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Preserflo MicroShuntの6カ月成績とnylon stentによる術後脈絡膜剝離予防策の検討

2024年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(12):1476.1481,2024cPreser.oMicroShuntの6カ月成績とnylonstentによる術後脈絡膜.離予防策の検討城下哲夫貞松良成さだまつ眼科クリニックCSix-monthOutcomesafterPreser.oMicroShuntImplantationandPreventionofPostoperativeChoroidalDetachmentwithaNylonStentTetsuoJoshitaandYoshinariSadamatsuCSadamatsuEyeClinicC目的:プリザーフロマイクロシャント(Preser.oMicroShunt:PFM)の術後C6カ月成績および術後の過剰濾過対策としてのCnylonstentの有用性の検討を行う.対象および方法:さだまつ眼科クリニックにおいてC2023年C1.8月にPFM挿入術を施行したC45例C51眼を対象とした.診療録から後ろ向きに眼圧,緑内障薬の点眼数,6カ月生存率,角膜内皮細胞密度,併発症について検討した.成功基準は術前からC20%以上の眼圧下降とした.結果:術前眼圧C24.7±7.5CmmHgはC6カ月後C14.1±4.6CmmHgへ有意に下降した.術後C6カ月の生存率はC76.5%であった.角膜内皮細胞密度の平均減少率は.2.8±0.1%であった.術後合併症としてもっとも多かったのは脈絡膜.離でC14眼(27.5%)に認め,うちC2眼は外科的介入を要した.脈絡膜.離(CD)発生の有無における患者背景の群間比較では,平均年齢,術前眼圧,眼圧下降幅に有意差が認められた.術中にC10-0nylonstentをCPFM内腔に挿入し対策を講じることで低眼圧の発生率はC31.0%からC4.5%へ有意に減少した.結論:PFM挿入術は術後有意な眼圧下降を認めたが,脈絡膜.離の合併症には注意する必要があり,その対策として,とくに高齢で術前眼圧の高い症例にはCnylonstentは有用な可能性がある.CPurpose:ToCevaluateCtheC6-monthCpostoperativeCoutcomesCofCPreser.oMicroShunt(PFM,CSantenCPharma-ceuticalCCo.,Ltd.)implantationCandCtheCe.ectivenessCofCnylonCstentingCinCglaucomaCpatients.CSubjectsandMeth-ods:Thisretrospectivestudyinvolved51eyesof45glaucomapatientsthatunderwentPFMimplantationatSad-amatsuCEyeCClinic,CSaitama,CJapanCbetweenCJanuaryCandCAugustC2023.CTheCmedicalCrecordsCofCallCcasesCwereCreviewedCtoCinvestigateCintraocularpressure(IOP),CnumberCofCglaucomaCmedicationsCused,CsurvivalCrateCatC6-monthspostoperative,cornealendothelialcell(CEC)density,andpostoperativecomplications.Thesuccesscrite-rionwasa.20%IOPreductionfromthatatbaseline.Results:At6-monthspostoperative,themeanpreoperativeIOPof24.7±7.5CmmHghadsigni.cantlydecreasedto14.1±4.6CmmHg,andthesurvivalratewas76.5%.Theaver-agedecreaseofCECdensitywas2.8±0.1%,andthemostcommoncomplicationwaschoroidaldetachment(CD);Ci.e.,CDobservedin14(27.5%)ofthe51eyes,2ofwhichrequiringsurgicalintervention.InthecomparisonoftheincidenceCofCCDCbetweenCtheCinvestigatedCfactors,Csigni.cantCdi.erencesCwereCobservedCinCtheCmeanCageCofCtheCpatients,preoperativeIOP,anddegreeofIOPreduction.Duringsurgery,10-0nylonstentingintothePFMlumensigni.cantlyCreducedCtheCincidenceCofCover-.ltrationCfrom31.0%Cto4.5%.CConclusion:PFMCimplantationCsigni.cantlydecreasedtheIOP,yetcarefulattentionmustbepaidtothepossibledevelopmentofCD.Nylonstent-ingmaybeane.ectivepreventivemeasure,especiallyinelderlypatientsandthosewithhighpreoperativeIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(12):1476.1481,C2024〕Keywords:緑内障手術,プリザーフロマイクロシャント,脈絡膜.離,低眼圧,ナイロンステント.glaucomaCsurgery,Preser.oMicroShunt,choroidaldetachment,hypotony,nylonstenting.C〔別刷請求先〕城下哲夫:〒344-0035埼玉県春日部市谷原新田C2213-1さだまつ眼科クリニックReprintrequests:TetsuoJoshita,M.D.,SadamatsuEyeClinic,2213-1Yaharashinden,Kasukabe-city,Saitama344-0035,JAPANC1476(92)はじめに緑内障手術において線維柱帯切除術(trabeculectomy:LET)はC1968年に報告され,以来効果的な手術として知られている1.3)が,同時にその合併症リスクも高い4).わが国でC2023年C8月より使用可能となったプリザーフロマイクロシャント(Preser.oMicroShunt:PFM)は,長さC8.5Cmm,外径C350Cμm,内腔C70Cμmのデバイスで,生体適合性材料であるスチレン-イソブチレン-スチレントリブロック共重合体(polystyrene-isobuthlene-styrene:SIBS)で作られている5,6).PFMを用いた濾過手術はCLETに比べ術後早期の低眼圧のリスクは有意に低いという報告がある7,8)が,一方でLETに比べCPFMで術後早期の低眼圧が有意に多く,脈絡膜.離(choroidaldetachment:CD)も多い傾向にあるという報告9)もある.今回,PFMのC6カ月成績を後ろ向きに検討した.CI対象と方法2023年C1.8月にCPFM単独,または白内障同時手術を当院で施行した緑内障患者連続C45例C51眼を対象とした.眼圧は原則としてCGoldmann圧平眼圧測定を用い,一部測定が困難で測定結果に信頼性が低かったものにおいてはアイケア手持眼圧計(iCareIC100,IcareFinlandOy)を用いて測定した.角膜内皮細胞密度はスペキュラマイクロスコープ(TOMEYEM-4000,トーメーコーポレーション),角膜厚は前眼部COCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を用いて測定した.手術室において,点眼麻酔後,術野消毒・ドレーピングし術野を確保した.2%キシロカインCEで結膜下浸潤麻酔を行い角膜輪部側より結膜を切開,Tenon.を展開し強膜を露出させ,2%キシロカインCEでCTenon.下麻酔を行った.止血を確認したのち,0.04%マイトマイシンC(MitomycinC:MMC)を強膜にC4分間塗布し,生理食塩水C20Cmlで洗浄した.角膜輪部からC3Cmmの位置から専用のダブルステップナイフを用いて強膜トンネルを作製し前房内に穿孔,同トンネル内にCPFMを挿入した.PFMの先端が前房内にあることを確認し,PFM後端からの房水の逆流を確認したのち,PFM後方露出部を矢状方向に強膜上に沿わせた状態でTenon.と結膜を角膜輪部にC9-0バージンシルク縫合糸を用いてC2針縫合した.手術終了時にデキサメタゾンリン酸エステルナトリウムC1.65Cmg(デカドロン)の結膜下注射を行った.白内障同時手術の場合は,まずに先にC12時よりC2.3Cmmの角膜切開にて白内障手術を施行し,前房内の粘弾性物質(ヒアルロン酸CNa1.1眼粘弾剤C1%CMV「センジュ」)を十分に洗浄除去したのち,PFMの手順へ進んだ.連続症例C30眼目以降のC22眼においては全眼,術中にCPFMの後端より10-0ナイロン糸(以下,nylonstent)を挿入し,術後の眼圧に応じて術後平均C5.4C±9.3日目(1.42日目)に抜去した.術眼の緑内障点眼薬は術後から中止し,術後眼圧に応じて再開した.術後はモキシフロキサシン(ベガモックス点眼液0.5%)をC2週間,デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム(サンテゾーン点眼液C0.1%)をC6カ月間,ブロムフェナクナトリウム(ブロナック点眼液C0.1%),レバミピド(ムコスタ点眼液CUD0.2%)をC3カ月間継続した.検討項目は術後眼圧経過,薬剤スコア,累積生存率,角膜内皮細胞密度および併発症とした.CD発生の有無における患者背景の群間比較項目は,病型,角膜厚,術前からの眼圧下降幅,術前眼圧,平均年齢,Cnylonstentの有無,白内障同時手術の有無とした.CNylonstentの有無,およびCPFM単独/白内障同時手術における術翌日眼圧,CD発生率,低眼圧発生率を比較した.全観察点で(術前,術後C1日,1,2,3週日,1,2,3,4,5,6,7およびC8カ月)で診察と眼圧測定を行った.薬剤スコアは緑内障の単剤をC1点,配合剤はC2点,経口炭酸脱水酵素阻害薬はC1錠C2点として計算した.解析方法として,術後眼圧と薬剤スコアの推移にはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較検定を行い,生存率は既報7)と同じように緑内障治療薬の追加なしで術前からC20%以上の眼圧下降を成功,これをC2回連続した観察点で満たさない場合,または手術室での追加緑内障手術を要した場合を死亡としてCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成した.CD発生の有無,nylonstentの有無,PFM単独/白内障同時手術における患者背景の群間比較にはCt検定,Fisherの直接確率計算法,nylonstentの有無およびCPFM単独/白内障同時手術におけるCCDと低眼圧発生頻度の比較にはCFisherの直接確率計算法を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究は臨床研究法を遵守しヘルシンキ宣言に基づき,手術前にインフォームド・コンセントを得て,豊栄会研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:H023R504).CII結果対象の連続C45例C51眼を後ろ向きに検討した.患者背景を表1に示す.病型の内訳は,原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleglaucoma:POAG)23眼,落屑緑内障(exfolia-tionglaucoma:EXG)19眼,EXG以外の続発開放隅角緑内障(secondaryCopenCangleglaucoma:SOAG)で硝子体手術後の眼圧上昇C3眼,新生血管緑内障C2眼,抗精神病薬内服によると思われる続発閉塞隅角緑内障C2眼,ぶどう膜炎緑内障1眼,原発閉塞隅角緑内障C1眼であった.全症例の術後平均観察期間はC4.0C±2.2カ月であった.全症例の眼圧経過は術後C8カ月を除いた全期間において術前C24.7C±7.5CmmHgから有意に下降し,術後C6カ月目ではC14.1±4.6CmmHgまで減少した(p<0.001,ANOVA+Dun-nett’stest,図1).全症例の薬剤スコアは術前C3.8C±0.8から術後C6カ月目ではC0.5C±1.2に減少した(p<0.001,pairedtest).術後C6カ月の角膜内皮細胞密度の測定ができたC14眼において角膜内皮細胞密度の平均減少率は.2.8±0.1%であった(p=0.286,pairedt-test).図2にCKaplan-Meier生命表解析を用いた生存曲線を示す.表1患者背景眼数年齢(歳)男:女病型(POAG:EXG:others)術前眼圧(mmHg)術前薬剤スコア術前角膜内皮細胞密度(cells/mmC2)術前中心角膜厚(μm)術後観察期間(カ月)IOL:phakiaPFM単独手術:白内障同時手術PFM挿入位置鼻上側:耳上側:鼻下側ナイロンステント挿入無硝子体眼緑内障手術歴あり45例51眼C73.7±10.5(48.88)33:1823:19:9C24.7±7.5(16.42)C3.8±0.8(2.5)C2314±438C525±37C4.0±2.239:1243:848:2:122眼7眼11眼(mean±SD)(Range)薬剤スコアは炭酸脱水酵素阻害薬をC1錠C2点,配合剤点眼をC2点とした.POAG:原発性開放隅角緑内障,EXG:落屑緑内障,PFM:プリ術後C6カ月の生存率はC76.5%であった.術後併発症として頻度が高かったのはCCDで,51眼中C14眼(27.5%)に認めた.うちC9眼(17.6%)は経過観察またはベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン点眼液0.1%),アトロピン硝酸塩水和物(日点アトロピン点眼液C1%),粘弾性物質(ophthalmicCviscosurgicaldevice:OVD)(オペガン0.6眼粘弾剤1%)の前房内注入(1眼)で消退,3眼(5.9%)はそれぞれ術後C8カ月目,2週目,1週目時点で経過観察可能な範囲のCCDが残存し,2眼(3.9%)は重篤なCCDとなり外科的な介入を要した.その他の術後併発症は,高眼圧(16CmmHg<)がC12眼(23.5%),低眼圧(<6CmmHg)が10眼(19.6%),前房出血がC10眼(19.6%),浅前房がC7眼(13.7%),複視がC4眼(7.8%),PFMの挿入位置不良がC2眼(3.9%)であった.術後の追加処置としては,9眼(17.6%)でCneedling(1回3眼,2回4眼,3回2眼),5眼(9.8%)で濾過胞再建とPFM短縮,2眼(5.7%)で重篤なCCDのためCtappingとシリコーンオイル(siliconoil:SO)置換,1眼(2.0%)でCOVDの前房内注入(1回),1眼(2.0%)で挿入位置修正を行った.患者背景の群間比較では,CD群とCCDが発生しなかった群でそれぞれ,平均年齢がC80.9C±6.6歳とC70.9C±10.6歳(p=0.0018*),術前眼圧がC29.6C±7.5CmmHgとC22.8C±6.7CmmHg(p=0.00765*),術前からの眼圧下降幅がC21.9C±9.1CmmHgとC13.1C±7.2CmmHg(p=0.00069*)であった.Nylonstent群と非挿入群ではそれぞれ,平均年齢がC69.4C±11.9歳とC76.9C±3.8mmHg±6.11),術翌日眼圧がC2表)(*0.00993=3歳(pC.8.001)7mmHg(p<0C.3±と7.3ザーフロマイクロシャント.C24.7±7.53025(表2),CD発生率はCNylon眼圧(mmHg)15.1±4.52014.1±4.6*15********10**5pre171421285684112140168196234観察期間(日)(mean±SD)眼数515151392345423830221791図l眼圧経過術C7カ月後まで有意に下降した(*p<0.001,ANOVA+Dunnett’stest)生存率(%)100806040200050100150生存期間(日)図2Baselineより20%以上眼圧下降6カ月生存率生存率はC76.5%であった.表2患者背景(CD発生群と非発生群)EXGCPOAG角膜厚(μm)平均年齢(歳)術前眼圧(mmHg)術前からの眼圧下降幅(mmHg)術翌日眼圧(mmHg)Cnylonstent(+)白内障同時手術CD群CDが発生(n=14)しなかったp値群(n=37)8(57.1%)11(29.7%)4(28.6%)19(51.4%)C533.7±32.0C522.0±38.5C80.9±6.6C70.9±10.6C29.6±7.5C22.8±6.7C21.9±9.1C13.1±7.2C7.7±4.0C9.8±4.33(21.4%)19(51.4%)1(7.1%)7(18.9%)0.106+0.21+0.318*C0.0018*C0.00765*C0.00069*C0.129*C0.0658+0.419+NS群NSを入れな(n=22)かった群p値(n=29)5(22.7%)14(48.3%)11(50.0%)12(41.4%)C514.4±36.5C533.4±35.3C69.4±11.9C76.9±8.3C25.4±8.1C24.1±7.1C13.7±8.2C16.8±8.9C11.6±3.8C7.3±3.75(22.7%)3(10.3%)0.0829+0.581+0.0674*C0.00993*C0.567*C0.212*C0.000174*C0.268+PFM単独白内障同時群(n=43)手術群p値(n=8)18(41.9%)1(12.5%)C0.231+20(46.5%)3(37.5%)C0.715+526.1±36.9C520.8±39.0C0.712*C75.6±9.4C63.4±11.3C0.00194*C25.0±7.4C22.6±7.8C0.406*C16.3±8.9C11.0±8.0C0.111*C8.7±3.9C11.6±5.4C0.08*17(39.5%)5(62.5%)C0.268+(mean±SD)+:Fisher’sexacttest,*:t-testCD:脈絡膜.離,NS:ナイロンステント,PFM:プリザーフロマイクロシャント,EXG:落屑緑内障,POAG:原発性開放隅角緑内障.stent群がC13.6%,非挿入群がC37.9%(p=0.0658)(表3),術表3Nylonstentの有無およびPFM単独/白内障同時手術によ翌日の低眼圧発生率はCnylonstent群がC4.5%,非挿入群がるCDと低眼圧発生頻度の比較31.0%(p=0.0302*)(表3)であった.白内障同時手術群のCD発生率はC12.5%,PFM単独群がC30.2%(p=0.419)(表2)であった.CIII考按術後の眼圧変化としては,1眼しかなかった術後C8カ月を除いた全観察期間において有意に眼圧下降が得られた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest,図1).術翌日はC10CmmHgCD発生有低眼圧発生有(<6mmHg)nylonstent(C.)nylonstent(+)11/29(C37.9%)3/22(C13.6%)9/29(C31.0%)1/22(C4.5%)p値C0.0658+0.0302+PFM単独白内障同時手術13/43(C25.5%)1/8(C12.5)8/43(C18.6%)2/8(C25.0%)p値C0.419+0.647++:Fisher’sexacttest以下まで下降し,術後C1カ月目まで徐々に上昇して安定しCD:脈絡膜.離,PFM:プリザーフロマイクロシャント.た.この傾向は既報7,8)と一致した.術後C6カ月の角膜内皮細胞密度の測定ができたC14眼において角膜内皮細胞密度の平均減少率は.2.8±0.1%であった(p=0.286).Bakerらは術後C1年での角膜内皮細胞密度の平均減少率はCPFMとCLETで差はないとしており7),少なくとも短期でのCPFMによる角膜内皮細胞の明らかな減少は認められないといえる.しかし,PFMの挿入角度によって,角膜内皮に近く固定されたものは角膜内皮細胞の減少が危惧されるため,挿入位置の修正が必要になることもあるだろう.今回の症例にも術翌日にCPFMの先端が角膜内皮近くに挿入されていたため,再手術にて挿入角度を修正した症例があった.今回C51眼中C14眼(27.5%)にCCDを認めた.既報のCCDの発生頻度C4.6.11%C7.10)に比べて多い結果であった.PFM施行後のCCD発生リスクについての報告は未だないが,Iwa-sakiらはCLET施行後のCCD発生のリスクファクターとして,EXG,大幅な眼圧下降,厚い角膜厚をあげている11).今回EXGの有無でCCD発生率に有意差は認められず(p=0.106),角膜厚においてもCCD発生の有無に差はなかった(p=0.318)(表2).術前から術翌日の眼圧下降幅においては,CD発生群C21.9C±9.1CmmHgに対しCCDが発生しなかった群でC13.1C±7.2CmmHgと有意差を認めた(p<0.001)(表2).やはり大幅な眼圧下降はCCD発生のリスクといえよう.PFMはその構造上,高い眼圧のほうが下降幅は大きくなる.そこで術前眼圧を比較するとCCD発生群C29.6C±7.5CmmHgに対し発生しなかった群C22.8C±6.7CmmHgと有意差を認めた(p<0.01)(表2).術前眼圧が高いことはCCD発生のリスクとして考慮する必要がある可能性がある.また,平均年齢においてCCD発生群C80.9C±6.6歳に対しCCDが発生しなかった群でC70.9C±10.6歳と有意差を認めた(p<0.01)(表2).高齢であることもCD発生のリスクファクターとなり得る.今回の対象の平均年齢はC73.7C±10.5歳と既報C7.10)に比べ高齢であったことはCDの発生率が高いことに影響している可能性がある.低眼圧に対してCOVDの前房内注入はCPFMの閉塞を危惧し,当初は選択を避けていたが,その後,白内障同時手術を経験していく中でCOVDは使用可能と判断し,低眼圧傾向とCDの出現早期からCOVDの前房内注入をするようにすることで以降の症例では術後にコントロール不良なCCDにまでは発展することなく経過した.LupardiらはCPFM術後の過剰濾過に対し,PFM内腔に10-0ナイロン糸を挿入することで低眼圧を改善・予防した12,13).また,LukeらはCPFM内腔にC8-0ポリアミド糸を挿入することで術後の低眼圧を予防した14).今回Cnylonstent群では非挿入眼に比し術翌日の眼圧は有意に上昇し,低眼圧の発生率はC31.0%からC4.5%まで有意に減少した(p=0.0302)(表3).CDの発生率は有意差はないもののC37.9%からC13.6%へ減少傾向を示した(p=0.0658)(表3).しかし,Cnylonstentの有無による術前眼圧と術前眼圧下降幅に差はなかった(表2).今回Cnylonstentの使用は無作為に割り付けていたが,平均年齢はCnylonstentを入れなかった群で有意に高かった.そこでCnylonstentを入れなかったC29眼を対象にCCD発生の有無で平均年齢,術前眼圧,術前からの眼圧下降幅,角膜厚,術翌日眼圧,EXGの有無に統計的差があるかを検討したところ,それぞれ平均年齢C81.9C±4.3歳,73.9C±8.7歳(p=0.0084*,t-test),術前眼圧C28.3C±6.8CmmHg,21.6C±6.1CmmHg(p=0.0108*,t-test),術前眼圧からの眼圧下降幅C21.3C±9.4mmHg,14.1C±7.5CmmHg(p=0.0306*,t-test)と有意差を認めた.角膜厚(p=0.705,t-test),術翌日眼圧(p=0.703,t-test),EXGの有無(p=0.264,Fisher’sCexacttest)については有意差は認められなかった.このことからも高齢で術前眼圧が高いことは術後CCD発症のリスクとなる可能性が高いといえるだろう.術翌日眼圧はCnylonstentを入れた群で有意に高かった(表2).Nylonstentによって大幅な眼圧下降は抑制できると期待できる.CNylonstentは低眼圧や大幅な眼圧下降に伴うCCDについては予防策となるかもしれない.今回経験した症例の結果からは,とくに高齢で術前眼圧が高い患者にはCnylonstentが有用な可能性が期待できる.しかし,nylonstentによるPFMの長期の成功率への影響は未知数であり,今後さらに多数,長期の検討が必要である.文献1)CairnsJE:Trabeculectomy.CpreliminaryCreportCofCaCnewCmethod.AmJOphthalmolC66:673-679,C19682)GeddeSJ,FeuerWJ,ShiWetal:TreatmentoutcomesintheCprimaryCtubeCversusCtrabeculectomyCstudyCafterC1Cyearoffollow-up.OphthalmologyC125:650-663,C20183)CaprioliJ,DeLeonJM,AzarbodPetal:TrabeculectomycanCimproveClong-termCvisualCfunctionCinCglaucoma.COph-thalmologyC123:117-128,C20164)EdmundsB,ThompsonJR,SalmonJFetal:TheNationalsurveyoftrabeculectomy.III.earlyandlatecomplications.EyeC16:297-303,C20025)KerrCNM,CAhmedCIIK,CPinchukCLCetal:PRESERFLOCMicroShunt.In:MinimallyCinvasiveCglaucomaCsurgery(SngCCCA,CBartonK),p91-103,CSingapore,CSpringer,C20216)GreenCW,CLindCJT,CSheybaniA:ReviewCofCtheCXenCgelCstentCandCInnFocusCMicroShunt.CCurrCOpinCOphthalmolC29:162-170,C20187)BakerCND,CBarnebeyCHS,CMosterCMRCetal:Ab-externoCMicroShuntversustrabeculectomyinprimaryopen-angleglaucoma:one-yearCresultsCfromCaC2-yearCrandomized,Cmulticenterstudy.OphthalmologyC128:1710-1721,C20218)FeaAM,La.GL,MartiniEetal:E.ectivenessofMicro-Shuntinpatientswithprimaryopen-angleandpseudoex-foliativeCglaucoma.COphthalmolCGlaucomaC5:210-218,C2022C9)BohlerAD,TraustadottirVD,HagemAMetal:Hypoto-nyCinCtheCearlyCpostoperativeCperiodCafterCMicroShuntCimplantationCversustrabeculectomy:aCregistryCstudy.CActaOphthalmolC102:186-191,C202310)TannerA,HaddadF,Fajardo-SanchezJetal:One-yearsurgicaloutcomesofthePreserFloMicroShuntinglauco-ma:aCmulticentreCanalysis.CBrCJCOphthalmolC107:1104-1111,C202311)IwasakiCK,CKakimotoCH,CArimuraCSCetal:ProspectiveCcohortstudyofriskfactorsforchoroidaldetachmentaftertrabeculectomy.IntOphthalmolC40:1077-1083,C202012)LupardiCE,CLa.CGL,CCiardellaCACetal:Ab-externoCintra-luminalCstentCforCprolongedChypotonyCandCchoroidalCdetachmentCafterCPreser.oCimplantation.CEurCJCOphthal-molC33:63-66,C202313)LupardiCE,CLa.CGL,CMoramarcoCACetal:SystematicCPreser.oCMicroShuntCintraluminalCstentingCforChypotonyCpreventionCinChighlyCmyopicpatients:aCcomparativeCstudy.JClinMedC12:1677,C202314)LukeCJN,CReinkingCN,CDietleinCTSCetal:IntraoperativeCprimaryCpartialCocclusionCofCtheCPreserFloCMicroShuntCtoCpreventCinitialCpostoperativeChypotony.CIntCOphthalmolC43:2643-2651,C2023***

白内障術後4カ月に角膜浮腫を生じたDescemet膜剝離の1例

2024年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(12):1472.1475,2024c白内障術後4カ月に角膜浮腫を生じたDescemet膜.離の1例柚木麻衣*1,2田尻健介*1吉川大和*1,3向井規子*1,4喜田照代*1*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2近畿大学奈良病院眼科*3よしかわ眼科医院*4市立ひらかた病院眼科CACaseofDescemetMembraneDetachmentthatCausedCornealEdemaFourMonthsafterCataractSurgeryMaiYunoki1,2),KensukeTajiri1),YamatoYoshikawa1,3),NorikoMukai1,4)andTeruyoKida1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KindaiUniversityNaraHospital,3)YoshikawaEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,HirakataCityHospitalC目的:白内障術後C4カ月に角膜中央にCDescemet膜.離を認め,Descemet膜下貯留液の排液および前房内C20%六フッ化ガス(SF6)注入が奏効したC1例を報告する.症例:84歳,女性.2020年に両眼の白内障手術を耳側角膜切開で施行され術後経過は良好であった.術後C4カ月に右眼に角膜浮腫を認めた.経過観察されたが角膜浮腫は増悪し,術後7カ月に大阪医科薬科大学病院眼科を紹介受診した.初診時,角膜中央に角膜浮腫およびCDescemet膜.離を認め視力は(0.5)に低下していた.角膜内皮面に切開創付近からCDescemet膜.離の方向へ管状構造をもつ帯状の瘢痕を認めた.Descemet膜.離が拡大し視力が(0.3)に低下したため術後C9カ月にCDescemet膜下貯留液の排液および前房内C20%CSF6注入術を施行した.術後速やかに角膜浮腫は消退し再発なく経過している.結論:切開創付近の角膜内皮面に管状の瘢痕が生じ,Descemet膜下に房水が貯留したことがCDescemet膜.離を生じた原因と考えられた.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCDescemetCmembranedetachment(DMD)withClate-onsetCcornealCedemaCthatCwassuccessfullytreatedwithanovelsurgicalprocedure.Case:Thisstudyinvolvedan84-year-oldfemalepatientwhounderwentbilateralcataractsurgeryin2020withanuneventfulpostoperativecourse.However,at4-monthspostoperative,cornealedemadevelopedinherrighteye,and3monthslatershewasreferredtoourdepartmentfortreatmentastheconditionhadworsened.Uponinitialexamination,cornealedemaandDMDwereobservedintheCcentralCcorneaCofCherCrightCeye,CandCvisualCacuityChadCdecreasedCtoC20/40.CWeCobservedCaCband-shapedCscarCwithatubularstructureonthecornealendothelialsurfacefromthetemporalcornealincisionmadefortheDMD.Thus,drainageofDescemetsubmembrane.uidandinjectionof20%SF6CintotheanteriorchamberwasperformedCatC9-monthsCpostoperative.CPostCsurgery,CtheCcornealCedemaCquicklyCdisappearedCandCthereCwasCnoCrecurrence.CConclusion:Inthiscase,wetheorizethattheDMDwascausedbythetubularscarthatappearedonthecornealendothelialsurfaceneartheincision,andthataqueoushumoraccumulatedundertheDescemetmembrane.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(12):1472.1475,C2024〕Keywords:Descemet膜.離,白内障手術,角膜浮腫,20%CSF6ガス.Descemetmembranedetachment,cata-ractsurgery,cornealedema,20%sulfurhexa.uoride(SF6)gas.はじめにDescemet膜.離は白内障手術でときおり認められる術中合併症である.通常は切開創を起点として生じ,Descemet膜.離の範囲が大きい場合は角膜浮腫により重篤な視力低下を生じる.長期間CDescemet膜.離が治癒しない場合は,不可逆的な変化により水疱性角膜症となる1).今回筆者らは,白内障手術を施行しC4カ月後に角膜中央に限局する角膜浮腫およびCDescemet膜.離を認め,Des-cemet膜下貯留液の排液および前房内C20%六フッ化ガス(sulfurChexa.uoridegas:SF6gas)(以下,SF6ガス)注入〔別刷請求先〕柚木麻衣:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:MaiYunoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC1472(88)が奏効したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:84歳,女性.既往歴:特記事項なし.現病歴:2020年,近医にて両眼の白内障手術を耳側角膜切開で施行され視力は右眼(0.9),左眼(1.0)に改善した.術後の右眼角膜内皮細胞密度は角膜中央部でC2,900個/mm2であり,ステロイド点眼は漸減された.ドライアイの治療を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼をC1日C2回で継続していたが,術後C4カ月の近医再診時に角膜浮腫を認めた.0.1%ベタメタゾン点眼をC1日C4回に変更されたものの視力低下が進行し,術後C7カ月に大阪医科薬科大学病院眼科を紹介受診した.初診時所見:右眼の角膜中央からやや上方にかけて角膜浮腫を認め(図1),角膜内皮面に角膜切開創から角膜浮腫の方向に帯状の瘢痕形成を認めた(図2).角膜内皮細胞密度は角膜中央では測定できず,下方でC2,207個/mm2であった.前眼部光干渉断層計(HeidelbergCSpectralis,HeidelbergEngineering社)で撮像した前眼部光干渉断層撮影像では角膜中央からやや上方にかけてCDescemet膜.離を認めた.視力は右眼C0.15(0.5×sph.0.5D(cyl.2.0DAx105°),左眼0.4(0.7×sph.0.5D(cyl.1.25DAx90°),眼圧は右眼C10.7mmHg,左眼C9.0CmmHgであった.図1初診時の右眼前眼部写真(フルオレセイン染色)右眼の角膜中央からやや上方にかけて角膜浮腫を認める.図2初診時の右眼前眼部写真角膜内皮面に角膜切開創から角膜浮腫の方向に連なる帯状の瘢痕形成を認める(.).図3再診時の前眼部光干渉断層撮影像(CASIA2)両図とも角膜中央にCDescemet膜.離を認める.上図では創口近くの角膜内皮面に管状構造を認める.下図で管状構造が.離したDescemet膜上にも存在することがわかる.図4Descemet膜下貯留液の排液および前房内SF6ガス注入後8カ月の前眼部写真Descemet膜.離および角膜浮腫を認めない.角膜切開創から角膜中央やや上方にかけて帯状の瘢痕は残存している.治療経過:0.1%ベタメタゾン点眼をC1日C6回に変更したが角膜浮腫は増悪し,術後C8カ月には視力は(0.3)に低下した.術後C9カ月に当院に導入された前眼部光干渉断層計(CASIA2,トーメーコーポレーション)で撮像した前眼部光干渉断層撮影像ではCDescemet膜.離は拡大傾向であり,初診時に認めていた帯状の瘢痕部に一致して角膜内皮面に角膜切開創から角膜浮腫の方向へ連なる管状構造を認めた(図3).同月に前房内CSF6ガス注入およびCDescemet膜下貯留液の排液を施行した.最初に前房水を採取し,眼圧調整のうえで角膜上皮を掻爬しCDescemet膜を視認したその後C32CG針を用いて前房内にC20%CSFC6ガスを注入した.そのままシリンジに陰圧をかけながらベベルダウンで前房内からCDes-cemet膜を刺入しCDescemet膜下貯留液の排液を試みたが,シリンジ内のC20%CSFC6が逆流しCDescemet膜.離が拡大してしまった.そのためCDescemet膜下の貯留液とCSFC6ガスは角膜上皮側からCDescemet膜下腔に刺入しなおして排液および排気を完遂した.前房内をC20%CSFC6ガスで全置換し,10分間CDescemet膜を角膜実質に圧着させC0.4%ベタメタゾン結膜下注射を施行,治療用ソフトコンタクトレンズを装用させ術後は仰臥位安静とした.手術中は適宜スリット照明でDescemet膜.離の状況を確認した.術翌日,管状構造は残存していたがCDescemet膜.離は接着していた.術後速やかに角膜浮腫は消退しCDescemet膜.離は再発することなく(図4),2カ月後には管状構造に内腔は確認されなくなった.前房水ポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)検査は単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)およびサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)は陰性であった.前房内CSFC6ガス注入後約C3年目の現在,Descemet膜.離の再発はなく右眼矯正視力は(0.9)と良好である.角膜内皮細胞密度は中央およびC6方向の測定点で約C1,300個/mmC2である.CII考案一般に,白内障手術に伴って生じるCDescemet膜.離は,手術中もしくは術後数日に発症が確認される2).しかし,まれではあるが白内障手術を行って数週間以上が経過してから遅れてCDescemet膜.離が生じたという報告があり,Schny-der角膜ジストロフィ症例3)や梅毒性角膜白斑の症例4),とくに基礎疾患のない症例5)で術後C3.4週後に生じたと報告されている.本症例では術直後は視力良好であったが術後C4カ月頃に視力低下が生じており過去の報告に比較して発症が遅いと考えられた.Descemet膜.離の位置は通常,強角膜切開創および角膜切開創を起点にして生じるため,Descemet膜.離は切開創と連続して認められる1).本症例では切開創から離れた角膜中央部にCDescemet膜.離が限局していた.Schnyder角膜ジストロフィの症例で角膜切開創に連続しない遅発性CDes-cemet膜.離の報告3)があるが,本症例には角膜ジストロフィの所見は認められなかった.角膜切開創からCDescemet膜.離部へは角膜内皮面に管状構造をもつ瘢痕様の所見が認められた.本症例はかなり極端なCdeep-seteyesであり術中に前房内の視認性が不良となりやすい比較的白内障手術難症例であることから,角膜創付近に術直後から無症候性かつ限局性のCDescemet膜.離を生じていた可能性を考えている.管状構造が形成された過程については二つの仮説を考えている.一つは角膜内皮移植の術式の一つであるCDescemet膜移植においてドナー角膜から.離したCDescemet膜は内皮面を外側にしたデスメロールを形成するが6),弁状に.離していたCDescemet膜がデスメロールを形成しながら癒合し管状になった場合,二つ目はCDescemet膜.離部のCDescemet膜側同士が中央に寄りながら癒着し管状構造を形成した場合である.Descemet膜.離を広範に生じるような症例ではCDes-cemet膜と角膜実質との間に接着異常が存在する可能性がある.Schnyder角膜ジストロフィでは電子顕微鏡像で角膜実質とCDescemet膜との間に脂質沈着を疑う多数の空間の存在が報告されている7).本症例はCDescemet膜下貯留液の排液時にCDescemet膜.離を拡大させてしまった.シリンジにかけた陰圧に比較してCSFC6ガスの膨張が強かったためと考えている.本症例に特筆した既往歴は認めなかったがCDes-cemet膜と角膜実質間の接着の脆弱性を考えている.本症例におけるCDescemet膜.離の発症機序についての仮説を立てて考察してみた.白内障手術後,視力に影響を与えない大きさのCDescemet膜.離は角膜切開創近くに生じていた.Descemet膜.離は管状構造を形成しながら瘢痕化した.管状構造がCDescemet膜下と前房を交通しており,白内障術後遅発性にCDescemet膜.離が角膜中央部に限局して生じた.画像で確認は困難だが管状構造内に弁状の構造がありDescemet膜下貯留液は吸収量より供給量が勝ることで.離の拡大が生じた.発症が術後C4カ月であるが,術後ドライアイ治療のためにステロイド点眼を継続しており,瘢痕形成に時間を要した可能性がある.白内障手術中に範囲の広いCDescemet膜.離が生じた場合は前房内気体注入が考慮される..離範囲が数Cmm程度であれば空気注入で十分であるが1),広範囲であれば長期間貯留し膨張するCSFC6ガス8)やパーフルオロプロパンガス(per-.uoropropaneCgas)9)を選択する..離を何度も繰り返す場合はCDescemet膜縫着10)を検討する.一方で広範囲のCDes-cemet膜.離が自然治癒した報告5,11)もあり明確な指針はない.本症例は管状構造の残存による再発の可能性が考えられたため,SFC6ガスを用いて前房内ガス注入を施行した.Des-cemet膜.離は前房内に大きく開放しておらず,前房内ガス注入だけではCDescemet膜下の貯留液が残存する可能性を考慮し積極的に排液を行った.本症例では細隙灯顕微鏡検査で帯状の瘢痕およびCDes-cemet膜.離が確認できたが,管状構造とCDescemet膜.離の観察にはCCASIA2による網羅的な角膜断層像が有用であった.原因不明の角膜浮腫に対してCCASIA2による前眼部光干渉断層撮影像は病態解明の一助となるであろう.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)佐々木洋:Descemet膜.離.臨眼58:28-33,C20042)MackoolCRJ,CHoltzSJ:DescemetCmembraneCdetachment.CArchOphthalmolC95:459-463,C19773)勝部志郎,安田明弘,舟木俊成ほか:白内障術後に遅発性Descemet膜.離を生じたCSchnyder角膜ジストロフィのC1例.あたらしい眼科36:1579-1583,C20194)西村栄一,谷口重雄,石田千晶:両眼性CDescemet膜.離を繰り返した梅毒性角膜白斑合併白内障症例.IOL&RS24:100-106,C20105)CouchCSM,CBaratzKH:Delayed,CbilateralCDescemet’sCmembraneCdetachmentsCwithCspontaneousresolution:CimplicationsCforCnonsurgicalCtreatment.CCorneaC28:1160-1163,C20096)MellesCGRJ,CLanderCF,CRietveldFJR:TransplantationCofCDescemet’sCmembraneCcarryingCviableCendotheliumCthroughCaCsmallCscleralCincision.CCorneaC21:415-418,C20027)FreddoCTF,CPolackCFM,CLeibowitzHM:UltrastructuralCchangeintheposteriorlayersofthecorneainSchnyder’scrystallinedystrophy.CorneaC8:170-177,C19898)GaultCJA,CRaberIM:RepairCofCDescemet’sCmembraneCdetachmentCwithCintracameralCinjectionCof20%CsulfurChexa.uoridegas.CorneaC15:483-489,C19969)MacsaiMS,GainerKM,ChisholmC:RepairofDescemet’CsCmembraneCwithCdetachmentCwithCper.uoropropaneCgas(C3F8).CorneaC17:129-134,C199810)AmaralCE,PalayDA:TechniqueforrepairofDescemetmembraneCdetachment.CAmCJCOphthalmolC127:88-90,C199911)MinkovitzCJB,CSchrenkCLC,CPeposeCJSCetal:SpontaneousCresolutionCofCanCextensiveCdetachmentCofCDescemet’sCmembranefollowingphacoemulsi.cation.ArchOphthalmolC112:551-552,C1994***

ソフトコンタクトレンズ装用患者に発症した両眼性樹枝状病変の1例

2024年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(12):1468.1471,2024cソフトコンタクトレンズ装用患者に発症した両眼性樹枝状病変の1例上山健斗小林顕横川英明森奈津子森和也杉山和久金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室CACaseofBilateralDendriticLesionsOccurringinaSoftContactLensWearerKentoKamiyama,AkiraKobayashi,HideakiYokogawa,NatsukoMori,KazuyaMoriandKazuhisaSugiyamaCDepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicine,KanazawUniversityC緒言:角膜に樹枝状病変を認めた場合,単純ヘルペスウイルス角膜炎などの角膜疾患が鑑別診断の対象となる.今回,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者に認められた両眼性の樹枝状病変のC1例を経験したので報告する.症例:41歳,女性.1日使い捨てCSCL装用者である.3カ月前からの右眼の視力低下にて近医を受診し,両眼角膜に樹枝状病変を認めたため,金沢大学附属病院(以下,当院)角膜外来に紹介された.当院初診時の細隙灯顕微鏡検査にて両眼のCpalisadeofVogtの消失,角膜上方にCpigmentslideと考えられるスパイク状の上皮混濁を多数認め,それにつながるように樹枝状病変を認めた.この樹枝状病変にはターミナルバルブは認めなかった.抗癌剤の内服など全身的な合併症は認めなかった.これらの所見より,SCLが原因の樹枝状病変と推察した.抗菌薬と低濃度ステロイド点眼および治療用CSCL装用によりC2カ月後に樹枝状病変は消失した.考按:ターミナルバルブを伴わない角膜樹枝状病変を認めた場合は,SCLも原因の一つとして鑑別診断を行う必要がある.CPurpose:Dendriticlesionsareoftenassociatedwithcornealdisorderssuchasherpessimplexkeratitis.HereweCpresentCaCcaseCofCbilateralCdendriticClesionsCinCaCpatientCwhoCwearsCsoftCcontactlenses(SCLs).CCase:A41-year-oldfemalewhoregularlywearsSCLspresentedwithdecreasedvisioninherrighteye.Uponinitialexam-ination,bilateraldendriticlesionsweresuspected.Slit-lampexaminationrevealeddendriticlesionswithoutatermi-nalCbulb,CanCabsenceCofCtheCpalisadesCofCVogt,CandCspike-shapedCepithelialCopacityCindicativeCofCaCpigmentCslideCinCbothCeyes.CTheCpatientChadCnoCsigni.cantCmedicalChistory.CWeCtheorizedCthatCtheCdendriticClesionsCwereClikelyCinducedCbyCtheCwearingCofCtheCSCLs.CTreatmentCconsistingCofCtopicalCantibiotics,Clow-concentrationCsteroids,CandCtherapeuticSCLswasinitiated,andthelesionsresolvedwithin2months.Conclusion:WhenapatientwhowearsSCLsCpresentsCwithCvisionClossCandCaCdendriticClesionClackingCaCterminalCbulb,CtheClensCshouldCbeCconsideredCasCaCpotentialcausativefactor.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)41(12):1468.1471,C2024〕Keywords:樹枝状病変,コンタクトレンズ,ターミナルバルブ,pigmentslide,dendriticlesion,contactlenses,terminalbulb,pigmentslide.Cはじめにコンタクトレンズ(contactlens:CL)は広く一般に使用されているが,角膜の上皮障害や感染症,結膜のアレルギー性疾患やドライアイなどその合併症も多岐にわたる1.3).CLに関連して角膜感染症をきたす病原微生物のなかで,アカントアメーバは偽樹枝状角膜炎をきたすことが知られている2,4).また,単純ヘルペスウイルスや水痘帯状疱疹ウイルスも樹枝状病変をきたす代表的な病原微生物である2,4).したがって,CL装用者において樹枝状病変を認めた際にはこれらの感染症を鑑別にあげて診療する必要がある.今回筆者らはCCL装用自体が原因と推定される樹枝状病変に対してステロイド点眼および治療用ソフトコンタクトレンズ(softCcontactlens:SCL)を用いて治療した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕上山健斗:〒920-8641金沢市宝町C13-1金沢大学医薬保健研究域医学系眼科学教室Reprintrequests:KentoKamiyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofMedicine,KanazawUniversity,13-1Takara-machi,Kanazawa920-8641,JAPANC1468(84)I症例症例はC41歳の女性である.右眼の視力低下を主訴として来院した.20年以上のCSCLの装用歴がある.当初はC2週間頻回交換型のCSCLを近医眼科で処方されていたが,3年前より通販サイトから購入したC1日使い捨てタイプのCSCL(ヒドロキシエチルメタクリレート素材,直径C14.2Cmm,ベースカーブC8.7mm,酸素透過率C28C×10.9[cm・mlOC2/sec・ml・mmHg],含水率C58%)に変更した.3カ月前から右眼の視力低下を自覚しているとの主訴で近医を受診した.その際に両眼角膜に樹枝状病変を認め,金沢大学附属病院(以下,当院)角膜外来に紹介された.なお,前医ではレボフロキサシン点眼(両眼C2回)と人工涙液(両眼適宜)を処方されていた.眼科的既往歴,抗癌剤などの内服歴,アレルギー・アトピー性皮膚炎などの病歴,外傷歴はいずれも認めなかった.当院初診時,治療用CSCL非装用下にオートレフケラトメータで測定した角膜屈折力と角膜乱視の軸角度は,右眼が43.75D(弱主経線)・44.75D(強主経線)・軸角度C151°,左眼がC44.75D(弱主経線)・45.50D(強主経線)・軸角度C25°であ,Ax70°)C1.0D.cyl(0DC.1.sph×った.視力は右眼0.2(0.5左眼C0.3(0.6C×sph.1.0D(cyl.1.0DAx125°)であった.眼圧は右眼C9CmmHg,左眼C10CmmHgであった.細隙灯顕微鏡検査において,pigmentslideと考えられるスパイク状の上皮混濁を両眼の角膜上方に認め,そこから連続するようにして角膜中央部にターミナルバルブ陰性の樹枝状病変を認めた(図1).PalisadeofVogtは消失していた.結膜充血や前房内細胞などの炎症所見は認めなかった.放射状角膜神経炎の所見も認めなかった.樹枝状病変に対する治療として,レボフロキサシン(両眼3回)の点眼のほかにC0.02%フルオロメトロン(両眼C3回)点眼を追加し,両眼に治療用CSCL〔シリコーンハイドロゲル素材,直径C13.8Cmm,ベースカーブC8.6Cmm,酸素透過率C140×10.9(cm・mlOC2/sec・ml・mmHg),含水率C24%〕を装着して治療を開始した.当科初診時よりC2カ月後には樹枝状病変は角膜中央の一部を除きほぼ消失した.矯正視力もCL非装用で右眼(0.8C×sph.4.0D(cyl.1.0Ax60°),左眼(0.8C×sph.3.75D(cyl.1.5DAx65°)と改善を認めた.オートレフケラトメータで測定した角膜屈折力と角膜乱視の軸角度は,右眼がC45.75D(弱主経線)・46.00D(強主経線)・軸角度C7°,左眼がC45.50D(弱主経線)・46.75D(強主経線)・軸角度C25°であった.当科初診時よりC3カ月後には軽度の点状表層角膜症を認めるものの樹枝状病変は消失した.上皮や実質の瘢痕・混濁の残存も認めなかった(図2).矯正視力は右眼(0.8C×sph.4.5D),左眼(0.8C×sph.4.5D(cyl.1.0DAx65°)であった.スペキュラマイクロスコピー検査では,角膜細胞内皮密度は右眼C2,805/mmC2・左眼C2,472/mmC2,変動係数は右眼C45・左眼C42,六角形細胞出現率は右眼C54%・左眼C57%,中心角膜厚は右眼C538Cμm,左眼C521Cμmであった.前眼部COCT検査による角膜形状解析では,角膜前面屈折力と角膜乱視の軸角度は右眼がC45.4D(弱主経線)・47.1D(強主経線)・軸角度C12°,左眼がC45.6D(弱主経線)・46.3D(強主経線)・軸角度9°であった.全高次収差(higherCorderaberrotion:HOA)は右眼C0.24,左眼C0.24と正常範囲内であった.円錐角膜を疑うパターンは検出されなかった.CII考按樹枝状病変を認めた際には,鑑別診断としてアカントアメーバ角膜炎や単純ヘルペスウイルス角膜炎,帯状ヘルペス角膜炎などの感染性角膜炎が代表的である2,4,5).しかし,CLの装用自体が原因となった樹枝状病変の例もいくつか報告されている5.9).1981年にCMarguliesらが報告したものが最初であり6),月山,下村らはこれらをまとめて「コンタクトレンズによる偽樹枝状角膜炎(contactClensCinducedCpseudo-dendrites:CLIP)」と総称した7).CLIPでは樹枝状角膜炎に類似した上皮欠損を角膜輪部に認める7).単純ヘルペスウイルスによる樹枝状角膜炎と異なる点として,環状ないし渦巻き状の形態をとり5),染色は淡くターミナルバルブや分岐の繰り返しを認めないことが特徴的である5.7).ハードコンタクトレンズよりもCSCLの装用者に,両眼性に発症する例が多い7).CLのフィッティングやエッジデザインに原因があるため,装用を中止することで比較的速やかに改善する7,8).また,病変の軽快後はレンズのデザインを変更してCLを再装用することも可能である7,8).本症例ではCCLによる角膜合併症のひとつであるCpigmentslideも認められた.PigmentslideはCpalisadesCofVogtの内側の延長線上に,線上に並んだ茶褐色の淡い混濁として観察される所見である10).これはCCLの装用により角膜表面がストレスを受けていることを示す指標だと考えられている11).CLの長時間装用や酸素不足などにより上皮細胞の分裂能が低下し,輪部基底から角膜上皮への急速な細胞の移動が起こることが原因で生じる10,11).とくに,酸素透過性の低いコンベンショナルタイプのCSCLの装用者に認めることが多いが,使い捨てタイプのCSCLの装用者でも装用時間が長い場合にはみられやすい2,10,11).本例では,急性発症ではない点や前眼部の炎症所見に乏しい点,アカントアメーバ角膜炎に特徴的な放射状角膜神経炎を認めない点,単純ヘルペスウイルス角膜炎に特徴的なターミナルバルブを認めない点などから感染性角膜炎は否定的であった.TS-1などの抗癌剤の内服患者やプロスタグランジン系の点眼薬を使用している緑内障患者にも,今回の症例と図1初診時の前眼部所見a:右眼.角膜の上方にCpigmentslideを認めた.PalisadeofVogtは消失していた.Cb:左眼.右眼と同様に角膜の上方にCpigmentslideを認めた.PalisadeofVogtは消失していた.Cc:右眼のフルオレセイン染色.中央.上方にターミナルバルブ陰性の樹枝状病変を認めた.Cd:左眼のフルオレセイン染色.右眼と同様に中央.上方にターミナルバルブ陰性の樹枝状病変を認めた.図2当院初診時より3カ月後の前眼部所見a:右眼のフルオレセイン染色.樹枝状病変は瘢痕を残さず治癒した.Cb:左眼のフルオレセイン染色.樹枝状病変は瘢痕を残さず治癒した.似たような角膜病変をきたすことを外来で経験することがあSCLであると推定された.両側性である点,pigmentCslideるが,本例ではこのような薬剤を含め薬剤の使用歴はなかっを認める点,低濃度ステロイド点眼と適切なデザインの治療た.また,そのほか角膜病変をきたしうる外傷や全身疾患の用CSCLへの変更で軽快した点も,本例がCCLIPの一症例で既往歴も認めなかった.したがって,樹枝状病変の原因はあった可能性を示唆している.角膜に樹枝状病変を認めた際には鑑別疾患が少なからず存在し,本例のように診断や治療に苦慮する場合もある.樹枝状病変の細かい性状を観察するとともに,問診において角膜潰瘍や虹彩炎の既往,外傷歴,全身疾患やステロイドなどによる免疫抑制状態の有無などを含め詳細に病歴を聴取することで正確な診断につなげることができる.CLにより樹枝状病変が生じる病態は明らかにはなっていないが,低酸素状態やCCL・保存液の毒性など複数の要因が複合して生じる機序が想定される6).実際,centralCcircularcloudingやCmicrocystなどの角膜上皮に生じるCCL合併症は酸素透過性不良のCSCLで生じやすく4),CLIPも同様に低酸素状態と関連があることが想定される.本例では酸素透過性の低いヒドロキシエチルメタクリレートを素材とするCSCLが使用しており,CLによる低酸素状態が樹枝状病変やCpig-mentslideといった角膜障害の原因となった可能性がある.CLIPは症例数が少なく,その治療法は確立されていない.過去の症例報告では,原因と推定されたCCLの装用中止によりC1週間以内と早期に軽快した例が多い7,8).一方で,本例では前医での経過を含めると数カ月間にわたり角膜障害が遷延している点が特異的である.そのため,原因と推定されたSCLの除去に加えて,治療強化を試みる必要性があり,治療用CSCLの装用と低濃度ステロイド点眼の投与を行った.しかし,CLが原因と推定される病態に対して治療用CSCLを使用することに関しては議論が分かれるところである.本例で使用した治療用CSCLはシリコーンハイドロゲル素材であり,非常に酸素透過性に優れている.そのため,酸素欠乏による角膜ストレスが上皮障害を増悪させるリスクは低いと考えられる.一方で,本例での角膜屈折力の経過をみると両眼の角膜屈折力が増加傾向にあり,角膜の急峻化とそれによる近視化を認めているといえる.これは,治療用CSCLにより角膜に機械的なストレスが加わり,角膜変形が生じていたことを示唆している.そして,このような機械的ストレスが角膜上皮の修復に悪影響を及ぼしていた可能性は否定できない.このように,角膜上皮の創傷治癒を促進する目的でときに治療用CSCLが使用されることがあるが,治療用CSCL自体が角膜にストレスを与える因子となりうる点については十分留意しなければならない.とくに,本例のようにCSCLが原因と推定される角膜障害に対して治療用CSCLを使用することの是非については,さらなる症例の集積と検討が必要である.また本例では,当科で治療を開始してC3カ月が経過し,病変が軽快したあとにも両眼に軽度の視力低下が残存した.前眼部所見や角膜形状解析検査において,視力低下の原因となりうる角膜混濁や不正乱視などの所見は認めなかった.視力などの長期的な変化について,今後も経過観察が必要と考えられた.おわりに今回,SCL装用が原因と考えられる両眼性の樹枝状病変を経験した.ターミナルバルブを伴わない樹枝状病変の鑑別としてCCLによる角膜合併症を想起することは重要である.また,CLによる角膜合併症を認めた際には,レンズフィッティングの確認や,レンズ素材の見直しなど,SCLの変更も考慮する必要があると考えられた.文献1)WaghmareSV,JeriaS:Areviewofcontactlens-relatedriskfactorsandcomplications.CCureusC14:e30118,C20222)木下茂,大橋裕一,村上晶ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C118:557-591,C20143)AlipourCF,CKhaheshiCS,CSoleimanzadehCMCetal:ContactClens-relatedcomplications:aCreview.CJCOphthalmicCVisCResC12:193-204,C20174)日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版作成委員会:感染性角膜炎診療ガイドライン(第C2版).眼科C64:1235-1241,C20225)JosephPS:DendriformClesionsCofCthecornea:anCimpor-tantCdi.erentialCdiagnosisCinCcontactClensCwearers.CICLCC18:165-167,C19916)MarguliesCLJ,CMannisMJ:DendriticCcornealClesionsCasso-ciatedCwithCsoftCcontactClensCwear.CArchCOphthalmolC101:1551-1553,C19817)月山純子,下村嘉一:コンタクトレンズによる偽樹枝状角膜炎(contactClensCinducedpseudodendrite,CLIP).日コレ誌48:103-104,C20068)青木功喜:ソフトコンタクトレンズ装用者にみられた樹枝状角膜炎.臨眼41:1062-1063,C19879)RothHW:DendriticCcornealClesionsCcausedCbyCcontactClenses.CLAOJournalC17:223,C199110)木村健一:Pigmentslide.あたらしい眼科30:57,C201311)InoueCT,CMaedaCN,CYoungCLSCetal:EpithelialCpigmentCslideCinCcontactClenswearers:aCpossibleCmarkerCforCcon-tactClens-associatedCstressConCcornealCepithelium.CAmJOphthalmolC131:431-437,C2001***

緑膿菌性角膜炎に濾過胞感染と周辺部角膜潰瘍を合併した水疱性角膜症の1例

2024年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科41(12):1463.1467,2024c緑膿菌性角膜炎に濾過胞感染と周辺部角膜潰瘍を合併した水疱性角膜症の1例伊藤正也*1,2愛知高明*1北澤耕司*1外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2兵庫医科大学眼科学教室CACaseofBullousKeratopathyAccompaniedbyPseudomonasaeruginosaCKeratitiswithFilteringBlebitisandPeripheralCornealUlcerationCMasayaIto1,2)C,TakaakiAichi1),KojiKitazawa1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversityC目的:緑膿菌性角膜炎に濾過胞感染と周辺部角膜潰瘍を合併した水疱性角膜症のC1例を経験したので報告する.症例:74歳,女性.左眼の水疱性角膜症に対する角膜内皮移植術を目的に京都府立医科大学附属病院を紹介受診した.両眼の緑内障を近医にて加療中で,左眼は線維柱帯切除術(TLE)を含め計C3回の手術歴があった.左眼は光覚弁C±,頭痛・左眼痛を伴い,広範囲の角膜上皮欠損と前房蓄膿,楕円形の実質混濁,角膜周辺部の細胞浸潤を認めた.水疱性角膜症に合併した細菌性角膜炎と判断し,前医によるベタメタゾン点眼を中止し,抗菌薬の点眼を開始した.眼脂培養より緑膿菌を検出し,抗菌治療を継続したが,角膜周辺の彫れ込みが悪化したため周辺部角膜潰瘍の合併を疑い,ベタメタゾン点眼を再開し,免疫抑制薬内服を追加した.緩徐に改善がみられたが結膜浮腫と疼痛が持続.濾過胞を切開したところ白色膿汁を認め,緑膿菌が検出された.結論:TLE後の水疱性角膜症に合併する感染性角膜炎は重篤化のリスクを有する.CPurpose:Toreportacaseofbullouskeratopathy(BK)accompaniedbyPseudomonasaeruginosa(P.aerugi-nosa)keratitis,.lteringblebitis,andperipheralcornealulceration.Case:A74-year-oldfemalewithBKinherlefteyeandacomplaintofheadacheandpaininthateyewasreferredtoourdepartmentforcornealendothelialkera-toplasty.Shehadpreviouslyundergonethreeglaucomasurgeriesinthateye,andexaminationrevealedlargecor-nealepithelialdefects,hypopyon,ovalstromalopacity,peripheralcellularin.ltration,andaVAoflightperception.Topicalbetamethasonewasdiscontinued,andtreatmentwithantibioticswasinitiated.P.aeruginosawasculturedfromCeyeCdischarge,CandCfrequentCuseCofCantibioticsCwasCcontinued.CSinceCtheCperipheralCcornealCulcerationCpro-gressed,oralbetamethasoneandcyclosporinewereadded.Althoughthecornealappearancesgraduallyimproved,conjunctivalchemosisandeyepainprolonged.Thus,.lteringblebitiswassuspected.Finally,theblebwasexcisedandwhitepuswithP.aeruginosawasfound.Conclusion:Posttrabeculectomy,thereisahighriskofBK-associat-edinfectiouskeratitisbecomingsevere.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(12):1463.1467,C2024〕Keywords:緑膿菌性角膜炎,濾過胞感染,水疱性角膜症,周辺部角膜潰瘍(Mooren潰瘍).Pseudomonasaerugi-nosakeratitis,.lteringblebitis,bullouskeratopathy,peripheralcornealulceration(Mooren’sulceration).はじめにウイルス角膜内皮炎などがある.2023年に報告された角膜水疱性角膜症(bullouskeratopathy)は角膜内皮細胞の減移植全国調査の中間報告によると,緑内障に対する多重手術少により,角膜が浮腫状に混濁する疾患である.原因としての施行が水疱性角膜症の原因の約C20%を占め1),その割合は内眼手術,緑内障手術,レーザー虹彩切開術,サイトメガロ16年前の報告2)より約C4倍にまで増加している.水疱性角〔別刷請求先〕伊藤正也:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:MasayaIto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoMedicalUniversity,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-shi,Hyogo663-8501,JAPANC膜症の治療は角膜内皮移植術が必要であるが,手術の待機中に感染症を起こすことがある.今回,緑膿菌性角膜炎に濾過胞感染と周辺部角膜潰瘍を合併した,線維柱帯切除術後の水疱性角膜症のC1例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.主訴:左眼の視力低下,眼痛,頭痛現病歴:両眼の緑内障を前医にてC10年以上加療中.左眼はC8年前に水晶体再建術と線維柱帯切開術,7年前に線維柱帯切除術,1年前に濾過胞再建術(Needle法)を施行し,計3回の手術歴があった.3回目の術後に水疱性角膜症をきたしたため,角膜内皮移植術を目的に京都府立医科大学附属病院(以下,当院)を紹介受診した.使用中の点眼:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩(コソプト配合)点眼液両眼C2回/日,ラタノプロスト点眼液両眼C1回/日,リパスジル塩酸塩水和物/ブリモニジン酒石酸塩(グラアルファ配合)点眼液両眼C2回/日,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン)0.1%点眼液両眼C1回/日.当院初診時:視力:右眼C0.4(0.9C×sph.1.00D),左眼CSLC±(明室),眼圧:右眼C21.0mmHg,左眼(測定不可).角膜内皮細胞密度:右眼C2,497/mmC2,左眼(測定不可).前眼部所見:左眼は膿性眼脂の付着があり,結膜充血・毛様充血を伴う全周性の結膜浮腫を認めた.広範囲の角膜上皮欠損があり,細胞浸潤を伴う楕円形の実質混濁を耳側に認めた(図1a,b).前房蓄膿を伴い,眼内レンズ挿入眼であった.右眼には特記すべき所見を認めなかった.前医からの情報によると左眼は水疱性角膜症をきたす前から中心視野はなく,視力は手動弁であった.本人の都合により前医から当院初診までC3週間の期間を要したが,その間に左眼を洗眼薬(アイボン)で洗っていたとのことであった.以上より水疱性角膜症に合併した細菌性角膜炎を疑い,眼脂の塗沫検鏡と培養検査を実施した.塗沫検査ではグラム染色でグラム陽性桿菌を認めたため(図1c),Corynebacteri-um属を想定し,セフメノキシム塩酸塩C0.5%(CMX:ベストロン)を頻回点眼,オフロキサシンC0.3%(OFX:タリビッド)眼軟膏C4回/日による治療を開始した.経過:初診後C2日に眼脂培養よりCPseudomonasCaerugino-sa(緑膿菌)を検出したため,前医入院の上でトブラマイシンC0.3%(TOB:トブラシン)点眼C4回/日,レボフロキサシンC1.5%(LVFX:クラビット)点眼C2時間おきに加えて抗菌薬の全身投与を行った(図2).予定の再診日である初診後C7日に,上皮欠損は角膜輪部を超えて結膜にまで拡大し,角膜全面に波及する実質混濁を認めた(図3a,b).前医では角膜菲薄化により一時的に穿孔をきたしたとのことで浅前房となっていたため,同日当院へ転院した.抗菌薬治療を継続しな図1当院初診時a,b:前眼部所見.広範囲の角膜上皮欠損と楕円形の実質混濁を耳側に認めた.Cc:眼脂塗沫検鏡.グラム染色でグラム陽性桿菌を認めた.(入院日)(退院日)図2治療経過と診断経過図3治療経過a,b:初診後C7日の前眼部所見.上皮欠損は悪化し,角膜全面に波及する実質混濁を認めた.Cc,d:初診後C14日の前眼部所見.上方から耳側の下方にかけて角膜周辺部の彫れ込みを認めた.e,f:初診後C30日の前眼部所見と造影CCT(左眼窩部矢状断).がら,抗炎症目的にプレドニゾロン(PSL:プレドニン)錠(5mg)1錠/日の内服を開始した.抗菌薬治療に反応するも角膜周辺の彫れ込みが悪化した(図3c,d).採血にて抗CCCP抗体は陰性であり,関節リウマチは否定的であったためCMooren潰瘍の合併を疑い,ベタメタゾンC0.1%(リンデロン)点眼C4回/日と免疫抑制薬であるシクロスポリン(CsA:ネオーラル)50CmgカプセルC2錠/日の内服を追加した.また,同時期に発熱をきたしたため,鼻咽頭ぬぐい液による多項目迅速ポリメラーゼ連鎖反応(poly-meraseCchainreaction:PCR)検査を施行したところアデノウイルスが陽性となった.涙液による迅速抗原検査でも陽性となり流行性角結膜炎としてC3週間の個室隔離となった.そのため,細隙灯顕微鏡などを用いた詳細な診察・検査が十分にできなかった.緩徐に角膜上皮欠損と周辺部角膜潰瘍は改善したが,充血を伴う強い結膜浮腫が持続し(図3e),眼痛・頭痛の症状は鎮痛薬でコントロールできないほどに悪化した.触診で閉瞼時の耳側の圧痛を認め,Bモードでは高度の脈絡膜.離を認めた.造影CCTで頭側強膜と結膜が毛羽立つような造影効果を認めたため(図3f),強い炎症が局所に存在すると判断し図4初診後39日の切開排膿術(術者視点)耳上側の結膜を切開すると多量の白色膿汁が排出された.た.眼内炎の可能性を否定できないことから,初診後C30日にステロイドおよび免疫抑制薬の投与を減らし,セフタジジム水和物(CAZ)2Cg/日の点滴投与を開始した.もともと耳上側結膜には線維柱帯切除術による濾過胞が存在し,その部分を中心に充血と圧痛があることから濾過胞感染を疑った.初診後C39日に濾過胞部分の結膜を切開したところ,多量の白色膿汁の排出を認め(図4),強膜弁は強固に癒着し壊死性変化を示していた.膿汁の培養検査から眼脂と同様に緑膿菌を検出した.以降,結膜浮腫と疼痛は改善し,初診後C50日に退院となった.退院後C4カ月が経過した直近の検査所見は,左眼視力CSL+で角膜への結膜侵入を認めるものの結膜浮腫や角膜上皮欠損を認めず,感染の再燃なく安定している.CII考按水疱性角膜症が進行すると角膜上皮の接着不良をきたし,感染性角膜炎を合併するリスクが高まる3.4).さらに本症例では当院初診まで使用していた洗眼液によって水回りに棲む緑膿菌に曝露されたことが感染のリスクを高めたと推測される.ステロイド点眼は抗炎症作用により眼炎症を抑える効果があるが,副作用として易感染状態を引き起こす.そのため,水疱性角膜症に対するステロイド点眼の使用は,感染性角膜炎のリスクを高めるとされる3).本症例はベタメタゾン点眼が前医により投与されていたが,それによる易感染状態が細菌感染を惹起し,一方で初診時の炎症所見をマスクしていた.ベタメタゾン点眼を中止したことで炎症が急速に悪化,同時に周辺部角膜潰瘍と濾過胞感染が所見・症状として顕在化したと考えられる.緑膿菌性角膜炎治療による角膜所見の改善とは逆に,結膜浮腫と眼痛が増悪してきたため濾過胞感染の存在を疑った.高度の結膜浮腫によって濾過胞が伏在していたため,切開排膿するまで確定診断に至ることができなかった.感染経路として,緑膿菌性角膜炎を介して,もしくは洗眼液の使用により直接濾過胞に感染した可能性がある.後者とするならば当院初診時から濾過胞感染を併発していた可能性が考えられる.濾過胞感染は線維柱帯切除術といった濾過手術後に生じる術後感染症の一つである.危険因子として線維芽細胞増殖阻害薬(マイトマイシンCC:MMC)の使用,下方の濾過胞,濾過胞からの房水漏出があげられ5.7),おもな起因菌としてS.epidermidisやCS.aureus,連鎖球菌が報告されている8).しかし,緑膿菌で発症した濾過胞感染は報告されていないことから,起因菌の観点より本症例はまれな症例であると考えられる.日本緑内障学会による病期分類では,濾過胞の膿性混濁,周囲の充血といった濾過胞に限局したものをCStageI,前眼部までに波及したものをCStageII,硝子体内へ波及しているものをCStageIIIと定義している9).本症例ではCBモードや造影CCTで脈絡膜.離を認めており,炎症が硝子体内へ波及していたとするならばCStageIIIに至っていたことが疑われる.ただし切開排膿術後に速やかに治癒したため,結果的にはCStageIIであった可能性が高い.眼感染症において濾過胞が存在する場合は濾過胞感染への進展の可能性を念頭に置く必要がある.本症例は緑膿菌性角膜炎,濾過胞感染,もしくはその両方による強い炎症が周辺部角膜潰瘍を惹起したと考えられる.周辺部角膜潰瘍(Mooren潰瘍)は角膜周辺部に生じる難治性潰瘍で,外傷や手術,感染などを契機に放出された角膜組織に対する抗原に対し,自己抗体が産生され生じると考えられている10).治療はまずステロイドや免疫抑制薬の局所ならびに全身投与を行う.本症例における細菌性角膜炎・濾過胞感染と周辺部角膜潰瘍の病態はそれぞれ感染性と非感染性の炎症であり(図5),それらが同時に存在することによって相反する治療を行うこととなり,きわめて治療が困難であった.角膜菲薄化は広範囲な緑膿菌角膜潰瘍の周辺への進展に伴って生じた可能性も考えられた.しかし,初診時に細胞浸潤が角膜周辺部にあることが非典型であり,その後,全周性に輪部に沿って広がり,深い彫れ込みを伴う潰瘍となったことは,細菌感染だけでは説明がつかないと思われた.おわりに緑膿菌性角膜炎に濾過胞感染と周辺部角膜潰瘍を合併した水疱性角膜症のC1例を経験した.線維柱帯切除術を含む多重緑内障手術によって生じた水疱性角膜症は,角膜感染症と濾過胞感染の両者のリスクがあるためベタメタゾン点眼の使用は望ましくない.また,感染性角膜炎と非感染性角膜炎(周辺部角膜潰瘍)を同時に発症することがあり,そのような症例の治療はきわめてむずかしい.利益相反:伊藤正也:なし.愛知高明:なし.北澤耕司:なし.外園千恵:【カテゴリーF】クラスCIV参天製薬株式会社,サンコンタクトレンズ株式会社,CorneaGenクラスCI-III千寿製薬株式会社,エイムオーエイムオージャパン株式会社,HOYA株式会社,日本アルコン株式会社,バイエル薬品,日東メディック株式,会社,オンコリスバイオファーマ株式会社,コラジェンファーマ株式会社,大塚製薬,ファーマフーズ株式会社【カテゴリーCI】該当しない【カテゴリーCE】該当しない【カテゴリーCC】該当しない【カテゴリーCP】はい【カテゴリーCR】千寿製薬株式会社,参天製薬株式会社,日本アルコン株式会社,大塚製薬,日東メディック株式会社,ひろさきCLI株式会社文献1)日本角膜学会:角膜移植全国調査<中間報告>https://cornea.Cgr.jp/info/202308_report/2)ShimazakiCJ,CAmanoCS,CUnoCTCetal:NationalCsurveyConCbullouskeratopathyinJapan.CorneaC26:274-278,C20073)LuchsJI,CohenEJ,RapuanoCJetal:UlcerativekeratitisinCbullousCkeratopathy.COphthalmologyC104:816-822,C19974)OngCZZ,CWongCTL,CSureshCLCetal:AC7-yearCreviewCofCclinicalCcharacteristics,CpredisposingCfactorsCandCoutcomesCofCpost-keratoplastyCinfectiouskeratitis:theCNottinghamCinfectiouskeratitisstudy.FrontCellInfectMicrobiolC13:C1250599,C20235)JampelCHD,CQuigleyCHA,CKerrigan-BaumrindCLACetal;CGlaucomaCSurgicalCOutcomesStudyCGroup:RiskCfactorsCforClate-onsetCinfectionCfollowingCglaucomaC.ltrationCsur-gery.ArchOphthalmolC119:1001-1008,C20016)MatsuoCH,CTomidokoroCA,CSuzukiCYCetal:Late-onsetCtransconjunctivalCoozingCandCpointCleakCofCaqueousChumorCfromC.lteringCblebCafterCtrabeculectomy.CAmJOphthalmolC133:456-462,C20027)SoltauJB,RothmanRF,BudenzDLetal:Riskfactorsforglaucoma.lteringblebinfections.ArchOphthalmolC118:C338-342,C20008)堀暢英,望月清文,石田恭子ほか:線維柱帯切除後の濾過胞感染症の危険因子と治療予後.日眼会誌C113:951-963,C20099)望月清文,山本哲也,石田恭子:濾過手術後の感染症の現状と対策.眼科48:763-768,C200610)木下茂,大橋裕一:Mooren潰瘍の病態と治療.眼紀C41:2055-2061,C1990***

基礎研究コラム:91.マイクログリアと網膜神経節細胞死

2024年12月31日 火曜日

マイクログリアと網膜神経節細胞死アストロサイトと網膜神経節細胞死アストロサイトは中枢神経系に存在するグリア細胞の一種であり,周囲の神経細胞の恒常性維持を担っています.一方で組織損傷時には反応性アストロサイトとして活性化しますが,組織障害にかかわるのか,それとも組織修復の役目をもつのか,その機能については未だに議論が続いています.反応性アストロサイトの一種であるCA1アストロサイトは補体の古典的経路に関連する遺伝子群が高発現することから,組織障害を促進するサブタイプであることが示唆されていました.近年,視神経挫滅時の網膜において,A1アストロサイトが網膜神経節細胞死を誘導すること,またその直接的な要因はCA1アストロサイトから放出される飽和脂肪酸であることがあいついで報告されました1,2).また,正常アストロサイトからCA1アストロサイトが誘導されるメカニズムとして,マイクログリアから産生される炎症性サイトカインのTNFやCIL-1Ca,補体系のCC1qがトリガーとなることが培養実験から示されています1).しかし,疾患モデル動物を用いた網膜マイクログリアの挙動や分子的特徴については不明な点が多く残されておりました.網膜マイクログリアの活性化機構マイクログリアは不均一な集団であり,マウス脳では発生期から成熟期にかけてきわめて動的にそのクラスターが変動することが知られています.また,Alzheimer病などの脳疾患発症時には疾患特異的なマイクログリアの集団が発生し,その病態に関与することも報告されています.しかし,網膜内におけるマイクログリアの割合はきわめて少ないために,これまで解析が困難でありましたが,近年のシングルセル視神経挫滅Rhoキナーゼ活性化佐藤孝太東北大学大学院医学系研究科視覚先端医療学寄附講座RNA-seq解析のような微量検体解析技術の飛躍的な向上により,このハードルを越えることが可能となってきました.筆者らは視神経挫滅マウスをモデル動物として網膜内マイクログリアのサブクラス同定を試み,その結果,TNFとCIL-1aを高発現する特定のクラスターが存在すること,またこのクラスターが中鎖脂肪酸受容体であるCGPR84をマーカーとして発現することを見出しました.さらに,Rhoキナーゼ阻害薬であるリパスジルの投与により,GPR84陽性のマイクログリアが減少することを明らかにしました3).これらの結果から,視神経障害により生じる神経障害性マイクログリアへの誘導にはCRhoキナーゼの活性化が重要であることが示されました(図1).今後の展望緑内障はわが国における中途失明原因の第一位であり,視神経障害時における網膜神経節細胞死の病態解明は新たな治療法開発の基盤となります.これまでの眼圧下降治療に加えて,アストロサイトやマイクログリアを標的とした新たな神経保護治療のアプローチが期待されます.文献1)LiddelowSA,GuttenplanKA,ClarkeLEetal:Neurotox-icCreactiveCastrocytesCareCinducedCbyCactivatedCmicroglia.CNature541:481-487,C20172)GuttenplanCKA,CWeigelCMK,CPrakashCPCetal:NeurotoxicCreactiveCastrocytesCinduceCcellCdeathCviaCsaturatedClipids.CNatureC599:102-107.C20213)SatoK,Ohno-OishiM,YoshidaMetal:TheGPR84mol-eculeisamediatorofasubpopulationofretinalmicrogliathatCpromoteCTNF/IL-1aexpressionCviaCtheCrho-ROCKCpathwayCafterCopticCnerveCinjury.CGliaC71:2609-2622,C2023CIL-1a,TNF-aアストロサイト活性化RGC変性GPR84陽性静止期マイクログリア活性化マイクログリア図1視神経障害による網膜マイクログリアの活性化(文献C3より改変引用)(73)あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024C14570910-1810/24/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:259.子午線方向の網膜格子状変性(初級編)

2024年12月31日 火曜日

259子午線方向の網膜格子状変性(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめに網膜格子状変性は赤道部近傍に生じ,通常は鋸状縁に対して平行であるが,なかには鋸状縁に対して角度をもつものもある.このような網膜格子状変性は裂孔原性網膜.離の発症率が高いことが過去に報告されている1.4).C●症例提示60歳,女性.右眼の裂孔原性網膜.離の診断で硝子体手術を施行した.術前眼底検査では,下耳側深部に弁状裂孔を認め,黄斑部まで.離が進行していた(図1).裂孔は通常の形状よりも約C70°外方回旋しており,裂孔縁間には子午線方向に伸びる網膜格子状変性を認めた.術中所見では網膜格子状変性縁全周に癒着を認めた(図2)ため,変性巣を意図的に切除し,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,ガスタンポナーデを施行し復位を得た(図3).C●子午線方向に伸びる網膜格子状変性の特徴Straatmaらは網膜格子状変性のC7.3%は鋸状縁に対してC61.90°の角度をなし,ほぼ放射状の向きで出現することを報告している1).このような子午線方向に伸びる網膜格子状変性についてはCHaglerら2),Byerら3)も同様の報告をしており,Michelsらの記載4)とともにまとめると以下のようになる.1)一般に赤道部より後極に位置する.2)通常の網膜格子状変性よりも幅広のことが多い.3)辺縁がやや不鮮明で正常周囲網膜にいつのまにか移行することがある.4)血管周囲の粗大色素顆粒および変性巣周囲の色素脱出帯をしばしば認める.5)変性巣下の脈絡膜毛細血管板の萎縮をしばしば伴う.6)Wagener病やCStickler症候群などの網膜硝子体ジス図1術前の右眼眼底写真下耳側後極部に約C70°外方回旋した弁状裂孔を認め,裂孔端の間には子午線方向に伸びる網膜格子状変性を認めた.図2術中所見弁状裂孔の両端および網膜格子状変性の周囲には強固な網膜硝子体癒着を認めた.図3術後の右眼眼底写真網膜格子状変性部位を意図的に切除し,復位を得た.トロフィにしばしばみられる.7)網膜.離の発症のリスクが高い.このように,子午線方向に伸びる網膜格子状変性は網膜.離の発症頻度が高いので,同病変をみた場合には,患者に網膜.離発症時の自覚症状を説明すると同時に,定期的な眼底検査を施行することが望ましい.予防的光凝固の有効性については,多数例の報告がなく不明である.文献1)StraatsmaBR,ZeegenPD,FoosRYetal:Latticedegen-erationoftheretina.XXXEdwardJacksonMemorialLec-ture.CTransCAmCAcadCOphthalmolCOtolaryngolC78:C87-113,C19742)HaglerCWS,CCrosswellHH:RadialCperivascularCchorioreti-naldegenerationandretinaldetachment.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngolC72:203-216,C19683)ByerNE:LatticeCdegenerationCofCtheCretina.CSurvCOph-thalmolC23:213-248,C19794)MichelsCRG,CWilkinsonCCP,CRiceTA:RetinalCdetachment.Cp52-55,C.V.Mosby,St.Louis,1990C(71)あたらしい眼科Vol.41,No.12,202414550910-1810/24/\100/頁/JCOPY

考える手術:36.眼窩壁骨折整復術

2024年12月31日 火曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅眼窩壁骨折整復術奥拓明京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学眼窩壁骨折は眼部を打撲することにより眼窩を形成する骨が骨折した状態である.症状は,複視,眼球運動時痛,眼瞼腫脹,三叉神経第2枝領域の知覚異常,悪心・嘔吐,鼻出血などさまざまである.診断はCT画像で行う.骨折の種類には筋絞扼型,脂肪絞扼型,開放型の3種類が存在し,鑑別する必要がある.筋絞扼型,脂肪絞扼型骨折は外傷時,骨折部位から眼窩内組織が副鼻腔内に脱出し,その後骨片が元の位置に戻ることが瞬時に生じることにより外眼筋や眼窩脂肪の絞扼が起こる.開放型骨折は組織の絞扼を認めないが,外眼筋や眼窩脂は経皮膚と経結膜があるが,経皮膚アプローチのほうが視野は広く,手術はやりやすい.骨折部位が内壁ならLynch切開,下壁では睫毛下皮膚切開を行う.皮膚切開後,骨膜まで組織を分けながら進める.骨膜を切開後,眼窩縁から骨膜を.離していき,前方の骨折線を探す.骨折線では組織が副鼻腔内に脱出しているため,糸付き小綿(ベンシーツ)などで愛護的に眼窩内に戻しながら後方の骨折線を追っていく.骨折線を全周追えるようになれば副鼻腔内への眼窩内組織の脱出はなくなったことになる(動画①).その状態で人工骨が骨折線全周を覆うようにトリミングし,挿入する.眼窩壁骨折は患者ごとに骨折部の場所や大きさ,組織脱出量が異なるので,挿入する人工骨を過不足なくトリミングする必要がある.また,眼窩内には視神経や外眼筋など,損傷すると合併症が生じる組織が多数存在する.眼窩内の正常構造を常に念頭に置き,患者ごとに術前のCTを見て,どの組織がどの場所にあり,自分の操作している場所がどこであるかを常に考えながら手術を行う必要がある.聞き手:手術が必要になるのはどのような場合ですか?が壊死すると著しい眼球運動障害が残るため,診断がつ奥:基本的に眼窩壁骨折の手術は,骨折による複視や眼いたら,すぐに専門機関に紹介することをお勧めしま球陥凹などの自覚症状があれば適応となります.す.脂肪絞扼型骨折では緊急性はないですが,経過観察をしても眼球運動障害が改善しないため早期の手術を検聞き手:眼窩骨折の手術のタイミングを教えてください.討します.一方,開放型骨折では,眼窩組織が脱出した奥:筋絞扼型骨折では徐々に絞扼した組織が壊死するたままで瘢痕治癒してしまうと,術後眼球運動の改善に影め,緊急手術(24時間以内)が必要となります.外眼筋響を及ぼします.手術のタイミングは報告によりさまざ(69)あたらしい眼科Vol.41,No.12,202414530910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術まですが,受傷後2週間以内が大きな目安になります.実際,受傷後2週目以降での手術では脱出した眼窩内組織が副鼻腔内と癒着していることが多い印象です.しかし,京都府立医科大学附属病院の検討では受傷後1カ月以内までは手術成績は大きく変わらなかったため,遅くとも1カ月以内には手術を行いたいです.聞き手:挿入する整復材料はどのような種類がありますか?奥:自家骨か人工物か,メッシュ構造をもつかどうか,吸収性かどうかなど,さまざまな選択肢があります.自家骨は腸骨や肋骨などから骨を採取しますが,骨の採取手技および骨欠損部に合わせた形状作製がむずかしいというデメリットがあります.チタンメッシュなどの有孔性の材料は,眼窩組織が孔にはまりこみ,癒着してしまうデメリットがあります.そのため,私たちの病院では吸収性のポリマーで構成された素材(superFIXSORBなど)やシリコーンプレートを使用しています.superFIXSORBは骨折部に合わせた形状作製が容易であり,長期間かけて吸収されるため合併症が少ないです.シリコーンプレートは骨折線を人工骨で完全に覆えない内下壁骨折など,広範囲の骨折の場合に隙間を埋めるために挿入しますが,長期留置で血腫が生じる可能性があるため,術後3カ月くらいで抜去します.聞き手:手術の合併症などはありますか?奥:手術の合併症としてもっとも重篤なものは視力低下です.原因としては,術中操作による直接損傷と血腫による眼窩コンパートメント症候群があげられます.とく術前術後図1右眼窩下壁骨折整復術前後のCT所見人工骨が骨折ラインを前端から後端まで覆っている.に内壁操作時は操作箇所が奥になれば視神経が近くなりますので,慎重に操作をする必要があります.骨折線より副鼻腔側の組織を触っているかぎりは視神経の損傷は生じません.しかし,骨折線の後端を露出する場合は骨折線より眼窩側の操作になるため,肉眼で手術はせず,顕微鏡を用いて視野を拡大しながら慎重に手術を行います.その他の合併症としては,下壁骨折の場合は眼窩下神経損傷による頬部の知覚異常があります.眼窩下神経は眼窩外組織であり,眼窩下溝に沿って眼窩組織と連続する結合組織は焼灼,切開し,眼窩内組織と分ける必要があります.眼窩下神経の走行パターンは患者により異なるため,術前CTでイメージしておく必要があります.聞き手:術後の眼球運動がよくない場合は,何が原因として考えられますか?奥:眼球運動の改善のためには手術時に人工骨を後端に挿入し,さらに骨折線を全周覆うことが重要です(動画②).術後眼球運動が不良な場合は,まずは整復不良がないかを確認します.私たちの病院では術翌日にCTを撮像し,眼窩内組織が副鼻腔内に残存していないか,人工骨が予定外の位置に挿入されていないかを確認します.まれに人工骨が眼窩内組織を分断するように挿入されていて,眼球運動が悪化した状態で紹介されるケースがあります.術後CT検査で,挿入した人工骨が後端から前端までの骨折ラインを過不足なく覆っていることを確認することが重要です(図1).手術終了時のCT画像をイメージし,そのイメージが術後のCT画像と同じになることが理想です.聞き手:術後管理で気をつけることはありますか?奥:術後の眼球運動は,数カ月から半年かけて徐々に改善していきます.眼窩内はconnectivetissueseptaといわれる膜様の構造により眼窩脂肪,外眼筋,神経,血管などの組織がつながっています.手術により外眼筋,眼窩脂肪を眼窩内に整復し,術後眼球運動のリハビリを行うことでconnectivetissueseptaによって外眼筋や眼窩脂肪は徐々に本来の位置に戻り,眼球運動が改善します.そのため術後早期から眼球運動リハビリをしてもらうことが大事です.また,術後1カ月は,力むと眼窩内出血のリスクが上がります.また,鼻をかむと副鼻腔からの空気が眼窩内に入り込むため,なるべく避けるように指導します.1454あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024(70)

抗VEGF治療セミナー:抗VEGF薬併用光線力学的療法の活用方法

2024年12月31日 火曜日

●連載◯150監修=安川力五味文130抗VEGF薬併用光線力学的療法の吉田紀子信州大学医学部眼科学教室活用方法最近は滲出型加齢黄斑変性に対する治療の第一選択はどの病型でもほぼ抗CVEGF薬となっているが,治療回数の増加や治療抵抗例などの問題があり,光線力学的療法(PDT)の活用が再考されている.PDTでは脈絡膜厚の減少による治療効果が期待されており,ポリープ状脈絡膜血管症やパキコロイド関連疾患に対し抗CVEGF薬を併用する方法が試みられている.はじめに2012年に示された日本における加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療指針1)では,滲出型CAMDのうちポリープ状脈絡膜血管症(pol-ypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)と網膜血管腫状増殖に対する光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)について言及している.ただし,この治療指針は抗CVEGF薬であるアフリベルセプトの使用開始前に制定されたものである.その後,網膜色素上皮(retinalpigmentCepithelium:RPE)下への効果が高い抗CVEGF薬が複数使用可能となったことにより,最近では滲出型AMDに対する治療の第一選択は,どの病型でもほぼ抗VEGF薬となっている.しかし抗CVEGF薬は視力の改善や維持のために繰り返しの投与が必要であり,通院に対する疲弊や治療費負担が問題となってきている.また,抗CVEGF薬が無効なケースも一定数は存在し,ここにきてCPDTの活用が図1PCVに対するアフリベルセプト併用PDT施行例(82歳,男性)近医にて右眼CPCVに対しアフリベルセプト硝子体内注射(intravitrealCa.iber-cept:IVA)をC3回施行したが,最終注射後C1カ月で所見のさらなる悪化を認めたため紹介となった.右眼視力(0.4).漿液性網膜色素上皮.離,網膜下液(subretinal.uid:SRF),蛍光眼底造影検査にて集簇したポリープ状病巣(.)を認め,IVA併用CPDTを施行した.3カ月後の右眼視力(0.6).滲出は消失し,造影検査ではポリープ状病巣が消退していた.その後経過を追えたC12カ月間,追加治療なしで再発は認められなかった.再考されている.抗VEGF薬併用PDTPDTの合併症として脈絡膜毛細血管板やCRPEの萎縮,網膜下出血,RPE裂孔があり,著しい視力低下につながることもある.これらの合併症はCPDT施行後早期に起こる著明な炎症反応やCVEGFの増加が原因と考えられるため,PDTに抗CVEGF薬を併用する方法が試みられている.PCVに対するCPDTの併用療法に関する大規模試験にCEVERESTII試験2)とCPLANET試験3)がある.EVER-ESTII試験では,PCVに対するラニビズマブ単独療法と,ラニビズマブとCPDT併用療法において,併用療法のほうが治療効果が高いことが示された.一方,PLANET試験では,PCVに対するアフリベルセプト単独療法は,アフリベルセプトとCPDT併用のレスキュー療法に対し非劣性であるとの結果が出た.PDT併用療法の優位性は示されなかったが,実臨床においては,ア(67)あたらしい眼科Vol.41,No.12,202414510910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2PNVに対するアフリベルセプト併用PDT施行例(53歳,女性)近医より右眼の中心性漿液性脈絡網膜症疑いにて紹介となった.左眼視力(1.0).OCTangiography(OCTA)にてMNVを認めPNVと診断した.IVAにてC3回の導入期治療ののち,CtreatCandextendの方針としたが,2カ月後の診察でCSRFが再発していた.まだC50代でもあり,今後の治療費のことも考慮してCIVA併用CPDTを施行した.治療後合併症はなく,SRFは速やかに消失した.治療C24カ月後の左眼視力(1.2).再発は認めず,追加治療なしで経過している.フリベルセプト単独療法での無効例や再発例へのCPDT併用療法の効果を筆者も経験している(図1).パキコロイドに対するPDT最近,脈絡膜厚が厚くなるパキコロイド関連疾患という疾患概念が提唱されている.これは脈絡膜の透過性亢進によるパキコロイド,中心性漿液性脈絡網膜症,RPEの異常(pachychoroidCpigmentCepitheliopathy),黄斑部新生血管(macularneovascularization:MNV)を伴うCpachychoridCneovasculopathy(PNV),そしてCPCVが同一疾患スペクトラム上にあるとの考え方である4).PDTでは施行後の脈絡膜厚減少効果が知られており,もともと滲出型CAMDの中でも脈絡膜厚が厚い傾向にあるCPCVに対して治療効果が高いとされていた.MikiらはCPNVに対し抗CVEGF薬併用CPDTを施行し,追加治療を減らすことができたと報告しており5),今後はパキコロイド関連疾患に対してもCPDTが選択肢となりうる可能性が考えられる(図2).おわりに最近では,ブロルシズマブ,ファリシマブ,高容量アフリベルセプトなど,長期に効果が持続する抗CVEGF薬も登場しており,今後CPDTとの比較検討が必要であC1452あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024る.しかし,PDTは抗CVEGF薬とはまったく違うアプローチの治療であり,その特性を理解したうえで,対象患者を十分に検討,選択すれば,治療の選択肢の一つとなりうると考えられる.(本稿は新生血管型加齢黄斑変性の診療ガイドラインが発表される前のC2024年C7月に執筆した内容である)文献1)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,C20122)KohCA,CLaiCTYY,CTakasakiCKCetal;EVERESTCIICstudygroup:E.cacyCandCsafetyCofCranibizumabCwithCorCwith-outCvertepor.nCphotodynamicCtherapyCforCpolypoidalCcho-roidalvasculopathy:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACOohthalmolC135:1206-1213,C20173)LeeWK,IidaT,OguraYetal:PLANETinvestigators:Ce.cacyandsafetyofintravitreala.iberceptforpolypoidalchoroidalvasculopathyinthePLANETstudy:arandom-izedclinicaltrial.JAMAOphthalmol136:786-793,C20184)FungCAT,CYannuzziCLA,CFreundKB:Type-1(subretinalCpigmentepithelial)neovascularizationCinCcentralCserousCchorioretinopahyCmasqueradingCasCneovascularCage-relat-edmaculardegeneration.RetinaC32:1829-1837,C20125)MikiA,KusuharaS,OtsujiTetal:Photodynamicthera-pycombinedwithanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyforpachychoroidneovasculopathy.PLosOne16:Ce0248760,C2021(68)

緑内障セミナー:緑内障と生体リズムの乱れ─緑内障の新たな側面

2024年12月31日 火曜日

●連載◯294監修=福地健郎中野匡294.緑内障と生体リズムの乱れ吉川匡宣よしかわ眼科クリニック奈良県立医科大学眼科学教室―緑内障の新たな側面内因性光感受性網膜神経節細胞は他の網膜神経節細胞とは異なり,非視覚的な光情報を生体リズム中枢である視交叉上核に伝達する.そのため内因性光感受性網膜神経節細胞が障害される緑内障は,視機能低下を生じるだけではなく,生体リズムの乱れにも影響している可能性がある.●はじめに緑内障は網膜神経節細胞死を本態とする神経変性疾患で,内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallypho-tosensitiveCretinalCganglioncells:ipRGC)も障害されることが知られている.ipRGCは光情報を視床下部にある生体リズム中枢の視交叉上核へ伝達することで,生体リズムの光同調に重要な役割を果たしている.したがって緑内障はCipRGCの障害により生体リズムの乱れに影響している可能性がある.本稿では筆者らがC2017年から実施している緑内障患者を対象としたコホート研究(LIGHTstudy)や先行研究の結果を踏まえて,緑内障と生体リズム障害の関連について概説する.C●内因性光感受性網膜神経節細胞の特徴2002年に発見されたCipRGCは,他の網膜神経節細胞とは大きく異なり,視物質であるメラノプシンを発現する1).メラノプシンの存在により,ipRGCは眼外からの光を視細胞を介することなく直接受容することが可能である.ipRGCで受容された光は,視交叉上核やその他脳内のさまざまな部位に伝達される.視交叉上核はipRGCからの光刺激を受容することで体外の時刻と体内時計のずれを調整し,全身のさまざまな生理的反応のタイミングをコントロールしている.つまりCipRGCは対光反射図1ipRGCのおもな役割ipRGCはおもに生体リズム同調と対光反射に関与している.生体リズム同調のトリガーとしての役割を果たしている(図1).実際に両眼眼球摘出を受けた患者では生体リズムの乱れを生じることが知られている.またCipRGCは視蓋前域オリーブ核に投射することで対光反射にも関与している(図1).ipRGCの対光反射には特徴があり,青色光にもっとも高い感度を示すこと,そして光刺激終了後の縮瞳状態からの回復が遷延することがあげられる.対光反射時のこれらの特性を利用して,ipRGCの光感受性を間接的に評価することが可光刺激初期緑内障後期緑内障図2緑内障眼における光刺激前後の瞳孔径の経時的変化(自験例データ)縦軸は瞳孔径(mm),横軸は時間(秒),赤・青色線はそれぞれ赤・青色光刺激時の瞳孔径の変化を示す.初期緑内障眼と比較して後期緑内障眼では青色光刺激終了後の瞳孔径(灰色の楕円部分)が速やかに光刺激前の瞳孔径に戻っており,ipRGCの光感受性が低下していることを示している.(65)あたらしい眼科Vol.41,No.12,202414490910-1810/24/\100/頁/JCOPY図3血圧日内変動測定携帯型自動血圧計を用いてC24時間自由行動下血圧測定で評価する.利き腕とは逆の腕にカフを巻き,腰に血圧計本体を携帯し,24~48時間,連続して定期的に自動で血圧測定が行われる.能である.具体的には暗順応後に赤色と青色の光刺激を行い,光刺激前後の瞳孔径の経時的変化を瞳孔記録計で測定する.そして光刺激終了後の瞳孔径で定義されるCpost-illuminationCpupilresponseをCipRGCの光感受性として評価する(図2).C●緑内障と生体リズムの乱れipRGCはヒトにおいて全網膜神経節細胞のC0.2~0.8%程度を占めるとされ,緑内障眼で減少していることが知られている.ドナー眼を用いた実験研究において,緑内障が重症であるほどCipRGCの細胞密度が低下していたことが報告されている.また,筆者らのコホート研究でも,緑内障が機能的および構造的に重症であるほどipRGCの光感受性が低下していたことを確認している2).緑内障眼でCipRGCが障害されるのであれば,緑内障は生体リズムの乱れを引き起こすのであろうか?筆者らは松果体産生ホルモンであるメラトニンに着目した.メラトニンは生体リズム調整や睡眠を促す作用をもち,おもに夜間に分泌される日内変動をとることから,生体リズム指標として広く用いられている.筆者らは研究参加者の早朝第一尿のメラトニン代謝産物濃度を測定したところ,健常群と比較して緑内障群で,さらに緑内障が重症であるほど,尿中メラトニン代謝産物濃度が低下していた3).この結果は緑内障患者において生体リズムの乱れが生じている可能性を示している.次に筆者らは,生体リズムの光同調障害が影響する血圧日内変動(図3)や睡眠について検討した.血圧は夜間就寝時にC10~20%程度下降するのが生理的な日内変動リズムとされているが,緑内障患者C109名の多変量解析の結果,緑内障群の夜間血圧は健常群よりも高かった4).さらに白内障と血圧日内変動障害との関連を示した疫学研究の横断解析結果5)もあり,白内障では水晶体混濁による眼内への光刺激減少がCipRGCの光感受性低下を引き起こす可能性が考えられる.また,睡眠の質の解析では,緑内障眼におけるCipRGCの光感受性低下が睡眠障害と関連していたこと6)や,白内障手術が睡眠の質と関連していたことが報告されている.これらの結果は,ipRGCの光感受性低下が生体リズムの乱れを引き起こし,血圧や睡眠に影響を与える可能性を示唆している.C●おわりに緑内障は視機能障害をきたすだけでなく,ipRGCの障害を介して生体リズムの乱れに影響する可能性がある.そのため日常の緑内障診療では生体リズムの光同調障害にも注意を払い,血圧や睡眠などの全身の状態も確認しておく必要があるかもしれない.しかし,本研究分野は症例数の少ない横断研究が多く,緑内障患者におけるCipRGC障害がどの程度生体リズムの乱れに影響するのか不明な点も多い.今後の大規模な縦断研究の結果が期待される.文献1)BersonCDM,CDunnCFA,CTakaoM:PhototransductionCbyCretinalCganglionCcellsCthatCsetCtheCcircadianCclock.CScienceC295:1070-1073,C20022)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:AssociationCbetweenCpostilluminationCpupilCresponseCandCglaucomaseverity:ACcross-sectionalCanalysisCofCtheCLIGHTCStudy.CInvestOphthalmolVisSciC63:24,C20223)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:DecreasedCmelatoninCsecretionCinCpatientsCwithglaucoma:Quantita-tiveCassociationCwithCglaucomaCseverityCinCtheCLIGHTCstudy.JPinealResC69:e12662,C20204)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:IncreasedCnighttimeCbloodCpressureCinCpatientsCwithglaucoma:CCross-sectionalanalysisoftheLIGHTStudy.Ophthalmol-ogyC126:1366-1371,C20195)YoshikawaCT,CObayashiCK,CMiyataCKCetal:DiminishedCcircadianCbloodCpressureCvariabilityCinCelderlyCindividualsCwithCnuclearcataracts:cross-sectionalCanalysisCinCtheCHEIJO-KYOcohort.HypertensResC42:204-210,C20196)JimuraH,YoshikawaT,ObayashiKetal:Post-illumina-tionCpupilCresponseCandCsleepCqualityCinCpatientsCwithglaucoma:TheCLIGHTCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC64:34,C20231450あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024(66)

屈折矯正手術セミナー:SMILE pro

2024年12月31日 火曜日

●連載◯295監修=稗田牧神谷和孝295.SMILEpro岡義隆先進会眼科SMILE(スマイル)はフェムトセカンドレーザーを用いた角膜屈折治療である.2024年C2月,屈折矯正手術のガイドラインに記載された.SMILEproとは,新型のフェムトセカンドレーザーCVISUMAX(日本未発売)を使用したCSMILE手術をさす.本稿ではCSMILE手術,新型機の特徴,SMILECproとなり改良された点などを紹介する.●はじめにSMILE(スマイル)とは,SmallCIncisionCLenticuleExtractionの略で,フェムトセカンドレーザーCVISUMAX(CarlCZeissMeditec社)を使用して行う角膜屈折治療方法である.2023年C3月に厚生労働省の薬事承認を取得した.また,2024年C2月に更新された日本眼科学会の屈折矯正手術のガイドライン(第C8版)1)にCSMILEとして掲載された.SMILECproは,VISUMAXの新機種であるモデルC600またはC800に搭載されているCSMILEソフトウェアプログラムを使って行うCSMILE手術をさす.わが国では2024年C5月時点において承認審査中であり,未発売である.欧州,米国,アジア各国においては,すでにSMILEproが導入されている.C●SMILEとはSMILEはフェムトセカンドレーザーC1台で完結する角膜屈折手術である.LASIK(laserinCsituCkeratomile-usis)手術のようにエキシマレーザーは使用しない.角膜実質層の内部にフェムトセカンドレーザーを照射し,矯正量に応じた厚みにデザインされたシート状の角膜切片(レンチクル)を作製する.そして,2~4Cmmの創口を同レーザーでつくり,その切片を抜き取ることで角膜の曲率を変化させ屈折を矯正する(図1).LASIKのようにフラップを作製しないため,フラップに関する合併症がなく,創口もC2~4Cmmと小さく,ドライアイも発生しにくい.国内では,等価球面度数.10D(近視.10.00D以下,乱視.3.00D以下)までの近視眼および近視性乱視眼の矯正に供されるとされている.全世界では,2011年の発売開始以来CSMILEの実施数はC2023年C5月にC800万眼を超えたと発表されている2).とくにアジア圏では屈折矯正手術の主流となっている.(63)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1SMILEの手術工程レーザー照射によりシート状に角膜切片(レンチクル)を切りとり,約C3Cmmの創口から抜き取る.●フェムトセカンドレーザVISUMAXの新機種(モデル600/800)CarlZeissMeditec社はC2021年にCSMILEproプログラムを搭載したCVISUMAX(モデルC600/800)のCCEマークを取得し,2024年C1月には米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た3).わが国ではCSMILEproのプログラムは未承認のため未発売であるが,レーザー装置本体はC2023年C11月にCVISUMAXpro(承認番号:30500BZX00273000)として承認を得ている.VISUMAX(モデルC800)(図2)は,レーザー本体に2本のアームを備えている.一つがレーザーアームで,もう一方がCOPMI(手術顕微鏡)アームである.手術工程に合わせて,使用するアームをボタン操作で作業ポジションに移動させる.レーザーアームにはモニターが備わっており,患者の角膜の様子が映し出される.モデル600にはCOPMIアームが備わっておらず,手術顕微鏡を別途用意する必要がある.この新型のCVISUMAXは,従来品と比べて小型化を実現した.以前は患者用ベッドを上下左右に動かすことで患者の位置を調整していたが,レーザー本体が上下左あたらしい眼科Vol.41,No.12,20241447図2フェムトセカンドレーザー図3CentraLignの画面図4回旋補正機能OcuLignの画面VISUMAX800瞳孔中心を認識し,モニター上に示す.2本のアームを備える.右に動き位置調整ができるようになった.そのためベッドを支えるプラットホームといわれる設置ベースが不要になった.C●SMILEproとはVISUMAX(モデルC600/800)は,レーザーの周波数が従来の同社製品のC500CkHzからC2CMHzとなった.これにより,従来装置で約C30秒弱かかっていたレンチクルの作製が,およそC8秒程度とC10秒未満で完了する.照射時間が大幅に短縮されることで,サクションロスの発生リスクが低減し,患者への負担も少なくなると期待される.CSMILEpro(VISUMAXモデルC800使用)と,従来のSMILE(VisuMaxモデルC500使用)における手術工程にかかった時間を比較したCBrarらによる報告4)によると,ドッキングにおいては,SMILEproがC133.63C±38.88秒に対して,従来のCSMILEはC194.11C±47.59秒,手術全体の時間は,SMILEproがC6.96C±1.67分に対して従来のCSMILEはC9.52C±1.72分と,SMILEproでは有意に手術時間が短縮された.またCSaadらは,52症例C82眼に対するCSMILECproの臨床使用において,合併症はなかったと報告した5).術後の臨床成績に関しては,今後の報告が待たれる.このほか,VISUMAX(モデルC600/800)になって搭載された機能として,CentraLignというセンタリング機能と,OcuLignという回旋補正機能がある.CentraLignは瞳孔中心を自動でトラッキングし,患者の眼にトリートメントパックとよばれる患者インターフェースをドッキングする際の位置合わせをアシストする機能である.その様子はレーザーアームに備えられているモニターに表示され,術者が位置合わせをする際にC1448あたらしい眼科Vol.41,No.12,2024瞳孔中心を示し,視覚的にアシストする(図3).OcuLignは眼球の回旋運動に対する機能である.事前のマーキングまたは事前に撮影した画像を使用して,虹彩紋理パターンをもとに回旋補正を行う(図4).C●おわりにSMILEproは国内では未承認プログラムであるが,欧州,米国,アジア各国において実施されている.レンチクルの作製時間,つまりレーザーの照射時間が従来の30秒弱からおよそC8秒程度へと大幅に短縮されたことは,サクションロスの発生リスクの低減に大きく寄与すると期待される.また,今後もソフトウェアのバージョンアップによって,一層改良されていくであろう.従来SMILEの弱みとされていたセントレーションに対する機能強化や,遠視治療の対応など,今後のさらなる発展が期待される.文献1)日本眼科学会屈折矯正委員会:屈折矯正手術のガイドライン(第C8版).日眼会誌128:135-138,C20242)https://www.zeiss.com/content/dam/z/med/reference-master/campaigns/en-smile-bene.ts.pd0f3)CarlCZeissCMeditecCAG.CPRESSCRELEASE.CU.S.CFDACApprovesCtheCVISUMAXC800CwithCSMILECproCsoftwareCfromZEISS;https://www.zeiss.com/meditec-ag/en/Cmedia-news/press-releases/2024/fda-approves-visumax-800-with-smile-pro.html4)BrarCS,CGaneshCS,CBhargavS:ComparisonCofCintraopera-tivetimetakenfordocking,lenticuledissection,andover-allwork.owforSMILEperformedwiththeVisuMax800versustheVisuMax500femtosecondlaser.CJRefractSurgC39:648,C20235)SaadCA,CKlabeCK,CKircaCMCetal:RefractiveCoutcomesCofCsmallClenticuleextraction(SMILE)ProCRCwithCaC2CMHzCfemtosecondlaser.IntOphthalmolC44:52,C2024(64)