未熟児網膜症HotTopicsinRetinopathyofPrematurity福嶋葉子*はじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)は,早産児の網膜にみられる異常血管新生を本態とする小児期の失明疾患の一つである.近年,ROP診療では国際分類の改訂と血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を阻害する薬物療法の承認という二つの新しい話題があった.初回治療として網膜光凝固だけでなく抗VEGF薬を選択できるようになったことから,光凝固と抗VEGF薬の選択基準,抗VEGF治療後の適切な診察期間の設定,周辺網膜の無血管領域の扱いなど新たな課題も顕在化してきた.本稿では,ROP診療に関する最新情報をキャッチアップできるように,診断と治療について概説したうえで,最近の診断支援技術の開発研究についても言及する.I疫学新生児医療の水準によってROPの発症率や治療率は異なる.わが国では,新生児医療の進歩を反映して治療例や失明例は減少傾向にある.新生児臨床研究ネットワークデータベースによれば,在胎32週未満および出生体重1,500g以下の新生児における治療率は2007年の16%をピークに徐々に減少し,2017年には9%となった.東京都を対象とした多施設研究でも,超低出生体重児(出生体重1,000g未満)の治療率は2002年,2011年,2020年でそれぞれ41%,29%,27.5%と減少傾向にあることが最近報告された1).また,全国盲学校の3~5歳児における視覚障害原因としてROPの占める割合は2005年からの10年間で32%から13%と大きく減少しており,ROP診療の質的向上があると推察される.II診断のための検査と重症度判定スクリーニング対象は在胎34週未満,または出生体重1,800g以下の児とすることが多い.高濃度酸素投与や人工換気を要した児に対しては,この基準にかかわらず眼底検査を行う.在胎26週未満の児では修正29~30週から,在胎26週以上の児では生後3週から検査を開始する.診察の際には,眼球心臓反射や無呼吸発作に注意して,短時間で終えるよう心がける.画像記録には広画角デジタル眼撮影装置RetCamRが有用であるが,ほかにもPanoCamや3nethraneoがある.代替として,画角は狭いが倒像鏡レンズを用いたスマートフォン撮影法もある.重症度の判定には国際分類(internationalclassi.cationofROP:ICROP)が用いられる.近年の画像診断ならびに画像撮影機器の進歩や抗VEGF薬の普及などの現状を踏まえて第3版(ICROP3)が2021年に公開された2)〔小児眼科学会のウェブサイト(http://www.japo-web.jp/info.php?page=4)から改訂要旨を確認できる〕.この分類では,活動期の網膜症を病変の位置(Zone),病変部の外観(Stage),plusdiseaseによって重症度を決定する(図1).Zoneは,視神経乳頭を起点として血管が伸びた距離を示し,ZoneI,II,IIIで記す.ZoneI*YokoFukushima:大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学共同研究講座〔別刷請求先〕福嶋葉子:〒565-0871大阪府吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼免疫再生医学共同研究講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(37)783図1Notch(湾入)耳側の境界線が他と比べて後極よりにある.これがnotchである.aはbと比べてさらに後方まで湾入している.NotchがZoneI領域に位置しているが他の境界線はZoneIIにある場合には,ZoneIsecondarytonotchと表記して,ZoneIとして扱い治療適応を決める.-図2ZoneIとZoneIIZoneIとZoneIIを示す.ZoneIに近い領域をposteriorZoneIIとして区分する.この画像はposteriorZoneIIよりも周辺側に血管が伸びており,ZoneIIstage3withoutplusと判定される.図3Plusdisease後極血管の拡張と蛇行で判定する.a,Cb,Cc,Cdの順に蛇行と拡張が進行している.Normal(Ca)とCplus(Cd)の判定についての評価者間の差は少ないが,bをCnormal/preplus,CcをCpreplus/plusと判定するかは評価者によってばらつくことが予想される.図4ラニビズマブ治療例a:在胎C25週C480.gで出生.修正C33週にCZoneCIA-ROPに対してラニビズマブ硝子体注射.Cb:修正在胎C41週(治療後C2カ月).網膜血管は伸長したが,血管の拡張と蛇行がみられる.再燃の所見である.点線は治療時の血管先端部,は現在の血管先端部を示す.(文献C6より引用)表1国際治験の比較薬剤治療判定時期治療成功率(全体)治療成功率(A-ROP)再治療率※1(症例数)再治療時期(中央値)最周辺まで血管伸長した割合(治療C2年)CRAINBOWCstudyラニビズマブC0.2.mg治療後C24週C80%C40%C31%8週(4~16週)C59%CFIREFLEYECstudyアフリベルセプトC0.4.mg治療後C24週C85%C73%28%C※211週(4~17週)80%C※3C※C1レスキュー治療を含む.※C2眼数ではC21%.※C3CFIREFLEYECnextstudyによる.治療C1年ではC71%.図5Persistentavascularretina(PAR)在胎C22週C536.gで出生.修正在胎C36週にCTypeC1CROPに対してベバシズマブ投与.5歳時の超広角走査型レーザー検眼鏡による眼底画像(a)と後極の拡大像(b)を示す.耳側周辺部にCPARがある.眼位は正位,視力はCLV=1.0と良好.(文献C9より引用)に光凝固を考慮する.抗CVEGF治療後の適切な診察間隔の設定とCPARの扱いは今後の課題である.C3.視機能a.光凝固視機能に影響する頻度の高い後遺症として,近視化がある.また,凝固範囲や凝固数と近視の程度は相関することが報告されている.とくにCZoneCIROPはCZoneCIIROPに比べて凝固領域が広く高度近視となる可能性が高い.近視の進行はC1歳すぎまでに急速に進むが,それ以降は緩やかになる傾向となる.また,光凝固で瘢痕化した領域を含む視野狭窄がみられる.ほかにも,網膜.離,緑内障,白内障,斜視,屈折異常など,多彩な長期後遺症に注意を払わなければならない.Cb.抗VEGF薬光凝固治療と比較して近視化は軽度となる.RAIN-BOWstudyのC2年経過の結果8)では,片眼に.5Dを超える近視がある例はラニビズマブC0.2Cmg群でC7%であるのに対して,光凝固群ではC34%と有意にラニビズマブ群が近視化は少ないことが示された.また,FIREFL-EYECnextCstudy11)において,2年経過の平均等価球面値はアフリベルセプト群で.0.6D,光凝固群でC.1.9Dであった.C.5Dを超える近視はアフリベルセプト群で7.8%,光凝固群でC21.7%となっており,RAINBOWstudyと近い結果となった.CVROP診療を支援する技術開発日本ではCROPの発症率・治療率は減少傾向にあるが,世界的には低中所得国における早産児の生存率が上がったことによりCROPは増加傾向にある.専門医の不足も相まって診療の効率化が喫緊の課題となっており,診断支援技術の開発が進められている.C1.ハイリスク児の予測早産児にとって眼底検査は心拍低下や無呼吸を誘発する全身負担の大きい検査の一つである.先進国ではスクリーニング対象のうち治療例はC10%前後であり,不要な検査を減らす目的で重症化リスクを判定する方法が数多く報告されてきた.リスク判定モデルの多くは在胎週数,出生体重,体重増加を変数として用いている.ウェブ上には,情報を入力すればリスク判定値が出力されるプラットフォームを提供しているサイトもある(DIGI-ROP:https://www.digirop.com/).人種や医療水準が異なるため必ずしもすべてが普遍的なモデルとはいえないが,日本人集団にも適応可能なモデルもある.たとえば,北米コホートを対象としたCG.ROP基準を日本人に適応すると,重症例を見逃すことなく,現行のスクリーニング基準から対象患児を約C25%減らすことができる12).ほかにも日常的に計測されている動脈血酸素飽和度の値をスクリーニング開始前までに解析することでスクリーニング効率の向上につながる可能性がある13).こうしたリスク予測モデルは,早産児・医療従事者の負担を減じるだけでなく,医療経済にも貢献できる.C2.OCT網膜領域のマルチモーダルイメージングの進歩はめざましいが,小児への応用はいまだに限定的である.それでも機器開発の兆しはみられており,その一つに手持ち光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)がある.OCT画像から病期によらない黄斑浮腫の存在,視細胞の未熟性による中心窩陥凹形成の遅れ,進行したROP既往例での薄い脈絡膜厚など,新しい知見が報告されている2,14).今後さらに開発が進み普及すれば,病態理解や診断に寄与するであろう.C3.画像診断へのAI応用網膜疾患では糖尿病網膜症や加齢黄斑変性に対する人工知能(arti.cialintelligence:AI)応用は広く知られているが,ROPでもCRetCamなどの広角眼底撮影機器で取得した画像を用いた研究が増加している14).初期の深層学習モデルは,Stage,CZone,Cplusの判別などの単一の特徴抽出を対象とするものであったが,近年ではCROP病期の識別,重要な特徴量の抽出,進行・退縮・再燃を含む予後予測など,より複雑な目的を果たすように設計されている.米国発のCtheCImagingCandCInformaticsCinCROPCdeeplearning(i-ROPDL)AIシステムでは,後極血管の形態から重症スコア(vascularCseverityscore:VSS)を設788あたらしい眼科Vol.C41,No.7,2024(42)定し,従来のCZone,CStage,plusの三つの別次元のパラメータを一元化して数値で表した15).これを用いることで治療前の重症度のみならず治療後の改善や再燃についても数値の大小によって評価できると示唆されている.こうした客観的な定量評価は均質で精度の高い診断につながる.ほかにも診断補助技術として実用化が期待できる自動診断の成果が,海外から次々と報告されている.おわりにROP診療における最近の話題をとりあげた.改訂された国際分類CICROP3は現状に即した体系的な分類を提供し,主観的判断を極力少なくして客観性と再現性の向上を図っている.これにより,診断の標準化に近づける重要な指針となっている.また,新たに承認された抗VEGF治療は「虚血網膜に血管を誘導する」という革新をもたらした.抗CVEGF治療後の視力や屈折についてはおおむね良好な報告が多く,解剖学的な予後の改善だけでなく機能的な予後の改善が予想される.しかし,再燃やCPARを背景とした網膜.離の潜在的な危険があることを念頭に置き,長期に経過観察をする必要がある.さらに,血清CVEGF抑制は全身への影響も懸念されており,抗CVEGF薬の安全性を立証するために治療後の追跡データの蓄積が望まれる.これまでの情報を踏まえて,治療選択の際には光凝固・抗CVEGF薬それぞれの治療方法に固有の合併症や課題を理解し,最適な方法を選択することが求められる.治療選択肢が増えたことで良好な視機能の獲得が期待される一方で,国際治験では光凝固・抗CVEGF薬いずれも治療成功率はC60~80%にとどまった.つまり,いまだ治療不成功が存在し,失明に至る疾患であることに変わりはない.治療を成功させるためには,正しく診断して適切な時期に治療することが依然としてもっとも重要であるが,医師側の習熟度によって診断のばらつきが生じる.重症化リスク判定やCAIによる画像診断が社会実装されれば,専門医のいない施設でも最適なCROP診療ができるようになる.診断支援技術の開発スピードは目を見張るものがあり,この領域での実用化に期待したい.文献1)太刀川貴子,清田眞理子,吉田朋世ほか:超低出生体重児における未熟児網膜症東京都多施設研究第C3報.日眼会誌C127:231,C20232)ChiangCMF,CQuinnCGE,CFielderCARCetal:InternationalCclassi.cationCofCretinopathyCofCprematurity,CthirdCedition.COphthalmologyC128:e51-e68,C20213)FukushimaCY,CKawasakiCR,CSakaguchiCHCetal:Character-izationCofCtheCprogressionCpatternCinCretinopathyCofCprema-turityCsubtypes.COphthalmolRetinaC4:231-237,C20204)EarlyCtreatmentCforCretinopathyCofCprematurityCcoopera-tivegroup:RevisedCindicationsCforCtheCtreatmentCofCreti-nopathyCofprematurity:resultsCofCtheCearlyCtreatmentCforCretinopathyCofCprematurityCrandomizedCtrial.CArchCOphthalmolC121:1684-1694,C20035)寺崎浩子,東範行,北岡隆ほか:未熟児網膜症に対する抗CVEGF療法の手引き(第C2版).日眼会誌C127:570-578,C20236)KubotaCH,CFukushimaCY,CNandinantiCACetal:RetinalCbloodCvesselCformationCinCtheCmaculaCfollowingCintravitrealCranibizumabCinjectionCforCaggressiveCretinopathyCofCpre-maturity.CCureus16:e60005,C20247)StahlCA,CLeporeCD,CFielderCACetal:RanibizumabCversusClaserCtherapyCforCtheCtreatmentCofCveryClowCbirthweightCinfantsCwithCretinopathyCofprematurity(RAINBOW):anCopen-labelCrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetC394:1551-1559,C20198)StahlCA,CSukgenCEA,CWuCWCCetal:E.ectCofCintravitrealCa.iberceptCvsClaserCphotocoagulationConCtreatmentCsuccessCofCretinopathyCofprematurity:theC.re.eyeCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMAC328:348-359,C20229)近藤寛之,荒木俊介,三木淳司ほか:ファーストステップ!子どもの視機能をみるスクリーニングと外来診療(仁科明子,林思音編),全日本病院出版会,202210)MarlowCN,CStahlCA,CLeporeCDCetal:2-yearCoutcomesCofCranibizumabCversusClaserCtherapyCforCtheCtreatmentCofCveryClowCbirthweightCinfantsCwithCretinopathyCofCprematu-rity(RAINBOWCextensionstudy):prospectiveCfollow-upCofCanCopenClabel,CrandomisedCcontrolledCtrial.CLancetChildAdolescHealthC5:698-707,C202111)StahlCA,CNakanishiCH,CLeporeCDCetal:IntravitrealCa.iberceptCvsClaserCtherapyCforCretinopathyCofCprematuri-ty:two-yearCe.cacyCandCsafetyCoutcomesCinCtheCnonran-domizedCcontrolledCtrialCFIREFLEYECnext.CJAMACNetwCOpenC7:e248383,C202412)ShirakiCA,CFukushimaCY,CKawasakiCRCetal:RetrospectiveCvalidationCofCtheCpostnatalCgrowthCandCretinopathyCofCpre-maturity(G-ROP)criteriaCinCaCJapaneseCcohort.CAmJOphthalmolC205:50-53,C201913)KubotaCH,CFukushimaCY,CKawasakiCRCetal:ContinuousCoxygenCsaturationCandCriskCofCretinopathyCofCprematurityCinCaCJapaneseCcohort.CBrCJOphthalmol(publishedConlineC(43)あたらしい眼科Vol.C41,No.7,2024C789