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Bangerter フィルター装用下の両眼加算の検討

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):248.250,2022cBangerterフィルター装用下の両眼加算の検討本居快服部玲奈杉浦巧知愛知淑徳大学心理医療科学研究科心理医療科学専攻視覚科学専修CExaminationofBinocularSummationbyUseoftheBangerterOcclusionFoilFilterKaiMotoori,RenaHattoriandTakutoSugiuraCDepartmentofVisualScience,MajorofPsychologyandMedicalSciences,GraduateSchoolofPsychologyandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversityC両眼加算現象の視覚系への影響を調べるために,正常な視力を有するC3人の被験者の視力を,優位眼,非優位眼,両眼のC3とおりの条件で測定した.測定にはCBangerterフィルターを用いてC3種類の濃度(フィルターなし,1.0,0.4)で両眼加算現象を検討した.他覚的屈折矯正と瞳孔径を統制することで,両眼加算現象の視覚系への影響のみを抽出することができた.その結果,Bangerterフィルターの有無にかかわらず,両眼視の視力は単眼視の視力に比べて有意に高くないことが示された.また,フィルター濃度の違いは両眼加算効果の程度にも影響を与えなかった.CInCthisCstudy,CweCinvestigatedCtheCe.ectCofCbinocularCsummationConCtheCvisualCsystem,CandCtestedCtheCvisualCsummationCofC3CsubjectsCwithCnormalCvisualacuity(VA)usingCtheCBangerterCOcclusionCFoilC.lterCinCthreeCdensi-ties.CInCallC3Csubjects,CVACwasCmeasuredCunderCthreeconditions:1)dominantCeye,2)non-dominantCeye,Cand3)CbinocularCeyes.CWithCtheCobjectiveCrefractiveCcorrectionCandCpupilCdiametersCcontrolled,CitCwasCpossibleCtoCsolelyCextractthee.ectofbinocularsummationonthevisualsystem.Theresultsshowedthateveninthenon-.ltercon-dition,binocularVAwasnotsigni.cantlyhigherthanmonocularVA.Moreover,di.erencesin.lterdensityhadnoa.ectonthelevelofthebinocularsummatione.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):248.250,C2022〕Keywords:両眼加算,視力,他覚的完全矯正,屈折統制,バンガーターフィルター.binocularsummation,visualacuity,objectiverefraction,refractioncontrol,Bangerter.lter.Cはじめに日常場面において,われわれは両眼を用いて外界の視覚情報を入手している.眼科臨床では視覚の情報処理能力を評価する際,もっとも基礎的で重要な機能として空間分解能(視力)を指標に用いている.視力を評価する際,通常は,片眼を遮閉することで各眼の屈折度数を独立に評価している.しかし,単眼視より両眼視の視力が向上する報告は多く存在し,単眼よりも両眼での機能が高くなる現象として両眼加算現象がある1).この現象に寄与する要因として,おもに視覚系要因,光学系要因,刺激要因の三つが指摘されている.視覚系要因としては,弱視などによって脳内の処理系が未発達であることが影響して両眼視機能が成立していない実験参加者を用いた場合,加算効果が減弱したと報告されている2).光学系要因としては,両眼視より単眼視のほうが瞳孔の収縮による収差の影響を受けにくく視力が向上するとの報告3,4),瞳孔径自体の面積が大きいほうが網膜照度との関係で加算効果は高くなるなどの影響が報告されている5).また,刺激要因としては,視標コントラストの低下や6),凸レンズによる網膜像のピンボケ7)により,加算効果が向上することが報告されている.また,視覚系要因と刺激要因の相互作用の効果も生じ,片眼弱視患者は日常視状況では加算効果が低いが,健眼にCNDC.lterを用いることで,加算効果が高くなるとの報告もある8).このように両眼加算は,三つの要因が複雑に相互作用することによって生じている.これらの両眼加算に関する従来の研究報告では,実験に用いた独立変数の効果だけでなく,さまざまな要因の影響につ〔別刷請求先〕本居快:〒460-1197愛知県長久手市片平C2-9愛知淑徳大学心理医療科学研究科視覚科学専修Reprintrequests:KaiMotoori,C.O.,DepartmentofVisualScience,GraduateSchoolofPsychologyandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversity,2-9Katahira,Nagakutecity,Aichi460-1197,JAPANC248(116)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(116)C2480910-1810/22/\100/頁/JCOPYいても同時に指摘しており,本現象に直接的な影響を及ぼす本質的な要因は特定されていない.そこで本研究では,視覚系要因における視力の加算効果の有無について,基礎的なデータを測定し,確定することを目的とした.この点を検討するにあたって,光学系要因の統制が重要となる.晴眼者を用いた両眼加算について報告している先行研究の屈折統制は,「logMAR0.0以上の視覚機能をもつ被験者」という記述が多くみられる.眼科臨床において使用される視力表は,一般的にClogMARC.0.3(小数視力2.0)までのものが多く,視力矯正をする際の上限視力が決まっている.しかし,人間の分解能を最大限まで計測すると,小数視力C2.0以上が観察される場合も報告もされており9),上述した,「logMAR0.0以上の視覚機能をもつ被験者」を光学系統制に用いた研究方法では,単眼視力が最大限に引き出されておらず,純粋に両眼視力との比較ができていない可能性がある.また,視力を従属変数とする研究では,自覚的屈折値ではなく,網膜に焦点が結像している他覚的な保証が必要であろう.さらに,両眼加算は,瞳孔径の影響3.5)も示唆されており,光学系要因を排除するためには,ピンホールを用いて瞳孔径の統制を行う必要がある.このように光学系要因を統制することで,視覚系要因の検討が可能となる.加えて,視覚系要因と刺激要因の相互作用についても検討する.本研究は,刺激要因として,両眼にCBangerterフィルターを挿入することにより,視覚が不利な状況を想定した.視覚が不利になると両眼加算が向上することが報告されており,このことは視覚系が何らかの処理の重みづけすることを意味する7).本研究では,光学系統制をしたうえで,不利になった視覚を補完するように,加算効果が生じるのかについても検討した.CI対象および方法対象は,軽度屈折異常以外に眼科系の器質的疾患を有さない実験参加者C3名(23.66C±0.94歳)である.3名とも視力はlogMAR0.0以上で,立体視はCTNOステレオテストがC15秒で,本筆者である.本実験は,愛知淑徳大学心理医療科学研究科倫理委員会の規定に基づき行われた(承認番号:2020-08).本実験の屈折統制は,自覚的屈折検査に基づいた完全矯正ではなく,他覚的完全矯正であった.実験参加者の他覚的完全矯正は,ソフトコンタクトレンズを装用してオートレフラクトメーターによる測定を用いて球面度数と乱視度数の調整を行った(等価球面度数の絶対値平均:RC0.00DC±0.14,LC0.08D±0.07).また,瞳孔収縮による視力値に対する影響を減衰させるために,人工瞳孔としてピンホール(3Cmm)を装用した.視距離はC7.5Cmとし,視力測定時には実験参加者の頭部を顔面固定器(竹井機器)で固定した.測定は明室で行い,MacBookAir(macOSCCatalineCver.C10.15.7,解像度C2,560C×1,600Cpix,リフレッシュレート60CHz)で刺激を制御し呈示した.刺激は,PsychoPy(ver3.0.7)10)で作製したCLandolt環刺激を用いた視力検査プログラムを使用した.モニター画面中央に刺激を配置し,サイズは,logMAR1.0.C.1.0間でClogMAR0.1刻みで設定した.背景は白地(sRGB:0,C0,0)で平均輝度C218.62Ccd/mC2,Landolt環刺激色は黒色(sRGB:255,0,0)で輝度はC2.92Ccd/Cm2,刺激輝度コントラストはC97.36%であった.視力は「優位眼視」「非優位眼視」「両眼視」のC3条件で測定した.また,フィルター要因として,Bangerterフィルターを使用しない「NonFilter」と,Bangerterフィルター濃度値C1.0の「Filter1.0」,同C0.4の「Filter0.4」のC3種類の条件を設定した.つまり本実験は,呈示眼要因(3種類)とフィルター要因(3種類)のC2要因分散分析モデル実験計画であった.実験参加者の優位眼は,Miles&PortaTestsを用いて決定した11,12).実験参加者にはCLandolt環の切れ目の方向を回答するよう教示した.刺激呈示時間の制限はなかった.実験は,臨床的視力検査ではなく極限法の完全上下法を用いて行った.各実験条件をランダマイズしC16回の繰り返しを行った.CII結果図1に測定の結果を示した.NonFilter条件では,一般的に使用される視力値の下限であるClogMAR.0.3に達しており,他覚的完全矯正が自覚的にも保証された.また,呈示眼要因とフィルター要因のC2要因分散分析の結果,呈示眼要因とフィルター要因の交互作用は認められなかった(NS).また,フィルター要因の主効果が認められ(F(2,207)=191.77,p<0.001),多重比較を行った結果,すべてのフィルター条件間で有意差が認められ(p<0.001),Filter0.4条件>Filter1.0条件>NonFilter条件の順に,有意な視力低下が確認された(図1).また,呈示眼要因の主効果が認められた(F(2,207)=13.02,p<0.001).多重比較を行った結果,両眼視と優位眼視条件は非優位眼視条件よりも有意に視力が高く(p<0.001),優位眼視条件は,非優位眼視条件より有意差傾向だが視力が高いことが示唆された(p=0.06).また,両眼視と優位眼視では,両眼視のほうが視力値が高い結果ではあったが,統計的な有意差は生じなかった(NS).CIII考按本実験の結果,他覚的に光学系要因(屈折矯正,瞳孔径)を統制した場合,優位眼視力を有意に超える両眼視力は生じなかった.この結果は,実験参加者を自覚的屈折視力検査にて,限界視力まで矯正・測定したとき,両眼加算が生じない(117)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C249視力(logMAR)0.0-0.2-0.4NonFilter1.0FilterBangerterフィルター濃度図1フィルター濃度別・測定眼別のlogMAR値エラーバーは標準誤差を示す.との報告9)と同様の結果であった.このことは,自覚的または他覚的に単眼視力を限界まで屈折矯正した場合,優位眼視力を有意に超える両眼視力は生じない可能性を示唆する.本所見は,完全屈折統制下で両眼加算現象に関する実験を行うことの重要性を示唆する結果でもある.また,視覚が不利になると両眼加算が向上するとの報告7)から,フィルター要因の検討において,フィルターが濃くなることにより,加算効果が向上し,視覚の補完が生じることが予測された.しかし,有意な両眼視力の向上が認められなかった.視覚系による両眼加算はレンズ付加による網膜像のピンボケを補正するとの報告7)は,自然瞳孔で行っているなど光学系の統制が厳格ではなかった.両眼加算は,両眼視時に光学系が介入することによって影響が大きくなることが報告されており3.5),これらを考慮すると,視覚系が網膜像のピンボケを補正するとの報告7)は,両眼加算による視覚系の補正効果ではなく,光学系の影響が介入している可能性も否定できない.また,網膜像のピンボケは,焦点が中心窩に結像していないことから,瞳孔径による焦点深度の影響などが介入している可能性や,フィルターによるボケは焦点が中心窩に結像している点,刺激の質が異なる可能性がある.この点については,光学系統制を行ったうえで,今後検討する必要がある.上記のとおり,光学系要因を統制したとき,優位眼と比較して,有意な両眼視力の向上は生じないことが示された.両眼加算現象は,視覚系による効果が弱く,光学系の介入が大きい可能性がある.両眼加算の視覚系の影響を検討するためには,瞳孔径の統制に加えて,他覚的屈折矯正によって各片眼の屈折値を統制する重要性が示された.本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.本論文の提出にあたり,ご指導をいただいた愛知淑徳大学健康医療科学部,高橋啓介教授に,感謝の意を表します.文献1)CambelFW,GreenDG:Monocularversusbinocularvisu-alacuity.Nature,C208:191-192,C19652)VedamurthyCI,CSuttleCCM,CAlexanderCJCetal:InterocularCinter-actionsCduringCacuityCmeasurementCinCchildrenCandCadults,andinadultswithamblyopia.VisionResC47:179-188,C20073)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,C20054)鈴木任里江,魚里博,石川均ほか:検査距離が両眼加算に及ぼす影響.あたらしい眼科C26:857-860,C20095)MedinaJM,JimenezJR,JimenezdelBarcoL:Thee.ectofCpupilCsizeConCbinocularCsummationCatCsuprathresholdCconditions.CurrEyeResC26:327-334,C20036)BearseMA,FreemenRD:Binocularsummationinorien-tationCdiscriminationCdependsConCstimulusCcontrastCandCduration.VisionResC34:19-29,C19947)SotirisCP,CDionysiaCP,CTrisevgeniCGCetal:BinocularCsum-mationCimprovesCperformanceCtoCdefocus-inducedCblur.CInvestOphthalmolVisSciC52:2784-2789,C20118)BakerCDH,CMeeseCTS,CMansouriCBCetal:BinocularCsum-mationofcontrastremainsintactinstrabismicamblyopia.InvestOphthalmolVisSciC48:5532-5538,C20079)鈴木賢治,新井田孝裕,山田徹人ほか:青年健常者の視力の分布.眼臨紀C7:421-425,C201410)BeckyCT,CKatieCR,CImogenCRCetal:BUILDINGEXPER-MENTSCPsychopy.SAGEpublicationsLtd.,201811)CrovitzCHF,CZenerK:ACgroup-testCforCassessingChand-andeye-dominance.AmJPsycholC75:271-276,C196212)MilesWR:Oculardominanceinhumanadults.JournalofGeneralPsychologyC3:412-420,C1930***(118)

右外転神経麻痺後に左動眼神経麻痺,右動眼神経麻痺を 呈した頭蓋底腫瘍の1 例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):244.247,2022c右外転神経麻痺後に左動眼神経麻痺,右動眼神経麻痺を呈した頭蓋底腫瘍の1例鈴木綜馬*1,2井田洋輔*2日景史人*2伊藤格*1橋本雅人*3大黒浩*2*1市立室蘭総合病院眼科*2札幌医科大学眼科学講座*3中村記念病院眼科CACaseofaSkullBaseTumorthatCausedAbnormalitiesofOcularMotilitySoumaSuzuki1,2),YosukeIda2),FumihitoHikage2),KakuItoh1),MasatoHashimoto3)andHiroshiOhguro2)1)DepartmentofOphthalmology,MuroranCityGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,NakamuraMemorialHospitalC三叉神経腫瘍の増大,および末梢性CT細胞リンパ腫(PTCL)の髄膜播種に付随して多彩な眼球運動障害を呈した症例を経験した.症例はC76歳,女性.20XX年,複視を自覚し当科を受診した.既往歴で左三叉神経腫瘍およびPTCLがあった.初診時に右外転神経麻痺を認めたが,1カ月後に自然軽快と同時に左動眼神経麻痺を認めた.頭部MRIで左三叉神経腫瘍の海綿静脈洞への拡大がみられ,ガンマナイフにより左動眼神経麻痺は改善した.その後,右動眼神経麻痺が出現した.全身精査にてCPTCLの髄膜播種を含めた多発転移が確認された.眼球運動障害が多彩に変化した原因として三叉神経腫瘍増大とCPTCLの髄膜播種が関連したと考えられた.CPurpose:Toreportacaseofskullbasetumorthatcausedabnormalitiesofocularmotility.Case:A76-year-oldCwomanCwithCaChistoryCofCleftCtrigeminalCnerveCtumorCandCperipheralCT-celllymphoma(PTCL)presentedCinC20XXwiththeprimarycomplaintofdiplopia.Atinitialpresentation,shehadrightsixth-nervepalsy,yet1-monthlateritresolvedwithouttreatment.However,shesimultaneouslyhadleftthird-nervepalsy.AheadMRIexamina-tionrevealedanenlargedlefttrigeminalnervetumorinvadingthecavernoussinus.TreatmentwithGammaKniferadiosurgeryCreducedCtheCtumorCsize,CandCtheCleftCthird-nerveCpalsyCresolved.CHowever,CimmediatelyCafterwards,Cshepresentedwithrightthird-nervepalsy.Asubsequentwholebodyexaminationrevealedmeningealdissemina-tionofPTCL.Conclusion:Inthiscase,ourdiagnosisrevealedthattheenlargementoflefttrigeminalnervetumorandmeningealdisseminationofPTCLcausedabnormalitiesofocularmotility.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):244.247,C2022〕Keywords:三叉神経腫瘍,末梢性CT細胞リンパ腫(PTCL),眼球運動障害,ガンマナイフ,髄膜播種.trigeminalnervetumor,peripheralT-celllymphoma(PTCL),ocularmovementabnormalities,gammaknifetherapy,menin-gealdissemination.Cはじめに末梢性CT細胞リンパ腫(peripheralCT-celllymphomas:PTCL)は,胸腺での分化成熟を経て末梢組織に移動したCT細胞に由来する種々のリンパ系腫瘍の総称であり,aggres-sivelymphomasに分類される1).PTCLはわが国ではリンパ系腫瘍の約C10%を占め1),病変部位としては末梢のリンパ節が多いが,骨髄,肝臓,脾臓などにも浸潤を認めることがある.節外病変では,皮膚や消化管が多い.化学療法抵抗性であり,5年生存率C20.30%と予後不良である2).今回,筆者らは縦隔原発のCPTCLで髄腔内播種に伴い,多彩な眼球運動障害をきたした症例を経験したので報告するCI症例患者:76歳,女性.主訴:複視,眼位異常.全身既往歴:特記事項なし.〔別刷請求先〕鈴木綜馬:〒060-8543北海道札幌市中央区南C1条西C17丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:SoumaSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,17Chome,Minami1Jonishi,Chuoku,Sapporo-shi,Hokkaido060-8543,JAPANC244(112)家族歴:特記事項なし.眼既往歴:白内障.現病歴:20XX年,縦隔原発のステージCIVのCPTCLと診断され,他院血液内科で化学療法を受け寛解状態であった.1年後に左顔面のしびれを自覚し,脳神経外科で海綿静脈洞付近の左三叉神経腫瘍を指摘された.当時,脳神経外科ではPTCL寛解からC1年程度経過していたこと,三叉神経腫瘤は脳外科的に良性腫瘤のことが圧倒的に多く,その場合にはガンマナイフ治療が非常に効果的であるため3),ガンマナイフ治療を検討されていた.同年C9月末にC2週間前からの複視および眼位異常を主訴に当科を受診した.初診時所見:視力:右眼C0.03(n.c.),左眼C0.2(0.4C×1.25D(cyl.1.0DAx65°),眼圧は右眼15mmHg,左眼18mmHg,前眼部は両眼に帯状角膜変性,中間透光体は両眼にCEmery-Little分類CIII度程度の白内障,左眼の眼底には異常を認めず,右眼に網脈絡膜萎縮および後部ぶどう腫を認めた.相対的瞳孔求心路障害は陰性で,瞳孔は左右同大であり,眼球運動は右眼の外転障害を認めた.臨床経過:脳神経外科受診よりC2週間後の受診であり,新規の頭蓋内腫瘍や動脈瘤の発生の可能性は低いと考え,原因不明の右外転神経麻痺と診断し,経過観察とした.初診から4週間後に,左眼瞼下垂を自覚し再度受診した.眼球運動は,右外転障害は改善していたが,左眼は上,下,内転ともに制限を認め左動眼神経麻痺を認めた.相対的瞳孔求心路障害は左眼で陽性であった.左三叉神経腫瘍をフォローしていた脳神経外科での頭蓋内精査を依頼した.脳神経外科受診時のMRI画像(図1)で,くも膜下腔を走行する両側の動眼神経が確認でき,さらに左三叉神経腫瘍が海綿静脈洞後部に浸潤し,左動眼神経を障害している所見を認めた.したがって,左動眼神経麻痺の原因は左三叉神経腫瘍の海綿静脈洞浸潤にガンマナイフ開始時よるものと診断した.脳神経外科で行われたガンマナイフ治療により,治療前にみられた左三叉神経腫瘍は照射からC2カ月後の時点で著明に縮小した(図2).ガンマナイフ治療C1週間後の受診時,左動眼神経麻痺は一部改善し,眼瞼下垂も軽減していたが,右眼において眼瞼下垂・眼球運動障害を認め,右動眼神経麻痺を認めた.この時点で,初診時より右外転神経麻痺,左動眼神経麻痺,右動眼神経麻痺を発症しており,眼球運動障害の原因神経が多彩な変化をきたしていたため,頭蓋内の再精査を脳神経外科・血液内科に依頼した.全身検索の結果,PET-CTで頭蓋底に集積所見が指摘され,さらに髄液細胞診では,変性膨化した異型リンパ球の小集団が認められ,PTCLの所見と一致した(図3).以上の所見か図1脳神経外科受診時の0.7mm厚の薄スライス高速グラジエントフィールドエコー法(CISS)による頭部冠状断連続写真くも膜下腔を走行する両側の動眼神経(C.)が描出され,海綿静脈洞後部まで追跡可能である.また,左三叉神経腫瘍が海綿静脈洞後部に浸潤する所見があり,左動眼神経を障害している.ガンマナイフ治療2カ月後図2初診から4週間後に行われたガンマナイフ治療前後のCISS画像所見脳神経外科で行われた左三叉神経腫瘍へのガンマナイフ治療により,治療前にみられた左三叉神経腫瘍が照射からC2カ月後の時点で著明に縮小している.図3髄液細胞診像左は異型リンパ球の小集団が認められ,リンパ球の核にくびれを認め(C.),PTCLの所見と一致した.右の画像では変性膨化したリンパ腫様の細胞集団を認め,PTCLの髄腔内播種が強く示唆された.ら,PTCLの髄腔内播種と診断した.その後,血液内科にてメトトレキサートの髄注,および大量メトトレキサート療法を行ったが,全身状態の悪化に伴い,現在はホスピスに転院されている.CII考按本症においては,右外転神経麻痺に続き左動眼神経,右動眼神経麻痺が連続して出現した.一般的に動眼神経麻痺の病因としては,糖尿病,脂質異常症などによる神経栄養血管の虚血によるものがもっとも多く,交通事故などの重度の頭部外傷,脳動脈瘤,脳内出血,脳腫瘍などでも発症し,まれではあるが先天性のものなども存在する.また,外転神経麻痺の病因は動眼神経麻痺と同じく虚血性のものが多いが,外転神経は解剖学的に橋─延髄移行部から斜台に至る長い距離を上行することから,単に脳腫瘍など遠隔病変による脳圧亢進や感染によっても発症する.しかしながら,本症における眼症状は左右および障害神経が経時的に変化したことから,虚血や脳圧亢進,感染などで一元的に説明することは困難である.まれではあるが,動眼神経麻痺と外転神経麻痺を同時発症する疾患としてCoculomotor-abducenssynkinesis(OAS)がある.OASは異なる外眼筋が協調して同時に収縮することで生じるとされている.過去の報告では脳幹出血を起こし,外転神経麻痺に拮抗する内直筋の異常な神経支配が生じた17歳,男性症例3)や右外転時に右外直筋と上眼瞼挙筋の同時収縮を認めたC4歳,男児の症例が報告されている4).しかし,OASは頭部外傷を契機に発症することが多く,本症例の経過にはそぐわないと考えられた.Meckel腔に発生する腫瘍は,三叉神経由来の良性腫瘍である三叉神経鞘腫が一般的である.三叉神経腫瘍は良性腫瘍のことが圧倒的に多く,その場合ガンマナイフが非常に効果的であるため3),全摘出術よりガンマナイフが選択されることが多い.ガンマナイフの三叉神経鞘腫に対する反応はきわめて遅く,12.18カ月横ばいで推移して,その後縮小していくが3),本症例は腫瘍がC1カ月程度で縮小しており,三叉神経鞘腫としては結果が合致しなかった.一方,中枢神経の悪性リンパ腫に対するガンマナイフの効果は数カ月で急速に縮小し,場合によっては消失するなど両疾患で違いが認められる4,5).本症例の三叉神経腫瘍はガンマナイフによりC2カ月余りで縮小したこと,その直後に髄腔内播種として再発したことから,三叉神経鞘腫の可能性は低く,リンパ腫(PTCL)であった可能性が高いと推察した.悪性リンパ腫の脳神経の単神経発症はまれであるが,動眼神経と三叉神経の発症が多いとされている4).また,悪性リンパ腫全体では頭蓋内から末梢への進展以外にも,本症例のように頭蓋外から中枢側へ進展した報告もある6,7).頭蓋外から進展するケースでは初期にCMeckel腔の異常を画像にて指摘された報告もあり7,8),本症例も眼科受診前から三叉神経腫瘍を指摘されていた.Meckel腔に発生する悪性リンパ腫に関しては,中枢性原発悪性リンパ腫の報告はあるが,本症例のようなCPTCLの頭蓋底転移はきわめてまれである.CIII結語多彩な眼球運動障害を呈した症例を経験した.元来指摘されていた三叉神経腫瘍と眼球運動障害が,PTCLの髄腔内播種で一元的に説明できると考えられた.文献1)LymphomaCStudyCGroupCofCJapanesePathologist:TheCworldChealthCorganizationCclassi.cationCofCmalignantClym-phomainJapan:incidenceofrecentlyrecognizedentities.PatholIntC50:696-702,C20002)直江知樹,朝長万左男,中村栄男ほか:WHO血液腫瘍分類─CWHO分類C2008をうまく活用するために.医薬ジャーナル社,20103)山本昌昭:ガンマナイフの適応と治療成績.神経研究の進歩C57:664-678,C20014)赤座実穂,常深泰司,三條伸夫ほか:左三叉神経障害にて発症したと思われる悪性リンパ腫のC1例.臨床神経C49:C432-436,C20095)NakatomiH,SasakiT,KawamotoSetal:Primarycarve-nousCsinusCmalignantClymphomaCtreatedCbyCgammmaCkniferadiosurgery:caseCreportCandCreviewCofCtheClitera-ture.SurgeNeurolC46:272-279,C19966)IplikciogluAC,DincC,BikmazKetal:Primalylympho-maofthetrigeminalnerve.BrJNeurosurgC20:103-105,C20067)LaineCFJ,CBraunCIF,CJensenCMECetal:PerineuralCtumorCextensionCthroughCtheCforamenovale:evaluationCwithCMRimaging.RadiologyC174:65-71,C19908)AbdleAzizKM,vanLoverenHR:PrimarylymphomaofMeckel’sCcaveCmimickingCtrigeminalschwannnoma:caseCreport.NeurosurgeryC44:859-862,C1999***

全層角膜移植を施行したAxenfeld-Rieger 症候群の4 例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):239.243,2022c全層角膜移植を施行したAxenfeld-Rieger症候群の4例島優作内野裕一三田村浩人片山泰一郎平山オサマ根岸一乃榛村重人慶應義塾大学医学部眼科学教室CPenetratingKeratoplastyinFourCasesofAxenfeld-RiegerSyndromeYusakuShima,YuichiUchino,HirotoMitamura,TaiichiroKatayama,OsamaHirayama,KazunoNegeshiandShigetoShimmuraCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineCAxenfeld-Rieger症候群(ARS)は前眼部形成異常を特徴とする先天疾患であり,臨床上は治療抵抗性の緑内障や水疱性角膜症(BK)による視力低下が問題となる.今回,ARS患者に生じたCBKに対して,全層角膜移植(PKP)を施行したC4症例C5眼の長期経過を報告する.症例は平均年齢C57C±4.0歳,観察期間はC7カ月からC20年.全例で緑内障を発症し,緑内障手術を施行した.5眼中C4眼でCPKP後にCBKが再発し,複数回のCPKPを施行した.全例でCPKP術後は良好な視力回復を得た.ARS患者に生じたCBKに対するCPKPは一時的な視機能回復には効果があるが,PKPは,BKの再発により複数回の手術を繰り返す可能性が高く,慎重かつ十分なインフォームド・コンセントのもとに治療方針を決定すべきである.Axenfeld-Riegersyndrome(ARS)isacongenitaldiseasecharacterizedbyanteriorsegmentdysplasia,whichisCassociatedCwithCtreatment-resistantCglaucomaCandClossCofCvisionCdueCtoCbullouskeratopathy(BK)C.CThisCstudyCinvolved5eyesof4ARSpatients(meanage:57C±4.0years)thatunderwentpenetratingkeratoplasty(PKP)forBK,withafollow-upperiodrangingfrom7monthsto20years.Allpatientswerediagnosedwithglaucoma,andsubsequentlyunderwentglaucomasurgery.In4ofthe5eyes,BKrecurredafterPKPandmultiplePKPwereper-formed,CandCallCpatientsChadCgoodCvisualCrecoveryCafterCPKP.CAlthoughCPKPCforCBKCinCpatientsCwithCARSCisCe.ectiveintemporarilyrestoringvisualfunction,PKPislikelytoberepeatedmultipletimesduetoBKrecurrence,andthetreatmentplanshouldbedecidedundercarefulandsu.cientinformedconsent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):239.243,C2022〕Keywords:Axenfeld-Rieger症候群,前眼部形成異常,全層角膜移植,水疱性角膜症,続発緑内障.Axenfeld-Riegersyndrome,anteriorsegmentdysgenesis,penetratingkeratoplasty,bullouskeratopathy,secondaryglaucoma.CはじめにAxenfeld-Rieger症候群(Axenfeld-RiegerCsyndrome:ARS)は前眼部の両眼性の形成異常と,歯牙,顔面骨,四肢の異常といった全身合併症を伴う先天性疾患である1.5).前眼部所見としてはCSchwalbe線の前方偏位である後部胎生環,瞳孔偏位,偽多瞳孔,irisstrandなどが特徴的である.神経堤細胞の遊走・分化の異常が原因と考えられており6),その発症率はC20万人にC1人と報告され,常染色体優性遺伝の形式をとる2,4,7).臨床上,緑内障と水疱性角膜症(bullouskeratopathy:BK)が好発することが知られており,ARSの約C50%が緑内障を発症するとされ1,2,4),治療抵抗性であることが多く,臨床上もっとも問題となる8).ARSはその希少性ゆえに,外科的治療の予後を検討した報告はきわめて少ない8).今回筆者らは,ARSを有する患者に生じたCBKに対して全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PKP)を施行した4症例,5眼の長期経過を報告する.CI症例〔症例1〕53歳,女性.〔別刷請求先〕島優作:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YusakuShima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC図1症例1の左眼所見a:2008年C4月.BK再発時.角膜浮腫を認める.Cb:2008年C4月.PKP術直後.良好な視力回復(0.7)を得た.Cab図2症例2の右眼所見a:2017年C2月.当院初診時.著明な角膜浮腫と視力低下(0.05)を認める.Cb:2018年9月.2回目のPKP術後.良好な視力回復(1.2)を得た.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:出生時から両眼の視力低下を認め,前医にてARSと診断された.前医にてC34歳時に左眼の小角膜,36歳時に左眼のCBKに対してそれぞれCPKPを施行したのち,薬物治療に抵抗性の左眼高眼圧(40CmmHg程度)が持続するため,緑内障手術施行目的にC36歳時に慶應義塾大学病院(以下,当院)紹介受診となった.経過:当院初診時,両眼の瞳孔偏位,偽多瞳孔,隅角全周閉塞を認めた.眼以外に明らかな全身合併症は認めなかった.矯正視力は右眼(0.6),左眼(0.4),眼圧は右眼C10mmHg,左眼C40CmmHg.36歳時に左眼線維柱帯切除術を施行し眼圧下降を得た.しかし,その後も左眼のCBKの再発に対し,PKPをC42.48歳時に合計4回施行した(図1).52歳時に再度左眼のCBKを再発し,そのときの眼圧が27CmmHgであり,同年に左アーメド緑内障バルブ手術を施行した.53歳時の最終診察時の左眼の矯正視力は(0.05),眼圧はC10CmmHgで,Goldmann視野計で左鼻上側の視野障害を認めた(湖崎分類CIII-a相当).現在はC5回目のCPKPに向けてドナー待ちの状態である.〔症例2〕61歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:55歳時に左眼の角膜潰瘍(詳細不明)にて前医受診し,ARSと両眼続発緑内障と診断された.56歳時に左眼線維柱帯切除術を施行した.57歳時に左眼白内障手術を施行し,術後にCBKを発症した.同年に左眼の角膜移植目的に当院初診となった.経過:当院初診時,矯正視力は右眼(0.05),左眼(0.01),両眼とも著明な角膜浮腫を認め,両眼CBKと診断した(図2).眼以外に明らかな全身合併症は認めなかった.57歳時に両眼のCPKPを施行した.その後右眼は白内障の進行とC21.22CmmHg程度の高眼圧を認めたため,他院にてC58.59歳時に右眼の白内障手術と線維柱帯切除術を施行した.59図3症例3の右眼所見a:2020年C1月.当院初診時.瞳孔偏位,全周性の周辺虹彩前癒着を認める.Cb:2020年C3月.PKP術後.良好な視力回復(1.0)を得た.歳時に再度両眼の視力低下を認め,当院を受診した.このとき,矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.01),両眼の角膜浮腫を認めCBKの再発と診断した.同年に両眼に対してそれぞれ2回目のCPKPを施行した.61歳時の最終受診時に左眼のBK再発を認め,矯正視力は右眼(0.9),左眼(0.01),眼圧は右眼C15CmHg,左眼C12CmmHgで,Humphrey視野計で右眼は鼻側C2象限,左眼は全周性の視野障害を認めたが,中心視野は残存していた.現在はC3回目のCPKPに向けてドナー待ちの状態である.〔症例3〕61歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:3回の内斜視手術.現病歴:前医にて両眼前眼部形成異常と内斜視で経過観察されていた.60歳時から右眼の視力低下を自覚し,右眼CBKと診断され,角膜移植施行目的に当院紹介となった.経過:当院初診時,右眼矯正視力は(0.1),瞳孔偏位,全周性の周辺虹彩前癒着,著明な角膜浮腫を認めCARSと診断した(図3).61歳時に右眼CPKPを施行した(図4).PKP後は右眼矯正視力(1.0)と良好な視力回復を得たものの,術後の右眼眼圧はC36.38CmmHgで推移し,降圧点眼にも反応しなかったため,61歳時にアーメド緑内障バルブ手術と白内障手術の同時手術を施行した.同年の最終診察時の左眼の矯正視力は(0.9),眼圧はC32CmmHgで,Goldmann視野計では明らかな視野障害の進行はみられなかった(湖崎分類CI相当).〔症例4〕53歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:生下時より両眼前眼部形成異常を指摘され近医にて経過観察されていた.15歳時に両眼視力低下を自覚し,当院紹介受診となった.図4症例4の右眼所見2012年C2月.2回目のCPKP術後.良好な視力回復(0.8)を得た.経過:当院初診時,右眼矯正視力は(0.7),後部胎生環,偽多瞳孔,瞳孔変異を認め,ARSと診断した.また,続発緑内障と診断し,点眼治療を開始した.その後点眼のみでは眼圧コントロールがつかず,26歳時に右眼,36歳時に左眼に線維柱帯切除術を施行した.36歳時から右眼視力低下を自覚し,BKと診断した.37歳時に右眼CPKP,38歳時に右眼白内障手術を施行した.術後は右眼矯正視力(0.8)程度で良好な視力回復を得たものの,44歳時に再度視力低下を自覚し,右眼矯正視力は(0.1),角膜浮腫を認めCBKと診断した.45歳時にC2回目の右眼CPKPを施行した(図4).その後右眼眼圧はC11.27CmmHgで推移し,点眼治療では眼圧コントロールがつかず,46歳時に右眼バルベルト緑内障インプラント手術を施行した.53歳時の最終診察時の右眼の矯正視力は(0.4),眼圧はC13CmmHgで,Goldmann視野計で左鼻上側の視野障害を認めた(湖崎分類CIII-a相当).表14症例のまとめ症例C153歳,女性症例C261歳,男性症例C361歳,男性症例C453歳,男性部位左眼右眼左眼右眼右眼観察期間20年2カ月5年11カ月9カ月38年緑内障有有有有緑内障手術線維柱帯切除術アーメド線維柱帯切除術線維柱帯切除術アーメド線維柱帯切除術バルベルトPKP回数6回2回2回1回2回PKP後のCBK再発回数5回1回2回0回1回最終診察時視力・眼圧(0C.05)C/10CmmHg(0C.9)C/15CrnmHg(0C.01)C/12CmmHg(0C.9)C/32CmmHg(0C.4)C/13CmmHg最終診察時視野湖崎分類CIII-a鼻側C2象限視野障害*全周性視野障害中心視野残存*湖崎分類CI湖崎分類CIII-aアーメド:アーメド緑内障バルブ手術,バルベルト:バルベルト緑内障インプラント手術,PKP:全層角膜移植,BK:水疱性角膜症.*Humphrey視野計で施行.4症例C5眼の臨床経過を表1に示す.経過中に全例で緑内障を発症し,緑内障手術(線維柱帯切除術もしくはチューブシャント術)を施行した.5眼中C2眼は初回CPKP術前に,4眼はCPKP後に緑内障手術を施行した.5眼中C4眼でCPKP後にCBKが再発し,複数回のCPKPを施行した.全例でCPKP後は良好な視力回復が得られ,拒絶反応や感染を生じた症例は認めなかった.PKP施行からCBK再発までの期間はばらつきがあり,最短ではC10カ月,最長で約C7年であった.CII考按ARSを有する患者に生じたCBKに対して,PKPを施行したC4症例の経過について報告した.いずれもCPKP施行後は良好な視力回復が得られ,グラフトの拒絶反応や感染を生じた症例は認められなかった.一方で,経過のなかでCBKの再発がしばしば生じ,複数回のCPKPを要した.ARSの原因遺伝子として前眼部の発生に深くかかわる転写因子をコードするCPITX2やCFOXC1などが同定されている.ARSにおける角膜内皮異常についてCShieldsらは,典型的には軽度の大きさ・形態のばらつきを伴う程度であり,加齢や緑内障,内眼手術の既往があるとその傾向が目立つと報告している2,4).ARSにおける内皮細胞密度減少の機序は明らかになっていないが,PITX2の変異と内皮細胞異常の関連を示したCARSの家系調査も複数存在し9,10),神経堤細胞の遊走・分化の異常による前眼部の構造異常が一因として考慮される.ARS患者に生じたCBKに対する治療として,PKPのほかに角膜内皮移植(DSAEK,DMEK)も考慮されうる.しかし,前眼部の形態異常(とくに虹彩異常)による手術操作,空気タンポナーデの可否や,線維柱帯切除術による濾過胞の有無などを含め,患者ごとに適応を慎重に検討する必要がある.また,本症例のなかには術後の眼圧コントロールに苦慮したケースが多く含まれる.一般に,PKP後は周辺虹彩前癒着による狭隅角や,長期のステロイド点眼による続発緑内障が問題となることが多い11,12).ARS患者における眼圧上昇の機序としてはCirisstrandによる房水流出抵抗の増加や,線維柱帯を含めた隅角の形成不全など複数の原因が考えられる.開放隅角と閉塞隅角の両方の要素の眼圧上昇を伴い,多くの症例で薬物治療に抵抗し,眼圧コントロールに複数回の外科的治療を要すると報告されている2,8).緑内障手術の術式は,ARSの場合,隅角形成不全を伴うことから線維柱帯切開術は選択されにくく,高い眼圧下降効果を期待し濾過手術(線維柱帯切除術もしくはチューブシャント術)が選択されることが多い.本疾患のように複数回の角膜移植を必要とする患者には,人工角膜移植が考慮される.現在もっとも普及しているCBostonCkeratoprosthesistype1(BostonKPro)は,わが国では未承認であるが,複数の報告で数年の経過においてC9割程度の高い生着率が報告されている13,14).人工角膜移植はCPKPと比較し,移植回数の減少を期待できる一方で,通常の眼圧測定ができず術後の緑内障の管理がむずかしい点や,増殖膜の増生が問題として考えられる.また,比較的若年から角膜移植を要し,長期経過をたどることの多いCARS患者においては,長期予後のさらなる検討が必要である.以上から,ARS患者に生じたCBKに対するCPKPは一時的な視機能回復には効果があるが,PKPは,BKの再発により複数回の手術を繰り返す可能性が高く,慎重かつ十分なインフォームド・コンセントのもとに治療方針を決定すべきであるといえる.文献1)FitchCN,CKabackM:TheCAxenfeldCsyndromeCandCtheCRiegersyndrome.JMedGenetC15:30-34,C19782)ShieldsCMB,CBuckleyCE,CKlintworthCGKCetal:Axenfeld-Riegersyndrome.Aspectrumofdevelopmentaldisorders.SurvOphthalmolC29:387-409,C19853)WaringCGO,CRodriguesCMM,CLaibsonPR:AnteriorCcham-berCcleavageCsyndrome.CACstepladderCclassi.cation.CSurvCOphthalmolC20:3-27,C19754)ShieldsMB:Axenfeld-RiegerCsyndrome:aCtheoryCofCmechanismanddistinctionsfromtheiridocornealendothe-lialCsyndrome.CTransCAmCOphthalmolCSocC81:736-784,C19835)Sei.CM,CWalterMA:Axenfeld-RiegerCsyndrome.CClinCGenetC93:1123-1130,C20186)WilsonME:CongenitalCirisCectropionCandCaCnewCclassi.cationCforCanteriorCsegmentCdysgenesis.CJCPediatrCOphthalmolStrabismusC27:48-55,C19907)ChildersCNK,CWrightJT:DentalCandCcraniofacialCanoma-liesofAxenfeld-Riegersyndrome.JOralPatholC15:534-539,C1986C8)ZepedaCEM,CBranhamCK,CMoroiCSECetal:SurgicalCout-comesCofCglaucomaCassociatedCwithCAxenfeld-RiegerCsyn-drome.BMCOphthalmolC20:172,C20209)KniestedtCC,CTaralczakCM,CThielCMACetal:ACnovelCPITX2CmutationCandCaCpolymorphismCinCaC5-generationCfamilyCwithCAxenfeld-RiegerCanomalyCandCcoexistingCFuchs’CendothelialCdystrophy.COphthalmologyC113:1791,C200610)QinCY,CGaoCP,CYuCSCetal:AClargeCdeletionCspanningCPITX2CandCPANCRCinCaCChineseCfamilyCwithCAxenfeldCRiegersyndrome.MolVisC4:670-678,C202011)AyyalaRS:Penetratingkeratoplastyandglaucoma.SurvOphthalmolC45:91-105,C200012)山田直之,森重直行,柳井亮二ほか:原因疾患と角膜移植後眼圧上昇の相関.臨眼C56:1355-1360,C200213)GoinsKM,KitzmannAS,GreinerMAetal:Bostontype1keratoprosthesis:VisualCoutcomes,CdeviceCretention,Candcomplications.CorneaC35:1165-1174,C201614)AravenaCC,CYuCF,CAldaveAJ:Long-termCvisualCout-comes,Ccomplications,CandCretentionCofCtheCBostonCtypeCICkeratoprosthesis.CorneaC37:3-10,C2018***

眼内レンズ縫着術後の縫着糸による壊死性強膜炎の1 例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):235.238,2022c眼内レンズ縫着術後の縫着糸による壊死性強膜炎の1例山岡正卓*1五十嵐勉*1有馬武志*1國重智之*1岩崎優子*2高瀬博*2高橋浩*1*1日本医科大学眼科学教室*2東京医科歯科大学大学院医歯学研究科眼科学CACaseofScleromalaciaPerforansafterSutureFixationofIntraocularLensMasatakaYamaoka1),TsutomuIgarashi1),TakeshiArima1),TomoyukiKunishige1),YukoIwasaki2),HiroshiTakase2)andHiroshiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,2)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofTokyoMedicalandDentalUniversityC緒言:左眼黄斑円孔に対して硝子体手術および眼内レンズ縫着術施行後,露出した縫着糸断端による強膜炎および強膜融解を発症した症例に対して強膜移植が有効であったC1例を報告する.症例:80歳,女性.2010年,前医にて左黄斑円孔に対して硝子体手術および眼内レンズ縫着術を施行.2018年C11月,左眼耳側の縫着糸断端の露出と周囲の強膜充血を認め抗菌薬点眼で加療するも,2019年C2月,強膜融解,豚脂様角膜後面沈着物が認められた.抗菌点眼薬C2剤,ステロイド点眼でいったん症状改善したが症状再燃し,強膜移植目的に日本医科大学付属病院眼科を紹介受診した.当科初診時,右眼視力(1.0),左眼視力(0.4),右眼眼圧C14.5CmmHg,左眼眼圧C13.5CmmHg.8月に融解強膜部位に保存強膜移植を施行した.術後,抗菌薬・ステロイド点眼,およびステロイド内服C30Cmgから漸減投与にシクロスポリンC100Cmg内服を併用,1年後シクロスポリンC50Cmgのみでグラフトは生着良好で経過している.結論:眼内レンズ縫着後に発症した強膜融解に保存強膜移植は有効であった.CPurpose:Toreportararecaseinwhichscleraltransplantationwase.ectiveforscleromalaciaperforansduetoCanCexposedCintraocularlens(IOL).xationCsuture.CCaseReport:AnC80-year-oldCwomanCwhoChadCundergoneCvitrectomyformacularholeandIOL.xationatanotherhospitalin2010wasreferredtoourclinicwithscleroma-laciaperforansduetoanexposed.xationsutureinJuly2019.Attheotherhospital,therootoftheexposedsuturehadbeencuto.,andseveralantibioticsandbetamethasonesodiumphosphatemedicationswereprescribed,whichresultedinnoimprovement.InAugust2019,preservedscleraltransplantationwasperformedatthemeltedscleralsite.Postoperatively,antibacterialandsteroideyedrops,startedwithoralsteroids30Cmgandthen100Cmgofcyclo-sporine,CwereCalsoCprescribed.CToCdate,CtheCgraftChasCbeenCsuccessfullyCattachedCwithConlyC50CmgCofCcyclosporine.CConclusion:TheCpreservedCscleralCtransplantationCwasCe.ectiveCforCscleromalaciaCperforansCdueCtoCanCexposedC.xationsuture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):235.238,C2022〕Keywords:保存強膜移植,強膜融解,露出縫着糸断端.preservedscleraltransplantation,scleromalaciaperfo-rans,exposed.xationsuture.Cはじめに壊死性強膜炎は比較的まれな疾患であるが,そのC40%が失明に至るといわれている1).壊死性強膜炎に伴う組織穿孔に対しては強膜や羊膜を用いた移植治療が一般的であり,その有効性についてはすでにいくつか報告されているが,わが国における報告は,そのほとんどが関節リウマチなどの全身疾患に合併したものか,白内障や翼状片などの前眼部手術後に発症したものである2,3).今回,左眼黄斑円孔に対して硝子体手術および眼内レンズ縫着術施行後,露出した縫着糸の断端露出を契機に生じた壊死性強膜炎に対して,強膜移植が〔別刷請求先〕山岡正卓:〒113-8602東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学付属病院眼科Reprintrequests:MasatakaYamaoka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5,Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8602,JAPANC図1前医2018年11月菲薄化した強膜が透見される.有効であったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,女性.主訴:左眼疼痛.現病歴:2010年前医にて左眼特発性黄斑円孔に対して硝子体手術および眼内レンズ毛様溝縫着術を施行された.2018年C11月,左眼耳側に術中使用された縫着糸である10-0ポリプロピレン糸断端の露出と周囲の強膜充血が出現,感染性強膜炎を疑い抗菌薬点眼で加療したが,2019年C2月,局所強膜は融解し,豚脂様角膜後面沈着物を伴う虹彩炎を認めた.露出縫合糸根部を切離し,塗沫培養で陰性.抗菌点眼薬C2剤(セフメノキシム塩酸塩C4回/日,1.5%レボフロキサシンC4回/日),ステロイド点眼(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC4回/日)で軽度の改善示すも,同年C7月に強膜充血が再発し,融解傾向が増悪したため,外科的治療目的に同年C8月C1日,日本医科大学付属病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.既往歴:2型糖尿病(HbA1c:7.2%,57歳で指摘),自己免疫疾患の指摘なし.家族歴:母:糖尿病.初診時眼科的所見:視力は右眼C0.4(1.0pC×sph.1.00D(cyl.2.00DAx60°),左眼0.06(0.4pC×sph.2.00D(cylC.6.00DAx40°),眼圧は右眼14mmHg,左眼13mmHgであった.左眼前房内に炎症細胞C1+程度あり,豚脂様角膜後面沈着物が認められた.左眼耳側強膜に充血あり,縫合糸断端部分より強膜融解が認められていた.中間透光体,後眼部には特記すべき異常所見は認められなかった.前医C2018年再診時(図1)と当科C2019年初診時(図2)の前眼部写真を示す.図22019年当科初診時強膜菲薄化に加え壊死の進行,融解を認める.CII経過2019年C8月C13日,当科入院のうえ,同日,穿孔部位に対して保存強膜移植術施行した.病変部結膜を切除したところ,強膜は菲薄化しており融解を認め,ぶどう膜の露出が認められた.強膜切除による穿孔のリスクを鑑みて今回は強膜切除を行わなかった.その後,保存強角膜から強膜グラフトを病変サイズ(7CmmC×5mm)に合わせて切離して作製し(図3),10-0ナイロン糸にて被覆縫合し,結膜は完全被覆された(図4)4).なお,前医にて露出縫合糸の根部で切離した経緯があり,本手術では断端を確認することができなかったため,術中の改めての処理は行わなかった.術翌日退院とし,外来にて経過観察となった.術翌日から点眼としてC1.5%レボフロキサシン・0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムをC4回/日,プレドニゾロン内服C30Cmgから開始し術後管理を行った.グラフト生着が良好だったため,術後C3週までにプレドニゾロン内服を終了とした.術後C9日からシクロスポリンC100Cmg内服を開始し,術後C1年経過した現在までにトラフ値を計測しながらシクロスポリンC50Cmgまで漸減した.移植片は生着良好であり,移植片上には結膜被覆を認め安定的に経過している.また,前房・硝子体にも炎症所見はなく,眼底にも異常所見を認めていない.2020年C7月C16日現在,視力は右眼(0.8CpC×sph.0.50D(cyl.2.00DCAx80°),左眼(0.5CpC×sph.2.50D(cyl.2.00DAx65°),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C15CmmHgである.本症例では術前・術後で検眼鏡的に明らかな眼内レンズの偏移は認めらなかったが,角膜の形状もほぼ変化なく,術後C9カ月後に乱視軸は安定した.前眼部COCTなどの検査機器が導入されておらず,術前・術後の乱視軸の変化の原因については画像情報は得られていないが,検眼鏡的には明らかなではなかった眼内レンズの偏位が起きていたものと推測される.術後経過を示した図3術中写真①保存強膜から病変サイズ(7CmmC×5Cmm)にグラフト作製した.図5術後ステロイド内服終了時移植片の拒絶反応を認めず,移植片上には結膜が被覆している.前眼部写真を図5,6に示す.CIII考察強膜炎は,重症度の違いにより軽症のものから順に,びまん性,結節性,壊死性のC3病型に分類される.びまん性,結節性はステロイド治療が有効であるが,壊死性強膜炎にまで進行すると治療困難例が多く,予後不良である5).本症例のような外因性を除く内因性強膜炎の発症機序はCIII型アレルギー反応によると考えられている6).本症例では前医にて抗菌薬点眼およびステロイド点眼にて加療されていたが治癒には至らず,その炎症の遷延にはC20年来の糖尿病の影響も否定できないが,縫合糸の位置から壊死が始まっていたため,縫合糸が直接の誘因と考えられた.発症から時間が経過していることもあり,保存的に治療しても改善が見込めないと判図4術中写真②保存強膜をC10-0ナイロンC7針で強膜縫合した.図6術1年後拒絶反応なく,結膜充血が消失している.断し,手術治療が選択された.壊死性強膜炎に対する外科的治療では,①周辺健常部まで含めた強膜壊死巣の除去,②保存強膜による病巣部の修復補.,③移植強膜片の結膜による完全被覆が重要であると考えられる.①は強膜壊死の再発,進行防止と,移植片を確実に縫着し縫合糸の術後早期の脱落を防ぐために必要であり,③は機械的な刺激から移植片を保護するのみならず,血流の供給による移植片の生着,同化を促進し,術後早期の消炎と眼表面の安定した再構築のために貢献する.強膜欠損部を補.する方法としては新鮮角膜,保存角膜,保存強膜,羊膜,硬膜がある7).比較的入手しやすい組織は保存角膜,保存強膜,羊膜であったが,本症例では強膜融解部が広範であることに加え,当院では羊膜移植の認定施設ではないため,保存強膜による強膜移植で対応した.保存強膜は,エチルアルコール,グリセリン,ホルマリンなどの固定液で保存されたものと,冷凍保存強膜に大別され使用されている.本症例で使用した冷凍強膜は,ホルマリンなどで懸念される組織毒性もなく,拒絶反応の可能性も少ない.また,解凍までの時間もC1時間前後と短くてすみ,冷凍保存強膜が強膜補.材料として最適なものと考えられた1).ただし,術後縫合糸の脱落とともに移植片の露出や,減張を行っても結膜の完全な被覆が不可能なこともあり,その場合には自己結膜移植や羊膜移植の追加も有効であると考えられる6).重篤な壊死性強膜炎に対して移植術を行った場合,強膜壊死再発により移植片の癒着が満足に進まない場合もあり,術後早期からの免疫抑制薬使用を推奨する報告もある8).その点,本症例ではシクロスポリン内服が有効であったと考えられる.本症例のように薬物治療への反応が乏しく,亜急性に進行する壊死性強膜炎に対しては,急速な進行を示す壊死性強膜炎と同様に,積極的な早期手術が有効な治療法であるといえる.文献1)WatsonCPG,CHayrehSS:ScleritisCandCepischleritis.CBrJOphthalmolC60:163-191,C19762)酒井義生,山之内叶一,中塚和夫:強角膜軟化症に対する強膜移植術のC3例.眼紀41:717-721,C19903)宮坂英世,後藤晋,中村桂三ほか:白内障術後に発症した強角膜軟化症に対する治療,日眼会誌C99:735-738,C19974)菅野彰,西塚弘一:白内障術後に生じた穿孔性強膜軟化症.あたらしい眼科30:83-84,C20135)湯浅武之助:強膜炎.外眼部・前眼部疾患C2(真鍋礼三,市川宏編).新臨床眼科全書C6B,p142-156,金原出版,C19926)後藤晋,星田美和,小林義治:感染性壊死性強膜炎に対する保存強膜移植術,眼科手術13:117-121,C20007)椋野洋和,牛島美和,片上千加子:保存強膜移植術と施行した強膜穿孔のC1症例.眼紀53:847-850,C20028)楠哲夫,志賀早苗,下村嘉一ほか:両眼白内障術後に発症した穿孔性強膜軟化症のC1例.眼科手術C10:543-547,C19979)生野恭司:強膜炎.文光堂,眼感染症治療戦略(大橋裕一編),眼科診療プラクティスC21,p138-141,1996***

問診時に児童用顕在性不安検査を行った春季カタルの1 症例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):230.234,2022c問診時に児童用顕在性不安検査を行った春季カタルの1症例白木夕起子*1,2庄司純*2樋町美華*3廣田旭亮*2稲田紀子*2山上聡*2*1相模原協同病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3東海学園大学心理学部CACaseofVernalKeratoconjunctivitisthatUnderwentChildren’sManifestAnxietyScalePsychologicalTestingYukikoShiraki1,2),JunSyoji2),MikaHimachi3),AkiraHirota2),NorikoInada2)andSatoruYamagami2)1)SagamiharaKyodoHospital,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofPsychology,TokaigakuenUniversityC目的:治療経過中に,日本版児童用顕在性不安尺度(Children’sManifestAnxietyScale:CMAS)による心理検査が施行できた春季カタルの症例報告.症例:症例は春季カタルのC9歳,男児である.既往歴としてチック症がある.2018年夏頃よりチック症と右眼の充血・疼痛・眼脂が出現した.1年間近医で治療を受けたが症状が改善せず,当科紹介受診した.初診時所見は,両眼上眼瞼結膜に活動性の巨大乳頭を認めたが,角膜上皮障害はなかった.春季カタルと診断しタクロリムス点眼液C1日C2回両眼点眼を開始した.タクロリムス点眼治療開始後C1カ月目には自覚症状が軽減し,巨大乳頭は扁平化した.初診時とタクロリムス点眼治療開始後C1カ月目のC2回,CMASによる心理テストを施行した.初診時の結果は,合計C28点で不安の程度はC5段階のうちC4の「高い」,検査の妥当性を示すCL尺度項目はC0で,強い不安が検出された.点眼治療開始後C1カ月目の結果は,合計C16点で不安の程度はC3の「正常」,L尺度項目はC1と軽快していた.結論:免疫抑制点眼薬による春季カタルの軽症化により,不定の程度も改善したことが心理テストで確認できたC1例を経験した.CPurpose:Toreportacaseofvernalkeratoconjunctivitis(VKC)thatunderwentpsychologicaltestingviatheJapaneseversionoftheChildren’sManifestAnxietyScale(CMAS)duringthetreatmentcourse.Casereport:A9-year-oldboypresentedwithvernalkeratoconjunctivitis.Hehadahistoryofticdisorder,andinthesummerof2018,inadditiontohisticdisorder,hyperemia,ocularpain,anddischargeinhisrighteyeoccurred.Althoughhehadbeentreatedfor1yearataneyeclinicnearhishome,hissymptomsdidnotimproveandhewasreferredtoourdepartment.Clinical.ndingsattheinitialvisitshowedactivegiantpapillaeintheupperpalpebraconjunctivaofbotheyes,yetnocornealepithelialdamage.HewasdiagnosedwithVKC,andatwice-dailytreatmentwithtopi-calCtacrolimusCophthalmicCsuspensionCwasCinitiated.CAtC1-monthCpostCtreatmentCinitiation,CsubjectiveCsymptomsCimprovedCandCtheCgiantCpapillaCwasC.attened.CAtCinitialCpresentationCandCatC1-monthCpostCtreatmentCinitiation,CCMASpsychologicaltestingwasperformed.TheCMAStestresultsatinitialpresentationrevealedstronganxietyby28pointsintotal,andthedegreeofanxietywasIVoutofVclasses.TheLscaleitemindicatingthevalidityofthetestwas0.TheCMAStestresultsat1-monthposttreatmentinitiationshowed16pointsintotal,adegreeofanxietyCofCIII,CandCthatCtheCLCscaleCitemCwasC1.CConclusion:WeCexperiencedCaCpatientCwithCVKCCwhoseCCMASCpsychologicaltestingimprovedduetotreatmentwithimmunosuppressiveeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):230.234,C2022〕Keywords:春季カタル,ストレスチェック,他覚的評価,CMAS.vernalkeratoconjunctivitis,stresscheck,ob-jectiveevaluation,CMAS.C〔別刷請求先〕白木夕起子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町C30-1日本大学医学部視覚科学系眼科学分野Reprintrequests:YukikoShiraki,M.D.,DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,30-1OyaguchiKamicho,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPANC230(98)表1乳頭・輪部・角膜スコア(PLCスコア)点数乳頭巨大乳頭輪部腫脹トランタス斑角膜所見0点1点2点3点なし直径C0.1.0C.2Cmm以上直径C0.3.0C.5Cmm以上直径C0.6Cmm以上なし平坦化局所全体なし1/3周未満1/3.C2/3周2/3周以上なし1.4個5.8個9個以上なし点状表層角膜炎落屑状点状表層角膜炎シールド潰瘍はじめに春季カタルは結膜に増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患であるとされ,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第C2版1)では,春季カタルで発症する結膜の増殖性変化を眼瞼結膜の乳頭増殖,増大あるいは輪部結膜の腫脹や堤防状隆起と定義している.臨床的には,5.10歳の男児に好発し,春季に増悪する季節性があり,重症化すると角膜上皮障害やシールド潰瘍を併発して視力障害を生じるなどの臨床的特徴を有するが,アトピー性皮膚炎を伴う患者が多いことも特徴としてあげられている1).アレルギー疾患の一つであるアトピー性皮膚炎については,日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018年版2)に,心身医学的側面にも留意した包括的な治療を心がけるべきと記載されている.これまでに,アトピー性皮膚炎と心身医学的側面との関係として,ランダム化比較試験による効果が実証された心身医学的介入は,行動療法や認知行動療法などの行動科学的アプローチであるという報告3)や,適切な薬物療法,リラクセーション訓練や認知行動療法などのストレス免疫訓練,習慣性掻破行動をやめる行動療法,アドヒアランスを向上させるコーチングや動機づけ面接など,行動科学的アプローチを用いて総合的な患者教育を行うことが大切であるという報告4)がなされている.春季カタルも重症型アレルギー性結膜疾患であると同時にアトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー疾患の合併率が高いことから,アトピー性皮膚炎における治療的アプローチと同様に,春季カタルについても病状と心身医学的側面との関係について検討していく必要があると考えられる.児童の不安を検査する方法の一つに,児童用顕在性不安尺度がある.CMAS(ChildrenC’sCManifestCAnxietyScale:CMAS)は身体各部の異常や疾患に基づいて生じるさまざまな身体的不安の程度を測定する質問紙検査で,身体的不安や精神的不安などを含む各種不安の総合的な程度を評価するために開発されたCManifestCAnxietyScale(MAS)の小児版である.CMASにより,不安の程度が高いと評価された場合には,さらにその不安の種類や不安が生じる誘因や原因を考察することで不安をなくすために必要な具体的対策を講ずることが可能となる.これまでに眼科領域では,心因性視覚障害の小児に使用した報告5)がみられるが,春季カタルの経過観察に使用した報告はみられない.今回,筆者らはCCMSの日本版である『CMS児童用顕在性不安尺度』(以下,日本版CAMS)(三京房,京都)を用いて春季カタル症例の治療奏効の過程で,不安の程度が軽減したことが確認できたC1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.CI方法および症例1.顕在性不安尺度顕在性不安尺度の測定には,CMASを用いた.日本版CMASの質問用紙に記載されている不安尺度C42項目および妥当性を示すCL(lie)尺度C11項目に関する質問の計C53項目について「はい」と「いいえ」で自己回答させた.検者は,回答後に診断基準に従って不安傾向をC5段階で評価した.0.5点はC5段階評価のC1「非常に低い」,6.12点はC2で「低い」,13.20点はC3で「正常」,21.28点はC4で「高い」,29点以上はC5で「非常に高い」となる.また,妥当性尺度を使用して回答の信頼性について評価した.C2.臨床スコア他覚所見は,アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン第C2版2)に記載されている臨床評価基準をもとに,春季カタル患者用に主要項目を抜粋した乳頭・輪部・角膜(papillae-lim-bus-cornea:PLC)スコアを作成し,数値化した(表1).C3.症例患者:9歳,男児.主訴:右眼充血・疼痛.既往歴:チック症.アレルギー歴:ダニ・ハウスダスト.家族歴:特記事項なし.現病歴:2018年夏頃よりチック症と右眼の充血・疼痛・眼脂が出現した.近医でエピナスチン点眼薬による治療が開始され,症状の改善があるたびに点眼薬の使用を自己中断していた.2019年C8月になり,点眼薬を使用しても右眼の充血および疼痛が改善しなくなったため当院初診となった.初診時所見:視力は,右眼=0.3(0.6),左眼=1.2(n.c.)であった.眼圧は眼刺激症状により十分な開瞼が行えず測定不能であった.細隙灯顕微鏡所見では,両眼の上眼瞼結膜に巨大乳頭と眼脂の貯留とがみられた.巨大乳頭所見は,左眼に比較して右眼のほうが重症であった.球結膜には高度の充血を認めたが,角膜・輪部には特記すべき所見はみられなかった(図1a,b).これらの所見から,PLCスコアは,右眼C6図1治療前後の前眼部写真治療開始前の右眼(Ca)および左眼(Cb).活動性の巨大乳頭と巨大乳頭の間隙に貯留した眼脂,および球結膜充血がみられる.治療開始C4週間目の右眼(Cc)および左眼(Cd).巨大乳頭は扁平化し,球結膜の充血は消退傾向である.タクロリムス点眼CMAS:ChildrenManifestAnxietyScale図2PLCスコアおよび日本版CMASの治療前後の比較治療開始前のCPLCスコアは両眼ともC6点,日本版CCMASはC28点と高い不安を示した.タクロリムス点眼C1日C2回両眼点眼による治療開始後よりCPLCスコアは減少し,4週後の日本版CCMASもC16点と,不安の程度は正常となった.20週目よりタクロリムス点眼C1日C1回両眼点眼に変更した.点,左眼C6点と判定した.春季カタルと診断しタクロリムス点眼液C1日C2回両眼点眼を開始した.タクロリムス点眼薬による治療開始前に,日本版CCMASを本人に回答させた.合計C28点で不安の程度はC5段階のうちC4の「高い」で,診断としては高い不安を示した.検査の妥当性を示すCL尺度項目はC0で妥当性はあった.治療経過:治療開始からC1週後,右眼裸眼視力はC1.2に向上した.両眼上眼瞼結膜の巨大乳頭は縮小傾向を示し,眼脂や充血も軽快していた.この時点で,PLCスコアは右眼C5点,左眼C5点に減少した.自覚症状は,時折掻痒感を自覚する程度にまで改善した.自覚所見および他覚所見は軽快傾向を示したものの,結膜の炎症所見と結膜増殖性変化である巨大乳頭が残存していたため,タクロリムス点眼液C1日C2回点眼は継続した.その後,自覚症状および他覚所見は徐々に軽症化し,初診からC1カ月後には巨大乳頭は扁平化した(図1c,d).治療開始後C1カ月目のCPLCスコアは,右眼C3点,左眼C4点であった.再度,日本版CCMASを施行したところ,合計C16点で不安の程度はC3の「正常」で,診断としては正常となった(図2).検査の妥当性を示すCL尺度項目はC1で妥当性はあった.初診からC5カ月後には巨大乳頭がほぼ消失し,現在は経過観察中である.CII考按今回筆者らは,急性増悪期と鎮静期に日本版CCMASを施行して,両病期間で不安傾向に差があった春季カタル症例を経験した.春季カタルを含めたアレルギー性結膜疾患では,患者がもっとも高頻度に自覚する症状として眼.痒感があげられている7).また,眼掻痒感は患者の生活の質(qualityCoflife)を低下させることが報告されている8).春季カタルでは,病状の増悪に伴って,眼掻痒感,流涙,羞明感,眼脂,眼痛などの自覚症状が悪化する.重症化すると登校が困難になることもあり,患児が眼掻痒感ばかりでなく眼痛や羞明感などにより強いストレスを感じていることが予想されていた.しかし,現在の春季カタル診療では,ストレスの程度を把握する臨床検査法が確立していないため,医師側が患児のストレスを把握しきれないのが現状である.一方,病状とストレスとの関連が検討されてきたアレルギー性疾患の代表的疾患は気管支喘息とアトピー性皮膚炎である.大矢は,心身症的側面を有する気管支喘息では,vocalCcodedysfunctionなどの心因性上気道閉塞性疾患との鑑別診断が重要であるとともに,心理社会的ストレッサーをチェックし,適切な対応を行うことが重要であることを指摘している9).また,アトピー性皮膚炎では,病状にストレスの関与があることが指摘されており,心身医学的側面からの検討が行われている.羽白は,アトピー性皮膚炎が心身症としては,「狭義の心身症タイプ」「アトピー性皮膚炎による適応障害タイプ」「アトピー性皮膚炎による管理障害(治療遵守不良)タイプ」のC3種類に分類されるとしている10).また,アトピー性皮膚炎における心理的側面を診断する方法として,樋町らは,ItchAnxietyScaleforAtopicDermatitis(IAS-AD)11)を,安藤らはアトピー性皮膚炎心身症尺度(Psycho-somaticCScaleCforCAtopicDermatitis:PSS-AD)12)を発表している.したがって,ストレスを含めた心理的影響が疑われる春季カタルなどのアレルギー性結膜疾患でも,検査法を確立して心身症的側面を把握し,病態の理解に努めることが重要であると考えられる.今回の症例では,日本版CCMASを使用することで,春季カタルの重症度の変化に伴う患児のストレスが検出可能であることが示唆された.MASは,1951年CTaylorら13)が発表した質問紙法による不安傾向の測定法で,TaylorCPersonalityCInventory(TPI)ともよばれている.顕在性不安とは,自分自身で身体的,精神的な不安の症候が意識化できたものをさし,行動観察などにより主観的に捉えられることが多かった不安が,MASにより患者報告アウトカムとして臨床現場で使用できるようになっている.MASの適応年齢はC16歳以上とされているが,16歳未満の児童用CCMASがある.今回の症例には,簡単な日本語で質問表が書かれた日本版CCMASを用いた.不安は,状態不安と特性不安との二つに大別されている.状態不安は,ある特定の時点や場面で感じる不安のことをさし,ストレスが強いほど状態不安が高くなるとされている.また,特性不安は,性格などに由来する不安になりやすい傾向を示すとされ,ストレスにより不安になりやすい人を意味している.CMASは,顕在性不安の検出を目的とするための検査法であるが,おもに特性不安を検出する質問項目を中心に作成されており,状態不安を測定する項目に乏しいことが指摘されている.今回の症例では日本版CCMASにより検出された不安傾向が,春季カタルの治療により改善したことが特徴的な変化であると考えられた.顕在性不安と特性不安の両者を測定する目的で作成された検査法として,state-traitanxietyCinventory(STAI)がある.今後は,春季カタルにおける不安検査として,CMASとCSTAIとの比較を行い,春季カタル患者における不安検査としての妥当性について検討していく必要があると考えられた.本症例報告の概要は,第C3回日本眼科アレルギー学会学術集会で発表した.文献1)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン作成委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:829-870,C20102)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラインC2018年版.日皮会誌C128:C2431-2502,C20183)EhlersA,StangierU,GielerU:Treatmentofatopicder-matitis:acomparisonofpsychologicalanddermatologicalapproachesCtoCrelapseCprevention.CJCConsultCClinCPsycholC63:624-635,C19954)StevenCJ,CFionaCC,CSueCLCetal:PsychologicalCandCeduca-tionalCinterventionsCforCatopicCeczemaCinCchildren.CCochraneDatabaseSystRevC2014:CD004054,C20145)原涼子,和田直子,並木美夏ほか:他科との連携が必要であった心因性視覚障害.日本視能訓練士協会誌C37:123-128,C20086)ShojiJ,OhashiY,FukushimaAetal:TopicaltacrolimusforchronicallergicconjunctivitisdiseasewithandwithoutCatopicdermatitis.CurrEyeResC44:796-805,C20197)庄司純,内尾英一,海老原伸行ほか:アレルギー性結膜疾患診断における自覚症状,他覚所見および涙液総CIgE検査キットの有用性の検討.日眼会誌116:485-493,C20128)深川和己,岸本弘嗣,庄司純ほか:季節性アレルギー性結膜炎患者におけるCWebアンケートを用いた抗ヒスタミン点眼薬の点眼遵守状況によるCQOLへの影響.アレルギーの臨床C39:825-837,C20199)大矢幸弘:心因性喘息と鑑別が必要なCVocalcorddysfunc-tion─.Q&Aでわかるアレルギー疾患C4:193-196,C200810)羽白誠:アトピー性皮膚炎への心身医学的対応.医学のあゆみ228:109-114,C200911)樋町美華,岡島義,大澤香織ほか:成人型アトピー性皮膚炎患者の痒みに対する不安尺度の開発信頼性・妥当性の検討.心身医学47:793-802,C200712)AndoT,HashiroM,NodaKetal:Developmentandvali-dationCofCtheCpsychosomaticCscaleCforCatopicCdermatitisCinCadults.JDermatolC33:439-450,C200613)TaylorJA:Therelationshipofanxietytotheconditionedeyelidresponse.JExpPsycholC41:81-89,C1951***

ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと 短期効果

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):226.229,2022cブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬の処方パターンと短期効果井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CExaminationofthePrescriptionsandShort-TermE.cacyofBrinzolamide/BrimonidineFixedCombinationEyeDropsforGlaucomaKenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(以下,BBFC)処方症例の特徴と短期効果を後向きに調査する.対象および方法:2020年C6.9月にCBBFCが新規に処方されたC138例の患者背景と処方パターンを調査した.変更症例では変更前後の眼圧を比較した.結果:原発開放隅角緑内障C85例,正常眼圧緑内障C35例,その他C18例だった.眼圧はC15.3±5.0CmmHg,使用薬剤数はC3.6±1.3剤だった.BBFC変更C121例,追加C4例,変更追加C13例だった.変更薬剤はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬C62例,ブリンゾラミド点眼薬C29例などだった.眼圧はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更症例では変更前C14.2±3.0CmmHgと変更後C14.9±4.4CmmHgで同等だった.中止例はC14例(10.1%)で眼圧上昇C5例,掻痒感C3例などだった.結論:BBFC処方は同成分同士,含有薬剤からの変更が多かった.眼圧は同成分同士の変更では変化なく,安全性も良好だった.CPurpose:ToCinvestigateCpatientCcharacteristicsCandCshort-termCe.cacyCofCbrinzolamide/brimonidineC.xedcombination(BBFC)eyeCdropsCforCglaucoma.CSubjectsandmethods:ThisCretrospectiveCstudyCinvolvedC138patientsnewlyprescribedwithBBFCinwhomintraocularpressure(IOP)beforeandafterswitchingwereinvesti-gatedandcompared.Results:Inthe138patients,thediagnosiswasprimaryopen-angleglaucomain85,normal-tensionglaucomain35,andotherin18.ThemeanIOPvaluewas15.3±5.0CmmHg,andthemeannumberofmedi-cationsCusedCwasC3.6±1.3.CPrescriptionCpatternsCwereswitching(121patients),adding(4patients),CandCadding/switching(13patients).CInCtheCswitchingCgroup,C62CpatientsCswitchedCfromCbrinzolamide+brimonidineCandC29CpatientsCswitchedCfromCbrinzolamideCalone.CInCtheCpatientsCwhoCswitchedCfromCbrinzolamide+brimonidine,CnoCsigni.cantCdi.erenceCofCmeanCIOPCwasCobservedCbetweenCpreCandpostCswitching(i.e.,C14.2±3.0CandC14.9±4.4CmmHg,Crespectively).CPostCadministration,C14patients(10.1%)wereCdiscontinued.CConclusions:BBFCCwasCusedasswitchingfromallorpartofthesameingredients.Therewasnosigni.cantdi.erenceinIOPpostswitch-ingbetweenthesameingredients,andthesafetywassatisfactory.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):226.229,C2022〕Keywords:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬,処方パターン,眼圧,安全性,変更.brimonidine/brinzol-amide.xedcombination,prescriptionspattern,intraocularpressure,safety,switching.Cはじめに低下が問題となる2).そこでアドヒアランス向上のために配緑内障点眼薬治療においてはアドヒアランス維持,向上が合点眼薬が開発された.わが国ではC2010年にラタノプロス重要である.アドヒアランス低下は緑内障性視野障害の進行ト/チモロール配合点眼薬が使用可能になり,2019年C12月に関与している1).また,多剤併用治療ではアドヒアランスまでにC7種類が上市された.このC7種類の配合点眼薬の特徴〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC226(94)は,すべての配合点眼薬にCb遮断点眼薬が配合されていることである.Cb遮断点眼薬の眼圧下降効果は強力である3).しかし,循環器系や呼吸器系の全身性副作用が出現することがあり,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II・III度),心原性ショックのある患者,重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者では使用禁忌である.そのためCb遮断点眼薬を配合しない配合点眼薬の開発が望まれていた.2020年C6月にブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬を配合したブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド)が使用可能となり,日本で実施された治験において良好な眼圧下降効果と高い安全性が報告された4,5).しかし,臨床現場でどのような患者にブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が使用されているかを調査した報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された患者について,その処方パターン,短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2020年C6.9月に井上眼科病院に通院中でブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬(1日C2回朝夜点眼)が新規に投与された緑内障あるいは高眼圧症患者C138例C138眼(男性70例,女性C68例)を対象とした.平均年齢はC68.2C±10.5歳(平均C±標準偏差)(33.87歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C85例,正常眼圧緑内障C35例,続発緑内障14例(ぶどう膜炎C7例,落屑緑内障C6例,血管新生緑内障C1例),原発閉塞隅角緑内障C1例であった.投与前眼圧は投与時の眼圧,投与後眼圧は投与後初めての来院時,2.3C±0.9カ月後,1.4カ月後に測定した.投与前眼圧はC15.3C±5.0mmHg,8.43CmmHgであった.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された症例を,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が追加投与された症例(追加群),前投薬を中止してブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が投与された症例(変更群),複数の薬が変更,追加となった症例(変更追加群)に分けた.変更群では変更した点眼薬を調査した.変更群ではブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬,ブリモニジン点眼薬,ブリンゾラミド点眼薬から変更した症例についてはおのおの投与前後の眼圧を比較した.投与後の副作用と中止症例を調査した.配合点眼薬は薬剤数C2剤として解析した.診療録から後ろ向きに調査を行った.片眼該当症例は罹患眼,両眼該当症例は投与前眼圧が高いほうの眼を対象とした.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はCp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.研究情報を院内掲示などで通知・公開し,研究対象者などが拒否できる機会を保証した.図1変更症例の変更前薬剤II結果全症例のうち追加群はC4例(2.9%),変更群はC121例(87.7%),変更追加群はC13例(9.4%)であった.追加群は正常眼圧緑内障C2例,原発開放隅角緑内障C1例,続発緑内障(血管新生緑内障)1例であった.追加前眼圧はC19.5C±9.7CmmHg(14.34CmmHg),追加後眼圧はC13.3C±4.7CmmHg(9.20CmmHg)で,眼圧は追加前後で同等であった(p=0.100).使用薬剤はなしがC3例,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬がC1例であった.副作用出現症例と中止症例はなかった.変更追加群は原発開放隅角緑内障C9例,正常眼圧緑内障C2例,続発緑内障(ぶどう膜炎)2例であった.変更追加前眼圧はC20.5C±9.6CmmHg(10.43CmmHg),変更追加後眼圧はC15.0C±3.7CmmHg(10.20CmmHg)で,眼圧は変更追加前後で同等であった(p=0.051).使用薬剤数はC3.0C±1.8剤であった.変更追加後の副作用はC1例(眼刺激)で出現した.中止症例は眼圧下降不十分C1例,眼刺激C1例,眼圧が下降したため追加C1カ月以内に中止C1例であった.変更群の変更した点眼薬の内訳はブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬C62例(51.2%)(以下,A群),ブリンゾラミド点眼薬C29例(24.0%)(以下,B群),ブリモニジン点眼薬C14例(11.6%)(以下,C群),その他C16例(13.2%)(以下,その他群)であった(図1).各群の変更前の平均薬剤数は,A群C4.3C±0.8剤,B群C3.1C±0.8剤,C群C2.8C±0.9剤,その他群C3.5C±1.1剤であった.平均使用点眼薬(ボトル)数は変更前CA群C3.7C±0.7本,B群C2.5C±0.7本,C群C2.4C±0.8本,変更後CA群C2.7C±0.7本,B群C2.5C±0.7本,C群C2.4C±0.8本であった.1日の平均点眼回数は,変更前CA群C6.2C±1.2回,B群C3.8C±1.2回,C群C4.0C±1.4回,変更後CA群C4.2C±0.7回,B群C3.8C±1.2回,C群C4.0C±1.4回であった.薬剤変更理由は,A群はアドヒアランス向上,B群,C群は眼圧下降不十分であった.その他群の変更理由は,視野障害進行C8例,眼圧下降不十分C4例,アドヒアランス向上C3例,副作用発現A群(ブリモニジン点眼薬+B群(ブリンゾラミド点眼薬からの変更)30ブリンゾラミド点眼薬からの変更)**p<0.00013025252015105201510500C群(ブリモニジン点眼薬からの変更)NS30変更前変更後変更前変更後眼圧(mmHg)16.12514.420151050変更前変更後図2変更症例の眼圧変化(*p<0.05,対応のあるCt検定)(不整脈)1例であった.眼圧はCA群では変更前C14.2C±3.0mmHg,変更後C14.9C±4.4CmmHgで,変更前後で同等であった(p=0.119)(図2).B群では変更前C15.0C±3.6CmmHg,変更後C12.6C±2.8CmmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001).C群では変更前C16.1±5.6CmmHg,変更後C14.4C±4.3CmmHgで,変更前後で同等であった(p=0.150).投与後に副作用はC11例(8.0%)で出現した.その内訳は変更追加群では眼刺激C1例,変更群ではCA群で掻痒感C2例,視力低下C1例,結膜充血C1例,掻痒感+結膜充血C1例,B群で掻痒感C2例,掻痒感+眼瞼発赤C1例,めまいC1例,C群で眼刺激C1例であった.中止症例はC14例(10.1%)であった.その内訳は変更追加群で眼圧下降C1例,眼刺激C1例,眼圧下降不十分C1例,変更群ではCA群で眼圧上昇C3例,視力低下1例,掻痒感C1例,B群で掻痒感C1例,掻痒感+眼瞼発赤C1例,めまいC1例,C群で眼刺激C1例,眼圧上昇C1例,その他群で眼圧上昇C1例であった.CIII考按ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に投与された症例を検討したが,さまざまな処方パターンがみられた.ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンの報告6)では,変更群がC93.7%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬+ブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬への変更C53.4%,Cb遮断点眼薬18.3%,ブリモニジン点眼薬C8.3%などであった.ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターンの報告7)では,変更群がC85.1%を占めていた.変更群の変更した点眼薬の内訳は,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬C43.4%,Cb遮断点眼薬+炭酸脱水酵素阻害点眼薬C34.9%,Cb遮断点眼薬16.9%,炭酸脱水酵素阻害点眼薬C4.2%などであった.同成分同士の変更がブリモニジン/チモロール配合点眼薬C53.3%,ブリンゾラミド点眼薬/チモロール配合点眼薬C78.3%と多く,今回(51.2%)もほぼ同様の結果であった.今回のブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更(A群)では眼圧は変更前後で同等だった.海外で行われたブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬とブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬併用の比較試験において眼圧下降は同等であった8).ただし海外のブリモニジン点眼薬の濃度はC0.2%で,日本のC0.1%製剤とは異なる.A群では平均使用薬剤数はC1剤,1日の平均点眼回数はC2.0回減少したので患者の点眼の負担は減少したと考えられる.一方,今回のブリンゾラミド点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更(B群)では眼圧は変更後に有意に下降し,眼圧下降幅はC1.7C±4.2mmHg,眼圧下降率はC7.6C±20.2%であった.日本で行われた治験では,ブリンゾラミド点眼薬からの変更では眼圧は変更C4週間後に有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅はC3.7C±2.1CmmHg,眼圧下降率はC18.1±10.3%であった4).今回のブリモニジン点眼薬からブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更(C群)では眼圧は変更前後で同等だった.日本で行われた治験ではブリモニジン点眼薬からの変更では眼圧は変更C4週間後に有意に下降し,ピーク時の眼圧下降幅はC2.9C±2.0CmmHg,眼圧下降率はC14.8C±10.3%であった5).今回の調査では日本で行われた治験5)より眼圧下降は不良であったが,変更前の使用薬剤数がC2.8C±0.9剤と多剤併用であったためと考えられる.また日本で行われた治験においても眼圧下降幅はブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬への変更した薬剤としてブリンゾラミド点眼薬症例(3.7C±2.1CmmHg)のほうがブリモニジン点眼薬症例(2.9C±2.0CmmHg)よりも大きかった.つまりブリモニジン点眼薬のほうがブリンゾラミド点眼薬よりも眼圧下降効果が強い可能性がある.メタアナリシスにおいても眼圧下降のピーク値はブリモニジン点眼薬(6.1CmmHg)はブリンゾラミド点眼薬(4.4mmHg)より強力であった9).今回変更後に副作用はC11例(8.0%)で出現した.その内訳は掻痒感C4例,眼刺激C2例,視力低下C1例,結膜充血C1例,めまいC1例,掻痒感+結膜充血C1例,掻痒感+眼瞼発赤1例であった.日本で行われたブリンゾラミド点眼薬からの変更の治験では副作用はC8.8%に出現した4).その内訳は霧眼C8.2%,点状角膜炎C2.7%,結膜充血C0.5%,眼脂C0.5%,眼の異物感C0.5%,眼刺激C0.5%,眼瞼炎C0.5%,眼乾燥C0.5%,硝子体浮遊物C0.5%などであった.日本で行われたブリモニジン点眼薬からの変更の治験では副作用はC12.9%に出現した5).その内訳は霧視C6.7%,眼刺激C2.8%,結膜充血C1.1%,眼の異常感C1.1%,結膜炎C1.1%,アレルギー性結膜炎0.6%,結膜浮腫C0.6%,眼脂C0.6%,点状角膜炎C0.6%などであった.副作用に関して今回調査と治験4,5)の結果を比較すると今回調査では掻痒感が多かったが,それ以外はほぼ同等だった.中止症例は今回はC10.1%であったが,治験では有害事象による中止症例はなかった4,5).今回,ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬が新規に処方された患者を調査した.ブリモニジン点眼薬+ブリンゾラミド点眼薬からの変更がもっとも多く,ブリンゾラミド点眼薬,ブリモニジン点眼薬からの変更が続いた.ブリモニジン点眼薬とブリンゾラミド点眼薬からの変更とブリモニジン点眼薬からの変更では投与後に眼圧に変化はなく,ブリンゾラミド点眼薬からの変更では投与後に眼圧は有意に下降した.副作用はC8.0%に出現したが,重篤ではなかった.ブリモニジン/ブリンゾラミド配合点眼薬は短期的には良好な眼圧下降効果と高い安全性を示した.今後は長期的な経過観察による検討が必要である.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.ective-nessCofC.rst-lineCmedicationsCforCprimaryCopen-angleglaucoma:Asystematicreviewandnetworkmeta-analy-sis.OphthalmologyC123:129-140,C20164)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第III相臨床試験─ブリンゾラミドとの比較試験.あたらしい眼科C37:1299-1308,C20205)相原一,関弥卓郎:ブリモニジン/ブリンゾラミド配合懸濁性点眼液の原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした第CIII相臨床試験─ブリモニジンとの比較試験.あたらしい眼科C37:1289-1298,C20206)小森涼子,井上賢治,國松志保ほか:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンと短期的効果.臨眼C75:C521-526,C20217)井上賢治,藤本隆志,石田恭子ほか:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の処方パターン.あたらしい眼科C32:C1218-1222,C20158)Gandol.CSA,CLimCJ,CSanseauCACCetal:RandomizedCtrialCofbrinzolamide/brimonidineversusbrinzolamideplusbri-monidineforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AdvTherC31:1213-1227,C20149)VanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocu-larpressure-loweringe.ectsofallcommonlyusedglauco-madrugs:aCmeta-analysisCofCrandomizedCclinicalCtrials.COphthalmologyC112:1177-1185,C2005***

多施設による緑内障患者の実態調査2020 年度版 ─高齢患者と若年・中年患者─

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):219.225,2022c多施設による緑内障患者の実態調査2020年度版─高齢患者と若年・中年患者─藤嶋さくら*1井上賢治*1國松志保*2井上順治*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CASurveyofElderlyandYoung/Middle-AgeGlaucomaPatientsSeenatMultipleInstitutionsin2020SakuraFujishima1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),JunjiInoue2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:眼科病院または診療所に通院中の緑内障患者の薬物治療実態を調査し,そのなかから高齢患者と若年・中年患者の相違を検討した.対象および方法:本調査の趣旨に賛同したC78施設にC2020年C3月C8.14日に外来受診した緑内障,高眼圧症患者C5,303例を対象とし,患者背景,使用薬剤を調査した.そのなかでC65歳以上の高齢患者C3,534例とC65歳未満の若年・中年患者C1,769例に分けて比較した.さらにC2016年の前回調査と比較した.結果:薬剤数は高齢患者(1.8C±1.3剤)で若年・中年患者(1.7C±1.2剤)より多かった.単剤例は高齢患者(1,431例)と若年・中年患者(772例)でともにプロスタグランジン(PG)関連薬が最多だった.2剤例は高齢患者(815例)と若年・中年患者(402例)でともにCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤が最多だった.前回調査と比べてC2剤例で配合剤が増加し,PG関連薬+b(ab)遮断薬が減少した.結論:高齢患者と若年・中年患者の薬物治療は似ていた.単剤例はCPG関連薬,2剤例ではPG関連薬/Cb遮断薬配合剤が多く使用されていた.CPurpose:Toinvestigateage-relateddi.erencesinmedicationsusedandtherapiesadministeredinglaucomapatientsseenatmultipleinstitutions.Subjectsandmethods:Inthisstudy,weinvestigatedandcomparedpatientbackgroundCandCmedicationsCadministeredCinC5,303CpatientsCwithCglaucomaCandCocularChypertensionCdividedCintoCtwoCagegroups[elderly:≧65Cyearsold(n=3,534patients);young/middle-age:<65Cyearsold(n=1,769patients)]seenat78outpatientclinicsinJapanbetweenMarch8andMarch14,2020.Themedicationsandtypesusedwerecomparedbetweenthetwogroups,andalsocomparedwiththe.ndingsinour2016study.Results:CThemeannumberofmedicationsadministeredintheelderlypatientswasgreaterthanthatintheyoung/middle-agedpatients(i.e.,1.8±1.3vs.1.7±1.2,respectively).Inbothgroups,prostaglandin(PG)-analogswerethedrugsmostCfrequentlyCadministeredCinCtheCpatientsCundergoingCmonotherapy,CwhileCPG-analogs/b-blockersC.xed-combinationwerethedrugsmostfrequentlyadministeredinthe‘multiple-medication’patients.Comparedtothe.ndingsinthe2016study,theuseof.xed-combinationdrugsincreasedinthemultiple-medicationpatients,whiletheCuseCofCPG-analogs+b(ab)-blockersCdecreased.CConclusion:AlthoughCtheCmedicationsCadministeredCinCbothCgroupsweresimilar,PG-analogsandPG-analogs/b-blockers.xed-combination,respectively,werethedrugsmostfrequentlyadministeredinmonotherapyandmultiple-medicationglaucomapatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):219.225,C2022〕Keywords:緑内障,薬物治療,高齢患者,若年・中年患者,配合剤.glaucoma,medication,elderpatients,youngerormiddleagedpatients,.xedcombinationeyedrops.C〔別刷請求先〕藤嶋さくら:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:SakuraFujishima,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(87)C219表1参加施設ふじた眼科クリニックえづれ眼科川島眼科鬼怒川眼科医院とやま眼科博愛こばやし眼科いずみ眼科クリニックおおはら眼科さいはく眼科クリニックサンアイ眼科篠崎駅前髙橋眼科久が原眼科さいき眼科みやざき眼科藤原眼科石井眼科クリニックはしだ眼科クリニックかわぞえ眼科クリニックやながわ眼科そが眼科クリニック槇眼科医院ふかさく眼科高輪台眼科クリニック大原ちか眼科たじま眼科・形成外科早稲田眼科診療所かさい眼科あおやぎ眼科井荻菊池眼科ほりかわ眼科久我山井の頭通り本郷眼科いなげ眼科やなせ眼科吉田眼科赤塚眼科はやし医院的場眼科クリニックのだ眼科麻酔科医院えぎ眼科仙川クリニックにしかまた眼科みやけ眼科東小金井駅前眼科小川眼科診療所高根台眼科後藤眼科良田眼科谷津駅前あじさい眼科おがわ眼科白金眼科クリニックおおあみ眼科西府ひかり眼科あつみクリニック中山眼科医院だんのうえ眼科クリニックあつみ整形外科・眼科クリニックもりちか眼科クリニック綱島駅前眼科林眼科医院中沢眼科医院眼科中井医院なかむら眼科・形成外科駒込みつい眼科さいとう眼科さくら眼科・内科立川しんどう眼科ヒルサイド眼科クリニック井上眼科病院町屋駅前眼科図師眼科医院お茶の水・井上眼科クリニック菅原眼科クリニックいまこが眼科医院西葛西・井上眼科病院うえだ眼科クリニックむらかみ眼科クリニック大宮・井上眼科クリニック江本眼科ガキヤ眼科医院札幌・井上眼科クリニックはじめに日本の総人口はC2019年C10月現在C1億C2,617万人である1).2015年頃より総人口は減少を続けている.一方,65歳以上人口はC3,589万人で,総人口に占める割合(高齢化率)は28.4%である.65歳以上人口と高齢化率は年々増加している.このことから眼科を受診する患者もC65歳以上の高齢者が増加すると予想される.40歳以上を対象として行われた多治見スタディにおいても緑内障の有病率は年齢とともに増加していた2).今後,高齢患者はますます増加し,われわれ眼科医が高齢の緑内障患者を診察する機会も増加することが予想される.緑内障治療の第一選択は点眼薬治療である3).点眼薬には効果と副作用があり,処方する際にはそのバランスを考慮する必要がある.副作用には全身性と眼局所性があり,全身性の副作用では他の疾患を引き起こしたり悪化させたりする危険がある.そこで身体機能が若年・中年者に比べて低下していると考えられる高齢者では使用しづらい.また,眼局所性の副作用ではアドヒアランスが低下する危険がある.近年プロスタグランジン関連薬による眼局所の美容的副作用(眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化)3)が問題になっており,女性や若年患者では使用しづらい状況である.それらを考慮した薬剤順不同・敬称略処方が眼科医によって行われていると考えると,高齢患者と若年・中年患者では使用する薬剤が異なる可能性がある.そこで年齢による緑内障薬物治療の相違を調査する目的で筆者らは緑内障患者の薬物治療の実態調査をC2007年より定期的に行っている4.7).2016年の前回調査4)よりC4年が経過し,さらにその間に眼圧下降の作用機序の異なる点眼薬(オミデネパグ点眼薬)とC2種類の配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)の合計C3種類の点眼薬が新規に使用可能となった.そこで今回,緑内障薬物治療の実態調査を再度行い,高齢患者と若年・中年患者での使用薬剤の違いを再検討した.さらに前回調査4)の結果と比較することで,経年的変化を検討した.CI対象および方法この調査は,調査の趣旨に賛同した眼科病院あるいは眼科診療所C78施設において,2020年C3月C8.14日に行った(表1).この調査期間内に,調査施設の外来を受診した緑内障および高眼圧症患者全員で,1例C1眼を対象とした.総症例数はC5,303例(男性C2,347例,女性C2,956例),年齢はC68.7C±13.1歳(平均C±標準偏差,年齢分布C11.101歳)であった.緑内障の診断と管理は,緑内障診療ガイドライン3)に則り,220あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(88)図1調査票(89)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C221各施設の医師の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.調査施設にあらかじめ調査票(図1)を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤(薬剤濃度は問わない),レーザー治療の既往,緑内障の手術既往を調査した.調査施設からのすべての調査票を井上眼科病院内の集計センターに回収し,集計を行った.なお,前回調査までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回調査では薬剤は一般名での収集とした.65歳以上の高齢患者C3,534例とC65歳未満の若年・中年患者C1,769例に分け,患者背景因子(平均年齢,男女比,緑内障病型,レーザー治療既往,緑内障手術既往)および薬物治療におけるC2群間の相違を検討した(Cc2検定,Mann-Whit-neyU検定).薬剤治療では使用薬剤数,単剤例の薬剤,2剤例の薬剤を調査し,さらにそれぞれの結果をC2016年に行った前回調査の結果4)と比較した(Cc2検定,Mann-WhitneyU検定).配合点眼薬はC2剤として解析した.全症例での病型は,正常眼圧緑内障C2,710例(51.1%),(狭義)原発開放隅角緑内障C1,638例(30.9%),続発緑内障435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%),原発閉塞隅角緑内障C225例(4.2%),小児緑内障C4例(0.1%)などであった.レーザー治療はC220例(4.1%)に行われていた.内訳はレーザー虹彩切開術C151例(68.6%),選択的レーザー線維柱帯形成術C68例(30.9%)などであった.緑内障手術はC366例(6.9%)に行われていた.術式は線維柱帯切除術C263例(71.9%),線維柱帯切開術C60例(16.4%),チューブシャント手術C18例(4.9%)などであった.CII結果患者背景は,平均年齢は高齢患者C76.4C±6.8歳,若年・中年患者C53.4C±8.5歳であった(表2).性別は高齢患者が男性1,477例,女性C2,057例で,若年・中年患者の男性C870例,女性C899例に比べて女性の割合が有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).緑内障の病型は原発開放隅角緑内障,原発閉塞隅角緑内障,続発緑内障が高齢患者に,正常眼圧緑内障が若年・中年患者に有意に多かった(p<0.001,Cc2検定)(表2).レーザー治療既往症例は高齢患者C189例(5.3%)が若年・中年患者C31例(1.8%)に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).レーザー治療の内訳は高齢患者ではレーザー周辺虹彩切開術C133例,選択的レーザー線維柱帯形成術C55例など,若年・中年患者ではレーザー周辺虹彩切開術18例,選択的レーザー線維柱帯形成術C13例であった.緑内障手術既往症例は高齢患者がC278例(7.9%)で,若年・中年患者C88例(5.0%)に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).手術の内訳は高齢患者では線維柱帯切除術C193例,線維柱帯切開術C50例,チューブシャント手術C12例など,若年・中年患者では線維柱帯切除術C70例,線維柱帯切開術10例,チューブシャント手術C6例などであった.平均使用薬剤数は高齢患者がC1.8C±1.3剤で,若年・中年患者のC1.7C±1.2剤に比べて有意に多かった(p<0.05,Mann-WhitneyU検定)(図2).単剤例の使用薬剤を表3に示す.EP2作動薬は若年・中年患者が高齢患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).2剤例の使用薬剤の組み合わせを図3に示す.もっとも多く使用されていたプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤の内訳は,高齢者(304例)ではラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬C118例(38.8%),ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬C103例(33.9%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬C42例(13.8%),トラボプロスト/チモロール配合点眼薬C41例(13.5%)であった.若年・中年患者(217例)ではラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬C86例(39.6%),ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬C64例(29.5%),トラボプロスト/チモロ表2患者背景年齢C男女比病型正常眼圧緑内障原発開放隅角緑内障続発緑内障原発閉塞隅角緑内障高眼圧症小児緑内障レーザー既往症例緑内障手術既往症例高齢患者3,534例76.4±6.8歳C1,477:C2,0571,678例(C47.5%)1,148例(C32.5%)331例(C9.4%)199例(C5.6%)177例(C5.0%)0例(0C.0%)189例(C5.3%)278例(C7.9%)若年・中年患者1,769例53.4±8.5歳870:C8991,032例(C58.3%)490例(C27.7%)C104例(C5.9%)26例(1C.5%)109例(C6.2%)C4例(0C.2%)C31例(1C.8%)88例(5C.0%)p値<C0.0001<C0.00010.0004<C0.0001<C0.00010.08190.0124<C0.0001<C0.0001222あたらしい眼科Vol.39,No.2,2C022(90)4剤271例7.7%高齢患者(3,534例)5剤6剤116例25例3.3%0.7%平均1.8±1.3剤*若年・中年患者(1,769例)5剤6剤4剤120例44例2.5%9例0.5%7剤1例0.1%6.8%*p<0.05平均1.7±1.2剤*図2使用薬剤数表3使用薬剤内訳(単剤例)高齢患者若年・中年患者プロスタグランジン関連薬974例68.1%496例64.2%Cb遮断薬314例21.9%172例22.3%Ca2作動薬56例3.9%22例2.8%EP2受容体**45例3.1%**62例8.0%炭酸脱水酵素阻害薬27例1.9%12例1.6%ROCK阻害薬7例0.5%2例0.3%Ca1遮断薬5例0.3%1例0.1%その他3例0.2%5例0.6%合計1,431例772例PG+a265例8.0%CAI/b配合剤96例11.8%PG+b(ab)119例14.6%**p<0.0001(Cc2検定)高齢患者(815例)若年・中年患者(402例)PG+a220例5.0%CAI/b配合剤50例12.4%PG+b(ab)43例10.7%**PG+点眼CAI**PG+点眼CAI121例14.8%22例5.5%**p<0.0001(c2検定)図3使用薬剤(2剤例)(91)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C223ール配合点眼薬C37例(17.1%),タフルプロスト/チモロール配合点眼薬C30例(13.8%)であった.2剤例では,プロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).また,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かった(p<0.0001,Cc2検定).今回調査とC2016年の前回調査4)の結果を比較すると,高齢患者では年齢は有意に上昇し(p<0.0001),男女比では男性の割合が有意に増加していたが(p<0.05),若年・中年患者では同等であった.病型は高齢患者では原発開放隅角緑内障が有意に増加し(p<0.001,Cc2検定),原発閉塞隅角緑内障が有意に減少した(p<0.05,Cc2検定)が,若年・中年患者では同等であった.レーザー治療既往症例は高齢患者では今回調査(5.3%)が前回調査(7.7%)に比べて有意に減少し(p<0.01),若年・中年患者では同等であった.緑内障手術既往症例は高齢患者,若年・中年患者ともに今回調査では同等であった.使用薬剤数は高齢患者では今回調査(1.8C±1.3剤)で前回調査(1.7C±1.2剤)に比べて有意に増加し(p<0.01,Mann-WhitneyU検定),若年・中年患者では同等であった.単剤例は高齢患者では前回調査に比べて有意に減少し(p<0.001,Cc2検定),4剤例は有意に増加した(p<0.05,Cc2検定).若年・中年患者ではC2剤,5剤例は有意に増加した(p<0.0001,Cc2検定).単剤例は高齢患者では前回調査に比べてプロスタグランジン関連薬(p<0.001,Cc2検定)とCa1遮断薬(p<0.05,Cc2検定)が有意に減少し,Ca2作動薬が有意に増加した(p<0.05,Cc2検定).若年・中年患者では同等であった.一方,2剤例では高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が前回調査に比べて有意に増加し(p<0.01,Cc2検定),プロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が前回調査に比べて有意に減少した(p<0.0001,Cc2検定).若年・中年患者ではプロスタグランジン関連薬+a2作動薬が前回調査に比べて有意に減少した(p<0.05,Cc2検定).CIII考按患者背景については,今回調査でも前回調査同様に女性の割合が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,これは女性の平均寿命が長いことが一因と考えられる.緑内障病型は高齢患者,若年・中年患者ともに(広義)原発開放隅角緑内障がC80%以上を占め,多治見スタディ2)の結果と同様であった.正常眼圧緑内障が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かったが,緑内障の啓発活動,職場での健康診断,人間ドックによってみつかったケースが多かったと考えられる.レーザー治療既往症例が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,レーザー虹彩切開術がとくに多かったことが影響したと考えられる.緑内障手術既往症例が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かったが,緑内障罹病期間が長いことがその原因と考えられる.前回調査と比較すると若年・中年患者では患者背景に変化は少なかった.高齢患者では平均年齢が有意に高くなったが,平均寿命の伸長が関与していると考えられる.高齢患者ではレーザー治療既往症例が有意に減少したが,原発閉塞隅角緑内障が有意に減少したことが関連していると考えられる.高齢患者では使用薬剤数は今回調査では有意に増加したが,その理由としてこのC4年間で従来の点眼薬とは眼圧下降の作用機序が異なる点眼薬(オミデネパグ点眼薬)と新規の配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)が使用可能になり,それらの点眼薬が追加投与されて多剤併用症例となったことが考えられる.単剤例の使用薬剤は高齢患者と若年・中年患者でほぼ同様であった.EP2作動薬のみが若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多かったが,EP2作動薬は従来のプロスタグランジン関連薬で出現する美容的な眼局所副作用が少ないこと8,9)が影響したと考えられる.高齢患者ではプロスタグランジン関連薬が前回調査に比べて有意に減少したが,Ca2作動薬とCEP2作動薬が増加したことが原因と考えられる.2剤例ではプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が若年・中年患者で高齢患者に比べて有意に多く,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が高齢患者で若年・中年患者に比べて有意に多かった.高齢者では全身性副作用が出現しやすいCb遮断薬の使用を控えて全身性副作用が出現しにくい炭酸脱水酵素阻害薬を使用したことと,1日C1回点眼のアドヒアランス向上からアドヒアランスが不良と考えられる若年・中年患者にプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が使用されたことの両方が原因と考えられる.さらに2017年より使用可能となったラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬がプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤のなかで高齢患者(38.8%),若年・中年患者(39.6%)ともにもっとも多く使用されていた.この配合点眼薬は従来のチモロール点眼薬との配合ではなくカルテオロール点眼薬との配合である.カルテオロール点眼薬がチモロール点眼薬と眼圧下降効果は同等で,安全性はチモロール点眼薬よりも高いことが影響したと考えられる10,11).また,前回調査と比べて高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が有意に減少し,プロスタグランジン関連薬/b遮断薬配合剤が有意に増加した.単剤の併用よりも配合剤C1剤のほうがC1日の総点眼回数が少なく,アドヒアランスの面から配合剤が増加したと考えられる.また,若年・中年患者ではプロスタグランジン関連薬+a2作動薬と炭酸脱水酵素阻害薬+a2作動薬が有意に減少したが,アドヒアランス向上の面からプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合224あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(92)剤が増加したことが原因と考えられる.今回調査ではC65歳を境にして高齢患者と若年・中年患者に分けたところ高齢患者が若年・中年患者に比べてC2.0倍多かった.もう少し高い年齢で区切って検討したほうがよい可能性がある.また,高齢患者では緑内障の罹病期間が長く,治療が落ちつき同じ点眼薬が継続的に使用されていることも考えられる.一方,年齢的に手術適応ではなく,多剤併用のままアドヒアランスにやや問題があっても継続使用している高齢患者も存在すると考えられる.あるC1回の外来受診時に使用している薬物調査のため,患者個々人の経時的変化が不明なことが今回調査の問題点と考えられる.今回調査はC78施設C5,303例,前回調査4)はC57施設C4,288例で行った.前回調査,今回調査ともに参加した施設はC53施設であった.施設数や症例数も異なるため,両調査を直接的に比較することは妥当性がない可能性も考えられる.前回調査と同一施設,同一患者で調査を行うのが理想だが,現実にはむずかしい.そこで,なるべく多くの施設,多くの症例からデータを集めることで緑内障患者の実態がより判明すると考えて施設や症例を増加させて今回の検討を行った.今回の結果をまとめる.高齢と若年・中年の緑内障患者の薬物治療を比較すると,高齢患者,若年・中年患者ともに単剤例では依然としてプロスタグランジン関連薬が最多だった.2剤例では,高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤がもっとも多かった.配合剤はC2剤例で高齢患者ではC49.6%,若年・中年患者では67.9%の症例で使用されていた.前回調査4)との比較では,使用薬剤数が高齢患者では増加した.単剤例は高齢患者ではプロスタグランジン関連薬が減少した.2剤例は高齢患者,若年・中年患者ともにプロスタグランジン関連薬+b(ab)遮断薬が減少し,プロスタグランジン関連薬/Cb遮断薬配合剤が増加した.今後ますます配合剤や新しい眼圧下降の作用機序を有する点眼薬(EP2作動薬)の使用が増加すると予想される.文献1)内閣府:令和C2年版高齢社会白書(全体版)第C1章高齢化の状況2)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20043)InoueK:ManagingCadverseCe.ectsCofCglaucomaCmedica-tions.ClinOphthalmolC12:903-913,C20144)井上賢治,岡山良子,井上順治ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─高齢患者と若年・中年患者.眼臨紀C10:627-633,C20175)井上賢治,塩川美菜子,岡山良子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2012年度版:高齢患者と若年・中年患者.眼臨紀C6:869-874,C20136)野崎令恵,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2009年度版─高齢患者と若年・中年患者.臨眼C66:495-501,C20127)増本美枝子,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査高齢患者と若年・中年患者.臨眼C63:1897-1903,C20098)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:PhaseC2,Crandomized,Cdose-.ndingCstudiesCofComidenepagCisopropyl,CaCselectiveCEP2Cagonist,CinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularChypertension.CJCGlaucomaC28:375-385,C20199)NakakuraS,TeraoE,FujisawaYetal:Changesinpros-taglandin-associatedCperiobitalCsyndromeCafterCswitchCfromconventionalprostaglandinF2atreatmenttoomide-nepagCisopropylCinC11consecutiveCpatients.CJCGlaucomaC29:326-328,C202010)LiCT,CLindsleyCK,CRouseCBCetal:ComparativeCe.ective-nessCofC.rst-lineCmedicationsCforCprimaryCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC123:129-140,C201611)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C2010C***(93)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C225

基礎研究コラム:57.PPARの眼局在と役割

2022年2月28日 月曜日

PPARの眼局在と役割PPARとはペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(peroxisomeprolif-erator-activatedreceptor:PPAR)は核内受容体の一つで,Ca,b/d,gの三つのアイソフォームが存在し,糖や脂質の代謝に関与しています.近年,PPARは本来の機能だけでなく,炎症および酸化ストレスを抑制することがわかってきました.筆者らの実験においても,PPARCaアゴニストの角膜への点眼は炎症の転写因子であるCnuclearCfactor-kappaCB(NF-kB)の発現を抑制し,angiopoietin(Ang)-2および血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)の両方を抑制することで抗炎症作用や抗血管新生作用を有していました1).眼の領域ではどうでしょうか眼組織における各CPPARの局在には違いがあり,PPARCaは角膜上皮細胞,網膜内顆粒層,血管内皮細胞に多く,CPPARb/dは角膜上皮細胞,角膜内皮細胞に,そしてCPPARgは角膜上皮細胞,炎症浸潤細胞に多く発現しています.局在と役割には相関関係があり,PPARCaは血流の多い網膜内顆粒層といった血管やCVEGF,Ang-2に関連した働きとかかわりが強いことがわかっています.PPARCb/dアゴニストに関しては角膜内皮細胞に発現しやすい点だけでなく,細胞分裂を促すCKi67を活性化することも他のCPPARアゴニストにはない大きな特徴です.PPARCb/dアゴニストは角膜創傷治癒に寄与する一方で血管新生を促進するという性質ももっています2).PPARCgアゴニストはマクロファージ上に局在することで炎症を抑えるだけでなく,創傷治癒を促すCM2マクロファージの分化を促す点から,特徴的な抗炎症作用を有しています.各アゴニストを角膜アルカリ外傷後に点眼したところ,すべてのサブタイプで創傷治癒を促進する(図1)ことがわかっていますが,各CPPARアゴニストは独CVehiclePPARaPPARbPPARg0hour12hour24hour図1ラット角膜アルカリ外傷モデルを用いた各PPARアゴニスト点眼の効果の比較基剤に比べてすべてのサブタイプで角膜創傷治癒が促進され,24時間後には角膜上皮細胞の修復が完成している.有馬武志日本医科大学眼科学解析人体病理学自の特徴を有しており,抗炎症の機序にも違いがあります.たとえばCNF-kBとの関係において,PPARCaやCPPARCb/dはCNF-kBを競合阻害するCKappaClightCpolypeptideCgeneCenhancerintheB-cellinhibitor,alpha(I-kBCa)を活性化することで炎症を抑えますが,PPARCgに関してはCNF-kBの発現そのものを抑制することで炎症を抑え込むことがわかっています(図2).このように各サブタイプで作用機序が違っていることを加味して,より強力な抗炎症作用を示すCPPARaアゴニストとCPPARCgアゴニストの合剤も今後注目されます3).今後の展望現在,PPARCaアゴニストの内服や硝子体内注射による網膜血管新生病変への新規治療法の可能性が検討されています.抗CVEGF療法の薬剤は高価であるのに対し,PPARは安価で治療効果が見込める可能性があり,医療財政事情の逼迫にも貢献できるかもしれません.PPARCb/dアゴニストに関しては,角膜内皮細胞に発現が多く,細胞分裂能の促進を認める点から,角膜内皮細胞の再生を促進する可能性が示唆されました.PPARCgアゴニストはCPPARCaとの合剤でより強力に炎症を抑制する点から,新たな消炎治療薬候補として広く普及する可能性があります.今後,さらなる解明が行われることが期待されます.文献1)ArimaT,UchiyamaM,NakanoYetal:Peroxisomepro-liferator-activatedCreceptorCalphaCagonistCsuppressesCneo-vascularizationCbyCreducingCbothCvascularCendothelialCgrowthCfactorCandCangiopoietin-2CinCcornealCalkaliCburn.CSciRepC7:17763,C20172)TobitaY,ArimaT,NakanoYetal:Peroxisomeprolifer-ator-activatedCreceptorCbeta/deltaCagonistCsuppressesCin.ammationCandCpromotesCneovascularization.CIntCJCMolCSciC21:E5296,C20203)NakanoY,ArimaT,TobitaYetal:Combinationofper-oxisomeproliferator-activatedreceptor(PPAR)alphaandgammaCagonistsCpreventsCcornealCin.ammationCandCneo-vascularizationCinCaCratCalkaliCburnCmodel.CIntJMolSci21:E5093,C2020CVehiclePPARaPPARbPPARgI-kBNF-kB図2各PPARアゴニスト点眼後のI.kBとNF.kBのかかわり基剤群ではCI-kBは発現せず,NF-kBが核内移行して発現している.PPARCa群やCPPARCb/d群ではCI-kBが発現することで競合阻害し,NF-kBの核内移行を抑制している.PPARCg群ではCI-kBの発現は認めないがCNF-kBの発現そのものを抑制している.(77)あたらしい眼科Vol.38,No.2,2021C2090910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:225.晩期再手術時の眼内液の性状(初級編)

2022年2月28日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載225225晩期再手術時の眼内液の性状(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに種々の網膜硝子体疾患で初回硝子体手術後の状態が安定していても,なんらかの理由で数年後などに再手術を余儀なくされることがある.このときに,初回硝子体手術直後は液体であったはずの眼内液にかなりの粘性が生じていることはしばしば経験する.C●症例提示61歳,女性.左眼の網膜血管腫,続発黄斑上膜(図1)に対してC3年前に硝子体手術+白内障手術を施行した.術後経過良好であったが,最近になって黄斑上膜が再発し(図2),硝子体内のフレアも増加していた.インフュージョンカニューレを設置後に眼内液を十分に洗浄しないまま黄斑部にCBBGを塗布しようとしたが,眼内液の粘性が高く拡散が悪かった(図3a).硝子体カッターで眼内液を洗浄し,再度CBBGを塗布したところ容易に拡散した(図3b).その後,再発黄斑上膜を.離し,網膜血管腫にレーザー光凝固を施行し手術を終了した.C●硝子体手術後晩期の眼内液の性状硝子体手術後の眼内液は時間の経過とともに粘性が高くなり,眼内で硝子体の構成成分が再生されていると考えられる.Itakuraらは,黄斑円孔に対する硝子体手術後,眼内液中のCII型プロコラーゲンのCC-プロペプチド(pCOL-II-C)とヒアルロン酸(HA)を測定しCpCOL-II-C濃度は通常の硝子体と同程度のレベルであり,HAのレベルは通常の硝子体よりも有意に低いものの,十分に検出可能であったとしている1).これらのことより,硝子体手術後も持続的にCpCOL-II-CやCHAが眼内で分泌されている可能性がある.培養CMuller細胞は,内境界膜や硝子体のコラーゲンを合成するといった報告2)や,グリア細胞にCHA合成能があるとする報告3)などがあることから,硝子体手術後もおそらくCMuller細胞がコラーゲンやCHAなどの硝子体構成成分を再生しているものと考えられる.初回硝子体手術後,長期経過している症例に再手術を(75)C0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼眼底写真(a)とOCT画像(b)上方に網膜血管腫を認め,それに続発する黄斑上膜を認めた.図2初回手術3年後黄斑上膜が再発し,.胞様黄斑浮腫も生じている.図3再手術の術中所見インフュージョンカニューレを設置後に眼内液を十分に洗浄しないまま,黄斑部にCBBGを塗布しようとしたが,眼内液の粘性が高く拡散が悪かった(Ca).硝子体カッターで眼内液を洗浄したのち,再度CBBGを塗布したところ容易に拡散した(Cb).施行する際には,上記のことを十分に念頭においたうえで,まず粘性のある眼内液を十分に洗浄してから,諸操作を施行すべきと考えられる.文献1)ItakuraCH,CKishiCS,CKotajimaCNCetal:VitreousCcollagenCmetabolismCbeforeCandCafterCvitrectomy.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC243:994-998,C20052)PonsioenCTL,CvanCLuynCMJA,CVanCderCWorpCRJCetal:CHumanretinalMullercellssynthesizecollagensofthevit-reousCandCvitreoretinalCinterfaceCinCvitro.CMolCVisC14:C652-660,C20083)MarretCS,CDelpechCB,CDelpechCACetal:ExpressionCandCe.ectsCofChyaluronanCandCofCtheChyaluronan-bindingCpro-teinhyaluronectininnewbornratbrainglialcellcultures.JNeurochem62:1285-1295,C1994あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C207

考える手術:2.黄斑円孔への硝子体手術

2022年2月28日 月曜日

考える手術②監修松井良諭・奥村直毅黄斑円孔への硝子体手術向後二郎聖マリアンナ医科大学眼科学教室特発性黄斑円孔に対する治療法を考えるうえで,その歴史と変遷を知るということは非常に重要です.1990年にKellyとWendelによってそれまで難治性疾患とされていた黄斑円孔に対する硝子体手術および液空気置換の手術成績が報告されました.その後,論文ベースでは2000年にBrooksが内境界膜(ILM)を硝子体手術に併用して.離することで95%以上の脅威的な円孔閉鎖率を報告し,同時期に門之園やBurkがインドシアニングリーン(ICG)を用いたchromo-vitrectomyを考案して手術の難易度が下がりました.そして2010年ような歴史から黄斑円孔の病態と治療の最適化を考える必要があります.黄斑円孔手術は,core-vitrectomy,shaving,ILM.離,液空気置換というように手術の行程数は少ないですが後部硝子体.離(PVD)の有無,周辺の硝子体癒着,ILM.離方法,タンポナーデ物質などさまざまな場面でのバリエーションがあります.また,手術目的は当然,円孔閉鎖ですが,そのメカニズム・ILMの特性を意識して挑むことが重要と考えます.たとえばどんなに大きな円孔であってもC3F8ガスなどの長期滞留ガスを用いて厳格なうつ向きをとれば閉鎖することが多いと思いますが,どれだけ患者負担を減らせるか(体位制限の短縮),どれだけ網膜に負担をかけず閉鎖させるか(ILM.離の方法),術後の変視症・歪視をどう減らすかなど,まだまだ改良の余地があると思います.聞き手:黄斑円孔の手術時期としてはいつがよいのでStageIIでは1~2週間単位で進行し,手術する時期にしょうか?網膜.離ほどの緊急性はないと思いますがはIII以降になっていることをよく経験します.これを適切な時期はあるのでしょうか?踏まえて黄斑円孔は準緊急疾患として2週間以内に手術向後:まず重要なこととしては当然ですが,ステージに予定を立てています.よってPVDが起きているかを理解することが重要です.StageI~IIはPVDが完成されておらず,StageIIIでは聞き手:円孔径の大きさによって手術内容は変える必要黄斑部にPVD,StageIVでは完全なPVD完成というこはありますか?とになります.手術時期に関しては,StageIII以降の黄向後:よくいわれていることは,円孔径が400μm以上斑部のPVDが完成されている場合は,比較的それ以降を巨大黄斑円孔とよぶことが多いのですが,これはさまの進行(円孔拡大)が遅いことが多いですが,とくにざまな研究でも400μmを超えると円孔閉鎖率が低くな(73)あたらしい眼科Vol.39,No.2,20222050910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術ることがその理由となっています.術前のOCTのBスキャン画像から円孔径(この場合は最小円孔径)を測定することは重要です.感覚的に普通の円孔径くらいと思っていてもしっかり測定すると400μm以上であることもあります.一般的には400μm以下の円孔であればおよそ2乳頭径のILM.離を行い,20%SF6ガスを留置すればよいとされています.ガスの注入法は濃度調整をしたガスを全置換する方法や,正視眼であれば眼内容積はおよそ4mlなので0.8~1mlの100%ガスを注入するとおよそ20%になるのでワンショットで注入したりもしますが,術者の嗜好によります.聞き手:それでは400μm以下の円孔ではすべて同じ手技を用いるということになりますか?向後:術者によってはすべて同じ方法という場合もありますが,うつ向き姿勢の時間などは術者や施設によって異なると思います.3~7日間のうつむき姿勢,1日のみ,3時間のみ,術直後よりうつむきなしの側臥位などさまざまです.いずれの場合においてもガスが円孔に触れていることが重要です.円孔縁にガスが触れている時間が継続するとgliosisが促進され,円孔にbridgingが起こり,円孔閉鎖へと進みます.400μm以下では手術後3時間程度で円孔閉鎖がOCTで認められることもあります.聞き手:400μm以上の場合はいかがでしょうか?注入ガス濃度を濃くしたり,ILM.離の範囲を広げたりすると思いますが.向後:そうですね,invertedILM.ap法が出てくるまでは多くの術者がそうしていたと思いますが,現在では400μm以下でも罹病期間の長い患者やうつむき姿勢をとることが困難な患者に対してもinvertedILM.ap法を用いることが多いと思います.聞き手:その理由はなんでしょうか?通常のILMpeelhemi-temporalILMpeel向後:まずは高い閉鎖率が期待できるということと,うつむき姿勢をとらなくても閉鎖しやすいためです.聞き手:それでは全例でinvertedILM.ap法を用いるということはしないのでしょうか?向後:まずは手技的に多少煩雑であるため,経験の浅い術者にとっては不向きであるということと,400μm以下の円孔に対する通常のILM.離とinvertedILM.ap法で比べると,術後の網膜外層の回復に差があり,通常のILM.離のほうが良好であったとする報告があり(差がなかったという報告もありますが),見解がさまざまです.現法のinvertedILM.ap法よりILMを一方から(耳側や上方から)coveringする方法の術者のほうがわが国では多い気がします.聞き手:先生はILM.離に関して考え方やこだわりはありますか?向後:はい,非常にこだわりをもってやっています.円孔閉鎖という目的を達成することは前提として,どれだけ術後の視機能を回復させられるかを研究しています.聞き手:たとえばどんなことでしょうか?向後:ILM.離を行うと,どんな疾患においても黄斑部の網膜は鼻側の視神経乳頭側に移動するという特性があります.さらに,中心窩より耳側のほうが,鼻側より大きく移動するということまでわかっています.この特性を利用して円孔の耳側のみILM.離を行う手法をとっています(hemi-temporalILMpeelingと同僚の塩野先生が名づけました).この手法で円孔が閉鎖すると,通常の.離の際より中心窩の移動が抑えられ,術後の歪視の軽減につながる可能性があります.しかも円孔の鼻側,つまり乳頭黄斑線維束に触れないため,網膜障害のリスクが低く,安全に行えるというメリットもあります.とにかく現在は,ILM.離に伴うさまざまな合併症を減らすために,侵襲の少ない手術を心がけています.ILMcoveringinvertedILM.aptechnique図1さまざまなILM.離方法206あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022(74)