜内皮細胞大久保寛*1外園千恵*1木下茂*2*1京都府立医科大学大学院医学研究科視機能再生外科学*2京都府立医科大学感覚器未来医療学CCornealEndothelialCellMorphologyintheEyesofDownSyndromePatientsHiroshiOkubo1),ChieSotozono1)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:Down症候群患者における角膜内皮細胞異常の有無を調べること.方法:トーメーコーポレーション製スペキュラーマイクロスコープCEM-3000を用いCDown症候群患者C9例C17眼と対照群C10例C19眼の角膜内皮細胞密度,変動係数,六角形細胞出現率,角膜厚について比較,検討した.結果:角膜内皮細胞密度はすべての症例でC2,000Ccells/Cmm2以上であり,細胞形態にも異常を認めず,すべての項目において対照群とのあいだに有意差を認めなかった.考按:Down症候群のように体細胞にC21トリソミーの染色体異常が存在する場合でも角膜内皮細胞の形態と機能は保たれていると考えられた.CPurpose:ToCinvestigateCtheCmorphologyCofCcornealCendothelialcells(CECs)inCtheCeyesCofCDownCsyndromeCpatients.Methods:Thisstudyinvolved17eyesof9Downsyndromepatientsand19eyes10normalhealthycon-trolsubjects.Inalleyes,CECdensity,coe.cientofvariation,rateoftheappearanceofhexagonal-shapecells,andcornealCthicknessCwasCexaminedCviaCtheCuseCofCaspecularCmicroscope(EM-3000;TOMEY),CandCthenCcompared.CResults:InCallCeyes,CCECCdensityCwasC≧2,000Ccells/mm2,CandCnoCcellCmorphologyCabnormalitiesCwereCobserved.CMoreover,nosigni.cantdi.erenceswerefoundbetweentheDownsyndromeeyesandthecontrolgroupeyesinallparameters.Conclusion:Our.ndingsrevealedthatthestructureandfunctionofCECsismaintainedeveninthepresenceoftrisomy-21chromosomalabnormalitiesinsomaticcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):520.523,C2022〕Keywords:Down症候群,角膜内皮細胞,染色体異常.Downsyndrome,cornealendothelialcells,chromosomalabnormality.CはじめにDown症候群はC1866年CDownらにより報告され1),1959年にCLejeuneらによりC21番染色体のトリソミーが特定された疾患群である.特徴的な顔貌や全身のさまざまな合併症をきたし,眼合併症としては屈折異常,斜視,白内障,円錐角膜などが多数報告されている2).発達遅滞のために眼科検査を十分に施行することができない患者が多く,角膜内皮細胞の異常の有無について検討された報告は筆者らの知る限りではいまだない.そこで今回,Down症候群に認められる染色体異常が角膜内皮細胞に影響するか否かについて,後ろ向き研究として臨床的な検討を行ったので報告する.I方法対象はC2009年C4月.2021年C12月に京都府立医科大学附属病院眼科を受診し,白内障術前検査のためにスペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞検査を受けたCDown症候群患者C9例C17眼である.全例がC21番染色体のトリソミーにより診断されていた.対照群としてC2021年C6月.2022年C1月に角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ検査を受けた内眼手術既往のないC50歳以下の患者C10例C19眼を抽出した.角膜内皮細胞の測定にはCEM-3000(トーメーコーポレーション製)を用い,自動測定モードにより得られた〔別刷請求先〕大久保寛:〒606-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:HiroshiOkubo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPANC520(128)表1Down症候群患者の角膜内皮所見,白内障術前後の視力,円錐角膜の有無,白内障の性状検査時年齢(歳)性別CCD(cells/mm2)CCV(%)C6A(%)角膜厚(Cμm)術前小数視力術後小数視力円錐角膜白内障C1RC31CFC2,710C38C49C580C0.06C0.6CASCO+皮質混濁C1LC31CFC2,534C44C40C592C0.15C0.5CASCO+皮質混濁C2RC31CFC2,717C50C32C610C0.02C0.02無水晶体C2LC27CFC2,936C44C38C557C0.02C0.02無水晶体C3RC43CFC2,843C35C43C483C0.15C0.3CPSCO+皮質混濁C3LC43CFC2,814C36C46C-0.15C0.2CPSCO+皮質混濁C4RC47CFC2,880C37C45C428測定不能測定不能ありCPSCOC5RC46CMC2,236C42C43C515C0.01C0.3CASCOC5LC46CMC2,417C41C42C537C0.01C0.2CASCOC6RC17CMC2,604C42C49C471C0.2C0.5CPSCOC6LC17CMC2,495C39C48C471C0.1C0.5CPSCOC7RC58CMC2,577C35C45C-30cm/手動弁C0.1あり成熟白内障C7LC58CMC2,561C34C45C457C0.2C0.2あり皮質混濁C8RC30CMC2,252C51C30C-0.1C0.6CASCOC8LC30CMC2,689C37C27C546C0.08C0.6CASCOC9RC50CMC2,599C33C38C55030cm/手動弁C0.1成熟白内障C9LC50CMC2,800C33C46C566C0.04C0.15CPSCO患者番号平均C39.2C2,627.3C39.5C41.5C525.9C0.052C0.207標準偏差C12.6C203.4C5.5C6.6C55.7CCD:角膜内皮細胞密度,CV:変動係数,6A:六角細胞出現率.ASCO:前.下白内障,PSCO:後.下白内障.表2対照群の角膜内皮所見と併存疾患患者番号1RC49CFC2,865C35C49C467CPSCOC1LC49CFC2,910C37C47C470C-2RC43CMC2,742C44C43C511CPDRC2LC43CMC2,717C39C41C502CPDRC3RC49CMC3,136C36C50C561CPDRC3LC49CMC3,110C33C54C548CPDRC4RC18CMC2,773C39C47C521左角膜裂傷C5RC26CFC2,566C44C43C533CSLEC5LC26CFC2,235C54C33C537SLE/左CCRAO+CRVO+VHC6RC43CMC2,693C63C44C514CPDR+VHC6LC43CMC2,487C37C49C501CPDRC7RC18CMC2,470C50C35C568アトピー,RRDC7LC18CMC2,485C50C34C536アトピーC8RC48CFC2,745C39C42C510CPSCOC8LC48CFC2,846C41C46C498C-9RC50CMC2,609C47C35C–9LC50CMC2,529C46C32C587CRRDC10RC27CMC2,542C44C40C626涙小管断裂C10LC27CMC2,636C33C51C567C-検査時年齢CDCCVC6A角膜厚性別(cells/mm2)(%)(%)(μm)併存疾患平均C37.1C2,689.3C42.7C42.9C530.9標準偏差C13.3C224.0C7.8C6.6C40.6CCD:角膜内皮細胞密度,CV:変動係数,6A:六角細胞出現率.PSCO:後.下白内障,PDR:増殖糖尿病網膜症,SLE:全身性エリテマトーデス,VH:硝子体出血,CRAO:網膜中心動脈閉塞症,CRVO:網膜中心静脈閉塞症,RRD:裂孔原性網膜.離.症例②左眼症例④右眼症例⑥右眼症例⑨左眼図1Down症候群患者の角膜内皮スペキュラーマイクロスコープ画像例表3Down症候群患者群と対照群の比較(Mann.WhitneyのU3,500検定)y=0.2677x+2617Down症候群患者平均対照群平均p値検査時年齢(歳)C39.2C37.1C0.89CD(cells/mmC2)C2,686.1C2,689.3C0.57CV(%)C39.5C42.7C0.206A(%)C41.5C42.9C0.53角膜厚(Cμm)C525.9C530.9C0.95CD:角膜内皮細胞密度,CV:変動係数,6A:六角細胞出現率.内皮細胞密度(cells/mm2)3,0002,5002,0001,5001,0005000010203040506070角膜内皮細胞密度(以下,CD),変動係数(cofficientCofCvariation:CV),六角形細胞出現率(以下,6A),角膜厚の年齢(歳)データを抽出し,Mann-WhitneyのCU検定を用いて統計学図2Down症候群患者における年齢による角膜内皮細胞密度の的検討を行った.滴状角膜を含めた角膜内皮細胞層の形態異変化常の有無も検討した.白内障手術前と術後C3カ月以内の最高矯正視力,円錐角膜の有無,白内障の有無と性状も併せて検CII結果討した.Down症候群患者の検査時年齢はC39.2C±12.6歳(平均C±標準偏差),男性C5例,女性C4例で,CDはC2,627C±203Ccells/Cmm2,CV値はC39.5C±5.5%,6AはC41.5C±6.6%,角膜厚はC526±56Cμmであった(表1,2).対照群はC37.1C±13.3歳,男性7例,女性3例で,CDは2,689C±224Ccells/mm2,CV値はC42.7C±7.8%,6AはC42.9C±6.6%,角膜厚はC531C±41Cμmであった(表3).Mann-WhitneyU検定において,上記すべての項目で対照群とのあいだに有意な差を認めなかった(図1).滴状角膜はいずれの群にも認めなかった.円錐角膜は角膜トポグラフィーを施行したC2例C3眼に認め,その他の症例ではオートレフケラトメーターにおいて3Dを超える乱視は認めず,円錐角膜を合併していないと判定した.白内障については,先天白内障術後を含めると,全例で合併していたことになる.多くは,前.下混濁や後.下混濁を伴う皮質白内障であった.2眼は成熟白内障であった.なお,Down症候群患者における白内障手術では有意に視力改善を認めた(p<0.01).対照群にみられた併存疾患としてC6眼に増殖糖尿病網膜症を認めた.CIII考按21番染色体にトリソミーを認めるCDown症候群のすべての症例において,角膜内皮細胞密度はC2,000Ccells/mmC2以上であり,角膜内皮障害の重症度分類3)において正常群に分類された.また,対照群との統計学的な検定においても有意差を認めなかった.非接触型スペキュラーマイクロスコープ検査における変動係数と六角形細胞率の計測は細胞の安定性を示す参考指標とも考えられているが,臨床現場ではあくまで参考値として取り扱われることが一般的である.本検討におけるCCV値と六角形細胞率はおおむね正常範囲であり,かつ対照群と比して統計的な有意差は認めなかった.角膜内皮細胞は,原則として,invivoでは細胞分裂による細胞増殖を生じないため,経年的に細胞数が徐々に減少していくとされている.健常人での角膜内皮細胞の減少率は0.3.0.5%/年と報告されているが4,5),本検討においてCDown症候群患者の加齢に伴う角膜内皮細胞の減少は認めなかった(図2).CDown症候群は体細胞のC21番染色体が通常よりC1本多いトリソミーで発症するとされており,角膜内皮細胞においてもC21トリソミーが生じているはずである.一般に,染色体異常は,細胞の異常増殖や癌化,細胞の機能異常などを生じる可能性がありえるが,今回の結果からC21番染色体トリソミーはCinvivo角膜内皮細胞の細胞密度と形態には影響を及ぼさないと考えられた.文献1)LangdonCJ,CDownH:ObservationsConCanCethnicCcla-ssi.cationCofCidiots.CLondonCHospitalCReportsC3:259-262,C18662)daCCunhaCRCP,CMoreiraCJB:OcularC.ndingsCinCDown’sCsyndrome.AmJOphthalmolC122:236-244,C19963)木下茂,天野史郎,井上幸次ほか:角膜内皮障害の重症度分類:日眼会誌118:81-83,C20144)MurphyC,AlvaradoJ,JusterRetal:Prenatalandpost-natalCcellularityCofCtheChumanCcornealCendothelium.CaCquantitativeChistologicCstudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC25:312-322,C19845)RaoSK,RanjanSenP,FoglaRetal:CornealendothelialcellCdensityCandCmorphologyCinCnormalCIndianCeyes.CCor-neaC19:820-823,C2000***

Aktis トーリック眼内レンズの術後早期成績

2022年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科39(4):515.519,2022cAktisトーリック眼内レンズの術後早期成績岩崎留己蕪龍大川下晶大城莉香子竹下哲二上天草市立上天草総合病院眼科CEarlySurgicalOutcomesafterAktisToricIntraocularLensImplantationRumiIwasaki,RyotaKabura,HikariKawashita,RikakoOshiroandTetsujiTakeshitaCDepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospitalC目的:眼内レンズCAktisトーリック(モデル名CNS60YT)の術後早期成績を報告し,Vivinexトーリック(モデル名CXY1AT)のそれと比較する.対象および方法:2020年C2.12月に,NS60YT3.5を挿入したC18例C27眼(74.0C±5.8歳,平均C±標準偏差,以下同様)とCXY1AT3.7を挿入したC37例C59眼(73.8C±5.4歳)を対象とした.術後C3カ月までの裸眼・矯正視力,他覚・自覚球面度数,他覚・自覚円柱度数,術翌日の軸ずれを比較検討した.結果:NS60YT挿入後,1週間,1カ月,3カ月の裸眼・矯正視力,他覚・自覚球面度数,他覚・自覚円柱度数はいずれも術前に比較して改善していた.NS60YT群とCXY1AT群の間に統計学的有意差はなく,NS60YTは良好な乱視矯正効果をもつと思われた.術翌日の軸ずれはCNS60YT群では,5.3C±3.0°,XY1AT群ではC4.0C±3.1°でCNS60YT群のほうが有意に大きかった.結論:NS60YTは現在発売されているCXY1ATと同等の乱視矯正効果をもつと考えられる.CPurpose:ToCreportCtheCearlyCsurgicalCoutcomesCafterCAktisCtoricCintraocularlens(IOL)(NS60YT;Nidek)CimplantationCcomparedCwithCthatCofCtheCVivinexCtoricIOL(XY1AT;Hoya)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC27CeyesCofC18cases[meanage:74.0C±5.8(meanC±standarddeviation)years]implantedCwithCtheNS60YT[3-5diopters(D)]andC59CeyesCofC37cases(73.8C±5.4years)implantedCwithCtheXY1AT(3-7D)CbetweenCFebruaryCandCDecemberC2020.CInCallCeyes,CweCcomparedCuncorrectedCandCcorrectedCvisualCacuity,Cobjec-tiveCandCsubjectiveCsphericalCpower,CobjectiveCandCsubjectiveCcylindricalCpowerCupCuntilC3-monthsCpostoperative,Candaxialmisalignmentat1-daypostoperative.Results:Nosigni.cantdi.erencewasfoundbetweentheNS60YTgroupCandCtheCXY1ATCgroup,CsuggestingCthatCtheCNS60YTChasCaCgoodCastigmatismCcorrectionCe.ect.CMeanCaxialCmisalignmentat1-daypostoperativewas5.3±3.0°CintheNS60YTgroupand4.0±3.1°CintheXY1ATgroup,thusshowingCthatCtheCmisalignmentCwasCsigni.cantlyCgreaterCinCtheCNS60YTCgroup.CConclusion:TheCNS60YTCwasCfoundtohavethesameastigmatism-correctinge.ectastheXY1AT.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(4):515.519,C2022〕Keywords:Aktis,トーリック,NS60YT,Vivinex,XY1AT.Aktis,toric,NS60YT,Vivinex,XY1AT.はじめに近年トーリック眼内レンズ(toricCintraocularlens:T-IOL)は,その種類が増え,複数の製品を有するメーカーも出てきた.Mohammadiら1)は白内障の患者C1,317人の2,156眼を分析し,73.7%がC1.50D以下の角膜乱視を有し,26.3%が1.50Dを超えるとしていて,1.5Dを超える角膜乱視がある場合にCT-IOLの使用を推奨している.一方,1D程度の弱度の乱視でも,裸眼遠方視力では単焦点CIOLよりも有意にCT-IOLのほうが良好である2)という報告もあり,上天草総合病院(以下,当院)ではCwebカリキュレーターでT-IOLの適応があると判断された正乱視の患者には積極的にCT-IOLを挿入している.T-IOLがC2008年にわが国でも承認されて以降,各レンズメーカーはさまざまな特徴をもつCT-IOLを製造販売するようになった.ニデックより発売予定であるCAktisトーリック(モデル名:NS60YT)は,同社では初となるCT-IOLであり,〔別刷請求先〕岩崎留己:〒866-0293熊本県上天草市龍ヶ岳町高戸C1419-19上天草市立上天草総合病院眼科Reprintrequests:RumiIwasaki,DepartmentofOphthalmology,KamiamakusaGeneralHospital,1419-19RyugatakemachiTakado,Kamiamakusa-shi,Kumamoto866-0293,JAPANC白内障手術におけるCT-IOL選択肢の幅が広がることになる.NS60YTはCNex-AcriシリーズのシングルピースCT-IOLである.両凸のレンズ形状で,レンズ前面には乱視度数が配置され,レンズ後面は非球面(C.0.15Cμm)構造となっていることから角膜球面収差が補正される.疎水性アクリル素材で,紫外線吸収能をもち,光学部周辺の乱視軸マークはC2個のドットがマーキングされている.球面度数は,評価時点で15.0D.27.0D(0.50Dステップ),乱視矯正度数は,評価時点でCT3がC1.50D(角膜面C1.05D),T4がC2.25D(角膜面C1.57D),T5がC3.00D(角膜面C2.08D)となっている.当院はCNS60YTを発売前に使用する機会を得たため,先行使用における早期成績を報告するとともにCVivinexトーリック(モデル名:XY1AT,HOYA)との臨床データを比較検討した.CI対象および方法1.対象2020年2.12月に,当院で白内障手術を行い,NS60YT3.5(以下,NS60YT群)を挿入したC18例C27眼(74.0C±5.8歳)およびCHOYAのCXY1AT3.7(以下,XY1AT群)を挿入したC37例C59眼(73.8C±5.4歳)を対象とした.翼状片や角膜疾患,眼底疾患など,角膜乱視や視力に影響のある疾患を有する患者は除外した.本研究は,当院の倫理審査委員会の承認(2021年C4月C15日,承認番号:2021-02)を得たのち,ヘルシンキ宣言3)に準拠して実施された.C2.術前検査眼軸長,角膜曲率半径,屈折値の測定を行った.眼軸長はエコースキャンUS-4000(ニデック)を用いた.角膜曲率半径,屈折値測定には角膜形状/屈折力解析装置COPD-ScanIII(ニデック)を用い,眼内レンズ度数決定にはCSRK-T式を用いた.目標屈折値は全例C0Dだった.レンズモデルおよび軸角度の決定にはそれぞれのメーカーがインターネット上に公開しているCwebcalculatorを使用した.その際に必要となる術後惹起乱視(以下,SIA)はC2.2Cmmの強角膜切開創からプリセットインジェクターCVivinexmultiSertでCXY1-SP(HOYA)を挿入したC30眼のデータからCDr.HillのCSurgicallyInducedCAstigmatismCalculatorを用いて計算し,0.30とした.C3.手術手術はすべて同一術者(竹下)が行った.前.切開は連続円形切.でレンズ前面をCcompletecoverできる大きさとした.上方のC2.2Cmm強角膜切開創から超音波乳化吸引を行った.NS60YT群ではレンズ挿入にCAktisトーリックディスポインジェクター(RI-1,RET社)と専用カートリッジを使用したが,そのままの切開幅では挿入できなかったため,切開創を2.5Cmmスリットナイフで切り広げたのちに挿入した.レンズ挿入後の切開幅をインシジョンゲージ(DuckworthC&Kent社)にて計測した.レンズ挿入時の粘弾性物質にはオペリード(千寿製薬)を用い,レンズ挿入後の除去時はCI/Aチップをレンズと後.の間に挿入して入念に除去した.切開創は無縫合で手術終了した.XY1AT群では切開創を広げることなく,VivinexmultiSertインジェクターで挿入した.手術中の軸合わせはパネル法4)を用い,視能訓練士が液晶保護パネル(以下,パネル)に引いた線にレンズの軸マークを合わせた.パネル法は画像撮影法の一種であり,まず術前に撮影した前眼部写真から虹彩色素斑や虹彩紋理を選んで,それと目標軸のなす角を計測しておく.術中は顕微鏡下の映像をモニターに映し出し,パネルをかぶせておく.スタッフがモニター上で虹彩色素斑や虹彩紋理を見つけ出して角度を計測しパネルの上に線を引く.術者は,レンズ挿入後にモニターを見ながらレンズの軸マークをパネルに引かれた線に合わせるというものである.全例が入院しての手術で,術後は手術室から車いすで病棟へ帰室,抗菌薬点滴が終了するまでベッド上安静とした.C4.視機能および眼科学的評価視力はC5Cm小数視力表でC1.2まで測定しClogMARに換算した.評価項目は術後C1週間,1カ月,3カ月の裸眼・矯正視力,他覚・自覚球面度数,他覚・自覚円柱度数,術前後の角膜乱視量,術翌日の軸ずれ,SIAとした.円柱度数はマイナスシリンダーフォームを用いて計測し,絶対値に変換した.また,乱視の分類の定義として,倒乱視(0.30°または151°.180°),直乱視(61°.120°),斜乱視(それ以外)とした.軸ずれは手術翌日に散瞳下にてCOPD-ScanIIIを用いて徹照像撮影を行い,レンズマークの軸角度を計測,挿入予定軸角度との差を算出し,絶対値で表した.SIAは術前と術後3カ月時の角膜乱視度数からベクトル解析(Alpins法5))にて算出した乱視量を用いた.C5.統計解析連続変数に対してCShapiro-Wilk検定にてデータの正規性を評価し,Welch’st検定を用いてC2群間比較を行った.すべての統計解析にはCRおよびCRコマンダーの機能を拡張した統計ソフトウェアであるCEZR(Ver.1.54)を使用した.統計学的有意水準をC5%未満(両側検定)とした.CII結果使用レンズおよび挿入軸を表1に示す.術前と術後C1週間,1カ月およびC3カ月の各項目の値を表2および図1~3に示す.術前の円柱度数は自覚も他覚もCXY1AT群のほうが大きかった.NS60YT群CT3.T5のC3モデルであったのに対し,XY1AT群はCT3.T7のC5モデルだったが,術前の角膜乱視には有意差がなかった.両群ともに術前に比較し表1使用レンズおよび挿入軸NS60YT(n=27)CXY1AT(n=59)合計使用レンズCT3CT4CT5CT6CT7C10C6C11C16C26C10C6C1C26C32C21C6C1乱視軸倒乱視C直乱視C斜乱視C19C5C3C57C2C0C7673て術後C1週間,1カ月,3カ月の裸眼および矯正視力,自覚および他覚円柱度数は有意に改善していた(p<0.001).術後C1カ月の矯正視力は,NS60YT群のほうがCXY1AT群より良好だった.術後C3カ月での角膜乱視は,XY1AT群のほうがCNS60YT群より大きかった.それ以外の項目についてはすべての観察期間で両群間に有意差はなかった.NS60YT群では挿入後の切開幅はC2.63C±0.07mmに広がっていた.惹起乱視については,術前と術後C3カ月の比較でNS60YT群では,0.54C±0.33,XY1AT群ではC0.52C±0.29で有意差がなかった(p=0.78).軸ずれは,予定軸と手術翌日でCNS60YT群では,5.3C±3.0°,XY1AT群ではC4.0C±3.1°でCNS60YT群のほうが有意に大きかった(p<0.05).CIII考按XY1ATは着色CT-IOLで,NS60YTとレンズ径や素材といった物理的性質,非球面構造による非点収差を軽減するような光学系など,類似した特徴をもつ.NS60YTも正式発売時にはCXY1AT同様,プリセットインジェクターに装.されて販売されるものと思われるが今回は既存の他社製汎用インジェクターを用いての挿入となった.先行発売されている他社製CT-IOLはいずれもC2.2mm以下の切開幅から挿入可能なインジェクターを用いて挿入される.webcalculatorでレンズモデルと挿入軸を決定する際にはCSIAが必要で,今回C0.30としたがこれはC2.2mm切開創からレンズ挿入した症例から得られた数値である.清水は切開幅がC2.5Cmm以下であればCSIAは無視してよいとしている6).今回倒乱視が多い症例に対し上方からの切開で,NS60YT挿入後の切開幅がC2.67mmに広がっていたことでCSIAが大きくなり,乱視矯正効果が減弱したのではないかと思われた.しかし,術前と術後C3カ月の比較でCSIAには差がなかった.また,自覚および他覚乱視も有意差がなかった.むしろ術前は差がなかった角膜乱視は術後C3カ月時点でCXY1AT群のほうが大きくなっていた.NS60YTの正式発売時に,より小さい切開創から挿入可能なインジェクターが採用されるのであれば表2術前・術後1週間,1カ月,3カ月の各項目の値術前1週間1カ月3カ月CNS60YTCXY1ATp値CNS60YTCXY1ATp値CNS60YTCXY1ATp値CNS60YTCXY1ATp値裸眼視力(logMAR)矯正視力(logMAR)自覚球面度数(D)C他覚球面度数(D)C自覚円柱度数(D)C他覚円柱度数(D)C角膜乱視度数(D)CSIA(D)C0.34±0.280.34±0.230.40C0.08(.─C1.22)C(.0.08C─C1.00)C0.08±0.260.06±0.160.46C0.08(.─C1.22)C(.0.08C─C1.00)C0.44±1.990.97±1.570.42C7.00(.─C3.00)C(.2.50C─C4.50)C0.18±2.140.73±1.790.30C7.31(.─C3.64)C(.5.91C─C4.22)C1.26±0.741.64±0.850.02*C(C0.00C─C3.00)C(C0.00C─C4.00)C1.18±0.721.55±0.680.01*C(C0.28C─C2.81)C(C0.30C─C3.27)C1.07±0.551.11±0.510.52C(C0.28C─C2.48)C(C0.24C─C2.95)C─C─C─C0.00±0.130.00±0.150.06C.0.08C─C0.40)C(C(.0.08C─C0.05)C.0.10±0.02.0.10±0.060.10C.0.08C─C0.52)C(C(.0.08C─C0.22)C0.00±0.200.10±0.370.42C.0.50C─C0.50)C(C(.1.00C─C0.75)C0.00±0.35.0.20±0.540.20C.0.51C─C0.88)C(C(.1.65C─C1.10)C0.10±0.250.50±3.000.36C(C0.00C─C1.00)C(C0.00C─C2.25)C0.60±0.430.70±0.870.63C(C0.03C─C1.54)C(.0.73C─C5.91)C0.96±0.591.15±0.720.25C(C0.11C─C2.46)C(C0.12C─C4.73)C─C─C─C0.00±0.100.05±0.130.18C.0.08C─C0.22)C(C(.0.08C─C0.00)C.0.08±0.02.0.05±0.050.02*C.0.08C─C0.40)C(C(.0.08C─C0.15)C.0.01±0.33.0.08±0.430.63C.0.50C─C1.00)C(C(.1.00C─C0.75)C0.32±0430.08±0.730.10C.0.43C─C1.10)C(C(.1.23C─C2.96)C0.32±0.400.31±0.530.58C(C0.00C─C1.00)C(C0.00C─C2.25)C0.76±0.430.87±0.790.87C(C0.00C─C1.46)C(C0.00C─C5.52)C1.00±0.601.22±0.700.17C(C0.18C─C2.52)C(C0.07C─C3.50)C─C─C─C0.00±0.100.04±0.13.0.08C─C0.22)C(C(.0.08C─C0.30)C0.44.0.07±0.04.0.06±0.06.0.08C─C0.10)C(C(.0.08C─C0.15)C0.86.0.03±0.270.12±0.60.0.50C─C0.50)C(C(.0.50C─C2.00)C0.640.23±0.380.09±0.93.0.41C─C1.09)C(C(.0.86C─C2.98)C0.050.21±0.470.44±0.770.59.1.00C─C1.00)C(C(C0.00C─C3.00)C0.54±0.440.69±0.450.59(C0.22C─C1.16)C(C0.08C─C2.01)C0.84±0.551.25±0.480.003(C0.00C─C2.47)C(C0.21C─C2.35)C0.54±0.330.52±0.290.782C(C0.08C─C1.51)C(C0.08C─C1.32)C0.201.501.000.500.030.040.050.100.00自覚球面度数(D)裸眼視力(logMAR)0.500.600.70a3.002.502.00矯正視力(logMAR)0.100.150.300.340.340.40NS60YT0.500.320.091.000.73他覚球面度数(D)0.97-0.010.120.440.000.230.010.180.00-0.05-0.50-0.03-0.08-0.12-0.50-1.00-1.00-1.50-1.50-2.00-2.00術前1週間1カ月3カ月-2.50術前1週間1カ月3カ月図2自覚球面度数(a)と他覚球面度数(b)の変化SIAをC0.30で計算しても他社製CT-IOLと同等の乱視矯正効果が得られると期待できる.NS60YTの支持部は光学部接線に対して垂直に出て直角に曲がり,長いのが特徴である.同社ではこれを「アンカーウィングループ」とよび,水晶体.との接触域を最大限に引き出すデザインで安定した中心固定をめざしたとしている.水晶体.赤道部との接触域が広いことで,.内回旋は少ないのではないかと期待されたが,少なくとも予定軸からの軸ずれについてはCXY1AT群よりも大きいという結果となった.XY1ATの支持部はシボ加工(前・後面),すり仕上げ(側面)されており,これが.内回旋を抑制している可能性がある7).乱視矯正効果は両群間に有意差がなかったが,今後は支持部の表面加工についても検討すべきかもしれない.NS60YTは発売時には球面度数はC1.0D.30.0D(28.0D以上はC1.0Dステップ)に拡張され,円柱加入度数もCT3.T5に加えC3.75D(角膜面C2.60D)加入のCT6,4.50D(角膜面C3.11D)加入のCT7が追加される予定である.より狭い切開創から挿入可能なプリセットインジェクターに収められれば,より多くの症例に適応できるようになり,他社製CT-IOLと遜色ない乱視矯正効果が期待できるレンズである.利益相反:利益相反公表基準に該当なしa3.00b2.502.50NS60YTXY1AT2.00NS60YTXY1AT2.00自覚円柱度数(D)他覚円柱度数(D)1.551.640.691.500.500.320.440.160.210.500.310.000.09-0.500.001.501.261.181.001.00術前1週間1カ月3カ月術前1週間1カ月3カ月図3自覚円柱度数(a)と他覚円柱度数(b)の変化文献1)MohammadiCM,CNaderanCM,CPahlevaniCRCetal:PrevaC-lenceCofCcornealCastigmatismCbeforeCcataractCsurgery.CIntCOphthalmolC36:807-817,C20162)StathamCM,CApelCA,CStephensenD:ComparisonCofCtheCAcrySofSA60sphericalintraocularlensandtheAcrySoftoricCSN60T3CintraocularClensCoutcomesCinCpatientsCwithClowamountsofcornealastigmatism.ClinExpOphthalmolC37:775-779,C20093)WorldCMedicalAssociation:WorldCMedicalCAssociationCDeclarationCofHelsinki:ethicalCprinciplesCforCmedicalCresearchCinvolvingChumanCsubjects.CJAMAC27:2191-2194,C20134)川下晶,蕪龍大,岩崎留己ほか:タブレット端末を用いたトーリック眼内レンズの軸合わせ.臨眼C75:335-338,C20215)AlpinsNA:ACnewCmethodCofCanalyzingCvectorsCforCchangeCinCastigmatism.CJCCataractCRefractCSurgC19:524-533,C19936)清水公也:角膜耳側切開白内障手術.眼科C37:323-330,C19957)竹下哲二,川下晶,安武真佑ほか:支持部の表面加工の異なるC2種類のトーリック眼内レンズの術後早期成績.眼科63:75-80,C2021***

多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3 版に関する アンケート調査結果の推移

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):510.514,2022c多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第3版に関するアンケート調査結果の推移大野敦粟根尚子赤岡寛晃廣田悠祐梶邦成小林高明松下隆哉東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科CChangesintheResultsofaQuestionnaireSurveyontheThirdEditionoftheDiabeticEyeNotebookbyOphthalmologistsintheTamaAreaAtsushiOhno,NaokoAwane,HiroakiAkaoka,YusukeHirota,KuniakiKaji,TakaakiKobayashiandTakayaMatsushitaCDepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversityC目的:2014年に第C3版に改訂された糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)に対する眼科医の意識調査をC2015年とC2020年に施行し,調査結果の推移を検討した.方法:多摩地域の眼科医に眼手帳,とくに第C3版の改訂ポイントに関するアンケートをC2015年とC2020年に依頼し,50名とC42名から回答を得た.結果:受診の記録で記入しにくい項目は「糖尿病黄斑症とその変化」の選択者が増え,黄斑症の記載が詳細になったことへの負担感が増していた.福田分類の復活希望がC25%有意に増加した.受診の記録の追加希望項目は,内科関連から眼科関連項目に移行していた.「眼手帳は眼科医が渡すべき」が減り,「内科医でもよい」が増えた.「第C3版への改訂で患者にとってわかりやすくなった」がC10%増えた.結論:2020年はC2015年に比し,第C3版への改訂で糖尿病黄斑症の記載が詳細になったことへの負担感が増え,福田分類の復活希望がC25%に有意に増加していた.一方,患者にとってわかりやすくなったとの回答が増えていた.CPurpose:Anophthalmologist’sattitudesurveyontheDiabeticEyeNotebook(EyeNotebook)revisedtothe3rdeditionin2014wasconductedin2015and2020,andthetransitionofthesurveyresultswasexamined.Meth-ods:In2015and2020,weaskedophthalmologistsintheTamaareatosurveytheEyeNotebook,especiallytherevisionCpointsCofCtheC3rdCedition,CandCreceivedCresponsesCfromC50CandC42Cphysicians,Crespectively.CResults:Thenumberofphysicianswhoselecteddiabeticmaculopathyanditschangesasitemsthatweredi.cultto.lloutintherecordofconsultations,aswellastheburdenofadetaileddescriptionofdiabeticmaculopathy,increased.ThehopeCforCtheCrevivalCofCtheCFukudaCclassi.cationCincreasedCsigni.cantlyCby25%.CTheCitemsCtoCbeCaddedCtoCtheCrecordCofCconsultationsCwereCshiftingCfromCthoseCrelatedCtoCinternalCmedicineCtoCthoseCrelatedCtoCophthalmology.CThenumberofanswersthatophthalmologistsshouldprovidetotheEyeNotebookhasdecreased,whilethenum-berofanswersthatphysiciansmayprovidehasincreased.Althoughitincreasedby10%,therevisiontothe3rdeditionCmadeCitCeasierCforCpatientsCtoCunderstand.CConclusions:ComparedCtoC2015,CtheCburdenCofCaCdetailedCdescriptionofdiabeticmaculopathywasincreasedin2020,andthehopefortherevivaloftheFukudaclassi.cationsigni.cantlyCincreasedCby25%.COnCtheCotherChand,CanCincreasingCnumberCofCrespondentsCsaidCitCwasCeasierCforCpatientstounderstand.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):510.514,C2022〕Keywords:糖尿病眼手帳,アンケート調査,受診の記録,糖尿病黄斑症,福田分類.diabeticeyenotebook,ques-tionnairesurvey,recordofconsultations,diabeticmaculopathy,Fukudaclassi.cation.Cはじめに1997年に内科医と眼科医が世話人となり糖尿病治療多摩懇糖尿病診療の地域医療連携を考える際に重要なポイントの話会を設立し,内科と眼科の連携を強化するために両科の連一つが,内科と眼科の連携である.東京都多摩地域では,携専用の「糖尿病診療情報提供書」を作成し地域での普及を〔別刷請求先〕大野敦:〒193-0998東京都八王子市館町C1163東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科Reprintrequests:AtsushiOhno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofDiabetology,EndocrinologyandMetabolism,HachiojiMedicalCenterofTokyoMedicalUniversity,1163Tate-machi,Hachioji-city,Tokyo193-0998,JAPANC510(118)図った1).また,この活動をベースに,筆者(大野)はC2001年の第C7回日本糖尿病眼学会での教育セミナー「糖尿病網膜症の医療連携─放置中断をなくすために」に演者として参加した2)が,ここでの協議を経てC2002年C6月に日本糖尿病眼学会より『糖尿病眼手帳』(以下,眼手帳)が発行されるに至った3).眼手帳は,2002年C6月に日本糖尿病眼学会より発行されてからC14年が経過し,その利用状況についての報告が散見される4.7)が,多摩地域では,眼手帳に対する眼科医の意識調査を発行半年目,2年目,7年目,10年目に施行してきた.そして発行半年目,2年目の結果をC7年目の結果と比較した結果8),ならびにC10年目を加えた過去C4回のアンケート調査の比較結果9)を報告してきた.眼手帳はC2014年C6月に第C3版に改訂されたが,糖尿病黄斑症の記載が詳細になり,一方,初版から記載欄を設けていた福田分類が削除され,第C2版への改訂に比べて比較的大きな変更になった.そこで第C3版への改訂からC1年後のC2015年に第C3版に対する眼科医の意識調査を行い報告した10)が,今回さらにC5年後のC2020年に再度同じ調査を行ったので,調査結果の推移を報告する.CI対象および方法アンケートの対象は,多摩地域の病院・診療所に勤務する糖尿病診療に関心をもつ眼科医で,2015年C50名,2020年42名から回答があった.回答者の背景は表1に示すとおりで,2020年はC2015年に比し女性の回答者の割合が有意に増え,臨床経験年数と定期通院糖尿病患者数が増加傾向を認めた.なおC2015年のアンケート調査はC6.7月に施行されたが,眼手帳の協賛企業の医薬情報担当者が各医療機関を訪問して医師にアンケートを依頼し,直接回収する方式で行ったため,回収率はほぼC100%であった.アンケートの配布と回収という労務提供を依頼したことで,協賛企業が本研究の一翼を担う倫理的問題が生じているが,アンケートを通じて眼手帳の啓蒙を同時に行いたいと考え,そのためには協力をしてもらうほうが良いと判断し,実施した.なお,アンケート内容の決定ならびにデータの集計・解析には,上記企業の関係者は関与していない.一方,2020年のアンケート調査はC1.3月に施行されたが,2015年の際の倫理的問題を考慮し,多摩地域のなかの八王子市・町田市・多摩市・日野市・稲城市・青梅市・立川市・国立市・府中市・調布市の医師会に所属する眼科医に郵送でアンケート用紙の配布と記入を依頼し,FAXで回収する方式に変更した.郵送総数はC141件で回答数はC42件のため,回収率はC29.8%であった.また,アンケート用紙の冒頭に,「集計結果は,今後学会などで発表し機会があれば論文化したいと考えておりますので,ご了承のほどお願い申し上げます」との文を記載し,集計結果の学会での発表ならびに論文化に対する了承を得た.第C26回日本糖尿病眼学会においては全C10項目で報告したが,本稿では誌面の制約もあり,とくに第C3版の改訂ポイントを中心に下記の項目につき,2015年C50名,2020年C42名の回答結果を比較検討した.問C1.4頁からの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目問C2-1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非問C2-2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問C2-3.受診の記録における福田分類削除の是非問3.受診の記録への追加希望項目表1アンケート回答者の背景(人数)2015年2020年p値(c2検定)【日本糖尿病眼学会】会員:非会員:無回答11:30:97:30:5C0.51【性別】男性:女性:無回答37:8:517:12:1C3<C0.005【年齢】30歳代:4C0歳代:5C0歳代:6C0歳代:7C0歳代6:14:21:6:31:8:18:9:6C0.17【勤務先】開業医:病院勤務:その他・無回答42:7:139:1:2C0.12【臨床経験年数(年)】.10:11.20:21.30:30.40:41.:無回答2:11:22:12:3:00:6:15:12:4:5C0.097【定期通院糖尿病患者数(名)】.9:10.29:30.49:50.99:1C00.:無回答3:13:17:4:10:30:9:7:11:11:4C0.057C表2受診の記録における変更ポイントへの評価「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非2015年2020年1)適切な改変69.2%54.3%2)細かくて記載が大変になった25.6%34.3%3)その他の御意見5.1%11.4%Cc2検定p=0.36無回答11名7名「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非2015年2020年1)必要な項目47.6%54.5%2)必要だが記載しにくくないほうがよい38.1%33.3%3)元々不要9.5%6.1%4)その他の御意見4.8%6.1%Cc2検定p=0.89無回答8名9名福田分類削除の是非2015年2020年1)ないままでよい60.0%50.0%2)復活してほしい2.9%27.5%3)どちらともいえない37.1%22.5%Cc2検定p=0.01無回答15名2名表4眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいか2015年2020年1)眼科医が渡すべきである22.0%7.7%2)内科医から渡してもかまわない36.0%48.7%3)どちらでもよい42.0%43.6%Cc2検定p=0.16無回答0名3名問C4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか問C5.眼手帳第C3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ問C1は複数回答が可につき無回答者を除く回答者中の回答割合で表示し,問C2.5は無回答者を除く回答者の百分比で示した.両年の回答結果の比較にはCc2検定を用い,統計学的有意水準はC5%とした.CII結果1.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目(図1)2020年はC2015年に比べて,記入しにくい項目は「とくになし」との回答者がC11%減り,「糖尿病黄斑症」「糖尿病黄斑症の変化」を選択する回答者が増加していた.2.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非(表2上段)糖尿病黄斑症の記載が詳細になったことは「適切な改変」表3「受診の記録」への追加希望項目2015年2020年1)とくにない93.3%83.3%2)ある6.7%16.7%Cc2検定p=0.18無回答5名6名<自由記載コメント>【2015年】・血糖データ(FBS,HbA1c)本人か内科医の記載で・HbA1c・内科医へのアドバイスの項目(何カ月でHbA1cを何%降下させる等)【2020年】・網膜レーザー光凝固(光凝固)未・済みの項目が欲しい・緑内障,黄斑変性など(病名のみでも可)・他の眼底疾患・治療の項目:抗CVEGF薬注射・変化あり・ステージ不変の項目(出血箇所は変わってもステージは同じなどという場合があるので)・病院名,記載者名の追記スペース(転院などで変更があるので)表5眼手帳第3版への改訂の患者へのわかりやすさ2015年2020年1)患者にとってわかりやすくなった54.5%64.9%2)あまりかわりない18.2%13.5%3)どちらともいえない27.3%21.6%Cc2検定p=0.64無回答6名5名との回答が両年とももっとも多かったが,「細かくて記載が大変になった」の回答が有意差は認めないもののC2020年は2015年よりもC8.7%増えていた.2.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非(表2中段)黄斑症の変化は「必要な項目」との回答が両年ともC50%前後でもっとも多く,ついで「必要だが記載しにくくないほうがよい」がC30%台で,両年間で差を認めなかった.2.3.受診の記録における福田分類削除の是非(表2下段)福田分類は「ないままでよい」が両年とも最多の回答も60%からC50%とC10%減り,復活希望がC2020年はC2015年に比しC25%有意に増加していた.C3.受診の記録への追加希望項目(表3)受診の記録への追加希望は「とくにない」の回答がC10%減少し,「希望項目あり」の回答がC10%増えていた.その回答者における自由記載コメントを表3の下段に記載したが,追加希望項目は内科関連から眼科関連項目に移行していた.図1「受診の記録」のなかで記入しにくい項目4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか(表4)眼手帳は「眼科医が渡すべき」の回答がC2020年はC2015年に比べてC14.3%減り,「内科医から渡してもかまわない」の回答がC12.7%増えていたが,有意差は認めなかった.C5.眼手帳第3版への改訂の患者さんへのわかりやすさ(表5)眼手帳第C3版への改訂にあたり,患者サイドに立った眼手帳を目指してC1頁の「眼科受診のススメ」などの表記を患者にわかりやすい表記に変更したが,その結果患者さんにとってわかりやすくなったとの回答がC54.5%からC64.9%とC10%増えていた.CIII考按1.4ページからの「受診の記録」のなかで記入しにくい項目多摩地域の眼科医における眼手帳第C2版までのアンケート調査では,記入しにくい項目として,「福田分類」のつぎに「糖尿病網膜症の変化」があげられていた9).今回「糖尿病網膜症とその変化」の選択者がC2015年よりC2020年で減り,「糖尿病黄斑症とその変化」の選択者が増えていたことより,網膜症よりも黄斑症とその経時的変化を記載することの負担感が増していると思われる.2.1.受診の記録における「糖尿病黄斑症」の記載の詳細化の是非黄斑症の記載が細かくて大変になったとの回答が増えた背景として,「局所性」と「びまん性」の選択は両者が混在することも多く必ずしも容易ではないことを,第C3版の利用期間が延びるにつれて実感される回答者が増えたことが考えられる.2.2.受診の記録における「糖尿病黄斑症の変化」の記載の是非問1(図1)で「受診の記録」のなかで記入しにくい項目として「糖尿病黄斑症の変化」の回答者がC16.3%からC26.5%まで約C10%増加しているにもかかわらず,問C2-2では「糖尿病黄斑症の変化」の記載は必要との回答が有意差はないものの約C7%増えて,記載しにくくないほうがよいが約C5%減っており,両結果は逆の動きを示した.黄斑症の変化の評価は抗CVEGF療法の浸透とともに臨床上重要となっており,記入しにくくても必要と考える眼科医が増えているためと思われる.「糖尿病黄斑症の変化」における改善・不変・悪化の線引きは容易ではなく,これも記入しにくい背景として考えられる.眼手帳はC2020年のアンケートの回収が終了したC3月に第C4版に改訂されて,黄斑症の記載が中心窩網膜厚(μm)の数値を直接記載するように変更された.これにより第C3版よりも客観的に臨床経過をみることができるようになり,改善・不変・悪化からの選択よりは負担感が減っている可能性もあり,今後第C4版の改訂ポイントに関するアンケートの実施も計画していきたい.2.3.受診の記録における福田分類削除の是非多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行C10年目までのアンケート調査では,10年目の回答において,受診の記録のなかで記入しにくい項目として「福田分類」と「変化」が多く選ばれ,とくに福田分類の増加率が高かった9).福田分類は,内科医にとっては網膜症の活動性をある程度知ることのできる分類であるため記入していただきたい項目ではあるが,その厳密な記入のためには蛍光眼底検査が必要となることもあり,眼科医にとっては埋めにくい項目と思われる1).こうした流れもあり,眼手帳の第C3版では受診の記録から福田分類は削除されたが,今回の結果では福田分類の復活希望がC25%有意に増加していた.この背景は不明であるが,内科・眼科連携の観点からも重要なポイントであるので,今後のアンケート調査において,復活希望の回答者にその理由を聞いてみたい.C3.受診の記録への追加希望項目追加希望ありの回答がC10%増え,追加希望項目は内科関連から眼科関連項目に移行していた.内科関連項目はHbA1cが多かったが,HbA1cが併記されれば血糖コントロール状況と網膜症や黄斑症の推移との関連が見やすくなる,眼底検査の間隔が決めやすくなるなどのメリットが考えられ,今後の導入が期待されていたが第C4版で導入された.一方,眼科関連項目は表3下段に示したように多岐にわたるが,このうち治療の項目:抗CVEGF薬注射に関しては第C4版で記載欄が設けられた.C4.眼手帳は眼科医から患者に渡すほうが望ましいと考えるか多摩地域の眼科医に対する眼手帳発行C10年目までのアンケート調査9)では,7年目までは「眼科医が渡すべき」がC40%前後と横ばいで,「内科医でもよい」が減少気味であったが,10年目に前者が著減し後者が有意な増加を示した.眼手帳発行C8年目にあたるC2010年には,内科医側からの情報源である「糖尿病健康手帳」が「糖尿病連携手帳」に変わり,それに伴い眼手帳のサイズも連携手帳に合わせて大判となった.両手帳をつなげるビニールカバーも眼手帳無料配布の協賛企業から提供されており,その結果,内科医が連携手帳発行時に眼手帳も同時に発行する機会が増えた.このような習慣の継続が,眼手帳は内科医から渡してもかまわないとの回答がC12.7%増えた背景の一つと思われる.C5.眼手帳第3版への改訂の患者へのわかりやすさ眼手帳第C3版への改訂では,「眼科受診のススメ」の表記だけでなく,眼手帳後半のお役立ち情報にCOCTや薬物注射を加えるなどの改変を行っている.2015年ではまだ第C2版のままの患者も少なくなかったと思われるが,2020年になれば第C3版に切り替わった患者も増えており,その結果第C3版改訂時の工夫により患者にとって「わかりやすくなった」と実感する回答者がC10%増えたと思われる.謝辞:アンケート調査にご協力頂きました多摩地域の眼科医師の方々に厚く御礼申し上げます.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大野敦,植木彬夫,馬詰良比古ほか:内科医と眼科医の連携のための糖尿病診療情報提供書の利用状況と改良点.日本糖尿病眼学会誌7:139-143,C20022)大野敦:糖尿病診療情報提供書作成までの経過と利用上の問題点・改善点.眼紀53:12-15,C20023)大野敦:クリニックでできる内科・眼科連携─「日本糖尿病眼学会編:糖尿病眼手帳」を活用しよう.糖尿病診療マスター1:143-149,C20034)善本三和子,加藤聡,松本俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,C20045)糖尿病眼手帳作成小委員会:船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,C20056)船津英陽:糖尿病眼手帳と眼科内科連携.プラクティスC23:301-305,C20067)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳のC5年間推移.日眼会誌114:96-104,C20108)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,C20119)大野敦,粟根尚子,梶明乃ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移(第C2報).ProgMedC34:1657-1663,C201410)大野敦,粟根尚子,永田卓美ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳の第C3版に関するアンケート調査.あたらしい眼科34:268-273,C2017***

増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する 緑内障チューブシャント手術

2022年4月30日 土曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(4):506.509,2022c増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術石黒聖奈桑山創一郎野崎実穂森田裕小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CClinicalOutcomesofTube-ShuntSurgeryinCasesofProliferativeDiabeticRetinopathy-AssociatedNeovascularGlaucomaKiyonaIshiguro,SoichiroKuwayama,MihoNozaki,HiroshiMoritaandYuichiroOguraCDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesC目的:増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対して施行した緑内障チューブシャント手術の術後成績を後ろ向きに検討した.対象および方法:緑内障チューブシャント手術を施行しC12カ月以上経過を追えたC21例C23眼を対象とし,術前後の眼圧,点眼スコア,合併症を評価項目とした.結果:術後平均観察期間はC40.5±27.1カ月であった.術前平均眼圧はC27.8±10.6CmmHg,術後C12カ月平均眼圧はC14.6±4.9CmmHgと有意に低下(p<0.01)し,平均点眼スコアも術前C3.6±1.3,術後C1.6±1.7と有意に減少した(p<0.01).術後C1カ月以内の早期合併症は高眼圧(7眼),硝子体出血(4眼),脈絡膜.離(1眼),後期合併症は眼圧再上昇(5眼),硝子体出血(4眼)であった.結論:血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.CPurpose:ToCretrospectivelyCevaluateCtheCoutcomesCofCtube-shuntCsurgeryCinCcasesCofCproliferativeCdiabeticCretinopathy-associatedCneovascularglaucoma(NVG).CPatientsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC23CeyesCofC21CNVGpatientswhounderwenttube-shuntsurgeryfromDecember2012toJune2019,andwhowerefollowedformorethan12-monthspostoperative.Mainoutcomemeasuresincludedintraocularpressure(IOP),numberofglau-comaCmedicationsCused,CandCsurgicalCcomplications.CResults:TheCmeanCfollow-upCperiodCwasC40.5±27.1Cmonths.CMeanCIOPCdecreasedCfromC27.8±10.6CmmHgCtoC14.6±4.9CmmHg(p<0.05),CandCtheCnumberCofCglaucomaCmedica-tionsCusedCdecreasedCfromC3.6±1.3CtoC1.6±1.7(p<0.01).CComplicationsCobservedCwithinC1-monthCpostoperativeCwereChighIOP(n=7eyes),Cvitreoushemorrhage(n=4eyes),CandCchoroidaldetachment(n=1eye),CandCthoseCobservedCbetweenC1-andC12-monthsCpostoperativeCwereChighIOP(n=5eyes)andCvitreoushemorrhage(n=4eyes).CConclusion:Tube-shuntCsurgeryCwasCfoundCrelativelyCe.ectiveCforCIOPCreduction,CdecreaseCofCglaucomaCmedicationsused,andcontrolofIOPinNVGpatientsfor1-yearpostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(4):506.509,C2022〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,アーメド緑内障バルブ,血管新生緑内障,増殖糖尿病網膜症,術後合併症,点眼スコア.Baerveldtglaucomaimplant,Ahmedglaucomavalve,neovascularglaucoma,proliferativedia-beticretinopathy,postoperativecomplications,numberofglaucomamedications.Cはじめに血管新生緑内障の閉塞隅角緑内障期には,従来,線維柱帯切除術が行われていたが,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障では,線維柱帯切除術の手術成績がとくに不良であることが知られている1).糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障の特徴として,比較的年齢が若く,硝子体手術をはじめとした手術既往を有している場合が多いため,線維柱帯切除術の術後の炎症や瘢痕形成に影響を与え,眼圧下降が得られにくいと考えられている2).わが国では,緑内障チューブシャント術がC2012年に保険〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,Kawasumi1,Mizuho,Mizuho-ku,Nagoya,Aichi467-8601,JAPANC506(114)適用収載となり,マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった場合や,手術既往により結膜の瘢痕化が高度な場合,線維柱帯切除術の成功が見込めない場合,また他の濾過手術が技術的に施行困難な場合が適応とされている3).さらに,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の有効性も報告されている4,5).当院でもC2012年から血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント術を施行しており,増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtCglaucomaCimplant:BGI)の術後C6カ月における良好な眼圧下降効果を報告している6).今回,アーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)を加えC12カ月以上経過を追えた増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術の手術成績について後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法2012年C12月.2019年C6月に名古屋市立大学病院で増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し,緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過を追えたC21例23眼(男性C15例,女性C6例,平均年齢C54.9C±12.4歳)について検討した.術前,術後の視力・眼圧,術前・術後の点眼スコア(緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠内服をC2点),早期(術後C1カ月以内)・後期(術後C1カ月以降)合併症について検討した.今回使用したCBGIは,硝子体手術既往眼ではプレート面積がC350CmmC2でチューブにCHo.manElbowをもつCBG102-350,硝子体手術未施行眼ではプレート面積がC250CmmC2の前房タイプのCBG103-250である.術式は,強膜半層弁を作製し,チューブをC7-0あるいはC8-0バイクリル糸で結紮していたが,術後低眼圧の症例がみられたことから,その後は3-0ナイロン糸をステントとして留置する方法に変更した.術前に炭酸脱水酵素阻害薬内服下でも眼圧がC20CmmHg以上の場合では,9-0ナイロン糸でCSherwoodスリットを作製した.AGVはプレート面積がC184CmmC2のCFP7を使用し,全例毛様体扁平部に留置した.既報5)に基づき手術成功率(生存率)をCKaplan-Meier法で解析した.生存(手術成功)の定義は既報5)と同様に,①視力が光覚弁以上,②眼圧がC22CmmHg未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものとした.数値は平均値±標準偏差で記載し,統計学的検定にはCWilcoxon検定を用いCp<0.05を有意差ありとした.II結果BGIを18例20眼,AGVを3例3眼に施行した.BGIは前房タイプがC2眼,毛様体扁平部留置タイプがC18眼であった.AGVはC3眼とも毛様体扁平部に留置した.前房タイプを挿入したC1例C2眼を除き,硝子体手術未施行眼には,硝子体手術を併用し,チューブを毛様体扁平部に留置した.治療歴として,汎網膜光凝固および白内障手術は全例で施行されており,硝子体手術はC17眼(BGIではC15眼,AGVではC2眼)に行われ,術前に血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)阻害薬が投与されていたのはC8眼(BGI5眼,AGV3眼)であった.BGIを施行されたC4眼で線維柱帯切除術の既往があり,うちC2眼は複数回線維柱帯切除術が施行されていたが,硝子体手術は未施行であった.術後経過観察期間はC12.91カ月(40.5C±27.1カ月)であった.平均眼圧の推移は術前C27.8C±10.6CmmHg,1週間後C12.9±9.3CmmHg,1カ月後C14.5C±5.1CmmHg,3カ月後C14.9C±3.2CmmHg,12カ月後にはC14.6C±4.9CmmHgと,術前眼圧と比較し有意な眼圧下降を認めた(p<0.01).また,最終受診時もC12.7C±4.7CmmHgと有意に低下していた(p<0.01)(図1).また,logMAR視力はC0.2以上の変化を改善あるいは悪化としたとき,改善C10眼(43.5%),不変C6眼(26.0%),悪化C7眼(30.5%)で,logMAR視力は術前C1.40C±0.88,最終受診時はC1.36C±1.18と有意差は認めなかった.しかしながら,光覚弁消失となった症例がC2眼あり,どちらも術後眼圧再上昇に対し毛様体レーザーを施行した症例であった.点眼スコアは,術前のC3.6C±1.3から最終受診時C1.6C±1.7と有意な減少を認めた(p<0.01)(図2).術後C1カ月以内の早期合併症は,高眼圧をC7眼に認めた.3眼は薬物治療を開始した(表1).2眼は術後にCSherwoodslitを追加し,さらにチューブ結紮糸を抜糸したが,うちC1眼はそれでも眼圧コントロールがつかず,最終的に光覚弁消失となった.1眼はCSherwoodslitを追加,1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.硝子体出血はC4眼でみられ,3眼で硝子体手術を行い,1眼は自然消退した.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられたが,脈絡膜.離は自然消退した.術後C1カ月以降の後期の合併症(表2)は,眼圧が再上昇しコントロール不良となったものがC5眼あった.3眼はMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除したが,1眼はそれでも眼圧下降が得られず硝子体手術を併用しCBGIを毛様体扁平部に挿入,もうC1眼も眼圧下降が得られず毛様体レーザーをC3回施行したが視力は光覚弁消失となった.MMC併用プレート周囲被膜切除を施行しなかったC2眼中C1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射および汎網膜光凝固の追加を行い,その後眼圧上昇は認めていな654平均眼圧(mmHg)点眼スコア3210100図2術前・術後での点眼スコア緑内障点眼薬をC1点,配合剤をC2点,炭酸脱水酵素阻害薬のC2錠図1術前・術後での平均眼圧の推移内服をC2点とした.点眼部は術前のC3.6から最終受診時の時点で術前最終受診時Wilcoxonsignedranktest,*p<0.01術前1週1カ月3カ月6カ月1年最終受診時平均眼圧は術前と比較してC1週間後,1カ月後,3カ月後,6カ月後,12カ月後,最終受診時の時点で有意に下降していた(p<0.01).表1術後早期合併症(術後1カ月以内)高眼圧7眼(C30%)硝子体出血4眼(C17%)脈絡膜.離を伴う低眼圧1眼(C4%)高眼圧を認めたC7眼のうち,3眼に薬物治療を開始し,2眼はCSherwoodslitを追加しチューブ結紮糸を抜糸した.1眼はCSherwoodslit追加した.1眼はチューブ先端の硝子体切除を追加した.C1.01.6と有意な減少を認めた(p<0.01).表2術後後期合併症(術後1カ月以降)眼圧再上昇5眼(23%)硝子体出血4眼(17%)眼圧再上昇のC5眼のうち,3眼はCMMCを併用しプレート周囲の被膜を切除.1眼は毛様体レーザーを施行,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.硝子体出血のC4眼のうち,2眼は硝子体手術,1眼は硝子体手術とCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射のみを行った.CIII考按0.8生存率0.60.40.20.0月数図3Kaplan.Meier生存曲線生存の基準を①視力が光覚弁以上,②眼圧はC22CmmHg036912今回筆者らは増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し緑内障チューブシャント手術を施行し,12カ月以上経過観察できたC23眼について後ろ向きに検討した.術後C1年の成功率はC78.9%であり,既報でもC1年後におけるCBGI手術の成功率C60.0%,AGV手術の成功率C90.0%と同様に良好な結果を得ている7).今回の検討では,血管新生緑内障に対する緑内障チューブシャント手術は,術後C1年において比較的良好な眼圧下降効果を認めた.術後後期の眼圧再上昇に対してCMMC併用のプレート周囲被膜切除術を行ったC3眼はすべてCBGI術後であり,うちC2眼は追加手術が必要となった.過去の報告でも,プレート周囲の被膜による眼圧再上昇例に対しては,プレート被膜切除よりも追加手術を施行したほうがよいことが示唆されている8,9)ため,現在当院ではCMMC併用プレート周囲被膜切除術は行わず,緑内障インプラント追加や毛様体レーザー追加をする方針をとっている.脈絡膜.離を伴う低眼圧がC1眼みられ脈絡膜.離は自然消退したが,この症例は術中にチューブの結紮のみを行った症例であった.この症例を経験後,3-0ナイロン糸をステント未満,5CmmHg以上,③さらなる緑内障手術の追加手術を行わない,のC3条件を満たすものを生存とした.生存率は術後3カ月後で84.2%,6カ月後でC78.9%,12カ月後もC78.9%であった.い.また,硝子体出血はC4眼に認め,2眼は硝子体手術(うちC1眼はC3回施行),1眼は硝子体手術およびCVEGF阻害薬硝子体内注射,1眼はCVEGF阻害薬硝子体内注射を行った.術後C3カ月の生存率はC84.2%,術後C6カ月およびC1年の生存率はC78.9%であった(図3).としてチューブに挿入するようになり,術後の脈絡膜.離は出現しなかったことから,3-0ナイロン糸によるステント留置は術後早期の脈絡膜.離を防ぐのに有効と考えられる.本研究の限界として,21例C23眼と症例数が少ない点,使用した緑内障チューブシャントも,BGI20眼に対しCAGVがC3眼と偏りがある点,硝子体手術の既往や術前のCVEGF阻害薬使用が術後合併症に及ぼす影響を論じるには症例が少ない点があげられる.また,血管新生緑内障も,急激に血管新生を生じた活動性の高いタイプや,新生血管の活動性は低いが周辺虹彩前癒着が高度で眼圧の高いタイプなど,さまざまな違いがある.今後,活動性の同じ血管新生緑内障に対して,術前にCVEGF阻害薬を使用したCBGIおよびCAGV施行症例数を同程度そろえ,その術後成績を検討する必要があると考える.今回の研究からも,緑内障チューブシャント手術は,増殖糖尿病網膜症に続発した血管新生緑内障に対し有効な術式と考えられた.今後も,術後の眼圧再上昇を防ぐ治療方針,合併症のより良い対処の確立が,緑内障チューブシャント手術の手術成績をさらに向上させると思われた.文献1)MeganCK,CChelseaCL,CRachaelCPCetal:AngiogenesisCinCglaucoma.ltrationsurgeryandneovascularglaucoma:Areview.SurvOpthalmolC60:524-535,C20152)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20093)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C4版,20184)ShenCCC,CSalimCS,CDuCHCetal:TrabeculectomyCversusCAhmedGlaucomaValveimplantationinneovascularglau-coma.ClinOphthalmolC5:281-286,C20115)東條直貴,中村友子,コンソルボ上田朋子ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラント手術の治療成績.日眼会誌121:138-145,C20176)野崎祐加,富安胤太,野崎実穂ほか:血管新生緑内障に対するバルベルト緑内障インプラントの手術成績.あたらしい眼科35:140-143,C20187)SudaCM,CNakanishiCH,CAkagiCTCetal:BaerveldtCorCAhmedglaucomavalveimplantationwithparsplanatubeinsertionCinCJapaneseCeyesCwithCneovascularglaucoma:C1-yearoutcomes.ClinOphthalmolC12:2439-2449,C20188)RosentreterCA,CMelleinCAC,CKonenCWWCetal:CapsuleCexcisionandOlogenimplantationforrevisionafterglauco-madrainagedevicesurgery.GraefesArchClinExpOph-thalmolC248:1319-1324,C20109)ValimakiCJ,CUusitaloH:ImmunohistochemicalCanalysisCofCextracellularmatrixblebcapsulesoffunctioningandnon-functioningglaucomadrainageimplants.ActaOphthalmolC92:524-528,C2014***