チューブシャント手術の適応と使い分け Indications and Di.erentiation for Tube Shunt Surgery廣岡一行*はじめにチューブシャント手術(ロングチューブ)にはいくつかのデバイスがあるが,2011年に Baerveldt緑内障インプラント(Baerveldt glaucomaimplant:BGI),2014年に Ahmed緑内障バルブ(Ahmed glaucomavalve:AGV)がわが国で承認された.正式承認を契機に,2012年に日本緑内障学会から発行された「緑内障診療ガイドライン第 3版」の補遺にチューブシャント手術に関するガイドラインが公表された.海外では,①代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった症例,②結膜の瘢痕化が高度な症例,③線維柱帯切除術の成功が見込めない症例,④濾過手術が技術的に施行困難な症例に対して行われてきたのを受け,通常の線維柱帯切除術の施術が困難である,奏効が期待できない,あるいは従来の線維柱帯切除術では重篤な合併症が予測される症例に適応を限定すべき,と記された.国内承認後10年以上が経過した現在におけるチューブシャント手術の適応とBGI,AGVの使い分けについて解説する.
I チューブシャント手術の適応観血的緑内障手術は,流出路再建術と濾過手術の二つに大別される.緑内障の病期,術前眼圧,年齢,視野障害の進行速度などを勘案して術後の目標眼圧を設定し,術式を選択する.とくに流出路再建術は病型により手術効果に差が生じるため,病型も術式選択には重要になってくる.筆者らの施設における線維柱帯切開術(眼内法)の手術成績は,線維柱帯切開術単独での累積手術成功率(成功基準:18 mmHg未満,かつ術前よりも 20%以上の眼圧下降など)は 3年で 25%となっている1).また,白内障手術併用の線維柱帯切開術では累積手術成功率(成功基準:18 mmHg未満,かつ術前よりも 20%以上の眼圧下降など)は 3年で 47.7%となっている2).単独手術では手術の効果自体も弱く,白内障との同時手術であっても時間とともに手術の効果は減弱し,眼圧コントロールが不十分となる患者が増えてくる.また,血管新生緑内障やぶどう膜炎による続発緑内障では線維柱帯切開術の効果が期待できないため,これらの患者では濾過手術が必要になってくる.チューブシャント手術の適応を考える際には,同じ濾過手術である線維柱帯切除術との比較が必要になってくる.Primary Tube versusTrabeculectomy(PTVT)Studyは,眼科手術の既往のない緑内障眼に対して BGI(101-350)の前房内挿入とマイトマイシン C(Mitomy -cinC:MMC)併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究である.5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧 6 mmHg以上 21 mmHg以下で,眼圧下降率が 20%以上など)は BGIが 42%で線維柱帯切除術が 35%であった(p=0.21).低眼圧(5 mmHg以下)による手術不成功が BGIでは 0眼であったのに対して,線維柱帯切除術では 5眼(13%)にみられた.また,5年後の平均眼圧は BGIが 13.4 ±3.5 mmHgであり,線維柱帯切除術が 13.0 ±5.2mmHgであった(p=0.52).*KazuyukiHirooka:広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕 廣岡一行:〒734-8551広島市南区霞 1-2-3 広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学(眼科学)(1)(71) 12890910-1810/25/\100/頁/JCOPY 一方で,5年後の緑内障点眼数はCBGIがC2.2C±1.3であったのに対して,線維柱帯切除術がC1.3C±1.4であった(p<0.001)3).PTVTStudyの結果において,初回手術におけるCBGIと線維柱帯切除術の間には緑内障点眼数で差がみられたものの,明確な優劣は示されなかった.CTubeCversusTrabeculectomy(TVT)Studyは線維柱帯切除術または白内障手術の既往のある緑内障眼に対して,BGI(101-350)の前房内挿入とCMMC併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究である.5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧C6CmmHg以上C21.mmHg以下で,眼圧下降率がC20%以上など)はBGIがC29.8%で線維柱帯切除術がC46.9%であり(p=0.002),BGIのほうが良好であった.低眼圧(5CmmHg以下)による手術不成功がCBGIではC3眼(13%)であったのに対して,線維柱帯切除術ではC13眼(31%)にみられた.5年後の平均眼圧はCBGIがC14.4C±6.9CmmHgであり,線維柱帯切除術がC12.6C±5.9CmmHgであった(p=0.12).またC5年後の緑内障点眼数はCBGIがC1.4C±1.3であったのに対して,線維柱帯切除術がC1.2C±1.5であった(p=0.23)4).眼圧下降は両手術とも同程度であるが,BGIのほうが線維柱帯切除術に比べて高い成功率であったと結論づけられている.しかし,線維柱帯切除術では低眼圧による不成功が多かったため,結果の解釈には注意を要すると思われる.CTVTStudy,PTVTStudyともに難治性緑内障である血管新生緑内障は除外されている.緑内障手術既往のない血管新生緑内障眼に対してCBGI(102-350,103-250,101-350)とCMMC併用線維柱帯切除術を無作為に割り当てた多施設共同研究では,1年後の累積手術成功率(成功基準:21CmmHg以下,かつ術前よりもC20%以上の眼圧下降など)はCBGIがC59.1%,線維柱帯切除術がC61.6%であった(p=0.71).BGIは術前眼圧C38.9C±12.0CmmHgであったのが術後C2年でC13.3C±6.3CmmHg,線維柱帯切除術では術前眼圧C33.1C±9.3.mmHgであったのが術後C2年でC13.6C±2.5.mmHgに低下し,BGIと線維柱帯切除術では術後C2年での眼圧に差を認めなかった(p=0.90).2年後の緑内障点眼数はCBGIがC1.3C±1.6であったのに対して,線維柱帯切除術がC0.6C±1.5であった(p=0.41)5).2段階以上の視力低下がCBGIでC8眼(34.8%)であったのに対して,線維柱帯切除術ではC3眼(11.1%)であった(p=0.04).術後早期の合併症はCBGIと線維柱帯切除術では差がなかったものの,晩期の合併症はチューブの露出が最多でC5眼(21.3%)にみられ,その結果CBGIのほうが多くなった.したがって,血管新生緑内障に対する初回手術としてのCBGIと線維柱帯切除術との間に手術成績の差はみられなかったものの,合併症に関してはCBGIのほうが多いという結果になった.初回の線維柱帯切除術が不成功に終わった場合につぎの手術として再度線維柱帯切除術を行った場合とCAGVを行った場合とで比較したメタ解析では,術後C3年までの平均眼圧は両手術間で差は無かったが,眼内炎を含む重篤な合併症がCAGVでC1.18%,線維柱帯切除術で0.45%とCAGVで多かったことから,初回の線維柱帯切除術が不成功に終わった場合は再度の線維柱帯切除術を推奨している6).日本緑内障学会の濾過胞感染多施設共同研究で得られたデータの二次利用解析で,5年後の累積手術不成功率(成功基準:眼圧C5mmHg以上C21mmHg以下で,眼圧下降率がC20%以上など)は,初回の線維柱帯切除術ではC72.7%,2回目の線維柱帯切除術ではC72.6%,3回目以上ではC51.4%であり(p=0.0073),3回目以降の線維柱帯切除術,すなわちC2回以上の線維柱帯切除術の既往があると線維柱帯切除術の手術成績は悪くなった(図 1)7).これらの結果から,2回の線維柱帯切除術が不成功に終わり,3回目の手術を考える際にチューブシャント手術が選択肢としてあがってくるのではないかと思われる.ただし,術後の眼圧がC10CmmHg前後と非常に低い眼圧が望まれるような症例に対しては,チューブシャント手術は適切な選択肢にはならないと米国眼科学会(AmericanCAcademyCofCOphthalmolo-gy:AAO)が報告している8).つぎに術後の合併症について考えてみたい.BGIと線維柱帯切除術の術後合併症の頻度はCTVTStudyではそれぞれC39%とC60%(p=0.004)9),また,PTVTCStudyではそれぞれC34%とC48%となっており(p=0.046)10),いずれの報告でも線維柱帯切除術ではCBGIに比べて合併症が多い結果となった.早期合併症で線維柱帯切除術に創口からの房水漏出が多くみられ(11.12%),術後1290 あたらしい眼科 Vol.C42,No.C10,2025(72)累積手術成功率(%)100 50 0
30 60(月)図 1 緑内障手術既往回数による線維柱帯切除術の累積手術成功率
図 2 チューブ前房挿入後の前眼部所見 a:チューブ前房挿入.b:チューブ後房挿入.表 1 チューブシャント手術の適応①代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が不成功に終わった症例②手術既往により結膜の瘢痕化が高度な症例③線維柱帯切除術の成功が見込めない症例④ほかの濾過手術が技術的に施行困難な症例(緑内障診療ガイドライン第C5版より作成)===-累積手術成功率(%)表 2 平均眼圧と緑内障点眼数BGI(n=247) AGV(n=267) p値 術前 眼圧C 31.8±11.8.mmHgC 31.2±10.9.mmHg C0.53 点眼数C 3.3±1.1C 3.3±1.1 C0.60 術後1年 眼圧C 13.6±5.9.mmHgC 15.9±5.3.mmHg <C0.001 点眼数C 1.4±1.4C 1.8±1.3 C0.003 術後2年 眼圧C 14.2±6.0.mmHgC 15.3±6.0.mmHg C0.069 点眼数C 1.2±1.4C 1.9±1.4 <C0.001 術後3年 眼圧C 13.8±4.8.mmHgC 15.3±4.8.mmHg C0.007 点眼数C 1.3±1.4C 1.9±1.4 <C0.001 術後4年 眼圧C 13.9±4.6.mmHgC 15.8±5.4.mmHg C0.002 点眼数C 1.5±1.4C 2.1±1.5 <C0.001 術後5年 眼圧C 13.2±4.7.mmHgC 15.8±5.2.mmHg <C0.001 点眼数C 1.5±1.4C 1.9±1.5 C0.023
(文献C14より改変引用)C100 AGV90 BGI 80 70 60 50 40 30 20 10 0
0 6 121824303642485460(月)図 3 AGVと BGIの累積手術不成功率–