緑内障点眼薬とオキュラーサーフェスAnti-GlaucomaMedicationsandOcularSurfaceDisease三重野洋喜*はじめに緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である1).現在,眼圧下降のための治療の中心は点眼治療だが,緑内障点眼薬の長期使用はオキュラーサーフェスにさまざまな影響を及ぼすことが知られている.緑内障とオキュラーサーフェスは切っても切れない関係であり,本稿では,緑内障点眼薬がオキュラーサーフェスに及ぼす影響について詳述し,適切な管理と対策方法について考察する.CI緑内障と眼表面疾患の合併緑内障点眼薬を使用している緑内障患者のC49~59%に眼表面疾患(ocularCsurfacedisease:OSD)が認められる.緑内障点眼薬は,開始からC3カ月以内に灼熱感・刺激感・かゆみ・流涙・視力低下を引き起こすことがあるが,これらのCOSDは,点眼治療によって増悪する既往症である場合と,点眼治療開始後に顕在化する新規疾患である場合がある2).緑内障点眼薬を使用している患者では,使用していない同年代のCcontrolと比較してドライアイの有病率が高く,Schirmerテストでの涙液の減少,涙液層破壊時間(tearbreak-uptime:TBUT)の短縮,結膜上皮障害,充血などが有意に多くみられたとする報告がある3).長期にわたる緑内障点眼薬の使用は,OSDの原因となり,結膜の炎症,短縮,収縮を引き起こす4).これは,臨床的にも病理学的にも眼類天疱瘡(ocularcicatricialpemphigoid:OCP)と区別がつかず,文献的には薬剤性瘢痕性結膜炎(drugCinducedCcicatrizingCconjunctivi-tis)および偽類天疱瘡(pseudopemphigoid)とよばれている5).緑内障点眼薬が薬剤性瘢痕性結膜炎のもっとも多い原因である6).このように,緑内障とCOSDの合併では緑内障点眼薬がCOSDの原因となることが示されているが,未治療の原発開放隅角緑内障患者は,高眼圧の患者と比較して22%,controlと比較してC27%基礎涙液回転率が低いとする報告もある7).緑内障に起因する自律神経の障害がその理由として考察されているが,緑内障患者ではそもそもCOSDを生じやすい可能性がある.CII緑内障点眼薬がオキュラーサーフェスに及ぼす影響緑内障には,それぞれ作用機序の異なる点眼薬が用いられるが,いずれの製剤もオキュラーサーフェスに影響を与える.プロスタグランジン製剤は,閉塞性のマイボーム腺機能不全の有病率と重症度の上昇に関連している8).b遮断薬は涙腺のCb受容体に作用し,基礎涙液回転率を低下させる9).また,眼表面,とくに涙液の粘液層に損傷を与える10).a2作動薬であるブリモニジンは,他の点眼薬と比較して眼アレルギーの発生率が有意に高く,その後に使用する点眼薬のアレルギーの発現も高める可能性があることが報告されている11).Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬であるリパスジルでは,結膜炎,眼瞼*HirokiMieno:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕三重野洋喜:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(31)C1073図1ブリモニジンによる眼瞼炎図2リスパジルによる結膜炎図3ブリモニジン角膜実質混濁の治療経過a:ブリモニジン点眼開始後C25カ月.この時点では炎症を認めない.Cb:ブリモニジン点眼開始後C28カ月.結膜充血だけでなく,角膜実質深部への浸潤と血管新生を認める.Cc:治療開始C1カ月後.ブリモニジン使用を中止し,ベタメタゾンC0.5Cmgの内服をC2日間,1.5%レボフロキサシン点眼液とC0.1%のフルオロメトロン点眼液を併用.充血と血管新生は消退している.Cd:治療開始C5年後.0.1%のフルオロメトロン点眼液を使用.角膜実質混濁は残存している.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)図4BAK含有点眼薬から防腐剤フリー点眼薬に変更した際のフルオレセイン染色a:BAK含有ラタノプロスト点眼液を使用時.角膜上皮障害を認める.Cb:防腐剤フリーのラタノプロスト点眼液に変更後.角膜上皮障害の改善を認める.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)図5単剤併用から合剤の点眼薬に変更した際のフルオレセイン染色a:ブリンゾラミドC1%点眼液とブリモニジンC0.1%点眼液の併用時.角膜上皮障害を認める.Cb:ブリンゾラミド/ブリモニジン配合合剤点眼液に変更後.角膜上皮障害の改善を認める.(御池眼科クリニック池田陽子先生のご厚意による)は知る限り存在しない.したがって,このような患者でのCSLTへの切り替えには慎重であるべきである.しかし,初回治療としてのCSLTの有効性はエビデンスがある.筆者も角膜外来やドライアイ外来から紹介される,もともとCOSDで通院中の患者に緑内障を合併した例では,患者と相談のうえ初回治療に積極的にCSLTを取り入れている.近年普及している低侵襲緑内障手術(minimallyinva-siveCglaucomasurgery:MIGS)は,結膜を温存したうえで緑内障点眼薬を減らせることからオキュラーサーフェスには有利に働く.白内障手術時にCiStentを併用することでオキュラーサーフェスが改善することが報告されている20).一方,トラベクレクトミーは,点眼薬を減らすことでOSDを減少させる可能性があるが,結膜瘢痕や慢性的な眼刺激を経験することがある.個々の患者では有効な例も存在するが,全体としてみると,緑内障点眼薬を使用している患者と使用していないトラベクレクトミー後の患者では,ドライアイ症状に差がなかったとする報告21)や,トラベクレクトミーを受けた患者は点眼治療を受けた患者よりもC5年後の眼刺激率が高いとする報告22)があり,オキュラーサーフェスの改善には必ずしも寄与しないといえる.わが国でも最近行われるようになった新しい濾過手術であるプリザーフロマイクロシャント手術は,濾過胞がトラベクレクトミーより後方にできることから,眼刺激率が低下することが期待される.実際,最近の報告によるとプリザーフロマイクロシャント手術は眼表面の自覚症状に加えてCTBUT,Schirmerテスト,フルオレセイン染色検査の結果を改善させた.さらに,涙液浸透圧と角膜上皮も有意に改善した23).長期成績をみていく必要があるが,プリザーフロマイクロシャント手術はCMIGSよりも緑内障点眼薬を減らせることから,今後重篤なOSD患者に対する有効な選択肢になると思われる.おわりに高齢化に伴い,緑内障患者は増加の一途をたどっている.緑内障とCOSDはしばしば併発するため,これらの両方をうまく管理することが日常診療において重要となる.緑内障診療では眼圧の推移のみに目が向きがちだが,眼表面の管理を適切に行うことで結果的に眼圧コントロールが改善されることがある.現在は緑内障の点眼薬も配合剤が増え,手術の選択肢も広がっている.患者の状態に応じてこれらの治療法を組み合わせることで患者の良好な視機能と生活の質(QOL)の維持につながるよう,われわれ眼科医はベストを尽くす必要がある.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン改訂委員会.緑内障診療ガイドライン(第C5版).日眼会誌C126:85-177,C20222)ZhangX,VadoothkerS,MunirWMetal:OcularsurfacediseaseCandCglaucomamedications:aCclinicalCapproach.CEyeContactLens45:11-18,C20193)FineideCF,CLagaliCN,CAdilCMYCetal:TopicalCglaucomaCmedicationsC-clinicalCimplicationsCforCtheCocularCsurface.COculSurfC26:19-49,C20224)SchwabCIR,CLinbergCJV,CGioiaCVMCetal:ForeshorteningCofCtheCinferiorCconjunctivalCfornixCassociatedCwithCchronicCglaucomamedications.OphthalmologyC99:197-202,C19925)LiesegangTJ:Conjunctivalchangesassociatedwithglau-comatherapy:implicationsCforCtheCexternalCdiseaseCcon-sultantCandCtheCtreatmentCofCglaucoma.CCorneaC17:574-583,C19986)SinghS,DonthineniPR,ShanbhagSSetal:DruginducedcicatrizingCconjunctivitis:aCcaseCseriesCwithCreviewCofCetiopathogenesis,CdiagnosisCandCmanagement.COculCSurfC24:83-92,C20227)KuppensCEV,CvanCBestCJA,CSterkCCCCetal:DecreasedCbasalCtearCturnoverCinCpatientsCwithCuntreatedCprimaryCopen-angleglaucoma.CAmJOphthalmolC120:41-46,C19958)MocanMC,UzunosmanogluE,KocabeyogluSetal:TheassociationCofCchronicCtopicalCprostaglandinCanalogCuseCwithCmeibomianCglandCdysfunction.CJCGlaucomaC25:770-774,C20169)KuppensEV,StolwijkTR,deKeizerRJetal:BasaltearturnoverCandCtopicalCtimololCinCglaucomaCpatientsCandChealthyCcontrolsCbyC.uorophotometry.CInvestCOphthalmolCVisSciC33:3442-3448,C199210)HerrerasCJM,CPastorCJC,CCalongeCMCetal:OcularCsurfaceCalterationCafterClong-termCtreatmentCwithCanCantiglauco-matousdrug.OphthalmologyC99:1082-1088,C199211)OsborneSA,MontgomeryDM,MorrisDetal:Alphaganallergymayincreasethepropensityformultipleeye-dropallergy.Eye(Lond)C19:129-137,C200512)MaruyamaY,IkedaY,YokoiNetal:Severecornealdis-ordersCdevelopedCafterCbrimonidineCtartrateCophthalmicC(35)あたらしい眼科Vol.41,No.9,2024C1077