糖尿病による網膜神経障害の抑制糖尿病による網膜神経障害網膜神経細胞・グリア細胞・血管・免疫細胞が,解剖学的にも機能的にも相互依存している状態を捉えた「神経血管ユニット(neurovascularunit:NVU)」という用語は,もともと血液脳関門に対して用いられてきたもので,2007年にCMonicaMeteaとCEricNewmanが初めて網膜に対して適用してから広く使われるようになりました1).糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)では,その診断基準となる毛細血管瘤,網膜内出血,白斑,新生血管といった細小血管障害に起因する眼底所見が出現する前から,NVUの機能低下が,血管網膜関門の破綻や網膜内血流調節の低下を介してCDR発症に関与しています.このため,DRの予防と早期治療の研究では糖尿病による細小血管障害の抑制のみならず,網膜神経の保護も重要視されています2).C~3脂肪酸とその代謝産物の網膜神経保護効果近年,高血糖環境下で血管内皮細胞から産生される活性酸素が,グリア細胞や網膜神経細胞を障害することが確認されています.また,DRの早期から生じる網膜神経障害は,網膜電図にて網膜内神経細胞であるアマクリン細胞由来の律動様小波(oscillatorypotential:OP)減弱として検出されます.網膜神経保護に焦点をあてたCDRの早期治療戦略を考えるうえで,筆者らは糖尿病で低下するといわれている脳由来神経栄養因子(brain-derivedCneurotrophicfactor:BDNF)に着目し,その内服によりCBDNF産生が改善されるというエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)が,DRにおける網膜機能障害を改善する可能性を検討しました.すると,活性酸素によるアマクリン細胞への直接的な障害だけで図1糖尿病網膜症におけるEPAとその代謝産物18-HEPEによるBDNFを介した網膜神経保護効果のメカEPAニズム糖尿病網膜症における網膜機能障害には,アマクリン細胞への直接的な障害だけでなくCMuller細胞から産生されるCBDNFの減少が関与しており,EPA代謝産物の18-HEPEが組織特異的に作用してBDNF産生を改善させ,アマクリン細胞の障害を抑制する.鈴村文那名古屋大学医学部医学科・大学院医学系研究科眼科学・感覚器障害制御学教室なく,眼内でBDNFを産生するCMuller細胞が障害され,BDNFの産生が低下することでアマクリン細胞の活性が低下するというCDR一連のメカニズムに対して,EPAの内服は活性酸素の産生ならびにCMuller細胞の障害を抑制し,眼内のCBDNF産生を改善するとともにCOP減弱を抑制することがわかりました.また,EPAは体内で代謝されたあと,とくにC18-HEPEという形で作用していることもわかりました3).このことから,EPAの内服によりCDR早期の網膜機能障害が抑制される可能性が示唆されました(図1).今後の展望現在,DRの治療としては網膜光凝固術や血管内皮増殖因子阻害薬の硝子体内注射が広く行われ,硝子体手術の技術も向上してきているものの,治療抵抗性を示す患者も少なくありません.そこで,DRの効率的な予防および早期治療の研究が進められるなかで,網膜神経を保護するという新たなアプローチも試みられています.複雑な病態のCDRにおいて,従来多くの研究でターゲットにされてきた網膜血管障害の抑制とともに臨床への応用が期待されます.文献1)MeteaMR,NewmanEA:Signallingwithintheneurovas-cularCunitCinCtheCmammalianretina:SignallingCwithinCneurovascularCunitCinCretina.CExpCPhysiolC92:635-640,C20072)AntonettiDA,SilvaPS,StittAW:CurrentunderstandingofCtheCmolecularCandCcellularCpathologyCofCdiabeticCreti-nopathy.NatRevEndocrinolC17:195-206,C20213)SuzumuraCA,CKanekoCH,CFunahashiCYCetal:n-3CFattyCacidanditsmetabolite18-HEPEameliorateretinalneuro-nalcelldysfunctionbyenhancingMullerBDNFindiabet-icretinopathy.DiabetesC69:724-735,C2019糖尿病網膜症高血糖状態活性酸素産生抑制18-HEPEMuller細胞障害改善BDNF産生低下改善網膜電図にてOP振幅低下抑制として確認されるアマクリン細胞障害抑制(97)あたらしい眼科Vol.40,No.4,2023C5290910-1810/23/\100/頁/JCOPY