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硝子体手術のワンポイントアドバイス 199.Coats様病変を有する網膜色素変性に対する硝子体手術(中級編)

2019年12月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載199199Coats様病変を有する網膜色素変性に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに網膜色素変性に合併する網膜病変としては黄斑上膜,.胞様黄斑浮腫などの報告が多いが,まれにCCoats様病変を合併することがある1,2).その発症機序としては,網膜色素変性による網膜循環障害により異常網膜血管が生じるとする説3),変性した網膜や色素上皮から異常な生理活性物質が放出されるとする説4),Bruch膜の断裂部位に新生血管が侵入してくるとする説5)などがある.治療は通常のCCoats病と同様にレーザー光凝固が基本であるが,治療に抵抗する重症例では硝子体手術が必要となることがある.C●自験例症例はC43歳,女性.網膜色素変性の診断で経過観察中に右眼視野欠損を自覚した.右眼の下方に滲出性網膜.離を合併したCCoats様病変を認めたため,異常網膜血管に対して光凝固を施行した.しかし,滲出性網膜.離がさらに増悪した(図1)ため,硝子体手術を施行した.手術は水晶体を切除した後,硝子体切除を行い,後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製した.肥厚した後部硝子体膜と網膜が強固に癒着していたため,適宜硝子体鑷子や剪刀を使用した.下方の網膜下硬性白斑が多量であったため,下方周辺部に意図的裂孔を作製し,網膜下硬性白斑および滲出液を抜去した.その後,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展し,眼内光凝固,周辺部輪状締結術,シリコーンオイルタンポナ-デを施行した.半年後にシリコーンオイルを抜去し,眼内レンズ二次挿入術を施行した.術後,眼底の状態は落ち着いたが,矯正視力はC0.2にとどまった(図2).C●Coats様病変を有する網膜色素変性の臨床的特徴通常のCCoats病と異なり,両眼性が多く,片眼性でも僚眼に網膜血管異常を有することがある.通常のCCoats病が小児期の男性に多いのに対して,性差はなく,発症年齢も高い.病変部位は下方C4分のC1象限が多く,光凝(97)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1光凝固施行後の右眼眼底写真下方の異常網膜血管にレーザー光凝固を施行したが,硬性白斑と滲出性網膜.離が増強した.図2硝子体手術後の右眼眼底写真下方に意図的裂孔を作製し,硬性白斑を抜去した.固などの治療に抵抗性で難治例が多い.光凝固を施行しても滲出性病変が進行した場合や硝子体出血をきたした場合には,硝子体手術の適応となることがある6).網膜色素変性は通常,肥厚した後部硝子体膜が網膜と広範囲に癒着していることが多いので,確実な人工的後部硝子体.離を作製したうえで,病変部位に適切な治療を行う.網膜下硬性白斑が多量の場合は,今回のように意図的裂孔から抜去する方法が有効であるが,術後の再.離や再増殖に注意する必要がある.文献1)MorganCWEC3rd,CCrawfordJB:RetinitisCpigmentosaCandCCoats’disease.ArchOphthalmol79:146-149,C19682)AyeshI,SandersMD,FriedmannAI:Retinitispigmento-saCandCCoats’sCdisease.CBrCJCOphthalmolC60:775-777,C19763)WitschelH:RetinopathiaCpigmentosaCand“MorbusCCoats”.KlinMonblAugenheilkdC164:405-411,C19744)WolbarshtCML,CLandersCMBC3rd,CWadsworthCJACetal:CRetinitispigmentosa:CclinicalCmanagementCbasedConCcur-rentconcepts.AdvExpMedBiolC77:181-195,C19775)FogleJA,WelchRB,GreenWR:RetinitispigmentosaandexudativeCvasculopathy.CArchCOphthalmolC96:696-702,19786)大崎明子,今後充代,加藤久幸ほか:網膜色素変性症にCoats様病変と硝子体出血を合併した症例.眼臨紀1:810-813,C2008あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1573

眼瞼・結膜:Prostaglandin Associated Periorbitopathy (PAP)

2019年12月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人57.ProstaglandinAssociated坂田礼相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学Periorbitopathy(PAP)緑内障点眼薬のなかでもっとも強力な眼圧下降効果を得られるのはプロスタグランジンFP受容体作動薬である.この点眼薬が原因で起こる眼周囲の変化をprostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)とよぶが,その一つである上眼瞼溝深化は,眼瞼および眼窩の脂肪組織の体積減少が関連しており,FP受容体を介した脂肪生成の抑制効果によることが示されている.●プロスタグランジンFP受容体作動薬の眼局所副作用プロスタグランジンFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)は,おもにぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進させることで眼圧を下降させ,単剤では緑内障点眼薬のなかでもっとも強力な眼圧下降作用を有する.したがって,現在緑内障診療における薬物治療の第一選択薬はFP作動薬となっている1).FP作動薬の全身的副作用は皆無であるが,眼局所の副作用として,結膜充血,睫毛伸長,虹彩や眼瞼皮膚の色素沈着,そしてprostaglandinassociatedperiorbitop-athy(PAP)があげられる.昨年から使用可能になったプロスタグランジンEP2作動薬であるオミデネパグイソプロピルでは,結膜充血を除き,このような副作用の発現はないとされている.●ProstaglandinassociatedperiorbitopathyPAPでとくに目立つのは上眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES,図1)であり,その他,眼窩脂肪萎縮(眼球陥入),眼瞼下垂,皮膚の退縮といった所見が認められる.PAPの所見は点眼を中止すれば改善することが多い.これらは,眼瞼および眼窩の脂肪組織の体積変化が関連していると考えられており,それぞれ組織学的に,あるいは眼窩MRIで検証されている.また,脂肪の減少はFP受容体を介した脂肪生成の抑制効果によることが証明されている.●Invitroにおける筆者らの検討3T3-L1(マウスに由来する脂肪前駆細胞株であり,脂肪細胞の研究にもっともよく使われている細胞)を用いて,成熟脂肪細胞への分化を促進した.分化の経過中(0日目,2日目,7日目)に,ラタノプロスト酸(LAT-A),トラボプロスト酸(TRA-A),タフルプロスト酸(TAF-A),ビマトプロスト酸(BIM-A),ビマトプロスト(BIM),ウノプロストン(UNO),プロスタグラン(95)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY6カ月後図1PAPの臨床的所見a:両眼にFP作動薬の点眼を開始.b:その半年後.両眼とも上眼瞼溝が深化()したことがわかる.ジンF2a(PGF2a)をそれぞれ培養液に添加した.オイルレッドO染色(細胞内脂肪滴検出に優れた生体染色試薬)を使用して,10日目の細胞内脂質を検討した2).同様の実験をFP受容体ノックアウトおよび野生型マウスからの脂肪細胞を用いて行った.脂肪生成はLAT-A,TRA-A,TAF-A,BIM-AとPGF2aで有意に抑制され(それぞれ100nM:0日目,2日目の添加),7日目の添加でもLAT-A,BIM-AとPGF2a(同濃度)で抑制を認めた(図2,3).また,LAT-A,TRA-A,TAF-A,BIM-AとPGF2aは細胞株への効果と同様に野生型マウスの脂肪生成を有意に抑制したが,FP受容体ノックアウトマウスでの脂肪生成は抑制しなかった(図4).●実臨床へのPAPの影響実臨床ではPAPにより眼圧測定が困難な症例にしばしば遭遇するようになった.Goldman眼圧計による眼圧測定では上眼瞼をつまんで持ち上げる必要があるが,あたらしい眼科Vol.36,No.12,20191571コントロールラタノプロスト酸トラボプロスト酸ビマトプロストビマトプロスト酸ウノプロストンプロスタグランジンF2a正常細胞0コントラタノトラボタフルビマトビマトウノプPGF2a140ロールプロスプロスプロスプロストプロスロストント酸ト酸ト酸ト酸120図3コントロールと比較したオイルレッドO染色の割合図2の染色に基づき,コントロールの染色を100としたときの他の主剤の染色割合を示す.*はコントロールと比較して有意な変化を示す.図2と同様に,各FP作動薬で脂肪生成が抑制されていることが確認できる.(文献2より転載)DUESがひどく,眼瞼皮膚も薄くて伸展性がない場合には,正確な測定がむずかしい.また,DUESを認める場合には濾過手術の成績が悪いという報告も出ている3).まとめると,FP作動薬で整容的な面のみならず,緑内障診療への影響が出ている場合には,PAPが起こらない他の薬剤に切り替えたり,場合によっては手術も考慮すべきである.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第4版).日眼会誌122:5-53,20182)TaketaniY,YamagishiR,FujishiroTetal:ActivationoftheprostanoidFPreceptorinhibitsadipogenesisleading1572あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019図23T3.L1細胞培養におけるオイルレッドO染色赤く染色されているのが脂肪細胞である.0日目に3T3-L1細胞に各主剤を添加し,10日目に観察した所見である.ラタノプロスト酸,トラボプロスト酸,タフルプロスト酸,ビマトプロスト酸では染色されている細胞が少ない.つまり脂肪生成が抑制されていることを意味する(正常細胞は3T3-L1細胞ではないため,そもそも脂肪細胞が生成されずに染色されない).(文献2より転載)タフルプロスト酸コントロールを100とした時の染色割合140140120100野生型染色割合ノックアウトマウス染色割合120100806040200プロスプロスプロスプロストプロスロストント酸ト酸ト酸ト酸100806040200ラタノプロスト酸トラボプロスト酸タフルプロスト酸ビマトプロストビマトプロスト酸ウノプロストンPGF2a図4FP受容体ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるオイルレッドO染色の割合各FP受容体作動薬の添加で野生型マウスにおいては脂肪生成が有意に抑制された.一方で,FP受容体ノックアウトマウスでは脂肪生成が抑制されなかった.このことから脂肪生成の抑制にはFP受容体を介した機序が関与していることがわかる.(文献2より転載)todeepeningoftheuppereyelidsulcusinprostaglandin-associatedperiorbitopathy.InvestOphthalmolVisSci55:1269-1276,20143)MikiT,NaitoT,FujiwaraMetal:E.ectsofpre-surgicaladministrationofprostaglandinanalogsontheoutcomeoftrabeculectomy.PLoSOne12:e0181550,2017(96)

抗VEGF治療:脈絡膜血管新生に対する抗VEGF製剤の使い分け

2019年12月31日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二71.脈絡膜血管新生に対する抗VEGF董震宇野田航介北海道大学大学院医学研究院眼科学教室製剤の使い分け異なる病態基盤を有する脈絡膜新生血管(CNV)に対して複数存在する抗CVEGF製剤をどう使い分けるべきかということが課題となっている.筆者らの施設ではCCNVの原因疾患や病型によって使用する抗CVEGF製剤を選択し,治療抵抗例では薬剤切り替えや光線力学的療法などとの併用療法も考慮している.はじめに近年,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD),強度近視に伴う脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)などに対して抗VEGF製剤の硝子体内注射が治療の第一選択になっており,現在わが国で保険認可されている薬剤としてラニビズマブ(ルセンティス)とアフリベルセプト(アイリーア)がある.以下,CNVに対するこのC2製剤の使い分けについて,両者の創薬デザイン上の違いを交えて筆者らの施設における考え方を述べる.抗VEGF製剤の創薬デザインラニビズマブとアフリベルセプトは同じ抗CVEGF製剤ではあるが,創薬デザインが異なる.ラニビズマブはヒト化モノクローナル抗体CFab断片で,抗原と結合するCFab領域のみとなっており,さらにCVEGFとの結合親和性を増強して製品化されている.一方,アフリベルセプトはCVEGF受容体(VEGFR)融合蛋白である.VEGFR-1とCVEGFR-2の細胞外ドメインをヒトCIgGのFc領域に融合させていることが特性で,このためVEGF-Aのほかにも,VEGF-BやCPlGF(胎盤成長因子)を阻害する1).滲出型AMDに伴うCNV滲出型CAMDに伴うCCNVに対する治療においてはVEGF-AがCCNV発症に中心的役割を演じる分子であることから,VEGF-Aを強力に抑制することが必要となる.アフリベルセプトはラニビズマブと比較してVEGF-Aに対しより高い親和性を有すること1),VEGF-AのほかにCPlGFやCVEGF-Bを含めCVEGFR-1とCVEGFR-2に結合する蛋白質すべてを阻害することができることから,より効果的なCCNV抑制効果が期待される.一方,VEGFファミリー分子は多様な生理活性を有する分子でもあるため,長期にわたる強力な(93)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYVEGF抑制に伴う全身合併症が危惧されているが,近年アフリベルセプト硝子体内注射による血管イベントリスクは非投与群とほぼ同等であるとの報告もなされており2),まだ議論の分かれるところである.これらの報告をふまえて,筆者らの施設では視力良好例の典型CAMDに対してはアフリベルセプトを第一選択としている(図1).また,治療開始前矯正視力がC0.7以下のC1型CCNV患者やポリープ状脈絡膜血管症,網膜血管腫状増殖,そしてアフリベルセプト硝子体内注射に反応性が乏しい患者に対しては,光線力学的療法(photo-dynamictherapy:PDT)およびトリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射(sub-TenonC’sCtriamcino-loneacetonideinjection:STTA)を併用するCPDTトリプル療法を積極的に行っている.近視性CNV,続発性CNV近視性CCNVやぶどう膜炎などに伴うCCNVは,一般的に滲出型CAMDに伴うCCNVほど活動性が高くないと考えられ,CNVを退縮させることを治療の第一目標としつつも,抗CVEGF製剤の長期投与による網脈絡膜萎縮にも注意する必要がある.実際,筆者らも以前近視性CNVに対してラニビズマブをC3回連続投与後,CNVの退縮が得られたものの,網脈絡膜萎縮により最終的に視力不良になった症例を経験している(図2).そのため,近視性CCNVで活動性があまり高くない症例に対してはラニビズマブ硝子体内注射とCSTTAの併用を第一選択とし,まずC1回投与してその後注意深く経過観察しつつ,必要に応じて再投与を検討することにしている.一方,ぶどう膜炎などに伴うCCNVについては保険適用の問題もあり,治療には苦慮しているのが現状である.おわりに実際の臨床では,ノンレスポンダーの存在や抗VEGF製剤の長期投与に伴うタキフィラキシーにより,他の抗CVEGF製剤への切り替えを行わざるをえないこあたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1569治療前治療後図1TypeIICNVにアフリベルセプト硝子体内注射を施行した著効例アフリベルセプト硝子体内注射後にCCNVは退縮し,治療前C0.4であった矯正視力も0.8まで改善した.治療後C15カ月経過してもCCNVの再発を認めていない.OCT画像は水平断.治療前治療後図2強度近視に伴うCNVに対してラニビズマブ硝子体内注射を繰り返した1例すでに治療前から広範囲に網脈絡膜萎縮を認めていた.ラニビズマブ硝子体内注射を繰り返した結果,CNVの退縮が得られて矯正視力もC0.7まで一時改善したものの,網脈絡膜萎縮が拡大したため視力はC0.02と低下した.OCT画像はそれぞれ水平断(上)と垂直断(下).ともしばしばあり,抗CVEGF製剤への反応を注意深く観察しつつ,柔軟に使用することが必要である.さらに最近,滲出型CAMDに伴うCCNVに対してCtreat-and-extendregimenで硝子体内注射を行った場合は,アフリベルセプトとラニビズマブがほぼ同様の注射回数で同等の視力維持効果が得られたとする報告がなされており3),今後は両者の使い分けはさらに変わっていく可能性がある.文献1)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetal:BindingCandC1570あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019neutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.CAngiogenesisC15:171-185,C20122)KitchensCJW,CDoCDV,CBoyerCDSCetal:ComprehensiveCreviewofocularandsystemicsafetyeventswithintravit-realCa.iberceptCinjectionCinCrandomizedCcontrolledCtrials.COphthalmologyC123:1511-1520,C20163)GilliesCMC,CHunyorCAP,CArnoldCJJCetal:E.ectCofCranibi-zumabCandCa.iberceptConCbest-correctedCvisualCacuityCinCtreat-and-extendCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:Arandomizedclinicaltrial.JAMAOphthal-mol24:2019.[Epubaheadofprint](94)

緑内障:酸化ストレスと緑内障:治療への応用は可能か

2019年12月31日 火曜日

●連載234監修=山本哲也福地健郎234.酸化ストレスと緑内障:治療への谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座応用は可能か種々の基礎・臨床研究から,緑内障でみられる眼圧上昇や網膜神経節細胞死に酸化ストレスが関与する可能性が指摘されている.現時点で抗酸化ストレス治療(フラボノイド,テルペノイド,抗酸化ビタミンなど)が緑内障の治療となるかどうかについて,エビデンスは十分でない.一方で抗酸化ストレス治療が緑内障の病態を修飾できることの理論的背景はそろっており,臨床研究の進展が望まれる.●緑内障と酸化ストレス酸化ストレスは「生体内の高分子(脂質,蛋白質,核酸)が,酸化還元反応(電子引き抜き)により修飾を受け,その機能が変化すること」1)ととらえることができる.緑内障(とくに開放隅角緑内障)でみられる眼圧上昇に,加齢やその他の要因による前房水の酸化・抗酸化のバランス変化と線維柱帯・Schlemm管の酸化ストレスが関与する可能性がある(図1)2).また,網膜内や篩状板部における酸化ストレスが網膜神経節細胞死に関係する可能性もある(図2).全身的な酸化反応の亢進や抗酸化能の低下が緑内障に関与する可能性が指摘されている3,4).また,緑内障リスク遺伝子のスコア上昇とともに全身抗酸化能が低下することも報告されている5).C●緑内障に対する抗酸化ストレス成分の摂取抗酸化ストレスが期待される成分として,ポリフェノールに分類されるフラボノイド(カテキン,アントシアニン,プロアントシアニジンなど),テルペノイドに分類されるカロテノイド(ルテインなど),抗酸化ビタミン類(ビタミンCA,C,Eなど),抗酸化酵素の補因子として働くミネラル類(銅,亜鉛,マンガンなど)がある.横断的研究で,とくに女性ではビタミンCAあるいはCCを含むフルーツや野菜の摂取が多いほど緑内障の有病率が低いことや,前向きコホート研究で緑黄色野菜の摂取が多いほど緑内障の発症は少ないことなどが報告されている6).抗酸化ビタミンやカロテノイドを含むフルーツや野菜のバランスのよい摂取には,必ずしも抗酸化ストレス効果によるとは限らないが,緑内障の発症・進行を予防する効果があるのかもしれない.表1に,これまで緑内障あるいは高眼圧症に対して効果が検討された抗酸化成分をまとめる.緑内障患者で,種々のフラボノイドとテルペノイドを含むイチョウ葉エキス,抗酸化ビタミン,カテキンなどの内服(~12カ(91)月)により,視野感度の上昇,組織血流の増加,網膜電図の振幅変化などの効果が報告されている.また,高眼圧症患者で,プロアントシアニジンを含む松樹皮エキスとアントシアニンを含むビルベリーエキスの内服(~6カ月)により,組織血流の増加,眼圧下降効果,血中酸化物の低下といった効果が報告されている.ラタノプロストやドルゾラミド・チモロール合剤の眼圧下降効果が松樹皮エキス・ビルベリーエキス内服併用で増強される可能性も報告されている.しかし,薬剤の使用で眼圧下降が得られている原発開放隅角緑内障に対して,ビタミンCC・E,銅,亜鉛,マンガン,ルテイン,n-3系脂肪酸の内服をC2年間行った研究では,内服の有無で視野感度や乳頭周囲網膜神経線維層厚・黄斑内層厚に有為な差を認めなかった.現時点で,抗酸化ストレス治療が緑内障の治療となるかどうかについて十分に説得力のあるエビデンスはないのが現状である.眼圧下降治療という強力なエビデンスのある治療をしない状況で,抗酸化ストレス治療の効果を検討することは倫理的に困難であり,そのことも抗酸化ストレス治療のエビデンスを創出するむずかしさの一因となっている.抗酸化治療により緑内障の病態を修飾できることの理論的背景は十分あるため,今後の臨床研究の進展が望まれる.文献1)谷戸正樹:眼と酸化ストレス;光ストレスを中心に.Phar-maMedicaC26:19-23,C20082)IzzottiCA,CLongobardiCM,CCartigliaCCCetal:MitochondrialCdamageinthetrabecularmeshworkoccursonlyinprima-ryCopen-angleCglaucomaCandCinCpseudoexfoliativeCglauco-ma.PLoSOneC6:e14567,C20113)TanitoCM,CKaidzuCS,CTakaiCYCetal:CorrelationCbetweenCsystemicCoxidativeCstressCandCintraocularCpressureClevel.CPLoSOneC10:e0133582,C20154)UmenoA,TanitoM,KaidzuSetal:Comprehensivemea-surementsCofChydroxylinoleateCandChydroxyarachidonateあたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C15670910-1810/19/\100/頁/JCOPY加齢・遺伝要因全身酸化ストレス抗酸化能↓酸化物↑図2酸化ストレスによる視神経・網膜障害の機構篩状板部,網膜における酸化ストレスが,緑内障にみられる神経障害の成因にかかわる.(文献C7より改変引用)表1緑内障,高眼圧症に対する抗酸化サプリメントの臨床試験病型試験薬効果文献正常眼圧緑内障イチョウ葉エキス内服C120mg/日,4週視野感度の上昇CQuarantaLetal2003緑内障ビタミンCE内服C300またはC600mg/日,12カ月眼動脈血流の上昇,後毛様動脈血流の上昇,視野感度低下の抑制CEnginKNetal2007高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,6カ月眼圧下降,眼動脈血流の上昇,網膜中心動脈血流の上昇,短後毛様動脈血流の上昇CSteigerwaltRDetal2008高眼圧症,開放隅角緑内障epigallocatechin-gallate(EGCG)内服200mg/日,3カ月OAGで,パターン網膜電図による網膜内層機能の上昇CFalsiniBetal2009高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,1C6週単独で眼圧下降,併用でラタノプロストの眼圧下降の増強CSteigerwaltRDetal2010正常眼圧緑内障イチョウ葉エキス内服C160mg/日,4週乳頭周囲血流の増加CParkJWetal2011高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,1C2週併用でラタノプロスト,ドルゾラミド+チモロールの眼圧下降の増強,血中酸化物の低下CGizziCetal2017眼圧下降良好な原発開放隅角緑内障ビタミンC・E,銅,亜鉛,マンガン,ルテイン,n-3系脂肪酸内服,2年間視野感度・乳頭周囲網膜神経線維層厚・黄斑内層厚に対照群と差なしCGarcia-MedinaJJetal2015開放隅角緑内障抗酸化サプリメント(ビタミン・イチョウ葉エキス・フルーツエキス他),4週球後・眼底血流の増加CHarrisAetal2018isomersCinCbloodCsamplesCfromCprimaryCopen-angleCglau-comapatientsandcontrols.SciRepC9:2171,C20195)Zanon-MorenoV,Ortega-AzorinC,Asensio-MarquezEMetal:Amulti-locusgeneticriskscoreforprimaryopen-angleglaucoma(POAG)variantsisassociatedwithPOAGriskCinCaCMediterraneanpopulation:InverseCcorrelationsCwithplasmavitaminCandEconcentrations.IntJMolSciC1568あたらしい眼科Vol.36,No.12,201918:E2302,C20176)AlOwaifeerAM,AlTaisanAA:Theroleofdietinglau-coma:ACreviewCofCtheCcurrentCevidence.COphthalmolCTherC7:19-31,C20187)谷戸正樹:III開放隅角緑内障のリスクファクターE酸化ストレス.AllAbout開放隅角緑内障(山本哲也,谷原秀信編),医学書院,p121-131,C2013(92)

屈折矯正手術:円錐角膜の新しい指標(Belin円錐新分類)

2019年12月31日 火曜日

監修=木下茂●連載235大橋裕一坪田一男235.円錐角膜の新しい指標(Belin円錐新分類)中山智佳バプテスト眼科クリニック円錐角膜の進行判定や,円錐角膜の進行予防目的に施行する角膜クロスリンキングの術後治療効果判定には,総合的な評価が必要であり,臨床現場での正確な判断がむずかしい場合がある.前眼部解析装置CPentacam(Oculus社)に搭載されているCBelinABCD進行判定ソフトは角膜の最薄部を測定することができ,円錐角膜についてより正確な判断が可能である.円錐角膜は,角膜中央部が菲薄化し,その部分が前方突出することで強度の近視と不正乱視を生じる非炎症性,進行性の疾患である.思春期頃に発症し,30歳頃に進行停止することが多い.重症度によって治療方法や予後が大きく異なる.ごく軽症で調節力が十分ある若年者では裸眼視力が良好なことがあり,この場合は基本的には眼鏡やハードコンタクトレンズ装用による矯正で十分に視機能改善することが多い.しかし,円錐角膜が進行し急性水腫を生じた場合や,角膜混濁が強い重症例では,角膜移植が必要になることもある1).また,10代後半から急速に進行する場合があり,2年間の経過で角膜屈折力の急峻化,近視屈折度数,乱視屈折度数がC1D増加するような場合は,筆者らの施設では最近では進行予図1Pentacam(Oculus社)Pentacamで測定し,BelinABCDProgressionDisplayモードを選択すると,自動的にスコア換算してくれる.防目的に角膜クロスリンキング治療が行われている2).このため,円錐角膜が進行しているかどうか,つまり角膜クロスリンキング治療の適応になるかどうかと,角膜クロスリンキング治療後は効果判定,つまり角膜クロスリンキング治療が有効であったかどうかの判定が非常に大切となる.円錐角膜重症度判定としては,古くからAmsler-Krumeich分類が広く知られているが,乱視,近視度数,角膜屈折力,角膜厚,角膜混濁などを総合的に評価しなければならず,臨床現場では使用しにくく,進行判定,重症度判定が困難であることが多い.今回,Pentacam(Oculus社,図1)にCBelinCABCD進行判定ソフトが搭載された.本ソフトはC4項目の評価項目(A:最薄部角膜C3Cmm径の前面角膜曲率半径,B:最薄部角膜C3Cmm径の後面角膜曲率半径,C:最薄部角膜厚,D:矯正ClogMAR視力)を重症度スコアに自動換算し,時系列に比較することができる.A,B,Cを測表1Belin円錐新分類ABCD分類CACBCCCDCARC(3CmmZone)CPRC(3CmmZone)CThinnestPachμmCBDVACScarringCSTAGE0>7C.25Cmm(<C46.5D)>5C.90Cmm>4C90Cμm=20/20(=1.0)-STAGEI>7C.05Cmm(<C48.0D)>5C.70Cmm>4C50Cμm<2C0/20(<1C.0)-,+,++STAGEII>6C.35Cmm(<C53.0D)>5C.15Cmm>4C00Cμm<2C0/40(<0C.5)-,+,++STAGEIII>6C.15Cmm(<C55.0D)>4C.95Cmm>3C00Cμm<2C0/100(<0C.2)-,+,++STAGEIV<6C.15Cmm(>C55.0D)<4C.95CmmC≦300Cμm<2C0/400(<0C.05)-,+,++自動換算してくれるので,Amsler-Krumeich分類よりも利便性が高い.また,最薄部を測定するため,病変をより正確にとらえていると考えられる.(89)あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C15650910-1810/19/\100/頁/JCOPY図2円錐角膜症例の角膜形状解析(TMSR:Tomey)a:角膜クロスリンキング術前.b:角膜クロスリンキング術後C1年.角膜形状解析検査では,術前と術後C1年を比較して角膜屈折力は変化しておらず,進行予防できていると考える.図3BelinABCDProgressionDisplayモードABCDの評価項目ごとにスコアを自動換算しグラフ化して表示してくれる.Dは手入力する.BE(baselineexam,肌色の棒)が角膜クロスリンキング術前の角膜の状態である.角膜クロスリンキング術後C1年(黄色の棒)では,A(前面角膜曲率半径のスコア)は低下している.C(角膜厚のスコア)は増加しており,角膜厚は薄くなっていることがわかる.定し,自動的に重症度スコアに換算し,それらを時系列に棒グラフで表示するので,視覚的にとらえることが可能である.また,正常眼,円錐角膜眼のそれぞれC80%信頼区間,95%信頼区間の線が表示され,進行しているかどうかを参照することができる.角膜後面の形状まで測定することができ,かつもっとも薄い部分での前面角膜曲率半径,後面角膜曲率半径,角膜厚を測定する.円錐角膜は中心部ばかりが菲薄化しているわけではなく,類縁疾患であるペルーシド角膜変性症のように下方突出が多いため,最薄部の計測をすることは理に適っていると考える.そのため,Belin円錐新分類はより正確な分析が可能であるとされている3).円錐角膜眼のC95%信頼区間を超えてCAスコアが増加しているものは,円錐角膜が進行していると判定することができる.また,角膜クロスリンキング治療後は,角膜前面角膜曲率半径が大きくなり,平坦化するが,角膜厚は薄くなるという変化をするため,Aスコアは減少,Cスコアは増加するという変化が認められ,BelinCABCDProgressionCDisplayでCABCDそれぞれの変化をみて,角膜クロスリンキング治療効果を判定することができると考えている(図2,3).文献1)GomesCJAP,CTanCD,CRapuanoCCJCetal:GlobalCconcensusConkeratoconusandectaticdiseases.CorneaC34:359-369,C20152)木下茂,稗田牧:角膜疾患外来でこう診てこう治せ.改訂第C2版,メジカルビュー社,p182-189,p224-225,C20153)BelinCMW,CDuncanJK:Keratoconus:TheCABCDCGrad-ingSystem.KlinMonblAugenheilkd233:701-707,C20161566あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019(90)

眼内レンズ:水素による術中角膜内皮障害の予防

2019年12月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋五十嵐勉397.水素による術中角膜内皮障害の予防日本医科大学眼科学教室白内障手術は手術機器の発展に伴い,安全性の高い手術となってきているが,それでも角膜内皮障害による水疱性角膜症は今もって大きな問題である.筆者らはさらなる手術の安全性を求めて,水素ガスを用いた新しい超音波乳化吸引術を考案したので紹介する.●白内障手術と角膜内皮障害白内障手術は超音波乳化吸引術(phacoemulsi.cationCandaspiration:PEA)の発明により,安全性の高い手術となってきた.しかし,角膜内皮障害による水疱性角膜症は視機能低下をもたらし,2007年に報告された全国調査では,日本における角膜移植原因の第C1位と全体の半数弱を示しており,非常に大きな問題となっている1).通常,角膜内皮は再生せず,角膜内皮細胞数が400~700個/mmC2以下になると水疱性角膜症となる.PEAによる角膜内皮障害の原因としては,さまざまな因子があるが,PEAにおける角膜内皮障害の要因を解析した報告によると,超音波エネルギーが最大の要因であった2).超音波エネルギーで問題となるのは,フリーラジカルの発生である.以前,筆者らは,模擬眼を使って臨床的なCPEAシミュレーションを行い,電子スピン共鳴法で前房水中にフリーラジカル,すなわちヒドロキシルラジカルが発生していることをつきとめた.次にヒアルロン酸ナトリウム製剤の影響を検討したところ,ヒドロキシルラジカルの低下を認めた.ヒアルロン酸ナトリウム製剤はフリーラジカルを防ぎ非常に効果的であるが,時間とともに消失し,長時間の手術ではフリーラジカルの危険性が上がることもわかっている.続いて筆者らは,家兎眼の前房内で超音波発振を行い検討した.角膜内皮細胞にCDNA酸化ストレスマーカーである8-OHdGが生じ,TUNEL法でアポトーシスが生じることを報告した.さらに,この酸化ストレスはアスコルビン酸を添加すると消失するため,PEAにおける角膜内皮障害因子として,フリーラジカルは重要であると考えられた.超音波エネルギーは水中でキャビテーションを引き起こし,水分子を分解してヒドロキシルラジカルを産生する.この現象がCPEAでも起こっているということである.●水素の臨床への応用現在,水素の臨床応用に向けた研究が数多くあるが,初めて成果をあげたのは虚血再灌流障害に用いた研究である.虚血により低酸素,低栄養素状態に至った組織において,血流が再疎通すると多量の活性酸素種/ラジカルが発生する.この際生じるヒドロキシルラジカルが細胞死を誘導する中心的な役割を担っている.共同研究者の大澤らは,虚血再灌流障害モデルであるラット大脳動脈閉塞モデルを用い,麻酔ガスに水素ガスを混合して吸引させた.脳の病理切片において,水素ガスの吸引により梗塞体積が顕著に減少しており,水素の抗酸化ストレス作用により虚血再灌流障害で生じるヒドロキシルラジカルをトラップし,無毒化することで効果を発揮したと考えられる3).同様に筆者らは眼科分野の虚血再灌流障害モデルであるラット一過性高眼圧緑内障モデルに対し,水素点眼の効用を検討した.水素点眼により虚血再灌流直後の網膜におけるヒドロキシルラジカルの増大を抑制し,網膜神経節細胞のアポトーシスと網膜内層の退縮を抑制した.現在筆者らは,日本医科大学臨床研究審査委員会の許可を得て,網膜動脈閉塞症の患者に対する水素を用いた臨床研究を行っている.C●水素と白内障手術水素がヒドロキシルラジカルの抑制を可能とするため,PEAにおいて発生するヒドロキシルラジカルに対しても効果が期待できるのではないかと考えた.水素ガスを溶解させた眼内灌流液内でCPEAをかけた群では,有意にラジカルの発生が低下していた4).続いて白色家兎前房内に超音波チップを挿入し,臨床的条件下で超音波発振を行った.術後,通常の眼内灌流液では中心部に角膜浮腫を認めたが,水素含有眼内灌流液を使用するとほとんど角膜浮腫を認めなかった.実体顕微鏡による観察では,通常の眼内灌流液を使用した眼で角膜混濁がみ(87)あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C15630910-1810/19/\100/頁/JCOPYH2(-)(+)*H2(-)4-HNE(+)NS

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用時の眼不快感

2019年12月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一62.コンタクトレンズ装用時の眼不快感高静花大阪大学大学院医学系研究科●はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者のC50%がコンタクトレンズ装用時の眼不快感(contactClensCdiscom-fort:CLD)を訴えることが知られている1).国内においてもC80%以上のCSCL装用者が乾燥感を訴えることが10年以上前に報告されているが2),これまで日本においてCCLDを評価する問診票はなかった.C●J.CLDEQ.8筆者らは,CLDの評価として妥当性が証明されているコンタクトレンズドライアイ問診票(ContactCLensDryCEyeCQuestionnaire-8:CLDEQ-8)3.4)の日本語版J-CLDEQ-8を開発した5)(図1).CLDEQ-8は簡単なC8項目の質問〔眼の不快感の頻度と程度,眼の乾燥感の頻度と程度,見え方の揺らぎの頻度と程度,症状が出た際の対処行動(眼を閉じる,レンズをはずす)の頻度〕からなる.選択肢の中から回答させ,各スコアの合計(1~37点)を算出する.C●日本人SCL装用者では「乾燥感」がキーワードJ-CLDEQ-8の妥当性を検討するために,国内C5施設において日本人CSCL装用者C300人を対象にCJ-CLD-EQ-8問診を行い,そのスコアと,現在使用中のCSCLに対する満足度,「目の敏感度」「目の乾燥度」との相関を調べた.その結果,J-CLDEQ-8のカットオフ値を11とすればCSCLに対する満足度の高さを区別することが可能であった5)(オリジナルのCCLDEQ-8を用いた検討によるカットオフ値はC12)4).J-CLDEQ-8スコアと「目の乾燥度」には強い相関がみられたのに対し,「目の敏感度」とは相関しなかった5).米国で行われた既報ではCCLDEQ-8スコアは「目の敏感度」「目の乾燥度」ともに強い相関がみられており4),この相違は興味深い.「皮膚が敏感である」という表現は一般的に用いられる日本語表現であるが,「目が敏感である」という日本語表現は目の症状を表しにくいと考えられた.一方,日本人CSCL装用者では「目の乾燥」症状は頻度が高く,また自覚症状として認識されやすいと考えられた.(85)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY視覚先端医学講座CL装用に関する「乾燥感」とその症状の調査を行った既報によれば2),「乾燥感」として認識されている表現はC120種類にも及ぶ.なかでもCSCL装用者においては,「見えにくい」という症状が「乾燥感」としてもっとも高く認識されている症状であり,乾燥により光学的特性の低下がもたらされたと考えられる.ただし,「乾燥感」という愁訴が特定の共通した感覚をさすものではなく,実際にはさまざまなものを含み,本来の意味を超えて使用されている可能性も指摘されている.SCL装用における「見えにくい」が他の原因によるものでないかどうかの確認は重要である.C●おわりにJ-CLDEQ-8は英語の原版CCLDEQ-8と同様に,SCLに対する満足度の高さを区別することが可能で,今後コンタクトレンズの日常診療や研究において有用であると期待される.また,CLDの特徴が日米で異なることは興味深い.文献1)FoulksCG,CChalmersCR,CKeirCNCetal:TheCTFOSCInterna-tionalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:reportCofCtheCsubcommitteeConCclinicalCtrialCdesignCandCoutcomes,CInvest.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS157-183,C20132)濱野孝,光永サチ子,小谷摂子ほか:コンタクトレンズ装用に起因する「乾燥感」とその症状の調査.眼科C49:C183-190,C20073)ChalmersCRL,CBegleyCCG,CMoodyCKCetal:ContactCLensCDryCEyeCQuestionnaire-8CandCoverallCopinionCofCcontactClenses.OptomVisSci89:1435-1442,C20124)ChalmersCRL,CKeayCL,CHickson-CurranCSBCetal:Cuto.Cscoreandresponsivenessofthe8-itemContactLensDryEyeCQuestionnaire(CLDEQ-8)inCaClargeCdailyCdisposableCcontactClensCregistry.CContCLensCAnteriorCEyeC39:342-352,C20165)KohS,ChalmersR,KabataDetal:Translationandvali-dationofthe8-itemContactLensDryEyeQuestionnaire(CLDEQ-8)amongCJapaneseCsoftCcontactClenswearers:CTheCJ-CLDEQ-8.CContCLensCAnteriorCEyeC42:533-539,C2019あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1561Copyrightc2018Koh&Chalmers.AllRightsReserved.図1J.CLDEQ.81562あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019CPAS124

写真:結膜嚢円蓋部アポクリン嚢胞腺腫(汗腺嚢腫)

2019年12月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦427.結膜.円蓋部アポクリン.胞腺腫福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科(汗腺.腫)視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ図1アポクリン.胞腺腫の前眼部写真(左眼)下眼瞼結膜.部に漿液を含む腫瘤を認める.図3アポクリン.胞腺腫の病理組織画像多房性の小.胞が形成され,.胞内面は乳頭状の発育をした数層の立方体上皮で覆われている.図4図3の拡大図.胞内腔への断頭分泌(→)が認められる.(83)あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C15590910-1810/19/\100/頁/JCOPY結膜にみられる.胞性の疾患には,皮様.胞,類上皮.胞のほか,結膜.胞(リンパ.胞,封入.胞,貯留.胞)などが臨床上多く認められる.いずれも無症候性にみつかることもあるが,.胞による異所性涙液メニスカスや瞬目による摩擦の増加により,涙流や異物感を訴えて受診する患者もいる.アポクリン腺は汗腺の一種であり,ヒトではおもに腋窩に多く分布し,外耳道,鼻翼などにも存在し,毛包上部に開口する.眼科領域では睫毛部の睫毛汗腺(Moll腺)がアポクリン汗腺である.アポクリン腺は,分泌細胞の管腔面の細胞質が管腔内に突出し,その頸部が離断されて,突出部が管腔内に分泌される断頭分泌とよばれる形式をとる.症例はC75歳,男性,両眼の異物感,涙流を主訴に近医を受診した.アレルギー性結膜炎の診断で抗菌薬と低濃度ステロイド点眼を処方されたが,腫瘤は改善せず,当院を紹介受診した.初診時より両眼下眼瞼結膜.円蓋部全体に漿液成分を含むと思われる腫瘤を認めた(図1,2).同日左眼の腫瘤の生検を行い,病理組織よりアポクリン.胞腺腫と診断された(図3,4).腺腫自体は良性腫瘤であり,経過観察中である.病理所見として,「上皮下間質には多房性の小.胞が形成され,.胞内面は数層の立方体上皮で覆われている..胞内腔への乳頭状の発育もあり,断頭分泌が認められる.悪性所見は認められない」と報告された.アポクリン.胞腺腫は眼瞼と結膜に発生することがあるが,非常にまれである.これまでにわが国では眼瞼結膜に発生したC1例1),海外からは内眼角部に生じたC1例2),耳側眼球結膜生じたC3例の報告がある3,4).アポクリン.胞腺腫は,肌色から灰色,青黒い色までさまざまな色調を呈するとされる.青灰色調はリポフスチンを多く含み,チンダル現象(分散した微粒子中を光が通過する際,光の散乱により光路が見える現象)が引き起こされるためである.悪性化することはまれであり,治療は外科的切除のみである.鑑別疾患としては,エクリン汗.腫,結膜封入.胞や類表皮.胞などがあげられるが,病理所見で除外可能である文献1)千葉可芽里,向井田泰子,小野貞英ほか:眼瞼結膜下に生じた汗腺.腫のC1例.臨眼52:1059-1061,C19982)SuimonCY,CKaseCS,CIshijimaCKCetal:ClinicopathologicalCfeaturesCofCcysticClesionsCinCtheCeyelid.CBiomedCreportsC10:92-96,C20193)KimB,KangNY:Apocrinehidrocystomaoftheconjunc-tiva.IntJOphthalmolC5:247-248,C20124)ChinCK,CFinger,CPT,CIacob,C:High-frequencyCultrasoundCimagingCofCperiocularChidrocystomas.COptometryC74:760-764,C2003C

眼科の先達に学ぶ 3.岩田 和雄 先生

2019年12月31日 火曜日

【略歴】1927年10月30日新潟県三条市に生まれる1952年3月前橋医科大学を卒業1953年5月新潟大学医学部眼科に入局1961年8月AlexandervonHumboldt奨学生としてBonn大学に留学1964年6月新潟大学医学部眼科助教授1972年6月新潟大学医学部眼科教授1993年3月新潟大学を定年退官,名誉教授2018年12月7日逝去【ライフワーク】緑内障病態の解明に関する研究,診断,治療に関する研究【趣味】随筆,クラッシック音楽,山登り,シャクナゲ,マイクロ手術【主な学会講演】1973年5月,第77回日本眼科学会総会,宿題報告「公害と眼:新潟水俣病と眼」1)1978年,The11th.RochesterInternationalConferenceonEnvironmentalToxicity,招待講演“Neurotoxicityofthevisualsystem”1984年9月,第38回日本臨床眼科学会総会,特別講演2)「原発開放隅角緑内障の初期病態」1992年5月,第96回日本眼科学会総会・特別講演「低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構」3)(図1)1992年10月,第3回日本緑内障学会,須田記念講演「低眼圧緑内障の病理」4)1999年10月,第2回アジア・オセアニア緑内障学会・特別講演「緑内障における視神経障害機構」2018年9月,第29回日本緑内障学会,LegendaryLecture「正常眼圧緑内障─裸身への誘い」(図2)【学会の名誉会員】日本眼科学会,日本緑内障学会,日本眼光学学会,日本眼感染症学会,日本神経眼科学会,(71)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY岩田和雄先生【受賞歴】1985年新潟日報文化賞1992年緑内障須田記念メダル1993年環境保全功労賞(環境庁長官)1998年日本眼科学会賞2003年日本眼科学会特別貢献賞2004年日本神経眼科学会石川メダル2007年日本眼科学会評議員会賞【叙勲】2010年瑞宝中綬章(図3)【その他】1968年,日本最初の緑内障教科書『緑内障』を出版(金原出版)(図4)1975年3月,米国雑誌“Glaucoma”編集委員1975年10月,InternationalGlaucomaCommitteeメンバー図1日本眼科学会賞のメダルと賞状第96回日本眼科学会総会・特別講演「低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構」の際に贈られたもの(1998年5月).図2第29回日本緑内障学会LegendaryLectureでの岩田先生「正常眼圧緑内障─裸身への誘い」が,先生の生涯最後のご講演となった(2018年9月15日).岩田和雄先生の業績と教え,緑内障学への貢献福地健郎(新潟大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野)私の恩師である岩田和雄先生は昨年(2018年)12月7日に満91歳でお亡くなりになられた.同年9月に新潟で行われた第29回日本緑内障学会に元気なお姿で出席され,LegendaryLectureではまさに日本の緑内障の歴史に残る名講演をされた(図2)わずか3カ月後のことであった.今回,木下茂京都府立医科大学教授から,「眼科の図3瑞宝中綬章受章(2010年)図4三国政吉教授と共著で出版されたわが国初の緑内障教科書(1968年)先達に学ぶ」の第3回として岩田和雄先生について取り上げたいので,ぜひ原稿を書いてほしいとのご依頼をいただいた.大変に光栄なことではあるが,正直,私では役不足は否めない.岩田先生の教授としての在任期間21年のうち,私が直接にご指導いただくことのできたのはわずか7年間でしかない.とはいえ,1992年の第96回日本眼科学会総会における特別講演は岩田先生と新潟大学眼科の歴史における一つの頂点であり,阿部春樹先生(現新潟大学名誉教授),澤口昭一先生(故人,前琉球大学教授)などの大先輩とともに,その頂点に向かうメンバーの一員に加えていただくことができたのは,私の幸運であり,まさしく原点であったと思う.今回は岩田先生の業績を大局的に振り返るのではなく,私の眼科医,緑内障専門医の原点という視点から,岩田先生の緑内障学と,その功績について述べてみたいと思う.■当時の日本の眼科と緑内障■私は1985年5月に新潟大学眼科に入局した.当時,日本国内ではようやく眼内レンズが標準治療としてひろまりつつあった時代.緑内障はまだGoldmann視野計が主体で静的視野計への移行が秒読みに入った頃,点眼薬はbブロッカーが標準になったばかりであり,レクトミーは5-FUやマイトマイシンC(MMC)といった代謝拮抗薬を用いる以前であった.すでに30数年が経過した今,当時を振り返えると,岩田先生は緑内障の変革期を迎えようとしていた時代にさまざまな最先端を試行錯誤されていた.自己の経験に基づいた,時代を先取りした主張は,当時はなかなか受け入れられなかったが,今となってはその多くが緑内障のごく一般的な常識になっている.岩田先生は,常々「私は時代に投げる,後に続く君たちが考えてくれれば良い」といっておられた.日本の緑内障を牽引したパイオニアのひとりとしての気概だったと思う.1.機械説と血管説岩田先生といえば「機械説」,というのが皆様の共通の認識だと思う.私が眼科に入局した1985年当時,先輩である澤口先生は新潟大学脳研究所で眼圧上昇と軸索輸送障害の研究をされておられた.同年の秋には第39回日本臨床眼科学会が新潟市で行われ,Radius教授(米国,Wisconsin医科大学)が軸索輸送障害と機械説のご講演を,一方でHayreh教授(米国,Iowa大学)が脈絡膜循環と血管説のご講演をされた.実は岩田先生も緑内障の視神経乳頭をフルオレスセイン血管造影(FA)で長年にわたって乳頭の血流について研究されておられ,それ以前には自身も「血管説」であったと振り返っておられる.ご自身がみてきた緑内障性視神経症とそのFA所見,その経過はどうしても矛盾すると,自説の展開に悩まれていたそうである.そんな頃,眼圧上昇による篩状板の変形と軸索輸送障害,つまり「機械説」を知り,「ぴったりはまった」とその後におっしゃっておられた.以来,生涯にわたって機械説の立場から緑内障と緑内障研究を見続けて来られたのは皆様もご存知の通りである.2.目標眼圧の概念緑内障は病期の進行に伴って治療目標とするべき眼圧は下がっていく.第96回日本眼科学会総会における特別講演「低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構」の日本の緑内障に残した功績は大きい3).それまでの緑内障治療は正常眼圧域への眼圧コントロールが一般的であった.しかし,病期が進行した場合にはそれでは不十分であり,さらに低い眼圧,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)では最終的にlowteens以下に低下させる必要性について説いた.実はすでに当時の多くの先生方が臨床の場で漠然と同様な意見をもっていたようで,これが「目標眼圧」という概念として明示されたことのインパクトは大きかった.ベースとなった長期経過に関するスタディは,POAGが主体のおもにGoldmann視野計による視野進行判定で,現在の自動視野計を用いた進行速度評価のそれとはやや異なる.その後に,目標眼圧とその概念,緑内障臨床における意義について数多くの研究と議論が行われることになり,結果として日本の緑内障の発展に大きく寄与したことは間違いがない.3.緑内障の視神経乳頭を見る,記録するa.視神経乳頭観察へのこだわり現在は緑内障診療に光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)がごく一般的に用いられている.当時の臨床の場における緑内障の眼底評価の唯一の方法は視神経乳頭の撮影と観察であった.岩田先生は眼底所見,とくに乳頭陥凹と神経線維層欠損(nerve.berlayerdefect:NFLD),さらに視野との関連について,図5岩田先生の海外のたくさんの先生方との交流a:ドイツ留学中の恩師,ErichWeigelin教授(ドイツ・Bonn大学,1978年)b:緑内障のNFLDを報告したWilliamFHoyt教授(米国・California大学,1979年)c:緑内障の乳頭出血で有名なStephenMDrance教授(カナダ・BritishColombia大学,1985年)d:緑内障画像解析の第一人者,BernardSchwartz教授(米国・Tafts大学,1989年)e:眼病理学のMarkTso教授(米国・Illinois大学,1989年)f:人工網膜で有名なEberhartZrenner教授(ドイツ・Tuebingen大学,2015年)国内でも先行して研究されていた第一人者であった5,6).とくに鮮明な立体写真による乳頭撮影を推奨され,岩田先生は自ら撮影した写真だけでなく,私たちが撮影したすべての乳頭写真をチェックされていた.とにかく視神経乳頭を見ることで,道具のなかった時代に,人は自分の能力を養う.岩田先生を含む当時の先輩方の乳頭観察の技術,能力に敬服するとともに,私自身が遠く及ばないことをまさに実感する.b.緑内障の眼底画像解析装置開発,黎明期乳頭所見の記録と量的解析のための画像解析装置の開発は,当時の緑内障研究を先取りするテーマの一つであった.私が入局した当時,岩田先生はStereochronosco-pyを開発し,難波克彦講師とともに乳頭陥凹の形態変化による緑内障の進行検出についての解析をされていた7).新潟での第39回日本臨床眼科学会でご講演されたSchwarz教授(米国・Tafts大学,図5e)はこの分野の世界的な第一人者で,岩田先生もご一緒され議論されておられた.図6aは国内のメーカーとともに立体写真を元に乳頭陥凹の形状や体積を量的に評価する方法で,岩田先生が開発にかかわった画像解析の先駆けとなった装置の一つである.4.正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)a.低眼圧緑内障(lowtensionglaucoma:LTG)はまれではない現在のNTGはかつてLTGとよばれていた.当時,眼圧が高いのが緑内障であり,LTGはまれというのが一般の認識であった.正常眼圧の症例も引水試験などの負荷試験,夜間眼圧など日内変動を調べると高眼圧を生じていることがあるといわれていた.つまり緑内障の診療と研究はPOAGが中心であった.岩田先生は(さすがに多治見スタディのNTGが緑内障全体の70%とまでは考えておられなかったようだが),「LTGはまれではない,眼圧が正常範囲でも視神経乳頭陥凹拡大と神経線維欠損を見落とさないように」といっておられた.b.NTGでも眼圧下降,そして手術当科にはNTG眼の病理標本がある.岩田先生はその症例についてしばしばご講演のなかで提示されていたが,その電子顕微鏡写真は私が基礎研究の駆け出しの頃,澤口先生にご指導いただき撮影したものである(図6b).わずかに1例ではあるのだが,このNTG眼の視神経乳頭を組織学的に見るかぎり,その所見は高眼圧眼トラベクレクトミーを行った左眼:7.9±0.73(7-10)mmHgMDスロープ-0.26dB/年p=0.012図6岩田先生はまさに日本の緑内障のオピニオンリーダーであったa:視神経乳頭立体写真を用いて乳頭陥凹の形態,容積を計測する装置の解析画面,緑内障画像解析装置の先駆け.b:NTGの病理所見は高眼圧緑内障の所見とほぼ同一であることを主張されていた.c:NTGでトラベクレクトミーが行われた症例の約10年の視野の経過,手術をした左眼は,点眼治療で経過観察された右眼に対してはるかに進行は緩やかで,NTGでも積極的な眼圧下降治療が必要で有効なこと,最終的には手術治療が必要であることを1992年当時にすでに主張されていた.d:新潟大学では5-FU,MMCレクトミー以前に,ACSEBとよばれるチューブシャント手術が行われていた.のそれとほぼ共通であった.岩田先生はこの症例の所見も含めて,NTGもその基本は眼圧であり,眼圧下降を徹底することがNTGの治療の基本であると強調されていた.実際に教授退任前の数年間はNTG症例に対して積極的にMMCを導入したレクトミーを行っておられた.図6cは当時,岩田先生がレクトミーを行われた症例の両眼の経過である.実際にレクトミーを行われ眼圧7~8mmHgで経過した左眼の進行は緩やかで,元々は視野は良好であった右眼は点眼薬で治療され,わずか数年後には術眼を追い抜いている.c.NTG診断に頭蓋内疾患の除外は不要NTGは「視神経乳頭所見で診断する緑内障である」というのが現職当時からの岩田先生の確固たる主張であった.かつて,NTGの確定診断に「頭蓋内疾患の除外」が明記されていた.臨床研究にエントリーするすべてのNTG患者にCT検査がされていた施設もあったと聞いている.その一方で,新潟大学では,相当する疾患の合併が疑われる例,不規則な視野欠損の例などを除いて,ほとんどの緑内障患者に頭蓋内検査は行われることはなかった.その後に作成され,現在第4版を重ねている「緑内障診療ガイドライン」には「頭蓋内疾患の除外」は記載されていない.既成概念にとらわれずに,自分の臨床スタイルを主張できる先生であった.5.緑内障手術a.トラベクロトミーとトラベクレクトミー1985年当時の緑内障手術,トラベクレクトミーはまだ5-FUやMMCを併用する前で,強膜弁の角は緩く縫合し,術後には前房が消失し,一週程度経過するのが当たり前の時代であった.そのころ岩田先生はPOAGの多くの症例にトラベクロトミーを行われていた.その後,日本国内では緑内障(おもにPOAG)に対してロトミーか,レクトミーかという議論があった.天理よろず病院の永田誠先生はトラベクロトミーを推奨され「ロトミー派」,岩田先生は「レクトミー派」とされていた.岩田先生自身はロトミーを術式として否定していた訳ではなく,自身の手術成績から眼圧下降効果が「足りない」といっておられた.つまり自身はすでに目標眼圧の概念に基づいており,緑内障手術はlowteens以下を目指すべきである,だからレクトミーであった.図7教授時代に主催された雪明緑内障シンポジウムa:開講10周年記念の第1回雪明緑内障シンポジウム(1983年),湖崎弘先生,東郁郎教授(大阪医科大学),澤田淳教授(宮崎医科大学),阿部春樹先生,黒澤明充先生とともに.b:退官記念の第4回雪明緑内障シンポジウム(1993年)のプログラム.図8岩田和雄先生ご夫妻(2017年)b.チューブシャント手術(anteriorchambertubeshunttotheencirclingband:ACTSEB)1985年当時に新潟大学では日本国内で先行してチューブシャント手術が行われていた.ACTSEB(図6d)とよばれる術式である.網膜硝子体術者がencir-clingを巻き,その後に緑内障術者が前房内にチューブを挿入する術式であった.導入のきっかけは5-FUやMMC使用以前の当時のレクトミー成績は不良で,手術を繰り返さなければいけない症例がしばしばだったことである.これについては私がpreliminarydataをまとめて新潟眼科集談会で発表,その後に先輩の関伶子先生が臨床眼科学会で発表し,さらに論文化された8).ACTSEBはある程度の効果を認めた一方で,手術手技は煩雑で,encircling周囲の瘢痕化による眼圧上昇や角膜内皮障害の合併症も経験した.結果的に5-FU,その図9研究室での岩田和雄先生(左),第29回日本緑内障学会招宴でのサプライズプレゼント(右)後はMMCによってレクトミーの成績が改善し,主体はレクトミーに移行した.岩田先生自身が緑内障の新しい術式を積極的に取り入れ,自ら経験し,結果を検討,時代に即して術式が次々と変わっていったことは貴重な経験であった.c.非穿孔性トラベクレクトミー(non.penetratingtrabeculectomy:NPT)岩田先生は日本国内でNPTを再興したといわれているが,これは1993年に新潟大学眼科教授を退任されて後のことである.岩田先生が残された自己のプロフィールのなかで趣味・特技の欄に,随筆,クラッシック音楽,山登り,シャクナゲとともに「マイクロ手術」と記されている.日本国内でレクトミーにMMCが標準的に使用されるようになり,低眼圧の遷延等々の合併症が頻発するようになった.レクトミーは基本的には古い手術で,効果増強と副作用対策の繰り返しの上に現在の術式が成り立っている.NPTは術後の過剰濾過,浅前房に伴う合併症軽減をめざした術式である.NPTについて新潟大学も経験したが,手術そのもので眼圧下降効果と副作用のすべてのバランスをとらなければ行けない術式であり,その成績は術者の技術(と勘?)に大きく依存する.そういう意味でNPTは標準的な手術にはなりにくい側面があり,岩田先生のNPTはまさに職人芸であったと思う.追悼第29回日本緑内障学会のLegendaryLectureでご講演された内容は,文献9として残されています.ご講演の最後の「これからも生涯,緑内障研究を続けていく所存」は,私たちへの惜別の言葉であるとともに,緑内障と緑内障研究に携わるすべての人たちへの励ましであり,遺言だった思います.岩田和雄先生の御逝去を悼み,心よりご冥福をお祈りいたします.文献1)岩田和雄:公害と眼,新潟水俣病と眼.日眼会誌2)岩田和雄:原発開放隅角緑内障の初期病態.臨眼39:407-424,19853)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,19924)岩田和雄:原発開放隅角緑内障および低眼圧緑内障のNeu-ropathy.あたらしい眼科10:1139-1146,19935)岩田和雄,八百枝浩,祖父江邦子:緑内障性乳頭変化と視野.その1cuppingの定量:C/D比,面積比,容積について.日眼会誌78:148-157,19746)岩田和雄,八百枝浩,祖父江邦子:緑内障における網膜神経線維層の変化.その1生体眼底における神経線維描出法.日眼会誌79:1062-1066,19757)岩田和雄,八百枝浩,武田啓治:NewStereochronoscopy.日眼会誌87:768-776,19838)関伶子,福地健郎,安藤伸朗ほか:Anteriorchambertubeshunttoanencirclingbandによる難治性緑内障の治療成績.臨眼41:297-301,19879)岩田和雄:正常眼圧緑内障─Legendから真実へ─.日本の眼科89:1541-1544,2018恩師故岩田和雄名誉教授の教えと思い出阿部春樹(新潟大学名誉教授,新潟医療福祉大学教授)新潟大学名誉教授で日本緑内障学会名誉会員の岩田和雄先生が,2018年12月7日に91歳でご逝去されました.謹んで哀悼の意を表しますとともに,心よりご冥福をお祈りいたします.岩田先生は,日本を代表する緑内障研究の第一人者で,緑内障の研究と診療一筋に歩んでこられました.とくに緑内障の病態解明を目標に精力的に研究され,その治療の発展に大きく貢献されました.先生の数々の業績は,きわめてオリジナリティと独創性に富んだもので,私どもにとって刺激を受け啓発されるところがきわめて大きいものでした.たとえば,わが国初の緑内障のテキストブックの刊行や,岩田式圧迫隅角鏡の開発,さらに先生の永年の研究の集大成ともいえる日本眼科学会総会での特別講演の原著は,米国での大規模臨床試験に先立って,緑内障治療の根幹である眼圧下降と緑内障の予後に光を当てた先駆的論文として,現在も広く引用されております.この論文は先生の永年にわたる緑内障研究の集大成ともいうべきものです.この論文によって,先生が指摘された緑内障治療における眼圧下降の重要性が,その後の米国での数々の大規模臨床試験で証明されたといっても過言ではないと思います.さらに先生は,世界各国より選ばれたトップクラスの緑内障研究者から構成される「InternationalGlaucomaCommittee」のメンバーとして国際的にも活躍されていらっしゃいました.私事ですが,岩田先生のご推薦により,私も本会の総会で研究発表をする機会を与えていただきまして,審査の結果合格してメンバーに加えていただきました.岩田先生は,新潟大学眼科の第四代教授ですが,先生の教授時代に一番私の印象に残っていることとしては,何といっても学問と研究に対する姿勢の厳しさです.ご自身の研究や実験は自らの手でなされ,少しでも納得のいかないことがあれば,繰り返しやり直しておられました.そして共同研究者の報告についても,問題があればご自身で実際にやってみて,解決の糸口を見つけるといった具合でした.さらに先生は,「模倣でない自己の創造による国際的レベルの学問と研究の大切さ」を,機会あるたびに熱っぽく我々教室員に語りかけ,自らもそれを実行してこられました.私が尊敬の念を強くしたのは,大学を退官されて名誉教授になられた後も,その真摯な姿勢は変わりなく,先端的基礎研究から臨床検査機器に至るまですべてに関心を寄せ,理解されているお姿でした.さらに先生は,体調をくずされて入院される直前まで,緑内障の病態の根幹となる課題を解決するために,最新の画像診断装置図1在りし日の岩田和雄先生中国ハルビン医科大学の呂大光名誉教授夫妻とともに.(OCT)を駆使して視神経乳頭の形態変化に関する研究を続けておられ,その姿に感銘を受けました.次に先生は,多くの教室員を海外へ留学させるとともに,海外(とくに中国)から多くの留学生を受け入れました.とくに中国のハルビン医科大学をはじめとして,各地の医科大学より多くの留学生を受け入れました.このように先生は,海外との交流にも力をいれていらっしゃいました.先生の学問に対するひたむきな研究生活と研究業績などからしても,岩田先生は学問一筋の堅物で,あまり趣味はお持ちではないと思っておられる方も少なからずおられると思いますが,実は先生の趣味は多彩で専門的レベルでした.まずクラシック音楽の鑑賞のご趣味があり,ウィーンフィルのニューイヤーコンサートを聴くために,ウィーンまで奥様と何回も足を運ばれていらっしゃいました.さらに先生は絵画や書の造詣も深く,とくに陶磁器に関する知識と眼力は専門家といっても過言ではありません.岩田先生は,研究者,教育者そして臨床医としてきわめて多忙な生活を送りながら,同時にこのような素晴らしい趣味と教養を身に付けられたということに対して,私は感心するとともに心から尊敬の念を強くもった次第です.私がまだ入局したての頃に,毎年のように米国のARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)の学会に連れて行っていただき,フロリダで美味しいワインとストーンクラブを御馳走になったことなど,まだ色々と先生の思い出はたくさんありますが,最後に先生が好まれた漢詩の一節を思い出して書かせていただきます.それは「年年歳歳花相似たり,歳歳年年人同じからず」です.これは自然の悠久さと,人間の命のはかなさを対峙させて人生の無常を詠嘆した句です.生あるものは必ず死ななければなりません.それは人間の定めです.人間にとって死別ほど悲しいものはありません.岩田先生とのお別れは大変悲しいです.大変寂しいです.岩田先生!先生のこれまでのご指導に対して心より感謝するとともに,先生の教えを忘れることなく,学問と研究・教育・診療を継続して参りたいと思います.これからもどうぞ私たちを見守ってください.岩田和雄先生の思い出黒澤明充(黒沢眼科医院)私は,岩田和雄先生が教授になられて3年目の1974年に新潟大学眼科に入局しました.当時は眼科検査が未発達でした.眼底の倒像検査は,大暗室に設置された裸電球を缶で覆い一方向へだけ光を放つようにした暗室燈と,小型の凹面鏡である河本式検眼鏡,+13Dのレンズを用いました.この検査は,光源が固定されているため検者の位置と姿勢が制限され,また光源が暗く,見える範囲が狭いので,眼底のスケッチには苦労しました.岩田先生は,原発開放隅角緑内障性視神経症および正常眼圧緑内障性視神経症の病因解明を究極の目標とされていました.私は岩田先生のご指導で,澤口昭一先生(前琉球大学教授)とともにカニクイザルを用いて隅角レーザー照射による実験緑内障を作製しました.このサル実験緑内障眼を用いて,網膜,視神経の変化と組織像,トリプシン消化法による視神経乳頭篩板の走査電顕的観察,軸索輸送障害の研究,視神経篩状板における細胞外マトリックスの変化など,多くの研究が行われました.岩田先生は,研究に対しては強い信念と激しい闘争心で臨まれますが,医局員に対しては,穏やかに接してくださいました.ご家庭では,同じ眼科医の奥様の玲子先生をいつも大切にされていました.高校の山岳部以来の図1ボストン美術館にて(1980年3月)左より岩田和雄先生,筆者,妻の久子,岩田玲子先生.憧れであったシャクナゲの花をご自宅に沢山植えられ,丹念に世話をされていました.美術や音楽の分野にも造詣が深く,常に芸術家に対する尊敬の念をお持ちでした.中国の陶磁器や日本の絵画などに精通されていて,美術館などでいろいろ教えていただきました.ご夫妻で音楽会にもよく足を運ばれていました.音楽ではとくにウィーンフォルクスオーパーの喜歌劇「こうもり」がお好きで,何度もご覧になったそうです.若い頃のドイツ留学によりドイツ語が堪能なため,上演中の歌手のアドリブも楽しんでおられました.2004年1月には,ご夫妻でウィーンの楽友協会のニューイヤーコンサートを聴きに行かれ,そのお姿がテレビで国際放送されたそうです.図2岩田式圧迫隅角鏡南旺光学株式会社メディカル販売事業部のカタログより転載.岩田先生とのもっとも楽しい思い出は,1980年3月の2週間の米国旅行です.医局の黒板に「同行者求む」と張り紙があり,すぐに応募しました.始めの1週間は岩田先生,妻の久子(当時新潟大学眼科在籍),私の3名で,後半には奥様の玲子先生とお嬢様の恵美子様が合流されました(図1).岩田先生は,第4回国際緑内障会議(オランド)で岩田式圧迫隅角鏡(図2)の講演をされました.女性用のストッキングで虹彩を作り,隅角鏡で角膜を圧迫すると虹彩根部が押し下げられ,隅角が現れてくる様子をアニメーションで示されました.隅角を覆ったり,露出したりする虹彩の動きがユーモラスなため,会場から大きな声があがりました.この旅行の最終日に,サンフランシスコで私どもの結婚1周年記念をワインとチーズで祝っていただきました.40年以上公私にわたりご指導いただいた岩田和雄先生を失い,悲しみでいっぱいです.先生のご冥福を心からお祈りいたします.☆☆☆

術前・術中における消毒法の注意点

2019年12月31日 火曜日

術前・術中における消毒法の注意点PrecautionsforPreoperativeandIntraoperativeDisinfectionMethods子島良平*はじめに現在,わが国では年間C150万件を超える白内障手術が行われている.白内障手術をはじめとした内眼手術における合併症のなかで,もっとも重篤なものとして術後の感染性眼内炎がある.国内での白内障術後の感染性眼内炎の発症頻度は約C0.02%と報告されており1),他の国や地域と比べ高くはないが,その頻度を減らすことは重要である.術後眼内炎の発症メカニズムは未だ完全には解明されていないものの,眼内炎の起炎菌と外眼部の細菌叢が遺伝子レベルで一致していることが報告されており2),結膜.や眼瞼の常在菌が発症に関与していると考えられる.このため現在では,眼内炎の発症予防目的で周術期に減菌化療法が行われている.減菌化療法として,術前では抗菌点眼薬の投与および術直前のヨード製剤を用いた消毒,術中では抗菌薬の前房内投与やヨード製剤の点眼,術後では抗菌点眼薬の予防的投与が一般的な手法である.本稿では,おもにヨード製剤を用いた術前および術中の消毒法の注意点について述べる.CIヨード製剤の基礎現在,ヨード製剤は周術期の消毒薬として眼科のみならず他科領域でも広く用いられている.ヨード製剤の利点として,耐性菌を含む一般細菌からウイルスまで幅広い抗微生物スペクトルをもつこと,また抗菌薬と違い耐性化を誘導しないという点がある.一方,使用する際には,人体の正常細胞に対しても作用するという点に注意する必要がある.現在,眼科領域で広く使用されているヨード製剤には,ポビドンヨードおよびヨウ素・ポリビニルアルコール点眼・洗眼液(以下CPA・ヨード)がある(図1).ポビドンヨードはポリビニルピロリドンとヨウ素,PA・ヨードはポリビニルアルコールとヨウ素の複合体である.ヨード製剤の消毒効果は,製剤中の遊離ヨウ素が微生物の膜蛋白を変性させることにより得られる.このため,遊離ヨウ素が少ない原液よりもある程度希釈して遊離ヨウ素を増加させた状態で使用することで,高い消毒効果が期待できる.しかし,遊離ヨウ素は有機物に接触すると直ちに不活化するという特徴をもつため,希釈した場合の消毒効果の持続時間は短くなる点に注意が必要である.ポピドンヨードとCPA・ヨードの消毒効果については,日本眼感染症学会が主導して行った多施設共同研究で,両剤に差がないことが報告されている3).注意すべき点として,ポビドンヨードは眼の消毒には使用しないよう添付文書に記載されていることである.このことから結膜を含めた眼表面の消毒にはCPA・ヨードを使用することが推奨される.ヨード製剤を使用する際には,その消毒効果は温度・濃度・時間および保存方法により大きく異なるという点を理解しておく.秦野らはCPA・ヨードの抗微生物効果*RyoheiNejima:宮田眼科病院〔別刷請求先〕子島良平:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(65)C15414abLog(微生物減少)3210図1ポビドンヨード(a)およびPA・ヨード(b)010203040ポビドンヨードは眼表面へ使用しないよう添付文書に記載反応温度(℃)されており注意が必要である.図24,20,37℃各温度でのPA・ヨードの抗微生物効果縦軸はどのくらい微生物が減少したかを示す.横軸は温黄色ブドウ球菌度.4℃では抗微生物効果がC1/10程度に低下する.(文献C4より許可を得て改変・転載)C8100Log(微生物数)有効ヨウ素残存率(%)90807060-2図3表皮ブドウ球菌に対するPA・ヨードの消毒効果50縦軸は微生物数を示す.横軸は濃度.PA・ヨードであれC012345ばC20倍希釈よりも高い濃度で良好な消毒効果が得られる.保存時間(時間)(文献C4より許可を得て改変・転載)図4栓なし容器中での6倍希釈PA・ヨード液中の有効ヨウ素残存率の経時的変化6倍希釈したCPA・ヨードを栓なし容器で保存した場合,5時間で遊離ヨウ素がC60%程度まで低下する.(文献C4より許可を得て改変・転載)図5眼瞼および皮膚の消毒10%ポビドンヨード原液を使用し,まず眼瞼から(Ca)その後に徐々に消毒範囲を周囲の皮膚に広げていく(Cb).その際,しっかりと閉瞼させる.図6ドレッシング材を用いた眼瞼の被覆テガダームTMなどを用いて眼瞼を被覆する.その際,睫毛やマイボーム腺開口部が露出しないよう注意する.右の症例では上眼瞼の被覆が不十分で睫毛が露出しており,術野が汚染されるリスクがある.図7開瞼器をかけた後の消毒PA・ヨードにマイボーム腺からの分泌物などが浮いていることがわかる.開瞼器をかけた後も再度CPA・ヨードによる洗眼を行う.図8ヨード製剤による角膜上皮障害左眼に白内障手術を行った症例での術翌日の前眼部写真.右眼(Ca)に比べ左眼(Cb)では強い角膜上皮障害を認め,患者も違和感を訴えていた.