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眼内レンズ:ペンシル型バイポーラを用いた落下水晶体除去手術

2021年12月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋421.ペンシル型バイポーラを用いた朝生浩日本大学医学部視覚科学系眼科学分野落下水晶体除去手術小切開硝子体手術が主流となった現在,落下水晶体を除去する方法として,液体パーフルオロカーボンを使用し,水晶体を浮上させる方法が報告されている.この方法はコスト,毒性,バブル化による迷入という問題を抱えるため,これらを解決すべく,ペンシル型バイポーラを用いた新たな手術法を考案した.●はじめに水晶体落下の原因には外傷,アトピー性皮膚炎,落屑症候群,先天性疾患(Marfan症候群など),そして医原性があげられる.最初から水晶体脱臼を生じたケースは臨床の現場ではそう多くないが,術中に核落下が起こる可能性は常に潜んでいる.術前から水晶体の落下が想定される場合は,あらかじめ硝子体手術器械を準備できるが,偶発的に生じた場合には,適切に落下した核を処理しなければ術後に患者のCQOV(qualityofvision)を大きく下げる原因となりうる.20G,23Gの硝子体手術システムの頃はフラグマトームを用いて硝子体中で水晶体を除去することができたが,25G,27Gのシステムではフラグマトームの設定はなく,この方法は行えない.硝子体カッターで水晶体を切除吸引する場合はカットレートをC500rpm程度まで下げると可能であるが,核硬化度が上がると切除吸引に非常に時間がかかる.Emery-Little分類でCGrade4を超えると硝子体カッターでの切除吸引は困難となってくる.その場合,落下水晶体を超音波乳化吸引する方法として,液体パーフルオロカーボン(per.uorocarbonliq-uids:PFCL)を用いて水晶体を浮上させる方法がある1)が,PFCLのある状態で超音波乳化吸引を行うと,カエルの卵のような無数のバブルが生じ,網膜下迷入の恐れや残留による毒性が懸念される.また,PFCLは,コストの問題も抱えるためこれらの問題点を解決すべく,筆者はペンシル型バイポーラを用いた落下水晶体除去手術を考案した.C●方法使用する器械は一般的な硝子体手術器械(25G,27G)とフェイコハンドピース,そしてペンシル型バイポーラである.ペンシル型バイポーラは先端に電流が流れ,眼内の血管の止血やマーキングを行うが,眼科用として販売されているもので問題はない(図1).(113)図1ペンシル型バイポーラを用いた手術の様子眼内用のバイポーラは先端に電流が流れ,熱凝固が可能である.バイポーラの先端と水晶体を熱で接着させ,眼底から持ち上げるようにする.手術では,まず落下水晶体の周囲の硝子体をしっかりと切除する.硝子体の切除が不十分であると,あとで落下水晶体を持ち上げた際に周辺部の網膜に牽引がかかり,医原性の裂孔が生じる恐れがある.水晶体周囲の硝子体切除後,圧迫下で周辺を観察し,網膜.離や残存水晶体の有無をチェックする.その後ペンシル型バイポーラを眼内に挿入し,バイポーラの先端が落下水晶体に軽く触れたら,先端に電流を流し,水晶体の表面と接着する.長時間電流を流すと網膜への影響が懸念されるため,黄斑部を避けて,1秒程度,数回に分けて流すとよい.表面の接着が確認できたら,落下水晶体を硝子体中にゆっくり持ち上げる.この状態では接着が不十分なので,反対側から硝子体中に入れたライトガイドでアシストしながら,改めて電流を流し,バイポーラの先端を水晶体の中央まで押し込むように進める.硝子体中央での作業を意識し,水晶体やバイポーラが網膜に触れないように注意する.流れた電流によって先端が水晶体としっかりと癒着すると,バイポーラと水晶体の動きがシンクロするようになる.バイポーラを回すと水晶体も回転するようになり,しあたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14770910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2実際の手術映像a:落下水晶体の周囲の硝子体を除去後,ペンシル型バイポーラを水晶体に軽く当てて電流を流す.Cb:バイポーラに接着した水晶体を硝子体中に持ち上げる.Cc:まだ接着は不十分なので,反対側から入れたライトガイドでアシストしながら電流を流す.Cd:バイポーラの先端が水晶体の中央まで進むと,バイポーラで水晶体をコントロールできるようになる.Ce:超音波ハンドピースを眼内に挿入し,水晶体の動きをコントロールしながら除去する.Cf:水晶体除去後,眼内レンズの二次固定を行う(強膜内固定).っかりとコントロールできればその状態で水晶体を虹彩面まで持ち上げ,フェイコハンドピースを強角膜切開創から挿入し,超音波乳化吸引を行う.このとき,吸引圧を上げてしまうと,バイポーラと水晶体の癒着が解除されてしまうため,バイポーラを回しながら水晶体を回転させ,低い吸引圧で削ぎ落すように超音波乳化吸引を行うのがコツである.硬い核では超音波パワーも上がり,発振時間も長くなりやすいので,パルスモードや水かけによる創口熱傷の対策をしたほうがよい.筆者らはこの手法を,綿あめを作る姿や,ドネルケバブを切り取る姿に見立てて,「わたあめ法」や「ケバブ法」と名づけた2)(図2).すべての水晶体がC1回の超音波乳化吸引で除去できるわけではなく,一部分は再度眼底に落ちてしまうこともある.落下水晶体のサイズが大きければ再度ペンシル型バイポーラで持ち上げて超音波乳化吸引を行い,サイズが小さければ硝子体カッターで切除・吸引が可能となり,すべての落下水晶体を高価なCPFCLを用いずに除去することができる.筆者の経験上,Grade1.5のすべての核硬化度の落下水晶体で適応可能であった.●おわりに水晶体除去したあとには,通常レンズの固定が待ちうけている.現在,眼内レンズの二次固定は強膜内固定の普及によって,水晶体.のない眼でも短時間のうちにレンズが固定できるようになった.本法はこの素晴らしい技術につなげられるよう,落下水晶体除去も小切開,無縫合で行いたいという思いから開発した.さらに症例を積み重ねて,技術的なブラッシュアップを図りたい.動画視聴はこちら→Chttps://youtu.be/UGZQ0heZq7s文献1)JangCHD,CLeeCSJ,CParkJM:Phacoemulsi.cationCwithCper.uorocarbonliquidusinga23-gaugetransconjunctivalsuturelessCvitrectomyCforCtheCmanagementCofCdislocatedCcrystallineClenses.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:1267-1272,C20132)AsoH,YokotaH,HanazakiHetal:Thekebabtechniqueusesabipolarpenciltoretrieveadroppednucleusofthelensviaasmallincision.SciRepC11:7897,C2021

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー 7.ソフトコンタクトレンズによる乱視矯正(その2)

2021年12月31日 金曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院7.ソフトコンタクトレンズによる乱視矯正(その2)■はじめに前回は無意識に働く調節を抑えるためにも乱視矯正が必要なことや,乱視用ソフトコンタクトレンズ(SCL)のデザイン上の工夫や適応と非適応について解説した.今回は乱視用SCLの処方法について解説する.■軸の回転とブレ乱視用SCLを装用させても,瞬目ごとに軸がブレるようではしっかりとした乱視矯正は行えない.乱視用SCLが90°回転した場合,乱視は倍加してしまうことになる.瞬目のたびに軸がブレる乱視用SCLはその眼には合わないと判断し,他のデザインのレンズに変更しなければならない.しかし,瞬目によっても軸の回転が一定の箇所で安定するのであれば,軸補正をすることによって乱視を矯正することができる.軸の回転もブレもない場合(図1)は,自覚屈折値の軸度にもっとも近い軸度を有したトライアルレンズを選択する.■軸補正軸の補正というとむずかしく考えてしまうが,「正加半減の法則」と覚えることで簡単に補正をすることができる.つまり,軸の回転が時計回りであれば回転した角度を加え,半時計回りであれば回転した角度を減じるとよい.もしも実際に装用させたSCLが時計回りに20°回転して安定した場合,もともとの軸が180°であれば,180°+20°=200°=20°となって軸が20°の乱視用SCLを処方する.このとき勘違いしやすいのは,軸が20°の乱視用SCLを装用させたレンズは軸(ガイドマーク)が180°表1乱視用SCLの処方手順1.自覚屈折値より円柱度数と軸度を決定2.自覚屈折値より球面度数を決定3.軸の安定を確認4.必要なら軸を補正5.軸の安定がなければレンズの種類変更6.球面度数を修正になるのではなく,時計回りに20°回転して安定するという事実である(図2).逆に反時計回りに20°で安定した場合,もともとの軸が180°であれば,180°-20°=160°となって軸が160°の乱視用SCLを処方する(図3).■軸度と球面度数と円柱度数の選択法(表1)軸度,球面度数,円柱度数はいずれも自覚屈折値から決定するわけであるが,乱視用SCLといってもすべての軸度が備わっているわけではなく,もっとも近い軸度を選択することになる.球面度数や円柱度数も頂点間補正をしてから決定するが,球面度数も円柱度数も少し軽めに選択したほうがよい.とくに円柱度数は瞬目によってレンズがややブレることがあり,レンズの動きが落ち着くまでは見え方に変動が生じて酔ったような感覚をレンズ装用者が感じる場合がある.■乱視用SCL処方のコツトライアルレンズを装用させてみて軸の回転をチェックする.5~10°くらいの回転なら,軸の補正なしで矯正図1レンズの傾きこのように傾きがない場合は自覚屈折値の軸度にもっとも近いものを選択し,円柱度数は少し弱めのものを選択する.(111)あたらしい眼科Vol.38,No.12,202114750910-1810/21/\100/頁/JCOPY軸度180°のレンズを装着すると20°回転して固定される軸度20°のレンズを選択する回転して180°で固定される図2レンズが時計回りに20°回転して安定この症例では望む軸度は180°である.軸度180°の乱視用SCLを装用させても乱視矯正効果はないので,正加半減の法則で20°の軸度を有したレンズを選択する.そうすると,レンズが時計回りに20°回転して安定したときに180°の軸度が得られて乱視を矯正することができる.軸度180°のレンズを装着すると軸度160°のレンズを選択する回転して180°で固定される20°回転して固定される図3レンズが反時計回りに20°回転して安定この症例も望む軸度は180°である.軸度180°の乱視用SCLを装用させても乱視矯正効果はないので,正加半減の法則で160°の軸度を有したレンズを選択する.そうすると,レンズが反時計回りに20°回転して安定したときに180°の軸度が得られて乱視を矯正することができる.を試みる.レンズの種類によって用意されている軸度と円柱度数はさまざまであり,もっとも適した種類を選択する.ドライアイ,アレルギー性結膜炎などでは,レンズの乾燥や汚れが生じて軸のブレが生じやすいので注意する.必要に応じて適切な点眼液を処方する.ハイドロゲル素材の乱視用SCLで充血や乾燥感を訴える場合は,シリコーンハイドロゲル素材のレンズに切り替える.また,プリズムバラストデザインのレンズで異物感を訴える場合は,ダブルスラブオフデザインのレンズを試してみる.■乱視用SCLを積極的に処方する球面SCLを使用していて疲れやすい,近くが見えにくい,暗くなると見えにくくなるなどの訴えがあった場合は,自覚屈折値を再確認して乱視の有無をチェックすることが大切である.強弱主経線度数を頂点間補正して0.75D以上の乱視があれば,無意識の調節を引き起こす原因を取り除くためにも,積極的に乱視用SCLを処方するべきである.

写真:HHV-7 が原因と考えられた 角膜上皮炎の1 例

2021年12月31日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦451.HHV-7が原因と考えられた依藤彰記細谷友雅兵庫医科大学眼科学教室角膜上皮炎の1例図2図1のシェーマ①多発する白色上皮下浸潤②雪だるま状の浸潤の癒合図1初診時右眼の前眼部所見右眼角膜中央部に白色上皮下浸潤が多発している.一部浸潤が癒合し,雪だるま状のものも認めた.図3図1のフルオレセイン染色所見上皮下浸潤の部位に一致してフルオレセイン染色陽性病変を複数認める.図4フルオロメトロン点眼追加2日後の右眼フルオレセイン染色所見角膜浸潤は瘢痕化し,下方に点状表層角膜症を認めるのみとなった.(109)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C14730910-1810/21/\100/頁/JCOPYThygeson点状表層角膜炎様の病変を呈し,涙液ポリメラーゼ連鎖反応(polymerasechainreac-tion:PCR)検査でhumanherpesvirus7(HHV-7)が検出された1例を紹介する.26歳,女性.主訴は右眼の疼痛と充血で,近医でオフロキサシン眼軟膏が処方されたがC1週後も改善を認めず,レボフロキサシンC1.5%点眼,アシクロビル眼軟膏が処方された.前医での単純ヘルペスウイルス抗原検出キットは陰性であった.疼痛が改善されず,兵庫医科大学病院眼科を紹介受診した.既往歴に症状出現C1カ月前の感冒症状があり,1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)ユーザーであった.受診時の矯正視力は右眼(1.0),左眼(1.2).眼脂はなく流涙を認めた.右眼は角膜中央部にフルオレセイン染色陽性の白色上皮下浸潤が多発し,一部浸潤が癒合し雪だるま状のものも認めた(図1~3).左眼は角膜下方に淡い上皮下浸潤を数個認めた.中間透光体と眼底に異常はなかった.所見よりヘルペス性角膜炎とは異なると考え,レボフロキサシンC1.5%点眼,セフメノキシム点眼各両眼C6回/日へ変更した.角膜擦過培養検査結果は陰性で,なんらかのウイルス性上皮炎を疑い,右眼涙液の眼科的網羅的感染症CPCR検査を施行したところ,HHV-7のみがC2.11C×104copies/μg検出された.フルオロメトロン0.1%点眼両眼C2回/日を追加したところ,2日後には流涙の改善と白色浸潤の瘢痕化を認め,両眼とも角膜下方に点状表層角膜症を認めるのみとなった(図4).点眼薬は漸減中止し,再発のないこと,涙液CPCRでCHHV-7の陰性化を確認し,初診からC10週後に治療終了とした.HHV-7はわが国では大多数が乳幼児期に抗体を獲得しており,不顕性感染している.突発性発疹や脳炎の原因となるが1),眼科的には角膜内皮炎を呈したC1例報告2)のみである.鑑別疾患としてあげられるCThygeson点状表層角膜炎は,再発性,両眼性の角膜上皮障害を伴う角膜上皮から上皮下に及ぶ点状の細胞浸潤を特徴とする角膜炎で,なんらかの抗原に対する免疫反応の可能性が考えられており,ステロイド点眼が著効する3).水痘帯状疱疹ウイルス(varicellaCzostervirus:VZV)やCSCLケア用品の関与もいわれるが,本症例は涙液CPCR検査でCVZV陰性であった.また,1日使い捨てCSCLユーザーでケア用品の関与は考えにくい.アデノウイルス結膜炎の既往もなく,病変存在時の涙液からCHHV-7が検出されたのが,治癒後には陰性となったことから,HHV-7が原因の角膜上皮炎であったと考える.本症例はCHHV-7に有効とされるガンシクロビルの投与なしにステロイド点眼追加のみで症状,所見の改善を認めたが,今後の再発の可能性や治療法については検討を要する.臨床的にCThygeson点状表層角膜炎と診断された中にCHHV-7が原因である症例が存在する可能性があり,今後,本症例類似患者の涙液CPCR検査を積極的に行うことで,病態の解明が進む可能性がある.文献1)SugaS,YoshikawaT,NagaiTetal:ClinicalfeaturesandvirologicalC.ndingsCinCchildrenCwithCprimaryChumanCher-pesvirus7infection.PediatricsC99:e4,C19972)InoueCT,CKandoriCM,CTakamatsuCFCetal:CornealCendo-theliitisCwithCquantitativeCpolymeraseCchainCreactionCposi-tiveforhumanherpesvirus7.ArchOphthalmol128:502-503,C20103)鈴木崇:Thygeson点状表層角膜炎.あたらしい眼科C26:1653-1654,C2009

白内障手術と屈折矯正手術の歩み

2021年12月31日 金曜日

白内障手術と屈折矯正手術の歩みProgressionCataractandRefractiveSurgeryビッセン宮島弘子*はじめに眼科手術のなかでもっとも件数が多い白内障手術は,水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsi.cationCandCaspi-ration:PEA)と眼内レンズ挿入術の組み合わせが標準である.両技術ともこの半世紀に普及し,大きな進歩を遂げた.屈折矯正手術は,疾患を治療することが目的ではないことから,日本の眼科において受け入れられない時代が続いたが,この半世紀でレーザーや有水晶体眼内レンズ挿入術が認められるようになった.白内障手術も屈折矯正手術も術後の視機能を向上させ,さらには生活の質(qualityCoflife:QOL)を向上させる手術であり,近年では白内障手術は屈折矯正を兼ねるということで白内障屈折矯正手術とよばれるまでに至った.PEAや眼内レンズの普及前から白内障手術を施行し,屈折矯正手術が封印されていた時代を経験している現役の眼科医は数少なくなっている.大学や施設によって,手技の導入や,その後の展開が異なると思うが,ここでは筆者の経験をもとに半世紀の変遷をまとめる.CI白内障手術過去C50年で,水晶体の摘出方法は水晶体.内摘出術(intracapsularCcataractextraction:ICCE)や水晶体.外摘出術(extracapsularCcataractextraction:ECCE)からCPEAに変わり,無水晶体眼への対応としては,眼鏡やコンタクトレンズから眼内レンズが普及するに至った(図1).PEAはC1967年に米国のCKelmanによって1),眼内レンズはC1949年にイギリスのCRidleyによって2)開発されたが,当初はどちらも危険な手術とされ,学会で認められなかった.先駆者と新しい技術を信じて普及に努めた眼科医や関係企業によって,今日の手術手技が確立したといっても過言ではない.C1.ICCE日本において,PEAが白内障手術の主流となったのはC1980年後半からC1990年代前半にかけてで,半世紀前はCICCEが主流であった.筆者が最初に学んだ白内障手術の方法はこのCICCEで,強角膜に大きな切開を作り,冷凍プローブを用いて水晶体ごと眼外に摘出する方法である(図2).麻酔は球後麻酔と瞬目麻酔の両方を用い,切開創は水晶体をそのまま摘出できるC10Cmm以上であった.若年例ではキモトリプシンでCZinn小帯を酵素離断してから水晶体を全摘していた3).球後麻酔で球後出血を起こすと,その程度によっては手術が延期となった.水晶体摘出時の硝子体脱出はそれほどめずらしいことではなく,硝子体は綿棒とスプリングハンドルで創口に残らないように切除していたが,残存硝子体により瞳孔が上方に引かれたままになる例があった.手術は入院で,両眼の手術を終了すると,+10-15Dの仮眼鏡を処方して退院,凸レンズの眼鏡を通して見える患者の眼の大きさは独特なものであった.コンタクトレンズ着用が可能な患者には,夜間もつけっぱなしのコンタクトレンズを処方し,外来受診時に洗浄していた.*HirokoBissen-Miyajima:東京歯科大学水道橋病院眼科〔別刷請求先〕ビッセン宮島弘子:〒101-0061東京都千代田区神田三崎町C2-9-18東京歯科大学水道橋病院眼科C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(101)C1465ICCEECCEKelmanの開発(1967)最初のIOL挿入(1949)PEACCC(1985)Divide&conquer(1991)PhacochopIOL折り畳み式MultifocalToricOVD凝集型分散型図1白内障手術半世紀の変遷図2ICCE水晶体に冷凍プロープを直接つけて眼外に摘出する.図3虹彩クリップ型眼内レンズ挿入例虹彩でレンズが支持されているので,散瞳するとレンズが落下してしまう.図4楕円型眼内レンズ挿入例切開幅を小さくする目的で,光学部がC5.mmC×6.mmのレンズが開発された.ている.また,コントラスト感度が単焦点レンズと同等で低加入度により眼鏡依存度を減らす焦点深度拡張型も患者にあわせて選択されるようになった.費用面については,日本ではC2008年に多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術が先進医療として承認され,全額自己負担であった.2020年に選定療養として認められ,一部保険適用となり患者負担が軽減し,さらなる普及が期待される.CIII屈折矯正手術屈折矯正手術も,白内障手術同様,このC50年間で大きく進歩した.角膜による屈折矯正手術は,放射状角膜切開術(radialkeratotomy:RK)から,レーザーで角膜実質を切除するレーザー屈折矯正角膜切除(photoreC-fractivekeratectomy:PRK),レーザー角膜内切削形成(laserCinCsitukeratomileusis:LASIK)ないしはSMILE(smallCincisionClenticuleextraction)に変化した.レンズによる屈折矯正手術は,固定位置の異なる有水晶体眼内レンズが開発され,最終的には後房型におちついた.これらの変遷を図5に示す.日本において屈折矯正手術が欧米に比べて普及していない理由として,かつてはC1930年代に施行された角膜前後面を切開する佐藤氏手術後の合併症(水疱性角膜症)の苦い経験があげられていたが,現在はCLASIK後の特殊な合併症が影響していると思われる.屈折矯正手術の安全性と有効性が見直され,近視の多い日本で普及するまで,しばらく時間を要しそうである.C1.RK先に述べた佐藤氏手術から合併症を学び,角膜前面のみを切開する方法が始まった.旧ソビエト連合のFyodorovが精力的にこの手術を行い9),1980年代には日本から手術を受けに行くためのツアーまで企画されていた.その後,米国に導入されたことでCRKの知名度があがった.日本ではC30年ぐらい前まで,眼科医以外の医師によって施行されていたため,眼科医が診察することは少なかった.その後,RKを受けた患者が白内障となり,眼科を受診するようになっている.RKで十分な効果を得るには,角膜切開を深くかつ瞳孔中心近くまで施行する必要がある.術後に近視は矯正されるが角膜厚の日内変動による見え方の不安定さ,夜間のグレア,長期経過における遠視化といった問題を残すことになった.これらの問題を改善すべく,切開数が少なく,瞳孔中心から離れた位置までの短い切開によるCminiRKが行われたが,矯正範囲が限られていた.その他,1970年代から白内障手術時の乱視矯正として,RKと同じようにダイヤモンドメスを用いて強主経線に切開を行う乱視矯正角膜切開術(astigmaticCkera-totomy:AK)が始まった.この方法は,屈折矯正手術に対して否定的な日本において,唯一,眼科医が積極的に導入を試みた手技のように思う.その後,1990年代に入ってからは,角膜周辺部に近く,弧状に切開するClimbalCrelaxingincision(LRI)に変わっていった.これらの角膜切開による乱視矯正は,精度の面からトーリック眼内レンズが登場すると症例数は減っていった.C2.PRKエキシマレーザーはC1983年に角膜照射用として開発され10),1988年に米国でCPRKの治験が行われ,1995年に承認を得た.日本においてはC2000年にCPRK目的で承認を得たが,その前から限られた施設で施行されていた.機械的に,あるいはブラシ,レーザーなどを用いて角膜上皮を.離し,その下のCBowman層,実質をレーザーで切除する.手技が簡便だが,角膜上皮.離による術後痛が強く,角膜上皮が再生するまで視力が安定しないこと,角膜混濁(ヘイズ)を生じる例があり,LASIKの導入とともに施行数は激減した.導入当初はレーザーの照射径が小さく,照射中心の設定や眼球の動きに応じた追従システムがなく,照射ずれによる矯正不良,不正乱視,グレア,ハローの問題が多かった.その後,角膜形状解析や波面収差解析結果に基づいた照射方法が可能となり,術後成績は向上した.LASIKやSMILEの導入後も,これらの術式が適応にならない患者に施行されている.PRKは機械的あるいはレーザーで角膜上皮を.離するが,専用ケラトームやトレパンを用いるCEpi-LASIK(epipolisLASIK),レーザー上皮下角膜切除術(laser-assistedCsubCepithelialkeratectomy:LASEK)といっ(105)あたらしい眼科Vol.C38,No.C12,2021C1469RKPRKLASIKSMILE有水晶体眼内レンズ隅角支持型虹彩固定型後房型図5屈折矯正手術半世紀の変遷–

わが国におけるコンタクトレンズの歴史と 変遷と展望

2021年12月31日 金曜日

わが国におけるコンタクトレンズの歴史と変遷と展望History/TransitionandProspectofContactLensesTherapyinJapan小玉裕司*はじめに筆者は1979年(昭和54年)に京都府立医科大学を卒業して同大学眼科学教室に入局したわけであるが,その当時,大学で処方していたハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)は酸素透過性をもたないポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate:PMMA)製であったし,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)は低含水率非イオン性のヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethylmethacrylate:HEMA)製であった.そして,眼科当直医を一番悩ませたのが,コンタクトレンズ(contactlens:CL)オーバーウェアによる眼痛での夜間救急受診であった.京都という土地柄で修学旅行中の生徒がそのほとんどを占めていた.それから40年以上の歳月が流れたが,その間のCLの進歩と変遷には驚かされる.IHCLの進歩(PMMA製レンズからガス透過性レンズへ)CLの歴史を語るときによく持ち出されるのが1508年のレオナルド・ダ・ビンチの実験(図1)や1636年のデカルトの実験(図2)であるが,実際に初めてCLなるものを考案したのは1888年のドイツの眼科医アドルフ・ガストン・オイゲン・フィック(AdolfGastonEugenFick)であり,自身の近視を矯正する目的で素材にはガラスを用いている.このCLは強角膜レンズ,で彼は“kontactbrille”とよんでおり,これがcontactlensの語源である.その後,1938年にPMMA製のHCLが作製された.わが国では田中恭一が1951年に角膜レンズを試作し1953年に発売した.その後,次第にPMMA製の角膜レンズが普及していった.1979年にはわが国で初めてとなるガス透過性HCL(rigidgasper-meablecontactlens:RGPCL)が,田中が創立したメーカーによって市販された.一方,スペキュラーマイクロスコープの発展によって,角膜内皮細胞の観察・撮影が可能となり,1982年にはSchoesslerがPMMA製HCL長期装用者の角膜内皮細胞に,形態変化がみられることを報告した1).わが国においても稲葉らはPMMA製HCLの長期装用者,とくに10年を越える装用者に異常な細胞密度減少を示すケースが多いことを報告した2).PMMA製HCLの装用による低酸素負荷はアシドーシスをもたらし,角膜内皮細胞の正常な細胞内代謝を阻害する.このことが,結果的には角膜内皮細胞の大小不同や六角形細胞の減少などの原因と考えられると結論づけた.そのような報告もあり,1980年代は角膜にそのような負荷をかけない高Dk値〔酸素透過係数:拡散係数(D)と溶解度係数(k)の積としても表わされる〕を有するRGPCLの開発が進んだ.いわゆるDk戦争である.高Dk値のRGPCLが市販されるようになり,オーバーウェアによる角膜上皮障害は激減したが,RGPCLにも汚れやすい,キズがつきやすい,破損しやすい,変形しやすいなどの欠点が認められるようになった.レンズの*YujiKodama:小玉眼科医院〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(91)1455図1レオナルド・ダ・ビンチの実験図2デカルトの実験コンタクトレンズの最初の着想とされているがダ・ビンチの実験よりはコンタクトレンズの着想実際には異なる.ガラス球と人間の顔を含めたという意味では近いが,屈折光学について論じて全体が人工眼の模式図となっている.いる.(日眼会誌118:559-561,2014より引用)(日眼会誌118:559-561,2014より引用)=図3HCLの圧痕の原因(下方固着)図4角膜変形(圧痕タイプ)レンズが下方に位置して動きが悪い.レンズの下方固着によって生じた角膜変形.レンズの装脱によりすぐに解消する.図5HCLによる角膜中央部変形の原因図6角膜変形(中央部タイプ)レンズはややスティープで動きはタイト気味である.レンズを装脱しても改善しにくく,フィッティングのよいレンズを処方することで解消できる.された.わが国ではわずかそのC1年後のC1972年にC7社のCSCLが承認された.含水性の素材で作製されているSCLはCHCLに比べて細菌,真菌,アメーバなどの微生物の汚染をより受けやすい.SCLではレンズ装脱後に煮沸消毒(100℃,20分)が義務づけられていた.低含水率のCSCLであっても,毎日煮沸消毒をすることにより,レンズの劣化や変形や白濁が生じて,1.2年で装用ができない状態になった.また,煮沸消毒によりレンズに付着した蛋白が変成してCGPCが高頻度にみられるようになった.また,消毒器具の故障によって,100℃まで温度が上がらない,あるいはまったく温度が上がらないなどの理由で感染性角膜疾患も多発した.一方,SCLの酸素透過性を上げるために素材の開発が進み,高含水率のCSCLが市販されるようになってくると,煮沸消毒には耐えられないものも出てきた.そのような理由から,わが国においてもC1991年以降,過酸化水素や塩化ポリドロニウムといった薬剤を使用したコールド消毒が登場してきた.塩化ポリドロニウムや塩酸ポリヘキサニドを主成分とした薬剤はレンズの洗浄,すすぎ,消毒,保存をC1つの液で行えるのでCmulti-purC-posesolution(MPS)とよばれている.また,ポビドンヨードを主成分としたコールド消毒剤も登場し,現在,コールド消毒剤は大きくC3種類ある.MPSよりも過酸化水素やポビドンヨードのほうが消毒効果は高いが,それでも煮沸消毒に比較すると,とくにアカントアメーバに対する効果は圧倒的に低い.そこで推奨されるのがこすり洗いである.こすり洗いはレンズの汚れを落とすだけではなく,病原菌である微生物もかなりの数を洗い流すことができる.また,レンズを保存するレンズケースも長期に使用すれば,バイオフィルムが形成され,病原菌の温床となる.レンズケースを毎日乾燥させること,3カ月にC1回ほど定期的に新しいものと交換させることが大切である.米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)はCSCLを含水率とイオン性の観点からC4グループに分類し,わが国においてもC1999年から導入された.グループC1は低含水率・非イオン性,グループC2は高含水率・非イオン性,グループC3は低含水率・イオン性,グループC4は高含水率・イオン性となる.グループC1のSCLは低含水率のため,汚れにくい,耐久性がよいなどの利点はあるが,酸素透過性の点では長時間装用をさせないなどの注意を要する.問題は後述するが,大型ディスカウントストアやネット通販で購入できるカラーCLのほとんどはこのグループであり,酸素透過性の点だけではなく,着色部位,サイズ,フィッティング,ケア指導などの点からも眼障害につながる危険性が高い.もう一つの問題は,これも後述する酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルレンズもほとんどがこのグループになるので,他のCSCLと紛らわしく,新しい分類法が望まれる.1971年にCSCLが市販されて以降,SCLの開発は大きく進んで,1981年にCFDAは高含水率CSCLのC30日間連続装用を認可したが,その後,連続装用による角膜障害が多発し,1989年には連続装用はC7日間以内に短縮修正された.米国では連続装用使い捨てCSCLがC1987年に認可を受けてC1988年に販売された.わが国では1991年にC1週間の連続装用も可能な使い捨てCSCLが,1994年にはC2週間頻回交換終日装用CSCLが,1995年にはC1日使い捨てCSCLが発売されて,使い捨てCSCLがSCLの主流を占めることになる.使い捨てCSCLの用語は統一されていないが,狭義の使い捨てCSCL(disposC-ableSCL)はC1日使い捨てCSCLとC1週間連続装用CSCLをさし,ケアはせずに使い終わったら破棄するレンズのことである.ケアをしながら使用してC2週間で破棄するレンズをC2週間頻回交換CSCLという.1カ月,3カ月など使用期間が設定されて交換するレンズを定期交換SCLという.ここまでが広義の使い捨てCSCLといえるのではなかろうか.これまでのように使用期間が設定されていないレンズを従来型CSCLという.このようにSCLの酸素透過性が高くなり,使用方法もより安全な広義の使い捨てCSCLという方向に大きく変遷したにもかかわらず,眼障害,角膜感染症は期待されたようには減少しなかった.そこで望まれたのが,より酸素透過性が高いCSCLの開発である.シリコーンは酸素を透過させる素材であるが,疎水性と不透明性というCSCLの素材としては向かない性質を有している.しかし,素材の研究が進み,1999年にシリコーンハイドロゲルレンズが開発され市販された.シ1458あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(94)図8ムチンボールレンズ下にムチンが球状に固まってみられるが眼障害は生図7SEALじない.角膜上方の輪部から少し離れて弓状に生じる角膜上皮障害.図9球結膜の圧痕とステイニング図10CLPCシリコーンハイドロゲルレンズの硬さからくる機械的刺激レンズの機械的刺激とアレルギー反応によって上眼瞼に乳によって生じる.頭性変化が生じる.コーンハイドロゲルレンズを作製した.このシリコーンハイドロゲルレンズはCDk値は下がるものの,含水率が増えて柔らかくなり,それまでのトラブル改善に貢献した.レンズ内部に湿潤剤を含有させたタイプのレンズは第二世代とよばれている.現在,もっとも新しいタイプの第三世代のシリコーンハイドロゲルレンズは材料自体に親水性をもたせるとともに,軟らかさと高酸素透過性をさらに向上させている.CIIIカラーコンタクトレンズ(サークルレンズ)美容目的のためのカラーCCLが出現するまでは,カラーCCLというのは整容目的あるいは羞明防止のためのレンズであった.視力がほとんどない眼で角膜白斑が目立つ人に対して,整容目的で義眼CHCL(虹彩を有しているが瞳孔領は黒く塗りつぶされている,現在は作製されていない)(図11,12)を処方したり,同様な眼をした人でCHCLの装用に耐えられない場合に,義眼CSCL(依頼製作で現在でも入手可)(図13,14)が処方されていた.また,外傷などで虹彩の一部欠損,あるいは全欠損が生じている場合は羞明防止・軽減目的で虹彩付きSCL(虹彩を有しながら瞳孔領は透明である.このレンズも依頼製作で入手可)(図15)が処方されていた.しかし,加入度数C0(度なし)の美容目的のためだけのカラーCCLがわが国にも入ってきて,そのほとんどは大型ディスカウントストアやネット通販などで購入されるようになってきた.2009年に薬事法施行令の一部改正の政令が公布され,度なしカラーCCLも高度管理医療機器として管理されることになった.それに伴い,視力補正用(度あり)カラーCCL(図16)も市場に出回ることになった.眼科医療機関で取り扱うカラーCCLはテストレンズも用意されており,フィッティングを確認してから処方することができる.グループ分類もあらかじめわかっており(ほとんどがグループC2,4の高含水率タイプ,グループC1の中にはシリコーンハイドロゲルカラーCLも存在する),装用スケジュールの指導も可能である.しかし,大半は前述したように大型ディスカウントストアやネット通販などでの購入が可能であり,高度管理医療機器をどのように販売しているのか不明であるが,少なくともフィッティング判定などは行われていないと予想される.美容目的のカラーCCLの問題点として,①素材が低含水性のものが多い,②サイズが大きい,③フィッティング判定が行われていない,④ケア指導や装用指導が行われていない,⑤着色部位によって眼瞼や角膜との機械的刺激が多い,などがある.①.③は角膜への酸素供給の低下を引き起こしやすいし,④⑤は酸素供給不足の他にも結角膜への上皮障害,角結膜感染症を引き起こしやすい.実際にこのようなカラーCCLによる角膜上皮障害や角膜感染症はあとを絶たない.カラーCCLの製品基準を明確にして,すべてのCCLは医師による処方が必要であるということを,厚生労働省と国が一体になって打ち出すことしか解決策はないように思える.現在のような,罰則規定のない厚生労働省医薬食品局長通知のみではカラーCCLの問題は解決しない.CIVオルソケラトロジー(orthokeratology)HCLの普及に伴い,HCLを装用することによって角膜が少しフラット化して近視が軽減することがわかってきた.1962年にCJessenはこれをオルソフォーカス(orthofocus)とよび,これがオルソケラトロジーの始まりとのことである.それ以降C1970代終わり頃までレンズはCPMMA製であり,終日装用で矯正量は-1.2Dであり,角膜浮腫,スペクタクルブラーなどの不具合が認められており,この時代をオルソケラトロジーの第一世代としている.1990年代末頃までの第二世代ではRGPCLが導入されたが,酸素透過性は低く終日装用であった.デザインはリバースジオメトリーの原型となる3カーブデザインで-3D程度の矯正量があった.第三世代では高CDk値のCRGPCLが導入され,デザインはリバースジオメトリーでダブルリバースとなり(図17,18),夜間装用が可能となった.2002年にはCFDAの認可を得た.わが国ではC2009年に最初のオルソケラトロジーレンズが認可を受けた.同年,日本コンタクトレンズ学会は「オルソケラトロジーガイドライン」を,2017年には第2版を発表した.矯正量としては-6D程度可能であるが,ガイドラインでは原則-4Dまでとしている.年齢制限も原則C20歳以上としている.しかし,小児では矯正効果が高いうえに近視抑制効果の可能性も期待されて1460あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(96)図11義眼HCLの適応眼図12義眼HCL血管を伴い,角膜は全面において白濁している.図C11の症例に義眼CHCLを処方した.図13義眼SCLの適応眼図14義眼SCL血管の侵入は少ないが角膜全面は白濁している.HCLで図C13の症例に義眼CSCLを処方した.は異物感が強く,義眼CSCLを処方した.図15虹彩付きSCL図16カラーCL外傷によりC6時からC9時までの虹彩が欠損しており,羞明美容目的の度付きカラーCL.軽減のために虹彩付きCSCLを処方した.図17オルソケラトロジーレンズのデザインリバースジオメトリーで四つのカーブからなっている.(メニコンホームページより転載)図18オルソケラトロジーレンズのフルオレセインパターンスティープかつタイトにならないように気をつけねばならない.(メニコンホームページより転載)

ぶどう膜炎診療における半世紀の歴史と変遷

2021年12月31日 金曜日

ぶどう膜炎診療における半世紀の歴史と変遷TheHistoryandChangesintheClinicalPracticeofUveitisintheLastHalfCentury望月學*はじめに昭和C48年(1973年)に私は大学を卒業して眼科研修医となり,そのC2年後にぶどう膜炎専門外来に所属してぶどう膜炎診療に携わるようになり現在に至っている.いつの間にかC50年近い歳月をぶどう膜炎診療とともに過ごした.期せずして今回の特集テーマ「眼科診療における半世紀の歴史と変遷」を実際に体験したことになる.そこで,当時のぶどう膜炎診療を振り返りながら,このC50年の間に私自身が見聞きし経験したぶどう膜炎診療の歴史と変遷を述べるとする.CIぶどう膜炎診療における半世紀のパラダイムシフト今から約半世紀前のC1973年C4月に私は東京大学眼科で“オーベン”の先生の手ほどきを受けながら眼科医として歩み始めた.その頃の私自身と東京大学眼科のぶどう膜炎診療の結果を思い浮かべてみよう.当時のぶどう膜炎診察機器は,細隙灯顕微鏡,Gold-mann眼圧計,隅角鏡,単眼倒像鏡のほかに眼底カメラ,フルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiography:FA),そしてCBモードエコーくらいだったろうか.治療薬もたとえばCBehcet病に対しては副腎皮質ステロイドとコルヒチン,シクロホスファミドなどのわずかな免疫抑制薬に限られていた.今振り返ると,当時のぶどう膜炎診療の際立った特長は,1)ぶどう膜炎の原因疾患の種類がきわめてわずか,2)Behcet病患者が多く視力予後もきわめて不良,3)感染性ぶどう膜炎,とくにウイルス性疾患の診断と治療はほとんどお手上げ状態,の3点であろう.表1に,1974~1977年の東京大学眼科のぶどう膜炎臨床統計1)とC2016年の全国ぶどう膜炎疫学調査2)を示す.この半世紀の間にぶどう膜炎のリストから消えた疾患(中心性網脈絡膜炎,Reiter病),減少したもの(Behcet病),新たに出現した疾患〔ヘルペス性虹彩炎,急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎,HTLV-1関連ぶどう膜炎などのウイルス性疾患,MEWDS,APMPPEなどの色素上皮関連疾患,悪性疾患(眼内リンパ腫)など〕,あるいは増加した疾患(サルコイドーシス)などさまざまである.1974~1977年のぶどう膜炎臨床統計1)では,中心性網脈絡膜炎を除く本来のぶどう膜炎の原因疾患の第一位はCBehcet病(17.6%),ついでCVogt・小柳・原田病(7.7%),サルコイドーシス(5.6%)で,ぶどう膜炎の原因としてあがっているのはわずかにC15疾患であり,なかでもウイルス性疾患は皆無であった.一方,2016年のぶどう膜炎調査2)で第1位はサルコイドーシス(10.6%),ついでCVogt・小柳・原田病(8.1%),ヘルペス性虹彩炎(6.5%)であり,40以上もの疾患があげられ,ウイルス性と診断された疾患が全体のC10%を超している.さらに重要な変化は治療と視力予後である.50年前にはC50%以上のCBehcet病患者が発病からC5年以内に矯正視力C0.1以下に陥っていた3).一方,生物製剤の登場した現在では失明に至る新規発症のCBehcet病患者はほ*ManabuMochizuki:宮田眼科病院,東京医科歯科大学眼科〔別刷請求先〕望月學:〒180-0005東京都武蔵野市御殿山C2-11-12C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(83)C1447表1ぶどう膜炎疫学における半世紀の変遷(1974~1977年vs.2016年)1974~C1977年*2016年**疾患%疾患%中心性網脈絡膜炎(増田型)Behcet病Vogt・小柳・原田病サルコイドーシスPosner-Schlossman症候群眼トキソプラズマ症眼結核中心性網脈絡膜炎(Rieger型)転移性眼内炎周辺性ぶどう膜炎Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎Reiter病全眼球炎若年性関節リウマチヘルペス性ぶどう膜炎眼ヒストプラズマ症強直性脊椎炎梅毒性ぶどう膜炎糖尿病性虹彩炎分類不能24.1C17.6C7.7C5.6C5.4C3.5C2.5C2.0C0.4C0.4C0.3C0.2C0.2C0.2C0.2C0.1C0.1C0.1C0.1C29.6CサルコイドーシスC10.6Vogt・小柳・原田病C8.1ヘルペス性虹彩炎C6.5急性前部ぶどう膜炎C5.5強膜ぶどう膜炎C4.4Behcet病C4.2悪性疾患C2.6急性網膜壊死C1.7Posner-Schlossman症候群C1.7糖尿病性虹彩炎C1.4サイトメガロウイルス網膜炎C1.2中間部ぶどう膜炎C1.0真菌性眼内炎C0.9HTLV-1関連ぶどう膜炎C0.9細菌性眼内炎C0.9眼結核C0.9眼トキソプラズマ症C0.9多発消失性白点症候群C0.8網膜血管炎C0.8関節リウマチ関連ぶどう膜炎C0.7ぶどう膜炎患者総数(人)C1,066Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎C0.7C炎症性腸疾患関連ぶどう膜炎C0.7他の色素上皮脈絡膜炎C0.6水晶体起因性ぶどう膜炎C0.6間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU)C0.5JIA以外の若年性虹彩毛様体炎C0.5梅毒性ぶどう膜炎C0.5若年性特発性関節炎関連ぶどう膜炎(JIA)C0.5急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)C0.5多巣性脈絡膜炎C0.4地図状脈絡網膜症C0.3Bartonellahenselaeぶどう膜炎C0.2乾癬性ぶどう膜炎C0.2交感性眼炎C0.1眼トキソカラ症C0.1他のウイルス性ぶどう膜炎C0.1風疹関連ぶどう膜炎C0.1Epstein-Barrウイルス関連ぶどう膜炎C0.1その他C0.7分類不能C36.6Cぶどう膜炎患者総数(人)C5,378C*文献C1の表C2と表C3を合わせ,疾患名は日本眼科学会眼科用語集(第C6版)に準じ患者数に順じ並べ,許可を得て転載した.**文献C2のCTable1を許可を得て転載した.疾患名は日本眼科学会『眼科用語集』(第C6版)に準拠して和訳表示した.Yearsnanoporetargetedsequencing2020OCTAadalimumabcomprehensivePCRwide-viewophthalmoscope2010EDI-OCTin.iximabSD-OCT2000OCTmycophenolatePCRICGAmofetil1990lasercell-.arecyclosporinemeter19801970ImagingtestsImmunosuppressantsMoleculardiagnosis&Biologics図1半世紀のぶどう膜炎パラダイムシフトとぶどう膜炎診療の変遷X軸はぶどう膜炎診療の変遷に大きく貢献したC3つの要素(imagingCtests,CimmunosuppressantsC&biologics,Cmoleculardiagnosis)の主要な項目を示す.Y軸はそれらの項目がぶどう膜炎診療に応用されはじめたおおよその年代(西暦)を示すEDI-OCT:enhanceddepthimagingopticalcoherencetomography,ICGA:indocyaninegreenangiography,OCT:opticalCcoherenceCtomography,OCT-A:opticalCcoherenceCtomographyCangiography,PCR:polymeraseCchainCreaction,SD-OCT:spectralCdomainCopticalCcoherenceCtomographyCと病態の理解が飛躍的に進展した.さらに,1990年代後半に登場した光干渉断層法(optiC-calcoherencetomography:OCT)はぶどう膜炎に限らずあらゆる眼科分野の進展に大きく貢献した.その後,高解像度のCspectralCdomainOCT(SD-OCT)が開発され,患者に侵襲をまったく与えることなく網膜の微細構造をあたかも病理標本でみるがごとくに詳細に描出することが可能になった.これらのCOCTでは網膜より深層にあり多くのぶどう膜炎の主たる病変部位である脈絡膜の描出は不鮮明であった.しかし,Spaideら9)により開発されたCenhancedCdepthCimagingOCT(EDI-OCT)は脈絡膜の描出を可能にし,これにより患者に侵襲を加えることなく多くの眼底疾患の病態診断ができるようになった.しかも,周辺網膜までC1枚の写真で撮影できる広角度(wide-view,super-wideviewophthalmoscope)の眼底撮影機器の開発と相まって,眼底病変を周辺まで見落とすことなく診断できるようになった.FAとCIAは造影剤を静注する必要があり,造影剤に対するアレルギー反応のリスクが常に存在する.光干渉断層血管撮影(OCTangiography:OCTA)は造影剤を投与せずに網膜と脈絡膜の血管,新生血管,血管閉塞などを描出できる画期的な検査である10).ただし,現在のOCTAは血管炎の診断に必要な情報のひとつである血管からの漏出(vascularleakage)は描出できない.CIIIMoleculardiagnosis半世紀前の眼科医にとって眼内の感染症(感染性ぶどう膜炎,感染性眼内炎)は悪夢であった.細菌と真菌については前房水や硝子体液も用いて顕微鏡検査と培養が可能であるが,陽性率が低く診断がつかないことが多く,ウイスルは顕微鏡検査も培養も臨床レベルでは不可能であった.したがって,血清中の特異抗体や皮内反応に基づいて診断していたが,当時の私はこのような状況証拠のような根拠に基づく診断ではなくて,眼内の病変局所検体を用いてウイルス,細菌,真菌の存在を直接的に同定する診断法ができないものかと,強く願望していたことを覚えている.1985年にCSaikiら11)により初めて報告されたポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)法は,短時間のうちに特定の標的CDNAを何百万倍にも増幅する方法で,ごくわずかな検体に含まれるウイスルなどの病原微生物のCDNAを高い感度(sensitivity)と特異度(speci.city)で検出同定できる.入手可能な検体が0.1Cml程度の微量な眼内液で勝負しなければならない感染性ぶどう膜炎の診断にCPCR法はきわめて有用であり,臨床へのインパクトは計り知れないものであった12).実際にC1992年にCNishiらはCPCR法を用いてC3症例の急性網膜壊死患者の前房水から水痘帯状疱疹ウイルスのDNAを検出し,ぶどう膜炎診断への有用性を初めて報告した13).当時のCPCRは単一の病原体の同定に限られていたが,その後,多くの病原体CDNAを同時に測定できるCmultiplexPCRが開発され,さらに,8種類のヒト・ヘルペスウイルス,トキソプラズマのCDNAを定性PCRでスクリーニングし,陽性のCDNAをさらに定量PCRによりウイルス量を測定するCcomprehensiveCPCRCsystem14),最近では検体からCDNAを抽出する過程を省いて直接検体をCPCR測定できるCdirectPCRなど,さまざまな開発・改良が行われた.PCR検査により初めて診断が可能になった疾患は数多くあり,ぶどう膜炎の原因疾患が増加したのはCPCRによるところが大きい.その代表例が単純ヘルペス,水痘帯状ヘルペスウイルス,サイトメガロウイスルなどによるヘルペス性前部ぶどう膜炎で,その診断と臨床像の解析15)はCPCR法なくしては不可能である.感染性ぶどう膜炎を扱う眼科医にとって夢のような検査法と思われるCPCR法にも制約がある.PCR法は,既知の病原微生物のCDNAの特定の領域を標的として増幅するので未知の病原微生物に対応できないこと,またウイルスCDNAの検出には優れているが,種類とバリエーションがきわめて多い細菌や真菌には不向きなことなどである.最近の病原微生物の検出同定はCPCRからCDNAシークエンスの時代へと移行しつつある16).十数年前に開発された第三,第四世代のCDNAシークエンサー(nano-poreCtargetedsequencing:NTS)は電流により直接的にCDNA情報を読み取ることができる.したがって,PCRのように既知の標的CDNA(probe)を用いてCDNA増幅する必要がないため,未知の病原微生物のCDNAを1450あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(86)検出でき,検出したCDNAは日々集積され更新されているCDNAデータバンクの遺伝子情報とコンピューター照合して病原微生物の同定を行う16).Huangら17)は,臨床的に感染性眼内炎と診断されたC18例の前房水または硝子体液を用いて,従来の培養とCNTSとを比較した.培養の陽性率はC47.1%であったのに対して,NTSの陽性率はC18例中C17例(94.4%)であり,培養で陽性であった検体の菌種とCNTSで同定された菌種はほぼ完全に一致していた.このように次世代シークエンサーを用いることで,ごく微量の眼内液検体でウイルス,細菌,真菌の病原微生物が同定できて,感染性ぶどう膜炎の診断,あるいは,その除外が可能な時代が到来しつつある.CIV生物製剤1980年代までのCBehcet病の治療には副腎皮質ステロイドとシクロホスファミド,アザチオプリン,コルヒチンなどの限られた免疫抑制薬しかなく,これらの治療でも約半数の患者が発病からC5年以内に視力C0.1以下の失明状態に陥っていた3).1980年代になり登場したシクロスポリン,タクロリムス,あるいはミコフェノレール酸モフェチル(セルセプト)などの新しい免疫抑制薬によりCBehcet病の視力予後はそれ以前に比べて改善した.しかし,Behcet病をはじめとする難治性非感染性ぶどう膜炎の治療と予後に画期的な変革をもたらしたのは,生物製剤による分子標的治療である.炎症性サイトカインであるCTNF-aに対するキメラ型モノクローナル抗体であるインフリキシマブ(点滴静注)のCBehcet病に伴う難治性ぶどう膜炎への有効性と安全性がわが国での臨床試験で証明され18,19),従来のシクロスポリンや副腎皮質ステロイドでは治療困難であったCBehcet病の眼炎症が抑制され,Behcet病の視力予後が著しく改善した.その後,2010年代にヒト型CTNF-aモノクローナル抗体であるアダリムマブ(ヒュムラ)が非感染性ぶどう膜炎の治療に有効であることが前向き国際多施設共同臨床試験で示され20,21),多くの国で非感染性ぶどう膜炎の治療に用いられている.今日,関節リウマチや炎症性腸疾患など膠原病の分野では,TNF-a阻害薬のほかにも抗CIL-6モノクローナル抗体など非常に多くの種類の生物製剤が用いられ,今後,これらの生物製剤はぶどう膜炎の診療にさらに大きな変化をもたらすであろう.CVぶどう膜炎の診断基準前述の要素のほかにも,この半世紀の間にぶどう膜炎診療を大きく変化させたものが多くある.なかでも疾患の診断基準は診療に大きく影響するので,ぶどう膜炎疾患の診断基準の変遷に少し触れる.Behcet病やサルコイドーシスはわが国の厚生省ベーチェット病研究班や日本サルコイドーシス肉芽腫性疾患学会などが主導していち早く診断の手引きや診断基準が確立されわが国で広く用いられていた.サルコイドーシスについては,本症に特徴的な眼所見(肉芽腫性ぶどう膜炎)と全身検査との組み合わせで眼サルコイドーシス(ocularsarcoidosis:OS)の国際診断基準が提唱され22),2019年に改定された23).急性網膜壊死はその病因がヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルスと水痘帯状疱疹ウイルス)であることが解明されたにもかかわらず,その後も長く臨床所見と臨床経過とだけに基づいた国際基準24)が用いられていた.最近,PCRの時代にふさわしいウイルス診断を取り入れた新しい診断基準が提唱されている25).眼結核(oculartuberculosis)は古くて新しい病気である.PCRと免疫学的検査が普及した過去C15年間にその診断と治療について活発な研究がなされ,多くの成果が国際誌に報告され,大きな注目を集めている.その多数の論文を引用するのは控えるが,代表的なものを一つだけあげる26).これらの診断基準は,ぶどう膜炎の専門家の間でアンケート調査や各人の経験に基づいたデータを持ち寄って討議するコンセンサス・ミーティングで作られるのが常であった.しかし,ごく最近,StandardizationofUveitisNomenclature(SUN)ワーキンググループは従来と異なるアプローチを用いて,25種類のぶどう膜炎疾患(急性網膜壊死27),Behcet病28),サイトメガロウイルス前部ぶどう膜炎29),サルコイドーシス30)など)の“classi.cationcriteria”を提唱した.その手法は,①世界中のぶどう膜炎専門家に依頼してそれぞれのぶどう膜炎疾患に典型(87)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1451的と思われる症例を集め(casecollection),②集まった症例の中から典型的な症例を選別し(caseselection),③最後にその典型的な症例の臨床像をコンピューターに入力して他の疾患と分類できる点を学習(machinelearning)させる方法である31).いろいろな分野で取り入れられている人工知能(arti.cialintelligence:AI)を用いた方法といえよう.今後,提案されたCSUNワーキンググループのぶどう膜炎各疾患のCclassi.cationcrite-riaの有用性が検討されるであろう.おわりに半世紀にわたるぶどう膜炎診療の実体験と現在に至るまでの歴史と変遷を思いつくままに述べてきた.現在は,目を凝らして眼底を観察し隅々まで自らの手でスケッチしながら眼底疾患を学ぶこともなく,手軽に広角眼底写真をC1枚撮るだけで正確に眼底の隅々まで記録できて,それに基づいて容易に診断ができる時代になった.今から半世紀後といわずに近未来において網脈絡膜,視神経の再生が臨床レベルで治療に用いられ,あるいは,医師があたかも網膜や脈絡膜の中に立って病変を観察できる眼内三次元バーチャル画像診断の実現も夢ではないであろう.一方で,さまざまな画像情報,全身検査結果,眼内液の検査結果をコンピューターに入れれば,「x%の確率で診断はCA疾患,もっとも勧められる治療オプションはCBです」,などとプリントアウトさされる時代が来るのであろうか.便利ではあるが,正確でもあろうが,本当にそんな時代の到来を望むだろうかと自問する.先日,テレビで兵器を搭載しコンピューター制御だけで動くドローンのニュースをみた.人智の関与を一切排除しているので,敵と判断すれは躊躇なく攻撃する冷たく不気味な近未来兵器であった.行き過ぎた科学技術が生み出したCSFアニメのような世界が現実のものとなっていることに少なからずショックを受けた.優れた画像診断,分子・遺伝子診断,標的治療,再生医療,AI医療,コンピューター管理などは,われわれにとって便利で享受すべき恩恵であろう.しかし,行き過ぎてあのドローンのようにならないように,便利さに頼り過ぎて基本的な鍛錬を忘れることがないように,コンピューター管理やCAIの脆弱性の被害にあわないように,そして,いつの時代にも人の温かみある診療を忘れないようにしたい.これまでの半世紀はわれわれの夢が実現したしあわせな変遷の歴史であったと思う.これから半世紀後にもそういえるようなぶどう膜炎診療であってほしい.文献1)伊澤保穂,難波克彦,望月學:東京大学眼科のブドウ膜炎統計(1974年~1977年)とベーチェット病患者の視力予後等について.臨眼35:855-860,C19812)SonodaCK-H,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJCOphthalmol32:184-190,C20213)MishimaS,MasudaK,IzawaYetal:Behcet’sdiseaseinJapan:ophthalmologicCaspects.CTransCAmCOphthalmolCSoc77:225-279,C19794)SawaCM,CTsurimakiCY,CTsuruCTCetal:NewCquantitativeCmethodCtoCdetermineCproteinCconcentrationCandCcellCnum-berCinCaqueousCinCvivo.CJpnCJCOphthalmolC32:132-142,C19885)SawaM:Clinicalapplicationoflaser.are-cellmeter.JpnJOphthalmolC34:346-363,C19906)SawaM:LaserC.are-cellphotometer:principleCandCsigni.canceinclinicalandbasicophthalmology.JpnJOph-thalmolC61:21-42,C20177)TheCStandardizationCofCUveitisNomenclature(SUN)WorkingCGroup:StandardizationCofCuveitisCnomenclatureCforreportingclinicaldata.Resultsofthe.rstinternationalworkshop.AmJOphthalmolC140:509.516,C20058)HerbortCCP,CLeHoangCP,CGuex-CrosierY:SchematicCinterpretationofindocyaninegreenangiographyinposte-riorCuveitisCusingCaCstandardCangiographicCprotocol.Oph-thalmologyC105:432-440,C19989)MargolisCR,CSpaideRF:ACpilotCstudyCofCenhancedCdepthCimagingCopticalCcoherenceCtomographyCofCtheCchoroidCinCnormaleyes.AmJOphthalmolC147:811-815,C200910)SpaideRF,FujimotoJG,WaheedNKetal:Opticalcoher-enceCtomographyCangiography.CProgCRetinCEyeCResC64:C1-55,C201811)SaikiCRK,CScharfCS,CFaloonaCFCetal:EnzymaticCampli.cationCofCbeta-globinCgenomicCsequencesCandCrestrictionsiteanalysisfordiagnosisofsicklecellanemia.ScienceC230:1350-1354,C198512)MochizukiM,SugitaS,KamoiKetal:Aneweraofuve-itis:impactofpolymerasechainreactioninin.ammatoryintraoculardiseases.JpnJOphthalmolC61:1-20,C201713)NishiCM,CHanashiroCR,CMoriCSCetal:PolymeraseCchainCreactionCforCtheCdetectionCofCtheCvaricella-zosterCgenomeCinCocularCsamplesCfromCpatientsCwithCacuteCretinalCnecro-1452あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(88)-’-

網膜硝子体手術と私の40 年

2021年12月31日 金曜日

網膜硝子体手術と私の40年FortyYearsofVitreoretinalSurgeryandMe小椋祐一郎*はじめに筆者はC1980年(昭和C55年)に大学を卒業して,母校の眼科学教室に入局した.そして,2021年(令和C3年)3月に大学を定年退職した.幸い,入局当初から網膜硝子体分野の診療にかかわり,41年にわたり,この分野におけるめざましい進歩を直接経験することができた.拙稿では,個人的な経験も含めて,40年間の網膜硝子体手術の変遷について俯瞰してみる.CI1980年当時の網膜硝子体手術筆者が入局した京都大学の眼科学教室は,第三代教授の盛新之助先生が日本で初めて裂孔原性網膜.離の手術治療を行ったこともあり,日本全国から難治性の網膜.離の患者が集まっていた.当時の京都大学での術式は,経強膜ジアテルミーにより網膜裂孔を凝固して,シリコーンスポンジでバックリングを行うもので,手術顕微鏡は使用せずに,肉眼で手術を行っていた.京都大学では冷凍凝固術はあまり行われていなかった.黄斑円孔網膜.離に対しても,外直筋を切除し,眼球を回転させて,直視下で黄斑部に経強膜ジアテルミー凝固を行い,1.5Cmmのシリコーンスポンジを縫着していた.肉眼で強度近視の黄斑部の後部ぶどう腫の非常に薄くなっている強膜にスポンジを縫着する糸をかけるのは神業であった.硝子体手術は,oneportのCfullfunctionprobeを使用して,毛様体扁平部をCGraefeナイフでC3Cmm切開して行っていた(図1).MachemerがC1971年に報告したものと基本的には同じシステムであった1).硝子体混濁を除去することが主目的で,網膜.離に対する硝子体手術は行われていなかった.筆者はその後,天理よろず相談所病院,神戸中央市民病院に赴任したが,そこでも硝子体手術は,oneportのものを使用していた.天理よろず相談所病院では,永田誠先生が先天白内障に対する経毛様体水晶体切除術を行っていたが,その手術もこのCfullfunctionprobeを用いて,乳幼児の毛様体扁平部を3Cmm切開していた2).筆者が神戸にいた頃に,大阪大学の田野保雄先生が留学から帰国されて,日本に多くの新しい手技を紹介された.その一つに液空気置換術がある.それまでは,硝子体手術中に医原性裂孔を作ると,網膜を復位させる方法がなかった.硝子体腔に空気を灌流して,同時に網膜下液を排出して,網膜を復位させるという手技は画期的であった.しかし,その当時は専用の空気灌流装置がなく,金魚の水槽で使用するポンプを灌流針に接続して使用していた(図2).手術室に金魚のポンプを滅菌しておいて,使用していたのを記憶している.CIIThreeportvitrectomysystemの導入と硝子体手術の適応拡大米国のCSteveCharlesが,硝子体カッター,ライト,灌流針をそれぞれの強膜創から刺入するCthreeCportsystemを開発し,20ゲージの創口から手術を行うこと*YuichiroOgura:名古屋市立大学〔別刷請求先〕小椋祐一郎:〒467-8602名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(77)C1441図11980年当時に用いられていたoneportvitrectomyのfullfunctionprobe図2硝子体手術の液空気置換に金魚の水槽用の空気ポンプを使用した時代があった図3Threeportsystem導入期の硝子体手術装置図4特発性黄斑円孔に対するICG染色網膜内境界膜図5トリアムシノロンによる硝子体ゲル可視化.離切除図6脈絡膜新生血管抜去術a:32ゲージの針により網膜下のハイドロダイセクションを行い,脈絡膜新生血管と網膜の癒着を.離する.Cb:網膜下鉗子により,脈絡膜新生血管を把持する.Cc:摘出された脈絡膜新生血管.図7硝子体手術により硬性白斑を除去した糖尿病黄斑浮腫症例の眼底所見a:術前.黄斑下に大量の硬性白斑の沈着を認める.b:手術後C6カ月.硬性白斑は消失して,黄斑浮腫も改善している.-

加齢黄斑変性診療の変遷

2021年12月31日 金曜日

加齢黄斑変性診療の変遷ChangesinAge-RelatedMacularDegenerationMedicalCare大島裕司*石橋達朗**はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は,中高年の中途失明原因の主要疾患であり,わが国においても現在,身体障害者視覚障害の原因疾患の上位を占めている1).その病型には脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が関与し,その滲出により視力障害をきたす滲出型AMDと,CNVが関与せず網膜色素上皮や脈絡膜毛細血管の萎縮を認める萎縮型AMDに大別される.わが国では前者が多く,実臨床におけるAMD患者のほぼ9割を占めている.滲出型AMDはできるだけ滲出を抑えてコントロールしないと早期に視力障害をきたすが,萎縮型AMDは地図状萎縮を認め,進行は緩徐であるが現時点で特効的な治療法はなく,おもに経過観察が中心となっている.AMDの患者数は世界的に増加傾向であり,Wongらは一般住民における有病率のメタアナリシスから2040年には2億8,800万人に増加すると試算し,とくにアジア圏では2040年には1億1,300万人ともっとも増加すると予想している2).福岡県久山町で行われている久山町スタディから,わが国における滲出型AMDの有病率も1998年0.6%,2007年1.2%,2012年1.5%と増加しており,滲出型AMDの特殊型であるポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)の有病率も0.4%と報告され,今後ますます増加することが予想されている3).I画像診断の進歩現在は種々の画像データを組み合わせて病状,病型の診断,治療効果の判定を行うマルチモーダルイメージング(multi-modalimaging)が一般的となっているが,基本となるのは,眼底検査および従来からの蛍光眼底造影検査である.滲出型AMDの診断は1980年代まではおもにフルオレセイン蛍光造影(.uoresceinangiogra-phy:FA)にて行われていたが,1990年代にインドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiogra-phy:IA)が普及すると,網膜色素上皮下のCNVなどの病変,脈絡膜の透過性などの描出に優れ,より詳細に把握することができるようになった.さらに滲出型AMDの特殊型であるPCVにおいてはポリープ状病巣や異常血管網を描出し,もうひとつの特殊型である網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)という病型があることも明らかにされた.そして,AMD診断のみならず眼科診療において大きく関与することとなったのは,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の登場であろう.とくにタイムドメイン方式のOCTからスペクトラルドメイン方式のOCTへ機器が進歩したことで検査時間が格段に短くなり,固視不良が多いAMD患者への有効性も示された.視覚的に断層像が得られることにより,CNVが網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)より神経網膜内に存在するtype2CNVか,RPEより下*YujiOshima:福岡歯科大学総合医学講座眼科**TatsuroIshibashi:九州大学〔別刷請求先〕大島裕司:〒814-0193福岡市早良区田村2-15-1福岡歯科大学総合医学講座眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(67)1431図1滲出型加齢黄斑変性の治療変遷1970年代頃よりレーザー光凝固が始まり,硝子体手術によるCNV抜去術が行われた.2000年代に入ってからはPDT,そして抗VEGF薬が登場した.(■はわが国で認可された年)図2中心窩外PCVに対してレーザー光凝固を施行した症例70歳,男性.a~d:治療前.視力(0.9).ポリープ状病巣(c:),漿液性網膜.離(SRD,d:)を認め,中心窩外PCVに直接凝固施行した.e~h:2週間後.ポリープの凝固(),SRD減少を認めるも異常血管網は残存していた.視力は(0.9)と不変.a~d:治療前,e~h:2週間後,a,e:眼底写真,b,f:FA,c,g:IA,d,h:OCT.複数回の手術を要することが多い.増殖性硝子体網膜症などの合併症も危惧されることより,他の治療法の有効性が確立している現在は,CNV抜去術の適応となる患者が減少しているのが現状である.C3.光線力学療法PDTは,従来悪性腫瘍に対する治療法の一つとして開発され,ポルフィリン化合物が有する腫瘍組織,新生血管への集積性と光の励起により発生する一重項酸素の組織破壊を利用する治療法である.PDTはレーザー光凝固治療による強い組織破壊とは異なり,正常組織にできるだけダメージを与えず,低エネルギーレーザーにて病変部を選択的に治療することができる.作用機序は,ベルテポルフィン(ビスダイン)が静脈内投与によって血中の低比重リポ蛋白(low-densityClipoprotein:LDL)に結合し,CNVの血管内皮細胞に発現しているCLDLレセプターを介してCCNVの内皮細胞に取り込まれ蓄積される.そこにレーザー光が照射されるとCCNV中のベルテポルフィンが光化学反応によって活性化され,発生した一重項酸素によって傷害された内皮細胞に血小板などが付着,血栓形成によってCCNVが閉塞する.PDT施行の実際はベルテポルフィンを静脈内投与し,15分後に眼科用光線力学療法用レーザー(非発熱性ダイオードレーザー)を病変部位にC83秒間照射を行う.治療後C48時間は薬剤血中濃度が高く,患者は光過敏症の状態になっているので遮光が必要となる治療法である.AMDに対するCPDTの大規模臨床試験が欧米において行われ,CTreatmentCofCAge-RelatedCMacularCDegenerationCwithPhotodynamicTherapyStudy(TAPstudy)とよばれている.2001年にそのC2年経過が発表され,PDT治療群で視力低下を抑制する効果が報告されている11).わが国ではC2003年に薬剤およびレーザー機器が承認されているが,それに先立ってCJapaneseCAge-RelatedCMacularCDegenerationCTrialStudy(JATstudy)という臨床試験が行われた.JATstudyではCAMD64例に対してCPDTが行われ,治療前視力C50.8文字から治療後1年でC53.8文字と改善が得られている12).欧米で行われたCTAPstudyで確認されたのは視力低下を抑制する効果であったが,日本人を対象としたCJATstudyでは改善の効果が認められている.この理由としては,日本人の母集団にはCPCV患者が多く含まれていたためであろうと考えられている.これにより典型CAMDに比べてPCVに対しては,PDTがより有効であるのではないかと考えられるようになった.Gomiらは,典型CAMDとPCV患者C93眼に対してCPDTを施行し,1年後視力がPCV群はC6.8文字改善し,典型CAMD群はC6.8文字悪化したとCPDTのCPCVへの有効性を報告している.これにより,PCVに対するCPDTはC1年後に視力低下を抑制させるのみならず改善させる効果が認められた13).しかし,長期結果になると徐々に視力が低下することが報告されている.Kurashigeらは,PCV31眼にCPDTを施行し,施行後C1年は有意に視力改善するもC2年後には有意に視力悪化が認められ,平均治療回数はC1.65回であったと報告し,2年目に追加治療が必要な再燃がC38%に認められたとしている14).2008年にわが国におけるCPDTガイドライン策定のためにC13施設で行われた共同研究では,471眼にCPDTを施行し,12カ月後の成績が報告されている.それによると,視力は施行前後ともにC0.15で維持され,clas-sicCNV,occultCNVなどのどのCFA分類での病態においても視力は維持されていた.また,病変サイズが1,800Cμm以下の小さな病変では視力が改善し,5,400Cμm以上の大きな病変では視力が維持できていたこと,PCVでは有意に視力が改善していたこと,1年間の平均治療回数はC2回であったことなどが報告され,これに基づいてアルゴにズムが発表されている15).このようにPDTは,治療がなかなかむずかしかったCAMD患者の視力低下を短期的には抑制することができ,抗血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法が登場するまでは治療の主流であった.現在でも,抗CVEGF療法が施行できない患者や抗CVEGF療法抵抗例,PCVに対して,抗CVEGF療法との併用で行われることが多い(図3).C4.抗VEGF療法VEGFは,血管内皮の分裂,増殖,遊走を促すだけでなく,血管透過性亢進に関与しており,AMDをはじめとする多くの眼内血管新生疾患の病態に大きくかかわ1434あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(70)図3中心窩下PCVに対してPDT単独療法を行った症例68歳,男性.Ca~d:治療前.視力(0.5).網膜出血,ポリープ状病巣(),異常血管網,漿液性網膜.離(SRD)を認め,PDTを施行した.Ce~h:施行C1年後.視力(1.0).ポリープ状病巣は退縮,SRDも消失した.Ci~l:施行C2年後.視力(0.7),網膜出血,異常血管網からの再燃,蛍光漏出,SRD()を認めた.再燃までのC2年間でCPDTの施行はC1回のみ.Ca,e,i:眼底写真,b,f,j:FA,c,g,k:IA,d,h,l:OCT.効果が少なく,2019年に販売中止となった.Cb.ラニビズマブラニビズマブはCVEGF-Aモノクローナル抗体のCFab断片であり,ベバシズマブ同様にCVEGFのすべてのアイソフォームを抑制する.分子量は約C50kDaと小さく組織移行性は良好であるといわれている.海外で行われたラニビズマブを用いた大規模臨床試験には,MARINA試験(occultCNVが対象),ANCHOR試験(classicCNVが対象)があり,4週間ごとC2年間投与が行われている.MARINA試験ではC24カ月後にC6.6文字,ANCHOR試験ではC10.7文字の視力改善が得られている18,19).わが国でもCEXTEND-Iという臨床試験が行われ,12カ月後にC10.5文字の改善が認められ,2009年に認可された20).現在でも複数の抗CVEGF薬の中の選択肢のひとつとして使用されている.このようにラニビズマブは,視力悪化を抑制するだけでなく視力改善が得られる認可治療薬として注目された.わが国に多いPCVに対しては,単独治療では滲出性変化の軽減効果があるものの,ポリープ閉塞効果はCPDTに比して低いことが報告されている.HikichiらはC82眼のCPCVに対してラニビズマブ導入期C3回投与後,必要時投与でC1年間の治療成績を報告し,1年後視力はC94%で改善維持が得られ,ポリープ閉塞率はC40%,平均治療回数はC4.2回と報告している21).Cc.アフリベルセプトアフリベルセプトは,VEGFの受容体のうちCVEGFR-1の第C2ドメインとCVEGFR-2の第C3ドメインとCIgGのFcフラグメントを結合させた可溶性融合蛋白である.VEGFのみならず胎盤成長因子(placentalCgrowthCfac-tor:PlGF)に結合し阻害する.アフリベルセプトを用いたCAMDに対する大規模臨床試験にはCVIEW試験がある.日本人も参加した試験である.滲出型CAMDに対してアフリベルセプトを導入期C3回,維持期はC2カ月ごと投与を行った試験で,ラニビズマブを導入期C3回,維持期は毎月投与した群に非劣性であったことが示された22).これにより維持期にC2カ月ごと投与で視力が維持されることが示された.VIEW試験では参加した日本人を対象としたサブ解析が行われ,アフリベルセプトで治療した群はラニビズマブで治療した群と同様に視力維持,形態的改善が得られたと報告し,日本人に対してもアフリベルセプトの治療効果が示された23).わが国では2012年にCAMDに対して認可され臨床使用されている.PCVに対するアフリベルセプト単独治療効果を検討するために,筆者らは多施設共同前向き試験(APOLLO試験)を行った.1年後にC97.6%の症例で視力改善維持が得られ,ポリープ閉塞率はC72.5%とCPCVに対する有効性が示された24).Cd.ブロルシズマブブロルシズマブはC2021年時点で承認されているもっとも新しい抗CVEGF薬で,ヒト化抗CVEGFモノクローナル抗体フラグメントの構造のため,より分子量が小さく,組織移行性が高いことが知られている.その分子量は約C26kDaで投与量比はモル換算でラニビズマブの約22倍である.ブロルシズマブを用いた大規模臨床試験であるCHAWK試験,HARRIER試験では,3回の導入期後,12週ごとの投与で,8週ごと投与のアフリベルセプトに対して非劣性を示し,より長い維持期治療間隔の可能性を示唆している25).PCVに対しての有効性も報告され,76%の症例で維持期にC12週間隔での投与が維持できている26).わが国でもC2020年に承認されたが,合併症として内眼炎が散見され,HAWK&HARRIER試験でも全体で内眼炎の発症率がC4.6%,血管閉塞を伴う内眼炎がC2.1%と他剤より高率に発症することが指摘されている.同試験の日本人を対象とした検討でも内眼炎がC12.9%にみられ,血管閉塞を伴う内眼炎はC4.95%に認められている27,28).Ce.治療レジメンの変遷AMDに対する抗CVEGF療法が始まった当初は,治療は導入期として月にC1度の投与を連続C3回以上施行し,それ以降の維持期には毎月患者をモニタリングして悪化が認められれば投与を行う必要時投与(proCrenata:PRN)が行われていた.しかし,この投与方法であると,悪化をしてからの投与となるため長期的にはいったん改善した視力を維持することが困難であることがわかってきた.ラニビズマブの大規模臨床試験であるMARINA試験,ANCHOR試験後のC7年間の治療成績を検討したCSEVEN-UP試験では,臨床試験での連続投与終了後は多くの症例でCPRN投与が行われ,獲得した1436あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(72)図4典型AMD(classicCNV)に対してアフリベルセプト硝子体内注射をtreatandextend法で治療した症例64歳,女性.Ca~d:治療前.視力(0.2).網膜下出血,フィブリン析出,漿液性網膜.離(SRD)を認め,アフリベルセプト投与を開始した.Ce~h:3回の導入期終了後.視力(0.4).網膜下出血消失とCSRDは消失し,ドライマクラとなった.そのため,維持期は延長間隔C2週間でのCtreatCandextendを施行した.Ci,j:29カ月後.視力(0.7).投与間隔C16週,連続C3回ドライマクラで安定していたため,休薬しモニタリングに移行した.Ck,l:44カ月後.視力(0.6).ドライマクラを維持している.a,e,i,k:眼底写真,b,f:FA,c,g:IA,d,h,j,l:OCT.ざましく進歩した.滲出型CAMDの治療は,視力低下を遅らせるだけでなく,視力維持が可能となった.しかし,視力を維持するためには継続的な加療が必要であることもわかってきた.継続的な加療を続けるには,中高年の患者が多い本疾患では本人の負担のみならずその介助者や家族の協力が必要である.また,医療費の増加を懸念する患者も少なくない.しかし,継続的な加療を行うことは,治療を行わないことによる視力障害に対する社会的コストに比べると総合的には経済的であるということや,介助者の経済活動の損失が少ないと報告されている35,36).何よりも患者自身がいつまでも視力が維持できるように,患者個人の社会的背景や病態を考慮して治療を選択,持続していく必要があると考える.今後,さらに加療間隔が長く,治療負担が少なくなるような新たなる治療戦略が登場することを期待したい.文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌:118:495-501,C20142)WongCWL,CSuCX,CLiCXCetal:GlobalCprevalenceCofCage-relatedCmacularCdegenerationCandCdiseaseCburdenCprojec-tionCforC2020Cand2040:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.LancetGlobHealthC2:e106-e116,C20143)FujiwaraK,YasudaM,HataJetal:PrevalenceandriskfactorsCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCaCgeneralJapaneseCpopulation:TheCHisayamaCStudy.CSeminCOph-thalmolC33:813-819,C20184)WarrowCDJ,CHoangCQV,CFreundKB:PachychoroidCpig-mentepitheliopathy.RetinaC33:1659-1672,C20135)Argonlaserphotocoagulationforsenilemaculardegenera-tion:Resultsofarandomizedclinicaltrial.ArchOphthal-mol100:912-918,C19826)ArgonClaserCphotocoagulationCforCneovascularCmaculopa-thy:Five-yearCresultsCfromCrandomizedCclinicalCtrials.CMacularCPhotocoagulationCStudyCGroup.CArchCOphthalmolC109:1109-1114,C19917)YuzawaCM,CMoriCR,CHaruyamaM:ACstudyCofClaserCpho-tocoagulationCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.CJpnCJOphthalmolC47:379-384,C20038)NishijimaCK,CTakahashiCM,CAkitaCJCetal:LaserCphotoco-agulationCofCindocyanineCgreenCangiographicallyCidenti.edCfeedervesselstoidiopathicpolypoidalchoroidalvasculopa-thy.AmJOphthalmolC137:770-773,C20049)JuanCDECJr,CMachemerR:VitreousCsurgeryCforChemor-rhagicCandC.brousCcomplicationsCofCage-relatedCmacularCdegeneration.AmJOphthalmol105:25-29,C198810)SubmacularCSurgeryCTrialsCResearchGroup:SurgeryCforCsubfovealchoroidalneovascularizationinage-relatedmac-ulardegeneration:ophthalmicC.ndings.COphthalmologyC111:1967-1980,C200411)BresslerNM;TreatmentCofCAge-relatedCMacularCDegen-erationCwithCPhotodynamicTherapy(TAP)StudyGroup:Photodynamictherapyofsubfovealchoroidalneo-vascularizationCinCage-relatedCmacularCdegenerationCwithvertepor.n:two-yearresultsof2randomizedclinicaltri-als-tapreport2.ArchOpthalmol119:198-207,C200112)JapaneseCAge-RelatedCMacularCDegenerationTrial(Jat)StudyGroup:Japaneseage-relatedmaculardegenerationtrial:1-yearCresultsCofCphotodynamicCtherapyCwithCvertepor.nCinCJapaneseCpatientsCwithCsubfovealCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCage-relatedCmacularCdegeneration.AmJOphthalmol136:1049-1061,C200313)GomiF,OhjiM,SayanagiKetal:One-yearoutcomesofphotodynamicCtherapyCinCage-relatedCmacularCdegenera-tionCandCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinCJapaneseCpatients.OphthalmologyC115:141-146,C200814)KurashigeCY,COtaniCA,CSasaharaCMCetal:Two-yearCresultsCofCphotodynamicCtherapyCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathy.AmJOphthalmolC146:513-519,C200815)TanoY;GroupOPS:GuidelinesCforCPDTCinCJapan.COph-thalmologyC115:585-585,C200816)SpaideCRF,CLaudCK,CFineCHFCetal:IntravitrealCbevaci-zumabCtreatmentCofCchoroidalCneovascularizationCsecond-arytoage-relatedmaculardegeneration.RetinaC26:383-390,C200617)VEGFCInhibitionCStudyCinCOcularCNeovascularization(V.I.S.I.O.N.)ClinicalCTrialGroup;ChakravarthyCU,CAda-misAP,CunninghamETJretal:Year2e.cacyresultsof2randomizedcontrolledclinicaltrialsofpegaptanibforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.COphthal-mology113:1508,Ce1-e25,C200618)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:RanibizumabforneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CNEnglJMedC355:1419-1431,C200619)BrownCDM,CMichelsCM,CKaiserCPKCetal:RanibizumabCversusCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:two-yearCresultsCofCtheANCHORstudy.OphthalmologyC116:57-65,Ce5,C200920)TanoCY,COhjiM;GroupCE-IS.EXTEND-I:safetyCandCe.cacyofranibizumabinJapanesepatientswithsubfove-alCchoroidalCneovascularizationCsecondaryCtoCage-relatedCmaculardegeneration.ActaOphthalmologicaC88:309-316,C201021)HikichiCT,CHiguchiCM,CMatsushitaCTCetal:One-yearCresultsCofCthreeCmonthlyCranibizumabCinjectionsCandCas-neededCreinjectionsCforCpolypoidalCchoroidalCvasculopathyCinJapanesepatients.AmJOphthalmolC154:117-124,Ce1,C201222)HeierCJS,CBrownCDM,CChongCVCetal:IntravitrealCa.iber-cept(VEGFtrap-eye)inCwetCage-relatedCmacularCdegen-1438あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(74)-

糖尿病網膜症の診断・治療

2021年12月31日 金曜日

糖尿病網膜症の診断・治療DiagnosisandTreatmentforDiabeticRetinopathy西勝弘*西塚弘一*山下英俊**はじめに糖尿病網膜症は糖尿病を背景に発症する三大合併症(神経障害,網膜症,腎症)の一つであり,わが国の視覚障害の第3位を占めている1).背景疾患である糖尿病の患者数は近年増加傾向にあり,厚生労働省の国民健康・栄養調査の一環として行われた糖尿病実態調査の最新(平成28年)の結果によると,糖尿病患者数は約1,000万人となっている2).国民の視力を守っていくためには,糖尿病網膜症を適切に診断・治療していくことが重要である.眼科診療の現場では,診断は眼底検査所見をもとに各種重症度分類に照らしながら網膜症の重症度判定を行い,その結果をもとにして治療はレーザー治療,薬物治療,硝子体手術治療を選択している.本稿では糖尿病網膜症の診断・治療について概説する.I糖尿病網膜症の病態と眼底所見日常診療で眼科医が糖尿病患者を診察する機会としては,健診異常をきっかけとする場合や,糖尿病で内科治療中の患者が紹介されてくる場合が多いと考えられる.なかには視力低下などの主訴で眼科を受診し,眼底所見から糖尿病網膜症を疑われ,その後内科で未治療の糖尿病の診断につながることも少なくない.したがって,正確に眼底所見をとらえて糖尿病網膜症の診断を行うことが重要である.糖尿病網膜症の基本的な病態は,血管透過性亢進,血管閉塞,血管新生である.これらの病態は眼底所見として,毛細血管瘤,網膜出血,硬性白斑,軟性白斑,血管異常(網膜内最小血管異常,数珠状静脈拡張など),新生血管(その破綻で生じる硝子体出血),増殖膜(それによる牽引性網膜.離)などの所見としてみられる.血管透過性亢進を背景に血管漏出に伴う網膜浮腫を生じる病態は,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)とよばれる.眼底所見のみでは無灌流領域を含めた糖尿病網膜症の循環動態の評価は困難であり,正確に判断するためにはフルオレセイン蛍光造影検査(.uoresceinangiography:FA)が必要となる(図1).FAは造影剤を用いた侵襲的な検査であり,とくにフル****図1網膜無灌流領域網膜無灌流領域は毛細血管床が閉塞し,FAにて低蛍光(*)を呈する.*KatsuhiroNishi&KoichiNishitsuka:山形大学医学部眼科学講座**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座,山形市保健所〔別刷請求先〕西勝弘:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(57)1421図2OCTAによる新生血管の描出53歳,女性,フルオレセインアレルギーあり,4カ月後に軟性白斑(.)の隣に新生血管(.)が出現した.Bスキャンでも新生血管は血流を伴う構造(.)として描出された.-新福田分類が広く用いられている.国際重症度分類,改変Davis分類はDRS,ETDRSの重症度分類を基盤として構築されたものであり,糖尿病網膜症の眼底所見のなかでも重症な病態へ進展するリスクが高い所見に着目して病期を分類している.さらには眼科医と患者の病態の共通理解,眼科医同士ならびに内科と眼科の病診連携に重要である.ここでは国際的に使用できる診断基準である国際重症度分類について述べる3).国際重症度分類が発表されるまでの変遷としては,米国で1968年にAirliehouse分類が発表され,その後DiabeticRetinopathyStudyResearchGroupにより改変されAmodi.cationoftheAirlieHouseclassi.cationofDiabeticretinopathy(DRS分類)が発表された4).さらにEarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudyResearchGroup(ETDRS)では,大規模多施設研究によりDRS分類を改変しETDRS分類が作成された5).国際重症度分類はETDRS分類のエビデンスに基づいて2003年に米国眼科学会により提唱され,糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫について病期分類している.糖尿病網膜症については,ハイリスクの増殖糖尿病網膜症(新生血管を発症した重症な網膜症)への進行リスクの大きさにより重症度を分類している.網膜症の所見がないものを網膜症なし,重篤な虚血状態を示し直ちに治療が必要な状態である新生血管を認めるものを増殖網膜症とし,その間の状態を非増殖網膜症とし,非増殖網膜症はさらに軽症,中等症,重症の3段階に分類している.初期の変化である毛細血管瘤のみを認めるものは軽症非増殖網膜症,4象限で20個以上の網膜出血,2象限以上での数珠状静脈拡張,1象限以上での網膜内最小血管異常のいずれかを認める(4-2-1ルール)ものは重症非増殖網膜症とし,中等症非増殖網膜症は軽症と重症の間の状態としている.2.黄斑浮腫糖尿病黄斑浮腫では,後極に網膜肥厚と硬性白斑を認めるものを黄斑浮腫ありとし,黄斑部に網膜浮腫が及ぶと視力に影響を及ぼすことから,黄斑部と病変の関係から軽症(病変が黄斑中央部から離れている),中等症(病変が黄斑中央部に近づきつつある),重症(病変が黄斑中央部に到達している)の3群に分類されている.国際重症度分類は比較的覚えやすく簡潔な分類であるとともに,眼科医が検眼鏡的に把握できる眼底所見からその場で重症度を判定できること,増殖網膜症への進展の臨床的な予測に有用であること,また世界共通な診断基準となっており学術的に有用であることから使用されるようになってきている.III糖尿病網膜症の治療1.網膜光凝固術糖尿病網膜症では血管閉塞から網膜虚血が引き起こされるが,それに対する治療の基本は網膜虚血の軽減,すなわち網膜虚血部位の酸素需要を減らし脈絡膜からの酸素供給を増やすことであり,現在もっとも行われている治療が網膜光凝固術である.網膜光凝固術の研究は,1946年Meyer-Schwicker-athのもとに日蝕性網膜炎患者が来院したことに端を発した.光源として太陽光の利用から始まり,その後1957年にはキセノン光凝固装置が市販され,1960年代には糖尿病網膜症に対する治療法として用いられはじめた.1960年のルビーレーザー発振成功の翌年にはレーザー光線が網膜.離に対する光凝固の光源として使用された.その後1971年にアルゴンレーザーが市販され,網膜光凝固は安全に正確かつ短時間に行えるようになった6).1970年代に行われた米国での大規模研究によって,増殖前網膜症でみられる無灌流領域に対するレーザー光凝固が,網膜新生血管の発芽予防もしくは消退に有効であることが証明された7).汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagulation:PRP)が選択されるのは,重症非糖尿病網膜症と早期の増殖糖尿病網膜症である.エビデンスとなっているのは,DRS8)とETDRS9)である.重症非増殖網膜症ではPRPにより新生血管の出現,すなわち増殖糖尿病網膜症への進展を予防することが期待される.増殖糖尿病網膜症では病態の鎮静化,さらには血管新生緑内障への進展予防のために,可及的速やかに密なPRPが必要となる(図3).一方,無灌流領域への局所光凝固についての有効性に(59)あたらしい眼科Vol.38,No.12,20211423図3パターンスキャンレーザーを用いて汎網膜光凝固を施行した重症非糖尿病網膜症31歳,女性.網膜最周辺部まで密に凝固斑を認める.図4硝子体出血を呈した増殖糖尿病網膜症に対し硝子体手術を施行した56歳,男性.増殖糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固施行中に硝子体出血を生じたため,硝子体手術を施行した.術前視力0.3から術後1.0まで回復した.図5増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の術中OCT所見術中COCTを用いることにより,増殖膜と網膜(点線)の判別や増殖膜の複雑な層状構造を客観的にとらえることが可能である.図6糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する抗VEGF薬治療前後のOCT53歳,男性.左眼CDMEに対してアフリベルセプト硝子体内注射を施行.施行後C1カ月でCDMEは軽快した.図7左眼糖尿病黄斑浮腫46歳,男性.眼底写真,FAの早期像(Ca),後期像(Cb),眼底写真(Cc),OCTマップ(Cd)をもとにして,中心窩耳側の領域(c:黄色楕円)にある毛細血管瘤を光凝固した.術前術後図8図7と同一症例の局所光凝固術左眼局所光凝固術後,黄斑耳側のCDMEは軽快した.左眼視力は(0.8)から(0.9)へ改善した.その潮流を受けると思われるが,それまでの間にCAIを用いた診療が適正に行われることをめざした研究が必要である.具体的には眼底写真(FA含む),OCT,OCTAなどのデータベース構築を急ぎ行うことである.AIが参入しても眼科医が不要となることはなく,診断を確定し,光凝固,注射,手術などの治療を担うのは眼科医である.糖尿病内科専門医と連携し,内科受診された糖尿病患者が視力にかかわらず眼科に紹介されるような診療体制を構築し,AIをうまく利用しながら眼科診療,治療を行っていく形が理想的と考えられる.もう一つは,治療薬の開発とテーラーメイド医療の開発である.現時点でのCunmetmedicalneedsは,初期の糖尿病網膜症患者に対する内服治療薬がないことである.候補としてはレニンアンギオテンシン系の制御26),脂質代謝異常治療薬27)(スタチン,フェノフィブラート28))などがあるが,現在も議論が交わされている.問題は,網膜症の病態としてどの状態の患者にどの治療薬が有効かを判断するための方法が確立されていないことである.眼内液の採取はサイトカイン濃度など得られる眼局所的な情報は多いが,侵襲的であり患者・医師双方への負担は大きいと考えられる.たとえば採血検査などの比較的侵襲が低く,繰り返し可能な検査方法で網膜症の病態が判定され,適切な内服薬が選択できるようになれば,テーラーメイド医療は大きく前進すると考えられる.文献1)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals,CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20192)厚生労働省:平成C28年国民健康・栄養調査結果の概要.CAvailablefrom:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/Ceiyou/h28-houkoku.html3)WilkinsonCCP,CFerrisCFLC3rd,CKleinCRECetal:ProposedCinternationalCclinicalCdiabeticCretinopathyCandCdiabeticCmacularCedemaCdiseaseCseverityCscales,COphthalmologyC110:1677-1682,C20034)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Amodi.ca-tionoftheAirlieHouseclassi.cationofDiabeticretinopa-thy.CDRSCreportCnumberC7.CInvestCOphthalmolCVisCSciC21:210-226,C19815)EarlyCTreatmentCDiabeticCRetinopathyCStudyCResearchGroup:GradingCdiabeticCretinopathyCfromCstereoscopicCcolorCfundusCphotographsC.CanCextensionCofCtheCmodi.edCAirlieCHouseCclassi.cation.CETDRSCreportCnumberC10.COphthalmologyC98(5suppl):786-806,C19916)大庭紀雄:眼科学の歴史現代眼科学を築いた人々眼科の疾病・研究史網膜.離.眼科診療プラクティス93:106-112,C20037)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:PreliminaryreportConCe.ectsCofCphotocoagulationCtherapy.CAmCJCOph-thalmolC81:383-396,C19768)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:PhotocoaguC-lationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Clini-calCapplicationCofCDiabeticRetinopathyCStudy(DRS)C.ndings,CDRSCreportCnumberC8.COphthalmologyC88:583-600,C19819)FerrisF:EarlyCphotocoagulationCinCpatientsCwithCeitherCtypeICortypeIICdiabetes.TransAmOphthalmolSocC94:C505-537,C199610)清水弘一:分担研究報告書.汎網膜光凝固治療による脈絡膜循環の変化と糖尿病レーザー治療ならびに糖尿病網膜症の光凝固適応および実施基準.平成C6年度糖尿病調査研究報告書.厚生省.p346-349,C199511)SatoY,KojimaharaN,KitanoSetal;JapaneseSocietyofOphthalmicCDiabetology,CSubcommitteeConCtheCStudyCofDiabeticRetinopathyTreatment:Multicenterrandomizedclinicaltrialofretinalphotocoagulationforpreproliferativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol56:52-59,C201212)平野隆雄,村田敏規:糖尿病網膜症の光凝固の進歩.あたらしい眼科31:1083-1088,C201413)西勝弘,後藤早紀子,西塚弘一ほか:手術時期の異なる増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績の検討.臨眼C67:69-75,C201314)NishiCK,CNishitsukaCK,CYamamotoCTCetal:FactorsCcorre-latedCwithCvisualCoutcomesCatCtwoCandCfourCyearsCafterCvitreousCsurgeryCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CPLoSOneC16:e0244281,C202115)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetal:IntraoperativeCopticalCcoherenceCtomographyCimagingCofCtheCperipheralCvitreousandretina.RetinaC38:e20-e22,C201816)NishitsukaCK,CNishiCK,CNambaCHCetal:Quanti.cationCofCtheperipheralvitreousaftervitreousshavingusingintra-operativeCopticalCcoherenceCtomography.CBMJCOpenCOph-thalmologyC6:e000605,C202017)西塚弘一:糖尿病網膜症に対する硝子体手術における術中OCTの所見や有用性について教えてください.あたらしい眼科(臨増)C37:171-174,C202018)MitchellCP,CSheidowCTG,CFarahCMECetal:LUMINOUSstudyCinvestigators:E.ectivenessCandCsafetyCofCranibi-zumabC0.5CmgCinCtreatment-naiveCpatientsCwithCdiabeticCmacularedema:ResultsCfromCtheCreal-worldCglobalCLUMINOUSstudy.PLoSOne15:e0233595,C202019)NakanoCS,CYamamotoCT,CKiriiCECetal:SteroidCeyeCdropC(65)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1429

緑内障現代史:1970 年代以降の革新的進歩

2021年12月31日 金曜日

緑内障現代史:1970年代以降の革新的進歩ModernHistoryofGlaucoma:EvolutionofInnovativeManagementSincethe1970s山本哲也*はじめに歴史家E.H.Carrは,歴史とは「現在と過去との絶え間ない対話(anunendingdialoguebetweenthepresentandthepast)である」と述べている.その通り,過去を知らずに現代を理解することは困難である.まして,将来は語れない.本稿では本誌編集部の依頼に答える形で,1970年代以降に生じた緑内障関係のでき事の整理を試みる.目的は現代を把握し,近未来の緑内障診療に求められているものを理解していただくことである.緑内障は間違いなく古代から存在していたが,18世紀頃までは水晶体疾患と考えられていたようであり,現在の疾患概念の確立までには時間がかかっている.緑内障のなかでは,自他覚症状の激しさから緑内障急性発作が最初に認識されたのは当然であり,一方で慢性緑内障は19世紀半ばに初めて記録されている.表1に1970年以前の緑内障関連のおもなでき事を掲げた.眼圧上昇が10世紀にすでにアラビアで知られていたこと,1851年の検眼鏡の発明後数年を経ずして緑内障性視神経症の乳頭所見が記録されたことが特記される.20世紀初頭には,瞳孔ブロック,隅角閉塞の概念が確立し,現代の緑内障分類に結びついていく.同じころ,眼圧が正確に測定できるようになり,また近代的緑内障手術のはしりとしての全層濾過手術が生まれた.20世紀半ばに隅角鏡,Goldmann視野計,Goldmann圧平眼圧計が発明された.炭酸脱水酵素阻害薬の内服が開始されたのも20表11970年以前の緑内障関係のおもなでき事紀元前4.5世紀最古の緑内障の記載(Hippocrates)10世紀最古の眼圧上昇の記載(At-Tabari,アラビア)1622年(元和8年)ヨーロッパ初の眼圧上昇の記載(Banister)1818年(文政1年)眼圧上昇と虹輪視の記載(Demours)1854年(安政1年)乳頭陥凹を乳頭の腫脹として発表(Jaeger,vonGrafe)1855年(安政2年)乳頭陥凹の記載(Weber,vonGrafe)1856年(安政3年)虹彩切除術を施行(vonGrafe)1857年(安政4年)緑内障を正常眼圧の眼に認めAmaurosismitSehnervenexkavationと記載(vonGrafe)1858年(安政5年)隅角閉塞を組織学的に発見(Muller)1869年(明治2年)濾過手術(sclerectomy)の始まり(deWecker)1876年(明治9年)ピロカルピンの使用(Weber)1898年(明治31年)隅角を指圧により観察(Trantas)1905年(明治38年)Schiotz眼圧計の登場1909年(明治42年)近代的濾過手術(trephination)の報告(Elliot)1920年(大正9年)瞳孔ブロックの概念(Curran)1923年(大正12年)原発緑内障を前房深度で2型に分類(Raeder)1925年(大正14年)実用的隅角鏡の開発(Troncoso)1938年(昭和13年)緑内障を隅角所見で2型に分類(Barkan)1945年(昭和20年)Goldmann視野計の開発1954年(昭和29年)炭酸脱水酵素阻害薬アセタゾラミドの使用(Becker)1957年(昭和32年)Goldmann圧平眼圧計の開発(GoldmannandSchmidt)1960年(昭和35年)トラベクロトミーの報告(Smith,Burian)1968年(昭和43年)トラベクレクトミーの報告(Cairns)*TetsuyaYamamoto:海谷眼科〔別刷請求先〕山本哲也:〒430-0903浜松市中区助信町20-40海谷眼科0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(47)1411表2全国7地区共同疫学調査(1991年公表)での緑内障有病率有病率(%)緑内障計3.56原発開放隅角緑内障0.58低眼圧緑内障2.04原発閉塞隅角緑内障0.34続発緑内障0.48先天緑内障0.02絶対緑内障0.10高眼圧症1.37総計4.93低眼圧緑内障は正常眼圧緑内障と同義.(文献3より引用)-図1乳頭出血乳頭の1時方向に乳頭出血を認める.この出血がきわめて興味深い事実を提供することがわかったのは1969年以降のことである.=表3原発閉塞隅角病の用語法の基となったISGEO分類(2002年)Primaryangleclosure(PAC)の分類(1)Primaryangleclosuresuspect虹彩周辺部と後部線維柱帯の機能的閉塞が起こりえる眼(疫学研究では隅角の270°以上で後部線維柱帯が視認できない状態と定義されることが多い)(2)Primaryangleclosure(PAC)閉塞可能な隅角をもち,かつ,周辺虹彩前癒着,眼圧上昇,(急性発作後のような(筆者追記))虹彩の変形,Glaukom-.ecken,線維柱帯の高度色素沈着など虹彩周辺部による線維柱帯閉塞の特徴を有する眼.加えて,緑内障性視神経症のない眼(3)Primaryangleclosureglaucoma(PACG)緑内障性視神経症を有するPAC眼(文献5より筆者が翻訳)図2UBMで観察した機能的隅角閉塞(1995年頃)水晶体と瞳孔近傍虹彩の接触,虹彩裏面の前方への弯曲,虹彩最周辺部に隅角閉塞のないこと,などが読影できる.表4主要緑内障薬の国内承認年timololcarteololisopropylunoprostonelatanoprostdorzolamidebrinzolamidetravoprostta.uprostbimatoprostXalacomDuotravCosoptbrimonidineAzorgaTapcomripasudilMikelunaomidenepagAibetaAilamide19811984199419991999200220072008200920102010201020122012201420142016201820192020イタリックは配合薬.索が始まることになる.プロスタグランジンCFC2aのカルボキシル基をイソプロピルエステルに変えることで眼圧下降の効率が上がることが判明し,これを基本骨格とする各種製剤が合成され,最良薬物として選択されたものがラタノプロストである.のちに開発されたトラボプロストやビマトプロストも初期開発の候補薬物であったとされているが,当初は候補から落とされたということも知られている.タフルプロストは後日,国内で独自に開発されている.炭酸脱水酵素阻害薬は内服での眼圧下降が知られた直後のC1950年代から,点眼薬としての応用が可能かどうかの研究が始まっている.しかし,1987年まではその努力は実を結ばなかった.ただその間の研究の積み重ねにより,その効果不十分の理由として,薬物の毛様体への移行と炭酸脱水酵素の阻害作用のC2点が不十分なことが原因であることが次第に明らかになっていた.ドルゾラミドはこのC2点を克服して開発された薬物であり,数年を経てブリンゾラミドが続くことになる.ここ半世紀の薬物開発の歴史のなかで特記すべきこととして日本国内での開発品目が,イソプロピルウノプロストン,リパスジル,オミデネパグとC3種あることがあげられる.企業による開発の側面が大きいとはいえ,いずれも新規カテゴリーの眼圧下降薬であることが注目される.なかでもリパスジルはCROCK阻害薬に分類される薬物であり,谷原秀信と本庄恵(京都大学)が基礎的な研究で果たした役割はきわめて大きい.今後の新薬開発にもつながる産学連携のモデルでもある.2010年以降は臨床的には配合薬の占める割合の高まったことが目立っている.この傾向は今後も続くものと思われるが,より大きな変革としてはドラッグデリバリーシステムの開発による薬物投与法の進歩をあげたい.前房内注入,結膜円蓋部固定,涙点プラグ型などさまざまな投与法が考案されており,近い将来日本においても使用可能となるものと推定される.C2.レーザーこのC50年間で各種レーザーが緑内障眼に応用され,実用化されてきた.開放隅角緑内障に対する隅角線維柱帯のレーザー照射はC1973年にCKrasnovがCQスイッチルビーレーザーで線維柱帯に穿孔を起こすことを試みたことに始まる.この試みは創傷治癒機転によりごく一時的な効果しかないことがすぐに明らかになった.その後C1979年,Wiseはアルゴンレーザーを用いて現在レーザー線維柱帯形成術(lasertrabeculoplasty:LTP)とよばれる方法で眼圧下降の得られることを報告した.国内では強膜岬にレーザー照射し眼圧下降の得られることが白土城照(東京大学)によりC1980年に報告されたのが初めである.その後,1995年頃より選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertrabeculoplasty:SLT)とよばれる半波長CNd:YAGレーザーを用いる術式が行われるようになった.閉塞隅角緑内障に対するアルゴンレーザー虹彩切開術の人眼での成功はC1973年のCBeckmanであるが,短期間で再閉塞することが課題とされた.1981年CAbrahamはレーザー虹彩切開術用レンズを考案し,アルゴンレーザー虹彩切開術はこのころから実用化されていく.国内での報告はC1982年の白土城照(東京大学)が最初である.1983年にはCFankhauserによりCNd:YAGレーザー虹彩切開術が報告された.C3.手術トラベクレクトミーはC1968年にCCairnsにより報告されて以降,国内に導入されたがC1985年頃までは長期成績は不良であった.1984年CHeuerはC5-フルオロウラシル結膜下注射を術後に繰り返すことで手術成績の大幅な改善の得られることを報告し,世界的にこの術式が普及した.5-フルオロウラシルには頻回の結膜下投与の必要性と難治性の角膜上皮障害の問題点があった.現在主流となっているマイトマイシンCCの緑内障手術の応用はC1981年の陳振武(台湾)が始まりであるが,発表当時はほとんど注目されていなかった.北澤克明(岐阜大学)は,筆者の基礎研究結果(1990年)などを参考とし,マイトマイシンCCを科学的検証を経て使用開始し1991年にその有用性を報告した.マイトマイシンCC併用手術はその後急速に世界に広まることになる.2000年代以降はその長期的な成績(眼圧,視機能)の良好なことが,特有の合併症とともに認められている.1416あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021(52)図3AhmedGlaucomaValve手術後(現代)前房内にインプラント本体につながるチューブを認める.VFI(%)100805年6040200667686(歳)RATEOFPROGRESSION:-1.4±0.8%/YEAR(95%CONFIDENCE)SLOPESIGNIFICANTATP<1%図4視野計内蔵ソフトウェアによる視野予測(2012年頃)グローバルインデックス(視野指数)のひとつであるCVisualFieldIndex(VFI)を基にしたC5年後の予測がされている.進行速度は-1.4±0.8%/年で有意の進行あり(p<0.01)と計算結果が表示されている.外の病的所見をとらえにくいという点を補うものとして,隅角全周の写真撮影をする装置も近年実用化されている.C5.その他Posner-Schlossman症候群あるいは類似の急激な眼圧上昇を起こす疾患の一部で,病因にウィルス感染が関与することがいわれている.近年,ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)の手法でサイトメガロウイルス,ヘルペスウィルスなどが前房水から検査可能となり,緑内障の病因検索ならびに治療に役立っている.CIV緑内障管理の進歩1.眼圧下降治療の意義の確立緑内障管理の基本事項に関するこのC50年間でもっとも重要な知見は,各種の眼圧下降治療が眼圧を下降させるだけでなく真に緑内障性視神経症の進行抑制に役立つことが証明されたことだと考える.こう書くと,そんなこともわからないのに“治療”していたのという方がいらっしゃるかと思うが,真実である.現在の緑内障治療の正当性の根拠とされる研究,換言すると眼圧下降治療の有用性を示すエビデンスレベルの高いとされる研究はいくつかの多施設共同試験(CollaborativeNormal-Ten-sionCGlaucomaCStudy,CAdvancedCGlaucomaCInterven-tionCStudy,CCollaborativeCInitialCGlaucomaCTreatmentCStudy,COcularCHypertensionCTreatmentCStudy,CEarlyCManifestCGlaucomaCTrial,CUnitedCKingdomCGlaucomaCTreatmentStdyなど)であるが,そのうちのいくつかがC1990年代に米国で開始されている.そしてそうなったのは,1987年に“JAMA”誌に掲載された「緑内障治療には視機能保持の理論的な根拠がない」趣旨の論考6)に対する反論の根拠作成の意図があったとされている.つまりC20世紀最終盤までは眼圧下降治療は視野に好影響を与える十分な根拠なしに行われていたことになる.ただし,このことに関して先人の名誉のために追記すると,1980年代までの緑内障研究者が眼圧下降と視野保持効果について関心をもっていなかったわけではない.Sha.erLectureを基としたCGrantの論文7)や高眼圧症の視野異常出現を論じた初期の諸研究などは,眼圧下降が視野保持や緑内障発症阻止に有効なことを明確に示している.こうした先人たちの眼圧下降の緑内障性視神経症への好影響のエビデンスを求める努力は実を結び,その成果は緑内障診療の羅針盤として関連学術団体によりまとめられ,種々の名称の診療ガイドラインとして発行されて,現在ではそれに基づく緑内障管理が推奨されている.C2.AI診断2014.2015年頃から人工知能(arti.cialCintelligence:AI)を緑内障診断(視神経,乳頭など)に応用した研究が急増している.現時点では一定の機械学習をさせると眼科医あるいは緑内障専門医と同程度の診断能力を得させることは十分に可能との報告が多い.CV日本緑内障学会の設立と発展学術と診療の両面において,日本緑内障学会(JapanCGlaucomaSociety)の果たす役割は今日非常に大きい.診療面では,緑内障診療ガイドラインを学会主導で作成し,また数年ごとにアップデートしてきた.学術面では,多治見スタディ,濾過胞感染共同研究をはじめとする数々の共同研究を行ってきた.日本緑内障学会は1990年に創設されたが,その前の二つの組織の発展的な解消により生まれた.一つはC1970.1990年にかけておもに地方で開催された日本緑内障研究会である.日本緑内障研究会は須田經宇(熊本大学)の「大学教室間,学閥の垣根を一切取り払い,緑内障という眼病のすべての側面について情報を交換し,かつ徹底的に討論しあう」との哲学に基づき開始されたもので,夏季に,涼しい,しかも安い会場にC2泊C3日ほど泊まり込んで行うという独特のスタイルが国内緑内障研究者の深い交流の原点となった.もう一つが,日本臨床眼科学会に伴って行われていた緑内障グループディスカッションであり,1961.1989年まで行われてきた.日本緑内障学会発足直後のC1990年C9月C1.2日の第C1回学術集会は東郁郎(大阪医科大学)の主催であった(55)あたらしい眼科Vol.38,No.12,2021C1419-