監修=木下茂●連載239大橋裕一坪田一男239.Epi.o.vsEpi.on角膜クロスリンキング小橋英長慶應義塾大学医学部眼科学教室角膜クロスリンキング(CXL)が円錐角膜の進行抑制のための治療法として安全で有効であることは,多くの臨床研究で証明されている.ただし,わが国においては未承認の治療である.近年,標準的なドレスデン法(Epi-o.CXL)を改良した経上皮法(Epi-onCXL)が登場し,より低侵襲になったため,CXLの適応拡大が期待される.本稿では両術式を比較したメタアナリシスを解説し,今後の展望を考える.●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcross-linking:CXL)は円錐角膜の進行を停止させる治療である.Wollensak,Seilerら1)によってヒト円錐角膜眼にCCXLが施されて,すでにC15年以上経つ.米国ではC2016年にCAvedro社製のリボフラビン点眼液CPhotrexaと長波長紫外線(UVA)照射器CKXLSystemが,CXLで用いられる医薬品と医療機器として米国食品医薬品局の承認を得ている.Avedro社の報告によるとCCXLはすでにC40万件以上施行されたとされているが,わが国では残念ながら厚生労働省の承認が得られていない.CXLの普及に伴って,角膜移植の原因疾患に占める円錐角膜の割合が半減しているとも報告されており,CXLが医療費の費用対効果を改善することも証明されている.しかしながら,従来のドレスデン法(Epi-o.CXL)は術後合併症として角膜上皮再生遅延,角膜感染症,角膜実質瘢痕などが報告されており,そのおもな原因は角膜上皮.離を伴うことによる.これらを解決するためにCLeccisottiらが2010年にCtransepithelialCXL(Epi-onCXL)を開発しCEpi-onCXLEpi-o.CXLStudyorSubgroupMeanSDTotalMeanSDTotalWeightた2).リボフラビンは分子量が大きいため,そのままの状態では角膜上皮細胞間のバリアを破壊できないため,CEpi-onCXLではCBAC(benzalkoniumchloride),HPMC(hydroxypropylCmethylcellulose),EDTA(eth-ylenediaminetetraaceticacid)などの防腐剤を添加したリボフラビンを使用する.今回は,筆者が行ったCEpi-o.CXLとCEpi-onCXLの無作為化比較試験に基づくメタアナリシスを解説する3).C●Epi.o.vsEpi.on:メタアナリシス筆者はCCXLに関する文献を網羅的に検索して,Epi-o.CXLとCEpi-onCXLの無作為化比較試験から得られた有効性と安全性を解析した.図1は,両術後C1年における角膜最大屈折力(Kmax)の変化量を比較したフォレスト分布である.Epi-o.CXLのほうがCEpi-onCXLに比べて平均C1.10D程有意に平坦化していた.図2は,CXLの本体である角膜実質内のコラーゲン線維間の架橋を,光干渉断層像によるデマルケーションライン深度を用いて比較した.Epi-o.CXLのほうが有意に深い位置でデマルケーションラインを認めた.一般的に,デマCMeanDi.erenceMeanDi.erenceIV,Fixed,95%ClIV,Fixed,95%ClBikbova2016-0.743.049476-1.893.023731.7%1.15[0.17,2.13]Lombardo2017-0.521.322-0.821.2122.2%0.30[-0.57,1.17]Rossi2015-1.06110-1.082.08100.8%0.02[-1.41,1.45]Rush2017-0.250.3975-1.370.385692.7%1.12[0.99,1.25]Soeters20150.31.833-1.52241.6%1.80[0.79,2.81]Stojanovic2014-0.11.1820-0.312.7201.0%0.21[-1.08,1.50]Total(95%CL)236195100.0%1.10[0.97,1.22]Heterogeneity:Chi2=9.21,df=5(p=0.10);l2=46%-2-1012Testforoveralle.ect:Z=16.77(p<0.00001)Favorsepi-onCXLFavorsepi-o.CXL図1Epi.o.CXLとEpi.onCXL後1年の角膜最大屈折力(Kmax)の変化量の比較Epi-o.CXLのほうがCKmaxの増大を有意に抑制できるため,有効性の点で優れている.(文献C3より引用)(71)あたらしい眼科Vol.37,No.4,2020C4470910-1810/20/\100/頁/JCOPYEpi-onCXLEpi-o.CXLOddsRatioOddsRatioStudyorSubgroupEventsTotalEventsTotalWeightM-H,Random,95%ClM-H,Random,95%ClBikbova20163676707363.7%0.04[0.01,0.13]Soeters2015035222636.3%0.00[0.00,0.05]Total(95%Cl)11199100.0%0.01[0.00,0.18]Totalevents3692Heterogeneity:Tau2=2.10;Ch2=2.56,df=1(p=0.11);l2=61%Testforoveralle.ect:Z=3.33(p=0.0009)0.0010.1111,000Favorsepi-o.CXLFavorsepi-onCXL図2Epi.o.CXLとEpi.onCXL後1カ月のデマルケーションライン深度の比較Epi-o.CXLのほうが角膜実質に認めるデマルケーションラインは有意に深い位置で確認された.(文献C3より引用)CEpi-onCXLEpi-o.CXLMeanDi.erenceMeanDi.erenceStudyorSubgroupMeanSDTotalMeanSDTotalWeightIV,Random,95%ClIV,Random,95%ClBikbova2016-0.070.452576-0.020.2793735.7%-0.05[-0.17,0.07]Lombardo2017-0.10.1222-0.030.061215.6%-0.07[-0.13,-0.01]Rossi2015-0.160.0510-0.090.031025.0%-0.07[-0.01,-0.03]Rush2017-0.140.0275-0.120.025636.8%-0.02[-0.03,-0.01]Soeters2015-0.140.2133-0.070.21246.6%-0.07[-0.18,0.04]Stojanovic2014-0.180.1620-0.110.12010.3%-0.07[-0.15,0.01]Total(95%CL)236195100.0%-0.05[-0.08,-0.02]Heterogeneity:Tau2=0.00;Chi2=11.66,df=5(p=0.04);l2=57%-0.2-0.100.1Testforoveralle.ect:Z=3.17(p=0.002)Favorsepi-onCXLFavorsepi-o.CXL図3Epi.o.CXLとEpi.onCXL後1年の眼鏡矯正視力の変化量の比較Epi-onCXLのほうが眼鏡矯正視力は有意に改善する.(文献C3より引用)ルケーションラインが深いほうが病期進行に有効とされており,形態学的にはCEpi-o.CXLのほうが有効であったことを示唆している.一方で,両術後C1年における眼鏡矯正視力の変化量を比較したところ,Epi-onCCXLのほうが有意に矯正視力が改善した(図3).しかし,その差はC1段階以内であり,臨床的に意味のある差異ではない.安全性項目として,術後C1年以内の合併症を比較したところ,Epi-o.CXLでは,角膜感染症や角膜上皮再生遅延が散見された.C●新しいEpi.onCXL角膜実質内のリボフラビン濃度を上昇させるために,イオン導入法を用いたCCXLがある.イオン導入法は,生体組織に薬剤を効果的に移行させるためのドラッグデリバリーシステムの一つであり,歯科や皮膚科領域で臨床応用されている.近年トポガイドによるCUVA照射によって,屈折矯正を行うCphotorefractiveCintrastromalCcross-linking(PiXL)が登場した.Avedro社のCPiXLは,Epi-onでリボフラビン点眼液を投与したのち,酸素ゴーグルを装用して高酸素化でCUVA照射をすることで,効果的に角C448あたらしい眼科Vol.37,No.4,20200.2膜が平坦化する.円錐角膜以外にも,軽度近視を対象とした臨床試験が行われている.今後のCPiXLの長期成績と他術式との比較に注目したい.C●おわりにEpi-onCXLではCEpi-o.CXLと比較して角膜に対する効果が弱いが,術後合併症が少なく疼痛がないので,小児例や眼表面の状態が不良なアトピー性皮膚炎合併例に対して有用であると考えられる.Epi-onCXLはまだ歴史が浅く,長期的な検証が必要であるが,イオン導入法やCPiXLなど新しい技術によって,より低侵襲かつ効果的に治療ができる潮流になっている.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmCJOphthalmolC135:620-627,C20032)LeccisottiCA,CIslamT:TransepithelialCcornealCcollagenCcross-linkinginkeratoconus.JRefractSurg26:942-948,C20103)KobashiCH,CRongCSS,CCiolinoJB:TransepithelialCversusCepithelium-o.CcornealCcrosslinkingCforCcornealCectasia.CJCataractRefractSurg44:1507-1516,C2018(72)