眼表面に配慮した眼瞼腫瘍切除再建術EyelidTumorSurgerywithConsiderationoftheOcularSurface中山知倫*はじめに眼瞼腫瘍のうち眼瞼原発良性腫瘍で頻度の高いものとして,母斑(nevus,図1),脂漏性角化症(seborrheickeratosis,図2),乳頭腫(papilloma),類表皮.胞(epi-dermoidcyst)があり,眼瞼原発悪性腫瘍で頻度の高いものとして,基底細胞癌(basalcellcarcinoma,図3),脂腺癌(sebaceouscarcinoma,図4),扁平上皮癌(squamouscellcarcinoma)といった上皮性の悪性腫瘍がある1).わが国では基底細胞癌の頻度が欧米に比べて低く,脂腺癌は逆に高くなっており,脂腺癌と基底細胞癌が日本の2大眼瞼原発悪性腫瘍となっている2).どちらも高齢者に多い疾患であることから,今後の症例数の増加が予想される.I眼瞼の解剖と機能眼瞼腫瘍治療の第一選択は外科的切除術となる.眼瞼腫瘍の切除および再建術について述べる前に,まず眼瞼の解剖と機能について理解しておく必要がある.1.眼瞼の解剖(図5,6)眼瞼は上下ともに前葉と後葉に分けて理解することが重要である.前葉とは眼瞼の「前」の組織のことで,皮膚と眼輪筋をさす.後葉とは眼瞼の「後」の組織のことで瞼板と眼瞼結膜をさす.眼表面には,粘膜を含む後葉が適切に接触している必要があり,粘膜のない前葉のみでは代替ができない.また,前葉は体表面であることから,皮膚である必要があり,やはり後葉のみでは代替ができない.また,前葉と後葉とのバランスが悪く,相対的なずれが生じれば眼瞼の内反や外反の原因となりうる.前葉と後葉の位置を支持する組織は,垂直方向は上眼瞼の上眼瞼挙筋と皮膚穿通枝,下眼瞼ではlowereyelidretractors(LER)と皮膚穿通枝である.水平方向は,上下の眼瞼瞼板に適切なテンションを与えている内眥靱帯,外眥靱帯である.基本的にはこのように考えてよいが,厳密にはそれぞれの支持組織が相互に影響している.2.眼瞼の機能眼瞼の役割としては,静的な役割と動的な役割がある.静的な役割としては,眼瞼の適切な形状による眼表面の保護機能と涙液導涙経路としての機能がある.動的な役割としては,瞬目による涙液ポンプ機能と眼表面への涙液供給機能がある.静的な役割,すなわち眼瞼の適切な形状が失われる状態とは,眼瞼内反や外反のなどの場合であり,前葉と後葉の位置関係のずれによって生じる.この場合,眼表面に刺激を生じて影響を与える.また,導涙経路としての適切な眼瞼形状も保たれなくなるため,涙液の眼表面への適切な供給が失われ,ドライアイなどで眼表面へ影響を与える可能性が生じる.動的な役割,すなわち適切な瞬目が失われるとは,や*TomomichiNakayama:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕中山知倫:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学0910-1810/21/\100/頁/JCOPY(33)33図1母斑図2脂漏性角化症図3基底細胞癌図4脂腺癌結膜瞼板下瞼板動脈弓皮膚穿通枝LER前層(CPF)線維脂肪組織眼輪筋眼窩隔膜図6下眼瞼の解剖図5上眼瞼の解剖CPF:capsulopalpebralfascia,CPH:capsulopalpebralfascia,LER:lowereyelidretractors,SM:smoothmuscle(平滑筋).眼瞼の機能表1切除範囲に応じた再建法切除範囲静的役割動的役割眼表面の保護機能涙液導涙経路涙液ポンプ機能涙液供給機能破綻眼表面への刺激,違和感(内反症,外反症,ドライアイ,兔眼など)図7眼瞼の機能と障害上眼瞼1/3未満下眼瞼1/2未満上眼瞼1/3以上下眼瞼1/2以上前葉後葉全層単純縫縮(直接縫合)外眥切開Z形成Tenzel.ap1.局所皮弁2.眼輪筋皮弁3.植皮4.動脈皮弁(lateralorbital.ap)5.遊離組織移植1.硬口蓋粘膜2.鼻中隔軟骨+粘膜3.耳介軟骨+粘膜4.Hughes.ap1.眼瞼全層弁(switch.ap,cutler-beard)2.眼瞼全層遊離複合移植LERを前転することになり,lidretractionの状態となって眼表面へ影響を与えることがあり,注意を要する.表1に筆者の施設(以下,当科)での再建手術の方針をまとめて示す.2.眼瞼良性腫瘍眼瞼腫瘍治療の第一選択は外科的切除術となり,良性腫瘍でも同様である.所見上で明らかに良性腫瘍であるなら,必ずしも切除しなければならないことはないが,腫瘍そのものが眼表面に接触したり,導涙機能を障害したりして物理的に眼表面に影響を与えることもある.一般的に良性腫瘍であれば,切除においてマージンは必要ないため,切除範囲は大きくならないことが多い.さらに前葉から発生することがほとんどであるから,切除の影響が眼表面に影響することは少ない.したがって,患者に切除希望があるなら,手術は容易でかつ眼表面への合併症も少ないため,積極的に行って問題はないと考える.手術方法は,腫瘍径が小さい場合には腫瘍を切除し,そのままにして肉芽形成と皮膚の再生を待つopentreatmentで問題ない.切除範囲が大きくなる場合は,前葉を単純縫縮すると適切な眼瞼形状が保てなくなる可能性があるため,皮弁を用いての再建を考慮する必要があるが,良性腫瘍は進行が緩徐であるため,そこまで大きくなることは少なく,実際には頻度は多くない.前葉再建については後述する.3.眼瞼悪性腫瘍眼瞼悪性腫瘍の場合,外科的切除が第一選択となる.基本的には切除にあたりマージンが必要である.そのために腫瘍よりも切除範囲が大きくなる.脂腺癌は瞼板より発生することがほとんどであり,すなわち後葉発生となるため,当然切除においては後葉も含む必要があるし,前葉発生の悪性腫瘍であっても,マージンの必要性から切除範囲に後葉も含むことが多い.III眼表面に配慮した眼瞼腫瘍切除再建術これより,それぞれの眼瞼腫瘍再建術について,表1に基づいて眼表面への影響の可能性と予防のために必要な配慮も含めて述べる.1.単純縫縮(欠損部が上眼瞼1.3未満,下眼瞼1.2未満)文字通り,切除したあとに眼瞼の耳側断端と鼻側断端を単純に縫合する方法である.前葉,後葉ともに全層で再建することになる.この場合,眼瞼の横方向の張力が増すことになり,眼表面との摩擦は増大し,瞬目も影響を受ける.あまりにきついと判断される場合には,外眥切開にて水平方向の張力を軽減するか,Tenzel.apにて外眥を移動させてしまうことで対応できる.理論的にはZ形成にて残存眼瞼組織の延長も可能であるが,残存瞼板の形状を変えることになるため,積極的に行うことはあまりない.また,水平方向の張力を軽減し過ぎれば,かえって外反内反の原因ともなり得るため,適切に調整する必要がある.単純縫縮は,基本的には元来の後葉がそのまま再建後にも後葉となるため,眼瞼の水平方向の張力を適切にコントロールできれば,眼表面への影響はほとんどない.Tenzel.apの際には耳側において,.apの皮下組織がそのまま眼球表面に接触することのないように,.apの皮下組織を残存結膜で覆うように縫合する.実際のTenzel.apを用いた眼瞼腫瘍切除再建術を示す(図8).2.前葉再建前葉再建の材料としては,血流のない遊離皮弁(graft)を用いるか,血流のある有茎皮弁(.ap)を用いるかに大別される.眼瞼の場合には,太い動脈もなく,皮弁のサイズも大きくないことがほとんどであるため,血管吻合をして血流を再建するような遊離皮弁(free.ap)を用いることはまずない.血流のない遊離皮弁を用いる場合で,眼科医にとっても容易なものとして,対側の上眼瞼余剰皮膚がある.また,血流のある皮弁を用いるのであれば,単純に周囲の皮膚をadvanced.apとして用いるのがもっとも容易であるし,そのほかには下眼瞼前葉再建時に同側の上眼瞼余剰皮膚を,耳側部分を茎としてrotation.apとする方法がある.血流のない組織を使用した場合,血流のある組織を用いた場合に比べて,術後の萎縮の程度が大きくなるが,36あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021(36)図8下眼瞼腫瘍(扁平上皮癌)切除術とTenzel.apによる再建(術者視点)a:左下眼瞼腫瘍.b:Tenzel.apのデザイン作成.Cc:下眼瞼腫瘍切除後(下眼瞼全層で眼瞼幅C1/2程度の欠損).d:Tenzel.apの作製.Ce:本来の外眥部の切断.Cf:眼瞼断端の縫合.Cg:外眥部の再作製.Ch:Flapの皮下組織を残存結膜で覆うように縫合.Ci:新たな外眼角の形成.j:眼瞼耳側創部の縫合.k:手術終了時.l:手術後C6カ月.眼表面への影響はとくに認めていない.図9基底細胞癌切除術局所皮弁による再建.図10下眼瞼腫瘍(脂腺癌)切除術とHughesl.apによる再建(術者視点)a:左下眼瞼腫瘍.b:下眼瞼腫瘍摘出後(下眼瞼ほぼ全幅欠損).c:Hughes.apのデザイン.d:HughesC.apの作製.Ce:HughesC.apの展開.Cf:Hughes.apと残存後葉(瞼板と結膜)の縫合.Cg:前葉再建材料として,advanced.apの作製(瞼板皮膚穿通枝と眼窩隔膜の切離).h:前葉皮弁の縫合.Ci:手術終了時.Cj:手術後C1.5カ月(吸収糸で縫合し,抜糸をしていないため縫合糸が残る).眼表面への影響はとくに認めていない.ab図11上眼瞼脂腺癌に対するmodi.edHughes.ap後に生じた角膜障c害に対し上眼瞼挙筋後転術にて改善した症例a:術前.上眼瞼脂腺癌.Cb:上眼瞼腫瘍切除とCmodi.edHughesC.apによる眼瞼再建後とC.ap切り離し直後ではややClidretractionを認めた.Cc:Flap切り離しC1Cmm後.Lidretractionと点状表層角膜炎を認める.Cd:Flap切り離しC3Cmm後.Lidretractionと点状表層角膜炎に改善なし.Ce:挙筋後転術後.CLidretractionと点状表層角膜炎の改善Cdを認めた.Ceて加療した症例を示す(図9).C3.後葉再建先述の通り,眼瞼後葉は瞼板と眼瞼結膜である.したがって,その再建には瞼板の代替となるようなある程度固く支持力のある組織と粘膜が必要となる.そのために表1に示すような再建材料が用いられる.CHughes.apと遊離瞼板は元来の瞼板と眼瞼結膜を再建材料としているが,そのほかの粘膜はやはり本来の結膜とは異なるため,Hughes.apと遊離瞼板が再建材料としては眼表面への影響がもっとも少ない.また,これらのうちでCHughes.ap以外は血流がない再建材料であるため,再建後に大きく萎縮をして内反の原因となることがあり,それを考慮して再建時にはあえて後葉のほうが前葉よりも瞼縁側へ延長した状態にしておくなどの工夫を行う必要がある.当科では,眼表面への影響が軽微なこと,また再建材料の生着が良好なことからHughes.apを用いたHughes法を行うことが多い.Hughes.apとは上眼瞼の瞼結膜と瞼板を下眼瞼後葉再建のために有茎弁として用いるもので,後日切り離すことにより,より本来の状態に近い形での眼瞼再建が可能となる.原法は上眼瞼から下眼瞼への移植だが,当科では下眼瞼から上眼瞼への移植を行うCHughes変法も行っており,今のところ術後経過は良好である.下眼瞼腫瘍に対して,腫瘍切除後にHughes.apにて再建した症例を示す(図10).下眼瞼からの比較的サイズの小さい後葉で再建を行うHughes変法では,残存組織を瞼縁まで引き出して再建することになるため,再建後には挙筋腱膜の前転に類似した状態となりがちである.すなわち術後にClidretrac-tionを生じる可能性があり,残存組織が上眼瞼挙筋を牽引しないよう,穿通糸や眼窩隔膜を切り離しておくことが予防のために重要である.当科でCHughes変法施行後にClidretractionを生じて,点状表層角膜炎を生じたために,眼瞼挙筋後転術を施行し,lidretractionが改善し点状表層角膜炎が軽快した症例を示す(図11).CHughes.apも遊離瞼板移植も,正常瞼板から移植片を採取するため,サイズに制限があり,眼瞼欠損が大きい場合などは,自由に再建組織のサイズを決定できる硬口蓋粘膜移植などが必要となる.C4.全層再建全層再建の場合,前葉と後葉は分離されていないため,そのバランスが崩れて内反や外反になるリスクは少ない.全層再建においてはCswitch.apなどのような血流のある眼瞼有茎全層弁や眼瞼全層遊離複合移植を用いるため,生着や移植片の萎縮などによる変形の点で有利である.眼表面への影響の点で有利な術式ではあるが,移植片を提供して全層欠損した組織の形成も必要となる.当科では眼瞼脂腺癌の再建術において,.apによる後葉再建(HughesC.ap)もしくは眼瞼全層弁(Tenzel.ap,switch.ap)のほうが遊離瞼板移植や硬口蓋粘膜移植といった遊離後葉移植より術後合併症が少なかったことを報告している3).おわりに眼瞼腫瘍の治療においては,腫瘍を切除して終了ではなく,眼瞼という静的な機能と動的な機能をもつ組織を再建する必要がある.そのために,まずは眼瞼の解剖と機能を理解することが基本となる.腫瘍の摘出において,眼瞼がどの程度失われるかは個々の患者によってまったく異なる.毎回異なる眼瞼欠損状態から適切に眼瞼の機能を回復するためには,できるだけ多くの再建方法を学んでおき,状態に応じて可能な限り最適な再建方法の組み合わせを考え出し,それを実行できる技術をもつことが大切である.文献1)SinghCU,CKolavaliRR:OverviewCofCeyelidCtumors.In:CSurgicalophthalmiconcologyChauguleS,HonavarS,Fin-gerP(eds)C,p3-10,Springer,Cham,20192)中山智佳,渡辺彰英,上田幸典ほか:眼瞼脂腺癌C34例の臨床像と組織学的検討.あたらしい眼科C30:1739-1743,C20133)福井歩美,渡辺彰英,外園千恵ほか:眼瞼脂腺癌の臨床像と再建術後合併症の検討.日眼会誌124:410-416,C202040あたらしい眼科Vol.38,No.1,2021(40)