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マウス網膜障害に対する無電極ランプ(エコループ)と白色LEDの比較検討

2017年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科34(5):749.753,2017cマウス網膜障害に対する無電極ランプ(エコループ)と白色LEDの比較検討久世祥己*1中村真帆*1矢古宇智弘*1國弘主税*2嶋澤雅光*1原英彰*1*1岐阜薬科大学薬効解析学研究室*2株式会社プラスアルファーComparisonofRetinalDamageInducedbyElectrodelessLampandWhiteLedinMiceYoshikiKuse1),MahoNakamura1),TomohiroYako1),ChikaraKunihiro2),MasamitsuShimazawa1)andHideakiHara1)1)MolecularPharmacology,DepartmentofBiofunctionalEvaluation,GifuPharmaceuticalUniversity,2)PlusalphaCo.,Ltd.近年,省エネ効果を期待してテレビ,パソコン,スマートフォン,タブレット,照明などにLEDが普及しているが,ブルーライトが多く含まれており,その眼に及ぼす影響が懸念されている.一方で,最近では新たな照明器具として無電極ランプが開発されている.これは,青色光をあまり含まないことが知られている.そこで,本検討では白色LED光と無電極ランプ(エコループ)の網膜障害への影響を,同ルクス条件下にてマウスに光曝露を行うことにより比較検討した.その結果,無電極ランプによる網膜障害は,白色LED光による網膜障害に比べて弱いことが明らかになった.本結果より,無電極ランプはLEDよりも眼に障害が少ないことが期待できることから,照明のための新たな光源として有用である可能性が示唆された.Recently,thelight-emittingdiode(LED)hasbecomecommonforlighting,televisions,personalcomputers,smartphonesandsoon.TheLEDemitsthemuchofbluelight.Thereisconcernregardingitse.ectsupontheeye.Ontheotherhand,theelectrodelesslamphasbeendevelopedasanewlightsource.TheamountofbluelightemittedbytheelectrodelesslampislessthanthatemittedbyLEDs.Thepresentstudyusingmicecomparedreti-naldamagebetweenelectrodelesslampandwhiteLEDatthesameilluminationintensity.Resultsshowedthatret-inaldamagefromtheelectrodelesslampwasmilderthanthatfromthewhiteLED.Insum,lightfromtheelectro-delesslampmaybemildertotheeyesthanlightfromthewhiteLED.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(5):749.753,2017〕Keywords:発光ダイオード,無電極ランプ,白色LED,網膜障害.light-emittingdiode(LED),electrodelesslamp,whiteLED,retinaldamage.はじめに近年,テレビ,パソコン,スマートフォン,タブレットなどの液晶ディスプレイが普及してきており,これらから青色光(ブルーライト)が多く発せられていることは知られている.可視光線のなかでもブルーライトは440.500nmの短波長の光であり,紫外線の波長に近く,高エネルギーであることから,眼に及ぼす影響が懸念されている.一方,実際には青色LED(light-emittingdiode)光による眼に対する影響およびその機序はいまだ明らかにされていない部分が多い.2014年,筆者らは青色LED光が,緑色LED光よりも活性酸素の産生を増加させ,網膜細胞障害を強く引き起こすことを報告した1).また,青色LED光を照射することによって生じる網膜細胞障害は,種々のカラーレンズによって抑制されることも報告している2).青色LED光を多くカットするレンズであるほど,細胞死抑制効果は強いものであった.これらの結果からも,青色LED光の網膜細胞へ及ぼす影響は強いものであるといえる.また,眼以外の分野では,青色LEDに関する研究が近年盛んに報告されてきている.ブルーライトの曝露により,メラトニンの分泌が低下することによって,サーカディアンリ〔別刷請求先〕國弘主税:〒812-0002福岡市博多区空港前4-3-25-2F株式会社プラスアルファー本部Reprintrequests:ChikaraKunihiro,PlusalphaCo.,Ltd.FukuokaHeado.ce,2F,4-3-25Kukomae,Hakata-ku,Fukuoka812-0002,JAPANズムの崩れと睡眠障害が起きることは知られていた.米国での最近の調査によって,人口の約90%が,就寝1時間前に週数回,電子機器を利用しているという背景をもとに,電子書籍の使用は,入眠までの時間を増加,レム睡眠の時間を減少させ,メラトニンの分泌を低下させていたことが報告された3).さらに,就寝前のブルーライトへの眼の曝露により,翌朝の覚醒にも影響を及ぼすという結果があることから,睡眠の質,生活の質に支障をきたす恐れがあることが示唆されている.また,ヒトへの影響以外にも,ショウジョウバエなどの虫への致死的な作用も示されている4).この報告から青色LEDは,害虫駆除の方法となる可能性があると考えられる.LEDはコストや光の強さなどで良い面も多くあるのは事実だが,実際に青色LEDが眼の機能へ及ぼす影響や,睡眠の質,生活の質に及ぼす影響などについても報告されていることから,近年身の回りに増加しているLEDに注意も必要である.とくに,白色LEDは部屋の照明や車のヘッドライトなどに使用され,広く普及してきている.白色LEDは青色光を含んでおり,青色LEDと同一エネルギー条件下において,白色LEDが同等の視細胞障害を引き起こすことを筆者らは報告している1).無電極ランプは,近年,おもに工場施設や体育館施設・倉庫施設など高天井で大きな明かりを必要とする照明施設に普及している.無電極ランプ(エコループ)の明るさの特徴は3波長の蛍光ランプに近いものとなっているが,消費電力を無電極ランプより抑えることができ,同等の消費電力でLEDランプの約2倍の寿命があることと併せて,グレア(瞳が嫌う眩しさ)が少ないという特徴がある(プラスアルファー社内資料).そこで,今回光源として白色LEDと,無電極ランプ(エコループ)のマウス網膜障害における比較を同一条件下で行った.白色LEDはブルーライト(460nm周辺)を多く含んでおり,それに対して無電極ランプは,白色LEDに比べて,ブルーライトの量が少ない光源である.I方法岐阜薬科大学薬効解析学研究室における光曝露による網膜障害モデルは,雄性8週齢のddYマウス(日本エスエルシー株式会社より購入)へ8,000luxの可視光を照射することによって行った5).その網膜障害モデルを参考に,本検討では,約7,500luxの光を照射することによって,網膜障害を起こした(図1).用いた光源は,LED(コイズミ照明株式会社製,XH44126L,95W5000K),無電極ランプ(株式会社プラスアルファー製,ELT18100AP-F,95W,5000K)である.また,本実験前には同ケージ内に対照群,白色LED照射群,無電極ランプ照射群が混在するように無作為に振り分け,ケージ間の体重を揃えることで実験条件を均一化した.なお,対照群は,各光源の照射時に通常飼育条件下で飼育した群である.光照射の5日後に,網膜電図の測定を行った.網膜電図の測定前に24時間の暗順応を行い,測定した.その後,眼球を摘出し,24時間,4%PFAに浸け置いた後,白色LED24h3h24h72h24hDark7,500luxlightDarkLight/DarkcycleDark散瞳薬網膜電図組織評価図1各光源と光誘発網膜障害上段の画像が今回用いた光源を示す.それぞれ,幅は無電極ランプ:48cm,白色LED:24cmである.また,下は本実験のプロトコール概要を示す.マウスを24時間の暗順応の後,光照射直前に散瞳薬を点眼し,7,500luxの光照射を3時間行った.その後,再び24時間の暗順応を行い,3日間の通常飼育を経て,光照射から5日後に,網膜電図による評価と眼球を摘出し,組織評価を行った.Scalebar=10cm.無電極ランプ白色LED100%100%80%80%60%60%40%40%20%20%波長(nm)波長(nm)図2各光源の波長スペクトルもっとも波長の出ている光を100%とし,それと比較して,それぞれの波長がどの割合で出ているかを示す.無電極ランプに比べて,白色LEDは青色光を多く含む.対照a波無電極ランプ白色LED対照a-waveb-wave無電極ランプ白色LED10004008006004002000Amplitude(mV)3002001000-2.92-1.92-1.02-0.020.98-2.92-1.92-1.02-0.02Lightintensity(logcds/m2)Lightintensity(logcds/m2)図3各光源による網膜障害の比較(網膜電図)上段は波形を示し,下段はその定量結果を示す.a波,b波ともに各光源の照射により波形は低下した.白色LED光照射群と無電極ランプ照射群を比較すると,無電極ランプ照射群の網膜機能低下は白色LED照射群に比べ,有意に弱いものであった.##:p<0.01,#:p<0.05vs.白色LED照射群(対照群:n=9,白色LED照射群:n=11,無電極ランプ照射群:n=10,Student’st-test).パラフィンへと置換を行い,包埋した.パラフィン切片を作ONL)の厚さを測定した.また,各光源の波長スペクトルは製した後,組織評価を行った.組織評価を行う際には,5図2に示すとおりである.μmの厚さでパラフィン切片を作製し,ヘマトキシリン・エオジン染色を行い,視神経から240μmの距離ごとに,視細胞の核が存在している網膜外顆粒層(outernuclearlayer:対照無電極ランプ白色LED網膜外顆粒層(ONL)35ThicknessoftheONL(μm)30252015105SuperiorInferiorDistancefromopticnervehead(μm)図4各光源による網膜障害の比較(組織評価)上段はHE染色を行った網膜組織を示し,下段はその定量結果を示す.各光源の照射により網膜外顆粒層(outernuclearlayer:ONL)の厚さは減少した.白色LED光照射群と無電極ランプ照射群を比較すると,無電極ランプ照射群のONLの薄層化は白色LED照射群に比べ,有意に弱いものであった.##:p<0.01,#:p<0.05vs.白色LED照射群(対照群:n=10,白色LED照射群:n=10,無電極ランプ照射群:n=10,Student’st-test).Scalebar=20μm.II結果1.各光源の網膜機能への影響視細胞の機能を反映するa波および二次ニューロンの機能を反映するb波ともに,各光源の照射によって対照群と比較して減少した(図3).また,各光源を比較すると,白色LED光を照射した群では,ほぼ波形が認められなかったのに対して,無電極ランプを照射した群では,対照群と比較して波形が減少しているものの,完全に消失するほどではなかった.これを定量すると,無電極ランプ照射群では,白色LED光照射群に比べて,有意に障害が弱いものであった(図3).この結果から,白色LED光は無電極ランプに比べて網膜機能を大きく低下させ,より強く網膜障害作用を有することが明らかになった.2.各光源の網膜組織への影響各光源の照射によって,ONLの厚さは対照群と比較して減少した(図4).また,各光源の影響を比較すると,白色LED光は顕著なONLの薄層化を引き起こしたが,無電極ランプによる障害は中程度であった(図4).これを定量すると,白色LED光によるONLの薄層化は無電極ランプによる障害よりも強いものであった(図4).III考察今回の結果から,白色LED光の照射は,顕著な網膜機能の低下と網膜障害を引き起こすことが明らかとなった.一方,無電極ランプの照射は,蛍光灯と同レベルの影響に留まった5).近年,白色LEDが照明に使用され,パソコンなどの液晶ディスプレイからはブルーライトが発せられており,われわれは日常的にブルーライトを浴びる機会が増えている.直接的に照明に眼を曝露する機会がある(工場,倉庫などでの天井近くの作業)と,ブルーライトの悪影響が大きいと考えられ,その場合には白色LEDなどのブルーライトを多く含む光源は避けるほうが良いのかもしれない.本モデルは急性期に網膜障害を引き起こすマウスモデルであるため,すぐに今回の実験のような影響をヒトに外挿することはできないが,慢性的なブルーライトの曝露は眼への悪影響を及ぼす可能性が高いことが予想される.そのため,状況に応じて,LEDや他の光源を使い分けることが,将来的にヒトの眼を守るためには必要であると考えられる.利益相反:株式会社プラスアルファー(研究費および研究材料)文献1)KuseY,OgawaK,TsurumaKetal:Damageofphotore-ceptor-derivedcellsincultureinducedbylightemittingdiode-derivedbluelight.SciRep9:5223,20142)HiromotoK,KuseY,TsurumaKetal:Coloredlensessuppressbluelight-emittingdiodelight-induceddamageinphotoreceptor-derivedcells.JBiomedOpt21:035004,20163)ChangAM,AeschbachD,Du.yJFetal:Eveninguseoflight-emittingeReadersnegativelya.ectssleep,circadiantiming,andnext-morningalertness.ProcNatlAcadSciUSA112:1232-1237,20154)HoriM,ShibuyaK,SatoMetal:Lethale.ectsofshort-wavelengthvisiblelightoninsects.SciRep9:7383,20145)NakanishiT,ShimazawaM,SugitaniSetal:Roleofendoplasmicreticulumstressinlight-inducedphotorecep-tordegenerationinmice.JNeurochem125:111-124,20136)BeattyS,KohH,PhilMetal:Theroleofoxidativestressinthepathogenesisofage-relatedmaculardegeneration.SurvOphthalmol45:115-134,2000***

汎用性のある新しい機構の灌流液残量警報装置の試作

2014年11月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科31(11):1711.1716,2014c汎用性のある新しい機構の灌流液残量警報装置の試作小嶋義久*1吉川静香*1内藤二郎*1青木大典*2高橋まゆみ*2*1小嶋病院眼科*2小嶋病院手術部EvaluationofPrototypeIrrigationSolutionLow-LevelAlarmYoshihisaKojima1),ShizukaYoshikawa1),JiroNaito1),DaisukeAoki2)andMayumiTakahashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KojimaHospital,2)DepartmentofOperatingTheater,KojimaHospital眼灌流液の新しい機構の残量警報装置を試作した.この装置は天秤を応用したもので,左側の灌流液用フックに使う灌流液を,右側の残量参照用フックに警報を鳴らしたい残量の同じ製品を吊して使用する.左側の灌流液が減少し右側と同じくらいになったとき,装置は水平状態となり,この状態をセンサーが検知し警報が鳴る仕組みである.これにより灌流液はガラス瓶製品,ソフトバッグ製品いずれも使用可能である.装置の性能を右側の残量参照容器内を100.0mlとしてBSSプラスRのガラス瓶とオペガードネオキットRのソフトバッグで検証した結果,警報鳴動時の残量は前者では80.0±15.2ml(60.0.100.0ml),後者では64.0±9.7ml(50.0.80.0ml)であり,残量低下を確実に検知できた.また,灌流液減少とともに吊り下げ位置が上昇するので,ソフトバッグ製品においては灌流低下を緩徐にする効果も期待できる.Thisalarm’sstructureisbasedonabalancetheory.Usinganinclinationsensor,itcomparestheirrigationsolutionoriginalweightwiththatofthesolutionremaining.Iftheremainingsolutionfallsbelowtheoptionallysetlevelofreference,thealarmtriggersamelody.Inabasicexperiment,weevaluatedtheperformanceofthisalarminreferencecaseswith100.0mlofremainingsolutioninbothbottleandsoftbagproducts.Resultsshowedthatthealarmsuccessfullydetectedlowlevelsinallcases.Forthebottleproducts,thedetectedremaininglevelswere80.0±15.2ml(range:60.0.100.0ml).Forthesoftbagproducts,thelevelswere64.0±9.7ml(range:50.0.80.0ml).Thisnewalarmissuitableforanytypeofirrigationsolutionandmaybeusefulinavoidingincidentsarisingfromlackofirrigationsolution.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(11):1711.1716,2014〕Keywords:警報装置,灌流液残量,傾きセンサー,天秤,白内障手術,硝子体手術.low-levelalarm,irrigationsolutionremaining,inclinationsensor,balance,cataractsurgery,vitrectomy.はじめに白内障手術や硝子体手術などに用いる灌流液は,通常は白内障手術装置や点滴台に吊して使用するが,術中に残量がなくなると浅前房や眼球虚脱を起こし手術に支障をきたすばかりか,危険な合併症を招くおそれがある.そのため術中に灌流液が空にならないよう常に残量に注意する必要がある1.3).しかし術者を含め,手術室のスタッフが業務に追われると,人の目よりも高い位置にある灌流液の残量低下にはなかなか気づきにくい.灌流液にはガラス瓶に入った製品やソフトバッグの製品があり,内容量は500mlのものが多いが,その他のものもある.製品によっては吊したソフトバッグの重さを検知し,軽くなったときに警報音を出す残量警報装置(図1)や残量低下をわかりやすく表示する装置が使えるが4),これらは他社の製品,特にガラス瓶の製品に使うようには作られていない.そこで,天秤の原理を応用した多様な製品に使える残量警報装置を試作し,その性能を検証したので報告する.I対象および方法1.警報装置の原理と構造試作した警報装置は図2のような形状で,天秤部はベニヤ合板でできており,中央部および両側にステンレス製フック〔別刷請求先〕小嶋義久:〒477-0031愛知県東海市大田町後田97小嶋病院眼科Reprintrequests:YoshihisaKojima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KojimaHospital,97Ushiroda,Ota-machi,Tokai-city,Aichi477-0031,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(145)1711 図1オペガードRネオキット用眼灌流液残量センサー機(千寿製薬)左:本体.右:灌流液を吊り下げたところ.図2試作した残量警報装置の形状と寸法図CH:中央部フック,LH:灌流液用フック,RH:残量参照容器用フック,SU:センサー部.数字の単位はmmである.9090982101403863LHRHCHSU上面図正面図SUMUSWHSB.MUSWBHS回路の概略図図3センサー部の内部SW:電源スイッチ,HS:水銀スイッチ,B:小型電池,MU:メロディー回路.を備えている.装置を介して吊した灌流液の位置がなるべく低くならないように,中央部フックは切り欠き部の中に位置したデザインになっており,水平状態では両側フックと中央部フックの吊り下げ位置の高さの差は9.8cmである.センサー部には,警報装置が水平近くになると通電するように調整した水銀スイッチ,警報音としてメロディーを出すためのメロディーICを搭載した回路,小型電池,電源スイッチが組み込まれている(図3).警報装置の重量は384.3gである.使用する際にまず電源スイッチをONにする.中央部フックを白内障手術装置のポールや点滴台に吊り下げると,そこを支点にした天秤のようになる.右側の残量参照容器用フッ1712あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014クに警報を鳴らしたい残量の灌流液の瓶あるいはバッグを吊し,左側の灌流液用フックに使用する灌流液のものを吊して灌流チューブを接続する.使用中の灌流液の残量が十分ある状態では,装置は左側へ傾いた状態であるが(図4),灌流液が減るにつれ徐々に水平に近づき,装置が水平近くになったとき,すなわち残量が右側と同じくらいの量になったとき,水銀スイッチ中の水銀が動き通電状態となりメロディー音が鳴る.2.警報装置の動作状況の検証〔実験1〕BSSプラスR(Alcon)の空瓶に100.0mlの水を入れたもの(146) AhArAaReference図4BSSプラスRを吊した状態左側が使用中の灌流液,右側が残量参照用の瓶である.図5実験1における測定部位Ah:水平時のフック位置を0とした場合の灌流液用フックの高さ*(cm),Ar:水平時のフック位置を0とした場合の瓶のゴム栓の高さ*(cm),Aa:警報装置の傾き(°).*水平状態のフックの高さより高い場合は+,低い場合は.として計測.を右側の残量参照容器用フックに吊り下げ,水を500.0ml入れたものを左側の灌流液用フックに吊り下げ灌流チューブ(通気フィルター付)を接続した.灌流チューブ内には水をあらかじめ通しておいた.水を流し始め,左側の瓶の液量が減ってメロディーが鳴り始めたときの残量[500.流出量(ml)]を計測した.また同時に,警報装置が水平状態のときの灌流液用フックの位置を基準(0cm)とした場合の灌流液用フックの高さ(Ah),灌流チューブの刺入部である瓶のゴム栓の高さ(Ar),警報装置の傾き角度(Aa)(図5)を残量が50.0ml減るごとに測定した.以上を5回行った.〔実験2〕オペガードRネオキット(千寿製薬)のソフトバッグに100.0mlの水を入れたものを右側のフックに吊り下げ,水を500.0ml入れたものを左側のフックに吊り下げて水を通した灌流チューブを接続した.水を流しメロディーが鳴り始めたときの左側のバック内の残量を計測した.同時に灌流液用フックの高さ(Bh)と,バッグ内の液面の高さ(Bs),警報装置の傾き角度(Ba)(図6)を残量が50.0ml減るごとに測定した.以上を5回行った.実験1,実験2とも,警報装置および瓶またはソフトバッBhBsBa図6実験2における測定部位Bh:水平時のフック位置を0とした場合の灌流液用フックの高さ*(cm),Bs:水平時のフック位置を0とした場合のバッグ内の液面の高さ*(cm),Ba:警報装置の傾き(°).*水平状態のフックの高さより高い場合は+,低い場合は.として計測.(147)あたらしい眼科Vol.31,No.11,20141713 グを,その傍に設置したスケールと鉛直線を示す錘を吊した紐とともにデジタルカメラにて3.2m離れた場所から定点撮影し,得られた写真をAdobePhotoshopRCS6(アドビシステムズ)を用いてコンピュータ画像上で計測し各値を算出した.II結果実験1で用いた,左側の灌流液用フックに吊したBSSプラスRの空瓶の重量は平均348.2±0.4g(n=5)で,500.0mlの水を入れた状態では平均848.2±0.4g(n=5)であった.右側の残量参照容器用フックに吊した瓶の重量は349.0gで,100.0mlの水を入れた状態で449.0gであり,実験中は同じものを使用し,いかなる変更も加えなかった.実験2で用いた,左側に吊したオペガードRネオキットの空バッグの重量は平均39.0±0.4g(n=5)で,500.0mlの水を入れた状態では平均539.0±0.4g(n=5)であった.右側に吊したバッグの重量は39.0gで,100.0mlの水を入れた状態で139.0gであり,実験中は同じものを使用し変更を加えなかった.AhAr(cm)403020100-10-20-30メロディー鳴動開始時残量80.0±15.2ml(range60.0~100.0ml)傾き角度(Aa)5.9±0.9°(range4.4~7.0°)AhArAa(n=5)Aa(°)403020100-10-20-30500450400図7実験1の結果エラーバーは標準偏差を示す.350300250200150残量100500(ml)BhBs(cm)Ba(°)403020100-10-20-30メロディー鳴動開始時残量64.0±9.7ml(range50.0~80.0ml)傾き角度(Ba)5.5±2.2°(range3.1~9.5°)(n=5)BhBsBa403020100-10-20-30500450400350300250200150100500(ml)残量図8実験2の結果エラーバーは標準偏差を示す.1714あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(148) 実験1と実験2の結果をグラフに示す(図7,8).メロディー鳴動開始時の残量は,実験1では80.0±15.2ml,実験2では64.0±9.7mlで,両群間に有意差はなかった(p=0.1,unpairedt-test).同様に鳴動開始時の警報装置の傾き角度は実験1では5.9±0.9°,実験2では5.5±2.2°で,両群間に有意差はなかった(p=0.7,Welchtest).実験1では,残量が減少するとAaは減少し,AhとArは増加した.実験2では残量が減少するとBaは減少し,Bhは増加したが,バッグ内の液面下降によりBsは減少した.Ahの最大値と最小値の差は3.3±0.1cm,Bhの最大値と最小値の差は5.9±0.1cmで有意に後者が大きかった(p<0.001,unpairedt-test).また,Aaの最大値と最小値の差は23.5±0.8°,Baの最大値と最小値の差は44.3±0.8°で有意に後者が大きかった(p<0.001,unpairedt-test).III考察灌流液残量を知るための装置は,これまでにも製品化されたものがあるが使用できる製品が限られていた.今回考案した灌流液残量警報装置は,警報を鳴らしたい量の灌流液が入った容器と,使用中の灌流液の容器の重量を天秤で比較する機構のため,同じ製品の組み合わせで使うことのみを守れば,どのような製品でも使用可能である.今回の実験ではBSSプラスRとオペガードRネオキットを使用したが,どちらも残量低下を確実に検知することができた.また,警報音は焦燥感を煽るブザー音ではなく心地よいメロディーなので,局所麻酔で行う手術環境においても安心して使えると思われる.実験1で瓶のゴム栓の高さを評価したのは,BSSプラスRのようなガラス製の瓶から灌流液が重力落下する場合では,灌流液が大気と接する面,すなわち通気針の先端がボトルの高さを決定するからである.一方,実験2でバッグ内の液面の高さを評価したのは,オペガードRネオキットのようなソフトバッグの場合,バッグ内の液面の高さがボトルの高さを決定するからである5.9).今回の実験からガラス瓶の場合は残量が減少すると天秤の効果で左側フックと灌流用の瓶が上昇すること,すなわちボトルの高さが高くなることがわかった.つまり,残量0mlのときには残量500mlのときに比べ約4cm上昇する.しかし,それは水銀柱に換算した場合約3mmHg程度である.一方,ソフトバッグは灌流液が減少するとバッグ内の液面は下降するものの,残量減少に伴い左側フックは上昇し,液面の下降幅は抑えられた.つまり実験では残量500mlから残量0mlになるまでに液面は約10cm下がり,これは水銀柱換算で約7mmHgの下降であったが,通常使用の場合のオペガードRネオキットの残量500mlから残量0mlまでの液面の下降幅は約16cmであり,水銀柱換算で約12mmHgの下降であるため,この下降幅はおよそ(149)OrrHaaH’q°傾いた場合OqHH’rraamgFm’gF’qa+qa-q図9簡単な計算モデルO:フックの支点,H:左側のフック位置,H’:右側のフック位置,r:OH間距離とOH’間距離,a:∠OHH’と∠OH’Hの角度(°),q:傾き(°),m:Hにかかる灌流液の入った容器の質量,m’:H’にかかる灌流液の入った容器の質量,g:重力加速度,F:Hにかかる反時計回り方向の力,F’:H’にかかる時計回り方向の力.6割に抑えられたことになり,本装置はソフトバッグ製品の残量減少に伴う灌流低下を緩徐にする可能性がある.なお,Ahに比べBhの変化量が大きくなったのは容器の重さの違いによるものと考えられる.つまり,オペガードRネオキットのバッグの重さが39gしかなく,残量500mlのとき,水500mlが入ったバッグ(539g)と対照の水100mlが入ったバッグ(139g)の重さの比は,BSSプラスRの重い瓶に水500mlが入った状態(848g)と対照の水100mlが入った瓶(449g)の重さの比に比べ大きく,この違いが警報装置の傾きの違いとなる.同様に各残量(ただし残量100ml以外)においても傾きに違いが生じ,これらがAhに比べBhの変化量が大きい理由と考えられる.このことは,簡単なモデルを用いて物理学的に計算した場合にわかりやすい.たとえば,本警報装置を本体の重さを無視した図9のような単純なモデルで考えてみる.中央部フックで吊り下げた警報装置が傾斜する場合,左右のフックはフックの支点Oを中心とした円周上を移動することになる.Oから左側のフックHまでの距離および右側のフックH’までの距離をrとする.∠OHH’と∠OH’Hの角度は等しく,これをa°とする.Hあたらしい眼科Vol.31,No.11,20141715 に質量mの“灌流液の入った容器”を,H’に質量m’の“灌流液の入った容器”を吊り下げq°傾いたとき,Hにかかる反時計回り方向の力Fは,F=mgcos(a+q)H’にかかる時計回り方向の力F’は,F’=m’gcos(a-q)Hにかかる力のモーメントNは,N=r×F=r×mgcos(a+q)H’にかかる力のモーメントN’は,N’=r×F’=r×m’gcos(a-q)つり合いがとれているとき,N=N’となるので,r×mgcos(a+q)=r×m’gcos(a-q)m/m’=cos(a-q)/cos(a+q)aは一定であるので,傾きqは灌流液の入った容器全体の質量の比に依存する10.12).よって,この警報装置の傾きは左右の重さの比に依存するという結果になるが,今回の実験系では装置の重さ,各構成部品の重さや配置による重心位置,傾きによる吊り下げ位置の変化,灌流チューブの重さなど考慮すべき要素が多く,結果を正確に予測できる計算式を導くのは困難である.この残量警報装置の構造上,灌流液を吊す位置は水平状態でのフックの高さの差の9.8cmに加え,灌流液の量により傾いた分低くなるので,実際の手術でこの装置を使用する際はその分を考慮してボトルの高さを設定する必要がある.結果より灌流液が半分(250ml)になったときのAhは.2.2±0.0cm,Bhは.3.3±0.1cmであったので,これに9.8cmを加味し,装置を吊す位置を12.13cm高くすれば問題はないと考える.本装置は白内障手術ばかりでなく硝子体手術において特に有用と思われる.暗室で行う硝子体手術では灌流ボトルの残量低下がわかりにくい一方,残量の監視は重要であるため,使用の意義は高いと考える.補足ではあるが,最近の白内障手術装置や硝子体手術装置のなかには灌流液が減少すると警報を発する機能を有するものがある.たとえばAlcon社のCONSTELLATIONR,CENTURIONRなどがある.本装置はこれらには不要である.それ以外にも灌流液を重力落下で使わない場合,たとえばAlcon社のACCURUSRのVGFIシステム(加圧式灌流圧自動調節装置)やBausch&Lomb社のStellarisRPCのAirForcedInfusionなどの場合は使用には不向きと思う.しかし,これら以外の多くの機器においては本装置は有用であると思われる.今回の実験の結果,考案した灌流液残量警報装置はガラス瓶製品とソフトバッグ製品の両方に使用でき,残量低下を確実に検知できることがわかった.また,本装置はガラス瓶製品を使用の場合,残量低下とともにボトルの高さがやや上昇すること,ソフトバッグ製品においては残量低下に伴うバッグの上昇により液面下降による灌流低下を緩徐にする可能性があることがわかった.文献1)荻野誠周,根木昭,山岸和矢ほか:術中のマイナートラブルの原因・対策・予防.IOLクリニック第1版(永田誠監修),p118-124,医学書院,19922)大鹿哲郎:浅前房.小切開創白内障手術第1版,p140,医学書院,19943)櫻井真彦:駆逐性出血.眼科診療プラクティス53,p42,文光堂,19994)関井英一郎,石井正宏,目加田篤:警告音装置を付けたオペガードネオキット用残量目安計の使用経験.臨眼58:1655-1659,20045)荻野誠周:白内障手術装置.眼科マイクロサージェリー第3版(永田誠監修),p147-152,株式会社ミクス,19936)三好輝行:灌流ボトルの液面高に関する再考察について前編.IOL&RS15:273-275,20017)三好輝行:灌流ボトル(バック)の液面高に関する再考察について中編.IOL&RS15:378-379,20018)品川嘉也:流体のつりあい.医学・生物系の物理学,p7985,培風館,19769)前田昌信:圧力.看護にいかす物理学第2版,p23-31,医学書院,198310)堀口剛:剛体のつり合い.力学の基礎初版,p109-134,技術評論社,201111)江沢洋:ニュートンの運動法則.物理は自由だ[1]力学改訂版,p67-83,日本評論社,200412)赤野松太郎,鮎川武二,藤城敏幸ほか:力のつり合い.医歯系の物理学,p3-18,東京教学社,1987***1716あたらしい眼科Vol.31,No.11,2014(150)