小児白内障に対する眼内レンズの選択OptimalIOLSelectionforPediatricCataractSurgery日下俊次*はじめに小児白内障に対する手術は症例数が少ないことや全身麻酔が必要なこともあり,治療をてがける施設は限られているが,患児の術後何十年に及ぶ期間の視機能を左右する重要なものである.小児では眼が解剖学的,機能的に成長途上にあるため,術後に屈折値変化が生じること,形態覚遮断弱視になっている場合には弱視治療が必要となることなど,成人と違ったさまざまな特徴がある.また,とくに低年齢児では外来での眼軸長測定,角膜屈折値測定が困難で,しばしば全身麻酔下でこれらの検査を行う必要があるといったことも,成人例に対する治療との相違点としてあげられる.本稿では小児白内障のさまざまな問題点のうち,眼内レンズ(intraocularlens:IOL)の選択を中心に概説する.CIIOLの適応小児に対するCIOL挿入は,添付文書上,永らく禁忌とされてきた.しかし,日本眼科学会などによる要望を受け,平成C23年にCIOL適応の見直しがなされ,小児に対するCIOL使用は他のぶどう膜炎や進行性糖尿病網膜症などとともに禁忌ではなくなった.現在,IOLの添付文書には以下のように記載されている.「小児については,小児の特性等について十分な知識と経験を有する眼科専門医のもとで眼内レンズ挿入術を行うこと.特にC2歳未満の小児においては,眼球のサイズから器具の挿入や操作が難しくなること,成長に伴う眼軸長の変化によって再手術の可能性が高くなることが報告されていることからも,その旨を含めた十分なインフォームドコンセントを保護者に対して行うとともに,リスクとベネフィットを考慮の上で慎重に適用すること」.すなわち,この文言に則って診療を行う限り,年齢制限は撤廃されたと考えることができる.では実際にはどうすべきであろうか.近年,米国で行われた生後C1.6カ月の片眼性白内障を対象とした多施設前向きランダム化比較試験(InfantCAphakiaTreatmentStudy:IATS)1)では,IOL挿入例とCIOL非挿入例(術後はコンタクトレンズ矯正)のC4歳半時点での成績を比較し,両群間で矯正視力に差はないものの,IOL挿入例で有意に術後合併症や追加手術が多かったことが示された.この結果を受けて,現在,米国では生後C6カ月以内の児にCIOL挿入は原則行われていない.また,生後C3カ月の水晶体直径はC7.1Cmm,生後3.6カ月でC7.7Cmm,核と皮質を吸引し水晶体.の状態でもこれにC1Cmm程度加えたサイズであるため2),全長10Cmm以上あるCIOLを挿入するにはかなり無理があると思われる.また,この時期は眼球の成長も速く,適切なCIOLの度数設定が困難である.わが国での小児白内障に対する多施設アンケートの結果3)によると,IOL挿入を行う最小年齢は,2歳がC41.2%ともっとも多く,55.8%の施設がC2歳以上であった.ただし,2歳未満がC17.6%,年齢制限を設けていないと回答した施設もC23.5%あり,施設による適応の違いが*ShunjiKusaka:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕日下俊次:〒589-8511大阪狭山市大野東C377-2近畿大学医学部眼科学教室C0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(27)C1491ある.現在,近畿大学病院(以下,当院)では,基本的に対象症例がC1歳半以上であれば両親とよく相談し,希望された場合にCIOL挿入を行っている.それより低年齢の児では水晶体切除のみを行うことを基本とし,2.3歳以上に成長した時点で両親の希望があればCIOLの二次挿入を行っている.ただし,コンタクトレンズ,眼鏡などで良好な視機能が得られていれば,できる限り大きくなるまで手術を遅らせるようにアドバイスしている.また,水晶体.が虹彩が癒着しているとCIOL挿入を.内,あるいは毛様溝に固定することは容易ではない.IOLの毛様溝縫着あるいは強膜内固定まで想定して手術を行うのかといった慎重な検討が必要である.CIIIOLの度数計算および術後屈折値おおむねC3,4歳以上では成人例と同様に外来での眼軸長測定,角膜曲率測定が可能であることが多いが,低年齢児,精神発育遅滞がある児などでは外来での検査施行が困難なので,手術直前に全身麻酔下での検査(examinationCunderanesthesia:EUA)を他の眼底検査などとあわせて行う必要がある.しかし,EUAでの眼軸長測定は超音波CAモードのプローブを手に持って測定することや,角膜曲率半径も開瞼器をかけた状態(生理的状態とは異なる状態)で手持ちケラトメータを用いて測定するために,精度に劣るという大きな問題がある.IOL度数の計算式に関しては小児白内障であっても,CHolladay1やCSRK/T式で安定した結果が得られていることが報告されている4).小児の場合,術後の狙い度数設定は視力発達・弱視予防の観点から非常に重要である.乳幼児の眼軸長は成長とともに伸長するため,将来の近視化を鑑み,術後屈折値を遠視側に設定することが推奨されている.Enyediら5)は,1歳では+6.0D,2歳では+5.0D,3歳では+4.0D,4歳では+3.0D,5歳では+2.0Dを目標にすることを提唱している.しかし,たとえば術後+6.0Dの遠視としてしまうと,術後早期に眼鏡装用が必要となり,視力発達,弱視予防の観点からは不利である.また,近視化の程度には個人差があり,近視化の程度が弱いと,将来的に遠視が残ってしまうことになる.一方,術後屈折値を正視に設定すると,術直後は眼鏡装用が不要となり,視力発達を促しやすくなる利点がある.しかし,その場合はCIOL度数が+30.0Dを超えてしまう可能性があり,使用できるCIOLがないということも想定される.また,挿入されたCIOL度数が大きいほど,たとえ同じ眼軸長変化であっても近視化の程度が強いとの説6)もある.当院では,Enyediらの報告を参考にしているが,術直後強い遠視になることのデメリット,とくにCEUAで検査を行う場合には狙いよりさらに遠視側にずれてしまうリスクを考慮し,彼らの推奨値より控えめの遠視度数とし,とくに+3.0以上の狙い度数を避けるようにしている.CIIIIOLの径先述の通り,低年齢児では水晶体.は小さく,7Cmm径のCIOLは挿入困難である.この点ではC5.5Cmm径のIOLが適しているかも知れないが,現時点でCIOLをC5.5mm径に限定するとシリコーン製,PMMA(polymethylmethacrylate)製のCrigidIOLといった選択肢となってしまう.当科ではおもにC6Cmm径のCIOLを使用している.Pandeyら7)はC2歳未満およびC2歳以上のそれぞれの群で,摘出された小児CIOL挿入眼におけるCIOLの状態を検討し,もっとも水晶体.の歪みが少なかったのは,光学部径がC5.5Cmmで光学部・支持部ともにアクリル素材でできているワンピースCIOLであったこと,また,光学部径がC6.0Cmmで支持部がCPMMAの場合は,水晶体.が支持部に牽引され,.が大きく変形していたことを報告した.しかしながら,5.5Cmm径のアクリル製ワンピースCIOLであっても,生後C5カ月の患児に対して挿入された例では水晶体.の歪みを呈していたことから,やはり生後C6カ月未満の場合,水晶体.の大きさが十分ではなくCIOL挿入は適していないと考えられる.一方,成人と同定度の水晶体.を有するC3,4歳以上の症例では光学径が大きいCIOLのほうが成人,とくに高齢者に比し瞳孔径の大きな小児では適しており,この点ではC7Cmm径CIOLがよいであろう.当院では視軸域の透明性が長期にわたって維持されるCOpticCapture法8)を好んで用いているが,7Cmm径CIOLではレンズ径が大きすぎて,適切な大きさの後.切開を作製することが技1492あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(28)図1小児白内障に対するIOL挿入の手術例患者はC5歳,女児.Ca:層間白内障を認める.b:水晶体吸引はサイドポートから前.下の水晶体上皮細胞も可能な限り吸引,除去した.Cc:後.の連続環状切開を行っているところ.Cd:ワンピースCIOL(本症例はトーリックIOL)を挿入した.Ce:マーカーレスシステム(Callistoeye,CarlZeiss社)を使用し,トーリックCIOLの軸合わせを施行しているところ.Cf:術終了直前.Opticcaptureを用い,IOL支持部は.内,光学部を後.下に固定した.中央部の混濁はCIOL挿入時に迷入した出血で,後.下にあるため洗浄できないが,翌日には消失した.術的に困難である.このような理由もあり,筆者らはおもにC6Cmm径のCIOLを使用している(図1).CIVIOLの種類および素材IOLの素材は,成人と同様に長期間透明性を保持できる疎水性アクリル素材(hydrophobicCacrylic)が多く選択されている.最近,いわゆるCglistening,whiteningなどのCIOLの透明性低下をきたす現象に関して理解が進んできている.同じアクリル素材でも製法などによってはCglistening,whiteningなどをきたしやすいとか,あるいは長期にわたって透明性維持が期待できる,などといった知見も得られてきている.小児の場合,IOLの透明性が長期にわたって維持できるというのはきわめて重要であるので,これらの知見を参考にしてCIOLを選択すべきであろう.デザインとしてはワンピース,スリーピースのどちらも使われているようであり,筆者らが知る限りどちらかが優れているといったエビデンスはない.当院では小さな創口で挿入できること,.が小さな症例でも挿入可能であることなどの理由でワンピースCIOLをおもに使用している.また,筆者らが知る限り着色IOLがよいのかといった点でもエビデンスは得られていないと思われる.筆者らは児の術後の長い人生に鑑み,着色CIOLをおもに使用しているが,これが果たして正しい選択なのか否かは現時点では不明である.CV単焦点IOL,多焦点IOL,トーリックIOL単焦点CIOLで失われる調節力を考慮すると多焦点IOLが,とくに片眼性白内障の児では適しているかもしれない.ただし,小児では術後に屈折値が変化する可能性が高いこと,術後の屈折値が狙いからはずれてしまうこともしばしばみられること,形態覚遮断弱視の可能性がある眼ではコントラスト感度などで単焦点に劣る多焦点CIOLを入れることのデメリットが考えられることなどから,多焦点CIOLが使用されることはほとんどない.当科では単焦点CIOLをもっぱら使用しており,補足的に累進屈折力レンズを眼鏡に用いることで近見,遠見の立体視改善を図っている9).一方,トーリックCIOLに関してはコントラスト感度低下といった問題がなく,小児白内障眼ではしばしば強い直乱視を認める症例があることから,筆者らは積極的に用いている.ただし,加齢に伴う倒乱視化を考慮し,乱視度数の完全矯正ではなく,直乱視を残すようにしている.おわりに小児白内障に対する手術は,難易度が高く,術前後の検査や術後の視能訓練などに手間と時間がかかる割には診療報酬が低く設定されており,経営的な側面からは割に合わない診療となってしまっている.しかし,小児白内障を早期に発見して,適切なタイミングで適切な方法で手術を行うことは,その児の術後の長い人生に大きな影響を与える重要な診療である.IATS1)によってようやくエビデンスレベルの高いデータが得られてきているが,それでもなお,IOLの狙い度数,IOLの素材,デザインなどに関して統一された見解はない.今後は多施設が連携して,IATSのようなエビデンスレベルの高いスタディを日本でも行う必要があると考えられる.文献1)InfantCAphakiaCTreatmentStudyCGroup;LambertCSR,CLynnMJ,HartmannEEetal:Comparisonofcontactlensandintraocularlenscorrectionofmonocularaphakiadur-inginfancy:arandomizedclinicaltrialofHOTVoptotypeacuityatage4.5yearsandclinical.ndingsatage5years.CJAMAOphthalmolC132:676-682,C20142)BluesteinEC,WilsonME,WangXHetal:DimensionsoftheCpediatricCcrystallinelens:implicationsCforCintraocularClensesCinCchildren.CJCPediatrCOphthalmolCStrabismusC33:C18-20,C19963)NagamotoT,OshikaT,FujikadoTetal:AsurveyofthesurgicalCtreatmentCofCcongenitalCandCdevelopmentalCcata-ractsinJapan.JpnJOphthalmolC59:203-208,C20154)VanderveenCDK,CTrivediCRH,CNizamCACetal;InfantCAphakiaCTreatmentStudyCGroup:PredictabilityCofCintra-ocularClensCpowerCcalculationCformulaeCinCinfantileCeyesCwithCunilateralCcongenitalcataract:resultsCfromCtheCInfantAphakiaTreatmentStudy.AmJOphthalmol156:C1252-1260,C20135)EnyediCLB,CPeterseimCMW,CFreedmanCSFCetal:Refrac-tiveCchangesCafterCpediatricCintraocularClensCimplantation.CAmJOphthalmolC126:772-781,C19986)McClatcheyCSK,CHofmeisterEM:TheCopticsCofCaphakicCandCpseudophakicCeyesCinCchildhood.CSurvCOphthalmolC55:174-182,C20101494あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(30)