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エタネルセプトからアダリムマブへの変更が奏効した強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎の1例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1600.1603,2019cエタネルセプトからアダリムマブへの変更が奏効した強直性脊椎炎に伴うぶどう膜炎の1例杉澤孝彰石川裕人五味文兵庫医科大学眼科学教室CSuccessfulControlofAnkylosingSpondylitis-relatedUveitisafterSwitchingAnti-tumorNecrosisFactorInhibitorsTakaakiSugisawa,HirotoIshikawaandFumiGomiCDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineC強直性脊椎炎(AS)は,原則片眼性の再発を繰り返すぶどう膜炎を併発する.今回,TNFa阻害薬であるエタネルセプト投与中のCASに合併した難治性ぶどう膜炎に対し,TNF-aモノクローナル抗体であるアダリムマブを変更導入し眼炎症が軽快した症例を経験したので報告する.32歳,男性.ASに伴うコントロール不良の脊椎炎に対しエタネルセプトが投与された.半年後,左眼霧視のため当科受診,矯正視力は右眼C1.5,左眼C0.5.右眼に虹彩後癒着,左眼に豚脂様角膜後面沈着物,前房蓄膿を認めた.左眼は硝子体混濁と網膜血管の蛇行拡張も認め,光干渉断層計で脈絡膜肥厚を認めた.ステロイド点眼にて治療開始するも後眼部炎症の改善が乏しいため,プレドニゾロン全身投与を開始した.軽快し漸減するも再発を繰り返すため初回治療からC11カ月後にエタネルセプトをアダリムマブへ変更した.その結果,1カ月で眼炎症さらには脊椎炎も軽快した.エタネルセプトは血清CTNFと結合し濃度を減らすが,アダリムマブはCTNFを放出する細胞そのものを阻害する.その機序の違いにより,異なる抗炎症効果をもたらすことが示唆された.CPurpose:AnkylosingCspondylitis(AS)isCaCformCofCarthritisCthatCisCchronicCandCmostCoftenCa.ectsCtheCspine.CAbout25%ofASpatientsalsoexperienceuveitis.Wereportacaseinwhichswitchinganti-tumornecrosisfactor(TNF)inhibitorsmayhavebeene.ectiveincontrollingocularin.ammationcausedbyAS-relateduveitis.Subjectandmethods:A35-year-oldmaleundergoingtreatmentwithanti-TNFagentEtanerceptforASatalocalclinicdevelopedCuveitisCinChisCleftCeyeC6CmonthsCafterCtheCinitiationCofCtreatment,CandCwasCsubsequentlyCreferredCtoCourChospitalduetoocularin.ammationthatcouldnotbecontrolled.Westartedtreatmentwithoralsystemiccortico-steroids,andswitchedfromEtanercepttotheanti-TNFagentadalimumab.Results:SwitchingfrometanercepttoadalimumabCultimatelyCcontrolledCtheCocularCin.ammation,CpossiblyCdueCtoCtheCfactCthatCunlikeCetanercept,CwhichCbindstoserumTNFandreducesconcentrations,adalimumabinducedanapoptosisofTNFproductioncells.Con-clusions:Switchinganti-TNFinhibitorsmaybee.ectiveincontrollingocularin.ammationcausedbyAS-relateduveitis,CthusCillustratingCtheCimportanceCofCkeepingCinCmindCtheCspeci.cCcharacteristicsCofCtheCanti-TNFCinhibitorCbeingusedfortreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1600.1603,C2019〕Keywords:再発性ぶどう膜炎,強直性脊椎炎,TNFa阻害薬,アダリムマブ,エタネルセプト.relapseduveitis,ankylosingspondylitis,anti-tumornecrosisfactorinhibitor,adalimumab,etanercept.Cはじめに過をとるリウマチ性の疾患で,若年男性に多く発症すること強直性脊椎炎(ankylosingspondylitis:AS)は,脊椎や四が知られている.ASでは,急性前部ぶどう膜炎を約C25%に肢関節の疼痛ならびに運動制限を特徴とした慢性進行性の経合併する1)といわれており,ステロイド治療に抵抗性がみら〔別刷請求先〕杉澤孝彰:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町C1-1兵庫医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakaakiSugisawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPANC1600(124)れる場合もあったが,近年は抗Ctumornecrosisfactor(TNF)療法が視力予後を改善することが示されてきている2).今回筆者らは,ASに併発した難治性ぶどう膜炎に対し,TNFCa阻害薬をエタネルセプトからアダリムマブへ変更したことにより,炎症寛解に至ったC1例を経験したので報告する.CI症例35歳,男性.主訴は左眼霧視と充血.近医眼科で抗菌薬点眼・ステロイド点眼・散瞳薬点眼にて加療されていたが軽快しないため当院紹介受診となった.10年来のCASに対するステロイド内服やインフリキシマブ投与の既往があり,直近C5年はエタネルセプトが投与され,全身状態は寛解状態であった.当院初診時の矯正視力は右眼(1.5),左眼(0.5),眼圧は右眼C14CmmHg,左眼C13CmmHg.右眼に虹彩後癒着と前房細胞(+),左眼に急性前部ぶどう膜炎様の前房蓄膿,網膜表層の不整,硝子体混濁を認め,OCTにて中心窩脈絡膜肥厚(右眼C280Cμm,左眼C470Cμm)を認めた(図1).ASの経過観察のため当院整形外科,膠原病内科通院中であり全身状態は良好,齲歯などもなく,採血にて炎症反応検出感度以下であり,B型肝炎・C型肝炎・梅毒・結核・ヒトCT細胞白血病ウイルス(HTLV)などの感染症検査はすべて陰性,また胸部CX線写真にても特記すべき異常を認めなかったため,臨床的に感染性ぶどう膜炎の可能性は低く,前房水採取などは施行しなかった.前房水CPCRなどを施行していないので,完全には感染性ぶどう膜炎を否定できないが,AS併発ぶどう膜炎を第一に考え,前医からの局所点眼加療に加えて左眼にはトリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射(STTA)を行った.局所治療のみでは消炎不十分と判断し,1週後にはステロイド内服(プレドニゾロン)30Cmgを開始した.プレドニゾロン内服開始後,両眼とも前房細胞や角膜後面沈着物,硝子体混濁などの炎症所見は改善した.経過中に明らかな前眼部,後眼部の炎症所見の再燃はみられずプレドニゾロンを漸減したが,再診日ごとに脈絡膜厚を測定し,脈絡膜厚の増大を認めた際はCsubclinicalな再発と捉え,STTA投与を行った.プレドニゾロン内服開始C10カ月後,1Cmgの内服中であったが,右眼に前房細胞(+++)と色素性角膜後面沈着物を伴う前眼部炎症を認め,左眼には硝子体混濁と脈絡膜厚の再肥厚がみられた(図2左).再発性ぶどう膜炎であり,すでにエタネルセプト投与中でもあったため,TNFCa阻害薬の変更を内科に打診し,アダリムマブへと変更した.変更後C1カ月で両眼とも前房細胞は消失,4カ月で後眼部硝子体細胞や脈絡膜厚などの両眼炎症所見は改善(図2右)し,プレドニゾロン内服中断となった.その後C1年以上再発なく経過している.臨床経過を図3に示した.II考按ASは,脊椎や四肢関節の疼痛ならびに運動制限を特徴として慢性進行性の経過をとるリウマチ性疾患である.治療法として,非ステロイド性抗炎症薬,ステロイドの局所注射,サラゾスルファピリジンなどが用いられてきたが,近年は生物学的製剤であるCTNFCa阻害薬が使われる機会が増えてきている.AS加療に認められている生物学的製剤はエタネルセプト,インフリキシマブ,アダリムマブがある.エタネルセプトはTNFの可溶性受容体抗体であり,インフリキシマブとアダリムマブはモノクローナル抗体である3).エタネルセプトの作用機序はCTNFa/bの中和であり,インフリキシマブやアダリムマブなどのモノクローナル抗体の作用機序はCTNFCaの中和とCTNF産生細胞そのものの障害である.ASの眼科的併発症状として急性前部ぶどう膜炎があげられ,その発症率は約C25%程度であるといわれている1).前部ぶどう膜炎は,ステロイドや散瞳薬で治療されることが多いが,遷延することもある.TNFCa阻害薬の一つであるアダリムマブは,これまで関節リウマチ,強直性脊椎炎,若年性特発性関節炎,関節症性乾癬,尋常性乾癬,潰瘍性大腸炎,Crohn病,Behcet病などの疾患に対し保険適用のある生物学的製剤であったが,2016年C9月に眼科領域として非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎に保険適用となった.すなわちCAS患者においては,ASに対してCTNFCa阻害薬が投与されている場合と,眼科医が難治性のぶどう膜炎に対してCTNFa阻害薬を処方する場合が生じうる.本症例は,ASに対してエタネルセプト治療下で両眼ぶどう膜炎を発症し,最初はステロイドに反応したが,エタネルセプトとステロイドの継続治療下で両眼のぶどう膜炎が再発した.ぶどう膜炎のコントロール不良の原因として,①現行の治療での抗炎症効果不十分,②エタネルセプトそのものによる副作用としてのぶどう膜炎惹起,の二つの可能性が考えられた.とくに②の可能性について,海外ではエタネルセプトによるぶどう膜炎の惹起の報告があり4,5),エタネルセプトはその作用機序から,マクロファージなどのCTNF産生細胞は傷害しないため,TNF以外の炎症性サイトカインの産生が続いた結果,炎症を惹起するという機序が考察されている.また,エタネルセプト使用中のCAS患者において,Crohn病などの炎症性腸疾患が発症しやすいという報告もある6).いずれもアダリムマブへの変更でCASと腸疾患の良好なコントロールが得られたと記されている.このメカニズムについては明らかにされておらず,サイトカインの不均衡が原因の一つではないかと示唆されている7).本症例においては,結果的にエタネルセプトをアダリムマブに変更したことにより,速やかな眼炎症・ぶどう膜炎の寛図1初診時所見(左眼)図2再発時と寛解後の比較左:治療開始後C10カ月,炎症再燃.右:アダリムマブ導入後C3カ月,炎症寛解.C58035プレドニゾロン投与量(mg)560540520500480460440420中心窩脈絡膜厚(μm)3025201510504444442424411カ月時週週週週週週週週週週図3臨床経過週解を得た.今回後部ぶどう膜炎の経過をみるにあたって,EDI-OCTによる中心窩脈絡膜厚の変化を参考にしている.これはCBehcet病やCVogt・小柳・原田病などのぶどう膜炎にて活動期では休止期と比べ中心窩脈絡膜厚が有意に厚いという報告をもとにしているが,AS併発ぶどう膜炎について述べた文献はないため後眼部炎症の程度を即座に把握するための参考程度としている8,9).本症例の経過から,同じCTNFCa阻害薬でもその効果に違いがあることが確認された.TNFCa阻害薬は眼科領域でも今後使用される機会が増えてくると考えられるが,それぞれの薬剤の機序や副作用は異なっており,製剤変更により病状の改善が得られる可能性があることを知っておかねばならない.ぶどう膜炎はリウマチなどの全身性疾患に関連して生じることも多く,すでに他科から生物学的製剤が投与されていることもあると考えられることから,現在患者が使用している薬剤についての把握は重要である.文献1)井上久:我が国の強直性脊椎炎(AS)患者の実態.第C3回患者アンケート調査より..日本脊椎関節学会誌III:29-34,C20112)FabianiCC,CVitaleCA,CLopalcoCGCetal:Di.erentCrolesCofCTNFCinhibitorsCinCacuteCanteriorCuveitisCassociatedCwithCankylosingCspondylitis:stateCofCtheCart.CClinCRheumatolC35:2631-2638,C20163)天野宏一:TNF阻害薬.日内会誌100:2966-2971,C20114)WendlingCD,CJoshiCA,CReillyCPCetal:ComparingCtheCriskCofCdevelopingCuveitisCinCpatientsCinitiatingCanti-tumorCnecrosisCfactorCtherapyCforankylosingCspondylitis:anCanalysisofalargeUSclaimsdatabase.CurMedResOpinC30:2515-2521,C20145)LieE,LindstromU,Zverkova-SandstromTetal:Tumornecrosisfactorinhibitortreatmentandoccurrenceofante-riorCuveitisCinankylosingCspondylitis:resultsCfromCtheCSwedishCbiologicsCregister.CAnnCRheumCDisC76:1515-1521,C20176)ToluS,RezvaniA,HindiogluNetal:Etanercept-inducedCrohn’sCdiseaseCinankylosingCspondylitis:aCcaseCreportCandCreviewCofCtheCliterature.CRheumatolCIntC38:2157-2162,C20187)JethwaCH,CMannS:CrohnC’sCdiseaseCunmaskedCfollowingCetanercepttreatmentforankylosingspondylitis.BMJCaseRep,C20138)KimCM,CKimCH,CKwonCHJCetal:ChoroidalCthicknessCinCBehcet’suveitis:anCenhancedCdepthCimaging-opticalCcoher-enceCtomographyCandCitsCassociationCwithCangiographicCchanges.InvestOphthalmolVisSciC54:6033-6039,C20139)MarukoCI,CIidaCT,CSuganoCYCetal:SubfovealCchoroidalCthicknessCafterCtreatmentCofCVogt-Koyanagi-HaradaCdis-ease.RetinaC31:510-517,C2011***

片眼の網膜疾患患者の利き目の検討

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1596.1599,2019c片眼の網膜疾患患者の利き目の検討加藤舞松井孝子安田節子磯島結菜佐藤幸子田中敦子齋藤昌晃吉冨健志秋田大学医学部眼科学講座CDominantEyeSwitchinginPatientswithUnilateralRetinalDiseaseMaiKato,TakakoMatsui,SetsukoYasuda,YunaIsoshima,SachikoSato,AtsukoTanaka,MasaakiSaitoandTakeshiYoshitomiCDepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicineC対象および方法:片眼の網膜疾患患者のうち患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名を対象に完全矯正視力,日常視力を測定した.利き目の判定にはCholeCincard法を用いた.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および視力差について検討した.結果:Holeincard法で判定した利き目で,健眼が利き目であった群は,165名で患眼が利き目であった群はC69名であった.健眼,患眼の視力差は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36であった.結論:片眼の網膜疾患患者では健眼が利き目の人が多いことがわかった.健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差がClogMAR0.42であったことから,健眼を完全矯正して視力差をつけ,健眼と患眼の視力差をClogMAR0.4以上にすることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件の一つになる可能性が示唆された.CPurpose:ToCinvestigateCdominantCeyeCswitchingCinCpatientsCwithCunilateralCretinalCdisease.CSubjectsandMethods:Inthisstudy,best-correctedvisualacuity(BCVA)anddailyvisualacuity(VA)weremeasuredin234patientswithunilateralretinaldiseaseandaVAof.1.0(LogMAR).Inallpatients,the‘holeincard’methodwasusedtodetectthedominanteye.Thepatientswerethendividedintothefollowingtwogroups:1)GroupA(thedominanteyewasthenormalhealthyeye)and2)GroupB(thedominanteyewasthea.ectedeye).Results:Ofthe234patients,therewere165inGroupAand69inGroupB.InGroupAandGroupB,themeandi.erenceofVA(LogMAR)betweenthehealthyeyeandthea.ectedeyewas0.27±0.29CandC0.17±0.21,respectively,andthemeandi.erenceofdailyVA(LogMAR)was0.42±0.36CandC0.21±0.36,respectively.Conclusions:Oftheunilater-alretinaldiseasepatientsinthisstudy,mostwereinGroupA.SincethemeandailyVAdi.erencebetweeneacheyeinGroupAwas0.42(LogMAR),itsuggeststhataVAofLogMAR0.4orhighermaybeoneoftheconditionsthatcausesthedominanteyetoswitchfromthea.ectedeyetothehealthyeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1596.1599,C2019〕Keywords:利き目,holeincard法,加齢黄斑変性,中心性漿液性脈絡網膜症,網膜.離.dominanteye,holeincardtest,age-relatedmaculardegeneration,centralserousretinopathy,retinaldetachment.Cはじめに視力検査はさまざまな疾患の患者で行われる検査の一つである.片眼の網膜疾患患者の視力検査で,健眼を遮閉し患眼の視力を測定する際に,暗点や歪みなど,患眼での見えにくさを自覚し,訴える患者が多く存在している.しかし,網膜疾患などで片眼の視力が低下しても,日常視では両眼で見ているため,その患者が患眼の視力検査時に訴える見えにくさを日常生活の不自由さとして訴えることは少ないと思われる.赤座らは黄斑疾患患者の利き目の移動について検討し,術前に疾患眼が利き目であったC11例中C5例で,術後に利き目が健常眼に移動していた,と報告している1).高見らの報告では健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉〔別刷請求先〕加藤舞:〒010-8543秋田県秋田市本道C1-1-1秋田大学医学部眼科学講座Reprintrequests:MaiKato,DepartmentofOphthalmologyAkitaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-1-1Hondo,Akita010-8543,JAPANC1596(120)図1Holeincard法1左:被験者がCholeincardを持つ.右:検者が遮閉し利き目を判定する.図2Holeincard法2左:検者がCholeincardを持つ.右:被験者が覗き込む様子から利き目を判定する.膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定したものがある2).不自由さを感じない理由は両眼で見ていることに加え,片眼の網膜疾患の発症により健眼と患眼に視力差が生じ,利き目が健眼に切り替わったことで,患眼があまり使われなくなった可能性を考え,今回筆者らは,健眼と患眼の利き目の割合と視力差について検討した.CI対象および方法対象は,2018年C5.10月に当院の網膜硝子体外来を受診した片眼の網膜疾患患者のうち,患眼の視力がClogMAR1.0以下のC234名(男性C153名,女性C81名),平均年齢はC67.8C±13.6歳(男性C67.8歳女性C67.7歳)で,疾患名は加齢黄斑変性(117名),中心性漿液性脈絡網膜症(29名),網膜.離(36名),黄斑前膜(11名),黄斑円孔(7名)などであった.方法は,他覚的屈折検査を行い,完全矯正視力,日常視力,利き目を測定した.今回用いた日常視力とは,普段使用している眼鏡やコンタクトレンズの視力,使用していない人は裸眼視力とした.利き目の判定は,完全矯正レンズを装用し,視力に応じたCLandolt環を視標にCholeincard法で行った.CHoleincard法C1は被験者本人に,holeincardを持った腕を伸ばし,holeincardの穴の中央に視標を合わせるよう指示した.その後,検者が片眼ずつ遮閉をして,視標が消えたかどうかを聞き,利き目を判定した(図1).HoleCincard法2は検者がCholeCincardを被験者の眼前に掲げ,被験者にCholeincardを覗き込んで視標を見るよう指示し,どちらの眼で覗いたかを観察して,利き目を判定した(図2).HoleCincard法1を2回,holeincard法2を1回,合計3回holeincard法を施行し,3回すべて同じ結果が得られた眼を利き目とした.判定結果から,健眼利き目群と患眼利き目群に分け,それぞれの健眼,患眼の完全矯正視力,日常視力および健眼と患眼の視力差について検討した.1.001.000.52±0.370.900.800.700.27±0.290.600.500.400.300.200.100.00-0.10II結果対象の片眼の網膜疾患患者C234名の利き目の割合は,健眼利き目群C165名(70.5%),患眼利き目群C69名(29.5%)で健眼が利き目の割合が多かった.疾患眼の左右の割合は右眼113名(48.3%)で左眼C121眼(51.7%)で左右差はみられなかった.利き目群の健眼および患眼の完全矯正視力は,健眼Clog-MAR.0.01±0.09,患眼ClogMARC0.27±0.29であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の完全矯正視は,健眼ClogMAR.0.02±0.08,患眼ClogMARC0.15±0.23であった(図3).健眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼ClogMARC0.15±0.23,患眼ClogMARC0.52±0.37であった.また患眼利き目群の健眼および患眼の日常視力は,健眼Clog-MAR0.10±0.18,患眼ClogMAR0.36C±0.34であった(図4).完全矯正視力と日常視力の健眼,患眼の視力差を健眼利き目群と患眼利き目群で調べた結果は,完全矯正視力では健眼利き目群でClogMAR0.27C±0.29,患眼利き目群でClogMAR0.17C±0.21であった.日常視力では健眼利き目群でClogMAR0.42C±0.36,患眼利き目群でClogMAR0.21±0.36で対応のないCt検定で有意差を認めた(表1).CIII考按今回の検討で,片眼の網膜疾患患者では,健眼利き目群165名,患眼利き目群C69名で健眼が利き目の人が多いことがわかった.健常眼の利き目は右眼がC70%で左眼がC30%で,網膜疾患患者では,初診時に右眼が利き目であったものがC51%で左眼がC49%という赤座らの報告がある.今回も,疾患眼の左右の割合に差がなかったのにもかかわらず,健眼が利き目の割合が多かったことから,網膜疾患の発症により利き目が移動した可能性が考えられた.このことから,片眼の網膜疾患患者では利き目である健眼を使用する0.900.800.700.600.500.400.300.200.100.00-0.10図4日常視力の比較表1健眼・患眼の視力差健眼利き目群(n=165)患眼利き目群(n=69)C*p対応のないCtCtest*完全矯正C0.27±0.29C0.17±0.21Cp=0.3584日常視C0.42±0.36C0.21±0.36p<C0.0001機会が多いことにより,日常生活で不自由さを訴える人が少ないと考えた.各眼の矯正視力(1.2)以上の健常眼を対象に,利き目のレンズに遮閉膜を貼り,視力を低下させ,利き目が切り替わる視力値を測定した高見らの報告がある2).覗き孔法行ったときの利き目の切り替わる視力値は,利き目の優位性が強い群(覗き孔法,利き眼側指差し法,非利き眼側指差し法のC3種類の利き目検査の結果がすべて左右どちらかに一致している群)でClogMAR0.75,弱い群(3つの検査結果が一致せず左右ばらつきがみられた群)でClogMAR0.54まで,利き目の視力を下げたときに利き目が切り替わったという報告だった2).今回は,健眼利き目群の日常視力での健眼と患眼の視力差が平均ClogMAR0.42であったことから,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上あることが,患眼から健眼に利き目が切り替わる条件となる可能性が考えられた.患眼が利き目の人も,利き目が切り替われば日常生活の不自由さが軽減すると考えられる.普段,患眼の視力にばかり注意が向きがちだが,利き目が切り替わる視力差がClogMAR0.4以上である可能性が示されたことから,健眼の視力にも注目し,健眼を完全矯正して健眼と患眼の視力差をつけることが,日常生活の見え方の質を上げる一つの方法ではないかと考えた.しかし,患眼利き目群にも,健眼と患眼の視力差がClogMAR0.4以上の人も存在したため,利き目が切り替わる因子は視力のみの影響ではないと考えられる.今後視力以外の因子についても検討が必要であると考えた.文献き目の移動.日眼会誌111:322-326,C20172)高見有紀子,赤池麻子,岡井佳恵ほか:利き眼の程度の定1)赤座英里子,藤田京子,島田宏之ほか:黄斑疾患患者の利量化について.眼紀52:951-955,C2001***

角膜穿孔に対してシアノアクリレートが有効であった2例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1591.1595,2019c角膜穿孔に対してシアノアクリレートが有効であった2例永田有司子島良平木下雄人小野喬森洋斉宮田和典宮田眼科病院CTwoCasesUsingCyanoacrylateforTreatingCornealPerforationYujiNagata,RyoheiNejima,KatsuhitoKinoshita,TakashiOno,YosaiMoriandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC生体接着剤は組織や切断された臓器を接着・被膜する用途でさまざまな領域で使用されている.今回,生体接着剤であるシアノアクリレートを角膜穿孔の治療に使用したC2例を報告する.症例C1はC31歳,女性,右眼の流涙・眼脂を主訴に受診した.矯正視力は手動弁,角膜中央に細胞浸潤を伴う潰瘍があり前房蓄膿を認めた.培養検査ではCMoraxellasp.が同定され,細菌性角膜潰瘍と診断した.抗菌点眼薬・軟膏により膿瘍は改善したが,潰瘍部の菲薄化が徐々に進行し第C19病日に穿孔,前房が消失した.第C25病日にシアノアクリレートを用いた角膜瘻孔閉鎖術を行い,ソフトコンタクトレンズを装用したところ,術翌日には前房が形成された.術後C1年目には矯正視力(0.8)まで改善し,角膜厚はC167Cμmとなった.症例C2はC19歳,男性,角膜ヘルペスと睫毛内反の既往があり,幼少時から角膜上皮障害を繰り返していた.右眼の疼痛・視力低下を主訴に受診し,矯正視力は(0.1),右眼角膜傍中心部に穿孔を認めた.ソフトコンタクトレンズ装用下で抗菌点眼薬により加療し前房は形成されたが,穿孔創は閉鎖しなかったため,第C5病日にシアノアクリレートを用いた角膜瘻孔閉鎖術を行った.術翌日には前房が深くなり術後C1年目には矯正視力(0.5)まで改善,角膜厚はC418Cμmとなった.2例ともシアノアクリレートは自然に脱落し,穿孔部は上皮化していた.両症例とも穿孔創の大きさは約C1Cmm程度であり,経過観察中に血管侵入や結膜充血などの合併症はなかった.シアノアクリレートは小さい穿孔創に対して有効であると考えられる.CBioadhesivesareattractingattentioninvarious.eldsforbondingandcoatingtissuesandcutorgans.HerewereportCtwoCcasesCinCwhichCcyanoacrylate,CaCbioadhesive,CwasCusedCtoCtreatCcornealCperforation.CCaseC1CinvolvedCaC31-year-oldwomanwhopresentedwiththeprimarycomplaintoftearsanddischargewithvisualdisturbanceintherighteye.Uponexamination,anulcerwasfoundinthecenterofthecorneainherrighteyeandMoraxellaCsp.wasCisolatedCfromCtheClesion.CTopicalCantibioticsCtreatmentCunderCtheCdiagnosisCofCbacterialCkeratitisCwasCstarted,Cbuttheulcerbecameperforated,i.e.,1.2×0.9Cmminsize,withdisappearanceoftheanteriorchamberat19-daysafterCinitiatingCtreatment.CSixCdaysClater,CcyanoacrylateCwasCappliedConCtheCcornealC.stula,CwithCtheCpatientCbeingCinstructedtowearasoftcontactlensthereafter.Theanteriorchamberwasformedonthenextday.At12-monthspostoperative,thecorrectedvisualacuity(VA)hadimprovedto(0.8)C,withacornealthicknessof167Cμm.Case2involvedCaC19-year-oldCmaleCwithCaCpreviousChistoryCofCcornealCherpes,Cepiblepharon,CandCfrequentCcornealCulcer-ationCwhoCpresentedCwithCtheCcomplaintCofCpainCandClossCofCvisionCinCtheCrightCeyeCwithCdecreasedCcorrectedCVA(0.1)C.CUponCexamination,CaC0.5×0.5CmmCcornealCperforationCwasCobservedCinChisCrightCeye.CTheCanteriorCchamberCwasnotreformedviathewearingofasoftcontactlens,soweperformedcorneal.stulaclosurewithcyanoacrylateat5dayspostinitialpresentation.Theanteriorchamberdeepenedthenextday.At12-monthspostoperative,hisright-eyeVAimprovedto(0.5)C,withacornealthickness418Cμm.Inbothcases,thesurgicallyappliedcyanoacry-lateCdroppedCo.Cspontaneously,CandCtheCperforatedClesionsCbecameCepithelialized.CInCtheCpresentCcases,CtheCsizeCofCcornealperforationwassmallenoughtobeclosedaftercyanoacrylateapplicationandtoepithelializewithoutvas-cularinvasion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(12):1591.1595,C2019〕Keywords:角膜穿孔,生体接着剤,シアノアクリレート,細菌性角膜炎,前眼部OCT.cornealperforation,tis-sueadhesive,cyanoacrylate,bacterialkeratitis,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.C〔別刷請求先〕永田有司:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:YujiNagata,MD.,Ph.D.,MiyataEyeHospital,Kurahara6-3,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/19/\100/頁/JCOPY(115)C1591はじめに角膜穿孔は失明や重篤な視力障害をきたす疾患であり,その原因として外傷や感染症,自己免疫性疾患などがあげられる1.3).角膜穿孔に対する治療法として,ソフトコンタクトレンズの装用や房水産生阻害薬などの内服といった保存的治療や4,5),角膜縫合・角膜移植・羊膜移植などの手術が行われている6.8).病態により穿孔創の大きさや部位,創周辺の組織の状態が異なり,保存的加療で治癒しない場合は手術が必要となる.液状の生体接着剤であるシアノアクリレートは,他科領域では皮膚の接着や消化管,血管の吻合に使用されている9.11)シアノアクリレートの主成分は,アクリル酸エステルとシアノ基からなるエチルC2-シアノアクリレートであり,シアノアクリレート単量体が空気中または被着体表面の水分と反応し重合することで硬化する.シアノアクリレートの治療成績について,眼科領域では海外において角膜穿孔に対する検討は行われているが12.14),国内での臨床使用についての報告は少ない15,16).今回,保存的加療で角膜穿孔が治癒しなかった症例に対し,シアノアクリレートを用いて角膜瘻孔閉鎖術を行い,奏効したC2例を経験したので報告する.CI症例〔症例1〕31歳,女性.主訴:右眼の流涙,眼脂.既往歴:特記事項なし.現病歴:2018年C2月に右眼の流涙・眼脂を主訴に前医を受診した.抗菌点眼薬を処方されたが症状は改善せず,同年3月に宮田眼科病院を受診した.初診時所見:視力は右眼手動弁,左眼はC0.7(1.0×+0.5Dcyl.1.0D×180°)であった.前眼部所見では右眼に結膜充血,角膜中央に細胞浸潤を伴う潰瘍および前房蓄膿を認め(図1a),前眼部光干渉断層撮影検査(anterioropticalcoher-encetomography:前眼部COCT)では角膜実質中層までの浸潤巣を認めた.経過:所見から感染性角膜炎を疑い,塗抹擦過標本の検鏡と培養検査を行った.塗抹標本のグラム染色ではグラム陰性桿菌を認めたため,細菌性角膜炎と診断しガチフロキサシン点眼C2時間ごと,トブラマイシン点眼C6回,1%アトロピン硫酸塩水和物・トロピカミドフェニレフリン点眼C1回による治療を開始した.培養検査ではCMoraxellasp.が分離され,点眼を継続した.その後,角膜炎は改善したが潰瘍部が徐々に菲薄化し,第19病日に穿孔し前房が消失した(図1b).前眼部COCT検査で穿孔創の大きさはC1.2CmmC×0.9Cmmであった(図2a).穿孔創閉鎖目的で第C22病日より多血小板血漿点眼液C8回を追加し,第C24病日よりアセタゾラミドをC2日間内服したが創は閉鎖しなかった.このため第C25病日にシアノアクリレート(アロンアルファCACR,三共,1965年に生体組織への適応が承認)を用いた角膜瘻孔閉鎖術を行った.シアノアクリレートの使用方法として,穿孔創周囲に水分があると,接着剤が硬化してしまい操作が困難になるため,まずは創周囲の水分をスポンジで十分に吸収させた.穿孔創を覆うようにシアノアクリレートを塗布し,接着剤が流れない程度に適宜水分を追加した.シアノアクリレートの硬化を確認し,術後にソフトコンタクトレンズ(アキュビューオアシスCR,ジョンソンエンドジョンソン)を装用したところ,術翌日には前房が形成された.術後C7日目の時点では穿孔部にシアノアクリレートが付着していたが(図1c),その後自然に脱落し,術後35日目には穿孔部は上皮化(図1d),穿孔部の角膜厚はC77μm(図2b),矯正視力はC0.3となった.術後C1年目には角膜厚はC167Cμmまで増加し,矯正視力はC0.8まで改善した.結膜充血や角膜への血管侵入といったシアノアクリレートによると考えられる副作用はなかった.〔症例2〕19歳,男性.主訴:右眼痛.既往歴:両眼角膜ヘルペス.10歳時に外斜視に対し,また両眼瞼内反症に対してC10歳時とC16歳時に手術を行った.現病歴:2018年C1月に右眼の痛みと視力低下を自覚し宮田眼科病院を受診した.再診時所見:視力は右眼C0.1矯正不能,左眼C0.8(0.9C×cylC.2.0D×10°)であった.右眼には角膜傍中心部に穿孔を認め(図3a),前眼部COCT検査では前房が消失しており,穿孔創の大きさはC0.5CmmC×0.5Cmmであった(図4a).経過:塗抹擦過標本の検鏡と培養検査では細菌・真菌ともに陰性であり,眼瞼内反による遷延性角膜上皮欠損から角膜穿孔に至ったと診断した.入院したうえで,ソフトコンタクトレンズ装用下でガチフロキサシン点眼C4回,多血小板血漿点眼液C8回を開始したところ,前房は徐々に形成されたが穿孔創は閉鎖しなかった.このため,第C5病日にシアノアクリレートを用いた角膜瘻孔閉鎖術を行い,術後にソフトコンタクトレンズを装用した(図3b).術翌日には前房は深くなり,術後C7日目の時点では穿孔部にシアノアクリレートが付着していた(図3c).その後シアノアクリレートは自然に脱落し,術後C32日目には穿孔部は上皮化(図3d),穿孔部の角膜厚はC121Cμm(図4b),矯正視力はC0.6であった.術後C1年目には角膜厚はC418Cμmまで増加し,矯正視力はC0.5と術前より改善した.経過観察期間を通じ結膜充血や角膜への血管侵入を認めなかった.多血小板血漿点眼液の使用に関しては,宮田眼科病院での倫理委員会での承認を得たうえで,2例とも患者から文章による同意を取得した.d図1症例1の前眼部所見a:受診時の細隙灯顕微鏡所見.角膜中央に細胞浸潤を伴う潰瘍を認める.Cb:第C19病日の前眼部写真.角膜中央が穿孔している.Cc:術後C7日目の細隙灯顕微鏡所見.穿孔部にシアノアクリレートが付着している.Cd:術後C35日目の細隙灯顕微鏡所見.シアノアクリレートは自然に脱落し,穿孔創の上皮化を認める.図2症例1の前眼部OCT像a:穿孔時.前房は消失している.穿孔創の大きさはC1.2CmmC×0.9Cmmであった.Cb:術後C35日目.前房は形成され,穿孔部の角膜厚が術前より増加している.CII考按リレートを使用したC2例である.2例ともシアノアクリレートは自然に脱落し,穿孔部は上皮化した.術前より穿孔部の角膜穿孔の保存的加療として,感染症以外ではソフトコン角膜厚は増加し,矯正視力は改善した.タクトレンズの装用が行われている4).また,前房水が穿孔角膜穿孔に対するシアノアクリレートの有効性に関して,創から持続的に漏出していると創が閉鎖しにくいため,アセSharmaらは穿孔創がC3Cmm以内のC22眼について検討してタゾラミドの内服により前房水の産生を抑制し,上皮化を促いる.穿孔創がC2Cmm以内のC19例では創部の閉鎖を認めたすことも有用と報告されている5).しかしこれらの治療で穿が,創部の大きさがC2.3CmmのC3例のうちC2例で再手術を孔創が閉鎖せず前房の確保が困難である場合は,外科的治療要したとしている17).また,Loya-GarciaらはC3Cmm以内のが必要となる.穿孔創に対してシアノアクリレートを使用した場合は有効で本検討は,角膜穿孔に対して生体接着剤であるシアノアクあったが,4Cmm以上の症例の一部では穿孔創が閉鎖せず,図3症例2の前眼部所見a:受診時の細隙灯顕微鏡所見.角膜傍中心部に穿孔創を認める.Cb:第C5病日の術中の前眼部写真.Cc:術後C7日目の細隙灯顕微鏡所見.穿孔部にシアノアクリレートが付着している.Cd:術後C32日目の細隙灯顕微鏡所見.シアノアクリレートは自然に脱落し,穿孔創の上皮化を認める.Cab図4症例2の前眼部OCT像a:受診時.前房は消失している.穿孔創の大きさはC0.5CmmC×0.5Cmmであった.Cb:術後C32日目.前房は形成され,穿孔部の角膜厚が術前より増加している.シアノアクリレートの再使用や全層角膜移植による追加手術糊の組織学的な検討を行った結果,シアノアクリレートではを要したと報告している18).本検討では両症例とも穿孔創のゼラチン糊と比較したところ角膜混濁や血管侵入などの合併大きさは約C1Cmm程度であり,シアノアクリレートは小さい症が少なかったと,シアノアクリレートの有効性を指摘して穿孔創に対して有効である可能性がある.いる19).本症例では血管侵入・結膜充血などのシアノアクリ生体接着剤を使用した際の眼組織への合併症として,角膜レートによると考えられる副作用がなく,ヒト生体に対する混濁・角膜血管侵入・結膜充血などがある19).Sharmaらはシアノアクリレートによる角膜組織への障害性は少ない可能シアノアクリレートとフィブリン糊の角膜毒性を比較した結性がある.しかしながら,本検討はあくまで一施設における果,フィブリン糊でより角膜血管侵入・巨大乳頭結膜炎など2症例での検討であり,シアノアクリレートの角膜穿孔に対の合併症が少なかったと報告している17).一方,大沼らは家する有効性や毒性に関して,今後さらなる症例の蓄積が望ま兎の角膜穿孔モデルにおいてシアノアクリレートとゼラチンれる.III結語今回,保存的加療で穿孔が治癒しなかった角膜穿孔に対して,シアノアクリレートを用いて角膜瘻孔閉鎖術を行ったC2例を経験した.小さな角膜穿孔創に対するシアノアクリレートを用いた瘻孔閉鎖術は角膜穿孔創の治療に有効であると考えられる.文献1)HussinCHM,CBiswasCS,CMajidCMCetal:ACnovelCtechniqueCtoCtreatCtraumaticCcornealCperforationCinCaCcaseCofCpre-sumedbrittlecorneasyndrome.BrJOphthalmolC91:399,C20072)TiCSE,CScottCJA,CJanardhananCPCetal:TherapeuticCkera-toplastyCforCadvancedCsuppurativeCkeratitis.CAmCJCOph-thalmolC143:755-762,C20073)奥村峻大,福岡秀記,高原彩加ほか:分子標的治療薬により寛解状態であった関節リウマチに生じた角膜穿孔のC1例.あたらしい眼科C36:282-285,C20194)Borucho.SA,DonshikPC:Medicalandsurgicalmanage-mentCofCcornealCthinningsCandCperforations.CIntCOphthal-molClinC15:111-123,C19755)JhanjiV,YoungAL,MehtaJSetal:Managementofcor-nealperforations.SurvOphthalmolC56:522-538,C20116)YokogawaCH,CKobayashiCA,CYamazakiCNCetal:SurgicalCtherapiesCforCcornealCperforations.C10CyearsCofCcasesCinCaCtertiaryCreferralChospital.CClinCOphthalmolC8:2165-2170,C20147)川村裕子,吉田絢子,白川理香ほか:周辺部角膜穿孔に対する治療的表層角膜移植術の術後経過.日眼会誌C123:143-149,C20198)SavinoCG,CColucciCD,CGiannicoCMICetal:AmnioticCmem-branetransplantationassociatedwithacornealpatchinapaediatricCcornealCperforation.CActaCOphthalmolC88:15-16,C20109)佐藤俊,森公一:当院における人工関節置換術創閉鎖の縫合とダーマボンドの比較と評価.中部日本整形外科災害外科学会雑誌C60:869-870,C201710)野口達矢,白井保之,木下善博ほか:胃静脈瘤内視鏡的治療後のCNBCA(n-butyl-2-cianoacrylate)排出時期の検討.日本門脈圧亢進症学会雑誌C24:57-61,C201811)杉盛夏樹,宮山士朗,山城正司ほか:著名なCAVシャントを伴った腎血管筋脂肪種に対してCNBCAおよびエタノールで塞栓術を施行したC1例.InterventionalCRadiologyC33:322,C201812)GuhanCS,CPengCSL,CJanbatianCHCetal:SurgicalCadhesivesCinophthalmology:historyCandCcurrentCtrends.CBrCJCOph-thalmolC102:1328-1335,C201813)VoteBJ,ElderMJ.:Cyanoacrylateglueforcornealperfo-rations:adescriptionofasurgicaltechniqueandareviewoftheliterature.ClinExpOphthalmolC28:437-443,C200014)LaiI,ShivanagariSB,AliMHetal:E.cacyofconjuncti-valCresectionCwithCcyanoacrylateCglueCapplicationCinCpre-ventingCrecurrencesCofCMooren’sCulcer.CBrCJCOphthalmolC100:971-975,C201615)柚木達也,早坂征次,長木康典ほか:N-butyl-cianoacry-lateと保存強膜を用いて角膜移植を行った角膜穿孔のC1例.眼臨97:319,C200316)三戸岡克哉,佐野雄太,北原健二:Terrien周辺角膜変性の穿孔部閉鎖にシアノアクリレートが有効であったC1例.眼科41:1707-1710,C200317)SharmaCA,CKaurCR,CKumarCSCetal:FibrinCglueCversusCN-butyl-2-cyanoacrylateincornealperforations.Ophthal-mologyC110:291-298,C200318)Loya-GarciaCD,CSerna-OjedaCJC,CPedro-AguilarCLCetal:CNon-traumaticCcornealperforations:aetiology,CtreatmentCandoutcomes.BrJOphthalmolC101:634-639,C201719)大沼恵理,向井公一郎,寺田理ほか:各種生体接着剤の角膜裂傷への応用.日眼会誌C116:467-475,C2012***

LASIK術後12年7日後に外傷を契機に発症した遅発性Diffuse Lamellar Keratitisの1例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1584.1590,2019cLASIK術後12年7日後に外傷を契機に発症した遅発性Di.useLamellarKeratitisの1例都筑賢太郎*1輿水純子*1大越貴志子*1山口達夫*2,1,3*1聖路加国際病院眼科*2新橋眼科*3石田眼科CACaseofLate-onsetDi.useLamellarKeratitisCausedbyTrauma12YearsafterLASIKKentaroTsuzuki1),JunkoKoshimizu1),KishikoOhkoshi1)andTatsuoYamaguchi2,1,3)1)DepartmentofOphthalmology,StLuke’sInternationalHospital,2)ShinbashiEyeClinic,3)IshidaEyeClinicC目的:今回筆者らは,laserinCsitukeratomileusis(LASIK)を施行されてC12年C7日後に外傷により角膜上皮欠損を生じ,それを契機にCdi.uselamellarkeratitis(DLK)を発症した症例を経験したので報告する.症例:32歳,男性.2001年C10月C29日当院にて左眼にCLASIKを施行した.2013年C11月C5日,着替えの際に左手が左眼にぶつかった.霧視と違和感を自覚し近医を受診し,症状が改善しないためC2013年C11月C11日に当院紹介となった.前医の治療の結果,角膜上皮欠損はすでに治癒していたが,左眼中央部の角膜上皮下の混濁のほかに,創間(フラップとベッドの境界)を中心に広い部位にびまん性の浸潤を認めた.DLKと診断し,治療を開始した.治療開始後,約C1週間後に層間の浸潤は消失したが,角膜上皮下の浸潤の消失にはC6週間を要した.混濁の発症は認められなかった.結論:今回,LASIK施行後C12年C7日目に外傷により角膜上皮欠損を生じ,それを契機に遅発性のCDLKを発症したC1例を経験した.DLKの過去の報告を検索すると,現在までのところ術後最長の期間での発症例である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofClate-onsetCdi.useClamellarkeratitis(DLK)thatCdevelopedCdueCtoCtraumaCthatCoccurredC12CyearsCandC7CdaysCafterClaser-assistedCinCsitukeratomileusis(LASIK).CCase:ThisCstudyCinvolvedCaC32-year-oldmalewhohadpreviouslyundergoneLASIKsurgeryatourhospitalonOctober29,2001.OnNovem-ber5,2013,hevisitedalocalclinicafterbecomingawareofhazinessanddiscomfortinhislefteyeduetoitbeinghitwithhislefthandwhilechangingclothes.OnNovember11,2013,hewasreferredtoourhospitalbecausethesymptomshadnotimproved.Asaresultofthetreatmentbythepreviousdoctor,anepithelialdefecthadalreadybeencured,yetinadditiontotheopaci.cationofthesubepithelialregioninthecentralpartofthelefteye,di.usein.ltrationwasobservedinawideareacenteredontheinterlayer(.apandbedboundary).Thepatientwasdiag-nosedCwithCDLK,CandCweCstartedCtreatmentCwithCsteroidCeyeCdropsCandCoralCantibioticCadministration.CAtCappoxi-mately1weekpostinitiationoftreatment,thein.ltratesbetweenthewoundsdisappeared,visualacuityrecovered,andtherewasnoscarring,yetittook6weeksfortheeliminationofthesubepithelialinvasion.Conclusions:Weexperiencedacaseofepithelialdefectcausedbytrauma12yearsand7daysafterLASIKthatresultedindelayedDLK,andtothebestofourknowledge,theDLKinthiscaseoccurredatthelongestreportedperiodpostLASIKtodate,thusillustratingthatlong-termfollow-upisbene.cial.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(12):1584.1590,C2019〕Keywords:LASIK,DLK,遅発性,角膜上皮欠損,術後合併症.laserinsitukeratomileusis(LASIK),di.usela-mellarkeratitis(DLK),late-onset,cornealepithelialdefect,postoperativecomplication.Cはじめに製したあとにエキシマレーザーを照射し,術後の痛みがほとCLaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)はC1990年にCPal-んどなく視力の回復が得られる屈折矯正手術である.likarisによって開発された術式で,角膜表層にフラップを作当初はマイクロケラトームで角膜の表層切除を行っていた〔別刷請求先〕都筑賢太郎:〒104-8560東京都中央区明石町C9-1聖路加国際病院眼科Reprintrequests:KentaroTsuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StLuke’sInternationalHospital,9-1Akashicho,Chuo-ku,Tokyo104-8560,JAPANC1584(108)表1既報におけるLASIKからDLKの発症までの期間報告者報告年DLK発症までの期間原因本症例C201712年Epdefect(外傷)CKamiyaetal3)C201212年CUnclearCIovienoetal4)C20118年CUnclearCCoxetal5)C20085年Pseudomonas(感染)CJinetal6)C20053年CUnclearCSymesetal7)C20073年Gonococcus(感染)CDiaz-Valleetal8)C20093年CAnkylosingspondylitisCGrisetal9)C20042年Viralinfection(感染)CMoilanenetal10)C200419カ月Epdefect(自然発生)CJengetal11)C200416カ月CRecurrenterosionCAldaveetal12)C200214カ月フラップ偏位(外傷)CKymionisetal13)C20071年CUnclearCHawetal14)C20001年CEpdefectCKocaketal15)C200611カ月テッポウウリの種の汁CKeszeietal16)C200110カ月CUnclearCProbstetal17)C20017カ月CUnclearCWeisenthal18)C20006カ月Epdefect(外傷)CChungetal19)C20026カ月CUnclearCBeldaetal20)C20036カ月CUnclearCHarrisonetal21)C20013カ月CRecurrenterosionCChang-Godinichetal22)C20013カ月CUnclearCAmanoetal23)C20033カ月CUnclearCRanaetal24)C20153カ月CUnclearCWilsonetal25)C20023カ月Epdefect(?)CYeohetal26)C20012.5カ月Epdefect(?)CYavitz27)C20012カ月Epdefect(外傷)CLeuetal28)C20022カ月CUnclearCSachdevetal29)C20021.5カ月Epdefect(?)CBuxey30)C200425日CEnhancementCSchwartzetal31)C200021日フラップ偏位(外傷)が,2002年にフェムトセカンドレーザーが開発され,より正確で安全なフラップの作製が可能となり良い結果が得られている.しかしながら術後の合併症も報告されており1),フラップ下の異物,フラップの皺,di.uselamellarkeratitis(DLK),フラップ下上皮細胞増殖,角膜エクタジア,屈折効果の戻りなどがある.DLKはCLASIK術後の合併症の一つであり,通常は術翌日よりC1週間以内に起こることが多く,種々の原因による炎症性の反応と位置づけされている(表1).今回筆者らは,LASIKを施行されてC12年C7日後に外傷により角膜上皮欠損を生じ,それを契機にCDLKを発症した症例を経験したので報告する.CI症例患者:32歳,男性.主訴:左眼の視力低下.現病歴:2001年C10月C29日,聖路加国際病院(以下,当院)にて左眼CLASIKを施行した.ニデック製マイクロケラトーム(MK-2000)でフラップを作ったあと,VISX社製エ図1初診時左眼角膜中央部に上皮下の混濁(太い矢印)と創間(フラップとベッドの境界)を中心に(細い矢印)広い部位にびまん性の浸潤を認めた.下段細隙灯の所見を模式図で示す.キシマレーザー装置(VISXCSTARS2)でレーザー照射をし,フラップを戻したあとジョンソン・エンド・ジョンソンのC1週間連続装用タイプのソフトコンタクトレンズを装用させた.術後C0.1%フルオロメソロンとC0.5%レボフロキサシン点眼C1日C5回をC1週間処方した.ソフトコンタクトレンズは術後C3日間装用させた.2001年C11月C26日,右眼にCLASIKを左眼と同様に施行し,その後C2003年C9月C16日まで定期的に両眼の経過観察を行っていたがCDLKは認められなかった.2013年C11月C5日,着替えの際に左手が左眼にぶつかり,その後,霧視と違和感を自覚した.近医を受診し,角膜上皮欠損と診断されヒアルロン酸ナトリウムとレボフロキサシン点眼を処方され,6日間経過観察を受けたが,症状が改善しないためC2013年C11月C11日当院紹介となった.所見:視力は,右眼C1.0(1.2C×sph.0.5),左眼C0.2(0.7C×sph.2.75Ccyl.1.00Ax180°).左眼中央部に角膜上皮下の混濁とは別に層間(フラップとベッドの境界)を中心に広い部位にびまん性の浸潤を認めた.角膜上皮に欠損は認められなかった(図1).経過:感染症の可能性は低いこと,また角膜上皮下の浸潤とは別に層間に浸潤を認めたことよりCDLKと診断し,レボフロキサシン点眼とベタメタゾン酸エステルナトリウム点眼をC1日C5回とプレドニゾロンC10Cmgの内服を開始した.2013年C11月C18日,層間の浸潤はほぼ消失し,角膜上皮下の浸潤も減少を認めたが,点眼と内服を継続した(図2).2013年C12月C2日,視力は,左眼C0.7(0.8C×sph.0.25CcylC.1.00Ax180°).徐々に角膜上皮下の浸潤の減少を認めたため,治療開始C3週間後より点眼薬は継続したままプレドニゾロンをC5Cmgへ減量した(図3).2013年C12月C9日,角膜上皮下の浸潤は徐々に減少したためプレドニン内服を中止した.2013年C12月C26日,角膜上皮下の浸潤は完全に消失しており,混濁の発症は認められなかった(図4).裸眼視力,矯正視力ともに回復し,左眼視力は,1.0(1.0C×sph.0.25)となり点眼も中止とした.その後,患者が来院していないため再発の有無は不明である.CII考按LASIKは屈折矯正手術の一つとして広く施行されているが,さまざまな術後合併症も報告されている.今回筆者らは,LASIK術後C12年C7日後に外傷を契機に発症したと思われる遅発性のCDLKの症例を経験した.DLKはCLASIK後の合併症の一つであり,フラップの深部に細胞浸潤による淡い混濁を認める.通常は術翌日よりC1週間以内に起こることが多いが,遅発性に発症した症例も報図2治療開始1週間後角膜上皮下(太い矢印)の浸潤は減少し,創間(細い矢印)の浸潤は消失した.図3治療開始3週間後角膜中央部(太い矢印)の浸潤はさらに減少し,創間(細い矢印)の浸潤は認められない.告されている.発症頻度はC0.2.0.5%である2).本症例は術後C12年C7日後に発症しており既報と比較し,最長の期間であった(表1).Kamiyaら3)はC12年後の発症報告をしているが期間や原因の詳細は不明である.DLKの原因として,以下のように報告されている.マイクロケラトームのCdebrisやオイル,surgicalCspongeやCgloveのCtalc,眼の消毒薬のポビドンヨード,マーカーペン,手術器具の汚染や洗剤,術中のCdryingによる角膜上皮欠損,エキシマレーザーによる熱障害,フラップ下の血液など,術中の出来事が原因であるとの報告もある.その他,眼瞼の炎症,マイボーム腺機能不全,アトピーや強直性脊椎炎などの全身疾患をもつ患者,細菌の毒素,ウイルス感染,外傷を含めた角膜上皮欠損,などが報告されている.原因としていろいろなものがあげられているが,症例によってはこれらの原因が複合して発症したものもあると考えられる(表2).既報告では発症の原因が不明の症例も多いが,原因が判明している症例のなかでは角膜上皮欠損はおもな原因の一つである.今回,本症例をCDLKと診断した根拠としては,①初診時にフラップ中央部の実質前層の浸潤とは別に,層間(フ図4治療開始6週間後角膜中央部の上皮下の浸潤も消失した.ラップとベッドの境界)を中心に広い部位にびまん性の浸潤を認めた.②ステロイドを用いた治療の結果,層間の浸潤は早期に消失し混濁の発症は認められなかった.③角膜上皮欠損が原因となったCDLKの報告はまれではない,があげられる.角膜上皮欠損を伴うCDLKに関し,現在までにC16編の報告があり,角膜上皮欠損の原因に関しては外傷も含めると種々報告されているが,LASIK術後からCDLKの発症までの期間は術翌日からC8年と症例により幅がある(表3).表2既報におけるDLKの原因眼の消毒薬(ポビドンヨード)マーカーペンMicrokeratome(debris,oil)手術器具の汚染手術器具の洗剤CSurgicalspongeSurgicalgloveのCtalc術中点眼薬レーザーによる熱傷障害上皮欠損(術中,再発上皮欠損,ドライアイ,外傷)マイボーム腺分泌物フラップ下の血液眼瞼(慢性炎症,広眼瞼裂)マイボーム腺機能不全アトピーCAnkylosingspondylitis角膜内皮細胞の少ない症例CCogansyndrome細菌のCendotoxin(緑膿菌,淋菌)ウイルス感染植物の種の汁(テッポウウリ)上記原因の複合角膜上皮細胞の欠損が起因となってCDLKがどのように発症するかの機序は不明であるが,Wilsonら25)は,角膜上皮細胞の損傷と炎症のメカニズムに関し図5のように報告している.LASIK後においても外傷を契機に角膜上皮細胞の損傷が起こり,その後サイトカインが分泌され,それにより角膜実質前層のCkeratocyteのアポトーシスが誘導され,創傷治癒のCcascadeの活性化が起こり,炎症の発症,増悪が起きDLKが発症すると考えられる.今回の症例もこのような機序で炎症が生じたものと思われる.ステロイドを投与し層間の浸潤は約C1週間で消失したが,フラップ中央部の角膜上皮下の炎症が長期に続いた理由は不明である.角膜上皮細胞の損傷.サイトカインの分泌.実質前層のkeratocyteのアポトーシスを誘導.創傷治癒のcascadeの活性化.炎症の発症,増悪図5角膜上皮細胞の損傷による炎症の発症の機序表3既報における角膜上皮欠損を伴うDLK(LASIKからDLKの発症までの期間と上皮欠損の原因)著者報告年症例数DLK発症までの期間上皮欠損の原因CShahetal32)C2000C9C?CrecurrenterosionCHawetal14)C2000C62.1C2カ月trauma:1recurrenterosionCWeisenthal18)C2000C16カ月CtraumaCYawitz27)C2001C12カ月CtraumaCHarrisonetal21)C2001C13カ月CrecurrenterosionCYeohetal26)C2001C23日C/2.5カ月Cope/unclearCSachdevetal29)C2002C16週CopeCWilsonetal25)C2002C121日.3カ月Cope/unclearCTekwanietal33)C2002C24CnotmentionedCnotmentionedCMulhernetal34)C2002C?3カ月<CunclearCAsano-Katoetal35)C2003C68C?CopeCJengetal11)C2004C32.5.C10.5カ月CrecurrenterosionCMoilanen10)C2004C519カ月Cope/unclearCSymes7)C2007C13年CgonococcalinfectionCCox5)C2008C15年CpseudomonasinfectionCIovienoetal4)C2011C18年Cunclear治療に関しては,感染症が除外されればステロイド点眼で治療し,効果が不十分であればステロイドの内服を用いたほうがよいと考える.いずれにしても,LASIK術後C12年以上経ってもCDLKが起こる可能性があることを念頭に,患者への啓発が必要と考える.CIII結論今回,LASIK施行後C12年C7日目に外傷により角膜上皮欠損を生じ,それを契機に遅発性CDLKを発症したC1例を経験した.ステロイド点眼では層間の浸潤は約C1週間で消失したが,角膜上皮下の浸潤は完治せず,ステロイドの内服を中心とした加療で角膜上皮下の浸潤は徐々に減少し,治癒にC6週間を要した.混濁は残さず視力は回復した.今回の症例も含め,術後長期にわたってCDLKが出現することより長期の経過観察と患者への啓発が必要であると考える.本症例は第C41回角膜カンファランス(2017年)で報告した.文献1)水流忠彦,増田寛次郎:THECLASIK最新屈折矯正手術の実際.ライフ・サイエンス,20092)Gil-CazorlaCR,CTeusCMA,CdeCBenito-LlopisCLCetal:Inci-denceCofCdi.useClamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCker-atomileusisCassociatedCwithCtheCIntraLaseC15CkHzCfemto-secondClaserCandCMoriaCM2Cmicrokeratome.CJCCataractCRefractSurgC34:28-31,C20083)KamiyaK,IkedaT,AizawaDetal:Acaseoflate-onsetdi.useClamellarCkeratitisC12CyearsCafterClaserCinCsituCker-atomileusis.JpnJOphthalmolC54:163-164,C20104)IovienoA,AmiranMD,LegareMEetal:Di.uselamellarkeratitis8yearsafterLASIKcausedbycornealepithelialdefect.JCataractRefractSurgC37:418-419,C20115)CoxCSG,CStoneDU:Di.useClamellarCkeratitisCassociatedCwithpseudomonasaeruginosainfection.JCataractRefractSurgC34:337,C20086)JinCGJ,CLyleCWA,CMerkleyKH:Late-onsetCidiopathicCdif-fuseClamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCataractRefractSurgC31:435-437,C20057)SymesCRJ,CCattCCJ,CMalesJJ:Di.useClamellarCkeratitisCassociatedCwithCgonococcalCkeratoconjunctivitisC3CyearsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC33:323-325,C20078)Diaz-ValleCD,CArriola-VillalobosCP,CSanchezCJMCetal:CLate-onsetCsevereCdi.useClamellarCkeratitisCassociatedCwithCuveitisCafterCLASIKCinCaCpatientCwithCankylosingCspondylitis.JRefractSurgC25:623-625,C20099)GrisCO,CGuellCJL,CWolley-DodCCCetal:Di.useClamellarCkeratitisCandCcornealCedemaCassociatedCwithCviralCkerato-conjunctivitisC2CyearsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCataractRefractSurgC30:1366-1370,C200410)MoilanenJA,HolopainenJM,HelintoMetal:KeratocyteactivationCandCin.ammationCinCdi.useClamellarCkeratitisCafterCformationCofCanCepithelialCdefect.CJCCataractCRefractCSurgC30:341-349,C200411)JengBH,StewartJM,McLeodSDetal:Relapsingdi.uselamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusisCassoci-atedCwithCrecurrentCerosionCsyndrome.CArchCOphthalmolC122:396-398,C200412)AldaveCAJ,CHollanderCDA,CAbbottRL:Late-onsetCtrau-maticC.apCdislocationCandCdi.useClamellarCin.ammationCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CCorneaC21:604-607,C200213)KymionisGD,DiakonisVF,BouzoukisDIetal:IdiopathicrecurrenceCofCdi.useClamellarCkeratitisCafterCLASIK.CJRefractSurgC23:720-721,C200714)HawWW,MancheEE:Lateonsetdi.uselamellarkerati-tisassociatedwithanepithelialdefectinsixeyes.JRefractSurgC16:744-748,C200015)KocakI,KarabelaY,KaramanMetal:Lateonsetdi.uselamellarkeratitisasaresultofthetoxice.ectofEcballi-umelateriumherb.JRefractSurgC22:826-827,C200616)KeszeiVA:Di.uselamellarkeratitisassociatedwithiritis10CmonthsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractSurgC27:1126-1127,C200117)ProbstCLE,CFoleyL:Late-onsetCinterfaceCkeratitisCafterCuneventfulClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC27:1124-1125,C200118)WeisenthalRW:Di.useClamellarCkeratitisCinducedCbyCtrauma6monthsafterlaserinsitukeratomileusis.JRefractSurgC16:749-751,C200019)ChungMS,PeposeJS,El-AghaMSetal:ConfocalmicroC-scopic.ndingsinacaseofdelayed-onsetbilateraldi.uselamellarkeratitisafterlaserinsitukeratomileusis.JCata-ractRefractSurgC28:1467-1470,C200220)BeldaCJI,CArtolaCA,CAlioJ:Di.useClamellarCkeratitisC6CmonthsCafterCuneventfulClaserCinCsituCkeratomileusis.CJRefractSurgC19:70-71,C200321)HarrisonDA,PerimanLM:Di.uselamellarkeratitisasso-ciatedCwithCrecurrentCcornealCerosionsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.JRefractSurgC17:463-465,C200122)Chang-GodinichA,SteinertRF,WuHK:Lateoccurrenceofdi.uselamellarkeratitisafterlaserinsitukeratomileu-sis.ArchOphthalmolC119:1074-1076,C200123)AmanoCR,COhnoCK,CShimizuCKCetal:Late-onsetCdi.useClamellarkeratitis.JpnJOphthalmolC47:463-468,C200324)RanaM,AdhanaP,IlangoB:Di.uselamellarkeratitis:CConfocalCmicroscopyCfeaturesCofCdelayed-onsetCdisease.CEyeContactLensC41:20-23,C201525)WilsonSE,AmbrosioRJr:Sporadicdi.uselamellarkera-titis(DLK)afterLASIK.CorneaC21:560-563,C200226)YeohCJ,CMoshegovCN:DelayedCdi.useClamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CClinCExpCOphthalmolC29:435-437,C200127)YavitzEQ:Di.useClamellarCkeratitisCcausedCbyCmechani-caldisruptionofepithelium60daysafterLASIK.JRefractSurgC17:621,C200128)LeuCG,CHershPS:PhototherapeuticCkeratectomyCforCtheCtreatmentCofCdi.useClamellarCkeratitis.CJCCataractCRefractCSurgC28:1471-1474,C200229)SachdevN,McGheeCN,CraigJPetal:Epithelialdefect,di.uselamellarkeratitis,andepithelialingrowthfollowingpost-LASIKCepithelialCtoxicity.CJCCataractCRefractCSurgC28:1463-1466,C200230)BuxeyK:DelayedConsetCdi.useClamellarCkeratitisCfollow-ingCenhancementCLASIKCsurgery.CClinCExpCOptomC87:C102-106,C200431)SchwartzCGS,CParkCDH,CSchlo.CSCetal:TraumaticC.apCdisplacementCandCsubsequentCdi.useClamellarCkeratitisCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC27:781-783,C200132)ShahCMN,CMisraCM,CWihelmusCKRCetal:Di.useClamellarCkeratitisCassociatedCwithCepithelialCdefectsCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CJCCataractCRefractCSurgC26:1312-1318,C200033)TekwaniCNH,CHuangD:RiskCfactorsCforCintraoperativeCepithelialdefectinlaserin-situkeratomileusis.AmJOph-thalmolC134:311-316,C200234)MulhernMG,NaorJ,RootmanDS:TheroleofepithelialdefectsCinCintralamellarCin.ammationCafterClaserCinCsituCkeratomileusis.CanJOphthalmolC37:409-415,C200235)Asano-KatoN,TodaI,TsuruyaTetal:Di.uselamellarkeratitisCandC.apCmarginCepithelialChealingCafterClaserCinCsitukeratomileusis.RefractSurgC19:30-33,C2003***

白内障術後に遅発性Descemet膜剝離を生じたSchnyder角膜ジストロフィの1例

2019年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(12):1579.1583,2019c白内障術後に遅発性Descemet膜.離を生じたSchnyder角膜ジストロフィの1例勝部志郎*1,2安田明弘*1舟木俊成*3大越貴志子*1門之園一明*2*1聖路加国際病院眼科*2横浜市立大学附属市民総合医療センター眼科*3順天堂大学医学部附属病院眼科CSpontaneousDetachmentoftheDescemetMembraneafterPhototherapeuticKeratectomyandCataractSurgeryinanElderlyPatientwithSchnyderCrystallineCornealDystrophyShiroKatsube1,2)C,AkihiroYasuda1),ToshinariFunaki3),KishikoOhkoshi1)andKazuakiKadonosono2)1)DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,2)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversityMedicalCenter,3)DepartmentofOpthalmology,JuntendoUniversityHospitalCレーザー治療的角膜切除術(phototherapeuticCkeratectomy:PTK)と白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じステロイド点眼で治癒したCSchnyder角膜ジストロフィのC1例を報告する.症例はC80歳,男性.前医にて両眼角膜混濁と白内障の診断で,白内障手術前処置としてのCPTK目的に聖路加国際病院(以下,当院)を紹介受診.両眼CPTKを施行後C3カ月に前医にて右眼白内障手術を施行されたが,1カ月を経ても角膜実質浮腫が改善せず,ステロイド点眼で術後C3カ月に浮腫は消失した.その後当院にて左眼白内障手術を施行し順調な経過だったが,3週後に突如CDes-cemet膜.離を伴う角膜実質浮腫を生じた.前房空気タンポナーデは効果なく,ステロイド点眼で発症C12日後にCDes-cemet膜は接着し,角膜浮腫が消失した.遺伝子検査でCUBIAD1遺伝子CP128L変異を認めた.臨床経過より,Schny-der角膜ジストロフィはCDescemet膜と内皮細胞にも脂肪が沈着しており,Descemet膜の接着が脆弱なため術後炎症による内皮機能低下からCDescemet膜.離を生じる病態があるのではないかと考按した.CAn80-year-oldmalewithbilateraldensecornealopacitiesatthestromalsurfacewasclinicallydiagnosedasSchnydercrystallinecornealdystrophy(SCCD)C,andsubsequentlyunderwentphototherapeutickeratectomy(PTK)ConCbothCeyes,CfollowedCbyCcataractCsurgeries.CAfterCcataractCsurgery,CcornealCstromalCedemaCwasCobservedCinCtheCpatient’sCrightCeye,CyetCdisappearedCbyC3-monthsCpostoperativeCviaCtreatmentCwithCtopicalCdexamethasone.CThreeCweeksaftercataractsurgeryonhislefteye,spontaneousdetachmentoftheDescemetmembrane(DM)andcorne-alstromaledemaoccurred.AnteriorsegmentopticalcoherencetomographydetectedahigherdensityC.uidundertheCDM.CAirCtamponadeCinCtheCanteriorCchamberCwasCine.ective,Chowever,CtopicalCdexamethasoneCadministrationCledCtoCtheCcorneaCbeingCcompletelyCcured.CGenotypicCanalysisCdetectedCaCmutationCofCtheCUBIAD1gene(P128L)C,andthepatientwasgeneticallydiagnosedasSCCD.Inthisrareclinicalcourse,SCCDcausedspontaneousdetach-mentoftheDMafterPTKandcataractsurgery.Inthispresentcase,wetheorizethatpathologiesofthecorneaandpostoperativein.ammationcausedadysfunctionofthecornealendotheliumthatledtotheDMbeingsponta-neouslydetached.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(12):1579.1583,C2019〕Keywords:Schnyder角膜ジストロフィ,角膜変性症,治療的角膜切除術,Descemet膜.離,白内障手術.Schny-derCcornealdystrophy,cornealendothelium,phototherapeutickeratectomy,Descemetmembrane,cataractsurgery.Cはじめに幼少時に発症し緩徐に進行するとされ,壮年になり両眼の角Schnyder角膜ジストロフィは常染色体優性遺伝で両眼の膜中央部に円盤状またはリング状の混濁を呈し,進行すると角膜実質に脂質沈着による混濁を生じるまれな疾患である1,2).角膜全体が混濁する.混濁部に針状結晶を生じ,角膜周辺部〔別刷請求先〕勝部志郎:〒104-8560東京都中央区明石町C9-1聖路加国際病院眼科Reprintrequests:ShiroKatsube,DepartmentofOphthalmology,St.Luke’sInternationalHospital,9-1Akashicho,Chuo-ku,Tokyo104-8560,JAPANC右眼右眼右眼左眼図1初診時所見上段:細隙灯顕微鏡所見では,両眼ともにCBowman層.角膜実質浅層にびまん性混濁と微小びらんの既往を疑う上皮下瘢痕,老人環様の周辺部混濁を認めた.虹彩異常なし.白内障(Emery-Littele分類C2度)を認める.下段:前眼部COCTでは実質全層に淡く高輝度であり,とくにCBowman層に強い高輝度層を認めた.に老人環様の混濁を認めることがある.全身合併症として高脂血症,脊椎・手指奇形,外反膝などが知られている.遺伝子検査ではCUBIAD1遺伝子の変異が報告されている4,5).今回,治療的レーザー角膜切除術(phototherapeutickera-tectomy:PTK)と白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じ,ステロイド点眼により治癒したCSchnyder角膜ジストロフィのC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,男性.初診時主訴(2014年C8月):まぶしい,見えにくい.現病歴:60歳頃より家族が角膜混濁に気づいていたが,5年前から通院していた近医より,白内障手術目的に前医を紹介されたところ角膜混濁を指摘され,白内障手術の前処置としてのCPTK目的に聖路加国際病院(以下,当院)を紹介受診となった.既往歴:74歳糖尿病(HbA1c7.4%),75歳胆.手術後の腸閉塞,脂質異常症なし.家族歴:父が徴兵検査で視力不良で不合格.同胞,子は異常なし.初診時所見:遠方視力:VD=0.1(0.3C×sph+2.00(cyl.4.00DAx70°)VS=0.3(0.8C×sph+0.75(cyl.2.00DAx90°)眼圧:右眼C11CmmHg,左眼C11CmmHg.細隙灯顕微鏡所見:角膜CBowman層.実質浅層全体にCcombpatternの密な混濁のため実質深層の混濁の状態は視認が困難だった.角膜上皮の微小びらんの既往を疑う瘢痕と老人環様の周辺部混濁を認めた.前房と虹彩に異常なし.水晶体は白内障CEmery-Little分類C2度(図1)を認め,眼底は透見困難だった.II治.療.経.過1.PTKSchnyder角膜ジストロフィまたはCReis-Bucklers角膜ジストロフィを疑い,当院にてC2014年C8月に右眼CPTK(切除深度C109Cμm/含上皮),2014年C10月に左眼CPTK(切除深度68Cμm/含上皮)を施行した.PTKによりCBowman層.実質浅層の混濁は除去され視力は改善し,実質深層に至る淡い実質混濁が確認された(図2).その後,白内障手術までのCPTK術後最高視力は,VD=0.3(0.4C×S+0.75C.5.00Ax95°),VS=0.6(0.9C×S+3.50CC.2.00Ax80°)に改善した.C2.右眼白内障手術と右眼の経過PTK術後C3カ月で,前医にて右眼白内障手術が施行された.術後C1カ月を経ても角膜実質浮腫が遷延しているとのことで,精査加療目的に再び当院を紹介受診となった.受診時視力はCVD=0.02(n.c.)で,術後炎症による角膜内皮機能不全による角膜実質浮腫を考え,デキサメタゾン点眼C1日C4回を開始,治療開始C4週後には角膜浮腫は消失し,デキサメタゾン点眼を中止した(図3).視力はCFRV=0.09(0.3C×S.2.00)に回復し,さらにC6カ月後にはCVD=0.2(0.7C×S+0.50C.2.0Ax85°)に改善した.C3.左眼黄斑牽引症候群PTK術後C1年C5カ月(2016年C5月)に左眼黄斑牽引症候群を発症し視力はCVS=0.1(0.4pC×S+2.50C.2.50Ax90°)に低下したが,1カ月後には後部硝子体.離により自然治癒した(図4).しかしながら視力はCVS=0.2(0.4C×S+2.0C.2.50Ax90°)に低下したままだった.C4.左眼白内障手術PTK術後C1年C9カ月(2016年C7月)に,当院にて左眼白右眼左眼図2PTK術後所見PTKによりCBowman層.実質浅層の混濁は除去され視力は改善したが,実質全体の淡い混濁も確認された.発症時白内障術後1カ月白内障術後2カ月図3右眼白内障術後前医での術後C1カ月を経ても実質浮腫が遷延していたため,再び当院を紹介受診.デキサメタゾン点眼C1日C4回を開始し,術後C2カ月で実質浮腫は消失した.自然治癒時図4左眼黄斑牽引症候群の経過左:PTK術後C1年C5カ月で左眼に黄斑牽引症候群を発症した.発症時に,中心窩が後部硝子体膜により牽引され,中心窩.離と.胞様所見を認めた.右:1カ月後の時点では中心窩の牽引がとれ,黄斑形態が改善していた.内障手術が施行された.術前の角膜内皮細胞密度はC2,681個C/mm2で,術式は点眼麻酔下耳側角膜切開にて超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術で,合併症なく終了した.術後経過も順調で,術後C11日目の視力はCVS=0.1(0.3C×S.3.00CC.2.00Ax90°)であったが,術後C3週目に突然CDescemet膜.離と角膜実質浮腫を認め(図5),前眼部光干渉断層計(OCT)(CASIA,トーメーコーポレーション)で耳側角膜切開の創口に連続しないCDescemet膜.離を認め,Descemet膜下の貯留液は高輝度を呈していた.左眼視力はC0.03(n.c.)に低下していた.30ゲージ針で角膜上皮側から穿刺し,Descemet膜下貯留液の排液を試みたが微量しか排液できなかった.なお,Descemet膜下貯留液の内容については詳細な検査を行っていない.前房内に空気を注入し空気タンポナーデ(仰臥位)を施行したが著効なく,翌日以降もCDes-cemet膜.離は残存していた.ベタメタゾン点眼C1日C4回で経過をみていたところ,12日後にCDescemet膜は接着し角膜浮腫は消失した(図6).最終診察時(2018年C8月),両眼ともに角膜浮腫を認めず,視力はCVD=0.4(0.6pC×S+1.50C.2.50Ax83°),VS=0.3(0.6C×S.1.25C.2.50Ax85°)で,自覚的にも安定している.C5.遺伝子検査まれな経過であったため,順天堂大学医学部眼科に遺伝子検査を依頼した結果,UBIAD1遺伝子CP128L変異を認め,図5Descemet膜.離と角膜浮腫出現時の細隙灯顕微鏡所見左白内障術後C3週目に突然CDescemet膜.離と角膜実質浮腫を認めた.Schnyder角膜ジストロフィの確定診断を得た.CIII考按Schnyder角膜ジストロフィは角膜の脂質沈着による角膜実質混濁を生じる比較的まれな疾患である.1924年にCvanWentとCWibautら1)が,続いてC1929年にCSchnyder2)が臨床所見を詳細に報告した.角膜混濁のタイプは円盤状.びまん性,結晶の沈着の有無などバリエーションが多い.本症例には結晶の沈着はなく,Bowman層に強い混濁を認めたことから当初CReis-Bucklers角膜ジストロフィも鑑別にCPTKを施行したが,PTK術後の臨床像がCSchnyder角膜ジストロフィに一致していたことや,遺伝子検査からCSchnyder角abcd図6前眼部OCTでの左眼Descemet膜.離と角膜浮腫の治療経過a:発症時,耳側角膜切開の創口に連続しないCDescemet膜.離を認め,Descemet膜下の貯留液は高輝度を呈していた.Descemet膜.離部に角膜実質浮腫を認めた.Cb:発症C5日目,Descemet膜.離は認めるが,貯留液の輝度は低下してきた.Cc:発症C12日目,Descemet膜は接着し,角膜実質浮腫もほぼ消失した.Cd:発症C7週目,Descemet膜.離の再発はなく,角膜実質浮腫は完全に消失している.膜ジストロフィの確定診断に至った.Schnyder角膜ジストロフィは第C1染色体短腕に存在するUBIAD1蛋白の構造異常3)により,apoEを介したコレステロールの細胞内濃度の安定化や細胞内からの除去に異常をきたし,コレステロールなどの脂質が沈着する可能性が示唆されている4).遺伝子変異では複数の変異が報告されている5).本症例でのCP128L変異には既報がなく,Bowman層から実質浅層に密な混濁が特徴のまれな変異である可能性がある.Schnyder角膜ジストロフィでは角膜混濁部位にリン脂質が沈着しており,角膜局所での脂質代謝異常による脂質沈着から角膜混濁に至る病態と考えられている.Schnyder角膜ジストロフィは角膜実質内の脂質沈着が本態であり,Des-cemet膜や内皮細胞は影響を受けないとされてきたが,Freddoら6)はCSchnyder角膜ジストロフィの角膜切片を電子顕微鏡で調べた結果,実質とCDescemet膜の間にも脂質沈着を疑う多数の空間が存在することや,角膜内皮細胞の変性を確認している.山本ら7)はCSchnyder角膜ジストロフィに全層角膜移植を施行後に病理組織学的検討を行った結果,角膜実質のコラーゲン線維間に多数の空胞があり,その中に脂質と思われる電子密度の高い物質が沈着していること,また,実質細胞内と内皮細胞内に微細な空胞を電子顕微鏡で確認している.Arnold-Wornerら8)は,角膜実質と内皮細胞に脂質沈着を確認している.白内障術後に遅発性CDescemet膜.離が生じた報告を調べたところ,Schnyder角膜ジストロフィやCFuchs角膜ジストロフィを有する症例の白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じた報告は確認できなかった.一方,梅毒性角膜白斑合併白内障症例で術中および術後C3週間後にCDescemet膜.離を生じた報告9)では,Descemet膜と角膜実質間の接着異常が原因と考按されている.また,顆粒状角膜ジストロフィに対するCPTK後の白内障術後に生じた合併症について検討した報告10)には,術後合併症にCDescemet膜.離はなかった.これらの既報をまとめると,PTK施行の有無にかかわらず,白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じることはきわめてまれであると考えられた.本症例のCDescemet膜.離時に前眼部COCTで確認されたDescemet膜下の貯留液は高輝度を呈しており,前房水とは交通していない脂質を含む貯留液であった可能性を考えた.すなわち,通常の白内障手術時に器械的に生じうる創口と連続したCDescemet膜.離ではなく,何らかの機序により遅発性にCDescemet膜下に貯留液を生じていたと考える.なお,前医で行われた右眼白内障術後に遷延した実質浮腫に対しては前眼部COCTでの確認を行っていなかったが,左眼と同様の臨床像を呈していた可能性も疑われた.Descemet膜.離は自然治癒した可能性もあるが,ステロイド点眼による抗炎症治療が奏効した可能性もあると思われた.以上の経過やデキサメタゾン点眼での抗炎症治療後に治癒した経過から考え,本症例で白内障術後にCDescemet膜.離が生じた背景として①CDescemet膜に脂肪が沈着しており角膜実質とCDes-cemet膜の接着が脆弱であったこと,②術後内眼炎症により角膜内皮細胞の機能が低下していたことのC2点を考えた.CIV結語PTK後の白内障術後に遅発性CDescemet膜.離を生じたSchnyder角膜ジストロフィのC1例を経験した.Schnyder角膜ジストロフィの白内障手術後に遅発性CDescemet膜.離の合併に留意する必要がある.このCDescemet膜.離に空気タンポナーデは著効ないが,自然経過あるいはステロイド点眼により治癒する視力予後良好な病態と考えた.文献1)VanWentJM,WibautF:EenzyeldzameerfelijkeHornv-liesaandoening.CNedCTydschrCGeneesksC68:2996-2997,C19242)Schnyder,WF:MitteilungCuberCeinenCneuenCTypusCvonCfamiliarerCHornhauterkrankung.CScweizCMedCWochenschrC59:559-571,C19293)WeissCJS,CKruthCHS,CKuivaniemiH:MutationsCinCtheCUBIAD1geneConCchromosomeCshortCarmC1,CregionC36,CcauseSchnydercrystallinecornealdystrophy.InvestOph-thalmolVisSciC48:5007-5012,C20074)WeissJS,KruthHS,KuivaniemiHetal:Geneticanalysisof14familieswithSchnydercrystallinecornealdystrophyrevealscluestoUBIAD1proteinfunction.AmJMedGenetA146A(3):271-283,C20085)小林顕:シュナイダー角膜ジストロフィの原因遺伝子UBIAD1(解説).あたらしい眼科C27:337-339,C20106)FreddoCTF,CPolackCFM,CLeibowitzHM:UltrastructuralCchangesintheposteriorlayersofthecorneainSchnyder’scrystallinedystrophy.CorneaC8:170-177,C19897)山本純子,日比野剛,福田昌彦ほか:全層角膜移植術を行ったシュナイダー角膜ジストロフィのC1例.眼紀C51:C643-647,C20008)Arnold-WornerCN,CGoldblumCD,CMiserezCARCetal:Clini-calCandCpathologicalCfeaturesCofCaCnon-crystallineCformCofCSchnydercornealdystrophy.GraefesArchClinExpOph-thalmolC250:1241-1243,C20129)西村栄一,谷口重雄,石田千晶:両眼性デスメ膜.離を繰り返した梅毒性角膜白斑合併白内障症例.IOLC&RS24:C100-106,C201010)沼慎一郎:角膜ジストロフィのレーザー角膜切除術(PTK)と白内障手術の視力向上への有効性の検討.山口医学C61:C23-29,C2012C***

基礎研究コラム 31.Muller細胞 TRPV4

2019年12月31日 火曜日

Muller細胞TRPV4.離網膜における視細胞死とMuller細胞TRPV4の関係網膜.離は裂孔原性網膜.離のほか,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などさまざまな疾患に合併します.治療によって網膜が復位しても,.離期間中に起こる視細胞死により恒久的な視力障害をきたします.このため,.離網膜における視細胞死のメカニズムを解明し,それを抑制することは,原疾患の治療と同様に重要といえます.炎症は.離網膜における視細胞死の原因の一つと考えられています.これまでの研究で,.離網膜下には多くのマクロファージが遊走してきて.離網膜における視細胞死に関与すること,マクロファージが遊走してくる原因はCMuller細胞から放出されるCMCP-1(monocyteCchemoattractantCpro-tein-1)であることがわかっていました1).しかし,どのようなメカニズムで.離網膜のCMuller細胞からCMCP-1が放出されるかは不明でした.TRP(“トリップ”と読む)は非選択性陽イオンチャネルです.1989年にショウジョウバエの光受容応答変異株の原因遺伝子としてCtrp遺伝子は発見されました.trp変異株では,光刺激に対して受容器電位(receptorpotential)の変化が一過性(transient)であることからCTRP(transientCrecep-torpotential)と命名されました2).TRPイオンチャネルスーパーファミリーはC7個のサブファミリーに分類され,その一つがCTRPV(vanilloid)で,TRPVはさらに1~6に分類されます.TRPV4はさまざまな種類の細胞に存在し,機械的刺激,低浸透圧刺激,熱刺激,アラキドン酸とその代謝産物などにより活性化されます.TRPV4が活性化した細胞は,炎症性サイトカインやCATPを放出することが報告されています.網膜の細胞では,Muller細胞と一部の神経節細胞にTRPV4が発現しています.筆者らはこのCMuller細胞のTRPV4に着目し,Muller細胞がCMCP-1を放出するメカニズムをマウス網膜.離モデルを用いて解明しました3)..離網膜ではCMuller細胞が膨化します.膨化したCMuller細胞では細胞膜の伸展刺激(機械的刺激)によってCTRPV4が異常活性化し,CaC2+が細胞内に流入することによってCMCP-1が放出されます.MCP-1はマクロファージの遊走や活性化をうながすサイトカインであり,活性化したマクロファージが.離網膜下に遊走してきて視細胞に傷害を与えると考えられます(図1).(99)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY松本英孝群馬大学大学院医学系研究科脳神経病態制御学講座眼科学今後の展望TRPV4阻害薬の硝子体内注射や硝子体手術時の還流液にCTRPV4阻害薬を加えるなどの方法で,.離網膜における視細胞死を抑制できるようになる可能性があります.また,Muller細胞の膨化を伴う網膜疾患である糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症においても,網膜浮腫と眼内のCMCP1濃度は相関していることが報告されています.これらのことから,網膜.離におけるCMuller細胞CTRPV4の役割を理解することによって,他の網膜疾患の病態解明にもつながる可能性があります.文献1)NakazawaCT,CHisatomiCT,CNakazawaCCCetal:MonocyteCchemoattractantCproteinC1CmediatesCretinalCdetachment-inducedphotoreceptorapoptosis.ProcNatlAcadSciUSAC104:2425-2430,C20072)MontellCC,CRubinGM:MolecularCcharacterizationCofCtheCDrosophilaCtrplocus:CaCputativeCintegralCmembraneCpro-teinCrequiredCforCphototransduction.CNeuronC2:1313-1323,C19893)MatsumotoCH,CSugioCS,CSeghersCFCetal:RetinalCdetach-ment-inducedCMullerCglialCcellCswellingCactivatesCTRPV4CionCchannelsCandCtriggersCphotoreceptorCdeathCatCbodyCtemperature.JNeurosci38:8745-8758,C2018あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1575

硝子体手術のワンポイントアドバイス 199.Coats様病変を有する網膜色素変性に対する硝子体手術(中級編)

2019年12月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載199199Coats様病変を有する網膜色素変性に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに網膜色素変性に合併する網膜病変としては黄斑上膜,.胞様黄斑浮腫などの報告が多いが,まれにCCoats様病変を合併することがある1,2).その発症機序としては,網膜色素変性による網膜循環障害により異常網膜血管が生じるとする説3),変性した網膜や色素上皮から異常な生理活性物質が放出されるとする説4),Bruch膜の断裂部位に新生血管が侵入してくるとする説5)などがある.治療は通常のCCoats病と同様にレーザー光凝固が基本であるが,治療に抵抗する重症例では硝子体手術が必要となることがある.C●自験例症例はC43歳,女性.網膜色素変性の診断で経過観察中に右眼視野欠損を自覚した.右眼の下方に滲出性網膜.離を合併したCCoats様病変を認めたため,異常網膜血管に対して光凝固を施行した.しかし,滲出性網膜.離がさらに増悪した(図1)ため,硝子体手術を施行した.手術は水晶体を切除した後,硝子体切除を行い,後極から周辺に向かって人工的後部硝子体.離を作製した.肥厚した後部硝子体膜と網膜が強固に癒着していたため,適宜硝子体鑷子や剪刀を使用した.下方の網膜下硬性白斑が多量であったため,下方周辺部に意図的裂孔を作製し,網膜下硬性白斑および滲出液を抜去した.その後,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展し,眼内光凝固,周辺部輪状締結術,シリコーンオイルタンポナ-デを施行した.半年後にシリコーンオイルを抜去し,眼内レンズ二次挿入術を施行した.術後,眼底の状態は落ち着いたが,矯正視力はC0.2にとどまった(図2).C●Coats様病変を有する網膜色素変性の臨床的特徴通常のCCoats病と異なり,両眼性が多く,片眼性でも僚眼に網膜血管異常を有することがある.通常のCCoats病が小児期の男性に多いのに対して,性差はなく,発症年齢も高い.病変部位は下方C4分のC1象限が多く,光凝(97)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPY図1光凝固施行後の右眼眼底写真下方の異常網膜血管にレーザー光凝固を施行したが,硬性白斑と滲出性網膜.離が増強した.図2硝子体手術後の右眼眼底写真下方に意図的裂孔を作製し,硬性白斑を抜去した.固などの治療に抵抗性で難治例が多い.光凝固を施行しても滲出性病変が進行した場合や硝子体出血をきたした場合には,硝子体手術の適応となることがある6).網膜色素変性は通常,肥厚した後部硝子体膜が網膜と広範囲に癒着していることが多いので,確実な人工的後部硝子体.離を作製したうえで,病変部位に適切な治療を行う.網膜下硬性白斑が多量の場合は,今回のように意図的裂孔から抜去する方法が有効であるが,術後の再.離や再増殖に注意する必要がある.文献1)MorganCWEC3rd,CCrawfordJB:RetinitisCpigmentosaCandCCoats’disease.ArchOphthalmol79:146-149,C19682)AyeshI,SandersMD,FriedmannAI:Retinitispigmento-saCandCCoats’sCdisease.CBrCJCOphthalmolC60:775-777,C19763)WitschelH:RetinopathiaCpigmentosaCand“MorbusCCoats”.KlinMonblAugenheilkdC164:405-411,C19744)WolbarshtCML,CLandersCMBC3rd,CWadsworthCJACetal:CRetinitispigmentosa:CclinicalCmanagementCbasedConCcur-rentconcepts.AdvExpMedBiolC77:181-195,C19775)FogleJA,WelchRB,GreenWR:RetinitispigmentosaandexudativeCvasculopathy.CArchCOphthalmolC96:696-702,19786)大崎明子,今後充代,加藤久幸ほか:網膜色素変性症にCoats様病変と硝子体出血を合併した症例.眼臨紀1:810-813,C2008あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1573

眼瞼・結膜:Prostaglandin Associated Periorbitopathy (PAP)

2019年12月31日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人57.ProstaglandinAssociated坂田礼相原一東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学Periorbitopathy(PAP)緑内障点眼薬のなかでもっとも強力な眼圧下降効果を得られるのはプロスタグランジンFP受容体作動薬である.この点眼薬が原因で起こる眼周囲の変化をprostaglandinassociatedperiorbitopathy(PAP)とよぶが,その一つである上眼瞼溝深化は,眼瞼および眼窩の脂肪組織の体積減少が関連しており,FP受容体を介した脂肪生成の抑制効果によることが示されている.●プロスタグランジンFP受容体作動薬の眼局所副作用プロスタグランジンFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)は,おもにぶどう膜強膜流出路からの房水流出を促進させることで眼圧を下降させ,単剤では緑内障点眼薬のなかでもっとも強力な眼圧下降作用を有する.したがって,現在緑内障診療における薬物治療の第一選択薬はFP作動薬となっている1).FP作動薬の全身的副作用は皆無であるが,眼局所の副作用として,結膜充血,睫毛伸長,虹彩や眼瞼皮膚の色素沈着,そしてprostaglandinassociatedperiorbitop-athy(PAP)があげられる.昨年から使用可能になったプロスタグランジンEP2作動薬であるオミデネパグイソプロピルでは,結膜充血を除き,このような副作用の発現はないとされている.●ProstaglandinassociatedperiorbitopathyPAPでとくに目立つのは上眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES,図1)であり,その他,眼窩脂肪萎縮(眼球陥入),眼瞼下垂,皮膚の退縮といった所見が認められる.PAPの所見は点眼を中止すれば改善することが多い.これらは,眼瞼および眼窩の脂肪組織の体積変化が関連していると考えられており,それぞれ組織学的に,あるいは眼窩MRIで検証されている.また,脂肪の減少はFP受容体を介した脂肪生成の抑制効果によることが証明されている.●Invitroにおける筆者らの検討3T3-L1(マウスに由来する脂肪前駆細胞株であり,脂肪細胞の研究にもっともよく使われている細胞)を用いて,成熟脂肪細胞への分化を促進した.分化の経過中(0日目,2日目,7日目)に,ラタノプロスト酸(LAT-A),トラボプロスト酸(TRA-A),タフルプロスト酸(TAF-A),ビマトプロスト酸(BIM-A),ビマトプロスト(BIM),ウノプロストン(UNO),プロスタグラン(95)0910-1810/19/\100/頁/JCOPY6カ月後図1PAPの臨床的所見a:両眼にFP作動薬の点眼を開始.b:その半年後.両眼とも上眼瞼溝が深化()したことがわかる.ジンF2a(PGF2a)をそれぞれ培養液に添加した.オイルレッドO染色(細胞内脂肪滴検出に優れた生体染色試薬)を使用して,10日目の細胞内脂質を検討した2).同様の実験をFP受容体ノックアウトおよび野生型マウスからの脂肪細胞を用いて行った.脂肪生成はLAT-A,TRA-A,TAF-A,BIM-AとPGF2aで有意に抑制され(それぞれ100nM:0日目,2日目の添加),7日目の添加でもLAT-A,BIM-AとPGF2a(同濃度)で抑制を認めた(図2,3).また,LAT-A,TRA-A,TAF-A,BIM-AとPGF2aは細胞株への効果と同様に野生型マウスの脂肪生成を有意に抑制したが,FP受容体ノックアウトマウスでの脂肪生成は抑制しなかった(図4).●実臨床へのPAPの影響実臨床ではPAPにより眼圧測定が困難な症例にしばしば遭遇するようになった.Goldman眼圧計による眼圧測定では上眼瞼をつまんで持ち上げる必要があるが,あたらしい眼科Vol.36,No.12,20191571コントロールラタノプロスト酸トラボプロスト酸ビマトプロストビマトプロスト酸ウノプロストンプロスタグランジンF2a正常細胞0コントラタノトラボタフルビマトビマトウノプPGF2a140ロールプロスプロスプロスプロストプロスロストント酸ト酸ト酸ト酸120図3コントロールと比較したオイルレッドO染色の割合図2の染色に基づき,コントロールの染色を100としたときの他の主剤の染色割合を示す.*はコントロールと比較して有意な変化を示す.図2と同様に,各FP作動薬で脂肪生成が抑制されていることが確認できる.(文献2より転載)DUESがひどく,眼瞼皮膚も薄くて伸展性がない場合には,正確な測定がむずかしい.また,DUESを認める場合には濾過手術の成績が悪いという報告も出ている3).まとめると,FP作動薬で整容的な面のみならず,緑内障診療への影響が出ている場合には,PAPが起こらない他の薬剤に切り替えたり,場合によっては手術も考慮すべきである.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第4版).日眼会誌122:5-53,20182)TaketaniY,YamagishiR,FujishiroTetal:ActivationoftheprostanoidFPreceptorinhibitsadipogenesisleading1572あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019図23T3.L1細胞培養におけるオイルレッドO染色赤く染色されているのが脂肪細胞である.0日目に3T3-L1細胞に各主剤を添加し,10日目に観察した所見である.ラタノプロスト酸,トラボプロスト酸,タフルプロスト酸,ビマトプロスト酸では染色されている細胞が少ない.つまり脂肪生成が抑制されていることを意味する(正常細胞は3T3-L1細胞ではないため,そもそも脂肪細胞が生成されずに染色されない).(文献2より転載)タフルプロスト酸コントロールを100とした時の染色割合140140120100野生型染色割合ノックアウトマウス染色割合120100806040200プロスプロスプロスプロストプロスロストント酸ト酸ト酸ト酸100806040200ラタノプロスト酸トラボプロスト酸タフルプロスト酸ビマトプロストビマトプロスト酸ウノプロストンPGF2a図4FP受容体ノックアウトマウスと野生型マウスにおけるオイルレッドO染色の割合各FP受容体作動薬の添加で野生型マウスにおいては脂肪生成が有意に抑制された.一方で,FP受容体ノックアウトマウスでは脂肪生成が抑制されなかった.このことから脂肪生成の抑制にはFP受容体を介した機序が関与していることがわかる.(文献2より転載)todeepeningoftheuppereyelidsulcusinprostaglandin-associatedperiorbitopathy.InvestOphthalmolVisSci55:1269-1276,20143)MikiT,NaitoT,FujiwaraMetal:E.ectsofpre-surgicaladministrationofprostaglandinanalogsontheoutcomeoftrabeculectomy.PLoSOne12:e0181550,2017(96)

抗VEGF治療:脈絡膜血管新生に対する抗VEGF製剤の使い分け

2019年12月31日 火曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二71.脈絡膜血管新生に対する抗VEGF董震宇野田航介北海道大学大学院医学研究院眼科学教室製剤の使い分け異なる病態基盤を有する脈絡膜新生血管(CNV)に対して複数存在する抗CVEGF製剤をどう使い分けるべきかということが課題となっている.筆者らの施設ではCCNVの原因疾患や病型によって使用する抗CVEGF製剤を選択し,治療抵抗例では薬剤切り替えや光線力学的療法などとの併用療法も考慮している.はじめに近年,滲出型加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD),強度近視に伴う脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)などに対して抗VEGF製剤の硝子体内注射が治療の第一選択になっており,現在わが国で保険認可されている薬剤としてラニビズマブ(ルセンティス)とアフリベルセプト(アイリーア)がある.以下,CNVに対するこのC2製剤の使い分けについて,両者の創薬デザイン上の違いを交えて筆者らの施設における考え方を述べる.抗VEGF製剤の創薬デザインラニビズマブとアフリベルセプトは同じ抗CVEGF製剤ではあるが,創薬デザインが異なる.ラニビズマブはヒト化モノクローナル抗体CFab断片で,抗原と結合するCFab領域のみとなっており,さらにCVEGFとの結合親和性を増強して製品化されている.一方,アフリベルセプトはCVEGF受容体(VEGFR)融合蛋白である.VEGFR-1とCVEGFR-2の細胞外ドメインをヒトCIgGのFc領域に融合させていることが特性で,このためVEGF-Aのほかにも,VEGF-BやCPlGF(胎盤成長因子)を阻害する1).滲出型AMDに伴うCNV滲出型CAMDに伴うCCNVに対する治療においてはVEGF-AがCCNV発症に中心的役割を演じる分子であることから,VEGF-Aを強力に抑制することが必要となる.アフリベルセプトはラニビズマブと比較してVEGF-Aに対しより高い親和性を有すること1),VEGF-AのほかにCPlGFやCVEGF-Bを含めCVEGFR-1とCVEGFR-2に結合する蛋白質すべてを阻害することができることから,より効果的なCCNV抑制効果が期待される.一方,VEGFファミリー分子は多様な生理活性を有する分子でもあるため,長期にわたる強力な(93)C0910-1810/19/\100/頁/JCOPYVEGF抑制に伴う全身合併症が危惧されているが,近年アフリベルセプト硝子体内注射による血管イベントリスクは非投与群とほぼ同等であるとの報告もなされており2),まだ議論の分かれるところである.これらの報告をふまえて,筆者らの施設では視力良好例の典型CAMDに対してはアフリベルセプトを第一選択としている(図1).また,治療開始前矯正視力がC0.7以下のC1型CCNV患者やポリープ状脈絡膜血管症,網膜血管腫状増殖,そしてアフリベルセプト硝子体内注射に反応性が乏しい患者に対しては,光線力学的療法(photo-dynamictherapy:PDT)およびトリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射(sub-TenonC’sCtriamcino-loneacetonideinjection:STTA)を併用するCPDTトリプル療法を積極的に行っている.近視性CNV,続発性CNV近視性CCNVやぶどう膜炎などに伴うCCNVは,一般的に滲出型CAMDに伴うCCNVほど活動性が高くないと考えられ,CNVを退縮させることを治療の第一目標としつつも,抗CVEGF製剤の長期投与による網脈絡膜萎縮にも注意する必要がある.実際,筆者らも以前近視性CNVに対してラニビズマブをC3回連続投与後,CNVの退縮が得られたものの,網脈絡膜萎縮により最終的に視力不良になった症例を経験している(図2).そのため,近視性CCNVで活動性があまり高くない症例に対してはラニビズマブ硝子体内注射とCSTTAの併用を第一選択とし,まずC1回投与してその後注意深く経過観察しつつ,必要に応じて再投与を検討することにしている.一方,ぶどう膜炎などに伴うCCNVについては保険適用の問題もあり,治療には苦慮しているのが現状である.おわりに実際の臨床では,ノンレスポンダーの存在や抗VEGF製剤の長期投与に伴うタキフィラキシーにより,他の抗CVEGF製剤への切り替えを行わざるをえないこあたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C1569治療前治療後図1TypeIICNVにアフリベルセプト硝子体内注射を施行した著効例アフリベルセプト硝子体内注射後にCCNVは退縮し,治療前C0.4であった矯正視力も0.8まで改善した.治療後C15カ月経過してもCCNVの再発を認めていない.OCT画像は水平断.治療前治療後図2強度近視に伴うCNVに対してラニビズマブ硝子体内注射を繰り返した1例すでに治療前から広範囲に網脈絡膜萎縮を認めていた.ラニビズマブ硝子体内注射を繰り返した結果,CNVの退縮が得られて矯正視力もC0.7まで一時改善したものの,網脈絡膜萎縮が拡大したため視力はC0.02と低下した.OCT画像はそれぞれ水平断(上)と垂直断(下).ともしばしばあり,抗CVEGF製剤への反応を注意深く観察しつつ,柔軟に使用することが必要である.さらに最近,滲出型CAMDに伴うCCNVに対してCtreat-and-extendregimenで硝子体内注射を行った場合は,アフリベルセプトとラニビズマブがほぼ同様の注射回数で同等の視力維持効果が得られたとする報告がなされており3),今後は両者の使い分けはさらに変わっていく可能性がある.文献1)PapadopoulosCN,CMartinCJ,CRuanCQCetal:BindingCandC1570あたらしい眼科Vol.36,No.12,2019neutralizationCofCvascularCendothelialCgrowthCfactor(VEGF)andCrelatedCligandsCbyCVEGFCTrap,CranibizumabCandbevacizumab.CAngiogenesisC15:171-185,C20122)KitchensCJW,CDoCDV,CBoyerCDSCetal:ComprehensiveCreviewofocularandsystemicsafetyeventswithintravit-realCa.iberceptCinjectionCinCrandomizedCcontrolledCtrials.COphthalmologyC123:1511-1520,C20163)GilliesCMC,CHunyorCAP,CArnoldCJJCetal:E.ectCofCranibi-zumabCandCa.iberceptConCbest-correctedCvisualCacuityCinCtreat-and-extendCforCneovascularCage-relatedCmaculardegeneration:Arandomizedclinicaltrial.JAMAOphthal-mol24:2019.[Epubaheadofprint](94)

緑内障:酸化ストレスと緑内障:治療への応用は可能か

2019年12月31日 火曜日

●連載234監修=山本哲也福地健郎234.酸化ストレスと緑内障:治療への谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座応用は可能か種々の基礎・臨床研究から,緑内障でみられる眼圧上昇や網膜神経節細胞死に酸化ストレスが関与する可能性が指摘されている.現時点で抗酸化ストレス治療(フラボノイド,テルペノイド,抗酸化ビタミンなど)が緑内障の治療となるかどうかについて,エビデンスは十分でない.一方で抗酸化ストレス治療が緑内障の病態を修飾できることの理論的背景はそろっており,臨床研究の進展が望まれる.●緑内障と酸化ストレス酸化ストレスは「生体内の高分子(脂質,蛋白質,核酸)が,酸化還元反応(電子引き抜き)により修飾を受け,その機能が変化すること」1)ととらえることができる.緑内障(とくに開放隅角緑内障)でみられる眼圧上昇に,加齢やその他の要因による前房水の酸化・抗酸化のバランス変化と線維柱帯・Schlemm管の酸化ストレスが関与する可能性がある(図1)2).また,網膜内や篩状板部における酸化ストレスが網膜神経節細胞死に関係する可能性もある(図2).全身的な酸化反応の亢進や抗酸化能の低下が緑内障に関与する可能性が指摘されている3,4).また,緑内障リスク遺伝子のスコア上昇とともに全身抗酸化能が低下することも報告されている5).C●緑内障に対する抗酸化ストレス成分の摂取抗酸化ストレスが期待される成分として,ポリフェノールに分類されるフラボノイド(カテキン,アントシアニン,プロアントシアニジンなど),テルペノイドに分類されるカロテノイド(ルテインなど),抗酸化ビタミン類(ビタミンCA,C,Eなど),抗酸化酵素の補因子として働くミネラル類(銅,亜鉛,マンガンなど)がある.横断的研究で,とくに女性ではビタミンCAあるいはCCを含むフルーツや野菜の摂取が多いほど緑内障の有病率が低いことや,前向きコホート研究で緑黄色野菜の摂取が多いほど緑内障の発症は少ないことなどが報告されている6).抗酸化ビタミンやカロテノイドを含むフルーツや野菜のバランスのよい摂取には,必ずしも抗酸化ストレス効果によるとは限らないが,緑内障の発症・進行を予防する効果があるのかもしれない.表1に,これまで緑内障あるいは高眼圧症に対して効果が検討された抗酸化成分をまとめる.緑内障患者で,種々のフラボノイドとテルペノイドを含むイチョウ葉エキス,抗酸化ビタミン,カテキンなどの内服(~12カ(91)月)により,視野感度の上昇,組織血流の増加,網膜電図の振幅変化などの効果が報告されている.また,高眼圧症患者で,プロアントシアニジンを含む松樹皮エキスとアントシアニンを含むビルベリーエキスの内服(~6カ月)により,組織血流の増加,眼圧下降効果,血中酸化物の低下といった効果が報告されている.ラタノプロストやドルゾラミド・チモロール合剤の眼圧下降効果が松樹皮エキス・ビルベリーエキス内服併用で増強される可能性も報告されている.しかし,薬剤の使用で眼圧下降が得られている原発開放隅角緑内障に対して,ビタミンCC・E,銅,亜鉛,マンガン,ルテイン,n-3系脂肪酸の内服をC2年間行った研究では,内服の有無で視野感度や乳頭周囲網膜神経線維層厚・黄斑内層厚に有為な差を認めなかった.現時点で,抗酸化ストレス治療が緑内障の治療となるかどうかについて十分に説得力のあるエビデンスはないのが現状である.眼圧下降治療という強力なエビデンスのある治療をしない状況で,抗酸化ストレス治療の効果を検討することは倫理的に困難であり,そのことも抗酸化ストレス治療のエビデンスを創出するむずかしさの一因となっている.抗酸化治療により緑内障の病態を修飾できることの理論的背景は十分あるため,今後の臨床研究の進展が望まれる.文献1)谷戸正樹:眼と酸化ストレス;光ストレスを中心に.Phar-maMedicaC26:19-23,C20082)IzzottiCA,CLongobardiCM,CCartigliaCCCetal:MitochondrialCdamageinthetrabecularmeshworkoccursonlyinprima-ryCopen-angleCglaucomaCandCinCpseudoexfoliativeCglauco-ma.PLoSOneC6:e14567,C20113)TanitoCM,CKaidzuCS,CTakaiCYCetal:CorrelationCbetweenCsystemicCoxidativeCstressCandCintraocularCpressureClevel.CPLoSOneC10:e0133582,C20154)UmenoA,TanitoM,KaidzuSetal:Comprehensivemea-surementsCofChydroxylinoleateCandChydroxyarachidonateあたらしい眼科Vol.36,No.12,2019C15670910-1810/19/\100/頁/JCOPY加齢・遺伝要因全身酸化ストレス抗酸化能↓酸化物↑図2酸化ストレスによる視神経・網膜障害の機構篩状板部,網膜における酸化ストレスが,緑内障にみられる神経障害の成因にかかわる.(文献C7より改変引用)表1緑内障,高眼圧症に対する抗酸化サプリメントの臨床試験病型試験薬効果文献正常眼圧緑内障イチョウ葉エキス内服C120mg/日,4週視野感度の上昇CQuarantaLetal2003緑内障ビタミンCE内服C300またはC600mg/日,12カ月眼動脈血流の上昇,後毛様動脈血流の上昇,視野感度低下の抑制CEnginKNetal2007高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,6カ月眼圧下降,眼動脈血流の上昇,網膜中心動脈血流の上昇,短後毛様動脈血流の上昇CSteigerwaltRDetal2008高眼圧症,開放隅角緑内障epigallocatechin-gallate(EGCG)内服200mg/日,3カ月OAGで,パターン網膜電図による網膜内層機能の上昇CFalsiniBetal2009高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,1C6週単独で眼圧下降,併用でラタノプロストの眼圧下降の増強CSteigerwaltRDetal2010正常眼圧緑内障イチョウ葉エキス内服C160mg/日,4週乳頭周囲血流の増加CParkJWetal2011高眼圧症松樹皮エキスC40mg,ビルベリーエキス80Cmg内服/日,1C2週併用でラタノプロスト,ドルゾラミド+チモロールの眼圧下降の増強,血中酸化物の低下CGizziCetal2017眼圧下降良好な原発開放隅角緑内障ビタミンC・E,銅,亜鉛,マンガン,ルテイン,n-3系脂肪酸内服,2年間視野感度・乳頭周囲網膜神経線維層厚・黄斑内層厚に対照群と差なしCGarcia-MedinaJJetal2015開放隅角緑内障抗酸化サプリメント(ビタミン・イチョウ葉エキス・フルーツエキス他),4週球後・眼底血流の増加CHarrisAetal2018isomersCinCbloodCsamplesCfromCprimaryCopen-angleCglau-comapatientsandcontrols.SciRepC9:2171,C20195)Zanon-MorenoV,Ortega-AzorinC,Asensio-MarquezEMetal:Amulti-locusgeneticriskscoreforprimaryopen-angleglaucoma(POAG)variantsisassociatedwithPOAGriskCinCaCMediterraneanpopulation:InverseCcorrelationsCwithplasmavitaminCandEconcentrations.IntJMolSciC1568あたらしい眼科Vol.36,No.12,201918:E2302,C20176)AlOwaifeerAM,AlTaisanAA:Theroleofdietinglau-coma:ACreviewCofCtheCcurrentCevidence.COphthalmolCTherC7:19-31,C20187)谷戸正樹:III開放隅角緑内障のリスクファクターE酸化ストレス.AllAbout開放隅角緑内障(山本哲也,谷原秀信編),医学書院,p121-131,C2013(92)