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序説:眼精疲労とコンタクトレンズ

2019年10月31日 木曜日

眼精疲労とコンタクトレンズAsthenopiaandContactLens小玉裕司*最近,contactlensdiscomfort(CLD)という言葉がよく使われている.コンタクトレンズ(CL)を装用することによる不快感とでも訳すことができるが,このCLDによって多くのユーザーがCLの使用を中止してしまうことは残念でならない.CLDには異物感,乾燥感,かゆみ,くもりなどさまざまなものがあるが,眼の疲れ(眼精疲労)もCLDに含まれる.今回の特集では,眼精疲労がある場合,それをいかにCLで解消するか,あるいはCL装用による眼精疲労が認められた場合,その原因を探り,いかに眼精疲労を解消するか,その両面からそれぞれの疾患に造詣の深い先生方に解説していただいた.CL装用における眼精疲労の原因として,もっとも多いのが過矯正であろう.過矯正では近見時のみならず遠方視においても毛様体に負担をかける.また,乱視による見え方のボケ像は調節を誘発する.よって乱視の未矯正,残余乱視,持ち込み乱視の存在は眼精疲労の原因となる.最近ではスマートフォン,タブレット,パソコンなどのデジタルデバイスを使用することが多く,長時間の近見作業により仮性近視や眼精疲労,あるいはいわゆる「スマホ老眼」や「スマホ内斜視」が話題になっている.また,調節力が加齢により低下することによって老視が出現するが,この老視も眼精疲労の原因となる.近年は各社からさまざまな遠近両用CLが市販されるようになり,その質は格段に向上してきている.それを受けて,わが国でもCL経験者だけでなく,CL未経験者への遠近両用CL処方も徐々に増加している.乱視眼への遠近両用CLの処方法や白内障術後眼への遠近両用CL処方法についても解説していただいた.アレルギー性結膜炎やドライアイなどの疾患は,CLの濡れ性を変化させたり,フィッティングに悪影響を与えて眼精疲労の原因となる.抗アレルギー薬の点眼液や人工涙液だけが解決法なのであろうか.アレルギー性結膜炎やドライアイを生じる原因を突き止め,適切な解決法を見いだすことが大切である.今回はこれまでにあまり取り上げられることがなかった不同視や眼位異常などにおけるCL処方についても解説していただいた.眼精疲労とCLといっても,その原因はさまざまであり,それを突き止めることがもっとも重要なポイントであろう.種々の原因によって生じる眼精疲労について,各先生方に詳細に対処法を解説していただいており,今回の特集が読者の今後の診療に少しでも役立つことを祈る次第である.*YujiKodama:小玉眼科医院0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(1)1223

近視性後天性内斜視の調節機能および立体視機能

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1213.1217,2019c近視性後天性内斜視の調節機能および立体視機能吉岡誇*1稗田牧*2中井義典*2中村葉*2張佑子*2鎌田さや花*2外園千恵*2*1市立福知山市民病院眼科*2京都府立医科大学眼科学教室CAccommodationFunctioninCasesofMyopia-AssociatedAcquiredEsotropiaHokoruYoshioka1),OsamuHieda2),YoshinoriNakai2),YoNakamura2),YukoCho2),SayakaKamada2)andChieSotozono2)1)DepartmentofOphthalmology,FukuchiyamaCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC目的:近視性後天性内斜視C5症例の調節機能と立体視機能を明らかにする.対象および方法:近視を伴う若年者に後天的に発症する共同性内斜視で,MRIで筋円錐内から眼球後部の脱臼を認めないものを近視性後天性内斜視と定義した.近視性後天性内斜視のうち,負荷調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR)を用いて調節機能を精査した5例(男性C2例,女性C3例,平均年齢C19.4C±5.3歳,14.27歳)を対象とした.プリズム順応テスト後の斜視角に応じて内直筋後転・外直筋前転術を施行し,術前の調節機能検査および術前後におけるCTitmusstereotestを検討した.結果:全症例で調節安静位の調節変動量および調節負荷時の波形は正常であった.4例で術前には低下していた両眼視機能も術後は全例で正常にまで改善した.結論:近視性後天性内斜視では,調節機能は正常であり,術後の立体視機能が良好であった.CPurpose:Toinvestigateaccommodationfunctionandstereopsisin5casesofmyopia-associatedacquiredeso-tropia.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC5Cmyopia-associatedCacquiredCesotropiacases(2CmalesCandC3females;meanage:19.4C±5.3years,range:14-27years).Theiraccommodationfunctionwasexaminedusinganautorefractometer/keratometer(ARK-1sCR).Myopia-associatedacquiredesotropiawasde.nedasfollows:esotro-piaCoccurringCinCmyopicCyouths,CacquiredCcomitantCesotropia,CandCnoCeyeCprolapseCfromCtheCmuscleCconeCinCtheCorbitalMRI.ndings.Unilateralrecession-resectionwasperformedaftertheprismadaptationtest.Accommodationfunctionwasexaminedpreoperatively.TheTitmusstereotestwasperformedbothpreoperativelyandpostopera-tively.CResults:InCallCcases,CaccommodationCvariationCinCtheCrestingCstateCofCaccommodation,CandCaccommodationCstimulusresponsecurvewerenormal.Stereopsisfunctionwasworsepreoperatively,butimprovedpostoperatively.Conclusions:Myopia-associatedacquiredesotropiashowednormalaccommodationfunction.Theirstereopsisfunc-tionwasnormalposttreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(9):1213.1217,C2019〕Keywords:他覚的調節測定機能検査(ARK-1s),近視性後天性内斜視,立体視検査.objectiveaccommodativefunctiontest(ARK-1s)C,myopia-associatedacquiredesotropia,stereopsistest.Cはじめに近視を伴う後天性共同性内斜視はCvonGraefeやCBiel-schowskyにより提唱され,比較的若年で起こるタイプと高齢で高度近視に発症するタイプが存在する.比較的若年で起こるタイプは,間欠性内斜位・内斜視で発症し,近見では複視をきたさないが遠方視で複視を自覚する状態が続き,徐々に恒常性内斜視へと移行していくことを特徴とする1.3).低矯正または未矯正の近視眼において良好な視力を得ることが可能となる近方視をする機会が多くなるため,輻湊が刺激,強化され,次第に開散の機能不全が生じるという可能性が考えられているが,病因は明らかにはなっていない4.5).比較的高齢で高度近視に発症するタイプは,強度近視性内斜視〔別刷請求先〕吉岡誇:〒620-8505京都府福知山市厚中町C231市立福知山市民病院眼科Reprintrequests:HokoruYoshioka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FukuchiyamaCityHospital,231Atsunaka-cho,Fukuchiyama-city,Kyoto620-8505,JAPANC(進行すると固定内斜視となる)とよばれており,強度近視を伴い眼球後部が筋円錐から脱臼する6).筆者らは近視を伴う共同性の後天性内斜視のうち,強度近視性内斜視を除外したものを「近視性後天性内斜視」とよび,その臨床像を報告している2).この疾患は近視を伴う後天性内斜視としてこれまで報告されている症例と完全に異なる症例ではないものと考える.近視性後天性内斜視と鑑別するべきものとしては,開散不全,急性内斜視,輻湊けいれんなどがあげられる.開散不全は,急性発症し,遠方視により増悪する複視を特徴とし,頭蓋内病変がおもな原因である7).急性内斜視は,発症が急性であり,突然自覚症状が出現することを特徴とし,典型的には,片眼遮閉後などに発症する8).輻湊けいれんは縮瞳とともに調節けいれんを伴う過度の近見反応が内斜視の原因である.輻湊けいれんでは両眼視をした状態で行うむき運動で外転制限があり,単眼で行うひき運動では眼球運動障害を認めないという特徴がある9).さらに近視性後天性内斜視と輻湊けいれんの鑑別には,調節けいれんの有無を検査することが有用と考えられるが,近視性後天性内斜視の調節機能を検査した報告は知る限りまだない.今回筆者らは,近視性後天性内斜視と診断された症例に調節機能検査と立体視機能検査を行い若干の知見を得たので,考察を加えて報告する.CI対象および方法1.対象対象は京都府立医科大学附属病院眼科をC2015年C1月.2016年C7月に受診し,近視性後天性内斜視と診断された症例のなかで,負荷調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR:ニデック)により調節機能検査を実施したC5症例〔男性C2例,女性C3例:年齢C14.27(19.4C±5.3)歳〕である.近視性後天性内斜視の定義は既報と同様であり,近視眼に後天性に発症した共同性内斜視で,中枢性病変を伴う症例や,眼球運動制限のある症例,眼球後部の筋円錐からの脱臼により生じる強度近視性内斜視の症例,また明らかに輻湊けいれんである症例を除外した2).中枢性病変の有無および強度近視性内斜視を除外するにため,頭部および眼窩部CMRIを撮影した.山口らと同様の手法を用いて眼球脱臼角(偏位角)の拡大を判定することで,他覚的に強度近視性内斜視を除外した6,10).また,すべての症例において,加藤らの報告と同様にプリズム順応テスト(prismCadaptationtest:PAT)を行い,術量を決定し内直筋後転・外直筋前転術を施行した11).C2.検.討.項.目全症例に以下の検査を行った.1.患者背景(初診時所見),C2.術前の調節機能検査,3.術前の眼球運動検査,4.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角,5.術前後の立体視機能検査Ca.患者背景(初診時所見)発症から受診に至るまでの期間,近見作業の有無および屈折矯正状況についての問診を行い,1%シクロペントレートによる調節麻痺下他覚的等価球面屈折度数を測定した.Cb.術前の調節機能検査調節機能は負荷調節レフ(ARK-1sCR)を用いて測定した.このCARK-1sCRは内部視標の屈折度を変化させながらC1秒間におよそC12回(83.5Cmsecごと)に屈折度を測定し,視標を追従する際の調節動態を測定する.測定条件は,被験者のオートレフ値をもとにC2.0D遠方の視標を用いた雲霧をC30秒行う.その後,視標の移動速度は静的特性を失わない毎秒0.2DずつC50秒間(10D)近方へ視標を移動(緊張期)させ,同じく毎秒C0.2秒ずつ遠方へ視標を移動(弛緩期)させる12).最後にC2.0D遠方の雲霧状態をC10秒間保つことで検査は終了となる.この間に屈折変動を測定することで得られる負荷調節グラフの波形により調節の準静的特性および動的特性を他覚的にとらえることができる.本項では,緊張期・弛緩期の被験者の屈折度の波形形状および安静時調節変動量(雲霧時の屈折度の標準偏差のC2倍)を算出した11).Cc.術前の眼球運動検査術前の眼球運動検査としてCHessチャートを使用した.Cd.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角斜視角の測定は,まずC1%シクロペントレートによる調節麻痺薬の使用下に屈折検査を行い,必要に応じて眼鏡を処方した.調節麻痺下の屈折検査を行った時点から,手術直前の斜視角の測定まで完全矯正眼鏡を装用し,完全屈折矯正下で交代プリズムカバーテストにより術前の斜視角を測定した.また,斜視手術前にCPATを既報のとおり行って最大斜視角(PAT後斜視角)を測定した11).さらに再現性を確認するため,検査日を変えてC2回以上同様にCPATを行い,PAT後斜視角の変動がないことを確認し,その値に応じて内直筋後転・外直筋前転術を施行した.PATの方法は以下のとおりである.C1.調節麻痺下の自覚的屈折度の眼鏡を装用C2.遠方の交代プリズムカバーテストで得られた斜視角をフレネル膜プリズムで装用C3.30分以上経過した後に,斜視角を再検C4.斜視角の増加がみられる場合にプリズムを増加し時間をおいて再検膜プリズム装用後にはバゴリーニ線状レンズで融像が得られることを確認した.また,プリズムを増加した時点で外斜位もしくは外斜視になった場合にはその一つ前の角度を最大斜視角とした.表1近視性後天性内斜視(年齢,性別,屈折度,発症前後の屈折矯正状況)症例年齢(歳)発症から受診までの期間性別調節麻痺下他覚的等価球面屈折度(D)発症前眼鏡度数(D)発症前屈折矯正近見作業右眼左眼右眼左眼C①C142年男C.7.00C.6.38C.5.25C.5.50眼鏡機会装用裸眼にてしばしばC②C143週間男C.5.25C.4.38C.3.00C.3.00眼鏡機会装用裸眼にてしばしばC③C185カ月女C.5.38C.5.00C.5.00C.4.50SCL常用とくに多い自覚はなしC④C242年女C.3.25C.2.88C.3.00C.3.00眼鏡常用頻度は多いC⑤C273年女C.2.25C.1.88C.2.13C.1.50眼鏡機会装用PC作業が増加していたe.術前後の立体視機能立体視検査はCTitmusstereotest(TST)を術前および術後最終受診時にそれぞれ施行した.CII結果1.患者背景(初診時所見)近方視では融像可能であるが,遠方視にて全例で複視を生じていた.複視の発症から増悪のため受診するまでにC18.2C±14.9カ月(3週間.3年)が経過していた(表1).1%シクロペントレートによる調節麻痺下他覚的等価球面屈折度は右眼.4.53±1.66(C.2.25.C.7.00)D,左眼C.4.00±1.58(C.1.88..6.38)Dであった(表1).うちC2例ではC0.5.2.0D程度低矯正の眼鏡を装用していた(表1).また,症例③を除くC4例では学業・電子機器使用に伴う近見作業時間が長時間であったと自覚していた.C2.術前の調節機能検査全症例において調節負荷時の波形は図1に示すとおり正常であった.また,安静時調節変動量は,右眼C0.32C±0.11(0.16.0.50)D,左眼C0.28C±0.12(0.14.0.50)Dであった.一般に安静時調節変動量は0.5D以内が正常とされており,全例で正常であった(図1).C3.内直筋後転・外直筋前転術前後の斜視角内直筋後転・外直筋前転術前に交代プリズムカバーテストにより得られた斜視角は遠見で+36.8±7.1Δ,近見で+38.0C±10.3Δであった.また,PAT後斜視角は遠見・近見ともに+57.0±6.0Δであった(表2).PAT後斜視角に応じて術量はC4例では内直筋後転術C6mm・外直筋前転術C7Cmm,1例では内直筋後転術C6Cmm・外直筋前転術C8Cmmで施行した(表2).術後観察期間はC9.4C±4.8カ月(1.14カ月)であった(表2).1例は術直後に通院が途絶えたが,その他のC4例ではC7カ月以上経過観察が可能であった.そのC4例における術後最終観察時点での眼位および斜視角は,遠見+1.0±4.6Δの内斜位,近見で+4.0±7.5Δの内斜位であった(表2).遠見・近見ともに外斜位となる症例をC1例認めたが,残りのC3例は図1各症例における調節機能検査結果各症例のCARK-1sCRを用いて得られた調節力波形.安静時調節変動は小さく,他覚的調節刺激に応じて適切な調節応答を認める.表2近視性後天性内斜視(PAT前後眼位,術眼,術式・術量,術後眼位,術後立体視,術後観察期間)症例PAT前眼位(Δ)PAT後眼位(Δ)術眼術式最終受診時眼位(Δ)立体視(TST)(秒)術後経過観察期間(月)遠見近見遠見近見遠見近見術前術後C①C49C51C65C65右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCXP6CXP8F(.)F(+)A(C3/3)C(C4/9)C7C②C40C49C60C60右眼CRMRc6Cmm+RLRs8Cmm正位CEPlOF(.)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C1C③C35C35C60C60左眼CRMRc6Cmm+RLRs7Cmm正位CEP4F(.)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C14C④C30C30C50C50右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCEP4CEP12F(.)F(+)A(C3/3)C(C3/9)C12C⑤C30C25C50C50右眼CRMRc6Cmm+RLRs7CmmCEP6CEP8F(+)A(C3/3)C(C9/9)F(+)A(C3/3)C(C9/9)C13PAT:prismadaptationtest,RMRc:内直筋後転術,RLRs:外直筋前転術,EP:内斜位,XP:外斜位,TST:Titumsstereotest(F:.y,A:animal,C:circle).わずかに内斜位となっていた.また,全例において複視は消失した.C4.術前の眼球運動術前に施行したCHessチャートでは,全症例で眼球運動制限を認めなかった.C5.術前後の立体視検査TSTは斜視手術前にはC4例においてC.y(C.),animal(0/3),circle(0/9)ときわめて不良であったが,1例では術前のCTSTではC.y(+),animal(3/3),circle(9/9)と良好であった(表2).そして術後最終観察時C9.4C±4.8カ月(1.14カ月)に施行したCTSTでは,全例でCanimal(3/3)あるいはCcircle(5/9)以上と正常な立体視機能を有していた(表2).CIII考察近視性後天性内斜視のC5例に対して,ARK-1sCRを用いて調節機能を測定したところ,安静時調節変動量,調節波形ともに正常範囲であり調節けいれんを認める症例はなく,術後の両眼視機能も正常範囲内であった.近視性後天性内斜視の機序は明らかになっていないが,過去の類似した症例の報告では,近見作業過多,精神的ストレスなどが一因としてあげられている.屈折矯正による治療で反応する報告もあり,近見作業や不適切な矯正なども内斜視発症に関与している可能性がある14,15).近方視で融像することが多いと開散することが少なく,次第に開散機能不全となりやがて筋が器質的に変化して固定化し,開散不全型の内斜視となる可能性が考えられている4,5).今回,筆者らの経験したC5例のうちC2例では適切な屈折矯正であったが,3例では近視を有するが眼鏡装用の機会が少なく,そのうちC2例は低矯正であった.また,4例は近見作業が多かったと自覚していた.今回の症例の多くが不十分な屈折矯正や近見作業の過多を自覚しており,近視性後天性内斜視の発症と関連する可能性がある.今回,明らかな調節麻痺,調節不全,調節けいれんの所見を示した例はなく,近視性後天性内斜視の病態に基本的に調節は関与していないことが示された.筆者らが使用したCARK-1sRは,単眼視での測定であり,輻湊の関与は少ないことと,斜視手術による調節機能への影響は少ないものと考えられる.また,術後の眼位の回復とともに立体視機能が改善していることから,もともとは良好な立体視機能を有していることが明らかになった.近視性後天性内斜視の発症は,調節機能,両眼視機能が良好な若年者が過度の近業作業(スマートフォンの使用など)に加えて,近視患者の低・未矯正のため,調節と輻湊のアンバランスが安静時眼位に影響を与えるのではないかと筆者らは予想している12.15).まず遠方視時の内斜視で発症し,低矯正の近視では近見に何ら支障がないまま経過するため,ますます長時間の近見作業を継続することで眼位が悪化し,間欠性内斜視の時期を経た後に恒常性内斜視となる4,5).したがって,調節そのものの異常ではなく,調節せずに近見作業を継続することが斜視の原因になったと考えられる.今回の症例においても,調節機能検査により調節けいれんの関与は認めなかった.今回は症例数がC5例と少なく,今後さらに症例数を増やして検討を続ける必要がある.また,検討で用いた調節測定機能付きレフケラトメータ(ARK-1sCR)による調節力検査は,病態に調節機能の関与の有無を判別するのに有用である.ただし,両眼開放下での検査ではないため,輻湊と調節の関連性の検出には限界がある.近視性後天性内斜視の増悪時の症状は複視の自覚であり,急性内斜視と厳密に鑑別することが困難な症例も存在する.今後さらなる検討を重ね,調節と輻湊の不一致が内斜視の原因となるメカニズムを解明する必要がある.今回の検討から,近視性後天性内斜視では,調節機能は正常であり,斜視手術後の立体視機能も良好で,調節や両眼視機能異常の関与する内斜視とは異なる病態であることが示唆された.文献1)vonCNoordenCGK,CCamposEC:BinocularCvisionCandCocu-larmotility,6thed,p328,Mosby,St.Louis,20022)鎌田さや花,稗田牧,中井義典ほか:近視性後天性内斜視の臨床像と手術成績.眼紀11:811-815,C20183)村上環,曹美枝子,富田香ほか:近視を伴う後天内斜視の検討.日視会誌21:61-64,C19934)川村真理,田中靖彦,植村恭夫:近視を伴う後天性内斜視のC5例.眼臨81:1257-1260,C19875)Duke-ElderCS,CWyberK:ConvergentCconcomitantCstra-bismus,Cesotropia.In:SystemCofCOphthalmologyVI(edCbyCDuke-ElderS)C,Cp605-609,CHenryCKimptom,CLondon,C19736)YamaguchiCM,CYokoyamaCT,CShirakiK:SurgicalCproce-dureCforCcorrectingCglobeCdislocationCinChighlyCmyopicCstrabismus.AmJOphthalmolC149:341-346,C20107)今井小百合,高崎裕子,三浦由紀子ほか:開散麻痺が疑われた内斜視に対するプリズム治療.日視会誌C33:145-151,C20048)ClarkCAC,CNelsonCLB,CSimonCJWCetal:AcuteCacquiredCcomitantesotropia.BrJOphthalmolC73:636-638,C19899)AnagnostouCE,CKatsikaCP,CKemanetzoglouCECetal:TheCabductionCde.citCofCfunctionalCconvergenceCspasm.CJCNeu-rolSciC363:27-28,C201610)宮谷崇史,稗田牧,石田学ほか:強度近視性の内下斜視に対する片眼上外直筋結合術後の斜視残存症例の検討.日眼会誌122:379-384,C201811)加藤晃弘,稗田牧,中井義典ほか:PrisamCAdaptationTestにより術量決定を行った内斜視の術後成績.あたらしい眼科30:419-422,C201312)鵜飼一彦,石川哲:調節の準静的特性.日眼会誌C87:C1428-1434,C198313)中村葉,中島伸子,小室青:調節安静位の調節変動量測定における負荷調節レフCARK-1sの有用性について.視覚の科学37:93-97,C201614)宮部友紀,竹田千鶴子,菅野早恵子ほか:眼鏡とフレネル膜プリズム装用が有効であった近視を伴う後天性内斜視の2例.日視会誌28:193-197,C200015)WebbCH,CLeeJ:AcquiredCdistanceCesotropiaCassociatedCwithmyopia.Strabismus12:149-155,C2004***

眼窩悪性リンパ腫の組織分類と治療予後の検討

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1209.1212,2019c眼窩悪性リンパ腫の組織分類と治療予後の検討小橋晃弘*1,2渡辺彰英*1中山知倫*1山中亜規子*1外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2町田病院CHistopathologicalDiagnosisandTreatmentPrognosisofOrbitalLymphomaAkihiroKobashi1,2)C,AkihideWatanabe1),TomonoriNakayama1),AkikoYamanaka1)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefectualUnivarsityofMedicine,2)MachidaHospitalC目的:眼窩悪性リンパ腫を病理診断に基づき分類し,その治療予後を検討する.方法:2009年C1月.2016年C12月に京都府立医科大学附属病院眼科にて眼窩腫瘍生検・摘出術を施行し,病理診断が悪性リンパ腫であったC60例について,病理診断をもとに組織型を分類し,眼窩内での局在部位と組織型,治療予後について検討した.結果:組織型はMALTリンパ腫(MALT)31例,びまん性大細胞型CB細胞性リンパ腫(DLBCL)18例,濾胞性リンパ腫C6例,マントル細胞リンパ腫C1例,NK/T細胞リンパ腫C1例,その他C3例であった.局在部位は涙腺部がC26%ともっとも多かった.当院で経過観察されたC37例の治療予後は,完全寛解率はCMALT60%,DLBCL83%,濾胞性リンパ腫C33%であり,放射線療法を使用した場合,MALT86%(化学療法のみではC71%),DLBCL100%であった.結論:眼窩悪性リンパ腫の組織型と局在部位の特徴は診断において有用となりうる.放射線療法の治療効果は高く,腫瘍が限局している早期の段階で治療を行うことが重要である.CPurpose:ToclassifyorbitalmalignantlymphomaaccordingtothehistopathologicaldiagnosisandinvestigatepatientCprognosis.CMethod:WeCretrospectivelyCinvestigatedC60CpatientsCwhoCwereCdiagnosedCwithClymphomaCatCKyotoPrefecturalUniversityofMedicinebetweenJanuary2009andDecember2016.Ofthe60patientswhowerefollowedupatourhospital,37wereinvestigatedastoprognosis.Result:Histopathologicaldiagnosesweremuco-sa-associatedClymphoidtissue(MALT)lymphoma(31cases)C,Cdi.useClargeCB-celllymphoma(DLBCL)(18cases)C,Cfollicularlymphoma(6cases)C,CmantleCcelllymphoma(1case)C,CNK/TCcelllymphoma(1case)andCotherCtypesCoflymphoma(3cases)C.CTheCmostCfrequentClocationCwasCtheClacrimalgland(26%)C.CTheCcompleteCresponseCrateCwas60%inMALT,83%inDLBCLand33%infollicularlymphoma.Conclusion:Thecharacteristicsofhistopathologyandlocationoforbitallymphomawereusefulfordiagnosis.Radiotherapywase.ectiveforearlystagelymphoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(9):1209.1212,C2019〕Keywords:眼窩リンパ腫,組織分類,眼窩内局在,治療予後.orbitallymphoma,histopathologicaldiagnosis,or-bitallocation,treatmentprognosis.Cはじめに眼窩原発の悪性リンパ腫は頻度こそ少ないものの,生命を脅かす可能性もある疾患である.一般的に眼窩悪性リンパ腫ではCmucosa-associatedlymphoidtissue(MALT)リンパ腫が多く,予後は良好とされているが,眼窩悪性リンパ腫における他の組織型に関する報告は少ない.眼窩悪性リンパ腫の組織型を分類し,その部位や頻度などの特徴を把握すること,また各組織型の治療予後を理解することは,今後の治療方針を立てるうえでも有益である.今回,過去C8年間に病理診断の確定した眼窩悪性リンパ腫C60例を対象に,組織分類と治療予後について検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2009年C1月.2016年C12月に京都府立医科大学附属病院(以下,当院)眼科にて眼窩腫瘍生検・摘出術を施行し,病理診断が悪性リンパ腫であったC60例(男性C30例,女性C30例,平均年齢C74.7C±9.5歳,年齢範囲C49.98歳)であ〔別刷請求先〕小橋晃弘:〒780-0935高知県高知市旭町C1-104医療法人旦龍会町田病院Reprintrequests:AkihiroKobashi,M.D.,MachidaHospital,1-104Asahi-machi,Kouchi-shi,Kouchi780-0935,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(107)C1209る.これらの眼窩悪性リンパ腫症例の組織型,局在部位,治療開始前の病期,治療後の経過について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.病期分類は,病理診断後に骨髄検査,PET(positronCemissiontomography)検査,CT(computedCtomography)検査などの全身検査を施行し,AnnArbor分類に基づいて決定した.腫瘍の局在部位は眼窩部CMRI(magneticresonanceimag-ing)において,眼窩内の筋円錐外を耳上側(涙腺部を含まない),涙腺部,耳下側,鼻上側,鼻下側のC5象限に分け,眼窩筋円錐内,涙.部と合わせてC7カ所のうち腫瘍の中心部が位置する部分とした.病期確定後の治療は当院血液内科が主体として行い,年齢,病期,組織型を基準に患者との相談により治療方法が決定された.治療方法は化学療法単独,放射線療法単独,化学療法+放射線療法,無治療で経過観察のC4通りが選択された.治療効果判定については治療終了後,造血器腫瘍ガイドラインC2013年度版に基づき行われ,PETを施行している症例ではCPETを加味した効果判定を,施行していない症例はCTのみ,PETを加味しないものとして効果判定を行った.腫瘍サイズは眼窩部CMRIにおいて腫瘍の水平断,冠状断,矢状断それぞれの最長径和が治療後にC30%以上減少したものを縮小とした.CII結果病理組織型はCMALTがC31例(52%)ともっとも多く,びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫(di.useClargeCB-cellClym-phoma:DLBCL)がC18例(30%),濾胞性リンパ腫がC6例(10%),マントル細胞リンパ腫,NK/T細胞リンパ腫がC1例(1.7%),その他がC3例(5.0%)であった(表1).局在部位は全体では涙腺部がC16例(27%)ともっとも多く,鼻上側がC11例(18%)でC2番目,耳上側がC9例(15%)でC3番目に多かった.鼻下側はCMALT,涙.部はCDLBCLのみであった(表1).両側性はC5例のみで全例CMALTであった.治療前の病期分類ではCIE期がC28例(47%)ともっとも多く,IV期がC8例(13%)とC2番目に多かった.16例については精査途中や他院で経過観察となったため病期不明であった(表2).A,B分類は全例CA分類であった.当院で治療また経過観察となり,治療効果判定を施行できた症例はC37例(男性C20例,女性C17例,平均年齢C74.3C±8.2歳)であった.組織型はCMALTがC20例,DLBCLがC12例,濾胞性リンパ腫がC3例,NK/T細胞リンパ腫がC1例,マントル細胞リンパ腫がC1例であった.治療方法はC20例に化学療法,10例に放射線療法,3例に化学療法+放射線療法,4例が無治療経過観察であった.いずれの組織型においても化学療法がもっとも多く施行されていた.治療効果判定について(表3),37例の平均観察期間はC32.3C±22.9カ月(6.87カ月)であった.MALTではCcompleteresponse(CR)がC12例(60%)ともっとも多かった.また,PETを加味しない場合のステージングではCpartialresponse(PR)のC4例がCcom-pleteresponse/uncon.rmed(CRu)となり,CR+CRuはC16例(80%)となった.治療法別では放射線療法単独でCCRC4例(57%),PR2例(29%),転移C1例(14%),化学療法単独でCCR6例(55%),PR2例(18%),stabledisease(SD)2例(18%),死亡C1例(9%)であり,無治療経過観察のC2例はともにCCRであった.DLBCLではCCRはC10例(83%)で,初回治療後に転移を認めたC2例は再治療後にそれぞれCR,PRとなった.治療法別では放射線療法単独のC2例ともCR,化学療法単独でCCR5例(71%),PR1例(14%),死亡C1例(14%),化学療法+放射線療法のC3例ともCCRであった.濾胞性リンパ腫のCCRはC33%であった.治療法別の腫瘍が縮小した割合についてはCMALT,DLBCLともに放射線療法単独および化学療法との併用のいずれもC100%であった.化学療法単独ではCMALTがC11例中C7例(64%),DLBCLがC7例中C6例(86%)であった.経過観察中に死亡した症例はC2例で,1例はCIV期のMALTでリツキシマブ併用化学療法施行C6カ月後に心不全により死亡となった.もうC1例はCIE期のCDLBCLでリツキ表1組織型ごとの局在部位(人)局在部位耳上側涙腺部耳下側鼻上側鼻下側涙.部筋円錐内計CMALTC4C9C4C4C6C4C31CDLBCLC2C4C3C3C2C4C18濾胞性C2C3C1C6マントルC1C1NK/T細胞C1C1その他C1C2C3計C9C16C7C11C6C2C9C60MALT:MALTリンパ腫,DLBCL:びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫,マントル:マントル細胞リンパ腫,NK細胞:NK/T細胞リンパ腫.C1210あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019(108)表2組織型ごとの治療前病期(人)治療前病期CIECIIECIIIECIV不明計CMALTC20C3C2C6C31CDLBCLC5C2C2C4C5C18濾胞性C2C1C1C2C6マントルC1C1NK/T細胞C1C1その他C3C3計C28C5C3C8C16C60MALT:MALTリンパ腫,DLBCL:びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫,濾胞性:濾胞性リンパ腫,NK/T細胞:NK/T細胞リンパ腫,マントル:マントル細胞リンパ腫表3治療効果判定結果CR(人)PR(人)SD(人)転移(人)死亡(人)計(人)CR率(%)CMALTCDLBCLC濾胞性Cその他C12C4C2C1C1C10C1C1C1C2C1C1C20C12C3C2C60C833350計C24C5C2C4C2C37C65CR:completeCresponse,PR:partialCresponse,SD:stableCdisease.MALT:MALTリンパ腫,DLBCL:びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫,濾胞性:濾胞性リンパ腫,その他:NK/T細胞リンパ腫がCR,マントル細胞が転移.表4死亡した2症例の詳細組織型年齢性別局在部位病期治療経過観察期間死因CMALT75歳女性涙腺部CIVリツキシマブ併用化学療法6カ月心不全CDLBCL73歳男性筋円錐内CIEリツキシマブ併用化学療法14カ月不明MALT:MALTリンパ腫,DLBCL:びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫.シマブ併用化学療法施行C14カ月後に死亡となり死因は不明であった(表4).CIII考按眼窩原発悪性リンパ腫の組織型については複数の既報があるが,MALTがもっとも多く,DLBCLや濾胞性リンパ腫がC2番目に多いといった報告1,2)が多く,今回の結果とも一致している.局在部位については,涙腺部がC27%ともっとも多く,鼻上側と耳上側も合わせると半数以上が上方に局在しており,過去の報告3,4)とも一致していた.組織型と局在部位の関連を検討すると,局在する割合がもっとも多い涙腺部ではC16例中C9例(56%)がCMALT,耳上側でもC9例中C4例(44%)がCMALTであり,涙腺部を含めた耳上側付近の悪性リンパ腫ではCMALTの可能性が高いと考えられる.筋円錐内ではMALTとCDLBCLはいずれもC9例中C4例(44%)と差は認めなかった.また,濾胞性リンパ腫は全例が上側あるいは涙腺部に局在していた.比較的悪性度の高い組織型の腫瘍は涙腺部以外に発生ことが多い傾向にあると考えられる.また,鼻下側はC6例全例がCMALT,涙.部はC2例ともCDLBCLであった.今回の検討ではこれらの部位で組織型がC1種類のみであり,鼻下側にCMALTが多いことは,眼窩内悪性リンパ腫の特徴であると考えられる.こうした眼窩原発リンパ腫の組織型と局在部位の関係性は診断における補助的な情報となる可能性がある.MALTの治療予後については,放射線治療単独やリツキシマブなどの化学療法を併用した報告が複数あげられており,放射線療法やリツキシマブ単独あるいは化学療法との併用でのCCR率はC82.99%5.7)と良好な結果が示されている.今回の検討ではCMALTのCCRがC60%と既報よりも低い結果であったが,病期がCIIE期以上の症例を含んでいることや治療効果判定にCPETの結果を加味しているため,骨髄浸潤が(109)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1211不確定であるがCPET陽性の場合,CRuがCPRとなっていることが要因とも考えられる.PETを加味しない場合,PRのうちC4例がCCRuとなり,CR+CRu率はC80%と既報に近い値となる.今回の検討では治療が行われたCIE期C14例においてCPETを加味した場合,放射線療法単独とリツキシマブを使用した場合のCCR率はいずれもC57%であったが,PETを加味しない場合CCR+CRu率は放射線療法単独がC86%,リツキシマブ使用でC71%と放射線療法のほうが良好な結果であり,腫瘍が眼窩部に限局している早期の段階では放射線療法が有用と考えられる.DLBCLの予後について,DLBCL単独のCCR率に関する報告が少なく比較は十分にできていないが,今回の検討ではCR率がC83%と高い結果であった.治療法は放射線療法単独あるいは化学療法と放射線療法の全例でCCRとなっており,DLBCLに放射線療法を治療に取り入れることは有効である可能性がある.しかし,現在の標準治療はCI期の場合,MALTや濾胞性リンパ腫では放射線療法,DLBCLやCT細胞系のリンパ腫ではCR-CHOPなどの化学療法であり,II期以上となればいずれの組織型でも化学療法が標準的治療である.治療法の選択や予後については個々の背景因子も考慮しながら慎重に検討すべきである.MALTのC5年生存率は病期や治療法によっても異なるが,83.100%と良好な予後が示されている6.11).一方でCDLBCLはC5年生存率9.43%12)とCMALTと比較すると予後は悪い.今回の検討では全体での平均観察期間がC32.3カ月と短いため,5年生存率について既報との比較はできなかった.経過中,MALTとCDLBCLでC1例ずつ死亡した症例を認めたが,死因は心不全と死因不明であり腫瘍死は認めなかった.眼窩CMALTリンパ腫は,とくに放射線治療の適応となる腫瘍が限局している状態で治療効果が高いとされる.今回の検討での死亡C2例のうちC1例は病期がCIV期であり,腫瘍死ではないが,化学療法の副作用といった腫瘍関連死の可能性はあり,早期発見・早期治療のために,各組織型の局在部位などの臨床的特徴を参考にしながら眼窩部CMRIや生検術を積極的に施行すべきである.今後は眼窩悪性リンパ腫の詳細な予後を検討するために,症例数を増やした長期の経過観察が必要である.また,MALT以外の組織型に関しては,過去の報告も少なく,多施設共同研究などを今後検討していく必要があると考えられた.文献1)FerryJA,FungCY,ZukelbergLetal:Lymphomaoftheocularadnexa;ACstudyCofC353Ccases.CAmCJCSurgCPatholC31:170-184,C20072)瀧澤淳,尾山徳秀:節外リンパ腫の臓器別特徴と治療眼・眼付属器リンパ腫.日本臨牀C73(増刊号C8):614-618,C20153)PriegoCG,CMajosCC,CClimentCFCetal:Orbitallymphoma:Cimagingfeaturesanddi.erentialdiagnosis.InsightsImag-ingC3:337-344,C20124)田中理恵,小島孚允:眼窩リンパ増殖性疾患C85例のCMRI画像の検討.臨眼67:1155-1159,C20135)KiesewetterB,LukasJ,KucharAetal:Clinicalfeatures,treatmentCandCoutcomeCofCmucosa-associatedClymphoidtissue(MALT)lymphomaCofCtheCocularadnexa:singleCcenterCexperienceCofC60Cpatients.CPLoSCONEC9:e104004C1-8,C20146)MaWL,YaoM,LiaoSLetal:ChemotherapyaloneisanalternativeCtreatmentCinCtreatingClocalizedCprimaryCocularCadnexallymphomas.Oncotarget8:81329-81342,C20177)GodaCJS,CLeCLW,CLapperriereCNJCetal:LocalizedCorbitalCmucosa-associatedClymphomaCtissueClymphomaCmanagedCwithprimaryradiationtherapy:e.cacyandtoxicity.IntJRadiatBiolPhysC81:e659-e666,C20118)岡本全弘,松浦豊明,小島正嗣ほか:眼付属器CMALTリンパ腫C10例の検討.臨眼C63:695-699,C20099)TanimotoCK,CKanekoCA,CSuzukiCSCetal:Long-termCfol-low-upCresultsCofCnoCinitialCtherapyCforCocularCadnexalCMALTlymphoma.AnnOncolC17:135-140,C200610)HasegawaCM,CKojimaCM,CShioyaCMCetal:TreatmentCresultsCofCradiotherapyCforCmalignantClymphomaCofCtheCorbitCandChistopathologicCreviewCaccordingCtoCtheCWHOCclassi.cation.CIntCJCRadiatCPncolCBiolCPhysC57:172-176,C200311)HashimotoCN,CSasakiCR,CNishimuraCHCetal:Long-termCoutcomeandpatternsoffailureinprimaryocularadnexalmucosa-associatedClymphoidCtissueClymphomaCwithCradio-therapy.CIntCJCRadiatCOncolCBiolCPhysC82:1509-1514,C201212)RasmussenPK,RalfkiaerE,PlauseJUetal:Di.uselargeB-cellClymphomaCofCtheCocularCadnexalregion:aCnation-basedstudy.ActaOphthalmolC91:163-169,C2013***1212あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019(110)

脈絡膜骨腫に伴う脈絡膜新生血管がベバシズマブ硝子体注射により退縮した経過をOCT Angiographyで描出した1例

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1204.1208,2019c脈絡膜骨腫に伴う脈絡膜新生血管がベバシズマブ硝子体注射により退縮した経過をOCTAngiographyで描出した1例北原潤也*1星山健*1,2榑沼大平*1田中正明*1京本敏行*1,2吉田紀子*1村田敏規*1*1信州大学医学部眼科学講座*2長野赤十字病院眼科CACaseofChoroidalOsteomawhoseChoroidalNeovascularizationwasVisualizedbyOpticalCoherenceTomographyAngiographyJunyaKitahara1),KenHoshiyama1,2),TaiheiKurenuma1),MasaakiTanaka1),ToshiyukiKyoumoto1,2),NorikoYoshida1)andToshinoriMurata1)1)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShinshuUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,NaganoRedCrossHospitalC目的:脈絡膜骨腫に伴う脈絡膜新生血管(CNV)をCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomographyCangiography(SS-OCTA)で検出し,ベバシズマブ硝子体注射によるCCNVの治療経過を確認できた症例を報告する.症例および経過:20歳,女性.左眼の歪視を自覚し前医を受診.左脈絡膜骨腫と診断され当科紹介.初診時,左眼矯正視力(0.4)でありCOCTで中心窩に漿液性網膜.離(SRD)を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では黄斑部にCCNVの存在が疑われる過蛍光が存在した.SS-OCTAで同部位にCCNVが明瞭に描出された.同日に左眼にベバシズマブ硝子体注射を施行.治療C2カ月後にCSRDは消失し左眼矯正視力は(1.0)に改善した.OCTAでは黄斑部のCCNVの退縮が確認できた.7カ月後もCOCTAでCCNVの再発は認めず良好な視力を維持している.結論:脈絡膜骨腫に伴うCCNVやSRDにより視力低下をきたしても抗CVEGF療法により視力の改善を期待できる.OCTAは脈絡膜骨腫に続発したCNVを鮮明に描出できるため,診断や治療の経過を追ううえで有用なツールである.CPurpose:Wereportacaseofchoroidalosteomawhosechoroidalneovascularization(CNV)wasvisualizedbyswept-sourceCopticalCcoherencetomographyCangiography(SS-OCTA)andCtreatedCwithCintravitrealCbevacizumab(IVB).Case:A20-year-oldfemalepresentedwithmetamorphopsiainherlefteye.Atalocaleyeclinic,shewasdiagnosedwithCOandwasreferredtoourhospitalbecauseofdecreasedvisualacuity.At.rstvisittoourhospi-tal,herleftvisionacuitywasdecreasedto0.4andOCTshowedserousretinaldetachment(SRD)inthefovea.WevisualizedCNVlocatedinthemaculawithSS-OCTA.WeadministeredIVBafterobtaininginformedconsent.By2monthsafterIVB,herleftvisualacuityhadimprovedandregressionofCNVwasobservedwithOCTA.Conclu-sion:CNVCsecondaryCtoCchoroidalCosteomaCwasCclearlyCdetectedCbyCOCTACandCsuccessfullyCtreatedCwithCanti-VEGFtherapy.OCTAisusefulfordetectionandfollow-upofCNVinchoroidalosteoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1204.1208,C2019〕Keywords:脈絡膜骨腫,光干渉断層血管撮影,脈絡膜新生血管,漿液性網膜.離,抗CVEGF療法,ベバシズマブ硝子体注射.choroidalosteoma,opticalcoherenttomographyangiography,choroidalneovascularization,serousreti-naldetachment,anti-VEGFtherapy,intravitrealbevacizumab.C〔別刷請求先〕北原潤也:〒390-8621長野県松本市旭C3-1-1信州大学医学部眼科学講座Reprintrequests:JunyaKitahara,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,ShinshuUniversity,3-1-1Asahi,Matsumoto,Nagano390-0304,JAPANC1204(102)e図1初診時の左眼の所見a:広角眼底写真.黄斑部を含む境界明瞭で黄白色の病変を認める.Cb:頭部単純CCT.左眼の眼底に骨と同程度の高吸収域(C.)を認める.Cc:Bモード超音波検査.高反射の病変(C.)とその後方に音響陰影を認める.d,e:OCT.黄斑部の脈絡膜に腫瘍性病変を認める.中心窩下にCSRDを認める.はじめに脈絡膜骨腫はCGassら1)が報告した比較的まれな脈絡膜原発の良性腫瘍である.若年女性の片眼,傍乳頭部に好発し,境界明瞭で黄白色の隆起性病変を呈し,緩徐に腫瘍が拡大することが特徴とされる.また,computedtomography(CT)で骨と同じ高吸収域と,Bモード超音波検査で音響陰影を伴う高反射域を認めることも特徴的である.脈絡膜骨腫は良性腫瘍ではあるが,10年間で約半数の症例が矯正視力(0.1)以下まで低下する2).その原因として脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV),漿液性網膜.離(serousCretinaldetachment:SRD),網膜下出血,病変下の網膜色素上皮(retinalCpigmentepithelium:RPE)の変性,病変の脱石灰化などがあげられるが,とくにCNVによる視力低下はC10年間で約C30%にも及ぶ2).脈絡膜骨腫の標準的な治療はいまだ確立されていないが,CNVやSRDといった合併症に対しては光線力学療法(photodynam-ictherapy:PDT),抗血管内皮増殖因子(vascularCendo-thelialgrowthfactor:VEGF)薬硝子体注射が有効であるといった報告が散見される3.5).また,近年の光干渉断層血管造影(opticalcoherencetomog-raphyangiography:OCTA)の登場により迅速で非侵襲的な網脈絡膜血管の構造評価が可能になり6),脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCOCTAで描出した症例も報告されている8.10).今回,黄斑部にまで進展した脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCswept-source光干渉断層血管造影(SS-OCTA)で鮮明に描出し,またベバシズマブ硝子体注射(intravitrealbevaci-zumab:IVB)によってCCNVが退縮したことをCOCTAで確認でき,かつ視力改善も得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:20歳,女性.主訴:左眼歪視,左眼視力低下.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2018年C1月頃より左眼の歪視を自覚,前医を受診し左眼脈絡膜骨腫と診断され経過観察されていた.2018年C4月初旬より左視力低下を認めたため当科紹介となった.初診時所見:視力は右眼C0.7(1.2C×sph.0.5D),左眼C0.4(矯正不能)で,眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C15CmmHgであった.両眼の角膜,前房,水晶体,硝子体,右眼の眼底には明らかな異常は認められなかった.広角眼底写真では,左眼の視神経乳頭から上方の血管アーケードにかけて黄斑部を含む形で境界明瞭な黄白色の病変が認められた(図1a).頭部単純CCT検査では病変は左眼眼底に骨と同程度の高吸収域として描出され(図1b),同部位はCBモード超音波検査では病変部は音響陰影を伴う高反射域として描出された(図1c).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では,左眼の黄斑部の脈絡膜に腫瘍性病変を認め,正常な脈絡膜血管構造はみられず,内部に一部高反射域を認めた(図1d).また,中心窩にはCSRDを認めた(図1e).フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では,脈絡膜骨腫に一致した過蛍光と黄斑部にCCNVの存在が疑われる蛍光漏出を認めた(図2a).インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyanineCgreenangiography:IA)でも,FA同様に黄斑部にCCNVと考えられる過蛍光を認めた(図2b).SS-OCTAはCCarlZeiss社のCPLEXCEliteC9000Rを用い,セグメンテーションは網膜外層からCchoriocapillar-iesに設定してCOCTA画像(6C×6Cmm)を取得した.OCTA図3IVB前後のOCTA画像a:初診時COCTAen-face画像.黄斑部にCCNVが描出されている.Cb:初診時COCTABスキャン画像.中心窩下にCCNVの血流を示すC.owsignalを認める.Cc,d:IVBよりC2カ月後のCOCTA画像.黄斑部のCNVの退縮と中心窩下のC.owsignalの消失を認める.Bスキャン画像で中心窩にCCNVの血流を示すC.owsignalが認められ(図3c),OCTAen-face画像では黄斑部にCCNVが鮮明に描出された(図3a).以上より視力低下の原因は脈絡膜骨腫に伴うCCNVによるCSRDであると診断した.経過:当科初診日に,脈絡膜骨腫に対する確立された治療法がないことを患者に十分に伝えたうえで,信州大学医学部附属病院倫理委員会承認のもとで行っているCIVBについて説明した.書面での同意が得られたので,脈絡膜骨腫とCNVがみられた左眼にCIVBを施行した.2カ月後にはCOCTでは中心窩のCSRDは消失しており(図2f),またCFAでは黄斑部の蛍光漏出の減少を認めた(図2d).OCTAでは黄斑部のCCNVの退縮を認め(図3b,d),左眼視力は(1.0)まで改善した.治療開始よりC7カ月後の現在もCSRDの再発はなく,OCTAではCCNVの中心窩下への進展は認められず良好な視力を維持して経過している.CII考按若年女性の脈絡膜骨腫症例にCCNVによるCSRDを合併した症例を経験した.FA/IAと異なり,SS-OCTAでは漏出による影響を受けないため,本症例ではCSS-OCTAでCCNVがより明瞭に検出できた.IVBを施行後,SRDは消失し良好な視力を得たが,その過程でCCNVの退縮する詳細な経過をCSS-OCTAで明瞭に描出可能であった.OCTAとは連続的なCOCT断層像を撮影し,得られた複数枚の画像間に存在する位相変化や信号強度変化を血流情報として抽出し,血管を画像化する技術であり,蛍光眼底造影検査で描出する血管ときわめて類似した血管画像を得ることができる6).蛍光眼底造影検査と異なり,静脈路確保や造影剤の静注が必要ないため非侵襲的でかつ迅速に撮影できるので,詳細な経過観察目的に頻回の検査を安全に大きな負担なく施行可能である.OCTAは網脈絡膜血管構造の評価が層別に行える点が優れている.造影剤を用いないので血管の透過性亢進の評価ができないという難点もあるが,漏出が同定されないため注目する血管の形状などを鮮明に描出できる利点もある.とくに脈絡膜骨腫においては,蛍光眼底造影検査では腫瘍自体が過蛍光であるため,合併症であるCCNVの検出が困難な症例もある.このような症例では,FA/IAで検出できなかったCCNVを,OCTAにより描出できたという報告もある10).脈絡膜骨腫に伴うCCNVの診断や,治療の経過を追ううえでCOCTAは有用な検査であると考えられる.SS-OCTAは従来のCspectraldomain(SD)-OCTAと比較して迅速に広角・高深達なCOCTA画像を取得することができる9).中心窩下にまで進展し視力低下の原因となった脈絡膜骨腫に続発したCCNVをCSS-OCTAで鮮明に描出し,かつIVBによりCCNVが退縮したことをCOCTAで確認でき,さらに視力改善も得られた症例の報告は,筆者らが知る限り初めてである.脈絡膜骨腫とその合併症に対する標準的な治療はいまだ確立されておらず,経瞳孔的温熱療法やCCNV抜去術,網膜光凝固術などによる治療が以前は行われていた.最近では,抗VEGF薬硝子体注射やCPDTをそれぞれ単独で,もしくは併用で治療することが多い6,7).Khanら3)は,中心窩にCSRDを認めるCCNVを合併した脈絡膜骨腫に対する抗CVEGF単独療法とCPDT併用抗CVEGF療法の比較をしており,PDTを併用することにより中心窩のCSRDの消退に必要な抗CVEGF薬注射の回数は減ると報告している.また,PDTは石灰化している病変部を脱石灰化させることで腫瘍の増大を予防できるとされている.脱石灰化は,脈絡膜骨腫内の海綿状血管が退縮することにより腫瘍内や辺縁に生じ,脱石灰化した病変部の外観は灰白色に変化する.この変化は自然経過でも生じる11)が,PDT12)や網膜光凝固術11)でも生じさせることができ,脱石灰化した病変部からは腫瘍は進展しないとされている2).しかし,脱石灰化した部分ではCRPEや脈絡膜毛細血管は萎縮し,また網膜外層の菲薄化し視細胞が喪失してしまうことが多い13).そのため,黄斑部に腫瘍が進展している症例では脱石灰化することにより非可逆的な視力低下をきたすおそれがあるのでPDTは適応になりにくい3,14).本症例においても,すでに黄斑部に脈絡膜骨腫病変が存在するためCPDTは避け,抗VEGF薬硝子体注射のみによる治療を選択した.脈絡膜骨腫に続発するCCNVとこれに伴うCSRDに対する抗CVEGF療法の有効性については多くの報告で言及されている3.5).腫瘍の圧迫によって引き起こされる脈絡膜毛細血管板の閉塞や,網膜虚血によるCVEGFの発現が,脈絡膜骨腫に伴うCCNVの発生機序に関与していると推測されており14),それがそのまま抗CVEGF療法が奏効する大きな理由であると考えられる.本症例でも抗CVEGF療法により黄斑部のCCNVの消退とCfeedervesselの退縮を認め,その様子をCOCTAで観察できたが,脈絡膜骨腫内の海綿状血管の大きな構造変化は観察することができなかった.前述したように腫瘍内の海綿状血管が退縮すると脱石灰化が生じるが,抗VEGF療法では脱石灰化を誘発しないとされる点からも,腫瘍内血管の退縮機序にCVEGFは大きくは関与していない可能性も示唆される.今後のCOCTAを用いた症例の蓄積により,脈絡膜骨腫のさらなる病態解析が期待される.Khanら3)の脈絡膜骨腫の治療成績をまとめた報告では,中心窩にCSRDを認める脈絡膜骨腫の症例に対して抗CVEGF療法を施行した結果,最終的にCSRDの消退を得た症例はC8例中C7例であったが,その経過中にC8例中C4例がCSRDの再発をきたし,その再発までの期間は治療開始より平均C10カ月後と報告している.本症例は治療開始よりC7カ月後の現在もCSRDの再発はなく良好な視力を維持しているが.再発のおそれは十分にあるため今後の慎重な経過観察が必要と考えられる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GassCJD,CGuerryCRK,CJackCRLCetal:ChoroidalCosteoma.CArchOphthalmolC96:428-435,C19782)ShieldsCCL,CSunCH,CDemirciCetal:FactorsCpredictiveCofCtumorCgrowth,CtumorCdecalci.cation,CchoroidalCneovascu-larization,CandCvisualCoutcomeCinC74CeyesCwithCchoroidalCosteoma.ArchOphthalmolC123:1658-1666,C20053)KhanCMA,CDeCroosCGC,CStoreyCOOCetal:OutcomesCofCanti-vascularCendothelialCgrowthCfactorCtherapyCinCtheCmanagementCofCchoroidalCneovascularizationCassociatedCwithchoroidalosteoma.RetinaC34:1750-1756,C20144)JangCJH,CKimCKH,CLeeCSJCetal:PhotodynamicCtherapyCcombinedwithintravitrealbevacizumabinapatientwithchoroidalneovascularizationsecondarytochoroidalosteo-ma.KoreanJOphthalmolC26:478-480,C20125)GuptaA,GopalL,SenPetal:Long-termresultsofintra-vitrealCranibizumabCforCosteoma-relatedCchoroidalCneovas-cularizationinachild.OmanJOphthalmolC7:78-80,C20146)MakitaCS,CHongCY,CYamanariCMCetal:OpticalCcoherenceCangiography.OptExpressC14:7821-7840,C20067)MillerAR,RoismanL,ZhangQetal:Comparisonbetweenspectral-domainandswept-sourceopticalcoherencetomog-raphyCangiographicCimagingCofCchoroidalCneovasculariza-tion.InvestOphthalmolVisSciC58:1499-1505,C20178)Clemente-TR,Cerda-IM,Gargallo-BAetal:Choroidalosteomawithchoroidalexcavationandassociatedneovas-cularmembrane:AnCOCT-angiographyCstudy.CArchCSocCEspOftalmolC93:242-245,C20189)AzadCSV,CTakkarCB,CVenkateshCPCetal:Sweptsource:CopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCfeaturesCofCchoroidalCosteomaCwithCchoroidalCneovascularCmembrane.CBMJCCaseCRep.doi:10.1136/bcr-2016-215899,C201610)ShenC,YanS,DuMetal:Assessmentofchoroidaloste-omaCcomplicatingCchoroidalCneovascularizationCbyCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CIntCOphthalmolC38:C1-6,C201811)TrimbleSN,SchatsH:Decalci.cationofachoroidaloste-oma.BrJOphthalmolC75:61-63,C199112)ShieldsCCL,CMaterinCMA,CMehtaCSCetal:RegressionCofCextrafovealchoroidalosteomafollowingphotodynamicther-apy.CArchOphthalmolC126:135-137,C200813)ShieldsCCL,CPerezCB,CMaterinCMACetal:OpticlalCcoher-enceCtomographyCofCchoroidalCosteomaCinC22Ccases.COph-thalmologyC114:e53-e58,C200714)高橋静,鈴木幸彦,陣内嘉浩ほか:両眼脈絡膜骨腫に脈絡膜新生血管を合併したC1例.臨眼70:695-702,C2016***

非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1198.1203,2019c非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果と安全性青木崇倫*1,2永田健児*1関山有紀*1中野由起子*1中井浩子*1,3外園千恵*1*1京都府立医科大学眼科学教室*2京都府立医科大学附属北部医療センター病院*3京都市立病院CE.cacyandSafetyofAdalimumabfortheTreatmentofRefractoryNoninfectiousUveitisTakanoriAoki1,2),KenjiNagata1),YukiSekiyama1),YukikoNakano1),HirokoNakai1,3)andChieSotozono1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,3)KyotoCityHospitalC目的:アダリムマブ(ADA)を導入した非感染性ぶどう膜炎の有効性と安全性の検討.対象および方法:京都府立医科大学附属病院でC2018年C6月までにCADAを導入したぶどう膜炎患者(男性C7例,女性C3例)を対象に,臨床像,ADA導入前後の治療内容,治療効果,副作用を検討した.結果:症例の平均年齢C48.2歳(10.75歳),平均観察期間19.4カ月,臨床診断はCBehcet病(BD)7例,Vogt-小柳-原田病(VKH)3例であった.導入理由はインフリキシマブ(IFX)から変更がC6例,免疫抑制薬の副作用がC1例,ステロイド・免疫抑制薬で難治がC3例であった.BDの眼炎症の発作頻度はCADA導入前の平均発作回数C4.8回/年で,導入後はC1.4回/年に減少した.VKHでは,ADA導入前の平均ステロイド量C9.8Cmgから,最終時C7.2Cmgに漸減できた.ADA導入後にCVKH再燃を認め,ステロイドを増量した例がC1例あった.また,BDのうち,1例が注射時反応,1例が効果不十分でCADA中断となった.結論:BDではCADAはCIFXと同等以上の効果が期待でき,VKHの再燃例では,ADA追加のみでは効果不十分でステロイドの増量が必要な場合があった.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofadalimumab(ADA)ineyeswithrefractorynoninfectiousuve-itis.PatientsandMethods:Thisretrospectivecaseseriesstudyinvolved10refractoryuveitispatients(7males,3females;meanage:48.2years)treatedCwithCADACatCKyotoCPrefecturalCUniversityCofCMedicineCuntilCJuneC2018,Cwithameanfollow-upperiodof19.4months.Results:DiagnosesincludedBehcet’sdisease(BD:7patients)andVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH:3patients);reasonsCforCadministrationCwereCswitchingCfromCin.iximab(IFX)toADA(n=6),Cimmunosuppressantside-e.ects(n=1),CandCinsu.cientCe.ectCofCbothCsteroidCandCimmuno-suppressant(n=3).ADAreducedthefrequencyofocularattacksinBDfrom4.8/yearto1.4/year,andoral-ste-roidCamountCinCVHKCfromC9.8CmgCtoC7.2Cmg.CTwoCBDCpatientsCdiscontinuedCADACdueCtoCallergyCandCinsu.cientCe.ect.Conclusions:InBD,ADAwasprobablyofequivalentorgreatere.ectthanIFX.InVKH,ADAalonewasofinsu.ciente.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1198.1203,C2019〕Keywords:アダリムマブ,ベーチェット病,Vogt-小柳-原田病,インフリキシマブ,ぶどう膜炎.adalimumab,CBehcet’sdisease,Vogt-Koyanagi-Haradadisease,in.iximab,uveitis.Cはじめに非感染性ぶどう膜炎に対する治療は,局所・全身ステロイドが中心であり,難治例には免疫抑制薬のシクロスポリン(cyclosporine:CsA)が使用可能である.2007年C1月よりベーチェット病(Behcet’sdisease:BD)に対して,生物学的製剤である腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisCfactorCa:CTNFa)阻害薬のインフリキシマブ(in.iximab:IFX)が保険適用となり,既存治療に抵抗を示す難治性CBDの有効性が示された1).さらにC2016年C9月には非感染性ぶどう膜炎に対して,完全ヒト型CTNFa阻害薬であるアダリムマブ(adali-〔別刷請求先〕青木崇倫:〒629-2261京都府与謝郡与謝野町男山C481京都府立医科大学附属北部医療センター病院Reprintrequests:TakanoriAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NorthMedicalCenter,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,YosagunYosanochoOtokoyama481,Kyoto629-2261,JAPANC1198(96)mumab:ADA)が保険適用となった.ステロイドや免疫抑制薬で抵抗を示す症例,さまざまな副作用で継続できない症例などの難治性非感染性ぶどう膜炎に対して,ADAの使用が可能になった.また,BDでもCIFXの使用できない症例やIFXの効果が減弱(二次無効)する症例などに対してCADAへの変更が可能となり,治療の選択肢が増えた.ADAは皮下注射のため,自宅での自己注射により病院拘束時間が短いことも有用な点である.これらのCIFXやCADAの眼科分野での生物学的製剤の認可により,難治性ぶどう膜炎に対して治療の選択肢が広がったが,新たな治療薬として実臨床での適応症例や,使用方法,効果,安全性の検討が必要である.そこで,京都府立医科大学附属病院(以下,当院)で経験したCADAの使用症例とその効果や安全性について検討した.CI対象および方法当院で,ADA導入した難治性ぶどう膜炎患者C10例(男性7例,女性C3例,導入時平均年C48.2C±19.6歳)を対象とし,ADAの有効性,安全性について,京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得てレトロスペクティブに検討した.ADA導入後の平均観察期間はC19.4C±18.5カ月(4.53カ月)であった.原疾患の診断はCBDがC7例C14眼,Vogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)がC3例C6眼であった.BDは厚生労働省CBD診断基準2)に基づき,完全型,不全型および特殊型CBDの確定診断を行った.VKHでは国際CVKH病診断基準3)に基づき,確定診断を行った.ADAは添付文書の記載に従って(腸管CBD:初回C160Cmg投与,初回投与からC2週間後C80Cmg,その後はC2週間隔C40mg投与,難治性ぶどう膜炎:初回C80Cmg投与,初回投与からC1週間後C40Cmg,その後はC2週間隔C40Cmg投与,小児:初回C40Cmg投与,初回投与よりC2間間隔C40Cmg投与)投与した.また,ADAの導入にあたり当院膠原病・リウマチアPSL)投与量(ADA導入前の最小CPSL量,最終観察時CPSL量)を調べた.治療の効果判定は有効,無効・中断,経過観察中にC3分類し,有効は眼所見の改善や薬剤の減量ができた症例で,無効・中断は眼所見の改善が認められなかった症例や治療継続困難となった症例,経過観察中はCADA導入開始後C6カ月以内の症例とした.また,統計方法はすべてCStu-dentのCt検定を用い,p<0.05を有意差ありとして比較を行った.CII結果全症例の年齢,性別,ADA導入理由,観察期間を表1に示した.ADA導入理由はCBDではCIFXからの変更がC6例(2例:IFXの投与時反応で中断例,2例:IFXの二次無効例,1例:IFXでコントロール困難例,1例:IFXの中断後再燃例),免疫抑制薬の副作用で継続困難な症例がC1例であった.BDは完全型BDが2例,不全型BDが3例,特殊型BDが2例(腸管CBD併発C2例)であった.小児の不全型CBD1例は,脊椎関節炎を併発しており,両疾患に対してCADAを導入した.特殊型CBD2例のうちC1例は腸管CBDの治療目的にCADA導入し,1例はぶどう膜炎の治療目的にCADAを導入した.VKHのCADA導入理由はすべて,ステロイドおよび免疫抑制薬でコントロール困難な症例であった.最良矯正視力は,ADA導入前平均視力はClogMARC0.27±0.46であったが,ADA導入後の最終平均視力ClogMAR0.26C±0.47となり,導入前後で有意差を認めなかった(p=0.93)(図1).疾患別の効果について,BDの症例は表2に,VKHの症例は表3にそれぞれまとめた.中断・無効を除いた症例でのCBDの発作頻度は,ADA導レルギー科,小児科または消化器内科(腸管CBD症例)との連携の下で行った.全症例において,ADA導入理由と,ADA導入前後の最良矯正視力,併用薬剤,効果判定,全身副作用の有無に関して調査した.また,BDではCADA導入前後の眼炎症発作回数,眼炎症発作の重症度について調べた.重症度に関しては,ADA導入前後の眼炎症発作のなかでもっとも重症であった眼炎症発作について,発作部位を前眼部炎症,硝子体混ADA導入後の最良矯正視力濁,網膜病変に分けて評価し,網膜病変は血管炎,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME),硝子体出血(vitre-oushemorrhage:VH)を調べた.また,蕪城らによって報告されたスコア法(Behcet’sdiseaseocularattackscore24:BOS24)4)でCADA導入前C6カ月から導入まで,ADA導入から導入後C6カ月まで,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアで評価した.VKHではプレドニゾロン(prednisolone:0.010.11ADA導入前の最良矯正視力:Behcet病:Vogt-小柳-原田病図1アダリムマブ(ADA)導入前後の視力変化縦軸にCADA導入後の最良矯正視力,横軸にCADA導入後の最良矯正視力を示す.ADA導入前後では有意差を認めなかった(p=0.93).表1全症例ADA導入時観察期間症例年齢(歳)性別疾患名ADA導入理由(月)1C65男特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX二次無効(腸管BD)C53C2C51女特殊型CBD(腸管CBD併発)IFX投与時反応C52C3C10男不全型CBD(脊椎関節炎併発)IFXコントロール困難C3C4C31男完全型CBDIFX二次無効C30C5C46女不全型CBDIFX中断後再燃C0.5C6C32男不全型CBDIFX投与時反応C11C7C39男完全型CBD免疫抑制剤の副作用C8C8C61女CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C19C9C72男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C13C10C75男CVKHステロイド・免疫抑制薬でコントロール困難C4BD:BehcetC’sdisease(ベーチェット病),VKH:Vogt-Koyanagi-Haradadisease(フォークト-小柳-原田病),IFX:in.iximab(インフリキシマブ).表2Behcet病の症例ADA導入前ADA導入後症例発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変発作頻度前眼部炎症硝子体混濁網膜病変C併用薬剤効果11回/年+..0回/年C…なし有効C24回/年++CME2.6回/年++.コルヒチン,MTX有効C32回/年++CME,VH中止++CME,VHCMTX,PSL無効・中断C410回/年++.2.5回/年++.MTX,PSL有効C51回/年++CME中止++CMECMTX無効・中断C65回/年++網膜血管炎1.8回/年++.CsA有効C74回/年++.0回/年C…なし有効CME:.胞様黄斑浮腫,VH:硝子体出血,MTX:メトトレキサート,PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.表3Vogt.小柳.原田病の症例症例ADA導入前PSL投与量(mg)CsA投与量(mg)ADA導入後最終CPSL投与量(mg)C効果判定8C7.5C150C4有効C9C7C150C0有効C10C15C100C17.5経過観察中PSL:プレドニゾロン,CsA:シクロスポリン.入前の平均発作回数がC4.8C±2.9回/年から,ADA導入後の平均発作回数はC1.4C±1.2回/年に減少した(p=0.06).眼炎症の重症度では,BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入後7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であり,導入前に比べて,導入後の積算スコアは優位に低値を示した(p=0.02,0.03)(図2).効果判定は,有効C5例,中断・無効C2例であり,中断・無効のうち,症例C3はCIFXとメトトレキサート(methotrexate:MTX)治療に加えて,眼炎症発作時にCPSL頓用を行っていたが,CMEとCVHを伴うような眼炎症の発作を認めたためにCADA導入となった.ADA導入後もCCMEの改善がなく,VHの悪化を認め,関節症状も考慮してインターロイキンC6受容体阻害薬であるトシリズマブ(tocilizum-ab:TCZ)に変更となった.症例C5はCADAの投与時反応にて中断となり,IFXに変更になった.以下にCBDの代表症例を示す.〔BDの代表症例:症例4〕31歳,男性.2010年にCBDを発症しコルヒチンを投与したが,強い硝子体混濁を伴うような眼炎症発作を起こしたためにC2011年よりCIFXを導入した.IFXの導入後も発作回数が頻回なために,IFXの投与量や投与間隔を変更し,併用薬剤にCCsAとCMTXを追加するなどを試みた.薬剤変更により最初は発作回数の軽減はあったが,徐々に効果がなくなり,IFXのC6週間隔投与とコルヒチン,MTXを併用したが,眼炎症発作回数がC10回/年であったためにCADAの導入となった(図3).ADAの導入後は眼炎症発作回数がC1.8回/年に減少した.VKHではCADA導入前にもっとも少なかったときのCPSLの平均投与量がC9.8C±3.7Cmgであり,最終受診時のCPSLの平均投与量C7.2C±7.5Cmgであった(p=0.67).2例でPSL量の減量を認め,1例はCADA導入後にCPSL漸減中に再燃を認めたために現在CPSLを増量している.また,当院ではCADA導入後は全例でCCsA内服を中止している.以下にCVKHの代表症例を示す.〔VKHの代表症例:症例8〕61歳,女性.2016年にCVKHを発症(図4a)し,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロンC1,000Cmg点滴静注,3日間)をC2クール行った.炎症の残存を認めたためにトリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’striamcinoloneacetonideinjec-tion:STTA)を併用しながら,初期投与量のCPSL60CmgからCPSL15Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.PSLを増量し,CsAとCSTTAを併用しながら,PSL10Cmgまで漸減したが,再燃を認めた.そこでCPSL量は維持のまま,ADAを導入したが,光干渉断層計(OCT)で網膜色素上皮ラインの波打ち像を認めたためにCPSL30Cmgまでいったん増量し改善を得た.その後,ステロイドを漸減し,現在CPSL4Cmgまで減量できており,再燃は認めていない(図4b).ADA投与に伴う副作用はC10例中C5例に認めた.2例で注射部位反応,2例で咽頭炎,2例で肝酵素上昇,1例でCCRP・赤沈上昇,1例で乾癬様皮疹,1例で好酸球高値を認めた(重複あり).症例C5では,IFX投与が挙児希望のため中断となったが,中断後にCCMEを認め,通院の関係からCADAでのTNF阻害薬の再開となった.初回・2回目のCADA投与で注射部位反応を認め,2回目の注射後に注射部位の発赤がC7cm程度まで拡大し,注射部位以外の発疹や口唇浮腫も認めたために中止となった.CIII考按今回,既存治療でコントロール困難な難治性非感染性ぶどう膜炎に対し,当院でCADAを導入した各疾患における効果判定と安全性の結果を検討した.海外の報告においては,さまざまな難治性ぶどう膜炎に対するCADA導入の有用性が示されている5,6).また,国内でもCADAの認可に伴い,小野らC18*16*1412BOS241086420ADA導入ADA導入後ADA導入後6カ月前~導入0~6カ月7~12カ月図2BS24(Behcet'sdiseaseocularattackscore244))の経過BOS24でCADA導入前C6カ月から導入までの積算スコアは平均C8.0C±4.7,ADA導入から導入後C6カ月までの積算スコアは平均C2.4C±3.2,ADA導入C7.12カ月までの積算スコアは平均C2.2C±2.4であった(*p<0.05).図3症例4(31歳,男性,Behcet病)アダリムマブ(ADA)導入前には発作を繰り返しており,前眼部に前房蓄膿と虹彩後癒着を伴う強い炎症を認め(a),びまん性の硝子体混濁,網膜血管炎,滲出斑を認めた(Cb).ADA導入後は新規病変を認めず,硝子体混濁は改善した.図4症例8(61歳,女性,Vogt.小柳.原田病)Ca:初診時COCT.両眼眼底に隔壁を伴う漿液性網膜.離と脈絡膜の肥厚,網膜色素上皮ラインの不整を認めた.Cb:ADA導入後のCOCT.ADA導入後,脈絡膜の肥厚は認めるが,漿液性網膜.離や網膜色素上皮不整の改善を認めた.が難治性ぶどう膜炎に対する短期の使用経験と有用性を示している7).疾患別にみると,難治性CBDに対しては,国内では先に認可されたCIFXが主流であるが,海外では生物学的製剤(IFX,ADA)の報告が多数なされている8).ValletらはCBDに対して,IFXまたはCADA投与によりC91%で完全寛解/部分寛解を認め,IFXとCADAで同様の有効性であったと報告している9).また,IFXの継続困難や二次無効の症例のCADAへの変更は有用性を示されている10,11).当院の症例では,IFXからCADAへの変更がC6例あり,1例が新規導入であった.既報と同様にCIFXでの継続困難の症例や二次無効の症例においてもCADA変更後は改善を示していた.また,ADA新規導入例もCADA導入後は眼炎症発作を認めておらず,IFXと同様の効果を期待ができると考えられた.BDに対して生物学的製剤導入の際にCADAは選択肢の一つとして非常に有用であり,また,IFXによる眼炎症コントロール不良例ではCADAへの変更も考慮に入れるべきである.ADAは自己注射で行えるために,病院拘束時間が短くなることも注目すべき点であり,若年男性に重症例の多いCBDにおいては治療選択における根拠の一つとなると考えられる.Deitchらは免疫抑制療法でコントロールできない小児の難治性非感染性ぶどう膜炎におけるCIFXとCADAの有効性を報告している12).当院では症例C3が小児ぶどう膜炎(BD)のCADA導入例であったが,IFX,ADAで効果がなく,TCZに変更になった.今回のようにCIFXやCADAで効果がない場合にCTNFではなくCIL-6をターゲットとする生物学的製剤が有効な症例もある13).VKHに関して,Coutoらはステロイド,免疫抑制薬でコントロール困難なCVKHにCADA追加によりステロイドの減量または離脱が可能であったと報告している14).当院でのVKHの治療方針として,ステロイドパルス療法後にCPSL内服(1Cmg/kg/日,またはC60Cmg/日の低い用量から開始)を漸減し,再燃を認める場合にはCPSLの増量とCCsA併用を行い,症例によっては年齢や全身状態などを考慮してCSTTAの併用を行っている.さらにCPSLとCCsA併用で再燃を認めたCVKHに対してCADAの導入を検討し,ADA導入後はCsAを終了している.今回CADA導入したC3例はすべて,症例C8のようにCCsA併用でCPSL投与量漸減中に再燃を認めた症例である.症例C8はCPSL投与量を維持したままCADAを追加したが,再燃を認めたため,PSLを増量した経緯から,症例C9と症例C10ではCADA導入前にCPSLの増量も行った.この結果から,VKHではCADA投与だけでは炎症のコントロールができない可能性があり,ADA導入とともにPSLの増量を考慮する必要があると考えられた.添付文書より,ADAの副作用は国内臨床試験で全体の82.9%に認められ,当院ではC5例(50%)に注射時反応を認めた.当院では症例C5は,ADAのみに強い投与時反応を認め,IFXに変更になった.一般的にCIFXがマウス蛋白とのキメラ型であるに対して,ADAは完全ヒト型のために,IFXのほうがアレルギー反応多いとされているが,ADAでも強いアレルギー反応を認める症例があり,注意が必要である.ADAの登場により難治性ぶどう膜炎に生物学的製剤を使用することが可能になった.当院でも既存治療で難治例に対して使用し,BDでは中断例以外は非常に有効であり,VKHに関しても有効であると考えられた.ADAは国内で認可されてから日が浅いために,疾患別の有効性,導入時期,併用PSLの漸減方法などが不明確である.また,今後導入した症例に対しては,中止するタイミングの検討も必要となる.当院でのCADAは症例数もまだ少なく,今後症例を増やしてADAの適切な治療の検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)TakeuchiM,KezukaT,SugitaSetal:Evaluationofthelong-termCe.cacyCandCsafetyCofCin.iximabCtreatmentCforCuveitisCinCBehcet’sdisease:aCmulticenterCstudy.COphthal-mologyC121:1877-1884,C20142)厚生労働省べ一チェット病診断基準:http://www.nanbyou.Cor.jp/upload_.les/Bechet2014_1,20143)ReadCRW,CHollandCGN,CRaoCNACetal:RevisedCdiagnosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclatu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経強膜イオントフォレシスによる後眼部への高分子化合物の送達促進

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1194.1197,2019c経強膜イオントフォレシスによる後眼部への高分子化合物の送達促進引間知広井上茉莉九州工業大学情報工学部生命化学情報工学科治療システム研究室CTrans-scleralIontophoreticDeliveryofHighMolecularWeightCompoundintothePosteriorSegmentoftheEyeTomohiroHikimaandMariInoueCDepartmentofBiosciencesandBioinformatics,KyushuInstituteofTechnologyC後眼部へ高分子薬物を送達させる方法として,経強膜イオントフォレシス(IP)の可能性をCinvitro実験で検討するとともに,促進メカニズムについて考察した.ブタ眼球から強膜,ならびに強膜・脈絡膜・網膜からなるCSCR膜を切り出し,眼球用水平拡散セルに取りつけた.電場は電流密度C0.8.6CmA/cm2,適用時間はC10.30分間として,平均分子量C10,000のイソチオシアン酸フルオレセインデキストラン(FD-10)の累積透過量を測定した.その結果,IP適用によりCFD-10の透過速度は,最大C6.3倍まで増加した.促進メカニズムとして,電気浸透によるCFD-10の強膜内濃度増加が大きな要因であり,また網膜色素上皮における損傷の可能性が示唆された.CWeconductedanexperimentoninvitrodrugdeliveryintotheposteriorsegmentthroughthesclera/choroid/retina(SCR)byCiontophoresis(IP)andCevaluatedCtheCenhancementCmechanismCofCtrans-scleralCIP.CScleraCorCSCRCwasCmountedCbetweenCsphericalCside-by-sideCpenetrationCcellsCandIP(currentdensity:0-8.6CmA/cm2)wasCappliedtothetissuefor10-30Cmin.Fluoresceinisothiocyanatedextran(averagemolecularweight:10,000,FD-10)Cwasusedasthemodeldrugofhighmolecularweight.ThepenetrationrateofFD-10withIPapplicationwas6.3timesChigherCthanCthatCwithoutCIPCapplication.CTheCenhancementCmechanismCofCtrans-scleralCIPCincreasedCFD-10Cconcentrationinthesclera,accompaniedbytheelectroosmoticwater.owofIPapplication,andmightpresentthepossibilityofdamagetoretinalpigmentepithelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1194.1197,C2019〕Keywords:後眼部,強膜,イオントフォレシス,電気浸透.posterior,sclera,iontophoresis,electroosmosis.はじめに社会の高齢化が進行するにつれて,加齢黄斑変性や糖尿病網膜症といった後眼部疾患の患者数が増加している1).これらは先進国においておもな失明原因疾患となっており,生活の質(qualityoflife)を大きく損なう原因となっている.治療薬は血管内皮増殖因子(vascularCendothelialCgrowthCfac-tor:VEGF)阻害薬などの高分子化合物であり,治療薬投与方法はおもに硝子体内への注射である.長期間の繰り返し眼内注射は,感染症,外傷性白内障,そして網膜.離などが起きるといった問題点があげられる.そのため,非侵襲的な新規の後眼部組織への治療薬投与方法の確立が望まれている.そこで本研究では,後眼部疾患部位へ高分子薬物を送達させる方法として,電場を用いた経強膜イオントフォレシス(IP)に注目した.電場による高分子薬物の透過促進条件の検討,さらに経強膜CIPにおける透過促進メカニズムの検討を行った.CI実.験.方.法1.眼組織および試薬実験当日に屠殺されたブタ(月齢C6カ月前後の三元豚あるいは四元豚,メスまたは去勢済みのオス)の眼球を,福岡食肉販売株式会社より購入した.運搬中は氷を用いて冷やし,〔別刷請求先〕引間知広:〒820-8502飯塚市川津C680-4九州工業大学大学院情報工学研究院生命化学情報工学研究系Reprintrequests:TomohiroHikima,Ph.D.,DepartmmentofBiosciencesandBioinformatics,KyushuInstituteofTechnology,680-4Kawazu,Iizuka,Fukuoka820-8502,JAPANC1194(92)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(92)C1194C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYa3.0)2.52.01.51.00.500.0累積透過量(μg/cm2図1眼科用球面型水平拡散セルの模式図0.00.501.01.52.02.53.03.5時間(h)実験は屠殺からC4時間以内に開始した.解剖用メスを使用しCb60て硝子体,水晶体,虹彩,毛様体を取り除き,強膜(sclera),50脈絡膜(choroid)/網膜(retina)からなるCSCR膜,ならびにピンセットにより脈絡膜と網膜(CR膜)を除去した強膜を単離した.モデル薬物として平均分子量C10,000のイソチオ)累積透過量(μg/cm24030シアン酸フルオレセインデキストラン(FD-10,Sigma-Aldrich社)を用い,その他の試薬はすべて特級グレードを20用いた.2.SCR膜および強膜を用いたinvitro透過実験SCR膜あるいは強膜を球面型水平拡散セル(図1)の間に取り付け,レセプターセル(接続部分が凸型)にC5CmlのC120mMリン酸緩衝液(PB)を入れ,ドナーセル(接続部分が凹型)にC5CmlのC0.1%FD-10溶液を入れて透過実験を開始した.両セルに白金電極(ドナー側を陽極)を挿入し,実験開始C30分後から電場(電流密度はC0.43.8.6CmA/cmC2,通電時間はC10.30分間)を適用した.経時的にレセプターからC500μlサンプリングし,サンプル中のCFD-10濃度を蛍光分光光度計により定量した.C3.強膜における含水率およびFD.10含有量の測定電場を適用しない場合(control)とCIP適用(電流密度C4.3CmA/cm2)の場合における強膜内含水率,およびCFD-10含有量の変化を測定した.レセプターセルおよびドナーセルにPBを5Cml入れ,30分間実験を行った.ただちに強膜のCPBに接した部分を切り出し,湿重量を測定した.その後,約70℃の乾燥器内でC15時間以上乾燥させ,乾燥重量を測定して含水率を求めた.同様にして強膜を切り出し,強膜表面をPBで洗浄したあとに,試薬瓶に入れた.試薬瓶に抽出溶媒としてC50Cμg/mlゲンタマイシン硫酸塩含有CPBをC2Cml入れてCFD-10の抽出を行った.この操作をCFD-10が検出できなくなるまで繰り返した.CII結果1.IP適用による透過促進効果図2に適用時間をC30分間としたCFD-10累積透過量を示100時間(h)図2SCR膜(a)および強膜(b)透過に及ぼす電流密度の影響○:control(0CmA/cmC2),◆:0.43CmA/cmC2,■:4.3CmA/cmC2,●:8.6CmA/cmC2.した.SCR膜における累積透過量は,IP適用を止めたC30分後(実験開始からC1.5時間後)から増加した.一方,強膜においては,IP適用C20分後から透過量が増大し,IP停止後30分程度で,曲線の傾きである透過速度はCcontrolとほぼ同じになった.SCR膜と強膜では,IP促進効果が現れる時間帯が大きく異なるが,IP適用により増大した透過速度を最大透過速度とした.さまざまなCIP適用条件下での最大透過速度を表1にまとめた.SCR膜における最大透過速度はC129CmA/cm2・minのIP適用条件で頭打ちの傾向を示した(図3a)が,強膜では適用時間ならびに電流密度の増大に伴い,増大した(図3b).C2.IP適用による強膜含水率およびFD.10含有量の変化表2に強膜における含水率とCFD-10含有量をまとめて示した.実験前における強膜含水率はC71.1C±1.66%であったが,30分間CPBに浸してもCIPを適用してもほぼ変化がなく,有意差が生じなかった.FD-10含有量はCIP適用により,有意に増大した.(93)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1195C表1FD.10のSCR膜および強膜における最大透過速度(μg/cm2/h)電流密度(mA/cm2)IP適用時間10分20分30分SCR膜0(Control)C0.210±0.252C0.43C4.3C8.6C.C0.491±0.586C0.658±0.514C.C0.715±0.189C0.856±0.347C0.0907±0.0684C1.06±0.737C1.33±0.7640(Control)C10.2±7.07C強膜0.43C4.3C8.6C.C17.1±1.05C26.9±11.9C.C20.4±6.45C50.3±3.11C19.6±5.21C28.8±7.07C53.9±14.1それぞれのデータは平均値±標準偏差(nC≧3)を表す.C表230分間のIP適用後における強膜内含水率およびFD.10含a2有量含水率(%)FD-10含有量(μg)最大透過速度(μg/cm21.510.50050100150電流密度×適用時間(mA/cm2・min)80ControlC69.8±5.83C8.31±3.01CIPC75.4±2.08C12.6±3.00*それぞれのデータは含水率(n=4)とCFD-10含有量(n=8)の平均値C±標準偏差を表す.*controlと有意差あり(p<0.05).れている.IPを適用しないCcontrol実験において,FD-10の透過速度はCSCR膜でC0.210C±0.252Cμg/cm2/h,強膜でC10.2C±7.07Cμg/cm2/hであり,CR膜をほとんど透過しないことがわかった.ところがCIPを適用すると,FD-10の最大透過200250300b706050403020100050100150電流密度×適用時間(mA/cm2・min)200250300速度はCSCR膜で最大C6.3倍(電流密度C8.6CmA/cmC2,適用時間C30分間),強膜で最大C5.3倍(SCR膜と同じ適用条件)となった.また図3より,最大透過速度は電流密度と適用時間の積に比例することがわかった.したがって,IPによる高分子薬物の後眼部への送達量は,電流密度と適用時間により制御可能であることが示唆された.つぎに後眼部組織におけるCFD-10の透過促進メカニズムについて検討した.IPの透過促進メカニズムは,電荷をもつ薬物と電極との電気反発,電位差勾配による陽極から陰極へ向かう水の動きに伴う薬物の動きである電気浸透である4).FD-10は負電荷をもっているが,高分子のため実質的/h)最大透過速度(μg/cm2図3SCR膜(a)および強膜(b)透過速度と電流密度×適用時間の関係III考察強膜はコラーゲンに富んだ微多孔質膜構造であり2),CR膜は外側血管網膜関門(網膜色素上皮におけるバリア機能)の存在により,親水性薬物に比べ脂溶性薬物が透過しやすく,さらに高分子薬物が透過しにくい構造である3)と報告さに電気的中性の分子と考えられている5).ドナーを陽極とした本実験で,FD-10の透過速度が増大した.したがって,FD-10の透過促進効果は,電気反発よりも電気浸透が大きく寄与していることがわかった.さらに促進メカニズムとして,1)IP適用により起きる眼組織の損傷,2)眼組織内の含水率の上昇,3)FD-10の眼組織内での溶解量の増加,が考えられる.強膜においてCIP適用時に増大した透過速度は,IP適用を止めるとCcontrolとほぼ等しくなるまで減少した(図2).また,強膜では電流密度をC50CmA/cmC2まで上げても組(94)織損傷がないとの報告がある6).これらの結果からCIP適用による強膜損傷はない.しかし,図2aにおいて,FD-10のSCR膜透過量が増加し続けている.この結果から,IPによる網膜色素上皮のバリア機能が損傷している可能性が考えられた.さらに表2より強膜内の含水率は増加しなかったが,FD-10の含有量は増大することがわかった.IP適用により強膜内のCFD-10濃度が急激に上昇するため,IP適用から20分程度で強膜を透過する累積透過量が増大する(図2b)が,CR膜には高分子薬物に対するバリア機能があるため,IPによる促進効果が遅く現れる(図2a)と予想できた.IPによるバリア機能への影響は,IPの臨床応用に向けて明らかにしなければならない課題である.本研究結果からバリア機能の損傷の可能性が示されたが,可逆的な損傷であることも示唆された.タイトジャンクションによるバリア機能の頑強性は,電気抵抗により評価できる3).さらなる検討を行い,バリア機能の損傷について明らかにする.以上の結果から,IP適用による促進メカニズムとして,FD-10は電流密度と適用時間に比例する電気浸透により強膜内に押し込まれ,強膜内CFD-10濃度が増大することによる透過促進であることが予想できた.CIV結論高分子薬物の後眼部組織への送達方法として,経強膜CIPの有効性を示すことができた.そして後眼部組織への薬物送達量ならびに透過速度は,電流密度と適用時間により制御可能であることを示した.また,経強膜CIPによる透過促進メカニズムとして,電気浸透によるCFD-10の強膜内濃度増加によることを明らかにした.経強膜薬物送達による薬物眼内動態を明らかにするためには,脈絡膜循環による薬物回収やメラニン色素との薬物結合の影響も考察しなければならない課題である.しかし,本研究では,これらの課題が検討できていない.本研究で考察したバリア機能の損傷可能性と同様に,IPの経強膜薬物送達での基礎的な検討を行うことにより,IPの臨床応用が可能になると期待している.文献1)小椋祐一郎:網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究:3年計画のC2年目.平成C24年度総括・分担研究報告書:厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業2)GeroskiCDH,CEdelhauserHF:DrugCdeliveryCforCposteriorCsegmenteyedisease.InvestOphthalVisSciC41:961-964,C20003)PitkanenL,RantaV-P,MoilanenHetal:Permeabilityofretinalpigmentepithelium:E.ectsofpermeantmolecularweightCandClipophilicity.CInvestCOphthalCVisCSciC46:641-646,C20054)GuyRH,KaliaYN,Delgado-CharroMBetal:IontophoreC-sis:electrorepulsionCandCelectroosmosis.CJCControlCRelC64:129-132,C20005)NicoliCS,CFerrariCG,CQuartaCMCetal:InCvitroCtransscleralCiontophoresisofhighmolecularweightneutralcompounds.EurJPharmSciC36:486-492,C20006)Behar-CohenCFF,CElCAouniCA,CGautierCSCetal:Trans-scleralcoulomb-controllediontophoresisofmethylprednis-oloneCintoCtheCrabbiteye:in.uenceCofCdurationCofCtreat-ment,CcurrentCintensityCandCdrugCconcentrationConCocularCtissueand.uidlevels.ExpEyeResC74:51-59,C2002***(95)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C1197C

Retrocorneal Plaquesを伴ったモラクセラ角膜潰瘍の4症例

2019年9月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科36(9):1188.1193,2019cRetrocornealPlaquesを伴ったモラクセラ角膜潰瘍の4症例安達彩*1嶋千絵子*1石本敦子*1豊川紀子*2奥田和之*3佐々木香る*4髙橋寛二*1*1関西医科大学眼科学教室*2永田眼科*3関西医科大学臨床検査部*4JCHO星ヶ丘医療センターCFourCasesofMoraxellaKeratitiswithRetrocornealPlaqueCAyaAdachi1),ChiekoShima1),AtsukoIshimoto1),NorikoToyokawa2),KazuyukiOkuda3),KaoruAraki-Sasaki4)andKanjiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2)NagataEyeClinic,3)4)JCHOHoshigaokaMedicalCenterCKansaiMedicalUniversityHospital,モラクセラ属による角膜炎をC4例経験し,細菌性角膜炎としては特殊な臨床像を呈したので報告する.全例眼痛,充血を主訴に受診.上皮・実質の所見に比して,retrocornealplaquesなど強い内皮側の所見を認めたことが特徴的で,真菌性角膜炎との鑑別が必要であった.全例の角膜の塗抹検鏡で大きなグラム陰性桿菌を認め,モラクセラ属を疑った.通常培養では同定困難であり,炭酸ガス培養を施行し,2例は質量分析でCM.nonliquefaciensを検出し,2例はCIDテストCHN20ラピッド同定検査でCM.nonliquefaciensまたはCM.lacnateの可能性が高いと判断された.抗菌薬への反応は良好であったが,上皮欠損の消失には時間がかかった.1例は,角膜穿孔を生じ羊膜移植を要した.強いCretrocor-nealplaquesを呈する感染性角膜炎をみた際は,真菌性角膜炎以外に本菌も疑い,塗抹でのグラム陰性桿菌の検出や質量分析などによる菌種同定が必要と思われた.CAlthoughMoraxellaspeciescausemanytypesofextraocularinfection,theirfrequencyisnothighbecauseoftheCdi.cultyCofCcultureCandCidenti.cation.CWeCexperiencedC4CcasesCofCkeratitisCdueCtoCMoraxellaCsp.CinCwhichCslitClampexaminationsrevealedsevereretrocornealplaquedespitemildin.ltrationtothecornealstroma.Smearexam-inationsdisclosedgram-negativebacilliinallcases.Twocaseswereidenti.edasM.nonliquefaciensbymassspec-trometry;theothersweresurmisedtobeM.nonliquefaciensorM.lacunate,basedonIDtestHN-20rapid.ThreecasesCtookCmanyCdaysCtoCachieveCcompleteChealingCofCtheCepithelialCdefect,CdespiteCtheCgoodCsensitivityCofCtheCemployedCantibiotics.CInCtheCotherCcase,CtheCcorneaCwasCperforatedCandCamnioticCmembraneCtransplantationCwasCapplied.Thedeepcornealpathogenicregionwithsevereretrocornealplaqueisoneofthecharacteristicphenome-naofMoraxellasp.;weshouldthereforepayattentiontodiagnosticdi.erentiationfromfungalkeratitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(9):1188.1193,C2019〕Keywords:質量分析,角膜感染症,retrocornealplaques,真菌性角膜炎,モラクセラ.massspectrometry,cor-nealinfection,retrocornealplaques,funguskeratitis,Moraxella.Cはじめにモラクセラ属は,ヒトの皮膚や鼻咽頭などの粘膜の常在菌であり,一般的に弱毒菌とされる.前眼部,外眼部において検出すなわち起因菌と判定される特定菌1)の一つで,代表的な眼瞼結膜炎や角膜潰瘍の原因菌であるが,分離培養,菌種同定が困難なため,検出頻度は高くない.2006年の感染性角膜炎全国サーベイランス2)の結果では,全症例C261例のうち,分離菌陽性C113例,分離株全C133株中モラクセラ属はC5株(3.8%)であった.また,2011年の多施設スタディによる前眼部,外眼部感染症における起因菌判定の報告3)では,全症例C476例から分離されたC909株のうち真菌を除いたC890株のなかで,モラクセラ属はC2株(0.2%)〔別刷請求先〕安達彩:〒573-1191大阪府枚方市新町C2-5-1関西医科大学眼科学教室Reprintrequests:AyaAdachi,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversity,2-5-1Shinmachi,Hirakata,Osaka573-1191,JAPANC1188(86)のみの検出であった.検出頻度が高くない理由として,発育が不安定な細菌であり分離培養がむずかしく陰性となりやすいこと,たとえ分離されても簡易同定検査で検出されるCM.catarrhalis以外の菌種の同定には分子遺伝学的同定試験や質量分析装置(MatrixAssistedLaserDesorption/Ionization-TimeOfFlightMassSpectrometry:MALDI-TOFMS)の機器が必要となることがあげられる.近年,このモラクセラ属による角膜炎が種々の臨床像を呈することが報告されつつあるが,まだ多くはない.今回,モラクセラ属と同定できた角膜炎をC4例経験し,細菌性角膜炎としては特殊な臨床像を呈したので報告する.CI症例〔症例1〕91歳,女性.主訴:左眼違和感,流涙,充血,視力低下.現病歴:糖尿病網膜症で通院中,3日前からの主訴を自覚し来院した.既往歴:糖尿病,高血圧症,10年前に両眼白内障手術歴.発症時所見:視力は右眼C0.05(0.06C×sph+0.25D(cyl.2.0DAx80°),左眼C0.01(n.c.),眼圧は右眼C16CmmHg,左眼C18mmHg.前眼部は右眼に異常なく,左眼は高度の結膜充血,大きな不整形の角膜潰瘍と,さらに広範なCretrocornealplaquesを認め,前房蓄膿を伴っていた(図1a).中間透光体は両眼眼内レンズ挿入眼で両眼眼底に異常を認めなかった.経過:角膜塗抹にて,比較的大きなグラム陰性短桿菌を認めた(図1b)が,通常培養では表皮ブドウ球菌の検出を認めた.さらにC35℃C48時間の炭酸ガス培養で血液寒天培地,チョコレート寒天培地ともに表面がやや隆起した光沢のある半透明なコロニーを形成し(図1c),コロニーを塗抹検鏡したところ,大型のグラム陰性桿菌を認め,モラクセラ属が疑われた.MALDI-TOFMS(BrukerDaltonics社)による同定検査を実施したところCM.nonliquefaciensと同定された.感受性試験では,多くの薬剤に感受性を示したが,クラリスロマイシン(CAM)には耐性であった.レボフロキサシン(LVFX)とセフメノキシム(CMX)の頻回点眼とセフジニル内服により緩徐に所見は改善し,上皮欠損消失にはC25日間を要した.絶命のため最終所見は治療開始C25日目で,瘢痕性混濁を残し,最終矯正視力はC0.01(n.c.)であった.〔症例2〕75歳,女性.主訴:右眼眼痛,眼脂,充血.現病歴:右眼絶対緑内障,左眼末期緑内障でC4剤点眼加療中,2日前からの主訴を自覚し来院した.既往歴:直腸癌.発症時所見:視力は右眼光覚(C.),左眼C0.06(n.c.),眼圧は右眼C46CmmHg,左眼C16CmmHg.前眼部は,右眼に毛様充血,辺縁不整の角膜輪状混濁を認めた.角膜上皮と実質の膿瘍は比較的軽度であったが,広い範囲のCretrocornealplaquesと前房蓄膿を認めた(図2).左眼に異常はなかった.中間透光体は両眼眼内レンズ挿入眼で,眼底は両眼とも高度の網脈絡膜萎縮,視神経乳頭蒼白萎縮を認めた.経過:角膜擦過物の塗抹検鏡から大きなグラム陰性桿菌を認め,症例C1と同様の培養でモラクセラ属が疑われた.菌種の同定を目的として実施したCIDテスト・HN-20ラピッド「ニッスイ」(日水製薬)で,M.nonliquefaciensまたはCM.lacunateがC87%と推定され,多くの薬剤に感受性を示した.CMX,モキシフロキサシン(MFLX)の頻回点眼とミノサイクリン内服により緩徐に軽快し,上皮障害の消失にはC31日,浸潤消失にはC83日を要した.最終所見は治療C31日目,軽度実質浮腫を残すのみであった.〔症例3〕81歳,女性.主訴:右眼異物感,視力低下,充血.現病歴:5日前からの主訴を自覚し来院した.既往歴:左眼弱視,右眼に翼状片手術と白内障手術歴.発症時所見:視力は右眼0.03(0.04C×sph.2.50D(cyl.2.50CDAx180°),左眼光覚(+),眼圧は右眼C18CmmHg,左眼18CmmHgであった.前眼部は,右眼に高度の充血,角膜に小円形の潰瘍を認め,上皮・実質の病変の範囲に比して,強いCDescemet膜皺襞や角膜後面の膜様沈着物を認めた(図3).左眼に異常はなかった.中間透光体は右眼眼内レンズ挿入眼,左眼成熟白内障で,両眼眼底には異常を認めなかった.経過:角膜擦過物の塗抹検鏡で多数の大きなグラム陰性桿菌を認めた.培養では同定不能であったため,MALDI-TOFMSを用い,M.nonliquefaciensが同定された.LVFX頻回点眼,トブラマイシン(TOB)点眼,アトロピン点眼,オフロキサシン眼軟膏により順調に改善し,上皮障害の消失にはC8日,浸潤消失にはC51日を要した.最終所見は治療C51日目で,わずかに瘢痕性混濁を残し,最終視力は,0.09(0.4C×sph.3.0D(cyl.1.0DAx90°)であった.〔症例4〕81歳,女性.主訴:右眼霧視,眼痛.現病歴:右眼実質ヘルペスの再発を繰り返し通院中,主訴を自覚し受診した.既往歴:糖尿病,関節リウマチ,気管支喘息.両原発閉塞隅角症でレーザー虹彩切開術歴,両白内障手術歴.発症時所見:視力は右眼手動弁,左眼C0.5(0.8C×sph.1.25CD(cyl.1.5DAx100°),眼圧は右眼40mmHg,左眼16mmHg.前眼部は,右眼に毛様充血,角膜全面に広範な不整形膿瘍を認めた.角膜実質浅層C1/3の膿瘍は比較的軽度であったが,むしろ深層の膿瘍は強く,高度のCretrocornealabc図1症例1a:発症時左眼前眼部所見.高度の結膜充血,大きな不整形の角膜潰瘍と,さらに広範なCretrocornealplaques(C.)を認め,前房蓄膿(.)を伴っていた.Cb:角膜擦過の塗抹.比較的大きなグラム陰性短桿菌(.)を認めた.Cc:細菌培養.35℃,48時間の炭酸ガス培養で血液寒天培地に,表面がやや隆起した光沢のある半透明なコロニーの形成を認めた.図2症例2の発症時右眼前眼部所見毛様充血,辺縁不整の角膜輪状混濁を認めた.角膜上皮と実質の膿瘍は比較的軽度であったが,広い範囲のCretrocornealplaques(.)と前房蓄膿を認めた.図3症例3の発症時右眼前眼部所見高度の充血,角膜に小円形の潰瘍を認め,上皮・実質の病変の範囲に比して,強いCDescemet膜皺襞や角膜後面の膜様沈着物を認めた.abc図4症例4a:発症時右眼前眼部所見.毛様充血,角膜全面に広範な不整形膿瘍を認めた.角膜実質浅層C1/3の膿瘍は比較的軽度であったが,むしろ深層の膿瘍は深く,高度のCretrocornealplaques,前房蓄膿を認めた.Cb:角膜擦過の塗抹.大量のグラム陰性桿菌(→)を認めた.plaques,前房蓄膿を認めた(図4a).左眼に異常はなかった.中間透光体は眼内レンズ挿入眼で,右眼眼底は透見不能であった.経過:角膜擦過物の塗抹検鏡で,大量のグラム陰性桿菌を認めた(図4b).培養では,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantCcoagulaseCnegativestaphylococci:MRCNS)とモラクセラ属を認めた.IDテストCHN-20ラピッドによる同定検査にて,M.catalarrisは否定的であったが,M.nonliquefaciensまたはCM.lacunateの可能性が高いという結果を得た.セフタジジム点滴,TOBおよびCMFLX頻回点眼を投与するも,第C6病日に角膜穿孔を生じ,第C15病日に羊膜移植を行った.その後感染は収束した.最終所見は治療C96日目で瘢痕性混濁を残し,最終視力は手動弁であった.CII考按モラクセラ属には,上気道から最多で検出されるグラム陰性球菌のCM.catarrhalis,グラム陰性の大きな双桿菌として,眼瞼炎や結膜炎の原因として知られるCM.lacunata,その他M.nonliquefaciens,M.osloensis,M.atlantae,M.lincolniiなどがある.口腔,上気道粘膜に定着しているため感染性,病原性は比較的弱い菌種であるが,局所における防御と細菌とのバランスが崩れることで急激に増殖あるいは細胞内に浸潤し,さまざまな感染症を生じるとされる.そのため過去の報告において,リスク因子として,糖尿病,アルコール中毒,栄養失調などの全身因子,コンタクトレンズや外傷,ドライアイ,角膜ヘルペスなど角膜上皮障害,角膜移植など眼手術の既往などの局所因子があげられている4.6).筆者らの症例でも,糖尿病の既往がC2例,眼手術の既往がC3例あり,いずれの症例も全身因子,局所因子の背景があった.本菌は発育が不安定な細菌であり分離培養がむずかしいため,診断には塗抹検査での検出が重要である.また,塗抹検鏡で陽性でも培養では陰性となりうるため,注意が必要である.塗抹所見の特徴は,非常に大きく角ばった桿菌であり,双桿菌様にみえる場合もある.今回症例C1では表皮ブドウ球菌,症例C4ではメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusCepidermidis:MRSE)が同時に培養にて検出されたが,塗抹結果で大型のグラム陰性短稈菌が多数確認されたことから起因菌はモラクセラ属と判断した.症例C2とC4においては塗抹,培養ともにモラクセラ属を疑うものであり,症例C3においては培養結果が陰性であったが,塗抹鏡検で特徴的なグラム陰性桿菌を認めたためモラクセラ属を疑った.本菌の可能性を疑う場合,炭酸ガス培養をしなければ検出は困難であるため,血液寒天培地,チョコレート寒天培地を炭酸ガス培養し,48時間まで観察することが推奨されている.透明に近い集落が発育した場合,本菌の可能性が高く,従来法では同定が困難であることからCIDテスト・HN-20ラピッドキット,分子遺伝学的同定試験である16SrRNA遺伝子配列解析,質量分析装置であるCMALDI-TOFMSなどの同定検査を行うことが望ましいといわれている.今回,塗抹鏡検でモラクセラを疑い,確定診断を行うべく炭酸ガス培養や質量分析,IDテスト・HN-20ラピッド検査を行い,症例1,3はCM.nonliquefaciens,症例2,4ではM.lacunataまたはCM.nonliquefaciensであるという結果を得た.これらは,通常の培養同定検査だけでは不明菌あるいは培養陰性とされていたと思われる.モラクセラ属による角膜潰瘍の報告はC1980年代より散見される4)が,海外の報告においては外科的治療を要するような視力予後不良例が散見された.わが国においてはC2015年の大野らによるCM.nonliquefaciensによる角膜潰瘍の報告7)や,同年の井上らによるわが国における多施設スタディの報告がある5,6).同スタディにおいてC30症例のモラクセラ角膜炎が報告され,このなかにおける臨床像の特徴は以下のごとくであった.①患者背景としては糖尿病が多く,局所的な要因としてコンタクトレンズ装用や外傷が多いが,誘因がない症例も約C30%みられる.②臨床像はC3病型に分類され,輪状膿瘍型がC30%,不整面状浸潤型がC43.4%,小円形型が26.7%であった.前C2病型は高齢者に多く視力障害も強いが,小円形型ではコンタクトレンズ装用などの若年者にみられることが多い.③上皮欠損が治癒するまで平均C23.4日,完全に細胞浸潤が消失するまでには平均C41.9日であり,抗菌薬治療の反応は他の細菌性角膜炎より緩徐で長期間を要する.④抗菌薬治療にはよく反応するため視力予後は比較的よい,というC4点であった.なお,同報告にて質量分析と分子遺伝学的に同定された菌株はCM.lacnata2株,M.nonliquefaciens7株であったが,株間の臨床像の違いは指摘されていない.今回の症例1,4は不整面状浸潤型,症例C2は輪状膿瘍型,症例C3は小円形型に近いが,いずれも,上皮欠損の範囲や浸潤の程度など上皮・実質の病巣の所見に比して強いCretro-cornealplaquesや前房蓄膿などの内皮側・前房所見を認めたことが特記すべきことと思われた.同様の指摘をCTobi-matsuら8)も報告している.モラクセラ属による角膜潰瘍は病原性が弱いため潰瘍部は細胞浸潤が軽微で周辺角膜は比較的清明であることが多いが,これに反して強い炎症を惹起することがあり,その臨床像はさまざまであるとされていた.細菌性角膜潰瘍は,一般的に初期病変として浸潤があり,進行とともに膿瘍や潰瘍が周囲へ水平に進展するといわれている.一方,真菌性角膜潰瘍の特徴は,灰白色羽毛様病巣であるが,角膜実質から内皮側に垂直に菌糸が進展しやすいため,早期からCendothelialplaqueや前房蓄膿など前房炎症を伴うことが知られている.通常角膜内皮面に炎症産物の沈着を認めた場合,endothelialplaqueと考え真菌感染が疑われることが多いが,細菌感染(緑膿菌,モラクセラ,肺炎球菌)やウイルス(ヘルペス)感染においても,炎症が高度の場合,類似の所見を認めることがある.Takezawaらは,これを真菌感染症と区別してCretrocornealplaquesとよぶことを提唱している9).同報告では前眼部COCTを用い,真菌によるCendothelialplaqueは内皮面とCplaqueの間に鮮明な境界はなく,内皮面は不整であるが,細菌によるCretrocornealplaquesは,内皮面とCplaqueの間に鮮明な境界があり,内皮面が平滑であることを指摘し,endothelialplaqueは,真菌が実質から内皮に侵入しており病原体を含むプラークであることが多く,retrocornealplaquesは毒素に対する好中球やC.brinなどの炎症細胞である可能性が高いと考察している.本症例のように軽微な浸潤と上皮欠損に比べて強い内皮側の反応を伴う場合,真菌感染との鑑別が必要となる.とくにモラクセラは細菌感染に関しては進行が緩徐で,培養では検出困難であり,抗菌薬への反応も緩徐であることから,さらに鑑別がむずかしい.感染症診断における塗抹鏡検の重要性が改めて示唆されるとともに,今回は施行していないが,前眼部OCTも診断補助として有用であると推察される.強いCretrocornealplaquesを生じた理由については,糖尿病や全身局所状態により血管透過性が亢進していること,とくにCM.lacunata,M.nonliquefaciensはC.blinolysin,hyalu-nonidase,lecithinaseなどの毒素様物質を多く産生すること10)が関与していると思われる.呼吸器感染症において,モラクセラは病巣での白血球遊走を促し強い炎症を惹起し,粘膜における滲出性炎症と粘液の分泌亢進を伴うが,比較的粘膜組織の破壊は伴わないとされている11).角膜潰瘍においても,その弱い病原性により角膜上皮に対する重篤な組織破壊を伴わずに,強い前房内炎症とともにCretrocornealplaquesを生じるのかもしれない.モラクセラ属による肺炎のC30%以上は,肺炎球菌やインフルエンザ菌が同時に分離される混合感染であるとされている.眼科領域においても複合感染性結膜炎の報告があり,肺炎球菌との合併が多く,その他連鎖球菌属,表皮ブドウ球菌,インフルエンザ菌,黄色ブドウ球菌,コリネバクテリウムなどが同時に検出されている12).モラクセラ属による角膜炎が多様な臨床像を示す理由として,菌種による毒素性物質の産生や複合感染の関与で臨床像が装飾されることも考えられる.治療に関しては,M.catarrhalis,M.lacunata,M.nonliq-uefaciensのC90.100%がCb-ラクタマーゼを産生する13)ことから,ペニシリン系や第一世代セフェム系以外の広範な薬剤感受性が良好とされ,本酵素に安定な第C2または第C3世代セフェム系,ニューキノロン系などの抗菌薬をはじめ,今日の日本国内で多用される薬剤がほぼ有効である.しかし,M.nonliquefaciensのC68.1%にマクロライド系高度耐性を示す株が存在し14),今回も症例C1ではCCAMに対して耐性を認めたため,今後耐性化に注意が必要と思われる.抗菌薬治療が有効であったものの,上皮欠損の消失には長時間がかかった点は過去の報告と同様であった.症例C1,2,3は,2剤以上の抗菌薬使用で予後良好であったが,症例C4においては抗菌治療で緩徐に軽快傾向があったが徐々に角膜菲薄化し,第C6病日に角膜穿孔を認め羊膜移植を要した.小児中耳炎において,M.catarrhalisは小児の中耳に定着しバイオフィルムを産生することによりの再発や遷延化に関与する可能性が近年注目されている15).角膜潰瘍においても,同様にバイオフィルムが産生されて治療への反応が遅くなる可能性や,菌の産生する毒素やプロテアーゼなどで治癒に長時間がかかることが,治療への反応の緩徐さを招いている可能性があると思われる.今回,モラクセラ属と同定された角膜炎のC4症例について,その臨床的特徴を中心に報告した.今後さらなる詳細な病態の解明のために,菌種の同定を含めた症例の蓄積が必要である.文献1)三井幸彦,北野周作,内田幸男ほか:細菌性外眼部感染症に対する汎用抗生物質等点眼薬の評価基準,1985.日眼会誌C90:511-515,C19862)感染症角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現況.日眼会誌110:961-972,C20063)井上幸次,大橋裕一,秦野寛ほか:前眼部・外眼部感染症における起因菌判定―日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性他施設調査(第一報).日眼会誌C115:C801-813,C20114)DasS,ConstantinouM,DaniellMetal:MoraxellakeratiC-tis:predisposingCfactorsCandCclinicalCreviewCofC95Ccases.CBrJOphthalmolC90:1236-1238,C20065)InoueH,SuzukiT,InoueTetal:ClinicalcharacteristicsandCbacteriologicalCpro.leCofCMoraxellaCkeratitis.CCorneaC34:1105-1109,C20156)鈴木崇:モラクセラ角膜炎ダイジェスト.あたらしい眼科33:1547-1550,C20167)大野達也,田中洋輔,安西桃子ほか:Moraxellanonliquefa-ciensによる角膜潰瘍のC1症例.日臨微生物誌C25:46-52,C20158)TobimatsuCY,CInadaCN,CShojiCJCetal:ClinicalCcharacteris-ticsCofC17CpatientsCwithCMoraxellaCkeratitis.CSeminCOph-thalmolC33:726-732,C20189)TakezawaY,SuzukiT,ShiraishiA:Observationofreto-cornealCplaquesCinCpatientsCwithCinfectiousCkeratitisCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CCorneaC36:1237-1242,C201710)井上勇,新井武利,吉沢一太ほか:Moraxellaに関する研究第C4報Moraxellaの毒素様物質について.感染症誌C51:603-607,C197711)長南正佳,中村文子:モラクセラ・カタラーリス.臨床検査58:1366-1368,C201412)坂本雅子,東堤稔,深井孝之助:眼感染症由来検体より分離したCMoraxella(Branhamella)catararrhlisの細菌学的検討.あたらしい眼科7:89-93,C199013)川上健司:Cbラクタマーゼ産生モラキセラ・カタラーリス感染症.医学のあゆみ208:29-32,C200414)NonakaCS,CMatsuzakiCK,CKazamaCTCetal:AntimicrobialCsusceptibilityCandCmechanismsCofChighClevelCmacrolideCresistanceinclinicalisolatesofMoraxellanonliquefaciens.JMedMicrobiolC63:242-247,C201415)秦亮,渡辺博:モラクセラ感染症.別冊日本臨床感染症症候群,第C2版,上,病原体別感染症変,p94-98,日本臨牀社,2013***

涙小管結石の組成についての検討─細菌学的検査,組織化学的および元素分析的解析

2019年9月30日 月曜日

《第7回日本涙道・涙液学会原著》あたらしい眼科36(9):1183.1187,2019c涙小管結石の組成についての検討─細菌学的検査,組織化学的および元素分析的解析児玉俊夫*1大城由美*2首藤政親*3*1松山赤十字病院眼科*2松山赤十字病院病理診断科*3愛媛大学学術支援センターCAnalysisofConcretionintheCanaliculus─Microbiological,HistochemicalandElementAnalysisToshioKodama1),YumiOshiro2)andMasachikaShudo3)1)DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,2)3)IntegratedCenterforScience,EhimeUniversityCDepartmentofPathology,MatsuyamaRedCrossHospital,目的:細菌学的,組織学的検査および元素分析による涙小管結石の解析.対象および方法:対象は涙小管結石を摘出したC22例で,膿性分泌物の好気性,嫌気性細菌培養を行った.摘出された結石はグラム染色,コッサ染色,過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色による組織化学的解析,走査型電子顕微鏡(SEM)による微細構造の検討,およびエネルギー分散型蛍光CX線分析による構成元素の解析を行った.結果:細菌学的検査で放線菌が検出できたのはC22例中C6例で,病理組織標本では菌糸を有すグラム陽性桿菌がC15例で認められた.結石の中心部は好酸性の無構造物質がみられ,PAS陽性のムコ多糖類が層状構造を示し,塊状のカルシウム沈着がみられた.SEMにより結石の表面にはフィラメント様線維がみられ,元素分析により結石表面の主要な元素として炭素,塩素,酸素,リン,カルシウムが認められた.結論:涙小管結石は肉芽腫から漏出したムコ多糖類などが放線菌菌糸に絡みつき,さらにカルシウムが沈着することにより涙小管結石を形成したと考えられた.CPurpose:Toreportthecharacteristicsofmicrobiological,histochemicalandelementanalysisofconcretioninthecanaliculus.Methods:Thisstudywasconductedon22casesoflacrimalcanaliculitiswhounderwentsurgicalremovalCofCconcretions.CPurulentCdischargeCwasCexaminedCbyCaerobicCandCanaerobicCcultures.CConcretionsCwereCexaminedusinghistopathologicalstainingwithhematoxylinandeosin,gram,Kossaandperiodicacid-Schi.(PAS)C.Westudiedtheconcretionsurfacebyobservationwithscanningelectronmicroscopy(SEM)andenergydispersiveX-rayCspectrometry(EDX)C.CResults:InCbacteriologicalCexamination,CpurulentCdischargeCshowedCActinomycesCin6outCofC22Ccases.CHistopathologicalCexaminationCrevealedC15CcasesCofC.lamentousCgram-positiveCorganisms.CEosino-philicCamorphousCmatrixCwasCobservedcentrally;PAS-positiveCmucopeptideCmaterialsCshowingClaminarCstructureCandcalciumdepositionwerescatteredintheconcretions.SEMshowed.lamentousorganismsonthesurfaceoftheconcretion,CtheCfrequentCelementsCbeingCcarbon,Cchlorine,Coxygen,Cphosphorous,CcalciumCasCdemonstratedCbyCEDX.CConclusion:Wesupposeaconcretiondevelopmentalprocessinwhichmucopeptidesecretedfromgranulationtis-suesinthecanaliculitismayconglutinatetothe.lamentousgram-positiveorganismsandthatcalciumdepositionmayfollow.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(9):1183.1187,C2019〕Keywords:涙小管炎,涙小管結石,放線菌,石灰化,エネルギー分散型CX線分析.lacrimalcanaliculitis,concre-tioninthecanaliculus,Actinomyces,calci.cation,energydispersiveX-rayspectrometry.C〔別刷請求先〕児玉俊夫:〒790-8524愛媛県松山市文京町1松山赤十字病院眼科Reprintrequests:ToshioKodama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,MatsuyamaRedCrossHospital,1Bunkyo-cho,Matsuyama,Ehime790-8524,JAPANCはじめに涙小管炎は比較的まれな疾患で,亀井らによると抗菌点眼薬では改善しない片眼性の難治性結膜炎として治療されていることが多く,涙点の拡大や涙小管部の眼瞼腫脹あるいは硬結,および大量の粘液膿性眼脂などの臨床症状がみられる1).涙小管炎には菌塊ともよばれる涙小管結石を生じることがあるが,なぜ涙小管炎に結石形成がみられるのか,その異所性石灰沈着の機序はいまだ明らかではない.本報告では手術によって摘出した涙小管結石について細菌学的検査,組織化学的解析,走査型電子顕微鏡および元素分析を行って結石の石灰化メカニズムについて検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2004年4月1日.2019年1月C31日の14年10カ月間に松山赤十字病院眼科(以下,当科)において手術により涙小管結石を摘出したC22例である.涙小管炎の起炎微生物の同定については,涙点部の圧迫を行って排出された膿性分泌物を用いて塗抹標本のグラム染色と細菌培養を行った.培養条件として好気性菌および通性嫌気性菌検出のための好気的培養は大気中で行った.偏性嫌気性菌検出のための嫌気的培養は試料を採取して即座に当科と同じ階にある微生物検査室に運び,窒素C80%,水素C10%,二酸化炭素C10%の混合ガスに満たされたグローブ付きボックスの中で培養を行った.涙小管結石は,涙点拡張後に鋭匙により炎症を生じている涙小管内を掻爬するか,涙小管を切開して周囲の肉芽組織とともに採取した(図1).なお,涙小管の再建のため涙小管切開後,涙管チューブを留置して涙小管断端同士を縫合した.涙管チューブは涙管通水試験で涙小管が閉鎖していないことを確認して約C3カ月後に抜去した.図1涙小管切開による涙小管結石の摘出下涙小管部で硬結を触れる部位で皮膚切開を加え,結石(.)と周囲の肉芽組織を露出した.摘出した涙小管結石はホルマリン固定,アルコール脱水,パラフィン包埋を行ってC3Cμmの薄切切片を作製した.薄切切片はヘマトキシリン・エオジン(HE)染色,グラム染色,カルシウム染色であるコッサ染色,ムコ多糖類の染色である過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色を行い,結石の性状について検討した.涙小管結石表面の微細構造の解析は,摘出した結石をC3%グルタールアルデヒド・リン酸緩衝液で固定後,臨界点乾燥を行って走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し,さらにエネルギー分散型CX線分析(energyCdispersiveCX-rayspectrometry:EDX)により結石表層の構成元素を特定した.涙小管結石のおもな構成元素のピーク高と涙.鼻腔吻合術で切除した前涙.稜の骨組織の構成元素と比較した.本研究は松山赤十字病院医療倫理委員会の承認を受けて行った(NoC657).CII結果涙小管結石を摘出した患者の平均年齢はC72.7C±9.2歳(平均±標準偏差,57.87歳)で男性C5例,女性C17例と女性に多かった(図2).膿性分泌物の細菌学的検査を行ったC22例中,放線菌が分離されたのはC6例で,そのうちCActinomycesisraeliiと同定できたのはC2例のみであった.放線菌以外の検出菌はC52株で,好気性菌および通性嫌気性菌では多い順にCStreptococ-cusanginosusが8株,Corynebacterium属とCStapylococcusepidermidisが5株,StapylococcusaureusがC4株であった.偏性嫌気性菌ではCPropionibacteriumacnesが9株,Fusa-bacterium属がC3株であった.細菌培養により放線菌が検出できなかったC16症例では摘出した結石のパラフィン切片を用いて病理組織検査を行った.グラム染色で結石の表層に放線菌と考えられる菌糸を有すグラム陽性桿菌が認められたのはC15例であった.残りC1例では菌糸の直径がC2Cμmを超えており放線菌より直径が大きいために,真菌染色であるグロコット染色を行って真菌と確認した.(例)181614121086420男性女性図2性別による涙小管炎の頻度結石を伴う涙小管炎の頻度は女性に多かった.図3涙小管結石の組織化学的所見a:HE染色.結石の表層には炎症細胞浸潤がみられ,結石の中心部は好酸性の無構造物質が存在していた.バーはC10Cμm.Cb:PAS染色.結石内部にはCPAS陽性のムコ多糖類からなる物質が層状構造(.)をとっていた.C→はCcにおける塊状の石灰化物で,PAS染色標本でもみられた.バーはC10Cμm.Cc:コッサ染色.結石内に塊状の石灰化物(C→)がみられ,その付近に微小な石灰沈着が認められた(⇒).バーはC10Cμm.Cd:グラム染色.結石の表層部に菌糸を有するグラム陽性桿菌(☆)が多数認められた.バーはC10Cμm.図4涙小管結石の微細構造a:グラム染色.フィラメント状の菌糸を有するグラム陽性桿菌が多数みられ放線菌と考えた.バーは1Cμm.Cb:SEM.析出した線維素あるいは菌糸と考えられる微細なフィラメント状物質と,桿菌と思われる長さ1.2Cμmの菌体類似構造(.)が認められた.バーはC10Cμm.つぎに涙小管結石の性状を明らかにするために組織化学的な石灰沈着が認められた(図3c).グラム染色では結石の表検討を行った.HE染色において最表層には炎症細胞浸潤が層部に菌糸を有するグラム陽性桿菌が多数認められた(図みられ,結石の中心部は好酸性の無構造物質が存在していたC3d).さらにグラム染色標本のグラム陽性桿菌は,高倍率で(図3a).PAS染色では結石内部にCPAS陽性のムコ多糖類詳細を観察するとフィラメント状の菌糸を有しており,放線から成り立つ物質が層状構造をとっていた(図3b).コッサ菌と考えた(図4a)染色では結石内に塊状の石灰化物がみられ,その周囲に微小SEMにより結石表面の微細構造を観察すると,析出したab図5涙小管結石と骨組織表面のEDXの比較a:涙小管結石(90歳,女性).Cb:骨組織(71歳,女性).涙.鼻腔吻合術時に切除した前涙.稜の骨壁.EDXによる分析では,涙小管結石の表層のおもな元素は炭素,塩素,酸素,リン,カルシウムで,骨組織も同様であった.涙小管結石では骨組織と比較するとリン(①)のピークが高く,塩素(②)とカルシウム(③)のピークが減少していた.線維素あるいは菌糸と考えることもできる微細なフィラメント状物質と桿菌と思われる長さC1.2Cμmの菌体類似構造が認められた(図4b).同部位をCEDXにより計測して結石表層の構成元素を分析したところ,炭素,塩素,酸素,リン,カルシウムが結石表層の構成元素として同定された.比較のため涙.鼻腔吻合術で切除した骨組織を分析したところ,結石の構成元素と同様の組成を示した.今回使用したCEDXでは定量的測定ができないためにピーク高での単純比較しかできないが,涙小管結石では骨組織と比較するとリンのピークが高く,塩素とカルシウムのピークが減少していた(図5).CIII考按涙小管炎は比較的まれな疾患であるが,抗菌点眼薬では改善しない膿性の眼脂を伴った片眼性の難治性結膜炎をみたら涙小管炎を鑑別診断にあげる必要がある.臨床所見として噴火状に突出した涙点を中心に眼瞼の発赤を認め,圧迫すると膿が排出される.起炎病原微生物の同定には細菌培養検査が不可欠であるが,起炎菌としてグラム陽性嫌気性菌である放線菌の検出率は低い.膿性分泌物を用いた嫌気培養による放線菌の検出率を比較すると,DemantらはC12例中C3例(25%)2),亀山らはC32例中C12例(38%)1)とその検出率は高いとはいえない.本報告でもその検出率はC27%であった.そのため亀山らやCVeirsは細菌培養による検出が放線菌の診断には必要ではなく,塗抹標本で菌糸を有すグラム陽性桿菌が証明されれば涙小管放線菌症と診断可能としている1,3).本報告では涙小管結石C16例のパラフィン切片を作製して,グラム染色を行い結石の表層に放線菌と考えられる菌糸を有すグラム陽性桿菌が検出できたのはC15例であった.Reppらはフィラメント様構造物がより明瞭に染色できるゴモリ・メセナミン銀溶液を用いて涙小管結石C11例を染色したところ放線菌の菌糸を検出できたのはC10例で,病理組織化学的手法が放線菌の検出に有用としている4).涙小管結石は硬度が低くもろいために結石を押しつぶして塗抹標本を作製することがあるが,手間はかかっても結石をホルマリン固定,パラフィン切片を作製してグラム染色を行ったほうが微生物の形状が保たれるために放線菌の検出には有利である5).問題点として塗抹標本および病理組織標本ともフィラメント状の菌糸をもつグラム陽性桿菌である放線菌目の細菌を検出できても,嫌気性のアクチノミセス属か好気性のノカルジア属かを同定することは不可能であり,やはり菌種の同定には細菌培養検査が不可欠である6).なぜ放線菌の検出率が低いか,その理由を考えてみたい.膿性分泌物の細菌学的検査による放線菌以外のおもな検出菌は,好気性および通性嫌気性菌ではCStreptococcusanginosus,Corynebacterium属,StapylococcusCepidermidis,Stapylococ-cusaureusの順に多かった.偏性嫌気性菌ではCPropionibac-teriumacnesとCFusabacterium属が多かった.Stapylococcusepidermidis,Stapylococcusaureus,Corynebacterium属細菌は結膜.常在細菌叢を形成しており,Propionibacteriumacnesはマイボーム腺や皮膚の毛根部に生息している7).一方,口腔内にも多数の微生物が生息しており放線菌,StreptococcusanginosusやCFusabacterium属細菌は口腔内細菌叢の一員として定住している8).これらの常在菌が混在していると発育の遅い放線菌の生育が抑制されるために細菌培養での検出率が低下すると考えられる.涙道結石の形成機序について,Iliadelisらは炎症の起きている涙道粘膜において涙液の再吸収が生じて塩類,とくにカルシウムの過飽和が生じることにより結石形成が促進されるとしている.さらに高濃度の塩類は水可溶性蛋白質の凝集をもたらし,その結果,変性した蛋白質が結石の核になりうるという仮説を提唱している9).この仮説を踏まえたうえで,結石形成のメカニズムを本報告では組織化学的および電子顕微鏡的に検討した.結石の中心部はCHE染色にて好酸性の無構造物質で,凝集した変性蛋白質と考えることができる.PAS染色ではCPAS陽性のムコ多糖類が凝集して層状構造を示しており,少しずつ凝集して結石を形成したと考えられる.同時に結石内部の放線菌の菌体は吸収されて無構造化したと思われる.結石の表層ではコッサ染色で示されたカルシウム沈着が認められ,グラム染色で放線菌が同様に結石の表層に分布していたことを考えると,放線菌と石灰沈着の間には何らかの関連があると思われる.Perryらは涙道結石をムコペプチド型と細菌型のC2種類に分類し,ムコペプチド型結石は涙.に局在し,細菌型結石は大多数が涙小管から採取されたと報告し,細菌型結石ではカルシウムの含有量が少ないために石のような硬度を示すことはまれであるとしている10).本報告でも涙小管結石C16例中C15例に放線菌が検出され,涙小管結石は放線菌が増殖した細菌型の結石に分類される.涙小管炎は女性に多いという特徴があるが,本報告でも男性C5例に対して女性はC17例と女性に発症することが多いことがわかった.前述のように結石形成は核となる物質が存在すれば,結石の成長が促進される.すなわち,女性では化粧品のパウダーが涙小管に貯留するために涙小管結石の核となるというメカニズムも考えられている11).EDXによる分析では涙小管結石の表層は炭素,塩素,酸素,リン,カルシウムで構成されていたが,いずれもカルシウム塩の構成元素である.今回使用したCEDXでは定量的分析は困難である12)が,涙.鼻腔吻合術時に切除された骨組織の構成元素を強度で比較すると,涙小管結石ではリンの量が高かったが,塩素とカルシウムの量が多かった理由として,涙小管結石でカルシウム量が少なく,リンの量が高かったのは骨組織に比較すると涙小管結石では骨密度が低く,蛋白質などの有機物の量が多いためと考えられる.組織学的検討より涙小管結石はCPerryらが提唱した涙道結石の分類では細菌型の特徴を備えていたが,EDXの結果もこの所見を支持するものである.涙小管結石の生成機序として涙小管炎に伴う肉芽腫血管から漏出したムコ多糖類や,おそらく結膜杯細胞由来のムチンなどが放線菌の菌糸に絡みついてバイオフィルムを形成し,さらにカルシウムが沈着することにより涙小管結石を形成したと考える.文献1)亀井和子,中川尚,内田幸男:放線菌による涙小管炎の臨床所見.あたらしい眼科7:1783-1786,C19902)DemantCE,CHurwitzJ:Canaliculitis:ReviewCofC12Ccases.CCanJOphthalmolC15:73-75,C19803)VeirsER:TheClacrimalCsystem.Canaliculus.:In:Exter-naldiseasesoftheeye(WilsonLA,ed)C.p134-138,Harper&Row,Hagerstown,19794)ReppCDJ,CBurkatCCN,CLucarelliMJ:LacrimalCexcretoryCsystemconcreations:canalicularCandClacrimalCsac.COph-thalmologyC116:2230-2235,C20095)石川和郎,児玉俊夫,島村一郎ほか:菌塊を形成した涙小管感染症の細菌学的検討.臨眼62:467-472,C20086)水口康雄:アクチノミセス,ノカルジア.戸田新細菌学改訂32版(吉田眞一,柳雄介編),p669-673,南山堂,20027)桑原知巳:結膜.常在細菌叢.眼科58:157-165,C20168)中山浩次:口腔微生物と感染症.戸田新細菌学改訂C32版(吉田眞一,柳雄介編),p178-180,南山堂,20029)IliadelisCED,CKarabatakisCVE,CSofoniouMK:DacryolithsCinCaCseriesCofdacryocystorhinostomies:HistologicCandCchemicalanalysis.EurJOphthalmolC16:657-662,C200610)PerryCLJP,CJakobiecCFA,CZakkaFR:BacterialCandCmuco-peptideCconcretionsCofCtheClacrimaldrainageCsystem:AnCanalysisof30cases.OphthalPlastRecostrSurgC28:126-133,C201211)MarthinJK,LindegaardJ,PrauseJUetal:LesionsofthelacrimaldrainageCsystem:aCclinicopathlogicalCstudyCofC643CbiopsyCspecimensCofCtheClacrimalCdrainageCsystemCinCDenmarkC1910-1999.CActaCOphthalmolCScandC83:94-99,C200512)星野玲子:蛍光CX線分析の原理と機器を利用した比較研究.鶴見大学紀要52:77-89,C2015***

基礎研究コラム 28.Stiffness(硬さ)と細胞分化

2019年9月30日 月曜日

Sti.ness(硬さ)と細胞分化はじめに細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)は結合組織線維(コラーゲン線維,エラスチン線維),基質(グリコサミノグリカン,プロテオグリカン),蛋白質などから構成されており,細胞と細胞を埋めている物質をさします.適切なCECMはCES/iPS細胞などのような幹細胞から目的細胞に分化させるときに非常に重要となります.近年ではとくにそのCsti.nessに注目が集まっています.たとえば,間葉系幹細胞を培養するときに,基材のCsti.nessを変えることで分化制御できることが明らかになってきており,骨再生などの再生医療においても応用されています.CSti.nessと角膜健常な角膜上皮は角膜輪部から常に新しい上皮細胞が供給され,その恒常性が維持されています.角膜輪部が広範囲に障害されると角膜上皮細胞の供給が妨げられ,代わりに結膜上皮細胞が侵入します.しかし,角膜実質すなわちCECMが正常である場合,その透明性が維持されていることをしばしば経験します.Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡および熱・化学外傷などによって引き起こされる角膜上皮幹細胞疲弊症では慢性炎症が持続しており,角膜上皮細胞の分化異常が生じます.近年の研究において,Notch1をノックアウトして慢性炎症を引き起こしたモデルでは,YAP(Y-chromosomeCalupolymorphism)が核内に移行し,ECMが正常より硬くなることで角膜上皮特異的蛋白であるケラチンC12の発現が低下し,角化上皮細胞のマーカーであるケラチンC1の発現が上昇し,分化異常をきたします1).また角膜輪部では角膜中央部と比べてCECMのCsti.nessが違うことが知られており2),石田学京都府立医科大学北澤耕司京都府立医科大学,BuckInstituteforResearchonAgingsti.nessを点眼によって実験的に変えることで,幹細胞マーカーの発現量が変わることが報告されています3).今後の展望上述したような機械的刺激を生物学的シグナルに変換することをメカノトランスダクションといいます.角膜上皮細胞は,コア転写因子によってその細胞恒常性が維持されていることが報告されており4,5),ECMのCsti.nessが転写因子の発現を制御していると考えられます.すなわち,このCECMの制御を人工的に操作することができれば,重症の難治角結膜疾患における異常細胞分化を制御することができ,健常な角膜上皮細胞に戻すという,一種のダイレクトリプログラミング治療も夢物語ではないかもしれません.文献1)NowellCCS,COdermattCPD,CAzzolinCLCetal:ChronicCin.ammationCimposesCaberrantCcellCfateCinCregeneratingCepitheliathroughmechanotransduction.NatCellBiol18:C168-180,C20162)FosterJW,JonesRR,BippesCAetal:Di.erentialnucle-arCexpressionCofCYapCinCbasalCepithelialCcellsCacrossCtheCcorneaCandCsubstratesCofCdi.eringCsti.ness.CExpCEyeCResC127:37-41,C20143)GouveiaRM,LepertG,GuptaSetal:Assessmentofcor-nealCsubstrateCbiomechanicsCandCitsCe.ectConCepithelialCstemCcellCmaintenanceCandCdi.erentiation.CNatCCommunC10:1496,C20194)KitazawaK,HikichiT,NakamuraTetal:OVOL2main-tainsCtheCtranscriptionalCprogramCofChumanCcornealCepi-theliumCbyCsuppressingCepithelial-to-mesenchymalCtransi-tion.CellCRepC15:1359-1368,C20165)KitazawaCK,CHikichiCT,CNakamuraCTCetal:PAX6Cregu-lateshumancornealepitheliumcellidentity.ExpEyeResC154:30-38,C2017図1細胞のsti.nessと細胞分化細胞外マトリックスのCsti.nessが変わることにより細胞分化が変わる.メカノトランスダクションの制御が今後の細胞分化制御に重要であるかもしれない.Elasticity+++Elasticity+角膜上皮幹細胞角膜上皮細胞Elasticity+/-異常角化上皮細胞(69)あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019C11710910-1810/19/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 196.硝子体手術後の鼻側楔状視野欠損(初級編)

2019年9月30日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載196196硝子体手術後の鼻側楔状視野欠損(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに硝子体手術後,急性期に視野異常をきたす病態としては,空気灌流による網膜傷害,網膜動脈閉塞症,虚血性視神経症,インドシアニングリーンによる網膜毒性などの報告がある.このうち,楔状の視野障害を生じるものとしては空気灌流によるものが知られているが,通常はインフュージョンポートの対側網膜が傷害されるので,視野欠損は下耳側に生じる.筆者らは原因不明の鼻側楔状視野障害を生じた4例を経験し報告したことがある1).●症例4例の原疾患は黄斑円孔2例,黄斑上膜1例,網膜分離症1例.手術は球後麻酔3例,Tenon.下麻酔1例.全例シャンデリア照明を使用した25ゲージ4ポートで硝子体手術を施行し,内境界膜.離の際にBBGを使用した.黄斑円孔の2例では液空気置換後にSF6ガスの注入を行った(表1).4例とも術後早期より鼻側視野障害を訴えた.Goldmann視野検査を施行したところ,黄斑を頂点とする楔状の鼻側視野障害を認めた(図1).術後も視野に変化は認めなかった.OCTアンギオグラフィー検査を行った黄斑円孔症例において,術後に明らかな網膜循環障害を疑う所見は認めなかった.●鼻側楔状視野欠損の原因視野障害の原因としては循環障害,麻酔の影響などが考えられるが,原因を特定することはできなかった.ただし,いずれも鼻側の楔状視野障害であり,なんらかの共通の原因が考えられる.4症例の特徴としては,症例3以外で緑内障の既往があったこと,全員女性であったこと,術後の眼底検査およびOCTにおいて視野障害を生じるような明らかな網膜病変を認めなかったこと,中心視野は保持されており,術後視力は比較的良好であったことなどがあげられる.(67)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY表14症例のまとめ症例原疾患年齢性別術眼眼軸長麻酔眼合併症①黄斑上膜65歳女右23.99mm球後緑内障BRAO②網膜分離65歳女左25.62mm球後緑内障③黄斑円孔63歳女左22.85mmTenon.下なし④黄斑円孔67歳女左22.82mm球後緑内障図14症例の術後Goldman動的視野検査結果4例とも術後早期よりGoldmann視野検査で黄斑を頂点とする楔状の鼻側視野障害を認めた.①の耳側視野障害は網膜静脈分枝閉塞(BRVO)によるものである.今回のような鼻側に楔型視野狭窄をきたす疾患としては,圧迫性視神経症がある.圧迫性視神経症の原因としては頭蓋内病変(腫瘍や脳動脈瘤),眼窩内病変(甲状腺眼症や眼窩腫瘍,視神経腫瘍など)がある.今回,球後に注入された麻酔液が視神経を過度に圧迫し,もともとの緑内障素因が加わって視神経の循環障害を惹起した可能性も考えられる.しかし,今回の1例はTenon.下麻酔の症例であり,麻酔薬が一塊となり視野障害を起こすほど視神経を圧迫する可能性は低い.麻酔薬自体の視神経に及ぼす影響も否定はできないが,いずれにしても,このような合併症がまれに生じうることを念頭におき,術後に患者が視野欠損を自覚した場合には,視野検査を行うべきである.文献1)佐藤孝樹,大須賀翔,河本良輔ほか:25ゲージ硝子体手術後に鼻側に楔状視野障害を生じた4例.臨眼73:651-659,2019あたらしい眼科Vol.36,No.9,20191169