ソフトコンタクトレンズ装用に伴う乱視AstigmatismAssociatedwithSoftContactLensWear樋口裕彦*(%)はじめに402018年の国別ソフトコンタクトレンズ(softcontact35lens:SCL)処方におけるトーリック(乱視用)レンズの30割合を図1に示す1).日本におけるトーリックSCLの処25方割合は17%と台湾についで低く,世界平均(32%)を20大きく下回っている.この傾向はガス透過性ハードコン15タクトレンズ(hardcontactlens:HCL)に関しても同105様であり,例年同じような状態が続いている.トーリックSCLの処方率が低い原因としては,処方者側の要因としてトーリックレンズの処方は通常の球面レンズに比べてやや手間がかかり,経験と時間が必要であること0と,装用者側の要因としてトーリックレンズが経済的にやや高価であることなどが推測される.しかしながら,わが国のコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用者の未矯正の乱視による不良な視機能や,結果として生じうる眼精疲労などの弊害をこのままにしておいてよいのであろうか?CL装用に伴う乱視には,正乱視眼に対して球面SCLを装用したときの残余乱視,トーリックSCLを装用したときの円柱度数不足に伴う残余乱視や軸ずれによって生じる乱視(残留屈折値),不正乱視眼に対して球面SCLやトーリックSCLを装用したときに残存する不正乱視,水晶体乱視が存在する正乱視眼や全乱視を認めない眼に対してHCLを装用したときに生じる持ち込み乱視,円錐角膜などの不正乱視に対してHCLを装用したときの角膜後面形状に由来する残余(不正)乱視などが図1国別SCL処方におけるトーリックレンズの割合(2018年)日本におけるトーリックレンズの処方割合は,世界平均を大きく下回っている.ある.本稿では,SCL装用に伴う乱視について述べる.I乱視の種類とその問題点乱視とは眼の経線によって屈折力が異なるため,外界の1点から出た光線が眼内で1点に結像しない状態をいい,正乱視と不正乱視に大別される.正乱視眼では直交する強い屈折力をもつ経線(強主経線)と弱い屈折力をもつ経線(弱主経線)が存在し,無限遠の1点から出た光線は,それぞれの経線方向で前焦線と後焦線に結像する.前焦線と後焦線の間を焦域とよび,正乱視眼では焦*HirohikoHiguchi:ひぐち眼科〔別刷請求先〕樋口裕彦:〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-3ダイヤガイビル4Fひぐち眼科0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(3)1225表1全乱視の強さと選択すべきCLの関係全乱視の強さ軽度(.C0.75D)中等度(C1.00D.2.75D)強度(C3.00D.5.75D)最強度(C6.00D.)球面CSCL○.C△C×××トーリックCSCLC×.C◯C○○.C××HCLC○C○C○C○乱視矯正効果から考えた全乱視の強さと選択すべきCCLの関係を示す.○:適応,△:比較的適応,×:非適応.表2日本で処方可能な代表的なトーリック(乱視用)SCL軸度C120°C160°C170°C180°*3)C10°C20°C60°C80°C90°C100°C20°C90°C160°C180°*3)170°C180°C10°C20°C90°C160°C20°C90°C160°C180C90°C180°*4)90°C180°*4)C90°C180°20°C90°C160°C180C20°C90°C160°C180*3)*4)C160°C170°C180°*4)C10°C20°C60°C90°C120°C170°C180°*3)C10°C20°C90°C160°C20°C90°C160°C180*3)C90°C180°*4)180°C160°C170°C180°10°C20°C80°C90°C100°C160°C170°C180°10°C20°C80°C90°C100°C(1C0°間隔)C10°.C180°(1C0°間隔)C10°.C180°(5°間隔)5°.C180°円柱度数.1.75,C.2.25*3)C.0.75,C.1.25,C.1.75*3)C.0.75,C.1.25,C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.0.75,C.1.25,C.1.75C.0.75,C.1.25,C.1.75C.0.75,C.1.25,C.1.75C.0.75,C.1.25,C.1.75C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.0.75,C.1.25,C.1.75C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.1.75,C.2.25*3)C.0.75,C.1.25,C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.0.75,C.1.25,C.1.75C.0.75C.1.75,C.2.25C.0.75,C.1.25,C.1.75,C.2.25,C.2.75C.0.75,C.1.25,(0C.25間隔).0.75.C.2.75(0C.50間隔).0.75.C.3.25(0C.50間隔).0.50.C.6.00球面度数+4.00.C.9.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.10.00C+4.00.C.8.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.9.00C±0.00.C.9.00C+2.00.C.10.00C±0.00.C.9.00C+5.00.C.10.00C+6.00.C.10.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.10.00C±0.00.C.9.00C±0.00.C.9.00C.1.50.C.8.00C+2.00.C.10.00C+5.00.C.20.00CデザインASD*2)プリズムバラストCプリズムバラストCダブルスラブオフド・トーリック・デザインCモディファイド・ハイブリップリズムバラストCプリズムバラストCプリズムバラストCプリズムバラストASD*2)プリズムバラスト8/4デザインプレシジョンバランスク・デザインCハイブリッド・トーリッダブルスラブオフCプリズムバラストCプリズムバラストCプリズムバラストCプリズムバラストプリズムバラストDk値*1)2819.78019.7224230103128110129349132341112素材ハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCハイドロゲルCシリコーンハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCハイドロゲルCレンズ名ワンデーアキュビューCRRモイストC乱視用トーリックワンデーバイオメディックスCR1日使い捨てAlconハイドロゲルC26コンフォートプラスTMトーリックシリコーン1DAYメニコンプレミオトーリック64ハイドロゲルCMeniconRマイデイCトーリックRデイリーズCアクア1DAYメニコントーリックRメダリストCワンデープラス<乱視用>RバイオトゥルーCワンデートーリックシードC1dayPureうるおいプラス乱視用RRアキュビューCオアシスC乱視用RバイオフィニティーCトーリック2RAlconエアオプティクスC乱視用週間頻回交換2WEEKメニコンプレミオトーリックMenicon2WEEKメニコンレイトーリックRコンフォートモイストC<乱視用>RRメダリストCフレッシュフィットCRメダリストC66トーリックメニコンソフトC72トーリックプレノ(トーリック)アイミーソフトII・トーリックメーカーJ&JVisionCooperB&LSEEDJ&JVisionCooperB&LMeniconHOYAAimeレンズタイプ従来型*4)円柱度数により制作範囲は異なる*3)球面度数により制作範囲は異なる*2)AcceleratedStabilizationDesign用意されている.1日使い捨てトーリックSCLの円柱度数は最大C.2.25D,2週間交換トーリックSCLの円柱度数は最大C.2.75D,従来型のトーリックSCLの円柱度数は最大C.6.00DまでC.*1)酸素透過係数:C1011(cm2/sec)・(mlO2/mlmmHg)××限界がある.当院では従来型のトーリックCSCLは安全性の問題などから処方していない.したがって,現在発売されているC1日使い捨てトーリックCSCLまたはC2週間交換トーリックCSCLを用いた場合,角膜頂点間距離補正後の全乱視のうち円柱度数で.0.75D.4.00D程度までが矯正の限界と考えている.また,正乱視であっても斜乱視の場合は処方できるCSCLが限られており,円柱度数が強くなくても,処方が困難な場合が少なくない.トーリックCSCLで矯正困難な正乱視眼の場合には,装用感の改善のために径の大きいレンズを用いたり,必要があればCpiggybagsystemを用いるなどの工夫を行い,HCLの処方を積極的に勧めるべきと考えている.トーリックCSCLを処方する場合には,球面CSCLを処方する場合以上にレンズのフィッティングを慎重に行う必要がある.瞬目とともにC30°(もっとも安定する位置から±15°)以上変動するような場合は安定した良好な視力は得られにくいので,トライアルレンズを変更する.瞬目に伴うレンズの回転がC30°以内であっても,トーリックCSCLが軸ずれを起こして,ガイドマークが所定の位置からC15°以上回転して安定している場合には,回転している角度に合わせて円柱軸を補正し処方する必要がある.補正する方向については,時計回り方向に回転している場合には乱視軸に回転分の角度を加えて処方する円柱軸とし,逆に反時計回り方向に回転している場合には乱視軸から回転分の角度を減じて処方する円柱軸とする(正加半減則).レンズの規格上,円柱軸の補正が不可能な場合はトライアルレンズの種類を変更する.一般的には.0.75Dの円柱レンズはC.1.00.1.50D,C.1.25Dの円柱レンズはC.1.75D.2.25D,C.1.75Dの円柱レンズは.2.25D.2.75D,C.2.25Dの円柱レンズは.2.75D.3.25D,C.2.75Dの円柱レンズはC.3.25D.4.00Dの全乱視に対して用いるのが一つの目安となる.ただし,実際の処方にあたっては乱視の方向(直乱視や倒乱視)や年齢なども考慮する必要がある.C3.トーリックSCLの軸ずれによって生じる乱視(残留屈折値)処方したトーリックCSCLが軸ずれを起こしたときに生じる乱視(残留屈折値)について考えてみる.C.2.00Dの直乱視に対してC.1.00DCAx180°のトーリックCSCLで矯正した場合にC.1.00Dの直乱視が残ることは容易に理解ができる.それではトーリックCSCLで軸ずれが発生した場合にはどうなるだろうか?一般に完全矯正値CD1に対して,D2のレンズを装用した場合の残留屈折値CD3は図2に示すような公式で求められる3).この公式から.1.00Dの直乱視にC.1.00DCAx180°のトーリックCSCLを装用してCa°軸ずれをした場合の残留屈折値を求めると,表34)のような結果となる.この表から軸ずれがC0すなわちCa=0°であればC.1.00Dの直乱視は完全に矯正されるが,Ca=15°で残留乱視は.0.518D(軸度C142.5°)と矯正効果は半減し,Ca=30°でC.1.00D(軸度C150°)と,軸が変化するだけで乱視の矯正効果はまったく消失してしまうことがわかる.円柱度数が小さい場合には軸ずれの残留乱視への影響は小さいが,円柱度数が大きい場合には少しの軸ずれで残留乱視が大きく増えることが知られている4).したがって,トーリックCSCLを処方する場合に,瞬目によるレンズの回転が少なく,また軸ずれがない場合にはある程度強い円柱度数を処方することが可能である.逆に瞬目によるレンズの回転が比較的大きい場合には,トライアルレンズを変更するか,円柱度数を弱めに処方する必要がある.トーリックCSCLは,軸ずれを起こした場合の視機能に対する影響が大きいので,処方に際してはスリットで軸の回転がないかを十分に確認することはもちろん,レンズ装用状態で残余屈折値の有無について,オーバーレフを用いて確認し,矯正効果を確認しておくとよい.CIII不正乱視に対するSCL装用円錐角膜,角膜移植後,屈折矯正術後合併症,外傷や感染症後の角膜瘢痕,角膜変性などによる角膜表面の不規則性によって生じた不正乱視を有する症例では,いずれも高次収差が大きく,通常CSCLを処方しても良好な矯正視力が得られないか,仮に得られたとしてもコントラスト感度が低下するなど,装用者が満足するような視機能が得にくいため,HCLを処方するのが原則である.不正乱視眼にCHCLを装用した場合には,眼球の第一屈折面がCHCL前面となり,HCL後面と不正な角膜前面の1228あたらしい眼科Vol.36,No.10,2019(6)残留屈折値Ca(°)Sph(D)Cyl(D)Ax(°)C0C0C0C0C5C0.087C.0.174C137.5C10C0.174C.0.347C140C15C0.259C.0.518C142.5C20C0.342C.0.684C145C25C0.423C.0.845C147.5C30C0.5C.1C150C35C0.574C.1.147C152.5C40C0.643C.1.286C155C45C0.707C.1.414C157.5C50C0.766C.1.532C160C55C0.819C.1.638C162.5C60C0.866C.1.732C165C65C0.906C.1.813C167.5C70C0.94C.1.879C170C75C0.966C.1.932C172.5C80C0.985C.1.97C175C85C0.996C.1.992C177.5C90C1C.2C180C95C0.996C.1.992C2.5C100C0.985C.1.97C5C105C0.966C.1.932C7.5C110C0.94C.1.879C10C115C0.906C.1.813C12.5C120C0.866C.1.732C15C125C0.819C.1.638C17.5C130C0.766C.1.532C20C135C0.707C.1.414C22.5C140C0.643C.1.286C25C145C0.574C.1.147C27.5C150C0.5C30C155C0.423C.0.845C32.5C160C0.342C.0.684C35C165C0.259C.0.518C37.5C170C0.174C.0.347C40C175C0.087C.0.174C42.5図3症例の右眼トポグラフィー所見典型的な円錐角膜を認める.