●連載116監修=安川力髙橋寛二96糖尿病黄斑浮腫:増殖糖尿病網膜症の引地泰一ひきち眼科治療選択のポイント増殖糖尿病網膜症(PDR)では糖尿病黄斑浮腫(DME)を併発する頻度が高くなる.中心窩を含むCDMEには抗CVEGF療法が第一選択であるものの,VEGFの抑制は線維血管増殖膜の線維化を促し,網膜への牽引を増強させるため,牽引性網膜.離や硝子体出血の発生,悪化に留意を要する.汎網膜光凝固と抗VEGF療法1970年代に行われたCDiabeticRetinopathyCStudy以降,汎網膜光凝固(panretinalCphotocoagulation:PRP)が増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticCretinopa-thy:PDR)に対する標準的治療となった.とくにCPDRのなかでも,①乳頭外新生血管,②乳頭新生血管,③重度の新生血管(視神経乳頭からC1乳頭径大内の新生血管でC1/3~1/4乳頭面積以上のものや,乳頭外新生血管で少なくともC1/2乳頭面積以上のもの),④硝子体出血または網膜前出血のうち三つを有するもの,をハイリスクPDRと定義し,ハイリスクCPDRに対しては可及的速やかにCPRPを行うべきとしている1).CDiabeticCRetinopathyCClinicalCResearchCNetwork(DRCR.net)ProtocolCS2)では,PDRに対するラニビズマブを用いた抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法(日本では適用外使用)とPRPの治療成績が比較検討された.治療C2年後では,ラニビズマブ群の視力改善がCPRP群と比べ良好であり,抗CVEGF療法がCPRPの代替治療になる可能性が示されたものの,治療をC5年間継続した症例の検討3)では,両群間の視力成績に違いは認められなかった.PRPは周辺視野の感度低下が問題となるが,治療C2年目では抗VEGF群と比べ周辺視野の感度低下が認められたが,治療C5年目では差は認められなかった.また,抗VEGF療法は中断後に著しい視機能低下を招く症例が多く4),PDRに対する抗CVEGF療法の評価にはさらなる検討が待たれる.糖尿病黄斑浮腫に対する治療中心窩を含む糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)には抗CVEGF療法が第一選択の治療法図1軽度硝子体出血を伴う増殖糖尿病網膜症軽度硝子体出血(Ca)と中心窩周囲に軽度螢光漏出を認め(Cb,c),中心窩にわずかな浮腫(Cd)と血管アーケードと黄斑間に後部硝子体.離(PVD)を認める.トリアムシノロンアセトニドをCTenon.下注射し,汎網膜光凝固を開始.PVD進行により硝子体出血が増強し(Ce),硝子体手術を行い,網膜症は鎮静化した(Cf).(71)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C2030910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2黄斑浮腫を伴う増殖糖尿病網膜症初診時(Ca~d),網膜無灌流領域が広がり,視神経乳頭や血管アーケードに網膜新生血管を認め,網膜.胞を伴う黄斑浮腫のため,視力は(0.4)であった.アフリベルセプト硝子体内注射(導入期C3回+必要に応じて)と汎網膜光凝固を施行.繰り返す硝子体出血に対し硝子体手術を施行.網膜症は鎮静化し,視力は(1.0)を維持している(Ce).である.PDRではCDMEを併発する患者の割合が高くなる.DRCR.netCProtocolCS2,3)では,DMEを伴うCPDRも対象に含まれており,DMEに対しては両群ともに,治療開始時と必要に応じてラニビズマブが投与された.5年間治療を継続したCDMEを伴うCPDRに対するラニビズマブ群の年間投与回数(中央値)は,1年目がC9回,2年目4.5回,3年目4.5回,4年目5回,5年目4回であった.一方,PRP群でのCDMEに対するラニビズマブ投与回数はC6回,3回,0.5回,0回,0回であった.ラニビズマブ群とCPRP群のC5年目の視力改善は治療開始時(両群とも小数視力C0.4~0.5)と比べC2.5文字,4.6文字であった.抗CVEGF薬は線維血管増殖膜の線維化を促し,網膜への牽引を増強させるため,牽引性網膜.離や硝子体出血の発生や悪化,網膜血管収縮による網膜虚血の進行に留意を要する5).DRCR.netCProtocolCS3)のラニビズマブ群において,5年間で網膜.離が生じたのはC6%(12/191),ほとんどが牽引性網膜.離で(83%,10/12),硝子体出血の発生はC48%(91/191)であった.5年間に硝子体手術を施行したのはC21%(11/191)であった.おわりに抗CVEGF療法とCPRPのCPDRに対する長期治療成績に明らかな差がないことから,当面,わが国におけるPDR治療は,網膜症の鎮静化にCPRPを第一選択とし,網膜症の状況に応じて硝子体手術を選択することになるものと思われる.PRP施行中にCDMEの発生や悪化により視機能が低下することがあり,あらかじめトリアムC204あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022シノロンアセトニドをCTenon.下注射することで,DMEの発生予防や治療効果が期待できる.DMEを伴うCPDRには抗CVEGF療法の併用を考慮するが,視神経乳頭からアーケード血管に線維血管増殖膜を認めるようなハイリスクCPDRでは,抗CVEGF薬投与後に中心窩に迫る牽引性網膜.離の発生が危惧されるため,投与には慎重を期す必要がある.黄斑部網膜への硝子体牽引を認めるCDMEや網膜前膜を伴うCDMEは硝子体手術の適応となる.PDRに伴うCDME治療は,眼底所見に応じた治療戦略が求められる.文献1)DiabeticRetinopathyStudyResearchGroup:Photocoagu-lationtreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Clini-calCapplicationCofCDiabeticRetinopathyCStudy(DRS)C.ndings,DRSReportNumber8.OphthalmologyC88:583-600,C19812)GrossCJG,CGlassmanCAR,CJampolCLMCetal;WritingCCom-mitteefortheDiabeticRetinopathyClinicalResearchNet-work:Panretinalphotocoagulationvsintravitreousranibi-zumabCforCproliferativeCdiabeticretinopathy:aCrandomizedclinicaltrial.JAMAC314:2137-2146,C20153)GrossJG,GlassmanAR,LluDetal:Five-yearoutcomesofpanretinalphotocoagulationvsintravitreouranibizumabforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CACrandomizedCclini-caltrial.JAMAOphthalmololC136:1138-1148,C20184)ObeidCA,CSuCD,CPatelCSNCetal:OutcomesCofCeyesClostCtoCfollow-upCwithCproliferativeCdiabeticCretinopathyCthatCreceivedCpanretinalCphotocoagulationCversusCintravitrealCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactor.COphthalmologyC126:407-413,C20195)ArevaloCJF,CMaiaCM,CFlynnCHWCJrCetal:TractionalCreti-nalCdetachmentCfollowingCintravitrealbevacizumab(Avas-tin)inpatientswithsevereproliferativediabeticretinopa-thy.BrJOphthalmolC92:213-216,C2008(72)