●連載234234.LASIK術中の感染症対策監修=木下茂大橋裕一坪田一男小島美帆京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Laserinsitukeratomileusis(LASIK)周術期の感染症対策としては,術前後の抗菌薬を適切に使用することと,術中の層間洗浄,すなわちまずフラップを翻転したあとにC1回洗浄し,さらにフラップを戻したあとにフラップ下の層間を再度洗浄することが重要である.C●LASIK術後の角膜感染症LaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)は,エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術のうち,角膜フラップを作製して角膜実質のみ切除する術式で,現在の屈折矯正手術の標準的な術式である.LASIKはCsurfaceabla-tionと異なり,角膜上皮の.離や除去は行わないため,術後の角膜感染症のリスクは比較的低いとされ,sur-faceablationではC0.021)~0.2%2),LASIKではC0.0353)~0.095%4)と報告されている.また,2017年のCSchall-hornらの大規模なCretrospectiveCcase-controlstudyでは,レーザー角膜屈折矯正手術後の角膜感染の発症率は,LASIKではC0.0046%,レーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractiveCkeratectomy:PRK)ではC0.013%であり,エンハンスを行った症例ではC0.011%であったと報告された5).図2症例2:LASIK術後感染(ペニシリン耐性肺炎球菌)44歳,女性.LASIK術後C2日目発症のフラップ層間感染.フラップ下洗浄を行うも改善乏しく当院を紹介受診.起因菌はペニシリン耐性肺炎球菌.強膜散乱法による細隙灯顕微鏡所見では,フラップエッジに沿って多数の点状白色の細胞浸潤を認める.1990年代半ばよりCLASIK術後の角膜感染症が海外で相ついで報告され,近年は手術器具の汚染による感染は減少した.ただ,広域スペクトラムの抗菌薬が効きに図1症例1:LASIK術後感染(酵母型真菌)32歳,女性.LASIK術後C14日目発症の角膜感染症.フラップ層間に病巣を認め,抗菌薬点眼およびステロイド点眼でいったん軽快したが再増悪し当院を紹介受診.起因菌は酵母型真菌.瞳孔耳下側に浸潤を伴った角膜潰瘍を認め,少量の前房水流出,虹彩嵌頓を認める.図3術中洗浄フラップを翻転しレーザーを照射したのち,BSSで洗浄する.点線は翻転したフラップを示す.(79)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科Vol.36,No.11,2019C1421くい耐性菌による感染が問題となっている.本稿では,筆者らの施設(以下,当院)で現在行っているCLASIK周術期の感染症対策について,LASIK術後角膜感染症例(図1,2)および術中の写真(図3)を提示して解説する.C●周術期の抗菌薬の使用方法術前の抗菌薬点眼に関しては,当院では現在はモキシフロキサシン点眼C4回/日に加えて,3日間のセフカペンピボキシル塩酸塩内服を行っている.また,術後はガチフロキサシン点眼,0.1%フルオロメトロン点眼,ヒアルロン酸ナトリウム点眼各C4回/日を約C1週間使用している.それ以降は状態に応じてヒアルロン酸ナトリウム点眼のみ継続する.一方,epipolis-LASIKの場合は,上記の術前処方にベタメタゾンリン酸エステルナトリウム内服(0.5Cmg)3錠,3日分を追加し,術後点眼は炎症性サイトカインを抑制するため,ヒアルロン酸ナトリウム点眼の代わりにトラニラスト点眼を使用し,点眼期間はC1カ月継続し,その後約C1カ月かけて漸減している.米国白内障屈折矯正手術学会の報告書によると,LASIK術後感染の起因菌は術後C2週間以内であればグラム陽性菌,術後C2週以降であれば真菌や非定型抗酸菌を疑うこととされている.また,近年のCLASIK術後の感染症の起因菌にはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)などの多剤耐性菌や真菌の頻度が高いことが指摘されている6,7).このうちCMRSAは結膜.や皮膚の常在菌であり,アトピー性皮膚炎の患者や医療従事者に多い.MRSAを保菌することが術後角膜感染症の発症に直結する頻度は低いが,菌の量が多い場合やアトピー性皮膚炎やCcompromisedhostなど,hostが免疫抑制環境にある場合は発症のリスクが高くなる可能性があり注意を要する.また,手術終了時にも角膜フラップ下の層間にある一定量の菌が存在するため,術前と術後両方の抗菌薬点眼使用が重要である.ただし,近年キノロン耐性菌が増加しているため,抗菌薬の選択や使用方法には留意を要する.●術中の感染対策まず,手術開始にあたってポビドンヨード(生理食塩水でC8倍希釈したもの)と生理食塩水をそれぞれ綿棒に浸して眼瞼皮膚消毒を行う.その後,睫毛が術野に露出しないように注意しながら速やかにドレーピングを行い,術野をCBSS10Cmlで洗浄する.術中はフラップを翻転しレーザーを照射したあと,BSSで洗浄するが,その際,フラップのヒンジの部分に菌や分泌物などが貯留しやすいことに注意する(図3).さらに,フラップを戻したあと,再度フラップ下の層間を洗浄しフラップを戻して手術終了とする.手術終了時には,ガチフロキサシン点眼,ベタメタゾン点眼リン酸エステルナトリウム点眼,ブロムフェナクナトリウム点眼を各C1回点眼している.LASIKにおいては開瞼器をかけた際にマイボーム腺からCPropionibacteriumacnesが放出され,このP.acnesがフラップ下に迷入すると推定され,このことからも術中の層間の洗浄が重要であると考えられる.文献1)WroblewskiKJ,PasternakJF,BowerKSetal:InfectiouskeratitisCafterCphotorefractiveCkeratectomyCinCtheCUnitedCStatesCarmyCandCnavy.COphthalmologyC113:520-525,C20062)RojasCV,CLlovetCF,CMartinezCMCetal:InfectiousCkeratitisCinC18651ClaserCsurfaceCablationCprocedures.CJCataractCRefractSurgC37:1822-1831,C20113)LlovetCF,CRojasCV,CInterlandiCECetal:InfectiousCkeratitisCinC204586CLASIKCprocedures.COphthalmologyC117:232-238,C20104)MoshirfarM,WellingJ,FeizVetal:Infectiousandnon-infectiouskeratitisafterlaserinsitukeratomileusisoccur-rence,Cmanagement,CandCvisualCoutcomes.CJCCataractCRefractSurgC33:474-483,C20075)SchallhornCJM,CSchallhornCSC,CHettingerCKCetal:Infec-tiouskeratitisafterlaservisioncorrection:Incidenceandriskfactors.JCataractRefractSurgC43:473-479,C20176)NomiCN,CMorishigeCN,CYamadaCNCetal:TwoCcasesCofCmethicillin-resistantCStaphylococcusCaureusCkeratitisCafterCEpi-LASIK.JpnJOphthalmol52:440-443,C20087)稗田牧,外園千恵,中村隆宏ほか:エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後の重症感染症.日眼会誌C119:855-862,C2015C1422あたらしい眼科Vol.36,No.11,2019(80)