●連載108監修=安川力髙橋寛二88.加齢黄斑変性へのガレクチン.1神田敦宏北海道大学大学院医学研究院眼科学教室の関与VEGF阻害薬アフリベルセプトを用いた解析より,筆者らは新規血管新生因子としてガレクチン-1を同定した.ガレクチン-1は,VEGF-A非依存的にCVEGF受容体C2と結合し,細胞内シグナルを活性化することにより血管新生を惹起するほかに,網膜色素上皮における線維化の両方で病態形成にかかわる因子として機能する.はじめに超高齢社会を迎えたわが国では,感覚器の健康を維持することはますます重要課題となっている.加齢や生活習慣病が危険因子となり,糖尿病のみならず高血圧・動脈硬化などを引き起こし,さらには加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)や糖尿病網膜症を誘発し,それらが失明などの臓器機能低下・損失の上位を占めている.これら疾患に対する根本的治療法はないが,既存療法に加え,血管内皮増殖因子(vascularendothelialCgrowthCfactor:VEGF)を標的にした阻害薬が臨床応用され,その治療成績は向上しつつある.しかしながら,VEGF阻害薬に対して反応性が乏しい,または抵抗性を示す症例も報告されている.そのため,病態形成にかかわるCVEGF以外の分子標的の探索や新規治療の開発は,現在もなお幅広く展開されている.新規血管新生因子ガレクチン.1の同定VEGF阻害薬の一つであるアフリベルセプト(アイリーア)は,VEGF受容体(VEGFreceptor:VEGFR)-1と-2のそれぞれドメインC2およびC3から構成されている薬理学的にデザインされた遺伝子組換え融合糖蛋白質である1).この特徴ある構造により,VEGF-A以外にVEGF-Bや胎盤成長因子とも結合し,さらに他のVEGF阻害薬よりもCVEGF-Aに対して高い結合親和性などが報告されている.一方,天然に存在しない蛋白質であるため,予期せぬ効果・副作用を有する可能性がある.そこで筆者らは,アフリベルセプト結合新規蛋白質の同定を試みた.アフリベルセプトと網膜関連培養細胞を用いた免疫沈降・質量分析法を行った結果,アフリベルセプト新規結合蛋白質としてガレクチン-1の同定に成功した(図1)2).ガレクチン.1と血管新生ガレクチン-1は,糖鎖のなかでもガラクトースを特異的に認識するレクチンファミリーの一つで,発生,分化,形態形成,腫瘍転移,アポトーシス,線維化といったさまざまな生理的・病理的生命現象にかかわっていアフリベルセプト非存在下アフリベルセプト存在下VEGF-AVEGF-AVEGFR-2VEGFR-2図1ガレクチン.1による血管新生の機序とアフリGalectin-1Galectin-1ベルセプトアフリペルセプト細胞外糖鎖細胞外左:ガレクチン-1は,VEGF-A非依存的にCVEGFR-2のドメインC3に結合し,その下流細胞内シグナルを活性化して血管新生を亢進する.右:一方,アフリベルセプト存在下では,アフリベルセプトと結合するVEGFR-2リン酸化ため,その機能は抑制される.細胞内シグナル活性化血管内皮細胞増殖など細胞内亢進VEGFR-2リン酸化細胞内シグナル活性化亢進血管内皮細胞増殖など抑制抑制(83)あたらしい眼科Vol.38,No.6,2021C6870910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2脈絡膜新生血管の分子病態へのガレクチン.1の関与VEGF-Aとともにガレクチン-1は血管内皮細胞にあるVEGFR2と結合し,その下流シグナルの分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ(ERK)1/2を活性化し,炎症・血管新生を亢進する.さらに,ガレクチン-1は網膜色素上皮細胞において,線維化や上皮間葉転換に深く関与するトランスフォーミング増殖因子-1(TGF-b1)/TGF-b受容体(TCbRI/II)経路の細胞内シグナルCSMAD2と共役し,線維化に繋がるその活性化にも関与する.る3).糖鎖は,核酸,蛋白質につぐ生命鎖を形成する生体情報高分子として知られ,糖鎖修飾は蛋白質の機能調節に重要な役割をもつ「翻訳後修飾」の現象として広く認識されている.そして,筆者らは糖尿病網膜症患者など由来の手術検体を用いた検討を行ったところ,非糖尿病患者に比べて,増殖糖尿病網膜症患者の硝子体中のガレクチン-1濃度は高値であったが,硝子体中のVEGF-A濃度とは相関しなかった2).さらに前房水内のガレクチン-1濃度は,糖尿病黄斑浮腫,血管新生および増殖性変化とともに上昇していることを明らかにした4).さらに,ガレクチン-1はCVEGF-A非依存的に網膜血管内皮細胞上のCVEGF受容体C2に存在するCN型糖鎖に結合して,細胞内シグナルを活性化することにより,血管内皮細胞の細胞増殖を活性化することで血管新生を惹起し,糖尿病網膜症における病態に関与する血管新生因子であることを報告した2)(図1).ガレクチン.1とAMDAMDでは,脈絡膜新生血管(choroidalCneovascular-ization:CNV)形成後の瘢痕化(線維化)が視力予後改善の妨げとなっており,問題になっている.ガレクチン-1は,血管新生以外にもさまざまな病態形成に関与することが報告されている.そこで筆者らは,滲出型AMDにともなうCCNVおよび網膜下線維化におけるガレクチン-1の関与について,レーザー誘導CCNVモデルマウスを用いて検討した.その結果,ガレクチン-1の過剰発現も欠損も,生理的な網膜細胞の分化や視機能には影響を与えないことがわかった.正常マウスへのレーザー照射によるCCNV形成では,網膜色素上皮・脈絡膜複合体におけるガレクチン-1の発現上昇が認められたが,ガレクチン-1欠損マウスではレーザー照射によるCVEGF受容体C2およびその下流の分子の発現が減少し,CNV形成も抑制された.また,ガレクチン-1欠損マウスでは,レーザー照射による網膜下線維化や上皮間葉転換マーカーの遺伝子発現,およびCSMADファミリーメンバーC2のリン酸化が抑制され,逆にガレクチン-1過剰発現マウスではCCNVおよび網膜下線維化形成が促進した.さらに,ヒト培養網膜色素上皮細胞や臨床検体を用いた解析でも,これらの結果を支持する同様の結果が得られた.以上の結果よりCCNVおよび網膜下線維化形成においてガレクチンC-1が重要な役割を果たしていることが示唆された5)(図2).おわりに糖鎖結合蛋白質ガレクチン-1は,AMDの病態形成にかかわる重要な鍵分子であることが示唆された.VEGF阻害薬に抵抗性を示す症例では,眼内のサイトカインの発現量のみならず,さまざまな蛋白質の糖鎖構造やガレクチン-1のような糖鎖結合蛋白質の発現が変化し,それらがCVEGF非依存的な炎症および血管新生などを惹起している可能性がある.文献1)HolashCJ,CDavisCS,CPapadopoulosCNCetal:VEGF-Trap:aCVEGFCblockerCwithCpotentCantitumorCe.ects.CProcCNatlCAcadSciUSAC99:11393-11398,C20022)KandaA,NodaK,SaitoWetal:A.ibercepttrapsgalec-tin-1,CanCangiogenicCfactorCassociatedCwithCdiabeticCreti-nopathy.SciRepC5:17946,C20153)CambyCI,CLeCMercierCM,CLefrancCFCetal:Galectin-1:asmallCproteinCwithCmajorCfunctions.CGlycobiologyC16:C137R-157R,C20064)KandaCA,CDongCY,CNodaCKCetal:AdvancedCglycationCendproductsClinkCin.ammatoryCcuesCtoCupregulationCofCgalectin-1indiabeticretinopathy.SciRepC7:16168,C20175)WuD,KandaA,LiuYetal:Galectin-1promoteschoroi-dalneovascularizationandsubretinal.brosismediatedviaepithelial-mesenchymalCtransition.CFASEBCJC33:2498-2513,C2019C688あたらしい眼科Vol.38,No.6,2021(84)