眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人54.Stevens-Johnson症候群と結膜変化上田真由美京都府立医科大学特任講座感覚器未来医療学Stevens-Johnson症候群は,急性期に全身の皮膚と粘膜,そして眼表面の炎症を生じる.重度の眼表面炎症は,瞼球癒着や眼瞼結膜の瘢痕形成,角膜への結膜侵入,睫毛乱生など,結膜に瘢痕病変を生じさせる.慢性期においても軽度の眼表面炎症が継続し,結膜病変を進行させることがある.●はじめにStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyn-drome:SJS)は,突然の高熱,口内炎,皮膚の小さな発疹に続いて,全身の皮膚と粘膜に水疱とびらんを生じる急性の皮膚粘膜疾患である.中毒性表皮壊死症(toxicepidermalnecrolysis:TEN)の一部はSJSの重症型と考えられているが,眼科では,瘢痕性角結膜上皮症に至った慢性期の患者を診ることが多く,重篤な眼合併症を伴うSJSとTENを併せて広義のSJSと呼称している1).急性期に重篤な眼合併症(偽膜ならびに角結膜上皮欠損の両方を認める重篤な結膜炎)を伴うのはSJS/TEN全体の約40%と報告されているが2),その多くは慢性期に重篤な眼後遺症を生じる.重篤な眼後遺症としては,重症ドライアイのほかに,おもに次の結膜病変があげられる.①睫毛乱生,②瞼球癒着,③眼瞼結膜の瘢痕形成,④角膜への結膜侵入・角化.これらの重篤な後遺症は,視力障害の原因となる.本稿では,これらの慢性期の眼後遺症の結膜所見について詳細に記載する.●睫毛乱生(図1)慢性期SJSで認められる睫毛乱生は,一般に認められる睫毛乱生と比較するとかなり重症である.多くの場合,睫毛根部の位置が通常の睫毛ラインからはずれており,ひどい場合は眼瞼結膜から睫毛が生えている.睫毛乱生を放置しておくと睫毛接触による眼表面炎症を誘発するので,こまめに睫毛抜去する必要がある.重症の場合は睫毛根部切除術などの手術的治療も適応となる.●瞼球癒着(図2)慢性期SJSでは瞼球癒着を認めることが珍しくない.程度はさまざまで,重度の場合,上下の眼瞼も癒着していることがある.また,瞼球癒着は,慢性期であっても炎症が継続すれば進行する.瞼球癒着の解除手術につい(65)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1睫毛乱生慢性期SJSでみられる睫毛乱生は,通常の睫毛乱生とは異なり,かなり重度である.この症例では,睫毛ラインの内側に多数の睫毛が生えているのに加えて,眼瞼結膜面からも睫毛が生えている.ては,軽度であれば羊膜移植,中等度から重度の場合は培養粘膜上皮移植が有効である.●眼瞼結膜の瘢痕化(図3)急性期に重篤な結膜炎を認めるSJSでは,結膜に偽膜を認めるほど強い炎症を生じる.治療とともに偽膜は出なくなり,強い結膜炎症も徐々に消退するが,慢性期には眼瞼結膜の瘢痕化が後遺症として残ることが多い.この眼瞼結膜の瘢痕が眼瞼縁に存在すると,瞬目のたびに角膜表面をこすって角膜上皮びらんの原因となり,また,患者に眼が開けられないほどの不快感を与える.最近,インドや欧米では,眼瞼縁の結膜瘢痕を除去し口腔粘膜を移植して眼瞼縁の不正を取り,角膜表面への摩擦を減少させる手術を行い,よい結果を得ている.●角膜への結膜侵入(図4)急性期に眼表面炎症のために角膜幹細胞(輪部に存在)が消失してしまった場合,角膜に結膜が侵入する.結膜上皮だけが角膜に入ってくる場合,結膜上皮と薄い結合組織が入ってくる場合,厚い結膜組織が角膜に侵入してくる場合など,程度はさまざまであるが,いずれもあたらしい眼科Vol.36,No.9,20191167図2瞼球癒着図3眼瞼結膜の瘢痕化図4角膜への結膜侵入瞼球癒着は慢性期SJSの代表的な所慢性期SJSのほぼすべての症例で,眼瞼結慢性期SJSで,角膜の結膜が侵入し見である.通常,眼瞼と眼球が結膜膜の瘢痕化を認める.a:眼瞼結膜が瘢痕ている症例は珍しくない.結膜侵入の結合組織を介して癒着するが(a),化して表面が不正になっている.b:眼瞼程度はさまざまである.a:結膜上皮その程度はさまざまである.bの症縁の結膜に瘢痕化を生じている.眼瞼縁結と薄い結膜組織が下方から角膜に侵入例では,眼瞼が角膜面に直接癒着し膜の瘢痕化は,瞬目のたびに角膜に瘢痕化している.b:かなり進行した症例でている.が当たるため,強い異物感の原因となる.あり,角膜全面が厚い結膜組織で覆われ,さらに結膜組織の表面は角化して皮膚のようになっている.to-CS)を装用することにより矯正視力が改善することも珍しくない3).厚い結膜組織が角膜に侵入している場合は,ハードコンタクトレンズだけでの矯正はむずかしく,培養粘膜上皮移植後と輪部支持型ハードコンタクトレンズの両方を行うことで,矯正視力が改善することがある.●病理組織所見(図5)眼表面形成術や眼瞼手術の際に廃棄される結膜組織や眼瞼組織を組織学的に解析したところ,結膜組織には正常結膜と比較して著しい炎症細胞浸潤が認められる.また,睫毛根部にも対照群(通常の眼瞼内反症)と比較して著しい炎症細胞浸潤が認められた4).このことは,SJSでは慢性期においても炎症が継続していることを示しており,この継続する炎症が,慢性期の眼表面所見の悪化の原因となっている可能性がある.●おわりにSJSは希少疾患であるが,発症後眼後遺症を生じた患強い角膜不正乱視となり,視力が著しく低下する.者は一生眼科に通う.また,古い症例では,急性期に原しかし,結膜上皮だけが角膜に入っている場合や結膜因不明といわれて診断がついていないこともある.眼科上皮と薄い結合組織が入っている場合は,京都府立医科医は,慢性期SJSの眼所見を見逃さず,的確に診断な大学グループが開発したSJS用の特殊なハードコンタらびに治療ができてほしいと願う.クトレンズ(輪部支持型ハードコンタクトレンズ:Kyo-1168あたらしい眼科Vol.36,No.9,2019(66)