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糖尿病網膜症の診断・治療

2021年12月31日 金曜日

糖尿病網膜症の診断・治療DiagnosisandTreatmentforDiabeticRetinopathy西勝弘*西塚弘一*山下英俊**はじめに糖尿病網膜症は糖尿病を背景に発症する三大合併症(神経障害,網膜症,腎症)の一つであり,わが国の視覚障害の第3位を占めている1).背景疾患である糖尿病の患者数は近年増加傾向にあり,厚生労働省の国民健康・栄養調査の一環として行われた糖尿病実態調査の最新(平成28年)の結果によると,糖尿病患者数は約1,000万人となっている2).国民の視力を守っていくためには,糖尿病網膜症を適切に診断・治療していくことが重要である.眼科診療の現場では,診断は眼底検査所見をもとに各種重症度分類に照らしながら網膜症の重症度判定を行い,その結果をもとにして治療はレーザー治療,薬物治療,硝子体手術治療を選択している.本稿では糖尿病網膜症の診断・治療について概説する.I糖尿病網膜症の病態と眼底所見日常診療で眼科医が糖尿病患者を診察する機会としては,健診異常をきっかけとする場合や,糖尿病で内科治療中の患者が紹介されてくる場合が多いと考えられる.なかには視力低下などの主訴で眼科を受診し,眼底所見から糖尿病網膜症を疑われ,その後内科で未治療の糖尿病の診断につながることも少なくない.したがって,正確に眼底所見をとらえて糖尿病網膜症の診断を行うことが重要である.糖尿病網膜症の基本的な病態は,血管透過性亢進,血管閉塞,血管新生である.これらの病態は眼底所見として,毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,軟性白斑,血管異常(網膜内最小血管異常,数珠状静脈拡張など),新生血管(その破綻で生じる硝子体出血),増殖膜(それによる牽引性網膜.離)などの所見としてみられる.血管透過性亢進を背景に血管漏出に伴う網膜浮腫を生じる病態は,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)とよばれる.眼底所見のみでは無灌流領域を含めた糖尿病網膜症の循環動態の評価は困難であり,正確に判断するためにはフルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)が必要となる(図1).FAは造影剤を用いた侵襲的な検査であり,とくにフル****図1網膜無灌流領域網膜無灌流領域は毛細血管床が閉塞し,FAにて低蛍光(*)を呈する.*KatsuhiroNishi&KoichiNishitsuka:山形大学医学部眼科学講座**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座,山形市保健所〔別刷請求先〕西勝弘:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(57)1421図2OCTAによる新生血管の描出53歳,女性,フルオレセインアレルギーあり,4カ月後に軟性白斑(.)の隣に新生血管(.)が出現した.Bスキャンでも新生血管は血流を伴う構造(.)として描出された.-新福田分類が広く用いられている.国際重症度分類,改変Davis分類はDRS,ETDRSの重症度分類を基盤として構築されたものであり,糖尿病網膜症の眼底所見のなかでも重症な病態へ進展するリスクが高い所見に着目して病期を分類している.さらには眼科医と患者の病態の共通理解,眼科医同士ならびに内科と眼科の病診連携に重要である.ここでは国際的に使用できる診断基準である国際重症度分類について述べる3).国際重症度分類が発表されるまでの変遷としては,米国で1968年にAirliehouse分類が発表され,その後DiabeticRetinopathyStudyResearchGroupにより改変されAmodi.cationoftheAirlieHouseclassi.cationofDiabeticretinopathy(DRS分類)が発表された4).さらにEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup(ETDRS)では,大規模多施設研究によりDRS分類を改変しETDRS分類が作成された5).国際重症度分類はETDRS分類のエビデンスに基づいて2003年に米国眼科学会により提唱され,糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫について病期分類している.糖尿病網膜症については,ハイリスクの増殖糖尿病網膜症(新生血管を発症した重症な網膜症)への進行リスクの大きさにより重症度を分類している.網膜症の所見がないものを網膜症なし,重篤な虚血状態を示し直ちに治療が必要な状態である新生血管を認めるものを増殖網膜症とし,その間の状態を非増殖網膜症とし,非増殖網膜症はさらに軽症,中等症,重症の3段階に分類している.初期の変化である毛細血管瘤のみを認めるものは軽症非増殖網膜症,4象限で20個以上の網膜出血,2象限以上での数珠状静脈拡張,1象限以上での網膜内最小血管異常のいずれかを認める(4-2-1ルール)ものは重症非増殖網膜症とし,中等症非増殖網膜症は軽症と重症の間の状態としている.2.黄斑浮腫糖尿病黄斑浮腫では,後極に網膜肥厚と硬性白斑を認めるものを黄斑浮腫ありとし,黄斑部に網膜浮腫が及ぶと視力に影響を及ぼすことから,黄斑部と病変の関係から軽症(病変が黄斑中央部から離れている),中等症(病変が黄斑中央部に近づきつつある),重症(病変が黄斑中央部に到達している)の3群に分類されている.国際重症度分類は比較的覚えやすく簡潔な分類であるとともに,眼科医が検眼鏡的に把握できる眼底所見からその場で重症度を判定できること,増殖網膜症への進展の臨床的な予測に有用であること,また世界共通な診断基準となっており学術的に有用であることから使用されるようになってきている.III糖尿病網膜症の治療1.網膜光凝固術糖尿病網膜症では血管閉塞から網膜虚血が引き起こされるが,それに対する治療の基本は網膜虚血の軽減,すなわち網膜虚血部位の酸素需要を減らし脈絡膜からの酸素供給を増やすことであり,現在もっとも行われている治療が網膜光凝固術である.網膜光凝固術の研究は,1946年Meyer-Schwicker-athのもとに日蝕性網膜炎患者が来院したことに端を発した.光源として太陽光の利用から始まり,その後1957年にはキセノン光凝固装置が市販され,1960年代には糖尿病網膜症に対する治療法として用いられはじめた.1960年のルビーレーザー発振成功の翌年にはレーザー光線が網膜.離に対する光凝固の光源として使用された.その後1971年にアルゴンレーザーが市販され,網膜光凝固は安全に正確かつ短時間に行えるようになった6).1970年代に行われた米国での大規模研究によって,増殖前網膜症でみられる無灌流領域に対するレーザー光凝固が,網膜新生血管の発芽予防もしくは消退に有効であることが証明された7).汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)が選択されるのは,重症非糖尿病網膜症と早期の増殖糖尿病網膜症である.エビデンスとなっているのは,DRS8)とETDRS9)である.重症非増殖網膜症ではPRPにより新生血管の出現,すなわち増殖糖尿病網膜症への進展を予防することが期待される.増殖糖尿病網膜症では病態の鎮静化,さらには血管新生緑内障への進展予防のために,可及的速やかに密なPRPが必要となる(図3).一方,無灌流領域への局所光凝固についての有効性に(59)あたらしい眼科Vol.38,No.12,20211423図3パターンスキャンレーザーを用いて汎網膜光凝固を施行した重症非糖尿病網膜症31歳,女性.網膜最周辺部まで密に凝固斑を認める.図4硝子体出血を呈した増殖糖尿病網膜症に対し硝子体手術を施行した56歳,男性.増殖糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固施行中に硝子体出血を生じたため,硝子体手術を施行した.術前視力0.3から術後1.0まで回復した.図5増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の術中OCT所見術中COCTを用いることにより,増殖膜と網膜(点線)の判別や増殖膜の複雑な層状構造を客観的にとらえることが可能である.図6糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する抗VEGF薬治療前後のOCT53歳,男性.左眼CDMEに対してアフリベルセプト硝子体内注射を施行.施行後C1カ月でCDMEは軽快した.図7左眼糖尿病黄斑浮腫46歳,男性.眼底写真,FAの早期像(Ca),後期像(Cb),眼底写真(Cc),OCTマップ(Cd)をもとにして,中心窩耳側の領域(c:黄色楕円)にある毛細血管瘤を光凝固した.術前術後図8図7と同一症例の局所光凝固術左眼局所光凝固術後,黄斑耳側のCDMEは軽快した.左眼視力は(0.8)から(0.9)へ改善した.その潮流を受けると思われるが,それまでの間にCAIを用いた診療が適正に行われることをめざした研究が必要である.具体的には眼底写真(FA含む),OCT,OCTAなどのデータベース構築を急ぎ行うことである.AIが参入しても眼科医が不要となることはなく,診断を確定し,光凝固,注射,手術などの治療を担うのは眼科医である.糖尿病内科専門医と連携し,内科受診された糖尿病患者が視力にかかわらず眼科に紹介されるような診療体制を構築し,AIをうまく利用しながら眼科診療,治療を行っていく形が理想的と考えられる.もう一つは,治療薬の開発とテーラーメイド医療の開発である.現時点でのCunmetmedicalneedsは,初期の糖尿病網膜症患者に対する内服治療薬がないことである.候補としてはレニンアンギオテンシン系の制御26),脂質代謝異常治療薬27)(スタチン,フェノフィブラート28))などがあるが,現在も議論が交わされている.問題は,網膜症の病態としてどの状態の患者にどの治療薬が有効かを判断するための方法が確立されていないことである.眼内液の採取はサイトカイン濃度など得られる眼局所的な情報は多いが,侵襲的であり患者・医師双方への負担は大きいと考えられる.たとえば採血検査などの比較的侵襲が低く,繰り返し可能な検査方法で網膜症の病態が判定され,適切な内服薬が選択できるようになれば,テーラーメイド医療は大きく前進すると考えられる.文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals,CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20192)厚生労働省:平成C28年国民健康・栄養調査結果の概要.CAvailablefrom:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/Ceiyou/h28-houkoku.html3)WilkinsonCCP,CFerrisCFLC3rd,CKleinCRECetal:ProposedCinternationalCclinicalCdiabeticCretinopathyCandCdiabeticCmacularCedemaCdiseaseCseverityCscales,COphthalmologyC110:1677-1682,C20034)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Amodi.ca-tionoftheAirlieHouseclassi.cationofDiabeticretinopa-thy.CDRSCreportCnumberC7.CInvestCOphthalmolCVisCSciC21:210-226,C19815)EarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudyCResearchGroup:GradingCdiabeticCretinopathyCfromCstereoscopicCcolorCfundusCphotographsC.CanCextensionCofCtheCmodi.edCAirlieCHouseCclassi.cation.CETDRSCreportCnumberC10.COphthalmologyC98(5suppl):786-806,C19916)大庭紀雄:眼科学の歴史現代眼科学を築いた人々眼科の疾病・研究史網膜.離.眼科診療プラクティス93:106-112,C20037)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:PreliminaryreportConCe.ectsCofCphotocoagulationCtherapy.CAmCJCOph-thalmolC81:383-396,C19768)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:PhotocoaguC-lationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Clini-calCapplicationCofCDiabeticRetinopathyCStudy(DRS)C.ndings,CDRSCreportCnumberC8.COphthalmologyC88:583-600,C19819)FerrisF:EarlyCphotocoagulationCinCpatientsCwithCeitherCtypeICortypeIICdiabetes.TransAmOphthalmolSocC94:C505-537,C199610)清水弘一:分担研究報告書.汎網膜光凝固治療による脈絡膜循環の変化と糖尿病レーザー治療ならびに糖尿病網膜症の光凝固適応および実施基準.平成C6年度糖尿病調査研究報告書.厚生省.p346-349,C199511)SatoY,KojimaharaN,KitanoSetal;JapaneseSocietyofOphthalmicCDiabetology,CSubcommitteeConCtheCStudyCofDiabeticRetinopathyTreatment:Multicenterrandomizedclinicaltrialofretinalphotocoagulationforpreproliferativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol56:52-59,C201212)平野隆雄,村田敏規:糖尿病網膜症の光凝固の進歩.あたらしい眼科31:1083-1088,C201413)西勝弘,後藤早紀子,西塚弘一ほか:手術時期の異なる増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績の検討.臨眼C67:69-75,C201314)NishiCK,CNishitsukaCK,CYamamotoCTCetal:FactorsCcorre-latedCwithCvisualCoutcomesCatCtwoCandCfourCyearsCafterCvitreousCsurgeryCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CPLoSOneC16:e0244281,C202115)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetal:IntraoperativeCopticalCcoherenceCtomographyCimagingCofCtheCperipheralCvitreousandretina.RetinaC38:e20-e22,C201816)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetal:Quanti.cationCofCtheperipheralvitreousaftervitreousshavingusingintra-operativeCopticalCcoherenceCtomography.CBMJCOpenCOph-thalmologyC6:e000605,C202017)西塚弘一:糖尿病網膜症に対する硝子体手術における術中OCTの所見や有用性について教えてください.あたらしい眼科(臨増)C37:171-174,C202018)MitchellCP,CSheidowCTG,CFarahCMECetal:LUMINOUSstudyCinvestigators:E.ectivenessCandCsafetyCofCranibi-zumabC0.5CmgCinCtreatment-naiveCpatientsCwithCdiabeticCmacularedema:ResultsCfromCtheCreal-worldCglobalCLUMINOUSstudy.PLoSOne15:e0233595,C202019)NakanoCS,CYamamotoCT,CKiriiCECetal:SteroidCeyeCdropC(65)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1429

緑内障現代史:1970 年代以降の革新的進歩

2021年12月31日 金曜日

緑内障現代史:1970年代以降の革新的進歩ModernHistoryofGlaucoma:EvolutionofInnovativeManagementSincethe1970s山本哲也*はじめに歴史家E.H.Carrは,歴史とは「現在と過去との絶え間ない対話(anunendingdialoguebetweenthepresentandthepast)である」と述べている.その通り,過去を知らずに現代を理解することは困難である.まして,将来は語れない.本稿では本誌編集部の依頼に答える形で,1970年代以降に生じた緑内障関係のでき事の整理を試みる.目的は現代を把握し,近未来の緑内障診療に求められているものを理解していただくことである.緑内障は間違いなく古代から存在していたが,18世紀頃までは水晶体疾患と考えられていたようであり,現在の疾患概念の確立までには時間がかかっている.緑内障のなかでは,自他覚症状の激しさから緑内障急性発作が最初に認識されたのは当然であり,一方で慢性緑内障は19世紀半ばに初めて記録されている.表1に1970年以前の緑内障関連のおもなでき事を掲げた.眼圧上昇が10世紀にすでにアラビアで知られていたこと,1851年の検眼鏡の発明後数年を経ずして緑内障性視神経症の乳頭所見が記録されたことが特記される.20世紀初頭には,瞳孔ブロック,隅角閉塞の概念が確立し,現代の緑内障分類に結びついていく.同じころ,眼圧が正確に測定できるようになり,また近代的緑内障手術のはしりとしての全層濾過手術が生まれた.20世紀半ばに隅角鏡,Goldmann視野計,Goldmann圧平眼圧計が発明された.炭酸脱水酵素阻害薬の内服が開始されたのも20表11970年以前の緑内障関係のおもなでき事紀元前4.5世紀最古の緑内障の記載(Hippocrates)10世紀最古の眼圧上昇の記載(At-Tabari,アラビア)1622年(元和8年)ヨーロッパ初の眼圧上昇の記載(Banister)1818年(文政1年)眼圧上昇と虹輪視の記載(Demours)1854年(安政1年)乳頭陥凹を乳頭の腫脹として発表(Jaeger,vonGrafe)1855年(安政2年)乳頭陥凹の記載(Weber,vonGrafe)1856年(安政3年)虹彩切除術を施行(vonGrafe)1857年(安政4年)緑内障を正常眼圧の眼に認めAmaurosismitSehnervenexkavationと記載(vonGrafe)1858年(安政5年)隅角閉塞を組織学的に発見(Muller)1869年(明治2年)濾過手術(sclerectomy)の始まり(deWecker)1876年(明治9年)ピロカルピンの使用(Weber)1898年(明治31年)隅角を指圧により観察(Trantas)1905年(明治38年)Schiotz眼圧計の登場1909年(明治42年)近代的濾過手術(trephination)の報告(Elliot)1920年(大正9年)瞳孔ブロックの概念(Curran)1923年(大正12年)原発緑内障を前房深度で2型に分類(Raeder)1925年(大正14年)実用的隅角鏡の開発(Troncoso)1938年(昭和13年)緑内障を隅角所見で2型に分類(Barkan)1945年(昭和20年)Goldmann視野計の開発1954年(昭和29年)炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドの使用(Becker)1957年(昭和32年)Goldmann圧平眼圧計の開発(GoldmannandSchmidt)1960年(昭和35年)トラベクロトミーの報告(Smith,Burian)1968年(昭和43年)トラベクレクトミーの報告(Cairns)*TetsuyaYamamoto:海谷眼科〔別刷請求先〕山本哲也:〒430-0903浜松市中区助信町20-40海谷眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(47)1411表2全国7地区共同疫学調査(1991年公表)での緑内障有病率有病率(%)緑内障計3.56原発開放隅角緑内障0.58低眼圧緑内障2.04原発閉塞隅角緑内障0.34続発緑内障0.48先天緑内障0.02絶対緑内障0.10高眼圧症1.37総計4.93低眼圧緑内障は正常眼圧緑内障と同義.(文献3より引用)-図1乳頭出血乳頭の1時方向に乳頭出血を認める.この出血がきわめて興味深い事実を提供することがわかったのは1969年以降のことである.=表3原発閉塞隅角病の用語法の基となったISGEO分類(2002年)Primaryangleclosure(PAC)の分類(1)Primaryangleclosuresuspect虹彩周辺部と後部線維柱帯の機能的閉塞が起こりえる眼(疫学研究では隅角の270°以上で後部線維柱帯が視認できない状態と定義されることが多い)(2)Primaryangleclosure(PAC)閉塞可能な隅角をもち,かつ,周辺虹彩前癒着,眼圧上昇,(急性発作後のような(筆者追記))虹彩の変形,Glaukom-.ecken,線維柱帯の高度色素沈着など虹彩周辺部による線維柱帯閉塞の特徴を有する眼.加えて,緑内障性視神経症のない眼(3)Primaryangleclosureglaucoma(PACG)緑内障性視神経症を有するPAC眼(文献5より筆者が翻訳)図2UBMで観察した機能的隅角閉塞(1995年頃)水晶体と瞳孔近傍虹彩の接触,虹彩裏面の前方への弯曲,虹彩最周辺部に隅角閉塞のないこと,などが読影できる.表4主要緑内障薬の国内承認年timololcarteololisopropylunoprostonelatanoprostdorzolamidebrinzolamidetravoprostta.uprostbimatoprostXalacomDuotravCosoptbrimonidineAzorgaTapcomripasudilMikelunaomidenepagAibetaAilamide19811984199419991999200220072008200920102010201020122012201420142016201820192020イタリックは配合薬.索が始まることになる.プロスタグランジンCFC2aのカルボキシル基をイソプロピルエステルに変えることで眼圧下降の効率が上がることが判明し,これを基本骨格とする各種製剤が合成され,最良薬物として選択されたものがラタノプロストである.のちに開発されたトラボプロストやビマトプロストも初期開発の候補薬物であったとされているが,当初は候補から落とされたということも知られている.タフルプロストは後日,国内で独自に開発されている.炭酸脱水酵素阻害薬は内服での眼圧下降が知られた直後のC1950年代から,点眼薬としての応用が可能かどうかの研究が始まっている.しかし,1987年まではその努力は実を結ばなかった.ただその間の研究の積み重ねにより,その効果不十分の理由として,薬物の毛様体への移行と炭酸脱水酵素の阻害作用のC2点が不十分なことが原因であることが次第に明らかになっていた.ドルゾラミドはこのC2点を克服して開発された薬物であり,数年を経てブリンゾラミドが続くことになる.ここ半世紀の薬物開発の歴史のなかで特記すべきこととして日本国内での開発品目が,イソプロピルウノプロストン,リパスジル,オミデネパグとC3種あることがあげられる.企業による開発の側面が大きいとはいえ,いずれも新規カテゴリーの眼圧下降薬であることが注目される.なかでもリパスジルはCROCK阻害薬に分類される薬物であり,谷原秀信と本庄恵(京都大学)が基礎的な研究で果たした役割はきわめて大きい.今後の新薬開発にもつながる産学連携のモデルでもある.2010年以降は臨床的には配合薬の占める割合の高まったことが目立っている.この傾向は今後も続くものと思われるが,より大きな変革としてはドラッグデリバリーシステムの開発による薬物投与法の進歩をあげたい.前房内注入,結膜円蓋部固定,涙点プラグ型などさまざまな投与法が考案されており,近い将来日本においても使用可能となるものと推定される.C2.レーザーこのC50年間で各種レーザーが緑内障眼に応用され,実用化されてきた.開放隅角緑内障に対する隅角線維柱帯のレーザー照射はC1973年にCKrasnovがCQスイッチルビーレーザーで線維柱帯に穿孔を起こすことを試みたことに始まる.この試みは創傷治癒機転によりごく一時的な効果しかないことがすぐに明らかになった.その後C1979年,Wiseはアルゴンレーザーを用いて現在レーザー線維柱帯形成術(lasertrabeculoplasty:LTP)とよばれる方法で眼圧下降の得られることを報告した.国内では強膜岬にレーザー照射し眼圧下降の得られることが白土城照(東京大学)によりC1980年に報告されたのが初めである.その後,1995年頃より選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)とよばれる半波長CNd:YAGレーザーを用いる術式が行われるようになった.閉塞隅角緑内障に対するアルゴンレーザー虹彩切開術の人眼での成功はC1973年のCBeckmanであるが,短期間で再閉塞することが課題とされた.1981年CAbrahamはレーザー虹彩切開術用レンズを考案し,アルゴンレーザー虹彩切開術はこのころから実用化されていく.国内での報告はC1982年の白土城照(東京大学)が最初である.1983年にはCFankhauserによりCNd:YAGレーザー虹彩切開術が報告された.C3.手術トラベクレクトミーはC1968年にCCairnsにより報告されて以降,国内に導入されたがC1985年頃までは長期成績は不良であった.1984年CHeuerはC5-フルオロウラシル結膜下注射を術後に繰り返すことで手術成績の大幅な改善の得られることを報告し,世界的にこの術式が普及した.5-フルオロウラシルには頻回の結膜下投与の必要性と難治性の角膜上皮障害の問題点があった.現在主流となっているマイトマイシンCCの緑内障手術の応用はC1981年の陳振武(台湾)が始まりであるが,発表当時はほとんど注目されていなかった.北澤克明(岐阜大学)は,筆者の基礎研究結果(1990年)などを参考とし,マイトマイシンCCを科学的検証を経て使用開始し1991年にその有用性を報告した.マイトマイシンCC併用手術はその後急速に世界に広まることになる.2000年代以降はその長期的な成績(眼圧,視機能)の良好なことが,特有の合併症とともに認められている.1416あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(52)図3AhmedGlaucomaValve手術後(現代)前房内にインプラント本体につながるチューブを認める.VFI(%)100805年6040200667686(歳)RATEOFPROGRESSION:-1.4±0.8%/YEAR(95%CONFIDENCE)SLOPESIGNIFICANTATP<1%図4視野計内蔵ソフトウェアによる視野予測(2012年頃)グローバルインデックス(視野指数)のひとつであるCVisualFieldIndex(VFI)を基にしたC5年後の予測がされている.進行速度は-1.4±0.8%/年で有意の進行あり(p<0.01)と計算結果が表示されている.外の病的所見をとらえにくいという点を補うものとして,隅角全周の写真撮影をする装置も近年実用化されている.C5.その他Posner-Schlossman症候群あるいは類似の急激な眼圧上昇を起こす疾患の一部で,病因にウィルス感染が関与することがいわれている.近年,ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)の手法でサイトメガロウイルス,ヘルペスウィルスなどが前房水から検査可能となり,緑内障の病因検索ならびに治療に役立っている.CIV緑内障管理の進歩1.眼圧下降治療の意義の確立緑内障管理の基本事項に関するこのC50年間でもっとも重要な知見は,各種の眼圧下降治療が眼圧を下降させるだけでなく真に緑内障性視神経症の進行抑制に役立つことが証明されたことだと考える.こう書くと,そんなこともわからないのに“治療”していたのという方がいらっしゃるかと思うが,真実である.現在の緑内障治療の正当性の根拠とされる研究,換言すると眼圧下降治療の有用性を示すエビデンスレベルの高いとされる研究はいくつかの多施設共同試験(CollaborativeNormal-Ten-sionCGlaucomaCStudy,CAdvancedCGlaucomaCInterven-tionCStudy,CCollaborativeCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudy,COcularCHypertensionCTreatmentCStudy,CEarlyCManifestCGlaucomaCTrial,CUnitedCKingdomCGlaucomaCTreatmentStdyなど)であるが,そのうちのいくつかがC1990年代に米国で開始されている.そしてそうなったのは,1987年に“JAMA”誌に掲載された「緑内障治療には視機能保持の理論的な根拠がない」趣旨の論考6)に対する反論の根拠作成の意図があったとされている.つまりC20世紀最終盤までは眼圧下降治療は視野に好影響を与える十分な根拠なしに行われていたことになる.ただし,このことに関して先人の名誉のために追記すると,1980年代までの緑内障研究者が眼圧下降と視野保持効果について関心をもっていなかったわけではない.Sha.erLectureを基としたCGrantの論文7)や高眼圧症の視野異常出現を論じた初期の諸研究などは,眼圧下降が視野保持や緑内障発症阻止に有効なことを明確に示している.こうした先人たちの眼圧下降の緑内障性視神経症への好影響のエビデンスを求める努力は実を結び,その成果は緑内障診療の羅針盤として関連学術団体によりまとめられ,種々の名称の診療ガイドラインとして発行されて,現在ではそれに基づく緑内障管理が推奨されている.C2.AI診断2014.2015年頃から人工知能(arti.cialCintelligence:AI)を緑内障診断(視神経,乳頭など)に応用した研究が急増している.現時点では一定の機械学習をさせると眼科医あるいは緑内障専門医と同程度の診断能力を得させることは十分に可能との報告が多い.CV日本緑内障学会の設立と発展学術と診療の両面において,日本緑内障学会(JapanCGlaucomaSociety)の果たす役割は今日非常に大きい.診療面では,緑内障診療ガイドラインを学会主導で作成し,また数年ごとにアップデートしてきた.学術面では,多治見スタディ,濾過胞感染共同研究をはじめとする数々の共同研究を行ってきた.日本緑内障学会は1990年に創設されたが,その前の二つの組織の発展的な解消により生まれた.一つはC1970.1990年にかけておもに地方で開催された日本緑内障研究会である.日本緑内障研究会は須田經宇(熊本大学)の「大学教室間,学閥の垣根を一切取り払い,緑内障という眼病のすべての側面について情報を交換し,かつ徹底的に討論しあう」との哲学に基づき開始されたもので,夏季に,涼しい,しかも安い会場にC2泊C3日ほど泊まり込んで行うという独特のスタイルが国内緑内障研究者の深い交流の原点となった.もう一つが,日本臨床眼科学会に伴って行われていた緑内障グループディスカッションであり,1961.1989年まで行われてきた.日本緑内障学会発足直後のC1990年C9月C1.2日の第C1回学術集会は東郁郎(大阪医科大学)の主催であった(55)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1419-

眼感染症診療50年の軌跡─感染性角膜炎と術後眼内炎を中心に

2021年12月31日 金曜日

眼感染症診療50年の軌跡─感染性角膜炎と術後眼内炎を中心にA50Years’TrackoftheClinicalTreatmentofOcularInfections─WithSpecialFocusonInfectiousKeratitisandPostoperativeEndophthalmitis大橋裕一*はじめに眼感染症の診療の歴史は,古典的病原体が支配した戦前期,病原体の多様化をきたした戦後第一期,そして新興・再興感染症に特徴づけられる戦後第二期の三つの時期に大きく分けることができる.この間に生じた大きな出来事としては,1950年代の抗生物質とステロイド点眼の登場,1980年代半ばの今も健在なアシクロビル,ニューキノロン,ピマリシンの三大抗微生物薬の上市(個人的に「抗微生物薬ルネッサンス」とよんでいる),1990年代以降に訪れたコンタクトレンズ装用者の急増と小切開水晶体再建術の進歩,それに伴う白内障手術件数の増加があげられる.刻々と変化していく医療環境の中,姿,形を変えて挑戦をしかけてくる眼感染症に対峙する上で,過去の闘いを振り返り,先人の叡智に触れることには大きな意義がある.そこでタイムスリップし,角膜炎と術後眼内炎をテーマに,半世紀余りを旅することにしたい.なお,本稿は第52回日本眼感染症学会(2015年)で講演した「眼感染症ヒストリア」をベースに執筆したものである.I感染性角膜炎1.角膜ヘルペス(図1)角膜ヘルペスは,三叉神経節に潜伏感染した単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV)により生じる再発性角膜炎で,その病態から,ウイルス増殖が主体の上皮型と,ウイルスへの免疫反応が主体の実質型とに分けられる.筆者が入局した頃,後者の実質型ヘルペスが中途失明患者の多くを占めていた.有効な治療法の開発は当時の眼科医にとって喫緊の課題であり,1973年の日本眼科学会では宿題報告にも採り上げられている1).図1に当時の角膜ヘルペスの病像のいくつかを示すが,最近では見ることのない重篤な臨床所見に驚かれるのではないだろうか.a.「ヘルペスは良性疾患だった」これは筆者が留学していたProctor眼研究所のThy-geson名誉教授の言葉である2).彼によれば,上皮型角膜ヘルペスは抗生物質の眼軟膏で寛解する病気だったそうであるが,1950年代に入ってステロイド点眼が使用されはじめると,樹枝状角膜炎は治癒しにくくなり,実質型角膜ヘルペス患者が急増したという.彼はまた,「RedEye症候群」に対する小児科医やかかりつけ医による安易なステロイド使用がこの傾向に拍車をかけたのではないかとも述べている.b.IDUの時代-実質型ヘルペスの重篤化1962年,Kaufmanにより代謝拮抗薬であるIDU(5-iodo-2’deoxyuridine)の点眼が上皮型角膜ヘルペスの治療に有効であることが示された3).世界初の化学療法剤として大いに期待されたが,抗ヘルペス作用や角膜内移行は決して十分なものではなく,実質型ヘルペスに対してステロイドと併用された結果,再発を繰り返すなかで多くの患者が壊死性角膜炎や角膜ぶどう膜炎に陥っ*YuichiOhashi:南松山病院アイセンター〔別刷請求先〕大橋裕一:〒790-8534愛媛県松山市朝生田町1-3-100910-1810/21/\100/頁/JCOPY(25)1389(25)1389IDU時代図2IDU時代とACV時代の臨床経過の違いこの二つの時代で,円板状角膜炎の臨床経過に大きな違いがみられる.IDU時代では,いったん軽快した炎症が再燃し,壊死性角膜炎へと進行したが,ACV時代では,ステロイドによる安定した消炎が可能となり,壊死性角膜炎に至ることはほとんどない.Ⅰ型周辺部浮腫型(LinearForm)Ⅲ型急性中央部浮腫型(DisciformForm)周辺部から対側へ進展する実質浮腫先進部に角膜後面沈着物を形成角膜中央部の円板状浮腫(拒絶反応線に酷似,衛星病巣を伴う)(実質内に炎症所見なし)進行性の内皮細胞減少浮腫病変内に角膜後面沈着物Ⅱ型傍中心部浮腫型(SectorialForm)Ⅳ型びまん性浮腫型(Di.useForm)角膜全体に及ぶ実質浮腫角膜周辺部の扇形浮腫(Pseudoguttataが特徴的)(1象限程度)浮腫は停止性全身性ウイルス感染に続発時に高度の内皮減少あり図3角膜内皮炎の病型分類周辺部に生じるタイプと中央部に生じるタイプとに分けられ,それぞれに臨床所見,経過,予後が異なる.進行性の角膜内皮障害をきたす点でもっとも重要な病型が周辺部浮腫型(I型),狭義の角膜内皮炎である.図4角膜内皮炎の病態前房内への間欠的なウイルス放出によって前房関連免疫偏位(ACAID)が成立し,細胞性免疫が抑制されるなかでCcelltropismが働いて線維柱帯,ついで角膜内皮に感染が生じるようになると考えられる.サイレントな眼内炎症であるPosner-Schlossman症候群やCFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎も同様のメカニズムで起こっている可能性がある.表1角膜内皮炎の診断基準2010年に厚生労働省科学研究費の補助を受けて発足した「特発性角膜内皮炎研究班」によってレトロスペクティブスタディが行われ,CMV角膜内皮炎の診断基準が作成された.診断は前房水を用いたCPCRによるウイルス検索と特徴的な臨床所見から行われ,典型例と非典型例に分けられている.I.前房水CPCR検査所見①CcytomegalovirusDNAが陽性②CherpessimplexvirusDNAおよびCvaricella-zostervirusDNAが陰性II.臨床所見①小円形に配列する白色の角膜後面沈着物様病変(コインリージョン)あるいは拒絶反応線様の角膜後面沈着物を認めるもの②角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫があり,かつ下記のうちC2項目に該当するもの・角膜内皮細胞密度の減少・再発性・慢性虹彩毛様体炎・眼圧上昇もしくはその既往〈診断基準〉典型例Iおよび,II一①に該当するもの非典型例Iおよび,II一②に該当するもの〈注釈〉1.角膜移植術後の場合は拒絶反応との鑑別が必要であり,次のような症例ではサイトメガロウイルス角膜内皮炎が疑われる.①副腎皮質ステロイド薬あるいは免疫抑制薬による治療効果が乏しい.②Chost側にも角膜浮腫がある.2.治療に対する反応も参考所見となる.①ガンシクロビルあるいはバルガンシクロビルにより臨床所見の改善が認められる.②アシクロビル・バラシクロビルにより臨床所見の改善が認められない.a.肺炎球菌から緑膿菌へ-アミノグリコシド系にスポットが!1950年代に入って抗生物質が使われるようになると,肺炎球菌による角膜炎はほぼ制圧され,入れ替わるように緑膿菌が台頭した21).緑膿菌は土壌や水場に分布する環境菌で,角膜に輪状膿瘍を形成し,角膜穿孔などの重篤な転帰をとる.当時,角膜鉄片異物の除去後に多くみられたとの記載があるが22),これは主力抗菌薬(テトラサイクリンなど)による予防投与が緑膿菌に無効であったためと考えられる.そこで,緑膿菌に有効で,かつグラム陽性球菌からグラム陰性桿菌までをカバーできる抗菌薬としてアミノグリコシド系が大きな注目を集めた.1970年代にはゲンタマイシンを筆頭に多くの点眼薬が開発されたが,眼表面への細胞毒性が足かせとなり,汎用薬とはならなかった.一方で,スルベニシリンやセフメノキシムなど,広域スペクトルのCbラクタム系点眼薬も上市されたが,緑膿菌には力不足であり,これも主役の座を射止めることはできなかったのである.Cb.ニューキノロン・フィーバーそしてC1980年代の半ば,ニューキノロン系のオフロキサシン(タリビッド)点眼液が登場する.外眼部細菌感染症を対象とする多施設臨床試験できわめて優れた臨床効果が確認されたが,その累積発育阻止率曲線は対照薬であるジベカシンやスルベニシリンを遙かに上回るものであった23).ニューキノロン系抗菌点眼薬は,強い抗菌力と抗菌スペクトルの広さ,高い組織内移行性,優れた選択毒性などから,その後の眼感染症の臨床において不動の地位を得るようになった.さまざまな観点から,史上最高の抗菌点眼薬であるといってよいであろう.加えて,AQCmax24)という指標で示される優れた前房内への薬剤移行により,術後点眼薬(前房内汚染の抑制)としても重用されることとなった.以後,オフロキサシンを純化したレボフロキサシン,グラム陽性菌への抗菌力を強化したガチフロキサシン,モキシフロキサシンなどが登場し,抗菌点眼薬の開発はニューキノロン間での競争へとシフトしていく.c.難敵MRSA.MRSEの出現外眼部の常在菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococ-cusaureus:SA)と表皮ブドウ球菌(Staphylococcusepidermidis:SE)は,どちらも眼感染症の主要な起炎菌である.ブドウ球菌はさまざまな抗菌薬の耐性遺伝子を菌内に取り込むことから「進化する細菌」ともよばれるが,そのなかで,1990年頃からはメチシリン耐性ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococci:MRS)が増加し,難敵として常態化している25).MRSはCMecA遺伝子の働きでCPBP-2’を発現しCb-ラクタム系を無効化するが,加えて,キノロンポケット変異によるキノロン耐性も併せもっている.現在,MRSAの多くがキノロン耐性であり,メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusepidermid-is:MRSE)においても耐性化が進行していることが指摘されている26).とくに,入院患者由来の株には多数の変異点があり,外来患者由来の株に比べて高い耐性を示す27).ニューキノロン系が無効な場合には,バンコマイシンあるいはアルベカシンをいずれもC0.5%の濃度で自家調整し,上皮障害に留意しつつ使用する.また,静菌的だがクロラムフェニコール点眼液も有力な選択肢とされている28,29).Cd.感染性角膜炎全国サーベイランス2003年,日本眼感染症学会はわが国における角膜感染症(ウイルスを除く)の動向を把握する目的で全国C24施設を対象とする症例調査を行った30).起炎菌の分離された症例の大半を細菌感染(グラム陽性球菌が主体)が占め,真菌感染はC1割弱,アカントアメーバ感染はまだわずかだった.もっとも注目されたのは,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者が大部分を占める若年層患者の急激な増加で,年齢分布がC20代とC60代をピークとする二峰性を示すことが明らかになったことである.緑膿菌,真菌,アカントアメーバによる感染の多くがCCL装用者であり,この頃に,後述するC2005年のアウトブレークへの素地が生まれつつあったことがうかがわれる.Ce.感染性角膜炎診療ガイドライン細菌性角膜炎の起炎菌はグラム陽性球菌と陰性桿菌と(31)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1395図6細菌性角膜炎の治療手順現在はニューキノロン系を中核とする治療の流れが完成している.感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版では,臨床的な手がかりをもとにグラム陽性球菌か陰性桿菌かを推測して,2剤併用によるCempirictherapyを行い,その後,de.nitivetherapyのフェーズへと移ることを勧めている.(文献C31より改変引用)図7ニューキノロン系抗菌薬のほころび眼科臨床分離株に対するニューキノロン系C3剤のCMICC90の分布曲線.グラム陽性菌,陰性菌に対する幅広い抗菌力が示される一方で,MRSA,表皮ブドウ球菌の一部,およびコリネバクテリウムに対する効力が低下している(赤色矢印部分).その代替薬剤を右欄外に示す.(宇野敏彦ほか:あたらしい眼科23:1359-1367,2006より改変引用)第1期第2期第3期1952C1970C1985C1989C2020Cステロイドにより誘発!アムホテリシンBピマリシンアゾール系無機農業による土壌変化CAlternaria/Paecilomyces農村型糸状菌(Fusarium)CMoistureLocC図8真菌性角膜炎の変遷第C1期の農村型(糸状菌)感染に始まり,第C2期ではステロイドの影響下に患者数が急増し,都会型(酵母様真菌)が半数を占めるようになる.現在,われわれはCFusariumが優位の第C3期にいると考えられるが,病原体は多様化の傾向を示している.図9主要抗真菌薬の感受性スペクトル真菌性角膜炎研究班が定めた抗真菌薬の感受性基準をもとに,S判定の累積有効率がC100%,50.90%,50%未満のC3段階に分けて表示している.枠内の数字は累積有効率であるが,あくまでも試験管内の評価であることを前提に参照されたい.(文献C41より作成)195719751980~1990~2005~2020CL装用者の増加図10アカントアメーバ角膜炎の変遷CL装用者の急増とともに難治性の角膜感染症として台頭し,CL消毒薬の効力不足,不適切なレンズケアなどを背景に世界的なアウトブレークを繰り返している.現在は小康状態にあるが,オルソケラトロジー,カラーCCLの普及のなかで動向に注意が必要である.図11CL関連角膜感染症の発症図式と対策発症パターンは大きく二つある.パターンC1は,CLケース内で繁殖した環境菌が汚染CCLを介して角膜感染を起こすケースで,MPS使用と頻回交換ソフトCCL(SCL)がキーワードである.パターンC2は,常在菌が角膜感染を起こすケースで連続装用や過剰装用がキーワードである.今後ともレンズケア,装用についての適切な対策とユーザーへの啓発活動が望まれる.根治にはシスト対策が重要上皮下浸潤放射状角膜神経炎偽樹枝状角膜炎TrophozoiteCysticidalactivityamoebicidalactivityDiamine系消毒薬〇〇〇〇〇〇~△〇〇〇~×〇~△クロルヘキシジンPAヨードピマリシンボリコナゾールプロパミジン〇:あり△:株により不定×:なし図12アカントアメーバ角膜炎の治療治療のポイントはシストの除去にあり,病変.爬に加えて強い抗シスト作用をもつ薬剤で治療する必要がある.主力はビグアナイド系消毒薬で,欧米ではこれにCDiamine消毒薬を,わが国では抗真菌薬(ピマリシン眼軟膏あるいはボリコナゾール点眼)を併用するのが基本である.図中のCtrophozoiteamebicidalactivityとCcysticidalactivityはそれぞれ栄養体およびシストへの抗アカントアメーバ活性を表わす.-使用可能図13術後眼内炎の発症メカニズム主として外眼部細菌叢から持ち込まれた病原体が,眼表面を通じて前房内に,さられ後房バリアの破綻を通じて硝子体内に侵入し,眼内炎を生じる.従来の後.破損に加えて,前部硝子体破裂の可能性にも注目すべきである.菌法」である.2007年,日本眼感染症学会はその有用性を検証する多施設臨床試験を実施し,レボフロキサシンC1日あるいはC3日間の点眼により術直前の結膜.からの細菌分離率が有意に低下することを明らかにした59).2021年の日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)の調査によると,現在,9割近いサージャンがC3日間の術前点眼を実施しているが60),これを見直すべきとの議論もある.他方,このスタディでは,術中の眼表面に表皮ブドウ球菌(起炎菌のトップ)とアクネ菌(遅発性眼内炎の起炎菌)が再出現し,一定のレベルで前房内汚染が生じることも明らかにされたが,この課題の解決までにはもう少しの年月が必要となる.C2.EVSの位置づけ術後眼内炎に遭遇したらどうすべきであろうか?1990年代の米国で,術後眼内炎に対する治療方針を検討するための前向き多施設試験が行われたことはよく知られている.有名なCEndophthalmitisCVitrectomyCStudy(EVS)である61).結果,抗菌薬の全身投与に有意な効果がないこと,診断時に光覚弁の症例には硝子体切除術を行うべきであることが示されたが,この結論には医療経済的な側面が強く出ているとの批判もある.現在,術後眼内炎に対しては,硝子体手術を実施して病巣の郭清を図るとともに,全身投与も含めた最大限の薬物投与を行って視機能の維持改善を図ることがコンセンサスとなっている.EVSの提言を現在に当てはめることはできないが,前向きプロトコールで検証しようとした点は高く評価されるべきと考える.C3.日本眼科手術学会術後眼内炎スタディグループの活動今世紀に入り,わが国の眼科サージャンの間で術後眼内炎への取組みが盛んになるが,そのきっかけを作ったのが,日本眼科手術学会に設けられた術後眼内炎スタディグループの活動である.同グループがC2003年に行ったアンケート調査によれば,2003年のC1年間での白内障術後眼内炎の発症率はC0.052%(白内障手術総件数100,539件中C52件),およそC2,000人にC1人という結果であった62)無作為に抽出した会員C652人のC78.7%からの回答が得られた点でかなり信頼できる数字と思われる.また,同時に行った術後眼内炎症例調査ではC1年間に152例が登録され,起炎菌のトップはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌で,MRSAや腸球菌による症例の視力予後が不良であること,後.破損が大きな危険因子(20%に発生)であることなどが示されたほか63),バンコマイシン+セフタジジムの硝子体内注射など,発症時の緊急対策を詳細に記した「初期治療プロトコール」が発表された64).その後のC2012.2013年にかけては,JSCRSおよび日本眼感染症学会の主導により,エンドポイントを眼内炎の発症に置いた,わが国初の大規模疫学調査(白内障術後眼内炎スタディ)が行われた.全国の施設からエントリーされた約C6万例における発症率はC0.025%とほぼ半減しており,予後良好な軽症例が多数を占めるようになっていることも明らかとなった65).C4.術中減菌法―ヨード点眼による眼表面再汚染の抑制先に述べた術中の眼表面再汚染に対抗する手段として,2011年,Shimadaらは術中の頻回ヨード点眼を報告した66).これは宿年の課題を解決する実に素晴らしいアイデアで,連続C400例余りでの前向き試験では,投与群に前房内汚染は認められず,非使用群との間での有意な低下が実証された.現在,術中のオプションとして30%程度のサージャンに採用されているようだが60),手術のどのステージでどの程度使用するかは術者の考え次第である.そのなかで,Matsuuraらの推奨する眼内レンズ挿入前の点眼投与は後に述べる.内汚染を防ぐ点で非常に合目的と考えられる67).振り返れば,ヨード点眼による術野(結膜.)の消毒はC1980年代中頃にCApt68)らにより提唱されたもので,それほど長い歴史があるわけではないが,2002年のCiullaのレビューでは,もっともエビデンスのある感染予防策と評価されている.まさに周術期管理における金字塔の一つといえるであろう.1404あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(40)5.後房バリアの破綻が危険因子―前部硝子体膜破裂(AHT)に注目眼内炎の主座である硝子体は水晶体.とCZinn小帯とで構成される「後房バリア」によって守られているが,このバリアがなんらかの原因で破綻すれば眼内炎のリスクは一気に高まる(図13).代表格である後.破損はあらゆる疫学調査における最大の危険因子だが,わが国での発生率は年々減少し,直近ではC0.48%という数字である60).さて,術後眼内炎の症例報告には,「後.破損など明らかな術中合併症は認めなかった」との記載がよくみられるが,一見ノートラブルと思えても後房バリアの破綻がない限りにおいて眼内炎は発症しない.ひとつの可能性として考えられるのが,Kawasakiらの報告した前部硝子体膜破裂(anteriorChyaloidCmembranetear:AHT)である69).これは前部硝子体膜がCWieger靭帯付近で破裂,離断する現象で,ハイドロダイセクション時の過度の高眼圧によって生じることが示されている.術者には見えない後房バリアの破綻であり,術中のC.uidCmisdirectionsyndromeの要因となっている可能性もある.C6..内洗浄の重要性―可視化実験による検証後.と挿入された眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の裏面との間のスペースが細菌汚染の温床となる可能性については早くから指摘があり,これを裏付けるように,Suzukiらは術後眼内炎で摘出したCIOLの裏面に多数の球菌集簇像を観察している70).そのなかで,.内汚染の病態解明に向けて,スジャータ71)やミルク粒子72)などの微細粒子を用いた可視化実験が盛んとなり,レンズ挿入に伴う眼内(とくに.内)への汚染持ち込みの危険性と洗浄除去の必要性が示された.他方,Oshikaらは,1万眼を対象としたCIOL臨床試験において,術終了時の.内洗浄,とくにレンズ下洗浄の有用性を実証した73).IOLインジェクター(現在はプレロード式)の使用とともに74),レンズ下の.内洗浄は汚染制御にもはや欠かすことのできない手技といえるであろう.7.抗菌薬前房内投与(灌流)のインパクト手術終了時の前房内汚染が術後眼内炎発症の基盤的な要因であることは論を待たない.そこで,汚染を抑制する有力な手段として,術終了時における抗菌薬の眼内投与という発想が浮かぶ.EuropeanCSocietyCofCCataractCandCRefractiveSuegeons(ESCRS)は,2003年より術直後の抗菌薬前房内投与の有用性を検証する前向きの多国間多施設試験を開始した.世界的な注目を集めたESCRSスタディである75).これは,眼内炎発症をエンドポイントとする大規模な取組みで,結果としてセフロキシム(cefuroxime)の前房内投与が眼内炎の発症頻度を有意に低下させることが示された.対照群の眼内炎発症率がかなり高かった点,使用されているセフェム系は腸球菌に無効である点,キッチンファーマシーによる事故がありうる点などから,懸念を示すサージャンも依然として存在しており,全面的な普及には至っていない.わが国では,米国と同様,おもにモキシフロキサシンを用いた前房内灌流が行われているが76),現在の普及度はC35%前後である60).ただし,後.破損を生じた症例に対する感染予防策としては非常に有力なオプションであると考えられる.C8.中毒性前眼部症候群(TASS)にも注意2006年,Mamalisらは内眼手術後に生じる無菌性の眼内炎症を中毒性前眼部症候群(toxicCanteriorCseg-mentsyndrome:TASS)とよぶ一つのクリニカルエンティティとして定義することを提唱した77).発症までの期間には術後数時間から数カ月までの幅があり,角膜浮腫,フィブリン形成,前房蓄膿,硝子体混濁などの所見を呈する.原因として,手術器具,眼内灌流液,手術材料,手術用薬剤の汚染,誤用や眼軟膏,異物の混入などがあげられ,ときに集団発生する.IOLが関与した最初のクラスター事例はCMemorylensによる遅発性の無菌性眼内炎であったが78),わが国でも最近,大きなアウトブレークが二つも生じ,診療面に大きな影響を及ぼしたのは記憶に新しいところである.ここでは,筆者がその調査にかかわる機会を得たHOYAおよびCAlcon社の事例について紹介する.(41)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1405ハイドロビスコ高度の圧負荷残留前部硝子体膜破裂(AHT)図14現代白内障手術における感染リスクと対応眼表面の再汚染を抑制し,前房内汚染,.内汚染をゼロにできれば眼内炎の発症は阻止できる.ここでは,眼表面の汚染が前房内,硝子体内へと波及するプロセスを,各ステップにおける危険因子とともにリストアップし,対応策を表記した.(*BeigiB,etal.Eye12:390,1998.,**ShimizuK,etal.JCataractRefractSurg.34:1157,2008.,***MasudaYetal.CataractRefractSurg40:1327,2014より作成)眼表面に術創口を作製する白内障手術においては,とくに外眼部(眼瞼,結膜)から術野に持ち込まれる汚染を抑制し,前房内,水晶体.内,さらには硝子体内に波及することをいかにして防止するかがポイントであり,個々のサージャンの戦略立案と危機管理のセンスが大いに問われるところである.日々変化を続ける現代の極小切開創白内障手術には,図14に示すとおり,それぞれのステップに特有な感染リスクがある.エビデンスに裏付けられた予防対策の採用を通じて,術後眼内炎の発症を限りなくゼロに近づける努力が必要である.おわりに今回,眼感染症のうちで重篤な視機能低下をきたすことの多い「感染性角膜炎」と「術後眼内炎」をテーマに過去の歩みを概説した.執筆を通じ,この半世紀で数多くの疑問,課題が解決されてきたことを改めて知ることができた.病原体がますます多様化するなか,有力な治療手段である抗微生物薬の開発のスピードは決して満足すべきものではない.この点を踏まえれば,現在まで生き残っているアシクロビル,ニューキノロン,ピマリシンという三つの抗微生物薬に加えて,安定した抗微生物活性をもつシクロヘキシジンやヨード製剤などの消毒薬の特性を最大限に生かし,より実践的な治療指針を構築していくべきと考えられる.そのなかでは,抗微生物薬の宿命ともいえる「薬剤耐性」への対応,さらに,真菌性角膜炎やCAKの治療効果に深くかかわる「併用時の拮抗現象」についての十分な議論が必要であろう.他方,眼科診療は年間にC100万件を超える水晶体再建術の患者,1,500万人を超えるCCL装用者を背景に抱えている.これまでの歴史が証明してきたように,われわれを取り巻く医療環境のほんの少しの変調が,重大な社会的問題につながる恐れのあることを肝に銘じなければならない.最後に,専門学会が主導される前向き研究や多施設試験のさらなる展開に期待を寄せるとともに,眼感染症の病態解明に貢献されたすべての先人に心よりの敬意を表し,筆を置く.眼感染症との戦いの中,われわれは今,未来への回廊に立っているのである.文献1)内田幸男,北野周作,小林俊策:角膜ヘルペスの病型分類.日眼会誌76:1384-1389,C19732)ThygesonP:HistoricalCobservationConCherpeticCkeratitis.CSurvOphthalmolC21:82-90,C19763)KaufmanHE:Clinicalcureofherpessimplexkeratitisby5-iodo-2’deoxyuridine.CProcCSocCExpCBiolCMedC109:251-261,C19624)ElionCGB,CFurmanCPA,CFyfeCPCetal:SelectivityCofCactionCofCaCantiherpeticCagent,C9-(2-hydroxyethoxymethyl)guaC-nine.ProcNatlAcadSciUSA74:5716C-5720,C19775)北野周作,山西政昭,周藤昌行ほか:アシクロビル(ACV)とCIDU眼軟膏との単純ヘルペス性角膜炎に対する治療効果の二重盲検法による比較検討.眼臨医C77:1273-1280,C19836)大橋裕一:角膜ヘルペス─新しい病型分類の提案─.眼科C37:759-764,C19957)UchioCE,CHatanoCH,COhnoS:AlteringCclinicalCfeaturesCofCrecurrentCHSV-inducedCkeratitis.CAnnCOphthalmolC25:C271-276,C19938)YaoYF,InoueY,KaseTetal:Clinicalcharacteristicsofacyclovir-resistantCherpeticCkeratitisCandCexperimentalCstudiesCofCisolate.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC234(SupplC1):S126-S132,C19969)InoueCT,CKawashimaCR,CSuzukiCTCetal;Real-timeCpoly-meraseCchainCreactionCforCdiagnosingCacyclovir-resistantCherpeticCkeratitisCbasedConCchangesCinCviralCDNACcopyCnumberCbeforeCandCafterCtreatment.CArchCOphthalmolC130:1462-1464,C201210)DuanCR,CdeCVriesCRD,COsterhausCADCetal:Acyclovir-resistantCcornealCHSV-1CisolatesCfromCpatientsCwithCher-petickeratitis.JInfectDisC198:659-663,C200811)SuzukiT,OhashiY:Cornealendotheliitis.SeminOphthal-molC23:235-240,C200812)KhodadoustCAA,CAttarzadehA:PresumedCautoimmuneCcornealCendotheliopathy.CAmCJCOphthalmolC93:718-722,C198213)OhashiCY,CKinoshitaCS,CManoCTCetal:IdiopathicCcornealendotheliopathy:aCreportCofCtwoCcases.CArchCOphthalmolC103:1666-1668,C198514)OhashiCY,CYamamotoCS,CNishidaCKCetal:DemonstrationCofCherpesCsimplexCvirusCDNACinCidiopathicCcornealCendo-theliopathy.AmJOphthalmolC112:419-423,C199115)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovi-rusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheli-itis.AmJOphthalmol141:564-565,C200616)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendo-(43)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1407theliitisCfollowingCpenetratingCkeratoplasty.CCorneaC26:C370-372,C200717)ShiraishiA,HaraY,TakahashiMetal:Demonstrationof“owl’sCeye”morphologyCbyCconfocalCmicroscopyCinCaCpatientwithpresumedcytomegaloviruscornealendotheli-itis.AmJOphthalmol143:715-717,C200718)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:CytomegalovirusasanetiologicCfactorCinCcornealCendotheliitis.COphthalmologyC115:292-297,C200819)小泉範子:サイトメガロウイルス角膜内皮炎の診断基準と治療指針.あたらしい眼科33:1581-1585,C201620)ZhengCX,CYamaguchiCM,CGotoCTCetal:ExperimentalCcor-nealendotheliitisinrabbit.InvestOphthalmolVisCSciC41:C377-385,C200021)三井幸彦:角膜感染症(会長指名特別講演).日眼会誌C79:C1615-1664,C197522)田中直彦:緑膿菌性角膜潰瘍.眼科12:828-834,C197023)三井幸彦:O.oxacin点眼薬(DE-055)の外眼部感染症に対する治療効果C-多施設CWellCcontrolledstudyによる検討.眼紀37:1115-1140,C198624)三井幸彦,大石正夫,大橋裕一ほか:点眼液の薬動力学的パラメーターとしてのCAQC_<max>の提案.あたらしい眼科12:783-786,C199525)外園千恵:MRSA角膜感染症.あたらしい眼科C19:991-997,C200226)YamadaCM,CYoshidaCJ,CHatouS:MutationsCinCtheCquino-loneCresistanceCdeterminingCregionCinCStaphylococcusCepi-dermidisrecoveredfromconjunctivaandtheirassociationwithCsusceptibilityCtoCvariousC.uoroquinolones.CBrCJCOph-thalmolC92:848-851,C200827)IiharaCH,CSuzukiCT,CKawamuraCYCetal:EmergingCmulti-plemutationsandhigh-level.uoroquinoloneresistanceinmethicillin-resistantCStaphylococcusCaureusCisolatedCfromCocularinfections.DiagnMicrobiolInfectDisC56:297-303,C200628)星最智:感染性角膜炎における点眼治療戦略:EmpirictherapyからCDe.nitivetherapyへ.あたらしい眼科C34:C1243-1250,C201729)北澤耕司,外園千恵:細菌性角膜炎.あたらしい眼科C35:C1599-1605,C201830)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況─.日眼会誌C110:961-972,C200631)日本眼感染症学会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌117:469-469,C201332)石橋康久:角膜真菌症のC2病型.臨眼C51:1447-1452,C199733)三井幸彦:フザリウム感染.眼科33:1333-1339,C199134)石橋康久:本邦における最近C5年間の角膜真菌症について─C1976年からC1980年の集計─.日眼会誌C87:651-656,C198235)三井幸彦,北野周作,内田幸男ほか:ピマリシンの角膜真菌症に対する効果の検討.日眼会誌86:2213-2223,C198236)小島啓尚,井上智之,堀裕一ほか:ボリコナゾールが有効であった糸状真菌による角膜真菌症のC2例.眼臨紀C3:C965-968,C201037)朝生浩,稲田紀子,杉本哲理ほか:コンタクトレンズ装用者に発症した真菌性角膜炎のC2例.眼科C54:1207-1212,C201238)PrajnaCNV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角膜疾患の診療50 年の軌跡

2021年12月31日 金曜日

角膜疾患の診療50年の軌跡The50-YearRoadofMedicalAdvancementsintheBasicUnderstandingandClinicalTreatmentofCornealDiseases木下茂*はじめに本稿では,角膜疾患の診断と治療がこのC50年ほどで,どのような変遷を経て現在につながっているのかを要約してみる.映画の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のようなもので,記憶をたどることも多く,内容は雑駁であり,重要な内容が漏れている場合にはご容赦を願いたい.なお,角膜感染症,ドライアイそしてコンタクトレンズは別項目になっており,そちらもご参照いただきたい.また,1980年代頃に,角膜疾患の診療から角膜屈折矯正手術関連の話題が派生して出てきたため,これらの内容も一部含んでいることをご了解いただきたい.それでは,私が研修医を始めたC1970年代に戻って,そこからおよそC10年を一括りにして話を進めることにする.それぞれの年代を一言で表現するキャッチコピーも付記した.CI1970年代―近代的な角膜疾患の診断と治療の黎明期1970年代の眼科は現在のようなCwhiteCeyeclinicではなく,まだまだCredeyeclinicの様相が強く,多数の角結膜感染症患者が眼科を訪れていた.そして感染性角膜潰瘍,角膜混濁,角膜ジストロフィ,角膜化学腐食,周辺部角膜潰瘍,再発翼状片などが治療に難渋する疾患の主流を占めていた.手術としての角膜移植も技術的にはまだまだ黎明期であり,円錐角膜,血管侵入のない角膜混濁,そして角膜ジストロフィに対しての治療成績がようやく確立しはじめた頃であった.眼科用手術顕微鏡が導入されたのもこの頃であった.眼科全体の研究は白内障の発生機序などに対する眼生理学や生化学が中心であり,角膜の研究についても生理学,生化学が中心で,とくに,三島濟一(東京大学)は,米国での研究を通して,角膜生理学の進歩に大きく貢献した.ただし,生物学や免疫学による疾患病態の解明はほとんどなされていなかった.1960年代,1970年代における進歩として特筆すべきことは,1)涙液動態の理解,2)角膜の透明性にかかわる理論の確立1),3)角膜厚の測定の確立2,3),4)スペキュラーマイクロスコープのプロトタイプの登場,5)ocularsurfaceという概念の提唱4)などであった.このように俯瞰してみると,1970年代は角膜への生理学的アプローチの研究の全盛期であり,角膜の透明性,角膜の膨潤と混濁,角膜厚への理解が深まり,ついには角膜内皮細胞を直接観察するまでに至ったことが重要な発展といえる.ただし,診療については,「手術時に角膜内皮細胞を傷めないように注意する」程度であり,対処療法的な治療しか提供できていなかった.また,角膜ヘルペスに対する抗ウイルス薬であったCidox-uridine(IDU)の点眼薬がC1960年代にCKaufmanらにより開発されたが5),ウイルス非特異的かつ薬剤毒性が強く,角膜ヘルペス感染症の治療に難渋していた時代であった(角膜感染症の項を参照).1978年,京都で国際眼科学会が開催され,世界の多くの新しい医療技術に関する情報に触れ,感嘆したことを覚えている.すなわち,*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学〔別刷請求先〕木下茂:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学感覚器未来医療学C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(11)C1375図11970年代の重症角膜疾患に対する外科的治療は不成功の連続重症の角膜化学腐食の例は角膜上皮幹細胞疲弊症であったが,当時はその理解はなかった.全層角膜移植は術後C3カ月で遷延性上皮欠損を生じて不成功に終わった.Mooren角膜潰瘍の例には口唇粘膜移植術で潰瘍を被覆しようと試みたが,むしろ悪化した.当時,Mooren潰瘍の病態は不明であった.胞にCcentripetalmovementが存在しそうなこと6),角膜創傷治癒における角膜上皮細胞の増殖と伸展・移動メカニズムについてのCXYZ理論の提唱7),そして角膜輪部に角膜上皮幹細胞が存在すること8,9)などの実証へとつながっていった.後年,角膜上皮幹細胞が角膜中央部にも存在することが示された10).化学腐食などの重症Cocularsurface疾患への病態の理解も乏しかったが,少なくとも実験動物レベルでの理解は深まった11).治療現場では,1984年のドナー角膜を用いたCkeratoepithelio-plasty角膜上皮形成術12)が,その臨床現場への応用,ひいては角膜上皮移植という外科的治療概念の確立などに生かされていった.本手術法を用いたCMooren潰瘍に対する根治治療の提唱がなされたのもこの頃である13,14).さらに,特筆すべきは,西田輝夫(大阪大学)による遷延性上皮欠損へのフィブロネクチン点眼の応用などの保存的治療の提唱があげられる15).この研究はペプチド点眼治療の治験へとつながっていった16).臨床的に応用できた知見は「角膜輪部に角膜上皮幹細胞が存在する」「palisadesCofVogtの存在は重要である17)」などである.この延長線上で,現在までに規制当局から承認を得た医薬品,医療機器,再生医療等製品に結びついたものは,培養上皮シート,epikeratophakia角膜,NGF点眼薬18)程度であり,規制当局のハードルの高さを実感する.話題は少しずれるが,アシクロビル眼軟膏の登場により,ヘルペス性角膜炎に起因する栄養障害性潰瘍の患者数が大きく減じたのは福音であった.C2.スペキュラーマイクロスコープの開発と角膜内皮細胞への理解の深化スペキュラーマイクロスコープによるヒト角膜内皮細胞の可視化という概念と理論はC1960年代に遡るが,この機器の開発には日本企業が大きく貢献した.そのプロトタイプが開発されたのはC1979年,そして実際の医療機器として甲南カメラ研究所(コーナン・メディカルの前身)から発表されたのはC1985年のことである.当初のスペキュラーマイクロスコープは接触型であり,角膜上皮にカメラのコーンレンズを接触させて角膜内皮画像を取得した.これは,おそらく医療の現場で生体細胞を直視下で観察した最初の経験であったと思われる.あのときの感動は今も強く覚えている.さらに,世界標準となるヒト角膜内皮細胞のデータの多くは日本人から発せられ,大原国俊(自治医科大学のちに日本医科大学)19),松田司(大阪大学)20)らによって確立された.正常人の角膜内皮は,細胞密度がC2,000個/mmC2以上であること,CV値C0.35以下,六角形細胞比率がC60%以上であることなどが示された.また,白内障手術後に角膜内皮細胞が減少することがスペキュラーマイクロスコープにより経時的に観察され21),角膜内皮細胞と角膜厚,さらには酸素透過性の悪いコンタクトレンズによる角膜内皮細胞減少22)に注目がされはじめたのもこの頃であった.例をあげれば,白内障手術におけるCBSSプラス眼内灌流液の有用性21),コンタクトレンズ装着早期における内皮ブレブ形成などがスペキュラーマイクロスコープ検査により示された23).1993年,非接触型スペキュラーマイクロスコープが臨床現場に登場すると,白内障手術の術前スクリーニング機器として汎用化し,国内ではコモディティ化した.しかし,現在でも米国では異なった状況であることは興味深い.C3.Epikeratophakia―その開発の功罪Epikeratophakiaはドナー角膜を切削して凸レンズを作製し,それを角膜上に載せて,角膜全体の屈折力を増加させるというものであった.今では想像できないかもしれないが,眼内レンズが日常的には使用されていなかった時代に,強い凸レンズのコンタクトレンズの代替として開発されたのである.Epikeratophakiaのためにドナー角膜を凍結させて切削するクライオレースという機器が開発され,精緻に計算して凸レンズの角膜実質片が作製された.サルを用いた実験が繰り返され,最後には医療用製品として日本でも輸入販売された.しかし,1985年,眼内レンズが厚生労働省により承認され,また,いくつかの細胞生物学的な問題が生じ,この製品は医療現場から消失した.およそC10年の歳月をかけて米国で開発されたが24,25),時代のアンメットニーズの変化により消え去った代表的な医療機器(クライオレース)と医療製品(角膜レンズ)である.われわれは,常に,最終ゴールの理念とイメージが正しいかどうかをしっか(13)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1377りと考えておく必要があることを示した事象であった.ただし,epikeratophakiaやCkeratophakiaという一見乱暴にみえる角膜手術手技の開発から,角膜を切削するCphotorefractivekeratectomy(PRK),そしてClaserCinsitukeratomileusis(LASIK)といった角膜屈折矯正手術が発展してきたのも事実である.C4.RK手術からエキシマレーザー角膜屈折矯正手術へ放射状角膜切開(radialkeratotomy:RK)手術は,1940年代に佐藤勉(順天堂大学)により考案された円錐角膜に対する角膜後面一文字切開術,そして近視に対する角膜前後面放射状切開術,いわゆるCSatoC’sCopera-tionに由来する26).当時は角膜内皮細胞のもつ生理的ポンプ機能が理解されておらず,後年,多くの水疱性角膜症を発症した.しかし,佐藤の角膜扁平化による近視治療という発想は欧米で高く評価されている.1970年,旧ソ連邦のCFyodorovによって始められたCRK手術はCanteriorCradialkeratotomyと称され,角膜前面からの放射状切開であり,周辺部に向けてC8.16本の深い切開を施すものであった27).このためCRKは角膜内皮には安全と考えられた.当初はこの手術が近視矯正に有効であるかどうかが疑問視され,米国ではCNationalCEyeInstitute(NEI)の研究費により大規模な前向き試験(PERKStudy)が行われた.これが眼科領域で行われた最初の大規模なCprospectivestudyであったといわれている.この試験で近視矯正効果は実証されたが,その後の長期経過観察により継続的な遠視化が生じえること,日内の屈折変動が生じえることなどが明らかとなった28,29).このためCRKは徐々に衰退し,エキシマレーザー角膜矯正手術の開発に向かっていった.フッ化アルゴンを用いたC193Cnmのエキシマレーザーは,当初は角膜切開用として開発されたが,その後,角膜表面切削用のアルゴリズムが開発され,phototherapeuticCkeratecto-my(PTK),そしてCPRKとして用いられるようになっていった.近視患者にCPRKが世界で初めて行われたのはC1988年頃のことである.1980年代の日本では,mini-RKとエキシマレーザー治験が限定的に行われた程度であった.5.角膜形状解析の始まり角膜屈折矯正手術の本格的な始まりもあり,角膜前面カーブに焦点をあてた角膜形状解析装置の開発が始まった.その最初の頃の機器の作製には日本が大きく関与した.プラチドータイプの角膜形状解析としてフォトケラトスコープ,ビデオケラトスコープが開発され,円錐角膜の自動診断ツール(Klyce&Maeda)も搭載された30).ある意味の人工知能(arti.cialintelligence:AI)診断の走りといえるかもしれない.この開発には前田直之(大阪大学)が大きく貢献した.その後,現在まで続くスリットスキャン,Scheimp.ugによる角膜前後面形状解析への深化31),そして前眼部三次元光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)画像解析装置の開発へとつながっていった.とくに,前眼部COCTは安野嘉晃,大鹿哲郎(筑波大学)らの研究による日本発の成果である32).C6.角膜保存液の開発角膜移植が臨床現場にもたらされたことと相まって,1960年代後半から角膜保存液の開発ブームが起こった.日本ではCEP-I,その後CEP-IIとよばれる液体保存液33)を用いた全眼球保存が行われていたが,米国ではC1974年CMKCmedium34),1978年Cmodi.edCMKCmedium35)という強角膜片保存液が開発された.いずれもC4℃保存であった.この保存液はデキストランで膠質浸透圧を調整することを特徴とし,ドナー強角膜片のおよそC1週間の保存が可能となったため,角膜移植は緊急手術から予定手術として対応できる手術となった.その後,1980年代になってCK-Sol36)そしてCOptisol37)というより優れた角膜保存液が開発された.これら角膜保存液のエッセンスは保存されたドナー角膜の膨潤を膠質浸透圧で調整するというところであり,Optisolはデキストランとコンドロイチン硫酸を含有している.このコンドロイチン硫酸を用いるというアイデアは眞鍋禮三(大阪大学)らが開発した角膜保存液33)から発していると聞き及んでいる.日本でこの保存液を使用した強角膜片保存が一般的に行われるようになったのはC1990年代になってからである.一方,欧州では,37℃の器官培養法による角膜保存が開発され,現在まで続いている.1378あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(14)1960197019801990200020102020大角膜内皮移植この評価は筆者の私見である図2角膜疾患への外科的治療のブームそれぞれの時代における多くの医師・医学者が興味を示した手術方法を模式化した.これは興味の程度であって,手術件数を意味しているわけではない.評価は筆者の私見である.トの作製と,そのシートを用いたC2例の手術成績が報告された44).これをきっかけとして,国内外で培養角膜上皮シートの開発と移植が行われるようになった45,46).日本の角膜再生医療の夜明けでもあった(図2).C2.角膜ジストロフィの遺伝子解析1990年代まで,角膜ジストロフィの研究は表現型に関する考察が主流であり,金井淳(順天堂大学)らの眼病理研究者により数多くの角膜ジストロフィの病理所見が明らかになっていた.しかし,1996年,Munierらにより重要な角膜ジストロフィである顆粒状角膜ジストロフィ,Reis-Bucklers角膜ジストロフィ,格子状角膜ジストロフィのそれぞれのジストロフィがCTGFBI遺伝子の変異で生じていることが報告された47).これは角膜ジストロフィとして表現型が異なるものが同一遺伝子の変異の部位が異なるだけであるということを示したものであり,責任遺伝子の同定もさることながら,遺伝子と表現型の関係に衝撃を受けたことを覚えている.さらに顆粒状角膜ジストロフィでは,I型とCII型(Avellinoジストロフィ)の遺伝子変異部位が異なることが示された.一般にはCI型は欧米に多いが,日本人と韓国人の顆粒状角膜ジストロフィはCII型が大半であることが判明した.この事実は人類遺伝学としても非常に興味深いことであった.さらに,角膜上皮細胞を構成するケラチンがCK3とCK12であり,これらがCMeesmann角膜ジストロフィの原因遺伝子であること48),膠様滴状角膜ジストロフィの原因遺伝子がCTACSTD2であること49)などが次々と発見された.そしてCTACSTD2が角膜上皮細胞のバリア機能維持に大いに関係していることが明らかとなった50).しかし,これらの発見が角膜ジストロフィの新規治療法に必ずしも結びついたわけではなく,治療法としてはエキシマレーザーCPTK51),電気分解法52)そしてソフトコンタクトレンズ連続装用などが推奨されていた.時を経て,2008年,IC3Dとして角膜ジストロフィの包括的な医学情報が示された(2015年に改訂)53).蛇足になるが,分子生物学的診断法が臨床現場の診断に応用されはじめたのもこの頃である.ウイルス性角膜炎疑いの涙液や前房水を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PolymeraseCchainreaction:PCR)によるウイルスDNAの検出診断はその最たるものであるC3.角膜移植免疫についての理解の深化角膜移植における移植免疫の考え方は,動物実験を用いてであるが,1990年代に大きく進展した.とくにStreilein一派54)とCNiedercorn一派55),そしてそこに留学した日本人研究者たちにより,マウスを用いた角膜移植免疫の知識の蓄積がなされた.しかし,臨床へのフィードバックは多くなく,角膜移植の臨床は角膜層状移植の方向へと進展していった.C4.エキシマレーザーを用いた角膜治療世界的には,エキシマレーザーを用いたCPRKの開発と角膜形状解析が急激に進歩し,角膜切削用の多くのアルゴリズムが開発された.また,エキシマレーザー機器の特許紛争,さらにはCpillarpointの設定によるケースごとの使用料発生などが始まった.このことは医学の発展とは直接に関係しないかもしれないが,企業の眼科医療機器使用に対する考え方に大きな影響を与えた.マイクロケラトームで角膜を切開し,角膜実質をエキシマレーザーで切削するというCLASIKが本格的に登場したのもこの時期である.この手術手技が予想に反して角膜には負担が少ないことに驚きを感じたことを覚えている.国内ではC2000年にCPRKが厚生労働省により承認され,LASIKも本格的に始まった.CIV2000年代―角膜内皮移植の始まり2000年代は,一言でいえば,角膜内皮移植という新しい手術方法が登場した時代といえる.この大きな潮流は現在まで継続しており,Fuchs角膜ジストロフィを始めとする角膜内皮機能不全への有効な治療法がみえてきた時代ともいえる.レーザー虹彩切開術による水疱性角膜症の発症が取りざたされた時代でもある.OcularCsurfacereconstructionでは培養上皮シート移植や羊膜移植が注目され,Stevens-Johnson症候群などの重症Cocularsurface疾患にも外科的対応を行うようになってきた.Ocularsurfaceの炎症性疾患,とくにアレルギー疾患やマイボーム腺炎関連疾患にも新たな治療の考え方が提唱されはじめた時代でもあった.以下に各項目につ1380あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(16)いて要約する.C1.Ocularsurfacereconstructionの発展1990年代に始動したCocularCsurfaceCreconstructionはさらに発展を遂げることになる.とくに,重症Cocularsurface疾患に対して,他家培養角膜上皮シート移植の作製とその応用にも目が向けられた46).一方,2000年初頭から自家口腔粘膜上皮細胞を用いた粘膜上皮シート移植が開発され,化学腐食のみならず,眼類天疱瘡,そしてCStevens-Johnson症候群にまで応用されるようになった56,57).従来,Stevens-Johnson症候群への外科的治療は禁忌と考えられていたこともあり,患者にはそれなりの福音をもたらした.また,重症Cocularsurface疾患に対しての疾患グレード分類なども提唱された58).C2.角膜内皮移植,深層角膜移植の始まり深層角膜移植(deepanteriorlamellarkeratoplasty:DALK)の概念の発展には日本が大きく関与した.まず,1990年代後半に,杉田潤太郎(杉田眼科病院)が円錐角膜に対するCDALKをリバイバルさせたことが大きなきっかけとなった.全層角膜移植(penetratingCkerato-plasty:PKP)とCDALKの手術後の角膜内皮細胞密度を長期に比較してCDALKの利点を示した59).島﨑潤,榛村重人(慶應義塾大学)らにより改良されたこの手術法は60),シンガポールそして欧州へと広がっていった60).そしてC1990年代から広く受け入れはじめられた角膜上皮移植などとともに,層別角膜移植という概念が確立していった.層別角膜移植のもっとも代表的なものは角膜内皮移植である.この技術開発は欧州から発された.とくに,CMelles61,62),Busin63)そしてCKruse64)らによる斬新な手術手技の確立,そしてそれと呼応するように米国のCTerry65),Price66),Gorovoy67)らの技術開発力が生かされて,大きな発展を遂げた.とくに米国と欧州ではFuchs角膜内皮ジストロフィの疾患頻度が非常に高く,このことが角膜内皮移植の発展の大きな推進力になったものと思われる.2006年,日本では小林彰(金沢大学)がCDescemetstrippingautomatedendothelialkera-toplasty(DSAEK)を国内でいち早く始め,国内の多くの角膜移植術者も水疱性角膜症の治療をCPKPから角膜内皮移植に変更していった.C3.レーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症わが国では,1990年代後半からレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)後に水疱性角膜症を生じる例が報告されはじめ,2000年に入るとその数は増加の一途をたどった.LI後に水疱性角膜症に陥る例は緑内障発作眼に限らず,予防的レーザー処置でもみられたことから,レーザー照射が直接に,あるいは間接に関与していることが明らかになった68).その発生機序としては,前房内炎症説69)や機械的ジェット流説70)などが提唱された.アジア,とくに日本に多く発症した,ある種の医原性疾患であり,エピデミックな状態が生じたことが想像される71).緑内障診療ガイドラインにCLIの方法が記載されてから発症頻度は激減した.現在では,狭隅角眼にはCLIよりは白内障手術で対応することが多くなってきている.確立されたと考えられていた治療法にも落とし穴があり得ることを喚起した事例であった.C4.Ocularsurface炎症性疾患の新たな考え方アトピー性角膜炎や春季カタルの治療法には難渋してきたが,2006年にC0.1%シクロスポリン点眼が72),そしてC2008年にC0.1%タクロリムス点眼が承認され,新たな治療方法が導入された.実際,シクロスポリン点眼やタクロリムス点眼が使用できるわが国は,重症アレルギー性疾患へのよりよい取り組みができるようになっており73).世界でもっとも進んだ診療ができているはずである.さらに,マイボーム腺炎との関連で角膜フリクテンなどが生じるマイボーム腺炎角結膜上皮症が報告され,難治な小児眼瞼角結膜炎の治療法に夜明けが訪れた74).C5.エキシマレーザー,フェムト秒レーザーの角膜への応用193nmのエキシマレーザーは,1998年にCPTK,2000年にCPRK,そしてC2006年にCLASIKに使用することが国内で承認され,角膜疾患や近視矯正に幅広く応用されるようになってきた.一方,近赤外線レーザーで角膜切開用のフェムト秒レーザーもC2010年,厚生労働省(17)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1381OcularSurfaceへの上皮移植2014201520202021図3角膜層別移植から再生医療への道おもな手術方法が始められた年代を示した.青印は新規手術法,赤印は臨床研究として開始された再生医療,緑印は厚生労働省あるいはCEMAに承認された再生医療等製品.1960197019801990200020102020大この評価は筆者の私見である図4角膜基礎研究のブーム筆者の私見を表現した.角膜研究のブームは,大きくは生理学からはじまり,細胞生物学,分子遺伝学,分子生物学,そして再生医学へと移っているように思われる.角膜領域の免疫学はC2000年代をピークにするが,他領域と比べると必ずしも活発ではない.NEIの研究費配分に影響を受けるところが大きく,これからはCAI研究が大きく伸びる可能性がある.も発表された90,91)(図3).C4.マイボーム腺機能不全,マイボーム腺炎の治療Ocularsurface疾患の理解が深まるにつれて,MGD,そしてマイボーム腺炎のCocularsurface疾患に対する関与が着目されるようになってきた.すなわち,MGD,前部眼瞼炎,そして後部眼瞼炎(マイボーム腺炎)の的確な診断と治療,角結膜所見との対比が注目されるようになってきた92).欧米ではCintensepulsedClight(IPL)やClipi.owCTMに限らず,さまざまな対処療法が提案されており,さらにはアジスロマイシンをはじめとする抗菌薬治療など,新しい治療法が考案されている.2010年,天野史郎(東京大学)らを中心にしてマイボーム機能不全についての診断基準93)が作成された.現在,診療のガイドラインの作成が進行中である.C5.人工角膜最後に人工角膜である.おそらくC1970年代ごろから数多くの人工角膜が提案され,臨床研究もなされてきた.わが国で代表的なものは早野三郎(岐阜大学)らが開発した人工角膜である94).世界でみると,風雪に耐えて現在もある程度の信頼を勝ち得ている人工角膜としては,OOKP95)とCBostonCKeratoprosthesis96,97)がある.前者は,手術手技は複雑でむずかしいが,術後成績は安定しており重症疾患には有用とされている.後者はDohlmannが心血を注いで開発してきたものであり,それなりの有用性が示されている.とくにこのC10年間は安定した成績の報告がなされている.解決すべき問題は感染症と緑内障である.そもそも露出型の人工臓器には上皮との折り合いを解決する必要がある.術後長期にわたって成功する可能性があるとすれば埋め込み型であろうと私は考えている.その他,AlphaCorCTM,KeraKlearCTMなど新規の人工角膜も提唱されてきたが98,99),術後合併症を克服できていない.日本では,現在のところ,視力改善をめざした人工角膜で承認されたものはない.CVIこれからこれからの近未来,最先端の角膜診療として模索されていくものは,ocularsurface疾患と角膜内皮疾患に対する角膜再生医療,円錐角膜への新しい外科的治療,そしてマイボーム腺炎を含む眼瞼炎に対する新規治療法などであろうと予想している.いずれの治療法にも外科的アプローチと内科的アプローチが考えられる.外科的アプローチとしては角膜再生医療が88,100),内科的アプローチとしては新規薬剤開発が中心となりそうであるが,ここに遺伝子治療が絡まってくるかどうかは定かではない.日本の眼科医そして医学者が新規治療の開発に大きな期待をもって向かっていってほしいものである(図4).なお本稿では,100のヒストリックにキーとなりそうな論文,そして『日本眼科学会雑誌』に掲載された角膜関係の特別講演と宿題報告(評議員会指名講演)の論文リストを掲載した.その意図するところは,この項で記載したことを想い起こす糸口として価値のある,しかし,時間の経過とともに検索しにくくなる論文群の覚え書きである.総説も多く引用しているので,何かのときにご参照いただければ幸いである.文献1)MauriceD:TheCstructureCandCtransparencyCofCtheCcor-nea.CJPhysiolC136:263-286,C19572)MishimaCS,CHedbysBO:MeasurementCofCcornealCthick-nessCwithCtheCHaag-StreitCpachometer.CArchCOphthalmolC80:710-713,C19683)MishimaS:Clinicalinvestigationsonthecornealendothe-lium.AmJOphthalmol93:1-29,C19824)ThoftCRA,CFriendJ(eds):TheCocularCsurface.CInterna-tionalophthalmologyclinics,Vol19,Little,BrownandCo.,Boston,19795)KaufmanHE,NesburnAB,MaloneyED:IDUtherapyofherpessimplex.ArchOphthalmolC67:583-591,C19626)KinoshitaS,FriendJ,ThoftRA:SexchromatinofdonorcornealCepitheliumCinCrabbits.CInvestCOphthalmolCVisCSciC21:434-441,C19817)ThoftCRA,CFriendJ:TheCX,CY,CZChypothesisCofCcornealCepithelialCmaintenance.CInvestCOphthalmolCVisCSciC24:C1442-1443,C19838)SchermerCA,CGalvinCS,CSunTT:Di.erentiation-relatedCexpressionCofCaCmajorC64KCcornealCkeratinCinCvivoCandCinCcultureCsuggestsClimbalClocationCofCcornealCepithelialCstemCcells.CJCellBiol103:49-62,C19869)CotsarelisG,ChengSZ,DongGetal:Existenceofslow-cyclingClimbalCepithelialCbasalCcellsCthatCcanCbeCpreferen-tiallyCstimulatedCtoproliferate:implicationsConCepithelialC1384あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(20)stemcells.CellC57:201-209,C198910)MajoF,RochatA,NicolasMetal:Oligopotentstemcellsaredistributedthroughoutthemammalianocularsurface.NatureC456:250-254,C200811)KinoshitaCS,CKiorpesCTC,CFriendCJCetal:LimbalCepitheli-umCinCocularCsurfaceCwoundChealing.CInvestCOphthalmolCVisSciC23:73-80,C198212)ThoftRA:Keratoepithelioplasty.CAmCJCOphthalmolC97:C1-6,C198413)KinoshitaS,OhashiY,OhjiMetal:Long-termresultsofkeratoepithelioplastyCinCMooren’sCulcer.COphthalmologyC98:438-445,C199114)木下茂,大橋裕一:Mooren潰瘍の病態と治療.眼紀C41:2055-2061,C199015)NishidaT,NakagawaS,ManabeR:Clinicalevaluationof.bronectinCeyedropsConCepithelialCdisordersCafterCherpeticCkeratitis.OphthalmologyC92:213-216,C198516)NishidaT,InuiM,NomizuM:Peptidetherapiesforocu-larCsurfaceCdusturbancesCbasedConC.bronectin-integrinCinteractions.CProgRetinEyeResC47:38-63,C201517)木下茂,切通彰,大路正人ほか:PalisadesofVogtの消失する角膜疾患.臨眼40:363-366,C198018)BoniniCS,CLambiaseCA,CRamaCPCetal:TopicalCtreatmentCwithCnerveCgrowthCfactorCforCneurotrophicCkeratitis.COph-thalmology107:1347-1351,C200019)大原国俊:ヒト生体角膜内皮の細部接合変化.日眼C92:C705-713,C198820)MatsudaM,YeeRW,EdelhauserHF:ComparisonofthecornealendotheliuminanAmericanandaJapanesepopu-lation.CArchOphthalmolC103:68-70,C198521)MatsudaCM,CKinoshitaCS,COhashiCYCetal:ComparisonCofCthee.ectsofintraocularirrigatingsolutionsonthecornealCendotheliuminintraocularlensimplantation.BrJOphthal-molC75:476-479,C199122)MacRaeCSM,CMatsudaCM,CShellansCSCetal:TheCe.ectsCofChardCandCsoftCcontactClensesConCtheCcornealCendothelium.CAmJOphthalmol102:50-57,C198623)ZantosCSG,CHoldenBA:TransientCendothelialCchangesCsoonafterwearingsoftcontactlenses.AmJOptomPhysi-olOptC54:856-858,C197724)WerblinCTP,CKaufmanCHE,CFriedlanderCMHCetal:ACpro-spectiveCstudyCofCtheCuseCofChyperopicCepikeratophakiaCgraftsforthecorrectionofaphakiainadults.Ophthalmol-ogyC88:1137-1140,C198125)McDonaldCMB,CKaufmanCHE,CAquavellaCJVCetal:TheCnationwidestudyofepikeratophakiaforaphakiainadults.AmJOphthalmol103:358-365,C198726)SatoT,AkiyamaK,ShibataH:Anewsurgicalapproachtomyopia.AmJOphthalmolC36:823-829,C195327)FyodorovCSN,CDurnevVV:OperationCofCdosagedCdissec-tionofcornealcircularligamentincasesofmyopiaofmildCdegree.AnnOphthalmolC11:1885-1890,C197928)WaringCGO,CLynnCMJ,CGelenderCHCetal:ResultsCofCtheCprospectiveevaluationofradialkeratotomy(PERK)studyoneyearaftersurgery.Ophthalmology92:177-198,C198529)WaringCGO,CLynnCMJ,CMcDonnellPJ:ResultsCofCtheCpro-spectiveevaluationofradialkeratotomy(PERK)study10yearsCafterCsurgery.CArchCOphthalmolC112:1298-1308,C199430)MaedaN,KlyceSD,SmolekMKetal:Automatedkerato-conusCscreeningCwithCcornealCtopographyCanalysis.CIOVSC35:2749-2757,C199431)FengMT,BelinMW,AmbrosioRetal:InternationalvalC-uesCofCcornealCelevationCinCnormalCsubjectsCbyCrotatingCScheimp.ugCcamera.CJCCataractCRefractCSurgC37:1817-1821,C201132)FukudaCS,CKawanaCK,CYasunoCYCetal:AnteriorCocularCbiometryCusingC3-dimensionalCopticalCcoherenceCtomogra-phy.OphthalmologyC116:882-889,C200933)水川孝,眞鍋禮三:角膜移植─とくに液体保存を主張する根拠について.眼紀19:1310-1318,C196834)McCareyCBE,CKaufmanHE:ImprovedCcornealCstorage.CIOVSC13:165-173,C197435)WaltmanCSR,CPalmbergPF:HumanCpenetratingCkerato-plastyusingmodi.edM-Kmedium.OphthalmicSurgC9:C48-50,C197836)KaufmanHE,VarnellED,KaufmanSetal:K-solcornealpreservation.AmJOphthalmol100:299-303,C198537)LindstromRL,KaufmanHE,DebraLetal:Optisolcorne-alstoragemedium.AmJOphthalmol114:345-356,C199238)GipsonIK:GobletCcellsCofCtheconjunctiva:aCreviewCofCrecent.ndings.ProgRetinEyeResC54:49-63,C201639)KenyonCKR,CTsengSC:LimbalCautograftCtransplantationCforCocularCsurfaceCdisorders.COphthalmologyC96:709-722,C198940)KimCJC,CTsengSC:TransplantationCofCpreservedChumanCamnioticmembraneforsurfacereconstructioninseverelydamagedrabbitcorneas.Cornea14:473-484,C199541)TsubotaK,SatakeY,KaidoMetal:Treatmentofsevereocular-surfaceCdisordersCwithCcornealCepithelialCstem-cellCtransplantation.NEnglJMedC340:1697-1703,C199942)ShimazakiCJ,CShimmuraCS,CTsubotaK:DonorCsourceCa.ectsCtheCoutcomeCofCocularCsurfaceCreconstructionCinCchemicalCorCthermalCburnsCofCtheCcornea.COphthalmologyC111:38-44,C200443)MovahedanCA,CCheungCAY,CEslaniCMCetal:Long-termCoutcomesofocularsurfacestemcellallografttransplanta-tion.CAmJOphthalmol184:97-107,C201744)PellegriniCG,CTraversoCCE,CFranziCATCetal:Long-termCrestorationCofCdamagedCcornealCsurfacesCwithCautologousCcultivatedcornealepithelium.LancetC349:990-993,C199745)TsaiRJ,LiLM,ChenJK:Reconstructionofdamagedcor-neasCbyCtransplantationCofCautologousClimbalCepithelialCcells.NEnglJMed343:86-93,C200046)KoizumiN,InatomiT,SuzukiTetal:Cultivatedcornealepithelialstemcelltransplantationinocularsurfacedisor-(21)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1385ders.OphthalmologyC108:1569-1574,C200147)MunierCFL,CKorvatskaCE,CDjemaiCACetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophiesNatGenet15:247-251,C199748)IrvineCAD,CCordenCLD,CSwenssonCOCetal:MutationsCinCcornea-speci.cCkeratinCK3CorCK12CgenesCcauseCMees-mann’sCcornealCdystrophy.CNatureCGenetC16:184-187,C199749)TsujikawaM,KurahashiH,TanakaTetal:Identi.cationofCtheCgeneCresponsibleCforCgelatinousCdrop-likeCcornealCdystrophy.NatGenetC21:420-423,C199950)NakatsukasaCM,CKawasakiCS,CYamasakiCKCetal:Tumor-associatedcalciumsignaltransducer2isrequiredforthepropersubcellularlocalizationofclaudin1and7.Implica-tionCinCtheCpathogenesisCofCgelatinousCdrop-likeCcornealCdystrophy.AmJPathol177:1344-1355,C201051)HiedaCO,CKawasakiCS,CYamamuraCKCetal:ClinicalCout-comesCandCtimeCtoCrecurrenceCofCphototherapeuticCkera-tectomyinJapan.Medicine(Baltimore)C98:e16216,C201952)MashimaCY,CKawaiCM,CYamadaM:CornealCelectrolysisCforCrecurrenceCofCcornealCstromalCdystrophyCafterCkerato-plasty.BrJOphthalmolC86:273-275,C200253)WeissJS,MollerHU,AldaveAJetal:IC3Dclassi.cationofCcornealCdystrophies-editionC2.CCorneaC34:117-159,C201554)StreileinJW:OcularCimmuneprivilege:therapeuticCopportunitiesCfromCandCexperimentCofCnature.CNatureImmunolC3:879-889,C200355)NiederkornJ:CornealCtransplantationCandCimmuneCprivi-lege.CIntRevImmunolC32:57-67,C201356)NakamuraCT,CInatomiCT,CSotozonoCCCetal:Transplanta-tionCofCcultivatedCautologousCoralCmucosalCepithelialCcellsCinpatientswithsevereocularsurfacedisorders.8:1280-1284,C200457)NishidaCK,CYamatoCM,CHayashidaCYCetal:CornealCrecon-structionCwithCtissue-engineeredCcellCsheetsCcomposedCofCautologousCoralCmucosalCepithelium.CNCEnglCJCMedC351:C1187-1196,C200458)SotozonoCC,CAngCLP,CKoizumiCNCetal:NewCgradingCsys-temCforCtheCevaluationCofCchronicCocularCmanifestationsCinCpatientsCwithCStevens-JohnsonCsyndrome.COphthalmologyC114:1294-1302,C200759)SugitaCJ,CKondoJ:DeepClamellarCkeratoplastyCwithCcom-pleteCremovalCofCpathologicalCstromaCforCvisionCimprove-ment.BritJOphthalmolC81:184-188,C199760)ShimazakiCJ,CShimmuraCS,CIshiokaCMCetal:RandomizedCclinicalCtrialCofCdeepClamellarCkeratoplastyCvsCpenetratingCkeratoplasty.AmJOphthalmolC134:159-165,C200261)MellesCGR,CEgginkCFA,CLanderCFCetal:ACsurgicalCtech-niqueforposteriorlamellarkeratoplasty.CorneaC17:618-626,C199862)MellesGR:PosteriorClamellarkeratoplasty:DLEKCtoCDSEKtoDMEK.CorneaC25:879-881,C200663)BusinCM,CBhattCPR,CScorciaV:ACmodi.edCtechniqueCforCdescemetmembranestrippingautomatedendothelialkera-toplastytominimizeendothelialcellloss.ArchOphthalmol126:1133-1137,C200864)KruseCFE,CLaaserCK,CCursiefenCCCetal:ACstepwiseCapproachCtoCdonorCpreparationCandCinsertionCincreasesCsafetyCandCoutcomeCofCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CorneaC30:580-587,C201165)TerryCMA,COusleyPJ:DeepClamellarCendothelialCkerato-plastyCinCtheC.rstCUnitedCStatespatients:earlyCclinicalCresults.CCorneaC20:239-243,C200166)PriceCFWCJr,CPriceMO:Descemet’sCstrippingCwithCendo-thelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcorne-altransplant.JCRefractSurgC21:339-345,C200567)GorovoyMS:Descemet-strippingCautomatedCendothelialCkeratoplasty.CorneaC25:886-889,C200668)島﨑潤:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症─国内外の状況―.あたらしい眼科24:851-853,C200769)HigashiharaCH,CSotozonoCC,CYokoiCNCetal:TheCblood-aqueousCbarrierCbreakdownCinCeyesCwithCendothelialCdecompensationafterargonlaseriridotomy.BrJOphthal-molC95:1032-1034,C201170)YamamotoCY,CUnoCT,CShisidaCKCetal:DemonstrationCofCaqueousCstreamingCthroughCaClaserCiridotomyCwindowCagainstCtheCcornealCendothelium.CArchCOphthalmolC124:C387-393,C200671)AngCLPK,CHigashiharaCH,CSotozonoCCCetal:ArgonClaserCiridotomy-inducedCbullousCkeratopathy-ACgrowingCprob-leminJapan.BritJOphthalmolC91:1613-1615,C200772)大橋裕一,大野重昭:抗アレルギー点眼薬が効果不十分な春季カタルに対するC0.1%CDE-076(シクロスポリン)点眼薬の臨床評価.あたらしい眼科24:1537-1546,C200973)MiyazakiCD,CFukushimaCA,COhashiCYCetal:Steroid-spar-ingCe.ectCof0.1%CtacrolimusCeyeCdropCforCtreatmentCofCshieldulcerandcornealepitheliopathyinrefractoryaller-gicoculardiseases.OphthalmologyC124:287-294,C201774)SuzukiCT,CMitsuishiCY,CSanoCYCetal:PhlyctenularCkerati-tisCassociatedCwithCmeibomitisCinCyoungCpatients.CAmJOphthalmol140:77-82,C200575)WenCD,CMcAlindenCC,CFlitcroftCICetal:PostoperativeCe.cacy,Cpredictability,Csafety,CandCvisualCqualityCofClaserCcornealrefractivesurgery:anetworkmeta-analysis.AmJOphthalmolC178:65-78,C201776)FautschMP,WiebenED,BaratzKHetal:TCF4-mediat-edCFuchsCendothelialCcornealdystrophy:InsightsCintoCaCcommonCtrinucleotideCrepeat-associatedCdisease.CProgCRetinEyeResC81:100883,C202177)BorkarCDS,CVeldmanCP,CColbyKA:TreatmentCofCFuchsCendothelialCdystrophyCbyCDescemetCstrippingCwithoutCendothelialkeratoplasty.CorneaC35:1267-1273,C201678)SpoerlCE,CMrochenCM,CSlineyCDCetal:SafetyCofCUVA-ribo.avinCcross-linkingCofCtheCcornea.CCorneaC26:385-389,C2007C1386あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(22)79)DijkCVK,CLiarakosCVS,CParkerCJCetal:BowmanClayerCtransplantationCtoCreduceCandCstabilizeCprogressive,CadvancedCkeratoconus.COphthalmologyC122:909-917,C201580)AlioCJL,CBarrioCJLA,CZarifCMEICetal:RegenerativeCsur-geryCofCtheCcornealCstromaCforCadvancedkeratoconus:C1-yearoutcomes.AmJOphthalmolC203:53-68,C201981)KohS,AmbrosioRJr,MaedaNetal:Evidenceofcorne-alCectasiasusceptibility:aCnewCde.nitionCofCformeCfrusteCkeratoconus.JCataractRefractSurgC46:1570-1572,C202082)MeekKM,KnuppC:Cornealstructureandtransparency.ProgRetinEyeResC49:1-16,C201583)RamaCP,CMatuskaCS,CPaganoniCGCetal:LimbalCstem-cellCtherapyCandClong-termCcornealCregeneration.CNCEnglCJCMed363:147-155,C201084)OieCY,CNishidaK:CornealCregenerativeCmedicine.CRegenCTherC5:40-45,C201685)SotozonoCC,CInatomiCT,CNakamuraCTCetal:VisualCimprovementaftercultivatedoralmucosalepithelialtrans-plantation.OphthalmologyC120:193-200,C201386)KomaiCS,CInatomiCT,CNakamuraCTCetal:Long-termCout-comeCofCcultivatedCoralCmucosalCepithelialCtransplantationCforfornixreconstructioninchroniccicatrisingdiseases.BrCJCOphthalmoldoi:10.1136bjophthalmol-2020-318547,C202187)NakamuraT,InatomiT,SotozonoCetal:OcularsurfacereconstructionCusingCstemCcellCandCtissueCengineering.CProgRetinEyeResC51:187-207,C201688)KinoshitaCS,CKoizumiCN,CUenoCMCetal:InjectionCofCcul-turedcellswithaROCKinhibitorforbullouskeratopathy.NEnglCJMedC378:995-1003,C201889)BasuS,SurekaSP,ShanbhagSSetal:Simplelimbalepi-thelialtransplantation:long-termclinicaloutcomesin125casesCofCunilateralCchronicCocularCsurfaceCburns.COphthal-mologyC123:1000-1010,C201690)DengSX,BorderieV,ChanCCetal:Globalconsensusonde.nition,Cclassi.cation,Cdiagnosis,CandCstagingCofClimbalCstemcellde.ciency.CorneaC38:364-375,C201991)DengSX,KruseF,GomesJAPetal:GlobalconsensusontheCmanagementCofClimbalCstemCcellCde.ciency.CCorneaC39:1291-1302,C202092)SuzukiCT,CTeramukaiCS,CKinoshitaS:MeibomianCglandsCandCocularCsurfaceCin.ammation.COcularCSurfC13:133-149,C201593)天野史郎ほか:マイボーム腺機能不全ワーキンググループ.マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科C27:627-631,C201094)早野三郎:人工角膜移植の臨床(長期成績).日眼会誌C75:C1404-1407,C197195)FalcinelliCG,CFalsiniCB,CTaloniCMCetal:Modi.edCosteo-odonto-keratoprosthesisCforCtreatmentCofCcornealCblind-ness:long-termCanatomicalCandCfunctionalCoutcomesCinC181cases.CArchOphthalmolC123:1319-1329,C200596)AhmadCS,CMathewsCPM,CLindsleyCKCetal:BostonCtypeC1Ckeratoprosthesisversusrepeatdonorkeratoplastyforcor-nealgraftfailure:asystematicreviewandmeta-analysis.Ophthalmology123:165-177,C201697)SrikumaranCD,CMunozCB,CAldaveCAJCetal:Long-termCoutcomesofbostontype1keratoprosthesisimplantation:CaCretrospectiveCmulticenterCcohort.COphthalmologyC121:C2159-2164,C201498)HicksCCR,CCrawfordCGJ,CDartCJKGCetal:AlphaCor:clini-caloutcomes.CorneaC25:1034-1042,C200699)AlioCJL,CAbdelghanyCAA,CAbu-MustafaCSKCetal:ACnewepidescemeticCkeratoprosthesis:pilotCinvestigationCandCproofCofCconceptCofCaCnewCalternativeCsolutionCforCcornealCblindness.BrJOphthalmolC99:1483-1487,C2015100)HayashiCR,CIshikawaCY,CSasamotoCYCetal:Co-ordinatedCoculardevelopmentfromhumaniPScellsandrecoveryofcornealfunction.Nature531:376-380,C2016参考文献(付録)『日本眼科学会雑誌』に掲載された角膜関係の特別講演と宿題報告(評議員会指名講演)の論文で本稿の内容に関係する可能性のあるものを列記した.いずれも先達とその関係者の研究の集大成であり,示唆に富む内容を多く含んでいる1)中村康:特別講演.角膜移植術の基礎的研究と其の臨床的応用に就いて.日眼会誌54:251-272,C19502)桑原安治:宿題報告.全層角膜移植のための長時間眼球保存に関する研究.日眼会誌69:1751-1840,C19653)筒井純:宿題報告.角膜移植における病的移植片の諸問題.日眼会誌69:1841-1870,C19654)早野三郎:宿題報告.人工角膜移植.日眼会誌C69:1871-1902,C19655)水川孝:特別講演.涙の生理.日眼会誌C75:1953-1973,C19716)国友昇:特別講演.人結膜の微小じゅんかん.日眼会誌C76:1344-1355,C19727)内田幸男:宿題報告.角膜ヘルペス─主として診断学的立場から.日眼会誌76:1391-1413,C19728)北野周作:宿題報告.角膜ヘルペス─主として形態学的立場から.日眼会誌76:1414-1434,C19729)小林俊策:宿題報告.角膜ヘルペス─主としてウイルス学的立場から.日眼会誌76:1454-1471,C197210)三島濟一:特別講演.角膜内皮細胞層の生理と病理.日眼会誌77:1736-1759,C197311)三井幸彦:特別講演.角膜感染症.日眼会誌C79:1651-1664,C197512)真鍋禮三:宿題報告.角膜上皮障害に対する新しい治療の試み-フィブロネクチンの基礎と臨床.日眼会誌C88:401-413,C198313)糸井素一:宿題報告.角膜疾患の診断と治療─円錐角膜を中心として─.日眼会誌88:414-423,C198314)谷島輝雄:宿題報告.角膜内皮細胞層の変性と再生─機能(23)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1387

日本におけるドライアイの発展の歴史と変遷

2021年12月31日 金曜日

日本におけるドライアイの発展の歴史と変遷HistoryandTransitionoftheDevelopmentofDryEyeinJapan坪田一男*横井則彦**I乾燥角結膜炎からドライアイへ―ドライアイ研究会の設立筆者(坪田)は1985年以来36年にわたってドライアイの臨床と研究を行ってきた.途中から本原稿共同筆者である横井が加わり,ドライアイ研究会の仲間とともに切磋琢磨してきたことは本当にありがたい臨床研究の旅だった.本稿では「ドライアイの発展の歴史と変遷」をまとめる.1987年にハーバード大学眼科での研修を終えて帰国したとき,日本ではドライアイという言葉はなく,“乾性角結膜炎”“亡涙症”“Sjogren症候群”“涙液分泌減少症”などの言葉が混在して使われていた.Sjogren症候群に伴うドライアイがもっとも典型的であったために,基本的には涙液が減少した病態をドライアイととらえるという流れであった.後述するがこの概念はこの半世紀で大きく変わり,涙液そのものはある程度出ていても涙液層の安定性の悪い,いわゆる涙液層破壊時間(tear.lmbreakuptime:BUT)短縮タイプのドライアイの存在が明らかになり,実はこちらが主流であることがわかってきている.しかし,1987年ごろはまだまだドライアイの定義もなく混乱の時代だった.1990年に世界で初めてドライアイ研究会が日本で設立された.最初の会合は慶應義塾大学病院で行い,特別講演に米国メンフィス大学のJerreMinorFreeman先生に来ていただき涙点プラグの講演をしていただいた.彼はイーグルビジョン社から自分のアイデアのプラグを発売したアントレプレナーでもある.ちなみに,一緒にドライアイ研究会を設立した濱野孝先生も同時期に涙点プラグのアイデアをお持ちで臨床開発まで進めていた1).その後製品化までいかなかったのは残念だったが,そののちコラーゲンタイプの涙点プラグを開発されてオリジナルのアイデアを発展させられたのは注目に値する.IIドライアイ診断基準の確立(1995年,2006年,2016年)1995年,MichaelALemp先生が米国国立衛生研究所(NationalInstitutesofHealth:NIH)においてドライアイの定義に関する会合をスタートさせ2),筆者らも同年に第1回のドライアイの定義を出した.このときの一番の論点は「症状をドライアイの定義に加えるか否か」ということであった(表1).Stevens-Johnson症候群の末期に眼が皮膚で覆われてしまう状態になると痛みの症状もなくなることから,結局,第1回目の定義では症状を診断基準からはずすことになった.しかし,このディスカッションも後年「視覚障害そのものが症状である.ドライアイの患者は実用視力が低下している」という視点が認められ,やはり症状は必要ということになった.第2回目2006年のドライアイ研究会の診断基準では症状がしっかり入っている(委員長:島﨑潤・東京歯科大学教授)(表2)3).のちにわかってくるが,眼が*KazuoTsubota:株式会社坪田ラボCEO**NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕坪田一男:〒160-0016東京都新宿区信濃町34トーシン信濃町駅前ビル304株式会社坪田ラボ横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(3)1367表1ドライアイ研究会による1995年のドライアイ診断基準1.涙液(層)の質的および量的異常2.角結膜上皮障害(1以外の明らかな原因のあるものは除く)1および2のあるものドライアイ確定例1または2のあるものドライアイ疑い例1.涙液(層)の質的および量的異常①シルマー試験I法にて5ミリメートル以下②綿糸法にて10ミリメートル以下③涙液層破壊時間(BUT)5秒以下①,②,③のいずれかを満たすものを陽性とする2.角結膜上皮障害(1以外の明らかな原因のあるものは除く)①フルオレセイン染色スコアー1点以上②ローズベンガル染色スコアー3点以上①,②のいずれかを満たすものを陽性とする表3ドライアイ研究会による2016年のドライアイ診断基準ドライアイの定義ドライアイは,さまざまな要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある.ドライアイの診断基準以下の1,2を有するものをドライアイとする.1.眼不快感,視機能異常などの自覚症状2.涙液層破壊時間(BUT)が5秒以下表2ドライアイ研究会による2006年のドライアイ診断基準1.涙液の異常①シルマー試験I法にて5mm以下②涙液層破壊時間(BUT)5秒以下①,②のいずれかを満たすものを陽性とする2.角結膜上皮障害①フルオレセイン染色スコアー3点以上(9点満点)②ローズベンガル染色スコアー3点以上(9点満点)③リサミングリーン染色スコアー3点以上(9点満点)①,②,③のいずれかを満たすものを陽性とするドライアイ診断における確定例と疑い例①自覚症状〇〇×〇②涙液異常〇〇〇×③角結膜上皮障害〇×〇〇ドライアイの診断確定疑い疑い疑い**涙液の異常を認めない角結膜上皮障害の場合は,ドライアイ以外の原因検索を行うことを基本とする.表42016年当時のドライアイ研究会の世話人世話人代表坪田一男慶應義塾大学教授世話人天野史郎大橋裕一木下茂島﨑潤下村嘉一高村悦子西田幸二濱野孝堀裕一村戸ドール山田昌和横井則彦渡辺仁井上眼科病院副院長愛媛大学学長京都府立医科大学教授東京歯科大学市川総合病院教授近畿大学主任教授東京女子医科大学教授大阪大学主任教授ハマノ眼科院長東邦大学医療センター大森病院教授慶應義塾大学特任准教授杏林大学教授京都府立医科大学病院教授関西ろうさい病院眼科部長顧問田川義継北海道大学客員臨床教授(敬称略.所属・役職は当時)催され,TFOSDEWSIIとして新たな定義が発表された8).米国ではドライアイの基本的な治療薬はシクロスポリン(Restasis,Allergan社)であり,炎症をターゲットとしている.またCTearOsmolarity計測装置が発売されており,興味をもつ先生も多かった.卵が先か鶏が先かという議論になるかもしれないが,このような視点からドライアイの定義に炎症と浸透圧がとりあげられたものと思われる.ただ,どちらも使えない国々からするとよく理解できないところがある.一方,日本では2010年にジクアホソルナトリウム(ジクアス,参天製薬)が発売され,涙液層の安定化を図ることができるようになった.この薬のおかげでドライアイの病態が解明され,ドライアイ研究会からのCTFOD,TFOTの概念に発展したと理解している9).すなわち各国のドライアイの理解の仕方は,使用できる薬剤によっても影響を受けており興味深い.CIVさまざまなドライアイ治療ドライアイ治療は,ドライアイのとらえ方(定義)や診断基準にも関係する.1995年にヒアルロン酸ナトリウム(以下,HA)点眼液が利用できるようになる以前は,ドライアイには定義や診断基準はなく,ドライアイ=乾性角結膜炎であり,涙液減少型ドライアイが治療対象となっていた.また,その当時の治療といえば,人工涙液,コンドロイチン硫酸エステルナトリウム点眼液(角膜保護点眼剤),ステロイド点眼液がおもなものであった.ただし,一般に充血などの炎症所見を伴わないドライアイに,ステロイド点眼液が積極的に処方されることはなかったと思われる.その後,高い保水作用と角膜上皮の創傷治癒促進作用を有するCHA点眼液(角結膜上皮治療用点眼薬)10,11)が登場すると(HA点眼液はC2020年C9月にスイッチCOTC薬として要指導医薬品となった),当時の定義・診断基準において必須項目であった「角結膜上皮障害」をターゲットとするドライアイ治療が成立した.ただし,HA点眼液は上皮欠損に効果的ではあっても,ドライアイの点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)を直接治療するものではなく,SPKに対する効果は,あくまでCHAの保水作用を介した間接的なものといえた.そして,その後C15年の歳月を経て,2010年C12月にジクアホソルナトリウム(以下,DQS)点眼液(ムチン/水分分泌促進点眼薬)が,2012年C1月にレバミピド(以下,Rbm)点眼液(ムチン産生促進薬)が登場するにおよんで,眼表面に不足する成分の補充によって涙液層の安定性を高めてドライアイを治療する,眼表面の層別治療(tearC.lmCorientedtherapy:TFOT)(図1)という新しいドライアイ治療の概念が生まれ9,12,13),不足成分を看破する眼表面の層別診断(tear.lmorienteddiag-nosis:TFOD)のためのCtearC.lmCbreakupCpattern(BUP)6,9,12,13)が提唱された(図2).そして,BUP分類を用いたCTFODとCTFOTの登場により,角結膜上皮障害を必須項目としていたドライアイの定義や診断基準は刷新され,それまでの定義,診断基準に相性の悪かったBUT短縮型ドライアイ5,14)に市民権が与えられて治療対象になるとともに,上皮障害を対象としていたドライアイ治療が涙液異常(涙液層破壊)を対象とする,より本質的なドライアイ治療に置き換わった.現在,日本発世界初のCTFOD/TFOTの考え方は,アジアの考え方として15,16),世界のドライアイのエキスパートにも受け入れられている17).涙点プラグ治療は,TFOD/TFOTの概念にも適応し,重症涙液減少型ドライアイにとっては,今なお不可欠の治療である.1996年にシリコーン製のパンクタルプラグが登場したのを契機にフレックスプラグ,イーグルプラグなどが登場し,ついでC2007年にアテロコラーゲン製の液状涙点プラグが登場した.最適なサイズのシリコーン製涙点プラグが挿入されると,涙液メニスカスの涙液量が増加してCBUTが延長し,上皮障害は軽減する.そのため,DQSやCRbmが登場するまでは,涙液減少型ドライアイの重症例のほうが,むしろ軽症例よりもQOLがよいともいえる時代があった.ドライアイと炎症の関連は欧米で,より重視されているが,使用可能なドライアイ治療薬の違いが,そこには反映されている18).現在は,日本でも,ドライアイに積極的にステロイド点眼(フルオロメトロンのような低力価ステロイド)が効果的に用いられるようになってきているが,今後,ドライアイのベースライン治療に用いる(5)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1369*ジクアホソルナトリウムは,脂質分泌や水分分泌を介した油層伸展促進により涙液油層機能を高める可能性がある**レバミピドは抗炎症作用によりドライアイの眼表面炎症を抑える可能性があるドライアイ研究会作成図1眼表面の層別治療(TFOT)と眼表面の層別診断(TFOD)の関係TFOT(tear.lmorientedtherapy)とは,涙液層と上皮層からなる眼表面の不足成分を層別に補充することで涙液層の破壊を抑制し,ドライアイ症状を改善しようとするドライアイ治療の新しい考え方である.TFOD(tear.lmCorienteddiagnosis)とは,眼表面の不足成分を層別に看破する方法で,涙液層の破壊パターン(breakuppattern)分類により行う.(http://www.dryeye.ne.jp/tfot/index.htmlから引用改変)図2涙液層破壊パターン(BUP)分類上段左:areabreak(AB),上段中:spotbreak(SB),上段右:lineCbreakCwithrapidCexpansion(LBCwithRE),下段左:linebreak(LB),下段中:dimplebreak(DB),下段右:randombreak(RB).AB,LBは涙液減少型ドライアイのSB,DB,LBwithREは水濡れ性低下型ドライアイのCRBは蒸発亢進型ドライアイのCBUPに相当する.ことのできる,欧米におけるシクロスポリン(免疫抑制剤)のような点眼液の登場が,日本においても待たれるところである.CVドライアイの疾患概念の拡大と発展欧米と日本のドライアイの捉え方の違いとしてまずいえるのは,分類である.欧米でドライアイの分類といえば,涙液減少型と蒸発亢進型の二つであり(あるいはそれらの混合型),蒸発亢進型ドライアイの原因のひとつとしてマイボーム腺機能不全(meibomianCglandCdys-function:MGD)がある.一方,日本ではドライアイは涙液減少型とCBUT短縮型に分けられ,BUT短縮型の下に蒸発亢進型と水濡れ性低下型がある.また,ドライアイの病態として,日本ではフルオレセインで可視化できる涙液層の破壊と上皮障害が重視され,欧米では可視化できない涙液の浸透圧上昇と,眼表面炎症が重視される.そして以上の違いには,先に述べたように,使用できる眼局所治療薬の違いが大きく関係していると考えられる.振り返ると,症状の強いCBUT短縮型ドライアイ5,14)は,水濡れ性低下型ドライアイ6,9,12.17)(図3,4)であった可能性が高く,DQS点眼液やCRbm点眼液がなかった当時においては治療の対象とはならなかったと思われる.ドライアイの疾患概念の拡大,発展のひとつとして,ドライアイと視機能との関係がある.そして視機能異常はC2006年版3),2016年版4)の定義にも盛り込まれている.BUPから考えると,spotbreak(SB)やCdimplebreak(DB)は角膜中央に出現しやすく(図3,4),視機能への影響が大きいと考えられる.また,これらのBUPは,BUT短縮型ドライアイでみられるCBUPであり,BUT短縮型ドライアイは,涙液減少を伴わないために,角膜中央の涙液層の厚みが健常に保たれやすく,そのためにCSBやCDBでは,角膜表面に涙液層の高度の不整が生まれて,視機能への影響が大きくなると考えられる.しかし,その一方で,涙液減少型ドライアイの中等症までの症例において角膜下方にみられるClinebreak(LB)やCSPKは,それら単独では視機能への影響はほとんどないと考えられる.ところが,重症涙液減少型ドライアイでは,角膜中央に高度のCSPKを伴う(図2上段左)とともに,それを被覆する涙液層を欠くため,視機能異常の原因となりうる.それらのメカニズムの詳細や,実用視力計を開発して示した実際の視機能低下については,それぞれ大阪大学,慶應義塾大学の研究グループに多くの業績がみられる19,20).現在,ドライアイにおける自覚症状と他覚所見の解離を説明する新しい病態の考え方として,痛覚過敏,神経因性疼痛の考え方があるが,これにもCBUT短縮型ドライアイが大きく関係している21,22)ことは興味深い.CVIドライアイとMGDの関係ドライアイにおける眼表面の悪循環は,開瞼維持時の涙液層の破壊と瞬目時の摩擦亢進で構成され,これらがドライアイのおもな病態生理を形成する(図5).その一方で,眼瞼縁の異常はドライアイの臨床と研究における重要な克服課題といえ,その病態解明は重要である.そして,マイボーム腺の開口部の閉塞は,MGDやマイボーム腺炎と関係し,後者は角膜表面に特異な病変(SPK類似病変や角膜フリクテン)を表現し,ドライアイや一般的なCMGDとの鑑別を要する.そして近年,マイボーム腺と眼表面を一つのユニットとしてとらえる新しい概念としてCMOS(meibomianglandsandocularsurface)が提唱されている23).マイボーム腺脂質,涙液油層の機能は涙液層の水分の蒸発抑制とされ,その障害はCMGD,ひいては蒸発亢進型ドライアイの原因となるとされる.BUPの視点に立てば,角膜表面の水濡れ性低下に起因するCBUP(SB,DB,breakupのCrapidCexpansion)および涙液減少に起因するCBUP(AB,LB)のうち,AB以外は油層の存在自体がCbreakupに関与しており,その一方で,ABには油層の関与はない.つまり,RBにおいてのみ,油層の機能がその抑制に働くと考えれる.しかし,RBの抑制が油層の水分蒸発抑制作用によるのか,油層の粘弾性特性によるのかは,基礎研究者と臨床家で議論が分かれるところがあり24),臨床家のなかでは,現在,蒸発亢進型ドライアイの大きな原因としてCMGDがあげられている(つまり,マイボーム腺脂質/涙液油層の第一の機能は,水分の蒸発抑制とする考え方).そして,日本において(7)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1371図3水濡れ性低下型ドライアイの一例本症例は,かつてCBUT短縮型ドライアイとよばれていたと思われる.BUPとして主にCspotbreakを認める.ビデオケラトグラファーでCMeyerリングの乱れがみられることから,瞳孔領に生じたCspotbreakが視機能低下の原因になっている可能性が示唆される.図4水漏れ性低下型ドライアイの一例本症例も,かつてCBUT短縮型ドライアイとよばれていたと思われる.BUPとして主にCdimplebreakを認める.ビデオケラトグラファーで,フルオレセイン画像と同一部位のCdimplebreakを示してはいないが,Meyerリングの乱れがみられることから,瞳孔領に生じたCdimplebreakが視機能異常を引き起こす原因になりうる可能性が示唆される.~図5眼表面におけるドライアイの階層構造上流のリスクファクターが眼表面に流れ込んで,二つの悪循環(開瞼維持時の涙液層の破壊,および瞬目摩擦の亢進)を介して,眼不快感,視機能異常をもたらす.この悪循環がドライアイのコアとなるメカニズムであり,他覚所見を形成する.(文献9,26より引用改変)—-

序説:眼科診療における半世紀の歴史と変遷

2021年12月31日 金曜日

眼科診療における半世紀の歴史と変遷The50-YearRoadofMedicalAdvancementsinOphthalmologyPractice木下茂*この特集は,私と同時代に眼科領域で診療し研究をしてきた『あたらしい眼科』の編集委員の方々を中心として,それぞれの専門分野について約50年の歴史と変遷をまとめていただきました.このような内容を記することは,その時代を現役として活躍してきた人でないとできません.われわれの世代から次世代への伝達とメッセージになるかとも思っています.過去を知って未来を予測する,そのような内容をめざしている特集であるとご理解いただければありがたいです.さて,特集のエッセンスを紹介してみます.ドライアイについては坪田一男先生(1980年卒)と横井則彦先生が担当し,大きな変化を遂げているドライアイという疾患の捉え方の変遷を要約しています.角膜疾患については私(1974年卒)が担当し,その時代のもつ雰囲気と変遷を10年区切りで解説し,時代のキーとなる論文も引用しています.眼感染症については大橋裕一先生(1975年卒)が担当し.角膜感染症と術後眼内炎についての歴史的イベントを明快に解説しています.緑内障については山本哲也先生(1979年卒)が担当し,緑内障現代史と題して,この50年の緑内障の理解の深化そして診療の変遷を詳約しています.糖尿病網膜症については西勝弘先生,西塚弘一先生,山下英俊先生(1981年)が,糖尿病網膜症分類や治療法の変遷について要約しています.加齢黄斑変性については大島裕司先生,石橋達朗先生(1975年卒)が担当し,この疾患の診断と治療についての変遷を要約しています.網膜硝子体手術については小椋祐一郎先生(1980年卒)が担当し,硝子体手術の劇的な進歩,黄斑疾患などへの手術適応拡大の流れを要約しています.ぶどう膜炎については望月学先生(1973年卒)が担当し,個々の疾患の発症頻度の変遷,画像診断や分子診断技術の進歩,そして生物製剤の開発などを解説しています.コンタクトレンズについては小玉裕司先生(1979年卒)が担当し,ハードコンタクトレンズ,ソフトコンタクトレンズ,カラーコンタクトレンズ,オルソケラトロジーなどの時代の流れを述べています.白内障手術と屈折矯正手術についてはビッセン宮島弘子先生(1981年卒)が担当し,白内障手術,眼内レンズ,屈折矯正手術について解説しています.いずれの項目も歴史的に重要なイベントを取り上げており,大変に充実した興味深い内容です.執筆者も多くの時間を費やしてまとめてくださったものと拝察します.今までの50年の歴史をよく理解することで,未来が求めるアンメットニーズ,そして新治療法の研究や開発のアイデアが生まれてくるものと確信します.ぜひご活用いただきたいと願っています.*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)1365

2015 年~2019 年の自治医科大学附属病院における ぶどう膜炎の臨床統計

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1353.1357,2021c2015年~2019年の自治医科大学附属病院におけるぶどう膜炎の臨床統計案浦加奈子渡辺芽里川島秀俊自治医科大学眼科学講座CEpidemiologyofUveitisPatientsSeenattheJichiMedicalUniversityHospital,Shimotsuke,Japan,from2015to2019KanakoAnnoura,MeriWatanabeandHidetoshiKawashimaCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversityC2015年C4月.2019年C3月に自治医科大学附属病院眼科を初診したぶどう膜炎患者のプロフィール(年齢,性別,確定診断病名,治療歴,とくに手術歴など)を後ろ向きに解析し,既報と比較した.上記期間内の総初診患者はC8,522人で,ぶどう膜炎患者はC379例C599眼(総初診患者のC4.4%)であった.また,初診時の平均年齢はC52.6C±18.9歳(5.90歳),男性C184例(48.5%),女性C195例(51.4%)であった.確定診断ができた症例はC223例(58.8%)で,多い疾患順にサルコイドーシスC50例(13.1%),急性前部ぶどう膜炎C29例(7.6%),Vogt-小柳-原田病C24例(6.3%),ヘルペス性虹彩毛様体炎C20例(5.2%),急性網膜壊死C12例(3.1%),Behcet病C12例(3.1%)などであった.また,白内障手術がC66例(17.4%)に実施され,硝子体手術はC25例(6.5%),緑内障手術はC26例(6.8%)にそれぞれ実施されていた.Weretrospectivelyreviewedthepro.le(age,sex,diagnosis,treatment,surgicalhistory,etc.)ofuveitispatientswhoC.rstCvisitedCtheCJichiCMedicalCUniversityCHospitalCEyeCClinicCfromCAprilC2015CtoCMarchC2019,CandCcompareCthatdatawiththepreviousreports.FromApril2015toMarch2019,thetotalnumberof.rst-visitpatientswas8,522.COfCthose,379(4.4%)(599eyes)wereuveitic[195females(51.4%)andC184males(48.5%);meanage:C52.6±18.9years(range:5-90years)]C.Ofthose379cases,221(58.3%)wereade.nitivediagnosis,i.e.,50sarcoid-osiscases(13.1%)C,29acuteanterioruveitiscases(7.6%)C,24Vogt-Koyanagi-Haradadiseasecases(6.3%)C,20her-peticiritiscases(5.2%)C,12acuteretinalnecrosiscases(3.1%)C,and12Behcet’sdiseasecases(3.1%)C.Inaddition,cataractCsurgeryCwasCperformedCinC66cases(17.4%)C,CvitreousCsurgeryCwasCperformedCinC25cases(6.5%)C,andglaucomasurgerywasperformedin26cases(6.8%).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(11):1353.1357,C2021〕Keywords:ぶどう膜炎,臨床統計,病型分類,続発緑内障.uveitis,epidemiology,classi.cationofdiseasetypes,secondaryglaucoma.Cはじめにぶどう膜炎診療において,視力予後の向上を得るためには,正しい診断をつけて適切で妥当な治療法を選択することが重要である.その一助になる情報源として,ぶどう膜炎症例の疫学調査が現在まで数多く報告されている1.13).従来国内においてはCBehcet病・サルコイドーシス・Vogt-小柳-原田病がぶどう膜炎の三大内因性ぶどう膜炎とされているが,2002年とC2009年の全国疫学調査においても,この三大疾患を含めた各種疾患の頻度が変化している1,2).とくに近年では,診断方法の進歩による確定疾患頻度の変化も想定され,ぶどう膜炎患者の疫学調査はますます重要になっている.筆者らの施設ではこれまで何回か疫学調査を行っている3,4).今回その継続調査として,2015.2019年のC4年間で〔別刷請求先〕案浦加奈子:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:KanakoAnnoura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANC自治医科大学附属病院を受診したぶどう膜炎患者の疫学調査を行った.併せて,手術歴やステロイド全身治療についても調査を行い,既報と比較を行った.CI対象および方法筆者らはC2015年C4月.2019年3月のC4年間で自治医科大学附属病院眼科を初診で訪れた患者のうち,ぶどう膜炎の診断がついた患者の記録を後ろ向きに検討した.年齢,性別,眼科的所見,血清学的検査,胸部CX線検査といった臨床検査所見の結果をもとに診断を行った.疾病分類については,2016年の全国ぶどう膜炎調査で用いられたカテゴリー分類をおおむね採用した.サルコイドーシスについては,日本びまん性肺疾患研究委員会によって策定された診断基準を採用した.眼臨床所見がサルコイドーシスを強く疑う症例も,診断基準を満たさない場合は病型分類不能に分類した.Vogt-小栁-原田病では,既報の基準14)を採用し,無菌性髄膜炎の存在は,おおむね髄液検査に依ったが,臨床症状で判断した症例も含んだ.ヘルペス虹彩毛様体炎は,眼部帯状疱疹を伴う皮膚病変のある患者は前房水採取をせず診断とした例もあった.皮膚病変のない患者は,前房水CPCR検査を施行し,水痘帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV),ヘルペスウイルス(HSV)が検出されなかった場合も,虹彩萎縮の出現や,抗ウイルス治療後に治療経過の良好なものは臨床診断群として診断した.Behcet病の診断は,日本ベーチェット病研究委員会による診断基準に基づいて行った.急性前部ぶどう膜炎については,前部ぶどう膜炎がある場合,強直性脊椎炎や炎症性腸疾患(inflammatoryCboweldisease:IBD),乾癬などの全身症状に注意して診察を行った.強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎は急性前部ぶどう膜炎(acuteCanterioruveitis:AAU)に含め,IBDや乾癬に伴うものはそれらとは異なるものとして分類した.HLA-B27が陰性の場合も,臨床所見で診断した.血液検査所見の結果(血液培養や血清Cb-Dグルカン),眼内液による広域CPCRで細菌・真菌CDNAの検出があったもの,あるいは臨床症状により真菌性,細菌性眼内炎の診断を下した術後眼内炎,外傷性眼内炎は除外した.P-抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophilCcytoplasmicantibody:ANCA)やCC-ANCAの上昇を伴うぶどう膜炎があった場合,内科医師にCANCA関連血管炎などの精査を依頼した.リウマチ関連疾患に伴うぶどう膜炎については,関節リウマチ,皮膚筋炎,強皮症などに伴うぶどう膜炎と,全身性エリテマトーデス(systemicClupusCerythemotosus:SLE)に関連したぶどう膜炎は別枠とした.強膜炎は眼内炎症を伴うものだけを強膜ぶどう膜炎として結果に含め,その中には後部強膜炎も含まれる.眼内に炎症波及のない強膜炎は除外した.今回の疫学調査では,ステロイド全身治療や手術歴の有無,続発緑内障などの合併についても調査を行った.続発緑内障の定義は,経過中に眼圧の上昇を認め,緑内障点眼の使用や緑内障手術を必要としたものとした.結果について,自施設の統計結果3,4)と,他施設の統計結果1,2,5.7)とを比較した.CII結果対象期間中の当科総初診患者はC8,522人で,ぶどう膜炎患者はC379例C599眼(眼科総初診患者のC4.4%)であった.初診時の平均年齢はC52.6C±18.9歳(5.90歳),性別は男性184例(48.5%),女性C195例(51.4%)であった.10歳ごとの年齢分布では,男女ともにC60代でピークを示し,男女比では女性がやや多かった(図1).確定診断のついた症例はC223例(全ぶどう膜炎患者のC58.8%)であった.そのうちサルコイドーシスが最多で,50例(13.1%),ついでCAAU29例(7.6%),Vogt-小柳-原田病24例(6.3%),ヘルペス性虹彩毛様体炎C20例(5.2%),急性網膜壊死C12例(3.1%),Behcet病C12例(3.1%),CMV網膜炎C10例(2.6%)となった(表1a).サルコイドーシスの確定診断例は,組織診断群がC16例(32%),臨床診断群がC34例(68%)であった.また,その他の確定疾患は,炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎(Crohn病・潰瘍性大腸炎),多発性脈絡膜炎,内因性細菌性眼内炎,水晶体起因性ぶどう膜炎,梅毒性ぶどう膜炎,ねこ引っ掻き病,結核性ぶどう膜炎,尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群,多発血管炎性肉芽腫症,急性帯状潜在性網膜外層症,点状脈絡膜内層症,ぶどう膜滲出,relentlessCplacoidchorioretinitisが含まれている.病型分類不能例はC156例(41.2%)であり,そのうちサルコイドーシス疑い症例が最多でC20例(12.8%)であった.初診時年齢により,19歳以下を小児群,20歳以上C39歳以下を若年群,40歳以上C59歳以下を中年群,60歳以上を高齢群としてC4群に分けて検討した.小児群C23例(男性C5例,女性C18例),若年群C74例(男性C45例,女性C29例),中年群C116例(男性C63例,女性C53例),高齢群C166例(男性71例,女性C95例)であった.年齢群別疾患頻度は,小児群では若年性特発性関節炎(juvenileCidiopathicarthritis:JIA)を伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎が最多で,ついでIBDに伴うぶどう膜炎が多く,若年群,中年群ではサルコイドーシスが最多,ついで急性前部ぶどう膜炎が多く,疾患頻度が類似していた.また,高齢群ではサルコイドーシスが最多で,ついでCVogt-小柳-原田病,急性網膜壊死が多かった(表1b).今回の調査結果における上位C7疾患について,他施設や全国調査の報告との比較を行った(表2).サルコイドーシス,Vogt-小柳-原田病,そしてヘルペス性虹彩毛様体炎がいずれの報告でも上位であった.炎症の生じた解剖学的部位別に比較したところ,前眼部148名(39.0%),中間部C8名(2.1%),後部C40名(10.5%),汎ぶどう膜炎C183名(48.2%)となった.前眼部ぶどう膜炎症例では,AAUが最多でC23例(15.5%),後部ぶどう膜炎症例はCVogt-小柳-原田病が最多でC7例(17.5%),汎ぶどう膜炎症例では,サルコイドーシスが最多でC34例(18.5%)であった(図2).ステロイドの全身投与はC63例で,全ぶどう膜炎患者の16.6%で施行した.そのうち,ステロイドパルス療法はC20例(全ぶどう膜炎患者のC5.2%)で施行した.ステロイドパルス療法を行った症例は,疾患別ではCVogt-小柳-原田病が最多で,初診時に慢性期の合併症のため紹介されたC3症例とパルス以外の治療を選択したC2症例以外のCVogt-小柳-原田病C19症例(Vogt-小柳-原田病患者のC79.1%)と急性網膜壊死C1症例(急性網膜壊死患者のC8.3%)に対してステロイドパルス療法を行った.また,ステロイドCTenon.下注射を施行した症例はC58例(全ぶどう膜炎患者のC15.3%)であった.抗CTNFCa製剤の投与割合については,インフリキシマブを投与したものがC2例(0.5%)で,いずれもCBehcet病患者であった.アダリムマブを投与したものは,3例(0.7%)で,2例がCBehcet病,1例がCrelentlessplacoidchorioretini-tisであった.緑内障治療薬の投与はC133例(全ぶどう膜炎患者のC35.0%)に行い,そのうち緑内障手術が必要となった症例はC26例(全ぶどう膜炎患者のC6.8%)であった.また,硝子体手術を施行したものはC25例(全ぶどう膜炎患者のC6.5%)で,手術の理由は,網膜.離C9例,シリコーンオイル留C6050403020100~10図1全ぶどう膜炎患者の初診時の年齢と性別患者数11~2021~3031~4041~5051~6061~7071~8081~90(歳)置C3例,網膜前膜C5例,硝子体混濁C4例,硝子体生検目的C4例,黄斑円孔C4例,網膜細動脈瘤破裂C1例であった.他施設からの結果と比較すると,ややステロイド投与の比率がやや低かったものの,手術加療の比率などに大きな違いは認めなかった(表3).表1a疾患別の症例数と頻度疾患症例数頻度(%)サルコイドーシスC50C13.1急性前部ぶどう膜炎C29C7.6Vogt-小柳-原田病C24C6.3ヘルペス性虹彩毛様体炎C20C5.2急性網膜壊死C12C3.1Behcet病C12C3.1サイトメガロウイルス網膜炎C10C2.6リウマチ関連疾患に伴うぶどう膜炎C7C1.8強膜ぶどう膜炎C7C1.8糖尿病虹彩炎C6C1.5JIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎C4C1.0眼内リンパ腫C4C1.0眼トキソプラズマ症C4C1.0Posner-Schlossman症候群C4C1.0Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎C4C1.0多発消失性白点症候群C3C0.7HTLV-1関連ぶどう膜炎C3C0.7地図状脈絡膜炎C3C0.7乾癬性ぶどう膜炎C3C0.7その他C14C3.6確定診断合計C223C58.8不明(疑い症例を含む)C156C41.2JIA:若年性特発性関節炎,HTLV-1:ヒトCT細胞白血病ウイルスC1型.表1b各年齢群における頻度の高かった疾患年齢(n)もっとも多かった疾患(%)2番目に多かった疾患(%)0.1C9(23)JIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎(13)炎症性腸疾患に伴うぶどう膜炎(8C.6)20.3C9(74)サルコイドーシス(1C6.2)AAU(1C2.1)40.5C9(1C16)サルコイドーシス(1C5.5)AAU(1C1.2)≧60(1C66)サルコイドーシス(1C2.0)Vogt-小柳-原田病(4C.2)急性網膜壊死(4C.2)JIA:若年性特発性関節炎,AAU:急性前部ぶどう膜炎.表2他施設との疾患件数と頻度(%)の比較報告者調査期間全患者数(人)サルコイVogt-小柳AAUドーシスC-原田病ヘルペス性虹彩毛様体炎CARNBehcet病CCMV網膜炎案浦ら(自治医大)2015.C2019年C37750(C13.1)29(C7.6)24(C6.3)20(C5.2)12(C3.1)12(C3.1)10(C2.6)3)高橋ら(自治医大)2011.C2015年C50247(C9.4)6(1C.1)35(C7.0)29(C5.8)4(0C.8)21(C4.2)12(C2.4)4)安孫子ら(自治医大)1997.C1998年C33855(C16.3)9(2C.6)31(C9.2)7(2C.0)5(1C.4)38(C11.2)1(0C.2)6)KunimiK(東京医大)2011.C2017年C1,587107(C6.7)32(C2.0)140(C8.8)85(C5.4)35(C2.2)98(C6.2)19(C1.2)1)GotoH(全国調査)2002年C3,060C407(C13.3)46(C1.5)205(C6.7)110(C3.6)41(C1.3)189(C6.2)24(C0.8)2)OhguroN(全国調査)2009年C3,830C407(C10.6)250(C6.5)267(C7.0)159(C4.2)53(C1.4)149(C3.9)37(C1.0)C5)ShirahamaS(東京大)2013.C2015年C75046(C6.1)14(C1.9)31(C4.1)56(C7.5)13(C1.7)33(C4.4)10(C1.3)7)寒竹(佐賀大)2012.C2017年C32324(C7.4)23(C7.1)27(C8.4)16(C5.0)3(0C.9)1(0C.3)3(0C.9)AAU:急性前部ぶどう膜炎,ARN:急性網膜壊死,CMV:サイトメガロウイルス.表3他施設とのステロイド全身投与および手術適応頻度(%)の比較報告者調査期間患者数ステロイド全身投与ステロイドパルス緑内障手術白内障手術硝子体手術案浦ら(自治医大)2015.C2019年379人C16.6C5.2C6.8C17.4C6.59)小沢ら(福岡大)2005.C2006年84人C53.5C15.4記載なし記載なしC4.110)福島ら(高知大)2004年144人C47.9記載なしC5.5C43C1811)芹澤ら(日本医大)2004.C2012年759人記載なし記載なしC2.3記載なし記載なし8)池脇ら(大分大)2006.C2008年176人C25.5記載なしC5.7C21.9C5.7CIII考按当院における内因性ぶどう膜炎患者の経時的変化を解析するため,前回のC2011.2015年を対象とした調査3)と,今回の結果を比較検討した.ちなみに,眼科外来の総初診患者に占めるぶどう膜炎患者の割合は今回の調査ではC4.4%であった.前回の調査では,平均年齢がC53.5C±18.0歳(5.90歳)で今回とおおむね同様であったが,1999年の当施設結果の平均C49歳と比べると4),近年の日本社会の高齢化に伴い初診時年齢も高齢化してきている可能性がうかがえる.男女比に関しては,今回と前回の当院での調査に大きな差は認めなかった(図1).炎症部位別分類については,汎ぶどう膜炎が一位を占め,これまでの他施設の結果と同様の結果となっていた(図2)12,13).前回の筆者らの疫学調査結果と比較してC1%を超える増減があった疾患は,サルコイドーシス(9.4%→C13.1%),Behcet病(4.2%→C3.1%),急性網膜壊死(0.8%→C3.1%)であった(表1a).年齢別疾患分類について前回の調査と比較すると,小児群C1位がCJIAを伴わない若年性慢性虹彩毛様体炎,中年・高齢群C1位がサルコイドーシスである点は変わりなかったが,若年群においては前回の調査ではC1位Behcet病から今回サルコイドーシスがC1位となる結果となった(表1b).また,次点がCAAUとなっており,Behcet病は上位疾患に認めなかった.サルコイドーシスが最多であることは全国調査や他施設の結果と比較しても変わりなかった(表2).他施設や全国調査,前回の当施設での結果と同様に,Behcet病の減少を認めたが,これは,近年既報でも報告されているように,なんらかの環境因子(衛生状態,生活スタイル)の変化も関係しているのではないかと推測されている15).さらにはCBehcet病そのものの軽症化あるいは予後の向上が示唆されており,患者の専門病院受診の早期化,患者の治療コンプライアンス向上などに加え,生物学的製剤の導入などが寄与していると考える.急性網膜壊死は,可及的な手術介入の必要性が高い疾患であり,近隣施設からの紹介状況にも少なからず影響を受けての結果であると考える.多発性後極部細胞色素上皮症,急性後部多発性斑状色素上皮症などの網膜色素上皮症類縁疾患は全国疫学調査でもC1%前後である.前回の筆者らの疫学調査では認めた疾患で,今回は確定されなかった疾患もある.眼トキソカラなどの稀有症例などにおいて,その傾向が強い.疾患のなかでも低頻度(たとえばC1%未満)の疾患が当該調査において含まれるかどうかは,統計学的に推論するにしても,ほぼ偶然の結果であろうと考えている.ぶどう膜炎患者へのステロイド全身投与の比率は,他施設8.10)と比べると頻度はやや低かった.抗血管内皮増殖因子抗体や各種免疫抑制薬の選択肢もできた現在,従来消炎治療の中心を占めていたステロイドの役割は今後相対的には縮小してゆく可能性がある.ちなみに高頻度でステロイドが全身投与されていた報告では,とくに重症の症例が多かったのではないかとの考察10)をしているが,対象疾患構成に大きく左右される指標であることは間違いない.手術歴については,白内障,緑内障,硝子体手術の適応の割合はおおむね他施設と変わらなかった(表3)8.11).手術加療は,今やぶどう膜炎診療において不可欠となっており,今後も時期を失うことなく適応することが多くの症例において求められる.今回の調査にあたり統一的な診断基準が確立されていない疾患も多く,他の結果と有意差をもって比較検討することは容易でなかった.しかし,サルコイドーシスが最多であり,Vogt-小柳-原田病やヘルペス性虹彩毛様体炎が重要な疾患であるなど,一定の傾向は確認できた.今後さらなる各疾患の診断基準の確立と診断技術,検査の向上・普及がますます必要であると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GotoCH,CMochizukiCM,CYamakiCKCetal:EpidemiologicalCSurveyCofCIntraocularCInflammationCinCJapan.CJpnCJCOph-thalmolC51:41-44,C20072)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009pro-spectiveCmulti-centerCepidemiologicCsurveyCofCuveitisCinCJapan.JpnJOphthalmolC56:432-435,C20123)TakahashiR,YoshidaA,InodaSetal:UveitisincidenceinCJichiCMedicalCUniversityCHospital,CJapan,CduringC2011-2015.CClinOphthalmolC11:1151-1156,C20174)安孫子育美,川島秀俊,釜田恵子ほか:自治医科大学眼科におけるぶどう膜炎の統計的検討.眼科41:73-77,C19995)ShirahamaS,KaburakiT,NakaharaHetal:Epidemiolo-gyofuveitis(2013-2015)andchangesinthepatternsofuveitis(2004-2015)inCtheCcentralCTokyoarea:aCretro-spectivestudy.BMCOphthalmologyC18:189,C20186)KunimiCK,CUsuiCY,CTsubotaCKCetal:ChangesCinCetiologyCofCuveitisCinCaCsingleCcenterCinCJapan.COculCImmunolCIn.amm.1-6,2020Feb18;Onlineaheadofprint7)寒竹大地,中尾功,江内田寛:佐賀大学眼科におけるぶどう膜炎の統計.臨眼74:595-600,C20208)池脇淳子,瀧田真裕子,久保田敏昭:大分大学医学部眼科におけるぶどう膜炎の臨床統計.臨眼66:61-66,C20129)小沢昌彦,野田美登利,内尾英一:福岡大学病院眼科におけるぶどう膜炎の統計.臨眼61:2045-2048,C200710)福島敦樹,西野耕司,小浦裕治ほか:2004年の高知大学医学部眼科におけるぶどう膜炎の臨床統計.臨眼60:315-318,C200611)芹澤元子,國重智之,伊藤由起子ほか:日本医科大学付属病院眼科におけるC8年間の内眼炎患者の統計的観察.日眼会誌119:347-353,C201512)澁谷悦子,石原麻美,木村育子ほか:横浜市立大学附属病院における近年のぶどう膜炎の疫学的検討(2009.2011年).臨眼66:713-718,C201213)糸井恭子,高井七重,竹田清子ほか:大阪医科大学におけるぶどう膜炎患者の臨床統計.眼紀C57:90-94,C200614)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJCOphthal-molC131:647-652,C200115)YoshidaCA,CKawashimaCH,CMotoyamaCYCetal:Compari-sonCofCpatientsCwithCBehcetCdiseaseCinCtheC1980sCandC1990s.COphthalmologyC111:810-815,C2004***

感染性心内膜炎に強膜炎とぶどう膜炎を併発した1 例

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1348.1352,2021c感染性心内膜炎に強膜炎とぶどう膜炎を併発した1例小林崇俊*1岡本貴子*1高井七重*1庄田裕美*1丸山耕一*1,2多田玲*1,3池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2川添丸山眼科*3多田眼科CACaseofScleritisandUveitisAccompaniedbyInfectiveEndocarditisTakatoshiKobayashi1),TakakoOkamoto1),NanaeTakai1),YumiShoda1),KouichiMaruyama1,2),ReiTada1,3)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)KawazoeMaruyamaEyeClinic,3)TadaEyeClinicC目的:感染性心内膜炎(IE)にぶどう膜炎と強膜炎を併発したC1例を経験したので報告する.症例:40歳,男性.2カ月前からときどきC37.39℃台の発熱,頭痛,膝関節痛,太腿部痛などがあり,近医内科に通院中であった.1週間前から左眼歪視,充血,眼痛,視力低下を自覚して大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科を受診した.初診時視力は,右眼矯正C1.2,左眼矯正C0.3.左眼は上方の充血と角膜後面沈着物,1+の前房内炎症細胞,黄斑にはCRoth斑と,OCTで中心窩下に隆起性病変を認めた.当院内科に入院して精査を行い,血液培養からCStreptococcusCmitis/oralisが検出され,心エコーからCIEと診断された.その後,抗菌薬の点滴治療により全身状態は改善し,強膜炎,ぶどう膜炎も軽快した.左眼矯正視力はC1.0に回復した.結論:不明熱を伴った強膜炎やぶどう膜炎を診察した場合,IEも鑑別診断の一つとして重要である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCinfectiveendocarditis(IE)accompaniedCbyCscleritisCandCuveitis.CCase:A40-year-oldmalepresentedwithafeverrangingfrom37℃to40℃,headache,kneejointpain,andthighpainfrom2monthspriortoadmission,andvisitedourdepartmentafterbecomingawareofdistortedvision,hyperemia,eyepain,CandCdecreasedCvisualacuity(VA)inChisCleftCeyeCfromC1CweekCearlier.CUponCexamination,ChisCbest-correctedVA(BCVA)was1.2CODand0.3COS.Hislefteyeexhibitedhyperemia,especiallyintheupperside,keraticprecipi-tates,CcellsCofCgradeC1+inCtheCanteriorCchamber,CRothCspotsConCtheCmacula,CandCopticalCcoherenceCtomographyCexaminationrevealedanelevatedlesionunderthefovea.Streptococcusmitis/oralisCwasdetectedfromexaminationofChisCbloodCculture,CandCheCwasCdiagnosedCasCIECbyCechocardiography.CIntravenousCantibioticsCadministrationCimprovedChisCgeneralCcondition,CandCcuredCtheCscleritisCandCuveitis.CPostCtreatment,ChisCVACrecoveredCtoC1.0COS.CConclusion:Whenpatientsareseenwhoexhibituveitisorscleritiswithafeverofunknownorigin,IEshouldbeconsideredasadi.erentialdiagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(11):1348.1352,C2021〕Keywords:感染性心内膜炎,ぶどう膜炎,強膜炎,不明熱,Roth斑.infectiveendocarditis,uveitis,scleritis,fe-verofunkownorigin,Rothspots.Cはじめに感染性心内膜炎(infectiveendocarditis:IE)は,弁膜や心内膜,大血管内膜に細菌集簇を含む疣腫を形成し,菌血症,血管塞栓,心障害などの多彩な臨床症状を呈する全身性の敗血症性疾患である1).その診断は必ずしも容易ではなく2),長期間不明熱として診断がつかないケースもあり,的確な診断をして適切に治療されなければ,心臓だけではなく,さまざまな臓器の合併症を起こし,死に至ることもある3).また,眼病変を併発することも知られており,過去にはCRoth斑4),転移性内因性眼内炎5)などの報告が多いが,なかには眼科受診が契機となり,感染性心内膜炎の診断に至ったとする報告も散見される6).しかし,強膜炎7)やぶどう膜〔別刷請求先〕小林崇俊:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakatoshiKobayashi,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machiTakatsuki,Osaka569-8686,JAPANC炎7,8)を併発したとする報告は比較的少ない.今回,2カ月間,不明熱として経過したのちに,眼痛を自覚して眼科を受診.強膜炎,ぶどう膜炎,網膜出血を指摘されたことが契機となり,IEの診断に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:40歳,男性.主訴:左眼歪視,充血,眼痛,視力低下.現病歴:2018年(X-2)月ごろからときどきC37.39℃台の発熱があり,近医内科へ通院していた.同じころ,頭痛,膝関節痛,太腿部痛,足底部痛を自覚.右手の環指,小指には圧痛があり,大腿部には,有痛性の腫瘤があった.同年CX月上旬,左眼歪視を自覚.そのC2日後から左眼充血と,眼痛,視力低下を生じたため,近医眼科を受診し,左眼黄斑部出血を指摘された.それから約C1週間後に精査加療目的にて大阪医科大学附属病院(以下,当院)眼科(以下,当科)を紹介受診した.既往歴:心雑音(若年時から指摘),気管支喘息,化膿性脊椎炎.家族歴:特記すべきことなし.当科初診時所見:視力は,右眼C0.25(1.2C×sph.1.25D(cylC.0.50DAx90°),左眼C0.09(0.3C×sph.2.50D(cyl.0.75DAx165°).眼圧は右眼C12mmHg,左眼C12mmHg.左眼はおもに上方に強膜充血を認め,眼痛の訴えが強かった.左眼前房内は,1+程度の炎症細胞があり,微細な角膜後面沈着物を認めた.隅角検査では,耳側にC1カ所出血を認めた(図1).眼底は,左眼黄斑部に線状の白色病変を認め,その周囲に数カ所CRoth斑様の網膜出血を認めた.光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では中心窩下に隆起性病変を認め,網膜外層の構造が崩れていた(図2).なお,右眼は前眼部,眼底とも病変はなかった.初診日にC39℃台の発熱があり,眼科だけではなく当院内科も受診した.長期間発熱が持続していたことや,CRP(C-reactiveCpro-tein)が高値であったことなどから同日に不明熱の精査加療目的にて当院内科に入院となった.同日の採血では,赤血球C4.58×106/μl(4.35-5.55C×106/μl),白血球C11.03C×103/μl(基準値:3.30-8.60C×103/μl),血小板C205C×103/μl(基準値:C158-348×103/μl),CRPはC6.43mg/dl(基準値:0.14mg/dl以下)であった.また,ぶどう膜炎セットの採血も行い,梅毒トレポネーマ抗体陰性,RPR(rapidplasmareagin)検査陰性,トキソプラズマCIgM抗体C0.1CIU/ml(基準値<0.8),トキソプラズマCIgG抗体≦3CIU/ml(基準値<6),結核菌特異的インターフェロンCg遊離試験は陰性であった.眼科としては,持続する発熱があり,CRPが高値であったことから,全身疾患に強膜炎とぶどう膜炎が併発している可能性が高いと考え,レボフロキサシン点眼左C4,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムCPF点眼左C4,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼左C2で経過をみることとした.経過:入院後の内科での精査の結果,血液培養からCStrep-tococcusmitis/oralisが検出され,心エコーと,それに続いて経食道心エコーが行われた.その結果,僧房弁逸脱症が判明し,僧房弁に付着している疣贅が観察された.また,頭部MRI検査が行われ,無症候性の脳梗塞が判明した.その結果,修正CDuke診断基準3)で大基準C1項目,小基準C5項目を満たすことから,IEと確定診断された.Cb-ラクタマーゼ系の抗生物質(スルバシリン)の点滴投与が開始され,投与開始翌日には眼痛は消失し,発熱も数日以内に治まった.その後,右眼の周辺部にも網膜出血が散在性に出現した.治療開始約C4週間後には左眼の充血と網膜出血は消退し,矯正視力はC1.0に改善した.点滴治療は約C4週間続けられ,再度行った頭部CMRI検査にて新たな部位に脳梗塞病変が発見されたが,麻痺症状はなく,膿瘍もないことからそのまま経過観察となった(図3).また,入院中に歯科と整形外科に図1初診時左眼前眼部写真a:左眼上方に強い充血を認める.Cb:左眼耳側の隅角にC1カ所出血(C.)を認めた.図2初診時左眼眼底画像a:眼底写真.黄斑部に複数のCRoth斑と,中心窩に白色病変を認めた.Cb:OCT画像.中心窩下に隆起性病変(.)を認めた.b図3頭部MRI画像後頭葉に脳梗塞病変(C.)を認めた.て精査した結果,歯科では中等度の歯周病があり,抜歯処置が必要な状態であった.整形外科では大腿部のしこりは炎症性結節との診断であり,入院中にしこりは徐々に縮小したため,とくに処置は行われなかった.入院から約C5週間後に,眼科,内科とも経過良好にて当院を退院となった.点眼薬はC3カ月間続け,その後中止とした.現在,発症から約C2年が経過しており,左眼矯正視力は1.0であるが,OCTではCellipsoidzoneに不整な箇所が残存している(図4).CII考按IEは,心臓だけではなく,全身の諸臓器が関係する急性,亜急性の感染症である.わが国におけるC114施設からのC2年間の大規模調査の報告によると,513症例中,男性C320例,女性C193例となっており,発症年齢の中央値はC61歳(最年少1歳.最年長97歳),約80%以上に基礎疾患として循環器疾患を認めた.また,誘因として,う蝕,歯周病が全体の25%と最多を占める結果となっている9).本症例も,起因菌は口腔内に多く存在する緑色レンサ球菌の一種のCStreptococ-cusmitis/oralisであり,入院中の精査によって歯周病が発見され,歯科にて治療を受けた.cIEは内科的に診断が困難な場合2)もあり,また,眼科受診を契機に診断に至るケースも報告されており6),疾患の概要については眼科医としても熟知しておくべきである.仲松らの総論によると,IEの症状は,非特異的症状(倦怠感,食思不振,体重減少など),心臓に由来する症状,塞栓による症状の組み合わせからなり,多彩な症状を呈し,約C90%の患者に発熱を認める10).本症例でもC37.39℃台の発熱と,僧房弁逸脱症によると考えられる心雑音を呈しており,また,脳梗塞などの塞栓症があった.さらに,眼科受診以前から膝関節痛,太腿部痛,足底部痛や,右手の環指,小指に圧痛があり,大腿部には結節も認めたことから,疣贅が血流によって全身に移動し,各部位に塞栓症を起こしていたものと考えられた.今回,発熱が先行し,おそらく前医眼科受診の直前になって強膜炎とぶどう膜炎が発症し,歪視や眼痛などの自覚症状が出現したものと考えられた.発熱を伴う強膜炎やぶどう膜炎の患者を診察した場合,膠原病関連疾患や悪性腫瘍も鑑別疾患として重要であるが,まずは感染症を鑑別することがも図4発病から2年経過時点の各種所見a:前眼部写真.左眼上方強膜の充血は消退している.Cb:左眼眼底写真.Roth斑と白色病変は消退している.c:左眼COCT画像.中心窩下の隆起性病変は消退したが,ellipsoidzoneの不整はわずかに残存している(.).っとも大切であると考えられる.そのまま内科へ速やかに受診できればよいが,それが無理であれば,眼科で少なくとも採血検査だけは行うべきと考える.もしそれで異常値が見つかれば,より積極的な全身検査を行う必要があることは言うまでもないが,それが緊急性を要するかどうかの判断は眼科単独では難しいことが多く,今後の課題である.本症例では当科初診日に内科も受診することができ,迅速な対応が可能であったが,普段から眼科以外の他科との連携をスムーズに行えるように配慮しておくべきである.IEに伴う眼疾患としては,内因性転移性眼内炎や,網膜中心動脈閉塞症11),ぶどう膜炎などの報告があるが,もっとも多いのは網膜出血の報告である.中心部分に白色部分を含む特徴的な網膜出血はCRoth斑とよばれ,今回も当初からRoth斑と考えられる網膜出血が,左眼は黄斑部付近に,右眼も経過中に周辺部に数カ所認められた.筆者の一人(担当医)は,初診時にCRoth斑は視認したものの,すでに他院内科に通院していたことから,感染症の可能性は低いと安易に考え,採血で血球系にも異常値を認めたため,血液疾患を強く疑った.しかし,CRP高値で不明熱が長期間に及んでいたことから,その後の精査によってCIEと診断されるに至った.本症例のように,IEに強膜炎を併発したとする報告は少なく7),ぶどう膜炎を生じたとする報告もまれである7,8).強膜炎は,強膜血管に免疫複合体が沈着し,血管内に沈着した免疫複合体に補体が結合し,補体系活性化により炎症細胞浸潤が誘導され,強膜血管炎が発生する,とされている12).今回も,おそらく疣腫を含めた免疫複合体が原因となり,上方の強膜血管に沈着して炎症が惹起され,強膜炎が生じたものと考えられる.また,中心窩下の白色の隆起性病変の詳細は不明であるが,眼症状としてまず歪視を自覚していることから,同様な疣腫を含めた免疫複合体が先に脈絡膜にたどり着いたものではないかと考えている.前述のように,IEの起因菌はさまざまであるが,緑色レンサ菌など,口腔内由来のものが多くを占めている.最近,口腔内細菌とCIEの関連を調べた研究が数多く行われ,多くの知見が得られている.たとえば,緑色レンサ球菌でう蝕を生じる主要な細菌であるCStreptococcusmutansの研究がある13).その菌体表層に存在するコラーゲン結合蛋白質であるCnmとCCbmは,それぞれC10.20%と,2%にしか存在していない.しかし,Cbmを有するものは,心臓の弁膜に漏出したコラーゲンに付着するだけではなく,血漿中に含まれるフィブリノーゲンにも付着し,それを架橋とした血小板凝集能を惹起することが明らかとなっており13),疣贅形成に直結する.つまり,細菌の種類のみではなく,それに発現している蛋白質の違いによって,IEのなりやすさに差があることがわかってきている.一方,緑色レンサ球菌のヒト培養網膜色素上皮細胞(ARPE-19)に対する細胞毒性をみた研究では,Streptococ-cusmitis/oralisでは強い毒性はなかったものの,Streptococ-cuspseudoporcinusではCARPE-19に強い毒性を示した14).このように,同じ系統の細菌でも,菌種によって生体組織へ与えるダメージや,付着のしやすさに差があることが徐々に明らかになってきている.本症例では発熱の期間が長く,菌血症であった時間が比較的長期であったにもかかわらず,眼病変が軽症で回復した背景には,起因菌がCStreptococcusmitis/oralisであったために,組織へ与えるダメージが少なかった可能性が考えられる.今回は過去の報告と異なり,中心窩下にも病変を認めていた.経過中,病変は徐々に縮小したものの,OCTではC2年が経過したあともCellipsoidzoneの不整がわずかではあるが残存している.しかし,初診時の病変が比較的大きかったにもかかわらず,歪視や視力低下は残存していない.それはCStreptococcusmitis/oralisが起因菌であったために,上記の研究結果のように網膜色素上皮や網膜へのダメージが最小限に抑えられた可能性が考えられる.発現している蛋白質や,眼組織への付着のしやすさまではわらないが,本症例ではむしろ付着しにくかったのかもしれない.したがって,同様の隆起性病変が生じた場合,起因菌の種類や性質によっては組織が大きく障害され,視力低下を生じるケースも起こりうると考えられる.症例の蓄積と研究の進展によって,今後さらに詳細が明らかになってくるものと考えられる.最後に,不明熱を伴った強膜炎やぶどう膜炎の患者を診察した場合,IEも鑑別診断の一つとして重要であると考えられた.今回の論文の要旨は,第C53回日本眼炎症学会にて発表した.文献1)中谷敏:感染性心内膜炎の病態生理.化学療法の領域C34:220-223,C20182)SumitaniS,KagiyamaN,SaitoCetal:Infectiveendocar-ditiswithnegativebloodcultureandnegativeechocardio-graphic.ndings.JEchocardiogrC13:66-68,C20153)CahillTJ,PrendergastBD:Infectiveendocarditis.LancetC387:882-893,C20164)RuddySM,BergstromR,TivakaranVS:Rothspots.Stat-Pearls[Internet]C,CStatPearlsCPublishing,CTreasureCIsland(FL),20205)AoyamaCY,CObaCY,CHoshideCSCetal:TheCearlyCdiagnosisCofendophthalmitisduetoGroupBStreptococcusCinfectiveendocarditisanditsclinicalcourse:acasereportandlit-eraturereview.InternMedC58:1295-1299,C20196)FujiokaS,KarashimaK,InoueAetal:CaseofinfectiousendocarditisCpredictedCbyCorbitalCcolorCDopplerCimaging.CJpnJOphthalmolC49:46-48,C20057)MitakaCH,CGomezCT,CPerlmanDC:ScleritisCandCendo-phthalmitisCdueCtoCStreptococcusCpyogenesCinfectiveCendo-carditis.AmJMedC133:e15-e16,C20208)HaCSW,CShinCJP,CKimCSYCetal:BilateralCnongranuloma-tousuveitiswithinfectiveendocarditis.KoreanJOphthal-molC27:58-60,C20139)NakataniCS,CMitsutakeCK,COharaCTCetal:RecentCpictureCofCinfectiveCendocarditisCinCJapanC─ClessonsCfromCcardiacCdiseaseregistration(CADRE-IE)C.CCircCJC77:1558-1564,C201310)仲松正司,藤田次郎:発熱と感染症全身感染・細菌性心内膜炎.臨牀と研究90:1026-1031,C201311)ZiakasCNG,CKotsidisCS,CZiakasCACetal:CentralCretinalCarteryocclusionduetoinfectiveendocarditis.IntOphthal-molC34:315-319,C201412)堀純子:強膜炎発症機構.眼科52:1149-1154,C201013)野村良太,仲野和彦:口腔バリアと疾患その破綻とう蝕病原性細菌が引き起こす全身疾患.実験医学C35:1182-1188,C201714)MarquartME,BentonAH,GallowayRCetal:Antibioticsusceptibility,Ccytotoxicity,CandCproteaseCactivityCofCviri-dansCgroupCstreptococciCcausingCendophthalmitis.CPLoSCOneC13:e0209849,C2018

小児の真性小眼球症の黄斑隆起所見

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1344.1347,2021c小児の真性小眼球症の黄斑隆起所見浅野真美加近藤寛之産業医科大学眼科学教室CMacularFoldsinPediatricPatientswithNanophthalmosMamikaAsanoandHiroyukiKondoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealthC目的:小児期の真性小眼球症C2例にみられた黄斑隆起所見を報告する.症例:症例C1はC4歳,男児.視力は右眼(0.08),左眼(0.08),両眼眼軸長はC17Cmmであった.光干渉断層計(OCT)画像で両眼黄斑隆起を認め,中心窩無血管帯は消失していた.弱視治療を行い,7歳時視力は右眼(0.6),左眼(0.9)へ改善した.OCT画像による中心窩の網膜内層遺残の程度を,中心外(pIRL)と中心窩での網膜内層の厚み(fIRL)の比(fIRL/pIRL)で経時的にみたところ,4歳時とC7歳時で右眼はC1.60からC1.25,左眼はC1.32からC1.20へ両眼とも減少を認めた.症例C2はC3歳,女児.視力は右眼(0.1),左眼(0.1),眼軸長は右眼C16.69Cmm,左眼C16.70Cmmであった.OCT画像で両眼黄斑隆起を認めた.弱視治療を行い,5歳時視力は右眼(0.3),左眼(0.3)へ改善した.OCT画像によるCfIRL/pIRL比はC3歳時とC5歳時で,右眼はC1.16からC1.15,左眼はC1.27からC1.14へ減少した.結論:真性小眼球症では黄斑隆起所見を認めることがある.眼球の解剖学的成長に伴い黄斑隆起は経時的に平坦化していく可能性がある.CPurpose:ToCreportCtheCclinicalCcourseCofCpediatricCpatientsCwithCnanophthalmos.Cases:CaseC1CinvolvedCaC4-year-oldCboyCwithCaCvisualacuity(VA)ofC0.08ODCandC0.08OS.CInCbothCeyes,CtheCaxiallength(AL)wasC17.00CmmCwithCmacularCfolds.CAmblyopiaCtherapyCresultedCinChisCVACimprovingCtoC0.6CODCandC0.9COSCatC7-yearsCold.CFromC4-toC7-yearsCold,CtheCfovealCversusCparafovealCthicknessCratioCofCtheCinnerCretinallayers(fIRL/pIRL)Chadchangedfrom1.60Cto1.25CODandfrom1.32to1.20COS,respectively.Case2involveda3-year-oldgirlwithaVAof0.1inbotheyesandanALof16.69CmmODand16.70CmmOS.OpticalcoherencetomographyexaminationrevealedCmacularCfoldsCinCbothCeyes.CAmblyopiaCtherapyCresultedCinCherCVACimprovingCtoC0.3CODCandC0.3COSCatC5-yearsCold.CFromC3-toC5-yearsCold,CtheCfIRL/pIRLCratioChadCchangedCfromC1.16CtoC1.15CODCandCfromC1.27CtoC1.14COS,Crespectively.Conclusion:InCpediatricCnanophthalmosCeyes,CtheCfIRL/pIRLCratioCcanCbeCdecreasedCwithCanatomicalgrowthoftheeyeballduringchildhood.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(11):1344.1347,C2021〕Keywords:真性小眼球症,黄斑隆起,弱視,経時的変化.nanophthalmos,CmacularCfolds,Camblyopia,CclinicalCcourse.Cはじめに真性小眼球症は,眼杯裂の閉鎖後に眼球の発育が停止し,眼球の容積が正常のC2/3以下であり,他の身体的異常を伴わないものと定義されている1).馬島らは小眼球を年齢別の眼軸長で分類し,1歳でC19Cmm以下,成人ではC20.4Cmm以下とした2).高度遠視,強膜肥厚,uvealeffusion,閉塞隅角緑内障,黄斑低形成などが高頻度で合併するといわれている3).近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発達に伴い,真性小眼球症の黄斑部の解剖学的構造異常が検討され,黄斑部に隆起性病変を認めるという特徴が報告されている4.8).今回,筆者らは,真性小眼球症のC2症例を経験し,OCTを用いて隆起性病変の経時的変化を観察したので報告する.CI症例[症例1]4歳,男児〔別刷請求先〕浅野真美加:〒807-8555福岡県北九州市八幡西区医生ヶ丘C1-1産業医科大学眼科学教室Reprintrequests:MamikaAsano,DepartmentofOphthalmology,UniversityofOccupationalandEnvironmentalHealth,1-1,Iseigaoka,Yahatanishi-ku,Kitakyushu-shi,Fukuoka807-8555,JAPANC1344(106)右眼左眼主訴:とくになし.初診:2017年C8月.現病歴:痒みで前医受診時に眼底異常を指摘され,当科初診となった.家族歴なし.初診時所見:視力は,右眼C0.06(0.08C×sph+15.5D(cylC.1.5DAx180°),左眼C0.07(0.08C×sph+15.5D(cyl.1.0DAx175°)であり,高度遠視を認めた.眼軸長は両眼とも17Cmmと短眼軸であった.前眼部に異常は認めなかった.硝子体はベール状の混濁を認めた.両視神経は発赤,中心窩反射は認めなかった.経過:2017年C11月に全身麻酔下での眼底検査を施行した.眼底所見(図1上段)では,視神経乳頭が偽乳頭浮腫様に腫脹し辺縁が不整であったが,血管の拡張・蛇行は認めなかった.黄斑部には明瞭な黄斑色素を認めた.OCT所見(図1下段)は両眼とも網膜内層が皺襞様に隆起していた.網膜前膜を疑う高輝度反射は認めず,En-face画像でも網膜硝子体の境界面には皺襞はみられなかったが,中心窩無血管帯(fovealCavascularzone:FAZ)を認めなかった.網膜電図には異常所見を認めず,蛍光眼底造影検査では上下網膜血管の走行は非対称であった.眼鏡による弱視治療を行い,7歳時の視力は右眼(0.6C×sph+15.5D(cyl-1.0DAx180°),左眼(0.9CpC×sph+15.5D(cyl-1.0DAx180°)まで向上した.OCT画像による中心窩の網膜内層遺残の程度を評価するにあたり,中心窩での網膜内層の厚み(fovealCinnerCretinallayer:fIRL)はCfovealbuldgeがみられるところを中心窩とみなし,その位置で内境界膜内側から内顆粒層外側までの長さを計測した.また,中心外の網膜内層の厚み(parafovealCinnerretinallayer:pIRL)は中心窩からC1,000Cμm鼻側で同様に計測した.網膜内層遺残の程度は中心窩と中心外での網膜内層の厚さの比(fIRL/pIRL比)で評価した9,10).その結果,fIRL/pIRL比はC4歳(2017年C8月)時とC7歳(2020年11月)時では右眼はC1.60からC1.25,左眼はC1.32からC1.20となり,両眼とも中心窩の網膜内層遺残は減少を示した.[症例2]3歳,女児主訴:母からみてよく目を細める.初診:2018年C8月.現病歴:幼稚園で視力不良を疑われ,前医受診.精査目的に当科紹介受診となった.家族歴なし.初診時所見:視力は,ハンドルにて右眼(0.1),左眼(0.1)であった.眼圧は右眼C10CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部,中間部透光体に特記すべき異常は認めなかった.初診時は児の協力が得られず,眼底の詳細な検査は困難であった.眼軸長は右眼C16.69mm,左眼C16.70Cmmであった.経過:4歳(2019年C8月)時には眼底検査が可能となった.右眼左眼眼底所見(図2上段)で両眼偽乳頭浮腫様を認め,明瞭な黄斑色素を認め,中心窩反射は認めなかった.OCT所見(図2下段)で網膜内層の皺襞様隆起を認め,網膜に網膜前膜などによる牽引を認めなかった.眼鏡による弱視治療を行い,5歳時での視力は右眼(0.3C×sph+17.0D(cyl.1.5DAx150°),左眼(0.3C×sph+16.0D(cyl.1.5DAx25°)へ改善を認めた.OCT画像によるCfIRL/pIRL比は,3歳(2018年3月)時と5歳(2020年9月)の時点では,右眼1.16から1.15に,左眼はC1.27からC1.14となり,若干の減少を認めた.CII考按本症例では,2症例ともに網膜内層遺残と外層肥厚による隆起性病変を呈していた.真性小眼球症ではCBoyntonらは,発育過程で眼球壁に対して網膜,とくに黄斑部が余剰となり,黄斑隆起を生じると報告した11).1998年CSerranoらは,真性小眼球症では,肥厚した強膜は感覚網膜の発達を妨げないが,脈絡膜と網膜色素上皮の発達を妨げるため,黄斑部の隆起を生じると報告している12).2007年にCWalshらは,FAを用いて真性小眼球症ではCFAZの消失もしくは著しい縮小がみられたとしており,本症例C1に一致した13).2020年のCOkumichiらの報告では,対象C49C±13歳の成人例C5名C8眼において深層CFAZ面積と視力に相関を認めると報告されたが,症例数が少なく,相関を認める理由は不明であった14).また,視力と浅層CFAZ面積や眼軸長,fIRL/pIRL比に相関は認めなかったと報告されている14).真性小眼球症において網膜の隆起性病変に関する報告は複数存在するが,筆者らが調べた限り,小児の真性小眼球症のOCT所見を経時的に示した報告はなかった4.8).今回,筆者らは,全身麻酔下での眼底検査を行うことで小児における真性小眼球症のCOCT所見と視力の経時的変化を追うことができた.症例C1,2ともに年齢が上がるにつれ,fIRL/pIRL比は低下を認めた.また,症例C1,2ともに視力の向上も認めた.筆者らの症例では眼軸長は経時的な測定を行っていないが,眼球の解剖学的成長に伴い,fIRL/pIRL比が低下し,黄斑隆起は経時的に平坦化していく可能性が示された.真性小眼球症における網膜のCOCT所見による経時的変化は今後も検討していく必要があると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)Duke-ElderS:NormalCandCabnormalCdevelopment,CPartC2CCongenitalCdeformities.CSystemCofCOphthalmology,CVol-ume3,p488-495,MosbyCompany,StLouis,19642)MajimaA:MicrophthalmosCandCitsCpathogenicCclassi-.cation.日眼会誌C98:1180-1200,C19943)DemircanCA,CYesilkayaCA,CAltanCCCetal:FovealCavascu-larzoneareameaurementswithopticalcoherencetomog-raphyCangiographyCinCpatientsCwithCnanophthalmos.CEyeC33:445-450,C20194)BijlsmaWR,vanSchooneveldMJ,VanderLelijAetal:COpticalcoherencetomography.ndingsfornanophthalmiceyes.RetinaC28:1002-1007,C20085)DemircanA,AltanC,OsmanbasogluOAetal:SubfovealchoroidalCthicknessCmeasurementsCwithCenhancedCdepthCimagingCopticalCcoherenceCtomographyCinCpatientsCwithCnanophthalmos.BrJOphthalmolC98:345-349,C20146)YalcindaC.FN,CAtillaCH,CBatio.luF:OpticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCofCretinalCfoldsCinCnanophthalmos.CaseReportsinOphthalmologicalMedicine:20117)MansourAM,StewartMW,YassineSWetal:Unmea-surableCsmallCsizeCsuper.cialCandCdeepCfovealCavascularCzoneCinnanophthalmos:theCcollaborativeCnanophthalmosCOCTAstudy.BrJOphthalmolC103:1173-1178,C20198)HelvaciogluCF,CKapranCZ,CSencanCSCetal:OpticalCcoher-encetomographyofbilateralnanophthalmoswithmacularfoldsCandChighChyperopia.CCaseCReportsCinCOphthalmologi-calMedicine:20149)MatsushitaI,NagataT,HayashiTetal:Fovealhypopla-siainpatientswithsticklersyndrome.AmAcadOphthal-molC124:896-902,C201710)MaldonadoRS,O’ConnellRV,SarinNetal:DynamicsofhumanCfovealCdevelopmentCafterCprematureCbirth.COph-thalmologyC118:2315-2325,C201111)BoyntonCJR,CPurnellEW:BilateralCmicrophthalmosCwith-outCmicrocorneaCassociatedCwithCunusualCpapillomacularCretinalCfoldsCandChighChyperopia.CAmCJCOphthalmolC79:C820-826,C197512)SerranoJC,HodgkinsPR,TaylorDSIetal:Thenanoph-thamicmacula.BrJOphthalmolC82:276-279,C199813)WalshCMK,CGoldbergMF:AbnormalCfovealCavascularCzoneCinCnanophthalmos.CAmCJCOphthalmolC143:1067-1068,C200714)OkumichiCH,CItakuraCK,CYuasaCYCetal:FovealCstructureCinCnanophthalmosCandCvisualCacuity.CIntCOphthalmolC41:C805-813,C2020C***

Descemet Membrane Endothelial Keratoplasty 連続 76 症例の検討

2021年11月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(11):1339.1343,2021cDescemetMembraneEndothelialKeratoplasty連続76症例の検討黒木翼*1,2親川格*3松澤亜紀子*4,5清水俊輝*2小橋川裕司*6加藤直子*7井田泰嗣*1,2湯田健太郎*2,8水木信久*2林孝彦*1,2*1横浜南共済病院眼科*2横浜市立大学眼科学教室*3ハートライフ病院眼科*4聖マリアンナ医科大学眼科学教室*5川崎市立多摩病院眼科*6横須賀中央眼科*7南青山アイクリニック*8きくな湯田眼科TheSurgicalLearningCurveforDescemetMembraneEndothelialKeratoplasty:ASeriesof76ConsecutiveCasesTsubasaKuroki1,2)C,ItaruOyakawa3),AkikoMatsuzawa4,5)C,ToshikiShimizu2),YujiKobashigawa6),NaokoKato7),YasutsuguIda1,2)C,KentaroYuda2,8)C,NobuhisaMizuki2)andTakahikoHayashi1,2)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,HeartLifeHospital,4)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,KawasakiMunicipalTamaHospital,6)CChuohEyeClinic,7)MinamiaoyamaEyeClinic,8)KikunaYudaEyeClinicCYokosuka目的:Descemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)は角膜内皮細胞機能不全に対する有効な外科的治療法の一つである.術後早期の視力向上や拒絶反応が少ない反面,ラーニングカーブがきついといわれている.同一術者によるCDMEK導入後の短期評価を行ったので報告する.方法:2014年C8月.2018年C10月に横浜南共済病院にて同一術者によりCDMEKを施行された連続症例における術後矯正視力,角膜内皮細胞密度,術後合併症について後方視的に検討した.結果:76例C76眼中,12カ月以上観察が可能であったC68眼を対象に検討を行った.術後最高矯正視力は有意に回復した(p<0.001).術後C1年の平均角膜内皮細胞密度はC1,244C±503個/Cmm2(減少率C53.2C±18.8%)であった.術中合併症として出血C2眼,移植片挿入トラブルC4眼,裏返し固定C3眼,術後合併症として.胞様黄斑浮腫C9眼,拒絶反応C1眼,原因不明の移植片機能不全C1眼を認めた.結論:導入初期に術中合併症が問題となるが,方法の工夫により,手術成績は改善し,良好な視機能が得られる.CPurpose:AlthoughCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty(DMEK)isCanCe.ectiveCsurgicalCtreatmentCforCcornealCendothelialcell(CEC)dysfunction,CtheClearningCcurveCisCsteep.CMoreover,ClimitedCvisualacuity(VA)Cimprovementandcornealgraftrejectioncansometimesoccurintheearlypostoperativeperiod.Herewereportashort-termCevaluationCofCDMEKCoutcomesCperformedCbyCaCsingleCsurgeonCpostCintroductionCtoCtheCprocedure.CMethods:InCthisCretrospectivelyCstudy,CtheCpostoperativeCbest-correctedVA(BCVA)C,CCECCdensity,CandCintra/Cpostoperativesurgicalcomplicationswereexaminedin76eyesof76consecutivecasesthatunderwentDMEKbythesamesurgeonatourhospitalfromAugust2014toOctober2018.Results:In68ofthe76eyesthatcouldbefollowedfor12-monthsorlongerpostoperative,BCVAwassigni.cantlyrestored(p<0.001)C.At1-yearpostopera-tive,themeanCECdensitywas1,244±503cells/mm2CandmeanrateofCEC-densitydecreasewas53.2±18.8%.IntraoperativeCcomplicationsCincludedbleeding(2eyes)C,Cdi.cultyCinCinsertingCtheCcornealgraft(4eyes)C,CandCinside-out.xation(3eyes)C.Postoperativecomplicationsincludedcyst-likemacularedema(9eyes)C,graftrejection(1eye)C,anddysfunctionofunknowncauseoftheimplantedgraft.Conclusion:Althoughintraoperativecomplica-tionscanoccurattheinitialstageofasurgeon’sintroductiontotheDMEKprocedure,outcomescanimproveandgoodvisualfunctioncanbeobtainedwithincreasedadaptationtothemethod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(11):1339.1343,C2021〕〔別刷請求先〕黒木翼:〒236-0037神奈川県横浜市金沢区六浦東C1-21-1横浜南共済病院眼科Reprintrequests:TsubasaKuroki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaMinamiKyosaiHospital,1-21-1MutsuurahigashiKanazawa,Yokohama,Kanagawa236-0037,JAPANCKeywords:デスメ膜角膜内皮移植術,角膜移植,合併症.Descemetmembraneendothelialkeratoplasty(DMEK)C,keratoplasty,complication.Cはじめに角膜移植における原因疾患の半数以上は水疱性角膜症など角膜内皮機能不全によるものである.かつて内皮機能不全に対する外科的治療として全層角膜移植(penetratingkerato-plasty:PKP)が施行されていたが,拒絶反応や縫合糸関連合併症(惹起不正乱視,感染症),外傷性創離開などの視機能へ大きく影響する合併症リスクを術後長期にわたり抱えることから,近年ではリスクが比較的少ない術式であるCDes-cemet膜.離角膜内皮移植術(Descemet’sCstrippingCauto-matedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)やCDescemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialCkerato-plasty:DMEK)といった,角膜内皮移植が第一選択となっている.そのなかでもCDMEKはCDSAEKと比較し,術後早期からきわめて高い視力が得られ,拒絶反応がきわめて起こりにくいといった長所がある1).一方で,移植片の挿入時トラブルや接着不良が起こりうるため,術者の習熟度により移植片の生着率や合併症に差が出やすいとされている2).また,わが国ではCDMEK導入施設がまだ少なく,同一術者によるDMEK多症例の検討はほとんどなされていない.そこで,横浜南共済病院にて同一術者により施行されたCDMEKの連続症例に関して,後ろ向きに解析を行うことにより,わが国におけるCDMEKの有効性を検討した.CI方法1.対象2014年C8月.2018年C10月に角膜内皮疾患に対して横浜南共済病院にてCDMEKを施行した連続症例C76例のうち,観察中断C8例を除き,術後C12カ月以上経過観察が可能であったC68症例を対象とした後ろ向き解析を行った.本研究は横浜南共済病院倫理員会の承認を得て行った(承認番号C1_19_11_11).C2.手術方法手術は点眼,瞬目,球後麻酔下で行われた.まず,ドナー移植片をC0.06%トリパンブルーまたは,0.1%ブリリアントブルーCG(BBG)にて染色し(2016年C1月以降CBBGを使用)3),各症例に応じたサイズ径で移植片を作製した4).次に,3カ所のサイドポートとC2.8mm上方強角膜切開を行い,8Cmm径大でCDescemet膜.離を行ったのち,下方最周辺部に虹彩切除を行った.採取した移植片を眼内レンズ挿入器具(アキュジェクトユニフィット)に装.し,前房内へ移植片を挿入した.その後,空気あるいはC20%六フッ化硫黄(SFC6)ガスで移植片の展開・固定を行い手術終了とした(2017年10月以降CSFC6ガスを使用).C3.検討項目以下の①.③を検討項目とした.①矯正視力角膜内皮細胞密度(ドナー細胞密度,術後C1カ月,3カ月,6カ月,12カ月)②術中合併症③術後合併症C4.統計検定JMP415(SASInstituteInc.,Cary,NC,USA)を使用した.術前後の視力,角膜内皮細胞密度の比較にはCWilcoxonC’s検定を使用した.p<0.05を有意とした.CII結果76例76眼,男性21眼,女性55眼,右眼46眼,左眼30眼にCDMEKを施行した.年齢は,54.85歳(平均C74.7C±7.3歳)であった.角膜内皮障害の原因疾患は,Fuchs角膜ジストロフィC25眼,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)18眼,落屑緑内障C9眼,角膜内皮炎C3眼,無水晶体眼性水疱性角膜症10眼,偽水晶体性水疱性角膜症C11眼であった.平均最高矯正視力(logMAR値)は術前C0.798C±0.483,術後C1カ月でC0.292C±0.296,術後C3カ月でC0.143C±0.164,術後C6カ月でC0.0824C±0.146,術後C1年でC0.0667C±0.142であった.術前と比較しいずれも有意に視力改善を認めた(p<0.001)(図1).平均角膜内皮細胞密度は,術前移植片でC2,660C±224個/Cmm2,術後C1カ月でC1,870C±497個/mmC2(減少率C29.6C±18.7%),術後C3カ月でC1,658C±484個/mmC2(減少率C37.6C±18.2%),術後C6カ月でC1,500C±466個/mmC2(減少率C43.5C±17.5%),術後C1年でC1,240C±503個/mmC2(減少率C53.2C±18.8%)であった.術前と比較しいずれも有意に減少した(p<0.001)(図2).平均角膜厚は,中心角膜は術前C698C±99Cμm,術後C1カ月でC518C±52μm,術後C3カ月でC498C±39μm,術後C6カ月でC504±39Cμm,術後C1年でC512C±41Cμmであり,いずれも優位に改善を認めた(p<0.001)(図3).自覚屈折検査では,術前C.1.36D(球面度数C.0.31D,円柱度数.2.17D)から術後C1年でC.1.22D(球面度数C.0.17D,円柱度数.2.16D)となったが優位差は認められなかった.術中合併症として出血C2眼,移植片の裏返し固定をC3眼,2015年以前に移植片の飛び出しをC3眼,挿入困難をC1眼経験した.術後合併症として.胞様黄斑浮腫(cystoidmacular3,5003,0002,500角膜内皮細胞密度(個/mm2)logMAR視力0.80.60.42,0001,5001,000500-0.2術後経過期間06カ月12カ月術前1カ月3カ月図1視力の経過最高矯正視力(logMAR値)は術前C0.798C±0.483(平均C±標準偏差)と比較し,いずれも優位に改善し,術後C1カ月でC0.292C±0.296(p<0.001),術後C3カ月でC0.143C±0.164(p<0.001),術後C6カ月でC0.0824C±0.146(p<0.001),術後C1年でC0.0667C±0.142(p<0.001)(Wilcoxon’s検定).C900術後経過期間図2角膜内皮細胞密度の経過術前内皮細胞密度はドナーの細胞密度を使用.角膜内皮細胞密度は術前C2,660C±224個/mmC2(平均C±標準偏差)と比較しいずれも有意に減少し,術後1カ月でC1,870C±497個/mmC2(p<0.001),術後C3カ月でC1,658C±484個/mmC2(p<0.001),術後6カ月でC1,500C±466個/mmC2(p<0.001),術後C1年でC1,240C±100あると考えられる.C0術前1カ月3カ月6カ月12カ月移植片挿入時のトラブルは,とくにアジア人眼に多くみら術後経過期間れる狭隅角眼症例に付随した高い硝子体圧が大きく影響して図3中心角膜厚の推移いると考えており,移植片挿入時に工夫を要する6).現在,中心角膜は術前C698C±99Cμm(平均C±標準偏差)と比較し,い挿入器具としてガラス管,眼内レンズインジェクターなどさ800中心角膜厚(μm)503個/mmC2と(p<0.001),術前と比較しいずれも有意に減少700した(Wilcoxon’s検定).600500400300200DMEKラーニングカーブでは憂慮すべき特徴的な合併症でずれも優位に改善し,術後C1カ月でC518C±52(p<0.001),術後3カ月で498C±39(p<0.001),術後C6カ月でC504C±39(p<0.001),術後C1年でC512C±41(p<0.001)となった(Wilcoxon’s検定).edema;CME)9眼,原因不明の移植片機能不全C1眼,拒絶反応C1眼を認めた.裏返しのC3眼中C3眼,移植片飛び出しの3眼中C2眼,出血のC2眼中C2眼,原因不明の移植片機能不全1眼の計C8眼を原発性移植片機能不全(primaryCgraftCfail-ure)と判定し,視力,角膜内皮細胞密度の評価から除外した.CIII考察わが国における単一施設単一術者によるCDMEK連続症例の結果では,術後早期段階から有意な視力,中心角膜厚の改善が欧米の既報同様に得られた5).また,DMEK合併症として術中出血がC2眼(3%),CMEがC9眼(13%)と欧米の既報同様に生じる点も確認された5).ただ,術中合併症である移植片挿入時トラブル(移植片の飛び出しC3眼,挿入困難C1眼)や移植片の視認性に伴うトラブル(長時間操作に伴う機械的内皮ダメージ,裏返し固定C3眼)などの多くはCDMEK導入初期に経験した合併症であり,わが国の症例におけるまざまな挿入器具があるが,適切な前房圧管理が重要と考え7),筆者らは,2017年以降,移植片後方に低用量の眼科手術用粘弾性物質(ophthalmicCviscosurgicaldevice:OVD)を充.する方法を考案した8).変更後,移植片挿入時のトラブルは激減し,安心して手術を行うことが可能となった.次に,初期に多く経験した移植片の裏返し固定もCDMEKに特徴的な合併症である.欧米の原疾患と異なり,わが国では進行した水疱性角膜症例が多いことや,濃い虹彩色素を有することで移植片のコントラストが悪いことなど前房内視認性の悪い症例が多いため,裏返し固定を回避する工夫が重要である.筆者らは術中光干渉断層計の活用のほか,独自の工夫としてマーキング法を採用し(図4),以後裏返し固定を生じることは皆無となった3,9).頻度は少ないが術中出血(図5)を起こしたC2眼では残念ながら手術の続行が不可能となった.これに関して,賛否両論があるが,術前にCLIを行うことや抗凝固薬の休薬などで最小限に抑えられる可能性があり,全身状態の評価を含め今後考慮すべき問題である10,11).術後一定期間を経てからの合併症としては拒絶反応とCMEがあげられる.拒絶反応をC1眼認め,DSAEKやCPKPに比べ低い発生率であり,欧米における既報と一致していた12,13).一方で図4移植片のマーキング直径C8Cmm前後の移植片を内皮が上向きになるように設置し,周辺部に時計回りにC1.5mmと1.0Cmmの小さな切れ込みを入れることで,表裏の判別が可能である.対側にC2カ所設置することでどのような状況下でも眼内での判別が比較的容易に可能である.CMEは欧米人と比較し,同等か若干高頻度にみられ,アジア人眼では前房内炎症が強い可能性が示唆される14).本研究では角膜内皮細胞密度の減少率が術後C1年でC53.2C±18.8%とやや高めであった5).原因としてラーニングカーブ以外に,これまでに日本人眼のデータにおいて虹彩ダメージが角膜移植後の角膜内皮細胞密度の減少率に相関する可能性が指摘されており15),前房内炎症が強く出やすいなどのアジア人眼の特性に影響があるかもしれない.本研究では同一術者の指導者不在の状況下でのCDMEK導入後の治療成績を報告した.原因疾患や虹彩損傷,前房深度を含めた患者背景が欧米人とは異なるため,今後わが国全体での治療成績の検討が必要である.DMEKは,術後初期の角膜内皮細胞密度の減少率が若干高いものの,視機能や拒絶反応の点ではCDSAEKと比較して良好であり,患者により術式を検討しながら,わが国でも導入可能な手技と考えられる.本研究が,今後さらなる治療成績の発展に役立つことに期待したい.文献1)HjortdalJ,PedersenIB,Bak-NielsenSetal:Graftrejec-tionCandCgraftCfailureCafterCpenetratingCkeratoplastyCorCposteriorClamellarCkeratoplastyCforCFuchsCendothelialCdys-trophy.Cornea32:e60-e63,C20132)MonnereauC,QuilendrinoR,DapenaIetal:MulticenterstudyCofCdescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:C.rstCcaseCseriesCofC18Csurgeons.CJAMACOphthalmolC132:C1192-1198,C20143)HayashiT,YudaK,OyakawaIetal:UseofbrilliantblueGCinCDescemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CBiomedResInt.9720389:1155,C20174)MatsuzawaCA,CHayashiCT,COyakawaCICetal:UseCofCfourC図5術中出血ひとたび前房出血を起こすと眼内でフィブリンが析出し,移植片と癒着を起こすため展開が困難となる.asymmetricCmarksCtoCorientCtheCdonorCgraftCduringCDes-cemet’sCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CBMJCOpenCOphthalmolC4:e000080,C20175)HamCL,CDapenaCI,CLiarakosCVSCetal:MidtermCresultsCofCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:4CtoC7CyearsCclinicalCoutcome.CAmCJCOphthalmolC171:113-121,C20166)HayashiT,OyakawaI,KatoN:TechniquesforLearningDescemetMembraneEndothelialKeratoplastyforEyesofAsianCPatientsCWithCShallowCAnteriorCChamber.CCorneaC36:390-393,C20177)SiebelmannS,JanetzkoM,KonigPetal:FlushingversuspushingCtechniqueCforCgraftCimplantationCinCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CCorneaC39:605-608,C20208)HayashiCT,COyakawaCI,CMatsuzawaA:DescemetCmem-braneendothelialkeratoplastyusingophthalmicviscoelas-ticCdevicesCforCeyesCwithClaserCiridotomy-inducedCcornealCendothelialdecompensation:AnalysisCofC11Ceyes.CMedi-cine(Baltimore)e11245,C20189)StevenP,BlancC,VeltenK:Optimizingdescemetmem-braneendothelialkeratoplastyusingintraoperativeopticalcoherenceCtomography.CJAMACOphthalmolC131:1135-1142,C201310)CrewsCJW,CPriceCMO,CLautertCJCetal:IntraoperativeChyphemainDescemetmembraneendothelialkeratoplastyaloneCorCcombinedCwithCphacoemulsi.cation.CJCCataractCRefractSurgC44:198-201,C201811)LoreckN,GeniesC,SchrittenlocherSetal:E.ectofanti-coagulanttherapyontheoutcomeofDescemetmembraneCendothelialkeratoplasty.CorneaC40:1147-1151,C202012)PriceCMO,CScanameoCA,CFengCMTCetal:Descemet’sCmembraneCendothelialkeratoplasty:riskCofCimmunologicCrejectionCepisodesCafterCdiscontinuingCtopicalCcorticoste-roids.OphthalmologyC123:1232-1236,C201613)HosCD,CTuacCO,CSchaubCFCetal:IncidenceCandCclinicalCcourseCofCimmuneCreactionsCafterCDescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:retrospectiveCanalysisCofC1000Cconsecutiveeyes.OphthalmologyC235:512-518,C201714)InodaS,HayashiT,TakahashiH:RiskfactorsforcystoidmacularCedemaCafterCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplasty.CorneaC38:268-274,C201915)IbrahimO,YaguchiY,KakisuK:Associationofirisdam-agewithreductionincornealendothelialcelldensityafterpenetratingkeratoplasty.CorneaC38:268-274,C2019***