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序説:近視進行予防の国際スタンダード

2020年5月31日 日曜日

近視進行予防の国際スタンダードInternationalStandardsforthePreventionofMyopia大野京子*生野恭司**全世界的な近視の急増がとまらない.Holdenらの推計によると,2050年には全世界の人口の約半数である40億人が近視になり,世界人口の約1割にあたる9億人が強度の近視に至ると見積もられている.また,多くの疫学研究において,たとえ軽度であっても,近視は緑内障,網膜.離などの合併症の発症リスクを上昇させることが報告されている.スマートフォンやタブレットの頻用など,子供をとりまく生活環境が劇的に変化するなかで,いかに小児の近視の発症と進行を最小限に抑えるかは,喫緊の課題である.わが国における小児の近視の進行抑制を謳う治療法には,明確なエビデンスやコンセンサスが得られていないものも多い.眼鏡処方においても,日本では低矯正が多く行われてきたが,実験近視研究などから,完全矯正を原則とするように勧められている.近視はとくに東アジア諸国に多くみられるが,台湾,シンガポール,中国といった他の諸国では,すでに学童近視を抑制すべく国家的戦略がとられている.台湾では政府の支援により,学校のカリキュラムが改訂され,1日2時間約1,000lux(木陰や建物の陰に相当)が徹底された結果,世界で初めて小児の近視の頻度を減少させることに成功した.こういった各国の近視進行抑制の取り組みは,2019年9月に東京で開催された第17回国際近視学会で紹介され,大きな反響をよんだ.一方,日本では学校保健の現場において屈折度検査,眼軸長測定がなされてきておらず,そのため視力不良の小児の頻度は報告されてきたが,小児の近視の頻度は不明であった.このような背景のもと,文部科学省と日本眼科学会,日本眼科医会,日本近視学会,日本視能訓練士協会の協調のもと,全国複数地域の小学生・中学生を対象に,屈折度・眼軸長測定の調査が行われようとしており,その結果が期待される.小児の近視の急増の原因として,スマートフォンなどの環境因子の変化が重要と考えられる.従来,環境因子を客観的・定量的に測定することは困難であったが,近年,眼鏡に装着するタイプやペンダント型,腕時計型などのITを駆使したさまざまなデバイスが開発されており,環境因子を正確に定量し,改善のためのフィードバックをしようとする試みがなされており注目されている.近視進行抑制治療にも大きな進歩があった.「近視は治療すべき疾患である」ことを示したのは,シンガポールでなされたATOM試験,ATOM2試験であり,0.01%の低濃度アトロピンが近視進行抑制に有効であることを明らかにし注目されることとな*KyokoOhono-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野**YasushiIkuno:いくの眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(1)503

線維柱帯切除術後早期の限局性濾過胞からの房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで房水漏出が消失した3例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):493?496,2020?線維柱帯切除術後早期の限局性濾過胞からの房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで房水漏出が消失した3例相原佑亮陳進輝木嶋理紀大口剛司新明康弘石田晋北海道大学大学院医学研究院眼科学教室ThreeCasesthatRequiredSurgicalBlebRevisiontoResolveaLeakingBlebafterTrabeculectomyYusukeAihara,ShinkiChin,RikiKijima,TakeshiOhguchi,YasuhiroShinmeiandSusumuIshidaDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversityはじめにマイトマイシンC併用線維柱帯切除術(trabeculectomy:LEC)後早期の房水漏出は,低眼圧のみならず,感染症や脈絡膜?離,低眼圧黄斑症,角膜内皮障害などさまざまな合併症の原因となるため,積極的な処置が必要となる.対処法として,自己血清点眼などの保存的療法のほか,結膜縫合などさまざまな観血的治療法が報告されている.術後早期の房水漏出に関しては,術直後で漏出量がごくわずかな自然治癒が期待される症例を除き,結膜縫合による観血的処置を行うことが基本である1).〔別刷請求先〕陳進輝:〒060-8648北海道札幌市北区北14条西5丁目北海道大学大学院医学研究院眼科学教室Reprintrequests:ShinkiChin,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicineandGraduateSchoolofMedicine,HokkaidoUniversity,N-14,W-5,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8648,JAPAN図1濾過胞再建術と結膜縫合の併用法症例1に行ったシューレース縫合であるが,症例2と症例3にはブロック縫合を行った.針を用いて行った場合には,①の部位の結膜を穿刺して2%キシロカインを結膜下注射しながら?離していったが,癒着が強く?離できなかった場合には以下のように行った.まず輪部から離れた結膜部を小さく切開し(①),癒着した濾過胞部周囲を円蓋部側までスプリング剪刀で?離した(②),最後は輪部の結膜を10-0ナイロン丸針で結膜縫合を行った(③).しかしながら,術後早期に限局性の濾過胞となって房水漏出がみられる場合,房水を十分に吸収できる機能的な濾過胞とならないためか,単純な結膜縫合のみでは改善せずに治療に苦慮することがある.今回筆者らは,円蓋部基底切開によるLEC術後早期に生じた限局性濾過胞の輪部付近から房水漏出に対し,結膜縫合に濾過胞再建術を併用することで漏出を止めることに成功した3例4眼を経験したので報告する.I症例〔症例1〕37歳,男性.4年前に両眼の原発開放隅角緑内障と診断され点眼治療を行ったが視野障害が進行してきたため,手術目的に北海道大学病院眼科(以下,当院)に紹介となった.入院時視力は右眼0.01(0.5×sph?10.50D(cyl?1.00DAx165°),左眼0.01(0.1×sph?10.25D(cyl?1.75DAx180°),眼圧は右眼21mmHg,左眼19mmHg.視野はHumphrey30-2SITA-standard(Humphrey30-2)にて,右眼が重度視野欠損(MD値?17.16dB),左眼も重度視野欠損(MD値?18.35dB)であった.眼圧日内変動検査にて,右眼19?25mmHg,左眼19?26mmHgと両眼の眼圧上昇が認められたため,両眼にLECを施行した.左眼はLEC後6日目より濾過胞が限局化し,輪部側に虚血性の濾過胞が出現した.術後8日目に輪部から房水漏出がみられたため,同日輪部の結膜を縫合し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウム1日6回点眼を開始.術後12日目に0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を自己血清点眼に変更したが,房水漏出は消失しなかった.術後14日目にはabcd図2限局性濾過胞と輪部からの房水漏出の経過aは症例1の左眼.LEC術後19日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.bは症例1の右眼.LEC術後14日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.cは症例2.LEC術後18日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,房水漏出の再発はなかった.dは症例3.LEC術後14日目に濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行い,その後は房水漏出の再発はなかった(術後4日目のoozingによる房水漏出は,輪部から離れたブレブの中央部分であり,図から省いた).図3症例1の右眼の濾過胞再建術併用結膜縫合術前の濾過胞(a)と術後1日目の濾過胞(b)濾過胞再建術併用結膜縫合術前には,虚血部を伴う限局性の濾過胞を認め,周囲の結膜は充血し,輪部結膜からの房水漏出を認めた.術後はびまん性の濾過胞が形成され房水漏出は消失した.輪部に縫合を追加したが房水漏出は改善しなかった.術後19日目にスプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部の結膜縫合を行ったところ(図1),びまん性の濾過胞が形成され,房水漏出は停止した(図2a).右眼は左眼と同様な経過をたどり,LEC後7日目より,輪部に接する部分に虚血部を伴う限局性の濾過胞となった.術後13日目には輪部結膜から房水漏出が出現したため自己血清点眼1日6回を開始した(図3).しかしながら,術後14日目になっても房水漏出に改善がみられず,眼圧も18mmHgに上昇したため,スプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞を形成して虚血部位は消失し,房水漏出は消失した(図2b,3).〔症例2〕63歳,男性.6年前に両眼の原発開放隅角緑内障と診断されて点眼治療が行われていたが,右眼の視野進行を認めたため,手術目的にて紹介となった.入院時視力は,右眼0.04(0.5×sph?6.50D(cyl?1.00DAx155°),左眼0.09(0.3×sph?1.50D(cyl?3.00DAx90°),眼圧は右眼20mmHg,左眼20mmHg.視野はHumphrey30-2にて右眼は重度視野欠損(MD値?13.73),左眼は早期視野欠損(MD値?5.88)がみられた.眼圧日内変動検査にて,右眼17?20mmHg,左眼17?19mmHgであったが,右眼は重度視野欠損であり,かつ視野進行が認められたため,LECを行った.LEC後12日目に輪部に接した部分が虚血性となって濾過胞が限局化し,輪部側からの房水漏出がみられた.房水漏出は軽微であったため,0.1%ベタメタゾン点眼を中止して0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を1日6回開始した.術後13日目になっても房水漏出に改善がないため,自己血清点眼1日6回に変更した.術後15日目も房水漏出が続いていたため,輪部結膜に縫合を行い,0.1%ベタメタゾン点眼右眼1日6回を再開,自己血清点眼を終了した.しかし,術後17日目になって,輪部結膜からの房水漏出が再発したため,術後18日目にスプリング剪刀を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜の縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞が形成され,虚血部位が消失して房水漏出もなくなった(図2c).〔症例3〕78歳,女性.両眼の原発開放隅角緑内障の診断で約20年前から点眼治療が開始され,7年前に右眼のLECが施行されていた.今回は右眼視野が進行したため,手術目的にて当院紹介となった.視力は右眼0.2(0.2×sph+0.25D(cyl?1.00DAx110°),左眼0.01(0.02×sph+2.00D).眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHg.Goldmann動的視野検査にて,右眼は湖崎分類III-b,左眼は湖崎分類V-bであった.眼圧日内変動検査にて右眼15?22mmHg,左眼16?27mmHgと両眼とも眼圧上昇が認められたため,両眼にLECを施行した.左眼はLEC後とくに問題なく経過した.右眼のLECは,前回行われた上耳側を避けて上鼻側に行った.LEC術後4日目に角膜輪部から離れたブレブ中央の菲薄部分からoozingが出現したため,1日4回点眼していた0.1%ベタメタゾンを中止し,0.3%ヒアルロン酸ナトリウムを1日6回開始したところ,翌日には房水漏出は停止した.術後6日目には0.1%ベタメタゾン点眼を1日4回で再開した.術後12日目に限局性となった濾過胞の輪部側から房水漏出が出現したため,結膜縫合を行った.翌日には房水漏出は停止し0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼を中止としたが,術後14日目に再び輪部より房水漏出が出現したため,25G鋭針を用いた濾過胞再建術を併用した輪部結膜の縫合を行った.その後はびまん性の濾過胞を形成し,房水漏出は停止した.(図2d).II考按一般に,円蓋部基底結膜切開によるLECの早期合併症の一つとして輪部付近からの房水漏出があり2),輪部結膜切開創に対するさまざまな縫合法が考案されてきた1,3).LEC術後,濾過胞周囲に癒着が生じるのに伴い,局所的な濾過胞となって濾過機能を失い,眼圧上昇を伴う場合がある4).このような濾過胞に対し行う濾過胞再建術として,鋭針やナイフなどを用いて結膜?強膜間の瘢痕癒着を解除し,結膜下腔への房水の流れを回復させる手法があり4),さらなる緑内障手術を回避するために有効な手段とされる5).LEC術後早期の段階で限局性の濾過胞となってしまい,輪部結膜からの房水漏出が生じた際に,通常の結膜縫合だけでは改善せず,房水漏出を繰り返す症例をしばしば経験する.このような症例では,濾過胞が限局化したことにより,濾過胞内の前房水による圧力負荷が高くなっているものと推察される.その結果として結膜が伸展され,圧力の低い結膜の細血管や毛細血管が虚脱2),虚血性の濾過胞様の所見になっているのではないかと考えられる6).今回筆者らは,結膜縫合のみでは房水漏出を止められなかった症例に対して,濾過胞再建術を併用することで房水漏出を止めることに成功した.癒着が強く,針では解除できない症例に対しては,先端の細いスプリング剪刀を用いて行った.房水漏出直前の平均眼圧は7.0±2.5mmHg(4?11mmHg)であり,眼圧が上昇しはじめた頃に漏出が起こっている(図2).漏出が起こったのは術後平均11.3±1.6日目(8?13日)であり,いずれも濾過胞の限局化が生じてから1週間以内に発生していた.このことから,創傷治癒に伴う限局化によって起こる濾過胞機能低下と濾過胞内圧の上昇が,漏出に関与している可能性が示唆された.また,漏出が止まったときの平均眼圧は10.0±3.5mmHg(3?16mmHg)であり,症例2を除き,縫合前より上昇した症例はみられなかった.これは結膜縫合に併用した濾過胞再建による機能性濾過効果と考えられる.さらに,この眼圧下降に加え,濾過胞周囲の癒着を?離したことにより,限局化して輪部方向へ集中していた水圧が減圧され,その結果,水圧によって生じていた縫合不全が起こらず,創部は上皮化され房水漏出の停止に至ったと考えられた.症例2で濾過胞再建術併用後の眼圧下降が小さかったのは(図2c),外見上びまん性の機能性濾過胞様にみえても,内部の瘢痕化や肉芽形成などにより機能性濾過胞効果が低下7)していた可能性がある.また,濾過胞再建術併用後に濾過胞の虚血部位が消失した理由としては,前述のような濾過胞内圧の上昇によって一過性に虚脱した結膜の細血管や毛細血管が,濾過胞再建によってびまん性の濾過胞となり,局所性にかかる圧力が低下したことによって結膜血管が復元した結果と推測された.今回,術後早期の限局化した濾過胞の輪部からの房水漏出に対して濾過胞再建術を併用した結膜縫合を行った結果,房水漏出を止めることができた.一方,症例1の右眼に関しては,房水漏出を繰り返した左眼と同様の経過をたどり房水漏出に至ったため,結膜縫合を単独で行うことなく初めから濾過胞再建術を併用し,良好な結果を得た.術後早期の限局化した濾過胞からの房水漏出で,濾過胞内の圧力負荷がその一因と疑われる症例では,結膜縫合を縫合する際に,初めから濾過胞内圧を下げる濾過胞再建術を併用した結膜縫合をすべきであると考えられた.文献1)陳進輝:トラベクレクトミー術後の房水漏出について.FrontiersinGlaucoma54:172-176,20172)相原一:線維柱帯切除術における切開部位と創傷治癒の検討.FrontiersinGlaucoma7:226-232,20063)庄司信行:結膜切開方法による違いは?緑内障(根木昭,相原一編),眼手術学6,97-99,文光堂,20124)LinS,BylesD,SmithM:Long-termoutcomeofmitomy-cinC-augmentedneedlerevisionoftrabeculectomyblebsforlatetrabeculectomyfailure.Eye(Lond)32:1893-1899,20185)AminiH,EsmailiA,ZareiRetal:O?ce-basedslit-lampneedlerevisionwithadjunctivemitomycin-Cforlatefailedorencapsulated?lteringblebs.MiddleEastAfrJOphthal-mol19:216-221,20126)HirookaK,MizoteM,BabaTetal:Riskfactorsfordevel-opingavascular?lteringblebafterfornix-basedtrabecu-lectomywithmitomycinC.JGlaucoma18:301-304,20097)金本尚志:濾過胞維持─増殖・瘢痕抑制のための試み.眼科手術21:179-184,2008◆**

原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の角膜内皮細胞に及ぼす長期的影響

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):490.492,2020c原発閉塞隅角緑内障に対するレーザー虹彩切開術の角膜内皮細胞に及ぼす長期的影響窪倉真樹子中元兼二白鳥宙髙野靖子高橋浩日本医科大学眼科学教室CLong-TermE.ectofLaserIridotomyonCornealEndothelialCellDensityinCasesofPrimaryAngle-ClosureGlaucomaMakikoKubokura,KenjiNakamoto,NakaShiratori,YasukoTakanoandHiroshiTakahashiCDepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolC日本医科大学付属病院緑内障外来を受診した患者のうち,原発閉塞隅角症(PAC)および原発閉塞隅角緑内障(PACG)患者を対象に,レーザー虹彩切開術(LI)による角膜内皮細胞密度(CD)への影響を調べた.CD減少率を目的変数,LI施行日から最終CCD検査日までの期間(観察期間)を説明変数として回帰分析を行った.PAC(G)患者は15例26眼(男性3例5眼,女性12例21眼),年齢64±12歳,LI施行日からの観察期間はC34.5±15.7月であった.CDはCLI:治療前C2,810±173個/mm2,治療後C2,682±197個/mm2で有意に減少していた(p=0.02).CD減少率と観察期間との間に有意な正の関係があった(CD減少率=.0.4+0.1×観察期間(月),p=0.046,r2=0.16).PAC(G)に対する予防的CLIでは,CDは年間C1.6%減少し,約C40年間で半減すると予測された.CWeevaluatedthee.ectoflaseriridotomy(LI)oncornealendothelialcelldensity(ECD)inprimaryangle-clo-sureandprimaryangle-closureglaucomapatients.Thesubjectswere26eyesof15cases(male:3cases,5eyes;female:12Ccases,C21eyes).CTheCmeanCpatientCageCwasC64±12Cyears,CandCtheCmeanCfollow-upCperiodCwasC34.5±15.7months.ThemeancornealECDsigni.cantlydecreasedfrom2,810±173Ccells/mm2CpreLIto2,682±197Ccells/Cmm2CpostLI(p=0.02).Asigni.cantcorrelationwasfoundbetweentherateofcornealECDreductionandlengthofthepostoperativeobservationperiod(p=0.046).CornealECDwasestimatedtodecrease1.6%peryearpostLI,withanestimatedlossof50-percentat40-yearspostoperative.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):490.492,C2020〕Keywords:原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角緑内障,レーザー虹彩切開術,角膜内皮細胞,長期的影響.primaryCangleclosure,primaryangleclosureglaucoma,laseriridotomy,cornealendothelialcell,long-terme.ect.Cはじめに緑内障はわが国の中途失明原因の第一位であるが1),原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG)は原発開放隅角緑内障に比し数倍失明率が高く2),臨床上注意を要する緑内障病型である.また,原発閉塞隅角症(pri-maryangleclosure:PAC)は無治療で経過観察すると,5年以内にC22%がCPACGに移行することが報告されており3),PACG発症予防のため外科的治療が必要である.わが国における緑内障の治療指針を示した緑内障診療ガイドライン第4版では,瞳孔ブロックによるCPACおよびCPACGに対しては,レーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または水晶体再建術が標準治療となっている4).LIは外来で簡便に瞳孔ブロックを解除できるので有用な治療法であるが,術後長期を経て発症する水疱性角膜症の合併はいまだ皆無ではない5.7).今回,筆者らは日本医科大学付属病院眼科(以下,当科)における急性緑内障発作の既往のないCPACおよびCPACGに対するCLIが角膜内皮細胞に及ぼす影響を後ろ向きに検討し,角膜内皮障害への長期的影響が予測できたので報告する.〔別刷請求先〕窪倉真樹子:〒113-8603東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:MakikoKubokura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPANC490(114)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(114)C4900910-1810/20/\100/頁/JCOPY3,5003,000LI後細胞密度(個/mm2)LI後眼圧(mmHg)151052,500005101520LI前眼圧(mmHg)図1LI前後の眼圧変化眼圧はCLI前後で有意差はなかった(p=0.60).C1510500102030405060702,0002,0002,5003,0003,50025LI前細胞密度(個/mm2)図2LI前後の角膜内皮細胞密度の変化角膜内皮細胞密度はCLI施行後にC129C±136個/mmC2有意に減少していた(p=0.02).しているものとした.LIの術式は全例アルゴンレーザー・Nd:YAGレーザー法であった.アルゴンレーザー(グリーン)で穿孔予定部位周囲を照射し虹彩を伸展菲薄化後,Nd:YAGレーザーで穿孔した.それぞれのレーザー設定と照射数は,アルゴンレーザーにて第一段階としてC200Cμm,0.2秒,200CmWでC4発,第二段階としてC50Cμm,0.02秒,1,000CmWでC10.20発したのち,Nd:YAGレーザーにてC1.5CmJで1.2発照射とし,全例この範囲で施行した.CD減少率(%)-5観察期間(月)図3CD減少率と観察期間との関係CD減少率と観察期間との間に有意な正の関係があった(CD減少率=0.4+0.1×観察期間(月),rC2=0.16,Cp=0.046).CI対象および方法2016年C6月.2016年C11月に当科を受診した患者のうち,緑内障専門医(K.N.)が施行した予防的CLI後のCPACおよびPACG患者を対象とした.内訳は,年齢(平均値C±標準偏差)C64±12歳(39.78歳),男性C3例(5眼),女性C12例(21眼)のC15例C26眼であった.病型の内訳は,PACがC11例C19眼,PACGがC4例C7眼であった.選択基準は,LI前後に角膜内皮細胞測定が行われているものとした.除外基準は,内眼手術の既往,滴状角膜,Fuchs角膜内皮ジストロフィなど,緑内障以外の眼疾患を有するものとした.PACおよびCPACGの診断は,LI術前のカルテ所見より行った.緑内障診療ガイドライン4)に準じて,PACは,原発隅角閉塞によって眼圧上昇(少なくともC20CmmHgをC1回でも超える)をきたしている,もしくは周辺虹彩前癒着があるが緑内障性視神経症がないものとした.PACGはCPACに緑内障性視神経症を有角膜内皮細胞はスペキュラマイクロスコープCSP-2000P(トプコン)を用いて測定し,角膜中央部のデータを解析に用いた.視力,眼圧,角膜内皮細胞密度(celldensity:CD)(個/Cmm2)をCLI前後で比較した(WilcoxonCsigned-ranktest).また,CD減少率を[(LI前CCD-最終観察時CCD)/LI前CCD]C×100(%)として算出し,目的変数をCCD減少率,説明変数をCLI施行日から最終角膜内皮細胞検査日までの期間(観察期間)として,直線回帰分析を行った.統計解析は,JMP8(SASInstitute社)を用いて,有意水準p<0.05(両側検定)で検定した.CII結果1.視力(logMAR)および眼圧の変化視力については,LI前後で視力測定が行われていたC15例24眼で検討した.LI前(平均値C±標準誤差):.0.06±0.04(.0.08.0),LI後:0.02C±0.20(C.0.08.0.7)(p=0.03)であり,白内障進行により有意に低下した.また,眼圧の検討では,LI前:13.8C±3.8CmmHg(7.5.21CmmHg),LI後:C13.5±3.7CmmHg(8.21CmmHg)であり,LI前後に有意差はなかった(p=0.60,図1).C2.CDの変化およびCD減少率と観察期間との関係観察期間はC34.5C±15.7月であった.角膜内皮細胞数はCLI前:2,810C±173/mm2,LI後:2,682C±197mm2であり,LI(115)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C491施行後にC129C±136個/mmC2有意に減少していた(p=0.02,図2).また,目的変数をCCD減少率(%),説明変数を観察期間(月)として直線回帰分析を行ったところ,両者に有意な正の関係があった〔CD減少率=0.4+0.1×観察期間(月),Cr2=0.16,Cp=0.046,図3〕.CIII考按今回,アルゴンレーザー・Nd:YAGレーザー法によるLIが施行されたCPACおよびCPACG患者を対象に,LIの角膜内皮細胞への影響について後ろ向きに検討したところ,LI後のCCD減少率はC1.6%/年であり,加齢によるCCD減少率は0.3.0.7%/年8)に比し早かった.また,これは同様の検討をした宇高らの報告9)におけるCCD減少率C1%/年より早かった.本検討の結果から算出すると,CDはCLI施行後約C40年間で半減することがわかった.ただし,回帰式の決定係数はCr2=0.16と低く,回帰式の精度の問題がある.PACGにおけるCLI後では,通常,眼圧は有意に下降することが多いが10),今回の検討では有意な眼圧下降はなかった.この原因として,対象にCPACGの割合が少ないこと,治療前に眼圧下降薬が使用されている症例が含まれていることなどが考えられる.本検討の問題点および限界としては,①CCDがCLI前後で1回ずつしか測定されていないため,測定値の精度が低い可能性があること,②大学病院での後ろ向き研究のため,通院困難などの理由で近医に転院した症例が多く,結果として症例数が少ないこと,③今回対象から除外された症例のなかには,LIではなく水晶体再建術が施行されたものも多く,とくに隅角閉塞機序に水晶体因子の影響が強い症例などは除外されている可能性が高いこと,などがあげられる.最近,白内障のないCPACおよびCPACGを対象としたCLIと水晶体再建術の前向き比較試験(EAGLEstudy)10)の結果が報告され,水晶体再建術のほうが,LIより生活の質,経済面および眼圧コントロールにおいて優れていることが高いエビデンス・レベルで実証された.そのため,最近ではPACおよびCPACGにおける第一選択は水晶体再建術となりつつある11).しかし,PACおよびCPACGに対する水晶体再建術は通常の手術に比し手術難易度が高いため,術中合併症のリスクがより高くなることが知られている4).元来,水晶体再建術でもCCDは減少し,ときに水疱性角膜症もきたしうるという問題もある5).ただし,角膜内皮細胞の再生医療の進歩は目覚ましく12),将来は,LIによるものも含めて水疱性角膜症が現在ほど重篤な合併症の扱いではなくなる可能性がある.今回の結果からCPACおよびCPACGに対するCLIによって,CD減少率は年間C1.6%/年減少し,CDはCLI後約C40年間で半減すると予測された.LIは簡便で瞳孔ブロック解除に有用な治療法であるが,現時点では年齢およびCLI前のCCDを考慮して慎重に適応を決める必要がある.文献1)白神史雄:厚生労働科学研究研究費補助金,難治性疾患克服研究事業2)QuigleyCHA,CBromanAT:TheCnumberCofCpeopleCwithCglaucomaCworldwideCinC2010CandC2020.CBrCJCOphthalmolC90:262-267,C20063)ThomasCR,CParikhCR,CMuliyilCJCetal:Five-yearCriskCofCprogressionofprimaryangleclosuretoprimaryangleclo-sureglaucoma:ACpopulation-basedCstudy.CActaCOphthal-molScandC81:480-485,C20034)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第C4版.日眼会誌C122:5-53,C20185)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveryonbullouskeratopathyinJapan.CorneaC26:274-278,C20076)SchwartzAL,MartinNF,WeberPAetal:Cornealdecom-pensationCafterCargonClaserCiridectomy.CArchCOphthalmolC106:1572-1574,C19887)LimLS,HoCL,AngLPetal:Inferiorcornealdecompen-sationfollowinglaserperipheraliridotomyinthesuperioriris.AmJOphthalmolC142:166-168,C20068)天野史郎:正常者の角膜内皮細胞.あたらしい眼科C26:C147-152,C20099)宇高靖,横内裕敬,木本龍太ほか:レーザー虹彩切開術が角膜内皮細胞密度に与える長期的影響.あたらしい眼科C28:553-557,C201110)Azuara-BlancoCA,CBurrCJ,CRamsayCCCetal:E.ectivenessCofCearlyClensCextractionCforCtheCtreatmentCofCprimaryangle-closureCglaucoma(EAGLE):aCrandomisedCcon-trolledtrial.LancetC388:1389-1397,C201611)KimCYY,CJungHR:ComparisonCofC2007-2012CKoreanCtrendsinlaserperipheraliridotomyandcataractsurgeryrates.JpnJOphthalmolC58:40-46,C201412)KinoshitaCS,CKoizumiCN,CUenoCMCetal:InjectionCofCcul-turedcellswithaROCKinhibitorforbullouskeratopathy.NEnglJMedC378:995-1003,C2018***(116)

感受性からみた年齢別眼科領域抗菌薬選択2018

2020年4月30日 木曜日

感受性からみた年齢別眼科領域抗菌薬選択2018加茂純子*1村松志保*2赤澤博美*2阿部水穂*2*1甲府共立病院眼科*2甲府共立病院細菌検査室CRecommendationofAntibioticsfortheEyebyAgeGroupin2018BasedonMicroorganismSensitivityJunkoKamo1),ShihoMuramatsu2),HiromiAkazawa2)andMizuhoAbe2)1)DepartmentofOphthalmology,KofuKyoritsuHospital,2)DepartmentofBacterialLaboratory,KofuKyoritsuHospitalC目的:今回筆者らは既存抗菌点眼と比べ,わが国で新しく発売予定の強粘性により薬剤の滞留性を高めたマクロライド系の抗菌点眼薬アジスロマイシン(AZM)が結膜炎の眼脂培養で得られた細菌への感受性を年代別に調べた.方法:当院で採用している抗菌薬のセフメノキシム(CMX),ジベカシン(DKB),クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン(VCM),オフロキサシン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX),ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX)に加え,AZMのディスクを用い感受性を調べた.対象:2016年C12月C1日.2018年C6月C30日に甲府共立病院,甲府共立診療所眼科外来に結膜炎,角膜炎で訪れた患者C246人(男C131,女115)から採取されたC630の菌,平均年齢はC53歳±38.歳(0.99歳).結果:1位CCorynebacterium,2位CCNS,3位CNS-MRS,4位Ca-Hemolytic-streptococcus,5位CStaphylococcusaureus.上位菌種にはCCMX,CP,VCMが強い.AZMに対する感受性がC80%以上なのはCS.aureus,Haemophilusin.uenzae,MoraxellaCsp.のみであった.AZMはCNS-MRSに対してはキノロン系よりは強いがCCMX,CP,VCMには劣る.CMXに対する感受性はCMRSA,Pseudo-monasaeruginosa以外の上位C14種の細菌は感受性C80%以上であった.MRSAに有効なのはCCPとCVCMであった.結論:AZMはCS.aureus,H.in.uenzae,MoraxellaCsp.にはC80%以上の有効性を示すが,既存の抗菌薬と比べてとくに高いわけではない.あくまでもCinvitroの結果であり,invivoでは粘弾性で結果は変わる可能性はある.CMXはMRSA,P.aeruginosa以外は感受性よく,結膜炎のファーストチョイスといえる.CPurpose:WeCinvestigatedCtheCsensitivityCofazithromycin(AZM)macrolideCantimicrobialCeyeCdrops,CwhichChaveanenhanceddrugretentionduetostrongviscosity,tobacteriaobtainedineyedischargeculturesofconjunc-tivitiscomparedwithexistingantimicrobialeyedrops.Methods:Thisstudyinvolved630bacteriasamplescollect-edfrom246patients[meanage:53years(range:0-99years)]whopresentedwithconjunctivitisandkeratitisattheDepartmentofOphthalmologyOutpatientClinicatKofuKyoritsufromDecember1,2016toJune30,2018.InadditiontotheantimicrobialagentsCMX,DKB,CP,VCM,OFLX,LVFX,TFLX,GFLX,andMFLX,whichhadbeenadoptedforuseinourhospital,thesensitivitywasexaminedwithadiskofAZM.Results:Themostcom-monlyCfoundCbacteriumCwasCCorynebacterium,CwithCtheCsecondCbeingCCNSCandCtheCthirdCbeingCNS-MRS;CMX,CCP,andVCMwerestrongagainstthefrequentlyoccurringbacteria.AZMwasstrongagainstStaphylococcusCaure-us,CHaemophilusCin.uenzae,andMoraxellaCsp.CForCCNS-MRS,CAZMCwasCstrongerCthanCquinolones,CbutCinferiorCtoCCMX,CP,andVCM.AZMwasweakagainstCPseudomonasaeruginosa.CConclusions:Althoughtheviscoelasticprop-ertiesofAZMmayhavealteredtheresults,CMXremainedthe.rst-choiceantimicrobialagentforconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):484.489,C2020〕Keywords:結膜炎,角膜炎,抗菌薬点眼,感受性率.conjunctivitis,keratitis,antibioticeyedrops,susceptibility.〔別刷請求先〕加茂純子:〒400-0034山梨県甲府市宝C1-9-1甲府共立病院眼科Reprintrequests:JunkoKamo,M.D.,KofuKyoritsuHospital,1-9-1Takara,Kofu,Yamanashi400-0034,JAPANC484(108)2019年に承認されたアジスロマイシン点眼1,2)はマクロライド系の抗菌点眼薬で,DuraSite,DuraSite21)による強粘性により薬剤の滞留性を高め,点眼回数の減少をはかっている.筆者らは,結膜炎の眼脂培養から出た菌について,薬剤感受性からみた眼科領域の抗菌薬選択をC2006年3),患者の年齢別にはC2007年4),2009年5)にも検討し,抗菌薬の感受性率の変化はC2014年6)にも検討している.今回筆者らはアジスロマイシンと既存のキノロン系,セフメノキシム,アミノグリコシド,クロラムフェニコールやバンコマイシンと比べて細菌への有効性を調べた.また,既報と患者の年齢別の検出菌,感受性率も比較も検討した.CI対象および方法前向きに結膜炎,角膜炎における起炎菌につき,下記C10種の薬剤についてディスクで感受性を調べ,年齢別に検討した.本研究は甲府共立病院倫理委員会から承認を得ている.市場に流通しているセフメノキシム(CMX),ジベカシン(DKB),クロラムフェニコール(CP),バンコマイシン(VCM),キノロン系C5種類〔オフロキサン(OFLX),レボフロキサシン(LVFX),トスフロキサシン(TFLX),ガチフロキサシ(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX)〕,そしてアジスロマイシン(AZM)である.表1に略号と商品名,ジェネリックを示した.2016年C12月C1日.2018年6月C30日に甲府共立病院および診療所眼科外来に結膜炎,角膜炎で訪れた患者C246人(男131,女C115),平均年齢はC52.9C±38.1歳(0.99歳)から採取されたC630株の菌種を対象とした.角膜炎・結膜炎患者の眼脂を輸送用培地付き綿棒(シードスワブ)で採取した.その検体を甲府共立病院細菌検査室でヒツジ血液寒天培地,ドリガルスキー培地,ガム半流動培地でC48時間培養し,その後同定および薬剤感受性試験を行った.角膜炎・結膜炎患者の眼脂を輸送用培地付き綿棒(シードスワブ)で採取した.その検体を甲府共立病院細菌検査室でヒツジ血液寒天培地,ドリガルスキー培地,ガム半流動培地,ガム寒天培地,チョコレート寒天培地でC48時間培養し,その後同定およびCKBディスク(栄研化学)を用い薬剤感受性試験を行った.感受性はCS/(SC+I+R)×100%で計算した.S:Sensitive,I:Intermediate,R:Resistanceである.2006年とC2008年4,5)に行った研究と同様,全体とC1歳未満,1.15歳,16.64歳,65歳以上に分けて感受性率を検討した.CII結果表2に検出菌の割合を示す.全体の検出菌で一番多いのがC1.CorynebacteriumCsp.146株(23.2%)で,以下,2.コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaphylococ-cus:CNS)でC111株(17.6%),3.CNS-MRS(methicillin-resistanceStaphylococcus)59株(9.4%),4.a-Hemolytic-Streptococcus(以下Ca-Hem-Streptococcus)59株(9.4%),5.Staphylococcusaureus(以下CS.aureus)43株(6.8%),6.CMethicillin-resistanceStaphylococcusaureus(MRSA)28株(4.4%),7.Haemophilusin.uenzae(以下CH.in.uenzae)30株(4.8%),8.Moraxellacatarrhalis(以下CM.catarrhalis)13株(2.1%),9.未同定グラム陽性球菌C12株(1.9%),10.CNeisseriaCsp.10株(1.6%),11.嫌気性グラム陰性菌C10株(1.6%),12.CMoraxellaCsp.8株(1.3%),13.B群Ca型CStrep-表1検討した薬剤の略号と一般名および代表的な薬品名とジェネリック(2019.7月現在)一般名おもな商品名ジェネリックCCMXセフメノキシム塩酸塩ベストロン点眼用C0.5%なしCCPクロラムフェニコールクロラムフェニコール点眼用C0.5%オフサロン点眼コリナコール点眼CVCMバンコマイシンバンコマイシン眼軟膏なしCDKB硫酸ジベカシンパニマイシン点なしCAZMアジスロマイシンアジマイマイシン点眼(2C019.6承認)COFLXオフロキサシンタリビッド点・軟膏点眼後発品:1C3種眼軟膏後発品:1種CLVFXレボフロキサシン水和物クラビッド点眼点眼C0.5%後発品:1C9種点眼C1.5%後発品:2C0種CTFLXトスフロキサシントスフロ点眼液C0.3%オゼックス点眼液CGFLXガチフロキサシン水和物ガチフロ点眼なしCMFLX塩酸モキシフロキサシンベガモックス点眼なし順位.菌種株数%C1.CorynebacteriumCspecies(sp.)C146C23.2C2.CoaglaseNegativeStaphylococci(CNS)C111C17.6C3.CNSmethicillinresistanceStaphylococci(MRS)C59C9.4C4.a-Hemolytic-Streptococcus(Ca-Hem-streptococcus)C59C9.4C5.Staphylococcusaureus(S.aureus)C43C6.8C6.S.CaureusCmethicillinCresistanceCStaphylococcusAureus(MRSA)C28C4.4C7.Haemophilusin.uenzae(H.in.uenzae)C30C4.8C8.Moraxellacatarrhalis(M.catarrhalis)C13C2.1C9.未同定グラム陽性球菌C12C1.910.CNeisseriaCspecies(sp.)C10C1.6C11.嫌気性グラム陽性球菌C10C1.6C12.CMoraxellaCsp.C8C1.313.CB群Cb型CStreptococcusC8C1.314.CPseudomonasaeruginosa(P.aeruginosa)C7C1.115.CHaemophilusparain.uenzae(H.parain.uenzae)C6C1.016.CG群Cb型CStreptococcusC5C0.8C17.ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌C6C1.0C順位.菌種株数%18.CStreptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)C5C0.8C19.CPropiunibacteriumacnes(P.acnes)C5C0.8C20.グラム陽性球菌(微好気)C5C0.8C21.CYeastCsp.C5C0.8C22.CEnterococcusCsp.C3C0.5C23.CHemophilusparahaemolyticus(H.Cparahaemo-3C0.5lyticus)C24.Cnon-hemolyticstreptococcusC3C0.525.CStenotrophomonasmaltophilia(S.maltophilia)C3C0.526.CA群Cb型CStreptococcusC2C0.327.CCitrobacterkoseri(C.koseri)C2C0.328.CKlebsiellapneumoniae(K.pneumoniae)C2C0.329.CClostridiumperfringens(C.perfringens)C2C0.330.CStreptococcusmilleriCgroup(S.millerigrp)C2C0.3その他C27C4.3合計C630Ctococcus8株(1.3%),14.PseudomonasaeruginosaC7株(1.1%)と続く.表3は全年齢における上位菌種の感受性がC80%以上のものをグレー背景にした.以前からわかっていたようにMRSAにはCCPとCVCMのみが強く,CMXは多くの菌に感受性がある一方で第C4世代も含めてキノロン系は1,2,3位の菌に弱くなってきている.AZMはCS.Caureus,CH.Cin.uen-zae,未同定グラム陽性菌には強いものの,キノロンには劣る.以下年齢別に検出割合の高い菌を取りあげ,それらに有効な抗菌薬をみてみる.C1.0歳の細菌と感受性率(表4)全C126株のうちもっとも多く検出された細菌は上位からCNS36株,ついでCa溶血性連鎖球菌C26株,H.Cin.uenzae13株,Corynebacterium属12株,S.aureus7株,MRSA4株,NeisseriaCsp.4株,グラム陽性球菌(微好気)4株,M.catarrhalis3株,S.Cpneumoniae3株である.80%の感受性を示すものを有効と定義すれば,上位の菌に有効なのはCMXのみであった.VCM,CPはCMRSAがあるときのみ使う.C2.1~15歳の細菌と感受性率(表5)全C75株のうちもっとも多く検出された細菌はCH.Cin.uenzae16株,ついでCa溶血性連鎖球菌C12株,CNS10株,Coryne-bacterium6株,M.Ccatarrhalis6株,Neisseriasp.6株,CMoraxella5株,CNSMRS3株,S.aureus3株,MRS2株である.上位C5種類に関していえばCCMX,TFLX,GFLX,MLFXが有効である.VCMはCH.in.uenzaeに無効である.3.16~64歳の細菌と感受性率(表6)全C57株のうちもっとも多く検出された細菌はCCNS14株,ついでCCorynebacterium6株C,CNSMRS6株,嫌気性グラム陽性球菌C4株,EnterococcusCsp.2株であった.上位C5菌種にはCCMX,CP,VCMが有効である.キノロン系は残念ながらC80%未満となっている.C4.65歳以上の細菌と感受性率(表7)全C368株のうちもっとも多く検出された細菌はCCoryne-bacterium30.7株,CNS19.6株,CNS-MRS7.6株,S.aureus6.5株,MRSA6.3株.Ca溶血連鎖球菌C5.2%,B群Ca型CStreptococcus8株,嫌気性グラム陽性球菌C6株であった.1位のCCorynebacteriumに有効なのはCVCMのみであるが,軟膏はオーファンドラッグであり,MRSA存在下のみにしか使えない.4位まではCCMXが有効であるが,CPはC8位の嫌気性菌まで有効である.C5.結果まとめ高齢者では検出数でCCorynebacteriumがC1位となった.2008年の筆者らの施設にはなかったCCNS-MRSが台頭してきている.上位菌種にはCCMX,CP,VCMが強い.AZMが強いのは小児に多いCH.in.uenzae,S.aureus,未同定グラム陽性球菌,MoraxellaCsp.でCCNSMRSに対してはキノロン系よりは強いがCCMX,CP,VCMには劣る.AZMはCP.aeruginosaには弱い.キノロン系薬のなかでは第C4世代のキノロンであるCGFLXとCMFLXの有効性が落ちて他の世代とほとんど変わりなくなってきている4,5).CMXはCCory-nebacteriumにも強く,結膜炎のファーストチョイスにすることができる.CMXCCPCVCMCDKBCAZMCOFLXCLVFXCTFLXCGFLXCMFLXC薬剤菌種(株数)C1.Corynebacterium(146)C2.CNS(111)C3.CNSMRS(59)C4.a-Hem-streptococcus(59)C5.S.aureus(43)C6.MRSA(30)C7.H.in.uenzae(28)C8.M.catarrhalis(13)C9.未同定グラム陽性球菌(12)10.CNeisseriasp.(10)C11.嫌気性グラム陽性球菌(10)12.CMoraxellasp.(8)13.CB群Cb型CStreptococcus(8)14.CP.aeruginosa(7)グレイ背景はC80%以上の感受性.CNS:coagulaseCnegativeCStaphylococci,MRS:methicillinCresistanceStaphylococcusCspecies,MRSA:methicillinCresis-tanceStaphylococcusaureus,P.aeruginosa:Pseudomonasaeruginosa.表40歳における上位検出菌に対する感受性率(%)表51~15歳における上位検出菌に対する感受性率(%)表765歳以上における上位検出菌に対する感受性率(%)III考察アジスロマイシン点眼は小児も含め結膜炎の治療薬としてはファーストチョイスとはなりえない.しかし,上記研究はあくまでもCinvitroの結果であり,DuraSiteによる眼表面での滞留がよければ,薬剤感受性試験でCI,Rと判定された菌に対しても,効果があることもあるかもしれない.アジスロマイシン点眼の細菌に関する感受性の論文を調べると,Daveらによれば,フルオロキノロン系薬またはアジスロマイシンに繰り返しさらされる結膜性表皮ブドウ球菌は,急速に耐性を発現する.他の抗生物質に対する共耐性も観察したと報告している.Kimら10)によれば硝子体注射前にフルオロキノロン系薬に繰り返し曝露された眼から培養されたコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は,旧世代(p=.002)および新世代(p<.01)のフルオロキノロン系薬に対する耐性率の有意な増加を示した.対照的に,アジスロマイシンに曝露された眼から分離されたCCNSは,マクロライド系薬に対する抵抗性の有意な増加(95%;p<.001)と,旧世代(p=.03)および新世代(p<.001)フルオロキノロン系薬に対する抵抗性の低下を示した.治療を受けた眼から分離されたCCNSの多剤耐性に有意な増加があり,分離株のC81.8%およびC67.5%がそれぞれ少なくともC3種(p=.01)および少なくともC5種(p=.009)の抗菌薬に耐性であったと述べている.筆者らの施設では抗菌薬を漫然と使うことはなく,結膜炎でもC1週間以上しても治らない場合には,細菌培養に従って,感受性のある点眼に変えている.硝子体注射後の抗菌薬はC1週間,白内障術後の抗菌薬点眼もC1カ月以内に終了しているにもかかわらず,2008年当時にはCCNSがトップだったものが,Corynebacterium種が一位となり,CNS-MRSが出てきている.これは世間の細菌全体が変化していることを示唆している.2008年の筆者らの論文5)と各年代の傾向を考察する.1歳未満について:上位C5菌種であるCCNS,Ca-Hem-streptococcus,H.in.uenzae,Corynebacterium,S.CaureusとC2008年当時と出てくる菌もそれほど変わらず,CMXがどの菌でも感受性がよい.MRSAがC2008年はC1例であったのに対して今回はC4例と若干多い.DKBとCAZMはC2位のCa-Hem-streptococcusに弱い.1位のCCNSはC2008年当時はどのキノロン系薬にもC70%の感受性を示していたが,軒並みC39%に落ちている.これは,抗菌薬に曝露されていない可能性の高いC0歳に起こるということは世間のフローラが変(112)わっているということになる.1.15歳について:H.in.uenzae,Ca-Hem-streptococcus,CNS,Corynebacterium,M.catarrhalisはC2008年から上位菌種であった.当時もCCMXはどの菌でも感受性がよかった.当時はCCNSMRSがなかったが,今回は出てきた.CMXや他のキノロン系薬はC67%,CP,VCM,DKBがC100%有効であるのに対しCAZMはC33%である.S.aureusに対してはAZMのC0%に対して,他の抗菌薬はC100%である.MRSAにはCP,VCM,DKBがC100%なのに対し,他の抗菌薬はC0%である.16.64歳について:2008年当時なかったCCNS-MRSがC3位である.これに有効なのはCCMX,CP,VCMである.この年代のCS.aureusにはCCMX,CP,VCM,DKBに加えてAZMも有効である.2008年当時キノロン系薬はC100%であったが,今回は軒並みC67%と下がっている.65歳以上:この年齢層はC2008年当時からCCorynebacteri-umがC1位であり,有効なのはCCMX,VCMであった.現在80%以上の感受性を示すのはCVCMだけである.続いてCP,CMXが有効であるが,キノロン系薬は総じてC3%と低い感受性となっている.2位のCCNSにはC2008年当時,CMX,VCM,CP,GFLX,MFLXがC80%超えていた.現在C80%超えるのはCCMX,CP,VCMにCDKBである.AZMがC75%と次点につくが,キノロン系薬は第C4世代も含めてC68.69%と感受性が落ちている.S.aureusに関してはCAZM以外C80%を保っている.MRSAに関しては以前と同様にCCPとCVCMのみが有効である.P.aergionosaに関してはCAZMとDKB,すべてのキノロンがC80%以上の感受性を保っている.総じていえば,CMXはCCorynebacteriumにも強く,結膜炎のファーストチョイスにすることができる.これにキノロン系薬かCDKBを加えればCMRSA以外のほぼすべての菌を網羅できる.漫然と一種類の抗菌薬を使い続けることなく,難治の場合には感受性を調べて適切な処方をすることが,抗菌薬の寿命を保つことになると考えられる.マイボーム腺の治療として,抗菌薬(とくにマクロライド系やテトラサイクリン系)の効果が期待できるとして,報告がある13).マクロライド系であるアジスロマイシンが直接,マイボーム腺の上皮細胞に作用し,脂の分泌を促進することもある11).また,眼瞼炎の治療薬として有効とのレビューもある12).むしろこの方面での効果を期待したい.文献1)OpitzCDL,CHarthanJS:ReviewCofCazithromycinCophthal-mic1%solution(AzaSiteCR)forCtheCtreatmentCofCocularCinfections.OphthalmolEyeDisC4:1-14,C20122)FriedlaenderMHandProtzkoE:Clinicaldevelopmentof1%azithromycininDuraSiteCR,atopicalazalideanti-infec-tiveforocularsurfacetherapy.ClinOphthalmolC1:3-10,C20073)加茂純子,山本ひろ子,松村志保ほか:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向2001.2005年.あたらしい眼科C23:219-224,C20064)加茂純子,喜瀬梢,鶴田真ほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌剤選択C2006.臨眼C61:331-336,C20075)加茂純子,村松志保,赤澤博美らほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌薬選択C2008.臨眼C63:1635-1640,C20096)加茂純子,荘子万可,村松志保ほか:細菌性結膜炎の眼脂培養によるC2008年からC2011年の抗菌薬の感受性率の変化.あたらしい眼科31:1037-1042,C20147)OlsonRJ:EncounteringCresistanceCinCtheCbattleCagainstCbacteria.ReviewofOphthalmology,p76-78,20078)DeramoCVA,CLaiCJC,CFasteningCDMCetal:AcuteCendo-phthalmitisineyestreatedprophylacticallywithgati.oxa-cinCandCmoxi.oxacin.CAmCJCOphthalmolC142:721-725,C20069)DaveCSB,CTomaCHS,CKimSJ:OphthalmicCantibioticCuseCandmultidrug-resistantCstaphylococcusCepidermidis:aCcontrolled,ClongitudinalCstudy.COphthalmologyC118:2035-2040,C201110)KimCSJ,CTomaHS:AntimicrobialCresistanceCandCophthal-micantibiotics:1-yearresultsofalongitudinalcontrolledstudyCofCpatientsCundergoingCintravitrealCinjections.CArchCOphthalmolC129:1180-1188,C201111)LiuCY,CKamCWR,CDingCJCetal:E.ectCofCazithromycinConClipidCaccumulationCinCimmortalizedChumanCmeibomianCglandCepithelialCcells.CJAMACOphthalmolC132:226-228,C201412)KagkelarisCKA,CMakriCOE,CGeorgakopoulosCCDCetal:AnCeyeCforazithromycin:reviewCofCtheCliterature.CTherCAdvCOphthalmol10,C2018C2515841418783622.CPublishedConline2018CJulC30.Cdoi:10.1177/251584141878362213)https://biosciencedbc.jp/dbsearch/Patent/page/ipdl2C_CJPP_an_2014190105.htmlC***

著明なマイボーム腺脱落を認めた前立腺肥大症患者の1例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):480.483,2020c著明なマイボーム腺脱落を認めた前立腺肥大症患者の1例清水翔太*1有田玲子*1,2,3井上佐智子*1,4伊藤耕三*2川島素子*1,3坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2伊藤医院*3CLidCandCMeibomianGlandCWorkingCGroup*4羽根木の森アイクリニックCACaseofBenignProstaticHyperplasiaPatientwithSevereMeibomianGlandDysfunctionShotaShimizu1),ReikoArita1,2,3),SachikoInoue1,4),KozoItoh2),MotokoKawashima1,3)CandKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)ItohClinic,3)LidandMeibomianGlandWorkingGroup,4)HaneginomoriEyeClinicCマイボーム腺機能不全(MGD)は加齢,環境,ホルモン障害などさまざまな因子の影響を受けている.非接触型マイボグラフィー(NCM)で,著明なマイボーム腺脱落を認めた前立腺肥大症(BPH)患者を経験したので報告する.症例は72歳,男性.BPHでCa1交感神経遮断薬をC7年間内服していた.眼科的自覚症状は軽度の眼精疲労と乾燥感であった.細隙灯顕微鏡では,眼瞼に軽度のCpluggingとCvascularityを認め,meibumスコアはC3であった.フルオレセイン染色では,角結膜上皮障害(SPK)スコアはC1で,涙液層破壊時間(BUT)1秒と短縮していた.NCMでは,上下眼瞼ともにマイボスコアはC3で,マイボーム腺は高度に脱落しており,DR-1aでは非侵襲的涙液層破壊時間(NIBUT)はC2秒で涙液の状態は非常に不安定だった.また,Schirmer値はC9Cmm,男性型脱毛症のCNorwood-Hamilton(N-H)分類はCVであった.BPHを含め,MGDの危険因子を有する患者のマイボーム腺を観察することは重要である.CThisCisCaCcaseCofCaC72-year-oldCmaleCpatient,CwhoChadCabenignCprostateChypertrophy(BPH)andCtookCa1blockerfor7years.Hisophthalmicsymptomsweremildeyestrainanddryeye.Ophthalmicexaminationshowedalittlepluggingandvascularityinhiseyelid.However,meibumscorewasgrade3.InC.uoresceinstaining,super.cialpunctatekeratopathy(SPK)scorewas1andbreakuptimeoftear.lm(BUT)was1second.Non-contactinfraredmeibography(NCM)revealedCextensiveClossCofCbothCupperCandClowerCmeibomianCglandsCandCnon-invasiveCbreakCuptime(NIBUT)wasC2secondsCbyCDR-1a.CAlso,CSchirmerCvalueCwasC9CmmCandandrogeneticCalopecia(AGA)CscoreCwasCgradeC5.CItCmayCbeCimportantCtoCobserveCtheCmeibomianCglandsCofCpatientsCwithCtheCriskCfactorsCforCMGD,includingBPH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):480.483,C2020〕Keywords:前立腺肥大症,マイボーム腺機能不全,ドライアイ,非接触型マイボグラフィー,DR-1a.benignprostatehypertrophy,meibomianglanddysfunction,dryeye,non-contactinfraredmeibography,DR-1a.Cはじめにマイボーム腺は,上下の眼瞼に存在する外分泌腺で,瞬目により開口部から脂質を分泌して眼球表面の水分の蒸発を防いでいる.このマイボーム腺の機能や形態は,加齢,環境,ホルモン障害などさまざまな因子によって影響を受けている.たとえば,マイボーム腺を構成する腺細胞は,加齢や炎症などにより萎縮を引き起こす1).また,腺細胞はアンドロゲンやエストロゲンなどの性ホルモンのレセプターを発現しており2),性ホルモンがマイボーム腺機能に影響を及ぼしていることが示されている3).したがって,前立腺肥大症(benignprostaticChyperplasia:BPH)や閉経などといった性に関連する体内の変化が,マイボーム腺の変化とそれに伴うドライアイ症状に相関していると推測される.これらのさまざまな要因によって異常をきたした状態をマイボーム腺機能不全(meibomiangrandCdysfunction:MGD)と称し,MGDを有する患者は眼不快感や乾燥感などの自覚症状をしばしば訴える.MGDの診断は,細隙灯顕微鏡での眼瞼・眼表面の詳細な観察がもっとも重要である.加えて,補助診断や重症度評価方法のために,マイボグラフィーやドライアイ観察装置CDR-1a(興和)などを用いることで病態〔別刷請求先〕有田玲子:〒337-0042さいたま市見沼区南中野C626-11伊藤医院Reprintrequests:ReikoArita,M.D.,Ph.D.,ItoClinic,626-11Minaminakano,Minuma-ku,Saitama-shi,Saitama337-0042,CJAPANC480(104)が可視化され,より本質的な眼表面症状の原因究明が可能となる.今回,筆者らは,BPHで長期間内服治療中の患者を診察し,マイボーム腺の著明な脱落を認めたので報告する.CI症例患者:72歳,男性.主訴:軽度の眼精疲労,乾燥感.既往歴:BPH.治療のため,Ca1交感神経遮断薬をC7年間内服.初診時所見:2016年受診時,軽度の眼精疲労と乾燥感があった.進行した男性型脱毛症(androgeneticCalopecia:AGA)を認め,Norwood-Hamilton(N-H)分類はCV(I.VII)であった.細隙灯顕微鏡では,眼瞼スコアはC1(0.3)と軽度で,眼瞼縁に軽度のCpluggingや瞼縁の不整がみられ,一部Cvascularityがみられた.フルオレセイン染色で,角結膜上皮障害(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK)のスコアはC1(0.9)であり,涙液層破壊時間(tearC.lmCbreakCuptime:BUT)はC1秒と短縮していた.また,マイボーム腺圧迫検査によるCmeibumスコアはC3(0.3)で,meibumの質は悪化していた.非接触型マイボグラフィー(non-contactinfraredmeibography:NCM)によるマイボスコアは上下眼瞼ともにC3(0.3)であり,全体的にマイボーム腺の消失領域がかなり広範囲であった.DR-1Ca(興和)で涙液動態を確認したところ,非侵襲的涙液層破壊時間(non-invasiveCbreakuptime:NIBUT)はC2秒で涙液の状態は非常に不安定であり,油層の干渉縞がまったくみられなかった.しかし,SchirmerI法による涙液機能の評価では,Schirmer値9Cmmで,涙液量はある程度保たれていた.CII考按MGDは「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能がびまん性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う」と定義されている4).ところが,軽度のマイボーム腺の変化では自覚症状を伴わないことも多く,症状をきたしていないものは臨床的定義から外そうということになっている.しかし,機能の異常があっても自覚症状が伴わない場合,眼科を受診する可能性は低く,予防や治療を介することなくMGDが重症化する可能性がある.今回,眼科的自覚症状の軽度な患者を診察したが,MGDのリスクファクターであるCBPH5)で治療中であった.細隙灯顕微鏡における眼瞼縁の形態学的評価では,本患者に眼瞼縁の慢性炎症所見やマイボーム腺開口部の閉塞を一部認めたが,いずれも比較的軽症なCMGD所見であった.しかし,フルオレセイン染色による涙液層の評価では,BUT1秒の蒸発亢進型ドライアイを認め,眼表面の安定性は悪かった(図1).このため,さらに詳細に眼瞼を観察することとし,NCMを用いて形態学的な評価を行ったところ,本症例は,上下眼瞼ともにマイボスコアC3であり,広範囲で高度にマイボーム腺が脱落,短縮している像が観察された(図1).これらのことから眼瞼縁の形態学的変化以上にマイボーム腺構造の破壊は重度であることが示唆された.つぎに,DR-1Caを使用して機能的な評価を行った.DR-1Caは,中央部を含む角膜全体の涙液動態の観察,油層の定性的観察が可能であり,健常者,水分減少型ドライアイ患者,およびCMGD患者によって干渉縞のパターンが異なる6).本患者の涙液は不安定であり,油層の干渉縞がまったくみられなかった(図2).これは,マイボーム腺からのCmeibumの量が絶対的に不足していることを意味しており,NCMで観察したマイボーム腺の形態学的な異常所見を裏付けしているものといえる.検査結果から,マイボーム腺の広範囲な形態異常が考えられ,それに伴いマイボーム腺からのCmeibumの絶対量が不足して眼表面の油層が減少し,蒸発亢進型のドライアイになっていることが考えられた.Schirmer値の明らかな減少は認めておらず,水分層の絶対量不足ではないことからも,油層の減少による水分の蒸発が原因であることが強く示唆される.眼瞼縁周囲の形態学的な異常所見は軽症であったため,マイボーム腺からのCmeibum排出口の閉塞には影響がなかったものと考えられる.NCMは,マイボーム腺内のCmeibumを可視化する.したがって,腺構造は破壊されずに保たれ,腺細胞のCmeibum分泌が抑制されている可能性も考えられる.マイボーム腺からのCmeibum分泌機構は不明の部分が多い.マイボーム腺には神経支配があり,交感神経,副交感神経,あるいはこれらに関連する神経伝達物質の受容体が存在することが組織学的に示されており,性ホルモンの受容体も存在している2,7).しかし,神経系やホルモンがどのようにマイボーム腺の分泌制御にかかわっているのかはよくわかっていない.本患者はBPHやCAGAを発症していたため,性ホルモンのバランスが崩れていた可能性があることや,Ca1交感神経遮断薬を内服していたため,薬剤の作用がマイボームの分泌制御に関与していた可能性がある.本症例は,眼表面の機能が悪化しているにもかかわらず,自覚症状が軽度であった.眼瞼縁の異常が軽症であることが要因と考えられたが,自覚症状と眼瞼縁の異常所見に関する相関はCStudyによってばらつきがあり,はっきりしたことは不明である8,9).ドライアイにおける眼痛や眼不快感の発生メカニズムとしては角膜神経による知覚が源流であり,角膜神経と性ホルモンやCa1交感神経遮断薬との関連性が予想される.今後,検討していきたい.今回,眼科的に自覚症状や眼瞼周囲所見の異常が明らかでないにもかかわらず,NCMやCDR-1Caなどの診断検査機器図1症例患者の前眼部所見a:plugging(.),vascularity(.).b:BUT(1秒),SPK(+).c:上眼瞼所見(マイボスコア3).d:下眼瞼所見(マイボスコア3).機能に影響を及ぼす疾患,あるいは薬剤使用の患者に対し,これらの機器を用いて前向きに検討することは,MGDの重症化予防に貢献するかもしれない.実際,BPHに有意にドライアイが多いことは大規模な疫学調査で報告があり10,11),閉経に伴うドライアイ症状の変化も報告されている12).また,国内のCBPHの患者数は高齢化や食の西洋化に伴い増加の一途であり13),経産婦女性人口の減少により14),以前と比べて女性の性ホルモンのバランスに変化が生じている可能性がある.このような変化は,将来的に,多人数のマイボーム腺機能に影響を与え,MGDの有病率が増加することが予測される.今後,日常診療で細隙灯顕微鏡に加え,NCMやCDR-1aなどの機器を合わせて使用することで,MGDのより本質的な症状の原因究明が可能となり,病態に合わせた適切な治療に結びつくことが期待される.文献1)AritaCR,CItohCK,CInoueCKCetal:NoncontactCinfraredCmei-bographytodocumentage-relatedchangesofthemeibo-を用いたことで,マイボーム腺の萎縮や眼表面の涙液層動態Cmianglandsinanormalpopulation.OphthalmologyC115:の異常を確認する結果となった.このことは,MGDの患者C911-915,C2008が報告数以上に潜伏していることを示唆するものと考えられ2)WickhamLA,OnoM,SullivanDAetal:Identi.cationofandrogen,estrogen,andprogesteronereceptormRNAsinる.したがって,性ホルモン関連疾患のようなマイボーム腺図2DR.1aによる眼表面涙液動態の観察NIBUT2秒.不安定な涙液で,まったく油層の干渉縞がみられない.theeye.ActaOphthalmolScandC78:146-153,C20003)SullivanDA,SullivanRM,DanaMRetal:Androgende.-ciency,meibomianglanddysfunction,andevaporativedryeye.AnnNYAcadSciC966:211-222,C20024)天野史郎,有田玲子,木下茂ほか;マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-31,C20105)SchaumbergDA,NicholsJJ,PapasEBetal:Theinterna-tionalCworkshopConCmeibomianglandCdysfunction:reportCofthesubcommitteeontheepidemiologyof,andassociat-edCriskCfactorsCfor,CMGD.CInvestCOphthalmolCVisCSciC52:C1994-2005,C20116)AritaR,FukuokaS,MorishigeN:FunctionalmorphologyofCtheClipidClayerCofCtheCtearC.lm.CCorneaC36(Suppl1):CS60-S66,C20177)LeDouxMS,ZhouQ,RyanPetal:Parasympatheticinner-vationCofthemeibomianglandsinrats.InvestOphthalmolVisSciC42:2434-2441,C20018)LekhanontCK,CRojanapornCD,CChuckCRSCetal:PrevalenceCofCdryCeyeCinCBangkok,CThailand.CCorneaC10:1162-1167,C20069)JieY,XuL,WuYYetal:PrevalenceofdryeyeamongadultCChineseCinCtheBeijingCEyeCStudy.CEye(Lond)C23:C688-693,C200910)SchaumbergCDA,CDanaCR,CSullivanCDACetal:PrevalenceCofCdryCeyeCdiseaseCamongCUSmen:estimatesCfromCtheCPhysicians’CHealthCStudies.CArchCOphthalmolC127:763-768,C200911)AlghamdiCYA,CKarpCCL,CGalorCACetal:EpidemiologyCofCmeibomianCglandCdysfunctionCinCanCelderlyCpopulation.CCorneaC35:731-735,C201612)SuzukiCT,CMinamiCY,CKomuroCACetal:MeibomianCglandCphysiologyCinCpre-andCpostmenopausalCwomen.CInvestCOphthalmolVisSciC58:763-771,C201713)厚生統計協会:「患者調査」2002年14)厚生労働省:人口動態統計月報年計.2018年***

若年女性の外眼角に発症した緑膿菌による難治性結膜肉芽腫の1例

2020年4月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科37(4):476.479,2020c若年女性の外眼角に発症した緑膿菌による難治性結膜肉芽腫の1例三宅瞳宮崎大井上幸次鳥取大学医学部視覚病態学講座CACaseofRefractoryConjunctivalGranulomaduetoPseudomonasaeruginosaContheLateralCanthusinaYoungFemalePatientCHitomiMiyake,DaiMiyazakIandYoshitsuguInoueCDivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversityC目的:若年女性の外眼角部に,緑膿菌による難治性の結膜肉芽腫を生じた症例を経験した.症例:26歳,女性.左眼外眼角に眼痛・眼脂を伴う腫瘤性病変が出現し前医を受診した.培養にて緑膿菌が検出され,感受性のある抗菌薬が投与されるも改善せず,腫瘤切除を施行されたが症状の改善はなく,再発を認めたため鳥取大学医学部附属病院眼科(以下,当科)へ紹介となった.当科にて再度腫瘤切除を行ったところ,涙石のような黄色い塊が多数認められた.病巣部を広く切開し十分郭清したことによって再発は認められなかった.結論:本症例は涙腺から結膜への排出管に先天異常などがあり,排出管の閉塞による石灰化をベースに感染を起こしたのではないかと考えられた.本症例が難治性であった原因としては,病巣部が閉鎖空間となっていたため抗菌薬の移行が不良であったことが考えられた.CPurpose:WeCreportCaCcaseCofCrefractoryCconjunctivalCgranulomaCcausedCbyCPseudomonasCaeruginosaConCtheClateralCcanthusCofCaCyoungCwoman.CCase:AC26-year-oldCfemaleCvisitedCanotherCclinicCwithCtheCcomplaintCofCaCtumoronthelateralcanthusofherlefteyefollowedbypainanddischarge.PseudomonasaeruginosaCwasdetectedbyculture.However,shewasreferredtousaftertreatmentwithantibioticsandsurgicalexcisionwasunsuccess-ful.CSheConce-againCunderwentCsurgicalCexcision,CandCnumerousCyellowCmassesCresemblingClacrimalCstonesCwereCobserved.Therefore,weremovedallofthemasses,andleftthewoundwidelyopen,resultinginacompletecurewithnorecurrence.Conclusion:Thiscaseofrefractorytumorwasconsideredtobecausedbyasecondaryinfec-tiontocalci.cationduetoblockadeoftheductfromthelacrimalglandtotheconjunctivabyacongenitalanomaly.Moreover,weconsideredthattheclosedspaceoftheinfectiousfociinhibitedthepenetrationofantibiotics.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)37(4):476.479,C2020〕Keywords:結膜肉芽腫,緑膿菌,涙腺排出管結石.conjunctivalgranuloma,Pseudomonasaeruginosa,lacrimalglandductulestones.Cはじめに結膜良性腫瘍は,乳頭腫や母斑,.胞が多いとされており,肉芽腫はまれである1).また,結膜肉芽腫は,霰粒腫や異物,外傷後,外眼部術後などによって起こる炎症性の肉芽腫で,感染による化膿性の症例の報告は少ない.今回筆者らは,若年女性の外眼角部に,緑膿菌による難治性の結膜肉芽腫を生じた症例を経験したので報告する.I症例患者:26歳,女性.主訴:左眼の眼脂・異物感.現病歴:平成C26年頃より左眼外眼角に腫瘤性病変が出現し,次第に眼痛,眼脂を認めるようになり近医眼科を受診した.抗菌薬点眼,内服加療を行われるも改善せず,平成C27年C9月末頃,左眼外眼角部に排膿を伴う腫瘤性病変が出現し〔別刷請求先〕三宅瞳:〒683-8504鳥取県米子市西町C36-1鳥取大学医学部視覚病態学分野Reprintrequests:HitomiMiyake,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedeicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPANC476(100)図1初診時前眼部写真a:外眼角部に腫瘤を認め,周囲に眼脂を伴っている.b:外眼角腫瘤部を拡大したもの.図2術中写真腫瘤を切除すると奥に涙石のような黄色の塊を多数認めた.たため,前医に紹介された.培養検査にて緑膿菌が検出されたため,1.5%レボフロキサシン点眼,ゲンタマイシン点眼,およびレボフロキサシン内服,セフタジジム点滴が行われるも十分改善しなかった.平成C27年C12月,左眼結膜腫瘤切除・病巣開放を施行された.術後は抗菌薬点眼に加え,1.5%レボフロキサシン結膜下注射を週C1回で施行されたが,やや改善を認めるも効果は限定的であった.イソジン点眼も試みられたが,しみるとの訴えで継続できなかった.また,0.1%フルオロメトロン点眼も一時期投与されたが,眼脂が悪化したとの訴えがあり中止となった.その後腫瘤が再発し,眼脂改善も認めなかったため,平成C28年C4月鳥取大学医学部附属病院眼科(以下,当科)紹介初診となった.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.初診時所見:VD=0.1(1.2C×sph.3.75D(cyl.1.50DAx180°),VS=0.1(1.2C×sph.3.75D(cyl.2.00DCAx5°),図3創部の塗抹鏡検(グラム染色C40倍)グラム陰性桿菌を多数認めた.RT=11CmmHg,LT=12CmmHg.左眼外眼角部に肉芽腫性腫瘤を認め,周囲に眼脂を伴っていた.結膜充血は腫瘤周囲に軽度認められた(図1).角膜・前房・中間透光体・眼底には特記すべき所見はなかった.眼脂を培養に供したところ,やはり緑膿菌が検出された.薬剤感受性検査は前医でも当科初診時に行ったものでも,通常緑膿菌に効果のあるどの抗菌薬にも耐性は認めなかった.抗酸菌培養も行ったが検出されなかった.経過:入院のうえ,肉芽腫をきたす全身性の炎症性疾患の鑑別のため採血を施行したが,いずれも正常範囲内であった.入院C4日目,左結膜腫瘍摘出術を施行.結膜を広く切開し,まず肉芽腫を切除すると,奥のほうに涙小管炎でみられる涙石のような黄色い塊が出てきたため除去した(図2).黄色い塊は多数認められ,確認できたものはすべて取り除いた.最後にポビドンヨードで創部を消毒し,創部は開放した図4切除した腫瘤の病理組織化膿性肉芽腫に一致する所見で悪性所見なし.まま終了した.術中切除した組織は黄色い塊も含めて培養・Creal-timePCR・病理検査に提出した.その結果,創部の塗抹鏡検にてグラム陰性桿菌が多数確認された(図3).培養では緑膿菌は検出されなかった.Real-timePCRでは緑膿菌のCDNAが総量C37,000コピー認められた.病理検査では化膿性肉芽腫に一致する所見で,一部石灰化を示す滲出液様の物質を認め,陳旧化した涙腺分泌液などを思わせる所見だが菌は認められず,悪性所見なしとの結果だった(図4).術翌日よりC1.5%レボフロキサシン点眼C6回/日,ベタメタゾン点眼C4回/日,セフタジジム点滴C2Cg/日の投与を開始.術後経過良好にてC9日目に退院となった.その後外来にて経過をみていたが,術後C4カ月の時点で眼脂や肉芽腫の再発は認めず経過良好にて終診となった(図5).CII考按結膜に肉芽腫を生じた症例の報告は国内では数例散見されたが2.10),多くは異物反応によるものや術後に生じたもので,感染性の症例は結核によるものがC1例あるのみだった11).また,本症例のように涙腺部に涙石のような石灰化を認めた症例は,1972年に長嶋らが12),1981年に藤関らが13)報告しているが,最近の報告はない.一方海外では数件の文献が確認され14.20),緑膿菌感染を引き起こした症例もC1例認められた21).本症例は起因菌も検出されており,長期にわたりさまざまな種類の抗菌薬が投与され,一度は外科的処置が行われているにもかかわらず腫瘤が再発し,難治性だった.そのため,まず薬剤耐性菌である可能性が考えられたが,前医での検査も含め培養結果は毎回緑膿菌しか検出されておらず,薬剤感受性検査でも耐性は認められず,否定的だった.また,緑膿菌以外の菌,とくに肉芽腫を形成しやすい結核菌や非定型抗図5最終診察時写真腫瘍は切除され再発なく,眼脂も認められない.酸菌などに感染している可能性も考え,初診時に抗酸菌培養を行ったが検出されず否定的と考えた,また,そもそも感染性でない腫瘤の可能性も考えたが,とくに全身的な既往歴もなく,採血検査などで異常を認めないことなどからも否定的かと思われた.本症例は当科における手術で,深部に多数の結石を認め,外眼角付近の結膜円蓋部にある主涙腺と副涙腺の開口部までの管に先天異常やClacrimalglandductalepithelialcyst(dac-ryops)などの疾患があり,そこが詰まって石灰化を起こし,それをベースに感染を起こしたのではないかと考えられた.また,病巣が深部にあり,抗菌薬が十分病巣まで移行していなかった可能性が考えられた.そのため今回の手術では結膜を広く切開し,できる限り奥まで術野を広げ,腫瘤をすべて切除し,確認できた黄色い涙石のような塊をすべて摘出した.これが菌石ではないかと思われたが,病理検査の結果からは否定的だった.また,創部を開放したことによって,術後抗菌薬の移行がよくなるよう図った.十分な外科的切除および郭清が奏効し,治癒することができた.若年の女性で,眼脂が慢性に出続けるというのはきわめてまれな事態であり,今回のようなまれな病態が隠れている可能性があり,外科的なアプローチを含め徹底した原因究明が必要であると考えられた.文献1)大島浩一,後藤浩:知っておきたい眼腫瘍診療.p67-68,医学書院,20152)武田憲夫,外岡わか,安倍弘晶:眼窩内木片異物による結膜・眼窩の異物性肉芽腫.眼紀34:1785-1788,C19833)綾木雅彦,藤村博美,大出尚郎:シリコンスポンジ縫着術のC20年後に結膜肉芽腫を発症したC1例.眼科手術C6:295-298,C19984)石田乾二,曽谷治之,絵野尚子ほか:長期間放置された結膜異物.あたらしい眼科15:433-435,C19985)上野一郎,吉川洋,向野利一郎ほか:両眼結膜の腫瘤で発見されたサルコイドーシスのC1例.眼紀C56:274-277,C20056)越前成旭,大越貴志子,山口達夫ほか:結膜下腫瘤の組織診により診断に至ったアレルギー性肉芽腫性血管炎のC1例.臨眼60:1605-1608,C20067)森山涼,中村敏,渡辺孝也ほか:治療が遅れた上眼瞼結膜下異物肉芽腫のC6例.臨眼61:1471-1474,C20078)石嶋漢,加瀬諭,野田実香ほか:角結膜上皮内新生物術後に急速に増大した化膿性肉芽腫のC1例.日眼会誌114:C1036-1039,C20109)福居萌,勝村浩三,服部昌子ほか:ハードコンタクトレンズがC3年間結膜.に残存したC1例.眼科C54:1667-1670,C201210)中沢陽子,植田次郎,横山佐知子ほか:睫毛を含む外眼筋周囲白色塊のために眼球運動障害をきたしたC1例.眼臨紀C6:320-323,C201311)齋藤和子,安積淳,塚原康友ほか:抗結核薬内服が奏効した肉芽腫性結膜腫瘍のC1症例.眼紀51:1035-1038,C200012)長嶋孝次:涙腺排出管結石症のC1例.臨眼C26:105-106,C197213)藤関能婦子,小泉屹:涙腺排出管結石のC2例.臨眼C35:1358-1361,C198114)NaitoH,OshidaK,KurokawaKetal:Atypicalintermit-tentCexophthalmosCdueCtoChyperplasiaCofClacrimalCglandCassociatedCwithCdacryolithiasis.CSurgCNeurolC1:84-86,C197315)BakerCRH,CBartleyGB:LacrimalCglandCductuleCstones.COphthalmologyC97:531-534,C199016)ZaferCA,CJordanCDR,CBrownsteinCSCetal:AsymptomaticClacrimalductuledacryolithiasiswithembeddedcilia.Oph-thalmicPlastReconstrSurgC20:83-85,C200417)HalborgCJ,CPrauseCJU,CToftCPBCeta:StonesCinCtheClacri-malgland:aCrareCcondition.CActaCOphthalmolC87:672-675,C200918)AltenF,DomeierE,HolzFGetal:Dacryolithsinthelac-rimalglandductule.ActaOphthalmolC90:155-156,C201219)KimCSC,CLeeCK,CLeeSU:LacrimalCglandCductstones:Cmisdiagnosedaschalazionin3cases.CanadianJournalofOphthalmologyC49:102-105,C201420)ZhaoJ,XuZ,HanAetal:Ahugelacrimalglandductuledacryolithwithahairynucleus:acasereport.BMCOph-thalmolC18:244-245,C201821)MawnLA,SanonA,ConlonMRetal:PseudomonasdacC-ryoadenitisCsecondaryCtoCaClacrimalCglandCductuleCstone.COphthalmicPlastReconstrSurgC13:135-138,C1997***

複数の点眼剤を使用中に発症した涙囊炎からの涙囊結石を分析した1例

2020年4月30日 木曜日

《第8回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科37(4):471.475,2020c複数の点眼剤を使用中に発症した涙.炎からの涙.結石を分析した1例久保勝文*1櫻庭知己*2*1吹上眼科*2青森県立中央病院眼科CACaseofaDacryoliththatDevelopedduetotheUseofMultipleEyeDropsMasabumiKubo1)andTomokiSakuraba2)1)FukiageEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,AomoriPrefecturalCentralHospitalC目的:複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症した患者に涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)を施行し,摘出した涙.結石の成分分析と病理検査を行ったので報告する.症例:77歳,女性.30歳から関節リウマチがあり,10年前から近医にて低濃度ステロイド,ヒアルロン酸,レバミピド,オフロキサシンゲルの点眼で加療中に右涙.炎を発症,吹上眼科にてCDCRを施行した.手術時に涙.内より摘出した柔らかい白色結石について,病理検査と成分分析を行った.結果:赤外分光分析法(IR法)で,結石はレバミピドの成分・蛋白質と同様の吸収を認めた.顕微ラマン分析でレバミピド成分を確認し,液体クロマトグラフでレバミピド成分はC20.9%と判定した.原子吸光分析法でホウ酸は検出されず,病理検査で放線菌を認めた.考察:IR法などから,涙.内結石はレバミピド成分がC20.9%であると確認した.レバミピド点眼などの複数点眼を使用する際には,涙.結石に注意が必要である.CPurpose:Toreportacaseofadacryoliththatdevelopedduetotheuseofmultipleeyedrops.Casereport:CThisstudyinvolveda77-year-oldfemalewithdacryocystitisthatdevelopedafterundergoingtherapywithmulti-pleeyedrops,suchasrebamipideandlow-dosesteroids,ando.oxacingel-formingophthalmicsolutionfromthir-ty-yearsCold.CForCtreatment,CdacryocystorhinostomyCwasCperformedCunderClocalCanesthesia,CandCaCdacryolithCwasCobservedCandCremovedCfromCtheClacrimalCsac.CACsmallCportionCofCtheCdacryolithCwasCsentCoutCtoCaClaboratoryCforCpathologicalstudy,withtheremainingportionusedforchemicalanalysis.Results:Chemicalanalysisrevealedthattheprimarycomponentwasrebamipide,similartotheinfraredspectroscopy.ndings.Ourresultsshowedthat20.9%ofthedacryolithcompositionwasrebamipide.Conclusion:The.ndingsinthispresentcaseshowedthat20.9%CofCtheCdacryolithCwasCcomposedCofCtheCproteinCofCrebamipide,CandCrevealedCthatCtheCuseCofCmultipleCeyeCdropsCmaypresenttheriskofdacryolithformation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(4):471.475,C2020〕Keywords:レバミピド点眼,赤外分光光度計,涙.鼻腔吻合術,涙.結石.rebamipide,infraredspectroscopy(IF),dacryocystorhinostomy,dacryolisths.はじめにレバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,その涙.炎の治療のため涙.鼻腔吻合術鼻外法(dac-ryocystorhinostomy:DCR)を行った際に,白色の涙.内結石を認めたとの報告がある1,2).しかし,その白色結石にレバミピドの成分を含んでいるかを調べた報告は少ない1,2).筆者らは,レバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,手術目的で吹上眼科に紹介となった患者のDCR中に,涙.内結石を認め除去した.この涙.内結石の成分分析を試みたので,結果を報告する.I症例症例はC77歳,女性.30歳から関節リウマチなどの膠原病があり,10年前より近医で上強膜炎,角膜びらん,ドライアイに対し,低濃度ステロイド点眼,ヒアルロン酸点眼,レバミピド点眼,オフロキサシンゲル点眼で加療していた.右〔別刷請求先〕久保勝文:〒031-0003青森県八戸市吹上C2-10-5吹上眼科Reprintrequests:MasabumiKubo,M.D.,Ph.D.,FukiageEyeClinic,2-10-5Fukiage,Hachinohe,Aomori031-0003JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(95)C471涙.炎を発症したため,手術目的で吹上眼科紹介となった.結膜培養を行い,涙.洗浄を行うと,涙.までは入れることができたが涙.以降の閉塞を認めた.CT(computedtomography:コンピュータ断層撮影)にて異常なく,局所麻酔にてCDCRを行った3).涙.切開時に白色のおから状の柔らかい結石(図1)を摘出した.摘出した結石の一部にて病理検査を行い,残りは大塚製薬に分析を依頼し約C3.1C×1.7Cmm白色の結石を取出し,風乾後は淡黄白色で大きさが約C1.1C×2.2Cmmとなったものを結石分析の試料とした.1.IR(infraredspectroscopy)赤外分光分析法による有効成分の比較,2.IRによる蛋白質の比較,図1摘出した白色の結石赤色の円内の結石を分析に用いた.3.顕微ラマン分析装置での分析,4.液体クロマトグラフによるレバミピドの含量測定,5.原子吸光分析法によるホウ酸含量測定を行った.CII結果結膜培養では,コアグラーゼ陰性CStaphylococcus(CNS)が認められ,放線菌は確認できなかった.DCR術後は涙.炎の再発もなく経過良好で,3カ月後に涙小管チューブを抜去した.抜去後も再閉塞などなく,経過良好で外来観察中である.C1.IRによる有効成分の比較(図2)ムコスタ点眼液の有効成分のレバミピドは,波数①C3,280CcmC-1,C②C1,730Ccm-1,C③C1,644Ccm-1,C④C1,602Ccm-1,⑤C1,540Ccm-1および⑥C760CcmC-1付近に特異吸収があり,今回の結石は①C3,280cmC-1,C②C1,730CcmC-1,C③C1,644CcmC-1,④C1,602Ccm-1,⑤C1,540CcmC-1および⑥C760CcmC-1付近の特異吸収は同位置に示し,それ以外の吸収も似ていることから,レバミピドの有効成分を含んでいると考えられた.C2.本症例と蛋白質のIRチャート(図3)レバミピドの蛋白質は,波数①C3,270CcmC-1,②C1,640CcmC-1,C③C1,530Ccm-1に吸収があり,今回の結石は同様の位置に吸収を認め,レバミピドの蛋白を含んでいると考えられた.C3.顕微ラマン分析装置での分析(図4)本症例では,1,300CcmC-1付近にレバミピド特有の吸収を認め,レバミピドを含んでいると確認された.図2赤外分光分析法による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較6カ所の特異吸収は同位置に示し,それ以外の吸収も似ていることから,レバミピドの有効成分を含んでいると考えられた.図3赤外分光分析法による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較今回の結石は,3カ所で同様な吸収を認め,レバミピドの蛋白を含んでいると考えられた.図4顕微ラマン分析による結石の蛋白とレバミピド点眼の比較1,300Ccm-1付近にレバミピド特有の吸収を認め,レバミピドを含んでいると確認された.C4.液体クロマトグラフによるレバミピドの含量測定ていると考えられた.液体クロマトグラフ(highperformanceliquidchromatog-6.病理検査(図5)raphy:HPLC)でレバミピドの含量測定を行ったところ,グロコット染色で放線菌とみられる菌塊がみられた.中心レバミピドをC20.9%含んでいた.部に濃厚な染色があり,そこから表層部にわたってほぼ均一C5.原子吸光分析法によるホウ酸含量測定な放線菌感染を認めた結石を水C0.2Cmlで抽出し,原子吸光分析法によりホウ酸CIII考察含量の測定を行ったところ,ホウ酸は検出されなかった.よって結石にはレバミピド点眼の蛋白質成分がC20.9%含まれレバミピド点眼は,広くドライアイに用いられ,Sjogren図5グロコット染色バーはC500Cμm.症候群にも多用される点眼薬である1).近年レバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用中に涙.炎を発症し,DCR時に白色の涙.結石を発見し,涙.結石中にレバミピドが確認される例や確認されない例が報告されている1,2).しかし,成分分析を具体的および詳細に報告はしている報告は少なく1,2)今回調査・報告した.発症時に,レバミピド点眼以外に,ヒアルロン酸ナトリウム,ジクアホソルナトリウム,オフロキサシンなどの点眼をしていたという症例の報告2)はあるが,オフロキサシンゲル点眼の報告は見つけることはできなかった.レバミピド点眼は滞留性がよく,レバミピドの粒子が涙.の壁に認められたとの報告がある4,5).オフロキサシンゲル点眼は,点眼後は眼表面の温度によりゲル化し,眼軟膏と同様に長時間結膜.内に滞留する6).涙.から鼻涙管に排出されるまでの滞留に関する報告は見当たらなかったが,粘性が高いことや結膜での滞留性が高いことを考慮すると,レバミピド点眼同様に涙.から鼻涙管で滞留することは予想される.また,年齢が高い患者や,Sjogren症候群による分泌低下がある場合は,さらにこれらの点眼の排出に時間がかかり,涙道閉塞および涙.炎の原因となりうると考えられた.今回の症例では,涙.炎および涙.結石の形成にオフロキサシンゲル点眼とレバミピド点眼が,それぞれ単独で関与したか,または相互作用により涙.結石が生じた可能性も考えられたが,以前の報告同様1,2)に明確な原因は不明だった.涙.内結石への細菌感染については,池田らの報告でもC2症例(100%)ともに放線菌感染を認め1),年齢とともに結石への細菌感染は高くなるとの報告7)もあり,今回も,放線菌感染を認め,以前の報告と同様だった.放線菌が確認された部位は,中心部に濃厚な染色が何個かあり,表層部にわたって均一な放線菌感染を認めた.初期の段階から持続的に感染を継続しつつ結石が増大した可能性と,ある程度大きくなった結石に放線菌感染が起こり中心部に拡大していった可能性が考えられた.病理の所見をみると,中心部に濃厚な放線菌感染があり表層に放線菌が薄いため,放線菌感染を濃厚に起こした小さい結石が集結し結石が大きくなり,大きくなった結石にさらに放線菌感染が起こったように思えた.しかし,調べた限りでは現在の結石の形成および感染の機序,順序などは不明だった.今回の症例は,涙.炎発症以前に,涙.内結石や鼻涙管閉塞があったかは不明であるが,推測される病態としては以下が考えられる1).Sjogren症候群および年齢的変化で涙液量が少なく,涙道内にある異物の排泄効率が低下しており,さらにレバミピドの粒子や,粘性の高いオフロキサシンゲル点眼が滞留して小さな涙.結石の核を形成し,一時的な鼻涙管閉塞症および放線菌による涙.炎および涙.結石のへの感染を起こした.放線菌に感染した小さい涙.内結石同士が融合し,機械的な鼻涙管閉塞症を起こす程度まで結石が成長し,大きくなってからも放線菌感染が起きた.初期段階から涙.内結石と涙.炎および放線菌感染が相互に複雑に作用した.今回の症例はC77歳と高齢だった.杉本らの報告2)をみると,涙.炎の発症はC10例中C9例(90%)がC70歳以上と高率だった.また,池田らの報告1)もC70歳以上のC2症例で,涙.炎患者における涙.内結石の発生率は年齢ともに上昇するとの報告7)もあり,高齢が涙.炎および涙.内結石を生じやすい素因と考えられた.今回は,結石中にレバミピド成分がC20.9%含まれていた.池田らの報告1)と杉本らの報告2)を合わせると,IR法でのレバミピド定性については,11例中C6例(54.5%)がありで,4例(36%)がなしだった.3例のレバミピド定量結果は,43.8%,14.4%,11.7%だった.今回の測定ではC20.9%であり,いままでの報告と比較し,定性では多数派であり定量結果では中間に位置した.これ以上については,症例が少ないため詳細不明だった.IR法は,結石の粉末資料に赤外線を照射し,透過光を分光して得られる赤外線吸収スペクトルから結石成分を同定する8).今回の波形と以前の報告8)の波形を比較すると,相違をはっきりと認めた.一方,レバミピド点眼の成分をC20%程度含むことでレバミピド点眼成分の波形に似てくることがわかった.なお,懸濁性点眼液を他の水溶性点眼液と併用する場合は,水溶性点眼液を先に点眼し,5分以上の間隔をあけて点眼することが推奨されている9).また,レバミピド点眼が涙.内で固まらないようにするためにC2.3日間隔をおくことが推奨されている4).以上のことを考えると,通常C1日に数回の点眼回数で,レバミピド点眼以外に粘性の高い点眼をすることは避けるべきと考えられる.高齢患者にレバミピド点眼などの複数の点眼薬を使用する際には,経過観察中は涙道・涙.疾患に注意が必要と考えられた.レバミピド点眼以外には,粘性の点眼を併用することは避け,涙.炎を認めた際には速やかに専門医受診を薦める必要があると考える.文献1)池田毅,平岡美紀,稲富周一郎ほか:量側涙.部に涙石を生じたシェーグレン症候群のC2例.臨眼C71:593-598,C20172)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタCR点眼液CUD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討.あたらしい眼科32:1741-1747,C20153)久保勝文,櫻庭知己:日帰り涙.鼻腔吻合術鼻外法C18例20眼の検討.眼科手術18:283-286,C20054)杉本学,野田佳宏:涙道内視鏡の基本─鼻涙管.眼科手術30:53-58,C20175)MimuraCM,CUekiCM,COkuCHCetal:E.ectCofCrebamipideCophthalmicCsuspensionConCtheCsuccessCofClacrimalCstentCintubation.CGrafesCArchCClinCExpCOphthalmolC254:385-389.C20166)岡本茂樹,加藤あずさ:オフロキサシンゲル化製剤について教えてください.あたらしい眼科26:197-199,C20097)KuboCM,CSakurabaCT,CWadaR:ClinicopathologicalCfea-turesCofCdacryolithiasisCinCJapanesepatietnts:frequentCassociationwithinfectioninagedpatients.ISRNOphthtal-molC2013,C406153,C20138)久保勝文,櫻庭知己:涙小管結石および涙.結石に対しての結石成分分析.あたらしい眼科35:529-532,C20189)大谷道輝:点眼剤の「実践編」.JINスペシャルC80:170-176,C2007C***

ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与

2020年4月30日 木曜日

《第30回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科37(4):467.470,2020cラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与松村理世*1井上賢治*1塩川美菜子*1國松志保*2石田恭子*3富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西・井上眼科病院*3東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-TermE.cacyandSafetyofSwitchingfromLatanoprostOphthalmicSolutiontoLatanoprost/CarteololFixedCombinationEyeDropsRiyoMatsumura1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),ShihoKunimatsu-Sanuki2),KyokoIshida3)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(LCFC)の長期的効果と安全性を前向きに検討した.対象および方法:ラタノプロスト点眼薬(LAT)使用中の原発開放隅角緑内障(広義)25例C25眼を対象とした.LATを中止し,LCFCに変更した.変更前と変更1,3,6,12カ月後の眼圧,涙液層破壊時間(tear.lmbreak-uptime:BUT),点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK),充血,血圧,脈拍数を比較した.Humphrey視野のCmeandeviation(MD)値を変更前と変更6,12カ月後で比較した.副作用と中止例を調査した.結果:眼圧は変更C12カ月後C14.0±1.8CmmHgで,変更前C15.9C±2.9CmmHgに比べて有意に下降した(p<0.0001).BUT,SPK,MD値は変更前後で同等だった.血圧と脈拍数は変更後に有意に下降した.副作用はC2例(8.0%)出現し(圧迫感,霧視+流涙),投与中止となった.結論:LATからCLCFCへの変更により,12カ月間にわたり眼圧は下降し,視野を維持した.血圧と脈拍数の下降には注意が必要である.CPurpose:Toprospectivelyinvestigatethelong-terme.cacyandsafetyofswitchingfromlatanoprost(LAT)Ctolatanoprost/carteolol.xedcombination(LCFC)eyedrops.Methods:Thisstudyinvolved25eyesof25patientswithCprimaryCopen-angleCglaucomaCincludingCnormal-tensionCglaucomaCwhoCwereCusingCLATCeyeCdropsCandCwhoCwereCswitchedCfromCLATCtoCLCFC.CIntraocularpressure(IOP)C,CtearC.lmCbreak-uptime(BUT)C,CcornealCepithelialdefects[super.cialCpunctatekeratitis(SPK)]C,CconjunctivalChyperemia,CbloodCpressure,CandCpulseCrateCwereCcom-paredbetweenatbaselineandat1-,3-,6-,and12-monthspostswitch.Themeandeviation(MD)valuewascom-paredCpreCandCpostCswitch.CAdverseCreactionsCandCdropoutsCwereCexamined.CResults:IOPCwasCsigni.cantlyCdecreasedCatC12-monthsCpostswitch(14.0C±1.8CmmHg)inCcomparisonCwithCthatCatCbeforeswitching(15.9C±2.9mmHg)(p<0.0001)C.Nodi.erencesinBUT,SPK,andMDvaluewereobserved.However,bloodpressureandpulserateweresigni.cantlydecreased.Twopatients(8.0%)droppedoutduetoadversereactions.Conclusions:CAfterCswitchingCfromCLATCtoCLCFC,CIOPCwasCdecreasedCandCvisualC.eldCwasCmaintainedCforC12Cmonths.CStrictCattentionshouldbepaidtofallingbloodpressureandpulseratepostswitchingfromLATtoLCFC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(4):467.470,C2020〕Keywords:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,眼圧,副作用,視野障害,変更.latanoprost/carteolol.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,visual.elddefects,switching.Cはじめに用の少なさ,1日C1回点眼の利便性より第一選択薬である1).緑内障治療は通常点眼薬の単剤投与から始める1).プロス多施設での緑内障患者実態調査においても単剤使用患者タグランジン関連点眼薬は強力な眼圧下降作用,全身性副作(1,914例)ではプロスタグランジン関連点眼薬の使用がC73.9〔別刷請求先〕松村理世:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:RiyoMatsumura,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(91)C467表1患者背景緑内障病型原発開放隅角緑内障(狭義):7例C7眼正常眼圧緑内障:1C8例C18眼男性:女性12例:1C3例年齢C69.1±10.3歳(C47.C84歳)眼圧C15.9±2.9CmmHg(1C1.C23mmHg)Humphrey視野CMD値C.5.63±4.68CdB(C.13.05.2.18CdB)%でもっとも多かった2).プロスタグランジン関連点眼薬単剤で目標眼圧に到達しない症例では点眼薬を変更,あるいは他の点眼薬を追加する1).アドヒアランスの観点からはC1日1回点眼のプロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬への変更が最良である.プロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬は日本ではC2010年より使用可能となった.しかし,最近までプロスタグランジン/Cb遮断配合点眼薬に含まれるCb遮断薬はチモロールのみであった.チモロールはカルテオロールよりも角膜上皮障害の出現頻度が高い3)ため,チモロールではなくカルテオロールを含有する配合点眼薬の開発が望まれていた.2017年にCb遮断薬としてカルテオロールを含有するラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となった.しかし,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の効果と副作用については十分に検討が行われていない4.6).そこで筆者らは,ラタノプロスト点眼薬を単剤使用中の原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,続発緑内障患者を対象に,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更した際の短期間(3カ月間)の眼圧下降効果と安全性を報告した4).今回対象を原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障患者に限定し,経過観察期間をC12カ月まで延長して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の眼圧下降効果,視野維持効果,安全性を前向きに検討した.I対象および方法2017年C2月.2018年C5月に井上眼科病院に通院中で,ラタノプロスト点眼薬を単剤使用中で眼圧下降が不十分な原発開放隅角緑内障(狭義),正常眼圧緑内障C25例C25眼を対象とし,前向きに研究を行った.患者背景を表1に示す.両眼該当例では眼圧の高い眼を,眼圧が同値の場合は右眼を,片眼症例では該当眼を解析対象とした.使用中のラタノプロスト点眼薬(1日C1回夜点眼,キサラタン,ファイザー)を中止し,washout期間なしでラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(1日C1回夜点眼,ミケルナ,大塚製薬)に変更した.変更前と変更C1,3,6,12カ月後に患者ごとにほぼ同時刻にCGoldmann圧平眼圧計で同一の検者が眼圧を測定した.ベースライン眼圧も含めて眼圧は2回測定し,2回の眼圧値の平均値を解析に用いた.結膜充血,点状表層角膜症(super.cialCpunctateCkeratopathy:SPK),涙液層破壊時間(tear.lmbreak-uptime:BUT)を計測,評価した.血圧,脈拍数はデジタル自動血圧計(UDEXsuperTYPE,エルクエスト)で測定した.SPKはCNEI分類7)を,結膜充血はアレルギー性結膜疾患ガイドライン第C2版8)を用いて評価した.変更前と変更C6,12カ月後にCHum-phrey視野検査プログラムC30-2SITA-Standardを施行しCmeandeviation(MD)値を比較した.来院時ごとに副作用と中止症例を調査した.眼圧,BUT,血圧,脈拍数,MD値の比較にはCtwo-wayANOVAおよびCBonferroni/Dunn検定を,SPKの比較にはCFriedman検定を用いた.有意水準はいずれもp<0.05とした.本研究は井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.臨床試験登録システムCUMIN-CTRに登録し,UMIN試験CIDとしてCUMIN000026230を取得した.研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得たのちに検査などを行った.CII結果眼圧は変更前C15.9C±2.9CmmHg(平均C±標準偏差),変更C1カ月後C13.5C±2.3CmmHg,3カ月後C13.7C±1.9CmmHg,6カ月後C14.0C±1.8CmmHg,12カ月後C14.0C±1.8CmmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001)(図1).視野のCMD値は変更前(C.5.63±4.68dB)と変更C6カ月後(C.4.81±4.26CdB),変更C12カ月後(C.5.34±4.63CdB)で同等だった(p=0.19).変更前の結膜充血は軽度がC2例で,1例は変更C1カ月後には消失し,12カ月後に再び軽度出現した.1例は変更C12カ月後まで軽度が継続した.SPK(図2)とCBUT(図3)は変更前後で同等だった(p=0.32,Cp=0.18).血圧は,収縮期,拡張期ともに変更前に比べて変更後に有意に下降した(p<0.001)(表2).脈拍数は変更前C72.4C±9.1拍/分,変更C1カ月後C71.2C±11.1拍/分,3カ月後C69.7C±12.1拍/分,6カ月後C66.0C±11.2拍/分,12カ月後C67.0C±11.7拍/分だった.変更C6カ月後,12カ月後では変更前に比べて,変更C6カ月後では変更C1カ月後に比べて有意に減少した(p<0.001).副作用はC2例(8.0%)に出現し,変更C1カ月後に圧迫感が1例,変更C1カ月後に霧視・流涙がC1例で,それぞれ投与中止となった.圧迫感の症例ではラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更したところ速やかに症状が消失した.霧視・流涙の症例ではラタノプロスト点眼薬へ戻したところ速やかに症状が消失した.経過観察中の投与中止例は上述した2例(8.0%)のみだった.CIII考按ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロー468あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(92)N.S.20********3.00.6p=0.3151±2.31816142.5眼圧(mmHg)12n=2510n=23n=23n=23SPK(点)2.0n=258641.51.020変更前変更変更変更変更0.51カ月後3カ月後6カ月後12カ月後0.0変更変更変更図1ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後の眼1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後圧(two-wayANOVAおよびCBonferroni/Dunn検定,**Cn=25n=25n=23n=23n=23p<0.0001)図2ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後のSPK(NEI分類)CN.S.p=0.17649.8表2ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後の血圧BUT(秒)14121086420収縮期(mmHg)p値拡張期(mmHg)p値変更前(n=25)C136.4±17.4C76.7±9.6変更C1カ月後(n=23)C120.4±16.7**C68.3±8.4*変更C3カ月後(n=23)C119.8±14.6**C68.4±9.9*変更C6カ月後(n=23)C121.9±16.2*C69.3±9.2*変更C12カ月後(n=23)C117.7±15.3**C66.4±7.7**<C0.0001<C0.001変更前変更変更変更変更1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後n=25n=25n=23n=23n=23図3ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬変更前後のBUT(two-wayANOVA)(two-wayANOVAおよびBonferroni/Dunn検定,*p<0.001,**p<0.0001)ル配合点眼薬への変更は国内臨床第CIII相優越性検証試験で検討された5).眼圧下降幅は変更C4週間後C2.7C±0.2CmmHg,8週間後C2.9C±0.2CmmHgだった.また,プロスタグランジン関連点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更したC32例の報告では,眼圧は変更前(14.6C±2.4CmmHg)に比べて変更C3カ月後(13.3C±2.1CmmHg)に有意に下降し,眼圧下降幅はC1.3CmmHgだった6).今回の症例での眼圧下降幅は変更C1カ月後C2.4C±1.4CmmHg,3カ月後C2.6±1.7CmmHg,6カ月後C2.3C±1.8CmmHg,12カ月後C2.3C±1.8CmmHgで,過去の報告5,6)とほぼ同等だった.国内臨床第III相優越性検証試験での副作用はC6.8%に出現し,内訳は睫毛乱生,霧視などだった5).今回の副作用出現率はC8.0%で,内訳は圧迫感と霧視・流涙が各C1例だった.これらのC2症例の副作用は重篤ではなく,点眼薬を変更したところ速やかに症状が消失した.点眼薬の副作用としてCSPKがあげられる.今回のラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更では基剤がC1剤からC2剤へ増加するためCSPKの悪化が予想された.一方,防腐剤としてラタノプロスト点眼薬では塩化ベンザルコニウム,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬ではエチレンジアミン四酢酸(ethylenedi-aminetetraaceticacid:EDTA)とホウ酸が含有されている.EDTAとホウ酸は塩化ベンザルコニウムと比較して細胞毒性が低いと報告9)されている.この両者の影響で,SPKやBUTが変更前後で変化なかったと考えられる.変更前の結膜充血は軽度がC2例で,1例は変更C1カ月後には消失し,12カ月後に再び軽度出現した.1例は変更C12カ月後まで軽度が継続した.これらの症例の結膜充血も重篤ではなく,自覚症状や訴えもなかった.ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の眼局所への安全性は良好と考えられる.今回,変更後に血圧は収縮期,拡張期ともに有意に下降した.脈拍数も変更C6,12カ月後には有意に減少した.Cb遮断薬であるカルテオロールが追加された影響が考えられる.しかし,ふらつきなどの自覚症状を訴える症例はなかった.Yamamoto(93)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C469らの報告ではラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更後に脈拍数は変更C4カ月後4.3拍/分,変更C8カ月後C6.1拍/分減少した5).同様に収縮期血圧は変更C4カ月後C3.0CmmHg,変更C8カ月後C4.2CmmHg,拡張期血圧は変更C4カ月後C1.4mmHg,変更C8カ月後C2.5CmmHg下降した.今回の症例の変更C12カ月後の下降幅は脈拍数C5.5拍/分,収縮期血圧C17.7CmmHg,拡張期血圧C10.3CmmHgで,Yamamotoらの報告5)と比べて脈拍数はほぼ同等,血圧は収縮期,拡張期ともに下降幅が大きかったが,その原因は不明である.ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更後には,とくに血圧下降に注意する必要がある.トラボプロスト点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更しC24カ月間経過観察した報告がある10).眼圧下降幅は変更C24カ月後まででC2.0.2.9CmmHgで,今回の2.3.2.6CmmHgとほぼ同等だった.また,Humphrey視野検査のCMD値は,トラボプロスト点眼薬からトラボプロスト/チモロール配合点眼薬への変更では,変更前と変更C6,12,18,24カ月後で有意な悪化はなく10),今回も変更前と変更C6,12カ月後で有意な悪化はなかった.しかし,視野障害は緩徐に進行するために今回の症例においても今後も長期的な経過観察が必要である.結論として開放隅角緑内障患者に対してラタノプロスト点眼薬をラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更することで,点眼回数を増やすことなくC12カ月間にわたり眼圧を下降させ,視野を維持することができた.安全性に関しては血圧や脈拍数の下降に注意する必要がある.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年度版─薬物治療─.あたらしい眼科34:1035-1041,C20173)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C20104)中牟田爽史,井上賢治,塩川美菜子ほか:ラタノプロスト点眼薬からラタノプロスト/カルテオロール塩酸塩配合点眼薬への変更.臨眼73:729-735,C20195)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3CtrialsCofCcarteololC/ClatanoprostC.xesCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C20166)良田浩氣,安樂礼子,石田恭子ほか:カルテオロール/ラタノプロスト配合点眼液の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科36:1083-1086,C20197)LempMA:ReportCofCtheCnationalCeyeCinstitute/industryCworkshopConCclinicalCtrialsinCdryCeyes.CCLAOCJC21:221-232,C19958)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:833-870,C20109)UematsuCM,CKumagamiCT,CShimodaCKCetal:PolyoxyethC-yleneChydrogenatedCcastorCoilCmodulatesCbenzalkoniumCchloridetoxicity:ComparisonCofCacuteCcornealCbarrierCdysfunctionCinducedCbyCtravoprostCZCandCtravoprost.CJOculPharmacolTherC27:437-444,C201110)村木剛,井上賢治,石田恭子ほか:トラボプロストからトラボプロスト・チモロール配合剤へ変更した症例の長期効果.臨眼69:1493-1498,C2015***470あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020(94)

基礎研究コラム 35.核酸医薬

2020年4月30日 木曜日

核酸医薬核酸医薬とは核酸医薬とは天然型ヌクレオチドまたは化学修飾型ヌクレオチドを基本骨格とする薬物であり,遺伝子発現を介さずに直接生体に作用し,化学合成により製造されることを特徴とする.代表的な核酸医薬にアンチセンスオリゴヌクレオチド,RNA干渉(si/sh/miRNA),アプタマー,デコイ,GcPオリゴなどがある.アンチセンスとCRNA干渉は,外から細胞内に導入されたCRNAによって配列特異的に標的CRNAが分解,もしくはスプライシングパターンが修飾され,標的遺伝子の発現が抑制されることで,治療効果を生み出す手法である.その他の三つは蛋白質を標的とする.これまで米国食品医薬品局に認可された核酸医薬に,Duchenne型筋ジストロフィに対するCeteplirsen1)や,家族性高コレステロール血症に対するCmipomersen2)(どちらもアンチセンス),遺伝性アミロイドーシスに対するCpatisiran(siRNA)3)などがある.治療効果はあるものの,副作用もよくみられるため,まだ長期の評価を要する.眼科領域での応用眼科領域で認可されている核酸医療は,サイトメガロウイルス性網膜炎に対するホミビルセンと,滲出性加齢黄斑変性症に対するペガプタニブがある.どちらも硝子体内投与であり,前眼部領域ではまだ核酸医薬が開発されていない.筆者らはそれらを角膜血管新生に応用する取り組みをしており,竹渓友佳子SchepensEyeResearchInstituteofMassEyeandEarCangiopoietin-likeCprotein2という炎症および血管新生に関与する分子をターゲットにしたCRNAiを脂質ナノ粒子に取り込み,点眼によりアルカリ外傷マウスモデルで血管新生抑制機能があることを示した4).今後の展望概念が提唱されて以来,さまざまなタイプの核酸医薬が承認されてきたが,免疫反応やドラッグデリバリーなど克服しなければならない課題は多い.しかしながら,標的特異性と化学合成可能という利便性があり,さらにCCRISPRといった新たなツールやこれまで機能が不明だったCnoncodingRNAなどをターゲットにすることで,将来さらなる発展をとげるのではないかと期待される.文献1)EteplirsenCbrie.ngCdocument.CNDAC206488.CSareptaCTherapeuticsInc,January22,20162)FogacciCF,CFerriCN,CTothCPCetal:E.cacyCandCsafetyCofmipomersen:ACsystematicCreviewCandCmeta-analysisCofCrandomizedclinicaltrials.DrugsC79:751-766,C20193)AdamsD,Gonzalez-DuerteA,O’RiodranWetal:Patisir-an,CanCRNAiCtherapeutic,CforChereditaryCtransthyretinCamyloidosis.NEnglJMedC379:11-21,C20184)TaketaniCY,CUsuiCT,CToyonoCTCetal:TopicalCuseCofCangiopoietin-likeCproteinC2CRNAi-loadedClipidCnanoparti-clesCsuppressesCcornealCneovascularization.CMolCTherCNucleicAcidsC5:e292,C2016図1RNA干渉のメカニズムと脂質ナノ粒子包埋shRNA脂質ナノ粒子を用いることで,強固な角膜上皮バリアを通過しやすくなり,角膜実質への効果がより期待できる.MechanismofsiRNAsilencingdsRNAorshRNADicersiRNAduplexAgoFormationofRISCRISCRISCsiRNA/mRNA-complexslicedmRNA“SILENCING”http://www.uni-konstanz.de/FuF/chemie/jhartig/LipidnanoparticlewithshRNAepitheliumCornea(81)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C4570910-1810/20/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 203.硝子体手術後の液状後発白内障(初級編)

2020年4月30日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載203203硝子体手術後の液状後発白内障(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●液状後発白内障とは液状後発白内障は.内固定された眼内レンズと後.の間隙に乳白色の液状物質が貯留するもので,通常白内障術後3カ月以上経過してから生じてくることが多い.本疾患は,.内に残留した水晶体上皮細胞が増殖,偽化生を繰り返すことにより,コラーゲンなどの細胞外基質やクリスタリンなどの水晶体蛋白を産生し,それが貯留することで発症すると考えられている1,2).●液状後発白内障による視力障害通常,液状後発白内障は見かけほど視力低下をきたさないので,自覚症状が軽度の場合には経過観察でよい.しかし,液状物の混濁が高度となったり,後.が後方に膨れ上がり,この中に貯留した液状物により凸レンズ効果を呈して視力が低下する場合には治療の対象となる.糖尿病網膜症を合併している患者では液状後発白内障が生じる頻度が高いとされているが,筆者の経験では硝子体と白内障の同時手術例も発生頻度が高い印象がある.これは通常の白内障手術よりも硝子体手術を併用することで術後炎症が遷延しやすいことが誘因と考えられる.また,硝子体手術後は硝子体ゲルがないため,後.が後方に膨隆するケースも多く,本疾患の発症に関係している可能性がある.●硝子体手術後の液状後発白内障の治療ヤグレーザーで後.を切開すれば,液状成分は硝子体腔に容易に拡散して良好な視力改善が得られる.しかし,乳白色の混濁が強い場合には後.の位置が確認しづらいので,通常のヤグレーザー後.切開術よりも手技的にむずかしい(図1).コツは比較的眼内レンズと後.の距離が短いと思われる周辺部から照射を開始し,後.の(79)0910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1ヤグレーザー後.切開術施行前のスリット写真眼内レンズの後方に乳白色の液状物質の貯留を認めた.図2ヤグレーザー後.切開術施行後のスリット写真後.の亀裂から乳白色の液状物質が硝子体腔側に一気に拡散し,瞬時に混濁は消失した.視認性が不良の場合には前方から後方に照射部位を移動させていく.後.が一部でも穿孔すると,乳白色の液状物質が硝子体腔に拡散し,その後は後.の確認が容易となる(図2)ので,通常の十字切開を行う.液状成分が多いと術後の炎症が通常の症例より強くなることがあるので,照射後にステロイドの点眼を処方しておく.また,照射後に眼圧上昇をきたしたとする報告3)もあるので,注意深く経過観察する.ヤグレーザーでどうしても後.切開ができない症例や白色塊が多量に認められる症例に対しては,硝子体カッターで観血的に混濁を除去することもある4,5).文献1)永田万由美,松島博之,泉雅子ほか:液状後発白内障の成分分析.眼紀52:1020-1023,20012)宮本武,三宅謙作,谷藤泰寛ほか:液状後発白内障の免疫組織化学的検討細胞外マトリックスと成長因子.IOL&RS14:293-297,20003)高原真理子,矢野啓子,栗原久美子ほか:液状後発白内障に対し,レーザー後発切開術を施行し,高眼圧をきたした1症例.眼科臨床医報99:42-44,20054)大熊康弘,林敏信,小川智一郎ほか:液状後発白内障に対し25G経結膜無縫合硝子体手術を施行した2症例.IOL&RS21:86-90,20075)三上尚子,桜庭知己,原信哉ほか:外科的除去を要した特異な後発白内障の2例.IOL&RS17:42-46,2003あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020455