●連載248248.角膜移植術後のコンタクトレンズ処方のコツ監修=木下茂大橋裕一坪田一男東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック山岸景子かしはら山岸眼科クリニック角膜移植術後の視力矯正はハードコンタクトレンズ(HCL)が第一選択となるが,非球面性が高いためにケラト値を参考にできない.台形化した角膜に合うようC10.0Cmmなど大きな直径で,ベースカーブC9.0Cmm以上のトライアルレンズを選択する.センタリングに注意してトライアルアンドエラーにてCHCLを処方する.●はじめに角膜移植術術後は,角膜の透明性は回復するものの,縫合糸による角膜の歪みで強い不正乱視が生じるために,裸眼や眼鏡矯正で十分な生活視力は期待できない.今回,全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)の適応疾患のなかで,若年発症,かつCPKP術後に高い視力改善が求められる円錐角膜を取りあげ,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)処方のコツを解説する.C●PKP術後の円錐角膜形状の特徴PKPが適応になる円錐角膜は,重症で突出が強いだけでなく,周辺角膜までも薄くなっている.そのため,正常角膜厚の移植片を縫合すると,中央部は大きく扁平化して角膜は台形化する(図1).さらに縫合糸による歪みも加わって角膜形状解析を行ってもトライアルレンズ選択の指標となるケラト値を得ることができない.C●PKP後のHCL処方の注意点通常,HCLの処方は術後C6カ月程度経過して角膜の形状が安定したことを確認し,0.5以上の矯正視力を求める場合に試みる1,2).HCLを処方する際には,センタリングに注意して安定した視力を出すことと,涙液交換が良好なフィッティングをめざして酸素不足による内皮細胞へのダメージを減らすことに留意する.C●HCL処方手順①レンズサイズPKP後は,角膜の台形化と縫合部分の隆起のためHCLが偏位しやすい.筆者らはCPKP後眼に対して球面レンズを第一選択としている.球面レンズはオプチカルゾーンが広いのが特徴で,直径は最大C11.0Cmmまで製作できる.たとえCHCLが鼻側もしくは耳側に偏位しても,大きな直径であれば瞳孔領をカバーできる.さらに,レンズ周辺フロント部に溝加工(MZ加工)を施せば,なおいっそう良好なセンタリングが期待できる.ただし,大きな直径のCHCLでは,エッジが球結膜に当たり,充血や異物感の原因になるため,エッジリフトは高く調整しておく.②ベースカーブベースカーブ(basecurve:BC)は角膜の扁平化を考慮してC9.0~9.6Cmmなど大きなものを選ぶ.小さいCBCではレンズ下に空気が入りやすいうえに,縫合部の隆起を乗り越えられずに固着して涙液交換は低下する.図2に連続縫合抜糸後C1カ月の写真を示す.PKP直後に比図1円錐角膜に対してPKPを施行した症例a:PR-8000写真,Cb:前眼部写真.PKP後,角膜の透明性は改善したが,角膜中央部の扁平化と縫合部分の不正性が強い.ケラト値は測定不能だった.(73)あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021C730910-1810/21/\100/頁/JCOPY図2連続縫合抜糸後のHCL処方(図1と同一症例)a:PR-8000写真,Cb:前眼部写真,c:HCL装用時のフルオレセイン染色.連続縫合抜糸後に角膜形状は改善する.BC9.60mm,度数+4.0D,直径C10.0Cmmの球面CHCL(エッジリフトCIII型,MZ加工)を処方した.図3HCL処方4カ月後(図1,2と同一症例)a:PR-8000写真,Cb:前眼部写真,c:HCL装用時のフルオレセイン染色.角膜形状解析では角膜中央から周辺にかけてプラチドリングの連続性が確認できる.角膜形状が球面性を帯びたことで,レンズ下の涙液貯留は減少した.この症例ではCBC9.60Cmmと直径C10.0Cmmはそのままで,度数のみ+0.50Dに変更して矯正視力は(1.2)に改善した.較して角膜形状は改善していたが,扁平化は残っていた.製作範囲の最大となるCBC9.60CmmのトライアルHCLを選択したところ,レンズ下に涙液と空気の貯留を生じたものの,HCLの動きは悪くなく,矯正視力(1.0)を得た.③デザインの見直し度数はトライアルCHCLの上から眼鏡矯正を行い決定する.HCL装用を再開すると角膜形状は大きく改善する(図3).その変化に合わせて度数,BC,サイズも見直さなければならない.C●難症例対策①逆形状多段階カーブレンズ球面レンズで強い異物感やずれが生じる場合に,逆形状多段階カーブレンズを試す3).逆形状多段階カーブレンズは,屈折矯正術後に処方することを念頭において作られたCHCLで,BCより第C1中間カーブが小さく設計され,レンズ全体が台形状をなす.PKP後のような台形化した角膜においても,角膜中央のフルオレセインの溜まりを最小にできる.②ピギーバックレンズシステムHCLの偏位が強い場合に,ピギーバッグレンズシステムを試みる.ソフトコンタクトレンズ(softCcontactC74あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021lens:SCL)装用により,角膜の球面性が高まり,異物感の軽減にも役立つ.ただし,角膜の非球面性が強いとSCLがたわんで装用自体ができない場合もあるので注意する.C●おわりにPKP後の角膜形状は,術前の円錐角膜の重症度,移植片角膜と宿主角膜の差(角膜厚,曲率半径),術式や術後の経過時期(抜糸の状態)などの影響を受けるため,症例ごとにトライアルアンドエラーを行ってCHCLを処方するしかない.また,PKP後はC20年以上経過すると円錐角膜様に角膜が突出してくるため,数年に一度はHCLのフィッティングを見直すことも大切である.文献1)GenvertCGI,CCohenCEJ,CArestsenCJJCetal:FittingCgasC-permeableCcontactClensesCafterCpenetratingCkeratoplasty.CAmJOphthalmologyC99:511-514,C19852)大家義則,前田直之,相馬剛至ほか:全層角膜移植後のガス透過性ハードコンタクトレンズ装用状況/臨床応用.日コレ誌46:153-156,C20043)柳井亮二,石田康仁,植田喜一ほか:角膜移植後角膜に対する多段カーブハードコンタクトレンズの有用性.日コレ誌49:166-170,C2007(74)