《原著》あたらしい眼科43(8):1036.1041,2026c単回の単純血漿交換療法が奏効した難治性視神経炎の1例岩崎弘志*1,3原巧*2金子優*3太田康之*4近藤敏行*4杦本昌彦*3*1山形県立中央病院眼科*2獨協医科大学埼玉医療センター眼科*3山形大学医学部附属病院眼科*4山形大学医学部附属病院第三内科神経学分野CACaseofSteroid-ResistantOpticNeuritisTreatedwithSinglePlasmaExchangeTherapyHiroshiIwasaki1),TakumiHara2),YutakaKaneko3),YasuyukiOhta4),ToshiyukiKondo4)andMasahikoSugimoto3)1)DepartmentofOphthalmology,YamagataPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversityFacultyofMedicine,4)DivisionofNeurologyandClinicalNeuroscience,DepartmentofInternalMedicineⅢ,YamagataUniversitySchoolofMedicineC単回の単純血漿交換療法が著効したステロイド難治性視神経炎のC1例を報告する.49歳,女性.初診時の矯正視力は右眼C30Ccm手動弁,左眼C1.2で,右眼中心暗点を認めた.MRIにて右眼特発性視神経炎と診断した.ステロイドパルス療法を施行し寛解を得たが,治療終了C6カ月後に左眼比較暗点が出現した.矯正視力は右眼C1.0,左眼C1.2だが,左眼比較暗点を認めたため,特発性視神経炎の再発と診断し,再度ステロイドパルス療法を施行した.経過中に左眼矯正視力はC0.2まで低下し,視野異常の悪化もみられたため,単純血漿交換療法を導入した.導入初回で蕁麻疹を認め,新鮮凍結血漿に対するアレルギーが疑われたことから,アナフィラキシーのリスクを考慮して単回のみで終了とした.導入翌日より自覚症状の改善を認め,11日後には左眼視力はC1.2で視野異常も改善した.CAC49-year-oldCwomanCpresentedCwithCaCcorrectedCvisualacuity(VA)ofC30cmChandCmotionCinCherCrightCeyeCandCaCcentralCscotomaCinCthatCeye.CMoreover,CmagneticCresonanceCimagingCrevealedCopticneuritis(ON)inCthatCrightCeye,CandCserumCanti.aquaporin-4CandCanti.myelinColigodendrocyteCglycoproteinCantibodiesCwereCnegative.CIntravenoussteroidpulsetherapyinducedremission.However,6monthslater,visualdisturbancedevelopedinherlefteye,withaparacentralscotoma.RecurrentidiopathicONwasdiagnosedandsteroidpulsetherapywasonce-againadministered,yethervisiondeteriorated.Plasmaexchange(PE)therapywasinitiated;Chowever,duetoanallergytofresh-frozenplasmaandtheriskofanaphylaxis,onlyasinglesessionwasperformed.Elevendayslater,herCcorrectedCVACimproved,CandCtheCscotomaCalsoCresolved.CThisCcaseCdemonstratesCsteroid-resistantCrecurrentCidiopathicONwithsigni.cantrecoveryafterlimitedPEtherapy,despitetheinabilitytocontinuetreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(8):1036.1041,C2026〕Keywords:視神経炎,難治性視神経炎,血漿交換療法.opticneuritis,steroid-resistantopticneuritis,plasmaexchangetherapy.はじめにわが国での視神経炎は約C1.6人/10万人/年で発症する1).若年から壮年期に突然の視力・視野障害を呈し,特発性であることが多い1,2).2006年の視神経脊髄炎(neuromyelitisoptica:NMO)の診断基準に加え,2015年には国際診断基準で「視神経炎・脊髄炎・脳幹病変・特徴的な大脳病変などを認めかつアクアポリン(aquaporin:AQP)4抗体が陽性の症例」は,「視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOCspec-trumdisorders:NMOSD)」と定義された3).NMOとNMOSDへの急性期治療としてはステロイドパルス療法(intravenousmethylprednisolone:IVMP)が有効とされているが,ステロイド治療に抵抗を示す症例や重度の視神経炎例には血漿浄化療法(plasmapheresis:PP)を早期から施行することが推奨されている4).PPには単純血漿交換療法(plasmaexchange:PE),二重膜濾過法(doubleC.ltrationplasmapher-esis:DFPP),血漿吸着療法(immunoadsorption〔別刷請求先〕岩崎弘志:〒C990-2292山形県山形市大字青柳C1800山形県立中央病院眼科Reprintrequests:HiroshiIwasaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyYamagataPrefecturalCentralHospital,1800OoazaAoyagi,Yamagata-shi,Yamagata990-2292,JAPANC図1初回治療前後の視野検査経過a:当院初診時の右眼Goldmann視野検査結果.中心暗点(白矢印)を認める.Cb:当科初診時の左眼CGoldmann視野検査結果.明らかな視野異常を認めない.c:ステロイドパルス療法(IVMP)後C5カ月の右眼Goldmann視野検査結果.右比較暗点(.)のみまで改善した.Cd:IVMP後C5カ月の左眼Goldmann視野検査結果.明らかな視野異常を認めない.plasmapheresis:IAPP)があり,PEの副作用が懸念される場合にはCIAPPが推奨されている4).また,頻度は低いもののステロイドに抵抗性を示す難治性特発性視神経炎も存在し,この場合にはCPEも検討される5).ただし,PEの導入時期や導入基準・必要回数などは明確に定まっていない.視機能改善や病態の寛解に至るまで複数回の血漿交換療法が必要とする報告もある6).今回,ステロイド治療に抵抗を示した難治性視神経炎に対し,単回のCPEで視機能改善を得た症例を経験したので報告する.CI症例X年C3月,49歳,女性.右眼視力低下・下方の霧視を自覚し,近医眼科を受診した.メコバラミン内服にて改善せず,視力低下が進行したため,発症C10日後に精査加療目的で山形大学医学部附属病院眼科(以下,当科)へ紹介となった.C1.当院初診時の所見矯正視力:右眼C30Ccm手動弁,左眼C1.2.眼圧:右眼C17mmHg,左眼C16mmHg.前眼部・中間透光体:特記すべき所見なし.後眼部:右眼視神経乳頭腫脹.限界C.icker値(criticalC.ickerfrequency:CFF):右眼C4.11Hz,左眼C36.42Hz.対光反応:右眼相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentpupillarydefect:RAPD)陽性.Goldmann視野検査(図1a,b):右眼中心暗点,左眼異常なし.MRI検査(図2):造影検査にて右視神経に,shortCtauCinversionrecovery(STIR)での高信号と脂肪抑制造影CT1強調像で造影効果の増強を認めたが,脳実質や髄膜に異常は認めなかった.抗体検査結果:抗CAQP4抗体陰性〔enzyme-linkedCimmuno-sorbentassay(ELISA)法〕,抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelinColigodendrocyteCglycopro-tein:MOG)抗体陰性.以上の経過から右眼特発性視神経炎と診断し,X年C3月よりCIVMP〔メチルプレドニゾロン(methylprednisolone:図2初診時の造影MRI検査所見a:水平断CshortCtauCinversionrecovery(STIR).b:冠状断CSTIR.Cc:水平断脂肪抑制造影CT1強調像.Cd:冠状断脂肪抑制造影CT1強調像.右眼視神経にCSTIRで高輝度信号を認め(),脂肪抑制造影CT1強調像に造影効果を認める()ものの,脳実質や髄膜に異常は認めなかった.mPSL)1,000mg/日,3日間〕をC3クール施行した.その後,プレドニゾロン(PSL)60Cmgからの漸減内服療法を行った.徐々に右眼視力は改善傾向を示し,X年C7月には矯正視力右眼C0.7まで改善しプレドニゾロン内服終了とした.内服終了後も視力はさらに改善し,X年C8月には矯正視力右眼C1.0となった.Goldmann視野検査(図1c,d)では右眼傍中心部の比較暗点が残存しているものの,自覚症状はほぼ消失した.その後,症状悪化はなく外来で経過観察していたが,翌年C1月に左眼視野異常を自覚し再診した.C2.再診時の検査所見矯正視力:右眼C1.0,左眼C1.2.眼圧:右眼C14mmHg,左眼C15mmHg.前眼部・中間透光体:特記すべき所見なし.後眼部:左眼軽度視神経乳頭腫脹.CFF:右眼C27.32Hz,左眼C24.29Hz.Goldmann視野検査(図3a,b):右眼傍中心部比較暗点,左眼CMariotte盲点近傍に比較暗点を認めた.対光反応:両眼CRAPD陰性.MRI検査:左眼視神経の軽度腫大とCSTIRでの左眼視神経周囲の高信号を認めた.脂肪抑制造影CT1強調像での造影効果や脳実質や髄膜に異常は認めなかった(図4).抗体検査結果:抗CAQP4抗体〔ELISA法およびCcell-basedassay(CBA)法〕陰性.左眼特発性視神経炎として視力低下の自覚C7日後よりIVMPをC2クール施行した.しかし,加療に対する反応が乏しくC2クール終了後の矯正視力は左眼C0.2であった.左眼のCFFはC16.20CHzと低下し,視野障害の進行を認めた(図3c,d).ステロイド抵抗性の難治性視神経炎と診断し,当院神経内科と協議して週C2.3回・最大計C7回のCPEを計画した.加療開始C12日後にアルブミン製剤を置換液としたPEを実施した.並行して同日からCIVMP3クール目を行い,図3再診(左視神経炎発症)前後の経過a:再診時(左視神経炎発症時)の右眼Goldmann視野検査結果.初回治療からC1年経過.比較暗点の残存()を認めるが悪化は認めない.b:再診時の左眼Goldmann視野結果.Mariotte盲点近傍の比較暗点(.)を認める.Cc:ステロイドパルス療法C2クール終了時の右眼Goldmann視野検査結果.傍中心比較暗点()の出現を認める.Cd:ステロイドパルス療法C2クール終了時の左眼Goldmann視野検査結果.中心比較暗点()の出現を認める.Ce:血漿交換療法後C11日の右眼Goldmann視野検査結果.傍中心比較暗点の残存を認める().f:血漿交換療法後C11日の左眼Goldmann視野検査結果.中心比較暗点()の縮小を認めた.続けてCPSL60Cmg/日からの漸減内服療法を施行した.PEのplasma:FFP)を投与した.その際に顔面および前胸部の発2日後,活性化部分トロンボプラスチン時間(activatedpar-疹が出現し,FFPに対するアレルギーが強く疑われた.今tialthromboplastintime:APTT)40秒(基準値C28.38秒),後CPEを継続する際に血液凝固系異常が生じ,FFP投与がフィブリノーゲンC114Cmg/dl(基準値C200.400Cmg/dl)と血アナフィラキシーショックを誘発する可能性があるため,液凝固系の異常を認めたため,新鮮凍結血漿(freshCfrozenPE継続は困難と判断した.しかし,PEの翌日に左眼矯正図4再診時の造影MRI検査所見a:水平断CSTIR.Cb:冠状断CSTIR.Cc:水平断脂肪抑制造影CT1強調像.Cd:冠状断脂肪抑制造影CT1強調像).左視神経周囲のCSTIR高輝度信号を認めたが(),造影効果は乏しく,脂肪抑制造影CT1強調像の造影効果や脳実質・髄膜に異常は認めなかった.視力はC0.3,7日後には矯正視力C0.8と改善し,自覚改善が得られたため,PEは再開せずCPSL漸減内服療法を継続した.PEのC11日後,左眼の矯正視力はC1.2,CFFはC20.23CHzに改善し,中心暗点も縮小した(図3e,f).その後,注意深くPSLを漸減し,治療後C4年間の経過観察を行ったが両眼の視力・視野障害は再発を認めていない.CII考按IVMPに加療抵抗性を示すCNMOSDに対してはCPPや免疫グロブリン大量静注が考慮される4).本症例では,視神経炎再発時に抗CAQP4抗体の結果(CBA法)が未着であったため,内科医と協議しCNMOの可能性を考慮した.当時,免疫グロブリン大量静注もCNMO急性期への有効性が示唆されていたが,NMOや多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)に対しランダム化比較試験で唯一有効性が証明されていた7)PE導入を選択した.近年では,特発性視神経炎に対してもPEが有効である可能性8)や抗CAQP4抗体や抗CMOG抗体が陰性である特発性視神経炎に対するCPEの有効性が報告されている9,10).加えて抗CAQP4抗体陰性CNMOに対しCIAPPよりもCPEが有効とする報告もあり11),本症例でもCIAPPよりPEが有効であった可能性がある.しかし,「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドラインC2023」ではCPPが推奨されていることや,DFPPによる抗CAQP4抗体陰性のステロイド抵抗性視神経炎の改善例の報告もある12)ことから,DFPPを選択することで合併症なく安全に加療できていた可能性もある.IVMP抵抗性だが早期CDFPPが著効した抗CAQP4抗体陰性の視神経炎で,再発頻度を下げうるという報告もある12).本症例ではCPE導入に並行してCIVMPの追加とCPSL内服漸減を行い,再発を認めなかった.PEでもステロイド療法の併用は有効であった可能性が示唆される.PEの開始時期の明確な規定はないが,NMOでは症状出現からC5日以内の開始や13),PPのCIVMPで改善を認めない早期の視神経炎に対する有用性が報告されている12).このため,IVMPに抵抗する難治性視神経炎に対しても早期のCPE導入が望ましいと考える.しかし,本症例のようにCPEに伴う凝固系異常など副作用が生じうるため,導入を躊躇することもある.導入が遅れることで視機能改善が困難となりうるため,導入時には内科との綿密な連携による全身管理が不可欠である.保険上,PEの実施回数は患者の状態に応じ規定されており,週C2.3回で施行される.本症例ではCPEに伴う副作用のため,複数回の実施は困難であり単回で実施した.有効性が低いと予測されたが,十分な視機能改善が得られた.PEではCNMOSDの原因の一つである抗CAQP4抗体のみならず,原因となる未知の分子や関連するサイトカインなども除去可能であり,本症例ではCPEによりこれらが除去され,速やかな視機能改善が得られたと考える.本例のように必ずしも複数回のCPEを要さずに視機能が改善する症例があるため,IVMP抵抗性症例に対しCPEをより迅速に導入することが望ましい.本症例では,抗CAQP4抗体を計C3回(ELISA法C2回,CBA法C1回)測定したが,陰性であった.抗CAQP4抗体は陰性であっても,ELISA法やCCBA法による再測定が勧められている14).また,3度目の検査で陽性となったCNMOの症例報告もある15).本症例では再発までの間に再検しなかったものの,再検にて抗CAQP4抗体陽性となっていた可能性は否定できず,ステロイド漸減後中止時など経過中の再測定の検討は必要と考える.今回,単回CPEで改善を得られたステロイド抵抗性難治性視神経炎を経験した.やむを得ず単回CPEとなったが著効しており,症例によってはCPEの回数を軽減できる可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)石川均:日本における特発性視神経炎トライアルの結果について.神経眼科24:12-17,20072)毛塚剛司:視神経炎をみたら.あたらしい眼科C30:731-737,20133)WingerchukDM,BanwellB,BennettCJLCetal:Interna-tionalconsensusdiagnosticcriteriaforneuromyelitisopti-caspectrumdisorders.NeurologyC85:177-189,20154)日本神経学会:第Ⅰ章中枢神経系炎症性脱髄疾患診療における基本情報.多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドラインC2023,医学書院,20235)毛塚剛司:視神経脊髄炎.神経眼科31:5-12,20146)福井美保,島川修一,芦田明ほか:血漿交換が有効であったCneuromyelitisopticaのC1例.脳と発達C43:389-393,C20117)日本神経学会:血漿浄化療法は急性憎悪期の治療に有効か?.多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017,p182-183,医学書院,20178)ChenJJ,FlanaganEP,PittockSJetal:VisualoutcomesfollowingCplasmaCexchangeCforCopticneuritis:anCinterna-tionalmulticenterretrospectiveanalysisof395opticneu-ritisattacks.AmJOphthalmol252:213-224,20239)三戸裕美,三木敦司,後藤克聡ほか:難治性視神経炎に単純血漿交換が著効したC1例.臨眼73:1175-1181,201910)徳久照朗,林孝彰,増田直仁ほか:ステロイド抵抗性視神経炎に単純血漿交換療法を試みたC1例.眼科C64:181-188,202211)瀬島啓史,大久保淳,板垣紋子ほか:抗CAQP4抗体陰性視神経脊髄炎に対するアフェレシス療法の効果.日本アフェレシス学会雑誌34:208-213,201512)松田隆作,毛塚剛司,松永芳径ほか:ステロイド大量療法に抵抗した視神経炎に対する血漿交換療法.臨眼C66:545-551,201213)BonnanM,ValentinoR,DebeugnyCSCetal:ShortCdelayCtoCinitiateCplasmaCexchangeCisCtheCstrongestCpredictorCofCoutcomeCinCsevereCattacksCofCNMOCspectrumCdisorders.CJNeurolNeurosurgPsychiatry89:346-351,201814)WatersPJ,McKeonA,LeiteMIetal:Serologicdiagno-sisCofNMO:aCmulticenterCcomparisonCofCaquaporin-4-IgGassays.NeurologyC78:665-671,201215)小川雄,酒井勉,河野優ほか:3回目の測定で抗AQP4抗体の陽性化を認めた難治性両視神経炎のC1例.神経眼科32:280-284,2015***