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序説:小児の神経眼科診察のポイント

2021年9月30日 木曜日

小児の神経眼科診察のポイントPointsofNeuro-OphthalmologyExaminationinChildren佐藤美保*眼科医にとって神経眼科疾患は,「見え方の異常」を全身疾患や中枢疾患につなげていく重要な分野である.しかし,相対的な患者数の少なさから苦手意識をもっている眼科医も少なくない.さらにそこに「小児」がつくことで,苦手意識に拍車がかかる.それは「子どもは小さな大人ではない」といわれるように小児の視機能は発達途中であるとともに,眼球の構造も小児の特性があることから,大人の診療知識をそのまま当てはめられるものではないからであろう.しかし,「眼は脳の出先機関」ともいわれるように,眼は感覚器であるとともに神経組織でもあることから,神経眼科を知らずに眼科診療はできない.小児神経眼科疾患のむずかしさは,①自覚的評価が困難あるいは信頼性が低い,②MRIなど鎮静を要する検査が多く精密検査へのハードルが高い,③急性に進行する疾患が多く重要なサインを見逃すことができない,という点にある.しかし,小児神経眼科診療は,まれで重篤な疾患を診ることだけでなく,小児によくある弱視や共同性斜視を適切に診断・治療することに始まり,視神経乳頭の異常や,進行性や後天性の眼球運動障害を見つけて,適切な時期に適切な診療科医につないだうえで,視機能の評価や視機能の改善に努めるという小児眼科診療全体をさす.小児の神経眼科を理解することでその子どもの視力の予後を推測し,見え方だけでなく,発達も含めて生活や学業で困っていることや困りそうなことに対応し,将来の進路などにまでかかわっていくことができる.ともすればとっつきにくいと思われがちな小児の神経眼科への理解を深めていただくためにこの特集を組んでいる.さて,小児の眼科診察にあたって最初に行うべきことは,①問診の聴取,②顔貌の特徴をはじめ四肢を含めた全身の形成異常のチェック,③発達の評価である.これらは実際の患児の体に触れることなく行うことのできるものであり,泣かせずに情報を収集することになる.問診は問診表の記載で聴取することが多いが,小児には成人と別の問診表を用意するのが望ましい.問診の中には,口頭では聞きづらい家庭環境,あるいは発達の問題などを記述してもらうことができる.異常を誰がいつ指摘したか,保護者はどのように感じているのか,今回の受診に何を期待しているのか,何を不安に思っているのか,あるいは前医への不満などをあらかじめ聴取しておくことは短期間に信頼関係を獲得するのに役立つ.診断のためには「視線が合わない」「眼が揺れる」「瞳の色や形が違う」「瞼があがらない」といった保護者の観察による主訴が大変重要である.家族歴としては,同胞や両親のどちらか,あるいは血族に同*MihoSato:浜松医科大学医学部眼科学講座0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)983じような異常やその治療歴があることも少なくない.周産期の異常,外傷や手術歴なども重要な情報で保護者はそれらが眼の異常と関係しているとは感じていないことが多く,こちらから尋ねない限り伝えない.つぎに全身の状態を確認する.保護者が気づいていないような顔貌の特徴(鞍鼻や眼角乖離など),あるいは保護者は関連しないと思っているような身長,体重,手足,耳,毛髪,皮膚の色素などが眼疾患と関連することもある.発達については,定頸や座位,自立歩行の時期が参考になるが,発語の遅れや発達障害のように1歳を過ぎないとわからないものもある.その年齢に応じた発達を知っておき,定期健診の結果や母子手帳の記載を参考にする.だっこで診察室に入ってきた場合には,歩けるのかどうか,また本人確認と称して自分の名前や年齢をいわせてみることで発達をチェックする.乳児の視力検査は,あやしたときにこちらの顔を見るかどうか,おもちゃに関心を示すかどうか,おもちゃに手をだすか,手に持ったおもちゃを極端に眼に近づけて見ないかどうか,などといった行動から視機能とともに社会性,精神発達状態を観察する.つぎに固視,追視の可否を診る.この際,同時に眼位異常や,眼球運動制限の有無を診る.続いて片方ずつ眼を隠すことで嫌悪反射を確認し,左右差がないかどうかをチェックする.視力検査としてはTellerAcuityCardsのような縞視力検査装置があればなおよいが,そのようなものがなくても上記のようにすれば視力の評価は可能である.瞳孔反応を見ることは神経眼科診療の基本であり,小児においてはとくに視機能を評価する方法として重要である.成人のように光を瞳孔にあてて観察することは困難なため,レチノスコープを用いたredre.ex法やオートレフ,スポットビジョンスクリーナーのようなフォトレフラクション法を使って瞳孔の形や対光反射を診るのがよい.ともすれば眼科診察は暗室で始めてしまうが,明室と暗室をうまく使い分けて,泣き出す前に必要な情報を収集してから眼の診察へ進む.眼球運動検査では成人のようにこちらの指示に従ってくれるとは限らないため,検査の仕方に工夫が必要である.先天眼球運動障害には乳児内斜視のような共同性斜視と,眼球運動制限を伴うもの,眼振を伴うものがあるが,鑑別が一度の診察でできるとは限らない.診断のために,頭位の観察は重要である.異常頭位には,顎の上げ・下げ,顔の回し,首の傾げがある.しかし,診察室では緊張して異常頭位を示さないこともあるため,日常生活の写真やビデオを持参してもらって確認するとよい.最近はスマートフォンでの動画撮影が普及しているため,それも有効な方法である.また,先天性眼球運動障害の患者が3歳以降で初めて受診することもある.小児の後天性眼球運動障害は外傷や脳腫瘍,ウイルス感染などで発症することが多く,あきらかな外傷や感染の既往のない眼球運動障害では,頭部MRI検査が必要であり,先天性と後天性の区別をつけることはその後の検査のために重要である.後天性内斜視の多くは,調節性内斜視であり,調節麻痺下屈折検査は必須である.遠視を伴わない後天性内斜視には,外転制限を伴わないものもある.最近話題になっているスマートフォンの見過ぎによる内斜視と紹介された患者が脳腫瘍だったことも経験しているので,眼球運動制限のない内斜視を簡単にスマートフォンのせいにするのは危険である.また,眼位が大きく変動する斜視も注意が必要である.眼振を伴う斜視では固視眼や視方向によって眼位が大きく変化する.また,重症筋無力症や甲状腺眼症も経過中や診察のたびに斜視角が変わる.小児の重症筋無力症も発症は眼筋に限られることが多いが,眼筋型から全身型へ移行する例が少なくないことを考えると早期診断には眼科医の役割は重要である.小児の甲984あたらしい眼科Vol.38,No.9,2021(2)

心房細動に対するカテーテルアブレーション後に発症した MLF 症候群の1 例

2021年8月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(8):972.976,2021c心房細動に対するカテーテルアブレーション後に発症したMLF症候群の1例三善重徳小笠原聡鳴海新平大高幸二黒坂大次郎岩手医科大学医学部眼科学講座CACaseofMLFSyndromeAfterRadiofrequencyCatheterAblationforAtrialFibrillationShigenoriMiyoshi,SatoshiOgasawara,ShinpeiNarumi,KojiOhtakaandDaijiroKurosakaCDepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicineC緒言:内側縦束(mediallongitudinalfasciculus:MLF)症候群は,一側の外転神経核から対側の動眼神経核をつなぐCMLFの障害で生じ,MLF障害側と同側の眼の内転制限を認める.カテーテルアブレーション(radiofrequencyCcatheterablation:RFCA)後の症候性脳梗塞の発症率は低く,RFCA直後に発症したCMLF症候群についての報告は過去にはない.今回,心房細動(atrial.brillation:AF)に対するCRFCA後に発症したCMLF症候群のC1例を報告する.症例:75歳,女性.AFに対してCRFCAを施行され,治療翌日から両眼性複視を自覚,輻湊可能であったが,右眼内転制限を認めた.頭部CMRI拡散強調画像で右中脳から橋背側にかけて高信号域を認め,急性期脳梗塞に起因したCMLF症候群と診断した.結論:RFCA後のCMLF症候群では急性期脳梗塞を疑う必要があると考えられた.CPurpose:Mediallongitudinalfasciculus(MLF)syndromeisadisorderoftheMLF,thenervebundleconnect-ingCtheCabducensCnucleusConConeCsideCtoCtheCoculomotorCnucleusConCtheCcontralateralCside.COneCrareCbutCpossibleCcauseCofCthisCsyndromeCisCcerebralCinfarction.CSymptomaticCcerebralCinfarctionCafterCradiofrequencyCcatheterCabla-tion(RFCA)israre,andtherehavebeennopreviousreportsofMLFsyndromedevelopingafterRFCA.Herewereport,CtoCtheCbestCofCourCknowledge,CtheC.rstCcaseCofCMLFCsyndromeCafterCRFCACforCatrial.brillation(AF).CCase:StartingCat1-dayCafterCRFCA,CaC75-year-oldCwomanCexperiencedCnewCbinocularCdiplopia,CinabilityCtoCcon-verge,CandCrestrictedCcapacityCforCrightCadduction.CMagneticCresonanceimaging(MRI).ndingsCcon.rmedCacuteCcerebralCinfarctionCfromCtheCrightCmidbrainCtoCtheCbackCofCtheCbridge,CandCtheCpatientCwasCdiagnosedCwithCMLFCsyndromeCcausedCbyCcerebralCinfarction.CConclusion:AcuteCcerebralCinfarctionCshouldCbeCsuspectedCwhenCMLFCsyndromedevelopsafterRFCA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(8):972.976,C2021〕Keywords:MLF症候群,心房細動,RFCA,脳梗塞.MLFsyndrome,atrial.brillation,radiofrequencycatheterablation,cerebralinfarction.Cはじめに内側縦束(medialClongitudinalfasciculus:MLF)症候群は,患側眼の内転障害,反対側眼の外転時に発生する単眼性水平眼振,良好な輻湊を三徴候とする1).若年者では多発性硬化症によるものが多いが,血管系の危険因子をもった高齢者では脳血管病変が原因として最多である2).今回筆者らは,心房細動(atrial.brillation:AF)に対するカテーテルアブレーション(radiofrequencyCcatheterablation:RFCA)後に発症したCMLF症候群のC1例を経験した.AFに対するCRFCA後の症候性脳梗塞の発症率はC0.5%程度と報告され3,4),頻度の少ない合併症である.また,本症例のようにCRFCA直後に発症したCMLF症候群の報告は筆者らが文献を渉猟した限り今までに報告がなく,まれな症例であると考えられたので,若干の知見と合わせて報告す〔別刷請求先〕三善重徳:〒028-3695岩手県紫波郡矢巾町医大通C2-1-1岩手医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShigenoriMiyoshi,DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine,1-1CIdaidori2-chome,Yahaba-cho,Shiwa-gun,Iwate028-3695,JAPANC972(124)る.CI症例患者:75歳,女性.主訴:両眼性複視.既往歴:非弁膜症性心房細動,高血圧,骨粗鬆症,脂質異常症.現病歴:X年,AFに対するCRFCA目的で,当院循環器内科に入院した.術前から抗凝固療法はなされ,術前の経食道心臓超音波検査で心臓内血栓は確認されなかった.RFCAを施行し洞調律に復帰し,神経学的異常は認めなかった.治療翌日,起床時から複視を自覚するようになり,症状が持続するため,RFCA後C2日目に当科紹介となった.初診時眼所見:矯正視力は両眼ともに(1.0)であった.瞳孔正円同大で,対光反射両側迅速,眼瞼下垂も認めなかった.右眼内転制限と左方視時の左眼水平性眼振がみられたが,輻湊は可能であった.また,全方向で両眼性複視を自覚し,左方視で増悪した(図1,2).前眼部,中間透光体,眼底に異常は認めなかった.神経学的所見(当院神経内科の所見):意識清明.失行なし.失認なし.失語なし.顔面感覚異常なし.顔面神経麻痺なし.構音障害なし.カーテン徴候なし.協調運動障害なし.表在覚異常なし.位置覚異常なし.振動覚異常なし.四肢の運動障害なし.腱反射亢進なし.病的反射なし.その他の所見(術前血液検査):WBC7,580/μl,RBC335万/μl,Hb10.5Cg/dl,Ht30.9%,PLT14.7万/μl,APTT31.4sec,PT-INR1.28sec,Dダイマー<0.5Cμg/ml.経過および治療:右眼CMLF症候群と診断し,頭部核磁気図1初診時のHessチャート右眼内転制限を認めた.図29方向眼位写真第C1眼位では正位.右眼内転制限があったが,輻湊可能であった.図3頭部単純MRI画像(DWI)右中脳から橋背側にかけて,高信号域を認めた.共鳴画像(magneticresonanceimaging:MRI)を施行した.拡散強調画像(di.usionweightedimage:DWI)で右中脳から橋にかけて背側正中寄りに高信号域を認めたため,急性期脳梗塞と診断した(図3).同日,加療目的に当院神経内科転科となった.点滴静注による脳保護療法を開始し,術前から行われていた抗血小板薬の内服療法を継続した.第C6病日に再度施行された頭部CMRIでは,DWIで右中脳に亜急性脳梗塞性変化を認めたが,新規脳梗塞の発症は認めなかった.第20病日,複視は残存していたが,右眼内転制限は改善傾向にあり,自宅退院となった.退院時は,複視も軽減していた.その後も当院外来で経過観察を継続し,発症C6カ月の再来時,右眼内転制限はさらに改善し,複視の自覚も消失した(図4,5).図4発症から6カ月後のHessチャート右眼内転制限は,初診時より改善した.図5発症から6カ月後の9方向眼位写真右眼の眼球運動障害は改善傾向にあった.II考按MLF症候群の原因は,若年者では多発性硬化症がもっとも疑われ,そのほかに感染症などによって生じる可能性もある2).しかし,血管系の危険因子をもった高齢患者では,脳血管病変によって生じるものが最多である2).Bolanosらの報告では核間性眼球麻痺の最大の原因は脳血管病変(脳梗塞)であり,追跡研究でもC37%を占めていた5).本症例でもRFCAの術翌日に複視や内転障害が出現し,中脳から橋にかけての脳梗塞を発症していたことから,MLF症候群の原因は急性期脳梗塞と考えられた.Nakamuraらの報告によると,RFCA翌日に施行された頭部CMRI検査では,160人中C43人(26.3%)で急性期脳梗塞が確認された6).そして,病巣は中脳がもっとも多かった(46.9%)が,そのC43人はすべて無症候性脳梗塞であった6).一方で,病巣や神経学的異常所見についての詳細は不明であるが,InoueらはCRFCA後に症候性脳梗塞がC1,049人中C2人(0.5%)で発症したと報告している4).したがって,RFCA後に症候性脳梗塞が発症する確率は低く,過去にCMLF症候群を呈した報告も筆者らが文献を渉猟した限りないため,本症例は希少な症例であったと考えられる.本症例のように運動失調や上斜視などの随伴症状のないMLF症候群は,過去にCKobayashiら7)や,Puneetら8)が報告している.彼らの報告したC3例はすべて中脳の微小梗塞により発症したと報告されていた7,8).RFCA後の脳梗塞は洞調律に復帰した際に左心房内血栓が脳血管に飛んで発症する場合が一般的である.しかし,本症例では術前に左心房内血栓が確認されなかった.そのため,心エコーで検出できないほどの微小血栓や,焼灼部位やシースなどの人工器具内部で術中に形成された微小血栓に起因して,微小梗塞がCMLFに限局したために随伴症状を認めなかった可能性が考えられた.微小梗塞が原因の場合,頭部CMRIで診断するのは困難な場合が多いとされている9).本症例ではスライス厚がC3Cmmの頭部CMRIで病変を確認できた.柴山らは脳血管障害による一側性核間性眼筋麻痺症例C10例中,MLFに一致して異常所見を検出できた症例はC5例だったと報告している10).柴山らの責任病巣を同定できたC5例は,頭部CMRI画像のスライス厚がC4.4CmmからC7.8Cmmの範囲で撮影されていたが,責任病巣が不明であったC5例はC7.8CmmからC9.9Cmmのより厚いスライス厚で撮影されていた10).また,中嶋らの報告ではスライス厚がC5Cmmの頭部CMRIで病変を確認できなかったが,3Cmm厚のスライスで撮影した頭部CMRIでは検出することができたとしている9).以上のことから,MLF症候群の原因精査で脳梗塞を疑った場合には,スライス厚を薄くした条件でCMRIを施行するべきだと考える.本症例では発症からC6カ月経過し,眼球運動障害はほぼ改善していた.脳梗塞に起因したCMLF症候群の眼球運動障害の予後について,大淵らは観察したC4例すべてで治癒し,眼球運動障害の持続期間はC1日からC22日(平均C9.3日)であったと報告している11).また,柴山らも眼球運動障害の持続期間は平均C25.4日と報告している10).これらのことから,MLF症候群の眼球運動障害の予後は,障害の持続期間に差はあるものの比較的良好と考えられた.予後良好な理由としては,病変が微少であることに加えて,MLFが存在する部位の支配血管の吻合が豊富であることが考えられる11).CIII結論RFCA後の症候性脳梗塞に起因して発症したCMLF症候群のまれなC1例を経験した.RFCA後に認めたCMLF症候群では,急性期脳梗塞の発症を考慮する必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)梅野祐芳,野田哲哉,中島成人:MRIで確認し得た脳梗塞によるCMLF症候群の一例回旋性振,輻輳障害および患側眼の滑車,外転神経麻痺の合併.EquilibriumCResearchC52:165-168,C19932)PlummerCNR,CThorpCT,CSultanS:SuddenConsetCdoubleCvision.BMJ348:1-3,C20143)渡辺則和:カテーテルアブレーション術前,術中,術後の服薬管理と合併症対策.ProgressCinCMedicineC37:1293-1299,C20174)InoueK,MurakawaY,NogamiAetal:CurrentstatusofcatheterCablationCofCatrialC.brillationCinJapan:SummaryCofCthe4CthCsurveyCofCtheCJapaneseCCatheterCAblationCReg-istryCofCAtrialFibrillation(J-CARAF).JCCardiolC68:C83-88,C20165)BolanosI,LozanoD,CantuC:Internuclearophthalmople-gia:causesCandClong-termCfollow-upCinC65Cpatients.CActaCNeurolScandC110:161-165,C20046)NakamuraT,OkishigeK,KanazawaTetal:IncidenceofsilentCcerebralCinfarctionsCafterCcatheterCablationCofCatrialC.brillationCutilizingCtheCsecond-generationCcryoballoon.CEuropace19:1681-1688,C20177)KobayashiZ,IizukaM,TomimitsuHetal:IsolatedmediC-allongitudinalfasciculussyndromeduetosmallmidbraininfarction.NeurolClinNeurosci2:112-113,C20148)PuneetK,YogeshK,PranavSetal:Isolatedmediallon-gitudinalCfasciculussyndrome:ReviewCofCimaging,Canato-my,pathophysiologyanddi.erentialdiagnosis.Neuroradi-olJC31:95-99,C20189)中嶋匡,西村裕之,西原賢太郎ほか:MLF症候群と運動失調にて発症した中脳梗塞のC1例.脳卒中C29:479-482,200711)大淵豊明,宇高毅,楽居直明ほか:核間性眼筋麻痺症例10)柴山秀博,佐藤進,長谷川政二ほか:MLF症候群─血管における症状とCMRI所見.日本耳鼻咽喉科学会会報C109:障害を中心としたその臨床とCMRI所見の検討─.神経内科C96-102,C2006C46:359-365,C1997***

トラベクトーム術後におけるリパスジル点眼の 眼圧下降効果の検討

2021年8月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(8):968.971,2021cトラベクトーム術後におけるリパスジル点眼の眼圧下降効果の検討油井千旦齋藤雄太安田健作三浦瑛子油井一敬恩田秀寿昭和大学医学部眼科学講座CInvestigationofIntraocularPressure-LoweringE.ectsofRipasudilOphthalmicSolutionAfterTrabectomeChiakiYui,YutaSaito,KensakuYasuda,EikoMiura,KazuhiroYuiandHidetoshiOndaCDepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicineC目的:リパスジル点眼とトラベクトームは,線維柱帯の房水流出抵抗を減少させるという点で作用機序が類似しており,トラベクトーム前後で,リパスジル点眼が眼圧下降に与える影響を検討した.対象および方法:対象は広義の原発開放隅角緑内障でリパスジル点眼を使用している患者のうち,2017年C7月.2018年C6月に昭和大学病院附属東病院で,トラベクトームを施行されたC13例C15眼.術前(手術前日の入院時),術C1日後,術C1週間後,術C1カ月後に,リパスジル点眼直前の眼圧および点眼C2時間後の眼圧を測定し,眼圧下降効果を検討した.結果:15眼では術前,術後ともにリパスジル点眼前後での有意な眼圧下降は認めなかった.術前にリパスジル点眼前後で眼圧が下降したC10眼でも術後は有意な眼圧下降を認めなかった.結論:トラベクトーム手術で線維柱帯を切開したことにより,術後リパスジル点眼の効果が出にくくなった可能性が考えられる.CPurpose:RipasudilCophthalmicCsolutionCandCTrabectomeChaveCsimilarCmechanismsCofCactionCforCreducingCtheCresistanceoftrabecularmeshworktissuetoaqueoushumorout.ow.ThepurposeofthisstudywastoinvestigatetheCintraocularpressure(IOP)-loweringCe.ectsCofCripasudilCophthalmicCsolutionCafterCTrabectome.CSubjectsandMethods:ThisCprospectiveCstudyCinvolvedC15CeyesCofC13CprimaryCopen-angleCglaucomaCpatientsCwhoCunderwentCripasudiladministrationafterTrabectomeatourinstitutionbetweenJuly2017andJune2018.Inall15eyes,IOPwasCevaluatedCpreCandC1-day,C1-week,C1-monthCpostCadministrationCofCripasudilCafterCTrabectome.CResults:Nosigni.cantdecreaseinIOPwasobservedbetweenpreandpostadministrationofripasudil,bothbeforeandafterTrabectome.In10eyesinwhichIOPreductionwasobservedpreandpostadministrationofripasudilbeforeTra-bectome,CnoCsigni.cantCdi.erenceCofCIOPCreductionCwasCobservedCafterCTrabectome.CConclusion:NoCsigni.cantCdi.erenceofIOPreductionwasobservedbetweenpreandpostadministrationofripasudilafterTrabectome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(8):968.971,C2021〕Keywords:開放隅角緑内障,落屑緑内障,リパスジル,トラベクトーム,眼圧.primaryopenangleglaucoma,exfoliationglaucoma,ripasudil,Trabectome,intraocularpressure.Cはじめに近年,わが国で開発されたCRhoキナーゼ阻害薬であるリパスジル塩酸塩水和物点眼液(以下,リパスジル点眼)は,既存の緑内障点眼とは作用機序が異なり,眼内房水の主流出路における線維柱帯細胞の骨格と収縮性の変化1),線維柱帯間隙への作用2),細胞-細胞外マトリックス間関係の変化3),細胞外マトリックス産生抑制4)などの機序により,房水の流出抵抗を減少させ房水流出を促進すると考えられている5,6).一方,minimallyCinvasiveCglaucomasurgery(MIGS)の一つであるトラベクトームは線維柱帯の一部を切開してSchlemm管後壁と集合管を露出させることで,房水流出抵抗を減少させて眼圧を下降させる手術である7).リパスジル〔別刷請求先〕油井千旦:〒142-8555東京都品川区旗の台C1-5-8昭和大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ChiakiYui,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicine,1-5-8Hatanodai,Shinagawa-ku,Tokyo142-8555,JAPANC968(120)点眼とトラベクトームはともに線維柱帯の房水流出抵抗を減少させるという点で作用機序が類似している.リパスジル点眼は日本でC2014年に承認された新しい薬剤であり,流出路再建術後のリパスジル点眼の眼圧下降効果について検討された報告はまだ少ない.そこで,今回筆者らは,トラベクトーム前後で,リパスジル点眼が眼圧下降に与える影響および,リパスジル点眼で眼圧下降する患者にトラベクトームを施行し線維柱帯を切開しても,術後リパスジル点眼で眼圧が下降するのかを検討した.CI対象および方法対象は広義の原発開放隅角緑内障(primaryCopenCangleglaucoma:POAG)でリパスジル点眼を使用している患者のうち,2017年C8月.2018年C6月に昭和大学病院附属東病院にてトラベクトームを施行した患者とした.選択基準は広義POAG患者のうち,緑内障点眼で十分な眼圧下降が得られない,眼圧がC15CmmHg以上,隅角検査で線維柱帯が同定できる,白内障手術以外の眼手術既往がないこと,同意取得時の年齢がC20歳以上であること,本研究への参加について本人から文書により同意が得られた患者とした.トラベクトームは耳側角膜を切開し隅角を確認後,トラベクトームのハンドピースを挿入し,鼻側の線維柱帯をC120°切開し,Schlemm管が開放できたことを逆流性出血で確認した.白内障同時手術の場合はトラベクトーム術後に切開創を拡大し白内障手術を施行した.術後点眼は抗菌薬点眼,ステロイド点眼,2%ピロカルピン点眼をC1カ月間継続した.手術前日は朝からリパスジル点眼を中止し,入院後にリパスジル点眼前後の眼圧を測定した.術後はリパスジル点眼を中止し,その他の緑内障点眼は,術後に十分な眼圧下降が得られない場合に必要に応じて再開した.表1リパスジル点眼前後の比較リパスジル点眼前リパスジル点眼後眼圧(mmHg)C眼圧(mmHg)Cp値n=15n=15術前C22.1±6.0C21.8±7.0Cp=0.82術1日後C21.5±9.8C20.2±6.8Cp=0.40術C1週間後C16.6±5.6C16.8±5.5Cp=0.69術C1カ月後C18.7±7.6C19.7±9.0Cp=0.08術前(手術前日の入院時),術C1日後,術C1週間後,術C1カ月後にリパスジル点眼直前の眼圧(点眼前眼圧)および点眼C2時間後の眼圧(点眼後眼圧)を測定した.眼圧測定はGoldmann圧平眼圧計を用いた.緑内障薬剤スコアは単剤点眼C1点,配合剤点眼C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C1点とした.結果は平均C±標準偏差で示し,眼圧値は対応のあるCt検定,緑内障薬剤スコアはCMann-WhitneyのCU検定を用いて統計解析を行い,p<0.05を有意差ありとした.本研究は,昭和大学倫理委員会の承認を得ている.CII結果対象症例はC13例C15眼で,年齢はC67.1C±13.4歳.病型はPOAGがC7眼,落屑緑内障がC8眼で,術前点眼スコアはC5.1C±1.2であった.リパスジル点眼前後(点眼前後)の比較を表1に示す.術前と術C1日後では点眼前後で眼圧は下降したが有意な下降は認めなかった.また,術C1週間後と術C1カ月後では点眼前後で眼圧は下降しなかった.術前の点眼前眼圧と術後の点眼前眼圧の比較(トラベクトーム効果)を表2に示す.術C1週間後で有意に眼圧が下降した.対象C15眼のうち,術前にリパスジル点眼で眼圧が2CmmHg以上下降したC10眼を下降群,眼圧がC2CmmHg以上下降しなかったC5眼を非下降群とした.下降群,非下降群のリパスジル点眼前後の比較とトラベクトーム効果をそれぞれ表3,4に示す.下降群では術前の点眼前後で有意な眼圧下降を認めたが,術後は有意な眼圧下降を認めなかった.非下降群では術前と同様,術後C1カ月後までのどの時点においてもリパスジル点眼による有意な眼圧下降は認めなかった.トラベクトーム効果では下降群では術C1週間後で有意な眼圧下降を認めた.非下降群では術後に有意な眼圧下降は認めなか表2手術前後の点眼前眼圧の比較(トラベクトーム効果)眼圧(mmHg)Cn=15p値術前C22.1±6.0術1日後C21.5±9.8Cp=0.8術C1週間後C16.6±5.6p<C0.05術C1カ月後C18.7±7.6Cp=0.1C表3下降群のリパスジル点眼前後の比較とトラベクトーム効果点眼前眼圧(mmHg)点眼後眼圧(mmHg)手術前後の点眼前Cn=10Cn=10点眼前後の比較眼圧の比較手術前日C25.0±3.8C22.3±4.0p<C0.05術1日後C22.8±8.8C22.2±6.4Cp=0.73Cp=0.37術C1週間後C19.0±5.0C18.8±4.6Cp=0.76p<C0.05術C1カ月後C20.7±7.3C21.8±8.8Cp=0.16Cp=0.01表4非下降群のリパスジル点眼前後の比較とトラベクトーム効果点眼前眼圧(mmHg)点眼後眼圧(mmHg)手術前後の点眼前Cn=5n=5点眼前後の比較眼圧の比較手術前日C16.5±5.7C21.0±11.6Cp=0.17術1日後C18.9±12.3C16.3±6.6Cp=0.43Cp=0.71術C1週間後C11.9±3.7C13.0±5.6Cp=0.40Cp=0.20術C1カ月後C14.8±7.3C15.6±8.9Cp=0.37Cp=0.66Cった.1カ月後の緑内障薬剤スコアはC3.1C±1.1(p<0.05)で,トラベクトーム前後で有意に減少した.CIII考按本研究ではトラベクトーム前後で,リパスジル点眼による眼圧下降にどのような影響があるかを検討した.リパスジル点眼の眼圧下降効果のピークは点眼後C2時間との報告8)があるため,本研究でも点眼C2時間後に点眼後眼圧を測定した.リパスジル点眼前後の眼圧を検討すると,15眼の平均では術前の点眼前後で有意差を認めなかった.15眼のなかにはリパスジル点眼に反応しにくい対象患者も含まれていたと考えられ,下降群と非下降群に分けて検討を行った.リパスジル点眼単剤での眼圧下降幅はC2.7.4.0mmHg9),3.5CmmHg10),ピーク時C6.4.7.3CmmHg8)とさまざまな報告があり,下降群では術前の点眼前後で,平均してC2.6CmmHgの眼圧下降を認めたが,術後は有意な眼圧下降を認めなかった.トラベクトーム手術で線維柱帯を切開したことにより,術後リパスジル点眼の効果が出にくくなった可能性が考えられる.しかし,今回は術C1日後,術C1週間後,術C1カ月後の眼圧測定時のみリパスジル点眼を行ったため,術後継続的に,またさらに長い期間リパスジル点眼を使用すれば手術で切除していない範囲の線維柱帯細胞や細胞外マトリックスへより作用し,眼圧下降した可能性が考えられる.また,術後点眼として使用していたピロカルピンはリパスジル点眼と拮抗して眼圧下降効果を減弱させると報告11)があり,今回の研究においてもピロカルピンとの併用で眼圧下降が得られなかった可能性もあると推察される.トラベクトーム手術と同様に線維柱帯を切開する緑内障手術に眼外からのアプローチによるトラベクロトミーがあるが,術前のリパスジル点眼での眼圧下降効果と手術成功率を調べた研究では,リパスジル点眼の有効群と非有効群で有意差はなかったとの報告12)がある.本研究では眼圧下降群で術C1週間後にトラベクトーム手術による有意な眼圧下降を認めたが,術前のリパスジル点眼による眼圧下降とトラベクトーム手術による眼圧下降に必ずしも一貫性はなく,術前のリパスジル点眼の点眼効果で,トラベクトームの手術効果を予測することは困難であった.今後は症例数を増やし,観察期間を延長して,トラベクトーム手術の生存率や術後もリパスジル点眼を継続した場合の眼圧下降効果,ピロカルピン中止後のリパスジル点眼の眼圧下降効果の検討が必要だと考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoCM,CTaniharaCH,CInataniCMCetal:E.ectsCofCRho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:137-144,C20012)RaoPV,DengPF,KumarJetal:Modulationofaqueoushumorout.owfacilitybytheRhokinase-speci.cinhibitorY-27632.CInvestOphthalmolVisSciC42:1029-1037,C20013)KogaCT,CKogaCT,CAwaiCMCetal:Rho-associatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632,CinducesCalterationsCinCadhesion,CcontractionCandCmotilityCinCculturedChumanCtrabecularCmeshworkcells.ExpEyeResC82:362-370,C20064)FujimotoCT,CInoueCT,CKamedaCTCetal:InvolvementCofCRhoA/Rho-associatedkinasesignaltransductionpathwayindexamethasone-inducedalterationsinaqueousout.ow.InvestOphthalmolVisSciC53:7097-7108,C20125)InoeuT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20136)IsobeCT,CMizunoCK,CKanekoCYCetal:E.ectsCofCK-115,CaCRho-kinaseinhibitor,onaqueoushumordynamicsinrab-bits.CurrEyeResC39:813-822,C20147)MincklerD,MosaedS,DustinLetal:Tabectome(Trab-eculectomy-internalapproach):additionalexperienceandextendedfollow-up.TransAmOphthalmolSocC106:149-159,C20088)TaniharaCH,CInoueCT,CYamamotoCTCetal:Intra-ocularCpressure-loweringCe.ectsCofCaCRhoCkinaseCinhibitor,Cripa-sudil(K-115)C,over24hoursinprimaryopen-angleglau-comaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmolC93:e254-e260,C20159)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsCofCaCselectiveCRhoCkinaseCinhibitor,CK-115.CJAMACOphthalmolC131:1288-1295,C201310)TaniharaCH,CInoueCT,CYamamotoCTCetal:PhaseC2Cran-domizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,k-115,inprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertension.CAmJOphthalmolC156:731-736,C201311)Yamagishi-KimuraCR,CHonjoCM,CKomizoCTCetal:Interac-tionCbetweenCpilocarpineCandCripasudilConCintraocularCpressure,CpupilCdiameter,CandCtheCaqueous-out.owCpath-way.InvestOphthalmolVisSciC59:1844-1854,C201812)GodaCE,CHirookaCK,CMoriCKCetal:IntraocularCpressure-loweringe.ectsofRipasudil:apotentialoutcomemarkerforTrabeculotomy.BMCOphthalmolC19:243,C2019***

MALDI-TOF 質量分析法により迅速に起因菌が同定できた ノカルジア角膜炎の1 例

2021年8月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科38(8):963.967,2021cMALDI-TOF質量分析法により迅速に起因菌が同定できたノカルジア角膜炎のC1例児玉俊夫*1平松友佳子*1,2上甲武志*1谷松智子*3西山政孝*3*1松山赤十字病院眼科*2愛媛大学医学部眼科*3松山赤十字病院検査部CACaseofNocardiaKeratitisRapidlyIdenti.edbyMALDI-TOFMassSpectrometryToshioKodama1),YukakoHiramatsu1,2)C,TakeshiJoko1),TomokoTanimatsu3)andMasatakaNishiyama3)1)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,2)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofClinicalLaboratory,MatsuyamaRedCrossHospitalC目的:ノカルジア角膜炎はまれな疾患であるが,初期診断ができないと重症化することがある.筆者らはマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFMS)を用いてノカルジア角膜炎と診断したC1例を報告する.症例:70歳,男性.左眼のヒトCTリンパ球向性ウイルスC1型(HTLV-1)関連ぶどう膜炎のために長期間ステロイド点眼を継続していた.外傷の既往なく,左眼角膜中間部に角膜潰瘍を認めたために病巣を擦過した.塗抹標本でフィラメント状の菌糸を有するグラム陽性桿菌を認めた.分離培養された菌をCMALDI-TOFMSで分析したところ,既知のノカルジアのデータベースとのパターンマッチングによりCNocardiaarthritidisと同定された.トブラマイシンとセフメノキシム点眼およびスルファメトキサゾール/トリメトプリム内服を併用して擦過後C25日目には角膜病変は瘢痕化した.結論:MALDI-TOFMSは眼ノカルジア症の迅速診断への有用な手段となりうる.CPurpose:Althoughnocardiakeratitiscasesarerare,amisdiagnosisofthepathogencanleadtoseriouscom-plications.Herewereportacaseofnocardiakeratitisidenti.edbymatrix-assistedlaserdesorptionionization-timeofC.ightCmassspectrometry(MALDI-TOFMS)C.CCase:AC70-year-oldCmaleCwasCtreatedCwithClong-termCsteroidCinstillationforhumanT-celllymphotrophicvirustype1(HTLV-1)associateduveitisinhislefteye.SincetheulcerinCthatCeyeCwasClocatedCinCtheCmid-peripheryCofCtheCcorneaCwithCnoChistoryCofCocularCtrauma,CtheCulcerCbedCwasCsurgicallyCscraped.CACcultureCsmearCrevealedCgram-positiveCrodsCwithCbranchingChyphae,CandCMALDI-TOFCMSCanalysisoftheidenti.edcoloniesshowedNocardiaarthritidisCasthecausativeorganismusingadatabaseofknownnocardiaspecies.Thus,weinitiatedtreatmentwithtopicalcefmenoximeandtobramycininstillation,aswellasoralsulfamethoxazole/trimethoprim.CAtC25-daysCafterCtheCcornealCscraping,ConlyCaCsmallCstromalCscarCwasCobserved.CConclusion:MALDI-TOFCMSCcanCprovideCaccurateCdiagnosis,CandCmightCbeCanCe.ectiveCmethodCforCproperCidenti.cationofnocardia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):963.967,C2021〕Keywords:ノカルジア角膜炎,Nocardiaarthritidis,質量分析法,MALDI-TOFMS,日和見感染.nocardialkeratitis,Nocardiaarthritidis,massspectrometry,matrix-assistedlaserdesorptionionization-timeof.ightmassCspectrometry,opportunisticinfection.Cはじめにしかし,外傷の既往がなくても長期間にわたって抗菌薬やス感染性角膜炎は適切な治療の開始時期を逸すると重大な視テロイドの点眼を行っている患者では,常在細菌叢のバラン機能障害を生じるために,緊急の治療を必要とする眼科疾患スが崩れてしまうといわゆる日和見感染を生じて感染性角膜である.感染性角膜炎は外傷を契機に発症することが多い.炎を発症すると考えられている.そのなかで放線菌感染症に〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ToshioKodama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyo-cho,Matsuyama,Ehime790-8524,JAPANCよる角膜炎はまれであるが,初期診断ができないと重症化することがある.放線菌は嫌気性のアクチノミセスと好気性のノカルジアに大別できるが,いずれも従来の臨床細菌検査法では菌種の同定までに時間を要することが多い1).ポストゲノムの時代を迎えて,比較的簡便で短時間に細菌を同定できる検査法として質量分析装置を用いた細菌同定法が開発された.すなわちマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(matrix-assistedClaserCdesorp-tionionization-timeof.ightmassspectrometry:MALDI-TOFMS)で,現在市中病院の臨床検査室でも広く用いられている2).今回,MALDI-TOFMSを用いてノカルジア角膜炎と診断し,治療経過が良好であったC1例を報告する.CI症例患者:70歳,男性.主訴:左眼の視力低下,霧視.現病歴:2010年C1月中旬に左眼の霧視を自覚し,他院を受診したところ,左眼の虹彩炎を認めたために精査目的でC1月下旬当科を紹介された.初診時所見:視力は右眼C0.5(1.2×+0.25D(cyl.2.5DAx100°),左眼C0.01(0.04×+4.0D(cyl.1.0DAx110°).右眼眼圧=17CmmHg,左眼眼圧=13CmmHg.左眼の硝子体混濁を伴うぶどう膜炎を認めた.血液検査でヒトCTリンパ球向性ウイルスC1型(HTLV-1)抗体価がC8,192倍と高値を示したためにCHTLV-1関連ぶどう膜炎と診断した.入院治療を希望しなかったため,外来通院にてプレドニゾロン30Cmgの漸減投与とベタメタゾンとレボフロキサシン点眼液のC1時間おきの頻回点眼治療により左眼のぶどう膜炎は緩解した.その後も虹彩炎の再発,緩解を繰り返したために長期間ベタメタゾンあるいはフルオロメトロン点眼を継続していた.なお既往歴には特記事項は認めなかった.2018年C12月,数日前より左眼の異物感を自覚したために当科を受診した.発症以前に眼外傷および異物飛入は自覚していない.受診時所見として右眼視力=(1.0×+1.0D(cylC.3.0DAx100°),左眼視力=(0.3×+1.5D(cyl.1.5DAx90°).右眼眼圧=16mmHg,左眼眼圧=13mmHg.前眼部,中間透光体所見として左眼角膜内側の中間部に境界不明瞭な角膜混濁と周囲への浸潤を認めた(図1a).眼底には著変を認めなかった.血液検査所見として血液一般および肝・腎機能検査に異常は認めなかった.なお,C反応性蛋白(CRP)はC0.1Cmg/dlと正常範囲であった.角膜の浸潤病巣を擦過して擦過物のグラム染色と分離培養を行い,得られたコロニーは臨床細菌検査とCMALDI-TOFMSの検査を行った.角膜擦過物のグラム染色でフィラメント状の菌糸を有するグラム陽性桿菌を認め(図1b),角膜感染症の起炎菌としてアクチノミセス目の細菌が考えられた.受診当日よりレボフロキサシンとセフメノキシムの頻回点眼を開始したが,術翌日には角膜浸潤病巣は残存していた(図2a).MALDI-TOFCMS(ブルカー・ドルトニクス社のCMALDIBiotyperOCを使用)によって得られたマススペクトル(図3)は,既知のライブラリーとのパターンマッチングにより近似性スコアー値が2.022を示したために菌種はCNocardiaarthritidisと同定された(表1)3).その結果を踏まえて,術後C4日目よりスルファメトキサゾール/トリメトプリム(SMX/TMP)内服を追加してトブラマイシンとセフメノキシムの頻回点眼に変更した.その後,臨床細菌検査でもCN.arthritidisの薬剤感受性検査の結果(表2)からそのまま薬物療法を継続した.SMX/TMP内服はC7日間続けた.角膜潰瘍擦過後,8日目図1左眼角膜混濁と角膜擦過物のグラム染色a:左眼の角膜中間部においてC9時方向に境界不明瞭で周囲への浸潤病巣を伴う角膜病変を認めた(.).b:角膜擦過物のグラム染色でフィラメント状の菌糸を有するグラム陽性桿菌を認めた.バーはC1Cμm.abc図2治療経過a:術後C2日目.角膜擦過により病巣の中央部は透明化したが,瞳孔よりの浸潤病巣は残存している.Cb:術後C8日目.浸潤病巣が縮小化していた.c:術後C25日目.角膜病変は透明化し,フルオレセイン染色を行っても染色されなかった.CIntens.[arb]2,5002,0001,5001,00050002,0004,0006,0008,00010,00012,00014,00016,00018,000m/z図3角膜潰瘍擦過物より分離した細菌より得られたMALDI-TOFMSのマススペクトルには浸潤病巣は縮小化し(図2b),25日目に角膜病変は瘢痕化した(図2c).CII考察従来の臨床細菌検査は塗抹検鏡,分離同定,純培養の手順を経て行われるが,菌種の同定困難な症例が存在することも少なくない.1980年代には培養検査を用いない細菌の同定法として,16CSrRNAのシークエンシングによる系統解析が行われるようになった.16CSrRNAは種を超えていくつかの保存性の高い領域をもつが,そのなかで系統樹的に変異領域が遺伝していることがわかっている.この変異を解析することができれば,細菌を遺伝的に同定することが可能であり,16CSrRNA解析法は信頼性の高い細菌同定法として認められている4).ただし操作方法が煩雑であるために一般病院での細菌検査法としては普及していない.ポストゲノムの時代を迎え,比較的簡便で短時間に細菌を同定できる検査法として質量分析装置を用いた細菌同定法が開発された.その原理は,蛋白質は固有の質量をもっているが,質量分析器を用いて蛋白質の質量の違いを計測することにより,分子量から蛋白質を同定することができるというものである2).2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一博士が開発した技術をもとにCMALDI-TOFMSが実用化された.すなわち,レーザーを照射すると破壊される蛋白質とレーザーを吸収しやすいマトリックスを混ぜてからレーザーを表1MALDI-TOFMSによるノカルジア菌種の同定MatchedpatternCScoreC1CNocardiaarthritidisCJMLD0057C2.022C2CNocardiaarthritidisCJMLD0024C1.892C3CNocardiaasiaticaCJMLD0025C1.814C4CNocardiaasiaticaCJMLD0082C1.765C5CNocardiaabscessusCJMLD0019C1.765C6CNocardiaexalbidaCJMLD0034C1.709C7CNocardiapneumoniaeCJMLD0004C1.671C8CNocardiaabscessusCNO_14CHUAC1.662C9CNocardiaarthritidisCJMLD0081C1.659C10CNocardiabeijingensisCJMLD0027C1.619C11CNocardiaasiaticaCJMLD0083C1.608C12CNocardiaabscessusCJMLD0079C1.556C13CNocardiaCsp.MB_9090_05CTHLC1.525C14CNocardiatakedensisCJMLD0010C1.501C15CNocardiaasiaticaCDSM44668CTDSMC1.466C16CNocardiaasiaticaCJMLD0084C1.466C17CNocardiaabscessusCJMLD0054C1.461C18CNocardiaaraoensisCJMLD0056C1.382C19CNocardiaaraoensisCJMLD0023C1.379C20CNocardiasienataCJMLD0008C1.347照射すると,蛋白質の変性なしにイオン化できるという現象を応用したものである.MALDI-TOFMSによる蛋白質の測定原理は,マトリックスと検体を混合して固相化したあとにレーザー照射を行うことにより,蛋白質はマトリックスによって化学的イオン化を受け,それぞれのイオンが真空中の一定距離を飛んでいく時間を計測してマススペクトルを得る.このイオン化はソフトなイオン化といわれ,蛋白質試料が多価イオンを生成しないので解釈可能なスペクトラムを得ることができる.得られたマススペクトルは既知の菌種登録された細菌のライブラリーとのパターンマッチングを行って,マッチングスコアがC2.0以上であれば種レベル,1.7以上であれば属レベルの細菌同定が可能となる3).MALDI-TOFMSの最大の特徴は短時間で菌種を同定することが可能な点で,分離培養により得られたコロニーをCMALDI-TOFMSで解析すると菌種同定に要する時間は数C10分であるのに対して,生化学的性状による同定キットを用いる検査では長時間の観察が必要で,菌種が同定不能なこともある.一般的に病原性アクチノミセスは培養を行っても発育が遅く,十分な発育にはC14日間を要するとあり1),さらにBeamanによるノカルジアの総説には培養での生育が遅いために医療施設によってはノカルジアが増殖してコロニーを作表2Nocardiaarthritidisの薬剤感受性薬剤名判定薬剤名判定CPIPCCRCMINOCSCCEZCCTMCIPMCGMCRCSCSCSCCLDMCLVFXCSBT/ABPCCAMKCRCRCRCSPIPC:ピペラシリンナトリウムCMINO:ミノサイクリンCEZ:セファゾリンナトリウムCCLDM:クリンダマイシンCTM:セフォチアムCLVFX:レボフロキサシンIPM:イミペネムSBT/ABPC:スルバクタムC/アンピシリンナトリウムCGM:ゲンタマイシンCAMK:アミカシンナトリウムるまでに培養操作を中止することも多いという記載もある5).すなわちCMALDI-TOFMSを用いることの最大の利点は,速やかに菌種が同定できればより早期に治療を開始することができるという点である.ノカルジアは土壌に広く分布する好気性の病原性アクチノミセス目の細菌である1).ノカルジア感染による角膜炎はまれであるが,外傷6,7),コンタクトレンズの長時間装用8),レーザー屈折矯正角膜切除術9,10)などを契機として角膜炎を発症する.ノカルジア感染症の発症メカニズムについてはノカルジアのなかでも細胞障害性の強い菌種であるCNocardiaasteroidesについて研究が進んでいる.ノカルジアの病原性については細菌を貪食する食細胞(phagocyte)において細菌を取り囲む食胞とリソゾームの融合膜の形成を抑制し,さらに食胞内の酸性化や過酸化反応を阻害することによって,食細胞での消化作用を抑制するといわれている5).ノカルジアはマイコバクテリウム属やコリネバクテリウム属などと近縁の細菌といわれており,その特徴として菌体の細胞壁に総炭素数約C80の超高級脂肪酸であるミコール酸を有している.ノカルジアでは細胞壁のミコール酸とトレハロースが結合したものが紐状発育に関係しているといわれ,さらに細菌の好酸性を示している5,11).上記に示した生体防御のエスケープ機構によってノカルジアが治療抵抗性を示すと考えられている.以前ノカルジア症の原因菌はCN.asteroidesがほとんどであると考えられていた5)が,16CSrRNAによる塩基配列の系統樹解析で病原性のあるさまざまなノカルジアが存在していることが明らかとなった12).N.arthritidisはC2004年に慢性関節リウマチ患者の喀痰および大腿部の膿瘍より検出され,塩基配列解析により日本で最初に新種として登録された13).眼科領域ではC2017年にレーザー屈折矯正角膜切除術後の角膜炎より細菌培養によってCN.arthritidisが検出された症例が報告された10).ただしそれ以前にもC16CSrRNAのシークエンス解析により眼ノカルジア症C11例のうちCN.arthritidisが3例検出されたという報告がある12).治療として全身のノカルジア症に対しては以前より薬剤感受性が良好なCSMX/TMPが投与されている14).ノカルジア角膜炎に対しては全身投与としてCSMX/TMPに加え,アミカシンの併用が一般的で,局所療法としてキノロン系抗菌点眼薬治療が行われている15).ノカルジア角膜炎は他の細菌性角膜炎に比べると治療成績が不良と報告されている.たとえばCLalithaらはCSteroidsCforCCornealCUlcersTrialの臨床治験の一環として,ノカルジア角膜炎と非ノカルジア角膜炎に対してステロイド点眼併用効果について検討している.ノカルジア角膜炎では非ノカルジア角膜炎と比較するとステロイドを併用しても角膜の浸潤病巣は拡大しており,治療後の視力も低下していた15).このように治療抵抗性を示すノカルジア角膜炎に対してCMALDI-TOFMS検査を行うことにより早期診断が可能となればノカルジア感染の治療成績が向上すると考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)水口康雄:アクチノミセス,ノカルジア.戸田新細菌学改定32版(吉田眞一,柳雄介編),p669-673,南山堂,20022)大楠清文:質量分析技術を利用した細菌の新しい同定法.モダンメディア58:113-122,C20123)松山由美子:MALDIバイオタイパーの原理および操作方法.臨床と微生物39(増刊号):617-624,C20124)大楠清文,江崎孝行:16CSrRNA配列のシークエンス解析による細菌の同定.臨床と微生物C39(増刊号):113-122,C20125)BeamanCBL,CBeamanL:Nocardiaspecies:host-parasiteCrelationships.ClinMicrobiolRev7:213-264,C19946)HirstLW,HarrisonGK,MerzWGetal:Nocardiaasteroi-desCkeratitis.BrJOphthalmol63:449-454,C19797)越智理恵,鈴木崇,木村由衣ほか:NocardiaCasteroidesによる角膜炎のC1例.臨眼60:379-382,C20068)EgginkCA,WesselingP,BoironPetal:SeverekeratitisduetoNocardiafarcinica.JClinMicrobiol35:999-1001,C19979)FaramarziCA,CFeiziCS,CJavadiCM-ACetal:BilateralCnocar-diakeratitisafterphotorefractivekeratectomy.JOphthal-micVisRes7:162-166,C201210)GiegerA,WallerS,PasternakJetal:Nocardiaarthritidiskeratitis:CaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CNepalCJOphthalmol9:91-94,C201711)水口康雄:結核菌と好酸菌(マイコバクテリウム).戸田新細菌学改定C32版(吉田眞一,柳雄介編),p646-668,南山堂,200212)YinCX,CLiangCS,CSunCXCetal:Ocularnocardoosis:CHSP65Cgenesequencingforspeciesidenti.cationofNocar-diaCspp.AmJOphthalmol144:570-573,C200713)KageyamaCA,CTorikoeCK,CIwamotoCMCetal:NocardiaCarthritidisCsp.nov.,anewpathogenisolatedfromapatientCwithCrheumatoidCarthritisCinCJapan.CJCClinCMicrobiolC42:C2366-2371,C200414)WilsonJW:Nocardiosis:UpdatesCandCclinicalCoverview.CMayoClinProc87:403-407,C201215)LalithaP,SrinivasanM,RajaramanRetal:NocardiaCkerC-atitis:ClinicalCcourseCandCe.ectCofCcorticosteroids.CAmJOphthalmol154:934-939,C2012***

Microhook trabeculotomy の術後6 カ月成績の検討

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):959.962,2021cMicrohooktrabeculotomyの術後6カ月成績の検討青木良太*1野口明日香*1田淵仁志*1中倉俊祐*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学大学院医系科学研究科視覚病態学CExaminationoftheSurgicalOutcomesofMicrohookTrabeculotomyat6-MonthsPostoperativeRyotaAoki1),AsukaNoguchi1),HitoshiTabuchi1),ShunsukeNakakura1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,HiroshimaUniversityC目的:Microhooktrabeculotomy(以下,μLOT)の術後成績について報告する.対象および方法:ツカザキ病院眼科でCμLOTを施行した緑内障手術既往のないC62眼(単独手術C17眼,白内障同時手術C45眼)を対象とした.術前および術後C1,C3,6カ月の眼圧と点眼スコア,緑内障手術追加の有無,合併症を後ろ向きに検討した.結果:単独群の平均年齢はC57.4C±19.1歳,術前および術後C6カ月の眼圧はそれぞれC23.2C±5.1,15.2C±4.0CmmHgであり,白内障同時群の平均年齢はC72.5C±9.7歳,眼圧はそれぞれC18.5C±3.4,13.1C±2.6CmmHgであった.術後C6カ月で両群とも有意に眼圧は下降していた(p<0.01).単独群の術前および術後C6カ月の点眼スコアはそれぞれC3.1C±1.2,2.0C±1.3であり,白内障同時群ではそれぞれC2.3C±1.3,1.0C±0.9であった.術後C6カ月で単独群では有意な減少を認めなかったが(p>0.05),白内障同時群では有意に減少した(p<0.01).結論:術後C6カ月ではあるが,μLOTで良好な眼圧を得られた.CPurpose:ToCreportCtheCsurgicalCoutcomesCofCmicrohooktrabeculotomy(μLOT)C.Methods:InC62CeyesCthatCunderwentμLOT(17CμLOTCsingle-surgeryCeyes,CandC45CμLOT-Phacoeyes)C,Cpre-andCpostoperativeCintraocularpressure(IOP)andmedicationscoreswereretrospectivelyreviewed.Results:ThemeanpatientageintheμLOTandCμLOT-PhacoCgroupsCwasC57.4±19.1CyearsCandC72.5±9.7Cyears,Crespectively.CAtC6-monthsCpostoperative,CtheCmeanCIOPCdecreaseCinCtheCμLOTCgroupCandCμLOT-PhacoCgroupCeyesCwasCfromC23.2±5.1CmmHgCtoC15.2±4.0mmHg(p<0.01)C,CandCfromC18.5±3.4CmmHgCtoC13.1±2.6CmmHg(p<0.01)C,Crespectively.CTheCpreoperativeCandC6-monthsCpostoperativeCmedicationCscoresCwereC3.1±1.2CandC2.0±1.3(p>0.05)intheμLOTCgroupCandC2.3±1.3CandC1.0±0.9(p<0.01)intheμLOT-PhacoCgroup,Crespectively.CConclusion:AtC6-monthsCpostCsurgery,CourC.ndingsrevealedgoodIOPinbothμLOTandμLOT-Phacogroupeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):959.962,C2021〕Keywords:谷戸式microhook,線維柱帯切開術,MIGS.Tanitomicrohookabinterno,trabeculotomy,minimallyinvasiveglaucomasurgery.Cはじめにトラベクレクトミーやプローブトラベクロトミーなどの眼外からの緑内障手術は古くから行われてきたが,近年,前房内から隅角にアプローチする術式が広まってきている.前房内からのアプローチで線維柱帯の抵抗を軽減させるための術式としてトラベクトーム,KahookDualBlade,microhook,5-0ナイロン糸を使う方法がある1).Microhookを用いた術式は,強膜フラップを作製せずに眼内から施行できる新しい術式であり,TanitoらによってCmicrohookCtrabeculotomy(μLOT)として報告された2).μLOTのメリットとしては2/3周という広範囲の切開が可能であること,手術手技が複雑でないこと,眼表面への侵襲が少ないこと,手術時間が短いことがあげられる3).μLOTの術後成績は報告されはじめている4.7)が,その数はまだ多くはない.そこで今回,μLOTの術後成績について検討したので報告する.〔別刷請求先〕青木良太:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:RyotaAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshikuWaku,Himeji-shi,Hyogo671-1227,JAPANCI対象および方法2019年C2月.2020年C5月にツカザキ病院眼科でCμLOTを施行した緑内障手術既往のないC62眼を対象とした.対象のうちC17眼が単独手術(以下,単独群),45眼が白内障同時手術(以下,白内障同時群)であり,各群の患者背景は表1に示すとおりであった.両群の術前および術後C1,3,6カ月の眼圧と点眼スコア,緑内障手術追加の有無,術後合併症の有無を後ろ向きに検討した.合併症の前房出血はニボーを伴うもの,一過性眼圧上昇はC30CmmHgを超えるものと定義した.点眼スコアは緑内障点眼薬C1種類につきC1点(配合剤は2点),アセタゾラミド内服をC1点とした.眼圧および点眼スコアはCDunnett法を用いて検定した.手術はC2名の術者(SNおよびCRA)によって施行した.単独群,白内障同時群ともに線維柱帯切開部位は,180°切開例では鼻側および下方,240°切開例では上方,鼻側,下方であった.白内障同時群では水晶体再建術を先行して行い,眼内レンズ挿入後に線維柱帯切開を施行した症例がC28眼,先に線維柱帯切開を行った症例がC17眼であった.白内障同時群における手術手順と合併症の関連についてはCFisherの直接確率計算法を用いて検定した.術後点眼はC2名の術者それぞれの判断で管理された.両名とも術直後は緑内障点眼をすべて中止し,術後C1カ月頃から目標眼圧に応じて緑内障点眼を再開した.ただし術後に眼圧上昇を認めた症例は,必要であればその時点から緑内障点眼を再開,もしくはアセタゾラミド内服薬を投与した.また,術直後から術後C1.3カ月までピロカルピン点眼を行った.表1両群の患者背景単独群白内障同時群症例数15例17眼29例45眼年齢(平均C±標準偏差)C57.4±19.1歳C72.5±9.7歳性別男性女性9例9眼6例8眼8例11眼21例34眼緑内障病型原発開放隅角緑内障原発閉塞隅角緑内障落屑緑内障混合型緑内障正常眼圧緑内障ステロイド緑内障若年性緑内障8眼(4C7.1%)0眼5眼(2C9.4%)0眼0眼3眼(1C7.6%)1眼(5C.9%)32眼(C71.1%)5眼(1C1.1%)3眼(6C.7%)3眼(6C.7%)2眼(4C.4%)0眼0眼Humphrey視野計C24-2のMD値(平均C±標準偏差)C.6.4±5.2CdBC.10.5±5.5CdB切開範囲(平均C±標準偏差)C189±31°C175±22°MD:meandeviation本研究はヘルシンキ宣言に則って行い,対象患者からは事前にインフォームド・コンセントを得た.また,ツカザキ病院の倫理委員会で承認を得たうえで行った.CII結果単独群の術前および術後C1,3,6カ月の眼圧はそれぞれC23.2C±5.1,17.2C±4.3,15.3C±1.9,15.2C±4.0mmHgであり,白内障同時群ではそれぞれC18.5C±3.4,13.7C±3.4,12.9C±3.0,C13.1±2.6CmmHgであった.両群とも術後すべての時点で術前と比較して有意に眼圧は下降していた(p<0.01,Dunnett法)(表2).単独群の術前および術後C1,C3,6カ月の点眼スコアはそれぞれC3.1C±1.2,0.5C±1.1,1.4C±1.2,2.0C±1.3であり,白内障同時群ではそれぞれC2.3C±1.3,0.3C±0.7,0.9C±1.0,1.0C±0.9であった.単独群の術後C1,3カ月,白内障同時群の術後すべての時点で術前と比較して有意に点眼スコアは減少しており(p<0.01,Dunnett法),単独群の術後C6カ月では有意差を認めなかった(p>0.05)(表2).単独群ではニボーを伴う前房出血がC4眼(23.5%),30CmmHgを超える一過性眼圧上昇がC3眼(17.6%)あり,白内障同時群では前房出血を3眼(6.7%),一過性眼圧上昇をC6眼(13.3%)に認めた(表3).白内障同時群で術後前房出血をきたしたC3眼のうち,2眼は眼内レンズ挿入後に線維柱帯を切開した症例であり,1眼は先に線維柱帯切開を行った症例であった.また,一過性眼圧上昇をきたしたC6眼は全例眼内レンズ挿入後に線維柱帯を切開した症例であった.手術手順と前房出血には関連はなく(p=0.68,Fisherの直接確率計算法),一過性眼圧上昇は先に水晶体再建術を行い眼内レンズ挿入後に線維柱帯を切開した症例で有意に多かった(p=0.046)(表3).両群とも術後前房出血をきたした症例は,全例経過観察のみで軽快した.単独群では緑内障手術の追加例はなく,白内障同時群では術後C4カ月目にC1眼に線維柱帯切除術を追加施行した.CIII考按本検討では単独群,白内障同時群ともに術後C6カ月で有意に眼圧は下降しており,点眼スコアは白内障同時群のみで有意な減少を認めた.過去の報告ではCμLOT単独手術では術前眼圧C25.9C±14.3mmHgから術後C6カ月でC14.5C±2.9CmmHgまで下降し,点眼スコアもC3.3C±1.0からC2.6C±0.5に減少した4)との報告や,術前眼圧C28.4C±7.8CmmHgから術後C12カ月にC17.8C±6.3CmmHgまで下降し,点眼スコアはC4.9C±1.1からC3.1C±1.6になった5)との報告がある.目標眼圧の違いによる術後点眼スコアの差が術後眼圧の差に影響している可能性はあるが,本検討の単独群は既報と同程度の術後眼圧が得られたと考える.本検討単独群の術後C6カ月の点眼スコアは術前と比較して有意差は認められなかったが,既報4.7)からは術前眼圧が高いほど術表2術前および術後1,3,6カ月の眼圧,点眼スコア単独群白内障同時群眼圧点眼スコア眼圧点眼スコア平均±標準偏差p値*平均±標準偏差p値*平均±標準偏差p値*平均±標準偏差p値*術前C23.2±5.1C3.1±1.2C18.5±3.4C2.3±1.3術後C1カ月C17.2±4.3<C0.01C0.5±1.1<C0.01C13.7±3.4<C0.01C0.3±0.7<C0.01術後C3カ月C15.3±1.9<C0.01C1.4±1.2<C0.01C12.9±3.0<C0.01C0.9±1.0<C0.01術後C6カ月C15.2±4.0<C0.01C2.0±1.3>C0.05C13.1±2.6<C0.01C1.0±0.9<C0.01*Dunnett法.術後各時点の値を術前と比較した.表3合併症単独群白内障同時群p値*前房出血4眼(2C3.5%)水晶体再建術から施行2眼C3眼(6C.7%)線維柱帯切開から施行1眼0.68一過性眼圧上昇3眼(1C7.6%)水晶体再建術から施行6眼C6眼(1C3.3%)線維柱帯切開から施行0眼0.046*Fisherの直接確率計算法.白内障同時群の手術手順と合併症の関連性を検定した.後眼圧も高く,術後点眼スコアも大きくなる可能性が考えられる.単独群の術前眼圧がC23.2CmmHgであったことを考えると,術後点眼スコアは減少しにくいと考えられる.また,独群は症例数が多くないことも有意差が出なかった一因になっている可能性がある.白内障同時手術では術前眼圧C16.4C±2.9CmmHgから術後C1年でC11.2C±2.2mmHgに下降し,点眼スコアC2.4C±1.2からC2.0±0.9になった6)との報告や,術前眼圧C19.0C±5.72CmmHgから術後C6カ月でC13.5C±1.72CmmHgまで下降し,点眼スコアもC3.67C±1.24からC2.00C±1.39に減少した7)との報告がある.本検討の白内障同時群は,Tanitoらの報告6)と比較すると術後眼圧がやや高くなっているが,既報の術後点眼スコア2.0に対し本検討ではC1.0と少なくなっており,単独群と同様に術後眼圧コントロールの方針の差が結果に影響している可能性があると考える.合併症については単独手術ではニボーを伴う前房出血が16.38%4,5),30CmmHgを超える一過性眼圧上昇がC4%4),術後C2週間以内に術前眼圧を超える一過性眼圧上昇がC36%5),白内障同時手術では前房出血がC3.41%6,7),30CmmHgを超える一過性眼圧上昇がC9.13%6,7)と報告されている.報告により差があるが,本検討の単独群,白内障同時群のいずれも過去に報告されている頻度の範囲内であった.白内障同時群を手術方法別にみると,後から線維柱帯を切開した症例で一過性眼圧上昇が多かった.過去にCTanitoら8)は,術後前房出血の存在や,血餅が線維柱帯切開部位を一時的に閉塞することが,一過性眼圧上昇の原因になっていると考察している.本研究の白内障同時群で術後一過性眼圧上昇をきたした症例は,全例,後から線維柱帯切開を行っていた.先に線維柱帯を切開すると,その後に続く水晶体再建術の時間が止血時間として働いていることが考えられる.また,先に水晶体再建術を施行した場合,皮質吸引時に眼内圧が低下してSchlemm管が充血することにより,線維柱帯切開時に出血しやすくなっている可能性がある.後から線維柱帯切開を行うと,niveauを作らない程度ではあっても,前房内の出血量が多くなり術後一過性眼圧上昇の原因になっている可能性がある.本研究は後ろ向き研究であり,とくに単独群の対象症例数が多いとはいえず,また術後C6カ月までの調査であった.さらに術後の抗炎症点眼薬や緑内障点眼薬の使用については各主治医の方針によって決定されているため,術後眼圧コントロールの方針が統一されていないことも本研究の限界としてあげられる.多数例で長期間の術後成績を検討することで,さらに有用な報告とすることを今後の課題と考える.術後C6カ月であるが,μLOT単独手術では術後緑内障点眼を継続することにより良好な眼圧を達成でき,白内障同時手術では少ない点眼で有意な眼圧下降を得られた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TanitoCM,CMatsuoM:Ab-internoCtrabeculotomy-relatedCglaucomasurgeries.TaiwanJOphthalmolC9:67-71,C20192)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery,ineyeswithopen-angleglaucomawithscleralthin-ning.ActaOphthalmolC94:e371-e372,C20163)TanitoM:MicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CaCnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgery.CClinCOphthalmolC12:43-48,C20184)TanitoCM,CSanoCI,CIkedaCYCetal:Short-termCresultsCofCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomy,CnovelCminimallyCinvasiveCglaucomaCsurgeryCinCJapaneseeyes:initialCcaseCseries.ActaOphthalmolC95:e354-e360,C20175)MoriCS,CMuraiCY,CUedaCKCetal:ACcomparisonCofCtheC1-yearCsurgicalCoutcomesCofCabCexternoCtrabeculotomyCandCmicrohookCabCinternoCtrabeculotomyCusingCpropensityCscoreanalysis.BMJOpenOphthalmolC5:e000446,C20206)TanitoCM,CIkedaCY,CFujiharaE:E.ectivenessCandCsafetyCofCcombinedCcataractCsurgeryCandCmicrohookCabCinternotrabeculotomyinJapaneseeyeswithglaucoma:reportofaninitialcaseseries.JpnJOphthalmolC61:457-464,C20177)OmotoCT,CFujishiroCT,CAsano-ShimizuCKCetal:Compari-sonCofCtheCshort-termCe.ectivenessCandCsafetyCpro.leCofCabCinternoCcombinedCtrabeculotomyCusingC2CtypesCofCtra-becularhooks.JpnJOphthalmolC64:407-413,C20208)TanitoM,OhiraA,ChiharaE:FactorsleadingtoreducedintraocularCpressureCafterCcombinedCtrabeculotomyCandCcataractsurgery.JGlaucomaC11:3-9,C2002***

オミデネパグイソプロピル点眼液は24 時間眼圧を下降する

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):955.958,2021cオミデネパグイソプロピル点眼液は24時間眼圧を下降する橋本尚子原岳本山祐大大河原百合子成田正弥峯則子堀江大介原孜原眼科病院COmidenepagIsopropylOphthalmicSolutionReducesIntraocularPressurefor24HoursTakakoHashimoto,TakeshiHara,YutaMotoyama,YurikoOkawara,MasayaNarita,NorikoMine,DaisukeHorieandTsutomuHaraCHaraEyeHospitalC目的:姿勢変動を考慮した眼圧日内変動におけるオミデネパグイソプロピル(OMDI)点眼液投与前後の眼圧を比較する.対象および方法:原眼科病院においてCOMDI点眼液使用前後で眼圧日内変動を行った緑内障患者,20例C36眼.無治療時測定後にCOMDI点眼を開始し,2カ月後に再度測定した.初日のC12,14,16,18,20,22,24時,翌日のC3,6,8,10,12時に座位および仰臥位の眼圧を測定した.患者の問診から,起床時は座位の眼圧値,就寝時は仰臥位の眼圧値を当てはめて「再構成日内変動」とした.OMDI点眼投与前後の各測定時刻における眼圧を後ろ向きに比較した.比較には対応のあるCt検定を用いた.結果:「再構成日内変動」においてC14時,16時,18時,22時,24時,3時,6時,12時の眼圧は有意に下降していた(p<0.05).結論:OMDI点眼液は姿勢変動を考慮した眼圧日内変動測定において,日中および夜間眼圧下降効果を有する.CPurpose:Comparisonofintraocularpressure(IOP)beforeandaftertheadministrationofomidenepagisopro-pyl(OMDI)ophthalmicCsolutionCinCdiurnalCvariationCofCIOPCinCconsiderationCofChabitualCpostureCvariation.CMeth-ods:ThisCstudyCinvolvedC36CeyesCinC20CglaucomaCpatientsCinCwhomCIOPCdiurnalCvariationCwasCmeasuredCbeforeCandCafterCOMDICadministrationCatCHaraCEyeCHospital.COMDICinstillationCwasCstartedCafterCmeasurementCwithoutCtreatment,andthemeasurementwasonce-againperformed2monthslater.IOPinthesittingandsupinepositionwasmeasuredat12:00,14:00,16:00,18:00,20:00,22:00,24:00onthe.rstday,andat3:00,6:00,8:C00,10:00,and12:00thefollowingday.Fromthepatientinterview,theIOPvaluewasreproducedbydesignat-ingCtheCsittingCIOPCasCmeasurementsCtakenCwhenCtheCpatientCwasCawake,CandCtheCsupineCIOPCasCmeasurementsCtakenwhenthepatientwasasleepforeachindividual.IOPwascomparedretrospectivelybeforeandafterOMDIinstillation.CTheCpairedCt-testCwasCusedCforCcomparison.CResults:InCtheCreproducedCdiurnalCIOP,CIOPCat14:00,16:00,18:00,22:00,24:00,3:00,6:00,and12:00wassigni.cantlyreduced(p<0.05)C.Conclusion:OMDIeyesolutionhasthee.ectofloweringdiurnalIOPreproducinghabitualpostureduringthedayandnight.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):955.958,C2021〕Keywords:オミデネパグイソプロピル点眼液,眼圧下降効果,眼圧日内変動.omidenepagisopropylophthalmicsolution,IOPreductione.ect,diurnalIOPCはじめにオミデネパグイソプロピル(以下,OMDI)点眼液は日本で初めて開発されたプロスタノイド受容体CEP2作動薬であり,2018年C11月から使用可能となった.従来の緑内障治療薬には眼圧下降効果に日内変動があることが知られており,プロスタグランジン製剤,炭酸脱水酵素阻害薬,Rock阻害薬は昼夜ともに眼圧下降が得られるのに対して,交感神経Cb遮断薬,Ca2刺激薬では,昼は良好な眼圧下降に対し,夜間の眼圧下降効果が減弱することが知られている.OMDI点眼液に関しての眼圧下降効果の既報1.6)のなかで,Aiharaらは,開放隅角緑内障ならびに高眼圧症を対象とした報告で午〔別刷請求先〕橋本尚子:〒320-0861栃木県宇都宮市西C1-1-11原眼科病院Reprintrequests:TakakoHashimotoM.D.,HaraEyeHospital,1-1-11Nishi,Utsunomiya,Tochigi320-0861,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(107)C955前C9時,午後C1時,午後C5時に眼圧を測定し,ラタノプロスト点眼液と非劣性の眼圧下降効果を得た2)と報告しているが,これまでに診療時間帯外の眼圧ならびに仰臥位による眼圧日内変動を検討した報告はない.今回,筆者らは,無治療の緑内障および高眼圧症患者にCOMDI点眼液投与前後での24時間眼圧日内変動を座位および仰臥位で測定し,OMDI点眼液の夜間眼圧下降効果を検証した.CI対象および方法対象は原眼科病院においてCOMDI点眼液使用前後で,眼圧日内変動測定を行った高眼圧症および緑内障C20例C36眼(男性5例8眼,女性15例28眼)である.年齢は54.5C±11.9歳(平均値C±標準偏差,29.73歳).高眼圧症C16眼,緑内障の病型は狭義の原発開放隅角緑内障C5眼,正常眼圧緑内障C15眼であった.無治療時のC24時間眼圧日内変動測定後にCOMDI点眼を開始し,2カ月後に改めてC24時間眼圧日内変動測定を行った.眼圧測定時刻は初日のC12,14,16,18,20,22,24時,翌日の3,6,8,10,12時とし,座位および仰臥位の眼圧をノンコンタクト携帯眼圧計(PlusairintelliPu.,Keeler社)を用い7),起動時には毎回自動診断機能を起動したのちに測定を行った.問診でCOMDIの点眼時刻,起床時刻,就寝時刻を聴取し,起床時は座位の眼圧値,就寝時は仰臥位の眼圧値を当てはめて「再構成日内変動」とし,OMDI投与前後の各測定時刻における眼圧を後ろ向きに比較した.投与前後の同時刻の眼圧を対応のあるCt検定で比較し有意水準をp<0.05とした.また,日内変動測定時に中心角膜厚を前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で測定解析した.なお,当該研究は当院倫理委員会の承認(承認番号C15)を得て施行した.CII結果OMDI点眼時刻は平均C22C±1.5(19.24)時であった.座位の眼圧日内変動を図1に示す.眼圧下降においてCp<0.05の有意差がみられた眼圧時刻は初日C14,16,18,24時,翌日C3,12時であった.翌日C3時,12時のCp値はC0.01未満であった.24時間(測定回数C12回)の平均眼圧は投与前がC17.5±3.1mmHg(12.8.22.7mmHg),投与後はC16.7C±3.6mmHg(10.0.26.2CmmHg)で下降量はC0.8CmmHg,下降率はC4.6%であった.外来で行ったCGoldmann圧平眼圧計による座位の眼圧は投与前C19.8C±5.1CmmHg(12.30CmmHg),投与後はC16.8C±4.7mmHg(8.26mmHg)で下降量はC3.0mmHg,下降率はC15.2%であった.仰臥位の眼圧日内変動を図2に示す.投与後すべての測定時刻でCp<0.05の有意差がみられた.初日C14,16時,翌日3,12時のCp値はC0.01未満であった.平均眼圧は投与前が18.4±3.4,投与後はC17.1C±3.5CmmHgで下降量はC1.3mmHg,下降率はC7.1%であった.再構成日内変動を図3に示す.投与後Cp<0.05の眼圧下降が得られた時刻は初日C14,16,18,22,24時,翌日3,6,12時であった.初日C22時,翌日C3時,12時でのCp値はC0.01未満であった.平均眼圧は投与前がC17.7C±3.0,投与後はC16.8±3.5mmHg,下降量C0.9mmHg,下降率C5.1%であった.中心角膜厚は点眼投与前がC548.0C±33.2Cμm(481.609μm),投与C2カ月後はC556.7C±38.7Cμm(481.627Cμm)で,有意な角膜厚の肥厚が認められた(p<0.01).また,合併症として,痒みがC1例C2眼,自覚的視力低下(矯正視力不変)がC1例C2眼(黄斑浮腫の所見なし),充血が3例C5眼認められた.これらは点眼の変更で全症例に症状の改善が認められた.CIII考按OMDI点眼液投与により診療時間帯における眼圧下降の報告は多数あるが,診療時間帯外,とくに夜間仰臥位においても眼圧下降効果があることが確認できた.しかしながら,再構成日内変動における眼圧下降量はC24時間の平均で投与前C17.7mmHgに対し,投与後C16.8mmHgで下降量C0.9mmHg,下降率C5.1%と,従来の報告に比較して低い値となった.投与後に中心角膜厚が平均でC20Cμm増加していることで投与後の眼圧が高めに評価されている可能性もあるが,これは既報も同様で,Aiharaら2)は投与前眼圧C23.78CmmHgに対し,5.93CmmHgの眼圧下降を得ている.この報告では,午前C9時,午後C1時,5時の眼圧の平均値を採用しているが,今回の筆者らの日内変動における近似時刻の座位による眼圧値では投与前C17.6C±2.6CmmHgが投与後C16.6C±3.6CmmHgで眼圧下降はC1.0CmmHgであった.Inoueら3)はCNTGに対するCOMDI点眼液投与で投与前C15.7mmHgから投与後13.6CmmHgとC2.1CmmHgの下降を報告しており,筆者らの報告よりも投与前眼圧が低いながら高い下降を得ている.既報の眼圧測定は圧平眼圧計で行われており,今回の筆者らの日内変動は非接触のノンコンタクト眼圧計を使用している.本研究での投与後の眼圧は圧平眼圧計C16.8C±4.7CmmHg(8.26mmHg),ノンコンタクト眼圧計C16.7C±3.6CmmHg(10.0.26.2CmmHg)で,ともに同様の眼圧だったが,投与前の外来での眼圧は圧平眼圧計C19.8C±5.1CmmHg(12.30CmmHg)に対し,ノンコンタクト眼圧計C17.5C±3.1CmmHg(12.8.22.7mmHg)と平均でC2.3mmHg低い値であった.ノンコンタクト眼圧計によって測定された眼圧は圧平眼圧計に対し,10.20CmmHgではほぼ近似するが,それより高い眼圧値では低く出る傾向が知られている8).今回の対象者の眼圧も投与前は圧平眼圧計でC20CmmHgを超える高眼圧症が16眼含まれており,これが圧平眼圧計の測定値に対して日956あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(108)mmHg24.022.020.018.016.014.012.010.0mmHg24.022.020.018.016.014.012.010.0mmHg24.022.020.018.016.014.012.010.0121416182022243681012時図1座位における眼圧日内変動121416182022243681012時図2仰臥位における眼圧日内変動121416182022243681012時図3再構成眼圧日内変動内変動測定時の眼圧値が低く評価されていた可能性が考えら達したことは,OMDI点眼液の夜間眼圧下降効果を示すもれる.中心角膜厚で補正9)した再構成日内変動の眼圧値は投のであると考えられた.与前C17.4C±2.5mmHg(13.3.22.0mmHg),投与後C16.4C±3.1CmmHg(10.2.25.7CmmHg)で,各測定時刻における有意利益相反:利益相反公表基準に該当なし差は補正前と同様であった.この点を考慮しても,投与前眼圧が低く評価されている悪条件にもかかわらず,昼夜ともに眼圧下降効果が有意水準に(109)あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021C957文献1)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:PhaseC2,Crandomized,Cdose-.ndingCstudiesCofComidenepagCisopropyl,CaCselectiveCEP2Cagonist,CinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglauco-maCorCocularChypertension.CJCGlaucomaC28:375-385,C20192)AiharaCM,CLuCF,CKawataCHCetal:OmidenepagCisopropylCversusClatanoprostCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCandCocularhypertension:TheCPhaseC3CAYAMECStudy.CAmJOphthalmolC220:53-63,C20203)InoueCK,CInoueCJ,CKunimatsu-SanukiCSCetal:Short-termCe.cacyCandCsafetyCofComidenepagCisopropylCinCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucoma.CClinCOphthalmolC30:C2943-2949,C20204)AiharaM,RopoA,LuFetal:Intraocularpressure-low-eringe.ectofomidenepagisopropylinlatanoprostnon-/Clow-responderCpatientsCwithCprimaryCopenCangleCglauco-maCorCocularhypertension:theCFUJICstudy.CJpnCJCOph-thalmolC64:398-406,C20205)清水美穂,池田陽子,森和彦ほか:0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(エイベリス)の短期眼圧下降効果と安全性の検討C.あたらしい眼科C37:70-75,C20206)柴田菜都子,井上賢治,國松志保ほか:オミデネパグ点眼薬の処方パターンと短期の眼圧下降効果と安全性.臨眼C74:1039-1044,C20207)HaraCT,CHaraCT,CTsuruT:IncreaseCofCpeakCintraocularCpressureCduringCsleepCinCreproducedCdiurnalCchangesCbyCposture.ArchOphthalmolC124:165-168,C20068)MoseleyCMJ,CEvansCNM,CFielderAR:ComparisonCofCaCnewCnon-contactCtonometerCwithCGoldmannCapplanation.CEyeC3:332-337,C19899)SuzukiCS,CSuzukiCY,CIwaseCACetal:CornealCthicknessCinCanCophthalmologicallyCnormalCJapaneseCpopulation.CAmJOphthalmolC112:1327-1336,C2005***958あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(110)

ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬 からブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点 眼薬への変更

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):951.954,2021cブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬からブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬への変更松村理世*1井上賢治*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*1,3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CSwitchingtoBrimonidine/TimololFixedCombinationandBrinzolamidefromBrinzolamide/TimololFixedCombinationandBrimonidineRiyoMatsumura1),KenjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita1,3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した症例の眼圧下降効果と安全性を調査した.対象および方法:ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を併用使用中の緑内障C29例29眼を対象とした.これらの点眼薬を中止しCwashout期間なしでブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した.変更前と変更C1回目来院時の眼圧を比較した.変更後の副作用と投与中止例を調査した.結果:眼圧は変更前C16.6C±4.2CmmHgと変更後C16.8C±4.7CmmHgで同等だった.副作用はC4例(13.8%)で出現し,内訳は見えづらいC2例,結膜充血C1例,刺激感C1例だった.投与中止例はC4例(13.8%)で,内訳は眼圧上昇C3例,見えづらいC1例だった.結論:ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ同成分の点眼薬から変更したところ,短期的には眼圧を維持でき,安全性も良好だった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCIOP-loweringCe.cacyCandCsafetyCofCbrimonidine/timololC.xedCcombinationCandCbrinzolamide.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved29eyesof29patientsbeingadministeredacombinationtherapyofbrinzolamide/timolol.xedcombinationandbrimonidinewhowereswitchedtoacombinationtherapyofbrimonidine/timololC.xedCcombinationCandCbrinzolamideCwithoutCaCwashoutCperiod.CIntraocularpressure(IOP)atCbaselineCandCtheC.rstCvisitCafterCswitchingCwereCcompared.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCinvestigated.CResults:ThereCwasCnoCdi.erenceCinCIOPCatbaseline(16.6C±4.2CmmHg)andCatCtheC.rstvisit(16.8C±4.7CmmHg)C.Adversereactionsoccurredin4patients(13.8%);i.e.,blurredvisionin2,conjunctivalhyperemiain1,andirrita-tionCinC1.CFourpatients(13.8%)discontinuedCtheCadministration,CandCtheCreasonsCforCdiscontinuationCwereCincreasedCIOPCinC3CandCblurredCvisionCinC1.CConclusion:AfterCswitchingCtoCtheCcombinationCtherapyCofCbrimoni-dine/timolol.xedcombinationandbrinzolamidefrombrinzolamide/timolol.xedcombinationandbrimonidine,IOPwasmaintainedandthesafetywassatisfactoryintheshort-term.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):951.954,C2021〕Keywords:眼圧,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬,緑内障,安全性.CintraocularCpressure,Cbrimonidine-timololC.xedCcombination,Cbrinzolamide-timololC.xedCcombination,Cglaucoma,Csafety.Cはじめに用中の患者は点眼薬を変更せざるをえない状況になった.筆2019年C11月中旬にブリンゾラミド/チモロール配合点眼者らは眼圧下降効果と副作用,アドヒアランスの観点から点薬(アゾルガ,ノバルティスファーマ)が突然供給停止とな眼薬の主剤がまったく変わらず,ボトル数やC1日の総点眼回った.そのためブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬を使数が増加しない変更がもっともよいと考えた.〔別刷請求先〕松村理世:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:RiyoMatsumura,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(103)C951表1点眼薬使用感のアンケート調査①充血は?□前より赤くならない□前と同じ□前より赤くなる②刺激は?□前よりしみない□前と同じ□前よりしみる③かゆみは?□前よりかゆくない□前と同じ□前よりかゆい④痛みは?□前より痛くない□前と同じ□前より痛い⑤かすみは?□前よりかすまない□前と同じ□前よりかすむ□変更した後のほうが良い□どちらも同じ□変更する前のほうが良い□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□点眼瓶が使いやすい□味覚に変化がない□価格が安い□その他()表2点眼薬使用感のアンケート調査「問1」の結果前より良い同じ前の方が良い刺激感(しみる)2例6.9%23例79.3%4例13.8%かゆみ1例3.4%24例82.8%4例13.8%痛み0例0.0%27例91.3%2例6.9%同時期のC2019年C12月にブリモニジン点眼薬とチモロール点眼薬を配合したブリモニジン/チモロール配合点眼薬(アイベータ,ノバルティスファーマ)が使用可能となった.筆者らはブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬の併用患者に対して,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬への変更を行った.この変更では,2ボトル,1日C4回点眼を維持でき,アドヒアランスも維持できると考えた.今回,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬が供給停止となったことを契機として,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬併用中の患者に対して,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した際の短期的な眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.CI対象および方法2019年C12月.2020年C1月にブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を使用しており,両点眼薬を中止し,washout期間なしでブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更したC29例C29眼を対象とした.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.男性13例,女性C16例,平均年齢はC70.2C±9.9歳(平均値C±標準偏差C46.83歳)であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障C24例,落屑緑内障C4例,原発閉塞隅角緑内障C1例であった.変更前眼圧はC16.6C±4.2CmmHg(10.25CmmHg)であった.Humphrey視野検査プログラムC30-2SITA-StandardのCmeandeviation値は平均C.7.06±5.81CdB(C.18.53.0.11CdB)であった.緑内障使用薬剤数は平均C4.7C±0.6剤(4.6剤)であった.他の点眼薬は継続使用とした.配合点眼薬はC2剤とした.変更前と変更後C1回目(79.2C±38.6日後)の来院時の眼圧(Goldmann圧平眼圧計による)を比較した.眼圧変化量をC2CmmHg以上上昇,C±2CmmHg未満,2CmmHg以上下降に分けて解析した.変更前と変更後の点眼薬の使用感と好みを変更後C1回目の来院時にアンケートで調査した(表1).変更後の副作用,中止例を調査した.変更前後の眼圧の比較には対応のあるCt検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.研究の趣旨と内容を患者に開示し,患者の同意を文書で得た.CII結果眼圧は変更前C16.6C±4.2CmmHgと変更後C16.8C±4.7CmmHgで同等であった(p=0.7167).眼圧変化量はC2CmmHg以上上昇C6眼(20.7%),C±2mmHg未満C18眼(62.1%),2mmHg以上下降C5眼(17.2%)であった.アンケート結果を表2に示す.変更前後の眼の症状は充血,刺激感,かゆみ,痛み,かすみのすべてで同じがC72.4.91.3%と高率であった.変更前後の組み合わせの選択(問2C①)はどちらも同じC19例(65.5%),変更後が良いC5例(17.2%),変更前が良いC4例(13.8%)などだった.変更後が良い理由(5例)は,点眼瓶が使いやすいC4例,しみないC1例,かすまないC1例,充血しないC1例であった(問C2C②).変更前が良い理由(4例)は,充血しないC2例,しみないC2例,かゆくないC1例であった.変更後に副作用はC4例(13.8%)で出現し,その内訳は見952あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(104)えづらいC2例,結膜充血C1例,刺激感C1例であった.中止症例はC4例(13.8%)で,その内訳は眼圧上昇C3例,見えづらいC1例であった.継続症例はC25例(86.2%)であった.眼圧上昇症例は原発開放隅角緑内障C2例,落屑緑内障C1例であった.原発開放隅角緑内障症例の眼圧は各10mmHgから14CmmHgへ,12CmmHgからC22CmmHgへ上昇した.落屑緑内障症例の眼圧はC25CmmHgからC31CmmHgへ上昇した.3例とも変更後C1回目の来院時にブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬に戻した.その後,原発開放隅角緑内障症例では眼圧は各C11CmmHgとC14CmmHgになり,変更前に戻った.落屑緑内障症例では眼圧はC30CmmHgのままで元に戻らなかった.見えづらさを訴えて中止した症例ではブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬に戻したところ見えづらさは改善した.変更後のブリンゾラミド点眼薬は先発医薬品(エイゾプト,ノバルティスファーマ)使用がC3例,後発医薬品(センジュ,千寿製薬)使用がC26例であった.CIII考按ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬の供給停止を受けて,この配合点眼薬の変更に関して以下の四つの方法を検討した.C1.ブリンゾラミド点眼薬と同じ炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミド点眼薬を含んだドルゾラミド/チモロール配合点眼薬への変更.C2.ブリンゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬併用への変更.C3.他にプロスタグランジン関連薬を使用している患者ではプロスタグランジン関連薬/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用への変更.C4.他にブリモニジン点眼薬を使用している患者ではブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬併用への変更.1の変更に関しては,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬からブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬へ変更した報告では,刺激感はドルゾラミド/チモロール配合点眼薬で多く,霧視はブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬で多かった1).この変更により副作用が出現し,アドヒアランスが低下する危険性を有していた.2の変更に関しては,患者にとって点眼ボトルとC1日の総点眼回数が増えるためにアドヒアランスが低下する2)可能性を有していた.3,4の変更に関しては変更後に点眼ボトルとC1日の総点眼回数が増加しないためにアドヒアランスを維持できると考えた.また,点眼薬の成分も同一のため新たな副作用の発現も少なく,眼圧も変化しないと予想した.しかし,国内ではビマトプロスト/チモロール配合点眼薬は使用できないためにビマトプロスト点眼薬を使用している患者ではこの変更は行うことができない.そこで今回はC3の変更を行った.今回点眼薬の主剤が同成分での変更を行ったところ,変更前後の眼圧に変化はなかった.しかし,個別の症例で検討すると,変更後に眼圧がC2CmmHg以上上昇した症例がC20.7%,2CmmHg以上下降した症例がC17.2%存在した.同成分の変更としてラタノプロスト点眼薬とゲル化チモロール点眼薬を中止し,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更した患者でのC36カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg超上昇C10.0%,C±2CmmHg以内C77.0%,2CmmHg超下降C13.0%であった3).ドルゾラミド点眼薬とチモロール点眼薬を中止し,ドルゾラミド/チモロール配合点眼薬へ変更した患者でのC3カ月後の眼圧変化量はC2CmmHg超上昇C16.1%,C±2CmmHg以内C77.4%,2CmmHg超下降C6.5%であった4).主剤が同成分での変更においても変更後に眼圧は上昇したり,下降したりする患者が存在するので,変更後の注意深い経過観察が必要である.今回の眼圧上昇症例では全例で変更後に後発医薬品のブリンゾラミド点眼薬を使用していた.眼圧上昇した原因として後発医薬品が先発医薬品と同等の眼圧下降効果を有していない点5),調査時期が冬季であったため眼圧が上昇しやすかった点6),落屑緑内障症例では眼圧が変動しやすいことが影響した点7)などが考えられる.眼圧下降症例では全例で変更後に後発医薬品のブリンゾラミド点眼薬を使用していた.後述のように点眼瓶が使いやすくなり,アドヒアランスが向上した可能性がある.変更前後の眼の症状の変化は充血,刺激感,かゆみ,痛み,かすみともに同じが大多数を占めた.今回の点眼薬の変更では,主剤の成分に変更がなかったためと考えられる.変更前後の組み合わせの好みは変更前と変更後でほぼ同数だった.変更後が良い理由として,点眼瓶が使いやすいがもっとも多かった.今回の点眼薬の変更では変更前のブリモニジン点眼薬と変更後のブリモニジン/チモロール配合点眼薬は千寿製薬の平型容器で共通である.変更前のブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬と変更後の先発医薬品のブリンゾラミド点眼薬はアルコンファーマのラウンド型容器で共通である.平型容器は持ちやすく,押しやすく,キャップの開閉が行いやすく,一方ラウンド型容器は押しにくく,液が出にくく,残量が見えにくいと報告されている8).ブリンゾラミド点眼薬の先発医薬品を使用した患者では変更前後の点眼瓶の形状はまったく同じである.ブリンゾラミド点眼薬の後発医薬品を使用した患者では点眼瓶が使いやすくなり,アドヒアランスが向上した可能性がある.点眼瓶の形状を考慮することも重要である.今回は調査期間中に新型コロナウイルス感染症の流行による緊急事態宣言発令などの影響で,変更後C1回目の来院が最(105)あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021C953短C14日後.最長C176日後と差が出てしまい統一ができなかった.このことが変更後の結果に影響を及ぼした可能性も否定できない.今回,ブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬とブリモニジン点眼薬を中止し,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬とブリンゾラミド点眼薬へ変更した患者を検討した.主剤が同成分の変更のため短期的には眼圧は維持することができ,安全性や使用感も良好だった.このような点眼薬の変更は点眼薬選定の選択肢となりうると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AugerCGA,CRaynorCM,CLongsta.S:PatientCperspectivesCwhenCswitchingCfromCosopt(CR)(dorzolamide-timolol)toCAzarga.(brinzolamide-timolol)forCglaucomaCrequiringCmultipleCdrugCtherapy.CClinCOphthalmolC6:2059-2062,C2012C2)DjafariCF,CLeskCMR,CHayasymowyczCPJCetal:Determi-nantsCofCadherenceCtoCglaucomaCmedicalCtherapyCinCaClong-termCpatientCpopulation.CJCGlaucomaC18:238-243,C20093)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:E.cacyandsafetyofswitchingCtoClatanoprost0.005%-timololCmaleate0.5%C.xed-combinationCeyedropsCfromCanCun.xedCcombinationCfor36months.ClinOphthalmolC8:1275-1279,C20144)InoueCK,CShiokawaCM,CSugaharaCMCetal:Three-monthCevaluationCofCdorzolamideChydrochloride/timololCmaleateC.xed-combinationCeyeCdropsCversusCtheCseparateCuseCofCbothdrugs.JpnJOphthalmolC56:559-563,C20125)津幡結美子,菊池順子,井上賢治ほか:Cb遮断点眼液の後発品処方への変更.日本の眼科C78:727-732,C20076)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼C55:C1519-1522,C20017)KonstasAG,MantzirisDA,StewartWC:DiurnalintraocC-ularCpressureCinCuntreatedCexfoliationCandCprimaryCopen-angleglaucoma.ArchOphthalmolC115:182-185,C19978)中道晶子,高橋嘉子,井上賢治ほか:緑内障患者を対象とした点眼容器のアンケート調査報告.あたらしい眼科C37:C100-103,C2020C***954あたらしい眼科Vol.38,No.8,2021(106)

多施設による緑内障患者の治療実態調査2020 年版 ─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):945.950,2021c多施設による緑内障患者の治療実態調査2020年版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障─朴華*1井上賢治*2井上順治*1國松志保*1石田恭子*3富田剛司*2,3*1西葛西・井上眼科病院*2井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科MulticenterSurveyStudyofGlaucomain2020:Normal-TensionGlaucomaandPrimaryOpenAngleGlaucomaHuaPiao1),KenjiInoue2),JunjiInoue1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),KyokoIshida3)andGojiTomita2,3)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:緑内障患者の実態調査から正常眼圧緑内障(NTG)と原発開放隅角緑内障(POAG)患者の患者背景と使用薬剤を調査する.対象および方法:2020年C3月C8日.14日に本研究の趣旨に賛同したC78施設に受診したC5,303例5,303眼を対象とした.患者背景と使用薬剤を調査し,NTGとCPOAG患者を比較した.結果:NTGC2,710例(51.1%),CPOAG1,638例(30.9%)だった.使用薬剤数はCPOAG(2.2C±1.4剤)がCNTG(1.6C±1.0剤)より有意に多かった(p<0.0001).単剤使用例では両病型ともプロスタグランジン(PG)関連薬がもっとも多かった.2剤使用例では両病型ともCPG/b配合剤がもっとも多かった.結論:NTGがCPOAGより多く,PG関連薬は単剤使用例,PG/Cb配合剤はC2剤使用例で第一選択となっていた.NTGとCPOAGでは使用薬剤数に差はあるが,使用薬剤はほぼ同様だった.CPurpose:Toinvestigatethecharacteristicsandappliedmedicationsinpatientswithnormal-tensionglaucoma(NTG)orprimaryopen-angleglaucoma(POAG)C.PatientsandMethods:Thismulticentersurveystudyinvolved5,303NTG/POAGpatientsseenat78medicalinstitutionsinJapanfromMarch8toMarch14,2020.Patientchar-acteristicsandthemedicationsusedwereinvestigatedandcomparedbetweenNTG/POAG.Results:Ofthe5,303patients,2,710(51.1%)werediagnosedasNTGand1,638(30.9%)werediagnosedasPOAG.ThemeannumberofCmedicationsCadministeredCforPOAG(2.2C±1.4)wasCsigni.cantlyCgreaterCthanCthatCforNTG(1.6C±1.0)(p<0.0001)C.CAsCforCtheCmonotherapyCandC.xed-combinationCtreatments,prostaglandin(PG)analogsCandCPG/b-block-ers,Crespectively,CwereCtheCmedicationsCmostCfrequentlyCadministered.CConclusion:OurC.ndingsCrevealedCmoreCNTGpatientsthanPOAGpatients.PGanalogswereusedinthemonotherapyand.xed-combinationPG/b-block-erswereusedinthecombinedtherapyas‘.rst-choice’medications,andnosigni.cantdi.erencewasfoundinthemedicationsusedbetweenNTGandPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):945.950,C2021〕Keywords:正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,薬物治療,多施設,配合点眼薬.normaltensionglaucoma,primaryopenangleglaucoma,medication,multipleinstitutions,.xedcombinationeyedrops.Cはじめに緑内障にはさまざまな病型があり,病型により治療方針は異なる1).緑内障診療ガイドライン1)には緑内障の病型別治療が記載されている.日本での緑内障の疫学調査として多治見スタディがあげられるが,多治見スタディでの緑内障有病率は正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)3.6%,原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG)0.3%であった2).緑内障診療ガイドラインではNTG,POAGの診断は「原発開放隅角緑内障(広義)は慢性進行性の視神経症であり,視神経乳頭と網膜視神経線維層に形態的特徴(視神経乳頭辺縁部の菲薄化,網膜神経線維層欠損)を有し,他の疾患や先天異常を欠く病型,隅角鏡検査で〔別刷請求先〕朴華:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:HuaPiao,M.D.,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-kuTokyo134-0088,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(97)C945正常開放隅角(隅角の機能的異常の存在を否定するものではない.)とした.NTGは原発開放隅角緑内障(広義)のうち眼圧が常に統計学的に規定された正常値(20CmmHg)にとどまるもの,POAGは原発開放隅角緑内障(広義)のうち眼圧が統計学的に規定された正常値(20CmmHg)を超えるもの」と定義している.筆者らはベースライン眼圧の違いにより患者背景や治療薬の使い方が異なるか疑問を抱いた.そこで臨床現場で通院中の緑内障患者の実態を知る目的で多施設での調査をC2007年に初めて行った3).続いてC2009年4),2012年5),2016年6)に再調査を行った.そのなかでCNTGとPOAGの患者背景や薬物治療の相違を検討した3.6).前回調査6)からC4年が経過し,その間に眼圧下降の新しい作用機序を有する点眼薬(オミネデパグイソプロピル点眼薬)や配合点眼薬(ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,ブリモニジン/チモロール配合点眼薬)が使用可能となった.そこで今回,再び緑内障患者の実態調査を実施した.そのなかでCNTG患者とCPOAG患者に対する患者背景と薬物治療の相違を検討した.また,経時的変化を合わせて検討した.CI対象および方法2020年C3月C8.14日のC7日間に本試験の趣旨に賛同した78施設に外来受診したすべての緑内障および高眼圧症の患者を対象とした(表1).総症例数はC5,303例C5,303眼(男性2,347例,女性C2,956例),平均年齢はC68.7C±13.1歳(平均値C±標準偏差,11.101歳)であった.調査は各施設にアンケート用紙を郵送し,記入してもらう方法で行った.アンケート項目は,年齢,性別,病型,緑内障使用薬剤(投薬数,使用薬剤),レーザー既往歴,手術既往歴である.回収したアンケート用紙からCNTGとCPOAG患者の年齢(対応のないCt検定),性別,レーザー既往歴,手術既往歴を比較した(Cc2検定).同様に使用薬剤数,単剤・2剤使用例の内訳を比較した(Mann-WhitneyU検定,Cc2検定).配合点眼薬はC2剤として解析した.なお,前回調査6)までは点眼薬は先発医薬品と後発医薬品に分けて調査していたが,今回調査では薬剤は一般名での収集とした.さらに,2016年に同様の方法で行った前回調査6)の結果と比較した(Cc2検定).本研究は井上眼科病院の倫理審査委員会で承認を得た.CII結果1.病型全症例ではCNTG2,710例(51.1%),POAG1,638例(30.9%),続発緑内障C435例(8.2%),高眼圧症C286例(5.4%)などであった.性別はCNTGでは男性C1,116例,女性C1,594例,POAGでは男性C798例,女性C840例で,NTGで女性が有意に多かった(p<0.0001).平均年齢はCNTGC67.5±13.4歳,CPOAGC69.5±12.6歳で,POAGが有意に高かった(p<0.0001).レーザー既往ありはCNTG28例(1.0%),POAG46例(2.8%)で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).手術既往ありはCNTG30例(1.1%),POAG185例(11.3%)で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).C2.使用薬剤数平均薬剤数はNTGC1.6±1.0剤,POAGC2.2±1.4剤で,POAGが有意に多かった(p<0.0001).NTGでは使用薬剤なしC160例(5.9%),1剤C1,452例(53.6%),2剤C657例(24.2%),3剤C302例(11.1%),4剤C109例(4.0%),5剤C27例(1.0%),6剤C3例(0.1%)であった.POAGでは使用薬剤なしC130例(7.9%),1剤C490例(29.9%),2剤C373例(22.8%),3剤C317例(19.4%),4剤C207例(12.6%),5剤C103例(6.3%),6剤C18例(1.1%)であった.1剤使用症例はCNTGが有意に多く(p<0.0001),3.6剤使用症例はそれぞれCPOAGが有意に多かった(p<0.0001).C3.単剤使用症例の薬剤(図1)NTG(1,452例),POAG(490例)ともにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬が圧倒的に多く,NTGではC961例(66.2%),POAGではC363例(74.1%)であった.PG関連薬はCPOAGが有意に多かった(p<0.05).Cb(ab)遮断薬はCNTG,POAGともにCPG関連薬のつぎに多く,NTGではC328例(22.6%),POAGではC86例(17.5%)であった.Cb(ab)遮断薬はCNTGが有意に多かった(p<0.05).Ca2刺激薬はNTGでは59例(4.1%),POAGでは8例(1.6%)で,NTGが有意に多かった(p<0.001).C4.2剤使用症例の薬剤(図2)NTG,POAGともに,PG/Cb配合点眼薬がもっとも多く(NTG303例C46.1%,POAG166例C44.5%),ついでCPG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用が多かった(NTG86例C13.1%,POAG53例C14.2%).Cb(ab)遮断薬とCa2刺激薬の併用はCNTGではC31例(4.8%),POAGではC3例(0.8%)で,NTGが有意に多かった(p<0.001).C5.前回調査と病型の比較今回調査ではCNTG2,710例(51.1%),POAG1,638例(30.9%)で,開放隅角緑内障が約C82%を占めており,前回調査のCNTG2,197例(51.2%),POAG1,232例(28.7%)と同等だった.C6.前回調査と使用薬剤数の比較(図3)平均薬剤数はCNTGでは前回調査C1.5C±1.0剤,今回調査C1.6C±1.0剤で,POAGでは前回調査C2.1C±1.3剤,今回調査C2.2C±1.4剤であった.POAGが前回調査よりも平均薬剤数が有表1協力施設および協力医師名協力施設協力医師都道府県協力施設協力医師都道府県ふじた眼科クリニック藤田南都也北海道眼科中井医院中井倫子神奈川県中山眼科医院余敏子東京都さいとう眼科斎藤孝司神奈川県白金眼科クリニック西野由美子東京都あおやぎ眼科青柳睦美千葉県高輪台眼科クリニック社本真紀東京都本郷眼科吉川みゆき千葉県小川眼科診療所加藤美名子東京都吉田眼科吉田元千葉県もりちか眼科クリニック森近千都東京都のだ眼科麻酔科医院野田久代千葉県中沢眼科医院中澤正博東京都みやけ眼科野崎康嗣千葉県良田眼科良田夕里子東京都高根台眼科奈良俊作千葉県駒込みつい眼科三井義久東京都谷津駅前あじさい眼科田中まり千葉県菅原眼科クリニック菅原道孝東京都おおあみ眼科今井尚人千葉県うえだ眼科クリニック上田裕子東京都いずみ眼科クリニック泉雅子茨城県江本眼科江本有子東京都サンアイ眼科伏屋陽子茨城県えづれ眼科江連司東京都さいき眼科齋木裕埼玉県とやま眼科外山茂東京都林眼科医院林優埼玉県おおはら眼科大原重輝東京都石井眼科クリニック石井靖宏埼玉県的場眼科クリニック伊藤景子東京都やながわ眼科柳川隆志埼玉県篠崎駅前髙橋眼科髙橋千秋東京都ふかさく眼科深作貞文埼玉県かさい眼科笠井直子東京都たじま眼科・形成外科田島康弘埼玉県みやざき眼科宮崎明子東京都鬼怒川眼科医院鬼怒川雄一宮城県はしだ眼科クリニック橋田節子東京都さくら眼科・内科岡本寧一埼玉県にしかまた眼科簗島謙次東京都やなせ眼科矢那瀬淳一埼玉県久が原眼科芹沢聡志東京都博愛こばやし眼科小林一博長野県あつみ整形外科・眼科クリニック渥美清子東京都ヒルサイド眼科クリニック土田覚静岡県そが眼科クリニック蘇我孟志東京都あつみクリニック渥美清子静岡県早稲田眼科診療所尾崎良太東京都さいはく眼科クリニック瀬戸川章鳥取県井荻菊池眼科菊池亨東京都藤原眼科村木剛広島県ほりかわ眼科久我山井の頭通り堀川良高東京都大原ちか眼科大原千佳福岡県小滝橋西野眼科クリニック西野由美子東京都かわぞえ眼科クリニック川添賢志福岡県いなげ眼科稲毛佐知子東京都図師眼科医院図師郁子福岡県赤塚眼科はやし医院林殿宣東京都いまこが眼科医院藤川王哉福岡県えぎ眼科仙川クリニック江木東昇東京都槇眼科医院槇千里福岡県なかむら眼科・形成外科中村敏東京都むらかみ眼科クリニック村上茂樹熊本県西府ひかり眼科野口圭東京都川島眼科川島拓宮崎県東小金井駅前眼科三田覚東京都ガキヤ眼科医院我喜屋重光沖縄県後藤眼科後藤克博東京都札幌・井上眼科クリニック清水恒輔北海道おがわ眼科小川智美東京都大宮・井上眼科クリニック野崎令恵埼玉県立川しんどう眼科真藤辰幸東京都西葛西・井上眼科病院井上順治東京都だんのうえ眼科クリニック壇之上和彦神奈川県お茶の水・井上眼科クリニック岡山良子東京都綱島駅前眼科芝龍寛神奈川県井上眼科病院井上賢治東京都NTG(1,452例)POAG(490例)a2刺激薬**点眼CAIa2刺激薬**点眼CAI*p<0.05,**p<0.001,c2検定図1単剤使用症例の薬剤(c2検定,*p<0.05,**p<0.001)CNTG(657例)POAG(373例)b(ab)**b(ab)4.8%PG+a26.7%CAI/b配合点眼薬7.3%PG+b(ab)*p<0.05,**p<0.001,c2検定13.1%図22剤使用症例の薬剤(c2検定,**p<0.001)CPOAG2020年2.2±1.4剤*2016年2.1±1.3剤(*p<0.05)0剤1剤2剤3剤4剤5剤6剤7剤0剤1剤2剤3剤4剤5剤6剤7剤■2016年■2020年*p<0.05,Mann-Whitney-U検定,c2検定■2016年■2020年図3前回調査と使用薬剤数の比較(Mann-WhitneyU検定,c2検定,*p<0.05)意に増加し(p<0.05),NTGでは前回調査と同等だった(pC7.前回調査と単剤使用症例の比較(図4)=0.0749).NTG,POAGともに前回調査よりもCPG関連薬の使用割合が有意に減少した(p<0.0001,p<0.05).****NTGPOAG■2016年■2020年■2016年■2020年*p<0.05,**p<0.001,***p<0.0001,c2検定図5前回調査と2剤使用症例の比較(c2検定,*p<0.05,***p<0.0001)NTGではCPG関連薬がC74.0%からC66.2%(p<0.0001)へ有意に減少し,b(ab)遮断薬,a2刺激薬,ROCK阻害薬が増加したが,有意な増加はなかった.POAGではCPG関連薬がC80.2%からC74.1%(p<0.05)へ有意に減少し,b(ab)遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬(car-bonicCanhydraseinhibitor:CAI)が増加したが,有意な増加はなかった.またCNTG,POAGともに前回調査5)では未発売であったEP2受容体作動薬が今回調査では各々C5.5%,3.3%だった.C8.前回調査と2剤使用症例の比較(図5)NTGではCPG/b配合点眼薬はC31.4%からC46.1%と有意に増加した(p<0.0001).PG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用はC28.5%からC13.1%と有意に減少し(p<0.0001),PG関連薬とCa2刺激薬の併用はC11.7%からC6.7%と有意に減少(p<0.001)した.CAI/b配合点眼薬,およびCPG関連薬とCCAIの併用はそれぞれ前回調査と同等だった.POAGではCPG/b配合点眼薬はC29.2%からC44.5%と有意に増加し(p<0.0001),PG関連薬とCb(ab)遮断薬の併用はC28.9%からC14.2%と有意に減少した(p<0.0001).CIII考按今回調査での緑内障病型は多治見スタディ2)や前回調査6)と同様で,NTG,POAG合わせて全緑内障患者のC80%近くを占めていた.病型ではCNTGで女性が男性より有意に多かった.若い女性のほうがコンタクトレンズ診療などでCNTGが発見されるケースなどが多いためと考えられる.平均年齢はCPOAGがCNTGに比べて有意に高かった.POAGは眼圧が高く,治療継続が良好な高齢者が多い可能性が考えられる.レーザー既往,手術既往はCPOAGがCNTGに比べて有意に多かった.使用薬剤数はCPOAGがCNTGと比べて有意に多かった.眼圧が高いCPOAGでは眼圧を下げるために薬物治療,レーザー,手術がより多く行われている可能性がある.前回調査との比較では病型は変化なかった.使用薬剤数はCPOAGで有意に増加,NTGでは同等だった.使用薬剤数は今回調査ではCNTGはC1剤がC53.6%で,前回調査(56.0%)と同様にC1剤使用例が過半数を占めていた.POAGではC1剤が今回調査C29.9%で,前回調査6)34.9%に比べて有意に減少し,4剤以上は今回調査C4剤C12.6%,5剤C6.3%と前回調査6)4剤C8.9%,5剤C4.5%よりも有意に増加した(p<0.05).配合点眼薬の使用促進により,点眼回数を増やすことなく薬剤の追加が可能になった.点眼ボトル数や点眼回数を減らすことにより,良好なアドヒアランスを保つことができると考えられる.単剤使用症例では,POAGがCNTGに比べてCPG関連薬が有意に多かった.POAGではCNTGよりも強い眼圧下降を期待するためと予想される.NTGではCPOAGと比べてCa2刺激薬が有意に多かった.NTG患者へのCa2刺激薬投与による視野障害進行速度が抑制されたという報告7)より神経保護効果を期待したことが原因と考えられる.一方,Cb(ab)遮断薬がCPOAGで有意に少ないのは,Cb(ab)遮断薬は全身性副作用出現の心配があり,循環器系,呼吸器系疾患を有する患者や高齢者では使用しづらい点が考えられる.実際にPOAG患者ではCNTG患者より有意に年齢が高かった.PG関連薬が今回調査ではCNTG66.2%,POAG74.1%で,前回調査(NTG74.0%,POAG80.2%)に比べて有意に減少した.新しい作用機序をもつCa2刺激薬,ROCK阻害薬やC2019年11月より使用可能になったCEP2受容体作動薬などの出現により点眼薬の選択肢が増えたことが原因と考えられる.2剤使用症例ではCb(ab)遮断薬とCa2刺激薬の併用がNTGがCPOAGに比べて有意に多かった.PG関連薬を使用できないケースでは,Ca2刺激薬の神経保護作用7)を期待してとくにCNTGで使用されたと考える.NTG,POAGともに前回調査と比べてCPG/Cb配合点眼薬が有意に増加し,PG関連薬とCb遮断薬の併用が有意に減少した.アドヒアランス向上を目的として,配合点眼薬の使用が増加した影響と考えられる.NTGではCPG関連薬とCa2刺激薬の併用例は前回調査と比べて有意に減少した.PG関連薬への追加投与としてCROCK阻害薬など新しい作用機序の薬剤との組み合わせが増加したためと考えられる.今回調査から薬剤は一般名でデータを収集した.もっとも多くの症例を集めた井上眼科病院とお茶の水・井上眼科クリニックC1,474例(27.8%)ではC2018年C10月より配合点眼薬を除くほとんどの薬剤を一般名として処方することにした.そのため患者が先発医薬品あるいは後発医薬品のどちらを使用しているかは診療録からは判別できなくなった.そこで収集方法を変更した.このため前回調査との比較では正確な解析が行えていない可能性もある.今回調査をまとめると使用薬剤数がCPOAGでCNTGに比べて有意に多かった.使用薬剤の内訳はほぼ同様であったが,POAGでCPG関連薬,NTGでCb(ab)遮断薬,Ca2刺激薬の使用がやや多い傾向がみられた.今後も新しい配合点眼薬や眼圧下降の新しい作用機序を有する点眼薬が使用可能になると予想される.薬物療法はさらに複雑化するので,今後も定期的に多施設で緑内障患者実態調査を行い,緑内障薬治療の実態把握に努めたい.謝辞:今回の実態調査の協力施設およびご協力いただいた先生を表C1へ記載する.この調査に参加していただき,診療録の調査,集計という,とても面倒な作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深謝いたします.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimistudy.COphthalmologyC111:1641-1648,C20043)塩川美菜子,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C62:1699-1704,C20084)添田尚一,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査C2009年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C65:1251-1257,C20115)新井ゆりあ,井上賢治,富田剛司:多施設における緑内障患者の実態調査C2012年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C67:673-679,C20136)新井ゆりあ,井上賢治,塩川美菜子ほか:多施設における緑内障患者の実態調査C2016年度版─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼C71:1541-1547,C20177)KrupinT,LiebmannJM,Green.eldDSetal:Arandom-izedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisu-alfunction:resultsCfromCtheCLow-PressureCGlaucomaCTreatmentStudy.AmJOpthalmolC151:671-681,C2011***

インプラント挿入術後はインプラント近くのわずかな結膜障害 でも感染症を生じる

2021年8月31日 火曜日

《第31回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科38(8):941.944,2021cインプラント挿入術後はインプラント近くのわずかな結膜障害でも感染症を生じる相川菊乃木内理奈谷山ゆりえ尾上弘光坂田創徳毛花菜村上祐美子岩部利津子奥道秀明廣岡一行木内良明広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学CACaseinwhichaSlightConjunctivalLacerationNeartheImplantCausedInfectionPostBaerveldtGlaucomaImplantSurgeryKikunoAikawa,RinaKinouchi,YurieTaniyama,HiromitsuOnoe,HajimeSakata,KanaTokumo,YumikoMurakami,RitsukoIwabe,HideakiOkumichi,KazuyukiHirookaandYoshiakiKiuchiCDepartmentofOphthalmologyandVisualscience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC目的:インプラントの露出を繰り返し複数回の眼内炎をきたした症例を経験したので報告する.症例:17歳,男子.両眼先天白内障のためC1997年,0歳時に広島大学病院眼科で両眼白内障手術を受けた.眼圧がC2007年頃から上昇し始め,続発緑内障のためC2008年C1月に両眼線維柱帯切開術を行ったが,眼圧のコントロールが不良のため,2012年C7月に右眼の耳上側からバルベルト緑内障インプラント(BGI)挿入術を,2015年C1月に右眼耳下側からCBGI挿入術を行った.2015年C3月にベール状の硝子体混濁が出現し,眼内炎を発症したと考えられた.耳上側に露出したC10-0ナイロン糸が感染の原因と考えられた.2019年C2月には耳下側から挿入したチューブの上の結膜に小さな裂孔が見つかりそのC5日後には眼内炎を生じた.いずれの感染も抗菌薬投与と硝子体手術で軽快した.結論:インプラント挿入後はわずかな結膜障害でも感染症を生じると考えられた.CPurpose:Toreportacaseofrecurrentendophthalmitisassociatedwithimplantexposurepostsurgery.CaseReport:Thisstudyinvolveda17-year-oldmalewithahistoryofcongenitalcataractswhohadundergonebilater-alcataractsurgeryin1997whenhewaslessthan1yearold.Hisintraocularpressure(IOP)begantoincreasein2007,CandCbilateralCtrabeculotomyCwasCperformedCinC2008CforCsecondaryCglaucoma.CHowever,CIOPCremainedChighCpostCsurgery,CandCBaerveldtCglaucomaCimplantCsurgeryCwasCperformedCinChisCrightCeyeCsuperotemporallyCinCJulyC2012andinferotemporallyinJanuary2015.Postsurgery,vitreousturbidityappearedinhisrighteyeduetoendo-phthalmitis,withtheinfectionthoughtpossiblycausedbyexposed10-0nylonsuture.InFebruary2019,aslightconjunctivalCperforationConCtheCinferotemporallyCimplantCtubeCwasCfound,CandC5CdaysClater,CendophthalmitisCoccurred.CBothCinfectionsCwereCtreatedCbyCantibioticCadministrationCorCvitrectomy.CConclusion:PostCglaucomaCdrainagedevicesurgery,evenslightconjunctivallacerationsneartheimplantcanleadtoinfection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(8):941.944,C2021〕Keywords:緑内障,バルベルト緑内障インプラント,結膜障害,眼内炎.glaucoma,Baerveldtglaucomaimplant,conjunctivallaceration,endophthalmitis.CはじめにGDD)が用いられる.インプラント挿入術の合併症には,イ緑内障の外科的治療の一つにインプラント挿入術があり,ンプラント露出,チューブ閉塞,複視,角膜浮腫,出血,感緑内障ドレナージデバイス(glaucomaCdrainagedevice:染,白内障,眼圧コントロール不良1.5)などがあげられる.〔別刷請求先〕相川菊乃:〒734-8551広島市南区霞C1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学Reprintrequests:KikunoAikawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3,Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPANC図12015年4月の右眼結膜所見耳上側に露出したC10-0ナイロン糸があり(),同部位からの房水の漏出があった.なかでも,インプラントの露出はインプラント挿入術後の感染リスクの一つとして考えられている.結膜障害によるCGDDの露出は,術後感染の一因であるが,わずかな結膜障害は見落とされることが多い.今回,筆者らはインプラント挿入術後に眼内炎を繰り返した症例を経験した.結膜のわずかな損傷が感染の原因と考えられたので報告する.CI症例患者:17歳,男子.主訴:右眼の視野のゆがみ.既往歴:1997年C9月(0歳時)に両眼先天白内障に対して両眼白内障手術が行われた.術後は視力矯正のためハードコンタクトレンズを使用していた.2007年頃から両眼続発緑内障に対して点眼加療されていたが眼圧は上昇していた.2008年C1月に両眼線維柱帯切開術(trabeculotomy:TLO),図22019年2月の前眼部所見右眼耳下側から挿入したCBGIのチューブ上の結膜に小裂孔()があった.角膜浮腫や毛様充血があり,前房内炎症細胞C3+であった.2008年C2月に右眼CTLO+右眼下眼瞼内反症手術が行われたが眼圧コントロールは不良であり,2012年C7月に右眼バルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)挿入術(耳下側)を行った.その後もC2012年C12月に左眼CTLO,2014年C10月に右眼チューブフラッシュを行った.現病歴:術後,右眼にはドルゾラミド・チモロールを点眼していたが,2014年C10月下旬頃から眼圧がC20CmmHgを上回るようになった.タフルプロスト,ブリモニジンを追加したが眼圧はさらに上昇したため,2015年C1月にC2個目の右眼CBGI挿入術(耳上側)を行った.術後約C1カ月半後に右眼のゆがみを自覚したため,その翌日に近医を受診したところ,右眼の硝子体出血と網膜.離を疑われた.同日広島大学病院眼科に紹介されて再受診した.再診時,視力は右眼C0.05(現用コンタクトレンズ装用時の矯正視力),左眼C30Ccm/h.m(矯正不能)であった.眼圧は右眼C4CmmHg,左眼C23CmmHg(icareCR)であった.右眼前眼部所見では,結膜の充血はなく,角膜は透明であり,前房深度は正常で,炎症細胞はなかった.また,チューブの閉塞はなかったものの先端に白色点状物質があった.無水晶体眼であった.眼底は検眼鏡的に網膜.離の所見はなかったが,ベール状の硝子体混濁があった.また,網膜血管の白線化はなかった.経過:ベール状の硝子体混濁に対して頻回の経過観察を行ったが,増悪はなかった.2015年C4月(術後C3カ月後)の外来受診時には,眼底所見の変化はなかったが,右眼耳上側の結膜にわずかな裂傷を見つけた.結膜は軽度の充血があり,前房内は炎症細胞C1+で温流があったが,創部から房水の漏出はなかった.チューブやプレートは覆われている状態であった.眼圧は右眼C6CmmHg,左眼C22CmmHgであった.感染を防ぐ目的でエリスロマイシン・コリスチン軟膏外用,レボフロキサシン点眼,セフジニル内服加療とした.そのC7日後の外来受診時,結膜の充血や,前房内の炎症細胞の変化はなかった.前房は正常深度であったが,7日前の創部と同部位の耳上側結膜上にC10-0ナイロン糸が露出しており,同部から房水の漏出があった(図1).眼圧は右眼C3CmmHgと低下していた.硝子体混濁の増悪はなかったため,まずはリークを止めて菌体の侵入を防ぐことで感染リスクを下げる目的で,同日に結膜縫合術+強膜パッチを行った.角膜輪部から5Cmm程度の強膜をC1/8サイズにした保存強角膜片を使用した.術中の前房水の培養検査ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)が検出された.術後はレボフロキサシン点眼およびセフメノキシム点眼,セフジニル内服で加療した.結膜縫合術+強膜パッチ後,前眼部所見は改善し,10日目に前房内炎症細胞消失,35日目には硝子体混濁が軽快した.4年後のC2019年C2月の外来受診時に右眼の結膜に小裂孔があった.裂孔はC2012年に右眼耳下側から挿入したCBGIのチューブの上に位置していた.両眼にタフルプロスト点眼,ドルゾラミド・チモロール点眼を行っており,眼圧は右眼12CmmHg,左眼C22CmmHgであった.感染予防のため右眼にゲンタマイシン点眼を開始して,3月に強膜パッチ術を予定した.しかし,7日後の受診時には毛様充血があり,前房内炎症細胞C3+で眼底も透見不良であり,すでに右眼内炎をきたしていた(図2).同日に右眼硝子体手術と強角膜パッチを行った.術中の硝子体液の培養検査は陰性であった.術後はモキシフロキサシンおよびセフメノキシム点眼を行い,しだいに軽快した.CII考按2015年のC1度目の結膜障害は,前眼部所見から積極的に感染を疑わなかったが,感染予防目的で行った強膜パッチ術と抗菌薬投与により改善した.患者は無水晶体眼であり,結膜障害部からチューブを介して眼内に感染が波及していた可能性がある.2019年のC2度目の結膜障害も,軽微であったにもかかわらず眼内炎を生じ,硝子体手術および強膜パッチによって軽快した.インプラント挿入術は緑内障に対する外科的治療の一つである.GDDはチューブとプレートで構成されており,房水は眼球内に挿入されたチューブを通ってプレートへ流れる.インプラント挿入術の合併症には,インプラント露出,チューブ閉塞,複視,角膜浮腫,出血,感染,白内障,眼圧コントロール不良1.5)などがあげられる.そのうち眼内炎はGDD手術の合併症としてはまれで,後ろ向き研究でその発生率はC0.9.6.3%という報告があり6),インプラントの露出はそのリスクの一つとして考えられている.TubeCVersusTrabeculectomy(TVT)studyではC5年間でCBGI術後患者のC5%にチューブの露出が生じていたとの報告がある1).また,井上らの報告では,2012年からC2017年に行われたBGI術後C68例C75眼においてC4眼(5%)でインプラントの露出があった7).以上よりインプラントの露出はまれではなく,術後感染症のリスクであり早急な外科的治療が必要とされている2).インプラント露出の危険因子として,下方からのインプラント挿入8),過去に眼科手術の既往があること9),血管新生緑内障10),糖尿病患者のCBG102-350の使用11),若年であること12)などがあげられる.また,GDDと結膜の摩擦が強いため白人よりアジア人のほうがインプラントの露出リスクが高いと報告されている11).本症例では,若年であり,手術を何度も繰り返していることや,2回目の露出では下方からインプラントを挿入していることもリスクとして考えられる.その一方で,GDDに続発する結膜障害は,頻度やリスク因子,管理,結果に関しての報告が乏しく,インプラントが覆われていれば外科的修復は行われず,通常は軽症な合併症として見落とされることが多い2).本症例は,結膜裂傷を生じたがインプラントは結膜に覆われた状態であった.しかし,結膜裂傷を介してチューブと結膜表面に交通が生じたため,プレートの露出はないもののチューブが眼外と接触し露出したような状態となった.これにより,チューブの表面を伝って強膜の刺入部から眼内に細菌が侵入し,感染を起こしたと推測した.ゆえに,わずかな結膜障害のみであっても,菌の侵入経路となる可能性があり軽視できないと考えられる.GeddeらはCBGI挿入後に眼内炎をきたしたC4例すべてにおいてチューブの露出があったと報告している.感染は,菌がチューブを介して眼内へ侵入することで生じるため,チューブ露出に対する強膜パッチの使用が求められている6).2015年のC1度目の感染は,硝子体混濁を生じてから経過が長期化していた.検出されたCMRSAはコンタミネーションであった可能性があり,弱毒菌による感染症のため前眼部や眼底所見の変化に乏しかったと考えられる.2019年のC2度目の感染は硝子体液からは菌体は検出されなかったが,臨床所見からは明らかに眼内炎を生じていた.本症例では感染所見としては軽微であった.結膜障害に気づいた時点で,抗菌薬投与を行い,早期の強膜パッチの手術を予定した.比較的早い段階での対応により感染の重症化を防ぐことができたが,発見時のより早い段階で強膜パッチを行うことができていれば,感染予防に有効であったかもしれない.本症例より,わずかな結膜障害であっても眼内炎を生じるリスクがあると考えられる.結膜障害に対して,早急な対応が求められ,なかでも強膜パッチ術が有効であると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)CstudyCduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC153:804-814,C20122)Ge.enCN,CBuysCYM,CSmithCMCetal:ConjunctivalCcompli-cationsCrelatedCtoCAhmedCglaucomaCvalveCinsertion.CJGlaucomaC23:109-114,C20143)KrishnaCR,CGodfreyCDG,CBudenzCDLCetal:Intermediate-termoutcomesof350-mm2CBaerveldtglaucomaimplants.OphthalmologyC108:621-626,C20014)OanaCS,CVilaJ:TubeCexposureCrepair.CJCCurrCGlaucomaCPractC6:139-142,C20125)BudenzCDL,CFeuerCWJ,CBartonCKCetal:PostoperativeCcomplicationsintheAhmedBaerveldtComparisonStudyduringC.veCyearsCofCfollow-up.CAmCJCOphthalmolC163:C75-82,C20166)GeddeCSJ,CHerndonCLW,CBrandtCJDCetal:LateCendo-phthalmitisCassociatedCwithCglaucomaCdrainageCimplants.COphthalmologyC108:1323-1327,C20017)井上俊洋:Baerveldtチューブシャント手術後インプラント露出症例の検討.日眼会誌C123:824-828,C20198)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetal:GlaucomaCdrainagedevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20159)ByunCYS,CLeeCNY,CParkCK:RiskCfactorsCofCimplantCexposureCoutsideCtheCconjunctivaCafterCAhmedCglaucomaCvalveimplantation.JpnJOphthalmolC53:114-119,C200910)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetal:RiskCfactorsCforCTubeCshuntexposure:ACmatchedCcase-controlCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C201311)EdoCA,CJianCK,CKiuchiY:RiskCfactorsCforCexposureCofCBaerveldtCglaucomaCdrainageimplants:aCcase-controlCstudy.BMCOphthalmol20:364,C202012)ChakuCM,CNetlandCPA,CIshidaCKCetal:RiskCfactorsCforCtubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C2016***

基礎研究コラム:緑内障病型と生理活性脂質

2021年8月31日 火曜日

緑内障病型と生理活性脂質生理活性脂質とは生理活性脂質とは,膜の脂質から局所で産生され細胞外に放出されたのち,ほかの細胞膜受容体に結合することによって作用する脂質のことで,免疫・生体防御・炎症など多様な生体反応を生じることが知られています.生理活性脂質にはプロスタグランジン(prostaglandin:PG),ロイコトリエン(leukotriene:LT),血小板活性化因子(plateletactivatingfactor:PAF),スフィンゴシン1リン酸(sphingosine-1-phosphate:S1P)などが存在します.それらの生理活性脂質のなかでも,リゾリン脂質由来の生理活性脂質であるリゾホスファチジン酸(lysophosphatidicacid:LPA)はRhoの強力なアゴニストであり,Rhoを介して細胞増殖,細胞遊走などを促進することが報告されています1).TGF.b,LPA.ATX経路と緑内障病態LPAおよびその産生酵素であるオートタキシン(autotax-in:ATX)は眼房水中に発現していることが報告されており,invivoやexvivoの検討において,LPAが眼房水の流出抵抗を増大させることや,ATX阻害薬の灌流実験によって眼圧が下降することが確認されています2).従来より,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)において,その病態への関与が示唆されていたTGF(transform-inggrowthfactor)-b2はPOAGの房水中で非緑内障眼と比較して有意にその眼房水中の濃度が上昇していることが報告されていましたが,その一方で著明な高眼圧を呈する続発緑内障(secondaryopenangleglaucoma:SOAG)眼においてはその濃度が上昇しておらず低濃度でした.筆者らのグループでは,眼房水中のTGF-b2濃度が低くなっているSOAG************五十嵐希望*,**相原一*本庄恵**東京大学医学部附属病院眼科**東京逓信病院眼科眼において,ATXおよびLPAの濃度が有意に上昇しており,また眼圧と正の相関を示すことを確認しました.このことから,眼房水中のTGF-b濃度とLPA-ATX濃度との間になんらかの相関が存在する可能性が示唆されました(図1)3).今後の展望これまで,臨床所見だけでは区別することが困難であったSOAGや落屑緑内障においては,眼房水中のATX・TGF-b1・TGF-b3の濃度が非緑内障眼やPOAG眼と比較して有意に上昇している一方で,TGF-b2の濃度は低値であるなどの特性を生かして,眼房水メディエーターの検索による正確な緑内障分類が可能となる可能性が示唆されました3).また,緑内障病型ごとの眼房水中でのこれらのメディエーターの濃度の差は,線維柱帯細胞におけるTGF-bおよびLPA-ATXpathwayの間にあるなんらかのcross-talkによって生じている可能性が考えられ,この機序を解明することで緑内障病型ごとの病態発症のメカニズム,およびそれぞれに適した新たな治療法を生み出すことができる可能性が高いと考えられます.文献1)vanMeeterenLA,MoolenaarWH:Regulationandbiolog-icalactivitiesoftheautotaxin-LPAaxis.ProgLipidRes46:145-160,20072)RaoPV:Bioactivelysophospholipids:Roleinregulationofaqueoushumorout.owandintraocularpressureinthecontextofpathobiologyandtherapyofglaucoma.JOculPharmacolTher30:181-190,20143)IgarashiN,HonjoM,AsaokaRetal:AqueousautotaxinandTGF-bsarepromisingdiagnosticbiomarkersfordis-tinguishingopen-angleglaucomasubtypes.Scirep11:1408,2021**************4,000TGFb1(pg/ml)TGFb2(pg/ml)TGFb3(pg/ml)2,500150***5,0004,0003,0002,0001,000ATX(μg/l)********2,0001,5001,0005003,0002,0001,0000***1005000ATXTGF-b1TGF-b2TGF-b3*<0.05,**<0.01,***<0.001図1緑内障病型ごとの眼房水中のATX・TGF.b1・TGF.b2・TGF.b3濃度緑内障病型ごとにATXおよびTGF-bの濃度に差が確認でき,これが病態ごとの違いを反映している可能性が示唆された.(文献3より引用)(85)あたらしい眼科Vol.38,No.8,20219330910-1810/21/\100/頁/JCOPY