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真性小眼球症の水晶体再建術後に悪性緑内障を繰り返した1例

2024年8月31日 土曜日

《第34回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科41(8):987.991,2024c真性小眼球症の水晶体再建術後に悪性緑内障を繰り返した1例林有紀*1,2臼井審一*2谷川彰*2,3河本晋平*2岡崎智之*2藤野貴啓*2河嶋瑠美*2崎元晋*2,4丸山和一*2,5松下賢治*2西田幸二*2,5*1市立貝塚病院眼科*2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)*3淀川キリスト教病院眼科*4大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学共同研究講座*5大阪大学先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門CACaseofNanophthalmoswithRecurrentMalignantGlaucomaafterCataractSurgeryYukiHayashi1,2)C,ShinichiUsui2),AkiraTanikawa2,3)C,ShimpeiKomoto2),TomoyukiOkazaki2),TakahiroFujino2),RumiKawashima2),SusumuSakimoto2,4)C,KazuichiMaruyama2,5)C,KenjiMatsushita2)andKohjiNishida2,5)1)DepartmentofOphthalmology,KaizukaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmology,YodogawaChristianHospital,4)DepartmentofOcularImmunologyandRegenerativeMedicine,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicineFacultyofMedicine,5)IntegratedFrontierResearchforMedicalScienceDivision,InstituteforOpenandTransdisciplinaryResearchInitiatives(OTRI)C,OsakaUniversityC目的:真性小眼球症は眼球容積が小さいが水晶体の大きさは正常であることが多く,そのため閉塞隅角症をきたしやすい.今回,眼内レンズ挿入眼で悪性緑内障を繰り返したC1例を経験したので報告する.症例:50歳代,男性.前医で両眼高眼圧に対して前部硝子体切除術併用水晶体再建術を施行後C1年で眼圧コントロール困難となり,大阪大学病院に紹介された.両眼浅前房で隅角は閉塞しており,悪性緑内障が疑われた.両眼に前部硝子体切除・後.切開・周辺虹彩切除・隅角癒着解離術・線維柱帯切開術を同時に行ったところ,左眼は改善したが,右眼は眼内レンズ後方に線維膜が形成され,早期に再発した.そこでCYAGレーザーにより虹彩切除部から線維膜を切開していったんは改善したが後日再発したため,大きく切開して消炎を強化したところ病状は安定した.結論:眼内レンズ挿入眼の真性小眼球症は,前房と硝子体腔に確実な交通路を作製することで悪性緑内障の再発を抑制できる.CPurpose:Toreportacaseofnanophthalmoswithrepeatedmalignantglaucomainanintraocularlens(IOL)CimplantedCeye.CCasereport:ThisCstudyCinvolvedCaC50-year-oldCmaleCdiagnosedCwithCmalignantCglaucomaCdueCtoCrecurrentangleclosureat1yearafteranteriorvitrectomywithIOLimplantationforelevatedintraocularpressure.AfterCsimultaneousCbilateralCanteriorCvitrectomy,CposteriorCcapsulotomy,CperipheralCiridectomy,Cgoniosynechialysis,Candtrabeculotomy,thelefteyeimproved,yeta.broticmembraneformedbehindtheIOLintherighteye,whichrecurredCearly.CTheC.broticCmembraneCwasCremovedCfromCtheCiridectomyCsiteCusingCaCYAGClaser,CyetCafterCimprovementCthereCwasCrecurrenceCofCtheC.broticCmembrane.CTheCconditionCstabilizedCafterCaClargerCincisionCwasCmadeCwithCenhancedCanti-in.ammatoryCtreatment.CConclusion:InCcasesCofCnanophthalmosCinCanCIOL-implantedCeye,CtheCrecurrenceCofCmalignantCglaucomaCcanCbeCreducedCbyCcreatingCaCsuccessfulCtra.cCchannelCbetweenCtheCanteriorchamberandthevitreouscavity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C41(8):987.991,C2024〕Keywords:真性小眼球症,悪性緑内障,YAGレーザー,線維膜.nanophthalmos,malignantglaucoma,YAGlaser,.broticmembrane.Cはじめにを真性小眼球症とよぶ1).小眼球症の多くは隅角が閉塞し,小眼球症は,眼軸長が短く通常より眼球容積が小さいが水加齢とともに肥厚した水晶体が虹彩を前方に押すことで瞳孔晶体の大きさは正常で,とくに他の先天異常を伴わないものブロックを誘発するが,その機序は多因子性と考えられてい〔別刷請求先〕臼井審一:〒565-0871大阪府吹田市山田丘C2-2大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科(眼科学)Reprintrequests:ShinichiUsui,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-2Yamadaoka,Suita,Osaka565-0871,JAPANC右眼左眼efgh図1初診時検査所見超音波生体顕微鏡による前眼部断層像(Ca,d),前眼部光干渉断層計による断層画像(Cb,c),視神経乳頭部の眼底写真(e,h),Humphrey静的量的視野検査中心C30-2のパターン偏差(Cf,g),後眼部光干渉断層計による黄斑部神経節細胞複合体(GCC)厚マップ(Ci,j)を示す.両眼とも眼内レンズは前方に偏位し,前房は浅い.左眼は視神経乳頭陥凹拡大に伴い下方優位に上下のCGCC厚が菲薄化し,上方優位に視野障害が進行していた(中心前房深度:←→).る2).今回,真性小眼球症の水晶体再建術後C1年で悪性緑内障を発症し,硝子体手術および下方の虹彩切除を施行で一時的には改善したが,線維膜の増殖により悪性緑内障を再発し,YAGレーザーによる線維膜切開が奏効したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:50歳代,男性.主訴:両眼の眼圧上昇.家族歴:なし.既往歴:なし.現病歴:両眼真性小眼球症による狭隅角に対してレーザー周辺虹彩切開術の既往があった.その後に両眼高眼圧となり,前医で前部硝子体切除術および水晶体再建術の同時手術が行われ,緑内障点眼加療下で眼圧は下降したが,術後C1年で眼圧コントロール困難となり,手術目的で大阪大学病院へ紹介された.前医での診断は,右眼閉塞隅角症,左眼閉塞隅角緑内障であった.当院初診時の視力は右眼C0.5p(0.8C×sph+2.25D(cyl.0.75DAx80°),左眼C0.4(0.6CpC×sph+2.75D(cyl.1.50DAx65°)であった.治療薬は両眼にカルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼薬C1日C1回,ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬C1日C2回,リパスジル塩酸塩水和物点眼薬C1日C2回で,アセタゾラミドC250CmgをC1錠内服中であったが,眼圧図2術後経過右眼術後C8日目(Ca)と左眼術後C5日目(Cb)の前眼部光干渉断層計による断層画像を示す.右眼の前房深度はC2.1Cmmと浅く(Ca),眼内レンズ後方に増殖した線維膜をCYAGレーザーで切開し一旦改善したが(Cc,f),再び線維膜が増殖して浅くなったため(Cd,g),今度は広範囲に線維膜を切開したところ安定した(Ce,h)(f,g,hは前眼部光干渉断層計による断層画像).右眼C3時方向(鼻側)隅角は,1回目のCYAGレーザー切開後に若干開大したが,その後閉塞し,2回目のYAGレーザー後は大きく開大した(Cf,g,hの矢印).左眼は術後から安定して前房は深く隅角も開大しており,経過は良好である(Cb).(中心前房深度:両端矢印,線維膜およびCYAGレーザー切開部:点円,鼻側隅角:矢印).はCGoldmann圧平眼圧計で右眼C30CmmHg,左眼C25CmmHgと高値であった.前医で白内障手術の際に.内固定された眼内レンズは両眼ともに+40.00D(YA-60BBR,HOYA製)でハイパワーであった.眼軸長は右眼C17.37Cmm左眼C16.99mmで,両眼とも短眼軸であった.前眼部所見は両眼浅前房で隅角は狭く,ほぼ全周に虹彩前癒着をきたし,左眼は虹彩後癒着も認めた.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)による中心前房深度は右眼C2.1Cmm左眼C1.5Cmmで,超音波生体顕微鏡(ultrasoundCbiomicrosco-py:UBM)では眼内レンズが前方へ偏位し浅前房で,とくに左眼は顕著であった(図1a~d).眼底所見では,左眼の視神経乳頭陥凹が拡大し,後眼部COCTを用いた黄斑部神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)厚は下方優位に上下の網膜神経線維層が菲薄化していた(図1e,h,i,j).Humphrey静的量的視野検査(中心C24-2SITA-Standard)を行ったところ,meandeviation(MD)値は右眼がC.1.38CdBで正常範囲であったが,左眼はC.19.77CdBで上方優位に視野障害が進行していた(図1f,g).病態に悪性緑内障の要素が含まれると考えられたため,前房と前部硝子体を交通させる手術を行った.麻酔法は,本症例が小眼球症であることを考慮し,脈絡膜滲出や脈絡膜出血の併発を回避するため全身麻酔下で片眼ずつ別日に右眼から行った.手術はC3ポートを毛様体扁平部に設置し,25ゲージ硝子体カッターを用いて前部硝子体を切除した.後.を大きめに切開し,10時方向のサイドポートから同じくC25ゲージ硝子体カッターを用いて下方の周辺虹彩を切除後,硝子体側からも切除して硝子体腔と前房を交通させた.その後,隅角癒着解離術および眼内法による線維柱帯切開術を追加して手術を終了した.最初に行った右眼の術翌日は前房が深く,眼圧は緑内障点眼なしで10CmmHgに下降した.しかし,術後C8日目に中心前房深度がC2.1Cmmまで浅くなり,隅角は閉塞傾向であった(図2a).このとき左眼高眼圧に対してアセタゾラミド(250Cmg)1錠を再び内服中であったが,右眼の眼圧はC20CmmHgに上昇した.右眼は下方の周辺虹彩を切除していた部位の眼内レンズ表1右眼の術前・術後経過眼圧(mmHg)中心前房深度(mm)等価球面度数(D)緑内障治療薬術前C30C2.1+1.875ミケルナ,アイラミド,グラナテック,ダイアモックス術後8日C20C2.1+1.625ダイアモックス術後C1カ月C18C2.03+1.875キサラタン,アゾルガ,グラナテック,ダイアモックス1回目CYAGレーザー直後C18C2.63C─キサラタン,アゾルガ,グラナテック1回目CYAGレーザーC1週C14C2.24+2.75アゾルガ1回目CYAGレーザーC3週C20C1.93+1.5アゾルガ2回目CYAGレーザーC1週C14C2.77+4.0なしD:diopter(ジオプター).カルテオロール塩酸塩・ラタノプロスト配合点眼薬(ミケルナ),ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬(アイラミド),リパスジル塩酸塩水和物点眼薬(グラナテック),アセタゾラミド(ダイアモックス),ラタノプロスト(キサラタン),ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(アゾルガ).後方に線維膜が張っており,悪性緑内障が再発した原因と考えられた.そこでCYAGレーザーを用いて線維膜を一部切開したところ,直後の中心前房深度はC2.63Cmmに改善し,隅角の一部も開大した(図2c,f).しかし,その後に再び線維膜が増殖し,レーザー施行後C3週間目には前房深度がC1.93mmまで浅くなり隅角も再び閉塞したため,再度CYAGレーザーを用いて線維膜を広範囲に切開したところ,前房は深くなり隅角も開大し,1週間後の中心前房深度はC2.77Cmm,眼圧も緑内障点眼薬を使用することなくC14CmmHgまで下降した(図2d,e,g,h).線維膜増殖を抑制する目的でC0.1%ベタメタゾン点眼液C1日C4回を漸減しながら約C2カ月間継続して消炎したところ,その後は再発なく経過した.なお,前房深度が浅くなるたびに,本人は近視化を自覚し,等価球面度数も変化していた(表1).左眼については術翌日から安定して前房は深く隅角も開大し,眼圧は緑内障点眼なしでC15mmHgに下降した(図2b).経過中に眼圧がC20CmmHgまで上昇したが前房深度は維持できており,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩配合点眼液による治療によりC15mmHgに下降し,以後は上昇することなく安定した.術後約半年の矯正視力は右眼(0.7C×sph+4.50D(cyl.1.0DCAx105°),左眼(0.8CpC×sph+5.50D),眼圧は両眼C14CmmHgで,経過は良好である.CII考按今回,両眼の小眼球症で水晶体再建術後に悪性緑内障を繰り返したC1例を経験した.悪性緑内障は毛様体の前方回旋や硝子体腔内への房水異常流入などによって生じる硝子体の前方変位に起因する閉塞隅角と推定されている3).正確な発症機序はいまだ不明であるが,Zinn小帯・水晶体・前部硝子体・毛様体のすべてが病態生理に関与していると考えられている4).通常,有水晶体眼で発症するが,稀に無水晶体眼や偽水晶体眼でも起こりうる5).偽落屑症候群のようにCZinnC990あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024小帯が弱い症例では眼内レンズ挿入眼でも前方偏位により発症する可能性がある.本症例のように小眼球による狭い後房のスペースに+40ジオプターで厚みのある眼内レンズを挿入した場合,わずかなレンズの前方偏位でも房水動態に異常が生じやすいと考えられる.実際に,紹介時の前房深度は極端に浅くはなく,周辺虹彩が眼内レンズで持ち上げられて嵌まり込むような形で隅角閉塞をきたしていた.本症例は,閉塞隅角による高眼圧に対して前部硝子体切除を併用した水晶体再建術により一旦改善したが,術後C1年で悪性緑内障を発症した.これに対して硝子体切除術および下方の虹彩切除術により後房から前房への交通が解除されて一時的に改善したが,術後早期に眼内レンズの後方に線維膜が増殖し,前房と硝子体腔の交通が閉ざされたため悪性緑内障を再発したと考えられる.悪性緑内障に対する治療はアトロピン点眼による毛様体の弛緩や高張浸透圧薬による硝子体容積の減少が有効であるが再発例も多く,有水晶体眼には水晶体摘出術,偽水晶体眼や無水晶体眼にはCYAGレーザー,前部硝子体切除,水晶体.切開を施行することが推奨されている3,6).本症例と同じく硝子体切除術後に悪性緑内障を発症した報告では,眼内レンズの支持部が前房と前部硝子体腔の交通路に重なって生じた症例を除くと,いずれも線維膜の増殖による交通路の閉塞が原因と考えられ,YAGレーザーを用いた線維膜切開により悪性緑内障は解除されている7).本症例も同様の病態と考えられるが,小眼球では前方の眼球容積が著しく小さいため,厚みのある眼内レンズを挿入した場合は交通路を維持することが一層むずかしく,後.付近に生じた線維膜を広範囲に切開することで再発を防止することができた.また,デキサメタゾン点眼をC2カ月間と長めに継続して消炎を行ったことで,線維膜の増殖を抑制できた可能性がある.つぎに,先に行った右眼が術後に悪性緑内障の再発を繰り返したのに対して,左眼は再発しなかったことについて考察する.本症例に対する硝子体手術は左右でそれぞれ別の術者(118)が執刀し,緑内障手術は両眼ともに同一術者が行った.術者はいずれも十分な手術経験のある専門医であった.左眼は術前に虹彩後癒着で前房深度も浅く右眼とは条件が異なっていたこともあり,右眼よりも前房硝子体切除を周辺まで十分に行ったことが再発防止に繋がったと考えられる.一般に,悪性緑内障に対する外科的治療は,今回のように経毛様体扁平部からアプローチする他に前房側から前部硝子体へアプローチする術式が報告があり,いずれも周辺虹彩とCZinn小帯および前部硝子体を切除し前房と硝子体腔を確実に貫通させると再発例は少ないことが報告されているが,本症例のような小眼球症例では,それでも再発しやすい可能性があることを考慮する必要がある8).最後に,緑内障手術を併用したことについて考察する.本症例では,隅角癒着解離術と眼内法による線維柱帯切開術を併用した.両眼とも,術中に周辺虹彩前癒着を認めていたため,隅角癒着解離術は行う必要があると考えられた.また,隅角癒着解離術のみでは眼圧下降が不十分な可能性もあり,線維柱帯切開術を併用したところ安定した眼圧下降が得られた.なお,本症例のように小眼球で悪性緑内障を発症したときは眼内レンズの前方偏位に伴って等価球面度数が近視化するため,自覚的な変化に気付きやすいことをあらかじめ患者に説明しておくことで,治療の遅れを回避できると思われる.CIII結論真性小眼球症は,水晶体再建術に前部硝子体切除と後.切開および周辺虹彩切開を施した後でも線維膜の増殖により悪性緑内障を発症することがあり,前房と硝子体腔を確実に交通させることが重要である.利益相反:崎元晋,FIV:大塚製薬松下賢治,PI:メニコン西田幸二,FIV:HOYA,大塚製薬,参天製薬,メニコン,ロート製薬,レイメイ該当なし(林有紀,臼井審一,谷川彰,河本晋平,岡崎智之,藤野貴啓,河嶋瑠美,丸山和一)文献1)CarricondoCPC,CAndradeCT,CPrasovCLCetal:Nanophthal-mos:ACreviewCofCtheCclinicalCspestrumCandCgenetics.CJOphthalmolC2018:2735465;doi:10.1155/2018/2735465,C20182)YangCN,CJinCS,CMaCLCetal:TheCpathogenesisCandCtreat-mentCofCcomplicationsCinCnanophthalmos.CJCOphthalmolC2020:6578750.Cdoi:10.1155/2020/6578750,C20203)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:85-177,C20224)XuCQQ,CWangCWW,CZhuCJCetal:AnCunusualCcaseCofCmalignantCglaucomaCwithCciliaryCdetachment.CIntCJCOph-thalmolC14:1988-1992,C20215)SadeghiCR,CMomeniCA,CFakhraieCGCetal:ManagementCofCmalignantCglaucoma.CJCCurrCOphthalmolC34:389-397,C20236)DebrouwereCV,CStalmansCP,CVanCCalsterCJCetal:Out-comesCofCdi.erentCmanagementCoptionsCforCmalignantglaucoma:aCretrospectiveCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC250:131-141,C20127)DaveCP,CRaoCA,CSenthilCSCetal:RecurrenceCofCaqueousCmisdirectionCfollowingCparsCplanaCvitrectomyCinCpseudo-phakicCeyes.CBMJCCaseCRepC2015:bcr2014207961.doi:C10.1136/bcr-2014-207961,C20158)PakravanCM,CEsfandiariCH,CAmouhashemiCNCetal:Mini-vitrectomy;aCsimpleCsolutionCtoCaCseriousCcondition.CJOphthalmicVisResC13:231-235,C2018***

基礎研究コラム:87.線維柱帯細胞の貪食能促進を介した眼圧制御機構におけるapoptosis inhibitor of macrophage(AIM)の役割

2024年8月31日 土曜日

線維柱帯細胞の貪食能促進を介した眼圧制御機構における根本穂高apoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)の役割東京大学医学部眼科貪食およびapoptosisinhibitorofmacrophage(AIM)とは生体内に発生した不要物は,貪食細胞により不要物であると認識されることで貪食,除去されます.死細胞やダメージ関連分子パターンなどの不要物は,表面に不要物であることを示す目印を発現しており,周囲の貪食細胞はこの目印によって不要物であることを認識します.この機構はCeat-mesignalとよばれていますが,近年Ceat-mesignalを介した体内のスカベンジシステムに重要な役割をもつことが注目されている組織マクロファージが産生し,血液中を循環している蛋白質がCAIM(遺伝子名CCD5L)です.AIMの作用として,マクロファージのアポトーシスを阻害する作用が最初に同定されましたが,さらに死細胞や不要物の除去に重要な役割を果たすことで腎障害などさまざまな疾患の抑制に寄与することが近年注目されています(図1)1).AIMはメイン受容体であるCCD36に結合すると貪食細胞内にエンドサイトーシスされることや,死細胞から構成されるCdebris表面に強く結合するという特徴があります.そのため,debrisに結合したCAIMを貪食細胞のCCD36が認識し,AIMに結合したCdebrisも一緒に細胞内に取り込まれることで貪食がうながされると考えられています.眼の領域でのAIMの作用AIMは腎臓,心臓,肝臓,肺,脳,脂肪組織などでさまざまな病態への関与が報告され注目されてきましたが,眼疾患との関連はほとんど報告されていませんでした.そこで筆者らのグループでは緑内障病態において,房水流出機能に重要な役割を果たしていると示唆されている線維柱帯細胞の貪食能について,AIMの貪食促進作用が関与しているかを検討しました2).その結果,AIMは線維柱帯細胞の貪食能を促進することで線維柱帯のクリアランスを維持し,房水流出抵抗を抑えることで眼圧下降に寄与することが明らかになりました(図2)3).今後の展望AIMは現在ヒト・動物の領域で創薬開発が行われており,ネコの腎疾患に対しては臨床治験が行われています.本研究により線維柱帯細胞の貪食能の促進という新しい治療アプローチによる緑内障治療の可能性が今後期待されます.文献1)新井郷子,宮﨑徹:急性腎障害の治癒における血中蛋白質CAIMの役割.医学のあゆみ259:949-950,C20162)NemotoH,HonjoM,AiharaMetal:ApoptosisinhibitorofCmacrophages/CD5LCenhancesCphagocytosisCinCtheCtra-becularCmeshworkCcellsCandCregulatesCocularChyperten-sion.JCellPhysiol238:2451-2467,C2023コントロールAIM添加群1h6h図2AIMのヒト線維柱帯細胞における貪食促進作用ヒト線維柱帯細胞の初代培養に,ヒト虹彩色素上皮細胞の死細胞から作製したCdebris(マゼンタ)を加え,貪食能を検討した.コントロール群に対し,AIM添加群ではヒト線維柱帯細胞によるCdebris貪食が促進された.上段は投与後C1時間,下段投与後C6時間.(文献C2より引用)(107)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C9790910-1810/24/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:255.LASIK既往眼に対する硝子体手術時の注意点(中級編)

2024年8月31日 土曜日

255LASIK既往眼に対する硝子体手術時の注意点(中級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにLASIK(laserinsitukeratomileusis)既往眼に硝子体手術を施行する際の術中合併症としては,角膜フラップの偏位や離解などが報告されている1)が,角膜混濁が生じて眼底の視認性に支障をきたすこともある.C●症例提示39歳,男性.左眼の裂孔原性網膜.離で過去にC2回強膜バックリング手術を受けたが,再.離をきたしたため,バックルの置き直しと超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,硝子体手術を施行した.後部硝子体は未.離でトリアムシノロン塗布後に後極から周辺に向けて人工的後部硝子体.離を作製した(図1).その後,強膜を圧迫しながら周辺部の硝子体を切除したが,その頃から角膜混濁(角膜上皮浮腫+角膜フラップと実質間の層間の混濁)が出現し,眼底の視認性が低下した(図2).そのまま気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,輪状締結術,シリコーンオイルタンポナーデはなんとか施行可能であった.C●LASIK既往眼における硝子体手術中の角膜混濁武田らはCLASIK既往眼に生じた外傷性網膜.離例に対して硝子体手術を施行したところ角膜上皮浮腫をきたし,角膜上皮擦過時に角膜フラップの離解をきたしたC1例を報告している2).神前らは強膜バックリング手術と硝子体手術を施行した両眼性の網膜.離例において,術後経過中に角膜フラップのびまん性浮腫と層間の混濁がみられたC1例を報告している3).Chaudhryらは強膜裂傷・眼内異物に対する硝子体手術中に,早期より角膜上(105)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1術中所見(1)人工的後部硝子体.離作製時にはまだ角膜は透明性を維持しており(a),眼底の視認性は良好であった(b).図2術中所見(2)強膜を圧迫しながら周辺部硝子体切除を施行した頃から角膜混濁(角膜上皮浮腫+角膜フラップと実質間の層間の混濁)が出現し(a),眼底の視認性が低下した(b).皮浮腫による視認性低下が生じ,上皮擦過を施行したところフラップが離解した症例を報告している4).LASIK既往眼では,硝子体手術時に角膜になんらかのストレスが加わる場合に角膜上皮浮腫や層間混濁の生じる頻度が高くなる可能性があり,術中は角膜にできるだけ侵襲を加えないことが重要である.また,上皮擦過を余儀なくされる場合には,フラップにストレスを加えないように必要最小限の擦過に留めるなどの配慮が必要である.文献1)SakuraiE,OkudaM,NozakiMetal:Late-onsetlaserinsitukeratomileusis(LASIK).apdehiscenceduringretinaldetachmentCsurgery.CAmCJCOphthalmolC134:265-266,C20022)武田憲夫,八代成子,上村敦子ほか:硝子体手術時におけるCLaserCInCSituKeratomileusis術後眼の問題点.眼科手術C18:583-585,C20053)神前賢一,佐野雄太,戸田和重ほか:LaserCinCsituCker-atomileusis施行眼に発症した両眼網膜.離の検討.日眼会誌108:566-571,C20044)ChaudhryCNA,CSmiddyWE:DisplacementCofCcornealCcapCduringCvitrectomyCinCaCpost-LASIKCeye.CRetinaC18:554-555,C1998あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024977

考える手術:32.開放性眼外傷の手術

2024年8月31日 土曜日

考える手術.監修松井良諭・奥村直毅開放性眼外傷の手術橋田正継町田病院鈍的眼外傷は救急眼科外来でしばしば遭遇する疾患で,その外的圧力の状況によってさまざまな程度の損傷をきたす.眼球壁に損傷を伴う場合は開放性眼外傷と分類され,Kuhnら1)によって細分されている.本稿では強膜裂傷に絞って治療戦略を述べる.まず,損傷のレベルを確認する際に強膜裂傷が細隙灯顕微鏡で確認できなくても,深い前房,低眼圧や出血性結膜浮腫,顕著な硝子体出血などが認められる場合は強膜裂傷を起こしている可能性が高いので,超音波,CT,MRIなどの画像診断によって眼球の形態や網膜硝子体の状態を把握する.強力予後の向上につながる.強膜裂傷には硝子体出血が必発であるので硝子体手術も併施するが,同時に行うか後日に行うかは治療施設の方針による.強膜裂傷はほとんどの場合で網膜裂孔を伴い,しばしば網膜.離も合併しているので,液体パーフルオカーボンを用いることが多く,ガスまたはシリコーンオイルでタンポナーデすることになる.術後に房水産生が低下すると眼球癆に至る可能性が高くなるので,毛様体を牽引する硝子体をなるべく残さないように周辺処理を丁寧に行う.近年発達している広角観察系やシャンデリア照明を用いて良好な術野を保つことが肝要だが,前眼部の状態が不良であるとheadsupシステムの有効性が十分活用できないことがある.内視鏡操作に慣れている術者はその利点を活用して経瞳孔的に観察困難な部位の硝子体処理を行う.これらの治療を完遂しても網膜前膜が続発することが多いので,二期的な対応をとることも念頭におく必要がある.聞き手:外傷患者が受診した際に,眼瞼腫脹があり診察みて,測定が不能であればその事実を記録するようにしが困難な場合は,どのように診断をすればよいでしょうます.小児では正確な情報が得られないこともあるのか.で,受傷時に周囲にいた人から情報を集めて眼内異物の橋田:外傷がどういう経緯で発生したかを診療録に残す有無も予想しながら画像診断を行います.画像診断とし必要があります.後で訴訟になった際には第三者行為でて超音波検査は角膜裂傷がない場合に用います.眼球破受傷したのか,初診時の視力,眼圧が争点になる可能性裂が疑われる際には眼瞼上から侵襲を最小限に,短時間があるので,開瞼が困難でも手動弁や光覚弁以上の視力で行うようにします.工事現場などでの爆発では,眼窩があったかどうか,眼圧測定は最小限の侵襲で測定を試内や眼内に異物が残っている可能性があります.CTは(103)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C9750910-1810/24/\100/頁/JCOPY考える手術眼内異物が疑われる場合に用いますが,ガラスやプラスチックおよび木片の検出能はやや劣ります.小児の場合は被曝線量のリスクを勘案して撮影を検討します.MRIは軟部組織の描写に優れているので,磁性異物がなければ,眼内のみならず眼窩内の状態を評価するためにとても有用です.聞き手:手術は緊急となると思いますが,麻酔はどのようにするとよいでしょう.橋田:一般に全身麻酔のほうが患者側も術者側もゆとりをもって治療が可能です.通常のバックル手術も全身麻酔で行う施設もありますので,それぞれの施設の方針によって決定します.全身麻酔が容易にかけられないクリニックでは局所麻酔で試みることになります.私はこれまですべて局所麻酔で対応してきましたが,その場合は眼内組織をなるべく脱出させないために硝子体圧を上昇させない工夫が必要で,結膜に麻酔薬を浸潤させて強膜を露出しながら最小限の後部CTenon.下麻酔を行います.前房水を穿刺して適宜眼圧を下げることも併用します.聞き手:強膜裂傷がどの象限に起こっているかわからないことがありますが,創部を探す際のコツなどはありますか.橋田:筋肉の付着部は好発部位です.過去に内眼手術を受けたことがある場合には切開創付近が破裂していることも多いので,そのつもりで結膜を.離していきます.高橋らの報告2)によれば強膜裂傷は主に上半分の象限に好発していて,私もほとんど耳上側に裂傷を発見してきました.聞き手:縫合が困難な深い強膜裂傷はどうすればよいでしょうか.橋田:赤道部より深い部位の縫合は強膜をより圧排する必要があり,眼内の組織に対する侵襲が強くなります.縫合が困難な深部創は縫合せず,組織が瘢痕化するのを待って硝子体手術を二期的に行うべきです.聞き手:強膜縫合後は硝子体手術を同時に行うのか二期的に行うのか,どちらがよいでしょうか.橋田:強膜縫合と同時に一期的に硝子体手術を行うほうが網膜.離の治療が速やかに行えるというメリットがありますし,術後に増殖硝子体網膜症の発生率が低いという報告3)もあります.しかし,受傷後すぐに硝子体手術を行う際には出血がなかなか止まらないことがあり,術C976あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024野の視認性を保ち止血するために空気置換下で操作するなどの工夫が必要です.網膜下出血が多いと血腫の除去に大きな網膜切開が必要になりますが,二期的な硝子体出血では液体パーフルオカーボン(PFCL)で圧排して小さな裂孔から除去できることがあります.一期的に行う場合にはトータルの手術時間が長くなるので,全身麻酔下で行うほうがよいでしょう.二期的に行う場合は硝子体手術までに眼内の状況を確認する時間的なゆとりがあることと,角膜など前眼部の状態が改善したり,眼内の出血が止まっていることも期待できるメリットがあります.また,上脈絡膜出血を排除するならC2週間ほど溶血するのを待つと排除が容易になります.聞き手:シリコーンオイルの取り扱いについて注意点はありますか.橋田:強膜破裂をきたした外傷例では硝子体手術時にシリコーンオイルをタンポナーデすることが多くなります.上脈絡膜出血がある場合はC3,4週間後にこの隆起が平坦化してきますので,オイルが相対的に足りなくなってタンポナーデ効果が減弱します.この頃に周辺に残存した硝子体の悪影響が顕性化することもありますので,抜去や必要に応じた追加処理を検討する時期になります.低眼圧が続く場合や視力改善が期待できないケースではオイル抜去をしないことがありますが,永続的に留置する場合には,患者にこのオイルがごくまれに脳室に流れ出る可能性を説明しておきます.とくに高眼圧になった場合に合併するようで,過去の報告4)では薬物療法でコントロールが可能な程度の頭痛を起こすとされていて,腹腔脳室シャントまで必要になったケースはまれです.偶然CMRIを撮影して脳室に流出したオイル滴が発見されるケースもありますので,そのような可能性をあらかじめ説明しておくとトラブルの予防になるでしょう.文献1)KuhnF,MorrisR,WitherspoonCDetal:Astandardizedclassi.cationCofCocularCtrauma.COpthalmologyC103:240-243,C19962)高橋光生,勝田聡,横井匡彦ほか:手稲渓仁会病院における鈍的外傷による眼球破裂の治療成績.あたらしい眼科C33:313-318,C20163)HanL,JiaJ,FanYetal:Thevitrectomytimingindividu-alizationCsystemCforCoculartrauma(VTISOT)C.CSciCRepC30:12612,C20194)CaoJL,BrowneAW,Cli.ordTetal:IntravitrealsiliconeoilCmigrationCintoCtheClateralCcerebralCventricles.CJCVitreo-retinDisC3:466-473,C2019(104)

抗VEGF治療セミナー:ラニビズマブとラニビズマブBSの利点

2024年8月31日 土曜日

●連載◯146監修=安川力五味文126ラニビズマブとラニビズマブBSの利点若月優日本大学病院眼科2021年に眼科領域では初のバイオシミラー(BS)となるラニビズマブCBSが発売された.本稿では先行品であるラニビズマブとラニビズマブCBSの利点,BSの現状,そしてCBSがもたらす未来への期待について加齢黄斑変性を中心に紹介する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)をはじめ,糖尿病黄斑浮腫,網膜静脈閉塞症(retinalCveinocclusion:RVO),病的近視などに対する抗CVEGF治療は必要不可欠であるが,単回治療で終了することは少なく,多くが複数回の継続治療が必要とされる.抗CVEGF薬は薬剤費が高く患者の経済的負担が問題視されている.2021年にラニビズマブのバイオシミラー(biosimilar:BS)が臨床使用可能となり,薬剤費軽減が期待されている.本稿では先行品であるラニビズマブおよび後続品のラニビズマブCBSの有用性についてCAMDを中心に概説する.ラニビズマブの歴史2009年にラニビズマブ(ルセンティス)がわが国で承認され,AMDに対する治療指針は大きく変わった.それまでのCAMD治療はベルテポルフィンを用いた光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)のみであり,ポリープ状脈絡膜血管症に対して短期では視力の維持の効果が得られたが1),それ以外のCAMDへの予後改善効果は限定的であった.ラニビズマブの登場により治療前の視力が維持・改善できるようになり,PDTからラニビズマブ硝子体内注射へと治療の第一選択が変わった.その後もいくつかの大規模試験でラニビズマブの有用性が示され,AMDのみならずさまざまな疾患で治療の選択肢となっている.ラニビズマブの利点現在わが国で使用できるのはラニビズマブ,アフリベルセプト,ブロルシズマブ,ファリシマブ,ラニビズマブCBSである.創薬構造が異なるため一長一短があるが,患者背景や病態に合わせた治療が可能となった.ラニビズマブの有用性は既知であるが,その利点としては毎月投与ができ,全身リスクが少ないことである2).(101)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPYMacularneovasculopathy(MNV)の滲出を完全に抑えるだけでなく,いかに治療間隔を延ばせるかという目的から作用期間の長い薬剤が出てきた一方,導入期以降に毎月投与が可能な薬剤はアフリベルセプトとラニビズマブのみである.毎月投与は費用面では欠点になりえるが,treatandextend治療において細かい調整ができることはメリットともいえる.抗CVEGF治療では眼局所の合併症はもちろん,血中VEGF濃度減少による全身への影響も懸念される.抗VEGF薬の脳心血管イベント発生率に関してはさまざまな報告があり,メタアナリシス3)の解析や保険データの解析4)では抗CVEGF薬の種類による発生率に差はないと報告されている.しかし,投与後のCVEGFの血中濃度を比較した解析では,ラニビズマブがアフリベルセプトより注射後の血中CVEGF濃度が早く回復したことが示され2),全身リスクの観点においてはラニビズマブが現存の抗CVEGF薬の中で有利な可能性がある.BSとジェネリック医薬品の違いBSはジェネリック医薬品(以下CGE薬)と同様に後発医薬品ではあるが,先発品と同一分子ではないという違いがある.GE薬は低分子医薬品のため先発品と同一の分子構造を合成できるが,BSはその構造の複雑性から先発品と同一の分子合成は困難であり,医薬品として承認使用されるためには,非臨床試験をクリアし,臨床試験でも先行品との安全性,有効性の比較検証が必要である5).それゆえ薬価は先行品の約C7割(GEは約半額)と高めだが,複数回の治療を考えると金銭的負担の軽減は大きな利点である.またC2024年の診療報酬改定でCBSの使用促進に向けバイオ後続品使用体制加算が盛り込まれ,今夏には使用による点数加算も見込まれている.経済的負担の軽減わが国の眼科医療費に占める抗CVEGF薬の割合は年々増加しており,今後も団塊世代の高齢化によるあたらしい眼科Vol.41,No.8,2024973表12024年4月1日現在わが国で承認されている抗VEGF薬とそれぞれの薬剤料,おおよその患者負担額薬剤料手技料3割負担*2割負担*1割負担*アフリベルセプト(アイリーア)13,729点580点42,930円18,000円14,310円ラニビスマブ(ルセンティス)10,323点580点32,710円18,000円10,900円ブロルシズマブ(ベオビュ)13,095点580点41,030円18,000円13,680円ファリシマブ(バビースモ)16,389点580点50,910円18,000円16,970円ラニビズマブ(ラニビスマブBS)7,428点580点C24,020円16,020円8,010円*手技料を含んだおおよその自己負担額.AMD罹患率,重症率の上昇に伴う抗CVEGF薬のさらなる市場規模拡大も予測される.また,患者が金銭的理由で治療を自己中断し,視力予後が悪化するケースもあり,経済的負担軽減は大きな課題である.滲出型CAMDにおいてラニビズマブ治療群(治療群)と,積極的に治療せず医学的管理と経過観察のみ(bestCsupportivecare:BSC)群との費用対効果の分析研究6)では,最初は治療群の治療コストのほうが高いものの,長期的には失明に関連した費用コストによりCBSC群のほうが費用が高く,他の抗CVEGF治療薬でも同様であった7).このように抗CVEGF治療は費用面においても長期的には有用である一方,注射を自己中断した患者の半数以上は金銭的負担を理由にあげている8).現在ラニビズマブCBSの適応疾患はAMD,近視性脈絡膜新生血管,糖尿病網膜症,RVOと多岐にわたり,とくに近視やRVOなど若年のC3割負担における費用負担の減少は大きく(表1),ラニビズマブCBSによる治療費削減は患者の治療機会の増加につながり,視力予後向上が期待される.BSの臨床試験現在のところ,日本で行われたラニビズマブCBSの大規模臨床試験は,AMDを対象とした第Ⅲ相比較臨床試験のみである.ナイーブな滲出型CAMDに対してラニビズマブまたはラニビズマブCBSを無作為に,導入C4週ごと(計C3回),12週以降は全被験者にラニビズマブCBSを必要時投与し,52週までのラニビズマブCBS継続投与群およびラニビズマブからの切替え群における有効性・安全性を評価した(PRN期).その結果,比較期における最良矯正視力(bestCcor-rectedCvisualacuity:BCVA)変化量の両群差はC.1.5文字,95%信頼区間は同等性許容域内と同等性が確認され,中心窩網膜厚とCMNV病変面積の変化量,dryretina達成率も両群で同程度であった.PRN期では両群でCBCVA実測値,変化量は経時的に増加し,中心窩網膜厚とCMNV病変面積の変化量,dryretina達成率は,C974あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024ラニビズマブCBSの長期有効性,有害事象発生率に両群差はなく,長期安全性が示されている.おわりにラニビズマブCBSの有効性と費用負担軽減が期待できることが確認できた.今後ラニビズマブ以外の抗VEGF薬のCBSの発売も期待したい.文献1)TanoY;OphthalmicCPDTStudyCGroup:GuidelinesCforCPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.Ce6,C20082)AveryCRL,CCastellarinCAA,CSteinleCNCCetal:SystemicCpharmacokineticsfollowingintravitrealinjectionsofranibi-zumab,CbevacizumabCorCa.iberceptCinCpatientsCwithCneo-vascularAMD.BrJOphthalmol98:1636-1641,C20143)PlyukhovaCAA,CBudzinskayaCMV,CStarostinCKMCetal:CComparativeCsafetyCofCbevacizumab,Cranibizumab,CandCa.iberceptfortreatmentofneovascularage-relatedmacu-lardegeneration(AMD):ACsystematicCreviewCandCnet-workCmeta-analysisCofCdirectCcomparativeCasudies.CJCClinCMedC9:1522,C20204)MaloneyCMH,CPayneCSR,CHerrinCJCetal:RiskCofCsystemicCadverseeventsafterintravitrealbevacizumab,ranibizum-ab,anda.iberceptinroutineclinicalpractice.Ophthalmol-ogyC128:417-424,C20215)厚生労働省:バイオ医薬品とバイオシミラーの基礎知識.C2020.6)柳靖雄,相原由季子,福田敬ほか:脈絡膜申請血管を伴う加齢黄斑変性に対するラニビズマブ,光線力学療法,ペガプタニブナトリウムの対費用効果解析.日眼会誌C115:825-831,C20117)YanagiCY,CFukudaCA,CBarzeyCVCetal:Cost-e.ectivenessCofintravitreala.iberceptversusothertreatmentsforwetage-relatedCmacularCdegenerationCinCJapan.CJCMedCEconC20:204-212,C20178)GomiF,ToyodaR,YoonAHetal:Factorsofanti-vascuC-larCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCwithdrawalCinCpatientsCwithCneovascularCage-relatedCmacularCdegenera-tion:Implicationsforimprovingpatientadherence.JClinMedC10:3106,C2021(102)

緑内障セミナー:光干渉断層計による緑内障スクリーニングの可能性

2024年8月31日 土曜日

●連載◯290監修=福地健郎中野匡290.光干渉断層計による緑内障スクリーニング寺内稜東京慈恵会医科大学眼科学講座の可能性緑内障の早期発見は重要な課題であるが,未だに有効な緑内障スクリーニング法は確立されていない.筆者らは人間ドックで実施される光干渉断層計検査から緑内障多変量予測モデルを開発した.近年は人工知能(AI)を活用した予測モデルの開発にも注目が集まっており,これら診断システムの社会実装によって緑内障への早期治療介入が進むことが期待される.●はじめに緑内障の視野障害は自覚症状に乏しく,不可逆的に進行するが,早期に治療介入することで視機能低下を抑制できる.そのため,眼科検診を活用して早期に緑内障を発見することは重要である.多治見スタディ(2004年)では緑内障の約C90%が未診断であると報告されたが1),16年後のC2020年に実施された調査においても,未診断率はC78%と依然として高いことが示された2).このことから緑内障早期発見・早期治療の課題解決は急務であり,眼科検診を活用した緑内障スクリーニング法の確立が望まれる.本稿では光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いて緑内障多変量予測モデルを開発した筆者らの取り組みを紹介する.C●健診へのOCT導入の期待健康診断・人間ドックでは眼科検査として視力・眼圧・眼底画像検査が実施されるが,このうち緑内障判定に用いられるのはおもに眼底画像である.しかし,健診における眼底画像読影は,全国C1万名程度の眼科専門医ではすべてを担当することがむずかしい現状や,眼科読影医を雇用するコストの問題から,健診施設に所属する眼科医以外の医師が読影するケースも少なくない.眼底画像による緑内障判定は読影医ごとに精度が大きくばらつくことが示唆されており3),眼科検診における緑内障スクリーニングは精度の問題を抱えている.近年,測定法の簡便化や測定時間の短縮など,健診の検査環境に適合したCOCTが開発されており(図1),導入する健診施設が増加している.筆者らは有効な緑内障検診の実現に向けてCOCTが重要な役割を果たすと考え,OCTを活用した緑内障多変量予測モデルの開発を試みた.C●OCTによる緑内障スクリーニングの可能性筆者らの研究では4),2016年に人間ドックでCOCT検(99)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY図1トプコン製Maestro2の外観タッチパネル操作による自動撮影が可能であり,検査時間は左右眼合わせてC1分程度である.健康診断の検査環境に適合しており健診施設への導入が進んでいる.査を受けたC7,572例から緑内障と正常をC284眼ずつランダム選択した症例対象研究により,多重ロジスティック回帰分析を用いて予測モデル(スコア:0.100点)を開発した.次にC2018年にCOCTを施行したC6,006例に対して予測モデルを適用した.この中からランダム選択したC723眼に対してC4名の眼科専門医が緑内障判定を実施しモデルの妥当性検証を行った.さらにC2020年,データのうちC66例C129眼に対してCOCT検査・Hum-phrey視野検査を用いた緑内障診断を実施したうえで,モデルの精度検証を追加した.その結果,もっとも予測性能が高いモデルはCAUC-ROC0.97(95%信頼区間C0.96.0.98,感度C0.93,特異度C0.91)であった.高リスクスコア群(90点以上:集団のC6.2%が該当)で陽性的中度がC90.8%,低リスクスコア群(49点以下:集団のC85.2%が該当)で陰性的中度がC88.2%であった.リスクスコアのカットオフ値をC100点中C90点に設定した場合,緑あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024971acSTSSNqSμmTSNS200TNqTqN100TINIITIINqltqluTSNITbSSS01020304050607080910010203040506070809100102030405060708091001010102020203SNST0303SNySTy0404SNxSTx04050505NTNTNT0606060707INxITx07INyITy08INIT0808090909101010IIIModel1Model2Model3図2緑内障多変量予測モデルの開発におけるパラメータ構築OCT検査によって取得される網膜厚情報(Ca:視神経乳頭周囲,b:黄斑部)を統合し独自のパラメータを作成した.TSNITplotではCdoublehumpの上下差に着目した(Cc).内障診断の感度はC0.85,特異度はC0.91であった.た緑内障判定モデルの作成や,複数検査を組み合わせた本研究ではCOCTから取得される網膜厚パタメータのアルゴリズムの再構築が有効かもしれない.現在,本モ構築に工夫を加えている.視神経乳頭周囲と黄斑部の網デルはトプコン製COCTに試験実装されており,社会実膜厚情報はエリアを細分化せずに統合することで予測モ装に向けた取り組みを進めていく予定である.デルの精度が向上した(図2a,b).また,TSNITCplotにおけるCdoublehumpの上下差に注目することが更な文献る精度向上に有益であった(図2c).OCTを用いた緑内1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-障判定モデルの研究として,Brusiniは5),視神経乳頭CmaryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimi周囲網膜神経線維層厚の上下差に注目し高精度なモデルCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C2004を作製しており,筆者らの知見と矛盾しない.2)YamadaCM,CHiratsukaCY,CNakanoCTCetal:DetectionCofCglaucomaCandCotherCvision-threateningCocularCdiseasesCinC●課題と展望theCpopulationCrecruitedCatCspeci.cChealthCcheckupsCinCJapan.ClinEpidemiolC12:1381-1388,C2020緑内障スクリーニング法の確立は眼科領域における重3)Wada-KoikeCC,CTerauchiCR,CFukaiCKCetal:Comparative要課題であり,緑内障診断の試みはこれまでにも盛んにCevaluationCofCfundusCimageCinterpretationCaccuracyCinCglaucomaCscreeningCamongCdi.erentCphysicianCgroups.行われてきた.近年はCAIを用いた緑内障診断にも注目CClinOphthalmolC18:583-589,C2024が集まり,眼底画像CAIは良好な診断能力を示してい4)FukaiCK,CTerauchiCR,CNoroCTCetal:Real-timeCriskCscoreる6).本研究はこれらCAIモデルと同等の精度を達成しCforCglaucomaCmassCscreeningCbyCspectralCdomainCopticalているものの,いくつかの課題を残している.近視眼はCcoherencetomography:DevelopmentCandCvalidation.リスクスコアが低く算出される傾向にあり偽陰性例が生CTranslVisSciTechnolC11:8,C20225)BrusiniP:OCTGlaucomaStagingSystem:anewmeth-じるため,モデルの判定精度を低下させる要因となっCodforretinalnerve.berlayerdamageclassi.cationusingた.また,OCT検査でしばしば認められる中間透光体spectral-domainOCT.Eye(Lond)C32:113-119,C2018混濁による信号強度低下や固視不良による撮像不良例は6)LiZ,HeY,KeelSetal:E.cacyofadeeplearningsys-temCforCdetectingCglaucomatousCopticCneuropathyCbased除外しため,実臨床での診断精度は低下すると推測されConCcolorCfundusCphotographs.COphthalmologyC125:1199-る.これらの課題を克服するためには,近視眼に特化しC1206,C2018C972あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024(100)

屈折矯正手術セミナー:レーシック後の白内障手術アップデート

2024年8月31日 土曜日

●連載◯291監修=稗田牧神谷和孝291.レーシック後の白内障手術アップデート神谷和孝北里大学医療衛生学部視覚生理学レーシック後の白内障手術は眼内レンズ(IOL)度数計算の予測性が低いことが知られているが,最新のCIOL度数計算式は精度がかなり向上しており,術前データを用いた方法はあまり使用されなくなっている.BarrettTrue-K式が急速に支持を伸ばしており,Haigis-L式やCASCRSによるCPostCRefractiveCIOLCalculatorが追随している.レーシック後の診断を確実に行わないとリフラクティブサプライズを生じやすくなるので,注意が必要である.C●屈折誤差の原因国内におけるレーシック(laserinCsituCkeratomileu-sis:LASIK)手術件数は大幅に減少しているが,それでもなお年間C1万件以上施行されている.LASIK後の白内障手術年齢は通常より約C15歳近く早く1),患者は確実に年齢を重ねていることから,今後白内障手術を受けるCLASIK既往患者に遭遇することは想像にかたくない.わが国では眼内レンズ(intraocularlens:IOL)度数計算にCSRK-T式やCBarrettCUniversalII式を用いることが多いが2),LASIK後のCIOL度数計算は予測性が低く,通常白内障眼と同様に算出するとリフラクティブサプライズとよばれる大きな屈折誤差(多くは遠視化)を生じやすい.もちろん患者自身が自己申告をすればLASIK後であることの診断は容易であるが,LASIKを手術と考えていない患者や高齢化に伴い認知症を伴う患者においては,手術既往そのものが不明確となることも予想される.LASIK術後のCIOL度数計算における術後屈折誤差の原因を以下にあげる.第一に,角膜屈折力分布が中央で不均一となり,ケラトメータで測定する傍中心部と中央部における角膜屈折力の差が大きくなる.第二に,角膜前後面の屈折力の比率が変化しているにもかかわらず,ケラトメータでは角膜前面のデータのみから角膜全屈折力を推定するため,通常の換算屈折率を用いると角膜屈折力が過大評価される.第三に,フラット化した角膜屈折力から術後前房深度を推定すると,前房深度はほとんど変化しないにもかかわらず,予測前房深度が浅く計算され,遠視化を生じる.第四に,製造過程におけるCIOL度数そのものの誤差があげられる3,4).C●LASIK後のIOL度数計算現在CLASIK後のCIOL度数計算方法は,術前の角膜屈(97)折力を必要とする方法とそうでない方法の二つに分類される.日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)による2023年CClinicalSurvey(複数回答可)によると2),日本ではCBarrettTrue-K式が急速に支持を伸ばし,以下Haigis-L式,米国白内障屈折矯正手術学会(AmericanSocietyCofCColonCandCRectalSurgeons:ASCRS)のPostRefractiveIOLCalculatorと続いており,術前データが不要なものが主流となっている(図1).LASIK後の白内障手術は必ずしも同一施設で行われるとは限らず,長期間経過していると術前データが得られないことも多い.従来,他施設で施行した患者については問い合わせて術前データを取得することが推奨されていたが,最新のCIOL度数計算式は精度がかなり向上しており,術前の角膜屈折力や自覚屈折度数を用いた方法は使用機会が減っている5).現在国内でもっとも頻用されているCBarrettTrue-K式は,厚肉レンズを用いた近軸光線による計算式である6).Gaussの理論眼球モデルに基づいており,計算式の構造の詳細は明かされていないが,眼軸長,ケラトメータ値,前房深度が必要であり,水晶体厚,角膜横径は任意入力となっている.IOL定数は,度数や種類に依存するレンズファクターとよばれる独自の定数を使用している.屈折矯正量を使用する方法もあるが,白内障手術前のデータのみで算出することも可能である.Bar-rettTrue-K式は数多くの生体計測装置に搭載されているが,アジア太平洋白内障屈折手術学会(Asia-Paci.cCAssociationCofCCataractCandCRefractiveSurgeons:APACRS)のウェブサイト(図2)上でも算出できる.Haigis-L式は,術後角膜屈折力,眼軸長,前房深度のデータから算出する方法であり,光学式眼軸長測定装置IOLMaster(CarlCZeissMeditec社)に搭載されている6).術後前房深度の予測に角膜屈折力だけでなく,術前の前房深度も使用している.ASCRSによるCPostあたらしい眼科Vol.41,No.8,20249690910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2APACRSのWeb上にあるBarrettTrueKformulahttps://calc.apacrs.org/Barrett_True_K_Universal_2105/上の中段にあるCMyopicLASIKやCHyperopicLASIKのタグを選択する.80%70%60%50%40%30%20%10%0%73.0%35.8%28.4%11.2%10.211.2%%7.4%5.1%2.2%1.9%おもに用いているIOL度数計算法(複数回答可)図1わが国におけるLASIK後のIOL度数計算式の使用割合JSCRSによるC2023年のアンケート調査結果.BarrettTrue-K式がもっとも多く,以下Haigis-L式,ASCRSによるPostRefractiveIOLCalculatorと続く.(文献C2より改変引用)図3ASCRSによるPostRefractiveIOLCalculator入力可能な項目に応じて推奨CIOL度数の平均値,最小値,最大値が表示される.(https://ascrs.org/tools/post-refractive-iol-calculator)RefractiveIOLCalculatorは,とくに近年精度が向上している.近視・遠視CLASIK後,photorefractiveCkera-tectomy(PRK)後,放射状角膜切開術(radialCleratptp-my:RK)後の白内障手術のCIOL度数計算にも対応している.入力可能な項目に応じてさまざまなCIOL度数計算結果をまとめて,IOL度数の平均値,最小値,最大値C970あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024が表示され,バラつきなども理解しやすい(図3).随時アップデートされており,偏心照射などの特殊な症例を除けば,予測性は向上している.術後トラブルリスクを考慮に入れて唯一学会が推奨している式であることからも,できる限り確認しておくべきであろう.もともとCLASIK後の患者は裸眼視力(とくに遠方視)に対する要求度が高く,屈折誤差に対する許容範囲も狭い.多焦点CIOLを考慮する場合はさらにハードルが上がる.患者に対して十分な説明を行い,場合によってはタッチアップ,IOL交換,ピギーバックCIOLなどの二次的な手術の必要性についても説明しておくことが望ましい.文献1)IijimaCK,CKamiyaCK,CShimizuCKCetal:DemographicsCofCpatientsChavingCcataractCsurgeryCafterClaserCinCsituCker-atomileusis.JCataractRefractSurgC41:334-338,C20152)佐藤正樹,神谷和孝,小島隆司ほか;JSCRSデータ解析委員会:2023CJSCRSCClinicalCSurvey.CIOLC&CRSC37:358-381,C20233)神谷和孝:LASIK眼の眼内レンズの選び方,臨眼C70:C48-57,C20164)神谷和孝:最新の眼内レンズ度数計算,眼科グラフィックC10:142-146,C20215)PantanelliCSM,CLinCCC,CAl-MohtasebCZCetal:IntraocularClenspowercalculationineyeswithpreviousexcimerlasersurgeryformyopia:AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology128:781-792,C20216)WangCL,CTangCM,CHuangCDCetal:ComparisonCofCnewerCintraocularClensCpowerCcalculationCmethodsCforCeyesCafterCcornealCrefractiveCsurgery.COphthalmologyC122:2443-2449,C2015(98)

眼内レンズセミナー:Nd:YAGレーザーで近視化の改善をみた液状後発白内障の前眼部光干渉断層計所見

2024年8月31日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋447.Nd:YAGレーザーで近視化の改善をみた桶本孟水戸毅液状後発白内障の前眼部光干渉断層計所見金沢医科大学眼科学講座液状後発白内障はCcapsularblocksyndrome(CBS)の晩発型に分類されており,ときに近視化を生じる.近視化を説明しうる眼内レンズの前方移動は通常認めないため,屈折率が異なる液状後発白内障と硝子体腔の間に,新たに凸レンズ状の面屈折が形成されることが,近視化の要因の一つであると考えられる.●はじめに白内障手術および眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入術後,IOL後面と水晶体後.の間に乳白色の液状物質が貯留することがあり,液状後発白内障とよぶ.液状後発白内障はCcapsularCblocksyndrome(CBS)の晩発型に分類されており,ときに近視化を生じるとされているが,そのメカニズムはわかっていない.今回,近視化を伴う液状後発白内障に対してCNd:YAGレーザー治療を行ったところ,治療後に近視の改善をみた症例を経験したので,前眼部光干渉断層計(anteriorseg-mentCopticalCcoherencetomography:AS-OCT)にて三次元画像解析を行った1).C●症例62歳,男性.4年前に左眼黄斑上膜に対し硝子体・白内障同時手術を施行.数カ月前から左眼の眼鏡の度数が合わなくなり受診した.左眼はCIOL後面と水晶体後.の間に乳白色の混濁を認めたため,液状後発白内障と診断し,同日CNd:YAGレーザー治療を行い,液状混濁は硝子体腔に拡散した(図1).治療前の左眼視力は0.1(1.2C×sph.7.0D(cly.0.5DAx80°)であったが,治療後はC0.1(1.5C×sph-5.5D(cly.1.0DAx70°)と近視の改善をみた.治療後のCAS-OCTでは凸レンズ形状の液状後発白内障の消失を認めたが,治療前後のCIOLの深さの変化はC0.05Cmm程度にとどまった(図2).C●CapsularblocksyndromeCBSには,白内障手術中の灌流液の過量かつ急速なハイドロダイゼクションなどにより水晶体が前方に移動して高眼圧を生じる術中型,術後C2週間以内に生じる早発型,そして術後平均C3.8年で生じる晩発型(液状後発白内障)がある2.3).早発型は,術後に.内に残存した粘弾性物質や水晶体皮質の存在による浸透圧の関係で,水晶体.内の後方空間に液状物質が貯留し膨化するため浅前房をきたし,近視化や眼圧上昇を認めることがある.図1Nd:YAGレーザー前後の前眼部写真a:治療前.IOL後面と水晶体後.の間に液状後発白内障を認める.Cb:Nd:YAGレーザー治療後.液状混濁は硝子体腔に拡散した.(95)あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C9670910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2Nd:YAGレーザー前後の前眼部三次元画像解析治療前のCIOLの深さはC4.553Cmm(水平断)とC4.530Cmm(垂直断)であり,治療後はC4.607Cmm(水平断)とC4.559Cmm(垂直断)となり,約C0.05Cmm程度の後方移動にとどまった.治療前治療後水平断一方で,晩発型も近視化を認めることがあるものの,早発型と異なり一般的に浅前房は認めないとされている.C●液状後発白内障で近視化を生じるメカニズム本症例で観察されたCNd:YAGレーザー治療後のIOLの後方移動量(約C0.05Cmm)だけでは,1.0D以上の屈折の改善を完全に説明することはできない.AS-OCTの画像を見ると,液状後発白内障の形状が後面に凸レンズ状になっており,その曲率半径がCIOL後面の曲率半径よりも小さいことがわかる.さらに液状後発白内障の内容物は,屈折率は不明であるが後方散乱光強度の高い物質であり,硝子体術後の硝子体腔の屈折率よりも高いものと予想される.以上のことより,今回の症例が近視化を伴ったメカニズムとしては,屈折率が異なる液状後発白内障と硝子体腔の間に新たに面屈折が形成されたことが要因の一つであると考えられる.垂直断●おわりに液状後発白内障の近視化はすべての患者で認められるものではなく,複数の要因が複雑に関与している可能性がある.今回の症例のように白内障術後に近視性の屈折変化を認めた場合,液状後発白内障の存在を念頭におく必要がある.文献1)OkemotoCH,CMitoCT,CKawamoritaCTCetal:AnteriorCseg-mentCopticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCinCcapsularCblockCsyndromeCwithCimprovementCinCmyopiaCfollowingCNeodymium-YttriumCAluminumCGarnetClaserCtreatment.CCaseRepOphthalmolC15:78-83,C20242)MiyakeCK,COtaCI,CIchihashiCSCetal:NewCclassi.cationCofCcapsularCblockCsyndrome.CJCCataractCRefractCSurgC24:C1230-1234,C19983)KimHK,ShinJP:Capsularblocksyndromeaftercataractsurgery:clinicalCanalysisCandCclassi.cation.CJCCataractCRefractSurgC34:357-363,C2008

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く オルソケラトロジー(1)

2024年8月31日 土曜日

■オフテクス提供■8.オルソケラトロジー(1)土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C6章はオルソケラトロジーについてである.概要,歴史,フィッティング,眼組織への影響,有効性,安全性,実践,装用者や保護者からの視点,近視抑制,今後の展望など,多岐にわたって解説している.今回はその第C1回として,フィッティングまでを概説する.概要本章1)ではオルソケラトロジー(orthokeratology)はortho-kと略されており,本稿でも踏襲する.Ortho-kはC1950年代にハードコンタクトレンズ(HCL)をフラットに装用した際に,角膜曲率半径が減少すると同時に屈折値の減少をもたらす知見から始まったとされる.現在のCortho-kは,高酸素透過性CHCLの素材で作られ,リバースジオメトリーレンズデザインが採用された特殊レンズを就寝時に装用して角膜前面形状に変化をもたらし,屈折異常を一時的かつ可逆的に矯正する方法として普及した.歴史1962年の専門家会議においてCJessenが「orthofocus」という技術を紹介した.これはポリメタクリル酸メチル樹脂(polymethylCmethacrylate:PMMA)製のCHCLを用いて角膜形状を変化させ,数カ月間の装用により視力矯正を行うもので,のちに「オルソケラトロジー」と名付けられた.1976年,ヒューストン大学のCKernsらによる臨床研究を皮切りに複数の研究者からの報告が相次いだが,その結論はいずれも,ortho-kレンズの終日装用は安全であるが近視の軽減まで時間がかかり,効果は限定的で一時的というものであった.これらの欠点を改良すべく,1980年代後半にCWlodygaとCStoyanが初のリバースジオメトリーデザインのCHCLを開発した.このレンズは中央部分が周辺部分よりも平坦であるため短期間で近視を減少させることができるようになった.さらに,酸素透過性素材の登場により,レンズを就寝時に装用することで,日中の裸眼視力を向上させる方法も開発された.一方,ortho-kの近視抑制効果ついては,1957年にC18時間以上の装用で報告されたのが最初で,(93)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY2005年以降に小児での効果を示唆する結果が多数報告された.フィッティングと評価1.Ortho-kの適応約C4.50Dまでの近視,角膜乱視が約C3.00Dまで,暗所で瞳孔径が約C6.00Cmm未満である.C2.レンズデザイン以下のC4.5個のゾーンが含まれる(図1).①中央後面光学部ゾーン:レンズの中心部分で,角膜の平坦化に関与する.②リバースカーブゾーン:中央後面光学部ゾーンに隣接し,より急なカーブをもち,角膜中央部分の平坦化に関与する.③アライメントカーブゾーン:1またはC2個のカーブがあり,レンズの位置と動きに関与する.④周辺カーブゾーン:レンズ周辺部分で軸方向のエッジリフトに関与する.C3.レンズフィッティングの評価角膜形状を角膜形状解析装置で解析し,カラーマップとして表示可能となった.これにより個別のレンズ設計が可能になった.また,角膜形状変化を定量化できるため,レンズのセンタリングの評価からトラブルシューティングのための方法を見いだせるようになった.以下に良好なフィッティングを得るためのステップを示す.①トライアルレンズの選択と装用:トライアルレンズを一晩装用し,翌朝評価する.②眼の状態の観察:レンズ取りはずし後,角膜の低酸素状態や角膜中央部の染色所見などを評価する.③効果判定:視力検査,屈折検査,角膜形状解析装置によりレンズが適切であるか評価する.あたらしい眼科Vol.41,No.8,2024C965図1オルソケラトロジーレンズの4つのゾーン(自験例装用時のフルオレセイン染色写真)④再評価とレンズの修正:必要に応じてレンズを変更し,再装用後に再評価する.効果判定Ortho-k装用後の効果判定の際に有用な角膜形状解析装置カラーマップにおける代表的なC4パターンを以下にあげる.①「ブルズアイ」パターン:瞳孔領に「ブルズアイ」パターンが現れた場合は,レンズのセンタリングが良好で,角膜中央部の平坦化とその周辺角膜の急峻化をもたらしたことを示す(図2a).②「スマイリーフェイス」パターン:レンズのサジタルハイトが角膜のそれよりも小さい場合に発生し,レンズが上方偏位した際にみられる.この場合,レンズのsagittalheightを増やす必要がある(図2b).③「フラウニーフェイス」パターン:アライメントカーブが急すぎる場合に発生し,レンズが下方偏位した際にみられる.この場合,レンズのCsagittalheightを減らす必要がある.これらレンズのずれは,乱視やアラ図2角膜形状解析装置のカラーマップによるパターン(自験例)イメントカーブが原因で生じることがあり,その修正が必要である(図2c).④「セントラルアイランド」パターン:リバースカーブやアライメントカーブが急すぎる場合に発生し,中央部が急峻化する現象で,レンズのアピカルクリアランスを減らす必要がある(図2d).このようにCortho-kのレンズフィッティングと効果判定には角膜形状解析装置が必須で,個々の患者に最適なフィッティングと治療効果をもたらすために重要である.まとめ近年は角膜乱視矯正用のトーリックオルソケラトロジーデザインレンズもある.以上,ortho-kレンズにはさまざまなデザインがあり,適切なレンズの選択と正確なフィッティングへのプロセスが成功の鍵を握っている.文献1)VincentCSJ,CChoCP,CChanCKYCetal:CLEARC-Orthokera-tology.ContLensAnteriorEye44:240-269,C2021

写真セミナー:睫毛乱生に続発した角膜アミロイドーシス

2024年8月31日 土曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史草野雄貴483.睫毛乱生に続発した角膜アミロイドーシスくまもと森都総合病院眼科図1左眼の初診時所見上方鼻側に1本の睫毛乱生と,同部位付近の角膜に灰白色隆起性病変を認める.図3前房部光干渉断層計による灰白色病変の断面図上皮直下にアミロイドの沈着を認める.実質への沈着は認めない.図4摘出した検体の病理標本角膜上皮直下にコンゴレッド染色陽性を示す橙赤色の沈着物を認める.偏光顕微鏡による観察で沈着物にアップルグリーン色の偏光を認め,アミロイドと判定された.(91)あたらしい眼科Vol.41,No.8,20249630910-1810/24/\100/頁/JCOPYアミロイドーシスとは,アミロイド線維が全身的または局所的に臓器や組織の細胞外に沈着する疾患の総称である.症例は66歳の男性.左眼の痛みを主訴に近医眼科を受診し,角膜混濁に対しレボフロキサシン1.5%点眼,フルオロメトロン0.1%点眼,オフロキサシン眼軟膏を処方されたが,痛みの改善がなく,筆者の病院を紹介受診した.初診時,左眼矯正視力は(0.6×sph-3.00D),眼圧14mmHgであった.左眼の角膜中心下方に隆起性の灰白色病変を認めた.その隆起性病変に接触する,上眼瞼の睫毛乱生を1本認めた(図1~3).同日に左眼の灰白色隆起性病変をゴルフ刀を用いて角膜実質を傷つけないように慎重に切除し,検体を病理検査に提出した.術後は創傷治癒促進と疼痛緩和のため治療用ソフトコンタクトレンズ装用とし,抗菌薬とステロイドの点眼薬を処方した.1週間後に治療用ソフトコンタクトレンズをはずした.角膜は上皮化しており,痛みは改善し矯正視力も(0.8)に改善した.摘出した病理標本からは,コンゴレッド染色で橙赤色を示しアップルグリーン色の偏光を認めるアミロイドが検出された(図4).血管新生や炎症細胞の浸潤は観察されなかった.睫毛乱生に伴う続発性角膜アミロイドーシスと診断し,将来的に睫毛の電気分解を行う予定である.アミロイドーシスでは,異常に折りたたまれた前駆体蛋白質が不安定なポリマーを形成し,アミロイド線維のbシート構造が形成される.bシート構造を結合面として蛋白が線維化し伸長すると,蛋白の可溶性が低下し組織に沈着することとなる.もっともよく罹患する臓器は心臓,腎臓,肝臓,消化管および神経系であり,一連の臨床症状を引き起こす1).角膜アミロイドーシスの概念は,1930年にLewkojewaによって初めて提唱され,睫毛乱生による続発性角膜アミロイドーシスはGarnerが1969年に最初に報告した.続発性角膜アミロイドーシスは,ほかにも円錐角膜,トラコーマ,水疱性角膜症,角膜実質炎,梅毒などで発症することが報告されている.アミロイドは特徴的な構造を有する微細な線維からなるが,その線維の構成蛋白はアミロイドーシスの種類によってさまざまであり,現在までに免疫グロブリンL鎖,H鎖,血清A蛋白などの30種類以上が同定されている.安藤らは睫毛乱生症に伴う角膜アミロイドーシスの前駆体蛋白質がラクトフェリンであることを報告している2).さらに,涙液中のラクトフェリンが角膜アミロイド形成の原因であると考えられること,睫毛乱生を伴う続発性角膜アミロイドーシスは,睫毛乱生とラクトフェリンGlu561Asp多型の両方によっておもに誘導されることを報告している3).治療は,睫毛を接触させないための手術を行うとともに,角膜上皮下に沈着しているアミロイドをスパーテルまたはゴルフ刀で切除する.このとき,病変はシールのように.がれるので,無理に.がそうとして角膜実質を傷つけないように注意する.今回,睫毛乱生に続発した角膜アミロイドーシスを経験した.角膜だけをみていると睫毛乱生を見逃す可能性がある.角膜疾患をみたときは角膜に接する眼瞼縁や眼瞼を翻転して何か関連する病変がないかチェックすることを忘れてはならない.文献1)MerliniG,BellottiV:Molecularmechanismsofamyloido-sis.NEnglJMed349:583-596,20032)AndoY,NakamuraM,KaiHetal:Anovellocalizedamyloidosisassociatedwithlactoferrininthecornea.LabInvest82:757-766,20023)Araki-SasakiK,AndoY,NakamuraMetal:LactoferrinGlu561Aspfacilitatessecondaryamyloidosisinthecornea.BrJOphthalmol89:684-688,2005