‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

病的近視の治療 3. 近視性牽引黄斑症

2020年5月31日 日曜日

病的近視の治療3.近視性牽引黄斑症TreatmentforComplicationsofPathologicMyopia-PartIII:MyopicTractionMaculopathy高橋洋如*はじめに近視性牽引黄斑症は,強度近視眼に合併する網膜外層(とくに外網状層)の異常な伸展(分離)を主体とする疾患である.本疾患は内顆粒層や外顆粒層の分離を主体とし,視界に暗点を形成する若年性網膜分離症とは明確に区別できる.近視性牽引黄斑症は,硝子体による網膜表面の前方への牽引,後部ぶどう腫による眼球後壁の牽引,網膜前膜や内境界膜による接線方向への牽引力,網脈絡膜萎縮などが複雑に作用して生じている(図1).概ね緩徐に進行するが,ときに黄斑円孔,中心窩網膜.離,黄斑円孔網膜.離を発症すると不可逆的な視力低下をきたして予後不良である1).治療は,網膜が牽引される場所と要因を把握することが重要である.IOCTと硝子体手術1.近視性牽引黄斑症への硝子体手術1958年にPhilipsが強度近視眼の眼底後極部にある裂孔を伴わない限局した網膜.離を報告して以降,強度近視眼の牽引性網膜.離は検眼鏡的に確認されてきた.1999年にTakanoとKishiが黄斑分離症のOCT画像を発表し,診断が飛躍的に進歩した.同時期に低侵襲硝子体手術が発達し,近視性牽引黄斑症への硝子体手術の良好な成績が続々と報告され,それ以降現在までに,近視性牽引黄斑症はOCTで診断し,硝子体手術で治療するという診療スタイルは確立されている.そこで,本稿では適応のある患者に対する硝子体手術はもはや当然とし近視性牽引黄斑症図1近視性牽引黄斑症の病態の模式図後部ぶどう腫,硝子体牽引に加え,網膜前膜,内境界膜,網膜血管の硬化など病因は多様である.たうえで,細かい問題点について再考する.2.牽引の場所はどこか近視性牽引黄斑症の考えられる接線方向の牽引の要素として,後部硝子体に伴う硝子体牽引,残存硝子体皮質,網膜前膜,柔軟性の低下した内境界膜があげられるほか,網膜動脈の硬化などが考えられている.牽引が強く作用する場所については,黄斑円孔や硝子体黄斑牽引症候群といった他の黄斑疾患では中心窩に牽引が作用す*HiroyukiTakahashi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕高橋洋如:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(81)583図257歳女性近視性牽引黄斑症の左眼眼軸長はC29.2Cmmである.後部硝子体()は中心窩からC3.4Cmm程度周辺の位置で網膜に癒着し,牽引している.そこから中心窩に向けて内境界膜()が吊り上げられている.中心窩網膜は輝度の上昇した内境界膜とともに持ち上げられて,外層の分離を生じている().キヤノンとの共同研究によるC23Cmmの広画角COCTの断層画像.ab図3近視性牽引黄斑症の男性の右眼のOCT画像a:63歳時.中心窩.離に伴う視力低下に対して硝子体手術にて治療を受けた.眼軸長はC30.5Cmmであった.Cb:手術C1年後.中心窩の網膜分離と網膜.離は概ね治癒した.Cc:70歳時に右眼に黄斑円孔を発症.再度手術治療を受けた.強度近視眼では術後期間が長期に経過したうえで黄斑円孔を発症することがあり,あらかじめ説明と注意が必要である.ab図4近視性牽引黄斑症の69歳男性の左眼の治療前後のOCT画像a:白内障術後の検診にて左眼眼底部の網膜分離を指摘され,中心窩温存内境界膜.離併用硝子体手術を受けた.Cb:術後網膜分離は改善しているが,術前に比して,網膜の菲薄化がみられる.図5近視性牽引黄斑症の67歳女性の治療前後のOCT画像a:治療前,中心窩.離を合併し,また後部ぶどう腫内に広範囲の網膜分離と網膜.離を呈していた.Cb:内境界膜.離併用硝子体手術翌日.硝子体腔中に気体やオイルのタンポナーデを行わずに終了した.術中の牽引によって治療前に比して網膜.離は悪化している.Cc:治療後C1年経過し,中心窩の網膜.離は概ね消失した.ぶどう腫内に限局する網膜.離が残存している.図663歳女性の左眼の眼底写真とOCT画像眼軸長はC30.2Cmmと延長している.Ca:眼底写真で豹紋状眼底,傍視神経乳頭網脈絡膜萎縮を呈する.強膜の突出は判別がむずかしい.Cb:眼底写真の白線に対応するCOCTでの断層画像.黄斑部の強膜が内方に向かって突出するdomeshapedmaculaがみられる.図760歳台で近視性牽引黄斑症に黄斑バックルによる治療を受けた83歳女性の左眼の眼底写真とOCT画像a:眼底写真で黄斑部は明瞭な豹紋状眼底を呈し,網膜分離を残す範囲に囲まれている.b:黄斑部を通過する鉛直断OCTの画像.黄斑部の形態は保たれており,脈絡膜が確認できないほどに菲薄化している.左眼の矯正視力は(0.1)程度である.-

病的近視の治療 2. 近視性脈絡膜新生血管

2020年5月31日 日曜日

病的近視の治療2.近視性脈絡膜新生血管DiagnosisandTreatmentofMyopicChoroidalNeovascularization佐柳香織*はじめに近年,東アジアを中心に全世界的に近視が増加しており,高度の視力,視野障害を生じうる強度近視患者の増加が懸念されている.強度近視は近視のなかでも特異な状態で,本来,球状である眼球が眼軸延長に伴って眼球後部が突出し,後部ぶどう腫を形成するとともに強膜が菲薄化している.この特異な形状変化に伴い,網膜や視神経が過剰に進展し,視覚障害を起こすと考えられている.本稿では,強度近視の合併症のうち近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization:mCNV)について解説する.I近視性脈絡膜新生血管とはそもそもmCNVの定義は国際的に統一されておらず,国内外の多くの臨床試験でも眼軸長や屈折値によって強度近視を定義し,その強度近視眼に生じたCNVをmCNVとしているものが多かった.しかし,その定義では強度近視に生じた加齢黄斑変性(age-relatedmacu-lardegeneration:AMD)も含まれてしまっていた.近年,META-PMstudyグループから近視性黄斑症の新しい分類が提唱され(表1),「病的近視はびまん性萎縮以上の萎縮性変化を眼底に有する,もしくは後部ぶどう腫を有する」眼と定義されたことにより1),「mCNVは病的近視眼に合併するCNVである」と新たに定義された.今後はこの定義が一般的に用いられるであろう.強度近視眼の眼合併症のなかでもmCNVは,自然経表1近視性黄斑症の分類カテゴリー0近視性黄斑症なしカテゴリー1カテゴリー2紋理眼底びまん性網脈絡膜萎縮lacquercracks脈絡膜新生血管カテゴリー3限局性網脈絡膜萎縮Fuchs斑カテゴリー4黄斑部萎縮過ではCNV周囲の網脈絡膜萎縮により高度の視力低下をきたすことが知られている.自然軽快はまれで,無治療の場合,多くは黒い色素沈着を伴うFuchs斑を経て周囲に広範な網脈絡膜萎縮を形成し,高度の視力障害をきたす.既報によると自然経過では10年後に96.3%の症例でCNV周囲に網脈絡膜萎縮を生じ,視力が0.1以下になるとされている2).mCNVは強度近視の約5~10%に発症する疾患で,AMDと比較して若年者に発症し,CNVは網膜色素上皮上に存在する2型CNVの形をとる.長期では30~40%が僚眼にもCNVを発症する.AMDのCNVより小型で,滲出性変化も軽度であることが多い.mCNVの正確な病態は未だ解明されていないが,脈絡膜循環障害や眼軸長延長に伴うBruch膜の断裂(lacquercracks)が発症に関与すると報告され,mCNVの95%にlacquercrackが存在しているとの報告もある3).また最近では,CNVとperforatingvessel(PV)との関係が注目されている.PVとは強度近視眼の70~80%で認められる光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-*KaoriSayanagi:さやなぎ眼科〔別刷請求先〕佐柳香織:〒666-0017兵庫県川西市火打1-16-6オアシスタウンキセラ川西2階さやなぎ眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(73)575abcd図1近視性脈絡膜新生血管の一例a:眼底写真では中心窩に灰白色病変を認め周囲に網膜下出血を伴っている.b:OCTでみると網膜色素上皮上に広がる高輝度病変(CNV)が確認できる.Cc:フルオレセイン蛍光造影ではCCNVが蛍光漏出を伴う過蛍光として描出されている.d:インドシアニングリーン蛍光造影ではCCNVと広がるClacquercrackが認められる.Ce:OCTAでは脈絡膜毛細血管板層で高輝度病変としてCCNVが描出される.図2単純出血の一例a:眼底写真では中心窩に網膜下出血がある.b:OCTでは網膜下に高輝度隆起性病変があり,網膜内にもシグナルがみられる.Cc:フルオレセイン蛍光造影では出血による蛍光ブロックがみられる.CNVを示す過蛍光はみられない.Cd:インドシアニングリーン蛍光造影では出血による蛍光ブロックとその中を貫くようにあるClacquercrackが認められる.Ce:半年後,出血は消退している.f:OCTでは高輝度塊が網膜内に残存している.図3加齢黄斑変性の一例a:眼底写真では黄斑上方にC2乳頭径の網膜色素上皮.離を認める.Cb:OCTでは中心窩下に網膜下液貯留と網膜色素上皮.離を認める.後部ぶどう腫は認められない.Cc:フルオレセイン蛍光造影では網膜色素上皮.離による蛍光貯留を認め,下方にノッチがある.Cd:インドシアニングリーン蛍光造影でも網膜色素上皮.離による蛍光遮断とノッチ部分にCCNVを認める.図4脈絡膜新生血管再発時図C1と同じ症例.Ca:抗CVEGF療法後,CNVは鎮静化し,出血は消失,OCTでも高輝度塊となっている.Cb:眼底写真はあまり変わりがないが,OCTでは高輝度塊が崩れ,淡い高輝度となっている.これは再発を表し,追加注射が必要となる.図5黄斑部萎縮a:mCNV発症直後.Cb:10年後.CNVは黒い色素沈着を伴うCFuchs斑となり,周囲に黄斑部萎縮を形成している.OCTでは萎縮部位の脈絡膜反射が増強している.–

病的近視の治療 1. 強度近視の緑内障

2020年5月31日 日曜日

病的近視の治療1.強度近視の緑内障TheTreatmentofGlaucomawithHighMyopia新田耕治*はじめに近視は生涯にわたり眼球がさまざまに変形し,いろいろな病態を引き起こす可能性がある.視神経乳頭部においても多種多様な変形をきたし,視神経乳頭は蒼白となり,視野障害が急速に進行する症例に遭遇することがある.強度近視の病態がどのようにしてこのような状態に陥るのかを,近視眼の構造変化,なぜ近視眼に緑内障が発症しやすいか,近視と緑内障の鑑別の決め手,近視眼緑内障の治療に眼圧下降は有効かの順で考察する.まだまだエビデンスに乏しいこのテーマであるが,大変興味をもって長年取り組んできたので,筆者の考えも交えて論じることをご容赦いただきたい.I近視眼の構造変化1.若年期近視眼の構造変化若年期の眼軸長の延長に伴い視神経乳頭の耳側縁が鼻側へ偏位して視神経乳頭に傾斜や回旋が生じ,もともと円形の乳頭が縦楕円,斜楕円,横楕円などの形状を呈する.同時にもともと乳頭が存在した耳側部位には,コーヌスとよばれる網脈絡膜萎縮が形成される(図1).近視は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglauco-ma:POAG)発症のリスクが2~3倍増加するとされ,近視は緑内障発症の危険因子と考えられている1,2).乳頭傾斜が緑内障にどのように影響するかを報告した論文では,両眼ともに.2D以上の近視眼緑内障において視野の平均偏差(meandeviation:MD)値が悪い眼とMD値が良い眼に分けて,垂直乳頭傾斜角,水平乳頭傾斜角,最大乳頭傾斜角,最大乳頭傾斜部位などを検討した結果,視野のMD値が悪い眼はMD値が良い眼と比較して,有意に水平乳頭傾斜角が大きく,最大乳頭傾斜部位がより下耳側であった.眼軸長の延長により,眼球の非対称性が生じ,アストロサイト,毛細血管,網膜神経節細胞軸索に影響を与えたことがこのような結果をもたらしているのではないかと論じている3).よって,若年の頃から眼科を受診している症例においては,乳頭を拡大した眼底写真の撮影が推奨される.電子カルテが普及してきた現代の眼科医療においては,若年の頃に撮影した眼科に関する画像は,その症例が将来緑内障を疑われた場合に緑内障診断の一助になる可能性がある.また,コンタクトレンズや眼鏡度数の修正のために不定期に受診した若年症例にも,ときどき光干渉断層計(opti-calcoherencetomography:OCT)などの画像解析を施行し,緑内障の発症の有無について常に念頭に置いた診療を心がけたいものである.2.壮年~老年期近視眼の構造変化壮年期には加齢によりコーヌス周囲に網膜色素上皮の萎縮が形成される.もともとのコーヌスとこの網膜色素上皮の萎縮は検眼鏡的に判別が困難なのであわせて乳頭周囲網脈絡膜萎縮(peripapillarychorioretinalatro-phy:PPA)とよばれている.また,後部ぶどう腫とよばれる眼球後部の一部分のみ拡張する変化を呈する近視*KojiNitta:福井県済生会病院眼科〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7-1福井県済生会病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(57)559abc図1若年者の視神経乳頭拡大カラー写真a:非近視眼では9年経過しても眼底写真上,視神経乳頭の変形は認めない.b:中等度近視眼では乳頭が傾斜し,正面からは乳頭が小さくなったように見える.c:強度近視眼では,経年的に下方のコーヌス部が白色化をきたしている.TypeIwide,macularstaphylomaTypeIInarrow,macularstaphylomaTypeIIIperipapillarystaphylomaTypeIVnasalstaphylomaTypeVinferiorstaphyloma図2後部ぶどう腫の新分類3DMRIで撮影した眼球の外観と眼底所見と組み合わせて分類した.(文献6より引用)図3強度近視眼のさまざまな乳頭および乳頭周囲形状強度近視眼では乳頭やその周囲は非常にさまざまな形状を呈するので,緑内障と明確に鑑別できない.図4PPA内に出血をきたした強度近視眼出血部位はすべて白色コーヌス内あるいはその境界部であった.出血前出血時出血消退後図5乳頭周囲網脈絡膜萎縮に出現した出血と萎縮の拡大乳頭周囲網脈絡膜萎縮の境界部に出血をきたし,出血前より萎縮部位は網膜側に拡大した(.).48y.o.64y.o.図6コーヌスが拡大した強度近視眼初診時40歳の女性の右眼.眼軸長27.57mmの強度近視眼であった.16年の経過でコーヌスが拡大した.48y63y図7眼底に広範な網脈絡膜萎縮が出現拡大した強度近視眼初診時48歳の女性の左眼.眼軸長32.25mmの強度近視眼.15年の経過でコーヌスは拡大し,眼底に広範な網脈絡膜萎縮が出現し視野障害は増悪した(.).図8強度近視眼の乳頭後部ぶどう腫がなく乳頭周囲の構造変化が軽微な乳頭の場合,緑内障合併の有無を判断しやすい.図9豹紋状眼底を呈する近視眼の網膜神経線維層欠損カラー眼底写真では豹紋状眼底を呈するために網膜神経線維層欠損の有無を判別できないが,青成分のみを抽出した白黒写真では上耳側や耳側に複数の網膜神経線維層欠損を確認できる.図10GCCmapにおける上下非対称性により緑内障と診断できた症例眼底写真にて右眼下耳側に網膜神経線維層欠損(.)を認め,GCCmapでも上下非対称性のGCCの菲薄化を下耳側に認めた.OCTにて乳頭周囲を詳細に観察すると右眼のPPA部位上の網膜神経線維は左眼と比較して菲薄化を認めた.======図11LSFG.NAVIにて左右差が顕著な症例左眼のみ緑内障と診断し加療中の症例であるが,OCTAにて深層毛細血管が矢印の部位で脱落している.LSFG-NAVIにて乳頭および乳頭周囲のCMBRを測定すると左眼は顕著な血流低下を認めた.==2017/5/312020/1/20MBR16.416.8MV43.440.9図12血流不全型近視性視神経症に緑内障を合併した症例乳頭は傾斜回旋し,下方にはCICCを合併している.深層COCTA(上右)ではコーヌス上には太い血管のみが残存し,通常は存在する太い血管をネットワークする毛細血管が顕著に脱落している.LSFG-NAVI(下中)では視神経乳頭や脈絡膜の血流は低下している.血流不全型近視性視神経症に緑内障を合併した病態と判断した.表1眼血流改善効果を有すると思われる緑内障点眼例カテゴリCa1遮断薬プロスタグランジン関連薬Cb遮断薬イオンチャネル開口薬一般名ブナゾシンタフルプロストカルテオロールイソプロピルウノプロストン報告内容正常家兎の脈絡膜血流量を有意に増加.正常ヒトの脈絡膜C-網膜Cnormalizedblurは有意に増加.NTGのCpulsatileCocu-larCblood.owはブナゾシン点眼開始C3カ月後にC50.3%増加.正常家兎の視神経乳頭組織血流量の有意な増加あり.POAGにおける乳頭血流維持効果あり.正常ヒトの乳頭近傍上耳側網膜でCmeanCblurrate値の有意な増加.乳頭近傍下耳側網膜では不変.正常ヒトの視神経乳頭末梢血流量の定量指標であるCnormalizedCblur値の増加.正常家兎の脈絡膜組織血流量が増加.正常ヒトの視神経乳頭および脈絡膜-網膜CNB値が増加.正常眼圧緑内障患者の短後毛様動脈の流速および視神経乳頭部・後極部網膜の血流が増加.早期CNTGにおける眼動脈血流速度が増加.測定部位脈絡膜視神経乳頭視神経乳頭近傍視神経乳頭脈絡膜,網膜中心動脈・短後毛様動脈,視神経乳頭・後極部網膜出典杉山哲也ほか:日眼会誌C95:C449,C1991梶浦須美子ほか:眼紀55:C561,C2004杉山哲也ほか:臨眼45:C327,C1991CAkaishiTetal:JOculPharmacolTher26:C181,C2010柴田真帆ほか:臨眼69:C741,2015梅田和志ほか:あたらしい眼科C30:4C05,2013CTamakiY.etal:CCurrEyeRes1102,C1997杉山哲也ほか:あたらしい眼科9:C1430,C1992小嶌祥太ほか:日眼会誌C101:6C05,1997井戸正史ほか:あたらしい眼科16:C1577,C1999西村幸英ほか:あたらしい眼科15:C281,C1998作用機序眼内血管とくに脈絡膜血管に存在するCa1受容体の遮断による血管抵抗減少作用すなわち血管拡張作用.内因性プロスタグランジンの遊離.Caイオン細胞内流入の阻害.抗エンドセリンC-1作用.内因性交感神経刺激作用.内皮依存性血管弛緩作用.Maxi-Kチャネルの活性化とCNO放出による血管拡張作用.血流改善の作用機序は下記を参考にした.・吉川啓司:あたらしい眼科20:1193-1199,2003・安樂礼子:眼科グラフィック6:332-344,2017C2018.102020.12018/10/182019/8/282019/8/282019/10/22019/12/92020/1/22MBR15.012.514.014.917.9MV36.629.5塩酸ブナゾシン開始31.932.338.5MT7.97.26.77.910.0図13血流不全型近視性視神経症+緑内障合併例に血流改善効果の期待できる塩酸ブナゾシンを点眼した症例塩酸ブナゾシンを点眼開始して,眼血流を表す指標が改善している.図14小児近視眼に認めた網膜内層厚の菲薄化5歳時に当院を初診した外斜視の患児である.6歳ごろから近視を認め眼鏡を常用していた.8歳C10カ月時(C.3.75D)にCOCTを施行し,左眼網膜内層厚の上下差を認めた.視野に異常がなく,前視野緑内障に類似した状態である.■用語解説■Intrachoroidalcavitation(ICC):乳頭の主として下方にみられる扇型の黄色の病変で,OCT所見から脈絡膜内の空洞であることが明らかになった.ICCは高度の乳頭傾斜に伴って起こることが多く,眼軸延長の過程でコラーゲン線維主体である強膜と,弾力が強膜コラーゲンより強いエラスチンを多く含むCBruch膜の間で張力の差が生じ,脈絡膜に間隙が生じると考えられる.ICCの境界部にはしばしば網膜欠損を伴い,欠損部位を通じて硝子体腔とCICCが交通している.そのような症例では,網膜内層に断裂が生じるために神経線維の障害が生じ,しばしば網膜全層欠損となり,断裂部位に一致する視野障害を約C70%に伴う.いったん網膜全層欠損に至った症例では,視野障害の進行は停止もしくは緩徐となる.これは網膜が全層欠損しCICCと硝子体腔の交通ができることにより,Bruch膜による網膜の内向きの牽引が消失あるいは軽減するためと考えられる.篩状板部分欠損:視神経乳頭のエッジの篩状板が局所的に欠損する病態で,2012年に初めて緑内障眼にて報告された.その後,近視眼でも報告され,乳頭傾斜・乳頭回旋・PPAなどが篩状板部分欠損に関連していた.そのことより,近視眼での篩状板部分欠損は,乳頭の伸展や傾斜などの機械的ストレスが関連している可能性がある.近視性視神経症:強度近視眼では,しばしば近視性黄斑疾患やコーヌスでは説明できない視野障害を呈する.40~50歳代の比較的若年で発症し完全失明に至ることも多い点で,中心視野障害にとどまる近視性黄斑病変とは大きな違いがある.この病態を近視性視神経症として独立した疾患概念とする考え方がある.強膜リッジ:Curtin分類CtypeCIXの後部ぶどう腫では,強膜が眼球内方向に急峻に突出し,視神経のすぐ耳側に隆起(リッジ)がある.これを強膜リッジとよぶ.リッジ部では網膜が過度に牽引され菲薄化している.Akagiらは,強膜リッジが急峻なほど網膜神経線維は薄く,中心視野障害が生じることを報告した.重症例では,リッジ部の網膜神経線維は完全に断裂する場合がある,そのような症例では高度の中心視野障害を生じる.強膜リッジ症例では,視野障害が急速に進行することをしばしば経験する.—

近視進行予防に対する学校保健の取り組み

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防に対する学校保健の取り組みSchoolHealthInitiativesforPreventionofMyopia柏井真理子*はじめに近年,世界的に近視の人が急増しているとの報告が多々あるが,わが国でも児童生徒らの近視が問題視されている.人生100年といわれている現在,一生涯眼の健康を保つことは大切であるが,成人後の種々の眼の疾患を予防するためにも乳幼児・学童期から注意をはらう必要がある.諸外国では近視に関してすでに学校教育を通じていろいろな取り組みがなされている一方,わが国はこれからしっかりと現状を把握し,そのうえで適切な対策を熟考し,近視進行予防の具体的な方法を国策として全国レベルで実施していくことが求められている状況であり,現在の大きな課題と考えられる.今回,わが国の児童生徒らの現状や彼らをとりまく環境などを整理し,近視進行予防に対して今後の取り組むべき方法や展望を述べる.I学校保健における視力検査・文部科学省保健統計調査学校保健安全法施行規則により幼稚園から大学まで1年に1度学校で健康診断の項目として,全員に裸眼視力測定(眼鏡やコンタクトレンズ装用者は装用しての検査で置き換え可能)が実施されている.令和1年度(平成31年度)文科省保健統計調査1)によると,学校健診での児童生徒らの視力検査で「裸眼視力1.0未満の者の割合」(図1)は,幼稚園26.1%,小学校34.6%,中学校57.5%,高等学校67.6%で,昨年度に比べて小学校が0.5%,中学校が1.5%,高等学校が0.4%増加し,小学校・中学校・高等学校は調査開始の昭和55年以降で最高値を示した.裸眼1.0未満はおそらく近視化によるものが多いと考えられている.しかし,裸眼視力1.0未満の児童生徒らを正確に分析するためには,今後裸眼視力に加え,学校で児童生徒らの屈折や眼軸長測定調査など大規模な疫学的調査の実施が望まれる.このような状況に鑑み,令和2年度には文部科学省(以下,文科省)を中心に学会や医会が連携し,一部の地域ではあるが,児童生徒の屈折検査や眼軸長測定を実施する予定となっている.同時に生活習慣調査も実施される予定であるので,今後わが国での児童生徒の近視予防についての大きな突破口になることが期待されている.II児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書平成4年より公益財団法日本学校保健会(以下,日学保)では文科省と連携し生活習慣病のリスクファクターとライフスタイル,メンタルヘルス,アレルギーなどの項目について調査しているが,平成28年度より新たに視力と生活習慣の関連について調査が追加された.スマートフォン(以下,スマホ)・TVゲームの多用や塾通いなど室内で過ごすことが多くなった小児の生活習慣が,近視の発症と関連しているか明らかにすることを目的と*MarikoKashii:眼科柏井医院〔別刷請求先〕柏井真理子:〒603-8162東京都北区小山東大野町50-2眼科柏井医院0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(47)549男子(%)100500050女子(%)10046.353.196.554.825.627.928.2携帯電話・スマートフォンを利用する23.025.137.264.597.237.129.434.444.246.9タブレット・パソコンを利用する32.825.834.040.244.323.618.2全体小学校1・2年生小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図2インターネット時の携帯電話・スマホートフォン・タブレット・パソコンの使用平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書より(日本学校保健会)男子女子4°00’3°00’2°00’1°00’0°00’0°00’1°00’2°00’3°00’4°00’1°401°501°532°240°340°370°48携帯電話・スマートフォンを利用する0°310°350°421°532°381°110°450°500°581°35タブレット・パソコンを利用する1°030°430°430°541°241°231°13全体小学校1・2年生小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図3インターネット時の携帯電話・スマホートフォン・タブレット・パソコンの使用時間平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書より(日本学校保健会)(時間)10°00’5°00’0°00’男子女子男子女子男子女子男子女子男子女子男子女子全体小学校1・2年生小学校3・4年生小学校5・6年生中学生高校生図4スクリーンタイムの平均値平成28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書より(日本学校保健会)男子■正常■低下女子■正常■低下150分以上150分以上90分以上150分未満90分以上150分未満30分以上90分未満30分以上90分未満30分未満30分未満図5携帯電話・スマートフォン使用時間別の視力低下者の割合平成C28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書より(日本学校保健会)男子■正常■低下女子■正常■低下360分以上360分以上120分以上360分未満120分以上360分未満60分以上120分未満60分以上120分未満60分未満60分未満図6運動時間別の視力低下者の割合平成C28.29年度児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書より(日本学校保健会)図7『児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック』学校の授業でのCICT活用が今後増加する今こそ,児童生徒に適切なCICTの使用方法や使用時間などを学校教育の一環として真摯に取り組む必要がある.一方,運動との関係は興味深く,諸外国でも戸外での活動と近視抑制の報告もあがっており,1日にC2時間の屋外活動が近視進行をかなり予防できると報告がある9,10).屋外の活動は熱中症や紫外線の問題などの考慮すべき他の要素もあるが,屋外での活動を推進するために今後授業の一環として戸外学習を積極的に導入するなどが望まれる.そのためには「近視の予防」をしっかりと念頭に置き学習指導要領に反映されるように,文科省や中央教育審議会などに積極的に働きかけていくことも非常に大切であると考える.さらに野外活動のなかで光の環境が大切であるのであれば,今後学校の校舎建築に関しても採光のよい良い教室設計なども一考されていくであろう.スポーツ庁からこのたび「全国体力調査結果」が発表され3),2019年度小学校C5年の男子の体力がC2008年の調査開始以来,最低となったと報告された.スポーツ庁は,テレビやゲーム・スマホの画面を見る「スクリーンタイムの増加と,それに伴う運動時間の減少などが背景にあるのではとコメントしている.このことは子供たちが思い切り身体を動かせる環境の減少が戸外活動の低下につながり,そのことが現在の児童生徒の近視化に拍車をかけていることも示唆している.現在の日本の状況をみると,戸外で子供たちが十分活動できるところは安全面などからも限られてきている.以前なら路地などで簡単な外遊びも楽しめたが,現在では自動車が行きかう道路での遊びは安全とはいえない.また,公園なども「ボール遊び禁止」や古い遊具の使用を禁止するなど細かい規則が付け加えられ,子供たちが十分外遊びや戸外活動できるとは言いがたい状況である.学校が放課後のみならず休日も校庭をできるだけ開放することも一案であると思われる.学校教育法C137条では「学校教育上支障のない限り,学校には,社会教育に関する施設を附置し,また学校の施設を社会教育その他公共のために,利用させることができる」と定められているので,有識者は,今後「学校開放」が大切であると助言している.「学校開放」は,体力増強のみならず視環境を整えるためにも重要であると思われる.上記のことを踏まえ,われわれ眼科医がまず実施すべきことは,近視予防について学校関係者や保護者に現在有効であると考えられている「学習時の姿勢や近業時の視距離,視聴時間」などの指導や「戸外の遊びや活動を積極的に取り入れる」などの生活習慣を推奨し助言することである.各学校で開催されている学校保健委員会などは学校関係者や保護者などに視機能の大切さや近視予防について,さらには生活上の注意など指導や啓発をするには大切な機会である.時間の確保などむずかしい面もあるが,学校医は健診だけの仕事ではなく積極的に健康教育や啓発に力を注ぐことも責務である.そして,学校から家庭へ浸透させ,家庭内でも保護者から子供たちへの働きかけにつなげていくことが大切である.たとえば保護者も時間が許す限り週末などに子供たちと仲良く一緒に積極的に戸外で活動することは心身ともに有効であろう.一方,一生涯眼の健康を保つためには,幼少期より自分自身の眼の健康を考え,保健活動を実践していくことは大切である.各学校での眼科健診は眼科医が直接個々の児童生徒に健康教育を実践できる絶好の機会である.また,健診前後に児童生徒に眼の健康などに関連したわかりやすいミニ講演(図8)をすることも有効であろう.現在,日本の学校保健のシステムは原則集団健診の形態で実施されている.集団健診と個別健診ではそれぞれ長所短所はあるものの,わが国の学校保健は多く諸外国のように幼少時期の視覚の管理を各個人が個別で対応するのではなく,日本ではどこに住んでいてもすべての児童生徒が在籍している学校で眼の健康管理を受けることができる素晴らしいシステムである.さらに今後近視の有効な治療法が確立された暁には,学校での健康診断が近視の早期発見・早期対応にしっかりと役立つことが期待される.将来的には視覚の管理がさらに有効にできるよう,また近視の早期発見・対応のためにも,もちろん学校保健安全法施行規則の改正という大きなハードルはあるが,学校での健康診断の必須項目に「屈折検査」などを追加することや,眼科健診の目的や実施方法を検証していく(53)あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C555図8目に負担をかけない生活をWHOguidelinesonphysicalactivity,sedentarybehaviourandsleepforchildrenunder5yearsofage図9乳幼児に関する運動とスクリーンタイムに関するガイドライン(WHO,2019)

近視進行予防の近未来治療薬

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の近未来治療薬PresentandFuturePharmacologicalTherapiesforMyopiaControl謝詩琪*KritchaiVutipongsatorn**大野京子*はじめに近視は世界人口の約5分の1を占め,2050年までには47億を超えると推測されている1).近視の有病率は人種や地域により大きな差がある2).たとえば,学童の近視率は,モンゴルの田舎では5.8%であり,台湾の都市部では80%を超えている3,4).近視により世界的に大きな経済負担がかかるにもかかわらず,現時点では米国食品医薬品局から承認された近視治療薬は一つもない.本稿では,近視に対する近未来治療薬を紹介し,前臨床段階の近視治療薬が臨床試験に進むに際して直面している課題を紹介する(図1).I臨床試験中の薬物キーワード「近視」を使用し,ClinicalTrials.govというウェブサイトで検索した結果,近視進行に対する治験は20件あった(表1)5).そのうち,16件がアトロピンに関する研究である.1.アトロピンアトロピンに関する治験のなかで最初の大規模スタディは,アトロピンの近視治療研究(ATOM1スタディ)である6).ATOMスタディ1は,6~12歳までの子供400人を対象に1%アトロピン点眼を2年間行い,治療終了後さらに1年間経過観察した.その結果,アトロピン群の2年後の近視度数はプラセボ群より有意に低かった(-0.40D対-0.86D,p<0.001).点眼中止後には近視進行のリバウンドがみられたものの,3年間のスタディ終了時にアトロピン点眼治療群では近視進行が有意に抑制された(-1.35Dvs-1.55D,p=0.028).ATOM1スタディの結果に基づき,より低濃度のアトロピンの長期効果を調べるATOM2(n=400)スタディが実施された7).アトロピンを三つの濃度(0.5%,0.1%,0.01%)に分け,ATOM1と同様に2年間の点眼治療と1年間の経過観察をした.ただし,3年目の近視進行が-0.5Dを超える小児に対しては,2年間の0.01%アトロピン治療を再開した.その結果,予想通り最初の24カ月間に近視の進行は濃度依存的に減少したが,休薬期間中に高濃度のアトロピン群の近視進行がより早く,3年後にもっとも近視抑制効果があったのは0.01%アトロピンであった.スタディ終了時の5年後では,0.01%アトロピン群の近視進行がもっとも低い結果であった.ATOM2により,0.01%のアトロピンは高濃度ほど近視進行を抑制しないものの,休薬後のリバウンド効果が小さく,長期的により良い結果が得られることが明らかとなった.これを受けて,筆者らは,年間0.5D以上の進行を伴う小児に2年間の0.01%アトロピン治療を推奨し,良好な反応が得られるまで(たとえば進行が0.25D/年未満),リバウンドが低くなった高い年齢まで継続することを勧めている.また,休薬後に近視進行が発生した場合には治療を再開することを推奨している.近視の進行は年齢とともに減少する傾向がある一方,とくに高等教*ShiqiXie&*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野**KrithaiVutipongsatorn:インペリアルカレッジ〔別刷請求先〕謝詩琪:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(37)539=表1近視進行抑制に対する臨床試験一覧NCT耳つぼ刺激とアトロピン点眼薬併用のC1完了0.25%とC0.5%アトロピン並行群間比較試験C60台湾C00457717近視抑制効果0.25%アトロピンと鍼灸の併用単盲検法(6~15)CNCT並行群間比較試験C90C00263471近視進行とC7-メチルキサンチンの効果C2完了C7-メチルキサンチン二重盲検法(8~13)デンマークATOM:近視子供両眼に対するC0.5%,CNCT0.1%~0.01%アトロピンの治療の安全C2/3完了0.01%,0.1%とC0.5%アトロピン並行群間比較試験C400シンガポールC00371124性と有効性の評価二重盲検法(6~12)CNCT近視学童に対する低濃度アトロピンのCNA完了0.01%とC0.05%アトロピン並行群間比較試験C60台湾C02130167治療三重盲検法(参加者,保護者,研究者)(6~12)CNCT近視コントロールに対する低濃度アト0.125%アトロピン並行群間比較試験C73C02055378ロピンと耳ツボ刺激併用療法CNA完了0.125%アトロピンと耳ツボ刺激の併用単盲検法(保護者)(6~12)台湾CNCTAPPLE:軽中度近視に対するCDE-127進行中DE-127(アトロピン参天製)低,中,並行群間比較試験C100C03329638点眼薬の有効性と安全性の研究C2(募集完了)高濃度二重盲検法(参加者,研究者)(6~11)シンガポールCNCTBAM:双焦点ソフトコンタクトレンズ進行中+2.50D双焦点ソフトコンタクトレンズ単群試験C49C03312257とアトロピンの併用で近視抑制CNA(募集完了)とC0.01%アトロピンの併用非盲検(7~11)米国BHVI2点眼薬,0.02%アトロピン,まBHVI2(実験薬物)CNCTたはCBHVI2とC0.02%アトロピン点眼C1進行中0.02%アトロピン並行群間比較試験C60CNAC03690414薬の併用の短期治療の評価(未募集)BHVI2とC0.02%アトロピンの併用四重盲検法(6~13)CNCTイギリス学童の近視に対する低濃度ア進行中並行群間比較試験C289C03690089トロピン点眼薬の治療C2(未募集)0.01%アトロピン四重盲検法(6~12)イギリスCNCT0.01%アトロピン点眼薬の近視治療研進行中並行群間比較試験C150C03508817究C1(募集中)0.01%アトロピン非盲検(6~15)オマーンCNCTビタミンCB2と屋外日光暴露併用下の進行中単群試験C100C03552016学童近視進行の評価C2(募集中)経口リボフラビンC200とC400Cmg三重盲検法(参加者,保護者,研究者)(6~12)米国CNCTCHAMP:近視学童に対するCNVK-3進行中NVK-002(アトロピン)濃度C1と濃度C2クロスオーバー試験C483米国C03350620002治療(募集中)二重盲検法(参加者,研究者)(3~17)CNCTMTS1:近視に対する低濃度アトロピC3進行中0.01%アトロピン並行群間比較試験C186米国C03334253ン治療(募集中)単盲検法(治療成績評価者)(5~12)CNCTATOM3:近視予防とコントロールにC3進行中0.01%アトロピン並行群間比較試験C570シンガポールC03140358おける0.01%アトロピンの使用(募集中)四重盲検法(5~9)0.01%とC0.05%アトロピンCNCT近視学童に対する点眼薬研究CNA進行中0.25%ケトロラックトロメタミン並行群間比較試験C150台湾C03402100(募集中)0.25%ケトロラックトロメタミンとC0.01%四重盲検法(6~12)またはC0.05%アトロピンの併用CNCT近視進行率別の近視眼に対する低濃度進行中並行群間比較試験C80C03374306(0.01%)アトロピンの局所応用CNA(募集中)0.01%アトロピン二重盲検法(参加者,研究者)(7~10)中国香港CNCT少年近視に対する梅針治療vsトロピ進行中梅針鍼灸クロスオーバー試験C98C03097198カミド点眼薬治療の比較CNA(募集中)0.5%トロピカミド二重盲検法(研究者,治療成績評価者)(8~20)中国CNCT子供の近視コントロールに対するアト進行中0.01%アトロピン並行群間比較試験C60ロピンとオルソケラトロジーの併用治CNA0.01%アトロピンとオルソケラトロジーの中国香港02955927療─ランダム化比較試験(募集中)併用単盲検法(治療成績評価者)(6~11)CNCT学童近視予防に対する低濃度アトロピ不明─C2008年0.25%アトロピン並行群間比較試験C60C00541177ン治療C4完了予定0.5%トロピカミド単盲検法(治療成績評価者)(7~12)台湾CNCT近視進行予防に対するCEchothiophate不明─C2015年単群試験C33C02544529iodide治療C4完了予定0.03%CEchothiophateiodide三重盲検法(参加者,保護者,研究者)(9~15)米国ATOM,atropineintheTreatmentOfMyopia;CHAMP,studyofNVK-002inChildrenWithMyopia;NA,該当なし(文献C5から引用)分け,グループC1はC2年間C7-メチルキサンチンC400Cmgを毎日C1回服用し,グループC2はC1年目がプラセボ,2年目からC7-メチルキサンチンを服用した.両グループとも治療停止後C1年間フォローアップされた.1年目の結果,7-メチルキサンチンを摂取した子供は眼軸延長率と近視度数の増加が大幅に低下した.2年目のC7-メチルキサンチンの治療により,両グループともにC1年目と比べて近視進行が抑制されたが,休薬の観察期間には,眼軸延長と近視度数の進行がまた早まった.アデノシン(adenosine)受容体拮抗薬であるC7-メチルキサンチンは,経口摂取できるカフェインの代謝物である.アデノシンは,網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)のアデノシンCAC2受容体を活性化し,活動電位を高める19).子供の屈折異常は網膜の電気生理学的異常を示す傾向があり,7-メチルキサンチンの投与はこれを緩和する可能性がある20).さらに,ウサギの研究では,7-メチルキサンチンが後部強膜のコラーゲン原線維の厚さ,コラーゲン密度,および直径を増加させることが示されている21).経口C7-メチルキサンチンは副作用の報告がなく,近視の子供にとって安全で効果的な治療法であり,今後のさらなる研究が期待される.C4.ケトロラックトロメタミン(ketorolactromethamine)ケトロラックトロメタミンは非ステロイド性抗炎症薬の一種であり,アレルギー性結膜炎のかゆみを緩和できる.あるコホート研究22)では,アレルギー性結膜炎のある子供は,ない子供と比較し,近視の発症するリスクが高いことが示唆された.ケトロラクトロメタミンは近視ヒヨコの眼軸延長を減少し,近視の進行を抑制させる報告もあった23).C5.リボフラビン(ribo.avin)近視のもう一つの仮説は,異常な眼軸伸長が強膜欠損に続発するものである24).強膜を強化する一つの方法は,リボフラビンを点眼しながら,370Cnmの長波長紫外線(ultravioletA:UVA)を角膜に照射し,コラーゲン線維間の架橋を増加する25).Liら26)の近視モルモットでの研究により,リボフラビンの経口摂取と全身UVA照射との併用が強膜の厚さを増加させ,近視進行,眼軸延長,強膜マトリックスメタロプロテイナーゼ-2(matrixmetalloproteinase-2:MMP-2)を有意に抑制させる.経口リボフラビンに関する現在進行中のランダム化比較試験では,参加者に紫外線の曝露を増やすために毎日C30分間の屋外活動が推奨されている.C6.眼圧下降薬イスラエルのC40歳以上の成人を対象とした横断研究27)は,眼圧がC20CmmHgを超える集団に多くの近視者が存在することを示唆した.これは,米国の子供に対する別の研究によって裏付けられた28).しかし,中国の前向きコホート研究29)では,7~9歳の子供を対象とし,年にC1度検査を受けさせた結果,近視と非近視の子供の眼圧は近視発症前に差がなく,近視発症後に眼圧が上昇することを示し,眼圧の上昇は原因ではなく近視の結果であることを示唆した.また,マレイン酸チモロール(timololmaleate)を用いて,159人の近視の子供を対象とした試験30)では,眼圧をC3CmmHg減少させたにもかかわらず,2年後の近視の進行に影響がないことが示されていた.CII前臨床レベルの薬物1.近視を誘発する方法前臨床段階での薬物治療をよりよく理解するには,近視の動物モデルの背景知識が重要である.実験近視には,視性刺激遮断近視(formdeprivedCmyopia:FDM)と凹レンズ誘発性近視(lensCinducedmyopia:LIM)の2種類の方法が広く使用されている.FDMは,上下眼瞼縫合されたマカクザルが眼軸延長を伴う近視を発症したことを報告したCWieselらの研究31)に基づいている.後の研究により,この特徴が暗闇で飼育されたサルに発現されなかったため,半透明の眼瞼を通した空間的なコントラストが近視に必要と考えられている32).また,これらの近視動物の後部強膜が薄くなり,人間の近視眼に類似すると思われる.FDMは瞼々縫合のみならず,半透明ディフューザーを装着することによっても実現できる.この技術は,モルモッ542あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(40)ト33),ウサギ34),ヒヨコ35),ツパイ36),マウス37),ラット38)などの動物に適用されている.LIMは,ぼけ像が網膜に結ばれると眼球のサイズが変化して補償するという発見39)により開発された.凹レンズを装着すると焦点が網膜の後方に移動し,ぼけを引き起こし,眼の成長率を高め,結果として眼軸延長と近視が起こる.ヒヨコのほか,LIMはツパイ40),モルモット41),アカゲザル42)でも同様に実現できる.LIMは遠視性ぼけ像を完全に補正するという明確なエンドポイントをもつため,閉ループとみなされる一方,FDMは開ループとみなされる.この二つの方法は同様に近視を誘発するが,照明状態,種類,強度に対する反応の違いからみると,近視の発生機序が異なると考えられている43,44).一方,ドーパミンやCZENKなどはFDMとCLIMに共通して変化するとの報告から,両方とも一部の共同通路を介していると考えられる45).CIII動物における薬物実験Embaseというデータベースで検索すると,2008~2018年に近視抑制に対する動物実験がC30件あり,6カテゴリーに分類された(表2)5).C1.ドーパミン作動薬ドーパミン受容体がC5種類(D1~D5)あり,D3受容体を除き,すべてのドーパミン受容体サブタイプは網膜で発現している46).網膜のドーパミン貯蔵がCFDMサル11)およびヒヨコ12)で大幅に減少することが示され,このプロセスを逆にすることにより近視の進行を抑制する可能性があると考えられている.これはモルモット,ツパイ,ヒヨコに対する研究で実証された(表2).しかし,ドーパミンの影響が複雑でCDC2,D3,D4受容体の作動薬は,ツパイ47)およびヒヨコ48)の近視を軽減するが,モルモット49)の近視を促進する.ドーパミンのメカニズムは種により異なると考えられる.C2.抗炎症薬抗炎症治療は,近視が慢性炎症状態でより多く発見されたということに基づく15).研究により,瞼々縫合のハムスターにおもな炎症マーカーが上昇し,炎症性刺激物質の存在下でそれらのマーカーがさらに上昇した.逆に,免疫抑制薬の投与はそのレベルを低下させた.アトロピンで観察された同様の抗炎症効果も,その近視抑制作用の原因の一つと考えられる.C3.抗ムスカリン薬近視を抑制する非選択的ムスカリン受容体拮抗薬であるアトロピンの有効性により,ムスカリン受容体サブタイプに対する選択性が高い他の抗ムスカリン薬が研究されている.選択的CM1/4拮抗薬であるピレンゼピン(pirenzepine)は,LIMヒヨコの近視を抑制し,後部強膜でのグリコサミノグリカン合成を増加させると報告された50).これはアトロピンより副作用が少ないが,臨床試験の結果では眼科軟膏としてC2回/日の使用頻度が不便である51,52).C4.眼圧下降薬チモロールマレイン酸塩はヒトに対する試験では近視の軽減に効果がないことが示されたが,モルモットの研究では,ブリモニジン(brimonidine:Ca-アドレナリン作動薬)とラタノプロスト(latanoprost:prostaglandin類似体)が近視の進行を抑制できると報告された53~55).一つの説明は,眼内圧の上昇が調節近視の一部であるとするものである.継続的な近距離作業により一過性近視56)と進行性近視眼で調節により眼内圧の上昇57)するとの報告があり,眼圧下降薬は屈折性近視を抑制できるかもしれない.他の動物実験では,近視眼で上昇または下降する特定の分子を標的としている〔たとえばインスリン様成長因子-2(IGF-2)58)や,アポリポ蛋白質CA159)〕.これらの分子が近視化に関与することが示唆されたが,どのように寄与するかは明確ではない.ただし,これらの薬剤は注射で投与されるため(アスタキサンチンを除く),臨床試験へ進むのはむずかしい.C5.漢方薬と天然エキスビルベリー抽出物であるディフラレルと,六つのハーブ抽出物であるCBuJingYiShiは,強膜のCECMの分解を低下させることにより,FDMモルモットの近視を抑(41)あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C543表22008~2018年に動物実験で近視抑制に有効と報告された薬物ドーパミン系SKF38393D1R作動薬FDMモルモットの近視抑制C49CQuinpiroleD2R作動薬FDMツパイの近視抑制,FDMヒヨコの脈絡膜の厚さの増加に伴う近視抑制,FDMモC47,C48,C49ルモットの近視促進CSulpirideD2R拮抗薬FDMモルモットの近視抑制C49CSpiperoneD2R拮抗薬FDMツパイの近視抑制C47CPD168077選択的CD4R作動薬FDMツパイの近視抑制C47CLevodopaドーパミンの前駆物質FDMモルモットの近視抑制C─CCiticoline*ドーパミンを増加させるFDMモルモットの近視抑制C─CApomorphine非選択的ドーパミン受容体作動薬FDMモルモットの近視抑制,LIMモルモットでは抑制効果なし,FDMヒヨコの近視抑制C48抗炎症系CyclosporineA†免疫抑制薬FDMハムスターの近視抑制,c-Fos,NF-kappaB,IL-6とCTNF-alphaを減少させるC15CLipopolysaccharideandpeptidoglycan起炎物質FDMハムスターの近視促進,c-Fos,NF-kappaB,IL-6とCTNF-alphaを増加させるC15CKetorolactromethamine†非ステロイド性抗炎症薬FDMヒヨコの近視抑制C23抗ムスカリン系Atropine†非選択的ムスカリン受容体拮抗薬いくつかの動物でのCFDMとCLIMの抑制C9,C10,C15Muscarinictoxin3(MT3)選択的CM4拮抗薬FDMヒヨコの近視抑制,LIMヒヨコでは抑制効果なし,FDMツパイの近視抑制C─Muscarinictoxin7(MT7)選択的CM1拮抗薬FDMとCLIMツパイの近視抑制C─CPirenzepine選択的CM1/4拮抗薬FDMヒヨコの近視抑制C50眼圧下降系Brimonidine†Alpha-adrenergic作動薬LIMモルモットの近視抑制C54CLatanoprost†Prostaglandin類似体FDMモルモットの近視抑制C53,C55そのほかBevacizumab抗CVEGF抗体FDMヒヨコの近視抑制,近視回復段階で脈絡膜が厚くなるのを抑制するC─CCyclopamineSonichedgehog中和抗体,MMP-2の活性の抑制FDMモルモットの近視抑制C─CAmphiregulinantibodyamphiregulinに対する抗体,表皮成長因子家族LIMモルモットの近視抑制C─Insulin-likegrowthfactor-2(IGF-2)CantisenseoligonucleotidesIGF-2を減少させるFDMモルモットの近視抑制C58CDL-alpha-aminoadipicacid網膜CMuller細胞を選択的に破壊するFDMモルモットの近視抑制,網膜CTGFCb2のレベルを低下させるC─C7-MethylxanthineAdenosine受容体拮抗薬FDMモルモットの近視抑制,強膜コラーゲン線維が細くなるのを抑制する,LIMアカゲC─ザルの近視抑制CCGP46381GABAB受容体拮抗薬FDMモルモットの近視抑制C─CAstaxanthin*Ketocarotenoid(抗酸化ストレス)LIMモルモットの近視抑制コラーゲンの断裂と構造の強さを補足するC─C8-Br-cAMP網膜アポリポ蛋白質CA1(ApoA1)を減少させるFDMヒヨコの脈絡膜肥厚化をはじめとする近視抑制C59共役細胞結合ペプチドと酵素分解性架橋剤を用いてCHydrogelアクリル化ヒアルロン酸から合成されたヒドロゲルFDMモルモットの近視抑制,副作用なしC─漢方薬と天然エキスDifrarel*ビルベリーエキスFDMモルモットの近視抑制,強膜におけるCMMP-2のアップレギュレーションとコラーゲC60ンCIの分解を減少させるCBuJingYiShi*漢方薬FDMモルモットの近視抑制,強膜線維芽細胞と細胞外マトリックスのリモデリングを調C61節するCTGFCb1を増加させるブラックカラントエキス*とアントシアニンFDMヒヨコの近視抑制C62C経口服用.†点眼薬,ほかのすべての薬物が眼内注射(硝子体内,結膜下,眼球周囲,Tenon.下).FDM:視性刺激遮断近視(formdeprivedmyopia);GABA,g-アミノ酪酸;IL-6,イ*ンターロイキン6;IOP,眼内圧;LIM,凹レンズ誘発性近視(lens-inducedmyopia);MMP-2,マトリックスメタロプロテイナーゼ-2;NF,核因子;TNF,腫瘍壊死因子;VEGF,血管内皮成長因子.(文献C5より引用)制すると報告した60,61).ほかに,ブラックカラント抽出物は,LIMヒヨコの近視と眼軸延長を用量依存的に低減させるとの報告もあった62).臨床試験は医薬品開発の不可欠な部分だが,高額な支出のプロセスでもある.これらの薬物は動物モデルで近視を有効に抑制することが示されたが,臨床試験段階に進む前に慎重に検討する必要がある.また,動物で試験された物質は注射が必要なものが多く,年少患者に使用することはむずかしい.点眼薬(抗生物質や眼圧下降薬)や経口錠剤(例:シチコリン,アスタキサンチン,および天然抽出物)などに対する忍容性が高いが,毎日の投与によるコンプライアンスにも注意しなければならない.最後に,緑内障や加齢黄斑変性とは異なり,近視はおもに子供に発症するため,新しい治療法は,治療中および治療後の長期的な安全性と有効性を評価して,正常な発達に対するリスクが最小限またはまったくないことを確認する必要がある.CIV結論近視治療を目的とする治療法は,現在,アトロピン,ピレンゼピンおよびC7-メチルキサンチンのみがヒトに対する試験で近視進行を抑制できると報告された.ケトロラクトロメタミン,経口リボフラビン,実験薬物などの薬物はまだ臨床試験段階である.過去C10年間で,動物モデルで近視をうまく抑制する有望な薬剤が発見されたが,それらはおもに注射が必要で臨床試験への進行はむずかしい.それにもかかわらず,これらの結果は近視に関する知識をさらに追加し,医薬品開発に対して不可欠である.また,低用量アトロピンの併用治療の優越性が証明された一方,低用量アトロピン単剤の有効性を裏付ける証拠がすでにあるため,配合錠を開発している間に高有病率の発展途上国でのアトロピンの治療も考えられる.文献1)HoldenCBA,CFrickeCTR,CWilsonCDACetal:GlobalCpreva-lenceCofCmyopiaCandChighCmyopiaCandCtemporalCtrendsCfrom2000through2050.COphthalmology123:1036-1042,C20162)BourneRR,StevensGA,WhiteRAetal:CausesofvisionlossCworldwide,1990-2010:aCsystematicCanalysis.CLancetCGlobHealthC1:e339-e349,C20133)LinLL,ShihYF,HsiaoCKetal:PrevalenceofmyopiainTaiwaneseschoolchildren:1983CtoC2000.CAnnCAcadCMedCSingaporeC33:27-33,C20044)MorganCA,CYoungCR,CNarankhandCBCetal:PrevalenceCrateofmyopiainschoolchildreninruralMongolia.OptomVisSci83:53-56,C20065)VutipongsatornK,YokoiT,Ohno-MatsuiK:CurrentandemergingCpharmaceuticalCinterventionsCforCmyopia.CBrJOphthalmolC103:1539-1548,C20196)KumaranA,HtoonHM,TanDetal:Analysisofchangesinrefractionandbiometryofatropine-andplacebo-treat-edeyes.InvestOphthalmolVisSci56:5650-5655,C20157)ChiaA,LuQS,TanD:Five-yearclinicaltrialonatropineforthetreatmentofmyopia2:myopiacontrolwithatro-pine0.01%Ceyedrops.Ophthalmology123:391-399,C20168)WilliamsCKM,CBertelsenCG,CCumberlandCPCetal:Increas-ingCprevalenceCofCmyopiaCinCeuropeCandCtheCimpactCofCeducation.Ophthalmology122:1489-1497,C20159)SchmidCKL,CWildsoetCF:InhibitoryCe.ectsCofCapomor-phineCandCatropineCandCtheirCcombinationConCmyopiaCinCchicks.OptomVisSci81:137-147,C200410)McBrienCNA,CMoghaddamCHO,CReederAP:AtropineCreducesCexperimentalCmyopiaCandCeyeCenlargementCviaCaCnonaccommodativemechanism.InvestOphthalmolVisCSci34:205-215,C199311)IuvonePM,TiggesM,FernandesAetal:Dopaminesyn-thesisandmetabolisminrhesusmonkeyretina:develop-ment,Caging,CandCtheCe.ectsCofCmonocularCvisualCdepriva-tion.VisNeurosci2:465-471,C198912)StoneRA,LinT,LatiesAMetal:Retinaldopamineandform-deprivationCmyopia.CProcCNatlCAcadCSciCUSAC86:C704-706,C198913)RadaJA,ThoftRA,HassellJR:Increasedaggrecan(carti-lageCproteoglycan)productionCinCtheCscleraCofCmyopicCchicks.CDevBiolC147:303-312,C199114)LindGJ,ChewSJ,MarzaniDetal:Muscarinicacetylcho-lineCreceptorCantagonistsCinhibitCchickCscleralCchondro-cytes.InvestOphthalmolVisSci39:2217-2231,C199815)LinCHJ,CWeiCCC,CChangCCYCetal:RoleCofCchronicin.ammationinmyopiaprogression:clinicalevidenceandexperimentalvalidation.CEBioMedicineC10:269-281,C201616)LuftWA,MingY,StellWK:Variablee.ectsofprevious-lyCuntestedCmuscarinicCreceptorCantagonistsConCexperi-mentalmyopia.InvestOphthalmolVisSci44:1330-1338,C200317)FischerAJ,MiethkeP,MorganIGetal:Cholinergicama-crineCcellsCareCnotCrequiredCforCtheCprogressionCandCatro-pine-mediatedCsuppressionCofCform-deprivationCmyopia.CBrainRes794:48-60,C199818)TrierCK,CMunkCRibel-MadsenCS,CCuiCDCetal:SystemicC7-methylxanthineinretardingaxialeyegrowthandmyo-(43)あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C545piaCprogression:aC36-monthCpilotCstudy.CJCOculCBiolCDisCInforC1:85-93,C200819)GallemoreCRP,CHughesCBA,CMillerSS:Light-inducedCresponsesCofCtheCretinalCpigmentCepithelium.CInCTheCretinalpigmentCepithelium(editedCbyCMarmorMF)C,Cp175-198,COxfordUniversityPress.NewYork,199820)FlitcroftCDI,CAdamsCGG,CRobsonCAGCetal:RetinalCdys-functionCandCrefractiveerrors:anCelectrophysiologicalCstudyofchildren.BrJOphthalmolC89:484-488,C200521)TrierCK,COlsenCEB,CKobayashiCTCetal:BiochemicalCandCultrastructuralCchangesCinCrabbitCscleraCafterCtreatmentCwithC7-methylxanthine,Ctheobromine,Cacetazolamide,CorCL-ornithine.BrJOphthalmol83:1370-1375,C199922)WeiCC,KungYJ,ChenCSetal:Allergicconjunctivitis-inducedCretinalCin.ammationCpromotesCmyopiaCprogres-sion.EBioMedicineC28:274-286,C201823)LuuCCD,CFooCH,CCrewtherCSGCetal:E.ectsCofCaCnon-ste-roidal(ketorolactromethamine)andasteroidal(dexameth-asone)anti-in.ammatoryCdrugConCrefractiveCstateCandCoculargrowth.CClinExpOphthalmolC29:175-178,C200124)McBrienNA,GentleA:Roleofthesclerainthedevelop-mentandpathologicalcomplicationsofmyopia.CProgRetinEyeResC22:307-338,C200325)WollensakCG,CIomdinaE:Long-termCbiomechanicalCprop-ertiesCofCrabbitCscleraCafterCcollagenCcrosslinkingCusingCribo.avinandultravioletA(UVA)C.ActaOphthalmolC87:C193-198,C200926)LiCX,CWuCM,CZhangCLCetal:Ribo.avinCandCultravioletCaCirradiationCforCtheCpreventionCofCprogressiveCmyopiaCinCaCguineapigmodel.ExpEyeResC165:1-6,C201727)DavidCR,CZangwillCLM,CTesslerCZCetal:TheCcorrelationCbetweenCintraocularCpressureCandCrefractiveCstatus.CArchCOphthalmol103:1812-1815,C198528)QuinnCGE,CBerlinCJA,CYoungCTLCetal:AssociationCofCintraocularpressureandmyopiainchildren.Ophthalmolo-gy102:180-185,C199529)EdwardsCMH,CBrownB:IOPCinCmyopicchildren:theCrelationshipCbetweenCincreasesCinCIOPCandCtheCdevelop-mentofmyopia.COphthalmicandPhysiologicalOpticsC16:C243-246,C199630)JensenH:MyopiaCprogressionCinCyoungCschoolCchildren.CAprospectivestudyofmyopiaprogressionandthee.ectofCaCtrialCwithCbifocalClensesCandCbetaCblockerCeyeCdrops,CActaOphthalmol(Suppl200):1-79,199131)WieselTN,RaviolaE:Myopiaandeyeenlargementafterneonatallidfusioninmonkeys.Nature266:66-68,C197732)RaviolaCE,CWieselTN:E.ectCofCdark-rearingConCexperi-mentalCmyopiaCinCmonkeys.CInvestCOphthalmolCVisCSciC17:485-488,C197833)HowlettMH,McFaddenSA:Form-deprivationmyopiaintheguineapig(Caviaporcellus)C.VisionResC46:267-283,C200634)VerolinoCM,CNastriCG,CSellittiCLCetal:AxialClengthCincreaseinlid-suturedrabbits.SurvOphthalmol44(Suppl1):S103-S108,C199935)TroiloCD,CGottliebCMD,CWallmanJ:VisualCdeprivationCcausesCmyopiaCinCchicksCwithCopticCnerveCsection.CCurrCEyeCResC6:993-999,C198736)ShermanSM,NortonTT,CasagrandeVA:Myopiainthelid-suturedtreeshrew(Tupaiaglis)C.BrainRes124:154-157,C197737)Schae.elCF,CBurkhardtCE,CHowlandCHCCetal:Measure-mentCofCrefractiveCstateCandCdeprivationCmyopiaCinCtwoCstrainsofmice.OptomVisSciC81:99-110,C200438)ShinoharaCK,CYoshidaCT,CLiuCHCetal:EstablishmentCofCnovelCtherapyCtoCreduceCprogressionCofCmyopiaCinCratsCwithexperimentalmyopiaby.broblasttransplantationonsclera.CJTissueCEngRegenMedC12:e451-e461,C201839)Schae.elCF,CGlasserCA,CHowlandHC:Accommodation,CrefractiveCerrorCandCeyeCgrowthCinCchickens.CVisionCResC28:639-657,C198840)ShaikhCAW,CSiegwartCJTCJr,CNortonTT:E.ectCofCinter-ruptedlenswearoncompensationforaminuslensintreeCshrews.OptomVisSciC76:308-315,C199941)LiW,LanW,YangSetal:Thee.ectofspectralproper-tyandintensityoflightonnaturalrefractivedevelopmentandcompensationtonegativelensesinguineapigs.InvestOphthalmolVisSciC55:6324-6332,C201442)SmithCELC3rd,CHungCLF,CArumugamCBCetal:NegativeClens-inducedCmyopiaCinCinfantmonkeys:e.ectsCofChighCambientClighting.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:2959-2969,C201343)KeeCCS,CMarzaniCD,CWallmanJ:Di.erencesCinCtimeCcourseCandCvisualCrequirementsCofCocularCresponsesCtoClensesCandCdi.users.CInvestCOphthalmolCVisCSciC42:575-583,C200144)BartmannCM,CSchae.elCF,CHagelCGCetal:ConstantClightCa.ectsCretinalCdopamineClevelsCandCblocksCdeprivationCmyopiabutnotlens-inducedrefractiveerrorsinchickens.VisNeurosciC11:199-208,C199445)FischerCAJ,CMcGuireCJJ,CSchae.elCFCetal:Light-andCfocus-dependentCexpressionCofCtheCtranscriptionCfactorCZENKinthechickretina.NatNeurosciC2:706-712,C199946)IuvonePM:NeurotransmittersCandreceptors:dopamineCA2.CInCEncyclopediaCofCtheeye(editedCbyCDarttDA)C,Cp130-135,Oxford/AcademicPress,Cambridge,MA,195347)WardCAH,CSiegwartCJT,CFrostCMRCetal:Intravitreally-administeredCdopamineD2-like(andD4),CbutCnotCD1-like,CreceptorCagonistsCreduceCform-deprivationCmyo-piaintreeshrews.VisNeurosci34:E003,C201748)NicklaDL,TotonellyK,DhillonB:DopaminergicagoniststhatresultinoculargrowthinhibitionalsoelicittransientincreasesCinCchoroidalCthicknessCinCchicks.CExpCEyeCResC91:715-720,C201049)ZhangCS,CYangCJ,CReinachCPSCetal:DopamineCreceptorCsubtypesCmediateCopposingCe.ectsConCformCdeprivationC546あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(44)-

近視進行予防の治療 3. 多焦点眼鏡,多焦点コンタクトレンズ,DIMSレンズ

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の治療3.多焦点眼鏡,多焦点コンタクトレンズ,DIMSレンズMultifocalSpectacle,MultifocalSoftContactandDefocusIncorporatedMultipleSegments(DIMS)Lenses長谷部聡*はじめに小児に対する予防的治療を考えるとき,その要件として一般的に,1)重篤な副作用がないこと,2)経済的であること,3)治療が煩雑でないことがあげられる.多焦点眼鏡や多焦点コンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MSCL)は繰り返し試験されてきた方法論であり,安全性については豊富なエビデンスがある.また,屈折矯正自体が予防的治療を兼ねていることから,2)と3)の要件も満たされる.十分な抑制効果が得られるならば,患児にとってはもっとも理想的な予防的治療といえよう.I眼軸長の視覚制御ノーベル生理学賞受賞者のWieselらの形態覚遮断近視1)やヒューストン大学のSmithらのレンズ誘発近視2)など,動物モデルによる数多くの近視化実験によって,眼軸長の視覚制御(visualregulationofaxiallength)の詳細が明らかになりつつある.一言でいえば,発達途上にある眼球には,与えられた視覚的環境に合わせて眼球の形状(眼軸長)を調整する一種のホメオスタシス機能が備わっている.ここでは“鮮明な網膜像”が眼軸伸展の停止信号,網膜後方へのデフォーカスが眼軸の伸展を加速させる引き金(トリガー)の役割を果たすものと考えられている.網膜後方へのデフォーカスが与えられたとき,強膜細胞外マトリックスの再構築と結合組織のスライディングが起きて眼軸長が過伸展する仕組みについても,神経生化学的な基礎研究が多数報告されている3).一方,近業に伴う毛様体筋の過緊張により,赤道方向への眼球の発育が阻害され,本来であれば眼軸の成長と伴に起こるべき水晶体屈折力の低下が生じないとする機械的張力説(mechanicaltensiontheory)の関与を主張する研究者もある4).しかし,動物実験モデルによる裏付けが得られておらず,仮説に止まっている.II治療機転眼軸長の視覚制御が働いているとしても,ここで眼軸過伸展の引き金となる網膜後方へのデフォーカスはなぜ起こるのだろう.最初の仮説は調節ラグ説であった5).調節は,視距離の変化という外乱に対して,網膜像を鮮明に保つためのフィードバック制御といえる.ところが実際に調節反応を測定すると,生物学的な制御であるがために,特徴的な誤差がみられる.調節安静位(遠点に対して0.5~1.5D近方に)を起点として,視距離が短くなるにつれて調節反応が鈍り,調節ラグつまり網膜後方へのデフォーカスが増大する.調節ラグを眼軸過伸展の引き金であると考えれば,過剰な近業がなぜ眼軸を過伸展させるかをうまく説明できる.次に登場した仮説は,周辺網膜での後方デフォーカス説である.Dietherら6)やSmithら7)は,実験動物の視野の一部にそれぞれ凹レンズや半透明カバーを装着させたところ,対応する網膜のみに眼軸の過伸展が観察されることを報告した.この実験結果は,眼軸長の視覚制御*SatoshiHasebe:川崎医科大学眼科学2〔別刷請求先〕長谷部聡:〒700-8505岡山市北区中山下2-6-1川崎医科大学眼科学20910-1810/20/\100/頁/JCOPY(29)531の仕組みは中心窩に限られたものではなく,網膜全体に及び,局所的に作用することを示している.正視眼であっても眼球形状には個人差があり,前後に長く網膜の曲率半径が小さいプロレートな形状では,中心窩で焦点を結ぶとき,周辺網膜では網膜曲面と焦点曲面(imageshell)との食い違いから後方へのデフォーカスが発生しやすい.また,眼鏡レンズでは,周辺視野から来る光線はレンズ表面を斜めに通過するため,非点収差とともにマイナス度数が増大し,周辺網膜では後方デフォーカスが起こりやすい.多焦点眼鏡やCMSCLを用いた近視予防研究は当初,眼軸過伸展の引き金と考えられる網膜後方へのデフォーカスを軽減することに主眼が置かれていた.CIII多焦点眼鏡1.累進屈折力眼鏡累進屈折力眼鏡(progressiveadditionlens:PAL)を装用させると,近見加入度数だけ調節必要量が減る.たとえば視距離C33Ccmの近業では,調節必要量(+3D)は調節安静位を上回り,調節ラグが発生する.ところが+1.5~+2.0Dの近用加入をもつCPALを装用させると,調節必要量は調節安静位(+1.0~+1.5D)にほぼ一致することになり,調節ラグは理論上発生しない.そこでPALを装用することで,近視進行を抑制できるのではないかと期待された8~15).PALを用いたCRCTは,被検者を限定したターゲット研究14,15)も含めて,合計C7回実施された.しかし,屈折度における平均抑制効果はC11~33%に止まっている(表1).RCTの結果を統合するシステマティック・レビュー16)によれば,PALによる抑制効果は,統計学的には有意であるものの,効果自体が小さいことから,臨床的な治療法としては推奨できないと結論づけられている.C2.Radialrefractivegradientデザインレンズ周辺網膜における後方デフォーカスへの対策として設計されたのがCradialCrefractivegradient(RRG)レンズである17).PALが中心から下方へプラス度数が加入されているのに対し,RRGレンズではほぼ同心円状に,中心から離れるにしたがって徐々に,プラス度数が加入されている.これを装用することによって,少なくとも正面を見ている間は,周辺視野から来る光線はプラス度数加入領域を通るため,焦点が前方に移動し,周辺網膜における後方デフォーカスを軽減できる.この効果により,近視進行を抑制できるのではないかと期待された.最初の比較対照試験で用いられたC3種類のCRRGレンズのうち,のちにCMyoVision(CarlCZeissVision)として市販されるレンズは,平均C30%の近視進行抑制効果を示した17).しかしこの値は,近視の家族歴がある学童に限定した,後付けのサブグループ分析から得られたものであった.追試として国内では,家族歴のある学童に対象を限定してC7大学共同でCRCTが実施された18).ところが期待に反して,屈折度,眼軸長いずれにおいても抑制効果はみられなかった(表1).C3.Positively.aspherizedPAL(PA.PAL)MyoVisionとは別に,筆者らはCPALとCRRGレンズのハイブリッドであるCpositively-aspherizedPAL(PA-PAL)(図1)によるCRCTを実施した19).非点収差の少ない下方近用部で近業時の網膜後方デフォーカス(調節ラグ)を,遠用部周囲のプラス度数加入領域で周辺網膜における後方デフォーカスを軽減しようという二重効果を狙った設計であった.しかし,得られたC2年間の近視進行抑制効果は平均C20%に止まり,PALの抑制効果と大差はなかった(表1).RRGレンズやCPA-PALなど周辺網膜における後方デフォーカスの軽減を狙う眼鏡レンズが十分な成果をあげられなかった理由として,Flitcroftらは網膜周辺部におけるデフォーカスはレンズ設計だけで決まるわけではなく,網膜の形状,空間の三次元的配置,注視方向,注視距離によってダイナミックに変動していることを指摘している20).さらにレンズの非球面化に伴い周辺部では非点収差が増大するため,眼軸伸展の停止信号となる鮮明な網膜像を得にくいという問題もある19).CIV多焦点ソフトコンタクトレンズMSCLを用いた比較対照試験の成績は,2010年頃から報告されるようになった21~28).ここで使用されたのは中央遠用のCMSCLで,治療機転としてはCRRGレンズ532あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(30)表1累進屈折力眼鏡(No.1~8)と特殊非球面レンズ眼鏡(No.9~11)による比較対照試験の成績8~15,17~19)No.報告者報告年使用レンズ研究デザインCn近視進行*抑制(%)眼軸伸展*抑制(%)1C2C3C4C5C6C7C8C9C10C11CLeung8)CShih9)CEdwards10)CCOMET11)CHasebe12)CYang13)CCOMET-214)CBerntsen15)CSankaridurg17)CHasebe19)CKanda18)C1999C2001C2002C2003C2008C2009C2011C2012C2010C2014C2018CPALPALPALPALPALPALPALPALRRGPA-PALRRG2年CCTC2年CRCTC1.5年CRCTC3年CRCTC3年CRCTC2年CRCTC3年CT-RCTC1年CT-RCTC1年CCTC3年CRCTC2年CT-RCTC46C188C298C469C92C178C118C85C100C169C207C46C15p<C0.001C11CN.S.C14p<C0.001C15p<C0.001C21Cp=0.01C24p<C0.05C33Cp=0.01C30p<C0.05C20p<C0.02CN.S.C50C2C3CN.S.C15p<C0.001C─C16Cp=0.04C─C─C─C12CN.S.CN.S.CPAL=累進屈折力眼鏡,RRG=radialCrefractiveCgradientCdesignlens,PA-PAL=positivelyaspherizedPAL,DIMS=defocusincorporatedmultisegmentslens,RCT=無作為化比較対照試験,CT=比較対照試験,T-RCT=治療対象を限定した試験.*無効は0%.Ca平均屈折力マップb非点収差マップ(D)2.01.51.00.50.0非点収差の小さいレンズ下方の近用部のプラス加入で調節ラグを,周辺部に設けたプラス加入での周辺網膜での後方デフォーカスを軽減する.レンズ径はC60mm.(文献C19より改変引用)表2ソフトコンタクトレンズによる比較対照試験の成績21~28,33,34)報告者報告年Cn治療対照デザイン近視進行抑制(%)眼軸伸展抑制(%)ドロップアウト(%)CAnstice21)CSankaridurg22)CWalline23)CFujikado24)CLam25)CPaune26)CAller27)CCheng28)CRuiz-Pomeda33)CChamberlain34)C2011C2011C2013C2014C2014C2015C2016C2016C2018C2019C70C82C54C24C128C40C79C109C89C109CMSCLMSCLMSCLMSCLDISCMSCLMSCLMSCLDISCDISC単焦点CSCL単焦点眼鏡単焦点CSCL単焦点CSCL単焦点CSCL単焦点眼鏡単焦点CSCL単焦点CSCL単焦点眼鏡単焦点CSCL10カ月CCTC1年間CCTC2年間CHCTC2年間CRCTC2年間CRCTC2年間CCTC1年間CRCTC1~2年間CRCTC2年間CRCTC3年間CRCTC36C36C50C26C25C43C77C20C39C59C50C39C29C25C32C27C79C39C36C52C13C18C19C0C25C43C8C14C17C24CMSCL=多焦点ソフトコンタクトレンズ,DISC=defocusCincorporatedCsoftCcontactlens,SCL=単焦点ソフトコンタクトレンズ,CT=比較対照試験,RCT=無作為化試験.Ca+3.5D図2DIMS眼鏡と仕組みa:レンズ表面に微小(マルチプル)レンズが約C400個配置されている.Cb:微小レンズを通る光線は,網膜面の焦点(F1)とは別に,約C3.5D前方に第二の焦点(F2)を作る.(https://www.hoyavision.com/en-hk/discover-products/for-spectacle-wearers/special-lenses/myosmart/)=近視進行(D)図3DIMS眼鏡による無作為化比較対照試験の成績(文献C32より改変引用)aMSCLbDISCレンズ矯正ゾーン矯正ゾーン加入ゾーン(+2D)加入ゾーン(+1.5~2.5D)8.5~9mm6mm図4中央遠用のMSCLとDISCレンズの模式図2.5D図5DISCレンズの仕組み加入ゾーンを通る光線は,網膜上のフォーカス(F1)とは別に,約C2.5D前方に第二のフォーカス(F2)を作る.C—-

近視進行予防の治療 2. オルソケラトロジー

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の治療2.オルソケラトロジーOrthokeratology平岡孝浩*はじめにハードコンタクトレンズを角膜前面カーブよりもフラットに処方すると角膜中央が扁平化し,その結果として近視が軽減することは1960年代から確認されており,これを意図的に行う手法がオルソケラトロジー(ortho-keratology:OK)とよばれるようになった.1980年代に入るとリバースジオメトリーデザインが考案され,精度が飛躍的に向上した.さらに高酸素透過性のレンズ素材の開発や角膜トポグラフィーの登場とともにOKの手法も洗練され,1990年代後半には就寝時装用OKが本格的に普及するようになった.そして,未成年や学童にも処方されるようになったが,本治療を継続していると近視が進みにくくなることが広く経験されるようになった.そして,2004年に初めて学術論文としてケースレポートが掲載され,片眼のみOKを行っていた11歳男児の2年間の眼軸長伸長が僚眼の半分以下(治療眼0.13mmvs僚眼0.34mm)に抑えられていたことが紹介された1).以降,非常に多くの臨床研究が行われているが,本稿では代表的な研究を取り上げ,OKによる近視進行予防について解説する.Iオルソケラトロジーによる近視進行抑制初めてパイロットスタディを行ったのは香港のChoら2)のグループである.2年間の研究期間において,OK治療群の眼軸長伸長は眼鏡装用対照群と比較して46%抑制されていたと報告した.また,米国のWallineら3)の研究では,ソフトコンタクトレンズ装用対照群と比較して2年間で56%の眼軸長伸長抑制効果が確認された.しかし,これらの研究では適切な対照群が設定されておらず,他の報告からの引用データ(historicaldata)を用いて比較しているため,エビデンスレベルは低いといわざるを得なかった.その後,日本やスペインで単焦点眼鏡装用を対照とした非ランダム化比較試験が施行され,Kakitaら4)の報告では日本人において2年間で36%,またSantodomin-go-Rubidoら5)の白人を対象とした研究では2年間で32%の有意な眼軸長伸長抑制効果が認められた.さらに2012年にはChoら6)のグループによりROMIOスタディという初めてのランダム化比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)が行われ,OK群は単焦点眼鏡群と比較して2年間で43%の眼軸長伸長抑制が達成されていることが確認された.II適応の拡大強度近視眼や高度乱視眼に対する処方も試みられている.2013年に報告されたHighmyopia-partialreduc-tionOKという研究では,強度近視眼に対してOKを用いて4Dだけ部分的に近視矯正を行い,残存した近視度数に対して眼鏡を装用させるという手法が用いられ,2年間の眼軸長変化が検討されている.その結果,OK治療群では眼鏡対照群と比較してきわめて強い眼軸長伸長抑制効果(63%)が確認された7).また,TO-SEEと命*TakahiroHiraoka:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕平岡孝浩:〒305-8575茨城県つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(23)525Choetal.文献2)Wallineetal.文献3)Kakitaetal.文献4)Santodomingoetal.文献5)Choetal.文献6)Charmetal.文献7)Chenetal.文献8)010203040506070対照群に対する眼軸長伸長抑制効果(%)図1オルソケラトロジー眼軸長伸長抑制効果に関する既報の比較グラフに提示したものはすべてC2年間の臨床研究であり,対照群(単焦点眼鏡もしくはソフトコンタクトレンズ)に対する眼軸長伸長抑制効果をパーセンテージ表記している.つまり数値が大きい(棒グラフが長い)ほど抑制効果が強いことを示している.いずれの研究においてもオルソケラトロジー群は対照群よりも眼軸長伸長が有意に抑制されており,その抑制効果はC32.63%と報告されている.図2眼鏡(凹レンズ)による網膜結像面と周辺部遠視性デフォーカスの発生近視を眼鏡で矯正すると,周辺部に遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)を生じやすく,これが眼軸長を伸長(近視を進行)させるトリガーとなると考えられている.角膜周辺部がスティープ化図3オルソケラトロジー後の網膜結像面と周辺部遠視性デフォーカスの改善オルソケラトロジー後は角膜中央がフラット化し近視が軽減するが,周辺部角膜は肥厚,スティープ化するため周辺での屈折力が増し,その結果,周辺網膜像での遠視性デフォーカスが改善する.それゆえ眼軸長伸長が抑制され近視が進行しにくくなると考えられている.Changeinaxiallength(mm)21.5r=-0.584p<0.000110.5000.20.40.6-0.5Cornealtotalhigher-orderaberration(mm)図4近視学童における高次収差と眼軸長の相関縦軸にC2年間の眼軸長変化量,横軸にベースラインの角膜高次収差をとった散布図が示されている.両パラメータに有意な負の相関が認められており,つまり角膜高次収差が大きい症例ほど眼軸長変化が小さい(近視が進みにくい)という関連が読み取れる.本データは近視学童の自然経過で確認された相関であるが,オルソケラトロジー患者でも類似の関連が確認されている.(文献C18より引用)C0.40.35Combinationgroup*Changeinaxiallength(mm)0.30.250.20.150.10.050-0.05-0.1StudyentryPre-studyOver6monthsOver1year(atbaseline)(atenrollment)Durationofstudy図5オルソケラトロジー単独治療群とアトロピン点眼併用群の眼軸長経時変化縦軸に眼軸長変化量,横軸に観察期間の折れ線グラフで両群の推移が比較されている.オルソケラトロジー+0.01%アトロピン点眼併用群(combinationgroup)ではオルソケラトロジー単独治療群(monotherapygroup)と比較して眼軸長変化量が明らかに小さく,治療開始後C6カ月およびC1年時点で有意差が認められている.1年間の眼軸長変化量はそれぞれC0.09C±0.12Cmm,0.19C±0.15Cmmであり,併用療法の単独療法に対する抑制効果はC53%と算出される.(文献C23より引用)Increaseinaxiallengthover1year(mm)Combinationgroupp<0.001*Monotherapygroup0.4*Unpairedt-test0.3p<0.900*0.20.10.0Sphericalequivalentrefractiveerroratenrollment(D)図6オルソケラトロジー単独治療群とアトロピン点眼併用群の眼軸長変化(ベースラインの屈折度数でサブグループ解析)3Dを超える近視眼では眼軸長変化量に群間差はないが,3D以下の症例でサブグループ解析するとオルソケラトロジー+0.01%アトロピン点眼併用群(combinationgroup)はオルソケラトロジー単独治療群(monotherapygroup)と比較して有意に眼軸長変化量が小さい.つまり,アトロピン点眼併用療法はベースラインの近視が軽度の症例に有効であることを示している.(文献C23より引用)–

近視進行予防の治療 1. 低濃度アトロピン

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の治療1.低濃度アトロピンLow-ConcentrationAtropineEyeDrops稗田牧*Iアトロピンの基礎知識アトロピンはムスカリン受容体阻害薬である.神経の末端から放出される神経伝達物質であるアセチルコリン(acetylcholine:ACh)で刺激される受容体は,ニコチン受容体とムスカリン受容体に大別される.ムスカリン受容体は副交感神経の神経終末に存在し,副交感神経の活動を制御する.アトロピンはこのムスカリン受容体を競合的に阻害することにより拮抗薬として働き,散瞳,調節麻痺,心拍数の増大などを起こす.アトロピンは,ナス科のベラドンナ植物由来有機化合物である.ベラドンナとはイタリア語で美しい女性を意味し,女性が瞳孔を拡張させるために使用したことが語源の由来である.眼に対する影響として,散瞳効果は30~40分で最大となりC12日間程度継続する.調節麻痺効果はC2~3時間で最大効果を示しC2週間継続するとされている.効果が強い薬剤であるが,効果発現に時間がかかり,かつ長く持続する特徴がある.また,虹彩色素が多い眼では効果の発現がさらに遅く,効果の消失にも時間がかかる1).CIIアトロピン点眼による子供の近視治療アトロピンの近視進行予防効果を明らかにする研究がなされている.シンガポールのCAtropineCforCtheCtreat-mentCofCchildhoodmyopia-1(ATOM-1)研究である.この研究によりC1%アトロピン点眼による近視進行抑制効果のエビデンスが確立された2).400人の6~12歳の片眼にC1日C1回C1%アトロピンもしくは偽薬をC2年間点眼して効果を比較した.2年経過後でアトロピン点眼をしていた眼は,平均でC0.28Dほど近視化したものの,点眼していなかった眼ではC1D以上の近視化が観察された.アトロピン点眼群において眼軸長は開始時とほぼ同じだが,点眼していなかった眼では平均C0.38Cmmの延長が認められた(図1)2).1%アトロピンの点眼は近視の進行および眼軸延長を抑制する効果があることが確認された.その後,1%アトロピン点眼を中止した状態でC1年間経過を観察した.2年間C1%アトロピン点眼を行い,その後中止した眼は急激に近視が進行し,眼軸長が延長した.1%アトロピン点眼中止後のリバウンド現象が起こったのである3).ただし,研究開始からC3年経過後の時点でもコントロール群と比較するとC1%アトロピン点眼を行っていた眼の近視進行は抑制されていた.高濃度アトロピンのリバウンド現象への対策として,より低濃度でも点眼の効果を確かめる研究が行われた.ATOM-2研究ではアトロピンをC0.5%,0.1%,0.01%に希釈しC400人のC6~12歳の両眼にC1日C1回C2年間点眼して濃度ごとの近視進行を比較した4).その結果,濃度依存性に近視進行が抑制されていたが,ATOM-1の偽薬群に比較すると,0.01%であっても近視進行は抑制されていた.アレルギー性結膜炎や接触性皮膚炎はC0.01%点眼では認められなかった.さらに点眼を中止したあ*OsamuHieda:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(17)C51925.425.325.225.125.024.924.824.724.6AtropineTreatedEyeAtropineUntreatedp<0.0001EyePlaceboTreatedEyePlaceboUntreatedBaseline1Year2YearsEyeTimeSphericalEquivalent(Dioptres)近視度数AxialLengthChange(mm)眼の大きさ図11%アトロピン点眼の効果AtropineCforCtheCtreatmentofCchildhoodCmyopia(ATOM)-1の結果.1%アトロピン点眼によりC2年間の平均で近視はわずかに進行し,眼軸は不変だった.(文献C2より引用).4.20-.2-.4-.6-.8-1-1.2-1.4SphericalEquivalent(D)MonthPlacebo(ATOM1)A0.01%A0.1%A0.5%A1.0%(ATOM1)図20.01%アトロピン点眼にリバウンドなしATOM-2,第C2期の結果.0.01%アトロピンで点眼中止後にリバウンドがないので,3年の経過ではより高濃度点眼より近視進行が抑制されている.(文献C5より引用)Cessationof-.2-.4-.6-.8-1-1.2-1.4-1.6-1.8-2Placebo(ATOM1)A0.01%A0.1%A0.5%A1.0%(ATOM1)図3ATOM.2の第三期の結果点眼中止中に近視進行している症例に,0.01%アトロピン点眼が再開された.0.01%点眼で治療開始するとC5年間で偽薬のC2.5年分の近視進行にとどまる.(文献C6より引用)Changeinaxiallengths(mm)ChangeinSphericalEquivalent(D)0.00-0.10-0.20-0.30-0.40-0.50-0.60-0.70-0.80-0.90baseline4m8m12mAtropine0.05%Atropine0.025%Atropine0.01%Placebo図4LAMPの1年目までの結果低濃度アトロピンはC3群とも偽薬より近視進行が抑制されている.(文献C10より引用)0.700.600.500.400.300.200.100.00Baseline4months8months12months16months20months24monthsAtropine0.05%Atropine0.025%Atropine0.01%Switch-overgroup図5LAMPフェーズ2の結果偽薬群はC2年目にC0.05%へスイッチして,そのほかの群はC2年間同じ点眼を行った.スイッチ群とC0.01%アトロピン群はほぼ同じ眼軸長変化となった.(文献C11より引用)-’C

近視発症の疫学と環境因子

2020年5月31日 日曜日

近視発症の疫学と環境因子EpidemiologyofMyopiaandEnvironmental-RelatedFactors上田瑛美*安田美穂*はじめに近視有病率の急激な増加傾向は全世界的に公衆衛生上の問題となっている.わが国においても,筆者らの久山町研究ではここC10年でC40歳以上の日本人のうち等価球面度数が-0.5D以下の近視が有意に増加していることがわかった1).さらに,東アジア系人種のC18歳の小児ではC80%以上に近視がいることが報告されている2).今後もますます近視が増加することが予想される.そのため,近視発症の特性を把握することが可能な疫学的アプローチはきわめて重要である.最近数十年での世界的な近視人口急増の原因は,遺伝因子の変化というよりも,むしろ環境要因の変化によることが多いことが指摘されている.また,古くから社会環境要因および生活環境要因が近視に関連することが報告されており,それらの環境因子が複合的に重なり合って,近視化に影響するといわれている.近視に関連した環境要因は近視の病態解明,さらには予防・管理につながる可能性があるため,それらを検討することは意義がある.本稿では,近視発症の疫学と環境因子について解説する.CI近視発症の疫学横断研究による近視の有病率の報告は古くC1980年代からさまざまな国で行われ,その人種差,地域差が明らかになっている.一方,縦断研究に基づいた近視の発症率の報告がされるようになったのはC2005年ごろと比較的新しく,まだその報告数は少ない.近視の発症率に関する各国の疫学調査結果を図1にまとめた.屈折度数は年齢,研究時期で大きく異なるため,結果を比較,解釈する際には年齢,研究時期を統一する必要がある.研究時期をC2005年以降,対象年齢をC6.7歳に統一してみると,米国の白人を対象としたCOrindastudy3)ではC2.8%,イギリスの白人を対象としたCNorthernCIrelandCChildhoodCErrorsCofRefraction(NICER)study4)では2.2%である.一方,中国都市部の東アジア系人種を対象にした研究5)ではC19.1%,シンガポールの東南アジア系人種を対象としたCSingaporeCCohortCStudyCofCtheCRiskFactorsforMyopia(SCORM)6)ではC15.9%と明らかにその発症率は高かった.とくに同地域で近視発症の人種差を調べたオーストラリアのSydneyCMyopiaCstudy7)では,近視の発症が白人種C1.3%と比較して東アジア系人種でC6.9%と東アジア系人種が白人種に対して5倍高いと報告している.これらの結果から,アジア系人種ではその他の人種,地域に比べて発症率が高いことがわかる.次に,わが国と同じ東アジア系人種を対象としたWangらの研究5)における年齢別の近視および強度近視の発症率の結果を図2に示した.どの年齢においてどのくらいの割合で近視を発症しているかを知ることで,臨床上の近視の発症に注意すべき時期を知ることができる.等価球面度数-0.5D以下の近視の発症率は小学校時から中学就学時までおよそC20.30%と高い割合を維*EimiUeda&*MihoYasuda:九州大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕上田瑛美:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学医学部眼科学教室C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(11)C513NICERstudyヨーロッパ系白人種2.2%Wangetal東アジア系人種19.1%Orindastudy白人種2.8%SCORMstudy東南アジア系人種15.9%SydneyMyopiastudy白人種1.3%東アジア系人種6.9%図1Population.basedstudyによる各人種における近視の発症率アジア系人種は白人種に比べて近視の発症率が高いことがわかる.研究時期C2005年以降,対象年齢6.7歳,1年発症率に統一.近視は等価球面度数-0.5D以上で定義.NICER:NorthernIrelandchildhooderrorsofrefraction.SCORM:Singaporecohortstudyoftheriskfactorsformyopia.発症率(%)小学校中学校3530.228.829.13025.724.823.72519.120近視(.-0.5D)15強度近視(.-6.0D)1050.10.20.50.91.61.92.301~22~33~44~55~66~77~8学年(年)図2年齢別にみた近視および強度近視の発症率わが国と同じ東アジア系人種を対象とした研究によると,等価球面度数-0.5D以下の近視の発症率は小学校時から中学就学時までおよそC20.30%と高い割合を維持する.小学校入学時から徐々に上昇し,小学C5年時でピークを迎え,その後中学校でやや低下する.(文献C5より改変引用)持する.グラフのカーブをみると,小学校入学時から徐々に上昇し,小学C5年時でピークを迎え,その後中学校でやや低下する.これは,小学校から中学校の間は全般的に近視の発症予防を心がけ,小学C5年時でもっとも発症予防に注意が必要であることを示唆する.加えて,小学入学時で近視の発症率はC19.2%とすでに高いこともわかる.近年,早期発症の近視(early-onsetmyopia)の頻度の増加に伴い強度近視へ進行するものが増えていることも指摘されている8).強度近視は軽度近視と比較して網膜.離,近視性黄斑症,緑内障のリスクが高いため,近視の視力予後を考えるうえで重要である.小学校入学以前から近視発症を予防することで,強度近視による合併症に罹患する者をより少なくすることができるかもしれない.以上,近視発症の疫学の最新の知見を述べた.まだまだ縦断研究による近視の発症の研究は人種・地域が限られており,歴史も浅く,今後世界中で経時的なエビデンスの蓄積が期待される.514あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020(12)有病率(%)普通教育限定的現代的な現代的ななし普通教育西洋教育東アジア教育100806040200図3教育システムにおける各地域と近視の有病率との関係イヌイット,ネパールなどの普通教育の普及していない民族や地域では近視の有病率はC5%未満に過ぎないのに対して,シドニー,ポーランドなどの現代的な西洋教育が普及している地域ではC20.30%に上昇し,さらにはソウル,台湾,シンガポールなどの現代的な高等教育が普及している地域においてはC80.90%と圧倒的に高くなっている.(文献C12より引用改変)ソウルシンガポール台湾山東省北京市広東省北京順義区ポーランド北アイルランドシドニーチリダーバンインド都市部インド農村部ネパールイヌイットガボン表1屋外活動が近視発症・進行に与える影響をみた介入試験の既報研究研究国対象者(介入/コントロール)近視の定義観察期間介入内容結果CWuetalC2013台湾Cn=333/2387.C11歳C≦-0.5D1年1日80分間の屋外活動発症率は介入群C8.41%C/対照群C17.65%で有意に介入群で低率近視進行は介入群-0.25D/対照群-0.38Dで有意に介入群で抑制CHeetalC2015中国Cn=919/9296.C7歳C≦-0.5D3年1日40分間の屋外活動発症率は介入群C30.4%C/対照群C39.5%で有意に介入群で低率近視進行は介入群-1.42D/対照群-1.59Dで有意に介入群で抑制CJinetalC2015中国Cn=1,735/1,3166.C14歳C≦-0.5D1年一日C40分間の屋外活動発症率は介入群C3.7%C/対照群C8.5%で有意に介入群で低率近視進行は介入群-0.10D/対照群-0.27Dで有意に介入群で抑制図4屋外活動の増加が近視化を抑制する要因屋外活動の近視抑制効果は,光環境,近業時間の減少,運動などの環境要因が独立して影響しているのではなく,複合的に作用しているといわれている.1日C80分間以上を屋外で過ごすプログラムを介入群に導入したところ,近視の発症率は介入群がC8.41%,対照群がC17.65%で介入群が有意に低率であった24).また,1年後の近視の進行は介入群において-0.25D,対照群では-0.38Dと有意に抑制することができたとしている.中国広州の前向きランダム化試験では平日にC1日40分の屋外活動を追加で設けた介入群を導入し,3年後に近視の発症率と近視の進行を評価した.その結果,近視の発症率は介入群がC30.4%,対照群がC39.5%で介入群が有意に低率であった25).また,近視の進行も屋外活動をすることで有意に抑制することができたと報告している.同様の研究が中国の農村地域でも行われており,1日C20分間の屋外活動をC1日にC2回行うプログラムを介入群に割りつけ,近視の発症,進行ともに介入群が対照群と比較して有意に抑制できたとしている26).屋外活動と近視が関連するメカニズムには諸説あり,近業時間の減少,光環境27),運動28)などが基礎実験や臨床試験でわかっている.これらが近視抑制に独立して影響しているのではなく,複合的に作用しているといわれている(図4).したがって,近視抑制に取り組むためには単独ではなく,複数の因子を考慮する必要がある.おわりに近視発症の疫学に加え,近視に関連する環境因子について最近の研究を紹介した.現時点では近視発症を予防できる環境因子としてエビデンスレベルがもっとも高いものは屋外活動時間の増加である.われわれの視覚環境は今後も大きく変化していくことが予想され,近視化に与える影響を確立することは重要なことである.長年積み重ねてきた研究により,近視を予防できる可能性が出てきており,複雑に絡み合った環境因子の近視への影響が徐々にひもとかれていっていることは間違いなく,今後の研究の進展が期待される.文献1)UedaE,YasudaM,FujiwaraKetal:Trendsintheprev-alenceCofCmyopiaCandCmyopicCmaculopathyCinCaCJapanesepopulation:theCHisayamaCStudy.CInvestCOphthalmolCVisCSciC60:2781-2786,C20192)RudnickaAR,KapetanakisVV,WathernAKetal:Globalvariationsandtimetrendsintheprevalenceofchildhoodmyopia,asystematicreviewandquantitativemeta-analy-sis:implicationsCforCaetiologyCandCearlyCprevention.CBrJOphthalmolC100:882-890,C20163)JonesLA,SinnottLT,MuttiDOetal:Parentalhistoryofmyopia,CsportsCandCoutdoorCactivities,CandCfutureCmyopia.CInvestOphthalmolVisSci48:3524-3532,C20074)McCulloughCSJ,CO’DonoghueCL,CSaundersKJ:SixCyearCrefractiveCchangeCamongCwhiteCchildrenCandCyoungadults:evidenceforsigni.cantincreaseinmyopiaamongWhiteUKChildren.PLoSOne16:e0146332,C20165)WangCSK,CGuoCY,CLiaoCCCetal:IncidenceCofCandCfactorsCassociatedCwithCmyopiaCandChighCmyopiaCinCChineseCChil-dren,basedonrefractionwithoutcycloplegia.JAMAOph-thalmolC136:1017-1024,C20186)SawSM,TongL,ChuaWHetal:Incidenceandprogres-sionofmyopiainSingaporeanschoolchildren.InvestOph-thalmolVisSci46:51-57,C20057)FrenchCAN,CMorganCIG,CBurlutskyCGCetal:PrevalenceCand5-to6-yearincidenceandprogressionofmyopiaandhyperopiaCinCAustralianCschoolchildren.COphthalmologyC120:1482-1491,C20138)ChuaCSY,CSabanayagamCC,CCheungCYBCetal:AgeCofConsetCofCmyopiaCpredictsCriskCofChighCmyopiaCinClaterCchildhoodCinCmyopicCSingaporeCchildren.COphthalmicCPhysiolOptC36:388-394,C20169)CohnH:TheHygieneoftheeyeinschools.Simkin,Mar-shallandCompany,London,188310)BarCDayanCY,CLevinCA,CMoradCYCetal:TheCchangingprevalenceofmyopiainyoungadults:a13-yearseriesofpopulation-basedCprevalenceCsurveys.CInvestCOphthalmolCVisSci46:2760-2765,C200511)MirshahiCA,CPontoCKA,CHoehnCRCetal:MyopiaCandClevelCofeducation:resultsCfromCtheCGutenbergCHealthCStudy.COphthalmologyC121:2047-2052,C201412)MorganCIG,CFrenchCAN,CAshbyCRSCetal:TheCepidemicsCofmyopia:Aetiologyandprevention.ProgRetinEyeResC62:134-149,C201813)WongCTY,CFosterCPJ,CJohnsonCGJCetal:Education,Csocio-economicCstatus,CandCocularCdimensionsCinCChineseadults:theTanjongPagarSurvey.BrJOphthalmolC86:C963-968,C200214)WilliamsCKM,CBertelsenCG,CCumberlandCPCetal:Increas-ingCprevalenceCofCmyopiaCinCeuropeCandCtheCimpactCofCeducation.COphthalmologyC122:1489-1497,C201515)SawCSM,CShankarCA,CTanCSBCetal:ACcohortCstudyCofCincidentCmyopiaCinCSingaporeanCchildren.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1839-1844,C200616)IpCJM,CSawCSM,CRoseCKACetal:RoleCofCnearCworkCinmyopia:.ndingsCinCaCsampleCofCAustralianCschoolCchil-dren.CInvestOphthalmolVisSciC49:2903-2910,C200817)GwiazdaJ,ThornF,BauerJetal:Myopicchildrenshowinsu.cientCaccommodativeCresponseCtoCblur.CInvestCOph-(15)あたらしい眼科Vol.37,No.5,2020C517

総説:近視進行を抑制するための総合アプローチ

2020年5月31日 日曜日

総説:近視進行を抑制するための総合アプローチReview:AComprehensiveApproachfortheControlofMyopiaProgression五十嵐多恵*大野京子*はじめに子供たちを取りまく視環境の変化に伴い,世界的に近視人口が急増している1).2016年にHoldenらは,これまでどおりの増加が続くと,2050年には近視人口が全世界人口の半数に,強度近視人口も全世界人口の約1割に増加すると推定した2).さらに,このような近視の増加と重症化によって高齢期の視覚障害者が急増することを懸念し,近視の増加は国際的な公衆衛生上の問題であるとして警鐘を鳴らした.2015年に日本を含む世界の著名な近視研究者らはこの課題に取り組むために集結し,TheInternationalMyopiaInstitute(IMI)が設立された.2019年からはIMIのホームページにおいて,眼科医療従事者・近視研究者のみならず,政府関係者,政策立案者,教育者,一般市民が国際的エビデンスがある正しい知識を習得できるよう近視関連白書(定義・分類,新規治療,臨床試験,近視ビジネスと倫理指針,ガイドライン,実験近視,医療遺伝学に関する白書:それぞれ2年に一度の更新を目標)が公開されるようになった(https://www.myopiainstitute.org/imi-white-papers.html).近視人口の増加が著しいシンガポールや中国,台湾などのアジア先進諸国では,国家規模での近視の一次予防が行われ,一定の成果を上げるようになった(近視の一次予防とは,近視発症前の小児に対して,近視発症の原因と考えられるものの除去や忌避に努め,近視発生を防ぐ予防措置をとることをいう.図1).日本でも2017年に日本近視学会が設立され,日本眼科学会,日本眼科医会,日本近視学会,日本視能訓練士協会の協力のもと,文部科学省の主導で公益法人日本学校保健会によって小児の近視の実態調査が2020年度から行われることとなった(新型コロナウイルス感染症対策による影響で調査は現在延期中).一次予防の第一歩が本格的に踏み出されるにあたり,今後は地域医療を支える眼科医が中心的役割を担い,啓発活動,調査協力,治療を行うことが不可欠となる.同時に,発症した近視の進行に対する二次予防,病的近視の眼合併症に対する三次予防の知識をアップデートしていく必要もある(図1).本稿では,近視の発症と進行を抑制するための総合的アプローチを一次予防,二次予防,三次予防に分けて概説する.I一次予防対策1.近視の危険因子近視の一次予防策を講じるには,日本の小児の近視の有病率を明確にし,追跡調査を行う体制を確立する必要がある.また,具体策を講じるために,介入可能な近視の危険因子を同定し,費用対効果の高い戦略を練る必要がある.これまでに明らかとなっている近視の危険因子はさまざまあるが,これらのなかで屋外活動と近業に対する対策が介入可能な最優先課題である.*TaeIgarashi-Yokoi&*KyokoOhono-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕五十嵐多恵:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)505早期発症(10歳以下)予防進行予防病的近視の管理介入可能な危険因子を同定進行リクスの高い小児を病的近視の対費用効果の高い戦略を練る同定,臨床的治療を行う眼合併症に対する集学的管理図1近視の発症と進行を抑制するための総合アプローチ一次予防,二次予防,三次予防に分けて体制を確立する必要がある.近視の一次予防とは,近視発症前の小児に対して,近視発症の原因と思われるものの除去や忌避に努め,近視発生を防ぐ予防措置をとることをいう.国家政策として,眼科医療従事者を中心に,地域・学校ベースでの体制作りが必要である.二次予防は,近視になった小児をできるだけ早期に発見し,早期治療を行うことで近視の進行を抑え,近視が強度に至らないように努めることをいう.三次予防は,近視が強度に至ったあとのさまざまな眼合併症に対する治療や進行・再発防止,残存視機能の回復・維持,視覚リハビリテーション,社会復帰などの対策を立て,実行することをいう.専門施設での長期的な集学的管理が必要と考えられる.照度計のついたマネキン20,00018,00016,000サングラスの影響14,000広場12,00010,000サングラス(広場)8,000温白色蛍光灯下で大きな6,000窓のある屋内4,000白色LED下で窓のない屋内2,00009am12noon2pm4pmEnvironmentalConditions/Timeoftheday20,00018,000帽子の影響16,00014,000広場12,000帽子(広場)10,0008,000サングラスと帽子(広場)6,000温白色蛍光灯下で大きな窓のある屋内4,000白色LED下で窓のない屋内2,00009am12noon2pm4pmEnvironmentalConditions/Timeoftheday図2屋外サングラスや帽子をつけて紫外線対策を行ったときの照度への影響と屋内・屋外の照度との比較サングラスはSolarClass2Classicタイプを使用.帽子とサングラスを併用した場合の照度は低下するが,それでも屋内に比較すれば十分な照度が得られている.(文献7より改変引用)==LightLevel(Lux)atEyeLevelLightLevel(Lux)atEyeLevel表1近視に関する質問票の変遷と利点・欠点1.レーザー測距モジュール:距離と間隔のモニタリング計測範囲:0~120cm精度:+/ー12.照度監視モジュール:光環境と日光暴露のモニタリング計測範囲:0~60,000lux精度:+/ー10%3.三軸センサー:角度のモニタリング計測範囲:360°精度:+/ー1°図3クラウクリップによる環境因子の可視化眼鏡に装着することで,近見焦点距離,時間,照度,頭部の傾きなどのさまざまな情報を負担なく収集できるよう設計されている.図4低濃度アトロピン点眼を主軸とした近視進行抑制治療のフローチャート(文献C17より改変引用)表2現在進行中の低濃度アトロピン点眼の治験研究名ATOM3studyCHAMPstudyAPPLEstudyLAMPstudyDE-127点眼液(地域)C(シンガポール)C(イギリス)C(シンガポール)C(香港)(日本)研究デザイン四重盲検CRCT二重盲検CRCT二重盲検CRCT二重盲検CRCT二重盲検CRCTプラセボCプラセボアトロピン濃度プラセボ0.01%プラセボ0.01%Low-doseCMedium-doseC0.01%0.025%プラセボ濃度非公開High-dose0.05%人数570人289人100人438人288人対象5.9歳-1.50.+1.00D6.C12歳-10.00.-0.5D6.C11歳-6.00.-1.00D4.C12歳-1.0D以下5.C15歳-6.00.-1.00D治療期間24.C30カ月24カ月12カ月36カ月非公開ATOM3では近視発症前の小児も対象であり,CHAMPスタディでは-10Dまでの強度近視も対象となっている.CRCT=無作為化比較試験.図5近視性黄斑症の長期経過における進行形式とOCTによる診断基準乳頭周囲のびまん性萎縮病変は,中心窩からC3,000Cμm鼻側の脈絡膜厚がC56.5Cμm以下であること,また黄斑に及ぶびまん性萎縮は中心窩脈絡膜厚がC62.0Cμm以下であることによって定義される.また,びまん性萎縮から限局生萎縮への進行,もしくは黄斑部萎縮への進行や独立病変の形成は,Bruch膜の孔が新たに形成されることにより新たに定義される.(文献C20より改変引用)低リスクの近視通常の治療:経過観察もしくは短期間の低濃度アトロピン高リスクの近視188個のSNPのGWAS遺伝子パネル(CREAM/23andME)などを使用して,遺伝要因を特定厳格な管理:長期的な低濃度アトロピンによる治療/多焦点ソフトコンタクトレンズ/オルソケラトロジーなど図6PrecisionMedicineClinicforMyopiaの構想-