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大阪医科大学附属病院における糖尿病眼筋麻痺症例の検討─複視に対する治療法─

2019年10月31日 木曜日

《第24回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科36(10):1307.1311,2019c大阪医科大学附属病院における糖尿病眼筋麻痺症例の検討─複視に対する治療法─筒井亜由美菅澤淳奥英弘戸成匡宏松尾純子西川優子荘野明希中村桂子濵村美恵子稲泉令巳子清水みはる池田恒彦大阪医科大学眼科学教室CInvestigationofDiabeticOphthalmoplegiaatOsakaMedicalCollegeHospital─TreatmentsforDiplopia─AyumiTsutsui,JunSugasawa,HidehiroOku,MasahiroTonari,JunkoMatsuo,YukoNishikawa,AkiShono,KeikoNakamura,MiekoHamamura,RemikoInaizumi,MiharuShimizuandTsunehikoIkedaCDepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollegeC目的:大阪医科大学附属病院における糖尿病眼筋麻痺の臨床所見および複視に対する治療について検討した.対象および方法:2014年C2月.2018年C5月に複視を主訴として受診し,糖尿病眼筋麻痺と診断されたC15例を対象とした.検討項目は神経麻痺の種類・HbA1c・治癒率・治癒までの期間・複視の治療とした.結果:年齢はC52.83歳,神経麻痺の種類は動眼神経麻痺C2例,滑車神経麻痺C5例,外転神経麻痺C8例で,すべて片眼性であった.滑車神経麻痺のC1例は再発がみられた.全体では,HbA1cは平均C7.4C±1.1%,治癒率はC94%,治癒までの期間は平均C3.9C±3.3カ月であった.複視に対する治療は,膜プリズムC33.3%,遮閉膜C26.7%,眼帯C13.3%,経過観察C26.7%であった.結論:治癒までの期間は既報とほぼ同様で短かったが,複視を軽減するために膜プリズムや遮閉膜を試みる価値があると思われた.CPurpose:Weinvestigatedtheclinical.ndingsandthetreatmentsfordiplopiaindiabeticophthalmoplegiaatOsakaMedicalCollegeHospital.SubjectsandMethods:Thisstudyinvolved15patientswhopresentedwithdiplo-piaandwerediagnosedasdiabeticophthalmoplegia,atourHospitalfromFebruary2014toMay2018.Weretro-spectivelyCinvestigatedCtheCtypeCofophthalmoplegia,Chemoglobin(Hb)A1c,CcureCrate,CelapsedCtimeCperiodCuntilChealing,andtreatmentmethodfordiplopia.Results:Agesrangedfrom52to83years.TypesofophthalmoplegiawereCoculomotorpalsy(n=2)C,Ctrochlearpalsy(n=5)andCabducentpalsy(n=8)C.CAllCcasesCwereCunilateral.COneCrecurrentcasewasobservedinthetrochlearpalsytype.Forallcases,themeanHbA1cscorewas7.4±1.1%,thecureratewas94%,andthemeantimeperioduntilhealingwas3.9±3.3months.Thetreatmentmethodsfordiplo-piaCwereCmembraneprism(33.3%)C,Cocclusionfoil(26.7%)C,eyepatch(13.3%)orCfollow-upobservation(26.7%)C.CConclusions:AlthoughCtheCelapsedCtimeCperiodCuntilChealingCwasCasCshortCasCinCtheCpreviousCreport,CmembraneCprismandocclusionfoilwerefoundtobeusefulande.ectivetreatmentsforrelievingthesymptomsofdiplopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(10):1307.1311,C2019〕Keywords:糖尿病,糖尿病眼筋麻痺,複視,膜プリズム,遮閉膜.diabetesmellitus,diabeticophthalmoplegia,diplopia,membraneprism,occulusionfoil(Bangerter)C.Cはじめに糖尿病の合併症はさまざまあるが,眼合併症では糖尿病網膜症をはじめ,白内障,角膜症,視神経症などが存在する.そのなかで,眼球運動障害を生じる糖尿病眼筋麻痺は,比較的予後が良好であるため看過されやすいが,重要な眼合併症の一つである.糖尿病眼筋麻痺はCI型およびCII型糖尿病,それに耐糖能異常のみられる患者に眼筋麻痺を生じ,他に鑑別すべき原因疾患の認められない病態とされており1,2),糖尿病患者の約C1%に認められると報告されている1.7).本疾患は,動眼神経麻痺,滑車神経麻痺,外転神経麻痺などの単神〔別刷請求先〕筒井亜由美:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科大学附属病院眼科Reprintrequests:AyumiTsutsui,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,Takatsuki-city,Osaka569-8686,JAPANC表1神経麻痺別の背景因子動眼神経麻痺滑車神経麻痺外転神経麻痺全体疾患Cn=2(眼)Cn=6(眼)Cn=8(眼)Cn=16(眼)年齢(歳)C62±14.1C64±6.9C75±6.6C69.3±9.3*HbA1c(%)C7.0±0.1C8.0±1.5C7.1±0.8C7.4±1.1治癒率100%83%100%94%治癒までの期間(月)C4.3±3.9C3.6±1.6C4.1±4.2C3.9±3.3痛み100%0%12.5%経障害として発症することが多く,複視を主訴とすることが多い.糖尿病眼筋麻痺の臨床的特徴像についての報告はみられるものの,糖尿病眼筋麻痺による複視に対する具体的な治療についての報告は少ない1.10).今回,大阪医科大学附属病院における糖尿病眼筋麻痺の臨床所見および複視に対する治療について検討したので報告する.CI対象および方法対象は,2014年C2月.2018年C5月に複視を主訴として大阪医科大学附属病院眼科を受診し,糖尿病眼筋麻痺と診断されたC15例(男性C10例,女性C5例),年齢はC52.83歳(平均C69.7±9.5歳)であった.検討項目は,神経麻痺の種類,HbA1c,治癒率,治癒までの期間,疼痛の有無,複視に対する治療とした.なお,今回の治癒については,正面位で顕性の偏位がなく,日常生活において複視を自覚することがないものとした.CII結果1.神経麻痺の種類症例はC15例だが,1例再発例があるためC16眼とした.神経麻痺の種類は,外転神経麻痺がC8眼(50%),滑車神経麻痺がC6眼(38%),動眼神経麻痺がC2眼(12%)であった.すべて片眼性で複合神経麻痺の症例はなかった.麻痺眼は,右眼C10眼,左眼C6眼であった.再発を認めたC1症例は,左眼滑車神経麻痺発症後C1.5カ月で治癒したものの,9カ月後に右眼滑車神経麻痺を発症した.C2.背景因子と臨床症状各神経麻痺別に年齢,HbA1c,治癒率,治癒までの期間,疼痛の有無についてまとめたものを表1に示す.年齢については,外転神経麻痺がやや高齢であった(p<0.05,一元配置分散分析法p<0.05,Tukey-Kramer法).HbA1cは,各神経麻痺間に有意差はみられなかった(ns,一元配置分散分析法).今回治癒に至らなかった残存例は,滑車神経麻痺のC1眼のみであり,治癒率は各神経麻痺間に有意差はみられなかった(ns,Cc2検定).治癒までの期間も,各神経麻痺間に有意差はみられなかった(ns,一元配置分散分析法).疼*p<0.05痛については,動眼神経麻痺はC2眼とも疼痛を伴い,滑車神経麻痺では疼痛を伴うものはなく,外転神経麻痺ではC1眼のみで,神経麻痺間で差がみられた(p<0.01,Cc2検定).動眼神経麻痺のC2症例については,瞳孔異常は認められなかった.糖尿病の推定罹患期間は,0.25.15年(平均C6.0C±5.2年)であり,10年以上C3例,5年以上C3例,5年未満C6例,不明3例であった.今回,眼筋麻痺の発症を契機に糖尿病が発見された症例はなかったが,糖尿病と診断されたが治療を放置していて,眼筋麻痺の発症を契機に内服治療を開始したものがC2例あった.また,治癒までの期間に影響を及ぼす要因として,年齢・HbA1c・糖尿病の罹患期間について検討したが,いずれも相関はみられなかった(年齢:r=0.22,p=0.45HbA1c:Cr=.0.21,Cp=0.46,糖尿病の罹患期間:r=.0.21,Cp=0.52).今回の症例の合併症については,糖尿病網膜症はC3例に認められ,1例が単純糖尿病網膜症,2例が増殖糖尿病網膜症であった.その他合併症では,糖尿病腎症はC4例,高血圧10例,動脈硬化症C1例,末梢神経障害C2例,高脂血症C4例であった.C3.複視に対する治療全症例の偏位量を図1に示す.滑車神経麻痺は比較的偏位量が少ないものが多く,外転神経麻痺は麻痺の程度により偏位量は広範囲に渡っていた.各神経麻痺別の複視に対する治療法を図2に示す.つぎに偏位量と治療法を合わせた図を示す(図3).膜プリズムを処方したのは,5.14CΔの比較的偏位量が少ない症例で,処方したプリズム度数はC4.12CΔであった.偏位量が多くなると遮閉膜や眼帯で対応した.経過観察となったのはC5眼であった.そのうち動眼神経麻痺のC1眼は眼瞼下垂によって日常複視を感じなかったものであった.滑車神経麻痺のC3眼のうち,1眼は頭位で代償したもの,あとのC2眼は再発例であり,この症例は以前にも自然治癒の経験があり,患者自身が治療を希望しなかった.外転神経麻痺のC1眼は,第一眼位で複視の自覚があいまいで治療を希望しなかった.また,眼科で内服治療として,おもにビタミンCBC12製剤や(眼)■動眼神経麻痺滑車神経麻痺■外転神経麻痺543210図1疾患別偏位量縦軸は眼数,横軸が偏位量を表す.偏位量については,疾患により水平と上下偏位の両方ある場合はプリズムの合成した量で示す.~5未満~10~15~20~25~30(⊿)(眼)■動眼神経麻痺滑車神経麻痺■外転神経麻痺☆膜プリズム△遮閉膜○眼帯543210~5~10~15~20~25~30(⊿)図3疾患別偏位量と複視に対する治療法縦軸は眼数,横軸が偏位量を表す.循環改善剤をC16眼中C13眼に処方した.処方しなかった症例は,眼筋麻痺の発症以前より内科で類似の処方を受けていた症例であった.斜視手術による治療については,治癒に至らなかったC1例に対して斜視手術を検討したが,複視の自覚があいまいであったため手術は行わなかった.C4.代.表.症.例代表的な症例を示す.73歳,男性,右眼外転神経麻痺,複視を主訴として近医より紹介受診.既往歴はラクナ梗塞.現病歴は糖尿病,単純糖尿病網膜症.糖尿病の罹患期間は10年,HbA1cはC8.4%.視力は右眼矯正(1.0),左眼矯正(0.9).眼位は近見・遠見ともに内斜視で,右眼に外転制限があり,右方視で内斜視が増大した(図4).Hesschartを図5に示す.この症例は,所持眼鏡にC10CΔの膜プリズムをCbaseoutで麻痺眼である右眼のレンズに貼り付けたところ,正面視で複視が解消した.■膜プリズム■遮閉膜■眼帯■経過観察動眼神経麻痺滑車神経麻痺外転神経麻痺(眼)図2疾患別の複視に対する治療法縦軸は疾患,横軸が眼数を表す.CIII考按神経麻痺の種類について各施設の報告をまとめたものを示す(表2).既報3,4,7,8)では,施設により差があるものの,外転神経麻痺が多い傾向がみられ,今回も同様であった.糖尿病眼筋麻痺の治癒率については,既報では施設により治癒の基準が異なるが,湯口ら3)はC100%,三村ら4)はC93.3%,高橋5)はC100%,有村ら7)はC100%,横山ら9)はC71%と報告しており,今回の報告でもC94%であった.また,三村ら4)は全眼球運動神経麻痺ではC62%,湯口ら3)は糖尿病以外の原因による眼筋麻痺ではC40%という報告をしており,他の原因による神経麻痺に比べ糖尿病眼筋麻痺の予後は良好であると考えられる.治癒までの期間について,既報では,板野ら8)はC14.5C±8.4週,横山ら9)はC2.8カ月,湯口ら3)がC12.6C±6.6週,三村ら4)はC12.6週,有村ら7)はC104日と報告しており,どの報告でもC3.4カ月であった.今回もC3.9C±3.3カ月と同様の結果であり,比較的短期間で治癒すると考えられる.治癒までの期間と年齢・HbA1c・糖尿病の罹患期間には相関はみられず,治癒までの期間に影響を及ぼす因子ではないと考えられる.疼痛については,既報5.8,10)と同様に今回の症例でも動眼神経麻痺ではC2例とも疼痛がみられた.海綿静脈洞部で動眼神経の栄養血管が閉塞し,三叉神経が影響を受けている可能性が推察される.複視に対する治療法は,他の原因による眼筋麻痺と同様で,偏位量が少ない場合はプリズム,偏位量が多い場合は遮閉膜や眼帯が適応となることが多い.今回プリズムを処方した症例の偏位量はC5.14CΔであり,15CΔ以下がプリズムの適応となりやすいと考える.しかし,既報11)ではそれ以上の偏位量でも処方している例もあり,大きな偏位量でもプリズ012345678眼位近見8~10ET’Δ遠見25ET←8~10ET→orthoΔΔ右方視左方視右方視第一眼位左方視図4症例右眼外転神経麻痺Hesschart図5Hesschart(左)と膜プリズムを貼り付けた所持眼鏡(右)右眼の外転制限が認められる.麻痺眼の右眼レンズにC10CΔbaseoutで膜プリズムを貼り付けた.表2神経麻痺の内訳症例数動眼神経麻痺滑車神経麻痺外転神経麻痺報告年板野ら8)C横山ら9)C湯口ら3)C三村ら4)C今回C2241418421641(C15.2%)7(5C0.0%)6(3C3.3%)9(2C1.4%)2(1C2.5%)59(C17.2%)4(2C8.6%)2(1C1.1%)4(9C.5%)5(3C7.5%)124(C67.4%)C6(4C2.9%)C10(C55.5%)C27(C64.3%)C8(5C0.0%)2017201420021998注1:横山らの症例数については再発C3例を含む.注2:三村らの症例数についてはC2例の注視麻痺を含む.ムが適応となるか試してみる価値はあると思われる.神経麻痺別では,動眼神経麻痺は,眼瞼下垂の程度が強い場合は複視を自覚することがないため,複視に対する治療は必要ではない.下垂が軽度の場合は複視を自覚するため治療が必要となる.この場合,向き眼位により偏位が大きく変化するため,プリズムでは両眼単一視が十分に得られず適応となりにくく,遮閉膜や眼帯が適応となる.滑車神経麻痺では,他の神経麻痺と比べ比較的偏位量が少なく,今回の症例でもC1例にみられたように頭位で代償できることもある.水平偏位と上下偏位がともにみられることが多く,プリズムの基底を患者の自覚に基づき微調整可能な場合にはプリズムの適応となる.外転神経麻痺では,麻痺の程度が軽度である場合,頭位で代償できることもあるが,滑車神経麻痺と異なり水平偏位のみの場合が多い.今回の症例でもみられたように,プリズムである程度の範囲で両眼単一視を得ることができるため,プリズムの適応となりやすい.麻痺の程度が高度な場合は度の強いプリズムが必要となるため,収差や違和感が強くなり装用はむずかしく,遮閉膜や眼帯が適応となる.また,一般的に眼筋麻痺では,複視の症状が長期化し固定した症例で,偏位が大きいと斜視手術の適応となる場合もあるが,偏位が少ない場合は組込みプリズムも選択肢の一つとなる.しかし,糖尿病眼筋麻痺は短期間で治癒するため,プリズムは組込みではなく,眼位の改善に応じて取りはずしが可能な膜プリズムが有用である.膜プリズムや遮閉膜は,突然複視を生じ,日常生活に支障をきたして受診する患者に対して,所持眼鏡に貼ることで初診時でもすぐに複視の辛さに対応できる利点がある.遮閉膜は,プリズムと異なり両眼視はできないが,プリズムが適応とならない場合は選択肢の一つとなると思われる.糖尿病眼筋麻痺は,治癒までの期間は一般的に報告されているように短く,他の原因による眼筋麻痺と比べ予後が良好であるが,複視の辛さを軽減するために,膜プリズムや遮閉膜は簡便で試してみる価値があると再認識した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)勝井義和,高橋昭,竹沢英郎:糖尿病眼筋麻痺─本邦報告C151症例の臨床統計分析と外国C3部検例の再評価を中心にして.神経内科23:122-134,C19852)向野和雄,難波龍人,阪本則敏:糖尿病とニューロパチー特に眼球運動障害(診断と治療).眼科CMOOKC46:213-222,C19913)湯口琢磨,海谷忠良:海谷眼科における糖尿病性眼筋麻痺の統計的観察.眼紀C53:104-107,C20024)三村治,鈴木温:糖尿病性眼筋麻痺.眼紀C49:977-980,C19985)高橋洋司:糖尿病性眼筋麻痺.神経内科70:13-21,C20096)奥野泰久,丸毛和男,上田進彦ほか:糖尿病患者に合併した眼筋麻痺.糖尿病23:619-625,C19807)有村和枝,小島祐二郎:糖尿病における外眼筋麻痺.眼臨C89:688-690,C19958)板野瑞穂,菅澤淳,戸成匡宏ほか:大阪医科大学附属病院眼科における糖尿病性眼筋麻痺の検討.眼臨C71:1755-1759,C20179)横山大輔,瀧川円,小野しずかほか:当院における糖尿病眼筋麻痺の予後について.日視会誌43:161-166,C201410)向野和雄,青木繁,庄司治代:糖尿病の神経眼科眼球運動障害.眼紀46:132-137,C199511)筒井亜由美,中村桂子,澤ふみ子ほか:成人の複視に対するフレネル膜プリズムの装用状況.眼臨紀C1:233-239,C2002C***

ニュープロダクツ ジャパンフォーカス株式会社 視力表及びコントラスト感度測定装置<アキュパッド>

2019年10月31日 木曜日

●ジャパンフォーカス株式会社視力表及びコントラスト感度測定装置<アキュパッド>タブレット型両眼開放多焦点視力表「アキュパッド」は視力,コントラスト視力及びコントラスト感度測定を行うことができる視機能測定器機です.ホワイトスクリーン加工を施した特殊なタブレットにより,偏光レンズを透して日常視に最も近い両眼開放下での検査ができます.5mから33cmまで複数の検査距離にて測定,多焦点IOL挿入眼の評価がこの1台で可能となりました.本体はコンパクトで持ち運びがしやすく,設置場所を選びません.◇各検査で使用している視標【視力検査】視標:ランドルト環,絵視標検査距離:5m.33cm【コントラスト視力検査】視標:ランドルト環検査距離:5m.33cm【コントラスト感度検査】視標:正弦波格子縞検査距離:5m.70cm<総販売元・問い合わせ先>株式会社JFCセールスプラン東京都文京区本郷4-3-4明治安田生命本郷ビルTEL:03-5684-8531http://www.jfcsp.co.jp/製造販売元:ジャパンフォーカス株式会社https://www.japanfocus.co.jp/(83)あたらしい眼科Vol.36,No.10,20191305

基礎研究コラム 29.Neurovascular unitからみた難治性網膜疾患の病態と新規治療戦略

2019年10月31日 木曜日

Neurovascularunitからみた難治性網膜疾患の臼井嘉彦病態と新規治療戦略Neurovascularunitとは?Neurovascularunit(NVU)はもともと脳卒中の病態生理を理解するために提唱されましたが,現在この概念は脳卒中という枠組みを超えて,網膜疾患を含めたさまざまな疾患に応用されるようになっています.網膜では,血管内皮細胞や周皮細胞などの毛細血管,それを取り囲むニューロンとアストロサイト,Muller細胞やマイクログリアなどのグリア細胞がunitを形成し,細胞間のクロストークを介して網膜のさまざまな機能を調節しています.マウスの網膜表層の毛細血管では,神経節細胞,アストロサイトやマイクログリアなどのグリア細胞により,中層はアマクリン細胞の神経突起やマイクログリアを代表としたグリア細胞に,深層は水平細胞の神経突起および中層と同様にマイクログリアにより囲まれ,NVUが構成されています1).また,血液-網膜関門(bloodretinalbarrier:BRB)は,神経系と血管系組織が機能的に相互補助関係にあるNVUを基盤に構築されているといえます.網膜そのものがNVUであり,同じ中枢神経である「脳」は経時的かつ直接的に観察することは困難ですが,私たち眼科医は眼底検査をとおして網膜のNVUを直接視ることができます.黄斑浮腫とNeurovascularunit糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症,ぶどう膜網膜炎では黄斑浮腫をきたしますが,これらは外的要因や虚血,炎症,酸化ストレス,またはそれらによって分泌される炎症性サイトカインによりBRBが破綻することにより生じることが推測されます.神経節細胞やアマクリン細胞などのニューロンは,本来視機能にのみ関与していると考えられてきましたが,NVUを構成し,視機能以外にも網膜血管形成やBRBのバリア機能にも関与する可能性があります.そのため,これらのニューロンが障害を受けることにより間接的に網膜血管やグリア細胞に影響を及ぼす可能性があり,NVUを構成するどの細胞もBRB破綻に関係することが推測されます.たとえば糖尿病黄斑浮腫では,BRBの破綻が網膜内層に存在するアマクリン細胞の機能破綻であり,アマクリン細胞が障害されるためアマクリン細胞が制御する網膜内層の毛細血管障害をきたし,結果として浮腫および視機能の低下をきたしている可能性があります2).東京医科大学臨床医学系眼科学分野図1アマクリン細胞と水平細胞によるneurovascularunitの構成網膜の中層の毛細血管はアマクリン細胞が,深層の毛細血管は水平細胞の神経突起が血管を包み込むように存在している.Neurovascularunitが障害されることで,ヒト黄斑浮腫が生じてくることが推測される.今後の展望NVUは網膜疾患病態解明でも治療の面でも重要であり,神経および血管障害をきたす網膜症では,網膜のニューロンが制御するNVU全体を治療標的とし,網膜血管の破綻を救済するneurovascularprotection(NVP)という新たなコンセプトで,糖尿病網膜症以外のさまざまな網膜疾患(網膜静脈閉塞症,加齢黄斑変性症,未熟児網膜症など)の治療法に波及していく可能性があります.また,2011年多能性幹細胞から網膜の三次元形成に成功した報告3)がありましたが,血流や血管がない(すなわちNVUを形成していない)ニューロンやグリアが,invitroで再生させたときに,生着あるいはどのように機能するか,NVUの観点からの研究の発展が待たれます.文献1)UsuiY,WestenskowPD,KuriharaTetal:Neurovascu-larcrosstalkbetweeninterneuronsandcapillariesisrequiredforvision.JClinInvest125:2335-2346,20152)臼井嘉彦:黄斑浮腫の病因血液─網膜関門およびNeuro-vascularunitの破綻の観点より.眼科59:399-405,20173)EirakuM,TakataN,IshibashiHetal:Self-organizingoptic-cupmorphogenesisinthree-dimensionalculture.Nature472:51-56,2011(75)あたらしい眼科Vol.36,No.10,201912970910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 197.黄斑疾患の発症における肥満細胞の関与(研究編)

2019年10月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載197197黄斑疾患の発症における肥満細胞の関与(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに特発性網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)や特発性黄斑円孔(macularhole:MH)はおもに中高年者に発症し,変視症,視力低下をきたす.これらC2疾患の成因としては,後部硝子体皮質前ポケット後壁の牽引1)が考えられているが,生化学的な研究はほとんど行われていない.筆者らは過去にCMHやCERMでは硝子体内のキマーゼやトリプターゼなどのセリンプロテアーゼの活性が上昇していることを報告した2,3).さらに,これらのセリンプロテアーゼの産生源としてCbursapremacularisの可能性を検討し報告した4).C●Bursapremacularisと肥満細胞Bursapremacularisは,Worstらが提唱した黄斑前に存在する袋状の形態を有する硝子体の一部である5)が,その生理的な役割については十分に解明されていない.筆者らは硝子体手術時に硝子体腔中央部の硝子体ゲルおよびCbursapremacularisを別々に採取し,ヘマトキシリン染色,トルイジンブルー染色,および抗キマーゼ抗体,抗トリプターゼ抗体を用いた免疫染色を行った.その結果,bursapremacularisに多数の細胞を認め,トルイジンブルー染色では肥満細胞に特徴的とされるメタクロマジーが認められた(図1).また,キマーゼ,トリプターゼいずれの抗体に対しても,bursapremacularisは中央部の硝子体ゲルよりも強く染色された(図2)4).C●黄斑疾患と肥満細胞キマーゼやトリプターゼなどのセリンプロテアーゼの産生細胞は肥満細胞であり,近年,肥満細胞が組織の線維化,アポトーシス,リモデリングに関与することが報告されている.肥満細胞は眼球では脈絡膜,毛様体,結膜,強膜などに存在するが,今回硝子体内でもその存在が確認されたことは興味深い.キマーゼはアポトーシス作用が,トリプターゼは線維化をきたす作用が優位とされているが,MHではキマーゼ活性が,ERMではトリ(73)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYab図1トルイジンブルー染色中央部の硝子体(Ca)では染色がみられなかったが,bursapremacularis(Cb)では肥満細胞に特徴的なメタクロマジーが認められた().(文献C4より引用)CCase1Case2Case3図2抗キマーゼ抗体を用いた免疫染色中央部の硝子体(Ca)に比べてCbursapremacularis(Cb)では強い染色性を認めた.また,bursapremacularis部位はC2例で膜状構造を呈しており,その中にキマーゼ陽性の核が多数認められた.(文献C4より引用)プターゼ活性が優位であったことより,MHでは結合組織型肥満細胞が,ERMでは粘膜型肥満細胞が発症に深く関与しているのかもしれない.MHとCERMは一種の肥満細胞病ではないかと考えられる.文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmolC108:979-982,C19902)MaruichiM,OkuH,TakaiSetal:Measurementofactivi-tiesCinCtwoCdi.erentCangiotensinCIICgeneratingCsystems,Cchymaseandangiotensin-convertingenzyme,inthevitre-ousC.uidCofCvitreoretinaldiseases:aCpossibleCinvolvementCofCchymaseCinCtheCpathogenesisCofCmacularCholeCpatients.CCurrEyeResC29:321-325,C20043)IkedaT,NakamuraK,OkuHetal:Theroleoftryptaseandanti-typeIIcollagenantibodiesinthepathogenesisofidiopathicCepiretinalCmembranes.CClinCOphthalmolC9:C1181-1186,C20154)SatoCT,CMorishitaCS,CHorieCTCetal:InvolvementCofCpremacularmastcellsinthepathogenesisofmaculardis-eases.PLOSONEC14:e0211438,C20195)WorstJG:Cisternalsystemsofthefullydevelopedvitre-ousCbodyCinCtheCyoungCadult.CTransCOphthalmolCSocCUKC97:550-554,C1977あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1295

眼瞼・結膜:脂腺癌と遺伝子

2019年10月31日 木曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人中山知倫渡辺彰英55.脂腺癌と遺伝子京都府立医科大学眼科学教室脂腺癌の遺伝子解析はこれまであまり行われていない.分子標的薬の開発が進むなか,遺伝子解析による癌細胞の動態解明は,これらの新たな治療薬の適応の根拠を探る意味でも重要である.アジアに多い疾患であり,脂腺癌の研究におけるわれわれ日本の眼科医が果たすべき役割は大きいと考える.●はじめに脂腺癌は,ほとんどが眼瞼の脂腺であるCMeibom腺,Zeis腺から発生する.多くはCMeibom腺より発生するため,Meibom腺の多い上眼瞼にできることが多い.高齢者に多いことが知られている.脂腺癌は局所再発やリンパ節転移,遠隔転移の可能性があり,臨床的な悪性度が高い.腫瘍死の原因となるうる疾患であり,早期発見,早期治療が重要である.肉眼的所見は大きく二つのタイプに分けられ,黄色調結節状の病変として眼瞼結膜や眼瞼縁に隆起してくるタイプ(nodulartype,図1)と,びまん性の眼瞼肥厚や眼瞼炎,慢性結膜炎のような所見を認めるタイプ(di.usetype,図2)がある.Di.usetypeは病理学的に腫瘍細胞の上皮内浸潤であるCpagetoidspread(図3)を認めることがある.人種差があり,白色人種よりもアジア人に多いことが知られている.また,臨床所見についてはアジア人にはCnodulartypeの方がCdi.usetypeよりも多い1)が,白色人種ではCdi.usetypeとCnodulartypeはほぼ同じ頻度であることがわかっている2).なんらかの遺伝的背景があると推測されるが,脂腺癌についての遺伝子検索はこ図1脂腺癌(nodulartype)図2脂腺癌(di.usetype)図3Pagetoidspread(HE染色)(71)あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C12930910-1810/19/\100/頁/JCOPYれまであまり行われておらず,はっきりしたことはわかっていない.C●脂腺癌と遺伝子脂腺癌症例の大部分で,癌抑制遺伝子の一つであるTP53の変異が認められている3,4).ただし,紫外線を原因とする変異様式は認められず4),紫外線が脂腺癌の原因とならないことが遺伝子変異からも説明できている.また,ヒト上皮成長因子受容体C2(HER2)遺伝子の増幅によるCHER2蛋白質の過剰発現が多く認められている5).HER2蛋白質に対しては分子標的薬が存在しており,脂腺癌に対する分子標的治療の可能性を示唆している.そのほか,サイクリン依存性キナーゼ阻害C2A(CDK-N2A)遺伝子の過剰発現を認めることが多く,発症者が若年であることと,CDKN2A遺伝子の過剰発現は,相関関係を示すことがわかっている6).CDKN2A遺伝子の過剰発現の原因としてヒトパピローマウイルス(HPV)の関与がよく知られているが,脂腺癌症例でHPV感染はほぼ認めないことがわかっている.次世代シーケンサーによる解析も始まっている.脂腺癌C27症例のC409の癌関連遺伝子の全エクソーム次世代シーケンスの結果では,もっとも一般的な変異としてTP53,RB1,PIK3CA,PTEN,ERBB2,およびCNF1の遺伝子変異が同定された7).これらの変異はCPI3Kシグナル伝達経路を活性化すると予測される.この経路の阻害薬がすでに存在していることから,これらの薬剤が脂腺癌の制御に有効であることが示唆されている.●おわりに遺伝子解析は,臨床像の遺伝子による裏付けともなるが,それだけではない.細胞シグナル伝達経路が解明され,その阻害薬の開発や,分子標的薬の開発が進む現代では,それらの薬剤適応の根拠となるという意味でも重要である.脂腺癌は欧米よりもアジアで多い疾患であり,脂腺癌の遺伝子解析はわれわれ日本の眼科医が推し進めていくべき分野であると考える.文献1)WatanabeCA,CSunCMT,CSelvaCDCetal:SebaceousCcarcino-mainJapanesepatients:clinicalpresentation,stagingandoutcomes.BrCJOphthalmol97:1459-1463,C20132)ShieldsJA,DemirciH,MarrBPetal:Sebaceouscarcino-maCofCtheeyelids:personalCexperienceCwithC60Ccases.COphthalmologyC111:2151-2157,C20043)BellCWR,CSinghCK,CRajanCKdCACetal:ExpressionCofCp16Candp53inintraepithelialperiocularsebaceouscarcinoma.OculOncolCPathol2:71-75,C20154)KiyosakiCK,CNakadaCC,CHijiyaCNCetal:AnalysisCofCp53Cmutationsandtheexpressionofp53andp21WAF1/CIP1proteinCinC15CcasesCofCsebaceousCcarcinomaCofCtheCeyelid.CInvestOphthalmolVisSciC51:7-11,C20105)KwonCMJ,CShinCHS,CNamCESCetal:ComparisonCofCHER2CgeneCampli.cationCandCKRASCalterationCinCeyelidCseba-ceouscarcinomaswiththatinothereyelidtumors.PatholResPract211:349-355,C20156)LiauCJY,CLiaoCSL,CHsiaoCCHCwtal:HypermethylationCofCtheCCDKN2ACgeneCpromoterCisCaCfrequentCepigeneticCchangeinperiocularsebaceouscarcinomaandisassociat-edCwithCyoungerCpatientCage.CHumCPatholC45:533-539,C20147)Tetzla.MT,SinghRR,SeviourEGetal:Next-generationsequencingCidenti.esChighCfrequencyCofCmutationsCinCpotentiallyclinicallyactionablegenesinsebaceouscarcino-ma.CJPathol240:84-95,C20161294あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(72)

抗VEGF治療:加齢黄斑変性に対する変則Treat and Extend

2019年10月31日 木曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二69.加齢黄斑変性に対する変則大中誠之関西医科大学医学部眼科学教室CTreatandExtend滲出型加齢黄斑変性は慢性疾患であり,大多数の症例において継続した治療が必要である.Treatandextend(TAE)法はCproactive治療を組み入れた個別化医療であり,長期にわたって視機能を維持することが可能である.理想的な治療法であるが,問題点がないわけではない.本稿では,その問題点と解決策として当院で行っているCmodi.edTAE法について解説する.はじめに現在,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)の治療として,おもに抗CVEGF療法や光線力学的療法(photodynamicCtherapy:PDT)が用いられているが,発症後早期に治療を開始することにより,多くの患者において視機能の改善が得られるようになった.しかし,滲出型CAMDは慢性疾患であり,改善した視機能を維持するためには継続した治療が必要となるため,いかに少ない治療回数で視機能を維持させるかが重要なポイントとなる.長期にわたる維持期治療一般的に滲出型CAMDの治療は,視機能の改善をめざす導入期と,改善した視機能を保つための維持期に分けて考えられる.導入期の治療はその後の経過に大きく影響するため,徹底して行うことが望ましい.しかし,導入期に徹底した治療を行っても再発する症例は多く,滲出型CAMDの全治療期間を通して考えると圧倒的に維持期のほうが長い.維持期の治療は抗CVEGF単独療法を選択する施設が多いが,投与法はCreactive投与である必要時(proCrenata:PRN)投与と,proactive投与を含む固定投与あるいはCTAE法に分けられる.PRN投与を厳密に行うことができれば,他の投与方法と比較してもっとも少ない治療回数で長期にわたって視機能を維持することが可能と考えるが,10年以上CPRN投与で治療を行うことは現実的にむずかしい.TAE法は個々の病状に合わせて投与間隔を調整する方法で,維持期の治療法としては理想的であり,長期成績も良好であることから多くの施設で用いられている.CTreatandextend法の問題点一般的なCTAE法は,導入期として滲出性所見の消失(69)(ドライ)まで毎月投与を行い,その後は維持期として,病態に合わせて投与間隔を調整しながら,可能なかぎりproactiveに投与を続けていく方法である.PRN投与より治療回数は多くなるが,長期視力予後が良好であることに加えて,受診日と投与日が同日であるため,多くの患者において毎月通院する必要がなくなることもメリットの一つである.現状では,維持期にCTAE法によるproactive治療を継続することは理想的と考えるが,問題点がないわけではない.問題点の一つめは,proactive治療であるために過剰投与となっている可能性があることである.再燃させないことがCproactive治療であるため,個々に合った投与間隔をみつける早期の段階では投与間隔の延長は慎重に行うべきであり,治療回数がある程度多くなることはしかたがないことかもしれないが,投与間隔を調整する以前に,一定の割合で導入期治療後長期にわたって再燃なく追加治療を必要としない症例が存在することに気をつけなければならない.当院において導入期にアフリベルセプトを用いて治療を行ったところ,治療開始後半年以内に約半数が再発し,1年では約C7割の患者で少なくともC1回は再発を認めたが,残りのC3割はC1年間再発なく経過した.これらの患者に対して導入期治療後,継続的に治療を行うことは過剰投与となっている可能性が高い.問題点の二つ目は,proactive治療を終えるタイミングが定まっていないことである.これまでにさまざまな報告がなされているが,治療後の経過が良好で順調に投与間隔を延長できた症例では,12週間あるいはC16週間の投与間隔で2~3回病状が落ち着いていた場合にCTAE法を中断している報告が多いようである.当院ではC16週間の投与間隔でC3回,つまりC1年間病態の悪化を認めなかった場合に一度治療を中断している.また,治療を継続しても視力や自覚症状の改善が望めない場合には,僚眼の状態を考慮し,患者と相談のうえ,治療を中断すあたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C12910910-1810/19/\100/頁/JCOPYることも必要である.変則Treatandextend法治療早期の過剰投与を避けるための一つの方法として,導入期後すぐにCproactive治療を始めずに,経過観察を行うことがあげられる.多くの症例で再発するため,追加治療がいつかは必要となるが,長期間再発しない症例に対して過剰投与を避けるための有効な方法である.いわゆるCPRN投与であり,reactive治療となるために再発による視力低下が懸念されるが,当院で調べたところ,導入期で改善した視力が再発時に有意に低下した患者の割合はC5%程度であったことから,一度の再発は許容できるものと考える.しかし,reactive治療を繰り返すことは長期的には視力低下につながる可能性が高く,やはりCproactive治療を行うことが理想的である.過剰投与と視力低下の両方を回避する方法として,observe-and-plan(OAP)法1)や当院で行っているCmodi.edTAE法2)があげられる.両者とも導入期治療後に一度再発するまで経過観察を行い,再発後は再発までの期間を参考に計画的に投与を行う方法である.一般的なCTAE法と比較すると,治療成績は同等であり,OAP法では通院が少なく,modi.edTAE法では治療回数が少ないことが特徴である.以下,modi.edCTAE法について導入期,経過観察期,TAE期に分けて概説する.導入期は,少なくともC4週毎にC1回,連続C3回は投与を行い,それでもドライにならなければ,ノンレスポンダー症例でないかぎりはドライになるまでC4週ごとに投与を行う.導入期治療として少なくとも連続C3回行う理由としては,大規模臨床試験の結果からわかるように,視力改善の大部分がこのC3回の治療で得られることと,3回の治療のなかでドライになるまでの治療回数が多い症例のほうが早期に再発する傾向にあるなど,治療による反応性の違いからその後の経過をある程度予測できるためである.経過観察期はドライになってから再発するまでの期間であるが,この再発期間を参考にCTAE期の最初の投与間隔を決定するため,modi.edTAE法のなかでもっとも重要な期間となる.再発間隔は症例ごとにある程度決まっている3)ことから,ここで再発期間を正確に把握することにより,TAE期における投与間隔の調整が少なくてすむため,調整中に認める再発による視力低下のリスクの軽減と結果的には治療回数の減少につながる.したがって,再発するまでは基本的に毎月診察が望ましい.C1292あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019TAE期は,経過観察期で得た再発間隔から1~2週間短縮した期間を最初のCTAE法の投与間隔とし,それ以降は通常のCTAE法と同様に投与を続けていく.ここで大事なことは,最初と途中で滲出性所見の再発を認めて投与を行った場合には,1カ月後に診察を行うことである.たとえばC10週間隔で再発した場合,次の投与はC8週後になるが,4週後の診察でドライであればそのまま8週後でよいが,ドライになっていない場合はその時点で追加投与を行うべきであり,8週間隔でCTAE法を再開するのはドライになってからとしている.また,繰り返しの再発を避けるために,投与間隔を短縮した場合,ドライになってもすぐに投与間隔を延長せずに,基本的にはC1年間同じ投与間隔で行うようにしている.このように厳密に管理を行うことで,長期にわたって視機能を維持することが可能となるが,当院のデータでは大多数の症例において,最初の投与間隔から大幅な延長・短縮なく経過しており,この結果は再発間隔が症例ごとにある程度決まっているとする既報3)と一致し,modi.edTAE法における最初の投与間隔の決定法が妥当であることを示している.CModi.edTAEの中断はC16週間隔でC1年間病態が安定していた場合に行っているが,これまでの結果では約2割の症例が中断基準に合致し,一度治療を中断している.幸い,その後再発する症例はC15%程度と少ないことから,基準としては妥当と考える.おわりに滲出型CAMDは慢性疾患であり,現状の治療法では完治は望めないが,超高齢社会を迎えているわが国においては,少ない治療回数で長期間視機能を維持するために,今後もよりよい治療法の開発に努める必要がある.文献1)MantelCI,CNiderprimCSA,CGianniouCCCetal:ReducingCtheCclinicalCburdenCofCranibizumabCtreatmentCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegenerationCusingCanCindividuallyCplannedregimen.BrCJOphthalmolC98:1192-1196,C20142)OhnakaCM,CNagaiCY,CShoCKCetal:ACmodi.edCtreat-and-extendregimenofa.iberceptfortreatment-naivepatientsCwithCneovascularage-relatedCmacularCdegeneration.CGrae-fesArchClinExpOphthalmolC255:657-664,C20173)MantelI,DeliA,IglesiasKetal:Prospectivestudyeval-uatingCtheCpredictabilityCofCneedCforCretreatmentCwithCintravitrealranibizumabforage-relatedmaculardegener-ation.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC251:697-704,C2013(70)

緑内障:緑内障と患者啓発活動

2019年10月31日 木曜日

●連載232監修=山本哲也福地健郎232.緑内障と患者啓発活動小川俊平東京慈恵会医科大学眼科学講座緑内障の原因は不明で,発症を予防することはできない.また初期の緑内障は自覚症状に乏しく,しばしば発見が遅れてしまう.そのため緑内障によるQOL低下を防ぐためには早期発見,早期治療しか選択肢はない.広く一般の方に緑内障を認知してもらい,検診を受診していただくことが大変重要である.●緑内障認知度調査企業が2015年と2018年の「緑内障の日」に合わせて行った緑内障認知度調査が公開されている.2015年に日本アルコンは,インターネットを通じて緑内障に関する意識調査を実施した.対象は全国の40歳以上の360人で,「一般層」「緑内障の疑いがある層」「緑内障患者層」の各グループ120名の緑内障に関する知識,受診行動,治療の実態を調査した1).また,2018年にファイザーは,月1回以上車を運転する全国47都道府県の40歳以上の男女10,708人を対象に,インターネットを通じて緑内障意識調査を行った2).2015年の調査で「緑内障をまったく知らなかった」と答えた一般層(緑内障疑い歴および指摘歴なし)は12.5%であり,認知度は87.5%であった.2018年調査では認知度は98.7%に上昇していた.疾患理解では,2015年では正答率が「視野が狭くなる病気」37.5%,「高齢になるほど罹患率が高まる」31.7%,「眼圧を下げることで進行を抑えることができる」24.2%,「失明原因の第一位」20.8%などであったのに対し,2018年調査では,「視野が狭くなる病気」67.2%,「自覚症状はほとんどない」47.2%,「年齢とともに増加」75.5%,「視力が良ければ緑内障ではない」(に対し「そう思わない」を選択)60.8%,「早期発見早期治療により失明は防げる」71.8%と,正答率が増加していた.両調査は対象も方法も異なるため結果の解釈には注意を要するが,緑内障認知度は向上しているのではないかと期待される.図12019年ライトアップinグリーン運動筆者の勤務地より望める虎ノ門タワー(正面).頭だけ緑色にライトアップされた.(http://www.ryokunaisho.jp/infomation/wgwgreenlightup2019.html#Toranomonより転載).(67)あたらしい眼科Vol.36,No.10,201912890910-1810/19/\100/頁/JCOPY表1現在の特定健診項目●世界緑内障週間(3月)と緑内障の日(6月7日)世界緑内障連盟と世界緑内障患者連盟は,2008年から毎年3月上旬の1週間を世界緑内障週間(WorldGlaucomaWeek:WGW)として,世界中で緑内障啓発活動を展開している.2019年のWGW(3月10~16日)では,世界中で626の緑内障啓発活動が開催された.日本でも多くの市民講座や無料健診など啓発活動が積極的に行われた.WGWのシンボルとして地域のランドマークをグリーンにライトアップする「ライトアップinグリーン運動」があるが,本年は日本全国から150カ所が参加した(図1).初年度の2015年5カ所,2016年20カ所,2017年44カ所,2018年85カ所から参加施設が爆発的に増加したことがわかる3).この他にも,緑内障フレンド・ネットワークの申請により,6月7日が「緑内障の日」として制定された.日付は「りょく(6)ない(7)」(緑内)と読む語呂合わせからである.緑内障についての正しい理解と,「一年に一度は検診を受けるように」と呼びかけている.記念日は一般社団法人日本記念日協会により認定・登録されており,当日は日本緑内障学会が市民講座や講演会など多くの広報活動を行っている.●眼科健診と成人緑内障検診緑内障の啓発活動が地道に確実に広がっている様子を紹介した.次の受け皿は健診(健康診断)になる.成人健診には,公的健診,自治体健診,企業健診や任意健診1290あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019がある.公的健診はこれまで「老人保健法による地域住民対象の基本健康診査(老人健診)」のもとに行われてきたが,平成20年から「特定健診」へと変更された.特定検診の目的はメタボリックシンドロームの予防と改善であり,高血圧,高脂血症,糖尿病を想定した項目が多く採用された.眼科領域では視力検査が廃止され,「詳細な健診項目」として“眼底検査を医師が必要と認めた場合に限る”という条件つきで行われることとなった(表1).ここでいう医師が必要と認めた場合とは,平成30年3月までは「前年データ(腹囲,血糖値,血圧,中性脂肪)の“すべて”が基準値を超える対象者」をさしており,この結果,名古屋,松江,出雲の3都市では特定健診開始後の眼底写真撮影頻度は1/100へと減少したとのデータがある.平成30年4月からは「血圧または血糖値の基準を超えた対象者」へと,眼底検査の条件が一部拡大された.特定健診のみから緑内障診断に結びつく潜在患者は少なく,自治体健診と任意健診による緑内障検診の拡充が望まれる.緑内障検診の実施には,1)検診の根拠となる研究を科学的に検証し,有効な検診方法を明らかにすること,2)科学的根拠のある検診の精度を改善・維持し,正しく行うための支援をすること,3)多くの人が受診するための受診率向上の推進対策をすること,が必要である.近年の人工知能を用いた画像診断技術は,人的,経済的問題を改善する可能性があり,おおいに発展,活用が期待される.●おわりに緑内障による視覚障害を少しでも減らすためには,病因解明のための基礎研究,診断・治療法の進歩に加えて,予防(緑内障啓発活動と緑内障検診の拡充)が重要である.文献1)日本アルコン株式会社:緑内障に関する意識調査.2015/6/2.https://www.alcon.co.jp/sites/www.alcon.co.jp/.les/nc-ryokunaisho150607.pdf2)ファイザー株式会社:緑内障に関するドライバー1万人調査.2018/5/29.https://www.p.zer.co.jp/p.zer/company/press/2018/documents/20180529.pdf3)日本緑内障学会:2019年ライトアップinグリーン運動http://www.ryokunaisho.jp/infomation/wgwingreen.html(68)

屈折矯正手術:再発性角膜上皮剝離に対するエキシマレーザー治療

2019年10月31日 木曜日

監修=木下茂●連載233大橋裕一坪田一男233.再発性角膜上皮.離に対する天野史郎井上眼科病院エキシマレーザー治療再発性角膜上皮.離が内科的治療でも再発を繰り返す場合は手術を考える.周辺部病変には針による角膜実質穿刺を行う.角膜中央部病変にはエキシマレーザー照射を行う.上皮.離後,中央C7~8Cmmの範囲に,15~20μmの深さのエキシマレーザー照射を行う.原因が外傷の場合はレーザー治療後の再発は少ない.皮を引き.がす力がかかり,上皮.離が発生する.角膜●再発性角膜上皮.離の臨床像上皮の接着不良の原因としては,外傷後,糖尿病,角膜再発性角膜上皮.離は文字通り再発を繰り返す角膜上上皮基底膜変性症(図3),角膜実質変性症(顆粒状,格皮.離である.朝の起床時に疼痛が発生することを繰り子状,斑状)などがある.返すという病歴と角膜スリット所見から,診断は比較的容易である(図1).上皮.離が治っているときでも,上皮層内の水疱状の混濁や,フルオレセインをはじくような所見がみられる(図2).最下層の角膜上皮細胞の基底部にあるChemi-desmo-someに発現するCintegrins,それに結合する上皮基底膜内のClaminin,基底膜からCBowman膜に伸びるCanchor-ing.brilsといった接着構造により,角膜上皮細胞は基底膜・Bowman膜に接着している.この接着構造に障害が発生すると角膜上皮.離が発生しやすくなる.就眠中は瞬目の減少から涙液分泌が低下し,眼瞼結膜と角膜上皮が接着しやすくなり,起床し開瞼した瞬間に角膜上図1角膜中央から中間周辺部にみられる再発性角膜上皮.離上皮の被覆が進んでいる.図2再発性角膜上皮.離を繰り返す部位にみられる水疱状混濁()と点状混濁図3角膜上皮基底膜変性症にみられる指紋状混濁()(65)あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C12870910-1810/19/\100/頁/JCOPY図4Anteriorstromalpuncture(ASP)後にみられた線状混濁()角膜周辺部に頻繁に再発していた角膜上皮.離はCASP後に再発しなくなったが,穿刺部に淡い線状混濁が残った.C●治療の選択治療としては,まず内科的治療として就寝時の眼軟膏点入と日中のヒアルロン酸製剤点眼を行う.疼痛が治まってからもこの治療をC1~2カ月継続することで,多くの場合は再発が終息する.しかし,疼痛が治まるとすぐに治療をやめてしまい再発を繰り返す患者も多い.内科的治療でも再発を繰り返す場合は外科的治療を考える.上皮.離部位が周辺部にある場合,針を用いた角膜実質穿刺であるCanteriorCstromalpuncture(ASP)を考える.27ゲージ針などの細い針の最先端部分を白内障手術で使うチストトームのように折り曲げたものを使って,上皮.離を繰り返す部位に穿刺を行う.深さは実質のC1/4~1/3くらいである.上皮.離を起こす範囲の広さに応じてC10~30回程度の穿刺を行う.ZaubermanらはC35眼にCASPを施行し,平均経過観察期間C14カ月の間にCASPなどの再処置が必要であったのはC6眼(17%)と報告している1).C●エキシマレーザー治療の実際ASPは安価で有効な方法であるが,穿刺部位が瘢痕化により混濁を生じるため(図4),角膜中央部には施術しづらい.角膜中央部の再発性角膜上皮.離に対してはエキシマレーザーを用いたCphototherapeuticCkeratecto-my(PTK)を考える(図5).PTKで上皮-基底膜-1288あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019図5図1の眼にPTKを行った1年後上皮層に異常所見はみられず,1年以上再発はない.Bowman膜にある異常部位を除去し正常化を図ることを目的とする.眼表面の消毒後,角膜中央C7~8Cmmの範囲の上皮を.離する.本疾患を有する眼では角膜上皮の接着がゆるくなっており,少し触るだけで容易に上皮を.離できることが多い.上皮.離後,PTKモードで,中央7~8mmの範囲にC15~20μmの深さのエキシマレーザー照射を行う.照射後ソフトコンタクトレンズをのせ,抗菌薬を点眼し手術を終了する.術後の点眼は抗菌薬,ステロイド,ヒアルロン酸をC1日C4~5回から開始し漸減していく.Dedesらは再発性角膜上皮.離C89眼にCPTKを行い,10年間経過観察し,25眼(28%)で再発がみられたと報告している2).原因別のCPTK後再発率は,外傷後でC55眼中C8眼(15%),角膜上皮基底膜変性症でC29眼中C14眼(48%),特発性でC5眼中C3眼(60%)であった.外傷後の再発性角膜上皮.離眼ではPTK後の再発率が比較的低いことが示されている.国内ではCPTKの保険適用が角膜変性症と帯状角膜変性に限定されているため,本疾患へのCPTKはC10万円程度の自己負担がかかる.このことは手術法の選択について患者に説明する際に伝えておくべき情報である.文献1)AvniCZaubermanCN,CArtornsombudhCP,CElbazCUCetal:CAnteriorstromalpunctureforthetreatmentofrecurrentcornealCerosionsyndrome:PatientCclinicalCfeaturesCandCoutcomes.AmJOphthalmol157:273-279,C20142)DedesW,FaesL,SchipperIetal:Phototherapeutickera-tectomy(PTK)forCtreatmentCofCrecurrentCcornealCero-sion:CorrelationCbetweenCetiologyCandCprognosisC.Cpro-spectiveClongitudinalCstudy.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmol253:1745-1749,C2015(66)

眼内レンズ:低加入度数分節眼内レンズ「レンティスコンフォート」 新インジェクター使用のコツ

2019年10月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋395.低加入度数分節眼内レンズ「レンティスコン大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科フォート」新インジェクター使用のコツレンティスコンフォートの新しいインジェクターは,鑷子による眼内レンズの把持・装.が不要で,プリロード・タイプに準じた簡便さを有する.しかし,使用に際しては若干の注意が必要である.とくに眼内レンズを保存容器から取り出したあと,カートリッジからレンズの端がはみ出していないことを確認してからインジェクターに装着することが非常に重要である.●はじめに親水性の素材からなるレンティスコンフォートは1),保存液に浸った状態で保管・出荷されることから,疎水性眼内レンズのように完全なプリロード型のインジェクターを作ることは困難である.今回開発された新インジェクター(図1)は,鑷子によるレンズの把持・装.を不要としたものであり,プリロード・タイプに準じた簡便さを有する.しかし,使用に際しては若干の注意が必要である.C●挿入の前に前.切開は大きめに行う(図2).5.5Cmm以上が望ましい.眼内レンズが固定されたカートリッジを保存容器から取り出し,レンズの位置を確認する.具体的には,眼内レンズの上下がカートリッジから飛び出していないことを確認する(図3,4).眼内レンズの端がカートリッジからはみ出した状態でインジェクターに装着すると,眼内レンズが正しくセッティングされず,挿入時にトラブルが生じる.眼内レンズがはみ出していないことを確認したのち,カートリッジをインジェクター側面の開口部に差し込む(図5).一方向でしか噛み合わないので,上下左右を間違えることはない.装.したのち,インジェクター内部を粘弾性物質で満たし(図6),プランジャーを前進させ,眼内レンズを前方に押していく.C●挿入操作強角膜の場合,2.2Cmmの創口からカートリッジ先端(63)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1新インジェクターの外観を前房内に挿入し,眼内レンズを押し出していく(図7).眼内レンズが水平に出るように方向を調整しながらプランジャーを押す.通常はインジェクターの回転操作は必要なく,単純に押し出していくだけでよい.まず眼内レンズの前方部分を.内に入れ,続いて手前部分を挿入する.レンズ手前部分がインジェクターから出てきたところで,フックで下に向かって押すようにすると(図8),レンズは.内に挿入される(図9).この操作でレンズが.内に挿入されなかった場合は,前回の本欄で示したように,T字フックで手前のホールを引っかけて押しながら,レンズの両肩を.内に挿入するようにする.眼内レンズ裏の粘弾性物質は必ず洗浄する(図10).レンズが大きく,.内での安定性はきわめて良好である(図11).文献1)OshikaT,AraiH,FujitaYetal:One-yearclinicalevalu-ationofrotationallyasymmetricmultifocalintraocularlenswith+1.5dioptersnearaddition.SciRepC9:13117,C2019あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1285図2前.切開図3眼内レンズ位置の確認①図4眼内レンズの位置確認②CALLISTOeyeのガイドに従い,直径カートリッジの下端から眼内レンズが飛カートリッジの上端から眼内レンズが飛5.7Cmmの連続円形切.を作製している.び出していないか,鑷子で確認している.び出していないか,鑷子で確認している.図11手術終了時.内での安定性はきわめて良好である.図5インジェクターへの装着インジェクター側面の開口部に,カートリッジを差し込む.図6粘弾性物質注入インジェクター内部を充.する.図7眼内レンズ挿入2.2Cmmの強膜創口から前房内に挿入.図8手前部分の挿入レンズ手前部分がインジェクターから出てきたところで,フックで下に向かって押すようにする.図9.内への挿入後左手フックの操作により,.内に挿入された.図10眼内レンズ裏の粘弾性物質を洗浄I/Aチップを眼内レンズ裏に挿入し,洗浄している.

コンタクトレンズ:片頭痛と光

2019年10月31日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一60.片頭痛と光原直人国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科C●はじめに近年,情報通信技術(informationCandCcommunicationCtechnology:ICT)の発達でスマートフォン,タブレット,電子書籍など長時間のディスプレイ凝視が増加し,またCLED照明の普及,自動車のライトなど高輝度環境下で暮らす生活となった.片頭痛は,光過敏(光により不快感や疼痛が生じる現象)を生じる代表的疾患1)である(図1).頭痛発作により日本では毎日C60万人が苦痛を感じる社会生活を余儀なくされている.このため生産性の低下・能率低下をきたし,年間C2,880億円程度の膨大な経済的損失を招いている2).したがって片頭痛に対図1片頭痛発作を引き起こす光環境因子とそのマネージメント野外では太陽光,自動車のライトにより,室内ではCLED照明,する発作予防として,光マネージメントは重要である.C●片頭痛の臨床症状ズキンズキン・ガンガンと脈打つような拍動性頭痛で,“頭の中に心臓があるようだ”とも表現される.頭部の片側のこめかみから眼のあたりに起こり,頭部全体が痛むこともある(全体の約C40%).嘔吐,光過敏や音過敏などを伴う.20~40歳に多く,日本における有病率は約C8.4%である.頭痛に先立つ前兆の有無により,前兆のある片頭痛(片頭痛の約C25%)と前兆のない片頭痛に分類される.前兆は欠伸,空腹感,肩・頸部のこりなど多彩であるが,視覚感覚がC90%以上を占める.視覚前兆である閃輝暗点には,陽性徴候のキラキラした光(scintillatingClights)と陰性徴候の暗点(scotoma)があり,これらの症状のため眼科を受診する.C●片頭痛脳とその頭痛発作の機序片頭痛には後頭葉皮質の易興奮性3)が存在していて(片頭痛脳),てんかんと類似疾患とされる4).この易興奮性が,三叉神経系とともに第一次視覚野を中心とした視覚伝導路にも変化を及ぼしている5).全盲の片頭痛患者と光覚弁の片頭痛患者への光刺激では,後者で頭痛発作が誘発されたことから,残されたメラノプシンを含有する内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallypho-(61)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYデジタルデバイス画面などにより光過敏が誘発される.それぞれ遮光眼鏡,ナイトドライブレンズそして調光可能な照明により光をマネージメントする.画面からの光の軽減には,遮光眼鏡やフィルターにより光を軽減させることが重要である.CtosensitiveCretinalCganglioncells:ipRGCs)が頭痛誘発に関与していることが示された6).その後の光による頭痛発作の機序として,ラット研究より網膜(ipRGC)→視床→硬膜→三叉神経節を介したCphotophobiaCcircuitsが考案された7,8).トリガーとしての光が,神経ペプチド(calcitoningene-relatedCpeptide:CGRP)を硬膜血管周囲に放出させ,その結果,血管拡張や神経原性炎症を引き起こし,疼痛が惹起される(三叉神経血管説)(図2)9).C●遮光に基づく頭痛発作の予防の試み①遮光眼鏡:欧米では遮光眼鏡による頭痛発作の抑制効果の報告は多い10~13).わが国の報告では,ipRGCのピーク波長であるC480Cnmの光(白色CLED)で片頭痛患者は健常者より羞明を強く感じること,そのピーク波長を低減した「アクティビューナイトドライブ」レンズ(東海光学)により夜間運転中のヘッドライトに惹起される頭痛発作日数,頭痛薬の服用日数と程度を減少できることが報告14)されている.一方,片頭痛患者C16名を対象とした遮光眼鏡(CCP-400,東海光学)の色調選択トライアルの自験例では,25%がCMGを,44%がCFLあたらしい眼科Vol.36,No.10,2019C1283硬膜血管に分布する神経終末が刺激され血管作動性物質が放出される,を選択した(図3).②高機能フィルター:VDT作業者に対して高輝度ディスプレイに装着することを推奨している4).③暗い静かな環境:調光ができる照明器具への変更,室内の色彩への配慮など,住環境も工夫されつつある.以上,光量を軽減し快適なコントラスト視力が得られる遮光眼鏡により,また調光により頭痛発作が抑えられる.文献1)HayCKM,CMortimerCMJ,CBarkerCDCCetal:1044CwomenCwithmigraine:theCe.ectCofCenvironmentalCstimuli.CHead-acheC34:166-168,C19942)LiftingCTheCBurden,CGlobalCCampaignCtoCReduceCtheCBur-denCofCHeadacheCWorldwide.CKyotoCDeclarationConCHead-ache.October9th,20053)WrayCSH,CMijovic-PrelecCD,CKosslynSM:VisualCprocess-inginmigraineurs.Brain118:25-35,C19954)RogawskiMA:CommonCpathophysiologicCmechanismsCinCmigraineandepilepsy.ArchNeurolC65:709-714,C20085)ShibataK,YamaneK,IwataM:ChangeofexcitabilityinbrainstemCandCcorticalCvisualCprocessingCinCmigraineCexhibitingallodynia.Headache46:1535-1544,C2006(人)876543210図3片頭痛患者による遮光レンズの色調選択の結果片頭痛患者C16名(男性C2名,女性C14名,年齢C32~71歳,平均C53.7歳)のうち,44%がCFLを,25%がCMGを選択した.逆に,若年健常者C46名(男性C6人,女性C40名,年齢C19~22歳)を対象としたレンズ選択では,一律に選択された色調はなかった.とくにCFLは好まれなかった(1名のみ).色調名はCTR:Trunk,SC:SpringColor,LG:LightCGrey,NA:NewAutumn,MG:MiddleGray,FL:FallenLeaves(東海光学社)を示す.6)BursteinR,NosedaR,FultonAB:Neurobiologyofphoto-phobia.JNeuroophthalmol39:94-102,C20197)NosedaR,KainzV,JakubowskiMetal:Aneuralmecha-nismforexacerbationofheadachebylight.NatureNeuro-scienceC13:239-245,C20108)DigreKB,BrennanKC:Sheddinglightonphotophobia.JNeuroophthalmol32:68-81,C20129)濱田潤一:片頭痛の病態生理─Cgeneratorを中心に.臨床神経48:857-860,C200810)AfraCJ,CAmbrosiniCA,CGenicotCRCetal:In.uenceCofCcolorsConhabituationofvisualevokedpotentialsinpatientswithmigraineCwithCauraCandCinChealthyCvolunteers.CHeadache40:36-40,C200011)GoodCPA,CTaylorCRH,CMortimerMJ:TheCuseCofCtintedCglassesCinCchildhoodCmigraine.CHeadacheC31:533-536,C199112)WilkinsAJ,BakerA,AminDetal:Treatmentofphoto-sensitiveCepilepsyCusingCcolouredCglasses.CSeizureC8:444-449,C199913)WilkinsCAJ,CPatelCR,CAdjamianCPCetal:TintedCspectaclesCandCvisuallyCsensitiveCmigraine.CCephalalgiaC22:711-719,C200214)辰元宗人:光と片頭痛.日本頭痛学会43:47-49,C2016TRSCLGMGFLNAPAS122