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病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):354.357,2022c病因別血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術の長期成績上杉康雄徳田直人山田雄介豊田泰大塚本彩香塚原千広佐瀬佳奈北岡康史高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CLong-TermOutcomesofTrabeculectomyforEtiologicalNeovascularGlaucomaYasuoUesugi,NaotoTokuda,YusukeYamada,YasuhiroToyoda,AyakaTsukamoto,ChihiroTsukahara,KanaSase,YasushiKitaokaandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:血管新生緑内障(NVG)に対する線維柱帯切除術の術後長期成績について原因別に検討する.対象および方法:NVGに対して線維柱帯切除術を施行し,術後C36カ月経過観察可能であったC35例C39眼を対象とした.NVGの原因別に手術成績について検討した.結果:NVGの原因は糖尿病網膜症C22例C26眼(DR群),網膜中心静脈閉塞症(CRVO)13例C13眼(CRVO群)であった.眼圧はCDR群では術前C36.6CmmHgが術後C36カ月でC12.4CmmHg,CRVO群ではC36.0mmHgがC13.0CmmHgと両群ともに有意に下降した.Kaplan-Meier法による累積生存率は術後C36カ月でDR群C73.1%,CRVO群C83.9%であった.術後合併症はCDR群で硝子体出血がC5例存在した.結論:NVGに対する線維柱帯切除術は長期的に有効な術式だが,DR症例では眼圧コントロールが良好であっても硝子体出血を生じる患者が存在する.CObjective:Toinvestigatethelong-termpostoperativeoutcomesoftrabeculectomyforetiologicallyneovascu-larglaucoma(NVG).SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved39eyesof35patientswhounderwenttrabecu-lectomyforNVGandwhowerefollowedupfor36-monthspostoperative.Results:ThecausesofNVGweredia-beticretinopathy(DR)in26eyesof22cases(DRgroup)andcentralretinalveinocclusion(CRVO)in13eyesof13cases(CRVOgroup).IntheDRandCRVOgroups,themeanintraocularpressure(IOP)signi.cantlydecreasedfrom36.6CmmHgand36.0CmmHg,respectively,preoperative,to12.4CmmHgand13.0CmmHg,respectively,postopera-tive.At3-yearspostoperative,thecumulativesurvivalratesintheDRandCRVOgroupwere73.1%Cand83.9%,respectively.CPostoperativeCcomplicationsCincludedCvitreousChemorrhageCinC5CpatientsCDRCgroupCpatients.CConclu-sion:TrabeculectomyCforCNVGCwasCfoundCe.ectiveCoverCtheClong-termCperiodCpostCsurgery,Chowever,CvitreousChemorrhageoccurredinsomeDRpatientsdespitewell-controlledIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):354.357,C2022〕Keywords:血管新生緑内障,線維柱帯切除術,糖尿病網膜症,網膜中心静脈閉塞症,続発緑内障.neovascularCglaucoma,trabeculectomy,diabeticretinopathy,centralretinalveinocclusion,secondaryglaucoma.Cはじめに血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)は糖尿病網膜症(diabeticretinopathy:DR)や網膜中心静脈閉塞症(centralCretinalCveinocclusion:CRVO)など網膜虚血性疾患が原因となり発症する続発緑内障である.低酸素誘導され硝子体中に分泌された血管内皮増殖因子(vascularendothe-lialgrowthfactor:VEGF)などの液性血管新生因子により隅角新生血管が形成され,房水流出抵抗が増加し眼圧上昇が生じる.治療法として線維柱帯切除術1),VEGF阻害薬投与2),緑内障チューブシャント手術3)などが行われ,その有効性が報告されている.線維柱帯切除術はCNVGに汎用される術式であるが,NVGの病因により術後経過が影響されるかについての検討は少ない.本研究ではCDRとCCRVOに続発したCNVGの術後経過を比較し,NVGに対する線維柱帯〔別刷請求先〕徳田直人:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:NaotoTokuda,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC354(92)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(92)C3540910-1810/22/\100/頁/JCOPY切除術の手術経過が病因により影響されるかについて検討した.CI対象および方法本研究は診療録による後ろ向き研究である.対象はC2011年C3月.2017年C5月のC7年間に当院でCNVGと診断され線維柱帯切除術を施行され,術後C36カ月経過観察可能であった連続症例C35例C39眼である.平均年齢C66.1C±12.3歳であった.NVG群の原因疾患がCDRであったC22例C26眼をCDR群,原因疾患がCCRVOであったC13例C13眼をCCRVO群とし,両群の術前後の眼圧推移と薬剤スコアの推移,術後合併症について比較検討した.薬剤スコアは,抗緑内障点眼薬C1成分1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点とした.また,Kaplan-Meier法による生存分析も行った.死亡の定義は,術後眼圧がC2回連続してC21CmmHg以上またはC5CmmHg未満を記録した時点,緑内障再手術を施行した時点,光覚喪失となった時点とした.術後経過観察期間中に抗緑内障点眼薬の追加となった症例も存在するが,その時点では死亡として扱わず生存とした.NVGに対する濾過手術の選択基準としては,線維柱帯切除術を基本とし,硝子体出血による視力低下を併発している症例のみ硝子体手術を併用した緑内障チューブシャント手術を選択した.線維柱帯切除術は全例円蓋部基底結膜弁で行った.結膜弁作製後,浅層強膜弁を作製しC0.04%マイトマイシンCCを結膜下に塗布し(作用時間は症例によって調整)生理食塩水100Cmlで洗浄,その後深層強膜弁を作製しCSchlemm管を同定し,深層強膜弁を切除,続いて線維柱帯を切除し周辺虹彩切除を行い,浅層強膜弁を縫合(4.7本)し,結膜を縫合し手術終了とした.全例同一術者(N.T.)により施行した.なお,2014年C2月以降に施行した症例については術前にベバシズマブの硝子体内注射(intravitrealbevacizumab:IVB)を施行した.IVBについては適応外使用につき聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会C2566号で承認を受け,患者への説明と同意のもと行われた.統計学的な検討は対応のあるCt検定,Mann-WhitneyCUtest,chi-squaretestを使用し,p<0.05をもって有意差ありと判定した.CII結果表1に対象の背景について示す.年齢については,DR群はCCRVO群よりも有意に若かった(Mann-WhitneyCUCtestp<0.01).その他,術前眼圧,薬剤スコア,隅角所見(peripheralanteriorsynechia:PASindex),PASindex75%以上をCNVGの閉塞隅角期とした場合の割合,硝子体手術の既往,IVB実施のいずれにおいても両群間に有意差はなかった.図1にCDR群およびCCRVO群の術前後の眼圧推移を示す.眼圧は両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図2にCDR群およびCCRVO群の術前後の薬剤スコアの推移を示す.薬剤スコアは両群ともに術前と比較して有意に下降した(対応のあるCt検定p<0.01).図3にCDR群およびCCRVO群のCKaplan-Meier生存分析による累積生存率を示す.術後C3年の累積生存率は,DR群でC73.1%,CRVO群でC83.9%であり両群間に有意な差は認められなかった(LoglankCtestCp=0.43).なお,術前IVB実施の有無で累積生存率を検討した結果,DR群についてはCIVB無群でC68.8%,IVB有群でC80.0%(Loglanktestp=0.56),CRVO群についてはCIVB無群でC88.9%,IVB有群でC75.0%(LoglankCtestCp=0.62)と有意な差は認められなかった.表2に術後合併症について示す.術後合併症は,硝子体出血がCDR群でC5眼(19.2%),水疱性角膜症がCCRVO群でC1眼(7.7%),眼球癆がCDR群でC1眼(3.8%)に認められた.硝子体出血を生じたCDR群のC5眼うちC3眼は硝子体手術を要した.術後C2段階以上の視力低下が生じた症例は,表1対象の背景DR群CRVO群22例26眼13例13眼p値年齢(歳)C61.2±12.2C76.0±4.0C0.0001*術前矯正視力C0.36±0.5C0.30±0.4C0.27*術前眼圧(mmHg)C37.4±10.9C36.4±5.7C0.84*術前薬剤スコア(点)C4.5±0.6C4.6±0.5C0.46*PASindex(%)C46.2±17.9C43.9±20.2C0.46*閉塞隅角期(PASindex≧75%)(%)C11.5C15.4C0.87**硝子体手術の既往(%)C19.2C23.1C0.89**線維柱帯切除術前CIVB(%)C57.7C69.2C0.73**PAS:peripheralanteriorsynechia,IVB:intravitrealbevacizumab.*:Mann-Whitneytest,**:chi-squaretest.(93)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C355眼圧(mmHg)5040302010術前術後3カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月36カ月観察期間54321薬剤スコア(点)観察期間図2血管新生緑内障に対する線維柱帯切除術後の薬剤スコアの推移各群ともに術前と比較し術後有意な薬剤スコアの減少を示した.抗緑内障点眼薬1剤C1点,緑内障配合点眼薬C2点,炭酸脱水酵素阻害薬内服C2点.エラーバー:標準偏差.合併症表2術後合併症DR群CRVO群(n=26)(n=13)p値DR群0.673.1%Loglanktestp=0.435眼0眼C0.09**硝子体出血(19.2%)(0%)0眼1眼C0.15**水疱性角膜症(0%)(7.7%)1眼0眼C0.47**C061218243036眼球癆(3.8%)(0%)2段階以上の4眼3眼観察期間(カ月)視力低下(15.4%)(23.1%)C0.56**累積生存率図3Kaplan.Meier生存分析PDR群で硝子体出血を生じたC5眼中C3眼は硝子体手術を要した.死亡定義:眼圧が2回連続して21mmHg以上または**:chi-squaretest.4CmmHg未満を記録した時点,または緑内障再手術となった時点.(94)DR群でC4眼(15.4%),CRVO群でC3眼(23.1%)認められた.CIII考按本研究は経過観察期間C36カ月という比較的長期の経過を検討している.同様に長期経過観察を行っているCTakiharaらの報告1)では,1,2,5年後の手術成功率がそれぞれ62.6%,58.2%,51.7%であった.また,Higashideらの報告2)ではベバシズマブを併用し,平均経過観察期間C45カ月でC1,3,5年後の手術成功率がそれぞれC86.9%,74.0%,51.3%であった.本研究ではC3年後生存率がCDR群C73.1%CRVO群C83.9%でCHigashideらの報告に近い結果となった.これはDR群15眼(57.7%),CRVO群9眼(69.2%)にVEGF阻害薬を併用して隅角新生血管の活動性を低下させてから線維柱帯切除術を行っていることが要因と考えられた.また,当院では,線維柱帯切除術を狩野らの報告4)と同様に強膜二重弁を作製し深層強膜弁を切除する方法で行っているが,NVGについてはCSchlemm管同定後,深層強膜弁をさらに角膜側まで進めてから強角膜片切除を行うようにしている.この方法によりCPASが生じているCNVG症例に対しても術後に前房出血を生じることが少なくできるため,手術成績の向上に貢献した可能性があると考える.DR群とCCRVO群の背景を比較してみると,年齢はCDR群のほうがCCRVO群のよりも有意に若くなっていたが,これはCCRVOが動脈硬化を生じやすい高齢者に多いことが影響したものと考える.眼圧,薬剤スコア,PASindexについては両群で有意差を認めなかったことから,術前のCNVGの活動性に大差はなかったと考えられる.また,ベバシズマブ使用率にも差はなく,術後眼圧推移,術後薬剤スコア推移とも両群で同様の推移を示した.つまり原因疾患が異なっていても筆者らが行ったCNVGに対する線維柱帯切除術は眼圧下降効果,持続性ともに有効であったことが示唆される.一方術後合併症に関しては,DR群で硝子体出血が多くみられ,再手術症例,眼球癆に至った症例もみられた.DR群では房水流出にかかわる前眼部には十分な濾過効果が得られたにもかかわらず,硝子体出血を生じた理由としては,血糖コントロールの悪化が影響したと考える.線維柱帯切除術後に硝子体出血をきたした症例は,術後しばらくしてから血糖コントロールが再度悪化し,その後硝子体出血を発症している.DRに続発したCNVGでは術後も血糖管理が重要であることを再確認する結果となった.また,これはあくまで推測の域を出ないが,CRVOでは発症からCNVGに至る経過は短期間であり,眼底に血管増殖膜や硝子体出血などの重篤な変化が生じる前に緑内障手術となることが多い印象がある.それに対して,DR群ではCNVGに至る時点ですでに線維血管増殖や牽引性.離など眼底に重篤な病変を形成していることも多い.このような症例では緑内障術後,眼圧下降により眼底虚血はある程度改善されたとしても,術前から存在する不可逆性の眼底病変が術後血糖コントロール不良などを引き金に再燃する可能性が残っている.つまり,NVGに至るまでの背景の違いが術後合併症の差につながったとも考えられる.本研究は少数例の後ろ向き研究であり,より多数例での検討が必要である.また,DR群とCCRVO群に年齢に有意差があり,CRVO群のなかに眼虚血症候群の症例が存在していた可能性はあるが,眼底病因にかかわらずCNVGに対して線維柱帯切除術は有効であることが示唆された.近年ではVEGF阻害薬治療をCNVGの初期治療として行うことがVENERA/VEGA試験により有効であることが示され,単独治療でも眼圧コントロールができる症例が報告されている5,6).本研究が行われた時期では,こうした比較的軽度な患者も手術対象となっていたと考えられる.また,DRやCRVOに関しては以前よりもCVEGF阻害薬で黄斑浮腫治療を行う場合が多くなり,NVGに至る病態は以前と異なってきている可能性がある.VEGF阻害治療のみでコントロールできない重篤な患者においても,病因によって術後経過に差異がないかなど今後の検討を要する点である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:Trabeculecto-myCwithCmitomycinCCCforCneovascularglaucoma:prog-nosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmolC147:C912-918,C20092)HigashideCT,COhkuboCS,CSugiyamaK:Long-termCout-comesandprognosticfactorsoftrabeculectomyfollowingintraocularCbevacizumabCinjectionCforCneovascularCglauco-ma.PLoSOneC10:e0135766,C20153)ParkCUC,CParkCKH,CKimCDMCetal:AhmedCglaucomaCvalveCimplantationCforCneovascularCglaucomaCafterCvitrec-tomyCforCproliferativeCdiabeticCretinopathy.CJCGlaucomaC20:433-438,C20114)狩野廉,桑山泰明,水谷泰之:強膜トンネル併用円蓋部基底トラベクレクトミーの術後成績.日眼会誌C109:C75-82,C20055)InataniCM,CHigashideCT,CMatsushitaCKCetal:IntravitrealCa.iberceptCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularCglauco-ma:TheVEGArandomizedclinicaltrial.AdvTher38:C1116-1129,C20216)InataniM,HigashideT,MatsushitaKetal:E.cacyandsafetyCofCintravitrealCa.iberceptCinjectionCinCJapaneseCpatientsCwithCneovascularglaucoma:OutcomesCfromCtheCVENERAstudy.AdvTherC38:1106-1115,C2021(95)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C357

増殖糖尿病網膜症に対する25 ゲージ,27 ゲージ 小切開硝子体手術成績の比較

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):350.353,2022c増殖糖尿病網膜症に対する25ゲージ,27ゲージ小切開硝子体手術成績の比較関根伶生重城達哉佐藤圭司四方田涼佐々木寛季向後二郎高木均聖マリアンナ医科大学眼科学教室CComparativeStudyof25-vs27-GaugeVitrectomyforProliferativeDiabeticRetinopathyReioSekine,TatsuyaJujo,KeijiSato,RyoYomoda,HirokiSasaki,JiroKogoandHitoshiTakagiCDepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineC目的:増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に対するC25ゲージ(G)・27CG硝子体手術成績を比較し,27CG硝子体手術の安全性と有効性について検討する.方法:対象はC2012年C12月.2019年C12月に聖マリアンナ医科大学病院にてCPDRに対し単一術者が手術を施行し,6カ月以上経過観察が可能であったC128眼.25CG群とC27CG群に分け,視力,眼圧,手術時間,再手術の有無を後ろ向きに検討した.結果:25G群はC46眼,27G群はC82眼であった.logMAR矯正視力は両群とも術前と比較し,術後C1,3,6カ月で有意に改善が得られたが,各時期において両群間での有意差は認められなかった.手術時間はC25CG群C98.0分,27CG群C80.6分,再手術はC25CG群でC11眼(24%),27G群で8眼(10%)といずれも有意にC27CG群が少なかった(各Cp<0.05).結論:PDRにおいて,27CG硝子体手術の成績はC25CGと同等であったが,再手術が少なく有用である可能性が示唆された.CPurpose:Tocomparativelyexaminethesurgicaloutcomesof25-gauge(G)vs27-Gvitrectomyforprolifera-tivediabeticretinopathy(PDR).Methods:Thisretrospectivestudyinvolved128eyeswithPDRthatunderwentvitrectomybetweenDecember2012andDecember2019.Visualacuity(VA),intraocularpressure,operationtime,andCpostoperativeCcomplicationsCwereCcomparedCbetweenCtheCtwoCgroups.CResults:ThereCwereC46CeyesCinCtheC25-Ggroupand82eyesinthe27-Ggroup.Bothgroupsshowedsigni.cantimprovementinlogarithmofminimalangleofresolution(logMAR)correcteddistanceVA(CDVA)at1-,3-,and6-monthspostoperative.However,nosigni.cantCdi.erenceCinClogMARCCDVACwasCfoundCbetweenCtheCtwoCgroups.CBetweenCtheC25-andC27-GCgroups,Cthemeanoperationtimewassigni.cantlyshorterinthe27-Ggroup(98.0vs80.6minutes,respectively)andthereoperationratewassigni.cantlylowerinthe27-Ggroup(24%Cvs10%,respectively).Conclusion:Thesurgicaloutcomesof27-GvitrectomyforPDRwereequivalenttothoseof25-Gvitrectomy,yetwithashorteroperationtimeandalowerreoperationrate.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(3):350.353,C2022〕Keywords:25ゲージ硝子体手術,27ゲージ硝子体手術,増殖糖尿病網膜症,矯正視力,手術時間.25-gaugevit-rectomy,27-gaugevitrectomy,proliferativediabeticretinopathy,correcteddistancevisualacuity,operation-time.Cはじめに27ゲージ(G)硝子体手術はC2010年にCOshimaらにより開発された1).27CG硝子体手術は従来のC25CGと比較し術後炎症の軽減,創部の早期治癒,切開創を無縫合で終えることが可能であることから,結膜が温存され眼表面の涙液層の安定や術後逆起乱視の低減化により術後早期の視機能改善が得られると考えられている2,3).また,術後の創口閉鎖不全による低眼圧や眼内炎などの術後合併症発生リスクが少なく,安全な手術方法とされている.Mitsuiらは網膜前膜においてC27CGとC25CGを前向きに比較検討し,同等の治療成績を認め,27CGの安全性と有効性を報告している4).さらに裂孔原性網膜.離においても網膜復位率・術後視力・術後眼圧とも〔別刷請求先〕重城達哉:〒216-8511神奈川県川崎市宮前区菅生C2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:TatsuyaJujo,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANC350(88)にC27CGはC25CGと同等の成績であったと報告され5),今後も27CG硝子体手術はその有用性から,複雑な疾患まで適応が拡大していくと考えられる.増殖糖尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)は新生血管の破綻により硝子体出血をきたし,硝子体手術が必要となることが多々ある.また,線維血管性増殖膜が形成されると硝子体と網膜との間に強固な癒着が生じ,牽引性網膜.離が発生するために術中に多くの処理を要することがある.27CG硝子体カッターはC25CGと比較し開口部が先端にあり,増殖膜と網膜の間隙に滑り込ませるなどして,より繊細な作業を行えるために,PDRにおいてC27CG硝子体手術は有用である可能性が考えられる.そこで今回の目的はCPDRに対し手術を施行したC25G,27G硝子体手術の手術成績を後ろ向きに比較することでPDRにおけるC27CG硝子体手術の安全性と有効性について検討した.CI対象および方法本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得たものである.PDRの診断にて手術加療が必要である患者に対し,手術の必要性や合併症の可能性について十分に説明を行い,インフォームド・コンセントを得て,患者と医師が署名した手術同意書を作成したうえで行った.対象はC2012年C12月.2019年C12月に聖マリアンナ医科大学病院にてCPDRに対し硝子体手術を施行され,6カ月以上経過観察が可能であったC128眼.手術は全例同一術者により施行された.術者は眼科歴C20年以上で増殖糖尿病網膜症の手術に豊富な経験をもつ者である.硝子体手術はCConstellationCVisionSystem(AlconCLabo-ratories)を使用した.2012年C12月.2015年C9月の手術は25G硝子体システムを使用し,2015年C10月.2019年C12月の手術はC27CG硝子体システムを使用した.手術は硝子体手術単独または水晶体再建術併用硝子体術を行い,全例で強膜内陥術の併用は行わなかった.手術終了時のタンポナーデは必要に応じ,六フッ化硫黄ガス(SFC6),八フッ化プロパンガス(CC3F8),シリコーンオイル(SO)に置換し手術を終了した.検討項目は術前,術後C1カ月,3カ月,6カ月時の矯正視力と眼圧,再手術の有無,タンポナーデの有無とし,25CG群とC27CG群とに分け,データを収集した.検討方法は小数視力をClogMAR換算し,各群で術前後の視力と眼圧をWelchのCt検定にて比較検討し,各群間での視力と眼圧をMann-WhitneyのCU検定を用いて検討を行った.各群間での再手術の有無とタンポナーデの有無についてはCc2検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果患者背景を表1に示した.25G群はC46眼,27G群はC82眼であった.性別はC25CG群で男性C31眼,女性C15眼であり,27CG群は男性C58眼,女性C24眼であった.平均年齢はC25CG群でC54.6C±14.4,27G群でC56.5C±11.7であった.眼軸長は25G群でC23.6C±1.0Cmm,27CG群でC23.9C±1.3Cmmであった.増殖膜の処理を行った症例数はC25CG群でC33眼,27CG群で47眼であった.術前眼圧はC25G群でC14.3C±2.9CmmHg,27G群でC14.4C±3.5CmmHgであった.術前ClogMAR矯正視力はC25G群でC0.93C±0.60,27CG群でC0.95C±0.68とそれぞれの項目で両群間に有意差は認められなかった(p>0.05).視力の推移を図1に示した.術C1カ月後のClogMAR矯正視力はC25G群でC0.64C±0.48,27G群でC0.65C±0.65,術C3カ月後はC25G群でC0.54C±0.49,27G群でC0.54C±0.50,術C6カ月後ではC25CG群はC0.48C±0.55,27CG群はC0.43C±0.44であり両群ともにベースラインと比較し術C1カ月後から有意な改善を得ることができた(各Cp<0.01).しかし,各時点でのlogMAR矯正視力に両群間で有意差は認められなかった.術後翌日,1,3,6カ月後の眼圧の推移を図2に示した.術後翌日の眼圧はC25G群でC14.9C±7.6CmmHg,27CG群でC15.7±7.4CmmHgであり,いずれの群においても術前眼圧と有意差は認められなかった.術後C1カ月はC25CG群でC13.8C±3.0CmmHg,27CG群でC14.5C±4.2CmmHg,術後C3カ月はC25CG群でC14.3C±3.6mmHg,27G群でC14.6C±3.3mmHg,術後C6カ月は25CG群で13.9C±3.1mmHg,27CG群で15.0C±3.6CmmHgであり,ベースラインと比較して有意差は認められなかった.また,各時点での両群間においても眼圧に有意差は認められなかった.術翌日の低眼圧(<5CmmHg)はC25CG群でC2眼(4.3%),27CG群でC3眼(3.7%)であり,低眼圧発生の割合も有意差は認められなかった(p=0.85).手術方法,タンポナーデ,手術時間,再手術件数について表2に示した.手術方法はC25G群で白内障併用がC27眼,27CG群でC39眼であり,有意差は認めなかった.タンポナーデを行った症例はC25G群でCSFC6がC5眼,CC3F8がC4眼,SOがC6眼であり,27CG群でCSFC6がC9眼,SOがC6眼でタンポナーデを行った割合に有意差は認めなかった.手術時間は25G群でC98.0C±46.1分,27CG群でC80.6C±37.7分と有意に27CG群が短かった.術後C6カ月以内に再手術を要した症例はC25G群でC11眼,27G群でC8眼であり有意にC27G群が少なかった.CIII考按本研究結果においてC25CGとC27CGともに術後矯正視力は術前より有意に改善を得ることができたが,ゲージ間での有意な差は認められなかった.Naruseらは網膜上膜において術表1患者背景25CG群27CG群Cpvalue性別男性(眼)C31C58C0.69女性(眼)C15C24年齢(年)C54.6±14.4C56.5±11.7C0.26眼軸(mm)C23.6±1.0C23.9±1.3C0.10増殖膜処理(眼)C33C47C0.11術前眼圧(mmHg)C14.3±2.9C14.4±3.5C0.43術前ClogMAR矯正視力C0.93±0.60C0.95±0.68C0.42各項目において,両群間に有意差はなかった(p>0.05).C27G25G*27G25G*1.2*16.5****16logMAR矯正視力0.80.60.4眼圧(mmHg)15.51514.51413.5130.212.50pre1day1M3M6Mpre1M3M6M経過期間経過期間図2眼圧の推移図1視力の推移*p>0.05.両群とも術前と比べ術C1,3,6カ月の眼圧に有*p<0.05.両群とも術前と比べて術C1,3,6カ月で有意に意差はなかった.また術前,術後C1日,1カ月,3カ月,6視力は改善していた.また術前,術後1,3,6カ月時点で両カ月において両群間で眼圧の有意差はなかった.群間に視力は有意差を認めなかった.表2術中,術後転帰の比較術式タンポナーデ手術時間(分)再手術C25CGCPEA+IOL+VIT:2C7眼VIT単独:1C9眼CSF6:5眼CC3F8:4眼SO:6眼C98.0±46.18眼C27CGCPEA+IOL+VIT:3C9眼VIT単独:4C3眼CSF6:9眼SO:6眼C80.6±37.711眼p値C0.23C0.07C0.04C0.03各群で術式,タンポナーデの有無に有意差はなかった(p>0.05).手術時間,再手術件数は有意にC27CG群が少なかった(p<0.05).PEA:phacoemulsi.cation,IOL:intraocularClens,VIT:vitrectomy,CSF6:sulfurChexa.uoride,C3F8:per.uoropropane,SO:siliconoil.1カ月後の視力改善はC25CGと比較し,C27CGが早期に得るこであることが示唆された.とができると報告した6).その要因としてはゲージが小さい眼圧は両群間において,各時期で有意差は認められなかっことにより術後炎症が抑えられること,また角膜形態に与えた.また,術翌日の低眼圧の発症率はC25CG群がC4.3%,2C7CGる影響を少なくすることがあげられる.しかし,CNaruseら群がC3.7%であり有意差は認められなかった.CTakashinaらはCPDRにおいてはC25CGとC27CGで視力の改善に有意差はなはC27CGトロカールの斜め穿刺により,C25CGの同様の方法とかったと報告した7).今回の筆者らの結果も同様であり,比較し,術後低眼圧の発症率を低下させたと報告した8).筆PDRにおけるC27CG硝子体手術はC25CGと同等に有用な術式者らの結果では有意差は認められなかったものの,術翌日の眼圧に関してはC27CG群のほうが安定していた.これらより,PDRの硝子体手術においてもC25CGと同様にC27CGにて安定した術後眼圧を得ることができたと考えられた.術中および術後転帰に関しては,両群間でタンポナーデを行った症例数に有意差はなかったが,手術時間,6カ月以内の再手術件数は25CG群と比較しC27CG群が有意に少なかった.硝子体切除効率はC27CGと比較し,ゲージの大きいC25CGのほうが高く,より硝子体処理を短時間で行うことが可能である4,6).本研究は前向き無作為ではないため患者背景の影響は考慮しなくてはならないが,27CGとC25CGで増殖膜の処理を行った症例数に有意差がなかったため,増殖膜の処理の有無による手術時間への影響は少なかったと考えられる.しかし,PDRにおいてC27CG群で有意に手術時間を短縮できた要因としては,27CGカッター,鑷子,剪刀のほうがC25CGと比較し繊細な操作を行うことができるため,増殖膜の処理時間を短縮することができたこと,また術中網膜.離を起こす症例を少なくすることができた可能性があると考えられた.そしてその優位性が再手術の件数を少なくすることができた要因ではないかと考えられた.しかし,各群間での増殖膜の範囲,処理時間の検討を行えていないため今後の検討課題とした.術者のClearningcurveの影響については,手術技術に関して経験豊富な術者が施行したことから,その影響は少ないと考えられる.また,27CG硝子体システム移行後のC3カ月以内の手術成績とそれ以降の手術成績とを比較し,結果の傾向に違いは認められなかったため,その点の影響も少なかったと考えられた.増殖糖尿病網膜症に対するC27CG硝子体手術は従来のC25CGと同等の手術成績を得ることができ,有用な手術方法である可能性が示唆された.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)OshimaCY,CWakabayashiCT,CSatoCTCetal:AC27-gaugeCinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessmicro-incisionCvitrectomyCsurgery.COphthalmologyC117:93-102,C20102)GozawaCM,CTakamuraCY,CMiyakeCSCetal:ComparisonCofCsubconjunctivalCscarringCafterCmicroincisionCvitrectomyCsurgeryusing20-,23-,25-and27-gaugesystemsinrab-bits.ActaOphthalmolC95:e602-e609,C20173)TekinK,SonmezK,InancMetal:EvaluationofcornealtopographicCchangesCandCsurgicallyCinducedCastigmatismCaftertransconjunctival27-gaugemicroincisionvitrectomysurgery.IntOphthalmolC38:635-643,C20184)MitsuiCK,CKogoCJ,CTakedaCHCetal:ComparativeCstudyCofC27-gaugeCvsC25-gaugeCvitrectomyCforCepiretinalCmem-brane.Eye(Lond)C30:538-544,C20165)OtsukaCK,CImaiCH,CFujiiCACetal:ComparisonCofC25-andC27-gaugeCparsCplanaCvitrectomyCinCrepairingCprimaryCrhegmatogenousretinaldetachment.JOphthalmol2018:C7643174,C20186)NaruseCS,CShimadaCH,CMoriR:27-gaugeCandC25-gaugeCvitrectomyCdayCsurgeryCforCidiopathicCepiretinalCmem-brane.BMCOphthalmolC17:188,C20177)NaruseCZ,CShimadaCH,CMoriR:SurgicalCoutcomeCofC27-gaugeCandC25-gaugeCvitrectomyCdayCsurgeryCforCpro-liferativeCdiabeticCretinopathy.CIntCOphthalmolC39:1973-1980,C20198)TakashinaCH,CWatanabeCA,CTsuneokaH:PerioperativeCchangesoftheintraocularpressureduringthetreatmentofepiretinalmembranebyusing25-or27-gaugesuture-lessCvitrectomyCwithoutCgasCtamponade.CClinCOphthalmolC11:739-743,C2017***

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が 糖尿病網膜症定期診療へ及ぼす影響

2022年3月31日 木曜日

《第26回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科39(3):345.349,2022c新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が糖尿病網膜症定期診療へ及ぼす影響土屋彩子平野隆雄若林真澄星山健鳥山佑一時光元温村田敏規信州大学医学部眼科学教室E.ectoftheCoronavirusDisease2019(COVID-19)PandemiconPeriodicalPracticeforDiabeticRetinopathyAyakoTsuchiya,TakaoHirano,MasumiWakabayashi,KenHoshiyama,YuichiToriyama,MotoharuTokimitsuandToshinoriMurataCDepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicineC目的:糖尿病網膜症(DR)患者の通院中断は病状悪化のリスクとなる.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行がCDR定期診療に与える影響について検討した.対象:2019年,2020年のC2.5月に信州大学医学部附属病院眼科糖尿病外来の予約患者について,診療録をもとに患者背景,受診状況,受診キャンセル理由を後ろ向きに検討した.結果:3カ月間の受診予定患者はC2019年がC559例(男C365例,女C194例,年齢C62.1C±11.7歳),2020年がC537例(男C351例,女C186例,年齢C62.6C±11.4歳)で年齢,性別,DR重症度に有意差は認めなかった(p=0.3672,p=0.9811,Cp=0.4322).2019年の受診キャンセルはC41例,2020年はC2019年には認めなかったCCOVID-19の流行を理由とした26例がもっとも多く計C55例であった.結論:2020年のCDR外来受診予約のキャンセルはCCOVID-19を理由としたものがC47%と約半数を占め,COVID-19の流行がCDRの定期診療に影響を及ぼしていることが示唆された.COVID-19流行の収束が不明な現状では,受診が途絶えているCDR患者には医療者側から受診を促すなど,通院を中断させないことが重要である.CPurpose:Interruptionofclinicvisitsbydiabeticretinopathy(DR)patientsincreasestheriskofdiseasewors-ening.HereinweinvestigatedtheimpactoftheCoronavirusDisease2019(COVID-19)onregularDRcare.Meth-ods:Weretrospectivelyexaminedpatientbackgrounds,consultationstatus,andreasonsforconsultationcancella-tionfromthemedicalrecordsofpatientswithappointmentsattheoutpatientclinicforDRatShinshuUniversityHospitalfromFebruarytoMay2019and2020.Results:Intotal,559and537patientswerescheduledforconsul-tationCinC2019CandC2020,Crespectively,CwithCnoCsigni.cantCdi.erencesCinCage,Csex,CorCDRCseverity.CInC2019,C41Cappointmentswerecancelled,while55werecanceledin2020,ofwhich26werecancelledduetoCOVID-19.Con-clusion:InC2020,47%CofDRoutpatientappointmentswerecanceledduetoCOVID-19,suggestingthatthepan-demica.ectedDRoutpatientclinicvisits.WhiletheCOVID-19pandemicisnotyetundercontrol,itisimportanttoencourageDRpatientstocontinueregularclinicalfollow-upvisits.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(3):345.349,C2022〕Keywords:新型コロナウイルス感染症,糖尿病網膜症.COVID-19,diabeticretinopathy.Cはじめにる1).感染を恐れ病院受診に不安を感じる患者は少なくなく,2019年C12月に中国の武漢に端を発した新型コロナウイルCOVID-19が流行し始めたC2020年初めより信州大学医学部ス感染症(CoronavirusDisease,2019:COVID-19)の世界附属病院(以下,当院)全体での外来受診者数も徐々に減少的な流行は医療を含めさまざまな分野に影響を及ぼしていした.眼科外来の対応としてはC2020年C4月C16日に緊急事〔別刷請求先〕土屋彩子:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:AyakoTsuchiya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-8621,JAPANC態宣言が出され不要不急の外出の自粛が要請されたことを受け,担当医が患者へ電話連絡をし,眼科的症状の悪化を認めないようなら受診を延期するよう伝えた.この対応はC2020年C5月C25日に緊急事態宣言が解除されるまで続けた.糖尿病網膜症は国や重症度により推奨される通院間隔に異なる点もあるが,定期的なフォローアップと必要に応じての加療が重要な疾患である2,3).COVID-19流行下での米国における眼科機関での不定愁訴を主訴とした受診の状況4)や英国における糖尿病黄斑浮腫を含めた黄斑疾患患者の受診状況についての報告5)はあるが,わが国においてCCOVID-19の流行が糖尿病網膜症診療へどのような影響を与えているのかについての詳細な報告はまだなされていない.今回,筆者らはCOVID-19の流行が糖尿病網膜症定期診療に与える影響について診療録をもとに後ろ向きに検討した.CI対象および方法当院眼科糖尿病外来にC6カ月以上の通院歴がありC2019年,2020年のC2.5月に受診予約をした患者を対象とした.1カ月以内のレーザー治療歴,3カ月以内の内眼手術歴,治療の臨床試験対象例は除外した.主評価項目は年齢,性別,国際重症度分類による糖尿病網膜症重症度,受診キャンセル数,キャンセル理由で,診療録をもとに後ろ向きに検討した.副次評価項目としてキャンセルした症例のその後の経過について検討した.以下,連続変数については平均±標準偏差で記載した.統計学的検討は連続変数について対応のない検定はノンパラメトリックなCMann-WhitneyUtest,対応のある検定はCWilcoxonの符号付き順位検定,カテゴリーデータについてはCc2検定を用い,p=0.05を有意水準とした.視力は小数視力をClogMAR値に換算し統計処理を行った.CII結果2019年,2020年のC2.5月の当院眼科糖尿病外来の受診予約患者はそれぞれC559人,537人であった.2019年と2020年では平均年齢,性別構成,糖尿病網膜症重症度の割合に有意差は認めなかった(p=0.3672,p=0.9811,p=0.4322).大学病院の特性として重症な患者が多いことが理由と考えられるが,平均受診間隔はC2019年がC2.1C±1.3カ月,2020年はC2.0C±1.3カ月と有意差なく短い傾向を認めた(p=0.4983)(表1).2019年C2.5月の糖尿病網膜症外来の受診予約キャンセル数はC41人,2020年2.5月はC55人とキャンセル数は増加傾向であったが,統計学的な有意差は認めなかった(p=0.0887).2020年のキャンセル理由にはC2019年には認められなかったCCOVID-19流行を理由としたものがC26人(46%)と約半数を占め,もっとも多かった(図1).COVID-19流行を理由にキャンセルしたC26人のうちC20人がC2020年C7月31日までに来院した.2020年C8月C1日までに来院を確認できなかったC6人に対しては,医師が電話で状況を確認した.このうちC4人は遠方に住んでいることから受診を控えたとのことであり,症状に変化がないことを確認し近医を受診するよう指示した.残りのC2人は自己判断で通院を中断していたため,近日中の当院受診を指示した.そのうち一人は電話からC1週間後に来院したが,残りの一人は来院を確認できなかった.以上より,21人がCCOVID-19流行を理由に一度キャンセルしたが,後に再受診した.これらC21人についてさらに受診間隔と視力について検討した.COVID-19流行前の平均受診期間がC66.5C±3.5日であったのに対し,COVID-19流行を理由にキャンセルしてから再受診するまでの平均受診期間はC108.5C±17.5日と有意に延長していた(p<0.001).両眼ともにキャンセル前の最終受診時と比較してキャンセル後の初回受診時に有意な視力低下は認められなかった.(右眼logMAR:0.44C±0.45vs.0.44C±0.42,p=0.77;左眼ClogMAR:0.47C±0.46Cvs.C0.43±0.47,Cp=0.68)(図2).しかし,これらの症例のうちC7例C12眼でキャンセル前の最終受診時と比較して,キャンセル後の初回受診時に視力低下を認めた.図3に糖尿病黄斑浮腫に対して抗血管内皮増殖因子(vas-cularCendothelialCgrowthfactor:VEGF)療法で治療中,COVID-19を理由に受診予約をキャンセルしキャンセル後の初回受診時にキャンセル前最終受診時より症状が悪化していた症例を呈示する.80歳,女性.導入期としてアフリベルセプト硝子体注射をC3カ月連続で施行し,その後,treatCandextentレジメンとしてC1カ月間隔で投与間隔を延長した.2020年C1月にアフリベルセプト硝子体内注射を施行し,次回はC4カ月後のC5月を予定していたが,COVID-19流行を理由に患者自身で予約をキャンセルした.その後患者自身で受診予約を取り直し,本来の予約から約C3カ月遅れたC7月に受診した.キャンセル前は黄斑浮腫はある程度コントロールされ,最高矯正視力もC0.15まで回復していたが,最終受診時からC6カ月経過したC7月に来院した際は中心窩網膜厚が376Cμmと浮腫の悪化を認めた.CIII考按本研究では当院眼科糖尿病外来において,2020年,COVID-19の流行が糖尿病網膜症定期診療にどのような影響を与えているのかについて,2019年の同時期と受診状況・受診キャンセル理由に関して比較検討を行った.その結果,2019年とC2020年で受診予約していた両群の患者背景に大きな差はなかったが,2020年の受診キャンセル数はC55人と2019年のC41人よりも統計学的に有意差を認めないものの多かった.2020年のキャンセル理由として,実際の感染や感染者との濃厚接触を理由としたものはなかったが,感染する表1患者背景2019年(2.C5月)2020年(2.C5月)p値受診予約患者数(人)C559C537C.平均年齢(歳)C62.1±11.7C62.6±11.4C0.3672††男性C/女性(人)C365/194C351/186C0.9811†糖尿病網膜症重症度(人)糖尿病網膜症なしC13C14非増殖糖尿病網膜症C222C193C0.4322†増殖糖尿病網膜症C324C330平均受診間隔(月)C2.1±1.3C2.0±1.3C0.4983†††:c2検定††:Mann-WhitneyUtest2019年41人2020年55人他院入院中2人4%死亡2人4%死亡2人5%4人10%体調不良2人3%図1キャンセル理由の比較2019年C2.5月の糖尿病網膜症外来の予約キャンセル数はC41人,2020年C2.5月は55人で統計学的な有意差は認められなかった(p=0.0887).2020年のキャンセル理由はCCOVID-19の流行がC26人(47%)ともっとも多かった.右眼左眼2.02.0矯正視力(小数)1.51.00.5矯正視力(小数)1.51.00.50.00.0前々回前回キャンセル後前々回前回キャンセル後(キャンセル前初回受診時(キャンセル前初回受診時最終受診時)最終受診時)図2キャンセル後に受診した21人の視力の推移両眼ともにキャンセル前最終受診時と比較してキャンセル後初回受診時に有意な視力低下は認められなかった.ことが怖いなどのCCOVID-19の流行によるものがC26人ともっとも多かった.英国の眼科医療機関ではロックダウンしてから最初のC4週間で予約患者のうちC68%が受診しなかったという報告がある5).一方,本研究ではCCOVID-19の流行を理由に受診予約をキャンセルする患者は全予約患者のうち5%,全キャンセル患者のC47%にとどまった.この乖離の原因として,英国における社会全体のロックダウンと違い,2020年C4月C16日にわが国で出された緊急事態宣言には法的拘束力がないことや,当院がある松本市では検討期間内のCOVID-19の流行がC10万人当たりC5人を超えないレベルであり,他地方と比べ爆発的ではなかったことが考えられる.糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版)3)で増殖糖尿病網膜症はC1カ月にC1回,非増殖前糖尿病網膜症はC2.6カ月に1回,網膜症がなくてもC1年にC1回の眼科診察が推奨されて図3糖尿病黄斑浮腫に対し抗VEGF療法で加療中の80歳,女性CMT:中心窩網膜厚.いるように,糖尿病網膜症は定期的なフォローアップと必要に応じての加療が重要な疾患である.通院治療中断の既往を有する群で糖尿病網膜症と腎症が高頻度にみられることも,この考えを支持する6).2020年C5月C25日,緊急事態宣言が解除されると,観察期間中に受診予約をキャンセルしたC26人のうちC20人がC7月C31日までに来院したことが確認された.受診が確認できなかったC6人については担当医師が電話で状況を確認し,眼科機関への受診を指示した.受診が長期にわたり途絶えている患者には医療者側から受診を促し,通院中断させないことも重要と考えられた.本研究では受診予約キャンセル後に受診したC21人の視力は,両眼ともにキャンセル前最終受診時と比較してキャンセル後初回受診時に有意な視力低下は認めなかった.しかし,このうち視力低下を認めた例をC7例C12眼認めたように,予約キャンセルによる受診間隔の延長は視力予後に影響する可能性は否定できない.また,近年,糖尿病黄斑浮腫に対して抗CVEGF療法が第一選択として用いられ,定期的な診察を行い必要時に薬剤投与を行うCproCrenataや患者ごとに薬剤への反応性をみながら投与間隔を短縮・延長するCtreatCandextendといったレジメンで治療が行われることが多い7).このようなレジメンで治療を行っている患者では図3で呈示した症例のように,受診のキャンセルは病状悪化に直結することがある.加齢黄斑変性に対して抗CVEGF療法を行っている患者にはアムスラーチャートなどを用いた自宅でのセルフチェックや症状悪化時には担当医に相談するよう明確に指示することも提案されており8),糖尿病網膜症患者,とくに抗CVEGF療法を行っている糖尿病黄斑浮腫患者には同様の指導を行うことも必要と考えられる.また,COVID-19流行下においては緊急を要さない患者におけるスマートフォンなどを用いたオンライン診療の活用が提言されている9).オンライン診療には診断の確度,責任の所在,コストなどが課題として残るが,今後,推進していく必要がある分野と思われる.2月からC5月と短期間の検討ではあるが,2020年の糖尿病外来受診予約のキャンセルはCCOVID-19を理由としたものがC47%と約半数を占め,2019年の同時期と比べ多く,COVID-19の流行が糖尿病網膜症の定期診療に影響を及ぼしていることが示唆された.通院中断により病状が悪化する症例も散見され,受診が途絶えている糖尿病網膜症患者には医療者側から受診を促すなど,通院を中断させないことが重要と考えられた.また,COVID-19流行の収束がはっきりとしない現状(2021年C1月投稿時)では,今後,患者によるセルフチェックやオンライン診療も検討課題と考えられる.(本稿の要旨については第C26回日本糖尿病眼学会総会において発表を行った)文献1)HuangC,WangY,LiXetal:ClinicalfeaturesofpatientsinfectedCwithC2019CnovelCcoronavirusCinCWuhan,CChina.CLancetC395:497-506,C20202)SolomonCSD,CChewCE,CDuhCEJCetal:DiabeticCretinopa-thy:aCpositionCstatementCbyCtheCAmericanCDiabetesCAssociation.DiabetesCareC40:412-418,C20173)日本糖尿病眼学会診療ガイドライン委員会:日本糖尿病網膜症診療ガイドライン(第C1版).日眼会誌C124:955-981,C20204)StarrMR,IsrailevichR,ZhitnitskyMetal:Practicepat-ternsCandCresponsivenessCtoCsimulatedCcommonCocularCcomplaintsCamongCUSCOphthalmologyCCentersCduringCtheCCOVID-19Cpandemic.CJAMACOphthalmolC138:981-988,C20205)StoneCLG,CDevenportCA,CStrattonCIMCetal:MaculaCser-viceCevaluationCandCassessingCprioritiesCforCanti-VEGFCtreatmentCinCtheClightCofCCOVID-19.CGraefesCArchCClinCExpOphthalmolC258:2639-2645,C20206)田中麻理,伊藤裕之,根本暁子ほか:2型糖尿病患者における治療中断の既往と血管合併症との関係.糖尿病C58:C100-108,C2015C7)平野隆雄:A.iberceptとCranibizumabの比較,新しい抗C1149-1156,C2020VEGF薬の紹介.眼科C60:879-885,C20189)DamodaranCS,CBabuCN,CArthurCDCetal:Smartphone8)KorobelnikCJF,CLoewensteinCA,CEldemCBCetal:GuidanceCassistedCslitClampCevaluationCduringCtheCCOVID-19Cpan-forCanti-VEGFCintravitrealCinjectionsCduringCtheCCOVID-demic.IndianJOphthalmolC68:1492,C2020C19Cpandemic.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC258:***

基礎研究コラム:シングルセル解析

2022年3月31日 木曜日

シングルセル解析八幡信代九州大学大学院医学研究院眼病態イメージング講座“Spectacle”が立ち上がるなどシングルセル解析を用いた研シングルセル解析とは究は急速に進んでおり,シングルセル遺伝子発現解析による生体内には多様な細胞が存在し,互いに作用しながら経時角膜輪部幹細胞の多様性,網膜や房水流出路を構成する多様的に変化しています.また,一つの細胞種のなかにも多様性な細胞構築,網膜オルガノイドの経時的分化,加齢黄斑変性があり,異なる細胞応答を示します.これらの現象は検体を眼の網膜色素上皮細胞解析などの報告があります3).筆者ら一塊として解析を行う従来の解析(bulk解析)ではみえなかはCCYTOFを用いてぶどう膜炎の末梢血や眼内液中炎症細ったのですが,1細胞レベルの遺伝子・蛋白発現解析(シン胞を解析し,病態とかかわりのあるサブセットの同定を行っグルセル解析)により明らかになってきたもので,生体現象ています4)(図1).を理解するうえで大変重要であると考えられています1,2).シングルセル解析には高次元フローサイトメトリーや今後の展望Cytometrybytimeofflight(CYTOF)などのマスサイトメシングルセル解析を使った研究は免疫学,分子生物学分野トリー,シングルセルCRNAシーケンスのほか,エピゲノムなどを中心に急増しており,生体現象を明らかにする基礎研解析やCT・B細胞受容体レパトワ解析などがあります.さら究から,疾患病態の解明などの臨床研究分野でも重要なアプに遺伝子・蛋白発現の同時解析が可能なCCITEseq,組織構ローチとなってきています.近い将来,シングルセル解析の築とともに遺伝子や蛋白発現解析が可能な空間的遺伝子発現コストが下がり,誰もが気軽にシングルセル解析を行う時代解析・イメージングサイトメトリーなど,次々と新たな技術が来ることでしょう.また,シングルセル解析と全ゲノムシーが誕生しています.筆者らが取り組んでいるCCYTOFは,ケンスやプロテオミクス解析情報などを統合したマルチオミ従来の蛍光蛋白の代わりに金属同位体を抗体に標識することクス解析により患者を層別化し,予後予測や個別化医療などでシグナルのオーバーラップを大幅に減らし,一度にC30種に有用なツールとしても益々発展していくと考えられます.類以上の細胞発現蛋白を同時解析することが可能です2)(図文献1).さらにシングルセル解析は特定の細胞種をあらかじめ分離する必要がないため,従来解析が困難であった少数の細胞1)ArmingolCE,CO.cerCA,CHarismendyCOCetal:DecipheringCcell-cellCinteractionsCandCcommunicationCfromCgene集団の解析も可能です.そして,これらの技術で得られた膨Cexpression.NatRevGenet22:71-88,C2021大なデータを解析するバイオインフォマティクスツールの進2)HartmannCFJ,CBendallSC:ImmuneCmonitoringCusingCmassCcytometryCandCrelatedChigh-dimensionalCimaging歩とともに,細胞の多様性,細胞分化,細胞レベルの組織構Capproaches.NatRevRheumatolC16:87-99,C2020築,疾患の病態など,新たな知見を生み出しています.ま3)PengCYR,CShekharCK,CYanCWCetal:MolecularCclassi.ca-tionandcomparativetaxonomicsoffovealandperipheralた,既存の知識に基づいて行う従来の解析法では明らかでなCcellsinprimateretina.CellC176:1222-1237,Ce1222,C2019かった新たな細胞集団の発見を導く可能性も秘めています.4)YamanaS,ShibataK,HasegawaEetal:Mucosal-associ-atedCinvariantCTCcellsChaveCtherapeuticCpotentialCagainst眼科領域においてocularCautoimmunity.CMucosalCImmunol,doi:10.1038/Cs41385-021-00469-5,C2021眼科領域でもシングルセルCRNAシーケンスデータベースNK細胞CD8+T細胞眼内液図1CYTOFマスサイトメトCD8+T細胞リーを用いたぶどう膜炎患CD4+T細胞B細胞者眼内液と末梢血中単核球NK細胞の解析B細胞CD4+T細胞金属同位体を標識したC30種類以単球CD69上の抗体の同時染色とクラスター単球末梢血解析により,微量検体中の炎症細CD45CD8+T細胞胞のサブセットや活性化を高解像度で見ることができる.CD3CD20CD14CD4+T細胞B細胞(フリューダイム株式会社提供)CCD4CD8CD56NK細胞CD45RA単球……(73)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C3350910-1810/22/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス:バスケットボールに起因する外傷性網膜剝離(初級編:

2022年3月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載226226バスケットボールに起因する外傷性網膜.離(初級編)池田恒彦大阪回生病院眼科●はじめにスポーツに起因する外傷性網膜.離は球技や格闘技によるものが多く,原因裂孔としては,網膜振盪症部位に生じた壊死性裂孔や,眼球の高度の変形による鋸状縁断裂などがある.一般に球技ではボールによる鈍的外傷によって壊死性裂孔が生じ,網膜.離が発症することが多い.一方,球技の一つであるバスケットボールは,選手同士が至近距離でプレーを行うため,ボールによる直接的な打撲よりもむしろ選手同士の接触プレーによる打撲が多発すると考えられる.筆者らは以前にバスケットボールに起因する外傷性網膜.離の2例を報告したことがある1).●症例提示症例1は17歳,男性.バスケットボールプレー中に相手の指が右眼に当たり,右眼下方の網膜格子状変性が全周にわたって打ち抜かれたような形状の裂孔を認め,その周囲に網膜.離が生じていた(図1).後日,強膜バックリング手術を施行し復位を得た.症例2は17歳,男性.同様にバスケットボールプレー中に相手の指が左眼に当たり,上方2カ所の不規則な裂孔と上鼻側に鋸状縁断裂を認めた.また,上鼻側約90°にわたって硝子体基底部.離があり,紐状に.離した毛様体色素上皮が硝子体腔内に浮遊していた(図2).後日,強膜バックリングを施行し復位を得た.●バスケットボールに起因する外傷性網膜.離の特徴症例1では網膜格子状変性の全周が打ち抜かれたような裂孔を生じており,比較的珍しいタイプと考えられる.網膜格子状変性では全周に網膜硝子体癒着を形成しているが,今回の症例1は指による眼球の高度な変形により,瞬間的に網膜格子状変性の全周が裂けたものと考えられる.症例2では硝子体中に紐状に.離した毛様体色素上皮が浮遊していたが,これも指による高度な眼球変形の結果,硝子体基底部.離を生じたためと考えられ(71)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY図1症例1の術前眼底写真右眼の下方に網膜格子状変性の全周が打ち抜かれたような裂孔を認める.(文献1より引用)図2症例2の術前細隙灯顕微鏡所見左眼上鼻側に紐状の毛様体色素上皮.離を認め,硝子体基底部.離に起因するものと考えられる.(文献1より引用)る.他の球技による外傷性網膜.離とは異なり,この2例はいずれもボールによる鈍的打撲ではなく,相手の指の接触に起因したものだった.バスケットボールは接触プレーが多く,相手の手指などで眼部を打撲する頻度が予想以上に高く,瞬間的な眼球の高度な変形により外傷性網膜.離をきたす危険性が高いと考えられる.文献1)明石麻里,森下清太,福本雅格ほか:バスケットボールプレー時の外傷性網膜.離の臨床的特徴.眼科手術4:690-693,2016あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022333

考える手術:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術

2022年3月31日 木曜日

考える手術③監修松井良諭・奥村直毅増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術坂西良仁順天堂大学医学部附属浦安病院眼科増殖糖尿病網膜症は糖尿病による網膜虚血から新生血管が発生し,そこから増殖膜が発生して牽引性網膜.離などをきたしていく疾患で,硝子体手術における難治疾患の一つです.その理由として,多彩な眼底所見をきたすことがあげられます.したがって,可能であれば術前にフルオレセイン蛍光眼底造影検査を広角眼底撮影にて行うことで,増殖膜と網膜の癒着が強いepicenterの場所を把握することが容易になり,手術の進め方の参考になります.次に増殖膜処理に移りますが,複数のepicenterにまたがる増殖膜が問題となりますので,増殖膜を硝子体カッターなどで切除し,それを硝子体カッターで処理することで効率よく膜処理を行うことができます.増殖膜と網膜の癒着が強くどこにepicenterがあるかわからない場合は,増殖膜の辺縁を硝子体カッターあるいは硝子体鑷子で把持して軽く牽引するとepicenterのある部位が視認でき,それ以外の部分はそのまま緩徐に牽引すると増殖膜と網膜をわりと簡単に分離することができます.このとき留意する点はepicenterがないことをしっかり視認しながら牽引するという点で,これをおろそかにしてしまうと誤って網膜裂孔を作成してしまうことがあります.網膜裂孔と網膜.離が存在することで増殖膜処理の難易度が格段に上がるため,増殖膜処理においてもっとも重要なことはいかに網膜裂孔を作製しないかという点です.言い換えれば裂孔を作製しないために増殖膜と網膜の間のepicenterを視認できる環境を常に作りながら処理していくことが重要です.聞き手:手術に臨むにあたって術前に気をつけるポイン診察し,増殖膜の所在や牽引性網膜.離の有無,後部硝トはありますか?子体.離の範囲を把握することがポイントです.網膜上坂西:増殖糖尿病網膜症はその所見が症例によりさまざに広範囲に増殖膜があっても,強固に癒着しているのはまであり,その症例がどのような眼底の状態なのかを把おもにepicenterとよばれる網膜からの新生血管が増殖握してから手術に臨むのがよいと思います.直接眼底を膜に伸びている部位であり,それがどこにあるかを把握(69)あたらしい眼科Vol.39,No.3,20223310910-1810/22/\100/頁/JCOPY考える手術するためには可能なら広角眼底撮影でのフルオレセイン蛍光眼底造影検査が有用です.硝子体出血を伴っていて詳細な眼底の観察ができないことも多くありますが,その際は断層超音波検査を行うことで網膜.離や増殖膜の所在がおおよそわかります.また,糖尿病という全身疾患に伴う病気であることから眼底の状態も左右で同程度であることが多く,瞭眼の状態を確認することができれば,術眼の状態把握の参考になります.聞き手:手術中にどのように増殖膜にアプローチすればよいか迷うことがありますが?坂西:やるべきことは増殖膜と網膜の間隙を探し出し,網膜から増殖膜を取り除くことです.昨今の硝子体手術機器の進歩により,増殖膜へのアプローチがしやすくなってきています.先に述べたようにepicenterの部位で増殖膜と網膜の癒着が強いので,それがどこにあるかをよく見ながら増殖膜を.離していきます.具体的には,硝子体カッターの先端が増殖膜の下に回りこむことができれば,カッターの吸引口を増殖膜に当てて上に引っかけるようにしながら少しずつ増殖膜を切除していきます.このとき,とくに牽引性網膜.離がある状態で吸引圧を上げると網膜を誤吸引してしまうので,吸引圧はあまり上げずに切除することが重要です.もし増殖膜と網膜の間隙がわからないときは,硝子体鑷子で増殖膜を少し引っ張ってみるとよいです.Epi-centerがない部位であればそのまま増殖膜が.離できますし,増殖膜をよく観察しているとepicenterの部位は.離ができないためにその部位がはっきり視認できます.そのようにepicenterの部位を残して増殖膜を切除していくと,それぞれのepicenter一つずつに孤立した増殖膜が付着している状況になり,ここまでくれば硝子体カッターで容易に増殖膜とepicenterを同時に処理することができます.牽引性網膜.離のある箇所の増殖膜処理や硝子体カッターが下に入り込む余地がなければ,シャンデリアライトを立てたうえで双手法が有効です.これは片手に硝子体鑷子で増殖膜を上に持ち上げながら,もう片手で硝子体剪刀を用いて,①増殖膜を切る,②鈍的に.離する,③epicenterを切る,という方法です.両手で細かい操作を必要とするため手技の鍛錬が必要ですが,最近ではフットスイッチで鑷子と剪刀の開閉を制御できるpneu-matichandpieceというデバイスもありますので,これを用いることで鑷子や剪刀を開閉するときのブレがほぼなくなり,かなり精密な操作で双手法を行うことができます.聞き手:増殖糖尿病網膜症で牽引性網膜.離がある際にガスなど入れる必要があるかないかは,何を基に判断していますか?坂西:網膜.離があっても裂孔がなければタンポナーデは不要と思われます.つまり牽引性網膜.離であればその牽引の原因となっている増殖膜を切除することで自然と網膜は復位するからです.しかし,裂孔が開いているのかわからないくらい小さい裂孔が開いている場合もあり,このように網膜裂孔が開いていないか確信がもてない場合は念のためガスタンポナーデを行ったほうが安全です.さらに,裂孔が開いていなくても.離範囲が広い症例では,ガスタンポナーデを行わないと復位を得にくいと報告されており,やはりこのような症例でもタンポナーデは必要です.タンポナーデ物質としてガスのほかにシリコーンオイルを用いる場合もあります.シリコーンオイルはガスと異なり,半永久的に眼内でタンポナーデ効果が持続されます.シリコーンオイルのその他の特徴として術直後から眼底の透見がよい,前房と後房の隔壁ができ血管新生緑内障が引き起こされにくい,などがあります.したがって,シリコーンオイルを選択する対象となるケースとしては,両眼の重症増殖糖尿病網膜症で片眼の術後にすぐ対眼の手術が必要な場合や,虚血が強く血管新生緑内障を合併することが予想される場合,長期に網膜.離があり網膜の復位に時間がかかりそうな場合などがあげられます.332あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022(70)

抗 VEGF治療:滲出型加齢黄斑変性に対するブロルシズマブの治療成績

2022年3月31日 木曜日

●連載117監修=安川力髙橋寛二97滲出型加齢黄斑変性に対する松本英孝群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学ブロルシズマブの治療成績ブロルシズマブは滲出型加齢黄斑変性における滲出を改善させる効果が高い.また,ポリープ状脈絡膜血管症におけるポリープ状病巣の高い消失効果が期待できる.しかし,眼内炎症をきたしやすいため慎重な経過観察が必要であるとともに,眼内炎症発症時には速やかにステロイド治療を行う必要がある.ブロルシズマブの対象症例滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)に対する抗CVEGF薬治療のこれまでの成績から,type2またはCtypeC3CmacularCneovasculariza-tion(MNV)を伴う滲出型CAMDに対しては,新生血管が網膜色素上皮上に存在し抗CVEGF薬の効果が出やすいため,VEGF抑制効果の比較的弱いラニビズマブを用いても十分に治療効果が期待できると筆者らは考えている.一方で,新生血管が網膜色素上皮下に存在するCtype1MNVに対してはラニビズマブよりアフリベルセプトのほうが高い有効性を示すと報告されており,筆者らもアフリベルセプトを用いて治療を行ってきたが,それでも治療効果が不十分なケースは少なからず存在する.ブロルシズマブは,2020年C5月に日本でも使用可能となった新規の抗CVEGF薬である.ヒト化一本鎖抗体フラグメントであり,26kDaという質量の小ささと120Cmg/mlの溶解性により,モル換算でラニビズマブと比較して約C22倍の投与量を実現している.滲出型AMDに対する国際共同第CIII相試験であるCHAWKC&HARRIER試験1)において,ブロルシズマブの視力改善量はアフリベルセプトと比較して非劣性であることが示された.また,網膜内液,網膜下液だけでなく,網膜色図1PCVに対するブロルシズマブ硝子体内注射を用いた導入治療例76歳,男性,左眼視力(0.6).左:治療前の眼底写真で黄斑部に橙赤色隆起病巣を伴う色素上皮.離と色素上皮萎縮がみられ,インドシアニングリーン蛍光造影で異常血管網と色素上皮.離内のポリープ状病巣がみられる.光干渉断層計ではポリープ状病巣による色素上皮の急峻な立ち上がりがみられ,それが漿液性色素上皮.離に連なりCtomographicnotchsignを呈している.また,異常血管網を反映するCdoublelayersignがみられ,漿液性網膜.離を伴っている.さらに,doubleClayersignの部位に一致して脈絡膜外層血管の拡張を伴う脈絡膜肥厚がみられる.中心窩下脈絡膜厚はC360Cμmである.右:ブロルシズマブ導入治療後.左眼視力(1.2).眼底写真では黄斑部の橙赤色隆起病巣と色素上皮.離が消退しており,インドシアニングリーン蛍光造影ではポリープ状病巣の消失が確認できる.光干渉断層計では色素上皮.離,漿液性網膜.離が消退しており,中心窩下脈絡膜厚もC303Cμmに減少している.(文献C2より改変引用)(67)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C3290910-1810/22/\100/頁/JCOPY眼内炎症ステロイド治療後図2ブロルシズマブ関連眼内炎症例77歳,女性.PCVに対するブロルシズマブ初回注射のC3週後に飛蚊症を自覚して来院.硝子体炎と周辺の網膜血管炎がみられ,ブロルシズマブ関連眼内炎症の診断でトリアムシノロン後部CTenon.下注射とベタメタゾン点眼で治療を行い,眼内炎症は鎮静化した.(文献C2より改変引用)素上皮下液のコントロール効果もブロルシズマブはアフリベルセプトと比較して有意に高いことが示された.つまり,ブロルシズマブはアフリベルセプトと比較して網膜色素上皮下病変に対する有効性が高いことを示唆している.以上のことから,筆者らはポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalCchoroidalvasculopathy:PCV)やCpachychoroidneovasculopathyを含むCtypeC1MNVを伴う滲出型CAMDに対してブロルシズマブを使用している.ブロルシズマブの治療成績治療経験のないCtypeC1MNVを伴う滲出型CAMDC42眼に対する導入期治療成績をまとめた筆者らの研究2)では,36眼(85.7%)でC3回のブロルシズマブ注射を完遂でき,これらの症例では視力と滲出性変化の有意な改善が得られた.また,導入治療後にC94%の症例でCdrymaculaが得られた.さらに,導入治療を完遂できたC36眼中C19眼がCPCVであり,そのうちC15眼(78.9%)でポリープ状病巣の完全消失が得られた(図1).導入治療後のポリープ状病巣の消失率は,ラニビズマブ単独で約30%,アフリベルセプト単独で約C50%と報告されているため,これまでの抗CVEGF薬と比較してブロルシズマブでは高いポリープ状病巣の消失率が得られる可能性がある.PCVは日本人の滲出型CAMDの約半数を占めると報告されている.また,ポリープ状病巣は黄斑下血種のリスクファクターであることや,ポリープ状病巣が残存すると滲出が再燃しやすく頻回の抗CVEGF薬治療が必要になることが報告されている.以上のことから,PCVに対するブロルシズマブの有効性は,滲出型CAMD診療において明るい知らせといえる.筆者らは,最長投与間C330あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022隔をC16週に設定してCtreat-and-extendレジメンでブロルシズマブ治療を継続しており,今後,長期的な治療成績をまとめていく予定である.ブロルシズマブ関連眼内炎症ブロルシズマブは滲出型CAMDに対して高い有効性を示すが,懸念されるのは硝子体内注射後の眼内炎症である.ブロルシズマブはこれまでの抗CVEGF薬と比較して非感染性眼内炎症の発現率が高く1),重症化した場合,網膜血管閉塞による恒久的な高度の視力低下をきたすリスクがある.また,HAWK試験に参加した日本人の眼内炎症発現率はC12.9%と全体の平均値より高いことが報告されており,筆者らの検討でも導入期治療中に19.0%の症例で眼内炎症が確認された2).また,眼内炎症のリスクファクターとしては,女性,糖尿病合併,高齢などがあげられている2,3).ブロルシズマブ関連眼内炎症に対してはステロイド治療の有効性が確認されており,早期発見と集中的なステロイド治療,そして注意深い経過観察が推奨されている4).筆者らは,ブロルシズマブ治療を開始する前に眼内炎症のリスクについて患者に詳しく説明するとともに,治療眼に飛蚊症などの症状を自覚した場合にはすぐに電話で相談するよう指導し,眼内炎症の早期発見,早期治療に努めている.眼内炎症が確認された場合,当科ではブロルシズマブ治療を中止し,一律トリアムシノロンC30Cmg後部CTenon.下注射とベタメタゾン点眼で治療を行っており,現在のところ網膜血管閉塞に伴う高度視力低下の経験はない(図2).文献1)DugelCPU,CSinghCRP,CKohCACetal:HAWKCandCHARRI-ER:Ninety-six-weekoutcomesfromthephase3trialsofbrolucizumabCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegen-eration.Ophthalmology128:89-99,C20212)MatsumotoH,HoshinoJ,MukaiRetal:Short-termout-comesCofCintravitrealCbrolucizumabCforCtreatment-naiveCneovascularage-relatedmaculardegenerationwithtype1choroidalneovascularizationincludingpolypoidalchoroidalvasculopathy.SciRep11:6759,C20213)MukaiCR,CMatsumotoCH,CAkiyamaH:RiskCfactorsCforCemergingintraocularin.ammationafterintravitrealbrolu-cizumabCinjectionCforCage-relatedCmacularCdegeneration.CPLoSOne16:e0259879,C20214)BaumalCR,BodaghiB,SingerMetal:Expertopiniononmanagementofintraocularin.ammation,retinalvasculitis,andvascularocclusionafterbrolucizumabtreatment.Oph-thalmolRetinaC5:519-527,C2021(68)

緑内障:OCTによる網膜神経節細胞の観察

2022年3月31日 木曜日

●連載261監修=山本哲也福地健郎261.OCTによる網膜神経節細胞の観察中野絵梨京都大学大学院医学研究科眼科学従来の光干渉断層計(OCT)の解像度では網膜神経節細胞(RGC)の細胞体を描出することはできなかった.補償光学(adaptiveoptics)を応用したCAO-OCTを用いることで解像度が向上し,細胞体の観察が可能となった.緑内障眼では正常眼に比べCRGCの細胞体密度が減少し,細胞体径が大きくなっていることがわかった.●はじめに約C30年前に出現した光干渉断層計(opticalCcoher-encetomography:OCT)1)は,さまざまな眼疾患の診断治療のあり方を劇的に変え,病態解明に貢献してきた.Time-domainOCTでは網膜全層の厚みや大まかな形態の把握にとどまったが,spectral-domainOCTの出現により網膜内の層ごとの評価が可能となった.しかし,細胞体を描写するには解像度が不足しており,各層の厚みや層内の輝度・構造変化を観察することで,間接的に細胞の状態や細胞数を推測するしかなかった.近年,補償光学適用COCT(adaptiveCoptics-OCT:AO-OCT)を用いることで,ヒト生体における網膜神経節細胞(retinalCganglioncell:RGC)の細胞体が観察できるようになった2,3).本稿では,AO-OCTの原理,AO-OCTにより観察されたCRGCの形態について紹介する.●AO.OCTの原理補償光学(adaptiveoptics:AO)はもともと天体観測における解像度向上のために発達した技術である.星から発せられた光波は,地上に届くまでに大気のゆらぎの影響を受け歪んでしまい,望遠鏡で観測するとぼやけた像となってしまう.眼底イメージングにおいては,測定のために眼内に照射した光の,眼底からの反射光が星の光,角膜や水晶体といった眼球光学系の収差が大気のゆらぎにあたる.反射光が収差の影響でどれくらい歪んでいるかがわかり,さらにその歪みを光学的な処理で打ち消すことができれば,歪みのない反射光,つまり鮮明な眼底像を獲得できるはずである.この補正技術がCAOである.具体的には,図1のように反射光の歪みを波面センサー(Shack.Hartmann波面センサー)で計測する.計測結果をもとに,表面の凹凸を高速に細かく変化させる図1AO.OCTの撮像原理撮像中,眼球光学系の収差の影響を受け歪んだ光波をリアルタイムに波面センサーで計測し,歪みを打ち消すように可変形状ミラーの形状を瞬時に変化させ続け,高解像度の画像を構築する.(65)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022C3270910-1810/22/\100/頁/JCOPY2520151050Numberofaveraging,n図2AO.OCTで撮像された網膜神経節細胞の細胞体加算平均なし(左上)ではノイズが多く細胞体は確認できないが,加算平均枚数を増やすことでコントラストが向上し,網膜神経節細胞体が可視化される(左下,137枚加算.の高反射体が網膜神経節細胞の細胞体を示していると考えられている).(文献C2より引用.は筆者が追記)ことができる可変形状ミラーという特殊な鏡でうまく歪みを打ち消して反射し,検出器に対して理想的な平面波を入力する.これを眼底撮影中リアルタイムで行い続けることで,高解像度の画像を取得することができる.従来のCOCTの分解能は縦C5Cμm,横C20Cμm程度であるが,AO-OCTでは縦C3Cμm,横C3Cμmになる.RGCの細胞体径はC10Cμm前後であり,細胞体の描出にたる分解能といえる.C●AO.OCTによる網膜神経節細胞の観察2017年に初めて,米国インディアナ大学の研究グループからCAO-OCTを用いてCRGCを可視化する研究が発表された2).RGCは細胞体のなかでも透明性が高く描出がむずかしいため,同部位をC11回撮像して得られた137枚の画像を加算平均することでコントラストを高め,RGCの細胞体と思われる円形高反射体の観察に成功した(図2).同じ機械を用いて緑内障眼と正常眼を比較した報告3)では,緑内障眼はCRGCの細胞体密度が低下していた.図3のように視野欠損部位に対応する下方網膜ではCRGCがほとんど観察されない(図3右下).また,緑内障眼では正常眼に比べてCRGCの細胞体平均径が大きく,細胞体内の輝度変化に富んでいた.筆者らは,アポトーシス前の細胞体や,周囲のCRGCの細胞死C328あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022図3AO.OCTで撮像した緑内障眼の網膜神経節細胞a:スペクトラリス(ハイデルベルグ社)による網膜全層のCthicknessmap.下方網膜の菲薄化を認める.Cb:HFA24-2では菲薄下網膜に対応する上方視野の異常を認める.Cc:AO-OCTで撮像した中心窩耳側C12°の網膜神経節細胞.中段CL7が耳側縫線上で,上段CL5と下段CL6はそれぞれ耳側縫線からC2.5°上下した部位.比較的健常な部位(L5)では網膜神経節細胞体の密度はある程度保たれるが,患側(L6)に近づくにつれ細胞体の密度は著しく減少する.(文献C3より引用.は筆者が追記)に伴い生まれた死腔を補.するために膨化した細胞体を見ているのではないかと推察している.このようにCAO-OCTは画期的な眼底イメージング機器であるが,約C500Cμm四方という画角の小ささや,被写界深度(ピントが合っているように見える範囲)の狭さ,現在普及しているCOCTに搭載されているようなフォローアップモードがないなど,ハード面での課題がまだ多いのが現状である.今後の改善および続報が期待される.文献1)HuangCD,CSwansonCEA,CLinCCPCetal:OpticalCcoherenceCtomography.ScienceC254:1178-1181,C19912)LiuZ,KurokawaK,ZhangFetal:Imagingandquantify-ingCganglionCcellsCandCotherCtransparentCneuronsCinCtheClivinghumanretina.ProcNatlAcadSciUSAC114:12803-12808,C20173)LiuCZ,CSaeediCO,CZhangCFCetal:Quanti.cationCofCretinalCganglionCcellCmorphologyCinChumanCglaucomatousCeyes.CInvestOphthalmolVisSciC62:34,C2021(66)

屈折矯正手術:ICLにおける乱視矯正

2022年3月31日 木曜日

監修=木下茂●連載262大橋裕一坪田一男262.ICLにおける乱視矯正五十嵐章史スカイビル眼科ICL(STAAR社)は専用インジェクターの形状より角膜切開創はC3.0~3.2Cmmが必要とされ,通常の白内障手術より術後惹起乱視の影響を考慮する必要がある.また,乱視矯正可能なCtoricICLは術後回転による乱視矯正効果の低下が問題であるが,眼球の解剖学的特徴を考慮した垂直固定にすることでそのリスクは軽減できる.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズCImplantableContactLens(ICL,STAAR社)は,若年の健常眼に対してQOL(qualityCoflife)を向上させることが目的となるため,術後は良好な裸眼視力を獲得することが必須であり,そのためには術後乱視を限りなくゼロにすることが望ましい.近年では術式が白内障手術に近いことから,これまで屈折矯正手術を専門としていない術者も増えているが,術後乱視のマネージメントに関しては通常の白内障手術と異なる点があるため,本稿でそのポイントを解説する.C●ICLおよびtoricICLICLには近視のみを矯正するCnon-toricレンズと近視および乱視を矯正するCtoricレンズのC2種類がある.屈折度数は-0.5D~-18.0D(うち国内承認範囲は-3.0~-18.0D),乱視度数は+0.5~+6.0D(うち国内承認範囲は+1.0~+4.5D)と矯正範囲が広いのが特徴である.ICLの度数計算は白内障手術と異なり,他覚検査ではなく自覚屈折値にてほぼ決定するため,まず正確な視力検査を行うことが重要となる.●手術手技と惹起乱視量ICLは耳側角膜切開が基本であるが,STAAR社から提供されるCICL専用のインジェクターの形状から,レンズ挿入にはC3.0~3.2Cmmの切開幅を必要とする.図1に過去に清水が報告1)した耳側角膜切開幅と乱視量の関係を示す.清水の報告によるとC3.2CmmではC0.24Dの惹起乱視が生じ,最新のCkamiyaらの報告でもほぼ同様である2).ICL手術対象の若年者の場合,ほとんどが直乱視であるため,3.0~3.2Cmmの耳側切開で手術を行うと術後に角膜乱視はC0.2~0.3D,自覚乱視はC0.5D程度直乱視が強くなることを考慮しなければいけない.C●上方角膜切開によるICL挿入直乱視例は角膜耳側切開で直乱視化することから,逆に角膜上方切開にて惹起乱視を利用し直乱視を軽減させる方法がある.図2にCkamiyaら2)の直乱視例に対する角膜耳側切開と上方切開での角膜乱視度数の変化を示す.上方切開では術後角膜乱視がC0.23D程度軽減しており,自覚乱視ではおおむねC0.5D程度の直乱視軽減効果があると考える.このように直乱視が多いCICL対象C2.5CornealAstigmatism(D)2.01.51.00.50.4術後乱視変化(D)0.0図2術前・術後3カ月の角膜乱視度数の変化(耳側切開,(文献C1より改変引用)C上方切開)(文献C2より引用)(63)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2C022C3250910-1810/22/\100/頁/JCOPY96.4%(425/441)軸ずれ修正なしTotal:441眼3.6%(16/441)軸ずれ修正あり93.8%(15/16)水平固定図3ToricICL挿入後1年までの乱視軸ずれによる修正の有無例では上方切開を行うことで直乱視が軽減できるため,近年筆者はほとんど上方切開で行うようになっており,non-toricレンズを選択する割合が増えている.ただし,角膜上方切開は手術手技上少し注意が必要である.適切な角膜切開位置がポイントとなるが,上方は耳側と比べ瞳孔中心に近いため,あまり角膜寄りに切開を行うと惹起乱視が強く起こりすぎる可能性があり,場合によっては術後に斜乱視化や倒乱視化することとなる.また,逆に強膜寄りに切開すると出血が多く術野の透見が不良になり,切開創の閉鎖不全も起こりやすく,また上方隅角が下方に比べ浅いことから虹彩脱出が生じやすくなる.筆者は上方切開を行う場合はそれらを考慮し,whitetowhite部分のやや角膜側を切開位置としている.C●ToricICLの回転前述のように軽度直乱視であれば角膜上方切開にて乱視軽減は可能であるが,より強い乱視例ではCtoricレンズを用いることで良好な臨床成績を得ることができる.しかし,toricレンズで注意すべき点は,術後のレンズ回転による乱視矯正効果の減弱である.通常,toricレンズはC1°のずれで約C3%乱視矯正効果が減弱するとされており,30°レンズが回転してしまうと,理論上,乱視矯正効果はほとんどなくなることになる.ToricICL挿入後C1年経過観察できた症例の乱視軸ずれに対して修正処置を行った割合を図3に示す.近年はサージカルガイダンスも登場し,より正確な術中のレンズ固定が可能となっているが,このデータはすべてマニュアルでマーキングを行った例であり,術直後の位置修正も含まれている.術後に位置修正が必要であった例はC3.6%であり,過去の報告と同様かやや少ない割合である.一般的に術後レンズが回転する原因にレンズサイズが小さいことがC326あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022あげられるが,筆者は固定位置がより重要と考えている.解剖学的に眼内のCsulcustosulcusは垂直方向のほうが水平方向に比べて約C0.3Cmm長い3)とされており,レンズ固定位置として理論的には長い方向に固定したほうが安定する.図3における術後位置修正が必要となった症例のほとんどは水平固定であり,1眼の位置補正を行った垂直固定例は術直後に施行した例であったことから,長期的には垂直固定のほうがレンズ位置は安定するのではないかと考えている.C●おわりに本稿で説明したように,ICLにおける乱視矯正の一番の問題点は大きな切開幅による惹起乱視である.図1に示すように清水は惹起乱視がほとんど生じない乱視中立の切開サイズはC2.5Cmm程度としており,より小さな切開創で挿入できるインジェクターが望まれる.最近,既存の白内障手術に用いるインジェクターを応用して小切開でCICL挿入を行う試みが始まっている.これらの安全性や有効性については,また症例が集まりしだい報告したい.文献1)清水公也:角膜耳側切開白内障手術.眼科C37:323-330,C19952)KamiyaCK,CAndoCW,CTakahashiCMCetal:ComparisonCofCmagnitudeCandCsummatedCvectorCmeanCofCsurgicallyCinducedastigmatismvectoraccordingtoincisionsiteafterphakicCintraocularClensCimplantation.CEyeVis(Lond)C8:C32,C20213)BiermannJ,BredowL,BoehringerDetal:EvaluationofciliaryCsulcusCdiameterCusingCultrasoundCbiomicroscopyCinCemmetropicCeyesCandCmyopicCeyes.CJCCataractCRefractCSurg37:1686-1693,C2011(64)

眼内レンズ:硝子体内注射による後嚢損傷に起因する白内障

2022年3月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋424.硝子体内注射による後.損傷竹下百合香中尾功江内田寛佐賀大学医学部眼科学講座に起因する白内障抗VEGF薬硝子体内注射後に後.破損および外傷性白内障を生じた患者に対し,硝子体手術を併施せずに水晶体再建術のみを行った症例を提示する.後.破損を認める患者では,術中合併症を回避するためにも,破損部位が拡大しないようなより慎重な手術操作が必要となる.●はじめに抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬は2008年に日本で承認されて以降,新規薬剤が続々と承認され,その適応疾患も徐々に拡大されている.今後は抗VEGF薬の注射数のさらなる増加が見込まれる.その一方で,ときに注射針による後.破損に起因する外傷性白内障に遭遇することがある.本稿ではそのような場合の術手技を紹介する.●症例77歳,女性.右眼視力低下を主訴に当院を紹介受診した.視力は右眼0.02(n.c),左眼0.15(0.2×sph-0.5D(cyl-1.0DAx180°),眼圧は右眼13mmHg,左眼13mmHgであった.これまで前医で右眼糖尿病黄斑浮腫に対し抗VEGF薬の硝子体内注射を計3回施行されていた.両眼に中等度の核白内障を認め,右眼には中央耳側に層状の強い水晶体皮質混濁を認めた.細隙顕微鏡では皮質混濁により後.の状態は視認できなかったが,前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で後.破損,水晶体皮質の脱出を認めた(図1).注射針による外傷性白内障と診断し,右眼水晶体再建術を施行した.通常どおり連続円形切.(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)を遂行した.後.損傷部が拡大する可能性を考慮し,hydrodissectionは行わずに超音波乳化吸引術(phacoemulsi.cationandaspi-ration:PEA)を開始した.水晶体核を1/6~1/4程度に分割し,分割フックにてやさしく核を前房内へ掻き出すよう脱臼させることを繰り返し(図2a),脱臼させた核を随時,超音波乳化吸引した(図2b).1/4以上の核を処理し,後.への水圧負荷がかかりにくくなったところで,軽くhydrodissectionを施行した.残存した核を処理し,通常通り灌流吸引(irrigation/aspiration:I/A)チップにて皮質処理を行った.いずれも,ボトルの高さや吸引流量は通常と同様の設定で行ったが,硝子体脱出は認めなかった.皮質処理後,術前に皮質混濁の強かった部位に後.破損を認めた(図2c).眼内レンズは,後.破損の程度が大きくなかったことから,1ピースアクリルレンズ(XY-1,HOYA)を.内に固定した.術後右眼視力は0.1(0.15×sph+1.50D(cyl-2.0DAx110°)に改善した.術後,眼内レンズの偏位は生じていない.●おわりに注射針による後.破損例に対しては,術中に後.破損図1術前の細隙灯顕微鏡写真(a)および前眼部OCT画像(b)a:中央耳側に層状の強い水晶体皮質混濁を認める.後.破損は混濁のため確認できなかった.b:後.破損,水晶体皮質の脱出を認めた(←).(61)あたらしい眼科Vol.39,No.3,20223230910-1810/22/\100/頁/JCOPY図2術中所見a:dvivideandconquer法にて核を2分割したのち,phacochop法で核を小さく分割した.b:分割した核を分割フックで脱臼させてから超音波乳化吸引を施行した.c:1/4以上の核を処理したのち,hydrodissectionを施行した.d:皮質処理後,中央耳側に後.破損を認めた(←).図3術後の細隙灯顕微鏡写真1ピースアクリル眼内レンズを.内固定後,眼内レンズの偏位は認めなかった.の拡大をきたすことから,硝子体手術を併用した水晶体再建術を施行する場合が多く,それらの報告もなされている1).とくに他の合併症をもつ場合は,それらの増悪などを回避する意味でも最少侵襲の手術が望ましいことはいうまでもない.本症例のようにあらかじめ術中に生じうる合併症を想定し,丁寧によく考えた戦略的な手術を施行することで,侵襲の少ない手術の実現が可能になる場合もある.術中合併症が拡大した場合は硝子体手術手技も必要となることも想定されるが,まずは最少侵襲の手術を心がけることも重要である.文献1)加納俊祐,清崎邦洋,福井志保ほか:硝子体注射1カ月後に診断された外傷性白内障の1例.あたらしい眼科36:544-547,2019