‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

基礎研究コラム:老化と加齢黄斑変性

2021年9月30日 木曜日

老化と加齢黄斑変性老化とは老化とは,細胞が分裂を停止し,増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされることです.老化細胞は分裂を停止し細胞死誘導経路に抵抗性になるだけでなく,炎症性,蛋白質分解性などの生物活性を有する一連の因子・老化関連分泌表現型(senescence-associatedsecretoryCphenotype:SASP)を分泌して組織の機能を障害します.SASPは癌抑制や損傷治癒の促進など生体にとって有益な作用が確認されている一方で,状況によっては慢性炎症を惹起し,逆に癌などのさまざまな加齢性疾患の発症を促進する負の作用もあります.レトロトランスポゾンの起源は太古の感染ウイルスであり,自身のCDNA配列から転写されたCRNA配列を逆転写反応でCcomplementaryDNA(cDNA)にコピーし,このコピーをゲノムの別の場所に挿入することで転移し,遺伝子上を動き回ることができる遺伝子といわれています.これまで,逆転写されたけれども遺伝子上に挿入されなかったCcDNAは,すぐに分解されてしまうと考えられていました.近年,レトロトランスポゾンの一つであるCLINE-1RNAから逆転写されたCLINE-1cDNAが蓄積し,老化・SASPの誘導に関与していること,逆転写酵素阻害薬を用いることでCSASPの誘導を抑制できることが報告され,ホットトピックスとなっています1).これまでも自ら逆転写酵素をもたない非レトロウイルスがホストの逆転写酵素を使い細胞内でCcDNAを作製できること,mRNAも細胞内で同様に逆転写酵素を使いcDNAを作製できることが報告され,逆転写されたCcDNAが細胞内に蓄積し,なんらかの病態にかかわっている可能性が推測されていました.セントラルドグマとは,DNAがmRNAに転写され,翻訳を介して蛋白質が生成されるという遺伝情報の伝達経路を示した概念です.遺伝子上に挿入されなかったレトロトランスポゾンのCcDNAはすぐに分解されるゴミのようなものと考えられていたため,新しい遺伝情報の流れを示す大きな発見となりました.老化と加齢黄斑変性加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)は,眼の老化によって起こる病気の代表格です.AMDの病型の一つである萎縮型CAMDは,網膜の中心部で感度の一番高い黄斑に変性が生じ,視力障害が起こる病気です.視界の中心に症状が出るため,生活に不便が生じ,就労福田慎一筑波大学医学医療系眼科が困難になるなど,社会的損失が非常に大きい疾患ですが,現在有効な治療法はありません.上記の老化と非常に似たメカニズムで,別のレトロトランスポゾンの一種であるCAluRNAが萎縮型CAMD患者の網膜色素上皮細胞内に蓄積し,生体内に存在する逆転写酵素を用いて逆転写され,一本鎖のCAlucDNAが生成され,網膜色素上皮細胞死を誘導することが明らかとなりました(図1)2,3).今後の展望興味深いことに,大規模臨床データ解析においても逆転写酵素阻害薬の使用が萎縮型CAMDのリスクを低下させることが明らかとなり3),逆転写を阻害することが老化自体や萎縮型CAMDなどの加齢性疾患の予防や治療につながるかどうかが今後注目されます.文献1)DeCeccoM,ItoT,PetrashenAPetal:L1drivesIFNinsenescentcellsandpromotesage-associatedin.ammation.NatureC566:73-78,C20192)KerurCN,CFukudaCS,CBanerjeeCDCetal:cGASCdrivesCnoncanonical-in.ammasomeCactivationCinCage-relatedCmaculardegeneration.NatMedC24:50-61,C20183)FukudaS,VarshneyA,FowlerBetal:Cytoplasmicsyn-thesisCofCendogenousCAluCcomplementaryCDNACviaCreverseCtranscriptionCandCimplicationsCinCage-relatedCmacularCdegeneration.ProcNatlAcadSciUSAC118:e2022751118,C2021C(97)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10790910-1810/21/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:220.DONFLの成因(研究編)

2021年9月30日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載220220DONFLの成因(研究編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにDissociatedCopticCnerveC.berClayerCappearance(DONFL)は,2001年にCTadayoniら1)によって報告された眼底所見で,検眼鏡的には黄斑部周囲の神経線維に刷毛で掃いたような弓状の色調変化が多発し(図1),OCTで黄斑部周囲に網膜内層のまだら状の陥凹をきたすことを特徴としている(図2).DONFLは硝子体手術時に内境界膜.離を施行しなかった場合には通常みられないため,発症に内境界膜.離が関与していることは確実である.DONFLは硝子体手術のC1~3カ月後に生じてくることが多く,その後変化が持続する症例や,やや不鮮明になる症例がみられ,通常,視機能にはあまり影響はないとされている2).DONFLの成因については過去に種々の推測がなされているが,未だ不明な点が多い.C●DONFLの成因に関する従来の説内境界膜.離による網膜内層への直接外傷が原因とする説3),内境界膜.離に伴い神経線維束を束ねる機能をもつCMuller細胞が損傷され,神経線維束に亀裂が入るとする説1),神経線維層の再構築が生じているとする説4),Muller細胞の傷害とその修復過程に起因するとする説5)などが提唱されている.C●DONFLとアノイキスDONFLは術後一定期間が経過した後に生じてくることから,内境界膜.離による網膜への直接的な傷害の可能性は低く,内境界膜によって惹起された網膜組織のアポトーシスの可能性がある.アノイキスは接着性細胞が引き.がされて足場を失ったときに生じるアポトーシスである6).アノイキス関連蛋白であるCbA3/A1クリスタリンやCEカドヘリンが神経節細胞で発現していることが報告されており7,8),筆者らはCDONFLが,内境界膜.離によって惹起された網膜神経節細胞におけるアノイキスである可能性を報告した9).比較的新しくできた神経節細胞はCEカドヘリンを発現してアノイキスを生じ(95)C0910-1810/21/\100/頁/JCOPY図1黄斑円孔に対する硝子体手術後に生じたDONFLの眼底所見(a:術前,b:術後)検眼鏡的には,黄斑部周囲の神経線維に刷毛で掃いたような弓状の色調変化が多発する(図2黄斑円孔に対する硝子体手術後に生じたDONFLのOCT所見(a:術前,b:術後)黄斑部周囲に網膜内層(とくに神経節細胞層)のまだらな陥凹を認める().(文献C9より引用)るのに対して,もともと中心窩周囲に存在していた古い神経節細胞はCEカドヘリンを発現しないので,アノイキスを生じにくく,その結果としてまだらな網膜内層の変化が生じるのではないかと考えられる.文献1)TadayoniCR,CPaquesCM,CMassinCPCetal:DissociatedCopticCnerve.berlayerappearanceofthefundusafteridiopathicepiretinalCmembraneCremoval.COphthalmologyC108:2279-2283,C20012)MitamuraCY,CSuzukiCT,CKinoshitaCTCetal:OpticalCcoher-encetomographic.ndingsofdissociatedopticnerve.berlayerCappearance.CAmCJCOphthalmolC137:1155-1156,C20043)RunkleCAP,CSrivastavaCSK,CYuanCACetal:FactorsCassoci-atedCwithCdevelopmentCofCdissociatedCopticCnerveC.berClayerCappearanceCinCtheCpioneerCintraoperativeCopticalCcoherenceCtomographyCstudy.CRetinaC38(Suppl1):CS103-S109,C20184)KimYJ,LeeKS,JoeSGetal:IncidenceandquantitativeanalysisCofCdissociatedCopticCnerveC.berClayerCappear-ance:reallossofretinalnerve.berlayer?EurJOphthal-molC28:317-323,C20185)HisatomiCT,CTachibanaCT,CNotomiCSCetal:IncompleteCrepairCofCretinalCstructureCafterCvitrectomyCwithCinternalClimitingmembranepeeling.RetinaC37:1523-1528,C20176)GrossmannJ:MolecularCmechanismsCof“detachment-inducedapoptosis-Anoikis”.ApoptosisC7:247-260,C20027)ZiglerCJSCJr,CSinhaD:bA3/A1Crystallin:moreCthanCaClensprotein.ProgRetinEyeCResC44:62-85,C20158)OblanderCSA,CEnsslen-CraigCSE,CLongoCFMCetal:E-cad-herinCpromotesCretinalCganglionCcellCneuriteCoutgrowthCinCaCproteinCtyrosineCphosphatase-mu-dependentCmanner.CMolCellNeurosci34:481-492,C20079)IkedaT,NakamuraK,SatoTetal:Involvementofanoi-kisindissociatedopticnerve.berlayerappearance.IntJMolSci22:1724,C2021あたらしい眼科Vol.38,No.9,20211077).より引用)C9(文献

抗VEGF治療:Pachychoroidと抗VEGF治療

2021年9月30日 木曜日

●連載111監修=安川力髙橋寛二91.Pachychoroidと抗VEGF治療寺尾信宏琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座近年の話題として“pachychoroid”という概念が注目されている.一部の典型加齢黄斑変性やポリープ状脈絡膜血管症はCpachychoroidが原因で発症すると考えられ,従来の滲出型加齢黄斑変性とは病態が異なると考えられている.本稿ではおもにCpachychoroidから発生した脈絡膜新生血管に対する抗CVEGF療法について概説する.PachychoroidとはPachychoroidとは脈絡膜肥厚,脈絡膜血管拡張(pachyvessel),脈絡膜血管透過性亢進などの特徴的な所見を含む概念である.Pachychoroidが原因で二次的に脈絡膜毛細血管板や網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)の障害,脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)の発生をきたす疾患群はCpachychoroidCspectrumdisease(PSD)と総称され,pachychoroidpigmentepitheliopathy,中心性漿液性脈絡網膜症,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroi-dalvasculopathy:PCV),pachychoroidneovasculopa-thy(PNV),peripapillaryCpachychoroidCsyndromeがあげられる.本稿では,抗CVEGF療法が適応となるPNVおよびCPCVについて解説する.CPNVとPCVPNVはC2015年にCPangらによって名付けられた図1PNVに対するアフリベルセプト治療例a:眼底写真では黄斑部に漿液性網膜.離を認める.ドルーゼンは認めない.Cb:OCT(水平断)では肥厚した脈絡膜(.)およびCpachyvessel(*)を認め,中心窩にCRPEの不整隆起と漿液性網膜.離を認める.Cc:OCTangiographyではCRPEの不整隆起に一致したCNVを認める.Cd:治療後C3カ月後のCOCT(水平断)では漿液性網膜.離は消失している.脈絡膜厚は減少しているが(.),pachyvessel(*)は残存している.pachychoroidの特徴を有するtype1CNVである1).PNVはドルーゼンなどの従来の加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)に特徴的な所見は認めず,同じCCNVを有する滲出型CAMDとは区別して考えるべき疾患とされている.日本人におけるCPNVの頻度や滲出型CAMDとの相違について比較した研究では,PNVは滲出型CAMDの約C1/4に認められ,発症年齢や遺伝背景が異なることが報告されている2).PCVはインドシアニングリーン蛍光眼底造影により描出される異常血管網と,その先端に生じるポリープ状病巣を特徴とする.PSDにおけるCPCVは,PNVにおけるCCNVの先端にポリープ状病巣が生じることでCPCVに至ると考えられている.そのためCPCVをCPNVに含めるか,PNVとは別の疾患と考えるべきなのかはまだ明確にされておらず,今後の議論が必要である.PachychoroidからCPNV,さらにはCPCV至る詳細な機序については十分に解明されていない.現在推測されているCNV発症機序は,脈絡膜肥厚,とくに(93)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10750910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2PCVに対するアフリベルセプト治療例a:眼底写真では複数の橙赤色隆起性病変および漿液性網膜.離を認める.ドルーゼンは認めない.Cb:OCT(矢状断)ではポリープ状病巣に一致したCRPEの急峻な隆起および漿液性網膜.離を認める.脈絡膜は肥厚し(.),pachyvessel(*)を認める.Cc:インドシアニングリーン蛍光眼底造影では網目状の異常血管網とその末端に複数のポリープ状病巣を認める.Cd:治療後C3カ月のCOCT(矢状断)では漿液性網膜.離は消失している.脈絡膜厚は減少している(.)が,pachyvessel(*)は残存している.pachyvesselにより脈絡膜内層が菲薄化して虚血が生じ,それに加えCpachyvesselによるCBruch膜やCRPEへの直接的な圧迫に伴う障害が影響していると考えられている.これらCCNV発症機序はおもに画像所見から得られた知見であるが,分子レベルにおいても眼内での前房水CVEGF濃度は滲出型CAMDと比較してCPNVは有意に低いことが報告されており3),滲出型CAMDとは異なる発症機序が想定されている.これらの結果は,PNVにおける抗CVEGF治療に対する反応も滲出型CAMDとは異なる可能性を示唆している.CPNVに対する抗VEGF治療(図1,2)PNVに対する抗CVEGF治療の報告は少なく,コンセンサスが得られている治療方針はない.PNV治療においては,CNVだけでなく,その原因であるCpachycho-roidもマネージメントすることが重要である.光線力学的療法やアフリベルセプト硝子体内注射は,同じ抗VEGF薬であるラニビズマブの硝子体内注射と比較すると有意に脈絡膜厚を減少させると報告されており4),PNVに対する抗CVEGF療法においてはアフリベルセプトがより効果的である可能性がある.PNV症例に対してラニビズマブおよびアフリベルセプト硝子体内注射をC3カ月連続で行い比較検討した報告では,アフリベルセプト群は治療後C3カ月の時点での滲出性変化の消退率は有意に高く,中心窩脈絡膜厚も有意に減少していた5).また,アフリベルセプトによるCtreatandextendで治療されたCPNVと滲出型CAMD(type1C-NV)のC2年間の治療成績を比較した報告では,PNVはC1076あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021治療回数が有意に少なく,さらにCPNVのなかでポリープ状病巣を伴う症例はさらに治療回数が少ないという結果であった6).おわりにPachychoroidが提唱されて以来,PSDの研究が盛んに行われ,新しい知見が次々と報告されている.今後,PNVを滲出型CAMDとは異なる独立疾患として判別する診断基準が作成され,病態実態に即した治療方針の作成が望まれる.文献1)PangCCE,CFreundKB:PachychoroidCneovasculopathy.CRetina35:1-9,C20152)MiyakeM,OotoS,YamashiroKetal:Pachychoroidneo-vasculopathyCandCage-relatedCmacularCdegeneration.CSciCRepC5:16204,C20153)TeraoCN,CKoizumiCH,CKojimaCKCetal:DistinctCaqueousChumourCcytokineCpro.lesCofCpatientsCwithCpachychoroidCneovasculopathyCandCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.SciRepC8:10520,C20184)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Subfovealchoroi-dalCthicknessCduringCa.ibercepttTherapyCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:twelve-monthCresults.COphthalmology123:617-624,C20165)JungCBJ,CKimCJY,CLeeCJHCetal:IntravitrealCa.iberceptCandCranibizumabCforCpachychoroidCneovasculopathy.CSciCRepC9:2055,C20196)MatsumotoCH,CHiroeCT,CMorimotoCMCetal:E.cacyCofCtreat-and-extendCregimenCwithCa.iberceptCforCpachycho-roidCneovasculopathyCandCtypeC1CneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.CJpnCJCOphthalmolC62:144-150,C2018(94)

緑内障:OCTによる篩状板観察

2021年9月30日 木曜日

●連載255監修=山本哲也福地健郎255.OCTによる篩状板観察澤田有国立病院機構あきた病院緑内障における網膜神経節細胞の軸索障害は,視神経乳頭の奥にある篩状板で生じる.緑内障眼では篩状板が変形し,その中を通過する軸索が障害され,対応する部分の視野が障害される.OCTを用いて,篩状板の後弯や部分欠損など,緑内障に特徴的な篩状板の変形を観察することができる.●はじめに緑内障眼では網膜神経節細胞の軸索が障害され,対応する部分の視野障害が生じる.緑内障における軸索障害は,視神経乳頭の奥にある篩状板で起こることがわかっている.緑内障眼では篩状板が変形し,その中を通過する軸索が障害される.緑内障眼における篩状板の変形については,これまで献眼や実験的緑内障眼を用いた組織学的な研究が行われていたが,症例数が少なく,データは限られていた.近年,光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)による生体での篩状板の観察が可能になり,多くの症例を用いた新しい知見が報告されるようになった.本稿では,OCTにより観察される緑内障眼の篩状板変形について述べる.C●緑内障眼では篩状板が変形し,その中を通過する軸索が障害される篩状板は眼球後壁の一部であり,視神経が眼球に接すCb図1篩状板の構造a:視神経乳頭の断面.篩状板は視神経乳頭の奥に位置する.Cb:篩状板は多数の孔の開いた「篩(ふるい)」のような構造をしている.網膜神経節細胞の軸索は,この孔の中を束になって通過し,視中枢へと向かう.Cc:篩状板の拡大像.篩状板の孔は幾重にも重なった層状の結合組織からなる.(文献C1より引用)る部分の強膜である.篩状板はほかの部分の強膜とは異なり,多数の孔のあいた「篩(ふるい)」のような構造をしている(図1).網膜神経節細胞の軸索は,視神経乳頭に達すると後方へ向かって方向を変え,篩状板の孔の中を通過して視中枢へと向かう.篩状板はその中を通過する軸索に対して構造的なサポートを提供し,また篩状板内の毛細血管を介して栄養・酸素の供給を行っている.正常眼では篩状板の孔は一定の大きさを保ち,軸索はその中をストレスを受けることなく通過する.緑内障眼では篩状板は変形し,篩状板組織は圧縮されて孔が狭くなる(図2).その中を通過する軸索は圧迫され,また血流障害を伴って機能不全に陥る.C●OCTによる篩状板の観察視神経乳頭のCOCTスキャンを行うと,篩状板の断面像を観察することができる.篩状板は視神経乳頭の奥にあるため,深部組織をより鮮明に描出するCSD-OCTの深部強調画像(enhanced-depthCimaging:EDI)法やSS-OCTを用いた観察が適している.篩状板は周囲組正常眼緑内障眼図2緑内障眼における篩状板の変形上段:視神経乳頭の断層像.緑内障眼では視神経乳頭は変形し,それに伴って篩状板も変形する.下段:電子顕微鏡による篩状板の拡大像.正常眼では篩状板の孔は一定の大きさを保つが,緑内障眼では篩状板は圧縮され,篩状板孔は狭くなる.(文献C2より引用)(91)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10730910-1810/21/\100/頁/JCOPY正常眼緑内障眼図3緑内障眼における篩状板の後弯篩状板前面深度は,両端のCBruch膜開口部(C.)を結んだ線()を基準として,篩状板へ降ろした垂線の長さとして表わされる.緑内障眼では正常眼と比較して篩状板は後弯し,前面深度は深くなる.織よりも輝度の高い板状の組織として観察され,その中の細い筋(すじ)状の構造が篩状板孔である.C●緑内障眼における篩状板の変形1.後弯(図3)緑内障眼では正常眼と比較して篩状板が後弯し,前面深度が深くなる.篩状板前面深度は,視神経乳頭のOCT断層面において,両端のCBruch膜開口部を結んだラインを基準線として,そこから篩状板へ降ろした垂線の長さとして測定される.緑内障眼における篩状板の後弯は,眼圧によって眼内から圧迫されることにより生じると考えられ,治療により眼圧が下降すると後弯は回復する.また,眼圧下降が持続して篩状板の後弯が回復した状態が長く続くと,視野進行速度が遅くなる.緑内障の治療において眼圧下降は視野進行の抑制に有効であることが示されているが,それは,降圧によって篩状板の変形が緩和され,その中を通過する軸索に対するストレスが軽減するためと考えられる.C2.部分欠損(図4)正常眼の篩状板前面は滑らかなCU字型,または中心がやや盛り上がったCW字型を示すが,緑内障眼のなかにはそのラインが途切れ,篩状板組織が部分的に欠損しているものがある.緑内障眼における篩状板部分欠損の頻度はC22~45%と報告され,通常C1眼にC1カ所,おもに視神経乳頭の耳下側にみられる.篩状板欠損を通過する軸索は構造上・血流上のサポートを失って脱落し,隣接する部分の網膜は菲薄化して対応する視野障害を生じる.緑内障眼では視神経乳頭出血と,それに対応する網膜神経線維層欠損がみられることがあるが3),乳頭出血図4篩状板部分欠損aの矢印の位置で視神経乳頭をスキャンすると,乳頭耳下側に篩状板部分欠損が観察される(Cb).篩状板欠損部に隣接して網膜神経線維層欠損がみられ(赤矢印)(b),それに対応して上方の視野欠損がみられる(Cc).が生じた場所には高頻度に篩状板部分欠損がみられることが報告されている.組織欠損した部分の篩状板内の微小血管が破城して乳頭出血となることが考えられ,これらの変化が一連の緑内障性組織障害により生じていることを示唆している.C●おわりに緑内障眼では篩状板が変形・変性することにより,その孔の中を通過する軸索が障害され,対応する部分の視野が障害される.今後,OCTを用いた篩状板の評価が個々の患者について可能となり,緑内障の診断や進行判定に用いられるようになることが期待される.文献1)QuigleyCHA,CAddicksCEM,CGreenCWRCetal:OpticCnerveCdamageinhumanglaucoma.II.Thesiteofinjuryandsus-ceptibilityCtoCdamage.CArchCOphthalmolC99:635-649,C19812)QuigleyHA,HohmanRM,AddicksEMetal:Morpholog-icCchangesCinCtheClaminaCcribrosaCcorrelatedCwithCneuralClossCinCopen-angleCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC95:673-691,C19833)SugiyamaK,TomitaG,KitazawaYetal:TheassociationofCopticCdiscChemorrhageCwithCretinalCnerveC.berClayerCdefectandperipapillaryatrophyinnormal-tensionglauco-ma.COphthalmologyC104:1926-1933,C19971074あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(92)

屈折矯正手術:低濃度アトロピン点眼の近視進行抑制効果

2021年9月30日 木曜日

監修=木下茂●連載256大橋裕一坪田一男256.低濃度アトロピン点眼の近視進行四倉絵里沙慶應義塾大学医学部眼科学教室抑制効果濃度の異なるアトロピン点眼薬をそれぞれ点眼し,屈折値,眼軸長変化量を検討した結果,濃度依存的に近視抑制効果は強くなるものの,副作用の出現頻度も高くなったり,点眼中止後に近視進行が加速したりしたため,現在ではC0.01~0.05%の低濃度アトロピン点眼薬が近視進行抑制に有効かつ安全であると考えられている.Caベース●はじめにライン4812162024(カ月)0.00アトロピン硫酸塩点眼薬(以下,アトロピン点眼薬)は,副交感神経活動を制御しているムスカリン受容体の拮抗薬であり,散瞳,調節麻痺作用などを有する.近視進行抑制のメカニズムについて,調節麻痺作用や脈絡膜の血流増加,強膜組織への眼軸長の伸展抑制作用などの屈折値変化量(D)-0.20-0.40-0.60-0.80-1.00-1.20可能性が報告されているが,詳しい作用機序は不明であ-1.40る.0.05%アトロピン群0.025%アトロピン群0.01%アトロピン群プラセボ→0.05%アトロピン群●ATOMstudy0.70b2006年に,1%アトロピン点眼薬群とプラセボ点眼群をC2年間追跡調査したCatropineCforCtheCtreatmentCofCmyopia(ATOM)study1が報告された1).6~12歳の近視(屈折値:-1.00~-6.00D)児童をC200例ずつ,1%アトロピン群とプラセボ群に無作為に分けた.2年間眼軸長伸長量(mm)0.600.500.400.300.200.10の経過観察中,1%アトロピン群では,不快感やグレア,近見障害などによりC34例(17%)は脱落となったが,1%アトロピン群における屈折値変化量は-0.28Dに対し,プラセボ群は-1.20Dで(p<0.001),1%アトロピン点眼による近視抑制効果が明らかとなった.しかし,点眼中止後のC1年間に,プラセボ群で-0.38D近視が進行したのに対して,1%アトロピン群では-1.40Dと中止後の近視進行がより加速し,受容体のアップレギュレーションによるリバウンドを生じたと考えられている2).2012年に続報として報告されたCATOMStudy23)では,アトロピン点眼の濃度をC0.5%,0.1%,0.01%のC3種に分け,その有効性および安全性を比較検討した.6~12歳の近視(屈折値:≦-2.0D)児童C400名を,0.5%アトロピン群C161例,0.1%アトロピン群C155例,0.01%アトロピン群C84例に無作為に分け,3群におけるC2年間の近視進行程度を比較し,その後C1年間は点眼を中0.00ベース4812162024(カ月)ライン図10.05%,0.025%,0.01%アトロピン点眼群と,プラセボ→0.05%アトロピン点眼薬群の屈折値変化量と眼軸長伸長量(LAMPstudy)0.05%群で屈折値変化量(Ca),眼軸長伸長量(Cb)ともに,もっとも近視進行が抑制された.(文献C5より改変引用)止した.その結果,濃度依存性に調節麻痺作用や散瞳作用を認めたが,自覚症状として発現したのはごくわずかであった.近視進行はアトロピンの濃度依存性に抑制されており,0.5%群,0.1%群,0.01%群ではC2年間の進行はそれぞれ-0.30D,-0.38D,-0.49Dであった.しかし,中止後C1年間における近視進行程度は,0.5%群,0.1%群,0.01%群では,-0.87D,-0.68D,0.28Dで,濃度の高いほうがリバウンドを生じやすかった(p<0.001)4).(89)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10710910-1810/21/\100/頁/JCOPYab0.0-0.20.8眼軸長伸長量(mm)屈折値変化量(D)0.6-0.80.4-1.0-1.20.2-1.4-1.60.0-1.8-2.0ベースライン6121824(カ月)-0.2ベース612ライン1824(カ月)図2日本人近視児童における0.01%アトロピン点眼群とプラセボ群の屈折値変化量と眼軸長伸長量ベースラインと比較し,介入開始からC2年後の屈折値変化量,眼軸長伸長量がC0.01%群で有意に抑制された.●LAMPstudyATOMCStudy2ではプラセボ群を設定していなかったことからその点を克服し,low-concentrationCatro-pineCformyopiaCprogression(LAMP)study(phase2)がC2019年に発表された5).4~12歳の近視(屈折値:≦-1.0D)の子どもC383名を,0.05%,0.025%,0.01%のアトロピン点眼群とプラセボ群のC4群に無作為に割り当て,それぞれ点眼,さらに次のC1年間で初年度プラセボ群だったものにC0.05%アトロピン点眼薬を点眼し,2年間における調節麻痺下屈折値変化量と眼軸長伸長量を検討した.その結果,0.05%群で調節麻痺下屈折値変化量(図1a),眼軸長伸長量(図1b)ともにもっとも近視進行が抑制され,他の濃度とも有意差を認めた.また,いずれの濃度でも日常生活に影響を及ぼすような,かつ重篤な副作用を認めず,0.05%アトロピン点眼薬が安全でもっとも近視進行を抑制することを報告した.C●最近の知見日本でも,6~12歳の近視(屈折値:-1.00~-6.00D)児童C171名を,0.01%アトロピン点眼群とプラセボ群に無作為に割り付け,2年間における調節麻痺下屈折値変化量と眼軸長伸長量を検討した多施設共同研究結果が2021年に報告された6).その結果,0.01%群C85例とプラセボ群C86例の近視進行程度は,プラセボ群-1.48Dと比較して,0.01%群では-1.26Dの進行程度であり,C1072あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(文献C6より改変引用)0.01%群で進行の程度が有意に小さかった(図2a).また,眼軸長ではプラセボ群でC0.77Cmmの伸長を認めたのに対し,0.01%群ではC0.63mmの伸長であり(図2b),日本人近視児童においても屈折値,眼軸長ともに0.01%アトロピン点眼の近視進行抑制効果が明らかとなった.文献1)ChuaCWH,CBalakrishnanCV,CChanCYHCetal:AtropineCforCtheCtreatmentCofCchildhoodCmyopia.COphthalmologyC113:C2285-2291,C20062)TongL,HuangXL,KohALetal:Atropineforthetreat-mentCofCchildhoodmyopia:e.ectConCmyopiaCprogressionCafterCcessationCofCatropine.COphthalmology116:572-579,C20093)ChiaCA,CChuaCWH,CCheungCYBCetal:AtropineCforCtheCtreatmentCofCchildhoodmyopia:safetyCandCe.cacyCofC0.5%,C0.1%,CandC0.01%doses(AtropineCforCtheCtreatmentofmyopia2)C.OphthalmologyC119:347-354,C20124)ChiaCA,CChuaCWH,CWenCLCetal:AtropineCforCtheCtreat-mentCofCchildhoodmyopia:changesCafterCstoppingCatro-pineC0.01%,C0.1%CandC0.5%.CAmCJCOphthalmolC157:451-457,Ce1,C20145)YamJC,LiFF,ZhangXetal:Two-yearclinicaltrialoftheClow-concentrationCatropineCforCmyopiaCprogression(LAMP)study:Phase2report.OphthalmologyC127:910-919,C20206)HiedaO,HiraokaT,FujikadoTetal:E.cacyandsafetyof0.01%atropineforpreventionofchildhoodmyopiaina2-yearCrandomizedCplacebo-controlledCstudy.CJpnCJCOph-thalmolC65:315-325,C2021(90)

眼内レンズ:ディスポーザブル・トーリックゲージ/トーリックマーカー

2021年9月30日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋418.ディスポーザブル・トーリックゲージ/大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科トーリックマーカートーリック眼内レンズで手術開始時に強主経線(固定軸)をマークするための器具であるトーリックゲージ(角度ゲージ)/トーリックマーカー(軸マーカー)の,ディポーザブル製品を開発した.本品の使用により,トーリック眼内レンズ導入のハードルが低くなり,また同日に複数の患者に対してトーリック眼内レンズを使用する際にも対応が容易になる.金属製のものより目盛りの視認性は劣るが,顕微鏡下での操作に問題はなく,強主経線(固定軸)のマニュアルマーキングに有用である.●はじめに術前から存在する乱視を白内障手術時に補正する手段として,トーリック眼内レンズが広く使用されるようになっている.トーリック眼内レンズの性能を正しく引き出すためには,乱視軸をしっかり合わせることが重要であり,その前提として強主経線(固定軸)のマーキングがきちんと行われる必要がある.強主経線マーキングには,マニュアルで行う方法と,デジタルデバイスを使用する方法とがある.高額な投資が必要となるデジタルデバイスは未だそれほど広く普及していないことから,多くの施設ではマニュアル法にてマーキングを行っていると思われる.●マニュアルマーキングトーリックゲージ(角度ゲージ)とトーリックマーカー(軸マーカー)を用い,角膜輪部に手動でマーキングする方法である.従来,金属製のゲージとマーカーが使用されてきたが,高価であるので,トーリック眼内レンズをどれほどの頻度で使用するかわらない時点での購入に二の足を踏む施設が少なくなかった.また,トー図1KAIトーリックゲージ.KAIトーリックマーカー(型番TOGM)の全体像(87)0910-1810/21/\100/頁/JCOPYリック眼内レンズの使用が増え,複数のゲージ/マーカーセットが必要となった際に,何セット分を用意すればよいか,そしてその予算額は,という問題があった.そこで,ディスポーザブルとして使用できるトーリックゲージ/マーカーを作製することとした.カイ・インダストリーズ(株)の協力を得て,KAIトーリックゲージ/KAIトーリックマーカー(型番TOGM)として製品化することができた(図1,2).●使用方法手術室に入室する前に,座位の状態で,角膜輪部に印をつける(図3).顔が傾かないよう真っ直ぐにしてもらい,6時,あるいは3時-9時を目安に,基準点(参照軸)をマークする.基準点マーク用の器具は多種あり,それぞれ一長一短があるが,筆者らは27ゲージの鋭針を使用し,6時の角膜輪部に傷をつける方法を採用している.次に,手術開始時に強主経線(固定軸)マーキングを行う.手術ベッドの上で開瞼器を掛けたのち,入室前に図2トーリックゲージ(角度ゲージ)とトーリックマーカー(軸マーカー)の先端部両者を組み合わせて使用する.あたらしい眼科Vol.38,No.9,20211069図3基準点(参照軸)のマーク図4トーリックゲージの設置手術室に入る前に,座位の状態手術台の上で開瞼器を掛けたので角膜輪部に印をつける.ち,入室前にマークした基準点に合わせてトーリックゲージを輪部に押し当てる.マークした基準点に合わせて,トーリックゲージを輪部に押し当てる(図4).6時にマークされた基準点を使用するのであれば,トーリックゲージの90°(=270°)方向を基準点マークに合わせるようにする.ディポーザブル・トーリックゲージの目盛りは,金属ゲージの目盛りより見づらいが,顕微鏡下では5°ステップの印や角度の数字が問題なく視認可能である.インクを塗布したトーリックマーカーを,強主経線方向に合わせて輪部に押しつける(図5).これにより,180°離れた位置に2本の印がマークされる(図6).手術を開始する.水晶体を除去したのち,.内を粘弾性物質で満たし,トーリック眼内レンズを挿入.フック図7トーリック眼内レンズの挿入眼内レンズを.内に挿入したのち,フックで方向を調整する.図8粘弾性物質の除去粘弾性物質を除去しながら,トーリック眼内レンズのマーク方向と,角膜輪部の強主経線(固定軸)マーキングの方向を一致させる.図5トーリックマーカーの押図6強主経線(固定軸)のマークし当て180°離れた位置の角膜輪部に,2インクを塗布したトーリック本の印がしっかりマークされた.マーカーを,強主経線方向に合わせて輪部に押しつける.図9手術終了時前房圧を高め,トーリック眼内レンズの挿入方向を最終確認する.でトーリック眼内レンズの方向を調整する(図7).粘弾性物質を除去しながら,トーリック眼内レンズの軸と,角膜輪部のマーキング方向を一致させる(図8).前房圧を高め,トーリック眼内レンズの軸方向を最終確認して,手術終了とする(図9).●おわりにディスポーザブルのトーリックゲージとトーリックマーカーの登場により,トーリック眼内レンズ使用のハードルが低くなった.また同日複数症例への対応も容易になった.トーリック眼内レンズの利用が広がり,術後成績の向上に寄与することを期待したい.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズの処方とフォロー4  ハードコンタクトレンズの修正-異物感・充血など(その1)

2021年9月30日 木曜日

・・提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズユーザーの満足度向上をめざすコンタクトレンズの処方とフォロー小玉裕司小玉眼科医院4.ハードコンタクトレンズの修正―異物感・充血など(その1)―■はじめに前回のセミナーではハードコンタクトレンズ(HCL)に生じるくもりへの修正を含めた対処法について解説した.今回はHCLによる異物感や充血などへの対処法について解説するが,原因が前回のセミナーと重複するものも多い.■HCLの汚れによる異物感レンズ表面のとくに周辺部に汚れがこびりついている場合(図1),レンズの表面だけではなく内面の汚れもチェックしておかねばならない(図2).レンズ内面の汚れは異物感のみならず角膜上皮障害も引き起こすので注意が必要である.レンズ内面は研磨することができないので,修正可能なレンズであれば,研磨剤入りの強力なクリーナーで擦り洗いをする.修正不可能なレンズの場合は前回のセミナーを参考にしてほしい.■HCLの破損による異物感HCLの表面のキズは発見しやすいが,ベベル部位のキズや破損はわかりにくい(図3).ベベル部位にキズや破損があっても,ユーザーに自覚がなく,角結膜障害も生じていない場合は様子をみてもよいが,レンズが破損しており割れやすくなっていることを伝え,異物感が出たらすぐにレンズをはずして来院するように指示しておく.ベベル部位の破損により角結膜に上皮障害を認めるようなら(図4),修正可能なレンズであれば,サイズカットをして新しくベベル・エッジを作り直すという方法もあるが,古いレンズであれば新しいレンズに変更するほうが無難である.■HCLのベベル・エッジ形状による異物感と充血(その1)前回のセミナーでも説明したようにベベル幅が広すぎてエッジの浮き上がりが大きすぎると,ベベル部分に涙液が蓄えられてしまい,レンズの表面は乾燥して「ドライなくもり」(図5)を生じてしまう.また,レンズ周辺部位のドライアップによって,3時-9時ステイニングを生じる場合がある(図6).3時-9時ステイニングが強くなると,その周辺部の球結膜に充血を生じて異物感が強くなる.人工涙液などの点眼で対処する方法と,修正可能なレンズではベベル幅を狭くしエッジの浮き上がりを小さくする(図7)という対処法がある.また,レンズの機械的刺激による眼脂などの分泌物でレンズ表面が汚れて「ウェットなくもり」(図8)が生じることがある.レンズ装用当初は異物感による涙液過多でレンズの動きは大きい.しかし,次第に異物感によって瞬目が浅図1レンズ外面への汚れの付着レンズ表面に汚れがこびりついており,通常のクリーナーでは落ちないことがある.図2レンズ内面への汚れの付着CLチェッカーにて観察した写真であるが,スリットランプやルーペにても確認できる.図3ベベル部位の破損3時の位置に小さな破損が認められる.(85)あたらしい眼科Vol.38,No.9,202110670910-1810/21/\100/頁/JCOPY図4ベベル部位の破損による角結膜上皮図5ドライなくもり図6ドライアップによる3時.9時ステイ障害HCL表面が息を吹きかけたようにくもる.ニング3時半の位置に破損が認められ,角膜中央ベベル幅が広すぎてエッジの浮き上がりが大ベベル部位に涙液が貯留してレンズ周辺部部より少し外側に角膜上皮障害,また結膜きすぎるか,ドライアイによって生じる.の角膜がドライアップすることによって生にも軽度の上皮障害が認められる.じる.エッジリフト図8ウェットなくもりレンズの機械的刺激による分泌物で表面が汚れて生じる.図9レンズの機械的刺激によって生じた3時.9時ステイニングベベル幅が狭くてエッジの浮き上がりが小さすぎることで生じる.くなり,レンズ装用後しばらくするとレンズがくもってきて見にくくなる場合は,ベベル幅が狭すぎてエッジの浮き上がりが小さすぎることが多い.このような症例ではレンズの機械的刺激によって3時-9時ステイニング(図9)が認められ,異物感とともに周辺部の球結膜充血が顕著となってくる.修正可能なレンズであれば,研磨によってベベル幅を広くしエッジの浮き上がりを大きく図10ベベル・エッジの修正する(図10).ベベル幅を広くしてエッジの浮き上がりを大きくする.

写真:コンタクトレンズ不適切使用による緑膿菌性角膜炎

2021年9月30日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦448.コンタクトレンズ不適切使用による岡田陽福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科緑膿菌性角膜炎視覚機能再生外科学図1初診時前眼部所見耳下側角膜と周辺部強膜融解,角膜穿孔部への虹彩嵌頓,高度の毛様充血を認めた.図4前眼部光干渉断層撮影耳下側の角膜菲薄化と一部前房形成を認める.図3初診3カ月後の前眼部所見初診時に認めた角膜穿孔部を中心に,強角膜は菲薄化したまま瘢痕化した.(83)あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021C10650910-1810/21/\100/頁/JCOPY症例は56歳,男性.左眼の痛みと眼脂を自覚するも市販抗菌薬・鎮痛薬にて自宅で様子をみていた.症状出現10日目に前医を受診し,左眼角膜穿孔,前房蓄膿を認め,左眼細菌性角膜炎疑いにて当院に紹介受診となった.受診時の左眼には,角膜耳下側とその周辺の強角膜融解,角膜穿孔により虹彩が嵌頓し前房消失していた(図1,2).左眼視力は眼前手動弁(矯正不能),眼圧は左眼3CmmHgと低眼圧を認めた.眼脂塗抹検鏡からは細菌ならびに真菌は検出されず,白血球のみを認めた.1日使い捨てコンタクトレンズ(contactlens:CL)を毎日交換することなく連続装用していた状況と眼所見から,まず緑膿菌などによる角膜感染症を疑い,レボフロキサシンC1.5%(1時間ごと),トブラマイシン(6回/日),オフロキサシン眼軟膏(眠前C1回/日),セフトリアキソン点滴(2g/日)で治療を開始した.初診時に提出した眼脂培養からCPseudomonasCaerugi-nosaが検出されたため,点滴をセフタジジム(1g/日)に変更したところ,下痢などの副作用が出現したため,8日目に終了し,レボフロキサシン錠(500Cmg)内服へ変更した.しだいに角膜穿孔部も閉鎖と上皮化が得られ前房が形成されてきたため,レボフロキサシンC1.5%,トブラマイシン,オフロキサシン眼軟膏を漸減していった.3カ月目には感染所見はないが,高度の角膜混濁と血管侵入,強角膜の感染部の菲薄化を一部認めた(図3,4).今後希望があれば全層,表層角膜移植を組み合わせた手術加療を行う予定である.近年行われた感染性角膜炎全国サーベイランス1)によると,30歳未満の患者の約C9割がCCL装用者であり,CL関連角膜感染症は緑膿菌を中心とした細菌性に加え,アカントアメーバによる感染症も増加している.さらに1日使い捨てCCLの使用期限を規定通り守っていたのは46.2%と半分以下で,CL装用方法を遵守していたのはわずかC18.9%であった.CL購入先は眼科施設に併設する販売店はC49.1%で,過半数が眼科医の診察を受けずに購入していた.近年は若年層を中心としてカラーCCLの購入者も増加しており,度数が入っていない場合は精密医療機器外であるため,一度も眼科に受診することなくCCLを装用し,正しい装用方法を理解していない若年者も増加している.緑膿菌による細菌性角膜炎は,CL障害や外傷,乾性角結膜炎,水疱性角膜症といった先行する角膜上皮障害が誘因となることが多く,とくにCCL連続装用は緑膿菌感染の大きなリスクといわれている2).初期の角膜病変は小円形浸潤病巣で,周囲の角膜実質にはすりガラス状混濁とよばれる強い浮腫性混濁がみられ,また強い結膜浮腫を伴った結膜充血がみられる.これらの所見はグラム陰性桿菌が産生するプロテアーゼなどが原因と考えられており,グラム陰性桿菌感染症の特徴的所見である.緑膿菌角膜炎の病変部辺縁には針状もしくはブラシ状の混濁がみられる場合があり,また感染初期は軽度浸潤巣を示すのみだが,急速に進行し数日以内に角膜病変部の実質融解が進み輪状膿瘍を伴った潰瘍を形成し,融解した角膜実質が眼脂様となり潰瘍周囲に付着する.膿瘍は好中球浸潤であり,それが輪状を呈するのは角膜病巣中央部内への好中球の浸潤を緑膿菌エラスターゼが抑制するためと考えられている.前房炎症が強く前房蓄膿を早期に伴う.治療は,抗菌点眼薬は軽症例に対してはC1剤,中等症以上は抗菌スペクトルの異なるC2剤を併用して開始するとされており,緑膿菌などグラム陰性桿菌に対してはフルオロキノロン系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬との併用療法が推奨される.抗菌薬の全身投与は中等症以上で行われ,内服投与による治療効果は期待できないとされている4).本症例では穿孔部位が前方移動した虹彩嵌頓と角結膜の上皮化により,前房深度が回復したと考えられる.文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C20112)木下茂(編):角膜疾患─外来でこう診てこう治せ.改訂第C2版,メジカルビュー社,20153)薄井紀夫,後藤浩:眼感染症診療マニュアル.眼科臨床エキスパート,医学書院,20164)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌117:467-509,C2013

総説:緑内障と視野-視野に魅せられた37年

2021年9月30日 木曜日

あたらしい眼科38(9):1051~1063,2021c第31回日本緑内障学会須田記念講演緑内障と視野─視野に魅せられた37年─GlaucomaandVisualFieldTesting松本長太*はじめに緑内障は,視神経に構造的変化ならびに対応する視野に機能的障害を伴う慢性進行性疾患である.わが国における40歳以上の緑内障の有病率は約5.0%であり1),中途失明の原因疾患の第1位となっている2).緑内障診療における視野検査の役割は,スクリーニング,確定診断,進行判定,qualityofvision(QOV)評価など多岐にわたる.近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)をはじめとする画像診断の大幅な進歩により,緑内障の診療様式は大きく変貌をとげた.しかし,緑内障診療の最終目的が視機能の維持,改善であることは不変であり,機能評価の中核を担っている視野検査の重要性は非常に大きい.緑内障性視野障害は,緑内障を示唆する構造的異常が存在しつつも,通常の自動静的視野検査(StandardAutomatedPerimetry:SAP)で視野異常を認めない前視野緑内障(preperimetricglaucoma:PPG)から始まり,特徴的な緑内障性視野障害の進行様式を呈しながら数十年をかけて重篤な視機能障害へと進行する.現時点では,いったん障害された視野障害を改善させる方法は確立されておらず,いかに早期に緑内障を発見し治療方針を決定するかがもっとも重要な治療戦略となる.しかし,早期緑内障におけるSAPの異常検出感度は,構造的変化に比べ大幅に劣り3~5),さらに緑内障患者の8割以上は自覚症状がないことも知られている.そのため,緑内障患者にいかに自身の視野異常を明確に自覚させるかも緑内障治療におけるアドヒアランス向上において重要なテーマとなる.ここでは,筆者が近畿大学医学部眼科において37年間たずさわってきた視野に関する諸研究を通し,1)より精密に視野異常を検出する,2)より明確に視野異常を自覚させる,という二つのテーマについて述べる.Iより精密に視野異常を検出する1.測定点密度視野検査における測定点密度は,静的視野検査の精度にかかわるもっとも大きな要因となる.1984年に世界初の完全静的自動視野計Octopus201視野計が筆者らの施設に導入された当時は,Goldmann視野計による動的視野測定が視野検査の主流であった.検査時間が長く,中心30°内視野を6°間隔のグリッドで測定する静的視野測定は,熟練した視能訓練士が測定したGoldmann視野計による詳細な全視野の動的測定と比較して,まだ決して満足できるものではなかった.しかし,Goldma-nn視野計ではどうしても評価困難であったのが,固視点近傍の中心10°内視野であった.筆者らはカスタムで測定点を任意に設定可能なプログラムであるSARGONを用い,固視点近傍を2°間隔ならびに1°間隔で測定するプログラムを作成し検討を進めてきた6).そして,Goldmann視野計による動的視野検査では十分とらえることができない固視点近傍の感度変化が,1°間隔の静的測定で非常に明確にとらえられていることを示した.静的視野検査の精度が測定点密度に依存する問題点に対し,Octopus201ではSpeciallyAdaptiveProgram(SAPRO)とよばれる,異常点を見つけると自動的にその周囲に測定点を追加し,最終的には0.2°間隔まで高密*ChotaMatsumoto:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕松本長太:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(69)1051眼底写真(上下反転)図1SAPROで測定された血管暗点G1プログラムにて,1点のみ5dBのわずかな感度低下を認めており,この部位をSAPROにて0.2°間隔まで細かく測定を行うと,眼底と対応した血管暗点をとらえていることがわかる.度測定が可能な研究的アルゴリズムが開発された7).しかし,このような高密度の視野測定をする場合,わずかな頭位回旋も視野測定に影響を及ぼす.Octopus201では,頭位アライメントを毎回光学的に補正する特殊なミラーにてこの問題に対応していた.山尾らは,ヘッドマウント型視野計imoを用い頭位回旋と眼球回旋,視野回旋を詳細に調べている8).据え置き型の視野計において中心10°内で2°の精度を保つためには,測定時の頭位回旋は50°以内,0.2℃の精度を保つためには,4°以内にコントロールする必要がある.図1は,健常者をSAPROで測定した1例である.G1プログラムにて,1点のみ5dBというわずかな感度低下を認めており,この部位をSAPROにて0.2°間隔まで細かく測定を行うと,血管暗点をとらえていることがわかる9).このように,静的視野検査は測定点密度を上げることで正常眼底の構造物も感度低下として描出する精度をもっていることがわかった.しかし,緑内障性視野障害の全貌をこのような高密度(文献9より引用)視野検査でとらえることは,検査時間の問題もあり,現実的には困難である.そこで筆者らは,0.5°間隔で視野の経線上における感度測定を緑内障患者に行った.図2は63歳の女性,原発開放隅角緑内障の1例で,経線上を0.5°間隔の高密度視野測定を行っている.一般的なSAPでは検出できない複雑な感度低下部位が高密度視野測定では多数検出されていることがわかる.図3はこの症例において同部位を1°間隔,2°間隔,6°間隔で測定した場合,視野異常がどのように検出されるかを示したものである.2°間隔では固視点近傍のもっとも深い感度低下をすでに検出できておらず,さらに6°間隔では異常をまったく検出できてないことがわかる.多数例での検討の結果,中心視野ほど視野障害のクラスタは小さくなり,10°内では1.5°間隔以下での測定が望ましいことが明らかとなった10).筆者らは,ヘッドマウント型視野計imoにおいて,一般的に用いられてきた24-2のプログラムの10°内に,緑内障性視野障害の異常発生頻度,クラスタをもとに新図20.5°間隔の高密度視野測定による原発開放隅角緑内障の症例(63歳,女性)眼底の経線上を0.5°間隔で高密度視野測定を行っている.線が同年齢の正常視野プロファイル,線が本症例の同部位の視野プロファイル,が最大感度低下部位(Max,loss)である.一般的なSAPでは検出できていない複雑な感度低下部位が,眼底所見に対応した部位に多数検出されていることがわかる.たに24点の測定点を追加した24Plusを考案した.図4は66歳の男性,原発開放隅角緑内障の症例で,上段がHumphrey30-2,下段がimo24Plusで測定した結果である.6°間隔グリッドの24-2ではとらえていない固視点近傍の下方の感度低下を24Plusではとらえていることがわかる.中心視野への測定点の追加に関してはいくつかの考え方があるが,Humphrey視野計の24-2Cでは早期緑内障性視野障害の検出を目的として,選別された10点の測定点が追加されている11).一方,imo24P-lusでは早期緑内障の障害部位の検出のみならず,後期まで異常が出にくい測定点を残すことにより,後期緑内障における残余機能の評価に対応し,さらに網膜疾患や神経眼科疾患の診断も考慮し,測定点配置の対称性を維持している.もちろん測定点を追加し,同じアルゴリズムを用いていれば,検査時間の増加は避けることができない.imoでは検査時間を短縮するために隣接する測定点の情報を収束条件に加味したAIZE,ならびにその高(文献10より引用)速版のAIZERapid,前回の測定結果を参照することでさらに大幅に検査時間を短縮したAIZE-EX,AIZERapd-EXを導入することで,逆に検査時間の大幅な短縮を行っている.2.視標サイズ次に測定における視標サイズの影響について考えてみる.自動視野計では一般的に視標サイズIII(視角0.431°)が用いられている.筆者らはOctopus201視野計のSARGONプログラムを用い固視点近傍の中心10°以内視野において視標サイズの影響について検討した結果,視神経炎,視交叉症候群,視索障害,緑内障など網膜神経線維レベルに障害がある疾患では,視標サイズを小さくするとより異常が顕著に検出されることを示した.一方,網膜疾患ではそのような傾向は認められなかった12).これは視野検査における視標サイズが網膜神経節細胞の分布密度,受容野特性に大きくかかわっている図3図2の症例における測定点間隔の影響図2の症例において同部位を1°間隔,2°間隔,6°間隔で測定した場合,視野異常がどのように検出されるかを示したものである.線が同年齢の正常視野プロファイル,線が本症例の0.5°間隔で測定した高密度視野のプロファイル,線が各測定点間隔で測定した場合の視野プロファイル,が最大感度低下部位(Max.loss)である.2°間隔ですでに固視点近傍のもっとも深い感度低下をすでに検出できておらず,さらに6°間隔では異常をまったく検出できてないことがわかる.(文献10より引用)可能性を示唆していると考える.実際にサイズIIIで視野測定を行った場合,中心10°内では多くの網膜神経節細胞の受容野を刺激することになり,障害に対する視野の余剰性が高くなっている可能性が高い.さらに筆者らは,この機能と構造の相関性を中心10°内視野において検討した.その結果,一般的なサイズIIIを用いた視野検査では,構造的変化との相関は二次関数にもっとも相関したのに対し,サイズIや各種機能選択的検査では,中心10°内においてもより直線的な相関を呈することがわかった13).これらは1回の視標呈示における網膜神経節細胞の数を減らすことが,より構造的変化との相関を直線化する裏付けになると考えている.しかし,視標は,固視変動などに伴う閾値変動や,屈折,中間透光体の混濁による視標のボケの影響を受けやすいという問題がある14).3.閾値変動と固視一般的に視野検査において感度の高い部位ではその変動は少ないが,感度の低い部位では変動は大きくなる.さらに暗点のエッジ部位では眼球運動に伴う大きな閾値変動が発生する可能性がある.Gardinerらは感度が19dBより下がってくると結果の変動が大きくなり,進行評価がむずかしくなることを報告している15).また,SITAStandard,SITAFASTともに20dB以下になると感度の変動が非常に大きくなることも報告もされている16).筆者らはこの感度低下領域における閾値変動の要因の一つとして,固視の影響を受けやすい感度低下部位の境界部位の影響について,高密度視野測定を行い詳細に検討した.0.5°間隔で測定された連続する5点の閾値の標準偏差をSpatialSDと定義し,視野の局所的な凹凸さの指標とした.その結果,視野の感度が低いことで変動が増加することは従来の報告通りであった.しかし,Spatial-SDで示される暗点のエッジなど,視野の局所的な凹凸がより閾値変動に大きく関与していることが明らかとなった17).このことから,閾値変動の観点からも,とくに障害部図4imo24Plusで測定された原発開放隅角緑内障の症例(66歳,男性)上段がHumphrey30-2,下段がimo24Plusで測定した結果である.6°間隔グリッドの30-2ではとらえていない固視点近傍の下方の感度低下を,imo24Plusでは2°間隔の24点を追加することでとらえていることがわかる.位では視野検査中の固視管理が非常に重要であることが推定される.現在の自動視野計における固視監視は,Humphrey視野計に代表される計測中の固視状態を記録するのみのpassive.xationmonitorと,検査中に固視制御を行うactive.xationcontrolがある.とくに眼底像,角膜反射,瞳孔像を用いたeyetracking法は視野の変動抑制にも重要な技術と考える.ただ,現在のeyetracking技術では対応できない眼球運動に固視微動がある.固視微動はmicrosaccade,tremor,driftの成分からなり神経活動のリフレッシュ効果に必要とされ,被検者の注意も関与していると考えられている.1回の200msecの視標呈示中も固視微動のため視標が網膜面を動くことを考えると,小視標を用いた閾値検査において同じ部位を再度測定することのむずかしさが理解できる.そのためFri.enらは,ある一定の範囲で小視標が見えたかどうかの確率を用いて視野異常を評価するrarebitperimetryを,また可児らは眼底対応小視標視野計として,小視標による閾上刺激を推奨している18,19).4.機能選択的視野一方,早期緑内障の検出を目的に,特殊な検査条件下で比較的数の少ない網膜神経節細胞を選択的に測定することで,視野の余剰性を排除し異常検出感度を向上させる手法に機能選択的視野検査がある.機能選択的視野検査にはK-Celll系を評価するshortwavelengthauto-matedperimetry(SWAP),M-Cell系をおもに評価するfrequencydoublingtechnology(FDT),Flickerde.nedformperimetry(FDF),フリッカ視野などがある.筆者らは,視標コントラストを一定とし,時間周波数のみを変えてcriticalfusionfrequency(CFF)を視野で評価するフリッカ視野測定計を検討してきた.そして,一個のlightemittingdiode(LED)をXY方向に物理的に移動させることで仮想空間に視標を提示し視野測定を行うOctopus123を用い,自動フリッカ視野測定法を開発した20).そしてPPGにおいてフリッカ視野は有意なareaunderthecurve(AUC)を確保していることを示した21).さらにCFFを指標としたフリッカ視野は,屈折や中間透光体の影響を非常に受けにくいという特性がある14,22).現在の視野検査において,屈折や中間透光体の影響を受けない検査はCFFによるフリッカ視野のみであり,スクリーニングなど厳密な屈折矯正や白内障の評価が困難な環境における視野検査への応用が期待される.現在,視標サイズIIIを用いたSAPにおける機能的障害と構造的障害は非直線的な関係にあり,とくに早期における視野の高い余剰性が問題となっている4,5).筆者らは,各種機能選択的検査と構造的変化の関係を中心10°内視野において検討した結果,一般的なサイズIIIを用いた視野検査では,構造的変化との相関は二次関数にもっとも相関したのに対し,各種機能選択的検査では,より直線的な相関を呈することを示した13).これらは機能選択的視野検査では1回の視標呈示において刺激される網膜神経節細胞の数が減少することにより構造的変化との相関がより直線化していると考えられる.5.両眼開放視野一般的な日常診療においてわれわれは片眼で視野検査を行っているが,日常では両眼開放で生活しており,片眼遮蔽での視野検査はいわゆる特殊な環境で機能を評価していることになる.教室の若山らは健常者を対象にさまざまな視野測定条件における両眼荷重について検討を行ってきた.Octopus201にスペースシノプトを組み込み両眼開放下での視野検査を行ったところ,視標サイズが小さいほど,また視野中心部より傍中心部で両眼荷重が大きいことを示した23).さらに検出閾値より解像度閾値においてより大きな両眼荷重が生じることも示した24).また,動的測定においては両眼開放では,視標サイズが小さいほど,また周辺視野ほど応答時間が短縮することを示した25).さらに,視野計のドーム内にランダムノイズを呈示して視野計測を行ったところ,背景が複雑なほど,視野周辺において両眼荷重が大きいことを示した26).一方,ヘッドマウント型視野計imoは,左右2系統の光学系を有し,視野計としては初めて両眼開放状態で左右独立に片眼の視野測定が可能となっている.被検者は両眼開放状態で,どちらの眼を検査されているかわからない状態で視野検査を行うことができる27).両眼開放状態での視野検査の利点としては,まず片眼遮蔽に伴う視野検査中のblackout28)の回避があげられる.片眼遮蔽下での検査はどうしても何かが覆いかぶさっている感覚が残った不自然な状態での視野検査となる.実際多くの被検者が両眼開放下での自然な環境での検査を好む傾向がある.両眼開放下での視野検査は,FDTで大きく問題となった遮蔽に伴う片眼順応によるsecondeyeの感度低下の回避にも有用と考えられる29).さらに両眼開放下での視野検査は,固視をより安定させる可能性も指摘されている30).さらに,両眼開放下では垂直成分のmicrosaccadeが有意に減少するという報告もある31).一方,臨床面では緑内障からは少し離れるが,片眼性の心因性,詐病の診断に非常に有用であることが報告されている32).過去の報告では,両眼開放下での単眼測定と片眼遮蔽下での通常の測定では,視野のglobalindexでは有意差がないことが示されている27).一方,教室の若山らは視野を局所的に観察すると,健常者では,両眼開放下は片眼遮蔽下に比べて背景光を入れるだけで,中心5°より外側にて感度上昇を認めることを報告した33).また,Kumagaiらは,緑内障眼の中心5°内4点において,両眼開放下では片眼遮蔽下に比べて,感度の良いほうの眼は感度上昇,感度の悪い方の眼は感度低下を認めたと報告している34).また若山らは,左右の緑内障眼を測定点ごとに対応させて評価すると,両眼とも正常部位は両眼開放下では片眼遮蔽下に比べて感度上昇を認め,左右感度差が大きい部位では感度低下を示したと報告している35).これらの結果が背景光によって生じているのか,融像に伴うbinocularsummation,binocularrivalryに関与しているのかは明らかではない.さらに,感度が20dB以下の障害部位では閾値変動が非常に大きいという評価上の問題点は避けられない.さらに片眼遮蔽がどのような方法で行われているかも結果に影響する可能性があり,一般的な日常診療でわれわれが行っている片眼遮蔽の方法にもかかわる問題ともつながってくる.しかし,これらの結果は,日常生活におけるQOV評価において,現在広く用いられている両眼開放視野を左右眼の感度のよい点を用いてシミュレーションするintegratedvisual.eld(IVF)法に関しても,症例によっては再考が必要になる可能性も示唆している.IIより明確に視野異常を自覚させる緑内障は病期が進行するまで自覚症状に乏しく,8割以上が無自覚であるともいわれている.もちろん視野にほとんど異常が出現していない初期では無自覚であるのは当然である.しかし,問題となるのは視野障害が相当量進行した段階でも緑内障患者は自分の視野異常に気づいていないことが多い点である.教室の奥山は,緑内障患者206人を調査したところ,視野異常を自覚している患者は,Goldmann視野計で少なくとも中心10°以内にI/4e以上の感度低下の存在を認めていることを報告している36).緑内障患者に自分の視野異常を確実に自覚させることは,スクリーニングによる疾患の早期発見のみならず,点眼指導や手術導入におけるアドヒアランスの向上,自動車運転をはじめさまざまなる社会的リスクの回避の面からもきわめて重要であると考えらる.ここでは,なぜ緑内障患者では自覚症状と視野検査の結果にこのような大きな乖離があるのか,そして視野異常を自身で自覚させるためのツールについて述べる.1.視野異常を自覚しない理由a.視野異常部位の見え方緑内障患者にとって視野異常部位は,視野検査のグレイスケール表示のように黒く見えているわけではない.限局的な視野障害が現れた段階では,まったく気づかないか,注意して意識しても視野障害部位に存在する物体が一部消失する程度の感覚が多い.さらに重度に求心性視野障害が進行しても,周辺のかすみ感としてのみ自覚されていることが多い37).b.両眼視日常生活では両眼開放で見ているため,左右の視野の重なりにより,多くの視野欠損部位は左右で補い合ってしまうことになる.教室の橋本らEstermanによる両眼開放視野でどのように緑内障性視野が進行していくかを調べた報告では,一般的は片眼視野の進行形式とは異なり,左右視野の重なりのない左右の耳側半月から視野狭窄が生じ,同じく左右の重なりがないMariotte盲点,そして身体障害者の視覚障害4級以上の障害でようやく固視点近傍に感度低下が及んでくることが示されている38).c.眼球運動,頭位われわれの視覚情報は固視点近傍がもっとも情報量が多い.さらに緑内障性視野障害は後期まで中心視野が残存する特徴を有する.われわれは衝動性眼球運動を中心とした高頻度の眼球運動で固視点近傍の情報を更新しており,たとえ周辺部に視野異常を有していても,そこを注視することで常に情報を更新している.緑内障患者では健常者に比べて,平均して多くの衝動性眼球運動を行っているとの報告もある39).緑内障患者は視野障害部位を補.し探索するために,無意識のうちに多くの衝動性眼球運動を行っているとも推測される.さらに,日常では,まず頭部を対象方向に向け,その後眼を動かす傾向があることも知られており40),たとえ視野が相当量障害されていても頭位を向けることでさらに広い範囲を補.することができる.d.補.現象われわれの視野では,片眼を遮蔽しても盲点が自覚されないように,周辺部の視野欠損はかなりの範囲にわたり中枢レベルで補.されている.この現象は古くから補.現象.lling-inphenomenonとして知られている41).補.現象は,後期の視野障害がかなり進行した患者でも認められ,緑内障性視野異常が自覚できない大きな要因となっている.e.視覚的注意,有効視野われわれの視覚は,注意が向けられている部位では,視線そのものを向けなくても感度上昇を認めるが,逆に固視点でなんらかのタスクを課すことで周辺視野の感度は逆に低下する.藤本らは,同一症例においてHum-phrey30-2と10-2で視野測定を行い,10°内視野の感度差を調べた.すると,同一部位でも10-2で測定した場合,感度が有意に高く測定されることを報告した42).すなわち,視野測定時に視標をランダムに提示する場合でも10°内という狭い範囲に提示すると,視覚的注意により感度が上昇する可能性を示している.しかし,逆に文字を読むなど,なんらかの作業をしているときの視野は有効視野とよばれ,通常より周辺部視野の感度が低下することが知られている.そのため日常生活では周辺の視野欠損にはなかなか気づきにくい要因となる.f.閾値と閾上刺激視野検査では検査視標が50%の確率で見える明るさで閾値を決定している.さらに検査自体が31.5asbという薄暗い環境で行われている.しかし,われわれの日常生活では視野検査とは異なり,閾上の非常に明るい世界で日常生活を過ごしており,視野検査の結果との乖離が生まれる要因となっている.g.アンサンブル知覚43)近年,われわれの視覚情報処理機構においてアンサンブル知覚とよばれる考え方が提唱されている.われわれ図5ClockchartClockchartでは検査視標として,10°(てんとう虫),15°(芋虫),20°(蝶々),25°(猫)のC4アイテムが配置されており,15°づつ時計のようにシートを回転させ,それぞれのアイテムが消えていないかを自己チェックする.が一度に処理できる物体の数には限界があり,瞬間的には個々の物体のほとんどは正確に把握できない.そのため周辺視野を含めた多くの情報を広い範囲でまとめて,統計的なアンサンブルとして情報処理を行っているとする考え方である.そしてこの統計学的要約情報は,複雑な光景から正確な視覚体験を得るための重要なメカニズムとして注目されている.この処理過程で周辺部の視野欠損情報が補.されている可能性があり,補.現象のひとつの理論モデルになりうる可能性もある.C2.視野異常を自己チェックするツールでは次に,緑内障患者自身に自己の視野異常を自覚させる手法について述べる.Ca.Whitenoise.eldcampimetryディスプレイ上にランダムノイズを提示し視野異常を自覚させる手法にCwhiteCnoiseC.eldcampimetryがある44,45).緑内障患者では,ランダムノイズ画面の中央を片眼で固視すると,自分の視野異常に一致した部位のちらつきが消失していることを自覚できる.これにより普(文献C46より引用)段は気づかなかった自身の視野異常を自覚することができる.近年デジタル放送への移行により,アナログテレビのCwhitenoiseが家庭で作成できなくなった.しかし,同様のランダムノイズは,コンピューターモニター上にも作成可能であり,インターネットを介した啓発活動が行われている.Cb.Clockchart46)CClockchartは,新聞紙面を用いた視野自己チェックシートとして開発された(図5).Clockchartでは多数の検査視標を同時に紙面に提示すると補.現象が生じるため,同時にC4個の視標を各象限に提示している.これは,ヒトが基本的に同時に識別可能な視標数はC4個以下といわれているためであり,過去の多点刺激タイプの視野計も,同時にC4個までの視標呈示となっている.そのうえで検査シートを回転させることにより,このC4個の検査視標で視野の各部位を評価可能となっている.検査視標として,10°(てんとう虫),15°(芋虫),20°(蝶々),C25°(猫)のC4アイテムが配置されており,15°ずつ時計のようにシートを回転させ,それぞれのアイテムが消え図6ClockchartbinoculareditionClockchartbinoculareditionはオリジナルのCClockchartをさらに簡略化し,両眼開放下で中心点を見ながらハンドルを回すように用紙を回転させ,10°(子ども),15°(自転車),20°(車),25°(信号)のC4アイテムが消えないかを自己チェックする.運転や日常生活に影響を及ぼす両眼開放下でも存在する重度の視野異常の存在を明確に自覚させることができる.ていないかを自己チェックする.さらに,中心C5°にはアムスラーチャートとその周りにひまわりの花びらが配置されており,黄斑病変を含めた固視点近傍の視野障害に対応している.Clockchartの感度はCAulhorn-Greve変法でステージC1(85%),ステージC2(93%)ステージ3以上(100%)となっている.2009年に全国で新聞広告にてC3日間CClockchartをC62,450,000枚配布した.インターネットベースでの調査で,広告を認知した人が約C1,472万人,実際に使用した人が約C758万人,異常を自覚した人がC49万人,病院を受診した人がC33万人,眼疾患と診断されたのがC7万人,緑内障と診断された人がC3万人であった.さらに,Clockchartの応用として運転免許更新時における視野異常の自己チェック用としてCClockCchartC(文献C47より引用)Cbinocularedition(ClockCchartBE)を作成した(図6)47).わが国における普通運転免許取得基準は,視力の条件として,両眼でC0.7以上,かつ,1眼でそれぞれC0.3以上が必要と規定されている.そしてC1眼の視力がC0.3に満たない者のみ視野検査が実施され,視力がよいほうの眼の視野が左右C150°以上必要とされている.視野検査は水平視野計で測定されているが,ほとんどの運転者が,自分の視野異常そのものを正確には自覚しておらず,なぜ危険なのかの認識が欠如しているのが現状である.ClockchartBEはオリジナルのCClockchartをさらに簡略化し,両眼開放下で中心の点を見ながらハンドルを回すように用紙を回転させ,10°(子供),15°(自転車),20°(車),25°(信号)のC4アイテムが消えないかをチェックしていく.非常に簡便な手法であるが,運転図7クアトロチェッカーの測定条件クアトロチェッカーはモニター画面にそれぞれ左右上下対称に常にC4個の視標を同時に呈示し,どれかC1個でも見えなかったら異常とする.事前に必ずC4個の視標が出ることを説明しておくことで,確実に自分の視野異常の存在を自覚することが可能となっている.測定に際してはC8パターンのC4点呈示で,計C32点の測定点をスクリーニングすることができる.検査視標には平均輝度を背景輝度に合わせたフリッカ光を用い,視標サイズは周辺ほど大きくなっている.や日常生活に支障をきたす両眼開放下でも存在する重度の視野異常の存在を明確に自覚させることができる.警察庁の高齢者講習において視野異常を自覚させるツールとしての応用が検討されている48,49).Cc.クアトロチェッカーさらに筆者らは,ディスプレイを見るだけで自分の視野異常の有無を簡便にスクリーニング可能なクアトロチェッカーとよばれる手法を開発した.これはモニター画面にそれぞれ左右上下対称に常にC4個の視標を同時に呈示し,どれかC1個でも見えなかったら異常とする単純な検査方法である.事前に必ずC4個の視標が出ることを説明しておくことで,確実に自分の視野異常の存在を自覚することが可能となっている.実際にはC8パターンの4点呈示で,計C32点の測定点をスクリーニングすることができる(図7,8).クアトロチェッカーの異常検出感度はC1期でC86%,2期でC92%,3期以降はC100%となっている.現在筆者らは,この手法をさらに発展させ,見えた視標を指のタッチで応答するCMulti-StimulusCVisionTesterの開発を進めており,日常生活におけるさまざまな場面での視野異常のスクリーニング,自動車免許更新時の視野異常チェックツールとしての応用を検討している50).CIIIまとめ緑内障と視野というテーマのもと,1)より精密に視野異常を検出する,2)より明確に視野異常を自覚させる,という二つの観点から,筆者らがC37年間取り組んできた緑内障視野研究を中心に述べた.自動視野計が登図8クアトロチェッカーを用いた視野異常の自覚上段がCHumphrey30-2,下段がクアトロチェッカーで測定した結果である.Humphrey30-2で検出されている上方の視野異常がクアトロチェッカーでも自覚されていることがわかる.場してからC40年以上が経過した今でも,緑内障の視機能評価の主役である視野検査には,その精度において未解決の問題が山積している.緑内障患者が自分の視野異常に気づきにくいという点は,日常生活において不必要な不安や不便さを感じることなく生活するための優れた視覚の余剰性ともいえる.しかし一方において,本来の視野進行を見逃し,重症化させてしまう大きな要因にもなりかねず,適切な自己セルフチェック法の普及は今後も非常に重要であると考える.視野測定法,解析技術の進歩,対応する画像診断技術の進歩により,今まで思いもよらなかった新たな研究課題も多数生まれている.これからも,多くの若い研究者に緑内障における機能評価の要となる視野研究に積極的に参加していただければ幸いである.謝辞:本講演を行うにあたり,長年にわたりご指導,ご協力いただきました近畿大学眼科学教室のすべての皆様方に深く感謝いたします.本稿は「緑内障と視野─視野に魅せられたC37年─」というタイトルで第C31回日本緑内障学会須田記念講演を行ったときの内容に基づいて執筆した.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20042)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20193)QuigleyCHA,CDunkelbergerCGR,CGreenWR:RetinalCgan-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumanCeyesCwithCglaucoma.CAmCJCOphthalmolC107:453-464,C19894)HarwerthCRS,CSmithCELC3rd,CChandlerM:ProgressiveCvisualC.eldCdefectsCfromCexperimentalglaucoma:mea-surementsCwithCwhiteCandCcoloredCstimuli.COptomCVisCSciC76:558-570,C19995)Garway-HeathCDF,CCaprioliCJ,CFitzkeCFWCetal:ScalingCtheChillCofvision:theCphysiologicalCrelationshipCbetweenClightsensitivityandganglioncellnumbers.InvestOphthal-molVisSciC41:1774-1782,C20006)松本長太,宇山令司,阪本博子ほか:Octopusによる中心視野についての研究方法および視神経炎への応用.眼紀C39:261-267,C19887)HaeberlinH,FankhauserF:Adaptiveprogramsforanal-ysisCofCtheCvisualC.eldCbyCautomaticCperimetry–basicCproblemsandsolutions.E.ortsorientedtowardsthereali-sationCofCtheCgeneralisedCspatiallyCadaptiveCOctopusCpro-gramSAPRO.DocOphthalmolC50:123-141,C19808)YamaoCS,CMatsumotoCC,CNomotoCHCetal:E.ectsCofCheadCtiltonvisual.eldtestingwithahead-mountedperimeterimo.PLoSOneC12:e0185240,C20179)松本長太:視野のみかた極早期視野障害.臨眼C64:1657-1663,C201010)NumataT,MatsumotoC,OkuyamaSetal:DetectabilityofCvisualC.eldCdefectsCinCglaucomaCwithChigh-resolutionCperimetry.JGlaucomaC25:847-853,C201611)PhuCJ,CKalloniatisM:AbilityCofC24-2CCandC24-2CgridsCtoCidentifycentralvisual.elddefectsandstructure-functionconcordanceCinCglaucomaCandCsuspects.CAmJOphthalmolC219:317-331,C202012)MatsumotoCC,CUyamaCK,COkuyamaCSCetal:SutdyCofCtheCin.uenceCofCtargetCsizeConCtheCpericentralCvisualC.eld.CInCPerimetryCUpdate1990/91(MillsCRP,CHeijCAeds)C,Cp153-159,Kugler,AmsterdamandNewYork,199113)EuraM,MatsumotoC,HashimotoSetal:TestconditionsinCmacularCvisualCfieldCtestingCinCglaucoma.CJCGlaucomaC26:1101-1106,C201714)高田園子:中間透光体の混濁が視野測定に与える影響.近畿大学医学雑誌27:165-177,C200215)GardinerSK,SwansonWH,GorenDetal:Assessmentofthereliabilityofstandardautomatedperimetryinregionsofglaucomatousdamage.OphthalmologyC121:1359-1369,C201416)SaundersLJ,RussellRA,CrabbDP:Measurementpreci-sionCinCaCseriesCofCvisualC.eldsCacquiredCbyCtheCstandardCandCfastCversionsCofCtheCSwedishCinteractiveCthresholdingalgorithm:analysisoflarge-scaledatafromclinics.JAMACOphthalmolC133:74-80,C201517)NumataCT,CMaddessCT,CMatsumotoCCCetal:ExploringCtest-retestCvariabilityCusingChigh-resolutionCperimetry.CTranslVisSciTechnolC6:8,C201718)FrisenL:New,CsensitiveCwindowConCabnormalCspatialvision:rarebitprobing.VisionResC42:1931-1939,C200219)NakataniCY,COhkuboCS,CHigashideCTCetal:DetectionCofCvisualC.eldCdefectsCinCpre-perimetricCglaucomaCusingCfun-dus-orientedCsmall-targetCperimetry.CJpnCJCOphthalmolC56:330-338,C201220)MatsumotoCC,CUyamaCK,COkuyamaCSCetal:AutomatedC.ickerCperimetryCusingCtheCOctopusC1-2-3.CInCPerimetryCUpdate1992/93(HeijlA)C,p435-440,Kugler,AmsterdamandNewYork,199321)MatsumotoCC,CTakadaCS,COkuyamaCSCetal:AutomatedC.ickerperimetryinglaucomausingOctopus311:acom-parativestudywiththeHumphreyMatrix.ActaOphthal-molScandC84:210-215,C200622)MatsumotoC,OkuyamaS,IwagakiAetal:Thein.uenceoftargetbluronperimetricthresholdvaluesinautomatedlight-sensitiveperimetryand.ickerperimetry.InPerime-tryUpdate1996/1997(MicieliAetal),p191-200,Kugler,Amsterdam/NewYork,199723)WakayamaA,MatsumotoC,OhmureKetal:PropertiesofCreceptiveC.eldConCbinocularCfusionCstimulationCinCtheCcentralCvisualC.eld.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC240:743-747,C200224)WakayamaCA,CMatsumotoCC,CShimomuraY:BinocularCsummationCofCdetectionCandCresolutionCthresholdsCinCtheCcentralCvisualC.eldCusingCparallel-lineCtargets.CInvestCOph-thalmolVisSciC46:2810-2815,C200525)WakayamaCA,CMatsumotoCC,COhmureCKCetal:In.uenceCofCtargetCsizeCandCeccentricityConCbinocularCsummationCofCreactionCtimeCinCkineticCperimetry.CVisionCResC51:174-178,C201126)WakayamaCA,CMatsumotoCC,COhmureCKCetal:In.uenceCofbackgroundcomplexityonvisualsensitivityandbinocu-larCsummationCusingCpatternsCwithCandCwithoutCnoise.CInvestOphthalmolVisSciC53:387-393,C201227)MatsumotoC,YamaoS,NomotoHetal:Visual.eldtest-ingCwithChead-mountedCperimeter‘imo’.PLoSCOneC11:Ce0161974,C201628)BolanowskiCSJCJr,CDotyRW:Perceptual“blankout”ofCmonocularChomogeneous.elds(Ganzfelder)isCpreventedCwithbinocularviewing.VisionResC27:967-982,C198729)AndersonAJ,JohnsonCA:E.ectofdichopticadaptationonCfrequency-doublingCperimetry.COptomCVisCSciC79:C88-92,C200230)HirasawaK,KobayashiK,ShibamotoAetal:Variabilityinmonocularandbinocular.xationduringstandardauto-matedperimetry.PLoSOneC13:e0207517,C201831)HermensCF,CWalkerR:WhatCdeterminesCtheCdirectionCofCmicrosaccades?JEyeMovRes3:1-20,C201032)GosekiCT,CIshikawaCH,CShojiN:BilateralCconcurrentCeyeCexaminationCwithCaChead-mountedCperimeterCforCdiagnos-ingCfunctionalCvisualCloss.CNeuroophthalmologyC40:281-285,C201633)WakayamaCA,CMatsumotoCC,CAyatoCYCetal:ComparisonCofCmonocularCsensitivitiesCmeasuredCwithCandCwithoutCocclusionCusingCtheChead-mountedCperimeterCimo.CPLoSCOneC14:e0210691,C201934)KumagaiCT,CShojiCT,CYoshikawaCYCetal:ComparisonCofCcentralCvisualCsensitivityCbetweenCmonocularCandCbinocu-larCtestingCinCadvancedCglaucomaCpatientsCusingCimoCperimetry.BrJOphthalmolC104:1258-1534,C202035)WakayamaA,NomotoH,ChibaYetal:E.ectofsensitiv-itydisparitybetweenthetwoeyesonpointwisemonocu-larCsensitivityCunderCbinocularCviewingCinCpatientsCwithCglaucoma.JGlaucomaC30:37-43,C202136)奥山幸子:GP再考C??緑内障のCQOV評価におけるCGPの位置づけ.日眼会誌(抄録集)C109:992,C200537)CrabbDP,SmithND,GlenFCetal:Howdoesglaucomalook?:Patientperceptionofvisual.eldloss.Ophthalmolo-gyC120:1120-1126,C201338)HashimotoCS,CMatsumotoCC,CEuraCMCetal:DistributionCandCprogressionCofCvisualC.eldCdefectsCwithCbinocularCvisioninglaucoma.JGlaucomaC27:519-524,C201839)CrabbCDP,CSmithCND,CRauscherCFGCetal:ExploringCeyeCmovementsCinCpatientsCwithCglaucomaCwhenCviewingCaCdrivingscene.PLoSOne5:e9710,C201040)EinhauserCW,CSchumannCF,CVockerothCJCetal:DistinctCrolesCforCeyeCandCheadCmovementsCinCselectingCsalientCimagepartsduringnaturalexploration.AnnNYAcadCSciC1164:188-193,C200941)HosteAM:Newinsightsintothesubjectiveperceptionofvisual.elddefects.BullSocBelgeOphtalmol287:65-71,C200342)FujimotoN:ComparisonCofCaC.ve-degreeCvisualC.eldCbetweentwoprogramsofdi.erenttesting.eldrange.AmJOphthalmolC143:866-867,C200743)WhitneyCD,CYamanashiCLeibA:EnsembleCperception.CAnnuRevPsycholC69:105-129,C201844)AulhornCE,CKostG:Noise-FieldCCampimetryC-ACnewCperimetricmethod(snowcampimetry)C.CInCPerimetryCUpdateC1988/1989,Cp331C-336,CKuglerCandCGhedini,CAmsterdam,198945)ShiratoCS,CAdachiCM,CHaraT:SubjectiveCdetectionCofCvisualC.eldCdefectsCusingChomeCTVCset.CJpnCJCOphthalmolC35:273-281,C199146)MatsumotoCC,CEuraCM,COkuyamaCSCetal:CLOCKCCHARTR:aCnovelCmulti-stimulusCself-checkCvisualC.eldCscreener.JpnJOphthalmolC59:187-193,C201547)IshibashiCM,CMatsumotoCC,CHashimotoCSCetal:UtilityCofCCLOCKCCHARTCbinocularCeditionCforCself-checkingCtheCbinocularvisual.eldinpatientswithglaucoma.BrJOph-thalmolC103:1672-1676,C201948)大久保堯夫,町田信夫,久保田伸枝ほか:高齢者講習における新たな視野検査方法導入に向けた調査研究.平成C28年度調査研究報告書,p1-113,警察庁委託事業,201749)青木洋,岩瀬愛子,大久保堯夫ほか:「高齢運転者交通事故防止対策に関する提言」の具体化に向けた調査研究に係る視野と安全運転の関係に関する調査研究.調査研究報告書,p1-184,警察庁委託事業,201950)YamashitaM,MatsumotoC,OkuyamaSetal:UsefulnessofCaCsimpli.edCself-checkingtool(QuattroCHART)forCvisualC.eldCdefects.CInvestCOphthalmolCVisSci(ARVOAnnualMeetingAbstract)C60:2480,C2019☆☆☆

乳児眼振症候群

2021年9月30日 木曜日

乳児眼振症候群InfantileNystagmusSyndrome鈴木康夫*はじめに種々の臨床において,疾患を生まれつきの「先天」と生まれた後に生じる「後天」に二分することは広く行われている.とくに「後天」は,病因や発症起点,関連する要因などがよくわかっている場合に用いられる.眼振を先天眼振と後天眼振に二分することも古くから行われている.後天眼振は,眼球運動系に生じた異常が,正常に発達し良好な視力を担保していた固視を障害し,発症する.動揺視,視力低下などを伴うため,発症時期の特定,推定が可能である.また,障害原因が治療,回復可能な病態であれば,眼振の改善,治癒が期待できる.これに対して,先天眼振の発症時期は生後6カ月頃までとされているが,学童期に至っても視力低下や動揺視の自覚がなかったり,ごく軽度だったりする症例もあり,眼振の自覚や他者からの指摘が発症時期と異なることが多い.本人のみならず,家族を含めた周囲の人々も認識していなかった先天眼振が頭痛,めまいなど他の症状を契機に,学童期以降に指摘されるケースもまれではない.とくに乳児期とされる1歳までの眼振診断には,担当医,家族が眼振に気づくか否か,気づいたあと,どの程度再現性のある評価を行えるかが重要となる.発症時期に加えて,視機能と自覚症状を考慮した眼振の先天,後天への二分類は,臨床症状,経過が大きく異なることから現在も広く用いられている.「乳児眼振症候群(infantilenystagmussyndrome)」は,長らく用いられていた「先天眼振(congenitalnys-tagmus)」に代わる用語として,2001年に米国で提唱された.本稿では,乳幼児期に認める眼振に対し,新しい用語が提唱された背景とその分類の変遷などについてまとめた.I眼振の基本振盪(震盪,震蕩,振とう,震とう)とは,「ふるい動かすこと,ふるえ動くこと(広辞苑第六版)」であり,眼が揺れている状態を「眼球振盪」と称することは正しい.しかし,医学用語としての「眼振(nystagmus)」には,確立された定義があり,眼が揺れている状態すべてが眼振ではない.生理的,病理的を区別せず,固視が不随意な「遅い眼球運動(ドリフト)」で障害されて生じる律動性往復眼球運動が,眼振である.不随意の律動性往復眼球運動であっても,固視点からの視線ずれの原因が「急速眼球運動系(saccadicsystem)」で生じる「速い(衝動性)眼球運動」である場合は眼振ではなく,「衝動性眼球運動混入(saccadicintrusions)」と称される1).固視を障害する原因を問わず,不随意律動性往復眼球運動全体を眼振と称することがあるが,その場合,原因が遅い眼球運動である本来の眼振は「狭義の眼振」と称されて区別される.衝動性眼球運動混入の際,ずれた視線を元の固視位置に戻す逆向き補正眼球運動は,原因と同じ速い眼球運動である.衝動性眼球運動混入は,視線ずれの大きさ(振*YasuoSuzuki:手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センター〔別刷請求先〕鈴木康夫:〒006-0811札幌市手稲区前田1条12丁目1-40手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センター0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(61)1043加速型等速型減速型水平眼位ab時間図1緩徐相波形による律動(jerky)眼振尾分類a:加速型緩徐相.青破線は固視位置を示す(b,cも同様).視線が固視位置に近いときに眼球運動速度が遅い時間帯がある(赤線,foveationperiod).b:等速型緩徐相.c:減速型緩徐相.視線が固視位置から大きく離れているときに眼球運動速度が遅い時間帯(赤二重線)がある.表1眼球運動記録を行った乳児期発症眼振報告の対象年齢発表年度著者症例数症例の年齢域年齢平均+/.標準偏差記録法C1979Dell’Ossoら5)C316歳.5C1歳光電素子法C2002Abadiら6)総数C22410141カ月.7C5歳C1歳未満1.6歳未満23+/.16歳(総症例数の4%)C(総症例数の6%)DC-EOG/光電素子法CDC-EOGC光電素子法C2002Hertleら8)C272.7カ月未満ゴーグル型光電素子法C2009Hertleら9)C195カ月.2C9カ月平均C17.7カ月ゴーグル型光電素子法/動画解析法C2011Feliusら10)総数C1304カ月.2C7歳中央値C4.7歳ゴーグル型光電素子法/動画解析法C355カ月.8歳中央値C3.7歳ゴーグル型光電素子法/動画解析法C2016Theodorouら11)アルビノC18C非アルビノC20C34.1+/.10.5歳40.1+/.8.3歳光電素子法光電素子法振波形解析を乳幼児期に行うことの困難さに変わりはない.CIVCEMAS2001とは「CEMAS2001」は,地域,専門領域を超えた「眼球運動と眼位異常の共通疾患分類・用語を定めること」を目的にC2001年に米国で開かれたワークショップ「Classi.cationCofCEyeCMovementCAbnormalitiesCandStrabismus:CEMAS)」で提言された疾患分類であり,「乳児眼振症候群(infantilenystagmusCsyndrome:INS)」はこの提言で初めて定められた用語である.提言からC20年が経ち,日本では少ないが,国際的には,同時に定められた用語「融像発育不良眼振(fusionalCmaldevelopmentCnystagmussyndrome:FMNS)」とともにCINSを用いた論文が増えている.しかし,INSの使われ方には変遷がある.CEMASが開催される以前,国際的な疾患分類は,1979年に世界保健機構(WorldCHealthOrganization:WHO)が死因分類統計のために勧告した国際疾病分類ICD-9(InternationalCStatisticalCClassi.cationCofCDis-eases,CNinthRevision)から作成されたCICD-9-CM(InternationalCStatisticalCClassi.cationCofCDiseases,CNinthCRevision,CClinicalModi.cation)が用いられていた.ICD-9CMの「眼球運動異常と斜視」はC78疾病に分類されていたが,この分類には定義がなく,臨床医,研究者がおのおの属するコミュニティーごとの診断基準を用いていたため,国際的のみならず,米国内においても施設間で疾患定義,用語が異なり,多施設比較が行いにくい状況にあった.また,20世紀末には,眼球運動記録法,脳科学の発展とともに「眼球運動と眼位」に関する研究に著しい進歩があり,各専門分野や地域に依存した疾患名,病態用語のばらつきが,それまでにも増して大きくなっていた.この混沌とした状況を踏まえ,疾患としての「眼球運動異常と斜視」に,専門分野や地域に依存しない統一した分類を作成し,多施設トライアル,診断・治療法選択,学生,研修医の教育などで共通して用いることのできる手段を提供することを目的にCNationalCEyeCInsti-tute(NEI)のサポートを受け,バックグラウンドは異なるがこの分野を代表するC22名の米国の臨床医,研究者が参加し開催されたワークショップがCCEMASであった.CEMAS2001は,「pathologicnystagmus」をC9種類に分類しているが,その中のINS,CFMNS,CspasmsCnutanssyndrome(SNS)のC3症候群のみ,分類基準(criteria)に「infantileonset」と明記し,乳児期発症眼振の分類とした(表2).以下に,各症候群の分類基準とその背景を記す.また,各症候群の分類基準と所見,CEMAS2001には未記載だが一般的に受け入れられている所見を表3にまとめた.C1.Infantilenystagmussyndrome(INS,乳児眼振症候群)他の神経障害の有無で,特発性先天眼振(idiopathiccongenitalCnystagmus)とその他の先天眼振(motorCandCsensorynystagmus)として区別されることもあった疾患群を,他の神経症状の有無にかかわらずに,jerky型の場合は加速型緩徐相をもつ眼振として再編した.分類基準は「乳児期に発症する加速型緩徐相をもつ眼振」である.この用語が提案された背景には,視覚障害の有無によるCsensorynystagmusとCmotornystagmusとへの分類が前者は振り子様眼振に,後者はCjerky眼振に結びつけられた時期があったのだが,実際は視線方向により振り子型とCjerky型が混在する症例が多いことがある3).また,除外診断に依拠していた特発性先天眼振の診断が著しい医学の進歩の前では陳腐化してしまったこともある.事実,視覚系の異常を伴わない家族性眼振の原因としてCX染色体のCFRMD7遺伝子異常が見いだされ「FRMD7Cinfantilenystagmus(FIN)」4)と称されることもあった.C2.Fusionalmaldevelopmentnystagmussyndrome(FMNS,融像発育不良眼振)潜伏眼振とされた症例でも,両眼開放時に微小な眼振を生じていることが多いことから,「潜伏眼振(latentnystagmus),顕性潜伏眼振(manifestClatentCnystag-1046あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(64)表2CEMAS2001における眼振とその他の眼球動揺の分類(抜粋)NystagmusandotherocularmotoroscillationsA.Physiological.xationalmovements(生理的固視運動)B.Physiologicalnystagmus(生理的眼振)C.Pathologicnystagmus(病的眼振)1)Infantilenystagmussyndrome(乳児眼振症候群)2)Fusionmaldevelopmentnystagmussyndrome(融像発育不良眼振)3)Spasmsnutanssyndrome(点頭けいれん)4)Vestibularnystagmus(前庭眼振)5)Gaze-holdingde.ciencynystagmus(神経積分器障害眼振)6)Visionlossnystagmus(視覚障害性眼振)7)Otherpendularnystagmus(その他の振り子様眼振)8)Ocularbobbing(眼球沈下運動)9)Lidnystagmus(眼瞼眼振)D.Saccadicintrusionsandoscillations(衝動性眼球運動混入,衝動性眼球振動)E.Generalizeddisturbanceofsaccades(サッカード障害)F.Generalizeddisturbanceofsmoothpursuit(パシュート障害)G.Generalizeddisturbanceofvestibulareyemovements(前庭性眼球運動障害)H.Generalizeddisturbanceofoptokineticeyemovements(視運動性眼球運動障害)http://nei.nih.goc/news/statements/cemas.pdf(現在アクセス不可)表3CEMAS2001などによる乳児期発症眼振の分類とその特徴乳児眼振症候群(INS)融像発育不良眼振(FMNS)点頭けいれん症候群(SNS)発症時期乳児期乳児期乳児期生後4.8月眼振方向水平,水平-回旋水平不特定,間欠性眼振の共同性高い高いなし眼振波形加速型緩徐相成長に伴い振り子型からCjerky型へ移行等速型/減速型緩徐相片眼遮蔽で増悪/出現急速相が遮蔽眼に向かう振り子様(高頻度小振幅)C低頻度小振幅,非対称振り子型NullZoneあり固視の影響増悪する眼振阻止症候群輻湊の影響軽減する眼振阻止症候群頭位異常NulZone固視,頭部動揺眼振阻止症候群斜頸,うなづき様頭部動揺斜視・屈折異常伴うことありおもに内斜視を伴う交代性上斜視(遮蔽眼が上転)斜視・弱視を伴うことあり家族歴高率陽性斜視視覚系障害伴うことが多いなしなし視力予後視覚系の完成度に依存片眼のみの弱視が生じやすい斜視,弱視に依存眼振予後加齢,両眼視機能発達で軽減2.8歳で自然緩解mus)」を区別せず,斜視を合併する乳児発症眼振として再編した.分類基準は,「乳児期に発症する斜視を伴う眼振でCjerky型のみならず振り子型もある.Jerky型は,固視眼へ向かう急速相をもつ」である.この眼振の緩徐相が減速型か等速型の緩徐相をもつことは,波形解析が可能な学童期以降の患者群でCDell‘OssoらがC1979年に報告している5).振り子型は高頻度,低振幅波形(dual-jerkyと称される)をもつとされる.C3.Spasmsnutanssyndrome(SNS)「点頭けいれん(spasmsnutans)」としての疾患分類は変わらないが,臨床所見の推移に幅があることから,症候群として分類された.分類基準は,「乳児期発症,非共同性眼振で,うなずき様頭部動揺,斜頸などの異常頭位を伴って生じる眼振」とされた.視覚系の障害,頭蓋内異常は伴わず,1歳までに発症し,発症後C1.2年で,遅くともC8歳までには自然治癒する良性疾患だが,乳児の視機能評価は困難なため,SNSの確定診断には慎重な眼底検査,MRIなどによる他疾患の鑑別を行うこと,また必ず緩解までフォローアップすることが推奨されている.なお,点頭とは「うなずくこと」(広辞苑第六版)であり,「spasmsnutans」とは異なるが,乳児期(生後4.8カ月)に頸,躯幹,四肢の屈曲発作で発症し,特異な脳波所見を示し,しばしば精神運動発達遅延を示す予後不良な疾患「infantilespasms」の日本語病名として「点頭てんかん」が用いられてきた.最近は,日本てんかん学会の診断・治療ガイドライン(http://square.umin.ac.jp/jes/pdf/uest-guide.pdf)で「West症候群」の中核と定義されているが,「点頭けいれん」と混同されていることも多いので注意を要する.CVCEMAS2001後の乳児期発症眼振の分類CEMAS2001分類は,それまでおもに神経学科領域で提唱されていた分類に基づいており,とくにCjerky型眼振の緩徐相波形を基準に取り入れて,後天眼振分類との整合性をとった分類である.それまでに臨床,研究の場で得られてきた幅広い事実を取り込み,あやふやな病因に依拠して生じがちな症候群間の重複を避けた分類であったことから,CEMAS2001分類に則ったレビューが小児眼科領域でも発表され6),2010年頃までは,CEMAS2001を直接引用した乳児期発症眼振に関する論文が多数認められていた.しかし,その後は,疾患分類用語としてCINSを用いるもののCCEMAS2001には触れない論文が増え,INSの定義があやふやとなり,CEMAS2021以前の「congenitalCnystagmus」と同様に用いられることが増えてきた.たとえば,2020年に出版された小児眼振治療のレビュー7)では,INSを通常6カ月以内に発症する眼振で,視覚系などを主とする神経疾患,発達障害を伴わない特発性(idiopathic)とこれらを伴うものに分類し,FMNSをCINSではない乳児期発症眼振としている.また,2020年に発表されたCAmericanCAcademyCofOphthalmology(AAO)による「ClinicalGuidelines:CChildhoodCNystagmusCWorkup」は,CEMAS2001分類は眼振の根本原因を診断するうえでの特異性が低いので,原因を正しく診断するためには,包括的であると同時にターゲットを絞った精密検査が必要であると述べた.眼振には(生後C6カ月までに気づかれる)先天と,どの年齢でも生じる後天があり,また,大きく生理的か,病理的かでも二分されるとし,「pathologicnystag-musCofchildhood」として新たな分類を示した(表4).CEMAS2001のCINS,FMNS,SNSが同じように分類され,このC3疾患名と並列に,CEMAS2001のCpatho-logicnystagmusの分類で「infantileonset」と記載されていない「前庭眼振」「振り子様眼振」「眼球沈下運動」を含めた疾患名が列記されたことは,乳児期発症に限定していないことから理解できる.しかし,その最後に,波形解析から行われてきた定義では眼振ではない「衝動性眼球運動混入,衝動性眼球振動」が記されていることは「突然の先祖返り」としか思えず,筆者にはその真意がわからない.今後,このガイドラインが国際的に普及するか否かはまったく未知数である.詳細は以下のホームページを参照いただきたい.Chttps://www.aao.org/disease-review/clinical-guidelines-childhood-nystagmus-workupC1048あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(66)表4ClinicalGuidelines:ChildhoodNystagmusWorkup(2020)における分類A.PhysiologicalNystagmus(生理的眼振)B.Pathologicnystagmus(病的眼振)1)Infantilenystagmussyndrome(乳児眼振症候群)2)Fusionalmaldevelopmentnystagmussyndrome(融像発育不良眼振)3)Spasmsnutanssyndrome(点頭けいれん)4)Vestibularnystagmus(前庭眼振)5)Eccentricgazenystagmus6)Nystagmusassociatedwithdiseaseofcentralmyelin(eg,multiplesclerosis)7)Pelizaeus-Merzbacherdisease8)Cockaynesyndrome9)Peroxisomaldisorders10)Tolueneabuse11)Pendularnystagmusassociatedwithtremorofthepalate12)PendularvergencenystagmusassociatedwithWhippledisease13)Ocularbobbing(眼球沈下運動)14)Saccadicintrusionsandoscillations(衝動性眼球運動混入,衝動性眼球振動)https://www.aao.org/disease-review/clinical-guidelines-childhood-nystagmus-workupC’C’C-’C