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糖尿病網膜症・黄斑浮腫の疫学

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症・黄斑浮腫の疫学EpidemiologyofDiabeticRetinopathy川崎良*はじめに糖尿病網膜症の疫学というと,有病率や発症率,そして危険因子の探索と同定といった記述疫学や分析疫学をイメージされることが多い.確かにそれらの疫学的な知見は疾患の理解と予防法,治療法の開発に欠かせない要素である.その一方で,疫学の守備範囲は実に広く,予防医学から医療政策への提言,また社会への普及や実装をめざすことまで多岐にわたる.本稿では,五つの疫学的視点から糖尿病網膜症を考えてみた.I記述疫学の視点から──糖尿病網膜症の発症状況1.糖尿病の有病率:2040~2045年頃までは患者数は横ばいか糖尿病の有病者数の推計としては,厚生労働省が行う「国民健康・栄養調査」1)がある.この調査では,「糖尿病が強く疑われる者」を,「ヘモグロビンA1c(NGSP)値が6.5%以上(平成23年まではヘモグロビンA1c(JDS)値が6.1%以上)」または「糖尿病治療の有無に有と回答した者」と定義して毎年集計している.厚生労働省が公開する最新の調査結果は令和元年のものであり,糖尿病が強く疑われる者の割合は20歳以上の男性の19.7%,女性の10.8%であった.この割合の経時的な変化をみると,過去10年間で,平成21年時点での男性15.9%,女性9.4%から男女ともに上昇傾向にある.ここで,人口が高齢化していることなどの影響を取り除く年齢構成で調整した割合でみると,男性は約14%弱,女性は約8%弱で過去10年間横ばいである.このことが意味するのは,この10年間,同じ年齢であれば糖尿病の割合は変わっていないが,高齢者が増えていることから患者数はやはり増加している,ということである.現在,わが国の人口は減少しつつあるが,高齢者人口は2040~2045年頃までは増加していくことを考えると,その頃までは糖尿病患者数は現状を下回ることはないと予想される.2.糖尿病網膜症の有病率:糖尿病治療を受ける平均的な患者集団では4~5人に1人が糖尿病網膜症を有する糖尿病網膜症の有病率においては,重症度を問わない網膜症(anydiabeticretinopathy)の有病率に加えて,増殖糖尿病網膜症の有病率,そして,治療の対象となる増殖糖尿病網膜症と黄斑浮腫についていずれかもしくは両方を有する場合を合算し集計した「視力を脅かす網膜症(vision-threateningdiabeticretinopathy)」の有病率がしばしば用いられる(ここで,糖尿病網膜症は糖尿病と診断されたうえでつけられる診断なので,「糖尿病網膜症の有病率」という場合には,〔糖尿病網膜症を有する人〕/〔糖尿病を有する人〕として報告されることが多いが,人口全体における割合を示す場合もあるので,定義を確認することが重要である).糖尿病網膜症の有病率について過去の疫学調査をまと*RyoKawasaki:大阪大学医学部附属病院AI医療センター,大阪大学大学院医学系研究科視覚情報制御学・寄附講座〔別刷請求先〕川崎良:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学医学部附属病院AI医療センター0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(3)241表1糖尿病網膜症の有病率研究名概要有病率2型糖尿病5)JDCS(n=1,631)調査年:1995~1996年平均年齢:58歳(対象40~70歳)平均ヘモグロビンA1c:8.4%平均罹病期間:10.6年25.1%30)JDDM(n=3,319)調査年:2004年平均年齢:58.3歳平均ヘモグロビンA1c:7.46%平均罹病期間:11年31.1%31)JDCP(n=5,489)調査年:2007年平均年齢:61歳(対象40~75歳)平均ヘモグロビンA1c:7.5%平均罹病期間:9.4年27.6%30)JDDM(n=3,932)調査年:2014年平均年齢:58.6歳平均ヘモグロビンA1c:7.0%平均罹病期間:12年23.5%1型糖尿病30)JDDM(n=286)調査年:2004年平均年齢:45.2歳平均ヘモグロビンA1c:7.91%平均罹病期間:14年32.2%31)JDCP(n=363)調査年:2007年平均年齢:56.4歳(対象40~75歳)平均ヘモグロビンA1c:7.8%平均罹病期間:9.5年22.8%30)JDDM(n=308)調査年:2014年平均年齢:43.6歳平均ヘモグロビンA1c:7.68%平均罹病期間:15年20.3%JDCS:JapanDiabetesComplicationsStudyJDDM:JapanDiabetesClinicalDataManagementstudyJDCP:JapanDiabetesComplicationanditsPreventionprospectivestudy表2糖尿病網膜症の国際重症度分類網膜症なし異常なし軽症非増殖網膜症毛細血管瘤のみ増殖糖尿病網膜症への進行リスク<5%中等症非増殖糖尿病網膜症毛細血管瘤以上の病変を認めるが重症非増殖糖尿病網膜症より軽症増殖糖尿病網膜症への進行リスク5~25%重症非増殖糖尿病網膜症以下の所見を一つ以上認め,かつ,増殖糖尿病網膜症の所見を認めない:1眼底の4象限のいずれにも20以上の網膜内出血がある2眼底の2象限以上に明らかな数珠状静脈がある3眼底の1象限以上に明らかな網膜内細小血管異常がある増殖糖尿病網膜症への進行リスク50%増殖糖尿病網膜症以下のいずれかの所見を認める:1網膜新生血管2硝子体/網膜前出血国際重症度分類は増殖糖尿病網膜症への進行リスクを基に作成された.II分析疫学の視点から──糖尿病網膜症と食事・運動・睡眠の関連糖尿病網膜症の発症予防や進行抑制には内科治療が有効である.糖尿病の治療の進歩と糖尿病網膜症の内科治療については本特集の別稿で取り上げられると思われるので,内科治療を前提に,それに付け加えることで糖尿病網膜症への関与が知られる生活習慣要因として,食事,運動,睡眠に関する知見を以下に概説する.1.食事:多価不飽和脂肪酸摂取や果物摂取の割合が多いことが糖尿病網膜症に保護的に関与している可能性があるSasakiら9)は血糖コントロールが良好な糖尿病患者に限定して,食事由来の多価不飽和脂肪酸の摂取が多い集団は糖尿病網膜症の有病率が少ない可能性があることを報告している.また,ビタミンD欠乏10)で糖尿病網膜症の発症が高まる可能性もメタ解析で示されている.Tanakaら11)はJDCS研究対象者において,総摂取カロリーで調整したうえで,果物摂取の割合が高い集団は糖尿病の新規発症のリスクが半減していたことを報告し,野菜・果物接種,ビタミンC,カロテン摂取も保護的に作用する可能性を示した.Horikawaら12)は,炭水化物摂取割合と糖尿病合併症に関するシステマティックレビューとメタ解析を行ったが,糖尿病網膜症含む合併症との関連は明らかではなかった.食事と糖尿病網膜症の関係を扱った疫学研究のメタ解析では,いわゆる地中海食,青魚,食物繊維の摂取が糖尿病網膜症の有病率,発症率が低いこととの関連していることが示されている13).2.運動:身体活動量が多いこと,身体的不活動を避けることは糖尿病網膜症に保護的に関与している可能性があるこれまで運動や身体活動と糖尿病網膜症との関連については複数の研究が報告されてきた.Renら14)は身体活動量や身体的不活動と糖尿病網膜症の関連について22研究を基にシステマティックレビューとメタ解析を行い,身体活動が糖尿病網膜症に保護的に,身体的不活動がリスクを増やす方向に関連していることを報告した.運動の内容や測定方法など調査における課題はあるが,運動が糖尿病網膜症の発症や重症化予防に寄与するとすれば,重要な知見であると考える.3.睡眠:睡眠呼吸障害は糖尿病網膜症の重症化に関与する可能性があるLeongら15)は睡眠呼吸障害と糖尿病網膜症の関連についての16研究のシステマティックレビューとメタ解析を行ったが,糖尿病網膜症や糖尿病黄斑症と睡眠呼吸障害との関連は確認できなかった.しかしながら,Shibaら16)は虹彩新生血管・血管新生緑内障を伴う増殖糖尿病網膜症患者の約50%に睡眠呼吸障害が認められたことを報告しており,重症化には睡眠呼吸障害が関連している可能性が示されている.III予防医学の視点から──スクリーニングにおける人工知能・自動診断の実装糖尿病網膜症はスクリーニングに適した疾患であるといわれる.それは,①失明原因となる重要な疾患である,②糖尿病患者という明確なハイリスク集団が存在する,③眼底検査という侵襲が低く簡便で正確な検査結果が提供される,④早期発見により網膜光凝固治療,抗血管内皮成長因子硝子体注射,硝子体手術などの治療法が確立されている,そして⑤早期発見とその後の治療が費用効果的であることが示されている,という条件を満たしているからである.糖尿病の発症から糖尿病網膜症の発症そして治療までのライフスパンを図1にまとめた.内科治療,眼科治療の進歩は著しく,糖尿病網膜症の発症予防,進展抑制,そして,抗血管内皮成長因子療法による黄斑浮腫治療,レーザー網膜光凝固や硝子体手術による増殖糖尿病網膜症への治療など,適切な時期に適切な治療を受けることで失明に至るリスクは大きく減少している.不可逆的な視機能障害をきたすことのないように治療するには,「早期発見」を可能にするスクリーニングが重要である.わが国では糖尿病患者に対する眼底検査は保険診療の中で行われ,おもに糖尿病の診療を担当する内科医から眼科医への紹介という形で行われる,糖尿病網膜症のスクリーニングを目的とした眼底検査はおもに眼科医が担244あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021(6)図2「糖尿病網膜症のスクリーニング」の成功に向けての論点成功の鍵は必ずしも「精度の高いCAIプログラム」だけではない.図3新たに作成された糖尿病網膜症の診療ガイドライン(http://www.nichigan.or.jp/member/guideline/diabetic_retinopathy.pdf)男性,若年者,内服処方なし,受診が一施設であることを報告した.また,Tanakaら25)はC2007~2015年にかけて同様に糖尿病患者において眼底検査を年C1回受けている人の割合の経時変化をみると,42.0%からC38.7%と有意に減少する傾向にあったことを示した.また,Sug-iyamaら26)は全国の保険診療レセプトを厚生労働省が取りまとめているCNationalDatabase(NDB)を用い,年C1回の眼底検査を受けた割合がC46.5%,2年にC1回まで範囲を拡大するとC56.2%となることを報告した.都道府県別にみると眼底検査の割合はC37.5~51.0%の開きがあり,人口が多い都道府県であるほどその割合が高い傾向を報告した.また,日本糖尿病学会の認定教育施設では約C60%と非認定施設のC40%より高かった.このように,年代や性別,受診する医療機関の条件によって眼底検査を定期的に受けているかどうかが規定されているとすれば,それに対する対策を講じる必要があると思われる.C3.行動経済学的視点から糖尿病網膜症の診療アドヒランス向上を考える健康にかかわる行動を決定づける選択においては認知バイアスの影響を受けるという理解のもとに,行動経済学的な見地から健康行動を考えるという動きもある.2002年にノーベル経済学賞を受賞したCDanielCKahne-manのプロスペクト理論,ヒューリスティクスと認知バイアスなどが話題となった行動経済学は,経済学と認知科学を統合し人間の行動や選択,意思決定を理解しようとする分野である.2017年にノーベル経済学賞を受賞したCRichardH.Thalerの理論は,種々の認知バイアスをナッジ(軽く肘でつつく)するようなちょっとしたきっかけで人間の行動をよりよい結果につなげる理論として予防医学にも大きな影響を与えた.糖尿病網膜症について行動経済学的な見地から調査した興味深い研究がある.Emotoら27)は糖尿病患者C219名を対象に,「学童期に宿題をすぐにやるほうだったかぎりぎりになってやるほうだったか」,あるいは「架空の宝くじを買うのにどれだけの金額をかけるか」といった認知バイアスを明らかにする研究を行った.その結果,リスク回避傾向を示した群では糖尿病網膜症を有する割合が低く,またC1型糖尿病群に比べC2型糖尿病群でリスク回避傾向を示す患者が少なかったことを明らかにした.さらにCEmotoら28)はC65歳未満の患者群では先延ばし傾向を有することと,教育歴が高校卒業までであることが経済状況と独立して糖尿病網膜症を有することに関連していることを報告している.先延ばし傾向は将来の利益の可能性よりも目の前の小さな利益を重視する傾向で,現在バイアスとよばれ,必要な事柄を後回しにしてしまいがちであるという.まさに糖尿病網膜症の診療の中で経験する患者反応ではないだろうか.このような認知バイアスを理解したうえで,先延ばし傾向を克服するための方策として,佐々木29)はナッジを①デフォルトの変更,②損失の協調,③他人との比較,④コミットメントに大別している.糖尿病網膜症を例にとれば,デフォルトの変更では「次回受診の明確な予約をとること」,損失の協調では「受診しないことで治療のタイミングを逃し本来失明を避けることができるのに失明してしまう可能性が上がることを明確に伝えること」,他人との比較では「多くの人が定期受診して失明を回避しており,きわめて少数派が定期受診せずに失明に至っていることを伝える」,コミットメントでは「糖尿病手帳に自ら所見と次回予約を記入してもらう」などが考えられる.このほかにもナッジを積極的に医療を含む政策に応用している英国CBehaviouralCInsightsTeamはCMINDSPACE(www.bi.team/publications/mindspace/)などのフレームワークに沿って考えるとわかりやすい.今後は,患者に向けたナッジだけでなく,医療者に対するナッジとして,とくに医療者が陥りやすい臨床的な惰性(clinicalinertia,治療目標が達成されていないにもかかわらず,治療が適切に強化されていない状態)への対策に有効である可能性がある.わが国でも日本版ナッジ・ユニットCBehavioralCSciencesTeam(BEST)が発足され,2017年からは健康医療分野でも健康づくりや検診受診率向上,新型コロナウイルス感染症対策におけるナッジの活用などが議論されている.今後,すでに明らかとなっているエビデンス・ガイドラインを広く社会や臨床現場に普及させる一つの方策として,行動経済学的なナッジを利用したよりよい臨床的判断と患者ケアの促しが重要かつ画期的な効果をもた248あたらしい眼科Vol.38,No.3,2021(10)らす可能性もあると考えている.おわりに本稿では,疫学のもつ多様な視点で糖尿病網膜症にまつわる概説を試みた.Morizaneら8)の報告にある通り,着実にわが国で糖尿病網膜症による視覚障害者は減少している.糖尿病網膜症は今や予防,早期発見と適切な治療で「避けることができる失明原因」である.日本疫学会によれば,疫学とは疾病や健康に関する事象の発生状況を把握し,その発生要因の解明,予防対策の計画,実行,評価,政策を含む社会制度の改変,整備などの幅広い分野を守備範囲とする学術領域である.そのため疫学は,医師をはじめとする医療従事者のみならず,広く心理学,社会学,経済学,政策学などの人材がかかわることで成り立つ分野横断的で実践的な学術領域である.しかし,糖尿病網膜症に関しては,このような広義の疫学研究が十分に行われているとはいえないのが現状ではないだろうか.近い将来,糖尿病網膜症による失明の撲滅も可能になる可能性は十分にある.そのために広義の疫学研究が貢献できる余地はまだ大きいと考える.本稿が今後,若い世代の眼科医が広義の疫学研究に興味をもつきっかけとなれば幸いである.文献1)厚生労働省.国民健康・栄養調査:[online].Availableat:Chttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kenkou_eiyou_chousa.html.Accessed1月C7日2)YauJW,RogersSL,KawasakiRetal:GlobalprevalenceandCmajorCriskCfactorsCofCdiabeticCretinopathy.CDiabetesCCareC35:556-564,C20123)WongTY,MwamburiM,KleinRetal:Ratesofprogres-sionCinCdiabeticCretinopathyCduringCdi.erentCtimeCperi-ods:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CDiabetesCCareC32:2307-2313,C20094)SasakiCA,CHoriuchiCN,CHasewgawaCKCetal:DevelopmentCofCdiabeticCretinopathyCandCitsCassociatedCriskCfactorsCinCtypeC2CdiabeticCpatientsCinCOsakadistrict,CJapan:aClong-termprospectivestudy.DiabetesResClinPractC10:257-263,C19905)KawasakiCR,CTanakaCS,CTanakaCSCetal:IncidenceCandCprogressionCofCdiabeticCretinopathyCinCJapaneseCadultswithtype2diabetes:8yearfollow-upstudyoftheJapanDiabetesComplicationsCStudy(JDCS)C.CDiabetologiaC54:C2288-2294,C2011C6)UekiCK,CSasakoCT,COkazakiCYCetal:E.ectCofCanCintensi.edCmultifactorialinterventiononcardiovascularoutcomesandmortalityCinCtypeC2diabetes(J-DOIT3):anCopen-label,CrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetCDiabetesCEndocrinolC5:951-964,C20177)HashimotoY,MichihataN,MatsuiHetal:RecenttrendsinCvitreoretinalsurgery:aCnationwideCdatabaseCstudyCinCJapan,C2010-2017.CJpnJOphthalmolC65:54-62,C20218)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandCcausesCofCvisualCimpairmentCinJapan:theC.rstCnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyCimpairedCindividuals.CJpnCJCOphthalmolC63:26-33,C20199)SasakiM,KawasakiR,RogersSetal:Theassociationsofdietaryintakeofpolyunsaturatedfattyacidswithdiabeticretinopathyinwell-controlleddiabetes.InvestOphthalmolVisSciC56:7473-7479,C201510)ZhangCJ,CUpalaCS,CSanguankeoA:RelationshipCbetweenCvitaminCDCde.ciencyCandCdiabeticretinopathy:aCmeta-analysis.CanJOphthalmol52:219-224,C201711)TanakaCS,CYoshimuraCY,CKawasakiCRCetal:FruitCintakeCandCincidentCdiabeticCretinopathyCwithCtypeC2Cdiabetes.CEpidemiologyC24:204-211,C201312)HorikawaCC,CYoshimuraCY,CKamadaCCCetal:IsCtheCpro-portionCofCcarbohydrateCintakeCassociatedCwithCtheCinci-denceCofCdiabetesCcomplications?-anCanalysisCofCtheCJapanCDiabetesComplicationsStudy.NutrientsC9:113,C201713)WongMYZ,ManREK,FenwickEKetal:Dietaryintakeanddiabeticretinopathy:Asystematicreview.PLoSOneC13:e0186582,C201814)RenC,LiuW,LiJetal:Physicalactivityandriskofdia-beticretinopathy:asystematicreviewandmeta-analysis.ActaDiabetolC56:823-837,C201915)LeongCWB,CJadhakhanCF,CTaheriCSCetal:E.ectCofCobstructivesleepapnoeaondiabeticretinopathyandmac-ulopathy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CDiabetCMedC33:158-168,C201616)ShibaT,TakahashiM,HoriYetal:Relationshipbetweensleep-disorderedCbreathingCandCirisCand/orCangleCneovas-cularizationinproliferativediabeticretinopathycases.AmJOphthalmol151:604-609,C201117)XieCY,CGunasekeranCDV,CBalaskasCKCetal:HealthCeco-nomicCandCsafetyCconsiderationsCforCarti.cialCintelligenceCapplicationsCinCdiabeticCretinopathyCscreening.CTranslCVisCSciTechnolC9:22,C202018)XieY,NguyenQD,HamzahHetal:Arti.cialintelligenceforCteleophthalmology-basedCdiabeticCretinopathyCscreen-inginanationalprogramme:aneconomicanalysismodel-lingstudy.LancetDigitalHealthC2:e240-e249,C202019)BeedeCE,CBaylorCE,CHerschCFCetal:AChuman-centeredCevaluationCofCaCdeepClearningCsystemCdeployedCinCcl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序説:糖尿病網膜症アップデート

2021年3月31日 水曜日

糖尿病網膜症アップデートDiabeticRetinopathyUpdate村田敏規*吉田茂生**石橋達朗***1990年には糖尿病網膜症はわが国の視覚障害の原因として第1位であったが(身体障害者1級.6級を取得した患者の総数),2015年には第3位とよい意味で順位を下げている.糖尿病データマネジメント研究会の2019年度報告によると,この間に日本人の2型糖尿病患者の平均HbA1cも7.46%(2002年)から7.04(2015年)へと改善しており,このことが順位低下の一因となっている.糖尿病網膜症患者の視力改善は,糖尿病患者の全身状態の管理と,眼科的な治療の進歩が両輪となって実現してきた.今回の特集は,このよい流れをさらに推進するために,先生方の糖尿病網膜症の治療をアップデートしていただくことをめざしている.糖尿病の内科的治療の進歩を,税所芳史先生と島田朗先生からわかりやすく解説していただいた.よりよい血糖コントロールだけでなく,SGLUT2阻害薬は糖尿病黄斑浮腫を改善させる可能性があることなど,内科的治療の糖尿病網膜症への影響は今後ますます大きくなっていくと考えられる.糖尿病と糖尿病網膜症の疫学は川崎良先生に解説していただいた.わが国にどの程度の患者がいて,その変遷はどうなっているのかを知ることができる.あわせて,糖尿病黄斑浮腫のレジストリー研究を志村雅彦先生に解説していただいた.次に,糖尿病患者の視力を改善するうえでもっとも大切な黄斑浮腫の発症機序について,分子病態の側面から有馬充先生に解説していただき,眼循環病態からの解説を野田航介先生にお願いした.診断・治療に必要な種々のイメージングの進歩については,福田洋輔先生と中尾新太郎先生に解説していただいた.糖尿病黄斑浮腫の治療は,薬物療法を杉本昌彦先生に,レーザー治療を高村佳弘先生に解説していただいた.発展が著しい手術療法については,低侵襲硝子体手術の進歩を木村修平先生と森實祐基先生に解説していただいた.最後に,「糖尿病網膜症診療ガイドライン」が2020年12月に『日本眼科学会雑誌』に掲載された.この内容,とくに将来の分類方法の国際化につき,筆者(村田敏規)が解説した.本特集が,明日からの先生方の診療の一助となれば幸いである.*ToshinoriMurata:信州大学医学部眼科学教室**ShigeoYoshida:久留米大学医学部眼科学講座***TatsuroIshibashi:九州大学総長0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(1)239

薬局における点眼指導実態アンケート調査報告

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):225.231,2021c薬局における点眼指導実態アンケート調査報告西原克弥山東一孔堀清貴参天製薬(株)日本メディカルアフェアーズグループCSurveyReportontheConditionsofEyeDropGuidanceinPharmaciesKatsuyaNishihara,KazunoriSantoandKiyotakaHoriCSantenPharmaceuticalCo.,LtdJapanMedicalA.airsGroupC目的:薬局の点眼指導の実態を把握すること.対象および方法:本調査の趣旨に同意した調剤薬局企業(15社)傘下のC1,462店舗で実施した.実態調査は,点眼指導の有無,時間,手段,指導内容と頻度,小児・高齢者の指導の有無と指導内容,洗眼指導の有無などについて,アンケート形式で行った.結果:点眼指導の実施率はC96.1%であった.点眼指導にかける時間はC5分未満がもっとも多く,点眼指導の手段は,ほぼ全店舗で「口頭による説明」が施行されていた.点眼指導内容は「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”に比べ高い頻度であった.小児または高齢者への指導経験の有無は,「ある」がC4割強,「ない」がC5割強を占めた.クラスター分析を行った結果,点眼指導は四つのクラスターに分類することができた.結論:個々の患者に対応するため,点眼指導にはいくつかのバリエーションが存在するが,点眼薬の処方機会の多さと時間的な制約,点眼指導に対する意識の差といった要素により,店舗間で指導内容の相違がみられた.今後,この点を是正していくことが点眼治療の質の向上につながると考えられた.CObjective:Toinvestigatetheactualguidanceprovidedinretailpharmaciesforophthalmic-solutioneye-dropinstillation.Subjectsandmethods:Asurveywasconductedat1462pharmaciesunderthecontrolof15pharma-ceuticalcompaniesthatagreedtothepurposeofthesurvey.Thecontentofthequestionnaireincludedthefollow-ing:presenceorabsenceofeyedrops,time,means,content,andfrequencyofeyedrops,presenceorabsenceofguidanceCforCchildrenCandCtheCelderly,CandCpresenceCorCabsenceCofCeyeCwashingCguidance.CResults:OphthalmicCguidancewasdeliveredto96.1%ofthepatients.Theaveragetimespentforophthalmicguidancewaslessthan5minutes,andthemethodofinstructionwas“verbal”innearlyallpharmacies.Regardingthecontentofophthalmicguidance,CtheCfrequencyCof“alwaysCinstructing”wasChigherCthanCthatCof“washingChandsCbeforeCinstillation”andC“closingeyelidsafterinstillation”for“instillation:pullingtheeyelidsdownanddroppingtheeyesothatthetipsofthecontainersdonottouchtheeyes,”“wipingo.theover.owsolution,”and“closingtheeyelidsafterinstilla-tion.”Approximatelyhalfoftherespondentswere“yes”or“no”withregardtotheexperienceofprovidingguid-ancetochildrenortheelderly.Clusteranalysisshowedthattheclusterscouldbeclassi.edintofourclusters.Con-clusions:ItCwasCspeculatedCthatCsomeCpharmaciesCwereCnotCadequatelyCpreparedCforCtheCocularCguidanceCofCindividualpatients.Fromtheclusteranalysis,itwasthoughtthatfactorssuchasthenumberofeye-dropprescrip-tions,CtimeCconstraints,CandCdi.erencesCinCawarenessCofCophthalmicCguidanceChadCanCin.uenceConCnotCbeingCade-quatelyprepared.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(2):225.231,C2021〕Keywords:点眼指導,点眼手技,アンケート調査,薬局.guidanceoninstillation,ocularinstilltionprocedure,questionnairesurvey,pharmacy.C〔別刷請求先〕西原克弥:〒533-8651大阪市東淀川区下新庄C3-9-31参天製薬(株)サイエンスインフォメーションチームReprintrequests:KatsuyaNishihara,ScienceInformationTeam,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-9-31,Shimo-Shinjo,Higashiyodogawa-ku,Osaka533-8651,JAPANCはじめに眼科疾患に対する治療は,点眼薬を主要薬剤とする治療(点眼治療)が基本であり,点眼アドヒアランスだけでなく,点眼手技を含めた点眼薬の取り扱いも治療効果に影響を与えると考えられている.すなわち,点眼薬がもつ有効性と安全性を確保するためには,用法用量を遵守し,正しい点眼方法で確実に薬液を眼に点眼することが求められる.それゆえ,点眼薬処方時の正しい点眼方法の指導(点眼指導)は不可欠である.その一方で,高齢者や緑内障患者1),白内障術後の点眼指導上の課題2)が報告されており,医師,薬剤師,看護師など点眼治療にかかわる医療従事者が共通認識をもち,点眼薬の服薬指導に携わることが重要である..今回,筆者らは,点眼指導の実態を把握することを目的に薬局店舗を対象とした点眼指導実態アンケート調査を実施したので報告する.CI対象および方法1.アンケートの対象と調査方法対象は,本調査の趣旨に同意した調剤薬局企業(15社)傘下のC1,462店舗である.調査期間はC2019年C6月のC1カ月間である.実態調査は,点眼指導の有無,時間,手段,指導内容と頻度,小児・高齢者の指導の有無と指導内容,洗眼指導の有無などについてアンケート形式の調査を行った.調査内容の詳細は表1に示した.調査手法は,Googleフォームまたは調査用紙を利用し,各店舗につきC1件の回答を回収し集計した.C2.統計学的検討実態調査の結果は,単純集計して点眼指導の実態を検討した.また,点眼指導の内容に関する詳細な傾向を明らかにするため,潜在クラス分析(クラスター分析)を行った.クラスター分析では,全店舗をC4クラスターに分類した後,各クラスターにおける点眼指導内容の特徴について検討した.クラスター分類に用いた分析変数の各クラスター間での相違は,分散分析を用いて検討した.判定は,p<0.05を有意差ありと判定した.統計学的解析にはCJMP(Ver.14,CSASInstituteInc.)を用いた.CII結果1.調査店舗の背景都道府県別の調査店舗数を表2に示す.Q1の回答から,月平均の点眼薬処方箋枚数は,点眼薬処方箋がC100枚未満の店舗の割合がC75.0%であったのに対し,100枚以上C500枚未満の割合がC17.0%,500枚以上の割合がC7.7%で,点眼薬処方箋がC100枚以上の店舗の割合はC24.7%であった(表3).C2.点眼指導の実態Q2において点眼指導を「新規に点眼薬を処方する患者さんすべてに実施している」または「点眼指導が必要と思われる患者さんに実施している」とした店舗はC1,462店舗中1,405店舗で,実施率はC96.1%であった.その内訳を表4に示す.「Q3:点眼指導が必要と思われる患者さん」の質問に対する回答は,「高齢者」がもっとも多く,「保護者」「小児」「障害者」の順であった(表5).点眼指導にかける時間は,5分未満がもっとも多く(図1),Q4:点眼指導の手段は,ほぼ全店舗で「口頭による説明」が施行されており,紙媒体のチラシや指導箋を利用している割合はC42.3%,点眼手技動画の利用割合はC0.3%であった(表6).なお口頭と紙媒体を併用する店舗はC41.1%であった.表1アンケート調査内容店舗の所在地(都道府県)Q1)月平均,点眼薬の処方箋をどのくらい受けていますか?Q2)点眼指導を実施されていますか?Q3)Q2)で「点眼指導が必要と思われる患者さんに実施している」と答えた方にお聞きします.必要と思われる患者さんをすべて教えてください.Q4)点眼方法に係る指導の手段を教えてください(複数回答可)Q5)基本の点眼方法に係る指導の内容とその頻度を教えてください.-①点眼前の手洗い-②点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する-③あふれた液のふき取り-④点眼後の閉瞼-⑤点眼後の涙.部圧迫Q6)小児の点眼で指導されたことがある点眼手技はありますか?Q7)Q6)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような手技ですか(自由記載)Q8)高齢者の点眼で指導されたことがある点眼手技はありますか?Q9)Q8)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような手技ですか?(自由記載)Q10)洗眼方法について洗眼指導されたことはありますか?Q11)Q10)で「ある」と答えた方にお聞きします.どのような指導内容ですか?(自由記載)表2都道府県別の調査店舗数表3点眼薬処方箋枚数(月平均)回答数割合(%)5枚未満C207C14.25.C20枚未満C377C25.820.C100枚未満C513C35.1100.C500枚未満C248C17.0500枚以上C112C7.7未記入C5C0.3合計C1,462表5点眼指導が必要と思われる患者回答数割合(%)高齢者C644C91.9小児C436C62.2保護者C480C68.5障害者C294C41.9新規,あるいは初めてC33C4.7慣れていない,不安そうな患者C24C3.4未記入C4C0.6Q5では,点眼指導内容として「点眼前の手洗い」,「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」,「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」「点眼後の涙.部圧迫」のC5項目の基本的な点眼指導頻度を調査し,その表4点眼指導の実施状況回答数割合(%)新規に点眼薬を処方する患者さんすべてに実施しているC704C48.2点眼指導が必要と思われる患者さんに実施しているC701C47.9実施していないC54C3.7未記入C3C0.2合計C1,4620.40.0■:5分未満:5分以上10分未満:10分以上:その他図1点眼指導にかける時間の割合(%)点眼指導にかける時間は,5分未満がもっとも多い.結果を図2に示した.「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”に比べ高い頻度であっ表6点眼指導の手段回答数割合(%)口頭C1,385C98.6紙の資料C595C42.3動画C4C0.3実地してもらい,悪いところを指導C23C1.6薬剤師が手本C21C1.5未記入C1C0.1C点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点点眼前の手洗い眼するあふれた液のふき取り点眼後の閉瞼点眼後の涙.部圧迫2.42.02.53.5■C:ほとんど指導しない■B:ときどき指導する■A:いつも指導するD:指導しない:未記入図2点眼指導内容の実施割合(%)「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」「あふれた液のふき取り」「点眼後の閉瞼」を“いつも指導する”は,「点眼前の手洗い」「点眼後の閉瞼」に比べ高い頻度であった.小児の点眼指導の有無高齢者の点眼指導の有無0.10.4■:ある:ない:未記入図3小児と高齢者への点眼指導の有無の割合(%)「ある」および「ない」は,「ない」が多かった.た.Q6.9で小児および高齢者に対する点眼指導の実態を調査した.小児または高齢者への指導経験の有無は,「ある」がC4割強,「ない」がC5割強を占めた(図3).指導した手技(回答は自由記載)については,アフターコーディングの結果,小児では「寝ているときに点眼」「プロレス法」,高齢者では「げんこつ法」「点眼補助具」の回答割合が高かった(図4).洗眼方法の指導経験(Q10)は,「ある」がC11.2%であった.C3.クラスター分析アンケート結果から,互いに似た性質をもつ薬局店舗をグルーピングし,そこから得られる課題を抽出するためクラスター分析を行った.分析変数を「点眼指導の手段」「基本的なC5項目の点眼指導内容」「小児と高齢者への指導経験」の調査結果としたところ,四つのクラスターに分類することができた.クラスター解析に用いた分析変数は分散分析の結果,クラスター間で有意に差がある変数であった(図5).四つのクラスターの定義づけを「点眼薬処方箋枚数」の結果と掛け合わせた結果を表7に示した.泣いているときは寝て点眼点眼しない目尻,横から入れる容器を持つ手を固定目を閉じて点眼点眼補助具30.7%33.0%プロレス法(子供を固定)げんこつ法寝ているときに点眼0.0%5.0%10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%35.0%0.0%5.0%10.0%15.0%20.0%25.0%30.0%35.0%図4小児と高齢者の点眼手技小児,高齢者に点眼指導を実施している店舗におけるその手技方法の割合(アフターコーディング)処方箋枚数指導手段小児指導の有無高齢者指導の有無クラスター1クラスター2クラスター3クラスター40%20%40%60%80%100%*p<0.0001*p<0.0001*p<0.00010%40%80%0%40%80%0%40%80%■20枚以上100枚未満■口頭+紙資料■口頭のみ■ある■ない■ある■ない■100枚以上紙資料のみ■他の説明■20枚未満20%60%100%20%60%100%20%60%100%①②③④⑤クラスター1クラスター2クラスター3クラスター4#p<0.0001#p<0.0001#p<0.0001#p<0.0001#p<0.00010%40%80%0%40%80%0%40%80%0%40%80%0%40%80%20%60%100%20%60%100%20%60%100%20%60%100%20%60%100%■A:いつも指導する■B:ときどき指導する■C:ほとんど指導しないD:指導しない①点眼前の手洗い②点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する③あふれた液のふき取り④点眼後の閉瞼⑤点眼後の涙.部圧迫図5クラスター分析分析変数を「点眼指導の手段」「基本的なC5つの点眼指導内容」「小児と高齢者への指導経験」の調査結果としたところ,四つのクラスターに分類することができた.表7クラスターの定義づけクラスター分類定義クラスターC1点眼薬の処方箋枚数が少ない薬局で,点眼指導はときどき実施する薬局クラスターC2点眼薬の処方箋枚数が比較的多い薬局で,紙(チラシ)資材も併用しながらC5項目の点眼指導を積極的に実施している.ただし,小児・高齢者への点眼手技指導は,高齢者・小児の接触機会が少ないことからクラスターC3より実施頻度は低いクラスターC3点眼薬の処方箋枚数が多い薬局で,小児・高齢者への点眼手技指導については指導する機会の多さから実施頻度は高いが,5項目の点眼指導は紙(チラシ)に頼る傾向があるクラスターC4点眼薬の処方箋枚数が少ない薬局で,点眼指導はクラスターC1より消極的クラスターAS1S2S3S4S5B13322223221111123112222143444443処方箋数3213数字は変数内の順位図6各変数のクラスター順位A:紙資材の利用頻度,B:小児・高齢者の点眼指導の実施頻度.S1:点眼指導内容「点眼前の手洗い」の実施頻度,S2:点眼指導内容「点眼前の手洗い点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」の実施頻度,S3:点眼指導内容「あふれた液のふき取り」の実施頻度,S4:点眼指導内容「点眼後の閉瞼」の実施頻度,S5:点眼指導内容「点眼後の涙.部圧迫」の実施頻度.CIII考察今回のアンケート調査に参加した調査店舗の背景は,都道府県別の分布をみると,おおむね人口比率と似た傾向を示したが,中国地方と九州地方の調査店舗数が少なかった(佐賀県は調査店舗が0).また,点眼薬処方箋枚数では,月平均がC500枚以上の店舗割合がC7.7%であったことから,本調査ではごく標準的な院外薬局が抽出されていると考えられ,眼科関連の処方箋をおもに扱う薬局によるバイアスは考慮しなくてよいと考えられた.今回の対象店舗における点眼指導の実施率はC96.1%とほぼすべての薬局で実施されており,実施方法としては口頭による説明がC98.6%とほとんどを占め,紙資材を併用する店舗はC41.1%であった.近年動画による点眼指導が効果的3,4)との報告があるが,本調査結果で動画の利用率はC0.3%であり,紙資材や動画を使用した点眼指導が普及していない実態が浮き彫りになった.また,基本的なC5項目の点眼指導の実施頻度は,点眼時動作の「点眼:眼瞼を下にひく・容器の先が目に触れないよう点眼する」と「点眼直後のふき取り・閉瞼」の指導頻度は比較的高い傾向がみられたが,「点眼前の手洗い」「点眼後の涙.部圧迫」の指導頻度は低い傾向がみられた.すなわち,点眼指導すべきC5項目が一連の点眼手技であることが十分に認識されていないために指導内容の実施頻度にばらつきがみられたものと考えられた.また,涙.部圧迫については,白内障術後などは,感染症のリスクから実施すべきではないとの報告(文献)が実施頻度を低値にしていることに多少影響している可能性が考えられた.五つの指導内容で“いつも実施する”が,一番高くてC34%であったこと,また小児,高齢者への点眼指導がC50%に達していないことは,個々の患者に対応するための点眼指導がまだ十分に準備されていない店舗があることが推察された.クラスター分析では四つのタイプの薬局店舗に分類することができた.クラスターC2とC3はC1とC2より点眼薬の処方箋枚数が多い店舗タイプであるが,この二つの相違点としては,点眼薬処方箋枚数,紙資材の利用頻度,基本的なC5項目の点眼指導頻度,高齢者・小児の点眼手技指導率があげられる.すなわち,クラスターC3は点眼薬処方に慣れている薬局店舗と考えられ,眼科関連の処方箋を多く扱っている店舗であると推察される.さらに,点眼薬の処方機会の多さとそれによる服薬指導にかかる時間的な制約から,基本的なC5項目の点眼指導については,より効率的な紙資材を多用したことが推察された.クラスターC3におけるこれらの背景が,クラスターC2より五つの点眼指導の実施頻度が少なくなった理由であると考えられた.しかしながら眼科に近接した薬局では,アクセスのよさから高齢者や小児の患者の来局機会は多くなると推測できるため,処方箋枚数が多い店舗では,小児・高齢者の点眼手技の直接指導の頻度がクラスターC2より高くなったと考えられた.点眼薬の処方箋枚数が少ないクラスターC1とC4の違いは,基本的なC5項目の点眼指導の頻度であったことから,点眼指導に対する意識の差が頻度の差となって現れたのではないかと推察した.クラスターC4は,眼科以外の診療科から,内服薬とともに点眼薬が処方される処方箋を扱う機会が多い店舗であると推察され,服薬指導が内服薬中心に行われていて,点眼薬の服薬指導が十分に行われていない可能性が示唆された.これらクラスター分析の結果から,薬局における点眼指導の実態を解釈してみると,点眼指導の内容と頻度は,点眼薬の処方機会の多さと時間的な制約,点眼指導に対する意識の差といった要素が影響を与えていると考えられた.今後,点眼指導内容の統一化を図るためには,統一化を妨げる要因を排除すること,つまり処方の機会や時間的な制約に影響されない指導手段を構築することと,点眼指導をする側,される側の教育と理解の促進を図っていくことが重要と考えられる.謝辞:本論文投稿にあたりご助言をいただきました庄司眼科医院・日本大学医学部視覚科学系眼科学分野の庄司純先生に深謝2)大松寛:白内障術前抗菌点眼薬の施行率と点眼方法の観いたします.察.IOL&RS32:644-646,C20183)野田百代:入院前からの点眼指導への介入.日本視機能看護学会誌3:15-18,C2018文献4)小笠原恵子:白内障手術患者に対するCDVDを用いた個別1)谷戸正樹:点眼指導の繰り返しによる点眼手技改善効果.点眼指導の取り組み.日本農村医学会雑誌C63:846-847,あたらしい眼科35:1675-1678,C2018C2015C***

Klebsiella pneumoniae による尿路感染症および肝膿瘍に 起因する内因性細菌性眼内炎をきたした1 例

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):220.224,2021cKlebsiellapneumoniaeによる尿路感染症および肝膿瘍に起因する内因性細菌性眼内炎をきたしたC1例村上卓半田弥生井田洋輔伊藤格日景史人大黒浩札幌医科大学眼科学講座CACaseofEndogenousBacterialEndophthalmitisAssociatedwithUrinaryTractInfectionandLiverAbscessCausedbyKlebsiellapneumoniaeCSuguruMurakami,YayoiHanda,YosukeIda,KakuItoh,FumihitoHikageandHiroshiOhguroCDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversityCKlebsiellapneumoniaeによる内因性細菌性眼内炎のため眼球内容除去に至ったC1例を経験したので報告する.症例はC80歳,女性.右眼の急激な視力低下と眼痛を自覚し近医受診し,水晶体起因性ぶどう膜炎の疑いで当院紹介となった.当院初診時,右眼の視力は光覚弁,眼圧はC27CmmHgで,角膜の浮腫と混濁,前房炎症を認めた.生化学的検査にて炎症反応高値,軽度肝機能障害,尿路感染とコンピューター断層撮影検査(computerizedtomography:CT)にて肝臓に直径C61Cmmの肝腫瘤を認めた.内因性細菌性眼内炎の可能性も考慮し,抗菌薬の全身投与と点眼を行ったが,結局眼球内容除去を施行した.血液,尿,眼球内容,および肝膿瘍の排液の細菌培養検査にてCKlebsiellaCpneumoniaeが検出された.全身状態が不良な急性の眼内炎を診察した際は,全身検索や他科の医師との連携が眼科的な治療と生命予後の改善のために重要であると考える.CPurpose:Toreportacaseofendogenousbacterialendophthalmitis(EBE)associatedwithurinarytractinfec-tionandliverabscesscausedbyKlebsiellapneumoniaeCthatwasultimatelysuccessfullytreatedbyeviscerationoftheCeye.CCase:AnC80-year-oldCwomanCwasCreferredCtoCourChospitalCforCsuspectedClens-inducedCuveitisCafterCbecomingCawareCofCimpairedCvisionCandCophthalmalgiaCinCherCrightCeye.CInCherCright,CtheCvisualCacuityCwasClightCperceptionandtheintraocularpressurewas22CmmHg.Herrighteyeshowedcornealedema,cornealopaci.cation,andanteriorchamberin.ammation.Thelaboratory.ndingsrevealedahighlevelofin.ammatoryresponse,alowlevelofliverdamage,andaurinarytractinfection.Computedtomographyshoweda61Cmmmassintheliver.Con-sideringCtheCpossibilityCofCEBE,CsheCwasCadministeredCantibiotics,CyetCherCrightCeyeCwasCultimatelyCeviscerated.CKlebsiellaCpneumoniaeCwasCidenti.edCfromCblood,Curine,CintraocularC.uids,CandCpusCofCtheCliverCabscess.CConclu-sion:Incasesofacuteendophthalmitiswithpoorgeneralconditions,asystemicexaminationandclosecollabora-tionbetweenophthalmologistsandotherphysiciansisrequiredforophthalmologictreatmentandimprovementoflifeprognosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(2):220.224,C2021〕Keywords:内因性細菌性眼内炎,尿路感染症,肝膿瘍,クレブシエラ,眼球内容除去.endogenousCbacterialCen-dophthalmitis,urinarytractinfection,liverabscess,Klebsiellapneumoniae,evisceration.Cはじめにム陰性菌ではCKlebsiellapneumoniaeやCEscherichiacoli,グ内因性細菌性眼内炎は,遠隔臓器の感染病巣から菌が血行ラム陽性菌ではCStaphylococcusaureusやCStaphylococcuspneu-性に眼内に移行して発症する比較的まれな疾患で,視力予後moniaeが多いことが知られているが,日本を含む東アジアはきわめて不良といわれる1,2).一般的な起因菌として,グラではCKlebsiellapneumoniaeなどのグラム陰性菌による胆肝〔別刷請求先〕村上卓:〒060-8543北海道札幌市中央区南C1条西C17丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:SuguruMurakami,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,17Chome,Minami1Jonishi,Chuoku,Sapporo-shi,Hokkaido060-8543,JAPANC系感染が原病巣であることが多いと報告されている1.3).今回,筆者らはCKlebsiellapneumoniaeによる尿路感染症および肝膿瘍に起因する内因性細菌性眼内炎を発症し,眼球内容除去に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,女性.主訴:右眼視力低下,眼痛.全身既往歴:突発性難聴.家族歴:特記事項なし.眼既往歴:白内障.現病歴:白内障にて近医定期通院中であった.20xx年C4月某日(第C0病日とする)より右眼の急激な視力低下と眼痛を自覚し,第C1病日に前医を受診した.右眼の視力は光覚弁で強い前房内炎症所見を認め,水晶体起因性ぶどう膜炎の疑いで第C2病日に札幌医科大学附属病院(以下,当院)眼科紹介初診,即日入院となった.初診時現症:視力は右眼光覚弁(矯正不能),左眼C0.3(0.5C×.1.00D).眼圧は右眼C27mmHg,左眼C18mmHg.右眼には角膜実質浮腫と角膜混濁,フィブリン析出を伴った強い前房内炎症,球結膜の充血と浮腫を認め(図1),中間透光体は加齢性白内障(Emery-Little分類CgradeII)のほか,硝子体混濁が強く眼底は透見不能であった.左眼には炎症所見を認めなかった.全身所見:車椅子への移乗も困難なほど衰弱している様子であった.体温はC36.6℃.生化学的所見ではCWBCC8,500/μL(Neut80.5%,Lymph13.0%)のほか,CRPC22.1Cmg/dl,プロカルシトニン9.6Cng/mlと高値を示し,全身的な感染を疑う所見であった.また,アルブミン2.3Cg/dlと低下がみられ,GOT60CU/l,GPT57CU/l,ALP405CU/lと軽度肝機能障害が認められた.尿所見はCWBC(2+),亜硝酸塩(2+),尿潜血(2+)であり,入院時(第C2病日)に提出した血液培養は陰性であったが,尿培養にてCKlebsiellaCpneu-moniaeを少量検出し,尿路感染症が推測された.薬剤感受性評価ではアンピシリンとミノマイシンに耐性を示す以外には,他の抗菌薬に対する感受性はCsensitiveであった.胸腹骨盤単純コンピューター断層撮影検査(computerizedtomog-raphy:CT)にて肝臓CS1領域に直径C61Cmm大の腫瘤影を認めた(図2).臨床経過:諸検査の結果より,水晶体起因性ぶどう膜炎ではなく,尿路感染症に起因する内因性眼内炎の可能性が考えられ,肝腫瘤については胆管細胞癌が疑われた.全身状態不良のため当院内科に治療介入を依頼し,第C2病日から右眼に対しレボフロキサシン点眼液C1日C4回,ベタメタゾンリン酸エステル点眼液C1日C6回,アトロピン点眼液C1日C1回の局所治療のほか,全身治療としてセフォペラゾンナトリウム・スルバクタム(スルペラゾン)2Cg/日による点滴治療を開始した.第C3病日には右眼の眼圧がC39CmmHgと上昇,ビマトプロスト点眼液,チモロールマレイン酸点眼液,ブリンゾラミド点眼液,ブリモニジン点眼液を開始,全身管理のために内科に転科となった.第C4病日にはクリンダマイシン(ダラシン)1.8Cg/日の点滴が追加投与となり,右眼の結膜浮腫が著明となりオフロキサシン眼軟膏C1日C3回塗布を開始した.第5病日には右眼の眼圧がC54CmmHgとさらなる上昇を認め,リパスジル点眼液とCD-マンニトール点滴にて追加加療するも,高眼圧状態と眼痛の改善を得られなかった.第C6病日撮影の造影CCT検査にて右眼眼球の腫脹と突出,眼球壁の肥厚,および眼球周囲の脂肪織の輝度上昇を認め,全眼球炎が示唆された(図3).同日水晶体再建術+硝子体手術を施行した.結膜充血と浮腫,角膜実質浮腫と角膜混濁,強い前房内図1初診時前眼部写真角膜実質浮腫と角膜混濁,フィブリンを伴う強い前房内炎症,球結膜の充血と浮腫を認めた.図2初診時胸腹骨盤単純CT肝臓CS1領域に直径C61Cmm大の腫瘤影を認めた.図3第6病日の頭部造影CT右眼球の腫脹と突出,眼球壁の肥厚,および眼球周囲の脂肪織の輝度上昇を認め,全眼球炎が示唆された.図4術中写真a:手術開始時.結膜充血と浮腫,角膜実質浮腫と角膜混濁,強い前房内炎症を認めた.Cb:水晶体処理後.硝子体は著明に白色混濁していた.Cc:広角眼底観察システム(Resight)使用下.硝子体は著明に白色混濁しており,網膜色調も不良だった.d:脈絡膜出血後.硝子体腔および上鼻側の強膜ポート挿入部より多量の出血を認めた.炎症を認めた(図4a).硝子体は著明に白色混濁しており(図病日にC40℃台の発熱と炎症反応の再燃あり,同日に提出しC4b~c),網膜色調も不良であった(図4c).硝子体手術中にた血液培養からCKlebsiellapneumoniaeが検出され,抗菌薬硝子体腔および上鼻側の強膜ポート挿入部より多量の出血を点滴をタゾバクタム・ピペラシリン(ゾシン)13.5Cg/日に変認め(図4d),上脈絡膜出血と考えられた.視機能を期待で更した.第C10病日にもC39℃台の発熱あり,当初胆管細胞癌きないとの術中判断にて,眼球内容除去へ術式を変更した.を疑っていた腫瘤影が肝膿瘍である可能性も否定できず,経術後に得られた硝子体液からCKlebsiellapneumoniaeが検出皮経肝胆管ドレナージ(percutaneousCtranshepaticCcholan-された.術後経過において炎症反応改善傾向だったが,第C9Cgialdrainage:PTCD)を施行したところ白色膿汁の排液を認めた.排液からもCKlebsiellapneumoniaeが検出され,薬剤感受性評価も同様にアンピシリンとミノマイシンに耐性を示す他は抗菌薬にCsensitiveであった.それまで投与されていた抗菌薬への耐性は示さなかったものの,治療強化のため抗菌薬をセフトリアキソン(ロセフィン)4Cg/日に変更した.ドレナージ後から順調に全身状態は改善し,第C17病日の造影CCT検査でも肝膿瘍の縮小を認めた.第C21病日から抗菌薬を点滴からレボフロキサシン内服に変更したが以後感染の再燃なく経過し,第C30病日リハビリ目的に転院となった.CII考按内因性眼内炎は転移性眼内炎ともよばれ,遠隔臓器の感染病巣から菌血症を経て血行性に眼内に移行して発症するもので,内眼手術や穿孔性眼外傷,角膜潰瘍などによって起炎菌が直達的に眼内に及んで起こる外因性眼内炎とは区別される1,2).眼外の病巣がC67%に発見され,部位別にみると肝膿瘍がC26%と最多で,以下肺炎C12%,中枢神経系感染C10%,腎尿路系感染C10%と続き,12%には複数の眼外病巣がみつかったとの報告がある1.3).背景疾患をもつものがC56%を占め,糖尿病が最多で,HIV感染,自己免疫疾患,血液疾患,アルコール中毒など1.3)のほか,薬物の血管内投与や外科手術,血液透析,免疫抑制薬投与,中心静脈カテーテルに関連した症例の報告も多い1,2,4).起炎菌はグラム陰性菌としてはCKlebsiellapneumoniaeやCEscherichiacoli,グラム陽性菌としてはCStaphylococcusaureusやCStaphylococcuspneumoniaeが多いことが知られている1,2).起炎菌や原病巣には,地域差があるといわれており,欧米ではグラム陽性菌を起炎菌とした心内膜炎や尿路感染症が原病巣であることが多いのに対して,東アジアではCKlebsiellapneumoniaeなどのグラム陰性菌による胆肝系感染が多いといわれている1,3.6).日本においてもCKlebsiellapneumoniaeによる内因性眼内炎の報告が多数存在している5.11).視力予後はきわめて不良で,指数弁以上の視力を維持できるものはC32%にすぎず,光覚を失うものがC44%,眼球摘出を要するものがC25%との報告もあるC1.3).本症例では血液,尿,PTCDの排液,および硝子体液の培養からCKlebsiellapneumoniaeが検出されており,最終的に眼球内容除去を施行するに至った.Klebsiellapneumoniaeによる細菌性内因性眼内炎は早期かつ積極的な抗菌薬の投与および外科的処理にもかかわらずその転帰は不良とされ,硝子体切除術を施行しても光覚弁,失明,あるいは眼球摘出に至る場合が多くみられる5,7).Gounderらは,Klebsiellapneu-moniaeが分離された内因性細菌性眼内炎のC9症例のうち,肝膿瘍を認めたものがC8症例あり,3症例で眼球内容除去が必要になったと報告している12).また,Liらの報告では,CKlebsiellapneumoniaeによる内因性眼内炎と診断された110人の患者のうち,眼外病変で肝膿瘍を認めた患者がC85人と一番多く,124眼中C91眼(73.4%)で最終視力が指数弁より悪くなり,20眼(16.1%)に内容除去あるいは眼球摘出が必要となった13).本症例では突発性難聴以外の既往歴はなく,免疫不全状態に関連するような背景疾患を有していなかった.内因性細菌性眼内炎と診断されたC57人中危険因子をもつ患者はC43人だったという報告12)やCKlebsiellapneumoniaeによる内因性眼内炎と診断されたC110人中C82人(74.5%)に免疫不全状態に関連する基礎疾患があり,糖尿病がC75人(68.2%)と一番多かったという報告13)もあるが,いずれにおいても免疫不全状態に関連する基礎疾患や危険因子をもっていない患者も多数含まれており,全身的な基礎疾患をもたない患者においても内因性細菌性眼内炎の可能性を考慮する必要があると考える.また,前医にて水晶体起因性ぶどう膜炎疑いの診断であったことに関し,内因性細菌性眼内炎は他の細菌感染症の治療中の患者を除き,充血や視力低下,眼痛などを訴えて眼科を受診した患者に,強い前房炎症という眼所見のみから内因性眼内炎の診断を下すことはむずかしい場合があることが示唆された.Jacksonらの報告によると,内因性細菌性眼内炎342例中C89例(26%)にて誤診を認めており,もっとも多かったのがぶどう膜炎でC32例だった14).また,西田らの報告によると初めから正しく内因性細菌性眼内炎と診断された症例はC21名中C15名(71.4%)であった15).本症例では初対面時の本人の全身状態の異変に気付いたことが診断のきっかけになっており,強い炎症を伴う眼所見を認めた際には,眼所見の詳細な観察のみならず,全身状態の検査や評価を行うことで,より的確な診断ならびに早期治療につながることが示唆された.CIII結語Klebsiellapneumoniaeによる尿路感染症と肝膿瘍に起因する内因性細菌性眼内炎のため眼球内容除去に至ったC1例を経験した.急性の強い眼内炎を認める際には,既往歴や前医での診断にこだわらず,内因性細菌性眼内炎の可能性を常に考慮して全身精査を行うべきである.また,状況によっては早期に適切な診療科への治療介入を依頼することが,眼科的治療のみならず生命予後改善のためにも重要であると考える.文献1)喜多美穂里:転移性眼内炎.あたらしい眼科C28:351-356,C20112)喜多美穂里:内因性細菌性眼内炎.臨眼70:274-278,C20163)JacksonCTL,CEykynCSJ,CGrahamCEMCetal:Endogenousbacterialendophthalmitis:aC17-yearCprospectiveCseriesCandCreviewCofC267CreportedCcases.CSurvCOphthalmolC48:C403-423,C20034)戸所大輔:細菌性転移性眼内炎多施設スタディからわかったこと.臨眼73:1115-1121,C20195)太田雅彦,米田行宏,喜多美穂里ほか:クレブシエラ肺炎桿菌による敗血症・髄膜脳炎に難治性眼内炎が併発したC1例.臨神経53:37-40,C20136)森秀夫,谷原佑子,内本佳世:胆管炎で発症し胆管炎の再発により再発した内因性細菌性眼内炎のC1例.臨眼C70:C747-752,C20167)中瀬古裕一,石田祐一,坂本太郎ほか:肝膿瘍に併発した転移性眼内炎により失明に至ったC1例.日外感染症会誌C14:751-754,C20178)橋本慎太郎,角田順久:肺化膿症・眼内炎を併発したCK.pneumoniaeによる肝膿瘍に対して肝切除により感染制御を得た胆管細胞癌のC1例.日外感染症会誌15:100-104,C20189)山崎仁志,大黒浩,間宮和久ほか:肝膿瘍に合併した両眼性転移性眼内炎のC1例.あたらしい眼科C19:1525-1527,C2002C10)樺山真紀,鍋島茂樹,久保徳彦ほか:臨牀指針肝膿瘍に左細菌性眼内炎を合併した一症例.臨と研C79:1205-1208,C200211)TodokoroCD,CMochizukiCK,CNishidaCTCetal:IsolatesCandCantibioticCsusceptibilitiesCofCendogenousCbacterialCendo-phthalmitis:ACretrospectiveCmulticenterCstudyCinCJapan.CJInfectChemotherC24:458-462,C201812)GounderPA,HilleDM,KhooYJetal:Endogenousendo-phthalmitisCinCWesternAustralia:aCsixteen-yearCretro-spectivestudy.RetinaC40:908-918,C202013)LiYH,ChenYH,ChenKJetal:Infectioussources,prog-nosticCfactors,CandCvisualCoutcomesCofCendogenousCKlebsi-ellaCpneumoniaeCendophthalmitis.COphthalmolCRetinaC2:C771-778,C201814)JacksonCTL,CParaskevopoulosCT,CGeorgalasI:SystematicCreviewCofC342CcasesCofCendogenousCbacterialCendophthal-mitis.SurvOphthalmolC59:627-635,C201415)NishidaT,IshidaK,NiwaYetal:Aneleven-yearretro-spectiveCstudyCofCendogenousCbacterialCendophthalmitis.CJOphthalmolC2015:ArticleID261310,11pages,2015C***

視神経網膜炎治療中に末梢性顔面神経麻痺を伴った 成人ネコひっかき病の1 例

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):214.219,2021c視神経網膜炎治療中に末梢性顔面神経麻痺を伴った成人ネコひっかき病の1例髙木宣典*1佐々由季生*1清水瑞己*1髙木由貴*2三根正*2永岡信一郎*3松石英城*1上床希久*1高島洋*1西原雄之介*1相部仁*1園田康平*4江内田寛*2*1佐賀県医療センター好生館眼科*2佐賀大学大学院医学系研究科眼科学*3永岡眼科医院*4九州大学大学院医学研究院眼科学分野CNeuroretinitisinaCaseofCatScratchDiseasewithPeripheralFacialNerveParalysisNorifumiTakaki1),YukioSassa1),TamamiShimizu1),YukiTakaki2),TadashiMine2),ShinichiroNagaoka3),HidekiMatsuishi1),KikuUwatoko1),HiroshiTakashima1),YunosukeNishihara1),HitoshiAibe1),Koh-HeiSonoda4)CandHiroshiEnaida2)1)DepartmentofOphthalmology,Saga-kenMedicalCentreKoseikan,2)DepartmentofOphthalmology,SagaUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)NagaokaEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC視神経網膜炎を伴ったネコひっかき病治療中に顔面神経麻痺を伴ったC1例を経験したので報告する.症例はC65歳,男性.全身倦怠感,多発リンパ節腫脹を認めた.経過中に左眼耳側視野障害を自覚し,佐賀県医療センター好生館眼科紹介受診.初診時視力右眼(1.2),左眼(0.8).左視神経乳頭腫脹および同部位より中心窩へ連続する漿液性網膜.離を認めた.発症C4週間前にネコにかまれており,腋窩リンパ節腫脹に加えて,炎症反応が強かったためネコひっかき病を疑い,ドキシサイクリン内服開始.治療C4日後に左末梢性顔面神経麻痺を発症したため,プレドニゾロン内服を追加した.Bartonellahenselae血清抗体価を測定し,IgG抗体がC1,024倍と上昇していたためネコひっかき病と診断した.治療後,視神経乳頭腫脹,視野障害および顔面神経麻痺の改善を認めた.ネコひっかき病に視神経網膜炎と顔面神経麻痺を併発したまれな症例であった.CPurpose:Cat-scratchdisease(CSD)isCaCself-limitingCinfectiousCdiseaseCcharacterizedCwithClymphadenopathyCinCaCpatientCwithCaChistoryCofCcatCcontact.CCSDCwithCfacialCnerveCparalysisCisCveryCrare.CSubjectsandmethods:CHerewereportthecaseofa64year-oldmalewithprolongedgeneralfatigue.LaboratorytestsexhibitedelevatedwhitebloodcellcountsandahighC-reactiveproteinvalue.MultiplemesentericlymphadenopathywassuspectedasCmalignantClymphomaCorCmetastasisCofCprostateCtumorCtreatedCwithCanti-androgenCagent.CAClymphCnodeCbiopsyCwasCexpectedCtoCcon.rmCtheCdiagnosis.CTheCpatientCalsoChadCaCvisualC.eldCabnormalityCinCtheCleftCeye,CandCwasCreferredCtoCourChospital.CFundusCexaminationCrevealedCopticCneuroretinitisCinCtheCleftCeye.CGoldmannCperimeterCexaminationCrevealedCtheCexpansionCofCtheCMarriottCblindCspotCandCparafovealCsmallCscotomasCinCtheCleftCeye.CHeChadahistoryofacatbite4-weeksbeforetheonsetoftheclinicalsigns.SerumIgGtiterforBartonellahenselaebacteriawaspositive.Results:Oraldoxycyclinetreatmentwasstarted.Fourdaysaftertheinitiationoftreatment,facialCnerveCparalysisCinCtheCleftCsideCwasCobserved.CMagneticCresonanceCimagingCidenti.edCtwoCenhancedCparotidClymphCnodesCaroundCtheCfacialCnerveCbranches.CPrednisoloneCwasCaddedCforCseveralCweeks,CwhichCresultedCinCaCgoodclinicalresponse.Atfollow-up,thepatientwaswithoutsymptomsorsignsofthedisease.Theabnormalvisu-alC.eldandfacialnerveparalysiswasimprovedafterthetreatments.Conclusions:ThisistheC.rstreportaboutaCSDCcaseCwithCbothCopticCneuroretinitisCandCperipheralCfacialCnerveCparalysis.CHistoryCofCanimalCcontact,CregionalClymphadenopathyandopticneuroretinitisremindedusoftheCSD.Serologicaltestingwashelpfulforthediagnosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(2):214.219,C2021〕〔別刷請求先〕髙木宣典:〒840-8571佐賀市嘉瀬町中原C400佐賀県医療センター好生館眼科Reprintrequests:NorifumiTakaki,DepartmentofOphthalmology,Saga-kenMedicalCentreKoseikan,400Nakabaru,Kase-machi,Sagacity840-8571,JAPANC214(98)Keywords:ネコひっかき病,視神経網膜炎,顔面神経麻痺,多発リンパ節腫脹.catscratchdisease,opticneuro-retinitis,facialnerveparalysis,multiplelymphadenopathy.Cはじめにネコひっかき病(catCscratchdeisease:CSD)はネコを含む動物の引っかき傷や咬傷などによりCBartonellaChenselaeが感染することで発症する.所属リンパ節腫大や発熱を主徴とし,軽症例は自然軽快する.CSDに伴う眼合併症としてはCParinoud結膜炎,視神経網膜炎,前部ぶどう膜炎などであるが,発症の頻度は低く,視神経網膜炎はCCSDの約C1.2%である.CSDに伴う顔面神経麻痺の報告はさらにまれであり1.3),視神経網膜炎と合併した報告はない.今回,筆者らは,CSDに伴う片眼の視神経網膜炎を発症した患者が,経過中に末梢性顔面神経麻痺を生じた症例を経験したので,治療経過とともに報告する.CI症例患者:65歳,男性.主訴:全身倦怠感,左眼視野異常.現病歴:前立腺癌に対するホルモン療法(ビカルタミド内服)中.約C1カ月前から全身倦怠感を訴えて近医内科を受診.発熱は認めなかったが,白血球数,CRP濃度上昇を認めていた.原因検索目的で佐賀県医療センター好生館(以下,当院)内科を紹介受診した.造影CCTでは,前立腺癌の明らかな再発は認めず,両肺多発小結節,膵島周囲および腸間膜に多発リンパ節腫大を認めたため,診断目的でリンパ節生検の予定であった(図1a).内科初診C3日後に左眼耳側視野障害を自覚し,近医眼科を受診,左視神経乳頭腫脹を指摘され,精査目的で当院眼科を紹介受診した.初診時眼所見:視力は右眼C0.8(1.5pC×sph+1.75D(cylC.1.50DAx90°),左眼C0.4(0.8C×sph+1.00D(cyl.0.50DAx100°).眼圧は右眼C9mmHg,左眼C10mmHg.直接対光反射は両眼とも異常なく,相対的瞳孔求心路障害なし.濾胞性結膜炎および前房内炎症細胞浸潤を認めず.眼底検査で左眼視神経乳頭浮腫および両眼白色滲出性病変を下方アーケード血管周辺に認め,光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomog-raphy:OCT)で乳頭黄斑部間の網膜浮腫,漿液性網膜.離を認めた(図2a,b,3).硝子体中の炎症細胞浸潤は認めず.中心フリッカー値(criticalC.ickerfrequency:CFF)は右眼37CHz,左眼C30CHzと左眼低下を認めた.動的視野検査では左眼のCMariotte盲点の拡大と孤立暗点を認めた(図4).初診時全身所見:体温C36.0℃.脈拍C92回/分.血圧C155/105CmmHg.1週間前よりロキソプロフェンC60Cmgおよびトラマドール塩酸塩C37.5Cmg,アセトアミノフェンC325Cmg内服中で発熱は認めず.触診上,頭頸部リンパ節は認めなかったが,右腋窩に発赤を伴わない類円型リンパ節腫脹(33C×13mm)を認めた(図1b).血液検査:WBC19,000/μl(neut73.5%,eosino1.0%,Cbaso1.9%,mono9.5%,lymph15.0%),RBC399万/μl,CPlt24.5万/μl,総蛋白C6,3Cg/dl,尿素窒素C8.9Cmg/dl,クレアチニンC0.92Cmg/dl,CCRP19.17Cmg/dl,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼC41CU/l,アラニンアミノトランスフェラーゼC30CU/l,乳酸脱水素酵素C352CU/l,sIL-2R987U/ml.感染症抗体:B型肝炎ウイルス抗体(C.),C型肝炎ウイルス抗体(C.),ヒトCT細胞白血病ウイルス抗体(C.),ヒト免疫不全ウイルス抗体(C.),梅毒定性検査(C.).髄液検査所見:色調は無色,性状水様透明,細胞数C10/μl,lymph41.0%,糖C61.0Cmg/dl,蛋白C43Cmg/dl,ミエリン塩基性蛋白C43Cmg/dl.経過:ネコを飼育しており,発症C4週間前に右手を噛まれていたことからCCSDを疑い,内科主治医と相談しドキシサイクリン(100Cmg/日)内服を開始した.リンパ節生検予定のため,ステロイド内服は行わなかった.内服開始C4日後に全身倦怠感の改善,食欲回復あり.リンパ節腫脹の新規出現なく,腋窩リンパ節縮小を認め,眼底所見は視神経乳頭腫脹の軽減および網膜白色滲出性病変の消退を認めた.同時期より左閉眼障害,左口角下垂を認め,脳神経内科受診し,頭部造影CMRIおよび髄液検査施行.顔面神経分枝の走行部位に一致した造影増強効果のある耳下腺リンパ節をC2カ所認めた(図5).柳原法による顔面神経麻痺スコアはC24/40程度.末梢性顔面神経麻痺の診断でプレドニン(30Cmg/日)を内服,その後漸減した.また,Bell麻痺の可能性も考慮し,アシクロビル(1,000mg/日)をC1週間内服した.顔面神経麻痺症状は治療開始後C1カ月で軽快し,ドキシサイクリン内服開始C3週間後には眼底所見も改善した.免疫蛍光抗体法でCB.Chense-lae抗体を測定し,IgM陰性,IgG1,024倍であった.内服中止C1カ月後には左眼視力はC0.6(1.2C×sph+1.50D(cyl.1.25DAx110°)と改善し,視神経乳頭浮腫および漿液性網膜.離の消退を認め,動的視野検査でCMariotte盲点は縮小し,孤立暗点は消失した(図1c,d,2,3).CII考按CSDはグラム陰性桿菌であるCB.henselaeの接触感染により発症する.その感染経路はネコを含む動物の引っかき傷や咬傷,ネコノミから感染した報告もある1).接触後C2週間以内に発赤や丘疹,膿疱を伴い,1カ月以内で所属リンパ節が図1初診時の胸腹部造影(a)と右腋窩部エコー(b)両肺の多発小結節および腸間膜に多数のリンパ節腫脹を認めた.右腋窩に類円型リンパ節腫脹(33C×13mm)を認めた.図2初診時眼底写真(a,b)と治療後15日(c),治療後1カ月半(d)の眼底写真a,b:左眼視神経乳頭浮腫および両眼下方アーケード血管周囲の白色滲出性病変を認めた.Cc,d:治療後は黄斑部周囲に星芒状白斑(C.)を認め,その後左眼視神経乳頭浮腫の改善を認めた.図3初診時(左)と治療後1カ月半(右)のOCT左眼視神経乳頭黄斑部間の網膜浮腫および中心窩に及ぶ漿液性網膜.離を認め,治療後はほぼ正常化した.図4初診時(左)と治療後1カ月(右)の動的視野検査左眼CMariotte盲点の拡大と上方の孤立暗点を認めたが,治療後に改善を認めた.腫脹する.自覚症状としては,発熱や頭痛,全身倦怠感を伴うことが多いとされる4,5).CSDに付随する神経学的合併症としては,急性脳症がもっとも多くC2.3%であり,成人例に多く,てんかん発作,小脳失調,脊髄炎,聴覚障害などの症状の報告がある4).本症例のように顔面神経麻痺を併発したCCSDの症例報告はまれであり,成人の報告は海外も含めて数例に留まる1.3).正確な病因は不明であるが,発症機序として耳下腺リンパ節周囲の顔面神経分枝への直接的圧迫または炎症波及の可能性が疑われている6,7).本症例では,ドキシサイクリンを投与し,全身倦怠感や腋窩リンパ節腫脹の改善をみた内服開始C4日後に顔面神経麻痺を生じている.造影CMRI検査で,左耳下腺図5頭部造影MRI左耳下腺リンパ節の造影増強効果をC2カ所認めた(C.).リンパ節の造影増強効果をC2カ所認めており,末梢の顔面神経走行に一部接していた.この所見が顔面神経麻痺の直接の原因であるかは不明であるが,その後ステロイド内服で改善したことから,過去の報告にもあるように,今回の顔面神経麻痺の発症には炎症反応の関与が強く疑われた7).末梢性顔面神経麻痺に対する治療として,Bell麻痺の可能性も考慮して治療ガイドラインに従ってアシクロビルの投与を併用した.観察期間中にCHunt症候群に認めるヘルペス疹は認めていない.Bell麻痺では膝神経節から末梢部でCMRI造影増強効果を認めるとの報告もある8).しかしながら本症例では,患側顔面神経で同様の造影増強効果は指摘されなかった.眼症状は急性濾胞性結膜炎を併発するCParinoud症候群のほか,星芒状白斑,網膜静脈閉塞,ぶどう膜炎などがあり,視神経網膜炎が併発する症例は全体の2%未満とされる9.11).視神経網膜炎の鑑別疾患としてはCVogt-小柳-原田病やサルコイドーシス,結核や梅毒をはじめとした感染症があげられる.本症例では前眼部の炎症所見を認めず,髄液細胞増多や胸部CCTで肺門部リンパ節腫脹を認めなかったこと,感染症検査が陰性であったことから鑑別疾患を否定した.sIL-2Rが高値であったが,感染症や自己免疫疾患などでも高値を示すため,悪性リンパ腫を含む血液疾患を積極的に疑うほどの数値ではなかった12).問診で発症C4週間前に飼いネコに噛まれており,腋窩リンパ節腫脹,特徴的な視神経網膜炎に加え,血液検査で炎症反応上昇を認めたことからCCSDを疑った.確定診断には抗体価測定が有用とされている.判定には約2週間を要するため,本症例のように視力低下がある場合には,検査結果を待たずに治療を行う.免疫蛍光抗体法を用いた単一血清検査でCIgM20倍以上またはCIgG512倍以上,ペア血清でCIgGがC4倍以上の変動の場合に陽性である13).今回の症例では,B.ChenselaeIgMは陰性であったが,発症C3カ月以内のCIgM陽性率は約C14.50%と低い14,15).健常人ではCB.ChenselaeIgGは最大C256倍まで上昇することが報告されており,単一血清ではC512倍以上が診断基準となる4).血清学的検査に加えて,最近では遺伝学的アプローチであるPCR(polymeraseCchainreaction)法によるCB.ChenselaeDNAの検出も補助診断として報告がある15,16).本症例では前立腺癌治療中のため癌転移や悪性リンパ腫を疑い,当初リンパ節生検が検討されたが,病変が深部かつ微細であることや,内服加療中に腋窩リンパ節が縮小したため摘出は見送られた.診断がむずかしい場合にはリンパ節生検を行い,腫瘍性疾患の鑑別を行うことが必要となる.臨床症状の重いCCSD治療では,第C3世代セフェム,アジスロマイシン,エリスロマイシン,ゲンタマイシン,テトラサイクリン,リファンピシンなどが良好な感受性を示す17).視神経乳頭への病変を認めた場合には炎症による不可逆性の変化を避ける目的でステロイド内服を併用する報告も多い18).本症例ではネコとの接触歴,全身所見および眼所見から総合的にCCSDと判断し,先行的にドキシサイクリンの投与を行った.経過中,末梢性顔面神経麻痺を併発したためにステロイド内服を行い,全身症状および眼症状の回復を得られた.その際,血清学的検査が診断に有用であった.CSDに伴う視神経網膜炎,顔面神経麻痺の合併した症例はこれまで報告がなく,本症例は非常にまれな症例と考えられた.文献1)余瀬まゆみ,西平修,井上定三ほか:猫ひっかき病による顔面神経麻痺の一例.FacialNResJpnC5:157-166,C19852)金谷浩一郎,波多野光紀:猫ひっかき病による顔面神経麻痺例.耳鼻臨床C92:31-35,C19993)大城聡,比嘉睦,太田孝男ほか:猫ひっかき病に末梢顔面神経麻痺を合併したC12歳,男児例.日本小児科学会雑誌C107:685-686,C20034)吉田博,草場信秀:ネコひっかき病─疫学と臨床─.感染症30:49-55,C20005)MurakamiK,TsukaharaM,TsuneokaHetal:CatscratchdiseaseCanalysisCofC130seropositiveCcases.CJCInfectCChe-motherC8:349-352,C20026)GanesanK,MizenK:Catscratchdisease:Anusualcauseoffacialpalsyandpartialptosis:casereport.JOralMax-illofacSurgC63:869-872,C20057)NakamuraCC,CInabaCY,CTsukaharaCKCetal:ACpediatricCcasewithperipheralfacialnervepalsycausedbyagranu-lomatouslesionassociatedwithcatscratchdisease.BrainDevC40:159-162,C20188)柳田昌宏:顔面神経の造影CMRI─第C2報─顔面神経麻痺患者の造影効果部位の検討.日本耳鼻科学会誌C96:1329-1339,C19939)KsiaaI,AbrougN,MahmoudAetal:UpdateonBarton-ellaneuroretinitis.JCurrOphthalmolC31:254-261,C201910)CelikerH,KazokogluH,EraslanMetal:Bartonellahense-laeCneuroretinitisCinCpatientsCwithoutCcatCscratch.CJpnJInfectDisC71:397-401,C201811)溝渕朋佳,天野絵梨,谷口義典ほか:ぶどう膜炎,視神経網膜炎,無菌性髄膜炎を呈した猫ひっかき病のC2例.日本内科学会雑誌C106:2611-2617,C201712)TsujiokaCT,CKishimotoCM,CKondoCTCetal:TheCimpactCofCserumsolubleinterleukin-2receptorlevelsonthediagno-sisCofCmalignantClymphoma.CKawasakiCMedCJC37:19-27,C201113)草場信秀,吉田博:猫ひっかき病におけるCBartonellahenselae抗体の経時的測定の臨床的意義─間接蛍光抗体法による検討─.感染症誌C75:557-561,C200114)BergmansCAM,CPeetersCMF,CSchellekenCJFCetal:PitfallsCandfallaciesofcatscratchdiseaseserology:evaluationofBartonellahenselae-basedindirectC.uorescenceassayandenzyme-linkedCimmunoassay.CJCClinCMicrobiolC35:1931-1937,C199715)ChondrogiannisaK,VezakisbA,DerpapasbMetal:Sero-negativeCcat-scratchCdiseasediagnosisedbyPCRdetectionCofBartonellaChenselaeCDNACinClymphCnodeCsamples.CBrazCJInfectDisC16:96-99,C201216)FukusimaCA,CYasuokaCM,CTsukaharaCMCetal:ACcaseCofCcatscratchdiseaseneuroretinitiscin.rmedbypolymerasechainreaction.JpnJOphthalmolC47:405-408,C200317)DolanCMJ,CWongCMT,CRegneryCRLCetal:SyndromeCofCRochalimaeaChenselaeCadenitisCsuggestingCcatCscratchCdis-ease.AnnInternMedC118:331-336,C199318)小林かおり,古賀隆史,沖輝彦ほか:猫ひっかき病の眼底病変.日眼会誌C107:99-104,C2003***

インフルエンザワクチン接種後に発症した抗MOG 抗体陽性 視神経脊髄炎の1 例

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):206.213,2021cインフルエンザワクチン接種後に発症した抗MOG抗体陽性視神経脊髄炎の1例多田香織*1伴由利子*1大槻陽平*1内田真理子*1山口達之*2*1京都中部総合医療センター眼科*2京都中部総合医療センター脳神経内科ACaseofAnti-MyelinOligodendrocyteGlycoprotein(MOG)AntibodyPositiveNeuromyelitisOpticaFollowingSeasonalIn.uenzaVaccinationKaoriTada1),YurikoBan1),YoheiOtsuki1),MarikoUchida1)andTatsuyukiYamaguchi2)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,2)DepartmentofNeurology,KyotoChubuMedicalCenterC近年,抗ミエリンオリゴデンドロサイトプロテイン(MOG)抗体は,抗アクアポリンC4抗体陰性視神経脊髄炎や再発性視神経炎の一部で陽性になることが明らかとなり,注目されている.今回,インフルエンザワクチン接種後に発症した抗CMOG抗体陽性視神経脊髄炎の症例を経験したので報告する.症例はC22歳,女性,インフルエンザワクチン接種のC1週間後に両下肢の感覚異常,左眼視力低下,眼痛を自覚した.初診時,VD=1.2(1.5),VS=0.3(1.0),中心フリッカー値は右眼C36CHz,左眼C20CHz,左眼相対的瞳孔求心路障害陽性,視野検査で両眼のCMariotte盲点の拡大と左眼の傍中心暗点がみられた.頭部・眼窩・全脊髄CMRIの所見より視神経脊髄炎と診断した.ステロイドパルスC1クールで症状は改善傾向を示し,経過中に血清抗CMOG抗体陽性と判明した.抗CMOG抗体陽性視神経脊髄炎は長期の免疫抑制が必要とされる.本症例ではステロイド内服継続により発症C7カ月まで眼症状の再発はない.CPurpose:Toreportacaseofanti-myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG)antibodypositiveneuromyelitisoptica(NMO)thatdevelopedfollowingaseasonalin.uenzavaccination.Case:A22-year-oldfemalewashospital-izedduetoparesthesiainthebilaterallowerextremitiesandreducedvisualacuityinthelefteyewithopticpain1weekCafterCbeingCadministeredCaCseasonalCin.uenzaCvaccination.CTheCcorrectedCvisualCacuityCwasC1.5inCtheCrightCeyeandC1.0CinCtheCleft.CHerCleftCeyetestedCpositiveforCarelativeCa.erentCpupillarydefect.CAvisualC.eldtestshowedanCexpandedCMariotte’sCspotCinCtheCbothCeyesCandCeccentricCscotomaCinCtheCleftCeye.CMagneticCresonanceCimagingCFLAIRimagesrevealedhyperintenselesionsinthecerebralcortex,cervicalspinalcord,andbilateralopticnerve.UnderthediagnosisofNMO,shereceivedsteroidpulsetherapyandhervisionimproved.Aftersteroidpulsether-apy,heranti-MOGantibodywasfoundtobepositivewhileheranti-aquaporin-4antibodywasnegative.Thus,shewasC.nallyCdiagnosedCwithCanti-MOGCantibodyCpositiveCNMO.CConclusion:ContinuousCtreatmentCwithCoralCpred-nisolonesuccessfullysuppressedtherecurrenceofNMO.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)38(2):206.213,C2021〕Keywords:ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(MOG),視神経脊髄炎,ステロイドパルス,抗MOG抗体関連疾患,インフルエンザワクチン接種後.myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG),neuromyelitisoptica(NMO),steroidpulsetherapy,MOGantibody-relateddisease,in.uenzavaccination.Cはじめに視神経脊髄炎における抗アクアポリン(aquaporin:AQP)4抗体の病原性が証明されて以来,とくに自己抗体と視神経炎との関連が注目されている1).近年,抗ミエリンオリゴデンドロサイトグリコプロテイン(myelinColigodendrocyteglycoprotein:MOG)抗体は,抗CAQP4抗体陰性視神経脊髄炎や再発性視神経炎の一部で陽性になることがわかってきた2,3).AQP4はアストロサイトに豊富に存在するのに対し,MOGは中枢神経においてミエリン鞘とオリゴデンドロサイトの細胞表面に発現し,神経の髄鞘化,ミエリン構造の維持〔別刷請求先〕多田香織:〒629-0197京都府南丹市八木町八木上野C25京都中部総合医療センター眼科Reprintrequests:KaoriTada,DepartmentofOphthalmology,KyotoChubuMedicalCenter,25YagiuenoYagi,Nantan,Kyoto629-0197,JAPANC206(90)における接着分子として働いている糖蛋白である.免疫原性が強く,MOGが抗原として認識された場合,脳脊髄だけでなく,視神経にも脱髄を生じることがマウスを用いた研究で証明されている4).今回筆者らは,インフルエンザワクチン接種後に発症した抗CMOG抗体陽性視神経脊髄炎の症例を経験したので報告する.CI症例患者:23歳,女性.既往歴,内服歴:とくになし.現病歴:インフルエンザワクチン接種のC2日後から頭痛と起立時の浮動感が出現し,かかりつけ内科を受診したところワクチンの副反応が疑われた.非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方され,その後頭痛は軽快した.しかし,ワクチン接種よりC1週間後から両側の手指振戦や上下肢の疼痛が出現(発症C1日目),そのC2日後に左眼の眼痛,眼球運動時痛,見え方が暗いなどの症状が出現したため,かかりつけ内科を再診,近医眼科を受診した.眼科受診時(発症C6日目),視力はCVD=1.2(n.c.),VS=0.7(1.2C×.0.25D)であり,左眼の視力低下および外眼筋と視神経の炎症を指摘されステロイド点眼を処方された.しかし,全身的に症状の改善は乏しく,発症C7日目(ワクチン接種後C13日)にかかりつけ内科より京都中部総合医療センター(以下,当院)脳神経内科に紹介となった.脳神経内科外来初診時の神経学的所見は,意識清明,発語に問題なく,左眼視力低下の訴えがあった.瞳孔や眼球運動に異常はみられず,四肢の麻痺や失調もみられなかった.両側上下肢に姿勢時振戦と異常感覚がみられたが,歩行に問題はなかった.過去に何度もインフルエンザワクチンを接種したことはあるが,このような症状は初めてということであった.初診日に抗CAQP4抗体を調査項目に含めた血液検査を施行し,当日に結果が得られた血算や生化学の一般的な項目は正常範囲内であった.髄液検査ではリンパ球優位の細胞増多がみられ,オリゴクローナルバンドは陰性であったが,中枢神経の髄鞘破壊やその程度の指標であるミエリン塩基性蛋白(myelinbasicprotein:MBP)は測定限界値を超える高値であった.胸部CX線,心電図に異常所見はみられなかった.図1頭部・眼窩MRIa:発症C7日目の頭部CMRIFRAIR画像.両側大脳に白質病変が多発している(.).b:発症C7日目の眼窩MRIガドリニウム(gadolinium:Gd)造影像.両側視神経の腫脹,蛇行,異常濃染がみられる.Cc:ステロイドパルスC1クール後C10日目の頭部CMRIFRAIR画像.初診時に多数みられた大脳白質病巣はいずれも縮小した(.).d:ステロイドパルスC1クール後C3日目の眼窩CMRIGd造影像.右側で若干の造影効果が残存していたが,左側優位にみられた視神経の腫脹および異常造影効果は明らかに改善した.図2脊髄MRI(T2強調画像)a:発症C8日目.3椎体にわたる脊髄に高信号がみられる.Cb:発症C9日目.頸髄の高信号領域はおよそC6椎体長まで拡大した.Cc:発症C9日目.脊髄円錐部にも高信号域が出現した.Cd:cの脊髄円錐の病変の拡大画像.Ce:ステロイドパルスC1クール後C10日目.脊髄の異常陰影は消退した.a図3眼底写真a:眼科初診時.両眼とも視神経乳頭の境界は不明瞭で,とくに左眼の乳頭腫脹が著しい.Cb:ステロイド加療後(発症後C5カ月).両眼の視神経乳頭腫脹は消退した.ab同日,精査加療目的で脳神経内科に入院となった.翌日(発症C8日目)のCMRIでは,頭部のCFRAIR画像で大脳に多発する白質病変がみられ(図1a),年齢から虚血は考えにくいため脱髄性疾患が疑われた.さらに,頸椎C3椎体にわたり脊髄の腫脹およびCT2強調画像で高信号を呈し(図2a),脊髄炎の病態であった.この頃には左眼だけなく右眼の見えにくさの自覚も出現しており,MRIでも両眼視神経の腫脹,蛇行,およびガドリニウム(gadolinium:Gd)造影像で異常濃染が図4光干渉断層計(OCT)a:眼科初診時(CirrusHD-OCT,CarlZeissMeditec).黄斑部の水平断(上段)では異常所見はみられず,とくに左眼に強い視神経乳頭腫脹がみられた(下段右).両眼の黄斑部網膜内層厚(GCC)の経度菲薄化がみられた(下段左).b:ステロイド加療後(発症後C5カ月)(RS-3000Advance,ニデック).黄斑部の水平断(上段)では異常所見はみられず,視神経乳頭腫脹は消退した(下段右)が,両眼の黄斑部網膜内層厚の菲薄化は初診時と比較し進行した(下段左).みられた(図1b).さらにその翌日(発症C9日目)には排尿困難となり,脊椎CMRIで頸髄病変の拡大とともに脊髄円錐にも新たな病変が確認された(図2b~d).同日当院眼科に紹介となり,視力はCVD=1.2(1.5C×.0.5D),VS=0.3(1.0C×.0.75D)と左眼視力は近医受診時より低下していた.中心フリッカー値(critical.ickerfrequency:CFF)は右眼C36Hz,左眼C20CHzととくに左眼で低値であり,左眼相対的瞳孔求心路障害(relativeCa.erentCpupillarydefect:RAPD)陽ab図5動的視野検査a:眼科初診時.両眼のCMariotte盲点の拡大と左眼に散在する傍中心暗点がみられた.Cb:ステロイド加療後(発症後C7カ月).左眼の傍中心暗点は消失し,両眼のCMariotte盲点の軽度拡大が残存している.性であった.前眼部・中間透光体に異常所見はなく,眼底検査で両眼の視神経乳頭の境界は不明瞭で,とくに左眼に著しい乳頭腫脹がみられた(図3a).黄斑部には顕眼鏡的に異常所見はなく,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では黄斑周囲網膜内層厚の軽度菲薄化がみられた(図4a).動的視野検査では,両眼のCMariotte盲点の拡大と,左眼に散在する傍中心暗点がみられた(図5a).抗CAQP4抗体の結果は未確定の段階であったが,急性視神経脊髄炎の診断で,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000Cmg/日×5日間)を開始した.パルスC1クール終了翌日には,視力CVD=1.0(1.5),VS=0.8(1.5),CFFは右眼C40CHz,左眼35CHzと視機能の回復がみられ,全身症状も改善傾向を示した.ステロイド治療に対する反応は良好であり,後療法としてプレドニゾロン(PSL)40Cmgを開始した.ステロイドパルス療法終了後C3日目に施行した眼窩CMRIでは,右眼で若干の造影効果が残存していたが,左眼優位にみられた視神経の腫脹および異常造影効果は明らかに改善していた(図1d).ステロイドパルス療法終了後C10日目には,初診時に多数みられた大脳白質病巣はいずれも縮小しており(図1c),脊髄の異常陰影は消退した(図2e).発症C17日目に,入院時(発症C7日目)に採取した血液で抗CAQP4抗体が陰性(enzyme-likedCimmune-sorbentassay:ELISA法)と判明した.同保存血清でのCcell-basedassay(CBA)法による抗AQP4抗体の再検と抗CMOG抗体の測定を,東北大学医学部神経内科学教室に依頼した.最終的に治療開始からC1カ月半ほどで抗CMOG抗体陽性の結果を得た.抗CAQP4抗体はCBA法を用いた再検査でも陰性であった.発症後C7カ月が経過しCPSL10Cmg内服中であるが,視力はCVD=1.5(n.c.),CVS=1.5(2.0C×.0.25D),CFFは右眼50Hz,左眼C48Hzと良好であり,乳頭腫脹は改善した(図3b).視野検査では,左眼の傍中心暗点は消失したが,両眼のCMariotte盲点の軽度拡大が残存しており(図5b),OCTでは初診時には軽度であった両眼の黄斑部網膜内層厚の菲薄化の増悪がみられた(図4b下段左).CII考按MOGはミエリン鞘やオリゴデンドロサイトの細胞表面に限局して発現し,細胞外に免疫グロブリン(Ig)様ドメインを有しており,グリア細胞に発現する他の蛋白に比べて自己抗原の標的となりやすい2).そのため実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimentalCautoimmuneencephalomyelitis:EAE)のマウスを作製する際の刺激抗原として利用されている.MOGは,中枢神経系の他の部位より視神経に多く発現していることがマウスで証明されており5),EAEでは脳脊髄のみでなく視神経にも脱髄をきたす4).EAEは多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)の動物モデルとして古くから用いられているため,MOGは長い間,MSの標的抗原の一つと推測されてきた.また,従来のCELISA法やウェスタンブロット法で解析された報告では,抗CMOG抗体はCMSの疾患活動性を測るマーカー候補としても注目されてきたが,その結果は報告により大きく異なっていた6,7).さらに近年,CBA法が開発されると,生体内と同じ高次構造で膜上に発現するCMOGに対する抗CMOG-IgG1抗体が特異的に同定できるようになり,最近ではむしろCMSとの関連性は否定的と考えられている8).一方,将来的にCMSとなりうる患者が初めて臨床症状を示した段階をCclinicallyisolatedsyndrome(CIS)とよぶが,この病態とときに鑑別が困難となる疾患に,急性散在性脳脊髄炎(acuteCdisseminatedencephalomyelopathy:ADEM)がある.ADEMは代表的な中枢神経系の脱髄性疾患であり,おもに小児の脳,脊髄,視神経に同時多発的な脱髄性病変を認める.小児例を中心に,多くの症例で先行する感染症やワクチン接種歴を有し,それらを契機とした自己免疫機序が病態に関与していると考えられている.このCADEMを含む小児の中枢神経炎症性脱髄疾患では,高率に抗CMOG抗体が陽性となることが以前から知られていたが,多くは一過性で病的意義は不明であった9).しかし,小児の抗CMOG抗体陽性例の報告が増えるにつれ,その臨床症状は視神経炎による視力障害を伴うことが多く,視神経炎の再発も多いがステロイド反応性がよい症例が多いことがわかってきた.最近では,抗CMOG抗体陽性視神経炎でも感染後CADEM同様に先行感染がみられる症例10)や,ステロイド依存性で両眼性,有痛性の慢性再発性視神経炎(chronicCrelapsingCin.ammatoryopticCneuropathy:CRION)において抗CMOG抗体陽性となる症例の報告11)もあり,抗CMOG抗体関連疾患の臨床像の特徴が解明されつつある.そして近年,視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitisopticaspectrumdisorders:NMOSD)においても,抗CMOG抗体は,抗CAQP4抗体に続く重要な疾患マーカーとして注目されている.抗CAQP4抗体はC2004年にCLennonらにより視神経脊髄炎にみられる特異的な抗体として報告され12),2006年,Wingerchukらによる視神経脊髄炎の改訂基準13)に盛り込まれた.しかしその後,抗CAQP4抗体が陽性であるものの視神経炎単独もしくは脊髄炎単独の発症が多く存在することが判明し,さらにC2012年にはCKitleyらが成人の視神経脊髄炎で抗CAQP4抗体陰性かつ抗CMOG抗体が陽性となるC4例をまとめて報告した14).このことからC2015年に再びCWing-erchukらにより,前述のような症例を包括するCNMOSDの診断基準が提唱された15).この診断基準では抗CAQP4抗体が陽性であることが重要視されているが,抗CAQP4抗体陰性でも,1回以上の臨床的増悪で,少なくともC2つの主要臨床症候があり,空間的多発するCMRI所見がみられた場合,他疾患が除外されればCNMOSDと診断される.本症例では,視神経炎,脊髄炎症状とそれを説明するCMRI画像上での多発する病巣がみられ,経過中に症状,画像所見の増悪がみられた.他疾患の除外について,本症例は,比較的若年でインフルエンザワクチン接種後C1週間での発症であり,とくにワクチン接種後CADEMとの鑑別を要した.鑑別点として,まず本症例ではCADEMの特徴ともされる脳症症状(意識変容や行動変化)を伴わなかった.また,本症例の脊髄病変はC3椎体以上にわたる長病変であり,NMOSDに特徴的といえる.さらに典型的なCADEM症例と比較して回復経過が早かった.以上の点からからワクチン接種後CADEMを除外し,抗CMOG抗体陽性視神経脊髄炎と診断した.本症例では今後,再発の可能性はもちろん,今回の事象がCCISであり,のちにCMSに進行する可能性も完全に否定はできないため,眼症状のみならず全身症状にも注意を向けつつ,他科と連携をとり長期的な経過観察が必要と考える.インフルエンザワクチンと視神経脊髄炎発症との関連性について考えるにあたり,Karussisらによるワクチン接種後炎症性中枢神経系脱髄疾患に関する論文のレビュー16)が参考になる.このレビューでは,1979.2013年に発表された71症例について分析されている.原因となったワクチンでもっとも報告が多かったのはインフルエンザワクチン(21例:30.0%)であるが,これにはC2009.2012年における新型インフルエンザ(H1N1)のパンデミックによるワクチン接種者数増加が影響している可能性が言及されている.ワクチン接種から発症までの平均期間はC14.2日であり,いずれの症例においてもワクチン接種と発症の因果関係を証明する手段は明確にされていないが,時間的な関係性からワクチン接種が原因とされている.興味深いことに,全C71例では半数以上に,インフルエンザワクチンが関与しているC21例ではC8例に視神経炎がみられた.視神経炎の原因を考える際に,ワクチン接種の既往は重要な要因であることを知っておく必要がある.また,2014年に世界で初めてわが国から,インフルエンザ感染後に発症した抗CMOG抗体陽性脊髄炎の症例が報告された10).症例はC32歳男性,インフルエンザCA型に罹患し,オセルタミビル内服加療で症状は回復したが,インフルエンザ感染C9日日目に全身の痛み,尿閉,下肢の筋力低下で抗MOG抗体陽性脊髄炎を発症した.視神経炎は伴わず,ステロイド加療で経過良好であった.この症例は,インフルエンザウイルスに対する免疫反応と抗CMOG抗体との関連の可能性を示唆しており,大変興味深い.2019年C10月に,2015年から日本神経眼科学会を中心に行われた視神経炎の疫学調査結果が発表された17).日本全国のC33施設で非感染性視神経炎と診断された症例から,虚血性,圧迫性,遺伝性,中毒性視神経炎を除外したC531例を対象に,その特性について調査した.その結果,531例中,血清検査での抗CAQP4抗体陽性例がC66例(12%),抗CMOG抗体陽性例がC54例(10%)と同程度であり,両抗体陰性例がC410例(77%),両抗体陽性例がC1例であった.発症平均年齢は抗CAQP4抗体陽性群でC52.5(13.84)歳,抗CMOG抗体陽性群の平均年齢はC47.0(3.82)歳,両抗体陰性群で47.5(4.87)歳と明らかな差はみられなかった.しかし,抗AQP4抗体陽性群は年齢の増加とともに増加し,抗CMOG抗体陽性群はC40歳代とC60歳代に,両抗体陰性群はC50歳代にピークがみられ,各群の年齢分布には差がみられた.また,抗CAQP4抗体陽性群ではC84%が女性であったのに対し,抗MOG抗体陽性群ではC51%であった.治療前視力は抗CAQP4抗体陽性例で優位に低く,指数弁の割合も優位に高かったが,治療前視力から抗CAQP4抗体の予測ができるほどの特異性はなかった.抗CMOG抗体陽性群では眼痛,視神経乳頭腫脹をきたす症例の割合が他群に比べ優位に高く(76%),これはCMRI所見で,抗CMOG抗体陽性視神経炎の炎症が視神経全長にわたる,もしくは視神経前方に病変が限局する症例が多いことからも説明される.一方,抗CAQP4抗体陽性視神経炎では球後型が多く,眼痛も少なく,MRI所見でも視神経後方に病変が限局する傾向にあり,視神経乳頭腫脹は視神経炎の鑑別において重要な所見であることがわかった.治療反応性は他群に比べ抗CMOG抗体陽性群でよい結果であった.ステロイド治療による視力改善が良好であっても,なかには視野障害が残存する症例があること,抗CMOG抗体と抗CAQP4抗体の双方が陽性となる症例では,ステロイド抵抗性で再発を繰り返す傾向にあり,視力予後が非常に悪い症例があることなども報告されるため18)注意が必要である.抗CAQP4抗体は一度陽性になると数年にわたり陽性であることが多いが,抗CMOG抗体は発症早期や寛解期に測定しても検出されにくく,陽性となる期間が短く限られている19).本症例では,ステロイド治療開始前の発症C7日目に採取した血液で抗CAQP4抗体陰性(ELIZA法)であり,その結果を受け,同保存血清で抗CMOG抗体検査を依頼したところ,CBA法で陽性であった.ほかにも初発時には陰性でも再発時に陽性となった視神経炎症例の報告20)もあり,抗CMOG抗体の検出には検査のタイミングも重要となる.わが国における全国調査が終了し,抗CMOG抗体陽性例の臨床的特徴が少しずつ解明されつつある.治療方針を決定するうえでも,抗体の存在を確認しておくことは有用であると考える.今後,さらなる症例の蓄積および長期経過観察による抗CMOG抗体の臨床的意義,治療予後を含む疾患概念の確立,ガイドラインの作成が待たれる.謝辞:本症例における抗CMOG抗体を測定していただきました東北大学大学院医学系研究科多発性硬化症治療学講座高橋利幸先生に深謝いたします.文献1)LennonVA,WingerchukDM,KryzerTJetal:Aserumautoantibodymarkerofneuromyelitisoptica:distionctionfrommultiplesclerosis.LancetC364:2106-2112,C20042)KezukaCT,CUsuiCY,CYamakawaCNCetal:RelationshipCbe-tweenCNMO-antibodyCandCanti-MOGCantibodyCinCopticCneuritis.JNeuro-OphthalmolC32:107-110,C20123)SatoDK,CallegaroD,Lana-PeixotoMAetal:DistinctionbetweenMOGantibody-positiveandAQP4antibody-pos-itiveCNMOCspectrumCdisorders.CNeurologyC82:474-481,C20144)ShaoCH,CHuangCZ,CSunCSLCetal:Myelin/oligodendrocyteCglycoprotein-speci.cCT-cellsCinduceCsevereCopticCneuritisCinCtheCC57BL/6mouse.CInvestCOphthalmolCVisCSciC45:C4060-4065,C20045)BettelliCE,CPaganyCM,CWeinerCHLCetal:MyelinColigoden-drocyteCglycoprotein-speci.cCTCcellCreceptorCtransgenicCmiceCdevelopCspontaneousCautoimmuneCopticCneuritis.CJExpMedC197:1073-1081,C20036)BergerCT,CRubnerCP,CSchautzerCFCetal:AntimyelinCanti-bodiesCasCaCpredictorCofCclinicallyCde.niteCmultipleCsclero-sisCafterCaC.rstCdemyelinatingCevent.CNCEngCJCMedC349:C139-145,C20037)KuhleCJ,CPohlCC,CMehlingCMCetal:LackCofCassocitionCbe-tweenCantimyelinCantibodiesCandCprogressionCtoCmultipleCsclerosis.NEnglJMedC356:371-378,C20078)WatersCP,CWoodhallCM,CO’ConnorCKCCetal:MOGCcell-basedCassayCdetectsCnon-MSCpatientsCwithCin.ammatoryCneurologicCdisease.CNeurolCNeuroimmunolCNeuroin.ammC2:e89,C20159)OC’ConnorCKC,CMcLaughlinCKA,CDeCJagerCPLCetal:Self-antigenCtetramersCdiscriminateCbetweenCmyelinCautoanti-bodiesCtoCnativeCorCdenaturedCprotein.CNatCMedC13:211-217,C200710)AmanoCH,CMiyamotoCN,CShimuraCHCetal:In.uenza-associatedMOGantibody-positivelongitudinallyextensivetransversemyelitis:aCcaseCreport.CBMCCNeurologyC14:C224-227,C201411)西川優子,奥英弘,戸城匡宏ほか:抗CMOG抗体が強陽性であったCChronicCrelapsingCin.ammatoryCopticneuropa-thy(CRION)のC1例.神経眼科C33:27-33,C201612)LennonVA,WingerchukDM,KryzerTJetal:AserumautoantibodyCmarkerCofCneuromyelitisoptica:distinctionCfrommultiplesclerosis.LancetC364:2106-2112,C200413)WingerchukCDM,CLennonCVA,CPittockCSJCetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCneuromyelitisCoptica.CNeurologyC66:1485-1489,C200614)KitleyCJ,CWoodhallCM,CWatersCPCetal:Myelin-oligoden-drocyteglycoproteinantibodiesinadultswithaneuromy-elitisopticaphenotype.NeurologyC79:1273-1277,C201215)WingerchukDM,BanwellB,BennetJLetal:Internation-alCconsensusCdiagnosticCcriteriaCforCneuromyelitisCopticaCspectrumdisorders.NeurologyC85:177-189,C201516)KarussisCD,CPetrouP:TheCspectrumCofCpost-vaccinationCin.ammatoryCNSdemyelinatingsyndromes.AutoimmunRevC13:215-224,C201417)IshikawaH,KezukaT,ShikishimaKetal:Epidemiologi-calCandCclinicalCcharacteristicsCofCopticCneuritisCinCJapan.COphthalmologyC126:1385-1398,C201918)NakajimaH,MotomuraM,TanakaKetal:AntibodiestomyelinColigodendrocyteCglycoproteinCinCidiopathicCopticCneuritis.CBMJCOpenC5:e007766,doi:10.1136/bmjopen-2015-007766,C201519)MiyauchiCA,CMondenCY,CWatanabeCMCetal:PersistentCpresenceCofCtheCanti-myelinColigodendrocyteCglycoproteinCautoantibodyinapediatriccaseofacutedisseminateden-cephalomyelitisfollowedbyopticneuritis.NeuropediatricsC45:196-199,C201420)毛塚剛:抗CMOG抗体─眼科の立場から.眼科59:7-12,C2017C***

原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対する オミデネパグイソプロピル単剤投与短期成績

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):202.205,2021c原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するオミデネパグイソプロピル単剤投与短期成績宮平大輝*1酒井寛*2大橋和広*3力石洋平*4新垣淑邦*4酒井美也子*2古泉英貴*4*1沖縄県立北部病院眼科*2浦添さかい眼科*3中頭病院*4琉球大学大学院医学研究科医学専攻眼科学講座CShort-TermResultsofOmidenepagIsopropylMonotherapyinPrimaryOpen-AngleGlaucomaandOcularHypertensionHirokiMiyahira1),HiroshiSakai2),KazuhiroOhashi3),YoheiChikaraishi4),YoshikuniArakaki4),MiyakoSakai2)CHidekiKoizumi4)Cand1)DepartmentofOphthalmology,OkinawaPrefecturalHokubuHospital,2)UrasoeSakaiEyeClinic,3)4)DepartmentofOphthalmology,RyukyuUniversitySchoolofMedicineCNakagamiHospital,目的:2018年C12月より臨床応用が始まった選択的CEP2受容体作動薬オミデネパグイソプロピル(OMDI)点眼の短期治療成績を検討する.方法:原発開放隅角緑内障(primaryCopenangleCglaucoma:POAG),または高眼圧症(ocularhypertension:OH)に対し,OMDIを投与したC32眼(男性C10眼,女性C22眼,平均年齢C59.6±10.1歳)の眼圧経過,および副作用を複数施設,連続観察症例で後ろ向きに検討した.結果:32眼の病型はCPOAGがC23眼,OHが9眼であった.本薬剤をC1剤目として投与した新規群がC20眼,他剤からの切替群がC12眼であった.切替前使用薬の内訳はプロスタグランジン(PG)関連薬C2眼,b遮断薬C6眼,炭酸脱水酵素阻害薬C2眼,交感神経作動薬C2眼であった.投与開始前,開始C1,3カ月後の平均眼圧は全例でC17.9±3.8,C15.3±3.2,C15.0±3.6CmmHg,新規群でC18.8±3.8,C15.5±3.2,C15.0±3.2mmHg,切替群でC16.4±3.4,C15.0±3.2,C15.2±4.2CmmHgであり,全例および新規群で有意に低下した(p<0.05).PG関連薬以外からの切り替えC10眼の各時点の眼圧はC16.1±3.7,C14.3±3.1,C14.0±3.9CmmHgであり,有意な低下を認めた(p<0.05).合併症はC6例C11眼で認め,内訳は充血C5例C9眼,眼刺激C3例C6眼,霧視C1例C2眼,羞明C1例C1眼(重複あり),その内C2例C3眼は本薬剤を中止した.黄斑浮腫を生じた例はなかった.結論:OMDIの新規単独投与およびCPG関連薬以外からの切り替えで眼圧は有意に下降した.CPurpose:ToCreportCtheCshort-termCresultsCofomidenepagCisopropyl(OMDI),CaCselectiveCEP2-receptorCago-nist,Canti-glaucomaCeye-dropCmonotherapy.CMethods:InCthisCretrospectiveCstudy,Cintraocularpressure(IOP)andCadverseeventswererecordedin32glaucomatouseyes[23primaryopen-angleglaucoma(POAG)eyesand9ocu-larhypertension(OH)eyes].COfCtheC32Ceyes,C20CwereCnewlyCadministeredCOMDICandC12CswitchedCtoCOMDICfromCotherCprostaglandinanalogues(PGs,C2eyes),beta-blockers(6eyes),CcarbonicCanhydraseinhibitor(2eyes),CorCa2-adrenergicCagonist(2eyes).CResults:TheCadverseCeventsCofCconjunctivalChyperemia,Cirritation,CblurredCvision,Candphotopsiawereobservedin9,6,2,and1eye,respectively.At3months,2patients(3eyes)whodiscontinuedOMDIduetosidee.ectsand1otherpatient(2eyes)wereexcluded.Noneoftheeyesdevelopedmacularedema.MeanIOPatpreadministrationandat1-and3-monthspostadministrationwas17.9±3.8,C15.3±3.2,CandC15.0±3.6CmmHg,Crespectively,CinCallC32Ceyes,C18.8±3.8,C15.5±3.2,CandC15.0±3.2CmmHg,Crespectively,CinCtheC20CnewlyCtreatedeyes,and16.4±3.4,C15.0±3.2,CandC15.2±4.2CmmHg,respectively,inthe12eyesswitchedfromotherdrugs.Inthetotal32eyesandnewlytreatedeyes,IOPat1-and3-monthspostadministrationwassigni.cantlylowerthanatpreadministration(p<0.05).In10eyesswitchedfromotherdrugsexceptPGs,meanIOPatpreandat1-andC3-monthsCpostCadministrationCwasC16.1±3.7,C14.3±3.1,CandC14.0±3.9CmmHg,Crespectively,CandCtheCreductionCfromatpretoat1-and3-monthspostadministrationwassigni.cant(p<0.05).Conclusion:OMDImonotherapy〔別刷請求先〕宮平大輝:〒905-0017沖縄県名護市大中C2-12-3沖縄県立北部病院眼科Reprintrequests:HirokiMiyahira,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkinawaPrefecturalHokubuHospital,2-12-3Onaka,Nago-city,Okinawa905-0017,JAPANCwasfoundtobesafeande.ectivefortreatingphakicpatientswithPOAGandOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(2):202.205,C2021〕Keywords:選択的CEP2作動薬,オミデネパグイソプロピル,短期成績,緑内障,眼圧.selectiveEP2agonist,omidenepagisopropyl,short-termresults,glaucoma,intraocularpressure.C表1患者背景年齢C58.9±10.0歳性別男性7例10眼女性11例20眼病型POAG:21眼OH:9眼なし(新規投与):18眼治療状況あり(他剤からの切替):12眼はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)FP受容体関連薬およびCb遮断薬点眼は,緑内障薬物治療の第一選択とされている1).日本において,2018年C12月より臨床応用が始まったオミデネパグイソプロピル(OMDI)はCPG骨格をもたない選択的プロスタグランジンCEP2受容体作動薬である.FP受容体関連薬は房水流出の副経路であるぶどう膜強膜流出を促進させて眼圧を下降させる2)が,OMDIは主経路である線維柱帯流出とぶどう膜強膜流出の両経路を介した流出促進により,眼圧を下降させる3,4).本研究では,原発開放隅角緑内障(primaryCopen-angleglaucoma:POAG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)患者に対するCOMDI点眼の単剤投与における眼圧下降効果を副作用について検討した.CI対象および方法対象はC2018年C12月.2019年C4月に琉球大学医学部附属病院,中頭病院または浦添さかい眼科を受診したCPOAGおよびCOH患者のうち,OMDIを単剤投与した連続症例C19例(平均年齢C59.6C±10.1歳)32眼で,全例有水晶体眼であった.対象患者の背景を表1,2に示す.他剤から切り替えた群(切替群)の切り替え前の使用薬も全例単剤であった.OMDI投与による副作用,および開始前(0M)と開始後C1,3カ月(1CM,3CM)後の眼圧を診療録により後ろ向きに検討した.各数値は平均値C±標準偏差(standarddeviation:SD)で表記し,統計学的検討にはC0CMと各時点との間で対応のあるCt検定を行い,Bonferroni法で補正しp<0.05を有意水準とした.また,開始1,3Mの時点で光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)検査を行ったC23眼については,市販直後調査で報告されている黄斑浮腫5)の有無についても検討した.表2切替前の使用薬内訳PG関連薬2眼b遮断薬6眼炭酸脱水酵素阻害薬2眼交感神経作動薬2眼II結果全C32眼において投与後C3カ月以上の来院,診察が行われた.副作用はC6例C11眼(34%)に確認され,結膜充血C5例C9眼,眼刺激3例6眼,霧視1例2眼,羞明1例1眼(重複あり)であった.いずれも重篤なものではなく,また全身の副作用もなかった.眼底検査が診察ごとに全例に,OCT検査がC23眼(1CMにC21眼,3CMにC9眼,重複あり)で施行されていたが黄斑浮腫の発症はなかった.中止例はC2例C3眼で,充血と羞明によるものがC1例C1眼,充血と眼刺激によるものがC1例C2眼であった(表3).中止例のC3眼および,点眼切れによる不使用C2眼の計C5眼はC3CMの眼圧解析から除外した.OMDI投与後の眼圧を全症例および新規に投与した群(新規群),切替群に分けて検討した結果,全症例および新規群ではC1,3CMに有意な下降を得られた.切替群ではC1CMのみ有意に下降していたが,3CMは有意差がなかった(図1~3).切替群について,各症例ごとの眼圧経過を図4に示す.PG関連薬以外のCb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経作動薬からの切替例C10眼では,1,3CMともに有意に眼圧は下降していた(図5).CIII考按副作用の頻度については,国内で実施された第CII/III相試験,第CIII相長期投与試験および第CIII相CPG関連薬効果不十分例に対する試験の併合解析の結果で,発現率C40.1%,おもな副作用は結膜充血(22.8%)であり5),本研究でもほぼ同様の結果であった.結膜充血はC3CMではC2例(7.7%)であり,統計的に有意(Cc2検定Cp=0.042)に減少しており,中止例を除いた実数でもC6眼からC2眼へ減少していた.眼刺激も3CMでは認めなかった.OMDI点眼の単剤投与では,新規またはCPG関連薬からの切替以外で有意な眼圧下降が得られC1,3CMの眼圧下降率は全体でC14.5%とC16.2%,新規群ではC17.5%とC20.2%であっ表3合併症221CM(n=30)3CM(n=27)全体(n=30)20発現症例数9(30.0%)4(14.8%)11(36.7%)18眼圧(mmHg)黄斑浮腫C0/18C0/9C0/22C結膜充血9(30.0%)2(7.4%)9(30.0%)眼刺激6(20.0%)C06(20.0%)1614霧視C02(7.4%)2(6.7%)C12羞明1(3.3%)C01(3.3%)C10中止例3(10.0%)C03(10.0%)図1全例における眼圧の変化0,1Mはn=30,3MはCn=27.平均値C±標準偏差.点眼開始後C1,3カ月後に有意な下降を認めた(*:p<0.001,対応のあるCt検定,対開始前,Bonferroni法で補正).C2420220M1M3M眼圧(mmHg)20181614眼圧(mmHg)1816141210図2新規群における眼圧の変化0,1Mはn=18,3MはCn=17.平均値C±標準偏差.点眼開始後C1,3カ月後に有意な下降を認めた(**:p<0.01,対応のあるCt検定,対開始前,Bonferroni法で補正).C23211210図3切替群における眼圧の変化0,1Mはn=12,3MはCn=10.平均値C±標準偏差.点眼開始後C1カ月後のみに有意な下降を認めた(***:p<0.05,対応のあるCt検定,対開始前,Bonferroni法で補正).C200M1M3M0M1M3M眼圧(mmHg)19171513119図4切替群における各症例の眼圧変化切替前薬剤は以下のとおり.□:PG関連薬,◆:b遮断薬,▲:炭酸脱水酵素阻害薬,●:交感神経作動薬.PG関連薬からの切替である1例C2眼で上昇傾向であった.眼圧(mmHg)1816141210図5PG関連薬以外からの切替症例における眼圧の変化0,1Mはn=10,3MはCn=8.平均値C±標準偏差.点眼開始後C1,3カ月後に有意な下降を認めた(C†:p<0.01,対応のあるCt検定,対開始前,Bonferroni法で補正).0M1M3M0M1M3Mた.第CII/III相臨床試験における投与後C4週の眼圧下降率はプラゼボ対照試験でC21.7%,ラタノプロスト対照試験で25.1%と今回の検討よりも眼圧下降率が大きいが,ベースライン眼圧がC23.8CmmHgおよびC23.8CmmHgと今回の症例C18.8mmHgよりも高いことがその理由と考えられる.また,今回の検討では,PG関連薬を除く切替群においても,OMDI投与後C1,3CMにおいてC11.1%とC13.0%の眼圧下降効果が示され,点眼開始C1CMと比べ,3CMにおいてさらに眼圧下降している傾向であった.OMDIの眼圧下降は主流出路とぶどう膜強膜流出路の両方を介することは示されているが,詳細な眼圧下降機序は不明であり,他剤からの切り替えにおいて眼圧下降が経時的に増強する可能性があるのか興味深い.多数例の前向きな検討が必要である.今回の検討の切り替え群のうち,PG関連薬からの切り替えにおいて眼圧上昇がみられたが,1例C2眼のみであった.第CII/III相C0.005%ラタノプロスト点眼液対照評価者盲検並行群間比較試験(AYAMEStudy)ではCOMDI点眼の眼圧下降効果はラタノプロスト点眼液に対して非劣性であることがすでに示されており5),症例数を増やして検討が必要である.PG関連薬に関しては,第CIII相臨床試験(PG関連薬効果不十分例に対する試験)(FUJIStudy)において,PG関連薬で効果不十分なCPOAGおよびCOH患者に対してのCOMDIの眼圧下降効果も示されている5).OMDIを含めたCPG関連薬のノンレスポンダーと他のCPG関連薬からの切り替えについての検討が望まれる.2018年よりわが国において臨床応用が始まった選択的EP2受容体作動薬COMDI単剤の有水晶体眼のCPOAGおよびOHに対する短期成績を報告した.新規投与において投与後3カ月でC20%程度の眼圧下降を認め,PG関連薬を除く他剤からの切り替えでも眼圧下降を示した.黄斑浮腫など重篤な合併症はなかった.眼局所の副作用では結膜充血が最多であったがC3カ月では減少した.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5.53,C20182)IsobeCT,CMizunoCK,CKanekoCYCetal:E.ectsCofCK-115,CaCrho-kinaseCinhibitor.ConCaqueousChumorCdynamicsCinCrab-bits.CurrEyeRes39:813-822,C20143)FuwaM,TorisCB,FanSetal:E.ectsofanovelselec-tiveEP2receptoragonist,omidenepagisopropyl,onaque-oushumordynamicsinlaser-inducedocularhypertensivemonkeys.JOculPharmacolTher34:531-537,C20184)KiriharaCT,CTaniguchiCT,CYamamuraCKCetal:Pharmaco-logicCcharacterizationCofComidenepagCisopropyl,CaCnovelCselectiveCEP2CreceptorCagonist,CasCanCocularChypotensiveCagent.CInvestOphthalmolVisSci59:145-153,C20185)エイベリス点眼液C0.02%の有効性と安全性市販直後調査***

前眼部光干渉断層計を用いた角膜厚の部位別比較と年齢変化

2021年2月28日 日曜日

In vitro におけるコンタクトレンズに付着した蛋白質に
対するソフトコンタクトレンズ用消毒剤のレンズケア効果《原著》あたらしい眼科C38(2):197.201,2021c前眼部光干渉断層計を用いた角膜厚の部位別比較と年齢変化齋藤杏奈伊藤美沙絵池田哲也五十嵐章史清水公也山王病院アイセンターCComparisonofCornealThicknessPro.leandAge-RelatedChangesUsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyAnnaSaito,MisaeIto,TetsuyaIkeda,AkihitoIgarashiandKimiyaShimizuCEyeCenter,SannoHospitalC目的:健常眼における角膜厚と年齢の関係,および周辺の部位別角膜厚について検討する.対象および方法:軽度白内障と屈折異常以外に眼科的疾患のないC140例C140眼(年齢C22.89歳,男性C70例,女性C70例)の角膜厚を前眼部光干渉断層計(CASIA2,トーメーコーポレーション)で測定した.解析領域は中心と周辺(3Cmm,5Cmm,7Cmm径)の8象限(上側C90°,鼻上側C45°,鼻側C0°,鼻下側C315°,下側C270°,耳下側C225°,耳側C180°,耳上側C135°)である.結果:平均中心角膜厚はC532.1C±32.7Cμm(460.612Cμm)で,中心角膜厚と年齢に相関は認められなかった(r=0.0560,Cp=0.4452).周辺角膜厚も年齢変化は認められなかった.周辺角膜厚は上側がもっとも厚く,ついで鼻側,下側,耳側の順で,もっとも薄い部位は耳下側であった.結論:中心および周辺角膜厚と年齢に相関は認められず,周辺角膜厚のもっとも厚い部位は上側,ついで鼻側,下側,耳側の順で,もっとも薄い部位は耳下側であった.CPurpose:ToCinvestigateCtheCrelationshipCbetweenCcornealCthicknessCandCageCinChealthyCeyesCbyCmeasuringCandCcomparingCtheCcornealCthicknessCinCtheCcenterCandCmultipleCperipheralCregions.CSubjectsandmethods:ThisCstudyCinvolvedC140eyesCofC140healthyCsubjects(70malesCandC70females,CageCrange,C22-89years)withCnoCoph-thalmicdiseaseotherthanmildcataractandrefractiveerror.Inalleyes,cornealthicknessatthecenterandattheperiphery(3.0mm,5.0mm,and7.0mmfromthecenter)at8quadrantpoints(superiorlyat90°,nasallyat0°,infe-riorlyat270°,andtemporallyat180°,45°,135°,225°,and315°)wasmeasuredbyanteriorsegment-opticalcoher-encetomography(CASIACR2;TOMEY).Results:ThemeanCCTwas532.1±32.7Cμm(range:460-612Cμm)C,andnocorrelationwasfoundbetweenCCTandage(r=0.0560,Cp=0.4452)C.Inallsubjects,thecorneawasthickestonatthesuperiorarea,followedbythenasal,inferior,andtemporalareas,andnocorrelationwasfoundbetweenageandcornealthicknessatallperipheralmeasurementpoints.Conclusion:Nocorrelationwasfoundbetweencornealthicknessandsubjectage,andtheperipheralcornealthicknesswasgreatestonthesuperiorside,followedbythenasal,inferior,andtemporalsides.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(2):197.201,2021〕Keywords:健常眼,角膜厚,年齢.healthyeye,cornealthickness,age.はじめに角膜厚について関心が高まったのは,laserCinCsituCker-atomileusis(LASIK)に代表される角膜を意図的に削る屈折矯正手術が行われるようになった頃で,非接触型スペキュラマイクロスコピー角膜厚検査装置のほか,前面から後面までスキャンすることで角膜厚の分布を計測するスリット型やその改良型であるCScheimp.ug型角膜形状解析装置,前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)などが登場した.これらの装置を用いて計測した角膜厚の正常値1.5),角膜厚と関連する因子1.9),機種における角膜厚の違い1,2,6,7),について多くの報告がされてきた.各装置の測定原理にも影響されるが,日本人の中心角膜厚の正常値はC520Cμm前後と報告されており,年齢,性別,屈折などとの関連も検討されている4,5).近年,鉛直(垂直)角〔別刷請求先〕齋藤杏奈:〒107-0052東京都港区赤坂C8-10-16山王病院アイセンターReprintrequests:AnnaSaito,CO,EyeCenter,SannoHospital,8-10-16Akasaka,Minato-ku,Tokyo107-0052,JAPANC0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(81)C197膜厚は水平角膜厚よりも有意に厚く,その差は加齢とともに増大し,この角膜厚の不均一性が角膜後面乱視の倒乱視化を生み出している可能性が報告された5).これは,角膜厚が一定であるという前提で使われている従来の角膜換算屈折力(K値:keratometricpower)では角膜全体の乱視を正確に概算することはできず,その誤差が高齢者で大きくなることを示唆している.今回,臨床現場で広く使用されている前眼部COCTを用いて健常眼における角膜厚と年齢の関係,および周辺の部位別角膜厚について検討したので報告する.CI対象および方法対象は屈折異常と軽度白内障以外に眼科的疾患のない矯正視力0.8以上の140例140眼(年齢22.89歳,男性70例,女性C70例)である.さらに次のC5項目,1.糖尿病ではない10),2.眼圧20mmHg未満,3.角膜乱視3D未満,4.眼軸長C23.00.26.00Cmm,5.ソフトコンタクトレンズの使用者は脱後C1日以上経過11)を満たす場合とし,測定時間は午後C1時からC3時の間,解析は右眼とした.眼圧の測定には非接触式眼圧測定装置(TONOREFIII,ニデック),眼軸長は光学式眼軸長測定装置(IOLMasterC700,CarlZeissMeditec)を使用した.角膜厚と角膜屈折力,角膜乱視量の計測には前眼部COCT(CASIA2,トーメーコーポレーション)を使用して角膜形状解析モードである「Cornealmap」モードで撮影し,品質状態がCQS-‘OK’の値のみ採用した.角膜屈折力と角膜乱視量は全角膜屈折力の「Real」値を使用し,角膜厚の解析領域は中心と周辺(3mm,5mm,7mm径)の8象限(上側90°,鼻上側45°,鼻側C0°,鼻下側315°,下側270°,耳下側225°,耳側C180°,耳上側C135°),解析はC3回の平均値を用いた.統計学的解析には,男女の比較はCMann-WhitneyU検定とCc2検定,角膜厚と年齢の関係はCSpearmanの順位相関係数,周辺角膜厚の部位別比較はCFriedman検定とCBonferroni多重比較法を使用し,有意水準は5%未満とした.今回の研究は,山王病院研究倫理審査委員会の承認のうえ,ヘルシンキ宣言の条文を厳守し施行したものである.CII結果対象の詳細を表1に示す.年齢,眼圧,中心角膜厚,角膜乱視量,角膜屈折力,眼軸長,角膜直乱視の割合に男女差は表1対象の詳細合計男女比較男性女性p値眼数C年齢(歳)C眼圧(mmHg)C中心角膜厚(Cμm)C角膜乱視量(D)C角膜屈折力(D)C眼軸長(mm)C角膜直乱視の割合140C55.0±19.9(C22.C89)C13.9±2.8(C8.5.C19.5)C532.1±32.7(C460.C612)C1.22±0.52(C0.2.C2.6)C43.08±1.28(C38.15.C46.90)C24.64±0.89(C23.02.C25.99)C65.7%70C54.9±20.1C14.1±2.7C536.9±33.4C1.19±0.51C43.07±1.34C24.77±0.75C62.9%7055.2±19.9C13.8±2.6C527.6±31.5C1.24±0.53C43.56±1.45C24.53±1.00C68.6%C0.8990.5250.1410.7420.0580.1630.476平均±SD(最小.最大)C6506005505004502030405060708090年齢(歳)図1中心角膜厚と年齢の関係中心角膜厚と年齢に相関は認められなかった(y=0.0804x+527.69;r=0.0560,p=0.4452).中心角膜厚(mm)表2解析径と部位別における角膜厚と年齢の相関解析径C3mmC5Cmm平均角膜厚±SD(Cμm)相関係数(r)p値平均角膜厚±SD(Cμm)相関係数(r)p値上側(9C0°)C鼻上側(4C5°)C鼻側(0°)C鼻下側(3C15°)C下側(2C70°)C耳下側(2C25°)C耳側(1C80°)C耳上側(1C35°)C559.7±36.1C0.1088C560.8±35.7C0.1069C544.1±34.1C0.0667C543.9±33.4C0.0720C538.3±33.3C0.0919C531.2±33.0C0.0237C534.4±33.3C0.0249C548.6±35.0C0.0777C0.2009C0.2085C0.4335C0.3929C0.2802C0.7808C0.7699C0.3616C600.5±39.6C0.0930C594.1±60.2C0.0619C575.7±57.0C0.0403C570.6±35.8C0.0582C563.1±35.9C0.0882C545.6±54.3C0.0117C552.8±34.8C.0.0072C578.8±37.7C0.0524C0.27430.46760.63600.49490.29980.89090.93240.5387解析径C7mm平均角膜厚±SD(Cμm)相関係数(r)p値上側(9C0°)C鼻上側(4C5°)C鼻側(0°)C鼻下側(3C15°)C下側(2C70°)C耳下側(2C25°)C耳側(1C80°)C耳上側(1C35°)C650.7±42.2C.0.0324C643.6±39.5C.0.0347C622.0±38.7C.0.0243C610.7±38.4C.0.0067C603.0±38.4C0.0060C582.7±36.4C.0.0278C583.4±37.2C.0.0366C620.4±42.9C0.0012C0.70410.68420.77560.93740.94440.74480.66770.9890Cab***c*******************900***900***900************3mm径の角膜厚(mm)750600550650450750600550*******400400400上鼻鼻鼻下耳耳耳上鼻鼻鼻下耳耳耳上鼻鼻鼻下耳耳耳上下下上上下下上上下下上90°45°0°315°270°225°180°135°90°45°0°315°270°225°180°135°90°45°0°315°270°225°180°135°図2周辺角膜厚における部位別比較ボックスプロットは5%,25%,50%,75%,およびC95%の間隔を示し,●マークははずれ値を示す(*p<0.05,***p<0.001).a:3mm径,b:5Cmm径,Cc:7Cmm径.C認められなかった.全対象の平均中心角膜厚[C±標準偏差](C3mm径:C531.2C±33.0μm,C5mm径:C545.6C±54.3μm,C7はC532.1C±32.7μm(C460.C612Cμm)で,中心角膜厚と年齢にmm径:C582.7C±36.4μm)であった(図2).相関は認められず(Cr=0.0560,Cp=0.4452;図1),周辺角膜中心角膜厚に比べて周辺角膜厚の肥厚の割合は,上側C90°厚の全解析部位においても年齢と相関は認められなかったがもっとも高く(C3mm径:5C.2%,5Cmm径:1C2.9%,7Cmm(表2).径:C22.3%),ついで鼻側,下側,耳側の順で,もっとも低周辺角膜において,最厚部は上側C90°(C3mm径:C559.7C±かった部位は耳下側C225°(3Cmm径:C.0.2%,5Cmm径:2C.736.1Cμm,C5mm径:C600.5C±39.6μm,C7Cmm径:C650.7C±42.2%,7Cmm径:9C.5%)であった(図3).μm),ついで鼻側,下側,耳側の順で,最薄部は耳下側C225°中心角膜厚に対する周辺角膜厚の肥厚の割合(%)2520151050-5上鼻鼻鼻下耳耳耳上下下上90°45°0°315°270°225°180°135°図3中心角膜厚に対する周辺角膜厚の肥厚の割合III考按測定原理によって角膜厚の値には違いが生じるため1,2,6,7),異なる装置で計測された値をそのまま比べることはできない.Scheimp.ug型で測定した中心角膜厚は前眼部COCTに比べて約C9Cμm厚く計測される6)ことや,スリットスキャン型は通常測定と比べC20Cμmから30Cμm角膜厚が厚く測定されるためCacousticfactorとして補正値(C×0.92)の使用が推奨されている2,7).今回の検討で使用した前眼部COCTで計測された日本人の中心角膜厚はC530.7C±31.5Cμmとの報告があり5),本対象群の平均中心角膜厚(532.1C±32.7Cμm)とほぼ同じであった.さらに前眼部COCTで計測された中心角膜厚は,男性が女性よりも厚く,男女ともに角膜曲率半径が大きいほど厚い傾向を認めたとの報告もある4).今回の対象群では,年齢,眼圧,中心角膜厚,角膜乱視量,角膜屈折力,眼軸長に男女差を認めなかったため,男女混合の対象群で検討しても差し支えないと考えた.角膜厚の年齢変化について,中心角膜厚は加齢とともに薄くなるとの報告が多いが5,8,9),年齢と相関がないとの報告もある12.14).一方,傍中心角膜厚は加齢変化がないとの報告が多いが12.14),上側を除くC3象限(下側,鼻側,耳側)は年齢とともに薄くなったとの報告もある5).角膜厚が年齢とともに菲薄化する原因として,角膜微細構造の年齢変化(角膜基底下神経線維・実質細胞・内皮細胞の密度が加齢ともに減少し,Bowman膜が加齢とともに薄くなる)15,16)の影響を指摘している一方,上方角膜厚が年齢とともに変化しない理由としては,上眼瞼によって保護されている可能性を推察している報告5)もある.筆者らの検討では,中心および周辺角膜厚ともに年齢と相関は認められなかった.これは今回の対象群の年齢幅とほぼ同じCKhoramniaら14)の報告(18.77歳,Cn=76)と同じ傾向であった.角膜厚は幼少期に変化が大きいとの報告1,17)もあることから,角膜厚と年齢の相関の有無については,対象群の年齢幅に影響される可能性も否定できないと考えられた.周辺角膜のもっとも厚い部位は上側,ついで鼻側,下側,耳側の順で,これは過去の報告5,14)と同じ傾向であった.また,もっとも薄い部位は耳下側であり,角膜厚の最薄部が耳下側に多かったとの報告14)と一致する結果であった.上方角膜が厚いのは,上方角膜が上眼瞼で保護さている時間が長いため,他の部位よりも乾燥しにくく,角膜微細構造の変化も少ないためと考えた.一方,下側から耳下側の角膜が薄いのは,瞬目や睡眠時などの不完全な閉瞼による露出時間が長いことによる角膜微細構造の変化が生じた可能性も考えられるが,全対象の閉瞼運動や角膜微細構造については検討しておらず,さらなる検討が必要と考えている.今回,角膜厚は年齢変化を認めなかったものの部位によって厚みが異なるため,角膜厚が一定であるという前提で使われている従来の角膜換算屈折力(K値)では角膜全体の乱視を正確に概算することはできないという考えを支持する結果であった.CIV結論前眼部COCTを用いて計測した本対象群の中心角膜厚はC532.1±32.7Cμmであり,中心および周辺角膜厚と年齢に相関は認められなかった.周辺角膜厚のもっとも厚い部位は上側,ついで鼻側,下側,耳側の順で,もっとも薄い部位は耳下側であった.文献1)DoughtyCMJ,CZamanML:HumanCcornealCthicknessCandCitsCimpactConCintraocularCpressuremeasures:aCreviewCandCmeta-analysisCapproach.CSurvCOphthalmolC44:367-408,C20002)DoughtyCMJ,CJonuscheitS:AnCassessmentCofCregionalCdi.erencesCinCcornealCthicknessCinCnormalChumanCeyes,CusingCtheCOrbscanCIICorCultrasoundCpachymetry.COptome-tryC78:181-190,C20073)JonuscheitCS,CDoughtyMJ:EvidenceCforCaCrelativeCthin-ningoftheperipheralcorneawithageinwhiteEuropeansubjects.InvestOphthalmolVisSciC50:4121-4127,C20094)SuzukiCS,CSuzukiCY,CIwaseCACetal:CornealCthicknessCinCanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthal-mologyC112:1327-1336,C20055)UenoCY,CHiraokaCT,CMiyazakiCMCetal:CornealCthicknessCpro.leCandCposteriorCcornealCastigmatismCinCnormalCcor-neas.OphthalmologyC122:1072-1078,C20156)SchroderS,LangenbucherA,SchreckerJ:ComparisonofcornealCelevationCandCpachymetryCmeasurementsCmadeCbytwostateoftheartcornealtomographerswithdi.er-entCmeasurementCprinciples.CPLoSCONEC14:e0223770.https://doi.org/10.1371/journal,20197)GhariebCHM,CAshourCDM,CSalehCMICetal:MeasurementCofCcentralCcornealCthicknessCusingCOrbscanC3,CPentacamCHRCandCultrasoundCpachymetryCinCnormalCeyes.CIntCOph-thalmolC40:1759-1764,C20208)NomuraH,AndoF,NiinoNetal:TherelationshipbetweenageCandCintraocularCpressureCinCaJapaneseCpopulation:CtheCin.uenceCofCcentralCcornealCthickness.CCurrCEyeCResC24:81-85,C20029)HwangYH,KimHK,SohnYH:NamilStudyGroup,Kore-anGlaucomaSociety:CentralcornealthicknessinaKore-anpopulation:theCNamilCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC53:6851-6855,C201210)KumarCN,CPop-BusuiCR,CMuchCDCCetal:CentralCcornealCthicknessincreaseduetostromalthickeningwithdiabeticperipheralCneuropathyCseverity.CCoeneaC37:1138-1142,C201811)野上豪志,佐藤司,伊藤美沙絵ほか:ソフトコンタクトレンズ装用中止後の角膜形状変化.日本視能訓練士協会誌C46:217-223,C201712)ZhenY,HuangG,HuangWetal:DistributionofcentralandCperipheralCcornealCthicknessCinCChineseCchildrenCandadults:theCGuangzhouCtwinCeyeCstudy.CCorneaC27:776-781,C200813)HuangJ,DingX,SaviniGetal:AComparisonbetweenScheimp.ugCimagingCandCopticalCcoherenceCtomographyCinmeasuringcornealthickness.OphthalmologyC120:1951-1958,C201314)KhoramniaCR,CRabsilberCTM,CAu.arthGU:CentralCandCperipheralCpachymetryCmeasurementsCaccordingCtoCageCusingthePentacamrotatingScheimp.ugcamera.JCata-ractRefractSurgC33:830-836,C200715)WiedererCRL,CPerumalCD,CSherwinCTCetal:Age-relatedCdi.erencesinthenormalhumancornea:alaserscanninginCvivoCconfocalCmicroscopyCstudy.CBrCJCOphthalmolC91:C1165-1169,C200716)GermundssonJ,KaranisG,FagerholmPetal:Age-relat-edCthinningCofCBowman’sClayerCinCtheChumanCcorneaCinCvivo.InvestOphthalmolVisSciC54:6143-6149,C201317)HikoyaA,SatoM,TsuzukiKetal:Centralcornealthick-nessinJapanesechildren.JpnJOphthalmolC53:7-11,C2009***

In vitro におけるコンタクトレンズに付着した蛋白質に 対するソフトコンタクトレンズ用消毒剤のレンズケア効果

2021年2月28日 日曜日

《原著》あたらしい眼科38(2):191.196,2021cInvitroにおけるコンタクトレンズに付着した蛋白質に対するソフトコンタクトレンズ用消毒剤のレンズケア効果鈴木崇*1糸川貴之*1堀江隆至*2内田薫*2堀裕一*1*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2日本アルコン株式会社CInvitroCEvaluationofLensCareE.ectofSoftContactLensDisinfectionSolutionontheProteinDepositedContactLensesCTakashiSuzuki1),TakayukiItokawa1),TakashiHorie2),KaoruUchida2)andYuichiHori1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TohoUniversity,2)AlconJapanLtd.C目的:ソフトコンタクトレンズ(SCL)に付着した蛋白質や脂質などの付着物は,眼アレルギー,眼不快感ならびに角膜感染症の原因となるため,SCLから付着物を適切に除去する必要がある.そこで今回,5種類のCSCL用消毒剤を用いて,invitroにおける頻回交換のCSCLに付着した蛋白質のレンズケア効果を検討した.対象および方法:試験コンタクトレンズ(CL)には,SCLのCeta.lconAおよびシリコーンハイドロゲルCCLのCseno.lconAを用いた.涙液組成を模したリン酸緩衝液(PBS)を含んだプラスチック試験管に試験CCLを移し,蛋白質が付着した試験CCLを準備した.過酸化水素剤(HP剤),ポビドンヨード剤(PI剤),3種類のマルチパーパスソリューション(MPS)およびCPBSを用いてCeta.lconAのレンズケアを実施した.レンズケアおよび測定順序をランダム化し,レンズケア時間は各CSCL用消毒剤の最短消毒時間とした.レンズケア後に試験CCLから蛋白質を抽出し,MicroBCAproteinassaykitにて分光光度計で吸光度を測定し,試験CCLに付着した蛋白質量を定量した.結果:試験CCLに付着した蛋白質量は,Cseno.lconAのC7.8C±1.1Cμg/レンズに比べてCeta.lconAはC1,089.0C±98Cμg/レンズと有意に多かった.5種類のCSCL用消毒剤ならびにCPBSでのレンズケア後のCeta.lconAに付着した蛋白質量は,それぞれC528.1C±88Cμg/レンズ,758.1C±155Cμg/レンズ,858.5C±218Cμg/レンズ,730.4C±140Cμg/レンズ,841.1C±257Cμg/レンズ,727.5C±160Cμg/レンズでレンズケア前よりも減少した.5種類のCSCL用消毒剤においては,HP剤に対してCPI剤およびC3種類のCMPS間で有意差を認めた(対応のないCt検定p<0.05).結論:InvitroにおけるCeta.lconAに付着した蛋白質はC5種類のCSCL用消毒剤でのレンズケア効果が認められた.HP剤はCPI剤やC3種類のCMPSに比べて,eta.lconAに付着した蛋白質に対するレンズケア効果が有意に優れていることが示された.CObjective:DepositsCsuchCasCproteinsCandClipidsCadheringCtoCsoftCcontactlenses(SCLs)causeCocular-relatedCallergy,discomfortandinfections.Thus,itisnecessarytohavethemappropriatelyremoved.Inthisinvitrostudy,weexaminedthee.ectoflenscareproteinsadheringtofrequentreplacementtypesofSCLbyusing5SCLdisin-fectionCsolutions.CCasesCandCmethods:ThisCstudyCinvolvedCeta.lconCACandCseno.lconCACsiliconeChydrogelCSCLs.CThestudySCLsweretransferredtoaplastictesttubecontainingaphosphatebu.er(PBS)simulatingtearcom-position,CandCaCstudyCSCLCtoCwhichCtheCproteinCwasCattachedCwasCprepared.CLens-careCtestCsolutionsCwereCexam-inedforthehydrogenperoxide(HP)C,thepovidone-iodine(PI)C,3typesofmulti-purposesolutions(MPS)andPBS.Lens-careCofCtheCeta.lconCACSCLsCwasCmadeCwithCdisinfectionCsolutions.CTheClens-careCandCmeasurementCorderCwererandomized,andthelens-caretimewastheshortestdisinfectingtimeofeachdisinfectantusedfortheSCLs.Afterlens-care,theproteinwasextractedfromtheSCLs,andtheabsorbancewasmeasuredandquanti.edbyaspectrophotometerusingaMicroBCAproteinassaykit.Results:TheamountofproteinattachedtostudySCLswasC1089.0±98Cμg/lensforeta.lconA,whichwassigni.cantlyhigherthan7.8±1.1Cμg/lensforseno.lconA.TheamountCofCproteinCadheringCtoCeta.lconCACafterClensCcareCwithCtheC5SCLCdisinfectionCsolutionsCandCPBSCwasC〔別刷請求先〕鈴木崇:〒143-8541東京都大田区大森西C6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:TakashiSuzuki,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,TohoUniversity,6-11-1Omori-Nishi,Ohta-ku,Tokyo143-8541,JAPANC528.1±88Cμg/lens,C758.1±155Cμg/lens,C858.5±218Cμg/lens,C730.4±140Cμg/lens,C841.1±257Cμg/lens,CandC727.5±160Cμg/lens,Crespectively.CTheCamountsCofCproteinCadheringCtoCeta.lconCACwasClowerCthanCpriorCtoClensCcare.CRegardingthe5SCLdisinfectionsolutions,astatisticalsigni.cantdi.erencewasdemonstratedamongHP,PIand3CMPS(unpairedt-testp<0.05)C.Conclusion:InthisinvitroCstudy,lens-caree.ectofproteinattachedtoeta.lconACwasCobservedCwithCtheC5SCLCdisinfectants.CItCwasCshownCthatCHPCwasCsigni.cantlyCsuperiorCtoCPICandCtheC3typesofMPSinregardtothelenscaree.ectontheproteinattachedtoeta.lconA.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C38(2):191.196,C2021〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤,蛋白質汚れ,過酸化水素剤,ポビドンヨード剤,マルチパーパスソリューション.softcontactlensdisinfectionsolution,proteindeposits,hydrogenperoxide,povidoneiodine,multi-purposesolution.Cはじめにソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)やシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(siliconeChydrogelCcontactlens:SHCL)は,視力および整容補正,眼表面疾患の治療などを使用目的として普及してきた1,2).1日交換とC1週間連続装用タイプ以外の頻回交換タイプのCSCLやCSHCLにおいては適切なレンズケアが必要である3).レンズケアにはCSCL用消毒剤が多く使用されており,有効成分の観点からC3種類に分類される.1種類目は,塩化ポリドロニム,ポリヘキサニド塩酸塩またはアレキシジン塩酸塩を有効成分とするマルチパーパスソリューション(multi-purposeCsolu-tion:MPS)である4).MPSはその名のとおり,1本で洗浄,すすぎ,保存が可能であるが,洗浄の際にはこすり洗いが必須である.MPSは簡便に使用できるが,一部ユーザーは適切なこすり洗いを実施していないことが報告されている3).2種類目は,白金ディスクやカタラーゼにより中和が必要な過酸化水素(hydrogenCperoxide:HP)を有効成分とするHP剤で,こすり洗いは推奨である.HP剤は消毒効果が高いことが報告されており,白金ディスクで中和するCHP剤は防腐剤が含まれないことから,眼刺激が軽減されることが報告されている5,6).一方,HP剤が適切に中和されない場合は眼表面障害の発生が懸念される7).3種類目は,アスコルビン酸により中和が必要なポビドンヨード(povidoneiodine:PI)を有効成分とするCPI剤で,HP剤と同様にこすり洗いは推奨である8).PI剤も消毒効果が高いと報告されているが,適切に中和されない場合はヨードアレルギーが懸念される8,9).このように,SCL用消毒剤は有効成分に起因する長所ならびに短所はあるが,適切なレンズケアを怠った場合,レンズの汚れによる眼不快感,レンズ装用時の見にくさ,乳頭増殖などのアレルギー症状,アカントアメーバ角膜炎などのCCL関連合併症が発症するため,レンズケアの重要性が報告されている3,10.12).このような背景から,頻回交換タイプのCSCLやCSHCLに付着した蛋白質や脂質などの汚れに対するCSCL用消毒剤によるレンズケア効果について,invitroおよびCexvivoにおいて検討がなされている3,10.12).しかしながら現時点において,PI剤による頻回交換タイプのCSCLやSHCLに付着した蛋白質のレンズケア効果を検討した報告はない.そこで今回,invitroにおける白金ディスクで中和するタイプのCHP剤に対するCPI剤を含むC4種類のCSCL用消毒剤の蛋白質付着に対するレンズケア効果を比較検討した.CI対象および方法試験CCLにはCSCLの原材料ポリマー分類のグループCIVのCeta.lconAおよびグループCV-1のCSHCLであるCseno.lconAを用いた(表1).試験CCLをブリスターパックから取り出し,リン酸緩衝液(phosphateCbu.ersaline:PBS)で試験CLを繰返し洗浄後,報告に従って涙液組成を模したCPBS(表2)を含んだプラスチック試験管に試験CCLを移し,37℃でC16時間浸漬して蛋白質を付着させた試験CCLを準備した13).その後,HP剤,PI剤,MPS-A,MPS-B,MPS-CおよびCPBSを用いて試験CCLのレンズケアを実施した(表3).検体数の設定根拠は,統計的検出力ではなく,実施可能性に基づき各C6枚に設定した.試験手順に基づくバイアスを最小化するため,レンズケアおよび測定の順序をランダム化し,レンズケア時間は各CSCL用消毒剤の最短消毒時間として,置換ブロック法により事前に作製された割付順序に従って実施した.レンズケア後,1Cw/v%ドデシル硫酸ナトリウム(sodiumCdodecylsulfate:SDS)溶液を用いて試験CCLから蛋白質を抽出し,MicroCBCACproteinCassaykitを用いて分光光度計で波長C562Cnmにおける吸光度を測定した.評価項目は,5種類のCSCL用消毒剤のCHP剤,PI剤,MPS-A,MPS-B,MPS-Cでのレンズケア後および対照としたCPBSでの洗浄後の試験CCLに付着した蛋白量(μg/レンズ)とした.吸光度測定のブランクの標準液は,1%炭酸ナトリウムを含むC1Cw/v%CSDS溶液を使用した.MicroBCAproteinassaykitに付属のアルブミン標準サンプルを用いて検量線を作製し,試験CLのC1枚当たりの蛋白質付着量(アルブミンに換算した総蛋白質量)を算出した.操作のばらつきを最小化するため,表1試験CLの概要試験CCLCeta.lconACseno.lconA構成モノマー2-HEMA,CMAAなど2-HEMA,CSiMAA2,mPDMS1000,CDMAなど酸素透過係数*C28C103含水率[%]C58C38**ベースカーブ[mm]8.4,C8.78.4,C8.8直径[mm]C14.0C14.0中心厚[mm](.3.00D)C0.09C0.07SCLの原材料ポリマー分類CIVCV-1*(cm2/sec)×(mlOC2/ml×mmHg)**本研究のベースカーブはCeta.lconAがC8.7,seno.lconAがC8.8のC.3.00Dを使用.表2人工涙液組成組成含有量[mg/ml]TMS-PBS:Dulbecco’sphosphatebu.eredsaline(D8662[Sigma-Aldrich])CaCl2C0.1CMgCl2・C6HC2OC0.1CKClC0.2CKH2PO4C0.2CNaClC8.0CNa2HPO4・C7HC2OC2.16CLipidC0Lysozyme(LC6876-10G[Sigma-Aldrich])C5.3CBovineserumalbuminC3.5TMS:tear-mimickingsolution,PBS:phosphateCbu.eredCsaline.表3本研究で使用した5種類のSCL用消毒剤のレンズケア方法および検体数消毒剤CHPCPICMPS-ACMPS-BCMPS-C洗浄およびすすぎの方法こすり洗いを含めた洗浄およびすすぎ洗いを実施しないこととした.こすり洗いを含めた洗浄およびすすぎ洗いを実施しないこととした.レンズを手のひらにのせ,本剤を数滴つけて,レンズの両面を各々20.C30回指で軽くこすりながら洗うこととした.洗ったレンズの両面を本剤で十分にすすぐこととした.レンズを手のひらにのせ,本剤をC3.C5滴落として片面を人差し指で約C10秒間ていねいに洗浄することとした.裏面も本剤をC3.5滴落として約C10秒間ていねいに洗浄することとした.レンズの両面を本剤ですすぎ,表面の残留物を十分に取り除くこととした.手のひらにレンズをのせ,本剤を数滴つけて,レンズの両面を各々20.C30回指で軽くこすりながら洗うこととした.洗ったレンズの両面を本剤でC5秒以上すすぐこととした.最短消毒時間6時間4時間検体数各C6枚(eta.lconAおよびCseno.lconA)HP:hydrogenperoxide,PI:povidoneiodine,MPS:multi-purposesolution.作業員は操作の途中で交代せずに操作を行うこととした.統計解析は,5種類のCSCL用消毒剤でのレンズケア後およびPBSでの洗浄後の試験CCLに付着している蛋白量(μg/レンズ)について,各群の記述統計量(n,平均値,標準偏差,中央値,最小値,最大値)を算出することとした.一元配置分散分析によりC6群間の群間比較を行うこととした.本研究におけるすべての操作ならびに測定は,住化分析センター株式会社へ委託した.統計処理はCMicrosoftCExcel2016で実施し,記述統計量は正規分布に従っており,対応のないCt検定で実施した.CII結果1.試験CLに付着した蛋白質量試験CCL付着した蛋白質量はCeta.lconAがC1,089.0C±98μg/レンズ,seno.lconAがC7.8C±1.1Cμg/レンズでCeta.lconAが有意に多かった(対応のないCt検定p<0.05,図1).C1,400*1,2001,00080060040020001,089.07.8eta.lconAseno.lconA図1試験CLに付着した蛋白質量各群Cn=6,平均値C±標準偏差[μg/レンズ],*p<0.0001対応のないCt検定.C1,4001,2001,0008006004002000**2.eta.lconAへの蛋白質付着量Eta.lconAへの蛋白質付着量がCseno.lconAに比べて有意に多かったため,PBS,HP剤,PI剤およびC3種類のMPSでのレンズケア後の蛋白質付着量はCeta.lconAで評価することとした.eta.lconAに付着した蛋白質量は,PBSがC727.5C±160μg/レンズ,HP剤がC528.1C±88Cμg/レンズ,PI剤がC758.1C±155μg/レンズ,MPS-AがC858.5C±218Cμg/レンズ,MPS-BがC730.4C±140Cμg/レンズ,MPS-CがC841.1C±257Cμg/レンズで,レンズケア前のCeta.lconAの蛋白質付着量よりも有意に減少した(対応のないCt検定Cp<0.05,図2).また,5種類のCSCL用消毒剤のみでCeta.lconAに付着した蛋白質量を比較すると,HP剤は他の消毒薬に対して有意に低値であった(対応のないCt検定p<0.05,図2).CIII考察わが国では過酸化水素のコールド消毒システムとしてのSCL用消毒剤がC1991年に発売14)されて以来,MPS,HP剤およびCPI剤とC32種類が販売15)されており,頻回交換タイプのCSCLおよびCSHCLユーザーが使用している.SCLやSHCLの販売経路は眼科,CL量販店,眼鏡店,インターネットと多岐3)にわたる.一方,適切なレンズケアを指導されていないことによるCCL関連合併症が問題視されており,Cinvitro10,11)およびCexvivo11,12)におけるCSCL用消毒剤のレンズケア効果,消毒効果および眼表面への影響について報告がなされている.本報告はCinvitroでの結果ではあるものの,PI剤を含むC5種類のCSCL用消毒剤による頻回交換タイプのSCLに付着した蛋白質のレンズケア効果を検討した初めての報告である.***図2レンズケア前後のeta.lconAに付着した蛋白質量の比較各群Cn=6,平均値C±標準偏差[μg/レンズ],*p<0.05対応のないCt検定.HP:hydrogenperoxide,PI:povidoneCiodine,MPS:multi-purposesolution,PBS:phosphatebu.ersaline.土至田らは,正の電荷を帯びているリゾチームは負の電荷を帯びているイオン性CSCLに引き付けられるため,SCLの原材料ポリマー分類のグループCIIIおよびCIVのCSCLに蛋白質が付着しやすい傾向であると報告している13).本研究でも,eta.lconAのほうがCSHCLのCseno.lconAよりもレンズC1枚当たりの蛋白質付着量は有意に多かったことは,eta-.lconA中のカルボキシル基由来の負の電荷と本研究で使用した蛋白質類中の正の電荷との静電気的な相互作用が影響したものと考えた15,16).Kielは過酸化水素剤の分解時の酸素の発泡力は蛋白質の洗浄効果を示すと報告している17).Kielらの研究における試験レンズであったCvi.lconAにおいて,酸素バブリングまたは触媒ディスクなしの過酸化水素システム溶液で循環させたレンズよりも,過酸化水素システム溶液および触媒ディスクありで循環させたレンズから有意に多くの蛋白質が除去されたと報告している.HP剤の触媒ディスクありの条件,中和されたCHP剤の酸素バブルおよびCHP剤の触媒ディスクなしの条件での結果を比較した.その結果,試験レンズのCvi.l-conAの洗浄前での蛋白質付着量がC598C±184Cμg/レンズであったのに対して,HP剤の触媒ディスクありがC360C±52Cμg/レンズ,HP剤の酸素バブルがC471C±81Cμg/レンズ,HP剤の触媒ディスクなしがC464C±128Cμg/レンズであった.これらの結果に基づき,HP剤の触媒ディスクありはCHP剤の酸素バブルおよびCHP剤の触媒ディスクなしに比べて有意にCvi.lconAの蛋白質付着量が少なかったと報告している17).また,RequenaらはCHP剤が蛋白質の構造変化をもたらすと報告している18).以上から,本研究で使用した試験CCLのCeta.lconAに付着した蛋白質のCHP剤によるレンズケア効果は,HP剤の中和時における発泡力および蛋白質構造変化に起因するものと考えた17,19).岡田らは,実臨床のCCL装用眼におけるCSCLへの蛋白質の付着量は,invitroにおけるCSCLへの蛋白質付着量と異なり,その可能性としてCCL装用の場合は涙液中のリゾチーム以外の種々の蛋白質,脂質および無機物の相互作用による影響が考えられると報告している20).土至田らは,CL装用者の眼の状態,涙液中の蛋白質や脂質の種類やそれらの濃度,CL装用状況,生活環境要因や化粧品使用状況なども関与するため,invitroの結果がCinvivoにおけるCCL装用中の状況と同等の結果が得られるか否かの判断はむずかしいものの,研究の傾向を認識するという観点で有意義であったと報告している13).本研究もCinvitroにおける評価のため,exCvivoにおける頻回交換タイプのCSCLやCSHCLに付着した蛋白質量を正確に反映しているか否かは本研究結果のみでは判断できないが,こすり洗いが推奨であるCHP剤およびCPI剤,こすり洗いが必須であるCMPSのC3種類での試験CCLに付着した蛋白質の洗浄性能を理解するためには,有意義な結果であると考えた.本研究の結果から,頻回交換タイプのレンズ素材中に負の電荷を有するCSCLに付着した蛋白質起因の眼アレルギー症状や眼不快感を軽減するためには,HP剤はCPI剤および本研究で使用したC3種類のCMPSに比べて有用なSCL用消毒剤と考えられた.一方,今後の研究では,こすり洗いを実施した後でCSCL用消毒剤によるレンズケア効果や,CL装用後の頻回交換タイプのCSCLやCSHCLに付着した蛋白質のレンズケア効果の検討が必要と考えた.本研究でCeta.lconAに付着した蛋白質に対するC5種類のSCL用消毒剤のレンズケア効果が認められた.HP剤はCPI剤ならびに本研究で使用したC3種類のCMPSに比べて,レンズ素材中に負の電荷を有するCSCLのCeta.lconAに付着した蛋白質に対するレンズケア効果が優れていることが示された.利益相反:本研究は日本アルコン株式会社による研究資金にて実施した.文献1)日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌118:557-591,C20142)奥野賢亮,井上智之,堀裕一ほか:眼表面疾患に対するシリコーンハイドロゲルレンズの治療的使用に関する検討.臨眼64:1533-1538,C20103)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜症全国調査.日眼会誌115:107-115,C20114)WaltherCH,CSubbaramanCLN,CJonesL:E.cacyCofCcontactClensCcareCsolutionsCinCremovingCcholesterolCdepositsCfromCsiliconeChydrogelCcontactClenses.CEyeCContactCLensC45:C105-111,C20195)LievensCW,KannarrS,ZootaLetal:LidpapillaeimproveC-mentCwithhydrogenperoxidelenscaresolutionuse.OptomVisSciC93:933-942,C20166)WaltersCR,CMcAnallyCC,CGabrielCMCetal:ComparisonCofCtheCantimicrobialCe.cacyCofChydrogenCperoxideCandCpovi-doneiodidecontactlenscareproducts.AAOptC20197)福田正道,北川和子,佐々木一之:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤の細胞毒性の検討.日コレ誌C32:39-42,C19908)Martin-NavarroCM,Lorenzo-MoralesJ,Lopez-ArencibiaAetal:Acanthamoebaspp.:E.cacyofBioclenFROneStepR,apovidone-iodinebasedsystemforthedisinfectionofcontactlenses.ExpParasitolC126:109-112,C20109)植田喜一:CLフィッティングケースバイケースポビドンヨードアレルギーが認められたケース.日コレ誌C47:C293-294,C200510)PuckerAD,NicholsJJ:Impactofarinsesteponproteinremovalfromsiliconehydrogelcontactlenses.OptomVisSciC86:943-947,C200911)OmaliCNG,CSubbaramanCLN,CColes-BrennanCCCetal:Bio-logicalCandCclinicalCimplicationsCofClysozymeCdepositionConCsoftcontactlenses.OptomVisSciC92:750-757,C201512)NegarCBO,CHeynenCM,CSubbaramanCLNCetal:ImpactCofClensCcareCsolutionsConCproteinCdepositionConCsoftCcontactClenses.OptomVisSciC93:963-972,C201613)土至田宏,村上晶,下川幸恵:シリコーンハイドロゲルレンズのタンパク質および脂質に対する付着性の評価.日コレ誌54:111-115,C201214)小玉裕司:ケア用品の基礎知識.日コレ誌C42:S11-S16,C200015)小玉裕司,梶田雅義,植田喜一ほか:コンタクトレンズデータブック第C3版.メジカルビュー社,201416)TakahashiCD,CUchidaCK,CIzumiT:ActivitiesCofClysozymeCcomplexedwithpolysaccharideandpotassiumpoly(vinylalcoholsulfate)withvariousdegreesofesteri.cation.PolymBullC67:741-751,C201117)KielJS:Proteinremovalfromsoftcontactlensusingdis-infection/neutralizationCwithChydrogenCperoxide/catalyticCdisc.ClinTherC15:30-35,C199318)RequenaCJR,CDimitroyaCMN,CLegnameCGCetal:OxidationCofCmethionineCresiduesCinCtheCprionCproteinCbyChydrogenCperoxide.ArchBiochemBiophysC432:188-195,C200419)三村達哉,須永鷹博,溝田淳:過酸化水素水によるCCL付着花粉の洗浄効果.アレルギーの臨床C40:60-69,C202020)岡田栄一,松田智子,横山哲朗ほか:ソフトコンタクトレンズに付着する涙液中タンパク質成分の解析.日コレ誌C49:C238-242,C2007C***

基礎研究コラム:眼球機能と構造における脂質代謝の役割

2021年2月28日 日曜日

眼球機能と構造における脂質代謝の役割小川護眼球各組織におけるさまざまな脂質の寄与一般的に脂質は細胞膜構成成分・エネルギー源・メディエーターの三大役割が生体で知られています.眼球は涙液から視神経に到るまでさまざまな組織で構築されていますが,マイボーム腺は脂質そのものを分泌するユニークな器官ですし,虹彩・毛様体からはプロスタグランジン(COX由来の脂質)が産生され眼圧を調節し,網膜はCw3脂肪酸の一つであるCDHAを生体内でもっとも濃縮して保持していますが,その生理的意義の多くは未だ不明です.これまでに,Cw3脂肪酸の網膜防御機能(慶大・厚東ら),コレステロールの網膜色素上皮細胞変性(京大・畑ら),角膜上皮障害へC12-HHTの回復寄与(順大・岩本ら)1),アレルギー性結膜炎へのCw3脂肪酸防御機能(順大・平形ら)2),EPA代謝物の網膜への寄与(ハーバード大・柳井ら),S1Pの網膜障害抑制(東大・寺尾ら),マクロファージ特異的なコレステロール代謝の加齢黄斑変性への寄与(ワシントン大・伴ら)など,さまざまな脂質の生理活性が報告されています.角膜上皮再生における好酸球.脂質代謝の寄与われわれは,元来,眼では悪者と考えられていた好酸球が,角膜創傷治癒において,脂質代謝酵素C12/15-リポキシゲナーゼ(以下,12/15-LOX)を介して眼表面で局所的に脂質代謝物を産生し,角膜上皮細胞の再生・治癒を促進することを発見しました3).マウス角膜創傷治癒モデルを誘導し細胞挙動を評価すると,治癒過程において好酸球が輪部付近に集積し,12/15-LOXを高発現していました.興味深いことに,当初,好酸球を欠損させると創傷治癒は促進すると仮説を立てていましたが,逆に創傷治癒が遅延しました.そこで好酸球特異的C12/15-LOX欠損マウスを作製し創傷治癒を評価すると,このマウスも治癒が遅延したことで,角膜上皮の再生・治癒において好酸球やC12/15-LOXの促進的な作用が明らかになりました.そこでCLC-MS/MS(liquidCchromato-graghy-tandemmassspectrometry)を用いた眼球における脂質メタボローム解析を行い,好酸球欠損マウスで顕著に減図1角膜創傷治癒における好酸球.12.15.LOXの寄与角膜創傷をトリガーに,眼表面において細胞間の相互作用が開始される.誘導された好酸球は,局所環境において12/15-LOXを介して脂質代謝物を産生する.それが幹細胞を刺激し,細胞増殖が起こると考えられた(文献C3のまとめ).理化学研究所メタボローム研究チーム慶應義塾大学医学部眼科学教室少を認めたC17-HDoHE(DHAからC12/15-LOXによって産生される代謝物)を点眼投与すると創傷治癒が改善されました.本研究において未解明な点は,1)12/15-LOX由来脂質代謝物がどのような受容体あるいは蛋白質との相互作用によるシグナル回路を介すか,2)好酸球やC12/15-LOXが細胞増殖を亢進している(Ki67+細胞の増加)が,幹細胞を含む輪部周辺にどのようにリクルートされるのか,3)元来悪者とされていた好酸球と誘導された好酸球は,異なる性質をもった細胞集団なのか,などがあり,今後の研究課題です.今後の展望脂質代謝物のシグナル経路としてCGPCRの網羅的スクリーニングアッセイが開発(東北大・井上ら)され,分子メカニズムの解明が期待されます.好酸球や脂質代謝の発現を制御することでCStevens-Johnson症候群やアルカリ外傷などの重症ドライアイ・遷延性上皮欠損に対して有効な治療法になりえるでしょう.今までは既存の代謝物を定量する測定方法を用いていましたが,ノンターゲット解析という新たな質量分析装置を用いた解析方法で未知の化合物が眼表面で捉えらえる可能性があり,特許取得や創薬治療に直結することが期待されます.文献1)IwamotoCS,CKogaCT,CYokomizoCTCetal:Non-steroidalCanti-in.ammatoryCdrugCdelaysCcornealCwoundChealingCbyCreducingproductionof12-hydroxyheptadecatrienoicacid,aligandforleukotrieneB4receptor2.SciCRepC7:13267,C20172)HirakataCT,CLeeCH,CYokomizoCTCetal:DietaryCw-3CfattyCacidsalterthelipidmediatorpro.leandalleviateallergicconjunctivitisCwithoutCmodulatingT(h)2CimmuneCresponses.FASEBJ33:3392-3403,C20193)OgawaM,TsubotaK,AritaMetal:EosinophilspromotecornealCwoundChealingCviaCtheC12/15-lipoxygenaseCpath-way.FASEBJC34:12492-12501,C2020CGenerationoflipd③metabolitesLipdmetabolitesIL-25,33lymphocyteIL-5abGPCRgsignalsthourghERK①wound②EosinophilsGPCRin.ltrationEosinophilsEGF↑Stemcells12/15-LOXStimulationCellCornealLimbus④⑤ofCLSCproliferationepithelium(63)あたらしい眼科Vol.37,No.2,2020C1790910-1810/21/\100/頁/JCOPY