術後屈折に配慮した治療的エキシマレーザー表層角膜切除術PhototherapeuticRefractiveKeratectomyinConsiderationofPostoperativeRefraction中村友昭*はじめに治療的レーザー角膜切除術(phototherapeutickera-tectomy:PTK)は角膜表層の混濁のある症例に対し,エキシマレーザーを照射し組織を蒸散することにより,混濁部を切除する有用な手術である1~4).わが国では1998年に承認され,2011年から保険適用となっている.対象疾患は顆粒状変性(図1),帯状変性(図2),格子状変性(1型)(図3),再発性上皮びらんである.あくまでも混濁が表層に限局している症例が対象であり,中間から深層に混濁のある症例は適応にはならない.さて,通常のPTKを行うと,角膜表層の不整が残り,角膜の扁平化により遠視化が起こる5~7).そのため混濁は取れても,視機能の低下が続き,矯正視力は上がるものの裸眼視力が低下する症例も多くみられる.さらに,どの程度まで混濁を除去するのか見きわめもむずかしく(図4),単にレーザー照射をするだけでは,角膜不整によりかえって矯正視力が低下する場合もある8,9).遠視化予防に関してはこれまでさまざまな手法が考案されたが5~9),明確な標準的アプローチは提唱されていなかった.そこで,これらを解決すべく,筆者は術後の良好な裸眼視力をめざしたphototherapeuticrefractivekeratectomy(PTRK)を考案し,2013年より施行している.これは術後屈折に配慮するとともに,角膜表面の平滑化をめざしたものである10).今回,その方法とともに術後成績について解説する.IPTRKの実際筆者はフライングスポット式のエキシマレーザーであるCarlZeissMeditec社のMEL80(現在はMEL90)を用いている.従来PTKは,スリットスキャン式のエキシマレーザーが面として滑らかに切除することができるためよりよいとされてきたが,PTRKに関しては局所的に小さなスポットで照射するフライングスポット式のほうが向いていると考える.その理由については後述する.以下にこの方式の概念について記す.①疾患により切除量を変える.帯状変性は混濁が限局しているので,ごく表層だけ切除する.再発性角膜びらんはごく表層のBowman膜下のみ切除する.格子状変性も混濁を取ることより表層を平滑にすることを心がける.顆粒状変性はバリエーションが多いが,まずは表層の混濁を取ることとし,深い混濁はあえて残す.いずれも表層をできる限り平滑にすることがより重要である.また,いずれのケースも削り過ぎないようにし,せいぜい上皮+100μmに留める.②術前屈折により屈折矯正も含めた手術計画を立てる.球面に関しては,術後の遠視化(レーザー機種で異なるがMEL80の場合は100μmの切除で約+3.0D)を考慮し,その分を含めて患者の術後屈折の希望を聞いたうえで矯正を行う.柱面(乱視)についても,ある程度角膜形状が予測できるものに関しては角膜乱視分だけ矯正を行い,術後の裸眼視力の向上を図る.◆TomoakiNakamura:名古屋アイクリニック〔別刷請求先〕中村友昭:〒456-0003名古屋市熱田区波寄町25-1名鉄金山第一ビル3F名古屋アイクリニック(0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(11)125図1顆粒状変性混濁にはいろいろなタイプがあるが,あくまでも表層に限局するものがよい適応である.図2帯状変性混濁は表層で均一であるため,PTKのとてもよい適応となる.図3格子状変性I型混濁は比較的深層に及ぶが,表層のみの切除により再発性びらんの予防にもなり,術後の満足度が高い.③角膜表面をスムーズにする工夫を「スムージング」とよんでいる.原法は2004年にVinciguerraらによって報告されているが,それは生理食塩水を用いた方法である8).現在筆者らの行っている方法は,FagerholmやKornmehlらによって提唱されたヒアルロン酸を用いてマスクする方法11,12)の変法で,照射は数回(通常は3回程度)に分け,約3倍に希釈した0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を用いて混濁部のみを液上に露出させることにより集中的に切除する(図5).これは水分がある箇所に対してエキシマレーザーの照射効率が落ちること図4前眼部OCTによる混濁部位の深さの判定PTKの治療対象は,あくまでも表層に混濁がある症例である.前眼部OCTにより混濁部位の深さをある程度把握したうえで,過度に削りすぎないよう注意しながらレーザー照射を行う.を利用したもので,希釈したヒアルロン酸溶液はフライングスポットレーザーの照射時に一定時間そのまま照射部に留まり,レーザーによる蒸散をブロックする.生理食塩水に比べ,希釈したヒアルロン酸溶液は留まる時間が長く効率よくブロックできる.やがてレーザーの衝撃により溶液ははじかれ,すべて分散する.その過程において,混濁部にあるヒアルロン酸はより早く分散するため,混濁部のみにレーザーが効く.MEL90の場合,およそ20μm切除時に切除域上の溶液がすべて分散する.そこで再度溶液を全体に滴下し,切除を繰り返す.これを3回ほど繰り返すと,凹凸は軽減しスムーズな切除面となる.あくまでもスムーズな面を得ることを心がけ,適度に混濁は残し,完全除去はめざさない.ヒアルロン図5スムージングの模式図約3倍に希釈した0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を用いて混濁部のみを液上に露出することにより集中的に切除する.1009080706050403020100■術後裸眼視力■術前矯正視力1.2以上1.0以上0.7以上0.6以上0.5以上0.4以上0.3以上0.2以上視力図6有効係数術前矯正視力に対する術後裸眼視力.平均裸眼視力は0.87で,6061.0%が術後裸眼視力0.7以上となり,有効係数は1.53と非常50に高かった.403020100loss2以上loss1不変矯正視力の変化gain1gain2以上実際はヒアルロン酸溶液のブロックにより,この量は切除されていない),③PRK20.8±18.3μm(0~52)であった.術後3カ月の平均球面度数+0.71±0.92D,柱面度数-1.02±0.62D,等価球面度数-0.20±0.89Dと,予測図7矯正視力の変化平均矯正視力は0.71から1.05へと向上し,48%が2段階以上改善した.安全係数も1.81と非常に高かった.酸溶液の分散に関しては,レーザースポットをランダムに発生させるフライングスポットレーザーが望ましいと考える.前述の屈折矯正のためのレーザー屈折矯正角膜切除術(photorefractivekeratectomy:PRK)はスムージング後に行う.スムージングによっても遠視化は起こるが,その程度は少なく,通常のPTKの1/3程度(100μmの切除で約+1.0D)である.II手術成績2013年1月~2016年9月に名古屋アイクリニックで顆粒状角膜ジストロフィのためPTRKを受けた17例23眼の成績を示す.平均年齢57.7±10.1歳.平均裸眼視力0.39,矯正視力0.71.平均球面度数+0.32±1.21D,柱面度数-0.85±0.78D,等価球面度数-0.11±1.36D.切除量は①PTK102.7±6.9μm(100~120)(角膜上皮から),②スムージング68.8±20.9μm(20~80)(注:性は乏しいものの大きく遠視化することなく,ほぼ良好な屈折度数となった.平均裸眼視力は0.87,矯正視力は1.05へと向上し,61.0%が裸眼視力0.7以上となり満足度も高かった(図6).矯正視力は48%が2段階以上向上した(図7).安全係数,有効係数はそれぞれ1.81±1.34,1.53±1.39と非常に高かった.角膜の均一性を表すトポグラフィのSRI(surfaceregularityindex)は,0.93±0.46から0.60±0.30へと有意に向上(p<0.001),対称性を表すSAI(surfaceasymmetryindex)も0.92±0.83から0.64±0.54へと有意に向上した(p=0.033).ここで,代表的な症例を供覧する.55歳,男性で原疾患は顆粒状角膜ジストロフィである.ここ数年徐々に視力低下し,運転に支障をきたしてきたとのことで受診.術前屈折は右眼0.3(0.7×sph+1.5(cyl-0.75Ax110°),左眼0.2(0.7×sph+2.5).治療計画は①120μmPTK,②50μmスムージング,③PRKによる屈折矯正は右眼sph+2.0,cyl-0.75Ax110°,左眼sph+3.0とする.術後1年での視力は右眼1.2(1.5p×sph+1.0cyl(-0.5Ax90°),左眼1.2(n.c.)と顕著に回復した.術前,術後のスリットランプ所見(図8)とトポグラフィ(図9)を示す.若干の混濁を残すものの,表層はクリア図8スリット所見a:術前,b:術後.若干の混濁を残すものの,表層の淡い混濁は除去でき瞳孔中心はほぼクリアになっている.SRI1.29/1.32SAI1.45/3.40術前SRI1.02/0.92SAI0.38/0.96術後図9トポグラフィ不正乱視が軽減し,SRI,SAIともに改善しているのがわかる.になっている.トポグラフィではSRIとSAIは,それぞれ右眼は1.29から1.02,1.32から0.38,左眼は1.45から0.92,3.40から0.96へと改善した.III考按PTRKを行うにあたって,その対象となる疾患のなかで顆粒状角膜ジストロフィは,帯状変性などと比較して混濁部の数,大きさ,不透明度,角膜表面の凹凸不整など多種多様であるため,その治療戦略はむずかしく,ある程度の経験を要すかもしれない.ただし,視機能に関して言及すると,混濁の除去よりも角膜表面の凹凸を改善することがより重要に思われる.そのため,まずスムージングのテクニックを習得する必要がある.さらに,矯正視力の向上だけでなく,屈折矯正を加えることで裸眼視力も向上させ,術後のQOLを高めることに配慮することも,この手術を成功させる秘訣である.PTKとPRKとの手術間隔であるが,Wilsonらは,PTKの半年後にPRKを行う必要があると述べている4).理想ではあるが,その間の遠視化による日常での見え方の悪さと,再度の角膜上皮除去による痛みなどの患者への負担を考えると,1回で終えることのメリットのほうを重視したい.また,Vinciguerraらは,通常のPTKと術中に計測したトポグラフィに基づくPRKを組み合わせたカスタムPTK(customphototherapeutickera-tectomy:CPK)を提唱した8,9).これにより高度の収差をもつ眼の屈折異常をうまく治療したが,この方法は術中計測のステップを含むことにより時間がかかり,患者はその間忍耐を要する.Zaidmanらも同様に,PTK,PRK同時手術により近視,乱視も矯正することを報告している13).この手技もPTKアブレーション後に角膜の術中検査が含まれていたため,時間のかかるものであった.最近,Clearyらは,フーリエドメインOCTを使用して混濁の深さ,角膜厚に応じてPTKを行い,残余屈折(球面)に対しPRKを施行する方法を報告している.しかし,残念ながら本研究では乱視の軽減については言及されていない14).さらに天野らはPTKと遠視PRKの同時手術により,PTK後の遠視化シフトを効果的に減少させることができると報告している15).PTRKでは,球面だけでなく乱視矯正も同時に行うが,PTK対象眼の術前のトポグラフィは不整であり,乱視の予測性は低いため,通常は控えめな矯正に留めている.しかし,裸眼視力の向上のためには乱視矯正は欠かせないと感じている.PTRK後の平均等価球面度数は+0.71D,乱視度数-1.02Dで,遠視化を防止するだけでなく乱視も抑えることができた.さらに角膜の不整や非対称性の指標であるSRIおよびSAIの平均値も有意に減少したため,術後の裸眼,矯正視力の平均はそれぞれ0.87と1.05と向上し,うち裸眼視力は61.0%で0.8以上あり,術後多くの患者が眼鏡を使用する必要がなくなった.術後矯正視力は87.0%が0.7以上あり,ほとんどの患者が手術後に運転免許を取得できる視力となった.おわりにPTRKは角膜混濁例に対し,混濁除去だけでなく角膜表層の不整も改善し,さらに屈折矯正を加えることにより矯正視力だけでなく裸眼視力も良好となり,術後のQOLを改善することができる満足度の高い手術手技と考える.どこまで切除するか,どの程度の屈折矯正を行うかは,ある程度の経験に基づく勘も必要であるが,いずれにせよ完璧をめざさず,少しでも現状よりの改善をめざし,必要に応じて再手術も行うという考え方でのぞめば,よい結果を得ることができると思われる.文献1)RapuanoCJ:Phototherapeutickeratectomy:whoarethebestcandidatesandhowdoyoutreatthem?CurrOpinOphthalmol21:280-282,20102)FagerholmP:Phototherapeutickeratectomy:12yearsofexperience.ActaOphthalmolScand81:19-32,20033)RathiVM,VyasSP,SangwanVS:Phototherapeutickera-tectomy.IndianJOphthalmol60:5-14,20124)WilsonSE,MarinoGK,MedeirosCSetal:Phototherapeu-tickeratectomy:Scienceandart.JRefractSurg33:203-210,20175)MaloneyRK,ThompsonV,GhiselliGetal;TheSummitPhototherapeuticKeratectomyStudyGroup:Aprospec-tivemulticentertrialofexcimerlaserphototherapeutickeratectomyforcornealvisionloss.AmJOphthalmol122:149-160,19966)AmmM,DunckerGI:Refractivechangesafterphoto-therapeutickeratectomy.JCataractRefractSurg23:839-844,19977)DogruM,KatakamiC,YamanakaA:Refractivechangesafterexcimerlaserphototherapeutickeratectomy.JCata-ractRefractSurg27:686-692,20018)VinciguerraP,CamesascaF:Customphototherapeutickeratectomywithintraoperativetopography.JRefractSurg20:555-563,20049)VinciguerraP,CamesascaF:One-yearfollow-upofcus-tomphototherapeutickeratectomy.JRefractSurg20(Suppl):S705-S710,200410)NakamuraT,KojimaT,SugiyamaY:Refractiveout-comesafterphototherapeuticrefractivekeratectomyforgranularcornealdystrophy.Cornea37:548-553,201811)FagerholmP,FitzsimmonsTD,OrndahlMetal:Photo-therapeutickeratectomy:long-termresultsin166eyes.RefractCornealSurg9(2Suppl):S76-S81,199312)KornmehlEW,SteinertRF,Pulia?toCA:Acomparativestudyofmasking?uidsforexcimerlaserphototherapeutickeratectomy.ArchOphthalmol109:860-863,199113)ZaidmanGW,HongA:VisualandrefractiveresultsofcombinedPTK/PRKinpatientswithcornealsurfacedis-easeandrefractiveerrors.JCataractRefractSurg32:958-961,200614)ClearyC1,LiY,TangMetal:PredictingtransepithelialphototherapeutickeratectomyoutcomesusingFourierdomainopticalcoherencetomography.Cornea33:280-287,201415)AmanoS,KashiwabuchiK,SakisakaTetal:E?cacyofhyperopicphotorefractivekeratectomysimultaneouslyperformedwithphototherapeutickeratectomyfordecreasinghyperopicshift.Cornea35:1069-1072,2016