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屈折矯正手術セミナー:Light Adjustable Lens

2024年9月30日 月曜日

●連載◯292監修=稗田牧神谷和孝292.LightAdjustableLens市川慶中京眼科,総合青山病院Rxshight社のLightAdjustableLensは,眼内に挿入後に度数変更ができる眼内レンズで,2017年に米国FDAで承認されているが,わが国では未承認である.LightDeriveryDeviceを用いて紫外線を照射することで,限度はあるが複数回の度数変更が可能である.●はじめにRxshight社の眼内レンズLightAdjustableLens(以下,LAL)は,2003年にSchwartzによってその原理が報告された1).米国で普及するようになったのは2017年に米国食品医薬品局(FoodandDrugAdministra-tion:FDA)で承認されて以降のことであるが,Schojaiらは2008.2012年にLALを挿入した61名の患者の約7年目のデータを用いて同社のLightDeriveryDevice(以下,LDD)を用いた場合の安全性については,とくに問題がなかったことを報告している2).LALは+4.0Dから+30.0Dまであり,そのうち,+16.0.+24.0Dは0.5D刻み,その他の範囲は1.0D刻みとなっている(図1).LAL挿入後は紫外線防止用の眼鏡を約3.4週間使用し,その後LDDを用いてLAL内のマクロマーを使って度数変更を行う(図2).LDDで変更可能な範囲は球面度数で±2.0Dで,乱視は2.0Dまで矯正可能である.度数変更は通常2回程度で,最大4回まで可能となっており,度数変更終了後はLock-in(度数固定)照射を2回行ってLALの度数を固定する.これら一連の治療の終了後24時間以上経過した後紫外線防止用の眼鏡をはずして生活が可能となる.わが国では2024年4月時点で未承認であり,医師の裁量で行う手術となっている.今回筆者らは中京眼科で実際に患者にLALを挿入し,術後良好な成績を得た1例について報告する.●症例70歳,男性.特記すべき既往歴なし.Emery-Little分類II.術前視力は右眼0.3(1.5×sph+3.0D),左眼0.5(1.0×sph+2.25D),術前瞳孔径は右眼6.7mm,左眼6.8mm.術前の矯正視力は良好であったが,趣味であるスキーを裸眼でできなくなったこと,仕事で近方の見づらさもあり,白内障手術を希望した.既存の多焦点眼内レンズについても説明したが希望されず,LAL挿入を希望された.術前の検査結果はとくに問題なく,まずは正視狙いとし,既存のA定数118.4を用いてレンズの度数決定を行い,両眼に白内障手術を通常通り施行しLALを挿入した.術後1カ月目時点での視力は右眼1.5(2.0×sph+0.75D),左眼1.5(2.0×sph+0.75D(cyl.0.75DAx75°)と,両眼とも遠視側に度数ズレを起こしていたが,自覚検査の結果より右眼.0.5D,左眼0Dの屈折度数を希望され,1回目の度数調整を施行した.1回目の度数図1LightAdjustableLens図2LightDeriveryDevice(59)あたらしい眼科Vol.41,No.9,202411010910-1810/24/\100/頁/JCOPY距離図3Lock-in後の全距離視力明所暗所1001010010右眼左眼11361218361218図4Lock-in後の明所と暗所のコントラスト感度調整後の視力は右眼1.5p(2.0×sph.0.25D,左眼2.0p(2.0×sph.0.25D)であった.これに対して右眼は.0.5D狙い,左眼は0D狙いで2回目の度数調整をそれぞれ施行した.それぞれの2回目の度数調整後に右眼:1.0(2.0×S.0.25D),左眼:2.0(2.0×S+0.25D)となり,さらに右眼.1.0D,左眼:0D狙いで3回目の度数調整を施行した.3回目の度数調整終了後に右眼1.5p(2.0×sph.0.5D),左眼2.0(n.c)となりLock-in照射を2回行った.Lock-in後の全距離視力とコントラスト感度を測定したところ,遠方から近方50cmまでは両眼裸眼視力で1.0以上見えており,コントラスト感度の低下もなく,患者満足度も非常に高かった(図3,4).1102あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024●おわりにLALは患者の自覚をもとに度数選択を行うことが可能な新しい眼内レンズである.しかし,度数調整の幅は決まっており,術前検査の結果をもとに,術後の見え方で遠見を重視するのか近見を重視するのかは最低限決めておく必要がある.患者の自覚をもとにモノビジョンとすることで患者の視覚範囲を広げ,患者満足度を高める可能性があり,今後の報告に注目していきたい.文献1)SchwartzDM:Light-adjustablelens.TransAmOphthal-molSoc101:417-436.20032)SchojaiM,SchultzT,SchulzeKetal:Long-termfollow-upandclinicalevaluationofthelight-adjustableintraocu-larlensimplantedaftercataractremoval:7-yearresults.JCataractRefractSurg46:8-13.2020(60)

眼内レンズセミナー:後囊から後方に突出する多数の小突起を認めた白内障

2024年9月30日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋448.後.から後方に突出する多数の三原研一みはら眼科小突起を認めた白内障加治優一松本眼科大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科水晶体後.から硝子体腔(後方)に向かう多数の小突起を有する症例を経験した.両眼性であり,手術自体は問題なく終了した.前眼部光干渉断層計により,術前および術後に小突起の存在が可視化された.手術時に採取した前.の病理検査では,水晶体上皮細胞がいくつかの層をなして,周囲にマトリックスの沈着を生じている所見が認められた.本症例の本態は不明だが,水晶体.基底膜のなんらかの異常とともに水晶体上皮細胞の一部が変性し,大量のマトリックスが分泌されて沈着物として出現したものと考えられる.●はじめに水晶体の混濁にはさまざまな形があり,混濁が生じる場所も前.下から核,皮質,後.下まで幅広い.病理学的にも多彩な形態や組織学的変化が報告されている1,2).しかし,水晶体の混濁・変化はほとんどが水晶体の内側に生じるものであり,外側に生じる変化としては前.のsplitting(真性落屑)やCdeposition(偽落屑,Vossiusringなど)が記載されているものの2),後.の外側に生じる変化は,筆者らの知る限りこれまでに報告がない.今回筆者らは,両眼の後.から後方(硝子体腔)に向かって多数の小突起が生じていた症例を経験した.C●症例患者はC80歳の男性で,2~3年前よりの視力障害を訴えて初診.眼科受診歴はなかった.初診時の視力は右眼C0.05(0.6C×.4.0D),左眼C0.15(0.4C×.7.0D),眼圧は両眼ともC11mmHgであった.両眼の水晶体にⅢ度の核硬化と後.付近に紡錘状混濁を認め(図1),前眼部COCTでは後.から硝子体腔に向かう突起状の構造物を認めた(図2).角膜内皮細胞は正常右眼左眼図1術前の細隙灯顕微鏡写真両眼に核硬化と,後.周辺の紡錘状混濁を認めた.で,眼底には豹紋状眼底以外に異常はなかった.C●経過両眼にトーリック眼内レンズを用いた白内障手術を行った.手術はとくに問題なく終了し,術中に前.あるいは後.に異常を感じることはなかった.術後矯正視力は両眼とも(1.0)に改善し,術後炎症も通常範囲内であった.術後の前眼部写真では,後.から硝子体腔側(後方)に向かう小突起物を多数認めたが(図3),それ以外に前眼部の異常はみられなかった.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)でも,両眼に後.から後方に向かう混濁した小突起物が多数観察された(図4).C●病理所見右眼の手術時に採取した前.の病理所見を示す(図5).水晶体上皮細胞がいくつかの層をなして,周囲にマトリックスの沈着を生じているところがあった.水晶体上皮細胞の核は形が乱れ,細胞に変性が生じていると思図2術前の左眼前眼部OCT後.から硝子体腔に向かう小突起が存在する.(57)あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C10990910-1810/24/\100/頁/JCOPY右眼左眼図3術後の細隙灯顕微鏡写真両眼に,後.から後方に突出する多数の小突起が観察される.図5前.の病理所見右眼の手術時に採取した前.の病理所見.*:正常な単層の水晶体上皮細胞.←:異常なマトリックス沈着を伴う水晶体上皮細胞.われた.水晶体.自体には特記すべき異常はみられなかった.手術時に後.を採取することはできなかったものの,前.における水晶体上皮とマトリックスの異常な沈着が,後.にみられた多数の小突起と間連しているものと考えられた.C●考按水晶体の加齢変化として,表面側および核側が凹凸不整になること,また水晶体上皮細胞が膨化して変性することが知られている.しかし,細胞の集積やマトリックスの異常沈着は報告されていない.先天無虹彩では,水図4術後の右眼前眼部OCT後.から硝子体腔側に向かう小突起が認められる.晶体上皮の変性,壊死,重層化,異常増殖などが知られており,また落屑症候群では水晶体上皮の膨化,壊死,変性,異常増殖に加えて,水晶体上皮細胞と基底膜の間に異常な蛋白質が蓄積することが報告されている3,4).本例の染色像からは,部分的には落屑症候群のような基底膜の異常がバックグラウンドにあることが想像される.しかし,本例では落屑物質がまったく認められないこと,異常な蛋白質の沈着が水晶体上皮細胞と基底膜の間ではなく,水晶体上皮細胞の基底膜側と核側の両方に及んでいること,異常なマトリックスが沈着している場所が数カ所にとどまることなどが,これまでの報告と大きく異なる.以上より,本症例では,基底膜の異常ととともに水晶体上皮細胞の一部が変性し,大量のマトリックスが分泌されて沈着物として出現したものと考えられる.文献1)EagleRCJr,SpencerWH:Lens.In:Ophthalmicpatholo-gy.CAnCatlasCandCtextbook,C4thCed,Cp371-437,CWBCSaun-dersCompany,Philadelphia,19962)Yano.CM,CSassaniJW:Lens.In:OcularCpathology,C8thCed,p380-406,Elsevier,20203)SorkouCKN,CManthouCME,CMeditskouCSCetal:ExfoliationC.brilsCwithinCtheCbasementCmembraneCofCanteriorClenscapsule:ACtransmissionCelectronCmicroscopyCstudy.CCurrCEyeRes44:882-886,C20194)RitchR:OcularC.ndingsCinCexfoliationCsyndrome.CJCGlau-comaC27:S67-S71,C2018

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く オルソケラトロジー(2)

2024年9月30日 月曜日

■オフテクス提供■コンタクトレンズセミナー英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く9.オルソケラトロジー(2)土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C6章はオルソケラトロジーに関する第C6章のC2回目である.Ortho-Kによる眼の変化本章1)ではオルソケラトロジー(orthokeratology)はortho-kと略されており,本稿でも踏襲する.C1.角膜形状変化Ortho-kによる近視矯正では角膜中央部が平坦化し,中周辺部が急峻化する.目標とする屈折矯正量が多い場合は,矯正されるゾーンの直径は小さくなる傾向がある.一方,ortho-kによる遠視や老視の矯正に関する研究は近視矯正に比べて限られている.遠視や老視のortho-kでは角膜中央部の急峻化により角膜の屈折力を増加させる.老視の矯正はモノビジョンまたは多焦点矯正によって可能となり,優位眼を遠方視,非優位眼を近方視に矯正する.多焦点効果を得るためには,治療ゾーンを小さくして中央部急峻化と周辺部平坦化によって中心近用の光学効果をもたらすが,負の球面収差が増加する.これらの変化は角膜前面に限定され,角膜後面には影響を及ぼさない.C2.角膜厚変化Ortho-kによる角膜厚の変化は角膜上皮層の変化で,近視矯正では角膜中央部における菲薄化と中周辺部の厚み増加によって屈折矯正効果をもたらす.これらは可逆的である.2.50~2.75Dの近視矯正では角膜中心厚が15~17Cμm菲薄化する.C3.角膜の細胞変化共焦点顕微鏡を使用した研究では,ortho-k装用C1年後に角膜内皮細胞の多形性が増加し,その変化は装用中止C1カ月後に減少するものの,元のレベルには戻らないことが報告されている.角膜内皮細胞密度と実質中間層および深層のケラトサイト密度はC1年間のCortho-k装用後に大きな変化を示さないが,実質前層のケラトサイト密度の減少と活性化ケラトサイトの増加が報告されている.また,最大C5年の長期装用後には上皮基底細胞密度の減少がみられ,ortho-kによる上皮細胞層の圧縮が原因とされている.C4.色素沈着アークOrtho-k装用者の角膜下方に色素沈着アークやリング(55)がみられることがある.装用開始後C2週間ほどで現れ,1カ月で完全なリングになることもある.装用を中止すると約C2カ月で消退する.C5.FibrillarylinesOrtho-k装用者の角膜には灰白色のC.brillarylines(線維状線)が現れることがあるが,これは角膜神経の再編成やストレスによるもので,神経密度の減少と角膜感度の低下を伴う.視覚や健康に重大な影響はなく,装用を中止すると消退する.C6.角膜の生体力学Ortho-kは角膜形状変化によって生体力学的にも影響を与える.Ortho-k装用後に角膜の粘性と抵抗性が若干減少した.C7.眼圧の過小評価薄い角膜は眼圧の過小評価に,厚い角膜は過大評価になりやすいが,ortho-kが眼圧測定に与える影響を調査した研究では,測定方法にかかわらず平均C1CmmHg未満低く見積もられた.COrtho-kの安全性就寝時装用により深刻な角膜感染症のリスクが増加する可能性がある.以下にCortho-k関連のおもな眼合併症を示す.C1.角膜感染症(細菌性角膜炎)Ortho-kによる細菌性角膜炎は視力予後に影響を及ぼすもっとも重大な合併症で,とくに不適切なレンズケアや管理,使用方法の不遵守が原因とされている.ケア剤の継ぎ足しや水道水の使用はリスクを高める.C2.角膜上皮染色もっとも一般的に観察される.通常,角膜中心部にみられ,装用初期の数週間から数カ月間にピークを迎える.矯正量が多い場合にリスクが高まる.C3.レンズ固着と圧痕固着したレンズのエッジによる角膜の局所的な圧力が原因で,角膜に圧痕が生じることがある.固着防止には,適切な装用と適切なレンズケアが重要である.レンあたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C10970910-1810/24/\100/頁/JCOPYズフィッティングの調整や,レンズ下の適度な涙液交換も有効である.C4.角膜マイクロシスト角膜マイクロシストは,角膜の低酸素状態を示す徴候であり,高酸素透過性の硬性レンズ素材を使用しているため,ortho-k装用者においてはまれにしかみられない.オルソケラトロジーレンズのケア方法1.レンズケアの重要性Ortho-kレンズのケア方法や手洗いにおける注意点はハードCCLのものと類似している.とくに,アカントアメーバ角膜炎の報告例があるため,水道水を使用しないことが重要である(注:日本の水道水は塩素を含むため,すすぎの際に使用可である).C2.多目的製剤(multi-purposesolution:MPS)MPSにはさまざまな界面活性剤や抗菌成分が含まれる.使用者は毎日のレンズのこすり洗いやすすぎの重要性を理解する必要がある.また,一部のCMPS成分の細胞毒性について注意が必要である.PHMBを含むケア剤は,抗菌効果と細胞毒性とで乖離がある場合がある.C3.過酸化水素消毒システム過酸化水素は,酸化によって有機物を不安定化させ,細胞膜や細胞成分を損傷することで抗菌活性を発揮する.真菌やアカントアメーバを含むすべての微生物に対して米国食品医薬品局(FDA)およびCISOの基準を満たしている.レンズケース内のバイオフィルム形成に対しても有効である.毎日のこすり洗いと生理食塩水でのすすぎが推奨される.とくにCMPSの成分に敏感な人々に適している.C4.ポビドンヨードポビドンヨードは,創傷治癒および手術前予防に何十年もの間使用されている.新しいポビドンヨードベースの消毒液は,効果的に微生物とバイオフィルムを除去する.長期使用でも耐性がなく,信頼性の高い消毒方法である.C5.消毒耐性防腐剤や消毒剤(第四級アンモニウム化合物やビグアニドなどの陽イオン性抗菌薬)の広範かつ長期にわたる使用により,消毒剤に対する病原体の耐性の発生が懸念されている.基本の実践処方医はCortho-kレンズを安全に装用させることに対しての責任がある.処方医は,患者や保護者に対して,アフターケアの頻度や一般的な合併症を含む潜在的リスクについてしっかり伝える必要がある.成人装用者および子どもの保護者の見解1.成人Ortho-kレンズを使用する成人は,視力の質は他の矯正方法と同等であるが,グレアの増加がみられることがある.近視が軽度のユーザーに好評である.C2.小児Ortho-kの利点,潜在的なリスク,制約事項などについての情報を提供し,本人や保護者の理解を深めることが重要である.保護者らはレンズの取り扱い手順,緊急時の対応方法について十分に学習し,定期検査を通じてレンズの適合状況や眼の健康状態を確認し,問題が発生した場合には迅速に対処することが求められる.C3.保護者の見解香港での調査では,保護者の多くがCortho-kは子の近視抑制するものと捉えており,おもな情報源は口コミ(52%)と新聞・雑誌(50%)で,医療提供者からの情報はC35%にとどまった.中国の調査では,保護者の最大の動機は子の近視進行抑制であり,おもな情報源は口コミ(56%)と眼科医(41%)であった.保護者の理解を深めるためには,眼科医が積極的に介入することが重要である.文献1)VincentCSJ,CChoCP,CChanCKYCetal:CLEARC-Orthokera-tology.ContLensAnteriorEyeC44:240-269,C2021

写真セミナー:Stevens-Johnson 症候群と常在菌反応性眼表面炎症

2024年9月30日 月曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史484.Stevens-Johnson症候群と常在菌反応性坂田理恵東京歯科大学市川総合病院眼科眼表面炎症図1慢性期のStevens-Johnson症候群の角膜混濁結膜充血と全周性に新生血管を認める.図3図1のフルオレセイン染色所見ドライアイを伴うため水濡れ性が悪い.図4瞼結膜所見新生血管と瞼結膜瘢痕を認める.図5治療開始1カ月後の所見結膜充血の改善を認める.(53)あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C10950910-1810/24/\100/頁/JCOPY市販感冒薬の内服を契機にStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)を発症した症例を提示する.患者は57歳,女性.20歳時に市販感冒薬を内服しSJSを発症した.50歳ごろ,右眼視力低下と充血を自覚し近医を受診した.点眼治療(クロラムフェニコール点眼液・両眼C1日C2回,防腐剤無添加人工涙液点眼液・頻回)を受けたが改善せず,7年後(57歳)に当科を紹介受診した.初診時矯正視力は右眼C0.1,左眼C1.0で,両眼に結膜充血があり,右眼には瞼結膜瘢痕と全周性に新生血管,角膜傍中心に混濁を認めた(図1~4).結膜.培養からCCorynebacteriumとCSerratiaが検出され,モキシフロキサシン点眼液を処方し,結膜充血は改善した(図5).1年後の再診時,再度右眼の充血を訴え,結膜.培養からClevo.oxacin-resistantCCoryne-bacteriumが検出された.感受性のあるセフメノキシム塩酸塩点眼液に変更し充血は改善した.SJSは全身性炎症性疾患で,粘膜や皮膚に影響を与える多系統炎症性疾患である.急性期には発熱などの感冒様症状の数日後に全身の皮膚に多形滲出性紅斑と水疱が,眼や口唇・口腔内などの粘膜移行部にびらんと出血が出現し,さらには爪囲炎を伴う.これらの症状はC4.6週間持続する.眼症状としては,急性期には皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血,角膜上皮欠損,偽膜形成を生じる.慢性期には重度のドライアイ,眼球癒着,睫毛乱生,角膜上皮幹細胞疲弊症,角膜混濁などをきたし,著しい視力障害を伴うこともある.SJSでは慢性期の眼合併症が進行し失明に至ることもあり,眼表面の治療が非常に大切である.ドライアイには人工涙液の頻回点眼に加えて,ムチン産生亢進ならびに抗炎症作用を有するレバミピドや涙点プラグ,涙点焼灼,睫毛乱生には睫毛抜去や毛根切除,瞼縁の角化には口唇粘膜移植などで総合的に治療する.これらを放置すると眼表面の炎症,感染症,遷延性上皮欠損など生じて瘢痕性変化や角膜上皮幹細胞疲弊症,角膜混濁が進行する可能性がある.SJSでは眼表面炎症と眼表面感染症を生じやすいことに加え,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)またはメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusCepidermidis:MRSE)を保菌している場合があり,それが原因となって眼表面が悪化することがあるので注意を要する1).また,結膜.常在細菌であるCCorynebacteriumなどが起炎菌となることがある.通常では眼表面には常在微生物叢が存在し,眼表面の自然免疫が機能しているため病原性を有さないが,SJSなどの場合は自然免疫機構の破綻により病原性の低い常在細菌でも感染を生じる2).本症例では結膜.培養の結果,Corynebacteriumが検出され,適切な検査と抗菌薬使用で改善を得た.結膜.常在菌でもキノロンに対する耐性率は高く,慢性結膜炎の起炎菌になることがある3).眼後遺症を伴うCSJS患者の眼表面の常在菌を,次世代シークエンサーを用いてマイクロバイオーム解析で調べたところ,SJS患者は健常者と比較し眼表面の細菌の多様性が減少しており,常在細菌の構成も異なることがわかった.SJS患者ではCCorynebacterium属,Neisseri-aceae属,Staphylococcus属,および他の細菌の固有種が優勢なC4つのグループに分けられ,慢性期CSJSの眼表面の常在細菌の多様性が減少しているが,その中でもCorynebacterium属が多いと報告されている4).SJS患者の眼表面炎症,感染症において定期的な眼脂と結膜.培養の擦過を行い,キノロンなどの耐性菌の有無を把握し,適切な抗菌薬治療を行うことが重要である.そして眼表面の炎症管理,感染の発症予防を行い,感染症の発症時期に迅速に対応し治療することが大切である.文献1)外園千恵,上田真由美:Stevens-Johnson症候群の眼科的対処.アレルギー(日本アレルギー学会誌)C57:995-999,C20082)UetaM,KinoshitaS:Ocularsurfacein.ammationisregu-latedCbyCinnateCimmunity.CProgCRetinCEyeCResC31:551-575,C20123)荻原健太,北川和子,神山幸浩ほか:ディスク法で多剤耐性を示したコリネバクテリウム状グラム陽性桿菌が分離された前眼部感染症のC5症例の検討.あたらしい眼科C37:C619-623,C20204)UetaCM,CHosomiCK,CParkCJCetal:CategorizationCofCtheCocularCmicrobiomeCinJapaneseStevens-JohnsonCsyndromepatientsCwithCsevereCocularCcomplications.CFrontCCellCInfectMicrobiol11:741654,C2021

緑内障手術後の点眼薬のコツ

2024年9月30日 月曜日

緑内障手術後の点眼薬のコツTipsforOptimalEyeDropMedicationsPostGlaucomaSurgery河野通大*谷戸正樹*はじめに現在,緑内障治療の唯一確実な方法は眼圧下降である.そのため,薬物やレーザー治療を行ったあとも十分な眼圧が下降しない患者に対しては,手術治療が選択される.わが国では長年,線維柱帯切除術が手術治療のゴールデンスタンダードであった.しかし,近年多くの低侵襲緑内障手術(minimallyCinvasiveCglaucomaCsur-gery:MIGS)やチューブシャント手術が開発・臨床応用され,手術治療の選択肢が広がっている.眼圧下降効果もさまざまで,緑内障の病型・病期・既往などにあわせて術式を選択し,術後も管理していく必要がある.今回は代表的な緑内障手術後の筆者らの施設での点眼処方例とコツを紹介する.CIiStent挿入術,線維柱帯切開術後の点眼薬iStent挿入術(図1),線維柱帯切開術(図2)はCMIGSに分類される術式である.iStent挿入術は白内障手術と同時に施行される必要があり,線維柱帯切開術も白内障手術と同時に施行されることもある.原則的には,角膜混濁がなく目標眼圧が低すぎない患者が適応である.進行した緑内障で,残存視野が術後の一過性眼圧上昇に耐えられないような患者は避けるべきである.術前に使用していた緑内障点眼については,眼圧に応じて漸減するようにしている.その際,炎症を惹起する可能性があるプロスタノイド受容体関連薬はできるだけ中止するようにしている.1.術後の処方例・1.5%レボフロキサシン点眼,4回/日.1ボトル使い切り終了.・0.1%ベタメタゾン点眼,4回/日.1ボトル使い切り終了.C2.術後合併症の対応a.前房出血一過性であれば経過観察だが,出血の程度が強い場合は前房洗浄を行う.抗凝固薬・抗血小板薬の内服をしていると出血はやはり多い印象がある.筆者らは前房出血をグレーディングして評価している(図3).Cb.眼圧上昇一過性の眼圧上昇をきたすことがあれば,炎症を惹起しない薬剤が望ましいため,炭酸脱水酵素阻害薬(car-bonicCanhydraseinhibitor:CAI)あるいはCb遮断薬とCAIの配合薬点眼などを処方する.Cc.遷延性低眼圧・毛様体.離IshidaらはCabCinternotrabeculotomy(眼内からの線維柱帯切開術)後の遷延性低眼圧・毛様体.離の報告のなかで,若年の長眼軸症例がそれらの危険因子である可能性があるとしている2).低眼圧であれば炎症や毛様体.離の程度をみながらアトロピン点眼を開始する.改善が乏しければ毛様体縫着を検討する3).*MichihiroKono&MasakiTanito:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕河野通大:〒693-8501島根県出雲市塩冶町C89-1島根大学医学部眼科学講座C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(47)C1089図1iStentinjectW図2谷戸氏abinternoトラベクロトミーマイクロフック(グラウゴス・ジャパン提供)(イナミ提供)スコアC0C1C2C3R:CRedbloodcells(浮遊赤血球)全房内浮遊赤血球なし前房内浮遊赤血球あり.虹彩紋理が明瞭に観察できる前房内浮遊赤血球あり.虹彩紋理が明瞭に観察できない多数の前房内浮遊赤血球あり.虹彩紋理が観察できないL:CLayerformation(液面形成)液面形成なし1Cmm(C2角膜厚)までの液面形成瞳孔領下縁までの液面形成瞳孔領下縁を超える液面形成C:CBloodclot(血餅)血餅なし前房内に血餅あり123R図3前房出血の評価システム島根大学前房出血評価システム(ShimaneUniversityPostoperativeHyphemaScoringSystem:SU-RLCsystem).(文献C1より引用)図5プリザーフロマイクロシャント(参天製薬提供)図4線維柱帯切除術後の濾過胞表1島根大学プロスタグランジン関連眼窩周囲症分類グレードC0C1C2C3グレード名PAPなし表層整容的CPAP深層整容的CPAP眼圧測定に影響するCPAP定義変化なし眼瞼色素沈着・睫毛伸長上眼瞼溝深化・眼瞼皮膚弛緩の退縮・眼窩周囲脂肪の消失・眼球陥凹の一つ以上を含む整容的変化PAPに関連した上眼瞼溝深化・眼瞼硬化・眼瞼下垂・眼球陥凹によりCGoldmann眼圧測定が困難/Goldmann眼圧の信頼性が低下(文献C6より改変引用)上眼瞼溝深化眼瞼皮膚弛緩の退縮眼窩周囲脂肪の消失図6Baerveldt緑内障インプラントa:毛様体扁平部挿入タイプ(BG102-350,表面積C350CmmC2).Cb:直線チューブタイプ(BG103-250,表面積C250CmmC2).c:直線チューブタイプ(BG101-350,表面積C350CmmC2)(エイエムオー・ジャパン提供)図7Ahmed緑内障バルブ(JFCセールスプラン提供)

点眼薬とアドヒアランス

2024年9月30日 月曜日

点眼薬とアドヒアランスEyeDropTherapyandAdherencetoTreatment内藤知子*はじめに緑内障は基本的には超慢性疾患であり自覚症状にも乏しいため,治療に限らず診断や経過観察においても患者の病態理解が求められ,眼科臨床のなかでもアドヒアランスを意識した対応が必要な疾患である.治療の基本は点眼薬による眼圧下降であるが,現在,強力な眼圧下降効果をもつ点眼薬や多剤併用時の点眼回数を減らすために有用な配合点眼薬が登場し,また,多職種間で連携して治療に取り組む機会やツールが増えたことは緑内障点眼アドヒアランスにおける「光」である.その一方で,点眼薬による多様な副作用の増加は患者のアドヒアランスを低下させ「影」となる.本稿では,緑内障患者の点眼アドヒアランスに焦点を当て,筆者の施設での対策も含め紹介する.CI緑内障とアドヒアランスアドヒアランス低下は緑内障の予後不良因子の一つである1).しかし,緑内障患者の点眼アドヒアランスは決して良好とはいえず2),慢性全身性疾患の服薬アドヒアランスと比べても概して悪いと報告されている3)ことは緑内障点眼治療における影の部分であろう.アドヒアランスは患者が自らの意思で遵守するという概念であることから,アドヒアランスが不良であった場合に,それが患者の意図的なものか非意図的なものかの二つに分けて考えることができる.たとえば,前者は患者自身が「点眼しない」と決める場合,後者は「点眼したい」と思っていてもうまく対応できない場合である.結果としてアドヒアランス不良になるのは同じでも,意図的か非意図的かによって医療者側の対策は大きく異なってくる.一般的に,高齢者は壮年者と比べ点眼継続率が高く4),点眼遵守の気持ちが良好である5~7).また,点眼手技に関する問題は高齢者に多く,必須の知識に関する問題は男性と若年者に多くみられたとの報告5)があることから,高齢者では非意図的なアドヒアランス不良に重点を置いた対策が必要と考える.一方,非意図的なアドヒアランス不良に対しては,うまく対応できていない要因(点眼方法の複雑さ,点眼手技,失念しやすさ,緑内障の重症度,仕事・家事の忙しさなど)を,意図的なアドヒアランス不良に対しては,患者が治療を受け入れられていない要因(緑内障に関する病識不足,副作用への不安,治療への動機付け不十分,医療者との信頼関係など)を明らかにし,その解消に努める必要がある.CII点眼アドヒアランスを向上させる対策筆者の施設での取り組みを以下に紹介する.なお,いずれの場合も欠かせないのが患者との信頼関係である.信頼関係がなければ,いくら治療を提供する側が努力しても説明や励ましの言葉が患者の心に届かず,アドヒアランスを改善することはむずかしくなる.日頃から患者とのコミュニケーションを十分にとり,良好な信頼関係を築いていくことが大切と考える.*TomokoNaito:グレース眼科クリニック〔別刷請求先〕内藤知子:〒700-0821岡山県岡山市北区中山下C1-1-1グレースタワーCIII2階グレース眼科クリニックC0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(41)C1083図1視野欠損を体感してもらう対面法Tan10°から計算すると,Humphrey視野(C10-2)の範囲は眼前C85cm先の地点の半径C15cm内に該当する.患者から見ると,ちょうど検者の顔がすっぽりと入る範囲となる.(Cochran-Armitagetrendtest)(%)p=0.000684.6%p=0.0969(11/13例)76.9%(10/13例)63.0%63.0%62.5%59.1%(17/27例)(17/27例)(25/40例)(13/22例)45.0%(18/40例)27.3%(6/22例)202000<60歳60~69歳70~79歳≧80歳<60歳60~69歳70~79歳≧80歳点眼成功率図2座位と仰臥位における点眼成功率(年代別)試験デザイン:前向き観察研究.対象:手術のために岡山大学病院眼科に入院した患者C102例(平均年齢C70.2歳),白内障C63例,緑内障C16例,網膜硝子体疾患C23例.方法:患者の同意を得てビデオ撮影を行い,座位と仰臥位での点眼手技と滴下状況を観察した.最初の操作で眼表面に正確にC1滴を滴下できた場合を点眼成功と定義した.(文献C9より引用)(%)100806040点眼成功率図3当院で活用している点眼指導依頼票確認を行っている.院外薬局では客観的評価(薬剤使用状況の確認)はもちろん,アドヒアランス低下要因となりうる項目(合併症・既往歴・服薬歴・禁忌・薬剤相互作用など)の確認が行われている.医師一人ができることには限界があるが,チームで取り組めば可能性は広がり,ひいては患者のメリットへとつながる.そして,アドヒアランス不良の場合でも「〇〇に気を付けているのですね」「△△で努力しておられるのですね」と励ましを交えながら支援的態度で接することが大切である.「話を聞いてもらえた」という気持ちは患者の内発的モチベーションを高め,その繰り返しが患者との信頼関係にもつながっていくことになる.C3.緑内障治療薬による有害事象とアドヒアランス緑内障治療の目的は,患者の視覚の質とそれに伴う生活の質も維持することである.緑内障治療の精神的負担となる要因は個々の患者によりさまざまであるが,緑内障診療ガイドライン10)では,治療に伴って生じる社会的・経済的な負担のみならず,精神的な負担まで配慮した診療の必要性に言及している.中野らが調査した緑内障治療薬の有害事象が患者に与える精神的負担および有害事象のアドヒアランスへの影響によると11),自覚している有害事象の上位C2事象は「睫毛が成長する」と「目のまわりに黒ずみが生じる」のプロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandinCassociatedCperiorbitopa-thy:PAP)であった.PAP系有害事象の有無別にみた不安感(state-traitanxietyCinventory:STAI)スコアの平均値は,PAP系有害事象あり群ではなし群に比べ有意に高く,PAP系有害事象の精神的負担への関連性が示唆されている.また,プロスタノイドCFP受容体作動薬の有害事象を写真判定と自覚症状で評価した試験では,眼瞼色素沈着に関して医師の他覚所見よりも患者の自覚症状の訴えの頻度が明らかに多かったとの報告がある12).PAP系有害事象は降圧効果に比してその重篤度の観点から医師側は軽視しがちであるが,患者は敏感にとらえていることがわかる.国内における緑内障患者では,治療開始C3カ月で約C30%が治療を中断すると報告されているが2),その原因として初期の有害事象発現の影響も考えられ,医師は治療開始時に点眼薬の効果と副作用を十分説明することはもちろん,有害事象に関しては他覚所見のみならず患者の自覚症状の申告に寄り添い,精神的な負担まで配慮した薬剤選択を行うことが,アドヒアランス維持のためにも重要であると考える.おわりに緑内障薬物治療における光と影の関係をしっかりと理解し,光を得てもなお影の存在をないがしろにせず,両方を意識した治療を行うことで,患者が輝き続けられるのではないだろうか.人生C100年の現代社会において“見える”ことは生活を豊かに楽しくする.点眼アドヒアランスを維持して視野障害進行を少しでも抑えるために,本稿が一助となれば幸いである.文献1)ChenPP:BlindnessCinCpatientsCwithCtreatedCopen-angleCglaucoma.OphthalmologyC110:726-733,C20032)KashiwagiCK,CFuruyaT:PersistenceCwithCtopicalCglauco-maCtherapyCamongCnewlyCdiagnosedCJapaneseCpatients.CJpnJOphthalmolC58:68-74,C20143)YeawCJ,CBennerCJS,CWaltCJGCetal:ComparingCadherenceCandCpersistenceCacrossC6CchronicCmedicationCclasses.CJManagCarePharmC15:728-740,C20094)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科C28:C1166-1171,C20115)谷戸正樹:K-J法により把握した点眼アドヒアランスの問題点.あたらしい眼科35:1679-1682,C20186)TseCAP,CShahCM,CJamalCNCetal:GlaucomaCtreatmentCadherenceCatCaCUnitedCKingdomCgeneralCpractice.CEye(Lond)30:1118-1122,C20167)TsumuraCT,CKashiwagiCK,CSuzukiCYCetal:ACnationwideCsurveyoffactorsin.uencingadherencetoocularhypoten-siveeyedropsinJapan.IntOphthalmolC39:375-383,C20198)永井瑞希,比嘉利沙子,塩川美菜子ほか:多施設による緑内障患者の実態調査C2016年版―薬物治療―.あたらしい眼科34:1035-1041,C20179)NaitoT,YoshikawaK,NamiguchiKetal:Comparisonofsuccessratesineyedropinstillationbetweensittingposi-tionandsupineposition.PLoSOneC13:e0204363,C201810)木内良明,井上俊洋,庄司伸行ほか;日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会:緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌126:85-177,C202211)中野匡,小高文聰,山東一孔ほか:緑内障治療薬による有害事象に関する患者意識調査.医学と薬学C79:147-155,C202112)InoueCK,CShiokawaCM,CHigaCRCetal:AdverseCperiocularCreactionsCtoC.veCtypesCofCprostaglandinCanalogs.CEye(Lond)C26:1465-1472,C2012(45)あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C1087

緑内障点眼薬で注意すべき全身副作用

2024年9月30日 月曜日

緑内障点眼薬で注意すべき全身副作用SystemicSideE.ectstoKeepinMindWhenUsingGlaucomaEyeDrops根本穂高*本庄恵*はじめに緑内障において唯一エビデンスのある治療は眼圧下降であり,さまざまな眼圧下降薬が緑内障の治療として臨床現場で使用されている.点眼薬は眼局所治療薬であるため,内服薬と比較すると全身への副作用は少ないものの,点眼薬は経結膜・経鼻的に粘膜から吸収されて肝代謝を受けずに全身移行することから,起こりうる全身副作用について知識をもっておくことは重要である(図1).本稿では現在臨床現場でおもに使用されている薬剤を中心に,各種薬剤と全身副作用について解説する.CIプロスタグランジン関連薬(FP作動薬)天然に存在するプロスタグランジンを低用量投与すると,多くの動物種で眼圧下降を生じることが報告されているが,眼圧下降薬が最大となる用量では結膜充血や眼刺激などの眼科的副作用が顕著となるため,臨床的には有用でなく,緑内障点眼薬として市販されているプロスタグランジン関連薬は低用量のものが採用されている.さらに,ラタノプロストでは血漿中半減期はC17分と早いことが報告されており,全身副作用はほとんど生じないと考えられている1).CIIb遮断薬心臓に分布するCb1受容体を遮断することで徐脈,低血圧,心拍出量低下を生じうるため,コントロール不十分な心不全,洞性徐脈,房室ブロック,心原性ショックのある患者に対する投与は禁忌となっている.また,呼吸器のCb2受容体を遮断することから気管支平滑筋収縮作用があり,気管支喘息またはその既往のある患者,気管支けいれんまたは重篤な慢性閉塞性肺疾患のある患者に対する投与も禁忌である.点眼薬として使用されているCb遮断薬は非選択性で,点眼後数分以内に体内のCb受容体のC70~90%が遮断されることが明らかになっており,眼局所投与とはいえ全身副作用は決して無視できない(図2)2).そのほか,精神神経症状として抑うつや不安神経症も知られている.Cb受容体は膵臓からのグルカゴン分泌やインスリン分泌に関与しているため,コントロール不良な糖尿病患者に対しては慎重に投与する必要がある.b遮断薬によって動悸,頻脈などの低血糖症状が自覚されにくくなってしまうため,いきなり低血糖の意識障害を生じる可能性があり,注意が必要である.緑内障は長期にわたってフォローアップが必要な疾患である.初診時には心疾患や呼吸器疾患がなくとも,通院中に患者が年を重ねて心疾患や呼吸器疾患を発症することは十分考えられる.受診時に血圧・脈拍やパルスオキシメーターを確認することで,徐脈や酸素濃度の低下などを早期に拾い上げることができる.簡便な検査であることからも日常診療に取り入れやすいと考えられる.Cb遮断薬は点眼投与といえども,徐脈によるペースメーカー埋め込み施行の報告や気管支喘息悪化による呼吸困難での死亡例なども報告されており,細心の注意を払っ*HotakaNemoto&MegumiHonjo:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕根本穂高:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(37)C1079全身性吸収(50%以上)メインの吸収経路(経結膜・経鼻)マイナーな吸収経路(経鼻涙管・経咽頭・経消化管・経皮・経房水)図1点眼薬の全身性吸収ルート点眼薬はC1滴約C25~40Cμlの量があり,結膜.約C10Cμlよりも多いため,薬剤の多くはおもに鼻腔から吸収され全身性に移行する.吸収された薬剤は肝臓による初回代謝の影響が少ないため,各組織に高い濃度で作用する可能性がある.A.b1-ReceptorB.b2-Receptor100100Receptoroccupancy(%)80806040206040200001020304050600102030405060Time(min)Time(min)図2b遮断薬点眼投与後のb受容体遮断率b遮断薬点眼後数分で,全身のCb受容体のC70~90%が遮断される.(文献C2より引用)図3ブリモニジン酒石酸塩および類薬の化学構造a:クロニジン塩酸塩.Cb:アプラクロニジン塩酸塩.Cc:ブリモニジン酒石酸塩.表1緑内障点眼薬のFDA薬剤胎児危険度分類薬剤FDAカテゴリープロスタグランジン関連薬(FP作動薬)CCCb遮断薬CC炭酸脱水酵素阻害薬CCCa2作動薬CBROCK阻害薬未カテゴリーCBは「ヒトと動物におけるデータがさまざま,もしくは矛盾している.例えば,動物実験では何らかの有害性が認められたが,臨床試験では安全性が示された場合,あるいは動物実験では安全性が示されたが,臨床試験が利用できなかった場合」に分類される.カテゴリーCCは,「動物モデルで副作用が認められた医薬品や,動物実験とヒトでの検証が不十分な医薬品」に用いられる.(文献C14より改変引用)(ng/ml)1.510.50図4涙.部圧迫による点眼薬血中濃度の抑制血中濃度0.5%チモロールマレイン酸塩を点眼後,1時間後の血中濃度のグラフ.涙.部圧迫,閉瞼ともに全身への移行が約C1/3に抑制される.(文献C13より改変引用)無処置涙嚢部圧迫閉瞼

緑内障点眼薬とオキュラーサーフェス

2024年9月30日 月曜日

緑内障点眼薬とオキュラーサーフェスAnti-GlaucomaMedicationsandOcularSurfaceDisease三重野洋喜*はじめに緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である1).現在,眼圧下降のための治療の中心は点眼治療だが,緑内障点眼薬の長期使用はオキュラーサーフェスにさまざまな影響を及ぼすことが知られている.緑内障とオキュラーサーフェスは切っても切れない関係であり,本稿では,緑内障点眼薬がオキュラーサーフェスに及ぼす影響について詳述し,適切な管理と対策方法について考察する.CI緑内障と眼表面疾患の合併緑内障点眼薬を使用している緑内障患者のC49~59%に眼表面疾患(ocularCsurfacedisease:OSD)が認められる.緑内障点眼薬は,開始からC3カ月以内に灼熱感・刺激感・かゆみ・流涙・視力低下を引き起こすことがあるが,これらのCOSDは,点眼治療によって増悪する既往症である場合と,点眼治療開始後に顕在化する新規疾患である場合がある2).緑内障点眼薬を使用している患者では,使用していない同年代のCcontrolと比較してドライアイの有病率が高く,Schirmerテストでの涙液の減少,涙液層破壊時間(tearbreak-uptime:TBUT)の短縮,結膜上皮障害,充血などが有意に多くみられたとする報告がある3).長期にわたる緑内障点眼薬の使用は,OSDの原因となり,結膜の炎症,短縮,収縮を引き起こす4).これは,臨床的にも病理学的にも眼類天疱瘡(ocularcicatricialpemphigoid:OCP)と区別がつかず,文献的には薬剤性瘢痕性結膜炎(drugCinducedCcicatrizingCconjunctivi-tis)および偽類天疱瘡(pseudopemphigoid)とよばれている5).緑内障点眼薬が薬剤性瘢痕性結膜炎のもっとも多い原因である6).このように,緑内障とCOSDの合併では緑内障点眼薬がCOSDの原因となることが示されているが,未治療の原発開放隅角緑内障患者は,高眼圧の患者と比較して22%,controlと比較してC27%基礎涙液回転率が低いとする報告もある7).緑内障に起因する自律神経の障害がその理由として考察されているが,緑内障患者ではそもそもCOSDを生じやすい可能性がある.CII緑内障点眼薬がオキュラーサーフェスに及ぼす影響緑内障には,それぞれ作用機序の異なる点眼薬が用いられるが,いずれの製剤もオキュラーサーフェスに影響を与える.プロスタグランジン製剤は,閉塞性のマイボーム腺機能不全の有病率と重症度の上昇に関連している8).b遮断薬は涙腺のCb受容体に作用し,基礎涙液回転率を低下させる9).また,眼表面,とくに涙液の粘液層に損傷を与える10).a2作動薬であるブリモニジンは,他の点眼薬と比較して眼アレルギーの発生率が有意に高く,その後に使用する点眼薬のアレルギーの発現も高める可能性があることが報告されている11).Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬であるリパスジルでは,結膜炎,眼瞼*HirokiMieno:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(31)C1073図1ブリモニジンによる眼瞼炎図2リスパジルによる結膜炎図3ブリモニジン角膜実質混濁の治療経過a:ブリモニジン点眼開始後C25カ月.この時点では炎症を認めない.Cb:ブリモニジン点眼開始後C28カ月.結膜充血だけでなく,角膜実質深部への浸潤と血管新生を認める.Cc:治療開始C1カ月後.ブリモニジン使用を中止し,ベタメタゾンC0.5Cmgの内服をC2日間,1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.1%のフルオロメトロン点眼液を併用.充血と血管新生は消退している.Cd:治療開始C5年後.0.1%のフルオロメトロン点眼液を使用.角膜実質混濁は残存している.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)図4BAK含有点眼薬から防腐剤フリー点眼薬に変更した際のフルオレセイン染色a:BAK含有ラタノプロスト点眼液を使用時.角膜上皮障害を認める.Cb:防腐剤フリーのラタノプロスト点眼液に変更後.角膜上皮障害の改善を認める.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)図5単剤併用から合剤の点眼薬に変更した際のフルオレセイン染色a:ブリンゾラミドC1%点眼液とブリモニジンC0.1%点眼液の併用時.角膜上皮障害を認める.Cb:ブリンゾラミド/ブリモニジン配合合剤点眼液に変更後.角膜上皮障害の改善を認める.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)は知る限り存在しない.したがって,このような患者でのCSLTへの切り替えには慎重であるべきである.しかし,初回治療としてのCSLTの有効性はエビデンスがある.筆者も角膜外来やドライアイ外来から紹介される,もともとCOSDで通院中の患者に緑内障を合併した例では,患者と相談のうえ初回治療に積極的にCSLTを取り入れている.近年普及している低侵襲緑内障手術(minimallyinva-siveCglaucomasurgery:MIGS)は,結膜を温存したうえで緑内障点眼薬を減らせることからオキュラーサーフェスには有利に働く.白内障手術時にCiStentを併用することでオキュラーサーフェスが改善することが報告されている20).一方,トラベクレクトミーは,点眼薬を減らすことでOSDを減少させる可能性があるが,結膜瘢痕や慢性的な眼刺激を経験することがある.個々の患者では有効な例も存在するが,全体としてみると,緑内障点眼薬を使用している患者と使用していないトラベクレクトミー後の患者では,ドライアイ症状に差がなかったとする報告21)や,トラベクレクトミーを受けた患者は点眼治療を受けた患者よりもC5年後の眼刺激率が高いとする報告22)があり,オキュラーサーフェスの改善には必ずしも寄与しないといえる.わが国でも最近行われるようになった新しい濾過手術であるプリザーフロマイクロシャント手術は,濾過胞がトラベクレクトミーより後方にできることから,眼刺激率が低下することが期待される.実際,最近の報告によるとプリザーフロマイクロシャント手術は眼表面の自覚症状に加えてCTBUT,Schirmerテスト,フルオレセイン染色検査の結果を改善させた.さらに,涙液浸透圧と角膜上皮も有意に改善した23).長期成績をみていく必要があるが,プリザーフロマイクロシャント手術はCMIGSよりも緑内障点眼薬を減らせることから,今後重篤なOSD患者に対する有効な選択肢になると思われる.おわりに高齢化に伴い,緑内障患者は増加の一途をたどっている.緑内障とCOSDはしばしば併発するため,これらの両方をうまく管理することが日常診療において重要となる.緑内障診療では眼圧の推移のみに目が向きがちだが,眼表面の管理を適切に行うことで結果的に眼圧コントロールが改善されることがある.現在は緑内障の点眼薬も配合剤が増え,手術の選択肢も広がっている.患者の状態に応じてこれらの治療法を組み合わせることで患者の良好な視機能と生活の質(QOL)の維持につながるよう,われわれ眼科医はベストを尽くす必要がある.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会.緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)ZhangX,VadoothkerS,MunirWMetal:OcularsurfacediseaseCandCglaucomamedications:aCclinicalCapproach.CEyeContactLens45:11-18,C20193)FineideCF,CLagaliCN,CAdilCMYCetal:TopicalCglaucomaCmedicationsC-clinicalCimplicationsCforCtheCocularCsurface.COculSurfC26:19-49,C20224)SchwabCIR,CLinbergCJV,CGioiaCVMCetal:ForeshorteningCofCtheCinferiorCconjunctivalCfornixCassociatedCwithCchronicCglaucomamedications.OphthalmologyC99:197-202,C19925)LiesegangTJ:Conjunctivalchangesassociatedwithglau-comatherapy:implicationsCforCtheCexternalCdiseaseCcon-sultantCandCtheCtreatmentCofCglaucoma.CCorneaC17:574-583,C19986)SinghS,DonthineniPR,ShanbhagSSetal:DruginducedcicatrizingCconjunctivitis:aCcaseCseriesCwithCreviewCofCetiopathogenesis,CdiagnosisCandCmanagement.COculCSurfC24:83-92,C20227)KuppensCEV,CvanCBestCJA,CSterkCCCCetal:DecreasedCbasalCtearCturnoverCinCpatientsCwithCuntreatedCprimaryCopen-angleglaucoma.CAmJOphthalmolC120:41-46,C19958)MocanMC,UzunosmanogluE,KocabeyogluSetal:TheassociationCofCchronicCtopicalCprostaglandinCanalogCuseCwithCmeibomianCglandCdysfunction.CJCGlaucomaC25:770-774,C20169)KuppensEV,StolwijkTR,deKeizerRJetal:BasaltearturnoverCandCtopicalCtimololCinCglaucomaCpatientsCandChealthyCcontrolsCbyC.uorophotometry.CInvestCOphthalmolCVisSciC33:3442-3448,C199210)HerrerasCJM,CPastorCJC,CCalongeCMCetal:OcularCsurfaceCalterationCafterClong-termCtreatmentCwithCanCantiglauco-matousdrug.OphthalmologyC99:1082-1088,C199211)OsborneSA,MontgomeryDM,MorrisDetal:Alphaganallergymayincreasethepropensityformultipleeye-dropallergy.Eye(Lond)C19:129-137,C200512)MaruyamaY,IkedaY,YokoiNetal:Severecornealdis-ordersCdevelopedCafterCbrimonidineCtartrateCophthalmicC(35)あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C1077

配合剤の活用法

2024年9月30日 月曜日

配合剤の活用法HowtoUseCombinationEyeDropsfortheTreatmentofGlaucoma三浦瑛子*齋藤雄太*はじめに緑内障は視神経と視野に特徴的変化を有し,唯一の治療は眼圧を下降させることである.緑内障の眼圧下降治療の第一選択は点眼薬による薬物治療である.しかし,単剤の使用では目標眼圧に達しない,あるいは治療効果が不十分ということが少なくない.こうした場合には薬剤の変更や追加が検討されるが,増えているのが配合点眼薬の使用である.複数の有効成分を一つの製剤に組み合わせることで点眼の回数を減らし,患者のアドヒアランスを向上させることができる1).本稿では,この配合点眼薬の概要と選択・使用について解説する.CI配合点眼薬のメリット・デメリット1.配合点眼薬のメリットa.点眼回数の減少複数の薬剤をC1度に投与できるため,点眼回数が減って患者の負担が軽減される.これによりアドヒアランスが向上し,治療の継続性が高まることが期待できる.Cb.治療効果の向上配合点眼薬は単剤併用に比べてアドヒアランスの向上により眼圧下降効果が同等,あるいは増強されることが多い2~6).C2.配合点眼薬のデメリットa.点眼を忘れた場合のリスク配合点眼薬を忘れると,複数の成分がC1度に欠落するため,眼圧管理が不十分になるリスクが高まる.Cb.費用の問題配合点眼薬は単剤併用に比べて高価なことが多く,長期的な治療において経済的な負担となることがある(表1)7).たとえば,ザラカムやデュオトラバ,コソプトは先発単剤併用より高価である.C3.経済的選択肢としての後発品後発品は治療コストを抑えることができるため,経済的な選択肢となりうる.後発配合剤と後発単剤併用を比較すると,トラチモのみ後発配合剤のほうが高価である一方,ラタチモ,タフチモ,ドルモロールは後発配合剤のほうが安価である.CII配合点眼薬の選択と使用配合点眼薬の選択は,患者の状態や副作用リスクを考慮しながら慎重に行うことが重要である.以下に,配合点眼薬の選択と使用に関する具体的なポイントを示す.C1.国内で使える製剤と配合パターン日本国内で使用可能な配合点眼薬はC5成分中C2成分を含有するC9製剤であり,以下のC5パターンがある(図1).なお,ビマトプロスト含有の配合剤はない.①CFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)+b遮断薬.C②Cb遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhy-draseinhibitor:CAI).*EikoMiura&YutaSaito:昭和大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕三浦瑛子:〒142-0054東京都品川区西中延C2-14-19昭和大学病院附属東病院眼科C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(25)C1067表1配合点眼薬1本あたりの費用先発品名称先発品薬価後発品名称後発品薬価単剤併用薬価(先発品,最高値)単剤併用薬価(後発品,最安値)ザラカムC1653.25ラタチモC694.25C1425.5(C886+539.5)C759(C426+284)ミケルナC1422C1658(C886+772)**C841.75(C426+415.75)デュオトラバC1692.75トラチモC935.25C1687.5(C1148+539.5)*C919.75(C635.75+284)タプコムC1772.25タフチモC932.75C2037(C1497.5+539.5)C1054(C770+284)コソプトC1838.5ドルモロールC624.5C1388.5(C539.5+849)C1133(C284+849)アゾルガC1368C1547(C539.5+1007.5)**C804(C284+520)アイベータC2017C2020(C539.5+1480.5)**C822.5(C284+538.5)アイラミドC2208.5C2488(C1480.5+1007.5)**C1058.5(C538.5+520)グラアルファC2527C3727.5(C1480.5+2247)C2785.5(C538.5+2247)単位(円/本),2024年C6月現在.先発配合薬より後発配合薬のほうが安価である.後発配合薬よりも後発の単剤併用のほうが安価な場合もある(*).グラアルファ以外は,後発がない配合点眼薬は後発単剤併用より高価である(**).(文献C7より改変引用)製品名ミケルナザラカムデュオトラバタプコムコソプトアゾルガアイベータアイラミドグラアルファFP作動薬ラタノプロストトラボプロストタフロプロストb遮断薬カルテオロールチモロールa2作動薬ブリモニジン炭酸脱水酵素阻害薬ドルゾラミドブリンゾラミドブリンゾラミドROCK阻害薬リパスジル図1現在使用可能な配合点眼薬表2SU-PAPグレードC0C1C2C3グレード名PAPなし表層整容的CPAP深層整容的CPAP眼圧測定に影響するCPAP定義変化なし眼瞼色素沈着睫毛伸長上眼瞼溝深化眼瞼皮膚弛緩の退縮眼窩周囲脂肪の消失眼球陥凹一つ以上を含む整容的変化PAPに関連した上眼瞼溝深化眼瞼硬化眼瞼下垂眼球陥凹によりCGoldmann眼圧測定が困難/Goldmann眼圧の信頼性が低下(文献C10より改変引用)Ca組み合わせ①ミケルナザラカムデュオトラパタプコムアイラミド3本5成分b組み合わせ②グラナテックミケルナザラカムデュオトラパタプコムグラアルファ3本5成分c組み合わせ③ドルゾラミドプリンゾラミドラタノプロストグラアルファコソプトトラボプロスト(ドルモロール)タフルプロストアゾルガビマトプロスト3本5成分orオミデネパグ図2最小本数の組み合わせになる3パターンa:FP作動薬・Cb遮断薬+a2作動薬・CAI+ROCK阻害薬.Cb:FP作動薬・Cb遮断薬+a2作動薬・ROCK阻害+CAI.Cc:FP作動薬+a2作動薬・ROCK阻害+b遮断薬・CAI.表3FP受容体作動薬によるDUESの頻度DUESの発症率(%)ビマトプロストC60.0トラボプロストC50.0ラタノプロストC24.0タフルプロストC18.0ウノプロストンC8.0(文献C13より改変引用)表5ブリンゾラミドとブリモニジン酒石酸塩/ブリンゾラミドの霧視の比較霧視の発症率(%)1%ブリンゾラミドC6.20.1%ブリモニジン酒石酸塩/1C%ブリンゾラミド配合剤C3.3(文献C17より改変引用)表4b遮断薬による点状表層角膜症の頻度発症率(%)チモロールC46.2カルテオロールC4.2(文献C15より改変引用)表6配合点眼薬の防腐剤点眼薬防腐剤ザラカム塩化ベンザルコニウムデュオトラバ塩化ポリドロニウムタプコム塩化ベンザルコニウムミケルナ(ホウ酸)コソプトなしアゾルガ塩化ベンザルコニウムアイベータ塩化ベンザルコニウムアイラミド塩化ベンザルコニウムグラアルファ濃ベンザルコニウム塩化物C50ベンザルコニウム塩化物:白色~黄白色の粉末または無色~淡黄色のゼラチン状の小片.濃ベンザルコニウム塩化物C50:50.0~55.0%のベンザルコニウム塩化物を含む液体.表7ブリモニジン単剤とブリモニジン/チモロール配合剤の副作用の比較結膜充血の発症率アレルギー性結膜(%)炎の発症率(%)ブリモニジンC0.2%C22.8C9.4ブリモニジンC0.2%/チモロールC0.5%配合剤C14.5C5.2(文献C19より改変引用)C’C—

追加点眼薬の選択と留意点

2024年9月30日 月曜日

追加点眼薬の選択と留意点TheSelectionofAdditionalOphthalmicSolutionsandSpeci.cPointstoKeepinMind井上賢治*I追加点眼薬の必要性緑内障診療ガイドラインにある緑内障治療の導入のフローチャートでは緑内障治療は単剤投与からはじめると記載されている1)(「第一選択薬の考え方(1030頁)」図1参照).薬剤を投与する際には目標眼圧を設定し,目標眼圧を達成した場合はそのまま薬剤を継続する.目標眼圧を達成できない場合は薬剤の変更あるいは多剤併用(薬剤の追加)となる.薬剤を変更する理由としては薬剤のノンレスポンダーや副作用出現が考えられる.それ以外の場合には薬剤の追加となる.II単剤投与緑内障治療は単剤投与から始めるが,緑内障点眼薬は濃度の違いも含めれば20種類以上存在する(図1).医師はおのおのの点眼薬の効果や副作用を考慮し,患者にもっとも適した点眼薬を使用する.点眼薬の選択肢が多いため,すべての点眼薬を検討して薬剤を選択するのは困難をきわめる.しかし,緑内障診療ガイドラインには第一選択薬はプロスタノイドFP受容体作動薬(以下,FP作動薬)で,その理由として眼圧下降が強力な点,全身性副作用が少ない点,1日1回点眼の利便性がある点の三つが記載されている1).医師はガイドラインに準拠して診療を行うべきで,FP作動薬を第一選択薬として使用するのがよい.また,第一選択薬としてはb遮断薬についても言及されている.今回は,追加点眼薬を考慮する際に単剤投与はFP作動薬が使用されていることを原則とした.III点眼薬単剤投与の効果と安全性点眼薬には効果と副作用がある.前者としては眼圧下降効果,視野維持効果,後者としては全身性副作用,眼局所副作用がある.副作用の出現はアドヒアランスの低下を引き起こす可能性があるので,投与前に患者に副作用の説明と副作用に対する考え方を聴取すべきである.また,全身性副作用が出現すると全身に影響を及ぼすので,とくにb遮断薬を使用する際には呼吸器系疾患や循環器系疾患を有していないかの確認が必須である.単剤投与の眼圧下降効果のメタアナリシスでは,眼圧下降はFP作動薬がもっとも強力で,b遮断薬が続き,a2作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)はほぼ同等である2)(図2).筆者らはネットワークメタアナリシスの手法で各点眼薬を0.5%チモロール点眼薬と比較した際の眼圧下降効果と安全性を調査した3).ビマトプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト,ラタノプロストのFP作動薬は有意に眼圧下降が強力だった(図3).ウノプロストン(イオンチャネル開口薬),ニプラジロール(a1b遮断薬)は同等で,ブナゾシン(a1遮断薬),ブリモニジン(a2作動薬)は有意に弱かった.副作用の出現は,筆者らの報告3)ではブナゾシン(a1遮断薬)が0.5%チモロール点眼薬に比べて有意に少な*KenjiInoue:井上眼科病院〔別刷請求先〕〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(17)1059プロスタノイドFP受容体作動薬ラタノプロスト・トラボプロスト・タフルプロスト・ビマトプロストチモロールマレインカルテオロールプロスタノイドEP2ニプラジロールレボブノロールベタキソロール炭酸脱水酵素阻害薬副交感神経作動薬ドルゾラミドピロカルピンブリンゾラミドa2作動薬ブリモニジンイオンチャネル開口薬イソプロピルウノプロストンROCK阻害薬リパスジル図1日本で使用可能な緑内障点眼薬a1遮断薬ブナゾシン01234567ビマトプロストラタノプロストトラボプロストレボブノロールタフルプロストチモロールブリモニジンカルテオロールレボベタキソロールアプラクロニジンドルゾラミドブリンゾラミドベタキソロールウノプロストン(平均と95%信頼区間,mmHg)図2単剤投与の眼圧下降(文献C2より改変引用)RelativeIOPreduction(mmHg)RelativeAdverseReactionRate(%)図3日本での単剤投与の眼圧下降図4日本での単剤投与の副作用出現(文献C3より引用)(文献C3より引用)表1日本で使用可能な配合点眼薬商品名発売日成分ザラカム2010年C4月チモロール+ラタノプロストデュオトラバ2010年C6月チモロール+トラボプロストコソプト2010年C6月チモロール+ドルゾラミドアゾルガ2013年C11月チモロール+ブリンゾラミドタプコム2014年C11月チモロール+タフルプロストミケルナ2017年C1月カルテオロール+ラタノプロストアイベータ2019年C12月ブリモニジン+チモロールアイラミド2020年C6月ブリモニジン+ブリンゾラミドグラアルファ2022年C12月ブリモニジン+リパスジル井上眼科病院井上賢治作成FP作動薬FP作動薬/b遮断薬配合点眼薬FP作動薬/b遮断薬配合点眼薬+a2作動薬FP作動薬/a2作動薬/a2作動薬/b遮断薬+CAIorROCK配合点眼薬配合点眼薬配合点眼薬FP作動薬/a2作動薬/b遮断薬+CAI+ROCK阻害薬or配合点眼薬配合点眼薬FP作動薬/a2作動薬/b遮断薬+ROCK+CAI配合点眼薬配合点眼薬図5アドヒアランスの観点からの薬剤投与(代表例)FP作動薬FP作動薬+CAI/b遮断薬配合点眼薬FP作動薬+CAI/b遮断薬+a2作動薬/ROCK配合点眼薬配合点眼薬図6眼圧下降の観点からの薬剤投与(代表例)0%25%50%75%100%平均0.20.2種類数全体(n=443)4494253.50.40.4施設別病院(n=184)3.6クリニック(n=259)5753443.4■1種類■2種類■3種類■4種類■5種類■6種類■7種類■8種類図7緑内障点眼薬の最大処方数(ボトル数)緑内障診療実態調査アンケートの「緑緑内障治療で使用する点眼薬に限った場合,最大で何種類(ボトル数)の点眼薬を処方されていますか」という質問に対する回答結果(https://www.ryokunaisho.jp/member/oasis/jgs/questionnaire/enq_02-1.pdf).(文献C9より改変引用)48343表2防腐剤を含有しない緑内障点眼薬ユニット・ドーズ型タプロスミニ点眼液C0.0015%コソプトミニ配合点眼液PFデラミ型ラタノプロストCPF点眼液C0.005%「日点」チモロールCPF点眼液C0.25%「日点」チモロールCPF点眼液C0.5%「日点」カルテオロール塩酸塩CPF点眼液1「日点」カルテオロール塩酸塩CPF点眼液2%「日点」ニプラジロールCPF点眼液C0.25%「日点」レボブノロール塩酸塩CPF点眼液C0.5%「日点」C■用語解説■配合点眼薬:一つの点眼薬に二つの有効成分を配合した製品.-