眼鏡,コンタクトレンズ処方PrescriptionofContactLensesandGlasses梶田雅義*はじめに従来の眼鏡やコンタクトレンズ(contactlens:CL)処方は遠方視力を基準にして処方されていた.しかし,現代の情報化社会では近くに多くの情報が集中しているため,眼鏡やCLの処方にも近方視の配慮が必要になってきている.近方視で問題になるのは,近方にピントを合わせるための調節と,近方を両眼視するための輻湊の負荷の増大である.たとえ,両眼で良好な視力と両眼視ができていても,それらの負荷が大きければ,眼精疲労の原因になりうる.実際に,調節と輻湊負荷が原因で眼精疲労を発症している患者は急増してきている.本稿では,現代人の眼に快適な矯正を提供する方法について述べる.I現代人の視環境の変化IT機器の進歩によって,視機能にかかる負担が変化してきている.1980年代にデスクトップタイプのパーソナルコンピューター(パソコン)が普及しはじめたときに,眼精疲労を訴える患者が増加し,巷ではテクノストレス眼症とよばれるようになった.その対象は中高齢者であった.その後,ノート型パソコンが普及しはじめると,眼精疲労を訴える患者はさらに増加し,IT眼症ともよばれるようになった.対象者は若い世代までに広がった.そして2010年代になり,スマートフォンが普及しはじめると,眼精疲労を訴える患者は急激に増加し,巷では,スマホ老眼・スマホ斜視などとよばれるようになり,その対象は全世代に拡散してきている.II屈折異常のタイプによって異なる視機能異常1.近視裸眼で近くは見えるが,遠方視には矯正用具の補助が必要である.この裸眼で近くがよく見えるが,スマホ老眼やスマホ斜視を引き起こしている.裸眼で近くが見えるため,長時間の近方視には矯正用具の使用が煩わしく感じられるため,裸眼で過ごしてしまう習慣ができてしまう.日常の生活も眼鏡やCLを使用せずに裸眼で過ごしてしまう状態が常在化してしまった結果,どうしても遠くを見なければならない事情が生じた場合に,これまで快適に使用できていた眼鏡を装用すると,視野は歪み,近方視時に強く輻湊していた効果が残存して,複視を生じる(スマホ斜視).眼鏡を通して近くを見ようとするとピントが合わせられない(スマホ老眼).外斜位傾向のある症例では,裸眼での近方視時にかかる輻湊負荷を回避するために,近方を片眼視する習慣が定着し,外斜視を発症していることも多く,複視の自覚を回避するための視野闘争が生じている症例も増加している.2.遠視一般には遠くがよく見える眼と思われているが,実際には調節努力を行わなければ近くにも遠くにもピントが*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(39)1503合わない眼である.長時間の近方視を強いられることによって,調節機能に異常が生じやすい.完全な老視眼になる前であれば,視力測定では遠方視力も近方視力も良好であり,調節力も十分に発揮できることから,視機能に異常なしと判断され,眼精疲労の原因が特定されず,体調不良に陥っている症例が増加している.これに眼位異常が加われば,めまいや悪心・嘔吐の症状も加わり,治療の主体が眼科から遠ざかっていることも少なくない.3.乱視一経線方向とそれと直交する方向に同時にピントが合わない眼である.本人は生まれながらにそのような見え方をしているので,ほとんど気にしていない場合が多い.日常生活や大きな文字ならばそれほど問題になることはないが,パソコンやスマホで数値を扱ってみると,1・4・7や3・6・8の数字の判別が困難な症例が多いが,ほとんど自覚していない.「表計算などでミスを犯すことが多くありませんか?」と問うとほとんど適中する.情報端末が小型化している社会では,乱視を適切に矯正することは必須の条件である.III現代人に必要な視機能矯正情報過密化社会にあっては,あらゆる距離に情報が提示されているため,社会適応をするためには,遠方から近方までどの距離も快適に明視することが望まれる.従来のように手元が見えづらくなったら老眼鏡を処方するという方法では対応できない.携帯情報端末を使用する機会が多い患者では,屈折検査に続いて必ず眼位検査を行い,内斜位傾向がある場合には調節輻湊介入の可能性を念頭に,外斜位傾向にある場合には斜位近視介入の可能性を念頭に,矯正を進めることが必要である.1.近視眼の矯正眼位異常がない場合には,片眼の自覚屈折値を参考に両眼同時雲霧法で,両眼視で快適な視力が得られる屈折値を求めて,矯正度数を決定する.内斜位傾向がある場合には,調節緊張状態である可能性が疑われるため,調節機能検査を行い,必要に応じて調節治療を行ってから矯正度数を決定する.外斜位傾向がある場合には,眼位矯正に必要なプリズム量を求め,プリズムなしで測定した両眼同時雲霧法の結果と,プリズムを入れて測定した両眼同時雲霧法の結果を比較し,プリズムを入れないほうが過矯正傾向にある場合にはプリズムを入れた矯正度数で処方する.2.遠視眼の矯正矯正度数の求め方は近視眼の場合と同じでよいが,矯正経験のない遠視眼では,眼鏡を通した見え方に適応できない場合も少なくない.この場合には,遠用度数は自覚的に満足できるギリギリまで低矯正にして,遠近両用累進屈折力レンズを用いて低矯正にした分くらいを加入度数に入れると,初期装用感を改善できる.3.乱視眼の矯正0.75D以上の乱視がある場合には,数字の読み取りミスが起こりやすいことを説明し,「ミスが多くなると他人からの信頼度が低くなる」ことを伝えると,乱視矯正に同意が得られやすい.乱視矯正したあとの球面度数の求め方は近視眼の場合と同じである.小児の頃から乱視を矯正していた中等度以上の乱視眼患者は,眼鏡による矯正にまったく問題のないことが多い.しかし,眼鏡で乱視が適切に矯正される面積は乱視が強くなるほど狭くなるため,眼の疲れや数字の読み取りミスが多いなどの状態が聞き出せた場合には,CLによる乱視矯正が奏効する.乱視が強すぎてCLで乱視が十分に矯正しきれない場合には,CLと眼鏡をあわせて矯正するのも快適矯正の一つの方法である.IVIT機器の変遷に伴う処方眼鏡レンズの変化梶田眼科で処方した処方眼鏡の種類を集計してみた.30.60歳を対象とした.調査の範囲を1期:ノートパソコンが普及した2004年,2期:スマートフォンが普及しはじめた2008年,3期:スマートフォンがすべての世代に普及した2018年,そしてテレワークが推奨されるようになったコロナ禍の2020年5月.10月に処方した眼鏡の種類を集計した.対象者は1期:73例,1504あたらしい眼科Vol.37,No.12,2020(40)表1眼鏡処方実数(割合%)表2処方実数(プリズム入り眼鏡の数)1期2期3期コロナ禍期遠用単焦点遠近用累進屈折力中近用累進屈折力近近用累進屈折力近用単焦点遠用累進屈折力15(20.5)53(15.2)16(1.9)11(3.4)37(50.7)205(58.9)821(95.1)297(91.1)0(0.0)0(0.0)2(0.2)4(1.2)18(24.7)35(10.1)14(1.6)14(4.3)3(4.1)35(10.1)4(0.5)0(0.0)0(0.0)20(5.7)6(0.7)0(0.0)計733488633261期2期3期コロナ禍期遠用単焦点遠近用累進屈折力中近用累進屈折力近近用累進屈折力近用単焦点遠用累進屈折力2(13.3)16(30.2)6(37.5)6(54.5)1(2.7)85(41.5)413(50.3)257(86.5)0(0.0)0(0.0)1(50.0)2(50.0)0(0.0)14(40.0)5(35.7)11(78.6)1(33.3)1(2.9)1(25.0)0(0.0)0(0.0)9(45.0)3(50.0)0(0.0)1期:2004年5月.10月.2期:2008年5月.10月.3期:1期:2004年5月.10月.2期:2008年5月.10月.3期:2018年5月.10月.コロナ禍期:2020年5月.10月.2018年5月.10月.コロナ禍期:2020年5月.10月.表3視力判定基準標準閾値準標準閾値1視標1正答2視標2正答3視標3正答4視標3正答5視標3正答5視標4正答6視標4正答7視標4正答8視標5正答9視標5正答10視標6正答Landolt環だけの視標であれば,標準閾値を用いる.文字視標も含む視標であれば,準標準位置値を用いる.cdbe図1調節機能解析装置a:ライト製作所社製アコモレフ2.b:ニデック製AA-2.c:スマホ老眼衰弱タイプのFk-map所見.16歳女性.弱度の近視で,眼鏡を使用しないでスマホを操作していた.眼鏡をかけると近くがぼけると訴えて来院した.眼鏡を常用するように指導したところ,症状は改善してきた.d:スマホ老眼緊張タイプのFk-map所見.11歳男児.右眼が弱度近視性乱視,左眼が弱度混合乱視の不同視.眼鏡は所持していない.最近,眼の奥の痛みを訴えて来院した.調節ができていない割に,HFC値は高かった.眼鏡を処方し,常用を行ったところ,症状は改善した.e:スマホ老眼テクノストレス眼症傾向のFk-map所見.11歳女児.両眼弱度近視眼で不同視.眼鏡は所持していない.最近,眼が外に向くことが多くなったと母親が気になり来院した.外斜位を認めた.調節が十分にできないため,右眼は遠方,左眼は近方と交代視になっており,60.70cmの距離にピントが合わない状態であることがわかる.眼鏡を処方し,装用したところ,眼位は正位を維持できた.表4両眼同時雲霧法の手順1.両眼とも良好な矯正視力が得られており,不同視がないことを確認する.(球面屈折値の左右差が2D以下)2.自覚的屈折測定で得られている円柱レンズ度数および軸度を採用し,検眼枠に装入する.3.自覚的屈折測定で得られている球面レンズ度数に+3.0Dを加えた検眼球面レンズを両眼に装入する.4.両眼開放の状態で,両眼を同時に0.50Dずつ視力を確認しながら,レンズ交換法に従って検眼レンズ度数をマイナス側に移す.5.矯正視力値が0.5.0.7程度に達した状態で,左右眼のバランスを調整する.6.さらに,両眼同時に0.25Dづつレンズ交換法を継続し,両眼視で適切な矯正視力が得られる屈折値を求める.表5トライアルレンズのベースカーブ選択基準角膜乱視選択のベースカーブ参考値0.00.0.50D弱主経線の曲率半径よりも0.1mmほど大きい値0.75.1.25D弱主経線の曲率半径よりも0.05mmほど大きい値1.50D弱主経線の曲率半径にほぼ一致するもの1.75.2.00D弱主経線の曲率半径よりも0.05mmほど小さい値2.25.2.75D弱主経線の曲率半径よりも0.1mmほど小さい値涙液HCL角膜フィッティングフラットパラレルスティープ涙液レンズマイナスレンズプラノレンズプラスレンズ図2ハードコンタクトレンズのフィッティング上段:フィッティングの評価フラット:角膜曲率に対してHCLのベースカーブがゆるい状態.角膜前面とHCL後面の間にマイナス度数を持つ涙液レンズが形成される.パラレル:角膜曲率とHCLのベースカーブが一致している状態.角膜前面とHCL後面の間に涙液レンズは形成されない.スティープ:角膜曲率に対してHCLのベースカーブがきつい状態.角膜前面とHCL後面の間にプラス度数をもつ涙液レンズが形成される.涙液レンズは矯正度数として機能するため,眼鏡矯正度数からHCL度数を換算するときには,矯正に必要なコンタクト度数に加減する必要がある.標準のベースカーブの範囲ならば,角膜弱主経線曲率半径とベースカーブの差0.05mmが0.25Dと近似できる.下段:涙液のフルオレセイン染色HCLの中央(赤線枠内)の染色を観察する.フラット:中央部は角膜に強く接触し,周辺部には浮きが生じるため,中央部のフルオレセイン染色はほとんどなく,周辺部涙液が強く染色される.中央部は暗く,周辺部が明るく観察される.パラレル:範囲内はほぼ均一に薄く染色される.この写真はわずかにフラット気味である.スティープ:中央部に染色された涙液がプールしているため,中央部は明るく,周辺部は暗く観察される.スカーブ/球面度数/サイズを記載する.角膜乱視が3.50を超える場合には,後面トーリックHCL,両面トーリックHCL,ベベルトーリックHCLの処方を検討する.2.SCLの処方手順a.ベースカーブの選択SCLの理想的なベースカーブは角膜弱主経線に0.8.1.2mmを加えた値であることを念頭に置いて,レンズ銘柄によって異なるベースカーブを選択する.角膜曲率は中央部と周辺部で大きく異なっている場合もあるので,実際にはフィッティングで確認する以外にない.SCLのフィッティング確認のポイントは,①瞬目ごとに適度な動きがある.正面視で動きがわずかでも,上方視の瞬目で適切な動きが観察されればよい.瞬目によってまったく動きが観察されない場合には,指で下眼瞼を押し上げたときにSCLがスムーズに動けばよい(プッシュアップ法).②SCLのセンタリングがよく,角膜を十分に覆っている.下方へずれる場合にはベースカーブを大きくする.上方にずれる場合にはベースカーブを小さくする.③SCLの周辺部が結膜を圧迫していない.SCL周辺部で結膜に段差ができていたり,結膜血管に脈流がみられたりする場合には,フィッティングはタイトである.固着していれば別の銘柄のレンズを試し装用する.適切なフィッティングはSCLを安全に使用するために非常に大切である.b.レンズサイズの選択一部のSCL以外ではレンズサイズは銘柄ごとに定められており変更できない.c.レンズ度数の決定眼鏡レンズで快適な視力が得られる矯正度数の円柱度数が0.75D以下であれば,等価球面度数を頂点間距離補正した値に近い度数のトライアルレンズを選択して試し装用を行う.乱視が1.00.3.50Dの範囲であれば,眼鏡レンズで快適な視力が得られる矯正度数の強弱主経線それぞれの頂点間距離補正を求め,SCLで必要な乱視度数と球面度数を求め,それに近い値のトライアルレンズを装用して目的とする良好な矯正視力が得られれば,処方は完了で(45)ある.d.処方データの決定試し装用に用いたトライアルレンズの銘柄とベースカーブ,球面度数・サイズ,乱視用SCLならば銘柄とベースカーブ,球面度数・円柱度数・円柱軸度,サイズを記載する.HCLもSCLも銘柄によってフィッティングも矯正効果も異なるため,処方時には必ず銘柄も記載することが必要である.眼の疲労の訴えがある場合には,遠近両用CLが奏効することも多いので,試すことをお勧めする.VIII眼位異常者へのCL処方眼鏡ではプリズム矯正が可能であるが,CLではプリズム矯正ができない.しかし,強度の屈折異常眼では眼鏡よりもCLのほうが視野の歪みが少なく,快適な視界が得られるため,眼位異常があっても,CL矯正を望む人も少なくない.このような場合には,①左右眼の矯正に0.75.1.50Dの差を付けたモノビジョン矯正を行う.②強度屈折異常はCLで矯正し,CLとプリズム眼鏡を同時に使用する.などで対応すると快適な矯正を提供できることがある.おわりに携帯情報端末の普及によって作業環境が大きく変化してきており,従来のデスクトップモニターを使用していた時代に比べて,スマートフォンやタブレットPCのような小さな画面は自ずと視距離が短くなっている.これに伴い,ピント合わせの調節にかかる負担も両眼視のための輻湊にかかる負担も大きくなってきている.老視を自覚し,近方視に不自由が生じてきてから老眼鏡を提供するというような処方では適切とはいえない.年齢に関係なく,個人の調節機能・眼位状態に配慮した矯正が必要である.眼鏡・CLで提供したいのは,良好な遠方視力だけではなく,快適な視界,社会適応しやすい視機能である.あたらしい眼科Vol.37,No.12,20201509