●連載269監修=稗田牧神谷和孝269.ICL後のToxicAnteriorSegment中村友昭名古屋アイクリニックCSyndromeICLの術後早期に眼内炎を認めた場合は,感染とともにCtoxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)を疑う必要がある.両者の鑑別は容易ではないが,臨床所見より早めに診断し,TASSの場合はただちにステロイド治療を開始する.その多くは軽快するが,炎症が遷延化する場合は迷わずCICLを摘出する.●はじめに2019年までの一時期,後房型有水晶体眼内レンズ(implantableCcollamerlens:ICL)の術後眼内炎が日本各地で散見された.その経過,病態から,感染ではなくCtoxicCanteriorsegmentCsyndrome(TASS)と報告された1).TASSとはおもに白内障手術後に発症し,「術中に前房内に混入した物質により起こる無菌性眼内炎」と定義されている2).その起炎物質としては塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤,消毒薬,エンドトキシン,眼内レンズの残留研磨剤などがあげられ,米国食品医薬品局(FoodCandCDrugAdministration)も単回使用のさまざまな医療器具や薬剤などに対し,製造会社が遵守すべきエンドトキシンの測定に関するガイドラインを定めている.感染性眼内炎との鑑別は困難ではあるが,その多くは術翌日からC3日目の早期に発症し,疼痛を伴わず,炎症は前房内に留まることが多く,ステロイド治療が奏効する.ICL後のCTASSに関しては最近少数例の報告3,4)があるものの,これまであまり問題とはされてこなかった.国内C12施設で連続発症したCICL術後の眼内炎C24眼(うちC1眼は当院),およびその後当院にてCICL術後のC6眼に眼内炎の連続発症を経験したので,その経過もあわせて報告する.いずれの患者も幸いにして最終的には軽快し,良好な視力を回復した.C●症例26歳,女性.眼,全身とも既往歴なし.名古屋アイクリニックにて両眼CICL手術を施行し,術中とくに問題はなかった.手術当日,就寝時は視力良好で問題なかったが,翌朝起きると両眼とも強い霞を自覚.痛みや充血はなかった.受診時の細隙灯顕微鏡所見として,両眼とも前房内炎症が非常に強く,瞳孔領内はフィブリンで図1術翌日の前眼部所見(右眼)前房内炎症が非常に強く,瞳孔領内はフィブリンで覆われ,前房蓄濃がある.図2術翌日の前眼部所見(左眼)軽度の毛様充血と角膜浮腫がみられ,ICLのCholeがフィブリンで埋まっている.(71)あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022C13630910-1810/22/\100/頁/JCOPY表1TASSと感染性眼内炎の違いTASS感染性眼内炎発症翌日~3日3~7日眼痛-~±+++硝子体炎網膜血管炎-~±++ステロイド著効不良覆われ,ICLのCholeがフィブリンで埋まっていた.前房蓄濃とともに軽度の毛様充血と角膜浮腫を認めた(図1,2).視力は右眼C0.6(矯正C0.7),左眼C0.3(矯正C0.5),眼圧は右眼C13.6mmHg,左眼C10.1CmmHgだった.症状,所見から感染よりCTASSを強く疑い,ただちに前房洗浄を施行し,抗菌薬とともにステロイド治療(点眼および眼軟膏,内服)を強化した.翌々日よりステロイド治療が奏効し炎症は軽減した.視力も右眼C2.0,左眼C1.2へ改善し,ステロイドも漸減した.しかし,2週目に炎症が再燃.その後,改善するも,3週目に炎症が再燃したため,ICLを抜去した.その後炎症は収まった.角膜内皮細胞密度は右眼C3,185/mmC2,左眼C2,915/Cmm2で,術前と変わらなかった.水晶体,網膜などにも異常は認められなかった.C●感染性眼内炎との鑑別TASSとの鑑別でもっとも重要なものは,感染性眼内炎である.白内障術後の感染性眼内炎は一般に術後C3~7日目に発症し,強い疼痛を伴い,硝子体炎や網膜血管炎など後房にも炎症が及び,ステロイドには反応せず,転帰は不良である(表1).また,まれではあるが遅発性眼内炎も起こりうる.その起炎菌としてはCPropionibacC-teriumacnesがもっとも多く,発症は術後C2~10カ月(平均C4カ月)に,順調な経過を示していた手術眼に突然虹彩毛様体炎を生じるもので,多くは豚脂様角膜後面沈着物を認める.前房蓄膿を伴うこともある.硝子体混濁は初期には認めないが,炎症の遷延化に伴って突如増強する場合がある.Allanらの報告5)によると,ICL後の術後眼内炎の発症頻度はC0.0167%(およそC6,000眼にC1眼)で,通常の白内障手術に比べても少ない.いずれも急性眼内炎であり,原因菌は表皮ぶどう球菌であり,水晶体というバリC1364あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022アが温存されているためその転帰は良好と報告されている.遅発性眼内炎の報告はない.C●対処法ICL術後の強い炎症はまれではあるが,もし遭遇した場合は,初期は感染性の可能性も考慮し,抗菌薬とともにステロイドの点眼,内服,結膜下注射などを行う.また,その程度に応じて前房内洗浄を行うこともよいかもしれない.その後の反応をみて,後房に炎症が及ばず,炎症が軽減するようであれば,TASSとの判断でステロイド治療を強化する.炎症が軽減しないようであれば,いったんCICLを摘出することがより安全な対処法であると考える.連続発症後,再発防止のため,当院ではCIA器具をディスポーザルにした.また,オートクレーブも見直し,タンク内の水を蒸留水とし毎回入れ替えることとした.その後CTASSは発症していない.C●おわりにICLは近年,合併症リスクも軽減し,幅広く使用されるようになってきたが,レーシックと違い,内眼手術であるがゆえに,いったん合併症が起こると患者だけでなく,われわれ医療者にも大きなダメージとなる.また,ICL手術の対象のほとんどが若い世代である.そのことを常に念頭に置き,安易に考えず,周術期の安全対策には万全を期して手術をすべきと考える.文献1)中村友昭:ICL挿入後の中毒性前眼部症候群(TASS).眼科手術C33:547-551,C20202)Hernandez-BogantesE,NavasA,NaranjoA:Toxicante-riorsegmentsyndrome:Areview.CSurvOphthalmolC64:C463-476,C20193)Hernandez-BogantesE,Ramirez-MirandaA,Olivo-PayneA:ToxicCanteriorCsegmentCsyndromeCafterCimplantationCofphakicimplantablecollamerlens.IntJOphthalmolC12:C175-177,C20194)SinghCA,CGuptaCN,CKumarCVCetal:ToxicCanteriorCseg-mentsyndromefollowingphakicposteriorchamberIOL:Cararity.BMJCaseRepC11:bcr2018225806,C20185)AllanCBD,CArgeles-SabateCI,CMamalisN:EndophthalmitisCratesafterimplantationoftheintraocularCollamerlens:CsurveyCofCusersCbetweenC1998CandC2006.CJCCataractCRefractSurg35:766-769,C2009(72)