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強度近視性黄斑円孔に対する内境界膜翻転法術後の外境界膜の連続性

2019年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(11):1456.1461,2019c強度近視性黄斑円孔に対する内境界膜翻転法術後の外境界膜の連続性河合健太郎小堀朗額田和之蒔田潤福井赤十字病院眼科CContinuityoftheExternalLimitingMembraneafterVitrectomywiththeInvertedInternalLimitingMembraneFlapTechniqueforHighMyopicMacularHoleKentaroKawai,AkiraKobori,KazuyukiNukadaandJunMakitaCDepartmentofOphthalmologyFukuiRedCrossHospitalC対象および方法:当院で内境界膜翻転法併用硝子体手術を施行した強度近視性黄斑円孔(眼軸長がC26Cmm以上,黄斑円孔網膜.離を伴わない,経過観察期間はC6カ月以上)の症例C20人C21眼を後ろ向きに検討した.術後のCOCT所見から外境界膜(ELM)の連続性の回復の有無を評価し,ELMの連続性の回復がみられる群(ELM+群)とCELMの連続性の回復を認めない群(ELM.群)に分け,患者背景,および術後視力,視力改善量を比較した.結果:21眼全例で円孔の閉鎖が得られ,ELMの連続性の回復はC12眼で認めた.ELM+群,ELM.群ともに術後ClogMAR視力は術前logMAR視力と比して有意に改善していた.視力改善量にはC2群間に有意差はなかったが,術前視力,術後視力はともにCELM+群がCELM.群と比して有意に良好であった.円孔径,円孔底径はCELM+群がCELM.群に比して有意に小さかったが,眼軸長にC2群間に有意差はなかった.CPurpose:Toretrospectivelyinvestigatethesurgicaloutcomesofvitrectomywiththeinternallimitingmem-brane(ILM).apCtechniqueCforChighCmyopicCmacularCholeCinCaccordanceCwithCexternalClimitingmembrane(ELM)Ccontinuity,CandCdetermineCtheCperioperativeCfactorCthatCisCrelatedCtoCtheCcontinuityCofCtheCELM.CMethods:InCthisCstudy,CweCanalyzedC21CeyesCofC20CpatientsCwhoCunderwentCvitrectomyCwithCtheCinvertedCILMC.apCtechniqueCforChighCmyopicCmacularCholeCwithoutCretinalCdetachment.CTheCpatientsCwereCdividedCintoCtwoCgroupsCbasedConCtheCexistenceCofCtheCcontinuityCofCELM.CPatientCage,CmacularCholeCsize,CaxialClength,CandCbest-correctedCvisualCacuity(BCVA)wasthencomparedbetweenthegroups.Results:Themacularholeclosedin21ofthe21eyes(100%).OpticalCcoherenceCtomographyC.ndingsCpostCsurgeryCshowedCELMCrecoveryCinC12eyes(57.1%).CInCbothCgroups,CthepostoperativeBCVAwassigni.cantlyimprovedcomparedwiththepreoperativeBCVA.MacularholesizeandmacularCholeCbottomCsizeCwasCsigni.cantlyCsmallerCinCtheCgroupCwithCELMCcontinuityCthanCinCtheCgroupCwithout.CConclusion:Our.ndingsshowthatthegroupwithELMcontinuityachievedbetterBCVApostsurgery,andthatthecontinuitywasrelatedtomacularholesize.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(11):1456.1461,C2019〕Keywords:内境界膜翻転法,強度近視性黄斑円孔,外境界膜.invertedinternallimitingmembrane.aptech-nique,highmyopicmacularhole,externallimitingmembrane.Cはじめに黄斑円孔に対する硝子体手術は,1991年にCKellyとWendelらにより報告された.その後,内境界膜(internalClimitingmembrane:ILM).離の併用,ILM.離を容易,確実にするインドシアニングリーン(indocyaninegreen:ICG),ブリリアントブルーCG(brilliantblueG:BBG)などの染色液の使用により,硝子体手術の成績は向上し,現在,特発性黄斑円孔ではC90%以上という高い閉鎖率が得られるようになった.2010年,Michalewskaらは,閉鎖率の低い大型黄斑円孔〔別刷請求先〕河合健太郎:〒918-8501福井市月見C2-4-1福井赤十字病院眼科Reprintrequests:KentaroKawai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuiRedCrossHospital,2-4-1Tukimi,Fukui918-8501,CJAPANC1456(114)に対し円孔周囲のCILMを翻転し円孔上に被せる,ILM翻転法(invertedILM.aptechnique)を併用することで閉鎖率,術後視力が改善することを報告した1).一方,強度近視性黄斑円孔に対するCILM.離併用硝子体手術の成績も特発性黄斑円孔と比べ,閉鎖率,視力改善率が低いことが知られているが2,3).2013年,Kuriyamaらにより,強度近視性黄斑円孔でもCILM翻転法を併用することで閉鎖率が向上することが報告された4).その後の報告でも,強度近視性黄斑円孔に対する手術では,円孔閉鎖の点からはILM翻転法がCILM.離と比して有用であることが示されている5).その機序として,翻転されたCILMがCMuller細胞の増殖,遊走の足場になりCgliosisを促し6),また翻転されたCILM表面に存在する神経栄養因子や増殖因子も円孔の閉鎖に寄与すると考えられている7).一方で過剰なCgliosisは網膜神経に細胞毒性をもつことや8),翻転されたCILMが円孔を埋めてしまうとCglialcellやCvisualcellの遊走を妨げ,層構造の回復に影響を及ぼす可能性も示唆されており9),ILM翻転法は術後の網膜外層の回復,伸展が不良となる傾向があることも示唆されている10,11).これらは,ILM翻転法では術後黄斑円孔の閉鎖が得られても良好な術後視力が得られない可能性があることを意味し,強度近視性黄斑黄斑円孔や大型黄斑円孔などの難治性の黄斑円孔に対する手術において,初回からILM翻転法を併用することの是非については議論が残るところである.ところで,黄斑円孔の術後の網膜外層の連続性の回復は,視力改善と相関することが知られている11,12).また,黄斑円孔の術後には外層は外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),視細胞内節外節接合部(ellipsoidzone:EZ)の順に内層側から閉鎖し,術後早期のCELMの連続性の有無は視力予後に影響することが報告されている13,14).そこで筆者らは今回,術後良好な視力を得るのにその回復が重要と考えられる網膜外層のうち,術後比較的早期に連続性が回復するCELMに着目し,強度近視性黄斑円孔に対するILM翻転法併用硝子体手術後にCELMの連続性の回復する割合,およびその回復に影響する因子について検討した.CI対象および方法2012年C7月.2017年C3月に福井赤十字病院眼科で黄斑円孔に対してCILM翻転法併用硝子体手術を施行した症例のうち,以下の基準,すなわち,眼軸長がC26Cmm以上,黄斑円孔網膜.離を伴わない,経過観察期間がC6カ月以上,の三つの基準を満たすC20人C21眼を対象とし後方視的に検討した.いずれも黄斑円孔に対する初回手術であった.円孔径を,術前のCOCTの水平断画像をもとに,円孔直径の最小となるところを円孔径,円孔底部の直径を円孔底径と定め測定した.OCTはCHeiderbergCEngineeringCSpectralisを用いた.術後の黄斑円孔の閉鎖は,OCTで網膜色素上皮の露出していないものを閉鎖とした.また,術後COCTでCELMとCEZの連続性の回復の有無を評価し,ELMの連続性の回復がみられた群(ELM+群)とCELMの連続性の回復がみられなかった群(ELMC.群)のC2群に分けて,年齢,性別,眼軸長,術前の円孔サイズ,術前視力,術後視力,経過観察期間を比較した.なお,術後のCOCTの評価,および術後視力は経過観察期間中最終受診時のものを用いた.手術は有水晶体眼の症例では白内障手術を同時に施行した.硝子体手術の手術装置は,コンステレーションCRビジョンシステム(Alcon),またはアキュラスR(Alcon)を使用し25CGシステムまたはC27CGシステムを用いた.ILM染色はBBGを用いたが,1眼のみCBBGとCICGを併用していた.充.物はCSFC6(六フッ化硫黄)ガス(17眼),シリコーンオイル(2眼),空気(2眼)を症例により術者が選択し使用した.統計学的解析はCIBMCSPSSStatisticsバージョンC25を用いて行った.関連したC2群間の比較は対応のあるCt-testを,独立したC2群間の比較はCMann-WhitneyU-testを,2要因間の独立性の検定にはCFisherの正確確率検定を用いて検定し,p<0.05を有意差ありとした.本研究については,福井赤十字病院倫理委員会の承認を得て行った.CII結果平均経過観察期間はC25.6C±19.6カ月であった.平均年齢はC61.6C±9.6歳,男性C7眼,女性C14眼であった.平均円孔径C393.2C±215.5Cμm,平均円孔底径C780.0C±300.0Cμm,術前logMAR平均視力C0.66C±0.25,平均眼軸長はC29.1C±2.2Cmmであり,眼軸長がC30Cmm以上の症例がC6眼あった.白内障手術はC10眼に施行していた.21眼全例で円孔の閉鎖が得られ,ELMの連続性の回復は12眼,EZの連続性の回復はC10眼で得られていた.EZの連続性の回復が認められたC10眼では,全例でCELMの連続性の回復を認めていた.術後ClogMAR平均視力はC0.29C±0.30と,術前と比して有意に改善しており,logMAR視力がC0.2以上回復した症例はC14眼(66.7%)であった.ELM+群とCELM.群の術前視力,術後視力の散布図を図1に示す.両群とも,術後視力は術前視力と比して有意に改善していた.logMAR視力改善量はCELM+群C0.43C±0.26,ELMC.群C0.30C±0.24とC2群間に有意差はなく,またClogMAR視力C0.2以上改善した症例の割合もCELM+群C75.0%,ELMC.群C55.6%でC2群間に有意差はなかった.ただし,術前視力,術後視力ともにCELM+群はCELMC.群より有意に良好であった.ついで,ELM+群とCELMC.群で,術前因子,白内障手術の有無,術後経過観察期間を比較した(表1).平均年齢は術前logMAR視力1.210.80.60.40.20-0.2-0.200.20.40.60.811.2図1ELM+群,ELM.群の術前,術後logMAR視力の散布図○:ELM+群,×:ELMC.群.横軸,縦軸ともClogMAR視力を反転して示している.ELM+群とCELMC.群のC2群間で視力改善量に有意差はなかったが,ELMC.群はCELM+群に比べ術前・術後視力が有意に低く,術後logMAR視力は破線で示したClogMAR0.2(小数視力約0.63)以下にとどまっている.CELM+群C57.4C±8.6歳,ELMC.群C67.4C±7.8歳でCELM+群で有意に若年であった.円孔径は,ELM+群C271.2C±86.8μm,ELMC.群C582.5C±233.9μm,円孔底径はCELM+群C650.4±222.7Cμm,ELMC.群C1,004.1C±336.8Cμmであり,円孔径,円孔底径ともにCELM+群で有意に低値であった.術後経過観察期間はCELM+群C16.7C±12.2カ月,ELMC.群C34.8±22.4カ月とCELM+群で有意に短かった.性別,眼軸長,白内障手術の有無はC2群間で有意差を認めなかった.CIII考按強度近視性黄斑円孔に対するCILM.離併用硝子体手術の成績は,特発性黄斑円孔と比べ,閉鎖率,視力改善率が低いことが知られており,とくに眼軸長C30Cmm以上の症例では閉鎖率が低くなると報告されている2,3).今回の検討ではILM翻転法の併用により,眼軸長C30Cmm以上のC6眼を含む全例で閉鎖が得られ,術後のCELMの連続性の回復にも眼軸長は影響しなかった.CELM.群はCELM+群に比べ術後視力が有意に低く,図1に示したようにClogMAR0.2(小数視力約C0.63)以下にとどまっている.ただしC2群間で視力改善量,logMAR0.2以上の視力改善を得た割合に有意差はなく,円孔径が大きく術前視力が低い強度近視性黄斑円孔の症例でも,ILM翻転法により,ELMの連続性の回復は得られずとも一定の視力改善量を得ることが期待できる.ELMC.群で視力改善が得られた機序としては,中心小窩の周囲や傍中心窩の外層が回復することにより中心外視力が改善したことに加え,固視点の変化術後logMAR視力表1ELM+群,ELM.群の比較ELM+群CELM.群p値眼数(眼)C12C9年齢(歳)C57.4±8.6C67.2±8.2C0.023‡性別(M/F)C5/7C2/7C0.64*眼軸長(mm)C28.8±2.3C29.5±2.2C0.35‡最小円孔径(μm)C271.2±86.8C555.9±231.5C0.003‡円孔底径(μm)C650.4±222.7C952.8±313.0C0.028‡白内障手術(有/無)C7/5C3/6C0.39*経過観察期間(月)C16.7±12.2C37.4±22.0C0.023‡術前ClogMAR視力C0.51±0.22C0.85±0.12C0.001‡(小数視力)(0.31)(0.14)術後ClogMAR視力C0.084±0.12C0.55±0.24(小数視力)(0.82)(0.28)<0.001C‡logMAR視力改善量C0.43±0.26C0.30±0.24(小数視力)(0.37)(0.50)C0.35‡C平均C±標準偏差.‡Mann-WhitneyC’sCUtest.*FisherC’sCexacttest.()内の小数視力はClogMAR視力の平均を小数視力に換算したもの.が関与しているかもしれない10).以前,筆者らは最小円孔径400μm以上の大型黄斑円孔17眼に対するCILM翻転法併用硝子体手術の術後成績をCOCTでのCELMの連続性から検討した15).その結果,術後C17眼中C9眼(52.9%)でCELMの連続性が得られ,術後CELMの連続性が得られた症例は,得られなかった症例と比して術後視力が有意に良好で,眼軸長,最小円孔径が有意に小さかった.今回の検討ではC2群間で眼軸長に有意差は認めなかった.眼軸長C26Cmm以上の症例に限ると,ELMの回復における眼軸長の影響は小さくなると考えられる(代表症例を図2に示す).今回の検討では円孔径に加え円孔底径でもC2群間に有意差を認めたが,図3に示したように,とくに円孔径がC400Cμm以上の症例ではC6眼全例で術後CELMの連続性が得られなかった.筆者らの以前の大型黄斑円孔に対するCILM翻転法の検討では,円孔径C401Cμm以上C500Cμm以下のC8眼(全例眼軸長C25Cmm未満)では全例CELMの連続性の回復がみられた15).今回の検討では円孔径C400Cμm以上C600Cμm以下の症例はC1眼のみであり比較しにくいが,強度近視性黄斑円孔においては,網膜の菲薄化,網脈絡膜萎縮の存在,後部ぶどう腫による前後方向への牽引,網膜の相対的不足などにより,円孔径C400Cμm以上の大型円孔では術後網膜の伸展が足りずELMの連続性が得られにくい可能性がある(代表症例を図4に示す).平均年齢はCELMC.群はCELM+群と比して有意に高かった.加齢による両眼視機能の低下により黄斑円孔発症による片眼の視力低下に気づくまでの期間が長くなり,手術時の円孔径が大きくなった可能性が原因として考えられた.術前手術8カ月後図2ELM+群の症例56歳,女性.眼軸長C33.59Cmm,最小円孔径C264Cμm,円孔底径C548Cμm.上段:術前ClogMAR視力C0.70(小数視力C0.2).下段:術後C8カ月後ClogMAR視力C0(小数視力C1.0).眼軸長はC30Cmm以上あるが,最小円孔径,円孔底径は比較的小さく,術後CELM/EZの連続性は回復している.小数視力もC0.2からC1.0に改善がみられる.今回の検討では有水晶体眼に対しては超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入を行った.白内障手術を施行した症例,白内障手術を施行していない症例のClogMAR視力改善量はそれぞれC0.36C±0.22,0.38C±0.29で有意差は認めず,またCELM+群,ELMC.群それぞれにおいても白内障手術の有無でlogMAR視力改善量に有意差は認めなかった.今回の症例において視力改善における白内障手術の影響は小さいと考えられる.経過観察期間はCELM+群はCELMC.群と比して有意に短かった.ELMの連続性の回復がみられた経過良好な症例では,術後比較的早期に紹介元での経過観察に切り替えたためと考えられる.Wakabayashiらは,黄斑円孔の術後C3カ月の時点でCELMの連続性の回復を認めなかった症例のうち,54%でC12カ月後CELMの連続性の回復がみられたとしている14).今回の検討においては,術後C6カ月時点でのCOCTでCELMの連続性を評価すると,最終受診時CELM+群の11眼(1眼は術後C6カ月時点のCOCTなし)全例でCELMの連続性の回復を認め,最終受診時CELMC.群のC9眼全例でCELMの連続性の回復を認めなかった.また,ELMC.群はいずれもC12カ月以上の経過観察をしており,上に述べたように網膜外層のなかでは術後比較的早期に回復を認めるCELMの経過観察期間としては十分と思われるが,Michalewskaらは強度近視1,4001,2001,0008006004002000最小円孔径(μm)図3ELM+群,ELM.群の最小円孔径,円孔底径の散布図○:ELM+群,×:ELMC.群.最小円孔径,円孔底径はともにC2群間に有意差を認めたが,とくに最小円孔径は破線で示したC400Cμmより大きい症例では,術後CELMの連続性が認められなかった.術前手術19カ月後円孔底径(μm)02004006008001,000図4ELM.群の症例62歳,男性.眼軸長C28.01Cmm,最小円孔径C671Cμm,円孔底径C1353Cμm.上段:術前ClogMAR視力0.82(小数視力0.15).下段:術後C19カ月後ClogMAR視力C0.40(小数視力0.4).眼軸長はC30Cmm以下だが,大型円孔であった.術後ELMの連続性は回復せず,視力はClogMARでC0.4改善したが,術後視力は小数視力でC0.4にとどまっている.黄斑円孔の術後少なくともC12カ月にわたり中心窩の構造の改善がみられたとしており13),術後C12カ月後以降も経過観察を続けるとCELMの連続性の回復がみられる症例もあるのかもしれない.術前円孔径がC168Cμmと比較的小さく,術後CELM,EZの図5内層に増殖性変化を認めた症例42歳,男性.眼軸長C26.4Cmm,最小円孔径C168Cμm,円孔底径C503Cμm,術前ClogMAR視力C0.52(小数視力C0.3).上段:術後C10日目.円孔は閉鎖しCELMの連続性の回復がみられる.logMAR0.15(小数視力C0.7).下段:術後C7カ月後.ELMに加えCEZの連続性の回復がみられるが,網膜内層に増殖性変化を認める.logMAR視力C0.15(小数視力C0.7).連続性の回復がみられた症例において,術後C6カ月以上経過後に網膜内層の増殖性変化を認めたものがあった(図5).ILM翻転により過剰なCgliosis,増殖が誘導された可能性があり,強度近視性黄斑円孔であってもこのように小型の黄斑円孔ではCILM翻転は不要なのかもしれない.近年の報告では,600Cμm以上の大型円孔に対しては前向きランダム化試験において,ILM翻転法がCILM.離に比べ術後視力,閉鎖率ともに有意に良好であったとされている16).これはC600Cμm以上の円孔における閉鎖率がCILM翻転法のほうがよいことを反映していると考えられるが,強度近視性黄斑円孔においても,ILM.離では閉鎖しにくいと考えられる眼軸長C30Cmm以上や大型の円孔の場合には,ILM翻転のほうが視力予後がよいと思われる.今回の検討では,全例で円孔の閉鎖が得られ,57.1%でELMの連続性の回復を認めた.また,ELMC.群においても術後視力の低下した症例はなくClogMAR0.2以上の視力改善はC55.6%であった.強度近視性黄斑円孔に対するCILM.離併用硝子体手術の成績では視力悪化率がC16.7%(その多くは非閉鎖),視力改善率がC52.4%であったとする報告があり17),強度近視性黄斑円孔に対するCILM翻転法の一定の有効性は示されたが,強度近視性黄斑円孔においても,ILM.離とILM翻転法で視力改善や外層の伸展に差があるかどうかについては今後,円孔径の大きさによる層別解析を含む多数例での前向きランダム化試験が望まれる.文献1)MichalewskaCZ,CMichaelewskiCJ,CAdelmanCRACetal:CInvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCforClargemacularholes.OphthalmologyC117:2018-2025,C20102)WuCTT,CKungYH:ComparisonCofCanatomicalCandCvisualCoutcomesCofCmacularCholeCsurgeryCinCpatientsCwithChighCmyopiaCvs.non-highCmyopia:aCcase-controlCstudyCusingCopticalcoherencetomography.GrafesArchClinExpOph-thalmolC250:327-331,C20123)SudaCK,CHangaiCM,CYoshimuraN:AxialClengthCandCout-comesofmacularholesurgeryassessedbyspectral-domainopticalCcoherenceCtomogramphy.CAmCJCOphthalmolC151:C118-127Ce1,C20114)KuriyamaS,HayashiH,JingamiYetal:E.cacyofinvert-edCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCforCtheCtreatmentofmacularholeinhighmyopia.AmJOphthal-molC156:125-131Ce121,C20135)MeteCM,CAlfanoCA,CGuerrieroCMCetal:InvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCversusCcompleteCinter-nalClimitingCmenbraneCremovalCinCmyopicCmacularCholesurgery:acomparativestudy.RetinaC37:1923-1930,C20176)MichalewskaZ,MichalewskiJ,AdelmanRAetal:Invert-edCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCforClargeCmacularholes.OphthalmologyC117:2018-2025,C20107)ShiodeY,MorizaneY,MatobaRetal:TheroleofinvertC-edCinternalClimitingCmembraneC.apCinCmacularCholeCclo-sure.InvestOphthalmolVisSciC58:4847-4855,C20178)OhCJ,CYangCSM,CChoiCYMCetal:GlialCproliferationCafterCvitrectomyCforCaCmacularhole:aCspectralCdomainCopticalCcoherencetomographystudy.GraefesArchClinExpOph-thalmolC251:477-484,C20139)MatsumuraCT,CTakamuraCY,CTomomatsuCTCetal:Com-parisonCofCtheCinvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueandtheinternallimitingmembranepeelingformacularCholeCwithCretinalCdetachment.CPLoSCOneC11:Ce0165068,C201610)KaseCS,CSaitoCW,CMoriCSCetal:ClinicalCandChistologicalCevaluationoflargemacularholesurgeryusingtheinvert-edCinternalClimitingCmembraneC.apCtechnique.CClinCOph-thalmolC11:9-14,C201611)HuCX,CPanCQ,CZhengCJCetal:FovealCmicrostructureCandCvisualCoutcomesCofCmyopicCmacularCholeCsurgeryCwithCorCwithoutCtheCinvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtechnique.BrJOphthalmol103:1495-1502,C201912)OokaCE,CMitamuraCY,CBabaCTCetal:FovealCmicrostruc-tureConCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomographicCimagesCandCvisualCfunctionCafterCmacularCholeCsurgery.CAmJOphthalmolC152:283-290,C201113)MichalewskaZ,MichalewskiJ,Dulczewska-CicheckaKetal:InvertedCinternalClimitingCmembraneC.apCtechniqueCforCsurgicalCrepairCofCmyopicCmacularCholes.CRetinaC34:C664-669,C201414)WakabayashiCT,CFujiwaraCM,CSakaguchiCHCetal:FovealCmicrostructureandvisualacuityinsurgicallyclosedmac-ularholes:spectral-domainopticalcoherencetomograph-icanalysis.OphthalmologyC117:1815-1824,C201015)額田和之,小堀朗,蒔田潤ほか:大型黄斑円孔に対しCstudy.COphthalmicCSurgCLasersCImagingCRetinaC49:236-ての内境界膜翻転法術後の外境界膜の連続性.あたらしいC240,C2018眼科C33:1524-1528,C201617)Alkabes,M,PadillaL,SalinasCetal:AssessmentofOCT16)ManasaS,KakkarP,KumarAetal:Comparativeevalu-measurementsCasCprognosticCfactorsCinCmyopicCmacularCationCofCstandardCILMCpeelCwithCinvertedCILMC.apCtech-holeCsurgeryCwithoutCfoveoschisis.CGraefesCArchCClinCExpCniqueCinClargeCmacularholes:aCprospective,CrandomizedCOphthalmolC251:2521-2527,C2013***

増殖糖尿病網膜症患者への周術期管理としての医療福祉支援の介入

2019年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(11):1451.1455,2019c増殖糖尿病網膜症患者への周術期管理としての医療福祉支援の介入間瀬陽子*1杉本昌彦*1,3板橋大介*1一尾享史*1松原央*1近藤峰生*1濱岡和弥*2鈴木志保子*2内田恵一*2*1三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室*2三重大学医学部附属病院医療福祉支援センターCMedicalWelfareInterventionasPreoperativeCareforProliferativeDiabeticRetinopathyYokoMase1),MasahikoSugimoto1,3)C,DaisukeItabashi1),AtsushiIchio1),HisashiMatsubara1),MineoKondo1),KazuyaHamaoka2),ShihokoSuzuki2)andKeiichiUchida2)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)MedicalWelfareSupportCenter,MieUniversityHospitalC目的:増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)において,周術期治療の一環として術前早期から医療福祉支援の介入を行うことの重要性を検討する.症例:症例1)50歳,男性.両眼CPDR.唯一眼である左眼に対して硝子体手術を施行した.退院後の自宅療養を念頭に術前より支援介入し,身体障害認定と介護保険取得などの公的支援の申請を行った.症例2)56歳,男性.両眼CPDRに対して硝子体手術を施行した.術前より,退院後の自立生活への復帰が困難と予想されたため,公的支援の申請とともに施設入所に向けた支援の介入を行った.症例3)54歳,男性.両眼CPDR.唯一眼である右眼に対して硝子体手術を施行した.退院後早期の自立生活は困難と考え,術前より支援介入を行った.公的支援の申請とともに施設入所を検討し,本人の希望する就労支援も並行して行った.結論:PDRに対する周術期治療の一環として,医療福祉支援の介入を術前早期から積極的に行うことでスムーズに退院後の生活に移行可能となることが示された.CPurpose:Toinvestigatetheimportanceofmedicalwelfareinterventionaspreoperativecareforproliferativediabeticretinopathy(PDR)C.CaseReports:Case1involveda50-year-oldmalea.ictedwithbilateralPDR.Sincehewasblindinhisrighteye,weperformedvitreoussurgeryonhislefteye.Postsurgery,weappliedfornursing-careinsuranceandacquiredadisabilitycerti.cateforhishomecare.Case2involveda56-year-oldmalea.ictedwithbilateralPDR.Weperformedvitreoussurgeryonbotheyes.Sincewedeterminedthathewouldnotbeabletoleadanindependentlife,wearrangedforhimtomovetoanursinghome.Case3involveda54-year-oldmalea.ictedCwithCbilateralCPDR.CSinceCheCwasCblindCinChisCleftCeye,CweCperformedCvitreousCsurgeryConChisCrightCeye.CSincewedeterminedthathewouldnotbeabletoleadanindependentlife,wesuggestedthatheshouldbemovedtoanursinghomewhilewewereprovidingreinstatementsupport.Conclusion:ThemedicalwelfareinterventionaspreoperativecareforPDRcontributestoasmoothtransitiontolifeafterleavingthehospital.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(11):1451.1455,C2019〕Keywords:医療社会福祉士,医療福祉支援,早期介入,増殖糖尿病網膜症.medicalsocialworker,medicalwel-faresupport,earlyintervention,proliferativediabeticretinopathy.Cはじめに降下薬などによる治療の進歩,そして眼科受診への患者啓発糖尿病は永らくわが国における失明原因の上位であったが一般的になってきたことがこれに寄与する3).また,眼科が1),直近の報告では第C3位となり,遺伝性疾患である網膜的には,光干渉断層計に代表される画像診断と小切開硝子体色素変性よりも低い順位となった2).内科的には,新規血糖手術などの治療の革新が寄与している4,5).しかし,増殖糖〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507三重県津市江戸橋C2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-175Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPANC尿病網膜症(proliferativeCdiabeticretinopathy:PDR)に対する手術を受けた患者のなかでも,内科無治療例や治療コンプライアンス不良例,眼科受診がなかった例などでは術後視力改善が不良であったとする報告もあるように6),治療診断技術の進歩した現在でも,これら糖尿病放置例などに併発する重篤なCPDRの治療には難渋する.また,2014年の失明原因調査では,身体障害認定時の年齢層についても言及されている1).加齢黄斑変性による失明は高齢者層に多いが,糖尿病を原因とするものはより年齢の低い中壮年層に多いとされている.このことから,糖尿病網膜症により視力障害に至った患者は,より長期にわたり視機能低下と向き合っていかなければならないことが推察される.中途視覚障害者が日常生活に復帰するためには,身体障害者福祉支援法に基づく支援などのさまざまな社会的支援が必要である.しかし,眼科手術は低侵襲となり,医学的に必要な入院期間は短くなってきている.保険診療上も在院日数の短縮化が求められ,入院期間内に今後の支援計画を立案・実施することは困難である.このため,術前の外来通院時から術後の社会復帰に向けての調整を開始する機会が増えてきた.その計画を実施する過程は複雑であるため,眼科医のみでは対応困難であり,医療社会福祉士(medicalsocialwork-er:MSW)などの専任スタッフによる介入が必要である.今回筆者は,PDRによる視機能低下患者の社会生活への復帰に向けて,周術期管理の一環として早期からCMSWらと連携して医療福祉支援の介入を行い,退院後の日常生活へ移行できたC3症例を経験した.これらの症例から,眼科手術加療のみではなく,治療の一環としての支援介入を行っていくことの重要性について検討する.CI症例〔症例1〕患者:50歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:糖尿病,うつ病.現病歴:20年前に糖尿病を指摘されたが無治療のまま放置.右眼はC2.3年前に視機能を喪失.2017年C11月,唯一眼である左眼の視力低下を主訴に近医を受診した.両眼のPDRを認め,加療目的に当院紹介受診となった.内科的には未治療糖尿病を認め,HbA1cはC11.8%であった.初診時眼科検査所見:視力は右眼光覚なし,左眼C0.01(矯正不能),眼圧は右眼C12CmmHg,左眼C13CmmHgであった.前眼部には両眼白内障(右眼核硬度CIV度,左眼CII度)を認めた.右眼底は白内障のため透見不能で,超音波CBモード上,網膜全.離を認めた.左眼底はCPDRを認めた(国際分類,図1a).眼科治療経過:右眼は,視機能喪失から長期経過後であり,すでに光覚弁消失しており,加療適応はなかった.当院糖尿病内分泌内科にて血糖コントロールの後,左眼に対して白内障手術と硝子体手術(シリコーンオイル留置)を施行した.術後経過良好で,オイル抜去も実施し網膜症は鎮静化した(図1b).術後C1年を経過し,左眼視力C0.08(矯正不能)に回復している.医療福祉支援介入:本症例は自宅から失踪後,路上生活者となっており,その課題は生活拠点がない点であった.外来初診当初から,視機能低下による当科ならびに内科での継続療養や経済面などの背景から,今後の独居生活が困難と判断した.以上の点を踏まえ,入院前より当院医療福祉支援センターに依頼し,家人とも連絡を取りCMSW,患者家族,医療スタッフ,市役所生活保護担当者など複数の職種を交えた面談を複数回実施した.具体的な内容としては,生活保護や障害年金などの受給による金銭面での負担軽減,介護保険制度の利用,身体障害認定の申請などである.これらを準備しながら在宅療養のサポートや長期療養施設への入所などの退院後の生活拠点を模索した.最終的には配食,送迎サービス,ヘルパーの利用などで家族の負担を最小限としたうえでの自宅療養となった.また,手術施行後も内科への定期通院は途絶えることなく継続できている.〔症例2〕56歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:糖尿病.現病歴:生活保護受給中で独居.以前,糖尿病を近医内科で指摘されていたが無治療のまま放置していた.2014年C2月,1カ月前から続く両眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診した.両眼のCPDRを認め,手術加療目的に当院紹介となった.HbA1cはC7.4%,空腹時血糖値はC176Cmg/dlであり,糖尿病性腎症〔糖尿病性腎症病期分類(改訂)3期〕による腎機能低下(血中クレアチニンC1.35Cmg/dl,eGFR44.0Cml/Cmin/1.73Cm2)とそれに伴う貧血(ヘモグロビンC12.1Cg/dl)を認めた.初診時眼科検査所見:矯正視力は右眼C0.4,左眼C0.4,眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.前眼部には,両眼白内障(右眼核硬度CII度)を認めた.眼底は両眼でPDR,とくに右眼では硝子体出血も認めた(国際分類,図2a).眼科治療経過:眼底は透見可能であり,外来で両眼の汎網膜光凝固(pan-retinalphotocoagulation:PRP)を開始した.経過中に両眼の硝子体出血と増殖性変化が増悪し,矯正視力も右眼C0.1,左眼C0.1と低下したため,両眼に対して白内障手術と硝子体手術を施行した.術後,網膜症は沈静化したが黄斑部障害も遷延したため矯正視力は右眼C0.06,左眼C0.05にとどまった(図2b).また,経過中に腎機能の悪化のため透析導入となった.医療福祉支援介入:本症例での課題点としては,身寄りが図1症例1の左眼眼底写真a:術前所見.遷延した硝子体出血に伴う硝子体混濁と増殖膜(.)を認める.網膜光凝固は未実施である.Cb:術後所見.硝子体混濁と増殖膜は除去され,網膜症の沈静化を認める.図2症例2の右眼眼底写真a:術前所見.再発と寛解を繰り返す硝子体出血に伴う硝子体混濁を認める.Cb:上方網膜に網膜光凝固が実施されている.術後所見.硝子体出血は除去され,汎網膜光凝固が全周に実施されている.網膜症の沈静化を認めるが矯正視力は0.05にとどまる.なく独居であること,経済的問題から継続治療に問題があることであった.このため外来通院時より,医療福祉支援センターの介入を依頼した.また,当科入院中にC2度の自殺企図もあり,退院後に自宅での日常生活が困難であることが予想された.すでに生活保護を受給し,介護保険の認定と透析導入に伴う身体障害の認定も受けていた.当科入院後には,これら利用中の支援内容の見直しをまず行い,生活拠点の立ち上げを中心に支援を継続した.医療スタッフや市役所の生活保護担当者と連携し,施設への入所支援や,透析施設への送迎について計画した.この結果,患者は入所費用が保護費内に収まる住宅型有料老人ホームへの入所となり,同時に介護保険を利用することで透析施設への通院介助サービスが利用可能となった.〔症例3〕54歳,男性.主訴:両眼視力障害.患者背景:生活保護受給中で独居.20年前に健診で糖尿病を指摘されたが放置していた.2年前から内科加療開始となり,継続加療していたものの通院期間が空くなどコンプライアンスが悪く,血糖コントロールは不良であった.既往歴:糖尿病,高血圧症,心不全,糖尿病性腎症,気管支喘息.現病歴:2016年C6月,両眼の視力低下を主訴に近医眼科を受診した.両眼のCPDRを指摘され,右眼にはCPRPを施行された.左眼には白内障手術と硝子体手術を他院で施行されたが,白内障手術終了時に急性心不全を生じたため手術中断し,内科転科加療となった.経過中に左眼は再度の硝子体出図3症例3の右眼眼底写真a:術前所見.硝子体出血と網膜大血管に沿って伸展した増殖膜(.)を認める.Cb:術後所見.血管の白線化と一部増殖膜の残存(.)を認めるが,網膜症は沈静化している.血と血管新生緑内障を発症し,眼圧上昇に伴う角膜混濁を生じた.右眼は経過中に硝子体出血を繰り返し,両眼の手術加療目的に当院紹介受診となった.当院初診時のCHbA1cは10.8%であった.初診時眼科検査所見:右眼矯正視力はC0.4,左眼は眼前手動弁であり,眼圧は右眼C18CmmHg,左眼C53CmmHgであった.前眼部所見は,右眼に白内障(核硬度CII度)を認め,左眼は眼内レンズ挿入眼であった.また,左眼角膜浮腫と虹彩新生血管を認めた.眼底所見は両眼にCPDRを認めた(国際分類,図3a).眼科治療経過:左眼は初回硝子体手術後に増悪したCPDRと血管新生緑内障と診断し,2017年C2月に硝子体手術を施行した.術後は降圧点眼C3種(ビマトプロスト,ドルゾラミド塩酸塩,リパスジル塩酸塩水和物)によりC20CmmHgに降圧したが,その後光覚は消失した.優位眼である右眼は経過中のC2017年C3月に硝子体再出血を生じ,視力は眼前手動弁に低下した.このため,当科入院となり,右眼に対し白内障+硝子体手術を施行した.術後,矯正視力は右眼C1.2に改善した(図3b).医療福祉支援介入:本例の課題点としては身寄りがないことに加え,当院紹介以前から優位眼である右眼は硝子体出血を繰り返し,両眼の視機能低下による行動制限を認めた点である.このため,今後の自立した生活が困難となる可能性が高く,外来の時点で医療支援介入が必要と判断した.MSWとともに現在の状態で追加利用可能な制度について検討し,生活保護の申請を行った.しかし,右眼の視機能改善に伴い,身体障害認定はきびしく,介護保険申請もむずかしいと判断した.この優位眼の再出血は術後も繰り返し,しばしば生活に支障をきたした.経過中に,救護施設などへの入居も検討したC1454あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019が,本人の希望もあり,配食サービスを利用する形で自宅療養を継続することになった.また,復職希望が強く,上記に並行して就労支援も継続している.また,手術施行後も内科への定期通院は途絶えることなく継続できている.CII考按外来通院時から,PDRの入院手術加療を念頭に治療の一環として医療福祉支援の介入を行い,スムーズに退院後の生活に移行できたC3症例を経験した.PDRに対する手術成績は向上してきているが,糖尿病患者は複雑な背景事情をもつ場合が多く,必ずしも眼科治療を行ったのみでは日常生活に復帰できないことがある.3症例で共通した問題点は,就労困難による金銭面の負担軽減と,退院後の受け入れ先の調整を要した点であった.これらに対し,①生活保護受給,②介護保険の利用,③身体障害認定,④生活拠点の候補策定,に分けて計画した.まず①や②により金銭負担を軽減し,その後に退院後の生活拠点決定に向けて調整する,という方針で対応した.金銭負担の軽減という見地では,生活保護を申請することが重要である.厚生労働省が行った生活保護受給者に関する調査では,受給者には糖尿病や肝炎など重症化すると完治がむずかしくなる疾患の割合が高いとされ(厚生労働省:生活保護受給者の健康管理支援等について.https://www.mhlw.Cgo.jp/.le/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-SoumukaC/0000052441_1.pdf),糖尿病と貧困が密接に関連していることが推察される.今回のC3症例はいずれもC50歳代であり生産年齢層だが,全例で生活保護の受給を要した.糖尿病の重症化に伴い視機能低下に至り,就労困難となったことが受給の理由であり,前述の統計結果を如実に裏付けている.今回のC3症例ではいずれも介護保険制度の利用を計画し(112)た.介護保険制度は高齢者対象という印象があるが,65歳未満の非高齢者であっても規定された特定疾病であれば申請可能である(厚生労働省:特定疾病の選択基準の考え方.https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/gaiyo3.html).眼科領域では糖尿病網膜症が適応疾患である.申請を行えば認定前であっても暫定でサービスを利用できるため,加療開始時から申請することで,今後の生活の骨格を早期から組み立てることが可能となる.今回のC3症例はC65歳未満であったが,特定疾病である背景事情を加味しながら申請した.非高齢者であるため,今後長期の介護支援が必要となることが予想され,とくに手術前の早期からその利用について検討するべきである.身体障害は視機能によっては認定されないこともあるが,一般に認定までC1.2カ月を要し,取得後の障害福祉サービスの利用にはさらに時間を要するため,外来通院中の早い時期から申請を検討する必要がある.円滑に利用していくためには術前の視機能をもとに申請を行わざるをえない場面もある.この場合,治療後に視機能改善が得られれば,再認定申請を行うことが必要である.症例C3では出血消退時の優位眼の視力が良好であったため取得しなかったが,再認定を前提とした一時的な取得を試みることも可能であったと考えられた.また,今回の症例C1やC2のように網膜症が沈静化し,眼底所見の改善が得られても視機能の改善が得られなかった症例もあった.これらに対しては,今後視機能を有効に活用していくためにロービジョンケアにつないで,拡大鏡などの補装具や拡大読書器をはじめとする日常生活用具の使用を勧めていく必要がある.これらは概して高額であるが,身体障害に該当すれば補装具意見書を提出することで費用負担が軽減される.患者の生活の質の向上につながり,この点においても身体障害の申請は有用である.以上の観点から,身体障害認定に該当するか否かを適切に判断し,可能な範囲で積極的に利用していく必要がある.退院後の療養先の選定は患者自身がどの程度自立しているか,また家族などの支援者からどの程度の協力を得られるかが重要である.これは患者の背景事情に依存するため,個別対応が必要となる.患者や家族の意向を確認しながら療養先を選定するが,自宅療養となった場合には介護者の身体的・金銭的負担が発生する.介護保険制度によるヘルパー,配食サービス,送迎,往診などの利用を組み合わせることで,負担の軽減を念頭に計画しなければならない.また,独居者や介護困難な環境である場合には,本人の意向や自立レベルにより,施設入所も検討する.入所施設としては慢性期施設と救護施設があげられる.慢性期施設としては,介護施設・身体障害者関連入所施設(訓練施設)・療養型病床などがあるが,入所期間が限定され,一定期間後に再度療養先を選定する必要がある点が問題である.救護施設とは,身体や精神の障害や何らかの課題を抱えており,日常生活を営むことが困難な人が利用する福祉施設であり,長期入所が可能であるが,現在の住居を完全に引き払う必要がある.就労などその後の自立した社会復帰を考える際には再度居住先を探す必要があり,これが退所を妨げてしまうことが問題である.また,インスリン自己管理ができないなど,継続した医療介助が必要となる症例もあり,療養先選定に影響を与える.今回の症例C2では,施設入所に抵抗感が強く,市役所の生活保護担当者とともに繰り返し面談を行い,救護施設への入所に至った.しかし,症例C3は生活保護を受給しているものの,再就労を含めた自立を希望していた.再就労に障壁となる施設入所は受け入れず,自宅療養となっている.このように患者背景事情に応じ,療養先を選定し,その決定には医療スタッフやCMSWのみならず,退院後も継続的に患者とかかわる地域担当者との連携が重要である.医療技術の発展に伴い,PDRの治療成績は向上してきたが,今回のC3症例では必ずしも良好な視機能改善を得たとはいえず,失明を防止し,進行を食い止めたにすぎない.幸い,いずれも今回の介入をきっかけに生活基盤も整い,その後の眼科・内科治療を継続できている.このように本疾患は治療のみならず社会的な背景を踏まえた対応が必要であり,手術をすることで治療が終了するわけではない.治療後のより早期の社会復帰をめざして向き合うことが重要である.これには時間をかけた対応が必要であるため,長期的な視点で術前の外来通院の時点から今後の療養を想定し,専門領域の治療のみならず医療福祉支援の介入を治療の一環として積極的に行う必要がある.文献1)若生里奈,安川力,加藤亜紀ほか:日本における視覚障害の原因と現状.日眼会誌118:495-501,C20142)MorizaneCY,CMorimotoCN,CFujiwaraCACetal:IncidenceCandcausesofvisualimpairmentinJapan:the.rstnation-wideCcompleteCenumerationCsurveyCofCnewlyCcerti.edCvisuallyimpairedindividuals.JpnJOphthalmol63:26-33,C20193)中野早紀子,山本禎子,山下英俊ほか:増殖糖尿病網膜症手術後の良好な視力予後に関連する因子の検討.臨眼C61:C1747-1753,C20074)山下英俊,阿部さち,後藤早紀子ほか:糖尿病網膜症の予防と新しい治療.学術の動向15:26-32,C20105)花井徹,小柴裕介,渋木宏人ほか:50歳未満の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術成績.臨眼C55:1195-1198,C2001.6)Itoh-TanimuraCM,CHirakataCA,CItohCYCetal:RelationshipCbetweencompliancewithophthalmicexaminationspreop-erativelyandvisualoutcomeaftervitrectomyforprolifer-ativediabeticretinopathy.JpnJOphthalmol56:481-487,C2012.C

組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA;モンテプラーゼ)硝子体内投与による黄斑下血腫の治療経過

2019年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(11):1446.1450,2019c組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA;モンテプラーゼ)硝子体内投与による黄斑下血腫の治療経過園部秀樹*1篠田肇*1鴨下衛*1,2渡邊一弘*1栗原俊英*1永井紀博*1坪田一男*1小沢洋子*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2済生会中央病院眼科IntravitrealMonteplaseTissuePlasminogenActivator(tPA)TreatmentforSubmacularHemorrhageHidekiSonobe1),HajimeShinoda1),CMamoruKamoshita1,2),KazuhiroWatanabe1),ToshihideKurihara1),NorihiroNagai1),KazuoTsubota1)andYokoOzawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoSaiseikaiCentralHospitalC目的:黄斑下血腫を呈し組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)のモンテプラーゼを硝子体内投与された症例の経過を報告する.対象および方法:2015年C4月.2016年C9月に慶應義塾大学病院眼科において黄斑下血腫に対しCtPA硝子体内投与を施行し,3カ月以上経過観察されたC9例C9眼(男性C3例,平均年齢C78.7歳)を対象とした.(慶應義塾大学医学部倫理委員会承認20140356).結果:ポリープ状脈絡膜血管症C6例,網膜細動脈瘤C3例に対し,3例にCtPA硝子体内注射と空気注入,6例に硝子体手術中の空気置換後に硝子体腔へのCtPA滴下を施行した.すべての症例で黄斑下血腫は移動し,9例中C8例で視力が改善した.網膜細動脈瘤の全例で治療後硝子体出血を認めた以外の大きな合併症はなかった.結論:tPA硝子体内投与は,安全な黄斑下血腫の移動と視力改善を見込める可能性があり,汎用可能な治療法の選択肢の一つとなりえる.CPurpose:ToCreportCtheCclinicalCcourseCofCsubmacularhemorrhage(SMH)patientsCtreatedCbyCintravitrealCtis-sueCplasminogenactivator(tPA;monteplase)administration.CSubjectsandmethods:ThisCstudyCinvolvedC9CeyesCof9SMHpatients(3malesand6females;meanage:78.7years)treatedbyintravitrealtPAattheKeioUniver-sityHospital,Tokyo,JapanfromApril2015toSeptember2016andfollowed-upfor3monthsormorepostopera-tive.ThestudyprotocolwasapprovedbyEthicsCommitteeoftheKeioUniversitySchoolofMedicine(ApprovalNo.:20140356).CResults:Polypoidalchoroidalvasculopathywasobservedin6patients,andmacroaneurysmwasobservedCinC3Cpatients.CThreeCpatientsCunderwentCintravitrealCinjectionCofCtPACandCairConly,CwhileCtheC6CpatientsCunderwentthesametreatmentduringparsplanavitrectomy.SMHwasremovedinallpatients,andbest-correct-edvisualacuity(BCVA)wasimprovedin8ofthe9patients.Vitreoushemorrhageoccurredinall3patientswithmacroaneurysmCduringCtheCfollow-upCperiod,CyetCnoCotherCmajorCcomplicationsCwereCobserved.CConclusion:Our.ndingsshowthatintravitrealtPAadministrationissafeforremovingSMH,thatitmayimproveBCVA,andthatitcanbeconsideredatreatmentoptionintheclinicalsetting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(11):1446.1450,C2019〕Keywords:黄斑下出血,ポリープ状脈絡膜血管症,網膜細動脈瘤,組織型プラスミノーゲンアクチベーター.CSubmacularhemorrhage,polypoidalchoroidalvasculopathy,macroaneurysm,tissueplasminogenactivator.C〔別刷請求先〕園部秀樹:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HidekiSonobe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC1446(104)はじめに黄斑下血腫は,加齢黄斑変性や網膜細動脈瘤などの脈絡膜内・網膜下もしくは網膜内の血管性病変により引き起こされ,予防は困難であり予後不良である.最近では,ガス注入に加えCtissueplasminogenactivator(tPA,モンテプラーゼ)を投与することで血腫を移動させる治療が行われるが,治療を行える施設が限られているのが現状である.早期治療が重要であることを考えるとより多くの施設が行える方法が普及することが望ましい.筆者らは,黄斑下血腫に対し,特別なデバイスを用いずに比較的簡便な手法でCtPAを硝子体内投与した症例の治療成績を報告する.CI背景黄斑下血腫はポリープ状脈絡膜血管症をはじめとする加齢黄斑変性や網膜細動脈瘤などに伴って発症し,恒久的視力障害をきたしうる病態である.1980年代にCdeJuanらは硝子体手術により意図的網膜裂孔から物理的に血腫を除去する手法を報告したが,視力改善は乏しく,増殖硝子体網膜症などの合併症が問題であった1).1991年にはCPaymanらが,3例の加齢黄斑変性による黄斑下血腫に対して小切開で網膜下にtPAを注入し,1例で視力が改善したと報告した2).初めての視力改善の報告であった.tPAはフィブリン親和性が高く,血栓に特異的に吸着し血栓上でプラスミノーゲンをプラスミンに転化させ,フィブリンを分解し,血栓を溶解する薬剤である.1994年には硝子体手術中に,網膜下にC33CG針でtPAを注射し,逆流を防止するために空気も注入したうえで,網膜を切開し血腫除去を行ったという報告があった3).その後は網膜下注入針の工夫が続けられ,33CG3),36CG4),C39CG5)などの特別な針を用いた報告が相ついだ.2015年にはCKadonosonoらが外径C50Cμmという非常に細いマイクロニードルでCtPAと空気を網膜下に注入しセミファーラー位にすることで,13例全例で血腫が移動し,11眼で視力が改善したという良好な成績を報告した6).一方,tPAを使わずに血腫移動を図る方法も報告された7).Ohjiらは,CC3F8(八フッ化プロパン)ガスを硝子体腔に注射する方法ではC5例中C2例で硝子体手術の追加を要したが,全例で最終的には視力が改善したと報告した7).簡便な方法ではあるが,発症からの時期によっては血腫の移動が困難である可能性があり,日常診療においては血腫を溶解するCtPAの投与を必要とする症例があるのも事実である.その後,HillenkampらがCtPAを硝子体手術中に硝子体内と網膜下のいずれに入れたほうが血腫移動の可能性が高いかを検証したところ,網膜下であることが示された8).ただし,これには特別な網膜下注入針が必要である.この方法は,tPAが適応外使用であり倫理委員会の審査が必要となることに加え,硝子体手術ができる施設のなかでも,特別なデバイスや技術が必要であるため,限られた施設でのみ行われる治療にとどまっている.網膜や網膜色素上皮に対する影響を考えると,黄斑下血腫は発症後なるべく早期に治療することが好ましく,多くの施設で行える手法が普及すれば日常診療に役立つはずである.そこで,筆者らが行った黄斑下血腫に対する比較的簡便なtPA硝子体内投与の治療成績を報告する.CII対象および方法症例はC2015年C4月.2016年C9月に慶應義塾大学病院眼科において黄斑下血腫に対しCtPAの硝子体内投与を施行し,3カ月以上経過観察されたC9例C9眼である.原因疾患は,ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)6例C6眼,網膜細動脈瘤C3例C3眼であった.男性C3例3眼,女性C6例C6眼であり,年齢はC67.89歳(平均C78.7C±8.0歳)であった.いずれも書面によるインフォームド・コンセントを得て治療された(慶應義塾大学医学部倫理委員会承認20140356).C1.術式最初の連続C3例に対しては,硝子体手術は行わずに,tPA(物質名モンテプラーゼ;商品名クリアクターCR,60,000CIU/250Cμl)と空気C0.2.0.4Cmlをそれぞれ硝子体内に注入した.ポビドンヨードにて結膜.を消毒後,輪部からC3.5Cmmの位置から市販のC30CG針を用いて注射を行った.いずれの症例も有硝子体眼であり,前房穿刺にて眼圧を調整した.投与後24時間は腹臥位を維持させた.その後の連続C6例に対しては,水晶体再建術併用硝子体切除術中,空気置換の後にCtPA(60,000CIU/100Cμl)を硝子体腔に滴下し,10分程度留置した後に手術を終了とした.術後体位は日中座位,夜間はセミファーラー位とした.C2.眼科的検査経過中には通常の最高矯正視力(best-correctedCvisualacuity:BCVA)・眼圧の測定や細隙灯顕微鏡・眼底検査などの眼科的検査に加え,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT),CSpectralis,CHeidelbergCEngineering,CDossenheim,Germany)による黄斑部の観察も行われた.なお,眼底造影検査は行っておらず,血腫の原因疾患の診断は検眼鏡所見およびCOCT所見により行った.中心網膜厚(centralCretinalthickness:CRT)はCOCTに内蔵されたスケールを用いて測定した.CIII結果tPA投与後,OCT上,すべての症例で投与治療後に血腫が中心窩下から移動した.移動にかかった日数はC7.65日,平均C27.6C±20.7日であった(表1).また,全症例の平均表1術前と術後3カ月の経過症例治療法原疾患性別年齢発症から投与までの期間(日)BCVA〔logMAR(decimal)〕CRT(Cμm)投与から黄斑下血腫移動の期間(日)備考投与前投与後投与前投与後C1注射CPCVCFC89C141.15[C0.07]1.22[C0.06]C425C241C8C2注射CPCVCMC67C350.30[C0.5]C.0.08[C1.2]C525C150C12C3手術CPCVCFC74C41.00[C0.1]0.15[C0.7]C1,080C375C12C4手術CPCVCMC85不明0.70[C0.2]1.00[C0.1]C275C320C45陳旧化症例C5手術CPCVCMC69C311.05[C0.09]1.00[C0.1]C858C90C45症例提示C6手術CPCVCFC76C63.00[s.l.(+)]0.30[C0.5]C1,215C122C7C7注射CMACFC79C62.00[C0.01]1.10[C0.08]C883C211C19硝子体出血自然消退C8手術CMACFC75C21.05[C0.09]0.22[C0.6]C1,150C177C35硝子体出血に対して術後C1カ月で硝子体手術C9手術CMACFC89C31.30[C0.05]0.82[C0.15]C1,167C200C65硝子体出血に対して術後C1カ月で硝子体手術図1tPA投与後の最高矯正視力(BCVA)と中心窩網膜厚(CRT)の推移全症例の平均CBCVA(logMAR)は投与前C1.28C±0.26,投与後C1週間C1.38C±0.33,1カ月C0.88C±0.23,3カ月C0.64C±0.16,6カ月0.52C±0.11,12カ月C0.43C±0.16であった(Ca).平均CRTは投与前(n=9)842C±117.5Cμm,投与後C1週間(n=9)C353±120.8Cμm,1カ月(n=9)208C±24.3Cμm,3カ月(n=9)210C±30.6μm,6カ月(n=8)223C±56.6μm,12カ月(n=7)235C±66.7Cμmであった(Cb).BCVA(logMAR)は投与前C1.28C±0.26,投与C1週間後C1.38C±0.33,1カ月後C0.88C±0.23,3カ月後C0.64C±0.16,6カ月後C0.52C±0.11,12カ月後C0.43C±0.16であった(図1a).平均CCRTは投与前C842C±117.5Cμm,投与C1週間後C353C±120.8μm,1カ月後C208C±24.3Cμm,3カ月後C210C±30.6Cμm,6カ月後C223C±56.6μm,12カ月後C235C±66.7μmであった(図1b).なお,投与後C3カ月までのデータがあったが,6カ月,12カ月後のデータはそれぞれC8例,7例のものであり,それ以外は他院への紹介のため通院中断となっていた.C1.各症例の推移症例C1.6はCPCVであり,症例C7.9は網膜細動脈瘤であった.また,硝子体手術を行わずに硝子体内投与を行った症例は症例C1,2とC7であり,硝子体手術中にCtPAを投与した症例は症例3.6と8,9であった(表1).投与後の経過中の最高CBCVAは,9例中C8例で投与前と比べてC0.2ClogMAR以上改善した.投与後にCBCVAが一度改善した後,増悪した例や,投与後時間がたってからCBCVAが改善した症例もあった(図1a).一方,すべての症例で投与後早期からCCRTは低下した.ただしC1例(症例4)では一度低下したのち,最終観察時まで増加した(図1b).C2.投与前と投与後3カ月の比較各症例の投与前と投与C3カ月後のデータを比較した(表1).投与C3カ月後では,1例(症例4)を除いて視力は維持以上であり,0.2ClogMAR以上改善していたのはC6例であった.視力が低下した症例C4では投与治療以降にCPCVに伴う滲出性変化の再発があり,CRTはむしろ増加した.一方,網膜細動脈瘤ではいずれの症例も投与後に硝子体出血をきたした.1例(症例7)は自然軽快し,残りC2例(症例8,9)は術後C1カ月の時点で硝子体切除術を施行した.3例(106)ab術前術後1カ月術後12カ月図2症例提示(症例5)Ca:術前の眼底写真.中心窩近傍のCPCVが破綻し,アーケード内C5.6乳頭径の黄斑を含む網膜下出血を呈していた.b:術後速やかに黄斑下血腫は移動しており,視力もそれに伴って改善した.ともにCtPA投与後C1カ月後にはCCRTは減少し,黄斑下出血は消失し,BCVAは改善した.tPA投与の際に硝子体手術を併施したか否かにかかわらず,黄斑下血腫は速やかに移動した.C3.合併症網膜細動脈瘤C3例中C3例で投与後に硝子体出血を生じ,そのうちC2例で硝子体切除術を要したが,裂孔原性網膜.離や黄斑円孔といった大きな合併症はみられなかった.なお,硝子体出血により再手術を要したC2例も術後の視力は改善した.観察期間中,眼圧が上昇した例や黄斑下血腫が再発した例はなかった.C4.症.例.提.示(症例5)69歳,男性.2016年C5月中旬に左眼視力低下を自覚した.同年C6月初旬に近医を受診して左眼の網膜下出血と診断され,当院を紹介受診し,左眼水晶体再建術併用硝子体切除術を施行され,術中にCtPAを硝子体内に滴下された.矯正視力は初診時C0.09(1.05logMAR),手術C1週間後C0.04(1.40ClogMAR),1カ月後C0.04(1.40ClogMAR),3カ月後C0.1(1.00logMAR),6カ月後C0.20(0.70logMAR),12カ月後0.20(0.70ClogMAR)であった.術後速やかに黄斑下血腫は移動しており,視力もそれに伴って改善した(図2).CIV考按本報告では,黄斑下血腫に対し網膜下注入針のような特別なデバイスを用いずに一般に普及した設備を用い,硝子体手術の経験を問わない比較的簡便な手法でCtPAを硝子体腔に投与した結果を示した.投与後速やかに黄斑下血腫は移動し,9例中C8例で視力は改善した.近年報告された網膜下注入針によるCtPA投与法は,高価なデバイスを準備し,硝子体手術にきわめて熟達した者が行うものであった.しかし,黄斑下血腫は急性発症し,かつ網膜への影響を考えると発症後可及的速やかに処置したい状態であることから,全国のさまざまな施設で対処可能な方法を普及することは,患者の予後改善のために重要であると考えられる.そこで,筆者らは硝子体内投与という方法を選択した.さらに硝子体手術を施行しない場合でも,tPAを硝子体内投与することによる効果が見込める可能性を示した.原因疾患にはCPCVと網膜細動脈瘤があり,黄斑下血腫の移動という面からはほぼ同様の結果であると考えられたが,視力予後については,PCVでは黄斑下血腫移動後の滲出性変化の再発による影響,黄斑下血腫発症以前のCPCVによる黄斑部変性による影響があると考えられた.一方,網膜細動脈瘤ではC3例中全例で術後硝子体出血があった.これは網膜細動脈瘤の出血源が網膜内層にあり,移動した出血が硝子体腔に達しやすいことと,硝子体腔から出血源および血腫への距離が近く,病巣に対するCtPAの効果が高くなり,より速やかに多くの血腫が溶解されたことが原因として考えられる.しかし,網膜下の出血は網膜視細胞や網膜色素上皮に悪影響を引き起こすのに対し,硝子体出血はその懸念が低くなり,さらに硝子体手術により除去しやすいことから,むしろ視力予後には良い方向に働く可能性がある.硝子体手術中投与では,硝子体腔を全空気置換するため病巣に達するCtPAの濃度が高くなり,より良い血腫溶解を得られる可能性があった.また,元来視力に対する影響は白内障より黄斑下血腫のほうが大きいと考えられるが,手術症例では白内障手術併施が可能であり,より視機能改善につながった可能性があった.さらには術前からあった硝子体出血を取り除くことが可能であった.本報告では,症例数が比較的少なく原因疾患が複数あるという限界はあったものの,tPAの硝子体内投与による効果と安全性の可能性が示された.CV結語黄斑下血腫に対しCtPAを比較的簡便な手法で硝子体内投与した症例の経過を報告した.網膜下の血腫を安全に移動させることができ,視力改善が見込める可能性があることから,tPAの硝子体内投与は黄斑下血腫の治療法の選択肢の一つとして提案された.文献1)deJuanEJr,MachemerR.:Vitreoussurgeryforhemor-rhagicCandC.brousCcomplicationsCofCage-relatedCmacularCdegeneration.AmJOphthalmol105:25-29,C19882)PeymanGA,NelsonNCJr,AlturkiWetal:Tissueplas-minogenCactivatingCfactorCassistedCremovalCofCsubretinalChemorrhage.OphthalmicSurg22:575-582,C19913)LewisH:IntraoperativeC.brinolysisCofCsubmacularChem-orrhageCwithCtissueCplasminogenCactivatorCandCsurgicalCdrainage.AmJOphthalmol118:559-568,C19944)HaupertCL,McCuenBW2nd,Ja.eGJetal:Parsplanavitrectomy,CsubretinalCinjectionCofCplasminogenCactivator,Cand.uid-gasexchangefordisplacementofthicksubmac-ularChemorrhageCinCage-relatedCmaculardegeneration.CAmJOphthalmol131:208-215,C20015)OlivierCS,CChowCDR,CPackoKH:SubretinalCrecombinantCtissueCplasminogenCactivatorCinjectionCandCpneumaticCdis-placementofthicksubmacularhemorrhageinage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology116:1201-1208,C20046)KadonosonoCK,CArakawaCA,CYamaneCSCetal:Displace-mentCofCsubmacularChemorrhagesCinCage-relatedCmacularCdegenerationwithsubretinaltissueplasminogenactivatorandair.Ophthalmology122:123-128,C20157)OhjiCM,CSaitoCY,CHayashiCACetal:PneumaticCdisplace-mentCofCsubretinalChemorrhageCwithoutCtissueCplasmino-genactivator.ArchOphthalmol116:1326-1332,C19988)HillenkampCJ,CSurguchCV,CFrammeCCCetal:ManagementCofCsubmacularChemorrhageCwithCintravitrealCversusCsub-retinalinjectionofrecombinanttissueplasminogenactiva-tor.GraefesArchClinExpOphthalmol248:5-11,C2010***

Laser in situ Keratomileusis(LASIK)の術前および術中保菌に関する検討

2019年11月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科36(11):1441.1445,2019cLaserinsituKeratomileusis(LASIK)の術前および術中保菌に関する検討小島美帆*1稗田牧*1脇舛耕一*2山村陽*2山崎俊秀*2木下茂*3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2バプテスト眼科クリニック*3京都府立医科大学感覚器未来医療学CContaminationofConjunctivalSacandCornealInterfaceunderCornealFlapbeforeandduringLaser-assistedinsituKeratomileusis(LASIK)CMihoKojima1),OsamuHieda1),KoichiWakimasu2),KiyoshiYamamura2),ToshihideYamasaki2),ShigeruKinoshita3)CandChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)BaptistEyeClinic,3)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:LASIK手術時の角膜フラップ下の病原体および感染対策について考察した.方法:2013年3.8月にバプテスト眼科クリニックでCLASIKの適応と判断したC10例C10眼を対象に,術前(抗菌薬点眼投与前後)の結膜.および術中の角膜フラップ下の細菌培養検査を施行した.術中はレーザー照射,洗浄後再度フラップを開けて検体を採取し,増菌培養を含む好気性,嫌気性培養を行った.結果:術前の細菌培養陽性率は抗菌薬投与前がC40%,投与後がC50%,術中の角膜フラップ下ではC30%であった.10例中C3例からCPropionibacteriumacnes(P.acnes),1例からCStaphylococ-cusepidermidisが検出された.結論:角膜フラップ下の培養では結膜.保菌と同じCP.acnesがもっとも多く検出された.術前後で別系統の抗菌薬を用いることで最適な感染対策を実施できることが示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCcontaminationCofCtheCcornealCbedCunderCtheC.apCduringClaser-assistedCinCsituCker-atomileusis(LASIK)andCevaluateCtheCe.cacyCofCcurrentCtreatmentsCforCinfection.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC10eyesof10patientswhounderwentLASIKattheBaptistEyeClinic,Kyoto,JapanfromMarchtoAugust2013.Cultureswereobtainedfromtheconjunctival-sacpriortosurgeryandthecornealbedunderthe.apduringsur-gery.CAfterClaserCablationCandCwashingCofCtheCcornealC.ap,CtheC.apCwasConce-againCopenedCandCaCsampleCwasCobtained.CTheCcollectedCsamplesCwereCinoculatedCinCaerobicCandCanaerobicCculture.CResults:TheCratesCofCpositiveCculturesCfromCtheCconjunctival-sacCbeforeCandCafterCantibacterialCeye-dropCadministrationCwas40%Cand50%,Crespectively,Cand30%CatCtheCtimeCofCsurgeryCfromCtheCcornealCbedCunderCtheC.ap.CPropionibacteriumCacnesCwasCdetectedinsamplesfromboththecornealbedunderthe.apandtheconjunctivalsac.Conclusion:Our.ndingsshowthattooptimallycontrolLASIK-associatedinfection,di.erenttypesofantibioticsshouldbeusedbeforeandaftersurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(11):1441.1445,C2019〕Keywords:LASIK,結膜.,角膜フラップ,保菌,感染対策.laserinsitukeratomileusis(LASIK)C,conjunctivalsac,cornealbedunderthe.ap,colonization,infectioncontrol.Cはじめに的な術式である.LASIKはCsurfaceablationと異なり,角CLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)は,エキシマレー膜上皮の.離や除去は行わないため,術後の角膜感染症のリザーによる角膜屈折矯正手術のうち,角膜フラップを作製しスクは比較的低いとされ1),surfaceablationではC0.022).0.2て角膜実質のみ切除する術式で,現在の屈折矯正手術の標準%3),LASIKではC0.0354).0.095%5)とされる.また,2017〔別刷請求先〕小島美帆:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学眼科学教室Reprintrequests:MihoKojima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,Kajiicho465,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyou-ku,Kyoto602-0841,JAPANC図1角膜フラップ下からの検体採取手順a:レーザーを照射後,角膜フラップを戻し十分に洗浄.Cb:洗浄後,再度フラップを開けて翻転.Cc:角膜フラップのベッドから検体を採取.年のCSchallhornらの大規模なCretrospectiveCcase-controlstudyでは,レーザー角膜屈折矯正手術後の角膜感染の発症率は,LASIKではC0.0046%,レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractivekeratectomy:PRK)ではC0.013%であり,エンハンスを行った症例ではC0.011%であったと報告された6).1990年代半ばよりCLASIK術後の角膜感染症が海外で相ついで報告され,近年は手術器具の汚染による感染は減少した.ただ,広域スペクトラムの抗菌薬が効きにくい耐性菌による感染が問題となっている7).LASIKの術後角膜感染症は,白内障の術後眼内炎と比較してもさらにその頻度は低く,起因菌や発症機序について検討した報告は少ない.2017年に報告された井上らの多施設前向き研究によると,内眼手術である白内障の術後眼内炎の発症頻度はC0.025%と報告されている8).おもな原因菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCstaphylococ-ci:CNS),黄色ブドウ球菌,レンサ球菌,腸球菌,Propi-onibacteriumacnes(P.acnes)などであり,眼内から検出された細菌と同一患者の結膜.もしくは鼻腔より検出された細菌が遺伝学的に同一であることから,術中,術後に結膜.や眼瞼の常在細菌が迷入して発症すると考えられている.白内障手術の術後眼内炎予防を目的に,手術C3日前からの抗菌薬点眼による滅菌化とヨード製剤の消毒による殺菌化が一般的に行われている.その根拠として,手術C3日前からの抗菌薬点眼により,眼瞼縁,結膜.からの細菌がC60%程度減ったことが報告されている9,10).しかし,LASIKに関して標準化された感染予防法はなく,施設ごとに異なった対策を行っているのが現状である.そこで今回筆者らは,バプテスト眼科クリニック(以下,当院)でCLASIKを受ける患者を対象に,術前の結膜.擦過培養により保菌状態を調べ,さらに術中にフラップ下の角膜ベッドから検体を採取し培養検査を行い,感染対策法について考察した.CI対象および方法対象は,2013年C3.8月に屈折矯正手術目的に当院を受診し,術前検査でCLASIKの適応であると判断したC20歳以上の患者10例10眼(男性5例5眼,女性5例5眼)である.眼手術歴があり,抗菌薬点眼あるいは内服を行っている患者は除外した.なお,本研究はバプテスト眼科クリニック倫理委員会の承認および対象者からの文書による同意を得たうえで施行した.各々の患者について,両眼手術の場合は右眼から,左眼のみの手術の場合は左眼から以下の三つの時点で検体を採取した.三つの時点とは①CLASIK術前検査時(術前抗菌薬点眼を使用する前に右眼の結膜.擦過物を採取),②手術当日朝の術前診察時(すなわち術前抗菌薬点眼開始後に右眼結膜.擦過物を採取),③術中の角膜フラップ下(角膜ベッドを擦って検体を採取)である.フラップ下からの検体採取については,レーザーを照射後にフラップを戻し,十分洗浄したのち(図1a),再度フラップを翻転して(図1b)フラップのベッドから検体を採取し(図1c),その後フラップを戻し,創間に異物がないことを確認しC3分間乾燥させて手術終了とした.採取した検体は移送用培地であるCANAポート微研CRに入れ.4℃で保存後,速やかにC.80℃に凍結した状態で大阪大学微生物研究所に移送し,好気培養検査および嫌気培養検査を施行した.なお,好気培養検査については増菌培養も施行し,検出菌の薬剤感受性検査を施行した.周術期の抗菌薬点眼に関しては,当院では塩酸セフメノキシムを使用している.これは,白内障術前減菌化には一般的にはフルオロキノロン点眼が使用されるが,屈折矯正手術の対象となるC20歳代からC40歳代の患者の結膜.保菌を調べるとCP.acnesが30%強であり13),他の菌と比較して検出率が顕著に高いことから,P.acnesに対する感受性の高いセフェム系抗菌薬を使用している.当院では塩酸セフメノキシム点眼C1日C4回に加えて術後C3日間のセフカペンピボキシル塩酸塩内服を行っており,さらに感染予防として術直前のイソジンによる皮膚消毒と生理食塩水による洗眼を行っている.各症例の性別,年齢,医療従事の有無,①.③における培養検査結果,薬剤感受性を検討した.表1各症例の抗菌薬点眼前後の結膜.および角膜フラップ下からの培養検査結果症例年齢性別結膜.①結膜.②角膜フラップ下C1C36女(.)(.)(.)C2C49女(.)(.)(.)C3C20男CP.acnes(.)CP.acnesC4C20男CCorynebacteriumsp.(.)(.)C5C30男(.)(.)(.)C6C31女(.)CP.acnes,S.sacchalyticus(.)C7C28女CS.epidermidisCP.acnes(.)C8C25男CS.capitisCS.epidermidis,S.capitis,P.acnes(.)C9C43男(.)CP.acnesCP.acnes,S.epidermidisC10C31女(.)CP.acnesCP.acnesC表2フラップ下から検出された菌の薬剤感受性症例検出菌CCFDNCCAMCAZMCTCCEMCMINOCCMXCGFLXCOFLXC3CPropionibacteriumacnesC≦0.06C≦0.06C≦0.06C0.5C0.12C0.12C≦0.06C0.5C1C9CStaphylococcusepidermidisC8C0.12C0.25C2C0.25C0.5C16C0.12C0.5CPropionibacteriumacnesC≦0.06C≦0.06C≦0.06C0.25C≦0.06C≦0.06C≦0.06C0.25C1C10CPropionibacteriumacnesC≦0.06C≦0.06C≦0.06C0.25C≦0.06C≦0.06C≦0.06C0.25C1CFDN:セフジニル,CAM:クラリスロマイシン,AZM:アジスロマイシン,TC:テトラサイクリン,EM:エリスロマイシン,MINO:ミノマイシン,CMX:セフメノキシム,GFLX:ガチフロキサシン,OFLX:オフロキサシンII結果1.対.象.症.例対象となった症例はC10例C10眼であり,その内訳は男性C5例C5眼,女性C5例C5眼である.患者の年齢はC20.49歳(平均C31.3C±9.3歳),年代別では,20歳代がC4例C4眼,30歳代が4例4眼,40歳代が2例2眼であった.また,10例中2例は医療従事者(医師C1例,歯科医師C1例)であった.C2.培養検査結果対象症例の培養検査結果を表1に示す.LASIK術前検査時の結膜.培養は,10例中C4例が陽性であり,内訳はCP.acnes,CorynebacteriumCspecies,StaphylococcusCepidermidis,Staphylococcuscapitisが各C1例ずつであった.手術当日朝の術前診察時の結膜.培養は,10例中C5例が陽性であり,内訳はCP.acnesが5例,Staphylococcusepidermidis,Staphy-lococcuscapitis,Staphylococcussacchalyticus,好気性グラム陽性桿菌が各C1例ずつであった.術中の角膜フラップ下からの培養はC10例中C3例が陽性であり,3例全例からCP.acnesが検出され,1例はCStaphylococcusepidermidisも検出された.角膜フラップベッドから検出された菌の薬剤感受性を表2に示す.今回検出されたCP.acnes3株とCStaphylococcusCepi-dermidis1株はいずれもキノロン系(ガチフロキサシン,オフロキサシン)に対する感受性が良好であり,術後感染を発症した症例はなかった.CIII考按近年のCLASIK術後の感染症の起因菌にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusCaure-us:MRSA)などの多剤耐性菌や真菌の頻度が高いことが指摘されている11,12).このうちCMRSAは結膜.や皮膚の常在菌であり,アトピー性皮膚炎の患者や医療従事者に多いとされている.稗田らは角膜屈折矯正手術後の重症角膜感染症C4例C6眼について報告し,原因菌はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-sensitiveStaphylococcusaureus:MSSA),MRSA,酵母型真菌,ペニシリン耐性肺炎球菌が各C1例であり,4例中C3例が医療従事者であったとしている13).Kitaza-waらは,屈折矯正手術患者C120例C240眼を対象に鼻腔および結膜.の保菌について検討し,2例(アトピー性皮膚炎患者C1例,医療従事者C1例)の鼻腔前庭からCMRSAが検出されたと報告した14).MRSAを保菌することが術後角膜感染症の発症に直結する頻度は低いが,菌の量が多い場合やアトピー性皮膚炎やCcompromisedhostなど,hostが免疫抑制環境にある場合は発症のリスクが高くなる可能性があり注意を要する.今回の研究において抗菌薬点眼開始前の結膜.および抗菌薬点眼開始後の結膜.からの培養結果に関して,点眼開始前の結膜.からCP.acnesが検出されたが点眼開始後には検出されなかった症例がC1例存在した.一方,点眼開始前の結膜.からは細菌が検出されず,点眼開始後の結膜.からCP.acnesが検出された症例がC5例存在した.同様の傾向は過去にも報告されており,レボフロキサシンを点眼し洗眼した後に,結膜.からCP.acnesやCStaphylococcusepidermidis,MSSA,Corynebacteriumspp.が検出されたとしている10).今回の角膜フラップ下からCP.acnesが検出されたC3例はいずれも結膜.培養からもCP.acnesが検出された.このことは検出されたCP.acnesが手術の際に外部から侵入したものではなく,患者自身が有する常在菌を検出した可能性が高いことを示唆する.抗菌点眼薬を術前に行っても,P.acnesがなお検出されるのは内眼手術でも同様であり15),表2に示すように検出されたCP.acnesのセフメノキシムに対する感受性は良好であった.したがってこれは抗菌点眼薬に耐性があるためでなく,抗菌点眼薬が到達しづらいマイボーム腺内に常在しているP.acnesが開瞼器をかけるなどの操作に伴って放出されることも一因として考えられる.一方,術前抗菌点眼薬を使用してもCStaphylococcusCepidermidisが検出される場合,表2のように抗菌点眼薬に対する最小発育阻止濃度(MIC)が高いものがしばしば検出される.これは結膜の常在細菌であるCStaphylococcusepidermidisが抗菌点眼薬に耐性を獲得したと考えられる.Feiziら16)はCLASIK術中の角膜ベッドから培養検査を行い,培養検査が陽性であった症例のうちC87.7%でCStaphylo-coccusepidermidisが検出されたと報告している.ただしFeiziらはレーザー照射後に角膜ベッドから検体を採取しているが,筆者らはレーザーを照射後にフラップを戻し十分洗浄したのち,再度フラップを翻転してフラップのベッドから検体を採取しており,検体採取法が異なる.本検討のように,再洗浄したあとであってもフラップ下の角膜ベッドと結膜.から同じ菌が検出されたということを前向き研究によって示した報告は,調べたかぎりでは国内外ともに見当たらなかった.再洗浄後にフラップを戻してから検体を採取することで,手術終了時にも層間にある一定量の菌が存在することが明らかになった.このことより,術前と術後両方の抗菌薬点眼使用が必要であり,術前と術後を別の系統の抗菌薬を用いることでそれぞれの時期に最適な感染対策を行うことができると考えられる.また近年,白内障手術を含めた内眼手術の際には術中減菌化のためヨード製剤を使用する施設が多くなってきているが,ヨード製剤を使用することで角膜上皮障害をきたす可能性がある.LASIKにおいては角膜上皮障害をきたすことで治療効果に影響が生じるため,当院では術前,術中ともに使用していない.このようなCLASIK特有の問題があるため,開瞼器をかけたときにマイボーム線からアクネ菌が放出されることに加えて,内眼手術の際以上に開瞼器を大きく開くため,放出されるアクネ菌の量は内眼手術よりも多くなり,これがフラップ下に迷入すると推定される.すなわち,ヨード製剤の使用が困難であることからも術前,術後の抗菌点眼薬の使用が内眼手術以上に重要となる.さらに近年,キノロン耐性ブドウ球菌の増加が問題となっており,内眼手術術前の健常な結膜.からキノロン耐性ブドウ球菌を検出したことが報告されている17,18).しかし,本研究では,LASIKの術前結膜.と術中フラップ下の角膜ベッドからは同じ菌が検出され,検出菌に対するガチフロキサシンのCMICはいずれも既報と比較して同等以下であり耐性菌は検出されなかった.本研究はC10例という少数例ではあるが,術中フラップを戻して洗浄後再度フラップを翻転してフラップのベッドから検体を採取することで興味深い結果が得られた.ただし,角膜フラップ下から検出されたCP.acnesが結膜.から検出されたCP.acnesと同一の菌であったことを示すためには遺伝子検査が必要であるが,今回は行っていないことは本研究の限界である.まとめると,LASIK術中の角膜フラップ下には洗浄後でも細菌が存在するため,広域スペクトラム抗菌薬による感染対策が重要である.ただし,近年キノロン耐性菌が増加しているため,抗菌薬の選択や使用方法には注意を要する.文献1)DonnenfeldED,KimT,HollandEJetal:Managementofinfectiouskeratitisfollowinglaserinsitukeratomileusis.JCataractRefeactSurg31:2008-2011,C20052)WroblewskiKJ,PasternakJF,BowerKSetal:InfectiouskeratitisCafterCphotorefractiveCkeratectomyCinCtheCUnitedCStatesarmyandnavy.Ophthalmology113:520-525,C20063)RojasCV,CLlovetCF,CMartinezCMCetal:InfectiousCkeratitisCinC18651ClaserCsurfaceCablationCprocedures.CJCCataractCRefractSurg37:1822-1831,C20114)LlovetCF,CRojasCV,CInterlandiCECetal:InfectiousCkeratitisCinC204586CLASIKCprocedures.COphthalmologyC117:232-238,C20105)MoshirfarM,WellingJ,FeizVetal:Infectiousandnonin-fectiousCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.COccur-rence,management,andvisualoutcomes.JCataractRefractSurg33:474-483,C20076)SchallhornCJM,CSchallhornCSC,CHettingerCKCetal:Infec-tiouskeratitisafterlaservisioncorrection:Incidenceandriskfactors.JCataractRefractSurg43:473-479,C20177)SolomonCR,CDonnenfeldCED,CHollandCEJCetal:MicrobialCkeratitisCtrendsCfollowingCrefractivesurgery:resultsCofCtheCASCRSCinfectiousCkeratitsCsurveyCandCcomparisonsCwithpriorASCRSsurveysofinfectiouskeratitsfollowingkeratorefractiveCprocedures.CJCCataractCRefractCSurgC37:C1343-1350,C20118)InoueT,UnoT,UsuiNetal:Incidenceofendophthalmi-tisCandCtheCperioperativeCpracticesCofCcataractCsurgeryCinJapan:JapaneseCProspectiveCMulticenterCStudyCforCPost-operativeCEndophthalmitisCafterCCataractCSurgery.CJpnJOphthalmol62:24-30,C20179)KasparH,KreutzerT,Aguirre-RomoIetal:Aprospec-tiverandomizedstudytodeterminethee.cacyofpreop-erativetopicallevo.oxacininreducingconjunctivalbacte-rial.ora.AmJOphthalmolC145:136-142,C200810)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibodiesCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmolC52:151-161,C200811)SolomonCR,CDonnenfeldCED,CPerryCHDCetal:Methisillin-resistantStaphylococcusaureusinfectiouskeratitisfollow-ingCrefractiveCsurgery.CAmCJCOphthalmol143:629-634,C200712)NomiCN,CMorishigeCN,CYamadaCNCetal:TwoCcasesCofCmethicillin-resistantCStaphylococcusCaureusCkeratitisCafterCEpi-LASIK.JpnJOphthalmol52:440-443,C200813)稗田牧,外園千恵,中村隆宏ほか:エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後の重症感染症.日眼会誌C119:855-862,C201514)KitazawaCK,CSotozonoCC,CSakamotoCMCetal:NasalCandCconjunctivalCscreeningCpriorCtoCrefractivesurgery:anCobservationalCandCcross-sectionalCstudy.CBMJCOpenC6:Ce010733,C201615)倉重由美子,吉田章子,荻野顕ほか:術後洗顔の有無からみた白内障手術前後の培養検査結果.日眼会誌C114:C791-795,C201016)FeiziCS,CJadidiCK,CNaderiCMCetal:CornealCinterfaceCcon-taminationCduringClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCataractCRefractSurg33:1734-1737,C200717)藤紀彦,近藤寛之,田原昭彦ほか:1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.3%ガチフロキサシン点眼液の白内障手術当日点眼における結膜.滅菌化試験.あたらしい眼科C32:C1339-1343,C201518)櫻井美晴,林康司,尾羽澤実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科C22:97-100,C2005***

局所麻酔下涙囊鼻腔吻合術鼻外法の疼痛管理と術後アンケート調査

2019年11月30日 土曜日

《第7回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科36(11):1437.1440,2019c局所麻酔下涙.鼻腔吻合術鼻外法の疼痛管理と術後アンケート調査城下哲夫*1,2城下ひろ子*2栗原秀行*1*1栗原眼科病院*2城下医院CPainManagementandQuestionnaireSurveyofExternalDacryocystorhinostomyunderLocalAnesthesiaTetsuoJoshita1,2)C,HirokoJoshita2)andHideyukiKurihara1)1)KuriharaEye-Hospital,2)JoshitaClinicC目的:局所麻酔下での涙.鼻腔吻合術鼻外法(externaldacryocystorhinostomy:ExDCR)の疼痛管理および手術満足度についてのアンケート調査を検討した.方法・対象:同一術者による局所麻酔下でCExDCRを施行した症例のうち,術後アンケート調査を行えたC33例C40眼(男性C8例,女性C25例,平均年齢C67.2歳,術後平均経過観察期間C26.0カ月)についてアンケート調査をした結果を検討した.結果:痛くなかったと答えた症例(以下無痛群)は全体のC57.5%であった(アセトアミノフェン投与群C17眼でC58.8%,非投与群C23眼でC56.5%).手術をしてよかったと答えた症例はC80.0%であった.結論:アセトアミノフェンは副作用も少なく,術中疼痛管理として選択しやすい.他の鎮痛薬や鎮静剤の併用など今後さらなる疼痛管理の方法の検討が必要ではあるが,局所麻酔下でのCExDCRは有用であると考えられた.CPurpose:ToCconductCaCquestionnaireCsurveyCofCpatientsCregardingCintraoperativeCdiscomfortCandCpostopera-tiveCsatisfactionCafterCundergoingCexternaldacryocystorhinostomy(ExDCR)C.CMethods:ThisCstudyCinvolvedC40Ceyesof33patients(8males,25females)whounderwentExDCRbyasinglesurgeon.Inallpatients,thesurgerywasperformedusinglocalanesthesia,withorwithoutpreoperativeadministrationofacetaminophen.Results:Ofthe40treatedeyes,thepatientsreportedexperiencingnopainin23(57.5%)eyes(58.8%incaseswithapreoper-ativeadministrationofacetaminophenand56.5%incaseswithoutit)C.32(80%)eyesreportedsatisfactionafterthesurgery.Conclusion:TheresultsofourquestionnairesurveyrevealedthatExDCRcanbewellperformedunderlocalanesthesia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(11):1437.1440,C2019〕Keywords:涙.鼻腔吻合術(鼻外法),局所麻酔,鼻涙管閉塞症,アセトアミノフェン静注,術中疼痛.externalCdacryocystorhinostomy,localanesthesia,nasolacrimalductobstruction,intravenousinjectionofacetaminophen,in-traoperativepain.Cはじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は慢性涙.炎,鼻涙管閉塞症,涙小管閉塞などの治療として有効な術式と評されている.骨窓形成などを必要とするため手術侵襲が大きいという印象があるが,適切な麻酔法を行うことで局所麻酔下での手術は十分可能であり,70%以上の症例で疼痛の訴えがなかったという報告がある1.4).また,発症から長期経過した症例においては涙管チューブ挿入術に対して有意に治療成績がよいともされている5).今回筆者らは,局所麻酔下での涙.鼻腔吻合術鼻外法(externaldacryocystorhinostomy:ExDCR)の術中疼痛管理および術後成績について,術後アンケート調査による検討を行ったので報告する.〔別刷請求先〕城下哲夫:〒348-0045埼玉県羽生市下岩瀬C289栗原眼科病院Reprintrequests:TetsuoJoshita,M.D.,KuriharaEyeHospital,289Shimoiwase,Hanyu-shi,Saitama348-0045,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(95)C1437I対象および方法対象は,2013年C10月.2018年C5月に,栗原眼科病院および城下医院にて同一術者により局所麻酔下でCExDCRを施行したC58例C66眼中,術後アンケート調査を行えたC33例C40眼(男性C8例,女性C25例,平均年齢C67.2歳,術後平均経過観察期間C26.0カ月).術式は全例CExDCRでシリコーンチューブ留置を併用した.術直前にC0.1%ボスミンCR,4%キシロカインCR溶液に浸したタンポン長尺ガーゼを鼻腔内に挿入し,2%キシロカインER5Cmlによる内眼角,下眼瞼皮下への局所浸潤麻酔と滑車下神経麻酔を行った.内眼角と鼻梁中心線を結ぶ中点から下方約15°耳側に向かいC12.13mmの皮切をおき,栗原式開創器で術野を広げた.内眼角靭帯下方を.離していき前涙.稜と涙.を骨膜ごと.離した.前涙.稜を栗原式丸ノミ(3Cmm)と槌で削開し,約C12x12Cmmの骨窓を作製した.つぎに涙.をスプリング剪刀で切開して涙.粘膜前弁を作製し,上下涙点からシリコーンチューブ(ニデックCPFカテーテルRまたはカネカメディックス社CLACRIFASTEXショートR)を挿入して,4-0絹糸で結紮した.続いて鼻粘膜を外科用替刃メスでコの字型に切開し,鼻粘膜前弁を作製した.この際,鼻腔内に見えるタンポンガーゼは一部引き出し切除した.シリコーンチューブを鼻粘膜フラップ内に通し鼻腔内に挿入し,涙.前弁と鼻粘膜前弁をC6-0吸収糸でC2糸縫合した(one.ap法).皮下組織をC6-0吸収糸でC2糸縫合し,皮膚切開創はC7-0ナイロン糸で端々縫合した.17眼には術直前からアセトアミノフェン(アセリオCR)1,000Cmgを静注した.術後最終診察時(平均術後期間C26.0カ月)に,術中の疼痛,術前術中の恐怖,術後の満足度,手術の創痕に対する感想を表1術後通水テスト結果Pass+34/40(C85.0)CPass±4/40(C10.0)CPass.2/40(C5.0)眼(%)表3術中の疼痛(アセリオR併用との比較)アンケート調査し,その結果を検討した.加えて術後の疼痛に関して,全身麻酔の症例も含め入院中の記録を確認できたC53例C58眼について,アセリオCR静注併用の有無で術後疼痛の訴えの有無を比較検討した.術中の疼痛に対するアンケート結果および術後の疼痛については,Fisherの正確検定(片側検定)によって解析した.CII結果1.手.術.成.績平均術後期間C26.0カ月での通水テストで良好に改善した手術成功例(Pass+)はC40眼中C34眼(85.0%),通水テスト不良例(PassC.)はC2眼(5.0%),通水テスト時に逆流が認められ,通水が曖昧な症例(PassC±)はC4眼(10.0%)であった(表1).通水良好でないC6眼のうちC4眼は急性涙.炎後の症例であった.再手術を要した症例はC2眼で,そのうちC1眼(50%)は手術成功であった.C2.術後アンケート調査対象期間中に局所麻酔下でCExDCRを施行したC58例C66眼中,術後アンケート調査を行えたのはC33例C40眼であった.アンケート内容は,表2,3,5~7のとおりである.Ca.術中の疼痛無痛群はC40眼中C23眼(57.5%)であり,とても痛かったと答えた症例はC4眼(10%)であった(表2).40眼中C17眼にアセリオRの静注を併用した.そのC17眼中無痛群はC17眼中C10眼(58.8%)(p=0.5714)であった(表3).平均手術時間は疼痛群と無痛群でそれぞれC61.6分とC59.2分で差はなかった.b.術後の疼痛術後疼痛を訴えなかった症例は,アセリオCRの静注を併用した群ではC21眼中C17眼(81.0%)(p=0.0089<0.01)であ表2術中の疼痛とても痛かった4/40(C10.0)痛かった13/40(C32.5)痛くなかった23/40(C57.5)眼(%)表4術後の疼痛(アセリオR併用との比較)アセリオR群17/40(C42.5)アセリオR非使用群23/40(C57.5)とても痛かった0/17(C0)4/23(C17.4)痛かった7/17(C41.2)6/23(C26.1)痛くなかった10/17(C58.8)13/23(C56.5)術後疼痛の訴えなし術後疼痛の訴えあり(鎮痛薬不使用)(鎮痛薬使用)アセリオR群21眼17/21(C81.0**)4/21(C19.0)アセリオR非使用群37眼17/37(C45.9)20/37(C54.1)C眼(%)Cp=0.0089(p<0.01)眼(%)1438あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019(96)表5術前術中の恐怖表6術後の満足度表7皮膚創の瘢痕についてとても怖かった2/40(C5.0)怖かった17/40(C42.5)怖くなかった21/40(C52.5)満足32/40(C80.0)どちらでもない5/40(C12.5)不満3/40(C7.5)気になる0/34(C0)少し気になる2/34(C5.9)気にならない32/34(C94.1)眼(%)った(表4).Cc.術前術中の恐怖怖くなかったと答えた症例はC40眼中C21眼で,とても怖かったと答えた症例はC2眼であった.恐怖を感じた症例の約90%が女性であった(表5).d.術後の満足度術後結果に満足と答えた症例はC40眼中C32眼(80%)で,不満と答えた症例はC3眼(7.5%)であった.不満の原因は術後通水テスト不良で症状の改善が得られないことであった(表6).Ce.皮膚創の瘢痕について皮膚創の瘢痕についてのアンケートは,40眼中C6眼は回答が得られず,34眼のみ回答を得られた.そのうちC32眼(94.1%)は気にならないと答え,気になると答えた症例はなかった(表7).CIII考按DCRの成功率は,82.1.100%ともいわれている1.8).今回の結果では,成功例はC40眼中C34眼(85.0%)であった.アンケートを取れなかった症例も含めた全C66眼で検討してもC58眼(87.9%)であり,既報よりやや低い印象であった.骨窓の大きさをより大きくするなどの工夫が今後の課題となると思われるが,平均経過観察期間がC26.0カ月と長期であることを考慮すると今回の成功率は納得のいくものであると考える.術中の疼痛管理に関しては,2%キシロカインCECR5Cmlによる内眼角,下眼瞼皮下の局所浸潤麻酔と滑車下神経麻酔を全例に行った9).疼痛の訴えは涙.切開時と骨窓作製時に生じることが多いが,今回の検討では,無痛群の割合はC57.5%で,痛みを訴えた症例のうちC76.5%は自制内に留まるものであった.また,アセリオCRを併用することにより痛みを訴えない症例はC58.8%に増加し,痛みを訴えた症例も全例が自制内に留まった.今回の検討では術中の疼痛に関しては有意差は出なかったが,術後の疼痛の訴えはアセリオCRの併用で有意に減少した.今後は術直前ではなく術C1時間前などから事前投与することで,より効果的な術中の疼痛緩和効果が期待できると思われた.アセリオCRは鎮静薬特有の呼吸抑制や血圧低下などの重篤な副作用が少なく,ExDCRの疼痛管理としては使いやすいと考えられた.ただし,過剰投与と眼(%)眼(%)肝障害,アスピリン喘息の有無などには注意が必要である.術前術中の恐怖感については,骨窓を作製する手術の性質上,術前の恐怖は避けられないと思われる.術中の恐怖の多くは槌とノミを使用する際の音と衝撃によるものであろう.これについてはドリルを使用して骨を掘削することである程度緩和できる可能性があり,筆者らは現在ドリルの使用も取り入れているところである.皮膚創の瘢痕については,94.1%の症例で気にならないという結果が得られた.少し気になると答えたC2例中C1例は術後観察期間C2カ月であったことも考慮すると,ある程度長期にみれば創痕はほぼC100%気にならなくなる.これを患者に事前に伝えることで術前の不安を軽減することはできる.DCRには鼻内法と鼻外法があり,それぞれの利点がある.術後成績に関しては統計学的には差はないものの鼻外法優位の傾向がある8).鼻内法は皮膚切開が不要である利点があるが,鼻内視鏡の技術が必要であり,侵襲が大きく全身麻酔やコカインの使用を要するため,設備コストやラーニングカーブの問題が欠点となる.一方,鼻外法では局所麻酔で手術が十分可能であることが利点であり,今回の研究でアセトアミノフェンの使用でその利点が高まることがわかった.また,皮膚の切開瘢痕についても気になる患者は少ない結果であったので,手術に慣れた術者にとっては欠点の少ない術式であるといえる.高齢者や全身状態に不安がある症例など,全身麻酔を避けたい状況は多々ある.局所麻酔下のCExDCRはそのような状況下においても適応に大きく影響されることなく選択できる手術であるといえる.ExDCRは局所麻酔下で十分に施行可能であり,高い成功率と満足度を得られる有用な術式である.さらに鎮痛薬の全身投与を併用することでより幅広い症例に対応できる.文献1)阿部恵子,林振民,中村昌弘ほか:涙.鼻腔吻合術(DCR)の手術成績とアンケート調査.眼科手術15:133-140,C20022)大川みどり,栗原秀行:栗原眼科病院における過去C12年間の涙.鼻腔吻合術(DCR)術後成績.日眼紀C48:281-285,C19973)河本旭,嘉陽宗光,矢部比呂夫:涙.鼻腔吻合術を施行した高齢者C83例の手術成績.あたらしい眼科23:917-920,C20064)中島未央,後藤聡,小原由実ほか:涙.鼻腔吻合術の適(97)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C1439応と手術成績.臨眼紀4:650-6527)後藤聡:涙.鼻腔吻合術鼻外法.眼科58:821-828,C20165)加藤愛,矢部比呂夫:涙.鼻腔吻合術における閉塞部位8)鈴木亨:DCR:鼻外法vs鼻内法.臨眼71:226-230,別の術後成績.眼科手術21:265-268,C2008C20176)OzerS,OzerPA:Endoscopicvsexternaldacryocystorhi-9)栗原秀行:涙.鼻腔吻合術の術中トラブルと対処.1.術前Cnostomy-comparisonfromthepatients’aspect.IntJOph-準備─麻酔と出血対策.臨眼C51:1028-1030,C1997CthalmolC7:689-696,C2014***1440あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019(98)

基礎研究コラム 30.マイクログリア

2019年11月30日 土曜日

マイクログリア普段私たちは,網膜硝子体疾患の診察をするときには視細胞やCMuller細胞の存在を,緑内障診療をするときには網膜神経節細胞の存在を意識していると思います.ですが,マイクログリアの存在を意識しながら診療を行っている先生はまだ少ないのではないかと思います.筆者は加齢黄斑変性での出血病変やドルーゼンなどの沈着物,緑内障での乳頭出血などを診たときには,それら網膜内の異物を貪食除去するために遊走してくるマイクログリアの存在を強く意識し,過剰炎症に伴う細胞死が生じることを予測しています.当コラムではマイクログリアに対する現状の理解や,未来の可能性に対して述べます.マイクログリアの起源と役割マイクログリアは胎生期に卵黄.より胎児体内に侵入したprimitiveCmacrophageが起源とされています.血管の生成に伴いCprimitiveCmacrophageは血流に入り,硝子体より網膜内へ侵入します(residentmicroglia:在住マイクログリア)1).マイクログリアのように組織内を監視する貪食細胞を“在住マクロファージ”とよびます.似て非なる細胞にマクロファージがあります.マクロファージは血流をモノサイトとして移動しており,組織での感染や炎症を感知するとマクロファージへと形質転換し組織内へと侵入してきます(健康な網膜は血液網膜関門が存在していますので,マクロファージは侵入してこないと考えられます).異物や老廃物を貪食したマクロファージは速やかに抗原提示を行い,自身は死滅していく短寿命な細胞です.一方,マイクログリアは網膜内に長く生存し続け,自身で自己増殖を繰り返し,生涯にわたり網膜内を監視し続けるClongClivingcellです.健康な網膜においてマイクログリアは神経保護,抗炎症因子を産生しながら網膜内を監視し,障害を受けた細胞や老廃物を適切に貪食除去することで,網膜内での発癌や自己免疫の発生を抑制する働きがあるとされています.マイクログリアは痛図1Merk遺伝子欠損により網膜変性を発症し,ケモカインレセプターであるCx3cr1にGFPを,Ccr2にRFPを発現しているMertk-.-Cx3cr1GFP.+Ccr2RFP.+マウスの網膜フラットマウント像a:網膜変性発症前の網膜フラットマウント.放射状に突起を進展した休止状態のマイクログリアを認め,Cx3cr1単陽性であることがわかる.Cb:網膜変性重症期の網膜フラットマウント.Cx3cr1陽性マイクログリアはアメーバ状に形質変換している.活性化マイクログリアの所見である.同時にCCcr2陽性の細胞が侵入してきており,血液網膜関門破綻により網膜内へ侵入してきたモノサイト由来のマクロファージであると考えられる.(文献C3より転載)神野英生東京慈恵会医科大学眼科学講座みの伝達など,炎症細胞として以外の機能を有しているようで,現在世界中で盛んに研究が行われています.マイクログリアと網膜疾患の関与マイクログリアとさまざまな網膜疾患の関連性が基礎実験やヒト剖検眼により示唆されています.たとえば,網膜色素変性における視細胞死の促進にマイクログリア由来の炎症が関与していると推察されます.その機序については不明な点がまだまだ多いのですが,筆者らは「①視細胞が遺伝的要因に伴い障害を受ける,②障害を受けた視細胞をマイクログリアや網膜色素上皮細胞が貪食除去する際に,過剰な炎症状態が網膜内に生じる,③炎症に伴い細胞死のシグナルが視細胞において誘導され,二次的に視細胞死の加速が生じる,④死滅した視細胞をさらにマイクログリアが貪食し,炎症に伴う細胞死のサイクルが活性化され,やがて広範囲な視細胞死を伴う網膜菲薄化が生じる」と提唱しました2).マイクログリア由来の炎症をうまくコントロールすることが未来の視細胞保護治療へと結びつくと考えられます.また将来,iPS細胞由来視細胞移植などが始まった場合には,移植細胞生着のためにマイクログリア由来の炎症をどのようにコントロールするのかが治療成績に大きく影響すると予想されます.文献1)JinCN,CGaoCL,CFanCXCetal:FriendCorCfoe?CResidentCmicrogliaCvsCboneCmarrow-derivedCmicrogliaCandCtheirCrolesintheretinaldegeneration.MolNeurobiolC54:4094-4112,C20172)KohnoCH,CChenCY,CKevanyCBMCetal:PhotoreceptorCpro-teinsCinitiateCmicroglialCactivationCviaCToll-likeCreceptorC4CinCretinalCdegenerationCmediatedCbyCall-trans-retinal.CJBiolChem288:15326-15341,C20133)KohnoCH,CKosoCH,COkanoCKCetal:ExpressionCpatternCofCCcr2CandCCx3cr1CinCinheritedCretinalCdegeneration.CJNeuroin.ammation12:188,C2015緑:Cx3cr1-GFP赤:Ccr2-RFP(89)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14310910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 198.糖尿病網膜症の硝子体手術後に生じる血管新生黄斑症(初級編)

2019年11月30日 土曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載198198糖尿病網膜症の硝子体手術後に生じる血管新生黄斑症(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管を合併することは比較的まれである1)が,最近わが国ではこのような症例がいくつか報告されている2~4).筆者らも,糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に黄斑部に硬性白斑を集積し,その後に脈絡膜新生血管を併発した症例を経験し報告したことがある5).●症例症例1:63歳,男性.両眼の糖尿病黄斑浮腫と硝子体出血に対して硝子体手術を施行した.左眼は術後硝子体出血を繰り返したため再手術を施行した.この時点で矯正視力は右眼0.4,左眼は中心窩硬性白斑集積のため0.05であった.その3年後,左眼に脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血をきたした.当時は抗VEGF療法の普及前で,患者が積極的な治療を希望しなかったため,そのまま経過観察にとどめた.現在は瘢痕病巣のため矯正視力は0.01にとどまっている(図1).症例2:60歳,男性.両眼の糖尿病黄斑浮腫に対して薬物療法を施行したが効果に乏しく,両眼に硝子体手術を施行した.術後両眼とも視力は若干改善したが,右眼はその後黄斑部に硬性白斑の集積を認めた.術1年後,右眼に脈絡膜新生血管に起因する黄斑部網膜下出血認めた.症例1と同様に患者が積極的な治療を希望しなかったため,そのまま経過観察にとどめた.出血は徐々に消退したが,視力は0.06にとどまっている(図2).●糖尿病網膜症の硝子体手術後に生じる脈絡膜新生血管糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管が発生する機序として,脈絡膜虚血,局所的脈絡膜血管障害,糖尿病黄斑症による網膜色素上皮障害,加齢黄斑変性症の合併などが指摘されている2).糖尿病網膜症と加齢黄斑変性は両方とも発症頻度が高い疾患なので,単にこの2疾患が合併図1症例1の経過硝子体手術前後で黄斑部硬性白斑が増加しており(a,b),黄斑部網膜下出血をきたした(c).出血は自然吸収したが瘢痕病巣を残した(d).図2症例2の経過硝子体手術前後で黄斑浮腫および黄斑部硬性白斑が増加しており(a,b),脈絡膜新生血管が生じた(c,d).することも考えられるが,糖尿病は加齢黄斑変性症の危険因子とされている.また,びまん性糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体手術後に黄斑部への硬性白斑集積が生じることはよく知られているが,硬性白斑を貪食するために集まってきたマクロファージが血管内皮増殖因子(VEGF)などのサイトカインを放出することが脈絡膜新生血管発生の誘因となっている可能性も考えられる5).高木らは硝子体手術時に摘出した黄斑部網膜下の硬性白斑に著明なVEGFの発現を認めたと報告している6).糖尿病網膜症の硝子体手術後に黄斑部硬性白斑集積を認める症例は血管新生黄斑症を発症する可能性があり,より注意深い眼底の経過観察が必要と考えられる.文献1)HenkindP:Ocularneovascularization.TheKrillmemoriallecture.AmJOphthalmol85:287-301,19782)奥芝詩子,竹田宗泰,今泉寛子:糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管を伴った15例.眼紀47:171-178,19963)岡本知子,岡本紀夫,三村治:長期間経過観察することができた糖尿病網膜症に脈絡膜新生血管を合併した1例.眼臨医報101:585-588,20074)中尾陽子,小林かおり,小林博ほか:糖尿病網膜症に併発した脈絡膜新生血管膜の免疫組織学的検討.眼臨医報97:249-252,20035)北垣尚邦,荻田小夜子,宮本麻起子ほか:糖尿病網膜症に合併した脈絡膜新生血管の2例.あたらしい眼科28:1468-1472,20116)高木均,大谷篤志,小椋祐一郎:眼科図譜糖尿病黄斑症における中心窩硬性白斑の組織学的検討.臨眼52:16-18,1998(87)あたらしい眼科Vol.36,No.11,201914290910-1810/19/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:乳児血管腫の病態と治療

2019年11月30日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人田邉美香56.乳児血管腫の病態と治療九州大学大学院医学研究院眼科学分野乳児血管腫は乳幼児期に頻度の高い脈管性腫瘍であり,臨床的には赤色斑や青色の皮下腫瘤として触知し,眼部では弱視の原因になることがある.病理組織像は増殖活性のある内皮細胞の像であり,免疫染色であるGLUT-1が陽性となる.治療は非選択的Cb遮断薬であるプロプラノロールが第一選択薬である.●乳児血管腫とは乳児血管腫とは乳幼児期にもっとも頻度の高い良性の脈管性腫瘍であり,日本における乳児血管腫の有症率は出生児のうちC1.7%1)とされている.男女比は男:女=1:3~92)と女児に多く,発症部位は頭頸部がC60%,体幹C25%,四肢C15%とされるが,全身どこにでもできる可能性があり,内臓に発症する場合もある.血管内皮細胞が腫瘍性に増殖し,アポトーシスにより自然退縮するため2),一般的には生後C5.5~7.5週で急速増大し3),生後C5カ月までにピーク時のC80%の大きさに達する4).1歳を過ぎるころには増大傾向を失い,大部分はC5歳頃までに自然消退する(図1)が,未治療の場合,24.8~68.6%に瘢痕などの後遺症が残る5,6)ことが報告されており,またこの時期がちょうど視覚発達時期と合致するため,治療のタイミングを逃してはならない.C●血管性病変の分類乳児血管腫は,これまで一般に「いちご状血管腫」とよばれてきた疾患である.近年,「血管腫」「リンパ管腫」「血管性母斑」などと呼称されてきた脈管病変に関する根本的で体系的な分類として,InternationalCSocietyCforCtheCStudyCofVascular(ISSVA)分類が国際的に標準化されつつある2).ISSVA分類は国際血管腫・血管奇形学会のホームページ(http://www.issva.org/User-Files/.le/ISSVA-Classi.cation-2018.pdf)から閲覧可能である.それによると,血管内皮細胞の腫瘍性増殖があるものを「vasculartumor:管腫または血管性腫瘍」とし,血管内皮細胞の腫瘍性増殖がないものを「vascularCmal-formation:血管奇形あるいは血管形成異常」と分類する.乳児血管腫はCISSVA分類では「vasculartumors」>「Benign」に分類される.(85)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1乳児血管腫の経過図2乳児血管腫の臨床分類境界明瞭な赤色斑が認められる表在型(Ca)と,皮下に弾性でやや硬い境界が比較的明瞭な腫瘤として触知される深在型(Cb)に分類される.(a:マルホ株式会社提供)C●乳児血管腫の臨床像乳児血管腫は,欧米では表在型(super.cialtype)・深在型(deeptype)および混合型(mixedtype)といった臨床分類が一般的だが,わが国ではおもに局面型,腫瘤型,皮下型に分類される.表在型(図2a)は血管拡張や発赤といった初期症状ののち早期に隆起し,境界明瞭な赤色斑が認められる.弾性でやや硬く境界が比較的明瞭な一塊の腫瘤として触知され,擦過により容易に皮膚潰瘍化し,感染や出血がみられることがある.深在型(図2b)は,表面に皮膚病変がないため赤色斑や熱感はなく,弾性でやや硬い境界が比較的明瞭な腫瘤として触知される.あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C1427図3乳児血管腫のマクロ像ピンク色の柔らかい腫瘤であり,生検時も出血は少量であった.乳児血管腫は増殖性があることが特徴であり,過去C1~2週間と比較して腫瘤が増大しているか,また,1~2週間の経過観察を経て増殖性があるかどうかを確認する.また,局面型の場合は毛細血管奇形など,皮下型の場合はリンパ管奇形など,類似した病変を呈する血管奇形と鑑別することが重要である.C●乳児血管腫の病理乳児血管腫のマクロ像はピンク色の柔らかい腫瘤である(図3).組織像は毛細血管腫に類似しており,卵円形ないし曲玉状の血管内皮様細胞が密に増殖しており,増殖活性のある内皮細胞の像である(図4).血管の受動的拡張からなる海綿状血管腫とはまったく異なる組織であることがわかる.免疫染色でCGLUT-1陽性であることが乳児血管腫の特徴である.C●乳児血管腫の治療プロプラノロールは非選択的Cb遮断薬で,古くから高血圧,狭心症,不整脈などの治療薬として使用されていた.プロプラノロールの乳児血管腫に対する有用性は,ボルドー大学のCLeaute-Labrezeらが,乳児血管腫を合併する肥大型閉塞性心筋症患者にプロプラノロールを使用したことをきっかけに偶然発見され,2008年に論文報告されたことから広く認知されるようになった7).わが国でもC2016年に乳児血管腫治療薬プロプラノロール塩酸塩のシロップ製剤(商品名:ヘマンジオルシロップ小児用C0.375%)が承認された.「血管腫・血管奇C1428あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019図4乳児血管腫の組織像(HE染色)毛細血管腫に類似しており,卵円形ないし曲玉状の血管内皮様細胞が密に増殖しており,増殖活性のある内皮細胞の像である.形・リンパ管奇形診療ガイドラインC2017」においても,「推奨度:1(行うことを強く推奨する),エビデンス:A(強い)」とされており,乳児血管腫に対して第一選択の薬剤である.しかし,プロプラノロールは低血圧,徐脈,房室ブロック,低血糖,気管支痙攣などの重篤な副作用を生じる可能性があるため,小児科医と連携のうえ,全身状態をモニタリングしながら慎重に投与する必要がある.文献1)HidanoCA,CPurwokoCR,CJitsukawaCKCetal:StatisticalCsur-veyofskinchangesinJapaneseneonates.PediatrDerma-tolC3:140-144,C19862)「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班:血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドラインC20173)TollefsonMM,FriedenIJ:Earlygrowthofinfantilehem-angiomas:whatCparents’CphotographsCtellCus.CPediatricsC130:e314-320,C20124)ChangLC,HaggstromAN,DroletBAetal:Growthchar-acteristicsofinfantilehemangiomas:implicationsforman-agement.PediatricsC122:360-367,C20085)BaselgaCE,CRoeCE,CCoulieCJCetal:RiskCfactorsCforCdegreeCandtypeofsequelaeafterinvolutionofuntreatedheman-giomasCofCinfancy.CJAMACDermatologyC152:1239-1243,C20166)BaulandCCG,CLuningCTH,CSmitCJMCetal:UntreatedChem-angiomas:growthCpatternCandCresidualClesions.CPlastCReconstrSurg127:1643-1648,C20117)Leaute-LabrezeCC,CDumasCdeClaCRoqueCE,CHubicheCTCetal:PropranololCforCsevereChemangiomasCofCinfancy.CNEnglJMed358:2649-2651,C2008(86)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性の抗VEGF療法の抵抗症例

2019年11月30日 土曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二70.加齢黄斑変性の抗VEGF療法の抵抗症例原千佳子大阪大学眼科学教室抗CVEGF薬抵抗症例の中には,当初から効果のないノンレスポンダーと,途中で効果が得られなくなるタキフィラキシー症例があり,それぞれ特徴がある.それらの特徴とその後治療について解説する抗VEGF薬抵抗症例とは現在,加齢黄斑変性(age-relatedCmacularCdegenera-tion:AMD)の治療は,抗CVEGF薬の硝子体内注射がおもに行われており,どの臨床試験においてもとても良好な成績が報告されている.しかし,その中に少数ではあるが,抗CVEGF薬投与を行っても,期待するような治療効果の得られない症例(抗CVEGF薬抵抗症例)がある.ノンレスポンダー症例ノンレスポンダーの定義は報告によってさまざまである.どのタイミングで判断するのか,視力改善を基準とするのか,滲出性変化の改善を基準とするのかどうかということである.どれが正解というわけではないが,判断のタイミングについては,タキフィラキシーと区別するため,また視力については,白内障の進行や網膜色素上皮萎縮など,薬剤効果と直接関係のないことが影響している場合も多いため,本稿では,ノンレスポンダーを,「治療開始直後(導入期後)に滲出性変化の改善が得られない症例」と定義する.ノンレスポンダーの判断は,基本的にC3回の導入期投与のあとに行う.1回投与ではあまり効果がないようにみえる症例でも,数回続けて投与することにより効果が得られる症例も多くあり,数回の連続投与は必要である.3回の連続投与を行っても光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)にて滲出性変化の明らかな改善のない症例をノンレスポンダーと診断する(図1左).このようなノンレスポンダー症例は,ラニビズマブでC10~20%1),アフリベルセプトではC5%程度2)あると報告されている.アフリベルセプトノンレスポンダー症例は,視力良好で網膜下高反射物質がなく(つまり出血や網膜色素上皮上の新生血管がなく),脈絡膜血管の透過性亢進所見の強い症例に多かった.その特徴を総合して考えると,最近話題となっているCpachychoC-roidに関連したCAMD(pachychoroidCneovasculopa-(83)ノンレスポンダータキフィラキシー図1ノンレスポンダーとタキフィラキシーのイメージthy:PNV)のような病態が関与している可能性がある.タキフィラキシー症例タキフィラキシーとは薬剤耐性という意味で,治療を繰り返しているうちに薬剤効果が得られにくくなることである.AMD症例は長期間にわたって治療を行う必要があることから,こういった症例に遭遇することもしばしばある.原因としては,①薬剤抗体ができること,②慢性的にCVEGFが抑制されることにより,その他の血管増殖因子が活性化すること,③新生血管内のマクロファージが増殖することでCVEGF濃度が上昇することなどが推測されているが,決定的なことはわかっていない.タキフィラキシーの診断基準も決まったものがあるわけではないが,毎月連続で複数回投与を行ってもOCT上でそれ以上滲出性変化が改善しなくなった場合と定義されていることが多い(図1右).タキフィラキシー症例の特徴としては,網膜色素上皮より下に病変のある症例で,網膜浮腫を伴わないものという報告もあり,病変が網膜色素上皮下に限局しているということであり,薬剤の到達しやすさは原因の一つとしては影響している可能性がある3).抗VEGF薬抵抗症例に対する治療ノンレスポンダー症例の治療についてのみまとめた報告は少ないが,光線力学的療法(photodynamicCthera-py:PDT)は有効であったという報告はある2).ノンレスポンダー症例の特徴(脈絡膜透過性亢進あり)からもあたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14250910-1810/19/\100/頁/JCOPY図21型脈絡膜血管新生(65歳,女性)初診時,網膜下液とフィブリンを認め,抗CVEGF薬C3回投与行うも,網膜下液は悪化したため,抗CVEGF薬併用CPDTを施行し,網膜下液の改善が得られた.初診時のインドシアニングリーン眼底造影検査所見では脈絡膜血管の透過性亢進を認める.PDTが有効である可能性は高いと考えられる(図2).また,薬剤の変更も有効な症例がみられるため,PDTを躊躇するような症例(薄い脈絡膜の症例,大きな網膜色素上皮.離症例,視力良好例など)では,薬剤変更も選択肢となる.タキフィラキシー症例に対する治療は薬剤変更が有効であると報告されており,ベバシズマブに対してタキフィラキシーとなった症例をラニビズマブに変更したり4),ラニビズマブにタキフィラキシーとなった症例に対しペガプタニブ5)やアフリベルセプト投与6)が有効であったという報告がある.薬剤変更は効果が期待でき,またデメリットが少ないため,試す価値はある(図3).ただ,変更後の薬剤にもタキフィラキシーとなる症例も珍しくなく,再度変更を迫られる場合もある.PDTについては,ポリープ状病巣があったり,活動性の高い症例に対しては有効だが,活動性が低いが滲出性変化が消失しないような症例では効果は限定的であることも多い.おわりにノンレスポンダー症例でもタキフィラキシー症例でも,一度効果がないと判断した薬剤でも,再燃時やその他の治療後に効果を示すこともある.そのため,長い治療生活のなかではときどき治療を変更しながら継続していくことも必要である.しかし,頻回投与やCPDTを追加することにより,患C1426あたらしい眼科Vol.36,No.11,20191カ月後滲出性変化再燃薬剤A薬剤B図31型脈絡膜血管新生(78歳,男性)初診時に認めた網膜下液はC3回連続投与後,完全に消失したが,その後すぐに再燃.再燃が早いため連続で投与行うも,投与後C1カ月でも滲出性変化が減少しなくなった.7回連続投与後,薬剤変更したところ,滲出性変化は消失した.者本人が治療を負担に感じ,今後の治療継続がむずかしいと思わせる原因となってしまうこともあり,治療中断してしまうことで,結果的には視力予後を悪化させることにもなりうる.活動性が低い場合には,患者本人の負担も考慮し,悪化させない程度の頻度での投与という選択肢もある.個々の状態をみながら,どの選択をするのかを検討することも重要である.文献1)OtsujiT,NagaiY,ShoKetal:Initialnon-responderstoranibizumabCinCtheCtreatmentCofCage-relatedCmaculardegeneration(AMD)C.CClinCOphthalmolC7:1487-1490,C20132)HaraC,WakabayashiT,ToyamaHetal:Characteristicsofpatientswithneovascularage-relatedmaculardegener-ationCwhoCareCnon-respondersCtoCintravitrealCa.ibercept.CBrJOphthalmol103:623-629,C20193)HaraCC,CWakabayashiCT,CFukushimaCYCetal:Tachyphy-laxisCduringCtreatmentCofCexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationwitha.ibercept.GraefsArchClinExpOph-thalmolC2019〔Epubaheadofprint〕4)GasperiniCJL,CFawziCAA,CKhondkaryanCACetal:Bevaci-zumabandranibizumabtachyphylaxisinthetreatmentofchoroidalCneovascularisation.CBrJCOphthalmolC96:14-20,C20125)ShiragamiC,OnoA,KobayashiMetal:E.ectofswitch-ingCtherapyCtoCpegaptanibCinCeyesCwithCtheCpersistentCcasesCofCexudativeCage-relatedCmacularCdegeneration.CMedicineC93:e116,C20146)HoCVY,CYehCS,COlsenCTWCetal:Short-termCoutcomesCofCa.iberceptforneovascularage-relatedmaculardegenera-tionCinCeyesCpreviouslyCtreatedCwithCotherCvascularCendo-thelialCgrowthCfactorCinhibitors.CAmCJCOphthalmolC156:C23-28,Ce2,C2013(84)

緑内障:緑内障患者のアドヒアランス向上のために

2019年11月30日 土曜日

●連載233監修=山本哲也福地健郎233.緑内障患者のアドヒアランス向上のために野呂隆彦東京慈恵会医科大学眼科学教室緑内障はアドヒアランスがとても重要であるが,その維持が大変むずかしい疾患である.アドヒアランスは最初の数カ月が大切で,緑内障患者はわれわれが考えているほど点眼薬を使用していない.アドヒアランスの維持には患者教育が大切であるが,同時に医療従事者の教育も大切である.●緑内障治療とアドヒアランスどんなに優れた薬剤であっても,使用されなければ効果を発揮することはできない.アドヒアランスとは,患者が治療方法の決定過程に参加し,その治療法を自ら実行することとされている.緑内障は多くの場合慢性に経過し,長期の点眼や定期的な経過観察を必要とし,かつ自覚症状がないこともあることから,アドヒアランスがきわめて重要であると同時に,その維持が大変むずかしい疾患である.緑内障治療におけるアドヒアランス不良は失明リスクをC1.8倍に上昇させるとの報告があるが1),近年の報告により緑内障患者はわれわれが考えているほど点眼薬を使用していないことがわかってきた.C●アドヒアランス不良の原因と分類アドヒアランス不良は以下のC3種類に分類されている.目的が緑内障の点眼治療とすると,治療を始めない(non-acceptance),点眼が十分にされていない(non-compliance),点眼の中止(non-persistence)と分類されるが(表1),治療を始めないタイプのアドヒアランス不良はランダム化したコントロール試験では除外されるため,本当のアドヒアランスが正しく評価されていないことに注意が必要である.新たに緑内障と診断・点眼処表1アドヒアランス不良の分類種類具体的な内容CaCnon-acceptance治療を始めないCbCnon-compliance点眼が十分にされていないCcCnon-persistence点眼の中止アドヒアランスの不良は上記のように分類される.緑内障治療におけるアドヒアランスはCbやCcに関する問題がよく取りあげられるが,実は治療そのものを開始しないCaの患者が多く存在し,過小評価されていることがわかってきた.方された患者は最初のC3カ月でC30%がドロップアウトしているとの報告や(図1)2),アドヒアランスは最初の1カ月で方向性が決まり,脱落者は最初のC1カ月に集中していたため,適切な再診の期間はC2週間程度であるとの報告もある3).治療開始の初期段階では,点眼効果や副作用の確認だけではなく,患者の治療に対する不安や疑問を解決する目的で早めの再診を行うべきである.C●高齢化社会とアドヒアランス一般的に高齢者のアドヒアランスは良好とされるが,リウマチや老人性円背(首や腰の曲がり)などの運動機能系の原因から点眼手技の不良例が増えてゆく傾向にあり4),点眼方法のコーチングや点眼補助器具などのサポートが大切である.また,超高齢社会を迎えた日本で(81)あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C14230910-1810/19/\100/頁/JCOPY表2アドヒアランスに影響する要因表3アドヒアランスを改善するためのチェックシート問題の種類要因生活および環境の問題患者の生活上の問題,不規則な生活スタイル,通院困難な環境治療の問題医療費,薬剤の副作用,昼点眼,複雑な治療患者側の問題他疾患の合併,疾患の理解不足,若年医療者側の問題患者とのコミュニケーション不良アドヒアランス不良の要因は多岐にわたる.あらゆる側面を考慮し,患者の状況をより深く理解することが緑内障治療の成功につながる.(緑内障ガイドライン第C4版より改変)は,65歳以上のC15%,85歳以上のC40%が認知症であると報告され(厚生労働省研究班:2013),緑内障は年齢とともに有病率が増えることから,認知症と緑内障をあわせもつ高齢患者のアドヒアランスは大きな問題である.認知症患者にとって,決まった時間に決まったことをすることはむずかしく,正確な病状把握や意思疎通が困難な場合は,家族や施設職員などの支援が最終的な治療の要となることも少なくない.治療におけるキーパーソンを見つけ,チームとして治療に参加してもらうことが大切である.C●アドヒアランス向上に有用なものアドヒアランスを改善する方法は「患者教育」と「点眼回数を減らすこと」であると報告されている5).しかし,診察室での説明や教育には限界があり,患者教育をサポートする診療体勢を整える必要がある.看護師,視能訓練士,薬剤師の役割は重要で,視能訓練士から患者の重要な情報が得られることも多く,診察後の看護師や薬剤師のひとことや指導が患者のよりよい理解とやる気を導くことも多い.総合的な緑内障診療チームを構築し,そのメンバーの教育からスタートすべきである.緑内障患者からの情報をよく収集し,個別な対策と修正を繰り返す必要がある6)(表2,3).また,緑内障の病態や患者の病状と治療の説明がわかりやすい言葉で書いてある小冊子などを渡すことは,説明内容を患者が家に帰ってからも復習でき,その家族の理解も得ることもできるため効果的である.配合剤や持続性点眼薬の使用による点眼回数の減少は,アドヒアランス向上に大切な要素であり,単剤治療に追加投与するとアドヒアランスはC7%悪化し7),点眼回数をC1日C2回からC1回に変更するとアドヒアランスは17%改善する8)などの報告がある.一方で,緑内障点眼C1424あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019□疾患,治療の目的,方法,副作用について説明したかC□最小限でより負担と副作用の少ない治療法を選択したかC□患者個々のライフスタイルに合わせた治療を行っているかC□正しい点眼指導を行ったかC□患者からアドヒアランスの状況について情報を収集したか日々の診療では上記の項目に注意し,医師,看護師,視能訓練士を含む医療者と患者の協力関係を見なおす.(緑内障ガイドライン第C4版より改変)のもっとも耐えられない副作用は「霧視」であるとの報告もあり9),アドヒアランスが得られやすい薬剤を選択することが望ましい.C●アドヒアランスに頼らない治療の考慮アドヒアランスの不良が原因で薬剤治療の効果が十分に得られない場合は,アドヒアランスに頼らない治療として手術治療の早期導入を考慮せざるをえない場合もある.近年はレーザー線維柱帯形成術や各種のCMIGS(minimallyCinvasiveCglaucomasurgery)とよばれる低侵襲な手術が登場しており,患者の社会的背景や経済的・時間的負担を考慮し,患者の視機能予後を把握したうえで最適な治療を判断するべきである.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.Ophthalmology110:726-733,C20032)NordstromCBL,CFriedmanCDS,CMoza.ariCECetal:Persis-tenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,C20053)ModiCAC,CRauschCJR,CGlauserTA:PatternsCofCnonadher-encetoantiepilepticdrugtherapyinchildrenwithnewlydiagnosedepilepsy.JAMAC305:1669-1676,C20114)HoskinsCG,CMcCowanCC,CNevilleCRGCetal:RiskCfactorsCandCcostsCassociatedCwithCanCasthmaCattack.CThoraxC55:C19-24,C20005)Oltho.CCM,CSchoutenCJS,CvanCdeCBorneCBWCetal:Non-compliancewithocularhypotensivetreatmentinpatientswithCglaucomaCorCocularChypertensionCanCevidence-basedCreview.OphthalmologyC112:953-961,C20056)安田典子:より質の高い緑内障治療をめざして.あたらしい眼科28:1115-1123,C20117)RobinCAL,CNovackCGD,CCovertCDWCetal:AdherenceCinglaucoma:objectiveCmeasurementsCofConce-dailyCandCadjunctiveCmedicationCuse.CAmCJCOphthalmolC144:533-540,C20078)野呂隆彦,中野匡,柳沼厚仁ほか:2%カルテオロール塩酸塩持続性点眼液への切り替えによる患者満足度評価.臨床眼科64:1325-1330,C20109)ParkCMH,CKangCKD,CMoonCJCetal:NoncomplianceCwithCglaucomaCmedicationCinCKoreanpatients:aCmulticenterCqualitativestudy.JpnJOphthalmolC57:47-56,C2013(82)